第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

(1)当社グループの経営の基本方針

当社は、東京工業大学(現 東京科学大学)で発明された磁性材料フェライトの工業化を目的としたベンチャー企業として、1935年に設立されました。社是である「創造によって文化、産業に貢献する」という創業の精神に基づき、独創性をたゆまず追求し、イノベーションの推進により創造した新たな価値(製品・サービス)の提供を通じて、企業価値を高めてまいりました。さらには、M&Aの活用、外部との協業なども積極的に行いながら、グローバル化・多角化を進めてまいりました。その結果、受動部品、センサ応用製品、磁気応用製品及びエナジー応用製品を主要事業として展開しております。

今後も、常に新しい発想とたゆまぬチャレンジ精神を持ち、グループ各社それぞれの強みを活かしつつグループ全体としての力を結集します。これにより、株主、顧客、取引先、従業員、地域社会など、全てのステークホルダーの満足と信頼、支持を獲得することを目指します。また、事業を通じて社会的課題の解決に貢献し、社会に役立つ存在であり続けることで、持続可能な社会の発展に寄与してまいります。

(2)当社グループの中長期的な経営戦略及び対処すべき課題

 ➀長期ビジョン

 世界経済は、技術を含む経済安全保障を巡る覇権争いを背景に、米中間の対立が進行したことにより、分断の危機に直面しております。しかしながら、このような危機に直面してもなお、地球温暖化への対策、エネルギー安全保障等の観点から、再生可能エネルギーへのシフト及び脱炭素化への流れは今後も継続することが予想されます。また、AI(人工知能)、メタバース(インターネット上の仮想空間)、ロボット技術、ADAS(先進運転支援システム)等の高度化・普及により、産業における省人化や効率化、都市機能の高度化といった大きな社会の変革が進行しております。このように、グリーントランスフォーメーション(GX)、デジタルトランスフォーメーション(DX)を含む社会の変革は、未来に向けてさらに加速していくことが予想されます。

 このような中、当社グループは「創造によって文化、産業に貢献する」という社是の基で、事業を通じて社会の変革に貢献するため、2024年に長期ビジョンを制定いたしました。

 

<長期ビジョン>

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 当社グループは、長期ビジョン実現のため、「変化を先んじて検知できる地位獲得」と「変化に迅速に対応できる仕組みの確立と運用」に取り組んでまいります。「変化を先んじて検知できる地位獲得」を目指し、材料、プロセス、ソフトウェア等の領域で培った強み(知的資本・製造資本・自然資本)をさらに深化させるとともに、新たな強みを探索し、電子デバイス領域でのリーディングポジション(社会関係資本・知的資本)を確立するための各種施策に取り組みます。また、「変化に迅速に対応できる仕組みの確立と運用」を目指し、獲得した「変化を先んじて検知できる地位」を活かし、未来構想力の強化と、多様で優れた人財の獲得・育成に注力することで、構想した未来を迅速かつ効率的に実現する実行力(人的資本・知的資本)を強化いたします。これらの取り組みにより、恒常的な投資余力(財務資本)を確保し、最適な投資を実現することで、「変化を先んじて検知できる地位」をさらに高めることを目指してまいります。

 

 ②重要課題(マテリアリティ)

 昨今の世界情勢を概観いたしますと、米中間の政治的緊張が続く中で、米国は中国への半導体等の輸出規制を継続しております。米国新政権の発足後には、世界各国からの輸入品に対する追加関税措置を行うなどの政策を進めております。これに対して、中国は報復関税措置や重要鉱物の輸出規制を行い、経済分野における分離が進行しており、この分離はサプライチェーンに大きな影響を与え、今後の世界経済の成長に負の影響を及ぼす可能性があります。また、AIの活用が広がることに伴う電力需要の増加が予想される一方で、ロシアによるウクライナ侵攻が3年にわたり継続していることや中東情勢の緊張等の複合的な要因により、エネルギーを取り巻く動向は不安定な状況が続いております。

 このような社会や産業構造を取り巻く変化の中でも、エレクトロニクス市場においては、GXやDXの潮流が拡大し、当社グループの事業領域に新たな市場の創造をもたらすことが見込まれます。例えば、GXにおいては、脱炭素化社会の実現に向けた再生可能エネルギーや電気自動車の普及、DXにおいては、現在の第5世代移動通信システム(5G)をさらに高度化させた新たな移動通信システム(Beyond 5G)への移行、自動車におけるADASの実用化、IoT(モノのインターネット)製品やAI、クラウドサービスのさらなる普及等が、当社グループにおける大きな成長機会であると捉えております。これらの大きな変化に乗り遅れることなく、成長機会を確実に捉えるため、積極的な研究・技術開発を行い、競争力を持つ新製品のタイムリーな投入と需要に応じた生産能力の拡大を行ってまいります。

 当社グループは、企業価値をさらに向上させるため、長期ビジョンに基づき、当社グループが取り組むべき重要課題(マテリアリティ)を設定しております。この重要課題では、「事業活動による価値創造と競争優位の確立」のために、「顧客価値の創出と強固な信頼関係の構築」、「社会のTransformation実現に貢献するR&D」及び「高品質な製品の安定供給と生産の高効率化」を取り組むべき3つの領域として設定いたしました。また、これらを支える「未来を構想し実現する経営基盤の強化」として、「競争力を生み出し続ける多様な人財の活躍推進と育成による変革」、「グループガバナンスの高度化」、「社会・環境課題解決の遂行」の3つを取り組むべき領域として設定いたしました。それぞれの領域においてテーマを定め、各テーマにおいて具体的な施策を実行してまいります。例えば、「グループガバナンスの高度化」においては、事業ポートフォリオの継続的改善とEmpowerment & Transparencyの2つのテーマを定め、事業ポートフォリオの継続的改善のテーマに対しては、事業ポートフォリオマネジメント体制の確立とその継続的な運用を行ってまいります。このように、重要課題への取り組みを推進し、事業活動による価値創造サイクルを継続的に循環させることで、当社グループの持続的な成長と企業価値の向上を目指してまいります。

 また、財務面においては、事業リスクを考慮した経営資源の配分とフリー・キャッシュ・フローの拡大を行い、資本効率・株主還元・財務の健全性のバランスを適正化することで、当社グループの持続的な成長と企業価値の向上を支える強固な財務基盤の構築を目指してまいります。

 

<TDKグループの重要課題(マテリアリティ)>

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 ※重要課題(マテリアリティ)は企業価値向上を企図し、社会と企業の両サステナビリティの同期化の考え方を採用し、財務マテリアリティ(TDKグループにとって重要な事項)とインパクトマテリアリティ(ステークホルダーにとって重要な事項)から構成されております。財務マテリアリティとインパクトマテリアリティを導出したうえで、両者を精査し重要課題(マテリアリティ)を選定いたしました。

 

 

 

 

 

表: GX・DXによる成長機会と対象となる当社グループの事業の例

 

GX

DX

受動部品

 

<産業機器>

再生可能エネルギーの普及

アルミ電解コンデンサ、フィルムコンデンサ、圧電材料部品・回路保護部品、インダクティブデバイス

<自動車>

電気自動車の普及

インダクティブデバイス、セラミックコンデンサ、アルミ電解コンデンサ、フィルムコンデンサ

<ICT>

Beyond 5Gへの移行

高周波部品、インダクティブデバイス、セラミックコンデンサ

IoT製品・AIの普及

高周波部品、インダクティブデバイス、圧電材料部品・回路保護部品、セラミックコンデンサ、アルミ電解コンデンサ、フィルムコンデンサ

<自動車>

ADASの普及

セラミックコンデンサ、インダクティブデバイス

センサ応用製品

 

<自動車>

電気自動車の普及

温度・圧力センサ、磁気センサ

<ICT>

Beyond 5Gへの移行IoT製品・AIの普及

センサ応用製品全般

<自動車>

ADASの普及

磁気センサ、MEMSセンサ

磁気応用製品

 

<自動車>

電気自動車の普及

マグネット

<産業機器>

再生可能エネルギーの普及

マグネット

<ICT>

AI・クラウドサービスの普及

HDDヘッド、HDD用サスペンション

エナジー応用製品

<自動車>

電気自動車の普及

電源

<産業機器>

再生可能エネルギーの普及

二次電池、電源

<ICT>

Beyond 5Gへの移行IoT製品・AIの普及

二次電池

その他

<ICT>

Beyond 5Gへの移行IoT製品・AIの普及

メカトロニクス(製造設備)、エッジAIデバイス・ソリューション

 

 

 ③中期経営計画(2025年3月期~2027年3月期)

 2025年3月期から開始する中期経営計画(2025年3月期~2027年3月期)は、長期ビジョンを実現するための3年間の活動計画として、長期ビジョンからバックキャストする形で策定いたしました。中期経営計画期間(2025年3月期~2027年3月期)は、長期ビジョンの実現に向けた、事業基盤強化(主力事業の収益力強化、課題事業への対処)の期間と位置づけております。

 企業価値向上のためには、フリー・キャッシュ・フロー創出の最大化、資本コストの低減、期待成長率の向上が重要であると考えております。この考えにもとづき、中期経営計画においては、以下の施策を3本柱といたしました。

 

1. キャッシュ・フロー経営の強化

2. 事業ポートフォリオマネジメントの強化(ROIC経営の強化)

3. フェライトツリーの進化(未財務資本*の強化)

 

 これら3つの施策を踏まえ、財務的価値の追求だけでなく、将来の財務的価値の源泉となる未財務的価値も追求し、短中期的な業績目標達成と長期的に価値を生み出し続けるための取組みを両立することにより、持続的な企業価値の向上を図る、という考え方のもとで、中期経営計画における経営指標として、以下のとおり、財務指標に加えて、未財務指標を設定いたしました。

 

 *一般的には「非財務資本」と呼ばれる、技術力、組織力、人的資本、顧客基盤等を将来キャッシュ・フローを生み出す資本と考え、「未財務資本」と表現しております。

 

<中期経営計画における経営指標一覧>

 

2025年3月期

実績

2027年3月期

目標

ポートフォリオ

変革による

中長期で目指す姿

財務指標

成長性

売上高 [億円](年率換算成長率)

22,048

25,000(約5%)

(10%以上)

効率性

ROE

9.5%

10%以上

15%以上

事業ROA(ROIC)(>WACC)※1

6.7%(<7.0%)

8%以上

12%以上

営業利益率

10.2%

11%以上

15%以上

財務健全性

株主資本比率

(親会社所有者帰属持分比率)

50.8%

50%水準

-

D/Eレシオ

0.34倍

0.3~0.4倍

-

(為替前提)

(152.66円/US$)

(135円/US$)

(135円/US$)

財務指標

重要KPI

TME(エンゲージメント)

 

 

 

 -コミュニケーションスコア

68pt

75pt以上

-

 -サーベイ参加率

90%

80%以上

-

CO2排出量削減率 ※2

(SBTi Scope1+2)

(2022年3月期対比)

-

23.3%

42.0%

※1 事業ROA(ROIC)に関する詳細については、4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容②当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容「経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」をご参照ください。

※2 SBTiは、企業が科学的に根拠のある環境目標を設定することを支援しているイニシアチブです。パリ協定で示された「世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5℃以内に抑える」という目標の達成に向け、SBTiは企業が目標設定の際に使用できる基準を提供しています。当基準に基づき算定された段階的に必要なCO2排出量削減率を2027年3月期目標値として定めております。なお、当社は、SBTiによるSBT認定を2024年6月に取得しました。また、2025年3月期実績値については、2025年7月以降、他の開示書類にて開示予定です。

 

 

 

