第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

(1) 会社の経営の基本方針

当社は、様々なステークホルダーに対する責任と対話を重視し、以下のとおり経営理念・経営ビジョン・経営方針を策定しています。これらには、グループ従業員等の一人ひとりが自ら挑戦し、新しい価値を社会に提供し続け、未来に向けて成長していく、という思いを込めています。

経営理念

「誠と和と意欲」をもって、“オリジナル&ハイレベル”な商品とサービスを提供し、安全・安心で豊かなグローバル社会の発展に貢献する

経営ビジョン

「はかる」を超える。限界を超える。共に持続可能な未来へ。

経営方針

1. 克己心を持ち、「誠実」な取り組みにより人も組織も“日々是進化”を遂げる

2. 内外に敵を作らず協力関係を育み、「和」の精神で難題を解決する

3. 進取の気性に富み、ブレークスルーを生み出す「意欲」を持つ

4. ステークホルダーと共に人と地球にやさしい未来をつくり続ける「志」を持つ

(2) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

当社は、キャッシュ・フロー(CF)を常に意識した経営を展開しており、「ROE (Return On Equity)」と「自己資本比率」をKPIと捉え、自己資本の効率性向上による中長期的な企業価値最大化と財務の安定性維持に取り組みます。

なお、取締役(社外取締役及び監査等委員であるものを除く。)、執行役員及び理事を対象とした現行の業績連動型株式報酬制度においては、その評価指標として、本制度の対象期間における各事業年度の期初に定める営業利益目標及び中期経営計画に掲げる営業利益を採用しています。また、金銭の業績連動型報酬(年次役員賞与)においては、当該連結会計年度における連結ROEに加え、売上高、営業利益及びESG/SDGs目標の達成度等の指標を用いています。

(3) 中長期的な経営戦略、経営環境及び対処すべき課題等

今後の見通しにつきましては、当社グループの主力である通信計測事業においては、生成AIの普及拡大によるデータセンター等でのネットワーク高速化に向けた測定需要が今後も拡大していくことが期待できます。また、モバイル市場においては、世界的なスマートフォンの出荷台数が回復してきており、AIを搭載した高機能スマートフォンの普及加速などによる測定需要の獲得を目指していきます。PQA事業においては、新製品の投入を進めることで、食品市場の品質保証プロセスの自動化、省人化を目的とした設備投資需要を確実に捉え、売上拡大を目指していきます。また、医薬品市場に向けた新製品開発と、販売力の強化を推進していきます。環境計測事業においては、堅調な推移が見込まれる国内のEV/電池向け試験需要を確実に捉えるとともに、海外市場への進出に取り組みます。

当社グループは、関係するあらゆるステークホルダーとともに持続可能で魅力的な未来を次世代に繋いでいくという思いを込め、経営理念・経営ビジョン・経営方針のもと、2030年度には安定した収益を上げる企業としての売上高2,000億円企業を目指してまいります。

① 中長期的な経営戦略及び中期経営計画

当社グループは、主力の通信計測事業を軸に、情報通信サービスに関わるビジネスを展開しております。現在の5Gシステムに代表される通信インフラの様々なイノベーションは、社会を劇的に変革するとともに、人類に「つながる」ことの豊かさを提供し、グローバル社会の進歩を生み出してきました。「誠と和と意欲」、“オリジナル&ハイレベル”を経営理念とするアンリツは、コアコンピタンスである「はかる」技術をベースに、情報通信分野と食品・医薬品分野を中心に支えてまいりました。

当社のコンピテンシーである「はかる」を極めていくとともに、内外の異なる発想や技術を更に掛け合わせ、従来の「はかる」を超えた価値や新領域を開拓していくことで次の事業の柱を成長させ、攻めの姿勢で今までのアンリツの限界を超えてまいります。

当社グループは、中長期経営戦略のもと、2024年4月に、新たな3ヶ年の中期経営計画GLP2026をスタートいたしました。GLP2026では、前中期経営計画GLP2023で育てた新しい芽を事業の柱へと成長させ、計画最終年度(2027年3月期)で、連結売上高1,400億円、営業利益200億円、営業利益率14%を目指します。

GLP2026の3年間は、5Gから6Gへの移行期であり、2030年度に売上高2,000億円企業となるための重要なマイルストーンと位置付けております。

GLP2026では6Gと3つの新領域ビジネスを重点的に拡大します。3つの新領域ビジネスは“産業計測”と“EV/電池”そして“医薬品/医療”です。M&Aとオーガニックで、新領域ビジネスの成長を加速し、更には来るべき6Gビジネスの需要を確実に獲得するための準備をいたします。

中期経営計画(GLP2026)基本方針

1. 成長投資に400億円以上(M&A+設備投資)

2. ROE≧10%を安定的に達成する事業ポートフォリオの構築

3. 2026年度(2027年3月期)の営業利益の25%を通信計測事業以外で創出

4. 新領域ビジネスの人材強化、全社で人材育成体制を構築

5. 事業活動における資源循環(サーキュラーエコノミー)の実現

6. 株主還元では配当性向50%以上を目指す

 

当連結会計年度の実績及びGLP2026に掲げる主な経営数値目標等は下表のとおりです。

当社グループは、引き続き、中長期的な経営戦略及び中期経営計画の実現を図り、資本コストを意識した成長投資(含むM&A)と資本効率の改善で、企業価値KPI(ROE)の向上を目指します。

 

 

2024年3月期

(実績)

2025年3月期

(実績)

2026年3月期

(業績見通し)

2027年3月期

(GLP2026目標)

売上収益(億円)

1,099

1,129

1,230

1,400

営業利益(億円)

89

121

150

200

当期利益(億円)

76

92

110

150

通信

計測

事業

売上収益(億円)

710

701

770

900

営業利益(億円)

75

83

120

150

PQA

事業

売上収益(億円)

253

282

300

300

営業利益(億円)

12

28

30

36

環境

計測

事業

売上収益(億円)

74

85

100

130

営業利益(億円)

5

9

9

14

ROE(%)

6.3

7.4

9

12

※ 億円未満を切り捨てて表示しています。なお、2026年3月期の業績見通しは、2025年4月25日に公表した「2025年3月期決算短信〔IFRS〕(連結)」に基づいています。

また、GLP2026では、当社グループのサステナビリティ目標を掲げ、その達成に向けた活動を推進しています。サステナビリティ推進活動、ダイバーシティ推進等の当社グループのサステナビリティに関する事項は、後記2「サステナビリティに関する考え方及び取組」をご参照ください。当社グループは、ブランド・ステートメントに「Advancing beyond」を掲げ、皆様とともに進歩と進化へ向けて歩み続けていきたいという強い思いを込めて発信しています。さらなる高みを目指すとともに、お客様のビジョン実現を通じ社会のサステナビリティに貢献したいという姿勢を示しています。今後とも経営資源を最大限に活かして安全・安心で豊かなグローバル社会の発展に貢献し、企業価値の向上に努めてまいります。

② コーポレート・ガバナンスの充実

当社は、経営環境の変化に柔軟かつスピーディに対応し、グローバル企業としての競争力を高め、継続的に企業価値を向上させていくことを経営の最重要課題としております。その目標を実現するために、コーポレート・ガバナンスが有効に機能する仕組みを構築することに努めております。執行役員制度導入による意思決定と業務執行の分離の促進、「監査等委員会設置会社」への移行、独立社外取締役が委員長を務める指名委員会・報酬委員会・独立委員会の設置、取締役会の実効性評価の実施などの従前からの取組に加え、社外取締役比率50%以上を確保することにより、取締役会の監視・監督機能を強化し、コーポレート・ガバナンス体制を一層充実させることで、グローバルな視点でより透明性の高い経営の実現を目指してまいります。

当社グループのコーポレート・ガバナンスに関する事項は、後記第4「提出会社の状況」の4「コーポレート・ガバナンスの状況等」をご参照ください。

 

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

(1) サステナビリティに関する方針

当社は2030年に向けて、2021年4月に経営ビジョンと経営方針を改定し、これに合わせてサステナビリティ方針を改定しました。本方針は、誠実な企業活動を通じてグローバルな社会の要請に対応し、社会課題の解決に貢献してこそ企業価値の向上が実現されるという考え方に立つものであり、2015年に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で掲げられた5つのP、すなわち「People」、「Planet」、「Prosperity」、「Peace」、「Partnership」の要素を包含しています。

 

サステナビリティ方針

私たちは「誠と和と意欲」をもってグローバル社会の持続可能な未来づくりに貢献することを通じて、企業価値の向上を目指します。

1. 長期ビジョンのもと事業活動を通じて、安全・安心で豊かなグローバル社会の発展に貢献します。

2. 気候変動などの環境問題へ積極的に取り組み、人と地球にやさしい未来づくりに貢献します。

3. すべての人の人権を尊重し、多様な人財とともに個々人が成長し、健康で働きがいのある職場づくりに努めます。

4. 高い倫理観と強い責任感をもって公正で誠実な活動を行い、経営の透明性を維持して社会の信頼と期待に応える企業となります。

5. ステークホルダーとのコミュニケーションを重視し、協力関係を育み、社会課題の解決に果敢に挑んでいきます。

 

(2) マテリアリティ(重要課題)

当社は、『「はかる」を超える。限界を超える。共に持続可能な未来へ。』という経営ビジョンのもと、「安全・安心なインフラを整備し、持続可能な社会の建設につながる産業の創造とイノベーションの促進に貢献する」を、社会課題解決におけるグループ全体の取組としています。この実現に向けて、「事業を通じて解決する社会課題」と「社会の要請に応える課題(ESG)」への対応を両輪とするサステナビリティ経営を通じて「グローバル社会の持続可能な未来づくりに貢献すること」を目指し、事業分野別とESG分野別のマテリアリティを設定しています。

マテリアリティは、社会課題の重要度と当社の企業価値向上の2つの視点で適宜見直しています。2021年4月の経営ビジョン、経営方針およびサステナビリティ方針の改定と組織体制の変更、さらに2022年1月に㈱高砂製作所をグループに加えたことから、2022年度にマテリアリティを見直しました。2024年度から始まった3ヶ年の中期経営計画「GLP2026」においては、マテリアリティの更新が必要となるような社会や市場、顧客動向の変化は見られないと判断し、これまでのマテリアリティを継続することとしました。

 

<事業セグメント別マテリアリティ>

通信計測事業、PQA事業、環境計測事業および「その他」セグメントに含まれるセンシング&デバイス事業において、事業を通じた社会課題解決への貢献に向けて、各事業の特長や強みを踏まえたマテリアリティを設定しています。

通信計測事業:DX技術革新への対応、強靭なITインフラ整備

デジタル革新で新たな社会の変革を目指すお客さまをサポートし、安全・安心な通信インフラの構築に通信テストソリューションで貢献する

PQA事業     :食品ロスの低減、品質保証ソリューションの提供

安全で安心できる食品や医薬品の安定供給を目指すお客さまをサポートし、高信頼・高感度の検出機と品質管理制御システムで生産ラインの品質検査工程自動化や食品ロス低減に貢献する

環境計測事業:自然災害に対する防災・減災、脱炭素社会へ貢献する製品の提供

デジタル革新で新たな社会の変革を目指すお客さまをサポートし、情報通信ソリューションで新たなデジタル社会の変革、EV(電気自動車)や電池の評価ソリューションで脱炭素社会の実現に貢献する

センシング&デバイス事業:強靭なITインフラ整備、健康的な生活の確保

デジタル革新で新たな社会の変革を目指すお客さまをサポートし、光デバイス事業、超高速電子デバイスで安全・安心で快適な社会の実現に貢献する

 

<ESG分野別マテリアリティ>

サステナビリティ方針に基づいて設定した社会の要請(ESG)に応えるマテリアリティは以下のとおりです。

環境(E):気候変動への対応

世界的な気候変動は、洪水や干ばつなどの自然災害を引き起こし、人々の生活や経済活動に多大な影響を及ぼすことから、当社は気候変動への対応を最も重要なマテリアリティとしています。

当社の製造拠点である福島県郡山市の東北アンリツ㈱第一工場は、過去2回にわたり河川氾濫による浸水被害に遭いました。取引先さまも被災し、当社の調達・製造・物流のバリューチェーン全体に影響をもたらしました。

気候変動に大きく影響する温室効果ガスの排出量削減のため、当社は再生可能エネルギー(以下、「再エネ」といいます。)の自家発電・自家消費に優先的に取り組んでいきます。

社会(S):人権の尊重、多様性の推進(ダイバーシティ&インクルージョン)

