第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末(2024年3月31日)現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)グループビジョン「At your side 2030」

 ブラザーグループは、1908年にミシンの修理業からはじまり、115年以上にわたって、時代や環境の変化に合わせ自らを変革し、お客様のニーズにあった価値を提供し続けてきました。昨今、デジタル化や自動化などの加速によるお客様の購買行動の変化、新型コロナウイルス感染症による社会変容、地政学リスクの顕在化など、ブラザーグループを取り巻く事業環境も大きく、かつ急速に変化しています。

 こうした変化の激しい環境に対応しながら、持続可能な成長を実現していくために、2030年に向けたブラザーグループビジョン「At your side 2030」を新たに策定し、2022年度よりスタートしました。

 

 「At your side 2030」は、2030年に向けてお客様にどのような価値を提供していくのか考え、ブラザーの存在意義を再定義した「あり続けたい姿」を起点に、どのような方法で価値を提供するのか(「価値の提供方法」)、何を実現するのか(「注力領域」)を示しました。

 

 

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1)あり続けたい姿

 ブラザーが何のために存在し、どのようにあり続けたいかについては、「世界中の“あなた”の生産性と創造性をすぐそばで支え、社会の発展と地球の未来に貢献する」と定義しました。ブラザーは、世界中に存在する、お客様をはじめとした、価値創出を行い進歩し続けたいと願うすべての人々を“あなた”と位置付け、その人々の願いを叶えるための存在であり続けたいと考えます。そして、社会の持続的な発展の実現に貢献しながら、地球環境への責任を果たしていきます。

 

2)価値の提供方法

 価値の提供方法については、「多様な独自技術とグローバルネットワークを強みに、お客様の成功へのボトルネックを見つけ解消する」と定義しました。ブラザーグループは創業以来、さまざまな事業を生み出し、グローバルに展開してきました。40以上の国と地域に広がる生産・販売・サービス・開発拠点のネットワークをベースとするグローバル複合事業企業ならではの強みを生かし、お客様や取引先など外部からの学びを得ながら、国や地域、事業を越えて優れた価値を迅速に提供します。また、お客様のバリューチェーンに向き合い、ボトルネックとなるものを見つけ、解消します。さらにモノづくりにとどまらないデジタル技術の活用などの“コト”も含めて、お客様への価値提供の幅を広げます。

 

3)注力領域

 上記の価値を発揮することにより、産業用領域とプリンティング領域を2030年までの注力領域と位置づけ、特に強化していきます。産業用領域での飛躍と、プリンティング領域の変容により事業ポートフォリオを変革し、複合事業体として成長し続けます。産業用領域は、ブラザーの強みが活きるビジネス領域において、生産性の向上に加え、働く人々や地球環境の課題を解決することで、ベストパートナーとしての信頼を確かなものにします。プリンティング領域は、オフィスワークやプリンティングを取り巻く環境が大きく変わる中にあっても、働く人々の期待に応え続けるとともに、これまでの事業の枠を超えて新たな柱を築きます。

 

 

 

 

(2)中長期的な経営戦略

◆中期戦略 「CS B2024」(2022~2024年度)

 2022年、ブラザーグループは、グループビジョン「At your side 2030」からのバックキャストで中期戦略「CS B2024」を策定し、ビジョンの実現に向けて最初の3年間に取り組むテーマを定めました。同時に、ブラザーグループが社会の発展と地球の未来に貢献するため、解決すべき重要な社会課題として5つのマテリアリティを特定し、マテリアリティに関連したサステナビリティ目標を設定しました。

 「CS B2024」では、「あたらしい未来へのテイクオフ」をテーマに、産業用領域の飛躍や、プリンティング領域の変容などの事業ポートフォリオの変革と、持続可能な未来に向けた経営基盤の変革を目指しています。

 

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①産業用領域の飛躍に向けて

・産業機器事業の大幅成長

工作機械「SPEEDIO」の高い生産性と環境性能に磨きをかけ、お客様のモノづくりの競争力強化とCO₂排出削減などの持続可能性に貢献し、産業機器事業において大幅に成長することを目指しています。

2023年度は、主に中国における景気後退の影響を受け、自動車・一般機械市場向けの設備投資需要が低迷しましたが、厳しい環境下においても成長のための基盤構築を進めています。販売面では、重点エリアである中国・インド・日本において、新拠点開設や既存拠点へのショールーム併設といった営業・サービス基盤の強化を進め、製造面では、市場成長が期待できるインドにおいて新工場の建設を開始し、2024年12月に稼働予定です。製品面においても、2022年度に新規投入した同時5軸加工機*1や多面加工機*2に加え、2023年度には横形マシニングセンタを投入するなどラインアップを拡充し、大型ワークや複雑形状の加工が可能となりました。30番立形マシニングセンタの枠を超えた価値提供を通じ、近接領域への積極的な事業拡大を図ります。

 

・ドミノ事業の成長加速

トレーサビリティーへのニーズが一層高まる中、ドミノ事業の成長を加速させるため、新製品を継続的に開発・投入し製品ラインアップの強化を進めています。具体的には、ラベルレスでの外装箱への直接印字や、高解像度での高速印字を実現する製品に加え、環境に配慮したインクなど、多様化する顧客ニーズにお応えしています。また、製品本体のみならず、印字結果を画像診断する周辺機器や、印字データの基幹システムへの統合を自動化するソリューションの提供にも注力しています。お客様との関係強化を通じ顧客体験価値を高めることで成長を加速させるとともに、長期的な競争力獲得に向けた産業用インクジェット技術基盤の強化を図ります。

 

②プリンティング領域の変容に向けて

・P&S事業のビジネスモデル変革の加速

厳しい市場環境においても既存ビジネスの一層の収益力強化に努めるとともに、契約型をはじめとしたお客様とつながるビジネスモデルへの転換加速、業務用ラベリング事業拡大など“次”に向けた変革を推進しています。2023年度は、レーザー複合機・プリンターにおいて競争力のある新製品を投入しました。インクジェット複合機については、新興国において収益性向上が期待できるインクタンクモデルなどの販売拡大に注力しています。また、つながるビジネスモデルへの転換に向けて、欧米においてBtoB向けのMPSサービスやBtoC向けのサブスクリプションサービスを強化しているほか、中国に続き日本においても必要枚数分をモバイルアプリ等でチャージして印刷するチャージ式プリンターを導入するなど、各地域でさまざまな施策を実施しています。つながることでお客様への提供価値を向上するとともに、消耗品の純正率向上による収益確保や、回収・リサイクル促進によるサステナビリティへの貢献を目指します。

③未来の事業ポートフォリオに向けて

・マテリアリティ解決につながる新規事業の創出

ブラザーの強みをさらに進化させることで、「働く人々の生産性と創造性を支える」ことや、「地球の未来に貢献する」ための事業機会を広く探索しています。2023年度より、水素利活用を推進するブラザーの取り組みを「PureEne(ピュアエネ)」と称し活動を強化しています。その一環として、「水素燃料電池・蓄電池ハイブリッドUPS」の出荷を開始し、成田国際空港において非常時のバックアップ電源として採用されました。

 

・インクジェットを核としたプリンティング技術の進化、応用範囲の拡大

産業用領域、民生用領域の双方にわたって、インクジェットを核としたプリンティング技術の進化や応用範囲の拡大を進めています。2023年度は、P&S事業において、長尺プリントが可能なロール紙対応のA3インクジェットプリンターを投入しました。また、P&H事業の新規商品として、P&S事業との協業のもとロール状の布を印刷できる布プリンターや、布以外にも転写できオリジナルグッズを手軽に作成できる昇華型熱転写プリンターを投入するなど、事業の枠を超えて価値提供の拡大に努めています。

 

④持続可能な未来に向けた経営基盤の変革

・カーボンニュートラルに向けた環境への取り組み

「ブラザーグループ 環境ビジョン2050」で掲げるCO₂排出削減、資源循環、生物多様性保全目標の達成に向けて取り組みを推進しています。特に、2050年までにブラザーグループの事業活動におけるカーボンニュートラルを実現するため、さまざまな活動を通じてCO₂排出削減に取り組んでいます。詳細は、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」をご参照下さい。

 

・DXの推進によるお客様とのつながりの強化・拡大

多くのお客様とつながり、今まで以上に継続的な価値提供を果たしていくために、ブラザーでは「ビジネスDX」「オペレーショナルDX」「DX基盤構築」の3つの柱のもと、DXを推進しています。その中で、DX人財育成に注力しており、ブラザー工業においては、2022年度以降、デジタル技術のエキスパートとして各事業のビジネスDXを牽引する「DXコア人財」、各部門における業務の効率化・デジタル化を牽引する「デジタル活用推進リーダー」の育成に加え、全従業員を対象にDXの基礎知識習得のための教育を実施しています。DX人財育成は、お客様への価値提供の拡大のみならず、従業員の成長に寄与し、ひいては従業員エンゲージメントの向上にもつながると考えています。

 

・すべての変革の礎

変革の礎として、ブラザーグループ自らの「生産性と創造性」を高め続けるため、ブラザー独自のマネジメントシステム「ブラザー・バリュー・チェーン・マネジメント(BVCM)*3」の進化、従業員のチャレンジ行動促進、従業員エンゲージメントの向上に取り組んでいます。

「BVCMの進化」については、基本プロセスの高度化・高速化とともに、循環型経済に向け、製品の回収・リサイクルの体制構築を推進しています。また、産業用領域においては、開発段階にお客様からフィードバックをいただき、迅速に製品改良する取り組みを進めています。

 

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従業員エンゲージメントについては、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」をご参照下さい。

 

 

◆マテリアリティとサステナビリティ目標

 「At your side 2030」であり続けたい姿として掲げた「社会の発展と地球の未来に貢献」するため、5つのマテリアリティを特定しました。マテリアリティ解決に向けたサステナビリティ目標を設定し、経営課題として全社横断で活動を推進しています。

 

マテリアリティ

2024年度目標

2023年度実績

社会

の発展

人々の

価値創出の
支援

産業機器事業におけるお客様の生産性向上、CO₂排出削減に貢献するための製品性能の優位性確保

・2022年度以降、高い環境性能と生産性を誇る、SPEEDIOシリーズの新製品計10機種を発売

P&S事業におけるお客様のLTV*4向上に向けたお客様と直接「つながる」ための基盤の構築

・各地域におけるサブスクリプションサービスをはじめとするお客様と双方向でつながるための取り組みを強化

多様な人々が

活躍できる
社会の実現

グローバルベースでの従業員エンゲージメントの可視化と調査スコアの向上

・ブラザー工業において2022年度より従業員エンゲージメント調査を開始。2023年度は調査対象をグループ全体に拡大

海外拠点責任者の現地登用を促進するための人財育成及びガバナンスの強化

・海外主要拠点における人事施策の現状把握と課題抽出を元にした幹部人財の育成推進・サクセッションプランの実施

管理職の健全なジェンダーバランスに向けたパイプラインの強化及び多様な働き方を実現する環境整備*5

・より柔軟な働き方を実現する人事制度の追加・改定*5

・女性管理職候補育成プログラムの継続実施*5

・多様な働き方を促進するための健康や介護に関する理解促進プログラムの実施*5

責任ある

バリュー

チェーンの

追求

サプライヤーに対する人権リスク評価の拡大

・一次サプライヤーに対するサプライチェーン人権デューデリジェンスにおいて、対象事業・サプライヤーの拡大、及び実効性担保

・責任ある鉱物調達のための調査を継続実施

RBA*6 ゴールド認証を取得したグループ製造拠点数 3拠点

・2022年度のP&Sのベトナム工場*7でのRBAゴールド認証取得に続き、2023年度はP&Sの中国深圳工場*8、及びフィリピン工場*9においてRBAプラチナ認証を取得し、目標を前倒しで達成。認証の維持・更新に向け活動を継続

