(1) 経営方針
「私たち三菱電機グループは、たゆまぬ技術革新と限りない創造力により、活力とゆとりある社会の実現に貢献します。」という企業理念は、社会における私たちの存在意義そのものです。この企業理念の下、三菱電機グループは「成長性」「収益性・効率性」「健全性」の3つの視点によるバランス経営に加えて、「事業を通じた社会課題の解決」という原点に立ち、サステナビリティの実現を経営の根幹に位置づけています。これにより、企業価値の持続的向上を図り、社会・顧客・株主・従業員を始めとしたステークホルダーへの責任を果たしていきます。
(2) 経営環境及び対処すべき課題
①経営環境
世界経済の先行きは、これまでの金融引き締めの累積的な影響や中国不動産不況の継続、米国の関税政策による下押しなどにより、緩やかな成長に留まることが見込まれます。また、関税政策を含む米国の各種政策が世界経済をさらに下押しする懸念など、見通しの不確実性は高まっています。
②対処すべき課題
経営体質の強化
三菱電機グループは、ROIC*1を活用した事業運営を進めます。資産効率とキャッシュ創出力を重視した経営を推進し、ROICツリー展開によるKPIと責任部門の明確化を通じ、あらゆる階層でのROIC経営の定着を図ります。これにより、重点成長事業については生産体制強化やM&A等の積極的な投資をスピーディーに実行する一方、収益性・資産効率の改善が見込まれない課題事業は撤退や売却の検討を進めるなど、事業ポートフォリオ戦略に基づくリソースシフトを強力に推進していきます。
さらに、グローバルでのエンジニアリングチェーン・サプライチェーンの最適化及びグループ経営の効率化にも取り組みます。また、足元の経済動向を踏まえ、経営環境の変化に柔軟に対応したオペレーションを徹底していきます。
あらゆる事業運営のベースとなる人財については、「成長に繋がる適正評価の実現」と「自律的キャリア開発支援」をコンセプトに、等級・評価・報酬制度を構築・運用しています。これにより、従業員のキャリアオーナーシップに基づく自律的な成長を促すとともに、マネジメント層にはグローバル基準でのジョブグレード制度を適用し、ジョブ型人財マネジメントへの転換を図ることで、人的資本価値の最大化を目指します。
Serendieによるビジネスモデルの変革
三菱電機グループは、お客様から得られたデータをデジタル空間に集約・分析するとともに、グループ内が強くつながり、知恵を出し合うことで新たな価値を生み出し、社会課題の解決に貢献する「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」への変革を進めています。当社の強みであるコンポーネントやシステムを起点に、既存の顧客に留まらず、その先の利用者や管理者等を含む新たな顧客に対しても、デジタル基盤「Serendie」の活用や顧客との共創を通じて、多様なデジタルサービスを創出・提供し、社会に対する提供価値を最大化することを目指し、ビジネスモデルを変革していきます。
また、2025年4月にITソリューションビジネス・業務改革推進本部を分社化し、当社情報システム・サービス事業の子会社と統合した、DX・IT戦略推進に向けた新会社「三菱電機デジタルイノベーション株式会社」を設立しました。Serendie関連事業への対応力強化と情報システム・サービス事業の持続的成長を図ると共に、AI活用や業務プロセスにおけるDXを強力に推進していきます。
本質的なサステナビリティ経営の推進
三菱電機グループは、サステナビリティの実現に向けて注力する5つの課題領域*2を明確化し、これらの課題領域における社会課題を、事業を通じ解決していきます。これにより、社会の持続可能性と三菱電機グループの事業発展をトレード・オフの関係にするのではなく、この2つが両立する「トレード・オン」に挑戦していきます。
当社は、2024年度に設置した「サステナビリティ・イノベーション本部」が中心となり、グローバルかつサステナビリティの視点で社会課題を解決する新たな事業創出に取り組むとともに、持続的成長を支える経営基盤の強化を包括的、戦略的に推進し会社を変革していきます。
カーボンニュートラルについては、当社の長期環境経営ビジョンである「環境ビジョン2050」において、2050年度までにバリューチェーン全体での温室効果ガス排出量実質ゼロを目指すこととしています。また、その中間目標として、2030年度までに自社工場・オフィスからの温室効果ガス排出量実質ゼロを目指していきます。これらの目標の達成に向け、社会全体の脱炭素化に貢献する事業を育成するとともに、自社の技術も活用して自社排出の削減を進めていきます。加えて、TCFD*3の提言に基づいた気候変動に係るリスクと機会の開示に向けた取組みを継続していきます。
持続的な事業発展や企業価値向上のため、多様な人財が活躍し、協働することで、従業員の働き方や多様性を認め合えるような職場環境・風土の実現に向けた各種取組みを推進します。また、国際的に合意されている人権の保護を支持・尊重することを企業活動の前提とし、従業員やサプライチェーンの人権尊重に取り組みます。
サステナビリティに関する具体的な考え方や取組みについては、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組」を参照ください。
リスクマネジメントの高度化と倫理・遵法の徹底
三菱電機グループは、リスクマネジメント・経済安全保障担当執行役(CRO)を委員長とする「リスクマネジメント・コンプライアンス委員会」を設置し、大規模災害などの従来型リスクへの対応にとどまらず、経済安全保障、AI等の技術革新、サステナビリティなどの分野における新たなリスクに対する探索と備えも含めて経営判断する体制を構築しています。この体制の下、リスクベースアプローチの考え方に基づき重点的に取り組むべきリスクの抽出に加えて、機動的かつ戦略的なリスク管理を行っていきます。
事業等のリスクに関する具体的な考え方や取組みについては、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」を参照ください。
また、三菱電機グループのコンプライアンス・モットーである“Always Act with Integrity”(いかなるときも「誠実さ」を貫く)に基づき、これまで発生した品質、労務、サイバーセキュリティの問題の風化防止を含む、再発防止に向けた各種取組みを進めていきます。さらに、品質不適切行為を踏まえて開始した3つの改革(品質風土、組織風土、ガバナンス)については、これまで展開してきた施策の定着・浸透に加えて、組織自らが変革を進めていく“自走する組織”づくりへの取組みを加速していきます。
*1 ROIC(投下資本利益率):各事業部門での把握・改善が容易となるように、「資本」「負債」ではなく、資産項目(固定資産・運転資本等)に基づいて算出する三菱電機版ROIC
*2 5つの課題領域:「カーボンニュートラル」、「サーキュラーエコノミー」、「安心・安全」、「インクルージョン」、「ウェルビーイング」
*3 TCFD(Task force on Climate-related Financial Disclosures):G20の財務大臣・中央銀行総裁からの要請により設置された、民間主導による気候関連財務情報の開示に関するタスクフォース
中期経営計画 2025年度見通し
三菱電機グループは、中期経営計画における2025年度目標として、売上高5兆円+、営業利益率8%+、ROE9%、キャッシュ・ジェネレーション3.3兆円/5年を掲げておりました。これに対し、2025年度の業績は売上高5.4兆円、営業利益率8.0%、ROE8.6%、キャッシュ・ジェネレーション3.1兆円/5年となる見通しです。ROE、キャッシュ・ジェネレーション目標は、未達の見込みですが、キャピタル・アロケーションについては、株主還元を更に強化し、計画通り3.4兆円/5年を見込んでいます。引き続き、資本効率改善、キャッシュ創出に努めていきます。
なお、セグメント別の事業戦略及び営業利益率は次のとおりです。2025年度より、従来の「ビジネス・プラットフォーム」を「デジタルイノベーション」に名称変更しています。
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セグメント |
事業戦略 |
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インフラ |
広範な社会インフラ事業におけるグローバルレベルの顧客基盤・ストックを活かし、「世界の重要インフラの安定稼働とカーボンニュートラルの実現」と「日本・アジアの安全保障への貢献」に取り組みます。そのために脱炭素コンポーネントや防衛・宇宙事業への重点的なリソース投入と、事業間シナジーを生む統合ソリューションであるE&F(Energy&Facility)ソリューションの推進に注力します。 |
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インダストリー・ モビリティ |
コアコンポーネントとデジタル技術の統合で、未来の“ものづくり”と“快適な移動”を支えます。インダストリー領域では重点成長事業におけるコンポーネントの提供価値拡大と、FAデジタルソリューションの事業モデル構築を推進します。モビリティ領域では、環境変化に対応した事業ポートフォリオの再構築や事業運営の効率化に加え、ソフトウエア領域での価値創造の追求等による事業成長を目指します。 |
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ライフ |
人々の生活を支える空調や昇降機などの設備事業に加え、お客さまとつながり続けることができる保守や運用管理などの循環型事業を通じて、あらゆる生活空間における快適で安全・安心な生活環境を創造するソリューションプロバイダとなることを目指します。顧客価値の創出を推進し、「グリーンエナジーソリューション」「安全・安心&快適ソリューション」「ビルマネジメントソリューション」を提供します。 |
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デジタル イノベーション |
「事業DX」と「業務DX」の両輪の取組みを通じて循環型 デジタル・エンジニアリングを推進するための経営基盤を構築します。構築した経営基盤と「グローバルオペレーション&メンテナンス(O&M)」を中心に各種サービスを各ビジネスエリア・事業本部に提供し、統合ソリューションの創出を支え続けると共に、情報システム・サービス事業の強化を図ります。これらにおいては、新会社 三菱電機デジタルイノベーション㈱を中心に取組みを加速します。 |
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セミコンダクター・ デバイス |
社会のGX・DX実現に必要不可欠なキーデバイスの提供を通じて、三菱電機グループの統合ソリューションをコンポーネントから強化していくことに加え、社内関連事業の知見を幅広く取り込み、顧客目線で付加価値の高いデバイスの開発に取り組みます。特にパワーデバイス事業では、三菱電機が強い技術と豊富な市場実績を保有するSiC(Silicon Carbideの略:炭化ケイ素)を中核とした成長基盤の強化に取り組み、事業の成長をさらに加速していきます。 |
<営業利益率のセグメント別内訳>
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セグメント |
2024年度 実績 |
2025年度 見通し |
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インフラ |
7.3% |
8.2% |
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インダストリー・モビリティ |
5.0% |
6.3% |
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ライフ |
7.2% |
8.5% |
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デジタルイノベーション |
7.4%*4 |
8.0% |
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セミコンダクター・デバイス |
14.2% |
10.7% |
*4 2024年度実績の「デジタルイノベーション」の営業利益率は、2024年度までのセグメント「ビジネス・プラットフォーム」の営業利益率です。
三菱電機グループは、上記戦略・施策を着実に実行することにより、更なる企業価値の向上を目指します。
なお、上記における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2025年6月20日)現在において当社が判断したものです。
(1)サステナビリティ全般
①ガバナンス
ア.サステナビリティの考え方
三菱電機グループは、事業を通じた社会課題の解決という原点に立ち、サステナビリティの実現を経営の根幹に位置づけることを経営方針に掲げています。社会からの期待や要請・意見を活動に反映させ、社会や環境に与えるネガティブな影響を最小化し、持続可能な社会の実現に向けて取り組んでいます。
イ.サステナビリティの実現に向けた推進事項
サステナビリティの実現に向け、以下の4点を推進事項としています。
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価値創出 |
事業成長と社会の持続可能性を両立させる社会課題解決型事業の創出・発展 |
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基盤強化 |
三菱電機グループの持続的成長を支える、環境、社会、ガバナンスを始めとした経営基盤強化 |
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リスク管理 |
長期的な社会や環境の変化に対するリスクの予測、及び企業経営に与える影響の抑制又は最小化 |
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取組みの開示と対話 |
透明性の高い情報開示を通じた、社会・顧客・株主・従業員を始めとするステークホルダーとのコミュニケーションにより、社会からの期待や要請・意見を企業経営に反映 |
ウ.サステナビリティ推進体制
三菱電機グループは、三菱電機の執行役会議から委嘱を受けたサステナビリティ委員会を通じてサステナビリティの取組みに関する方針・計画を決定しています。サステナビリティ委員会はサステナビリティを担当する上席執行役員が委員長を務め、コーポレート部門で機能別の役割を担当するChief Officerのほか、事業部門の執行役等で構成しています。
サステナビリティ委員会での議論の内容は、執行役会議及び取締役会に報告されます。取締役会では、サステナビリティ経営を三菱電機グループの「重要議題」(2024年7月から2025年6月においては、全社経営戦略、サステナビリティ経営、人財戦略、技術開発戦略、デジタル戦略、情報システム戦略等)とし、リスク管理及び収益機会としての観点から十分に議論するとともに、執行役のサステナビリティへの取組み状況についても監督しています。サステナビリティの取組み推進については、執行役のインセンティブ報酬へ反映しています。
