第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。

 

(1) 会社の経営の基本方針

当社グループは、創業理念「お客様への奉仕を通じて、社会の繁栄、世界の平和に貢献する」ことをミッションとし、豊かで平和な社会を実現するために不可欠な周波数の制御と選択、検出に関連する製品の専業メーカーとして、業界をリードする高信頼性商品を開発、製造、販売することにより、お客様に喜んでいただくことを経営の基本としております。

 

(2) 経営環境及び対処すべき課題

当社グループは、2025年度(2026年3月期)を初年度とする3か年の中期経営計画を策定し、以下の構想を重要施策として掲げました。

「Five Pillars + One」 構想

事業ポートフォリオ構想として、「Five Pillars + One」としています。車載市場、移動体市場、産機市場、光学市場、特機市場の5つの柱と新事業としての+Oneをバランスよく運営し、成長を続けるソリューションプロバイダーとしての地位を確立します。新事業については現在具現化に向けて準備を進めておりますので、別途発表を計画いたします。

 

Pillar1:車載市場

車載事業では、競争が活発なマーケットであり、コスト改善を通じてグローバルシェアを維持します。特に中国向けに対してコスト削減策を実施いたします。これにより、車載市場での競争力を強化し、持続的な成長を目指します。

 

Pillar2:移動体市場

移動体市場では、顧客要求であるGPS性能を大幅に改善させた製品や多出力の水晶発振器などの新製品開発投資を通じて高付加価値商品を展開し、利益向上を目指します。NDKの技術力を活かし、オープンイノベーション戦略で市場リーチを拡大します。特に大幅に改善したGPS特性品は、顧客課題を解決する技術として、競争力を維持向上させるものです。さらに、MEMS対抗品を早期に開発することで競争優位を目指します。

 

Pillar3:産機市場

産機市場では、生成AIの急速な普及でデータセンターの電力需要は加速度的に拡大し、こうした電力制約を背景に、計算の負担を分散させてAIサーバにうまく振り分け、必要に応じて柔軟に拡張できる仕組みが主流になりつつあります。

この分散化を成立させる鍵が800G~1.6Tクラスの高速光インターコネクトであり、信号品質を左右する 超低ジッタ発振器は光モジュールのコアとなるものです。当社グループは主要クラウド/サーバーベンダーのリファレンス認定を通じて発振器分野でポジションを確立し、次世代製品を投入してAIサーバに不可欠なタイミング・サプライヤーとして成長軸を拡大します。

タイミングデバイス市場においては、IC開発能力の増強がキーとなっておりました。

Pillar1-2-3すべての市場で重要視されており、昨年末に英国にエンジニアリングセンターを設置しました。

 

Pillar4:防衛市場&宇宙・QCM市場

防衛市場では、無線通信技術の高さを活かし、各種顧客から高い評価を受けています。本事業運営にはセキュリティ対応が必須であり、この度、新たに拠点を追加し、開発力を強化しています。また、宇宙・QCM事業では、JAXAとの共同研究で確立した技術を地上に展開し、半導体製造装置への転用も期待されています。QCM市場では、半導体製造装置へのソリューションビジネスとして展開し、装置メーカーの顧客と協働しながらデータ蓄積を進め、データビジネスを意識した新たなビジネスモデルを構築します。リアルタイムセンシングによって顧客価値を最大化します。QCMセンサを顧客の課題解決策のソリューションシステムを受注すべく、顧客とのコラボレーションを強化していきます。

 

Pillar5:光学市場

光学市場では、半導体製造装置やレーザー加工装置における卓越した技術である水晶原石とコーティング技術を活用し、プロ仕様カメラ市場でトップシェアを維持します。プロ仕様市場の拡大に伴い、オンリーワン製品を投入し、競争優位を目指して市場でのポジションを構築します。

 

 

上記、「Five Pillars + One」構想を実現するためには、技術戦略が重要となります。

 

長期的な技術開発戦略

当社グループは、お客様との強いネットワークを通じ、数年後の市場のニーズについては的確に把握しておりますが、その先の市場のニーズはこれまで十分に把握しているとは言い難い状況でした。長期的な市場ニーズの明確化と、それに対する先行開発を行うため、マーケティング部門を設け、各部門との協働をはじめました。マーケティング部門においては、市場ニーズの仮説立案をサポートし、営業部門による顧客ヒアリングや、新事業推進チームによる大学、研究機関、ベンチャーとの連携、知財部門によるIPランドスケープ手法による特許分析等からこれを検証する体制をスタートしようとしています。ここで識別された長期的な市場ニーズに基づいて、新技術の開発を行い、新事業の推進を行っていきます。当社グループは引き続き仮説検証を繰り返すなかで、解像度の高い市場ニーズを設定し、連続的、持続的に新たなソリューションを市場にご提案していきます。

