(1) 経営方針
タムラグループは、コーポレートスローガンを「オンリーワン・カンパニーの実現を目指す」と掲げ、経営の基本方針を企業理念として以下のとおり定めています。
MISSION
私たちは、タムラグループの成長を支える全ての人々の幸せを育むため、世界のエレクトロニクス市場に高く評価される独自の製品・サービスをスピーディに提供してまいります。
VISION
① タムラグループは、世界的視野にたち、エレクトロニクス産業が求める事業を経営基盤とします。
② タムラグループは、市場本位をつらぬき、世界のお客様が求める技術を事業基盤とします。
③ タムラグループは、公正な視点で社員を評価し、努力によって成果をもたらす人を最も賞賛します。
④ タムラグループは、国際社会の一員として行動し、各国の法規制を順守し文化・慣習を尊重します。
⑤ タムラグループは、地球環境の保全に努め、資源の有効化と再資源化を推進します。
GUIDELINE
① 私たちは、パートナーシップを大切にする。
② 私たちは、革新する勇気を大切にする。
③ 私たちは、多彩な個性を大切にする。
④ 私たちは、社会的な責任を大切にする。
(2) 中長期の経営戦略
タムラグループでは、上述の経営方針に基づき、長期ビジョンと中期経営計画を策定し事業戦略を展開しています。
① 長期ビジョン
世界のエレクトロニクス市場に高く評価される脱炭素社会実現のリーディングカンパニー
② 第13次中期経営計画(2022年4月1日~2025年3月31日)の振り返り
第13次中期経営計画「Energize the Future 100」は、当社創業100周年にあたる2024年度をターゲットに、事業成長と資産効率向上を二本柱とする事業戦略と、マテリアリティを軸にしたサステナビリティ戦略の両輪で、100周年とその先の成長に向けた取組みを進めました。
この期間は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大から日常を取り戻す3年間でしたが、地政学的リスクの高まりとともに、素材価格の高騰や円安が急激に進行しました。こうした状況に対して、市場から求められる当社ならではの製品をタイムリーに投入するとともに、適正価格設定を徹底したことにより、売上高は1,000億円を超える過去最高を記録し、収益性は改善方向で推移しました。
しかし営業利益率およびROEは目標に至らない結果に終わりました。目標とする収益性を実現するためには、更なる新製品・新市場の拡大と、低成長・低収益領域の抜本的見直しが課題であることが浮き彫りとなりました。また、資産効率改善遅れの要因のひとつとして、コロナ禍における半導体不足に端を発して肥大化した材料在庫の適正化が進んでおらず、次期中期経営計画に課題を積み残すこととなりました。
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(基準年) 2022年3月期 |
(中期計画) 2025年3月期 |
(中期実績) 2025年3月期 |
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営業利益 |
16億円 |
60億円以上 |
52億円 |
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営業利益率 |
3.2% |
6% |
4.6% |
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ROE |
△0.2% |
8% |
4.6% |
サステナビリティ戦略に関連する事項としては、中国子会社において社内ルールに反した在庫の会計処理が行われていたことが顕在化しました。経営陣が先頭に立ち、全社一丸となって再発防止策を確実に遂行しておりますが、今後もガバナンス強化とコンプライアンス意識向上に向けた取組みを継続していくことが課題と認識しています。
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マテリアリティ |
2025年3月期 目標 |
2025年3月期 実績 |
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①持続的な事業成長 |
新製品・新市場向け売上比率: 30% |
24% |
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②製品品質の向上 |
不良損金率:15%削減(第12次中期経営計画期間平均対比) |
32%増加 |
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③適正なサプライチェーン |
主要調達先SAQ実施率:100% |
76% |
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④コンプライアンス |
コンプライアンス研修実施率:100% |
96% |
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⑤働きがいの実現 |
①(グローバル)従業員サーベイ実施ポイント(pt)向上:3pt/年 ②(日本)多様性:女性・外国人・中途採用管理職比率:10%、5%、50% |
①±0pt ②8.3%、1.8%、39.1% |
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⑥地域社会との共生 |
社会貢献費:経常利益の1% |
1.2% |
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⑦地球環境保全・脱炭素社会の実現への貢献 |
①サステナビリティ貢献製品比率:27% ②温室効果ガス(スコープ1&2)削減:33%以上(2013年対比) |
①24% ②38% |
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⑧情報開示の充実 |
統合報告書発行・TCFD準拠情報開示 |
発行・開示 |
③ 第14次中期経営計画(2025年4月1日~2028年3月31日)
次の100年に向けて2025年度より新中期経営計画「One TAMURA for Next 100」を始動しました。前中期経営計画に引き続き、脱炭素社会実現に向けた世界的な潮流を市場機会と捉え、長期ビジョンで掲げる「世界のエレクトロニクス市場に高く評価される脱炭素社会実現のリーディングカンパニー」の具現化を目指します。
一方、第13次中期経営計画では収益性と資産効率が課題となりました。これに対して、第14次中期経営計画では、事業戦略・財務戦略・サステナビリティ戦略の一体推進で、ターゲットとする2027年度はROE8%・PBR1倍以上を目指します。
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(基準年) 2025年3月期 |
(中期計画) 2028年3月期 |
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ROE |
4.6% |
8%以上 |
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営業利益率 |
4.6% |
7%以上 |
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ROIC |
4.8% |
6%以上 |
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RBR |
0.6倍 |
1倍以上 |