複数部門に関わるサステナビリティ課題に対しては、サステナビリティ委員会の下に設置した部会やプロジェクトで取り組んでいます。倫理・遵法、品質の確保・向上、環境保全活動、社会貢献活動、ステークホルダーの皆様とのコミュニケーションなどの具体的な取組みについては、担当部門が責任を持って推進しています。
サステナビリティ委員会で定めた方針・計画や部会・プロジェクト等で推進する具体的な取組みについては、社内各部門・国内外関係会社に共有し、グループ全体で連携して課題解決に取り組んでいます。
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会議体名称 |
目的、主な議論等 |
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サステナビリティ委員会 |
三菱電機グループにおけるサステナビリティの取組みに関する方針や計画の議論・決定、情報共有(四半期ごとに開催) |
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カーボンニュートラル部会 |
三菱電機グループのカーボンニュートラルに関する取組みの推進 |
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人権部会 |
三菱電機グループにおける人権に関する取組みの改善、課題解決等の迅速な対応 |
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法定開示プロジェクト |
グローバルなサステナビリティ法定開示に対応するための活動の推進 |
サステナビリティ推進体制
②戦略
三菱電機グループは、経営レベルでサステナビリティに取り組み、長期的に推進していくため、「事業を通じた社会課題解決」「持続的成長を支える経営基盤強化」の2つの面から5つのマテリアリティを特定しています。マテリアリティへの取組みを通じて社会課題解決と事業成長を同時に成し遂げる「トレード・オン」で、サステナビリティの実現を追求します。マテリアリティへの取組みについては、目標/取組み指標(KPI)を設定し、PDCAサイクルによる継続的な改善活動を実施しています。
三菱電機グループのマテリアリティ(重要課題)
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マテリアリティ |
重要とした理由 |
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持続可能な地球環境の実現 |
気候変動を始めとする環境問題、資源・エネルギー問題は、世界的な課題です。三菱電機グループは、持続可能な地球環境の実現を目指し、これらの解決に貢献します。 |
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安心・安全・快適な社会の実現 |
三菱電機グループは、創立以来、家電から宇宙まで幅広い分野にわたって製品やサービスを提供することにより、社会に貢献してきました。企業理念にある「活力とゆとりある社会」を実現するため、事業を通じて多様化する社会課題の解決を目指しています。 |
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あらゆる人の尊重 |
人権は世界的な課題であり、あらゆる人を個人として尊重する必要があります。三菱電機グループは、全ての活動において人権を尊重します。また、全ての従業員がいきいきと働ける職場環境を実現します。 |
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コーポレート・ガバナンスと コンプライアンスの持続的強化 |
コーポレート・ガバナンスとコンプライアンスは、会社が存続するための基本です。三菱電機グループは、これらを持続的に強化します。 |
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サステナビリティを志向する 企業風土づくり |
三菱電機グループは、全ての活動を通じてサステナビリティの実現へ貢献します。そのために、ステークホルダーと積極的にコミュニケーションを行い、中長期視点で取組みを推進する風土を醸成します。 |
③リスク管理
④指標及び目標
マテリアリティへの取組みについては、目標/取組み指標(KPI)を設定し、PDCAサイクルによる継続的な改善活動を実施しています。
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マテリアリティ |
目標/取組み指標(KPI) |
範囲 |
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持続可能な 地球環境の 実現 |
2050年度 バリューチェーン全体での 温室効果ガス排出量実質ゼロを目指す |
2030年度[Scope 1*1、2*2] 温室効果ガス排出量 実質ゼロを目指す |
三菱電機グループ |
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2030年度[Scope 3*3] 温室効果ガス排出量を 2018年度比30%以上削減 |
三菱電機グループ |
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「カーボンニュートラル」へ貢献できる製品やサービス、ソリューションの提供 |
三菱電機グループ |
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サーキュラーエコノミー実現への貢献 |
2035年度 廃プラスチック 100%有効利用 |
三菱電機グループ (国内) |
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安心・安全・ 快適な社会の 実現 |
事業を通じた安心・安全、 インクルージョン、ウェル ビーイングの実現 |
「安心・安全」へ貢献できる製品やサービス、ソリューションの提供 |
三菱電機グループ |
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「インクルージョン」、「ウェルビーイング」へ貢献できる製品やサービス、ソリューションの提供 |
三菱電機グループ |
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あらゆる人の 尊重 |
国際規範に基づく人権の取組み定着と責任あるサプライ チェーンの実現 |
2027年度 国際規範に則った人権デュー・ディリジェンス*4の実践 |
三菱電機 グループ |
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2027年度 RBA*5プロセスに基づくサプライチェーンにおける人権への負の影響低減 |
三菱電機 グループ |
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多様・多才な人財が集い、 活躍する職場環境の実現 |
2030年度 従業員エンゲージメントスコア*6 60%以上 (三菱電機、及び国内関係会社の一部) |
三菱電機 グループ (国内) |
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2030年度 経営層*7に占める女性・外国人比率 30%以上 |
当社 |
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2030年度 女性管理職比率 12%以上 |
当社 |
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コーポレート・ ガバナンスと コンプライアンスの持続的強化 |
3つの改革 |
取締役会による3つの改革(品質風土改革、組織風土改革、ガバナンス改革)のモニタリングの継続及び適切な情報開示 |
三菱電機グループ |
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取締役会の実効性の向上 |
社外取締役 50%超の継続 |
当社 |
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お客様が安心・満足できる 品質の追求 |
品質不適切行為を起こす必要のない仕組み・環境の定着、風化防止活動の継続 |
三菱電機 グループ |
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“Always Act with Integrity”の真の理解と浸透 |
コンプライアンス研修の継続的実施 |
三菱電機グループ |
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サイバーセキュリティ成熟度の向上 |
2028年度 サイバーセキュリティ成熟度モデルのレベル2相当*8をグローバルで達成 |
三菱電機 グループ |
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サステナビリティを志向する企業風土づくり |
従業員による サステナビリティの 理解と実践 |
2025年度 従業員意識サーベイ「企業理念・目標に沿った業務の実施」良好回答率 75%以上 |
当社 |
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社内外のステークホルダーとのコミュニケーションの推進 |
・統合報告書の公開 ・有識者ダイアログの実施 |
三菱電機 グループ |
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*1 自社における燃料使用に伴う直接排出
*2 外部から購入した電力や熱の使用に伴う間接排出
*3 Scope 1、2 を除くバリューチェーン全体からの間接排出
*4 人権侵害を是正・防止するためのPDCAを回すこと
*5 RBA(Responsible Business Alliance):グローバルサプライチェーンにおいて社会的責任を推進する企業同盟
*6 毎年実施する「従業員意識サーベイ」の対象5設問に対する良好回答割合の平均値。「当社で働くことの誇り」「貢献意欲」「転職希望」「他者に対する当社への入社推奨」「仕事を通じた達成感」
*7 取締役、執行役、上席執行役員
*8 米国防総省が発行するサイバーセキュリティ成熟度モデルの認証の枠組み(CMMC ver2)
人財/人的資本に関する実績は、「(3)人財/人的資本 ③指標及び目標」を参照ください。その他の2024年度実績や2025年度目標については2025年9月以降に公開予定の「統合報告書2025」を参照ください。過去の目標や実績等についてはバックナンバーを参照ください。
https://www.mitsubishielectric.co.jp/ja/sustainability/reports/
(2)気候変動対策の取組み(TCFDに基づく開示)
三菱電機グループは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task force on Climate-related Financial Disclosures)の提言への賛同を表明しており、TCFDの提言に従った取組みの推進及び情報の開示を行っています。
①ガバナンス
ア.推進体制
三菱電機グループは2022年度、経営方針においてサステナビリティの実現を経営の根幹に位置づけました。サステナビリティの実現に向けて「価値創出」と「基盤強化」の両面から取組みを推進する体制を整備しています。
気候変動対応に関しては、執行役会議から委嘱を受けたサステナビリティ委員会において、自社グループからの温室効果ガス排出削減及びバリューチェーン全体でのカーボンニュートラル実現に向けた方針・施策等に関して議論しています。リスク・機会とその財務影響についてはサステナビリティ・イノベーション本部が管轄し、分析しています。
サステナビリティ推進体制の詳細は、「(1)サステナビリティ全般 ①ガバナンス」を参照ください。
イ.取組み方針
2050年までの長期環境経営ビジョンである「環境ビジョン2050」の下、2030年度までに工場・オフィスからの温室効果ガス排出量実質ゼロ、2050年度までにバリューチェーン全体で温室効果ガス排出実質ゼロとすることを目指しています。2024年2月には、「環境ビジョン2050」に基づく短期計画を更新し、同年同月にSBT(Science Based Targets)イニシアチブから認定を取得した目標より達成レベルの高い計画として、「環境計画2025(2024~2025年度)」を策定しました。
②戦略
三菱電機グループは、脱炭素社会への移行を、事業のリスクではなく全ての事業において共通する機会と捉えています。この認識の下、「環境ビジョン2050」や「環境計画2025」、及びSBTに関する取組みを事業戦略に織り込み、技術開発や事業開発を進めています。
ア.事業戦略
三菱電機グループが展開する幅広い事業の中で、グループの強みを活かし、省エネ、電化、再生可能エネルギーの有効活用、資源の循環性が高いビジネスモデルへの転換を進め、社会全体の環境負荷低減を加速させます。
イ.短期・中期・長期の気候変動のリスク及び機会
三菱電機グループでは、外部機関(IEA等)が示す気候シナリオや国・地域ごとの経済発展予測などを参考にし、各事業に影響を与えることが予想される気候関連のリスク及び機会を短期・中期・長期の視点で分類し、影響度を評価しています。
<期間>
短期:2025年度までの期間(「環境計画2025」や中期経営計画の期間)
中期:2030年度までの期間
長期:2050年度までの期間(「環境ビジョン2050」最終年)
<影響度の大きさ>
各事業において予想される事象が重大なリスク(影響度大)に該当するかどうかは、サステナビリティ担当上席執行役員のもと、関係する事業部門の執行役・部門長が判断しています。
短期・中期・長期の気候変動に係るリスクと機会
(ア) 気候変動に係るリスク
気候変動に係るリスクは、脱炭素社会への移行に関連するリスク(移行リスク)と、温暖化が進展した場合の物理的影響に関連するリスク(物理的リスク)に大別されます。これらのリスクは、費用の増加(生産・社内管理・資金調達コスト等)、収益の減少等を招くおそれがあります。
三菱電機グループの事業戦略の前提とする脱炭素社会への移行が進む場合は、あらゆる製品・サービスにおける温室効果ガス排出抑制に対する社会的要請の増大、エネルギー需給の変動、再生可能エネルギーの発電量の増加によるエネルギーミックスの変化、自動車の電動化(EV化)の進展などが予測されます。また、その実現に向けて温室効果ガス排出に対する法規制の強化や技術開発負荷の増大・技術開発の遅れといった移行リスクが、物理的リスクと比べて高くなると考えられます。
移行リスクに対して、例えば、温室効果ガスの排出抑制が法規制により強化されたとしても、三菱電機グループでは既に環境計画の推進及びSBTへの参画を通じた温室効果ガスの排出削減に取り組んでおり、その影響は軽微であると考えます。素材価格が高騰したとしても、既に取り組んでいる温暖化対策や省資源、リサイクル性の向上等を図る環境配慮設計をより一層推進していくことで、その影響は軽微であると推測します。また、技術開発についても、空調機器の冷媒規制といった法規制の強化や低炭素・高効率技術の開発競争を見据え、短期・中期・長期の研究開発投資を戦略的に組み合わせています。加えて、省エネ等の温暖化対策を含む環境活動にかかる設備投資も実施しています。
