当企業集団の経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当企業集団が判断したものであります。
(1)経営方針
当企業集団は、創業以来、「常に最高の技術集団であれ」を社是として歩んでまいりました。また「コミュニケーションで創る楽しい未来・愉快な技術」を経営理念としており、コミュニケーションを円滑に行う機器を作るメーカーとして事業を営んでおります。
(2)経営戦略及び目標とする経営指標
当企業集団は、2026年3月期を最終年度とする中期経営計画を策定し2023年5月11日に公表いたしました。その重点戦略は次のとおりです。
①コアビジネスの強化
・高周波の新たな領域や新プラットフォームの展開
・衛星無線分野に「アイコムしかできない」製品展開
・異なるプロトコル間通信ノウハウを他の無線カテゴリーへの展開
②新たなビジネスモデルへの挑戦
・回線収入・ストックビジネスの海外市場拡大
・主要無線カテゴリーの技術を武器に、シナジー効果が得られる戦略的パートナーシップを構築
③100年企業を目指したサステナブル経営戦略
・サステナブル経営を基にしたバリュー・プロポジションの更なる向上
・持続的な成長に向けた取り組み(ESG)
・ロボット生産やスマートファクトリー化によるモノづくりの改革と進化を継続
これらの施策を着実に遂行することで中期経営計画2026の目標を達成するとともに、当企業集団の企業価値を市場及び投資家の皆様にご理解いただけるようPR活動を強化してまいります。
(3)経営環境及び優先的に対処すべき課題
当企業集団がターゲットとする無線通信機器市場では、ウクライナ情勢や中東地域における地政学的リスクに加え、円安による物価上昇や物流コスト増など不透明な状況が続く見込みです。また、半導体等主要電子部品の供給難は改善してきておりますが、一部キーパーツの納期の長期化が続いています。
一方、全世界的に無線機需要は底堅いものとみており、引き続き拡大するものと予想されます。
製品においては、コストを抑制しつつ市場のニーズに対応すべく、生産工程の自動化を利用した生産対応により、タイムリー且つ、安定した製品の市場投入に取り組みます。また、部材供給不足の影響を受けにくい新製品の市場投入につきましても引き続き注力してまいります。
また、当期より2026年3月期を最終年度とする「中期経営計画2026」をスタートさせておりますが、当期の業績は計画策定時の目標を1年前倒しで達成したことから、足元の業績動向を踏まえ、2年目以降の目標値を引き上げることといたしました。新たな目標値の達成に向け着実に遂行してまいります。
当企業集団のサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当企業集団が判断したものであります。
サステナビリティへの対応
気候変動をはじめ、エネルギーや資源の枯渇などの環境問題、高齢化社会や情報格差などの社会問題など様々な課題は、今や国・地域を問わない世界共通の喫緊の課題です。これらの課題は、「How the World Communicates ~コミュニケーションで世界をつなぐ~」をブランドステートメントとして、100か国以上に製品を輸出し海外売上比率の大きい当社の持続可能な経営のためにも重要な課題(マテリアリティ)であると考えています。
社会課題がもたらすリスクや機会を捉えることで、リスク管理体制を高度化していくと共に、新たなビジネスの機会も見出し、企業戦略へ生かしてまいります。
1.気候変動への対応
当社では、環境だけでなく、社会や経済に対する価値提供と企業利益を両立する「サステナビリティ経営」により100年企業を目指した事業運営を行っています。当社事業は、気候変動による様々な影響を受ける可能性があります。気候変動が経営リスクの要因として捉えて、同時に自社事業におけるGHG排出量削減や、生産工数の削減、省エネ機器導入を通じたエネルギー利用の削減に努め、環境負荷軽減に取り組んでいます。
※GHGとは、Greenhouse Gasを略した環境用語で、温室効果ガスのことを指し、最も大量に含まれるのは二酸化炭素ですが、その他にメタン、一酸化二窒素、さらに、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、六フッ化硫黄、三フッ化窒素などの代替フロンが含まれます。
(1)ガバナンス
当社では、気候変動を含む環境課題を重要課題の一つと捉え、「サステナビリティ推進グループ」を中心に気候変動に対するリスクと機会の特定や評価、管理のための取り組みを推進しています。
