文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
当社グループは、企業活動を行う上での軸・拠り所として企業理念「JGC's Purpose and Values」を制定しております。
「JGC's Purpose and Values」は日揮グループのパーパス(存在意義)及びValues(価値観)の2つの要素から構成され、日揮グループのパーパス(存在意義)として、「Enhancing planetary health」を掲げ、当社グループ共通のValuesとして、4つのちから、即ち、「挑戦」、「創造」、「結集」、「完遂」を定め、さらに「尊重」、「誠実」を2つの誓いとして明らかにしております。
当社グループは、企業理念「JGC's Purpose and Values」に基づき企業活動を進めていくことで、企業価値の一層の向上を図り、以て人と地球の健やかな未来づくりに貢献してまいります。
当社グループは、2021年度から2025年度の5ヶ年を長期経営ビジョン「2040年ビジョン」の1stフェーズ、挑戦の5年間と位置づけ、中期経営計画「Building a Sustainable Planetary Infrastructure 2025(BSP2025)」において、「EPC事業のさらなる深化」、「高機能材製造事業の拡大」、「将来の成長エンジンの確立」を重点戦略とし、戦略投資に積極的に取り組むことで収益の拡大、多様化を進めております。財務目標として、2025年度に売上高8,000億円、営業利益600億円、親会社株主に帰属する当期純利益450億円、自己資本利益率(ROE)10%を掲げております。
しかし、前連結会計年度及び当連結会計年度に、総合エンジニアリング事業で遂行中の複数の海外プロジェクトにおいて、損失引当及びリスク対応費用を見込む結果となりました。2025年度においても、採算が悪化した複数の海外プロジェクトは引き続き完工・引渡しに向けて工事を進めているため、2025年度業績見通しの各利益項目を押し下げております。このためBSP2025で掲げた財務目標は、売上高は前連結会計年度以降達成しているものの、各利益項目での達成は困難な状況であります。一方で「EPC事業のさらなる深化」、「高機能材製造事業の拡大」、「将来の成長エンジンの確立」の重点戦略については、着実に取組みを進めており、機能材製造事業、SAF(持続可能な航空燃料)事業及びバイオものづくり事業などでその成果が見え始めております。
ご参考:BSP2025「3つの重点戦略」
総合エンジニアリング事業の収益力・遂行力強化に向けて、新規プロジェクトの受注に際して、「利益確保(足元、中期)と実現性が高い案件」、「リソース確保」、「将来の糧」を軸に取り組むべき案件を判断し、人材リソースの適正配員を重視した対応を行ったほか、海外子会社の役割の見直し及び再定義を行い一部子会社では業務縮小などを進めました。加えて、総合エンジニアリング事業におけるプロジェクトリスクがここ数年で大きく変化する中で、個別プロジェクト毎の採算管理の強化に加え組織横断的なリスク管理を徹底することを通じて、遂行中プロジェクトでの問題点の早期把握と適切な対策を行い、収益力・遂行力強化を継続的に進めております。
BSP2025の計画4年目となる当連結会計年度において、「EPC事業のさらなる深化」では、遂行中の複数の海外EPCプロジェクトにおいて、データ統合管理システムを適用し、EPC役務をシームレスでデジタル技術を活用したプロジェクト遂行(EPC DX)に本格移行したほか、国内EPC事業会社である日揮株式会社は、2023年に協業基本合意書を締結した株式会社高田工業所の株式約20%を取得しました。本株式取得により、今後拡大が見込まれる国内の低・脱炭素案件及び資源循環案件をはじめとするプラント建設及び保全分野における両社の施工対応力を維持・強化し、国内事業のさらなる拡大を図っていく予定です。加えて、日揮株式会社は、2024年11月に、今後国内で低・脱炭素分野や資源循環分野におけるプラントの設計・調達・建設(EPC)案件の増加に対応していくために、長崎県長崎市に新たなエンジニアリング拠点を開設しました。
「高機能材製造事業の拡大」では、生産能力強化に向けて積極的な設備投資を進めました。触媒・ファインケミカル分野において、同分野の事業会社である日揮触媒化成株式会社は、シリカゾル増産設備の完成や、合成燃料用やケミカルリサイクル用触媒、及び高速通信材料や半導体用機能性研磨粒子など新規ファインケミカル製品の今後の需要拡大に向けて、2023年に取得した事業用地での設備投資計画の検討を進めました。また、ファインセラミックス分野において、同分野の事業会社である日本ファインセラミックス株式会社は、顧客ニーズに応えるために、電気自動車向けパワー半導体の高熱伝導窒化ケイ素基板等の増産に向けて、宮城県富谷市において新工場の建設を進めました。
「将来の成長エンジンの確立」では、エネルギートランジション領域のカーボンマネジメント分野において、BP Berau, Ltd.向けタングーEGR/CCUS※プロジェクトにおける陸上設備の建設及び据付プロジェクトを受注したほか、タイ王国のThe Siam Cement Public Company Ltd.が保有するセメント工場の排ガスを利用した二酸化炭素(CO2)分離回収・利用(CCU:Carbon Dioxide Capture and Utilization)設備に係る事業化調査役務、中国電力グループのエネルギア・パワー山口株式会社が運営する防府バイオマス発電所でのCO2分離・貯留(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)設備の設計・検討役務などを受注しました。また、当社が石油資源開発株式会社などとともに進める日本を起点とするCCSバリューチェーン構築を目指す共同検討が、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の「先進的CCS事業に係る設計作業等」に関する業務公募に採択され、日本国内の製鉄所や発電所で排出されるCO2の分離・回収及びマレーシアまでの液化CO2の海上輸送(瀬戸内エリアでの内航輸送を含む)と受入れ、貯留までのCCSバリューチェーン構築に必要な設備やコストなどを含めた検討を開始し、一部エリアの基本設計作業を開始しました。さらに、水素・アンモニア分野においては、ENEOS株式会社などがマレーシアで計画するグリーン水素製造プラントの基本設計役務を受注しました。
※ 天然ガスの増進回収 (EGR:Enhanced Gas Recovery)並びに二酸化炭素の分離回収、利用及び貯留(CCUS: Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)
使用済食用油(以下、「廃食用油」という。)を原料とした国産SAF製造・供給事業※において、当社は、外食チェーン大手や、自治体、医療法人をはじめとする様々な企業と廃食用油の供給及び利用に関する基本合意書を締結し、原料の確保に取り組みました。当社グループの持分法適用会社でありSAF製造事業会社である「合同会社SAFFAIRE SKY ENERGY」がコスモ石油株式会社堺製油所構内に建設していた大規模生産実証設備は、2024年12月に完工し、2025年度からパートナー企業を通じて複数のエアラインへのSAF供給開始を予定しております。
※国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「バイオジェット燃料生産技術開発事業/実証を通じたサプライチェーンモデルの構築」に採択されました。
さらに、将来の市場拡大が見込まれるバイオものづくりに対し、当社は株式会社バッカス・バイオイノベーションと共同で、微生物の開発・改良から培養槽のスケールアップ、生産プロセスの開発までをワンストップで手掛ける「統合型バイオファウンドリ®」※事業の構築に取り組みました。バイオものづくりにおいて、当社グループは、将来のライセンスビジネスを含めたソフトビジネスへの展開を視野に、非EPCビジネスの一つとして確立していくことを目指しております。2024年8月には兵庫県神戸市ポートアイランド内に用地を取得し、世界初となるガス発酵によるバイオものづくりの研究開発拠点(研究棟)の新設工事を開始しました。第1研究棟は、2025年末の完成を予定しております。
※統合型バイオファウンドリは、株式会社バッカス・バイオイノベーションの登録商標です。
総合エンジニアリング事業
プラントマーケット全般として、天然ガス(LNGを含む)や低・脱炭素分野等において、顧客の設備投資計画は引き続き豊富にあるものの、金利上昇や建設費用等の増加により顧客のCAPEX(資本的支出)が増加傾向にあるため、一部の顧客において投資決定時期を先送りする動きがあります。世界経済の先行きが後退する懸念が高まるなかで、エネルギー需要の動向、ひいては顧客の投資計画への影響について注視が必要な状況です。
海外マーケットにおけるエネルギーソリューションズ分野では、トランジションエネルギーとしての天然ガス(LNGを含む)の中長期的な需要は、引き続きアジアやアフリカを中心に拡大していく見通しです。これを背景に中・長期的なエネルギーの安定確保と低・脱炭素社会の実現を見据えたLNGなどの設備投資計画が、引き続き進展していくと思われます。
サステナブルソリューションズ分野では、脱炭素社会の実現に向けた投資の重要性は認識されつつも、金利上昇や建設費用等の増加によって顧客のCAPEXは増加し、顧客の設備投資計画は先送りとなる傾向が顕著になっております。このため当社グループは、水素・燃料アンモニアやSAF、CCS、合成メタン(e-methane)などの低・脱炭素分野のプラント建設計画については、政府による導入目標などのイニシアチブや補助金によるサポートも受けながら実現していく可能性の高い案件に注力していく予定です。
ファシリティソリューションズ分野において、世界的なデジタル産業の拡大や生産拠点の多様化などに伴って、需要が高まる半導体や蓄電池の周辺産業、及びデータセンターなどの設備投資計画が東南アジアなどで引き続き進展していく見通しです。
国内マーケットにおいて、SAFや水素・燃料アンモニアなどを中心とする低・脱炭素分野や資源循環分野、医薬品製造プラントを中心とするライフサイエンス分野や食品分野において、顧客の設備投資計画が実現していく見通しです。一方で、政府による補助金交付の遅れや建設費用等の増加によって、顧客のCAPEXが増加傾向にあることから、一部の顧客において投資決定時期を先送りする動きがあり、その動向を注視しております。また、既存製油所・化学プラントの保全工事においては、定期修繕工事の需要が堅調に推移する見通しです。
機能材製造事業
触媒分野において、FCC触媒の国内シェア拡大及び海外展開に加え、水素化処理触媒の協業先企業との体制維持と収益性向上、ケミカル触媒の新規案件獲得、拡大するカーボンリサイクルやケミカルリサイクル分野に対応する触媒開発、再生可能エネルギー発電向け環境保全触媒の素材開発などを目指します。
ファインケミカル分野において、世界経済の後退によって主力であるエレクトロニクスや半導体市場の事業環境の変化が懸念されるものの、シリカゾルの新規研磨材の立上げ、機能性塗料材の拡販及び多用途展開、化粧品材のプラスチックビーズ代替拡大とオプト材の拡販、多用途展開に注力してまいります。
ファインセラミックス分野において、世界経済の後退によって半導体製造装置市場の事業環境の見通しが難しいなかで、その状況を注視しつつ、薄膜回路基板やセラミックス製品などについては、新規顧客獲得に向けたさらなる受注拡大に取り組んでまいります。高熱伝導窒化ケイ素基板については、拡大する需要に応えるため、生産設備への投資を進めるとともに、製品のさらなる品質向上に向けた開発を進めてまいります。
なお、米国の相互関税を含む通商政策及び地政学リスクの高まりに対する当社グループの事業への影響につきましては、経済安全保障・地政学リスク検討タスクフォースを中心にその動向を注視して、適宜対応を検討しております。
当社グループは、「
当社グループでは、「サステナビリティ基本方針」を踏まえ、GRIガイドライン、ISO26000、SDGsなどの国際ガイドラインの内容や世界のマクロトレンドの分析を踏まえ、社会的課題の抽出を行いました。そのうえで、社会・ステークホルダーにとっての重要度と当社にとっての重要度を総合的に評価し、当該社会的課題から優先的に取り組むべき6つの重要課題(以下、「マテリアリティ」という。)を以下のとおり特定しております。当社グループでは、下記(2)にて後述する項目が、これらの社会課題におけるマテリアリティと関連する当社グループにとっての重要なサステナビリティ項目と考え、対応しております。

(1)サステナビリティ全般に関するガバナンス及びリスク管理
当社グループでは、代表取締役会長を委員長とするサステナビリティ委員会(事務局:当社戦略企画オフィス経営企画ユニット)を設け、年3回の定例開催に加え、適時の臨時開催を通じて、気候変動や人的資本を含むサステナビリティ分野に関する方針や行動計画の策定、推進、評価及び改善に係る審議を行うとともに、取締役会への年1回の定期報告に加え、内容に応じた適時の附議・報告を行うこととしております。
また、当委員会策定の方針や行動計画の実施を推進するため、当委員会の委員である当社グループ各社社長の指名により、各社にサステナビリティ推進委員を置き、推進委員間の連絡・調整・意見交換を目的に、サステナビリティ推進連絡会議を設置しております。
リスク管理については、機会も含め、サステナビリティ委員会にて審議の対象とする他、代表取締役副社長執行役員が委員長を務める原則年2回開催のグループリスク管理委員会において、サステナビリティに関するリスクを含むグループのリスク全体の把握・整理、リスク管理システムの維持・構築、改善の提案・審議を行っております。これら委員会の詳細については、「
なお、サステナビリティ項目への対応と役員報酬の関連については、「

(2)重要なサステナビリティ項目
当社グループでは、上記のガバナンス及びリスク管理体制の下、以下の4項目(①気候変動への対応、②人的資本への取組み、③人権対応及び④労働安全衛生)を当社グループにとっての重要なサステナビリティ項目として対応しております。なお、4項目のうち、②人的資本への取組み及び④労働安全衛生に関するガバナンス及びリスク管理については、事業内容によって適切な対応が異なり、各社において既存の体制が整っていることから、一義的には各社又は事業セグメント毎による対応を基本とし、当社として上記体制の下、主にそのモニタリングを行っております。また、機能材製造事業については、当社機能材製造事業オフィス機能材製造事業ユニット(2025年4月1日付で当社戦略企画オフィス経営企画ユニットより独立し新設)が総合窓口となり、上記体制の下、当社へ適時適切に報告が行われる仕組みを整備しております。