複雑で変化が多く予測困難な現代において企業が成長を続けていくためには、多様な価値観を持つ人材の力が必要となることから、当社は人権の尊重と多様性の推進をマテリアリティとしています。また、個々人の能力向上が会社の成長に欠かせないことから人材の育成にも取り組んでいきます。

ガバナンス(G):経営の透明性維持

当社は社会の信頼と期待に応える企業になるために、経営の透明性維持をマテリアリティとしています。

コーポレート・ガバナンス強化のために取締役会の実効性向上に取り組むほか、リスクマネジメント推進や社会的責務である情報セキュリティの強化を進めていきます。

 

アンリツのサステナビリティ経営

0102010_001.png

 

(3)サステナビリティ共通の開示

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであり、さまざまな要因により実際の結果と大きく異なる可能性があります。

 

①ガバナンス

当社は、取締役会がサステナビリティ経営を監督し、サステナビリティ推進担当役員が推進活動とリスク管理の責任者を務めています。主要な部門・グループ会社の代表者からなるサステナビリティ委員会が推進活動の主体となり、重点項目を明確にして情報を共有し、改善に向けた議論を行い、その内容を各代表者から各部門に展開・浸透させています。2022年4月からは、気候変動をはじめとするさまざまな課題への対応の重要性を踏まえて、グループCEOが担当役員となっています。サステナビリティ経営の進捗状況は、サステナビリティ推進担当役員が経営戦略会議および取締役会において報告し、議論しています。2024年度の取締役会では、20件程度のサステナビリティ課題に関する議論を行いました。

0102010_002.jpg

※上図は2025年4月1日現在のものです。

 

②戦略

アンリツグループは、サステナビリティ経営を通じてグローバル社会の持続可能な未来づくりに貢献することを目指しています。事業においては、当社のコンピテンシーである「はかる」技術を事業における取組の核とし、4つのカンパニー(通信計測、インフィビス(PQA事業)、環境計測、センシング&デバイス)と先端技術研究所のコラボレーション、強固な財務体質を生かした積極的な成長投資により、既存事業の拡大と6Gおよび3つの新領域(産業計測、EV/電池、医薬品/医療)開拓を通じて持続可能な社会づくりにおける貢献領域を広げ、2030年度に連結売上高2,000億円を目指します。ESG課題への対応は、環境や社会への悪影響を最小限に抑え、全ての人が生き生きと働き、暮らせる社会につながるものと捉え、中期経営計画(GLP)で目標を掲げて取り組みます。

また、製造会社である当社は、「強い“ものづくり”の会社」として調達能力向上・災害対策強化・生産の自動化を進め、労働生産性を高める働き方改革により社員の生活の充実を図ります。

これらにより『「はかる」を超える。限界を超える。共に持続可能な未来へ。』の経営ビジョン、サステナビリティ方針を実現し、グローバル社会の持続可能な未来づくりに貢献いたします。

 

6Gと3つの新領域を重点的に開拓

0102010_003.png

 

③リスク管理

当社は各事業部門、コーポレート部門、グループ会社がGLPを策定し、その計画はリスクと機会を構成要素の一つとしています。 経営戦略会議において、計画策定時および毎年のレビュー時にリスクの低減と機会の実現・成長について審議し、取締役会に報告しています。

 

④ 指標と目標

当社は社会課題の解決に向けて、GLPでサステナビリティ目標を掲げて取組を進めています。GLP2026(2024年度から2026年度の3年間)の目標と2024年度の実績・進捗は、以下の通りです。

 

 

目標※1

KPI

2024年度実績・進捗

環境

(E)

温室効果ガスの削減(Scope1+2)※2

2021年度比 23%以上削減

(2030年度までに42%以上削減※3)

31.1%削減

温室効果ガスの削減(Scope3)※4

2019年度比 17.5%以上削減

(2030年度までに27.5%以上削減※5)

37.3%削減(参考値)※6

自家発電比率(PGRE 30)※7の向上

14%以上(2018年度電力消費量を基準)

(2030年ごろまでに30%程度まで高める)

12.5%

資源循環(サーキュラーエコノミー)の実現

資源循環に対応した製品をリリースする

実現施策を検討中

プラスチックごみを100%マテリアルリサイクルする※8

77%マテリアルリサイクル

社会

(S)

ダイバーシティ経営の推進

女性管理職比率15%以上

12.0%(2025年3月末)

障がい者雇用促進:職域開発による法定雇用率 2.7%達成

2.9%

働きがいのある労働環境の実現

従業員満足度調査の働きがいポジティブ回答率:80%以上

72%

グローバルなCSR調達の推進
(環境、労働環境、人権などにおける社会的責任)

サプライチェーンデューデリジェンスの強化10以上

10社実施

CSR調達に係るサプライヤーへの情報発信:3回/年、教育2回以上/年

情報発信:3回実施

教育:2回実施

ガバナンス

(G)

グローバルなガバナンス向上

取締役の多様性の推進:女性取締役比率 20

10

取締役会における経営課題の集中討議6/年

6回実施

※1 環境分野における温室効果ガス、自家発電比率に関する目標のバウンダリーは、当社および国内子会社、海外の製造子会社(米国、英国、ルーマニア、中国、タイ)。資源循環に対応した製品は、各事業セグメントにおける取組。マテリアルリサイクルの対象は、厚木地区、東北地区においてサプライヤーから購入する部材で使用されるプラスチック包装材、厚木地区の従業員食堂で使用される食品用のプラスチック包装材。社会分野における女性管理職比率は連結の目標値。従業員満足度調査は当社および国内子会社の目標値。障がい者雇用促進は当社および特例子会社である㈱ハピスマを合算した目標値。サプライチェーンは当社の目標。ガバナンスは当社の目標。

※2 Scope1は、事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)。Scope2は、他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出。

※3 本目標は、SBTイニシアチブから1.5度目標の認定を取得済み。SBTイニシアチブは、企業に対し「科学的根拠」に基づく「二酸化炭素排出量削減目標」を立てることを求めている国際的なイニシアチブ。1.5度目標は、産業革命前と比較して気温上昇を1.5℃に抑える水準の目標。

※4 Scope3は、Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)。当社ではScope3のKPIにカテゴリ1(購入した製品・サービス)および11(販売した製品の使用)を採用。

※5 本目標は、SBTイニシアチブからWell-below2℃目標の認定を取得済み。Well-below2℃目標は、産業革命前と比較して気温上昇が2℃を十分に下回る水準の目標。

※6 第三者検証前のため、参考値として記載。検証後の数値については、サステナビリティWebサイト統合報告書に記載。

※7 PGRE 30は、Anritsu Climate Change Action PGRE 30のこと。2018年度に0.8%だったアンリツグループの太陽光発電比率を、同年度の電力消費量を基準に、2030年ごろまでに30%程度まで高める施策。詳細は、(4)気候変動 に記載。

※8 マテリアルリサイクルは、廃棄物を同じ製品の原材料として再利用する方法。

 

 

なお、GLP2026における事業を通じて解決する社会課題のサステナビリティ目標は、通信計測セグメントでDX技術革新や強靭なITインフラ整備に貢献する「5G、Beyond 5G、5G利活用、400G/800G向け当社製品の提供増」、PQAセグメントで食品ロス低減や品質保証に貢献する「検査精度・感度・機能を向上した新製品の売上に占める割合増」として取り組んでいます。

 

(4) 気候変動

当社は、2022年に、2050年までにScope1+2における温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルを目指す宣言を行い、国連気候変動枠組条約事務局(UNFCCC)のRace To Zeroに参加しています。この実現に向けて、化石燃料の使用拡大につながる投資は行わず、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の自家発電比率の向上と省エネルギー(以下、省エネ)活動の徹底、再エネ電力証書の購入などを組み合わせた取組を推進し、事業活動で使用するエネルギーを100%再エネ化することを目指します。さらに、サプライヤーとの協働、顧客への省エネ製品の提供を通じてバリューチェーン全体で消費電力を低減していきます。

また、気候変動否定派や気候関連規制に反対するロビーグループへの資金提供を行いません。ステークホルダーとの対話を深め、環境課題に関する教育・研修を実施します。

これらの取組を通じて、持続可能な未来の実現に向けた取組を強化し、環境保護に貢献します。

再エネ自家発電の取組が、Anritsu Climate Change Action PGRE 30(以下、PGRE 30)です。当社は、事業遂行に必要な電力の一部を自社で発電し、消費することで温室効果ガスを削減していくことがSDGsの目指す姿に適うものと考え、2020年3月にPGRE 30を策定しました。主要拠点である厚木地区(神奈川県厚木市)、東北地区(福島県郡山市)、Anritsu Company(米国カリフォルニア州モーガンヒル)の3地区に自社消費用の太陽光発電設備を導入・増設することで、SDGsの目標7のターゲット7.2に掲げられた「2030年までに、世界のエネルギーミックスにおける再エネの割合を大幅に拡大させる」という目標達成に貢献してまいります。

 

<TCFD提言に沿った情報開示>

① ガバナンス

当社は、取締役会が気候変動全般に関する課題や取組を監督しています。各種活動の推進は、グループCEOおよびCFOが責任を負っています。リスクと機会の管理は、グループ全体のリスクマネジメントシステムに組み込まれ、環境総括役員がリスク管理責任者としての責務を負っています。環境総括役員は、グループ全体の環境戦略を担う環境・品質推進部を所管するとともに、国内グループの環境管理委員会の委員長、海外グループのグローバル環境管理会議の主宰者を務め、リスクと機会をグローバルに評価・管理しています。

取締役会は、経営戦略会議において審議されたSBTイニシアチブへの申請計画や、PGRE 30に基づいて実施する再エネ発電設備導入や省エネルギー設備導入などの投資案件を決議するとともに、温室効果ガス排出量削減目標やPGRE 30の進捗などを確認しています。また、気候変動に関する情報開示内容は、GLPの策定もしくはレビューとして毎年度経営戦略会議で審議・承認し、取締役会に報告しています。

役員報酬における短期インセンティブの報酬の算定には、各人の貢献度をはかる指標として、売上高、営業利益およびサステナビリティ目標の達成度を用いており、目標には気候変動関連の目標(温室効果ガス排出量の削減、自家発電比率の向上)が含まれています。

 

② 戦略

気温が1.5℃あるいは4℃上昇する場合のシナリオをベースに、短期(1年)・中期(3年)・長期(~30年)のリスクと機会を抽出し、気候変動に関する分析を実施しています。シナリオ分析ではバリューチェーン全体を含めた事業戦略と財務計画への影響を考慮しています。その結果、規制強化の影響や生産拠点の一部での物理的な影響を想定し、対応策を定めるとともに脱炭素社会に寄与するソリューション開発に取り組むこととしました。

