第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1)経営の基本方針

 当グループは、「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」を企業理念として、顧客に対し、より高い価値をもたらす競争力のある製品・サービスを提供することで、一層の発展を遂げることをめざしています。当グループでは、グループ内の多様な経営資源を最大限に活用するとともに、キャッシュ・フロー創出力の強化やキャピタルアロケーションの最適化、さらにポートフォリオ改革の加速に取り組むことで、競争力を強化し、グローバル市場での持続的成長を実現します。こうした取組により、顧客、株主、従業員を含むステークホルダーの期待に応え、企業価値の向上を図っていくことを基本方針としています。

 

(2)経営環境及び対処すべき課題

①当グループの経営環境及び対処すべき課題

 現在の世界は、将来の予測が立てにくい時代です。国家間及び地域の紛争や緊張の高まり、気候変動や資源不足、高齢化による人口構造の変化、都市化の問題など様々な変化が生じています。一方で、複雑化する社会課題を解決するためのイノベーションが世界中で起きています。

 かかる経営環境において、当グループは、2025年4月に新経営計画「Inspire 2027」を策定し、環境、幸福、経済成長が調和するハーモナイズドソサエティの実現に貢献し、持続的に成長することをめざしています。その達成に向けて、当グループは、Lumadaをコアに社会インフラを革新し、デジタルセントリックな企業への変革を実現します。

 将来が見通せない事業環境下において、リスクを見極め、高いアジリティで打ち手を講じつつも、長期的な方向性を揺るがすことなく、「真のOne Hitachi」で企業価値のさらなる向上に取り組んでいきます。

 

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 i) デジタルをコアにした真のOne Hitachiを実現する事業体制

 当グループは、デジタルをコアとし、真のOne Hitachiとして一体となって価値創出を加速するため、2025年4月から新しい事業体制を構築しました。

 世界的なグリーントランスフォーメーション(GX)の追い風を受けて拡大するエネルギー事業と鉄道事業を「エナジー」と「モビリティ」の2つのセクターとして運営することで機動性を高め、従来の「コネクティブインダストリーズ」と「デジタルシステム&サービス」を加えた4つのセクターが一層連携して、事業の価値創出を加速し、グローバルでの競争力をさらに向上させます。

 また、One Hitachiの新たな成長事業を創出するため、当グループのリソースを結集した戦略SIB(注)ビジネスユニットを新設し、社会と技術の転換点を先取りした新事業の創出をめざします。

 さらに、北米・EMEA・APAC・日本・中国に、新たにインドを加えたグローバル6極体制で、地域ごとに異なる社会・経済情勢や市場特性、ニーズを把握し、各地域のリスクと機会を捉えて、顧客に価値を提供していきます。

(注)Social Innovation Business(社会イノベーション事業)

 

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 ii) 新たな成長の獲得-戦略SIBビジネスユニットによる新事業創出

 CEO直下に新設した戦略SIBビジネスユニットでは、One Hitachiの強みが活かせる領域で新事業の創出に注力します。

 次の転換点を生むテクノロジーと社会変化を見極め、当グループ全体で取り組むべき成長テーマをトップダウンで設定します。2025年度は、データセンター、eモビリティ、スマートシティ及びヘルスケアの4領域を戦略事業領域として定め、事業創出に取り組みます。

 

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 iii) 真のOne Hitachiを支える経営基盤の強化

 当グループは、不確実性が高まる中でもリスクを見極め、迅速な経営判断を実行できるよう、グループ・グローバルでのリスクマネジメントを強化します。また、事業環境の変化により新たに生じる事業機会を逃さず捉え、成長に繋げます。不透明かつ変化の激しい社会・経済情勢においても、脅威の緩和と機会の創出を両立することで、持続的な成長を実現していきます。同時に、持続的成長の源泉となる人的資本の強化も継続的に推進します。

 

 当グループは、引き続き、キャッシュ創出力を強化し、持続的な事業成長に向けた規律ある投資を行うとともに、株主への安定的な還元を実現していきます。

 

②注力分野における経営環境及び対処すべき課題

 注力分野であるデジタルシステム&サービス、エナジー、モビリティ及びコネクティブインダストリーズの4セクターにおける経営環境及び対処すべき課題は、以下のとおりです。

 

デジタルシステム&サービス

 グローバル経済環境の不透明さが継続するものの、生成AIの急速な進化や企業のビジネス効率化、競争力向上に向けたAI導入の本格化等により、AI関連需要が急速に拡大し、グローバルDX(デジタルトランスフォーメーション)市場の成長をけん引しています。また、国内においては、労働力不足が懸念される一方で、ITシステムのモダナイゼーションやDXの旺盛な需要が継続して生まれています。

 デジタルシステム&サービスセクターでは、そのような市場環境において、生成AIやクラウド、セキュリティ等の先進デジタル技術を活用した高度なデジタルソリューションを提供し、顧客や社会の課題解決に取り組んでいます。また、他のセクターと連携し、幅広い事業をデジタルでつなぐことで、日立グループの強みである「IT・OT・プロダクト」のシナジーで価値を創出するLumada事業の展開を加速していきます。さらに、急速に進化する生成AIを当グループの成長エンジンと位置づけ、業務の生産性を飛躍的に向上させるとともに、新たな事業機会を創出するAIトランスフォーメーションを推進していきます。

 具体的には、デジタルシステム&サービスセクターが持つAI及びデジタルに関する知見と技術力を結集し、他セクターのインストールベースのデジタル化及びサービス化を強力に推進します。これにより、高付加価値なLumada事業の比率を当グループ全体で高めていきます。また、国内IT市場においては、AIを活用した生産性の向上を図るとともに、GlobalLogic社やHitachi Digital Services社等、海外グループ各社の最先端ナレッジを持つデジタル人財の活用を進めています。こうした取組により、国内において深刻な課題となっているデジタル人財の不足を補いつつ、引き続き高い需要がある大規模なミッションクリティカルSIのニーズに対応していきます。さらに、グローバルパートナーとの積極的な協業強化により、革新的なソリューション創出に注力するとともに、高度な生成AIスキルを持つ人財育成にも積極的に取り組んでいきます。

 

エナジー

 気候変動や地政学リスクの高まりを背景に、エネルギー転換が急速に進展し、世界的に、化石燃料を直接燃焼して利用する時代から、電気を介してエネルギーを利用する時代へと移行しています。そのため、電力を中心とする、新たなエネルギー供給に対する需要が拡大しています。具体的には、クリーンエネルギーの拡大やそれに対応するための電力網の整備、電源構成の多様化・分散化によるマイクログリッドの拡大、従来の社会インフラ事業のサービス化、脱炭素社会実現に向けた取組により、新たな事業機会が世界各地で生まれています。

 エナジーセクターでは、Lumadaを活用した、デジタライズドアセットとデジタルサービスの提供を加速させ、グローバルトップレベルの製品群とインテグレーション力を通じて地球環境と人々の幸福、経済成長が調和するハーモナイズドソサエティの実現に貢献していきます。

 パワーグリッドでは、日立エナジー社が新たに設置したサービス事業部門において、同社が世界中に持つインストールベースの価値と当グループのデジタル技術を最大限に活用し、収益性の向上を加速させることで、世界トップクラスのサービス企業への変革を実現します。また、原子力発電システムにおいては、パートナーであるGE Vernova社と連携しながら、カナダでの小型モジュール炉(SMR)初号機の建設開始を足がかりとして、北米やポーランドをはじめとする欧州等へのSMR事業展開も進めていきます。

 

モビリティ

 鉄道事業は現在、世界的な変革期を迎えています。気候変動への対応が急務となっている現代において、鉄道は環境負荷が少ない重要な交通手段として再評価されています。持続可能なモビリティへの転換と二酸化炭素排出量の削減という点において、鉄道インフラへの投資は世界各地でますます注目されています。都市化が進む開発途上国においては、鉄道インフラの導入によって、生活水準の向上が期待されています。

 モビリティセクターでは、2024年5月にThales S.A.(以下、「Thales社」といいます。)の鉄道信号関連事業を買収し、交通ソリューションにおける事業ポートフォリオ及びグローバルフットプリントを強化しました。

 また、2024年9月にAIテクノロジーを搭載したデジタルアセットマネジメントソリューション「HMAX」を発表しました。このソリューションは、鉄道業界の保守事業におけるアセットマネジメントの課題に対応し、列車や信号システム、インフラを含む鉄道エコシステム全体の最適化に貢献します。「HMAX」は既に2,000編成8,000両に導入されており、今後さらに拡大していきます。

 車両のみならず信号システム等における事業ポートフォリオを強化し、持続可能なサービス事業の拡大・伸長をはかることで、One Hitachiの理念に基づいたイノベーションの最前線に立ち、安全、安心、快適でグリーンな移動を提供します。

 

コネクティブインダストリーズ

 高齢化社会の進展に伴う労働人口の減少により、産業・社会インフラを支える現場の労働力、いわゆるフロントラインワーカーの不足が世界的に深刻化しています。加えて、温室効果ガスの削減をはじめとする地球環境への配慮と経済成長の両立も求められる等、産業界の現場におけるイノベーションが期待されています。

 コネクティブインダストリーズセクターでは、アーバン(ビルシステム、家電・空調機器)及びインダストリー(産業機器、計測・分析装置、ヘルスケア機器、産業・流通及び水・環境ソリューション)の各分野において、競争力の高いプロダクトにデジタルを組み合わせて、フロントラインワーカーにイノベーションを起こすソリューションを提供していきます。また、急速に進歩するAIを活用し、プロダクト、OT、ITを併せ持つ強みを生かして現場を進化させる「Integrated Industry Automation」により、事業成長を加速します。

 具体的には、産業・社会インフラを支える豊富なプロダクトをインストールベースとして、AIを活用した産業分野向け「HMAX」を推進することで、リカーリングビジネスを強化していきます。また、原材料を化学反応させて製品を作るプロセス産業と部品を組み立てて製品を作るディスクリート産業のハイブリッド領域を高成長市場と捉え、バイオ医薬やバッテリー等の分野に注力していきます。さらに、コア事業を強化するため、インオーガニック投資も含めた事業ポートフォリオ改革や、コア成長分野における戦略的なR&D、グローバル事業の拡大等にも取り組みます。

 事業ポートフォリオと組織をシンプル化し、競争力の向上を図るために、2025年4月よりBU(ビジネスユニット)を「アーバンシステムBU」、「インダストリアルプロダクツ&サービスBU」及び「インダストリアルAIBU」の3つに集約しました。経営のスピードをさらに上げ、事業間のシナジーを創出し、One HitachiでLumadaによる成長をグローバルに加速していきます。

 

(3)新経営計画における経営指標

 新経営計画「Inspire 2027」においては、以下の指標を経営上の業績目標としています。

指 標

新経営計画

「Inspire 2027」

目標

選定した理由

売上収益年成長率

(2024年度-2027年度 CAGR)(注)1

7-9%

成長性を測る指標として選定

Adjusted EBITA率

(2027年度)(注)2

13-15%

収益性を測る指標として選定

キャッシュフローコンバージョン

(2027年度)(注)3

90%超

キャッシュ創出力を測る指標として選定

投下資本利益率(ROIC)

(2027年度)(注)4

12-13%

投資効率を測る指標として選定

(注)1.CAGR(Compound Annual Growth Rate)は、年平均成長率です。

2.2025年度より、Adjusted EBITA(Adjusted Earnings before interest, taxes and amortization)の算出式を見直しており、調整後営業利益(売上収益から、売上原価並びに販売費及び一般管理費の額を減算して算出した指標)に、企業結合により認識した無形資産等の償却費を足し戻して算出しています。Adjusted EBITA率は、Adjusted EBITAを売上収益の額で除して算出した指標です。

3.キャッシュフローコンバージョンは、コア・フリー・キャッシュ・フローを当期利益の額で除して算出した指標です。コア・フリー・キャッシュ・フローは、フリー・キャッシュ・フロー(営業活動に関するキャッシュ・フローと投資活動に関するキャッシュ・フローを合わせたもの)から、M&Aや資産売却他に係るキャッシュ・フローを除いた経常的なキャッシュ・フローです。

4.ROIC(Return on invested capital)は、「(税引後の調整後営業利益+持分法損益)÷投下資本×100」により算出しています。なお、「税引後の調整後営業利益=調整後営業利益×(1-税金負担率)」、「投下資本=有利子負債+資本の部合計」です。

 

 また、当グループは、新経営計画「Isnpire 2027」において、経営の長期目標として、Lumada事業の売上収益比率80%、Adjusted EBITA率20%をめざす「Lumada 80-20」を設定しました。Lumada事業への投資強化と事業ポートフォリオ改革を実行し、Lumada事業の更なる拡大と収益性向上を推進していきます。

 

 上記の経営目標のほか、サステナブル経営を深化させるために、以下の項目を、サステナビリティ戦略「PLEDGES」に基づく取組として推進することで、社会への価値提供と当グループの持続的成長を加速していきます。

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2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当グループは、地球を守ることと、一人ひとりが快適で活躍できる社会が両立する未来を実現するために、サステナビリティを事業戦略の中核に据えた「サステナブル経営」を実践しています。具体的には、社会課題の解決をめざした社会イノベーション事業を通じて、グローバルな社会・環境課題の解決に貢献し、サステナブルな社会の実現に向けた取組を推進しています。また、社会・環境の変化による事業へのリスク・機会を把握することで、事業継続の強靭性の向上や企業価値の向上に努めています。

 当グループのサステナビリティに関する考え方及び具体的な取組は以下のとおりです。

 

(1)ガバナンス及びリスク管理

① 重要事項の機関決定

 当社又は当グループに影響を及ぼす重要事項について、多面的な検討を経て慎重に決定するため、執行役社長の諮問機関として、「経営会議」を設置しています。経営会議では、以下の各戦略を含む重要な事項について審議・決定を行っています。

・成長戦略・グローバル(地域)戦略:当グループの成長に必要な各事業・地域の経営戦略に係る事項

・リスクマネジメント戦略:グループ・グローバルな各種リスクを一元的・横断的に把握し、成長戦略と連携して経営基盤を強化するために必要な事項

・人財戦略:当グループの成長の観点から、組織・文化の醸成及び人財の確保・育成等のために必要な事項

・その他、サステナビリティ戦略を含むグループ・グローバルに係る各種戦略

 

 サステナビリティに関する重要事項については、経営会議に附議して議論・決定しており、必要に応じて取締役会にも附議しています。各種戦略をOne Hitachiで一体的に立案・実行することで、企業価値のさらなる向上と持続的な成長の実現を図っています。

 