また、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
① 気候変動への対応
持続可能な社会の実現に向けて、気候変動への対応は世界的な課題となっております。当社グループは、気候変動への対応は、当社が優先的に取り組むべき社会的な重要課題としてのマテリアリティである「環境調和型社会」への対応であるとともに、「エネルギーアクセス」及び「生活の質の向上」にも貢献するものと考えております。また、気候変動への対応については、当社は、CDP報告をはじめとして、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のガイドラインを踏まえた開示を行っております。
当社グループの気候変動対応の責任者は代表取締役会長兼社長であり、上記サステナビリティ委員会の主宰等を通じ、気候関連のリスクと機会を評価・管理するとともに、当社グループの経営戦略や経営目標に反映させる責任を負っております。具体的には、サステナビリティ委員会のもとに「GHG算定分科会」(旧「CDP回答分科会」)及び「CO2削減分科会」(旧「CO2削減計画策定分科会」)の2つの分科会を設け、当社グループの温室効果ガス(以下、「GHG」という。)排出の現状及びCO2削減に関する対応状況についての報告を受けるとともに、気候変動に関するリスクに対する低減と未然の防止に係る審議を行っております。
なお、当社グループでは、国際エネルギー機関(IEA)のWorld Energy Outlook 2020年版のデータをベースとし、STEPS(物理シナリオ)及びSDS(移行シナリオ)に準拠する複数のシナリオ等を前提に2040年をターゲットとして行った分析を通じて気候変動に関するリスク及び機会の影響を評価し、重要度の高いものを以下のとおり認識しております。
<気候変動に関する主なリスク>
<気候変動に関する主な機会>
上記のリスク・機会の評価を踏まえ、長期経営ビジョン「2040年ビジョン」においては、エネルギートランジション、資源循環及び高機能材のうち下記を注力分野と位置付け、中期経営計画「BSP2025」に基づいて着実にビジネスを推進しております。
当連結会計年度においては、「低・脱炭素オイル&ガス」に関連する取組みとして、ADNOC(アブダビ国営石油会社)向け大型低炭素LNGプラント建設プロジェクトを受注しました。本プロジェクトでは、原料である天然ガスを圧縮するコンプレッサーの駆動に、従来のガスタービンを使用するのではなく、クリーン電力を使用する電動モーターによる「E-Drive」を採用することで、プラント操業時のCO2排出低減に最大限配慮した低炭素LNGプラントとなる予定です。
また、当社の連結子会社であるPT. JGC INDONESIAを契約主体に、BP Berau, Ltd.向けタングーEGR/CCUSプロジェクトにおける陸上設備の設計、調達、建設及び据付プロジェクトを受注しました。本プロジェクトでは、天然ガスの生産に伴い排出されるCO2を回収し、ガス田に再圧入・貯留することで、CO2の排出削減と同時に天然ガスの生産効率向上・増産を図ります。
さらに、2023年9月発行のグリーンボンド対象のグリーンプロジェクトについて、当社が47%の持分比率により出資する「合同会社SAFFAIRE SKY ENERGY」の国内初となる国産SAF大規模製造プラントが竣工した(国内外エアラインへのSAF供給は2025年4月より開始)他、日本ファインセラミックス株式会社がパワー半導体向け高熱伝導窒化ケイ素基盤の増産に向けた新工場の建設、また当社がバイオものづくり事業の確立に向けた「統合型バイオファウンドリ®」※の研究基盤となる研究棟の建設を進めております。
※統合型バイオファウンドリは、株式会社バッカス・バイオイノベーションの登録商標です。

加えて、リスク及び機会に関する最重要指標であるGHG排出量に関し、中期経営計画「BSP2025」において、下表のとおり、GHG排出量(Scope1+2)について「2050年ネットゼロ」を宣言するとともに、2030年度までの売上高当たり排出量の2020年度比30%削減を目指すこととしております。
実績については、前連結会計年度である2023年度(2023年4月~2024年3月)のScope1+2のGHG排出量は133,695トンCO2であり、2022年度比では総合エンジニアリング事業において増加したものの、機能材製造事業での削減により、全体では微減となりました。目標とする売上高当たりの排出量(原単位ベース排出量)については、基準年度(2020年度)から47%の削減となりました。また、2023年度のScope3排出量(カテゴリー11及び関連性がないと認識したカテゴリーは除く) は1,497,309トンCO2であり、2022年度比で遂行中の大型EPCプロジェクトの工事進捗率が高くなったため、特にカテゴリー1における排出量が増加しました。
なお、 Scope1+2の排出量実績はいずれも、当社グループ内の主要な排出源と排出量を特定し、削減策を講じることを目的として算出したものであり、主要な排出主体である当社、日揮コーポレートソリューションズ株式会社、日揮グローバル株式会社、日揮株式会社、日揮触媒化成株式会社、日本ファインセラミックス株式会社及び日本エヌ・ユー・エス株式会社による各社独自の算定に基づく排出量の合算です。これら排出量実績については、グループ統一の算定枠組みの整備や連結会社への展開を含む網羅性の改善など、その信頼性の向上に引き続き取り組むとともに、報告対象年度の会計年度との一致についても取り組んでまいります。
また、本排出量実績算出の前提やScope3カテゴリー別排出量の内訳などの詳細については、国際的な気候変動関連の情報開示の枠組みであるCDP2024への当社からの報告(

② 人的資本への取組み
「人権の尊重・働きがい」をマテリアリティと認識し、人的資本を重要な経営基盤と位置付ける当社グループにおいて、人的資本への取組みは経営戦略と連動する重要テーマです。取締役会の指名を受け、当社グループの戦略的な人事施策の策定と実装を牽引するCHRO (Chief Human Resource Officer) のイニシアチブのもと、前連結会計年度に当社グループの中核である総合エンジニアリング事業を担う、或いはこれに関連する当社、日揮グローバル株式会社、日揮株式会社及び日揮コーポレートソリューションズ株式会社(以下、「エンジニアリング関連4社」という。)を対象として、当社グループの長期経営ビジョン「2040年ビジョン」をはじめとする経営戦略や事業戦略実現のために必要な人財要件や人財数を特定するための人財ポートフォリオと、人財ポートフォリオ実現のための新たな人事戦略である「人財グランドデザイン2030」を策定し、当連結会計年度はこれを推進しました。

なお、当社では「人財グランドデザイン2030」をはじめとする経営戦略と連動した人事戦略について、エンジニアリング関連4社社長及びCHROほかを委員とするグループHRM委員会(エンジニアリング関連4社における人財関連の審議機関)にて審議し、同委員会のもとに設置したHRO会議及び各社HROが、各社の事業戦略と連動した人事戦略を推進する体制を取っております。
「人財グランドデザイン2030」では、以下の図に示すとおり、2030年時点で目指す組織像を「統合力で未来を切り拓きやり遂げるプロ集団」として定め、その姿を実現するためには、M(Management System):「タレントマネジメントシステムの構築」、O(Onboarding):「多様な人財の採用と即戦力化」、D(Development):「自律成長を促す人財開発・職場環境整備」、E(Engagement):「会社と個人の共通目的発見と理解促進」、L(Life & Work):「社員の物心両面の充足」の5つ(MODEL)を達成することが必要と考え、当連結会計年度より、そのための具体的な施策を策定し、順次推進しております。なお、これらエンジニアリング関連4社の人事施策については、人財ポートフォリオに基づく従業員の属性データや採用人数の推移、組織診断サーベイの結果等を定期的にモニタリングし、必要に応じて施策の検討や見直しを行うこととしております。
また、当連結会計年度末時点では、かかる人事戦略はエンジニアリング関連4社を対象としておりますが、各社の状況を考慮しながら、順次、他の当社グループ会社にも拡大していく予定です。

エンジニアリング関連4社の人財育成については、「人財グランドデザイン2030」で定めた目指す組織像「統合力で未来を切り拓きやり遂げるプロ集団」を実現するため、「自ら変化を起こし続ける人財」を継続的に輩出することを人財育成方針として掲げております。具体的には、以下のとおり「人財グランドデザイン2030」におけるD(Development)に関して、若手社員を対象とする戦略的なOJT制度や、階層別研修をはじめとした各種Off-JT研修及び自己啓発を促進する制度等を設けて推進しているほか、O(Onboarding)やE(Engagement)等に係る各種施策に取り組み、本方針を推進しております。
・ 若手社員の早期戦力化に向け、OJT制度を基軸としたキャリアディベロップメントプラン(CDP)、指導員制度、現場派遣制度等、実践を通じた成長支援制度を実施しております。
・ キャリア採用者に向けては、入社後の定着と活躍を支援する「オンボーディングプログラム」を導入し、入社時オンボーディング研修やネットワーキングプログラムに加え、定期的なサーベイを通じてフォローアップを行うなど、サポート体制を強化しております。
・ 全部長を対象に当連結会計年度より「部長Upgrade Program」を実施しており、人財育成を担う部門マネジメントのさらなる能力向上を通じて、人財育成の強化を図っております。
・ 自己啓発支援としては、自律的に学び合う風土醸成とネットワーク構築に資する「日揮テクノカレッジ」を展開し、社内のチーフエンジニアやプロジェクトマネージャーなどの講師から技術を教わることに加え、社外の有識者を招き、日常業務では習得しにくい幅広い分野の知見を得る機会や、社員同士が学び合う場を提供しております。その他、技術力及び遂行力向上を目的とした自社e-Learning「JGC University」や、幅広いビジネススキルの習得を支援する通信教育を導入し、社員が主体的に学べる環境を整備しております。
そのうえで、すべての従業員が最大限に能力を発揮し、組織としてパフォーマンスを発揮できる風土を醸成するため、組織開発に係る各種施策にも注力しております。具体的には、ダイバーシティマネジメント研修、異文化コミュニケーション講座等、Inclusion & Diversityや多様性・相互理解を深める研修を実施しております。また、エンジニアリング関連4社では、部署や世代を跨ぐコミュニケーションの促進を目的に、前連結会計年度よりネットワーキングプログラムを導入し、キャリア採用者や新卒採用者などを中心にセッションを定期的に開催することで、社内のネットワークの構築につなげております。その他、人と組織に関する当社主催のイベント「People Day」を当連結会計年度から開催しており、役員から社員まで幅広く参加し、当社グループの一体感の醸成につなげております。
さらに、当社グループでは、長期経営ビジョン「2040年ビジョン」のもと、事業環境の変化に合わせ、ビジネス領域、ビジネスモデル及び組織のトランスフォーメーションを進めており、当社グループで働く従業員が、今後益々多様化していくことを想定しております。社内環境整備方針は、すなわち「Inclusion & Diversity基本方針」(https://www.jgc.com/jp/about/policies.html)であり、多様化する従業員一人ひとりが、能力と活力を最大限に発揮して自分らしく活き活きと働くことができるよう、「日揮グループに集うすべての人に敬意をもって接し、国籍・人種・年齢・障がい・ジェンダー・宗教などを問わず、異なる意見・経験を尊重」すること、「多様な人財一人ひとりの能力と活力を最大限に引き出す風土を大切にし、それを可能にする制度を拡充」すること等を掲げております。具体的には、「人財グランドデザイン2030」におけるD(Development)やL(Life & Work)等に係る取組みを中心に、かかる社内環境整備方針を推進しております。当連結会計年度においては、エンジニアリング関連4社の人事部門と、サステナビリティ委員会のもとに設置されているインクルージョン&ダイバーシティ分科会が連携し、エンジニアリング関連4社を対象にInclusion & Diversityへの理解促進を目的に国際女性デーイベントへの参加やワークショップを実施しました。また、総合エンジニアリング事業における建設現場駐在の魅力度を高める施策として、海外駐在においては駐在サイクルや一時帰国休暇サイクルを短縮、国内駐在においては、全従業員が月2回帰省できるようにするなど、より働きやすい環境を整えております。こうした社内環境整備が進むことで多様な働き方が受容されるようになると考えており、その状況を測る指標の1つに男性労働者の育児休業取得率を用いております。その実績は「
※当社は「労働基準法」(昭和22年法律第49号)の「管理監督者」の定義に従った目標設定をしており、「
機能材製造事業における人財育成や社内環境整備については、エンジニアリング関連4社と事業内容が異なっている等の観点から、当社グループが現在の持株会社体制に移行する以前には同一会社であったエンジニアリング関連4社とは異なる、両機能材製造事業会社固有の人事制度体系・制度での運用を継続しております。触媒・ファインケミカル製品の開発・製造を行う日揮触媒化成株式会社では、同社が目指す「技術立社」の実現に向けて、社内教育プログラム「モノづくり大学」や「育成計画」を設け、若手・中堅人財の育成に注力しております。ファインセラミックス製品の開発・製造を行う日本ファインセラミックス株式会社では、今後の生産能力の拡大に向けて、階層別のOff-JT研修や工場でのTPM(Total Productive Management)活動の推進によるOJTなどによる育成施策の強化に加え、工場で勤務する従業員の働きやすさを重視した休暇制度等の人事制度の見直しに取り組んでおります。