タイプ

要因

シナリオ

想定シナリオの詳細

時間的視点

想定される影響

影響度※

対応策

移行

リスク

炭素税の課税

1.5℃

温室効果ガス排出量への課税

長期

・事業活動に伴うコストの増加

やや大

・1.5℃目標でSBT認証を取得したScope1+2の削減

・インターナルカーボンプライシングの導入

1.5℃

物価上昇で景気が停滞

中期

・顧客の投資が縮小・遅延して売上が減少

・調達難や部材コスト増により利益が減少

・ソフトウエアベースの仮想化試験環境とソフトウエア無線を組み合わせたソリューション開発を推進し、部材価格の変動影響が少ないビジネスモデルを構築

物理

リスク

自然災害の頻発化・激甚化

4℃

各地で異常気象が頻発化・激甚化

長期

・生産工場の操業や部材の調達に影響

・東北アンリツ㈱第一工場の生産機種を第二工場に移管し、河川氾濫による操業への影響ゼロを実現

・アンリツグループ内の生産拠点の連携強化

・部材生産地をマップ化し、調達への影響を最小化

・複数社購買可能な体制を構築

・海外製造拠点の浸水対策を実施

長期

・気温上昇により、製造工程における品質保証が難しくなる

・2023年度に外気温の変動に左右されない空調管理システムを導入し、運用を開始

機会

エネルギーミックスの変化

1.5℃

再エネ発電比率が高まる

長期

・太陽光発電設備の導入コスト低下

やや大

・PGRE 30の推進で自家発電比率を高め、電力料金を低減

 2024年度はこれまで設置した3,094㎾の太陽光発電設備が稼働。東北アンリツ㈱第二工場では、メガソーラー級発電設備と蓄電池を組み合わせたシステムを運用

省エネ技術の進展

1.5℃

投資により新技術が普及

中期

・新たな省エネ技術の採用で製品の環境付加価値向上

やや大

・環境配慮型製品の開発推進で製品を省エネ化

・省エネ部品を積極採用

市場の変化

1.5℃

高機能と環境性能を備えた製品の需要拡大

中期

・試作機不要の開発を望む顧客が増加し、仮想化等、シミュレーション試験環境の需要増

・ソフトウエアベースの仮想化試験環境ソリューションを提供

中期

・データセンターの省エネ化に必要な製品の需要増加

やや大

・次世代グリーンデータセンター向け光電融合デバイスの開発・製造向けソリューションを提供

・低消費電力、高電力効率の光デバイス製品を提供

長期

・EV普及により高効率パワートレインや電池の開発用評価機器の需要増加

・社会インフラにおける再エネや燃料電池を効率的に活用するエネルギーマネジメントシステムの需要拡大

・高品質なパワートレインや電池の開発を効率化するテストソリューションを強化

・パートナー企業との協働によりエネルギーマネジメントシステムの事業機会を獲得

自然災害の頻発化・激甚化

4℃

気象の激甚化による食糧生産、需給環境の悪化

長期

・食品廃棄ロスのさらなる削減のため、原材料段階での異物検出や不良品のピンポイント選別の需要が拡大

やや大

・原材料段階で色、成分、虫、細菌、成分などの品質不良を識別できるソリューションの実用化

・DX、AI、ロボットを活用した異物検出精度向上や生産ラインのモニタリング、不良品選別ソリューションを提供

各地で異常気象が頻発化・激甚化

長期

・防災投資が増加して河川や道路の監視ソリューションの需要増加

・パートナー企業と映像情報システム等、防災・減災ソリューションの対応力を強化

長期

・少子・高齢化に伴うオペレーション人員不足をカバーする遠隔監視ソリューションの需要増加

・ICTシステムを活用したより高度な防災・減災システムの実現に寄与するソリューションを提供

※「影響度」は、売上・利益等の財務上の影響額とそのリスクと機会が顕在化する可能性を考慮して、「大、やや大、中、やや小、小」の5段階で当社独自の基準に基づいて判断したものです。なお、影響度の低い「やや小」と「小」の掲載は省略しています。

 

③ リスク管理

気候変動関連のリスクと機会は「3 事業等のリスク」に記載の環境リスクに含まれ、グループ全社で総合的に管理するリスクマネジメントシステムに組み込まれています。リスクと機会については、各事業部門、コーポレート部門、グループ会社がGLPで抽出しています。環境管理委員会は、それらの発生の可能性と影響度から重要な項目を抽出し、対応策や取組を特定しています。その結果は、定期的に経営戦略会議で審議・承認され、取締役会へ報告されています。

 

④ 指標と目標

当社は、2022年12月にSBTイニシアチブから認証を取得した温室効果ガス(CO2換算)排出量(Scope1+2およびScope3)削減目標、再エネ自家発電比率を指標としています。Scope1+2では1.5度目標、Scope3ではCategory1、Category11でWell-below2℃目標の認証を取得しています。

 

KPI

目標

2024年度実績・進捗

Scope1+2:温室効果ガス排出量の削減

2030年度までに2021年度比で42%以上削減する

31.1%削減

Scope3:温室効果ガス排出量の削減

2030年度までに2019年度比で27.5%以上削減する

37.3%削減(参考値)※1

太陽光自家発電比率の向上

2018年度に0.8%だったアンリツグループの太陽光発電比率を、同年度の電力消費量※2を基準に、2030年ごろまでに30%程度まで高める(PGRE 30)

12.5%

※1 第三者検証前のため、参考値として記載。検証後の数値については、サステナビリティWebサイト統合報告書に記載。

※2 策定時に当社の100%子会社ではなかったATテクマック(株)(現アンリツテクマック(株))、㈱高砂製作所、㈱ハピスマの電力消費量は除く。

 

Scope1+2のCO2排出量の削減については、その大部分がエネルギー消費によるものであるため、太陽光の自家発電と工場やオフィスでの省エネ活動が主な取組となります。アンリツグループは2010年代から太陽光発電設備を導入しています。2019年度には、CO2排出量を削減する施策として、2018年度に0.8%だった太陽光自家発電比率を、2030年ごろまでに30%程度まで高める「Anritsu Climate Change Action PGRE 30」(以下 PGRE 30)を策定しました。主要拠点である厚木地区、東北地区、Anritsu Companyに合計8,000MWh分の年間発電量に相当する太陽光発電設備を導入し、確実にCO2排出量削減につなげていきます。東北地区では発電容量1,100kWの太陽光発電設備と定格容量2,400kWhの蓄電池を組み合わせた大規模太陽光発電システムを導入し、夜間に必要な電力の一部を蓄電した再エネで賄っています。

省エネ活動では、2023年3月に立ち上げた省エネ対策チームの下、適切な空調管理と実験室での節電を徹底するとともに社内イントラネットで本社と東北地区の電力使用量および電気料金、本社の建屋別の電力使用量を確認できるコンテンツを設け、従業員の省エネ意識を高めました。

この結果、Scope1+2のCO2排出量は2021年度比31.1%削減となりました。

Scope3では、Scope3総排出量の84.5%(2024年度参考値)を占める「購入した製品・サービス(Category1)」と「販売した製品の使用(Category11)」の削減に取り組んでいます。取引先さまとの協働や環境配慮型製品の開発、顧客への紹介などに継続して取り組んでいます。2024年度は2019年度比37.3%削減(参考値)となり、取組の成果が上がっています。

Category1では、産業平均データの使用だけではなく、サプライヤーから排出量データを収集する総排出量配分方式を採用し、サプライヤーの排出量削減努力を加味しています。連結売上高の約60%の製品群を対象とし、調達額が上位にあるサプライヤーのCO2排出量を収集しています。Category11の算定では製品の生涯稼働時間に加え、顧客の再生可能エネルギーの導入率も加味しています。

 

(5) 人権の尊重

当社は、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」が企業に求める人権尊重に対する責任を果たすために、2022年12月にアンリツグループ人権方針を制定しました。これに続き、当社の事業活動が人権に与え得る負の影響を特定・評価し、防止・軽減、対処していくために、人権デューデリジェンスの仕組みを構築し、継続運用しています。

人権デューデリジェンスにおいては、NPO法人経済人コー円卓会議(CRT)日本委員会の協力の下、最初のステップとなる人権リスクアセスメントを実施し、「職場における多様性の受容」「労働環境や働き方の変化への対応」「部品・機器調達先の労働環境調査の推進」の3点を今後優先的に取り組む人権課題として特定しました。

「職場における多様性の受容」では、性的マイノリティへの取組を強化し、LGBTQをテーマとした講演会の実施や従業員とその家族による関連イベントへの参加、トランスジェンダーをテーマとした映画の上映、「Business for Marriage Equality」への賛同、同性パートナーシップ制度の導入などを行いました。これらの取組の結果、2024年11月14日に一般社団法人「work with Pride」が策定する「PRIDE 指標2024」において、最高位となるゴールド認定を取得しました。

「労働環境や働き方の変化への対応」では、出産・育児に関する制度の充実、利用促進に取り組んでいます。法定を上回る休暇・休業・短時間勤務などの制度を設け、育児と仕事の両立が図れる環境を整備しています。これらの成果として、2025年3月に「プラチナくるみん」認定を取得しました。「プラチナくるみん」は「くるみん」認定企業の中でも、特に優れた取組を行う企業が認定対象となる制度です。男性の育児参加も後押しし、「男性の育児休業取得率 100%」を目標として掲げています。4 週間の育児休業を取得した男性社員の給与を実質 100%補填する出生時育児休業手当補助金制度を導入しました。出産予定の申し出があった従業員には面談を行い、各種支援制度の説明や育児休業取得意向の確認を行っています。その結果、2024年度の育児休業取得率は、前年度から 約5%増加して 95.2%になりました。
 「部品・機器調達先の労働環境調査の推進」では、CSR調達ガイドラインへの取り組み状況のアンケート調査と、その回答に基づいて選定したサプライヤーの現地調査を行っています。2023年度からは人権リスクアセスメントで備えるべき人権リスクがあるとされた中国、タイの生産拠点の調達先を対象に加えました。2024年度は、2023年度取引金額の上位9割のサプライヤーの中の生産資材に関連する339社を対象にアンケートを実施しました。334社から回答を得て、回答率は98.5%でした。現地調査では、日本・中国・タイのサプライヤー10社を対象にしました。これらの調査を通じて、いずれのサプライヤーにも人権・労働、安全衛生について重大なリスクがないことを確認しました。

今後も国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に則った人権尊重の取組を充実させていきます。

 

(6) 人的資本

経営環境がめまぐるしく変化している今日、既存事業の拡大と新規ビジネスの創出に資する源泉は“人”であり、多様性であると考えています。下記の人材ビジョンのもと、会社と従業員がサステナブルな未来を共有し、社会課題の解決を目指す、“人”と“組織”づくりを推進しています。

人材ビジョン

会社と多様な従業員がベクトルを合わせ、事業(社会)貢献意識を持ち、仕事と私生活のバランスを取りながら生き生きと働いている

 

① ガバナンス

人材戦略を推進する人事総務総括役員に加え人的資本に関する課題に取り組む各委員会の担当役員の報告をもとに、経営戦略会議および取締役会において議論しています。

人事総務部門および各委員会が取り組む人的資本に関する課題は以下の通りです。

・人事総務部門     :成長事業・重点領域の人材確保と育成、若年/リーダー層の積極採用と育成、およびシニア層活躍強化、経営/人材ビジョン実現に向けた職場風土醸成

・サステナビリティ委員会:人権およびダイバーシティの推進

・企業倫理推進委員会  :各種ハラスメント防止や36協定違反等のモニタリングと改善

・採用委員会      :採用計画の策定・実行・採用当否判定・レビューを通じた求められる人材の量的・質的確保の継続

・管理職登用委員会   :管理職の登用審査、その当否判定を通じた事業の発展に資する管理職の輩出継続

・研修・表彰委員会   :従業員のエンゲージメント向上および研修を通じた人材の育成

 

役員の指名および報酬については、社外取締役を委員長とする指名委員会および報酬委員会を設置し、役員の選任、解任と報酬の妥当性および透明性の確保をはかっています。

 

0102010_004.png

※ 上図は2025年4月1日現在のものです。

 

② 戦略

2030年度連結売上高2,000億円企業を目指し、既存事業の拡大とともに、これまでの概念にとらわれず、“「はかる」を超える” 新規事業領域の開拓に取り組むという経営戦略のもと、GLP2026で人材戦略を策定し、人的資本を最大化するための取組を進めています。

 

GLP2026 人材戦略

0102010_005.png

(2024年4月公表 中期経営計画 GLP2026資料より抜粋)

 

<成長事業・重点領域の人材確保と育成>

当社は、GLP2026において「新領域ビジネス(産業計測、EV/電池、医薬品/医療)の重点的な拡大」を掲げており、そのための人材確保と育成を人材戦略の最重要課題としています。この実現に向けて、経営層、経営戦略部門、人事部門が一体となり、トップダウンで経営戦略からカンパニー横断の人員計画を策定する「人財戦略レビュー」を実施し、より戦略的な人材確保、配置、育成を実行しています。

また、新領域でのビジネス拡大に向けた人材育成強化を目的として、2024年4月に「Anritsu SKILLs training center(A-SKILLs)」を立ち上げました。A-SKILLsは、EV/電池や汎用計測器に関する技術知識および販売スキルを向上するための教育の企画・実行を担い、3年間で新領域ビジネス人材を2倍に増強することを目指しています(図1)。

このほか、開発力強化を目的としてエンジニア育成を専門とする組織を2024年4月に立ち上げました。AI活用等の新技術獲得に向けたAIリテラシー教育を実施しました。今後はこの教育の全社展開やリスキリング施策導入などを担い、より戦略的にエンジニアを育成していきます。

 

(図1)Anritsu SKILLs training center(A-SKILLs)について

0102010_006.png

(2024年4月公表 中期経営計画 GLP2026資料より抜粋)

 

<若年/リーダー層の積極採用と育成、シニア層活用強化>

当社は新卒採用数の変動が大きかったことにより、現在の人員構成は30代後半~40代前半が最も少なく、50代が最も多い状況となっています。そのため2030年に向けて事業推進のコアとなるリーダー/管理職層の不足、60代以上のシニア層の増大が予測されており、「若年/リーダー層の積極採用と育成」によるコア人材の確保と「シニア層活用強化」による事業推進力の維持・向上を重要課題としています。