② サステナブル経営のグループ全体への浸透

 当グループは、Chief Sustainability Officerの指揮のもと、サステナビリティへの取り組みをグループ全体で推進しています。Chief Sustainability Officerが議長を務め、各ビジネスユニット(BU)及び主要グループ会社の事業推進部門長クラスや地域統括会社のサステナビリティ責任者をメンバーとするサステナビリティ推進会議を年に1~2回開催し、サステナビリティに関する重要施策の議論と情報共有を図っています。

 また、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミー、人権デュー・ディリジェンス(HRDD)、インクルージョン、労働安全衛生、サプライチェーン、品質保証などの個別のサステナビリティテーマについては、各BU及び主要グループ会社等の責任者をメンバーとする会議体を設け、グループ横断での施策の検討や情報共有などを通じて当グループ全体のサステナビリティを推進しています。

 

③ サステナビリティ目標を役員報酬評価に反映

 サステナビリティに関する定量的な目標を、役員報酬を決定する評価指標として設定しています。

 中長期インセンティブ報酬及び短期インセンティブ報酬において、サステナビリティ戦略に沿った具体的指標・目標を設定し、それを評価に組み込むことでその実行を促しています。

 当社の役員報酬制度については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等(4)役員の報酬等」に、その概要を記載しています。

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(2)重要課題に対する取組

日立は創業以来、「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」ことを企業理念としており、社会インフラを支える技術・製品の開発によって社会が直面する課題を解決してきました。

2025年4月に公表した新経営計画「Inspire 2027」において日立がめざすのは、「環境、幸福、経済成長が調和するハーモナイズドソサエティの実現に貢献し、持続的に成長」することです。その実現に向けて、地球環境を守りながらグリーントランスフォーメーション(GX)を推進し、人的資本への積極投資により持続的成長をけん引する人財の強化を図ります。

 

①脱炭素・気候変動に関する取組(TCFDに基づく開示)

 当社は、2018年6月に金融安定理事会(FSB)「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に賛同を表明し、同年に公開した日立サステナビリティレポート2018より、TCFD提言に基づく情報開示をしています。本有価証券報告書では、その抜粋を掲載します。

 

(イ)ガバナンス

 当グループは、気候変動を含む環境課題への対応を重要な経営課題の一つと認識し、気候変動に関するガバナンスについても、前項の「(1)ガバナンス及びリスク管理」に準じた体制で取り組んでいます。

 

(ロ)戦略

日立は、世界で深刻化する環境課題をふまえ、環境分野でめざす方向性「環境ビジョン」とその実現に向けた環境長期目標「日立環境イノベーション2050」を2016年に策定しました。策定以降、3年ごとに短期的なアクションプランを定め、事業所やバリューチェーン全体のカーボンニュートラル達成に向けた活動や、水・資源の利用効率の改善、生態系保全活動など、日立グループ全体で目標達成に向けて取り組んできました。今回、近年顕在化している環境課題に加え、その課題解決に向けた人々の意識変化やビジネスモデルの深化を踏まえ、「脱炭素」「サーキュラーエコノミー」「ネイチャーポジティブ」の3つの柱を新たに環境ビジョンとして掲げ、その実現に向けた目標に更新しました。日立は、社会イノベーション事業を通じて、すべての人が地球環境を守りながら豊かな社会を実現できるように、グリーントランスフォーメーション(GX)のグローバルリーダーをめざします。

「脱炭素」については、これまでは2050年度までにバリューチェーン全体の「カーボンニュートラル」の実現を目標としていました。今回の改定ではCO2のみならず、温室効果ガス全体の削減をめざし、2050年度までにバリューチェーン全体の「ネットゼロ」の実現を目標に設定します。高効率な製品や革新的なサービス、将来の技術により、温室効果ガス排出量の削減やバリューチェーンの脱炭素化に貢献します。

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気候変動関連のリスク

気候変動に関するリスクについては、「脱炭素への移行リスク(主に1.5℃シナリオに至るリスク)」及び、「気候変動の物理的影響に関連したリスク(主に4℃シナリオに至るリスク)」に分類して分析・管理しています。

 

・脱炭素への移行リスク(主に1.5℃シナリオに至るリスク)

 脱炭素への移行リスクとして一般的に大きなものとしては、「脱炭素化が実現した世界では、現状のままで存続できない事業」において存在するリスクです。これは、化石燃料が使えなくなるリスクに該当しますが、現在の当グループの事業では、電気をエネルギー源とするものが多いため、重大なリスクはほとんど見つかりませんでした。

 その他、当グループが想定する脱炭素への移行リスクとしては、炭素税、燃料・エネルギー費への課税、排出権取引などの導入に伴う事業コスト負担増や、脱炭素向け製品・サービスの技術開発の遅れによる販売機会の逸失などがあります。このなかで、製品開発の遅れのリスクについては、機会と表裏一体であり、脱炭素化に貢献する事業を進めることで、リスク回避が可能と判断しています。

 

・気候変動の物理的影響に関連したリスク(主に4℃シナリオに至るリスク)

 気候変動に関する物理的リスクに関しては、気候変動の影響と考えられる気象災害、例えば台風や洪水、渇水などの激化(急性リスク)や、海面上昇、長期的な熱波など(慢性リスク)による事業継続のリスクが考えられます。

 こうしたリスクの回避としては、工場新設時には洪水被害を念頭に置いて立地条件や設備の配置などを考慮する対策を行っています。

 

気候変動関連の機会

当グループでは、気候変動に関連する多くの機会が考えられます。

環境長期目標「環境イノベーション2050」に掲げたCO2排出量の削減目標を達成するには、事業所の脱炭素化はもちろん、バリューチェーン全体の排出の多くを占める、販売された製品・サービスの使用に伴うCO2排出の削減が重要です。省エネルギー化等による、CO2削減に貢献する製品・サービスの開発・提供は、顧客ニーズへの対応であり、社会の脱炭素化への貢献になります。また、顧客との協創によるカーボンフリーソリューションやサービスの普及のような脱炭素化に貢献するビジネスの拡大にも機会があります。GXへの取組は、当グループの経営戦略として推し進めている「社会イノベーション事業」の大きな柱であり、短・中・長期にわたる大きな事業機会になります。

 

当グループの気候変動関連のリスクと機会について

気候変動関連のリスクと機会の検討の結果から、当グループでは気候変動関連の重大で対応が困難なリスクは現段階では見つからず、気候変動対策への貢献は機会として捉えることができることが分かりました。1.5℃及び4℃いずれのシナリオ下においても、市場の動向を注視し柔軟かつ戦略的に事業を展開することで、当グループは、中・長期観点から、脱炭素への移行において高いレジリエンスを有していると考えています。

 

(ハ)リスク管理

気候変動関連のリスク管理については、BU及びグループ会社ごとに環境負荷などを把握し、評価・査定しています。評価結果は、当社グループ環境本部が集約し、グループ全体として特に重要なリスクと機会を認識した場合には、経営会議で審議・決定し、必要に応じて取締役会でも審議します。

 

(ニ)指標と目標

当グループは、2025年5月に改定した環境長期目標「日立環境イノベーション2050」において、脱炭素の分野で以下の目標を掲げています。

「2050年度 バリューチェーンにおけるネットゼロ」

「2030年度 ファクトリー・オフィスにおけるカーボンニュートラル」

「2030年度 バリューチェーンにおける温室効果ガス排出52%削減」

 

環境長期目標の達成に向けて、3年ごとに「環境行動計画」を策定しています。そのなかで指標と目標を設定し、進捗を管理しています。

脱炭素に関する指標のうち、ファクトリー・オフィスにおけるCO2排出量総量削減率に関する目標と実績は以下のとおりです。

 

指 標

目 標

2024年度

実績

2030年度

2024年度

ファクトリー・オフィスにおけるCO2排出量総量削減率(2010年度比)

カーボンニュートラル

50%削減

81%削減

(注). 本指標及び目標は、「2024環境行動計画」からの抜粋です。上述のとおり、2025年5月に、環境長期目標「日立環境イノベーション2050」を改定しており、これに併せて環境行動計画も2025年からの「2027環境行動計画」になっています。「2027環境行動計画」の詳細については、後日公開予定の「日立サステナビリティレポート2025」をご覧ください。

 

当グループの温室効果ガス排出量(2024年度)

指 標

実 績

Scope1(注)1、2

278kt-CO2e

Scope2(注)1、3

126kt-CO2e

(注)1. 当社は、当社の定める「環境管理区分判定基準」に基づき、当グループ全事業所をA・B・Cの3区分に分類して管理しています。また、当連結会計年度末時点(2025年3月末)において在籍している会社を集計対象としています。上記のScope1及びScope2は、当グループの中で環境負荷が大きいA区分事業所及び発電事業を対象としています。

2. 当グループ内での燃料の使用や工業プロセスによる直接排出

3. 当グループが購入した電気・熱の使用に伴う間接排出

 

②人的資本・多様性に関する取組

(イ)戦略

日立は、人的資本、すなわち人こそが価値の源泉であると考えており、「人財」を重要な経営資本の1つとして強化しています。世界中の従業員の力を結集することで顧客と社会に価値を提供し、サステナブルな社会の実現に貢献することをめざしています。

急速に変化する事業環境において、社会イノベーション事業のグローバルな展開を進めるために、多様な人財が国・地域・事業体を超えてOne Teamで業務遂行する組織体制を構築し、変化に速やかに適応しうるプロアクティブな人財の強化と組織文化の醸成を求めています。

 

2024中期経営計画に関する取組

日立は、2024中期経営計画において、以下の方針のもと人財の確保・育成と社内環境の整備に取り組んできました。

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i) 多様な視点を取り入れた事業活動推進

日立は、多様な視点を持ちあわせた人財からなる組織を作ることで、グローバルな顧客に最適なサービスを提供し、世界が直面する社会課題に対応するための革新的なソリューションを継続的に提供し続けられると考えています。このような組織の基盤となるのは、相互に協力し支え合うカルチャーであり、これは、日立がめざす社会イノベーション事業を通じた中長期的な企業価値向上や、サステナブルな社会の実現に不可欠なものです。そのため、日立は、従業員一人ひとりの持つ価値が認められ、尊重され、能力が最大限に発揮できるインクルーシブな職場環境の醸成にコミットしてきました。日立では、執行役社長によるトップコミットメントのもと、多様な視点に沿った取組をグローバルに推進しています。

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ii)グローバル人財マネジメント

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サステナブルな社会の実現に貢献するためには、「人財」の視点からサステナビリティ目標 を実現しうる経営の実行が重要となります。このため、日立では、2024中期経営計画がめざすサステナブル経営における人財・組織の位置づけに基づき、グローバル人財マネジメントの戦略を掲げてきました。具体的には、基盤としての「多様な視点の活用」の推進に加え、心身の健康と安全の確保や人財施策を担うオペレーションの見直しや業務効率 を「Foundation」とした上で、「People(Talent)」「Mindset(Culture)」「Organization」の3つを人財戦略の柱に定め、以下のとおり、それぞれの施策を推進してきました。

 

<2024中期経営計画における人財戦略と施策の実行状況>

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3つの人財戦略の柱に係る主な施策は、以下のとおりです。

「People(Talent)」施策①:経営リーダーの選抜、育成

事業戦略の変化により経営リーダーに求められる能力も変化する中で、日立における経営リーダーとなる人財として、グローバル化や DX(デジタルトランスフォーメーション)に対応できることはもちろん、自身の知識・経験だけでなく、社内外の知見も得ながら最終的に自身の責任で判断・決断し、変革・実行する能力とパーソナリティが求められます。このため、タレントレビューや外部アプレイザル(HLPO (注)1)をグローバルに実施し、実績(“Performance”)だけでなく資質(“Potential”)も踏まえ、国籍・性別等を問わず多様な人財を経営リーダー候補のタレントプールである「GT+(注)2」に選抜しています。また、経営リーダーへの早期登用をめざす優秀層向けのプログラム「Future 50」等を通じて、経営リーダー候補の育成に努めています。

この取組は、経営トップと指名委員会が協働しながら、Global Leadership Development(GLD)プログラムを通じて行います。次期・次々期のCEO、事業部門長など経営リーダー候補の育成にあたり、経営者ポジションを含むタフアサインメント等のOJT(On-the-job Training)及びOff-JT(社外トレーニング・コーチング)、 社外取締役と直接議論する機会の設定等を通じて、集中的な人財育成を行っています。

(注)1. Hitachi Leadership Profile Online

2. Global Talent Plus

 

<経営リーダーの選抜・育成状況>

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「People(Talent)」施策②:デジタル人財の確保・育成

デジタル技術を活用した社会イノベーション事業を加速し、日立の成長のドライバーであるLumada事業の成長を実現するために、DX(デジタルトランスフォーメーション)をけん引する人財(デジタル人財)の確保と育成に力を入れています。

Lumada事業の成長に伴い、採用・事業買収を通じたグローバルでのデジタル人財の獲得を進めるとともに、当グループのコーポレートユニバーシティ(企業内大学)である日立アカデミー社を中心に、100コース以上にわたる独自のDX研修体系や実務経験を通じた育成プログラムの拡充、GlobalLogic社のメソドロジーを活用した内部の人財育成の強化に取り組んでいます。2024年度までに2024中期経営計画の目標である97,000人を超える107,000人のデジタル人財の確保を実現しており、今後もLumada事業をけん引する人財の確保・育成を継続して推進していきます。

 

 

 

「Mindset(Culture)」施策: 従業員エンゲージメントの向上・グローバルでの日立カルチャーの醸成

 

 毎年、グローバルに従業員サーベイ「Hitachi Insights」を実施し、人財マネジメント施策を企画・推進しています。経営層及び各職場のマネージャーは、自組織のサーベイ結果をメンバーと共有し、組織としての課題を把握した上で、対策となるアクションを立案・実行してPDCAサイクルを継続的に回しています。

 

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従業員エンゲージメント向上に向けたアクション立案・実行を推進する上での課題特定手段の一つとして、エンゲージメント・ドライバー(従業員エンゲージメントを高める上で相関性の高い項目)に着目し、グローバルでの人財の流動化促進を含めた適所適財の推進(ジョブ型人財マネジメントを含みます。)、日立グループコア・コンピテンシーの浸透を通じた心理的安全性の高い職場環境の醸成と日立カルチャーの醸成、タウンホールミーティングや座談会、社内SNS等を活用した経営トップとの双方向コミュニケーション強化等を進めてきました。

 その結果、2024中期経営計画において「従業員エンゲージメントスコア(注)」を2024年度までに71.0%とするストレッチ目標に対し、2024年度は71.5%となり、目標を達成しました。

 

(注)従業員サーベイにおける従業員エンゲージメントの設問に対する肯定的回答率。(「自社で働くことへの誇り」「働き甲斐のある職場であるか」「仕事へのやりがい・達成感」「当面自社で勤務する勤続意欲」の4点から測定)

