第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) 経営方針

① 経営理念・経営信条

当社の創業者 早川徳次の言葉の一つに「他社がまねするような商品をつくれ」があります。この言葉には、次の時代のニーズをいち早くかたちにした“モノづくり”により、社会に貢献し、信頼される企業を目指すという当社グループの経営の考え方が凝縮されています。

当社グループは、1973年に、この創業の精神を「経営理念・経営信条」として明文化し、この精神に沿って、他社とは一味違った「シャープらしい」価値創造に取り組んできました。そして、2025年5月、これからも全社員が「シャープらしさ」にこだわりをもって事業活動を推進していくことを目的に、「経営理念・経営信条」に沿った新たな指針として、Our Mission「誠意をもって人々の日常を見つめ、創意をもって新たな体験を提案する」を策定しました。

当社グループは、このOur Missionを共通の合言葉に、今後も引き続き、「経営理念・経営信条」を体現し続けることで、社会の発展に貢献していきたいと考えています。

 

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② 目指す方向性

当社グループは、DNAである「目の付けどころ」と「特長技術」、さらには、近年、特に力を入れて磨き続けている「スピード」の3つを強みとし、あなたらしく“暮らす”と共創的に“働く”の二つの領域で、Our Mission「誠意をもって人々の日常を見つめ、創意をもって新たな体験を提案する」を実践していきます。

そして、次々と独創的なモノやサービスを生み出し、それにとどまらず、これらを通じて“新たな文化”をつくる会社へと成長していきたいと考えています。

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(2) 経営環境、経営戦略、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

2024年度の世界経済は、不動産市場の停滞や物価下落の影響のあった中国など一部の地域では景気の足踏み状態が続いたものの、強い労働需要や設備投資に支えられ米国経済が堅調だったことなどから、回復基調で推移しました。しかしながら、年度末にかけては、これまで世界経済をけん引してきた米国においても、通商政策の影響でインフレ予想が高まるとともに、消費者心理が悪化し、弱い経済指標も散見されるようになるなど、世界経済の回復基調にやや減速傾向が見られました。今後についても、米国の通商政策の先行きや、これに伴う各国の物価や金利政策の動向、さらにはウクライナ情勢や中東情勢をはじめとした地政学リスクなど、当社グループを取り巻く事業環境は予断を許さない状況が続くものと考えています。

 

こうした中、2024年度、当社グループは「年間黒字必達」を目標に全社を挙げて収益力強化に取り組み、その結果、ブランド事業は二桁の増収増益を達成し、デバイス事業もディスプレイ事業の構造改革の進展により営業赤字が大幅に縮小、全社トータルでは売上高が前年対比で減少したものの、営業利益、経常利益、最終利益はいずれも大きく改善し、黒字化しました。さらに、売上高、各利益ともに、2025年2月7日に公表した通期連結業績予想値を上回ることができました。

また、2024年5月の中期経営方針で掲げた「デバイス事業のアセットライト化」についても、当初想定のスケジュールに沿って着実に実行することができ、ブランド事業においても、低収益事業の構造改革に取り組むとともに、成長への布石を複数打つなど、再成長に向けた確かな基盤の構築が進展しました。

 

そして、2025年5月12日、当社グループは再成長に向けた中期経営計画を発表しました。今後は以下の3つの重点取り組みを遂行し、競争力の強化を図るとともに、財務基盤の改善を進め、再び成長軌道へと舵を切ります。

1 ブランド事業の「グローバル拡大」と「事業変革」の加速

:事業の「集中と転換」を進めるとともに、ブランド事業に「従来比2倍以上の成長資金」を投下し、

収益性や成長性を大幅に向上

2 持続的な事業拡大を支える「成長基盤」の構築

:社内外との連携を強化し、「コア技術の深化・将来技術の探索」を加速するとともに、「人への

投資」を拡大

3 成長をドライブする“マネジメント力”の強化

:コーポレートとビジネスグループの役割と責任を明確化し、「経営スピードのさらなる向上」を図るとともに「事業の成長を強力にドライブ」

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なお、こうした取り組みを推進するにあたり、当社グループは2025年4月1日付で、ブランド事業の3つの

ビジネスグループを、あなたらしく“暮らす”を事業ドメインとする「スマートライフビジネスグループ」と、共創的に“働く”を事業ドメインとする「スマートワークプレイスビジネスグループ」の2つに再編しています。

加えて、将来の飛躍に向け、大きな成長が期待される新産業領域でのNext Innovationの具現化にも着手します。具体的には、自社の様々な特長技術を核に、親会社である鴻海精密工業股份有限公司のリソースも有効に活用し、EVやAIデータソリューション、インダストリーDX・ロボティクス、宇宙などの分野において新たな取り組みを展開していきます。

(3) 事業別取り組み方針

① スマートライフビジネスグループ

「あなたの明日を、もっとあなたらしく、ワクワクする日々に」をビジョンに、スマートアプライアンス&

ソリューション、テレビシステム、エネルギーソリューション、センサーデバイスの各事業が連携し、新たな

体験をもたらす特長商品を開発するとともに、暮らしに寄り添った独自のサービスを展開していきます。

そして、世界中のお客様に当社ならではの価値をお届けし、“SHARP”ブランドをグローバルに拡大していきます。

<主な重点取り組み>

 - 商品とサービス両面でのAIoT事業の拡大

 - 美容・ヘルスケア事業の強化

 - 中核地域であるASEANのさらなる強化

- 米州及び中近東/アフリカにおける優位性を活かした大幅成長

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② スマートワークプレイスビジネスグループ

「テクノロジーとネットワークで、世界中のコラボレーションを強化する」をビジョンに、ワークプレイス

ソリューション、コンピューティングソリューション、モバイルコミュニケーションの各事業が連携し、既存のプロダクトを継続強化するとともに、顧客のDXを支援するスマートビジネスを展開していきます。

具体的には、「AIや特長技術を活用したスマートプロダクト」、「SaaSを中心としたDXサービス」、「プロダクトとサービスを組み合わせたハイブリッド型システム」をオフィスやリテール、ロジスティクス、

パブリックの4つの産業領域を中心に展開していきます。

<主な重点取り組み>

 - 既存プロダクトの強化とスマートビジネスの展開によるオフィス向け事業の拡大

 - 新たなスマートビジネスの展開(リテール向けDXサービスの展開、ロジスティクス向け事業の拡大、

衛星通信事業の立ち上げ など)

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③ ディスプレイデバイス事業

ディスプレイデバイス事業ではこれまで、黒字化に向け、堺ディスプレイプロダクト㈱のパネル生産停止、

亀山第2工場及び三重第3工場の生産能力調整、堺工場OLEDラインの閉鎖など、様々な構造改革を実行してきました。そして現在、ボラティリティの高い亀山第2工場を、2026年8月迄に鴻海グループに譲渡する方向で具体的協議を行っており、さらなる固定費の削減を進めていきます。

今後は亀山第1工場及び白山工場を活用し、競争優位を持続できる「車載」・「XR製品などのモバイル」・「産業用途」に集中した事業展開を進め、高付加価値商品の販売を拡大することで、黒字転換を目指します。

a)亀山第1工場

 <工場活用方針>

成長し続ける車載用LCD需要に対応し、車載専用化

 <主な重点取り組み>

- 車載向け特長技術開発の加速(超低反射、デュアルビュー、クリックディスプレイ等)

- 地政学リスクを背景とした完成品メーカーの調達網再構築需要の取り込み

b)白山工場

<工場活用方針>

  IGZO技術などの特長技術を結集し、高付加価値製品をマルチに供給

<主な重点取り組み>

- XR用超高精細LCDを量産化し、XR用ディスプレイ市場における圧倒的シェアを堅持

  - 超低消費電力車載ディスプレイや高画質ePosterなどの高付加価値製品の受注拡大

 

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(4) 目標とする経営指標

当社グループは今後、この中期経営計画を着実に実行することで、全社で安定的に収益を計上できる体質を構築していきます。そして、2027年度には、ブランド事業の営業利益率7%(挑戦目標)、全社営業利益800億円を目指してまいります。

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また、中期経営計画の初年度である2025年度は、スマートライフビジネスグループでは「生成AI対応家電の販売拡大」や「海外事業の拡大」、スマートワークプレイスビジネスグループでは「既存顧客基盤を活用した

クロスセルの推進」や「新規事業の立ち上げ」、ディスプレイデバイス事業では「白山工場における高付加価値商品の投入拡大」や「亀山第1工場における大型車載パネル比率の向上」などに取り組み、全社で着実に利益を創出してまいります。

 

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取り組みは、次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) サステナビリティ全般

