当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(1)経営方針
当社グループは、「社会公共への奉仕と健全経営」の理念のもと、誠実なモノづくりを行い、良質で安全な社会インフラの整備等を通じて社会に貢献してまいります。また、当社グループが有する豊富な人材と高い技術力を活かし、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現させることで、ステークホルダーからの信頼を獲得してまいります。さらに、企業活動を進めるにあたっては良き企業市民としての自覚を持ち、法令や社会規範等を遵守するとともに、働く人々が信頼感で結ばれ、安全で安心して生活できる企業づくりに努めてまいります。
(2)経営環境
橋梁事業につきましては、新設橋梁の発注量は低調に推移する見通しですが、高速道路の大規模更新・大規模修繕や大阪湾岸道路西伸部などが今後の需要として見込まれます。システム建築事業につきましては、ターゲットである鉄骨造の非住宅建築の市場は復調することが見込まれます。また、長期的にはバブル期に建設された建築物の更新需要が高まると想定しております。土木関連事業につきましては、リニア中央新幹線などの大型プロジェクトが見込まれます。
(3)会社の優先的に対処すべき課題、中長期的な会社の経営戦略および目標とする経営指標
当社グループは、2025年度を初年度とする第7次中期経営計画(2025年度から2027年度まで、以下「新中計」)を策定し、全体の基本方針を「成長分野へのグループ経営資源の積極投入と収益構造の強靭化」といたしました。橋梁の保全事業、システム建築事業、エンジニアリング事業のうち土木関連事業、そして全社的なデジタル化の推進という4つの注力分野に積極的に経営資源を投入して目標の達成を目指してまいります。新中計の最終年度の数値目標は売上高2,000億円、営業利益185億円、1株当たり当期純利益350円であり、その達成に向けた主な事業戦略は以下のとおりです。
(橋梁事業)
グループの収益を支える基盤事業として、保全事業を中心とした領域拡大、デジタル化推進による安全性・品質・生産性の向上を図ります。新設橋梁の発注量が減少する中、保全事業において、床版取替など大規模更新工事における競争力向上と、鋼だけでなく異工種(コンクリート、塗装等)を含めた事業領域の拡大を図ってまいります。
(システム建築事業)
グループの成長を牽引する事業として、商品価値向上とマーケティング戦略に基づくトップシェアの維持拡大を図ります。2階建てや環境配慮型製品など、様々な顧客ニーズに応える製品のラインアップを拡充するとともに、用途や顧客等の属性に応じた効果的な営業体制を構築し、受注の拡大を目指してまいります。
(エンジニアリング事業(土木関連))
新たな領域を開拓する事業として、新規分野への積極的な進出を図ります。羽田アクセス線やリニア中央新幹線などトンネルセグメントの既受注案件の生産を着実に進めながら、将来的に成長が期待される土木鋼構造物(原子力発電・洋上風力発電・港湾リニューアル)の研究開発や事業化に取り組んでまいります。
以上が新中計の事業戦略の概要でございますが、喫緊の課題といたしましては、システム建築事業の回復を図ってまいります。中小規模の工場・倉庫案件を中心に建設コスト上昇等による設備投資計画の延期や見直しの動きが見られますが、大手企業、設計事務所への直接営業や商社、ゼネコンとの関係強化により、比較的需要が安定している大型案件への取組みを強化してまいります。
なお、当社グループの経営上の最大のリスクは重大事故の発生であり、現場工事の安全確保につきましては、引き続き最重要課題として取り組んでまいります。具体的には過去の災害事例の周知はもとより、AIカメラを用いた安全監視システムの開発・導入を推進するなど、より実効性のある安全対策を追求してまいります。
当社グループのサステナビリティに関する考え方および取組は、次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(1)サステナビリティ共通
当社グループは、「社会公共への奉仕と健全経営」という企業理念のもと、経営ビジョンとして「匠の技とデジタル技術を融合し、良質な社会インフラを提供することで、安全・安心で豊かな暮らしに貢献します」と定めています。本ビジョンに基づき、良質な製品をつくり、守り、次世代につなぐことで社会の発展に貢献することをサステナビリティの基本的な方針とします。
社会・環境問題をはじめとするサステナビリティ課題の解決に対し、リスクの減少のみならず、新たな収益機会にもつながると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、積極的かつ能動的に取り組みます。
① ガバナンス
サステナビリティならびにESGに関わる経営の基本方針、事業活動やコーポレートガバナンスの方針・戦略に関する議案は、取締役会の諮問機関として設置された「サステナビリティ委員会」で検討を行い、重要な方針や施策については経営会議での審議を経て、取締役会へ報告され、審議・決定がなされます。
同委員会の下部組織である「サステナビリティワーキンググループ」は、決定された方針や施策を事業活動に落とし込み、各事業会社や客先・取引先と連携・協力しながら具体的な取り組みを推進しています。
サステナビリティ委員会は、当社の執行役員が委員長を務め、事業会社の執行役員・幹部社員で構成されています。サステナビリティワーキンググループは、事業会社の総務担当部長で構成され、各種必要なデータを把握・管理し、数値の測定・集計および算定結果の管理など、より実務的な役割を担っています。
サステナビリティ委員会の構成と実績
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構成メンバー |
委員長 |
当社の執行役員 |
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委員 |
事業会社執行役員・幹部社員 |
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2024年度活動 |
回数 |
4回 |
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主な議論 |
ESG関連方針について |
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有価証券報告書でのサステナビリティ情報記載について |
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統合報告書について |
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第7次中期経営計画におけるサステナビリティの取り組み マテリアリティ(重要課題)の特定とKPI設定について |
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移行計画について |
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環境分野リスク管理計画について |
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CO₂削減の取り組み |
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TCFDに沿った情報開示について |
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CDP*1対応について |
*1:Carbon Disclosure Project:気候変動質問書
当社グループのガバナンス体制の詳細については、「
② リスク管理
当社グループは、2024年度より「統合リスク管理委員会」を設置し、グループ全体で包括的にリスクを管理するグループリスク管理態勢(体制およびプロセス)の強化に取り組んでいます。統合リスク管理には、サステナビリティ関連のリスクも含んでおり、詳細については、「
③ 戦略
当社グループでは、サステナビリティ課題のうち、当社グループとして優先的に取り組むべきものをマテリアリティとして特定し、中期経営計画に反映させています。マテリアリティの特定については、サステナビリティ委員会で審議を行い、取締役会で承認とモニタリングを行い、必要に応じて見直されます。また、個別のサステナビリティ課題についての目標と取り組みの進捗状況については、取締役会がモニタリングを行います。
マテリアリティ特定のプロセス
1.検討すべきマテリアリティ候補項目の洗い出し
1)当社グループの事業や経営資源、バリューチェーンに影響する可能性のある、政治経済・社会・環境・技術課題を抽出
2)企業理念を踏まえ、経営ビジョン達成のために、当社グループが貢献できる社会・環境課題、優先的に取り組むべきESG課題を長期的視点でリストアップ
2.縦軸:ステークホルダーへの影響度、横軸:自社への影響度、の両軸から優先順位づけ・重みづけを検討し、マテリアリティ候補項目の絞り込み
3.サステナビリティ委員会での審議と経営メンバーレビューによるマテリアリティの特定
