第2 【事業の状況】

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

(1)会社の経営の基本方針

 アイシングループ経営理念

 

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(2)目標とする経営指標

 当社グループは、2030年度の経営目標を売上収益5.5〜6.0兆円、営業利益率8%、ROIC(投下資本利益率)13%としています。

※ROIC(投下資本利益率):税引後営業利益÷(棚卸資産+有形固定資産+無形資産)

 

(3)中長期的な会社の経営戦略及び会社の対処すべき課題

 各国での政策変更や欧米での環境規制緩和等の動きが見られ、自動車業界の各社は中長期的な社会動向を踏まえた戦略の練り直しを迫られています。また中国の自動車メーカーが急速に力をつけ、日欧米メーカーから自国内のシェアを奪い中国からの輸出も増加しています。

 このように取り巻く環境変化は激しさを増していますが、当社グループは、経営理念に掲げる「“移動”に感動を、未来に笑顔を。」の実現を目指し、揺るぎない「サステナビリティ経営」を推進していきます。マテリアリティは、「自然との共生、持続可能な未来への貢献」「世界中の人々に移動の自由を提供」「多様な人材の活躍と人生の充実」の3つを設定し、中長期での価値創造を強化します。

 

<アイシングループのマテリアリティ>

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 2030年の経営目標の達成に向けては、電動化・知能化といった成長領域へのリソーセスシフトを加速するとともに、フルラインアップ戦略によるオートマチックトランスミッション・ハイブリッドトランスミッションの収益拡大を軸に事業ポートフォリオの変革を一層加速していきます。また、事業資産の圧縮、政策保有株式の売却、グローバル在庫の圧縮を中心とするバランスシート改革は着実に進捗しており、創出したキャッシュを更なる成長投資と追加株主還元に積極的に投入していきます。これらの持続的な成長と中長期的な企業価値向上の取り組みにより、PBR1倍超の早期実現を目指します。

 

<企業価値向上に向けた取り組み>

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2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループは、「“移動”に感動を、未来に笑顔を。」を経営理念とし、「“移動”に自由と喜びを、未来地球に美しさを運び続ける」ことを使命としています。ステークホルダーとの対話から、社会課題とニーズを先読みし、事業活動を通じた持続可能な社会の実現と企業価値向上の好循環を目指しています。

 その実現に向けサステナビリティ憲章を策定するとともに、マテリアリティを選定しサステナビリティ経営に取り組んでいます。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

(1)全般的な考え方及び取組

① ガバナンス

 当社グループは社長執行役員を議長とするサステナビリティ会議を年2回開催し、サステナビリティに関する活動の方向性を議論・決定すると共に、マテリアリティに基づく活動の進捗管理を行っています。サステナビリティ会議で決定した方針に基づき、各委員会等で活動計画に落とし込み、目標達成に向け推進しています。

 

サステナビリティ推進体制

サステナビリティ会議

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開催頻度

原則2回/年

議長

社長執行役員

事務局

総合企画部サステナビリティ推進室

参加者

執行役員、地域本部長、主要グループ会社社長他

主な議題

・サステナビリティに関する最新動向の共有

・サステナビリティに関する方針の議論・決定

・マテリアリティの見直し、指標と目標の決定、進捗フォロー

 

 

 

 サステナビリティ会議や各委員会の内容については、取締役会に付議・報告を行っており、2024年度の主な議題は以下のとおりです。

 

取締役会議題

区分

推進会議体

サステナビリティ全般

アイシングループサステナビリティ憲章の改訂

決議

サステナビリティ会議

マテリアリティの報告

報告

リスク管理全般

重点リスクの半期評価結果について

報告

リスクマネジメント委員会

気候変動

エネルギーバリューチェーン事業の構想と

取り組みについて

報告

VC事業会議

カーボンニュートラル推進会議

中長期事業戦略について

報告

戦略機能会議

カーボンニュートラル推進会議

人的資本

人的資本戦略について

報告

人事機能会議

健康経営について

報告

安全衛生委員会

 

 また、サステナビリティ課題への取り組みに関する取締役のインセンティブを強化するため、サステナビリティKPIを業績連動型報酬の評価体系に組み込んでいます。詳細については「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (4)役員の報酬等」をご参照ください。

 

② 戦略

 当社グループは、2019年度に選定したマテリアリティに基づきサステナビリティ経営に取り組んできましたが、事業環境や社会からの要請の変化に対応すべく、2025年1月にマテリアリティの見直しを行いました。

 3つの優先課題と5つの実現に向けた方向性をマテリアリティとして特定し、経営理念の実現に向けサステナビリティ経営を推進しています。

 

マテリアリティの選定プロセス

 当社グループでは、以下のプロセスでマテリアリティを見直しました。

 Step1.一般的なビジネスやESGに関わる課題のリストアップ

(ESRS、ISSB、SASB、GRI等の各種ガイドラインや開示基準を参照)

 Step2.従業員ワークショップにてアイシンの事業活動に関連する課題を抽出

 Step3.役員ワークショップ(社外取締役含む)にて経営者目線で重要な課題を絞り込み

 Step4.ステークホルダーエンゲージメントによりマテリアリティ案の妥当性を検証

(投資家、社外有識者、地域住民、サプライヤー、従業員等)

 Step5.サステナビリティ会議でマテリアリティ案を議論・決議。取締役会へ報告・承認

 

リスクと機会

外部環境認識

アイシンにとってのリスク・機会

マテリアリティ

優先課題

実現に向けた方向性

 

Politics(政治)

リスク

自然との共生、

持続可能な未来への貢献

バリューチェーン全体での環境負荷低減

■環境規制や安全基準の強化

自動車市場の成長鈍化

■エネルギー政策の不確実性

電動化による既存製品の需要低下と売上減少

■国際社会の多極化、不安定化

技術革新に対応できないことによる競争力の低下

クリーンなエネルギー社会に向けたソリューションの提供

Economy(経済)

地政学リスクの発現によるサプライチェーン途絶

■先進国市場の成長停滞、新興国市場の拡大

■経済成長の鈍化

バリューチェーン上での環境・人権問題発生による信頼低下

世界中の人々に

移動の自由を提供

従来の思考パターンに囚われ創造力が停滞

人生を豊かにする

”移動”価値の創造

人材獲得競争の激化

Society(社会)

機会

■高齢化社会・生産人口減少

■ライフスタイルや価値観の変化

■社会課題解決に対する企業への期待の高まり

各国のエネルギー事情に応じた柔軟な商品提案

挑戦する企業文化の醸成

グローバルサウスの経済発展への貢献

多様な人材の活躍と

人生の充実

現地化によるレジリエンス強化と事業機会拡大

知能化による商品付加価値の向上

多様性を尊重し共に輝き強くなる

Technology(技術)

カーボンニュートラル・サーキュラーエコノミーへの貢献

■AIをはじめとするデジタル技術革新

■自動車産業の構造変化

交通事故低減への貢献

新規事業の開拓

盤石な経営基盤の構築

(安全、品質、コンプライアンス、人権、環境、リスクマネジメント、ガバナンス)

人材の多様性を活かした新価値創造

 

③ リスク管理

 サステナビリティに関するリスクについては、全社のリスク管理に統合されているため、「3 事業等のリスク」における「(1)基本的な考え方・方針」、「(2)推進体制」、「(3)戦略~リスクマネジメントの高度化~」、「(4)主な取り組み」、「(5)重点リスクの決定」をご参照ください。

 サステナビリティに関する機会については、各種主要会議、経営会議での審議を経て、重要な機会は取締役会に付議・報告を行っています。

 

④ 指標及び目標

 取締役会から承認を得たマテリアリティに対し、KPIと2030年度目標を設定し、具体的な活動計画へ落とし込み推進しています。

 なお、第103期有価証券報告書より2025年1月に見直したマテリアリティの指標及び目標にて開示を予定しています。

 

 マテリアリティとKPI・2030年度目標

 

 

 

優先課題(マテリアリティ)

KPI

2024年度実績

2030年度目標

社会課題の解決

事業活動を通じた

・地球温暖化防止

・交通事故低減

 安全な移動・輸送手段の提供

・健康と福祉の推進

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社会課題の解決に寄与する成長領域(注1)向け商品売上収益(比率)

41%

58%

 

 

成長領域売上+HEVユニット売上

 

総売上

 

