第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

(1)会社の経営の基本方針

 当社グループは、企業理念「アルプスアルパインは人と地球に喜ばれる新たな価値を創造します」、及び現在のESG、SDGsにも通ずる創業期制定の社訓をベースとした「価値の追究」「地球との調和」「社会への貢献」「個の尊重」「公正な経営」の5つの経営姿勢をグループ共通の価値観として、各社が連携して経営計画を推進し、企業価値の最大化を図っていきます。

 

(2)中長期的な経営戦略と目標とする経営指標

 当社は、今回、次の10年を見据えた新たな長期企業ビジョンとしてビジョン2035を策定しました。

当社は、長い年月にわたり感性工学を基幹技術として研究を続け、人の五感に対して心地よい直感操作と感触、快適空間の提供を価値として、ヒューマンマシーンインタフェースを中核に技術を進化させてきました。当社の五感に関わる強い要素技術を、モビリティ事業の資産であるソフトウェア、そしてセンサー事業で培ってきた独自IC設計技術と融合し、これにより当社が掲げる「感動・安全・環境」という提供価値を実現していきます。今後の成長の核として、マルチモーダルな高度化した融合センシングデータの提供を進め、モビリティー市場におけるデジタルキャビンでの活用はもとより、新たな事業領域として今後加速度的に進化していくロボティックスや、高齢化・少子化による社会課題解決に貢献する市場に向けて製品や技術を展開させていきます。この我々の向かっていく姿を「人の感性に寄り添うテクノロジーで未来をつくる」と表現しました。

 これらビジョン2035で目指す姿を達成するべく、2025年4月より2028年3月までの中期経営計画2027をスタートさせました。中期経営計画2027では、当社のコア技術を活かしたユーザー中心の製品開発、環境に配慮した持続可能な技術の導入、多様性の推進、持続可能なサプライチェーンの管理、そして革新的な技術の開発を通じて人々の生活を向上させ、持続可能な未来の構築の実現を目指していきます。

 

<中期経営計画2027 基本方針>

1.高付加価値の追求

従来の売上成長主義から脱却し資本コストを意識したROIC経営を開始しました。各事業の収益力を強化する施策とともに、会社全体の収益力を最大化する最適ポートフォリオを構築します。

 高付加価値製品であるデジタルキャビンへのシフト、不採算製品の縮小、製品ラインアップの絞り込みを図ります。

2.次の事業の仕込み

第2次中期経営計画期間まで収益を牽引していたスマートフォン関連の製品を継承する次世代電子部品・デバイスの有望市場として、コア技術に立脚した新製品や、センサー領域を核とした次の事業の柱となる市場・製品を開拓します。

3.経営基盤の強化

今後の人手不足を補いコスト競争力を維持・拡大するための生産拠点再編・国内強靭化、SDV時代を担うソフトウェア開発の強化、人的投資、バランスシートマネジメントの実践等を通じて、会社全体の収益を支える経営基盤の強化を図ります。

 

<中期経営計画2027 事業ポートフォリオ>

事業セグメントの位置づけは、事業セグメントを収益基盤の維持・拡大を目指す「コンポーネント事業」、今後の成長領域と位置づけて伸ばす「センサー・コミュニケーション事業」、改善により収益体質の良質化を図る「モビリティ事業」と定義し、よりバランスの取れた成長に向けた取り組みを進めていきます。なお、2026年3月期より従来の「モジュール・システム事業」は、製品の融合が進み、今後デジタルキャビンへの移行とその実現のための内部の組織体制の一本化を進めることから「モビリティ事業」へ名称を変更しました。

これらの取り組みを通じて、2027年3月期でPBR1倍以上、2028年3月期にROE10%の達成を目指します。

 

(3)会社の経営環境と対処すべき課題

 当社は日本をはじめ北米、欧州、中国、その他アジアを中心に23の国と地域に186拠点を持ち、約40,000種類の製品・サービスを車載市場、モバイル市場、民生市場向けに販売しています。車載市場は、主に日本・北米・欧州の大手自動車メーカー向けに直接販売するTier1ビジネスを中心に、世界中の自動車部品メーカー向けに販売するTier2ビジネスも行っています。モバイル市場は、大手スマートフォンメーカーをはじめ、その他モバイル関連製品を扱う顧客にも販売を行っています。また、民生市場は、自動車やモバイル製品以外のパソコン、家電、ゲーム機器や一部産業機器等のメーカーに販売しています。

当社グループを取り巻く経営環境は、グローバル市場での競争が激化しており、世界市場での競争力を維持するために、経済的な変動に対応する必要があります。特に足許では、米国発動の追加関税等の地政学リスクにより不確実性が高い状況にあり、短期での関税対応と中長期を見据えたサプライチェーンの見直しが重要課題になっています。

また、車載市場における当社の事業領域では、車の自動運転や電動化とともに車室内の電子化による技術進化が急速に進んでいます。特にインフォテインメントシステムやデジタルキャビンの開発が進み、車内の快適性と利便性が向上しています。近年では中国資本の企業がこの分野で躍進し、これに対抗して、従来の当社顧客の多くを占める日本や欧米の企業も技術開発と市場拡大に注力しており、企業間競争が激化しています。モバイル市場においては、技術のコモディティ化による競合企業の参入が進み、より一層のコスト対応力が求められるとともに当社のコア技術が活きる新製品の開発が求められています。また、これらの既存市場だけでなく、新規市場開拓としてロボティクス、ライフサイエンス、住宅設備、産業機器、農業、介護、環境、リサイクル市場への参入で当社製品の強みを活かすことを目指します。

 

中期経営計画2027では中期の重要課題として、①モビリティ事業の収益化、②成長ドライバーの不在、③収益予想のボラティリティ低減、④資本効率の改善による収益力の強化の4点を掲げ、課題解決に取り組みます。

 加えて当社グループは、中長期的に企業価値を向上させるためにESG(環境・社会・ガバナンス)領域からも重要な経営課題を特定し、中長期と短期の視点を均衡させた実効性の高い戦略を策定し実行していきます。具体的には、環境価値の高い製品の創出やインターナルカーボンプライシング制度の導入等を通じた事業の持続的な良質化を目指しつつ、GHG(温室効果ガス)排出量の削減、省エネ推進、廃棄物削減等により環境負荷を低減させながらコスト競争力の向上も図ります。また、再生材の利用や廃棄物削減・再資源化による資源循環の促進を本格化させます。これら活動の推進力を、人財のリスキリング(再教育)とリーダー育成により増強していきます。更に、経営関連会議の実効性改善策等を通じてコーポレート・ガバナンスを強化し、前述の活動を後押ししながら、当社グループは持続的な成長を目指していきます。

 

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであり、実際の結果とは様々な要因により異なる可能性があります。

 

(1)サステナビリティー全般

当社グループでは、社会や顧客からの要求、法規制への対応に留まらず、将来にわたり持続的に成長し、社会的価値と経済的価値を創出するためサステナビリティー経営は重要な課題であると捉え、サステナビリティー課題を含むマテリアリティーを設定するとともに、全社及び各本部や部門の中期経営計画へ落とし込み、活動を推進することで、企業理念である「人と地球に喜ばれる新たな価値の創造」の実現を目指しています。

 

① ガバナンス

2025年度よりサステナビリティ委員会の位置づけを変更し経営会議の一つとして、サステナビリティー課題の監督は取締役会が行い、各本部における活動の進捗管理・課題に関する議論と取締役会への報告をサステナビリティ委員会が実施することで、経営レベルでの課題検討と意思決定のスピードの向上に取り組むとともに、サステナビリティーに係るマテリアリティーごとに担当役員を新たに明示することでサステナビリティー経営の更なる強化を図っています。

 

 <推進体制>


 

<サステナビリティーに係る会議体>

会議名

役割

構成メンバー

頻度

取締役会

(議長:代表取締役 社長 泉 英男)

▪サステナビリティー課題を含め

 た中期経営計画の決議

▪サステナビリティー課題の監督

取締役

(社外取締役含む)

1回/四半期(定期報告)及び適時課題審議

サステナビリティ委員会

(委員長:代表取締役 専務執行役員 小平 哲)

▪各本部におけるサステナビリテ

 ィー施策の進捗管理

▪サステナビリティーに係る課題

 の議論

執行役員

1回/四半期

 

 

 

<2024年度の経営会議における主なサステナビリティー議題>

経営会議名

時期

議題

取締役会

5月

・サステナビリティ委員会報告

 -サステナビリティ委員会体制変更

 -テーマ別2023年度実績と2024年度実行計画

・マテリアリティー(重要課題)の見直し

取締役会

7月

・サステナビリティ委員会報告

 -ESG評価結果

 -テーマ別第1四半期進捗

取締役会

8月

・従業員エンゲージメントサーベイ結果

取締役会

9月

・地域貢献活動に関する今後の取り組み

取締役会

10月

・サステナビリティ委員会報告

 -中期経営計画2027策定プロセス(ESG)

 -スコープ3削減の考え方と進め方

 -コンプライアンス・CSR研修受講状況

 -テーマ別第2四半期進捗

取締役会

11月

・SR(Shareholder Relations)エンゲージメント結果

取締役会

1月

・中期経営計画2027に向けたマテリアリティー(重要課題)改訂

・サステナビリティ委員会報告

 -中期経営計画2024(ESG)振り返り

 -サステナビリティーに関する重要課題の特定

 -テーマ別第3四半期進捗と中期経営計画2027KPI案

中期経営計画会議

3月

・サステナビリティー課題を含む中期経営計画2027審議

 

 

<サステナビリティーに関連するインセンティブ>

 2024年6月支給分より、サステナビリティー課題に対して役員自らがリーダーシップを発揮して活動を推進することを目的として、ESG評価に係る指標を譲渡制限付株式報酬に追加しています。ESG評価機関の評価結果を基にして算出する当社の基準により、その結果を役位別に定める株式報酬額に対して±20%の範囲で加減算しています。詳細は、「第4 提出会社の状況 4.コーポレート・ガバナンスの状況等 (4)役員の報酬等」を参照ください。

 

② リスク管理

当社グループでは、ビジョン2035の実現及び中期経営目標の達成に向け、サステナビリティー課題を含めたマテリアリティー設定プロセスにおいて、関係部門に対して社内外の環境認識並びに機会とリスクに関する調査及びヒアリングを定期的に実施することでリスクと機会を識別しています。識別したリスクと機会は、経営諸会議で検証・評価し、機会への戦略とリスクへの対応策を検討しています。

 