「第6次中期経営計画(2022~2024年度)」(以下、第6次中計)においては、「100年先を見据えた強固な経営基盤を確立する」を基本方針の1つとして掲げ、機会獲得の観点からDX戦略、技術戦略、人材戦略を考慮し、リスクの観点からはESGそれぞれについてマテリアリティを設定しました。
2025年度を初年度とする「第7次中期経営計画(2025~2027年度)」(以下、第7次中計)では、新たな経営ビジョンと私たちの役割を実現するために、優先度の高いESG課題を類似分野別に5つの項目にまとめ、それらの解決に向けた施策、KPIを定めマテリアリティとしました。
第7次中計のマテリアリティとマテリアリティの解決に向けた施策
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マテリアリティ |
マテリアリティの解決に向けた施策 |
主なKPI |
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モノづくりへのこだわり |
重大災害・事故の根絶 |
死亡事故件数 |
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品質の確保 |
橋梁事業の工事評点 |
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製品の安定供給 |
設備投資額 |
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AIネイティブな製品・サービスへの転換 |
生成AIをはじめとするAI関連システムの年間開発件数 |
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労働生産性の向上 |
デジタルを活用した安全性・品質・生産性向上技術開発件数 |
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未来を支える社会インフラの構築 |
災害に強いインフラの実現に向けた製品開発 |
研究開発費 |
|
インフラの更新サービスやメンテナンスへの対応 |
橋梁保全事業売上高 |
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災害復旧支援 |
災害時対応訓練の実施 |
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海外事業の取り組み強化 |
海外事業受注高 |
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|
多様な人材が集まり能力を発揮できる社会の実現 |
DE&Iの推進とエンゲージメントの向上 |
エンゲージメントレーティング |
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従業員の健康とワークライフバランスの推進 |
現場職員の4週8休実施率 |
|
|
従業員やパートナー、サプライヤーの人権尊重 |
人権リスク調査 |
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パートナーと共に人と自然に優しい環境への貢献 |
グリーンエネルギー関連事業への展開 |
洋上風力発電など新しい事業領域への引合い・見積件数 |
|
地球温暖化対応の製品開発 |
付加価値製品の見積件数 |
|
|
カーボンニュートラルの実現 |
CO₂排出量削減率 |
|
|
環境負荷の低減 |
鋼材リサイクル率100%の継続 |
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|
誠実で公正な企業活動 |
コーポレートガバナンスの強化 |
重大なコンプライアンス違反件数 |
|
情報セキュリティ管理 |
重大な情報セキュリティ事故件数 |
④ 指標と目標
第6次中計の主なマテリアリティと達成状況は下表のとおりです。
|
マテリアリティ |
KPI |
目標 |
2024年度 実績 |
||
|
機
会
獲
得 |
環
境 |
災害に強い製品開発の要望への対応 |
研究開発費 |
11億円 |
7億円 |
|
国土強靱化へ向けた更新サービスやメンテナンス要望への対応 |
橋梁保全事業売上高 |
291億円以上 |
258億円 |
||
|
社 会 |
製品の安定供給 |
設備投資額(2022~2024年度合計180億円以上) |
95億円 累計180億円 |
57億円 累計142億円 |
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人員体制 |
2,150名 |
2,121名 |
|||
|
優秀な人材の獲得とダイバーシティ&インクルージョンの推進 |
|
採用計画 達成率100% |
採用 達成率91.7% |
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|
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|
|||
|
リ
ス
ク |
E |
気候変動や自然災害による物理的リスクへの対応 |
BCP訓練の実施 |
年20回以上 |
32回 |
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S |
労働安全衛生の確保 |
死亡災害件数 |
0件 |
0件 |
|
|
グローバルな健康課題への対応 |
健康経営優良法人の申請 |
認定 |
認定 |
||
|
G |
公正な取引活動と腐敗防止 |
重大なコンプライアンス違反件数 |
0件 |
0件 |
|
|
グループ内部統制システムや監査規程に基づく、グループ各社の全部門での自主監査および事象の把握と予防・改善措置、再発防止策の実施 |
年1回 |
年1回 |
|||
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監査部門の人員体制および内部統制に関する教育の実施 |
人員41名 教育実施率100% |
人員33名 教育実施率100% |
|||
|
グループの監査役と監査室長の会議の実施 |
年2回 |
年2回 |
|||
|
情報セキュリティ管理 |
重大な情報セキュリティ事故件数 |
0件 |
1件 |
||
|
災害時のデータ保全に関する訓練の実施 |
年1回 |
年2回 |
|||
(注)持分法適用会社を含む
(2)気候変動への取り組み(TCFD*1に基づく開示)
気候変動による異常気象の頻発や水害の激甚化等が進行しており、脱炭素社会への移行が国際社会全体で強く求められています。当社グループは、社会インフラ整備を担う企業集団として、災害に強いインフラ整備や長期的な橋守り、災害復旧支援をはじめ、事業を通じて気候変動に起因する各種課題の解決に取り組んできました。
当社グループは気候変動を重要な経営課題として認識しており、2020年には、マテリアリティ(重要課題)として「気候変動や自然災害による物理的リスクへの対応」を特定しました。
更に、2021年12月にはTCFD提言への賛同を表明するとともに、2022年5月に2050年度の事業活動におけるCO₂排出量(スコープ1・2)をゼロとし、カーボンニュートラルを実現することを目標に掲げました。その目標の達成に向けた中期目標として、2030年度におけるスコープ1・2のCO₂ 排出量を50%削減*2、短期目標として2024年度に20%削減*2を設定しました。
2025年、当社は第7次中期経営計画を策定するにあたり、最終年度にあたる2027年度のスコープ1・2のCO₂ 排出量を2020年度比で35%削減する目標をたて、その道筋を示した移行計画を策定します。このように今後も当社グループは、カーボンニュートラルの実現に向けて一層の取り組みの推進を図り、その結果等はTCFD提言のフレームに沿って開示していきます。当社グループでの取り組みに加え、投資家をはじめとするステークホルダーの皆様との対話と協働を通じて、脱炭素社会の実現に貢献していきます。
*1:Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース
*2:2020年度を基準年とする
① ガバナンス
当社グループは2021年に策定した「サステナビリティ方針」の中で、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティ課題の解決に対し、積極的かつ能動的に取り組むことを宣言しています。「気候変動」はグループ横断の会議体である「サステナビリティ委員会」において、グループのマテリアリティ(重要課題)として審議され、取締役会で決定されました。
気候変動への対応を含むサステナビリティならびにESGに関わる経営の基本方針、事業活動やコーポレートガバナンスの方針・戦略に関する議案は、サステナビリティ委員会で検討を行い、重要な方針や施策については経営会議での審議を経て、取締役会へ報告され、審議・決定がなされます。サステナビリティ委員会は、当社の執行役員が委員長を務め、各事業会社の幹部・執行役員で構成されています。経営会議および取締役会で決定された方針や戦略の実施については、サステナビリティ委員会の下部組織である「サステナビリティワーキンググループ」が推進役を担います。サステナビリティワーキンググループは、各事業会社の総務担当部長で構成され、事業会社におけるCO₂排出量削減対策の推進、進捗把握等の実務を行います。