健康・福祉に資する商品・サービス延べ利用者数

MAU(注2):35,700人

MAU:183,400人

・技術革新による

 持続可能な産業化の促進

・CO2排出削減

・汚染防止

・環境負荷物質削減

・資源循環

・資源効率の改善

・クリーンエネルギー転換の推進

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成長領域向け研究開発費比率

63%

80%

ライフサイクルCO2排出量削減率

(注3)

▲25%以上

(2019年度比)

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生産CO2排出量削減率(総量)

[2013年度比]

(注4)

▲50%以上

(138.6万t-CO2/年)

(注5)

経営基盤

活動を支える

・労働安全衛生

・健康

・人権

・多様性の促進

・働きがい改革

・ワークライフバランス

・コンプライアンス

・持続可能な調達

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重大災害件数(注6)

0件

0件

休業度数率

0.25(注7)

0.05

女性管理職比率

2.8%(注8)

6.0%

 

働きがい(社員意識調査結果、5ポイント評価)

3.3ポイント

(注9)

4.0ポイント

(グループ連結)

 

重大法令違反件数(注10)

0件

0件

 

グループ・グローバル共通でのサプライヤー向け

ガイドライン策定・展開によるガイドライン遵守率

(カーボンニュートラル目標2030年度▲25%以上

(2019年度比)含む)

グループ・グローバル5地域

(米・中・欧・印・亜)への仕入先周知完了

100%

(注1) 成長領域の定義は、2023年9月14日公表の中長期事業戦略説明会資料P8

(https://www.aisin.com/jp/investors/business-briefing/)に基づく

(注2) MAU:Monthly Active Users、月に1回以上利用があったユーザー数

(注3) 2024年度実績は、当社サステナビリティサイト(https://www.aisin.com/jp/sustainability/)にて公開予定

(注4) 2024年度実績は、当社サステナビリティサイト(https://www.aisin.com/jp/sustainability/)にて公開予定

(注5) 「第7次アイシン連結環境取組プラン」での係数を用いたCO2排出量

(注6) 死亡災害又は一時に3人以上の労働者が業務上死傷又は罹病した災害

(注7) 2024年度時点で共通の指標で管理をしている当社グループの12社(当社、アイシン高丘、アイシン化工、アイシン軽金属、アイシン開発、アイシン機工、アイシン辰栄、アイシン福井、豊生ブレーキ工業、アドヴィックス、アイシンシロキ、アート金属工業)の数値を基に算出

(注8) 2024年度時点で共通の指標で管理をしている当社グループの主要会社4社(当社、アイシン高丘、アイシン化工、アドヴィックス)の数値を基に算出、管理職の定義は基幹職(課長)以上

(注9) 2024年度時点で共通の指標で管理をしている当社グループの主要会社4社(当社、アイシン高丘、アイシン化工、アドヴィックス)の数値を基に算出

(注10) 重大法令に違反する犯罪行為又は最終的に刑罰につながる行為

 

 自動車業界では、カーボンニュートラル、電動化、知能化の流れが一層加速しており、産業構造が大きく変わりつつあります。当社グループはこの変化を機会と捉え、電動化・知能化など成長領域の開発を加速しています。このような中、気候変動と人的資本は中長期的な企業価値に影響を与える重要なサステナビリティ課題と認識し取り組んでいます。詳細は「(2)気候変動への対応(TCFD提言への取り組み)」、「(3)人的資本」をご参照ください。

 

(2)気候変動への対応(TCFD提言への取り組み)

 当社グループは、2019年11月にTCFD(気候関連財務情報タスクフォース)へ賛同し、TCFDの提言に基づきシナリオ分析を実施しています。気候変動がもたらす事業活動へのリスクと機会を明確にしてその対応を経営戦略に盛り込むとともに、関連情報を開示しています。

① ガバナンス

 気候変動への対応を重要な経営戦略と位置付け、グループとして注力すべきマテリアリティに選定しています。「サステナビリティ会議」、「環境委員会」、「カーボンニュートラル推進会議」で議論した内容を取締役会に付議・報告し、必要に応じて事業戦略・計画を修正しています。

 ※詳細は、「(1)全般的な考え方及び取組」をご参照ください。

 

② 戦略

 「生産」と「製品」の両軸で2050年カーボンニュートラルの実現を目指しています。生産面では、徹底した省エネ活動や革新生産技術の開発によるエネルギー使用量削減、再生可能エネルギーや新エネルギーなどのクリーンエネルギーの導入・切替を実施します。

 製品面では、電動車向け製品の更なる進化、エネルギーと資源の循環システムの普及を進め、モビリティ・エネルギー技術融合による新価値創出を目指します。

 また、TCFD提言が推奨する定義を踏まえた気候変動に伴う移行・物理的リスク、機会を分析し、定期的に対応を決定しています。

 

<気候変動のリスクと機会、当社グループの対応>

区分

リスク/機会

の種類

影響段階

当社グループへの影響

時間軸

長・中・短

財務影響

大・中・小

対応

移行

リスク

市場

調達

低炭素原材料の需要が高まり必要な原材料の価格高騰による調達コストの増加

・製品設計時点での軽量化や材料置換による使用原材料の削減

・サーキュラーエコノミーの推進による購入原材料の削減

新たな規制

直接操業

炭素税や再生可能エネルギー導入などの政策によるコストの増加

・エネルギー使用ミニマム化に向けた省エネ活動の推進

・地域ごとの特徴を活かした再生可能エネルギーの導入

製品需要

電動化の推進で電動車向け製品需要が拡大する一方、ガソリン車向け製品需要が減少

・2030年までにパワートレインユニット販売台数の電動化率増加を見据えて製品構成を電動車向けへシフト

・高効率&小型化の電動ユニット、回生協調ブレーキ、熱マネジメントシステムや空力デバイスなど、幅広い製品によるモビリティの電動化とエネルギーソリューションでカーボンニュートラルへ貢献する製品の拡販を強化

物理的

リスク

急性

直接操業

気象災害(大雨、台風、洪水など)の発生頻度増加や激甚化による被災時のサプライチェーン寸断の発生や一時的操業の停止

・異常気象発生時における行動基準及びルールの策定

・調達物流のBCP高度化

・リスクのある拠点を抽出して定期的にモニタリング

・浸水対策計画の策定、実施

機会

製品需要

製品・

サービス

電動化の推進による電動車向け製品の需要拡大

・高効率&小型化により電費向上した電動ユニットのスピーディな市場投入

・車種別ユニット共通化、材料使用量低減によるコスト低減

・回生協調ブレーキシステム進化による電動車の航続距離向上

・関連製品の生産能力拡大

CO2削減に寄与する製品・サービスへの需要拡大に伴う新規事業創出

・ペロブスカイト型太陽電池の市場投入・シェア確保

・ヤシ殻由来のバイオ成型炭の販売

・CO2を炭酸カルシウムとして固定化する技術の事業化

省エネルギーかつ低炭素排出の製品需要の拡大

・高効率で安定したエネルギー供給や、停電時の自立発電機能によるレジリエンス向上に貢献する家庭用燃料電池コジェネ「エネファーム(SOFC)」のさらなる高効率化と拡販

・自治体と協業で脱炭素事業を推進し、街づくりへ貢献

資源効率性

直接操業

エネルギー効率化によってエネルギー消費量が減少し、エネルギー調達コストが減少する

・動力源、熱源、無駄レスの徹底による省エネルギー化

・革新生産技術の開発

・CO2の回収・利活用(メタネーション等)やバイオ成型炭等の導入によるクリーンエネルギー化

(注)   <時間軸>  短:~2025年度、中:~2030年度、長:~2050年度

<財務影響> 大:100億円以上

              中:10億円以上100億円未満

              ※財務影響小は開示対象から除外

 

③ リスク管理

 当社グループに影響を与えるリスクはリスクマネジメント委員会で特定・抽出されます。その中でも最重点に位置づけられた気候変動リスクは、環境委員会等において定期的にモニタリング・管理しています。また、各国の法規制、ステークホルダーとの対話、CDPなどの外部評価、顧客動向を受け、対応策の検討・見直しを実施しています。一方で、CO2削減に寄与する電動化などの製品・サービスの需要拡大は当社にとって機会であり、経営及び事業戦略に織り込むことで、企業価値の更なる向上につなげていきます。

 