 

リスク管理

重要施策を実現するために、リスク管理委員会において、これを阻害するリスクについて適切に対応する体制を整備しています。

当連結会計年度においては、デカップリングリスク、製品軍事利用風評リスク、気候変動対応リスク、関係会社管理リスク、情報セキュリティリスク、業界再編リスクの6つのリスクを重点管理リスクとして識別し、それぞれ対応を明確にし、リスク管理計画を策定し、モニタリングをしています。

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取り組みは、次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

当社は、2022年3月10日及び同11月8日に、次を内容とするVision2030を公表しました。2050年カーボンニュートラル実現に向けた取り組みを加速するべく、気候変動リスクに対応すると共に、世界と未来に革新をもたらす人材の育成を行ってまいります。

 

Vision2030「周波数でデジタル社会の未来を創る」

NDKグループは、正確で安定した振動を発生させる“水晶”の特性を利用し、周波数の制御と選択、検出を司る水晶デバイスメーカーとして、これまで様々な使用環境において精度の高い安定した“周波数”を作り出してきました。NDKグループは、これからも2030年に向け、安定した通信環境の維持に貢献する最適なデバイスを利用してデジタル社会の未来を創ってまいります。この実現のために、次の“3つの価値”をバランスよく追求します。

NDKグループが追求する“3つの価値”

■社会価値

持続可能な繁栄と平和を実現するデジタル技術を支える

■経済価値

新規領域を探索し、6Gのトップランナーへ

売上1,000億円、営業利益率20%を目指す

■人材価値

世界と未来に革新をもたらす人材を育成する

 

地球温暖化問題や、大手メディア等で発生した女性に対する人権侵害事案、度重なる情報漏洩事故等を背景に、サプライチェーン全体での環境対応、人権対応、情報セキュリティ対応等への要求が高まるなど、当社事業を取り巻く環境は大きく変貌しています。このような中で、当社グループでは、サステナビリティを社会や顧客からの要求、法規制への対応に留まらず、当社グループが将来にわたり持続的に成長し、社会価値と経済価値を創出するためにも必要な要素であると認識しています。

2025年5月13日に公表した中期経営計画でも、「事業基盤(ESG)の強化」を重要な経営課題として識別し、次のようなESG戦略を公表しています。

 

 

■4つの重要施策:事業基盤(ESG)の強化

・人的資本

 人材育成プログラムの充実、競争力のある報酬体系の実現

 多様な価値観を備えた、風通しの良い企業風土の醸成、女性管理職比率を2027年度に7%

 社員のエンゲージメント向上

・地球環境の持続性を高める

 2050年のカーボンニュートラルの実現に向け、GHG排出量を削減

  →Scope1,2▲42%  Scope3▲25%(対2023年度比)

 製品の低消費電力化の推進

・グループガバナンスの強化

 リスク管理体制/コンプライアンス体制の強化

 情報セキュリティの強化

 持続可能なサプライチェーンの確保と人権の尊重

 

(1) ガバナンス

上記認識により、当社グループでは、執行役員社長を委員長とし、各本部長・副本部長を委員とする全社的リスクの特定・評価・絞り込み・モニタリングを行うリスク管理委員会、当社が取り組むべき重要課題(マテリアリティ)検討プロジェクト、社会情勢の変化や顧客要求の分析を行うESGチーム等がサステナビリティに関する重要課題を識別しています。識別されたサステナビリティに関する重要課題は、その機会的側面を経営企画部が経営計画案に反映し、脅威的側面をリスク管理委員会がモニタリングを行い、これらの執行状況を取締役会が監督しております。

 識別されたサステナビリティに関する重要課題とその対応・監督の体制の概要は、次のとおりです。

種別

重要課題

対応組織

監督機関・組織

環境

気候変動リスク

カーボンニュートラル委員会

リスク管理委員会
取締役会

社会

人的資本

総務人事部

取締役会

ガバナンス

情報セキュリティ

情報セキュリティ委員会

リスク管理委員会
取締役会

 