経営会議および取締役会で審議・決定された事項は、各事業会社の業務執行部門の取り組みに落とし込まれます。サプライチェーンにおけるCO₂排出量(スコープ3)については、関係先と連携・協力しながら削減に努めてまいります。経営会議・取締役会は、気候関連問題を含むマテリアリティへの取り組み状況について年1回以上モニタリングを行い、指揮・監督を行います。
「
② 戦略
気候変動が当社グループの事業・財務にどのような影響を及ぼすかを明らかにするため、シナリオ分析を行っています。分析対象範囲は当社グループの主要な事業(橋梁、エンジニアリング関連、先端技術)とし、分析対象期間の時間軸は現在、短期(2~3年後)、中期(2030年頃)、長期(2050年頃)としています。
気候関連リスクと機会の特定プロセスは、まず対象事業ごとに「移行」「物理」の双方の気候影響において、バリューチェーン上のリスク・機会要因を洗い出し、次に「調達」「直接操業」「製品・サービス需要」別に分類・整理し、それぞれについて影響の具体的な内容、影響を受ける可能性と影響の大きさ、影響が発現する時期を検討し、最終的な事業影響を特定します。
当社グループの事業から直接排出されるCO₂排出量(スコープ1・2)は多くありませんが、提供する橋梁やシステム建築では、鋼材やセメント等の製造時に多くのCO₂排出を伴う素材を使用します。また、それら原材料・建築資材の運搬や建設時の重機稼働に伴うCO₂も発生します。加えて、主要顧客である自治体や民間企業からの環境配慮要請も年々強まっていることから、グループ全体で低炭素施工やローメンテナンス製品等の技術開発、鋼材リサイクル率100%の追求等を行っています。
これらの事業特性から、CO₂排出の規制強化や炭素税導入による建設コスト・調達コストの増加、異常気象の頻発・激甚化による自社施設損傷・サプライチェーン寸断、慢性的な気温上昇に伴う建設現場の労働生産性の低下等を主なリスクとして特定しました。また、機会側面としては、国土強靱化、防災・減災、保全市場の拡大や環境配慮型の橋梁・建築物の需要増加等を機会として特定しました。
気候変動に起因し、重大な影響を及ぼすと特定した主なリスク・機会とその対応策
|
リスク |
|||
|
説明 |
時間軸* |
事業への影響** |
対応策 |
|
低炭素技術導入による鋼材価格の上昇・品薄 |
長期 |
鋼材の製造過程の脱炭素を実現するための新技術導入による価格の上昇と、低炭素鋼材の海外輸出による国内の鋼材不足 |
・鋼材メーカーの脱炭素技術の開発への協力 ・FRPバルサ材や木材、低炭素型コンクリートなどの新素材の当社グループ事業分野への応用 |
|
気温上昇による熱中症の増加や作業効率の低下、熱中症対策コスト増 |
現在 |
気温上昇による熱中症の増加で、生産性の低下や人員確保難につながる。追加的な安全対策が必要となり、コストが発生 |
・CO₂削減目標の達成 ・労働環境と健康管理に関わるICTの導入と活用 ・溶接作業等のロボット化やICTの活用による省人化の推進 ・作業場における空調服などの支給 ・BCP投資と設備および人員の強化 ・BCPの策定とその確実な運用および訓練の継続 ・想定外の被災でも早期に復旧が可能な製品と工法の活用 |
|
異常気象による調達網への影響、工事の中断または遅延 |
現在 |
台風や集中豪雨により調達網が寸断され操業制限を受けたり、工場・施工現場が停止したりするケースが頻発 |
|
|
異常気象による自社施設の損傷 |
現在 |
異常気象による浸水や強風により自社拠点が被災 |
|
|
機会 |
|||
|
説明 |
時間軸* |
事業への影響** |
対応策 |
|
国土強靱化、防災・減災、保全市場の拡大 |
現在 |
耐久性が高く、メンテナンスのしやすい橋梁・災害に強い土木鋼構造物の建設需要の増加 |
・DXを活用した生産管理システムと営業管理システムの整備による受注拡大および生産拡大への対応 ・橋の架け替えや施設移転の需要の的確な把握と技術提案力の強化 ・建設DXの推進による災害現場での安全性・施工性の向上に寄与する技術の開発 ・津波や高潮による被害を低減する「プレキャスト防潮堤」の提供 ・豪雨災害に対する備えである地下河川向けの内水圧対応型トンネルセグメントの提供 ・老朽化した道路橋床版の取替工法に関する技術の提供 ・アルミ、ステンレス製の維持管理関連製品の提供 ・鋼材と木材のハイブリッド製品の提供 ・グリーンスチールの活用 ・断熱性能に優れたシステム建築の提供 ・電炉鋼材、低炭素型コンクリート、環境配慮型塗料などの有効な要素技術の応用 ・脱炭素型加工機械(電気・水素)の新技術の活用 ・プレキャスト化や急速施工法による現場の工期短縮などの技術開発の推進 |
(注)*時間軸:現在、短期(2~3年後)、中期(2030年頃)、長期(2050年頃)
**影響の大きさは、影響を受ける事業の売上高割合に応じて4段階で評価した結果、重大な影響を及ぼすと特定したものについて記載しています。
シナリオ分析で特定された重要なリスク・機会について事業への影響とその対応策は、サステナビリティ委員会で進捗を管理し、取締役会でモニタリング・監督をしています。当社グループは、気候関連のリスクに対するグループのレジリエンス保持に適切に努めており、中期経営計画に反映し、事業戦略を策定します。
③ リスク管理
気候変動に起因するリスクの洗い出しと事業への影響の評価はサステナビリティ委員会において実施しています。識別したリスクについては、サステナビリティ委員会と実務を担うサステナビリティワーキンググループとが連携する体制で、対応策を含め検討され、特に重要な課題については取締役会へ報告され、審議されます。また、これらのリスクは取締役会の諮問委員会である「統合リスク管理委員会」と連携して情報を共有し、全社的なリスクとして包括的に管理されます。統合リスク管理委員会の詳細については、「
④ 指標と目標
当社グループは気候関連のリスク・機会を評価、管理する際に使用する指標と目標として、2022年5月に「2050年のカーボンニュートラル達成」を長期目標として公表すると共に、その実現に向けたマイルストーンとして短期・中期のCO₂排出量削減目標も併せて策定しました。
短期目標である、第6次中期経営計画(2022年度~2024年度)において2020年度比20%削減に向けた取り組みとして、2024年度は当社グループにおいて最大の生産拠点である大阪工場は9月から、室蘭工場は2025年1月から、使用電力の再生可能エネルギー由来の電力へ切り替えを行いました。これにより、グループの主要な工場、事業所の再生可能エネルギーへの切り替えと、設置可能な範囲で太陽光発電設備の設置が完了しました。
スコープ3の排出量は、カテゴリ1の購入した製品サービスの割合が高くなっています。当社グループが提供する橋梁やシステム建築および土木製品では、鋼材、コンクリート、塗料などを主要な原材料として多く使用しています。これらの原材料の購入によるCO₂ 排出量を低減することがカーボンニュートラルの実現のための重要な課題となっています。原材料のCO₂ 削減はそれぞれのサプライヤーの技術革新による新技術の活用に努めることを方針としてサプライヤーと認識を共有しています。鋼材メーカーが販売を始めたグリーンスチールは、将来的な製鉄の技術革新へつながる技術の1つであり、当社グループで国内橋梁に初めて適用させることになりました。発注者とは業界団体を通じて意見交換を行っており、新技術活用によるCO₂ 削減の方針を確認しています。現在の課題としては、新技術導入の効果と必要となるコストの評価方法の整備や、当社が提供する製品のライフサイクルでのCO₂削減の実践が挙げられます。発注者、サプライヤーおよび製品の利用者とも協働して、新技術の活用を積極的に進めるとともに、課題の解決にも取り組んでいきます。
CO₂排出量削減目標
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|
基準年 |
目標年 |
目標 |
|
スコープ 1・2 |
2020年度 |
2024年度(第6次中期経営計画期間) |
20%削減 |
|
2027年度(第7次中期経営計画期間) |
35%削減 |
||
|
2030年度 |
50%削減 |
||
|
2050年度 |
カーボンニュートラル |
||
|
スコープ 3 |
サプライヤーや顧客等の関係者と協力しながら、削減に努める |
||
CO₂排出量実績推移(単位:t-CO₂)
|
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2020年度 |
2021年度 |
2022年度 |
2023年度 |
割合 |
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スコープ 1 |
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1.5% |
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スコープ 2* |
|
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1.9% |
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スコープ 1・2計 |
|
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3.5% |
