第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1) 会社の経営の基本方針

当社グループは、「MOTION & CONTROL™を通じ、円滑で安全な社会に貢献し、地球環境の保全をめざすとともに、グローバルな活動によって、国を越えた人と人の結びつきを強めます。」という企業理念のもと、

 ①世界をリードする技術力によって、顧客に積極的提案を行う

 ②社員一人ひとりの個性と可能性を尊重する

 ③柔軟で活力のある企業風土で時代を先取りする

 ④社員は地域に対する使命感をもとに行動する

 ⑤グローバル経営をめざす

という経営姿勢により社会に貢献する企業を目指していきます。

 

(2) 経営環境及び対処すべき課題等

当社グループを取り巻く事業環境は、世界的なインフレの継続、欧州や中国の経済回復の遅れに加え、米国の追加関税政策及びそれに対する各国の経済政策や顧客・取引先の生産計画の変更などの影響により、先行きは未だ不透明な状況にあります。バッテリーEVの成長鈍化とそれに代わるハイブリッド車の増加など、自動車産業の将来動向にも変化が見られます。また、産業全般における電動化・自動化・デジタル化などの技術革新により、企業として取り組むべき課題は拡大を続けています。さらには、環境問題、人権の尊重、少子高齢化問題への取り組みなど企業の社会的責任の重要性は増し、経営環境は急速に変化しています。

こうした環境下においても、当社グループは企業理念のもと、技術革新の進展や地球環境負荷の低減に対する取り組みを成長の機会と捉え、技術・製品・サービスを通じ、高い品質と信頼で応えていきます。すなわち、トライボロジーとデジタルの融合による価値創出で、持続可能な社会の発展に貢献し、社会から必要とされ、信頼され、選ばれ続ける企業を目指していきます。

その実現に向けて、2022年度から2026年度までの5ヵ年を対象期間とする『中期経営計画2026』に則り、事業基盤の強化を進めています。当社のコアバリューである「安全・品質・環境・コンプライアンス」を経営の意思決定や行動において最優先される共通の価値基準とし、「収益を伴う成長」「経営資源の強化」「ESG経営」の3つの経営課題に取り組んでいきます。

 

3つの経営課題とその取り組み内容は以下のとおりです。

 

1.「収益を伴う成長」として、既存ビジネスを伸ばすとともに新たなビジネス領域を育てることを意味する

 “Bearings & Beyond”のもと、事業環境の変化の中でも、持続的成長が可能な事業基盤の確立を目指します。

当社グループの強みである軸受・精機製品の競争力を高め、産業機械ビジネスの拡大による事業ポートフォリオの変革と、自動車の電動化へのシフトに対応し、自動車軸受における高シェア維持に取り組んでいきます。

拡大を狙うアフターマーケット事業においては、補修・交換のための部品と、寿命予測や状態監視などのサービスを合わせて提供することにより、循環型社会への貢献を通じて、事業の拡大を目指します。

新技術の共創を進め、自動車の電動化や拡大していくロボット産業などで必要とされる機械要素(メカ部品)及びユニット・システム製品を開発することにより、自動化や安全・安心な社会への貢献を通じて、新商品でのビジネスを広げていきます。

欧州をはじめとする生産拠点の再編など事業の構造改革を進め、収益改善に取り組んでいきます。

 

 

2. 「経営資源の強化」として、デジタルの力で経営資源を強化し、事業変革を起こし続ける基盤を作ります。

品質・技術・業務オペレーションの更なるレベルアップと効率化のため、デジタルへの投資を進め、それらを

 積極的に活用します。

モノづくりの方針として「生産の超安定化」を掲げ、デジタルを活用した飛躍的生産性の向上と、より安全・安心で、環境にやさしい工場を実現し、モノづくりの変革を目指します

・大学・企業とのオープンイノベーションを通じて、トライボロジーを中心としたコア技術の深掘りとそれを支える人材育成に取り組みます。

・多様な人材の登用、多様なキャリアの開発・支援を進め、人的資本の価値最大化を目指します。

 

3. 「ESG経営」として、事業を通して社会の持続的な発展に貢献し、社会から必要とされ、信頼され、選ばれ続け

  る企業を目指します。   

当社グループが製品を「つくる」という面からは、省エネへの取り組み、新技術の開発、及び再生可能エネルギーの活用により、二酸化炭素の自社からの直接排出(Scope1)とエネルギー使用による排出(Scope2)について、2035年度にカーボンニュートラル達成を目指すと共に、サプライチェーン全体(Scope3)での排出量削減にも取り組んでいきます

お客様が当社グループの製品を「つかう」という面からは、エネルギーロスを少なくする低摩擦技術や、風力発電・水素エネルギーなどに使用される環境貢献型の製品・サービスの提供により循環型社会の発展に貢献します。

・働き方改革によって働きやすい環境をつくり、ダイバーシティ&インクルージョンを推進します。

・グループガバナンスの強化と、ステークホルダーとの対話を深めていきます。

 

また、ステアリング事業についてはジョイントベンチャーパートナーと共に、将来の新しいアライアンスに向けた検討を進めておりましたが、当初より取り組んでいた改善施策に目途が立ち、2024年度は黒字化するなど収益体質の改善が実現しました。一方で、近年の自動車部品業界を取り巻く環境は大きく変化しており、これまで以上に機動的な対応が求められることから、当社主導で「ストラテジック・パートナーとのアライアンスの検討」に取り組むこととし、当社が、ジョイントベンチャーパートナーの保有するNSKステアリング&コントロール株式会社(以下「NS&C」)の株式を取得して、NS&Cを当社の連結子会社とすることといたしました。詳細は、「第5[経理の状況]1[連結財務諸表等][連結財務諸表注記]31. 後発事象 ステアリング事業会社株式の譲受契約の締結について」をご参照ください。NS&Cを当社の連結子会社とした後も、当社グループ内でスタンド・アローン体制を維持し、更なる体質強化に取り組んでまいります。

 


 

当社グループは、以上の経営課題に取り組み、『変わる 超える』への挑戦を続け、未来志向の高い目標に向かって、前進を続ける活力のある会社を目指します。企業理念に基づいた企業活動とMOTION & CONTROL™の進化を通じて、社会的課題の解決と社会の持続的発展への貢献を続けていきます。