一方、世界各国で気候変動対策よりも経済発展が優先された場合、大雨や洪水の多発や異常気象の激甚化、慢性的な気温上昇等が予測され、災害による操業停止やサプライチェーンの寸断といった物理的リスクが、移行リスクに比べて高くなると考えられます。
洪水等の物理的リスクに対しては、BCP(Business Continuity Plan)を策定し、年1回の見直しを行うとともに、生産拠点の分散化を進めています。また、サプライチェーンにおいても複数社からの購買に努め、サプライヤーにも複数工場化に取り組んでいただくよう要請するなど、生産に支障をきたす事態を避ける取組みを進めています。
(イ) 気候変動に係る機会
三菱電機グループは多岐にわたる事業を有し、気候変動に起因する社会課題の解決に貢献する製品・サービス・ソリューションを幅広く提供可能であることを強みとしていることから、短期から長期にわたる持続可能な成長機会を有していると考えています。
脱炭素社会に移行する場合、あるいは気候変動対策よりも経済発展が優先された場合のいずれにおいても、気候変動に起因する社会課題解決へのニーズがより顕在化していくものと予測されます。
三菱電機グループでは、電力需要の拡大と脱炭素社会に向けた電力供給の多様化に備え、大容量蓄電池制御システム、スマート中低圧直流配電ネットワークシステム、分散型電源運用システム/VPP(Virtual Power Plant)システム、脱SF6ガス遮断器、マルチリージョン型デジタル電力供給システム(マルチリージョンEMS)などを提供しています。これにより、再生可能エネルギー拡大や電源分散化に伴う電力の有効活用、系統安定化ニーズに応えることができます。また、自動車の電動化(EV化)の進展に起因する電動化製品の需要増加は、半導体・デバイス事業における高効率パワー半導体であるSiC(Silicon Carbideの略:炭化ケイ素)の需要拡大及び製造コスト削減につながり、鉄道・電力、産業、民生などの分野でのSiCの適用拡大が見込めます。
気候変動対策よりも経済発展が優先された場合であっても、世界経済の発展と購買力増加による需要増や気候変動に対する適応需要の増加に対し、空調事業等のエネルギー効率の高い製品やサービス、ソリューションの提供を通じて、脱炭素社会実現へ貢献しつつ収益機会の拡大が期待できます。
ウ.カーボンニュートラル(CN)移行計画
三菱電機グループは、「2050年度までにバリューチェーン全体での温室効果ガス排出量実質ゼロ」及び「2030年度までに工場・オフィスからの温室効果ガス排出量実質ゼロ」を目指し、CNへの移行計画を策定、推進しています。
工場・オフィスからの排出量削減に向けたロードマップ
工場・オフィスにおける温室効果ガス排出量実質ゼロ達成に向けて、「省エネ、電化、非エネルギー用途の排出削減」、「太陽光発電等による自家発電拡大(PPA含む)」、「再生可能エネルギー電力調達」及び「グリーン電力証書、非化石証書等の調達」を推進するとともに、「クレジット等の調達」も検討しています。
(ア) CN達成に向けた研究開発戦略
バリューチェーン及び社会全体のCNの実現に貢献する事業の創出・拡大を目指し、「グリーン by エレクトロニクス」、「グリーン by デジタル」、「グリーン by サーキュラー」の3つのイノベーション領域の研究開発を産学官連携も活用し加速しています。
CN達成に向けた研究開発ロードマップ
「グリーン by エレクトロニクス」では、三菱電機が強みとするコアコンポーネントであるパワーエレクトロニクスやモーターの高効率化・小型化等の研究開発を進め、FA機器、空調等の省エネや電化に貢献します。また、ビルのZEB(net Zero Energy Building)化や地球温暖化係数の低い冷媒を用いた空調冷熱システム、新たな材料を用いたパワーデバイスの研究開発を進めます。さらに、データセンター内サーバーなどのGPU(Graphics Processing Unit)パッケージ間の通信を電気接続から光接続に置き換える光電融合技術の研究開発を進めます。
「グリーン by デジタル」では、先進デジタル技術の活用により、エネルギー効率向上や再生可能エネルギーの利用拡大を図ります。例えば、電力・熱・化学物質を管理・融通する統合エネルギー・マネジメント・システム(EMS)の研究開発を進めます。これらの活動を通じて、バリューチェーン全体における温室効果ガスの排出量削減に貢献します。
「グリーン by サーキュラー」では、カーボンリサイクルのためのCO2の回収・貯留・有効利用(CCUS)、プラスチックリサイクルといった資源循環を中心とする研究開発を推進します。CO2を還元して資源として活用可能な一酸化炭素(CO)を生成するケミカルループ方式CO2還元技術や、AIを使った混合プラスチック片のスマート静電選別技術など、炭素の循環利用実現に貢献します。
これらのグリーン関連領域における事業の創出と拡大に向けて、グリーン関連の研究開発投資として、2024年度から2030年度までの7ヵ年で約9,000億円*の投資を計画しています。
* 過去実績及び成長率から算出した推定値
エ.シナリオ分析に基づく気候変動へのレジリエンス
(ア) 概要
三菱電機グループでは、事業戦略で前提としている脱炭素社会に向かう場合(2℃以下シナリオ*1)と、気候変動対策よりも経済発展が優先される場合(4℃シナリオ*2)の2つのシナリオを想定し、長期的未来の不確実性を考慮したシナリオ分析を毎年行っています。不確実な未来の時点として2040年度を設定し、ベースライン(事業計画の延長)を2℃以下シナリオとして、4℃シナリオに移行したときの財務影響を分析しています。
*1 脱炭素技術の要求が高まるとともに、規制強化による開発競争も激化。社会の電化が進み、電力総需要が増加し、再生可能エネルギーの比率も上昇。
<参照した公開シナリオ>
・IEA(International Energy Agency)のWorld Energy Outlook 2024、APS(Announced Pledges Scenario)
・IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)の第6次報告書(AR6)で採用されているSSP1(Shared Socioeconomic Pathway、SSP2を現状相当とし比較)
*2 現状程度あるいはそれ未満の脱炭素活動により物理的なリスクが顕在化。2℃以下シナリオよりも消費者の購買力は増加。一方、大雨や洪水といった異常気象は激甚化。
<参照した公開シナリオ>
・IEAのWorld Energy Outlook 2024、STEPS(The Stated Policies Scenario)
・IPCC 第6次報告書で採用されているSSP5(SSP2を現状相当とし比較)
(イ) シナリオ分析の結果
三菱電機グループの全ての事業セグメントで気候関連のリスクと機会の検討を行いました。移行リスクについては、「電力システム」、「自動車機器」、「半導体・デバイス」の3事業が、4℃シナリオにおいて気候変動による影響が相対的に大きいと評価し、財務影響を定量的に試算しました。
一方、物理的リスクは、異常気象の激甚化を異常気象の頻度上昇による不可避のリスクと捉え、全事業セグメントにわたる三菱電機グループの主要な製造拠点を対象に財務影響を試算しました。
4℃シナリオへの移行に伴い、財務へ影響する主な移行リスクは、「エネルギーミックスの変化」、「エネルギー需要推移の変化」、及び「EV化の遅れ」です。
電力システム事業は、「エネルギーミックスの変化」及び「エネルギー需要推移の変化」の影響を直接受けるため、再生可能エネルギー普及の遅れ、電化の遅れによる電力総需要の伸び悩みなどから、減益が見込まれます。自動車機器事業及び半導体・デバイス事業は、「EV化の遅れ」から、EV向け自動車機器の需要減や、SiCの製造コストが下がらないことによる他分野への普及鈍化等が懸念されますが、その影響は軽微と考えます。
3事業では4℃シナリオにおいて機会の減少による影響があるものの、当該事業を含む三菱電機グループの全事業において気候変動はリスクよりも機会としての側面の方が強いと捉えています。4℃シナリオ時は2℃以下シナリオ時と比較して各国において経済優先の施策が採られるため、高性能な製品・サービスが選択され需要の高まりは旺盛になります。例えば、「空調・家電」事業に関しては、温室効果ガス削減やエネルギー使用低減への性能上の要求は減らず、同時に気候変動への適応需要の増加も見込まれます。
また、物理的リスクの異常気象の激甚化による財務影響は、移行リスクの影響よりも小さいことが推測されます。
以上の分析により、電力システム事業における移行リスク、及び全事業での物理的リスクに起因する減益が見込まれるものの、空調・家電事業を始めとする多くの事業において機会的側面での増益が見込め、結果として三菱電機グループへの影響は通常の事業運営で起こりうる想定の範囲内で、増益方向に軽微に変動すると推測されます。従って2℃以下シナリオから4℃シナリオへ移行したとしても「重大な財務影響」はないと考えます。
社会が4℃シナリオに進展した場合の三菱電機グループへの財務影響(営業利益への影響)
③リスク管理
ア.気候変動に係るリスクと機会を扱うプロセス
三菱電機グループの気候変動を含む地球環境に係るリスクと機会の選別・評価・管理は、事業戦略の意思決定プロセスと、三菱電機グループの総合的なリスクマネジメントプロセスによって行っています。
三菱電機各部門(各事業本部/コーポレート部門)/国内外関係会社は、自らに関連する気候変動に係るリスク項目を洗い出し、リスクへの対応と機会としての活用について検討し、事業戦略・部門戦略に主体的に織り込みます。
並行して、三菱電機グループの総合的なリスクマネジメントプロセスの中で、気候変動に係るリスク管理含め、様々なリスク分野について、経営に重大な影響を及ぼす事項を選別・評価し、適正な管理を行います。
イ.三菱電機グループのリスクマネジメント体制と地球環境リスクの位置付け
三菱電機グループの気候変動を含む地球環境リスク等のリスクは、三菱電機各部門/国内外関係会社が主体的にリスクマネジメントを遂行することに加えて、リスクマネジメント・経済安全保障担当執行役(CRO:Chief Risk Management Officer)の指揮の下、コーポレート部門(リスク所管部門)が各専門領域での知見に基づき、選別・評価・管理を行います。
リスク所管部門が選別・評価した各専門領域のリスクは法務・リスクマネジメント統括部が集約し、個別のリスク間の相対比較等を通じてグループ経営に及ぼす影響を評価し、CROが委員長を務めるリスクマネジメント・コンプライアンス委員会で経営判断を行います。
上記のプロセスを経て総合的に評価されたリスクは経営層を含む関係者に共有されます。気候変動を含む地球環境リスクは、グループのマテリアリティの1つである持続可能な地球環境の実現に大きな影響を及ぼすことから、三菱電機グループでは地球環境リスクを重要性の高いリスクと位置付けています。
ウ.地球環境に関するリスクのマネジメントプロセス
気候変動を含む地球環境リスクは、上記の三菱電機グループリスクマネジメント体制に則り、CROの指揮の下、サステナビリティ担当上席執行役員及びリスク所管部門であるサステナビリティ・イノベーション本部が選別・評価・管理を行います。
サステナビリティ担当上席執行役員及びサステナビリティ・イノベーション本部は、総合的に評価されたリスクの結果を踏まえ、地球環境リスクに関する法規動向、技術動向、市場動向、社外評価等を考慮して細分化したリスクの選別・評価を行います。その結果を踏まえて、リスクを管理するための中期的な施策として環境計画を、単年度の施策として環境実施計画を策定します。
グループ内の各組織(事業本部、関係会社等)は、それらを基に自組織の環境実施計画を毎年策定し、サステナビリティ担当上席執行役員及びサステナビリティ・イノベーション本部にその成果を報告します。
サステナビリティ担当上席執行役員及びサステナビリティ・イノベーション本部は、各組織の成果及び社会動向等を考慮して地球環境リスクの選別・評価結果を見直し、結果を法務・リスクマネジメント統括部に報告するとともに、必要に応じて環境計画の修正及び次年度環境実施計画への反映を行います。
④指標及び目標
三菱電機グループは、バリューチェーンでの温室効果ガス排出量(Scope 1、2、3)を算定・把握しています。算定・把握に当たっては、「GHGプロトコル」や環境省の「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」などを参考にしています。
ア.長期目標
三菱電機グループは、2050年までの長期環境経営ビジョンである「環境ビジョン2050」の中で、「バリューチェーン全体で温室効果ガス排出の削減を推進し、2050年の排出量実質ゼロを目指す」という目標を掲げています。
イ.中期目標
三菱電機グループは、「2030年度までに工場・オフィスからの温室効果ガス排出量実質ゼロを目指す」という中期目標を定め、その目標に向けて毎年一定の割合で温室効果ガス排出量を削減していきます。
<SBTイニシアチブの認定を取得した三菱電機グループの削減目標>
なお、2030年度に向けた三菱電機グループの温室効果ガス排出量削減目標を以下のとおり更新し、2024年1月にSBTイニシアチブの認定を取得しました。この新たな目標は、パリ協定の「1.5℃目標」を達成するための科学的根拠に基づいた目標であると認められています。Scope 1及びScope 2の目標は「1.5℃以内に抑える水準」として、またScope 3の目標は「2℃を十分下回る水準」としてそれぞれ認定されています。
・Scope 1及びScope 2:2030年度までに温室効果ガス排出量を2021年度基準で42%削減
・Scope 3*:2030年度までに温室効果ガス排出量を2018年度基準で30%削減
* Scope 3の対象は、従来のカテゴリー11(販売した製品の使用)のみから全てのカテゴリーに拡大
ウ.短期目標
三菱電機グループは、環境ビジョン2050で掲げた行動指針のもと、具体的な活動目標を定めた環境計画を策定しています。「環境計画2025」では、上記の中期目標の達成に向けて2025年度の温室効果ガス排出量削減目標を設定したほか、「カーボンニュートラル」「サーキュラーエコノミー」に貢献するLC-CO2*1排出量の簡易算定や、政府が掲げる「30by30*2」の実現に寄与する「ネイチャーポジティブ」領域での目標等を設定しました。
*1 ライフサイクル CO2。製品ライフサイクル全体を通して排出される全ての CO2
*2 2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標
エ.目標の進捗
GHG排出量のうち、Scope1、2の2024年度の会社算定値は、下表のとおりです。
マーケットベースでは、再生可能エネルギーの利用が進み、削減が進んでいます。ロケーションベースでも、環境計画2025で基準年度とした2013年度の排出量1,430ktに対して約30%の削減となりました。温室効果ガス排出量削減の取組みは、環境計画2025で掲げる、2025年度末「2013年度比 53%以上削減」という目標達成に向けて引き続き取り組んでいきます。
Scope1、2の温室効果ガス排出量(三菱電機グループ) (単位:kt-CO2)
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2022年度 |