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

<サステナビリティ全般 ※>

(1)ガバナンス

 取締役会の監督の下、サステナビリティ推進本部が、グローバル本社の各部門と協働し連携を取りながら、サステナビリティに関する活動方針・施策の立案を行っております。また、人財とサステナビリティに関する担当役員であるChief People and Sustainability Officer(CPSO ※)が、サステナビリティ推進本部と協働して、企業価値向上につながるTDKのサステナビリティ戦略を推進しております。

 

(サステナビリティ推進本部の機能・役割)

・中国・欧州・米州の地域本社とも連携を取り、事業部門、グループ会社、製造拠点へグローバルに取り組みを促進。

・取り組み状況のモニタリング、サステナビリティに関する情報開示やステークホルダーとの対話などの活動を実施。ステークホルダーとの対話を通じて得られた意見や活動を推進するなかで特定された課題を社内の関係者へフィードバックすることで改善を促進。

・取り組みの進捗を社長執行役員CEOに毎月報告。

 

(サステナビリティに関する事項の審議・決定)

・サステナビリティに関する全社的な議題・テーマは経営会議で審議した上で、取締役会へ報告。それに基づき、取締役会は審議または決議し、適切に執行されているかを監督。

 

(報酬に関する開示)

・執行役員を兼ねる取締役および執行役員に対しては、事後交付型株式報酬のうち、中期経営計画の業績目標達成度に応じて算定される当社株式および金銭を対象期間終了後に交付する類型の業績連動発行型株式報酬としてパフォーマンス・シェア・ユニット(PSU)を定めており、未財務指標として気候変動および人的資本に関する指標を評価指標に含めております。詳細については、第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (4)役員の報酬等 をご参照ください。

 

(2)リスク管理

 当社グループは、持続的成長を目指す上で、組織目標の達成を阻害する要因(リスク)に対し、全社的に対策を推進し、適切に管理する全社的リスクマネジメント(ERM)活動を実施するため、社長執行役員CEOが指名した執行役員を委員長とするERM委員会を設置しております。同委員会では、全社のリスクの分析評価を行い、対策が必要なリスクを特定するとともに、リスク対策を主導するリスクオーナー部門の割当等、全社的リスクマネジメントを推進しております。個々のリスクに対しては、割り当てられたリスクオーナー部門がリスク対策の実施を主導し、その対策状況については、委員会にてモニタリングを行います。委員会によるリスク分析評価や重要なリスクの対策状況については、経営会議において審議し、取締役会に報告しております。

 気候変動を含む環境に関するリスク、人財獲得と人財育成に関するリスク、人権に関するリスクなど、サステナビリティに関連するリスクについても、リスクオーナー部門の割当及び担当執行役員の任命を行っております。

 

 

※当社内外を取り巻く様々なサステナビィティ分野(気候変動、人的資本、人権等)に対する取り組みを全社の重要課題として位置づけ、各分野のリスク及び機会に対する影響を捉え、その影響に対する適切な戦略及びビジネスモデルを構築するため、戦略本部とは別の組織であったサステナビリティ推進本部を発展的に解消し、2025年4月にサステナビリティ推進グループとして戦略本部の中に組み入れました。

 また、上記目的での経営を推進するため、当社グループは、組織横断での機能で構成されるサステナビリティ委員会を2025年4月に新たに設置しました。サステナビリティ委員会は、社会の持続可能性と当社グループの持続可能性(長期的な企業価値向上)の同期化を目的として、サステナビリティに関するリスクと機会の特定、当社グループの重要課題(マテリアリティ)の設定、進捗管理及び内部・外部環境変化時の見直し、ならびにサステナビリティ関連規制への対応を行います。

 なお、上記組織再編に伴い、CPSOも発展的に解消し、同じく2025年4月よりCHROを任命し、人財戦略を担当します。

 

 

 

<気候変動>

 地球温暖化の一因とされる人為起源の温室効果ガスの排出量は増加の一途をたどっており、2015年12月COP21で採択された「パリ協定」に代表されるように、気候変動への危機感は高まる一方です。とりわけ二酸化炭素(CO2)は温室効果ガスの76%(IPCC第5次評価報告書より)を占める主要な排出源であり、産業活動においても確実な削減を実施する必要があります。

 TDKでは、CPSOが気候変動問題を含むグループ環境活動の責任者となり、サステナビリティ推進本部安全・環境・ソーシャルグループを中心に、グループ環境活動の推進と支援を行っております。グループ環境活動において経営上重要な内容については、経営会議及び必要に応じて取締役会で審議・意思決定を行っております。具体的な活動の目標として、「TDK環境ビジョン2035」を策定し、原材料の使用から製品の使用・廃棄に至る、ライフサイクル的視点での環境負荷の削減に取り組んでおります。

 2022年11月には「RE100※」に加盟しました。2023年7月には、国内すべての生産開発拠点の電力の100%を再生可能エネルギー由来とし、2024年3月には、グループ全体での再生可能エネルギー由来電力の導入率は55%を達成しております。当社グループは国内外の全事業所で使用する電力の50%を2025年までに、100%を2050年までに再生可能エネルギー由来にすることを目指しております。

 

※国際的な環境NGOである「Climate Group」と「CDP」のパートナーシップのもと運営する国際的なイニシアティブ。事業で使用する電力の再生可能エネルギー100%化にコミットする企業で構成される。

 

(1)ガバナンス

(取締役会による気候関連リスクの監督)

取締役会の監督の下、年4回以上、気候変動を含む環境関連の進捗状況および計画、リスクについて、CPSOによるマネジメントレビューを実施しています。マネジメントレビューの結果、経営の意思決定を要する内容については、経営会議および必要に応じて取締役会の審議を実施しています。

 

(気候変動関連リスクの評価と管理に関する経営者の役割)

・責任

企業の社会的責任に関して、地球環境との共生は、経営上の重要課題と認識し、社長執行役員CEOにより任命されたCPSOが、気候変動を含む環境経営全般の責任を担うこととしています。また、その下に位置する、サステナビリティ推進本部安全・環境・ソーシャルグループ長に気候変動を含めた環境管理に関する実行責任が与えられています。TDKグループは「TDK環境ビジョン2035」(自然の循環を乱さない環境負荷で操業を目指す、ライフサイクル的視点でのCO2排出原単位を2035年までに半減)の実現に向けて、すべてのビジネスグループ、部門、サイト、製造子会社、本社機能が一致団結して取り組んでいます。

なお、気候変動を含む環境リスクのうち、重要事項については、ERM委員会を通じ、経営会議および取締役会に報告しています。

 

・責任内容

サステナビリティ推進本部安全・環境・ソーシャルグループが、気候変動を含むグループ全体の環境目標を設定するとともに、グループ全体の環境に関するリスクの特定を実施しています。なお、ERM委員会は、「Enterprise Risk Management Regulation」に従って全社リスクを特定し、全社リスクの一部として気候変動関連問題を取り扱っています。

 

・モニタリング

 気候変動を含む環境活動の実績については、経営報告書で報告されるとともに、年1回以上、CPSOによるマネジメントレビューを実施して、主要KPIの報告や中長期目標の策定、省エネにかかわる投資など、環境活動推進上の重要事項について審議、決定を行っています。また、上記マネジメントレビューで経営に重要な影響を及ぼすと判断された案件(ビジョン、大型投資など)については、経営会議および必要に応じて取締役会で審議をしています。

(2)リスク管理

経営上重要なリスクについては、ERM委員会において包括的なリスクの一部として評価されます。評価した内容により、全社で取り組むリスクについては、経営会議で承認のうえ、ERM委員会で対策の進捗を確認するとともに、対策完了時は、経営会議の承認を得ています。

 

(3)戦略・指標と目標

TDKでは、2024年度より、今後10年を通じてTDKが標榜するありたい姿として、長期ビジョン「TDK Transformation」を新たに策定し、「独自の材料・プロセス・ソフトウェアを組み合わせた電子デバイスで、テクノロジーの進化と社会の変革を加速し、サステナブルな未来の実現に貢献します」、「自己を変革し続け、世界のお客様と共に成長するNo.1パートナーになります」を掲げております。この長期ビジョンには、社会のTransformationへの貢献という意味と、社内、すなわち当社自身がTransformし続けていくという2つの意味があります。この2つのサイクルを加速させ、サステナブルな未来の実現に貢献するという想いをこめています。

これを実現するために重要課題(マテリアリティ)を再設定するとともに、気候変動への取り組みとして2050年CO2ネットゼロ社会実現に向け温室効果ガス削減活動を強化し、気候変動対策を推進します。

 

※なお、以降の「TDKグループのマテリアリティ」は中期経営計画(2022年3月期~2024年3月期)に紐づくものであり、これに基づいた目標・実績を記載しております。

 

-シナリオ分析結果-

環境省が公表した、「TCFDシナリオ分析実践ガイド」に沿い、下記の前提条件のもと、シナリオ分析を実施しました。

(前提条件)

想定期間  :2030年度

対象範囲  :TDKグループ全体

採用シナリオ:1.5℃シナリオ(IEA-NZE)、4℃シナリオ(IEA-CPS、STEPS、RCP6.0)

 

以下、シナリオ分析を基に特定した、主なリスクと機会になります。脱炭素政策による各国の規制が厳しくなる1.5℃シナリオ下では、移行リスクが発生し、炭素価格付けの導入や、再生可能エネルギーのコストが増加する可能性を認識しました。それぞれのリスクに対する2030年の財務影響としては、炭素価格では114億円、再生可能エネルギーでは155億円と予測しています。また、TDKの注力市場の一つである、自動車市場において、自動車のEVシフトが進展し、EV関連製品の販売機会拡大や、電池関連のリスク・機会の可能性も認識しました。

一方、4℃シナリオでは、異常気象頻発による洪水発生リスクがより高まる可能性も認識しました。

 

 

分類

リスク/機会

発生時期

主な対応策

移行

リスク

炭素価格 / 各国 炭素排出目標

リスク

中~長期

・生産拠点において「2050年CO2ネットゼロ実現に向けた、エネルギーの有効利用と再生可能エネルギーの利用拡大」を推進など

再エネ比率の増加によるエネルギーコストの上昇

リスク

機会

中~長期

・生産拠点において「2050年CO2ネットゼロ実現に向けた、エネルギーの有効利用」推進

・再生可能エネルギー向け製品の開発促進など

EV市場の拡大による新たなビジネスチャンスの拡大

機会

中~長期

・EV市場拡大を睨んだ製品開発の促進

次世代電池材料の開発

リスク

機会

長期

・全固体電池の開発促進

RE100に対する顧客の要求の増加

リスク

機会

短~長期

・顧客の気候変動対応への取り組み分析

・再生可能エネルギーの導入計画の策定など

物理

リスク

洪水の増加によるビジネスリスクの増大

リスク

中~長期

・各拠点において、洪水リスクに応じた対策の実施

・BCP対応推進、BCM体制構築など

※時間軸:「短期」は1年未満、「中期」は1~3年未満、「長期」は3~20年を想定しています。

 

TDKは、「TDKグループのマテリアリティ」のなかで2050年CO2ネットゼロ実現を目指すことを表明するとともに、「TDK環境ビジョン2035」のなかで「ライフサイクル的視点でのCO2排出原単位を2035年までに半減(2014年度対比)」を掲げています。このビジョンのもと、2025年までの環境基本計画として「TDK環境・安全衛生活動2025」の活動項目と目標値を定め、進捗を管理しています。2024年6月にNear Term目標および2025年2月にネットゼロ目標のSBT認定を取得しました。

 

 

GHG排出量

(千t-CO2)

2023年度実績

総排出量

20,373

Scope1

134

Scope2

694

Scope3

19,546

※2024年度実績は、2025年7月以降、第三者検証後にサステナビリティWEBサイトにて公開予定です。

※連結ベースで算出しております。

 

TDKグループの

マテリアリティ

2050年CO2ネットゼロ(Scope1、2、3)実現に向けた、エネルギーの有効利用と再生可能エネルギーの利用拡大(Scope1、2)