③ 人権対応
人権対応は、当社が優先的に取り組むべきと考える社会課題(マテリアリティ)である「人権の尊重・働きがい」と直接結び付くとともに、当社グループ、特に中核事業である総合エンジニアリング事業には当社グループ内外を含め数多くの「人」が関わっており、当社グループの事業は「人」で成り立っていることから、人権尊重は当社ビジネスの基盤であり、人権尊重の取組みは当社グループの事業活動の根幹に関連する重要なテーマと認識しております。当社グループは、このような人権尊重に対する考えのもと、「国際人権章典」、国際労働機関(ILO)の「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」等の国際的に認められた人権原則に基づき、当社グループの事業活動において影響を受けるすべての人々の人権を尊重できるよう取組みを進めております。
従来、当社グループの人権対応は、当社ガバナンス統括オフィスコンプライアンスユニットが中心となり、当社グループ各社の役職員に対して「日揮グループ行動規範」及び「日揮グループ人権基本方針」の周知徹底を以って人権尊重の意識向上を図ってまいりましたが、2024年9月、当社取締役会にて新たに「日揮グループ人権規程」を制定し、代表取締役社長の監督のもと、コンプライアンスユニットが当社グループ各社と協力のうえ、当社グループ全体の人権対応を推進する組織体制を明記しました。
また、コンプライアンスユニットは、サステナビリティ委員会のもとに設置されるグループ会社横断の人権対応分科会の事務局も兼務しており、定期的に分科会を開催し人権対応について協議を行っております。当連結会計年度は分科会を3回開催し、コンプライアンスユニットが取り組む人権対応の進捗や今後の対応方針を共有した他、分科会メンバーである建設部門や調達部門の担当者との間でサプライヤー調査について意見確認を行いました。

前連結会計年度まで、当社グループは国連のビジネスと人権に関する指導原則などの国際スタンダードを踏まえて政府が定める「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」に基づき、人権リスクマップをもとに特定・評価した人権課題に対してリスク低減措置を検討・実施し、その効果を検証して情報開示を行うという人権デューデリジェンスプロセスの構築に取り組んでまいりました。当連結会計年度は、引き続き国内外のEPC事業に対する人権リスク低減措置の検討・実施に取り組み、国内向け発注契約への人権条項の追加、当社グループ行動規範のeラーニング研修の対象会社の拡充を行いました。また、より人権リスクが高いとみなされる海外におけるEPC事業に対しては、当社グループ外ベンダー及びサブコントラクターなどのサプライヤーにおけるプロジェクト現場での労働者の強制労働(外国人・移民労働)や労働安全衛生を人権課題として特定・評価しました。2025年度は、これらの課題に対するリスク低減措置として、ベンダー及びサブコントラクターへの質問票の送付や建設現場での調査を人権リスクが高いとみなされる地域から優先的に実施する予定です。さらに、機能材製造事業会社においても人権デューデリジェンスの取組みを開始すべく、当連結会計年度から当該事業における人権リスクマップを作成し、引き続き当社グループ全体に人権デューデリジェンスのプロセスを展開してまいります。

④ 労働安全衛生
労働安全衛生の追及は、当社が優先的に取り組むべき社会的な重要課題としてのマテリアリティである「人権の尊重・働きがい」、そして「ガバナンス、リスク対応」にも関連する重要なサステナビリティ項目と考えております。当社グループでは、Health(衛生)、Safety(安全)、Security(セキュリティ)、Environment(環境) (以下、「HSSE」という。)を常に追求すべき企業価値と捉え、当社グループのみならず、協力会社を含む、国内外事業所や建設現場などで働くすべての人を対象に、「すべての人が、健康で安心して働き、家族のもとへ無事帰る」というグループ共通のHSSE基本理念を制定し、当社グループを挙げてHSSEのパフォーマンス向上に取り組んでおります。
本理念に基づき、当社グループでは、従来より主要な事業会社において各々の事業内容・特性に即した安全衛生方針を掲げ、下表のとおり安全衛生委員会又はHSSE委員会を設置し、労働安全衛生管理体制を構築・運用しており、HSSEに係る重要テーマを識別・評価の上、対処するとともに、安全衛生上のリスクを低減する活動を展開しております。

総合エンジニアリング事業では、日揮グローバル株式会社、日揮株式会社ともに各々HSSE委員会を月次で開催し、潜在的危険や実際の事故実績に基づく予防策や対応策の検討に加えて、グッドプラクティスの共有等を行っております。また、建設現場においても、建設工事に従事する多数の作業員を動員する協力会社とともに、各建設現場独自の委員会を設置して、協力会社を交えて労働安全衛生のパフォーマンス向上に取り組んでおります。なお、重大災害があった場合は、当該建設現場に加えて、各社のHSSE委員会及び労働安全衛生管理部門が迅速に対処するとともに、当社関連部門に対して緊急連絡し、必要に応じて当社が支援する体制を取っております。
労働安全衛生のパフォーマンス向上については、安全衛生意識の向上を含む組織の安全文化の醸成と安全衛生知識・技術の向上という2つの側面から取り組んでおります。安全文化の醸成においては、当社代表取締役会長兼社長主催の当社グループ全体のHSSE大会など各種イベントの開催のほか、総合エンジニアリング事業では建設現場における協力会社の作業員全員を含めた安全文化の醸成活動を実施しております。また、知識・技術の向上においては、新入社員や初めて建設現場に赴任する従業員への安全衛生環境教育、国内外の建設現場に対する労働安全衛生監査などを実施しております。
また、海外のEPC事業を遂行する日揮グローバル株式会社及び国内のEPC事業を遂行する日揮株式会社の各HSSE委員会は、国内外の建設現場において、国際的に比較可能な休業災害度数率(LTIR)、記録災害度数率(TRIR)をはじめとする労働安全衛生に関するパフォーマンスを測定する複数の指標(KPI)及び目標を定め、モニタリングすることで、継続的な労働安全衛生の管理の徹底と向上に努めております。総合エンジニアリング事業においては、HSSE基本理念に基づき上記の取組みを継続的に推進してきた結果、国内外の建設現場での休業災害度数率(LTIR)をはじめとする安全成績は、各々の業界平均と比較してそれぞれ優れた結果を維持しております。なお、この労働安全衛生関連の指標の集計や管理については、今後日揮グローバル株式会社傘下の海外グループ会社が主体となって遂行するプロジェクトにもモニタリングを拡大していく予定です。
<日揮グローバル株式会社及び日揮株式会社の建設工事における労働安全衛生に係る指標>
(注)国際的な比較等の観点から、本データの集計期間は毎年1月から12月までの合計としております。
なお、工事総労働時間数の大部分は、建設工事を請け負い、直接工事に従事する協力会社となっております。
*1休業災害度数率(LTIR)及び*2記録災害度数率(TRIR)は、米国労働安全衛生局(OSHA)の労働災害の発生状況を図る指標であり、以下のとおりです。
休業災害度数率 = 休業災害件数×20万時間÷工事総労働時間数
記録災害度数率 = (死亡災害件数+就労制限件数+専門治療件数)×20万時間÷工事総労働時間数
2024年は、日揮グローバル株式会社の海外建設現場において、各EPCプロジェクトのトップマネジメントが中心となってHSSE活動をけん引し、2023年よりも工事総労働時間数が増加したにもかかわらず、休業災害度数率(LTIR)及び記録災害度数率(TRIR)が改善され、いずれも目標値を達成しました。この結果を踏まえ、日揮グローバル株式会社のHSSE委員会では、2025年は目標値をさらに高め、デジタル化を含めたさらなる改善活動に取り組んでおります。一方、日揮株式会社の国内建設現場においては、新設プラント建設現場における事故災害防止対策により、休業災害度数率(LTIR)及び記録災害度数率(TRIR)は目標値を達成したものの、国内メンテナンス工事において、協力会社作業員の死亡災害を含む複数の傷害者を伴う事故が発生しました。メンテナンス工事は、顧客の既設プラント内で工事を請け負う性質上、顧客の理解及び協力も不可欠であることから、本事案に関する包括的な再発防止対策については、顧客と協力会社を含めて協議を継続しております。
機能材製造事業については、当社グループ共通のHSSE基本理念を基軸としつつ、主要な事業会社である日揮触媒化成株式会社と日本ファインセラミックス株式会社の各社において、それぞれ独自の労働安全衛生管理体制を設けております。日揮触媒化成株式会社では、主要な事業所である北九州事業所と新潟事業所がそれぞれ安全衛生委員会を月次で開催し、労働安全衛生に関する年間計画の策定や労働災害発生状況のモニタリング、産業医による職場巡視報告等を実施しているほか、従業員の安全衛生意識の向上の観点から同社独自の安全・衛生大会の実施や「指差し呼称」運動の展開など、各種施策に取り組んでおります。また、日本ファインセラミックス株式会社においては、「労働災害ゼロ」を目指すことを大方針とし、本社にて月次で開催する安全衛生委員会において、各事業部より安全成績や工場現場のパトロール状況の報告等を受ける管理体制をとっております。
当社グループの事業その他に関する主要なリスクとして、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる事項には、以下のようなものがあります。ただし、以下に記載したリスクは当社グループに関するすべてのリスクを網羅したものではなく、記載された事項以外の予見しがたいリスクも存在します。これらのリスクは、予測不可能な不確実性を含んでおり、将来の当社グループの事業、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に重要な影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、これらのリスクに対処するため、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1) コーポレート・ガバナンスの概要 ② 企業統治体制の概要」及び同「⑦ リスク管理体制の整備の状況」に記載のとおり、グループリスク管理委員会を含む必要なリスク管理体制を整え、リスクの管理及び対応を行っておりますが、当社グループがコントロールできない事象の発生等により、これらのリスクの顕在化及び当該リスクによる当社グループへの影響を完全には回避できない可能性があります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
① プロジェクトの受注及び遂行に関するリスク
総合エンジニアリング事業においては、オイルメジャーや国営石油会社が顧客となる国際的な大規模プロジェクトを遂行しております。このようなプロジェクトにおいて当社グループが設計、調達及び建設する各種プラントは、数多くの異なる要素や機能で構成される複雑なシステム総合体であり、契約締結からプラント引渡しまで複数年に渡る長期間を要します。その間の政治・社会情勢の変化、政策の変更その他顧客を含む取引先の状況等の変化による受注後のプロジェクトの計画変更、中止、中断又は延期等のリスクを含む総合エンジニアリング事業におけるリスクの見積りは複雑性を伴い、高度な技術力及び豊富な経験を要します。上記のリスクが顕在化した場合、代金回収及びプロジェクトの採算が悪化し、当社グループの事業、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に影響を与える可能性があります。また、当社グループは、パートナー企業と責任を分担するジョイントベンチャー又はコンソーシアムを組成し、プロジェクトを受注することがあります。この場合、パートナー企業のプロジェクト遂行能力の不足、分担業務の不履行やパートナー企業の財政状態の悪化等が生じた場合、当社がパートナー企業の債務を負担することとなり、大幅な追加費用の負担が発生し、当社グループの事業、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に影響を与える可能性があります。
これらのリスクに対して、当社グループでは、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1) コーポレート・ガバナンスの概要 ⑦ リスク管理体制の整備の状況<プロジェクトリスク管理>」に記載のとおり、リスク管理体制を整備し、各プロジェクトの案件選別段階、見積・応札段階及び遂行段階においてリスク低減に努めております。
② カントリーリスク
仕向地や現地工事を行う国や地域で不安定な政情、戦争、革命、内乱、テロ、経済政策・情勢の急変、経済制裁等のいわゆるカントリーリスクが顕在化した場合、総合エンジニアリング事業においてはプロジェクトの計画変更、中止、中断若しくは延期又は工事従事者の動員及びプラント建設に要する資機材調達の遅れ等によりプロジェクトの採算が悪化する他、機能材製造事業においては販売取引の減少及び売上債権を回収できないこと等により、当社グループの事業、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に影響を与える可能性があります。
これらのリスクに対して、当社グループでは、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1) コーポレート・ガバナンスの概要 ⑦ リスク管理体制の整備の状況」に記載のとおり、リスク管理体制を整備し、カントリーリスクの低減に努めております。
また、日揮コーポレートソリューションズ株式会社におけるコーポレート部門によるサポートのもと、カントリーリスクに応じて、貿易保険の利用及び取引上の適切な不可抗力条件の設定等の対策を実施しております。さらに、テロ、紛争等の地政学リスク・治安リスクに対する海外駐在員の安全対策については、当社危機管理統括部が中心となり、平時の情報収集・分析の強化、各種予防策の拡充等に取り組んでおります。特に地政学リスク・治安リスクが高いプロジェクトに対しては、見積・応札段階から当社危機管理統括部がセキュリティ対策の策定等を支援するほか、有事においては「日揮グループ危機管理基本規程」に基づく緊急対策本部による対応等を行っております。当連結会計年度においては、横浜本社に設置される緊急対策本部を想定した不測事態対処要領の訓練も行い、危機管理機能の更なる強化に努めております。