 

 

(3) 目標とする経営指標

当社は2022年5月に『中期経営計画2026』(2023年3月期から2027年3月期)を発表しましたが、近年の事業環境の変化を鑑み、2024年5月に2027年3月期の財務目標を修正しました。しかしながら、現在も世界的なインフレの継続、欧州や中国の経済回復の遅れに加え、米国の追加関税政策の影響など事業環境の先行きは不透明な状態が続いています。引き続き事業の成長を目指すと共に構造改革を進め、ROE8%の早期実現に向けた収益改善に継続して取り組んでいきます。

 

 

財務目標

 

事業ポートフォリオの変革

収益を伴う成長

営業利益率

8%

株主資本コストを上回る

資本効率性の追求

ROE

8%

ROIC

6%

持続的な成長を支える

財務基盤の安定維持

ネットD/Eレシオ

0.4倍以下

 

 

また、非財務目標として、技術開発の取り組みにおいては新商品売上高比率の向上、環境についてはCO2排出量とCO2排出原単位の削減及び環境貢献型製品の開発に取り組んでいます。また、安全な職場環境づくりに対しては休業度数率の減少、ダイバーシティ&インクルージョンに関しては、従業員及び管理職における多様性(女性、外国人、中途採用比率)の向上などに取り組んでいます。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取り組みは、次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。


(1)サステナビリティ全般

①ガバナンス

当社グループは、機関設計として指名委員会等設置会社を採用しています。取締役会は経営の基本方針などの重要な経営事項の決定にあたるとともに、業務執行の決定を執行機関へ積極的に委任し、執行状況を適切に監督します。

当社のコアバリューである「安全・品質・環境・コンプライアンス」を経営の意思決定や行動において最優先される共通の価値基準とし、執行機関は、『中期経営計画2026』に則り、3つの経営課題である「収益を伴う成長」「経営資源の強化」「ESG経営」に取り組みます。また、CEOを委員長とするコアバリュー委員会は、コアバリュー推進・強化のための方針の議論や関連リスクの共有を通して、全社的課題を設定し、それらの解決に向けた提言と進捗のモニタリングを行うことによって、当社のサステナビリティ活動を推進します。

 

②リスク管理

当社グループにおいて、全社及びサステナビリティ分野の主要なリスクを検討するプロセスは、「第2[事業の状況]3[事業等のリスク]」に記載のとおりです。

 

③戦略

当社グループは、重点的に取り組むべきサステナビリティの分野をマテリアリティ(重要課題)として、9項目を特定しました。企業理念のもと、これらの項目について取り組むことで、社会課題解決への貢献と企業としての持続的成長の両立を目指していきます。当社グループでは、社会課題などの外部環境の変化が事業に与える影響に加え、会社の活動が外部のステークホルダーや環境・社会に与える影響を評価するダブルマテリアリティの考え方に基づき項目を特定し、執行部門の代表者により構成される経営会議の審議を経てCEOが決定し、オフィサーズ・ミーティングを通じて当社グループ内に共有するとともに取締役会に報告しました。

 


(注) 1 NPDS(NSK Product Development System):お客様の新規案件を、迅速、確実に安定生産に結びつけるため、品質を製品企画から開発・設計、試作、量産までのプロセスでつくりこむための活動

     2 NQ1(NSK Quality No.1):不良「ゼロ」の安定生産を目指した活動

 

 

④指標及び目標

『中期経営計画2026』の3つの経営課題と取り組みや非財務目標は、「第2[事業の状況]1[経営方針、経営環境及び対処すべき課題等](2)経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりです。

サステナビリティに関する取り組みは、当社グループウェブサイトをご参照ください。

https://www.nsk.com/jp-ja/company/sustainability/ 

 

(2)気候変動

①ガバナンス

取締役会は業務の執行の決定を積極的に委任し、その執行状況を適切に監督するとともに、カーボンニュートラルの取り組みを含む中・長期的な経営課題・方向性等に関するテーマの討議を行っています。

また、コアバリュー委員会は、「安全・品質・環境・コンプライアンス」のコアバリューの推進・強化のための方針の議論や気候関連等のリスクの共有を通して、全社的課題を設定し、それらの解決に向けた提言と活動の進捗のモニタリングを行います。

 

②リスク管理

当社グループは、これまでも気候関連のリスクを重要性の高いリスクとして認識し、事業や部門を横断して対処してきました。さらに2020年度からは、気候関連財務情報開示タスクフォース(以下「TCFD」)の推奨するシナリオ分析も活用し事業環境の変化と当社の事業への影響を分析するとともに、課題の抽出及び対応策の実施等、取り組みを強化しています。

 

③戦略

気候変動が当社グループのバリューチェーンに将来的に与える影響及び気候変動対策の有効性の検証を目的に、最長2050年までの期間を想定し、1.5℃~2℃シナリオ、4℃シナリオの2つのシナリオ分析を実施しました。当社グループは持続可能な社会の構築のため、気温上昇を1.5℃~2℃以下に抑制できる社会の実現に貢献することを基本戦略とします。CO2排出規制に関連した移行リスクへの対応に取り組み、製品ライフサイクル全体での脱炭素化という社会的ニーズを当社グループの事業領域であるMOTION & CONTROL™の進化の機会と捉え、事業活動全体で気候変動対策を推進します。一方、気候変動に起因する自然災害に対しては、シナリオ分析結果を踏まえて対策を推進します。

具体的には、省エネ活動や画期的な生産技術の導入によりエネルギー使用量を削減するとともに、再生可能エネルギーの活用を進め、事業活動からのCO2排出量の最少化に取り組んでいます。一方、お客様が当社グループの製品を使用する段階においては、製品の小型・軽量化や低摩擦化等、さらには風力発電機用等の再生可能エネルギー産業向け製品の供給を通じて、CO2排出量削減への貢献を最大化しています。

 