<マテリアリティー設定プロセス>

STEP 1
ビジョン2035及び中期経営目標を踏まえ、当社事業を取り巻く環境、リスクと機会を整理

STEP 2
機関投資家等のステークホルダーとのエンゲージ結果を加味し、重要課題を抽出

STEP 3
重要課題を当社事業への影響度とステークホルダーの関心度を軸に優先順位付け

・経営戦略室、サステナビリティ推進室、ガバナンス推進室、人事部、事業本部・担当

・経営会議(審議)

・取締役会(審議・決議)

 

 

<リスクと機会の特定>


 

 中期経営計画2027においては、気候変動に伴う自然災害や世界各国の環境関連規制への対応及び環境対応製品の拡充による新規ビジネス獲得等の「環境への対応」と、価値創造に必要となる人財育成及びエンゲージメント向上によるイノベーション促進や生産性の向上等の「人的資本」をサステナビリティー経営における重要なテーマと認識し取り組みを強化しています。

 なお、当社グループでは、ESG担当役員をリスク管理責任者とし、リスクを網羅的に整理し優先順位付けを行ったリスクマップ並びにリスク管理規定を整備しています。また、この規定に基づく危機管理マニュアルに明示したリスク情報一覧表により、想定されるリスク及び影響と対応策を展開し、各責任部門にてリスクへの対応を行っています。サステナビリティー関連リスクの詳細は「3.事業等のリスク」を参照ください。

 

③ 戦略

当社グループは、サステナビリティー経営による社会的責任の遂行は、企業の持続的成長及び価値の最大化に欠かせない重要な経営課題であると捉え取り組みを進めています。また2025年1月に、従来の事業側面に加えてESRS(欧州サステナビリティ報告基準)に基づくダブルマテリアリティー及び人的資本経営の側面も加味したマテリアリティーを改めて特定するとともに、「事業への影響度」と「ステークホルダーの関心度」を軸とするマテリアリティーマップへ落とし込み、それぞれに対応するテーマ/施策及びKPI(中期)を設定しています。なお、各マテリアリティーは提案部門が中期経営計画へ落とし込み、主体的に活動を推進するとともに、サステナビリティ委員会による進捗確認等を行うことで、サステナビリティー活動におけるPDCAサイクルを実行しています。

 

<マテリアリティーマップ>


     ※下線テーマがサステナビリティーに係るマテリアリティー

     ※(E):環境、(S):社会、(G):ガバナンス

 

④ 指標及び目標

当社グループでは、マテリアリティーごとにテーマ/施策、KPI(中期)をそれぞれ設定し、ESG視点による進捗管理と評価を行っています。また、2024年度の活動実績は2025年9月に発行予定の当社統合報告書にて開示する予定です。

マテリアリティー

テーマ/施策

KPI(2025~2027年度)

担当役員・部署

気候変動への適応と緩和

・GHG排出量の削減(スコープ1、2)

・GHG排出量の削減(スコープ3)

・再エネ導入率

・△70%(2021年度比)

・2030年度△25%(2021年度比)

・85%

生産本部長

技術本部長

資源循環の促進

・環境配慮製品の拡充

・再資源化

・新製品における環境配慮製品の割合※1

・廃棄物リサイクル率:97%※2

生産本部長

技術本部長

環境負荷低減に向けた化学物質管理の強化

・製品含有化学物質管理強化

・事業所関連化学物質のガバナンス強化

・製品含有規制物質の重大事故件数:

 0件

・事業所関連化学物質に起因する重大

 事故件数:0件

品質本部長

人事総務本部長

価値創造人財の育成、個の能力を発揮できる風土

・企業ビジョンの展開及びアルプス

 アルパインの価値観の浸透

・個の活躍と社員エンゲージメント向上への実効的なアプローチ

・グローバル人財活用

・人財育成費:前年度比増(単体)※3

・エンゲージメントサーベイスコア:前年

 度比増(単体)※3

人事総務本部長

労働環境、安全衛生の向上

・安全に働ける職場環境の実現

・心身の健康増進

・サプライチェーン上の労働者の健康と安全、適切な労働環境

・重大労働災害件数:0件

・高ストレス職場改善実施率:100%

・取引先向けCSRアセスメント

 Cランク社数:0件

人事総務本部長

人権の尊重

・Social Responsibility領域の経営

 リスク低減

・サプライチェーン上の人権問題の排除(鉱物調達調査)

・人権デューデリジェンス(DD)実施:

 グローバル人権DD実施

・認証精錬所使用率:94.0%(CMRT※4

人事総務本部長

製品の品質・安全の更なる向上

・品質保証基本教育の実施

・機能安全、製品サイバーセキュリティ

 ー推進

・品質保証基本教育の受講率:100%

・安全要件違反件数(ISO26262):0件

・当社責任のサイバーセキュリティー要件

 違反件数(ISO/SAE21434):0件

品質本部長

サプライチェーン最適化と強靭化

・有事対応の迅速化・強化

・生産地/製品物流のリスクマネジメント

 強化

・BCP訓練(自社内):年1回以上実施

・リスクマネジメントの実施(自社内):

 実施及び結果展開

資材本部長

コーポレート・ガバナンスの更なる改革

・経営会議の実効性向上

・アルプスアルパイングループのガバナンス強化

・取締役会実効性評価スコア:

 前年比改善

・社内規程類体系等の整備:整備完了

ESG・法務本部長

コンプライアンス強化と公正な経営実現に向けた企業風土改革

・コンプライアンス教育の強化

・階層別コンプライアンス教育の導入:

 導入完了

コンプライアンス

・監査室

 

※1 2025年度中に決定

※2 廃棄物における埋立以外の比率

※3 連結指標は活動を開始して間もないため、今後目標設定予定

※4 CMRT(Conflict Minerals Reporting Template):紛争鉱物報告テンプレート

 

(2)気候変動への取り組みとTCFDへの対応

当社は、2020年9月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同を表明しています。気候変動関連リスクと機会の分析を行い、その結果を事業戦略につなげることで持続可能な成長及びリスクへの適切な対応を目指していきます。

 

① ガバナンス

「気候変動への適応と緩和」をマテリアリティーの項目として設定し、気候変動課題に対する基本方針や対応策等の重要事項を取締役会で審議・決議しています。社長は気候変動対応を含むサステナビリティー課題に対する最高責任と権限を有しており、社長から任命された取締役がサステナビリティ委員会の委員長として、全てのサステナビリティー施策を監督する責任を負っています。2024年度のサステナビリティ委員会は、執行役員が参加する経営レベルの会議として実施しました。これにより、経営層による意思決定と役員間の連携をより密にし、重要課題に迅速かつ的確に対応できる体制としました。また、サステナビリティーに係る課題に対して役員自らがリーダーシップを発揮して活動を推進することを目的とし、2024年6月よりESG評価に係る指標を役員報酬である譲渡制限付株式報酬の評価指標に追加しています。

サステナビリティ委員会は、各施策の進捗状況を定期的に確認するだけでなく、気候変動や資源循環等の重要課題について議論を行い、必要に応じて全社方針の決定を行っています。具体的には、スコープ3におけるGHG排出量について、当社1次サプライヤーのスコープ3のGHG排出量が占める割合は約6割であるという調査結果を共有した上で、スコープ3のGHG排出量削減の重要戦略として「製品設計段階での排出量削減」を設定しました。また、気候変動の機会について、EUタクソノミー適合性評価結果を共有し、サステナビリティー推進部門と技術本部が協力して、環境価値の創出に向けた活動を推進していくことを決定しました。なお、従前のマテリアリティーである「脱炭素社会の実現」では、気候変動の緩和を最重要課題としていましたが、今後は一定程度の気候変動による異常気象を肯定し、気候変動に対して適応する取り組みも必要であると考え、新しいマテリアリティーでは「気候変動の適応と緩和」と改めています。

なお、サステナビリティ委員会で審議された環境に関連する施策・KPIは、取締役会に報告しています。

 

② 戦略

当社は、気候変動に関するシナリオ分析を実施し、その結果を基にリスクと機会を特定しました。これにより、当社の事業に与えるインパクトを内部的な基準に基づいて定量的に評価しました。

 

1)シナリオ分析方法

IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)及びIEA(International Energy Agency)の情報を基に、物理シナリオ(RCP8.5、RCP2.6)及び移行シナリオ(STEPS、NZE)を選定し、4℃と1.5℃のシナリオ世界観における分析を行いました。2030年時点の4℃シナリオと1.5℃シナリオには気温上昇に大きな差異が見られないこと、事業視点で2050年時点の移行リスク・機会を予測することは困難であるため次の組み合わせに対して評価を行いました。

 

 

2030年

2050年

移行リスク

2℃/1.5℃シナリオ

物理リスク

4℃シナリオ

機会

2℃/1.5℃シナリオ

 

 

2)シナリオ分析結果

シナリオ分析の結果、4℃シナリオの場合、異常気象に伴う災害の激甚化に対して国内外の拠点への対策のみならず、サプライチェーン全体に範囲を広げたリスク対策の重要性を認識しています。一方、1.5℃シナリオの場合は、移行リスクを低減するために、脱炭素化に対する取り組みを継続的に推進するとともに、気候変動に適応する製品・サービス・市場における機会への積極的な対応が必要であると再確認しました。

 

3)リスクと機会の評価

リスクは、移行リスク(政策と法規制、技術、市場、評判)と物理リスク(急性、慢性)の側面から評価しました。

 

リスク種類

気候変動に

関する分類

リスク

時間軸※1

財務

影響度※2

対応策

移行

 

新たな規制

炭素価格設定

メカニズム

2023年に欧州で試験導入が始まったCBAM※3は、現在、CO2排出量が多い材料に限定されているが、今後、対象部材の拡大や各国への政策拡大が予想される。低CO2部材を適用しない場合、追徴税の支払いが増加する。また、低CO2部材を適用した場合は、原価率が悪化し収益に影響するリスクがある

長期

製品群ごとのホットスポット分析を行い、影響が大きい部材から順にCO2排出量低減を推進

需要の変化

顧客行動の変化

企業レベルのGHG排出量調査から製品カーボンフットプリント調査に変化しつつあり、算定工数が増加するリスクがある

中期

製品カーボンフットプリント算定業務を組織的な活動とするための体制強化

自動車業界を中心に生産時のCO2排出量削減が加速。低CO2排出材への切り替えや設計が進まず、競争力が低下するリスクがある

中期

製品群ごとのホットスポット分析を行い、影響が大きい部材から順にCO2排出量低減を推進

物理

急性

サイクロンや洪水等の異常気象の重大度と頻度の増加

昨今の異常気象により、どの地域においても大型ハリケーンが直撃するリスクがある。大型ハリケーンが直撃した際のリスクは、河川氾濫による洪水リスクであり、当社生産工場だけでなく、サプライヤー生産工場も同様にリスクがある

