文中の将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日(2025年6月20日)現在において判断したものです。
(1) 会社経営の基本方針
当社は創業以来、「事業を通じて、世界中の人々のくらしの向上と社会の発展に貢献する」ことを経営基本方針の中心に据えて事業を進めてまいりました。今後も、「物と心が共に豊かな理想の社会」の実現に向け、社会課題に正面から向き合って、新しい価値を創造することを目指してまいります。地球環境問題をはじめ、さまざまな社会課題に正面から向き合い、社会の発展や課題解決に大きな貢献を果たすために、事業競争力を強化し、株主の皆様や投資家、お客様、取引先、従業員をはじめとするすべての関係者の皆様にご満足いただけるような価値提供を通じて、持続的な企業価値の向上に努めてまいります。
(2) 会社の経営戦略と対処すべき課題
当社の使命である「物と心が共に豊かな理想の社会」の実現に向けては、喫緊の課題である地球環境問題を筆頭に、様々な社会課題を解決しなければなりません。そこで当社は、グループとして「地球環境問題の解決」と「社会とくらしのウェルビーイング」の領域において競合を超えるお役立ちを果たしてまいります。
2024年度から2025年度にかけての世界経済は、米国の関税政策と、それに対する各国の経済政策・通商政策動向やその影響が不透明さを増す中、ウクライナ情勢などの地政学リスクも引き続き懸念され、先行きを見通しにくい状況が続きます。
このような経営環境のもと、当社は2022年度から3カ年取り組んできた中期戦略の経営指標(KGI)で、累積営業キャッシュ・フローは達成したもののROE(株主資本利益率)と累積営業利益が未達となりました。これは、重点投資領域をはじめ各事業の成長投資が収益力につながらず競争力強化が果たせていないこと、そして事業会社化に伴った固定費の増大などにより、各事業の「競争力と収益性」と「間接コスト」に課題を残したことが要因です。
そこで、2025年度はグループ経営改革に集中し、構造的・本質的課題を解決して経営基盤を固めることに注力します。具体的には、「リーン(注)1な本社・間接部門」「低収益事業の見極め」「ソリューション領域への注力」の3つを軸に、固定費構造改革による収益改善と事業ポートフォリオマネジメントの加速をしていきます。
<グループ経営改革のポイント>
①リーンな本社・間接部門に向けた固定費構造改革・収益改善
当社をはじめグループ各社で、本社・間接部門を中心に人員を最適化し、コストを大幅に削減します。また製造・物流・販売拠点の統廃合を進め、効率化を図ります。さらに、間接・販売部門を中心にDXによって生産性を向上させ、更なる固定費削減を目指します。加えて、これまで先行投資をしてきた事業領域の収益改善に取り組みます。
②低収益事業の見極め
2025年度中に、課題事業(ROIC(投下資本収益率)が事業別WACC(加重平均資本コスト)を下回り、かつ成長性に乏しい事業)と再建あるいは事業立地の見極めが必要な事業の方向づけを行います。
③ソリューション領域への注力
グループとして注力する「ソリューション領域」と、それを支える収益基盤としての「デバイス領域」、「スマートライフ領域」の3つの事業領域を定めました。
• ソリューション領域 (注力する領域)
グローバル競争力を持つソリューション事業群においては、顧客起点のマネジメントによりグループ全体でシナジーを創出し、お客様へのお役立ちを拡大することで、グループの成長をけん引します。
• デバイス領域 (収益基盤となる領域)
商品ポートフォリオの絞り込みにより材料・プロセス系の事業に集中し、調整後営業利益率(注)215%以上を目指します。なお、車載電池は成長シナリオを見直し、収益化に集中します。
• スマートライフ領域 (収益基盤となる領域)
家電事業の再建に向けて、抜本的に事業構造や体制を見直し、開発・製造・販売のリソース適正化を徹底します。さらには、ジャパンクオリティを世界で戦える「グローバル標準コスト」で実現し、調整後営業利益率(注)210%以上を目指します。
注力するソリューション領域において、グループ全体のシナジーを創出するため、くらし事業を担うパナソニック㈱を発展的に解消し、傘下の分社を組み替えて事業会社化します。また、家電事業はスマートライフ領域と位置付け、家電市場に集中して向き合うために、グループの家電事業を集約した事業会社を設立し再建を目指します。
このグループ経営改革により、2024年度に対して2028年度までに3,000億円以上(注)3の収益改善を目指しています。まずは、2026年度までに1,500億円以上(注)3の収益改善を目指しており、その主な効果目標額は以下のとおりです。構造改革を中心としたグループ経営改革を推進し、事業環境の変化に対応できる経営体質を構築してまいります。
構造改革による収益改善(+1,220億円(うち、人員の適正化による収益改善 +700億円))
• 本社本部 改革(+470億円)
「間接機能及びオペレーションの集約・効率化」や「技術テーマの選択と集中」などによる収益改善
• 家電事業 改革(+330億円)
「分散した営業部門及び間接部門の集約・効率化」や「グローバル標準コストの拡大」などによる収益改善
• 事業部門 改革(+420億円)
「赤字事業の撤退・終息や拠点統廃合」や「グループ全社でのIT投資の効率化」、「間接機能の集約」などによる収益改善
上記の他には、車載電池などこれまで先行投資をしてきた事業領域の収益改善や事業ポートフォリオマネジメントの推進等による非連結化影響、ソリューション領域など注力領域への投資による影響があり、これらのトータルで1,500億円以上(注)3の収益改善を目指します。
2025年度以降の固定費構造改革・収益改善と、さらなる事業ポートフォリオマネジメントによって、2028年度にROE10%以上、調整後営業利益率10%以上を目指します。
(注)1 リーン:「無駄のない状態」の意味
2 「調整後営業利益」は、売上高から、売上原価と、販売費及び一般管理費を控除して算出
3 2025年2月4日に公表した2024年度連結業績予想に対する調整後営業利益の改善額。但し、米国関税影響は含まず
文中の将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日(2025年6月20日)現在において判断したものです。
(1)サステナビリティ経営に関する考え方
パナソニックグループの使命は、創業者 松下幸之助が追い求めた「物心一如の繁栄」、すなわち、「物と心が共に豊かな理想の社会」の実現です。1932年、松下幸之助は25年を1節とし、それを10節、250年かけて「理想の社会」の実現を目指すと宣言しました。
当社グループにとっての「サステナビリティ経営」とは、この使命の追求そのものです。
事業活動を通じて社会課題の解決に取り組み、より豊かで持続可能な社会への貢献を果たす。その結果として、持続的な企業価値の向上をはかる。これを積み重ねることによって、「物と心が共に豊かな理想の社会」の実現を目指していきます。
(2)ガバナンス
当社グループでは、サステナビリティに関する重要テーマについての方針、戦略、指標及び目標などを議論・方向付け並びに管理を行うことを目的として、取締役会の監督のもとにサステナビリティ経営委員会を設置し、原則月1回開催しています。
サステナビリティ経営委員会はグループCEOが委員長を務め、グループCHRO、グループCTO、グループGC、グループCSO、グループCFO、及びグループ会社の役員等によって構成されています。
サステナビリティ経営委員会での審議・決定事項は内容に応じて取締役会へ報告されます。また、事業会社において対応が必要な事項は、グループ経営会議等を通してグループ全体に共有・徹底しています。一方、サステナビリティに関する事項に対する取締役会の監督の実効性を確保するため、取締役会として備えるべきスキル・知見の1つに「サステナビリティ経営」の項目を定めるとともに、役員報酬における業績連動部分の一部に非財務指標を設定しています。
当連結会計年度においては、当社グループのサステナビリティ経営に関する方針、戦略及び施策の策定・推進機能を強化するため、パナソニックホールディングス㈱(以下、「PHD」)にサステナビリティに関連する機能横断のプロジェクトを新たに設置するとともに、事業会社毎にサステナビリティの推進体制を構築し、グループ全体の連携体制を強化しました。
なお、当事業年度におけるサステナビリティ経営委員会の主な審議事項は以下のとおりです。
・マテリアリティに関する指標及び目標の設定
・サステナビリティ関連中期目標の検討
・欧州におけるサステナビリティ関連法令への対応
・価値創造プロセスとマテリアリティの見直し
(3)リスク管理
当社グループは、2023年度に当社財務への影響及び社会に与える影響の2つの側面から、重要な機会とリスクをマテリアリティとして特定しました。この特定のプロセスは以下のとおりです。
1.社会からの要請や予見される将来課題等から、機会及びリスクになる課題を把握。
2.これらについて、当社グループ及びステークホルダー視点で重要度評価を行い、マテリアリティを抽出。
3.このプロセス及び抽出したマテリアリティについて複数の社外の専門家との対話を通じて妥当性を確認。
4.当社グループのサステナビリティ経営委員会、グループ経営会議、取締役会での議論を経て、マテリアリティ
として特定。
また、当社グループでは、グループ全体の事業活動に影響を与える可能性のあるリスクを管理するエンタープライズリスクマネジメント(ERM)に取り組んでおり、その対象には、サステナビリティに関連するリスクも含まれています。詳細については、「
(4)戦略、指標及び目標
当連結会計年度においては、当社グループのサステナビリティ経営の実効性を高めるため、2023年度に特定した各マテリアリティの進捗を把握するための指標及び目標を新たに設定し、その達成・実現に取り組みました。マテリアリティに関する目標に対する実績は下表のとおりです。
下表のマテリアリティのうち、地球温暖化進行と資源の枯渇に対する取り組みや、社員のウェルビーイングを含む人的資本経営など、戦略を含むその主な取り組みの内容については、「
<2024年度マテリアリティ 指標及び目標と実績>
|
|
マテリアリティ |
指標 |
目標 |
実績 |
|
グループ |
地球温暖化進行と |
CO2削減インパクト |
3億トン |
自社バリューチェーンの削減量 △3,920万トン (1,828万トン) (注)1,2 |
|
削減貢献量 5,325万トン(注)2 |
||||
|
全工場 CO2排出量 |
実質ゼロ |
累計39工場(注)2 |
||
|
工場廃棄物リサイクル率 |
99%以上 |
99.4%(注)2 |
||
|
お客様一人ひとりの 生涯にわたる |
設定なし |
- |
||
|
持続的に価値を創出していくための基盤 |
ビジネス |
重大なコンプライアンス違反の発生 |
0件 |
0件(注)3 |
|
自社の |
設定なし |
- |
||
|
社員の ウェルビーイング |
重篤災害・重大災害の発生 |
0件 |
重篤災害7件 重大災害0件 |
|
|
「従業員意識調査」の①社員エンゲージメント/②社員を活かす環境 |
グローバル 最高水準 (2030年度80%以上) |
①:68% ②:66% |
||
|
コーポレート・ |
株主との建設的な対話の充実 |
実施 |
実施 |
|
|
取締役会実効性評価の実施と 改善施策への取組み |
実施 |
実施 |
||
|
PHD取締役会の社外取締役比率 |
1/3以上 |
46.1%(注)4 |
||
|
業績連動型役員報酬における |
実施 |
実施 |
||
|
人権の尊重 |
当社グループ各社に対する人権 デュー・ディリジェンスにおいて |
実施 |
実施 |
|
|
外国人移住労働者を雇用する当社 |
100% (2026年度) |
40.6% |
||
|
サイバー |
セキュリティ意識の向上と行動変容を促進するための全従業員向けの教育・訓練の実施 |
年4回以上 |
5回 |
|
|
専門チームによる脅威情報・脆弱性 |
実施 |
実施 |
||
|
サイバー攻撃を想定した専門チームによるインシデント対応訓練の実施 |
年1回以上 |
2回 |
||
|
重大インシデント発生件数 |
0件 |
0件 |
||
(注)1 カッコ内は、2024年度の対象事業で比較した場合の2020年度からのCO2削減量です。
3 当社の子会社であるパナソニック インダストリー㈱(以下、「PID」)では、前事業年度に、PIDが製造・販売する電子材料製品において米国の第三者安全科学機関であるUL Solutions(以下、「UL」)の認証登録等に関する複数の不正行為を行っていたことが判明しました。これを受け、PIDでは、社外有識者による外部調査委員会を設置のうえ、UL認証に関する不正及びその他の品質不正に関する調査を実施し、当事業年度に外部調査委員会より受領した調査報告書及びPID策定の再発防止策を公表しました。
4 当社は、2025年6月23日開催予定の定時株主総会の議案(決議事項)として、「取締役13名選任の件」を上程しており、当該議案が承認可決された場合には、53.8%となります。
なお、当連結会計年度より、当社グループのサステナビリティ経営の考え方に基づき、マテリアリティを「社会に対する価値創造のための重要課題」に絞るとともに、今後の事業の方向性や戦略と整合をとるための見直しを進めています。これに伴い、従来のマテリアリティのうち、自社のリスク管理としての要素が大きいものについては、ERMの活動の中で引き続き重要リスクとして管理することとしました。
一方で、「
また、「地球温暖化進行と資源の枯渇」及び「社員のウェルビーイング」についても、今後の戦略に合わせた見直しを行いました。これらを中心とする見直し後の内容は下表のとおりです。