2023年度 |
2024年度 |
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Scope1、2 合計 |
マーケットベース |
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ロケーションベース |
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(注)2022年度と2023年度は第三者検証を経た実績値。2024年度は、第三者保証を実施中のため、提出日現在の会社算定値。
第三者保証後の実績値は、2025年9月以降に公開予定の「統合報告書2025」を参照ください。
https://www.mitsubishielectric.co.jp/ja/sustainability/reports/
(3)人財/人的資本
①ガバナンス
ア.人財に対する考え方
三菱電機グループは、2025年度に向けた中期経営計画において、経営基盤の強化とDXの推進等による統合ソリューションの提供拡大により、脱炭素化への対応など、活力とゆとりある社会の実現へ貢献することを掲げています。この持続的な成長実現の原動力は人であり、「人=将来の価値を生み出す資本」と捉える「人的資本経営」を、より一層推進します。また、グローバル競争がますます激化する事業環境下、三菱電機グループが社会からの信頼を取り戻し、「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」として発展するために、人財=多様・多才な「個」の力を総結集し、あらゆる変革を成し遂げていきます。
イ.推進体制
三菱電機グループはCHRO(Chief Human Resource Officer)を責任者とし、人財戦略を策定しています。その過程の中で、経営戦略と人財戦略の連動を意識し、まずは、経営戦略実現の障害となる人財面の課題を洗い出し、各Chief Officerや、ビジネスエリアオーナーとの議論を重ねて、自社固有の優先課題と対応方針を整理し、取締役会での監督も受けています。今後も、改善の進捗/経過を定期的に取締役会で報告しつつ、計画的に進めていきます。
②戦略
HRの基本理念とともに、「人財」「組織」「風土」に関する「ありたい姿」を掲げて、人財育成及び社内環境整備(含む:組織風土の改善)に努めています。
ア.人財育成
「従業員の成長なくして事業の発展や社会貢献は成し得ない」との認識に立ち、全従業員を対象にした教育研修の投資によって、全体の底上げを図るとともに、自ら考え、主体的に行動し、挑戦し続けることで、「Changes for the Better」を実践する「多様・多才な人財」を育てます。
取組み事例
(ア) 人と組織が共に成長する人財マネジメント
三菱電機グループが真のグローバル企業として成長し続けるためには、事業の縦割りによる人財のサイロ化を解消する必要があります。これまでの事業本部・日本国内中心の個別最適からグループ・グローバルでの全体最適を目指し、全社横断的な人財マネジメントの基盤・体制構築を推進していきます。
なお、2023年度に策定した「キャリア開発コンセプト」では、従業員一人ひとりが自分のキャリアについてより主体的・積極的に考え、行動することを促すとともに、会社が個々人の成長実現に伴走・支援していく姿勢を改めて明確化しました。
また、次代を担う経営幹部をグローバルスケールで育成・輩出するために、2023年度から「L.E.A.D*制度(経営幹部候補者育成制度)」を開始しました。多様な経験・バックグラウンドを有する経営幹部候補者をグループ内外から選抜・育成・評価し、グローバルで三菱電機グループをリードできる人財を育成・輩出しています。
こうした多様・多才な人財が自律的にキャリアを構築しながら能力を存分に発揮し、活躍できる環境を整備することで、従業員と会社の更なる成長を実現していきます。
* Leadership Enhancement And Development
キャリア開発コンセプト
(イ) 一人ひとりの能力開発を支援する人財育成施策
三菱電機グループでは、「自ら考え、主体的に行動し、挑戦し続ける」人財を目指し、従業員が自律的に自らの能力開発活動を継続していけるよう、様々な育成施策の準備や環境整備・学びの場作りを行っています。OJTをベースに日常的な業務ノウハウとマインドを伝承していくとともに、OJTでは身につきにくい知識やスキルの習得、キャリア開発を、オンライン研修も積極的に活用しながら、Off-JTで補完することで、従業員同士のネットワーク活動を支援し、学びあい教えあい繋がりあう風土作りを図っています。Off-JTでは、「社内外の優れた講師による知識やスキル研修及び動機付け研修」「スキルアップのための検定や競技」「海外拠点や国内外の大学での実習や留学」等を実施しており、これらを通して関係会社を含め、グループ従業員全体のレベルアップを図っています。
また、全従業員を対象に「倫理・遵法など社会人として身につけるべき知識の付与」を行うとともに、新卒者や経験者採用者については、全員に対し、社会人としての意識付け、基礎知識の付与、経営理念、コンプライアンスなどの初期教育を実施しています。
さらに、三菱電機では、従業員一人ひとりのキャリアオーナーシップの発揮及び自律的な成長実現に向けて、「会社も人財も成長できること」を基本的な考え方として会社の持続的な成長と従業員の自己実現の両方を追求しています。これまでに実施してきた一律的な階層別研修だけでなく、それぞれの状況等に応じて必要となる能力やスキルの獲得に資するコンテンツの整備も並行して実施していく予定です。これらによって、これまでに重視してきた若手層に対するコミュニケーション力強化、中堅層や管理職層に対するリーダーシップや後進(部下・後輩)の育成を含むマネジメント力強化等ともうまく融合を図り、これからの当社の成長を牽引できる人財の育成と、一人ひとりがいきいきと働き、ウェルビーイングとエンゲージメントの向上にも寄与できる環境整備を実現していきます。
(ウ) DX人財の強化
三菱電機グループでは、Serendie事業推進のためのDX人財を2030年までにグループ全体で2万名確保することを目指し、人財の獲得やM&Aによる拡充に併せ、事業戦略に基づく着実な人財育成の強化を図っています。
三菱電機グループ内の従業員を対象とした体系的な育成機関「DXイノベーションアカデミー」を2025年4月に設立しました。DX人財のスキルセットに基づき、それぞれに必要な技術・知識・マインドセットを集中的に習得し、実践に活かすことができる学びの場を三菱電機グループ内へ提供します。社内外講座を組み合わせた段階的な学習体系を整備するとともに、スキル・能力の社内認定制度などにより、既存のDX関連技術保有者及びDX関連業務従事者だけでなく、他業務からの職務転換者や新規入社者など、個々人の保有するスキルや知識レベルに応じた幅広い層の人財育成を推進します。三菱電機グループの全従業員を対象とした講座も設け、グループ一体となってDXを推進する風土を醸成します。
三菱電機グループ向け「DXイノベーションアカデミー」の概要
イ.社内環境整備
持続的成長を実現していくためには、従業員一人ひとりが限られた時間の中でその能力を最大限発揮できる職場環境づくりが重要と考えているため、誰もが安心して、いきいきと働ける職場環境の実現に向けて、多様性の尊重やエンゲージメント向上を図り、環境の改善を通じて、組織としての一体感・連携を促進します。
取組み事例
(ア) 多様性の尊重
a. 両立支援
三菱電機は、社内に対して各種両立支援制度の積極的な情報発信を実施する等の施策を実施しています。育児と仕事の両立支援として、育児休職者が円滑に職場復帰し、育児をしながら能力を最大限発揮できるよう、「上司と部下 仕事と育児の両立支援ハンドブック」を配布するとともに、次世代育成支援対策推進法に基づき、一般事業主行動計画を策定し、両立に関する情報発信の強化等を目標に掲げています。また、介護と仕事の両立支援として、介護に関する基礎知識の付与を目的としたセミナーを開催しているほか、社外相談窓口を設置し、従業員がより働きやすい環境整備を進めています。
b. 障がい者
三菱電機グループでは、各社で障がい者の積極的な活用を図っており、障がい者が働きやすい職場環境の整備を目指し、バリアフリー化などの取組みも進めています。
三菱電機では、2014年10月に主に知的障がい者の方に適した業務を社業とする特例子会社*「メルコテンダーメイツ株式会社」を設立しました。2024年6月1日時点で特例子会社を含めた日本国内における雇用率は2.51%となっています。
メルコテンダーメイツ株式会社の社名は、健常者社員、チャレンジド社員(障がいのある社員)の双方が対等な職場のパートナーであることと、慈しみ合う仲間たちという意味を表現しています。同社はクリーンサービス事業、クッキー事業、カフェ事業、名刺事業、給食事業、健康増進事業(マッサージ施術)などを中心に事業を展開しており、2024年6月1日時点で日本国内において159名の障がい者を雇用しています。また、2017年度にクッキー工房を開設して以降、名古屋事業所、姫路事業所、伊丹事業所を開設しました。
*「障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)」により一定の要件を満たした上で、厚生労働大臣の許可を受けて、親会社(三菱電機株式会社)の1事業所(親会社に雇用されている)とみなされ、特例として親会社の障がい者雇用率に含まれる会社。
(イ) 組織風土改革
三菱電機グループは、グループ内で2019年度までに複数の労務問題が発生したことを真摯に受け止め、「風通しよくコミュニケーションができる職場づくり」「メンタルヘルス不調者への適切なケアの徹底」等を目指し、「三菱電機 職場風土改革プログラム」に取り組んできました。本プログラムについては、2021年度に短期重点施策の適用を完了させ、2022年度は長期取組み施策とした「エンゲージメント向上」「コミュニケーション活性化」「組織文化・マインド醸成」に関する施策を展開してきました。これらの取組みを「3つの改革」の一環である「組織風土改革」に統合し、より一層強力に推進しています。
2024年度までに、管理職約4,000名への1on1研修や、延べ約30,000名が参加した社内外講師によるセミナーを実施し、心理的安全性の高い職場づくりと双方向コミュニケーションの促進を進めてきました。2025年3月には全社イベントとして「ME's Culture Day(組織風土改革報告会)」を開催し、これまでの活動の振り返りとともに、未来に向けて終わりなき組織風土改革に取り組み続ける意志をより強固にしました。
今後は新たなフェーズに移行し、2025年4月に新設した「カルチャー変革室」を中心にこれまでの取組みを継承・発展させ、グループ全体のより良いカルチャー醸成を推進していきます。
③指標及び目標
マテリアリティ「あらゆる人の尊重」の目標として、人財に関する目標/取組み指標(KPI)を
下表は提出会社の数値です。連結子会社についても、多様性の尊重に向けて取組みを進めています。
[単位は、従業員一人当たりの年間人財育成・研修投資額は
|
区分 |
指標 |
分類 |
実績 |
目標 |
|||||
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2020 年度 |
2021 年度 |
2022 年度 |
2023 年度 |
2024 年度 |
2025 年度 |
||||
|
人財育成 |
|
正規雇用*1 |
48.0 |
43.0 |
42.0 |
43.0 |
|
|
|
|
|
全従業員 |
- |
86 |
124 |
147 |
|
|
||
|
社内環境整備 |
働きがいと働きやすさ |
|
正規雇用 |
63.0 |
54.0 |
54.0 |
55.0 |
|
|
|
|
正規雇用 |
66.0 |
65.0 |
66.0 |
68.0 |
|
|
||
|
多様性 |
|
- |
1.9 |
2.3 |
2.6 |
3.1 |
|
|
|
|
|
- |
64.9 |
67.8 |
76.1 |
85.1 |
|
|
||
|
|
全従業員 |
60.7 |
61.0 |
61.5 |
62.4 |
|
|
||
|
正規雇用 |
63.5 |
63.6 |
63.6 |
64.4 |
64.9 |
- |
|||
|
非正規雇用 |
63.5 |
62.4 |
63.2 |
61.8 |
60.4 |
- |
|||
|
|
- |
2.3 |
2.4 |
2.5 |
2.5 |
|
|
||
*1 正規雇用労働者には、正規雇用の従業員及びフルタイムの無期化した非正規雇用の従業員を含む。
*2 研修費用及び研修主管部門における費用の合計額。従業員には臨時従業員等を含む。
*3「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年法律第64号)の規定に基づき算出。
*4「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)の規定に基づき算出。
*5「障害者雇用状況報告」(障害者雇用促進法第43条第7項)の規定に基づき算出。
なお、上記における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2025年6月20日)現在において当社が判断したものです。
三菱電機グループのサステナビリティに関する最新の取組み状況については、サステナビリティウェブサイトを参照ください。
https://www.MitsubishiElectric.co.jp/ja/sustainability/
(1) 三菱電機グループのリスクマネジメント体制
三菱電機グループは、予防重視の内部統制システムの強化を図るため、リスク管理を事業遂行に組み込み、事業の規模・特性等に応じて管理するとともに、グループ全体に共通する重要なリスクについてはグループ経営に与える影響度に応じた重点付けを行いながら管理しています。
大規模災害や社会的リスクなどの従来型リスクへの対応にとどまらず、経済安全保障、AI等の技術革新、サステナビリティなどの分野における新たなリスクに対する探索と備えも戦略的に推進します。
三菱電機グループでは、各部門及び国内外の関係会社が主体的にリスクマネジメントを遂行することに加えて、三菱電機の各コーポレート部門(リスク所管部門)がそれぞれの専門領域において各部門及び国内外の関係会社を統括/評価します。更にCRO(Chief Risk Management Officer)及び法務・リスクマネジメント統括部がグループ全体を統括し、リスクマネジメント・コンプライアンス委員会で経営判断のうえ、必要に応じて組織横断的で柔軟なチーム行動により効果的かつ戦略的なリスクマネジメントが可能な体制を構築しています。特に経営の監督と執行にかかわる重要事項については、取締役会、執行役会議において審議・決定します。
(2) 事業等のリスク
事業の遂行に当たっては、様々な要素が三菱電機グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。具体的に三菱電機グループの財政状態及び経営成績や、投資家の判断に影響を及ぼす可能性がある要因のうち、主なものについて「新領域リスク(新規制・関税変動・社会要請)」「BCP上のリスク」「内部リスク(オペレーショナルリスク)」に分類し、新たに三菱電機グループのリスクマップを策定しました。リスクマップの各象限に応じた対応を進めることで、インパクトの縮小化、リスクへの備えの実効性・効率向上を図る一方で、必要に応じたリスク制御強化に柔軟に取り組みます。
