第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 当社グループは2019年3月期に経営危機に陥って以降、三菱商事㈱及び㈱三菱UFJ銀行からの支援を受けながら全社一丸となり5年間の再生計画に取り組むことで、事業基盤の強化を図ってきました。その結果、リスクマネジメントの高度化やEPC遂行力強化など、安定収益体質への転換に一定の成果を挙げることができたと考えていますが、当社グループが米国テキサス州にて遂行しているGolden Pass LNGプロジェクトに関し、共同遂行している米国Zachry Industrial, Inc.が5月21日付にて米国連邦破産法第11章(Chapter11)に基づく申し立てを行い、法的再建手続に入ることとなった事態を踏まえ、パートナーリスク管理の重要性が今一度明らかになり、今後は案件対応の事前検討および受注時の入り口管理と共に、遂行段階においてもパートナーリスク管理の一層の強化を図ってまいります。

また、当連結会計年度における社員の主体的な議論・活動を通じて、当社グループのパーパス「社会の“かなえたい”を共創(エンジニアリング)する」を制定しました。ここには、当社グループの持つ強みを結集し、社会・顧客・パートナーとの共創に、誠実さと情熱をもって挑戦することによって、人と地球の持続的で豊かな未来を創造する存在でありたいという意志を込めたものです。

本パーパス達成に向け、2024年度を初年度とした向こう3年間の新たな中期経営計画(中計)を本年度中に発表し、安定高収益企業へと進化する基盤を構築していきます。

当社を取り巻く事業環境の変革に的確に対応するためには、本部組織間の有機的な横連携が必要となります。

再生計画の開始以来、以下の各種事業系戦略委員会を整備し、横断的な横連携を強化、事業戦略の深化に取組んで

います。

 

「統合戦略委員会」

中計で定める短中長期の全社的な統合事業戦略、並びにそれを実現するための経営資源(人的・財務的リソース)配分、全社技術開発方針案策定等を目的とする。

「新規分野事業推進委員会」

中計にて策定する予定である本部横断での取り組みが肝要となる事業領域における事業戦略の進捗モニタリング、及び、事業環境の変化に応じた事業戦略の修正・アップデートを推進していくことを目的とする。

※当委員会は、これまでの「脱炭素ビジネス推進委員会」を「新規分野事業推進委員会」に改称したものです。

「プロジェクト競争力強化委員会」

2030年の連結純利益300億円達成に向けた取り組みを様々な側面から検討・立案し、恒常組織のアクションに落とし込み、EPC事業の業務プロセス革新、DXの加速を通じた競争力強化を図る。

「人財開発委員会」

人財開発基本方針に基づき、各種事業や組織機能においてキーとなる人財の育成を目的として、キャリアパスの整備と教育的な異動計画の立案、実務経験を効果的なものとする教育システムの整備などを通して、統合事業戦略と結びついた人財育成戦略を策定し推進する。

 

 他方、当社グループが企業価値向上と中長期的な成長の持続を達成するためには、経営の健全性や透明性を担保するガバナンスの強化が求められています。当社グループにおいては、ガバナンスの更なる強化を目的に、以下の役割を担う任意委員会を設置し、全社横断的にガバナンス議論を醸成し、経営へ報告を行う体制を構築しています。

 

「内部統制委員会」

  法令に従い、業務の適正を確保するための内部統制システムの整備・運用を行う。

「コンプライアンス委員会」

  当社グループのコンプライアンスに関する意見収集や指示等の役割を担う。

「SQEIマネジメント委員会」

  当社グループの安全・品質・環境・情報セキュリティに関する業務プロセスの継続改善を行う。

「サステナビリティ委員会」

  当社グループのサステナビリティにかかわる重点課題を検討・同定し、当社の事業戦略への反映を行う。

 

今後発表する中計、ひいてはその先にある当社グループのパーパス「社会の“かなえたい”を共創(エンジニアリング)する」を達成する為には、当社グループ最大の資産である人財(従業員)が能力を最大限に発揮することが必要不可欠であると考え、しなやかなマインドセットを持つ人財を、自由闊達な組織風土の中で育み、収益性向上やガバナンスの強化に加え、こうした人的資本経営を人財・組織の変革につなげることで、中長期的な企業価値の向上に努めてまいります。

 

 

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 文中の将来に関する事項は、当社グループが有価証券報告書提出日現在において合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の結果とは様々な要因により大きく異なる可能性があります。

 

■サステナビリティへの取組み方針

当社は、1948年に「技術による社会への奉仕」をスローガンに、社会的課題に対して高度な技術力を用いて解決するエンジニアリング会社の草分けとして創設され、以来、エンジニアリングの力で、国際社会の要請を的確に捉えながら、研鑽された技術を駆使し、社会とともに歩みを続けてきました。

当社グループのミッションである「エネルギーと環境の調和」のもと、全社員が企業活動に従事し、株主、顧客、取引先、従業員、地域社会など、すべてのステークホルダーから信頼され、共感していただける企業グループ経営を目指し、時代の変化を捉えて着実に歩みを進めてきました。

2015年に国連で採択された「パリ協定」では、気候変動の取り組みとして脱炭素社会を目指すという国際社会のコンセンサスが打ち出され、「持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals(SDGs)」を世界共通のゴールとして、企業も事業を通じたグローバルな課題解決への取り組みが強く求められています。

「社会の“かなえたい”を共創(エンジニアリング)する」ことをパーパス(存在意義)として掲げている当社グループでは、新しい社会価値の創出に向け、多岐に亘るステークホルダーに影響を与える重要な課題をマテリアリティとして再定義いたしました。

マテリアリティは、当社グループの中長期に取組むべき重要な社会課題であり、広く事業活動を進めていく上で、リスクまたは機会となる事項であることから、2024年度中に公表を予定している中期経営計画(2024~2026年度)や、事業計画、および当社グループの事業方針・戦略策定の基軸とし、その実現や課題解決を着実に実行してまいります。

また、今般再定義したマテリアリティの実現に向け、それぞれの項目ごとに達成を目指す「目標(KPI)」を設定、事業活動を行う本部単位レベルにまで落とし込んで展開することで、サステナビリティに関する意識の深化や事業との連関を社員個々人にまで浸透させるべく進めてまいります。

 

 

 <気候変動を含む重要なサステナビリティ関連課題(マテリアリティ)>

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*1  既存分野:トランジションエネルギー(LNG、石油/石油化学等)、金属(非鉄金属製錬)、ライフサイエンス(低分子等)

   新規分野:脱炭素ソリューション(水素・CCUS、触媒等)、先端素材(半導体等)、エネルギーマネジメント(地域エネルギーマネジメント等)、ライフサイエンス(バイオ等)、O&M-Xソリューション

*2  TRIR(Total Recordable Incident Rate):災害件数発生頻度

 

■ガバナンス(サステナビリティ推進体制)

我が国が目指す2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けた脱炭素社会への移行が加速する今こそ、ミッションに掲げる「エネルギーと環境の調和」を更に深化させるとともに、事業ポートフォリオを着実に革新し、持続可能な社会の発展に貢献することを通じて、企業価値の向上を図ることこそが私たちのサステナビリティであると考えています。

当社グループにおけるサステナビリティの更なる深化のため、サステナビリティを経営の中枢に据えることで企業価値向上とともに持続可能な成長達成を目指し、社長がCSO(Chief Sustainability Officer)を兼務します。社長がCSOを兼務することで、サステナビリティ課題を当社グループの経営戦略や経営目標に反映させる責任を負うこととなります。2022年4月に設置したサステナビリティ委員会では、主要なサステナビリティ課題である気候変動対応、人権・サプライチェーンマネジメント、人的資本経営(Well being、Diversification、健康経営等)に係る取り組みについて討議しています。当社にとって特に重要な取り組み課題である気候変動についてはサステナビリティ委員会の下部組織であるサステナビリティ協議会内に気候変動WGを設置し、Scope1,2におけるGHG(温室効果ガス)排出量の削減に向けた具体的な取組みの加速や、Scope3におけるGHG排出量算定に向けた検討、CDPやTCFDシナリオ分析の対応について検討した上で、サステナビリティ委員会において、集中的・継続的に議論を行っています。

また、2024年度は同協議会内に人権WGを新たに設置し、各部門が事業活動と人権との関連性を特定・理解した上で、組織横断の対話・協議を通じて、当社グループの事業のリスク・特性・実務を踏まえた実効性のある人権尊重の取組みを進めていきます。サステナビリティ委員会は社長=CSOの諮問機関として、原則年2回開催し、当委員会にて審議した内容を取締役会に報告し、取締役会が都度、上記の報告事項について適切に監督を行うための体制を構築しています。

取締役会は、サステナビリティ委員会から報告を受けたサステナビリティに関するリスクと機会の特定・評価、事業戦略への反映、対応方針の決定を含むすべての意思決定の監督責任を負っています。取締役会は、サステナビリティ課題を当社グループの経営戦略や経営目標に反映させる責任を負っています。

取締役会は、サステナビリティ課題をさまざまな角度から多角的にとらえて経営方針を定めるとともに、その方針に基づく活動の実効性を監督する役割を担っています。取締役会を構成する10名の取締役は、経営、財務会計、法務コンプライアンス、海外、プロジェクト、技術などさまざまな分野で知見、経験および実績を有しています。

再定義したサステナビリティ課題<千代田グループのマテリアリティ>は、本部ごとに目標(KPI)として設定され、本部長自らが進捗管理を行います。目標(KPI)進捗管理、報告、そして評価・改善のPDCAはサステナビリティ委員会にてモニタリングし、取締役会に報告されます。

 

2023年度主な活動内容:サステナビリティ委員会 2回開催  サステナビリティ協議会 1回開催

取締役会への報告 サステナビリティ委員会開催後の取締役会へ報告(1回)

 

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*1  統合戦略委員会:

各本部の事業計画・要員計画の見直しを定期的に行い、最新の内部環境、外部環境を踏まえたうえで、全社最適の観点から人的、財務的リソース配分案を策定する。

*2  脱炭素ビジネス推進委員会(現名称:新規分野事業推進委員会)

脱炭素ビジネスの開発・拡張・収益化に向けた戦略の策定、実行を担う。

 

(1) 気候変動の取り組み

■戦略

当社グループにとって、地球環境や人間・企業活動に重大な影響を及ぼす「気候変動」は、リスクであると同時に、新たな事業機会をもたらすものと考えています。「エネルギーと環境の調和」というミッションに沿って、グローバルな課題解決に取り組んできた歴史の中で、気候変動対応は、当社グループのパーパスである「社会の“かなえたい”を共創(エンジニアリング)する」とも密接に繋がっている重要なサステナビリティ課題の一つです。気候変動により平均気温が上昇することはグローバルに事業を行う当社グループにとっては大きな脅威であると同時に、高度なエンジニアリング力を駆使することで、新たな事業創造の機会にも通じるものと認識しています。当社グループは2019年にTCFDに賛同し、グローバル規模での気候変動リスク・機会のシナリオ分析を実施しました。不確実性の高い気候変動について、2040年社会(当時は20年後社会における主なリスクと機会分析を実施)を当社グループが取組む事業の視点から、2℃、4℃の世界でシナリオ分析し、事業リスク及び機会の獲得に向けての事業の方向性を検討しました。

 