まず事業戦略では、初年度と第2年度で「成長の基盤作り」と「体質改善」に集中的に取り組みます。「成長の基盤作り」では、注力市場をクリーンエネルギー関連、注力製品を次世代パワーエレクトロニクス関連製品、注力地域を欧米と定めました。足元では米国データセンター向けの大型トランス・リアクタの旺盛な需要が期待されています。「体質改善」では、前中期経営計画の積み残しの課題である在庫の早期適正化、地政学的リスクへの対応を踏まえた国内外の生産販売拠点の最適配置、そして成長性と採算性を意識した事業および製品の集中と選択を進めます。これらによる事業ポートフォリオ再編で、収益性(営業利益率)と資本効率(ROIC)の向上を図ります。具体的には、2025年度は連結子会社である株式会社光波のネットワークソリューション事業の外部への譲渡、はんだ粉末生産工程の入間事業所から狭山事業所への移管などを予定しています。
次に、財務戦略では、収益性と資本効率の向上によりキャッシュ創出力を高め、キャッシュアロケーションとして、「成長の基盤作り」と「体質改善」への再投資を行います。さらに、株式市場からPBR1倍以上に評価される企業になることを目指して、株主還元を強化します。第14次中期経営計画の開始にあたり、剰余金の配当等の基本方針を「安定的な配当を基本としつつ、体質改善後は株主資本配当率(DOE)3%を目途にした株主還元を目指す」と見直しました。また、経営環境や財務状況を考慮し、株主還元の一部については機動的な自己株式取得を行うことも検討していきます。
最後に、サステナビリティ戦略に関しては、第14次中期経営計画の事業戦略と一体でマテリアリティの見直しを行いました。特に、前中期経営計画期間の反省を踏まえて、コンプライアンスの徹底とコーポレートガバナンス・リスクマネジメントの強化に取り組みます。また、本年6月26日開催予定の株主総会で社外取締役が過半数となる取締役会構成とすることを予定しており、取締役会の監督機能強化を図ります。
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マテリアリティ大分類 |
マテリアリティ 中分類 |
KPI |
2028年3月期 目標 |
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成長戦略 の推進 |
脱炭素社会実現 への貢献 |
GHG(Scope 1&2)削減率 |
25%以上削減 |
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再生可能エネルギー調達比率 |
35%以上 |
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注力市場売上比率 |
36% |
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働きがいの追求 |
グローバルエンゲージメントスコア |
毎年3pt改善 |
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経営基盤 の強化 |
コーポレート ガバナンスの強化 |
取締役会実効性評価の継続的実施 |
実効性の改善 |
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グループ管理職対象コンプライアンス研修受講率 |
100% |
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全社的リスク マネジメントの強化 |
リスク管理委員会による安定したPDCA |
実効性の改善 |
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情報開示 |
リスク開示の充実 |
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品質重視の文化醸成 |
顧客満足度 |
前年比改善 |
タムラグループでは、企業理念や創業の精神に基づき、長期ビジョン「2050ありたい姿」を定め、「世界のエレクトロニクス市場に高く評価される脱炭素社会実現のリーディングカンパニー」となることを目指しています。
2025年4月から2028年3月までの3カ年を対象とする第14次中期経営計画では、事業戦略・サステナビリティ戦略とそれを支える財務戦略の一体で、長期ビジョンの実現に向けた取り組みを推進します。
また、2025年4月にサステナビリティ方針を制定しました。本方針ではタムラグループの企業理念に基づき、すべての企業活動を通じて持続的な社会への実現への貢献と企業価値の向上に取り組むことを宣言しています。さらに社会の課題やニーズに応える製品・サービスの提供や、高い倫理観に基づく誠実な事業活動、そして、ステークホルダーとの建設的な対話を通じた透明性のある経営に取り組んでまいります。
(1) ガバナンス
タムラグループでは、取締役会が、サステナビリティに関する基本方針・戦略の決定とその執行の監督を行い、社長を議長とする執行役員会以下の執行部門で具体的施策を推進しています。
気候変動や人的資本をはじめとするサステナビリティ課題については、マテリアリティを軸にサステナビリティ戦略を定め、事業戦略と統合し、一体となった施策を展開しています。また、サステナビリティ課題に取り組むことによる機会と取り組まないことによるリスクを特定し、ステークホルダーにとっての重要性とタムラグループにとっての重要性という二つの基準を軸に、マテリアリティを設定しています。
2024年4月に、執行役員会は、効率的・効果的な施策推進のため、その下部機関としてサステナビリティ委員会を設置しました。サステナビリティ委員会は、執行役員会メンバーで構成されています。委員会を年に2回開催し、サステナビリティ戦略の進捗を管理するとともに関連議題を審議の上、執行役員会に報告します。
また、リスク管理委員会を執行役員会の下部機関として設置し、グループリスクマネジメント(ERM)体制を構築しています。リスクマネジメントの体制については、
ガバナンス体制図
(2)リスク管理
タムラグループは、直接または間接的に経営または事業運営に影響を及ぼす可能性のあるリスクに対して迅速かつ的確に対処するため、リスク管理・危機管理規程、内部通報規程、情報管理規程などの社内規程を整備し、それに基づいたグループリスクマネジメント(ERM)を行っています。リスクマネジメント活動は、上記のガバナンス体制において、取締役会の監督のもとに執行役員会を中心にリスクへの対応方針を決定しており、その推進のために、リスク管理委員会を設置しています。リスク管理委員会では、タムラグループを取り巻く潜在リスクを抽出し、発生可能性と影響度、現状対応度の観点で評価するリスクアセスメントを年1回実施しています。その結果から、優先して取り組むリスクや部門横断的に取り組むリスクを特定しており、気候変動や人的資本に関するリスクについても、注意すべきリスクとして、半期に1回、リスク管理委員会が進捗を管理し、執行役員会や取締役会に報告しています。
特に気候変動については、外的要因が大きく、広範囲で中長期的な視点でのリスクや機会を考慮した戦略が必要となります。そこで、タムラグループでは気候変動に対応する戦略の策定の前提となるリスクと機会の分析をするために、分析指標を以下のとおり定めました。
・時間軸:短期(2027年)、中期(2030年)、長期(2050年)
・気温上昇シナリオ:1.5℃(ネットゼロ排出シナリオ)、4℃(既存政策シナリオ)
※IPCCやIEAなどの国際機関が公表しているシナリオを利用
・評価:リスク/機会の観点から、経営・事業にもたらす影響を「1~3」で定量評価
※営業利益への影響額を、1:1千万円以上、2:1億円以上、3:5億円以上と設定
この分析指標に基づき、気温上昇シナリオごとのタムラグループに関連する将来の社会・経済のあり方を世界全体像として描き、想定されるリスクと機会を抽出し、項目ごとに気候変動に伴う影響を本社部門と各事業部門で協議、評価することで、タムラグループにとって影響を与えるリスクと機会を特定しています。