③ 自然災害・疫病等に関するリスク
当社グループが事業活動を展開する国や地域において、地震、豪雨、暴風雨等の想定を超える自然災害や感染症の世界的流行(パンデミック)に見舞われた場合、総合エンジニアリング事業においては、プロジェクトの計画変更、中止、中断、延期又はやり直し等によりプロジェクトの採算が悪化するほか、機能材製造事業においては事業所・工場の操業停止や生産能力低下等が発生し、当社グループの事業、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に影響を与える可能性があります。
これらのリスクに対して、当社グループでは、特にグループ各社の建設現場、事務所・工場等の拠点ごとに自然災害発生時の対応手順を規定化し、安否確認システムの導入及び防災訓練等を実施するほか、リスクに関する情報の収集及び取引上の適切な不可抗力条件の設定等の対策を実施し、リスク低減に努めております。
④ 為替変動リスク
当社グループは、海外売上高のほとんどが外貨建て契約となっているため、為替レートが急激に変動した場合、当社グループの受注、売上及び損益に影響を与える可能性があります。
このリスクに対して、複数通貨建てによるプロジェクトの受注契約をはじめ、各事業会社において、日揮コーポレートソリューションズ株式会社におけるコーポレート部門によるサポートのもと、海外調達、外貨建ての発注及び為替予約等の対策を状況に応じて実施し、リスクの低減に努めております。
⑤ 工事従事者の不足、賃金高騰リスク
総合エンジニアリング事業においては、プラント建設国における他の建設工事の急激な増加、海外労働者規制等による工事従事者の不足が発生した場合、工事従事者の賃金の高騰、建設工事の遅延及び建設工事費用の増加によりプロジェクトの採算が悪化し、当社グループの事業、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に影響を与える可能性があります。
これらのリスクに対して、主要プラントマーケットにおける建設労働力動向をモニタリング・予測するとともに、モジュール工法を採用した現地工事の最小化や、現地建設工事に豊富な実績を有する企業との協業のほか、人件費高騰に対する適切な契約条件の設定等の対策を実施し、リスクの低減に努めております。
⑥ 資機材・原燃材料費等の高騰リスク
当社グループでは、プラント建設に要する資機材費等の見積り後、発注までにタイムラグがあるため、この間に経済制裁措置や紛争による素材やエネルギー等の需要圧迫や国際輸送の混乱、世界経済のインフレーションを含む社会情勢の急激な変化による部材供給不足等に起因して、当社グループの予測を超えて資機材・原燃材料費及び輸送コストが高騰する可能性があります。
この場合、総合エンジニアリング事業におけるプロジェクトの採算が悪化するほか、機能材製造事業においては利益率が低下する可能性があるうえ、資機材・原燃材料の調達及び供給スケジュールが遅延するおそれがあり、このような当社グループの予測を超えた資機材・原燃材料費及び輸送コストの高騰による影響が続いた場合、当社グループの事業、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に影響を与える可能性があります。
これらのリスクに対して、当社グループは、経営環境の変化や価格動向のモニタリング・予測、予測精度向上に向けた取組み、早期発注、調達先の多様化、製品価格への転嫁、先物取引の活用、並びに資機材・原燃材料費及び輸送コストの高騰に対する適切な契約条件の設定等の対策を実施し、リスクの低減に努めております。
⑦ 投資に伴うリスク
当社グループは、既往のインフラ事業及びヘルスケア事業への投資に加え、中期経営計画「BSP2025」に基づく施策としてデジタル、M&A、生産設備、事業開発、商業実証、研究開発等の形態で成長戦略投資の取組みを行っております。これらの投資を実行する中で、投資先やパートナー企業の業績や財政状態を含む事業・投資環境に想定を超える事態が生じた場合、期待通りの収益が上げられないリスク、投資の一部若しくは全部が損失となる、又は追加資金拠出が必要となるリスクがあります。また、パートナー企業との経営方針の相違、投資の流動性の低さ等により、当社グループが希望する時期や方法で撤退できないリスクがあります。これらのリスクが顕在化した場合、当社グループの事業、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に影響を与える可能性があります。
これらのリスクに対して、新規投資の実行に当たっては、審査要領を設け投資の意義・目的を明確にしたうえで、取締役会やグループ投融資委員会による定量・定性評価に基づく審議を経るとともに、定期的な既存投資のモニタリングを強化し、リスクの低減に努めております。
⑧ 法令及び規制に関するリスク
当社グループは、事業活動において税法、建設業法等の事業関連法規、国内外の環境に関する各種法令、安全保障目的を含む輸出入貿易規制、汚職等の腐敗行為や競争制限防止のための諸法令、人権保護に関する法令及び原則、事業及び投資に対する許認可等の制約を受けております。当社グループによる各種法令等違反が生じた場合や、関係する各種法令等の大幅な変更又は予期しない解釈の適用が行われた場合には、当社グループの事業活動に対する制約の発生、法令遵守及び監督官庁対応に関する費用の発生、当社グループに対する過料・課徴金・罰金等の制裁、当社グループの社会的評価の毀損等により、当社グループの事業、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に影響を与える可能性があります。
これらのリスクに対しては、当社グループの法務部門及び輸出管理部門等において当社グループの事業に影響を与える可能性のある国内外の法令及び規制等の動向を注視するとともに、これらを遵守するため、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1) コーポレート・ガバナンスの概要 ⑤ コンプライアンス」に記載のとおり、グループ会社間の垣根なくコンプライアンスの情報共有を行う場としてグループ横断型のコンプライアンス・コミッティーを設けております。また、主要なグループ会社にコンプライアンス責任者を配置し、指揮下のコンプライアンス部門担当者とともに、各社の実情に合った施策を立案・実施するグループ・コンプライアンス体制を構築しております。
当社グループでは、当社ガバナンス統括オフィスコンプライアンスユニットが、当社グループ全体を対象としたコンプライアンス推進のための総合的な施策の策定や調整等の機能を担っております。コンプライアンス向上のための取組みとして、階層別及び目的別(腐敗やハラスメント防止を含む)の各種コンプライアンス研修並びに一般的に不正が発生しやすい部門及び役職での人材ローテーションを実施しております。また、コンプライアンスに関する社内相談・通報窓口として、内部窓口のほかに専門の第三者機関が受付を担当する相談・通報窓口(グローバル通報を含む)を整備し、取引先からの相談・通報についてはホームページ経由で受付ける体制を運用する等、相談・通報先の選択肢を多く設けることでコンプライアンス上のリスクの未然防止や早期発見に資する取組みも実施しております。特に、贈賄防止においては、当社グループ贈賄防止関連諸規定の整備及びこれらに基づく贈賄防止プログラムを展開し、当社グループと取引を行う顧客、パートナー、サブコントラクター及びベンダー等に対するコンプライアンス上の事前審査や契約書への贈賄防止文言の反映等の取組みを行っております。
加えて、近年、地政学的緊張の高まりや各国における経済安全保障政策の強化に伴い、輸出入貿易規制に関する法令は一層複雑化・厳格化しております。特に、米国・EU・中国等の主要国における制裁措置や輸出管理規制の動向は、当社グループの事業、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に影響を与える可能性があります。これらのリスクに対応するため、当社は、輸出関連法規遵守委員会のもと、各国の最新法令の把握と社内規程の見直しを継続的に実施し、リスクの低減に努めております。
⑨ 情報セキュリティに関するリスク
当社グループは、事業活動において取引先及び個人等から入手した重要な営業情報、技術情報及び個人情報等の機密情報を保有しております。これらの情報は、停電、災害、情報システムの障害、情報端末の紛失・盗難、サイバー攻撃、マルウェアの感染等により、漏洩や消失のリスクがあります。これらの事象が発生した場合、多額の費用負担の発生や顧客の信頼の喪失等により、当社グループの事業、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に影響を与える可能性があります。
これらのリスクに対して、当社戦略企画オフィスデジタル戦略・IT統括ユニットを中心とした当社グループの情報セキュリティに関するガバナンス及びリスク管理体制のもと、「日揮グループ情報セキュリティ方針」及び関連する必要な遵守事項等の社内規程を策定し、運用及びモニタリングするとともに継続的な見直し、改善、向上を図っております。また、機密度に応じた情報管理及び重要な情報資産の保護に努めております。
主要グループ会社それぞれにおいても、各社のトップマネジメントのリードにより、情報セキュリティの推進・維持を行う体制を構築しており、法令・規則等に準拠した情報セキュリティ関連規程の策定、各社の情報セキュリティ統括責任者及びモニタリング責任者を通じたグループ情報セキュリティマネジメントシステムの確立、導入、計画、運用、モニタリング、継続的改善に取り組んでおります。
具体的な取組みとしては、多層的な最新のセキュリティ対策の実施に努め、定期的な情報セキュリティモニタリングと脆弱性評価、緊急時対応計画の策定、並びに教育研修及び訓練等を通じて主要グループ会社すべての従業員の意識向上を図り、リスクの低減に努めております。また、個人情報保護に関しては、漏洩等による重大な悪影響が発生し得ることを踏まえ、日揮コーポレートソリューションズ株式会社法務部及び主要グループ会社の管理部門が主導してプライバシーポリシー及び個人情報保護規程等の整備及び運用を行っているほか、各社の全従業員向け研修を実施するなど、個人情報保護の徹底に努めております。
⑩ 品質に関するリスク
当社グループは、調達品等の品質不良、不具合の発生防止を含め、納入品の品質確保に努めておりますが、納入品の性能、品質に起因して顧客、取引先又は製品使用者から国内外で請求を受け、また、訴訟等を提起された場合、大規模な納入品回収や損害賠償責任の発生等に加え、当社グループの社会的評価に影響を及ぼすことが考えられ、当社グループの事業、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に影響を与える可能性があります。
これらのリスクに対して、当社グループは、ISO9001に準拠した品質マネジメントシステムを構築し、長年に亘って蓄積してきた知識や技術、教訓を結集し、システムと人財をグローバルに活用して、品質確保に係る活動を推進しております。各主要グループ会社においては、社長の下に品質保証委員会等の会議体が設置されており、品質マネジメント活動が社長のレビューにて総括される品質マネジメント体制が構築されております。また、これら各社では、上記品質マネジメントシステムに基づき、品質方針を策定しております。組織の各階層が方針に基づく品質目標を設定して組織の課題を明確化し、品質目標とアクションプランのPDCAサイクルを回すことにより、継続的なパフォーマンス改善を図っております。その上で、上記の品質保証委員会等の会議体が定期的に開催され、高品質のプロダクトやサービスを提供するため、品質上の問題の根本原因を究明、有効な再発防止策を含めた改善活動を推進し、その成果を評価して継続的な改善を実践しております。こうした品質マネジメントの活動は、各社において少なくとも年に一度、社長によるマネジメントレビューを実施して総括し、品質保証に関わる枠組みの整備と改善を継続的に実施しております。これらのリスク対策に加えて、当社グループでは製造物責任賠償保険に加入する等の対策も講じてリスクの低減に努めております。
⑪ マクロ経済環境、社会・国際情勢の変化に関するリスク
当社グループは、グローバルに事業を展開しており、当社の業績も海外諸国の経済動向、社会・国際情勢の変化、地政学的情勢、経済制裁、保護貿易の状況等の影響を受けます。特に原油や天然ガス等のエネルギー資源の価格は世界の景気動向に加えて、資源輸出国の生産動向、各国のエネルギー政策、さらにはロシア・ウクライナ情勢、イスラエル・パレスチナ情勢及び関連する経済・金融制裁の動向によって今後も上下する状況が続くとみられます。エネルギー資源の価格の変動が世界的な景気後退につながる場合には、当社グループの顧客の設備投資の低下を招き、また開発案件数の減少による競合企業との競争の激化等が生じる可能性があります。
特に、総合エンジニアリング事業においては、世界的な景気後退により、顧客、パートナー企業、資機材発注先、現地建設工事会社等の取引先の財政状態の悪化等が生じ、プロジェクトの計画変更、中止、中断、延期又は現地建設工事若しくは資機材調達の遅れによるプロジェクト遂行への悪影響、及び取引先からの代金回収に影響を及ぼす可能性があります。また、機能材製造事業においては、米国による対中輸出規制強化による先端半導体産業の事業環境の悪化等及び機能材出荷先の所在国における規制強化に伴う製品排除により、売上や利益率に悪影響が生じる可能性があります。これらのリスクが顕在化した場合、当社グループの事業、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に影響を与える可能性があります。