④指標及び目標

当社グループは、事業活動、すなわち「つくる」時のCO2排出量の削減と、顧客における製品・サービスの使用段階、すなわち「つかう」時のCO2排出削減貢献量の拡大を両輪として、長期的な目標を設定し取り組みを進めています。特に事業活動からのCO2排出量の削減については、『中期経営計画2026』では、Scope1とScope2のCO2排出について、2035年度に実質ゼロを目指すカーボンニュートラルの目標を設定しました。

 

<目標>

2026年度Scope1+2 CO2排出量削減 △50%(対2017年度)

2035年度Scope1+2 カーボンニュートラル達成

 

 


 

なお、TCFD提言に基づく情報開示については、当社グループウェブサイトをご参照ください。

https://www.nsk.com/jp-ja/company/sustainability/environment/tcfd-recommendations/

 

 

(3)人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針

①ガバナンス

取締役会は業務の執行の決定を積極的に委任し、その執行状況を適切に監督するとともに、人的資本経営の取り組みを含む中・長期的な経営課題・方向性等に関するテーマの討議を行っています。

また、CEOを委員長とする人材委員会を設置しています。人材委員会は、基幹ポストの後継者計画の策定と計画のモニタリングに加え、それらを担う人材の育成など人的資本の価値最大化の取り組みの推進を目的としており、当委員会において全社的な人材施策が報告、討議されています。

 

②リスク管理

第2[事業の状況] 3[事業等のリスク] [代表的リスクと対応策] 6 人材・労務に係るリスク」に記載のとおりです。

対象リスクは全社リスクマネジメントの仕組みの中で、その取り組み状況を管理しています。

 

③戦略

企業理念を実現し、社会課題解決への貢献とNSKグループの持続的成長を両立していくためには、多様な人材の活躍が不可欠です。当社は「人材方針」で、経営姿勢で謳う「社員一人ひとりの個性と可能性を尊重する」(注)ことを明確にするとともに、従業員一人ひとりが企業の貴重な財産であることを掲げています。また、「人材戦略」として、「多様な人材の活用」「いきいきと働き続ける職場づくり」「成長に資する機会と場の提供」という3つの柱で公平で個を活かす活力ある職場づくりを推進しています。
 『中期経営計画2026』の経営課題である「経営資源の強化」の主要施策の一つが「人的資本の価値最大化」です。経営戦略を確実かつタイムリーに実行していくためには、明確なKPIを伴った人材戦略との連動が不可欠です。当社は人的資本の価値最大化を、多様な人材一人ひとりが個性を最大限に発揮し、さらには挑戦することで可能性を広げ、成長し続けられる状態を生み出すことと考えており、次の目指すべき3つの姿を掲げて取り組みを推進しています。

(注)社員とは、NSKグループで働くすべての人を指します。

 


 

 

1.多様な人材が集まる会社

当社の人材戦略のキードライバーは多様性です。性別、性自認・性的指向、年齢、国籍、生活様式、価値観、キャリア(知見・経験)など、多様なバックグラウンドを持った従業員がそれぞれの力を発揮し、互いに刺激し合うことで、新たな視点や考え方、アイデアが生まれ、競争力の強化やリスクの回避にも繋がっていくと考えています。

特に意思決定層の多様化を重要視しており、その軸となる女性活躍推進を経営課題の一つと捉え、採用の強化、学びの機会の継続的な提供、コミュニケーションを通じたキャリアイメージの共有およびキャリア形成支援などの取り組みを進めています。2024年は社員自身の専門性をベースとした社外交流により、業務上の課題を解決するための気づきや、キャリア形成に関する気づきを得る機会等を積極的に提供しました。また、女性の係長層やその候補層を対象にしたキャリア・アドバンスメント研修の実施により、キャリア形成を継続的に支援しています。

 

2.多様な人材がスキル/能力を伸ばし成長できる会社

働き方やキャリアに対する考え方は多様化し、個々人の自律志向が拡大しています。個の成長・自己実現と企業の成長の相関関係が強くなり、従業員と企業は選び、選ばれる、より対等な関係になってきています。当社では、2024年7月に管理職(マネジメント・グレード)を対象に、ロール型の人事制度の導入を行いました。ロール型人事制度とは、従業員一人ひとりが担う役割や責任を明確にし、自らが能動的に未来志向の高い目標の達成に向けて挑戦することを求めていく人事制度です。個々の役割を「ロールディスクリプション(役割定義書)」として人材要件を明確にすることで、従業員は個々のキャリアを描きやすくなり、一人ひとりが自身の成長に向け、「自分で考え、自分で行動する」ことが可能になります。

また、早期育成施策としての若手育成ローテーションから始まり、経営人材候補を継続的に輩出するためのNSK経営大学に代表されるキャリア開発プログラム、経営陣によるメンタリング制度を通じて人材プールを強化しています。基幹ポストへの登用に関しては、CEOをトップとする人材委員会を最上位機関として、経営人材の後継者計画及び人的資本経営に基づいた人材投資計画を承認しています。基幹ポストの人材要件、キャリアパスを明確化することで、グローバルに融和性のある後継者管理を実現し、海外人材を含めた年齢、性別、国籍を問わない抜擢人事や戦略的登用を実施しています。

加えて、事業ポートフォリオ及び収益構造の転換のため、DXを推進しており、その中心となるデジタル人材の育成を進めています。デジタル変革本部が中心となり全社的な研修を実施、2024年にはAI活用に関するプログラムを強化し、より実践的なトレーニングや専門チームのハンズオン支援による現場適用を進めています。

 

3.安全で健全な職場

従業員のこころとからだの健康は事業活動の全ての基盤です。NSKが『中期経営計画2026』で取り組む「経営資源の強化」、また「人的資本の価値最大化」に向けた目指す姿の1つが「安全で健全な職場」です。従業員の健康への投資が企業価値の向上につながると考えています。

健康経営の推進にあたり、「NSK健康マネジメント基本方針(健康経営宣言)」を定め、全社的な推進体制を整え、戦略マップで課題・目標・期待する効果(プレゼンティーイズム・アブセンティーイズムの改善、エンゲージメントの最大化)の関係を明確にしています。また、健康課題と具体的な取り組みを「NSK健康取り組み3本柱」として掲げ、「からだ」「こころ」「せいかつ」をキーワードに活動を展開しています。2024年度は、仕事と傷病治療の両立支援を強化するため、傷病からの復帰を支援するプログラムの再構築を行いました。加えて、運動習慣とコミュニケーション、仲間と共に禁煙へのチャレンジなど、NSKらしい健康づくりを支援しています。