|
増減率 |
基準年 |
+16% |
-19% |
-8% |
- |
|
スコープ 3** |
|
|
|
|
96.5% |
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スコープ 1・2・3合計 |
|
|
|
|
100.0% |
*2022年度から、購入電力の一部のCO₂削減プランへの切替え、および事業所・工場における太陽光発電設備(PV)の設置を進め、スコープ2排出量を大幅に削減
**スコープ3では、カテゴリ1(購入した製品サービス)の占める割合が高く90%以上の割合を占めています。
(注)2024年度の実績につきましては、2025年9月発行予定の
(3)人的資本への取り組み
① 人的資本に関する方針
当社は、企業理念である「社会公共への奉仕と健全経営」のもと、これまで、「安全」と「品質」を会社存立の原点として、世の中を支えるモノづくりに取り組んでまいりました。また、より多くの人の生活を安全・安心に支えるため、モノづくりに誠実に向き合い、新しい技術や工法等を業界のなかで先駆けて開発するなど積極的にチャレンジしていくことで、成長を図ってきました。
この創業以来、育んできたDNAを次代に着実に受け継いでいくため、100年以上の歴史のなかで積み上げてきた高い技術力の維持・強化に加えて、従業員一人一人が業界のリーディングカンパニーとしての使命感を持ち、社内外の様々な関係者と協力しながら働いていくことができる「人間力」の強化を目指します。
当社では、目指すべき姿の実現に向けて、「人材育成方針」および「社内環境整備方針」を制定するとともに、具体的な取り組みのポイントを4つに整理し、それぞれの取り組みをモニタリングしながら着実な実行を推進してまいります。
(人材育成方針)
当社は、サステナビリティの基本方針として「良質な製品をつくり、守り、次世代につなぐことで社会の発展に貢献すること」を掲げており、企業運営において最も大切なのは「人」と位置づけております。そのうえで、会社の持続的な成長と企業価値の向上を実現させるには、多様かつ高度化するニーズに対応できる幅広い経験とスキルを蓄積した人材の育成が極めて重要と考えています。そこで、高い専門性を身につけるため、多様な従業員一人ひとりが継続的に成長できるように中長期的な観点で育成することを人材育成の方針としております。
(社内環境整備方針)
当社のように「モノづくり」を展開する会社においては、働く人の安全・安心の確保は持続的な企業活動において重要な課題です。また、高い安全意識の積み重ねにより心理的・身体的な安心感が醸成され、部門を越えて協力しやすい企業風土をつくることも重要です。そうした風土が品質の高い建造物の建設につながり、社会に対して安全・安心を届けることにも波及すると考えています。そのため、働く人の安全と心身の健康を守り、人権を尊重し、差別のない健全な職場環境を確保することを社内環境整備の方針としております。
(目指すべき姿の実現に向けた4つのポイント)
a.業界のリーディングカンパニーとして、多様化かつ高度化する技術的なニーズにいち早く対応できるよう、幅広い経験・スキルを計画的に蓄積する
・企業理念や事業内容に共感を持った人材の長期的な育成
・階層や役割に応じた体系的な研修の実施
・タレントマネジメントシステムを活用したスキルや経験の可視化
・広範な業務理解、適材適所の実現を支える人事交流・ジョブローテーション
b.個々の社員が多様な経験を積み、主体的かつ継続的に成長できる環境をつくる
・スキル向上のための資格取得
・自己申告制度を活用した自身のキャリア形成およびジョブローテーション
・ライフイベントを見据えた人事制度の活用
c.高い安全意識の積み重ねにより心理的・身体的な安心感を醸成し、より一層、部門を越えて協力しやすい企業風土を形成する
・継続的な安全面での改善活動
・コンプライアンス・各種ハラスメント研修の実施
・長時間労働の是正
・ワークライフバランス施策の充実
・部門間連携を支える人事交流・ジョブローテーション
・健康経営の推進
・エンゲージメントレーティングの向上
d.より効率的な業務推進、高い安全性を実現するデジタル人材を育成する
・ITリテラシーの高い人材の選抜型育成
・管理職向けのDX推進マネジメント研修の実施
当社は上記方針を実現するため、2024年度に以下の具体的な取り組みを実行しております。
・グループ横断の人事交流・ジョブローテーションを目的とした会議体の設置
・エンゲージメントサーベイの実施ならびにエンゲージメント向上に向けたアクションプランの策定
・デジタル化推進の中心的な役割を担うデジタルリーダーの任命(70名)および必要なスキルを学ぶための支援の実施
② 人的資本に関する指標及び目標
当社グループでは、上記において記載した、人材の多様性を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針について、次の指標を用いております。当該指標に関する目標及び実績は次のとおりです。
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指標 |
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2024年度実績 |
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人材育成 |
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社内環境 整備 |
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(注)1.技術士/一級建築士/1級土木施工管理技士/1級建築施工管理技士/建設業経理士(1・2級)
2.目標達成のため最新の情報化技術の活用など安全対策の強化を実施してまいります。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものです。
当社グループは、「グループリスク管理基本方針」に基づき、当社並びに各事業会社に内包するリスクをグループ全体で統合的に管理するための統合リスク管理について、その組織体制と実施プロセス等を定めています。
「グループリスク管理基本方針」については、当社ウェブサイトをご参照ください。
https://www.ybhd.co.jp/sustainability/policy.html
(1)リスク管理体制と各組織の役割
リスク管理体制
当社グループは、各事業会社・各部門で実施しているリスク管理の情報を集約し、グループ全体で包括的に管理するための組織として、取締役会の諮問委員会である「統合リスク管理委員会」を設置しています。
当委員会は、当社の代表取締役社長を委員長とし、経営会議メンバー、安全品質・コンプライアンス・財務・情報等のリスクと関係のある分野を統括する主管部門の長(分科会長)を委員として構成されています。分科会は、様々な分野別のリスクについてのリスク管理活動を行う組織であり、その主管組織とリスク分野等は、下表のとおりです。統合リスク管理委員会の事務局は、当社の企画室が担当しています。
各組織の役割
|
取締役会 |
グループリスク管理を行う組織・体制の審議・決定 グループリスク管理基本方針・統合リスク管理要領・統合リスク管理年間計画の審議・決定 社内外開示対応の審議・決定 |
|
統合リスク管理 委員会 |
グループリスク管理基本方針・統合リスク管理要領・統合リスク管理年間計画の検討・起案 分野別リスク管理活動計画の確認 分野別に洗い出したリスクを統合してリスクマップを作成し、情報共有 リスクをモニタリングし、必要に応じ指摘・是正 |
|
分科会 |
分野別リスク管理活動計画の作成 各部門のリスク管理活動の監督と分野別リスク管理活動計画の見直し 実際に発生した事象の確認・分析・情報共有 |
|
事業会社および 各部門 |
グループリスク管理基本方針・分野別リスク管理活動計画を共有 事業会社・各部門別の活動計画に基づきリスク管理を推進 実際に発生した事象の確認・分析、再発防止策の検討 |
分科会の主管組織等
|
分科会 |
主管組織 |
テーマ |
関連方針・基準 |
事業会社 |
|
事業推進リスク |
グループ企画室会議 |
事業継続 |
中期経営計画 |
企画担当 |
|
安全品質リスク |
グループ安全品質委員会 |
安全衛生 |
安全衛生方針 |
安全品質担当 |
|
法務リスク |
法務部 |
法令順守 |
国内外すべての法令 |
総務担当 |
|
総務リスク |
総務人事部 |
BCP |
事業継続計画 |
総務担当 |
|
財務リスク |
財務連絡会 |
資本政策 |
損益予算 |
経理担当 |
|
人材リスク |
人的資本強化検討会議 |
人材確保 |
人材育成方針 |
人事担当 |
|
R&Dリスク |
技術総括室 |
研究開発 |
技術戦略・知財戦略 |
開発担当 |
|
情報リスク |
情報企画室 |
情報管理 |
サイバーセキュリティ ガイドライン |
情報担当 |
|
生産リスク |
グループ生産会議 |
生産体制 |
品質方針・設備投資計画 ガイドライン |
工場担当 |
|
環境リスク |
サステナビリティ委員会 |
気候変動 |
環境方針 |
総務担当 |
(2) 実施プロセス
