第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 ここでは、(1)経営方針、(2)長期ビジョン「Shaping The Future 2030」(2022~2030年度)、(3)「SF2030」における中期経営計画(SF 1st Stage)の変更、(4)構造改革プログラム「NEXT2025」で構成しています。

 

 なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

また、文中における「営業利益」は、「売上高」から「売上原価」、「販売費及び一般管理費」および「試験研究開発費」 を控除したものを表示しています。

 

(1) 経営方針

①当社グループの企業理念

 当社グループでは、1959年に創業者・立石一真が、社憲「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」を制定しました。その後、社憲の精神を企業理念へと進化させ、時代に合わせて改定しながら受け継ぎ、事業発展の原動力また求心力として数々のイノベーションを生み出し、社会の発展と人々の生活の向上に貢献してきました。この企業理念を社員一人ひとりが実践することで、事業を通じた社会的課題の解決を目指しています。このためには、世界中の社員の誰もが企業理念の考え方を理解し、行動することが重要であり、現在、グローバルレベルで企業理念の実践を強化しています。

 なお、今後も企業理念を実践し、社会の発展と企業価値の向上に努めていく当社の経営の根幹は普遍であることを明確にするために、第85期定時株主総会(2022年6月23日開催)にて同企業理念を定款に記載する旨の議案を上程し、株主様の賛成を得て定款の一部を変更しました。

 

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②当社グループの存在意義

 当社グループの存在意義は、企業理念の実践そのものです。即ち、「事業を通じて社会価値を創出し、社会の発展に貢献し続けること」に他なりません。社会価値を創出し、正しく利益を得る、再投資するというサイクルを回すことで社会的課題の解決を拡大再生産できる仕組みを構築することが重要と考えています。

 

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③企業理念に基づく経営のスタンス

 当社グループでは、すべてのステークホルダーに対して、事業を通じて企業理念を実践していくための経営の姿勢や考え方を示すものとして、「経営のスタンス」を宣言しています。それらを「長期ビジョン」「オムロングループ マネジメントポリシー」「ステークホルダーエンゲージメント」の各方針に体系化し、実践しています。

 

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 また、この「経営のスタンス」は、企業の永続的な成長を目指すものであるため、当社グループの「サステナビリティ方針」としても同内容を掲げています。

(サステナビリティ目標値については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2) 長期ビジョン「Shaping The Future 2030」(2022~2030年度)③「SF2030」サステナビリティ重要課題」に記載しています。)

 

 

(2) 長期ビジョン「Shaping The Future 2030」(2022~2030年度)

 当社グループでは、2022年度から2030年度までの長期ビジョン「Shaping The Future 2030」、(略称:「SF2030」)を掲げています。社会が変革期を迎える中、存在意義を発揮し、より多くの社会的課題の解決を通じて社会の発展に貢献し続けるため、自らの変革と新たな価値創造のストーリーを定めたものです。

 

①「SF2030」ビジョンステートメント

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 「SF2030」には、「オムロングループ全社員が企業理念を実践し、センシング&コントロール+Think技術で、持続可能な社会をステークホルダーとともにつくっていく」という思いを込めています。

 

②オムロンが創出する社会価値

 社会価値の創出に向けて、オムロンは、社会に与えるインパクトが大きく、オムロンの強みであるオートメーションと顧客資産や事業資産を活かす観点から、3つの社会的課題「カーボンニュートラルの実現への貢献」、「デジタル化社会の実現への貢献」、「健康寿命の延伸への貢献」を設定しました。

 カーボンニュートラルの実現を通じて地球温暖化問題へ取り組み、安心・安全・便利な暮らしと自然環境の両立を実現するエネルギーシステム作りに貢献します。

 デジタル化社会の実現においては、年齢や貧富の差に関わらず、必要な情報を必要な人が得ることができる状態を作ることが求められています。オムロンは、誰もがその恩恵にあずかることができるデジタル化社会の実現を通じて格差社会から生まれる問題の解決に取り組み、人々があらゆる制約から解放され、楽しく創造的でかつ、持続可能な社会を実現するものづくりやインフラ作りに貢献します。

 また、高齢化が進む社会において、健康寿命を延ばすことは、個人はもちろん、家族が幸せな生活を送るためにとても重要なことです。加えて、医療費の抑制といった観点からも重要です。オムロンは健康寿命の延伸のためにあらゆる人が健康で豊かな自立した人生を送るためのヘルスケアシステムを構築することで高齢化社会における問題の解決に真正面から取り組んでいきます。

 

<オムロンが捉える社会的課題と創出する社会価値>

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 これらの3つの社会的課題の解決による社会インパクトを最大化するために、「SF2030」より、グループのドメインを見直し、改めて4つのドメインを設定するとともに同領域での社会価値を定めました。インダストリアルオートメーションでは、「持続可能な社会を支えるモノづくりの高度化」への貢献を目指します。ヘルスケアソリューションでは、「循環器疾患の“ゼロイベント”」への貢献を目指します。ソーシャルソリューションでは、「再生可能エネルギーの普及・効率的利用とデジタル社会のインフラ持続性」への貢献を目指します。デバイス&モジュールソリューションでは、「新エネルギーと高速通信の普及」への貢献を目指します。

 

<4つのドメインが創出する社会価値>

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インダストリアルオートメーション

 インダストリアルオートメーションでは「持続可能な社会を支えるモノづくりの高度化」へ貢献します。これまでオムロンは、i-Automation!で、お客様との共創を通じてアプリケーションを創出し、様々な業界のモノづくりの技術革新や人手不足の解消、生産性の向上を実現させてきました。これからは、i-Automation!をさらに進化させ、生産性とエネルギー効率の最大化による地球環境との共存や、人の可能性を最大発揮できる製造現場の構築や業務プロセスの改善やエンジニアリング領域の業務効率向上を通じて作業者の働きがいも両立させるサステナブルな未来を支える製造現場を構築していきます。

 

ヘルスケアソリューション

 ヘルスケアソリューションでは、「循環器疾患の“ゼロイベント”」へ貢献します。これまでオムロンは、医療品質の家庭用デバイスをグローバルに普及させ、家庭で計測した血圧データを用いた診断・治療プロセスをつくり、脳・心血管イベント発症の予防に貢献してきました。これからは、イベント発症を未然に防ぐ、新しい予防医療の仕組みを構築することで、誰もが自然と健康に暮らすことのできる社会、質の高い医療を誰もがどこでも受けられる社会の実現を目指していきます。その社会に向けて、日常生活下でバイタルデータが測定できるデバイスの創出、医師の診断・治療の意思決定を支援するアルゴリズムを用いた遠隔診療サービスの導入や、新しい予防医療サービスの開発を実現します。

 

ソーシャルソリューション

 ソーシャルソリューションでは、「再生可能エネルギーの普及・効率的利用とデジタル社会のインフラ持続性」への貢献を目指します。オムロンはこれまで、太陽光発電や蓄電池の普及に貢献してきました。これからは、進化したエネルギー制御技術で発電の不安定さを解消し、再生可能エネルギーのさらなる普及に貢献します。また、社会インフラ領域においては、様々な機器、施設の運用現場を熟知し、日本全国を網羅するサービス網を通じ、運用・保守を支えてきました。これからは、現場システムの効率的な運用を支援するマネジメント&サービスで、運用・保守プロセスを革新していきます。

 

デバイス&モジュールソリューション

 デバイス&モジュールソリューションでは、「新エネルギーと高速通信の普及」に貢献します。オムロンはこれまで、電気を繋ぐ・切る技術で、高い性能と品質を持つリレーやスイッチを顧客の製品に組み込み、グローバルに広く提供してきました。これからは、環境負荷の低いエネルギーの導入によりあらゆる機器が直流化します。この変化を踏まえて、オムロンは、放電を安全に制御する技術や故障タイミングを事前に検知する技術で、火災や感電を防ぎ、機器の安全性を高めるデバイスを創出します。また、高速通信の普及では、耐ノイズ性能を高める技術と、これまで培った微細加工技術を用いた量産化により、「途切れない接続」を可能とする高周波対応デバイスを創出します。

 

③「SF2030」におけるサステナビリティ重要課題

 「SF2030」では、①企業理念と存在意義②2030年とさらにその先の社会からのバックキャスティング③環境や社会の持続可能性に貢献するための企業への要請の観点から、外部有識者との対話から得た示唆を踏まえて、経営レベルで議論を重ねて5つのサステナビリティ重要課題を設定しました。これらの課題に取り組むことで、社会価値と経済価値の両方を創出し、企業価値の最大化を目指します。

 

<「SF2030」におけるサステナビリティ重要課題>

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  (注) 1 Scope1・2:自社領域から直接的・間接的に排出される温室効果ガス

          2 Scope3 カテゴリー11:Scope3は自社のバリューチェーンからの温室効果ガスの排出。そのうち、カテゴリー11は製造・販売

          した製品・サービス等の使用に伴う排出。

 

※「SF2030オムロンの進化の方向性」など、「SF2030」の詳細は、弊社ウェブサイトに掲載しています。

 特設サイト:https://www.omron.com/jp/ja/sf2030/

 

※サステナビリティ重要課題特定プロセスの詳細は、ウェブサイトをご覧ください。

https://www.omron.com/jp/ja/sustainability/omron_csr/sustainability_management/

 

 

(3)「SF2030」における中期経営計画(SF 1st Stage)の変更

 当社グループでは、2022年度から2024年度を中期経営計画(以下SF 1st Stage)とし、「SF2030」ビジョン達成に向け、社会的課題を捉えた価値創造と持続的成長への転換を加速する“トランスフォーメーション加速期”と位置付け、社会構造の変化に伴う成長機会を掴み、これまで培った競争力を発揮することにより力強い成長を実現することを目指しました。しかしながら、2023年度は、中国経済の成長鈍化やサプライチェーンの混乱など、事業環境が想定以上に悪化したことに加え、当社グループの成長を牽引する事業やエリアが一部に偏っていたことで、この急激な変化に対応できず、業績が大幅に悪化しました。

 このような状況を受け、当社グループは、当初2024年度までとしていた中期経営計画(SF 1st Stage)を取り下げ、2024年4月1日~2025年9月末までを「構造改革期間」とし、構造改革プログラム「NEXT2025」を実行することとしました。

 なお、次期中期経営計画(SF 2nd Stage)は2026年度~2030年度を予定しています。

 

 

<中期経営計画の変更>

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(4) 構造改革プログラム「NEXT2025」の進捗と将来の成長に向けた取組み

 2024年4月1日~2025年9月末までを実行期間とした構造改革プログラム「NEXT2025」(以下、「NEXT2025」)においては、収益を伴った持続的な売上成長を確かなものとし、持続的な企業価値向上を実現すべく「制御機器事業の早急な立て直し」と「収益・成長基盤の再構築」の2つの経営課題に取り組み、次の5つの経営施策を実行しています。

 

各経営施策の具体的な取組み状況は以下のとおりです。

 

<「NEXT2025」経営施策の進捗>

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・データソリューション事業の役割と、JMDC社との協業の進展

 これまでオムロングループは、生産現場や社会インフラ、一般消費者など多様な顧客に商品を提供し、商品(モノ)が備える機能を通じて顧客の課題解決に貢献してきました。近年、社会課題は複雑さを増しています。それに伴い、顧客が直面する課題も解決が一層難しくなっています。オムロンは、商品が備える機能の提供にとどまらず、商品の利用を通じた課題解決(コト)を新たな価値として提供しています。顧客の課題を知り、深く理解する情報源がデータであり、データに基づいて解決策(ソリューション)を創出すること、それがデータソリューション事業の役割です。

 JMDC社との資本業務提携以来、この新しい価値提供モデルはヘルスケアにとどまらず、ソーシアルソリューション、インダストリアルオートメーション領域にも広がり、JMDC社との協業は着実に進展しています。

 

<JMDC社との協業の進捗>

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 ヘルスケアソリューションでは、血圧計や心電計などの家庭用健康機器と、医療用データおよび先進的なデータサイエンス技術を組み合わせることで、疾患予防に資するソリューションの高度化を進めています。また、「健康経営アライアンス」では、オムロンの産業界での影響力を背景に、健康経営の普及や労働寿命の延伸に向けた取り組みが支持を集め、JMDC社の顧客拡大にもつながっています。

 ソーシアルソリューションの「スマートマネジメント&サービス事業」では、店舗や事業所の現場を可視化することで人手不足や運営コスト高騰といった課題への対応策を開発しています。

 また、カーボンニュートラルソリューションは、ソーシアルソリューションに加えて、インダストリアルオートメーションの事業ドメインを含んだテーマです。製造業が求められる温室効果ガスの削減といった非財務的な取り組みを、事業価値で表すことで、経営判断に資する情報提供を行っています。

 

オムロンとJMDC社の協業については下記コンテンツもご覧ください。

 

スペシャル対談コンテンツ:オムロン×JMDC進化に向けて

(2024年9月時点の情報です)

 

https://www.omron.com/jp/ja/integrated_report/movie/movie_2024_01/

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループは、創業以来、事業を通じて社会価値を創出し、社会の発展に貢献することで成長を実現してきました。その発展の原動力になってきたのが、社憲、「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」であり、その精神には企業の公器性と、先駆けてイノベーションを創出し、よりよい社会を実現する想いが込められています。当社グループにおけるサステナビリティとは、企業理念を実践することです。

現在進めている長期ビジョン「SF2030」においては、5つのサステナビリティ重要課題を①企業理念と存在意義

②2030年とさらにその先の社会からのバックキャスティング③環境や社会の持続可能性に貢献するための企業への要請の3つの観点から検討し、社内での議論と外部有識者との対話から得た示唆を踏まえて、経営レベルで議論を経て特定しました。

 ここでは、(1)オムロンのサステナビリティの考え方及び取組みとしてサステナビリティの全体像と、当社の5つのサステナビリティ重要課題のうち、3つの重要課題を取り上げ、それぞれ「①ガバナンス」「②戦略」「③リスク管理」「④指標と目標」の項目で記載します。

 

<サステナビリティの考え方及び取組みの記載事項>

サステナビリティの全体像

(1)オムロンのサステナビリティの考え方及び取組み

3つの重要課題

(2)人的資本に関する取組み

(3)環境(気候変動)に関する取組み

(4)人権に関する取組み

 

 

(1)オムロンのサステナビリティの考え方及び取組み

①ガバナンス

 当社グループでは、サステナビリティの取組みをグローバルで実行すべく、全社マネジメント構造を確立しています。執行機関において、「サステナビリティ推進委員会」を設置し、重要課題の取組み状況は定期的に執行会議へ報告し、進捗状況や課題に対する議論を行っています。さらに、サステナビリティに関する取り組みは、定期的に取締役会に報告し、当社グループ全体でのさらなるガバナンスの強化を図っています。

 

なお、2017年度から2024年度の役員報酬の中長期業績連動報酬(株式報酬)の評価に、DJSI(注)の調査に基づくサステナビリティ評価を組み入れています。さらに、オムロンのサステナブルな成長に寄与するKPIとして「温室効果ガス排出量の削減」「社員に対するエンゲージメントサーベイにおけるスコア」を、2020年度の役員報酬制度の改訂において新たに追加しました。

第三者機関のサステナビリティ評価を採用することで公正性・透明性を高め、サステナビリティ方針・目標・KPI・進捗状況をウェブサイトなどで開示することで、ステークホルダーとの対話を強化し、取組みの進化に活かしています。