「若年/リーダー層の積極採用と育成」においては、リーダー層から管理職層をターゲットとしていた経験者採用を若年~中堅層にも広げ、積極的な採用活動を推進しています。育成では、階層別研修により段階的育成を行う仕組みづくりを行っていることに加え、「若手ソフトウエアエンジニア育成プログラム」によりソフトウエアエンジニアを目指す新入社員に対し3年間の集中的な育成を行っています。

「シニア層活用強化」においては、50代の従業員を対象としたキャリア研修を導入し、60代以降のありたい姿や貢献領域を考えるプログラムを実施しています。今後もリスキリング施策の導入や配置転換を進め、従業員が長く生き生きと活躍するための取組を推進します。

 

○階層別研修

リーダー研修とサブリーダー研修は、ステップアップの動機づけと成長支援を目的としています。当社グループ合同で実施しており、組織を超えた横のつながりを作り、お互いに触発しあう機会としています(図2)。

2024年度は次世代リーダーと部下育成にフォーカスした新たな管理職研修を導入し、管理職昇進後も段階的な成長を支援する育成プログラムを構築しました。

 

(図2)キャリアパスと教育プログラム全体像

 

0102010_007.jpg

 

○若手ソフトウエアエンジニア育成プログラム

変化する事業環境の中で、さまざまな製品開発に対応できる経験を積んだエンジニアが必要であり、「若手ソフトウエアエンジニア育成プログラム」を導入しています。

ソフトウエアエンジニアを目指す新入社員は、エンジニアリング本部(各カンパニーのソフトウエア開発、AI/クラウド/データ分析等の先端技術開発を担当するカンパニー横断のシェアード開発部門)に配属され、3年間さまざまな製品開発プロジェクトで経験を積み、ソフトウエアエンジニアとしての基礎知識とスキルを身に付けます。カンパニー横断の開発業務に携わることで、各カンパニー内技術のサイロ化防止とイノベーション創出、将来的な人脈づくりにつなげていきます。育成プログラムはOJTと集合教育で構成され、当社独自のスキル標準で成長目標を明確化し、一人ひとりの育成計画をデザインしています。OJTは、原則1年ごとに担当をローテーションし、技術指導担当のトレーナーと会社生活全般の相談役となるメンターがサポートします。集合教育は、実践に役立つ技術教育、先輩社員を交えたコミュニケーションやリーダーシップ等の研修のほか、有志の勉強会も開催されており、同世代エンジニアと学び・教えあう交流の場にもなっています。育成プログラム修了後、各人の適性やキャリア志向に応じてカンパニー等への配属先を決定するため、働きやすさや働きがいの向上にもつながると考えています(図3)。

 

(図3)若手ソフトウエアエンジニア育成プログラム構成

 

0102010_008.png

 

<経営/人材ビジョン実現に向けた職場風土醸成>

ⅰ 成長・挑戦の促進

“自らの壁を取り払い、新たな領域に好奇心を持って取り組む人材、ステークホルダーや他社と共に社会課題の解決を目指す人材を育成する。”を掲げる人材育成方針のもと、経営ビジョンおよび経営戦略の実現に向けて目標・期待役割共有の徹底による挑戦・成長意欲の向上をはかっています。

そのための取組として、2022年度に「役割共有面談」制度を導入し、部門方針・課題と各人の役割・期待を共有する面談を年2回実施しています。

また、階層別研修のリーダー研修およびサブリーダー研修に「経営方針・キャリアパス教育」を組み込み、各階層で会社方針と期待役割の理解促進を行っています。

従業員一人ひとりが自発的に自らの強みを一層磨き、壁を取り払い、レベルアップし、会社とともに成長していく風土・環境づくりを推進していきます。

 

ⅱ 多様性の受容促進

“価値観や考え方も含め多様性を持つバラエティに富んだ人材が混ざり合い、多様な視点と強みを活かし新たな価値を創造する。”を掲げる人材多様性推進方針のもと、女性活躍推進、経験者採用強化、障がい者雇用推進などを重点的に進めています。これらの活動は一定の成果を上げていますが、引き続き「多様性の受容度の向上」を重要課題とし、経験者採用時のオンボーディングをはじめとした、多様な人材の受入体制強化を行います。

○女性活躍推進・経験者採用に関する取組

女性活躍推進においては、新卒採用、経験者採用の強化に取り組むとともに、生活と仕事を両立しながら働き、事業の成長と企業価値向上に貢献できるキャリア形成支援に継続して注力しています。自分のライフステージ、ライフスタイルに合わせて働くことができる管理職コースや、妊娠、出産、育児期間中の在宅勤務制度の導入により、ライフワークバランスをより重視したキャリア形成が可能となっています。2023年度末の管理職に占める女性の割合は国内3.8%、連結11.2%でしたが、これらの取組により2024年度末は国内6.2%、連結12.0%となりました。(表1)。2025年4月1日付で新たに6名の女性が管理職に昇進し、女性管理職比率は国内7.0%、連結12.3%とさらに増加しています。採用活動の更なる推進やリーダー育成を継続し、GLP2026で目標とする「女性管理職比率連結15%以上」の達成を目指します。

これまでの取組の成果として、女性活躍に関する取組状況が優良な企業であることを示す「えるぼし(3段階目)」の認定を2023年3月に取得しています。

 

経験者採用は、多様なバックグラウンドを持つ外部人材、新規事業領域に取り組む人材の獲得、ならびに、女性管理職および管理職候補の採用を目的として2020年度より活動を強化しています。2024年度の当社の経験者採用における女性比率は、47.1%となりました。2021年度から高い水準での採用が継続できており、国内グループにおける女性管理職比率向上につながっています。(表2)。

 

(表1)管理職に占める女性の割合 (女性管理職数÷全管理職数)(単位:%)

 

2020年度

2021年度

2022年度

2023年度

2024年度

日本

2.3

2.8

3.1

3.8

6.2

米州

17.9

21.6

17.4

22.7

23.0

EMEA *

24.2

20.3

20.3

17.3

17.1

アジア他

24.0

23.7

22.3

21.6

19.6

連結

10.8

10.9

10.5

11.2

12.0

*EMEA(Europe, Middle East and Africa):欧州・中近東・アフリカ地域

 

(表2)新規採用者に占める経験者の割合および女性の割合※1 (単位:%)

 

2020年度

2021年度

2022年度

2023年度

2024年度

経験者採用比率 ※2

20.9

44.2

36.5

28.8

37.8

女性経験者比率 ※3

11.1

32.4

30.4

70.6

47.1

※1 当社を対象に集計。

※2 経験者採用比率は、経験者採用数÷新規採用数です。

※3 女性経験者比率は、経験者採用のうちの女性採用数÷経験者採用数です。

 

○LGBTQへの対応や取組

 2024年度は同性パートナーシップ制度を始めとした各種制度整備、社内研修等による理解促進、LGBTQの方々に寄り添い、支援する従業員(ALLY)を増やす施策などを実施しました。その結果、LGBTQなどの性的マイノリティが働きやすい職場づくりに関する評価指標である「PRIDE 指標2024」において、最高位であるゴールド認定を獲得しました。

 

ⅲ ライフワークバランス、就業環境整備

「働き方改革」を経営戦略の一つとしており、“「生活と仕事のバランスを考えて、働きやすく人生を楽しめる会社」と「労働生産性が高く働きがいがある会社」の両立に向けた制度・環境を整備する”という環境整備方針のもと、多様な従業員が生活と仕事を両立しながら、生産性を高めることができる環境づくりを推進しています。労使による「両立支援推進委員会」を適時開催し、在宅勤務制度の導入、育児・介護などによる在宅勤務の日数拡大、男性の育児休業利用推進、ライフイベントに応じて柔軟な勤務が可能な管理職コースの新設など、働き方やキャリアの多様化に向けた施策を行っています。

 

○育児に対する支援

妊娠中・育児中の従業員に対し、法定を上回る休暇・休業・短時間勤務制度の提供や在宅勤務日数の拡大等を行っており、育児と仕事を両立できる環境を整備しています。

近年は男性の育児休業利用促進に注力しており、「産後パパ育休」の施行に合わせた全管理職に対しての研修や、男性育児休業取得推進の意識付けなどを行っています。この結果、2022年度に45.2%だった男性の育児休業取得率は2023年度に90.3%、2024年度には95.2%となりました。

今後も男性も当たり前に育児休業を取得できる環境づくりに努めていきます。

当社は2015年、2018年、2020年、2025年に厚生労働大臣から「子育てサポート企業」と認定され、2015年、2018年、2020年に「くるみんマーク」、2025年には「プラチナくるみんマーク」を取得しました。

 

○エンゲージメント調査による状況把握

当社および国内子会社では、全従業員に対するエンゲージメント調査を毎年実施し、「働きやすさ」と「働きがい」の現状把握、組織課題の抽出を行っています。調査結果は社内イントラネットで全従業員に公開するとともに、各部門にフィードバックし改善に活用しています(表3)。

 

(表3) エンゲージメント調査の結果 (単位:%)

 

2020年度

2021年度

2022年度

2023年度

2024年度

回答率

98

97

98

97

95

働きやすさ満足度

90

90

90

89

88

働きがい満足度

75

75

72

71

72

 

○健康経営の推進

「働き方改革」の基盤を従業員の健康と考え、「アンリツグループ健康経営方針」のもと健康経営を推進しています。

 

アンリツグループ健康経営方針

アンリツグループは、社員一人ひとりが健康で活き活きと働いていることが、企業価値の源泉であると考えています。全ての社員が健康について関心を持ち、自身の健康上の課題を認識し、健康保持・増進に向けて自律的な取組を進めている状態を目指し、アンリツグループ各社とアンリツ健康保険組合が一体となり、健康経営の実現に向けた活動を進めます。

 

具体的な取組として、年1回の定期健康診断における法定項目を超える検査の実施、集団歯科検診や女性特有疾患検診の実施など、各種検査の拡充を行っています。また、定期健康診断結果のフォローアップを重視し、精密検査対象者の受診促進、高リスク者への個別面談等を実施しています。これらの取組により疾患の早期発見に繋げ、予防に向けた施策を拡充することにより、従業員の健康リスク低減をはかっています。

当社は、2022年度、2023年度に続いて2024年度も経済産業省と日本健康会議が主催する健康経営優良法人認定制度の大規模法人部門における「健康経営優良法人2025(ホワイト500)」に認定されました。本制度が開始された2016年度から通算7回目の認定となります。

 

③ リスク管理

当社グループの力を最大限に発揮して既存事業の拡大と新領域開拓を目指す上で、人材不足や生産性の悪化による事業遂行力の低下が最大のリスクと考えています。経営層、経営戦略部門、人事部門が一体となって行う「人財戦略レビュー」で、採用計画や後継者育成状況等をレビュー、ディスカッションし、経営戦略実現に向けた人材戦略を推進しています。カンパニー制を採用している当社ではカンパニーごとに人事責任者を置き、密に連携することで人材状況の把握と問題への対策を行っています。

 

④ 指標と目標

GLP2026では下記の目標を掲げています。

目標

KPI※1

2024年度実績・進捗

サステナビリティ目標

 

ダイバーシティ経営の推進

女性管理職比率 15%以上(連結)

12.0%

障がい者雇用率 2.7%達成(当社および特例子会社である㈱ハピスマの合算)

2.9%

働きがいのある労働環境の実現

エンゲージメント調査の働きがいポジティブ回答率 80%以上(当社および国内子会社計)

※2

72%

グローバルなガバナンス向上

女性取締役比率 20%以上

10%

人材戦略に関する目標

成長事業・重点領域の人材確保と育成

新領域ビジネス人材数 2倍(連結)

国内グループにおける対象者の45%が新領域ビジネス関連教育を受講

若年/リーダー層の積極採用と育成、およびシニア層活用強化

新規採用者数に占める経験者採用者割合 30%以上

38%

新卒採用者確保率 80%以上

70%

経営/人材ビジョン実現に向けた職場風土醸成

エンゲージメント調査の成長・挑戦ポジティブ回答率 80%以上(当社および国内子会社計)※2

74%

エンゲージメント調査の多様性受容ポジティブ回答率 90%以上(当社および国内子会社計)※2

92%

エンゲージメント調査のライフワークバランスポジティブ回答率90%以上(当社および国内子会社計)※2

85%

PRIDE指標「ゴールド」認定の取得

認定取得(2024年11月)

「健康経営優良法人(ホワイト500)」認定の継続

健康経営優良法人2025(ホワイト500)認定取得(2025年3月)により認定継続

プラチナくるみん認定の取得

プラチナくるみん認定取得(2025年3月)