中期

自社工場及び主要サプライヤー工場の洪水リスクマップの作成

慢性

平均気温の上昇

平均気温の上昇により、特に夏場において猛暑日が増え、疲労による生産性の低下や空調稼働率増加によりエネルギーコストが上昇するリスクがある

長期

空調設備のエネルギー消費量増加に伴う電力コスト増加を抑制するため、効率的な省エネ施策と、ポートフォリオ視点での再エネ調達戦略を実現するため、インターナルカーボンプライシング制度を導入

 

※1 短期:1年以内、中期:3年以内、長期:3年超(現在は2030年まで)

※2 大:売上~10%、中:売上3%程度、小:売上0.5%~

※3 CBAM(Carbon Border Adjustment Mechanism):EUが導入した炭素国境調整措置

 

機会は、資源効率性、エネルギー源、製品とサービス、市場、レジリエンスの側面から評価しています。

機会の

種類

気候変動に関する分類

機会

時間軸※1

財務

影響度※2

製品/

サービス

研究開発と技術革新による

新製品又はサービスの開発

・気候変動に起因する異常気象が頻繁に発生するようになり、気候変動へ適応した経済活動にシフトしている。気候変動へ適応するには影響と効果を定量的に測定できなければならない。当社は各種センサー技術・製品を有しており、様々な市場に潜在的なニーズがあると予測できる

中期

・気候変動に起因する異常気象は河川洪水による災害リスクや降水量の減少による水ストレス地域の拡大等、水リスクが重要課題になる。当社は漏水センサーや水位センサー等水関連製品・技術を保有しており、これらの需要が増加することが予測できる

短期

低排出材及びサービスの

開発・拡張

・環境負荷が高いメッキや塗装等に変わる新しい加飾技術(光加飾等)を用いた製品の提供によりビジネスが拡大

中期

資源の

効率性

より効率的な生産及び流通プロセスの利用

・物流トラッカーの市場導入により効率的な流通に貢献

・アナログメーターの市場導入により工場のIoT化に貢献

中期

 

※1 短期:1年以内、中期:3年以内、長期:3年超(現在は2030年まで)

※2 大:売上~10%、中:売上3%程度、小:売上0.5%~

 

 

4)リスクマネジメント

企業の持続的成長と企業価値向上を実現するためには、事業を取り巻く様々なリスク項目について、事業への影響度と重要度を見極めた上で、中長期で施策を立案、対応していくことが重要であると認識しています。当社は、リスクに対する備えを検討するためのフレームワークとしてリスクマップを作成しており、気候変動関連リスクは経営上のリスクとしてリスクマップに含まれています。具体的な活動としては、年に1回、担当部門がリスク調査を行い、洗い出されたリスクはサステナビリティ委員会で評価・管理しています。また、財務影響度の大きいリスクは取締役会に報告し審議されています。

 

③ 指標及び目標

当社は、2050年度にバリューチェーン全体のGHG排出ゼロを目指し活動を推進しています。中期目標として2030年度にGHG排出量(スコープ1、2)を2021年度比90%削減することを目指しており、2024年4月にSBT(Science Based Targets)認定を取得しました。また、「RE100」に加盟し、2030年度に再エネ導入率100%達成を宣言しています。

当社は、徹底した省エネ活動や積極的な再エネ利活用を推進することで、GHG排出量削減に貢献していきます。

 

2050年目標

バリューチェーン全体のGHG排出ゼロ

2030年目標

GHGスコープ1、2:90%削減(2021年度比)

GHGスコープ3  :25%削減(2021年度比)

※排出量に占める割合が大きいカテゴリ1(購入した製品及びサービス)、カテゴリ4(上流輸送・配送)、

カテゴリ11(販売した製品の使用)を対象

RE100コミットメント:使用する電力の再生可能エネルギー比率100%

 

 

(3)人的資本

当社グループは、創業以来「人に賭ける」の考え方を継承し、個人の能力開発・発揮及び組織としての成果最大化を基盤とした人的資本に関する取り組みを実施しています。2025年4月より3ヵ年の中期経営計画2027の開始に当たり、企業理念や事業戦略を踏まえ、「多様で自律した社員が企業理念に共感し、互いに信頼・連携しながら主体的に行動することにより、個人の成長、組織成果の最大化と会社の持続的成長を実現」を目指す姿として定義しました。また、目指す姿(To be)の達成に向けて①人財ポートフォリオの充実、②価値創造人財の確保と育成、③個の能力を発揮できる風土醸成の3つを人的資本経営の重点テーマとして整理し、これらの課題を解決することを通じて、人的資本の拡充・活用と目指す姿の実現及び企業価値の向上を目指します。

 


 

① ガバナンス

当社グループでは、人的資本経営を担う責任者として人事総務本部長を設置し、取締役及び執行役員と連携して人と組織に関する課題のリスク把握と適切なリスクマネジメントを行っています。

人的資本に関する方針・計画等に関しては、その重要性に応じた議論を経て、取締役会及び執行役員の出席する人的資本会議に対して付議・報告しています。また、サステナビリティ委員会へは、人的資本に関する各取り組みの進捗状況を定期的に報告・討議することで、サステナビリティー経営全般としての統制を図っています。

 

<人的資本に関連する付議・報告の状況>

会議体

4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

11月

12月

1月

2月

3月

サステナビリティ

委員会

 

 

 

 

 

 

 

 

人的資本会議

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

② 戦略

1)人財ポートフォリオの充実

事業戦略を実行するための組織編制を機動的に実施できるように、人財ポートフォリオの解像度をグローバルで高める取り組みを行っています。海外現地法人における管理職の育成状況を把握するなど、グローバルで人財に関する情報の更新を定期的に行い、国や地域を越えて人財を活用することで事業環境の変化に追従し、組織目標の達成に貢献していくことを目指しています。また、事業を創出する人財育成の充実・強化が急務となっており、当社の企業理念及びビジョン2035の実践には、社会的な課題等を起点とした新たな価値や事業を創出できる人財の育成が重要と考え、事業構想に関する国内外学習の機会を提供するなどの取り組みを積極的に進めています。

 

2)価値創造人財の確保と育成

自身の強みを活かし、組織に貢献できる人財を「価値創造人財」と定義し、多様な価値を生み出す人財の確保・最適配置・育成を目指します。採用場面では、採用市場への情報発信を増強させるとともに多様な採用経路を確保し、当社企業理念への共感や相互理解などを通じたマッチング性を重視した取り組みを進めています。また、新入社員のみならず全ての社員は、自身が希望する研修を受講できるなど能力開発に係る機会の創出に加え、社内公募制度や本部等をまたいだ異動を積極的に促進させることで最適配置を行っています。

 

3)個の能力を発揮できる風土醸成

当社の企業理念やビジョン2035など上位方針の実現に向けて、社員一人ひとりが能力を最大限に発揮できる心理的安全性の高い風土醸成を更に進め、多様な社員がポテンシャルを存分に発揮できる環境整備に取り組んでいます。特に、DE&Iの観点では、女性活躍推進やシニア向けのキャリア支援、外国籍社員向けのサポートの拡充等に取り組むとともに、様々な立場から物事を多面的に捉える機会を管理職をはじめ幅広い社員に提供しています。これにより、評価や登用においても成果や役割貢献等を基にする考え方が浸透したことで、男性社員の育児休暇取得率等が上昇するなど具体的な成果へとつながっています。

 

<個の能力を発揮できる風土醸成に係る活動概要>

項目

内容

女性活躍推進

・社外交流会

・女性リーダー育成外部研修

シニア向けキャリア支援

・雇用に関する社内規定の改定

・対話活動の実施

外国籍社員向けサポート充実

・やさしい日本語ワークショップ

 

 

当社グループでは、これまで対話型マネジメントの浸透に向けた取り組みを通じて、挑戦と成長を生む企業風土の実現に取り組んできました。これにより、自らの働きがいや成長した姿を見出し、主体的に行動する社員が増加しつつありますが、それに伴いマネジメントとしてやるべきことも年々増大し、課題が高難度化する状況の中で中間管理職層が部下と向き合う時間が十分に取れないことが課題となってきています。そのため、社員のキャリア自律支援を継続的に行うとともに、中間管理職層がマネジメント業務に集中できる環境づくりも進めていきます。

 

なお、当社グループでは、女性活躍推進法に基づく行動計画を策定しており、女性が活躍できる社内環境の整備を計画的に実施しています。

 


 

また、2024年度より全社員を対象にエンゲージメントサーベイを定期的に実施することとしました。こうした多様な人財が社内で活躍できる風土醸成を通じて、エンゲージメントが高まり、更なる成果発揮へつながることを期待しています。

 

4)労働環境・安全衛生

当社グループでは、重点テーマを遂行するに当たり、その基盤となる労働環境及び安全衛生の維持・向上は欠かせない事項であると捉え「安全衛生方針」を策定し、従業員一人ひとりが安全に、そして心身ともに健康に働ける職場環境づくりに努めています。

 


 

また、2021年4月に「健康経営宣言」を制定しており、従業員の健康管理を重要な経営課題と捉え、健康診断やストレスチェックの定期的な実施、特定保健指導の実施率向上をはじめとする様々な「健康経営」の実践に積極的に取り組むとともに、2022年度より健康経営ワーキンググループを発足させ、取り組みを推進しています。

 


 

③ 指標及び目標

当社における、2022~2024年度における指標/目標及び活動実績は次のとおりです。

なお、当社グループは、各社それぞれ独自に人事制度を整備・管理していること、特に海外現地法人においては各国の法規制や慣習、外部環境や社内での課題認識等も異なることから、日本の国内法令に基づく集計を除き、人的資本管理関連指標の取りまとめを行っていません

 

テーマ/施策

KPI(2022~2024年度

2024年度実績

人財の確保と育成

採用計画充足率100%(単体)※1

116%(単体)

人財育成費:前年度比増(単体)※1

前年比+4.63%(単体)

働きがいの醸成

エンゲージメント指標及び測定方法の確立※2

64.5pt(単体)

ダイバーシティー&

インクルージョン

新卒女性採用比率15.0%(単体)※3

10.8%(単体)

女性管理職比率6.0%(単体)

4.0%(単体)/17.3%(連結)

障がい者雇用率2.6%(国内連結)※4

2.66%(単体)/2.64%(国内連結)

男性育児休業取得率45.0%(国内連結)※4

66.2%(単体)/59.6%(国内連結)

 

※1 提出会社の人財の確保と育成を目的としており、国内・海外連結子会社は含まず

※2 提出会社を対象として実施しており、国内・海外連結子会社は含まず

※3 提出会社の女性社員比率向上を目的としており、国内・海外連結子会社は含まず

※4 本取り組みは国内法を基本としたものであり、海外連結子会社は対象に含まず

 