地球

の未来

CO₂排出削減

[スコープ1,2*10] 2015年度比47%削減
(2022~2024年度の3年間で9%を削減)
参考)2030年度目標:2015年度比65%削減

[スコープ3*10] 自助努力での15万t削減対策の実施
参考)2030年度目標:2015年度比30%削減

・[スコープ1,2]電力使用の効率化や太陽光発電の導入などの省エネ・創エネ施策を実施し、2023年度の削減目標を達成見込み

・[スコープ3]新製品の省エネ性向上を中心とした施策を計画通り実施するとともに、2024年度の追加施策を検討

資源循環

製品に投入する新規資源率 81%以下

参考)2030年度目標:65%以下

・一部製品におけるリサイクル材使用やリサイクル可能な緩衝材への変更などの施策を実施し、2023年度目標を達成見込み

 

 

◆財務方針

 ブラザーグループでは、長期的かつ継続的な企業価値の向上を目指しており、これは売上・利益の成長だけではなく、サステナビリティへの貢献を果たすことによって実現すると考えています。中期戦略「CS B2024」では、資本を有効活用し、事業継続に必要な通常投資に加えて、「事業ポートフォリオの変革」や「持続可能な未来に向けた経営基盤の変革」を目的とする「未来に向けた先行投資」を積極的に実施しています。また、利益成長に加えて、資産効率の向上や資本コストの最適化などを進め、ROEを向上させるとともに、安定的な株主還元につなげます。加えて、マテリアリティ解決に向けた取り組みなどサステナビリティを重視した経営を推進することで、長期にわたる株主との信頼を醸成します。

 

・資本政策

 資本政策については、株主還元を強化しつつ、事業成長から創出される営業キャッシュ・フローと有利子負債を活用し、通常投資に加え、未来に向けた先行投資を積極的に実施します。現時点では、総投資枠2,300億円(未来に向けた先行投資:1,500億円、通常投資:800億円)のうち、約1,000億円の投資を実施し、概ね計画通り進捗しています。

 

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・未来に向けた先行投資

「事業ポートフォリオの変革」と、「持続可能な未来に向けた経営基盤の変革」を実現するため、総額1,500億円の先行投資枠を設定しています。この投資枠を活用して、「事業ポートフォリオの変革」に向けては、産業用領域やインクジェット技術に関わる各種の機能、拠点の強化、M&A等の戦略投資を行っていきます。また、「持続可能な未来に向けた経営基盤の変革」に向けては、環境への取り組みやサプライチェーンの強靭化などを進めています。

 

テーマ

内容

金額

事業ポートフォリオの変革

・産業用領域の飛躍に向けて

・プリンティング領域の変容に向けて

・産業用領域の販売・サービス拠点増強

・マシナリー・FA領域の生産能力強化

・インクジェット開発・生産拠点拡張

500億円

・未来の事業ポートフォリオに向けて

・M&A等の戦略投資枠

300億円

持続可能な未来に向けた経営基盤の変革

・環境への取り組み

・お客様とのつながりの強化・拡大

・製品の地産地消及びサーキュラーエコノミーの実現に向けた工場投資

・グループ拠点での創エネ設備導入

・環境配慮型の新社屋の建設

・サプライチェーン強靭化

・DX投資

700億円

合計

1,500億円

 

 

未来に向けた先行投資の進捗は以下の通りです。

 

テーマ

詳細

スケジュール

総投資額

(2023年度以外の投資含む)

事業ポートフォリオの変革

当社星崎工場(インクジェットヘッド及び関連部品などの生産施設)に

新工場棟完成

・産業用領域の飛躍に向けた、産業用インクジェット生産基盤の強化のため建設

・BCP対策として、ブラザーグループ初の免震構造を採用

2023年1月完成

約100億円

フィリピン工場(インクジェットプリンター・複合機などの生産施設)に新工場棟完成

・プリンティングの変容に向けて、さらなる製品販売の増加に備えるために建設

・サプライチェーン強靭化のため、部品や製品を保管できる倉庫機能も兼ね備えるなど、BCP対策を強化

2024年1月完成

約80億円

インドに産業機器事業の新工場を建設

・産業用領域の飛躍に向けて、工作機械の生産工場をインド南部のベンガルール市近郊に建設

・今後成長が期待されるインド市場のお客様に、より短納期で製品をお届けできる体制を構築

2024年9月完成
予定

約25億円

ニッセイの新工場棟完成

・マシナリー・FA領域の生産能力強化のため、ニッセイの工場敷地内(愛知県安城市)へ新工場棟を建設

・FA・ロボット向けの売上拡大に向け、歯車の生産能力を確保

2024年3月完成

約16億円

当社港工場に新倉庫の建設を決定

・産業用領域でのビジネス拡大に伴う製品や部品の保管需要の増加に対応するため、港工場(愛知県名古屋市)の敷地内へ新倉庫を建設

・BCP対策として、床面を高くすることで津波のリスクに対応

2024年7月着工
予定

2026年1月完成
予定

約45億円

持続可能な未来に向けた
経営基盤の変革

当社瑞穂工場の新社屋を建設

・ブラザーグループの環境対応フラッグシップ施設として、最新鋭の省エネ設備の導入や太陽光パネルの設置、敷地内の緑化を実施

・従業員やステークホルダーとの活発なコミュニケーションを誘発し、新技術や新事業を生み出すことを目指す

2026年11月完成
予定

約450億円

各拠点における

太陽光パネルの設置

・環境への取り組みとして、各拠点へ太陽光パネルを設置

・稼働に必要な電力の一部を再生エネルギーでまかなうことで、「ブラザーグループ 環境ビジョン2050」で掲げるカーボンニュートラルの実現に貢献

-

約15億円

当社、亜州子会社、
米州統括会社の

基幹システムを刷新

・DX投資として、基幹システム及び業務プロセスを刷新

-

約30億円

 

 

・株主還元

「CS B2024」期間中は、未来に向けた先行投資を積極的に行いながら、必要な内部留保の確保、キャッシュ・フローの状況などを総合的に勘案し、安定的かつ継続的な株主還元を実施します。具体的には、1株当たり68円の配当を下限の水準とし、業績状況等に応じて配当水準の引き上げを含めた追加的な株主還元を検討します。加えて、自己株式の取得についても機動的に実施していきます。

 

・資本コストについての認識

〇資本コスト

株主資本コストは約7%~10%と認識しています。CAPMをベースに計算していますが計算のタイミングや前提の違いにより変動があるため、レンジで捉えています。今後については有利子負債も活用しながら、事業ポートフォリオの変革を進め、株主資本コストの低減を図っていきます。

〇資本収益性指標

ROEは過去5年間(2019年度~2023年度)の平均で8.1%です。事業成長により健全にROEを向上させることを基本方針とし、中長期的に資本コストを上回るROE10%を掲げており、継続的にエクイティスプレッドを確保できる水準のROEを目指します。

 

〇市場評価

PBRは過去5年間(2019年度~2023年度)の平均は1.05倍、2023年度末時点では約1.08倍となりました。収益力の向上や成長投資の継続による事業ポートフォリオ変革の推進により、PBRのさらなる向上を図ります。

 

今後も中期戦略「CS B2024」の財務方針に従い、ステークホルダーの皆さまの期待に応え、持続的な成長と企業価値向上を実現するために、資本コスト・資本収益性・株価を意識した経営をより一層進化させていきます。

 

 

◆業績目標

 「At your side 2030」の最終年度である2030年度に向けて、2024年度目標は、売上収益8,000億円、営業利益率10%以上、ROEは資本コストを上回る10%以上を掲げています(為替前提は米ドル:108円、ユーロ:125円)。期間中に為替が急激に円安に推移したことなどを受け、売上収益については既に目標を達成しており、2024年度は8,800億円を予想しています。営業利益率、ROEについては、引き続き10%以上を目指します。

 

 ブラザーグループは、「At your side 2030」の実現に向けて、「CS B2024」で掲げた目標達成を目指し、より一層スピードを上げてあらゆる変革に取り組んでいきます。

 

 

*1:同時に5軸(X、Y、Zの直線3軸及び傾斜軸と回転軸の2軸)の加工制御が可能な工作機械

*2:大型の傾斜ロータリーテーブルが標準搭載された工作機械

*3:お客様を中心にお客様への価値提供の流れを定義したブラザー独自のマネジメントシステム

*4:Life Time Valueの略称。顧客生涯価値。製品・サービス利用期間全体におけるお客様にとっての価値及び企業にもたらされる収益

*5:ブラザー工業株式会社において実施

*6:Responsible Business Allianceの略称。製造業のサプライチェーンにおいて、労働環境が安全であること、そして労働者が敬意と尊厳を持って扱われること、さらに製造プロセスや調達が与える環境負荷に対して、企業が責任を持っていることを確実にするための基準を規定したもの

*7:ブラザーインダストリーズ(ベトナム)

*8:兄弟高科技(深圳)有限公司 (ブラザーテクノロジー(深圳))

*9:ブラザーインダストリーズ(フィリピン)

*10:温室効果ガスの排出源の区分け。スコープ1は事業者自らによる温室効果ガスの直接排出、スコープ2は他者から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出、スコープ3はスコープ1、スコープ2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他者の排出)

 

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末(2024年3月31日)現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)サステナビリティ

 

 ①ガバナンス

 「サステナビリティ基本方針」※に基づく各種活動を推進することを目的として、2022年4月にサステナビリティ委員会を設置しました。サステナビリティ委員会は代表取締役社長を委員長とし、役付執行役員、事業統括執行役員、その他必要な機能として委員長が指名する者により構成されています(以下、当委員会の委員長を「サステナビリティ委員長」といいます)。

 サステナビリティ委員会の傘下に特定分野ごとの各種サステナビリティ活動を推進することを目的として、分科会を設置しています。各分科会には、分科会活動を統括する者として、分科会オーナーを置いています。分科会オーナーには、サステナビリティ委員長が指名する執行役員または関連性の高い機能を担う部門の部門長が就くものとしています。各分科会は、該当する分科会オーナーの招集により、適宜開催されます。

 分科会を新設・改廃する場合には、サステナビリティ委員長の判断でサステナビリティ委員会を開催のうえ、その目的や役割、必要に応じ分科会オーナーや構成メンバー等の必要事項を明確にした上で、委員長の決裁により行うものとしています。

 サステナビリティ委員会の開催には定例会と臨時会があります。臨時会は必要に応じてサステナビリティ委員長が招集するものとしています。毎年度の年間計画立案時には、ブラザーグループとして取り組むべき重点課題・施策をサステナビリティ委員会で審議したうえで、各組織・部門の年間計画へ展開すること、その進捗についてはサステナビリティ委員会にて報告するとともに、目標変更が必要な場合にはサステナビリティ委員会での審議・承認を受けることとしています。

 以下の重要事項を策定、改訂する場合には、サステナビリティ委員会または分科会で検討のうえ、社長、及び役付執行役員で構成される戦略会議で審議し、取締役会で決議を行います。

・サステナビリティ基本方針の策定、改訂

・マテリアリティの特定、変更

・サステナビリティ目標の策定、変更

・その他、サステナビリティに関する重要な事項

 サステナビリティ委員長またはその指名を受けた者は、定期的に取締役会において、サステナビリティ委員会の活動計画及び活動実績について報告を行っています。

 また、統合報告書の開示に関しては、投資家を中心としたステークホルダーへの説明責任を適切に果たすため、企画と最終的な開示の二段階において、サステナビリティ委員会が内容の承認に関与します。加えて、企画・制作・開示のすべての段階にわたって、承認プロセスが適切であるかどうかを内部監査部門がモニタリングをします。

 

   サステナビリティ推進体制

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※「サステナビリティ基本方針」

ミシンの修理業から始まったブラザーは、働きたい人に仕事をつくるために輸入産業を輸出産業にするという志のもと、ミシンの生産を始めました。壊れにくい国産ミシンを作ろうという思いは、お客様を第一に考える“At your side.”の精神として、すべての活動の礎である「ブラザーグループ グローバル憲章」に受け継がれ、お客様への価値提供を増大させ、そこから生まれる成果をステークホルダーや地球環境への貢献に活かすことで企業価値を高めてきました。

ブラザーグループはこれからも、お客様の課題、ひいては社会の課題に向き合い、取り組むべきマテリアリティ(重要社会課題)を定め、解決することで、「世界中の“あなた”の生産性と創造性をすぐそばで支え、社会の発展と地球の未来に貢献する」というビジョン「At your side 2030」の実現、及び国連が定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成を目指してまいります。

 