(3)戦略
① 気候変動
タムラグループとして認識した気候変動に関する代表的なリスク(移行リスクおよび物理的リスク)と機会とそれに基づく戦略は以下のとおりです。
移行リスクとしては、炭素税や温室効果ガス排出規制強化への対応に伴うコストの増加、石油化学製品、金属鉱物資源などの原材料価格の上昇、低炭素原材料の調達や自社の製造プロセスの低炭素化に向けた設備投資によるコストの増加等が想定されます。物理的リスクとしては、気候変動に起因する自然災害激甚化や気候パターンの変化に伴う事業所の被災、サプライチェーンの寸断による営業機会損失等が想定されます。これらのリスクに対しては、まずは自社やサプライチェーンの排出する温室効果ガスの削減に取り組み、気候変動緩和に貢献することが必須で、そのほかには、グループリスクマネジメント(ERM)や事業継続マネジメント(BCM)の推進と、損失が発生またはその恐れがある場合に速やかに経営陣に対し情報を伝達するアラームエスカレーションWeb報告システムの運用により対応しています。
一方、機会としては、太陽光発電、風力発電などの再生可能エネルギー発電施設の増加、化石燃料使用から電力使用への切替えやIoT推進などに伴う電力需要の増加、新興国の発展などにより、事業機会が増大すると認識しています。また、こうした大容量の電気エネルギーを効率的に利用するためにはパワー半導体の進化が不可欠であり、それに関わる周辺部品・材料についても技術革新が求められています。この機会を最大化するために、タムラグループでは、注力市場であるクリーンエネルギー関連市場に対して、注力製品である次世代パワーエレクトロニクス関連製品を注力地域である欧米にタイムリーに投入して拡販を図ります。
タムラグループは、気候変動への対応を重要課題と捉え、2022年6月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を表明しました。ステークホルダーとの建設的なコミュニケーションを推進するため、TCFDのフレームワークに基づき、情報開示に取り組んでいます。
TCFDに基づく情報開示の詳細は、当社ウェブサイトをご参照ください。
https://www.tamuracorp.com/sustainability/environment/tcfd.html
② 人的資本
タムラグループでは、事業目標の推進やサステナブルな事業の実現のためには、それを担う人材こそが重要であると考えています。そのため「人が憧れる会社」「人が集まる会社」を目指して人材戦略を進めています。
第13次中期経営計画においては、グローバルに進める働きがい改革と、日本における人材の多様性確保を重点施策に定めました。働きがい改革では、働きがいをもって働く人材が増えることで会社が活性化し、戦略を推進することができるという考えのもと、働きがいを実現するための「土壌」である心理的安全性を中心に取組み、また日本は海外拠点に比べ相対的に多様性が低いため、グローバルなステークホルダーの期待に応えられる企業を目指し、女性、外国人、および中途採用者の管理職登用推進に取り組みました。
第14次中期経営計画においても、タムラで働くあらゆる人が、働きがいを感じながら生き生きと働くこと、またそれができる環境を整えることが、事業の成長や企業価値の向上にとっては不可欠と考えております。そのため、重点施策としてグローバルでの働きがい改革の推進によりフォーカスし、日本における人材の多様性を確保するためにも、①更なる心理的安全性の浸透、②自己変革を通じて周囲に良い影響を与え組織変革を推進できるリーダー人材の育成、③企業パーパスの浸透と従業員の自分事化に、全社一体となって取組むことで引き続き働きがい改革を推進します。
(4)指標及び目標
サステナビリティ戦略については、マテリアリティを軸に、項目ごとに管理指標(KPI)および目標値を設定し施策を展開しています。マテリアリティ、KPI、目標、2024年度の実績については、「
① 気候変動
タムラグループは、2050年までのカーボンニュートラル達成を見据え、2030年度までにスコープ1(*1)およびスコープ2(*2)の温室効果ガス排出量を2013年度対比(*3)で51%削減することを目指しています。第13次中期経営計画においては、最終年度(2024年度)までに33%削減することを目標としています。
この目標に向かって、2024年度は自社工程の省エネによる電気使用量削減に取り組むとともに、再生可能エネルギーの調達などを推進し、第13次中期経営計画最終年度である、2024年度の削減目標(33%)を上回りました。
温室効果ガス排出量削減目標と実績(2013年度対比)
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項目 |
2030年度目標 |
中期計画最終年度2024年度目標 |
2024年度実績 |
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削減率 |
51% |
33% |
38% |
*1:スコープ1(直接排出量):自社の工場や事務所、車両等から排出される温室効果ガス排出量
*2:スコープ2(間接排出量):他社から供給された電気等を自社が使用したことによる温室効果ガス排出量
*3:各工場の状況に応じ、2013年基準値を調整しています。
温室効果ガス排出量削減目標は、2025年4月から、地球温暖化の進展や社会的要請変化を鑑み、SBT(*4)の1.5℃水準の目標に準拠するとともに、2050年までのカーボンニュートラルにコミットし、基準年度を2021年度に変更した新たな目標値を設定しました。
2025年度からの温室効果ガス排出量削減目標(2021年度対比)
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項目 |
第14次中期経営計画最終年度 2027年度目標 |
2030年度目標 |
2050年度目標 |
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削減率 |
25%(年4.2%以上削減) |
38%(年4.2%以上削減) |
カーボンニュートラル |
*4:SBT(Science Based Targets):企業が設定する科学的根拠に基づく温室効果ガス排出削減目標(1.5℃目標)
② 人的資本
第13次中期経営計画の目標としては、働きがい改革の効果を測る指標として従業員エンゲージメント調査のスコア向上(+3ポイント/年)と、人材多様性の進捗を測る日本独自の指標として、中核人材である管理職の女性、外国人、および中途採用者の比率をそれぞれ10%、5%、および50%と定めました。2024年度は、グローバルでのエンゲージメント調査のスコアは、2023年度と変わらず56%(対前年比±0%)となりました。多様性については、女性、外国人、および中途採用者の管理職に占める割合(2025年4月1日時点)はそれぞれ8.3%、1.8%、および39.1%となりました。
第14次中期経営計画では、働きがい改革効果については、従業員エンゲージメントスコアの目標値を2027年度64%、2030年度70%以上に定めました。一方、人材多様性については、第14次中期経営計画では目標値は設定していませんが、従業員エンゲージメント調査結果から「多様な視点」がエンゲージメントに影響を与える要因であることが明らかになった背景を踏まえ、「働きがい改革」の一環として引き続き取り組みます。なお「人材の多様性」に関する指標は「従業員の状況」欄に記載をしています。
働きがい改革効果
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項目(グローバル) |