 

(2) リスク管理

当社グループでは、当事業年度、サステナビリティ課題を含めたリスク識別・管理の体制・プロセスを見直しました。(a)体制においてはリスク管理委員会の委員長を執行役員社長に変更し、(b)プロセスにおいては定期的に見直される社内外の環境を機会的側面と脅威的側面に分けて識別・評価するとともに、うち重要なリスクにつき、機会的側面を経営企画部が経営計画案に反映し、脅威的側面をリスク管理委員会がモニタリングを行い、取締役会がこれらを監督することとし、機会・脅威を有機的・実効的に管理できるように見直しました。

 

 

(3) 戦略

当社グループでは、社会の公器として、社会的責任と持続的成長を両立させるために、社内の基盤整備及びガバナンスに関するこれまでの取り組みを一層強化する必要があることから、前述のとおり、中期経営計画に「ESG戦略」を位置付けています。

ESG戦略の重要な要素であるカーボンニュートラル戦略は気候変動への対応策を示したものになります。気候変動に起因する主なリスク・機会として以下のとおり識別・評価しております。

分 類

内 容

時 間 軸

重 要 度

移行リスク

政策/規制

炭素価格等の上昇リスク

炭素価格等の上昇による操業コスト・部材コストの上昇

短期~長期

業界/市場

顧客行動が変化するリスク

顧客行動の変化による脱炭素要求対応コストの上昇、非対応による売上減少

中期~長期

物理的リスク

急性

異常気象の激甚化に伴うリスク

気候災害による生産活動、部材調達の停止による売上減少

短期~中期

機会

製品/サービス

低炭素商品・サービスの開発・拡大による機会

炭素価格の上昇による環境配慮製品(小型・軽量・低消費電力)の販売機会の増加

中期~長期

市場

市場へのアクセスに関連する機会

顧客からの脱炭素要求対応による競争力の向上

中期~長期

 

 (注)時間軸については、短期を1年、中期を3年、長期をそれ以上としております。

現在、「世界の平均気温が4℃以上上昇する」「世界の平均気温がパリ協定で合意した2℃未満の上昇に抑えられる」の2つのシナリオでシナリオ分析を進めております。

 

また、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針として、当社グループでは「事業成長を牽引する経営幹部・管理職層の継続的な確保・育成」と「若手社員・女性社員・シニア社員のモチベーション・エンゲージメントの向上」を掲げています。この人事戦略の実現のために、多様な能力を有する多様な属性の人材の確保、社員個人が主体的にキャリア開発を考えられる仕組みの構築及び多様な人材から魅力的と感じられるような職場づくりを進めます。

 

(4) 指標及び目標

イ 気候変動リスク

2022年3月10日及び同11月8日に公表したVision2030では、温室効果ガス排出量削減目標として、スコープ1・2排出量を2030年度に2013年度比46%削減する旨掲げておりましたが、当事業年度において当該計画は前倒しで達成する見込みとなりました。そこで、削減目標を次のとおり改めるとともに、かかる目標につき、国際的なイニシアチブであるScience Based Targets initiative(SBTi)から認定を取得するべく申請し、2050年カーボンニュートラル達成に向けた取り組みを加速させていきます。

・2030年度:スコープ1及び2で2023年度比42%削減

        スコープ3カテゴリー1、3、4、11で2023年度比25%削減

 

 ロ 人的資本

上記(3)において記載した、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針について、次の指標を用いております。当該指標に関する目標及び実績は、次のとおりであります。

指標

目標

実績(当事業年度)

女性管理職比率

2028年3月までに7

2.8

中途採用における女性比率

2025年3月までに20

22.2

階層別研修の従業員1人当たり研修時間

2025年3月までに7時間

5.05時間

フレックスタイム制度の対象部門拡大

2024年3月までに技術部門・管理部門に導入

技術部門・管理部門に導入済

エンゲージメントサーベイ

スコアの継続的向上・高回答率の維持

回答率:90.4%

スコア:63.4ポイント

 

 

3 【事業等のリスク】

当社は、重要施策を実現するために、リスク管理委員会において、これを阻害するリスクについて適切に対応する体制を整備しています。

当事業年度においては、デカップリングリスク、製品軍事利用風評リスク、気候変動対応リスク、関係会社管理リスク、情報セキュリティリスク、業界再編リスクの6つのリスクを重点管理リスクとして識別し、それぞれ対応を指揮を明確にし、リスク管理計画を策定し、実施しています。