TDK環境ビジョン2035

2035年までにライフサイクル的視点でのCO2排出原単位を2014年度比半減(Scope1、2、3)

TDK環境・安全衛生活動2025

・2025年までにCO2排出原単位 2014年度比30%改善(Scope1、2、3)

・2025年までに再生可能エネルギー導入率 50%達成(Scope2)

 

 

2023年度目標

2023年度実績

(生産拠点のCO2排出量削減)

 

エネルギー起源CO2排出量原単位 前年度比 1.8%改善

前年度比38.0%改善

エネルギー原単位前年度比1.0%改善

前年度比2.9%改善

2025年 再生可能エネルギー導入率50%に向けた取り組みの実施 (Scope2)

2023年度目標40%に対し、55.2%導入

(Scope3カテゴリー別取り組みによるCO2排出量削減)

 

Scope3取組みによる環境負荷低減の推進

グローバル物流CO2削減

物流CO2排出原単位 前年度比12.0%改善(日本)

 

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   ※2024年度実績は、2025年7月以降、第三者検証後にサステナビリティWEBサイトにて公開予定です。

   ※連結ベースで算出しております。

 

[ご参考]

なお、TCFDに基づく情報開示に加えて、2023年9月に公表されたTNFD(Task Force on Nature-Related Financial Disclosures: 自然関連財務情報開示タスクフォース)の最終提言を受け、生物多様性を含む自然資本全般に対して依存、インパクト、リスク、機会について、ガイダンスに沿った分析や評価および情報開示を開始しています。

 

 

<人的資本>

 TDKグループは、100社以上のグループ構成企業と世界30以上の国において250を超える拠点を展開しております。総従業員数約10万人のうち約90%の従業員が日本以外の国で勤務しており、そのうちの約80%はM&AによってTDKグループに加わりました。2024年度より、長期ビジョンとして、社会の変革への貢献と自身の変革の加速の二つの意味を持つ「TDK Transformation」を掲げていますが、この変革と成長の根本にあるものは人財であり、上に挙げた多様性こそがTDKグループの大きな強みと言えます。その多様なグループ企業や優秀な人財がTDKグループの一員として能力を最大限発揮できる環境を作り、さらなる成長を促すためのTDKグループ共通の基盤に基づいた人財育成の仕組みを構築することは企業価値向上に必要不可欠な事であると考えています。

 このような認識のもと、TDKではドイツ出身の人財本部長がCPSOとして包括的な視点から、人的資本の価値最大化に向けた取り組みをグローバルに推し進めています。そのリーダーシップのもと、人財本部のビジョンを「多様性を尊重し、インクルーシブなリーダーシップの実践を推進する企業文化を醸成します。そしてすべてのチームメンバーが価値を認められ包摂されていると感じ、インパクトを生み出せる環境を創ります」と定め、「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンをインクルーシブなリーダーシップの実践を通じ促進」、「イノベーションと効率性の強化に向けた組織能力の開発」、「チームメンバー(従業員)の健康とエンゲージメントの向上」といった複数のマテリアリティを策定しています。

 今後も長期ビジョンの達成に向け、多様な人財が企業や国の壁を越えて活躍していくために、全世界の従業員を対象としたエンゲージメントサーベイを通じてグループとしての一体感や帰属意識(Belonging)を高める活動を継続していきます。また「TDK健康宣言」を制定し、健康経営にも取り組むほか、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンといった個々の従業員にとっての職場環境の整備もグループ全体で推進しています。こういった人財・環境の両面から取り組むことで、グループ従業員がその文化、国籍、年齢、人種、能力、性別、性自認、性表現、性的指向、障がいの有無、宗教に関係なく、お互いを尊重し自由に意見を交わせる風土・環境を構築していきます。

 

(1)ガバナンス

取締役会の監督の下、CPSOは執行役員・各ビジネスカンパニー・本部長と連携しながら、取締役会に対して「人財戦略」を立案・実行する責任を負っています。

また、CPSOが直轄するグローバル人事機能はグローバル・地域単位・拠点単位の様々なレベルでグループ会社と横断的に協力しながら最適な人財戦略・HRテクノロジー・サービスを提供しており、これらの取組みはCPSOから経営会議で定期的に報告され、討議されています。

 

(2)リスク管理

リスクを軽減していくために、エンゲージメントサーベイを毎年実施してチームメンバーの声を聞き、改善点を洗い出すとともに改善のアクションを実施しています。

事業リーダーは成果発揮のための権限が与えられる一方、環境・社会・ガバナンスといったサステナブルな未来に関わるすべての領域で、開かれた透明性ある経営を行うことが求められています。そしてこのサーベイと改善アクションのサイクルは、そのリスクマネジメントの中核をなすものです。

また、「人財戦略」の各重点項目は定期的に評価され、マテリアリティと関連づけて社内で共有されます。

 

(3)戦略・指標と目標

競争優位性を生み出し続ける多様な人財の活躍推進と育成による変革

 

(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンをインクルーシブなリーダーシップの実践を通じ促進)

TDKグループの人財の多様性を確保し、各人が能力や強みを十分に引き出すためのリーダーシップの実践を推進します。

長期/中期における

主なKPI*

中期KPI*の

目標

2024年度

実績

長期:マネジメント層における多様性

中期:グローバルマネジメント育成プログラムへの参加者における女性比率

30%

26

 

(イノベーションと効率性の強化に向けた組織能力の開発)

TDKグループの資産を最大限に活用し、新たな事業を創出できる組織能力を高めるために、市場ニーズを捉え、お客様に価値提供を提案できる“ビジネスアントレプレナー”を育成します。

長期/中期における

主なKPI*

中期KPI*の

目標

2024年度

実績

長期:ビジネスアントレプレナーの育成数**

中期:グローバルマネジメント育成プログラムの参加人数

500以上

(3年間累計)

179

(1年間累計)

 

(チームメンバー(従業員)の健康とエンゲージメントの向上)

TDKグループの人財の多様性を確保し、各人が能力を十分に発揮するため、従業員エンゲージメントと健康を高めることによりチームメンバー(従業員)がいきいきと働ける環境づくりを推進します。

長期/中期における

主なKPI*

中期KPI*の

目標

2024年度

実績

長期:エンゲージメントサーベイスコア

中期:①エンゲージメントサーベイ(コミュニケーション)スコア

   ②エンゲージメントサーベイの参加率

75ポイント以上

80%以上

68ポイント

90%

 

*長期は約10年間(2024年度~2033年度)、中期は約3年間(2024年度~2026年度)を想定

** 一部の事業が対象

 

 

3【事業等のリスク】

当社グループは、持続的成長を目指す上で、組織目標の達成を阻害する要因(リスク)に対し、全社的に対策を推進し、適切に管理する全社的リスクマネジメント(ERM)活動を実施しております。当社グループのリスクマネジメントの基本方針は、機会とリスクの適切な把握と対応により、グループ内の各組織が企業価値創造のための適切なリスクテイクを行うこと、及び企業価値の毀損を防止することの両立を図ることです。

このERM活動に関する施策を検討・実施し、リスクマネジメント活動を強化するため、社長が指名した執行役員を委員長とする経営会議の直接管理の委員会であるERM委員会を設置しております。ERM委員会は、リスクマネジメント活動における各組織の役割を明確化し、リスクの識別~評価、対策の検討~実行~モニタリング、改善までの一連のリスク管理活動のPDCAサイクルの推進を行っております。これらリスクマネジメント活動は、取締役会および経営会議による監督に加え、経営監査グループのERM委員会会議へのオブザーバー参加、および常勤監査役による監査によって、適切に機能していることが確認されています。

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ステップ

活動の目的

リスクの識別

当社グループを取り巻くリスクを洗い出す

リスクの評価

洗い出したリスクのうち、発生した場合の当社グループへの影響の大きさの観点から、特に対策を強化すべきリスクを、経営層(トップダウン)、現場(ボトムアップ)双方の目線で絞り込み、対応優先度を定める

対策の検討

リスクの顕在化を防ぐため、回避、移転、低減、受容等の観点から対策を考える

対策の実行

対策を実行し、リスクの顕在化を防ぐ

モニタリング

対策が適切に機能しているか、顕在化の兆候がないか、をモニタリングする

改善

リスクマネジメント活動の結果の振り返り、及び改善を検討する

 

 

リスクの評価として、毎期、これまでに取られている対策によるコントロール後の残余リスクについて、経営リソースの三要素(ヒト、モノ、カネ)、内部・外部ステークホルダーとの関係、レピュテーション、及びBCPの観点から当社グループに対するインパクトの大きさを見積もり、さらにリスクの顕在化する可能性との組み合わせにより、残余リスクヒートマップを作成し、重要リスクを特定しております。これに加え、当期設定した当社グループの重要課題(マテリアリティ)を達成する施策の実行を阻害するリスクも抽出し、これも重要リスクとして特定しました。これら重要リスクのうち、社内の管理体制の充実により、リスクの顕在化する可能性を低減、または顕在化した場合の影響度を低減することが可能と考えられるリスクについては、各リスクオーナーおよびERM委員会がリスクに対する管理体制が十分であるかを評価しています。これらリスクの評価結果や対策状況については、経営会議において審議し、取締役会に報告しております。また、期中においても、ヒートマップの妥当性について1回以上検証し、必要な場合は残余リスクの評価の見直しを行っております。

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有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、次のようなものがあります。なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2025年6月19日)現在において判断した記載としております。また、各リスクが顕在化する時期を合理的に予測することは困難です。

(1)経済動向変化によるリスク

 当社グループが事業展開しているエレクトロニクス業界は、最終製品の主たる消費地である米国、欧州、中国をはじめとするアジア及び日本の社会・経済動向に大きく左右されます。さらに、それらの国または地域には、政治問題・国際問題や経済の浮沈といった様々なリスク要因が常に存在しております。当社グループではこれらの世界のリスク動向を注視し適時対策を講じておりますが、常に十分かつ適時の対策を講じられる保証はなく、またこのような経営環境の変化が予想を超えた場合等において、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(主要な対応策)

 経済動向変化による当社グループの業績へのマイナス影響を最小限に留めるべく、製造拠点の最適化、設備投資計画の精査、本社業務効率の改善等の経営体質改善の各種施策を実施しております。

(2)為替変動によるリスク

 当社グループは、グローバルに事業を展開しており、連結ベースでの海外売上高比率は92%に達し、取引通貨の多くは米ドル、ユーロ等、円以外の通貨であります。これらの通貨に対する急激な円高の進行は売上高や利益の減少等、損益に影響を与えますが、当該リスク軽減のため、当社グループでは外貨建原材料購買の増大や海外拠点で消費する資材の現地調達化を進めております。また、海外における投資資産や負債価値は、財務諸表上で日本円に換算されるため、為替レートの変動の結果、換算差による影響が生じます。米ドル、ユーロ、それぞれの通貨が1円円高となった場合の当社グループの営業利益に対する影響は、おおよそ米ドルで20億円の減益、ユーロは3億円の減益と見ております。為替レートの変動に対応するため、外貨建資金調達及び為替予約契約の締結等の対策は講じておりますが、急激または大幅な為替レートの変動等は、当社グループの財政状況及び業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(主要な対応策)

 海外子会社と本社(日本)間の取引は原則として現地通貨で行うことで海外子会社の為替変動リスクを低減し、これを本社に集約し日本から包括的に為替予約等を行うことで為替変動リスクを低減することに努めております。海外子会社も必要に応じて為替予約等を活用し為替リスクを低減しております。また営業利益への為替影響額縮小の為、ドル建て購買、円・人民元建て販売取引を推進しております。

 