なお、これまで当社グループは日本国内の従業員に関するデータを中心に人的資本に関する取り組みを進めていましたが、中期経営計画2027においては、グローバルでの人的資本に関するデータ整備と一体的なマネジメント体制の構築に向けて、以下の指標/目標を設定し取り組みを進めていきます。

 

テーマ

指標

目標(2025~2027年度

2024年度実績

人財ポートフォリオの充実

付加価値創出率

130%超(連結)

129.9%(連結)

価値創造人財の確保と育成

人財育成費

単体:前年度比増

連結:活動を開始して間もないため、今後目標を定めます

24,199円/人(単体)

個の能力を発揮できる風土醸成

エンゲージメントサーベイスコア

単体:72pt

連結:活動を開始して間もないため、今後目標を定めます

64.5pt(単体)

 

※国内外の動向等を踏まえ今後も労務費上昇が見込まれることから、付加価値創出額も同様に上昇させていくことを想定し、2024年度と同程度の目標設定としています

 

 

3【事業等のリスク】

(1)リスクマネジメントの考え方

当社グループは、リスクマネジメントを事業の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を実現するための「経営・事業運営の基盤=攻めの経営を支える基盤」と位置づけ、事業のグローバル化、サプライチェーンの複雑化等により多様化するリスクに対して、今後起こり得るリスクやそれらによる事業への影響度に応じて被害を回避又は最小化するための取り組みを進めています。

 

(2)リスクマネジメントの活動サイクル

当社は、リスク管理部門を設置し、当該部門が中心となって、各種委員会・会議を通じて、リスクマップにて定められる主要リスクごとにリスク低減施策・BCPを策定し、リスク対応力の向上に努めています。また、リスク管理部門が主管となって、リスク管理に関する教育・訓練を実施しています。

更に、事業に重大な影響を及ぼしうる自然災害、サイバー攻撃等の危機が発生した場合には、社長を本部長とする危機対策本部を設置し、早期復旧、損害の最小化を図っています。

 


 

(3)当社グループにおける主要リスクについて

有価証券報告書に記載した事業の状況・経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識しているリスクを可視化し、それらの発生可能性、事業への影響度、リスク対策の実施状況等の観点から評価したリスクマップを整備し、その中から優先順位付けした当社グループの主要リスクを示しています。

 

 

<リスクマップ(当社グループの主要リスク)>


 

当社グループにおける主要リスクの内容と取り組みについては次のとおりです。なお、文中においては将来に関する事項が含まれていますが、当該事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

①事業戦略リスク

1)ビジョン2035・中期経営計画2027に係るリスク

<リスクの内容>

当社グループは、注力事業の成長と収益体質への変換を図り、企業価値を向上させるため、ビジョン2035「人の感性に寄り添うテクノロジーで未来をつくる」及び中期経営計画2027を策定しました。当該ビジョン及び中期経営計画は、策定時点における経済・事業環境の認識等様々な前提に基づくものであり、前提が想定どおりとならない場合等には、成長戦略の実施や目標の達成が困難となり、当社グループの業績及び財務状態に影響を及ぼす可能性があります。

<主な取り組み>

当社グループは、ビジョン2035の実現及び中期経営計画2027の達成に向けて、当社グループ全体にこれらを浸透させる活動に取り組みます。

また、中期経営計画2027の各種施策に主管・担当役員を充て、施策内容と実行時期を明確にした上で、執行役員会及び取締役会において進捗状況をモニタリングしながら、進めていきます。

 

2)顧客ニーズ及び新技術の導入に係るリスク

<リスクの内容>

当社グループの事業は、自動車やスマートフォンをはじめとして技術革新のスピードが非常に早く、顧客要求の変化や新製品・サービスの導入が頻繁な市場であり、新たな技術・製品・サービスの開発により短期間に既存の製品・サービスが陳腐化して市場競争力を失い、販売価格が大幅に下落することがあります。また、コンポーネント事業においては、スマートフォン向けカメラ用アクチュエーターの映像の高精細化・高画質化の動きが進み、センサー・コミュニケーション事業やモビリティ事業の車載ビジネスにおいては、システム及びソフトウェアの高度化やセキュリティー対策等、急速に技術革新が進んでいます。そのため、それらの市場の変化に迅速な対応ができない場合や、製品の販売が想定した台数に達しない場合、又は顧客ニーズに合わせた新製品の導入ができない場合、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

<主な取り組み>

新技術の導入に当たっては、これらの変化に対応すべく、中期経営計画2027における戦略投資テーマ(国内生産競争力強化・センサー領域・ソフトウェア・人的資本等)及び個々の開発テーマに対し、投下資本利益率(ROIC)に基づく投資判断を行い、計画的かつ適切に投資を行っていくことで、技術力強化と人財育成を図っていきます。

また、営業・マーケティング部門が市場・顧客動向を把握し、技術部門等にフィードバックを図ることにより、市場変化に対応した新技術開発を進めています。

 

3)M&A及び事業再構築に係るリスク

<リスクの内容>

当社グループは、事業拡大を図るため、当社の事業内容とシナジーを発揮でき、かつ成長が見込まれる会社の買収や事業譲受等のM&Aを検討していきます。M&Aの実施に当たっては、市場動向や顧客のニーズ、相手先企業の経営成績、財務状況、市場競争力、M&A実行後の対象会社と当社グループとの経営・業務・意識統合プロセスの検討及び計画、経営課題及びその対応方針等を十分に考慮して進めます。しかし、事前の調査・検討に不足や見落としが生じることや、買収した事業が計画通りに展開することができず、投下した資金の回収ができない場合や追加的費用が発生した場合等には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

また、当社グループは、成長性が高く、安定的な収益の得られる事業構造の確立のため、事業ポートフォリオにおける非注力・ノンコア事業/不採算事業の整理、終息の取り組み(カーブアウト)を進めています。しかし、各国の規制、雇用問題、当社グループが売却を検討している事業に対する市場における需要不足等により、これらが実行されない可能性があります。これらが実行された場合においても、顧客等からの評価の低下等、予期せぬ結果をもたらす可能性もあります。

<主な取り組み>

M&Aの実施に当たっては、当社事業計画に照らし合わせ、市場・技術動向や顧客ニーズ、相手先企業のポテンシャル等のリスクを執行役員会及び取締役会にて十分に分析・審議した上で、実施していきます。

また、事業再構築に当たっては、市場・業界動向、戦略、売却価格、プロセス及び潜在リスク等様々な視点から分析した上で、執行役員会及び取締役会にて審議し、慎重に進めています。

 

4)製品品質に係るリスク

<リスクの内容>

当社グループの製品の品質に起因して顧客の損失が発生した場合、生産物賠償責任保険の適用を超える賠償責任を問われる可能性があります。その結果として、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

<主な取り組み>

当社グループは、品質保証体制を構築し、品質改善活動を通じ品質の維持・向上に努め、また問題発生の未然防止に取り組んでいます。

 

5)固定資産の評価及び減損損失に係るリスク

<リスクの内容>

当社グループの当連結会計年度末における有形固定資産及び無形固定資産の帳簿価額は1,587億円です。当社グループは顧客の需要予測による将来の販売計画に基づいて設備投資を行っていますが、固定資産の回収可能性は、個人消費の動向、新製品の導入タイミング、新仕様や規格変更への対応及び技術革新のスピード等に影響を受けます。特に自動車市場においては、自動車販売台数に基づく顧客の需要変動や顧客ニーズの変化、技術革新への対応等が遅延した場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。

また、投資判断を行う際、その収益性・投資回収予定時期を社内で厳格に精査することで減損損失の計上リスクの軽減に努めています。しかし、急激な経営環境の悪化により収益性が低下し、帳簿価額の全部又は一部を回収できないと判断した場合、減損損失を計上する可能性があります。

 

<主な取り組み>

当社グループは、各市場における製品ライフサイクルを分析し生産設備等の経済的耐用年数を設定しています。また、投資判断を行う際、NPV(正味現在価値)・IRR(内部収益率)基準に基づく収益性・投資回収予定時期を社内で厳格に精査することで、減損損失の計上リスクの回避や極小化に努めています。

 

②地政学・経済安全保障リスク

<リスクの内容>

米中貿易摩擦、ロシア・ウクライナ情勢、台湾情勢及びインド・パキスタン情勢等の影響により、原油及び天然ガス等の価格高騰、サプライチェーンの混乱、インフレ対策を主眼とした各国中央銀行の利上げ等による為替相場の急変が続くこともあり、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。特に下記③ 4)顧客の生産計画に係るリスク及び5)特定の部品の供給体制に係るリスクに記載の影響を及ぼす可能性があります。

また、当社グループは、事業展開する各国・各地域において事業・投資の許可、関税をはじめとする輸出入規制等、様々な政府規制・法規制の適用を受けています。今後、各国で関税引き上げを伴う保護主義経済政策の本格化が予想され、当社車載製品を中心に売上減少又は原価率悪化の可能性があり、この場合、当社グループの業績及び財務状態に影響を及ぼします。

<主な取り組み>

当社グループは、政府各省庁及び企業・団体等から情報収集し分析を行うことで、各国・各地域における規制・政策及び業界動向を注視し対策を実施していきます。

また、関税引き上げに対する対応として、資材調達から顧客への製品納入に至るサプライチェーンの見直し及び顧客への価格転嫁を図っていきます。

 

③市場環境リスク

1)経済状況の変動に係るリスク

<リスクの内容>

当社グループは、コンポーネント事業、センサー・コミュニケーション事業、モビリティ事業を中心としてグローバルに事業を展開しており、当連結会計年度の海外売上高は88.8%を占めています。従って、当社グループは直接あるいは間接的に、自動車やスマートフォン等をはじめとし、IoT・AIの活用により新たなビジネスも生まれているEI市場等、グローバルの各市場における経済状況の影響を受ける環境にあり、各市場における景気の変動等によって、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

また、物流コストや各種原材料・エネルギーコストの高騰、貿易摩擦、テロ・戦争・感染症拡大・その他の社会的混乱、不利な政治又は経済要因、予期しない法律又は税制の変更等のリスクが常に内在しています。従って、これらの事象が起きた場合には、当社グループ事業の遂行が妨げられ当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

<主な取り組み>

当社グループは、生産拠点と販売拠点が綿密に連携し、迅速に顧客に販売動向や市場の動向を共有することで、生産規模の最適化を図っています。

 

2)外国為替に係るリスク

<リスクの内容>

当社グループは、グローバルに事業展開しており、結果として為替レートの変動による影響を受けます。一例として、外国通貨に対する円高、特に米ドル、ユーロ及び人民元に対して円高に変動した場合には、当社グループの業績にマイナスの影響を及ぼす可能性があります。為替レートの変動が想定から大きく乖離した場合、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