④ 指標及び目標

<2030年度目標>

・生産CO2排出量(スコープ1、2):2013年度比50%以上削減

・ライフサイクルCO2排出量(スコープ1、2、3):2019年度比25%以上削減

<2035年度目標>

・生産CO2排出量(スコープ1、2):カーボンニュートラル

<2050年度目標>

・ライフサイクルCO2排出量(スコープ1、2、3):カーボンニュートラル

<実績>(2023年度※)

・生産CO2排出量(スコープ1、2):228万t-CO2(2013年度比18%削減)

・ライフサイクルCO2排出量(スコープ1,2,3):2,522.4万t-CO2(2019年度比3%削減)

※2024年度実績は、第三者検証後に当社サステナビリティサイト

(https://www.aisin.com/jp/sustainability/)にて公開予定

 

(3)人的資本

① 人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する取組

 当社グループでは、働く仲間一人ひとりが主役であり、「働く仲間」こそが強みであると考え、経営理念の提供価値の最初に「働く仲間」を位置づけています。経営理念・事業戦略の実現に向けたチャレンジを通じて、主体的な成長を促し、働く仲間へ働きがいと人生の幸せを提供します。

 今までの急激な量的拡大期では、効率よく成果を出し続ける力が求められてきました。しかし今後は、これまでの延長線ではなく、社会のニーズや変化を先読みした商品を開発し、提供する必要があります。私たちは、これまで培ったアイシンらしさを活かしながら、価値提案型で機敏に対応できる組織へと変革していかなければなりません。

 そこで、2030年に向けた人・組織の目指す姿を「グループ・グローバル連結でチャレンジ推進」「どこよりも人が育ち、全員が活躍」している状態と整理し、すべての活動のベースに「風通しの良い職場風土づくり」を置くとともに、「プロ人材の活躍・成長」「チャレンジの促進」「グループ総合力の強化」の3つに重点を置いて、人的資本の拡充を推進しています。

 

(ⅰ)戦略

(a)プロ人材の活躍・成長、チャレンジの促進

 正解のない時代において、新たな価値を生み出していくには、大きく社会、そしてお客様第一で課題を抽出し、自発的に行動できる多様な人材の全員活躍が必要です。

 目指す人材像を「プロ人材」=「全体最適で持ち場・立場で自発的に考え行動する人」と定義し、プロ人材としての基盤能力の成長を促進するとともに、「チャレンジする人・職場づくり」をキーワードに、企業風土そのものの変革を推進しています。プロ人材のチャレンジを測る指標として、社員意識調査において、仕事のやりがい、成長、能力発揮などを示す「働きがい」を重点KPIと置いています。

 2022年から段階的に人事制度改定を実施し、2025年4月に従業員の人事制度改定を完了しました。新人事制度運用を通した個々の役割やテーマの明確化による主体性の喚起、そしてその職責や成果にタイムリーに報いることで、個々の能力発揮と伸長、全員活躍を目指します。また、主体的な行動を増やしていくため、全管理職を対象とした個を活かすマネジメントへの変革活動を推進し、取り組みの結果として約6割の管理職が部下の意識・行動変化を実感しています。

 引き続き、新人事制度の理解・浸透や育成施策を通じた主体性喚起、継続したマネジメント変革活動に加え、個々のチャレンジの方向性と会社の向かうべき方向性を合わせるための経営理念・事業戦略の浸透などの取り組みを通じて、一人ひとりのプロ人材としての活躍・成長とチャレンジを促進します。

 

(b)グループ総合力の強化

 当社グループは、競争力強化に向けて、分社経営からグループ経営へと舵を切り、グループ会社の役割・位置づけの見直しを推進しています。グループ経営を実現・加速するため、国内においては、事業再編に向けた技術者のリスキル、役員を含めた会社・組織を越えたリソーセスシフトや人材交流など、組織や人材配置の最適化をはかっています。また、海外においては、事業拡大を支える人材の確保に向けて、組織・国境を越えた協働・事業成長を先導するリーダーの育成や最適配置などに取り組んでいます。

 また、イノベーションを絶えず起こし、新しい価値を提供するとともに、持続的に事業を支える人材を確保し続けるために、ダイバーシティ&インクルージョンを推進しています。女性管理職比率を重点KPIと位置づけ、両立支援制度の拡充に加え、男性育休取得100%を5年連続で達成するなど、制度を利用しやすい環境づくりも積極的に進めており、「なでしこ銘柄」(主催:経済産業省、東京証券取引所)に2021年~2024年の4年連続選定されました。働く仲間全員が性別や年齢を問わず職場で貢献し続けられるよう、特に女性、シニアの活躍を強化しています。女性活躍は女性個人の課題から組織課題へ視野を広げ、管理職の働き方改革、管理職候補の母集団形成などに取り組んでいます。シニア活躍に向けては、再雇用制度を改定し、いつまでも活躍し続ける人に報いるとともに、技能職場で工程の負荷軽減、表示文字の大きさ調整、作業のシンプル化など、誰が行っても同じ成果が得られる工程づくりなどの環境整備を推進しています。

 

(ⅱ)指標及び目標

(a)プロ人材の活躍・成長、チャレンジの促進

 2024年度の指標及び目標(2025年度より新しいマテリアリティを踏まえ見直し予定)

指標

実績

(2023年度)

実績

(2024年度)

目標

2030年度

働きがい

(社員意識調査より)

3.4ポイント

3.3ポイント

4.0ポイント

(注) 指標は5段階評価。働きがいは「仕事の充実感」、「仕事の適応感」の設問で測定しています。

 

(b)グループ総合力の強化

指標

実績

(2023年度)

実績

(2024年度)

目標

2030年度

女性管理職比率

2.6%

2.8

6.0

(注) 次年度以降、連結グループ共通の指標を設定予定です。

 

② 社内環境整備に関する取組

(ⅰ)戦略

 グローバルに事業を展開する企業として、構内で働くすべての人が安全かつ健康的に働ける職場環境を維持・構築することは、あらゆる事業現場において実現されるべき重要な経営課題と位置づけています。当社グループは、いかなる際も「安全と健康はすべてに優先する」という考えを企業価値創造の重要な基盤と捉え、全従業員の安全と健康の向上に取り組んでいます。

 私たちは、重大災害・休業災害の根絶に向けて、徹底的な再発防止活動と、健康意識の向上及び健康行動の習慣化に向けた各種施策を推進しています。2030年グループ安全ビジョンにおいてKPI項目を設定し、安心して働け、心身ともに健康で生き生きと活躍し続けられる職場環境づくりに取り組んでいます。

 

(a)安全衛生

 2020年度より、リスク管理及びパフォーマンス改善を可能にする労働安全衛生マネジメントシステムを、構内請負業者を含めた当社グループで導入しています。社内外の課題や働く人及び利害関係者の要求事項を受け、年に1度、リスクと機会の抽出を実施し、その結果から取り組むべき課題に優先順位をつけ、次年度の安全衛生計画に反映させ、目標達成に向けた活動を推進しています。また、活動結果やその他変動要因を踏まえ、マネジメントレビューを実施し、次年度に向けた方向性を明確にした上で、活動のレベルアップをはかっています。

 

(b)健康

 従業員の健康増進を経営課題の一つと位置づけ、2021年4月に「アイシングループ健康宣言」を策定し、グループ従業員一人ひとりの健康意識の向上と健康行動の習慣化に向けた健康経営を推進しています。少子高齢化による労働力不足を重点課題と捉え、労働力確保の観点からシニア層や女性が働き続けられる環境整備を進め、すべての人が心身ともに健康な状態で能力が発揮できるように、戦略マップに落とし込み、活動に取り組んでいます。

 

(ⅱ)指標及び目標

(a)安全衛生

 重大災害・休業災害の根絶に向けて、徹底的な再発防止活動と、安全意識の向上及び安全行動の習慣化に繋がる各種施策を推進しています。

指標

実績

(2023年度)

実績

(2024年度)

目標

2030年度

重大災害件数

0件

0

0

 

(b)健康

 健康経営の実現に向けて、プレゼンティーイズムパフォーマンス度を評価指標として採用しています。

 2030年度85%以上を目指し、未然・再発防止対策をはかりつつ、不調者を重症化させないため、職場上司による早期発見・対応の更なる実践力向上を推進していきます。

指標

実績

(2023年度)

実績

(2024年度)

目標

2030年度

プレゼンティーイズム

パフォーマンス度

83.1%

76.0

85.0

(注1)プレゼンティーイズム:何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し、業務遂行能力や生産性が低下している状態