また、健康経営の施策の進捗や成果の第三者評価として、健康経営優良法人の認定継続を目標にしています。

「NSK健康マネジメント基本方針(健康経営宣言)」・推進体制・戦略マップ等については、当社グループウェブサイトをご参照ください。

https://www.nsk.com/jp-ja/company/sustainability/human-resources/safe-and-healthy-work-places/

 

 

④指標及び目標

人的資本経営の3つの目指す姿に向けて、全ての施策に、KPIとその目標を定めて取り組んでいます。施策には、エンゲージメント調査結果から抽出された課題に対する施策も含んでいます。「人的資本の価値最大化」は、これら一つひとつの取り組みの成果を積み上げることで実現できると考えており、目標に向けて、施策の進捗状況を定期的にモニタリングしています。

 

多様な人材が集まる会社

 

スコープ

2025年3月期

実績

2027年3月期
目標

従業員における多様性比率(女性、キャリア採用、外国籍社員) (注2、3)

日本

29

35

 

 

多様な人材がスキル/能力を伸ばし成長できる会社

 

スコープ

2025年3月期

実績

2027年3月期

目標

新人事制度の導入・運用

日本

管理職向け新人事制度の導入完了

組合員向け人事制度の導入

グローバルポストにおける現地化比率 (注4)

グローバル

72

70%以上を維持

デジタル人材基礎プログラム受講人数 (注5)

日本

4,200

 大規模展開と

定着化
 実践研修によるスペシャリスト育成

デジタル人材中級プログラム受講人数 (注5)

日本

1,200

 

 

安全で健全な職場

 

スコープ

2025年3月期

実績

2027年3月期

目標

休業度数率 (注6)

グローバル

0.15

0.10

健康経営優良法人認定継続 (注3)

日本

健康経営優良法人認定

認定継続

 

(注) 1 特に記載がない限り、一部グループ会社を含みます。

     2 意思決定層における多様性を重視しており、管理職及びスタッフ層(総合職同等)での多様性比率です。

     3 対象は提出会社です。

 4 当社は、海外事業の拡大に伴い、各地域で現地主体の機動的な事業運営を可能とする体制の構築を目指し、マネジメント層の現地化を図ってきました。地域統括における事業運営上の重要なポストをグローバルポストと定め、その多くに現地の社員が就き、現地主導で事業拡大を展開しています。

          グローバルに活躍するマネジメント人材の育成を目的に2011年よりグローバル経営大学を実施しています。

       5 2023年3月期から2025年3月期までの各プログラムを受講した合計人数です。

       6 休業度数率=休業災害発生件数÷延べ実労働時間×1,000,000

          休業1日以上の労働災害を休業災害と定義しています。

 

 

3 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が中・長期的観点も含め連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を与える可能性があると認識している重要なリスクは、次のとおりです。

なお、将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

当社は、経営陣の主要なリスク認識を基にグループ全体を対象にリスク・アセスメントを実施し、経営会議にてリスク重要度を決定し、取締役会にも報告しています。リスク・アセスメントのプロセスにおいては、リスクを発生可能性と影響度の二軸で評価し、さらに総合的な重要度に従い数段階に管理レベルを分けています。また、抽出したリスクは、当連結会計年度末時点での残余リスクに基づき評価していますが、対応策を講じることでその発生可能性と影響度を低減することを意図しています。管理レベルの高い重要リスクへの対応策の進捗状況を定期的に経営陣に報告する仕組みを構築しています。

 

 

2025年度の重要リスクは次の表のとおりです。

 