①経済安全保障に関わるリスクの高まり
米国政権による関税強化、各国の輸出規制、ウクライナ・中東等をめぐる国際情勢の緊張の高まりは、経済安全保障に関するリスクのレベルを引き上げ、社会情勢を不安定化させるとともに、世界経済に対しても大きく影響を与えています。
三菱電機グループは、社会インフラから家庭電器まで広範な領域で事業を展開し、海外向けが売上高の5割超を占めています。また、日本国内向けの売上には国内で利用される製品だけでなく、顧客の製品に組み込まれて海外に輸出される製品も含まれています。経済安全保障リスクの高まりによる社会・経済・政治的混乱により、当社製品の需要や、当社製品を組み込んだ顧客の製品の販売動向が変化した場合には、三菱電機グループの事業活動及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
こうした各国の経済安全保障政策の急激な変化に対応すべく、政策動向や法制度の調査・分析、全社における機微技術管理、情報セキュリティ、投資、開発、サプライチェーン等に関わる経済安全保障の観点から見た統合的なリスク制御を行っています。
②サプライチェーンを取り巻く環境変化への対応
感染症・自然災害等による供給混乱、各種経済安全保障規制の拡大、人権課題への対応など、サプライチェーンを取り巻く環境の変化により、三菱電機グループの事業活動及び業績に影響を及ぼす可能性があります。また、各国の輸出管理強化が続く中、特定地域への依存を減らす取組みが急務となっています。
これらの状況を踏まえ、サプライチェーンの強靭化に向けて、調達複線化、在庫確保、代替品探索、技術開発、新ルート開拓などの具体的な取組みの検討を進めています。
三菱電機グループは、これらの取組みを通じて、調達リスクに迅速かつ適切に対応し、競争力ある製品・サービスを継続的に市場に供給していきます。
③サイバー攻撃等の増大
三菱電機グループの顧客・ステークホルダーの皆様からお預かりした情報、営業情報や技術情報、知的財産などの企業機密が、コンピューターウイルスの感染や不正アクセスその他不測の事態により、滅失もしくは社外に漏洩した場合、又は工場の生産に影響を与えるようなサイバー攻撃事案が発生した場合は、三菱電機グループの事業活動及び業績に影響を及ぼす可能性があります。また、顧客に納入した製品に未知の脆弱性があった場合、顧客の提供するサービス及び社会に大きな影響を与える可能性があります。
高度なサイバー攻撃が増加し、これらの攻撃がIT環境のみならずOT(Operational Technology:製造現場やプラントで用いられる設備やシステムを制御・運用する技術)環境にも侵入することで、通信、電力などの重要インフラ制御システムや、工場管理システム等の混乱を引き起こすリスクが急速に拡大しています。一方、制度面では、IoT製品のセキュリティ適合性評価制度などサイバー対策が順次具体化されています。三菱電機グループは関係機関との情報交換を密に実施しながら、高度な攻撃に対応する体制の構築と、対応能力の強化を進めていきます。
また、人的情報漏洩防止策の強化も重要な取組みの一環として位置づけ、機密情報の保全を推進し、事業活動及び業績への影響を最小限に抑えることを目指します。
④防護と活用の両面を念頭においたデータガバナンスの強化
上記で述べたような三菱電機グループの保有する情報や企業機密が、滅失もしくは社外に漏洩した場合、それらの情報や企業機密を有効に活用できない場合は、三菱電機グループの事業活動及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
昨今の安全保障環境の変化に伴い、情報の適正な管理と保護の強化が一層求められる中、三菱電機グループでは、漏洩した場合にステークホルダーに重大な影響を及ぼす重要情報、及び当社が市場で将来にわたり競争力を維持するための技術情報等について、これまで以上に強固な管理体制の整備が必要と考え、その構築を加速しています。
一方、AIなどの技術革新によりデータが価値を創出する機会が飛躍的に高まっていることから、その活用を促進すべく、「データ活用宣言」を制定するとともに、全社横断でのデータ活用の体制・仕組みづくりにより「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」への変革を加速します。
三菱電機グループは、これらの取組みを通じて、徹底して守るべき情報と活用すべき情報をこれまで以上に明確に整理し、情報・データに対するガバナンス・マネジメントの仕組みを新たに設計・実行することで、企業価値の向上を目指します。
⑤サステナビリティ関連の社会要請への対応
企業に対する人権や環境(カーボンニュートラル、サーキュラ―エコノミーなど)といったサステナビリティ上の社会的要請が近年増加しており、人権侵害の有無等を基準とする取引先の選別、自社及びサプライチェーンを含む人権や環境に関わるデューデリジェンスの実施、ESG情報の開示、環境に配慮した製品設計や再生材料の使用などを要請する法令の制定が、日本や欧米を始め多極的に進められています。
これらの社会的要請のうち人権に関わるリスクとして、三菱電機グループは、人権に関する取組みを求める法令に違反するリスクの他、人権侵害に加担した企業とみなされた場合の経済制裁やレピュテーション低下のリスクを認識しています。これらのリスクに対して、三菱電機グループとして国連「ビジネスと人権に関する指導原則」など国際規範に基づく取組みを強化するとともに、グローバルサプライチェーンにおいて社会的責任を推進する企業同盟であるRBA(Responsible Business Alliance)に即して、三菱電機グループのバリューチェーンにおける人権デューデリジェンスの取組みを加速・強化します。
また、環境に関わるリスクの中でも、カーボンニュートラル、サーキュラ―エコノミーに関しては、欧州を中心に関連する規制が急速に拡大しており、特に炭素価格制度、排出権取引、再生材利用や環境配慮設計に関する規制などは、企業の意思決定プロセスやビジネスモデルの転換を促すものであり、これらに適時適切な経営判断を行わない場合には、三菱電機グループの事業活動及び業績に影響を及ぼす可能性があります。三菱電機グループとして、これらの規制や社会的要請を先取りすると共に、取組みが先行している企業等との連携を深めることを通じて、カーボンニュートラル、サーキュラ―エコノミーなどの非財務的な価値基準を企業行動(調達や製品サービス開発、設備投資、開発投資)に取り込むべく、早急に基本方針を明確化していきます。
更に、人権や環境に関わるリスクへの取組みを加速する手段やツールとして、自社及び取引先の炭素排出量などの非財務情報を可視化するシステム構築を検討し、各種取組みを推進します。
三菱電機グループは、これらの取組みを通じて、サステナビリティに関する社会的要請に迅速かつ適切に対応し、企業評価の向上を目指します。
⑥ゲームチェンジ/技術革新
上記で述べたような国際的な法規制や社会的な価値観、社会構造の変化とともに、技術革新の加速と競争の激化が進んでおり、ゲームチェンジ・リスクが高まっています。そのような不確実性が高まる事業環境の変化をタイムリーに捉え、国際的な法規制を遵守しリスクを抑えつつ、ビジネスチャンスに変えていく柔軟な対応が求められています。
三菱電機グループは、これらの変化に耐えうる強固な経営基盤を構築します。研究開発においては、大学など社外研究機関・他企業・顧客との連携・共創を通じて、グループ内外の知見を融合することにより未来社会をデザインし、新しい価値のタイムリーな創出を図ります。
⑦BCP上のリスクへの対応
三菱電機グループは、製造・販売拠点、研究開発拠点、及び本社を含む主要施設を日本国内外に多数有しており、感染症や大規模災害(地震、津波、台風、水害、火山噴火、火災)等により三菱電機グループの拠点が被害を受けることで、事業活動が中断する可能性があります。また、サプライチェーンの混乱に伴い調達、生産、物流等に影響が生じ、多額の損失が発生する可能性があります。
これらに対し、三菱電機グループはリスクマネジメント・コンプライアンス委員会において経営課題として対処すべきBCP上のリスクについて検討を行い、経営上のBCP対策を確実に実行していくプロセスを構築し、実践しています。
また、感染症や大規模災害等の緊急事態の際は、全社緊急対策室を設置し、全社の情報を一元管理するとともに、各事業拠点単位での安全確保と事業活動の復旧・継続(BCP)に取り組みます。
⑧重点化・デジタル技術活用・風化防止の観点での予防対処強化
製品やサービスの欠陥や瑕疵等による損失計上やコンプライアンス違反の発生による社会的評価の低下等の内部リスクは、経営全般に影響を及ぼす可能性があります。
かかるリスクに対してはこれまでどおり内部監査や各種点検活動の刷新等、実効性のある内部統制システムの構築を通じて早期発見・対処に努めています。
加えて、内部リスクの顕在化は、人財等のリソース不足に起因する面もあることから、ビジネスとリソースのギャップや事業環境から無理やひずみが生じる等、リスクが発生しやすい拠点(国内外関係会社を含む)について、予防対処に取り組むと共に、DXとAIを活用した業務改革、デジタル技術活用による生産性向上の徹底を通じたリスク制御に取り組んでいます。
また、三菱電機グループにおいては過去に複数のコンプライアンス違反を起こしてきた事実を真摯に受け止め、それらに通底する背景や課題を振り返りつつ、風化防止に努めます。
⑨金融市場(為替相場、株式相場)リスクの影響について
上記①~⑧項で示した複雑化する各個別リスク、あるいはそれらの複合リスクにより、為替相場、株式相場が影響を受ける場合、三菱電機グループは、以下の影響を受ける可能性があります。
<為替相場>
三菱電機グループの売上は北米、欧州、中国がおよそ10%ずつを占めていることに加え、当社における米ドル建てやユーロ建てでの輸入部材購入、アジア地域の製造拠点における当該地国以外の通貨建て輸出売上や輸入部材購入があります。
為替予約等により為替の変動の影響を回避するようにしていますが、為替レートの急変により、当社の想定している為替レートから大きく変動すると、三菱電機グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
<株式相場>
三菱電機グループは、「政策保有株式は原則保有しない」という考え方を基本方針としていますが、一方で、事業運営上、必要性が認められると判断した株式については保有することがあります。株式相場の下落は、三菱電機グループが保有する市場性のある株式の価値の減少や、年金資産の減少をもたらす可能性があります。
かかるリスクへの対応として、保有株式については、採算性、事業性、保有リスク等の観点から総合的に保有意義の有無を判断し、毎年、執行役会議及び取締役会にて検証・確認を行っています。保有意義が希薄と判断した株式は、当該企業の状況等を勘案した上で売却を進めるなど縮減を図ることとしています。
なお、上記における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2025年6月20日)現在において当社が判断したものです。
三菱電機グループが当連結会計年度中にとった主な施策及び翌連結会計年度以降に向けての施策については、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」などに記載のとおりですが、これらの施策の実施状況を踏まえた当連結会計年度に関する財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの分析は以下のとおりです。
(1) 業績概要
当連結会計年度の景気は、日本では緩やかな回復が続いてきましたが、第3四半期連結会計期間以降、個人消費の回復に足踏みがみられました。米国では、金融引き締めなどの影響を受けつつも個人消費を中心に堅調となりましたが、当連結会計年度末では減速感もみられました。欧州では、金融緩和などを受け緩やかに持ち直しましたが、製造業は引き続き低調となりました。中国では、輸出の増加や政府施策による下支えがありつつも、不動産不況や内需の弱さが継続し、低調となりました。
このような状況の中、三菱電機グループは、ビジネスエリア経営体制のもと、事業変革・ポートフォリオ戦略の加速と事業競争力強化・経営体質強化に取り組んできました。
この結果、当連結会計年度の業績は、以下のとおりとなりました。
<連結決算概要>
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|
前連結会計年度 |
当連結会計年度 |
前連結会計年度比 |
|
売上高 |
52,579億円 |
55,217億円 |
2,637億円増 |
|
営業利益 |
3,285億円 |
3,918億円 |
633億円増 |
|
税引前当期純利益 |
3,658億円 |
4,372億円 |
714億円増 |
|
親会社株主に帰属 する当期純利益 |
2,849億円 |
3,240億円 |
391億円増 |
①売上高
売上高は、為替円安の影響や価格改善の効果などにより、前連結会計年度比2,637億円増加の5兆5,217億円となりました。インフラ部門では、社会システム事業は海外向けUPS*事業、国内外の交通事業、国内の公共事業の増加、電力システム事業は国内外の電力流通事業で増加し、防衛・宇宙システム事業は防衛システム事業・宇宙システム事業の大口案件により増加しました。ライフ部門では、ビルシステム事業は国内・アジア(除く中国)向けで増加し、空調・家電事業は北米・アジア(除く中国)・国内向け空調機器で増加しました。ビジネス・プラットフォーム部門では、ITインフラサービス事業、システムインテグレーション事業が増加し、セミコンダクター・デバイス部門は、産業向けパワー半導体の減少はありましたが、電鉄・電力向けパワー半導体、通信用光デバイスの増加により前連結会計年度並みとなりました。インダストリー・モビリティ部門では、FAシステム事業はリチウムイオンバッテリーにおける需要の落ち込みなどにより減少し、自動車機器事業は中国における日系自動車メーカーの販売の落ち込みにより減少しました。
* UPS:Uninterruptible Power Supply / 無停電電源装置
<売上高における為替影響額>
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前連結会計年度 期中平均レート |
当連結会計年度 期中平均レート |
当連結会計年度 売上高への影響額 |
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連結合計 |
- |
- |
約1,090億円増 |
|
内、米ドル |
145円 |
153円 |
約440億円増 |
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内、ユーロ |
158円 |
164円 |
約170億円増 |
|
内、人民元 |
20.2円 |
21.1円 |
約160億円増 |
②営業利益
営業利益は、インダストリー・モビリティ部門での減益はありましたが、インフラ部門、ライフ部門、セミコンダクター・デバイス部門、ビジネス・プラットフォーム部門での増益により、前連結会計年度比633億円増加の3,918億円となりました。営業利益率は、売上原価率の改善などにより、前連結会計年度比0.9ポイント改善の7.1%となりました。