これらの検討はサステナビリティ経営委員会、グループ経営会議及び取締役会での議論を経ています。2025年度においてはこの内容にて取り組みを進めてまいりますが、新たに設定した「社会とくらしのウェルビーイング」と「責任あるAIの最大活用」については、戦略や取り組みの具体化を進めている段階であることから、指標及び目標についてもそれに合わせて検討してまいります。
<マテリアリティ 一覧>
|
|
マテリアリティ(注)1 |
指標 |
目標 |
|
|
事 業 マ テ リ ア リ テ ィ (注) 2 |
地球環境問題の解決への |
脱炭素への貢献 |
CO2削減インパクト |
3億トン(2050年) |
|
自社バリューチェーンの △4,012万トン(1,701万トン)(注)4 |
||||
|
削減貢献量(2025年度) 4,750万トン |
||||
|
全工場CO2排出量 |
実質ゼロ(2030年) |
|||
|
サーキュラーエコノミー 推進(注)5 |
再生材の使用量 |
再生樹脂の使用量(2025年度) 2.5万トン |
||
|
サーキュラーエコノミー型 |
累計16事業(2025年度) |
|||
|
社会とくらしのウェル |
社会のウェルビーイング |
次期中期戦略と合わせて設定予定 |
||
|
くらしのウェルビーイング |
||||
|
基 盤 マ テ リ ア リ テ ィ (注) 3 |
責任ある AIの最大活用 |
AIによる商品・ ソリューションの進化 |
次期中期戦略と合わせて設定予定 |
|
|
AIによる業務・プロセス 革新 |
||||
|
多様な人材・組織のポテンシャルの最大発揮 |
組織カルチャー変革 |
UNLOCK指標(注)6 |
60%(2027年度) 70%(2030年度) |
|
|
未来を創る多様な変革型 リーダーの開発・登用 |
経営チームにおける多様性比率(PHD執行役員の女性・日本以外の国籍・キャリア入社の割合) |
半数以上 |
||
|
女性管理職比率 |
12%(2028年4月1日) 16%(2031年4月1日) |
|||
|
安全・安心・健康な 職場づくり |
重篤災害・重大災害の発生 |
0件 |
||
|
|
生産性指標 (EBITDA/人件費) |
目標値(改善率)は 次期中期戦略とあわせて設定予定 |
||
|
|
人権の尊重 |
外国人移住労働者を雇用するグループ国内外拠点に対する強制労働防止への対面研修実施率 |
100%(2026年度) |
|
各事業会社の人権推進リーダーを育成する「人権DD実践研修」の理解度(注)8 |
80% |
||
|
ビジネスインテグリティ |
重大なコンプライアンス 違反の発生 |
0件 |
|
|
コーポレート・ガバナンス |
株主との建設的対話の促進 |
実施 |
|
|
PHD取締役会の 社外取締役比率 |
半数以上 |
||
|
取締役会議長を独立社外取締役が務めること |
実施 |
||
|
業績連動型役員報酬における非財務指標の採用 |
実施 |
(注)1 見直し前のマテリアリティのうち、「自社のサプライチェーンマネジメント」は「地球環境問題の解決への貢献」及び「人権への尊重」において取り組むこととし、「サイバーセキュリティ」は自社のリスク管理としての要素が大きく、重要なリスク項目としてERMの活動の中で対応することから、上表からは除いています。
2 事業活動を通じた価値創出のための重要課題
3 持続的な価値創出を支える経営基盤の構築・強化のための重要課題
4 カッコ内は、2024 年度の対象事業で比較した場合の2020年度からのCO2削減量です。
5 従来の定義に基づく「工場廃棄物リサイクル率」は、過去より99%以上と高い水準を維持しています。国際的なルールとの整合性を踏まえ、本指標の定義を見直し中であることから、上表には記載していません。
6 従業員意識調査の設問「会社や上司からの動機付けによる意欲向上」「挑戦への阻害要因がない」がともに肯定回答の割合(グローバル)
7 PHD、パナソニック㈱、パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション㈱、パナソニック ハウジングソリューションズ㈱、パナソニック コネクト㈱、パナソニック インダストリー㈱、パナソニック エナジー㈱、パナソニック オペレーショナルエクセレンス㈱の8社が対象。
8 知識に対する理解度に加え、「ビジネスと人権」に対する共感度とその推進に対する意識の高さを研修後のアンケートにて調査。
(5)サステナビリティに関する取り組み紹介
①地球環境問題の解決に向けた取り組み
当社グループは、「より良いくらし」と「持続可能な地球環境」の両立に向け、2022年に長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」を発表しました。目指すゴールは、責務としてスコープ1~3(注)1にあたる自社グループバリューチェーン(注)2におけるCO2の排出を実質ゼロにすることによる排出削減1.1億トンに加え、事業活動を通じた社会への排出削減貢献2億トンにより、2050年に全世界の排出総量の約1%にあたる3億トン(注)3以上の削減インパクトを創出することです。
Panasonic GREEN IMPACTがゴールと定める削減インパクトの2/3を占める削減貢献量は、自社の技術や製品、サービスを使用した場合にどれだけのCO2削減効果が見込めるかを推定する指標です。当社グループのサステナビリティデータブックでは、削減貢献量の事例や算定式などを開示しています。当社グループは、この削減貢献量が企業の脱炭素への貢献として適切に評価されるよう、国や業界・金融界を巻き込んで、その社会的意義や国際標準化の必要性についての議論を先導しています。2024年11月のCOP29(注)4では、経済産業省とWBCSD(持続可能な発展を目指すグローバル企業団体)共催のイベントにおいて、国際イニシアチブ・機関によるパネルディスカッションにIEC(国際電気標準会議)を代表して当社グループが参加しました。削減貢献量の算定方法等を定める国際規格(IEC63372)に関して、当社グループが更新に参加しているWBCSDのガイダンスと整合性を図りながら、ISO(国際標準化機構)とも連携し、他社と協働して国際規格化を進めていることを紹介しました。国際規格化により、政府や金融機関等が脱炭素化に貢献する企業を適切に評価し、インセンティブ付与や投資判断に削減貢献量を活用できることへの期待や、あらゆる産業界にとって意義がある点を発信しました。
事業を通じて地球環境問題の解決に貢献するという決意を込めたPanasonic GREEN IMPACTが目指すゴールには、カーボンニュートラルとともに、サーキュラーエコノミー(注)5の実現も含まれています。グループにおけるサーキュラーエコノミーへの取り組みを加速させるため、「サーキュラーエコノミーグループ方針」を策定し、各事業会社の事業特性に応じたアプローチで課題の特定や、長期戦略・中期行動計画の策定を進めています。2023年5月のG7広島サミットでCEREP(循環経済資源効率原則)が承認され、企業のサーキュラーエコノミーの取り組みを評価・促進するための指標や目標であるWBCSDのGCP(グローバル循環プロトコル)の開発に当社グループは積極的に参画しています。COP29(注)4では、環境省主催の「CEREPとGCPを通じたグローバルスタンダード形成」に関するパネルディスカッションにも当社グループが参加し、サーキュラーエコノミーの実践に向けた当社グループの具体的なアクションを紹介しました。
私たちの次の世代、さらには未来の世代にわたって、人々が安心してこの地球で暮らしていけるよう、今後も事業活動を通じて、カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーの実現に向けた取り組みをグループ一体となって加速していきます。
なお、当社グループは2019年5月にTCFD(注)6提言への賛同を表明しています。当社グループは、マテリアリティ特定プロセスを経て、地球温暖化の進行を当社グループにおける最重要課題とし、気候変動に関するリスクと機会の特定にあたっては、TCFD提言を踏まえ、シナリオ分析による戦略のレジリエンスを検証しています。また、投資家等とのエンゲージメントを実施することを想定し、TCFDが推奨する開示項目である「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」について情報開示を行っています。
<TCFD提言に基づく開示>
|
ガバナンス |
当社グループでは、環境経営推進体制のトップに取締役会が位置しており、グループ環境経営について取締役会への報告を実施しています。 また、GREEN IMPACT PLAN 2024で社会に約束した環境目標の主要項目に対する進捗と実績は、グループCEOや事業会社社長などの経営幹部が出席するグループ経営会議で確認し、方向性や課題、特に重要な施策について意思決定を行っています。特に重要な内容は取締役会に諮られています。グループ長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」は、このプロセスを経て、2022年4月に発信されました。グループの環境経営活動を推進するため、2021年12月に設置されたグループCEOが主宰するサステナビリティ経営委員会での意思決定を通じて、グループ全体で連携して推進できる体制を構築しています。 |
|
戦略 |
気候変動がもたらす影響について、当社グループの事業におけるリスクと機会を把握した上で、影響のある項目についてインパクト分析を行い、最も影響の大きい項目を軸に2030年を想定した社会シナリオを策定しました。そのシナリオに対応した戦略を検討し、当社グループの戦略のレジリエンスを検証しました。 |
|
リスク管理 |
当社グループは、環境リスクを継続的に低減するためのマネジメント体制を整備し、事業会社ごとの環境リスク管理体制を組織しています。グループ全社のリスクマネジメントの基本的な考え方に則り、毎年度、環境リスクの洗い出しやグループ全社のリスクマネジメント推進、さらに環境リスクが発現した際の迅速な対応を進めています。また、当社グループでは、パナソニックホールディングス㈱(PHD)及び事業会社で同一のプロセスに基づくリスクマネジメントを推進しています。PHDエンタープライズリスクマネジメント委員会では、当社グループの経営・事業戦略と社会的責任の観点から審議を行い、グループの重要リスクを決定します。2024年度には、グループの重要リスクのうち、戦略リスクとして気候変動や環境規制、サーキュラーエコノミーの進展、オペレーショナルリスクとして自然災害やサプライチェーンマネジメントが取り上げられています。 |
|
指標と目標 |
当社グループは、温室効果ガス(GHG)削減目標を設定しています。2017年10月にSBT(注)72度目標として認定され、2023年5月にはパリ協定に沿って新たに設定したGHG削減目標が1.5度目標として認定されました。さらに、長期目標として、2024年9月にネットゼロ目標の認定を受けました。(下記の表を参照) |
|
GHG排出量目標(SBT1.5度目標認定) |
目標 |
目標進捗率 |
|
当社グループ事業活動における排出量 (スコープ1、2) |
2030年に90%削減(2019年度比) |
38%(注)8 |
|
当社グループ製品使用における排出量 (スコープ3) |
2030年に30%削減(2019年度比) |
― (注)9 |
|
GHG排出量目標(SBTネットゼロ目標認定) |
目標 |
目標進捗率 |
|
当社グループバリューチェーン 全体における排出量(スコープ1、2、3) |
2050年に90%削減(2019年度比) |
― (注)9 |
(注)1 スコープ1~3 :国際的な温室効果ガス排出量の算定・報告の基準である「温室効果ガス(GHG)プロトコル」の中で設けられている排出量の区分。スコープ1は事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)、スコープ2は他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出、スコープ3はスコープ1、2以外の事業者の活動に関連する他社の排出
2 バリューチェーン :原材料調達から製造、流通、販売、アフターサービスにいたるまでの企業の一連の事業活動
3 全世界の排出総量の約1%にあたる3億トン以上:2020年エネルギー起源CO2排出量(出典:IEA)による(CO2削減貢献量の排出係数は2020年基準)
4 COP29 :第29回 国連気候変動枠組条約締約国会議。気候変動問題解決に向けた国際会議として約200カ国・地域等が参加
5 サーキュラーエコノミー :循環経済。製品、素材、資源の価値を可能な限り長く保全・維持し、廃棄物の発生を最小限化するなど、モノのシェアリングやサービス化で資源の有効活用を図る経済システム
6 TCFD :Task Force on Climate-related Financial Disclosures の略で、G20財務大臣・中央銀行総裁会議の要請を受けて、金融安定理事会により設置された気候関連財務情報開示タスクフォースのことであり、2017年に提言を公開
7 SBT :Science Based Targetsの略で、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べ2度未満、できれば1.5度未満に抑えるという目標に向け、科学的知見と整合した削減目標
8 38% :第三者検証完了前のため、2023年度実績から算出。最新の値は、追って当社サステナビリティ・ウェブサイト(TCFDへの対応)にて開示
9 ― :算出対象製品拡大による排出量増加のため進捗率は算出せず
②人的資本に関する取り組み
