第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社企業グループが判断したものであります。

(1) 会社の経営の基本方針

当社企業グループは、100年を超える歴史のなかで培ってきた、工業用環縫いミシンの専業メーカーとしての確固たる技術力により、世界の「衣料文化」の発展に貢献することを目指しております。また、2007年に立ち上げましたオートモーティヴ事業は、自動車用安全ベルト及びエンジンルームの関連部品等の自動車部品を通して、世界中の方々の生命の安全を守る事業として、最高の品質を提供することに努めております。

グローバルな事業展開により世界の人々との交流を深め、信頼される企業活動の展開を経営理念としており、お客様に最高の満足を提供できる製品、サービス及び品質の提供に努めてまいります。

 

(2) 目標とする経営指標

当社企業グループは、収益性、効率性、健全性、企業価値及び債務返済能力の観点から各種の指標を意識した経営を行ってまいります。当社企業グループでは、売上高に対する営業利益の比率を中長期的に10%以上とすることならびに資本効率性の指標であるROEを8.0%以上とすることを目標とし、持続的な企業価値の向上に取り組んでまいります。また、利益還元にあたっては、配当性向30%以上を基本方針としております。

 

(3) 中長期的な会社の経営戦略及び会社の対処すべき課題

当社企業グループは、工業用ミシン事業を主力としておりますが、事業の拡大ならびに発展のため、自動車部品を始めとするオートモーティヴ事業へ参入しております。当社企業グループが製造販売する製品及び部品は、全世界のユーザーを対象としていることから、世界経済の動向ならびに多様な顧客ニーズへの対処などの様々な課題に対して適切な対応を求められます。さらにはロシア・ウクライナ情勢の長期化を主とした急激なインフレの進行など、当社企業グループを取り巻く環境は、今後とも不透明な状況が予想されます。

このような経営環境のもと、当社企業グループは以下の課題に取り組み、効率的なグループ経営を実現するとともに、収益性の向上に加えて、当社「サステナビリティ方針」に基づくサステナビリティ委員会において、関連課題にも持続的に取り組んでまいります。

① 他メーカーとの差別化の徹底

工業用ミシン事業は、国内外の各メーカーと熾烈な競争を行っており、それに勝ち抜くための施策として、製品、サービス、品質の3つの要素に対して他メーカーとの差別化を徹底的に推進しております。製品では、開発テーマの明確化及び新製品をタイムリーに開発することを目指し、サービスでは、長年に亘り培われた技術を縫製業者の問題解決に活かすソリューションをタイムリーに提供することに注力し、品質では、ITを駆使した品質の見える化の推進及び最新鋭の測定機器の導入による品質向上に努めてまいります。

② 市場の創造及び拡大

工業用ミシン事業の主力市場は、これまでの中国からバングラデシュ、インド及びベトナムといった他のアジア各国に移動してきております。一方、アパレル製品はデザインや素材の多様化が進み高度な縫製技術が要求されており、品質安定ならびに脱技能化に向けた自動化及び省力化機器への需要も一段と高まっております。それらの環境変化に対応すべく、地域ニーズに即応した戦略を立案し、販売網の強化及び人材育成の注力に努めてまいります。

③ オートモーティヴ事業の拡大

当社企業グループは、成長戦略の第2の柱として自動車用部品を中心としたオートモーティヴ事業に参入し、収益力の拡大を図ってまいりました。そしてグローバルなマーケットに対応すべく、中国、ベトナム及びメキシコに製造拠点を設けております。今後も生産能力の増強ならびに高機能化への対応に併せ、自動車を構成するさらなる新規部品にも取り組み、セールスエンジニア投入による販路拡大に努めてまいります。

④ 生産体制の効率化

当社企業グループは、製造拠点によるカントリーリスクの回避を目的として、工業用ミシン事業は中国及びベトナムに、オートモーティヴ事業は中国、ベトナム及びメキシコに生産拠点を稼働させてまいりました。今後はそれぞれの地域特性を活かし、新たな技術を盛り込んだ生産体制を構築するとともに、サプライチェーンの一層の強化による部品・製品在庫の適正化及び原価低減の推進に努めてまいります。