代表的リスクと対応策

リスク項目

代表的リスク内容

対応策

1

技術革新に係るリスク

・技術革新に伴う市場の変化や顧客の技術要求に開発対応が遅れるリスク

・中長期方針に基づく開発計画の管理・運営の徹底

・オープンイノベーションやアライアンスの活用

2

安全・防火及び自然災害に係るリスク

・自然災害・パンデミック等へのBCP対応不備が操業に影響するリスク

・重大な労働災害が発生するリスク

・火災発生により操業が停止するリスク

・影響度分析を通じた優先付けと具体的対策の特定・実施

・重点拠点の管理体制強化と防止活動充実

・グループ内教育活動の充実

3

品質に係るリスク

・重大な品質問題の発生リスク

・品質保証体制の不備により問題への対応力が低下するリスク

・品質データの偽装、改ざんリスク

・過去案件の分析に基づく対応策の強化

・全社トレーサビリティシステムの導入による問題発生時の影響軽減

・情報共有と品質監査活動の充実、教育強化

4

環境に係るリスク

・長期エネルギー削減施策の遅れが事業機会の逸失や企業価値毀損を招くリスク

・環境負荷物質の漏洩や排出基準超過が発生するリスク

・エネルギー削減目標達成サイクルに基づく投資計画の実行

・重点拠点の管理体制強化と防止活動充実

5

コンプライアンスに係るリスク

・各種法令や規制の変化への対応が遅れるリスク

・当社の製品が安全保障貿易管理上の懸念ユーザーに使用されるリスク

・グローバルな税務課題に関する対応力が不足するリスク

・グループコンプライアンス体制を通じた情報共有、教育研修の実施

・3つのディフェンスラインによる取り組み強化並びに顧客管理の徹底と定期的監査の実施

・国際税務対応リソースの拡充や親子会社間でのデータとリスク共有など税務マネジメント体制の強化

6

人材・労務に係るリスク

・グローバルに有能な人材の確保ができず事業拡大や戦略遂行に支障をきたすリスク

・働き方に対する価値観が多様化する中、人事諸制度、諸施策の見直しが遅れるリスク

・各国の労働関連法令に適宜対応できず、事業運営に支障をきたすリスク

・各国各地域や事業・機能の状況に応じた採用プロセスの強化とサクセッションプランニングの充実

・エンゲージメント調査に基づくグループ内施策・アクションプランの策定と実施及び啓発活動の強化

・各地域の人事部門との定期的情報交換とモニタリング、外部専門家との連携

7

調達に係るリスク

・特定供給元への依存が円滑な調達に支障をきたすリスク

・代替品の検討、調達先の複数化、現地調達の推進

8

DXや情報セキュリティに係るリスク

・基幹システムの導入に係る納期遅延とコスト増大リスク

・サイバー攻撃や機密情報流出などの情報セキュリティリスク

・プロジェクト管理の徹底と厳格な追加開発審査プロセスの構築

・計画的システム更新と定期的な脆弱性診断評価

・早期検知と対処能力の向上、早期復旧体制の強化

9

中長期的な企業価値向上に係るリスク

・事業環境の想定外の変化により、中期経営計画の達成に支障をきたすリスク

・株主・投資家や従業員等ステークホルダーとの対話が不十分なことにより企業価値向上や外部評価に影響を与えるリスク

・各国の関税や通商政策が当社の収益を圧迫するリスク

・計画の達成度のモニタリングと変化が生じた際の新たな対応策の策定と実行

・各ステークホルダーとのエンゲージメント活動の活発化や開示・発信のレベルアップ

・タイムリーな情報収集とそれに基づく販売価格の調整や生産地変更の検討

 

 

一方、インシデント発生時には、グループ内の各事業所・部署より即時ならびに定期的に報告がリスク管理部署になされる体制を整備し、影響の軽減と収束に向けた措置を講じることとしています。また、当社経営監査部は、各拠点や地域の内部監査部門と連携し、各拠点からの報告や実地監査等を通してリスクやインシデントの管理状況のモニタリングを行い、その結果を監査委員会に報告しています。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2025年6月23日)現在において当社グループが判断したものです。

 

(1) 重要性がある会計方針及び見積り

当社グループの連結財務諸表は、連結財務諸表規則第312条の規定によりIFRSに準拠して作成しています。連結財務諸表の作成にあたって、決算日における資産・負債の報告金額及び偶発資産・負債の開示、並びに報告期間における収益・費用の報告金額に影響を与えるような見積り・予測を必要とします。結果として、このような見積りと実績が異なる場合があります。

なお、連結財務諸表作成にあたっての重要性がある会計方針及び見積り等については、「第5[経理の状況] 1[連結財務諸表等] (1) [連結財務諸表] [連結財務諸表注記] 2.作成の基礎 (6) 見積り及び判断の利用、3.重要性がある会計方針」に記載のとおりです。

 

(2) 財政状態及び経営成績の状況

 

①事業全体の概況

当社グループは、2022年度から2026年度までの5ヵ年を『中期経営計画2026』と位置づけ、「収益を伴う成長」「経営資源の強化」「ESG経営」の3つの経営課題に取り組んでいます。

当連結会計年度の世界経済を概観すると、各国の金融政策転換による影響や中国経済の先行き懸念、米国の政策動向など不透明感を抱えつつも、景気は持ち直しが続いています。

地域別にみると、日本は緩やかに景気が回復しているものの、個人消費や鉱工業生産の一部に弱い動きがみられます。米国では底堅い労働市場や金融緩和が下支えし景気は堅調に推移しています。欧州はインフレが落ち着きつつあるものの、設備投資や鉱工業生産において弱い動きが見られ景気は足踏み状態にあります。中国では不動産市場の低迷長期化や個人消費の冷え込みが景気の下押し圧力となり減速しました。

このような経済環境において当社グループの業績は為替が円安に推移したこともあり、非継続事業を除いた継続事業の当連結会計年度の売上高は7,966億67百万円(前期比+1.0%)となりました。営業利益は284億57百万円(前期比+3.9%)、税引前利益は251億0百万円(前期比△4.2%)、継続事業及び非継続事業の合算の親会社の所有者に帰属する当期利益は106億47百万円(前期比+25.2%)となりました。

なお、前連結会計年度に引き続き非継続事業に分類していたステアリング事業のインド子会社であるRane NSK Steering Systems Private Limited(以下「RNSS」)について、2024年9月19日に当社が所有するRNSSの全株式をRane Holdings Limited(以下「RHL」)に譲渡し、RNSSに対する支配を喪失しました。支配の喪失に係る損益は非継続事業に含めています。

また、前第1四半期連結会計期間からステアリング事業を非継続事業に分類しています。売上高、営業利益、税引前利益は非継続事業を除いた継続事業の金額を表示し、当期利益及び親会社の所有者に帰属する当期利益は、継続事業及び非継続事業の合算を表示しています。

 

②セグメントごとの業績
(産業機械事業)

設備投資の需要が緩やかに回復したことに加えて、為替が円安に推移した影響により、当連結会計年度は対前期比で増収増益となりました。

地域別では、日本は工作機械向けの販売増加などにより増収となりました。米州ではアフターマーケットや半導体製造装置向けの需要が堅調に推移し増収となりました。欧州は電機・電装やアフターマーケット向けを中心に市況悪化の影響を受けて需要低迷が継続し減収となりました。中国では工作機械、電機及び鉄道向けの販売が増加し増収となりました。

この結果、産業機械事業の売上高は3,614億78百万円(前期比+4.8%)、営業利益は139億44百万円(前期比+74.1%)となりました。

 

当事業では、成長が期待できる電動化、自動化、デジタル化、環境市場での需要を取り込むため、供給力の強化と技術サービス体制の強化を進めています。さらに、状態監視システムやアクチュエータなど新たな高付加価値商品の開発と市場投入も推進することで、産業機械事業のビジネス拡大を目指していきます。

 

(自動車事業)

グローバル自動車生産台数が前年同期から下振れしたことで、当連結会計年度は対前期比で減収減益となりました。

地域別では、日本は一部自動車メーカーの生産・出荷停止が要因となり減収となりました。米州では自動車販売の回復基調を背景に増収となりました。欧州は自動車市場の低迷が継続し減収となりました。中国では日本車の販売不振影響を受けて需要が減少し減収となりました。