(3)金利変動によるリスク

 当社グループはその時々において銀行預金や国債等の金融資産及び銀行借入金や社債、リース負債等の負債を保有しております。これらの資産及び負債にかかる金利の変動は受取利息及び支払利息の増減、あるいは金融資産及び金融負債の価値に影響を与え、当社グループの財政状況及び業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(主要な対応策)

 支払利息の金利上昇リスクに対しては、社債や銀行借入による低利かつ固定金利の資金調達で、金利変動リスクの低減を図っております。受取利息の金利下落リスクに対しては、元本保証を重視し、運用は定期預金を主とし、金利動向を見ながら金利上昇局面では比較的短期の、金利下落局面では比較的長期の運用を行うことでリスクをコントロールしております。

(4)自然災害及び感染症によるリスク

 当社グループは、国内外において多数の製造工場や研究開発施設を有しております。各事業所では、不慮の自然災害や感染症発生等に対する備えとして、防災・防疫対策や電力不足に対する自家発電設備の導入等を施しておりますが、想定を超えた大規模な地震や津波、台風や洪水、火山の噴火等の自然災害やそれに起因する大規模停電、電力不足等によって大きな被害を受ける可能性があります。それらの影響を受け、製造中断、輸送ルート寸断、情報通信インフラの損壊・途絶及び中枢機能の障害もしくは顧客自身に大きな被害が生じた場合など、受注や供給が長期間にわたって滞り、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 また、新型コロナウイルスやその他の感染症の感染拡大によって、景気の悪化や、当社事業所の閉鎖もしくはサプライチェーンの混乱が起こった場合などには、業績に大きな影響を及ぼす可能性も考えられます。

 

(主要な対応策)

 当社グループでは、有事の際に製造拠点が早急に生産を再開できるよう主要事業ごとにBCP(事業継続計画)の策定とBCM(事業継続マネジメント)活動の推進、定着化を進めており、同様に、営業や本社スタッフ機能においてもBCPを策定し、会社全体としての機能が停止しないような備えを有しております。災害発生時のサプライチェーン確保の面では、大規模な災害により業務継続できなくなった場合でも、BCPで定める手順に則り、供給者への支払いや部材の供給継続等の非常時優先業務について代替拠点での継続ができる準備を進めております。

 また、初動対応に関しては、全世界的に、有事の際の被害状況を迅速に把握する目的で、当社グループ海外現地法人と本社間で迅速に情報共有できるシステムを導入しております。

 感染症に関しては、当社グループ各事業所においては通常の感染対策体制を維持するとともに、感染拡大やクラスター発生時においては新型コロナ感染症対策で培った感染予防体制を実行してまいります。

 

(5)国際的な事業活動におけるリスク

 当社グループは、グローバルに事業を展開しており、連結ベースでの海外売上高比率は92%に達しております。

 対象となる多くの市場や、今後経済発展が見込まれる新興国では、不安定な政情、戦争やテロといった国際政治に関わるリスク、為替変動、関税引上げや輸出入制限といった国内政治・経済に起因するリスク、文化や慣習の違いから生ずる労務問題や疾病といった社会的なリスクが、顕在化する可能性があります。また、商習慣の違いにより、取引先との関係構築においても未知のリスクが潜んでいる可能性があります。こうしたリスクが顕在化した場合、生産活動の縮小や停止、販売活動の停滞等を余儀なくされ、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 特に当社グループの中国向け売上高は連結売上高の54%となっております。同国へ進出している得意先及び現地企業への供給体制を確立するため、中国に製造拠点を数多く有しており、その結果、中国拠点による生産額は、当社グループ全体の約59%となっております。

 同国にて上記のような政治的要因(法規制の動向等)、経済的要因(成長の持続性、電力等インフラ整備の状況等)及び社会環境における問題事象が発生した場合、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 国際的な事業活動におけるリスクに対しては、本社に設置したガバメントリレーション機能と米州、欧州、中国の各地域本社により各地域のリスク関連情報や各国法規制動向の把握及び分析を行っております。特に、近年の米中関係をはじめとするグローバルな地政学リスクについては、重要リスクと認識し対応を進めております。また、当社グループでは需要地における生産を原則としつつも、生産拠点の配置については、カントリーリスクやその他の要因も考慮し、適宜見直しを行っております。こうした拠点戦略最適化を進めてはおりますが、中国依存度に関しては、当社グループが中国に保有する有形固定資産が、2024年3月期の3,812億円から2025年3月期は3,911億円と若干の増加となっています。

 ロシアのウクライナ侵攻への対応では、事変発生以来ロシア及びベラルーシでの事業活動凍結を継続しております。

 

(6)人権に関するリスク

 当社グループは、社会の持続可能な発展のために、SDGsを一つの指標として、労働環境の整備・人権の尊重など企業の社会的責任を重要な経営課題と認識しており、サプライチェーンも含むあらゆる事業活動の中で、RBA(Responsible Business Alliance)行動基準に則った自己評価や監査、トレーニングや対話を通じて、課題把握と継続的改善に取り組んでおります。しかしながら、当社グループの努力にもかかわらず、労働災害の発生等の労働安全衛生に係る問題、または児童労働、強制労働や外国人労働者への差別等の人権に係る問題等が生じた場合、当社グループの社会的な信用が低下し、顧客からの取引停止、または一部事業からの撤退等により、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 また、関連する様々な法令規則や国際的なイニシアチブ等による規制が大幅に強化された場合等、これに適応するための費用が増大したり、規制の強化や顧客要求に適応できず一部事業からの撤退を余儀なくされたりするなどして、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社グループの人権問題に対する姿勢としてはTDK企業倫理綱領において人権の尊重にコミットしており、いかなる形の強制労働も明示的に禁止しております。また「TDKグループ人権ポリシー」において人権の尊重に向けた当社のアプローチを明示し、同ポリシーに従いサプライチェーン上の各種調査や監査、ステークホルダーとのコミュニケーション等を実施しております。その過程で企業倫理綱領からの逸脱行為があると判断した場合には、是正に必要な措置を講じます。

 また当社グループは、TDKグループの「重要課題(マテリアリティ)」の一つとして「社会・環境課題解決の遂行」を掲げ、その中のテーマに「人権の尊重」を設定し、グローバルに展開しております。自社製造拠点は本社サステナビリティ推進グループが主管となり、年1回のCSRセルフチェックと労働・企業倫理アセスメント及びCSR内部監査、第三者機関によるCSR監査を拠点ごとに頻度を決めて実施しております。特に児童労働防止への取り組みとして、上記に加え、高リスクエリアに所在する自社製造拠点と委託加工先に対し追加のセルフアセスメントを行っております。また人財本部が主管となって、強制労働抑止につながる労働時間管理の徹底をグローバルに推進しております。

 法令規則・規制の変更や強化に関しては、各国法令、社会情勢及び顧客の動向などに注視し、変化に合わせた迅速な対応を実施できる体制を整えリスク低減を図っております。

 

(7)気候変動を含む環境に関するリスク

 地球温暖化の一因とされる温室効果ガスの排出量は増加の一途をたどっており、2015年12月COP21で採択された「パリ協定」に代表されるように、気候変動への危機感は高まってきております。気候変動は当社グループにとって重要な課題であり、2019年5月に賛同を表明したTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に基づき、環境担当役員が責任者となって気候変動関連情報の開示を進めるとともに、分析と対策を実施しております。

また、当社グループは、大気汚染、水質汚濁、土壌・地下水汚染、廃棄物処理、製品に含有する化学物質など、様々な環境法令の規制を受けております。当社グループでは、これら法令を遵守し、事業活動を進めておりますが、環境規制が強化され、これに適応するための費用の増大が予想され、当社グループの財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

当社グループでは、近年、気候変動や資源循環と事業との調和に関して重要性を強く認識するとともに、それらを事業の機会とリスクと捉え、各取り組みを進めております。この他、世界的に大気・水質および土壌汚染防止の取り組みを取り巻く科学・規制・社会のそれぞれの分野で起きているもしくは起こりうる課題を把握し、サステナビリティ推進グループが中心となり、リスクと機会を整理した上で、重要事項に優先的に取り組み、PDCAサイクルを継続的に回し改善を目指しています。

なお、気候変動関連のリスクと機会、及び主な対応策については、第2 事業の状況 2サステナビリティに関する考え方及び取組の<気候変動>に記載しております。

 

(8)税務に関するリスク

 当社グループは、世界各国に製造拠点・販売拠点を有しており、グループ会社間の国際取引も多く発生しております。グループ会社間の国際的な取引価格に関しては、適用される各国の移転価格税制や関税法の観点からも適切な取引価格となるよう細心の注意を払っております。しかしながら、税務当局または税関当局との見解の相違等により、取引価格が不適切であるとの指摘を受け追加の税負担が生じる可能性があります。また、世界各国の租税法令ないしその解釈運用の発効、施行、導入及び改廃等により、当社グループに税負担増が生じる可能性があります。

 また、繰延税金資産については、将来の課税所得の見通し及び税務上実現可能と見込まれる利益計画に従い、回収可能性の評価を定期的に行っております。将来において利益計画が実現できない場合、または租税法令ないし税務執行の発効、施行、導入及び改廃等により回収可能性の評価を見直した場合、回収する可能性が高くなくなった部分を減額することにより、法人所得税費用が増加する可能性があります。

 上記のような事態が生じた場合、当社グループの財政状況及び業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 グループ会社間の国際取引におけるリスクに関しては、四半期ごとに当社グループ内の移転価格モニタリングを行い、リスクが高いと判断されればリスク低減のため方策を講じております。また、商流の変更時や新規取引開始の際にも税務リスク分析を行い、必要に応じて対応を進めております。

 租税法令またはその解釈運用の発効、施行、導入に伴うリスクに関しては、本社と各地域本社の間で情報交換を行い、各国の税制改正の情報を事前に把握し、当社グループへの影響を見極めることに努めております。

 

(9)技術革新・新製品開発におけるリスク

 当社グループでは、価値ある新製品をタイムリーに世に送り出すことが企業収益向上に貢献し、さらに継続的な新製品開発が企業存続の鍵となるものと確信しております。魅力的で、革新的な新製品の開発による売上高の増加が、企業の成長にとって重要な役割を担っていると考えており、この点を経営戦略の主題として新製品の開発に取り組んでおります。しかしながら、変化の激しいエレクトロニクス業界の将来の需要を的確に予測し、技術革新による魅力的な新製品をタイムリーに開発・供給し続けることができるとは限りません。当社グループの開発部門において実施している市場の動向分析に基づく継続的な研究開発体制の見直しや、開発テーマの選択と集中を進めるための開発マネジメントが有効に機能しない場合等には、販売機会喪失により将来市場はもとより既存市場さえも失うリスクもあります。

 また、当社グループでは、多種多様な製品を世界中の国・地域で開発・生産・販売しており、それら事業活動を通して得たデータは当社の資産と言えます。しかしながら、これらデータを適切に蓄積し、開発・営業・マーケティング部門と連携して魅力的な製品の開発・販売に活用できない場合には、業績及び成長見通しに大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 新製品開発にあたっては、個々の開発テーマの開始、継続、終了までを関係機能参加のもとデータを活用しながら検討し、新製品の市場性を見極めて製品化を進めております。製品の企画、設計、試作、製造の各段階においては設計審査を通じて厳格なリスク評価を実施しています。また、コーポレートマーケティング&インキュベーション本部を中心とした、全社横断体制での的確な市場動向の把握と新製品開発への素早いフィードバックを図り、市場変化への対応を進めております。

 さらに、2019年に設立したTDK Venturesを通じて出資したベンチャー企業との協業により新技術の動向を早期に察知し、技術ロードマップを補強して新たな市場への進出に取り組んでおります。

 