プレゼンティーイズムパフォーマンス度:SPQ(東大1項目版)を用いて算出。健康な状態で発揮できるパフォーマンスを100%とした時に過去1ヶ月で80%以上発揮できたと感じる社員の割合

(注2)2024年度時点はグループ各社で指標が異なるため、当社単体の数値を基に算出しています。

 

3 【事業等のリスク】

(1)基本的な考え方・方針

 当社グループのリスクマネジメントは、事業活動とともに企業経営のクルマの両輪であると考えています。様々な経営戦略を実行していく中で、外部環境の急激な変化により、経営に影響を与えるリスクが増加しています。そのような成長を阻害する可能性のあるリスクを把握し、コントロールすることと事業継続力強化の両面で取り組んでいきます。

 企業がその目的を達成しようとする活動に対して、重大な影響を及ぼす様々なリスクを未然防止・抑制していきます。万が一発生した場合は、経営への影響を最小化し、企業の持続性を保証することで、ステークホルダーの皆様からの期待に応えていきます。

 

(2)推進体制

 リスクマネジメント推進体制として、社長をはじめCxO、監査役及びグループ12社の社長などが参加するリスクマネジメント委員会を設置しています。委員会においてアイシンにおけるリスク発生状況及び当社グループ内外の環境・動向を踏まえ、取り組むべき重点リスクの審議・方向付けを行うことでリスク対策を推進しています。決定した重点リスクについて、グループ本社では、リスク別に機能主管部署を設定、国内外のグループ会社それぞれに対策責任者、推進者を任命し、グループ全体で取り組むことでリスクに対する対応力を強化しています。

 さらに、定期的な取締役会への報告を通して、リスクマネジメントに関する監督を受けるとともに、経営戦略の高度化に役立てています。

 

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(3)戦略~リスクマネジメントの高度化~

 当社は、1997年の刈谷工場火災において、皆様にご迷惑とご心配をおかけしました。これを機に、同じ失敗を繰り返さないようERM※を導入し、全社的なリスクマネジメントに取り組んできました。近年、大規模地震や線状降水帯の頻発など自然災害や部品供給問題、地政学・経済安全保障リスクなど経営を取り巻くリスクは複雑化・多様化しています。

 このような中、「リスクマネジメントの高度化=あらゆるリスクを最小化できている状態」を目指し、経営戦略に関するリスクを含め統合的に管理するリスクマネジメントプロセスを導入しています。経営戦略の遂行を阻害する「経営戦略リスク」と、事業の円滑な運営を阻害する「オペレーショナルリスク」の両面から、市民生活や企業活動に脅威を与える複雑化・多様化するリスクに対して、その予兆を捉え、影響度を適切に分析・評価し「先手を打つ」リスクマネジメントを実践していきます。

 ※ERM: Enterprise Risk Management

 

(4)主な取り組み

 当社グループでは「リスクマネジメントプロセス」に基づき、平時における被害の未然防止・抑制対応・早期復旧・被害最小化に取り組んでいます。さらに、これらの対策の有効性評価、改善及び標準化を行い、リスクマネジメントサイクルを回すことでリスクに対する実効性を高めています。

 

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(5)重点リスクの決定

 当社では年2回のサイクルで、リスクアセスメントを実施し、リスク機能主管部署の専門的な視点、グループ会社の業務特性に基づく視点、及び海外拠点の地理的な視点から、想定されるリスクを洗い出しています。それらのリスクの影響度や発生頻度を軸とした分析結果に、これまでのリスク対策による抑制・軽減度を加味しリスクの評価を行っています。また、これら内部でのリスク評価に加えて、外部の視点として、得意先や投資家などのステークホルダーが重要視しているリスクや、グローバルリスクレポートなどの専門機関によるリスクの評価を参考に、リスクマネジメント委員会で最重点リスクと重点リスクを決定しています。最重点リスクやその発生確率・影響度、対応組織は以下のとおりです。

 

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(6)事業等のリスク

 当社グループの財政状態及び経営成績等に影響を及ぼす可能性のあるリスクのうち、前提リスクを含め投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のあると考えられる主な事項を以下に記載しています。なお、以下は当社グループに関するすべてのリスクを網羅したものではなく、記載した以外にも投資家の判断に影響を及ぼす事項が発生する可能性があります。また、文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものです。

 

① 経済状況

 当社グループの連結売上収益のうち、重要な部分を占める自動車関連製品の需要は、当社グループが製品を販売している国又は地域の経済状況の影響を受けます。したがって、日本、北米、欧州、中国、タイ、インドネシア、インドなど当社グループの主要市場における経済や景気及びそれに伴う自動車需要の縮小は、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

 こうしたリスクに対処するために、当社グループでは、グローバルでの経済状況の変化や自動車需要の動向を常に注視するとともに、外部環境の変化に強い収益体質に向けて商品競争力強化・グループ経営強化を加速させるとともに、一層の構造改革を推進しています。

 

② 為替レートの変動

 当社グループは、海外連結子会社の財務諸表を連結財務諸表作成のため円換算しており、現地通貨建ての項目は、現地通貨における価値に変動がない場合も、換算時の為替レートにより円貨換算後の価値が影響を受ける可能性があります。また、当社グループが行う外貨建取引から生じる費用・収益及び外貨建債権・債務の円換算額は、為替レートの変動の影響を受ける場合があり、当社グループが日本で生産し、輸出する取引における他の通貨に対する円高は、当社グループ製品のグローバルベースでの相対的な価格競争力を低下させるなど、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループは、通貨別に為替リスクを測定したうえでヘッジ効果とヘッジコストを勘案し、許容可能な為替リスク量まで為替リスクを軽減するため、デリバティブ取扱要領に従い、為替予約、通貨スワップ、通貨オプションを利用してヘッジをしています。

 

③ 金融市況の変動

 株式市況の低迷等により当社グループの保有する株式等の価値変動が生じ、当社グループの財政状態や経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。当社グループでは、株式保有が企業価値向上に必要不可欠と認められる場合を除き、原則保有しない方針であり、株式保有を通じた共同技術開発や事業提携を推進する必要性がある場合に政策保有株式を保有しています。保有している政策保有株式については、保有意義又は今後の縮減方針等について、取締役会で検証しています。そのうえで、保有が企業価値向上に必要不可欠ではないと判断した場合には、取引先各社との対話を通じて縮減を進めています。

 また、市場の金利状況により、資金運用・資金調達の受取・支払利息が増減し、当社グループの経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、資産と負債の統合管理をはかるとともに、金利スワップ等により金利変動によるリスクを軽減するための対策を講じています。

 当社グループの確定給付制度債務の算出において前提条件とした割引率・制度資産などについて、金融市況の悪化により、実際の結果が前提条件よりも低下・減少することで当社グループの確定給付制度債務が増加するなど、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、企業年金の積立金の運用が、従業員の安定的な資産形成に加えて自らの財政状態にも影響を与えることを踏まえ、年金運用の目的やプロセスについて十分に理解している人材の計画的な登用・配置などの人事面や運営面における取り組みにより、企業年金が運用の専門性を高めてアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう努めています。また、政府の規制や人材戦略・人事制度を踏まえ、適宜制度の見直しを検討、実施しています。

 

④ 原材料や部品の調達

 当社グループは、製品の製造に必要な原材料や部品を国内外複数のグループ外供給元から調達しています。これらのグループ外供給元とは、取引基本契約を結び、安定的な取引を行っています。しかし、昨今の各国通商施策の動向や特定鉱物資源に対する規制、地政学影響及び需要の急激な変化、供給元の災害による被災等の供給能力の制約により、当社グループの生産に必要な量を確保することが困難となった場合、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。また、資源やエネルギー費・労務費等の高騰により当社グループが調達している原材料や部品の価格が上昇し、内部努力や販売価格への転嫁などにより影響を吸収できない場合には、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループでは、得意先への製品の継続的な供給要請に応えられるよう、供給元とのコミュニケーションを強化し、確実な納期の確保、安定的かつ柔軟な供給体制の構築に努めています。安定的な生産や調達活動に影響を及ぼす自然災害や火災などへの対応として、平時から災害に備えるとともに、サプライチェーン情報管理システムを整備するなど有事の際の迅速な初動・復旧を確実に実行できるよう取り組んでいます。

 また、価格転嫁に関しては、供給元への能動的な声掛けにより、相談しやすい環境づくりを行い、1社1社、協議のうえ適切な取引を行うと共に、得意先とも共有・協議し、収益逼迫要因とならないよう、回収交渉を推進しています。併せて、供給元と一体になった新材料・新工法開発や工程改善による原価低減活動を積極的に推進することなどにより、最適な価格の維持に努めています。