当社グループの創業者 松下幸之助は、「物をつくる前に人をつくる」という考えのもと、人を育て、人を活かすことに重きを置いた経営を進めてきました。私たちはそのDNAを受け継ぎ、経営基本方針という揺るぎない経営の軸の下で、社会からお預かりした大切な資本である人が活きる人的資本経営を実践しています。
(ⅰ)経営基本方針の実践
当社グループにおいて経営は経営者だけのものではありません。一人ひとりが自らを仕事の責任者・経営者と自覚して仕事に取り組む「社員稼業」の実践とともに、全員の知恵を結集し多様な個性や能力を経営に活かす「衆知経営」を大切にしています。経営基本方針は、この「社員稼業」と「衆知経営」の両輪によって、「自主責任経営」を実現していくことを定めています。
また、多様な価値観や視点を尊重することが、より良い意思決定と成長につながると考え、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)の取り組みを Panasonic Group DEI Policyにもとづき推進しています。
2023年4月には経営基本方針の実践を目指すための行動指針として、「Panasonic Leadership Principles(PLP)」を策定しました。この指針のもと、チームを持つマネージャーであるかどうかにかかわらず、一人ひとりがより高いレベルのリーダーシップを発揮することを目指しています。
(ⅱ)現状の課題
当社グループでは、毎年グローバル約15万人の社員を対象に従業員意識調査を実施しています。これまで特に重視してきたのは、「社員エンゲージメント」(自発的な貢献意欲)と「社員を活かす環境」(適材適所、働きやすい環境)に関する設問群です。肯定回答率は継続的に上昇傾向にありますが、計9つの設問のうち「会社や上司からの動機づけによる意欲向上」と「挑戦への阻害要因がない」という項目については低迷が続いています。これは、社員一人ひとりがポテンシャルを発揮し、挑戦しやすい環境づくりの実現に向けた大きな伸びしろがあることを示しています。
さらに、特に日本地域では女性、若手人材、キャリア入社者について取り組むべき課題があります。例えば従業員意識調査における「当社グループにおけるキャリア目標の達成」の設問では女性は男性に比べてキャリア目標を達成できると答えた人が比較的少ない状況です。経営や組織の意思決定層への女性の配置をさらに進めることで女性のキャリアの幅を広げ、多様なリーダーによる質の高い意思決定の実現につなげていく必要があると考えています。また若手人材やキャリア入社者においても、入社時点の高いエンゲージメントを維持しながら活躍の機会を提供し、早期に意思決定層に配置していくことが必要です。
一方で、そうした質の高い意思決定や施策の実行にあたっては高い生産性をともなうことが不可欠です。人的資本経営とは社会からお預かりしている人がその力を余すことなく存分に発揮することと考え、生産性の高い業務プロセスを構築し、固定費構造の抜本的な見直しを図ることで「世界一の生産性を追求」(前述したPLPの一つ)することも必要です。
(ⅲ)目指す姿
グループの変革と成長をさらに加速させるためには、先に述べた課題に正面から向き合い、社員一人ひとりが意欲的に挑戦し、人と組織がともに成長できる環境を整えていくことが必要です。
そこで私たちは改めて、「物と心が共に豊かな理想の社会」の実現に向け、社員一人ひとりが自らのポテンシャルをUNLOCK(アンロック)、つまり周囲の期待を超えて積極果敢に挑戦し、持てる力(能力・スキル)を最大限に発揮できる会社を目指すことを決意しました。
かつて創業者 松下幸之助は、「仕事に夢中になる。働きがいを感じ、働くことが楽しくてたまらない」環境、つまり挑戦と能力の発揮レベルがともに高いフローな状態を提供することが社員への最上の贈り物であると語りました。UNLOCKは、この松下幸之助の考えが源流にあります。
(ⅳ)重要指標
そこで当社グループでは人的資本に関わるマテリアリティに関して前述の、
なお、指標を設定した背景は次のとおりです。
|
組織カルチャー変革 |
・社員が積極果敢に挑戦し、持てる力を最大限発揮している状態を実現するために、前述したとおり従業員意識調査からフォーカスした2つの課題をもとにUNLOCK指標を重要指標として設定(2024年度:グローバル43%) |
|
未来を創る多様な変革型リーダーの開発・登用 |
・経営における質の高い意思決定を実現していくために、各社の経営チームにおける多様性(女性・日本以外の国籍・キャリア入社者)比率を重要指標と設定(2025年4月:54%) ・性別による能力の差はないにもかかわらず、日本地域では当社グループの管理職に占める女性の割合が低い現状がある。これについて違いを強みとして活かし新たな価値を生み出していくDEI推進の課題の代表事例と位置付け、日本地域における女性管理職比率も重要指標として設定(2025年4月:7.9%) |
|
安全・安心・健康な職場づくり |
・事業活動の大前提としての安全・安心・健康な環境の実現のために、「重篤災害・重大災害」の発生件数を重要指標として設定(2024年度:重篤災害7件、重大災害0件) |
なお上記に加え、付加価値労働生産性を高め世界一の生産性を追求していくために、「EBITDA(注)1÷人件費」についてグループ内でモニタリングを実施します。
(ⅴ)目指す姿の実現に向けた取り組み
(a)組織カルチャー変革
組織カルチャーは、事業の成果を最大化するために意図的にデザインすることが重要です。どれほど優れた戦略があっても、実行するのは人です。その戦略実行の成果は、一人ひとりの行動や組織のあり方によって大きく左右されます。社員が自身のポテンシャルを「UNLOCK」できなければ、挑戦や成長にはつながりませんし、行動変容を促すカルチャーが戦略と噛み合わなければ、組織全体の力を十分に発揮することはできません。そこで、私たちはOrganization Performance Model(OPM)というフレームワークを活用してグループとしての「組織デザイン:6つの原則」を作成し、組織カルチャーのありたい姿を明確化しました。
「組織デザイン:6つの原則」は、それぞれが互いに連動し、整合してこそ機能し、組織全体の成長を支えます。例えば、成果に対しては、「評価・報酬」の原則に基づき、メリハリをつけて適切に報いることが必要です。「情報共有・学びのプロセス」では内向き志向から脱却し、好奇心に火をつけていきます。「採用・トレーニング・リーダーの選抜」においては、多様な変革型リーダーを育成し、大胆に登用することを重視します。そのリーダーはメンバーの挑戦を支援し、熱狂的にフローで働ける環境を提供できるよう、「仕事デザイン」を行います。このようにそれぞれの要素が結びつくことで、人と組織がともに成長し、事業の成果にもつながる姿を目指しています。
<グループ経営改革の一環としての人員の適正化>
「組織デザイン6つの原則」の「組織構造・配置」においては、常に顧客視点でシンプル&フラットな組織体制を構築すること、また「評価・報酬」においては、一人ひとりの成果と行動に必ず報いることを原則の一つと掲げています。これは前述のとおり、社会からお預かりしている社員一人ひとりがその力を余すことなく存分に発揮することにつながります。そのために生成AIなどの最新のデータ・テクノロジーも駆使しながら、生産性の高い業務プロセスを構築することが不可欠と考え、2025年度にグループ経営改革の一環としてグローバル各地域における人員の適正化を行います。さらに継続的な人員数の厳格管理を実施しながら、グループの持続的な成長を可能とするリーンで環境変化に強い会社の構造を作りあげていきます。
(b)未来を創る多様な変革型リーダーの開発・登用
持続的な事業成長を通じて「物と心が共に豊かな理想の社会」を実現するには、質の高い意思決定が欠かせません。そのためには多様な変革型リーダーの育成と登用が不可欠です。当社グループは、経営ポストの後継者育成において、「Panasonic Leadership Principles」のリーダーシップ行動に加え、経験(事業経営、日本以外の拠点の経営、ビジネス創出など)や知見とスキル(意思決定・判断力、戦略立案・実行力など)を重視しています。
そして、こうしたリーダーを継続的に育成するため、「グループの全重要ポストの人材要件とサクセッションプランの策定」、「中長期かつ意図的な後継者の見出し・育成・モニタリング」を推進します。具体的には次世代リーダーの計画的な育成と配置するための仕組みとして「タレントマネジメントコミッティ」を設置の上、運営しています。
なお、当社グループにおける経営ポストは2体系があり、これらに対して後継者育成のプラットフォームを整備し取り組みを進めています。
上記のうち、トップ経営層の後継者育成については、候補者を「即時任命可能な人材」「5年以内に任命可能な人材」「10年以内に任命可能な人材」として可視化し、合計23の重要ポストに対する育成計画を策定しています。また、各地域と連携したグローバル幹部開発研修や、若年層の早期見出しを目的とした選抜研修など、包括的な後継者育成プログラムを展開し、次世代リーダーの育成を加速させています。
さらに、日本地域においては「女性リーダーの獲得及び計画的育成」にも注力しています。当社グループでは、報酬体系上、性別等の属性による格差はありませんが、経営チームや管理職への女性登用は男性に比較して遅れているのが実態です。未来に向かって、より多様なメンバーの知恵を引き出し、イノベーティブな商品・サービスを生み出すために、採用の強化、働き方の選択肢の拡大やキャリア開発の支援などを通じて、女性リーダーの獲得と計画的な育成に取り組んでいます。
https://holdings.panasonic/jp/corporate/sustainability/diversity-equity-inclusion.html
<経営者の育成状況のモニタリング>
当社グループでは、現任の事業会社社長、当社や一部の事業会社の役員等を対象に「Panasonic Leadership Principles(PLP)アセスメント)を実施しています。これは経営基本方針の実践につながるリーダーシップ行動の発揮状況を上位者/同等者/下位者がアセスメントするものです。日常の行動を周囲からどう捉えられているかを認識することで、自らの行動を振り返り、自らが変えていくべき行動を考える機会を提供します。さらに、次世代のトップ経営層の育成を目的として、「即時任命可能な人材」「5年以内に任命可能な人材」「10年以内に任命可能な人材」は本アセスメントの対象となっています。
なお、2024年度のPLPアセスメントの結果から、「誠意をもって行動する」「自主責任感を持つ」は強みである一方で「世界一の生産性を追求する」「違いを強みとして活かす」は今後の伸びしろであり、経営者育成プロセスにおいて強化していきます。
(c)HRモダナイゼーション
HRモダナイゼーションは、最先端のデータ・テクノロジーを活用し、社員の働き方や人材マネジメントのあり方を進化させる取り組みです。人事データや生成AIを駆使して、パナソニックグループで働くすべての社員の体験価値を向上させるとともに、経営者及び組織責任者の組織・人材マネジメントの高度化・効率化を図ります。
さらに、人事業務の標準化・効率化を推進することで、人事機能が事業戦略を支えるプロフェッショナル集団へと進化させていきます。一人ひとりがより創造的な仕事に集中できる環境を整え、ポテンシャルを最大限に引き出しながら、グループ全体で成果を共有し、社員の成長と組織の競争力強化につなげていきます。
このように人事機能の貢献領域においてデータ・テクノロジーの活用を進めることで、人事社員1FTE(注)2の社員数や、人事社員が「人事戦略や組織・人材開発の領域」を担当する割合をグローバル先進企業の水準に引き上げていきます。
<生成AIを活用した社員7万人対象の「ワンストップ人事サービス」>
ポータルサイト「ワンストップ人事サービス」を導入し、分散していた人事情報や問い合わせ窓口を一本化しました。お知らせやTo Doをパーソナライズ表示できる「マイページ」、AIチャットボットによる自動回答・自動申請が可能な「バーチャルエージェント」、Face to Face対応の安心感を新たな形で実現する「メタバース」など、複数のサポート手段を提供することで、セルフサービスの利便性と有人対応の安心感を両立しています。
(d)安全・安心・健康な職場づくり
安全・コンプライアンスは事業運営の大前提です。労働安全衛生については、モノづくり現場重篤・重大災害の撲滅に向けて、設備安全基準に基づく設備安全対策を推進するとともに、過去の重篤災害事例の分析結果を踏まえた災害の未然防止活動を展開し、安全確保の徹底を図っています。また、衛生管理については今般の設法令改正により事業者に化学物質の自律的管理が求められていることを踏まえ、リスクアセスメント結果に基づくばく露低減対策の推進強化に取り組んでいます。
健康については、一人ひとりが心身ともに健康で、安全に安心して働くことができる職場環境の実現に向け、グループ全体に健康投資を強化する方針を発信しています。日本地域においては会社、労働組合、健康保険組合が一体となった「健康パナソニック活動」に加え、各事業会社独自の取り組みも積極的に進めています。経済産業省が推進する「健康経営優良法人」制度において、2025年3月時点ですべての事業会社が健康経営優良法人として認定されました。さらに、パナソニック コネクト㈱は三年連続、パナソニック㈱は二年連続でホワイト500(注)3に認定されています。
さらに、コンプライアンス遵守においては、あらためて社員自らの関わる事業・地域に関する法規制についての教育を実施しています。加えて、グローバルホットライン「EARS」等を活用し、問題の早期発見・未然防止について周知徹底を図ると同時に、あらゆるハラスメントの根絶に向けた啓発活動の強化に取り組んでいます。
(注)1 EBITDA:営業利益と減価償却費(有形/使用権資産)、償却費(無形)の合計
2 FTE:組織の人員をフルタイムで勤務する社員に換算して表す単位