第13次中期計画最終年度 2024年度目標 |
2024年度実績 |
第14次中期計画目標 |
2030年度 エンゲージメントスコア目標 |
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従業員エンゲージメント スコアポイント(pt)向上/年 |
+3pt/年 (55%) |
±0pt (56%) |
+3pt/年 |
70%以上 |
人材多様性
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項目(日本国内) |
第13次中期計画最終年度
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2024年度実績 (2025年4月1日時点) |
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タムラグループは、持続的な成長と企業価値の向上を目指し、経営成績、財務状況などに影響を及ぼす可能性のあるリスクに適切に対応すべく、グループリスクマネジメント(ERM)体制を整備しています。また、その一環として、リスク管理・危機管理規程の制定に加え、取締役会の監督のもと執行役員会を中心にリスクへの対応方針を決定し、さらに執行役員会をサポートし、そのマネジメント活動を推進するために、リスク管理委員会を設置しています。リスク管理委員会は、執行役員会メンバーで構成されています。リスクマネジメントのプロセスは以下の表に示すとおりです。
グループリスクマネジメント(ERM)プロセス
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ステップ |
担当 |
内容 |
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リスクアセスメント(年1回) |
リスク管理委員会 |
タムラグループを取り巻く潜在リスクを抽出し、発生可能性と影響度、現状対応度の3つの視点で評価し、優先して取り組むべきリスク、部門横断的に対応が必要なリスクを、重要リスク案として特定する。リスクオーナーを決定し、対策案を策定する。 |
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重要リスク案と対策案の検討 |
執行役員会 |
リスク管理委員会で特定した重要リスク案とその対策案を審議し、取締役会に上程する。 |
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承認 |
取締役会 |
重要リスクとその対策を承認する。 |
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対策実施 |
執行役員会 執行部門 |
執行役員会から執行部門に対し、対策実行を指示し、執行部門で実行する。 |
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進捗確認(年2回) |
リスク管理委員会 |
執行部門の対策進捗状況を確認し、執行役員会に報告する。 |
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進捗確認・是正 |
執行役員会 |
執行部門の対策進捗を確認し、必要に応じ是正対策を指示する。結果を取締役会に報告する。 |
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進捗確認 |
取締役会 |
リスクマネジメントの進捗を監督する。 |
また、リスクが顕在化した場合またはその恐れがある場合に、経営陣に対し迅速に情報を伝達し、対応する仕組みとして、アラームエスカレーションWeb報告システムをグループで運用しています。特に、重大な危機が発生した場合には、危機管理対策本部を設置し、社長が直接指揮を執るなど、グループに対する損失を最小限にとどめる体制を構築しています。
タムラグループのリスクには以下のようなものがあります。なお、文中の将来に関する事項は当連結会計年度末において、当社が判断したものです。事業などのリスクはこれらに限られるものではありません。関連する記述は、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要 ③企業統治に関するその他の事項 a.会社の機関の内容および内部統制システムの整備の状況」をご参照ください。
(1) 事業環境に関するリスク
タムラグループは、脱炭素社会の実現に向け拡大するクリーンエネルギー市場を注力市場としていますが、この市場には、コア事業である電子部品・電子化学材料の幅広い製品が関わり、タムラグループでは中長期的な成長を目指して開発投資や設備投資を進めてきました。しかし、当該分野は各国の経済環境や政策の動向に加え、最終顧客の販売戦略や競争力の影響を受けます。このような事業環境の変動は、タムラグループ製品の需要に変化をもたらし、その結果タムラグループ製品の需要拡大が進まない場合には、設備投資の回収が遅れるなど、タムラグループの業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。タムラグループでは、市場のニーズを常に見極め、時代の変化を先取りした製品・サービスを提供することで、リスクの回避と成長戦略の推進に努めています。
(2) 素材価格に関するリスク
電子部品関連事業における銅や鉄、電子化学実装関連事業における錫や石油化学製品などの素材価格の変動は、利益に対して影響を与えるリスクがあります。主要な素材については、定期的な相場連動による価格改定により価格変動の影響を吸収できるように対策していますが、素材価格が急激に変動し価格改定が追い付かないような場合は、企業収益を圧迫する可能性があります。タムラグループでは、価格改定に加えて、設計変更による材料比率の低減や代替部材の開発、予約購入によるリスクヘッジなどの手段なども講じて、素材価格の変動による影響の低減を総合的に進めています。
(3) 海外展開におけるリスク
タムラグループは、中国に多くの生産・販売拠点を有しています。競争力のある製品の製造と中国市場の展開のためにその重要性は変わりませんが、世界の経済圏の分断が進む中、各国の政策動向によっては、特定の国で製造した製品の輸出入が困難になる、または高い関税がかけられ競争力を失うなど、事業活動に悪影響が生じる可能性があります。このようなリスクに対し、タムラグループは、中国の他にも、欧米やアジアにも拠点を配しているため、環境変化に応じてスピーディに生産販売ロケーションを見直すことで、地域毎の対応力を高める取組みを進めています。
(4) 自然災害をはじめとする緊急事態に対するリスク
タムラグループの本社は東京にあり、日本国内では埼玉県および東北地方に製造拠点を有しています。日本の生産高はグループ全体の3割程度ですが、電子化学事業では、日本の製造拠点が生産した材料を部材として使用する海外拠点もあり、日本の拠点所在地で大地震などの自然災害が発生した場合には、建物や機械設備、棚卸資産の被害に加え、日本のみならず海外拠点の生産活動に影響を及ぼす可能性があります。また、タムラグループは、日本の他にも、中国を含むアジアや欧米などの世界各地で事業活動を行っており、各地域で生じる可能性のある様々な自然災害や感染症のほか、政治的要因や経済的要因による社会的混乱などにより、事業活動の停止や遅延が生じる可能性があります。タムラグループでは、このようなリスクを想定し、緊急事態対策構築ガイドラインを整備して、販売・生産体制をグローバルに連携し、事業継続できるように対策しています。また、緊急事態に備えた事前準備計画の策定、緊急事態発生時の出張者を含めた社員安否確認システムの構築と初動対応計画の策定、事業復旧計画の策定などの取組みを事業継続マネジメントとして継続的な改善を行っています。