 役員報酬制度の詳細については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (4)役員の報酬等①役員報酬等の内容」をご覧ください。

 

(注)DJSI:米国S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社のESGに関する株価指数で、「ガバナンス&経済」「環境」「社会」の3つの側面から企業の持続可能性(サステナビリティ)を評価するもの

 

<サステナビリティのマネジメント体制>

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(注)「サステナビリティ推進委員会」は、注力ドメインおよび本社機能部門、各種委員会(企業倫理リスクマネジメント委員会、

 情報開示実行委員会、グループ環境委員会など)におけるサステナビリティに関わる重要課題を特定し、全社的に統括しています。

 

 

②戦略

当社グループの存在意義は「事業を通じて社会価値を創出し、社会の発展に貢献し続けること」です。これ を実現していくために、オムロンが注力すべきサステナビリティ重要課題を特定し、長期ビジョン「SF2030」に組み込んでいます。「SF2030」では、事業とサステナビリティを統合し、社会価値と経済価値の両方を創出することで企業価値の最大化を目指しています。「SF2030」におけるサステナビリティ重要課題と目標の詳細は「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載しています。

 

<SF2030におけるサステナビリティ重要課題・目標とサステナビリティ取組み>

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  (注) 1 Scope1・2:自社領域から直接的・間接的に排出される温室効果ガス

          2 Scope3 カテゴリー11:Scope3は自社のバリューチェーンからの温室効果ガスの排出。そのうち、カテゴリー11は

製造・販売した製品・サービス等の使用に伴う排出。

 

2024年度は、「NEXT2025」の実行により中期経営計画を取り下げ、単年度の取り組みとして実行してきました。人的資本、環境(気候変動)、人権について、主にサステナビリティに関連して取り組んだ内容は、次のとおりです。

 

 

<2024年度のサステナビリティの主な取組み一覧>

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(注)1 J-クレジット:環境価値 (CO2を排出しない効果)を国が認証する制度。

       2 自己託送:自家発電設備を保有する事業者が当該設備を用いて発電した電力を、一般送配電事業者の送電網を介して遠隔地にある自社工場や事業所などに送電・供給し、電力を使用することが可能となる電力供給制度。

       3 CFP:カーボンフットプリント。製品・サービスの原材料調達から廃棄、リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通した温室効果ガス排出量を、CO2排出量に換算した値。

 

③リスク管理

 「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載しています。

 

 

④指標及び目標

 当社グループでは「SF2030」を達成するために5つのサステナビリティ重要課題それぞれに2030年度の目標と単年度の目標を掲げ取組みを推進しています。また、財務目標と事業戦略とサステナビリティを融合させた11項目からなる非財務目標も設定しています。「NEXT2025」の期間(2024年4月1日~2025年9月末)においては、単年度の目標を設定し、取り組みを継続しています。

 

<SF2030におけるサステナビリティ重要課題の目標と進捗>

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(注)1 「NEXT2025」の期間中は、取り下げを行っている目標。

   2 エンゲージメントサーベイ「VOICE」は2年に一度実施しており、2022年度の調査結果を2023年度の実績として記載。

 

 

 

(2)人的資本に関する取組み

①ガバナンス

当社グループでは、2024年度の取締役会運営方針の重点テーマとして、長期ビジョンSF2030の実現と構造改革(NEXT2025)完遂の進捗をモニタリングしています。

 

取締役会での長期ビジョンSF2030の実現と構造改革(NEXT2025)の完遂の進捗についての議論の詳細については、以下の「2024年度取締役会実効性評価結果」をご参照ください。

https://www.omron.com/jp/ja/assets/img/sustainability/governance/corporate_governance/chart/20250602_governance_effectiveness_j.pdf

 

 人財戦略は今後の経営の要という認識のもと、主に「企業理念の浸透・共鳴の輪の拡大」、「リーダー育成と登用」、「全社員にとっての魅力的な会社づくり・企業文化の醸成」のさらなる実行を狙いとし、CHRO(最高人事責任者)のもと、人的資本の取組みを推進しています。

 

②戦略

「SF2030」人財戦略ビジョン

 「SF2030」の目標である事業を通じた社会価値創出の原動力は、社員一人ひとりです。会社と社員が「選び・選ばれ」、「ともに成長する」新たな関係を構築していくことを前提に、企業理念の実践を通じて、社会的課題の解決を志す、スペシャリティを備えた多様な人財が集い、一人ひとりが主体性を持って能力を発揮する集団であり続けられる人財戦略をグローバルに実行していきます。

 

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構造改革期間における取組みの進捗

 事業環境の激しい変化の中でも、SF2030のビジョンを実現するためには、一人ひとりが主体的に動き、持続的に成長していく強い組織をつくる必要があると考えています。そのため、当社グループでは、人員・人件費構造の最適化、人財の能力転換に取り組みました。

 

主な取組み

・人員・人件費構造の最適化

 顧客価値の拡大を実現し、収益を伴った成長を実現していくために、グローバルで人員・人件費構造の最適化に取り組みました。結果として、グローバル合計で2,526名(国内1,206名、海外1,320名)の人財が新たなキャリア実現に向けて、退職または、退職に合意しました。

 

・人財の能力転換

-成長を加速させるリーダーシップの質の変革(ピープルマネジメントの強化)

 経営層(執行役員・マネージャー)が、多様な人財の能力を引き出し、新しい顧客価値を創出するため、パフォーマンスマネジメントとピープルマネジメントを両立できるマネジメント能力の強化に取り組んでいます。パフォーマンスマネジメントでは、顧客価値創造に向けてチームとして成果を出すことに拘っています。ピープルマネジメントでは、納得感を得るストーリーテリング、フラットなコミュニケーション、一人ひとりの力を引き出すエンパワーメントの3つのスキルに重点を置き、経営層の適性を確認し、適所適財を推進する仕組みを導入しています。

 リーダーシップの質の変革に向けた仕組みは次のとおりです。まず、トップメッセージやマネージャー同士の対話により、あるべきマネジメントの姿について理解を深め、ピープルマネジメントの基本スキルを、トレーニングを通じて習得します。次に、上司との1on1によって個々の改善点を確認しながら行動変容に取り組み、その実践度合いについて、部下や同僚からのフィードバックサーベイを受けて可視化します。そして、人財開発会議において、マネージャーの配置や個々のマネジメントスキルの啓発計画を決定し、組織全体のマネジメント能力の強化に繋げていきます。今後は、経営層が自らピープルマネジメントスキルを高め、社員の持続的な成長を加速するため、リーダーシップの質の変革を進めていきます。

 

 

 

<リーダーシップの質の変革に向けた仕組み>

 

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-主体性を生む組織カルチャーへの変革(VOICEの進化と組織課題解決に向けたアクションの推進)

 当社グループでは、変化の速い事業環境下においても持続的に成長していくために、社員一人ひとりが主体的貢献意欲を持ち、能力を発揮できる組織づくり、カルチャーが重要であると考えています。その実現に向けて、2024年度は、社員のエンゲージメントサーベイ(VOICE)を進化させました。これまでは、全社共通の課題に着目してきましたが、今後は、全社課題に加え、より現場で起きている課題を把握し、社員が機動的、自律的にアクションを実行していきます。そのため、これまで2年に一度行っていたVOICEを毎年実施することにしたうえで、組織ごとに異なるエンゲージメント課題やその要因を具体的に把握できる設問に変更しました。そして、調査結果を全社員に共有し、組織ごとに異なる課題や強みについて対話するエンゲージメントワークショップを開催し、マネージャーとメンバーが共に主体となって納得感がある組織開発に取り組んでいます。

 2025年1月に実施した最新のVOICEでは、当社グループ全体のエンゲージメントスコア(注1)は63ポイントでした。今後は、VOICEの進化を通じて実行性を高めた組織課題へのアクションをハイサイクルに実施していくことで、エンゲージメントを向上し、主体性を生む組織カルチャーへの変革を加速していきます。

 

(注1)エンゲージメントサーベイ(VOICE)は2025年1月実施分から調査内容と指標を変更していますが、2024年度目標と実績は、経年比較のために、過去の算出方法に換算したスコアを掲載しています

 

<VOICEの主な進化>

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③リスク管理

 第2 事業の状況 3 事業等のリスク (3)グループ重要リスクとその分析⑨人財・労務」に記載しております。

 

④指標と目標

 2024年度に取り組んだ構造改革期間における主な取組みの目標と進捗は以下のとおりです。

 

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(注)1 国内の部下あり経営基幹職に対する2025年3月末時点の参加率

   2 エンゲージメントサーベイ(VOICE)は2025年1月実施分から調査内容と指標を変更していますが、2024年度目標と実績は、経年比較のために、過去の算出方法に換算したスコアを掲載しています

 

(参考)健康経営の進化

 当社は、2017年に「オムロン健康経営宣言」を制定し、会社の発展にとっても欠かせない社員の将来にわたる健康リスクの軽減を目指して社員の健康づくりを全社的に推進してきました。そして今、全社を挙げて「NEXT2025」に注力しているなか、社員の主体性を引き出し、生産性を向上させていくための基盤強化の重要性が高まっており、オムロンの健康経営の取り組みは、「健康づくり」から、「一人ひとりが能力を発揮し続ける基盤づくり」へと進化しています。

 2023年にはオムロンの健康経営を人的資本経営の取り組みとして位置づけ、健康経営のKGIとして、「アブセンティーイズム」と「プレゼンティーイズム」を設定しました。社員一人ひとりの健康データ、人事データ、労働環境に関するデータなどを多角的に分析しながら改善に取り組んでいます。また、2024年には、これまで課題であった「健康経営と人的資本に関する指標の結びつき」を可視化するために「オムロン健康経営の逆ツリー」を作成しました。健康経営の取り組みの実効性を高めるだけでなく、戦略とストーリーを明確にするシナリオマップとしての役割も果たしています。

 

<オムロン健康経営の逆ツリー>

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 さらに、当社グループの株式会社JMDCが保有する医療データと、当社が保有するバイタル・活動データ等を組み合わせて解析することで、パーソナライズされた健康増進・重症化予防ソリューションの構築に取り組んでいます。なかでも、同社がレセプトデータおよび健診データの匿名加工データから社員の生活習慣病リスクを類型化し作成した「健康課題マップ」は、オムロンの健康経営においても、社員の健康に関するハイリスク層を視覚化し、重点施策の検討に効果を発揮しています。

 これからも、健康経営の実践を通じて企業の持続的な成長と社会的課題の解決に挑戦する社員のパフォーマンスを最大化していきます。

 

※健康経営の取組み詳細については下記をご参照ください。

https://www.omron.com/jp/ja/sustainability/social/wellness-management/

 

 

(3)環境(気候変動)に関する取組み

 当社グループは、環境分野において持続可能な社会をつくることが企業理念にある「よりよい社会をつくる」ことと捉え、気候変動や資源循環といった地球規模の社会的課題に向けて積極的に取り組んでいます。特に「温室効果ガス排出量の削減」「循環経済への移行」「自然との共生」を取り組むべき重要な環境課題と捉えて、実効性の担保と仕組みの構築により、持続可能な社会づくりへ貢献し、企業価値の向上に努めています。

 

 

①ガバナンス

・オムロン環境方針

 SF2030におけるサステナビリティ重要課題、「事業を通じた社会的課題の解決」「脱炭素・環境負荷低減の実現」を推進し、目標達成するための重要な指針として、2022年3月1日にオムロン環境方針を改定しました。この方針で、取り組むべき重要な環境課題と行動指針を定めたうえで、脱炭素・環境負荷低減に取り組みます。今後、オムロンは、本方針に基づき、バリューチェーン全体での環境課題解決に取り組み、ステークホルダーの期待に応えることで企業価値の向上につなげていきます。

 

※オムロン環境方針は下記をご参照ください。

https://www.omron.com/jp/ja/sustainability/environ/management/vision/

 

・気候変動に関する取締役会の役割・監視体制

 当社グループでは、取締役会が監視・監督責任を果たし、経営と執行が一体となって環境課題に取り組んでいます。具体的には、社長CEOから権限委譲された各執行部門長がそれぞれ責任を持って気候変動や循環経済をはじめとする環境課題への対応を推進しています。取り組みの進捗状況や重要な事項については、社長CEOが取締役会に報告し、取締役会が意思決定を行い、執行に対して監視・監督するガバナンス体制を構築しています。

 さらに、環境の取り組みを含むサステナビリティガバナンスを一層強化することを目的とし、2023年度からは環境担当の取締役およびサステナビリティ推進担当役員を設置し、サステナビリティ推進担当役員を委員長とする「サステナビリティ推進委員会」を開催しています。この委員会では、グループ共通の環境施策や環境法規制への対応などを審議しています。また、全社の取組みを強化するため、「サステナビリティ推進委員会」の傘下に、「環境プロジェクト」を設置し、重要課題の事業実装に向けた議論や年度計画の進捗モニタリングを行っています。

 

<全社サステナビリティマネジメントと環境プロジェクト>

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<サステナビリティ推進委員会(環境関連テーマ)の概要>

組織

メンバー

議題

開催頻度

サステナビリティ推進

委員会

(環境関連テーマ)

・環境担当取締役

・サステナビリティ担当執行役員

・ビジネスカンパニー企画長、他

・環境評価制度

・CFP取組み進捗

・環境関連法規制

・次年度計画 など

原則四半期開催

 

 

 

②戦略

 オムロンは、2030年までにバリューチェーンにおける温室効果ガス排出量の削減と資源循環モデルの構築を通じて、社会的課題を解決すると共に、更なる競争優位性が構築されている状態を目指しています。具体的な取組みは以下の表で示しています。

 

<環境(気候変動)に関する主な取組み>

取組み

戦略

温室効果ガス排出量の削減

(Scope1・2)(注1)

・徹底した省エネの推進と再生可能エネルギーを活用した使用電力のクリーン化

・自社のエネルギーソリューション事業が提供する再エネ由来の「J-クレジット」(注2)や「自己託送」(注3)などの活用

温室効果ガス排出量の削減

(Scope3カテゴリー11)(注1)

・バリューチェーン全体の温室効果ガス排出量の約7割を占めるScope3カテゴリー11の削減に向けて、各事業において、省エネ性の高い製品や小型・軽量化を実現した製品の開発を進めるとともに、当該製品群のラインアップ拡充を推進

環境評価制度

・サステナブルな経済の実現を目指し、製品をライフサイクルの視点から評価し、その環境パフォーマンスを可視化する仕組み。オムロンの環境への取り組みを促進し、顧客価値を高めることを目的とする

・EUタクソノミーに基づき、サステナブルな経済の実現に向けて解決すべき環境特性ごとに評価を行い 、すべての製品が環境に配慮した「環境配慮製品」であることを確認。さらに、特定の環境特性において優れた効果を示す製品を「環境貢献製品」と位置づけ、サステナブルな経済の実現に寄与する製品として定義

(注)1 Scope1・2:自社領域から直接的・間接的に排出される温室効果ガス。

     Scope3カテゴリー11:Scope3は自社のバリューチェーンからの温室効果ガスの排出。そのうち、カテゴリー11は製造・

     販売した製品・サービス等の使用に伴う排出。

   2 J-クレジット:環境価値 (CO2を排出しない効果)を国が認証する制度。

   3 自己託送:自家発電設備を保有する事業者が当該設備を用いて発電した電力を、一般送配電事業者の送電網を介して

  遠隔地にある自社工場や事業所などに送電・供給し、電力を使用することが可能となる電力供給制度。

 

 

 

 

