(1)経営の基本方針
当グループは、「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」を企業理念として、顧客に対し、より高い価値をもたらす競争力のある製品・サービスを提供することで、一層の発展を遂げることをめざしています。当グループでは、グループ内の多様な経営資源を最大限に活用するとともに、事業の見直しや再編を図ることで、競争力を強化し、グローバル市場での成長を実現し、顧客、株主、従業員を含むステークホルダーの期待に応えることにより、株主価値の向上を図っていくことを基本方針としています。
(2)経営環境及び対処すべき課題
①日立グループの経営環境及び対処すべき課題
現在の世界は、将来の予測が立てにくい時代です。気候変動や資源不足、高齢化による人口構造の変化、都市化の問題など様々な変化が生じており、さらに、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の流行は、世界規模で社会、経済などに劇的な変化をもたらし、世界各国の経済が深刻な悪影響を受けています。このような変化により生じた社会課題を解決するためのイノベーションが世界中で起きています。
かかる経営環境において、当グループは、2019年5月に公表した「2021中期経営計画」のもと、引き続き、社会イノベーション事業の提供を通じ、私たちの社会が直面する様々な課題の解決に向けたソリューションを提供することで、お客さまの社会価値・環境価値・経済価値の3つの価値を同時に向上し、人間中心の社会の実現に貢献していきます。
具体的には、以下の施策に注力していきます。
i) 事業活動を通じた社会への貢献
デジタル技術を活用した社会イノベーション事業を通じて、COVID-19がもたらした新たな社会での価値創出を加速していきます。
リモート、非接触、自動化の要請など、社会の急速な変化と新たな課題にいち早く対応し、社会が求める価値の実現を通じて、事業機会の開拓・獲得を図っていきます。
特に、製造業の自動化やサプライチェーンの最適化、公共・社会インフラ・医療分野でのデータの活用、ITを活用したリモートワーク等の働き方改革の支援など、日立グループが強みを持つ分野でソリューション提供を強化します。新たなニーズへの対応においても、デジタル事業の中核をなすLumadaを最大限活用し、事業の拡大をめざします。
ii)強靭な経営基盤の構築
IT・インダストリーセクターを中心とした投資で獲得したデジタル分野の人財・技術や顧客基盤の活用、エネルギーセクターでのABB, Ltdのパワーグリッド事業の買収などを通じて、事業ポートフォリオ改革を更に進めます。
また、リモートワークに対応した業務プロセスの見直しを図るなど、デジタル技術を活用して、全社レベルで業務の効率化・最適化を推進するとともに、投下資本利益率(ROIC)を用いたセクターごとの投資収益管理や棚卸資産縮減・運転資本圧縮を引き続き推進し、収益性やキャッシュ創出力の向上を図ります。
iii)社会の信頼確保へのより一層の取組み
当グループにとって、品質・安全・コンプライアンスに対する社会の信頼を確保・維持し続けることが最も重要であることを改めて徹底していきます。このほか、ダイバーシティの推進や働き方改革の加速、環境・地域社会への貢献等、社会・時代の要請に対しても、積極的かつ継続的に取り組んでいきます。
持続可能な社会の実現に貢献するため、「2030年度自社の生産におけるカーボンニュートラル」という先進的な目標を新たに設け、環境価値創出をリードする会社への変革を図ります。製品設計の見直し、製造設備の省エネルギー化などで自社の二酸化炭素排出削減を進めるだけではなく、お客さまや調達パートナーの環境対応も支援して、企業活動全体を通じて、環境価値実現の取組みを加速します。
②注力分野5セクターにおける経営環境及び対処すべき課題
注力分野であるIT、エネルギー、インダストリー、モビリティ及びライフの5セクターにおける経営環境及び対処すべき課題は、以下のとおりです。
IT
市場環境のデジタル化に対応するため、AI、IoT、ロボティクス等のデジタル技術や次世代通信規格5Gを活用しながら、企業が行うあらゆる経済活動やそれを構成するビジネスモデル並びに組織・文化・制度といった企業そのものを変革していくデジタルトランスフォーメーション(以下、「DX」という。)が、大きな注目を浴びています。2020年に入り、COVID-19の感染拡大によって、世界中で消費活動やサプライチェーンなどビジネスのあり方、価値観が転換点を迎え、個人としても生活や働き方が大きく変化しました。このニューノーマル(新常態)時代では、リモートや非接触、そして無人化・省人化などの自動化のニーズがさらに高まり、これまで以上にDXが加速すると考えられています。
ITセクターでは、デジタルの力で国内外のお客さまの期待に応え、持続可能な社会を実現するとともに、グローバルトップクラスのソリューションプロバイダーをめざします。COVID-19感染拡大の影響から、IT需要は今後低迷が懸念されますが、デジタル技術で企業経営やビジネスモデルなどの変革を図るDXは、グローバル全体でさらに加速しており、投資の機運は高まっています。そのニーズに応え、高度な金融・社会分野におけるデジタルソリューション事業を通じて社会価値の向上を図るとともに、製品・サービスのライフサイクル全般における環境効率の向上に努め、環境価値の創出も図ります。
また、ITセクターは、Lumada事業の中核として全事業分野を牽引します。2021中期経営計画の期間中、必要な成長投資を継続し、Lumada事業のグローバル展開に向けた体制強化として、人財・拠点などの事業リソース獲得のための買収・提携について検討するとともに、デジタル人財の育成・拡充や、先進のデジタル技術の開発などを推進していきます。
エネルギー
人口増加や経済成長に加え、データセンタの規模拡大や産業の電動化、さらにはEV(電気自動車)導入の拡大などの社会イノベーションを背景に、世界のエネルギー需要は拡大し続けています。また、気候変動への対応を背景に、CO2排出量の削減や脱炭素化へ向けた動きが世界的に加速しています。他方、途上国では、深刻な電力不足により10億人超の人々が電力のない生活を強いられている現実もあります。日立は、これらの課題解決に向けて、再生可能エネルギーやパワーグリッドをはじめとした事業分野で、「OT×IT×プロダクト」の強みを生かしたエネルギーソリューションで応えていきます。
エネルギーセクターでは、原子力発電システム、再生可能エネルギー発電システム、パワーグリッド、設備の予兆診断や遠隔監視サービスなどで、「OT×IT×プロダクト」の強みを生かしたエネルギーソリューションの提供により、お客さまのエネルギー安定供給やCO2排出量の削減、さらには低炭素・脱炭素社会の実現に貢献していきます。社会イノベーション事業の中核をなす事業として、環境価値の創出に寄与していきます。
Lumadaを活用した、エネルギー関連設備における管理の高度化や保守・点検作業の効率化など、日立が培ってきた知見とデジタル技術を活かした高度なエネルギーマネジメントシステムを構築します。また、グローバルトップレベルの技術と実績を有するABB, Ltdのパワーグリッド事業の買収により、Lumadaを活用したグリッドソリューション・サービス事業を強化するとともに、そのノウハウやリソースを活用し、グローバル事業の拡大を加速します。
インダストリー
生産年齢人口の減少やグローバル競争の激化、さらには気候変動や資源不足など、産業界では市場がこれまで以上に急速かつ複雑に変化を続けています。そのような中、COVID-19の影響によって、人々の生活様式や企業活動は大きく変容し、様々な分野でAI、IoTやロボティクスなど先進のデジタル技術を活用した新たなサービスやイノベーションの創出がこれまで以上に期待されています。
インダストリーセクターでは、日立グループならではの「OT×IT×プロダクト」を強みに、産業分野のお客さまに対するベストソリューションパートナーをめざします。そして、製造・流通分野における生産性・品質向上に貢献するソリューション提供による「お客さまの生産、サービス提供の効率化」、上下水道インフラや海水淡水化技術による世界中で1日当たり7,000万人に対する「安全・安心な水環境の提供」、プロダクトの省エネルギー化による「CO2排出量削減」を通じて、社会価値・環境価値・経済価値の創出を図ります。
これらの実現に向けて、インダストリーセクターでは、Lumadaを活用し、経営から現場、さらに調達から製造、物流、販売、サービス、保守に至るバリューチェーンの間にある課題をデジタル技術で解決し、全体最適を図るトータルシームレスソリューションをグローバルに展開していきます。
モビリティ
ビルシステム事業においては、昇降機などの新設需要に加えて、保全・リニューアルといったサービスへの需要や、デジタル技術の活用により、ビルの付加価値を高める新規ソリューションへの期待が高まっています。また、鉄道システム事業においては、世界中における人口の増加、都市化、気候変動を背景に、ビジネスの長期的な成長が見込まれています。
モビリティセクターでは、より速く、より環境に優しい都市間の移動や、都市部における自動車依存の軽減、高層ビルで人の流れを整流化するスマートソリューションなど、クリーンで効率性の高いスマートシティの構成要素となるソリューションを、世界中の人々に提供しています。安全・安心・快適な移動サービスや、ビルをはじめとする都市空間における課題を解決する製品・サービスの提供を通じて、社会価値を提供します。同時に、環境負荷の低い移動サービスを実現することによって、CO2排出量を削減するなど、環境価値の創出を図ります。
具体的には、ビルシステム事業においては、技術力・競争力に優れた昇降機などの製品・サービスをもとに、IoTやAIをはじめとするデジタル技術に関する日立グループ内の強力なリソースを生かし、Lumadaのソリューションを拡充させていきます。鉄道システム事業では、鉄道車両より取得したデータを分析して保守サービスの付加価値を高めるとともに、運行管理、無人自動運転などのトータルソリューションにLumadaで貢献することにより、安全・安心・快適な移動サービスを提供していきます。
ライフ
オートモティブシステム事業が製品・サービスを提供する自動車業界では、環境負荷の低減や快適性のさらなる向上、安全性向上による交通事故の低減等の社会ニーズの高まりを背景に、100年に一度といわれる大変革時代を迎えており、自動車のコア技術となってきている電動化、コネクテッド、自動運転等の分野で、競争がさらに激化しています。また、ヘルスケア事業が手掛けるライフサイエンス領域は、潜在的な未充足ニーズが多く、今後も高い成長が期待できる分野です。
ライフセクターでは、健康、安全、快適をキーワードに、誰もが暮らしやすい街づくりを実現し、人々のQoL向上に貢献することで、社会価値、環境価値、経済価値を創出します。粒子線がん治療システムの提供を通じて、人々が普通の生活を送りながらがん治療を受けられるようにすること、コネクテッド家電の提供を通じて世界中の人々の豊かな暮らしを支えること、自動運転技術を通じて交通事故の撲滅に寄与すること、また、電動化とIoT技術を通じて製品のCO2排出量を削減し、地球温暖化の防止に寄与することをめざします。さらに、事業の入れ替えとオペレーション改革により収益性を改善し、事業構造改革を推進します。
また、上記の通り、自動車、家電、ヘルスケア機器など、生活を支える機器をインターネットにつなぎ、Lumadaのデータ分析技術も活用して、遠隔での運用・管理、更には自動化を実現することで、より便利で豊かな生活に貢献するとともに、都市化が進むアジアのスマートシティ市場を中心にLumada事業の拡大を図ります。かかるLumada事業モデルを確立し、デジタルサービス事業の展開による次なる成長につなげます。
(3)中期経営計画における経営指標
2021中期経営計画においては、以下の指標を経営上の業績目標としています。
|
|
2021年度目標 |
選定した理由 |
|
売上収益年成長率 |
3%超 |
成長性を測る指標として選定 |
|
調整後営業利益率(注)1 |
10%超 |
収益性を測る指標として選定 |
|
営業キャッシュ・フロー(3年間累計) |