(10)価格競争に関するリスク

 当社グループは、競争が激化しているエレクトロニクス業界において、スマートフォンに代表されるICT市場、今後一層の電装化が進展する自動車市場、太陽光発電・風力発電等のエネルギー関連市場等多岐にわたる市場で電子部品の展開を行っております。同業界においては、価格による差別化が競争優位を確保する主たる要因の一つであり、有力な日本企業や韓国、台湾及び中国等の海外の企業を交えた価格競争は熾烈を極めております。

 当社グループでは、こうした市場競争に対して継続的なコストダウン施策の推進や収益性向上に努めておりますが、市場からの価格引き下げの圧力はますます強まる傾向にあり、こうした価格動向が業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社グループの各事業において、高付加価値製品の創出により価格競争回避に努めるとともに、コストダウン施策を継続的に実施しております。また、全社的に資本効率及び収益性の向上を図り、価格低下による業績への影響を最小限に留めるよう努めております。

(11)原材料等の調達におけるリスク

 当社グループは、原材料等を複数の外部供給者から購入し、適時、適量の確保を前提とした生産体制をとっておりますが、原材料等は代替困難な限られた生産国、供給者に依存する場合があります。例えば、磁気応用製品のマグネットに用いられるジスプロシウム等の重希土類は中国に、エナジー応用製品の二次電池に用いられるコバルトは紛争地域であるコンゴ民主共和国に、その生産を依存しております。これらの原材料等については、複数の調達ルートを確保する他、使用量削減にも取り組んでおります。コバルトを含む紛争地域及び高リスク地域からの鉱物に関しては、「責任ある鉱物調達」に関するポリシーを制定し、持続可能かつ責任ある鉱物だけがサプライチェーンで使われることとなるよう商業上合理的な範囲で最大限の努力をしております。

 しかしながら、各国の輸出入規制や供給者の被災及び事故等による原材料等の供給中断、品質不良等による供給停止、さらに製品需要の増加による供給不足等が発生する可能性があります。また、海外生産拡大に伴う現地調達においては海外の諸情勢によって悪影響を受ける場合があり、それらが長期にわたった場合、生産体制に影響を及ぼし、顧客への供給責任を果たせなくなる可能性があります。市場における需給バランスが崩れた場合、原材料価格の高騰や原油をはじめとする燃料価格の高騰による製造コストの増大が想定されます。また、調達した原材料等に、紛争鉱物や児童労働などの問題が潜むことが確認された場合、原材料の変更や調達先の変更などが必要となり、製品の生産や供給に影響を及ぼす可能性があるとともに、社会的な信用が低下する恐れがあります。こうした状況が生じた場合は、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 原材料の調達リスク(供給の中断、停止、不足)については随時モニタリングを行い、関連事業部門と情報を共有化する一方、マルチソース化や長期供給契約の締結等によってリスク回避のための対策を進めております。

 現地調達を進めている材料・装置・部材などについては、材料の源流調査の過程で知り得た商社のネットワークを利用して他国の状況把握に努める一方、他国からの調達可能性を調査検討しリスク回避に備えております。

 紛争鉱物については、“責任ある鉱物調達”の枠組みに沿って精錬所調査を行っております。その他、サプライチェーンにおけるCSR遵守状況(人権、環境、安全衛生等)についても定期的に確認しております。

 

(12)顧客の業績や経営方針転換等に関するリスク

 当社グループは、主にエレクトロニクス市場や自動車市場の顧客に電子部品を供給する企業間取引をグローバルに展開しております。

 多様な顧客と取引を行うと共に、顧客の信用リスク評価を勘案して取引条件を設定する等のリスク低減を図っておりますが、それぞれの顧客の業績及び経営戦略の転換等、当社グループがコントロールし得ない様々な要因によって大きな影響を受ける可能性があります。また、顧客の業績低迷による購買需要の減少や調達方針の変更による納入価格の強い引き下げ要請や、契約の予期せぬ終了等による過剰在庫の発生や収益性の悪化の可能性があります。

国内外での異業種や競合企業による顧客企業のM&Aにより企業再編が行われた場合、注文が著しく減少し、もしくは取引すべてが消滅する等、当社グループの業績に大きな影響を与える可能性もあります。

 なお、2025年3月期において、当社グループの連結売上高の10%を超える顧客グループは1グループあります。この顧客グループに対する売上は、主にエナジー応用製品によるものであり、売上高は3,919億円(当社グループの連結売上高に対する比率は18%)です。

 

(主要な対応策)

 当社側が当該顧客向け専用の設備投資をする場合に、一定量の製品買取責任を課す契約を締結する等リスクの低減を図っております。

 業界再編の動きについては常に感度高く情報収集に努めるとともに、重要顧客が絡む業界再編の動きに対しては、当社が積極的に再編に関与することを含めた複数のシナリオを想定し、リスクの低減・回避を図っております。

 

(13)コンプライアンスに関するリスク

 当社グループは、事業展開している国内外において、事業や投資関連、電気及び電気製品の安全性関連、国家間の安全保障及び輸出入関連、また、商行為、反トラスト、特許、製造物責任、環境及び税金関連等の、様々な規制の遵守を求められております。当社グループは、GCCO(グローバル・チーフ・コンプライアンス・オフィサー)及び日本のほか世界4地域のRCCO(リージョナル・チーフ・コンプライアンス・オフィサー)を任命し、当社グループ及びそれを構成する役員、従業員が世界共通の規範に基づきコンプライアンスに則した行動をするための体制や仕組みの構築を推進するとともに、企業倫理綱領を定め、誠実で公正、透明な企業風土を醸成するよう努めております。さらに、当社グループが定める社内規程やそれら規程に基づいた手順・プロセスに対しても、当社役員・従業員による遵守を徹底しております。当社グループでは、ガバナンス方針である‟Empowerment & Transparency”(権限移譲と透明性の確保)に基づき、各グループ会社がそれぞれの個性を活かせるよう、グループの一員が最低限守るべきルールをまとめた「グローバル共通規程」を整備・運用し、本社部門により遵守状況をモニタリングしております。しかしながら、このような施策を講じても関連する規制や規程への抵触や、役員、従業員による不正行為は完全には回避できない可能性があります。このような事象が発生した場合、当社グループの社会的な信用が低下し、顧客からの取引停止や多額の課徴金・損害賠償の請求等により、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 また、将来において、さらなる規制強化が行われる可能性があり、その場合には規制対応のための多額な費用負担や、その規制に適応し得ない場合にはビジネスからの部分的撤退等が必要になるなど、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社グループでは、コンプライアンスに関するリスク低減とコンプライアンス・カルチャー醸成に向け、以下の活動を実施しております。

 ・当社グループのガバナンス基本方針に基づいた「グローバル共通規程」の策定・運用、および本社部門による

  各グループ会社の遵守状況のモニタリング

 ・外部専門家を活用した社内調査

 ・社長及び各グループ会社責任者からコンプライアンス徹底のメッセージを発出

 ・講義形式及びオンラインによる教育啓蒙の実施

 ・米国司法省の求める基準に基づく社内ルールの策定と運用

 

(14)製品の品質に関するリスク

 当社グループは、国内外生産拠点において、国際品質マネジメント規格(ISO9001、IATF16949やその他の適用ある規格)や技術革新著しいエレクトロニクス業界の顧客が求める基準に従い、多様な製品の品質マネジメントを行っております。また、独自に保有する品質技術や過去から蓄積する品質トラブルデータを活用し、製品の企画、設計、試作、製造の各段階での設計審査、内部品質監査、購入先監査・指導、工程管理等を通じて製品の信頼性や安全性を確保できるよう、開発上流段階から品質を作り込む品質保証体制の構築を図っている他、各拠点における生産現場での積極的なデジタル活用も推進しております。

 しかしながら、品質上の不具合(規制物質含有を含む)や、それに起因するリコールが発生し得ないとは限りません。当社製品のリコールや製造物責任の追及がなされた場合、回収コストや賠償費用が発生し、また販売量が減少する恐れがあります。さらに当社ブランドを冠した製品の品質上の不具合によりブランドの信用が失墜し、企業としての存続を危うくする事態を招くことも想定されます。このように、重大な品質問題が発生した場合、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社グループでは、品質不具合(規制物質含有を含む)発生のリスク低減のために、設計、材料、プロセス、管理の視点から、様々な施策を実施しております。

 特にICやソフトウェアを組み込んだ製品が増加していることから、IC解析技術の強化、ソフトウェア脆弱性対策の強化にも取り組んでおります。

 

(15)知的財産におけるリスク

 当社グループは、事業収益に貢献する戦略的知財活動として当社製品の機能、デザイン等に関する特許、ライセンス及び他の知的財産権(以下、「知的財産権」と総称します。)のポートフォリオの管理・取得によるその強化と活用に努めております。

 しかしながら、特定の地域では、その地域固有の事由によって当社グループの知的財産権が完全に保護されない場合があり、第三者が知的財産を無断使用して類似した製品を製造することによって損害を受けることもあり得ます。

 一方では、当社グループの製品・工程等が第三者の知的財産権を侵害しているとの主張を受ける可能性もあります。当社グループがかかる侵害をしたとして第三者から訴えられた場合、訴訟活動や和解交渉が必要になり、そのための費用が発生する他、これらの係争において、当社グループの主張が認められなかった場合には、損害賠償やロイヤリティの支払が必要になることや、市場そのものを失う等の損失が発生する恐れがあります。

 このように、知的財産権についてこれらの問題が発生した場合には、事業展開、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 第三者が当社の知的財産を無断使用するケースに関しては、商取引ウェブサイトにおける当社ブランドの不正使用や模倣品販売を監視する仕組みを構築し運用しております。

 一方、当社グループでは他者が所有する知的財産権を尊重することを全社知財方針として掲げ、製品開発においては事前に調査、予防、解決策を講じることによって知的財産権侵害リスクの低減に取り組んでおります。

 

(16)情報セキュリティにおけるリスク

 当社グループは、事業を展開する上で、顧客及び取引先の機密情報や個人情報及び当社グループ内の技術情報を含む機密情報や個人情報を有しております。これらの情報は、外部流出や破壊、改ざん等が無いように、グループ全体で管理体制を構築し、徹底した管理とITセキュリティ、施設セキュリティの強化、従業員教育等の施策を実行しております。しかしながら、外部からの攻撃や、内部的過失や盗難、役員・従業員の故意的な行動等により、これらの情報の流出、破壊もしくは改ざんまたは情報システムの停止等が生じる可能性があります。

 このような事態が生じた場合には、信用低下、被害を受けた方への損害賠償等の費用の発生、当社グループが取り扱う製品の優位性の低下、または業務の停止等により、業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社グループでは、外部からのサイバー攻撃に備え、情報セキュリティ専門業者による脆弱性診断を実施し不具合があれば改善し、管理面ではNIST(National Institute of Standards and Technology:米国標準技術研究所)のフレームワークに基づき、当社グループ全体で情報セキュリティ体制の強化を推進しております。

 当社グループ内部からの情報流出防止対策としては、機密データのフォルダ単位によるアクセス制限、AIを活用した不審なデータの送受信の検知、USBメモリ・SDカード等持ち出し可能媒体の使用制限や、退職予定者による当社グループの機密情報の持ち出し防止のための施策、従業員への情報セキュリティ教育を徹底しております。また万が一、情報セキュリティ上の被害が発生した場合に備え、迅速に復旧するための体制をグローバルで強化しております。更には、グループ全体を対象としたサイバー保険に加入しております。また、当社グループ内の取り組みに加え、サプライヤー等の取引先からの情報流出を防ぐため、取引先に対して情報セキュリティ管理の改善支援を行い、サプライチェーン全体の情報セキュリティの管理レベルを向上させる取り組みも実施しております。

 