 

⑤ 財務体質の強化

当社企業グループは、変化の激しい経営環境にあって企業としての基礎体力を向上させるため、財務体質の強化を行ってまいりました。今後もキャッシュ・フローに重点をおいた経営に注力し、財務体質の強化に努めてまいります。

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社企業グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社企業グループが判断したものであります。

 

(1)ガバナンス

当社企業グループは、「人」と「技術」を通じて、より良い製品・サービス・品質の提供に取り組むことにより、社会発展に貢献することを企業理念に掲げており、環境・社会・経済の観点はもとより、非財務情報である人的資本及び多様性も含めた社会課題解決について企業活動を通じて取り組むことが社会の持続的発展に貢献できると考えております。

このような理念のもと、2023年5月19日開催の取締役会にて「サステナビリティ方針」を決議しており、この方針に基づき、代表取締役社長 美馬成望を委員長としたサステナビリティ委員会において、当社企業グループ一丸となって持続的に取り組んでまいります。

同委員会は、3ヶ月に1回以上の活動を原則としておりますが、日々の業務執行において常にサステナビリティ要素を加味した活動を行うことを基本とし、同委員会の事務局は、必要に応じて適宜その活動に参加する所存であります。

また、同委員会は各種ポリシー及び目標ならびに各種施策等活動内容を定期的に取締役会で報告を行い、取締役会は、それらの活動に対して審議・監督ならびに提言を行ってまいります。

 

(2)戦略

当社はサステナビリティ方針の取り組みにおける項目のうち、人材の多様性の確保、人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針は次のとおりであります。

 

①人材の多様性の確保及び育成について

 企業活動の持続性において「人材」は欠かせないものであり、性別・年齢・国籍・キャリア等にとらわれることのない積極的な採用活動のもと、人材の獲得に取り組んでおります。特に新卒を対象とした定期採用に加え、スキル及び経験を重視したキャリア採用も積極的に実施しております。また、女性活躍の推進にあわせ、文系・理系問わず、性別を問わない採用に取り組んでおります。

 また、育成については、職位ごとに求められる能力の習得を目的とした研修はもとより、若手社員を年代別に分け、それぞれの年代で早い段階からの自立的なキャリア構築に向けた研修に取り組み、さらに必要時には海外での研修も実施しております。

 なお、新卒として採用したプロパー社員とスキル及び経験を重視して採用したキャリア社員がうまく融合し、イノベーションを創出できる環境作りにも取り組んでおります。

 

②社内環境整備について

 多様な社員が健康・安全・快適で働きやすい職場環境及び仕組みの整備、ならびに意欲をもって活躍できる組織の構築について、積極的に取り組んでいく所存であります。特に女性活躍の推進に向け、女性社員が自身の強みを活かして活躍できる組織及びそれを支援しうる制度づくりに取り組んでおります。

 現時点において、当社は以下について取り組んでおります。

 

イ.育児短時間勤務期間の長期化

 現在の育児・介護休業法における育児短時間勤務期間は子が3歳に達するまでとなっておりますが、当社は子育て期間中の社員がより働きやすい職場環境の提供をすべく、子が小学4年生に進級する前日までの連続36ヶ月間としております。

 

ロ.男性社員の育児休業の取得啓蒙

 男性社員が育児休業を取得しやすいよう、職場における理解及び組織体制の構築に取り組んでおります。

 

 

ハ.若手社員定着率向上に向けたブラザー・シスター制度

 入社3年までの若手社員に対して、中堅クラスの先輩社員を充て、仕事及び職場での悩みなどを相談できるブラザー・シスター制度を設け、定着率向上の仕組みづくりに取り組んでおります。

 

(3)リスク管理

当社において、全社的なリスク管理は、各部署にて検討した内容を管理本部にて取りまとめ、最終的には取締役会で決議をしたのちにその内容について、管理本部より管理・監督・モニタリングをしております。

サステナビリティに係るリスクの絞り込みについて、まずは社員の働きやすい環境の整備及び人材確保を優先的に対応すべきリスクとして捉えており、今後さらにサステナビリティ委員会にて具現化していく予定であります。