2.5兆円超 |
キャッシュ総出力を測る指標として選定 |
|
投下資本利益率(ROIC)(注)2 |
10%超 |
投資効率を測る指標として選定 |
|
海外売上比率 |
60%超 |
グローバル化を測る指標として選定 |
(注)1.調整後営業利益は、売上収益から、売上原価並びに販売費及び一般管理費の額を減算して算出した指標であり、調整後営業利益率は、調整後営業利益を売上収益の額で除して算出した指標です。
2.ROIC(Return on invested capital)は、「ROIC=(税引後の調整後営業利益+持分法損益)÷投下資本×100」により算出しています。なお、「税引後の調整後営業利益=調整後営業利益×(1-税金負担率)」、「投下資本=有利子負債+資本の部合計」です。
また、上記の経済価値の提供の他、安全・快適な移動サービスの提供や安心・安全な水環境の提供、イノベーションの加速の支援等による社会価値の提供及びバリューチェーンを通じたCO2の排出削減や水利用効率の改善、資源利用効率の改善等の環境価値の提供を当該中期経営計画の目標としています。
(1)リスクマネジメントについて
当社では、日々変化する経営環境を把握・分析し、社会的課題や当社の競争優位性、経営資源などを踏まえ、当社として備えるべき様々な「リスク」の適切な把握・対応を図るとともに、さらなる成長「機会」についてもリスクマネジメントを実施し、リスクをコントロールしながら収益機会の創生に努めています。
かかる多様なリスクに関して、各担当部署がリスクと機会の適切な把握・対応に努め、経営幹部への報告・経営戦略への反映を行っています。
主なものとして、以下の取組みがあります。
投資等に関わるリスクについて
世界経済の構造変化・不確実性増大の中、グローバルに社会イノベーション事業を加速するためには、投資等(M&Aや大口プロジェクト案件の受注など)のリスクと機会を把握し、適切に対応することはますます重要になっています。
当社は、案件規模など重要度に応じた権限移譲により機動的な意思決定を行う一方、重要性の高い案件については、投資等にかかるリスクと機会について、諮問機関である投融資戦略委員会の答申等をふまえ、経営会議・取締役会において審議し、意思決定を行っています。
投資等の実行後は、その目的の達成、事業成長、資産効率改善等の状況をモニタリングしています。また、「EXITルール」を設け、リスク事象の発現により経営に重要な影響を与える恐れのある事業投資先について、撤退を含む事業継続の是非等を経営判断し、資本効率の向上を図っています。
当社は上記のプロセスを通じ、投資等の実行前後のリスクを把握しつつ、資産収益性とリスク耐性のさらなる強化を図っています。
持続性に関わるリスクについて
気候変動や資源不足、大規模災害などによる事業活動への影響、格差拡大による社会の不安定化など、社会・環境課題が企業の価値創造やビジネスモデルに大きな影響を与え、経営環境が大きく変化する中、企業は長期的視点で持続的成長を果たすための機会と備えるべきリスクを把握し、適切に対処することが求められています。
当社では、サステナビリティ戦略会議の開催や、関連する委員会を通じて、持続性に関わるリスクを把握し、対処する一方で、国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」の実現やサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより実現する「Society 5.0」などへの取組みに事業機会を見出し、持続可能な社会の実現に貢献しながら、自らの持続的成長を図っています。
(2)リスク要因
当グループは、幅広い事業分野にわたり、世界各地において事業活動を行っています。また、事業を遂行するために高度で専門的な技術を利用しています。そのため、当グループの事業活動は、多岐にわたる要因の影響を受けています。その要因及び各リスク要因に対する対応策の主なものは、次のとおりです。
なお、これらは当有価証券報告書提出日現在において合理的であると判断している一定の前提に基づいています。また、これらの対応策は各リスク要因の影響を完全に排除するものではなく、また、影響を軽減する有効な手段とはならない可能性があります。
①COVID-19に係るリスク
COVID-19の世界的な流行は、都市封鎖や外出の禁止・自粛による移動の制限・事業拠点の閉鎖・生産活動の制約、個人消費や設備投資等の減少、サプライチェーンの混乱、世界的な資本市場の散発的な乱高下や資金調達環境の悪化等を生じさせ、世界経済の悪化を招いており、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼしています。また、今後の状況によっては、さらなる悪影響を及ぼす可能性があります。
当グループの各セグメントにおいて想定される主な事業上の影響の内容は、次のとおりです。
当連結会計年度における経営成績への影響は、「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」を、会計上の見積りを行う上での考え方については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 注2.作成の基礎」及び「第5 経理の状況 2 財務諸表等 (1) 財務諸表 注記事項 重要な会計方針13.会計上の見積りを行う上でのCOVID-19の影響の考え方」を参照ください。
かかるリスクへの対応として、当グループは、安全確保を前提とした生産活動の継続と鎮静化後の迅速な生産活動の再開準備、デジタル環境の強化によるリモートワーク等を活用した多様な働き方の実現、キャッシュマネジメントの強化や事業構造改革によるコスト低減等を図っています。
②マーケットに係るリスク
経済の動向
当グループの事業活動は、世界経済及び特定の国・地域の経済情勢の影響を受けます。各国・地域や日本の景気が減速・後退する場合は、個人消費や設備投資の低下等をもたらし、その結果、当グループが提供する製品・システム又はサービスに対する需要が減少するなど、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
かかるリスクへの対応として、当グループは、様々な事業分野・地域において、多様な特性を持つ社会イノベーション事業を組み合わせる経営をしています。
為替相場の変動
当グループは、取引先及び取引地域が世界各地にわたっているため、為替相場の変動リスクにさらされています。当グループは、現地通貨建てで製品・サービスの販売・提供及び原材料・部品の購入を行っていることから、為替相場の変動は、円建てでの売上の低下やコストの上昇を招き、円建てで報告される当グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。当グループが、売上の低下を埋め合わせるために現地通貨建ての価格を上げた場合やコストの上昇分を吸収するために円建ての価格を上げた場合、当グループの価格競争力が低下し、それに伴い、経営成績は悪影響を受ける可能性があります。また、当グループは、現地通貨で表示された資産及び負債を保有していることから、為替相場の変動は、円建てで報告される当グループの財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
2020年6月30日時点における2021年3月31日に終了する連結会計年度の為替感応度(見通しの為替レートから1円変動した場合の業績影響額)の見積りは、以下のとおりです。
|
通貨 |
見通し |
為替感応度(億円) |
|
|
売上収益 |
調整後営業利益 |
||
|
ドル |
105円/ドル |
170 |
15 |
|
ユーロ |
120円/ユーロ |
40 |
10 |
かかるリスクへの対応として、当グループでは、先物為替予約契約や通貨スワップ契約等の為替変動リスクのヘッジや製品・サービスの地産地消戦略の推進等を実行しています。
資金調達環境
当グループの主な資金の源泉は、営業活動によるキャッシュ・フロー、銀行等の金融機関からの借入並びにコマーシャル・ペーパー及びその他の債券、株式の発行等による資本市場からの資金調達です。当グループは、事業活動のための費用、負債の元本及び利子並びに株式に対する配当を支払うために、流動資金を必要とします。また、当グループは、設備投資及び研究開発等のために長期的な資金調達を必要としています。当グループは、営業活動によるキャッシュ・フロー、銀行等の金融機関からの借入及び資本市場からの資金調達により、当グループの事業活動やその他の流動資金の需要を充足できると考えていますが、世界経済が悪化した場合、当グループの営業活動によるキャッシュ・フロー、業績及び財政状態に悪影響を及ぼし、これに伴い当社の債券格付けにも悪影響を及ぼす可能性があります。債券格付けが引き下げられた場合、当社が有利と考える条件による追加的な資金調達の実行力に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社は、資金調達を銀行等の金融機関からの借入に依存することにより金利上昇のリスクにさらされています。また、外部の資金源への依存を高めなければならなくなる可能性があります。負債への依存を高めることにより、当社の債券格付けは悪影響を受けることがあり、当社が有利と考える条件による追加的な資金調達の実行力にも影響を及ぼす可能性があります。かかる資金調達ができない場合、当グループの資金調達コストが上昇し、当グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。当グループでは、金利上昇のリスクを軽減するための施策として、主に金利スワップ契約を締結しています。
また、当グループの主要な取引金融機関が倒産した場合又は当該取引金融機関が当グループに対して融資条件の変更や融資の停止を決定した場合、当グループの資金調達に悪影響を及ぼす可能性があります。
株式等の価格の下落
当グループは、他社との事業上の関係等を維持又は促進するため、株式等の有価証券を保有しています。かかる有価証券は、価値の下落リスクにさらされています。株式の市場価格等の価値の下落に伴い、当社及び連結子会社は、保有する株式等の評価損を計上しなければならない可能性があります。さらに、当社及び連結子会社は、契約その他の義務により、株価の下落等にかかわらず、株式等を保有し続けなくてはならない可能性があり、このことにより多額の損失を被る可能性もあります。
当事業年度末において、当社が保有している投資株式の銘柄数及び貸借対照表計上額は、以下のとおりです。
|
|
銘柄数 (銘柄) |
貸借対照表計上額の合計額 (百万円) |
|
非上場株式 |
178 |
39,925 |
|
非上場株式以外の株式 |
55 |
101,934 |
かかるリスクへの対応として、当社は、取引や事業上必要である場合を除き、投資株式を取得・保有しないことを基本方針とし、既に保有している株式についても、保有意義や合理性が認められない限り、売却を進めています(保有目的が純投資以外の目的である投資株式の保有方針及び保有の合理性の検証について、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (5) 株式の保有状況」参照)。
③経営環境に係るリスク
原材料・部品の調達
当グループの生産活動は、サプライヤーが時宜に適った方法により、合理的な価格で適切な品質及び量の原材料、部品及びサービスを当グループに供給する能力に依存しています。需要過剰の場合、サプライヤーは当グループの全ての要求を満たすための十分な供給能力を有しない可能性があります。原材料、部品及びサービスの不足は、急激な価格の高騰を引き起こす可能性があります。また、米ドルやユーロをはじめとする現地通貨建てで購入を行っている原材料及び部品については、為替相場の変動の影響を受けます。石油、銅、鉄鋼、合成樹脂、レアメタル、レアアース等の市況価格の上昇は当グループの製造コストの上昇要因であり、当グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。一方、原材料及び部品等の商品価格が下落した場合には、棚卸資産の評価損等の損失が発生する可能性があります。さらに、自然災害等により、サプライヤーの事業活動やサプライチェーンが被害を受けた場合、当グループの生産活動に悪影響を及ぼす可能性があります。また、サプライヤーにおいて児童労働や強制労働などの労働者の権利侵害事象等を含む法令違反等が発生した場合、発注元としての当グループの評判の低下や、当該サプライヤーからの安定した原材料・部品の調達に支障が生じ、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