<主な取り組み>

当社グループは、先物為替予約、通貨オプション及び外貨建て債権債務の相殺等、為替変動による影響額の極小化を図っています。

 

 

3)有価証券の時価変動に係るリスク

<リスクの内容>

当社グループは、売買を目的とした有価証券は保有していませんが、当連結会計年度末において、600億円の有価証券を保有しています。時価を有するものについては全て時価評価を行っており、株式市場における時価の変動が当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

<主な取り組み>

当社グループは、事業上必要である場合を除き、投資株式を取得・保有しないこととし、現在保有している株式については、合理性を確認しながら保有の是非を判断しています。

 

4)顧客の生産計画に係るリスク

<リスクの内容>

当社グループは国内外のメーカーからの受注生産が大部分を占めるため、顧客の生産計画の影響を直接受けます。地政学・経済安全保障上の各種影響による高まりを受けたエネルギー問題、物流費や部材の高騰、関税引き上げ等不確実な政治経済状況によるサプライチェーン全体への混乱で見通しが立てづらい状況が加速しています。当社グループは、顧客の生産計画に基づき、市場動向、部材の調達リードタイム、安定供給を勘案して取引先に部材手配を行っていますが、市場環境や上記地政学・経済安全保障上の各種影響等に伴う顧客の生産計画の変動影響を受け、生産調整・過剰在庫が発生するリスクがあり、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

<主な取り組み>

当社グループは、営業部門、生産部門及び資材部門が綿密に連携し、顧客や市場の動向を迅速に共有化し、生産規模及び在庫の適正化を図る取り組みを進めています。

 

5)特定の部品の供給体制に係るリスク

<リスクの内容>

当社グループは、重要部品を当社グループ内で製造するよう努めていますが、一部の重要部品については、当社グループ外の企業から供給を受けています。従って、これらの供給元企業が、上記②地政学・経済安全保障リスクに記載の各種影響、自然災害・感染症、事故等の事由により当社グループの必要とする数量の部品を予定通り供給できない場合、生産遅延や販売機会の損失等が発生し、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

<主な取り組み>

供給問題を未然に防ぐ対策として、当社グループは、サプライチェーンマネジメントの強靭化に取り組み、代替調達先の確保や、自然災害・感染症、事故等の発生時は調達部品の生産地を特定できるシステム等により、迅速な対応が取れるよう取り組んでいます。また、取引先への事業方針の説明及び取引先との交流会を適宜実施することにより、パートナーシップの構築を図るとともに、取引先に対する定期的な評価を通じて、部品の安定調達の体制強化を図ります。

 

6)競合に係るリスク

<リスクの内容>

当社グループは、コンポーネント事業におけるスマートフォン向けカメラ用アクチュエーターをはじめとしたデジタル機器向けコンポーネント製品、センサー・コミュニケーション事業やモビリティ事業におけるデジタルキャビン製品等全ての事業分野において、他社との激しい競争に晒されています。特に車載ビジネス分野においては、SDV(Software Defined Vehicle)化やADAS(先進運転支援システム)の進展により、IT・通信分野等、業種・業態の垣根を越えた企業間の開発競争が激化しています。また、従来製品・技術においては市場成熟化の中でコスト競争が激化し、新興国の同業他社が低コストを武器に当社グループと競合しています。それらに起因する市場環境の変化によって、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

<主な取り組み>

当社グループは、当社コア技術を活用した新製品の導入や高品質の製品供給、グローバルネットワークの整備・拡充、M&Aや業務提携の推進等により、顧客満足を得るべく努めます。また、グローバル生産拠点の再編及び生産自動化技術の導入等により、コスト競争力強化を同時に進めていきます。

 

7)顧客の財務状況に係るリスク

<リスクの内容>

当社グループの実質的な売掛金を保有している顧客が、景気低迷等のために支払いが困難になり、その売掛金を回収できなくなった場合、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

<主な取り組み>

当社グループの顧客が適時に支払うことができないことから生じる見積損失について、売掛金に対する貸倒引当金として計上しています。貸倒引当金は当連結会計年度末において40億円計上しています。なお、通常の業務の過程に関連する売掛金は、担保又は信用保険の対象にはなりません。

 

④人財・労務リスク

1)人財確保及び人財定着に係るリスク

<リスクの内容>

当社グループが事業活動を推進し将来にわたって発展するためには、研究開発・製造・販売・管理等様々な分野において人財の確保と育成が必要です。社員一人ひとりが働きがいをもってチャレンジを楽しむ組織風土の醸成が重要であり、併せて社会環境の変化に合致した労働環境を構築するためにD&I(ダイバーシティー&インクルージョン)の推進が必要です。

一方、国内の少子高齢化に伴う労働人口減少をはじめグローバルでの人財獲得・競争が激化する中、働き方・キャリアに関する価値観が多様化して人財の流動性が高まっているため、年々、人財の確保に関する難易度が高まっています。

雇用環境の変化等により、当社が求める人財の確保やその定着・育成が計画通りに進まなかった場合には、当社グループの将来の成長に影響を及ぼす可能性があります。

<主な取り組み>

人的資本経営の重要性が高まる中、当社グループは、経営陣と社員が対話を行うタウンホールミーティングを含む社員のエンゲージメント向上施策に取り組むとともに、社内公募制度等様々な分野でチャレンジできる環境整備と、採用ブランディングの向上やインターンシップの実施等の採用力強化により、多様な人財の採用と育成に取り組んでいます。

また、社員の高齢化や、定年再雇用者が増加する中、各人の適性に応じた職務の割当てにより、社員一人ひとりの豊富な経験や能力を十分に発揮できる環境の整備に努めています。

更に、育児・介護等との両立支援やテレワーク勤務制度等多様な人財が働きやすい職場環境づくり、競争力のある報酬水準となるように賃金の引上げ等を実施し、人財の定着と動機付けを図っています。

 

2)労働安全衛生に係るリスク

<リスクの内容>

当社グループは、国内を対象として「安全衛生方針」を定め、社員一人ひとりが安全に、そして心身ともに健康に働ける職場環境づくりに努めています。

しかし、死亡・後遺症が残る又はそれらに準じる怪我や疾病等人的被害が発生した場合や、生産に影響が出る火災等が発生した場合には、社会的な信用が低下するとともに、生産・出荷や顧客との取引が停止することにより、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

<主な取り組み>

当社グループは、怪我や疾病につながるリスクや火災等につながるリスクの低減に向け、国内全拠点を対象に、年1回安全衛生アセスメントを実施しています。また、労働災害防止や交通事故防止を目的に安全衛生教育及び交通安全講習会を実施しています。

更に、国内を対象として「健康経営宣言」を制定し、健康診断やストレスチェックの定期的な実施、特定保健指導の実施率向上、禁煙施策、メンタルヘルスへの取り組み等により、健康経営優良法人に5年連続で認定されているなど健康経営を進め、引き続き従業員の健康維持・増進を経営の重要テーマの一つと位置づけ、積極的に取り組みます。

 

⑤環境関連リスク

1)気候変動に係るリスク

<リスクの内容>

当社グループは、気候変動に伴うリスクが事業活動に大きく影響すると認識しています。低炭素経済への移行に伴い、広範囲に及ぶ政策・法規制・技術・市場の変化が生じることに起因する移行リスクとして、炭素税導入によるエネルギー調達コスト増加、排出量取引の導入によるCO2排出量削減対策や排出権導入に伴うコスト増加等を想定しています。また、異常気象に伴う災害の激甚化に伴うサプライチェーンの寸断や自社操業の停止による売上減少、生産継続・復旧対応コストの増加等の物理リスクを想定しています。それらが当社の想定した範囲を超えて発生した場合、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

<主な取り組み>

当社グループは、2020年9月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同を表明し、その開示項目に沿ったシナリオ分析を実施し、事業戦略につなげることで、持続可能な成長及びリスクへの適正な対応を目指していきます。

上記移行リスクに対応する取り組みとして、当社グループは、製品カーボンフットプリントの算定・削減、使用電力の100%再生可能エネルギー化の推進、再エネ電力証書の購入等の施策に取り組んでいます。また、物理リスクに対応する取り組みとして、当社グループは、生産拠点の自然災害リスクに鑑み、生産移管や複数社購買の検討等、BCP対応の強化を行っています。

 

2)環境汚染及び環境負荷物質に係るリスク

<リスクの内容>

当社グループの事業活動を通じて環境汚染が発生した場合、汚染除去費用や損害賠償費用等の対応費用が発生し、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

また、欧州や中国を中心に環境負荷物質に対する規制が強化される方向にあり、必要な要件を満たせない場合、販売機会の損失や市場における回収につながるリスクがあります。

<主な取り組み>

当社グループは、グループ経営、コンプライアンス及び環境保全についての基本理念と行動指針を定めています。その中で、経営姿勢の一つとして、地球との調和を掲げ、環境リスク対策への取り組みを行っています。具体的には、化学物質を含む環境汚染物質の管理及び排出削減、大気汚染物質の排出モニタリングと排ガス処理装置の定期点検、国内事業所における土壌・地下水の浄化等を実施しています。

なお、環境関連リスクに関する施策について、全執行役員で構成される「サステナビリティ委員会」で進捗管理・評価・個別施策の審議を行い、取締役会が監督及びモニタリング機能を果たすことにより、サステナビリティーの重点課題に関する目標達成と企業価値向上を目指しています。

 

⑥ガバナンスリスク

1)コーポレート・ガバナンスに係るリスク

<リスクの内容>

当社グループは、グローバルに事業展開しており、コーポレート・ガバナンスが有効に機能しない場合、経営者によるステークホルダーの利益に反する企業運営及び組織的な不祥事につながる可能性があり、この場合、事業の持続的成長に支障が生じ、企業価値が毀損し、当社グループの株価の低下、業績及び財務状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

<主な取り組み>

当社グループは、コーポレート・ガバナンス体制の機関設計として「監査等委員会設置会社」を選択し、取締役の職務執行の組織的監査を行っており、定款の定めに基づき、「重要な業務執行の決定」を取締役に委任し、経営判断の迅速化を図っています。また、取締役会の実効性を担保するために、毎年取締役会へのアンケートを実施し、取締役会で分析・評価し、その結果をもとに具体的な改善策を実施しています。

加えて、社外取締役や監査等委員が社内取締役及び執行役員等の業務執行を監査することにより、経営の透明性向上や適法な会社運営の確保に努めています。なお、取締役の報酬は、報酬諮問委員会を設置して、公平性・透明性・客観性を強化し、当社取締役に求められる役割と責任に見合った報酬体系及び報酬水準となるよう設計しています。なお、業務執行取締役及び執行役員に対する賞与及び譲渡制限付株式報酬において、重大な法令違反等の非違行為等が生じた場合には、報酬諮問委員会の審議のうえ、取締役会の決議により、支給済みである報酬の一部又は全部について対象者に返還を求めるクローバック制度を導入しています。