〔サステナビリティ(気候変動を含む)に関するガバナンス/リスク管理体制〕
※サステナビリティ推進グループ構成員:社長室+総務部ほか(議題に応じて各部署が参加)
(2)リスク管理
当社では、リスクの面においては、サステナビリティ推進グループのみならず総務部リスク管理ユニットと連携の上で、各種リスクの特定・評価・管理を実施しています。
同グループは、経営会議の直下の組織として、年1回以上招集され、気候変動関連を始めサステナビリティに関する課題を経営会議が審議・検討・監督するための事務局機能を担い、リスクと機会の特定・評価・管理ほか、各事業年度におけるGHG排出量実績評価や排出量削減の進捗管理、対外開示の内容など気候変動に関する様々な事項を協議・整理します。
同グループでの協議・整理を経て、気候変動を始めサステナビリティに関する各種事項は経営会議に報告され、取締役会で最終承認を得ます(気候変動に関する議題については、年次データの報告、要求事項の変更や環境対応に関する勉強会等で年1回以上の頻度で取り扱います)。決定事項、施策等については、同グループがその後の社内実行・浸透までの進捗管理を担います。
(3)戦略
当社では、2030年ならびに2050年時点の時間軸において気候変動が当社事業に及ぼす影響を網羅的に把握するために、TCFD提言に沿った「1.5℃シナリオ」「4℃シナリオ」やその他各種文献をベースとして今後想定されるリスクと機会を幅広く洗い出しました。これを基にした各関連部門との協議・検討を経て、最終的に当社事業にとって影響を及ぼす可能性が高い事象とその影響度合い、また、それらに対する対応策を整理しています。
※時間軸:短期(~2030年)/中長期(~2050年)
※影響度:営業利益の直近5年間平均額の1%を超える影響額(大)/それ以下(小)
今後も定期的かつ継続的にシナリオ分析を実施することでその精度を高め、想定されるリスクに柔軟に対応しながら、不確実な将来におけるいずれのシナリオにも耐えうるレジリエント(強靭)な経営体制を構築していきます。
一方機会については、気候変動の状況や市場動向を都度把握しながら、当社の持続的な企業価値向上に繋がるよう、適時適切な施策を展開していきます。
※主な参照シナリオ
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想定される世界 |
想定事象 |
主な参照シナリオ |
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1.5℃/ 2.0℃未満 シナリオ |
・日本を含む世界各国でカーボンプライシングの導入が進み、世界的に炭素税が上昇する。 ・世界各国において低炭素・脱炭素技術向けの商品需要が拡大する。 ・顧客や投資家からの脱炭素化要求が高まり、対応できない企業が淘汰される。 |
IEAWorldEnergyOutlook2021(SDS,NZE2050)、 IEAWorldEnergyOutlook2018(SDS)、IPCC(SSP1-1.9、SSP1-2.6) |
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4℃ シナリオ |
・日本を含む世界各国でカーボンプライシングの導入は進まない。 ・世界的な温室効果ガス排出削減の遅れにより、温暖化が進行し、異常気象(サイクロン・洪水等)が増加傾向となる。平均気温の上昇や海面上昇等の影響も発生する。 |
IEAWorldEnergyOutlook2021(STEPS)、IPCC(SSP5-8.5)、 IEAWorldEnergyOutlook2018(NPS)、IPCC(SSP5-8.5) |
(4)指数及び目標
当社では、2021年度分より年間の事業活動を通じたGHG排出量の算定を開始しました。当社排出においては総排出量60,640t-CO2の内約68%をScope3が占め、かつそのScope3の内70%以上が「カテゴリ11:製品の使用」に該当します(下表ご参照)。
こうした実績・特色を前提として、当社は具体的なGHG削減目標として2030年にScope1・2の排出量43%削減(2021年度比)、2050年にはScope1~3の総排出量実質ゼロを目指します。この目標を着実に実現へと近づけるため、徹底した省エネ活動や再エネの利活用で自社排出(Scope1・2)量削減を推進するともに、Scope3についてもサプライチェーンとの対話に注力しながら、自社製品の強みや魅力を維持した上でのネットゼロ達成を目指していきます。
〔表〕GHG排出量削減目標・ロードマップ
2.人的資本