なお、人材確保に関するリスクの内容については、「3 事業等のリスク (11)人材の確保について」をご参照ください。

 

(4)指標及び目標

上記「(2)戦略」において記載した、人材の多様性の確保、人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針について、当社においては、関連する指標のデータ管理とともに、具体的な取り組みが行われているものの、連結グループに属する全ての会社では行われてはいないため、連結グループにおける記載が困難であります。このため、次の指標に関する目標及び実績は、連結グループにおける主要な事業を営む提出会社のものを記載しております。当該指標に関する目標及び実績は、次のとおりであります。

①女性活躍関連

指標

目標

実績(当事業年度)

女性管理職比率

2030年まで15

12

女性マネジメント職比率(注)

2030年まで25

21

女性社員比率

2030年まで35

29

 

(注)マネジメント職は管理職に相当する職位及びその一つ手前の職位者の合計であります。

 

②男性社員の育児休業取得率

指標

目標

実績(当事業年度)

男性社員の育児休業取得率

80以上を維持

 

(注)当事業年度については、対象者がいないため記載しておりません。

 

新入社員定着率

指標

目標

実績(当事業年度)

新入社員定着率

90以上を維持

89.5

 

 

3 【事業等のリスク】

当社企業グループの事業等に関するリスクについて、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる主な事項を記載しております。なお、当社はこれらのリスク発生の可能性を認識したうえで、発生の回避及び発生した場合の対応に努める所存であります。本項においては、将来に関する事項が含まれておりますが、当連結会計年度末現在において、当社企業グループが判断したものであります。

 

(1) 工業用ミシン事業について

当社企業グループの工業用ミシン事業における製品は、工業用ミシンのなかでも環縫いミシンと呼ばれるミシンに特化しており、ユーザーであるアパレル産業の景況ならびに消費者動向による影響によっては、当社企業グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

アパレル製品の生産はグローバル化が進んでおり、海外生産品の品質、価格、納期などの変化ならびにアパレル産業の生産方針の変更により、当社製品もしくは技術がそのニーズを満たさない、あるいは市場から認められない場合には、当社企業グループの販売戦略及び事業展開に影響を及ぼす可能性があります。

(2) オートモーティヴ事業について

当社企業グループのオートモーティヴ事業における製品は、その安全性ならびに世界のサプライチェーンで確固たる地位を築いておりますが、その取引先の経営状況に変化が生じた場合は、当社企業グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(3) 海外での事業活動について

当社企業グループの販売及び製造は、大半が海外に依存しております。また、工業用ミシン事業の製品を使用する縫製産業は労働集約型産業の典型であることから、賃金水準の低い国・地域がその主要な生産地となっており、各国の縫製産業に対する政策の違い及び物流面の条件などにより、生産拠点が特定の国・地域に集中する傾向も見られます。

当社企業グループの取引先であるこのような国々のなかには、政治的、地政学的、経済的に不安定な国もあり、労働争議、テロ、戦争、内戦、通貨危機などによる為替取引の凍結、債務不履行、投資資産の接収、もしくは地震などの自然災害によっては海外拠点経営が困難になる可能性があります。

さらに、工業用ミシン事業における各国繊維製品の輸出入に関する規制の急激な強化もしくは緩和が実施されることにより、市場の需給関係が崩れ、当社企業グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

また、移転価格税制を始めとする規制・税制などの変更による予測できない事態の発生により、当社企業グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(4) 生産拠点の集中について

工業用ミシン事業において製造拠点の中国集中によるリスク回避を目的として、ベトナムに製造子会社を設立したことにより、工業用ミシン事業の製造拠点が、日本、中国及びベトナムの3カ国に分散され、製造拠点の集中リスクは緩和されております。同様にオートモーティヴ事業におきましても、中国以外の拠点としてベトナムに製造子会社を設立しており、さらには世界的な自動車部品サプライチェーンを担う生産体制の継続・強化も視野に入れ、メキシコにも拠点を設立しております。