<気候変動による主なリスクと機会>

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2019年に実施したシナリオ分析については、昨今の事業環境の変化のスピードが著しく早いことから、検討範囲や 前提条件などを見直し、2024年度に改めて実施することを検討しており、その結果を有価証券報告書等にて適宜開示する予定としています。

なお、当社グループが2022年4月1日付けにて公表したカーボンニュートラル宣言に基づき、GHG排出量(Scope1及び2)の削減目標達成に向けた取組み、ならびに脱炭素・炭素循環社会に実現にむけ、シナリオ分析の結果を踏まえた事業分野を通じて、以下のステップで取り組んでいきます。

 

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■リスク管理

気候変動や地政学リスクの顕在化、生成AIに代表される技術進化など、私たちを取り巻く環境は劇的に変わっていく中、当社グループが直面するサステナビリティリスクは新たな局面を迎えていると認識しています。

当社グループでは、一段と激しくなる事業環境や経営環境の変化を踏まえ、59ページで記載の通りリスク管理体制を構築しています。サステナビリティ委員会は、全本部と協議の上、気候変動リスク・人権リスク等を含むサステナビリティに関するリスクの洗い出しを行い、事業におけるリスクと機会の分析、並びに課題解決に向けた対応策についての協議等を適宜実施しております。また、そこで特定した重要リスクに関する対応方針については、サステナビリティ委員会や内部統制委員会を通じ、取締役会に報告し、承認を得て、全社的なリスク管理に取り込んでいます。

気候変動と人権に関してはとりわけ重要な事業リスクととらえ、サステナビリティ委員会傘下の協議会にワーキンググループを設けています(人権WGは2024年に設置)。気候変動に関しては、TCFDに基づくシナリオ分析を改めて実施することにしており、事業インパクト評価や対応策について、サステナビリティ委員会を通じてサステナビリティ課題に責任を持つ取締役会に報告し、全社的なリスク管理プロセスに統合します。人権に関しては、プロジェクト遂行における人権デューデリジェンスプロセスの確立を目指します。

 

■指標と目標

この度再定義した千代田グループのマテリアリティに関する指標及び目標は「サステナビリティへの取り組み方針」で記載しております〈気候変動を含む重要なサステナビリティ関連課題(マテリアリティ)〉の通りです。2024年度中に公表を予定している中期経営計画(2024~2026年度)の期間においてその実現や課題解決を着実に実行してまいります。

環境への取組みに関する過年度のESG定量データについては、CHIYODA Report 2023「データセクション/ESGデータハイライト」(72、73ページ)に掲載のとおりです。

 参考:当社ホームページ ESGデータ集|千代田化工建設株式会社 (chiyodacorp.com)

 なお、2024年度ESG定量データは2024年11月に発行予定のCHIYODA REPORT2024 にて開示予定です。

 

(2) 人的資本経営

■戦略

 当社グループは、産業設備から石油化学、LNGプラントと時代ごとの社会課題にエンジニアリングの力で応えてきました。今後はこれまで強みとしてきた分野に加えて、脱炭素やライフサイエンスをはじめとする新たな社会課題に対しても、エンジニアリングの力を「しなやか」に変容させ、事業の変革に挑戦していきます。

その実現に向けて、キードライバーとなるのが、多様な人財が自由闊達に活躍する「組織風土」と、当社グループの最大の財産である「人財」です。組織と人財のWell-Beingを高めることが、社会とステークホルダーへ提供する価値を増幅させ、またその価値提供が組織と人財のWell-Beingを更に増幅させていくと考えています。この価値の循環を持続し、双方の価値を高めていきます。

 

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■推進体制

 当社では、最高人事責任者(CHRO:Chief Human Resources Officer、現在はCDO:Chief Digital Officerが兼任)の下、人財育成責任者(HRO:Human Resources Officers)を職種ごとに任命し、事業と連動した全社一体の「人的資本経営」を推進しています。

 2022年4月に、経営諮問会議の下部機関としてCHROを委員長、全本部長を委員とする人財マネジメント委員会を設立し、統合事業戦略に接合する人財開発と人員配置を推進してきました。2023年4月からは、機能を分割し、人財育成や人財登用戦略については人財開発委員会において、事業戦略に応じたリソース配分については統合戦略委員会の下部組織である人財マネジメントワーキンググループにおいて議論する体制とし、実行力を更に高めています。

 

■重点項目

① 相互に尊重し、挑戦し続ける自由闊達な組織風土

当社の強みは、エンジニアリングを通じて培ってきた多様な個性を活かす自由闊達な組織風土です。この強み

を伸ばし、社会課題に応じてしなやかに変容することで、社会とステークホルダーへ価値を提供し続けます。

 

 a. 組織風土の変革に向けた取り組み

組織風土の変革を着実に推進していくために、組織課題・風土の可視化とその改善を目的とした組織風土調査を導入しました。組織経営者が率先して組織風土の変革に取り組んでおり、調査結果は当社における人的資本経営の重要KPIとして位置付け、進捗状況をモニタリングしていきます。

 

  <組織風土調査の活用>

2023年10月に当社及び主たる国内グループ企業で組織風土調査を実施しました。現状を深掘りするために、各

本部に調査結果をフィードバックし、本部長を中心に解釈する対話につなげています。2024年度より役員を含む

組織経営者の個人評価項目を一部見直し、組織風土変革に関する行動目標を設定させ、PDCAサイクルを確立する

ことを目指します。

 

<組織経営者の世代交代の実践>

同一ポジションへの滞留年数に上限を設け、異動を含む交代を促進しています。長期滞留の部長・課長相当の役職者はおおむね計画どおり交代が進捗しており(2022年度は19名、2023年度は8名)、2024年度には長期滞留が解消する見込みです。2023年12月からは、部長以上の全ポジションの後継計画を策定し、候補者を特定する取り組みを開始しており、計画的な交代を推進しています。また、課長相当以上への昇格は年齢を問わず、登用は、本部の垣根を越えて、HROを含む広く多面的な視点で検討し、決定しています。結果として、30代の部長や40代のグループ会社社長等、若いリーダーが誕生しています。持続的に新たな組織経営者を輩出し、組織の活性化を図っています。

 

 b. ダイバーシティ&インクルージョン

多様な個性を尊重し、社員一人ひとりが活き活きと能力を発揮できる組織風土を実現し、ダイバーシティ&インクルージョンを浸透させていくことはパーパスの実現に不可欠です。社員一人ひとりが、その属性によらず、多様な意見を発信し、能力を発揮できる環境を整えるための第一歩として、2023年10月にダイバーシティ&インクルージョンポリシーを制定しました。

 

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多様なバックグラウンドを持つ人財の採用活動を積極的に行っています。中でも、女性の活躍支援は重要なテーマの一つであり、女性のキャリア継続のための施策及び採用強化に重点的に取り組んでいます。さらに性別にかかわらず仕事と家庭の両立支援を強化することで、働きやすい環境の整備を推進していきます。

また、婚姻形態や性別にかかわらずパートナーシップを認める制度を導入しました。本人の意思によって申請を

行うことで、法律婚と同等の福利厚生を受けられるよう、環境整備を進めています。

 

 c. 健康経営

 2020年4月に健康経営宣言を発表後、社員が心身ともに健康的に働ける職場づくりに取り組んでいます。2022年4月よりCWO(Chief Wellness Officer、現在は会長が兼任)を議長とする健康経営推進会議を設置しました。人事部内には健康経営とダイバーシティを推進する専任組織を設け、健康経営を強力に推進しています。健康に関する各種データの分析、ストレスチェックの集団分析結果を組織へフィードバックし、職場改善活動につなげる等、実効性の高い施策を実施しました。また、2023年度の当社の総合健康リスクは81(※100を超える場合は全国平均と比べて休職者が発生する可能性が高い)と全国平均を下回る数値となっています。上記取り組みにより、2023年3月には健康経営優良法人に4年連続(4回目)で選定されました。

 

 d. 健全な労使関係

 社会情勢や当社グループの事業の変化に対応する人事制度や採用競争力の強化を労使間での重要課題と位置付けてきました。人財の多様化を受け、離職対策を含む組織風土にかかわる課題についても積極的に協議していきます。

 

② 誇りと情熱を持って社会課題に挑戦を続ける人財

2020年3月に策定した人財開発基本方針に定める、専門領域における業務遂行力と組織経営力の伸長をベースに、2024年度中に公表を予定している中期経営計画(2024~2026年度)では「しなやかなマインドセット」を打ち出します。多様化・複雑化する社会課題に対し、マインドをしなやかに変容させ、誇りと情熱を持って挑戦を続けることで、エンジニアリングの力を伸ばしていきます。

 HROや上司との対話を通じてキャリアを自律的に設計し、グローバルなフィールドで多様な経験を積むことで、しなやかなマインドセットを備えた人財を育成していきます。

 

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<人財開発におけるHROの役割>

当社では4つの職種(Ex:エンジニアリングプロフェッショナル職、Bx:ビジネスインキュベーション職、Px:プロジェクトマネジメント職、Cx:コーポレートプロフェッショナル職)と専任職(多岐に渡る当社組織の円滑なオペレーションを主体的に支える)を定義しており、職種ごとにHROを任命しています。

HROは社員本人との対話を通じてキャリア志向に伴走し、並行して上司、本部長とも対話をします。個人のキャリア志向と事業戦略を結びつけた異動、アサイン、評価・昇格、登用を主導する当社の人財開発の要です。

 

a. HROによる事業のキー人財を育てるためのキャリアパス、教育異動の強力な推進

HRO体制の下、従来、暗黙知であった代表的なキャリアパスを体系化し、教育異動計画(定期異動)に反映する取り組みを進めています。タレントマネジメントシステムを導入し、社員一人ひとりのキャリア設計とその進捗が本人、上司、HROに共有される基盤を整備しました。このデジタル基盤を駆使しながら、社員本人がキャリア設計を明確にし、進捗を実感しながら経験を重ねることを支援し、事業のキーとなる人財を育成していきます。

 

 b. 業務遂行力伸長のための取り組み

当社がこれまで培ってきた人財の強みを更に発展させ、「卓越した専門能力」と「自ら社会課題を特定し、その解決、社会への実装まで完遂する力(課題設定・完遂力)」の強化に注力しています。

 

<卓越した専門能力>

2022年4月に卓越した専門能力を持つ人財をフェローとして登用する制度を設け、現在は3名を登用しています。フェローは、当社の事業戦略をリードするだけではなく、ロールモデルとしての役割を果たしています。今後

のフェロー人財の育成と拡充を目指し、候補となる人財群を21名選抜しています。

また、各本部の育成戦略を体系化し、全社の育成戦略とすることで、より多くの社員に必要な教育機会を提供していきます。専門教育を含む教育基盤についても定期異動等で得る職務経験との接合を確認しながら再整備し、人財開発を一層高い次元で進捗させていきます。

 

<課題設定・完遂力>

2021年度から組織の中核となる30代前半の社員を中心に課題設定・完遂力強化研修を展開しています。研修受講人数は順調に拡大(2021年度は32名、2022年度は50名、2023年度は100名)しています。

 

c.組織経営力伸長のための取り組み

組織経営力を強化するためには、早期に組織運営を実践することが重要です。部下を持つ係長相当から、経営戦略や事業戦略に沿った組織目標の立案・遂行や、対話を軸とした部下の育成を通じ、組織の力を高めていきます。これらをテーマとした研修等を通じて、実践を重点的に進めています。