 

<従業員エンゲージメントの向上・グローバルでの日立カルチャーの醸成のための取組事例>

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「Organization」施策: 適所適財の人財配置及び日本におけるジョブ型マネジメントへの転換

グローバルに最適な人財の確保・配置・育成を行うため、グローバル共通の人財マネジメント統合プラットフォームの構築とグローバルでのタレントモビリティを促進しています。人財マネジメント統合プラットフォームの構築においては、その運用範囲をグローバルに拡大すると共に、従業員のスキルやキャリア志向などをクラウドシステムで共有することで、グローバルでの人財検索やチームマネジメント等に活用しています。さらに、今後は自律的に学べる環境の整備に向けてグローバルでの教育プラットフォームを展開していく予定です。

 

<グループ共通の人財施策を通じて、成長に向けた行動定着を推進>

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<日本での取組>

ジョブ型マネジメントへの転換を推進し、従業員一人ひとりの能力や意欲に応じた適所適財の人財配置を実践することで、個人と組織のパフォーマンスの最大化と従業員エンゲージメントの向上につなげ、組織と人財双方の成長の実現をめざしています。これまで「ジョブディスクリプション(職務記述書)」導入等による職務・人財の見える化や、「学習体験プラットフォーム(LXP)」等の基盤構築を推進し、「社内外副業の導入」「上司-部下のキャリア対話強化」等の取組を進めてきた結果、従業員の意識・行動の変容は大きく進展しました。個人・組織双方の成長に向けて、今後も引き続き上司-部下コミュニケーション等の継続的な取組を実施していきます。

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「Foundation」施策: 心身の健康と安全の確保

日立は、「安全と健康を守ることは全てに優先する」を基本理念とする「日立グループ安全衛生ポリシー」を世界の全グループ会社と共有しています。そして、コントラクターや調達パートナーを含む関係する全企業と連携しながら、グループ一丸となって、事業活動に関わる全ての人にとって安全・安心・快適で健康な職場づくりに努めています。

当グループは、事故のない安全な職場の構築をめざし、事業に適した労働安全衛生マネジメントシステムの構築・導入、定期的なリスクアセスメントや監査の実施、労働安全衛生に関する教育の展開等にグローバルで取り組んでいます。

 

新経営計画「Inspire 2027」における人財戦略の策定

今後も「人財」は重要な経営資本の1つとして位置づけられる中で、日立は従業員への提供価値を高めるとともに、組織と人財の一層の強化と活性化により、事業及びその先の社会への貢献をめざします。

新経営計画「Inspire 2027」の方針と連動し、また 外部要因を踏まえつつ、生成AIをはじめとするテクノロジーの活用を基盤に据えた新たな人財戦略を策定しました。今後は、注力すべき5つの柱を重点領域として定め、それらの強化に取り組んでまいります。

 

● 従業員のウェルビーイングを実現した「Global Employer of Choice」へ変革

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(ロ)指標及び目標

2024中期経営計画期間における具体的な人財施策の実行にあたっては、各施策が経営目標や主な経営戦略にどのように繋がっているかを整理し、それぞれの人財戦略・施策に対してKPIを設け、進捗をモニタリングしてきました。

そのうち、特に重要性が高い人財戦略・施策である「デジタル人財の確保・育成」「従業員エンゲージメント強化(注)1」「多様な視点の推進(注)2、3」についての指標は以下のとおりであり、2022年度に設定・公表した3つのKPI全てにおいて2024中期経営計画目標を達成しました。

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上記を含む、重要性が高いKPIの数値は以下のとおりです。

指 標

目 標

実 績

デジタル人財数

2024年度まで97,000

107,000

(2025年3月末)

従業員サーベイにおける従業員エンゲージメントの設問に対する肯定的回答率

2024年度まで71

(注)1

71.5

(2024年度)

役員層における女性比率

2024年度までに女性比率15

女性比率:15.9

及び役員層における外国人比率

(グローバル目標)(注)2

2024年度までに外国人比率15以上

(注)3

外国人比率:26.1

(2025年4月現在)

死亡災害件数

年間0

2件(2024年度)

TRIFR(総災害発生率)(注)4

2024年度までに2021年度比半減(注)5

0.13(2024年度)

(注)1.従来、「2024年度までに68%」の目標を設定していましたが、2022年度に前倒しで目標を達成したことから、新たな目標を設定しています。

2.「2030年までに東証プライム市場に上場する企業の女性役員の割合を30%以上にする」という政府の要請に沿ったものです。当社単体の目標及び実績で、役員層は、当社執行役及び理事をいいます。

3.2025年4月1日付人事異動分を含みます。

4.Total Recordable Injury Frequency Rate(20万労働時間当たりの死傷者数)

5.2021年度実績:0.27

 

 上表の「役員層における外国人比率」及び「従業員サーベイにおける従業員エンゲージメントの設問に対する肯定的回答率」については、当初目標を2022年度に前倒しで達成することができました。一方で、「死亡災害件数」については、死亡災害が発生していることを重く受け止め、重大災害防止に向けた事故予防活動の向上を更に図るべく、グループグローバルでのリスクアセスメント活動の強化を推進しております。また、現地工事における協力会社の安全管理については、ワーキンググループを立ち上げ、協力会社の評価方法の見直しを反映した現地工事ガイドラインを改定すると共に、評価チェックシートの運用を開始し、協力会社の理解のもと一体となって災害防止に努めております。全ての災害は防ぐことができるという強いリーダーシップのもと、災害のない職場作りをめざして、今後も取組を継続します。

3【事業等のリスク】

(1)リスクマネジメントについて

 日立の事業活動は、生成AI等のデジタル技術の革新やグローバル化の進展等を経て変容しており、経営に重大な影響を与えうるリスクの種類も多様化しています。個々のリスクは、相互に作用し、連鎖的・複合的に事業活動に影響を及ぼしうるため、その性質や発生可能性、発生した場合の日立への影響度等の観点から、多面的に捉える必要があります。また、日立が中長期的に企業価値を向上させていくためには、リスクを単に「脅威」として捉えるだけでなく、ビジネスの「機会」としてのポジティブな側面を捉えながら、リスク管理を実施し、収益機会を創出することが必要となります。このような観点から、日立では、以下のリスクマネジメント体制及びリスクマネジメントプロセスを整備し、グループ全体でのリスク管理を行っています。

 

①リスクマネジメント体制

 日立は、グループリスクマネジメントにかかる社内規程に基づき、グループのリスク情報を把握・共有し、重要度の高いリスクに優先的に対応するための体制を整備しています。グループ全体のリスクマネジメントの責任者であるCRMO(Chief Risk Management Officer)が、グループ横断でリスクを把握し、経営会議及び取締役会に対して報告を行います。また、グループにおけるリスクマネジメント体制は、機能及び役割を3つのラインに分類・整理しています(「3ラインモデル」)。3つのラインそれぞれの機能及び役割は以下のとおりです。

 第1ラインであるセクター及びビジネスユニット(BU)は、それぞれにセクターRMO(Risk Management Officer)とBU RMOを配置し、所管のセクター/BUのリスクマネジメントを取りまとめ、その状況をCRMOに報告します。

 第2ラインであるグループ・コーポレートの各機能組織は、CRMOと連携し、第1ラインでのリスクマネジメントへの助言やモニタリング等の支援を行います。

 第3ラインである監査室は、第1ライン、第2ラインから独立した立場でリスクマネジメントについての検証・評価を行います。

 上記に加えて、海外の各地域にもRMO(リージョンRMO)を配置し、所管する地域の視点から、第1ラインにリスクマネジメントの助言を行います。

 

<グループリスクマネジメント体制>

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②リスクマネジメントプロセス

 日立では、グループ全体で網羅的・効率的にリスクマネジメントを実施するため、グループリスクマネジメントにかかる社内規程において、グループ共通のリスク項目、リスクの評価方法等を定めています。リスクの評価は、各リスク項目に対して、発生時の影響度(注1)と発生可能性(注2)を評価し、リスクヒートマップを作成する方法により行います。評価にあたっては、セクター/BUが、当該セクター/BUの事業活動に関連するリスクを特定し、発生時の影響度と発生可能性を評価します(ボトムアップアプローチ)。ボトムアップアプローチにより特定・評価されたリスクとその影響度及び発生可能性について、グループ全体及びリスク全体の観点から、経営会議メンバー等が調整等を行います(トップダウンアプローチ)。

(注)1.「財務」「従業員」「顧客・ビジネスパートナー」「法規制」といった要素やステークホルダーの観点から評価します。

   2.過去の発生実績と、推定される将来の発生確度の観点から評価します。

 

 

 

 以上のプロセスにより特定・評価されたリスクについて、回避、低減、移転又は受容等の観点からグループとしてのリスク対応策を検討します。リスクに対する対応策について、その有効性を定期的にモニタリングし、必要に応じて、追加の対応を行う等、改善策を実施しています。

 

<リスク評価のプロセス>

<リスクヒートマップ>

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(2)リスク要因

 当グループは、幅広い事業分野にわたり、世界各地において事業活動を行っています。また、事業を遂行するために高度で専門的な技術を利用しています。そのため、当グループの事業活動は、多岐にわたる要因の影響を受けています。その要因及び各リスク要因に対する対応策の主なものは、次のとおりです。

 なお、これらは当有価証券報告書提出日現在において合理的であると判断している一定の前提に基づいています。また、これらの対応策は各リスク要因の影響を完全に排除するものではなく、また、影響を軽減する有効な手段とはならない可能性があります。

 

①経済環境に係るリスク

経済の動向

 当グループの事業活動は、世界経済及び特定の国・地域の経済情勢や地政学的情勢の影響を受けます。各国・地域や日本の景気が減速・後退する場合は、個人消費や設備投資の低下等をもたらします。また、特定の国・地域における紛争や緊張の高まりにより、当該地域での経済活動の制約や停止を余儀なくされることも考えられます。その結果、当グループが提供する製品・システム又はサービスの一部制限や需要の減少等により、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、様々な事業分野・地域において、多様な特性を持つ社会イノベーション事業を組み合わせる経営をしています。また、リスク評価等を通じて地政学的情勢の変化への迅速な対応を図っています。

 

為替相場の変動

 当グループは、取引先及び取引地域が世界各地にわたっているため、為替相場の変動リスクにさらされています。当グループは、現地通貨建てで製品・サービスの販売・提供及び原材料・部品の購入を行っていることから、為替相場の変動は、円建てでの売上の低下やコストの上昇を招き、円建てで報告される当グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。当グループが、売上の低下を埋め合わせるために現地通貨建ての価格を上げた場合やコストの上昇分を吸収するために円建ての価格を上げた場合、当グループの価格競争力が低下し、それに伴い、経営成績は悪影響を受ける可能性があります。また、当グループは、現地通貨で表示された資産及び負債を保有していることから、為替相場の変動は、円建てで報告される当グループの財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当事業年度末時点における2026年3月31日に終了する連結会計年度の為替感応度(見通しの為替レートから1円変動した場合の業績影響額)の見積りは、以下のとおりです。

 

通貨

見通し

為替感応度(億円)

売上収益

Adjusted EBITA

ドル

145円/ドル

140

10

ユーロ

155円/ユーロ

80

5

 

 かかるリスクへの対応として、当グループでは、先物為替予約契約や通貨スワップ契約等の為替変動リスクのヘッジや製品・サービスの地産地消戦略の推進等を実行しています。

 

資金調達環境

 当グループの主な資金の源泉は、営業活動によるキャッシュ・フロー、銀行等の金融機関からの借入並びにコマーシャル・ペーパー及びその他の債券、株式の発行等による資本市場からの資金調達です。当グループは、事業活動のための費用、負債の元本及び利子並びに株式に対する配当を支払うために、流動資金を必要とします。また、当グループは、設備投資及び研究開発等のために長期的な資金調達を必要としています。当グループは、営業活動によるキャッシュ・フロー、銀行等の金融機関からの借入及び資本市場からの資金調達により、当グループの事業活動やその他の流動資金の需要を充足できると考えていますが、世界経済が悪化した場合、当グループの営業活動によるキャッシュ・フロー、業績及び財政状態に悪影響を及ぼし、これに伴い当社の債券格付けにも悪影響を及ぼす可能性があります。債券格付けが引き下げられた場合、当社が有利と考える条件による追加的な資金調達の実行力に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社は、資金調達を銀行等の金融機関からの借入に依存することにより金利上昇のリスクにさらされています。また、外部の資金源への依存を高めなければならなくなる可能性があります。負債への依存を高めることにより、当社の債券格付けは悪影響を受けることがあり、当社が有利と考える条件による追加的な資金調達の実行力にも影響を及ぼす可能性があります。かかる資金調達ができない場合、当グループの資金調達コストが上昇し、当グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。当グループでは、金利上昇のリスクを軽減するための施策として、主に金利スワップ契約を締結しています。

 また、当グループの主要な取引金融機関が倒産した場合又は当該取引金融機関が当グループに対して融資条件の変更や融資の停止を決定した場合、当グループの資金調達に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

株価の下落等

 当グループは、他社との事業上の関係等を維持又は促進するため、株式等の有価証券を保有しています。かかる有価証券は、価値の下落リスクにさらされています。株式の市場価格等の価値の下落に伴い、当社及び連結子会社は、保有する株式等の評価損を計上しなければならない可能性があります。さらに、当社及び連結子会社は、契約その他の義務により、株価の下落等にかかわらず、株式等を保有し続けなくてはならない可能性があり、このことにより多額の損失を被る可能性もあります。

 当事業年度末時点において、当社が保有している投資株式の銘柄数及び貸借対照表計上額は、以下のとおりです。

 

 

銘柄数

(銘柄)

貸借対照表計上額の合計額

(百万円)

非上場株式

111

21,225

非上場株式以外の株式

32

37,127

 

 かかるリスクへの対応として、当社は、取引や事業上必要である場合を除き、投資株式を取得・保有しないことを基本方針とし、既に保有している株式についても、保有意義や合理性が認められない限り、売却を進めています(保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式の保有方針及び保有の合理性の検証について、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (5) 株式の保有状況」参照)。

 