※1 算出基準について特に記載がないものは提出会社のKPIとなります。連結会社ベースの算出としていない項目については、各社・各地域の独自性あるいは法令に合わせた運用としているものです。

※2 エンゲージメント調査における「ポジティブ回答率」とは、該当設問で肯定的な回答をした従業員の割合です。

 

多様性に関する指標は、「第1 企業の概況 従業員の状況」にも記載しています。その他、人的資本に関する目標は「(3)④指標と目標」にも記載しています。

3【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

(方針及び体制)

当社グループは、リスクを適切に管理することは、企業価値を継続的に高め、社会的責任を果たすために、極めて重要な経営課題であると認識しており、リスク管理体制を整備しています。また、企業価値を維持、増大し、企業の社会的責任を果たし、当社グループの持続的発展を図るため、経営者はもとより、全社員がリスク感性を向上させ、全員参加により、リスクマネジメントを推進する取り組みに注力しています。

当社グループは、グループCEOのリスクマネジメント統括のもと、主要リスクを①経営の意思決定と業務の執行に係るビジネスリスク、②法令違反リスク、③環境リスク、④製品・サービスの品質リスク、⑤輸出入管理リスク、⑥情報セキュリティリスク、⑦感染症・災害リスクであると認識し、リスクごとにリスク管理責任者を明確にしています。各リスク管理責任者は、当該リスクに関する関係部門の責任者及びグループ会社管理責任者で構成する委員会を主管し、当該リスクマネジメントに関わるグループ会社全体を統括します。リスクマネジメントの対策、計画、実施状況及び年間を通したマネジメントサイクルの結果は、必要に応じ、経営戦略会議において審議され、取締役会に報告されております。また、リスクマネジメント推進部門は、規則、ガイドラインの制定、教育研修などを主管し、事業の継続発展を確保するための、リスク管理レベルの向上に必要な体制を整備しています。なお、各リスク管理責任者は、当該分野に関し、海外グループ会社の活動を支援しています。また、コンプライアンスリスクに関しては、各地域の統括会社の責任者が年度計画を策定し、リスクアセスメントを実施しています。

 

(主要リスクの概要)

(1) 当社グループの技術・マーケティング戦略に関するリスク(①ビジネスリスク)

当社グループは高い技術力により開発された最先端の製品とサービスをいち早く提供することで顧客価値の向上に努めております。しかしながら、当社グループの主要市場である情報通信市場は技術革新のスピードが速いため、当社グループが顧客価値を向上させるソリューションをタイムリーに提供できない事態や、顧客のニーズやウォンツを十分にサポートできない事態が生じた場合は、当社グループの財政状態及び経営成績に大きな影響をもたらす可能性があります。

(2) 市場の変動に関するリスク(①ビジネスリスク)

経済や市場状況の変化、技術革新などの外的な要因は、当社グループが展開する製品群の収益に影響を及ぼし、グループの財政状態及び経営成績に大きな変動をもたらす可能性があります。

通信計測事業は、情報通信市場向けの売上比率が高いため、サービス・プロバイダ、ネットワーク機器メーカー、スマートフォン・携帯電話メーカー、半導体・デバイスメーカーの設備投資動向に業績が左右される可能性があります。サービス・プロバイダは、急増するデータ・トラフィックに対応しながら、IoTサービスやクラウドサービスなど様々なニーズを実現するネットワークの構築が求められており、コスト効率を意識した設備投資を進めています。また、当社グループの収益の柱であるモバイル市場の業績は、携帯電話サービスの技術革新や普及率、加入者数及びスマートフォン等の買い替え率の変化に影響されます。

PQA事業は、食品産業向けの売上収益が8割以上を占めているため、食品メーカーの設備投資動向に業績が左右される可能性があります。

環境計測事業は、EV/電池向け試験装置の売上比率が高いため、自動車メーカー、自動車部品メーカー、バッテリメーカーの設備投資動向に業績が左右される可能性があります。

(3) 戦略投資に関するリスク(①ビジネスリスク)

当社グループは、コンピテンシーである「はかる」を極めていくと共に、内外の異なる発想や技術をさらに掛け合わせ、従来の「はかる」を超えた価値や新領域を開拓していくことで次の事業の柱を成長させるため、外部との連携やM&Aを含めた戦略的成長投資を強化しています。投資の実行にあたっては、事前に事業計画の検証やデューデリジェンスを実施したうえで、投資判断を行っています。また、投資後もPMI(Post Merger Integration)計画を策定、実行し、投資後のビジネス立ち上げに万全の体制で取り組んでいます。

しかしながら、予期せぬ外部環境の変化や、市場環境や競合状況の変化等によっては当初期待した成果が得られないリスクがあります。このような場合には、当社グループの財政状態及び経営成績に影響をもたらす可能性があります。

(4) 海外事業展開に関するリスク(①ビジネスリスク、②法令違反リスク、⑤輸出入管理リスク)

当社グループはグローバルに事業を展開しており、海外売上比率は当期実績で約70%を占めています。顧客の多くもグローバル規模で事業を展開しているため、海外諸国の経済動向、国際情勢の変化、遵守すべき法令対応によって、当社グループの財政状態及び経営成績に大きな影響をもたらす可能性があります。

 

(5) 製品の供給に関するリスク(①ビジネスリスク、⑦感染症・災害リスク)

当社グループは、電子部品等の安定調達を目指して、取引先との強固な関係構築に努めるとともに、部品調達リスクを速やかに把握する仕組み作りや、戦略的な部品在庫の確保などの対策を講じています。あわせて、リスクの高い部品については代替品への変更などによりリスクの最小化を図っています。

しかしながら、災害等に起因するサプライチェーンの混乱や需要の急激な高まりによる部品供給の逼迫等が生じた場合は、電子部品等の調達や主要製品の製造が困難な状況になり、製品の供給に遅延や停止が発生するリスクがあります。このような場合には、当社グループの財政状態及び経営成績に影響をもたらす可能性があります。

(6) 感染症の蔓延に関するリスク(⑦感染症・災害リスク)

当社グループは、大規模な感染症の流行が発生した場合、従業員の安全確保と社内外の感染抑止を最優先に取り組んでいきます。また、事業への影響を最小限に抑えるべく、必要に応じて対策本部を設置し、情報収集と必要な対応を行います。しかしながら、感染拡大の状況によっては、サプライチェーンの寸断や当社グループ、顧客及び取引先の工場の操業停止や事業拠点の休業などの事業活動の制限等による影響により、当社グループの財政状態及び経営成績に大きな影響をもたらす可能性があります。

(7) 災害等に関するリスク(⑦感染症・災害リスク)

当社グループはグローバルに生産・販売活動を展開しているため、地震、台風、気候変動に伴う異常気象等の自然災害、火災、戦争、テロ及び暴動等が発生した場合には、当社グループや仕入先、顧客の主要設備への被害等により事業活動に支障が生じ、また、これらの災害等が政治不安又は経済不安を引き起こすことにより、当社グループの財政状態及び経営成績に大きな影響をもたらす可能性があります。

当社では、災害・緊急時の被害最小化と事業活動の早期回復を図り、円滑な事業活動を継続することを目的として、各部門がBCP(Business Continuity Plan)を作成しています。当社グループの製造拠点である東北アンリツ(株)では、地震や大雨による河川の氾濫などの自然災害を重要なリスクとして位置づけ、災害発生後になすべきことを具体的にプロセスごとに明確化しています。実際の大規模災害での教訓を受け、BCP緊急発動基準を見直し、より幅広いリスクに備えるとともに各リスク発生時の対応手順の精緻化を行っています。

(8) 外国為替変動に関するリスク(①ビジネスリスク)

当社では売掛金の回収などで発生する外貨取引への為替先物予約等によりリスク・ヘッジに努めておりますが、急激な為替変動は当社グループの財政状態及び経営成績に影響をもたらす可能性があります。

(9) 在庫陳腐化のリスク(①ビジネスリスク)

当社グループは顧客のニーズやウォンツをきめ細かく捉え、製品やサービスを市場に提供するよう努めております。しかし、特に通信計測事業における製品群は技術革新が極めて速いため、製品及び部品の陳腐化が起こりやすく、在庫の長期化・不良化を招くことで当社グループの財政状態及び経営成績に影響をもたらす可能性があります。

(10) 人材確保に関するリスク(①ビジネスリスク)

当社グループの持続的成長のためには、人材の獲得、確保、育成は非常に重要な要素となっています。当社グループは、国籍や性別などにこだわらない多様な人材の採用活動を積極的に行うことにより、優秀な人材の獲得に努めるとともに、社員の自発的成長を支援する教育研修体系の整備を継続的に進めています。また、ライフワークバランスを重視し、働き方や価値観の多様化に対応した労務環境の整備に取り組んでいます。しかしながら、人材の確保及び育成が想定どおりに進まない場合には、当社グループの財政状態及び経営成績に影響をもたらす可能性があります。

(11) コンプライアンスに関するリスク(②法令違反リスク)

当社グループは、事業を展開する各国において当該国の法的規制の適用を受けています。これらの法令等に違反した場合、あるいは社会的要請に反した行動等があった場合には、法令による処罰、訴訟の提起、社会的制裁、ブランドの毀損等により、当社グループの財政状態及び経営成績に影響をもたらす可能性があります。

当社グループが社会的責任を遂行するにあたり、あるべき行動の指針とする「アンリツグループ行動規範」を定めるとともに、教育啓発活動を随時実施し、企業倫理の向上及び法令遵守の強化に努めています。国内アンリツグループのコンプライアンスの推進は、経営戦略会議の議長であるグループCEOが率先垂範しています。そして、経営戦略会議の下に、コンプライアンス担当執行役員を委員長とし、国内アンリツグループ各社の社員がメンバーとして参加する企業倫理推進委員会が、コンプライアンス推進活動を統括しています。また、企業倫理推進委員会およびその事務局である法務部は、法令対応の関連委員会とともに、海外アンリツグループ各社に対し、各国・各地域の法令・文化・慣習などを踏まえた倫理法令遵守を促し、必要な支援を行っています。さらに、海外アンリツグループ各社のコンプライアンス責任者と連携して、グローバルな推進体制を構築しています。なお、コンプライアンス推進体制が適正に機能しているかを内部監査部門が監査し、必要に応じて、提言・改善要請を行っています。

 

(12) 環境問題に関するリスク(③環境リスク)

当社グループは、気候変動、エネルギー、大気、水、有害物質、廃棄物、商品リサイクルなどさまざまな環境に関する法令及び規制等の適用を受けています。当社グループでは、事業活動や製品に関わる環境コンプライアンスの徹底はもとより、気候変動対策、循環型社会の形成、環境汚染予防に取り組んでいます。

しかしながら、環境規制の更なる強化や過去の行為に起因する環境責任の発生、自然災害などに起因した環境汚染の発生等が考えられます。これらの事象によって、法令遵守や環境対策のために必要なコストの増加等により、当社グループの財政状態及び経営成績に影響をもたらす可能性があります。

当社グループでは、ステークホルダーからの要請に応えるため、製品のライフサイクル全体にわたり環境とのかかわりを意識した製品を開発し、提供しています。また、地球温暖化防止、生物多様性保全などの観点から、オフィス・ファクトリーの省エネルギー化によるCO2排出量の削減、3R(リデュース・リユース・リサイクル)推進による廃棄物の削減、環境汚染防止に関して法、条例の規制より厳しい自主管理基準の設定による環境汚染リスクの低減に努めています。

(13) 製品の品質に関するリスク(④製品・サービスの品質リスク)

当社グループでは、品質マネジメントシステムの国際規格であるISO 9001の認証を1993年から取得し、製品の設計・開発から製造・サービス・保守に至るまでの一貫した品質管理をグローバルに展開しています。しかしながら、予測し得ない品質上の重大な欠陥といった事象の発生や製造物責任につながる事態が発生した場合には、社会的信用の失墜、訴訟の提起、社会的制裁、ブランドの毀損等に加え、補償や対策に伴うコストが発生し、当社グループの財政状態及び経営成績に影響をもたらす可能性があります。

当社グループでは、製品品質の維持・向上と保証を図り、品質マネジメントシステムを適切に運用するために、品質マネジメントシステム委員会や内部品質監査委員会等を設けています。また、万一製品事故が発生した場合の体制の整備や製品事故予防のシステム及び再発防止に向けた取組について、検討を行っています。

(14) 訴訟に関するリスク(②法令違反リスク)