 当社グループが認識する気候関連リスク及び、製品・サービス市場ごとの機会は以下のとおりです。

 

<当社グループの気候変動のリスク・機会の概要と対応>

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(注) リスクとして記載の物理リスクは、日本、中国を中心とする主要生産15拠点を対象として、ハザードマップ、AQUEDUCTを活用した分析を実施しました。100年に一度の災害が発生した際には、2拠点がリスクに晒されることが明らかになりましたが、再現期間を加味した年間影響額は1.5/2℃・4℃どちらのシナリオでも極めて小さいことから影響度は「小」としております。

 詳細は下記ウェブサイトをご確認ください。https://www.omron.com/jp/ja/sustainability/environ/climate_change/disclosures/

 

<気候変動シナリオの前提・影響の定義>

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(注)・リスクへの影響度として営業利益に対してプラスもしくはマイナスの影響を定義しております。

   ・影響度は、特定したリスク・機会へ対応した場合を記載しております。

 

 

③リスク管理

・気候変動に対するリスクを評価・識別・管理するプロセス

 当社グループは、各事業のシナリオ分析を実施し、気候変動影響による「移行リスク」「物理リスク」を網羅的に抽出しています。これらのリスクについては、採用シナリオごとに「顕在時期」「事業および財務への影響額」を可視化し、事業および財務への影響度を評価しています。

この評価を基に当社グループにとって重要な気候変動に伴うリスクを特定し、事業リスクの一環として全社リスクマネジメントに統合しています。また、対応策の立案にあたっての重要事項は、取締役会へ報告しています。

 

・全社リスクマネジメントへの統合状況

 当社グループは、グループ共通のフレームワークで統合リスクマネジメントの取組みを行っています。気候変動リスクについても当社グループにおける重要リスクと識別・評価し、シナリオ分析によるリスクと整合させ、バリューチェーン全体での取組みのモニタリングを行っています。

 

④指標と目標

・気候変動のリスク・機会に関する指標

 当社グループは、気候関連リスク・機会を管理するための指標として、Scope1・2・3の温室効果ガス排出量、および事業活動で使用する電力に占める再生可能エネルギーに関する指標を定めています。

 

・温室効果ガス排出量に関する目標及び実績(Scope1・2・3)

 当社グループは、環境分野において持続可能な社会をつくることを企業理念にある「よりよい社会をつくる」ことと捉えています。2018年7月には、2050年にScope1・2について温室効果ガス排出量ゼロを目指す「オムロン カーボンゼロ」を設定しました。また、サステナビリティ重要課題の一つに「脱炭素・環境負荷低減の実現」を特定し、目標を掲げてその進捗をモニタリングしています。

なお、温室効果ガス排出目標Scope1・2におよびScope3カテゴリー11についてはSBTイニシアチブ(注1)よりそれぞれ「1.5℃」目標及び「2℃」目標の認定を受けています。

 

<温室効果ガス排出量に関する目標及び実績(Scope 1・2・3)>

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 目標達成に向けて、エネルギー効率の改善を継続して進めるとともに、自社のエネルギーソリューション事業が提供する再エネ由来のJ-クレジットや自己託送などを活用することで、2024年度にScope2について当社グループの国内拠点のカーボンゼロ(注2)を達成しました。

 

(注)1 SBTイニシアチブ(Science Based Targets イニシアチブ):科学的根拠に基づいた温室効果ガス削減の中長期目標設定を 推奨している国際的イニシアチブ。

2 生産11拠点、非生産(本社・研究開発・販売)64拠点における自社の電力使用により排出される温室効果ガス排出量(Scope2)が対象。

3 温室効果ガス排出量(Scope1・2)の2024年度の実績は、オムロンコーポレートサイトに掲載し、第三者機関による限定的保証業務により第三者保証を受ける予定です。当該限定的保証業務は、いずれも国際監査・保証基準審議会の国際保証業務基準(ISAE)3000「過去財務情報の監査又はレビュー以外の保証業務」に準拠した業務です。

4 2030年目標値については、「SBTi基準」(SBTi criteria)に基づき2027年までに目標を見直す予定。

 

 

(参考)自然との共生(生物多様性の保全)への取組み

 当社グループでは、生態系の保全と回復を大きな課題として認識しており、2010年に「生物多様性方針」を制定し、「オムロン環境方針」で定めた取り組むべき重要な環境課題である「自然との共生」に取り組んできました。本取り組みをより強化していくため、2022年12月に策定された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の自然との共生、ネイチャーポジティブの考え方に賛同するとともに、2024年7月に本方針を改定しました。本方針の改定にあたっては、自然資本に関するリスクと機会の開示フレームワークであるTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)等を参照しています。今後、当社グループは「生物多様性方針」を基に、生物多様性の保全を、事業のリスク管理と成長の機会と捉えて取り組むことで、社会・経済価値の創出に貢献し、ネイチャーポジティブの実現に努めます。

 

<オムロンの生物多様性方針>

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<オムロンの生物多様性の取組み>

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(4)人権に関する取組み

 当社グループが大切にする価値観のひとつとして、企業理念の中で「人間性の尊重」を掲げています。私たちが考える人間性の尊重とは、人の多様性、人格、個性の尊重はもとより、人間らしい暮らしや仕事を追求するという私たちのすべての活動の根底にある価値観です。

 私たちは、この人権責任を果たすことは持続可能な社会づくりに貢献し、持続的な企業価値の向上につながる重要な取り組みであると考えています。そのため、長期ビジョン「SF2030」においては、「バリューチェーンにおける人権の尊重」をサステナビリティ重要課題と定め、人権への取り組みを加速しています。

 

 

①ガバナンス

・人権方針

 「SF2030」のサステナビリティ重要課題のひとつである「バリューチェーンにおける人権の尊重」を実現するため、2022年3月1日にオムロン人権方針を制定しました。国際社会と協調した経営や行動に努め、バリューチェーン全体で人権侵害リスクの低減に取り組んでいます。

 

※オムロン人権方針については下記をご参照ください。

https://www.omron.com/jp/ja/sustainability/social/human-rights/

 

 

・人権推進体制

 当社グループは、経営と現場が一体となってグローバルで人権尊重責任を遂行する体制の構築に取り組んでいます。具体的には、社長CEOから権限委譲されたサステナビリティ推進担当役員の責任のもと、グローバルコーポレートコミュニケーション&エンゲージメント本部が中心となって取組みを推進しています。各領域においては、以下のように責任者が設定されています。自社領域はグローバル人財総務本部長、サプライチェーン領域はグローバル購買・品質・物流本部長、事業戦略領域は各ビジネスカンパニー長、AIを含むテクノロジーの倫理的な活用については技術・知財本部長、救済メカニズムについてはグローバルリスクマネジメント・法務本部長がそれぞれ責任を持って対応しています。

 人権尊重へのコミットメントを果たす上で重要な事項については取締役会に報告され、取締役会が監視・監督を行います。また、2023年度からは人権担当の取締役を設置し、ガバナンスの強化を図っています。サステナビリティ推進担当役員を委員長とする「サステナビリティ推進委員会」は、グループ共通の人権施策や人権関連法規制への対応などを審議しています。さらに、全社の取組みを強化するため、「サステナビリティ推進委員会」の傘下に、「人権プロジェクト」を設置し、重要課題の事業実装に向けた議論や、年度計画の進捗モニタリングを行っています。

 

<全社サステナビリティマネジメントと人権プロジェクト>

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<サステナビリティ推進委員会(人権関連テーマ)の概要>

組織

メンバー

議題

開催頻度

サステナビリティ推進

委員会

(人権関連テーマ)

・人権担当取締役

・サステナビリティ担当執行役員

・本社機能部門長、他

・人権デューディリジェンス進捗

・人権救済メカニズム運用拡大

・次年度計画 など

原則四半期開催

・人権尊重の取組みの全体像

 「オムロン人権方針」をグローバル社員に周知・浸透させるとともに、国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGP)に沿って、人権への負の影響を特定・防止・軽減・是正する人権デューディリジェンスの実行と人権救済メカニズムの構築をすることで、グローバルにおける人権ガバナンスを構築しています。またステークホルダーとのエンゲージメントを通じて、各取組みの実効性を高めています。

 

<人権尊重の取組みの全体像>

 

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②戦略

 当社は、2022年度にUNGPに基づいたグループ全体での人権影響評価を実施し、バリューチェーン全体において、自らの事業活動を通じて引き起こす、または加担する可能性のある人権侵害リスクの評価・特定を行いました。この評価を通じて特定した19課題のうち、以下の図のとおり、「リスクの重要度」と「事業への関連性」の2軸からマッピング・優先順位付けを行い抽出した、優先的に取り組む7つの課題(顕著な人権課題)を中心に各責任部門が対応を進めています。

 

<特定した人権課題のマッピング>

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<優先的に取り組む7つの課題>

課題区分

領域

優先的に取り組む7つの課題

(顕著な人権課題)

戦略

人権デューディリジェンス

自社領域

・労働環境

・労働安全衛生

・全従業員に対してオムロン人権方針と国際基準に基づく人権課題に関する研修を実施するほか、RBA(注1)のSAQ(自己評価質問書)を活用した自社生産拠点の人権侵害リスクの評価と是正措置を行っています。

・これらに加え、人権侵害発生リスクが高い拠点や対象に絞った取り組みとして、第三者監査の実施や業務委託先会社への人権研修の展開・内部通報制度の周知、日本国内の生産拠点の構内委託会社で雇用される技能実習生の雇用状況に関する確認等を進めています。

サプライチェーン領域

・労働基準

・強制、奴隷、債務労働

・児童労働

・仕入先にセルフチェックシートを配布し「オムロングループサステナブル調達ガイドライン」の遵守状況を確認し、改善を求めています。

・取引金額や重要度などの観点で選定した重要仕入先については毎年、それ以外の仕入先については少なくとも3年に1回アセスメントを実施しています。

・加えて、人権侵害リスクの高い国や属性の仕入先への深掘調査を実施するなど、階層別のリスク評価と是正を進めています。

製品・サービス領域

・テクノロジーの倫理的

 な活用

・2024年6月にオムロンAI方針を策定しました。

・これに基づき、AI活用に起因する事故や人権侵害等のリスクを最小化するとともに、既存のリスクマネジメント体制と連携したAIガバナンス委員会を運用し、オムロンの提供する製品・サービスを通じた人権侵害の発生の防止を目指しています。

救済

バリューチェーン全体

・苦情処理メカニズムと

 救済へのアクセス

・各国・地域に適した人権救済メカニズムの構築を目指しています。

・具体的には、地域ごとに当社従業員に加え構内委託先様及び仕入先が使用できる内部通報窓口を設置しています。

・また地域社会や直接取引のない二次以降の仕入先を含めたあらゆるステークホルダーの利用できる非司法的な苦情処理プラットフォームを活用しています。

(注1)RBA:Responsible Business Allianceの略。電子業界を中心とするグローバルなCSRアライアンス。

 

 なお、自社領域・サプライチェーン領域においては、RBAの求める基準を軸に取組みを進めています。

 

③リスク管理

・リスクを評価・識別・管理するプロセス

 ②戦略に記載した人権影響評価を米国NPO団体のBSR(Business for Social Responsibility)と共同で実施しました。はじめに国際規範や業界・ステークホルダーの動向調査と、海外地域統括本社を含む全社15部門に対する社内インタビュー調査を行いました。次に、国際人権基準を踏まえ人権課題を網羅的に抽出した後に、それらの中から電機電子業界特有の課題を絞り込みました。さらに当社グループのバリューチェーンにおいて権利保有者に影響を及ぼす可能性のある課題を19個特定しました。最後に「リスクの重要度」と「事業への関連性」の2軸からマッピング・優先順位付けを行い、優先的に取り組む7つの課題(顕著な人権課題)を特定しました。

※特定した人権課題マッピングは②戦略に記載

 

・全社リスクマネジメントへの統合状況

 当社グループは、リスクを全社的に管理する体制を構築することが重要であることを踏まえ、グループ共通のフレームワークで統合リスクマネジメントの取組みを行っています。人権リスクをグループ重要リスクと識別・評価し、人権影響評価で抽出された課題を踏まえて、定期的にモニタリングを行っています。

 

 

④指標と目標

 2024年度の主な実績は以下のとおりです。

 

 

<2024年度の主な実績>

課題区分

領域

2024年度の主な実績

人権デューディリジェンス

自社領域

・日本、中国、アジア・パシフィック、欧州、米州の主要な自社生産拠点に対するRBAのSAQの実施:22拠点

・RBA基準による第三者監査の実施と発見された課題の是正:1拠点(マレーシア拠点)

・日本国内拠点の構内委託会社で雇用される外国人技能実習生の雇用環境調査:5拠点(いずれも強制労働

 リスクが無いことを確認)

サプライチェーン領域

・重要仕入先向けのセルフチェック:60社

・全仕入先向けのセルフチェック:389社

・人権侵害リスクが高いと想定されるエリアに生産拠点をもつ仕入先への詳細なセルフチェックや開示

 情報の確認、個別ヒアリング等
  中国:151社
  マレーシア:5社

製品・サービス領域

・「AI方針」公表

・AIガバナンス委員会の運用開始

救済

バリューチェーン全体

・救済メカニズムの利便性・信頼性向上に向けた運用改善

 

3【事業等のリスク】

(1) グローバルな事業活動を支える統合リスクマネジメント

 当社グループでは、統合リスクマネジメントというグループ共通のフレームワークでリスクマネジメントを行っています。経営・事業を取り巻く環境変化のスピードが上がり、不確実性が高くなる中で変化に迅速に対応するためには、リスクへの感度を上げ、リスクが顕在化する前に察知し、打ち手を講じていく必要があるためです。

 現場だけでは対処できない環境変化から生じる問題を、現場と経営が力を合わせて解決する活きたリスクマネジメントを目指し、グローバルでPDCAサイクルを回しながら、当活動の質の向上を図っています。

 「SF2030」を実現していくため、企業理念やルールを守りつつ、いかに効率的、効果的で迅速なリスク判断を現場ができる仕組みを構築するかという点も重要なテーマとして、取組みを進めています。

 

(2) 統合リスクマネジメントの仕組みと体制
 統合リスクマネジメントの枠組みは、内部統制システムの下、グローバルリスクマネジメント・法務本部長(GRL長)を推進責任者とし、オムロングループルール(OGR)(注1)「オムロン統合リスクマネジメントルール」にまとめ、グループ経営における位置づけを明確にしています。また、リスクマネージャを本社機能部門、ビジネスカンパニー、海外の地域統括、国内外の各グループ会社で任命し(約150名)、経営と現場が一体となってグローバルの活動を推進しています。

 

 主な活動は次の3点です。

・環境変化をタイムリーに把握して、関係者で共有し、適時に影響評価を行うこと

・定期的に、グローバルにリスクを分析して重要リスクを洗い出し、対策をとること

・リスクが顕在化し、危機が発生した場合は、即時に報告し危機対策を講じること

 

<企業倫理リスクマネジメント委員会体制>

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 取締役・監査役の参加・監督のもと、GRL長を委員長、主要なリスクマネージャを構成員とする企業倫理・リスクマネジメント委員会(原則年4回開催)においては、重要なリスクの発生状況、環境変化、リスク対策の状況について議論・共有するとともに、グループ全体のリスク評価を行っています。また、危機が発生した場合には、速やかに経営報告され、リスクのランクに応じて危機対策本部を通じて対応を行っています。