②サプライチェーンに係るリスク

原材料・部品の調達

 当グループの生産活動は、調達パートナーが時宜に適った方法により、合理的な価格で適切な品質及び量の原材料、部品及びサービスを当グループに供給する能力に依存しています。需要過剰の場合、調達パートナーは当グループの全ての要求を満たすための十分な供給能力を有しない可能性があります。原材料、部品及びサービスの不足は、急激な価格の高騰を引き起こす可能性があります。また、米ドルやユーロをはじめとする現地通貨建てで購入を行っている原材料及び部品については、為替相場の変動の影響を受けます。石油、銅、鉄鋼、合成樹脂、レアメタル、レアアース等の市況価格の上昇は当グループの製造コストの上昇要因であり、当グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。一方、原材料及び部品等の商品価格が下落した場合には、棚卸資産の評価損等の損失が発生する可能性があります。さらに、自然災害等により、調達パートナーの事業活動やサプライチェーンが被害を受けた場合、当グループの生産活動に悪影響を及ぼす可能性があります。また、調達パートナーにおいて児童労働や強制労働等の労働者の人権に関する法令違反等が発生した場合、発注元としての当グループの評判の低下や、当該調達パートナーからの安定した原材料・部品の調達に支障が生じ、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、複数の調達パートナーとの緊密な関係構築や製品・サービスの地産地消戦略の推進による各地域における需要変動への適切な対応、長期契約等による価格変動リスク低減、国内及び主要海外拠点における事業継続計画(BCP)の策定による事業中断リスクへの対応力強化、グループ全体としての調達機能の活用・強化等を実行しているほか、調達パートナーにおける法令違反等の発生を防ぐため、質問票を用いた自己点検や監査、理解促進の取組を実施しています。

 

取引先の信用リスク

 当グループは、国内外の様々な顧客及び調達パートナーと取引を行っており、売掛金、前渡金等の信用供与を行っています。取引相手の財政状態の悪化や経営破綻等が生じた場合、当グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローに悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループでは、定期的な信用調査や信用リスクに応じた取引限度額の設定等、信用リスクの管理のための施策を実施しています。

 

③海外事業における地政学等のリスク

海外における事業活動

 当グループは、事業戦略の一環として海外市場における事業の拡大を図っており、これを通じて、売上の増加、コストの削減及び収益性の向上等の実現をめざしています。当グループの海外事業は、事業を行う海外の各国において、以下を含む様々な要因による悪影響を受ける可能性があります。

・投資、輸出、関税、公正な競争、贈賄禁止、消費者及び企業に関する税制、知的財産、外国貿易及び外国為替に関する規制、人権や雇用・労働に関する規制、環境及び資源・エネルギーに関する規制

・取引条件等の商慣習の相違

・労使関係、労働慣行の変化

・対日感情、地域住民感情の悪化、各種団体等による批判やキャンペーン

・国家間や国内における紛争の拡大と頻発

・国家の安全保障や外交政策の変化

・各国の経済安全保障政策の強化

・その他の政治的及び社会的要因、地政学リスク、経済の動向並びに為替相場の変動

 これらの要因により、当グループが、海外における成長戦略の目的を達成できる保証はなく、当グループの事業の成長見通し及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、グローバルな政治・経済情勢等を定常的に把握して事業に及ぼす影響を分析し、海外リスク資産の移転を行う等、グループ全体での対応を実行しています。

 

④環境に係るリスク

気候変動対策に関する規制強化等(脱炭素への移行リスク)

 当グループは、炭素税、燃料・エネルギー消費への課税、排出権取引等の導入に伴う事業コストの負担増、製品・サービスの技術開発の遅れによる販売機会の逸失、投資家や社会に当グループの気候変動問題への取組姿勢が評価されない場合に、当グループの事業活動、経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、環境長期目標「日立環境イノベーション2050」を掲げ、脱炭素化の実現に向けた様々な取組を進めており、今後も目標達成に向けた取組をさらに加速していきます。事業所においては2030年度カーボンニュートラルをめざしており、日立インターナルカーボンプライシング導入等による省エネ機器・再生可能エネルギーによる電力の導入の推進、生産・輸送のさらなる効率化、非化石エネルギー由来の電力利用の促進等により、炭素税等の事業コスト負担増加等の回避・軽減や評価リスクの低減を図っています。バリューチェーンにおいては2050年度のネットゼロをめざし、温室効果ガス(GHG)排出量削減につながる革新的製品・サービスの開発・拡販、エネルギー削減につながる省エネルギー製品の開発等をめざしています。

 

⑤人的資本に係るリスク

人財確保

 当グループの競争力を維持するためには、事業遂行に必要な優秀な人財を採用し、確保し続ける必要があります。特に、当グループは、現在、グローバルに活躍できる人財や顧客に近いところでニーズをくみ取り、最適なソリューション・サービスを提供することができる人財、持続的な成長をけん引する次世代リーダーやデジタル・生成AIプロフェッショナル人財等を求めています。しかしながら、優秀な人財は限られており、かかる人財の採用及び確保の競争は激化しています。当グループがこのような優秀な人財を新たに採用し、又は雇用し続けることができる保証はありません。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、国内外で必要な人財をタイムリーに確保するため、競争力のある報酬の設定、「多様な視点の活用」の推進、多様な人財が働きやすい職場づくりの推進とエンゲージメントの向上、グローバル共通の人事制度、人財プラットフォームの活用、社内教育プログラムの実践等による優秀な人財の確保・育成を図っています。

 

⑥テクノロジーに係るリスク

情報システムへの依存

 当グループの事業活動において、情報システムの利用とその重要性は増大しています。コンピュータウイルスその他の要因によってかかる情報システムの機能に支障が生じた場合、当グループの事業活動、経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、継続的にサイバーセキュリティ対策等を推進しており、情報システムに適用される技術・製品・利用手順等を厳格に定めて運用していますが、従来にないサイバー攻撃を受けた場合や当社管理外のシステムに脆弱性があった場合には有効な手段とはならない可能性があります。

 

急速な技術革新

 当グループの事業分野においては、新しい技術が急速に発展しています。先端技術の開発に加えて、先端技術を継続的に、迅速かつ優れた費用効率で製品・システム・サービスに適用し、これらの製品等のマーケティングを効果的に行うことは、競争力を維持するために不可欠です。例えば、現在、生成AIの活用、デジタル化・ロボット等による自動化、電動化、脱炭素や資源循環等の環境への技術革新への対応等が重要となっています。このような変化の潮流を捉え、顧客に価値を提供し続けるために、グループ内の研究開発及びコーポレートベンチャーファンドを通じたスタートアップへの投資に対して多くの経営資源を投入しています。これらの先端技術の開発が予定どおり進展しなかった場合、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、産官学によるオープンイノベーションやデジタル人財の確保・育成、Lumadaによる協創プロセスを通じた顧客ニーズの把握のほか、これらを通じたイノベーションエコシステムの形成を図っています。

 

⑦自然災害に係るリスク

大規模災害及び気候変動による物理的影響等(気候変動の物理的影響に関連したリスクを含む)

 当グループは、日本国内において、研究開発拠点、製造拠点及び当社の本社部門を含む多くの主要施設を有しています。過去において、日本は、地震、津波、台風等多くの自然災害に見舞われており、今後も、大規模な自然災害により当グループの生産から販売に至る一連の事業活動が大きな影響を受ける可能性があります。また、海外においても、アジア、米国及び欧州等に拠点を有しており、各地の自然災害によって、当グループの事業拠点のほか、サプライチェーンや顧客の事業活動にも被害が生じる可能性があります。さらに、気候変動に起因して、渇水や海面上昇、長期的な熱波や洪水等の大規模な自然災害が、今後より一層深刻化する可能性があります。かかる大規模な自然災害により当グループの施設が直接損傷を受けたり破壊された場合、当グループの事業活動が中断したり、新たな生産や在庫品の出荷が遅延する可能性があるほか、多額の修理費、交換費用、その他の費用が生じる可能性があり、これらの要因により多額の損失が発生する可能性があります。大規模な自然災害により当グループの施設が直接の影響を受けない場合であっても、流通網又は供給網が混乱する可能性があります。また、感染症の流行や、テロ、犯罪、騒乱及び紛争等の各国・地域の不安定な政治的及び社会的状況により、当グループの事業活動が混乱する可能性があり、当グループの従業員が就労不能となったり、当グループの製品に対する消費者需要の低下や販売網及び供給網に混乱が生じたりする可能性があります。さらに、全ての潜在的損失に対して保険が付保されているわけではなく、保険の対象となる損失であってもその全てが対象とはならない可能性があり、また、保険金の支払いが異議の申立て等により遅延する可能性があります。自然災害その他の事象により当グループの事業遂行に直接的又は間接的な混乱が生じた場合、当グループの事業活動、経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、BCPの策定による事業中断リスクへの対応力強化等を図っており、また、工場新設時における洪水被害を想定した建設・工場内設備の配置等を行っています。

 

⑧その他会社経営全般に影響を及ぼすリスク

長期請負契約等に係る見積り、コストの変動及び契約の解除

 当グループは、インフラシステムの建設に係る請負契約をはじめ多数の長期契約を締結しており、かかる長期請負契約等に基づく収益を認識するために、当該契約の成果が信頼性をもって見積ることができる場合、工事契約の進捗に応じて収益及び費用を認識しています。収益については、主に、見積原価総額に対する実際発生原価の割合で測定される進捗度に基づいて認識しています。また、当該契約の成果が信頼性をもって見積ることができない場合には、発生した工事契約原価のうち、回収される可能性が高い範囲でのみ収益を認識し、工事契約原価は発生した期間に費用として認識しています。長期請負契約等に基づく収益認識において、見積原価総額、見積収益総額、契約に係るリスクやその他の要因について重要な仮定を用いて見積る必要がありますが、かかる見積りは変動する可能性があります。当グループは、これらの見積りを継続的に見直し、必要と考える場合には調整を行っています。当グループは、価格が確定している契約の予測損失は、その損失が見積られた時点で費用計上していますが、かかる見積りは変動する可能性があります。また、コストの変動は、当グループのコントロールの及ばない様々な理由によって発生する可能性があります。さらに、当グループ又はその取引相手が契約を解除する可能性もあります。このような場合、当グループは、当該契約に関する当初の見積りを見直す必要が生じ、かかる見直しは、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、契約締結前からリスクの把握・管理を行い、契約締結後も継続的に事業部門と財務部門間で管理・共有し、適時に正確な見積りができるよう努めています。

 

競争の激化

 当グループの事業分野においては、大規模な国際的企業からスタートアップを含む専業企業に至るまで、多様な競合相手が存在しています。かかる状況下で競争力を維持するためには、当グループの製品等は、技術、品質及びブランド価値の面においても競争力を有するものでなければなりません。当グループは、かかる製品等を適時に市場に投入する必要がありますが、当グループが提供する製品等が競争力を有する保証はなく、かかる製品等が競争力を有していない場合、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 また、先端的な製品・システムやサービス等においても汎用品化や低コストの地域における製造・開発・サービス提供やクラウド化・自動化が進んでおり、価格競争を激化させています。その一方で、原材料価格や人件費等の高騰、関税影響、為替変動により、製品の製造・販売やサービスの提供等に係るコストが増加する可能性があります。これらの状況において、当グループが競合相手の価格と対等な価格を設定できない場合、当グループの競争力及び収益性が低下する可能性があり、競合相手の価格と対等な価格を設定した場合、その製品等の販売が損失をもたらす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、研究開発によるイノベーションの強化やLumada事業の拡大、顧客との協創、製品等の高付加価値化、バリューエンジニアリング等による原価低減、グループ内リソースの活用拡大、顧客企業との価格転嫁交渉を図っています。

 

需要の急激な減少

 当グループが他社と競合する市場における急激な需要の減少と供給過剰は、販売価格の下落、ひいては売上の減少及び収益性の低下を招く可能性があります。加えて、当グループは、需要と供給のバランスを取るため、過剰在庫や陳腐化した設備の処分又は生産調整を強いられる場合があり、これにより損失が発生する可能性があります。例えば、情報機器、昇降機、半導体、産業用機器等の市場における需要と供給のバランスが崩れ、市況が低迷した場合、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、製品等の競争力の強化に加え、需要予測に基づく製品等の供給・在庫の管理等を図っています。

 

社会イノベーション事業強化に係る戦略

 当グループは、事業戦略として、主に社会イノベーション事業の強化によって、成長性が高く、安定的な収益を得られる事業構造を確立することをめざしています。当グループは、社会イノベーション事業を強化するため、設備投資や研究開発等の経営資源を重点的に配分することを計画しているほか、企業買収・新規プロジェクトへの投資も行っています。また、市場の変化に応じて社会イノベーション事業を効果的に展開するため、適切な事業体制の構築を図っています。かかる戦略を実行するため、当グループは、多額の資金を支出しており、今後も継続する予定です。かかる戦略のための当グループの取組は、成功しない、又は当グループが現在期待している効果を得られない可能性があります。また、かかる取組によって、当グループが収益性の維持又は向上を実現できる保証はありません。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、各ビジネスユニット(BU)においてフェーズゲート管理を行っています。加えて、市場動向、他社動向、技術動向及び潜在リスク等様々な視点からの分析・議論についても、投融資戦略委員会、経営会議、取締役会及び監査委員会において実施しています。

 

 

企業買収、合弁事業及び戦略的提携

 当グループは、各事業分野において、重要な新技術や新製品の設計・開発、製品・システムやサービスの補完・拡充、事業規模拡大による市場競争力の強化及び新たな地域や事業への進出のための拠点や顧客基盤の獲得等のため、他企業の買収、事業の合弁や外部パートナーとの戦略的提携を実施しています(当グループの経営成績及び財政状態に重大な悪影響を及ぼす可能性がある案件について、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 注5.事業再編等」参照)。このような施策は、事業遂行、技術、製品及び人事上の統合又は投資の回収が容易でないことから、本質的にリスクを伴っています。統合は、時間と費用がかかる複雑な問題を含んでおり、適切な計画のもとで実行されない場合、当グループの事業に悪影響を及ぼす可能性もあります。また、事業提携は、当グループがコントロールできない提携先の決定や能力又は市場の動向によって影響を受ける可能性があります。これらの施策に関連して、統合に関する費用や買収事業の再構築に関する費用等、買収、運営その他に係る多額の費用が当グループに発生する可能性があります。これらの費用のため、大規模な資金調達を行う場合、財政状態の悪化や資金調達能力の低下が発生する可能性があります。また、投資先事業の収益性が低下し、投資額の回収が見込めない場合、のれんの減損等、多額の損失が発生する可能性があります。当連結会計年度末時点で、デジタルシステム&サービスセグメントにおいて1,360,303百万円、グリーンエナジー&モビリティセグメントにおいて863,097百万円、コネクティブインダストリーズセグメントにおいて263,423百万円ののれんを計上しています(セグメント別ののれんの金額について、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 注4.セグメント情報」参照)。これらの施策が当グループの事業及び財政状態に有益なものとなる保証はなく、これらの施策が有益であるとしても、当グループが買収した事業の統合に成功し、又は当該施策の当初の目的の全部又は一部を実現できない可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、各ビジネスユニット(BU)におけるフェーズゲート管理に加え、市場動向、業界動向、戦略、買収価格、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)プロセス及び潜在リスク等様々な視点からの分析・議論を、投融資戦略委員会、経営会議、取締役会及び監査委員会において実施しています。