かかるリスクへの対応として、当グループは、複数のサプライヤーとの緊密な関係構築や製品・サービスの地産地消戦略の推進による各地域における需要変動への適切な対応、国内及び主要海外拠点における事業継続計画(BCP)の策定による事業中断リスクへの対応力強化、グループ全体としての調達機能の活用・強化等を実行している他、サプライヤーにおける法令違反等の発生を防ぐため、質問票を用いた自己点検や監査、理解促進の取組みを実施しています。
長期請負契約等に係る見積り、コストの変動及び契約の解除
当グループは、インフラシステムの建設に係る請負契約をはじめ多数の長期契約を締結しており、かかる長期請負契約等に基づく収益を認識するために、当該契約の成果が信頼性をもって見積ることができる場合、工事契約の進捗に応じて収益及び費用を認識しています。収益については、主に、見積原価総額に対する実際発生原価の割合で測定される進捗度に基づいて認識しています。また、当該契約の成果が信頼性をもって見積ることができない場合には、発生した工事契約原価のうち、回収される可能性が高い範囲でのみ収益を認識し、工事契約原価は発生した期間に費用として認識しています。長期請負契約等に基づく収益認識において、見積原価総額、見積収益総額、契約に係るリスクやその他の要因について重要な仮定を行う必要がありますが、かかる見積りは変動する可能性があります。当グループは、これらの見積りを継続的に見直し、必要と考える場合には調整を行っています。当グループは、価格が確定している契約の予測損失は、その損失が見積られた時点で費用計上していますが、かかる見積りは変動する可能性があります。また、コストの変動は、当グループのコントロールの及ばない様々な理由によって発生する可能性があります。さらに、当グループ又はその取引相手が契約を解除する可能性もあります。このような場合、当グループは、当該契約に関する当初の見積りを見直す必要が生じ、かかる見直しは、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
かかるリスクへの対応として、当グループは、契約締結前からリスクの把握・管理を行い、契約締結後も継続的に事業部門と財務部門間で管理・共有し、適時に正確な見積りができるよう努めています。
競争の激化
当グループの事業分野においては、大規模な国際的企業から専業企業に至るまで、多様な競合相手が存在しています。先端的な製品・システムやサービス等においても汎用品化や低コストの地域における製造・開発・サービス提供やクラウド化・自動化が進んでおり、価格競争を激化させています。かかる状況下で競争力を維持するためには、当グループは、その製品等が価格競争力を有するものでなければならないと考えています。かかる製品等の汎用品化は、当グループの価格決定力に影響を及ぼします。当グループが競合相手の価格と対等な価格を設定できない場合、当グループの競争力及び収益性が低下する可能性があります。一方で、競合相手の価格と対等な価格を設定することにより、その製品等の販売が損失をもたらす可能性があります。また、当グループの製品等は、技術、品質及びブランド価値の面においても競争力を有するものでなければなりません。また、当グループは、かかる製品等を適時に市場に投入する必要がありますが、当グループが提供する製品等が競争力を有する保証はなく、かかる製品等が競争力を有していない場合、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
かかるリスクへの対応として、当グループは、研究開発によるイノベーションの強化やLumadaを用いたデジタルソリューションの拡大、顧客との協創、製品等の高付加価値化を図っています。
人材確保
当グループの競争力を維持するためには、事業遂行に必要な優秀な人材を採用し、確保し続ける必要があります。特に、当グループは、現在、グローバルに活躍できる人材や顧客に近いところでニーズをくみ取り、最適なソリューション・サービスを提供することができるフロント人材、デジタルトランスフォーメーションを牽引するデジタル人材等を求めています。しかしながら、優秀な人材は限られており、かかる人材の採用及び確保の競争は激化しています。当グループがこのような優秀な人材を新たに採用し、又は雇用し続けることができる保証はありません。
かかるリスクへの対応として、当グループは、国内外で必要な人材をタイムリーに確保するため、海外におけるデジタル人材の直接採用を拡大するとともに、多様な人材が働きやすい職場づくりの推進、グローバル共通の人事制度による優秀なグローバル人材の確保、グループ・グローバル共通のラーニングマネジメントシステムの活用や社内教育プログラムの実践による優秀な人材の確保・育成等を図っています。
急速な技術革新
当グループの事業分野においては、新しい技術が急速に発展しています。先端技術の開発に加えて、先端技術を継続的に、迅速かつ優れた費用効率で製品・システム・サービスに適用し、これらの製品等のマーケティングを効果的に行うことは、競争力を維持するために不可欠です。例えば、現在、5G(第5世代移動通信システム)やAI・IoT・ロボット等による自動化・電動化、リモート・非接触化、環境への技術革新への対応等が重要となっています。このような製品等を生み出すためには、研究開発に対する多くの経営資源の投入が必要になりますが、当グループの研究開発が常に成功する保証はありません。当グループの先端技術の開発又は製品・システム・サービスへの適用が予定どおり進展しなかった場合、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
かかるリスクへの対応として、当グループは、産官学によるオープンイノベーションやデジタル人材の確保・育成、Lumadaの強化のほか、これらを通じたイノベーションエコシステムの形成を図っています。
需要と供給のバランス
当グループが他社と競合する市場における急激な需要の減少と供給過剰は、販売価格の下落、ひいては売上の減少及び収益性の低下を招く可能性があります。加えて、当グループは、需要と供給のバランスを取るため、過剰在庫や陳腐化した設備の処分又は生産調整を強いられる場合があり、これにより損失が発生する可能性があります。例えば、情報システム・建設機械や自動車機器等の市場における需要と供給のバランスが崩れ、市況が低迷した場合、当グループの関連事業の財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
かかるリスクへの対応として、当グループは、製品等の競争力の強化に加え、需要予測に基づく製品等の供給・在庫の管理等を図っています。
取引先の信用リスク
当グループは、国内外の様々な顧客及びサプライヤーと取引を行っており、売掛金、前渡金などの信用供与を行っています。取引相手の財政状態の悪化や経営破綻等が生じた場合、当グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローに悪影響を及ぼす可能性があります。
かかるリスクへの対応として、当グループでは、定期的な信用調査や信用リスクに応じた取引限度額の設定など、信用リスクの管理のための施策を実施しています。
④経営方針・経営戦略に係るリスク
社会イノベーション事業強化に係る戦略
当グループは事業戦略として、主に社会イノベーション事業の強化によって、安定的かつ収益性の高い事業構造を確立することをめざしています。当グループは社会イノベーション事業を強化するため、設備投資や研究開発等の経営資源を重点的に配分することを計画しているほか、企業買収・新規プロジェクトへの投資も行っています。また、市場の変化に応じて社会イノベーション事業を効果的に展開するため、適切な事業体制の構築を図っています。かかる戦略を実行するため、当グループは、多額の資金を支出しており、今後も継続する予定です。かかる戦略のための当グループの取組みは、成功しない、又は当グループが現在期待している効果を得られない可能性があります。また、かかる取組みによって、当グループが収益性の維持又は向上を実現できる保証はありません。
かかるリスクへの対応として、当グループは、各ビジネスユニット(BU)においてフェーズゲート管理を行っています。加えて、市場動向、他社動向、技術動向及び潜在リスクなど様々な視点からの分析・議論についても、投融資戦略委員会、事業戦略会議、経営会議、取締役会及び監査委員会において実施しています。
企業買収、合弁事業及び戦略的提携
当グループは、各事業分野において、重要な新技術や新製品の設計・開発、製品・システムやサービスの補完・拡充、事業規模拡大による市場競争力の強化及び新たな地域や事業への進出のための拠点や顧客基盤の獲得等のため、他企業の買収、事業の合弁や外部パートナーとの戦略的提携に一定程度依存しています(当グループの経営成績及び財政状態に重大な悪影響を及ぼす可能性がある案件について、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 注5.事業再編等」参照)。このような施策は、事業遂行、技術、製品及び人事上の統合又は投資の回収が容易でないことから、本質的にリスクを伴っています。統合は、時間と費用がかかる複雑な問題を含んでおり、適切な計画の下で実行されない場合、当グループの事業に悪影響を及ぼす可能性もあります。また、事業提携は、当グループがコントロールできない提携先の決定や能力又は市場の動向によって影響を受ける可能性があります。これらの施策に関連して、統合に関する費用や買収事業の再構築に関する費用など、買収、運営その他に係る多額の費用が当グループに発生する可能性があります。これらの費用のため、大規模な資金調達を行う場合、財政状態の悪化や資金調達能力の低下が発生する可能性があります。また、投資先事業の収益性が低下し、投資額の回収が見込めない場合、のれんの減損など、多額の損失が発生する可能性があります。当連結会計年度末時点で、ITセグメントにおいて204,243百万円、インダストリーセグメントにおいて158,010百万円ののれんを計上しています(セグメント別ののれんの金額について、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 注4.セグメント情報」参照)。これらの施策が当グループの事業及び財政状態に有益なものとなる保証はなく、これらの施策が有益であるとしても、当グループが買収した事業の統合に成功し、又は当該施策の当初の目的の全部又は一部を実現できない可能性があります。
かかるリスクへの対応として、当グループは、各ビジネスユニット(BU)におけるフェーズゲート管理に加え、市場動向、戦略、買収価格、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)プロセス及び潜在リスクなど様々な視点からの分析・議論を、投融資戦略委員会、経営会議、取締役会及び監査委員会において実施しています。
事業再構築
当グループは、以下の取組み等により、事業ポートフォリオの再構築並びに安定的かつ収益性の高い事業構造の確立を図っています。
・不採算事業からの撤退
・当社の子会社及び関連会社の売却
・製造拠点及び販売網の再編
・資産の売却