 これらリスクマネジメントの活動状況については、執行会議や取締役会への報告を通じ、継続的な評価・モニタリングが行われます。さらに、内部監査部門により、リスクマネジメント活動を中心としたテーマ監査が行われます。

 

<統合リスクマネジメントのサイクル>

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(注1)当社グループでは、公正かつ透明性の高い経営を実現する経営基盤として、グループ共通の「オムロングループルール(OGR)」を制定しています。OGRは、リスクマネジメントの他、会計・資金、人財、情報セキュリティ、品質保証等の主な機能に対し制定されています。環境変化等を適宜・適切にルールへ反映するため、毎年見直しを行っています。

 

(3) グループ重要リスクとその分析

 当社グループでは、「SF2030」において、「新たな社会・経済システムへの移行」に伴い生じる社会的課題を解決するため、事業ドメインにおける社会価値創出、事業とサステナビリティとの一体としての取組みを行っています。2024年4月1日から2025年9月末については構造改革期間とし、構造改革プログラム「NEXT2025」を実行中です。これらを遂行する中で対処すべき重要な要素を、リスクと捉えています。

 リスクのうち、当社グループを運営する上で、グループの存続を危うくするか、重大な社会的責任が生じうるリスク(Sランク)および重要なグループ目標の実現を阻害するリスク(Aランク)を「グループ重要リスク」に位置付け、これらを顕在化させることなく許容レベルにリスクを収めるため、環境変化や対策の実行状況をモニタリングしています。

 

・2024年度末時点のリスク評価

 2024年度末に実施した当社グループのリスク分析に基づくグループ重要リスクのテーマは下表の通りです。引き続き「NEXT2025」の実行に伴うリスク、事業スピードの加速や収益性の改善を図る中でのグループガバナンス・コンプライアンスリスク等については特に注視をしていきます。これらのリスクは、適切かつ充分な対策が取られなかった場合、長期ビジョン目標の実現、当社グループの経営成績および財務状況に影響を及ぼす可能性があるため、投資家の皆様の判断にも重要な影響を及ぼす可能性がある事項と考えています。ただし、すべてのリスクを網羅したものではなく、現時点では予見出来ない又は重要とみなされていないリスクの影響を将来的に受ける可能性があります。なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2025年6月23日)現在において当社グループが判断したものです。

 

<事業等のリスクの全体像>

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・グループ重要リスクへの対応

① 事業ポートフォリオ

リスク認識

中国経済の成長鈍化やサプライチェーンの混乱など経済環境が悪化、米国関税政策等を背景とし

た一時的な新規投資の減速や個人消費の減退など、今後もボラティリティが高い不透明な状況が続くことが見込まれます。

 当社グループにおいて、成長業界・エリアの需要拡大に的確に応えていく中、現在依存度の高い中華圏エリアや各事業で成長の牽引役となる事業・製品の事業環境が想定以上に悪化し、環境変化に対して適切な対策が十分に行われなかった場合、売上減少等の業績低迷や、収益を伴った持続的成長が実現しないリスクが発生する可能性があります。

体制・取組

「NEXT2025」のもと、成長事業・エリアへの優先投資や低収益事業の収益化、終息の検討などを

実行する等、業界・エリアポートフォリオの最適化に取り組みます。また、米国関税政策の影響に対しては、価格転嫁によるコスト増の吸収に加え、関税政策への耐性を備えたサプライチェーンを構築しリスクを最小化します。

 「NEXT2025」の詳細は、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (4) 構造改革プログラム「NEXT2025」の進捗と将来の成長に向けた取組み」をご参照ください。

 

② 品質

リスク認識

品質に対しては高い安全性や正確性の確保が求められ、AI利用や製品セキュリティ等の新たな技

術に対しても法規制の検討・制定が進んでいます。また、環境負荷低減や生物多様性の保全に対する社会的要請も高まっており、循環経済への移行に向け、欧州等グローバルで包装材の規制等が強化されています。

当社グループにおいて、高い信頼性が求められる多様な製品・サービスをグローバルに展開する中、適切な対策が十分に行われなかった場合、損失の発生や売上減少、ブランド価値の棄損につながる以下のようなリスクが発生する可能性があります。

・当社グループ製品の大規模リコール

・製品環境・安全・セキュリティ関連の法規制違反

・製品セキュリティの脆弱性に対するサイバー攻撃によりネットワーク製品・サービスの稼働停止

体制

社長を最高責任者とする品質保証体制を構築し、「品質第一」を基本とする「品質基本方針」の

もと、グローバル購買・品質・物流本部が推進しています。重大な品質問題が発生した場合は、取締役会の監督のもと、迅速かつ適切に対応を行っています。

・関連OGR:品質保証ルール、製品品質リスク管理ルール

取組

具体的には、以下を含む対策を推進しています。

・ISO9001等(ISO13485:医療機器産業、IATF16949:自動車産業)品質マネジメントシステム(QMS)の取得

・サービス事業に適合したQMSの適用展開

・安全リスクが高い技術(リチウムイオン電池、パワーデバイス等)に関する品質技術確立

・製品セキュリティ体制強化(外部からの脆弱性情報収集と対応(PSIRT)・セキュリティ監視活動等)

・製品環境、安全、セキュリティ関連の法規制・規格の動向の把握、影響評価を行う管理体制の強化

・品質相談窓口の設置・運用、品質コンプライアンス研修、現場品質点検の実施

[注力取組事例:現場品質点検]

 構造改革による人員数の最適化・リソース配分の見直しを進める中、品質・生産性への影響を早期かつ的確に捉えるため、現場品質点検を実施し、モニタリング体制を強化しています。

 

③ 会計・税務

リスク認識

企業のグローバル化や取引のボーダーレス化が加速し、会計基準や監査基準はますます複雑化・

高度化しています。また、各国間の協調・連携により国際課税ルールの整備が進む一方で、米国で展開される関税施策等に対し、各国は様々な反応を示しており、企業には、変化の激しい各国の租税法、関税法、移転価格税制への適時的確な対応が求められています。

 当社グループにおいて、モノづくりからデータを活用したソリューションビジネスへの進化、多様な新サービスや新事業のグローバル展開を加速する中、適切な対策が十分に行われなかった場合、決算修正や損失の計上、多額の追徴や和解金の支払い、ブランド価値の棄損につながる以下のようなリスクが発生する可能性があります。

・社内不正や会計基準に準拠しない不適切な会計処理の発生

・市況の悪化やシステム等への投資効果が十分でないことによる資産の貸倒や評価額の下落

・関税法や移転価格税制等に関する法規制違反

体制

財務報告に係る内部統制の基本的枠組み、取締役会で承認した「税務方針」(注1)のもと、グローバ

ル理財本部を中心に、会計・税務の適正性を担保するための体制・ルールを整備し、運用しています。

・関連OGR:会計・資金ルール、不正統制ルール、J-SOX推進ルール、関税・通関ルール

取組

具体的には、以下を含む対策を推進しています。

・内部統制の自主点検強化とリスク兆候への重点監査

・外部専門家等を活用した会計基準の定期的な情報収集と影響等の調査・対応

・OECDの各種報告書や新しい国際課税ルールの整備状況などを踏まえた国際税務に係る方針の見直し

・現地法人と連携した各国・地域における税制や当局の執行状況の変化への対応

・関税コンプライアンス体制およびモニタリングの強化

[注力取組事例:構造改革に伴う不適切な会計処理の防止]

 構造改革施策を進める中、経理体制のモニタリングや財務諸表・CAAT分析の強化を通じて、不適切な会計処理の未然防止に努めました。

  (注1)「税務方針」については下記をご参照ください。

    https://www.omron.com/jp/ja/sustainability/governance/tax/

 

④ IT・情報セキュリティ

リスク認識

社会課題の解決や企業の成長に向けたDXやデータ活用のためのデジタル投資が加速する中、サイ

バー攻撃等に対する情報資産保護やプライバシー保護の必要性が高まっています。また、AI等新たな情報技術についても規制の検討や導入が進んでいます。

 当社グループにおいて、「コーポレートシステムプロジェクト」をはじめとするIT投資やデータを活用した新たなサービスを拡大する中、適切な対策が十分に行われなかった場合、損失の発生や重大な行政罰、売上減少、ブランド価値の棄損につながる以下のようなリスクが発生する可能性があります。

・大規模なシステム障害

・サイバー攻撃や個人・技術情報の管理不全による情報漏洩、事業の停止

・各国データプライバシー規制違反

体制

基本方針として「情報セキュリティ基本方針」を制定し公表しています。施策については、統括

担当取締役の監督のもと、情報セキュリティ、製品セキュリティ、個人情報管理の領域ごとに、各本社機能本部長が執行責任者として統制・管理しています。各領域を横断する課題については、サイバーセキュリティ統括担当執行役員が議長となり、サイバーセキュリティ統括担当取締役が監督する「サイバーセキュリティ統合会議」を随時開催し、解決しています。さらに、経営レベルで推進の方向付けを行うために、社長を議長とする「情報セキュリティ戦略会議」にて優先課題と戦略を議論しています。実行面においては、サイバーセキュリティ統括担当役員を議長とし、各地域のIT責任者が参画する「情報セキュリティ推進会議」を通じて施策を推進・管理しています。また、個人データについては、グローバルリスクマネジメント・法務本部長の責任のもと、各国法令動向や当社グループの状況を把握し、法規制対応の強化を図っています。

・関連OGR:IT統制ルール・情報セキュリティルール

取組

具体的には、以下を含む対策を推進しています。

・グローバル標準のフレームワークであるNIST-CSF(注1)に準拠した評価と対策の強化

・外部専門機関を通じた包括的な脅威情報の収集とグループ内への対策の展開

・インシデント対応オフィス(CSIRT)による事故発生時の迅速な報告と被害最小化に向けた対応

・高リスクのサプライチェーンのセキュリティ確保のためリスク評価と対応の推進

・情報リテラシー向上のための社員教育

・サイバー攻撃訓練の実施

・Webサイトの脆弱性診断と改善の実行

・グローバルでの個人データ規制への対応体制構築

[注力取組事例:情報漏洩対策の強化]

 情報資産の価値が高まり、人材の流動化も進む中、パソコンやネットワークのログをモニタリング・分析し、懸念のある挙動に対して確認や調査を行う仕組みの導入を進め、情報漏洩リスクへの対策を強化しています。

  (注1)NIST-CSF:米国国立標準技術研究所(NIST)が2014年に発行したサイバーセキュリティフレームワーク(CST)。

    汎用的かつ体系的 なフレームワークで、米国だけでなく世界各国の公的機関や企業が準拠を進めている。

 

⑤ 地政学

リスク認識

世界のパワーバランスの多極化が進む中、米国による関税引上げ等の保護主義政策をはじめとす

る各国の政策動向、半導体・AI等の先端技術等の競争・保護政策の激化等は、グローバルの経済秩序や国際平和と経済安全保障をめぐる情勢の流動化を加速し、企業活動にも大きな影響を与えています。

当社グループにおいて、生産・販売拠点およびサプライヤー網をグローバルに展開し、またロボット等先端技術や経済安全保障政策にも関わる製品の開発等を進める中、適切な対策が十分に行われなかった場合、売上減少や戦略の見直し、重大な行政罰、ブランド価値の棄損につながる以下のようなリスクが発生する可能性があります。

・サプライチェーンの見直し等、各国経済安全保障政策への対応が遅れ、競争力が低下

・紛争発生に伴う製品供給の停止

・輸出規制や制裁への違反

体制

事業対応方針については、取締役会や執行会議等の経営会議体にて議論し、決定しています。法

規制対応については、各主管部門が統括し、例えば、輸出規制はグローバルリスクマネジメント・法務本部が輸出管理全社委員会のもと、グローバルに安全保障取引管理を行っています。

・関連OGR:統合リスクマネジメントルール、安全保障取引管理ルール

取組

具体的には、以下を含む対策を推進しています。

・地政学リスク影響を低減する中長期的な生産・研究開発等の体制検討と推進

・グローバルの政治・経済情勢や法規制動向のモニタリング、経済制裁等に対する影響分析と対応

[注力取組事例:安全保障取引管理の強化]

 各国の輸出規制や制裁が強化・複雑化する中、安全保障取引管理について取引管理体制のOGR改定を含む整備を行うとともに、主要グループ会社へ教育の強化を行い、グローバルでの体制強化を進めています。

 

⑥ 事業継続(自然災害等)

リスク認識

洪水・豪雨、巨大地震等の自然災害や感染症の発生により、社会が機能不全に陥る可能性がグロ

ーバルで継続しています。

当社グループにおいて、グローバルの様々な国や地域に存在する仕入先や生産拠点を有する中、予期できない災害等が発生し、適切な対策が十分に行われなかった場合、事業活動の一部停止や縮小等につながる以下のようなリスクが発生する可能性があります。

・ITインフラ等の大規模停止

・自社工場の生産停止

・重要仕入先からの長期にわたる部品供給停止

体制

人身の安全、社会インフラの維持、復興への全面協力等を定めた基本方針のもと、各ビジネスカ

ンパニーと本社機能部門とが連携し、生産、購買調達、物流、ITを含めた事業継続計画を整備しています。

・関連OGR:統合リスクマネジメントルール、購買ルール

取組

具体的には、以下を含む対策を推進しています。

・有事を想定したシミュレーション・訓練

・社員の安否確認システムの運用、リスクに応じた事業所での非常食や飲料水の備蓄対応

・仕入先の生産地情報の一元管理、代替え生産拠点の評価体制整備

・緊急時のエスカレーションルート・影響を把握する仕組みの整備

[注力取組事例:有事を想定したシミュレーション]

 南海トラフ地震等の被害想定が随時更新される中、重点拠点を中心に継続的に事業継続計画を見直すことで、危機発生時の対応体制を強化しています。

 

⑦ グループガバナンス・コンプライアンス

リスク認識

公正な取引をはじめとするコンプライアンスに対する社会的要請は高く、国際機関や各国政府に

よる反競争法的行為や贈収賄防止等に対する法規制の運用強化や、ITやAI等技術の進化やアライアンス等によるイノベーションの推進に対応した規制の検討等、事業環境は複雑化しています。日本では、サプライチェーン全体での価格転嫁等を促進する要請も高まっています。また、一部の新興国、地域においては法による統治機能が脆弱であったり、政情が不安定であることから、汚職や腐敗等が社会問題化する場合があります。

 当社グループにおいて、グローバルに新製品・サービスの開発や販売を加速する中、適切な対策が十分に行われ

なかった場合、重大な行政罰、ブランド価値の棄損につながる以下のようなリスクが発生する可能性があります。

・新規事業における業法違反、許認可取得に関する不備

・競争法、下請法等の公正な取引に関する法規制違反

・接待・贈答等の贈収賄に関する法規制違反

体制

企業倫理・コンプライアンスを含む内部統制システムの基本方針は、取締役会で議論し決定して

います。「オムロングループマネジメントポリシー」のもと、OGRに基づくグループ会社におけるガバナンス体制の構築と運用、企業倫理リスクマネジメント委員会による活動の展開を行っています。

・関連OGR:法人運営ルール、倫理行動ルール、内部監査ルール、購買ルール等

取組

具体的には、以下を含む対策を推進しています。

・各機能主管部門におけるグローバルでの牽制とモニタリング

・地域毎のリスクマネジメントにより、エリア特性に応じた重要リスクへの対応

・毎年10月のグローバル企業倫理月間等による定期的なコンプライアンス教育

・グローバル内部通報制度の運用

・リスクアプローチに基づく内部監査と改善指導

・購買統括部門における対象事業所に対するモニタリング・下請法研修

[注力取組事例:コンプライアンス教育]