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況に関する事項のうち、経営者が当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。当社グループはこれらのリスク発生の可能性を認識し、それぞれの部署において、発生の回避及び発生した場合の迅速な対応に努め、より良い事業展開に向かい邁進する所存であります。

なお、下記のリスクの中には将来に関する事項も含まれておりますが、当該事項は当連結会計年度末現在において当社グループが開示する必要があると判断したものであり、事業等のリスクはこれらに限られるものではありません。

 

(1) 当社グループ事業の拡大

当社グループは収益性・成長性の高い市場への対応を目指し積極的な研究開発、設備投資を行い、柱となる事業の早期構築並びに定着に取り組み、業績の向上を目指しております。

主なお客様といたしましては、車載市場、移動体市場、産機市場、光学市場、特機市場となりますが、これらの業界の市況並びに需要動向の変化により、また世界の景気動向の変化、金利・為替・株価の変動により、売上高及び損益は影響を受けます。

 

(2) 競争激化のリスク

水晶業界は大変競争が厳しく、想定以上の価格下落のリスク、最大限の経営努力をしても競争優位を維持できないリスクがあります。また、競争力を維持するために多額の研究開発、設備投資が必要であり、投資計画の前提条件に変動があった場合には、投資を回収できないリスクや機会損失を被るリスクがあります。

 

(3) 各国の公的規制

当社グループはグローバルな事業展開を行っており、国内外の進出先において事業・投資の許可、国家安全保障又はその他の理由による輸出入規制等、様々な政府規制の適用を受けております。また、通商、独占禁止、特許、租税、為替管理、環境関連の適用も受けており、これらの規制や法令の変更により、事業停止等による業績への影響が出る他、規制等の強化に伴い対応コストが増加することがあります。

 

 

(4) 仕入先等に関するリスク

当社グループは製品の製造にあたり、多岐にわたる原材料等の購入を行っておりますが、安定調達が維持できない場合には、想定利益を確保できないリスク、工程の遅延、機会損失、お客様等への賠償責任が発生するリスクがあります。

 

(5) 人材に関するリスク

人材の育成、採用を積極的に進めておりますが、計画どおりにできない場合には、当社グループの成長や利益に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(6) 環境汚染に関するリスク

当社グループでは、「NDKグループ 環境基本理念・基本方針」のもと、環境負荷の低減に努めておりますが、事業活動を通じて一切の環境汚染が発生しないという保証はありません。環境汚染が発生又は判明した場合、浄化処理等の対策費用が発生し、当社グループの損益に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(7) 情報管理に関するリスク

お客様等の個人情報や機密情報の保護については、社内規程の制定、従業員への教育など対策を徹底しておりますが、情報漏洩を完全に防ぐことはできません。情報漏洩が起きた場合には、競争力の低下、信用の低下、あるいはお客様等に対する賠償責任が発生する可能性があります。

 

(8) 自然災害や突発的事象発生のリスク

当社グループは生産並びに販売ともにグローバルな展開を行うことにより、取引集中によるリスクの回避に努めております。しかし、地政学的リスクの高まりや地震をはじめとする自然現象の大きな変化、感染症の蔓延等、突発的な不測事態の発生は、当社グループの業績に重大な影響を与える可能性があります。

新型コロナウイルス感染症につきましては、一定の収束を迎えているものの、世界的再流行による景気後退、各国の規制等による当社グループの操業停止や顧客企業における生産活動の停止・縮小等により、当社グループの業績及び財務状況に悪影響を与える可能性があります。

 

(9) 為替変動のリスク

当社グループの在外子会社等の外貨建の財務諸表項目は、換算時の為替レートにより円換算後の価値が影響を受ける可能性があります。また、当社グループは世界各国に製品を販売しており、為替変動に対するヘッジ等を通じて、短期的な為替の変動による影響を最小限に止める措置を講じていますが、予測を超えた為替変動が当社グループの業績及び財務状況に影響を与える場合があります。

 

(10) 知的財産・製品の欠陥等のリスク

当社グループの事業運営上において、知的財産に係わる紛争が将来生じ、当社グループに不利な判断がなされたり、製品の欠陥に起因して製品回収、お客様への補償、機会損失等が生じる可能性があります。これらのリスクが顕在化する場合には、当社グループの業績及び財務状況に悪影響を与える可能性があります。