少子高齢化やグローバル化により人々のライフスタイルが多様化するなかで、幅広いお客さまに選ばれる企業として成長を続けるためには、人材の多様性「ダイバーシティ」が重要と考えています。
当社では、経営戦略の一環として社員一人ひとりが、等しく機会を得て能力を発揮できる組織づくりに取り組んでいます。ジェンダー平等、「ダイバーシティ(多様性)」、個々の違いを尊重し、受け入れる「インクルージョン」を推進し、多様な社員一人一人が自分らしく安心して、能力を発揮できる組織づくりに取り組んでいます。多様性を受け入れ活かすことで、すべての人に等しく機会を与えられる「平等な機会」を目指すべき姿であると考え、「ダイバーシティ&インクルージョン」を意識していきます。
(1)戦略
①人材の多様性を含む人材確保・育成に関する方針
当社グループでは、「中期経営計画2026」で人材確保・育成を経営基盤の強化策の一つとしており、企業基盤の継続的発展において、課題の一つであると考えております。他社との協業及びAcquihiring型企業買収を積極的に推進することに加え、従業員一人一人の育成をサポートする研修体系の整備や環境の構築を促すことなどにより、継続的な発展への社内の活性化に取り組んでいます。
②社内環境整備に関する方針
当社グループでは、100年企業を目指し、企業理念である「コミュニケーションで創る楽しい未来・愉快な技術」の実現に向け、あらゆる垣根を超え、国内外のアイコムを支える全ての人々の思いのもと、サスティナブル経営に取り組んでいます。また、夏休みの時期を社員が自由に選択できるFSV(Flexible Summer Vacation)制度の導入や性別にとらわれない育児休暇取得や働きすぎ防止のための取り組みとしてノー残業デーを設定するなど、仕事と生活の調和を実現し、誰もがいきいきと働くことのできる社風づくりを行っています。
(2)指標及び目標
能力を発揮できる組織づくり及び組織の多様性に関する指標及び目標は以下の通りになります。
・産休育休取得後の復帰率(男女問わず) 目標90%以上、実績100%(2024年3月期)
・新卒採用に占める女性労働者の割合 目標40%、実績30%(2024年3月期)
・FSV取得率 目標100%、実績80%(2024年3月期)
・月平均時間外労働時間 目標8.0時間/人、実績7.9時間/人(2024年3月期)
※人的資本に関する方針については、グループ内の影響力が大きい当社が関連する指標管理を行っており、当社における指標、目標及び実績を記載しております。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当企業集団が判断したものであります。
(1)生産拠点に関するリスク
当企業集団は生産拠点を、和歌山県北部の紀の川市および和歌山県中央部の有田郡有田川町に設置しており、南海トラフ巨大地震を始めとする自然災害による被害を最小限に抑えるための対策を講じておりますが、想定を超える規模の地震や台風、集中豪雨等が発生した場合は、生産設備への被害やサプライチェーンの寸断による原材料の調達困難等によって操業が中断する恐れがあり、当企業集団の経営成績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。今後とも最新の防災情報を収集し対策を継続してまいります。
(2)原材料の調達に関するリスク
当企業集団は電子部品等の製品の原材料を主に日本国内、中国、台湾及び東南アジア諸国より調達しており、調達先において紛争や自然災害の発生等、予期しない要因により長期にわたり調達が滞るような場合には、当企業集団の経営成績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。今後とも調達先の複数化等により、リスクの軽減に努めてまいります。
(3)為替相場の変動によるリスク
当企業集団の連結売上高に占める海外売上高の割合は、2022年3月期63.3%、2023年3月期67.0%、2024年3月期69.5%と高水準であり、外貨建て支払いによる原材料の調達を拡大する等の対策を講じておりますが、為替相場の変動は当企業集団の経営成績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(4)製品保証に関するリスク
当企業集団は、厳しい管理基準に基づき製品の設計、製造を行っておりますが、将来にわたり製品に欠陥が生じる可能性を完全に否定することはできません。製品の欠陥は大規模な製品回収(リコール)や製造物賠償責任により多額の費用や賠償金を必要とするだけではなく当企業集団の評価に重大な影響を与え、当企業集団の経営成績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(5)知的財産権に関するリスク