(5) 自国以外の赴任者・出張者におけるリスク
自然災害や、政情不安、戦争・テロなどが発生した場合、その国に滞在している赴任者や一時的な出張者が、けがや死亡など、大きな危険にさらされる恐れがあります。さらに状況に応じ、安全な場所への移動や国外退避なども必要になります。これらの事態に対するリスク管理として、タムラグループのすべての拠点を対象とした、自国以外の国への赴任者や出張者の安全管理に取り組んでいます。問題が発生する前の平時サポート、問題発生の恐れがある場合の警戒時サポート、そして実際に問題が発生した場合の緊急対応サポートに分けての対応を検討しています。
(6) 製品やサービスの品質不良に起因する補償に関するリスク
大規模な製品補償や製造物責任賠償につながるような製品やサービスの欠陥は、会社の評価に重大な影響を与え、業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。対策として、製造物責任賠償保険に加入していますが、保険で賠償額を十分にカバーできる保証はありません。これに対して、タムラグループでは、品質方針の周知徹底による品質第一の文化の醸成、製品不具合再発防止策の強化、不良発生原因の上位概念化による異なる製造工程への不良事例の水平展開、タムラグループ内における品質指標の標準化、国際的な品質マネジメント規格の技法を活用した品質保証プロセスの改善などにより、品質を強化する取組みを進めています。
(7) 知的財産権に関するリスク
タムラグループは、独自に開発した設計・製造工程に関する技術および製品などの特許権やその他の知的財産権を所有しています。これら知的財産保護のための様々な取組みを行っていますが、完全な保護は難しく、想定している効果を得られない可能性があります。また、タムラグループは、第三者の知的財産権を侵害しないよう留意し、調査を行っていますが、全ての知的財産権を完全に調査完了することは、時間・コスト・技術的観点を考慮すると困難であり、さらに、知的財産権者が自己の権利をどのように解釈し、どの範囲まで権利行使手続きを行うかを予想することは極めて困難です。万一、タムラグループの製品が第三者の知的財産権に近似する場合には、当該第三者より損害賠償請求、使用差し止めなどの訴えを起こされる可能性があり、その結果、和解やライセンス契約の締結、または多額の損害賠償金の支払いが必要となる可能性や、タムラグループの製品やサービスの一部の製造販売などができなくなる可能性があります。
(8) 情報セキュリティに関するリスク
タムラグループに対し、サイバー攻撃やコンピュータウイルスの侵入などがあった場合には、機密情報の外部流出、身代金目的でのデータ暗号化などのリスクが顕在化し、その対応費用の増加や、信用低下による売上減少などにより、タムラグループの業績および財務状況に影響を及ぼす可能性があります。また、顧客からの情報セキュリティ水準の強化の要請に対応できない場合は、事業機会を逸する可能性もあります。これに対して、タムラグループは、機密情報の適切な保護および管理をより強固にするために、情報セキュリティ管理体制を見直し、新たに情報セキュリティ方針と情報セキュリティ管理規程を定め 、PDCAを回すリスクマネジメントに取り組んでいます。サイバー攻撃や情報漏洩などに備えたネットワークへのセキュリティ対策、データへのアクセス制御や外部記憶装置の使用制限などの技術的安全管理措置、不正な侵入の防止を目的としたIDカード認証システムの導入などの物理的安全管理措置および、従業員に対する適正な情報の取扱いに関する教育などの対策の実施を情報セキュリティにおける重点施策とし、これらの施策の実施状況に対し、第三者によるアセスメントを定期的に受診し、その結果をもとに継続的な改善に取り組んでまいります。
(外部調査チームによる調査結果と再発防止策の進捗状況)
当社は、中国連結子会社2社において購入部品在庫の会計処理が社内ルールに照らし適切に行われていなかった件に関し、当社と利害関係を有しない社外の専門家で構成する外部調査チームから調査報告書を受領しました。当該調査結果に基づき、過年度の財務諸表に与える影響を検討したところ、当該期間の損益に与える影響は限定的であるため、過年度の決算の訂正は行わず、2025年3月期第2四半期(中間期)の中間連結財務諸表にて処理しています。
外部調査チームによる調査結果および再発防止策の提言を受け、2025年3月31日付「再発防止策の進捗状況に関するお知らせ」に記載のとおり、再発防止策を推進しています。具体的には、コンプライアンスおよび適切な会計処理の必要性の周知徹底を目的とした研修の実施、重要な会計処理の実務に係るマニュアルやガイドラインの整備、当2社への内部統制の強化などです。2025年4月には、子会社管理体制を強化するため、本社部門に海外子会社を含めたグループ会社の業務改革を推進する部署を新設しました。
経営陣が先頭に立ち全社一丸となって再発防止策を確実に遂行し、ガバナンスの強化と企業風土改革に取り組むことで、引き続き信頼回復に努めてまいります。
(1) 経営成績等の状況の概要
① 財政状態及び経営成績の状況
1) 財政状態
当連結会計年度末の総資産は、前連結会計年度末に比べ95億5百万円増加し、1,243億4千8百万円となりました。流動資産は67億9千8百万円増加し、固定資産は27億7百万円増加しています。これは主に、流動資産は現金及び預金ならびに売上債権の増加、固定資産は設備更新および電子化学実装事業の製造棟新設を中心とした有形固定資産の増加によります。当該製造棟新設は、日本国内の生産拠点移管によるもので、新棟完成は2025年10月の予定です。
当連結会計年度末の負債の合計は、前連結会計年度末に比べ32億6千7百万円増加し、603億1千4百万円となりました。これは主に、仕入債務の増加によります。
有利子負債合計(短期借入金・1年内返済予定の長期借入金・短期リース債務・長期借入金および長期リース債務の合計額)は5千万円増加し、339億4千9百万円となりました。
当連結会計年度末の純資産は、前連結会計年度末に比べ62億3千7百万円増加し、640億3千4百万円となりました。これは主に、利益剰余金が25億3千7百万円増加し、円安を受け為替換算調整勘定が27億6千2百万円増加したことによります。この結果、自己資本比率は51.32%となりました。
(自己資本比率は、純資産より新株予約権・非支配株主持分を控除して計算した比率を用いています。)
2) 経営成績
当連結会計年度(2024年4月1日~2025年3月31日)における、当社グループの事業に関わるエレクトロニクス市場は、AIの拡がりを背景に、データセンター向けの設備投資が北米を中心に世界で拡大しました。自動車関連は、電装化進展に伴う需要拡大の基調に変わりはないものの、EV市場の成長には停滞感が見られるようになりました。スマートフォンを中心とする情報通信関連は、力強さは欠くものの回復基調で推移しました。一方、産業機器関連の需要は低位で推移しました。
その結果、当連結会計年度の売上高は、1,140億5千1百万円(前期比7.0%増)、営業利益は51億9千5百万円(同5.2%増)、営業利益率は4.6%と増収増益となりました。経常利益は50億6千1百万円(同2.1%増)となり、親会社株主に帰属する当期純利益は27億8千2百万円(同24.2%増)となりました。
セグメントの業績は、次のとおりです。
なお、売上高はセグメント間の内部売上高を含めており、セグメント利益はセグメント間取引消去及び本社部門負担の未来開発研究費用控除前の営業利益と調整を行っています。
(電子部品関連事業)