(17)人財獲得と人財育成に関するリスク

 当社グループは、世界中の30以上の国と地域で事業活動を推進しており、日本以外の拠点の従業員数は全従業員数の約90%となっております。変化の激しいエレクトロニクス業界において継続的に事業を発展させるためには、専門技術に精通した多様な人財及び経営戦略やグローバルな組織運営といったマネジメント能力に優れた人財の獲得、育成を継続的に推進していくことが重要となります。

 しかしながら、必要な人財を継続的に獲得し定着させるための競争は厳しく、日本国内においては、少子高齢化や労働人口の減少等、また、中国等の海外拠点においても、雇用環境の変化が急速に進んでおり、人財獲得や育成が計画どおりに進まなかった場合、長期的視点から、事業展開、業績及び成長に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社グループでは人財獲得のために新卒採用や経験者の通年採用を積極的に展開しております。特に日本においては、様々なタイプの学生や経験者へアプローチする機会を増やすため、新型コロナ感染症が拡大する以前からオンライン面談を採用活動の一環として取り入れていたため、コロナ禍の状況においてもスムーズに採用活動手段の転換ができております。

 また、目標管理制度に基づいた公平な評価・処遇制度の充実などの仕組みの構築により、従業員のエンゲージメントを高め、人財の定着を図っております。さらには、自律型人財やグローバル人財を育成し、当社グループの価値観、知識及びモノづくりのDNAを伝える教育プログラムの充実を図っております。これらの教育プログラムには、現在のグローバルキー人財や将来の経営層候補、その他各階層に対する教育も含まれております。

 

(18)新規市場・事業参入やM&A等に関するリスク

 当社グループは、競争が激化するエレクトロニクス分野において、持続的な成長を実現するため、既存事業における新規市場(地理的および用途的)の参入や、新事業の参入に積極的に取り組んでおります。また、新規市場・事業参入に必要な技術や顧客資産などの獲得や、事業の競争力強化の上で、有効な手段となる場合はM&Aも積極的に活用しています。

 新規市場・事業参入やM&A等に当たっては、事前に当社グループの事業ポートフォリオとの関連性や、関連する各国の法規制動向、M&Aに伴うリスク分析結果等を十分に考慮し進めるべく努めております。

 しかしながら、事前の調査・検討にもかかわらず、市場や技術並びに法規制動向等の著しい変化等により、当社グループの業績や成長及び事業展開等に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社グループでは、新規市場・事業参入やM&A等の際には、当社グループの目指すべき姿や成長戦略と整合しているか、また実現可能な事業計画であるか、関連する各国のリーガルリスクの所在やその対応状況などについて、事業部門や本社機能のみならず、必要な場合は外部専門家による検証を行っております。また、M&Aにおいては、買収後統合(PMI)を円滑に進め統合シナジーを最大限発揮するために、実施すべき事項とその達成時期の標準的なターゲットを定めております。

 

(19)非金融資産の減損損失のリスク

 当社グループは、競争が激化しているエレクトロニクス業界での競争優位性を確保及び確立するため、当社の創業時の事業であるフェライトの生産によって獲得した素材技術とプロセス技術を軸としつつ、時には事業の成長加速のためのM&Aも実施し、事業ポートフォリオを充実させて参りました。また、生産能力向上、品質向上または生産性向上などのため製造設備などの設備投資を継続的に行っております。その結果、有形固定資産、使用権資産、のれん及び無形資産などの非金融資産を多額に有しております。多種多彩な事業や資産を持つことはリスク分散に繋がる一方、事業や資産のポートフォリオの効率性を継続的に改善できなかった場合は、当社グループの収益に多大な影響を及ぼす可能性があります。2025年3月31日現在、当社グループの、有形固定資産、使用権資産、のれん及び無形資産の総額は1兆3,174億円であり、そのうち1,267億円はHDD用ヘッド事業、276億円は高周波部品事業の有形固定資産であり、923億円はMEMSセンサ事業、201億円はHDD用ヘッド事業に配分されているのれんです。

 有形固定資産、使用権資産及び特定の識別可能で耐用年数を確定できる無形資産については、期末日ごとに減損の兆候の有無を判断しております。減損の兆候が存在する場合には、当該資産の回収可能価額に基づく減損テストを実施しております。のれん及び耐用年数を確定できない無形資産については、減損の兆候の有無にかかわらず、毎年同じ時期に減損テストを実施しており、さらに減損の兆候が存在する場合は、その都度減損テストを実施しております。

 かかるテストの結果、資産、資金生成単位または資金生成単位グループの帳簿価額が回収可能価額を超過する場合に、その帳簿価額を回収可能価額まで減額し、減損損失を認識します。多額の減損損失を認識した場合、当社グループの財政状況及び業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社グループでは、事業の収益性及び成長性を考慮した事業ポートフォリオ・マネジメントを導入し、選択と集中による投資判断を行い、将来の減損リスク発生を回避するよう努めております。

 また、減損リスクの高い課題事業については、期初よりモニタリングを行い業績改善計画の進捗を確認、該当事業部門と本社部門が連携し事業収益性回復の可能性を検討します。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要は次のとおりであります。

①財政状態及び経営成績の状況

当連結会計年度における世界経済は、北米では底堅く推移しているものの、欧州や中国では引き続き経済が減速傾向にあることに加え、中東地域情勢の緊迫化も影響し、地域毎に濃淡がある不安定な状況が継続しました。当第4四半期連結会計期間に入り、米国新政権発足以降、追加関税措置による影響を懸念して、世界経済はより不安定な状況となりました。また、為替レートは、対米ドルやユーロを中心に円安傾向が継続しました。

当社の連結業績に影響を与えるエレクトロニクス市場では、ICT(情報通信技術)関連製品の生産は前連結会計年度と比べて増加しました。スマートフォン、ノートパソコン、タブレット端末等の需要は、堅調に推移しました。また、データセンター向けニアライン用HDD(ハードディスクドライブ)の需要も大幅に回復しました。一方で、産業機器市場では、設備投資需要全般が低調に推移しました。また、自動車市場においては、BEV(電気自動車)の需要が停滞し、期初に想定していた部品需要を下回る結果となりました。

 

このような経営環境の中、当連結会計年度の財政状態及び経営成績は以下のとおりとなりました。

a.財政状態

2025年3月31日現在の資産合計は、前連結会計年度末に比べ126,111百万円増加し、3,415,304百万円から3,541,415百万円となりました。

負債合計は、前連結会計年度末に比べ29,798百万円増加し、1,700,363百万円から1,730,161百万円となりました。

資本合計は、前連結会計年度末に比べ96,313百万円増加し、1,714,941百万円から1,811,254百万円となりました。

b.経営成績

当社の連結業績は、売上高2,204,806百万円(前連結会計年度2,103,876百万円、前連結会計年度比4.8%増)、営業利益224,192百万円(同172,893百万円、同比29.7%増)、税引前利益237,808百万円(同179,241百万円、同比32.7%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益167,161百万円(同124,687百万円、同比34.1%増)、基本的1株当たり当期利益88円10銭(同65円74銭)となりました。

当連結会計年度における対米ドル及びユーロの平均為替レートは、152円66銭及び163円86銭と前連結会計年度に比べ対米ドルで5.7%の円安、対ユーロで4.6%の円安となりました。これらを含め全体の為替変動により、約957億円の増収、営業利益で約197億円の増益となりました。

当社グループの事業は、「受動部品」、「センサ応用製品」、「磁気応用製品」及び「エナジー応用製品」の4つの報告セグメント及びそれらに属さない「その他」に分類されます。

受動部品セグメントの連結業績は、売上高は559,639百万円(同565,649百万円、同比1.1%減)、セグメント利益は34,072百万円(同53,886百万円、同比36.8%減)となりました。

センサ応用製品セグメントの連結業績は、売上高は189,472百万円(同180,511百万円、同比5.0%増)、セグメント利益は4,983百万円(同6,042百万円、同比17.5%減)となりました。

磁気応用製品セグメントの連結業績は、売上高は223,637百万円(同184,211百万円、同比21.4%増)、セグメント利益は3,377百万円(同損失35,589百万円)となりました。

エナジー応用製品セグメントの連結業績は、売上高は1,176,499百万円(同1,121,662百万円、同比4.9%増)、セグメント利益は234,448百万円(同195,654百万円、同比19.8%増)となりました。

4つの報告セグメントに属さないその他は、売上高は55,559百万円(同51,843百万円、同比7.2%増)、セグメント損失は4,437百万円(同1,799百万円)となりました。

地域別売上高の状況は、次のとおりであります。
 国内における売上高は、前連結会計年度の184,631百万円から5.5%減の174,415百万円となりました。磁気応用製品セグメントが減少しました。
 米州地域における売上高は、前連結会計年度の148,687百万円から5.8%減の140,109百万円となりました。エナジー応用製品セグメント及び受動部品セグメントが減少しました。
 欧州地域における売上高は、前連結会計年度の203,003百万円から13.7%減の175,168百万円となりました。受動部品セグメントが減少しました。
 中国における売上高は、前連結会計年度の1,117,576百万円から6.7%増の1,192,472百万円となりました。エナジー応用製品セグメントが増加しました。
 アジア他の地域における売上高は、前連結会計年度の449,979百万円から16.1%増の522,642百万円となりました。磁気応用製品セグメントが増加しました。
 この結果、海外売上高の合計は、前連結会計年度の1,919,245百万円から5.8%増の2,030,391百万円となり、連結売上高に対する海外売上高の比率は、前連結会計年度の91.2%から0.9ポイント増加し92.1%となりました。

 

②キャッシュ・フローの状況

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によって得たキャッシュ・フローは、445,839百万円となり、前連結会計年度比1,168百万円減少しました。これは主に、運転資本の増加によるものです。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動に使用したキャッシュ・フローは、244,842百万円となり、前連結会計年度比28,250百万円増加しました。これは主に、定期預金の預入の増加によるものです。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動に使用したキャッシュ・フローは、143,333百万円となり、前連結会計年度比3,035百万円減少しました。これは主に、短期借入金の増減(純額)の変動によるものです。

これらに為替変動の影響を加味した結果、2025年3月31日現在における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末比47,309百万円増加して697,307百万円となりました。

③生産、受注及び販売の実績

a.生産実績

当連結会計年度における生産実績を事業の種類別セグメントごとに示すと、下表のとおりであります。

事業の種類別セグメントの名称

生産実績

(百万円)

前連結会計年度比増減(%)

受動部品

568,163

1.5

センサ応用製品

205,757

6.9

磁気応用製品

217,377

22.3

エナジー応用製品

1,197,446

10.3

その他

53,188

9.6

合計

2,241,931

8.6

(注)1.金額は販売価格により算出しております。

 

 

b.受注実績

当連結会計年度における受注実績を事業の種類別セグメントごとに示すと、下表のとおりであります。

事業の種類別セグメントの名称

受注高

(百万円)

前連結会計

年度比増減

(%)

受注残高

(百万円)

前連結会計

年度末比増減

(%)

受動部品

546,004

15.5

168,178

△10.6

センサ応用製品

181,997

11.9

50,938

△11.2

磁気応用製品

215,286

15.6

17,603

0.2

エナジー応用製品

1,153,646

4.8

195,379

△11.1

その他

45,618

1.7

9,447

△29.4

合計

2,142,551

8.9

441,545

△11.0

(注)金額は販売価格により算出しております。

c.販売実績

当連結会計年度における販売実績を事業の種類別セグメントごとに示すと、下表のとおりであります。

事業の種類別セグメントの名称

販売実績

(百万円)

前連結会計年度比増減(%)

受動部品

559,639

△1.1

センサ応用製品

189,472

5.0

磁気応用製品

223,637

21.4

エナジー応用製品

1,176,499

4.9

その他

55,559

7.2

合計

2,204,806

4.8

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお文中の将来に関する事項は、2025年3月31日現在において判断したものであります。