3 ホワイト500:大規模法人部門における健康経営優良法人の中で特に取り組みが優良とされる上位法人500社
当社グループは、くらし事業、コネクト、インダストリー、エナジー等の幅広い事業を有しており、それぞれの事業活動に影響を与える可能性のあるリスクも多岐にわたります。当社グループでは、事業目的の達成に影響を与えるリスクに対して、適切な対策やリスクテイクを推進することにより、それぞれの事業が向き合う市場における事業競争力の強化、グループ全体の持続的かつ安定的な発展を実現することを目指しています。
当社グループでは、「パナソニックグループリスクマネジメント基本規程」に基づき全社的リスクマネジメントの体制・プロセスを構築しています。グループのリスクマネジメントの最高責任者であるグループ・チーフ・リスクマネジメント・オフィサー(以下、「グループCRO」)がグループ全体のリスクマネジメント活動を統括し、パナソニック ホールディングス㈱(以下、「PHD」)のエンタープライズリスクマネジメント室(以下、「PHD ERM室」)がプロセス推進に係る実務を担っています。グループCROを委員長、PHDの各機能部門のトップを委員とした「PHD エンタープライズリスクマネジメント委員会」(以下、「PHD ERM委員会」)を定期的に開催しています。
当社グループでは、リスクシナリオの対象範囲や時間軸に応じたリスク管理を行う目的で、短期的な事業計画の遂行や日常的な業務遂行の中で「損失」又は「脅威」となりうる不確実な事象を「オペレーショナルリスク」、中長期的な事業戦略の遂行において考慮すべき「機会」又は「脅威」となりうる不確実な事象を「戦略リスク」と定義しています。PHD ERM室では、年1回、外部・内部環境の変化や経営層のリスク認識等を踏まえて当社グループ全体に影響を与えうるリスクを特定しています。
特定したリスクのうち、オペレーショナルリスクについては、関連機能部門によるリスクの発生可能性及び財務・非財務影響の二軸による評価結果に基づき、当社グループの経営及び社会的責任の観点で「グループ重要リスク」を決定し、必要な対策を行います。戦略リスクについては、リスク許容度に応じた適切なリスクテイクを推進するため、「PHD重要戦略リスク」と位置づけた重要アジェンダのシナリオに基づき、「機会」もしくは「脅威」、又はその両方になりうる事象の特定・評価を行います。事象の中でも、不確実性の低い事象については直ちに対策を行う対象とし、それ以外の事象については顕在化の予兆を捉えるための先行指標を設定することで、不確実性の変化に応じて対策を検討することとしています。PHD ERM室は、これらのリスクに対して、リスクの変化及び対応策の進捗に関するモニタリングを通して、リスクコントロールの有効性を確認しています。
PHD ERM委員会は、これらのリスクマネジメント活動のPDCAサイクルの中で、重要リスクや対策の進捗状況等を定期的にグループ経営会議及び取締役会に報告しています。また、PHD傘下の各事業会社にも「事業会社ERM委員会」を設置し、個社及びそれぞれの事業領域における重要リスクを中心としたリスクマネジメント活動を推進しています。これらの活動に対し、内部監査機能は重要リスクを中心としたリスクベースアプローチの監査を実施しています。
このような活動に加えて、当社グループでは、従業員一人ひとりが適切なリスクリテラシーを持ち、健全なリスクテイクを志向する「リスク文化」の醸成に向けた取り組みを推進しています。入社時及び海外赴任前の従業員を対象とした研修では、リスクを過度に恐れず、組織と個人の成長に繋げるために必要なマインドセットや、危機発生時の基本的な対応等を身につけることを目指しています。
[リスクマネジメント体制図]
[リスクマネジメントプロセス]
事業活動に影響を与える可能性のあるリスク(グループ重要リスク及びPHD重要戦略リスクを含む)のうち、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を以下に記載しています。ただし、これらは当社グループに関するすべてのリスクを網羅したものではなく、記載された事項以外の予見しがたいリスクも存在します。当社グループの事業、業績及び財政状態は、かかるリスク要因のいずれによっても著しい悪影響を受ける可能性があります。有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識しているリスクは、以下のとおりです。また、文中の将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日(2025年6月20日)現在において判断したものです。
(1) グループ重要リスク及びPHD重要戦略リスク ※◎:PHD重要戦略リスク
① 経営基盤リスク
|
災害・事故 |
|
リスクシナリオ |
|
[脅威] ・地震、津波、洪水等の自然災害、事業場の火災等が発生し、対策不備や復旧活動の遅延又は合理的な想定を超える甚大な影響により、従業員、設備、原材料・部材、在庫品等が損害を被り、操業中止、生産・出荷遅延及び設備等の修復費用が発生。 |
|
主要な取り組み |
|
・「パナソニックグループ 緊急対策規程」にグループ全体に大きな影響を及ぼす可能性のある緊急事態が発生した際のエスカレーション及び判断のプロセスを含む対応の基本方針、当該緊急事態への対応に際した体制及び役割、初動対応等を規定。 ・優先的に復旧を図る事業や復旧プロセス等からなる事業継続方針、有事への対応、平時の防災・減災対応の3点を軸とした「BCM構築ガイドライン」に基づくBCPの見直し。 ・「グローバル防火・防災規程」に基づく事業場単位での平時の未然対策の徹底。「防火・防災対策委員会」のもとハザード情報や火災リスクアセスメントに応じた対策の強化。火災が発生した事業場においては第三者点検を実施し再発防止策の徹底。 ・社員の安否確認を迅速かつ正確に実施する安否確認システムの運用及び拠点の状況を把握する「災害ポータル」による被災状況及び支援要請の迅速な把握。 ・南海トラフ地震、首都圏直下地震をストレス事象とした影響分析及び当該分析結果に基づく対策及びリスクコミュニケーションの強化。 ・各種の想定条件に基づく事業場での防災・避難訓練実施に加え、グループCEOや事業会社社長が参加するグループ防災訓練を実施。本社所在地(大阪府門真市)に本部を置く訓練に加え、関東代替本部による演習も実施し練度向上に努めている。 ・特に自然災害は時間や場所を問わず発生することを考慮し、個人の防災力向上が必須であるという認識のもと講演会や意識調査などの啓発活動を展開。 |
|
コンプライアンス |
|
リスクシナリオ |
|
[脅威] ・独占禁止法・競争法への違反や、贈収賄・腐敗行為等の重大なコンプライアンス違反行為の発生又はコンプライアンス上の問題に直面し、課徴金等の行政処分、刑事処分又は損害賠償訴訟の対象となる。また、当社グループの社会的評価に悪影響を及ぼす。 |
|
主要な取り組み |
|
・「社会の公器」として法令や社会道徳に反せず、かつ私心にとらわれず高い倫理観や正しい知識を持って業務を遂行するため、「パナソニックグループ コンプライアンス行動基準」に当社グループ各社及び社員一人ひとりが果たすべき約束を定め、全社員に周知・徹底。 ・倫理・法令順守意識のグローバルな定着とリスクへの対応力向上のため、年間を通じた全社員に対する基本的なコンプライアンスの教育や、必要な対象者への事業特性や地域特性を踏まえたリスクに応じたコンプライアンスの教育の実施。 ・カルテル・談合及びそれらの疑いを招く行為の防止を目的とした社内規程や、贈収賄・腐敗行為の防止を目的とした社内規程の制定及び全社員への周知・徹底。 ・間接的な贈収賄・腐敗行為のリスク低減を図るためのリスク デュー・ディリジェンス ツール及びリスク審査プロセスの導入・運用。 ・贈収賄・腐敗行為の未然防止、早期発見に向けたリスクベースアプローチによるコンプライアンス監査等の取り組みの実施。 ・不祥事の防止や早期解決を目的とした国内外の拠点や取引先からも通報ができる一元的なグローバルホットラインの設置、適切な社内調査を通じた問題の早期発見と是正、調査従事者の調査能力の高位平準化のための教育の実施。 |
|
情報セキュリティ・サイバーセキュリティ |
|
リスクシナリオ |
|
[脅威] ・営業秘密(技術情報等)、顧客等のプライバシーや信用に関する情報(顧客の個人情報を含む)が、サイバー攻撃を含む意図的な行為、従業員又は業務委託先等の過失等により外部に流出することで社会的信用が低下、損害賠償責任が発生する。 ・情報システム、生産設備、製品・サービス等がサイバー攻撃の標的となり、業務プロセスの停滞や製品・サービスの提供停止、それらに伴う損害賠償責任の発生等の事態が発生する。 ・製品・サービスにサイバーセキュリティ上の脆弱性が発見され、製品の大規模なリコールや製品・サービスの長期間の提供停止等に発展し、多大な対策費用等が発生する。 ・サイバーセキュリティインシデントがサプライチェーンにおいて発生し、原材料、部材の入手に支障が生じ、当社グループの製品の供給が停止又は遅延する。 |
|
主要な取り組み |
|
・国内・海外の子会社を含むネットワーク、サーバ、パソコン等のインフラを対象とした異常監視の拡大、工場内部のセキュリティ監視との一体化等による、グローバルかつ一元的なセキュリティ監視体制の強化。 ・製品・サービスのセキュリティを担保するための検査体制の整備及び運用。 ・情報セキュリティ教育プラットフォームによるグローバルの従業員に対する定期的な教育や、システム運用等の委託先に対する定期的なセキュリティチェック等の人的対策。 ・各国の個人情報保護又はサイバーセキュリティに関する法令・規制に対する法令・規制動向の調査、規程等への反映及び社内周知の徹底。 ・組織横断でのインシデント対応訓練に基づく、危機発生時の連携と対応プロセスの確認。 ・複合的なサイバーセキュリティリスクに対する網羅的・一元的な対応のための情報、製品、工場セキュリティの共通機能を統合した「サイバーセキュリティ統括室」の設置、運営。 |
|
品質 |
|
リスクシナリオ |
|
[脅威] ・製品の欠陥による品質問題(不安全事故や大規模なリコール等)が発生し、欠陥に起因する損害(間接損害を含む)に対し生産物賠償責任保険で補償しきれない賠償責任を負担する又は多大な対策費用を負担する。また、当社グループのイメージ・評判の低下、顧客の流出等を惹起する。 |
|
主要な取り組み |
|
・経営基本方針に則り、常に製造・販売する製品の安全性を確保、お客様に安全・安心をお届けすることが経営上の重要課題かつ社会的責任であるとの考えのもと、当社グループの品質方針を「常にお客様及び社会の要望に合致し、満足していただける製品及びサービスの提供を通じ、真にお客様に奉仕する」と規定。 ・当社グループの品質方針の達成に向けて、事業会社において担当する製品の品質に対する責任に基づく品質マネジメントシステムを構築・運用。 ・製品安全確保のための知見や不安全事象の未然防止策をグループ共通の安全規格として発信し、事業会社へ展開。 ・品質不正防止への取り組みとして、「パナソニックグループ コンプライアンス行動基準」にある法令と企業倫理の順守に基づき、法規・法令だけでなく、業界基準やお客様とのお約束等も守ることを明確化。 ・当社グループ全体において、外部の法律事務所と連携し、品質コンプライアンスに関する不適切行為を対象とした徹底的な自主調査を実施。
<各報告セグメント及びその他の事業、部門におけるリスク> インダストリー事業 当社の子会社であるパナソニック インダストリー㈱(以下、「PID」)では、前事業年度に、PIDが製造・販売する電子材料製品において米国の第三者安全科学機関であるUL Solutions(以下、「UL」)の認証登録等に関する複数の不正行為を行っていたことが判明。これを受け、PIDでは、社外有識者による外部調査委員会を設置のうえ、UL認証に関する不正及びその他の品質不正に関する調査を実施し、当事業年度に外部調査委員会より受領した調査報告書及びPID策定の再発防止策を公表。 調査対象事案に関連して、2024年12月31日付けで、一部の製品について、追加的にUL認証が取り消し。一部の製品のUL認証の取り扱いについては、PIDとULとの間で協議が継続中。 また、PID又はその子会社の一部の拠点において、次のとおりISO9001(注1)認証及びIATF16949(注2)認証が追加的に取り消し又は一時停止。 ・ISO9001認証の取り消し:伊勢工場(適用範囲の一部) ・ISO9001認証の一時停止:伊勢工場(適用範囲の一部)、帯広工場(注3) ・IATF16949認証の一時停止:伊勢工場、帯広工場
(注1) ISO(国際標準化機構)9001は、品質マネジメントシステムに関する国際規格 (注2) IATF(International Automotive Task Force)16949は、自動車産業向け品質マネジメントシステムに関する国際規格 (注3)PIDの子会社であるパナソニック スイッチングテクノロジーズ㈱の拠点
[脅威] ・一部製品のUL認証取り消しにあたり、今後もUL認証品として販売を継続する必要があるものについて認証の取得ができない場合、事業への悪影響が生じる。 ・一部のISO9001認証及びIATF16949認証の取り消し又は一時停止にあたり、今後も維持する必要があるものについてその認証の取得又は一時停止の解除ができない場合、事業への悪影響が生じる。
[主要な取り組み] ・外部調査委員会より指摘を受けた、品質保証の本質に関する理解不足や組織風土の問題、品質コンプライアンス体制の不備等の原因分析を踏まえた再発防止策の策定、遂行。今後もUL認証品として販売を継続する必要があるものについて、その認証の取得に向けた取り組みを継続(一部の製品については認証取得済み)。 ・取り消し又は一時停止されたISO9001認証及びIATF16949認証について、その認証の取得又は一時停止の解除に向けた取り組みを継続。 |