 ②戦略

 ブラザーグループは、“At your side.”の精神のもと、持続的なお客様への価値提供と、事業を通じた社会課題の解決を図るべく、サステナビリティを重視した経営を実践しています。

 ブラザーグループビジョン「At your side 2030」においては、当社グループのあり続けたい姿を「世界中の“あなた”の生産性と創造性をすぐそばで支え、社会の発展と地球の未来に貢献する」と定めています。このビジョンからバックキャストする形で策定・スタートした中期戦略「CS B2024」においては、サステナビリティへの貢献を最重要な経営課題と位置付け、当社グループとして初めてマテリアリティを特定し、それらを解決するための2024年度までの目標を設定しました。

 

 ③リスク管理

 ブラザーグループは、グループの経営に大きな影響を与える恐れのあるリスクを低減することを目的として、代表取締役社長を委員長とするリスク管理委員会を設置し、「ブラザーグループリスク管理規程」に基づく総合的なリスク管理体制を定めています。当社グループの各組織及び各子会社はリスクとその発生可能性を把握し、影響の軽減または回避策の実施などのリスク管理に努め、その実施状況については定期的に取締役会に報告を行う体制をとっています。コンプライアンス・製品安全・輸出管理・情報管理・環境法規・安全衛生・防災・サプライチェーンに関するリスクを常に認識し対応することに加え、危機発生時の事業継続の強化や永続可能な価値創造の仕組みの見直しなど、従来以上に中長期的かつ戦略的な観点でリスクを認識し対応していくことを目指します。(詳細な内容に関しては「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要 5)内部統制システムの整備の状況 3.リスク管理体制」を、具体的なリスクの内容、対応策に関しては、「3 事業等のリスク」をご参照下さい。)

 また、2030年に向けて、ブラザーグループを取り巻く事業環境の変化を踏まえながら、ブラザーの存在意義と社会への提供価値を示した、ブラザーグループビジョン「At your side 2030」を掲げています。ビジョン達成に向けた重要社会課題として、SDGsを起点に洗い出した項目に対し、社会及び自社にとっての重要性を評価し、外部識者からの意見なども踏まえ、戦略会議や取締役会での議論を経て、5つのマテリアリティを特定し、その解決のための活動を推進しています。

 2022年度には、サステナビリティの推進とリスク管理を目的に、リスク管理委員会と同じく代表取締役社長を委員長とするサステナビリティ委員会を設立し、マテリアリティの解決に必要な問題を特定した上で適切な対策を決定、実行し、その進捗状況を定期的にモニタリングしています。

 今後は、サステナビリティ委員会及び各分科会において、人々の価値創出の支援、人々の多様性の尊重、バリューチェーンの人権、CO₂排出削減、資源循環などを始めとしたサステナビリティに関するリスク及び機会の識別、評価、適切な対応指示についての議論をさらに深め、対応を強化します。

 

 ④指標及び目標

ブラザーグループは、「At your side 2030」達成のため特定した5つのマテリアリティ解決に向けて、「CS B2024」期間中におけるサステナビリティ目標を設定し、重要な経営課題として活動を推進しています。

 

 

 

マテリアリティ

2024年度目標

社会の発展

・人々の価値創出の支援

・産業機器事業におけるお客様の生産性向上、
CO₂排出削減に貢献するための製品性能の優位性確保

・P&S事業におけるお客様のLTV*1向上に向けたお客様と直接「つながる」ための基盤の構築

・多様な人々が活躍できる社会の実現

・グローバルベースでの従業員エンゲージメントの可視化と調査スコアの向上

・海外拠点責任者の現地登用を促進するための人財育成及びガバナンスの強化

・管理職の健全なジェンダーバランスに向けたパイプラインの強化及び多様な働き方を実現する環境整備*2

・責任あるバリューチェーンの追求

・サプライヤーに対する人権リスク評価の拡大

・RBA*3 ゴールド認証を取得したグループ製造拠点数 3拠点

地球の未来

・CO₂排出削減

・[スコープ1,2]*4 2015年度比47%削減
(2022~2024年度の3年間で9%を削減)

 参考)2030年度目標:2015年度比65%削減

・[スコープ3]*4 自助努力での15万t削減対策の実施

 参考)2030年度目標:2015年度比30%削減

・資源循環

・製品に投入する新規資源率 81%以下

 参考)2030年度目標:65%以下

 

*1 : LTV

Life Time Value(顧客生涯価値)の略称。製品・サービス利用期間全体におけるお客様にとっての価値及び企業にもたらされる収益。

*2 : ブラザー工業株式会社において実施。

*3 : RBA

Responsible Business Alliance(CSRの国際的推進団体)の略称。製造業のサプライチェーンにおいて、労働環境が安全であること、労働者が敬意と尊厳を持って処遇されること、さらにその事業活動が環境に対して責任を持ち、倫理的に行われることを確実にするための基準を規定している。

*4 : スコープ 1・2・3

温室効果ガスの排出源の区分け。スコープ1は事業者自らによる温室効果ガスの直接排出、スコープ2は他者から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出、スコープ3はスコープ1、スコープ2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他者の排出)。

 

※2024年度目標の進捗に関しては、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)中長期的な経営戦略 ◆マテリアリティとサステナビリティ目標」をご参照下さい。

 

 なお、上記のうちCO₂排出削減(スコープ1,2)については、その目標達成度を役員に対する株式報酬における業績連動指標として採用しています。(詳細に関しては「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (4)役員の報酬等」をご参照下さい。

 

 

(2)人的資本

 

◆戦略及び指標と目標

 

 ブラザーグループの持続的な成長のために最も重要な基盤は、人財です。ブラザーグループは、「多様な人々が活躍できる社会の実現」をマテリアリティとして定め、2024年度目標として「従業員エンゲージメント※1の可視化と向上」「海外拠点責任者の現地登用を促進するための人財育成及びガバナンスの強化」「管理職の健全なジェンダーバランスに向けたパイプラインの強化及び多様な働き方を実現する環境整備※2」を掲げています。中期戦略「CS B2024」で掲げた「持続可能な未来に向けた経営基盤の変革」に向けて、ブラザーグループは、従業員のチャレンジ行動促進、従業員エンゲージメントの向上を進めるとともに、従業員一人ひとりが働きやすい環境づくりを行うなど、人的資本をさらに強化するための活動を今後も推進していきます。

 ※1 従業員と会社が相互に対等で、互いに価値を提供しあう関係のこと

 ※2 ブラザー工業のみ

 

<多様性の確保についての考え方>

 ブラザーグループは、ビジネスや市場環境に大きな変化が起こっている昨今、多様な人財を確保し、多様な働き方やキャリアの形成を支援することがますます重要性を増していると考えております。

 ブラザーグループにおいては、ブラザーグループ グローバル憲章(以下、グローバル憲章)の「基本方針」に掲げた「従業員の多様性を重視し、さまざまな能力を発揮できる職場環境とチャレンジングな仕事への機会を提供する。そして、努力と成果に対しては、公正な評価と正当な報酬で応える」という考え方があり、グローバル憲章の行動規範では「常に一人ひとりの人格、多様性を尊重し、信義と尊敬を持って行動する」ことを定めております。

 ブラザーグループはこれまでも、女性、外国人、さまざまな職歴をもつ経験者採用者など、多様な人財の採用、管理職への登用を積極的かつ継続的に行いつつ、個々の能力を最大限に発揮できる職場環境の整備、新入社員から管理職層まで各階層教育などの取り組みを進めております。ただし、事業活動を行う地域における関連法規、文化、社会慣習等が異なり、全ての会社における画一的な目標値は有していないため、代表として連結グループの主要事業を営む提出会社の取り組みを記載しております。

 

<多様性の確保の目標・多様性の確保の状況>

(ⅰ)女性の管理職への登用

 ブラザー工業は、女性活躍推進法に基づき「女性活躍推進に関する行動計画」を策定し、2024年3月末時点で54名の上級職(管理職相当及びそれと同等の処遇を受ける専門職)数を2025年度末に60名以上にすることを目指しています。育成の視点では、性別に関わらず従業員の成長を支援しておりますが、ライフイベントとキャリアの意識醸成や管理職というポジションを身近にする環境整備のため、社内の女性管理職のキャリアを紹介する座談会や有識者を招いた講演会、社外女性従業員とのキャリア研修、管理職候補者に対する外部カウンセリング機会の提供等、学ぶ機会を提供しております。2022年より実施している「女性リーダー研修」にはこれまでに78人が参加しました。他にも、フレックスタイム制度のコアタイム廃止や、在宅勤務制度等、安心して働ける環境を整備しております。

 

(ⅱ)外国人の管理職への登用

 ブラザー工業は、事業の中核を担う人財確保のために、国籍に関係なく採用・登用を行っております。2024年3月末時点の外国籍従業員比率は1.4%、管理職比率は0.5%となっております。また、当社の執行役員に占める外国籍従業員比率は2023年3月末時点で10.5%、2024年3月末時点で9.5%です。各国・地域のグループ会社の幹部社員は、国籍を問わず適任者を登用し、地域に密着した経営を目指すこととし、統括拠点であるアメリカ及び中国の販売拠点の社長を含め、ブラザーグループの各拠点では現地スタッフを積極的に経営幹部に登用しております。海外拠点責任者の現地従業員率は、2018年の61%から、2023年には67%に上昇しております。このような状況から、現在のブラザーグループにおける外国人の人財登用は十分な水準にあると認識しており、当社における外国人の管理職への登用に関する目標設定は行っておりません。

 

(ⅲ)経験者採用者の管理職への登用

 ブラザー工業において、2023年度の経験者採用者比率は29%、管理職比率は27%となっております。経験者採用者数は労働市場環境に左右される面もあるため、管理職への登用に関する目標設定は行っておりませんが、今後、さらに事業ポートフォリオを変革していくために、外部からの専門人財を積極的に登用していきたいと考えております。

<多様性の確保に向けた人財育成方針、社内環境整備方針とその状況>

 ブラザー工業は、多様性の確保に向けた人財育成方針として、従業員の多様性と個性を尊重し、優れた価値を提供できるグローバルな人財を育てることを掲げております。また、当社では、社内環境整備方針として、多様な人財が活躍できる基盤づくりを掲げ、社員が高いモチベーションを持ち、多様なキャリアパスや一人ひとりの社員がより柔軟な働き方を実現できる取り組みを進めております。

 

 <従業員エンゲージメントの向上>

 ブラザーグループは、ビジョン達成に向けた変革の実現と従業員のチャレンジ行動促進を目的に、マテリアリティにおける2024年度サステナビリティ目標として「グローバルベースでの従業員エンゲージメントの可視化と調査スコアの向上」を掲げており、従業員と会社が共に成長し貢献し合う関係を目指しています。ブラザー工業では従業員意識調査を2008年から毎年行っていますが、2022年度には「従業員エンゲージメント調査」を新たに実施しました。調査の結果、組織からの「成長支援」を感じ、「組織への共感」「貢献感」が高い従業員が約半数を占めており、全体としてエンゲージメントが高い状態であるといえることがわかりました。また、2023年度はグローバルで90%以上の拠点において従業員エンゲージメント調査を実施し、従業員エンゲージメントの状況を把握しました。今後も「ブラザーグループ グローバル憲章」の共有活動などと並行して、一人ひとりの目標設定の質を高める取り組みや、自律的なキャリア開発を促進する取り組みを実施するほか、グローバル各拠点における従業員エンゲージメント向上に向けて、情報共有の場づくりを推進するなど、ブラザーグループ全体でのエンゲージメント向上を図る予定です。

 

<健康経営の推進>

 ブラザーグループは、従業員が長期にわたり才能とスキルを発揮するためには、一人ひとりの健康管理が重要であると考えています。ブラザー工業は2016年9月に、ブラザーグループ健康経営理念を制定、従業員が生き生きとさまざまな能力を発揮するために、喫煙率10%未満やがん検診二次検査の受診率90%以上など2025年までに達成すべき長期目標「健康ブラザー2025」を定めました。そして、ブラザー工業の代表取締役社長を最高健康責任者とした健康経営推進体制を構築し、会社・労働組合・健康保険組合が三位一体となり、運動習慣者比率をさらに向上させる取り組みなどを進めています。また、健康経営における課題とその解決に向けた取り組みなど一連の流れを可視化できる健康経営戦略マップを作成するなど、従業員の健康保持・増進に戦略的に取り組んでいます。その結果、ブラザー工業は2023年度、累計5度目となる健康経営銘柄に、また、ブラザーグループ14社と共に健康経営優良法人に選定されました。