 

(11) 貸倒れリスク

当社グループ取引先の信用不安により予期せぬ貸倒れリスクが顕在化し、追加的な損失や引当の計上が必要となる場合には、当社グループの業績及び財務状況に悪影響を与える可能性があります。

 

 

(12) 財務経理上のリスク

事業の動向により、財務・経理上、以下のようなリスクが生じる可能性があります。

①  棚卸資産に係るリスク

需要の急変、販売見込みの相違等による滞留在庫の発生や、販売価格の大幅な下落により、棚卸資産の評価損が発生する可能性があります。

②  固定資産に係るリスク

有形固定資産は見積耐用年数に基づき減価償却を実施しておりますが、将来の陳腐化や事業撤退等により臨時の損失が発生するリスクがあります。また、業績見込み悪化により将来キャッシュ・フロー見込額が減少し、回収可能価額が低下した場合には、減損損失が発生する可能性があります。

③  投資有価証券に係るリスク

投資有価証券は、将来その時価又は実質価額が著しく下落した場合には、減損する可能性があります。

④  繰延税金資産に係るリスク

繰延税金資産は、税務上の繰越欠損金及び将来減算一時差異に対して将来の業績予想を基に適正額を計上しておりますが、将来の業績の変動、税制改正等により計上額が増減する可能性があります。

⑤  確定給付負債に係るリスク

確定給付負債は、割引率、退職率、死亡率等の前提条件に基づき算出しております。実績の前提条件との相違、前提条件の変更、会計基準の改訂等により、負債額に影響する可能性があります。

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。これらの将来に関する記載事項につきましては、「第2  事業の状況  3  事業等のリスク」に記載した内容等を含む様々な要因により、実際の結果と異なる場合があります。

 

(1) 経営成績

当連結会計年度における世界経済は、各国中央銀行の利上げ等によるインフレ抑制策を行いつつ、急激な景気の後退を回避しています。米国経済は個人消費を中心に底堅く推移しましたが、欧州ではドイツを中心に内需が振るわず、景気の回復は緩やかなものになりました。中国では不動産不況の出口が見えず、内需の低迷が継続しました。このような状況下、米国で発足した新政権が掲げる関税政策により、世界景気の先行きへの不確実性が高まりました。

当社の主力事業領域で売上高の約半分を占める車載市場では、世界的な新車販売の減速やEV市場の成長鈍化が見られました。そのような状況下、当社の車載向け売上高は期初に予想していた水準には届かなかったものの、前年同期比では増加いたしました。また、当社売上高の約2割を占める移動体通信向けは、大手スマートフォンメーカー向けを中心に売上高は前年同期比で増加いたしました。産業機器向けにおいても、生成AIの需要拡大を受け、データセンターに使用される光トランシーバ向けの販売が予想を上回りました。また、第4四半期(1~3月)より新たにAIサーバ向けの販売を開始しました。この他、プロ仕様カメラ向けで光学製品の売上高が増加したほか、ヘルスケア向けで水晶振動子の売上高が増加いたしました。

以上により、当連結会計年度の売上高は前連結会計年度比5.5%増の53,064百万円、営業利益は同6.4%増の4,622百万円となりました。税引前当期利益と当期利益は持分法適用会社に関する投資の減損損失458百万円等を計上したため、それぞれ2,955百万円(前連結会計年度比5.5%減)、1,792百万円(同23.2%減)となりました。なお、同連結期間の対米ドル平均為替レートは152.48円(前連結会計年度144.40円)でした。

 

事業の品目別の業績を示すと、次のとおりであります。

①  水晶振動子

水晶振動子の販売は、車載やスマートフォン、ヘルスケア向けで前年比増加しました。その結果、売上高は38,986百万円(前期比5.7%増)となりました。

 

②  水晶発振器

水晶発振器の販売は、AIデータセンター向けで前年比増加しました。一方、基地局向けの販売が減少しました。その結果、売上高は8,665百万円(前期比1.7%増)となりました。

 

③  その他

プロ仕様カメラ向け光学製品の販売が増加しました。その結果、売上高は5,412百万円(前期比10.1%増)となりました。

 