② 事業運営リスク
|
労働災害 |
|
リスクシナリオ |
|
[脅威] ・職場作業環境又は作業手順の不備、不適切な労務管理等により重篤な事故等が発生し、従業員や関係者が肉体的又は精神的な被害を受ける。 ・労働基準法、労働安全衛生法等の労働関連法令に違反し、刑事処分、行政処分、安全配慮義務不足に対する損害賠償訴訟等の対象となる。また、当社グループの社会的評価に悪影響を及ぼす。 |
|
主要な取り組み |
|
・各事業会社・事業場に安全衛生組織を設置し主体的に安全衛生活動を推進するとともに、グループ共通の課題解決、類似災害の未然防止を図るため、モノづくり部門や健康保険組合と連携し、各種規程・基準の見直しや重要施策を策定・展開。 ・労働安全衛生マネジメントシステムにおける定期的なリスクアセスメントに基づき、職場の労働災害や疾病にかかるリスクの洗い出しやリスク低減策を実施。 ・過去の重篤な労働災害を分析し、災害発生の代表的なパターンを明確化することによって、重点確認ポイントの共有、未然防止策や類似災害の再発防止策を実施。 ・過重労働の防止のための従業員に対する継続的な意識啓発、勤務管理システムの拡充。 ・当社グループの安全衛生担当者が参加する「健康・安全衛生フォーラム」や経営層を対象とした研修等の開催による知見の共有及び意識醸成。 |
|
人権・労働コンプライアンス |
|
リスクシナリオ |
|
[脅威] ・当社グループ及びそのバリューチェーン上で人権侵害行為を引き起こす又は人権侵害行為への関与や加担等に直面した場合、当社グループが、課徴金等の行政処分、刑事処分又は損害賠償請求の対象となり、当社グループの社会的評価に悪影響を及ぼす。また、当社グループのイメージ・評判の低下、顧客からの取引停止、消費者による不買運動等が発生する。 |
|
主要な取り組み |
|
・「パナソニックグループ 人権・労働方針」及び「人権・労働コンプライアンス規程」を定め、国際連合の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいた事業会社の事業領域及びバリューチェーンに関連する人権への負の影響の把握・予防・低減に向けた具体的な取り組み(デュー・ディリジェンス)の推進。 ・「パナソニック サプライチェーンCSR 推進ガイドライン」を定め、購入先様に対する要請事項(人権・労働、安全衛生、地球環境保全、情報セキュリティ、企業倫理等)の順守についてのコミットメント取得、デュー・ディリジェンスの一環としての自主アセスメント及びリスクベースアプローチによる購入先監査の実施。 ・上記の取り組みを加速する為、PHD及び全事業会社において人権デュー・ディリジェンスを推進する体制の構築、社内外での人権デュー・ディリジェンスに関する啓発や研修の実施。 ・人権・労働に関する重要な法的要請の変更等に関する情報収集及び各拠点への徹底。 ・法令及び国際規範に基づく「パナソニック サプライチェーンCSR 推進ガイドライン」を定め、購入先様に対するCSRの要請事項(人権・労働、安全衛生、地球環境保全、情報セキュリティ、企業倫理等)の順守についてのコミットメント取得、デュー・ディリジェンスの一環としての自主アセスメント及びリスクベースアプローチによる購入先監査の実施。 ・「パナソニックグループ 人権・労働方針」及び「人権・労働コンプライアンス規程」を定め、国際連合の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいた事業会社の事業領域及びバリューチェーンに関連する人権への負の影響の把握・予防・低減に向けた具体的な取り組みの推進。 ・人権・労働に関する重要な法的要請の変更等に関する情報収集及び各拠点への徹底。 |
|
地政学・経済安全保障 ◎ |
|
リスクシナリオ |
|
[脅威] ・当社グループ又は当社グループのサプライチェーンが拠点を有する国・地域において政情不安、軍事的緊張が顕在化又はテロ・戦争等の発生により、事業継続への支障や、従業員や関係者の人命にかかわる事態が発生する。 ・貿易摩擦に端を発する米中をはじめとした国・地域間の対立や市場の分断や、米国での政権交代に伴う追加関税をはじめとする貿易・経済関連の措置やこれらに対する諸外国の報復措置等を含む政策・法規制の動向の不確実性の高まりにより、貿易規制・経済制裁や関税障壁が一層強化される。 ・国家間・地域内の対立や武力行使等の激化に加えて、各国の政権交代や政策転換等に伴う政治的・社会的混乱の広がりにより、事業環境が急激に変化する。 ・特に、EVに関連する義務化撤廃又は補助金削減等によるEV普及率の鈍化によって、車載電池関連事業に悪影響を及ぼす可能性がある。 [機会] ・各国の経済安全保障政策に基づく税制関連措置や補助金等の活用。 |
|
主要な取り組み |
|
・当社グループの事業への影響が大きい欧米諸国、中国等の政策・法規制の動向をはじめとする国際情勢のモニタリング。 ・各国・地域間の対立や政権交代等のイベントに伴い起こりうる政治的・社会的混乱等に備えた、人命安全を最優先としたBCPの整備やサプライチェーンの複線化。 ・貿易規制・経済制裁に関する各国の法規制の変更に対する日々の情報収集に基づく、新たな規制・制裁の早期の把握とグローバルポリシー及びガイダンスの更新、新たな規制分野で対象となる貨物・技術の該非判定、相手先での軍事転用リスクの確認や顧客審査・取引審査のさらなる強化、及び社内への周知徹底や国内外の従業員の啓発。 ・国内外の政治・財界への渉外活動と政策提言。 |
|
環境問題・気候変動 ◎ |
|
リスクシナリオ |
|
[脅威] ・環境問題対策の遅れにより、欧州をはじめとする各国市場への事業進出機会の喪失や、取引の停止等が生じる。 ・炭素税や排出権取引制度等のカーボンプライシングの導入等に伴うエネルギー調達コストや、環境負荷の低い材質への切り替えによる調達、製造コストの増加。 ・循環資源(再生材・再利用原材料)の価格上昇や供給不足により、生産コストが増大する、又は生産が遅延する。 ・米国IRA(インフレ抑制法)をはじめとする気候変動対策関連の法制度が廃止又は縮小することに起因し、車載電池を始めとする製品需要が当社グループの見込みを割り込む。 [機会] ・環境政策・規制に対応した新規技術・事業開発の機会の拡大。 ・サステナブル・エシカル消費等の意識変化による環境志向型の製品やサービスの需要拡大。 ・再生可能エネルギーのニーズ拡大による高効率太陽電池等の新規市場開拓。 ・各国のエネルギー安全保障、気候変動対策関連の法制度に基づく税控除、補助金等の活用。 |
|
主要な取り組み |
|
・グループ長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」に基づく、2050年までにグループの事業活動を通じた、現時点の全世界のCO₂総排出量の「約1%」にあたる3億トン以上の削減インパクトの創出、CO₂排出の削減貢献量の拡大及び算定方法に関する認知活動及び標準化に向けた働きかけ。 ・当社グループの事業活動においてサーキュラーエコノミーを推進する上で共通の指針となる「サーキュラーエコノミーグループ方針」の策定及び発信と各事業におけるサーキュラーエコノミー型事業創出、循環型モノづくりの取り組み等の強化。 ・生産活動におけるCO₂排出量、廃棄物・有価物発生量、水使用量、化学物質排出・移動量等の環境負荷低減に向けた取り組みを推進。 ・排出・移動量などの生産活動における環境負荷の削減。 ・CO₂削減、資源有効活用、水資源や生物多様性保全等に配慮した製品の開発・販売。 |
|
人材の誘引・獲得・維持 ◎ |
|
リスクシナリオ |
|
[脅威] ・有能な人材確保に向けた取り組みが進まない場合や雇用構造改革を実行する場合には、今後の事業活動に必要な能力やスキルを持つ社員が流出、今後の経営戦略の推進に必要な人材の獲得が困難となる。
[機会] ・多様な人材の獲得・登用機会が増加することで、当社グループの事業競争力が向上する。 |
|
主要な取り組み |
|
・「多様な人材・組織のポテンシャルが最大発揮されている状態」を作り上げていくことをグループの重要な課題と設定。「組織カルチャー変革」「未来を創る多様な変革型リーダーの開発・登用」「安全・安心・健康な職場づくり」の取り組みを実施。 ・組織カルチャーについては、社員が積極果敢に挑戦し、持てる力を最大限発揮している状態をUNLOCKと定義し、従業員意識調査のスコアを活用して指標化。その上で、組織カルチャーを「評価・報酬」「意思決定」など6つの要素で戦略的にデザインする取り組みを推進。優秀な人材の獲得、育成、配置等の人材マネジメントの高度化につなげる。 ・リーダーの開発・登用については、グループ全体の早期育成登用の実現と後継者パイプラインの多様性の確保を目指している。グループCEOや各事業会社社長が出席するグループタレントマネジメントコミッティでの議論を通じて、重要ポストの後継者の見出し、育成・配置等を推進。 |
|
AI(人工知能)の利活用 ◎ |
|
リスクシナリオ |
|
[脅威] ・AIの効果的な利活用や開発が想定どおり進まず、当社グループの事業機会や製品・サービスの競争力が失われる。 ・AIの利活用に伴ってプライバシー、セキュリティ、公平性及び著作権の侵害その他のコンプライアンスに関連する問題が発生し、当社グループのブランドイメージや信用が失われる。 [機会] ・AIの利活用による業務の生産性向上や新たなビジネスアイデア創出、事業競争力の向上。 |
|
主要な取り組み |
|
・AIの利活用加速に向けたAI技術戦略として、あらゆるお客様にAIを素早くお届けするための「Scalable AI」、AIへの信頼性に関する技術開発によってあらゆるお客様の信頼にこたえる「Responsible AI」の取り組みを強化。 ・AIの利活用の拡大に伴う機会及び脅威を見極めるとともに、グループ全体で適時・適切な対策を講じるため、全事業会社のAI倫理の担当者に加えて法務、知財、情報、品質部門等の担当者が参画する「AI倫理委員会」を設置。 ・責任あるAI活用を実践するため「AI倫理原則」を定め、AI開発現場でのAI倫理リスクチェックシステムの運用、グループ全社員を対象としたAI倫理教育やAI技術人材育成を推進。 ・AIの開発や運用を包括的に規制する法律として欧州(EU)AI規制法が世界で初めて成立・発効したことに伴う、2025年以降の段階適用に向けた社内ガイドラインの発行、規制の対象となる製品・サービスの洗い出し及び順守に向けた対応。 |
(2) その他の重要なリスク
|
リスクシナリオと主要な取り組み |
|
経済状況の変動 |
|
[環境認識] ・2024年度から2025年度にかけての世界経済は、米国の関税政策と、それに対する各国の経済政策・通商政策動向やその影響が不透明さを増す中、ウクライナ情勢などの地政学リスクも引き続き懸念され、先行きが見通しにくい状況が継続。
[脅威] ・世界の市場における景気後退により、製品・サービスに対する需要が減少する。 ・世界経済の想定以上の悪化、急激な社会の構造的変化、消費者の消費行動変化等により経営環境が現在の予想よりも厳しくなる。 ・経済環境の悪化等に対処するため、新たに事業構造改革の実施が必要となり、費用増大等が発生する。 |
|
為替動向、金利変動及び株式市場の動向 |
|
[環境認識] ・各国の中央銀行で利上げがひと段落する中、わが国では2024年3月の日銀のマイナス金利を解除以降、円金利は上昇傾向にある。 ・2024年度は、前年度と比較して、ドルやユーロに対して円安に動いたことによる輸出影響が大きく、全体として業績に対して好影響を及ぼした。 ・2025年度については、年間を通してドルやユーロに対して円高に動くと想定しており、全体としては業績に対して一定の悪影響が生じることを見込む。
[脅威] ・急激な為替変動により、外貨建てで取引されている製品・サービス等のコスト及び価格の価格競争力が低下する又は部材等の輸入価格が上昇する。また、海外の現地通貨建ての資産の目減り又は負債の増大が発生する。 ・金利の上昇によって支払利息や有利子負債が増加する。 ・国際的な政情不安等、様々な外的要因による金融市場の不安定化又は悪化、あるいは格付機関による当社の信用格付の引下げ等の事態が生じることで、資金調達が制約され、かつ資金調達コストが増加する。 ・株式市場の変動等により、当社グループが保有する国内外の企業等の株式価値が減少することで、親会社の所有者に帰属する持分が減少する。
[主要な取り組み] ・経営への為替影響の軽減を図るため、事業活動を通じて得た外貨を同一外貨建ての支出に充てる「為替マリー」、将来における外貨の売却価格もしくは購入価格と数量を事前に契約しておく「為替予約取引」、消費地に近い地域での製品の生産を行う「地産地消型製造」等を実施。 ・資金創出力の強化を目的とした事業の競争力強化や運転資本の圧縮等を通じた事業からのキャッシュ・フロー創出力向上、継続的な保有資産の見直し等によるバランスシートからの資金創出。 ・2024年6月に複数の金融機関との間で期間を3年間とする総額6,000億円のコミットメントライン契約(注)を締結、現金及び現金同等物の残高とあわせて十分な流動性を確保することで経営への影響を軽減。 (注)コミットメントライン契約:金融機関との間で予め契約した期間・融資枠の範囲内で融資を受けることを可能とする契約 |
|
国際的な事業運営に関するリスク |
|
[脅威] ・政情不安(テロ・戦争等を含む)、経済動向の不確実性、宗教及び文化の相違、現地における労使関係等のリスクに直面する。 ・投資規制、収益の本国送金に関する規制、現地産業の国有化、輸出入規制や外国為替規制の変更、税率変更等を含む税制改正及び移転価格課税等の国際課税リスク、海外での商慣習の違いといったさまざまな政治的、法的その他の障害に遭う。 |
|
競合・業界に関するリスク |
|