 

事業再構築

 当グループは、以下の事業ポートフォリオ再構築の取組等により、成長性が高く、安定的な収益の得られる事業構造の確立を図っています。

 ・不採算事業からの撤退

 ・当社の子会社及び関連会社の売却

 ・製造拠点及び販売網の再編

 ・資産の売却

 当グループによる事業再構築の取組は、各国政府の規制、雇用問題又は当グループが売却を検討している事業に対するM&A市場における需要不足等により、時宜に適った方法によって実行されないか、又は全く実行されない可能性があります。事業再構築の取組は、顧客又は従業員からの評価の低下等、予期せぬ結果をもたらす可能性もあり、また、過去に事業再構築に関連して有形固定資産や無形資産の減損、在庫の評価減、有形固定資産の処分及び有価証券の売却に関連する損失等が生じましたが、このような多額の費用が将来も発生する可能性があります。現在及び将来における事業再構築の取組は、成功しない、又は当グループが現在期待している効果を得られず、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、市場動向、業界動向、戦略、売却価格、プロセス及び潜在リスク等様々な視点からの分析・議論を、投融資戦略委員会、経営会議、取締役会及び監査委員会において実施しています。

持分法適用会社の業績の悪化

 当社及び連結子会社は、多数の持分法適用会社を有しています。持分法適用会社の損失は、当社及び連結子会社の持分比率に応じて、連結財務諸表に計上されます。また、当社及び連結子会社は、持分法適用会社の回収可能価額が取得原価又は帳簿価額を下回る場合、当該持分法適用会社の株式について減損損失を計上しなければならない可能性もあります。

 当連結会計年度末において、持分法で会計処理されている投資は、以下のとおりです。

 

 

(単位:百万円)

 

セグメント

2025年3月31日

デジタルシステム&サービス

64,475

グリーンエナジー&モビリティ

124,098

コネクティブインダストリーズ

162,291

その他

4,750

小計

355,614

全社及び消去(注)

480,617

合計

836,231

(注)日立Astemo㈱(現Astemo㈱)、日立建機㈱及びそれらの子会社に係る持分法で会計処理されている投資については、「全社及び消去」に含まれています。

 

 かかるリスクへの対応として、当グループは、投下資本利益率(ROIC)を用いた投資収益管理を推進し、収益性・成長性の高い分野へ投資を集中させるとともに、投資した持分法適用会社については投資実行後も事業計画の達成状況や財務状況を把握し、低収益事業や将来の競争力に懸念のある投資先については売却を行う等の施策を行っています。

 

訴訟その他の法的手続

 当グループは、事業を遂行する上で、訴訟や規制当局による調査及び処分等に関するリスクを有しています。訴訟その他の法的手続により、当グループに対して巨額又は算定困難な金銭支払いの請求又は命令がなされ、また、事業の遂行に対する制限が加えられる可能性があり、これらの内容や規模は長期間にわたって予測し得ない可能性があります。過去、当グループは、一部の製品において、競争法違反の可能性に関する日本、欧州及び北米等の規制当局による調査の対象となり、また、顧客等から損害賠償等の請求を受けています(当グループの経営成績及び財政状態に重大な悪影響を及ぼす可能性がある案件について、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 注29.コミットメント及び偶発事象」参照)。これらの調査や紛争の結果、複数の法域において多額の課徴金や損害賠償金等の支払いが課される可能性があります。かかる重大な法的責任又は規制当局による処分は、当グループの事業、経営成績、財政状態、キャッシュ・フロー、信用及び評判に悪影響を及ぼす可能性があります。また、当グループに対する法的責任が認められず、規制当局による処分や損害賠償金等の支払いが課されなかった場合であっても、当グループの信用及び評判に悪影響を及ぼす可能性があります。

 さらに、当グループの事業活動は、当グループが事業を行う国々で様々な政府による規制の対象となります。かかる政府による規制は、投資、輸出、関税、公正な競争、贈賄禁止、消費者及び企業に関する税制、知的財産、外国貿易及び外国為替に関する規制、人権や雇用・労働に関する規制、環境及び資源・エネルギーに関する規制を含みます。これらの規制は、当グループの事業活動を制限し又はコストを増加させ、また、新たな規制又は規制の変更は、当グループの事業活動をさらに制限し又はコストを増加させる可能性もあります。さらに、規制違反に係る罰金又は課徴金等、規制の執行が、当グループの経営成績、財政状態、キャッシュ・フロー、信用及び評判に悪影響を及ぼす可能性があります。また、個人データ保護規制等への対応についても、事業に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、規制の適用を受ける業務の特定、リスク評価、リスクに応じた措置の実行及び従業員に対する教育等を実施しています。

 

 

製品の品質と責任

 当グループの製品・サービスには、高度で複雑な技術を利用したものが増えています。また、部品等を外部の調達パートナーから調達することにより、品質確保へのコントロールが低下します。当グループの製品・サービスに欠陥等が生じた場合又は品質に関する不適切行為があった場合、当グループの製品・サービスの質に対する信頼が悪影響を受け、当該欠陥等から生じた損害について当グループが責任を負う可能性があるとともに、当グループの製品の販売能力に悪影響を及ぼす可能性があり、当グループの経営成績、財政状態及び将来の業績見通しに悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、事故未然防止活動、技術法令の遵守活動、リスクアセスメントの徹底、品質・信頼性や製品事故発生時の対応に関する教育等を行っています。さらに、当グループでは、顧客の安全と安心を第一に行動できる体制として、品質保証部門を事業部門内の設計部門及び製造部門から独立させています。加えて、過去の当社子会社における品質に関する不適切行為を受け、品質保証部門を、組織上事業部門からも分けることで、より独立性を強化しています。また、事業部門を担当する品質保証部門と本社の品質保証統括本部とのレポートラインを強化し、品質保証部門間で密な情報共有を図る仕組みを構築しています。

 

機密情報の管理

 当グループは、顧客から入手した個人情報並びに当グループ及び顧客の技術、研究開発、製造、販売及び営業活動等に関する機密情報を様々な形態で保持及び管理しています。かかる情報が権限なく開示された場合、当グループが損害賠償を請求され又は訴訟を提起される可能性があり、また、当グループの事業、財政状態、経営成績、信用及び評判に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、機密情報管理に関する規則・運用を定め、暗号化や認証基盤の構築によるID管理とアクセス制御等を行うとともに、調達パートナーに対しても情報セキュリティ状況の確認・審査等を行っています。

 

AIの利活用

 当グループの事業活動において、イノベーションの源泉としてのAIの利活用は欠かせないこととなっています。生成AIを含むすべてのAIの利活用には、多くの利点がある反面、情報漏えい、知的財産権やプライバシーの侵害、誤った判断や想定外の動作等による製品の品質への影響や製品事故等により、当グループの信用・評判の棄損や、経済的な損失が生じる可能性があります。また、AI技術に対する国内外の法規制の不確実性が当グループの事業活動、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、AIに関する倫理原則及び倫理方針を策定し、当方針のもと設置されたAI統括委員会において、当グループにおけるAIに関するリスクを統制することにより、AIガバナンスに取り組んでいます。また、生成AIの利活用に関するガイドラインの作成や、社員教育の実施により、当グループの社員がAIを利活用する際のリスクを正しく理解し、安心安全な事業活動ができるよう努めています。さらに、AIに関する国内外の法規制の動向や事案等を把握、分析するとともに、外部専門家と連携を図ることで、社会変化に則したAIガバナンスの強化を図っています。AIに関するリスクを適切にマネジメントしながら、最先端技術を安全に利用することで、未来の課題を解決し、サステナブルな社会の実現に貢献していきます。

 

知的財産

 当グループの事業は、製品、製品のデザイン、製造過程及び製品・ソフトウェアを組み合わせてサービスの提供を行うシステム等に関する特許権、意匠権、商標権及びその他の知的財産権を日本及び各国において取得できるか否かに依存する側面があります。当グループがかかる知的財産権を保有しているとしても、競争上優位に立てるという保証はありません。様々な当事者が当グループの特許権、意匠権、商標権及びその他の知的財産権について異議を申し立て、無効とし、又はその使用を避ける可能性があります。また、将来取得する特許権に関する特許請求の範囲が当グループの技術を保護するために十分に広範なものである保証はありません。当グループが事業を行っている国において、特許権、意匠権、著作権及び企業秘密に対する有効な保護手段が整備されていないか、又は不十分である可能性があり、当グループの企業秘密が従業員、契約先等によって開示又は不正流用される可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、出願前に公知例調査を行うことで、権利の成立可能性の向上及び事業に即した権利の取得を図っています。また、知的財産の保護手段が整備されていない、又は、不十分な国においては、従業員や契約先との契約等により、不正利用の抑制を図っています。

 当グループの多くの製品には、第三者からライセンスを受けたソフトウェア又はその他の知的財産が含まれています。当グループは、競合他社の保護された技術を使用することができない、又は不利な条件のもとでのみ使用しうることとなる可能性があります。かかる知的財産に関するライセンスを取得したとしても経済的理由等からこれを維持できる保証はなく、また、かかる知的財産が当グループの期待する商業上の優位性をもたらす保証もありません。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、当該第三者と契約・交渉により良好な関係を維持し、知的財産の実施権の確保を図っています。

 当グループは、特許権、意匠権及びその他の知的財産に関して、提訴され、又は権利侵害を主張する旨の通知を受け取ることがあります。これらの請求に正当性があるか否かにかかわらず、応訴するためには多額の費用等が必要となる可能性があり、また、経営陣が当グループの事業運営に専念できない可能性や当グループの評判を損ねる可能性があります。さらに、権利侵害の主張が成功し、侵害の対象となった技術のライセンスを当グループが取得することができない場合、又は他の権利侵害を行っていない代替技術を使用することができない場合、当グループの事業は悪影響を受ける可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、当グループは、新たな製品の販売やサービスの提供開始前に、当該製品やサービスについて他社特許クリアランスを実施するとともに、必要な場合には製品やサービスの設計変更を行うこと等で、他社との係争の回避を図っています。

 

退職給付に係る負債

 当グループは、数理計算によって算出される多額の退職給付費用を負担しています。この評価には、死亡率、脱退率、退職率、給与の変更及び割引率等の退職給付費用を見積る上で利用される様々な数理計算上の仮定が含まれています。当グループは、人員の状況、市況及び将来の金利の動向等の多くの要素を考慮に入れて、数理計算上の仮定を見積る必要があります。数理計算上の仮定の見積りは、基礎となる要素に基づき、合理的なものであると考えていますが、実際の結果と合致する保証はありません。数理計算上の仮定が実際の結果と異なった場合、その結果として実際の退職給付費用が見積費用から乖離して、当グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。割引率の低下は、数理上の退職給付に係る負債の増加をもたらす可能性があります。また、当グループは、割引率等の数理計算上の仮定を変更する可能性があります。数理計算上の仮定の変更も、当グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、2019年4月1日から日立企業年金基金に加入する当グループの従業員を対象として、リスク分担型企業年金制度への移行を進め、2023年4月1日に全ての日立企業年金基金加入会社についてリスク分担型企業年金制度への移行が完了しました。リスク分担型企業年金への移行を通じ、当社及び日立企業年金基金に加入する連結子会社の掛金負担を固定化することにより、資産運用リスク等を低減し、また退職給付に係る負債の認識を中止することにより財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼすリスクを低減しています。

 

株式の追加発行に伴う希薄化

 当社は、将来、株式の払込金額が時価を大幅に下回らない限り、株主総会決議によらずに、発行可能株式総数のうち未発行の範囲において、株式を追加的に発行する可能性があります。将来における株式の発行は、その時点の時価を下回る価格で行われ、かつ、株式の希薄化を生じさせる可能性があります。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営計画の進捗

①経営上の目標として掲げた指標の状況

「2024中期経営計画」において、経営上の目標として用いた主な指標の当連結会計年度における状況は次のとおりです。

 

指 標

実 績(2024年度)

2024中期経営計画目標

売上収益成長率

(2021~2024年度 CAGR)(注)1

14%

5%-7%

Adjusted EBITA率

(注)2

11.7%

12%

投下資本利益率(ROIC)

10.9%

10%

EPS成長率

(2021年度~2024年度 CAGR)

18%

10-14%

コア・フリー・キャッシュ・フロー

(2022~2024年度累計)

1.8兆円

1.2兆円

(注)1.連結合計から日立Astemo㈱(現Astemo㈱)の持分法損益と、持分法適用会社化前の子会社連結数値を差し引いて算出しています。

   2.Adjusted EBITA(Adjusted Earnings before interest, taxes and amortization)は、調整後営業利益(売上収益から、売上原価並びに販売費及び一般管理費の額を減算して算出した額)に、企業結合により認識した無形資産等の償却費を足し戻した上で、持分法による投資損益を加算して算出しています。Adjusted EBITA率は、Adjusted EBITAを売上収益の額で除して算出した指標です。

 

②成長に向けた事業強化

当期は「2024中期経営計画」の最終年度として、主に以下の取組を行いました。

・潮流を捉えた事業のオーガニック成長

 国内外で高まるDX(デジタルトランスフォーメーション)・GX(グリーントランスフォーメーション)需要や技術革新の加速による新たな事業機会を捉え、社会イノベーション事業のオーガニックな成長を実現しました。

 Lumada事業は、DX需要や生成AIの進化等によって成長を実現し、当期のLumada事業売上収益は前期に比べ29%増加して3兆210億円となりました。2024中期経営計画の3年間で約2.2倍となる成長を実現しました。

 また、パワーグリッド事業において、ドイツの送電事業者であるAmprion社から、陸上・洋上風力発電所の電力を送電するためのHVDC(高圧直流送電)変換所4基を受注するなど、GX需要を捉えた受注も継続しています。

 

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・さらなる成長に向けた事業ポートフォリオ改革

 今後のさらなる成長に向けた事業再編も継続して実施しています。

 2024年5月にThales社の鉄道信号関連事業等の買収が完了し、鉄道システム及びソリューション提供の強化を実現しました。これにより、日立の鉄道システム事業における当期の売上収益は、1兆円を超えました。

 また、2024年7月には空調事業合弁会社の資本再編を決定しました。同社の株式をRobert Bosch社に譲渡するとともに、業務用空調機器の開発・製造拠点を取得し、データセンターなどで需要が高まる空調ソリューションを展開していきます。