 

 

(3)環境への取り組み

 

◆ブラザーグループ 環境ビジョン2050

 

 エネルギーや資源を使用し、紙や糸、布などの生物由来の物を使用する製品を提供する企業として、CO₂排出削減、資源循環、生物多様性保全を3本柱とする「ブラザーグループ 環境ビジョン2050」を2018年に策定しています。この環境ビジョンは、気候変動や資源枯渇、環境汚染、生態系破壊といった社会的な重要課題をブラザーグループの事業上のリスクとして捉え、長期的かつ継続的にその解決に取り組むことを明確にしたものです。その後2022年に、加速する持続可能な社会に向けた動きを見据えたCO₂排出削減と資源循環の目標見直しを行い、現在の形となりました。

 

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※2022年度までのCO₂排出量の実績

 

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※2022年度までのCO₂排出量の実績

 

◆TCFDへの対応

 

 ブラザーグループは社会の発展と地球の未来に貢献するため、解決すべき重要な社会課題の一つとしてCO₂排出削減をマテリアリティに特定し、サステナビリティ目標としてCO₂排出削減目標を設定しています。2020年2月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への賛同を表明しました。

 このTCFD提言に基づき、プリンティング・アンド・ソリューションズ事業、マシナリー事業、パーソナル・アンド・ホーム事業及び新規事業について、気候変動が事業に及ぼすリスクと機会を分析し、関連する情報を2021年度に開示しました。今後は分析対象とする事業範囲を拡大し、情報開示の充足に努めるとともに、脱炭素社会の形成に貢献するため、より一層の気候変動対策を推進していきます。

 

①ガバナンス

 ブラザーグループは「(1)サステナビリティ ①ガバナンス」及び「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要」で記載の取締役会、戦略会議、サステナビリティ委員会を設置しています。気候変動を含む環境分野のサステナビリティ活動の推進においては、気候変動対応戦略部長を分科会オーナーとする気候変動対応分科会を設置し、サステナビリティ目標の進捗管理及び活動推進を行っています。

 気候変動を含む環境関連の重要事項を策定、改訂する場合には、サステナビリティ委員会または気候変動対応分科会で検討のうえ、戦略会議で審議、取締役会で決議を行います。またサステナビリティ委員長またはその指名する者は、定期的にサステナビリティ委員会及び取締役会において、サステナビリティ委員会の活動計画及び活動実績について報告を行っています。

 

②戦略(シナリオ分析)

 ブラザーグループは、「ブラザーグループ 環境ビジョン2050」でCO₂排出削減を重要項目の一つに掲げています。世界的に深刻化する気候変動を社会的な重要課題と認識するとともに、ブラザーグループの事業上のリスクと機会として捉え、長期的かつ継続的にその解決に取り組んでいます。

 2020年度はTCFD提言に基づき、主要な事業について2020年から将来までの間に事業に影響を及ぼす可能性がある気候関連のリスクと機会の重要性を評価しました。それぞれのリスクと機会に対して、『世界で温暖化対策が進み、脱炭素社会の実現に近づくという1.5℃シナリオ』と『世界で現状を上回る温暖化対策がとられず、気温上昇がさらに進むという4.0℃シナリオ』に基づき、7つの重要なリスクと機会を特定し、自社の事業や財務に及ぼす影響を評価しました。

 1.5℃シナリオ及び4.0℃シナリオではIEA(International Energy Agency)のSDS(持続可能な開発シナリオ)、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)のRCP8.5シナリオ、Aqueduct(水リスク評価ツール)などを参照しました。

 今回の分析の結果、リスク、機会の両面において、ブラザーグループにとってカーボンニュートラルの推進、特にサーキュラーエコノミー対応の推進が重要である事が判明しました。今後はさらなるCO₂排出削減活動や循環経済型ビジネスの拡大などの取り組みを強化していきます。

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*1

■事業所におけるCO₂排出削減の取り組み

 事業所内の省エネルギー活動(高効率機器の導入など)の推進、再生可能エネルギーの活用に取り組んでいます。これらのCO₂排出削減の取り組みに加え、残りの排出量をカーボンクレジットで相殺したことにより、ブラザーグループの二つの製造拠点(BROTHER INDUSTRIES (U.K.) LTD.とBROTHER INDUSTRIES (SLOVAKIA) s.r.o)が、PAS 2060:2014※の検証を完了し、カーボンニュートラルを実現しました。

※ Publicly Available Specification 2060:2014 カーボンニュートラルを実現していることを証明する国際的な規格

 

*2

■製品におけるCO₂排出削減の取り組み

 製品のライフサイクルのステージごとに、工夫の積み重ねや技術革新を組み合わせることにより、CO₂排出の削減に取り組んでいます。

<レーザープリンター>

 2023年に発売開始されたカラーレーザープリンター製品において、従来製品よりも小型軽量化を実現し、待機時(スリープモード時)の消費電力も大幅に低減することでCO2排出量削減に貢献しました。また、ベトナムにおける当社の生産拠点1つ(BROTHER INDUSTRIES (VIETNAM) LTD.)で生産されているレーザープリンターにおいて、部品サプライヤーと協働し、生産時に使用される電力にCO2フリー電力を導入、部品生産時のCO2排出量の削減につながる活動を開始しました。

 

<ガーメントプリンターGTXproシリーズ>

 消耗品インクを従来のカートリッジ交換方式からパウチ交換方式やボトル供給方式に切り替えることで、消耗品のプラスチックや梱包材の削減を実現し、CO₂排出削減に貢献しています。

 

*3 *5

■内燃機関から電気自動車(EV)への転換に対する取り組み

 需要が増加しているEV向け部品で求められる大型のアルミ部品(インバーターケース、バッテリーケース、ポンプハウジング、大型バルブなど)や、さまざまな加工ニーズに応えることができる工作機械“SPEEDIO”シリーズを開発することで、EV部品加工ソリューションを提供し、自動車産業が内燃機関からEVにシフトする際のリスクと機会の両面に対応しています。

 “SPEEDIO”シリーズでは、工具交換などの非切削時の時間短縮によるサイクルタイムの削減、高効率主軸モータや電源回生システムによる動作時の消費電力削減、自動消灯機能による非動作時の消費電力削減などにより高い生産性と省エネ性を実現し、EV部品加工時のCO₂排出削減に貢献しています。

*4 *6

■サーキュラーエコノミーへの取り組み

 ブラザーグループは製品における廃棄物の削減、新規資源の投入抑制に加え、循環経済型ビジネスの実現・拡大に向けて「プリンターの消耗品カートリッジの回収・リサイクルの拡大」、「製品のリユース促進」、「サブスクリプションサービス等のお客様とつながり続けるビジネスの拡大」の三つをリスクと機会の両面における主要な取り組みとして位置づけ、資源の有効利用、資源循環のさらなる推進を通じて、CO排出削減に貢献しています。

 

<トナーカートリッジのリサイクル>

 回収された使用済みトナーカートリッジは、ブラザーグループの再生拠点で新製品と同一品質を持つトナーカートリッジへとリサイクルされ、再び、お客様に届けられます。このように「クローズドループ」でリサイクルを行うことによって、廃棄物の削減による天然資源の有効利用につながり、CO排出削減に貢献しています。

 

③リスク管理

 ブラザーグループでは、2022年度に気候変動対応を含むサステナビリティの推進とリスク管理を目的に設置した代表取締役社長を委員長とするサステナビリティ委員会、並びにサステナビリティ委員会の下部組織として設けられた気候変動対応分科会において、気候変動リスクを識別、評価し、重要な気候変動リスクを特定した上で適切な対策を決定、実行し、進捗状況を定期的にモニタリングしています。

 

④指標と目標

 「ブラザーグループ 環境ビジョン2050」のCO₂排出削減では、2050年度までにあらゆる事業活動のカーボンニュートラル※と、バリューチェーン全体のCO₂排出最小化を目指すことを掲げています。また、そのマイルストーンとなる「2030年度 中期目標」では、2030年度までにブラザーグループから排出するCO₂(スコープ1・2)を2015年度比で65%削減、バリューチェーンの中でも特に排出量の多い製品の調達・使用・廃棄の各ステージで排出されるCO₂(スコープ3のC1・11・12)を2015年度比で30%削減することを目標としています。

 このCO₂排出削減に関する「2030年度中期目標」は、国際的なイニシアチブ「Science Based Targets initiative(SBTi)による「1.5℃目標」の認定を取得しています。

 また、同じく「ブラザーグループ環境ビジョン2050」の資源循環では2050年に向けて、ブラザーグループは、資源循環の最大化により、資源の持続可能な利用と廃棄物による環境負荷の最小化を目指すことを掲げています。

 そのマイルストーンとなる「2030年度 中期目標」では循環経済型ビジネスの拡大と資源の再生利用により、2030年度までに製品に投入する新規資源率を65%以下とすることを目標として掲げています。

 さらに「2030年度 中期目標」達成に向けたマイルストーンとして「ブラザーグループ中期環境行動計画2024」において2024年を目標年度とする短期目標を設定し、活動を推進しています。

※ ブラザーグループから排出するCO₂を全体としてゼロにする

 

 

マテリアリティ

2024年度目標

2023年度実績

地球

未来

CO₂

排出削減

[スコープ1,2] 2015年度比47%削減
(2022~2024年度の3年間で9%を削減)
参考)2030年度目標:2015年度比65%削減

[スコープ3] 自助努力での15万t削減対策の実施
参考)2030年度目標:2015年度比30%削減

・[スコープ1,2]電力使用の効率化や太陽光発電の導入などの省エネ・創エネ施策を実施し、2023年度の削減目標を達成見込み

・[スコープ3]新製品の省エネ性向上を中心とした施策を計画通り実施するとともに、2024年度の追加対策を検討

資源循環

製品に投入する新規資源率 81%以下

参考)2030年度目標:65%以下

・一部製品におけるリサイクル材使用やリサイクル可能な緩衝材への変更などの施策を実施し、2023年度目標を達成見込み

 

 なお、上記のうちCO₂排出削減(スコープ1,2)については、その目標達成度を役員に対する株式報酬における業績連動指標として採用しています。(詳細に関しては「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (4)役員の報酬等」をご参照下さい。

 

 

 

3【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下の通りであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

1.地政学リスク

当社グループはグローバルに事業活動を行っており、中国・アジアを中心に生産拠点を有し、販売会社は世界各地に展開しているため、米中関係やロシア・ウクライナ情勢、中東情勢などの国際情勢の動向は事業に大きな影響を及ぼしうるリスクであると認識しております。

通商上の摩擦やエネルギーを始めとする、さまざまなコストの上昇、及び当社が予期しない政策、法制度、規制の変更等は、当社の業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、グローバルでの国際情勢を注意深く見守り、懸念されるリスクに対して組織横断での連携を実施し、当社現地法人からの情報収集を通じて、機動的な対応を行っております。

通商上のリスクに対しては、各国の規制動向を常に把握し、適宜対応を進めてまいります。問題が長期化しているロシア・ウクライナ情勢に対しては、各国の経済制裁や規制強化をはじめ、さまざまな国際情勢の動向を常に情報収集し、状況に応じた適切な判断を行ってまいります。中東情勢悪化に伴うスエズ運河の航行リスクに対しては、各生産拠点における利用航路・港の複線化を進めてまいります。

2.プリンティング市場の縮小

オフィス・ホーム向けのプリンティング市場は、デジタル化の進展や働き方の変化の流れを受け、プリントボリュームが減少し、緩やかな市場縮小が続いております。アフターコロナの環境下では、在宅勤務とオフィスワークが混在する働き方へ急速にシフトしており、オフィス向け機器のプリントボリューム減少の傾向が変化する可能性があります。プリンティング・アンド・ソリューションズ事業の売上収益、営業利益は全社の半分を超える規模を占めているため、市場の動向に対応した製品やサービスを提供できない場合、当社グループ全体の経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