[脅威] ・特定の事業に対する投資を、競合他社と同程度に、又はタイムリーに、場合によっては全く実施できない、また、競合他社がそれぞれの競合事業において当社グループよりも大きな財務力、技術力及びマーケティング資源を有していること等により、製品・サービス需要及び価格が下落する。 ・将来の市場ニーズを把握しきれず、これに応えるための新技術を正しく予想し開発できない、又は当社グループが開発・提供した技術が業界において主流とならず、競合他社が開発した技術が業界標準となることで、新しい市場での競争力を失う。
[主要な取り組み] ・キャッシュの獲得を前提とした、グループとして強みを持つ事業への戦略的な投資。 ・事業のスピードを高めるための、正味付加価値を生まない業務のIT活用による効率化の推進、事業の競争力強化テーマ、開発設計、製造・販売、調達等グループ共通でスケールメリットのあるテーマについてのビジネスプロセスの変革。 ・コスト削減と競争力強化のため、デジタル技術の活用と業務改善活動の積み重ね、職場のあらゆるムダと滞留、手戻りを排除する活動の展開。 ・販売価格の維持及びより付加価値の高い製品の開発につなげるための、BtoC(一般消費者向け)分野のうち、国内向けの家電機器を対象とした販売店との取引形態の見直しと新たな「指定価格制度」の導入。 |
|
他社との提携・企業買収等に関するリスク |
|
[脅威] ・相手先とのコラボレーションが円滑に進まない、当初期待した効果が得られない、投資の全部又は一部が回収できない。 ・事業展開の過程で相手先が当社グループの利益に反する決定を行う。 ・相手先が事業戦略を変更し、提携関係を維持することが困難になる。 ・企業買収にかかる多額の費用の発生、買収後の事業統合・再編等にあたり期待した成果が十分に得られない、又は予期しない損失を被る。 ・当社グループの持分法適用会社に対しては、重要な影響力を有するものの支配をしていないため、当社グループが制御できない事象の発生などにより、当社グループの業績及び財政状態が悪影響を受ける。
[主要な取り組み] ・重要な戦略的提携の検討の段階に合わせた審議に基づく、事業戦略との整合性、検討の抜け漏れの有無確認、価格や契約内容の妥当性、リスクの洗い出し、統合プラン等の検証。
<各報告セグメント及びその他の事業、部門におけるリスク> コネクト事業 2021年9月に完全子会社化したBlue Yonder Holding, Inc.(以下、「Blue Yonder」)の様々なサプライチェーン分野でのケイパビリティを取り込むことで、現場プロセスイノベーションの実現の加速、また、両社のシナジー最大化に取り組んでいる。
[脅威] ・キーマネジメントメンバーを含めた優秀な人材の保持及び従業員の士気の維持ができない場合、事業環境や競合状況の変化等によってBlue Yonderの競争力が大きく低下する場合、重要な顧客やその他関係者との良好な関係を維持できない場合等により、期待した効果が十分に得られない可能性がある。 ・完全子会社化に加え、機能強化のために複数の追加買収を実施しているため、買収によるのれんや無形資産の計上額が増加している。事業環境や競合状況の変化等により期待した効果が得られないと判断され、回収可能価額が帳簿価額を下回った場合、又は適用される割引率が高くなった場合は、減損損失が発生する可能性がある(詳細は「(2) その他の重要なリスク」の「会計上の見積もり」を参照)。 ・企業のサプライチェーンマネジメントソリューションに対する期待が高まり、市場拡大が見込めるとともに、研究開発活動(R&D)やM&A等の投資競争が激化する。
[主要な取り組み] ・2022年7月に就任した新CEOを含む新たなBlue Yonderの経営陣と共に、成長戦略に伴う重点施策等を着実に推進。 ・事業競争力強化を目指し、商品品質の安定化による顧客満足度の向上や販売体制の強化に加え、戦略的な投資で高度なAI技術を取り込んだ新たなプロダクトの半期ごとのリリースや、機能補完を目的とした追加買収でEnd to Endソリューションの実現へ取り組んでいる。 ・成長ストーリーに対する資本市場からの理解を得ながら資金を調達し、継続的な投資による中長期な成長を図るため、議決権の過半数を持つ重要な連結子会社であることを前提に株式上場を検討。 |
|
事業再編に関するリスク |
|
[環境認識] ・当社グループは、多くの子会社及び関連会社等を有しており、経営の効率化と競争力の強化のため、グループ事業体制を再編(他社への事業又は株式の譲渡や、グループ内の組織又は拠点再編等を含む)することがある。 ・2025年2月に発信したグループ経営改革にて、事業ポートフォリオマネジメントの推進を加速。そのひとつとして、くらし事業の枠を超え、グループ全体でソリューション領域におけるシナジーを創出するために、パナソニック株式会社を発展的に解消し、傘下の分社を事業会社化。また、家電事業は家電市場に集中して向き合うために、グループの家電事業を集約した事業会社を設立し再建を目指す。
[脅威] ・経営の効率化や競争力強化のための現在及び将来におけるグループ事業体制の再編(他社への事業又は株式の譲渡や、グループ内の組織又は拠点再編等を含む)において、当初期待した成果が十分に得られない、判断や意思決定に時間を要し事業構成の組替がスムーズに進まない、又は適切な事業ポートフォリオマネジメントが実行できない。
[主要な取り組み] ・当社としての企業価値向上のため、持株会社としての各事業会社の競争力強化の積極的な支援及び当社グループの成長戦略の見直しの推進。各事業の成長性を見極め、グループ内で将来にわたってお役立ちを果たせる事業か、あるいはグループ外での競争力獲得が事業の成長のスピードに寄与するかといったベストオーナーの視点での事業ポートフォリオの見直し。 |
|
サプライチェーンに関するリスク |
|
[脅威] ・サプライチェーンにおける災害・事故、感染症の流行・拡大又はサイバー攻撃の発生等による供給の不足又は中断、業界内での需要の増加によって、供給業者の代替や追加、他の部品への変更が困難になる。 ・当社グループが部材を納入している取引先において生産の中断・停止、生産規模の縮小又は倒産等が生じ、当社グループの販売数量が減少する。 ・国家間・地域内の対立やテロ・戦争等によって各国の経済制裁や物流の混乱が深刻化し、さらなるコストの上昇や国際間物流に関する輸送リードタイムの長期化が生じる。
[主要な取り組み] ・原材料・部材の価格上昇の抑制や安定確保のため、購入先様との戦略的パートナーシップの構築、グループでの集中契約・集中購買を加速、汎用部品を中心に調達DXを駆使した推奨部品への置き換え推進。 ・物流費の上昇に対し、積載効率向上による使用コンテナ本数の削減、海上輸送ルートの複線化、中長期的なコンテナスペースの確保に加え、出荷平準化の推進等の合理化活動を強化。 ・物流・運送業界の人手不足、売上減少に起因する事業・取引撤退や廃業による物流の停滞等の回避のため、物流・運送業界の労働環境改善及び持続的な物流オペレーションの双方を実現するための適切な物流費用への転嫁等の施策の検討。 |
|
知的財産に関するリスク |
|
[脅威] ・当社グループが出願する特許その他の知的財産について、各国・地域における知的財産制度・審査基準や経済安全保障制度等の適用・運用等によって、権利が付与されない場合や権利が十分に保護されない。 ・知的財産が第三者によって侵害され、当該侵害品・模倣品が出現した場合、当社グループの正規品の販売に対する悪影響やブランドイメージの毀損等が発生。 ・当社グループにとって不利な条件で知的財産のライセンス等をせざるを得ない。また、当社グループが自らの知的財産を保護又は活用するために多額の費用及び経営資源を費やして訴訟等を提起しなければならない。 ・第三者が保有している知的財産について、当社グループが当該知的財産のライセンスを取得できないこと、取得していたライセンスが継続できない、又は不利な条件でライセンスを取得及び継続せざるを得ない。 ・当社グループが第三者の知的財産に関して訴訟等を提起される。また、当該訴訟等によって、多額の費用及び経営資源が費やされる。当該訴訟等において当社グループの主張が認められない場合には、当社グループが特定の技術等を利用できなくなる又は損害賠償責任を負う。
[主要な取り組み] ・事業に対する知的財産起点での戦略提案、グローバルな知的財産の獲得・保護・活用及び知的財産に係る紛争の予防と解決により、現在と将来にわたる事業の優位性と安全の確保を目指すとともに、社会課題の解決への貢献も視野に入れて、知的財産活動を推進。 ・各国・地域における知的財産制度・審査基準や経済安全保障制度等を考慮しながら、事業戦略及び研究開発戦略を踏まえた知的財産戦略に基づき、グローバルな知的財産ポートフォリオの構築に努めている。 ・必要に応じて弁護士、弁理士、外部コンサルタント、取引関係者、政府機関等の協力を得ながら、当社グループの保有する特許、ブランド、デザイン及びその他の知的財産に関する侵害品・模倣品の監視及び排除に努めている。 ・当社グループの知的財産のライセンス等の戦略的な付与にあたっては、適切な条件の下で行うよう努めている。 ・第三者の知的財産を利用する必要があるときは適切なライセンスを取得するよう努める。 ・第三者の知的財産を尊重するためグループ全体に適用する「知的財産基本規程」等の社内規程の制定及び従業員全員の順守に向けた定期的な教育の実施。 |
|
その他の法的規制等による不利益及び法的責任 |
|
[脅威] ・当社グループに適用される日本及び諸外国・地域の商取引、知的財産、製造物責任、環境保護、消費者保護、労使関係、金融取引、内部統制及び事業者への課税等に関する法規制に加え、事業及び投資を行うために必要とされる政府の許認可、電気通信事業及び電気製品の安全性に関する法規制、国の安全保障に関する法規制及び輸出入に関する法規制等について、より厳格な法規制が導入される又は当局の法令解釈が従来よりも厳しくなることにより、技術的観点や経済的観点等から当社グループがこれらの法規制に従うことが困難となる、又は事業の継続が困難となる。 ・当社グループが法規制等に違反し、又は法令順守のための内部統制体制が不十分であったと当局が発見又は判断した場合、課徴金等の行政処分、刑事処分又は損害賠償訴訟の対象となる。また、当社グループの社会的評価に悪影響を及ぼす。 |
|
会計上の見積り |
|
[脅威] ・当社グループが保有している有形固定資産、のれん、無形資産及び使用権資産等の非金融資産について、減損テストの実施結果に基づき、当該資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額、減損損失を認識する可能性がある。 ・当社及び一部国内子会社の確定給付制度債務について、金利低下に伴う退職給付債務の増加や株価下落などによる年金資産の減少により退職給付に係る負債が増加し、親会社の所有者に帰属する持分が減少する。 ・当社グループが認識している繰延税金資産について、回収可能性が低下した部分を減額することにより、法人所得税費用が増加する。 |
(1)重要性がある会計方針及び見積り
当社の連結財務諸表はIFRSに基づいて作成されています。また、当社は連結財務諸表を作成するために、種々の仮定と見積りを行っています。それらの仮定と見積りは資産・負債・収益・費用の計上金額並びに偶発資産及び債務の開示情報に影響を及ぼします。重要な仮定と見積りは、繰延税金資産の回収可能性、確定給付制度債務、非金融資産(のれんを含む)の減損に反映しています。なお、実際の結果がこれらの見積りと異なることもあり得ます。
重要性がある会計方針及び見積りの内容は、連結財務諸表注記「3.重要性がある会計方針」に記載しています。
(2)生産、受注及び販売の実績
当社グループ(当社及び連結子会社)の生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではなく、また製品の性質上、原則として見込生産を主体とする生産方式を採っています。
なお、当社グループは製品の在庫を一定の必要水準に保つように生産活動を行っていることから、生産実績は販売実績に概ね類似しています。
(3)当連結会計年度の経営成績の分析
2024年度の世界経済は、総じて緩やかに減速しました。日本や欧州ではインフレ鈍化等により景気が緩やかな持ち直し傾向であり、米国では景気は緩やかな減速局面にあるものの底堅く推移しました。一方、中国では不動産市況の低迷等を背景に弱い動きが続きました。
このような経営環境のもと、当社は2022年度から持株会社と事業会社からなる新しいグループ体制における3カ年の中期戦略を実行しました。同戦略の最終年度となる2024年度は、ROE(株主資本利益率)の向上に資する取り組みに注力しました。
重点投資領域と定めた車載電池事業では、パナソニック エナジー㈱が、電気自動車需要の減速など足下で事業環境が変化する中、顧客需要を見極め、投資計画を進めています。また、和歌山工場をリニューアルし、業界に先駆けて安全性を担保しつつ高エネルギー密度を実現できる4680セルの量産準備を完了しました。さらに、投資領域として定めたサプライチェーンマネジメント(SCM)ソフトウェア事業では、パナソニック コネクト㈱の子会社であるBlue Yonder Holding, Inc.が、2024年8月に買収が完了した米国のOne Network Enterprises, Inc.との統合を加速し、製品の改善とともに販路の拡大を進めました。
当社は、パナソニック オートモーティブシステムズ㈱(以下、「PAS」)の株式譲渡を2024年12月に完了するなど、事業ポートフォリオの見直しを順次進めていますが、強固な収益体質を構築するために、2024年度からは各事業を成長性と投下資本収益率(ROIC)で厳格管理する規律を導入しました。ROICが事業別の加重平均資本コスト(WACC)を下回り、かつ成長性に乏しい事業を課題事業と位置付け、2026年度までに課題事業をゼロにしていきます。
①売上高