当社グループは、当社経営理念の一節にある「広く世界の文化と福祉の向上に貢献する」、「会社に働く人々の能力開発と生活福祉の向上に努め、会社の発展と一人一人の幸せとの一致をはかる」などの言葉が示す創業の精神に基づき、社会の期待や要請に応え、社会と当社の相互の持続的発展を目指すことをサステナビリティに関する基本的な考え方としています。中長期的な企業価値向上の観点から、気候変動や人的資本、人権の尊重をはじめとする、ESG(環境・社会・ガバナンス)に関わる諸課題への対応に積極的に取り組んでいます。気候変動への対応については、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言への賛同を表明するとともに、TCFDのフレームワークに沿って、気候変動に関する情報開示の拡充を図っています。

 

① ガバナンス

ESGに関わる諸課題への対応を実行施策レベルに落とし込み、PDCAサイクルでマネジメントしていくため、代表取締役社長を委員長とし、経営幹部、環境・人事・調達などの本社機能部門、事業本部・子会社などで構成する、サステナビリティ委員会において、方針やビジョンの徹底、施策についての審議・推進、社会的課題に関する最新動向の共有などを実施しています。また、2024年度からはサステナビリティの主要なテーマに関する「サステナビリティ分科会」を設置し、取り組みを加速しています。

委員会における経営層によるモニタリング・レビューを通じて、SDGs/ESG分野の取り組みを継続して強化し、当社のESGレーティング・格付の向上を図りながら、持続的成長を支える強固な経営基盤を構築し、サステナブルな社会の実現への貢献を目指しています。

 

サステナビリティ・マネジメント推進体制図(2025年6月現在)

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② 戦略

サステナビリティへの取り組みが事業の機会創出とリスク低減につながる重要な経営課題であるとの認識に立ち、2018年度からは「事業や技術のイノベーションを通じた社会課題の解決」と「サステナブルな事業活動による社会・環境に対する負荷軽減」を両輪として、「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」達成に向けた貢献を目指すことをサステナブル経営の基本戦略として取り組んでいます。

また、気候変動や資源枯渇など、地球規模の環境問題がさらに深刻さを増す中、当社は、1992年に定めた環境基本理念「誠意と創意をもって『人と地球にやさしい企業』に徹する」のもと、2019年に長期環境ビジョン「SHARP Eco Vision 2050」を策定しています。「気候変動」「資源循環」「安全・安心」の3つの分野で2050年の長期目標を設定し、持続可能な地球環境の実現を目指して取り組んでいます。

2022年度からは、カーボンニュートラルへの貢献を重要テーマに位置づけ、関連する取り組みを加速しています。また、気候関連リスク及び機会を踏まえた戦略と組織のレジリエンスについて検討するため、国際エネルギー機関(IEA)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による気候変動シナリオ(1.5℃シナリオ及び4℃シナリオ)を参照したシナリオ分析を実施しています。

■当社の事業における気候変動に関するリスク・機会と対応策

シナリオ

要因

変化

当社への影響

リスク・機会

影響度

影響が

顕在化する

時期

当社の対応策

1.5℃

カーボン

プライシングの導入

原材料調達コストの増加

当社の仕入製品に対して炭素税が導入されることで、仕入価格に転嫁

される。

リスク

短期

・低GHG

(Green House Gas)排出原料の探求

・環境負荷低減に努める仕入先の開拓

・購買量の適正量化(在庫抑制の更なる徹底)

直接操業コストの増加

当社のGHG排出量に応じて炭素税が導入され、支払コストが増加する。

リスク

短期

・省エネの推進によるGHG排出量の低減

・インターナルカーボンプライシングの導入による低炭素排出設備投資の推進

サプライ

チェーン上の脱炭素・環境配慮要請の

高まり

ユーザーの環境配慮ニーズを満たさないことによる

競争力の低下

環境配慮についてユーザーの期待に応えられない場合、売上高減少のリスクが発生する。

リスク

短期

・ユーザーとの継続的なコミュニケーションによるマーケットニーズの把握

・省エネに関する研究開発の継続実施

環境配慮資材への切替コストの増加

GHG排出量が少ない電炉材や再生プラスチック、バイオマスプラスチックなどへの切り替えを進めていくに当たり、

コストが増加する。

リスク

中期

・低コストである環境配慮資材の調達先の発掘

・環境配慮資材活用の外部開示による消費者の価格弾力性の堅持

再エネへの切り替えによるエネルギー調達コストの

増加

自家発電やPPA(Power Purchase Agreement)、再エネメニューへの切替、環境価値証書の購入を進めることでコストが増加する。

リスク

中期

・省エネの推進によるGHG排出量の低減

・低コストとなるPPAや再エネを推進するためのパートナーの探求

再生可能

エネルギー

市場の拡大

再エネ発電事業者・利用企業からの太陽光発電関連製品・システムに対する需要の拡大

当社の製品・システム提供を拡大することで、収益拡大の可能性が高まる。

機会

短期

・マーケット需要に応じた太陽光発電関連製品・システム開発の継続

ZEH

(Zero Energy House)需要の

拡大

住宅向けの太陽光発電定額サービスやHEMS(Home Energy

  Management System)

の提供を強化し、収益拡大の可能性が高まる。

機会

短期

・マーケット需要を捉えたエネルギーソリューション(システム/サービス)の提供

環境貢献

ビジネスの

拡大

サーキュラーエコノミー型ビジネスモデルの拡大

脱炭素の取り組みが社会的に高まる中で、廃棄物を出さないサーキュラーエコノミー型のビジネスモデルを確立することで、顧客支持の拡大につながる。

機会

中期

・自己循環型マテリアルリサイクル技術などの活用による廃プラスチックの再資源化の推進

・太陽電池リサイクルの情報収集の継続による新規事業機会の積極創出

4℃

気象災害の

激甚化

サプライチェーンの寸断

気象災害が激甚化することで、当社の仕入先、拠点が被災し、サプライチェーンが影響を受け、当社の販売機会喪失が懸念される。

リスク

長期

・製品の複数購買、複数地域購買の推進

・主要取引先の事業継続計画

(BCP)策定状況の調査と対策の強化

・自社拠点におけるBCPの更なるレベルアップ

 ※ 短期:3年以内、中期:2030年頃、長期:2050年頃に顕在化し始めると想定。

③ リスク管理

当社は、リスクマネジメントを「事業を継続的に発展させステークホルダーの期待に沿うことで社会的責任を果たす重要な活動の一つ」と位置付けています。リスク管理の基本的な考え方として「ビジネスリスクマネジメント規程」を制定し、リスク管理体制構築のもと、経営が特に大きいリスク項目を「特定リスク」として選定・管理しています。ESG関連リスクを含む全ての特定リスクについては、全社を横断的に管理する機能部門と、自らの事業領域における管理を担当する事業本部が連携し、リスクの最小化・適正化や未然防止の取り組みを行っています。

さらに、当社及びグローバルサプライチェーンにおける、社会や環境に与える負荷を低減していくために特に重要と考える取り組みテーマを毎年度特定し、関連管理策を設定の上、経営層によるモニタリング・レビューを行っています。

 

④ 指標及び目標

当社は、事業活動に伴う温室効果ガス排出量の削減に向けて、再生可能エネルギーの導入や設備の省エネなどの取り組みを推進しています。また、製品・サービスの省エネのさらなる強化やお取引先様との協働などにより、間接的な温室効果ガス排出量の削減を進めています。さらに、当社はパリ協定に準拠した科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標として、「SBTイニシアティブ※1(Science Based Targets Initiative)」の認定を取得しています。

 

■SBTの進捗状況(1.5℃目標)

指標

目標

2024年度実績※2

基準年比

事業活動に伴う温室効果ガス

排出量(スコープ1+2)

2030年度までに2021年度比で42.5%削減

832 千t-CO2

39%削減

間接的な温室効果ガス排出量

(スコープ3)

2030年度までに2021年度比で25.0%削減

21,923 千t-CO2

32%削減

※1 国連グローバル・コンパクト(UNGC)、CDP、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)による気候変動に関するイニシアティブ。企業に対し、パリ協定に準拠した科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標を設定することを推進。

※2 2025年6月現在の算定値であります。なお、温室効果ガス排出量の信頼性向上を目的として、現在、第三者検証機関による検証を実施中です。

 

 

(2) 人的資本

① 人材戦略

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(中期経営計画から抜粋)

 

 当社グループは経営理念において、人材に対する考え方を「会社に働く人々の能力開発と生活福祉の向上に努め、会社の発展と一人一人の幸せとの一致をはかる」と明示しています。この理念を実現するため、中期経営計画(2025年度~2027年度)において、持続的な事業拡大を支える成長基盤として、“人”への投資を拡大することを掲げています。

 具体的には、AI/デジタル人材やグローバル人材などの「成長を支える人材の育成・獲得」に注力し、また全社員を対象とした研修を拡充し、組織力の向上を図ります。さらに、働き方や職場環境、福利厚生など、「多様な人材が活躍できる環境づくり」に取り組み、従業員エンゲージメントの向上に努めます。

 これらの取り組みを通じて、社員の能力開発と挑戦を強力に後押しし、一人ひとりの可能性を最大限に引き出すことで、持続可能な収益構造の確立を図り、社会に貢献する企業を目指してまいります。

 