 

<組織運営の実践>

当社では、上司・部下間で本人のキャリア志向を踏まえた目標を設定しており、期中には、本部全体で部下一人ひとりの状況について対話する機会を設けています。2021年4月に現人事制度となって以降、組織全体で人財を育てる体制の整備に注力してきました。一人ひとりのキャリアを多面的に確認することで、適切な育成につなげ、部下や上司同士の対話は組織経営者自身の組織経営力を高める実践の機会としています。

2023年8月に実施した社員アンケートでは、「成長につながる目標が設定されている」と90%が回答し、評価結果に対する社員の納得度は85%となっています。これらの結果から組織経営力が一定の水準で発揮されていると考えています。

 

<マネジメント研修>

組織経営力の基礎教育の拡充はキャリア意識や考え方の変化、法制の動向に応じて内容をアップデートするべき重要テーマです。目標設定・評価、キャリア志向に伴走するための対話手法にかかわる教育に注力しているほか、2023年度は労働法等の専門家を招いての実践講習を課長相当以上の必須項目として実施しました。今後も順次、教育体系を整備、充実させていきます。

 

d. シニア層の更なる活躍の推進

国内の労働人口の減少や、建設業の人手不足は重要な課題であり、高度な専門知見を持つシニア層の活躍は当社の最重要テーマの一つです。定年後も事業の最前線で重責を担うシニア層のモチベーションを維持・向上できるよう、会社業績の還元を含む処遇の改善を行っていきます。また、シニア層向けに環境変化を捉え、自発的にキャリア形成に取り組むマインドを醸成するためのキャリア研修を重点的に実施しており、2022年からのべ356名が受講しました。

 

e. デジタル人財の育成

デジタルトランスフォーメーション(DX)の原動力としてデジタル人財の育成やDX意識・文化の醸成を進めています。当社では、CDO(現在はCHROが兼任)、各本部から選出されたDO(Digital Officer)、デジタル変革エバンジェリストで組織するCDO室を2021年7月に開設し、2022年4月からは組織体制を変更し、人事・DX本部として人財変革とデジタル変革を組み合わせ、社内の業務変革を加速しています。

 デジタル人財の育成においては、対象層を経営層、DXコア人財、全社員に分け、施策を展開しています。2023年度よりDXコア人財育成プログラムを開始し、DXコア人財の早期育成・拡充により全社DXの浸透・拡大を目指しています。また、一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)が創設・運営するAI人財の育成を目的とした資格であるE資格の取得を奨励しており、2023年度は2名(累計19名)が取得しています。

 

■指標及び目標(単体)

<KPI指標>

 2024年度中に公表を予定している中期経営計画(2024~2026年度)では、組織風土調査結果を当社における人的資本経営の重要KPIとして位置付けます。同調査では肯定的回答率65%以上が強みとして認識されています。

 

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<実績>

 昨年度の実績は以下のとおりです。目標値の設定は2024年度中に公表を予定している中期経営計画(2024~2026年度)の進捗に合わせ、個別指標から上記組織風土調査結果の指標に変更します。

 

① 相互に尊重し、挑戦し続ける自由闊達な組織風土

 

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② 誇りと情熱を持って社会課題に挑戦を続ける人財

 

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(注1)継続雇用制度に基づき当社に勤務するシニア社員等を含む

(注2)国内グループ会社社員を含む

 

(3)人権尊重の取組み

■人権尊重への対応に関する考え方及び取組み

当社グループは、人権の尊重は全ての事業活動の基盤となる重要な要素であると位置付けています。今般再定義したマテリアリティの取組みの1つに「すべての人々の人権を尊重」を掲げ、また「当社グループ行動規範」において人権の尊重とその侵害行為の防止、国際的な人権規範の尊重を定めています。

当社グループは、国際連合「ビジネスと人権に関する指導原則」をはじめとする人権に関する国際規範や法令の遵守、人権デュー・ディリジェンスの継続的な実施、当社グループにおける人権に関する重点課題などを記載した「人権基本方針」を制定し、公表しています。

https://www.chiyodacorp.com/jp/about/policy/

「人権基本方針」は、当社グループの事業活動および取引関係を通じて影響を受ける可能性のあるあらゆる個人・グループを対象としています。また、当社グループ全ての役員と従業員に適用するとともに、当社グループの事業活動に関係する全ての取引関係者・ビジネスパートナーやその他関係者にも、「人権基本方針」を理解・支持し、人権の尊重に努めて頂くよう継続して働きかけていきます。

 

■ガバナンス

前述2「サステナビリティに関する考え方及び取組」の「ガバナンス(サステナビリティ推進体制)」に記載のとおりです。

 

■戦略

当社グループは、「人権基本方針」等に基づき、ステークホルダーとの対話や外部専門家との連携を行いながら、人権デュー・ディリジェンスの取り組みを行っています。人権デュー・ディリジェンスの取り組みは、国際連合「ビジネスと人権に関する指導原則」に則って進めています。

 

2023年度までの主な取組み

従前より、当社グループ役職員へのハラスメント防止教育、労働者の安全・労働環境の整備などの取組みは実施していましたが、「ビジネスと人権」への取組みとしては以下のとおり2018年度から開始しました。

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当社は総合エンジニアリング会社として「人権に配慮した事業運営」を、当社が中長期的に取組むべき重要な課題である「マテリアリティ」の目標のひとつに定めており、2024年度中に公表を予定している中期経営計画(2024年~2026年度)や、事業計画および当社の事業方針・戦略策定の基軸としております。国内・海外で事業を展開している限り、サプライチェーン全体において人権侵害を可能な限り排除することを目指し、2024年度は、現在海外の主要プロジェクトで実施している取り組みの対象拡大、プロセスの見直し・改善及び当社グループにおける実施体制の構築に取り組みます。また、国際連合「ビジネスと人権に関する指導原則」が求める要件に照らし、被害者が効果的な救済を受けるための実効性なプロセスの構築や相談・通報制度の改善に努めていきます。

 

■リスク管理

前述2「サステナビリティに関する考え方及び取組」の「リスク管理」に記載のとおりです。

当社グループは、自社の役職員のみならず、取引先の役職員、事業活動が行われる地域の住民など、当社グループの事業に関わる全ての人権を尊重します。外部専門家の評価も得て、「人権基本方針」において以下の7項目を「当社グループが優先的に対応すべき人権に関する重点課題」と定めております。なお、当社グループの事業に関連する人権リスクへの取り組みを継続しておりますが、現時点においてこれらの重点課題に変更はありません。

・ 差別・ハラスメントの排除

・ 強制労働・児童労働の禁止

・ 多様性の尊重・ワークライフバランス重視

・ 労働安全衛生支援

・ 労働時間・賃金

・ 労働基本権の尊重

・ 社会との調和

 

人権に関するリスクに適切に対応せず、委託先や調達先等のサプライチェーンを含む当社グループの事業活動のすべての過程において人権を侵害する行為や人権に関する法令の違反が発生した場合、当社グループにおいても行政罰、顧客との取引停止、社会的信頼の喪失・企業価値の毀損などにつながり、ひいては経営成績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。当社グループの事業に関わる人権リスクへ確実に対応するため、人権デュー・ディリジェンスの実施によってリスクを把握・特定し、予防・軽減を図ってまいります。特に、国際的な調達の際、そのサプライチェーンで働く労働者の人権リスクが高いとの認識から、サプライヤーとの取引前に、質問状や書面調査により、人権尊重の取り組みの状況を確認・評価し、懸念事項が確認された場合には、サプライヤーとコミュニケーションを取り、防止・軽減に努めるよう促しています。サプライヤーと締結する契約には、人権尊重の取り組みを担保するための条項を規定しています。二次以降のサプライヤーにも人権尊重の取り組みを担保するための条項を遵守させることを誓約する条項も規定しています。

また、サステナビリティ委員会の枠組みのもと、関連組織が連携して人権デュー・ディリジェンスの実施や救済メカニズムの整備などの人権尊重の取り組みを推進するとともに、継続的な研修機会の実施や情報の開示等を通じ、当社グループの社員一人ひとりの人権尊重へ向けた意識向上を図って参ります。

 

■指標及び目標

2023年度は、人権尊重への対応に関する以下のデータの把握・管理を行いました。また、以下のデータに加えて、人権尊重へのコミットメントを達成するための具体的な「指標」及び「目標」を設定し、当社グループの事業に関連する人権リスク及び機会の実績を評価・管理するべく、2023年度は外部専門家のサポートを得て、当社グループの事業に関連する人権リスクや重点課題を踏まえた「指標」及び「目標」の候補の選定を行いました。2024年度にサステナビリティ委員会・協議会での議論を経て、2025年度以降の 「指標」及び「目標」を設定する予定です。

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(注) 1.人権に対する負の影響の重大性・負の影響の及ぶ範囲・救済困難度の観点から、深刻度が高いと判断され

るものの当社グループ及び当社グループの取引先(当社事業に関連するものに限定)における件数です。

2.グループ共通・相談窓口及びグループ各社が設置している相談・通報窓口で受領した相談・苦情件数

3.人権侵害(ハラスメントを含む)と認定した3件については、是正措置を実施し、行為者の処分を行いまし

た。

4.当社グループ全従業員向けに、ハラスメント・ビジネスと人権・贈収賄禁止などを含むコンプライアンス

eラーニングを毎年実施し、人権の尊重を定めている「当社グループ行動規範」遵守の宣誓を取得していま

す。2023年9月1日時点の、当社グループの国内外グループ会社の全役職員(派遣社員を含む)の人数で計

算しています。

5.「人権監査」として会社が計画的に実施したもののみを対象としています(個別のプロジェクト等が独自

で実施したものは除いています)。

 

3【事業等のリスク】

 当社グループの事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項、及びそれらへの対応は以下のとおりです。

 当社グループは、これら事項の発生の可能性を認識したうえで、発生の低減に注力するとともに、発生した場合にはその影響を最小限に抑えるべく可及的速やかな対応に努めます。

 なお、以下記載事項については、当連結会計年度末現在において認識したものです。

 

(a)景気動向、経済・社会・政治情勢の変動による影響

 世界的な景気動向や社会・政治情勢の変化、保護貿易・経済制裁・国交の状況、各国のエネルギー政策の転換、原油・LNG・金属資源価格の市場動向等により、顧客の投資計画に中止・延期や内容の変更が発生する、或いは顧客・パートナーの財務状況が悪化する等、当社グループの業績に影響を及ぼす場合があります。

 当社グループでは、経済・社会情勢の変動を注視しつつ案件実現性・受注確度等を見極めながら、営業活動を行うとともに、顧客とのリスクの最適な分担を図っています。また、顧客投資計画の突然の中止・遅延といった事態に備えるため、受注計画には常にバックアップ案件を織り込み作成しています。加えて、新規分野を中心に幅広い分野でのスタディ業務やNon-EPC業務にも積極的に取り組んでおります。

 

(b)地震等の自然災害、ウイルスによる感染症、地政学リスク、テロ・紛争等の不可抗力

 地震、地球的気候変動による大規模降雨・洪水・台風等の自然災害や、ウイルスによる感染症拡大、テロ・紛争等の不可抗力の発生により、工事従事者の生命への危険、機器資材の工事現場への搬入遅延、現場工事の中断等、遂行中案件の工事現場或いは国内外の事業所において直接的又は間接的な損害発生の可能性があります。