・生成AIを活用した新たな事業機会の創出

 急速に進化し続ける生成AIを活用した、新たな事業機会創出の取組も継続しています。2024年7月には、日立がLumadaとして蓄積してきたDXのノウハウや生成AIに関する豊富なナレッジ・技術等を活用し、生成AIの導入から活用、人財育成まで、お客さまのAIトランスフォーメーションをトータルに支援する伴走型のサービスの提供を開始しています。

 

(2)経営成績の状況の分析

①業績の状況

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 売上収益は、前年度に比べて1%増加し、9兆7,833億円となりました。前年度に実施した日立Astemo㈱(現Astemo㈱)株式の一部売却に伴う減収等の影響があったものの、為替影響に加え、パワーグリッド事業を営む日立エナジー社が堅調に推移するとともに、鉄道システム事業において、Thales社の鉄道信号関連事業を買収したグリーンエナジー&モビリティセグメント及び、国内事業を中心に大口案件を含むDXやモダナイゼーション等が堅調に推移したデジタルシステム&サービスセグメントの増収等により、増収となりました。

 売上原価は、前年度に比べて3%減少し、6兆9,625億円となり、売上収益に対する比率は、前年度に比べて2ポイント減少し、71%となりました。売上総利益は、前年度に比べて9%増加し、2兆8,208億円となりました。

 販売費及び一般管理費は、前年度に比べて1%増加し、1兆8,492億円となり、売上収益に対する比率は、前年度と同水準の19%となりました。

 持分法による投資損益は、前年度に比べて169億円減少し、583億円の利益となりました。

 これらの結果、Adjusted EBITA(Adjusted Earnings before interest, taxes and amortizationの略であり、売上収益から、売上原価並びに販売費及び一般管理費の額を減算して算出した指標に、企業結合により認識した無形資産等の償却費を足し戻した上で、持分法による投資損益を加算して算出した指標)は、前年度に比べて2,236億円増加し、1兆1,418億円となりました。

 その他の収益は、前年度に比べて669億円減少し、496億円となり、その他の費用は、前年度に比べて458億円増加し、1,430億円となりました。主な内訳は、以下のとおりです。

 ・固定資産損益は、前年度に比べて16億円増加し、186億円の利益となりました。

 ・減損損失は、デジタルシステム&サービスセグメントにおいて北米の一部事業ののれんの減損損失を計上したこと等により、前年度に比べて624億円増加し、921億円となりました。

 ・事業再編等損益は、㈱日立パワーデバイス株式の売却に伴う売却益を計上したものの、前年度に日立Astemo㈱株式の一部売却に伴う売却益を計上していたこと等により、前年度に比べて674億円減少し、296億円の利益となりました。

 ・特別退職金は、前年度に比べて89億円減少し、105億円となりました。

 金融収益(受取利息を除きます。)は、前年度に比べて365億円増加し、539億円となり、金融費用(支払利息を除きます。)は、前年度に比べて28億円増加し、129億円となりました。

 受取利息及び支払利息調整後税引前当期利益は、前年度に比べ1,196億円増加し、9,776億円となりました。

 受取利息は、前年度に比べて67億円減少し、320億円となり、支払利息は、前年度に比べて240億円減少し、469億円となりました。

 税引前当期利益は、前年度に比べて1,369億円増加し、9,627億円となりました。

 法人所得税費用は、前年度に比べて1,068億円増加し、3,058億円となりました。

 当期利益は、前年度に比べて301億円増加し、6,568億円となりました。

 非支配持分に帰属する当期利益は、前年度に比べて42億円増加し、411億円となりました。

 これらの結果、親会社株主に帰属する当期利益は、前年度に比べて258億円増加し、6,157億円となりました。

 

 

②セグメントごとの業績の状況

 セグメントごとに業績の状況を概観すると次のとおりです。各セグメントの売上収益には、セグメント間の内部売上収益が含まれています。また、当連結会計年度の期首より、報告セグメントの区分を、デジタルシステム&サービス、グリーンエナジー&モビリティ、コネクティブインダストリーズ、その他の4セグメントへ変更しております。

 各表内の内数は、各セグメントの主な事業等の業績を表しており、また、売上収益については当該事業間の内部売上収益を含んでいるため、それらの合計額は、セグメント全体の業績と一致しない場合があります。

 

(デジタルシステム&サービス)

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(注)括弧内の数値は為替影響を除いた対前年度増減率の概算値を表しています。ただし、GlobalLogicについては、米ドルベースの対前年度増減率の概算値を表しています。

 

 

 売上収益は、国内事業を中心とした大口案件を含むDXやシステムのモダナイゼーション案件等のLumada事業が堅調に推移したフロントビジネス、クラウドやセキュリティ関連等のLumada事業が堅調に推移したITサービス、GlobalLogic社の継続的な成長や国内DX・クラウドサービス案件が堅調に推移したサービス&プラットフォームがいずれも増収となったこと等により、セグメント全体で増収となりました。

 Adjusted EBITAは、売上収益の増加、プライシングの見直し及びプロジェクトマネジメントの強化による収益性の改善等により、増益となりました。

 

(グリーンエナジー&モビリティ)

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(注)1. 括弧内の数値は為替影響を除いた対前年度増減率の概算値を表しています。

2. 原子力・日立パワーソリューションズ合計の対前年度比は、2024年度における㈱日立パワーデバイスの株式譲渡影響を含んでいます。

3. 日立エナジー(スタンド・アローン)、鉄道(関連費用除き)には、関連費用は含まれていません。

4. 関連費用には、事業買収に伴うPMI(Post Merger Integration)に係る費用等が含まれています。

 

 売上収益は、㈱日立パワーデバイス株式の売却に伴う減収の影響があったものの、受注残からの着実な売上転換と生産能力増強による日立エナジー社の増収、Thales社の鉄道信号関連事業の買収等に伴う鉄道システムの増収、及び為替影響等により、セグメント全体で増収となりました。

 Adjusted EBITAは、パワーグリッド事業及び鉄道信号関連事業買収に伴うPMIに係る費用を含む関連費用等による減益要因があったものの、売上収益の増加や日立エナジー社の受注案件の収益性改善や継続的な生産効率向上、鉄道システムにおける案件構成差改善やコスト構造改革の継続等に伴う収益性の改善等により、増益となりました。

 

(コネクティブインダストリーズ)

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(注)括弧内の数値は為替影響を除いた対前年度増減率の概算値を表しています。

 

 売上収益は、物価高による国内家電需要の減少継続により生活・エコシステムで減収となったものの、為替影響に加え、生化学免疫自動分析装置事業や放射線治療システム事業等が堅調に推移した計測分析システム、配電用変圧器事業や受変電設備事業、機械システム事業等が堅調に推移したインダストリアルプロダクツ、産業分野向けのデジタルソリューション事業が堅調に推移したインダストリアルデジタルが増収となったこと等により、セグメント全体で増収となりました。

 Adjusted EBITAは、売上収益の増加等により、増益となりました。

 

(その他)

 売上収益は、前年度に比べて2%減少し、4,975億円となりました。

 Adjusted EBITAは、前年度に比べて55億円増加し、123億円となりました。

 

③地域ごとの売上収益の状況

 仕向地別に外部顧客向け売上収益の状況を概観すると次のとおりです。

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(注)連結合計の対前年度比は、日立Astemoを含んだ前年度実績との比較です。

 

国内

 国内売上収益は、増収となりました。これは主として、日立Astemo㈱株式の一部売却等に伴う減収の影響があったものの、フロントビジネスが堅調に推移したデジタルシステム&サービスセグメントや産業分野向けのデジタルソリューション事業等のLumada事業が堅調に推移したコネクティブインダストリーズセグメントが増収となったことによるものです。

 

海外

 海外売上収益は、増収となり、売上収益全体に占める比率は、前年度と同水準の61%となりました。各地域の状況は、以下のとおりです。

(北米)

 減収となりました。これは主として、グリーンエナジー&モビリティセグメントにおけるパワーグリッド事業の増収影響等があったものの、日立Astemo㈱株式の一部売却等に伴い減収となったことによるものです。

 

(欧州)

 増収となりました。これは主として、グリーンエナジー&モビリティセグメントにおいて、Thales社の鉄道信号関連事業の買収等により鉄道システムが増収になったこと及びパワーグリッド事業が増収となったことによるものです。

 

(アジア)

 中国及びASEAN・インド他から成るアジアは、減収となりました。これは主として、グリーンエナジー&モビリティセグメントにおけるパワーグリッド事業の増収の影響等があったものの、日立Astemo㈱株式の一部売却等により減収となったことによるものです。

 

(その他の地域)

 増収となりました。これは主として、グリーンエナジー&モビリティセグメントにおけるパワーグリッド事業及び鉄道システム事業が増収となったことによるものです。

 

(3)財政状態及びキャッシュ・フローの状況の分析

①流動性と資金の源泉

財務活動の基本方針

当社は、現在及び将来の事業活動のための適切な水準の流動性の維持及び機動的・効率的な資金の確保を財務活動の重要な方針としています。当社は、運転資金の効率的な管理を通じて、事業活動における資本効率の最適化を図るとともに、グループ内の資金の管理を当社や海外の金融子会社に集中させることを推進しており、グループ内の資金管理の効率改善に努めています。

当社は、経営管理指標にROICを導入し、資本効率の向上と収益性の高い事業の成長を経営として推進しています。ROICは、事業に投じた資金(投下資本)によって生み出されたリターンを評価する指標で、税引後の事業利益を投下資本で除すことで算出します。リターンを上げるためにはROICが投下資本の調達コストである加重平均資本コスト(WACC)を上回る必要があります。

 

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 また、収益性を図る主要な指標として、Adjusted EBITA(売上収益から、売上原価並びに販売費及び一般管理費の額を減算して算出した指標である調整後営業利益に、企業結合により認識した無形資産等の償却費を足し戻した上で、持分法による投資損益を加算して算出した指標)を用いています。なお、2025年度より、Adjusted EBITAの定義を、調整後営業利益に、企業結合により認識した無形資産等の償却費を足し戻して算出した指標に変更しています。

 今後は、Adjusted EBITA率13%から15%及びROIC12%から13%をめざすとともに、事業買収における投資判断の基準としてもAdjusted EBITA率及びROICを用いることで、投資判断の規律を徹底し、収益力の強化と事業資産の効率向上をさらに図っていきます。

 

資金需要の動向

 当社の主要な資金使途は、成長に向けたM&A、人財への投資、設備投資や研究開発投資、株主還元等です。コア・フリーキャッシュ・フロー及び資産売却で得た資金を、これらの成長投資や株主還元にバランスよく配分していきます。

 主なM&A等の案件については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 注5.事業再編等」に、設備投資の実績及び計画については、「第3 設備の状況」に、株主還元の方針及び実績については、「第4 提出会社の状況 3 配当政策」に記載しています。

 

資金の源泉

当社は、営業活動によるキャッシュ・フロー並びに現金及び現金同等物を内部的な資金の主な源泉と考えており、短期投資についても、直ちに利用できる財源となりうると考えています。また、資金需要に応じて、国内及び海外の資本市場における債券の発行及び株式等の資本性証券の発行並びに金融機関からの借入により資金を調達することが可能です。設備投資やM&Aのための資金については、主として内部資金により充当することとしており、必要に応じて社債や株式等の発行により資金を調達することとしています。借入により資金を調達する場合には、D/Eレシオ、有利子負債/EBITDA倍率等の財務規律に照らし、適正な財政状態を維持する方針としています。当社は、機動的な資金調達を可能とするため、3,000億円を上限とする社債の発行登録を行っています。

 当社及び一部の子会社は、資金需要に応じた効率的な資金の調達を確保するため、複数の金融機関との間でコミットメントラインを設定しています。当社においては、契約期間1年・3年で期間満了時に更新するコミットメントライン契約を締結しています。2025年3月31日現在における当社のコミットメントライン契約に係る借入未実行残高は5,050億円です。

 

 当社は、ムーディーズ・ジャパン㈱(ムーディーズ)、S&Pグローバル・レーティング・ジャパン㈱(S&P)及び㈱格付投資情報センター(R&I)から債券格付けを取得しています。2025年3月31日現在における格付けの状況は、次のとおりです。

 

格付会社

長期会社格付け

短期会社格付け

ムーディーズ

A3

P-2

S&P

A

A-1

R&I

AA-

a-1+

 

 当社は、現在の格付け水準の下で、引き続き、国内及び海外の資本市場から必要な資金調達が可能であると考えており、格付け水準の維持・向上を図っていきます。

 

②キャッシュ・フロー

 当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況は、以下のとおりです。

 

(営業活動に関するキャッシュ・フロー)

 営業活動に関するキャッシュ・フローは、前年度に比べて2,156億円の資金の増加となり、1兆1,722億円の収入となりました。これは、事業再編等損益を除く当期利益の増加や、前受金(契約負債)の獲得による収入の増加等によるものです。

 

(投資活動に関するキャッシュ・フロー)

 投資活動に関するキャッシュ・フローは、前年度に比べて4,421億円の資金の減少となり、5,736億円の支出となりました。これは、前年度において連結子会社であった日立Astemo㈱の株式を一部売却したことにより収入があったことに加え、当年度においてThales社の鉄道信号関連事業を買収したことによる支出があったこと等によるものです。

 

(財務活動に関するキャッシュ・フロー)

 財務活動に関するキャッシュ・フローは、前年度に比べて6,007億円の資金の増加となり、4,241億円の支出となりました。これは、自己株式の取得による支出が前年度に比べて増加したものの、短期借入金及び長期借入金の純支出額(収入額と支出額の差)が前年度に比べて減少したこと等によるものです。

 

 フリー・キャッシュ・フロー(営業活動に関するキャッシュ・フローと投資活動に関するキャッシュ・フローを合わせたもの)は、前年度に比べて2,264億円の資金の減少となり、5,985億円の収入となりました。

 また、コア・フリー・キャッシュ・フロー(フリー・キャッシュ・フローから、M&Aや資産売却他に係るキャッシュ・フローを除いた経常的なキャッシュ・フロー)は、前年度に比べて2,091億円の資金の増加となり、7,805億円の収入となりました。

 これらの結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、前年度末に比べて1,608億円増加し、8,662億円となりました。

 

③資産、負債及び資本

 当連結会計年度末の総資産は、為替影響による資産の減少要因があったものの、Thales社の鉄道信号関連事業の買収等により、前年度末に比べて1兆635億円増加し、13兆2,848億円となりました。当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、前年度末に比べて1,608億円増加し、8,662億円となりました。

 当連結会計年度末の有利子負債(短期借入金及び償還期長期債務を含む長期債務の合計)は、前年度末に比べて260億円増加し、1兆2,061億円となりました。金融機関からの借入やコマーシャル・ペーパー等から成る短期借入金は、前年度末に比べて353億円増加し、731億円となりました。償還期長期債務は、前年度末に比べて1,813億円増加し、3,688億円となりました。社債及び銀行や保険会社からの借入等から成る長期債務(償還期長期債務を除きます。)は、前年度末に比べて1,905億円減少し、7,641億円となりました。