② 人材育成及び社内環境整備に関する方針

Ⅰ. 成長を支える人材の育成・獲得

 当社グループが事業を推進し持続的に成長していくためには、技術及びマネジメント分野において優秀な人材を確保することが必要であると考えています。この考え方のもと、新たな人材獲得のために新卒採用を推進しています。また新規ビジネスを狙えるコア人材を確保するためにキャリア採用を推進しています。
 また、企業としての総合力を高めるための取り組みの一環として、各種の人材育成プログラムを準備し従業員に提供しています。従業員一人ひとりの能力の「質の向上」や「幅の拡大」を狙いとした育成プログラムにより、若手社員から次世代リーダーの育成等の取り組みを行っています。

a. AI/デジタル人材の拡充

事業の競争力を強化するため、AI/デジタル人材の育成と獲得を急務と位置付け、これらの人材の拡充に力を入れています。当社及び国内連結子会社では技術者のリスキリングプログラムを導入し、強化すべき技術分野を特定して、対象となる技術者への講義やeラーニング学習を実施します。また、社員の

AIスキル・知見の底上げを図るため、生成AIの基礎知識習得から始め、eラーニングなどにより段階的なレベルアップを推進します。さらに、高度専門人材の獲得に向けて、競争力のある柔軟な処遇設計を進めています。

b. グローバル人材の強化

 海外事業強化に向けてグローバルに活躍できる人材の確保が不可欠であると考えています。そのため、当社及び主要な国内連結子会社では、適性ある人材の選定・研修と計画的なローテーション・OJT(海外出向・出張経験)を組み合わせた育成プログラムを通じて、当社グループの海外事業拡大に貢献できる人材の育成を目指しています。また、社員が海外勤務経験に挑戦しやすい環境づくりや、海外事業経験豊富な人材の積極的な採用も併せて推進しています。

c. 組織力の向上

(ア)研修制度の拡充

・次世代経営幹部人材の育成強化(選抜型研修)

 当社は次世代経営幹部人材の育成強化を目的とした「選抜型研修」を実施しています。当社の将来の飛躍的成長フェーズを牽引する次期経営幹部の人材像を策定の上、体系的に育成するプロセスの構築を目指しています。

・階層別研修の拡充(ミドルマネジメント及び若手人材)

 当社及び国内連結子会社は、特にミドルマネジメント及び若手人材に焦点を当てて「階層別研修」の拡充を行っています。各階層での研修の実施によりキャリア自律を促し、社員の主体的な成長を支援することでマネジメント層と若手人材の強化を図ることを目指しています。

・自己啓発

 当社及び国内連結子会社は「強い個を育てる」という考え方のもと、ビジネスを行う上での基本的な知識や専門性を学ぶための環境づくりに取り組んでいます。「個々人がいつでも、どこでも、主体的に学ぶ」ことを通じて、事業に精通したプロフェッショナル人材の育成を図っています。これらについては、従業員が自宅のパソコンや自身のスマートフォンを使って、いつでもどこでも簡単に学習ができるeラーニング環境を整えており、自己啓発による従業員の能力向上を積極的にサポートしています。

(イ)人事制度

・等級制度

 当社及び主要な国内連結子会社では、仕事の内容や役割、責任の大きさに応じて等級・処遇を決定する「役割等級制度」を導入しています。役割や成果に応じてスピーディに昇級できる制度設計とし、優秀な若手人材を早期に責任のあるポジションに登用しています。

・人事評価制度

 当社及び主要な国内連結子会社では、会社業績と個人評価に連動した賞与/昇給制度により、成果を上げた従業員に報いる仕組みとしています。公正な評価を実現するために、期初・期中・期末の節目ごとに上司との評価面談を実施し、目標の進捗や貢献度・成果などについて互いに確認しています。評価結果は、半期ごとに評価理由とともに本人へフィードバックすることで、次への成長につなげています。

 

Ⅱ. 多様な人材が活躍する環境づくり

当社グループは「多様な人材が活躍する環境づくり」を目指し、従業員の挑戦や個性を引き出す風土の醸成に努めています。従業員の多様性や能力を活かせる環境を整え、すべての人材が最大限に力を発揮できる組織を目指しています。

 また、安心で健康な職場づくりを重視し、従業員の健康増進の強化、福利厚生の充実を推進しています。
 これらの環境整備により、当社グループは従業員のエンゲージメントを高め、企業の成長と競争優位性を確保していきます。

a. 報酬制度・賞与

 当社及び主要な国内連結子会社は、会社の業績向上や持続的成長に必要な優秀人材の獲得・確保に向けて、働く社員の給与水準や新卒採用者の初任給については、労働市場での競争力を考慮のうえ適宜見直しを行っています。

b. DE&I(Diversity, Equity & Inclusion)の推進

当社グループは、多様な個性や能力を尊重し、それぞれが生み出す価値を結集することにより、当社ならではの革新技術の創出や新たなサービスの提案を通じて、持続的な成長の実現を目指しており、2024年度に制定した「DE&I方針」に基づき、従業員一人ひとりの個性や能力が発揮できる職場環境の整備を進め、多様な人材が最大限に力を発揮できる組織づくりに取り組んでいます。

 

■DE&I推進の取り組み事例

女性の活躍促進

当社は一人でも多くの女性従業員がリーダー的ポジションから事業・組織運営に参画できるよう、公正な機会の提供と必要な支援に取り組んでいます。2030年3月末までに「管理職に占める女性比率を7.5%以上」と目標を定め、2025年3月末時点の女性管理職比率は、4.4%となっています。

障がい者の活躍促進

障がいのある従業員の成長機会の提供と必要な支援に取り組むとともに、障がいのある従業員の働きやすい環境づくりを進めています。当社、特例子会社※1及びグループ適用会社※2における障がい者雇用率は2.56%(2024年6月1日時点)となっています。

高年齢者の活躍促進

当社及び主要な国内連結子会社は、60歳以降も従業員が長年培ったスキルやノウハウを活かして働き続けられるよう、公正な機会の提供と必要な支援に取り組んでいます。

外国人社員

当社は国籍に関係なく能力や適性に応じた採用、登用を行っていることから、数値目標は設定しておりません。当社では2025年4月現在、約170名が在籍し、様々な部門・職種で活躍しております。

LGBTQ+

当社及び主要な国内連結子会社は、同性パートナーへの配偶者に準じた制度適用や、LGBTQ+への理解を深める取り組みとして従業員向けeラーニングを行っています。

※1 障がい者の雇用の促進及び安定を図るため、事業主が障がい者の雇用に特別の配慮をして設立した子会社

※2 障がい者雇用率の算定に当たって、公共職業安定所長より認定を受けた特例子会社以外のシャープグループの子会社

c. ワーク・ライフ・バランスの取り組み

 当社及び主要な国内連結子会社は、従業員のワーク・ライフ・バランス(仕事と家庭生活の調和)を実現できるよう、育児・介護・治療と仕事との両立を支援する制度の拡充や制度利用の促進を行っています。育児支援については、ガイドブックの配付や個別の制度周知などを行っており、多くの従業員が育児のための休職や休暇等の制度を利用しています。また、全従業員が効率的でメリハリのあるワーク・スタイルを確立するため「ノー残業デー」の設定や年次有給休暇の計画的取得推進などの施策を行っています。在宅勤務制度については、2023年度からは生産性の維持・向上が可能であることを前提に適用事由の要件を撤廃するとともに、1週間当たりの利用可能日数を拡大しました。併せて、フレックスタイム制においてフレキシブルタイムを拡大することで、これまでより場所と時間について柔軟に働ける環境を整備しました。

d. 健康経営の強化

 従業員の健康は会社のパフォーマンスに直結することから、当社及び国内連結子会社は従業員の健康を重視し、健康経営を推進することで生産性や業績の向上を目指しています。

 具体的には、健康診断やメンタルヘルス対策を通じて、従業員の疾患の予防や生活習慣の改善に取り組み、生活習慣に関する5つの項目(食事、睡眠、運動、喫煙、飲酒)の目標を設定し、従業員の健康増進を積極的に推進しています。当社はこれらの取り組みを通じて2027年度までに健康経営優良法人「ホワイト500」の取得を目指します。

e. 福利厚生の充実

 当社及び主要な国内連結子会社は、従業員が安心して働ける環境を整えるため福利厚生の充実に努めています。具体的には、独身寮や転勤者用社宅などの住宅支援、人間ドックなどの健診費用補助、従業員とその家族が割安に加入できるグループ保険、財形貯蓄や従業員持株会による資産形成支援などを整えています。今後は、より従業員ニーズやライフスタイルの多様化に対応した福利厚生の拡充を図り、従業員間の公平性を保ちながら満足度を高め、定着率の改善につなげていきます。

f. 従業員エンゲージメントの向上

 当社は、会社のビジョンや経営者の考えを“トップメッセージ”として定期的にグループ会社の従業員に発信し、企業理念や価値観の共有を図っています。さらに、従業員の意見をアンケートやサーベイを通じて収集し、インナーブランディングを高める取り組みを推進することで従業員エンゲージメントの向上につなげています。また、人事制度や報酬制度などの情報を開示し、従業員の納得感を高めるようにしています。さらにマネジメント層の教育を強化し、複雑化するコミュニケーションに対応するための役割を高め、情報共有や権限委譲を推進し、従業員が自発的に取り組むことができる環境を整え、従業員のオーナーシップ(当事者意識・主体性)を促進しています。加えて、評価・給与体系などの制度やIT環境などインフラの充実を図り、従業員がストレスなく安心して仕事に取り組める、心理的安全性の高い職場づくりを進めています。