 構造改革における大きな環境変化の中で起こり得るコンプライアンス問題をテーマとした教育を行うとともに、社員が安心して相談できるよう内部通報制度の再周知を行いました。

 

⑧ 人権

リスク認識

強制労働、児童労働、低賃金や未払い、長時間労働、安全や衛生が不十分な労働環境、ハラスメ

ント等の是正は社会課題となっており、人権への配慮は企業のビジネスライセンスとなっています。また、デューディリジェンスによるサプライチェーンの人権への負の影響の特定・防止・軽減・是正や人権侵害懸念国・地域からの輸入禁止等、人権の尊重を法規制で担保する取組みも進んでいます。さらに、AIの活用等技術革新による人権課題も生じており、各国でのAIに関する規制化も加速しています。

当社グループにおいて、中国・アジアを含むグローバルで事業を展開し、また、事業でのAI活用を推進する中、適切な対策が十分に行われなかった場合、取引停止・製品の開発中止や戦略の見直し、ブランド価値の棄損につながる以下のようなリスクが発生する可能性があります。

・ハラスメントの発生、労働基準違反、労働安全衛生問題の発生

・サプライチェーン上の人権課題の発生

・AIに関する規制への非準拠

体制

人権課題への対応については、取締役会決議により制定されたオムロン人権方針に基づいた活動

を行っています。具体的な執行体制としては、社長CEOから権限委譲されたサステナビリティ推進担当役員の責任のもと、グローバルコーポレートコミュニケーション&エンゲージメント本部が中心となって取組みを推進し、自社領域はグローバル人財総務本部長、サプライチェーン領域はグローバル購買・品質・物流本部長、事業戦略領域は各ビジネスカンパニー長、AIを含むテクノロジーの倫理的な活用については技術・知財本部長、救済メカニズムについてはグローバルリスクマネジメント・法務本部長がそれぞれ責任を持って対応しています。

・関連OGR:HRMルール、労働安全衛生管理ルール、購買ルール

取組

具体的には、企業の人権尊重責任を果たすために、国連「ビジネスと人権に関する指導原則

(UNGP)」に沿って、以下を含む対策を推進しています。

・RBA(注1)アセスメントツールを活用した人権リスク評価と課題の是正

・仕入先に対するサステナブル調達ガイドラインの提示・遵守状況確認

・AIに関する情報収集およびAIを事業で活用するための社内ルールの整備

・グローバルでの人権救済メカニズムの運用

[注力取組事例:AIガバナンス体制の構築]

 「オムロンAI方針」の策定、適切なAI使用の支援・リスク低減を図るAIガバナンス委員会の運用開始を通じて、AI活用に起因する事故や人権侵害等のリスクを最小限にした上で安全・安心なAI利用を推進しました。

  (注1)RBA:Responsible Business Allianceの略。電子業界を中心とするグローバルなCSRアライアンス。

 

 

⑨ 人財・労務

リスク認識

グローバルで人財の流動化が進むなか、IT人財をはじめ先端技術を保有する希少な人財の獲得競

争がこれまで以上に激化しています。また、世界的なインフレや人手不足を契機として、賃金水準はグローバルで上昇傾向にあります。このような環境においては、多様な人財から選ばれる人的資本経営を実行し、従業員のエンゲージメントを高めることが重要となります。

当社グループにおいて、SF2030人財戦略ビジョンに向けて、一人ひとりが主体性を持って能力を惜しみなく発揮し、持続的に成長していく強い組織づくりを進める中、適切な対策が十分に行われなかった場合、事業競争力の低下やブランド価値の棄損につながる以下のようなリスクが発生する可能性があります。

・事業成長のために必要なスキルや経験を持つ人財の流出や獲得の失敗

・従業員のエンゲージメント低下や労務トラブルの発生

体制

重要な人財戦略については、取締役会・執行会議にて議論し、決定しています。CHRO(最高人事責

任者)の下、グローバル人財総務本部が中心となり施策を実行しています。

・関連OGR:HRMルール

取組

具体的には、以下を含む対策を推進しています。

・多様な人財の獲得に向けた採用力の強化

・多様な人財の成長や働きがいを高めるためのマネージャーのスキル強化

・エンゲージメントサーベイ「VOICE」を通じた、組織課題への主体的な社員のアクションの促進

[注力取組事例:ピープルマネジメントスキルを自ら高めていくサイクルの定着と加速]

 経営層(執行役員・マネージャー)が、顧客への価値創造に向けて、多様な人財の能力と主体的な貢献意欲を引き出すピープルマネジメントスキルを高めていく仕組みを構築し、定着と活性化に取り組むことにより、リーダーシップの質の変革を進めています。

 

⑩ 環境

リスク認識

世界各地で異常気象による大規模な自然災害が多発しており、世界的に脱炭素に向けた取組みが

加速しています。また、生態系の破壊等は地球レベルでの社会課題となっています。これらの環境問題を受けて、欧州を中心に排出量取引制度の整備や森林破壊防止を求める取引のデューディリジェンス規制の制定等が進んでいます。また、企業の環境課題への取組みに対する開示要請は年々高まっており、内容の第三者保証を法規制化する動きも進んでいます。

 当社グループにおいて、サステナビリティ重要課題「脱炭素・環境負荷低減の実現」を設定し、企業としての社会的責任の実践と各事業での更なる競争優位性の構築を図る中、適切な対策が十分に行われなかった場合、戦略の見直し、ブランド価値の棄損につながる以下のようなリスクが発生する可能性があります。

・環境に関する新たな取引・開示規制への違反・対応コストの増加、顧客要請への不十分な対応

・販促活動においていわゆるグリーンウォッシングといわれる不適切な広告開示

体制

環境課題への対応については、取締役会決議により制定されたオムロン環境方針に基づいた活動

を行っています。

具体的な執行体制としては、社長CEOから権限委譲されたサステナビリティ推進担当役員の責任のもと、グローバルコーポレートコミュニケーション&エンゲージメント本部が中心となって取組みを推進し、自社領域はグローバル人財総務本部長、サプライチェーン領域はグローバル購買・品質・物流本部長、事業戦略領域は各ビジネスカンパニー長がそれぞれ責任を持って対応しています。

・関連OGR:環境経営ルール、購買ルール

取組

具体的には、以下を含む対策を推進しています。

・Scope1・2、Scope3カテゴリー11ごとに目標を設定した温室効果ガスの削減の加速

・回収・リサイクルの拡大、循環型の原材料調達等による循環経済への移行

・気候変動関連のリスク・機会に係る情報開示

・TNFD(注1)提言に沿った生物多様性保全活動の推進

[注力取組事例:環境評価制度を通じた製品ライフサイクル全体における環境パフォーマンスの可視化]

 製品をライフサイクルの視点から評価し、環境パフォーマンスを可視化する「環境評価制度」を導入しました。制度を通じて、全製品が環境に配慮した「環境配慮製品」であることを確認するとともに、特定の環境特性において優れた効果を示す「環境貢献製品」を特定し、製品付加価値の透明性・信頼性向上を図りました。

  (注1)TNFD:自然関連財務情報開示タスクフォース。自然資本等に関する企業のリスク管理と開示枠組みを構築するための国際的組織。

⑪ 知的財産

リスク認識

知的財産は企業における国際競争力の源泉として重要な経営資源となっており、企業や国家間で

知的財産を巡る競争が激化するとともに、スタートアップ企業との事業連携における公正取引上の課題も指摘されています。また、コロナ禍を契機とした電子商取引(EC)市場の急激な発展に伴い、正規品を騙った模倣品の流通が新興国を中心にグローバルで年々増加しています。

当社グループにおいて、共創によるイノベーションで新たな価値を生み出す新規事業を創造し、多様な製品をグローバルに展開する中、適切な対策が十分に行われなかった場合、損失の発生や売上減少、ブランド価値の棄損につながる以下のようなリスクが発生する可能性があります。

・当社グループの技術・ノウハウの流出やブランドの模倣

・特許等の侵害や不正使用に関する紛争の発生

・事業戦略に連動した知財活用が十分に行われず事業競争力を喪失

体制

技術・知財本部を主管として、基本方針に基づく知的財産活動を実行しています。また、知的財

産戦略については定期的に取締役会にて報告・議論されています。

・関連OGR:知的財産管理ルール

取組

具体的には、以下を含む対策を推進しています。

・IPランドスケープを活用して研究テーマの方向性決定や協業先選定の確度を高める取組み

・事業や研究開発と連動させた知的財産戦略を策定・実行し、強みのある知的財産権を蓄積

・研究開発および設計にあたっての第三者の知的財産権調査

・第三者の当社グループへの知的財産権の侵害に対する分析・評価と権利行使の強化

・オンライン取引も含む模倣品摘発活動、悪意を持った当社ブランド名と類似した商標権取得の阻止

 

⑫ M&A・投資

リスク認識

社会課題を解決する手段として、テクノロジーの進化が求められる中、技術力のある企業との協

業を通じたイノベーションの加速が期待されています。一方、経済安全保障政策による投資規制化等の動きもあります。

 当社グループにおいて、ポートフォリオマネジメントのもと、アライアンス、M&A、スタートアップとの共創に向けた投資等を推進する中、適切な対策が十分に行われなかった場合、損失の計上や戦略の見直しにつながる以下のようなリスクが発生する可能性があります。

・M&A・投資先の業績・評価の悪化や想定していたシナジー効果の未発揮、ガバナンス問題の発生

・海外投資規制への対応によるM&Aや出資審査の想定外の長期化

体制

M&A・投資の方針と実行は、投資規律のもと、経営ルールに定める責任権限に基づき取締役会等の

経営会議体にて議論・決定し、案件ごとに、ビジネスカンパニーと本社部門および外部専門家から構成されるプロジェクトチームにより推進しています。

・関連OGR:経営ルール

取組

具体的には、以下を含む対策を推進しています。

・事業戦略に基づいたM&A・投資候補の探索・評価

・対象企業の財務内容や契約内容の確認等の詳細な事前審査・デューディリジェンス

・取締役会における、買収や出資後の経済効果の具体的目標進捗のレビュー(少なくとも年に1回)

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

(1) 事業環境、経営成績等の状況・分析・検討

①当社グループの経営成績の実績及び見通し

<2024年度実績>

 当期(2024年度)における当社グループの業績は、売上高は前期比で減収となりましたが、営業利益は増益となりました。売上高は、社会システム事業が前期比で増加したものの、制御機器事業や電子部品事業において設備投資需要が総じて低調に推移したこと、ヘルスケア事業の中国市場における需要が減少した影響が大きく、加えて制御機器事業においては、前年上期の売上高が受注残に支えられていたこともあり、全体としては前期比で減少しました。

 営業利益については、売上総利益率が前期比で改善したことに加え、2024年2月26日に発表した「NEXT2025」の効果もあり収益性は着実に改善し、前期比57.4%の増益となりました。

 法人税等、持分法投資損益控除前当期純利益については、営業利益が増益となる一方、「NEXT2025」の経営施策のひとつである、人員数・能力の最適化に伴う一時的費用220億円を計上したことにより前期比で減少しました。なお、「その他収益-純額-」には、一時的費用および収益として計上した、データソリューション事業にかかるのれんの減損117億円、投資有価証券評価益123億円を含んでいます。

 当社株主に帰属する当期純利益については、構造改革を進める中でも、前期比100.7%と大幅な増益となりました。

 

<2025年度見通し>

 当社グループにおける次期(2025年度)の事業環境は、FA業界で依然、需要回復に力強さを欠くものの、各セグメントにおいて、顧客起点の取り組み強化による売上高拡大を図るとともに、当期(2025年3月期)から実行している「NEXT2025」による収益・成長基盤の再構築を完遂します。加えて、制御機器事業を中心に、中長期的な成長を見据えた投資を、さらに加速させていきます。

 また、足元の事業環境は、米国の関税政策の動向により世界経済が大きな影響を受ける情勢にあり、極めて不透明な状況は継続すると想定しています。今後の米国による関税政策の影響によっては、当社グループの業績見通しに対して、売上高で最大150億円、営業利益で最大90億円のマイナス影響が発現するリスクがあると想定しています。米国の関税政策に対しては、変化対応力を発揮し、機動的な売価施策の実行、耐性を備えたサプライチェーンマネジメントの構築など、対応策を実施していきます。

 以上により、次期の見通しについては、当期比で増収増益を計画するものの、米国の関税政策に伴う業績変動の可能性を踏まえ、売上高および各利益項目については、レンジでの見通し数値とします。なお、見通しのレンジ・リスクについては各セグメントに反映せず、全社セグメントに含めています。

 

 

 

 

<売上高・営業利益・売上総利益率の推移>

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<2025年度の経営方針と重点取組み>

 次期は、「All for creating customer value ~需要変化の迅速な察知と機動的アクションによる売上最大化の実現~」を全社方針とし、「NEXT2025」を完遂し、取組みの成果を業績に結実させます。次期は、売上高8,350~8,200億円、売上総利益率44.7~44.2%、営業利益650~560億円の増収増益を目指します。

 また、2024年度に設定した非財務目標における各取り組みは、次期においても継続して実施しますが、次期中期経営計画に向けて非財務目標の見直しを検討しており、かつ、2025年9月までは構造改革期間中であることから、具体的な目標は設定していません。

 

 

 <財務目標>

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<2024年度の非財務目標と実績>

 

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(注) 1 2024年度に設定した目標値

    2「カーボンニュートラルの実現」、「デジタル化社会の実現」、「健康寿命の延伸」に繋がる注力事業の売上高

    3 非財務目標の⑧から⑩は、社員投票で決定した目標。

    4 非財務目標に記載されている数値は、2022年度に設定したSF 1st Stageの当初設定目標。

 

②各事業セグメントの実績及び見通し

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<「SF2030」における価値創造の取組み>

 制御機器事業では、事業ビジョン「オートメーションで人、産業、地球の豊かな未来を創造する」を設定しました。オートメーションを通じ豊かな医・食・住環境を支える持続的な産業の発展と、働く人々の幸せ、そして地球環境の維持との両立を目指しています。制御機器事業は、事業ビジョンの設定において、今後10年で直面するであろう社会の変化を想定しました。それは、目まぐるしく世界が変化する中で、さまざまな社会的課題が浮き彫りになる時代だと考えています。このような市場背景の中で、制御機器事業が解決すべき社会的課題を、「働く人」と「産業の高度化」の二つの側面で捉えました。

 「働く人」とは、ミレニアル世代やZ世代に代表される価値観の変化や技術の進化に伴う働く人のマインドの変化、そして働く人にとっての労働機会の変化です。そして、「産業の高度化」とは、次々と生まれる先進技術により2次産業でのモノづくりの革新だけでなく、1次産業や3次産業にまで広がる大きな変革です。制御機器事業が取り組むべき社会的課題は、制御機器事業が強みとするオートメーションにより、働くすべての人々の幸せと産業の高度化の両立を実現し、さらに社会的要請でもある地球環境の保全にも貢献していくことです。制御機器事業が目指すのは、持続可能な産業の進化により、世界中の人々が共通して求める医・食・住環境が充実した社会です。これは、長年に渡りモノづくりを源流で支えてきたオムロンだからこそ可能なチャレンジであり、事業ビジョンには、このような思いを込めました。