在宅勤務の定着及びオフィス印刷の分散化が加速し、SOHO向け製品の需要は高まっております。ホーム・オフィス向けのプリンティング市場に対しては、変化する市場ニーズに対応する契約型サービスの拡充など、ビジネスモデルの転換加速により、収益力強化とともにお客様と継続的につながるビジネスを拡大します。加えて、今後も市場拡大が見込める業務用ラベリング事業の拡大に注力していきます。

一方で、産業用印刷市場はアナログからデジタルへの転換、無人化・省人化ニーズを背景に、成長が継続しております。

これまで培ったさまざまな技術を活用し、ドミノ事業やガーメントプリンターを中心とした産業用印刷領域での事業拡大を図ってまいります。

3.企業間競争

当社グループはプリンティング・アンド・ソリューションズ事業を始めとして、多くの市場において他社との激しい競争にさらされております。当社グループよりも多くの経営資源を有している企業との競合や、新興国の地場メーカーの台頭、あるいは競合先間の提携が行われ、市場競争が激化することが想定されます。企業間競争が激化すると、販売価格の低下や現在の市場シェアを維持できなくなることにより、当社グループの経営成績等に悪影響を受ける可能性があります。

各市場で顧客価値を実現する製品や、当社の強みである各地域の販売会社やチャネルネットワークを通じたサービスの提供に取り組むとともに、業務の効率化を推進し、手戻りの少ない開発の実践や製造コストの削減を行うことで、スピード・コスト競争力のある事業運営基盤の構築を実行しております。また、サステナビリティの観点から、製品の環境性能向上、消耗品カートリッジの回収・リサイクル拡大など循環経済型ビジネスの推進にも取り組んでまいります。

 

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

4.世界経済状況の変動

当社グループはグローバルに事業を展開しているため、世界経済の状況の変動により関連する市場の動向が変化する場合、当社グループの経営成績等に影響することが想定されます。

当社のプリンティング領域の製品は、オフィス・ホーム向けとしてお客様に利用いただいています。また、マシナリー・FA領域、産業用印刷領域の製品は、自動車、アパレル、消費財の包装などの製造業にかかわる設備としてお客様に利用いただいています。世界経済状況の変動がお客様の経営状態に影響を与え、これら製品に対する投資が抑制されると、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

顧客価値を実現する製品やサービスを提供することで、短期的な世界経済状況の変動があったとしても、お客様に選ばれるブランドであり続けるため、開発、製造、販売・マーケティング、アフターサービス・メンテナンスの強化を実行しております。

プリンティング領域では、コンパクトな複合機とモバイル機器やクラウドに対応できるスキャナーを組み合わせることで、インプットからアウトプットまで一貫してお客様のニーズに対応できる製品構成やサービスの提供を進めております。また、印刷管理・消耗品自動配送などの契約型ビジネスを通じてより多くのお客様とつながり、継続的な価値提供を実現してまいります。

また、マシナリー・FA領域、産業用印刷領域では、生産性・環境性能に磨きをかけた製品を継続的に市場投入していくとともに、顧客価値を実現する製品やサービスの提供に取り組む販売体制を強化し、お客様のモノづくりの競争力強化とCO2排出削減に貢献してまいります。加えて、固定費や原材料費等の継続的な削減を実行し、世界経済状況の変動に影響されにくい収益構造の構築を図ります。

さらに、ブラザーグループにおきましては日本、アジア、米州、欧州の売上構成のバランスがとれており、特定地域への売上高の偏りがないことから、一部の地域に大きな景気変動があっても、業績が急激に悪化するリスクに備えられております。
今後も、グローバルネットワークを強みとし、各地域へのグローバル展開を進めてまいります。

 

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

5.サプライチェーン

・サプライチェーンの断絶

・CSR調達

・サプライチェーンの断絶

当社グループは、生産・販売拠点をグローバルに展開しております。主要な生産拠点はベトナム・フィリピン・中国等であり、販売拠点は世界各国に広がっております。国や地域における経済的な対立や戦争、大規模火災、巨大地震、地球温暖化に伴う異常気象、感染症の再拡大に加え、取引先の事業ポートフォリオの見直し(事業採算悪化、設備の老朽化等)により重要部材の継続調達が困難になる等、部材調達・生産面で支障が発生するリスクがあります。

また、国際物流が混乱し船のスペース不足やコンテナの滞留、航路制限が発生すると、部品輸入遅延や出荷遅延及び運賃コスト高騰リスクがあります。

結果として市場への商品供給不足による販売機会の損失や顧客流失により経営成績に影響を与える可能性があります。

 

・CSR調達

当社グループは、その生産拠点の多くを海外に置いており、主要な生産拠点はベトナム・フィリピン・中国等となっております。これら諸拠点では部品調達先との取引関係がありますが、その調達先を含むサプライチェーンで発生する人権問題、例えば強制労働や児童労働などがあった場合、お客様からの信頼を失うだけでなく、当社とお客様のお取引に影響が出る可能性があります。また、調達先のさらにその先をたどっていくと、原材料に行き着きます。その原材料となる鉱物の取引において、アフリカなどの紛争地域及び高リスク地域産出の一部の鉱物の取引が当地の武装勢力の資金源となり、紛争の助長、人権侵害、労働問題、環境破壊などに関与していることが判明した場合にも、同様にお客様からの信頼を失う可能性が出てきます。

・サプライチェーンの断絶

生産体制については、主要な消耗品を複数拠点において生産するほか、予備の生産設備を保有するなどのリスク対応策を実施しております。部品に関しては、調達先の複線化や重要部材の戦略的な在庫保有を進め、特定の国やサプライヤーへの依存度を下げる活動を推進しております。販売拠点においては、欠品を防ぐための在庫水準の適正化を継続的に行ってまいります。物流面においては、生産拠点所在地域において自社倉庫や外部倉庫による製品や部材の在庫保管スペースの確保及び利用航路・港の複線化を進めております。

また諸拠点においては、防火対策や地震・台風等の自然災害に対する一定の防災・減災施策を講じております。本社機能が位置する日本でも南海トラフ地震を想定した防災危機管理体制を確立しております。

・CSR調達

リスク低減に向け、当社は「CSR調達方針」を制定し、ホームページでの開示の他、取引先説明会、書面などで調達先の皆様へ方針説明をおこなうとともに、主要事業の一次サプライヤーに対して人権への取り組みを要請しております。また、その上流のサプライヤーに対しても一次サプライヤーを通じて同様の取り組みを要請することで、サプライチェーンにおける責任ある調達を目指しております。また、人権への取り組みをより推進するために「ブラザーグループ人権グローバルポリシー」を制定し、当社の役職員及び製品・サービスの全ての関係者の皆様に同ポリシーの理解及び当社の取り組みへのご協力を要請しております。さらにRBA(Responsible Business Alliance)に加盟し、RBA行動規範の遵守をサプライヤーに対し要請することで、人権問題だけでなく、安全衛生・地球環境への影響を削減するなど、サプライチェーンにおけるリスク評価と是正への体制を強化しております。責任ある鉱物調達については、「責任ある鉱物調達方針」を制定し、ホームページに開示するとともに、鉱物の使用状況について調査を実施し、調達先の皆様と連携を図りながらサプライチェーンにおける鉱物調達の透明性確保及び紛争鉱物の使用回避に向けた調達活動に取り組んでおります。

 

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

6.部材に関するリスク

当社グループの製品に使用されている調達部材について、取引先様での火災・地震等の自然災害や、取引先様の事業環境変化・ポートフォリオの見直しによる事業撤退から、部材調達困難な状況が新たに発生するリスクがあります。

また、カーボンニュートラル、再生材料利用率向上といったサステナブル対応に伴う対応費用や各国法規制対応の為の価格転嫁、地政学リスク対策の為の調達先の限定、シリコン・フッ素等の原材料価格の上昇、エネルギーコストの高騰、人件費の上昇等、さまざまな複合要因により価格上昇が発生しており、その状況が高止まりするリスクがあります。

これらの影響を製品の販売価格に転嫁できない、あるいは経費削減、能率改善でコストを十分に吸収できない場合、将来の収益性に一定の影響を及ぼすことが想定されます。

部材の調達難に対しては、代替え困難な部品の長期在庫確保、調達の複線化、現地化などのBCP対策を継続するとともに、取引先様における電気設備点検等の防災活動を推進することで、強靭なサプライチェーンの構築を推進します。

部材価格の高騰に対しては、樹脂材料・電子部品、鋼板や銅などの原材料やエネルギーコストの価格高騰リスクを計画時点でも織り込むことで想定収益への影響を低減しております。また、調達コストの低減においては、各市況の変化を正確に把握することで、取引先様に対し適切なタイミングにおける値戻しを依頼していきます。併せて、取引先様と連携したVA提案活動を推進します。

7.品質・製造物責任

すべての製品に対し欠陥がなく、将来に製品安全問題や品質問題が発生しないという保証はありません。それらの重大な問題が発生した場合の可能性として、多額のコストを要するほか、ブランドイメージや社会的評価が低下し、顧客の当社グループ製品への購買意欲を減少させ、当社グループの経営成績等が影響を受けることがあります。

当社グループは、高品質の魅力ある製品を提供するため、厳格な品質管理基準に従って生産管理体制を確立し、製品の製造を行っております。製造委託先から供給を受ける製品に対しても、適正な品質レベルであることを検証しております。また、仮に製品起因の事故が発生した場合には、被害者への対応を第一優先に行うとともに情報公開、官公庁への報告など被害拡大の抑制に取り組んでいきます。

 

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

8.法規制

・コンプライアンス全般

・税制

・コンプライアンス全般

当社グループは、事業活動を行っている各国・地域において、さまざまな法令や規制の適用を受けております。各国・地域の法令・規制の新設・変更によって、当社グループの事業活動が大きく制限され、法令や規制対応のために多額の費用負担が発生する可能性があり、意図せずに法令・規制に違反した場合には、当社グループの経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、従業員による不正行為によって当社グループにおいて損害が発生し、当社グループの事業活動に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

主要なコンプライアンスとして「不正会計・横領」「不公正な取引方法(競争法違反)」「贈収賄(腐敗リスク)」「品質不正」の4つを特定しております。

不正会計については、各国・地域の法令や当社グループの会計ルールなどに反する会計処理によって決算の修正やステークホルダーからの信頼失墜につながるリスクがあります。また、役職員の横領によって会社の財産が棄損されるリスクがあります。

不公正な取引、贈収賄については、各国・地域の競争法・反腐敗法に違反する事業活動によって、競争法当局からの罰金や当社グループの事業活動への制限がかけられるなどのリスクがあるほか、法令や規制対応のために多額の費用負担が発生する可能性があります。

品質不正については、当社製品の開発や製造・検査上の不正(性能や検査に関するデータ改ざん等)によって製品のリコールやそれに伴う多額の費用負担、ブランドイメージの低下などのリスクがあります。

上記のリスクが顕在化した場合、当社グループの事業活動に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・コンプライアンス全般

当社グループでは、コンプライアンス(法令・倫理の順守)は、さまざまなリスクを回避する上で経営上不可欠なものであると考えております。グループ全体でコンプライアンスを徹底するために「ブラザーグループ グローバル憲章」の行動規範のひとつである「順法精神・倫理観」と、企業としての責任を明確に定義し行動していくための「ブラザーグループ社会的責任に関する基本原則」に基づいて、従業員の行動基準を定めております。

当社では、コンプライアンス委員会の設置や相談通報窓口(ヘルプライン)を設けて不祥事の未然防止や早期対応、再発防止に努めています。海外を含むグループ各社でも個別にコンプライアンス委員会・部門やコンプライアンスヘルプラインを設置して対応しております。

重要なコンプライアンス案件については、グループ各社のコンプライアンス委員会・部門だけでなく、当社のコンプライアンス委員会にも通知され、グループ一体となって対応する体制を築いております。

 