当グループによる事業再構築の取組みは、各国政府の規制、雇用問題又は当グループが売却を検討している事業に対するM&A市場における需要不足等により、時宜に適った方法によって実行されないか、又は全く実行されない可能性があります。また、当社は、複数の上場子会社を有しており、これらの上場子会社の株主の利害と当グループの利害が衝突する可能性もあります。かかる利害衝突によって、これらの上場子会社が当事者となる合併、会社分割その他のこれに類する取引を含むグループ全体の方針を適時に実行することが困難になる可能性があります。事業再構築の取組みは、顧客又は従業員からの評価の低下等、予期せぬ結果をもたらす可能性もあり、また、過去に事業再構築に関連して有形固定資産や無形資産の減損、在庫の評価減、有形固定資産の処分及び有価証券の売却に関連する損失などが生じましたが、このような多額の費用が将来も発生する可能性があります。現在及び将来における事業再構築の取組みは、成功しない、又は当グループが現在期待している効果を得られず、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
かかるリスクへの対応として、当グループは、市場動向、戦略、売却価格、プロセス及び潜在リスクなど様々な視点からの分析・議論を、投融資戦略委員会、経営会議、取締役会及び監査委員会において実施しています。
海外における事業活動
当グループは、事業戦略の一環として海外市場における事業の拡大を図っており、これを通じて、売上の増加、コストの削減及び収益性の向上等の実現をめざしています。これらの多くの市場において、当グループは、潜在的な顧客と現地企業との間の長期にわたる関係等の障壁に直面することがあります。さらに、当グループの海外事業は、事業を行う海外の各国において、以下を含む様々な要因による悪影響を受ける可能性があります。
・投資、輸出、関税、公正な競争、贈賄禁止、消費者及び企業に関する税制、知的財産、外国貿易及び外国為替に関する規制、人権や雇用・労働に関する規制、環境及びリサイクルに関する規制の変更
・契約条項等の商慣習の相違
・労使関係、労働慣行の変化
・対日感情、地域住民感情の悪化、各種団体等による批判やキャンペーン
・その他の政治的及び社会的要因、経済の動向並びに為替相場の変動
これらの要因により、当グループが、海外における成長戦略の目的を達成できる保証はなく、当グループの事業の成長見通し及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。例えば、現在、英国においては、EUからの離脱(Brexit)に伴う将来関係の協議が問題となっており、同地域で事業を展開している当グループの鉄道システム事業等は大きな悪影響を受ける可能性があります。
かかるリスクへの対応として、当グループは、グローバルな政治・経済情勢などを定常的に把握して事業に及ぼす影響を分析し、グループ全体での対応を実行しています。
持分法適用会社の業績の悪化
当社及び連結子会社は、多数の持分法適用会社を有しています。持分法適用会社の損失は、当社及び連結子会社の持分比率に応じて、連結財務諸表に計上されます。また、当社及び連結子会社は、持分法適用会社の回収可能価額が取得原価又は帳簿価額を下回る場合、当該持分法適用会社の株式について減損損失を計上しなければならない可能性もあります。
当連結会計年度末において、持分法で会計処理されている投資は、以下のとおりです。
|
|
(単位:百万円) |
|
セグメント |
2020年3月31日 |
|
IT |
46,430 |
|
エネルギー |
22,819 |
|
インダストリー |
20,835 |
|
モビリティ |
56,782 |
|
ライフ |
66,801 |
|
日立ハイテク |
1,792 |
|
日立建機 |
32,866 |
|
日立金属 |
29,076 |
|
日立化成 |
8,922 |
|
その他 |
6,025 |
|
小計 |
292,348 |
|
全社及び消去 |
188,027 |
|
合計 |
480,375 |
かかるリスクへの対応として、当グループは、投下資本利益率(ROIC)を用いた投資収益管理を推進し、収益性・成長性の高い分野へ投資を集中させるとともに、投資した持分法適用会社については投資実行後も事業計画の達成状況や財務状況を把握し、低収益事業や将来の競争力に懸念のある投資先については売却を行うなどの施策を行っています。
コスト構造改革への取組み
当グループは、事業全体のバリューチェーンにおける各活動について、グループ横断でコスト構造を抜本的に改革する「Hitachi Smart Transformation Project」を実施しています。当グループは、かかる施策により、経営基盤強化による収益性の安定化とキャッシュ・フローの増強をめざしていますが、かかる施策は、当グループが現在期待している効果を得られない可能性があります。また、かかる取組みによって、当グループが収益性の維持又は向上を実現できる保証はありません。
⑤その他会社経営全般に影響を及ぼすリスク
大規模災害及び気候変動等
当グループは、日本国内において、研究開発拠点、製造拠点及び当社の本社部門を含む多くの主要施設を有しています。過去において、日本は、地震、津波、台風等多くの自然災害に見舞われており、今後も、大規模な自然災害により当グループの生産から販売に至る一連の事業活動が大きな影響を受ける可能性があります。また、海外においても、アジア、米国及び欧州等に拠点を有しており、各地の自然災害によって、当グループの事業拠点のほか、サプライチェーンや顧客の事業活動にも被害が生じる可能性があります。さらに、気候変動に起因して、渇水や海面上昇、長期的な熱波や洪水等の大規模な自然災害が、今後より一層深刻化する可能性があります。かかる大規模な自然災害により当グループの施設が直接損傷を受けたり破壊された場合、当グループの事業活動が中断したり、新たな生産や在庫品の出荷が遅延する可能性があるほか、多額の修理費、交換費用その他の費用が生じる可能性があり、これらの要因により多額の損失が発生する可能性があります。大規模な自然災害により当グループの施設が直接の影響を受けない場合であっても、流通網又は供給網が混乱する可能性があります。また、感染症の流行(COVID-19の流行に係るリスクについて、「①COVID-19に係るリスク」を参照)や、テロ、犯罪、騒乱及び紛争等の各国・地域の不安定な政治的及び社会的状況により、当グループの事業活動が混乱する可能性があり、当グループの従業員が就労不能となったり、当グループの製品に対する消費者需要の低下や販売網及び供給網に混乱が生じる可能性があります。さらに、全ての潜在的損失に対して保険が付保されているわけではなく、保険の対象となる損失であってもその全てが対象とはならない可能性があり、また、保険金の支払いについて異議が申し立てられたり遅延が生じる可能性があります。自然災害その他の事象により当グループの事業遂行に直接的又は間接的な混乱が生じた場合、当グループの事業活動、経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
かかるリスクへの対応として、当グループは、BCPの策定による事業中断リスクへの対応力強化等を図っており、また、工場新設時における洪水被害を想定した建設・工場内設備の配置等を行っています。
訴訟その他の法的手続
当グループは、事業を遂行する上で、訴訟や規制当局による調査及び処分等に関するリスクを有しています。訴訟その他の法的手続により、当グループに対して巨額又は算定困難な金銭支払いの請求又は命令がなされ、また、事業の遂行に対する制限が加えられる可能性があり、これらの内容や規模は長期間にわたって予測し得ない可能性があります。過去、当グループは、一部の製品において、競争法違反の可能性に関する日本、欧州及び北米等の規制当局による調査の対象となり、また、顧客等から損害賠償等の請求を受けています(当グループの経営成績及び財政状態に重大な悪影響を及ぼす可能性がある案件について、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 注30.コミットメント及び偶発事象」参照)。これらの調査や紛争の結果、複数の法域において多額の課徴金や損害賠償金等の支払いが課される可能性があります。かかる重大な法的責任又は規制当局による処分は、当グループの事業、経営成績、財政状態、キャッシュ・フロー、評判及び信用に悪影響を及ぼす可能性があります。
さらに、当グループの事業活動は、当グループが事業を行う国々で様々な政府による規制の対象となります。かかる政府による規制は、投資、輸出、関税、公正な競争、贈賄禁止、消費者及び企業に関する税制、知的財産、外国貿易及び外国為替に関する規制、人権や雇用・労働に関する規制、環境及びリサイクルに関する規制を含みます。これらの規制は、当グループの事業活動を制限し又はコストを増加させ、また、新たな規制又は規制の変更は、当グループの事業活動をさらに制限し又はコストを増加させる可能性もあります。さらに、規制違反に係る罰金又は課徴金など、規制の執行が、当グループの経営成績、財政状態、キャッシュ・フロー、評判及び信用に悪影響を及ぼす可能性があります。例えば、気候変動対策を目的とした環境規制や、低炭素社会への移行のための炭素排出量やエネルギー消費への課税などがあり、課税や排出権取引などの導入に伴う事業コストの増加、環境保護に適応した製品・サービスの技術開発の遅れによる販売機会の逸失等により、当グループの事業及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、個人データ保護規制等への対応についても、事業に悪影響を及ぼす可能性があります。
かかるリスクへの対応として、当グループは、規制の適用を受ける業務の特定、リスク評価、リスクに応じた措置の実行及び従業員に対する教育等を実施しているほか、環境規制等への対応として、生産のさらなる効率化、脱炭素・低炭素エネルギー利用を促進するとともに、CO2排出量削減につながる革新的製品・サービスの開発・拡販を図っています。
製品の品質と責任
当グループの製品・サービスには、高度で複雑な技術を利用したものが増えています。また、部品等を外部のサプライヤーから調達することにより、品質確保へのコントロールが低下します。当グループの製品・サービスに欠陥等が生じた場合、当グループの製品・サービスの質に対する信頼が悪影響を受け、当該欠陥等から生じた損害について当グループが責任を負う可能性があるとともに、当グループの製品の販売能力に悪影響を及ぼす可能性があり、当グループの経営成績、財政状態及び将来の業績見通しに悪影響を及ぼす可能性があります。
かかるリスクへの対応として、当グループは、品質保証体制の強化に加え、事故未然防止活動、技術法令の遵守活動、リスクアセスメントの徹底、品質・信頼性や製品事故発生時の対応に関する教育等を行っています。
情報システムへの依存
当グループの事業活動において、情報システムの利用とその重要性は増大しています。コンピュータウイルスその他の要因によってかかる情報システムの機能に支障が生じた場合、当グループの事業活動、経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。また、リモートワークの拡大は、情報漏洩などの新たなセキュリティリスクを生じさせる恐れがあります。
かかるリスクへの対応として、当グループは、継続的にサイバーセキュリティ対策等を推進しており、また、リモートワークに適用される技術・製品・利用手順などを厳格に定めて運用していますが、2021年に実施が予定されている東京オリンピック・パラリンピック競技大会をターゲットにしたサイバー攻撃など、従来にないサイバー攻撃を受けた場合や当社管理外のシステムに脆弱性があった場合には有効な手段とはならない可能性があります。
機密情報の管理
当グループは、顧客から入手した個人情報並びに当グループ及び顧客の技術、研究開発、製造、販売及び営業活動等に関する機密情報を様々な形態で保持及び管理しています。かかる情報が権限なく開示された場合、当グループが損害賠償を請求され又は訴訟を提起される可能性があり、また、当グループの事業、財政状態、経営成績、評判及び信用に悪影響を及ぼす可能性があります。
かかるリスクへの対応として、当グループは、機密情報管理に関する規則・運用を定め、暗号化や認証基盤の構築によるID管理とアクセス制御等を行うとともに、サプライヤーに対しても情報セキュリティ状況の確認・審査等を行っています。
知的財産