 当社及び国内連結子会社では、従業員満足度調査に代えて、2024年度よりエンゲージメントサーベイを年2回実施しており、サーベイ結果を踏まえて従業員の期待や満足度合を把握し改善に繋げることで、更なるエンゲージメント向上を目指しています。

 

③ 指標及び目標・実績

当社の人的資本に関する指標及び目標・実績は以下の通りです。

なお、人的資本の取り組みは当社グループに属する全ての会社が一律に推進しているものではないため、次の 指標及び目標・実績は、特に記載が無い限り提出会社について記載しています。

方針

指標

2024年度

実績

目標

Ⅰ-a

AI・デジタル技術者数※1

1,600

2027年度まで3,200人とする

Ⅱ-b

管理職の女性比率※2

4.4

2030年度末まで7.5%以上とする

Ⅱ-c

男性社員の育児休業取得率※3

103.0

80%以上を維持

Ⅱ-f

エンゲージメントスコア※4※5

(2027年度)A (3ランクアップ)

※1 デジタル関連技術の延べ保有者数(当社及び国内の連結子会社、非連結子会社、関連会社の技術者を対象に調査)

※2 女性活躍推進法の規定に基づく管理職に占める女性労働者の割合

※3 育児・介護休業法の公表基準に沿って算出した育児休業等及び育児目的休暇の取得割合

※4 リンクアンドモチベーション社が提供する「モチベーションクラウド エンゲージメント」を活用

会社・上司・職場に関する従業員の期待度と満足度を集計する独自の調査方法によって、組織のエンゲージメント状態を

可視化。Bは全国平均水準、Aは上位20%程度の水準

※5 当社及び国内連結子会社が対象

 

3【事業等のリスク】

 当社グループは、電気通信機器・電気機器及び電子応用機器全般並びに電子部品の製造・販売を主な事業内容として活動を行っております。その範囲は電子・電気機械器具のほとんどすべてにわたっており、ユーザーも国内外の一般消費者、事業会社から官公庁に至るまで多岐にわたり、また地域的にもグローバルな事業展開を行っております。従って、当社グループの業績は、多様な変動要因による影響を受ける可能性があります。

 有価証券報告書に記載した「第2 事業の状況」、「第5 経理の状況」等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性がある主なリスクと、それに対する対応策は以下のとおりであります。

 なお、本文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在(ただし、必要に応じて有価証券報告書提出日現在)において、当社グループが判断したものであります。

 

① 世界市場の動向・海外事業について

(リスク)

 当社グループは、日本だけではなく、世界の各地域で事業活動を行っており、日本を含む世界各地域における景気の動向(特に個人消費及び企業による設備投資の動向)、他社との競合、製品の需要動向や原材料の供給状況、価格変動などは、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 また、米国の関税政策や各国の対抗措置による貿易摩擦の激化や世界経済の不確実性の高まり等が、当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

(対応策)

 世界市場の動向等の当社グループの事業に関わるリスク・情報は、当社の海外子会社を管掌する事業本部が現地と連携して収集し、必要な事業上の判断を行っています。また、経営幹部に対し定期的に、海外拠点や事業本部の業績報告を行い、最新の状況を分析することによりその都度必要なリスク対応を決定しております。

 

 

② 為替変動の影響について

(リスク)

 当社グループの連結売上高に占める海外売上高の割合は、2024年3月期66.7%、2025年3月期59.4%であります。当社グループは、海外で製造した製品を国内においても販売する等、製造された国以外の国においても当社グループ製品を販売しています。このため、当社グループの業績は為替変動の影響を受ける可能性があります。

(対応策)

 当社グループは、為替予約及び最適地生産の拡充・強化等によるリスクヘッジを行っております。

 

 

③ 特定の事業・製品・顧客に対する依存について

(リスク)

 デバイス事業については、顧客の仕様にカスタマイズした製品供給という事業の特性上、顧客との取引においてある程度の顧客依存が生じる傾向があります。このため、大口顧客の製品に係る需要の減少や仕様の変更、大口顧客の営業戦略の変更等を理由として、当社グループの販売が落ち込み、当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

(対応策)

 デバイス事業においては、特定の大口顧客への売上依存を避けるため、技術力の強化や顧客基盤の拡大を図ります。また、比較的特定顧客に対する依存度が低いブランド事業においては、高付加価値商材の売上比率拡大や顧客基盤の維持拡大により既存事業を強化すると共に、新たな技術の活用や成長領域での新規事業の立上げ等を加速することで、さらなる事業成長に取り組みます。

 

 

④ 戦略的提携・協業等について

(リスク)

 当社グループはこれまでにも、企業競争力強化と収益性向上及び各事業分野における新技術や新製品の開発強化のため、外部企業との間で戦略的提携・協業を推進してきましたが、かかる戦略的パートナーとの間における戦略上の問題やその他の事業上等の問題の発生及び目標変更等により、提携・協業関係を維持できなくなった場合や、提携・協業関係から十分な成果が得られない場合には、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

(対応策)

 当社グループにおいては、戦略的提携・協業の重要性がますます高まっていくものと考えております。これらを成功に導くべく、戦略的提携・協業の実行段階においては、事前に事業戦略上の必要性、収益性や財務的な妥当性等を十分に検証し、経営戦略会議や取締役会での審議のうえで意思決定を行っております。

 また、実行後においても、関係する各事業本部との緊密な連携のもと、提携や協業の進捗をモニタリングし、想定通りの成果が得られないことが見込まれる場合には、早期に経営陣にも報告することにより、それらが当社グループの業績及び財政状態に与える影響を最小限に留める対策を講じることができるように取り組んでおります。

 

⑤ 親会社グループとの関係について

(リスク)

 親会社グループ(鴻海精密工業、及びその子会社・関連会社を含みます。)からの出資により、成長投資の実行、親会社グループの技術力・生産性・コスト力を活かした事業シナジーの追求が可能となりましたが、当社グループが親会社グループとの間の事業シナジーを想定通りに実現できる保証はありません。

 親会社グループの戦略に変更が生じた場合や将来的に親会社グループとの間で何らかの競合関係が生じた場合には、当社グループの事業、業績及び財政状態が悪影響を受ける可能性があります。

 当社グループの経営方針、事業展開等の重要事項の意思決定において、親会社グループからの影響を受け、当社グループの独立性・自律性が保たれない可能性があります。

(対応策)

 当社グループは、親会社グループとの間で相互に独立性・自律性を十分に尊重しつつ、緊密な連携を行っており、親会社グループとの事業シナジーを最大限に活かした事業運営に取り組んでおります。当社グループでは、親会社グループとの間で当社グループの業務効率化や売上・利益の拡大等につながるシナジー創出が見込まれる領域を見極め、その領域においては、親会社グループとの連携のもとで、想定されるシナジーを適切に検証しその実現に向けて取り組んでおります。

 親会社グループでは電子機器受託生産サービスを中心とした事業展開を行っており、当社グループの電気通信機器・電気機器及び電子応用機器全般の製造・販売事業においては、「シャープ」等のブランドビジネスを行っていることから、親会社グループ内において当社グループの当該事業に影響を与える競合は生じていないものと考えております。

 当社は、親会社グループとの間で相互に独立性・自律性を十分に尊重しつつ、綿密な連携を保ちながら成長・発展、業績の向上に努めております。親会社グループと綿密に連携して当社業務の効率化や売上・利益の拡大等を図ることは、非支配株主の利益につながるものと認識しております。

 

 

⑥ 調達先との取引について

(リスク)

 当社グループは、多くの取引先から資材の調達やサービスなどの提供を受けております。

 地政学的リスクの高まりから、サプライチェーンの混乱が懸念されることや労務費、原材料やエネルギー価格の上昇に伴い取引先の業績が悪化し、供給業者が限られている部材に関しては、十分な供給が受けられないことも考えられます。また、サステナビリティの高まりから人権・環境問題や法規制にも注視していく必要があります。

 このような状況に対応すべく、複数社購買戦略をとるも最適な調達先を見いだせない場合や、代替調達先との間で現在の取引条件よりも不利な条件での取引を余儀なくされる可能性があります。

 これらにより、当社グループ製品のコスト増加、顧客への納期の遅延等が生じた場合には、当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

(対応策)