 その実現に向け2016年に提唱した独自のモノづくりコンセプト、「i-Automation!」を進化させ、業界随一の幅広い制御機器の品揃えと技術・ソリューションで社会的課題を解決するイノベーションを量産し、持続可能な社会を支えるモノづくりの高度化に貢献していきます。

 

<2024年度の業績と2025年度の見通し>

2024年度の業績

売上高の

状況

 製造業における設備投資需要は、日本においては半導体市場が、中国の半導体国産化の投資需要を受けて好調に推移しました。一方、中国においては太陽光発電関連投資と二次電池投資の需要停滞が継続し、欧州および東南アジアにおいては電気自動車(EV)向け投資需要が減速し、全体としては低調に推移しました。これらの結果、売上高は、前年上期の売上高が受注残に支えられていたこともあり、前期比で減少しました。

営業利益の

状況

 売上高は減少しましたが、売上総利益率の改善や構造改革を通じた固定費圧縮効果が寄与し、営業利益は前期を大きく上回りました。

 

2025年度の見通し

売上高の

見通し

 半導体関連の投資需要は、中国向け投資が調整局面へ移行するものの、AI関連需要は増加が継続する見込みです。また電気自動車(EV)向け投資は、中国国内ではEV普及率の拡大に伴い、堅調な内需が継続する一方、中国以外では投資は低調に推移すると見込みます。これらの状況のもと、顧客起点の取り組み強化による売上拡大を図り、全体では次期の売上高は当期比で増加を見込みます。

営業利益の

見通し

将来の成長に向けた投資を加速させる一方で、売上高の増加に加え、固定費の効率的な運用を図ることで、次期の営業利益は当期比での増加を見込みます。

 

<売上高・営業利益・営業利益率の推移>                <社会価値創出のKPIの進捗>

 

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(注)1 経営管理区分の見直しにより、2022年度より、IABの一部をDMBに含めて開示しています。

   これに伴い2021年度を新管理区分に組み替えて表示しています。

    2 2025年度見通しのレンジ、リスクについては各セグメントには反映せず、全社セグメントに含めています。

 

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<「SF2030」における価値創造の取組み>

 ヘルスケア事業では、家庭で測定した血圧が人々の健康に役立つという信念のもと、その普及に取り組んできました。今では、高血圧治療の現場で家庭で測った血圧データが活用されるようになり、高血圧患者の降圧コントロールにも成果が見られます。しかし、高齢化に伴い高血圧患者はグローバルに増え、高血圧に起因する脳・心血管疾患の発症も増加しています。加えて、新興国を中心に増え続ける呼吸器疾患患者、日常生活に大きな影響を与える膝や腰、肩の慢性的な痛み。これらは人々のQOLを著しく低下させてしまいます。

 「SF2030」のビジョン「Going for ZERO 〜予防医療で世界を健康に〜」には、世界中の一人ひとりが健康ですこやかに生活できる社会を、オムロンの手で切り拓いていく、という強い意志を込めました。

 これまで培ってきた技術と知見を活用し、「循環器」「呼吸器」「ペインマネジメント」領域において、脳卒中や心不全などの「脳・心血管疾患の発症ゼロ」、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの「呼吸器疾患の増悪ゼロ」、膝痛や腰痛などの「慢性痛による日常生活の制限ゼロ」の3つのゼロにチャレンジします。

 そして、病気にならない、病気を重症化させないための予防医療という新しい価値を提案し、「健康であり続けたい」という世界中の人々の願いをかなえます。

 世界の高血圧患者は12.8億人、心房細動患者数は4,600万人いると言われています。これらの患者数は先進国での高齢化の加速や成長国における中間層の拡大を背景にグローバルで増加傾向にあり、健康機器の需要は拡大していく見通しです。中でも、インドやアジアなど成長国においては、血圧計の普及率が低く、成長ポテンシャルが高いと考えています。引き続き、今後ますます市場の拡大が見込まれるエリアに注力し、基盤事業を強化します。

 

<2024年度の業績と2025年度の見通し>

2024年度の業績

売上高の

状況

主力製品である血圧計市場において日本や欧州などの一部地域で需要は堅調に推移したも のの、中国における個人消費の低迷により、需要停滞が継続しました。また、前年の呼吸器 疾患特需の反動を受け、ネブライザ・酸素発生器の需要が減少したことなどにより、売上高は前期比で減少しました。

営業利益の

状況

売上高の減少や物流費増加の影響を受け、慎重な固定費運用を行いましたが、営業利益は前期比で減少しました。

 

2025年度の見通し

売上高の

見通し

 グローバルでの血圧計需要は堅調に拡大するものの、その拡大速度は鈍化すると想定しています。また中国の個人消費は、回復の兆しが見えず、需要の先行きは不透明な状況が続くと想定しています。このような状況ではありますが、グローバルで拡大するオンラインチャネルでの販売強化に加え、新興国における需要拡大を引き続き捉えてまいります。以上より、次期の売上高は当期比で増加を見込みます。

営業利益の

見通し

 売上高の増加に加え、製造原価のコストダウンの加速や、慎重な固定費運用により、次期の営業利益は当期比で増加を見込みます。

 

<売上高・営業利益・営業利益率の推移>                <社会価値創出のKPIの進捗>

 

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 (注)2025年度見通しのレンジ、リスクについては各セグメントには反映せず、全社セグメントに含めています。

 

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<「SF2030」における価値創造の取組み>

 2030年に向かうこれからは、地球温暖化を起因とした自然災害の多発や、少子高齢化に伴う労働人口の不足など、暮らしの安心・安全・快適への障害となる、新たな社会的課題が顕在化する時代です。そして、そのような時代を生きる人々の価値観も多様化していきます。社会システム事業は、顧客のニーズに応えることに加え、顕在化する社会的課題を踏まえ、社会システムのあり方を考え、その答えを導き出してまいります。そして、その答えに共感していただいたステークホルダーの皆様とともに、「次世代の社会システム」をつくっていきます。この一連のプロセスと想いを「SF2030」の事業ビジョンの「Design」に込めました。社会システム事業は、暮らしをよくする“ソーシャルグッド”を生み出しながら人々の暮らしをより良くし、笑顔溢れる明るい未来を実現します。

 「SF2030」においてオムロンが捉えた解決すべき社会的課題は、「カーボンニュートラルの実現」と「デジタル化社会の実現」です。CO2総排出量の増加や気候変動の加速、少子高齢化の加速による労働力不足といった社会的課題は深刻化し、社会生活にもさまざまな不都合や不安が生じます。また、企業各社では事業運営の効率化や省力化の進展と同時に、事業継続や環境配慮への対応が求められるなど、経営課題は複雑化していきます。これからは、既存の機器やサービス提供による現場課題の解決だけではなく、お客様の経営課題の解決に、ともに取り組むことが必要です。これからの安心・安全・快適な社会とは何か?オムロン自身が将来像を描き、社会システム事業で培ってきたノウハウを活かしたソーシャルオートメーションで、次世代の社会システムの実現を目指します。

 

<2024年度の業績と2025年度の見通し>

2024年度の業績

売上高の

状況

エネルギーソリューション事業は、再生可能エネルギーの自家消費ニーズの高まりや補助金制度の利用、産業・商業領域でのカーボンニュートラルに向けた取り組み加速による投資拡大を受け、蓄電システムなどが好調に推移しました。また、駅務システム事業は、旅客者数の回復と運賃改定による鉄道各社の好調な業績を背景に、設備投資需要が好調に推移しました。これらの結果、売上高は前期比で増加しました。

営業利益の

状況

 売上高の増加により営業利益は前期比で大きく増加しました。

 

2025年度の見通し

売上高の

見通し

エネルギーソリューション事業においては、エネルギー価格の高騰やカーボンニュートラルに向けた取り組みが続いており、住宅および産業領域での再生可能エネルギーに対する需要は堅調に推移すると見込みます。また、駅務システム事業では、顧客の設備投資が引き続き堅調であると想定しています。以上より、次期の売上高は当期比で増加を見込みます。

営業利益の

見通し

 売上高の増加や生産性向上により、次期の営業利益は当期比で増加を見込みます。

 

<売上高・営業利益・営業利益率の推移>                <社会価値創出のKPIの進捗>

 

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  (注)2025年度見通しのレンジ、リスクについては各セグメントには反映せず、全社セグメントに含めています。

 

 

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<「SF2030」における価値創造の取組み>

 電子部品事業は、「SF2030」において、3つのトランスフォーメーションを実現していきます。

 1つ目は、事業のトランスフォーメーションです。オムロンの注力ドメインの一つとして、「カーボンニュートラルの実現」「デジタル化社会」の社会的課題を解決する事業を目指します。コア技術と多彩な機能の組み合わせで製品の価値を向上させ、お客様が必要な機能をデバイス&モジュールを軸としたソリューションとして提供し、社会課題の解決に取り組んでいきます。コアとなる“繋ぐ・切る”技術は、創業以来、社会・お客様に提供し続けているリレー、スイッチ、コネクター、センサなどのデバイス&モジュールの高機能化と品質向上で磨き続けてきた製品に流れる電気を繋ぐ・切る(オン・オフする)機能や、センシングする機能です。これらで、「新エネルギーと高速通信の普及」に貢献する新たな社会価値を創出していきます。

 2つ目は、注力領域のシフトです。コア技術を軸とした事業の強みが最大限発揮でき、さらなる成長機会が見込まれる4つの事業領域にフォーカスしていきます。注力領域は、DCドライブ機器、DCインフラ機器、高周波機器、遠隔/VR機器です。DCドライブ機器、DCインフラ機器においては、環境負荷対応により電源の直流化・高容量化、インフラの電動化が進んでいきます。製品の普及促進に向けて課題となるのが、感電や発火を防ぐための安全対策です。高周波機器、遠隔/VR機器においては、急速なデジタルシフトで高速通信・データの大容量化を実現する技術・デバイスが必要となります。これら課題解決の根幹を、我々の“繋ぐ・切る”技術で実現します。

 3つ目は、提供価値のシフトです。これまでの価値に加えて、「グリーン・デジタル・スピード」を軸とした新たな価値を加えていきます。脱炭素社会の実現に貢献するデバイス群の創出、デジタル価値の提供、営業・開発・生産が一体となり、社会変化に柔軟かつタイムリーに対応するコンカレント活動などにより提供価値スピードを加速していきます。

 

<2024年度の業績と2025年度の見通し>

2024年度の業績

売上高の

状況

民生業界向けの需要は、中国などの一部エリアや先端半導体関連など一部の業界では回復が見られるものの、欧州や日本では、顧客での在庫消化の停滞や生産計画の見直しなどにより低調に推移しました。自動車業界向けの需要は、中国では増加したものの、欧州では電気自動車(EV)優遇施策見直しにより低調に推移しました。これらの結果、売上高は前期比で減少しました。

営業利益の

状況

 売上高減少に加えて原材料価格高騰などの影響もあり、営業利益は前期比で大きく減少しました。

 

2025年度の見通し

売上高の

見通し

民生業界向けの需要は、総じて横ばいを見込みます。その中でも注力するエネルギー関連業界や半導体関連業界では、顧客の投資拡大やAI関連需要の牽引によって好調に推移すると見ており、顧客ニーズを捉えた新アプリケーション創出などの取り組みにより、拡大する需要を着実に取り込んでいきます。以上より、次期の売上高は当期比で増加を見込みます。

営業利益の

見通し

 原材料価格高騰の影響などが継続するものの、売上高の増加に加えて価格適正化や収益改善施策に取り組むことにより、次期の営業利益は当期比で増加を見込みます。

 

<売上高・営業利益・営業利益率の推移>                <社会価値創出のKPIの進捗>

 

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(注)1 経営管理区分の見直しにより、2022年度より、IABの一部をDMBに含めて開示しています。

    これに伴い2021年度を新管理区分に組み替えて表示しています。

    2 2025年度見通しのレンジ、リスクについては各セグメントには反映せず、全社セグメントに含めています。

 

 

 

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<「SF2030」における価値創造の取組み>

 データソリューション事業本部は、多様な産業の現場や生活の中でご利用いただいている各種機器から収集されるデータを活用して、顧客の本質課題を解決するソリューション・サービスを創出し、提供します。

 2023年10月に連結子会社となった株式会社JMDC(以下、JMDC社)との協業では、①JMDC社の事業成長加速、②オムロンのヘルスケア事業成長に加え、③オムロンのヘルスケア以外でのデータソリューション事業拡大に注力し、オムロングループのビジネスモデル変革を先導しています。

 JMDC社の事業成長については、すでに20%超の高い事業成長率を遂げているJMDC社に、オムロンのブランドや顧客基盤を活用することでさらなる加速を図ります。JMDC社は、主に保険者・医療機関・製薬企業・個人をつなぐ医療データプラットフォームをビジネスの基盤としていますが、オムロンがリードしている「健康経営アライアンス」を通じて企業向けにも事業を展開するなど、サービスの提供範囲を拡大しています。

 オムロンのヘルスケア事業成長では、JMDC社がもつ医療データの解析技術とオムロンがもつバイタルセンシング技術を融合し、生活習慣病の予防を目的とした「プロアクティブヘルス事業」の拡大に取り組みます。また、企業の人事・総務・経営管理部門向けに、従業員の健康増進を通じた企業の活性化や、健康経営/ウェルビーイング経営の推進を支援する「コーポレートヘルス事業」を創出・拡大します。

 オムロンのデータソリューション事業拡大においては、顧客の拠点・施設・店舗などが抱える現場、管理、経営のオペレーション課題に対し、オムロンのフィールドエンジニアリングサービス(設計・運用・保守・BPO)とデジタルサービス(DX支援)を組み合わせて、ワンストップで支援します。例えば、小売流通業の人手不足や店舗運営コストの上昇、製造業に求められる環境対応やエネルギーコストの増加など、各業界特有の課題に対して具体的なソリューションを展開・拡充します。

 これらの取組みにより、ヘルスケア分野にとどまらず、オムロングループがもつ多様な商品、顧客ネットワーク、現場実装ノウハウ、そしてそこから得られるデータと、JMDC社のデータマネジメント力、ソリューション開発力を組み合わせることで、複雑化する顧客課題に対して最適なソリューションを提供していきます。

 

<2024年度の業績と2025年度の見通し>

2024年度の業績

売上高の

状況

JMDC社における契約健康保険組合数や、データ利活用先である製薬企業および保険会社との年間取引量、さらに遠隔読影サービスを利用する医療機関数の拡大により、売上高は増加しました。

営業利益の

状況

 ソリューション事業創出に向けた投資を着実に実施した一方、JMDC社の売上高が増加したことにより、営業利益は堅調に推移しました。

 

2025年度の見通し

売上高の

見通し

 JMDC社の事業において、製薬企業中心に医療データ利活用の動きが引き続き拡大すると見込んでいます。また個人の健康、予防意識の高まりを受け、保険者、生活者向けサービスの需要も拡大が続くと見ています。以上より、次期の売上高は当期比で増加を見込みます。

営業利益の

見通し

 売上高増加に伴い、次期の営業利益は当期比で増加を見込みます。

 

<売上高・営業利益・営業利益率の推移>

 

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           (注)2025年度見通しのレンジ、リスクについては各セグメントには反映せず、全社セグメントに含めています。

 