産業機械向けトランス・リアクタの需要は、国内外製造業で設備投資への慎重姿勢が継続したことから低位で推移しましたが、エアコン用リアクタは緩やかな回復基調が続きました。電動工具向けチャージャは、主要顧客の在庫調整が一巡し、売上が拡大しました。さらに、大型トランス・リアクタの需要が、AI関連市場の拡大に伴い米国のデータセンター用PDU(電源分配ユニット)・UPS(無停電電源装置)向けを中心に増加しました。
その結果、売上高は767億7千4百万円(前期比5.8%増)、セグメント利益は32億7千1百万円(同10.5%増)と、増収増益となりました。
(電子化学実装関連事業)
電子化学事業では、車載用ソルダーペーストおよびスマートフォン向けフレキシブル基板用ソルダーレジストが堅調に推移しました。さらに、円安が売上・利益の増加に寄与しました。一方、実装装置事業は、国内外の顧客における設備投資需要が回復せず、当連結会計年度を通して低位で推移しました。
電子化学事業のけん引により、売上高は345億7千5百万円(前期比10.7%増)、セグメント利益は30億6千5百万円(同24.4%増)と、増収増益となりました。
(情報機器関連事業)
放送局向け音声設備の更新案件の延期に加え、放送業界全般における厳しい設備投資環境が継続し、売上高は28億6千5百万円(前期比5.0%減)、セグメント損失は1億8千1百万円(前期は4億7千4百万円のセグメント利益)となりました。
② キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末の現金及び現金同等物(以下「資金」という)につきましては、前連結会計年度末に比べ24億8千6百万円増加し、194億7千9百万円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益が38億2千3百万円、減価償却費が42億8千9百万円、仕入債務の増加が18億4千3百万円となったことなどにより、90億8千2百万円の資金収入となりました。また、前連結会計年度末と比べ、営業活動によるキャッシュ・フローは、4億2千2百万円減少しました。これは、売上債権が減少から増加へ転じたことなどによります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは、設備更新および電子化学実装事業の製造棟新設を中心とした有形固定資産の取得による支出が33億4千1百万円となったことなどにより、39億円の資金支出となりました。また、前連結会計年度末と比べ、投資活動によるキャッシュ・フローは、12億3千3百万円減少(資金支出の増加)しました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは、短期および長期運転資金を返済したことなどにより、36億4千万円の資金支出となりました。また、前連結会計年度末と比べ、財務活動によるキャッシュ・フローは、3億7千2百万円増加(資金支出の減少)しました。これは、中国子会社におけるセール・アンド・リースバックによる資金収入が増加したことなどによります。
③ 生産、受注及び販売の実績
1) 生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
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セグメントの名称 |
生産高(百万円) |
前年同期比(%) |
|
電子部品関連事業 |
77,068 |
111.5 |
|
電子化学実装関連事業 |
34,520 |
110.9 |
|
情報機器関連事業 |
2,892 |
87.2 |
|
報告セグメント計 |
114,481 |
110.5 |
|
合計 |
114,481 |
110.5 |
(注)1. セグメント間取引については、相殺消去しています。
2. 金額は、販売価格によっています。
2) 受注実績
当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
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セグメントの名称 |
受注高(百万円) |
前年同期比(%) |
受注残高(百万円) |
前年同期比(%) |
|
電子部品関連事業 |
79,899 |
140.9 |
50,224 |
106.6 |
|
電子化学実装関連事業 |
35,892 |
115.8 |
10,900 |
115.6 |
|
情報機器関連事業 |
2,280 |
153.5 |
1,380 |
70.5 |
|
報告セグメント計 |
118,071 |
132.4 |
62,505 |
106.9 |
|
合計 |
118,071 |
132.4 |
62,505 |
106.9 |
(注) セグメント間取引については、相殺消去しています。
3) 販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
|
セグメントの名称 |
販売高(百万円) |
前年同期比(%) |
|
電子部品関連事業 |
76,771 |
105.8 |
|
電子化学実装関連事業 |
34,422 |
110.7 |
|
情報機器関連事業 |
2,856 |
95.1 |
|
報告セグメント計 |
114,051 |
107.0 |
|
合計 |
114,051 |
107.0 |
(注)1. セグメント間取引については、相殺消去しています。
2. 主な相手先別の販売実績および当該販売実績の総販売実績に対する割合については、100分の10以上の相手先がないため、記載を省略しています。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
当連結会計年度は、売上高は1,140億5千1百万円、営業利益は51億9千5百万円、営業利益率4.6%となりました。産業機器関連の需要は低位で推移した一方、米国のデータセンター用PDU(電源分配ユニット)・UPS(無停電電源装置)向け大型トランス・リアクタなど堅調な分野が売上・利益をけん引しました。加えて円安の追い風もあり、売上高は過去最高を記録し、増収増益となりました。しかしながら、第13次中期経営計画における事業戦略で掲げた新製品・新市場の拡大や資産効率の向上に課題を残し、中期経営計画最終年度の目標である営業利益60億円以上、営業利益率6.0%には至らない結果に終わりました。さらに、サステナビリティ戦略においては、2024年に中国子会社2社において社内ルールに反した在庫の会計処理が行われていたことが顕在化しており、ガバナンスおよびリスクマネジメントの強化、ならびにコンプライアンス意識の向上が課題と認識しています。
2025年4月から開始した第14次中期経営計画「One TAMURA for Next 100」においては、事業部門間ならびにコーポレート部門と事業部門のつながりをさらに高め、「事業戦略」「財務戦略」「サステナビリティ戦略」を一体で推進してまいります。第14次中期経営計画の初年度および2年目に体質改善と成長に向けた基盤づくりを行い、利益率およびROICを向上させ、ROE8%以上を達成いたします。そのために、市場や技術の変化を先取りした事業ポートフォリオを再構築し、コア事業および注力市場に注力してまいります。コア事業とは、カーボンニュートラルに関連する事業であり、具体的には電子部品および電子化学材料の事業です。注力市場はクリーンエネルギー関連市場で、電力インフラ・ヘビーインダストリー・次世代通信・モビリティの領域です。これらの領域は脱炭素社会の推進により拡大が見込まれるため、コア事業製品である次世代パワーエレクトロニクス関連製品を当領域に拡販してまいります。そして、第14次中期経営計画の最終年度である2027年度には、コア事業の営業利益率を8%以上に高め、コア事業の注力市場売上比率も拡大します。さらに、クリーンエネルギー関連市場は次世代パワー半導体への進化が見込まれており、その進化をビジネス機会と捉えています。電子化学の素材技術と電子部品の設計技術を融合し素材から差別化した次世代パワー半導体用磁性受動部品の創出を目指し、研究開発を強化しています。