 取引の開始に際しては、十分な信用調査のうえ取引を行っています。また、取引先経営診断を行い経営状態を把握しております。サプライチェーン全体におけるリスク対応のため、サプライチェーンCSR管理システムを導入し、国内・海外生産拠点のサプライヤーの評価を定期的に実施しております。さらに、部材等の安定確保及び調達価格の適正化のため、複数社購買や部材の長期枠取りなどサプライヤーとのパートナーシップ強化を推進しております。

 

 

 

⑦ 財務状態に及ぼす影響について

(リスク)

 当社グループは、事業資金を銀行等の金融機関からの借入等により調達しており、総資産に対する借入金の割合は、当連結会計年度末では35.6%となっております。当社グループは、借入金等の返済のため、キャッシュ・フローの使途に制限を受け、また、金利水準が上昇した場合に費用の増加を招く可能性があります。既存債務のリファイナンスも含め、必要な資金を必要な時期に適当と考える条件で調達できない等、資金調達が制約されるとともに、資金調達コストが増加する可能性があることから、当社グループの事業、業績及び財政状態が悪影響を受ける可能性があります。

 当社グループが複数の金融機関との間で締結している借入金に係る契約には財務制限条項が定められているものもあり、今後、当社グループの連結純資産が財務制限条項に定める水準を下回ることとなった場合、又は連結の営業利益及び親会社株主に帰属する当期純利益が一定の水準を下回った際に当社が誠実に協議しなかったような場合、さらには、連結経常利益を一定の水準に保てなかった場合や、当社ないし連結子会社が債務超過となった場合等、借入先金融機関の請求により、当該借入金について期限の利益を喪失する可能性があります。

 こうした当社グループの借入金等への依存及びこれに関連した信用格付けの低下、又は当社グループの財政状態の悪化は、財務状態の強固な競業他社との競争において不利に働く可能性があり、また、借入先又は取引先との契約関係上の問題を生じさせる可能性もあります。

(対応策)

 ㈱みずほ銀行、㈱三菱UFJ銀行は、当社の主たる金融機関であり、両行に対して経営状況・財政状態等の情報共有を行い、必要に応じて改善策等に関する相談を行っております。また、その他の借入金に係る契約を締結している金融機関とも同様に情報共有等を行っております。取引金融機関との良好な関係を保ち、当社グループの主要な借入契約である当社のシンジケートローン契約やコミットメントライン契約等、借入金契約の維持・継続をすることで、資金の安定化を図っております。

(継続企業の前提に関する重要事象等)

 当社グループは、当連結会計年度に大型ディスプレイ事業(堺ディスプレイプロダクト㈱)の生産を停止し、液晶パネル工場関連の土地・建物等についてソフトバンク㈱への売却を完了いたしました。さらに、カメラモジュール事業、レーザー事業及び半導体事業について、親会社である鴻海精密工業股份有限公司の子会社と譲渡契約を締結し、2024年5月に中期経営方針で掲げた「デバイス事業のアセットライト化」を着実に実行しました。

また、ブランド事業に集中した事業構造転換の方針のもと、中小型ディスプレイ事業でも工場の最適化等を推進したことでディスプレイデバイス事業の営業赤字が大幅に縮小すると同時に、ブランド事業では着実に利益が伸長したことから、当連結会計年度の営業利益は27,338百万円、親会社株主に帰属する当期純利益は36,095百万円となり、連結純資産は167,709百万円(前期比+6.5%)まで回復いたしました。

 このように財務改善は進んでいるものの、当連結会計年度末において当社及び一部の連結子会社の債務超過が、借入契約の財務制限条項に抵触いたしました。しかしながら、借入先金融機関から期限の利益喪失の請求は行わない旨の承諾を得られており、上述の取り組みに一定の評価を頂くなど、従来通り良好な取引関係を継続できております。さらに、借入総額200,000百万円のコミットメントラインも締結していることから、資金繰りに重要な懸念はないと判断しております。

 以上より、継続企業の前提に関する重要な疑義を生じさせるような事象又は状況は存在するものの、重要な不確実性は認められないことから「継続企業の前提に関する注記」は記載しておりません。

 

 

 

⑧ 技術革新について

(リスク)

 当社グループの事業領域における急速な技術の進化、変化への適切な対応は、当社グループの製品・サービスの競争力を向上させる反面、以下の項目等への対応が不十分な場合には、成長性や業績に悪影響を及ぼすリスクがあります。

・技術の進化や盛衰及びその社会的意義の予測と対応

・研究開発における選択と集中、適切な資源の投下

・新領域に対する技術力強化

・社外と連携した研究開発の加速

 加えて、国際的な安全保障の観点から先端技術の輸出管理を強化する動きがあり、対象となる技術の付加価値が一定以上含まれた製品の輸出制限により、事業に間接的な影響を与える可能性があります。

(対応策)

 当社グループにおける研究や開発は、単なる技術水準の向上に留まらず、社会の急激な変化に伴う課題の解決に向けた技術創出に取り組んでおり、特にエッジとクラウドAIを組み合わせた独自AI技術「CE-LLM」によるAI応用や、次世代通信技術、Green Energy、EV等の成長分野に注力しています。また、必要な技術をいち早く社会実装していくため、これまで構築してきた事業基盤を有効に活用し新たなサービスやソリューションの創出を進めるとともに、積極的な社外連携により技術力の強化・開発加速を進めています。こうした取り組みを通じ、社会変化及び技術革新に伴うリスクを軽減させ、技術進化により持続的に成長し続けるブランド企業を目指してまいります。

 事業活動における輸出入管理での法令遵守に加え、世界的なインフラ・防衛・セキュリティ等の社会基盤に係る新興技術の管理強化の動きの中で、研究開発においても各国・地域での法令、規制状況に対応した輸出入管理を推進しております。

 

※CE-LLM(Communication Edge - Large Language Model)はシャープの登録商標です。

 CE-LLMとは迅速な応答性や強固な安全性を強みとする「エッジAI」と、深い思考力や広い汎用性を強みとする「クラウドAI」を用途に応じて切り替えて活用する当社独自の技術です。

 

⑨ 知的財産権について

(リスク)

 当社グループは、独自開発した技術等について、国内外で知的財産権を取得することにより、若しくは他社と契約を締結することにより、その保護に努めております。しかしながら、当社グループの特許出願等に対して権利が付与されない場合や、第三者からの無効請求等により、十分な権利保護が受けられない可能性があります。

 また、当社グループが第三者から知的財産権の侵害を主張され、その解決のために多額の費用を費やす可能性や、その主張が認められた場合に多額の対価の支払いや当該技術の使用差し止めなどの損害が発生する可能性があります。

 さらに、当社グループが保有する知的財産権を第三者が不正に使用する等、当社グループが保有する知的財産権が競争上の優位性をもたらさない、又はその知的財産権を有効に活用できない可能性があります。

 以上のような知的財産権に関する問題が発生した場合、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

(対応策)

 当社グループでは、知的財産権は企業の重要な財産であるとの認識のもと、積極的に知的財産の創出に努めており、知的財産権の出願・権利化の責任部門であるシャープIPインフィニティ㈱を中心に強い権利の取得に取り組んでいます。

 また、当社グループでは、自社製品発売前に第三者の知的財産権のチェックを徹底して実施することで、知的財産権のクリアランス状況を確認しているとともに、クリアランスプロセスの標準化によるクリアランス確度の向上にも取り組んでおり、第三者の知的財産権を侵害するリスクに対する対策をとっています。

 さらに、当社グループでは、知的財産権を事業戦略・研究開発戦略と連動させながら最大限に活用するとともに、自社の知的財産権を保護し、第三者の知的財産権を尊重する姿勢を堅持しています。不当な権利侵害等に対しては話し合いで解決することを基本としながらも、当社グループの知的財産権を尊重していただけない場合は、裁判所など第三者の判断を仰ぐことも辞さない毅然とした姿勢を貫く方針をとっています。

 

 

⑩ 製造物責任について

(リスク)

 当社グループの製品には、消費者向けのものが多く、また、革新的な技術を利用したものも含まれており、これらの製品に欠陥等が存した場合には製造物責任その他の責任を負う可能性があります。

 予期せぬ事情による大規模なリコールや訴訟の発生が、ブランドイメージの低下や、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

(対応策)

 当社グループでは、製品の安全性確保のため、各国の公的安全基準の遵守にとどまらず、リスクアセスメントの考えと独自の安全基準を組み合わせ安全性向上に取り組んでいます。この独自基準では、想定外の不具合が生じた場合にも安全を確保するため、特に難燃構造や異常動作試験等に関して基準を定めており、より高い安全レベルをめざし、都度改定し、社内関係者への研修も行い、設計部門、品質部門へ安全基準の理解と浸透を図っています。不具合発生時に迅速かつ適切に緊急対応が取れるよう安全確保推進体制を構築しています。万一、製品の欠陥等が発生した場合のメーカー責任を果たすために、製造物責任に基づく賠償に備え保険に加入しております。

 

 

⑪ 有能な人材確保における競争について

(リスク)

 技術及びマネジメント分野における優秀な人材が確保できない場合、当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