 2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻、2023年10月に始まったイスラエルとハマスの武力衝突が他中東諸国へ与えるリスク等により、全世界的に地政学リスクが一層高まり、世界経済を巡る不確実性、経済制裁の応酬等のデカップリングの動きが更に顕在化することが懸念されます。こうした不安定な世界情勢が、顧客及びジョイントベンチャーパートナーの財務状況悪化、サプライチェーンの混乱、機器資材費等の高騰につながり、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループでは、危機管理担当部門を設置し情報の収集・分析を行うとともに適切な対策を講じるためにセキュリティコンサルタントを雇用し、刻々と変化する危険地域の状況把握に努める等、人命と安全確保を最優先に考えた常なる備えとして危機管理組織を強化しています。特にカタールでは大型プロジェクトを遂行中であり、在カタール当社グループ従業員及びその家族の安全に十分配慮するとともに、他国にて遂行中の案件への影響を今後も注視、対処していきます。また有事の際には緊急対策本部を立ち上げ、顧客等関係先と迅速に情報共有するとともに、適時に適切な対応策を実施することで、これらの危機事象発生に伴う影響を最小限に留めるよう有事対応の手順を定めています。さらに、大規模地震等を想定したBCPを策定し、災害発生時には即時の安否確認・スムーズな初動対応・優先業務を立ち上げられるよう、平時から訓練を重ねることで事業継続力の向上に取り組んでいます。

 

(c)パートナーリスク

 当社グループの事業領域では、案件の規模や複雑さ、リスクシェア等の事由により、パートナーとジョイントベンチャー又はコンソーシアムを組成し、受注することがあります。パートナーの債務不履行や財政状態の悪化、遂行能力面での著しい問題等が生じた場合は、当社グループが契約上の連帯責任を負う場合があるため、当社グループの経営に影響を与える可能性があります。

 当社グループでは、協業を決定する際に、パートナー候補の財務状況及び遂行能力を十分に分析するとともに、取引開始後もモニタリングを継続し、早期にリスクを発見・対処できる体制を敷いております。

 なお、当連結会計年度において、当社グループが米国テキサス州にて遂行しているGolden Pass LNGプロジェクト(GPXプロジェクト)に関し、共同遂行している米国Zachry Industrial, Inc.が2024年5月21日付にて米国連邦破産法第11章(Chapter11)に基づく申し立てを行い、法的再建手続に入ることとなったことに伴いZachry社のGPXプロジェクトからの離脱の可能性を踏まえ今後のプロジェクト完工に向けて必要と見積られる工事原価を考慮しております。工事収益総額については、現時点までに合意された書面に基づき見積りを行っております。

 

(d)機器資材費の高騰

 プラント建設では契約見積時と遂行発注時にタイムラグが生じます。そのため、国家・地域間の戦争・紛争勃発といった急激な社会情勢の変化を受けて、機器資材の価格が予想を超えて高騰するリスクに曝されています。特にプラント建設で主要部分を占める鉄鋼製品の価格は原材料である原料炭と鉄鉱石の価格の変動に大きく影響を受けます。さらに、銅・ニッケル・アルミニウム・亜鉛などの市場価格の変動は予想し難いものです。また、原油価格や保険料の上昇等により海上輸送費も大きく影響を受けます。

 当社グループでは、これらのリスクを回避し影響を最小化するために、市場動向の調査に加え、世界各地からの購入先の分散を図る等の調達先の多様化、競争環境の維持、機器資材の早期発注、有力な業者との協力関係構築などの対策を講じています。さらに、世界的なインフレ進行による資機材・労務価格の高騰に対しても、顧客・

ベンダー・サブコントラクター等の事業パートナーやステークホルダーとの協議・交渉を通じて適切な対応を心がけています。

 

(e)工事従事者・機器資材の確保困難

 プラント建設では、建設工事に必要な工事従事者等の人的資源の不足、工事に要するインフラ確保の不調、及び、サプライチェーンの寸断等、機器資材の調達が計画どおりに進まないことにより、工程遅れが生じ、その回復のために追加費用を投入する場合があります。

 当社グループでは、国内及び海外においては労働力の逼迫する国や気候の過酷な地域での工事において、想定を超える工事コストの高騰リスクに対し、モジュール工法の採用等建設手法の工夫や有力な工事業者・機器資材供給業者との協力関係を基礎にして、これらのリスクの回避及び顕在化した場合の影響の最小化を図っています。

 また、世界的な感染症や疫病の影響やストライキ等により工事中断を余儀なくされた場合には、顧客や現地関係機関と連携して適切な対応を取り、影響の最小化を図っています。

 

(f)気候変動による事業環境変化に関するリスク

 気候変動が社会に与える影響は地球規模であり、グローバル社会が共通して直面している最も重要な社会的課題の1つです。当社グループは、気候変動の拡大に伴う物理的リスクと移行リスクによる顧客の投資環境や事業ポートフォリオが変化することで、当社の経営及び事業戦略に大きな影響を及ぼす可能性があると認識しています。

 このような中、複雑化・高度化する社会や顧客の課題を的確に捉え、解決していくために、各国のエネルギー

情勢や気候変動政策の見直し、法規制等を注視するとともに、政府、関係官庁、顧客等のネットワークから適時・適切に最新の情報を入手し、経営計画を策定することで対処しています。

 一方、当社グループは、気候変動を新たな事業機会としても捉えています。脱炭素・炭素循環型社会実現に

向け、水素社会への移行の加速、LNGを含む低炭素エネルギー及び再生可能エネルギーの更なる普及といった当社

グループを取り巻く事業環境の大きな変化や、重要顧客の戦略見直し、及び当社グループにとっての新たな市場

機会の成長を踏まえて、事業ポートフォリオの革新を更に加速し、環境負荷低減社会の実現に貢献します。

 複雑な制約・課題に対し最適なソリューションを提供する課題解決力、設計を最適化し高い品質を保証するEPC遂行力、及び基礎研究力とEPC知見を融合する新技術の社会実装力という創業以来の実績に裏打ちされた当社が培ってきた強みを活かして、水素社会をはじめとする脱炭素社会への移行を加速し、2030年にはカーボンニュートラル貢献分野及びライフサイエンス分野の伸長や継続型事業の創出・強化により連結純利益300億円を稼ぐ収益構造に変革を遂げることを目指しています。

当社は削減と循環の両輪で2050年のカーボンニュートラル達成に貢献します。

 

(g)プラント事故

 当社グループが建設中の又は建設したプラントに、何らかの原因によって爆発や火災等の重大事故が発生し、その原因が当社グループの責任と判断された場合は、損害賠償責任の負担等により業績に影響を及ぼす可能性が

あります。

 当社グループでは、このような不測の事態が発生しないよう、計画時の安全設計、建設現場での無事故・無災害を最優先に品質管理・工事安全管理等について万全を期すことはもとより、適切な保険の付保、損害の負担にかかわる顧客との合理的な分担を定めた契約条件の獲得等によりこれらのリスクの回避・影響の最小化を図っています。なお、当社グループでは工事安全を確保するためのあらゆる取組みを“C-Safe”と名付け、その旗印のもと

安全文化の醸成に弛まぬ努力を注いでいます。

 

(h)為替レートの変動

 海外向け工事では、機器資材調達や下請工事代金の決済が顧客から受領する対価と異なる通貨で行われる場合が

あるため、為替レートの変動は業績に影響を与える可能性があります。

 当社グループでは、支出を予定する複数の通貨での工事代金受領や、為替予約の手当によって為替レート変動の

リスクを回避し、影響を最小化するよう努めています。

 

(i)コンプライアンス違反

 国内外で事業を展開していくにあたり、当社グループの本社・子会社・事務所及び建設施工地が所在する国々・地域の法令・規制に各々従う必要があります。それら法令・諸規制に違反する行為、若しくは疑義を持たれる行為が万が一発生した場合には、プロジェクトの遂行や事業の運営に多大な影響を与える可能性があります。

 当社グループでは、これら違反の防止、疑義を持たれる事の回避のため、集合研修やe-ラーニング等の継続的な社員教育を通じ、人権尊重や贈収賄防止を含む事業遂行にかかる最新の法令・諸規制やルール等を遵守することの周知徹底を図るとともに、常に国内外の関係当局や顧客をはじめとするステークホルダーの動向をタイムリーに把握するよう努めています。加えて、CCO(Chief Compliance Officer:チーフ・コンプライアンス・オフィサー)を委員長とし各組織のコンプライアンス・オフィサーを委員とするコンプライアンス委員会、及びCCOを委員長としグループ各社社長を委員とするグループ会社コンプライアンス連絡会を設置し、コンプライアンスへの対応を確実に業務プロセスへ取り込んでいます。

 

(j)情報セキュリティへの脅威

 当社グループは、事業の遂行に必要な顧客や取引先情報を多数管理しているほか、技術・営業・その他事業に

関する秘密情報を保有しています。多くの基幹業務や商取引がITシステムを駆使して世界中の拠点で行われています。重要な情報システムやネットワーク設備へのサイバー攻撃に備え、防御施策を強化しながらそのリスク低減を図っておりますが、完全なリスク回避はできるものではなく、不測の事態により、システム障害、秘密情報の漏洩、サイバー詐欺被害、重要な事業情報の滅失等が発生して当社の事業へ影響を与える可能性があります。一般企業がサイバー攻撃に巻き込まれるリスクはますます高まっています。

 当社及び海外グループ会社2社において、ISMS認証*1を取得しています。千代田エクスワンエンジニアリング㈱(CXO社)については今後ISMS認証の取得を目指す方針です。このISMS認証やNIST CSF*2等に基づき、サプライチェーンの情報セキュリティを意識した体制構築・強化しています。また社内向けの定期的な教育や監査等の情報セキュリティマネジメントを徹底し、これらのリスクの回避・影響の最小化に努めています。

 

(k)事業投資にかかわる損失

 当社グループは、新会社の設立や既存会社への出資・買収等の事業投資を行うことがあります。事業投資においては、多額の資本拠出や投資先に対する貸付・保証等の信用供与を行う場合がありますが、事業環境の変化等により、投資先の収益が当初計画どおりに上がらない、業績の停滞等に伴い投資にかかわる損失が発生する、又は投融資の追加が必要となる事態に直面する等のリスクがあります。

 当社グループでは、投融資に関する社内基準やルールに基づき事前検討を十分に行うことに加えて、損失リスクに相応する当社グループの財務許容力を慎重に見極めたうえで投資可否を決定しています。更に実行後は投資先の事業計画の進捗をモニタリングしつつ、必要に応じて要員、資金等の各種支援を行うことにより、損失の回避や軽減に努めています。

 

(l)継続企業の前提に関する重要事象等

当社グループと米国テキサス州にてGolden Pass LNGプロジェクト(GPXプロジェクト)を共同遂行している米国Zachry Industrial, Inc.(Zachry社)が、2024年5月21日(米国時間)に、米国連邦破産法第11章に基づく申し立てを行い、法的再建手続きに入りました。本事象を修正後発事象として、会計上の収益及び費用の計上基準に基づき、Zachry社のGPXプロジェクトからの離脱の可能性を踏まえた影響を考慮したことにより、当連結会計年度において、150億6百万円の営業損失、54億61百万円の経常損失、及び158億31百万円の親会社株主に帰属する当期純損失を計上しました。また、単体財務諸表では79億50百万円の債務超過となっています。これらの状況により、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が発生していると認識しています。