当年度の連結売上高は、8兆4,582億円(前年度比0.5%減)となりました。くらし事業・コネクト・インダストリーの販売増に加え、為替換算の影響による増加はありましたが、オートモーティブにおけるPASの非連結化による影響により、僅かに減収となりました。
②営業利益及び税引前利益
営業利益は、4,265億円(前年度比18%増)、税引前利益は4,863億円(前年度比14%増)となりました。インフレによる固定費増加や戦略投資の増加、PASの非連結化影響や株式譲渡に関連する費用計上などはありましたが、増販益や合理化の進捗などにより、増益となりました。
③親会社の所有者に帰属する当期純利益
親会社の所有者に帰属する当期純利益は、3,662億円(前年度比18%減)となりました。前年にパナソニック液晶ディスプレイ㈱の解散(特別清算)及び同社に対する債権放棄を決議したことに伴う法人所得税費用の減少があった反動により、減益となりました。また、基本的1株当たり親会社の所有者に帰属する当期純利益は、156円87銭(前年度190円21銭)となりました。
④セグメントの経営成績
当社グループは、経営管理上、事業の成果を「くらし事業」「オートモーティブ」「コネクト」「インダストリー」「エナジー」の5つの報告セグメントに区分して評価、開示しています。各セグメントの金額には、セグメント間の取引を含んでいます。
なお、2024年4月1日付で、一部の事業をセグメント間で移管しています。また、2024年12月2日付でパナソニック オートモーティブシステムズ㈱(以下、「PAS」)の株式譲渡が完了したことに伴い、一部の事業をセグメント間で移管しています。2023年度及び2024年度のセグメント情報については、変更後の形態に合わせて組み替えて算出しています。
a くらし事業
当セグメントの売上高は、前年度比で4%増加し、3兆5,842億円となりました。
当年度は、日本・アジアを中心としたルームエアコンや家電の販売増加、国内電設資材の価格改定効果などにより、増収となりました。
主な分社の状況は、くらしアプライアンス社では、中国において需要減の影響があったものの、日本・アジアの販売が堅調に推移したことに加えて為替換算の影響もあり、増収となりました。
空質空調社では、欧州のヒートポンプ式温水給湯暖房機(Air to Water、以下、「A2W」)が減販となったものの、日本・アジアなどでルームエアコン及び環境エンジニアリング、空調デバイスなどの販売が増加し、全体では増収となりました。
コールドチェーンソリューションズ社では、国内ショーケース販売が堅調に推移したことに加えて為替換算の影響もあり、増収となりました。
エレクトリックワークス社では、国内における電設資材の価格改定の影響や非住宅照明(施設・防災)の需要が堅調であったことに加え、インド等においても需要が堅調であったことから、増収となりました。
当セグメントの営業利益は、1,279億円となりました。欧州A2Wの減販影響はありましたが、ルームエアコン、国内の価格改定効果を含む電設資材などの増販効果に加え、合理化などの事業体質改善が進んだことなどにより、前年度から82億円の増益となりました。
b オートモーティブ
当セグメントの売上高は、8,050億円、営業利益は、301億円となりました。2024年12月2日にPASの株式譲渡が完了し非連結化したことに伴い、当年度は約8ヵ月分の実績となったことから、減収減益となりました。
c コネクト
当セグメントの売上高は、前年度比で11%増加し、1兆3,332億円となりました。
当年度は、メディアエンターテインメント事業は減収となりましたが、アビオニクス事業、プロセスオートメーション事業、現場ソリューション事業、ブルーヨンダー事業などが堅調に推移し、増収となりました。
主な事業の状況は、アビオニクス事業では、機体製造の停滞に伴う出荷遅延の影響を受けたものの、旅客機の運航回復を背景とした機体メンテナンス・リペアサービス需要の拡大や機内エンターテインメント・通信システムの好調な受注により、増収となりました。
プロセスオートメーション事業では、中国を中心としたスマートフォン需要の回復やICT(情報通信)業界の需要を着実に受注に結びつけたことなどにより、増収となりました。
現場ソリューション事業では、大型案件を含む国内ソリューション案件の順調な獲得が継続し、増収となりました。
ブルーヨンダー事業では、SaaS(注)の好調な販売が継続し、増収となりました。
当セグメントの営業利益は、772億円となりました。プロセスオートメーション事業、アビオニクス事業、現場ソリューション事業、ブルーヨンダー事業などの増販益に加え、商品力強化などによるモバイルソリューション事業の収益性向上もあり、前年度から381億円の増益となりました。
(注)SaaS:Software as a Serviceの略。ベンダーが提供するクラウドサーバーにあるソフトウェアを、インターネットを経由してユーザーが必要な機能を利用できるサービス
d インダストリー
当セグメントの売上高は、前年度比で4%増加し、1兆836億円となりました。
当年度は、欧州を中心とした市況低迷の影響を受け、車載・産業用リレー等が減収となりましたが、生成AIサーバー向け等の情報通信関連製品(コンデンサー、多層基板材料等)の販売増加に加え、為替換算の影響もあり、全体では増収となりました。
主な事業の状況は、電子デバイス事業では、欧州市場の低迷により車載リレー・コンデンサー、産業用リレーなどは減収となりましたが、生成AIサーバーなど情報通信インフラ・端末向けコンデンサー等が好調に推移し、全体では増収となりました。
FAソリューション事業では、国内市場全体の在庫調整の影響により、国内販売が減少しましたが、中国3C(コンシューマー、コンピューター、コミュニケーション)市況を反映した販売が堅調に推移し、全体では増収となりました。
電子材料事業では、生成AIサーバーをはじめとする情報通信インフラ向けの多層基板材料の需要が引き続き好調であったことなどにより、増収となりました。
当セグメントの営業利益は、432億円となりました。生成AIサーバー向け製品などの増販益に加え、価格改定や合理化施策の推進などにより、前年度から121億円の増益となりました。
e エナジー
当セグメントの売上高は、前年度比で5%減少し、8,732億円となりました。
当年度は、産業・民生向けでは、データセンター向け蓄電システムの販売が大きく伸長しました。一方で、車載電池は、電気自動車の市場の伸びが減速する中、北米工場の販売数量は拡大しましたが、国内工場の需要減や原材料価格低下に伴う価格改定の影響が大きく減収となりました。
主な事業の状況は、車載事業では、北米製セルの需要は旺盛で、新たな設備稼働も加わり販売数量は拡大しましたが、日本製セルの需要の減少に加え、価格改定などにより減収となりました。
一方、産業・民生事業では、生成AI市場の成長を背景に、データセンター向け蓄電システムの販売が大幅に伸長し、増収となりました。
当セグメントの営業利益は、1,202億円となりました。車載事業では、北米ネバダ工場の生産性向上等による販売数量の増加や、新たに過去分も含めた電極活物質製造コストに対する米国IRA(インフレ抑制法)に係る補助金収入の計上がありましたが、北米カンザス工場や和歌山工場の立ち上げ費用が増加し、減益となりました。一方、産業・民生事業では、データセンター向け蓄電システムの増販益に加え、原材料価格の低下や材料合理化などにより増益となり、セグメント全体でも前年度から314億円の増益となりました。
f その他(報告セグメントに含まれない事業)
その他の事業の売上高は、前年度比で11%増加し、1兆6,894億円となりました。営業利益は前年度から増益の798億円となりました。
(4)経営成績に重要な影響を与える要因について
「3.事業等のリスク」に記載しています。
(5)財政状態及び流動性
①流動性と資金の源泉
当社グループでは、事業活動に必要な資金は自ら生み出すことを基本方針としています。また、生み出した資金については、グループ内ファイナンスにより効率的な資金活用を行っています。その上で、運転資金や事業投資などのため所要の資金が生じる場合には、財務体質や金融市場の状況を踏まえた適切な手段により外部からの資金調達を行っています。
(資金)
当年度末の現金及び現金同等物の残高は8,476億円となり、前年度末に比べ2,720億円減少しました。当年度は、社債償還資金への充当及び今後の事業展開に必要な資金の確保を目的とし、2024年7月に5年ぶりとなる米ドル建無担保普通社債5億米ドルを発行するとともに、2024年12月に600億円、2025年2月に550億円の円建無担保普通社債を発行しました。また、運転資金などの調達を主にコマーシャルペーパー(CP)の発行により行いました。なお、2024年7月に米ドル建無担保普通社債10億米ドル、2025年3月に第14回無担保普通社債1,000億円(2015年3月発行)を満期到来により償還いたしました。
これらの結果、当年度末の円建無担保普通社債の残高は7,250億円、円建公募ハイブリッド社債(劣後特約付社債)(注)の残高は4,000億円、米ドル建無担保普通社債の残高は10億米ドルとなりました。
(注)ハイブリッド社債(劣後特約付社債):資本と負債の中間的性質を持ち、利息の任意繰延、超長期の償還期限、清算手続き及び倒産手続きにおける劣後性等、資本に類似した性質及び特徴を有した社債
(有利子負債)
有利子負債は、無担保普通社債などの償還などにより、前年度末の1兆6,263億円から当年度末には1兆5,682 億円へと減少しました。なお、当社は不安定な金融経済環境における資金調達リスクに備え、2024年6月に複数の取引銀行と期間を3年間とするコミットメントライン契約(注)を締結しています。当該契約に基づく無担保の借入設定上限は総額6,000億円ですが、借入実績はありません。
(注)コミットメントライン契約:金融機関との間で予め契約した期間・融資枠の範囲内で融資を受けることを可能とする契約
(格付け)
当社は、㈱格付投資情報センター(R&I)、S&Pグローバル・レーティング・ジャパン㈱(S&P)及びムーディーズ・ジャパン㈱(ムーディーズ)から格付けを取得しています。当年度末の当社の格付けは、次のとおりです。
R&I:A (長期、アウトルック:安定的)、a-1 (短期)
S&P:A-(長期、アウトルック:安定的)、A-2 (短期)
ムーディーズ:Baa1 (長期、アウトルック:ポジティブ)
②キャッシュ・フロー
当社グループは、事業収益力強化によりフリーキャッシュ・フローを向上させ、中長期的に事業を発展させていくことが重要と考えています。同時に、継続的な運転資本の圧縮、保有資産の見直しなどによるキャッシュ・フローの創出にも徹底して取り組んでいます。
当年度の営業活動により増加したキャッシュ・フローは7,961億円、投資活動により減少したキャッシュ・フローは8,599億円となり、両者を合計したフリーキャッシュ・フローは、マイナス638億円(前年差3,519億円の悪化)となりました。
なお、キャッシュ・フローの分析の詳細は、次のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当年度の営業活動により増加したキャッシュ・フローは7,961億円(前年度は8,669億円の増加)となりました。前年差の主な要因は、米国IRA補助金の第三者への権利売却による資金化があった一方で、運転資本増減等が悪化したことなどによるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動により減少したキャッシュ・フローは8,599億円(前年度は5,788億円の減少)となりました。前年差の主な要因は、PASの株式譲渡に伴う収入はありましたが、車載電池を中心とした設備投資の増加や、One Network Enterprises, Inc.の買収に係る支出があったことなどによるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動により減少したキャッシュ・フローは1,903億円(前年度は835億円の減少)となりました。前年差の主な要因は、社債発行による資金調達額が減少したことなどによるものです。
これらに為替変動の影響等を加味した結果、当年度末で現金及び現金同等物の残高は8,476億円となり、前年度末に比べ2,720億円減少しました。
③設備投資額と減価償却費
当社グループでは、将来の成長に向けて、重点事業を中心に投資を着実に行っていくという考え方に基づき設備投資を行った結果、当年度の設備投資額(有形固定資産のみ)については、前年度の5,680億円から2,009億円増加し、7,689億円となりました。主要な設備投資は、「エナジー」における車載用のリチウムイオン電池などの生産設備及び北米の新工場建設、「くらし事業」におけるA2W他の家庭用電化機器・電設資材などの生産設備、「インダストリー」における電子部品・制御機器などの生産設備、「オートモーティブ」における車載機器などの生産設備、「コネクト」におけるB2Bソリューション事業関連機器などの生産設備です。
減価償却費(有形固定資産のみ)は、前年度の2,072億円から139億円増加し、2,211億円となりました。
④資産、負債及び資本
当年度末の総資産は9兆3,432億円となり、前年度末に比べ680億円の減少となりました。これは、主に有形固定資産の増加はありましたが、PAS非連結化の影響に加え、現金及び現金同等物、棚卸資産減少などによるものです。
負債は、前年度末に比べ2,209億円減少し、4兆4,684億円となりました。これは、主にPAS非連結化の影響や社債発行残高の減少などによるものです。
親会社の所有者に帰属する持分は4兆6,944億円となり、前年度末に比べ1,503億円増加しました。これは、主に為替の影響によりその他の包括利益は減少しましたが、親会社の所有者に帰属する当期純利益などによるものです。また、非支配持分を加味した資本合計は4兆8,748億円となりました。