しかしながら、両事業とも、主力となる製造拠点が中国及びベトナムに存在しているため、両国におけるカントリーリスクをカバーすべく、独立行政法人日本貿易保険の海外投資保険に加入しておりますが、政治的要因による法的規則及び商習慣の違いもしくは地震などの天変地異、電力事情の悪化及びその他の予測不可能な事態が発生した場合、工場の操業を同時に停止せざるを得ない事態が懸念されます。併せて、従業員の確保ならびに教育が十分に行き届かなかった場合などは、当社企業グループの財政状態及び経営成績に多大な影響を及ぼす可能性があります

 

(5) 為替の影響等について

当社企業グループは、グローバルな事業展開をしており、取引通貨の多くは円以外の通貨となっております。各地域における売上高、費用、資産などの現地通貨建ての項目は、連結財務諸表作成のため円換算しており、換算時の為替レートの変動が当社企業グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

また、当社は外貨建て取引について、為替変動に対処するためにインパクトローンによってリスクを軽減させる措置を講じておりますが、為替水準の予測を超えた変動が発生した場合、当社企業グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(6) 知的財産権について

当社企業グループは、他社製品と差別化できる技術の開発及び知識の蓄積に努めており、保有する独自技術については、商標権などを含めたほかの知的財産権と併せ、権利取得による保護を積極的に図っております。

しかしながら、出願が特許と認められないあるいは権利保護のために講じる手段が成功しなかった場合、第三者の類似品との競合状態が発生し、当社企業グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

一方、当社企業グループでは、第三者の知的財産権を侵害しないように努めておりますが、当社企業グループの認識していない知的財産権に関し訴訟などを提起される可能性があります。このような訴訟等が発生した場合、損害賠償及びロイヤリティ支出の発生あるいは事業活動に制約が生じるなど、当社企業グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

(7) 製品の欠陥について

当社企業グループは、独自の品質管理基準に従って各種の製品を製造しております。過去においても製品の欠陥による重大な事故は発生しておりませんが、今後全ての製品について欠陥がなく、将来リコールが発生しないという保証はなく、当社企業グループの製品もしくはサービスに関連した欠陥及び問題に対して責任を負う可能性があります。製造物責任賠償については保険に加入しておりますが、この保険が最終的に負担する賠償額を充分にカバーできるという保証はありません。

さらに、経済合理性のある条件で当社企業グループがこのような保険を契約期間満了後も更新できるとは限らず、大規模なリコールや製造物責任賠償に繋がるような製品の欠陥が生じた場合は、当社企業グループの財政状態及び経営成績のほか、ブランドイメージに影響を及ぼす可能性があります。

 

(8) 工業用ミシン製品の構成比の変化による収益力低下について

工業用ミシン事業における製品は、アパレルの生産地域の動向及びファッションの動向により、使用されるミシンの種類に変化が生じる場合があり、環縫いミシンへの需要に変化を及ぼす場合には、当社企業グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

また、当社企業グループが製造している環縫いミシンにも多くの種類があり、製品ごとの単価ならびに収益率が異なるため、製品の販売構成比が変化した場合にも、当社企業グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(9) 競合等の影響について

工業用ミシン事業におきましては、当社企業グループが製造及び販売する各製品の多くは、同業他社の類似製品と競合状態にあり、当社企業グループの製品の優位性が低下すれば、当社企業グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。また、新興国メーカーの普及価格帯製品の価格下落が進み、価格競争に巻き込まれた場合、当社企業グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

オートモーティヴ事業におきましては、自動車部品業界の材料価格の高騰及び調達先の変更、価格変動動向ならびに地理的・政治的影響を強く受けることがあるため、特定取引先への依存度低減、取引先分散ならびに原価低減などに取り組んでおりますが、企業努力を上回る価格抑制圧力を受けた場合もしくは取引先の経営状況によっては、当社企業グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(10)金融市場の変動について

当社企業グループは、緩和的な金融環境を踏まえ主に変動金利調達を行っているため、市場金利の上昇が、有利子負債のうち変動金利部分の支払利息を増加させ、当社企業グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