 

⑤ 得意先への依存

 当社グループの連結売上収益の大部分を占める自動車部品事業は、世界の主要自動車メーカーを得意先としています。当社グループの業績は、各自動車メーカーの業績や販売・生産動向の変動など当社グループが管理できない要因により影響を受ける可能性があります。また、当社グループの連結売上収益に占めるトヨタグループに対する連結売上収益の割合は、当連結会計年度において68.3%を占めており、トヨタグループの事業戦略や購買政策等は、当社グループの財政状態及び経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループでは、強みである「幅広い商品群」と「ものづくり力」をベースとして、電動化製品を中心に新規顧客の開拓や市場多角化を積極的に推進することでリスクを最小限に抑えます。また、既存の顧客との関係を強化し、顧客満足度を向上させることで、長期かつ継続的なパートナーシップを築き、顧客のニーズや問題を早期に把握しています。

 

⑥ 価格競争

 当社グループの連結売上収益の大部分を占める自動車部品事業におけるグローバルでの価格競争は、大変厳しいものとなっています。得意先からの価格引き下げ要請や自動車メーカーによる部品の内製化、エレクトロニクス製品メーカーなど新しい競合先の台頭や既存の競合先間の提携などにより、価格競争力や製品の優位性が維持できない場合には、当社グループ製品に対する需要の低下及び製品価格の低下を通じて、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループは、「幅広い商品群」と「ものづくり力」を強みに、高品質で高い付加価値を有する自動車関連製品をグローバルで供給し続けることで優位性を確保するとともに、事業環境を見極めたグローバルでの効率的な事業体制の構築やIoTやAIを活かした生産性向上をはかりながら、製品開発センターにて競争力のある製品戦略立案と設計・品質・原価企画により、商品競争力・コスト競争力の強化をはかっています。

 

⑦ 新商品開発

 当社グループは、新しい価値を提供し豊かな社会づくりに貢献できるよう、未来を見据えた新商品開発に努めています。今後も、環境・燃費、安全・安心、快適・利便を追求した独創的な魅力ある新商品を開発できると考えていますが、最先端の新商品開発と販売のプロセスは、その性質から複雑かつ不確実なものであり、以下をはじめとする様々なリスクが含まれます。

(ⅰ)新商品や新技術への投資に必要な資金と資源を、今後十分充当できる保証はありません。

(ⅱ)長期的な投資と大量の資源投入が、成功する新商品又は新技術の創造へつながる保証はありません。

(ⅲ)当社グループが市場からの支持を獲得できる新商品又は新技術を正確に予想できるとは限らず、またこれらの商品の販売が成功する保証はありません。

(ⅳ)新たに開発した商品又は技術が、独自の知的財産権として保護される保証はありません。

(ⅴ)技術の急速な進歩と市場ニーズの変化により、当社グループの商品が時代遅れになる可能性があります。

(ⅵ)現在開発中の新技術の商品化遅れにより、市場の需要についていけなくなる可能性があります。

 上記のリスクをはじめとして、当社グループが業界と市場の変化を十分に予測できず、魅力ある新商品のタイムリーな開発と市場への投入ができない場合には、将来の成長と収益性を低下させ、財政状態及び経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループは、持続的な成長と持続可能な社会の実現に向け、電動化・知能化技術を中心に社会課題の解決に貢献するソリューション型商品の拡充に取り組んでいます。電動駆動ユニットや駐車支援システムなど、商品ラインアップの拡充に向けて、競争力が弱く、成長が望めない商品への開発リソーセスを制御・ソフト領域へシフトするとともに、デジタル開発による効率化をはかり、商品開発を加速していきます。また、あらゆる領域で自前主義にこだわらずパートナーとの技術連携を積極的に取り入れ、新規事業の開拓も加速していきます。

 魅力ある新商品開発に向けては、既存商品の強みであるアクチュエータや駆動ユニットの電動化といったハードウェアに、センシング技術とソフトウェアを組合せて統合的に制御することで知能化をはかり、付加価値の高い商品に作り上げていきます。製品開発センターの再編として、2025年4月には製品を支える要素部品開発を集約した要素製品本部を新設し、全製品本部との連携を加速させるとともに、開発リソーセスの柔軟・効果的な運用をはかっています。また、エネルギー関連分野にも注力し、カーボンニュートラルにつながるエネルギー領域の技術開発を積極的に進めます。

 これらの開発は、当社グループの持つ様々な技術を結集し、さらに機動的な社外連携も実施しながら、アイシンらしい魅力ある商品の開発を強力に進めていきます。

 

⑧ 海外事業展開

 当社グループは、世界の主要自動車メーカーの近くで多様なニーズに対応し、高い付加価値を有する製品を開発、提供できるよう、グローバルな供給体制を構築しています。当社グループが事業を展開している国又は地域における事業運営には以下のようなリスクが内在しており、これらの事象が発生した場合には当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

(ⅰ)予期しえない法律・規制、不利な影響を及ぼす租税制度の変更

(ⅱ)社会的共通資本(インフラ)が未整備なことによる当社グループの活動への悪影響

(ⅲ)不利な政治的又は経済的要因の発生

(ⅳ)人材の採用と確保の難しさ

(ⅴ)テロ、戦争、疾病その他の要因による社会的又は経済的な混乱

 当社グループは、国内グループ会社に加え、北中南米、欧州、中国、アセアン、インドを統括する各地域統括本部長が、グループに共通する経営上のリスクと国や地域によって異なるリスクの情報を共有することによって効果的な対策を推進し、グローバルな視点でリスクマネジメントを強化しています。また、当社グループ経営戦略本部に事業戦略部を設置し、地域毎の事業課題認識と上記リスクを踏まえた事業戦略・地域戦略策定を一元的に行い、当社グループが事業展開する国又は地域の経済・政治・社会的状況に加えて、事業に関連する各国の環境関連規制、製品の安全性・品質関連規制、輸出入関連規制の情報をタイムリーに収集し、適時適切な対応をとっています。

 近年の国家間の政治的、経済的、軍事的な緊張の高まりや急激な貿易政策変更に伴う関税や輸出入規制の変化を含む地政学・経済安全保障リスクの高まりに対しては、政策、法規制の変化等の動向などの情報をタイムリーに収集するとともに、全社横断的な会議体である「経済安全保障委員会」にて、安全保障貿易管理・機微技術管理を含めた経済安全保障上の必要な対応を検討・実施する体制を構築しています。

 

⑨ 事業投資

 当社グループは、グローバルでの事業拡大に向け、成長領域や需要の拡大が見込まれる事業への投資を行い、更なる企業価値の向上に努めています。しかしながら、投資判断時に想定していなかった水準で、市場環境や経営環境が悪化し、事業計画との乖離等により期待されるキャッシュ・フローが創出できない場合、有形固定資産の減損処理などにより、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。また、当社連結子会社において経営環境の著しい悪化や収益状況の悪化等が将来にわたって見込まれる場合、繰延税金資産の回収可能性の判断などに影響を及ぼす可能性があり、当社及び当社連結子会社の財政状態及び経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループでは、変化の激しい事業環境の中、事業ポートフォリオの変革を一層加速させています。具体的には、電動化・知能化を成長領域と位置づけ、ヒト・モノ・カネのリソーセスシフトを行いつつ、様々なお客様のニーズに柔軟に対応できるよう取り組みを強化しています。また、当社グループの中長期の方向性及びグループを含めた意思決定については、取締役会運用基準に則り、取締役会にて審議・決議するとともに経営会議、執行会議、各種機能会議等で、当社グループ各社の業績や重要な投資に対してのモニタリングを実施し、今後の方向性や業績改善のための対策を検討しています。

 

⑩ 製品の欠陥

 当社グループは、お客様に高い品質を確保した商品を提供するため、厳格な品質管理体制や品質管理基準に従い、グローバルで各種製品を製造しています。しかしながら、すべての製品について欠陥がなく、将来にリコールが発生しないという保証はありません。また、製造物責任賠償については保険に加入していますが、この保険が最終的に負担する賠償額を十分にカバーできるという保証はありません。大規模なリコールや製造物責任賠償につながるような製品の欠陥は、多額のコストや当社グループの評価に重大な影響を与え、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループは、徹底したTQM(Total Quality Management 総合的品質管理)活動を続け、グローバルで開発から生産にいたるまで、厳格な品質保証体制のもと、企画、製品設計、生産準備から量産にいたる各階段の節目管理を行い、お客様の信頼に応えるものづくりを実践し、お客様目線で、業務の品質にこだわる風土を醸成しています。また、以下の事項を強化し品質の更なる向上をはかっています。