かかる事態を受け、当該事象又は状況を解消すべく、以下の対応策を図ります。

GPXプロジェクトに関しては、建設工事継続に必要な安全対策関連業務やインフラ整備等の発注を行うことに関する裁判所の許可が下り、必要資金の支払い手続きや関連作業が再開されています。2024年6月18日には、GPXプロジェクトの顧客である米国Golden Pass LNG Terminal LLC社(GPX社)によりZachry社のGPXプロジェクトからの離脱を求める申し立て、およびGPXプロジェクトで建設工事が先行する天然ガス液化設備の第一系列の建設工事再開に必要な業務に関してAutomatic Stay(自動停止の効力)からの除外を求める申し立てが行われました。

裁判所によるZachry社のGPXプロジェクトからの離脱に関する正式な判断が為され次第、GPX社およびジョイントベンチャーパートナーである米国CB&I LLC(CB&I社)と協議を継続しているGPXプロジェクトの継続のための短期的な遂行プランおよび完工までの長期的な遂行プランの早期合意を目指すとともに、合意が行われた時点で、その内容を踏まえ、見積りの見直しをします。

また、中期経営計画「再生計画~再生と未来に向けたビジョン~」(2019年度~2023年度)に基づき、リスク管理体制の高度化を始めとする諸施策を講じ一定の成果を得ておりましたが、今回の事態を踏まえ、パートナーリスク管理をさらに強化し、安定継続的な収益源の確保に取り組んでいきます。

資金面では、当年度末において十分な資金を有していることから、今後の資金繰りに大きな影響はなく、当面の事業活動の継続性に重大な懸念は見られません。加えて取引金融機関とは密なコミュニケーションと緊密な連携関係が維持されております。

以上により、継続企業の前提に関する重要な不確実性は認められないと判断しています。

 

 

*1 ISMS: Information Security Management System (情報セキュリティマネジメントシステム)

*2 NIST CSF: 米国国立標準技術研究所 National Institute of Standards and Technology (National Institute of Standards and Technology米国国立標準技術研究所) が発行した、重要インフラのサイバーセキュリティを向上させるためのフレームワーク(Cybersecurity Framework)

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。

 文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2024年7月1日)現在において判断したものです。

 

<経営成績等の状況の概要及び経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容>

 当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概況は次のとおりです。

 

(1) 財政状態及び経営成績の状況

 当連結会計年度における世界経済は、中東情勢の不安定化等地政学リスクの高まりや、インフレ抑制に向けた各国の金融政策の引締めもあり、全体として先行き不透明な状況が継続しました。

 当社グループを取り巻く事業環境においては、気候変動問題への対応として低・脱炭素化社会の実現に向けた需要が拡大する一方、エネルギーの安定供給に向けたLNG需要も拡大するなど、人と地球の持続的で豊かな未来の実現が求められています。

 当社では、中期経営計画「再生計画~再生と未来に向けたビジョン~」(2019年度~2023年度)において、リスク管理体制の高度化とEPC(設計・調達・建設)遂行管理力の進化による安定的な収益基盤の拡大に取り組んでまいりました。同時に、事業ポートフォリオ革新に向けて、エネルギーの安定供給とエネルギートランジションを支える資源となるLNG(液化天然ガス)を主体とする既存事業の深化に加え、再生可能エネルギー、水素、炭素循環、エネルギー運用最適化、ライフサイエンスなどの新規事業も強化してまいりました。

 このような状況の中、当社グループが米国テキサス州にて遂行しているGolden Pass LNG プロジェクト*(GPXプロジェクト)に関し、共同遂行している米国Zachry Industrial, Inc.(Zachry社)が、2024年4月に入り、GPXプロジェクトからの離脱の具体的な可能性が生じたため、顧客である米国Golden Pass LNG Terminal LLC(GPX社)、ならびに、共同遂行している一方のパートナーである米国CB&I LLCとの間で、本プロジェクトの継続の為の新体制の協議を継続してまいりました。しかしながら、本協議が纏まらず、加えて、その後Zachry社が2024年5月21日付にて米国連邦破産法第11章(Chapter11)に基づく申し立てを行い、法的再建手続きに入ることとなったこと等により、当連結会計年度末において修正後発事象に該当する事由が生じることとなりました。

 当連結会計年度においては、Zachry社のGPXプロジェクトからの離脱の可能性を踏まえ今後のプロジェクト完工に向けて必要と見積られる工事原価を考慮し、工事収益総額については、現時点までに合意された書面に基づき見積りを行うことといたしました。

 

 

* Golden Pass LNGプロジェクト:

2019年からZachry社、CB&I LLC社および当社の米国子会社であるChiyoda International Corporationがジョイントベンチャーを組成し、設計、調達、建設(EPC)業務を共同遂行しているプロジェクト。テキサス州サビンパスにあるゴールデンパスLNG基地に、年産1,560万トン(520万トン×3系列)のLNG液化設備の設計・調達・建設工事及び試運転を行うもの。現在、建設工事が本格化している。

 

 当連結会計年度における業績は、次のとおりです。

 

(受注工事高)

 受注工事高は、前連結会計年度比53.3%増の2,375億45百万円となりました。なお、当連結会計年度末受注残高は

9,938億78百万円となりました。受注工事高の概要は、「報告セグメントであるエンジニアリング事業の分野別概況」に記載のとおりです。

 

(完成工事高)

 完成工事高は、前連結会計年度比17.6%増の5,059億81百万円となりました。完成工事高の概要は、「報告セグメントであるエンジニアリング事業の分野別概況」に記載のとおりです。

 

(完成工事総損益)

 完成工事総損益は、堅調に進捗した案件があった一方で、GPXプロジェクトの完工に向けて必要と見込まれる十分な費用を計上したことから、前連結会計年度の完成工事総利益327億9百万円に対し、1億57百万円の完成工事総損失となりました。また、完成工事総利益率は前連結会計年度の7.6%から7.6ポイント減少し0.0%となりました。

 

 

 

 

(販売費及び一般管理費)

 販売費及び一般管理費は、新型コロナウイルス感染症の規制緩和に伴う営業活動の活発化および成長戦略を推進するための研究開発費の増加等により、前連結会計年度に比べ2億57百万円増加し148億49百万円となりました。また、販売費及び一般管理費比率は前連結会計年度の3.4%から0.5ポイント減少し2.9%となりました。

 

(営業損益)

 営業損益は、完成工事総損益と同様の理由により、前連結会計年度に比べ331億23百万円減少し150億6百万円の営業損失となりました。

 

(営業外収益・営業外費用)

 営業外収益は、海外プロジェクト資金の運用利益等により、前連結会計年度に比べ81億79百万円増加し125億37百万円となりました。また、営業外費用は、為替差損等により、前連結会計年度に比べ8億39百万円増加し29億92百万円となりました。この結果、営業外収支は95億45百万円の収益となりました。

 

(経常損益)

 経常損益は、完成工事総損益と同様の理由により、前連結会計年度に比べ257億83百万円減少し54億61百万円の経常損失となりました。

 

(特別利益・特別損失)

 特別利益及び特別損失は、前連結会計年度が5億7百万円の収益超過であったのに対し、当連結会計年度は、退職給付制度終了損および投資有価証券評価損等の計上により6億97百万円の損失超過となりました。

 

(法人税、住民税及び事業税・法人税等調整額)

 税金等調整前当期純損益は、前連結会計年度に比べ269億88百万円減少し61億59百万円の損失となりました。

 法人税、住民税及び事業税は84億88百万円、法人税等調整額は51百万円となり、前連結会計年度に比べ29億10百万円の増加となりました。

 

(親会社株主に帰属する当期純損益)

 親会社株主に帰属する当期純損益は、前連結会計年度に比べ310億18百万円減少し158億31百万円の親会社株主に帰属する当期純損失となりました。

 

報告セグメントであるエンジニアリング事業の分野別概況は、次のとおりです。

 

[エネルギー分野]

(LNG・その他ガス関係)

 海外では、カタール、アメリカでLNGプラントのEPC業務を遂行中です。年産800万トンのLNGプラント4系列の増設案件であるカタールNorth Field East LNG輸出基地案件(NFEプロジェクト)及びアメリカのゴール

デンパスLNGプロジェクトの建設工事がそれぞれ本格化しています。

その他ガス分野では、カタールで当社グループ会社がLNG・ガス処理プラントの改造・改修案件に係る複数の設計業務を遂行中です。

 国内では、当社グループが建設したLNG受入基地の改造・改修工事を遂行中です。

 当連結会計年度の受注工事高は504億30百万円(前連結会計年度比17.0%減)となり、完成工事高は2,448億51百万円(同1.0%増)となりました。

 

(石油・石油化学関係)

 国内では、石油会社向けに、製油所の設備更新工事や省エネ、カーボンニュートラルに資する各種検討業務などを遂行中です。また、国内製油所や石油・石油化学事業所に対して、これまで培った高度解析技術(3次元流動解析やダイナミック・シミュレーション、構造解析、耐震)と最新のデジタル技術を組み合わせ、運転最適化と設備保全効率化ならびに運転・保全業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に向けたO&M(Operation & Maintenance)事業を展開しています。加えて、石油化学分野では機能材案件のEPC業務を完工しました。

 また、マイクロ波化学㈱、三井化学㈱とマイクロ波加熱を利用した革新的ナフサクラッキング技術の共同開発を進めています。本事業は国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム重点課題推進スキーム」に採択されました。本技術の確立により、従前の化学業界の重要課題である「ナフサの熱分解で排出されるCO2の大幅な削減」に貢献します。

 当連結会計年度の受注工事高は374億2百万円(同4.1%増)となり、完成工事高は303億47百万円(同2.7%増)となりました。

 

[地球環境分野]

(医薬・生化学・一般化学関係)

 医薬・生化学分野では、AGC㈱向けのバイオ医薬品原薬製造設備のEPC業務を、また、製薬会社向けに、バイオ医薬品原薬製造設備、医薬品製造設備のEPC業務を複数遂行中です。

 更に、石油分野で培った連続生産技術の医薬品分野への導入、実装において、新たに装置の基本計画、基本設計業務を受注しました。また、NEDO助成事業にて、産学連携で「植物による高度修飾タンパク質の大量生産技術の開発」を進めています。

 一般化学分野では、㈱クレハ向けフッ化ビニリデン樹脂生産設備のEPC業務を遂行中です。

 当連結会計年度の受注工事高は892億33百万円(同233.6%増)となり、完成工事高は311億16百万円(同8.7%減)となりました。

 

(環境・新エネルギー・インフラ関係)

 環境分野では、インドにおける環境規制強化により石炭火力発電所への排煙脱硫設備の導入が進む中、当社のCT-121排煙脱硫プロセスが複数の案件に活用されています。

 新エネルギー分野では、再生可能エネルギーの効率的な活用に資する蓄エネルギー活用や地域分散型のエネルギー供給システムへの取組みを強化しています。当連結会計年度において、当社が構築した東急不動産㈱向けの北海道松前町の地域マイクログリッドの運用が開始されました。この経験を活かし、今後も地域の再生可能エネルギーの地産地消やレジリエンス強化に資するプロジェクトに尽力して参ります。加えて、洋上風力分野では、国内事業者に対する着床式発電所に関する各種ソフト業務・遂行支援や、浮体式発電所建設のFS(Feasibility Study)業務等を進めています。