 主要な販売先別の業績を示すと、次のとおりであります。

① 日本

車載向け水晶振動子の販売が前期比で増加した一方、超音波診断装置とFA機器向け水晶発振器の販売が減少しました。その結果、売上高は8,164百万円(前期比1.0%減)となりました。

 

②  アジア

中国圏では、移動体通信向け水晶振動子および車載向けとAIデータセンター向けの販売が前期比で増加しました。韓国では、車載向けの販売が減少しました。その他のアジア地域では、車載向けの販売が増加しました。その結果、売上高は中国18,737百万円(前期比17.5%増)、韓国2,800百万円(前期比13.8%減)、その他4,168百万円(前期比13.4%増)となりました。

 

③  欧州

車載向けの販売が前期比で減少しました。その結果、売上高は11,105百万円(前期比0.9%減)となりました。

 

④  北米

ヘルスケア向け水晶振動子の販売が前期比で増加しました。その結果、売上高は5,981百万円(前期比4.9%増)となりました。

 

生産、受注及び販売の実績を品目別に示すと、次のとおりであります。当連結会計年度より、経営管理区分の見直しに伴い、「その他」に含めていたフォトリソ加工ブランクにつきましては、「水晶振動子」に組み替えて表示しております。なお、前期比については、変更後の品目の区分に基づき集計した金額と比較しております。

①  生産実績

品目別の名称

生産高(百万円)

前期比(%)

水晶振動子

36,966

10.6

水晶発振器

8,122

2.4

その他

3,903

6.7

合計

48,993

8.9

 

(注)  金額は、販売価格によっております。

 

②  受注実績

品目別の名称

受注高(百万円)

前期比(%)

水晶振動子

41,369

8.4

水晶発振器

8,513

8.5

その他

6,089

20.3

合計

55,972

9.6

 

 

 

③  販売実績

品目別の名称

販売高(百万円)

前期比(%)

水晶振動子

38,986

5.7

水晶発振器

8,665

1.7

その他

5,412

10.1

合計

53,064

5.5

 

(注)  総販売実績に対する販売実績の割合が100分の10以上の相手先が存在しないため、主な相手先別の販売実績の記載を省略しております。

 

(2) 財政状態

当連結会計年度末における資産、負債及び資本の、前連結会計年度末に対する主な増減は以下のとおりであります。

前連結会計年度末に比べ、総資産は、現金及び現金同等物の増加3,577百万円、有形固定資産の増加1,628百万円、無形資産の増加859百万円、流動資産その他に含まれる未収消費税等の増加472百万円、棚卸資産の減少585百万円、持分法で会計処理されている投資の減少612百万円等により5,351百万円増加し71,522百万円となりました。負債は、借入金の増加3,085百万円、営業債務その他の未払勘定の増加886百万円、従業員給付の減少194百万円、デリバティブ負債の減少240百万円等により3,554百万円増加し42,351百万円となりました。親会社の所有者に帰属する持分は、当期包括利益2,494百万円、剰余金の配当693百万円等により、1,797百万円増加して29,170百万円となりました。

これらの結果、親会社所有者帰属持分比率は前連結会計年度末の41.4%から0.6ポイント下落して40.8%となりました。

 

(3) キャッシュ・フロー

当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末に比較し3,577百万円増加15,881百万円となりました。活動毎のキャッシュ・フローの状況は以下のとおりであります。

フリー・キャッシュ・フローは、営業活動によるキャッシュ・フローが6,109百万円のプラスとなり、投資活動によるキャッシュ・フローが4,453百万円のマイナスとなったことにより、1,656百万円のプラス(前連結会計年度比3,065百万円のマイナス)となりました。

営業活動によるキャッシュ・フローは、マイナス要因として法人所得税の支払額794百万円等があったものの、プラス要因として減価償却費及び償却額3,427百万円、税引前当期利益2,955百万円、棚卸資産の減少602百万円があったこと等により、6,109百万円のプラス(前連結会計年度比2,418百万円のマイナス)となりました。

投資活動によるキャッシュ・フローは、マイナス要因として有形固定資産の取得による支出3,664百万円、無形資産の取得による支出982百万円があったこと等により、4,453百万円のマイナス(前連結会計年度比646百万円のマイナス)となりました。