・お客様の要求及び法規認証遵守状況の確認

・リスクの高い製品、工法の要素技術に対する審議

・海外を含めた仕入先の評価と体質改善

・重点領域の電動化に対応したDX活用による開発精度向上

・グループ・仕入先の製造現場における困り事の確認、及び解決による品質不適切事案の未然防止

 

⑪ 災害等による影響

 当社グループは、大規模地震や竜巻・豪雨等の自然災害、火災・爆発事故、労災や感染症等の人的災害の発生により、グループ会社に人的・物的被害が生じるリスクを想定しており、これらのリスクの発生による操業停止で、顧客への製品供給に支障をきたした場合、財政状態及び経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。特に当社グループの工場や取引先は、国内外に所在しており、これらの地域で大規模な災害等が発生した場合、生産・物流活動が停止、遅延する可能性があります。

 こうしたリスクに対処するために、当社グループすべてを対象としたリスクマネジメント委員会において、特にリソーセスを投入し取り組むべき重点リスクの審議・方向付けを行い、リスクへの対応力強化に取り組んでいます。甚大な被害が想定される自然災害に対しては、平時から緊急時の対応に関する実践要領をまとめた「危機管理ガイド」や、過去の被災経験を標準化したガイド「学び・気づき」に基づき、グループ一体となってリスクの未然防止及び被害最小化を推進しています。

 特に、昨年発生した大規模地震における新たな課題として深刻な被害を被った液状化に対して、地盤改良や地盤支持層までの杭を打設した構造とするなど適切な対策を定めアイシングループ共通のマニュアルに落とし込み、対策を実施しています。

 併せて、課題である昨今の線状降水帯による想定を超えた降雨被害においても、引き続きグループを挙げて対策に取り組んでいます。

 今後も従業員とその家族、顧客を始めとするすべてのステークホルダーの皆様の健康と安全確保を最優先に考え、様々なリスクに対し代替生産やバックアップなどあらゆる手段で顧客への製品・サービスの供給継続に努めていきます。

 

⑫ 気候変動と環境問題

 当社グループは全世界で事業を展開しているため、中長期にわたり様々な気候変動に関する影響を受けると認識し、「気候変動への対応」をマテリアリティの1つとして選定しました。また、TCFD提言に沿ってシナリオを分析し、その対応策を事業戦略に組み込み推進しています。主な脱炭素社会への移行リスクとして、

(ⅰ)低炭素原材料の需要が高まり必要な原材料の価格高騰による調達コストの増加

(ⅱ)炭素税や再生可能エネルギー導入などの政策によるコストの増加

(ⅲ)電動化の推進で電動車向け製品需要が拡大する一方、ガソリン車向け製品需要が減少

につながる可能性があります。

 こうしたリスクに対し当社グループは「生産」と「製品」の両軸で対応しています。

 生産面では、徹底した省エネ活動や革新生産技術開発によるエネルギー使用量削減、再生可能エネルギーなどのクリーンエネルギーの導入・切替を実施しています。

 製品面では、電動車向け製品の更なる進化、エネルギーと資源の循環・普及を進め、モビリティ・エネルギー技術融合による新価値創出を目指します。詳細については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)気候変動への対応(TCFD提言への取り組み)」をご参照ください。

 また、環境問題に対しては、環境取組基盤を強化し環境異常件数ゼロを継続するため、「排水基準の常時監視」「事故想定の緊急訓練」「『環境の鉄則』周知による未然防止意識の醸成」に取り組んでいます。

 

⑬ 知的財産権

 当社グループは、新価値を創造して提供する将来事業の優位性・安全性を確保するため、独自の技術やノウハウ等を創出し知的財産権を獲得するとともに、第三者の知的財産権侵害のリスク軽減に努めています。

 知的財産権の獲得について、特定の国及び地域においては、法的要件により、知的財産の完全な保護が不可能又は限定的にしか保護されない、あるいは保有する知的財産権が無効となるおそれがあり、結果として第三者による当社グループの知的財産権の不正使用あるいは権利侵害を防ぐための手段が有効に機能しない可能性があります。また、当社グループの製品は広範囲にわたる技術を利用しているため、将来的に知的財産権を侵害したとして第三者から訴訟を提起されることにより訴訟費用が発生する可能性があります。

 こうしたリスクに対処するために、当社グループでは、知的財産管理の専門部署を設け、関係部門と連携して、特許をはじめとする各種知的財産権により技術等の知的資本を戦略的に領域を定めて保護するとともに特許調査等を行い第三者の知的財産権の侵害予防に努めています。また、訴訟提起された場合には、侵害性や、対象権利の有効性、使用権有無等を迅速に判断して適切に対応しています。

 

⑭ 情報セキュリティ

 当社グループでは、日々巧妙化するサイバー攻撃等の脅威や「会社情報」「得意先・お客様情報」等の情報漏洩から守ることは、リスク管理上の重要課題と捉え、情報セキュリティの強化に取り組んでいます。しかしながら、サイバー攻撃を含む意図的な行為や過失等により、情報システム等に障害が生じる場合や、機密情報及び個人情報が外部に流出する可能性があります。また、サプライチェーン等の事業活動が一時的に中断する可能性があります。このような事象が発生した場合、当社グループの事業活動の停滞や社会的信用の低下等により、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループは、「アイシングループ情報セキュリティ基本方針」を基本に、お客様や取引先からお預かりした、又は当社グループが保有する事業活動に関わる情報資産は、当社グループの重要な資産であるとの認識に立ち、組織的かつ継続的に情報セキュリティ対策に取り組んでいます。また、当社グループ全体のサイバー攻撃や内部不正等のリスクから企業を守るため、セキュリティ専門組織「情報セキュリティ推進部」を設置し、当社グループ全体でのセキュリティ対策の実施とセキュリティ脆弱性情報の収集・展開・対応を行い、早期検知と迅速な対応に努めています。

 特に、昨今のサイバー攻撃の手口や内部不正による事案事例に対応するために、アイシングループ横並びの技術対策の展開や情報セキュリティ推進部でのアイシングループ集中の監視体制整備、全従業員に向けた教育・訓練を実施し、対策の強化に努めています。

 

⑮ コンプライアンス

 当社グループは、事業活動を遂行するうえで、コンプライアンスを基本においていますが、規制当局による措置その他の法的手続きに関するリスクを有しています。これらのリスクにより、当社グループに対して損害賠償請求や規制当局による金銭的な賦課を課され、又は事業の遂行に関する制約が加えられる可能性があります。また、社会情勢の変化、価値観や働き方などの多様化に伴い、ハラスメント、独占禁止法、輸出取引規制違反等のリスクが増加する可能性があります。当社グループが重大なコンプライアンス違反を起こした場合は、当社グループの社会的信用の失墜による事業への悪影響などにより、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループでは、アイシングループの指針となる「アイシングループサステナビリティ憲章」及びその具体的な行動基準となる「社会的責任を踏まえた行動指針」を策定しています。また、コンプライアンスに関わる方針・体制を決める会議体として、「企業行動倫理委員会」を設置し、アイシングループ13社の取締役社長、担当役員、常勤監査役が、法令遵守を含むコンプライアンスの活動状況及び当社グループの課題を確認すると共に、次年度の活動方針、実施事項を承認しています。さらに、活動を推進するのはあくまで人であると考え、ハラスメント、独占禁止法、輸出取引規制違反等に関する個別のコンプライアンス違反防止のための各種教育・啓蒙活動を継続的に行い、従業員一人ひとりのコンプライアンス意識向上に努めています。また、コンプライアンスリスクの高いグループ会社に対して、重点支援を行い、グループとしてのリスク低減をはかっています。一方で、問題の早期発見・是正に対しては、内部通報窓口を社内外に設置し、早期解決に努めています。

 