財務戦略では、注力領域へ恒常的に経営資源を投下できる体質を目指し、ROEを最重要KPIとして定めます。収益性と資産効率の向上によりキャッシュ創出力を高め、成長投資および体質改善を行うとともに株主還元を強化し、株式市場からPBR1倍以上に評価される企業になることを目指します。
サステナビリティ戦略では、前中期経営計画期間に発覚した問題の反省を踏まえ、且つ成長を支える経営基盤を強化するため、コーポレートガバナンスの強化および全社的リスクマネジメントの強化に取り組み、ステークホルダーの皆さまからの信頼回復と企業価値の向上を図ります。
セグメントごとの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりです。
(電子部品関連事業)
電子部品関連事業は、大型トランス・リアクタや電動工具向けチャージャの堅調な需要により、売上高は767億7千4百万円、セグメント利益は32億7千1百万円と増収増益となりました。
米国において、AI関連需要の増加に伴いデータセンター市場が活況なことから、データセンター用PDU(電源分配ユニット)・UPS(無停電電源装置)向け大型トランス・リアクタの売上が大きく拡大しました。米国向けの当該製品を生産するメキシコ工場では高い稼働率が継続していることから、近隣地に第2工場を準備し、2025年2月より稼働を開始しています。米国政権による関税措置をはじめとする通商政策の変化など、事業環境は予断を許さない状況ですが、当社の強みである高周波・大容量・高耐圧などの顧客ニーズに応える技術力、世界8拠点から大型トランス・リアクタを供給できる生産体制、大手主要顧客において築き上げたプレゼンスを活かし、引き続き当該市場におけるシェアの拡大や新規案件の獲得を図ってまいります。
データセンターでは、HVAC(冷却機器)においてトランス・リアクタが、UPS(無停電電源装置)では電流センサ、ゲートドライバモジュールなどのモジュール製品が使用されています。当社グループから提供が可能な製品であり、大型トランス・リアクタと組み合わせて顧客にトータルソリューションを提案して売上拡大につなげてまいります。なお、モジュール製品は中国の連結子会社で生産していますが、売上拡大に向け、2025年度中に電流センサの生産ラインを日本にも設置する予定です。
(電子化学実装関連事業)
電子化学実装関連事業は、売上高は345億7千5百万円、セグメント利益は30億6千5百万円と、増収増益となりました。実装装置は顧客の投資抑制の影響を受けましたが、車載用ソルダーペーストおよびスマートフォン向けフレキシブル基板用ソルダーレジストは堅調に推移したのに加え、円安が売上・利益の増加に寄与しました。
電子化学実装関連事業は、従来から収益性が高く当社グループの利益をけん引しています。さらなる収益性の改善には、付加価値の高い新製品・新市場への展開が必須と認識しています。情報通信分野では、AI搭載スマートフォンの登場など、技術進化によりフレキシブル基板の高密度化・高機能化・薄型化が進んでいます。当社は、カバーレイとソルダーレジスト機能を併せ持ち、高密度部品実装や低反発性など優れた特性を持つ感光性カバーレイ(PICC)を開発し、販売しています。本格的な拡大は次期中期経営計画期間と見込んでおり、SDV(Software Defined Vehicle)のセンサやディスプレイ、AIサーバー周辺のセンサ基板などへの展開を図るとともに、より高機能な製品の開発を進めてまいります。また、クリーンエネルギー関連市場が将来的には次世代パワー半導体へ進化すると見込まれるため、小型化・高集積化が進む次世代パワー半導体のデバイス向けに、金属接合技術とペースト技術を掛け合わせた高耐熱接合材の開発を推進し、事業拡大を目指してまいります。実装装置においては、従来のリフロー装置よりもさらに環境負荷の低減に資する製品の開発を進めています。
(情報機器関連事業)
情報機器事業は、売上高は28億6千5百万円、セグメント損失は1億8千1百万円と減収および赤字転落となりました。放送局向け音声設備の更新案件の延期および、放送業界全般における厳しい設備投資環境の継続によるもので、2025年度においては、延期となった案件などを確実に売り上げることで、増収および赤字解消を見込んでいます。
② 資本の財源及び資金の流動性に係る情報
当社グループは、設備投資およびその他の事業資金については、自らの事業活動により獲得した内部資金で対応することを基本方針としています。しかし、成長投資や一時的な運転資金の充足のために資金需要が生ずる場合には、時々の金融市場の状況を踏まえた適切な手段により外部からも調達できるよう多様化を図っており、現時点においては銀行からの借入を実施しています。不測の事態に備え、機動的な短期運転資金としてコミットメントライン契約を維持しており、手許流動性を高められるよう対応しています。
第14次中期経営計画においては、体質改善によりキャッシュ創出力を向上させ、注力市場、注力製品への投資を行います。主な財源は、自己資本の他、銀行借入やファイナンス・リースの利用を予定しています。
③ 重要な会計上の見積り方針及び当該見積りに用いた仮定
連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。
(吸収分割契約)
当社は、2025年3月28日開催の取締役会において、当社の連結子会社である株式会社光波(以下、「光波」)のネットワークソリューション事業を、株式会社ヨコオ(以下、「ヨコオ」)を承継会社として、吸収分割すること(以下、「本吸収分割」)について決議を行い、同日付けで事業承継契約を当社、光波およびヨコオの間で締結し、光波およびヨコオは吸収分割契約を締結しました。
(1) 本吸収分割の目的
当社は、第14次中期経営計画(2025年4月~2028年3月の3カ年)においては、事業ポートフォリオを見直し、次世代パワーエレクトロニクス関連の注力製品やクリーンエネルギー関連の注力市場に経営資源の集中を進める方針です。本吸収分割により、当社の中期経営計画に基づく戦略を推進するとともに、「コト売りビジネス」/「サブスクリプションビジネス」に注力するヨコオにおいてネットワークソリューション事業のさらなる発展を期待できると考え、本吸収分割を決定しました。
(2) 本吸収分割の概要
① 本吸収分割の方式
光波を分割会社とし、ヨコオを承継会社とする吸収分割です。
② 本吸収分割の効力発生日
2025年6月1日
③ 本吸収分割に係る割当ての内容
本吸収分割の対価として、ヨコオは光波に対し250百万円の金銭を交付する予定です。
④ 本吸収分割に係る割当ての内容の根拠および理由
対価となる金銭の算定につきましては、ネットワークソリューション事業における収益性、将来の見通しやリスク等を総合的に勘案し、当事者間で協議を重ねたうえで決定しました。
⑤ 分割する資産、負債の状況
現時点では確定していません。
⑥ 分割会社の概要(2025年3月31日現在)
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名称 |
株式会社光波 |
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本店所在地 |
東京都練馬区 |
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代表者の役職・氏名 |
代表取締役社長 水間奈奈世 |
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事業内容 |
自動販売機用製品、LED応用製品、センシ ング製品等の開発・販売 |