(2) 財政状態、キャッシュ・フローの状況・分析・検討

①財政状態

当期末の資産の部は、概ね前連結会計年度末と同水準の13,618億円となりました。負債の部は、事業運営資金確保のために社債発行を含む外部資金調達を実行し、前連結会計年度末に比べ236億円増加の4,274億円となりました。純資産の部は、為替換算調整額や退職年金債務調整額の減少などにより、前連結会計年度末に比べ166億円減少し9,344億円となりました。株主資本比率は56.7%と前期末比で1.4ポイント低下となったものの、引き続き、強固な財務基盤を維持しています。

 資金流動性については、当期末現在の手元現預金を1,490億円保有していることに加えて、金融機関との間で300億円のコミットメントライン契約を維持しており、高い水準を維持しています。また、今後の成長投資資金の確保に備え、格付機関から長期発行体格付として高格付を維持するとともに、グローバルで金融機関との良好な関係を維持することで、資金調達力を確保してまいります。

 

 

2023年度

2024年度

増減

資産合計(資産の部合計)

13,547億円

13,618億円

+71億円

負債の部合計

4,037億円

4,274億円

+236億円

株主資本

7,867億円

7,719億円

△148億円

非支配持分

1,643億円

1,625億円

△18億円

純資産の部合計

9,510億円

9,344億円

△166億円

負債及び純資産合計

13,547億円

13,618億円

+71億円

 

 なお、当期(2024年度)のROE(株主資本利益率)、ROIC(投下資本利益率)は、前期より改善しましたが、依然として当社グループの資本コスト(当社推定値8%)を大きく下回る水準となりました。さらなる企業価値向上のためには、蓄積されたキャッシュと今後生み出すキャッシュを既存事業の強化と新たな成長機会に再投資し、成長を加速することが必要と認識しています。引き続き、経営資本の適正配分により、将来キャッシュ・フローの創出能力と資本効率を高めて企業価値向上を実現し、株主の皆さまの期待に応えてまいります。

 

            <ROIC>                    <ROE>

    0102010_050.jpg

 

 

<株主資本、株主資本比率>

   0102010_051.jpg

 

②キャッシュ・フローの状況

キャッシュアロケーションの方針と推移

 当社グループにおけるキャッシュアロケーションポリシーと株主還元方針は、以下のとおりです。

 

<キャッシュアロケーションポリシー>

(ⅰ)長期ビジョンの実現による企業価値の最大化を目指し、中長期視点で新たな価値を創造するための投資を優先します。ただし、2024年4月1日~2025年9月末までの「構造改革期間」は、全社のリソースを集中して「NEXT2025」に取り組み、「業績の立て直し」と「収益・成長基盤の再構築」を実現するために必要な投資を最優先で実行します。その上で、安定的・継続的な株主還元を実行していきます。

 

(ⅱ)これら価値創造のための投資や株主還元の原資は内部留保や持続的に創出する営業キャッシュ・フローを基本とし、必要に応じて適切な資金調達手段を講じて充当します。なお、金融情勢によらず資金調達を可能とするため、引き続き財務健全性の維持に努めます。

 

<株主還元方針>

(ⅰ)中長期視点での価値創造に必要な投資を優先した上で、毎年の配当金については、「株主資本配当率(DOE)3%程度」を基準とします。そのうえで、過去の配当実績も勘案して、安定的、継続的な株主還元に努めます。

 

(ⅱ)上記の投資と利益配分を実施したうえで、さらに長期にわたり留保された余剰資金については、機動的に自己株式の買入れなどを行い、株主の皆さまに還元していきます。

 

 当社グループのキャッシュアロケーションの推移は以下のとおりです。

 

<キャッシュアロケーション推移>

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(注)1 為替レートの影響は除いて表示しています。

   2 投資キャッシュ・フローについては、事業売却・買収等による影響を分けて表示しています。

     事業売却・買収等による収入・支出には、連結キャッシュ・フロー計算書の「事業売却(現金流出額との純額)」

     「事業買収(現金取得額との純額)」および 「関連会社に対する投資の増加」が含まれています。

 

 

2024年度のキャッシュ・フローの状況

 営業活動によるキャッシュ・フローは、当期純利益の増加に加え、仕入債務の増加などにより、558億円の収入(前期比109億円の収入増)となりました。

 投資活動によるキャッシュ・フローは、資本的支出などにより479億円の支出(前期比592億円の支出減)となりました。なお、営業活動によるキャッシュ・フローに投資活動によるキャッシュ・フローを加えたフリーキャッシュ・フローは79億円の収入(前期比701億円の収入増)となりました。

 財務活動によるキャッシュ・フローは、社債発行を含む外部資金調達を行う一方で、配当金の支払いなどにより46億円の支出(前期比906億円の支出増)となりました。

 以上の結果、当期末における現金及び現金同等物残高は、前期末から59億円増加し、1,490億円となりました。

<2024年度のキャッシュ・フローの概要>

 

2023年度

2024年度

増減

営業活動によるキャッシュ・フロー

449億円

558億円

+109億円

投資活動によるキャッシュ・フロー

△1,071億円

△479億円

+592億円

フリーキャッシュ・フロー

△622億円

79億円

+701億円

財務活動によるキャッシュ・フロー

860億円

△46億円

△906億円

 

 

2025年度のキャッシュ・フローの見通し

 次年度(2025年度)においては、「NEXT2025」の遂行による利益率改善や棚卸資産を中心とした運転資金の効率化を図ってまいります。

 投資活動においては、投資規律を維持し、設備投資・投融資の案件を厳選して実行してまいります。なお、2025年度の設備投資は、ITシステム刷新等により当期比80億円の増加を見込んでいます。

 また、財務活動では、グループ全体の効率的な資金配置を継続して実行していくとともに、金融情勢を踏まえた柔軟な調達・運用を実施してまいります。

 

<2025年度のキャッシュ・フロー関連項目>

 

2024年度

(実績)

2025年度

(見通し)

増減

  減価償却費

335億円

370億円

+35億円

  資本的支出(設備投資)

490億円

570億円

+80億円

  (注)資本的支出は、連結キャッシュ・フロー計算書記載の金額

 

 

資金調達、資本政策の方針

 当社グループは、成長投資の実行と安定的な事業運営を行うため、資本効率を高めつつ、事業運営に必要な流動性と多様な調達手段を確保することを基本としています。そのための資金調達を含む資本政策については、以下の基本方針としています。

 

(ⅰ)株主価値を維持向上するために、投下資本利益率(ROIC)、株主資本利益率(ROE)および1株当たり利益(EPS)の目標水準を考慮した経営を行います。また、経済環境等の急激な変化に備え、金融情勢によらず資金調達が可能な高格付けを維持できる自己資本比率を目標とします。

 

(ⅱ)支配権の変動や大規模な希釈化をもたらす資本政策については、取締役会において、上記の目標とする投下資本利益率(ROIC)、株主資本利益率(ROE)および1株当たり利益(EPS)等への影響を十分に考慮した上で合理的な判断を行います。

 

(ⅲ)大規模な希釈化をもたらす資本調達を実施する場合には、資金使途の内容と回収計画を取締役会において十分に審議のうえ決議するとともに、投資家・株主への説明を行います。

 

<格付情報>

 本報告書提出時点における格付けについては、株式会社格付投資情報センター(R&I)から以下のとおり取得しております。

 

格付

長期

短期

  格付投資情報センター

   AA-

  a-1+

 

 

<社債情報>

 社債の残高については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記事項 Ⅱ 主な科目の内訳および内容の説明 I 借入金および社債」をご参照ください。

 

(参考)ROIC経営への取組み
 当社グループはROICを重要な経営指標としています。全社一丸となってこの指標を持続的に向上させるため、「ROIC経営」を社内に広く浸透させています。長期ビジョン「SF2030」においても、ROIC経営を推進し、今後も飛躍的な成長を実現していきます。

 事業特性が異なる複数の事業部門を持つ当社グループにとって、ROICは各事業部門を公平に評価できる最適な指標です。営業利益の額や率などを指標とした場合、事業特性の違いや事業規模の大小で評価に差が出ますが、投下資本に対する利益を測るROICであれば、公平に評価することができます。独自の事業ポートフォリオを展開していく当社グループにとって、ROICは欠かすことができない指標です。当社グループのROIC経営は、「ROIC逆ツリー展開」、「ポートフォリオマネジメント」の2つで構成しています。

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<ROIC逆ツリー展開>

 ROIC逆ツリー展開により、事業戦略を起点にROICを各部門のKPIに分解して落とし込むことで、現場レベルでのROIC向上を可能にしています。ROICを単純に分解した「ROS」、「投下資本回転率」といった指標では、現場レベルの業務に直接関係しないことから、部門の担当者はROICを向上させるための取組みをイメージすることができません。例えば、ROICを自動化率や設備回転率といった製造部門のKPIにまで分解していくことで、初めて部門の担当者の目標とROIC向上の取組みが直接つながります。現場レベルで全社一丸となりROICを向上させているのが、当社グループの強みです。

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<ポートフォリオマネジメント>

 全社を約60の事業ユニットに分解し、ROICと売上高成長率の2軸で経済価値を評価するポートフォリオマネジメントを行っています。これにより新規参入、成長加速、構造改革、事業撤退などの経営判断を適切かつ迅速に行い、全社の価値向上をドライブしています。

 また、限られた資源を最適に配分するために、「経済価値評価」だけではなく、「市場価値評価」も行っています。それにより、各事業ユニットの成長ポテンシャルを見極められ、より最適な資源配分を可能にしています。

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(3) 重要な会計上の見積りおよび当該見積りに用いた仮定

 当有価証券報告書に記載する連結財務諸表は、米国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成しています。連結財務諸表の作成にあたり、期末日現在の資産・負債の金額、偶発的な資産・負債の開示および報告対象期間の収益・費用の金額に影響を与える様々な見積りや仮定を用いており、実際の結果はこれらの見積りと異なる場合があります。長期性資産の減損、のれんおよび非償却性の無形資産の減損、および繰延税金資産の回収可能性等については、事業環境の変化の影響を踏まえて見積りおよび判断を行っています。

 詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 連結財務諸表注記事項 Ⅰ 重要な会計方針の概要 F 会計処理基準」に記載していますが、当社の経営戦略および連結財務諸表に与える影響から重要性があると考えられるものは以下のとおりです。

 

戦略投資等にかかるのれん等の評価

 当社グループは将来に向けた成長力強化の一環として積極的な戦略投資を行っています。

 制御機器事業(IAB)においては、モノ作り現場の課題に対して、“i-Automation!”で革新を起こすアプリケーションを強化することを目的として、2015年にモーションコントローラーメーカーであるDelta Tau Systems, Inc. およびロボットメーカーであるAdept Technology, Inc.を、2017年にコードリーダーメーカーであるMicroscan Systems, Inc.をいずれも 米国にて取得しました。

 ヘルスケア事業(HCB)においては、脳・心血管疾患の重症化を防ぎ、治療をサポートする事業での協業を目的として、米国を中心に心疾患の診断と治療の支援サービスおよび商品を提供するAliveCor,Inc.へ2020年2月に出資を行いました。

 また、長期ビジョン「SF2030」ではデータを基軸とした価値創造への収益構造転換が重要になると考えており、その先駆けとして、2022年2月に医療データサービス会社であるJMDC社との資本業務提携のために同社株式の取得を行いました。また、2023年10月には同社株式の追加取得を行い、連結子会社としました。

 

 

 

・のれん評価

 当社は、のれんの評価について、のれんの償却は行わず、少なくとも年に1回又は減損の兆候が識別された場合に減損テストを実施しています。

 IABにおいて取得した事業ののれんについては、取得した事業が“i-Automation!”戦略と一体となってシナジー効果が創出されることから、シナジー効果の享受が期待される、検査装置事業を除いたIABをのれんの報告単位として決定しています。

 JMDC社の連結子会社化により取得した事業ののれんについては、当社の既存ビジネスとJMDC社の協業により、ソリューションビジネスを推進するために2023年12月21日付で設立したデータソリューション事業本部(DSB)を報告単位として決定しています。

 減損テストの実施に当たっては、当該報告単位の公正価値をディスカウント・キャッシュ・フロー法により算出した評価額と市場価格にコントロールプレミアムを加味した市場株価法による評価額に基づいて算出し、対応する帳簿価額と比較して評価を行っています。ディスカウント・キャッシュフロー法による公正価値は経営者により承認された原則5年間の事業計画を基礎とした将来キャッシュ・フローの見積額を、加重平均資本コストをもとに算定した割引率で現在価値に割り引いて算定しています。事業計画の策定には、マクロ経済状況、市場成長率、利益率、設備計画等の仮定を用いており、事業計画予測期間以後のキャッシュ・フローは、各事業の所在国のインフレ率で永続的に成長する仮定や、類似企業の公開市場での評価を参考にしており、多くの重要な見積りを含んでいます。

 加重平均資本コストは、リスクフリーレート、所在国の経済や市場の状況を反映させるためのリスクプレミアム、インフレ率、負債コスト、類似企業の決定、類似企業に対してプレミアムもしくはディスカウントが適用されるべきかの決定等、多くの見積りを使用して算出しています。

 当年度の減損判定においては、DSBのれんについて公正価値が帳簿価額を下回っていたため、のれんの減損損失を計上しました。その他ののれんについては公正価値が帳簿価額を上回っております。

 

 各オペレーティングセグメントの当期末連結貸借対照表におけるのれん残高および減損テストの方法は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 連結財務諸表注記事項 Ⅱ 主な科目の内訳および内容の説明 G のれんおよびその他の無形資産」に記載しています。

 

関連会社に対する投資の評価

 当年度末連結貸借対照表に計上されている関連会社に対する投資および貸付金には、HCBのAliveCor,Inc.に対する持分法による投資9,721百万円が含まれており、純資産に対する当社の持分相当額を上回る9,349百万円は、主に持分法適用開始時に識別したのれん相当額によるものです。

 当社は、関連会社に対する投資について、投資先の超過収益力に基づく公正価値評価を行い、その価値の下落が一時的とは認められない場合には、持分の簿価が当該関連会社の公正価値の当社持分を超過した分について持分法損失を認識しています。同社についてはスタートアップ企業であるため将来事業計画の達成可能性の不確実性やのれん相当額の重要性を鑑み当該公正価値をのれんの評価と同じ方法で算出した結果、公正価値が投資簿価を上回ることから、評価損失の計上は不要と判断しています。

 

(4) 生産、受注および販売の実績

 当年度におけるセグメントごとの販売実績は、「(1) 事業環境、経営成績等の状況・分析・検討」に記載のとおりです。なお、当社グループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではなく、また受注生産形態をとらない製品も多く、セグメントごとに生産規模および受注規模を金額で示すことはしていません。

 

(5) 経営成績に重要な影響を与える要因について

 経営成績に重要な影響を与える要因については、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載しています。

 

 

5【重要な契約等】

 当社は、2023年9月8日開催の取締役会決議に基づき、同日付で、株式会社JMDC(以下、JMDC社)と資本業務提携 契約の変更契約を以下のとおり締結いたしました。

 

 オムロン株式会社(以下、オムロン)は、JMDC社株式を追加取得し、更なる社会的課題の解決と事業価値の拡大のためにJMDC社との間の資本業務提携関係を強化することを目的として、JMDC社との間で、2023年9月8日付で、本資本業務提携変更契約を締結いたしました。本資本業務提携変更契約の概要等(2022年2月22日付資本業務提携契約のうち本資本業務提携変更契約により変更されていない規定の概要等を含みます。)は、以下のとおりです。

 