これらのリスクに対して、当社グループでは、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1) コーポレート・ガバナンスの概要 ⑦ リスク管理体制の整備の状況」に記載のとおりリスク管理体制を整備しており、グループリスク管理委員会及び経済安全保障・地政学リスク検討タスクフォース等によるグループ横断でのマクロ経済環境、社会・国際情勢の変化に関するリスクに係る情報収集、分析及び共有を行っております。また、各事業会社において、日揮コーポレートソリューションズ株式会社におけるコーポレート部門によるサポートのもと、総合エンジニアリング事業における各EPCプロジェクト及び機能材製造事業に影響するこれらのリスクの把握、分析及び低減を一次的に行うことで、早期にこれらのリスクを把握し、調達及び機能材に係る取引先の分散、並びにEPC及び製品価格への転嫁等を通じて、効果的に対処できるよう努めております。
⑫ 気候変動に関するリスク
当社グループの建設現場及び製造現場などでは、地球温暖化に起因するとされる豪雨や防風雨及び台風、又は高温や乾燥及び少雨その他の極端な気象現象の増加により、洪水や山火事等の自然災害リスクが高まる可能性があります。また、パリ協定の長期目標を踏まえた脱炭素化社会の実現に向けた動きが国際的に進む中、今後各国における気候変動政策の強化、環境関連法規等の変更・新規導入等が実施されるほか、企業を中心とした民間部門の自主的な取組みにより、化石燃料及び化石燃料由来の製品需要が減少した場合、顧客の化石燃料関連への投資抑制、顧客の事業内容自体の変更等、当社グループの顧客の事業活動に影響を及ぼす可能性があります。これにより、化石燃料に関連した案件数の減少に伴う受注機会の減少や限られた案件の受注を巡る競合企業との競争の激化等による価格低下が起こる可能性があります。建設現場や製造現場等で自然災害が発生した場合及び当社グループが気候変動政策の強化等による事業環境の変化に対応できない場合には、当社グループの事業、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に影響を与える可能性があります。
これらのリスクのうち、自然災害リスクについては、「③自然災害・疾病等に関するリスク」に記載のとおりリスクの低減に努めております。また、事業環境が変化するリスクに対しては、2021年5月に公表した長期経営ビジョン「2040年ビジョン」に基づき、「第2 事業の状況 6 研究開発活動」に記載の活動を含め、中長期的な取組みとして、エネルギートランジション、資源循環、高機能材等の幅広いビジネス領域へのトランスフォーメーション(変革)等に取り組んでおります。
⑬ 知的財産に関するリスク
当社グループでは、国内外を問わず広く事業を展開しており、複数国に設計、製造又は建設現場等の拠点があります。各国における知的財産制度の理解に努め、情報収集を行っております。しかしながら、国によっては十分な情報が得られず、第三者の権利状況を把握することが困難な場合があり、第三者の知的財産権を意図せずに侵害しているとされるリスクがあります。
これらのリスクに対応するため、当社ガバナンス統括オフィス知的資産ユニット及び日揮コーポレートソリューションズ株式会社知的財産部を中心とした当社グループの知的財産に関するガバナンス及びリスク管理体制のもと、第三者の知的財産権のモニタリング及び知的財産権に係るリスクの特定・分析・対策に努めております。また、第三者の知的財産権を尊重して適切な対応を図り、特許紛争などを未然に防止することに引き続き注力いたします。さらに、知的財産に関するリスクの低減に向けて、当社グループ及び第三者の知的財産権の重要性を認識するため、知的財産に関する社内教育の実施及び情報発信等の啓発活動を行い、知的財産保護の徹底に係る指導監督を行っております。
当連結会計年度において、個人消費の増加やインフレの鎮静化、緩和的な金融環境などを背景に世界経済は引き続き底堅さを維持しました。しかし、中東情勢などの地政学的リスクや米国による関税政策の不確実性などによる物価上昇のリスクの高まりによって、世界経済の先行きに不透明感が表れ始めました。
このような状況のなか、当社グループの総合エンジニアリング事業の海外マーケットにおいて、エネルギーソリューションズ関連分野(石油精製、石油化学・化学、ガス処理、液化天然ガス(LNG)等)では、エネルギー安全保障と低・脱炭素化の両立の観点から、環境負荷が比較的少ない天然ガス(LNGを含む)の需要は引き続き高く、産油・産ガス諸国において新設のみならず既設プラントの増設・改造などの設備投資計画が進展しました。サステナブルソリューションズ分野(水素・燃料アンモニア、小型モジュール原子炉(SMR)、スペシャリティケミカル、ケミカルリサイクル、グリーンケミカル等)では、低・脱炭素化に向けた各国の政策や支援が後押しし、水素・燃料アンモニア、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage :CO2の回収・貯留)などの領域において、設備投資計画が実現に向けて前進するなどしました。ファシリティソリューションズ分野(半導体、蓄電池、データセンター、発電、受入基地、医薬、医療、水処理、鉄道等)では、デジタル社会の進展に伴って半導体材料や蓄電池部材、データセンターなどのデジタル産業を支えるインフラ施設や関連施設の設備投資計画が、アジアなどを中心に着実に進展しました。
また、総合エンジニアリング事業の国内マーケットにおいて、ライフサイエンス分野やヘルスケア分野での設備投資計画が進んだほか、グリーンイノベーション基金などの日本政府の政策が追い風となり、SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)や原子力といった低・脱炭素分野や資源循環分野における設備投資計画が進展しました。
このように国内外で様々な設備投資計画が進展する一方で、金利上昇や建設費用等の増加により、顧客のCAPEXは引き続き増加傾向で推移したことから、一部の顧客において設備投資の最終決定時期を2025年度以降に先送りする動きがありました。
機能材製造事業において、触媒・ファインケミカル分野では、触媒製品は海外顧客向け需要の期ずれや市場変化等により製品需要が低下したものの、ファインケミカル製品は半導体関連材料の市場回復により、半導体やエレクトロニクス向け製品の需要が堅調に推移しました。また、化粧品材についても需要が増加しました。ファインセラミックス分野では、半導体関連市場や電子材料市場が徐々に回復し、半導体製造装置やデータセンター向けセラミックス製品などの需要が増加したほか、電気自動車向けのパワー半導体関連製品の需要は引き続き拡大しました。
また、総合エンジニアリング事業において、受注を予定していた案件の顧客投資決定が遅れたことによって不稼働損が発生したことに加えて、第3四半期連結会計期間に台湾、サウジアラビア及びカナダで遂行中の4つのプロジェクトにおいて工事採算が悪化しました。その結果、当社グループの当連結会計年度の業績等については、以下のとおりとなりました。
経営成績
受注高
当連結会計年度末の受注残高は、為替変動による修正及び契約金額の修正・変更等を加え、1兆4,128億円となりました。
なお、当連結会計年度の連結財政状態の概況は以下のとおりであります。
(資産)
当連結会計年度末における流動資産は5,612億67百万円となり、前連結会計年度末に比べ422億95百万円の減少となりました。これは主に受取手形・営業債権及び契約資産等が465億5百万円減少したことによるものです。固定資産は2,229億7百万円となり、前連結会計年度末に比べ341億73百万円の増加となりました。これは主に有形固定資産が38億85百万円、投資その他の資産が293億82百万円増加したことによるものです。
この結果、総資産は7,841億75百万円となり、前連結会計年度末に比べ81億21百万円の減少となりました。
(負債)
当連結会計年度末における流動負債は3,469億28百万円となり、前連結会計年度末に比べ38億8百万円の減少となりました。これは主に契約負債が92億41百万円増加したものの、支払手形・工事未払金等が208億72百万円減少したことなどによるものです。固定負債は449億85百万円となり、前連結会計年度末に比べ86億88百万円の減少となりました。これは主に前連結会計年度末に固定負債に含まれていた200億円の社債のうち、100億円が1年内償還予定の社債に振り替えられたことなどによるものです。
この結果、負債合計は3,919億14百万円となり、前連結会計年度末に比べ124億96百万円の減少となりました。
(純資産)
当連結会計年度末における純資産合計は3,922億60百万円となり、前連結会計年度末に比べ43億74百万円の増加となりました。これは主に配当などにより利益剰余金が100億22百万円減少した一方、その他有価証券評価差額金が124億75百万円、退職給付に係る調整累計額が27億71百万円増加したことなどによるものです。
この結果、自己資本比率は49.8%(前連結会計年度末は48.7%)となりました。
当連結会計年度の連結ベースの現金及び現金同等物は、前連結会計年度末と比較し82億54百万円増加し、3,327億61百万円となりました。また、当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりです。
営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益82億63百万円に加え、売上債権及び契約資産の減少などにより、結果として467億61百万円の増加(前連結会計年度は110億90百万円の増加)となりました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の取得による支出などにより211億72百万円の減少(前連結会計年度は202億1百万円の減少)となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、配当金の支払などにより150億49百万円の減少(前連結会計年度は88億94百万円の減少)となりました。
(注)金額は販売価格によっております。
(注)売上高総額に対する割合が100分の10以上の相手先別の売上高及びその割合は、以下のとおりであります。
(注)前連結会計年度のサウジアラムコ社については、当該割合が100分の10未満であるため記載を省略しております。
(単位:百万円)
(注)1.総合エンジニアリング事業の「当連結会計年度末受注残高」は、当連結会計年度における為替換算による修正及び契約金額の修正・変更等による調整額33,030百万円を含んでおります。
2.機能材製造事業の「当連結会計年度末受注残高」は、当連結会計年度における為替換算による修正及び契約金額の修正・変更等による調整額△89百万円を含んでおります。
3.その他の事業の「当連結会計年度末受注残高」は、当連結会計年度における為替換算による修正及び契約金額の修正・変更等による調整額63百万円を含んでおります。
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
「(1)経営成績等の状況の概要 ① 当連結会計年度の概況」に記載のとおり、当社グループの当連結会計年度の経営成績は、売上高8,580億82百万円(前期比3.1%増)、営業損失114億74百万円(前期は営業損失189億95百万円)、経常利益113億20百万円(前期は経常利益3億58百万円)、親会社株主に帰属する当期純損失3億98百万円(前期は親会社株主に帰属する当期純損失78億30百万円)となりました。
売上高は、総合エンジニアリング事業での海外大型プロジェクトの進捗によって前連結会計年度と比較して増収となりましたが、一部のプロジェクトで予算の見直しに伴う採算悪化があったことにより営業損失となりました。前連結会計年度と比較して総合エンジニアリング事業での損失計上額が小さかったことに加え、機能材製造事業が増収増益となったことにより、当連結会計年度の営業損失は減少しました。営業損失の減少に加え受取配当金の増加、持分法による投資損益が改善したことなどにより、経常利益及び税金等調整前当期純利益は前連結会計年度と比較して増益となりました。しかしながら、外国税額の影響による二重課税により法人税等が税金等調整前当期純利益をわずかに上回るなどしたため前連結会計年度に続き親会社株主に帰属する当期純損失を計上する結果となりました。
当連結会計年度のセグメント別の経営成績等の状況に関する分析・検討内容は以下のとおりです。
総合エンジニアリング事業
総合エンジニアリング事業においては、中東での製油所近代化プロジェクトや北米での大型LNGプロジェクト等の海外大型プロジェクトの進捗により、売上高は前連結会計年度と比較して増収となりましたが、前年度に引き続き一部のプロジェクトで追加費用やリスク対応費用を見込んだことなどにより採算が悪化しセグメント損失となりました。
機能材製造事業
機能材製造事業では、ファインケミカル分野において、半導体やエレクトロニクス市場における余剰在庫が解消されつつあり、需要が回復基調となったことから増収となりました。ファインセラミックス分野においても、半導体関連市場の需要が回復基調となったことで、半導体製造部品、生成AI用データセンター向けの電子材料の受注増加に加え、引き続き需要が旺盛な電気自動車やハイブリッド車向け高熱伝導窒化ケイ素基板の中国向け出荷が拡大したことにより増収となりました。また、内製化の推進、原材料費の高騰に対する一部の価格転嫁が進展したことなども寄与し、セグメント利益は前連結会計年度に比較して増益となりました。
当社グループの当連結会計年度のキャッシュ・フローは、外貨預金等の受取利息に加え、総合エンジニアリング事業における国内外プロジェクトの債権回収が進んだこと等により、営業活動によるキャッシュ・フローが467億61百万円の増加となりました。投資活動によるキャッシュ・フローは、主に機能材製造事業の工場建設等の有形固定資産の取得、SAF製造事業への投資や株式会社高田工業所との資本提携に伴う同社株式取得、総合エンジニアリング事業におけるデジタル関連投資等により211億72百万円の減少となりました。財務活動によるキャッシュ・フローは、配当金の支払いのほか、海外子会社の短期借入金の返済等により150億49百万円の減少となりました。この結果、現金及び現金同等物の期末残高は前連結会計年度末から82億54百万円増加し3,327億61百万円となりました。
当社グループの資本の財源及び資金の流動性については、以下のとおりです。
(資金需要)
総合エンジニアリング事業は、キャッシュ・フローや採算の変動が大きく、プロジェクトの安定的な遂行のために十分な運転資金を必要としております。機能材製造事業では、主として製造設備の拡張・更新のための設備投資を効率的かつ継続的に行っております。また、中期経営計画「BSP2025」において計画している戦略投資を進めてまいります。