売上原価率は、為替円安影響に加え、価格改善、ライフ部門、インフラ部門の改善などにより、前連結会計年度比1.2ポイント改善しました。販売費及び一般管理費は、前連結会計年度比785億円増加し、売上高比率は前連結会計年度比0.3ポイント悪化しました。その他の損益は、前連結会計年度比44億円減少し、売上高比率は前連結会計年度並みとなりました。
③税引前当期純利益
税引前当期純利益は、営業利益の増加などにより、前連結会計年度比714億円増加の4,372億円、売上高比率は7.9%となりました。
④親会社株主に帰属する当期純利益
親会社株主に帰属する当期純利益は、税引前当期純利益の増加などにより、前連結会計年度比391億円増加の3,240億円、売上高比率は5.9%となりました。
なお、ROEは前連結会計年度比0.2ポイント改善の8.4%となりました。
事業の種類別セグメントの業績は、次のとおりです。
① インフラ
社会システム事業の事業環境は、国内の公共分野における設備投資が堅調に推移しました。このような状況の中、同事業は、受注高は国内外の交通事業や国内の公共事業の増加などにより前連結会計年度を上回り、売上高は海外向けUPS事業、国内外の交通事業、国内の公共事業の増加などにより、前連結会計年度を上回りました。
電力システム事業の事業環境は、再生可能エネルギーの拡大やデータセンターの増設などを背景に需要が堅調に推移しました。このような状況の中、同事業は、受注高は国内の電力流通事業の減少などにより前連結会計年度を下回りましたが、売上高は国内外の電力流通事業の増加などにより前連結会計年度を上回りました。
防衛・宇宙システム事業の事業環境は、政府関連予算の増加などにより防衛・宇宙分野における需要が堅調に推移しました。このような状況の中、同事業は、防衛システム事業及び宇宙システム事業の大口案件の増加により、受注高・売上高ともに前連結会計年度を上回りました。
この結果、部門全体では、売上高は前連結会計年度比118%の1兆2,249億円となりました。
営業利益は、売上高の増加や売上案件の変動などにより、前連結会計年度比582億円増加の894億円となりました。
② インダストリー・モビリティ
FAシステム事業の事業環境は、リチウムイオンバッテリーの需要停滞が継続しましたが、中国におけるスマートフォン、工作機械関連の需要や、日本・中国・台湾におけるAI関連の半導体などの設備投資需要が増加しました。このような状況の中、同事業は、受注高はスマートフォン、AI関連の設備投資や工作機械関連需要の増加などにより前連結会計年度を上回りましたが、売上高はリチウムイオンバッテリーの需要の減少などにより前連結会計年度を下回りました。
自動車機器事業の事業環境は、ほぼ全ての地域で新車販売台数が前連結会計年度並みとなりました。このような状況の中、同事業は、中国における日系自動車メーカーの販売減少に伴う自動車用電装品の減少などにより、売上高は前連結会計年度を下回りました。
この結果、部門全体では、売上高は前連結会計年度比96%の1兆6,448億円となりました。
営業利益は、FAシステム事業は売上構成の変動影響などにより減少し、自動車機器事業は価格・コスト改善の効果などにより増加しました。部門全体では、前連結会計年度比362億円減少の826億円となりました。
③ ライフ
ビルシステム事業の事業環境は、需要回復の動きが国内外で継続しました。このような状況の中、同事業は、受注高はアジア(除く中国)向けや国内のリニューアル事業の増加などにより前連結会計年度を上回り、売上高は円安の影響や、国内・アジア(除く中国)向けの増加などにより前連結会計年度を上回りました。
空調・家電事業の事業環境は、欧州では家庭用空調機器の需要停滞が継続しましたが、アジア(除く中国)や冷媒規制の変更の影響があった北米を中心に空調機器の需要が堅調に推移しました。このような状況の中、同事業は、円安の影響や価格改善の効果に加え、北米・アジア(除く中国)・国内向け空調機器の増加などにより、売上高は前連結会計年度を上回りました。
この結果、部門全体では、売上高は前連結会計年度比106%の2兆1,851億円となりました。
営業利益は、売上高の増加などにより、前連結会計年度比415億円増加の1,572億円となりました。
④ ビジネス・プラットフォーム
情報システム・サービス事業の事業環境は、レガシーシステムの更新やデジタルトランスフォーメーション導入関連の需要が堅調に推移しました。このような状況の中、同事業は、受注高はITインフラサービス事業の増加などにより前連結会計年度を上回り、売上高はITインフラサービス事業、システムインテグレーション事業の増加などにより前連結会計年度比103%の1,468億円となりました。
営業利益は、売上高の増加や売上案件の変動などにより、前連結会計年度比31億円増加の108億円となりました。
⑤ セミコンダクター・デバイス
半導体・デバイス事業の事業環境は、パワー半導体の需要が停滞しましたが、通信用光デバイスの需要が堅調に推移しました。このような状況の中、同事業は、受注高は電鉄・電力向けパワー半導体の大口案件の減少などにより前連結会計年度を下回り、売上高は通信用光デバイス、電鉄・電力向けパワー半導体の増加はありましたが、産業向けパワー半導体の減少により前連結会計年度比99%の2,863億円となりました。
営業利益は、売上構成の変動影響などにより、前連結会計年度比107億円増加の406億円となりました。
⑥ その他
売上高は、物流の関係会社の持分法適用会社化に伴う減少はありましたが、ソフトウエアの関係会社での増加などにより、前連結会計年度比101%の8,521億円となりました。
営業利益は、物流の関係会社の一部株式譲渡影響などにより、前連結会計年度比216億円増加の515億円となりました。
顧客の所在地別の売上高の状況は、次のとおりです。
① 日本
防衛・宇宙システム事業や社会システム事業などの増加により、前連結会計年度比106%の2兆7,235億円となりました。
② 北米
自動車機器事業などの減少はありましたが、空調・家電事業や電力システム事業などの増加により、前連結会計年度比115%の7,990億円となりました。
北米のうち米国については、自動車機器事業などの減少はありましたが、空調・家電事業や電力システム事業などの増加により、前連結会計年度比115%の6,671億円となりました。
③ アジア
空調・家電事業やビルシステム事業などの増加はありましたが、自動車機器事業などの減少により前連結会計年度並みの1兆1,712億円となりました。
アジアのうち中国については、FAシステム事業や半導体・デバイス事業などの増加はありましたが、自動車機器事業などの減少により、前連結会計年度並みの5,298億円となりました。
④ 欧州
電力システム事業やFAシステム事業などの減少により、前連結会計年度比98%の7,185億円となりました。
⑤ その他
その他の地域にはオセアニアなどが含まれており、前連結会計年度比120%の1,092億円となりました。
(2) 生産、受注及び販売の実績
① 生産実績
三菱電機グループの生産品目は広範囲かつ多種多様であり、ソフトウエアやサービスなどの無形財も多く含まれることから、セグメントごとの生産規模を金額あるいは数量で示していません。
② 受注実績
当連結会計年度における受注実績を事業の種類別セグメントごとに示すと、次のとおりです。
|
事業の種類別セグメントの名称 |
受注高(百万円) |
前連結会計年度比(%) |
|
インフラ |
1,922,771 |
120 |
|
インダストリー・モビリティ(自動車機器を除く) |
710,877 |
121 |
|
ライフ(空調・家電を除く) |
689,855 |
107 |
|
ビジネス・プラットフォーム |
149,550 |
102 |
|
セミコンダクター・デバイス |
270,221 |
88 |
(注) 「インダストリー・モビリティ」セグメントのうち自動車機器事業及び「ライフ」セグメントのうち空調・家電事業については、受注生産形態をとらない製品が多く、受注規模を金額で示していません。
③ 販売実績
当連結会計年度における販売実績を事業の種類別セグメントごとに示すと、次のとおりです。
|
事業の種類別セグメントの名称 |
販売高(百万円) |
前連結会計年度比(%) |
|
インフラ |
1,224,948 |
118 |
|
インダストリー・モビリティ |
1,644,806 |
96 |
|
ライフ |
2,185,168 |
106 |
|
ビジネス・プラットフォーム |
146,850 |
103 |
|
セミコンダクター・デバイス |
286,366 |
99 |
|
その他 |
852,126 |
101 |
|
消去 |
△818,553 |
- |
|
計 |
5,521,711 |
105 |
(注) 各種類別セグメントの金額には、セグメント間の内部売上高(振替高)を含めて表示しています。
(3) 資産及び負債・資本の状況分析
総資産残高は、前連結会計年度末比2,083億円増加の6兆3,756億円となりました。持分法で会計処理されている投資が590億円、売上債権が571億円増加したことがその主な要因です。
持分法で会計処理されている投資の増加は、MDロジス株式会社の持分法適用会社化などによるものです。
負債の部は、契約負債が245億円増加した一方、社債、借入金及びリース負債が339億円減少したことなどから、負債残高は前連結会計年度末比16億円減少の2兆2,993億円となりました。なお、リース負債を除く社債・借入金残高は前連結会計年度末比271億円減少の2,141億円、借入金比率は3.4%(前連結会計年度末比△0.5ポイント)となりました。
資本の部は、配当金の支払い1,043億円による減少等はありましたが、親会社株主に帰属する当期純利益3,240億円の計上等により、親会社株主に帰属する持分は前連結会計年度末比2,103億円増加の3兆9,496億円、親会社株主帰属持分比率は61.9%(前連結会計年度末比+1.3ポイント)となりました。
<財政状態計算書関連指標>
|
|
前連結会計年度末 |
当連結会計年度末 |
前連結会計年度末比 |
|
売掛債権回転率 |
3.73回転 |
3.71回転 |
0.02回転減 |
|
棚卸資産回転率 |
4.19回転 |
4.44回転 |
0.25回転増 |
|
借入金比率 |
3.9% |
3.4% |
0.5ポイント減 |
|
親会社株主帰属持分比率 |
60.6% |
61.9% |
1.3ポイント増 |
(注) 1 売掛債権回転率は、売上債権と契約資産の合計より算出しています。
2 借入金比率は、リース負債を除く借入金・社債残高より算出しています。
(4) 資本の財源及び資金の流動性
①財務戦略に関する基本的な考え方
三菱電機グループは、健全な財務体質を維持するため、業績向上による資金収支の改善に加え、棚卸資産の縮減活動、売掛債権の回収促進といった資産の効率化、グループ内資金の更なる有効活用による資金の効率化に引き続き取り組んでいきます。
また、2025年度を最終年度とする中期経営計画におけるキャピタル・アロケーション方針のもと、成長投資を最優先としつつ、利益成長を通じた株主還元強化を踏まえた資本政策の実行により、更なる資本効率の向上を図っています。
なお、成長戦略を進めていく中で、必要となります設備投資、研究開発、M&A等の資金につきましては、重点成長事業を中心とした営業活動において創出されたキャッシュ・フローを源泉に、自己資金の活用を図りつつ、必要に応じて金融機関等から機動的に資金調達を行っています。金融機関等からの資金調達にあたっては、一定の財務規律をもって実施し、レバレッジ活用の目安はD/Eレシオ*10.3倍程度として取り組んでいきます。
*1 D/Eレシオ(負債資本倍率):社債、借入金及びリース負債残高÷株主資本*2
*2 株主資本:親会社株主に帰属する持分
②キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度は、営業活動によるキャッシュ・フローが4,559億円の収入となった一方、投資活動によるキャッシュ・フローが1,917億円の支出となったため、フリー・キャッシュ・フローは2,641億円の収入となりました。これに対し、財務活動によるキャッシュ・フローは2,653億円の支出となったことなどから、現金及び現金同等物の期末残高は、前連結会計年度末比80億円減少の7,573億円となりました。
営業活動によるキャッシュ・フローは、当期純利益の増加等により、前連結会計年度比404億円の収入増加となりました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、有価証券等の売却収入の減少等により、前連結会計年度比976億円の支出増加となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、短期借入金の調達の減少等により、前連結会計年度比252億円の支出増加となりました。
③財源及び流動性
運転資金需要のうち主なものは、生産に必要な材料購入費の他、製造費、販売費及び一般管理費等の営業費用であり、投資を目的とした資金需要は、設備投資、M&A等によるものです。
短期運転資金は、自己資金と金融機関からの短期借入等により、設備投資や長期運転資金は、自己資金の活用を図りつつ金融機関からの長期借入及び社債により調達を行っています。
なお、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は7,573億円、社債、借入金及びリース負債残高は3,606億円です。社債、借入金及びリース負債の内訳は、短期借入金472億円、社債498億円、長期借入金1,170億円、リース負債1,464億円です。
三菱電機グループは、上記施策を着実に展開することにより、更なる企業価値の向上を目指します。
(5) 重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断
当社の連結財務諸表はIFRSに基づいて作成しています。これらの連結財務諸表の作成にあたって、経営者は、資産、負債、収益及び費用の金額に影響を及ぼす判断、見積り及び仮定を使用する必要があります。実際の業績は、これらの見積りとは異なる場合があります。当社の連結財務諸表の金額に重要な影響を与える可能性のある主要な会計上の見積り及び仮定は以下のとおりです。
①一定の期間にわたり履行義務を充足する契約における見積総費用
インフラ部門、ライフ部門及びビジネス・プラットフォーム部門における一定の要件を満たす特定の工事請負契約については、当該工事請負契約の当期末時点の進捗度に応じて収益を計上しています。進捗度は、当連結会計年度までの発生費用を工事完了までの見積総費用と比較することにより測定しています。
見積総費用は、契約ごとに当該工事請負契約の契約内容、要求仕様、技術面における新規開発要素の有無、過去の類似契約における発生原価実績などのさまざまな情報に基づいて算定しています。
工事請負契約は、契約仕様や作業内容が顧客の要求に基づき定められており契約内容の個別性が強く、また比較的長期にわたる契約が多いことから、作業工程の遅れ等による当初見積りに対する原価の増加や、新規開発技術を利用した工事遂行における当初想定していない事象の発生による原価の変動など、工事の進行途中の環境の変化によって、見積総費用が変動することがあります。
経営者は、四半期ごとに当四半期までの発生費用と事前の見積りとの比較や、その時点での工事の進捗状況等を踏まえた最新の情報に基づいて見直した工事請負契約の見積総費用を妥当なものと考えていますが、将来の状況の変化によって見積りと実績が乖離した場合は、三菱電機グループが認識する収益の金額に影響を与える可能性があります。