当社グループは、事業に関わる各種法令を遵守するとともに、知的財産権の適正な使用、契約条件の明確化、相手方との協議の実施等により紛争の発生を未然に防ぐよう努めています。

当連結会計年度において、当社グループに重要な影響を及ぼす訴訟等は提起されていません。しかしながら、重大な訴訟等が発生した場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響をもたらす可能性があります。

(15) 情報セキュリティに関するリスク(⑥情報セキュリティリスク)

当社グループは事業活動を行ううえで、顧客及び取引先、株主、従業員などすべての関係者の情報を適切に保護することが社会的責務であり、また、情報資産が当社グループ及びすべての関係者にとって重要な財産であると認識しています。これらの情報資産について、サイバー攻撃による情報セキュリティ事故が発生した場合、当社グループの社会的信用の失墜、訴訟の提起、社会的制裁、ブランドの毀損等により、当社グループの財政状態及び経営成績に影響をもたらす可能性があります。

当社グループでは、情報セキュリティ管理体制を構築し、徹底した管理とセキュリティの維持・向上への取組や情報セキュリティ教育の実施などを継続的に行っています。グローバルに事業を展開する当社では、世界中のオフィスをネットワークで接続し、情報の共有化を進めてきました。情報セキュリティにおいては一カ所でも脆弱な部分があると、全体のセキュリティレベルに影響を及ぼすことから、グローバルで強固かつ均一なセキュリティシステムを構築することに取り組んでいます。

(16) 繰延税金資産に関するリスク(①ビジネスリスク)

当社グループは、税効果会計を適用し、繰延税金資産を計上しています。繰延税金資産の計算は、将来の課税所得に関する見積りを含めた予測等に基づいており、実際の結果が予測と異なる可能性があります。将来の課税所得の見積りに基づく税金負担の軽減効果が得られないと判断された場合、当該繰延税金資産は取り崩され、当社グループの財政状態及び経営成績に影響をもたらす可能性があります。

(17) 確定給付制度債務に関するリスク(①ビジネスリスク)

当社及び一部の子会社の従業員を対象とした確定給付年金制度から生じる退職給付費用及び債務は、割引率等の数理計算上で設定される前提条件に基づいて算出されておりますが、確定給付制度債務の見込額を算出する基礎となる割引率等の数理計算上の仮定に変動が生じた場合、当社グループの財政状態及び経営成績に影響をもたらす可能性があります。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりです。

 

1) 財政状態及び経営成績の状況

通信計測事業の主要市場である情報通信分野においては、世界的なスマートフォンの出荷台数が回復してきており、AIを搭載した高機能スマートフォンなど、新たな機能の搭載による市場の活性化が期待されます。

5G利活用の領域では、Automotive分野での5G活用に向けた研究開発が進展しており、ローカル5Gのようなプライベート領域での5Gネットワーク構築に向けた調査や実証実験が継続されています。IoT(Internet of Things)分野では、米国のラストワンマイルで利用されるCPE(Customer Premises Equipment、顧客構内設備)の需要や、5G無線モジュールの開発に加えてWi-Fi 7(*1)の開発需要が増加してきています。非地上系ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)としては、衛星を用いた通信サービスが相次いで始まっており、4GシステムのNB-IoT(Narrowband IoT)を用いる端末もリリースされています。2024年6月に標準化が完了した「Release 18」(*2)では、IoT向けのeRedCap(enhanced Reduced Capability)や5G NR(New Radio)を用いるNTNなどで機能の向上が図られ、チップセットや端末への対応が進められています。また、3GPPにおいて次世代の通信規格である6Gの仕様についての議論も始まり、研究開発も行われています。

5Gのネットワークでは、無線アクセスネットワークのオープン化に取り組むO-RANアライアンスが仕様を策定しており、これまでメーカー独自のインターフェースで構成されていた基地局装置に対してO-RANの標準仕様を適用することで、マルチベンダーでの無線アクセスネットワークの構築が容易になりました。

また、生成AIの普及拡大によるデータ・トラフィックの急増に対応するために、データセンターの新設及び大容量化が加速しています。生成AI向けのデータセンターにおいては800GEネットワークへの更新が本格化してきており、光デバイスメーカーでの800GE向け光デバイスの生産増強が進展しています。ネットワーク機器メーカーにおいてはPCIe(Gen5/6)(*3)などのハイスピードバスの開発が進展しており、1.6TE向けの光デバイスの開発が始まっています。さらに、データセンターのグローバル接続として、新たな経路での光海底ケーブル敷設が、ハイパースケーラーによって進められています。加えて、オール光化を目指すIOWN(*4)の活動も活発化してきています。

PQA事業の分野においては、人手不足の影響から食品生産ラインの自動化投資が進んでおり、X線を用いた異物混入検査や包装品質検査など品質保証プロセスの自動化、省人化に係る需要が米国を中心に好調に推移しています。

このような環境のなか、当社グループの経営成績は次のとおりとなりました。

当期は、受注高は112,585百万円(前年同期比4.9%増)、売上収益は112,979百万円(同2.8%増)、営業利益は12,124百万円(同35.0%増)、税引前利益は12,737百万円(同28.0%増)、当期利益は9,259百万円(同20.7%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益は9,257百万円(同20.6%増)となりました。

当連結会計年度末の資産合計は、159,826百万円となり、前期末に比べ1,258百万円減少しました。

当連結会計年度末の負債合計は、35,558百万円となり、前期末に比べ1百万円減少しました。

当連結会計年度末の資本合計は、124,268百万円となり、前期末に比べ1,257百万円減少しました。

なお、当社グループの当連結会計年度の財政状態の状況は、「(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 2) 財政状態」に記載しています。

 

(*1)第7世代のWi-Fi規格、第6世代(Wi-Fi 6)の使用帯域幅160MHzを320MHzまで拡張し、高速化を実現

(*2)3GPPで標準化される規格番号

(*3)第5/第6世代のPCI Express規格(シリアル転送方式の拡張スロット用インターフェース規格)

(*4)Innovative Optical and Wireless Networkの略で、IOWN Global Forumが検討を進めている、オール光ネットワークなど革新的技術を用いた新しい通信基盤

 

セグメントごとの経営成績は以下のとおりです。各セグメント別の売上収益は外部顧客に対する売上収益を記載しています。

① 通信計測事業

当事業は、サービス・プロバイダ、ネットワーク機器メーカー、保守工事業者などへ納入する、多機種にわたる通信用及び汎用計測器、測定システム、サービス・アシュアランスの開発、製造、販売を行っています。

当期は、生成AIの普及拡大によるデータセンター等でのネットワーク高速化に向けた測定需要が好調に推移しましたが、通信事業者の基地局建設・保守用計測器への投資が低調であり、前年同期比で減収となりました。一方、プロダクト・ミックスの変化により収益性が改善しました。この結果、売上収益は70,109百万円(前年同期比1.3%減)、営業利益は8,375百万円(同11.0%増)の減収増益となりました。

② PQA事業

当事業は、高精度かつ高速の各種自動重量選別機、自動電子計量機、異物検出機などの食品・医薬品・化粧品産業向けの生産管理・品質保証システム等の開発、製造、販売を行っています。

当期は、食品市場の品質保証プロセスの自動化、省人化を目的とした設備投資需要が好調に推移しました。米国において大手顧客のX線検査機需要を獲得したこと等により、前年同期比で増収増益となりました。この結果、売上収益は28,241百万円(前年同期比11.3%増)、営業利益は2,836百万円(同119.0%増)となりました。

③ 環境計測事業

当事業は、EV/電池向け試験装置、ローカル5G向け支援サービス、道路やダム・河川等の映像監視用モニタリングソリューションの開発、製造、販売を行っています。

当期は、国内においてEV/電池向け試験需要が好調に推移し、前年同期比で増収増益となりました。この結果、売上収益は8,545百万円(前年同期比14.9%増)、営業利益は900百万円(同67.6%増)となりました。

④ その他の事業

当事業は、センシング&デバイス事業、物流、厚生サービス、不動産賃貸等からなっております。

当期は、売上収益は6,081百万円(前年同期比0.9%減)、営業利益は1,456百万円(同79.7%増)となりました。

 

2) キャッシュ・フローの状況

当期における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)の期末残高は、50,094百万円となり、前期末に比べ4,437百万円増加しました。なお、営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローを合わせたフリー・キャッシュ・フローは、17,154百万円のプラス(前期は12,929百万円のプラス)となりました。

当期における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりです。

① 営業活動によるキャッシュ・フロー

営業活動の結果獲得した資金は、純額で21,071百万円(前年同期は16,573百万円の獲得)となりました。これは、税引前利益の計上及び棚卸資産の減少により資金が増加したことが主な要因です。なお、減価償却費及び償却費は5,707百万円(前年同期比181百万円減)となりました。

② 投資活動によるキャッシュ・フロー

投資活動の結果使用した資金は、純額で3,916百万円(前年同期は3,643百万円の使用)となりました。これは、有形固定資産及び無形資産の取得による支出が主な要因です。

③ 財務活動によるキャッシュ・フロー

財務活動の結果使用した資金は、純額で12,257百万円(前年同期は6,578百万円の使用)となりました。これは、配当金の支払額5,270百万円(前年同期の配当金支払額は5,266百万円)及び自己株式の取得による支出が主な要因です。

 

3) 生産、受注及び販売の実績

① 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2024年4月1日

至 2025年3月31日)

前年同期比(%)

通信計測(百万円)

68,496

100.9

PQA (百万円)

28,676

113.3

環境計測 (百万円)

8,694

115.3

報告セグメント計(百万円)

105,867

105.1

その他(百万円)

5,934

96.4

合計(百万円)

111,801

104.6

(注)金額は販売価格によっております。

 

② 受注実績

当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

受注高(百万円)

前年同期比(%)

受注残高(百万円)

前年同期比(%)

通信計測

66,919

97.1

19,683

85.7

PQA

29,121

116.1

7,440

113.0

環境計測

10,033

138.3

5,187

138.3

報告セグメント計

106,074

104.8

32,311

97.0

その他

6,510

107.9

1,380

100.6

合計

112,585

104.9

33,691

97.2

 

③ 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2024年4月1日

至 2025年3月31日)

前年同期比(%)

通信計測(百万円)

70,109

98.7

PQA (百万円)

28,241

111.3

環境計測 (百万円)

8,545

114.9

報告セグメント計(百万円)

106,897

103.0

その他(百万円)

6,081

99.1

合計(百万円)

112,979

102.8

(注)主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合については、その割合が100分の10以上に該当する相手先がないため記載を省略しております。

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであり、実際の結果は、将来に関する事項の記述とは異なる可能性があります。その主な要因については、「第一部 企業情報 第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載しておりますが、それらに限定されるものではありません。

 

1) 経営成績

当社グループは、通信計測事業、PQA事業および環境計測事業の3つを報告セグメントとしています。

① 通信計測事業

当社グループの売上収益の62%を占める通信計測事業は、「モバイル市場」「ネットワークインフラ市場」「エレクトロニクス市場」向けの3つのサブセグメントに区分しております。

a. モバイル市場

モバイル市場には、携帯電話サービスを行うサービス・プロバイダの端末受入検査用途向け計測器や、スマートフォン等の携帯電話端末、ICチップセット、その他関連電子部品メーカーの設計、生産、機能・性能検証、保守用途向け計測器等を含めております。

当市場の需要は、携帯電話サービスの技術革新や普及率、加入者数の推移のほか、端末/チップセットメーカーの新規参入又は撤退、端末やチップセットのモデルチェンジや出荷数等に影響される傾向があります。

通信計測事業の主要市場である情報通信分野においては、世界的にスマートフォンの出荷台数が回復してきており、AIを搭載した高機能スマートフォンなど、今後の市場の活性化が期待されます。

5G利活用の領域においては、Automotive分野における研究開発が進展しており、ローカル5Gのようなプライベート領域での5Gネットワーク構築に向けた調査や実証実験が継続されています。IoT(Internet of Things)分野では、米国等ではラストワンマイルで利用されるCPE (Customer Premises Equipment, 顧客構内設備)の需要や、5G無線モジュールの開発に加えてWi-Fi 7(*1)の開発需要が増加しています。

加えて、衛星を用いた通信サービスの非地上系ネットワーク(Non-Terrestrial Network)としては4GシステムのNB-IoT(Narrowband IoT)を用いる端末もリリースされ、関連した開発の需要が見込まれます。また、2024年6月に標準化が完了した「Release 18」(*2)では、IoT向けのeRedCap(enhanced Reduced Capability)や5G NR(New Radio)を用いるNTNなどで機能の向上が図られ、チップセットや端末への対応が進められています。また、3GPPにおいて次世代の通信規格である6Gの仕様についての議論も始まり、研究開発も行われています。