インフラ分野では、インドネシアで単一製造ラインとして世界最大規模となる銅製錬工場のEPC業務を遂行中です。

また、国内では、主に電気自動車における航続距離拡大・充電時間の短縮・安全性向上が期待される次世代電池に関して、無機電池材料の実証プラントプロジェクトを遂行中です。加えて、2024年1月に発生した能登半島地震に因る工場被災の復旧工事についても遂行中です。

 当連結会計年度の受注工事高は536億75百万円(107.6%増)となり、完成工事高は1,947億12百万円(同63.3%増)となりました。

 

≪脱炭素ビジネスの取組み≫

 水素・アンモニア、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)/CCU(Carbon dioxide Capture and

 Utilization)、エネルギーマネジメントの取組みは以下のとおりです。

 

(水素・アンモニア)

 水素分野では、当社の独自技術であるSPERA水素®技術の優位性を生かした水素サプライチェーンの構築に向けて、シンガポール、欧州、国内で具体的な案件や検討を進めています。

 シンガポールでは、商用規模のクリーン水素サプライチェーン事業の実現に向けて、同国有数の総合ユーティリティで政府系コングロマリットであるSembcorp Industries社及び三菱商事㈱と概念設計を遂行中で、2020年代後半の商業水素供給開始を目標としています。

 欧州では、イギリス・スコットランドからオランダ・ロッテルダム港への水素海上輸送プロジェクト(LHyTS(ライツ)プロジェクト)に参画、事業化調査を2023年11月に完了しました。

 国内では、水素バリューチェーン推進協議会の理事会社として、社会実装プロジェクトの創出と政策支援の実現に向けて活動しています。また、2023年4月に中部電力㈱及び豪州Hazer社と、HAZER®Processによる水素製造に係る覚書を締結し、中部圏でのカーボンフリー水素と副生固体炭素(カーボングラファイト)の製造拠点プロジェクトの開発計画の検討を継続中です。

 また、2024年2月にトヨタ自動車㈱と大規模水電解システムの共同開発および戦略的パートナーシップの構築に係る協業基本合意書を締結、発表しました。20MW級の標準パッケージを開発して、2025年度からトヨタ自動車㈱本社工場水素パーク内への水電解システムの導入を開始します。

そのほか、オーストラリアでは、日本水素エネルギー㈱が取り組んでいる液化水素サプライチェーンの商用化実証を目的としたFEED(Front End Engineering Design)業務を効率的に遂行するために、2024年1月に川崎重工業㈱をリーダーとして、東洋エンジニアリング㈱、日揮グローバル㈱、当社の4社によるJV協定書を締結し、日本が目指す2050年までのカーボンニュートラル実現に貢献していきます。

 アンモニア関連分野では、当社が主幹事会社となり、NEDOのグリーンイノベーション基金事業として、産学官連携で製造コストの低減を実現する新規アンモニア合成技術の開発を進めています。さらに、㈱JERA、㈱日本触媒と共同で既存の技術より競争力のあるアンモニア分解技術の開発を進めており、NEDOの技術開発事業に採択されています。

 その他、国内におけるアンモニア受入設備や水素燃料供給に関する複数の検討業務を遂行中です。

 

(CCS/CCU)

 CO2の回収・CCSシステム設計におけるグローバルリーダーであるPace CCS社とCCS分野での協業に関する覚書を締結、CCSプロジェクトのFSやコンセプトデザインからFEED/EPCまで幅広く展開していきます。

また、大規模な天然ガス火力発電所で発生する排ガスから固体吸収材を用いてCO2を分離・回収する技術開発をNEDOのグリーンイノベーション基金事業として進めています。

 東南アジアでは、インドネシア国営石油会社プルタミナ社と脱炭素循環技術の共同検討業務契約を、タイ発電公社EGAT社とクリーン水素・アンモニア バリューチェーン検討覚書をそれぞれ2023年3月に締結し、両国におけるカーボンニュートラル社会への早期移行に貢献すべく関連検討業務を遂行しています。

国内では三菱商事㈱向けのCCSバリューチェーン構築に係る検討業務、石油資源開発㈱向けの東新潟CCS圧入設備概念設計業務、三菱ガス化学㈱向けの新潟CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)ハブ&クラスター構想事業化に関する調査、電源開発㈱向けのCO2分離回収・圧縮液化設備FS業務を完了しました。

また、当社、日本郵船㈱、Knutsen NYK Carbon Carriers ASは、当連結会計年度に液化CO2のCCUSの技術として想定される常温昇圧(EP)・中温中圧(MP)・低温低圧(LP)の3方式について、回収したCO2の液化から一時貯蔵、海上輸送などCCUSバリューチェーンを通じた経済性や実現性検証に関する共同検討を実施しました。今後事業者に対してEP方式に関する具体的な提案を行うべく、引き続き検討を実施します。

また、三菱重工業㈱と、同社CO2回収技術の包括ライセンス契約を締結、国内向けCO2回収プロジェクトを対象に、同社が関西電力㈱と共同開発したCO2回収技術である「KM CDR ProcessTM」および「Advanced KM CDR ProcessTM」のライセンス供与を受け、戦略的に協業を推進します。

CCU分野では、産学官連携で、CO2の回収・資源化やCO2を原料とするパラキシレン製造の研究開発に取組んでいます。

e-fuel分野ではドイツのINERATEC社とe-fuel製造による脱炭素化促進に向けた戦略的協業に関する覚書を2022年9月に締結し、同社の最先端PtXテクノロジー活用を推進しています。加えて、CO2と水素を用いた合成燃料製造に関し、㈱INPEX向けの400Nm3-CO2/h メタネーション(合成メタン(e-methane))試験設備工事及びENEOS㈱向けの1BD(1 Barrel per day)合成燃料実証試験設備建設工事を遂行中です。

また、CO2をCOへ90%以上の高効率で変更する技術(ケミカルルーピング反応技術)を用いた積水化学工業㈱向けCO2処理プラントの基本設計業務を受注し完了しました。

 

(エネルギーマネジメント)

 2023年3月に完工した北海道北部風力送電㈱向け世界最大級の大型蓄電池システムの20年間に亘る保守業務を遂行中です。また、蓄電池事業においてはENEOS㈱向け系統用蓄電池建設に関する複数の工事を遂行中です。

その他、スタートアップ企業と連携して国内向けにVPP(Virtual Power Plant)事業などの取組みを強化しています。

 

 

≪DXの取組み≫

 「社会の“かなえたい”を共創(エンジニアリング)する」の実現のために、全社DXを加速させています。コーポレートDX、及びプロジェクトDXで、自社の変革を推し進め、全社員がデジタルプラットフォーム上で業務を行うことにより、業務が効率化・自動化されると同時に広く情報が共有され、意思決定を加速することを目指しています。また、デジタルとフィジカルを融合したO&M-X事業にて業界の変革を顧客と協業して推進しています。そして、それらの変革の原動力としてデジタルコア人財の育成・拡充を進めています。

コーポレートDXでは、リソース計画・人財管理をデジタル変革し、全社リソースの最適配分・配置の実現を進めています。今期より運用を開始したリソースマネジメントシステムにより受注計画と人員稼働状況から事業計画シナリオを描くことが可能となっており、半期に一度の事業計画の見直しに活用を始めています。併せて、人財育成を実行するプラットフォームであるタレントマネジメントシステムの運用も開始しており、従業員一人一人のキャリア情報を格納し、組織長や人財育成担当者であるHRO(Human Resources Officers)と共有することで効果的なキャリア開発の実現や人的資本開示の充実化を進めています。

また、働き方改革の一環として、ノーコード・ローコードによるRPA(Robotic Process Automation)の市民開発環境や業務用生成AIサービスの提供を開始し、意見交換・議論を目的としたコミュニティサイトも設置しました。

プロジェクトDXでは、EPC遂行管理力の進化を目指してかねてより開発・適用を開始していたAWP(Advanced Work Packaging)が海外主要プロジェクトに本格適用され、サブコントラクターとの透明性のある情報共有により作業効率が明確に向上しています。また、当社及び㈱Arentが共同出資した㈱PlantStreamが開発した革新的な空間自動設計システムは、国内外のプラントオーナーやコントラクターによる導入が進んでおり、初期設計や建設計画の効率化に貢献しています。当社では詳細設計においても部分的な適用を開始しています。

デジタル変革ビジネスでは、プラント運転・保守ソリューションとDX事業を再編・統合し、顧客のプラント運転・保全業務の変革を支援するソリューション事業を展開し、新たなO&M(保守・運用)トータルソリューションサービスとしてplantOS®の提供を開始しました。plantOS®は、千代田エクスワンエンジニアリング㈱をはじめ、当社グループがこれまで提供してきた産業/プラント向けメンテナンス分野におけるフィジカルサポートと当社が長年培ってきた高度解析・診断、IOT、AI等のデジタル技術を、ハイブリッドに融合したO&M向けサービスです。

また、plantOS®の構築・提供に際し各種のサービスプロバイダーとの連携を進めております。plantOS®のクラウドシステム構築では日本ビジネスシステムズ㈱との覚書を締結し、あわせて回転機診断のためのソリューション開発においては中山水熱工業㈱との協業を開始しております。plantOS®の中核であるデジタルツインソリューションをプラント運転・保守の領域において効果的に活用するため米国のデジタルツインコンソーシアムに加入し、既に協業を開始しているVisionaize社のV-Suiteを活用したデジタルツインソリューションの提供を開始しております。さらに、㈱センシンロボティクスと資本業務提携関係を構築し、同社がインフラ保全領域で磨いてきた技術力を融合、ロボットやドローン、AR/VR技術を使ってデータを収集し3Dデジタルツインプラットフォームへ集約、新たな価値を生み出すソリューションの共創を開始しております。

加えて、plantOS®提供事業の一環として、インドネシアのドンギ・スノロLNG社(以下「DSLNG社」)より技術サポート提供業務を受注しました。本件はDSLNG社が保有するLNGプラントにおけるエンジニアリングサービス、プロセス安全サポートなどを対象としています。当社がこれまで培ってきたコンサルティング能力や先進的なデジタル技術を活用し、プラントの安全・安定運転の実現に向けてDSLNG社に最適なソリューションを提供していきます。

 

 経営成績に重要な影響を及ぼす可能性のある主な事項、及び、それらに対する対応については、3.事業等のリスクに記載しています。

 米国ゴールデンパスLNGプロジェクト、カタール・インドネシアにおける大型プロジェクトのほか、手持ちEPC案件を着実に遂行していくことに加え、当社を取り巻く事業環境と当社グループの強みを掛け合わせることで、多様で柔軟な事業ポートフォリオの確立に努めてまいります。

当社グループは、最大の資産である人財(従業員)が能力を最大限に発揮することが自らのパーパス実現や競争力向上に不可欠であると考え、しなやかなマインドセット・スキルを持つ人財と自由闊達な組織風土の実現に向けた人的資本経営を進めています。その一環として、従業員を支えるため健康経営にも取り組んでおり、経済産業省と日本健康会議が共同で認定する「健康経営優良法人」を2021年から4年連続で取得しています。