主要なコンプライアンスリスクに関する対応状況は以下の通りです。

・不正会計・横領:当社グループ会社の決算を分析し、不正の兆候の有無を把握するとともに、必要に応じ個別に調査を実施しております。

・不公正な取引(競争法違反):日本国内においては、サプライチェーンの取引先や価値創造を図る事業者の皆さまとの連携・共存共栄を進めることを明示した「パートナーシップ構築宣言」を公表するとともに、下請法の順守体制を構築しております。特に、下請業者からの労務費上昇に基づく価格交渉については、下請事業者から協議の申入れがあった場合には、労務費上昇分の影響を考慮するなど下請事業者の適正な利益を含むよう、十分に協議することとしております。また、グループ会社(欧米、アジア)の役職員に対して競争法リスクに対する意識向上のための定期的な教育を実施しております。

 

 

 

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

8.法規制

・コンプライアンス全般

・税制

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・税制

当社グループは、グローバルに事業活動を展開しており、事業拠点を有する各国・地域における税制の適用を受けております。各国・地域における税制や税率が変更された場合、当社グループの経営成績等にマイナスの影響を与える可能性があります。
また、BEPS問題(税源浸食と利益移転)に対処するため各国・地域の税務当局による取組が強化されており、今後、法規制が変更された場合や税務執行が厳格化された場合、追加課税や国際的な二重課税が発生し、税負担が上昇するリスクがあります。

・贈収賄(腐敗リスク):腐敗リスクが高い国や地域(主にアジア)のグループ会社において、反腐敗に関するポリシーを定めることや、取引先による腐敗行為の防止に関するスクリーニングなどの活動を行っております。また、役職員の反腐敗意識を高めるために反腐敗に関する教育(E-Learning等)を行っております。

 

・品質不正:品質データ管理システムの導入などデータ改ざんを防ぐ体制、当社グループの主要製造拠点・開発拠点に対する品質不正監査体制の構築活動を進めております。また、品質コンプライアンス意識向上のための教育(E-Learning等)を実施しております。

 

・税制

重要な税務上の事項については、各地域の統括会社を通して、当社税務部門に適宜共有され、税理士法人などの外部専門家のサポートを受けるだけでなく、必要に応じて税務当局ともコミュニケーションを取って対処しております。また、当社グループ間の取引については、独立企業間価格となるように、各国・地域との移転価格を適切に管理しており、移転価格課税リスクの高い取引については、APA(事前確認制度)を活用することで税務リスクを低減しております。

 

 

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

9.環境

・環境に関する

社会的要請

・環境規制、環

境汚染

・環境に関する社会的要請

グローバルに事業活動を展開する当社グループにとって、次のリスクは現在から将来にわたって極めて重要な課題であり、事業経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。

気候変動は、災害等による人的被害、操業の停止、サプライチェーンの断絶など、生産・販売活動に大きな影響を与える物理的リスクに加え、脱炭素社会への急速な移行に伴う法規制強化や対応コスト増、対応遅れによる販売機会喪失などの移行リスクがあります。特にマシナリー事業では自動車産業における内燃機関からEVへの移行リスクがあります。

サーキュラーエコノミーの進展は、欧州各国中心に資源消費を抑えつつ経済発展を目指す政策が推進されており、法規制強化や対応コスト増、対応遅れによる販売機会喪失などの移行リスクがあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・環境に関する社会的要請

気候変動に対しては、その原因となっている温室効果ガス排出を削減するため、「1.5℃目標」のSBT(Science Based Targets)認定を受けた2030年中期目標(2015年度比でスコープ1,2:65%削減、スコープ3:30%削減)を設定しております。この目標の達成に向けて、スコープ1、2については事業所の省エネ及び再生可能エネルギーの積極的な利用等、スコープ3については温室効果ガス排出量の80%以上を占める製品の部材調達、使用、廃棄段階での排出を削減するため、調達する部材の省資源化・再生利用、製品の省エネルギー性能の向上・リサイクル性向上などに注力して取り組んでおります。さらに2023年度からレーザープリンター製品において、部品サプライヤーと協働し、部品製造時に使用される電力に再生可能エネルギーを導入して、部品製造時のCO2排出量の削減に繋がる活動を開始しました。またマシナリー事業では内燃機関部品に替わって需要が増加しているEV向け部品で求められる大型のアルミ部品や、さまざまな加工ニーズに応えることができる製品“SPEEDIO”シリーズを開発することで、EV部品加工ソリューションを提供し、自動車産業におけるEVへの移行リスクに対応しております。

サーキュラーエコノミーの進展に対しては、当社グループの資源効率を向上させるため、2030年中期目標(製品に投入する新規資源率65%以下)を設定しております。その達成に向けて「プリンターの消耗品カートリッジの回収・リサイクルの拡大」、「製品のリユース促進」、「サブスクリプションサービス等のお客様とつながり続けるビジネスの拡大」を主要な取り組みと位置付け、資源の有効利用、資源循環を推進し、CO2排出削減にも貢献しています。

また、当社は2020年2月に金融安定理事会が設置した「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」の提言に賛同致しました。そして当社グループの主な事業に対して気候変動が与える財務的な影響の分析を実施し、Web等にて開示しました。今後は情報開示の充足に努めてまいります。

 

 

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

9.環境

・環境に関する

社会的要請

・環境規制、環

境汚染

・環境規制、環境汚染

グローバルに事業を展開する当社グループは、世界各国・地域において様々な環境法規制の適用を受けております。中でもEU-RoHS指令をはじめとする製品含有化学物質に関わる法規制は、世界各国・地域において新設及び改正が頻繁に行われています。これら規制に対する違反が発生した場合、製品のリコール、生産・販売の中止、課徴金の負担、刑事罰及び社会的信用の失墜等により、当社グループの事業経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。

・環境規制、環境汚染

当社グループは、禁止、制限及び管理対象とすべき化学物質を「ブラザーグループグリーン調達基準書」に明示すると共に、サプライヤーによる部材の適合保証、成分情報の伝達、サプライヤー監査及び納入品の抜き取り検査等を実施することにより、確実な法規制遵守に努めています。

また、世界各国・地域における環境法規制の最新情報は環境担当部門が当社グループ拠点と連携を取って収集し、当社製品に必要な対策の立案を行い、製品設計変更に関わる開発、購買、製造及び営業等の関連部門と協働し、製品への迅速な適応を図っています。

10.安全保障貿易

当社グループの産業機器事業で取り扱う工作機械は、国際的な安全保障貿易管理の枠組みによる規制品目に分類されております。
近年の国際情勢規制動向を踏まえますと、工作機械に対する安全保障貿易管理に関して、一層の規制強化が想定されます。
この工作機械に対する規制強化が実施された場合、当社グループが販売する工作機械の多くが規制対象となることが想定されます。
この規制強化の結果、工作機械の生産、販売、サービスに係る海外との取引において、適正な法令遵守手続や当社の工作機械が懸念用途に使用されないためのより厳格な管理が必要となり、そのためにさらなる管理工数や費用の増加が見込まれます。
また、法改正が施行された場合、今まで以上に法令違反事故発生のリスクが高まる恐れがあります。
もし、法令違反事故が発生した場合には、法令に基づく処罰、規制当局による管理体制の見直しや一定期間の規制品目の輸出や提供の禁止などの行政指導を受ける可能性だけでなく、社会的信用の失墜等により、当社グループの事業経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。

適正な法令遵守体制を維持しつつ、このようなリスクを低減するために継続的な管理状況の評価と改善、従業員等への周知教育の実施、産業機器事業を中心としたグループ子会社及びサプライチェーンを構成する各社と連携を図ることにより、当社全体としての安全保障貿易管理体制の強化、リスク内容に応じた有効且つ効率的な管理運用に努めております。

 

 

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

11.情報・

システム

・情報セキュリティ

・情報ネットワーク

・情報セキュリティ

何らかの原因で個人情報及び機密情報が外部に漏洩した場合、お客様からの信頼を失うとともに、ブランドイメージの低下を招くなど、当社グループの事業活動や経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

また、顧客サービスの充実を目指して、製品情報やサポート情報の提供並びに、関連サービスの提供を行っております。このようなWebサイトや関連するシステムにつきましては、安全な情報セキュリティレベルを維持することに努めておりますが、マルウェア感染や標的型攻撃などのサイバー攻撃により、データの破壊や改ざん、サービスの停止などの被害等が発生した場合、事業活動に悪影響を及ぼすことが考えられます。

また、近年は、IoT 製品をターゲットとしたサイバー攻撃の脅威が増大しており、当社製品からお客様の個人情報や機密情報が漏洩した場合、お客様からの信頼を失い、ブランドイメージが失墜し、当社グループの事業活動や経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。各国政府もIoT製品のセキュリティ向上や個人情報保護を目的とした法整備を活発化しており、法令に準拠しない製品は、対象国で販売できなくなる可能性があります。

・情報セキュリティ

当社グループは、情報管理規程を定めると共に情報管理委員会を設け、情報セキュリティ運用ルールを策定しております。また、SNS等のソーシャルメディアの利用に関しても、利用規程を定めております。それらの運用ルールや利用規程に基づくセキュリティ対策や社内教育を行うことで、個人情報及び機密情報の漏洩防止、サイバー攻撃へのグローバルで統一した多層防御対策の強化に努めております。また、近年はスマートフォン等により一部の社内情報の利用が出来ますが、利用端末の制限や暗号化等により管理体制の強化に努めております。さらに、個人情報や機密情報へのアクセスに関しましては、アクセス制御やアクセスログ管理を行っており、不正な取り扱いを回避しております。

当社グループは、お客様に安心して製品をお使いいただくために、「製品情報セキュリティ基本方針」を定め、グループ全体で製品セキュリティの向上を図っております。また、製品に関する脆弱性リスクが発生した場合の報告ルートや製品情報セキュリティ事故の対応体制に関する社内規程を定め、体制を構築することでリスクを最小化する対策を実施しております。各国の法令順守に関しては、海外子会社と連携し、法令等の新設・改訂の情報を察知し、法律の内容を十分に理解したうえでグループのビジネスや製品サービスへ迅速に反映するよう努めております。

 

 

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

11.情報・

システム

・情報セキュリティ

・情報ネットワーク

・情報ネットワーク

当社グループは、生産管理・販売管理及び財務等に関する情報を、ネットワークを通して管理しております。また、近年は外部データセンターやクラウドサービスを活用し、社内のみならず社外に配置した情報システムもネットワークを通して使用しております。万が一ネットワークの切断、システムの停止等が発生した場合、これらは事業活動の阻害要因となり得ます。また、マルウェア感染や標的型攻撃などのサイバー攻撃につきましても、予期し得ない外部からの侵入や攻撃がなされた場合、その内容や規模によっては、事業活動に悪影響を与える可能性があります。

また、財務報告の信頼性を維持し高めることが求められている中、予期し得ない統制上の問題が生じた場合には、財務報告の信頼性を担保できないような状況が起こり得る可能性があります。

・情報ネットワーク

情報の保存、設備の保全等の対策には万全を期しておりますが、サプライチェーンに影響する重要システムは、万が一の故障時にもダウンタイムを最小限にして早期復旧を可能とするシステム構成にしております。

予期し得ない外部からの侵入や攻撃への対策として、グローバルで統一した多層防御に基づくセキュリティ対策の強化を行っており、定期的に見直しを行っております。24時間365日のセキュリティ監視を行うことで、PC、及びサーバ上の不正なふるまいをいち早く検知し、脅威を除去することで高度化するサイバー攻撃への対応も行っております。

上記のように、対応し得る最善の仕組みで対策を行うと同時に、日々進化するITテクノロジーに対応するため、システムを運営、利用する人材を継続的に教育することでレベルアップを図っております。万が一事故が発生した場合に備え、日頃より社内の対応組織の訓練を行い、迅速に対応することで被害を最小限に抑えるよう努めております。

内部統制への対応として、IT全般統制の視点から情報システムの開発・保守・運用業務の品質向上活動を継続し、適正なIT業務運用に努めております。

12.人材

・労働災害、

人的被害

・人材確保

・労働災害、人的被害

当社グループはグローバルに事業拠点を展開しており、多様性や環境、安全に対する意識並びに順守すべき法律も拠点所在国・地域によって異なっています。そうした労働条件において軽微なものから障がいが残る重篤な災害まで多くのリスクが労働環境には潜んでいます。加えて、昨今の想定を超えた天災から生じる被害や機械・設備などが起因となる火災、爆発などの事故で製造拠点の操業を停止することで社会的責任が果たせなくなると共に当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