 

2)グループ統制に係るリスク

<リスクの内容>

当社グループは、国内外に多くのグループ会社を持つことから、グループ統制が重要であると認識しています。そのため、「業務の適正を確保するための体制」に基づき、内部統制システムを整備・運用をしていますが、グループ会社が行った経営上の意思決定に際し、結果的に法令違反や巨額の損失が発生した場合には、当社グループの社会的信用を失墜し、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

<主な取り組み>

当社グループは、グループ会社の事業運営の独立性と自立性を尊重しつつ、グループ会社の取締役の職務執行の適正を確保するため、「構成会社経営管理規程」において、管理項目ごとに報告等の手続き方法を定め、報告を受けることとしています。

また、当社の内部監査部門が、定期的に当社及び当社グループ会社における業務執行状況を監査し、その結果を代表取締役、取締役会、監査等委員会及びグループ会社の取締役等に直接報告しています。

 

⑦法務・コンプライアンスリスク

<リスクの内容>

当社グループは、事業を展開する各国において法令等の遵守を求められています。そのため、例えば、高いシェアを有する製品については、独占禁止法に関する調査手続きを受ける可能性、当社グループの製造する自動車向け製品については、その不具合に伴って顧客・消費者から訴訟提起を受ける可能性があります。これらの事象が発生した場合には、当該対応に要する費用が生じることで、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

また、法令、社内規程や社会規範等のコンプライアンス違反や人権侵害、ハラスメントによる問題、製品品質に関する不正等が生じることにより、当社グループの企業イメージ毀損、当社製品の生産及び出荷の停止、顧客からの損害賠償請求等、当社グループの事業、業績及び財務状況に影響する可能性があります。

<主な取り組み>

当社グループにおいては、定期的に役員・社員向けの社内研修を実施するなど、法令遵守・品質維持等を謳う「アルプスアルパイングループ行動規範」の遵守体制を確保しています。また、社内外に内部通報窓口を設置することで、コンプライアンス違反の把握と未然防止に努めています。更に、有事の際には法務部門と社外弁護士等が連携し適切な措置を講じる体制を確保しています。

 

⑧自然災害・感染症リスク

1)自然災害に係るリスク

<リスクの内容>

 当社グループが事業を展開する地域において、地震・津波・風水害等の自然災害が発生し、当社の想定範囲を超えた場合、設備等への被害、重要な業務の中断、顧客への納期問題等の発生により収益性が悪化し、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

<主な取り組み>

 当社グループは、自然災害の発生に備え、防災対策や重要な情報インフラのバックアップ体制の整備を行っています。また、事業に重大な影響を及ぼしうる自然災害が発生した際は、危機対策本部を設置するなど、迅速に対応に当たる体制を構築しています。各拠点において、事業活動が停止又は停止に至る可能性のある事象が発生した際は、拠点責任者が予め定められたルールに基づき報告し、全社で収集した情報を共有する体制を整えています。また、顧客に当社グループの被害状況や納入への影響を報告する体制を整備しています。

 

 

2)感染症に係るリスク

<リスクの内容>

 新型コロナウイルス感染症は、日本をはじめ、世界的に収束傾向にありますが、今後も類似の感染症や新たな感染症が発生し、拡大するリスクは常にあり、当社グループ内に拡散した場合、又は、経済活動の停滞が生じた場合、操業停止やサプライチェーンの停止等により、経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

<主な取り組み>

 当社グループ社員への感染を未然に防止するため、テレワーク、フレックスタイム勤務を活用した時差出勤、衛生管理の徹底を継続することにより、感染予防と拡散防止に努めます。

 

⑨財務リスク

1)資金繰りに係るリスク

<リスクの内容>

 当社グループは、取引先銀行とシンジケート方式のコミットメントライン契約を締結していますが、これら契約の財務制限条項に抵触した場合には、借入金の繰上げ返済請求を受けることがあり、当社グループの財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

<主な取り組み>

 当社グループは、財務制限条項に抵触しないよう、財務部門において各事業の事業計画を横断的にモニタリングし、資金調達リスクの低減を図っています。

 

2)繰延税金資産に係るリスク

<リスクの内容>

 当連結会計年度末において、繰延税金資産を152億円計上しています。当社グループは将来の収益力に基づく課税所得を見積り、繰延税金資産の回収可能性を判断しています。将来課税所得の見積りは、事業計画及びグループ会社間の取引価格を基礎としています。事業計画は、主に、各事業の主要顧客への販売数量及び販売価格、予測されている営業利益率、売上規模に応じた固定費の見積り及び想定為替レートを前提に策定しています。当社グループは、経営環境の変化に応じて事業計画を見直し経営成績の維持を図るとともに、必要な税務戦略を考慮しています。しかし、将来において事業計画の主要な仮定が変化した場合、繰延税金資産の取崩しが発生する可能性があります。

<主な取り組み>

 当社は、繰延税金資産に影響を与えるような事業計画の変動要因や、各国・地域の税制変更を定期的に確認しており、将来の見通しの変化等により事業計画の変動が判明した場合には、繰延税金資産の回収可能性に関しての見直しの要否を適時に判断しています。

 

⑩IT・情報セキュリティーリスク

<リスクの内容>

 昨今のサイバー攻撃の高度化や、ITを活用したビジネス詐欺の巧妙化に伴い、当社が事業活動を通じて創出した情報、顧客・サプライヤー又はその他団体及び個人(社員含む)から預かった情報の漏洩・改ざん・破壊等の被害が発生するリスクがあります。

 また、社員の働き方の多様化に伴う情報の持ち出しや不適切な取扱いにより秘密情報の外部漏洩が発生するリスクがあります。更に、クラウドシステムの活用推進は、事業活動のDX化を促し、大きな利便性が得られる反面、当社グループが直接管理できないリスクの増大にもつながっています。

 このようなリスクが具現化した場合、当社製品の生産及び出荷の停止、顧客やその関係者の機密情報漏洩に起因する損害賠償請求、企業戦略や新技術の漏洩による競争力低下、並びに当社グループの企業イメージ毀損による販売機会の損失等、当社グループの事業、業績及び財務状況に影響する可能性があります。

 また、通信機能を有する車載製品の需要が増加してきており、サイバーセキュリティー体制整備が顧客の採用条件として明示されるようになり、対策の遅れが販売機会の損失につながる可能性もあります。

 

<主な取り組み>

 2024年7月に第三者による当社グループのサーバーへの不正アクセスを受ける事件が発生しました。

 当該事件を踏まえ、当社では、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)体制を構築し、サーバーアクセスの認証強化、社内ネットワーク脆弱性診断の定期実施、重要情報の管理・統制プロセスの改善、情報セキュリティーインシデントを想定した訓練を含む、当社及び当社サプライチェーン全体での情報管理強化対策に取り組んでいます。また、社内研修による社員の知識習得とコンプライアンス意識向上を継続実施します。これらを通じて、再発防止に努め、信頼回復を図っていきます。また、サイバーセキュリティーに対応した開発体制整備や情報セキュリティーに十分配慮した通信機能を有する製品開発に取り組んでいきます。

 

⑪知的財産リスク

<リスクの内容>

 特許・その他の知的財産は、当社グループに関連する製品市場の多くが技術革新に重点を置いていること等から、重要な競争力の要因となっています。当社グループは、自社開発技術・製品・サービスにおいて、特許・商標及びその他の知的財産権を取得し、場合によっては特許・その他の知的財産権を行使すること等により、当該技術・製品・サービスの保護を図っています。一方、製品開発に当たっては第三者の知的財産権を尊重した開発を行っていますが、実際に侵害しているか否かを問わず第三者による知的財産権侵害の申し立てを受ける可能性があります。

 また、当社グループが知的財産権を侵害しているとして提訴されている訴訟案件については、裁判の経過により将来において損害賠償等が確定した場合には、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。更に当社グループの製品には、他社の知的財産権のライセンスを受けているものもありますが、当該知的財産権の保有者が将来において、ライセンスを当社グループに引き続き与えるという保証はありません。当社グループにとって好ましくない事態が生じた場合には、当社グループの事業はその影響を受ける可能性があります。

<主な取り組み>

 当社グループは、社員向けに知的財産権に関する定期的な教育・研修を実施するとともに、当社グループ社員による知財侵害者発掘奨励制度を導入し、知的財産権保護に努めています。また、他社の知的財産権の侵害を未然に防止するために、先行する知的財産権の調査を徹底するとともに、外部の特許事務所を活用するなどの対策を講じています。

 

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりです。

 

① 財政状態の状況

当連結会計年度末における総資産は、前連結会計年度末と比べ132億円減少7,407億円、自己資本は228億円増加の4,139億円となり、自己資本比率は55.9%となりました。

流動資産は、現金及び預金、受取手形及び売掛金の増加と、商品及び製品の減少等により、前連結会計年度末と比べ34億円増加4,949億円となりました。

固定資産は、投資有価証券、無形固定資産の減少等により、前連結会計年度末と比べ167億円減少2,457億円となりました。

流動負債は、その他流動負債、短期借入金の減少等により、前連結会計年度末と比べ208億円減少2,268億円となりました。

固定負債は、長期借入金の減少と、繰延税金負債の増加等により、前連結会計年度末と比べ151億円減少983億円となりました。

 

② 経営成績の状況

当連結会計年度における世界経済は、北米では実質賃金の上昇が個人消費を促進し、比較的堅調に推移しました。欧州では、エネルギー価格の安定が個人消費を支える一方で、全体的な経済状況は安定しているもののドイツやイタリア等での自動車産業を中心とした製造業の不振もあり、地域ごとにばらつきがある状況です。中国では、輸出の増加が経済を支えていますが、不動産市場の低迷と個人消費の低下が課題で、景気回復には足踏みも見られます。日本では、国内消費の回復とインバウンド需要、輸出の増加が成長を支えていますが、物価上昇による実質賃金の低下もあり、景気は緩やかな回復基調にあります。

当連結会計年度における事業環境は、円安による売上高及び営業利益への押し上げ効果に加え、車載市場では、新車販売がグローバルで増加基調にある中、パワートレイン構成の変化や中国資本の自動車メーカーの拡大により新規顧客の開拓や採用製品の増加によるTier2ビジネスが増加しています。一方で、当社主要顧客である日本・北米・欧州の自動車メーカー向けのTier1ビジネスは低迷が続いています。モバイル市場では、大手スマートフォンメーカー向けが堅調です。民生市場では、ゲーム機器向けやその他電子部品の需要が拡大しています。