財務活動によるキャッシュ・フローは、マイナス要因として長期借入金の返済による支出20,019百万円、短期借入金の減少1,666百万円、リース負債の返済による支出710百万円、配当金の支払691百万円等があったものの、プラス要因として長期借入れによる収入25,000百万円があったことにより、1,912百万円のプラス(前連結会計年度比4,865百万円のプラス)となりました。

これらの結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末に比べ3,577百万円増加し、15,881百万円となりました。

 

なお、当社グループのキャッシュ・フロー指標のトレンドは次のとおりであります。

 

 

2021年3月

2022年3月

2023年3月

2024年3月

2025年3月

親会社所有者帰属持分比率

21.5

32.7

37.4

41.4

40.8

時価ベースの
親会社所有者帰属持分比率

22.7

40.4

46.4

48.4

26.6

キャッシュ・フロー対
有利子負債比率

287.9

 

5.9

 

4.2

 

3.1

 

4.8

 

インタレスト・
カバレッジ・レシオ

0.3

 

10.5

 

22.6

 

21.4

 

15.2

 

 

[算式]親会社所有者帰属持分比率:親会社所有者帰属持分/総資産

時価ベースの親会社所有者帰属持分比率:株式時価総額/総資産

キャッシュ・フロー対有利子負債比率:有利子負債/キャッシュ・フロー

インタレスト・カバレッジ・レシオ:キャッシュ・フロー/利払い

(注) 1. IFRSに基づく連結ベースの財務数値により計算しております。

2. 株式時価総額は自己株式を除く発行済普通株式数をベースに計算しております。

3. キャッシュ・フローは営業活動によるキャッシュ・フローを使用しております。

4. 有利子負債は連結財政状態計算書に計上されている負債のうち、利子を支払っている全ての負債を対象としております。

 

(4) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、国際会計基準に準拠して作成しております。この連結財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の金額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いておりますが、実際の結果は、これらの見積りとは異なる場合があります。

連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5  経理の状況  1.  連結財務諸表等  (1) 連結財務諸表  連結財務諸表注記  2.作成の基礎  (4) 見積り及び判断の利用」に記載しております。

 

5 【重要な契約等】

シンジケートローン契約

当社は、2025年1月28日開催の取締役会において、シンジケートローン方式によるタームローン契約の締結について決議し、2025年3月26日付で契約いたしました。

アレンジャー

株式会社りそな銀行(コ・アレンジャー 株式会社埼玉りそな銀行)

参加金融機関

株式会社りそな銀行、株式会社埼玉りそな銀行、三井住友信託銀行株式会社、株式会社三菱UFJ銀行、株式会社七十七銀行、株式会社横浜銀行、他5行

契約形態

タームローン契約

資金使途

既存借入の借換及び長期運転資金

契約金額

25,000百万円

金利

変動金利(3ヶ月TIBOR+スプレッド)

契約締結日

2025年3月26日

借入期間

2025年3月31日~2031年3月31日

財務制限条項

 各年度の決算期の末日における連結の財政状態計算書における資本合計の金額を前年同期比 75%以上に維持する。

 各年度の決算期における連結の包括利益計算書に示される営業損益(日本基準)が損失とならないようにする。

担保提供資産及び保証の有無

 

 

 

 

6 【研究開発活動】

研究開発部門では中・長期展望における将来商品の基礎となる新技術の研究開発及び工法開発を行っております。水晶デバイスへのニーズに応えるべく、狭山事業所を中心に、研究開発体制を強化し、次世代の周波数制御・選択・検出デバイスの開発とともにその核となる設計技術及びプロセス技術に関する研究開発を行っております。

これら研究開発の主対象分野と当連結会計年度における活動成果は次のとおりであります。

 

(1) 水晶振動子、水晶発振器関連

5G/6G(第5、第6世代移動通信システム)、ADAS(先進運転支援システム)、IoT(あらゆる物がインターネットを通じてつながる)、AI(人工知能)などの社会ニーズに対応し、移動体通信や情報端末機器、固定通信の無線基地局や光ネットワーク通信による情報通信装置、産業用電子応用機器、高信頼性が要求される車載用機器等に使われる水晶振動子、水晶発振器の開発を行っております。

世界的に危機管理の必要性が叫ばれている中、情報通信インフラの役割は益々重要度を増しています。近年の生成AIの普及により通信トラフィックは増大し、データセンターを始めとするデータサーバーの高速・大容量化が進んでいます。データトラフィックの急増による通信市場の急速な技術進展に対応した水晶デバイスに求められるニーズは「小型化」、「高周波化」、「高精度化」、「低位相雑音化」に集約されます。これらを踏まえた商品開発等を積極的に推進しております。