当グループの事業は、製品、製品のデザイン、製造過程及び製品・ソフトウェアを組み合わせてサービスの提供を行うシステム等に関する特許権、意匠権、商標権及びその他の知的財産権を日本及び各国において取得できるか否かに依存する側面があります。当グループがかかる知的財産権を保有しているとしても、競争上優位に立てるという保証はありません。様々な当事者が当グループの特許権、意匠権、商標権及びその他の知的財産権について異議を申し立て、無効とし、又はその使用を避ける可能性があります。また、将来取得する特許権に関する特許請求の範囲が当グループの技術を保護するために十分に広範なものである保証はありません。当グループが事業を行っている国において、特許権、意匠権、著作権及び企業秘密に対する有効な保護手段が整備されていないか、又は不十分である可能性があり、当グループの企業秘密が従業員、契約先等によって開示又は不正流用される可能性があります。
かかるリスクへの対応として、当グループは、出願前に公知例調査を行うことで、権利の成立可能性の向上及び事業に即した権利の取得を図っています。また、知的財産の保護手段が整備されていない、または、不十分な国においては、従業員や契約先との契約等により、不正利用の抑制を図っています。
当グループの多くの製品には、第三者からライセンスを受けたソフトウェア又はその他の知的財産が含まれています。当グループは、競合他社の保護された技術を使用することができない、又は不利な条件の下でのみ使用しうることとなる可能性があります。かかる知的財産に関するライセンスを取得したとしても経済的理由等からこれを維持できる保証はなく、また、かかる知的財産が当グループの期待する商業上の優位性をもたらす保証もありません。
かかるリスクへの対応として、当グループは、当該第三者と契約・交渉により良好な関係を維持し、知的財産の実施権の確保を図っています。
当グループは、特許権、意匠権及びその他の知的財産に関して、提訴され、又は権利侵害を主張する旨の通知を受け取ることがあります。これらの請求に正当性があるか否かにかかわらず、応訴するためには多額の費用等が必要となる可能性があり、また、経営陣が当グループの事業運営に専念できない可能性や当グループの評判を損ねる可能性があります。さらに、権利侵害の主張が成功し、侵害の対象となった技術のライセンスを当グループが取得することができない場合、又は他の権利侵害を行っていない代替技術を使用することができない場合、当グループの事業は悪影響を受ける可能性があります。
かかるリスクへの対応として、当グループは、新たな製品の販売やサービスの提供開始前に、当該製品やサービスについて他社特許クリアランスを実施するとともに、必要な場合には製品やサービスの設計変更を行うこと等で、他社との係争の回避を図っています。
退職給付に係る負債
当グループは、数理計算によって算出される多額の退職給付費用を負担しています。この評価には、死亡率、脱退率、退職率、給与の変更及び割引率等の年金費用を見積る上で利用される重要な前提条件が含まれています。当グループは、人員の状況、市況及び将来の金利の動向等の多くの要素を考慮に入れて、主要な前提条件を見積る必要があります。主要な前提条件の見積りは、基礎となる要素に基づき、合理的なものであると考えていますが、実際の結果と合致する保証はありません。主要な前提条件が実際の結果と異なった場合、その結果として実際の年金費用が見積費用から乖離して、当グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。割引率の低下は、数理上の退職給付に係る負債の増加をもたらす可能性があります。また、当グループは、割引率等の主要な前提条件を変更する可能性があります。主要な前提条件の変更も、当グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
かかるリスクへの対応として、2019年4月1日から当社の従業員を対象として、従来の確定拠出型企業年金制度からリスク分担型企業年金制度に移行し、当社の掛金負担を固定化することにより、資産運用リスク等を低減しています。
株式の追加発行に伴う希薄化
当社は、将来、株式の払込金額が時価を大幅に下回らない限り、株主総会決議によらずに、発行可能株式総数のうち未発行の範囲において、株式を追加的に発行する可能性があります。将来における株式の発行は、その時点の時価を下回る価格で行われ、かつ、株式の希薄化を生じさせる可能性があります。
(1)経営計画の進捗
①経営上の目標として掲げた指標の状況
「2021中期経営計画」の初年度だった当連結会計年度は、COVID-19の拡大により経営環境が悪化する中、日立グループの業績も影響を受けましたが、2009年以降の社会イノベーション事業への注力と事業ポートフォリオ改革による経営基盤強化の成果により、前連結会計年度に近い水準の収益性(調整後営業利益率7.5%)を維持し、営業キャッシュ・フローは約5,600億円に達するなど、収益力、キャッシュ創出力の強化が進みました。
経営上の目標として用いた主な指標の当連結会計年度における状況は次のとおりです。
|
|
当連結会計年度 (2019年度) |
2021年度目標 |
|
売上収益年成長率 |
△7.5% |
3%超 |
|
調整後営業利益率 |
7.5% |
10%超 |
|
営業キャッシュ・フロー |
(2019年度)5,609億円 |
(2019~2021年度累計)2.5兆円超 |
|
投下資本利益率(ROIC) |
9.4% |
10%超 |
|
海外売上比率 |
48% |
60%超 |
②成長に向けた事業強化
・グローバルリーダーとなるための再編の加速
エネルギーセクターでは、エネルギーソリューション事業のグローバル展開及び強化を目的として、スイスのABB, Ltdのパワーグリッド事業を買収し、Hitachi ABB Power Grids Ltdとして営業を開始しました。
インダストリーセクターでは、産業用ロボットを活用して生産ラインや物流システムの構築事業を展開する米国のJR Technology Group, LLCを買収しました。北米を中心としたロボットシステムインテグレーション事業に関する顧客基盤や技術・ノウハウを獲得することで、現場と経営をつなぐデジタルソリューション事業のグローバル展開を加速します。
自動車機器事業では、オランダのChassis Brakes International B.V.を買収したほか、本田技研工業㈱の関連会社3社と日立オートモティブシステムズ㈱との経営統合を決定しました。自動運転・電動化等の次世代技術に向けて競争が激化する業界での競争力強化を図ります。
さらに、計測・分析技術に強みをもつ㈱日立ハイテクの完全子会社化、日立化成㈱の売却など上場子会社の再編を進めたほか、ヘルスケア事業では画像診断関連事業の売却を決定するなど、日立がめざす最適な事業ポートフォリオ構築に向けた選択と集中を推進しました。
・Lumada事業の進展
Lumada事業においては、製造業から、金融サービス、ビルシステム、エンターテインメント産業まで提供の裾野を着実に広げました。当連結会計年度におけるLumada事業の売上は日立グループの全売上の12%、1兆370億円を占めています。
2020年1月には、日立グループの米国子会社2社が統合し、新会社「Hitachi Vantara」として発足しました。新会社が中核となりグローバルに営業、コンサルティング、サービスをワンストップで提供し、Lumada事業を牽引していきます。
・経営基盤の強化、経営課題への対応
日立グループは、これまで10年にわたって社会イノベーション事業への注力と事業ポートフォリオ改革を推進し、COVID-19の影響下でも利益やキャッシュを創出できるような強靭な経営体質を築いてきました。
当連結会計年度においても、業務プロセスや生産システムの高度化、営業・間接業務の効率化などコスト構造改革を推進し、キャッシュ創出力及び収益体質の強化を図りました。また、大きな経営課題の一つであった三菱日立パワーシステムズ㈱(以下、「MHPS」という。)が取り組む南アフリカ共和国のボイラー建設プロジェクトの承継に関する係争について、三菱重工業㈱と和解しました。
(2)経営成績の状況の分析
①業績の状況
売上収益は、前年度に比べて8%減少し、8兆7,672億円となりました。全てのセグメントでCOVID-19の影響による減収があったことに加え、自動車・半導体・ファクトリーオートメーション向けの需要が減少した日立金属、2018年6月に㈱日立国際電気を持分法適用会社としたその他セグメント、原子力事業において新規制基準対応案件が減少したエネルギーセクター、オートモティブシステム事業における車載情報システム事業等を売却したライフセクター等が減収となりました。
売上原価は、前年度に比べて8%減少し、6兆3,968億円となり、売上収益に対する比率は、前年度と同水準の73%となりました。売上総利益は、前年度に比べて6%減少し、2兆3,703億円となりました。
販売費及び一般管理費は、前年度に比べて3%減少し、1兆7,084億円となり、売上収益に対する比率は、前年度と同水準の19%となりました。
調整後営業利益は、インダストリーセクターやITセクターが増益となったものの、日立建機や日立金属が減益となったこと等により、前年度に比べて930億円減少し、6,618億円となりました。
その他の収益は、前年度に比べて1,543億円減少して519億円となり、その他の費用は、前年度に比べて1,279億円増加して5,706億円となりました。主な内訳は、以下のとおりです。
・固定資産損益は、前年度に比べて114億円増加し、299億円の利益となりました。
・減損損失は、日立金属における磁性材料事業の収益性低下による減損損失の計上等があったものの、前年度に英国原子力発電所建設プロジェクトの凍結に伴う減損損失等を計上していたことにより、前年度に比べて2,080億円減少し、1,369億円となりました。
・事業再編等損益は、前年度に㈱日立国際電気やクラリオン㈱株式の売却益の計上があったことに加え、Agility Trains West (Holding) Limited株式の一部売却に伴う売却益が減少したこと等により、前年度に比べて1,649億円減少し、196億円となりました。
・特別退職金は、前年度に比べて9億円減少し、214億円となりました。
・MHPSの南アフリカプロジェクトに係る和解に伴う損失を3,759億円計上しました。
・リスク分担型企業年金制度への移行に伴う清算益を212億円計上しました。
金融収益(受取利息を除く)は、前年度に比べて79億円減少して57億円となり、金融費用(支払利息を除く)は、前年度に比べて55億円増加して90億円となりました。
持分法による投資損益は、前年度に比べて586億円改善し、436億円の利益となりました。
これらの結果、EBIT(注)は、前期に比べ3,302億円減少し、1,836億円となりました。
(注)EBIT (Earnings before interest and taxes)は、受取利息及び支払利息調整後税引前当期利益であり、継続事業税引前当期利益から、受取利息の額を減算し、支払利息の額を加算して算出した指標です。EBIT率は、EBITを売上収益の額で除して算出した指標です。
受取利息は、前年度に比べて24億円減少して206億円となり、支払利息は、前年度に比べて34億円増加して239億円となりました。
継続事業税引前当期利益は、前年度に比べて3,362億円減少し、1,802億円となりました。
法人所得税費用は、前年度に比べて1,350億円減少し、512億円となりました。
非継続事業当期損失は、前年度に比べて73億円減少し、17億円となりました。
当期利益は、前年度に比べて1,937億円減少し、1,272億円となりました。
非支配持分に帰属する当期利益は、前年度に比べて588億円減少し、396億円となりました。
これらの結果、親会社株主に帰属する当期利益は、前年度に比べて1,349億円減少し、875億円となりました。
②セグメントごとの業績の状況
セグメントごとに業績の状況を概観すると次のとおりです。各セグメントの売上収益は、セグメント間内部売上収益を含んでいます。
(IT)
売上収益は、前年度に比べて減収となりました。フロントビジネスは、国内ITサービスの増加によって増収となったものの、サービス&プラットフォーム事業は、海外向けストレージの販売の減少等によって減収となりました。