⑯ 人権

 当社グループは、グローバルでの事業遂行における基本として人権の尊重を捉えていますが、サプライチェーンを含む事業活動が人権へ影響を及ぼすリスクがあると認識しています。これらのリスクは顕在化や取組み不足により社会的信用の失墜につながり、当社グループの財政状態及び経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループでは、「アイシングループサステナビリティ憲章」や、国連指導原則に基づき「アイシングループ人権方針」を策定するとともに、サプライチェーンへは「仕入先サステナビリティガイドライン」を通じ人権方針への理解・支持を求めています。また、アイシングループ人権専門委員会において活動計画を承認しています。人権デュー・ディリジェンスでは外国人労働者に重点を置き、グループ・主要仕入先へのセルフチェックや勉強会、対話・現地確認を通じて必要な指導を行っています。さらに社内外相談窓口の設置、「責任ある外国人労働者受け入れプラットフォーム」の企業協働プログラムへの参画等、継続した取組みを推進しています。

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

 当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりです。

 

① 財政状態及び経営成績の状況

 当連結会計年度の売上収益については、円安の影響があったものの、パワートレインユニット販売台数の減少等により、前連結会計年度(4兆9,095億円)に比べ0.3%減の4兆8,961億円となりました。

 利益については、売上収益の減少や人・将来への投資があったものの、円安効果や企業体質改善努力・構造改革の成果により、営業利益は品質関連費用を計上した前連結会計年度(1,433億円)に比べ41.5%増の2,029億円、税引前利益は前連結会計年度(1,498億円)に比べ15.7%増の1,734億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は前連結会計年度(908億円)に比べ18.5%増の1,075億円となりました。

 また、当連結会計年度末の資産については、現金及び現金同等物、非流動資産のその他の金融資産の減少等により、前連結会計年度末(4兆6,430億円)に比べ7.7%減の4兆2,846億円となりました。負債については、社債及び借入金、繰延税金負債の減少等により、前連結会計年度末(2兆2,409億円)に比べ8.5%減の2兆513億円となりました。資本については、当期利益の計上があるものの、有価証券評価差額金、自己株式の取得、剰余金の配当による減少等により、前連結会計年度末(2兆4,020億円)に比べ7.0%減の2兆2,332億円となりました。

 

 セグメント別の業績は、次のとおりです。

 

(ⅰ)日本

 売上収益については、パワートレインユニット販売台数の減少等により、前連結会計年度(3兆1,952億円)に比べ1.8%減の3兆1,393億円となりました。営業利益については、売上収益の減少や人・将来への投資があったものの、円安効果や企業体質改善努力・構造改革の成果により、品質関連費用を計上した前連結会計年度(626億円)に比べ17.7%増の736億円となりました。

 

(ⅱ)北米

 売上収益については、円安の影響や車両生産台数の増加により、前連結会計年度(1兆5億円)に比べ8.6%増の1兆869億円となりました。営業利益については、品質関連費用を計上した前連結会計年度(営業損失251億円)に比べ、ハイブリッドトランスミッション生産台数の増加等により、544億円増益の営業利益293億円となりました。

 

(ⅲ)欧州

 売上収益については、パワートレインユニット販売台数の減少により、前連結会計年度(3,758億円)に比べ21.3%減の2,959億円となりました。営業利益については、売上収益の減少等により、前連結会計年度(77億円)に比べ43.3%減の43億円となりました。

 

(ⅳ)中国

 売上収益については、車両生産台数の減少等により、前連結会計年度(6,353億円)に比べ2.6%減の6,189億円となりました。営業利益については、売上収益の減少により、前連結会計年度(364億円)に比べ11.2%減の323億円となりました。

 

(ⅴ)アセアン・インド

 売上収益については、円安の影響や北米向け輸出の増加により、前連結会計年度(5,001億円)に比べ6.0%増の5,301億円となりました。営業利益については、円安効果や企業体質改善努力の成果により、前連結会計年度(561億円)に比べ5.7%増の593億円となりました。

 

(注)各セグメントの売上収益の金額は、外部顧客への売上収益に加え、セグメント間の内部売上収益も含めた金額としています。

 

② キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度におけるキャッシュ・フローの状況について、現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)の残高は、営業活動により3,398億円の増加、投資活動により1,469億円の減少、財務活動により2,702億円の減少、現金及び現金同等物に係る換算差額により16億円の増加、売却目的で保有する資産に含まれる現金及び現金同等物の増減額により1億円の増加の結果、当連結会計年度末には4,516億円となり、前連結会計年度末(5,271億円)に比べ755億円(14.3%)減少となりました。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 営業活動により得られた資金は、前連結会計年度(4,997億円)に比べ1,598億円(32.0%)減少し、3,398億円となりました。これは、営業債権及びその他の債権の増減額が1,282億円増加したことにより資金の減少があったこと等によります。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 投資活動により使用した資金は、前連結会計年度(931億円)に比べ537億円(57.7%)増加し、1,469億円となりました。これは、定期預金等の増減額が220億円減少したこと、持分法で会計処理されている投資の売却による収入が399億円増加したことにより使用した資金の減少があったものの、投資の売却及び償還による収入が1,134億円減少したことにより使用した資金の増加があったこと等によります。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 財務活動により使用した資金は、前連結会計年度(2,116億円)に比べ585億円(27.6%)増加し、2,702億円となりました。これは、借入とその返済による収支が1,408億円増加したことにより使用した資金の減少があったものの、社債の償還による支出が1,250億円増加したこと、自己株式の取得による支出が839億円増加したことにより使用した資金の増加があったこと等によります。

 

③ 生産、受注及び販売の実績

(ⅰ)生産実績

 当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

生産高(百万円)

前期比増減率(%)

日本

3,135,829

△2.1

北米

1,093,598

8.5

欧州

293,146

△21.6

中国

616,458

△2.4

アセアン・インド

529,788

6.0

その他

37,995

△10.7

合計

5,706,817

△0.9

(注1) 金額は販売価格によっており、セグメント間の内部取引消去前の数値によっています。

(注2) 上記金額には、外部仕入先等からの仕入高が含まれています。

 

(ⅱ)受注実績

 主要な事業である自動車部品製造・販売について、当社グループのすべてのセグメントは、トヨタ自動車㈱をはじめとした大手自動車メーカーより、約3ヶ月前後の予約的発注指示を受け、生産能力を勘案し生産計画を立て、生産を行っています。

 

(ⅲ)販売実績

 当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

販売高(百万円)

前期比増減率(%)

日本

3,139,341

△1.8

北米

1,086,928

8.6

欧州

295,929

△21.3

中国

618,902

△2.6

アセアン・インド

530,184

6.0

その他

37,948

△11.0

合計

5,709,235

△0.7

(注1) 金額は販売価格によっており、セグメント間の内部取引消去前の数値によっています。

(注2) 主な相手先の販売実績及び総販売実績に対する割合は、次のとおりです。

なお、割合はセグメント間の内部取引消去後の総販売実績に対して記載しています。

相手先

前連結会計年度

当連結会計年度

販売高(百万円)

割合(%)

販売高(百万円)

割合(%)

トヨタ自動車㈱

1,406,717

28.7

1,426,743

29.1

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。

 なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において判断したものです。

 

① 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 当社グループの連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和51年大蔵省令第28号)第312条の規定により、IFRS会計基準(国際会計基準)に準拠して作成しています。連結財務諸表の作成において、経営者は、会計方針の適用並びに資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす判断、見積り及び仮定の設定を行っています。実際の業績はこれらの見積りとは異なる場合があります。

 見積り及びその基礎となる仮定は継続して見直しています。会計上の見積りの見直しによる影響は、その見積りを見直した会計期間及び将来の会計期間において認識しています。

 上記のうち、当社グループの連結財務諸表で認識する金額に重要な影響を与える見積り及び仮定については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 2.作成の基礎 (4)重要な会計上の判断、見積り及び仮定」に記載しています。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

② 経営成績の分析

 当連結会計年度の売上収益は前連結会計年度に比べ0.3%減の4兆8,961億円、営業利益は41.5%増の2,029億円、税引前利益は15.7%増の1,734億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は18.5%増の1,075億円となりました。

 以下、連結損益計算書に重要な影響を与えた要因について分析します。

 

(ⅰ)売上収益

 当連結会計年度の売上収益4兆8,961億円を事業の種類ごとに見ると、自動車部品事業では前連結会計年度に比べ0.0%増の4兆7,757億円となりました。その事業ごとの内訳としては、パワートレイン関連では1.6%減の2兆6,801億円、走行安全関連では2.6%増の1兆144億円、車体関連では0.1%減の9,378億円、LBS関連他では16.1%増の1,432億円となりました。また、エナジーソリューション関連他では10.8%減の1,203億円となりました。