分科会は、年に1回、関連する分野において認識するリスクを洗い出し、予防時および発生時のリスク対策をまとめ、分野別リスク管理活動計画を策定します。リスクの適用範囲はグループ全体とし、外生的リスク(BCPに関するリスク)、内生的リスク(経営戦略・管理、コンプライアンス、実務)を対象とします。
統合リスク管理委員会では、分野別に洗い出したリスクを「頻度」と「影響度」の観点から整理したリスクマップを用いて包括的に把握し、情報共有を行った後、グループ全体で重点的に対策を検討するリスクを重点対応リスクとして選定し、四半期に1回、リスクをモニタリングして、リスク対応策を協議します。
(3) 2025年度の重点対応リスク
上記のプロセスを経て選定された2025年度の重点対応リスクは以下のとおりです。
①死亡災害のリスク
当社グループの製造部門において重大な労働災害が発生した場合、災害原因の調査と再発防止策対応により、生産活動に遅延が生じる可能性があります。また、現場部門で労働災害が発生した場合は、発注者からの指名停止措置などにより受注機会を失い、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。さらには社会的信用を失うことにより、事業活動にも悪影響を及ぼすことも懸念されます。
リスク対策として、製造部門ならびに現場部門において、労働安全衛生マネジメントシステムを構築し、運用するための体制を確立しています。重大災害事故の発生を根絶するために、過去の事故や災害の事例の周知はもとより、安全パトロール等で再発防止対策の実効性の確認も行っています。特に墜落災害の防止のために、安全監視員の配置や安全ブロック等のフェールセーフの活用も積極的に取り組んでいます。
②第三者災害のリスク
当社グループの事業活動において想定される第三者災害は、工場製品輸送中に第三者を巻き込む交通事故や、工事現場において資機材や工具の落下・飛散・倒壊によって第三者が被災する災害等が挙げられます。これらの事故・災害が発生した場合は、発注者からの指名停止措置等の行政処分により受注機会を失うだけでなく、社会的信用の失墜や損害賠償金の負担など、事業活動に重大な悪影響を与える可能性があります。
リスク対策として、輸送中の交通事故に対しては、事前に輸送ルートを確認して想定されるリスクを抽出した上で輸送計画書を作成しています。工事現場施工中の第三者災害に対しても、資機材や工具の落下・飛散・倒壊リスクを想定した対策を事前に立案しておき、施工計画書に反映させています。特に供用中の道路・鉄道の上空または近接作業においては、作業手順書にも対策を反映させています。
③独占禁止法、贈収賄違反の発生リスク
当社グループは、国内外問わず、独占禁止法、贈収賄規制の法令に則り事業を行っていますが、それらに違反することとなった場合、刑事罰、行政処分等を受け、受注高および売上高の減少等、業績に影響を及ぼす可能性があります。
リスク対策として、独占禁止法、贈収賄行為の対策として、グループ内部統制システムや監査規程に基づく、当社グループの全部門での自主監査ならびに、事象の把握と予防・改善措置、再発防止対策を実施しています。また、贈収賄防止方針を当社ウェブサイトに掲載し、社内に周知しています。
https://www.ybhd.co.jp/sustainability/policy.html
④検査不正の発生リスク
当社グループの事業の要は「安全」と「品質」であり、公共財産の建設を託された者として、良質な製品を経済的に提供する責任を強く認識しています。しかしながら、製作物の特異性、複雑な構造、短納期、および複合的な事由により製作工程内のエラーが発生することがあり、担当者の個人判断で、このエラーを修正せずに立会検査で合格させようとする検査不正が起きる可能性も否定できません。
リスク対策として、日々の進捗確認や工程内検査など適切な管理によりリスク発生を低減しています。さらに、作業者を含む全従業員に対して、品質確保の正義感を涵養するための教育・指導を継続的に行っています。また、近年ではデジタル技術の積極活用によりデータ収集から処理、報告までのプロセスの省人化・自動化を図っており、人が介在できない報告書作成とチェック機能を働かせることで検査不正の要因を排除しています。加えて、組織・人員の膠着化による組織的な不正を防ぐため、定期的な人事異動を進めています。
⑤ハラスメント発生のリスク
パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、マタニティハラスメント等の各種ハラスメントが発生した場合、当社グループの社会的な評価が低下し、人材の流出やステークホルダーとの関係悪化につながり、業績および財政状況に重大な影響を及ぼす可能性があります。
リスク対策として、全従業員を対象に、コンプライアンスおよび各種ハラスメントに関する教育を実施し、ハラスメントへの理解を促進させて予防しています。また、社内規程において、ハラスメント等の違反行為が確認された場合の内部通報窓口を設定しています。
⑥大規模災害・感染症等のリスク
「東京湾北部地震」、「南海トラフ地震」などの大規模地震、集中豪雨などの水害、津波の発生など、大規模な自然災害が発生した場合は、工場や工事現場に被害が発生し、事業継続に重大な影響を与える可能性があります。また、感染症の拡大により、工事の中断や事業場の閉鎖など、工程への影響や対策コストの増加が発生する可能性があります。
リスク対策として、行政やマスコミが提供する情報の収集に努めるとともに、全社において災害備蓄品の準備や拠点間のデータバックアップ等の事業継続計画を整備し、非常時を想定した訓練なども実施しています。
⑦事業環境の変化に関するリスク
中期経営計画は、策定時に将来の市場や景気の動向、物価変動、受注確率やシェアなどを想定して立案・策定していますが、策定後に想定した環境が大きく変化した場合には、受注の減少や工事損益の悪化など業績へ重大な影響が生じる可能性があります。
リスク対策として、中期経営計画策定時に業績達成のための必要要素をモニタリング指標として抽出し、定期的なPDCAサイクルにより達成度や状況の変化を把握することで、中期経営計画策定時からの環境の変化を迅速に捉えてリスクの早期発見に努め、是正対策を講じています。
⑧人材の確保・育成リスク
当社グループは橋梁事業を中心に、エンジニアリング関連事業、先端技術事業など多角的な事業を手掛けており、これらの事業の優位性を確保・継続するためには、幅広い経験とスキルを蓄積した人材の確保・育成が極めて重要と認識しています。離職者の増加や採用計画の未達成により必要な人材が不足した場合、受注量の減少、労働災害の発生、品質の低下、技術の断絶、後継者の不在等のリスクが想定されます。
リスク対策として、階層や役割に応じた体系的な教育・研修制度および広範な業務理解・適材適所の実現を支える計画的なジョブローテーション制度、キャリア形成に資する自己申告制度、ライフイベントを見据えた人事制度を構築しています。また、採用計画の達成、従業員のエンゲージメント向上を目指し種々の施策を検討・実施しています。
⑨お客様の信頼を大きく損なう品質不適合のリスク
当社グループの製造部門でお客様の信頼を大きく損なう品質不適合が発生した場合、大規模な再製作が生じるなどにより、当該工事のみならず他工事の製造工程にも影響を及ぼす可能性があります。また、現場部門で同様な品質不適合が発生した場合は、工程遅延により工期内の完成が困難となるリスクがあります。これらはお客様の評価の著しい低下を招き、競争力を大幅に損ねる可能性があり、事業活動の継続に重大な影響を与えるリスクがあります。
リスク対策として、製造部門ならびに現場部門において、品質マネジメントシステムを構築し、運用するための体制を確立しています。事業会社は、経営者の品質方針に基づき品質管理計画を立案し、実行します。また、過去の品質不適合事例を調査、分析することで再発防止策を立案します。その対策の実施結果は再度分析してPDCAサイクルにより継続的な改善を行うことにより、不適合件数を抑制しています。
⑩産業財産権の侵害・喪失のリスク
他社の産業財産権を侵害した場合、対象となった商品やサービスが継続できなくなる可能性があります。また、損害賠償を請求される可能性があります。他社の新たな産業財産権が競合する場合は適切に対応しなければ自社の商品やサービスに制限が発生する恐れがあります。
リスク対策として、知的財産室において、他社の産業財産権の動向を調査し、必要に応じて自社の商品やサービスに関する権利を特許等で守る対策を実施しています。また、社員を対象に知財セミナーを開催して、知財に関する意識の向上を図っています。
⑪情報セキュリティに関するリスク
情報セキュリティ障害(ウイルス感染、ランサムウェア、外部からの攻撃、従業員の不注意など)、または、自然災害によるデータの喪失・破損、ソフトウェアやハードウェア、ネットワークの停止などにより、情報システムが機能せず企業活動が行えなくなる、秘密情報が流出し不利益を被る、サーバーが乗っ取られ、他社に損害を与えて信用が低下する等のリスクがあります。
リスク対策として、重要な情報システムを二重化するとともに、遠隔地やクラウドサービスへのデータのバックアップを実施しています。情報セキュリティとしては、ネットワーク、エンドポイント(個人デバイス&サーバー)、クラウド、ソフトウェア等の情報システム構成要素について、ウイルス感染や各種サイバー攻撃に対して複合的・多層的対策を実施するとともに、関連規程の整備やインシデント対応チームの組織化、ユーザ教育など、ソフトおよび体制面の整備も実施しています。そして、年々複雑化・巧妙化するサイバー攻撃に対応するため、毎年、対策の点検と見直しを行っています。