(対応策)

 技術及びマネジメント分野における優秀な人材の確保のため、以下の施策を行っています。

 事業方針に沿った新たな人材獲得の為に新卒採用を推進しています。また、新規ビジネスを担えるコア人材を確保するためにキャリア採用を推進しています。

 ビジネスを行う上で基本的な知識や専門性について、個々人が主体的に学べる教育・研修制度を設け、事業に精通したプロフェッショナル人材の育成を図っています。

 多様な人材が安心して働ける基盤として、育児・介護・治療と仕事の両立を支援する各種制度を整備する等、従業員のワーク・ライフ・バランスに配慮した取り組みを推進しています。

 

 

⑫ 気候変動の影響について

(リスク)

 温室効果ガス排出規制の強化や炭素税導入に伴うエネルギーコストの増加、温室効果ガス削減施策の強化等により、当社グループの業績及び財政状態が影響を受ける可能性があります。また、気候変動による台風の大型化や降水量の増加がもたらす災害は、当社の生産拠点の稼働停止や部品供給途絶等を引き起こす可能性があります。

(対応策)

 既存の規制や基準の遵守を徹底するとともに、常に法規制動向の把握に努め、政策立案の機会などにも参画しています。また、生産の効率化や省エネルギー化を進めることで、コスト負担の軽減や最小化を図っています。さらに、自然災害などで生産拠点や従業員などが被災した場合に備えて事業継続計画を策定し、定期的な見直しや訓練によって組織の事業継続能力の維持・改善を図っています。

 

 上記リスクのほかにも、多数の販売先との取引リスク、設備投資リスク、法的規制リスク、大規模自然災害リスク等、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼすリスクは様々なものが想定され、ここに記載されたものが当社グループのすべてのリスクではありません。

 

(リスク管理体制)

 当社グループでは、リスクマネジメントを「事業を継続的に発展させステークホルダーの期待に沿うことで社会的責任を果たす重要な活動の一つ」と位置付けて取り組んでいます。具体的には、リスクマネジメントの基本的なルールとして「ビジネスリスクマネジメント規程」を制定し、全社的なリスク管理体制を構築したうえで、経営への影響が特に大きいリスクを「特定リスク」として選定・管理しています。

 経営環境・市場の変化に対応するため、すべての特定リスクについて、年度ごとに特定リスクの追加・変更を検討したうえで追加・変更後の特定リスクの評価を見直しています。全社を横断的に管理する機能部門は、自らの事業領域における管理を担当する事業部門と連携し、リスクの最小化・適正化や、未然防止に必要な施策等を実施しています。また、重大なリスク事案が発生した場合の対応策として、当該事案が発生した部門からリスクマネジメント事務局である内部統制部及び経営幹部へ事案内容を報告し、関係部門と連携して当該事案への対応を行い、必要に応じて全社的な改善策を検討し再発防止に繋げることとしています。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況及び経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要は、次のとおりであります。

 

① 財政状態及び経営成績の状況

(経営成績)

当社グループは、ディスプレイデバイス事業において市場環境の変化への対応が遅れたことから、前連結会計年度まで2期連続の営業赤字を計上いたしました。また、いずれの年度においてもディスプレイデバイス事業に関連する多額の減損損失を計上したことから、親会社株主に帰属する当期純損益についても大幅な赤字となりました。

当社グループではデバイス事業とブランド事業を展開していますが、このように業績が悪化した背景には構造的な問題があったと考えています。具体的には、デバイス事業では十分な資金が確保できず技術や工場への投資が不足し成長分野の開拓が進まない一方で、ブランド事業で獲得した資金がデバイス事業に充当されブランド事業の成長に必要な投資が行えないという負のサイクルに陥っていたと認識しています。

こうした認識のもと、当社グループでは2024年5月14日に中期経営方針を発表し、当連結会計年度を構造改革の年と位置付けました。この方針に沿って、親会社株主に帰属する当期純損益の黒字化を目指すとともに、ブランド事業に集中した事業構造を確立して負のサイクルから脱却するため、デバイス事業を中心としたアセットライト化を進めました。

その結果、当連結会計年度には、赤字の直接的要因となったディスプレイデバイス事業において、大型ディスプレイ事業では堺ディスプレイプロダクト㈱でのパネル生産停止や液晶パネル工場関連の資産売却、中小型ディスプレイ事業では亀山第2工場・三重第3工場での生産能力調整及び堺工場のOLEDラインの閉鎖などを行いました。さらに、エレクトロニックデバイス事業においては鴻海グループとの間で、カメラモジュール事業の譲渡に関する契約を締結するとともに、半導体事業のシャープ福山レーザー㈱の株式譲渡に向けた協議を進めました。なお、本株式譲渡は2025年4月23日に契約を締結しています。

 

当連結会計年度の業績については、売上高が減少したものの、デバイス事業のアセットライト化にあわせ、ブランド事業の収益力向上に取り組んだこと、有価証券の売却を進めたことなどから、営業利益・経常利益・親会社株主に帰属する当期純利益は大幅に改善し、いずれも黒字となりました。

売上高は、スマートライフ&エナジー、スマートオフィス、ユニバーサルネットワークのブランド事業3セグメントの売上が伸長した一方、ディスプレイデバイス、エレクトロニックデバイスのデバイス事業2セグメントの売上が減少し、2,160,146百万円(前年度比93.0%)となりました。

営業損益は、27,338百万円の営業利益(前年度は20,343百万円の営業損失)となりました。円安の影響があるなか欧州でのエネルギーソリューション事業終息費用も発生したスマートライフ&エナジー、顧客需要の変動が大きかったエレクトロニックデバイスは減益となりましたが、販売が大きく伸長したスマートオフィス、売上が伸長したことに加え一過性の収益も計上したユニバーサルネットワークが大幅な増益となりました。また、構造改革が進んだディスプレイデバイスでは、赤字幅が大幅に縮小しました。

経常損益は、営業外費用として12,612百万円の為替差損などを計上したものの、営業利益が大幅に改善したことから、17,653百万円の経常利益(前年度は7,084百万円の経常損失)となりました。

親会社株主に帰属する当期純損益は、36,095百万円の親会社株主に帰属する当期純利益(前年度は149,980百万円の親会社株主に帰属する当期純損失)となりました。特別損失として、54,381百万円の減損損失や29,686百万円の事業構造改革費用を計上したものの、経常利益が改善したことや、特別利益として液晶パネル工場関連の資産売却などによる78,095百万円の固定資産売却益や上場株式の売却による28,254百万円の投資有価証券売却益などを計上したことなどから、3期ぶりに黒字化しました。

 

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(セグメント業績)

セグメントの業績は、概ね次のとおりであります。

なお、当連結会計年度より報告セグメントの区分を変更しております。以下の前連結会計年度との比較については、前連結会計年度の数値を変更後の区分に組替えた数値で比較しております。報告セグメントの変更については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (セグメント情報等)」に詳細を記載しております。

 

<ブランド事業>

①スマートライフ&エナジー

売上高は461,351百万円(前年度比102.0%)となりました。白物家電事業は増収、エネルギーソリューション事業は減収となりました。白物家電事業では、高付加価値化の進展もありASEANでの冷蔵庫や洗濯機などの販売が伸長したほか、欧米での調理家電も好調でした。エネルギーソリューション事業では、欧州での事業を終息したことなどが影響しました。

セグメント利益は20,343百万円(前年度比73.2%)となりました。白物家電事業、エネルギーソリューション事業とも減益となりました。高付加価値化を進めるとともにコストダウンに取り組みましたが、両事業とも円安によるマイナス影響が大きく、さらにエネルギーソリューション事業では欧州事業の終息に伴う費用も発生しました。

 

②スマートオフィス

売上高は680,606百万円(前年度比116.9%)となりました。PC事業、ビジネスソリューション事業とも増収となりました。PC事業では、Windows10のサポート終了に伴う買い替え特需があるなか、法人向けプレミアムモバイルモデルが好調に推移し、国内の法人向けの売上高が大きく伸長しました。ビジネスソリューション事業では、日本や米州でオフィスソリューション事業が大きく売上を伸ばし、インフォメーションディスプレイも欧州を中心に売上が伸長しました。

セグメント利益は42,627百万円(前年度比143.6%)となりました。PC事業、ビジネスソリューション事業とも増益となりました。PC事業では、円安によるマイナス影響がありましたが、売上が大きく伸長し、高付加価値化を進めた効果がありました。ビジネスソリューション事業では、MFP事業などが着実に利益を計上するなか、課題であったインフォメーションディスプレイ事業の構造改革も進展しました。

 

③ユニバーサルネットワーク

売上高は338,516百万円(前年度比108.5%)となりました。通信事業、テレビ事業とも増収となりました。通信事業は、AQUOS wish4やAQUOS R9が好調だったことなどから、大幅な増収となりました。テレビ事業では、米州、欧州、アジアなど海外の売上が伸長しました。また、国内においてもXLED・OLEDモデルの販売が堅調でした。