さらには、事業の拡大や技術革新を目指し、新たな投資などによる資金が必要となった場合、金融市場の大幅な変化などによっては、資金調達条件が悪化する可能性があり、また当社企業グループの年金資産に関しては、市場性のある証券の公正価値や利子率など、金融市場における変動が年金制度の積立不足金額や債務を増加させ、当社企業グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(11)人材の確保について

当社企業グループは、売上及び製造ともに海外比率が高く、激しい競争のなかで事業を継続的に発展させるためには、高い専門性をもった世界で活躍できる技術者ならびにグローバルな経営戦略や組織運営に優れた人材を確保し、育成していく必要がありますが、近年は少子高齢化等による労働人口の減少によって、人材の確保及び育成が難航した場合、長期的には当社企業グループの事業活動に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社企業グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

①財政状態及び経営成績の状況

当連結会計年度における世界経済は、米国及び中国など主要国の底堅い消費ならびにASEAN経済圏の内需拡大など明るい面もみられましたが、ロシア・ウクライナ情勢の長期化などによる地政学リスクの高まりに加え、世界的なインフレと欧米の金融引き締めにより、不透明な状況が続きました。
 このような環境のもとで、当連結会計年度の財政状態及び経営成績は次のとおりとなりました。

 

イ.財政状態

当連結会計年度における資産合計は、前連結会計年度に比べ34億41百万円増加429億49百万円となりました。負債合計は、前連結会計年度に比べ20億37百万円増加123億45百万円となりました。純資産合計は、前連結会計年度に比べ14億3百万円増加306億3百万円となりました。

 

ロ.経営成績

当連結会計年度における売上高は175億42百万円(前連結会計年度比30.6%減)、営業利益は38百万円(前連結会計年度比98.5%減)、経常利益は5億12百万円(前連結会計年度比82.6%減)、親会社株主に帰属する当期純損失は72百万円(前年同期は親会社株主に帰属する当期純利益22億94百万円)となりました。

 

工業用ミシン事業

 縫製産業の設備投資は、全体として慎重な姿勢が続き、売上高は96億20百万円(前年同期比49.2%減)、セグメント損失は69百万円(前年同期はセグメント利益32億68百万円)となりました。
 

オートモーティヴ事業

 生産現場の改善におけるコストダウンに加え、メキシコにおける自動車産業の集積等により現地子会社の売上が好調だったことから、売上高は79億21百万円(前年同期比24.4%増)、セグメント利益は11億99百万円(前年同期比114.8%増)となりました。
 

 

②キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)の残高は86億34百万円となり、前連結会計年度末に比べ5億91百万円の減少となりました。当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況と増減の要因は、次のとおりであります。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動の結果得られた資金は、7億65百万円(前連結会計年度比58.8%減)となりました。これは主として税金等調整前当期純利益5億12百万円、減価償却費10億51百万円、売上債権の減少額8億74百万円に対し、法人税等の支払額8億32百万円、仕入債務の減少額7億47百万円などによります。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動の結果支出した資金は、33億2百万円(前連結会計年度比76.1%増)となりました。これは主として有形固定資産の取得による支出26億18百万円、投資有価証券の取得による支出6億15百万円などによります。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動の結果支出した資金は、12億98百万円(前連結会計年度は11億82百万円の支出)となりました。これは主として長期借入れによる収入20億54百万円、短期借入金の純増額6億97百万円に対し、長期借入金の返済による支出6億97百万円、配当金の支払額4億21百万円などによります。

 

③生産、受注及び販売の状況

イ. 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(千円)

前年同期比(%)

工業用ミシン事業

5,196,955

△47.9

オートモーティヴ事業

5,741,050

1.6

合計

10,938,006

△30.0

 

(注) 上記の金額は、製造原価によっております。

 

ロ. 受注実績

当社企業グループは、受注生産形態をとらないため、該当事項はありません。

 

ハ. 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(千円)

前年同期比(%)

工業用ミシン事業

9,620,746

△49.2

オートモーティヴ事業

7,921,828

24.4

合計

17,542,574

△30.6

 