(a)本資本業務提携に基づく業務提携の領域

(ア)ヘルスデータプラットフォームの強化

・オムロングループ保有データのJMDC社グループへの連携によるヘルスデータプラットフォームの構築

・データ収集のためのJMDC社グループのプロダクト・サービスの販売協力

(イ)予防ソリューションの開発

・1次~3次予防や介護予防領域における生活者・患者への行動変容サービスや医療事業者の治療・指導支援 サービスの共同開発と社会実装を含む、デバイスとデータを駆使した画期的な予防ソリューションの開発

・オムロングループによる保険者向けのデバイスの開発とJMDC社グループへの供給

(ウ)JMDC社グループの海外事業展開の加速

・海外でのJMDC社グループのプロダクト・サービスの販売協力

・JMDC社グループによるオムロングループの海外拠点の活用

(エ)デバイス・サービスのクロスセル

・パーソナル・ヘルス・レコードとデバイスを連携したソリューションの医療機関、保険者、自治体、企業等への展開

・オムロングループとJMDC社グループの製品・サービス・ソリューションに関する相互取引

(オ)オムロングループのデータソリューション事業の開発と社会実装

・インダストリアルオートメーション並びにソーシャルソリューション領域における協業テーマの設置・推進

・オムロングループに対するJMDCグループからの人材派遣や、オムロングループによるJMDC社グループへの業務委託

 

(b)両社間の従業員の出向

 オムロン及びJMDC社は、本資本業務提携変更契約において、本資本業務提携を円滑に推進することを目的として、オムロンの従業員のJMDC社への出向及びJMDC社の従業員のオムロンへの出向(それぞれ複数名を想定する。)の受入れについて、相手方から提案があった場合には、相手方と誠実に協議することを確認する旨、当該出向の時期や処遇の詳細(人数や人選を含む。)については、従業員の意向を踏まえて、協議の上、決定する旨を合意しております。

 

(c)役員の派遣

 オムロン及びJMDC社は、2022年2月22日付資本業務提携契約において、オムロンは、JMDC社の指名・報酬委員会に対し、JMDC社の業務執行取締役でない取締役候補者(以下「オムロン指名取締役」といいます。)1名を推薦することができ、JMDC社の指名・報酬委員会は、オムロン指名取締役を取締役候補者として指名することについて合意しております。

 

(d)株式等の発行又は処分

 オムロン及びJMDC社は、本資本業務提携変更契約において、JMDC社が自らの裁量において、資金調達、M&A等に伴い株式等(株式、新株予約権、新株予約権付社債及びその他の株式を取得できる権利の総称を意味します。以下本項において同じです。)を発行又は処分することができる旨、及び、JMDC社はかかる株式等の発行又は処分により(i)オムロンの連結子会社でなくなる場合又は(ii)10%以上の希釈化が生じる場合には、((i)の場合)オムロンがJMDC社を連結子会社とし、又は((ii)の場合)(ii)に示す希釈化を回復するために必要な範囲でJMDC社の株式等を追加取得する機会(その内容はJMDC社が合理的に判断する)を事前又は事後(但し、JMDC社は募集株式の発行又は処分の公表の遅くとも1か月前までにオムロンに通知等する)にオムロンに提供する(但し、オムロンがJMDC社の株式を売却その他の処分を行った場合には、機会提供に関する規定の効力は消滅する)旨を合意しております。

 

(e)JMDC社株式の取扱い

 オムロン及びJMDC社は、2022年2月22日付資本業務提携契約において、オムロンは、JMDC社の株式等の追加取得を行う場合には、当該追加取得についての最終決定予定日の1ヶ月前までに、JMDC社に書面で通知する旨、並びに、オムロンは、その保有するJMDC社株式の処分を希望する場合(当該処分の対象となる株式に係る議決権割合が5%超であるものに限る。)には、当該処分についての最終決定予定日の3ヶ月前までに、JMDC社に書面で通知する旨、及び、オムロンは、その保有するJMDC社株式の処分先についてJMDC社から当該通知の受領日から2ヶ月以内に意向が示 された場合、経済的に概ね同等のものである限り、かかる意向につき最大限尊重する旨を合意しております。

 

6【研究開発活動】

 当社グループは、顧客価値の創出を目的に中長期的な技術戦略のもと研究開発を実行しています。コア技術「センシング&コントロール+Think」を技術戦略の核として、当社の研究開発部門である技術・知財本部が基盤的な技術開発を担い、各事業部門がその応用技術開発や商品開発を実施しています。さらに、研究開発の成果を確実に事業競争力へとつなげるため、事業戦略と技術戦略に紐づいた知的財産活動を推進しています

 

(1)当社グループの研究開発への取組み

 オムロンの強みである技術経営をさらに強化し、継続的な事業競争力と開発生産性の向上を図るべく、2024年7月に全社テクノロジーガバナンス体制の構築に着手しました。本活動ではコーポレートの研究開発部門である技術・知財本部と事業部の開発部門が一体となり、事業戦略と技術戦略を強固に連結させた全社技術戦略の策定および、全社技術戦略に基づいたポートフォリオマネジメントに取り組んでいます。また、開発生産性や技術戦略の有効性を示す指標の策定、継続的に経営視点でモニタリングするための仕組み作りに取り組んでいます。

 

 事例の1つとして、パワーエレクトロニクス領域では事業・商品戦略と技術戦略の連携を通じて、競争優位の確立を図っています。技術・知財本部がエネルギーソリューションビジネス領域で先行研究および技術開発を進めていた次世代パワー半導体デバイスの1つであるGaN(ガリウム・ナイトライド)の活用を、社会システム事業にとどまらず、FA領域など他の事業領域にも展開しています。こうした取り組みを通じて、顧客価値を実現する差異化技術としての横展開を図っています。

 

 並行して、オムロンでは次世代の革新技術の創出にも積極的に取り組んでいます。例えば、2024年12月に開催された「SEMICON Japan」では、コア技術の象徴である卓球ロボット「FORPHEUS(フォルフェウス)」の最新第9世代を世界初披露しました。言語や動画像などのマルチモーダルな情報源から意図したロボット動作を生成するAI技術としてオムロン サイニックエックス株式会社(以下、OSX)で開発した「ViLaIn(ヴィラン)」を搭載し、片方向であった人と機械のコミュニケーションを、双方向へと進化させました。

 

<ロボット動作を生成するAI技術 「ViLaln(ヴィラン)」>

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 その他、技術・知財本部およびOSXは、ロボティクス分野において世界最大かつ最も影響力のあるトップカンファレンスの一つであるIROS2024(The 2024 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems)にて最新の研究成果を8件発表するなど、次世代の革新技術創出に向けた研究開発活動も積極的に行いました

 グループ全体の研究開発に関する費用の総額は、前連結会計年度は501億44百万円、当連結会計年度は443億39百万円です。なお、研究開発費には技術・知財本部で行っている技術開発費用53億58百万円が含まれています。

 

(2)価値創造型の知財・無形資産活動

 当社グループでは、知的財産を軸に新たな価値を創り、届けることで持続的な成長を実現するべく、知財・無形資産活動を進化させ続けています。

自社製品の売上やシェアを伸ばすことを目的に、知財を自社だけが使用することを原則とする「独占排他型」の活動と、パートナーとのアライアンスを重視しながら必要な知財を相互にシェアする「共有共鳴型」の活動を最適なバランスで組み合わせた"両利きの知財活動"をオムロンの知財活動方針として掲げ、その実践に取り組んでいます。

<両利きの知財活動>

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 特に、共有共鳴型の知財活動においては、これまで活動の中心となっていた個々の知財権だけではなく、無形資産まで対象として捉え、顧客価値の最大化を念頭に知財・無形資産をマネジメントするように取り組んでいます。

 

<知財・無形資産のマネジメント>

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 今後、投資に対して、最大限の事業競争力を獲得するために、全社的に知財・無形資産の活用効率を高めることがますます重要となります。そのため、社内に存在する知財・無形資産を全社員が認識し、活用することが不可欠です。そこで、個別事業毎に蓄積されている知財・無形資産、および、人財を、顧客価値を実現するために必要なコア技術を軸に体系的な可視化に取り組んでいます。これにより、知財・無形資産の活用効率の向上を目指します。

 

 加えて、知財情報を活用して顧客・事業環境の分析を行う「IPランドスケープ」をマーケティングなど、事業の意思決定プロセスに取り入れています。例えば、事業仮説の具体化、開発テーマの設定段階において、仮説検証のサイクルを効率的に回すことで、「顧客ニーズの把握」「事業で勝つためのストーリー作り」「事業における投資対効果の向上」を推進しています。このような活動を事業プロセスの上流から実装することで経営戦略、事業戦略、技術戦略の質を高め、全社方針に沿った知財ポートフォリオの構築を進めています。

 さらに、価値創造型の知財活動を加速すべく、AI活用にも注力しています。例えば、人間にしかできないと考えられていたアイデアの創出等に対して、積極的に生成AIを活用することで業務効率の飛躍的な向上を図るとともに、IPランドスケープにおける仮説検証の更なる質向上・ハイサイクル化を目指しています。その実現に向け、組織的かつ継続的な教育プログラムを実施しています。

これらの活動が評価され、オムロンは世界で最も革新的な企業・研究機関を選出する「Top100 グローバル・イノベーター」(クラリベイト社)にも9年連続で選出されました。

このように、技術・知財本部では、全社視点での技術戦略のもと、コア技術の進化と価値創造型の知財・無形資産活動を通じて、ソーシャルニーズの創造に貢献していきます。

 

 

(3)事業セグメント別の研究開発活動

 

セグメントの名称

 当連結会計年度

(自 2024年4月1日

  至 2025年3月31日)

金額(百万円)

インダストリアルオートメーションビジネス

21,553

ヘルスケアビジネス

8,123

ソーシアルシステムズ・ソリューション&サービス・ビジネス

4,692

デバイス&モジュールソリューションズビジネス

4,467

データソリューションビジネス

146

本社他

5,358

合計

44,339

 

①インダストリアルオートメーションビジネス(制御機器事業)

 当セグメントは、人を重労働から解放しエネルギー制御と融合させる「①人を超える自働化」、機械が人に寄り添い人の可能性を引き出し、人と機械が共に成長する「②人と機械の高度協調」、前述の2つのコンセプトを支える、現場の商品や人のナレッジ、そしてデータを繋ぎ、価値ある形に擦り合わせる「③デジタルエンジニアリング革新」のモノづくりコンセプトで研究開発に取り組んでいます。

 これら3つのコンセプトを基に、デジタルデバイス、環境モビリティ、食品・日用品、医療、物流の5つの業界において、「顧客起点」で価値創造とグローバルの顧客への価値伝達を進めています。従来のモノ視点から、コト視点で俯瞰して顧客課題を捉えるようにシフトし「ソリューション」としての創出・提供に取り組んでいます。様々な先進コア技術やオムロンの幅広いFA商品群を起点にして、機能モジュールやソフトウェア、アプリケーション、サービスを体系的に構成し、各業界の顧客や工程に合わせて提供できるように技術や商品開発を強化しています。積極的に特許の出願や活用する取組みも強化し、”Top 100 Global Innovators”を9年連続で受賞しています。

 加えて、新規技術獲得には、自社内だけで不足しているものは積極的にグローバルのスタートアップ企業や大学等も含めた産官学でのオープンイノベーションも進めています。

 

②ヘルスケアビジネス(ヘルスケア事業)

当セグメントは、マーケティング部門と研究開発部門が一体となり、パーソナライズ医療の実現に向けて、真のユーザーニーズの把握・創出に努め、一層の開発スピードアップを目指しています。また研究開発部門は、一人ひとりの健康ですこやかな生活の実現に向け、脳・心血管疾患の発症ゼロを目指す「循環器事業」、喘息・COPD患者の重症化ゼロを目指す「呼吸器事業」、慢性痛による日常の活動制限ゼロを目指す「ペインマネジメント事業」の3事業領域において新しい価値を提供できる新商品の創出を目指しています。

当期の主な開発テーマとして、循環器事業においては、疾患の早期発見・治療に繋げることを目的として、血圧、脈拍、脈波、心電計測技術を搭載した心機能低下を捉える新たな血圧計の開発を引き続き進めるとともに、遠隔診療サービスのシステム開発・改善に取り組んでいます。呼吸器事業においては、喘息やCOPDの患者を対象に、発作の予兆や症状を計測する機器の開発にパートナーと共に取り組んでいます。

ペインマネジメント事業においては、従来の肩こりや腰痛などのケアに加え、新たにスポーツ後の筋肉疲労をケアする機能を搭載した低周波治療器の開発に取り組んでいます。

 

 

③ソーシアルシステムズ・ソリューション&サービス・ビジネス(社会システム事業)

 当セグメントは、太陽光発電用パワーコンディショナー、蓄電システム、自動改札機や券売機などの駅務システム、交通管制システム、決済システム、UPSなどのネットワーク保護といった、多岐にわたる端末・システムに対するお客様のニーズに応える商品開発に取り組んでいます。

 エネルギーソリューション事業では、再生可能エネルギーへの一層の関心の高まりに応えるため、蓄電システムおよび太陽光発電用パワーコンディショナーを中心に高効率化や小型軽量化などの技術開発並びに発電した電力の自家消費ニーズに応える商品創出などに継続して取り組んでいます。

 駅務システム事業、交通管制システム事業においては駅や道路など、公共の場における利用者の安心・安全・快適に貢献する商品として、AI技術・IoT技術を組み込んだ人や車の動きを検知するセンサー・システムの開発に取り組んでいます。

 また、近年、社会課題となっている労働人口減少に対し、社会インフラにおける労働生産性を向上させる技術が求められる中、データサイエンス分野の技術力強化を進めています。

 

④デバイス&モジュールソリューションズビジネス(電子部品事業)

 当セグメントは、リレー、スイッチ、コネクターを中心としてエレクトロメカニカルコンポ商品および顔認証等の組込画像ソフト技術、光技術などを用いたセンシングコンポ商品、更にはモジュール化技術による高機能化を強みにお客様のニーズに応える新製品開発に取り組んでいます。

 「脱炭素」など環境への配慮やエネルギー費の高騰により、全世界がいま、化石燃料から再生可能エネルギーへと加速度的にシフトしています。

 太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーは、天候に依存するため非常に不安定な電力であるため、そのエネルギーを効果的に活用するためにはバッテリ(蓄電)が必要不可欠となります。

 「電気をたくさん貯めて、安定的かつ効率的に使いたい」という蓄電ニーズの実現に向け、高容量パワーリレーの新商品開発に注力し、その一つとしてG9KB-Eを2024年6月に発売しました。

 G9KB-Eは、G9KBシリーズの高容量形で、同じサイズ・重量でありながら、最大開閉電圧をDC800V、最大通電電流100Aへ拡張しており、蓄電システムやEV充電器など、15~45KWクラスの蓄電池関連用途に適しています。

 今後も環境負荷低減に向けた製品創出、価値提供を業界に先駆けて進めることで、脱炭素社会の実現に貢献します。

 

⑤データソリューションビジネス(データソリューション事業)

 当セグメントは人材やテクノロジーに積極的に投資し、医療ビッグデータを活用した新しい取組みやサービス開発にチャレンジし続けます。ヘルスケアデータの収集のためのサービス開発とヘルスケアデータの利活用方法の開発を目的にアカデミアとの連携を含めた研究開発活動を実施しています。また、ディープラーニングを中心とするAIテクノロジーを用いた診断アシストエンジンを日々の読影の中で活用できるようにする診断アシストプラットフォーム「AI-RAD」の開発に取り組んでおります。