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資本金 |
480百万円 |
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設立年月日 |
1985年12月2日 |
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資本関係等 |
当社が100%出資 |
⑦ 承継会社の概要(2025年3月31日現在)
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名称 |
株式会社ヨコオ |
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本店所在地 |
東京都千代田区 |
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代表者の役職・氏名 |
代表取締役兼執行役員社長 徳間孝之 |
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事業内容 |
自動車部品の製造ならびに販売、情報通信機器の製造ならびに販売、電気機械器具製品および電子機械器具製品の製造ならびに販売、医療用機械器具の製造ならびに販売、前各号に附帯関連する事業 |
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資本金 |
7,819百万円 |
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設立年月日 |
1951年6月14日 |
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資本関係等 |
当社と資本関係はありません。 |
当社グループは、「オンリーワン・カンパニーの実現」をスローガンに、タムラならではの「オンリーワン技術」で市場ニーズに応える製品づくりを進めています。
当連結会計年度は、各事業において中期経営計画で掲げる「パワーエレクトロニクス」・「モビリティ」・「IoT」という3つの成長市場に向けた製品開発を進めると共に、既存の事業部門の枠を越えた全社未来開発を推進しました。当連結会計年度における各セグメント別の研究開発活動は、次のとおりです。
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セグメントの名称 |
金額(百万円) |
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電子部品関連事業 |
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電子化学実装関連事業 |
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情報機器関連事業 |
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報告セグメント計 |
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全社(共通) (注) |
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合計 |
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(注) 「全社(共通)」の区分は、各セグメントに配分できない未来開発研究費用です。
① 電子部品関連事業
パワーエレクトロニクスとモビリティ関連において、市場拡大が期待される製品の開発を強化しました。
・大電力パワースイッチング半導体の駆動に使用するゲートドライバモジュールの開発を進めています。IGBT、SiC-MOSFETのどちらにも対応可能で、機器の設計が大幅に簡素化されます。次世代パワー半導体での使用を想定した、高耐圧・高周波対応モデルの開発を進めています。
・電流センサは、省エネ・創エネ・蓄エネなどの場面で使用されることを想定して開発を進めています。電流レンジ・精度レンジなどのラインナップを充実させました。
・EV急速充電器や燃料電池などに向け、小型高密度化を実現し、輻射ノイズ(近傍磁界)を50%削減したスイッチングトランス(Heat dissipation ferrite switching transformer。以下、「HDF SWトランス」)を開発しました。HDF SWトランスは、独自のコア形状の採用により近傍磁界を50%低減しました。放熱性に優れた構造で、小型高密度化を実現しています。また1次/2次巻線間の磁気結合面積を小さくする分割巻き構造を採用しており、回路上最適な10%~20%程度のリーケージインダクタンスを容易に確保できます。これにより回路上の共振コイルが不要となり、コストの削減、取り付け床面積の縮小による機器の小型化につながります。
研究開発費用は、3千5百万円です。
② 電子化学実装関連事業
パワーエレクトロニクス・モビリティ・IoTの各領域に対して、電子化学材料から実装装置までの幅広い分野で、技術開発・製品開発を推進しました。
・ロジック半導体の性能向上の要求により、従来工法よりも優位な新しいはんだ付け工法、および接合材の研究開発を推進しています。
・パワー半導体チップ接合や基板下接合用に、新たな高耐熱接合材の開発を進めています。SiC、GaN、酸化ガリウムなど、高性能化が期待される次世代パワー半導体での適用を目指しています。
・車載機器用の高耐熱高信頼ソルダーレジストの開発を進めています。
・高密度化・高機能化・薄型化するフレキシブル基板向けに、カバーレイとソルダーレジスト機能を併せ持つ、感光性カバーレイ(PICC)を開発しました。高まる効率化要求に対応し、伝送損失をさらに低減する製品の開発を進めています。
・リフロー装置は、更なる省エネ化、高速段取り替えや予防予知機能などに関して開発を進めています。
研究開発費用は、3億2千5百万円です。
③ 情報機器関連事業
ネットワーク化や多様化する情報サービスのニーズに対応した製品開発を推進しました。
・ラジオ局での生放送等の音声制作に適したコンパクトな音声調整卓(ミキサー)を開発しました。コンパクトミキサー「エフ100」は、放送局向けミキサーで培った信頼性を継承しつつ、ラジオ番組制作現場の声をもとに機能を厳選しました。音声処理を行うエフコア、フェーダーユニット、パネルPCを分離してフリーレイアウト を実現し、フェーダーは最少6フェーダーから最多24フェーダーまでオプションで変更できます。操作性を考慮したシン プルなデザインで、パネルPCにはタッチスクリーンを採用しました。オプションで電源の二重化に対応しており、生放送の信頼性を高めます。
研究開発費用は、1億1千8百万円です。
④ 未来開発関連事業
当社創業100周年の次を支える新製品新市場の創出に向けて。事業部横断による研究開発を進めています。
・カーボンニュートラル社会の実現に向け、ワイドバンドギャップパワー半導体が期待されていますが、その性能を十分に発揮するためには、トランス・リアクタなどの磁性部品や、パワーエレクトロニクス回路の技術進化が必要不可欠です。特に、当社が保有する素材技術に着目し、独自のコア技術の強みを生かすことで、高周波化や大電流化が進む将来のエレクトロニクス市場において期待される新製品の開発を産学共同で進めています。
・高効率・高電力・高周波駆動の受動デバイスおよびその関連素材の研究開発推進を目的に、国立大学法人東北大学産学連携先端材料研究開発センターに研究室「株式会社タムラ製作所 仙台アドバンスドラボ」を開設しました。2030年頃の次世代磁性受動部品およびその関連製品の事業化を目指し、研究開発を強化・推進します。
研究開発費用は、4億3千3百万円です。