また当社は、2025年3月期が最終年度となる第2次中期経営計画を中止して、2025年3月期を経営構造改革期間と位置づけ、抜本的な改革に全力を挙げてきました。その結果、経営構造改革のうちコスト構造改革として計画した施策の効果も相まって前期比で増益とすることができました。

当連結会計年度における経営成績の概況については以下のとおりです。なお、下記に示す売上高は外部顧客に対する売上高であり、報告セグメント間売上高は内部取引売上高として消去しています。

 

セグメントの状況

<コンポーネント事業>

売上高は、円安による押し上げ効果のほか、民生市場向け製品やモバイル市場向け製品の需要及び車載市場向け製品の拡販により増加しました。営業利益は、円安や売上高の増加が寄与し増加しました。

以上の結果、当連結会計年度におけるコンポーネント事業の売上高は3,480億円(前期比14.0%増)、営業利益は303億円(前期比48.5%増)となりました。

 

<センサー・コミュニケーション事業>

売上高は、車載市場向け製品が従来モデルのキーレスエントリーシステム製品からデジタルキー製品への置き換えによる端境期にあり減少する一方で、円安による押し上げ効果やモバイル市場向け製品の需要が増加し事業全体ではほぼ前年度と同じとなりました。営業利益は、開発費が増加し前期比で減少しました。

以上の結果、当連結会計年度におけるセンサー・コミュニケーション事業の売上高は841億円(前期比0.1%増)、営業損失は33億円(前期における営業損失は14億円)となりました。

 

<モジュール・システム事業>

売上高は、円安による押し上げ効果があったものの、欧州向けシステム製品のモデル終息や中国市場における当社主要顧客である日本・北米・欧州自動車メーカーの低迷により減少しました。営業利益は、売上高の減少や賃金の上昇があったものの、変動費の改善や顧客からの開発費回収増、前連結会計年度の減損損失により減価償却費が軽減されたことにより増加しました。なお、当事業は、売上高の外貨取引額が原価の外貨取引額でほぼ相殺されるため、為替影響を受けにくい利益構成となっています。

以上の結果、当連結会計年度におけるモジュール・システム事業の売上高は5,372億円(前期比3.1%減)、営業利益は56億円(前期における営業損失は11億円)となりました。

 

特別利益の計上について

2025年3月期において、経営構造改革の施策として(株)アルプス物流株式の売却益270億円、及びパワーインダクターの事業譲渡益64億円を特別利益に計上しました。

 

以上により、上記の3事業セグメントにその他を加えた当連結会計年度における当社グループの連結業績は、売上高9,904億円前期比2.7%増)、営業利益341億円前期比73.0%増)、経常利益305億円前期比23.0%増)、親会社株主に帰属する当期純利益378億円(前期における親会社株主に帰属する当期純損失は298億円)となりました。

 

③ キャッシュ・フローの状況

現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、前連結会計年度末と比べ251億円増加し、当連結会計年度末の残高は、1,474億円となりました。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度末における営業活動による資金の増加は、658億円(前期は891億円の増加)となりました。

この増加は、主に税金等調整前当期純利益578億円、減価償却費351億円及び棚卸資産の減少額237億円による資金の増加と、関係会社株式売却益270億円、法人税等の支払額114億円及び売上債権の増加額114億円による資金の減少によるものです。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度末における投資活動による資金の減少は、16億円(前期は550億円の減少)となりました。

この減少は、主に有形及び無形固定資産の取得による支出506億円による資金の減少と、関係会社株式の売却による収入370億円及び事業譲渡による収入85億円による資金の増加によるものです。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度末における財務活動による資金の減少は、372億円(前期は18億円の減少)となりました。

この減少は、主に短期借入金減少額197億円、長期借入金の返済による支出96億円及び配当金の支払額82億円による資金の減少によるものです。

 

④ 生産、受注及び販売の実績

1)生産実績

  当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

前年同期比(%)

コンポーネント事業

336,308

15.8

センサー・コミュニケーション事業

88,642

0.1

モジュール・システム事業

517,603

△4.7

合計

942,553

2.2

 

(注)1.セグメント間取引については、相殺消去しています。

2.金額は、販売価格によっています。

 

 

2)受注実績

  当連結会計年度における受注状況をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

受注高

(百万円)

前年同期比

(%)

受注残高

(百万円)

前年同期比

(%)

コンポーネント事業

348,365

19.2

25,218

1.4

センサー・コミュニケーション事業

83,682

△0.8

12,986

△3.8

モジュール・システム事業

537,096

△3.6

14,682

△0.7

合計

969,143

3.8

52,886

△0.5

 

(注)セグメント間取引については、相殺消去しています。

 

3)販売実績

  当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

前年同期比(%)

コンポーネント事業

348,013

14.0

センサー・コミュニケーション事業

84,199

0.1

モジュール・システム事業

537,202

△3.1

報告セグメント計

969,415

2.7

その他

20,992

3.2

合計

990,407

2.7

 

(注)1.セグメント間取引については、相殺消去しています。

 2.主な相手先の販売実績及び総販売実績に対する割合は、下記のとおりです。

相手先

前連結会計年度

当連結会計年度

販売高(百万円)

割合(%)

販売高(百万円)

割合(%)

Apple Inc.

176,141

18.3

228,631

23.1

 

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

① 重要な会計方針及び見積り

当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成されています。

この連結財務諸表の作成に際し、連結決算日における資産・負債の数値及び連結会計年度の収益・費用の数値に影響を与える会計上の見積りを用いています。

当社は、特に以下の会計上の見積りが、当社グループの連結財務諸表に重要な影響を与えるものと考えています。

 

1)棚卸資産の評価

棚卸資産は取得原価又は正味売却価額のいずれか低い金額で評価しています。正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、取得原価と正味売却価額との差額について評価損を計上しています。正味売却価額は、主に顧客との販売契約に基づく予定売価を基に見積もっています。また、一定の保有期間を超えた場合、滞留又は陳腐化しているとみなし、評価損を計上しています。更に、保有期間にかかわらず将来廃却が見込まれる棚卸資産についても評価損を計上しています。

市場環境の悪化による顧客の需要減少や製品ライフサイクルの変化等に伴い、棚卸資産の収益性の低下、滞留、陳腐化が生じた場合、将来において追加の評価損の計上が必要となる可能性があります。

 

2)繰延税金資産

繰延税金資産については、将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に対して、将来の収益力に基づく翌期の課税所得を見積り、繰延税金資産の回収可能性を判断しています。課税所得の見積りは、事業計画及びグループ会社間の取引価格を基礎としています。事業計画は、主に主要顧客への販売数量及び販売価格、予測されている営業利益率、売上規模に応じた固定費の見積り及び想定為替レートを前提に策定しています。また、中国市場における当社主要顧客である日本・北米・欧州自動車メーカーの低迷に伴う製品販売数量への影響、部材高騰の長期化やインフレの継続といった事業環境下における目標とする原価改善の達成状況、米国の関税政策による影響についても考慮しています。グループ会社間の取引価格は、各国の移転価格税制を考慮し、連結子会社ごとに設定しています。

将来において、事業環境の変化による顧客の需要減少や、移転価格を含む税務関連の動向の変化等により課税所得が予想を下回り、すでに計上されている繰延税金資産の全部又は一部を回収できないと判断した場合、当該判断を行った期間に繰延税金資産を取崩し、税金費用が計上される可能性があります。

当連結会計年度の繰延税金資産の回収可能性を判断するに当たり、将来課税所得の見積りに用いた重要な仮定は、「第5 経理の状況 1.連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」を参照ください。

 

3)退職給付に係る負債

退職給付費用及び退職給付に係る負債は、数理計算上の前提条件に基づいて算出されています。前提条件には、割引率、長期期待運用収益率、退職率及び死亡率等の仮定が含まれています。このうち、退職給付費用及び退職給付に係る負債の計算に影響を与える最も重要な仮定は、割引率及び年金資産に係る長期期待運用収益率です。

割引率は優良債券の利回りを参考に決定しており、連結会計年度末において割引率を再検討した結果、割引率の変動が退職給付債務に重要な影響を及ぼすと判断した場合にはこれを見直した上で、退職給付債務を算定しています。長期期待運用収益率は、保有している年金資産のポートフォリオに基づく一定期間における運用実績を基に、今後の運用方針及び市場動向を考慮して設定しています。

これらの仮定が実際の結果と異なる場合、又は仮定を変更した場合、将来期間における退職給付費用及び退職給付に係る負債に影響を及ぼすことがあります。

当連結会計年度の退職給付費用の計算に使用した割引率及び長期期待運用収益率は、「第5 経理の状況 1.連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(退職給付関係)」を参照ください。

 

4)固定資産の減損

当社グループの資産又は資産グループに減損が生じている可能性を示す事象があり、当該資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額がこれらの帳簿価額を下回る場合には、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しています。減損損失の測定に当たって見積られる回収可能価額は、資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額を使用しています。

減損損失を認識するかどうかの判定及び使用価値の算定において見積られる将来キャッシュ・フローは、事業計画を基礎として算定しています。当該事業計画は、主に顧客・製品別にまとめた受注予測、予測されている限界利益率及び固定費を前提として策定しています。また、中国市場における当社主要顧客である日本・北米・欧州自動車メーカーの低迷に伴う製品販売数量への影響、部材高騰の長期化やインフレの継続といった事業環境下における目標とする原価改善の達成状況、米国の関税政策による影響についても考慮しています。また、使用価値の算定に使用する割引率は、当社に要求される加重平均資本コストを採用しています。将来、事業環境の変化等により固定資産の収益性が低下した場合、減損損失の計上が必要となる可能性があります。

また、固定資産の耐用年数については、各市場における製品ライフサイクルを基礎として、生産設備等の経済的耐用年数を設定しています。製品ライフサイクルについては、事業・市場・顧客単位等の性質を勘案して決定しています。

当連結会計年度において減損会計を適用するに当たり、将来キャッシュ・フローの見積りに用いた重要な仮定は、「第5 経理の状況 1.連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」を参照ください。

 

② 当連結会計年度の財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

当連結会計年度の当社グループにおける連結業績は、売上高9,904億円前期比2.7%増)、営業利益341億円前期比73.0%増)、経常利益305億円前期比23.0%増)、親会社株主に帰属する当期純利益378億円(前期における親会社株主に帰属する当期純損失は298億円)となりました。

セグメント別の売上高及び営業利益については、「(1)経営成績等の状況の概要 ②経営成績の状況」を参照ください。

 