調整後営業利益は、前年度に比べて増益となりました。サービス&プラットフォーム事業は、デジタルソリューション事業拡大に向けた戦略投資の増加等によって減益となったものの、フロントビジネスは、コスト削減等による収益性の改善により、増益となりました。
EBITは、前年度に比べて増益となりました。サービス&プラットフォーム事業は、調整後営業利益の減少に加えて、事業構造改革関連費用の計上や前年度に旧生産拠点である土地の売却益の計上があったこと等によって減益となりました。フロントビジネスは、調整後営業利益の増加等によって増益となりました。
(エネルギー)
売上収益は、前年度に比べて減収となりました。エネルギー事業は、COVID-19の影響に加え、産業分野向け受変電設備事業の移管の影響等によって減収となり、原子力事業は、新規制基準対応案件の減少等によって減収となりました。
調整後営業利益は、売上収益の減少やエネルギー事業における一部案件の収益性悪化等によって、前年度に比べて減益となりました。
EBITは、前年度に計上した英国原子力発電所建設プロジェクト凍結に伴う減損損失がなくなったものの、MHPSの南アフリカプロジェクトに係る和解に伴う損失を計上したこと等によって、前年度に比べて損失が拡大しました。
(インダストリー)
売上収益は、前年度に比べて減収となりました。インダストリアルプロダクツ事業は、産業分野向け受変電設備事業のエネルギーセクターからの移管の影響等によって増収となり、水・環境事業も増収となりました。一方、産業・流通事業は、JR Technology Group, LLC買収による増収はあったものの、COVID-19の影響や、前年度に海外EPC案件の売上を計上していたこと等によって減収となりました。
調整後営業利益は、前年度に海外EPC案件のリスク引当てを行った産業・流通事業の損益が改善したこと等により、前年度に比べて増益となりました。
EBITは、調整後営業利益の増加等により、前年度に比べて増益となりました。
(モビリティ)
売上収益は、前年度に比べて減収となりました。COVID-19の影響に加え、鉄道システム事業は、英国における売上減少や為替影響等により、ビルシステム事業は、為替影響等により、それぞれ減収となりました。
調整後営業利益は、前年度に比べて減益となりました。ビルシステム事業は、原価低減等による収益性の改善等により、増益となったものの、鉄道システム事業が、売上収益の減少等により、減益となりました。
EBITは、鉄道システム事業におけるAgility Trains West (Holdings) Limited株式の売却益の減少等により、前年度に比べて減益となりました。
(ライフ)
売上収益は、前年度に比べて減収となりました。ヘルスケア事業は増収となったものの、オートモティブシステム事業が、COVID-19の影響及び車載情報システム事業等の売却の影響等によって減収となり、生活・エコシステム事業も、COVID-19の影響等によって減収となりました。
調整後営業利益は、前年度に比べて減益となりました。ヘルスケア事業及び生活・エコシステム事業は、増益となったものの、オートモティブシステム事業が、売上収益の減少等によって減益となりました。
EBITは、調整後営業利益の減少に加え、前年度にオートモティブシステム事業において車載情報システム事業等の売却益を計上していたこと等により、前年度に比べて減益となりました。
(日立ハイテク)
売上収益は、半導体製造装置の販売が増加したものの、COVID-19の影響に加えて、工業関連部材等の需要減少や液晶露光装置の販売減少等により、前年度に比べて減収となりました。
調整後営業利益及びEBITは、売上収益の減少等により、前年度に比べて、それぞれ減益となりました。
(日立建機)
売上収益は、COVID-19の影響や為替影響に加え、中国やインド等における売上収益の減少等により、前年度に比べて減収となりました。
調整後営業利益は、売上収益の減少に加え、為替影響や間接費の増加等により、前年度に比べて減益となりました。
EBITは、事業再編等利益を計上したものの、調整後営業利益の減少や事業構造改革関連費用の計上等により、前年度に比べて減益となりました。
(日立金属)
売上収益は、COVID-19の影響や、自動車、半導体及びファクトリー・オートメーション向けの製品の需要が減少したことに加え、アルミホイール事業を譲渡した影響等により、前年度に比べて減収となりました。
調整後営業利益は、売上収益の減少に加え、棚卸資産の評価損を計上したこと等により、前年度に比べて減益となりました。
EBITは、調整後営業利益の減少に加え、磁性材料事業での減損損失計上等により、前年度に比べて悪化し、損失を計上しました。
(日立化成)
売上収益は、COVID-19の影響や為替影響に加え、自動車及び半導体向けの製品の需要が減少したこと等により、前年度に比べて減収となりました。
調整後営業利益及びEBITも、売上収益の減少等により、前年度に比べて減益となりました。
(その他)
売上収益は、前年度に比べて14%減少し、4,848億円となりました。
調整後営業利益は、前年度に比べて89億円減少し、223億円となり、EBITは、前年度に比べて10億円増加し、312億円となりました。
③地域ごとの売上収益の状況
仕向地別に外部顧客向け売上収益の状況を概観すると次のとおりです。
国内
国内売上収益は、前年度に比べて減収となりました。これは主として、ITセクターやインダストリーセクターが増収となったものの、事業売却や国内向け製品の需要の減少及び操業度悪化等によってオートモティブシステム事業が減収となったライフセクターの減収及び原子力事業における新規制基準対応案件の減少等によるエネルギーセクターの減収等によるものです。
海外
海外売上収益は、前年度に比べて減収となり、売上収益全体に占める比率は、前年度に比べて3%減少し、48%となりました。各地域の状況は、以下のとおりです。
(北米)
前年度に比べて減収となりました。これは主として、日立ハイテクやインダストリーセクター等が増収となったものの、日立金属やライフセクター等が減収となったことによるものです。
(欧州)
前年度に比べて減収となりました。これは主として、ライフセクターが増収となったものの、モビリティセクターやITセクター等が減収となったことによるものです。
(アジア)
中国及びASEAN・インド他から成るアジアは、前年度に比べて、減収となりました。中国においては、モビリティセクターや日立建機等が減収となったことにより減収となり、ASEAN・インド他においては、エネルギーセクターやモビリティセクター等が増収となったものの、日立ハイテクや日立金属等が減収となったことにより減収となりました。
(その他の地域)
前年度に比べて減収となりました。これは主として、モビリティセクター等が増収となったものの、インダストリーセクターや日立建機等が減収となったことによるものです。
(3)財政状態及びキャッシュ・フローの状況の分析
①流動性と資金の源泉
財務活動の基本方針
当社は、現在及び将来の事業活動のための適切な水準の流動性の維持及び機動的・効率的な資金の確保を財務活動の重要な方針としています。当社は、運転資金の効率的な管理を通じて、事業活動における資本効率の最適化を図るとともに、グループ内の資金の管理を当社や海外の金融子会社に集中させることを推進しており、グループ内の資金管理の効率改善に努めています。
当社は「2021中期経営計画」において、経営管理指標にROICを導入し、資本効率の向上と収益性の高い事業の成長を経営として推進しています。ROICは、事業に投じた資金(投下資本)によって生み出されたリターンを評価する指標で、税引後の事業利益を投下資本で除すことで算出します。リターンを上げるためにはROICが投下資本の調達コストである加重平均資本コスト(WACC)を上回る必要があります。
今後は、ROIC10%超をめざし、収益力の強化と、財務レバレッジの活用を通じたWACCの低減により、ROICとWACCの差(ROICスプレッド)を拡大させ、株主価値の向上に取り組んでいきます。そのためには、調整後営業利益の向上と同時に、事業資産の効率向上に向け、引き続き株式や不動産などの遊休資産の整理・売却を推進し、課題事業の構造改革や低収益事業への適切な対応を図っていきます。
資金需要の動向
当社の主要な資金使途は、成長に向けたM&A、人財への投資、設備投資や研究開発投資、株主還元等です。「2021中期経営計画」においては、成長投資に2~2.5兆円規模、設備投資及び株主還元等に1.8兆円規模、研究開発投資に1.2兆円規模の資金を充当することを計画しています。
主なM&A等の案件については、「第5 経理の状況 連結財務諸表注記 注5.事業再編等」に、設備投資の実績及び計画については、「第3 設備の状況」に、株主還元の方針及び実績については、「第4 提出会社の状況 3 配当政策」に記載しています。
資金の源泉
当社は、営業活動によるキャッシュ・フロー並びに現金及び現金同等物を内部的な資金の主な源泉と考えており、短期投資についても、直ちに利用できる財源となりうると考えています。また、資金需要に応じて、国内及び海外の資本市場における債券の発行及び株式等の資本性証券の発行並びに金融機関からの借入により資金を調達することが可能です。設備投資やM&Aのための資金については、主として内部資金により充当することとしており、必要に応じて社債や株式等の発行により資金を調達することとしています。借り入れにより資金を調達する場合には、D/Eレシオ、有利子負債/EBITDA倍率等の財務規律に照らし、適正な財政状態を維持する方針としています。当社は、機動的な資金調達を可能とするため、3,000億円を上限とする社債の発行登録を行っており、2020年3月に、投融資資金に充当するため、総額2,000億円の無担保普通社債を発行しました。
当社及び一部の子会社は、資金需要に応じた効率的な資金の調達を確保するため、複数の金融機関との間でコミットメントラインを設定しています。当社においては、契約期間1年で期間満了時に更新するコミットメントライン契約と、契約期間3年で2022年7月29日を期限とするコミットメントライン契約を締結しています。2020年3月31日現在における当社及び子会社のコミットメントライン契約に係る借入未実行残高の合計は5,697億円であり、このうち当社は5,000億円です。
当社は、ムーディーズ・ジャパン㈱(ムーディーズ)、S&Pグローバル・レーティング・ジャパン㈱(S&P)及び㈱格付投資情報センター(R&I)から債券格付けを取得しています。2020年3月31日現在における格付けの状況は、次のとおりです。
|
格付会社 |
長期会社格付け |
短期会社格付け |
|
ムーディーズ |
A3 |
P-2 |
|
S&P |
A |
A-1 |
|
R&I |
AA- |
a-1+ |
当社は、現在の格付け水準の下で、引き続き、国内及び海外の資本市場から必要な資金調達が可能であると考えており、格付け水準の維持・向上を図っていきます。
②キャッシュ・フロー
(営業活動に関するキャッシュ・フロー)
売上債権及び契約資産の増減による収入が前年度に比べて1,841億円増加し、棚卸資産の増減による支出が前年度に比べて64億円減少した一方、買入債務の増減による支出が989億円、未払費用の増減による支出が328億円前年度に比べてそれぞれ増加したことや、MHPSの南アフリカプロジェクトに係る和解金の支払い等により、営業活動に関するキャッシュ・フローの収入は、前年度に比べて491億円減少し、5,609億円となりました。
(投資活動に関するキャッシュ・フロー)
固定資産関連の純投資額(注1)は前年度に比べて718億円減少して3,387億円の支出となったものの、有価証券及びその他の金融資産(子会社及び持分法で会計処理されている投資を含む)の売却による収入は、クラリオン㈱株式の売却等があった前年度に比べて2,493億円減少し、有価証券及びその他の金融資産(子会社及び持分法で会計処理されている投資を含む)の取得による支出が、JR Technology Group, LLC持分の取得等により、前年度に比べて1,647億円増加しました。これらにより、投資活動に関するキャッシュ・フローの支出は、前年度に比べて3,629億円増加し、5,258億円となりました。