■車載用途向け

  ・業界初、車載安全用途向け 3225 サイズ差動出力水晶発振器

      NP3225SAA 3.2×2.5×1.0mm Max. (開発完了)

  ・業界初(2022年4月時点当社調べ)高温動作(+125℃)/高周波(~100MHz)2016サイズ TCXO

      NT2016SHC 2.0×1.6×0.8mm Max. (開発完了)

  ・車載品質規格 AEC-Q100/Q200準拠 低電圧+0.9V駆動 水晶発振器

      NZ2016SFA 2.0×1.6×0.7mm Max.(開発完了)

 

■5G/6G通信向け

  ・世界最小サイズで低ESRを実現0.8×0.6mm サイズ超小型水晶振動子

    NX0806AA 0.8×0.6×0.25mm Max. (開発完了)

  ・チップセット向け153.6MHz のサーミスタ内蔵水晶振動子

    NX1612SD 1.6×1.2×0.65mm Max.(開発完了)

  ・低周波24MHz小型水晶振動子

    NX1210AB 1.2×1.0×0.3mm Max.(開発完了)

  ・業界最薄1.0×0.8mm サイズ超低背タイプ水晶振動子

    NX1008AB 1.0×0.8×0.25mm Max. (開発完了)

  ・チップセット向け76.8MHz のサーミスタ内蔵水晶振動子

    NX1210AC 1.2×1.0×0.55mm typ. (開発完了)

  ・スマートフォン向け多出力発振器1612サイズ(開発中)

 

 

■5G/6G基地局向け

  ・業界最高レベル 小型・低位相ジッタ差動出力水晶発振器

      NP2520SAB 2.5×2.0×0.9mm Max. (開発完了)

  ・5G 基地局向け高温対応(+95℃)の世界最小クラス7×5mm サイズOCXO

      NH7050SA  7.0×5.0×3.3mm typ. (開発完了)

  ・5G 基地局向け世界最小クラスOCXO、データセンター向け+105℃対応

      NH7050XA  7.2×5.3×3.3mm(開発完了)

  ・5G 基地局向けSTRATUM3E対応の14×9mm サイズOCXO(開発中)

  ・RU(Radio Unit)向け20~50MHz高精度5032サイズTCXO(開発中)

 

■次世代データセンター向け

  ・光伝送モジュール向け業界最小クラス2016サイズ差動出力水晶発振器

    NP2016SA 2.0×1.6×0.7mm typ. (開発完了)

  ・次世代データセンター及び光トランシーバー向けに低ジッタ312.5MHz差動出力水晶発振器

    NP2016SAE 2.0×1.6×0.66mm typ. (開発完了)

  ・次世代データセンター向けOCXO NH9070XB 9.5×7.3×4.1mm(開発完了)

 

■宇宙用途向け

  ・宇宙用電子機器向け高信頼性水晶発振器(JAXA認定品)

      JAXA-QTS-2020/3001 15.8×15.8×3.5mm typ. (開発完了)

 

(2) 水晶デバイス応用機器、光学製品関連、センサ機器

水晶の性質を生かして高付加価値の新分野における事業を目指し、高性能・高機能モジュールやそれらを使用した装置の開発を推進しております。

 

■車載用途向け

  ・車載レーダに使用されるミリ波帯信号を周波数変換するミリ波帯ダウンコンバータを開発 (開発完了)

 

■宇宙用途向け

  ・国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で、高精度ガス計測センサ及び計測システムを開発

      (開発完了)

  ・宇宙探査用微量ガス検出のQCMセンサシステムの開発 (開発中)

 

■その他

  ・アウトガスセンサシステムの半導体市場向け計測システム開発(開発中)

  ・航空機搭載用無線装置の開発(開発完了)

  ・高級一眼レフカメラ及び高画質動画撮影機器向け高機能光学フィルタの開発(開発中)

  ・半導体・高出力レーザー用光学製品の開発(開発中)

  ・経済産業省・NEDO の先導研究委託事業における委託契約締結と研究開発開始

   「極限時刻同期に基づく革新的通信デバイスと応用開拓」の研究開発(開発完了)

 

なお、当連結会計年度における研究開発費は2,085百万円となりました。