③ 資本の財源及び資金の流動性についての分析

当社グループの運転資金需要の主なものは、製造費用、販売費及び一般管理費等の営業費用であり、投資を目的とした資金需要は設備投資、業務提携等によるものです。

当社グループは、事業運営上必要な流動性と資金の源泉を安定的に確保することを基本としています。日本、欧州、中国、米国及びアセアンの各地域においてキャッシュ・マネジメント・システムを導入しグループ資金の効率化を図るとともに、金融機関とのコミットメントライン契約により流動性を担保しています。
 運転資金及び設備投資資金については、主に営業活動によるキャッシュ・フロー及び金融機関からの借入金にて調達しています。資金の源泉を安定的に確保するため、CCC改善による流動性資金の拡充、金融機関からの借入金の長期化等、資金調達の多様化を図っています。なお、当連結会計年度における資金調達については、当社グループの連結子会社が長期借入金として総額8億円を調達しました。

 

 

5【重要な契約等】

(持分法適用関連会社であるアルプス物流に対する持分の一部売却)

当社は、2024年5月9日付の取締役会決議に基づき、ロジスティード株式会社(以下、「ロジスティード」という。)及びロジスティードが発行済株式の全てを所有するLDEC(株)との間で、当社の持分法適用関連会社である(株)アルプス物流の普通株式の売却等に関する取引基本契約を締結しました。

詳細は、「第5 経理の状況 1.連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(連結損益及び包括利益計算書関係)」を参照ください。

 

(パワーインダクター事業の譲渡(承継))

当社は、2024年8月29日付の取締役会決議に基づき、DELTA ELECTRONICS INC.グループ(本社:台湾 台北市、会長兼CEO:鄭平)の日本法人であるデルタ電子株式会社との間で、当該事業の譲渡(承継)に関する最終契約を締結しました。

詳細は、「第5 経理の状況 1.連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(企業結合等関係)」を参照ください。

 

(財務制限条項が付された借入金契約)

主な借入先

株式会社三井住友銀行

株式会社三井住友銀行

地方銀行

(アレンジャー株式会社三井住友銀行)

契約形態

シンジケートローン契約

シンジケートローン契約

シンジケートローン契約

期末残高

17,000百万円

15,000百万円

10,000百万円

借入期間

自 2020年4月9日

至 2025年4月9日

自 2023年2月3日

至 2027年2月3日

自 2024年2月2日

至 2029年2月2日

担保の有無

なし

なし

なし

保証の有無

なし

なし

なし

財務制限条項

あり(注)1

あり(注)2

あり(注)3

 

 

主な借入先

株式会社三菱UFJ銀行

三井住友信託銀行株式会社

契約形態

ポジティブインパクトファイナンス契約

サステナビリティリンクローン契約

期末残高

8,700百万円

9,800百万円

借入期間

自 2024年3月29日

至 2029年3月31日

自 2024年3月29日

至 2031年3月31日

担保の有無

なし

なし

保証の有無

なし

なし

財務制限条項

あり(注)4

あり(注)5

 

(注)1.財務制限条項の内容は以下のとおりです。

(1)2020年3月期末日以降の各連結会計年度において、連結貸借対照表上の株主資本合計金額を2020年3月

   期第3四半期会計期間の末日における連結貸借対照表上の株主資本合計金額の75%以上の金額を維持す

   ること。

(2)各連結会計年度の末日において、連結損益計算書上の営業損益を2期連続して損失としないこと。

   2.財務制限条項の内容は以下のとおりです。

(1)2023年3月期末日以降の各連結会計年度において、連結貸借対照表上の株主資本合計金額を2020年3月

   期第1四半期会計期間の末日における連結貸借対照表上の株主資本合計金額の75%以上の金額を維持す

   ること。

(2)各連結会計年度の末日において、連結損益計算書上の営業損益を2期連続して損失としないこと。

   3.財務制限条項の内容は以下のとおりです。

(1)2024年3月期末日以降の各連結会計年度の末日における連結貸借対照表に記載される純資産の部の合計

   金額を、2023年3月期末日における連結貸借対照表に記載される純資産の部の合計金額の75%に相当す

   る金額、又は直近の連結会計年度の末日における連結貸借対照表に記載される純資産の部の合計金額の

   75%に相当する金額のうち、いずれか高い方の金額以上に維持すること。

(2)各連結会計年度の末日において、連結損益計算書上の営業損益を2期連続して損失としないこと。

   4.財務制限条項の内容は以下のとおりです。

(1)2024年3月期末日以降の各連結会計年度の末日において、連結貸借対照表上の株主資本合計金額を、

   (a)2024年3月期末日においては、2023年3月期末日における連結貸借対照表上の株主資本合計金額の

   75%以上の金額に、(b)2025年3月期以降の各連結会計年度の末日においては、2024年3月期末日にお

   ける連結貸借対照表上の株主資本合計金額の75%以上の金額に、それぞれ維持すること。

(2)各連結会計年度の末日において、連結損益計算書上の営業損益を2期連続して損失としないこと。

   5.財務制限条項の内容は以下のとおりです。

(1)各連結会計年度の末日における連結貸借対照表に記載される純資産の部の金額を、直前の連結会計年度

   の末日における連結貸借対照表上に記載される純資産の部の金額の75%以上を維持すること。

(2)各連結会計年度の末日において、連結損益計算書上の営業損益を2期連続して損失としないこと。

 

 

6【研究開発活動】

当社グループ(当社及び連結子会社)は、企業理念「アルプスアルパインは人と地球に喜ばれる新たな価値を創造します」を実現することで、事業活動を通じて持続可能な社会の発展に貢献することを目指しています。

当社グループ76年間で培った独自のコア技術を深耕して製品力を高める「縦のI型」と、広範なデバイスや技術をシステムに仕上げる「横のI型」を合わせた革新的「T型」企業(Innovative T-shaped Company)へと進化することで、自動車産業をはじめ、モバイル、民生機器、更にはエネルギーやヘルスケア、インダストリー等様々な市場へ向けて、電子部品からシステム商品まで、多様な顧客ニーズに新たな価値を提供しています。

2025年4月から始まる第3次中期経営計画において、10年先の未来を見据えた長期企業ビジョンとして「人の感性に寄り添うテクノロジーで未来をつくる」を掲げて、当社コア技術融合により独自性を有し、かつ本質的な問題を解決する価値提供を目指します。

当社グループの研究開発費の総額は24,346百万円です。

 

(1)コンポーネント事業

当事業は、収益基盤事業として育んできた当社独自のコア技術と、実績に裏付けされた高い生産技術力と品質を強みに新しい発想で製品と価値を創出し、継続的な事業拡大を目指しています。

コンシューマーや車載市場の既存事業に対しては、業界トップの品揃えと高い品質・生産力による優位性を活かし高シェアを維持するとともに、開発・生産体制の最適化に取り組み、市場における競争力確保と収益性の向上を図ります。

た、車載市場においては、電気自動車の拡大や自動運転技術等の進化により新たに期待される地域ごとのニーズにタイムリーに応えるために、グローバルでの開発体制を強化していきます。アミューズメント市場においてはジョイスティック等の入力デバイスや振動デバイスでのシェア拡大を図りながら、次世代デバイスに求められる製品の研究・開発に積極的に投資をしていきます。アクチュエーターについては従来のスマートフォン向けビジネスの拡充と収益性改善の取り組みを強化しながら、SMA(Shape Memory Alloy)技術を用いた新しい製品・用途向けのアクチュエーター開発に積極的に取り組み、長期的な技術優位性並びに市場競争力の確保を目指します。

コンポーネント事業に係る研究開発費は6,911百万円です。

 

(2)センサー・コミュニケーション事業

当事業は、様々な情報を計測してデータ化するセンシング技術と、そのデータを使ってモノを動かす制御技術、長年培ってきた通信技術を駆使し、センシングプロデューサーとして社会課題に取り組み、豊かな社会づくりへの貢献を目指しています。

昨今の米国関税策による混乱や電気自動車シフトの遅れ等、事業を取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。自動車業界においては SDV(Software Defined Vehicle)化の進展を背景に車載セキュリティーの重要性がますます高まる中、当事業においてスマートフォンによる自動車のキーシェアを安全かつ快適に実現するデジタルキーシステムを開発しました。これは車載エッジ端末やセンサーに加えデジタルキーサーバーを含んだ標準化システムであり、自動車以外のパーソナルモビリティーや、オフィス、住宅等、様々な鍵の解錠/施錠ソリューションとしても提案を行うことで、セキュアで快適な社会生活に貢献していきます。

また、当事業は当社の成長ドライバーとして位置づけており、2025年4月より開始する第3次中期経営計画において、センサー領域への戦略投資を計画しています。中でも車載、スマートフォン、産業ロボット、医療機器等多岐にわたり使用される磁気センサーにおいて、東京大学と共同研究で、量子物質を使用した磁気センサーの開発に着手していきます。新たな磁気センサーを活用することにより、従来では検出できない小さい磁場の測定が可能となり、不良品検知や病気の早期発見等、産機・ライフサイエンス市場における新しい事業創出の実現を目指します。

今後も、社会のスマート化進展、安心・安全ニーズの高まり、カーボンニュートラル実現に向けた取り組み加速を背景に、センシング・高周波・静電・ソフトウェアの技術融合や、センサーと加飾デザインの組み合わせ、小型・軽量化、IoTによる人の安全・効率や環境への貢献を通じて顧客の期待に応えていきます。

センサー・コミュニケーション事業に係る研究開発費は9,572百万円です。

 

 

(3)モジュール・システム事業

当事業は、昨年から引き続き、総合力を活かしたデジタルキャビンソリューションとして、空間価値創出を目指した各種製品開発を進めています。

具体的には、2026年納入開始予定の、統合ディスプレイオーディオ(IVI+METER)、プレミアムサウンド製品、車室内センシングを行うオーバーヘッドコンソール製品、静電タッチで操作可能なステアリングホイールスイッチ製品等を開発しています。

また、SDV(Software Defined Vehicle)化に対応し、車室内空間価値を高めるための製品群として、キャビンコントローラーやシステムインテグレーション環境等を開発しています。開発に当たっては、当社グループだけでなく、大学や研究機関、他社と協業し、それぞれの技術・製品力を結集し、シナジー効果を目指します。

そのような状況を受け、2025年度より「モジュール・システム事業」の名称を「モビリティ事業」へ変更しました。新たに「モビリティ事業」とすることで、従来の自動車(四輪)・バイク(二輪)にとどまらず、「移動(モビリティ)全体」及び車両企画・構想・設計の段階から関与するTier0.5領域までを視野に入れた事業領域へと拡大します。モビリティ事業として一体化することにより、複合化された高付加価値の製品を生み出し、収益性の強化と事業の良質化を図ります。

モジュール・システム事業に係る研究開発費は7,584百万円です。