この結果、自動車事業の売上高は4,016億77百万円(前期比△1.7%)、営業利益は160億96百万円(前期比△13.4%)となりました。

当事業では、自動車の電動化に対し、低トルク・高速回転・軽量化といった当社グループの技術力を活かすことで競争力を強化し、さらには電動油圧ブレーキシステム用ボールねじなど将来に向けた新商品の拡大を図ることで事業の成長を目指していきます。

 

③財政状態の分析

当連結会計年度において、資産合計は前連結会計年度末に比べて785億34百万円減少した1兆2,195億43百万円となり、負債合計は697億68百万円減少した5,503億54百万円となりました。

資本合計は、親会社の所有者に帰属する当期利益があったものの、剰余金の配当、その他の資本の構成要素の減少等により、前連結会計年度末に比べて87億65百万円減少した6,691億89百万円となりました。

 

④キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況は、次のとおりです。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によるキャッシュ・フローは、税引前利益251億0百万円、減価償却費及び償却費524億12百万円、法人所得税の支払額461億28百万円、運転資本等の加減算に加えて、退職給付信託の一部返還を受けたこと等による退職給付に係る負債及び退職給付に係る資産の増減額686億60百万円により、821億76百万円の収入となりました(前連結会計年度は998億18百万円の収入)。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるキャッシュ・フローは、保有株式の縮減を進めたことに伴うその他の金融資産の売却による収入88億58百万円があった一方で、有形固定資産の取得による支出381億21百万円、無形資産の取得による支出122億34百万円、定期預金の預入及び払戻、その他の金融資産の取得及び償還等により、587億53百万円の支出となりました(前連結会計年度は908億14百万円の支出)。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によるキャッシュ・フローは、配当金の支払額156億46百万円、短期借入金の純減額139億77百万円等により、337億41百万円の支出となりました(前連結会計年度は247億80百万円の支出)

 

上記により、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末に比べて123億29百万円減少した1,382億53百万円となりました。

 

 

⑤目標とする経営指標の達成状況等

当社は2022年5月に『中期経営計画2026』(2023年3月期から2027年3月期)を発表しましたが、近年の事業環境の変化を鑑み、2024年5月に2027年3月期の財務目標を修正しました。

当連結会計年度における当社グループを取り巻く環境は、自動車事業でグローバル自動車生産台数が前期より下振れしましたが、産業機械事業では設備投資の需要が緩やかに回復したことに加えて為替が円安に推移した影響を受けました。この結果、当社グループの業績は前期に比べて増収増益となりました。

当社が経営上の目標として掲げる指標と実績は、次のとおりです。

 

経営指標

『中期経営計画2026』目標

2024年3月期

実績

2025年3月期

実績

 

事業ポートフォリオの変革

収益を伴う成長

営業利益率

8%

3.5%

3.6%

株主資本コストを上回る

資本効率性の追求

ROE

8%

1.3%

1.6%

ROIC

6%

1.5%

1.5%

持続的な成長を支える

財務基盤の安定維持

ネットD/Eレシオ

0.4倍以下

0.26倍

0.26倍

 

(注) 営業利益率、ROICの目標及び実績は非継続事業を除いた継続事業のみで表示しています。

 

2026年3月期の事業環境につきましては、不安定な国際情勢による地政学的リスクや為替相場の動向に加え、不確実な米国通商政策の影響による世界経済の減速リスクをはらんでいます。当社グループの産業機械事業及び自動車事業の需要動向についても、先行き不透明な状況が続くことが想定されます。このような環境下においても、当社グループは企業理念のもと、トライボロジーとデジタルの融合による価値創出で、持続可能な社会の発展に貢献し、社会から必要とされ、信頼され、選ばれ続ける企業を目指していきます。

 

(3) 資本の財源及び資金の流動性

①財務戦略の基本方針

『中期経営計画2026』では、持続可能な社会への貢献と不断の企業価値の向上を目指すために、安定した財務体質のもと、収益を伴う成長を遂げてキャッシュを創出することにより、当社の持続的成長のために必要な投資と株主の皆様への安定的な利益還元に資金配分を継続することを、財務戦略の基本方針としています。

 


 

 

 (a) 財務安定性の維持

当社グループの持続的な成長を支え、事業環境の変化にも耐え得るには、「財務安定性の維持」が前提となります。自己資本比率、ネットD/Eレシオ、手元流動性など、当社グループの財務安定性を示す指標は健全な状態を保って推移しています。『中期経営計画2026』では、ネットD/Eレシオの目標を0.4倍以下とすることで、安定的な財務基盤を確保しつつ機動的かつ効果的な有利子負債の活用を図っています

 

 (b) 収益を伴う成長

安定した財務体質の下、当社グループは「収益を伴う成長」を持続的に遂げて、キャッシュを創出していきます。創出したキャッシュにより、設備投資や研究開発投資、ESG経営に必要な人的資本、DX、さらにはM&A等への投資を実施して経営資源の強化を図り、当社グループの持続的成長と次のキャッシュ創出に繋げていく考えです。

また、株主・投資家の皆様が期待する資本コストを上回る収益率をあげることは、株式上場会社の使命と言えます。当社は、過去の株価動向と事業特性、及び株式市場の現況から推計した当社の株主資本コストは概ね8%~9%と認識しており、『中期経営計画2026』では「ROE 8%」、「ROIC 6%」を資本効率性の経営目標に設定しました。現状の事業環境では「ROE 8%」の到達は困難な状況ですが、販売ポートフォリオの改善、当初想定よりも低迷している需要環境の変化に対応した構造改革の追加対策の実行、収益体質のさらなる改善を進めて、「ROE 8%」の早期実現に向けて取り組んでいきます。

 

 (c) 安定的な利益還元

当社グループは株主の皆様に対する「安定的な利益還元」を重要な経営方針の一つとしています。『中期経営計画2026』においては、配当性向30%~50%に加えて、DOE(親会社所有者帰属持分配当率)2.5%を下限の目安とする目標を掲げて、株主の皆様へ安定的・継続的な配当を実施する方針です。また、機動的な資本政策の手法として、自己株式の取得も選択肢の一つと認識しています。自己株式の取得は、キャッシュ・ポジションや株式市場の動向等を勘案して適切かつ機動的に実施したいと考えており、これらの実行にあたっては、財務状況等を勘案して適切に決定していきます。