これらに加え、2019年から5年間の再生計画期間中に集中的に取り組んできた、リスクマネジメントの継続強化を含むリスク・リターンの最適化とDX加速による底上げによって、安定収益体質を確りと定着させます。

 

 

(2) 生産、受注及び販売の実績

 ① 受注実績

事業部門の名称

前連結会計年度

(自 2022年4月1日

  至 2023年3月31日)

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

  至 2024年3月31日)

受注高

受注残高

受注高

受注残高

金額

(百万円)

構成比

(%)

金額

(百万円)

構成比

(%)

金額

(百万円)

<前年同期比>

構成比

(%)

金額

(百万円)

構成比

(%)

1 エンジニアリング事業

154,347

99.6

1,148,890

100.0

236,975

99.8

993,878

100.0

(93,065)

<53.5%増>

(113,423)

エネルギー

分野

(1) LNGプラント関係

55,508

35.8

811,656

70.6

48,494

20.4

708,960

71.3

(80,503)

<12.6%減>

(90,741)

(2) その他ガス関係

5,223

3.4

5,162

0.5

1,936

0.8

4,158

0.4

(0)

<62.9%減>

(△20)

(3) 石油・石油化学関係

35,929

23.2

26,655

2.3

37,402

15.8

32,214

3.2

(△6,911)

<4.1%増>

(△1,494)

地球環境

分野

(4) 医薬・生化学

  ・一般化学関係

26,750

17.2

42,698

3.7

89,233

37.6

98,021

9.9

(△384)

<233.6%増>

(△2,793)

(5) 環境・新エネルギー

  ・インフラ関係

25,851

16.7

259,129

22.6

53,675

22.6

145,055

14.6

(19,767)

<107.6%増>

(26,962)

(6) その他

5,085

3.3

3,589

0.3

6,233

2.6

5,467

0.6

(89)

<22.6%増>

(27)

2 その他の事業

627

0.4

569

0.2

(   -)

<9.3%減>

(   -)

総 合 計

154,975

100.0

1,148,890

100.0

237,545

100.0

993,878

100.0

(93,065)

<53.3%増>

(113,423)

 

  なお、国内及び海外の受注高並びに受注残高の内訳は、次のとおりです。

国内外内訳

前連結会計年度

(自 2022年4月1日

  至 2023年3月31日)

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

  至 2024年3月31日)

受注高

受注残高

受注高

受注残高

金額

(百万円)

構成比

(%)

金額

(百万円)

構成比

(%)

金額

(百万円)

<前年同期比>

構成比

(%)

金額

(百万円)

構成比

(%)

国   内

87,161

56.2

92,247

8.0

159,463

67.1

164,237

16.5

(△5,846)

<83.0%増>

(△2,068)

海   外

67,813

43.8

1,056,643

92.0

78,081

32.9

829,640

83.5

(98,911)

<15.1%増>

(115,492)

合   計

154,975

100.0

1,148,890

100.0

237,545

100.0

993,878

100.0

(93,065)

<53.3%増>

(113,423)

(注)  受注残高の( )内の数字は、前連結会計年度以前に受注した工事の契約変更等による減額及び外貨建契約に関する為替換算修正に伴う増減額の合計を加味しています。

 

 ② 売上実績

事業部門の名称

前連結会計年度

(自 2022年4月1日

  至 2023年3月31日)

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

  至 2024年3月31日)

金額(百万円)

構成比(%)

金額(百万円)

<前年同期比>

構成比(%)

1 エンジニアリング事業

429,535

99.8

505,412

99.9

<17.7%増>

エネルギー

分野

(1) LNGプラント関係

239,315

55.6

241,931

47.7

<1.1%増>

(2) その他ガス関係

3,068

0.7

2,920

0.6

<4.8%減>

(3) 石油・石油化学関係

29,551

6.9

30,347

6.0

<2.7%増>

地球環境

分野

(4) 医薬・生化学

  ・一般化学関係

34,096

7.9

31,116

6.2

<8.7%減>

(5) 環境・新エネルギー

  ・インフラ関係

119,227

27.7

194,712

38.5

<63.3%増>

(6) その他

4,275

1.0

4,383

0.9

<2.5%増>

2 その他の事業

627

0.2

569

0.1

<9.3%減>

総 合 計

430,163

100.0

505,981

100.0

<17.6%増>

 

  なお、国内及び海外の売上実績の内訳は、次のとおりです。

国内外内訳

前連結会計年度

(自 2022年4月1日

  至 2023年3月31日)

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

  至 2024年3月31日)

金額(百万円)

構成比(%)

金額(百万円)

<前年同期比>

構成比(%)

国   内

93,189

21.7

85,404

16.9

<8.4%減>

海   外

336,974

78.3

420,576

83.1

<24.8%増>

合   計

430,163

100.0

505,981

100.0

<17.6%増>

  (注) 1  当社グループでは生産実績を定義することが困難であるため「生産の実績」は記載していません。

       2  主な相手先別の売上実績及び総売上高に対する割合は次のとおりです。

前連結会計年度

当連結会計年度

 相手先

金額

(百万円)

割合

(%)

 相手先

金額

(百万円)

割合

(%)

カタールエナジー

146,126

34.0

カタールエナジー

188,383

37.2

ピーティー・フリーポート・インドネシア

91,256

21.2

ピーティー・フリーポート・インドネシア

172,252

34.0

 

(3) 資本の財源及び資金の流動性についての分析

① キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度の現金及び現金同等物の期末残高は1,662億8百万円となり、前連結会計年度末残高より595億26
  百万円増加しました。

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は、以下のとおりです。

 

営業活動による資金収支

税金等調整前当期純損失の計上の一方、工事進捗に伴う運転資金負担の改善などにより、当連結会計年度における営業活動による資金収支は627億47百万円のプラスとなりました。

 

投資活動による資金収支

投資有価証券の売却の一方、無形固定資産及び有形固定資産の取得などにより、当連結会計年度における投資活動による資金収支は15億67百万円のマイナスとなりました。

 

財務活動による資金収支

長期借入金の返済などにより、当連結会計年度における財務活動による資金収支は、58億51百万円のマイナスとなりました。

 

② 資金需要

当社グループの資金需要のうち主なものは、当社が受注した国内外のプラント建設に関わる費用、販売費及び一般管理費のほか、今後の成長戦略を支えるための投資です。販売費及び一般管理費のうち主なものは、従業員給与 手当等の人件費のほか、業務委託費等です。当社の研究開発費は、研究開発に携わる従業員の人件費が過半を占めています。

今後の成長戦略を支えるための投資については、LNGや金属、医薬品といった既存EPC分野の事業基盤を維持しながら、水素やCCSを含む脱炭素ソリューション、バイオ、先端素材、O&M-Xソリューション、エネルギーマネジメント等の新規分野の事業機会の創出に向けた成長投資を進めていきます。

 

③ 財務政策

当社グループは、資金需要に対して内部資金又は借入により資金調達することとしています。資金の流動性については、三菱商事㈱の完全子会社である三菱商事フィナンシャルサービス㈱と総額100億円の融資枠を締結し十分に確保しています。

上記財源を適切に活用し、事業ポートフォリオの革新と高収益体質への変革、サステナブルな社会の実現への貢献を進め、当社グループを安定的に運営する資金を創出していきます。

 

(4) 重要な会計方針及び見積り

 当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成されています。一般に公正妥当と認められる連結財務諸表の作成にあたっては、期末日における資産及び負債の報告額や、報告対象期間中の収益及び費用の報告額に影響する判断及び見積りを行うことが要求されます。当社グループの連結財務諸表作成にあたっては、過去実績や状況に応じて合理的と考えられる様々な要因に基づいて判断及び見積りを行っていますが、見積り特有の不確実性があるため、実際の結果はこれらの見積りと異なる場合もあります。

 当社グループの見積りや判断を含む重要な会計方針は、連結財務諸表注記の「4 会計方針に関する事項」に記載しています。また、会計方針の適用において使用される当社の判断と見積りのうち、当社グループの連結財務諸表の報告額に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられるものについては、連結財務諸表注記の「4 会計方針に関する事項(重要な会計上の見積り)」に記載しています。

5【経営上の重要な契約等】

(業務提携等)

契約会社名

相手方の名称

国名

契約締結日

契約内容

千代田化工建設株式会社

(当社)

三菱商事株式会社

日本

2008年3月31日

第三者割当増資による普通株式の発行を含む資本業務提携

千代田化工建設株式会社

(当社)

三菱商事フィナンシャルサービス株式会社

日本

2019年6月28日

再生支援の枠組みとしての融資契約

(注)

千代田化工建設株式会社

(当社)

三菱商事株式会社

日本

2019年6月27日

再生支援の枠組みとして三菱商事フィ

ナンシャルサービス㈱に対する連帯保証の契約

 

千代田化工建設株式会社

(当社)

株式会社三菱UFJ銀行

日本

2019年6月28日

再生支援の枠組みとしての融資契約

(注) 2024年3月28日付で融資契約を更新しています(ただし、借入限度額は変更)。詳細は、同日に公表の「三菱商事フィナンシャルサービス株式会社との融資契約の更新に関するお知らせ」をご参照ください。

 

(連結子会社間の吸収合併)

 当社は、2022年12月27日開催の取締役会において、当社の連結子会社である千代田工商㈱、千代田システムテクノロジーズ㈱、及び千代田テクノエース㈱の3社について、千代田工商㈱を存続会社とする吸収合併を行うことを決議し、同日付で当該3社は合併契約を締結しました。

 詳細は、「第5 経理の状況 1.連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(企業結合等関係)」に記載のとおりです。

6【研究開発活動】

 当社は、1951年に研究施設(R&Dセンター)を設置後、70年以上にわたり、ミッションである「エネルギーと環境の調和」を目指し、高度なエンジニアリングの技術力を通じて、それぞれの時代、或いは、将来の社会・顧客課題の解決、それを通じたビジネスの発掘とともに付加価値の増大、技術優位性の確立等に寄与する新たな技術・商品の開発を進めてきました。

 事業環境が急激に変化を遂げる中、当社は「社会の“かなえたい”を共創(エンジニアリング)する」を念頭に、エネルギーという枠を超えた領域での取組みをより一層加速させていきます。なお、当連結会計年度の研究開発費の総額は2,405百万円です。

 

(1) カーボンニュートラル・脱炭素社会の実現に向けた取組み

 (水素サプライチェーン構築)

 脱炭素社会の実現に向けた社会的要請に応えるべく、当社は様々な再生可能エネルギーに関連する取組みを

行っています。このうち、燃焼時にCO2が排出されない水素は、究極のクリーンエネルギーとしてその利用の

実現が期待されていますが、その普及には、取扱いに留意を要する水素を石油や天然ガスのように大規模に

貯蔵・輸送する技術の確立が社会的な課題となっています。

 当社は、将来の水素エネルギー社会へ対応するため、有機ケミカルハイドライドを用いて水素をガソリンの

主要成分であるトルエンに固定し、常温・常圧で取り扱いやすいメチルシクロヘキサンとして輸送/貯蔵するSPERA水素TM技術の開発を実施しています。三菱商事㈱、三井物産㈱、日本郵船㈱と共同で、ブルネイで調達した水素を日本へ輸送・供給するNEDO実証事業を2020年12月に無事に完了し、当技術の商業規模へのスケールアップが可能であることを確認しました。SPERA水素TM技術は、シンガポール水素社会実現の鍵となる候補技術としても注目されており、同国政府・関係民間各社との間で覚書を締結し、当社の独自技術を用いた水素の輸入利用・