(注) 1 売上高は、外部顧客に対する売上高であります。

2 総販売実績に対し10%以上に該当する販売先はありません。

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社企業グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

①重要な会計方針及び見積り

当社企業グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。連結財務諸表の作成にあたっては、期末日における資産・負債の金額及び報告期間における収益・費用の金額に影響する見積り、判断及び仮定の設定を行っております。当社企業グループにおいて重要性の高い会計上の見積りとして棚卸資産の評価及び繰延税金資産の回収可能性を認識しています。

なお、これらの会計上の見積りの内容に関する理解に資する情報については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載しております。

 

②当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
イ.財政状態の分析

(資産の部)

流動資産は、前連結会計年度末に比べて2億93百万円減少し、280億78百万円となりました。これは、商品及び製品が6億70百万円増加し、現金及び預金が5億2百万円、受取手形及び売掛金が4億3百万円それぞれ減少したことなどによります。

固定資産は、前連結会計年度末に比べて37億35百万円増加し、148億70百万円となりました。これは、有形固定資産が28億83百万円、投資その他の資産が8億64百万円それぞれ増加したことなどによります。

この結果、総資産は前連結会計年度末に比べて34億41百万円増加し、429億49百万円となりました。

(負債の部)

流動負債は、前連結会計年度末に比べて7億92百万円増加し、86億56百万円となりました。これは、短期借入金が8億41百万円、リース債務が7億90百万円それぞれ増加し、未払法人税等が4億19百万円、支払手形及び買掛金が3億49百万円それぞれ減少したことなどによります。

固定負債は、前連結会計年度末に比べて12億44百万円増加し、36億89百万円となりました。これは、長期借入金が14億45百万円増加し、リース債務が3億24百万円減少したことなどによります。

この結果、負債合計は前連結会計年度末に比べて20億37百万円増加し、123億45百万円となりました。

(純資産の部)

純資産は、前連結会計年度末に比べて14億3百万円増加し、306億3百万円となりました。これは、為替換算調整勘定が16億77百万円増加し、利益剰余金が4億94百万円減少したことなどによります。また、自己資本比率68.9%について、変化の激しいグローバルマーケットでの競争に備え、一定水準の自己資本比率は必要との認識であります。成長のための投資に必要な内部留保を確保しつつ、安定的な株主還元の実施ならびに健全な財務基盤の維持に取り組んでまいります。

 

 

ロ.経営成績の分析

(売上高)

当連結会計年度における売上高は175億42百万円となり、前連結会計年度に比べ77億45百万円の減収となりました。工業用ミシン事業におきましては、縫製産業の設備投資回復には時間を要しており厳しい事業環境となりました。オートモーティヴ事業におきましては、グローバルな供給体制を活かした新規製品の受注獲得に向けた取り組みを継続するとともに生産体制の強化にも努め、売上は堅調に推移いたしました。

(営業損益)

当連結会計年度における営業利益は38百万円となり、前連結会計年度と比べ26億18百万円の減益となりました。工業用ミシン事業における売上減少により、生産や販売に伴うコストの吸収力が低下した影響などによるものであります。

(経常損益)

当連結会計年度における経常利益は5億12百万円となり、前連結会計年度と比べ24億34百万円の減益となりました。当連結会計年度末における米ドルの為替レートが151円台となり為替差益を5億69百万円計上したことが主な要因となります。

(親会社株主に帰属する当期純損益)

当連結会計年度における親会社株主に帰属する当期純損失は72百万円となり、前連結会計年度と比べ23億67百万円の減益となりました。法人税等合計4億67百万円ならびにオートモーティヴ事業の堅調な業績から非支配株主に帰属する当期純利益1億17百万円計上したことが主な要因となります。

 

セグメントごとの財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりであります。

(工業用ミシン事業)

工業用ミシン事業につきましては、衣料品への消費意欲は戻りつつも、東南アジアを中心とした縫製企業には設備投資に対し依然慎重な先も多く、さらには新興国における外貨不足も重なり、縫製産業からの受注回復には、まだ時間を要する結果となり、通期の売上高は前連結会計年度と比べ49.2%減、セグメント損失69百万円(前連結会計年度は32億68百万円)となりました。