(注)1.有形固定資産の取得及び無形資産の取得の合計額から、有形固定資産及び無形資産の売却を差し引いた額。
(財務活動に関するキャッシュ・フロー)
非支配持分株主からの子会社持分取得による支出が、Hitachi Rail STS S.p.A.の株式の追加取得があった前年度に比べて1,603億円減少したことに加えて、短期借入金の増減による収入が前年度に比べて771億円増加したことや、長期借入債務の純支出額(注2)が、無担保普通社債の発行等により、前年度の459億円の支出に対して、554億円の収入となったこと等により、財務活動に関するキャッシュ・フローは、前年度の3,204億円の支出に対して、28億円の収入となりました。
(注)2.長期借入債務による調達から償還を差し引いた額。
これらの結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、前年度末に比べて47億円増加し、8,123億円となりました。また、営業活動に関するキャッシュ・フローと投資活動に関するキャッシュ・フローを合わせた所謂フリー・キャッシュ・フローは、前年度に比べて4,120億円減少し、350億円の収入となりました。
③資産、負債及び資本
当連結会計年度末の総資産は、IFRS第16号「リース」の適用の影響や、JR Technology Group, LLCの買収等を実施したこと等により、前年度末に比べて3,034億円増加し、9兆9,300億円となりました。当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、前年度末に比べて47億円増加し、8,123億円となりました。
当連結会計年度末の有利子負債(短期借入金及び長期債務の合計)は、無担保普通社債の発行やIFRS第16号の適用の影響等により、前年度末に比べて4,802億円増加し、1兆4,850億円となりました。金融機関からの借入やコマーシャル・ペーパー等から成る短期借入金は、前年度末に比べて722億円増加し、1,833億円となりました。償還期長期債務は、前年度末に比べて459億円増加し、2,312億円となりました。社債及び銀行や保険会社からの借入等から成る長期債務(償還期を除く)は、無担保普通社債の発行等により、前年度末に比べて3,620億円増加し、1兆705億円となりました。
当連結会計年度末の親会社株主持分は、前年度末に比べて1,026億円減少し、3兆1,599億円となりました。この結果、当連結会計年度末の親会社株主持分比率は、前年度末の33.9%に対して、31.8%となりました。
当連結会計年度末の非支配持分は、前年度末に比べて450億円減少し、1兆1,067億円となりました。
当連結会計年度末の資本合計は、前年度末に比べて1,476億円減少し、4兆2,667億円となり、資本合計に対する有利子負債の比率は、前年度末から0.12ポイント増加し0.35倍となりました。
(4)生産、受注及び販売の状況
当グループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではなく、また、受注生産形態をとらない製品も多く、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額又は数量で示すことはしていません。長期に亘り収益が認識される契約を有する主なセグメントについては、未履行の履行義務残高を、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 注20.売上収益 」に記載しています。また、販売の状況については、「(2)経営成績の状況の分析」において各セグメントの業績に関連付けて示しています。
(5)重要な会計方針及び見積り
IFRSに基づく連結財務諸表の作成においては、期末日における資産・負債の報告金額及び偶発的資産・債務の開示並びに報告期間における収益・費用の報告金額に影響するような見積り及び仮定が必要となります。いくつかの会計上の見積りは、次の二つの理由により、連結財務諸表に与える重要性及びその見積りに影響する将来の事象が現在の判断と著しく異なる可能性があり、当グループの財政状態、財政状態の変化又は経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。第一は、会計上の見積りがなされる時点においては、不確実性がきわめて高い事項についての仮定が必要になるため、第二は、当連結会計年度における会計上の見積りに合理的に用いることがありえた別の見積りが存在し、または時間の経過により会計上の見積りの変化が合理的に起こりうるためです。見積り及び仮定が必要となる重要な会計方針は、次のとおりです。
長期請負契約等に係る見積り、コストの変動及び契約の解除
当グループは、インフラシステムの建設に係る請負契約をはじめ多数の長期契約を締結しており、一定の期間に亘り製品及びサービス等の支配の移転が行われる取引については、顧客に提供する当該製品及びサービス等の性質を考慮し、アウトプット法及びインプット法に基づいて履行義務の充足に向けての進捗度を測定し収益を認識しています。なお、当該進捗度を合理的に測定することができない場合は、発生したコストの範囲で収益を認識しています。長期請負契約等に基づく収益認識において、見積原価総額、見積収益総額、契約に係るリスクやその他の要因について重要な仮定を行う必要がありますが、かかる見積りは変動する可能性があります。当グループは、これらの見積りを継続的に見直し、必要と考える場合には調整を行っています。当グループは、価格が確定している契約の予測損失は、その損失が見積られた時点で費用計上していますが、かかる見積りは変動する可能性があります。また、コストの変動は、当グループのコントロールの及ばない様々な理由によって発生する可能性があります。さらに、当グループ又はその取引相手が契約を解除する可能性もあります。このような場合、当グループは、当該契約に関する当初の見積りを見直す必要が生じ、かかる見直しは、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
企業結合
企業結合の会計処理は取得法によっており、取得の対価は、取得日の公正価値で測定された移転価格及び被取得企業に対する非支配持分の金額の合計額として測定されます。被取得会社の有形資産のほか、技術やブランド、顧客リストといった無形資産も公正価値にて評価を行いますが、かかる評価において、個々の事案に応じた適切な前提条件や将来予測に基づき、見積りを行います。評価は通常、独立した外部専門家が評価プロセスに関与しますが、評価における重要な見積り及び前提には固有の不確実性が含まれます。当グループは、主要な前提条件の見積りは合理的であると考えていますが、実際の結果が異なる可能性があります。
資産の減損
当グループは、保有しかつ使用している資産の帳簿価額について、帳簿価額の回収ができなくなる可能性を示す事象又は状況の変化が生じた場合は、減損の兆候の有無を判定します。この判定において、資産の帳簿価額が減損していると判断された場合は、帳簿価額が回収可能価額を超える金額を減損損失として認識します。各資産及び資金生成単位又は資金生成単位グループごとの回収可能価額は、処分費用控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い方で算定しています。
公正価値を算定するために用いる評価技法として、主に当該資産等の使用及び最終処分価値から期待される見積将来キャッシュ・フローに基づくインカム・アプローチ(現在価値法)又は類似する公開企業との比較や当該資産等の時価総額等、市場参加者間の秩序ある取引において成立しうる価格を合理的に見積り算定するマーケット・アプローチを用いています。使用価値は、経営者により承認された事業計画を基礎とした将来キャッシュ・フローの見積額を、加重平均資本コストをもとに算定した割引率で現在価値に割り引いて算定しており、現時点で合理的であると判断される一定の前提に基づいていますが、マーケットに係るリスク、経営環境に係るリスク等により、実際の結果が大きく異なることがありえます。また、使用価値の算定に使用する割引率については、株式市場の動向や金利の変動等により影響を受けます。将来キャッシュ・フロー及び使用価値の見積りは合理的であると考えていますが、将来キャッシュ・フローや使用価値の減少をもたらすような予測不能な事業上の環境の変化に起因する見積りの変化が、資産の評価に不利に影響する可能性があります。当グループは、公正価値及び使用価値算定上の複雑さに応じ、外部専門家を適宜利用しています。
のれんは、事業買収で獲得する市場競争力を基礎とする超過収益力の源泉であり、被取得会社の純資産と、取得の対価の差額の内、無形資産に計上された額以外をのれんとして計上します。のれんは、IFRSに基づき、償却をせず、減損の兆候の有無にかかわらず、毎年、主に第4四半期において、その資産の属する資金生成単位又は資金生成単位グループごとに回収可能価額を見積り、減損テストを実施しています。また、当初の見積りと直近の見積りを比較するモニタリングを継続し、事業戦略の変更や市場環境等の変化により、その価値が当初の見積りを下回り、帳簿価額が回収不可能であるような兆候がある場合には、その都度、減損テストを実施しています。当該事象や状況の変化には、世界的な経済や金融市場における危機も含まれ、その資産の属する資金生成単位又は資金生成単位グループの帳簿価額が回収可能価額を超える場合には、その超過額を減損損失として認識しています。
減損及びのれんのセグメントごとの内訳は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 注4 セグメント情報」に記載しています。主な内容は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 注9 有形固定資産 及び 注10 のれん及びその他の無形資産」に記載しています。
繰延税金資産
繰延税金資産は、将来の期に回収されることとなる税額であり、実現可能性を評価するにあたり、当グループは、同資産の一部又は全部が実現しない蓋然性の検討を行っています。実現可能性は確定的ではありませんが、実現可能性の評価において、当グループは、繰延税金負債の振り戻しの予定及び予測される将来の課税所得を考慮しています。将来の課税所得の見積りの基礎となる、将来の業績の見通しは、経済の動向、市場における需給動向、製品及びサービスの販売価格、原材料及び部品の調達価格、為替相場の変動、急速な技術革新等予見しえない事象により実際とは異なる結果となり、将来において修正される可能性があります。その結果、認識可能と判断された繰延税金資産の金額に不利な影響を及ぼす可能性があります。繰延税金資産の実現可能性の評価は、各納税地域の各納税単位で行われており、類似の事業を営む場合でも、製品や納税地域の違いにより異なった評価となりえます。同資産が最終的に実現するか否かは、これらの一時差異等が、将来、それぞれの納税地域における納税額の計算上、課税所得の減額あるいは税額控除が可能となる会計期間において、課税所得を計上しうるか否かによります。これらの諸要素に基づき当グループは、2020年3月31日現在で認識可能と判断された繰延税金資産が実現する蓋然性は高いと確信していますが、当グループが将来の課税所得を予測どおりに計上できなかった場合、繰延税金資産の額は異なる可能性があります。
退職給付に係る負債
当グループは、数理計算によって算出される多額の退職給付費用を負担しています。この評価には、死亡率、脱退率、退職率、給与の変更及び割引率等の年金費用を見積る上で利用される重要な前提条件が含まれています。当グループは、人員の状況、市況及び将来の金利の動向等の多くの要素を考慮に入れて、主要な前提条件を見積る必要があります。主要な前提条件の見積りは、基礎となる要素に基づき、合理的なものであると考えていますが、実際の結果と合致する保証はありません。主要な前提条件が実際の結果と異なった場合、その結果として実際の年金費用が見積費用から乖離して、当グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。割引率の低下は、数理上の退職給付に係る負債の増加をもたらす可能性があります。また、当グループは、割引率等の主要な前提条件を変更する可能性があります。主要な前提条件の変更も、当グループの財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