当社は、引き続き競争力のある最先端計測ソリューションを提供するとともに、開発ポートフォリオ・マネジメントを的確に遂行することで、収益基盤の強化に努めてまいります。

 

(*1)第7世代のWi-Fi規格、第6世代(Wi-Fi 6)の使用帯域幅160MHzを320MHzまで拡張し、高速化を実現

(*2)3GPPで標準化される規格番号

 

b. ネットワークインフラ市場

ネットワークインフラ市場には、有線・無線通信事業者のネットワーク建設、保守、監視及びサービス品質保証用途向けのソリューションや、ネットワーク機器メーカーの設計、生産、試験及び調整用途向けソリューション等を含めております。

当市場においては、クラウドサービスの高度化や生成AIの普及拡大によるデータ・トラフィックの急増に対応するために、データセンターの新設及び大容量化が加速しています。データセンターにおいては800GEネットワークへの更新が本格化してきており、光デバイスメーカーでの800GE向け光デバイスの生産増強が進展しています。また、ネットワーク機器メーカーでは、PCIe(Gen5/6)などのハイスピードバスの開発が進展しており、1.6TE向けの光デバイスの開発が始まっています。さらに、ハイパースケーラーによる新たな光海底ケーブル敷設が進められているほか、ネットワークのオール光化を目指すIOWNの活動も活発化してきています。これに伴い、関連する計測ソリューションの需要も堅調に推移しています。

当社は、通信機器の研究開発向けソリューションに加え、通信インフラの構築・監視からサービス品質保証までの総合ソリューションを提供することで、事業の拡大に取り組んでまいります。

 

c. エレクトロニクス市場

エレクトロニクス市場には、通信ネットワークに関連する通信機器やその他の電子機器に使用される電子デバイスの設計、生産、評価をはじめ、エレクトロニクス分野で幅広く利用されている計測器等を含めております。

当市場の需要は、通信機器や情報家電、自動車等に使用される電子部品及び電子機器の生産規模に影響を受ける傾向があります。IoTサービスの拡大により、多岐にわたる用途の無線モジュールの開発・製造用計測ソリューション需要が増加しております。また、6Gに向けた研究開発の始まりに伴い関連する計測器の需要が顕在化しています。

当社は、エレクトロニクス市場に対するソリューションを拡充し、更なる事業の拡大に努めてまいります。

 

② PQA事業

PQA事業は、当社グループの売上収益の25%を占めています。当事業は、食品産業向けの売上収益が8割以上を占めているため、食の安全安心に関する意識の高まりや食品メーカーの業績に影響を及ぼす消費支出水準の変化に大きな影響を受けます。

主力製品には、食品製造ラインにおいて高速搬送しながら高精度に計量する重量選別機や食品中に混入する金属や石等の異物を高感度に検出し製造ラインから排除する異物検査機器(X線検査機等)等があります。日本市場においては、原料高の影響等から期初には受注の遅れがあったものの、その後のインバウンド需要や自動化需要の獲得により、底堅く推移しました。

また、海外市場では、米国における大手顧客のX線検査機需要の獲得をはじめ、欧米・アジアの各地域で自動化・省人化を目的とした設備投資需要が好調に推移しました。なお、当事業の海外売上比率は約6割となっています。

食品メーカーの品質検査への関心は高く、この需要に応えるために、新製品及び品質保証ソリューションの開発に努めるとともに、海外現地生産を含むサプライチェーンの最適化とグローバルオペレーションの効率化を推進し、事業拡大と収益性の向上に取り組んでまいります。

 

③ 環境計測事業

環境計測事業は、パワーエレクトロニクスとネットワークの2つの領域で社会課題の解決に貢献する事業を展開しており、当社グループの売上収益の8%を占めています。当事業は、EV/電池向け試験装置、ローカル5G向け支援サービス、道路やダム・河川等の遠隔監視用装置の開発、製造、販売を行っています。EV/電池向け試験装置の売上収益が大きな比重を占めており、当市場の需要は各国のEVシフトに向けた政策や税制優遇による顧客投資の環境変化に大きな影響を受けます。

パワーエレクトロニクスの分野においては、世界的な脱炭素化の流れにより、自動車メーカーの電動化シフトが進展しており、バッテリ、インバータ、モータ等の開発投資が拡大しています。子会社である㈱高砂製作所は、高度なエネルギー制御技術を活かした電源システムに強みを持ち、自動車メーカーや自動車部品メーカー、バッテリメーカー等に、EVの駆動系やバッテリの試験装置を提供しており、国内においてEV/電池向け試験需要が好調に推移しました。当社はこの分野に向けて積極的な開発投資を進め、新製品およびソリューションを拡充し、事業のグローバル展開に向けた取り組みを加速させていきます。

ネットワークの分野においては、道路やダム・河川等の遠隔監視用装置の需要は底堅く推移しました。

 

2) 財政状態

① 資産

資産合計は、159,826百万円となり、前期末に比べ1,258百万円減少しました。主な減少要因は、棚卸資産の減少5,434百万円です。一方で、現金及び現金同等物が4,437百万円増加しました。

② 負債

負債合計は、35,558百万円となり、前期末に比べ1百万円減少しました。主な減少要因はその他の流動負債の減少697百万円、その他の金融負債の減少612百万円、社債及び借入金の減少526百万円です。一方で、未払法人所得税が1,951百万円増加しました。

③ 資本

資本合計は、124,268百万円となり、前期末に比べ1,257百万円減少しました。これは、主に自己株式の取得による資本の減少3,819百万円です。一方で、利益剰余金が3,210百万円増加しました。

 

この結果、親会社所有者帰属持分比率は77.8%(前期末は77.9%)となりました。

有利子負債残高は6,072百万円(前期末は7,193百万円)、デット・エクイティ・レシオは0.05(前期末は0.06)となりました。

(注)デット・エクイティ・レシオ:有利子負債/親会社の所有者に帰属する持分

 

3) キャッシュ・フロー

当社グループは、当連結会計年度末において50,094百万円の資金を保有していることから、将来の予測可能な資金需要に対して不足が生じる事態に直面する懸念は少ないと認識しています。

当社グループの当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況は、「(1) 経営成績等の状況の概要 2) キャッシュ・フローの状況」に記載しております。

当連結会計年度の設備投資額は、3,371百万円(前年同期比19.1%減)となりました。主に主力の通信計測事業を中心に技術革新と販売競争に対処するための新製品開発と原価低減に向けた投資を継続しました。研究開発投資については、9,879百万円(前年同期比0.6%減)となりました。主に新製品開発とソリューションの競争力強化に向けた投資を実施しました。これらの設備投資額及び研究開発投資は、主に自己資金によって賄われました。

翌連結会計年度においては、約5,500百万円の設備投資と約11,000百万円の研究開発投資を予定しています。設備投資額は、開発環境基盤強化を目的とした投資等を見込んでおります。研究開発投資については、更なる事業拡大にむけて、主力の通信計測事業においては、競争力の強化、PQA事業については、グローバルビジネス展開を目的とした投資を行っていく他、環境計測事業においては、製品競争力の強化に向けた投資を行います。これらの設備投資額及び研究開発費投資を、主に自己資金によって賄う予定です。

 

4) 資本の財源及び資金の流動性

当社グループの資金需要は、製品の製造販売に関わる部材購入費や営業費用などの運転資金、設備投資資金及び研究開発費が主なものであり、主に営業活動によって獲得した内部資金のほか、直接調達・間接調達により十分な資金枠を確保しています。また、2023年3月に設定した借入枠75億円のコミットメントライン(2026年3月まで有効)により財務の安定性を確保しています。今後とも、大きく変動する市場環境のなかで、国内外の不測の金融情勢に備えるとともに、運転資金、長期借入債務の償還資金及び事業成長のための資金需要に迅速、柔軟に対応してまいります。

当期末の有利子負債残高は、6,072百万円(前期末の有利子負債残高は7,193百万円)となりました。また、デット・エクイティ・レシオは0.05(前期末は0.06)となりました。

今後ともROEの向上、CCC(注)向上によるキャッシュ・フロー創出及びグループ内キャッシュ・マネジメント・システム等による資金効率化に取り組み、強固な財務体質の維持に努めてまいります。

当社の格付(R&I:㈱格付投資情報センター)は、発行体格付が「A」、短期格付が「a-1」となっています。当社は、更なる格付向上に向けて、新たな経営ビジョンのもと、安定した収益を上げる企業としての売上高2,000億円企業を目指してまいります。

株主還元については、連結当期利益の上昇に応じて、親会社所有者帰属持分配当率(DOE:Dividend On Equity)を上げることを基本に、連結配当性向50%以上の配当を行うとともに、総還元性向も勘案した株主還元施策も機動的に行っていくことを基本方針としています。

また、剰余金については、5G市場における競争力強化、IoTを活用した産業分野への事業拡大、クラウドサービス市場等への事業展開、新成長分野の開拓及び6Gをはじめとした次世代技術の獲得等に向けた戦略的投資(含むM&A)のための資金需要等に備える計画です。このような新規事業への投資も含めて、企業価値の向上に取り組みます。

(注)CCC:キャッシュ・コンバージョン・サイクル

 

5) 経営戦略と今後の方針について

経営戦略と今後の方針は、「第一部 企業情報 第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載しております。

 

6) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、国際会計基準(IFRS)に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成にあたっては、予想される将来のキャッシュ・フローや、経営者の定めた会計方針に従って財務諸表に報告される数値に影響を与える項目について、経営者が見積りを行うことが要求されます。これらの見積りは過去の実績等を勘案し合理的に判断していますが、結果として、これらの見積りと実際の結果が異なる場合があります。

連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 4. 重要な会計上の見積り及び判断」に記載のとおりです。

 

5【重要な契約等】

特記すべき事項はありません。

6【研究開発活動】

当連結会計年度の研究開発投資(無形資産に計上された開発費を含む)の内訳は、次のとおりです。

 

セグメントの名称

当連結会計年度

 

売上収益比率(%)

通信計測事業

7,276百万円

 

10.4

PQA事業

1,663百万円

 

5.9

環境計測事業

512百万円

 

6.0

その他の事業

142百万円

 

2.3

基礎研究開発

284百万円

 

-

合 計

9,879百万円

 

8.7

 

また、セグメント別の主な研究開発成果は次のとおりです。

 

(1) 通信計測事業

1) ME7873NR/ME7834NR RF/プロトコル コンフォーマンス試験・通信事業者受入試験システムの規格追従による機能強化

コンフォーマンス試験は、モバイル通信サービスの品質を保つための世界的な評価基準で、世界中の通信事業者に広く受け入れられています。また、多くの先進的な通信事業者は、このコンフォーマンス試験に加え、独自の端末品質評価体系を整備し、運用しています。

ME7873NR及びME7834NRは、RFとプロトコルそれぞれのコンフォーマンス試験及び通信事業者受入試験に対応した自動試験システムです。すでに数多くの試験機能が認証団体(GCFやPTCRB) (*1)や大手通信事業者に認証され、実際の5G端末コンフォーマンス認証試験や端末受け入れ試験に使用されています。

当社はテストシステムの機能強化により、導入が進んでいるIoT機器向けの通信規格RedCapや衛星を使用した通信網NTN(Non-Terrestrial Network)の認証に対応しました。また、LTEおよび5Gを使用した欧州の次世代車載緊急通報システムであるNG-eCallのGCF認証も取得し、スマートフォン以外を対象とした認証へと対応を広げました。加えて、大型化の一途をたどるテストシステムの利便性を向上する簡易構成モデルや、多様化する被試験体へ試験環境を提供するためのOTA試験にも対応することで、より多くの通信端末の認証試験への使用を可能としました。引き続き、日本及び米国の主要通信事業者7社の端末受入試験を提供する唯一のメーカーとして、5G端末の品質向上に貢献します。

 

2) Virtual Signaling Testerの開発

モバイル通信は、IoT市場向けのRedCapやモバイル通信のカバレッジ拡張、災害等の非常時におけるネットワークとして期待されるNTN技術が進む中、Beyond5G/6Gへの検討が進められています。

通信用チップセットの開発においてはシフトレフト化が進んでおり、半導体設計の初期段階で行われる検証プロセスが重視されてきています。

当社は、このような状況を踏まえ、仮想環境での5Gネットワークシミュレータ Virtual Signaling Testerを開発し、販売を開始しています。引き続き、Beyond5G/6Gの社会実装に貢献すべく、先端技術への対応を継続しています。