当企業集団は、特許権、商標権等の知的財産権を取得することにより自社の知的財産権を保護しております。また第三者の知的財産権を侵害することのないよう慎重に調査、検討を行っておりますが、第三者との間で、無効、模倣、侵害等の知的財産権に関する問題が発生した場合は、当企業集団の経営成績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(6)パンデミックに相当する大規模な感染症流行のリスク
大規模な感染症の流行により、経済活動が制限され、海外からの原材料の調達に支障が出ること等による生産遅れや、販売機会の減少及び消失が起こる可能性があります。
(1)経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要は次のとおりであります。
①経営成績の状況
当企業集団は、「100年企業」を目指したサステナブル経営の第2フェーズとして、当期より2026年3月期を最終年度とする「中期経営計画2026」をスタートさせておりますが、当期の業績は計画策定時の目標を1年前倒しで達成したことから、足元の業績動向を踏まえ、2年目以降の目標値を引き上げることといたしました。
当連結会計年度における世界経済は、コロナ禍からの経済活動正常化への流れの加速や各地域での地政学的リスクの高まりに加え、国内では、インバウンド需要の回復などが進み設備投資需要が増加している状況です。一方で、為替相場の急速な変動、円安による原材料価格の高騰や輸送コストの上昇など、先行きについては依然として不透明な状況が続いております。
このような経済環境の下、当企業集団が関連する市場において、業務用無線通信機器の分野では、地政学的リスクへの対策に加え、無線機のデジタル化による客先ニーズの多様化により需要が拡大しています。海上用無線通信機器の分野では、北米及び欧州におけるレジャー需要が好調を維持したことに加え、アジア・オセアニア地域においても経済活動の活性化に伴い無線機需要が拡大しました。アマチュア用無線通信機器の分野では、当社の様々な取り組みにより新しい楽しみ方が増えたことで、当社製品に対するユーザーの関心が高まってきています。航空用無線通信機器の分野では、経済活動の活性化による需要回復に加え、自然災害対応やドローンユーザーへの無線機の携帯義務化等の新規ニーズが拡大しています。
当企業集団においては、電子部品等原材料の供給状況に一部部材の長納期化、無線機で使用する主要部品終息の増加等の課題が残るものの回復する動きが見られたことに加え、販売チャネルとの連携強化、代替え製品の販売推進、材料調達方法の多様化等を継続し、客先ニーズに合った製品の安定供給に応える取り組みに努めました。
これらの結果、前期に続きストックビジネスの伸長を図れたことや期初の想定に比べ為替相場が円安で推移したこともあり、売上高は前期に続いて過去最高を更新しました。
当連結会計年度における売上高は、371億1千7百万円(前年同期比8.6%増)となり、売上総利益は160億3千7百万円(前年同期比12.3%増)となりました。販売費及び一般管理費は、人件費の増加、円安の影響、広告宣伝活動の強化、のれん償却費の発生などにより、11億8千5百万円増加して126億2千1百万円となりましたが、増収により営業利益は34億1千5百万円(前年同期比19.8%増)、為替差益6億5千9百万円を計上したことにより経常利益は44億1千6百万円(前年同期比35.4%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は34億6千1百万円(前年同期比34.4%増)となりました。
また、当該期間に適用した米ドル及びユーロの平均為替レートはそれぞれ143.14円及び154.28円であり、前年同期に比べ対米ドルでは6.6%、対ユーロでは10.2%の円安水準で推移しました。
なお、地域別の状況については、下表のとおりであります。
<参考>地域別売上高
|
|
前連結会計年度 (自2022年4月1日 至2023年3月31日) |
当連結会計年度 (自2023年4月1日 至2024年3月31日) |
増減率 (%) |
|||
|
金額 (百万円) |
構成比 (%) |
金額 (百万円) |
構成比 (%) |
|||
|
国内 |
11,267 |
33.0 |
11,337 |
30.5 |
0.6 |
|
|
|
北米 |
10,944 |
32.0 |
12,032 |
32.4 |
9.9 |
|
欧州(EMEA) |