(1)経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりです。
①財政状態及び経営成績の状況
a.経営成績の状況
当期における我が国経済は、緩やかな回復の動きが見られた一方で、諸物価の高騰や各国の経済政策の影響等により依然として不透明な状況が続いています。
国内建設市場につきましては、土木分野は公共投資に支えられ安定的に推移し、建築分野は高水準の企業収益を背景に底堅く推移しました。しかしながら、工事単価の上昇による大型プロジェクトの延期や新築着工面積の減少等、官民ともに工事量が伸び悩む傾向が強まりました。
このような状況の下、当期の受注高は1,573億1千万円(前期比116億円増)となりました。業績につきましては、売上高は1,593億6千万円(同47億円減)となりました。また、営業利益は166億7千万円(同7億3千万円増)、経常利益は162億9千万円(同4億3千万円増)、投資有価証券の売却益等の計上により親会社株主に帰属する当期純利益は128億5千万円(同10億円増)となり、各利益は過去最高を更新しました。
セグメントごとの経営成績は以下のとおりです。
(橋梁事業)
国内橋梁事業につきましては、計画の後ろ倒し等により発注量が伸び悩む厳しい事業環境となりました。このような状況の下、下半期は受注が伸び悩んだものの上半期が好調に推移したことにより、橋梁事業全体の受注高は前期並みの865億7千万円(前期比3億2千万円増)を確保しました。
業績につきましては、豊富な手持ち工事が順調に進捗し、売上高は982億9千万円(同8億8千万円増)、営業利益は136億6千万円(同48億5千万円増)となり、過去最高となりました。これは特に当第4四半期において、設計変更の獲得が「次期予定からの前倒し」や「サブJV工事での変更」等を含めて想定以上に重なったことにより、採算が大きく改善したためです。
(エンジニアリング関連事業)
エンジニアリング関連事業につきましては、システム建築事業の受注は、中小規模の工場・倉庫案件を中心に建設コスト上昇等による設備投資計画の延期や見直しの動きが続いたことで想定を下回って推移しましたが、期末に向けて回復し、受注面積は68万㎡(前年同期59万㎡)となりました。事業全体の受注高も前期から持ち直し、662億1千万円(前期比95億9千万円増)となりました。
業績につきましては、システム建築事業において、受注の伸び悩みにより生産量が少ない状況が続いたことから、売上高は563億3千万円(同67億9千万円減)、営業利益は43億4千万円(同40億5千万円減)に止まりました。
(先端技術事業)
先端技術事業につきましては、精密機器製造事業の受注が回復し、受注高は45億2千万円(前期比16億8千万円増)となりました。業績につきましても、受注の増加により売上高は41億7千万円(同12億3千万円増)、営業利益は3億7千万円(同2億6千万円増)となりました。
(不動産事業)
不動産事業につきましては、売上高は5億6千万円(前期比3千万円減)、営業利益は3億円(同7千万円減)となり、当期も安定的な収入と利益を確保いたしました。
当期におけるセグメント別の連結売上高・受注高・受注残高 (億円)
|
|
前 期 |
当 期 |
||
|
売上高 |
橋梁事業 |
新設橋梁事業 |
649 |
719 |
|
保全事業 |
274 |
258 |
||
|
海外事業 |
50 |
4 |
||
|
小 計 |
974 |
982 |
||
|
エンジニアリング 関連事業 |
システム建築事業 |
469 |
407 |
|
|
土木関連事業 |
87 |
81 |
||
|
建築・機械鉄構事業 |
75 |
73 |
||
|
小 計 |
631 |
563 |
||
|
先端技術事業 |
精密機器製造事業 |
21 |
34 |
|
|
情報処理事業 |
7 |
7 |
||
|
小 計 |
29 |
41 |
||
|
不動産事業 |
|
5 |
5 |
|
|
合 計 |
1,640 |
1,593 |
||
|
受注高 |
橋梁事業 |
新設橋梁事業 |
590 |
754 |
|
保全事業 |
248 |
112 |
||
|
海外事業 |
23 |
△0 |
||
|
小 計 |
862 |
865 |
||
|
エンジニアリング 関連事業 |
システム建築事業 |
384 |
456 |
|
|
土木関連事業 |
116 |
124 |
||
|
建築・機械鉄構事業 |
65 |
81 |
||
|
小 計 |
566 |
662 |
||
|
先端技術事業 |
精密機器製造事業 |
21 |
37 |
|
|
情報処理事業 |
7 |
7 |
||
|
小 計 |
28 |
45 |
||
|
合 計 |
1,457 |
1,573 |
||
|
受注残高 |
橋梁事業 |
新設橋梁事業 |
905 |
942 |
|
保全事業 |
502 |
354 |
||
|
海外事業 |
5 |
0 |
||
|
小 計 |
1,414 |
1,297 |
||
|
エンジニアリング 関連事業 |
システム建築事業 |
176 |
224 |
|
|
土木関連事業 |
330 |
373 |
||
|
建築・機械鉄構事業 |
45 |
53 |
||
|
小 計 |
552 |
651 |
||
|
先端技術事業 |
精密機器製造事業 |
7 |
10 |
|
|
情報処理事業 |
3 |
3 |
||
|
小 計 |
11 |
14 |
||
|
合 計 |
1,977 |
1,962 |
||
(注)金額は単位未満を切捨てて記載しています。
橋梁事業の主な受注工事
|
区分 |
発注者 |
工事名 |
場所 |
|
新設 |
東日本高速道路 |
八潮パーキングエリアランプ橋北 |
埼玉県 |
|
新設 |
広島高速道路公社 |
温品ジャンクション(2工区) |
広島県 |
|
新設 |
中国地方整備局 |
天神川橋 |
鳥取県 |
|
新設 |
沖縄総合事務局 |
小禄道路橋梁(P30-P36) |
沖縄県 |
|
保全 |
阪神高速道路 |
鋼桁大規模修繕(2024-池) |
大阪府 |
橋梁事業の主な売上工事
|
区分 |
発注者 |
工事名 |
場所 |
|
保全 |
西日本高速道路 |
中国池田インターチェンジ~宝塚インターチェンジ間橋梁更新 |
大阪府 |
|
新設 |
東日本高速道路 |
牛久高架橋 |
茨城県 |
|
保全 |
東日本高速道路 |
阿能川橋床版取替 |
群馬県~ 新潟県 |
|
新設 |
東日本高速道路 |
新利根川橋西 |
茨城県 |
|
保全 |
首都高速道路 |
上部工補強3-213 |
神奈川県 |
b.財政状態の状況
当連結会計年度末における総資産は、前連結会計年度末に比べ53億3千万円増加し、2,161億7千万円となりました。流動資産は、「受取手形・完成工事未収入金等」が増加したこと等により82億3千万円増加し、1,544億9千万円となりました。固定資産は、投資有価証券の売却により「投資その他の資産」が減少したこと等により29億円減少し、616億8千万円となりました。
負債は、前連結会計年度末に比べ42億6千万円増加し、870億8千万円となりました。その主な要因は、「短期借入金」が増加したことによるものです。
純資産は、前連結会計年度末に比べ10億6千万円増加し、1,290億9千万円となりました。その主な要因は、「親会社株主に帰属する当期純利益」の計上、配当金の支払、「非支配株主持分」の減少等によるものです。この結果、自己資本比率は59.7%となりました。
②キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前連結会計年度末に比べて81億5千万円減少し、168億3千万円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動の結果、使用した資金は21億7千万円(前連結会計年度は16億3千万円の使用)となりました。これは、主に「受取手形・完成工事未収入金等」の売上債権が増加したことによるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動の結果、使用した資金は19億7千万円(前連結会計年度は9億7千万円の使用)となりました。これは、主に有形固定資産や無形固定資産の取得による支出があったことによるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動の結果、使用した資金は37億円(前連結会計年度は25億1千万円の獲得)となりました。これは、主に配当金の支払や連結の範囲の変更を伴わない子会社株式の取得による支出があったことによるものです。
なお、当社グループのキャッシュ・フロー指標のトレンドは下記のとおりであります。
|
回次 |
第157期 |
第158期 |
第159期 |
第160期 |
第161期 |
|
決算年月 |
2021年3月期 |
2022年3月期 |
2023年3月期 |
2024年3月期 |
2025年3月期 |
|
自己資本比率 |
59.6% |
62.5% |
58.8% |
59.0% |
59.7% |
|
時価ベースの 自己資本比率 |
49.8% |
46.5% |
45.5% |
56.9% |
46.4% |
|
キャッシュ・フロー対有利子負債比率 |
85.0年 |
0.6年 |
-年 |