(資金調達)
当社グループは、資金需要に対して、営業活動によるキャッシュ・フローから得た資金及び手元資金に加え、状況に応じて有利子負債などによる調達資金を充当しております。有利子負債は、金融市場の環境等を鑑み、社債発行や金融機関からの借入など最適な手段によることとしております。前連結会計年度には、中期経営計画「BSP2025」における重点戦略である「高機能材製造事業の拡大」及び「将来の成長エンジンの確立」に係る新規の投資及びプロジェクトを推進するための資金調達手段として100億円のグリーンボンドを発行いたしました。当該グリーンボンドについては、当連結会計年度にカーボンリサイクル/ケミカルリサイクル事業及びエネルギートランジション事業への充当を完了しております。なお、当社は株式会社日本格付研究所から信用格付を取得しており、報告書提出時点において長期発行体格付がA+、コマーシャルペーパー格付がJ-1となっております。
(財務戦略)
当社グループは、顧客からの信頼獲得及び長期にわたる大型プロジェクトの円滑な遂行の観点から、短期的な市場動向に左右されない強固な財務基盤を維持するとともに、戦略投資に対する機動的な資金調達余力を確保するため、自己資本比率については50%以上を安定的に維持することを目標としております。また、市場混乱時にも事業を継続するために十分な流動性を常時確保する方針としており、手元資金に加え取引金融機関とのコミットメントライン契約未使用枠300億円を有しております。手元資金については、効率的な運用・配分を実現するため、グループ内のキャッシュ・マネジメントの最適化に取組んでおります。当社は、戦略投資に機動的に対応しつつ強固な財務基盤を維持するとともに株主還元を着実に実施し、企業価値・株主価値の向上に努めてまいります。
(株主還元)
当社は、株主の皆様への利益還元を経営の重要課題として位置付けております。具体的な株主還元方針の内容については、「第4 提出会社の状況 3 配当政策」に記載のとおりです。
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。この連結財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いておりますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。
連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しております。
当社は、日揮グローバル株式会社との間で2019年10月1日を効力発生日とする吸収分割契約において承継の対象とならなかった海外における各種プラント・施設のEPC(Engineering, Procurement and Construction:設計・調達・建設)事業の一部の経営を、日揮グローバル株式会社に対して委託し、日揮グローバル株式会社はこれを受託することについての経営委任に関する覚書を締結しております。
当連結会計年度は、長期経営ビジョン「2040年ビジョン」の1stフェーズ、「挑戦の5年間」と位置付ける中期経営計画「BSP2025」の4年目として、3つの重点戦略①「EPC事業のさらなる深化」、②「高機能材製造事業の拡大」、及び③「将来の成長エンジンの確立」に取り組んでまいりました。
①「EPC事業のさらなる深化」では、設計・プロジェクトマネジメントのデジタル化、高度メンテナンス、現場建設の効率化・省人化などに関する技術開発及び協業に注力しております。また、②「高機能材製造事業の拡大」を目指し、触媒、ファインケミカル、ファインセラミックス製品などの開発投資及び設備投資を確実に進めております。さらに、③「将来の成長エンジンの確立」として、バイオものづくり分野では、2件の国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、「NEDO」という。)によるプロジェクトの採択を受け、微生物を活用した素材・食料・エネルギーなどの幅広い製品を製造するプロセスを開発し、ライセンス事業の確立に取り組んでおります。その一環として、神戸市ポートアイランドにCO2を原料とした世界初のガス発酵プロセス研究所の建設を開始しました。加えて、国内初となる国産SAF大規模製造プラントを竣工させ、国産SAF実用化に係る継続的な生産及び供給体制の構築を図ったほか、SAFが持続可能な事業となるための機運醸成活動を行い、SAF製造のための原料となる廃食用油回収促進のパートナリングを加速するなど、国内初の本格的な大規模SAF製造の共同事業が順調に進展しております。
このように、当社グループでは、様々な分野・領域において知財・無形資産の創出と活用を推進しております。重要テーマとなる事業・技術開発の戦略立案においては、IPランドスケープによる分析結果を活用し、市場ポジショニングの明確化やパートナー選定に役立てております。これら知財インテリジェンス機能を強化し、協業やアライアンスなどの広い視点から事業拡大に取り組んでまいります。
なお、当連結会計年度の研究開発費の総額
設計・調達・建設(EPC)ビジネス分野
現地セキュリティが厳しい地域や自然環境が過酷な地域、労働者の確保が困難な地域等、建設工事の遂行が困難な地域においてEPCプロジェクトが増加する傾向にある中で、当社グループは現地での工事量を減らすために、大型モジュール工法の採用や、EPCプロジェクト遂行の効率性向上のためにAWP(Advanced Work Packaging)による工事管理の採用などを実践しております。また、当社グループのIT戦略「ITグランドプラン2030」による新しい設計手法(AI設計やデジタルツイン)や現場省人化につながるような新しい工法(ロボティクスによる自動化、3Dプリンター導入、中・小型モジュール工法、リモート化など)、要素技術の導入(新素材、設計へのAIやBIM導入など)、EPC全領域でのAWP採用拡大などを図り実装することによって、熟練労働者不足や不安定な現場生産性、スケジュール遅延などのEPCプロジェクトリスクを低減し、現場工事の安全性を高めることを目指しております。同時にこうした取組みが当社グループの競争力強化にもつながると考え、EPCを担う事業会社を中心に全社的な活動を展開しております。
IT/DX関連
1. EPC効率向上を目指して行っているもの
(1) プロットプラン自動化Auto Plot PATHFINDER®
プラント全体の配置図であるプロットプランの設計は、プラントの運転・メンテナンスのし易さ、安全性の確保、環境保全はもちろんのこと、建設コストを決定付ける最も重要なものとして位置付けられております。したがって、複雑な制約条件のもとで様々な要求を最適化するという大変難しい技術が必要であり、従来、経験豊富なシニア技術者の感覚に頼る部分が大きい領域でした。
もっとも、当社グループはIT戦略「ITグランドプラン2030」において、AI設計イノベーションを掲げ、プロットプラン設計を自動化するAuto Plot PATHFINDER®を開発しました。Auto Plot PATHFINDER®による設計は、形式知化・コード化されたシニア技術とAIによるユニット分割をもとにしたユニット単位・機器単位の自動配置、位置確定などのエンジニアによる指示取込み、最適配置のステップで行われます。Auto Plot PATHFINDER®により、多数のプロットプラン案を超短時間で作成することが可能になり、人間が思いつかないものを含む多くの提案が瞬時にできることから、新しい提案型設計 (Generative Design)への変革につながり、基本設計の段階から顧客の検討に貢献できると考えております。
前連結会計年度からはFS(フィージビリティスタディ)やFEED(基本設計)業務で、加えて当連結会計年度には見積業務でもプロットプランの提案に適用しました。今後は、さらに適用プロジェクトを増やし、顧客により良い価値を提供してまいります。
(2) Data Centric EPC遂行、AWP
Data Centric EPC遂行は、従来の人の手を介した図書ベースの情報交換に代え、ICT技術を最大活用したデータ中心の効率の良い情報交換とタイムリーな意思決定を図ることを目指した新たなEPCプロジェクト遂行手法であり、EPCプロジェクト遂行におけるリスクを低減し品質・コスト・納期それぞれの要素を向上させることが期待されております。
当社グループにおけるData Centric EPC開発においては、設計・調達・建設の作業対象となるタグを一元管理し、そのタグのデータをデータソースとなるシステムから集約し、またそのデータを活用するシステムへ連携する仕組みを構築しております。AWPは、Data Centric EPC遂行の仕組みを活用した一例であり、対象作業の開始を制限する可能性がある先行作業の特定とモニタリングが可能となります。現在進行中の複数プロジェクトにおいて、建設工事に実装したほか、設計・調達業務との連携と効果波及を目指してAWP管理の拡大を進めております。また、当社グループでは、Data Centric EPC遂行とAWPの統合を主軸に置き、EPC全体におけるデジタルトランスフォーメーション (Digital Project Delivery) にも取り組んでおります。
(3) 3D プリンタ導入
3Dプリンタは、省力化施工による生産性向上やリードタイム短縮による工期短縮など、建設産業においても大きな革新をもたらすポテンシャルを持つ技術として注目されております。また、海外顧客などがプラントのメンテナンス分野への適用を検討する動きも出てまいりました。
当社グループのIT戦略「ITグランドプラン2030」においても「3Dプリンタ導入や建設自動化による建設工法最適化」を掲げ、取組みを進めております。具体的には、セメント系材料を扱うデンマークのCOBOD International A/S社の3Dプリンタを導入し、国内EPCプロジェクトでの基礎型枠としての適用などを経て、海外EPCプロジェクトにおいても適用を進めております。また、金属系材料を扱うオランダのMX3Dとの共同研究を通じて、炭素鋼を用いた形状最適化により、配管部材の重量削減や強度向上への本技術に寄与することを確認しました。今後も、当社グループの競争力強化に向けて検証活動及びEPCプロジェクトへの導入を継続してまいります。
2. 顧客によるオペレーション&メンテナンス(O&M)業務の面からの要求に応えるもの
(1) アセットインフォメーションマネジメント(IM)
アセットインフォメーションは、顧客が安定したプラント操業を維持するために重要な情報です。近年は顧客要求の高まりもあり、複数のEPCプロジェクトでアセットインフォメーションマネジメントを実現するシステムの実装が進み、当社グループにおける技術の蓄積が進んでおります。
EPCの各フェーズの中で、プラントを構成する膨大な量の各種アセットインフォメーションが生成されます。これらを一貫性をもって管理・統合するため、当社グループではデジタルツイン技術への取組みを進めており、その社内標準化を進めることでインフォメーションの精度を飛躍的に向上させるとともに、データハンドオーバーの国際業界標準規格である「CFIHOS」に準拠したインフォメーションマネジメント遂行を実現しております。これにより遂行したプラントの引渡し後においては、顧客はスムーズに運転・保全に移行できます。加えて、プラント操業を通じてアセットやプラントのオペレーション&メンテナンス(O&M)コストの低減に係る情報を蓄積し、かかる情報を将来の設備改良や業務改善に繋げることで、さらなる顧客の事業価値向上に貢献することができます。
(2) スマート保全ビジネス
プラントの高経年化や人材確保が難しくなる中で、正常運転のために一層重要性が増している保全業務に対して、当社グループは、プラントの設備診断業務を強力に支援する設備管理システム(A-MIS®)の販売・運用を行ってまいりました。また、このシステムも包含するIoTやビッグデータを活用した統合型スマート保全サービス(INTEGNANCE®)の事業化を進めております。
INTEGNANCE®では、検査結果や運転情報などをもとに検査ポイントの推奨や故障リスクのアラートなどを行うAI予兆保全と定期修理計画の立案を保全戦略支援サービスとして提供するほか、モバイル端末タブレットやスマートフォンを活用した作業状況の電子化とタイムリーな情報共有による工事進捗管理を行っております。
また、3Dビューア「INTEGNANCE® VR」を開発し、デジタルツインの構築・運用を行うために設立した「ブラウンリバース株式会社」にて、既存プラント全体を撮影した360°パノラマ写真上にアノテーション(関連データをタグ登録)することで、各機器や部材の関係を可視化しています。また、この360°パノラマ写真空間に対しマウスで自由な視点移動を実現、プラント内のあらゆる情報に視覚的かつ迅速にアクセスすることで実務者の運用・保守業務の大幅な効率化を可能にし、多くのプラント保全の現場で活用頂いております。
さらに、当社グループは、英国の原子力業界をはじめ、高度かつ確実な安全管理が求められる分野で幅広く利用されている事故想定シナリオ管理手法「フォルトスケジュール」をベースに開発したスマート保安の最適化を支援するリスクマネジメントソフトウェア(CoreSafety®)を提供しております。
天然ガス分野
昨今、温室効果ガスの1つである二酸化炭素(CO2)の排出量削減が求められておりますが、当社グループでは、CO2の排出抑制、分離回収、有効利用・貯留、資源再生というカーボンマネジメント・サイクルの各要素で技術・知見を継続して積み上げております。
当社グループでは、効率的にCO2を分離・回収し有効に活用するための技術開発を進めております。その一つであるHiPACT®は、溶剤を用いた天然ガスからのCO2分離技術であり、従来技術よりも高圧でCO2を回収することで効率的なCO2の有効活用に資する技術です。HiPACT®は既に商業化されており、現在も商業機は稼働を続けております。また、さらなるCO2分離技術として、高濃度CO2を含む天然ガス及びCO2-EOR(原油増進回収)に伴って産出される随伴ガスから、特殊なゼオライト膜を用いて効率的にCO2を分離回収する技術を開発しており、米国テキサス州等での実証試験を継続して実施中です。これらの技術とともにカーボンマネジメント・サイクルの知見と合わせて、産油ガス国、企業向けにCO2に関する課題解決に向けたトータルソリューションを提供していく方針です。