②引当金の認識及び測定
受注工事損失引当金は、インフラ部門、ライフ部門及びビジネス・プラットフォーム部門における工事請負契約において、当該工事の見積総費用が請負受注金額を超える可能性が高く、かつ予想される損失額を合理的に見積もることができる場合に、将来の損失見込額を引当金として計上しています。当連結会計年度末における受注工事損失引当金の残高は、42,477百万円です。
見積総費用は、契約ごとに当該工事請負契約の契約内容、要求仕様、技術面における新規開発要素の有無、過去の類似契約における発生原価実績などのさまざまな情報に基づいて算定しています。
工事請負契約は、契約仕様や作業内容が顧客の要求に基づき定められており契約内容の個別性が強く、また比較的長期にわたる契約が多いことから、作業工程の遅れ等による当初見積りに対する原価の増加や、新規開発技術を利用した工事遂行における当初想定していない事象の発生による原価の変動など、工事の進行途中の環境の変化によって、見積総費用が変動することがあります。
経営者は、四半期ごとに当四半期までの発生費用と事前の見積りとの比較や、その時点での工事の進捗状況等を踏まえた最新の情報に基づいて見直した将来工事損失見込額を妥当なものと考えていますが、将来の状況の変化によって見積りと実績が乖離した場合は、三菱電機グループの損益に影響を与える可能性があります。
製造上やその他の不具合に対し、製品の種類や販売地域及びその他の要因ごとに定められた期間又は一定の使用条件に応じて製品保証を行っており、期末日現在において将来の費用発生の可能性が高く、その金額を合理的に見積もることができる場合に、製品保証引当金を計上しています。将来の発生費用は、主に過去の無償工事実績及び補修費用に関する現状に基づいて見積っています。当連結会計年度末における製品保証引当金の残高は、73,926百万円です。
経営者は、発生費用の見積り額を妥当なものと考えていますが、将来の状況の変化によって見積りと実績が乖離した場合は、三菱電機グループの損益に影響を与える可能性があります。
③有形固定資産の回収可能価額
有形固定資産は、減損の兆候の有無を判断しており、減損の兆候が存在する場合は、減損テストを実施しています。
資産又は資金生成単位の見積回収可能価額は、使用価値と処分コスト控除後の公正価値のうちいずれか大きい方の金額としています。使用価値の算定における見積将来キャッシュ・フローは、貨幣の時間的価値及び当該資産に固有のリスクを反映した税引前割引率を用いて現在価値に割り引いています。資産又は資金生成単位の帳簿価額が見積回収可能価額を超過する場合には、当期の純損益において減損損失を認識しています。
経営者は、使用価値の算定における見積将来キャッシュ・フロー及び処分コスト控除後の公正価値の見積りはいずれも妥当なものと考えていますが、三菱電機グループのビジネスや前提条件の変化等によって見積りが変更となることにより資産又は資金生成単位の見積回収可能価額が変動し、結果として、将来において有形固定資産の減損損失の認識に影響を与える可能性があります。
これらの前提条件を用いた見積りは、合理的であると判断していますが、翌連結会計年度において、経済環境の変化等により、見直しが必要となった場合、減損損失の計上が必要となる可能性があります。
④のれん及び無形資産の回収可能価額
耐用年数を確定できる無形資産は、減損の兆候の有無を判断しており、減損の兆候が存在する場合は、減損テストを実施しています。のれん及び耐用年数を確定できない無形資産については少なくとも1年に一度、同時期に減損テストを実施しています。
重要なのれんはライフ部門に含まれる空調・家電事業及びビルシステム事業に配分されたのれんであり、減損テストの回収可能価額は、主として経営者が承認した今後5年度分の事業計画及び成長率を基礎としたキャッシュ・フローの見積り額を現在価値に割り引いた使用価値で算定しています。割引率は、税引前の加重平均資本コストを基に算定しており、当連結会計年度における割引率は、10.4%~12.9%です。成長率は、のれんが配分されている資金生成単位グループが属する市場の長期期待成長率を参考に算定しており、当連結会計年度における成長率は0.8%~2.0%です。
経営者は、事業計画や成長率を基礎としたキャッシュ・フローの見積り額や割引率は妥当なものと考えていますが、三菱電機グループのビジネスや前提条件の変化等によってキャッシュ・フローの見積り額や割引率が変更となることにより使用価値が変動し、結果として、将来においてのれん及び無形資産の減損損失の認識に影響を与える可能性があります。
⑤繰延税金資産の回収可能性
繰延税金資産は、将来減算一時差異、未使用の税務上の繰越欠損金及び繰越税額控除のうち、将来課税所得に対して利用できる可能性が高いものに限り認識しています。繰延税金資産は期末日に見直し、税務便益が実現する可能性が高くない場合は、繰延税金資産の計上額を減額しています。
三菱電機グループは繰延税金資産の実現可能性の評価にあたり、繰延税金資産の一部又は全部が実現する可能性が実現しない可能性より高いかどうかを考慮しています。繰延税金資産の実現は、最終的には将来減算一時差異、未使用の税務上の繰越欠損金及び繰越税額控除が減算可能な期間における将来課税所得によって決定されます。その評価にあたり、予定される繰延税金負債の戻入、予測される将来課税所得及び税務戦略を考慮しています。
経営者は、当連結会計年度末の認識可能と判断された繰延税金資産が実現する蓋然性は高いと考えていますが、繰延期間における将来の見積課税所得が減少した場合には、実現する可能性が高いと考えられる繰延税金資産は減少することとなります。
⑥確定給付制度債務の測定
三菱電機グループは、従業員を対象とする従業員非拠出制及び拠出制の確定給付型退職給付制度を採用しています。従業員の確定給付制度債務は、割引率、退職率、一時金選択率や死亡率など年金数理計算上の基礎率に基づき算定しています。確定給付制度債務の現在価値及び制度資産の公正価値の再測定による変動は、発生した期においてその他の包括利益として一括認識し、直ちに利益剰余金に振り替えています。
割引率は、将来の毎年度の給付支払見込日までの期間を基に割引期間を設定し、割引期間に対応した期末日時点の優良社債の市場利回りに基づき算定しており、当連結会計年度末の割引率は2.2%です。
経営者は、年金数理計算上の基礎率の算定は妥当なものと考えていますが、実績との差異又は基礎率自体の変更により、確定給付制度債務の金額に影響を与える可能性があります。
⑦金融商品の公正価値
三菱電機グループは、主に取引関係維持・強化を目的として保有している資本性金融商品をその他の包括利益を通じて公正価値で測定する金融資産に指定しています。このうち非上場株式及び出資金の公正価値については、投資先の純資産等に関する定量的な情報及び投資先の将来キャッシュ・フローに関する予想等を総合的に勘案して算定しています。
経営者は、公正価値の見積りは妥当なものと考えていますが、投資先の業績や将来キャッシュ・フロー等の見積りの前提条件が変動した場合は、三菱電機グループのその他の包括利益の金額に影響を与える可能性があります。
(1)技術供与契約
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契約会社名 |
相手方の名称 |
契約の内容 |
契約締結日 |
期限 |
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三菱電機㈱ (当社) |
Access Advance LLC |
動画圧縮技術規格必須特許実施 許諾(HEVC) |
2016. 5.23 |
許諾特許最終消滅日まで |
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〃 |
三菱電機コンシューマー・ プロダクツ(タイ)社 |
ルームエアコン・パッケージ エアコン製造技術使用許諾 |
1990. 6. 1 |
自動延長 |
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〃 |
三菱電機エア・コンディショニング・システムズ・ヨーロッパ社 |
空調機の製造技術使用許諾 |
2005.10. 1 |
自動延長 |
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〃 |
サイアム・コンプレッサー・ インダストリー社 |
空調用圧縮機の製造技術使用許諾 |
2002. 4. 1 |
自動延長 |
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〃 |
三菱電機(広州)圧縮機有限公司 |
空調用圧縮機の製造技術使用許諾 |
2011.12.28 |
自動延長 |
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〃 |
三菱電機自動化機器製造(常熟) 有限公司 |
サーボモーター製造技術使用許諾 |
2023. 1. 1 |
2033.12.31 |
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三菱電機ビルソリューションズ㈱ (連結子会社) |
三菱エレベータ・アジア社 |
昇降機の製造技術使用許諾 |
2022. 4. 1 |
自動延長 |
(注) 上記契約に基づく報償料は、売上に応じた金額を受領します。一部の契約については所定金額を受領します。
(2)株式譲渡契約
当社は、2024年6月18日付で、当社の連結子会社であった三菱電機ロジスティクス株式会社(現 MDロジス株式会社)の普通株式の一部(議決権に対する所有割合66.6%)をセイノーホールディングス株式会社に譲渡する株式譲渡契約を締結し、同年10月1日付で当該株式を譲渡しています。本譲渡により、MDロジス株式会社は当社の持分法適用会社となりました。本件の概要及び影響については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 7. 子会社に対する支配の喪失」に記載しています。
当社は、強みであるコンポーネント技術とデジタル技術の開発を通じ、基盤技術を深化させ、持続的な事業成長を牽引しています。デジタル基盤「Serendie」を活用し、得られるデータを基に新たな価値を創出するソリューションの提供を目指した研究開発を推進しています。
また、社会や事業に大きなインパクトを与えることを目指し、先見の明をもって開発するフォアサイトテクノロジーの開発に注力し、社会課題の根本的な解決を目指した新たな価値創出に挑戦します。さらに、パートナーとの共創により早期の社会実装を目指し、社会・環境を豊かにしながら事業を発展させる研究開発を推進し、サステナビリティの実現に貢献します。
当連結会計年度における三菱電機グループ全体の研究開発費の総額は
(1) インフラ
交通システム、ネットワークソリューション機器、発電機・電動機などの回転機、脱炭素に貢献する高効率な送変電機器や受配電機器、監視制御システム、電力情報システム、防衛関連システム、宇宙関連システム、及びこれらを組み合わせたソリューション(E&Fソリューション、モビリティソリューションなど)の開発を行っています。当該分野における研究開発費は
① スリットフレームホームドア
従来型のホームドアに代わる新型「スリットフレームホームドア」を開発し、出荷を開始しました。この新型ホームドアは、安全性を維持しつつ設置コストの削減やメンテナンスの効率化が期待でき、風圧影響を従来型から約40%軽減する構造です。また、従来型と互換性があり、設置工事の簡素化が可能です。今後も安全な駅ホームの実現を目指します。
② デジタル基盤「Serendie」を活用した鉄道向けデータ分析サービス
当社独自のデジタル基盤「Serendie」を活用し、鉄道事業におけるエネルギーの最適利用と鉄道アセットの最適配置・運用を支援する高度なデータ分析サービスを開始しました。これにより、鉄道車両のブレーキ時に発生する回生エネルギーの余剰電力を可視化し、地図上にマッピングして駅舎補助電源装置の最適配置場所を特定します。また、駅の混雑度、運行ダイヤ、運行状況に応じた鉄道アセット運用方法を提案します。この提案に基づき、鉄道事業者の設備導入や列車の省エネ運用を継続的に支援し、エネルギー運用の最適化に貢献します。
③ 受配電設備向けスマート保安サービス
受配電設備を遠隔監視し、取得したデータを活用することで保安業務を効率化する受配電設備向けスマート保安システムを開発し、高圧配電盤を対象にサービスを開始しました。受配電設備内に設置したカメラ及び各種センサーからデータを取得・解析することで、遠隔からの常時監視や異常兆候の抽出、劣化診断が可能となります。これにより保安業務の効率化が図られ、点検頻度の削減や事故の未然防止、さらには計画的かつ適切な頻度でのメンテナンス・更新が可能となり、将来的な電気保安人材不足の問題解決にも貢献します。
④ 72/84kV環境対応開閉装置
電力インフラ向け72/84kV環境対応開閉装置を開発しました。SF6ガスの代替として、真空バルブによる電流遮断及び高圧ドライエア絶縁方式を採用しました。1965年から製品化し遮断性能に優れた当社製の真空バルブと、地球温暖化係数がゼロである自然由来のドライエアを絶縁媒体として採用したことで、環境負荷の低減と保守作業の効率化に貢献します。
⑤ 先進レーダ衛星「だいち4号」による初観測画像を取得
当社が宇宙航空研究開発機構(JAXA)から受注し、2024年7月1日に打ち上げられた先進レーダ衛星「だいち4号」に搭載されているフェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ*1の電波発射試験において初観測画像を取得したことを確認しました。だいち4号はレーダで地球を観測する衛星で、高精度かつ広範囲の地表観測画像の直接伝送*2により短時間で地上局へ伝送が可能です。これらの情報は、地殻・地盤変動の監視、火山活動や地盤沈下、地滑り等の異変の早期発見、森林資源の管理等に活用されます。今後も衛星の開発・製造に携わるとともに、衛星データ利用を通じて社会課題の解決や豊かな社会の構築に貢献します。
(2) インダストリー・モビリティ
FAシステム、サーボモーターなどの駆動機器、配電制御機器、メカトロ機器、産業用ロボット、電動パワーステアリングなどの自動車用電装品、予防安全(自動運転)システム、ADAS*3などの競争力強化に向けた開発を行っています。当該分野における研究開発費は
① 三菱電機リニアトラックシステム「MTR-Sシリーズ」
搬送システムで国内初*4となる曲線型のリニアトラックシステム「MTR-Sシリーズ」を開発しました。食品包装装置、電子部品組立・製造装置、電池製造装置等、幅広い業界をターゲットとし、当社がこれまで培ってきたFA駆動機器製品の多軸制御技術や設計資産をリニアトラックシステムに応用しています。自由なラインレイアウト、高速高精度な位置決め、長寿命化、簡単プログラミングを実現し、従来のベルト/チェーン駆動のコンベヤーと比べて、生産効率の改善に貢献します。
② カメラを用いた非接触生体センシングによる体調異常検知技術
ドライバーの体調異常を検知するため、カメラ映像から生体情報を推定する技術を開発しました。従来の姿勢崩れ検知に加え、リアルタイムでのデータ解析により、脈拍数や血圧の変化を非接触で検知することで、ドライバーの体調に基づいて適切な運転支援が可能になります。この技術により、交通事故の予防と安全な社会の実現に貢献します。