セグメント利益は18,682百万円(前年度比210.4%)となりました。円安によるマイナス影響はあったものの、増収となったことやコストダウン・経費削減が進んだことから、通信事業、テレビ事業とも増益となりました。通信事業については、一過性の収益を計上したこともあり、大幅な増益となりました。

 

<デバイス事業>

④ディスプレイデバイス

売上高は507,139百万円(前年度比82.5%)となりました。堺ディスプレイプロダクト㈱での生産を停止した大型ディスプレイのほか、スマートフォン向けパネルやPC・タブレット向けパネルの販売が減少しました。一方、XR向けパネルは増収、車載向けパネルの売上はほぼ前年度並みとなりました。

セグメント損失は40,513百万円(前年度は83,290百万円のセグメント損失)となりました。減収とはなりましたが、構造改革を推進した効果があり、大型ディスプレイ事業、中小型ディスプレイ事業とも赤字幅が大幅に縮小しました。

 

⑤エレクトロニックデバイス

売上高は、202,255百万円(前年度比50.4%)となりました。車載用や加工用の半導体レーザーの売上は大きく伸長しましたが、センサーモジュールの顧客需要が変動した影響がありました。

セグメント利益は5,754百万円(前年度比43.7%)となりました。経費削減に取り組んだものの、販売が減少し、減益となりました。

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生産、受注及び販売の実績は以下のとおりです。

 

a.生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

スマートライフ&エナジー

461,685

+5.1

スマートオフィス

681,336

+19.2

ユニバーサルネットワーク

318,891

+4.6

ディスプレイデバイス

489,189

△14.5

エレクトロニックデバイス

188,195

△50.3

合計

2,139,299

△5.6

(注)1 金額は、販売価格によっており、セグメント間の取引については相殺消去しております。

2 上記の金額には、外注製品仕入高等を含んでおります。

3 組織変更に伴い、当連結会計年度より報告セグメントの区分を変更しており、前連結会計年度との比較は、変更後の報告セグメントの区分に基づき作成しております。

 

b.受注実績

当社グループは原則として見込生産を行っております。

 

c.販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

スマートライフ&エナジー

459,966

+2.2

スマートオフィス

679,736

+17.2

ユニバーサルネットワーク

338,295

+8.6

ディスプレイデバイス

495,273

△16.8

エレクトロニックデバイス

186,875

△51.4

合計

2,160,146

△7.0

(注)1 セグメント間の取引については相殺消去しております。

2 主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合は、次のとおりであります。

なお、当連結会計年度におけるAPPLE INC.に対する販売実績は、当該販売実績の総販売実績に対する割合が100分の10未満であるため、記載を省略しております。

相手先

前連結会計年度

当連結会計年度

金額(百万円)

割合(%)

金額(百万円)

割合(%)

APPLE INC.

430,294

18.5

 

(財政状態)

当連結会計年度末の財政状態については、資産合計は、固定資産の売却や減損、投資有価証券の売却などにより、前連結会計年度末に比べ136,301百万円減少の1,453,730百万円となりました。負債合計は、借入金の返済などにより、前連結会計年度末に比べ146,586百万円減少の1,286,021百万円となりました。また、純資産合計は、親会社株主に帰属する当期純利益を計上したことなどにより、前連結会計年度末に比べ10,284百万円増加し、167,709百万円となりました。

 

(棚卸資産)

当連結会計年度末の棚卸資産残高は242,081百万円、月商比は1.34ヶ月で、金額・月商比とも過去2年で最小となりました。2024年8月に生産を停止した堺ディスプレイプロダクト㈱では、パネル販売が計画通りに進捗し、在庫の消化は概ね完了しました。今後とも状況の変化を注視し、適正な在庫の管理に努めてまいります。

 

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② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

a. キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下、「資金」といいます。)は、前連結会計年度末に比べ23,574百万円増加し、242,703百万円となりました。

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。

(単位:百万円)

 

 

前連結会計年度

(自 2023年4月1日

  至 2024年3月31日)

当連結会計年度

(自 2024年4月1日

  至 2025年3月31日)

増減

営業活動によるキャッシュ・フロー

124,495

△1,590

△126,086

投資活動によるキャッシュ・フロー

10,875

103,743

92,867

財務活動によるキャッシュ・フロー

△149,668

△74,768

74,900

現金及び現金同等物の期末残高

219,128

242,703

23,574

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度における営業活動による資金の支出は1,590百万円(前連結会計年度は124,495百万円の収入)となりました。これは主に、売上債権及び契約資産、仕入債務の増減による運転資金収支が前連結会計年度に比べ、それぞれ31,700百万円、21,062百万円の減少であったことに加え、大型ディスプレイ事業の生産停止に伴う未払金の返金による一過性の資金支出34,771百万円があったことによるものです。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度における投資活動による資金の収入は103,743百万円であり、前連結会計年度に比べ92,867百万円増加しました。これは、アセットライト化の方針の下での有形固定資産の売却による収入の増加101,730百万円や、投資有価証券の売却による収入の増加44,233百万円などによるものであります。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度における財務活動による資金の支出は74,768百万円であり、前連結会計年度に比べ74,900百万円減少しました。本支出の主な内容は、昨年度と同様に有利子負債の削減を目的とした長期借入金の返済によるものであり、当連結会計年度においては60,567百万円の支出となっております。(前連結会計年度は157,207百万円の支出)

b. 資本の財源及び資金の流動性についての分析

(財務戦略の基本的な考え方)

当社グループが今後も持続的に成長していくためには、より強固な財務基盤を構築することが不可欠であり、営業キャッシュ・フローの最大化、安定的なフリー・キャッシュ・フローの創出により、有利子負債の削減等財務基盤を改善すること、また、資金調達の安定化を図ることが必要です。

2024年度においては、「デバイス事業のアセットライト化」を着実に実行し、ブランド事業においても低収益事業の構造改革に取り組むなど、キャッシュ・フローの安定化に向けた取り組みを進めてまいりました。その結果、自己資本比率の改善、棚卸資産の圧縮、有利子負債の大幅削減、フリー・キャッシュ・フローの黒字継続など、財務基盤の改善が着実に進展しました。

2025年度以降においては、中期経営計画に掲げる重点取り組みを遂行することにより、全社で安定的に収益を計上できる体質を構築してまいります。また、金融機関との良好な関係を一層強固にして借入の継続・長期化を図ってまいります。これらの取り組みを通じて財務基盤の改善、投資適格への格付け向上により、将来の社債市場への復帰に道筋をつけるなど、安定的な資金調達に向けた取り組みを進めてまいります。

 

(資金のキャッシュ・フロー及び流動性の状況)

2024年度におけるキャッシュ・フローの状況は、「a.キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであり、営業活動によるキャッシュ・フローは1,590百万円のマイナスとなったものの、大型ディスプレイ事業の生産停止に伴う未払金の返金による一過性の影響(34,771百万円の支出)があり、これを除くと、ブランド事業の収益力向上や棚卸資産の削減等によりプラスとなります。また、デバイス事業を中心に進めたアセットライト化に加え、有価証券の売却を進めたこと等により、フリー・キャッシュ・フロー(営業活動によるキャッシュ・フロー+投資活動によるキャッシュ・フロー)は、102,153百万円の収入となりました。さらに、これらの収入により有利子負債を大幅に削減しております。

引き続き、在庫管理や投資の適正化等により、手元流動性を確保しつつ、有利子負債の削減等財務体質の改善を図ってまいります。

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(資金調達)

当社グループは、資金の支出効果の見極めを十分行いながら、事業運営上必要な資金の流動性と資金の源泉の安定的確保を図る趣旨の下、短期運転資金を自己資金及び短期借入で、設備投資や長期運転資金の調達については長期借入で賄うことを基本原則としております。

総資産に対する借入金の割合は当連結会計年度末現在35.6%となっており、このうち当該借入金に対する短期借入金の占める割合は21.5%となっております。

なお、シンジケートローン契約の期限が2026年4月に到来することから、足元では短期借入金の割合が増加する見込みですが、当社では、借入の継続による対応を企図しており、借入金融機関との間で、経営状況・財政状態等の情報共有を密に行っております。また、2024年度におけるアセットライトの取り組みの進展やブランド事業での利益の伸長、有利子負債の削減等、財務基盤の改善取り組みについては評価をいただいており、取引先金融機関との良好な関係を維持しております。

2025年度においても、引き続き金融機関と協議を行っており、コミットメントライン契約の継続によって運転資金の安全性を確保しつつ、シンジケートローン契約等借入金契約の継続・長期化に取り組んでまいります。

 

格付の状況

(提出日現在)

格付機関

長期格付

短期格付

S&P Global

B-

B

格付投資情報センター

B-

日本格付研究所

BB-

 

(2) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社の連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づいて作成されております。連結財務諸表の作成にあたり必要となる見積りについては、過去の実績や第三者による評価等を勘案し合理的に判断しておりますが、見積り特有の不確実性のため、実際の結果は見積りと異なる場合があります。

当社の連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

 

5【重要な契約等】

(1) 重要な事業の譲渡

当社、連結子会社のシャープセンシングテクノロジー㈱(以下、「SSTC社」といいます)及び連結子会社のSAIGON STEC CO., LTD. (以下、「SSTEC社」といいます)は、当社のカメラモジュール事業の譲渡に関する以下の契約を締結いたしました。

相手先

国名

又は

地域

契約内容

Fullertain Information Technologies Ltd. – B.V.I.