 

 

②財務状況

当連結会計年度の財政状態は次のとおりです

 

財務戦略の基本方針

経営指標

『中期経営計画2026』

目標

2025年3月期

実績

2025年3月期の

評価・コメント

 

財務安定性の維持

ネットD/Eレシオ

0.4倍以下

0.26倍

健全な財務体質を維持

収益を伴う成長

ROE

8%

1.6%

事業環境の変化により収益計画は遅れているが、ROE8%の早期実現に向けて各施策を遂行

ROIC

6%

1.5%

安定的な利益還元

DOE

2.5%を下限の目安

2.5%

配当金 34円/株

安定的な利益還元を継続

配当性向

30%~50%

156.1%

 

 

財務活動の振り返り

当社グループは、経営資源を有効活用するため資産効率の向上に取り組んでいます。当連結会計年度においては、引き続き政策保有株式の縮減を進めたことに伴うその他の金融資産の売却により88億58百万円の収入がありました。これにより、当社が保有する政策保有株式の銘柄数は、当連結会計年度において6銘柄(うち上場株式5銘柄)を縮減しています。加えて、近年、退職給付信託を含む年金資産が退職給付債務に対して大幅な積立超過の状況にあり、今後もその状況が継続することが見込まれることから、2025年2月に退職給付信託から700億円の返還を受けました。これ等により得られた資金は、経営資源の強化を図るための設備投資や研究開発投資、人的資本やDXへの投資、さらにはM&Aなど、当社グループが持続的成長を遂げるための投資資金として有効活用します。

資金調達においては、サステナブルファイナンスのスキームを用いた資金調達も採り入れています。当連結会計年度においては、当社グループの人的資本経営に関する取り組みと情報開示を評価する長期借入契約を締結しました。この契約にあたり、外部評価機関から、当社グループの経営人材育成に関する取り組みと健康・安全に関する情報開示について特に高い評価を受けています。当社グループは『中期経営計画2026』の経営課題の1つに「ESG経営」を掲げており、資金調達おいても持続可能な社会の発展へ貢献していきます。

利益還元については、当連結会計年度より株主還元方針にDOE(親会社所有者帰属持分配当率)を採用しました。各期の配当は、配当性向30%~50%に加えて、DOE2.5%を下限の目安に、株主の皆様へ安定的・継続的な配当を実施する方針です。当方針を踏まえた上で当期の業績や今後の事業環境等を総合的に勘案した結果、当連結会計年度の1株当たり配当金は前連結会計年度から4円増配した34円としました。

 

④資金調達の方針

当社グループは現在、自己資金及び金融機関の借入れ等により資金調達を行っています。運転資金について借入れによる資金調達を行う場合、期限が一年以内の短期借入金で各連結会社がその現地通貨で調達することが一般的で、生産設備などの長期資金は、主として長期借入金及び社債で調達しています
 有価証券報告書提出日現在において、格付投資情報センターから「A」、日本格付研究所から「A+」の格付を取得しており、外部からの資金調達に関しては問題なく実施可能と認識しています。当社グループは、その健全な財務状況、営業活動によりキャッシュ・フローを生み出す能力、金融機関とのコミットメントライン契約金額400億円や、コマーシャルペーパー発行枠500億円などにより必要資金の確保と緊急時の流動性を確保しています

 

(4) 生産、受注及び販売の実績

当社グループの販売・生産品目は極めて広範囲かつ多種多様であり、また見込み生産を行う製品もあるため、生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示していません。このため、販売及び生産の状況については、「(2)財政状態及び経営成績の状況」に関連づけて記載しています。

 

(5) 経営成績に重要な影響を与える要因

当社グループの事業展開、経営成績及び財務状況等に重要な影響を与えるリスク要因については、「3[事業等のリスク]」に記載のとおりです。

 

 

5 【重要な契約等】

(ステアリング事業会社株式の譲受契約の締結について)

 詳細は、「第5[経理の状況]1[連結財務諸表等][連結財務諸表注記]31. 後発事象 ステアリング事業会社株式の譲受契約の締結について」をご参照ください。

 

 

6 【研究開発活動】

(1)基本方針

当社グループは、企業理念で掲げている「円滑で安全な社会に貢献し、地球環境の保全をめざす」を実現するため、社会の変化やお客様のニーズを的確にとらえ、コアテクノロジー(トライボロジー(摩擦・潤滑)技術、材料技術、解析技術、メカトロ技術、生産技術)を駆使した製品の研究開発を進めています。高機能・新機能製品をタイムリーに市場へ供給することで、より豊かな社会の実現と省エネルギーやCO2排出量削減など地球環境の保全を図り、持続可能な社会の実現に貢献します。

特に研究開発では、『中期経営計画2026』において“Bearings & Beyond”を掲げ、既存製品の商品力強化と新商品の創出・新事業の拡大に取り組んでいます。

 

(2)研究開発の状況

①コアテクノロジー

カーボンニュートラル社会の実現に向けた低摩擦や小型・軽量化、電動化に伴う高速性や静音性、水素などの特殊環境下も含めた耐久性など、高度化する要求にスピーディに応えていくために、リアルデジタルツイン(注)やオープンイノベーションを活用してコアテクノロジーの強化に取り組んでいます。

これらの取り組みの具体的な成果の一つとして、2023年に世界で初めて確立した「Micro-UT法を用いた高精度寿命予測技術」を2024年に実用化しました。転がり軸受の寿命計算パラメータである基本動定格荷重を向上させることで、基本定格寿命を最大2倍に延長しました。これにより当社軸受の長寿命性能を機械設計に生かして、より高負荷環境下での使用が可能となります。また、小型・軽量な軸受への置き換えも可能となり、軸受や軸受が組み込まれる製品の小型化により製造過程の省エネルギーに繋がるだけでなく、軸受の小型化に伴うフリクション低減により製品使用過程でもCO2排出量の削減に貢献します。