 

(ⅱ)売上原価、販売費及び一般管理費

 売上原価は、前連結会計年度(4兆3,589億円)に比べ0.6%減の4兆3,326億円となり、売上収益に対する割合は88.8%から88.5%に低下しました。これは、企業体質改善努力により変動経費が低下したことなどによります。

 販売費及び一般管理費は、製品保証費の減少などにより、前連結会計年度(4,177億円)に比べ10.2%減の3,750億円となり、売上収益に対する割合は8.5%から7.7%に低下しました。

 

(ⅲ)その他の収益、その他の費用

 その他の収益は、固定資産売却益の増加などにより、前連結会計年度(287億円)に比べ25.5%増の361億円となりました。

 その他の費用は、前連結会計年度(183億円)に比べ17.7%増の215億円となりました。

 

(ⅳ)金融収益、金融費用

 金融収益は、前連結会計年度(254億円)に比べ19.7%増の304億円となりました。

 金融費用は、為替差損の増加などにより、前連結会計年度(105億円)に比べ368.8%増の494億円となりました。

 

(ⅴ)持分法による投資損益、持分法による投資の売却損益

 持分法による投資損益は、持分法投資に対する減損損失の減少などにより、前連結会計年度(持分法による投資損失84億円)に比べ、持分法による投資利益が140億円増加し、56億円となりました。

 持分法による投資の売却損益は、持分法適用関連会社である株式会社エクセディ及びエクセディ・アメリカ株式会社について、当社グループが保有する全株式を売却したことにより、持分法による投資の売却損失162億円となりました。

 

(ⅵ)法人所得税費用

 当連結会計年度の法人所得税費用は、前連結会計年度(370億円)に比べ32.8%増加し、492億円となりました。

 

(ⅶ)非支配持分に帰属する当期利益

 当連結会計年度の非支配持分に帰属する当期利益は、前連結会計年度(219億円)に比べ24.4%減少し、166億円となりました。

 

(ⅷ)親会社の所有者に帰属する当期利益

 当連結会計年度の親会社の所有者に帰属する当期利益は、前連結会計年度(908億円)に比べ18.5%増加し、1,075億円となり、基本的1株当たり当期利益も112円31銭から137円81銭に増加しました。

 

③ 資本の財源及び資金の流動性

(ⅰ)キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度のキャッシュ・フローの分析については、「(1)経営成績等の状況の概要 ② キャッシュ・フローの状況」に記載しています。

 

(ⅱ)資金需要

 当社グループの資金需要の主なものは、BEV商材、ブレーキ、安心快適エントリーを中心とした成長領域への設備投資や研究開発投資です。

 今後の持続的な成長のために必要な設備投資及び研究開発投資による資金需要が見込まれる場合には、長期資金の調達を実行する可能性があります。

 

(ⅲ)財務戦略

 当社グループは、企業価値の最大化を目標として、すべてのステークホルダーとの良好な関係を築き、長期安定的な成長と発展を目指しています。

 当社グループの資本政策は、「財務の安全性」と「資本の効率性」のバランスをとることで、常に低コストで資金調達をできる状態に保ち、企業価値の向上を目指すことを基本方針としています。具体的には、キャピタリゼーション比率(注1)を指標として用い、当該比率が概ね25%~30%となることが最適な資本構成であると考えています。

 「財務の安全性」については、格付会社による評価をひとつの目安とし、高い信用格付を維持することにより、低コストでの資金調達がいつでも可能になるよう努めています。一方、「資本の効率性」については、格付が維持できる範囲で、負債による資金調達を優先し、資本の規模を抑制することで、全体の資本コストの低減をはかっています。また、キャッシュ・マネジメント・サービス(CMS)(注2)を導入することで、連結ベースでの財務戦略や当社グループ内での資金の有効活用を実現しています。

(注1) 有利子負債と資本(純資産)のバランスを示す指標です。

(有利子負債 /(有利子負債+資本合計))

(注2) グループ企業の資金を親会社や中核会社が同一銀行内に専用口座を設置して集中管理することにより、効率的な連結運営や資金運用をする手法、又はその仕組みを指します。

 

(ⅳ)資金調達

 当社は、安定的かつ低コストで資金を確保することを基本方針としています。

 資金調達にあたっては、平均残存期間の維持及び返済年限の平準化に資する調達年限を設定し、市場動向等を勘案した最適な資金調達手段を選択・実行しています。また、当社は高い信用格付けを維持するとともに、金融機関や投資家等と幅広く良好な関係を構築しており、競争力のある調達コストの維持・追求に努めています。

 当連結会計年度末の社債及び借入金残高6,298億円のうち、2,525億円はハイブリッド社債とハイブリッドローンで調達しており、格付会社より残高の50%である1,262億円について資本性の認定を受けています。

 当社では、経営を取り巻く様々なリスクに対応できるよう、現預金だけでなく、コミットメントライン契約を締結するなど、十分な流動性の確保に努めています。

 

④ 経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標については、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)目標とする経営指標」に記載のとおりです。当連結会計年度においては、既存事業資産の圧縮やグローバルでの在庫低減に取り組み、営業利益率は4.1%、ROIC(投下資本利益率)は7.1%となりました。

 当目標の達成に向けた取り組みについては、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (3)中長期的な会社の経営戦略及び会社の対処すべき課題」に記載のとおりです。

 

5 【重要な契約等】

 該当事項はありません。

 

6 【研究開発活動】

 「“移動”に感動を、未来に笑顔を。」を経営理念に掲げる当社グループは、事業を通じ技術力やものづくり力を結集することで、社会課題の解決に貢献し持続可能な社会の実現を目指しています。

 カーボンニュートラルの達成に向けた電動車向け製品の開発では、地域によって異なるお客様のニーズやエネルギー事情等に幅広く対応していくため、eAxle・プラグインハイブリッド・ハイブリッドの電動ユニットをフルラインアップで提供できる開発体制を整えています。eAxleについては、最重要製品と位置づけ、2022年に第1世代eAxleの量産開始以降、多様化する顧客仕様への対応に加え、更なる「高効率化」と「小型化」を低コストで実現するための新製品開発に取り組んでいます。また、自動車の電動化により車両構造が大きく変わることを機会と捉え、複数の部品や機能を1つにまとめたXin1のeAxle、熱マネジメントデバイス、電池骨格やギガキャスト部品に加え、空力デバイス、回生協調ブレーキシステム、アクティブリアステアリングシステムなど「走る」「曲がる」「止まる」の基本性能向上に貢献する技術開発を車両全体目線で統合的に進めています。

 “移動”に感動を提供する安心・快適・利便なモビリティの実現では、ドアシステム、ドライバーモニターシステム、自動駐車システムなどこれまで培ってきたセンシング技術や多彩なアクチュエーション技術をベースに、周辺監視技術、車室内センシング技術を進化させ、人工知能技術の活用など高度な車室内外の状態認識による、「ストレスフリーエントリー」「快適移動空間」のソリューション提供に取り組んでいきます。

 自動車の知能化や新たな価値の創造への取り組みでは、当社グループが提供する幅広い製品に関するハードウェア技術と、周辺監視技術、電子制御技術、ナビゲーション技術などこれまで培ってきたソフトウェア技術を更に進化させ、ソフトウェアで様々な機能を統合制御することにより「電費・安全・快適・走り」を追求し、新たな自動車の価値向上に貢献していきます。また、カーナビゲーションシステムで培った位置情報活用・分析技術、プラットフォーム技術、ソフトウェア開発力を活用し、物流支援、道路維持管理、地域移動支援など移動に関するソリューションをソフトウェアやサービスとして迅速に提供していくことで、様々な社会課題の解決に貢献していきます。

 エナジーソリューション関連では、これまでのエネファームやガスコジェネなどの開発実績をベースに、新たな価値創造に取り組むとともに、各大学や研究機関と連携し、水素を活用する燃料電池関連の技術開発やクリーンエネルギーを生み出すペロブスカイト太陽電池などの開発を進めています。

 当社グループの研究開発体制は、日本セグメントに所在する当社及び主要子会社が研究開発活動の中心を担っており、海外研究開発拠点及び先端研究機関と連携し、グローバルな研究開発活動を展開しています。

 なお、当連結会計年度の研究開発費は、電動化及び知能化による商品価値向上を中心とした成長領域への研究開発活動を行った結果、総額2,368億円となりました。