退職後給付の算定については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 注3 主要な会計方針の概要 (10)退職後給付」に記載しています。
会計上の見積りを行う上でのCOVID-19の影響の考え方
会計上の見積りを行う上でのCOVID-19の影響の考え方は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 注2 作成の基礎」に記載しています。
(6)将来予想に関する記述
「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」、「2 事業等のリスク」及び「3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」等は、当社又は当グループの今後の計画、見通し、戦略等の将来予想に関する記述を含んでいます。将来予想に関する記述は、当社又は当グループが当有価証券報告書提出日現在において合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の業績等の結果は見通しと大きく異なることがありえます。その要因のうち、主なものは以下のとおりです。
・COVID-19の流行による社会的・経済的影響の悪化
・主要市場における経済状況及び需要の急激な変動
・為替相場変動
・資金調達環境
・株式相場変動
・原材料・部品の不足及び価格の変動
・長期請負契約等における見積り、コストの変動及び契約の解除
・価格競争の激化
・人材の確保
・新技術を用いた製品の開発、タイムリーな市場投入、低コスト生産を実現する当社及び子会社の能力
・製品等の需給の変動
・製品等の需給、為替相場及び原材料価格の変動並びに原材料・部品の不足に対応する当社及び子会社の能力
・信用供与を行った取引先の財政状態
・社会イノベーション事業強化に係る戦略
・企業買収、事業の合弁及び戦略的提携の実施並びにこれらに関連する費用の発生
・事業再構築のための施策の実施
・主要市場・事業拠点(特に日本、アジア、米国及び欧州)における政治・社会状況及び貿易規制等各種規制
・持分法適用会社への投資に係る損失
・コスト構造改革施策の実施
・地震・津波等の自然災害、気候変動、感染症の流行及びテロ・紛争等による政治的・社会的混乱
・当社、子会社又は持分法適用会社に対する訴訟その他の法的手続
・製品やサービスに関する欠陥・瑕疵等
・情報システムへの依存及び機密情報の管理
・自社の知的財産の保護及び他社の知的財産の利用の確保
・退職給付に係る負債の算定における見積り
(1)吸収分割及び株式譲渡
当社は、ヘルスケア事業の競争力強化を目的として、2019年12月18日、当社並びに当社の子会社及び関連会社が行っている画像診断関連事業(以下、「対象事業」という。)を、吸収分割(以下、「本吸収分割」という。)により、承継準備会社である富士フイルムヘルスケア㈱(以下、「新会社」という。)に承継させた後、新会社の株式の全てを富士フイルム㈱に譲渡すること(以下、「本株式譲渡」という。)を決定しました。
本吸収分割及び本株式譲渡の概要は、以下のとおりです。
①本吸収分割の方法
当社を吸収分割会社とし、新会社を吸収分割承継会社とする吸収分割であります。
②本吸収分割及び本株式譲渡の効力発生日及び株式譲渡日
現時点では確定していません。
③承継させる資産・負債の状況
現時点では確定していません。
④本吸収分割に係る割当ての内容
現時点では確定していません。
⑤本吸収分割に係る割当ての内容の算定根拠
本吸収分割に係る割当ての内容について、現時点では確定していません。
⑥本吸収分割及び本株式譲渡後の吸収分割承継会社の概要
|
商号 |
富士フイルムヘルスケア株式会社 |
|
本店所在地 |
千葉県柏市新十余二2番地1 |
|
代表者 |
現時点では確定していません。 |
|
資本金 |
現時点では確定していません。 |
|
事業内容 |
画像診断システム(CT、MRI、X線診断装置、超音波診断装置等)、電子カルテ等の研究開発・製造・販売・保守サービス |
(2)和解の成立
当社と三菱重工業㈱(以下、「MHI」という。)の火力発電システム事業を統合した合弁会社である三菱日立パワーシステムズ㈱(以下、「MHPS」という。)が取り組む南アフリカ共和国のボイラー建設プロジェクトの承継に関して、2019年12月18日に和解が成立しました。
成立した和解の概要は、以下のとおりです。
・当社は、MHPSの当社所有株式全て(保有比率35%)をMHIに引き渡します。また、当社はMHIに対して2,000億円の和解金を支払債務として認識し、あわせて当社が有するMHPS子会社に対する債権を700億円でMHIに譲渡することでこれらを相殺し、2020年3月に1,300億円をMHIに支払います。
・当社とMHIは、一般社団法人日本商事仲裁協会(JCAA)において係属中である仲裁事件について、速やかに手続き進行の停止を申し立てます。また、MHIは、上記の支払い及び株式の移転の完了後、仲裁事件の請求を取り下げます。
(3)相互技術援助契約
|
契約会社名 |
相手方の名称 |
国名 |
契約品目 |
契約内容 |
契約期間 |
|
株式会社日立製作所 (当社) |
International Business Machines Corp. |
アメリカ |
インフォメーションハンドリングシステム |
特許実施権の交換 |
自 2008年1月1日 至 2023年1月1日 までに出願された 特許の終了日 |
|
〃 |
HP Inc. Hewlett Packard Enterprise Company |
アメリカ |
全製品・サービス |
特許実施権の交換 |
自 2010年3月31日 至 2014年12月31日 までに出願された 特許の終了日 |
|
〃 |
EMC Corporation |
アメリカ |
インフォメーションハンドリングシステム |
特許実施権の交換 |
自 2003年1月1日 至 2002年12月31日 までに出願された 特許の終了日 |
|
日立GEニュークリア・エナジー株式 会社(連結子会社) |
GE-Hitachi Nuclear Energy Americas LLC |
アメリカ |
原子炉システム |
特許実施権の交換 技術情報の交換 |
自 1991年10月30日 至 2023年6月30日 |
当グループ(当社及び連結子会社)は、情報・通信システムからオートモティブシステム等に至る幅広い分野で事業活動を展開しており、注力事業である社会イノベーション事業に対して重点的に研究開発資源を配分し、事業の継続と発展、社会価値・環境価値・経済価値向上に努めています。
事業活動のグローバル競争力強化のため、顧客の課題を発掘・共有し、解決する研究開発に取り組むとともに、事業のグローバル化を先導する強いプロダクト・サービスの開発や、Lumada事業拡大に向けたコア技術の強化等に取り組んでいます。加えて、将来の中核事業を開拓するための先端研究にも取り組んでいます。
当グループの研究開発においては、当社及びグループ各社の研究開発部門が相互に緊密な連携をとりながら、研究開発効率の向上に努めています。また、大学その他の研究機関との連携に加え、2019年4月にコーポレートベンチャリング室を新設するなど、スタートアップ企業との連携強化にも積極的に取り組んでいます。
当社は、社会イノベーション事業によるグローバルな成長の加速に向けて、北米、欧州、中国、アジア、及びインド研究開発拠点・人員の拡充及び現地主導型研究の拡大により、現地のニーズに迅速に対応できる研究開発の推進を図っています。また、2015年には国内外の研究開発拠点を再編し、顧客とともに課題を見出し、新たなソリューションを協創する「社会イノベーション協創センタ」、注力分野の技術基盤を応用・融合することにより革新的な製品やサービスを創出し、新たなソリューション開発を支援する「テクノロジーイノベーションセンタ」、オープンイノベーションを活用し、独創的なビジョンに基づく探索型基礎研究で新領域を開拓する「基礎研究センタ」とする体制としています。さらに、2019年4月に、顧客やパートナーとのオープンな協創を加速するための研究開発拠点として「協創の森」を開設しました。かかる体制によって、顧客の課題解決に資する研究開発のさらなる推進を図っています。
当連結会計年度における当グループの研究開発費は、売上収益の3.4%にあたる2,937億円であり、セグメントごとの研究開発費は、次のとおりです。
|
セグメントの名称 |
研究開発費 (億円) |
|
IT |
|
|
エネルギー |
|
|
インダストリー |
|
|
モビリティ |
|
|
ライフ |
|
|
日立ハイテク |
|
|
日立建機 |
|
|
日立金属 |
|
|
日立化成 |
|
|
その他 |
|
|
全社(本社他) |
|
|
合 計 |
|
なお、当連結会計年度における研究開発活動の主要な成果は、次のとおりです。
・人工知能を活用し、個人向けローンの与信分析精度向上を実現(ITセグメント)
金融機関が保有する内部データ(カードローン、住宅ローンなど)及び外部データ(経済指標、GIS(地理情報システム)情報など)から精度の高いローン審査を行う人工知能「Hitachi AI Technology/Prediction Rare Case」を開発し、その業務ノウハウをLumadaのユースケースとして蓄積しました。日立は、お客さまの課題に合ったユースケースを活用し、Lumadaを用いて、確かな価値を創出するデジタルソリューションを迅速に実現します。
・ダークネット通信の分析技術によるサイバー攻撃の予兆検知の実証(ITセグメント及びエネルギーセグメント)
巧妙化するサイバー攻撃を防ぐため、複数組織において観測した不審な通信のうち、一般の通信では発生しないダークネット通信(特定のコンピュータが割り当てられていないアドレスに対する通信)を分析する技術を開発しました。この技術を用いて、これまでは検知することが困難であったサイバー攻撃の予兆を検知できることを実証しました(慶應義塾大学及び中部電力㈱との共同研究)。
・新型コンピュータを活用した損害保険ポートフォリオ最適化に関する実証実験を開始(ITセグメント)
大規模自然災害の頻発や保険スキーム数などの拡大による、大規模で複雑な損害保険ポートフォリオを最適化するニーズに応えるため、従来型のコンピュータと比較して組合せ最適化問題を高速に解くことができる新型コンピュータ(CMOSアニーリング)を用いた実証実験を開始しました。保険とITの融合によるリスクコントロールの高度化をめざします(損害保険ジャパン日本興亜㈱(現損害保険ジャパン㈱)及びSOMPOリスクマネジメント㈱との共同実験)。
・省エネ産業用モーターの開発と実用化で市村地球環境産業賞 功績賞を受賞(インダストリーセグメント)
アモルファス磁性合金箔による省エネ産業用モータの開発と実用化が市村地球環境産業賞 功績賞を受賞しました。開発したモーターは国際効率規格の最高レベルであるIE5級を実現しています。エネルギー消費量を低減することで、大幅なCO2排出量削減に寄与し、SDGsの実現に貢献していきます。
・英国向け高速鉄道車両(Class 800)の意匠で全国発明表彰「恩賜発明賞」を受賞(モビリティセグメント)
英国向け高速鉄道車両(Class 800)に関する意匠が、全国発明表彰において、意匠としては史上初となる恩賜発明賞を受賞しました。日本と走行環境の異なる英国で、規格の違いを乗り越えるとともに、運行会社にとっての使いやすさや現地利用者の生活・文化に溶け込む車両の美しさや快適性などをトータルにデザインしました。
・再生医療の普及に向け、細胞の3次元培養法の自動化技術を開発(ライフセグメント)
日立のiPS細胞大量自動培養装置を用いて、従来の課題を解決できる3次元培養法の自動化技術を新たに開発しました。2次元培養法と3次元培養法をともに自動化したことで、ニーズに合わせて、心筋細胞などの様々な細胞を自動で大量に製造することができます(㈱マイオリッジとの共同研究)。