また、当連結会計年度にJOGMECの先進的CCS事業として採択された「マレーシア・サラワク沖CCS事業」に取り組み、日本から排出されるCO2を回収、輸送し、大規模貯留適地でのCCSを実現、日本の脱炭素化に寄与することを目指していきます。本プロジェクトが実現すれば、アジア地域における国境を越えたCCS事業のモデルになるものと期待しております。
さらに、温室効果ガスの中でもメタンの排出量は、既存の計算や計測では精度高く求めることが困難とされております。欧州や米国などでは、規制によりメタン排出量の実測が求められつつありますが、実際に精度の高い計測を実施している企業は多くありません。精度の高いメタン排出量の計測がなされていないために、排出源が特定されておらず、正しいメタン削減ソリューションに繋げられていない現状があります。当社グループは、石油・天然ガス設備からのメタン排出を想定した「メタン排出計測技術評価設備」を技術研究所に建設し、国内外の計測器メーカーなどと幅広い協働を通じて計測技術を向上させることにより、一層効果的なメタン排出対策を実現してまいります。優れた温室効果ガス測定技術とエンジニアリング技術を駆使し、温室効果ガス排出の少ない設備の実現を目指しております。
加えて、既設LNGプラントの運転データ解析及び気象解析を通じて得られた知見をもとに、操業改善によるLNG増産サービスを海外顧客向けに展開しております。例えば、空冷式LNGプラントの場合、生産量減退の要因となるHot Air Recirculation(HAR)に対しコンピューター解析を活用した予測モデル「HARview®」による対策や、Dry Fogging systemによるHARの緩和等、LNGプラントの運転改善ソリューション「AIRLIZE LNG®」を提案し、増産やプラントの低炭素化に貢献しております。
オフショア分野
世界には未開発の中小規模海洋ガス田や、発生する随伴ガスを再圧入・フレアリングしている既存石油生産設備が多数存在し、それらのガス資源の効率的な開発手段が期待されております。その最有力候補は、当社グループが世界有数の建造実績を持つ洋上LNGプラント(以下、「FLNG」という。)です。FLNGは、現地ガス消費市場規模に限界のある、またセキュリティ・環境問題を抱えるような地域での陸上パイプラインガス、及び操業中の洋上石油生産設備で大量に生産される随伴ガスなどの現金化ソリューションでもあります。
また、当連結会計年度でも、海洋石油・ガス開発分野において、低炭素化・脱炭素化に代表されるSDGs達成に向けたソリューションへのニーズのさらなる高まりを受け、当社グループは、社会と顧客の課題に応えるべく、2023年から浮体式海洋石油生産・貯蔵・出荷設備上で、従来技術よりも効率的かつ低コストで高濃度CO2を分離・回収し、海底への再注入を行うゼオライト膜の適用技術開発を継続して取り組んでおります。
低炭素・脱炭素化分野
温室効果ガス排出量削減に向けた取組みとして、当社グループではCO2フリー燃料の導入促進やカーボンリサイクル及びEMS(エネルギーマネジメントシステム)の観点で研究開発を行っております。
CO2フリー燃料としてCO2フリーアンモニアが国内で着目されており、2020年代半ばの日本でのCO2フリーアンモニアの商業実装に向けた検討が進められております。当社グループは、2014~2018年度に実施した内閣府による戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)のエネルギーキャリアプロジェクトの成果を活用し、再生可能エネルギーや化石資源からのCO2フリーアンモニアの製造・供給の社会実装を目指して、様々な案件のフィージビリティスタディに参画するとともに、CO2フリーアンモニアのより効率的な製造方法やコストダウンに向けた研究開発を行っております。特に、変動する再生可能エネルギー由来のCO2フリーアンモニア製造について、従来にはないダイナミックな変動型アンモニア合成を目指したシステムを開発しております。
再生可能エネルギー由来の水素を利用したグリーンケミカルの普及に際しては、天候・時刻・季節によって変動する再生可能エネルギーを利用し、いかにして安定的・効率的にケミカルを製造するかが課題になります。その課題解決のためには、統合制御システムの開発が必須となります。
当社グループは、福島県浪江町の福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)で製造される水素利用を想定したアンモニア製造プラントの基本設計や、統合制御システムの要件定義を行ってまいりました。この統合制御システムを組み込んだ再生可能エネルギー由来のグリーンアンモニア製造技術の実証プラントを福島県浪江町に建設しており、技術実証に向けて大きく進展しました。当社グループは、かかる実証プロジェクトを通じて、再生可能エネルギー由来の水素を原料とするグリーンアンモニア製造技術の確立を引き続き目指してまいります。
また、当社グループでは、NEDOの支援を受けて、輸入したアンモニアを熱分解し、水素を製造する技術の開発を行っております。現在、アンモニアを分解して水素を製造する技術は、要素技術の多くが商業レベルに達する一方で、実際は小型の装置でしか商業利用されておらず、大規模には行われていません。特に、アンモニア分解管と、アンモニア分解ガスから窒素ガスとアンモニアを分離精製する一段ガス製造装置(PSA方式)については、さらなる要素試験による検証・開発が必要であり、かかる技術開発による進展が期待されております。今後も、国内外で水素の利用拡大が見込まれる2030年の社会実装を視野に入れ、カーボンニュートラル社会に欠かせない大規模な水素製造の技術開発を行ってまいります。
資源循環分野
1. ケミカルリサイクル
当社グループでは、中期経営計画「BSP2025」において、ケミカルリサイクルを注力分野の1つと位置づけており、ガス化ケミカルリサイクル、油化、モノマー化(廃繊維リサイクル)を含め、幅広いプロセス技術を通じてケミカルリサイクルを推進し、循環型社会の構築に貢献していくことを目指しております。
廃プラスチックのケミカルリサイクルは、リサイクルが困難な異種素材や不純物を含むプラスチックを分解し、様々な化学物質に再生することが可能であり、リサイクル率の大幅な向上をもたらす技術として期待されております。当社グループは、荏原環境プラント株式会社とUBE株式会社からEUP(Ebara Ube Process)に関する技術供与、また株式会社レゾナック・ホールディングスから量産化技術の供与と運転支援を受け、廃プラスチックのリサイクル推進に向けて、①廃プラスチックのガス化設備及びガス化設備から製造される合成ガスを用いた化学品製造設備の提案、②廃プラスチックを原料とする水素製造装置の提案、並びに③廃プラスチックリサイクルを実現するためのバリューチェーン構築を行っております。このEUPは、2003年より稼働を続けているガス化設備で、世界で唯一の長期商業運転実績を有する極めて信頼性が高いプロセスです。さらに、EUPでは、混合プラスチックや不純物を含むプラスチックの活用が可能となります。当社グループは、廃プラスチックの活用及び地産地消水素の製造により、水素社会の実現にも貢献してまいります。
また、プラスチックのケミカルリサイクル技術の1つに油化技術があり、当社グループでは、10年間の運転実績を有する国内大型商用装置をベースとして、廃プラスチックの油化ケミカルリサイクルに関する自社ライセンス(Pyro-Blue®)の開発・提供を推進しております。当社グループの油化技術は、他の油化プロセスでは事前除去する必要があるPVC(塩化ビニル)やPET(ポリエステル)を含む混入プラスチックの処理が可能です。顧客が処理したい廃プラスチックを試験的に処理しサンプル油を製造できるベンチ装置も完成し、実際にサンプルを希望している顧客向けの提供を始めております。今後、処理できるプラスチックの種類拡大、装置の大型化による経済性向上、効率化等を進め、プラスチックの資源循環社会の実現に貢献していきます。
繊維産業においては、製造工程における大量のCO2排出や衣類の大量廃棄が課題となっております。使用済繊維製品の利用は、現状、熱利用を目的とする「サーマルリカバリー」や別の製品原料とする「マテリアルリサイクル」が一般的ですが、「ケミカルリサイクル」は繊維製品を再び繊維の原料へ化学分解することにより、繊維 to 繊維のリサイクルができる画期的な方法です。PET(ポリエステル)は、繊維製品だけではなく、ボトルをはじめ、フィルムや食品トレーなど多くの製品に使用されております。当社グループが提供するケミカルリサイクル技術は、着色されたポリエステルから染料や不純物を除去できるため、添加物、付着物等の影響によりメカニカルリサイクルできないポリエステル製品の受け皿としても機能し、製品を限定せず素材としてのポリエステル全体の資源循環を目指すことが可能な技術です。当社グループは、本技術のライセンスを提供する目的において「株式会社RePEaT(リピート)」を設立し、既に中国の浙江建信佳人新材料有限公司とライセンス契約を締結いたしました。
2. 持続可能な航空燃料(SAF)
2050年のカーボンニュートラルに向けて、航空分野における脱炭素化として、「空のカーボンニュートラル」の機運が高まっております。中・大型機に対しては、機体の軽量化と効率化を進める一方、燃料の低脱炭素化が必須とされております。また、空のカーボンニュートラル達成のためには、実質的にはSAF(Sustainable Aviation Fuel)が切り札とも言われており、世界的なSAF需要の高まりに対し、日本でも国産SAFの安定的な供給及び利用拡大は急務となっております。
当社グループは、廃食用油を原料としたSAFの継続的な生産及び利用体制の確立とバリューチェーンの構築による国内初となる国産SAFの実用化を達成いたしました。具体的には、「合同会社SAFFAIRE SKY ENERGY」を設立し、最大で年間約3万キロリットルのSAFを継続的に供給できる国内初の国産SAF大規模生産プラントを竣工させました。同社を通じて、2025年4月以降、当該プラントにて長期にわたるSAFの生産及び供給を行ってまいります。
加えて、SAFが持続可能な事業となるための機運醸成活動として、個人や自治体、企業がSAFの原料となる廃食用油の提供を通じ国内における資源循環の促進に直接参加ができる場である「Fry to Fly Project」を、当社が事務局となって2023年より開始し、既に200を超える企業、自治体、学校などの方々に参加していただいております。また、主に原料の種類にかかわらず国産SAFのサプライチェーン構築、普及と拡大を目指す「Act for Sky」についても、当社が代表幹事となって2022年より取り組んでおり、40を超える企業や自治体に参画していただいております。今後とも、国内において脱炭素化に向けた資源循環の促進に積極的に参加できる機会を創出し、また、これらの活動を通じて、個人や自治体、企業の行動変容に繋げていくことを目指してまいります。
バイオ分野
バイオ分野における取組みとして当社グループが注力しているものは、NEDOより前事業年度に採択された「グリーンイノベーション基金事業・バイオものづくり技術によるCO2を直接原料としたカーボンリサイクルの推進/CO2からの微生物による直接ポリマー合成技術開発」(以下、「グリーンイノベーション基金事業」という。)、及び当事業年度に採択された「バイオものづくり革命推進事業・木質等の未利用資源を活用したバイオものづくりエコシステム構築事業」(以下、「バイオものづくり革命推進事業」という。)となります。これらのバイオものづくりは、微生物を活用し、素材、エネルギー、食品など幅広い分野の製品を生み出す手法であり、経済協力開発機構(OECD)によると、2030年には世界の市場規模が200兆円に達すると試算されております。
グリーンイノベーション基金事業では、NEDOに対する共同提案者の株式会社カネカ、株式会社バッカス・バイオイノベーション及び株式会社島津製作所とともにバイオものづくりの社会実装に向けた開発を推進しております。その一環として、神戸市ポートアイランドにCO2を原料とした世界初のガス発酵プロセス研究棟建設を進めており、2025年12月に完成の予定です。当社は、将来市場の拡大が見込まれるバイオものづくりに向けて、株式会社バッカス・バイオイノベーションと共同で、微生物の開発・改良から生産プロセスの開発までをワンストップで手掛ける「統合型バイオファウンドリ®」※の事業を推進しており、当社グループが長年培ってきた安全にガスを取扱うハンドリング技術を活用し、世界初のガス培養技術開発を行っております。当該開発により、従来、数十年かかっていた微生物の開発から商業化までの期間を1/10以下に短縮し、社会実装に向けた時間とコストを大幅に削減することを目指してまいります。
バイオものづくり革命推進事業は、化石資源を原料とした既存の製造プロセスからバイオマスをベースとした製造プロセスへの転換を目指し、持続可能な原料の開発、微生物の育種、培養・分離・精製・加工プロセスの開発及び生産実証を一貫して実施するものであり、NEDOに対する共同提案者の王子ホールディングス株式会社、株式会社ENEOSマテリアル、大阪ガス株式会社、東レ株式会社、株式会社バッカス・バイオイノベーション及び当社が知見や技術を結集して開発を推進してまいります。当社グループは、ライフサイエンス分野の知見とエンジニアリング技術を融合し、木質等の多種多様な原料、微生物、プロダクト(製品)に対応したデータ駆動型の生産プロセス開発基盤を確立し、バイオものづくりプロセス開発に貢献するとともに、「バイオものづくりプラットフォーマー」としてバイオものづくり産業の普及推進に取り組みます。
また、当社グループは、「タイヤ原料のブタジエン選択率が高い」独自の触媒を保有しており、バイオマス由来の原料(エタノール)を使用してタイヤの原料となるブタジエンを製造するプロセス開発に取り組んでおります。株式会社ブリヂストン、株式会社ENEOSマテリアル及び当社は、2022年より各社の経営ビジョンに共通する持続可能な社会の実現に向けて、植物資源由来のバイオブタジエン及びタイヤ用合成ゴム製造の基礎的な技術検討や市場調査を進めており、今後も植物資源由来の合成ゴムを使用したタイヤの商業化に向けた取組みを加速してまいります。かかる取組みにより、タイヤ原材料のサステナビリティの向上や将来的なブタジエンの安定確保へ貢献していくとともに、植物資源由来の合成ゴムの使用により、タイヤの廃棄・リサイクル段階でのCO2削減にも貢献していきます。