①重要な判断を要する会計方針及び見積り

重要な判断を要する会計方針とは、その適用にあたり不確実な事象について見積りを要し、経営者の主体的、複雑かつ高度な判断が要求される会計方針であります。

IFRSに準拠した連結財務諸表を作成するにあたり、会計方針の適用、資産・負債及び収益・費用の報告額並びに偶発資産・偶発負債の開示に影響を及ぼす判断、見積り及び仮定の設定を行っております。実際の結果は、これらの見積りとは異なる場合があります。

以下は、会計方針を網羅的に記載したものではありません。重要な会計方針及び見積りについては、第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 2.作成の基礎 (4)重要な会計上の見積り及び判断、 3. 重要性がある会計方針に詳しく開示しております。

当社グループが、重要な判断を要する会計方針として認識した項目は次のとおりであります。

 

非金融資産の減損

2024年3月31日及び2025年3月31日現在、当社グループの非金融資産のうち、有形固定資産、使用権資産、のれん及び無形資産の総額はそれぞれ1,287,903百万円及び1,317,379百万円であり、総資産のそれぞれ37.7%、37.2%に相当します。当社グループは、その回収可能性が経営成績に及ぼす影響の大きさを考慮し、有形固定資産、使用権資産、のれん及び無形資産の減損は当社の連結財務諸表にとって重要であると認識しております。

当社グループは、有形固定資産、使用権資産及び特定の識別可能で耐用年数を確定できる無形資産につき、減損の兆候が存在する場合には、当該資産の回収可能価額に基づく減損テストを実施しております。また、のれん及び耐用年数を確定できない無形資産については、減損の兆候の有無にかかわらず、毎年同じ時期に減損テストを実施しており、さらに減損の兆候が存在する場合は、その都度減損テストを実施しております。減損テストの結果、資産、資金生成単位または資金生成単位グループの帳簿価額が回収可能価額を超過する場合に、その帳簿価額を回収可能価額まで減額し、減損損失を認識します。

経営者は、回収可能価額の見積りは合理的であると判断しておりますが、事業遂行上予測不能の変化に起因して回収可能価額が当初の見積りを下回った場合、資産の評価に不利な影響が、また、当社グループの財政状態及び経営成績に重要な影響が生じる可能性があります。当社グループは、製品の将来の収益性や投資の回収可能性を十分考慮した上で投資を行っております。

棚卸資産の評価

棚卸資産は、取得原価または正味実現可能価額のいずれか低い金額で測定しております。予想される陳腐化について、将来の需要予測に基づき、取得原価と正味実現可能価額の差額が棚卸資産の帳簿価額から減額されます。当社グループは、過去の需要や将来の予測に基づき、棚卸資産の過剰及び陳腐化の可能性を考慮し帳簿価額の見直しを行っております。さらに、既存及び予想される技術革新の要求は、棚卸資産の評価に影響を与えます。正味実現可能価額の変動が当社グループの経営成績に影響を与えるため、棚卸資産の評価は重要であると認識しております。実際の需要が予想されたものより著しく低い場合は、棚卸資産の過剰及び陳腐化に関する棚卸資産の評価について追加的な調整が必要となり、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に著しく不利な影響を及ぼす可能性があります。

過去の見積りの妥当性について、当社グループは四半期ごとに見積りと実績を比較し検討しております。例えば、特に技術革新がめまぐるしい一部の事業の運営においては、顧客が求める高性能製品へのタイムリーな対応が求められており、四半期ごとに棚卸資産の陳腐化評価を行っております。

 

確定給付制度債務

従業員の確定給付費用及び確定給付制度債務は、保険数理人がそれらの数値を計算する際に使用する基礎率に基づいております。基礎率には、割引率、退職率、死亡率、昇給率等が含まれます。使用した基礎率と実際の結果が異なる場合は、その差異をその他の包括利益として認識し、直ちに利益剰余金に振り替えられるため、包括利益、利益剰余金及び帳簿上の債務に影響を与えます。当社グループはこれらの基礎率が適切であると考えておりますが、実際の結果及び基礎率の変更による差異は将来における確定給付費用及び確定給付制度債務に影響を及ぼす可能性があります。

当連結会計年度の連結財務諸表の作成において、当社グループは割引率を国内の制度及び海外の制度においてそれぞれ2.4%及び4.2%に設定しております。割引率は、給付が見込まれる期間に近似した満期を有する優良社債の利回りを参照して決定しております。

割引率の減少は、確定給付制度債務の増加をもたらす可能性があります。

繰延税金資産の回収可能性

当社グループは、繰延税金資産の認識にあたり、将来減算一時差異、税務上の繰越欠損金及び繰越税額控除の一部または全部が、将来の課税所得を減額できるまたは税額を控除できる可能性が高いかどうかを考慮しております。繰延税金資産の最終的な回収可能性は、一時差異、繰越欠損金及び繰越税額控除が将来減算される期間における課税所得の水準により決定されます。当社グループは、回収可能性の評価に当たって将来加算一時差異の解消時期、将来の課税所得の予測及び税務戦略を考慮しております。認識された繰延税金資産については、過去の課税所得の水準及び繰延税金資産が控除可能な期間における将来の課税所得の予測に基づき、回収される可能性が高いと考えております。しかしながら、将来の利益計画が実現できない、もしくは達成できない場合、または当社グループがその他の要因に基づき繰延税金資産の回収可能性評価を変更した場合、回収する可能性が高くなくなった部分を減額することが必要となります。

引当金及び偶発負債

当社グループは、過去の事象の結果として現在の法的または推定的義務を有しており、義務を決済するために経済的便益を有する資源の流出が必要となる可能性が高く、かつその義務の金額について信頼性のある見積りが可能な場合に引当金を認識しております。貨幣の時間価値の影響が重要な場合には、見積将来キャッシュ・フローを貨幣の時間的価値及びその負債に特有のリスクを反映した割引率を用いて現在価値に割り引いております。

当社グループは、製品・工程等が第三者の知的財産権を侵害した場合や通常の事業活動を営む上で、様々な訴訟や賠償要求を受ける可能性があります。当社グループは、専門家と相談の上、こうした偶発負債が重要な影響を及ぼす可能性を評価しており、不利益な結果を引き起こす可能性が高く、かつその金額を合理的に見積もることができる場合には、当該引当金を計上します。発生した引当金は見積りに基づいており、将来における偶発負債の発展や解決に大きく影響されます。これらの引当金は、期末日における不確実性を考慮した最善の見積りにより算定しておりますが、予測不能な事象の発生や状況の変化等により影響を受ける可能性があり、実際の結果が見積りと異なる場合、計上される引当金の金額に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

②当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

経営成績及び経営成績に重要な影響を与えた要因

 当社グループの連結業績に影響を与えるエレクトロニクス市場では、ICT関連製品の生産は前連結会計年度比で増加し、スマートフォン、ノートパソコン、タブレット端末等の需要は堅調に推移しました。また、データセンター向けニアライン用HDDの需要も大幅に回復しました。一方で、産業機器市場では、設備投資需要全般が低調に推移、また自動車市場においては、BEV(電気自動車)の需要が停滞し、期初に想定していた部品需要を下回る結果となりました。

 このような経営環境のなか、当連結会計年度において自動車市場向け需要の減少等により受動部品、センサが減収、産業機器市場向け需要の回復遅れもあり、産業機器用電源や受動部品、センサの販売が減少しました。一方で、ICT市場における部品需要の回復や新製品の販売貢献等により、センサ、HDD用ヘッドやサスペンション、小型二次電池の販売は大幅に増加し、当連結会計年度売上高は4.8%の増収となりました。

 営業利益については、大幅な円安やICT市場向け製品の出荷増に加え、合理化や前連結会計年度に実施した構造改革の効果等により前連結会計年度比29.7%の増益となり、売上・利益とも過去最高を更新しました。

 対ドル等の為替変動により、売上高は約957億円の増収、営業利益で約197億円の増益となりました。この影響を含み、売上高は2兆2,048億円、前連結会計年度比1,009億円、4.8%の増収、営業利益は2,242億円、前連結会計年度比513億円、29.7%の増益、税引前利益は2,378億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は1,672億円、基本的1株当たり当期利益は88円10銭となりました。

 為替の感応度については、営業利益において、円とドルの関係では1円の変動で年間約20億円、円とユーロの関係では約3億円と試算しております。

 

営業利益513億円増益の主な要因は、次のとおりであります。

 

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 主にエナジーデバイス(二次電池)やHDD用ヘッド及びサスペンションの販売数量増加により427億円の増益となりました。合理化コストダウン243億円、構造改革効果94億円で、売価変動による減益314億円を吸収しました。販売管理費については、新製品の開発等を加速しているエナジーデバイス(二次電池)で、R&D費用の増加もあり130億円の増加、円安による為替影響197億円の増益もあり全体で513億円の増益となりました。

 

資本の財源及び資金の流動性

当社グループは、事業運営上必要な流動性と資金の源泉を安定的に確保することを基本方針としており、現預金、短期投資、有価証券等を含む流動性資金は、月次連結売上高の2.0ヶ月以上を維持するよう努めております。具体的には日本、米国、欧州、中国及びアセアンの各地域においてキャッシュ・マネジメント・システムを導入しグループ資金効率の向上を図るとともに、コミットメントライン契約などにより流動性を担保しております。2025年3月31日現在の流動性資金の残高は円換算で753,794百万円であり、月平均売上高の3.9ヶ月相当の流動性を確保しております。地政学的リスクによる世界経済の不確実性等(米中対立、ウクライナ・中東問題等)が当社グループの資金繰りに及ぼす影響に備え、流動性資金の拡充、金融機関からの借入金長期化、コマーシャルペーパーや社債の発行による調達の多様化など、対策を講じております。

当社グループの運転資金需要は主に、製品の製造に使用する原材料や部品の調達等の製造費用のほか、販売費及び一般管理費、さらには継続的な新製品開発に向けた研究開発費であります。また、長期性の資金需要は、エレクトロニクス市場における急速な技術革新や販売競争の激化に的確に対応するための設備投資やさらなる成長戦略に向けたM&A等によるものです。

資金の調達方針としては、短期運転資金については自己資金、金融機関からの短期借入及びコマーシャルペーパーを基本とし、設備投資や長期性資金につきましては、金融機関からの長期借入、社債での調達を基本としております。当連結会計年度末における借入金及びリース負債を含む有利子負債の残高は608,400百万円となっております。

経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

2027年3月期を最終年度とする中期経営計画でのベースとなる長期ビジョン「TDK Transformation」の実現に向けて、「キャッシュ・フロー経営の強化」「事業ポートフォリオマネジメントの強化(ROIC経営の強化)」「フェライトツリーの進化(未財務資本の強化)」を基本骨子とし、全社戦略・事業戦略・機能戦略を現場レベルの各施策にまで有機的につなげて展開することと同様に、全社レベルの達成状況から現場レベルの達成状況まで客観的につなげて管理可能とする指標が必要となります。

当社グループでは、当社グループ独自の付加価値指標として、利払前税引後利益と各事業の事業用資産に対して最低限求められる収益(株主資本コスト)を比較するTVA(TDK Value Added)を採用しております。このTVAに結びつくロジックツリーで、各事業の収益性評価や事業資産の効率性評価、キャッシュの獲得能力の評価などを実施するとともに、現場の各種施策及び特性に合わせたKPIにまで要素分解しモニタリングします。これによって長期ビジョン実現を全社一丸となって推進していくと同時に、投資効率の管理強化により設備投資等の選択と集中につなげます。