-年 |
-年 |
|
インタレスト・ カバレッジ・レシオ |
1.9倍 |
236.7倍 |
-倍 |
-倍 |
-倍 |
※ 自己資本比率:自己資本/総資産
時価ベースの自己資本比率:株式時価総額/総資産
キャッシュ・フロー対有利子負債比率:有利子負債/営業キャッシュ・フロー
インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業キャッシュ・フロー/利払い
a.いずれも連結ベースの財務数値により計算しております。
b.株式時価総額は、期末株価終値×期末発行済株式総数(自己株式控除後)により算出しております。
c.営業キャッシュ・フローは、連結キャッシュ・フロー計算書の営業活動によるキャッシュ・フローを使用しております。有利子負債は、連結貸借対照表に計上されている負債のうち利子を支払っている全ての負債を対象としております。また、利払いについては、連結キャッシュ・フロー計算書の利息の支払額を使用しております。
d.2023年3月期、2024年3月期および2025年3月期の「キャッシュ・フロー対有利子負債比率」および「インタレスト・カバレッジ・レシオ」については、営業キャッシュ・フローがマイナスのため、記載しておりません。
③生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと次のとおりです。
|
セグメントの名称 |
数 量 (トン) |
前年同期比 (%) |
金 額 (百万円) |
前年同期比 (%) |
|
橋梁事業 |
40,831 |
81.4 |
98,299 |
100.9 |
|
エンジニアリング関連事業 |
53,827 |
84.5 |
56,334 |
89.2 |
|
先端技術事業 |
- |
- |
4,173 |
141.9 |
|
合計 |
94,659 |
83.1 |
158,807 |
97.1 |
(注)金額は販売価格によっており、セグメント間取引については、相殺消去しています。
b.受注実績
当連結会計年度の受注実績をセグメントごとに示すと次のとおりです。
|
セグメントの名称 |
受注高 |
受注残高 |
||||
|
数量 (トン) |
前年同期比 (%) |
金額 (百万円) |
前年同期比(%) |
金額 (百万円) |
前年同期比 (%) |
|
|
橋梁事業 |
32,277 |
83.6 |
86,572 |
100.4 |
129,713 |
91.7 |
|
エンジニアリング関連事業 |
64,013 |
116.9 |
66,217 |
116.9 |
65,106 |
117.9 |
|
先端技術事業 |
- |
- |
4,525 |
159.2 |
1,454 |
131.9 |
|
合計 |
96,291 |
103.1 |
157,315 |
108.0 |
196,274 |
99.2 |
(注)セグメント間取引については、相殺消去しています。
c.販売実績
当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと次のとおりです。
|
セグメントの名称 |
金 額 (百万円) |
前年同期比 (%) |
|
橋梁事業 |
98,299 |
100.9 |
|
エンジニアリング関連事業 |
56,334 |
89.2 |
|
先端技術事業 |
4,173 |
141.9 |
|
不動産事業 |
560 |
94.8 |
|
合計 |
159,368 |
97.1 |
(注)1.セグメント間取引については、相殺消去しています。
2.最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりです。
|
相手先 |
前連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
当連結会計年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
||
|
金額(百万円) |
割合(%) |
金額(百万円) |
割合(%) |
|
|
東日本高速道路株式会社 |
21,147 |
12.9 |
20,633 |
12.9 |
|
西日本高速道路株式会社 |
17,917 |
10.9 |
15,479 |
9.7 |
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
①財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社グループの当連結会計年度の財政状態及び経営成績は以下のとおりです。
(財政状態)
流動資産は主に「受取手形・完成工事未収入金等」の増加により82億3千万円増加し、固定資産は投資有価証券の売却等により29億円減少しました。その結果、総資産は2,161億7千万円(前期末比53億3千万円増)となりました。負債合計は主に「短期借入金」の増加により870億8千万円(同42億6千万円増)となりました。純資産は利益の獲得により過去最高の1,290億9千万円(同10億6千万円増)となりました。連結子会社の非支配株主が保有していたすべての株式を取得したことにより非支配株主持分の期末残高がゼロになりました。なお、自己資本比率は59.7%(前期末は59.0%)となり、十分な水準にあると考えています。
(経営成績)
受注高は1,573億1千万円(前期比116億円増)、売上高は1,593億6千万円(同47億円減)、営業利益は166億7千万円(同7億3千万円増)、経常利益は162億9千万円(同4億3千万円増)、親会社株主に帰属する当期純利益は128億5千万円(同10億円増)となりました。
受注高については、橋梁事業は下期にかけて伸び悩んだものの上半期が好調に推移したことにより前期並みとなりましたが、エンジニアリング関連事業と先端技術事業が増加したため、全体として前期を上回りました。売上高については橋梁事業と先端技術事業は前期を上回ったものの、エンジニアリング関連事業が減少したため、結果として前期比減少しました。一方、各利益についてはいずれも前期を上回り、過去最高となりました。
セグメントごとの財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容は以下のとおりです。
<橋梁事業>
当初の計画は受注高1,000億円、売上高981億円、営業利益103億円です。
受注高については、新設橋梁事業は過去最高となりましたが、保全事業が伸び悩んだため橋梁事業全体の受注高は前期並みの865億7千万円(前期比3億2千万円増)となり、計画を下回る結果となりました。
売上高については豊富な手持ち工事が順調に進捗したため982億9千万円(同8億8千万円増)、営業利益は特に期末において設計変更の獲得が想定以上に重なったことにより採算が大きく改善し136億6千万円(同48億5千万増)と、いずれも過去最高となりました。
<エンジニアリング関連事業>
当初の計画はエンジニアリング関連事業全体の受注高810億円、売上高675億円、営業利益68億円であり、そのうちシステム建築事業は受注高592億円、売上高500億円です。
それに対し、エンジニアリング関連事業の受注高は662億1千万円(前期比95億9千万円増)、売上高は563億3千万円(同67億9千万円減)、そのうちシステム建築事業の受注高は456億1千万円(前期比72億円増)、売上高は407億8千万円(同61億2千万円減)となりました。受注高については、システム建築事業において前期からは回復させることができたものの、中小規模の工場・倉庫案件を中心に建設コスト上昇等による設備投資計画の延期や見直しの動きが続いたことで計画を下回りました。業績面については、システム建築事業において受注の伸び悩みにより生産量が少ない状況が続いたことからエンジニアリング関連事業の営業利益は計画を下回る43億4千万円(同40億5千万円減)となりました。
<先端技術事業>
当初の計画は受注高37億円、売上高38億円、営業利益3億円です。精密機器製造事業の受注が回復したことにより、受注高は45億2千万円(前期比16億8千万円増)となりました。業績についても精密機器製造事業の受注の増加により売上高は41億7千万円(同12億3千万円増)、営業利益は3億7千万円(同2億6千万円増)と、何れも計画を上回りました。
②キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
当社グループの当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況の分析・検討内容は「(1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に含めて記載しております。
当社グループの資本の財源及び資金の流動性について、当社グループの主な資金需要は材料費、外注費、労務費、工場並びに現場の直接経費・間接経費などの運転資金と工場生産設備を中心とする設備投資資金です。資金調達はフリー・キャッシュフロー及び間接調達で確保しております。また、長期大型工事の竣工間際など一時的に立替額が大きくなる場合に備え、コミットメントライン契約と当座貸越契約により財務の安定性及び流動性を補完しております。
③重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。
(シンジケートローン契約)