今後につきましては、新規市場開拓に向けた新機種の生産供給体制を整備するとともに、ベトナム子会社では、サプライチェーンの分断など不測の事態に備えた体制を強化すべく新規工場を建設し、本年4月新工場にて生産を開始いたしました。アパレル市場が好転するタイミングを見極めてタイムリーに、且つ、顧客ニーズを捉えた商品戦略を積極的に展開してまいります。

 

(オートモーティヴ事業)

オートモーティヴ事業につきましては、自動車産業全体では緩やかな回復がみられたものの、地域ごとでみますと、経済情勢及び産業政策などから自動車販売台数の立ち直りにばらつきがあり、自動車部品の供給力が試される環境となりました。グローバルな供給体制を活かした新規製品の受注獲得に向けた取り組みを継続するとともに生産体制の強化にも努め、業績は堅調に推移いたしました。

この結果、通期の売上高は前連結会計年度と比べ24.4%増、セグメント利益は前連結会計年度と比べ114.8%増となり、グローバルな製品供給体制を整えながら収益力強化にもつなげることができました。

今後につきましては、需要が高まる北米市場に対応すべくメキシコ子会社での工場拡張を実施するとともに、2021年に設立した中国南通市の子会社では量産体制に移行いたします。今後も、グローバルな受注に対応可能な技術・品質・人材の向上を図りつつ、新規顧客及び新規部品の獲得活動を継続し、付加価値の追求と事業拡大に努めてまいります。

 

ハ.資本の財源及び資金の流動性

当社企業グループにおける主な資金需要は、営業活動や生産活動に必要な運転資金、販売費、研究開発費などがあります。投資活動においては、新規設備投資や更新投資があります。必要な資金は主に営業活動によるキャッシュ・フローで得られる資金を充当し、必要に応じて金融機関からの借入金による調達を実施しております。引き続き、事業計画に基づく資金需要、金融市場の調達環境、既存借入金の返済時期などを考慮のうえ、株式市場や金融機関からの調達を適宜判断してまいります。

なお、当連結会計年度末において、複数の金融機関との間で合計71億80百万円の当座貸越契約を締結し、資金需要に備えております(借入未実行残高45億30百万円)。併せて、コミット型シンジケートローン30億円を組成し、設備投資資金として18億円の調達を行いました(借入未実行残高12億円)。また、当連結会計年度末における現金及び現金同等物は86億34百万円を有し、資金の流動性は十分に確保しているものと認識しております。

 

ニ.目標とする経営指標に関する分析

当連結会計年度は、厳しいマーケット環境におかれた工業用ミシン事業の影響を主な要因として、売上高営業利益率は中長期的目標である10%以上に対しては0.2%、ROE8%以上に対しては△0.3%となりました。

当社企業グループは、2024年度を初年度とする中期経営計画のもと、2026年度には、売上高300億円、営業利益32億円、営業利益率10.5%、ROE8.6%、配当性向30%以上を目標として、中長期的な企業価値の向上と持続的成長を実現してまいります。

 

5 【経営上の重要な契約等】

当連結会計年度において、経営上の重要な契約等は次のとおりであります。

 

(資本業務提携契約)

当社は、2023年8月4日開催の取締役会において、JUKI株式会社との間で資本業務提携を行うことを決議し、同日、資本業務提携契約を締結いたしました。

相手先の名称

契約名

契約締結日

契約内容

契約期間

JUKI株式会社

資本業務提携契約

2023年8月4日

新興国市場開拓の協業、商品開発を中心とした工業用ミシン事業における提携のさらなる強固な協業関係及び事業の成長の拡大を目的とした資本業務提携

2023年8月4日から

2024年4月26日まで

(以後1年毎の自動更新)

 

 

6 【研究開発活動】

(1) 工業用ミシン事業

① 研究開発活動の方針及び体制

当社企業グループの工業用ミシン事業は、主にニット衣料などの縫製に使用される環縫いミシンの研究開発に注力し、当社独自の固有技術の創出をもって他社との差別化を図ってまいりました。アパレル業界は、デザインならびに素材の進化・多様化が著しく、アパレルの生産現場である縫製工場では日々新しい問題に直面しております。縫製工場が抱える問題に対して、ソリューションを迅速に提供することを研究開発の使命と位置付け、以下の施策を掲げ研究開発活動に取り組んでおります。