新中期経営計画では、当社グループ独自の付加価値指標であるTVA(事業ROA)とより相関の強い全社投下資本利益率ROIC及びセグメント別事業ROA (投下資本利益率ROIC)の目標を設定し、目指すべき資本収益性達成に向けた管理運用を進めてまいります。当連結会計年度における全社ROIC実績は6.7%(<WACC 7.0%)となり、2027年3月期は8%以上、長期的には12%以上を目指します。なお、2025年3月期セグメント別事業ROA(投下資本利益率ROIC)実績及び2027年3月期セグメント別事業ROA目標については以下のとおりとなります。

(セグメント別事業ROA)

              2025年3月期(実績)  2027年3月期(目標)

受動部品              3.3%        15.0%

センサ応用製品           0.2%         8.0%

磁気応用製品            1.0%         4.0%

エナジー応用製品          27.3%        18.0%

セグメントごとの財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

当連結会計年度における組織変更により、従来「受動部品」のその他受動部品に属していた一部製品を「受動部品」のインダクティブデバイスに区分変更するとともに、前連結会計年度の数値についても変更後の区分に組替えております。

 

(受動部品セグメント)

受動部品セグメントは、①コンデンサ ②インダクティブデバイス ③その他受動部品 で構成され、売上高は559,639百万円(前連結会計年度565,649百万円、前連結会計年度比1.1%減)、セグメント利益は34,072百万円(同53,886百万円、同比36.8%減)、セグメント資産は948,865百万円(同906,017百万円、同比4.7%増)となりました。

当セグメントの概況を事業別にみますと、次のとおりであります。

コンデンサは、セラミックコンデンサ、アルミ電解コンデンサ及びフィルムコンデンサから構成され、売上高は、234,260百万円(同245,047百万円、同比4.4%減)となりました。インダクティブデバイスの売上高は、204,282百万円(同197,068百万円、同比3.7%増)となりました。その他受動部品は、高周波部品及び圧電材料部品・回路保護部品で構成されており、売上高は、121,097百万円(同123,534百万円、同比2.0%減)となりました。

 自動車市場及び産業機器市場向けの売上構成が高いセラミックコンデンサやアルミ電解コンデンサ及びフィルムコンデンサが減収減益、インダクティブデバイスは産業機器向け販売が減少ながら、ICT市場向けや自動車市場向け販売増加の効果もあり増収増益となりました。高周波部品もICT市場向け販売減少影響や減損損失の計上により大幅赤字となりました。圧電材料部品・回路保護部品は、ICT市場や自動車市場向け販売が減少し減収減益となっています。

 当連結会計年度に減損損失115億円を計上しております。

 

(センサ応用製品セグメント)

センサ応用製品セグメントは、温度・圧力センサ、磁気センサ、MEMSセンサで構成され、売上高は189,472百万円(同180,511百万円、同比5.0%増)、セグメント利益は4,983百万円(同6,042百万円、同比17.5%減)、セグメント資産は399,595百万円(同386,344百万円、同比3.4%増)となりました。

 温度・圧力センサは、産業機器向け、自動車市場向けの販売が増加し増収ながら、前連結会計年度の損益には資産売却による一時収益が含まれていたため減益となりました。磁気センサはTMRセンサにおいてスマートフォン向けに販売拡大、ホールセンサも自動車市場向け販売拡大により増収となりましたが、増産投資に伴う費用増加の影響もあり減益となりました。

 MEMSセンサは、マイクロフォンがICT市場向けで販売増加した一方、モーションセンサが自動車や産業機器向けで販売減少となり、MEMSセンサ全体では減収となりました。モーションセンサの自動車向け販売が拡大しているものの、スマートフォン向けや産業機器市場向け売上が減少し減収減益となりました。

 

(磁気応用製品セグメント)

磁気応用製品セグメントは、HDD用ヘッド、HDD用サスペンション、マグネットで構成され、売上高は223,637百万円(同184,211百万円、同比21.4%増)、セグメント利益は3,377百万円(同損失35,589百万円)、セグメント資産は530,045百万円(同476,949百万円、同比11.1%増)となりました。

 HDD用ヘッド、HDD用サスペンションにおいては、データセンター向けニアライン用HDDの需要が前連結会計年度比約1.5倍の増加となり、HDDヘッド用・HDD用サスペンションともに黒字に転換しました。HDD用ヘッドの販売数量は前連結会計年度比約3割増加、特にニアライン用HDD向けヘッドの販売数量は約2倍の増加となり、構造改革後の損益分岐点数量を若干下回っているものの、製品ミックスの改善や稼働率向上により黒字転換しました。サスペンションは、損益分岐点数量を上回り高い収益性を伴う黒字が定着しています。

マグネットは、自動車市場向け販売減少で減収減益となりました。

 当連結会計年度に減損損失33億円を計上しております。

 

(エナジー応用製品セグメント)

エナジー応用製品セグメントは、エナジーデバイス(二次電池)、電源で構成され、売上高は1,176,499百万円(同1,121,662百万円、同比4.9%増)、セグメント利益は234,448百万円(同195,654百万円、同比19.8%増)、セグメント資産は1,944,197百万円(同1,786,018百万円、同比8.9%増)となりました。

 エナジーデバイス(二次電池)においては、材料価格下落に伴う売価低下影響があるものの、スマートフォンにおける新モデルの立ち上がり等による販売数量増加や製品ミックスの改善により、大幅増益となり収益性も向上しました。

 産業機器用電源は、産業機器市場向け需要の回復が見られず減収減益、EV用電源もBEVの販売減速により減収となりました。

 当連結会計年度に減損損失32億円を計上しております。

 

(その他)

4つの報告セグメントに属さないその他は、メカトロニクス(製造設備)、スマートフォン向けカメラモジュール用マイクロアクチュエータ等で構成され、売上高は55,559百万円(同51,843百万円、同比7.2%増)、セグメント損失は4,437百万円(同1,799百万円)、セグメント資産は68,657百万円(同67,616百万円、同比1.5%増)となりました。

メカトロニクスは、産業機器市場向けの販売が増加しました。スマートフォン向けカメラモジュール用マイクロアクチュエータは、ICT市場向けの販売が増加しました。

5【重要な契約等】

クロスライセンス契約

契約会社名

相手方の名称

国名

契約内容

契約期間

Amperex Technology Limited

Contemporary Amperex Technology Co., Limited

中国

両社の二次電池の技術利用に関するライセンス契約(年間支払金額:150百万米ドル)

2021年4月28日から

2031年4月27日迄

 

 

 

 

6【研究開発活動】

(1)研究開発活動

当社グループの研究開発活動は、AI(人工知能)をはじめ進化が加速するエレクトロニクス分野へ対応するため、継続的に新製品開発の強化拡大を進めており、GXとDXを支える最先端技術により、社会の変革に貢献するとともに、当社グループ自身の変革も続けてまいります。加えてマーケティング機能との連携を強化し、今後の成長が期待される製品の開発に注力しております。特に、ICT、自動車、産業機器・エネルギーの3市場に注力し、当社グループが強みとしているモノづくり力を最大限に活かした製品開発を行うことで電子デバイスの高機能化、小型化、省エネルギー化に貢献しております。

これらの注力する3市場の変化を捉えた技術戦略を基に、今後の成長が大いに期待されるセンサ・アクチュエータ、次世代電子部品を戦略成長製品と位置づけて、独自の材料・プロセス・ソフトウェアを組み合わせた電子デバイスで、テクノロジーの進化と社会の変革を加速し、サステナブルな未来の実現に貢献することを目指しております。

受動部品事業分野では、コア技術を活かした次世代積層セラミックチップコンデンサやインダクタ製品並びにEMC対策部品などの小型化、高性能化を進めております。また、高周波化が進むモジュール製品に適した部品の開発も強化しております。

次世代電子部品としては、薄膜技術、材料技術、Roll to Roll 技術などを融合させ、多様化する市場のニーズに応える高付加価値製品開発を推進しております。

センサ応用製品事業分野では、センサエレメントの高精度化に加え、高機能・高信頼パッケージング技術の開発を進めております。

磁気応用製品事業分野では、高性能希土類磁石や次世代フェライト磁石の開発、次世代高記録密度ヘッドの開発を強化しております。さらに希土類元素原料の高騰による販売価格上昇を避けるために、希土類元素使用量の削減と新規磁石材料の開発にも開発資源を投入しております。

エナジー応用製品事業分野では、次世代リチウム電池材料の開発や、省エネルギーが訴求される社会情勢に適した高効率電源の開発にも注力し、二酸化炭素排出量の削減も進めております。

本社研究開発機能では、それぞれの市場分野に対応した専門性の高い技術者たちが自由な発想で研究開発を展開できるように、フレキシブルに開発体制を見直しております。これらの研究開発活動については、市場の変化を捉えた技術戦略を基に、上記の重点市場において今後の成長が期待される戦略成長製品の開発に注力するとともに、日本、北米、欧州、アジアの4極に開発拠点を設置し、First to marketの考えのもと、各地域の最先端企業や研究開発機関との連携による製品開発を展開しております。特に、センサはAIの活用に伴うデータ社会の拡大には欠かせない重要なデバイスであり、その実現に必要な技術資産を有する企業との協業も視野にいれながらセンサ技術とソフトウエアを組み合わせたセンサフュージョンにより、革新的な次世代製品創出、新しいプラットフォームの提供を目指してまいります。一方で、連続的な進化を実現するために、全社共通の基盤技術である素材技術、プロセス技術、製品設計技術、生産技術、評価・シミュレーション技術に磨きをかけ、中長期における全社開発テーマを加速する様に支援いたします。また、TDK Transformationの実現に向けて、コーポレートマーケティング&インキュベーション本部、TDK Ventures、生産本部との協業を強力に推進し開発を進め、社会の変革に貢献してまいります。

今年度の成果として、世界初の充放電可能なSMDタイプのオールセラミック固体電池(CeraCharge™)の新規材料開発に成功し、更に高容量化を実現しました。加えて、AI消費電力1/100可能なニューロモルフィックデバイスの実用化に向けた、スピントロニクス技術を用いたニューロモルフィック素子を開発し、拡大するAIの消費電力を低減して、より便利で快適なDX社会に貢献することが期待されています。

当社グループの研究開発活動において、優秀な人財の確保と人財育成、及び最先端技術の導入、そして当社グループが保有していない技術については国内のみならず海外の公的機関、大学、研究機関との産学官アライアンスを積極的に進めております。特に、国立大学法人東京科学大学とは、組織的連携協定を締結し、独自性の高い共同研究などを進めており、卓越大学院プログラム事業にも協賛しております。

なお、当連結会計年度の研究開発費は、前連結会計年度比34.3%増の253,586百万円(売上高比11.5%)であります。

 

(2)知的財産活動

当社グループは、知財戦略と事業戦略のアライメントを重視し、知財活動を展開しています。

この方針は、内閣府が公表している「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」とも整合し、知財活動への投資を事業の競争力強化と成長に直接結びつけることを目指しています。この目的のため、当社グループでは、知的財産に関連する情報を収集、分析し、これらの情報を事業戦略の重要な素材として利用する「IPインテリジェンス」を強化しています。特に特許情報と技術や市場の動向などの非特許情報を組み合わせて分析を行うIPランドスケープの活用を積極的に推進しています。

また、当社グループの多様な人材の能力を最大限引き出すため、各拠点への権限移譲と活動の透明性を高め、地域特性や各社の独自性を尊重した知財マネジメントを実践しています。2024年には、世界各地にある拠点の知財担当者が一堂に会し、それぞれのベストプラクティスを共有するIPサミットを開催しました。このようなグローバルな知財ネットワークの強化を通じて、当社グループの持つ多様性を当社グループ全体の成長に結びつけています。

当社グループはまた、知的財産権の侵害に対して、司法手続を含む適切な措置を講じることにより、事業を保護しています。知的財産権の侵害から事業を守ることで、その事業から得られる利益を保護しています。

このような知財活動を通じて当社グループは事業競争力を維持・向上させ、持続的な成長を実現しています。