当社は、2023年10月30日開催の取締役会において、株式会社みずほ銀行をアレンジャーとするシンジケーション方式による金銭消費貸借契約を締結することを決議し、2023年11月28日付で契約締結しました。
なお、改正府令の施行日(2024年4月1日)前に締結された契約のため、「ローン契約と社債に付される財務上の特約」についての記載は省略しています。
1.シンジケートローン契約締結の理由
長期の運転資金の確保を目的としています。
2.シンジケートローン契約の概要
(1)アレンジャー兼エージェント 株式会社みずほ銀行
(2)借入実行日 2023年11月30日
(3)組成金額 15,000百万円
(4)返済期限 2026年11月30日
(5)返済方法 期限一括返済
(6)参加金融機関 株式会社山陰合同銀行他、計23金融機関
(子会社株式の追加取得)
当社は、2024年4月22日開催の取締役会において、連結子会社である株式会社NSエンジニアリングの株式を追加取得し、完全子会社とすることを決議し、株式譲渡契約書を締結しました。
また、当社は、2024年11月25日および2024年12月23日開催の取締役会において、連結子会社である株式会社楢崎製作所の株式を追加取得し、完全子会社とすることを決議し、株式譲渡契約書を締結しました。
詳細は、「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(追加情報)」に記載のとおりです。
当社グループの研究開発は、橋梁事業に関連する鋼構造の基礎技術の取得および革新を中心とし、さらに、保有する要素技術をエンジニアリング関連事業や先端技術事業に応用し、商品開発や新技術開発を実施しています。また、グループ各社が保有する環境や情報処理等の分野における固有技術に関連して、事業化や商品化につながる研究開発を実施しています。
研究開発の体制は、当社の総合技術研究所が基盤技術の調査研究や事業化前の研究開発を行い、各事業会社が自社商品の改良開発や事業化検討を行うことを基本としています。当社グループの研究開発全体を統括し、方向性、予算、実施状況を管理する機関として、技術総括室を設置しています。なお、当社グループの研究開発スタッフは49名であり、全従業員の2.3%に相当します。また、当連結会計年度のセグメント別研究開発費は、橋梁事業
当連結会計年度における主要な研究開発活動は次のとおりです。
(1)橋梁事業に関する研究開発
① 塩害地域における鋼橋の塗装塗替え工事において、素地調整後の残留塩分による早期再劣化が問題となっています。この問題を解決するため、イオン交換により塩化物イオンを吸着し、鋼材表面に残留している塩化物イオンを取り除く「脱塩シート」を開発しました。今後、実橋での試験施工を進めていく予定です。
② 高い防食性能が求められる飛来塩分が多い沿岸部や、長期的な防食性能が求められる桁端部への適用を目的に「ステンシェル高力ボルト」を東洋アルミニウム(株)、神鋼ボルト(株)と共同開発しました。今後、実橋での試験施工を進めていく予定です。
③ 高速道路を中心に大規模更新・修繕事業が最盛期となっており、現場の安全性向上や工期短縮に有効な技術の需要が高まっています。これに応える新技術として、床版取替工法「STEEL-C.A.P.工法」(日本製鉄(株)との共同開発)や中小スパン橋梁の架替工法「NYラピッドブリッジ」(日鉄エンジニアリング(株)との共同開発)を開発しました。STEEL-C.A.P.工法は、箱桁を対象とした新しい形式のせん断伝達ジベルを開発し、FEM解析によって構造の妥当性の確認を行いました。NYラピッドブリッジは、移動輪荷重試験を実施し、十分な耐久性を有していることを確認しました。また、中国池田インターチェンジ~宝塚インターチェンジ間橋梁更新工事の小浜ランプ橋の供用開始を踏まえ、NETIS登録を行いました。
④ 橋梁の点検性、維持管理性を向上させる目的で、高強度モルタル排水溝「YNタフドレーン」を中川ヒューム管工業(株)と共同で開発し、NYラピッドブリッジを採用した小浜ランプ橋で採用されました。通水断面を大きくし、排水桝の設置間隔を広くすることが可能で高い耐久性を実現し、高圧洗浄での清掃も可能な構造を採用しています。他の高速道路会社の新設橋梁でも採用実績を増やしており、自動車専用道路での排水装置の点検性、維持管理性向上のニーズに応えていきます。
⑤ 建設現場の生産性向上、床版品質の向上、および床版取替工事における交通規制時間短縮の要望に応える技術として、「更新用プレキャスト合成床版」を開発しました。輪荷重走行試験や実物大の施工試験等による検討の結果、既設橋の床版取替における幅員分割施工に対応できるプレキャスト合成床版の実橋への採用が決定しました。
⑥ 鋼橋の建設現場における安全性向上に資する技術として、足場解体作業員が搭乗できる新タイプの「足場解体用移動防護設備」を開発しました。今後、実橋梁の足場解体作業に適用する準備を進めていきます。
⑦ 既設RC床版の大規模更新工事における施工の効率化と急速施工を目的としたプレキャスト壁高欄(商品名:ラピッドガードフェンス)について、実績のあるプレキャストPC床版仕様に続いて、更なる製品仕様の拡充と適用拡大を目的としてプレキャスト合成床版仕様の開発を進めています。
⑧ 橋梁排水管の耐候性向上技術「オリジビルド」を(株)オリジンと共同で開発しました。「オリジビルド」は、耐候性塗料を排水管(塩ビ管)に塗布することで、新規の配管交換を行うことなく、配管寿命の延命化を図る技術です。本技術の活用により、変退色やひび割れの発生が抑制され、着色の自由度が高まるため、品質の向上、周辺環境への影響の向上が期待できます。
⑨ 橋梁の点検性、維持管理性を向上させ、長寿命化を図る技術として、アルミ合金製常設足場「cusa(キュウサ)」を日軽エンジニアリング(株)と共同で開発し、販売を行っています。この技術を発展させ、床版取替工事中でも使用できる仕様とした「側面ワイドタイプ」を開発しました。これからも道路管理者のニーズを掴み、製品の魅力向上を進めていきます。
⑩ 海外事業の領域拡大に資する技術開発として、簡易組立橋梁「PABRIS」に、高耐久な鋼床版を組み合わせた「海外向け簡易橋梁」を開発しています。解析を中心とした検討により、構造の概略が決定しつつあります。今後、実験などによる検証を進めていく予定です。
⑪ 建設現場の生産性向上、施工品質向上に資する技術として、AR技術を用いて床版コンクリート打込みにおける締固め作業のトレーサビリティを確保できる「コンクリート締固め管理システム」を開発しました。開発したシステムは横河グループが施工する多くの現場で採用されています。
(2)エンジニアリング関連事業に関する研究開発
① システム建築(商品名:yess建築)については、省エネ法の改正に伴う断熱性能への要求に対し高断熱化商品の開発に重点的に取り組んでおり、既存商品のVリブウォールを用いた外壁防火構造の商品に比べ断熱性能を大幅に向上させた低価格、高断熱の外壁防火構造の商品をラインナップに加えました。また、建物用途の多様化、規模の大型化による耐火性能の要求に対し、在来工法の外壁耐火商品との融合により外壁の商品ラインナップの強化を図りました。さらに、建物内部の間仕切り1時間耐火認定の取得など、yess建築の適用範囲の拡大、高付加価値商品の開発に取り組んでいます。
② 可動建築(商品名:YMAシステム)については、スタジアム向けの可動スタンドの開発として、高剛性ロールバックスタンドの強度、及び剛性を確認する為のモックアップ試験を実施しました。2025年度に引き続き動作試験を行い、スタジアム関係へのPRを行っていきます。
③ 東京都や大阪府などの大都市圏を中心に、激甚化・頻発化する豪雨による浸水被害の防止策として整備が進められている地下調整池に用いられる、地下河川用セグメントとして、五面鋼殻合成セグメントの開発を進めています。特に大口径の地下河川用セグメントに要求される事項である、嵌合式リング継手について新たな形式の嵌合式リング継手の開発・実験を行い、十分な性能を有していることを確認しました。また、地下河川用セグメントに要求される、軸力作用下での継手の性能確認のための載荷試験を行い、十分な性能を有していることを確認しました。今後は、実物大での試作を通じた製作精度、組立精度の確認や組立施工性の確認を行う予定です。
④ 排水処理装置(シックナー)のメンテナンス性向上を目的とし、緩速攪拌機の軸受について摩耗要因を実験により把握し、その対策を実際の現場に試験的に導入してデータを採取して効果を確認しています。対策の結果、最も軸受の摩耗が激しい現場では、従来比でおよそ1/10の摩耗量とすることが確認できました。
(3)先端技術事業に関する研究開発
① 国の基準である道路橋示方書に対応した鋼橋設計システムにおいて、各種設計計算例や関連規定等への対応を進めています。また、システムの適用範囲の拡大やユーザから寄せられる要望へ応えるため、機能追加・改善を続けています。
② 当社グループでは、デジタル化の推進として製作部門の生産性向上を目指し鋼橋設計システムから鋼橋製作情報システムへのデータ連携機能の開発に取り組んでいます。これは、国交省が推進し、建設業全体で取り組んでいる設計から維持管理までのデータ連携、活用に対応するものです。その他、3Dモデルや点群データなどを活用した施工計画業務の支援システム、画像認識AI(人工知能)技術による検査システム、生成AIを活用した業務効率化システムなど、生産性向上や品質確保と安全管理を支援するシステムの検討および開発を進めています。