※統合型バイオファウンドリは、株式会社バッカス・バイオイノベーションの登録商標です。
ライフサイエンス・ヘルスケア分野
1. ライフサイエンス
ライフサイエンス分野においては、低分子合成医薬品に加え核酸及びペプチドを含む中分子合成医薬品、バイオ医薬品を主体とする高分子医薬品の設備投資が増加傾向であり、これらの複合製剤を含む従来にない複雑な医薬品や活性の強い医薬品など、付加価値の高い医薬品が開発されております。当社グループでは、こうしたマーケット変化に対応すべく、以下の技術開発活動を推進しており、建設するプラント・施設への導入事例を増やすことで、技術差別化に繋げております。
① 高薬理活性物質製造への対応:高薬理活性の医薬品製造において必要とされる高度な封じ込め技術と封じ込め性能を正しく評価する測定手法について医薬品業界内への浸透を進めております。
② 合成医薬品製造への対応:合成医薬品製造におけるプロセスの連続化について近年注目度が高まっており、知財戦略に基づき開発した製造技術の実装を推進しております。
③ 中分子医薬品製造への対応:上流の合成工程から下流の精製工程に対応する多様な製造法の実績を積み上げております。
④ バイオ医薬品製造への対応:大量培養に向けたスケールアップ技術及び高度な品質モニタリング技術の他、合成医薬品製造と同様に連続生産に向けた技術開発を進めております。
⑤ 再生医療等製品への対応:中期的に需要拡大が見込まれる根治治療に対し、個別プロセスの効率化や実現可能な設備コンセプト開発を支援し、社会実装を推進しております。
⑥ 製造DXシステム:新規大型設備だけでなく研究開発段階の設備や既設製造設備も適用可能な当社グループ独自の情報管理システム(HistoHub®)の開発及び実装を推進しております。
⑦ 固形製剤/無菌製剤製造におけるスマート工場の実現:ロボット活用による無人(塵)化の実現、情報管理と一体化した生産設備など、スマート工場のコンセプト開発を進めております。
⑧ 環境負荷低減対策:近年重要視されているライフサイクルアセスメント技術の強化を進めております。
2. ヘルスケア
ヘルスケア分野においては、「病院からのまちづくり」及び「病院から地域をデザインする」をキーワードとする「まちづくり×医療」への取組みを進めております。横浜市泉区ゆめが丘エリアに整備された複合商業施設「ゆめが丘ソラトス」及び「ゆめが丘総合病院」(当社グループが設計及び施工)並びに大規模居住施設を中心とするまちづくり活動においては、エリアマネジメント協議会に参画し、新たなコンセプト「WELL-BEING TOWN ゆめが丘」のもと、「食を中心としたサステナブルな社会を体感できるまち」、「自然、人との交流で健康になれるまち」、「子育てしやすいまち」及び「最先端で安全な暮らしやすいまち」の実現を目指してまいります。また、健康データ管理システム及びかかりつけ医連携システムを包含する「クラウドチェックアップ」の実装などに取り組み、「まちづくり×医療」を具現化したヘルスケアシティの実現を目指しております。
また、カンボジア王国で当社グループが出資するSunrise Japan Hospitalにおいては、順天堂大学医学部附属順天堂医院と初期臨床研修の実施に関する協定を締結し、公立大学法人奈良県立医科大学とは学術交流に関する協定及び同大学附属病院との初期臨床研修の実施に関する覚書を締結しました。これらの取組みを通じて、日本の高度な医療技術のカンボジア王国への導入をさらに進め、同国の医療水準の向上に貢献してまいります。加えて、当社グループでは、病院経営に参画することで得た医療、経営、運営の知見と、医療施設の設計との融合を図り、高い機能性とホスピタリティを持つ病院づくりを進めております。
原子力分野
当社グループは、原子力発電所及び再処理工場の廃止措置に係るプロジェクトマネジメントのサービス提供と廃棄物処理関連技術の開発を進めております。このうち、原子力発電所の廃止措置について、発電所内に貯蔵されている放射線量の高い使用済イオン交換樹脂を安全、かつ安定的に貯蔵するための分解技術の実用化に目処が得られつつあります。また、分解されたイオン交換樹脂を含む、多種・多様な放射性廃棄物への適用を目指し、閉じ込め性能の高い固型化技術の開発を進めております。さらに、原子力発電所や再処理工場を含む様々な原子力施設の廃止措置を対象に、長期間にわたる廃止措置プロジェクトを安全かつ効率的に実施するためのマネジメント支援システムを開発中です。
核融合については、実用化に向けた取組みが各国で加速していることを踏まえ、国内スタートアップのなかでも核融合関連技術に独自の強みを有する京都フュージョニアリング株式会社や核融合燃料の供給に不可欠な技術を有する株式会社MiRESSOへのCVCからの出資を通じて、技術の共創に向けた取組みを行っております。
国内外で注目されている小型モジュール炉(以下、「SMR」という。)をはじめとする次世代原子炉技術については、水素や再生可能エネルギーと並んで脱炭素社会の実現への貢献が期待され多くの炉型が提案されておりますが、なかでも米国NuScale Power, LLC(以下、「ニュースケール社」という。)が開発を進めるSMRが米国で初となる設計認証を取得しており、商業化に最も近いSMR技術であると言われております。この様な状況を踏まえ、当社グループは2021年3月に米国の特別目的会社を通じてニュースケール社に出資いたしました。また、2022年4月には株式会社国際協力銀行(JBIC)が、2024年11月には中部電力株式会社がそれぞれニュースケール社に出資しております。米国初のニュースケール社SMR実証プラントとして計画されていたプロジェクトは建設に至ることなく終了しましたが、新たな建設プロジェクトに向けた検討が進められており、当社グループも新規案件に向けてEPC準備業務を実施中です。
当社グループは、AIデータセンター電力需要や脱炭素電力需要に向けたSMRの将来的な市場拡大に伴って、中長期的には海外市場を中心にSMRのEPCプロジェクトを受注・遂行していくことを視野に入れ活動するほか、SMRと再生可能エネルギー設備、水素製造設備とのインテグレーションも検討していく予定です。
洋上風力発電分野
国内の洋上風力発電分野においては、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」(平成30年法律第89号)に基づくラウンド1からラウンド3までの事業者グループが決定されております。世界的な物価高騰を受けて、一部のプロジェクトの動向に不透明さはあるものの、日本政府は制度の見直しを含めた対応などにより、引き続き洋上風力発電の本格的な導入を推進しております。当社グループは、洋上風力発電分野の主力EPCコントラクターとなるべく、事業性検討や基本設計など早い段階から計画に関与しプロジェクトの受注を目指しております。
今後成長が期待されている浮体式洋上風力分野についても、NEDOのグリーンイノベーション基金における浮体式洋上風力実証事業の事業者が決定され、2030年以降の本格的な導入へ向けた動きが加速しております。当社もこれまで取り組んできた撤去実証事業やフィージビリティスタディ、浮体の要素技術の検討などに加えて、浮体のサプライチェーン構築に向けた取組みを開始しており、継続的に技術力・競争力の強化を図りながら、プロジェクト全体の最適化とマネジメント力を武器に受注拡大を目指して取り組んでまいります。
石油精製分野
石油精製企業は、化石燃料及び石化原料の安定供給に加え、カーボンニュートラルに向けたエネルギーシフトに対応する製油所の事業変革が求められております。当社グループでは、これら顧客のニーズ変化に対応する触媒及び触媒素材開発に取り組んでおります。
FCC触媒については、各製油所ニーズに対応する最適化触媒と技術サービスによる国内外製油所へのソリューション展開を図るとともに、高液収率と高オクタン価が両立する新規マトリックス素材を使用したFCC触媒を新たに開発し、市場展開に着手しました。水素化処理触媒については、競争力強化のため活性とコストの両立を目指し製造技術の高度化に取り組みました。また、海外石油会社と共同開発し採用された水素化分解触媒の改良にも取り組み、採用された製油所での継続採用及び他製油所への新たな採用に繋がりました。
当社グループの触媒調製技術を活用して開発されたゼオライトや非晶質シリカアルミナなどの触媒素材は、主に水素化分解触媒用材として触媒メーカーに採用されております。今後は石油精製分野だけでなくケミカルや環境保全分野にも素材販売を拡大する方針のもと、固体酸や細孔径制御に訴求性を有する触媒素材の開発を行い、顧客へのサンプルワークを開始しております。
石油化学分野
汎用石油化学市場は、汎用化学製品の需要減少と中国の化学プラント新設による供給過多が重なり低迷が継続しております。そのため、国内ケミカルメーカーは、汎用石化から高機能ケミカル製品へのポートフォリオ変革や競争力のあるプロセスへの転換及びケミカルリサイクルなどカーボンニュートラルの実現による持続可能な社会に向けた取組みを進めております。
当社グループにおいては、国内ケミカルメーカーの高機能ニーズに対応する高活性で高選択性を有する水添触媒の開発に取り組んでおり、高ニッケル含有水添触媒が良好な評価を得て採用されました。また、石精・石化原料中の硫黄や塩素を高効率で除去可能な各種吸着剤の市場展開により販売が拡大しております。これらの水添触媒や吸着剤技術開発は将来のケミカルリサイクルやCO2リサイクルプロセスへの触媒、吸着剤展開につながるため開発を継続してまいります。また、国内の実績と技術サービスをもとに触媒、吸着剤の海外展開に取組み販売拡大を目指しております。
環境保全分野・クリーンエネルギー分野
環境保全・クリーンエネルギー分野では、バイオマス混焼、専焼用及びごみ焼却場など低温脱硝向けの触媒開発に取り組み、触媒への高被毒環境物質存在環境下での初期活性と長寿命が両立する脱硝触媒の開発に目途を付け、工業化段階に進捗しました。当社グループでは、かかる触媒の早期の実商化及び拡販に向けて取り組んでおります。また、石油精製触媒部門と連携して、当社グループの特殊ゼオライトや素材を活用した次世代エネルギー源として期待される水素やアンモニアに関連する触媒や吸着剤の開発にも取り組んでおります。
生活関連(眼鏡、ライフサイエンス、化粧品)分野
薄肉化(高屈折率化)が進むプラスチック眼鏡レンズ用高屈折率ハードコート向け材料として、レンズの屈折率及び耐候性を高めるチタニアナノ粒子の顧客評価が進んでおります。一方、薄肉レンズの汎用化に合せたコスト競争力を高める検討も進めており、ブルーライトカット機能を有する高屈折率粒子や硬化時間短縮可能な高屈折率ハードコートラッカー塗布液を提案し、市場拡大に取り組んでおります。
ナノ粒子技術を活用しライフサイエンス分野に展開する検討の一環として、金属ナノ粒子技術を用いた特殊施設向け高濃度硝酸廃水分解触媒を開発し、パイロットプラントでの評価が開始されました。また、本技術を応用して一般事業所工業廃液に対応する汎用硝酸分解触媒についても開発を進めております。
マイクロプラスチック海洋汚染問題の原因の一つである化粧品マイクロプラスチックビーズ代替採用が進んでおります。当社グループでは、プラスチックビーズの使用感触に近いシリカマイクロビースを開発しており、その採用が拡大しております。また、より環境負荷の小さいボタニカルマイクロビーズに関しても、2023年より上市米澱粉(でんぷん) ビーズやもみ殻から抽出したシリカ原料を用いたビーズ開発に取り組んでおり、2026年度の商品化を目指しております。
電子材料分野
ChatGPTなど世界的な生成AIの拡大によりデータセンター向けストレージデバイスなどの需要が回復・拡大し、ハードディスクやHBMなど半導体デバイス市場が復調しております。ディスプレイ市場は中国政府の経済刺激策もあり市場は堅調に推移しております。ただし、かかる施策は需要の先食い懸念もあり今後の見通しは不透明な部分もあります。
現在、シリカゾルについては、ハードディスクやシリコンウェハー市場拡大対応として、増設プラントの2025年度竣工、顧客認定評価を経て、計画通り2026年度からの本格稼働を見込んでおります。また、一時停滞していた半導体CMP向け研磨材は、2026年度の本格採用に向け評価が進捗しております。高速通信用低誘電率シリカバルーン封止材も顧客中量テストが終了し、顧客へのサンプルワークが開始されており、2026年の量産化に向け順調に進んでおります。
高品位テレビ用機能性光学材料については、有機ELテレビ、QLEDテレビなどに展開しておりますが、デジタルサイネージュ、車載ディスプレイ、光学デバイスなど多用途展開に向けた材料開発とサンプルワークを進めております。
ファインセラミックス分野
ハイブリッド車、電気自動車、太陽光発電、LEDなどの高出力化や省エネルギーを達成するために、パワー半導体の高性能化が進んでおりますが、同時に絶縁放熱基板への要求が厳しくなってきております。その要求に応えるため、当社グループでは、ファインセラミックス分野における開発加速のためのオープンイノベーション及びアライアンスを強化し、推進しております。新規市場への参入を見据えた知財戦略については、日本ファインセラミックス株式会社が当社ガバナンス統括オフィス知的資産ユニット等と連携して立案し、実施しております。
当社グループでは、国立研究開発法人産業技術総合研究所と共同開発した独自の製造方法により世界最高レベルの放熱性・信頼性を持つ「高熱伝導窒化ケイ素基板」の開発及び事業化を推進してまいりました。既に新量産工場を立ち上げ、製品の品質及び生産性向上を実現しながら、さらなる高性能品開発及び増産体制の構築にも取り組んでおります。
通信分野においては、自動運転やIoTの普及に欠かせない5Gが本格導入され、今後、さらなるデータ量の増大に向けたBeyond 5Gなどの無線通信や光通信回線の大容量化・高速化が必須になります。当社グループでは、最先端の無線通信技術、光通信技術に対応できる薄膜回路基板、単板コンデンサなどの性能・信頼性向上などの開発・製造・販売を行っております。
今後成長が期待される再生医療分野においては、最先端の骨再生材料について国立大学法人東北大学などとの共同研究を継続しております。その他、当社グループ独自のセラミックス材料技術と高精度加工技術により、補助人工心臓用部品や「はやぶさ2」などの宇宙衛星用部品、半導体装置用部材や燃料電池用部材など、先端分野で使用される製品の開発や新材料の開発に大学や各研究機関などと連携して取り組んでおります。