(Fullertain社)

英領

ヴァージン諸島

2024年12月27日、SSTC社が保有するSSTEC社持分についてFullertain社への譲渡に関する契約を締結いたしました。

 

(2) その他の契約

相手先

国名

又は

地域

契約内容

㈱みずほ銀行

㈱三菱UFJ銀行

日本

日本

2024年8月9日、㈱みずほ銀行及び㈱三菱UFJ銀行との間で、総額200,000百万円のコミットメントライン契約を締結(更改)いたしました。借入可能期間を2025年8月9日まで1年間延長するものであります。(注)1、2

積水ソーラーフィルム㈱

日本

2025年1月30日、当社が堺市堺区に保有する本社工場棟の譲渡に関する契約を締結いたしました。本件の譲渡価額は25,000百万円であります。(注)1

ソフトバンク㈱

日本

2025年3月14日、当社及び連結子会社が堺市堺区に保有する液晶パネル工場関連の土地・建物等の譲渡に関する契約を締結いたしました。本件の譲渡価額は100,000百万円であります。(注)3

 なお、2024年4月1日以前に締結されたシンジケートローン契約については、「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」附則第3条第4項により記載を省略しております。

 

(注)1 当社との契約であります。

2 本契約に係る特約の内容は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (連結貸借対照表関係) ※7 財務制限条項」に記載しております。また、本契約に係る債務の期末残高は、同注記の短期借入金残高をご参照ください。

3 当社及び連結子会社の堺ディスプレイプロダクト㈱との契約であります。

 

6【研究開発活動】

 当社グループは、独自技術の開発を経営理念に掲げ、製品はもとより新規デバイスや新材料開発に至るまで、積極的な研究開発活動を行っております。

 研究開発体制としては、基礎・応用研究開発を担う研究開発本部、事業本部や関係会社の傘下にある目的別開発センター(開発部門)、具体的な製品設計を担当する事業部技術部を設置しております。

 中期経営方針である「ブランド事業に集中した事業構造の確立」及び「既存ブランド事業と新産業の新たな成長モデルの確立」に向けて、エッジとクラウドAIを組み合わせた独自AI技術「CE-LLM※1」によるAI応用や、次世代通信技術、Green Energy、EV等の成長分野における新たな事業創出を加速させ、世の中を変える革新的なNext Innovationの実現に取り組んでおります。

 これに先立ち、2024年9月に技術展示イベント「SHARP Tech-Day’24“Innovation Showcase”」を開催いたしました。Next Innovationをテーマに、当社が描く新たなEVのコンセプトモデル<LDK+>や、独自のAI技術「CE-LLM」を活用した多様なソリューションへの応用展開、加えてESG関連テーマなど多彩なラインアップを展示し、シャープが目指す近未来の世界観を公開いたしました。

 

※1 CE-LLM(Communication Edge-LLM)はシャープの登録商標です。

CE-LLMとは迅速な応答性や強固な安全性を強みとする「エッジAI」と、深い思考力や広い汎用性を強みとする「クラウドAI」を用途に応じて切り替えて活用する当社独自の技術です。

 

 当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は76,341百万円であります。この内、スマートライフ&エナジーに係る研究開発費は10,939百万円、スマートオフィスに係る研究開発費は17,655百万円、ユニバーサルネットワークに係る研究開発費は14,379百万円、ディスプレイデバイスに係る研究開発費は20,857百万円、エレクトロニックデバイスに係る研究開発費は5,297百万円、全社(共通)に係る研究開発費は7,212百万円であります。

 

 なお、セグメントごとの主な研究成果は、次のとおりであります。

 

(1) スマートライフ&エナジー

 業界最高水準の省エネ性とお手入れの手間を軽減する「ラク家事」機能を搭載し、業界初となる太陽光発電システムと連携した<プラズマクラスタードラム式洗濯乾燥機>や、無線LANに接続することでクラウド上のAIが生活パターンを学習し、最大約35%の節電を実現した<プラズマクラスター冷蔵庫>を発売しました。これらを含む当社のAIoT3.0家電は2024年9月に累計1,000機種を突破し、今後もAIoT家電の普及拡大を通じて「人と社会に寄り添うIoT」の実現を目指してまいります。

 太陽電池分野において、業界初となる太陽光発電システムと連携し、家電や住設機器の電気代を制御する

<Life Eeeコネクト>サービスが「新エネ大賞 資源エネルギー庁長官賞」を受賞しました。当社は太陽光発電システム・蓄電池システムを活用したサービス拡充に取り組み、社会全体のカーボンニュートラルの達成に貢献してまいります。

 さらに、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)より委託研究の採択を受け、<継続的進化を可能とするBeyond 5G向けIoTソリューション構築プラットフォーム>の研究開発に取り組み、Beyond 5Gの用途拡大・普及とともに国際競争力の獲得を目指しております。

 

(2) スマートオフィス

 会議中にリアルタイムで文字おこし・要約作成ができる議事録支援ソリューション <eAssistant

Minutes>は、独自のエッジAI技術を活用し、外部ネットワークに接続することなく議事録の自動作成を実現しました。

また、工場や倉庫内の狭い通路でも走行できる<スリム型スタッカー自動搬送ロボット>の受注を開始しました。これにより製造工場における材料や仕掛品の搬送を自動化し、現場の環境や状況に応じた柔軟な活用を可能にしました。

 Dynabook(株)においては、XR技術とAI技術を活用し、透過型の光学モジュールを採用することで、現実空間を視認しながら情報を表示する透過型XRグラス<dynaEdge XR1>の受注を開始しました。これにより現実空間と仮想空間の融合を実現し、新たなソリューションスタイルを提供します。

 

 

(3) ユニバーサルネットワーク

 AQUOS史上最高の輝きと引き締まった黒との美しいコントラストを実現した4K mini LEDテレビ<AQUOS XLED>、最新世代 量子ドット有機ELパネルと次世代AIプロセッサーを採用し、コンテンツに応じて画質と音質を“おまかせ”で自動調整する4K有機ELテレビ<AQUOS QD-OLED>、

<AQUOS OLED>を発売しました。

 スマートフォンでは、ライカカメラ社監修の標準・広角・望遠の3眼カメラシステムを搭載し、さらに高画質に進化したスマートフォンのフラッグシップモデル<AQUOS R9 Pro>を発売しました。当機種は、

NTTコノキューデバイス製のスマートフォン接続型XRグラス<MIRZA>にも対応し、多彩なXRコンテンツ体験を実現しました。

 通信技術分野では、モバイルデータ通信が困難な船舶や建設分野などにおいて、高速大容量の通信環境構築を実現する<LEO※2/MEO※3衛星通信アンテナ>を開発しました。小型かつ軽量な衛星通信アンテナの開発を加速し、早期実用化を目指してまいります。

 また、当社は世界50か国以上で合計8,500件以上の通信規格特許を保有しており、これまで多数の通信機器及び自動車業界のリーディングカンパニーと無線通信規格特許のライセンス契約を締結しております。

 

※2 Low Earth Orbit(低軌道)の略。※3 Medium Earth Orbit(中軌道)の略。

 

(4) ディスプレイデバイス

 ソーラーパネルと蓄電池の搭載により電源設備が不要な大型カラー電子ペーパーディスプレイ屋外対応A0サイズ<ePoster>が、CEATEC AWARD 2024 の経済産業大臣賞を受賞しました。

 上記を含め、サイネージや電子ブックなど様々な製品に搭載する電子ペーパーディスプレイの開発を進めるとともに、液晶ディスプレイ(LCD)においても、モバイル端末/車載/XR/大型モニターなど、多用な用途に向け、表示性能の向上や省電力化、タッチ機能などの付加価値向上となる基幹技術の開発を通じ、カーボンニュートラルにも貢献する新たなソリューション創出に取り組んでまいります。

 

(5) エレクトロニックデバイス

 カメラモジュール分野においては、XR向けとしてアイトラッキングやハンド/ジェスチャートラッキングなどのセンシング用途に活用可能な超小型カメラモジュールや、小型プロジェクターモジュール、車載向けとして液晶ディスプレイに搭載する運転者監視用カメラモジュールを開発しました。

 半導体レーザーにおいては、レーザー光の特長を活かした<農業用途向け半導体レーザーモジュール>を開発しました。このモジュールは害虫駆除・害鳥忌避、除草などに利用でき、薬剤を使用しない安全安心な農作物の提供を目指しています。今後も高出力半導体レーザーによる農業及び加工、演出照明などへの応用展開に取り組んでまいります。