(3) ライフ
昇降機、ビル管理システム、空調機器、調理家電、家事家電、照明機器、電材住設機器などの開発を行っています。当該分野における研究開発費は
① 複数種類・複数台のサービスロボットを統合管理
スマートシティ・ビルIoTプラットフォーム「Ville-feuille(ヴィルフィーユ)」を活用した「ロボット移動支援サービス」の新機能として、「ロボット管制」と「ロボット統合監視」を開発しました。「ロボット管制」によって、ビル内におけるロボット同士の衝突や膠着を回避しロボットの稼働効率を向上させ、「ロボット統合監視」により、ビル管理者が複数のロボットを一元的に監視可能とすることで、ビル内におけるロボットの安全・安心かつ効率的な運用による省人化に貢献します。
② マルチエリア空調「Good Share!」
ルームエアコン霧ヶ峰と送風ファン、スマートスイッチ、環境センサーをクラウド*5で連携させ、室内の温度や湿度、運転状況、気象情報*6を活用してリビングの快適な空気を非居室に送風するシステムを開発しました。これにより、電気ヒーター使用時と比較して消費電力量を約33%削減*7し、高気密・高断熱住宅の特性を活かして日射熱などの自然エネルギーを活用することで消費電力量を約84%削減*7しました。これらの高い省エネ性が評価され、2024年度省エネ大賞を受賞しました。「Good Share!」は省エネ性と快適性を両立し、生活の質向上とカーボンニュートラルの実現に貢献します。
③ ルームエアコン「霧ヶ峰 Z シリーズ」(2025 年度モデル)
人の気持ちを測って空気を整える世界初*8の空調「emoco-tech(エモコテック)*9」をさらに進化させ、快適な体感温度を維持しつつ無駄な空調を抑制することで消費電力を抑える*10運転制御技術を開発しました。また、安定運転時に湿度がこもりやすい高気密・高断熱住宅においても、室内機ファン制御の最適化により湿度を効果的に除去することで、快適性を向上するとともに消費電力を抑制*11します。2027年度の省エネ基準を目標年度に先んじて全容量帯で達成し高い省エネ性を実現しました。これらの高い省エネ性や快適性の改善が評価され、2023年度に続き2024年度省エネ大賞を受賞しました。これからも快適性と省エネ性を両立する高度な技術開発によりカーボンニュートラルの実現に貢献します。
(4) ビジネス・プラットフォーム
デジタル変革を牽引する情報技術などの開発を行っています。当該分野における研究開発費は
① 生成AIを活用した薬剤師向け新アシスタントサービス
薬学データベース、患者の属性情報、処方実績、指導履歴などをもとに、生成AIが患者ごとに最適な服薬指導のポイントを提案するアシスタントサービスを開発しました。薬剤師は提案されたポイントを参考に患者と対話することで、的確な服薬指導が可能になります。本サービスにより、服薬指導のさらなる信頼性の向上に貢献します。
(5) セミコンダクター・デバイス
様々な事業分野を支える半導体デバイスなどの開発を行っています。当該分野における研究開発費は
① xEV*12用SiC*13-MOSFET*14チップ
電動車(xEV)のインバーターに適したキーデバイスとして、「xEV用SiC-MOSFETチップ」を開発しました。当社独自構造を採用したトレンチ型*15SiC-MOSFETにより、従来製品*16と比較して電力損失を約50%低減することで、航続距離の延伸と電費改善に寄与し、さらに、当社独自のゲート酸化膜製法などの製造プロセス技術によって、長期使用時の品質の安定性も実現しました。これにより、高性能なxEVの普及を促し、脱炭素社会の実現に貢献します。
② 800Gbps*17/1.6Tbps*18光ファイバー通信用200Gbps pin-PD*19チップ
データセンター向け光トランシーバーに高速・大容量通信が求められている中、送信用光デバイスでは次世代の通信速度に対応する製品が市場投入されているのに対し、受信用光デバイスにおいては性能を満たす製品が少ないことから、「800Gbps/1.6Tbps光ファイバー通信用200Gbps pin-PDチップ」を新たに開発しました。送信用光デバイスと合わせ、飛躍的に増加しているデータセンター内通信の高速・大容量化に貢献します。
③ 産業用LV100タイプ1.2kV IGBT*20モジュール
再生可能エネルギー用電源システムに適したキーデバイスとして、「産業用LV100タイプ1.2kV IGBTモジュール」を開発しました。第8世代IGBTを搭載し、従来製品と比較して、電力損失を約15%低減*21することで、省エネに貢献し、さらに、従来製品と同一パッケージでのチップ配置最適化によって従来製品比1.5倍*22の定格電流1,800Aを実現しました。これにより、再生可能エネルギー用電源システムの大出力化と省エネ化を加速させ、脱炭素社会の実現に貢献します。
(6) その他・共通(新技術・基盤技術)
社会課題解決、新たな価値の創出・提供に向け、新技術・基盤技術の研究開発を推進しています。当該分野における研究開発費は
① UI開発の効率化と品質向上を実現する「Serendie Design System」
当社独自のデジタル基盤「Serendie」を活用し、UI開発の効率化と品質向上を実現するデザインシステム「Serendie Design System」を開発しました。多様な事業領域の知見を集約した豊富なデザインパーツと、デザインツール「FigmaⓇ*23」及び「ReactⓇ*24」の連携によって、UI開発におけるデザインから実装へのスムーズな移行の実現及び、高品質で統一感のあるUIの簡単な構築を実現しました。今後、社内外での利用を促進し、共創によるデジタルトランスフォーメーション(DX)の加速に貢献します。
② プラスチック高度選別実証機の運用開始
ダイサン・株式会社と共同でプラスチック高度選別実証機を開発し、運用を開始しました。三菱電機グループが保有する高度選別技術の一つである「静電選別技術」を活用し、実環境に近い条件下で廃プラスチック選別の実証を行っています。今後は本実証機を活用し、多様な業界・分野における廃プラスチック選別の実証、課題解決に取り組み、循環型社会の実現に貢献します。
③ スマート静電選別技術の開発、検証実験を開始
プラスチックリサイクル技術のさらなる発展のために、混合プラスチック片の構成比変化に応じて種類ごとに自動選別できるスマート静電選別技術を世界で初めて*25開発し、検証機を製作しました。本検証機を用いて、専門知識やオペレーションノウハウがなくても自動で高純度に選別できる技術の検証を進め、高度選別技術の導入拡大を通じ、プラスチックリサイクル率の向上に貢献します。
④ 多言語での円滑なコミュニケーションを実現する「翻訳サイネージ」
外国籍従業員が増加する生産現場のコミュニケーション課題を解決し、作業の安全性や品質改善、働きやすい職場環境を実現するアプリケーション「翻訳サイネージ」を開発しました。日本語で作成した原稿を多言語に翻訳し、工場の朝礼などで説明者の話すスピードに合わせて同時表示します。これにより外国籍従業員はその日の作業内容や注意事項を母国語で理解でき、作業品質や安全性の確保、モチベーションの向上に寄与します。
⑤ 小型サブナノ秒パルス深紫外レーザー装置
国立研究開発法人理化学研究所、自然科学研究機構分子科学研究所と共同で、世界最高クラス*26の出力を持つ小型サブナノ秒パルス深紫外レーザー装置を開発しました。短パルスのマイクロチップレーザーと分布面冷却技術を採用することで、世界最高クラスの235ミリジュールの深紫外出力を常温で実現し、装置の小型化を達成しました。新材料や新薬の開発、粒子線がん治療などの先進技術開発をより身近なものにし、ウェルビーイングやカーボンニュートラル、安心・安全、サーキュラーエコノミーなどの社会課題の解決に貢献します。
⑥ 世界初*27、水を主成分とする世界最高の蓄熱密度をもつ蓄熱材
国立大学法人東京科学大学と共同で、世界で初めて水を主成分とする世界最高の蓄熱密度を持つ蓄熱材を開発しました。水を主成分とした新しい感温性*28の高分子ゲル*29を利用することで、60℃以下の低い蓄熱温度において世界最高の蓄熱密度*30(562kJ/L)を実現しました。今後、蓄熱温度範囲の拡大に取り組み、未利用熱の有効利用を推進することで、カーボンニュートラル社会の実現に貢献します。
⑦ AIの動作を短時間で漏れなく検証する技術
決定木アンサンブルモデル*31を対象とした「AIの動作を短時間で漏れなく検証する技術」を開発しました。AIに入力するデータの範囲を再帰的に分割して検証することで、網羅検証における従来の手法と比べて数十~数百倍高速*32に検証できることを確認しました。AIの誤動作リスクを低減し、安心してAIを利用できる社会の実現に貢献します。
⑧ モデルベース開発を活用した工作機械の機構-制御設計プロセス革新
レーザー加工機などの工作機械の設計リードタイムを短縮する設計プロセス技術を開発しました。三次元構造モデルと数値制御モデルを連成するモデルベース開発により、設計上流段階での高精度な性能予測が可能となり開発期間の短縮に効果があります。これにより、生産性向上と最新工作機械の迅速な市場投入に貢献します。
⑨ 三菱電機グループの持続的なものづくりを支えるAIソリューション群
ものづくり業務へのAI活用を推進するため、現場での実用化を目指したコア技術の性能向上、前後処理や学習データのクレンジングによる精度向上などの技術開発を行いました。これによりマシンラーニング、ディープラーニングなどの「データ駆動型AI」、数理最適化や統計モデルベース最適化などの「数理探索型AI」、生成AIを始めとする自然言語処理やデータ関連付けを行うオントロジーなどの「論理知識型AI」等のAIソリューション群を、製造現場やDCM*33/ECM*34/SCM*35領域の業務へ活用する事が可能です。今後も最新技術の活用と持続的な改善を進め、生産性や業務品質の向上に貢献します。
⑩ 電気自動車用インバーターの熱解析手法
三次元モデルを用いたインバーターの熱解析アルゴリズムを開発しました。計算に手間を要する電流と損失密度分布を解析で求め、さらに熱解析と同時に連成解析することで、解析確度を維持しながら解析計算時間を10時間から5分に短縮しました。これにより生産性向上と開発期間短縮に貢献します。
*1 電波を地球の表面に照射し、反射波の受信により地表面を観測するレーダ
*2 だいち4号が衛星から地上局への直接伝送速度3.6Gbpsを記録したことにより「最速の地球観測衛星から地上局への直接伝送」として「ギネス世界記録™」に認定。「ギネス世界記録」はGuinness World Records Limitedの登録商標です
*3 Advanced Driver Assistance Systemの略:先進運転支援システム
*4 2024年11月1日現在(当社調べ)
*5 当社独自のIoTライフソリューションプラットフォーム「Linova(リノバ)」を使用
*6 気象情報は、株式会社ウェザーニューズの気象データ提供・分析サービス「WxTechⓇ(ウェザーテック)」より取得。「WxTech」は株式会社ウェザーニューズの登録商標です
*7 株式会社建築環境ソリューションズのシミュレーションソフト AE-Sim/Heat の計算において、自立循環型住宅モデル一般型に準拠した間取りでのリビングにルームエアコン「霧ヶ峰 Z シリーズ」冷房能力 5.6kW クラス(MSZ ZW5622S、消費電力は住宅に関する省エネルギー基準に準拠したプログラムにおけるエネルギー消費効率の区分「い」として計算)を配置し、送風ファン(V-20ZMVR3、消費電力 46W)を使ってリビングより玄関、廊下、脱衣所に送風するシステム(Good Share!)と、脱衣室に電気ヒーター(WD-240DK2、ヒーター定格出力2.2kW)を配置、Good Share!がリビングから非居室に送風する熱量と同一熱量を、電気ヒーターによって玄関、廊下、脱衣所に投入したと仮定した場合の暖房期間の消費電力量比較。外気は2023年度の東京、ルームエアコンは設定温度 20℃で IBECs(一般財団法人住宅・建築 SDGs 推進センター)の設定する生活スケジュール(平日)に準拠して運転し、送風ファンはルームエアコン運転開始から15分後に送風開始した。ルームエアコン運転中の暖房消費電力量を比較した場合、ルームエアコン+送風ファン(Good Share!):698kWh、ルームエアコン+電気ヒーター:1037kWh。ルームエアコン停止時に日射熱を利用した時の暖房消費電力量を比較した場合、Good Share!:15.9kWh、電気ヒーター:96.2kWh
*8 2023年2月17日現在(当社調べ)
*9 Emotion Conditioning Technologyを略した当社造語
*10 冷房安定運転時には7.0%、暖房安定運転時には3.1%の消費電力を削減(「A.I.自動」設定時。Zシリーズ4.0kWクラスにおいて当社独自の表現にて評価)
*11 冷房安定運転時において11.4%の消費電力を削減(「冷房」・風速「自動」設定時。Zシリーズ4.0kWクラスにおいて当社独自の表現にて評価)
*12 電動自動車の総称。バッテリー電気自動車(BEV)、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCEV)などが該当
*13 Silicon Carbideの略:炭化ケイ素
*14 Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistorの略:金属酸化膜半導体製の電界効果トランジスタ
*15 ウエハの表面から溝(トレンチ)を掘り、ゲート電極を埋め込んだ構造
*16 ウエハの表面(プレーナー)にゲート電極を設けた構造
*17 Giga-bits per secondの略:1秒間に10億個のデジタル符号を伝送する通信速度
*18 Tera-bits per secondの略:1秒間に1兆個のデジタル符号を伝送する通信速度
*19 pin接合を有するフォトダイオード
*20 Insulated Gate Bipolar Transistorの略:高耐圧絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ
*21 従来製品CM1200DW-24T(第7世代IGBT搭載)との比較。3 level A-NPC、Vcc=750V、Io=920Arms、M=0.65、PF=1、Fc=2.5kHz、fo=50Hz 条件での当社シミュレーション結果を基に算出
*22 従来製品CM1200DW-24Tとの比較
*23 「Figma」はFIGMA, INC.の登録商標です
*24 「React」はMeta Platforms, Inc.の登録商標です
*25 2025年2月19日現在(当社調べ)
*26 2024年11月26日現在、サブナノ秒パルス深紫外波長レーザーにおいて(当社調べ)
*27 2024年11月14日現在(当社調べ)
*28 物質や生物が温度の変化に反応する性質
*29 高分子同士を鎖(架橋)で繋いだ高分子の網目構造体に水などの溶媒を閉じ込めたゼリー状の材料で、固体と液体の中間物質
*30 同じ体積中に蓄熱できる熱量
*31 データを条件に基づいて分割して予測を行うモデルである決定木を複数組み合わせて予測精度を向上させるAIの手法
*32 2025年2月26日現在(当社調べ)
*33 Demand Chain Managementの略
*34 Engineering Chain Managementの略
*35 Supply Chain Managementの略