さらに、従来の枠組みを超えた連携として東京科学大学と2023年に設立した「NSKトライボロジー協働研究拠点」では、学士課程から博士課程の学生や研究者と協働して潤滑・材料・力学分野でのトライボロジー現象解明の研究を進めています。2024年は学会発表や論文投稿などを通じて研究成果を積極的に発信し、本研究からの卒業生も輩出しました。潤滑の研究に関しては、潤滑メカニズムに関する様々な理論式の導出から潤滑理論を構築することを進めています。これらを通して、軸受の最適設計や寿命予測に関する技術を強化します。

(注)リアルな現象を再現して詳細に把握し、そのカラクリを推理してデジタル上にモデル化することにより、リ

  アルとデジタルの両面から目に見えない本質を理解し、エンジニアの創造性を高め、既成概念を打ち破るよ

  うなソリューションを生み出すことを目指す当社独自の取り組み。

 

事業別の技術開発の状況は以下のとおりです。

 

②産業機械事業

産業機械の電動化・自動化による生産性向上、状態監視や予知保全から補修・再利用までを組み合わせた循環型社会やカーボンニュートラルなど、持続可能な社会を実現する製品やサービスを開発しています。

生産性向上に関しては、電力消費量が少ないグリース潤滑方式を用いた工作機械主軸用軸受において軸受の交換頻度と軸受交換後の慣らし運転時間を削減する精密単列円筒ころ軸受「ロバストライド™」を開発しました。新開発の「ころ案内保持器」により、グリース寿命を最大60%向上、許容回転数を最大20%向上させるとともにグリース性能を安定させるための慣らし運転時間を1/3に短縮しました。また工作機械の高い位置決め精度と省エネルギーの両立を可能とする工作機械向け低フリクションボールねじ「MT-Frix™」を開発しました。当社の解析技術でボールと溝の接触状態を解明し内部仕様を最適化したことで、寸法を維持したまま剛性を下げることなくボールねじ駆動時のフリクションを低減し、CO2排出量を従来比で最大50%削減することに成功しました。

 

状態監視に関しては、IoT/DXの進展に伴い一般産業機械でもニーズが高まる中、風力発電や石油化学などの重要インフラで培った診断技術を活かし、従来のワイヤレス型に加えて有線システムとのクラウド連携を開始しました。一般産業機械においてもより高度な状態監視を求めるお客様向けに、当社の高度診断AIと診断エキスパートによる状態監視ソリューションの提供を可能としました。また状態監視で得られたデータを活用して余寿命診断を含めた予知保全サービスへと拡大させ、製品販売後の点検や補修・交換までの製品ライフサイクル全体を最適にするProduct Lifecycle Management(PLM)モデルの確立に取り組んでいます。この取り組みの中で鉱山設備向けにおいては、業界初となる軸受のリコンディショニングに対応した「高負荷容量大形円すいころ軸受」を開発しました。従来比最大2倍の長寿命を達成しつつ、従来不可能であった内輪ところ・保持器を分離可能にしたことで軸受の点検・補修を可能とし、メンテナンスコストの削減やCO2排出量の削減に貢献します。風力発電機向けにおいては、安定稼働とメンテナンス頻度削減に貢献する「風力発電機主軸用高信頼性自動調心ころ軸受」を開発しました。当社のコアテクノロジーを活用した長寿命材料、高硬度被膜、高負荷容量化を適用し、軸受の耐久性を大幅に向上させました。状態監視ソリューションと併せてお客様に提案し、風力発電機の補修市場向けビジネスを拡大します。これら製品ライフサイクル全体での価値提供を通じて、持続可能な社会の実現に貢献します。

上記に加え新事業への挑戦においては、医師の働き方改革に伴う看護師らの負担軽減に貢献するロボットの実用化が評価され、「医療従事者にも患者にも嬉しい搬送アシストロボット MOOVO™(ムーボ)」が「2024年“超”モノづくり部品大賞」において「日本力(にっぽんぶらんど)賞」を受賞しました。そのほか、再生・細胞医療分野の発展に向けたトップランナー企業と協創の結果、新たな3D細胞製品の商業生産を可能とする技術の開発に成功しました。

 

③自動車事業

自動車の電動化や自動化の進展、モビリティとしての多様化も進む中、自動車の環境性能、安全性、快適性の向上に貢献する製品・技術の開発に全方位で取り組んでいます。

環境性能に関しては、自動車の更なる航続距離延長に貢献する「低フリクションハブユニット軸受」を開発しました。独自のトライボロジー技術や解析技術を駆使し、シール形状、シールグリース、摺動面加工技術を新開発したことで耐泥水性を落とさずに従来比40%減となる業界最高水準の低フリクションを実現しました。また、自動車をはじめ産業機械で使用される電動アクチュエータの小型化や消費電力低減に貢献する「ロッキングクラッチ」を開発しました。これは入力軸からの回転は伝達し、出力軸からの回転は遮断する新たな機構を持つパワーフロー制御クラッチで、当社が長年培ってきた摩擦コントロール技術により電力を必要とせずに高い伝達効率と確実なロック機能を両立します。そのほか、eAxleやハイブリッドシステムなど様々な駆動ユニットの小型・軽量化や電費向上に貢献する「電動車向け小型・軽量化深溝玉軸受」を開発しました。軸受内部諸元の改良に加えて新開発の幅狭保持器を採用することで、強度・耐久性を落とさずに従来比38%の幅寸法の短縮と51%の軽量化をし、25%のフリクション低減も実現しました。

安全性、快適性に関しては、自動車向けに限らず様々なアクチュエータやe-Bikeの駆動ユニットなどにも適用可能な、磁歪式トルクセンサの実用モデル(第3世代センサ)を開発しました。自動車向け製品の研究開発ノウハウを生かして信頼性、小型、低コストの3つを同時に実現させたトルクセンサにより制御性を向上させ、様々なモビリティの故障予知や快適性の向上、航続距離の延長に貢献します。

 

当連結会計年度の当社グループにおける継続事業の研究開発費は16,251百万円であり、その内訳は、産業機械事業9,868百万円、自動車事業6,079百万円、その他302百万円です。