・省力機器の開発(ユーザーフレンドリー対応)

・モーター一体型ミシンの開発

・次世代縫製機械(デジタル制御)の開発

・市場ニーズに即した縫製仕様への対応

・縫製・技術に関する基礎研究に注力

また、当社研究開発・製造部門及び中国製造子会社研究開発部門・製造部門との協業によるコンカレントエンジニアリング(設計・製造・販売の同時進行化)の導入により、開発リードタイムの短縮化を図っております。この取り組みは、生産開始前に製造及び品質管理等の工程を想定して製品設計を行うため、品質の向上にもつながっております。

当連結会計年度における研究開発の実績について、産業財産権(特許・実用新案・意匠)に関しては、日本国内外併せて新規出願が2件です。また、研究開発費の総額は、554百万円であります。

 

② 主な研究開発の取組

偏平縫いミシン(WX600P)の開発

新型シリンダー型偏平縫いミシンの開発を行いました。シリンダー先端形状を工夫・改良したことにより、縫い目の品質向上ならびにミシン自体のメンテナンスを容易にするユーザーフレンドリーを意識した設計としました。量産を開始してユーザーから高い評価を得ております。

普及型のビルトインモータ一体型オーバーロックミシン(MXneo/D422)の開発

オーバーロックミシン、安全縫いミシン及び各種省力装置の開発にて培った技術を活かし、モーターとその制御盤をミシン本体に搭載させた普及型オーバーロックミシン及び安全縫いミシンにおいて、モーターとその制御盤をよりコンパクト化し、ミシン本体に埋め込んだビルトイン電装一体型ミシンの開発を行い、製品化へ向けて対応しております。

普及型の上下送り・シリンダーミシン(MXT/MX5100)の開発

縫製時において、縫い合わせる上下の布の縫いずれを防ぐ上下送りオーバーロックミシン、安全縫いミシン及び各種省力装置の開発にて培った技術を応用し、コストパフォーマンスに優れた普及型の開発を行いました。量産を開始してユーザーから高い評価を得ております。

フラッグシップ機のオーバロックミシン(EXTneo/EXT5100neo)の開発

オーバーロック上下送り、シリンダーミシン及び各種省力装置の開発にて培った技術を活かし、高機能、高性能及び高品質を備えたハイエンドモデル機の開発、製品化へ向けて対応しております。

 

(2) オートモーティヴ事業

① 研究開発活動の方針及び体制

当社企業グループのオートモーティヴ事業は、自動車用安全ベルト及びエンジンルームの関連部品等の車載用ダイカスト部品を高品質かつコストパフォーマンスに優れた製品を提供するための研究開発を行い、グローバルな事業展開をしております。

具体的な活動といたしましては、日々進化する合金材料への対応及び安全性部品に対する品質チェックなど、製品の効率的かつ安定的な生産に向けた研究開発活動を主として、生産工程における技術の向上に伴う先進設備導入及び金型・治具工具の研究に取り組んでおります。

 

② 主な研究開発の取組
・真空吸引鋳造

一般的なダイカスト製法では対応が困難であった部品へ幅広く対応するために、真空吸引鋳造を取り入れることで、不良品発生の原因となる鋳巣への対応を強化し、中物部品への拡充に取り組んでおります。

・スクイズダイカスト法

鋳巣のなかでも比較的大きな空洞であるひけ巣による鋳造欠陥のリスクを減らすべく、スクイズダイカスト法を研究・検討し、強度部品及び耐圧部品に対応できる部品づくりを目指します。

・金型研究

金型に使用される素材・表面処理の研究を行うことで、より精度が高く、耐久性のある金型の作製に取り組んでまいります。さらには、流動解析を用いたシュミレーション技術を通して的確な条件を導き出し、設計から完成までの一貫生産の実現に取り組んでまいります。