 

3) MT8000A/MD8475B 車両緊急通報システムeCallテスタ機能強化

eCall (Emergency Call)は、交通事故発生時にモバイルネットワークを介してIVS(車載システム)からPSAP(Public Safety Answering Point)と呼ばれる緊急連絡センターへ自動通報を行う緊急通報システムです。欧州連合(EU)では、新型車両へのeCallシステムの搭載が義務化され、その後各国への導入が拡大しています。また、自動車安全テストを実施しレーティングを公表する団体、例えばEuro NCAPにおいても消費者視点の安全性指標として採用されており、安全・安心なモビリティ社会の実現に向けたコネクテッドサービスの一つとして、その重要性が高まっています。

近年、モバイルネットワークの世代交代・共存からeCallも従来の2G/3Gから4G化(NG-eCall)の規格が策定され、欧州では2026年1月1日から義務化が予定されています。幅広いお客様にご使用いただいている当社eCallテスタを、本製品の特徴である実ネットワークを想定した各世代間の相互運用試験としてご使用いただけるよう4G/5G対応させることで2G~5G全世代に対応できるようになりました。また本製品は、EU規格にて規定された適合性試験にも対応し、認定機関から試験機器として認定されています。当社は本ソリューションを通じて、実ネットワーク運用で必要な機能評価のほか、規格準拠した適合性試験に対応することで、車載機器の品質向上に貢献します。

 

4) MT8862A IEEE802.11be(Wi-Fi 7) MIMO機能追加

スマートフォン・タブレット端末等を用いた4K/8Kなどの動画の再生、ウェアラブルデバイスでのAR(拡張現実)/VR(仮想現実)技術を活用したサービスの拡充、工場・医療機器における制御・遠隔監視アプリケーションなどWLAN(Wireless LAN)搭載機器のユースケースは広がり続けています。IEEE(米国電気電子学会)は増加するデータトラフィック需要に対応するため、最新WLAN規格IEEE 802.11be(Wi-Fi 7)で320 MHzチャネルへの広帯域化、変調方式の4096QAMへの多値化によるWLAN搭載機器の最大通信速度の高速化が進み、複数アンテナを使用するMIMO技術の評価に関する重要性が高まっています。

当社は、ワイヤレスコネクティビティテストセット MT8862Aの機能を拡張し、Wi-Fi 7の2x2 MIMOに対応させました。本製品は、デバイスを実動作状態で評価できるネットワークモードの使用により、特別な制御設定が不要で、Wi-Fi 7 2x2 MIMO搭載機器の受信感度や送信パワー測定の測定系を簡易に構築できる特徴を持っています。これにより、WLAN搭載機器の通信品質向上に加えて、通信技術の進化に大きく貢献いたします。

 

5) MP1900A USB4 v2対応ソリューションの開発

4K/8K HD動画の大容量データ転送や、AIを活用したIoT機器間の高速通信の需要増加により、データ転送速度の高速化が求められ、スマートフォンやタブレットPCと周辺機器との通信をサポートするUSB通信の高速化が必要になってきています。最新のUSB通信規格USB4 v2は、従来のUSB4 v1と比べ、データ転送速度が2倍に高速化されています。そのため、USB Type-Cケーブルを介した、動画データのディスプレイやストレージドライブへの高速転送を、よりスムーズに行うことが可能です。一方で、Baud(*2)レートの高速化とPAM3(*3)変調の採用により、USB4 v2通信時に生じるノイズや信号の揺らぎ(ジッタ)が、通信速度の低下や通信品質劣化を引き起こすことが考えられます。そのため、USB4 v2のレシーバ評価では、USBデバイスのデータ送信規格より高品質な信号を用いる必要があります。加えて、高品質な信号にノイズやジッタを擬似的に付加して通信品質の悪い状態を模擬して評価を行えるパターン発生器(PPG)が求められています。

当社はシグナルクオリティアナライザMP1900A用にUSB4 v2に対応したソフトウェアを開発しました。MP1900Aは同ソフトウェアを搭載することで低ジッタ・高品質波形性能により、確かなレシーバテストをサポートします。さらに、USB接続時に安定した通信状態を確立するための最新のUSB4 v2コンプライアンステスト仕様もサポートしています。本ソリューションの提供を通じて、USB4 v2搭載機器の接続性改善、通信品質向上に貢献します。

 

6) MT1040AおよびMS9740Bを用いた光伝送路品質測定技術の開発

従来のネットワークインフラの限界を超えた高速大容量通信や膨大な計算リソースを提供可能なネットワーク・情報処理基盤の実現のため、IOWN構想がNTTによって主導されています。そのIOWN構想における主要技術分野の一つとして、ネットワークに対する社会的要請である光伝送の低消費電力化、高品質・大容量化、低遅延化を実現するAPN(オールフォトニクス・ネットワーク)が掲げられ、その活用に向けた研究開発がNTT各研究所を中心として進められています。

APNにおいては、DCO(デジタルコヒーレントオプティクス)を活用した多様な光送受信装置の接続が想定されており、光伝送路の異常に早期に対応する品質管理技術が求められます。当社はNTT NIC(ネットワークイノベーションセンタ)と共同して、光伝送路の品質評価指標であるGSNR(Generalized Signal-to-Noise Ratio)を推定する技術を開発しました。本技術では、当社製品であるネットワークマスタプロMT1040Aと光スペクトラムアナライザMS9740Bを使用し、評価対象の光伝送路を通過したDCO信号を測定・解析を行うことで、高確度でのGSNR推定に成功しました。本成果はNTT NICと当社の連名にて特許出願され、また、電子情報通信学会ネットワークシステム研究会での発表論文として掲載されました。

 

7) 標準化活動

通信計測事業における研究開発活動の重要な取り組みのひとつとして、国内外の標準化活動へ積極的に参画しています。情報通信産業における最先端の知識・技術を常に製品へ反映し、競争力に優れたソリューションをタイムリーに提供するために、主要な標準団体として現在3GPP、ITU-T、IEEE、PCI Express、IOWN等へ参加し、4G/5G、データセンター、IoT/M2M、コネクテッドカーといった有線・無線通信事業の戦略立案や情報収集に役立てています。

特に移動通信システムの規格を策定する3GPPにおいては、 基地局と携帯端末の通信手順試験用コンフォーマンステスト(端末認証試験)の仕様策定に際し4G/5Gの規格策定段階から参画しています。国内外の通信オペレータ、チップセットベンダ、端末ベンダとも協業し、今年度はNTN, AI/Machine Learningなどのリリース18、19規格策定および、既存規格保守に取り組みました。中でもNTNにおいては低軌道衛星(LEO-600等)が地球上空を周回する際の衛星軌道、信号伝送遅延、周波数ドップラーシフトの計算法の検討に貢献しました。これら試験規格を端末の認証試験用プログラムとして四半期毎に製品に取り込んでおり、認証団体(GCFやPTCRB)を介して無線通信端末の市場投入をサポートしています。

また、PCI Express(*4)の規格を主導するPCI-SIGに参画し、次世代規格PCIe6.0/7.0に対応した測定器の開発と検証を通じて標準化の早期確立に貢献しています。またPCI-SIGの定期会合や年に数回行われる認証テストイベントに参加し、対応製品の認証プロセスに寄与しています。この取り組みにより、信頼性の高い測定ソリューションを提供し、技術革新を推進しています。また複数ベンダによる光伝送ネットワークの相互接続・運用の実現を推進するOpen ROADM(*5) MSAにおいては、アンリツは2023年からデモメンバとして参画し、2024年にMSAメンバへ加盟しました。相互接続性を検証するテキサス大学ダラス校のOpen Labと協業し、展示会などではオーケストレーションシステムを連携させ、ネットワークの効率的な検証やエンドツーエンドの通信品質モニタの実証実験に取り組み、相互接続の検証提案やサポートに貢献しております。

 

(*1)GCF/PTCRB

GCF: Global Certification Forum

PTCRB: PCS Type Certification Review Board

それぞれヨーロッパ発祥、アメリカ発祥の認証機関であり、携帯端末が3GPPの規格に準拠していることの認証を行うとともに、コンフォーマンステストシステムの認証の役割も担っている。

(*2)Baud

単位時間あたりの変調回数を表す単位。

(*3)PAM3

Pulse Amplitude Modulation 3の略。3値の電圧レベルで表現する信号方式の一つ。

(*4)PCI Express

PCI ExpressはPCI-SIGによって策定されたコンピュータの拡張バスの標準仕様で、CPUやメモリなどと通信する為のI/Oシリアルインターフェース。5.0は32GT/s、6.0は64GT/sのデータ転送速度。

(*5)Open ROADM

ROADM技術をオープン化し、複数ベンダ間の相互運用性を確保するための取り組みを行う光

通信ネットワークに関する標準規格。

 

(2) PQA事業

1)異物検査の精度と安定性を高めたX線検査機(XR76シリーズ)の開発

食品への異物の混入は、消費者の安全や企業ブランドの信用失墜に直結する重大な問題です。また、近年はエネルギーや原材料価格の高騰および生産現場の人手不足が食品製造業の収益を圧迫しており、食品メーカー各社はさらなる品質向上と生産性向上の両立を目指し、生産ラインの自動化・省人化を推し進めています。このような中、品質検査機にはさらなる異物検出感度の向上に加え、誤検出に伴う対象物の再検査や廃棄ロスを最小限に抑えることができる安定した検査性能が求められています。

XR76シリーズX線検査機は、従来モデルが持つ長寿命技術を継承しつつ、高感度・高精細化した新型X線センサーと画像処理アルゴリズム技術の高度化により、検査精度が最高約40%向上(*1)し、微細な異物も検出可能になりました。また、判定リミットの設定に余裕が生まれたことで誤検出率を85%低減(*2)することに成功しました。高精度で安定した異物検査を実現したこの新製品は、再検査作業の省力化やフードロスの抑制といった課題解決を支援し、多くのお客様の生産性と品質向上に貢献します。

 

(*1)検査精度の向上

検出可能なステンレス球の最小サイズが、従来モデルの直径0.5mmから0.3mmに向上していることを検証実験で確認しています。

(*2)誤検出率の低減

凹凸が激しく誤検出しやすい検査対象物を使用し、5000回以上の検証実験を行った結果から算出しています。

 

(3) 環境計測事業

1) 実車試験を模擬したパワートレイン/バッテリ評価ソリューションの開発

脱炭素社会の実現に向け、自動車市場では内燃機関からEVやFCVへのシフト(電動化)の動きが急速に進んでいます。EV開発は、更なる高性能化と車種の拡大に伴い、より複雑化・多様化しつつあります。また、新規参入企業の増加により、EV開発競争はグローバルで激しさを増しており、開発期間の更なる短縮が大きな課題となっています。

当社子会社である高砂製作所のRZ-X2シリーズ ハイブリッド電源は、多くの自動車・自動車部品メーカーにEV開発におけるパワートレインおよびバッテリ評価用設備として広く採用され、ハイブリッド車を含むEVの普及・性能向上に貢献してきました。

当社は、さらなるEV開発の効率化をめざし、モデルベース開発ツールベンダとの協業で、電源装置とモデルシミュレーションを連携させた、より実車試験に近いパワートレイン/バッテリ評価ソリューションの開発を行いました。この新しい評価環境を導入することにより、設計評価における手戻りの発生が抑制され、EV開発の期間とコストが大幅に削減できると期待されています。

今後の本ソリューションの開発を継続し、EVの普及を通じて脱炭素社会の実現に貢献してまいります。

 

2) 広域センサネットワークシステムの開発

近年、自然災害の頻発化と激甚化が進む中、災害時に広域かつ迅速に情報を収集する手段の確保が重要性を増しています。国土交通省は、公共インフラ分野における技術開発や技術導入の方向性を示す「電気通信技術ビジョン4」の取り組みとして「センサネットワークによる広域的な情報の収集」を掲げ、情報収集基盤整備の技術開発を推進しています。

一方、広域的かつ迅速な情報収集の実現には、広域通信インフラの構築、高信頼性、セキュリティ対策、機器導入・維持管理コストの低減、など多くの課題があります。

当社は、災害発生時における広域かつリアルタイムな情報収集システム構築を目指し、国土交通省ビジョン4のプロジェクトに参画、共創パートナーと共同技術研究を開始しました。当社のネットワーク通信技術、制御技術を有効活用し、広域災害情報を迅速に収集できる広域センサネットワークシステム開発を進め、防災・減災の情報インフラ構築に貢献してまいります。