この結果、親会社所有者帰属持分比率は前年度末の48.3%から増加し、50.2%となりました。
(プロジェクター事業等の戦略的資本提携)
当社は、2024年7月31日付の取締役会において、当社の100%連結子会社であるパナソニック コネクト㈱(以下「PCO」)のプロジェクター事業等に関して、PCOがオリックス㈱(以下、「オリックス」)と戦略的資本提携することを決議し、PCOとオリックスは同日付で戦略的資本提携に関する契約(以下、「本件資本提携」)を締結しました。本件資本提携に基づき、PCOのメディアエンターテインメント事業部を母体とする新会社を設立し、プロジェクター事業等の更なる成長を目指します。オリックス及びPCOは、当該新会社の株式の100%を保有する特別目的会社の株式のそれぞれ80%及び20%を保有し、当該新会社は、当社の持分法適用会社となる見込みです。なお、本件資本提携の実行日は未定です。
当社グループは成長戦略に基づき、将来を担う新技術や新製品の開発に注力しました。加えて、「地球環境課題の解決」への貢献と、「社会とくらしのウェルビーイング」へのお役立ちを目指した技術開発にも、積極的に取り組みました。
当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は、
なお、「オートモーティブ」は、2024年12月2日にパナソニック オートモーティブシステムズ㈱の株式譲渡が完了し非連結化したことに伴い、非連結化した事業の非連結化するまでの期間(当連結会計年度は約8ヵ月分)の実績を表示しています。
各報告セグメント及びその他の事業、部門の主な成果は、以下のとおりです。
(1) くらし事業
主に「くらし」領域において、家電、空調、照明、電気設備や業務用機器など、家庭から店舗、オフィス、街にいたる様々な空間に対応した商品・サービスの研究開発を行っています。
主な成果としては、以下のとおりです。
・クリーンで効率的な、純水素型燃料電池・太陽電池・蓄電池を連携させたエネルギーマネジメントシステムを開発
純水素型燃料電池、太陽電池、蓄電池を統合し、AIとクラウド技術を活用したエネルギーマネジメントシステムで電気や熱を最適に供給することで、環境に優しく、エネルギー効率を向上させ、高い信頼性と柔軟性を提供するシステムを実現しました。これにより、経済的メリットとエネルギーレジリエンス(注)1を実現する持続可能で効率的なエネルギーソリューションの提供が可能となりました。技術の実証実験も行っており、2022年に開始した草津拠点の発電プラントでは、工場需要の98%の電力をカバーしました。また2024年に英カーディフの電子レンジ工場では、脱炭素化、コスト最適化の実証を開始、2025年にはオフィスのエネルギーレジリエンスの実証を独ミュンヘンで開始しました。こうした3電池連携を含めた、環境負荷の少ない水素の本格活用を図るエネルギーソリューション「Panasonic HX」の構築に貢献していきます。
・再生可能エネルギーを含めた電力を無駄なく有効に利用する技術の開発
エネルギー創出技術とともに、電力を無駄なく有効活用する技術の開発も進めています。真空断熱ガラスともう一枚のガラスを複層化した独自構造のガラス扉を搭載した冷凍リーチインショーケースを開発しました。このショーケースは保冷効率が向上したほか、ガラス表面の結露防止のヒーター通電も抑制できるため、従来品と比較して約33%(注)2の省エネを実現し、省エネ大賞を受賞しました(注)3。また、翌日の日射量予測をもとに太陽光パネルの発電量が多い時間帯を中心にお湯を沸かす「日射量シフト」機能を搭載した昼間沸上げ形自然冷媒(CO2)ヒートポンプ給湯機「おひさまエコキュート」を業界に先駆けて開発・販売しました。「おひさまエコキュート」は、太陽光発電と組み合わせることで、昼間の余剰電力でお湯を沸かし、効率的なエネルギー利用を実現します。さらに、貯湯ユニットやヒートポンプユニットなどの高効率化により、業界最高水準の年間給湯保温効率 3.5(注)4を達成しました。
(2) コネクト
主に「サプライチェーン」「公共サービス」「生活インフラ」「エンターテインメント」分野での企業・法人向けのハードを含むソリューションの研究開発を行っています。
主な成果としては、以下のとおりです。
・製造・物流現場での効率化・最適化に寄与するAI・ロボット技術を開発、主要国際学会でも採択・発表
視覚と言語情報を同時に扱えるAIマルチエージェントシステム、追加のアルゴリズムなしで現場の多様な制約条件に合わせて最適化する多目的最適化技術を開発しました。さらに、現場で動く対象物を光沢などのノイズがあっても高精度かつ1ミリ秒以下で検出するセンシング技術を開発しました。物流や製造現場でAIやロボットを活用したこれらの技術を活用してサプライチェーンの最適化、製造現場の計画立案の効率化、物流の自動化など製造、物流、流通のあらゆる現場の効率化と生産性向上を支援していきます。
・非接触指紋認証における照合精度を向上する技術を開発し、出入国在留管理庁 羽田空港実証実験に採択
指を押し付けて取得した圧着指紋のデータと、非圧着で指の変形が生じない非接触指紋の照合を可能にする技術を開発しました。本技術は出入国在留管理庁が実施する日本初の非接触指紋認証の実証実験にも導入されています。非接触で取得した指紋画像から圧着時の特徴変動を予測する独自のディープラーニング手法により、非接触指紋と圧着指紋の照合精度を大幅に向上させ、従来の圧着指紋データベースとの照合におけるエラー率を、一般的な未変換の非接触指紋と比べ約5分の1以下に抑えることができます。顔認証や非接触指紋認証といった生体認証技術を強みに、お客様やパートナー企業と実証実験を重ねて実現したUX(ユーザー体験)やデザインとを融合させ、引き続きお客様のくらしや現場で貢献していきます。
今後も製造業100年の知見とソフトウェアを組み合わせたソリューションや高度に差別化されたハードウェアの提供を通じて、現場にイノベーションをもたらし多様な人々が幸せに暮らせる、持続可能な社会の実現を目指していきます。
(3) インダストリー
主に電子部品、FA・産業デバイス、電子材料などのBtoB事業を中心とした幅広い技術分野の研究開発を行っています。
主な成果としては、以下のとおりです。
・知見やノウハウとデジタル技術を組み合わせ、開発・実験設備を自動化した「スマートラボ」を進化
大阪府門真市の構内に開設した自動実験室「スマートラボ」にて、導電性高分子コンデンサの開発におけるプロセス条件の最適化に適用することで、連続的な稼働を実現。これまで人手が介在することが多かった開発・実験手法と比較し、開発効率を大幅に加速させることができます。今後はこうした「スマートラボ」でのプロセスを他の開発にも活用することで、人手による単純作業の自動化を進め、技術者はより創造性ある付加価値の高い研究開発業務に集中できる環境を充実させていきます。
今後も、スマートラボを起点にインダストリー事業の技術開発を強化していきます。
(4) エナジー
主に乾電池、二次電池、産業用電池、車載用電池の研究開発を行っています。
主な成果としては、以下のとおりです。
・最新の4680サイズの車載用円筒形リチウムイオン電池セルの量産技術を確立
4680セルは、従来の2170セルと比較して約5倍の容量を持つため、電気自動車(EV)の航続距離の延長に貢献するほか、EVに搭載するセル数の大幅な削減が可能なため、バッテリーパックの組み立て工程の効率化や、EVコストの低減に繫がることなどが期待される新型電池です。1セルあたりの容量が大きくなるため、製造工程において、より高度な技術や工法が求められる中で、当社の30年にわたる円筒形リチウムイオン電池の生産技術開発とノウハウの蓄積により、業界に先駆けて高性能な4680セルの量産技術を確立しました。和歌山工場を4680セル生産のマザー工場と位置付け、ここで得られた実証結果を国内外の工場へ展開するなど、競争力を持つコア拠点の構築を目指します。
今後もリチウムイオン電池の製造基盤の拡充並びに競争力強化に向けて寄与していきます。
(5) その他
エンターテインメント&コミュニケーション
主に、有機ELテレビなどのAV機器、デジタルカメラ、ヘッドホン、電話機、インターホンなどの民生用商品、並びに放送・業務用映像制作システム、業務用音響機器などに関する研究開発を行っています。
主な成果としては、以下のとおりです。
・磁性流体を適用した完全ワイヤレスイヤホンを開発、臨場感あるクリアな音質を実現
昨今、通信環境の発達や映像・音声の配信サービスの拡充、ストリーミングサービスの高音質化の加速に伴い、ワイヤレスイヤホンで高音質に視聴したいというニーズが高まっています。一般的なドライバーユニットは音を伝える振動板をイヤホンの外周部分だけで支える構造となっており、極薄にすると振動板を安定して支えきれず振動板の動きが乱れることで音の歪みの増加原因となり、逆に厚くすると大きな振幅を必要とする低音の振幅範囲が小さくなり低域の再生能力に影響が出る課題がありました。今回磁性流体ドライバーを新たに内周部分に適用し振動板を安定的に支えることで、大きな振幅(低域)から高速で小さな振幅(高域)まで正確な動作を可能とすることで超低歪かつ超低域までの音質を実現しました。
今後も映像・音響・通信の技術で、お客様のウェルビーイングに貢献する商品サービスを提供していきます。
ハウジングシステム
主に住宅設備・建材や技術を活かしたデバイス・ソリューションの研究開発を行っています。
主な成果としては、以下のとおりです。
・AIを活用した住宅間取り図からの自動積算機能を開発
昨今の建設業界を取り巻く環境は、大工の減少や物流2024年問題が顕在化し、労働生産性の向上への取り組みが課題となっています。一部の建材製品の見積り積算においては、居室の数や広さ、部屋の形などの住宅プランが都度変わるため定型化することが困難でした。こうした業界課題の解決に向けて、当社積算システムに2023年には国内住宅CADメーカーとの連携機能を導入し、今回新たに「紙の図面」からも自動で拾い出し可能な「AI積算」機能を開発・導入し、CADソフトに限定することなく、拾い出し業務の効率化を実現しました。また、コーディネートした7つの空間パッケージから仕様を一括選定できる連携機能や活用する住宅会社様の標準仕様呼び出し機能等も追加することで、前述した当社建材製品1棟分の見積り時間を最大で約1/3に短縮できる「間取り図AI積算」の提供を開始しました。
今後も、『くらしの「ずっと」をつくる。』という理念に基づき、人々の「くらし」に寄り添い、人と社会へ新たな価値を提供していきます。
技術部門・共通事項
主に、技術・モノづくりに関わる全社戦略の統括、中長期視点での先端技術開発、生産技術・要素技術・共通技術基盤開発などを行っています。
主な成果としては、以下のとおりです。
・ガラス型ペロブスカイト太陽電池の大面積モジュール(1m×1.8m)試作ラインを稼働
当社は独自の材料技術やインクジェット塗布製法、レーザー加工技術を組み合わせることにより、サイズ、透過度、デザインなどのカスタマイズにも対応可能なガラス型ペロブスカイト太陽電池の技術開発を進めています。当年度は、建材としての実証サイズである大面積(1m×1.8m)の試作ラインを立ち上げ、作製した大面積モジュールをCEATEC 2024、CES 2025に出展しました。また、大阪・関西万博にも出展します。
今後はこの大面積モジュールでプロセス最適化や実装に向けた開発を推進し、再生可能エネルギーの創出と都市景観の調和、さらなるCO2削減に貢献していきます。
・AIの開発期間短縮を図り、信頼性を確保する技術の開発
AI開発においては、事前学習に膨大な時間を要するデータセット構築の効率化や信頼性の確保が課題となります。このような課題に対して、国内最大規模の日本語に特化した自社向け大規模言語モデル「Panasonic-LLM-100b」の開発を他社との協業により進めています。「Panasonic-LLM-100b」は1,000億パラメータを持ち、当社の社内データを追加事前学習させることでビジネス領域における知識を強化し、AIのハルシネーション(注)5を大幅に抑止することが期待できます。さらに、当社開発のマルチモーダル基盤モデル(注)6を進化させることで、開発工数の大幅削減と認識能力の高精度化を両立する技術の開発も行っています。
・AIのくらしや仕事(現場)への実装に向けた技術開発を推進
AI開発の効率化を図るとともに、くらしや仕事への実装も推進しています。くらしへの実装においては、冷蔵庫に搭載したAIカメラでドアを開けた際に庫内の画像を撮影し、在庫を確認できる機能を開発しました。広角と狭角望遠の2つのカメラで、食材を高精度に検出。野菜室の撮影画像からAIが野菜の種類を自動認識し、食材をアプリに登録した入庫日の記録と連携して、早く食べたほうがよい順にリスト化するなど、フードロス削減にも貢献しています。仕事における実装事例としては、生成AIを活用した自社プラットフォームにより、業務生産性の向上や、開発現場での実験自動化による次世代コンデンサ-や基板材料の開発効率化を進めています。特に自動化した実験環境では無人で365日、24時間稼働し、AIやマテリアルズ・インフォマティクス(注)7と組み合わせることで、材料開発プロセスの高度化・短期化を実現しています。
(注)1 エネルギー供給に障害が発生した場合に、被害を最小限に抑え、迅速に復旧する能力
2 「標準扉(トリプルガラス)」搭載機種と「VIG省エネ扉」搭載機種との比較
3 省エネルギーセンター会長賞:真空断熱ガラスを利用した冷凍リーチインショーケース「REシリーズ」
4 年間給湯保温効率=1年間で使用する給湯とふろ保温に係る熱量÷1年間で必要な消費電力量×100
5 事実に基づかない情報を生成する現象
6 画像やテキストなどを同時に解析し、これらの複数の情報間の関係を評価する能力を持つモデル
7 機械学習などの情報科学を用いて材料開発を高速化・効率化する革新的な技術・手法