 当連結会計年度末の親会社株主持分は、前年度末に比べて1,433億円増加し、5兆8,470億円となりました。この結果、当連結会計年度末の親会社株主持分比率は、前年度末の46.7%に対して、44.0%となりました。

 当連結会計年度末の非支配持分は、前年度末に比べて284億円増加し、1,843億円となりました。

 当連結会計年度末の資本合計は、前年度末に比べて1,718億円増加し、6兆314億円となり、資本合計に対する有利子負債の比率は、前年度と同水準の0.20倍となりました。

 

(4)生産、受注及び販売の状況

 当グループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではなく、また、受注生産形態をとらない製品も多く、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額又は数量で示すことはしていません。長期にわたり収益が認識される契約を有する主なセグメントについては、未履行の履行義務残高を、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 注20.売上収益」に記載しています。また、販売の状況については、「(2)経営成績の状況の分析」において各セグメントの業績に関連付けて示しています。

 

(5)重要な会計方針及び見積り

 IFRSに基づく連結財務諸表の作成においては、期末日における資産・負債の報告金額及び偶発的資産・債務の開示並びに報告期間における収益・費用の報告金額に影響するような見積り及び仮定が必要となります。いくつかの会計上の見積りは、次の二つの理由により、連結財務諸表に与える重要性及びその見積りに影響する将来の事象が現在の判断と著しく異なる可能性があり、当グループの財政状態、財政状態の変化又は経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。第一は、会計上の見積りがなされる時点においては、不確実性がきわめて高い事項についての仮定が必要になるため、第二は、当連結会計年度における会計上の見積りに合理的に用いることがありえた別の見積りが存在し、又は時間の経過により会計上の見積りの変化が合理的に起こりうるためです。見積り及び仮定が必要となる重要な会計方針は、次のとおりです。

 

貸倒引当金

 当グループは、売上債権及び契約資産並びにその他の債権に対して、測定した予想信用損失に等しい金額で貸倒引当金を計上しています。予想信用損失は、金融資産に関して契約上支払われるキャッシュ・フロー総額と、受取りが見込まれる将来キャッシュ・フロー総額との差額の割引現在価値を発生確率により加重平均して測定しています。支払遅延の存在、支払期日の延長、外部信用調査機関による否定的評価、債務超過等悪化した財政状況や経営成績の評価を含む、一つ又は複数の事象が発生している場合には、信用減損が生じた金融資産として個別的評価を行い、主に過去の貸倒実績や将来の回収可能額等に基づき予想信用損失を測定しています。信用減損が生じていない金融資産については、主に過去の貸倒実績に必要に応じて現在及び将来の経済状況等を踏まえて調整した引当率等に基づく集合的評価により予想信用損失を測定しています。予想信用損失は最善の見積りと判断により決定していますが、将来の取引先の財務状況の悪化や将来の不確実な経済条件の変動の結果によって影響を受ける可能性があります。

 貸倒引当金の算定については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 注3 重要性がある会計方針の概要 (4)金融商品」に記載しています。貸倒引当金の増減内容は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 注25 金融商品及び関連する開示 (2)財務上のリスク ③信用リスク」に記載しています。

 

長期請負契約等に係る見積り、コストの変動及び契約の解除

 当グループは、インフラシステムの建設に係る請負契約をはじめ多数の長期契約を締結しており、一定の期間にわたり製品及びサービス等の支配の移転が行われる取引については、顧客に提供する当該製品及びサービス等の性質を考慮し、履行義務の充足に向けての進捗度を発生原価又はサービス提供期間に基づき測定し収益を認識しています。なお、当該進捗度を合理的に測定することができない場合は、発生したコストの範囲で収益を認識しています。長期請負契約等に基づく収益認識において、見積原価総額、見積収益総額、契約に係るリスクやその他の要因について重要な仮定を用いて見積る必要がありますが、かかる見積りは変動する可能性があります。当グループは、これらの見積りを継続的に見直し、必要と考える場合には調整を行っています。当グループは、価格が確定している契約の予測損失は、その損失が見積られた時点で費用計上していますが、かかる見積りは変動する可能性があります。また、コストの変動は、当グループのコントロールの及ばない様々な理由によって発生する可能性があります。さらに、当グループ又はその取引相手が契約を解除する可能性もあります。このような場合、当グループは、当該契約に関する当初の見積りを見直す必要が生じ、かかる見直しは、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

企業結合

 企業結合の会計処理は取得法を用いています。被取得会社の有形資産のほか、技術やブランド、顧客リストといった無形資産も公正価値にて評価を行いますが、かかる評価において、個々の事案に応じた適切な前提条件や将来予測に基づき、見積りを行います。評価は通常、独立した外部専門家が評価プロセスに関与しますが、評価における重要な見積り及び前提には固有の不確実性が含まれます。当グループは、主要な前提条件の見積りは合理的であると考えていますが、実際の結果が異なる可能性があります。

 

資産の減損

 当グループは、保有し、かつ使用している資産の帳簿価額について、帳簿価額の回収ができなくなる可能性を示す事象又は状況の変化が生じた場合は、減損の兆候の有無を判定します。この判定において、資産の帳簿価額が減損していると判断された場合は、帳簿価額が回収可能価額を超える金額を減損損失として認識します。各資産及び資金生成単位又は資金生成単位グループごとの回収可能価額は、処分費用控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い方で算定しています。

 公正価値を算定するために用いる評価技法として、主に当該資産等の使用及び最終処分価値から期待される見積将来キャッシュ・フローに基づくインカム・アプローチ(現在価値法)又は類似する公開企業との比較や当該資産等の時価総額等、市場参加者間の秩序ある取引において成立しうる価格を合理的に見積り算定するマーケット・アプローチを用いています。使用価値は、経営者により承認された事業計画を基礎とした将来キャッシュ・フローの見積額を、加重平均資本コストをもとに算定した割引率で現在価値に割り引いて算定しており、現時点で合理的であると判断される一定の前提に基づいていますが、マーケットに係るリスク、経営環境に係るリスク等により、実際の結果が大きく異なることがありえます。また、使用価値の算定に使用する割引率については、株式市場の動向や金利の変動等により影響を受けます。将来キャッシュ・フロー及び使用価値の見積りは合理的であると考えていますが、将来キャッシュ・フローや使用価値の減少をもたらすような予測不能な事業上の環境の変化に起因する見積りの変化が、資産の評価に不利に影響する可能性があります。当グループは、公正価値及び使用価値算定上の複雑さに応じ、外部専門家を適宜利用しています。

 のれんは、事業買収で獲得する市場競争力を基礎とする超過収益力の源泉であり、被取得会社の純資産と、取得の対価の差額の内、無形資産等に計上された額以外をのれんとして計上します。のれんは、IFRSに基づき、償却をせず、減損の兆候の有無にかかわらず、毎年、主に第4四半期において、その資産の属する資金生成単位又は資金生成単位グループごとに回収可能価額を見積り、減損テストを実施しています。また、当初の見積りと直近の見積りを比較するモニタリングを継続し、事業戦略の変更や市場環境等の変化により、その価値が当初の見積りを下回り、帳簿価額が回収不可能であるような兆候がある場合には、その都度、減損テストを実施しています。当該事象や状況の変化には、世界的な経済や金融市場における危機も含まれ、その資産の属する資金生成単位又は資金生成単位グループの帳簿価額が回収可能価額を超える場合には、その超過額を減損損失として認識しています。

 減損及びのれんのセグメントごとの内訳は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 注4 セグメント情報」に記載しています。主な内容は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 注9 有形固定資産 及び 注10 のれん及びその他の無形資産」に記載しています。

 

繰延税金資産

 繰延税金資産は、将来の期に回収されることとなる税額であり、実現可能性を評価するにあたり、当グループは、同資産の一部又は全部が実現しない蓋然性の検討を行っています。実現可能性は確定的ではありませんが、実現可能性の評価において、当グループは、繰延税金負債の振り戻しの予定及び予測される将来の課税所得を考慮しています。将来の課税所得の見積りの基礎となる、将来の業績の見通しは、経済の動向、市場における需給動向、製品及びサービスの販売価格、原材料及び部品の調達価格、為替相場の変動、急速な技術革新等予見しえない事象により実際とは異なる結果となり、将来において修正される可能性があります。その結果、認識可能と判断された繰延税金資産の金額に不利な影響を及ぼす可能性があります。繰延税金資産の実現可能性の評価は、各納税地域の各納税単位で行われており、類似の事業を営む場合でも、製品や納税地域の違いにより異なった評価となりえます。同資産が最終的に実現するか否かは、これらの一時差異等が、将来、それぞれの納税地域における納税額の計算上、課税所得の減額あるいは税額控除が可能となる会計期間において、課税所得を計上しうるか否かによります。これらの諸要素に基づき当グループは、2025年3月31日現在で認識可能と判断された繰延税金資産が実現する蓋然性は高いと判断していますが、実際に課税所得が生じる時期及び金額は見積りと異なる可能性があります。

 

 

退職給付に係る負債

 当グループは、数理計算によって算出される多額の退職給付費用を負担しています。この評価には、死亡率、脱退率、退職率、給与の変更及び割引率等の退職給付費用を見積る上で利用される様々な数理計算上の仮定が含まれています。当グループは、人員の状況、市況及び将来の金利の動向等の多くの要素を考慮に入れて、数理計算上の仮定を見積る必要があります。数理計算上の仮定の見積りは、基礎となる要素に基づき、合理的なものであると考えていますが、実際の結果と合致する保証はありません。数理計算上の仮定が実際の結果と異なった場合、その結果として実際の退職給付費用が見積費用から乖離して、当グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。割引率の低下は、数理上の退職給付に係る負債の増加をもたらす可能性があります。また、当グループは、割引率等の数理計算上の仮定を変更する可能性があります。数理計算上の仮定の変更も、当グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 退職後給付の算定については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 注3 重要性がある会計方針の概要 (11)退職後給付」に記載しています。

 

(6)将来予想に関する記述

 「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」、「3 事業等のリスク」及び「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」等は、当社又は当グループの今後の計画、見通し、戦略等の将来予想に関する記述を含んでいます。将来予想に関する記述は、当社又は当グループが当有価証券報告書提出日現在において合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の業績等の結果は見通しと大きく異なることがありえます。その要因のうち、主なものは以下のとおりです。

・主要市場における経済状況及び需要の急激な変動

・為替相場変動

・資金調達環境

・株式相場変動

・原材料・部品の不足及び価格の変動

・信用供与を行った取引先の財政状態

・主要市場・事業拠点(特に日本、アジア、米国及び欧州)における政治・社会状況及び貿易規制等各種規制

・気候変動対策に関する規制強化等への対応

・情報システムへの依存及び機密情報の管理

・人財の確保

・新技術を用いた製品の開発、タイムリーな市場投入、低コスト生産を実現する当社及び子会社の能力

・地震・津波等の自然災害、気候変動、感染症の流行及びテロ・紛争等による政治的・社会的混乱

・長期請負契約等における見積り、コストの変動及び契約の解除

・価格競争の激化

・製品等の需給の変動

・製品等の需給、為替相場及び原材料価格の変動並びに原材料・部品の不足に対応する当社及び子会社の能力

・コスト構造改革施策の実施

・社会イノベーション事業強化に係る戦略

・企業買収、事業の合弁及び戦略的提携の実施並びにこれらに関連する費用の発生

・事業再構築のための施策の実施

・持分法適用会社への投資に係る損失

・当社、子会社又は持分法適用会社に対する訴訟その他の法的手続

・製品やサービスに関する欠陥・瑕疵等

・自社の知的財産の保護及び他社の知的財産の利用の確保

・退職給付に係る負債の算定における見積り

5【重要な契約等】

 

相互技術援助契約

 

契約会社名

相手方の名称

国名

契約品目

契約内容

契約期間

株式会社日立製作所

(当社)

International Business

Machines Corp.

アメリカ

インフォメーションハンドリングシステム

特許実施権の交換

自 2008年1月1日

至 2028年1月1日

までに出願された

特許の終了日

HP Inc.

Hewlett Packard Enterprise Company

アメリカ

全製品・サービス

特許実施権の交換

自 2010年3月31日

至 2014年12月31日

までに出願された

特許の終了日

EMC Corporation

アメリカ

インフォメーションハンドリングシステム

特許実施権の交換

自 2003年1月1日

至 2007年12月31日

までに出願された

特許の終了日

日立GEニュークリア・エナジー株式会社

(連結子会社)(注)

GE-Hitachi Nuclear

Energy Americas LLC

アメリカ

原子炉システム

特許実施権の交換

技術情報の交換

自 1991年10月30日

至 2025年6月30日

(注)日立GEニュークリア・エナジー㈱は、2025年6月1日付で日立GEベルノバニュークリアエナジー㈱に商号を変更しました。

 

6【研究開発活動】

(1)研究の目的及び主要課題

当グループ(当社及び連結子会社)は、「デジタル」「グリーン」「イノベーション」を成長ドライバーとして掲げ、社会イノベーション事業のさらなる進化をめざしています。この目標を実現するため、研究開発においては「グローバル事業成長に向けて、デジタル、グリーンによるイノベーション創生」をミッションとし、研究開発資源を、顧客体験を革新するイノベーションや社会の本質課題を捉えたイノベーションの創生に重点的に配分しています。

また、事業活動の競争力強化及び将来の成長に向けた取組として、各地域における先進顧客の価値を起点としたDX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)をOne Hitachiで推進し、Lumada事業を拡大しています。さらに、コーポレートR&Dでは、将来の成長を実現するためのイノベーションの先行投資として、2050年の社会課題からのバックキャストに基づく破壊的イノベーションを強化しています。

 

(2)研究開発体制

当グループの研究開発においては、当社及びグループ各社の研究開発部門が相互に緊密な連携をとりながら、グローバルな視点で研究開発効率の向上に努めています。また、国内外の大学や研究機関との連携に加え、2019年4月には研究開発グループ国分寺サイトに研究開発拠点「協創の森」を開設し、顧客やパートナーとのオープンな協創を加速しています。さらにコーポレートベンチャリングを活用したオープンイノベーションを推進することで、社外パートナーとの技術基盤構築、事業創生につなげています。技術及び社会の転換点を先取りし、将来にわたって持続的な成長を実現していきます。