事業化に向けての技術及び商務面での協議・検討を進めています。2022年3月から、シンガポール政府からの

助成金交付を得て現地大学Nanyang Technological University及びNational University of Singaporeの研究者と共に水素サプライチェーン構築のための連携プログラムを進めています。

 

 (アンモニア利用拡大)

 水素と同様に、燃焼時にCO2が排出されないアンモニアは、石油や天然ガスのように大規模な貯蔵・輸送する技術が既に確立されていることから、今後、火力発電所や船舶等で化石燃料の代替としての利用拡大が期待されています。しかし、既存のアンモニアの製造方法(ハーバーボッシュ法)は高温・高圧環境が必要であり、複雑な

製造設備を必要とするため、製造コストが低減しない一因となっています。

 当社は、東京電力ホールディングス㈱、㈱JERAと共同で、既存の触媒以上の高い活性を持つ新触媒をコアと

する国産技術の開発と、製造コストの低減を実現するため複雑な製造設備を要さない低温・低圧環境でのアンモニア製造プロセスの技術実証を進めており、NEDOのグリーンイノベーション基金事業に採択されています。新触媒開発においては、精力的に触媒性能向上に向けて大学・研究機関と共同で開発を進めるとともに、新触媒を活用したプロセスの開発も進めています。

 また、早期の水素社会実現のためにアンモニアから水素を取り出すアンモニア分解技術の高効率化・低コスト化が求められています。当社は、水素キャリアとしてのアンモニア利用拡大に向け、㈱JERA、㈱日本触媒と共同で既存の技術より競争力のあるアンモニア分解技術の開発を進めており、NEDOの技術開発事業に採択されています。当社では、㈱日本触媒の開発する触媒の特徴を活かせるプロセスの開発を進めています。

 

 (CCS/CCU関連)

 火力発電などから排出されるCO2の削減は、地球温暖化対策として炭素循環社会を実現するために重要であり、CO2を資源として捉えて、回収・貯蔵し、有効利用するCCS/CCUの拡大が社会から求められています。しかし、燃焼効率の高い天然ガスを使用する火力発電所から排出されるCO2は濃度が低く、既存の技術では大型・高コストな分離・回収設備が必要なことから、本格的な社会普及を実現するには、設備の小型化・低コスト化を

実現する技術の開発が必要です。

 当社は、㈱JERA、公益財団法人地球環境産業技術研究機構と共に、CO2吸収技術開発に関して、NEDOから

グリーンイノベーション基金事業の採択を受け、天然ガス火力発電所のガスタービンから排出されるCO2

分離・回収を小面積・低コストで実現するための固体吸収材をコアとする国産技術の開発に着手しました。

2022年から30年までの9年間で革新的なCO2分離・回収技術の確立を目指します。

 CO2の有効利用の方法として、NEDO事業において共同研究者である国立大学法人富山大学、日鉄エンジニア

リング㈱、日本製鉄㈱、ハイケム㈱及び三菱商事㈱と協力して、CO2からパラキシレンを製造する触媒の改良、量産技術の開発やCO2削減効果を含めた事業性検討を進めています。2023年3月には、CO2を原料として製造した

化合物から、パラキシレンを取り出すことに成功し、事業化に向けた動きを加速させています。

 また、国立研究開発法人理化学研究所、古河電気工業㈱、UBE㈱、清水建設㈱、国立大学法人東京大学及び

国立大学法人大阪大学と共に採択されたNEDOのムーンショット型研究開発事業では、回収したCO2を、電気還元してオレフィンやアルコールに転換する技術開発を進めています。さらにマクセル㈱が加わり、2024年度まで当該研究開発事業の延長が決定しています。

 

 (触媒・脱硫装置関連)

 大気汚染への対応が世界的な課題となる中、ガソリン及び軽油中の硫黄分の削減は、大気汚染物質の排出抑制に繋がり、環境負荷の低減に大きな役割を果たします。当社が開発した、水素化脱硫触媒(CT-HBT®)は、灯油・軽油の精製時に、原料油に含まれる硫黄酸化物(大気汚染や酸性雨の原因物質)を大幅に削減するものです。

当製品は国内の商業装置へ6件の納入実績と、新たに1件の受注をし、顧客から高い評価をいただいています。加えて、本触媒の担体は高機能素材として触媒以外への適用の可能性も見込まれるため、用途の検討を進めています。

 また、石炭・重油燃焼ボイラーなどの排煙から少ない消費電力で二酸化硫黄成分(SO2)を吸収することが

できるCT-121排煙脱硫プロセスは、石炭火力発電所向けに多く導入され、海外でも広くライセンスを展開して

おり、2016年にはインドの大手重工メーカーであるLarsen&Toubro社と技術供与契約を締結しました。経済成長に伴う大気汚染が深刻化し、火力発電所等から排出される硫黄酸化物の除去が社会要請となっている同地に

おいて、10件超の案件を受注しており、更なる拡大を目指しています。

 

(2) バイオ・医薬・ライフサイエンス分野に係る取組み

 ヒト細胞に培養等の加工を施して用いる細胞医薬品は、これまで有効な手段がなかった様々な疾患に対する効果が期待されている一方で、普及のためには、産業利用可能な規模での実用化に向け、製造の安定性向上やコストの低減が必要となっています。

 当社は、これらの課題に対応するため、当社R&Dセンター内にラボを設置し、iPS細胞等幹細胞の品質評価・

製造プロセスに関する技術開発を進めています。また、国立大学法人筑波大学と特別共同研究事業を実施して

おり、2020年11月には、同大学内に「つくば幹細胞ラボ」を開設し、当分野における最先端の技術を当社事業に導入できる体制を構築しています。

 また、化石資源に依存せず、植物や微生物の生体機能を利用して有用な物質の生産を行う、バイオものづくり産業の更なる発展に貢献するため、㈱ニッピ、国立研究開発法人産業技術総合研究所、国立大学法人大阪大学と共同で、植物による高度修飾タンパク質の大量生産技術の開発を遂行中です。本件は、NEDOの助成事業である「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」に採択されており、従来、動物素材からの抽出が必要であった機能性タンパク質を、植物を用いてヒト生体適合型に改変したうえで、大量かつ安価に生産する技術とシステムを開発中です。2024年度末までに実証デモプラントを子安リサーチパーク内に建設し、NEDO助成事業期間終了後は、植物によるバイオものづくりの実証基盤「植物バイオファウンドリ」として、様々な受託サービスを展開していく予定です。

 さらに、当社は、ガス・石油・環境分野で培った触媒開発・スケールアップの知見を活かし、低分子医薬品

原薬・中間体開発のスピードアップと生産時の品質や作業安全性を向上とする連続生産技術の開発を

行っています。また、この技術の早期社会実装を目指し、シオノギファーマ㈱との共同研究も実施しています。

 

(3) DX促進等による業務効率改善に向けた取組み

 (最適設計技術、安全設計技術)

 プラント建設において様々なプロセスを設計・改良するうえで、シミュレーションや解析技術は極めて重要な技術として位置付けられています。

 当社は、設計の各段階で、3次元解析(FEM解析、熱流動解析等)やプラントの起動・停止・異常時の挙動を

再現するダイナミック・シミュレーションの技術を活用して、精度の高い設計を進めるほか、プラント運転の

最適化、定量・定性リスク評価による安全設計、最適保全計画の策定などを行っています。

 

 (プラント設備最適配置と空間自動設計技術)

 ㈱Arent及び当社が共同出資する㈱PlantStreamが開発した空間設計システム「PlantStream®」によって、

プラント計画時にプラント設備や機器装置の最適配置を検討し、また配管や配線の配置を効率的に設計して

います。これにより設計や調達の手戻りを解消し、プロジェクト全体の遂行リスクを軽減します。さらに電気、計装品や小口径配管などへ自動設計技術を適用し材料の早期拾い出しを行い、購入量の最適化や輸送コストの軽減に寄与しています。

 

 (プロジェクト遂行技術)

プラント建設における工事業務の円滑な遂行を管理する手段として、各業務を管理可能な単位で分割(パッケージ化)したうえで遂行スケジュールを策定し、各業務に必要な図面、資機材、人員等のリソースを計画・管理する手法であるAWP(Advanced Work Packaging)が一般的になりつつあります。当社は、このAWPの手法にプラントエンジニアリングの専門知識、これまでのプロジェクト遂行で得た知見及び複数のデジタルソリューションを組み込み、建設工事の上流段階である設計・調達業務を含めて図面、資機材、人員等のリソースを包括的に計画・管理する手法「Chiyoda AWP」をプラント建設の現場で実践しています。

これにより、プロジェクトの進捗状況を含む膨大なデータの可視化を実現し、工事の待機時間を減少させるとともに、不測の事態に対する工事計画の修正を早期に行うことを可能にし、サブコントラクターとの透明性のある情報共有により作業効率が明らかに向上しています。

 

(4) O&M(Operation & Maintenance)事業の革新に係る取組み

 (耐震診断・補強対策・老巧化対応技術)

 3次元解析やダイナミック・シミュレーションを中心とした運転最適化と設備保全技術を活かし、国内

製油所・油槽所を中心とするプラント設備や燃料供給基地において、国土強靭化基本法に沿った耐震診断、補強対策検討、老朽化対応等を実施しています。今後も我が国の要となるエネルギー供給設備の強化事業に参画していきます。

 

 (EFEXIS®開発)

 解析・診断技術等、当社がこれまでに培ったプラントエンジニアリングの専門知識や知見と最新のクラウド

技術、IoT技術を融合させたEFEXIS®ソリューションは、国内外の顧客プラントで導入が進んでおり、従来、熟練した操作員の知見や感覚に頼ることが多かった部分の自動化・効率化による操業中プラントの収益性向上に貢献しています。EFEXIS®FCC最適運転AIシステム(FCC AI Optimizer®)を導入した太陽石油㈱四国事業所では、重油を高温下で触媒と反応させガソリンや軽油を製造する残油流動接触分解装置(RFCC装置)の運転最適化が実現し、

安定操業に寄与するなど大きな導入効果が出ています。

 また、西部石油㈱と共同で実施している、装置監視AIを活用した運転支援システム構築事業は、一般社団法人社会実装推進センターの2020年度補正産業保安高度化推進事業費補助金に採択されており、EFEXIS®の更なる

展開・効果検証を推進しています。

 

(5) その他の取組み

 (宇宙関連)

 当社はエンジニアリングの技術や知見を宇宙利用の拡大に活かすことを視野に入れ、1990年代から国立研究

開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)向けに、画像処理・通信装置、細胞培養実験・植物生育実験に用いる科学機器といった国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」に搭載する機器設備の開発を中心に取組みを継続

してきました。

 現在、JAXAとインド宇宙開発機関との国際共同ミッションとして、2025年に打ち上げを目標にしている月極域探査ミッションで使用する月探査ローバに搭載される水資源分析計や、2024年頃からアメリカ、カナダ、欧州

及び日本の宇宙開発機関の協働での組立が予定されている月周回有人拠点(月探査ゲートウェイ)に設置するCO2除去装置の開発を担当しています。地球低軌道にある国際宇宙ステーションから月面に向けて事業領域の拡大を進めています。