・人材確保

労働市場における人材の獲得競争は激化しており、有能な人材の採用や雇用の継続が困難になった場合は、研究開発に十分な資源を投入できないことによる製品競争力の低下や労働力不足による製品の安定供給への支障など、結果として当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。発生可能性は現時点で低いものの、特にブランドイメージが著しく損なわれた場合に発生することが想定され、影響は案件の内容次第となります。

・労働災害、人的被害

グループ各拠点の安全防災事務局から毎月の事故・災害状況を入手して、発生した災害に関しては原因の究明や再発防止策などの情報を共有し水平展開を図ることで同種・同類災害の再発を防止しています。また、各拠点で実施されている安全防災活動を支援し、工場監査を通じて実施状況の確認を行っております。
なお、火災・爆発のリスクに関しては、2017年に「ブラザーグループ防災体制・管理規程」を制定し、各国の消防法令の枠を超えたグループ標準を設けて遵守事項についての監査を実施しております。

 

・人材確保

当社グループは、グローバルに展開する企画、開発、設計、製造、販売、サービス等の各機能に必要な人材確保に努めております。
人材の定着においては、従業員が長期にわたって活躍できるよう人事制度の進化や職場環境の継続的な改善に取り組むとともにキー人材についてはサクセッションプランの策定を行っています。
またブランドイメージの維持向上については、グローバル憲章による社員啓発や企業広報の強化に取り組んでいます。

 

 

 

 

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

13.M&A(減損リ

スク)

当社グループは産業用領域のさらなる拡大・新規事業の創出・育成等に向けて、M&Aも含めた成長投資を加速する方針を掲げております。
M&Aなどの実施においては、事業の統合に当初想定以上の負荷がかかることや投資時点において想定した通りに投資先が事業を展開できないこと等により、予想された通りの投資効果が得られないリスクがあります。
当社グループは、2024年3月31日現在の連結財務諸表上、のれんを52,955百万円(総資産の5.9%)計上しており、そのうち、2015年に買収したドミノ事業に関連するのれんが52,489百万円を占めております。上記のリスクが顕在化し将来キャッシュ・フローの見積りが変動した場合、また、将来の金利水準や長期的な市場成長率などの変動が生じた場合、これらののれんや有形固定資産、無形資産等の減損損失が生じ、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

なお、当連結会計年度において、ドミノ事業ののれんの一部について減損損失28,216百万円を計上いたしました。英ポンド高の進行による利益へのマイナス影響や、金利上昇を受けた割引率の上昇に加え、デジタル印刷機市場における成長が想定より遅れていることを受けて今後の事業計画を慎重に見直したことによるものです。

当社グループは、中期戦略「CS B2024」において、産業用領域の飛躍に向けて「ドミノ事業の成長加速」を重点戦略に掲げ、デジタル印刷分野の新製品投入やコーディング&マーキング分野の顧客基盤強化に取り組んでおります。

また、のれんにつきましては少なくとも年に1回、減損の兆候の有無にかかわらず、将来得られるキャッシュ・フロー見積りと、帳簿価額を比較して、のれんの資産価値を確認しており、適正な評価額で計上しております。

14.為替変動リスク

当社グループは、海外での製造・販売比率が高く、外貨建取引に係る為替変動リスクが定常的に発生しております。2024年3月期の実績ベースで試算した場合、対ユーロで円高になると、1円当たり、年間約8億円の利益の減少要因となります。また、対米ドルで円安になると、1円当たり、年間約3億円の利益の減少要因となります。
また、中国・東南アジアなど、主要な製造拠点の所在地域の通貨が上昇した場合、製造・調達コストを押し上げる要因になるなど、中長期的な為替レートの変動が、経営成績等に一定の影響を及ぼすことが想定されます。

海外子会社の保有する現地通貨建ての資産(負債を控除した純額)は、各現地通貨に対して円高になると、円換算後の金額が目減りします。これは直ちに連結損益には影響しませんが、その他の包括利益が減少し、純資産を押し下げる要因となります。

リスク低減のため、外貨建取引における受取と支払のリンク率向上を図る一方で、短期的には為替予約取引を行うなど、リスクを効率的に管理し、回避するよう努めております。

 

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

15.知的財産

(1)第三者による模倣品の販売など、第三者による当社グループ所有の知的財産権の侵害が発生する可能性があります。この結果、当社グループの経営成績等が悪化したり、信用が低下したりする可能性があります。

 

(2)第三者所有の特許権等について、第三者より当社グループに対し、侵害の訴えが提起される可能性があります。第三者の主張が認められると、製品の販売の差止めや、損害賠償の支払などが求められる可能性があります。

 

(3)当社グループは、必要に応じて、特許権等知的財産権に関するライセンス契約を他社と締結しつつ、事業活動を行っております。しかしながら、ライセンス契約の条件によっては事業活動が影響を受ける可能性があります。

 

 

(4)発明者より、発明の報奨に関する訴えが提起される可能性があります。

(1)当社グループは、第三者による侵害行為に対しては、経営成績等や信用への影響度を考慮しつつ、知的財産権を行使しております。

 

 

 

(2)当社グループは、他社の特許権等の知的財産権を尊重して事業活動を行っておりますが、第三者から侵害の訴えが提起された場合には、内容を精査した上で、防御や和解などの対策を講じております。

 

(3)当社グループでは、研究開発の成果として多数の特許権を取得しております。保有する一部の特許権について相手方へライセンスを供与するなどの対策を講じつつ、事業活動への影響が最小限になるように契約を締結しております。

 

(4)当社グループは、発明報奨規程を設けており、発明者に対する報奨を適切に行っております。

 

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 

当社グループの財政状態及び経営成績は次の通りです。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、判断したものであります。

なお、当社グループの業績管理は、事業セグメント損益及び営業損益により行われております。事業セグメント損益は、売上収益から売上原価、販売費及び一般管理費を控除して算出しております。

 

(1)経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績」という。)の状況の概要は次の通りであります。

 

①経営成績の状況

当連結会計年度における世界経済は、新型コロナウイルス感染症の影響が緩和し社会活動の正常化が進んだものの、長期化するウクライナ情勢に加え中東情勢の緊迫化や、中国経済の低迷、欧米における金融引き締め、円安の進行など、景気の先行きは依然として不透明な状況が続いております。

当社グループに関連する事業環境は、プリンティング市場では、欧米及び中国において市況が低迷しております。マシナリー事業の関連分野は、産業機器においては内需・外需ともに緩やかに回復しているものの厳しい状況が継続し、工業用ミシンにおいても景気後退の懸念を受け、依然としてアジア向けのアパレル設備投資需要が低迷しております。ドミノ事業の関連分野は、景気減速の影響を受け、設備投資需要が軟化しました。ニッセイ事業の関連分野は、主に中国の市況悪化により、工場の自動化に向けた設備投資の先送りが継続しました。家庭用ミシンは、各地域で巣ごもり需要が収束したことに加え、インフレなどの影響を受け、市況が低迷しております。国内におけるカラオケ市場は、新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い、客足の回復が進んでいます。

このような状況の中、当連結会計年度における当社グループの連結業績は、P&S事業では、通信・プリンティング機器本体の販売が減少したものの、消耗品の販売増や為替のプラス影響により増収となりました。マシナリー事業では、産業機器、工業用ミシンともに市況低迷の影響を受け、大幅な減収となりました。ドミノ事業では、景気減速の影響を受けたものの、為替のプラス影響に加え消耗品が堅調に推移し、増収となりました。ニッセイ事業では、設備投資需要の低迷により、減収となりました。P&H事業では、米州を中心とした市況の低迷により、減収となりました。N&C事業では、カラオケ店舗への客足の回復に伴い増収となりました。

これらの結果、売上収益は、前期比0.9%の増収となる822,930百万円となりました。事業セグメント利益は、販促費及び販管費が増加したものの、物流コストの減少や価格対応の効果に為替のプラス影響が加わり、前期比25.1%の大幅な増益となる75,579百万円となりました。営業利益は、ドミノ事業におけるのれんの一部の減損損失を計上したことなどにより、前期比10.1%の減益となる49,792百万円、親会社の所有者に帰属する当期利益は、前期比19.0%の減益となる31,645百万円となりました。

 

*平均為替レート(連結)は次の通りであります。

当期 米ドル :144.40円   ユーロ :156.80円

前期 米ドル :134.95円   ユーロ :141.24円

 

セグメント別の業績は、次の通りであります。

 

1)プリンティング・アンド・ソリューションズ事業

売上収益  514,942百万円(前期比+3.7%)

〇通信・プリンティング機器 448,563百万円(前期比+3.1%)

インクジェット複合機、レーザー複合機・プリンターともに消耗品は堅調に推移したものの、製品本体は主に中国や欧米において市況低迷の影響を受け、販売が減少しました。全体では、為替のプラス影響があり、増収となりました。

〇ラベリング 66,379百万円(前期比+7.7%)

供給制約があった前年と比較して製品本体が堅調に推移したことに加え、為替のプラス影響により、増収となりました。

事業セグメント利益 62,526百万円(前期比+68.6%)

営業利益      61,011百万円(前期比+67.4%)

販促費及び販管費が増加したものの、物流コストの減少や通信・プリンティング機器の消耗品の売上増、価格対応の効果に為替のプラス影響も加わり、大幅な増益となりました。

 

2)マシナリー事業

売上収益  77,372百万円(前期比△19.7%)

〇産業機器 43,079百万円(前期比△29.7%)

中国・アジアを中心に自動車・一般機械市場向けの設備投資需要が低迷し、大幅な減収となりました。

〇工業用ミシン 34,293百万円(前期比△2.3%)

工業用ミシンは、アジアのアパレル向け設備投資需要が引き続き低調に推移し、販売が減少しました。一方で、ガーメントプリンターは、主に米州で販売が増加しました。全体では、為替のプラス影響があったものの、減収となりました。

事業セグメント利益 2,213百万円(前期比△76.8%)

営業利益      2,301百万円(前期比△76.6%)

減収により、大幅な減益となりました。

 

3)ドミノ事業

売上収益  109,643百万円(前期比+8.7%)

景気減速の影響を受け製品本体の販売は減少したものの、為替が円安に推移したことによるプラス影響に加え、消耗品が堅調に推移し、増収となりました。

事業セグメント利益 5,071百万円(前期比△9.0%)

営業損失      24,071百万円(前期 営業損失 5,787百万円)

事業セグメント利益は、為替が英ポンド高に推移したことによるマイナス影響に加え、営業活動の強化や基幹業務システムの刷新に伴い販管費が増加したことなどにより、減益となりました。営業利益は、のれんの一部の減損損失を計上したことにより、大幅な赤字となりました。英ポンド高の進行によるマイナス影響や、金利上昇を受けた割引率の上昇に加え、デジタル印刷機市場における成長が想定より遅れていることなどを受けて今後の事業計画を慎重に見直したことによるものです。

 

4)ニッセイ事業

売上収益  20,830百万円(前期比△11.3%)

設備投資需要の低迷により、減速機・歯車ともに販売が低調に推移し、減収となりました。

事業セグメント利益 1,019百万円(前期比△46.4%)

営業利益      991百万円(前期比△45.5%)

減収により、大幅な減益となりました。

 

5)パーソナル・アンド・ホーム事業

売上収益  50,480百万円(前期比△1.0%)

為替のプラス影響があったものの、米州を中心とした市況低迷により、主に中高級機の販売が減少し、減収となりました。

事業セグメント利益 2,516百万円(前期比△56.5%)

営業利益      2,478百万円(前期比△57.6%)

中高級機の販売減少による製品ミックスの悪化や販促費及び販管費の増加などにより、大幅な減益となりました。

 

6)ネットワーク・アンド・コンテンツ事業

売上収益  38,098百万円(前期比+8.1%)

客足の回復によるカラオケ店舗の売上増加に加え、新製品投入に伴いカラオケ機器の販売が堅調に推移し、増収となりました。

事業セグメント利益 1,623百万円(前期比+255.1%)

営業利益      1,660百万円(前期比+103.7%)

増収効果により、大幅な増益となりました。

 