社会イノベーション事業によるグローバルな成長の加速に向けて、2022年4月に、研究開発グループの組織を再編しました。これまで、当グループのフロントとともに価値起点でのイノベーション創生を担ってきた「社会イノベーション協創センタ」と、価値創生を支える世界No.1技術の開発を担ってきた「テクノロジーイノベーションセンタ」を一体化して、「デジタルサービス研究統括本部」、「サステナビリティ研究統括本部」に再編し、DX及びGXによる価値創生を強化しました。さらに「基礎研究センタ」は、将来を見据えた基盤技術の創出を担い、北米、欧州、中国、アジア及びインドに展開する「海外研究開発拠点」では、地域特性や市場ニーズに応じた研究を推進しています。

 

(3)イノベーション投資

当グループのさらなる成長に向けて、グループ全体のイノベーション投資を拡大します。

2025年4月に、コーポレートベンチャリング投資として最大規模となる400百万米ドルの第4号ファンドを組成し、当社のスタートアップへの投資資金残高は累計10億米ドルに達しました。グローバルトップクラスの運用規模によりオープンイノベーションをさらに加速させ、スタートアップのイノベーションエコシステムに貢献します。データセンター、分散型エネルギーシステム、未来の働き方、産業AI、バイオ、量子、核融合、宇宙等の先端技術や新領域を開拓するスタートアップとの協創を通じて、持続的成長を支える新たな事業機会の獲得とOne Hitachiの成長事業の創出をめざします。

 

 

(4)研究開発費

 当連結会計年度における当グループの研究開発費は、売上収益の2.7%にあたる2,594億円であり、セグメントごとの研究開発費及び研究開発費の推移は次のとおりです。

 

セグメントの名称

研究開発費

(億円)

 デジタルシステム&サービス

516

 グリーンエナジー&モビリティ

855

 コネクティブインダストリーズ

961

 その他

16

 全社及び消去

245

  合  計

2,594

 

 

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(注)1.赤色は当グループの研究開発費の合計です。オレンジ色はそのうち、デジタルシステム&サービス、グリーンエナジー&モビリティ及びコネクティブインダストリーズの3セグメントにおける研究開発費の合計です。

   2.( )内の数値は、当グループの研究開発費の売上収益合計に占める割合です。

 

(5)研究成果

 当連結会計年度における研究開発活動の主要な成果は、次のとおりです。

①AI/生成AIを活用したデジタルイノベーションの取組(デジタルシステム&サービスセグメント、全社)

AI/生成AIを活用して次世代技術を創生するとともに、これらの技術を事業に応用することで、社会課題の解決に取り組みました。

 

(イ)生成AIを活用し、システム開発のトランスフォーメーションを加速

ミッションクリティカルなシステムの開発領域に生成AIを適用するための新たな開発フレームワークを整備しました。本フレームワークは、当グループがこれまで培ってきた基幹システムや社会インフラシステムのナレッジと生成AIを組み合わせた開発環境であり、プロジェクトのニーズ・要件に応じた柔軟なカスタイマイズが可能です。自動修正・コメント生成機能等が搭載されており、生成AIが生成したソースコードの70~90%が適切であることを社内検証で確認しました。高い品質を確保しながら、システム開発の効率を大幅に向上することで、ソフトウェアエンジニア不足の解消といった社会課題の解決をめざします。

 

(ロ)カスタマーサポート業務を支える生成AIエージェント技術を開発

カスタマーサポート(以下、「CS」といいます。)業務特有の問題解法や要件に基づき強化した「ReAct for CS(リアクト・フォー・シーエス)」を開発し、当グループのサポートサービス「日立サポート360」の社内実証により、その有用性を確認しました。汎用LLM(大規模言語モデル)にない専門知識を持つ「ReAct」と呼ばれるより強力なLLMエージェント技法の活用により、複雑な問合せに対応します。CS業務の効率化や担当者の負担軽減が期待されるだけでなく、迅速かつ正確な対応を通じて顧客満足度の向上にも寄与します。今後は、さらに高度な問合せ対応や業務全般への適用を進め、活用範囲を拡大していきます。

 

 

(ハ)異常時の機械から発生する稼働音の変化を説明するテキスト生成技術を開発

製造ラインでの品質検査やインフラ設備の点検を効率化するため、生成AIを活用した異音検知技術を開発しました。本技術は、機械の稼働音データを解析し、異常検知の根拠を具体的なテキストとして生成することで、異常の内容や対応策を明確化します。従来は熟練者の主観に依存していた聴音点検を客観的に可視化することで、熟練者不足の課題を解決するとともに、点検作業の精度向上を実現します。また、保守作業の迅速化や適切な対応を支援することで、製造業やインフラ分野全体の効率化に貢献します。

 

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故障の予防策や修復作業まで提案可能なAIアシスタント(イメージ)

 

(ニ)現場作業の自律動作能力を拡張するAIロボット技術を開発

インフラ、交通、製造分野におけるDX推進とフロントラインワーカーのウェルビーイング向上をめざし、視覚や力覚等のマルチモーダル情報とロボット動作情報を統合的に学習するAI技術を開発しました。本技術を活用し、人の動作を模倣学習させる「ロボット教示」が可能な双腕ロボットを開発することで、作業負荷の軽減や時間・場所の制約緩和、新たな働き方を提案します。また、これらの研究成果に関連し、当社の研究者がMITテクノロジーレビュー[日本版]主催「Innovators Under 35 Japan 2024」に選出されました。

(注)深層学習を用いたロボットの動作学習・動作生成技術に関する成果の一部は、学校法人早稲田大学の尾形哲也教授との共同研究の結果得られたものです。

 

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人の動作を模倣学習させるロボット教示が可能な双腕ロボット

 

 

 

(ホ)生成AIの論理的思考能力を強化する学習データ自動生成技術を開発

自然言語での思考能力を高め、高度な意思決定を支援可能な生成AIの実現をめざし、生成AIの論理的な思考能力を高めるための学習データを自動的に生成する技術を開発しました。本技術は、例えば、「○○○地域での×××事業への投資は適切か?」といった問いに対応するため、多段階の思考ステップや数理論理学に基づく幅広い学習データを自動生成します。オープン方式を採用していることから任意の生成AIに適用することが可能であり、追加学習を通じた論理的思考の強化が可能です。最先端の生成AIで検証した結果、論理推論能力が平均約9%、最大で30%向上(注)しました。今後、顧客と連携することで本技術を進化させ、社会全般の複雑な課題解決を支援する生成AIの実現をめざします。

(注)2024年11月時点の当社調査によります。検証では、一例として、「LLaMa-3.1-70B」を使用しています。

 

(ヘ)製造業サプライチェーンを強靭化するディープインサイト推定技術を開発

自然災害やパンデミック等のリスクに対し、製造業のサプライチェーンを強靭化するために、「ディープインサイト推定技術」を開発しました。本技術は、部品供給情報と企業情報等を生成AIに入力し、従来は明らかにすることが困難だった製造拠点の情報を高精度に推定するものです。当グループ内での検証により、85%を超える精度でサプライヤーの製造拠点情報を推定できることを実証しました。

また、本研究の詳細について、2025年3月に、共同研究先である国立大学法人東京大学(以下、「東京大学」といいます。)「デジタルオブザーバトリ研究推進機構」が主催した第2回フォーラムで発表しました。本フォーラムでは、有識者によるパネル討論やポスターセッションを通して課題やユースケースの抽出、社会実装に向けた議論を行うとともに、連携企業・機関の探索を目的としたネットワーキングの強化にも取り組みました。

 

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製造業サプライチェーン強靭化技術によるグローバル事象におけるリスク予兆把握(イメージ)

 

②将来の社会課題解決に向けた取組の深化(全社)

先端技術の研究開発や持続可能な社会の構築をめざし、技術基盤の強化を通じて、将来の社会課題解決や新たな価値創造に取り組みました。

 

(イ)量子コンピュータの実用化に向けて量子ビットの寿命を100倍以上長く安定化させる操作技術を開発

当社は、日立ケンブリッジラボでの30年以上に渡る量子物理基礎研究に加え、2020年からは国立研究開発法人科学技術振興機構のムーンショット型研究開発事業(グラント番号JPMJMS2065)を通してアカデミアと連携し、大規模化に優位なシリコン量子コンピュータの研究を推進しています。これまで、効率的な制御方式や大規模化を可能にするアレイ構成を提案しました。2024年6月には、半導体中のノイズを一部無効化することにより量子ビットの寿命を100倍以上延伸する操作技術を開発しました。今後も本研究を加速させ、量子コンピュータの誤り訂正技術の実現や大規模な量子計算の精度向上を通じて、量子コンピュータの早期実用化をめざします。

(注)本結果の一部は、国立大学法人東京科学大学、東京大学、国立研究開発法人理化学研究所、日立ケンブリッジラボとの共同研究の結果得られたものです。

 

 

(ロ)脱炭素社会実現に貢献する水素製造システムの開発

再生可能エネルギーを活用した水素製造とそれに伴う電力運用の両方を最適に計画制御する新たな水素製造システムを開発しました。水電解装置の物理特性に基づいた運用計画とリアルタイム制御により、実際の運用との誤差を減らし、製造コストを削減することができます。また、本技術は、水素製造以外にも、蓄電池や燃料電池を含め、複数の場所で同時に最適運用することにも適用が可能です。本技術が、持続可能な社会のさらなる実現に貢献することをめざしています。

 

③オープンイノベーションによる価値協創 (全社)

国内外の大学・研究機関との協創を強化し、エコシステムの構築を推進しました。

 

(イ)東京大学との共同研究活動

2023年11月のエネルギーシステムの将来及び国際的協力の在り方に関する議論に続き、2024年10月には東京大学、インペリアルカレッジロンドン及び日立の三者により、グリーン経済におけるイノベーションと機会に関する共同イベントが開催されました。本イベントでは、脱炭素化、炭素循環、気候変動対策技術の社会的受容性等の幅広いテーマが議論され、特にカーボンニュートラルへの移行における挑戦的課題として、サプライチェーン全体のカーボンフットプリント削減、AIを活用したエネルギー効率化、生物多様性保護を含む統合的トランジションの実現等が挙げられました。

また、日立東大ラボでは、日本政府が提唱する「超スマート社会」の実現(Society 5.0)に向け、ビジョンの創生と実現に向けた研究開発を推進しています。これまでに、「Society 5.0を支えるエネルギーシステムの実現に向けて」と題した提言を第6版まで発刊し、カーボンニュートラル実現に向けた具体的な道筋を示してきました。2025年1月に開催した第7回産学協創フォーラムでは、電力システムをはじめとする社会システムへの推進に向け、「統合的トランジション」の具体的事例や配慮を紹介しました。さらに、パネルディスカッションを通じてエネルギー協調や国際連携の重要性を議論することで、持続可能な社会の実現に向けた取組を深めました。

 

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パネルディスカッションの様子

 

(ロ)日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボ 第2回オープンフォーラムを開催

当社と国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、「産総研」といいます。)は、2022年10月、産総研内に「日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボ」を設立して以来、「循環経済社会のグランドデザインの策定」をはじめとした3つのテーマで研究を推進してきました。2024年2月の第1回オープンフォーラムでは、従来の「線形経済」から「循環経済」への移行に向けた国内外の情勢を踏まえ、サーキュラーエコノミー社会(以下、「CE社会」といいます。)の将来像や技術的・制度的課題を抽出し、関係者と問題意識を共有しました。2025年2月の第2回オープンフォーラムでは、CE社会における「ありたき将来」実現に向けた具体的な技術やルール、行動変容を促す仕組みに関する検討結果を紹介し、外部有識者とのパネルディスカッションを通じて議論を深めました。

 

 

④著名な社外表彰やデザイン賞の獲得

当社の製品や技術、デザインが社外で高く評価され、著名な表彰を受賞しました。

 

(イ)熟練者ノウハウを反映可能な生産計画最適化技術の開発と実用化で「大河内記念生産賞」を受賞(コネクティブインダストリーズセグメント)

公益財団法人大河内記念会が主催する「第71回(令和6年度)大河内賞」において、熟練者ノウハウを反映可能な生産計画最適化技術の開発と実用化で「大河内記念生産賞」を受賞しました。本技術は、過去に熟練者が立案した計画履歴データの分析により熟練者のノウハウをデジタル化し、機械学習技術を組み込むことで熟練者の計画を再現できる計画最適化技術です。当グループのLumadaソリューションである「Hitachi AI Technology/計画最適化サービス」に本技術が活用されています。今回、高齢化が進む熟練者からのノウハウの伝承や、働き方改革に向けた労働時間低減等の社会課題の解決に大きく寄与する取組が評価され、受賞に至りました。

 

(ロ)LABOSPECT® 006 α 自動分析装置が「十大新製品賞 日本力(にっぽんぶらんど)賞」を受賞(コネクティブインダストリーズセグメント)

㈱日刊工業新聞社が主催する第67回「十大新製品賞」において、㈱日立ハイテクが販売する「LABOSPECT® 006 α 自動分析装置」が「日本力(にっぽんぶらんど)賞」を受賞しました。本装置は、特定機能病院をはじめ、衛生検査所やクリニック等の臨床検査の現場で活用されている血液の生化学分析を自動で行う装置です。今回、測定前の作業やメンテナンスの大幅な省力化により検査技師の負担を軽減し、検査室での新しい働き方を支える製品として評価され、受賞に至りました(㈱日立ハイテクとの共同受賞)。

 

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LABOSPECT 006® α 自動分析装置

 

 

 

(ハ)阪急電鉄2300系座席指定サービス『PRiVACE』用車両及び仙台市営地下鉄南北線の新型車両3000系が公益財団法人日本デザイン振興会主催の「2024年度グッドデザイン賞」を受賞(グリーンエナジー&モビリティセグメント)

阪急電鉄㈱と当社が共同で製造した「阪急電鉄2300系座席指定サービス『PRiVACE』用車両」は「日常の“移動時間”を、プライベートな空間で過ごす“自分時間”へ」をコンセプトとしています。今回、上質感を高めながら快適性とプライベート感の両立を実現したことが評価され、受賞に至りました(阪急電鉄㈱との共同受賞)。

また、当社が製造し、仙台市交通局が運行する地下鉄南北線の新型車両3000系は、「杜の都」仙台のケヤキ並木をイメージしたシート・ファブリックと爽やかな木目調の仕切り板により、明るさの中にも静謐さが漂う内装デザインとなっていることや、ホームと車両の段差が小さくなったこと、ペアガラスの採用による静音性の向上によって、乗客の安全性と快適性の向上にも寄与していることが評価され、受賞に至りました(仙台市交通局との共同受賞)。

 

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阪急電鉄2300系座席指定サービス『PRiVACE』用車両の外観(左)及び内観(右)

 

 

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仙台市営地下鉄南北線の新型車両3000系の外観(左)及び内観(右)