②財政状態の状況

資産合計は、のれん及び無形資産が減少した一方、現金及び現金同等物、有形固定資産が増加したことなどにより、前連結会計年度末に比べ45,623百万円増加し、896,109百万円となりました。

負債合計は、社債及び借入金が減少したことなどにより前連結会計年度末に比べ25,817百万円減少し、227,988百万円となりました。

資本合計は、親会社の所有者に帰属する当期利益による利益剰余金の増加、在外営業活動体の換算差額の影響などにより前連結会計年度末に比べ71,440百万円増加し、668,121百万円となりました。

 

当期における期末為替レートは、次の通りであります。

   米ドル : 151.41円   ユーロ : 163.24円

 

③キャッシュ・フローの状況

キャッシュ・フローの状況については、現金及び現金同等物(以下「資金」)は、営業活動により141,028百万円増加、投資活動により42,068百万円減少、財務活動により61,584百万円減少等の結果、当連結会計年度末は前連結会計年度末と比べ47,103百万円増加し、166,146百万円となりました。

当期における各キャッシュ・フローの状況とその主な要因は、次の通りです。

 

1)営業活動によるキャッシュ・フロー

税引前利益は52,523百万円で、減価償却費及び償却費47,537百万円、減損損失28,325百万円など、非資金損益の調整などによる資金の増加、営業債権及びその他の債権の減少による資金の増加3,351百万円、棚卸資産の減少による資金の増加34,417百万円、営業債務及びその他の債務の減少による資金の減少15,070百万円などがあり、法人所得税の支払額9,200百万円などを差し引いた結果、141,028百万円の資金の増加となりました。

 

2)投資活動によるキャッシュ・フロー

有形固定資産の取得による支出38,015百万円、無形資産の取得による支出9,470百万円、投資不動産の売却による収入3,000百万円などにより、42,068百万円の資金の減少となりました。

 

3)財務活動によるキャッシュ・フロー

短期借入金の増減による支出15,616百万円、長期借入金の返済による支出19,997百万円、リース負債の返済による支出8,543百万円、配当金の支払額17,421百万円などにより、61,584百万円の資金の減少となりました。

 

④生産、受注及び販売の状況

1)生産実績

当社グループの生産実績は、販売実績と近似しておりますので、記載を省略しております。

2)受注実績

当社グループの生産活動は、その多くを見込生産で行っておりますので、受注実績は記載しておりません。

3)販売実績

当社グループの販売実績は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記6.セグメント情報」をご参照下さい。

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討事項

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次の通りであります。

 

①重要性がある会計方針及び見積り

 当社グループの連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和51年大蔵省令第28号)第93条の規定により、IFRSに準拠して作成されております。

 IFRSに準拠した連結財務諸表の作成において、経営者は、会計方針の適用並びに資産、負債、収益及び費用の金額に影響を及ぼす判断、見積り及び仮定を行うことが要求されております。当社グループの判断、見積り及び仮定は合理的であると考えておりますが、実際の業績は、これらの見積りとは異なる場合があります。

 なお、当社グループの連結財務諸表において採用する重要性がある会計方針及び見積りは、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要性がある会計方針」及び「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 4.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載しております。

 

②当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

1)当連結会計年度の経営成績

経営成績は、「(1)経営成績等の状況の概要 ①経営成績の状況」をご参照下さい。

 

2)経営成績に重要な影響を与える要因

経営成績に重要な影響を与える要因については、「3 事業等のリスク」をご参照下さい。

 

3)経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標

中期戦略「CS B2024」では、最終年度である2024年度の業績目標を売上収益8,000億円、営業利益率10.0%以上、ROE10.0%以上としています。

期間中に為替が急激に円安に推移したことなどを受け、中期戦略「CS B2024」2年目である当連結会計年度の実績は、売上収益については8,229億円で既に目標を達成しています。しかしながら、ドミノ事業におけるのれんの一部の減損損失を計上したことなどにより、営業利益率は6.1%、ROEは5.0%となりました。

 

 平均為替レート(連結)は次の通りであります。

 当期       米ドル :144.40円   ユーロ :156.80円

 CS B2024 策定時 米ドル :108.00円   ユーロ :125.00円

 

 中期戦略「CS B2024」における、経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標としては、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)中長期的な経営戦略」をご参照下さい。

 

4)セグメントごとの財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

 事業セグメントごとの経営成績の状況については、「(1)経営成績等の状況の概要 ①経営成績の状況」をご参照下さい。

 

5)当社グループの資本の財源及び資金の流動性

当社グループは、現在及び将来の事業活動のために適切な水準の流動性維持及び、柔軟で効率的な資金の確保を財務活動の重要な方針としております。この方針に従って、当社グループは、グループ会社が保有する資金をグループ内で効率よく活用するキャッシュマネジメントシステムを構築し運用しております。資金の偏在をならし、グループ全体で借入を極力削減する体制を整えております。

流動性管理

当社グループは、現金及び現金同等物を手元流動性と位置付けております。当連結会計年度末現在、当社グループは、売上収益の約2ヶ月分に相当する現金及び現金同等物166,146百万円を保有しております。

当社グループは、当社及び金融子会社などの資金調達拠点を通じたキャッシュマネジメントシステムの活用により、資金の効率化を図り、流動性を確保しております。

これにより、季節的な資金需要の変動、事業環境リスク等を考慮の上、通年にわたり十分な手元流動性を確保していると考えております。

資金調達

運転資金等の短期資金は、原則として期限が1年以内の短期借入金を現地通貨で調達することとし、生産設備等の長期資金は、内部留保資金の他、固定金利の長期借入金及び社債等で調達することを基本方針としております。当連結会計年度末現在、長期借入金の残高は600百万円であり、通貨は日本円であります。

当社は、株式会社格付投資情報センターから格付けを取得しております。当連結会計年度末現在、発行体格付けがA、コマーシャルペーパーがa-1であります。金融・資本市場へのアクセスを保持するため、一定水準の格付けの維持は重要と考えております。

当社グループでは、営業活動によりキャッシュ・フローを生み出す能力に加えて、手元流動性、健全な財務体質により、当社グループの成長を維持するために必要な運転資金及び設備投資・研究開発資金等を確保することが可能と考えております。

資金の需要動向

中期戦略「CS B2024」では、事業ポートフォリオの変革と、持続可能な未来に向けた経営基盤の変革実現に向けた先行投資枠として総額1,500億円を設定しました。この投資枠を活用して、「事業ポートフォリオの変革」に向けては、産業用領域やインクジェット技術に関わる各種の機能、拠点の強化、M&A等の戦略投資を行っていきます。

未来に向けた先行投資を行う一方で、中期戦略「CS B2024」における基本方針に基づき株主利益還元を実施してまいります。

これらの資金需要に対応するため、営業キャッシュ・フローの獲得、また、必要に応じて、成長投資のための資金調達を機動的に実施する方針であります。

 

 

5【経営上の重要な契約等】

技術契約

契約会社名

相手先

(国名)

内容

契約期間

当社

キヤノン株式会社

(日本)

電子写真及びファクシミリに関する特許実施権の許諾

2009年6月27日から対象特許の満了日まで

株式会社リコー

(日本)

電子写真技術及びファクシミリ装置に関する特許実施権の許諾

2019年10月1日から5年間

Lemelson Medical,

Education and

Research

Foundation(米国)

画像処理技術及びバーコード技術等に関する特許実施権の許諾

1998年4月2日から対象特許の満了日まで

セイコーエプソン株式会社

(日本)

印刷装置等に関する特許実施権の許諾

2018年6月28日から対象特許権の満了日まで

 

 

6【研究開発活動】

 当社グループでは、固有の技術を生かしてお客様の求める製品・サービスを生み出すことが真の技術力であると考えています。それは優れた技術も製品に生かされてこそ価値が生まれると考えるためです。お客様に評価され選ばれる製品をご提供するために、当社グループの技術者はお客様と向き合い、お客様の声に真摯に耳を傾けています。そして、お客様が喜ぶ顔をどんな技術で実現するか、どんな製品でお客様の役に立つことができるかを常に考えながら価値創造に取り組んでいます。

 

 試験研究に従事する者は、グループ全体で2,290人であります。

 当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は、47,941百万円であります。

 

 当連結会計年度におけるセグメント別の主な研究開発内容や研究開発成果及び研究開発費は、次の通りであります。

 

(1)プリンティング・アンド・ソリューションズ事業

 レーザーやインクジェットなどのプリンティング技術を追求し、ワークスタイルの革新を提案します。代表的な製品としては、コンパクト性を追求したプリンターのほか、1台にプリンター・ファクス・コピー・スキャナーなどの機能を搭載した複合機、また、使いやすさにこだわったラベルライターがあります。これらの情報通信機器で、SOHO(Small Office・Home Office)やSMB(Small and Medium Business)などで幅広いニーズにお応えします。

 また、海外生産が加速する流れの中で、モノ創り企業としての足腰を固めるため、製造をサポートするための生産技術開発を行い、モノ造りの早い段階での性能・品質の作りこみを目的としたプロセス改革、及び超精密加工技術なども推進しています。

 当連結会計年度の主な成果としては、レーザープリンター・複合機における新製品として、「7年間の製品耐久」と「超・大容量トナー」で長く使える「MFC-L3780CD」の発売をあげることができます。

 ラベリングにおいては、オフィス向けラベルライター「P-touch(ピータッチ)」の新製品として、本体キーボード・PC接続・スマホアプリの3通りの入力方式を実現した「PT-D610BT」の発売をあげることができます。

 当事業に係る研究開発費は、28,755百万円であります。

(2)マシナリー事業

 自動車やIT機器などの部品加工に最適な工作機械、使いやすさ、高品質な縫製、省エネを実現した工業用ミシン、衣料品のデジタル印刷ニーズに応えるガーメントプリンターなどを通じて、お客様の生産性向上と新たな価値創出に貢献しています。

 当連結会計年度の主な成果としては、工作機械の新製品として、SPEEDIOシリーズ初の横形マシニングセンタ「横形コンパクトマシニングセンタ SPEEDIO H550Xd1(Hシリーズ)」の発売をあげることができます。

 ガーメントプリンターにおいては、広色域を再現する7色インクと6つのプリントヘッドで高画質、高生産性を実現した「GTX600SB」の発売をあげることができます。

 当事業に係る研究開発費は、5,215百万円であります。

 

(3)ドミノ事業

 各種コーディング・マーキング機器の販売からアフターサービスまでの一貫した提供を通じて、お客様による品質管理やトレーサビリティーの向上などの需要にお応えします。

 また、インクジェット方式のデジタル印刷機、及びそのアフターサービスまでの一貫した提供を通じて、お客様によるラベルなどパッケージ印刷に対する多種少量化・短納期化などの需要にお応えします。

 当事業に係る研究開発費は、7,229百万円であります。

 

(4)ニッセイ事業

 幅広い製品バリエーションを持つギアモータ、産業用ロボットやFA機器の駆動を担う高剛性減速機、高精度・高品質な歯車などを通じて、拡大が予想される自動化・省人化分野など、多様化する顧客ニーズに的確に対応し、お客様の価値創出に貢献しています。

 当事業に係る研究開発費は、906百万円であります。

 

(5)パーソナル・アンド・ホーム事業

 高性能かつ高付加価値の製品を提供できる業界随一の開発力を有しています。特に電子技術の強みを生かした最先端の機能を使いやすい形でお客様に提供することで、市場をリードしています。

 当連結会計年度の主な成果としては、家庭用刺しゅうミシンの新製品として、最大300mm×200mmの範囲に刺しゅうができる1頭1針の業務用刺しゅうミシン「Entrepreneur One PR1X(アントレプレナーワン PR1X)」(以下「PR1X」)の発売をあげることができます。

 当事業に係る研究開発費は、2,879百万円であります。

 

(6)ネットワーク・アンド・コンテンツ事業

 通信カラオケ事業において、業務用通信カラオケシステムを提供するとともに、通信カラオケで培ったコンテンツや配信技術を活用し、健康分野に向けたサービスや映像コンテンツの配信など、新たな顧客価値を追求しています。

 当事業に係る研究開発費は、790百万円であります。

 

(7)その他事業

 当事業に係る研究開発費は、2,165百万円であります。