5,580 |
16.3 |
6,245 |
16.8 |
11.9 |
|
|
アジア・オセアニア |
4,899 |
14.4 |
5,955 |
16.1 |
21.5 |
|
|
その他(含む中南米) |
1,481 |
4.3 |
1,546 |
4.2 |
4.4 |
|
|
海外計 |
22,906 |
67.0 |
25,779 |
69.5 |
12.5 |
|
|
合計 |
34,173 |
100.0 |
37,117 |
100.0 |
8.6 |
|
〔品目別の状況〕
・陸上業務用無線通信機器
当連結会計年度における陸上業務用無線通信機器の売上高は、前年同期比で11.8%増の178億1千2百万円となりました。地政学的リスクの高まりに加え、他社の供給停滞による機会を捉え客先需要に合わせた供給ができたことで、全地域で増収となりました。
・アマチュア用無線通信機器
当連結会計年度におけるアマチュア用無線通信機器の売上高は、前年同期比で10.1%増の60億1千万円となりました。電子部品等原材料の供給が安定しはじめたことに加え、当期に発売した新製品効果もあり、全地域で増収となりました。
・海上用無線通信機器
当連結会計年度における海上用無線通信機器の売上高は、前年同期比で9.7%増の40億3千6百万円となりました。電子部品等原材料の供給が安定しはじめたことで、北米、欧州での前期に続くレジャー用途での好調な需要及びアジア・オセアニア地域での経済活動の活性化等に伴う需要回復等に応じた出荷が可能になり、増収となりました。
・その他の品目
当連結会計年度における付属品その他の売上高は、前年同期比で1.6%増の92億5千5百万円となりました。前期の官庁向け大型入札案件の反動減の影響があったものの、海外向け航空用無線通信機器や海上航法機器の売上が堅調に推移し、増収となりました。
|
|
売上高 (百万円) |
営業利益 (百万円) |
経常利益 (百万円) |
親会社株主に帰属する当期純利益 (百万円) |
|
当連結会計年度 (2024年3月期) |
37,117 |
3,415 |
4,416 |
3,461 |
|
前連結会計年度 (2023年3月期) |
34,173 |
2,850 |
3,262 |
2,574 |
|
増減率 |
8.6% |
19.8% |
35.4% |
34.4% |
セグメントごとの経営成績は、次のとおりであります。
(セグメント業績については、65ページ(セグメント情報等)にある所在地別区分で記載しており、前記「地域別売上高」とは異なります。)
a. 日本[当社、和歌山アイコム㈱、アイコム情報機器㈱、㈱マクロテクノス]
≪国内市場≫(日本国内より国内市場への売上高)
前期官庁向け航空用無線通信機器大型入札案件の反動減があったものの、陸上業務用無線通信機器での経済活動の回復に伴うレンタル用需要増及びストックビジネスの伸長、付属品その他でのソフトウエア関連の売上が貢献し、当市場全体としては増収となりました。
≪海外市場≫(日本国内より海外市場への売上高)
電子部品等原材料の供給が安定し始めたことで、欧州及びアジア地域での旺盛な需要を満たす供給が可能になったこと、それに合わせた付属品の売上が伸びたことで増収となりました。
これらの結果、本セグメントの外部顧客に対する売上高は194億7千8百万円(前年同期比7.6%増)となり、利益面では、増収及び前期に利益率の低下要因であった官庁向け航空用無線通信機器大型入札案件の反動が、人件費及び広告宣伝費の増加などによる販売費及び一般管理費の増加を上回り営業利益は35億3千3百万円(前年同期比46.9%増)となりました。
b. 北米[Icom America,Inc.、ICOM CANADA HOLDINGS INC.、ICOM DO BRASIL RADIOCOMUNICACAO LTDA.、ICOM CENTRAL AMERICA,S.DE R.L.DE C.V.]
陸上業務用無線通信機器が、他社の供給停滞による機会を捉え拡販が進んだことに加え、航空用無線通信機器が売上を伸ばし、増収となりました。
為替レートも対米ドルで前年同期に比べ6.6%の円安水準となり、本セグメントの外部顧客に対する売上高は136億4千8百万円(前年同期比9.5%増)となりました。利益面では、円安の影響及び人件費の増加などにより販売費及び一般管理費が増加しましたが、営業利益は5億4千万円(前年同期比13.3%増)となりました。
c. ヨーロッパ[Icom(Europe)GmbH、Icom Spain, S.L.]
電子部品等原材料の供給が安定し始めたことで、主要カテゴリである陸上業務用無線通信機器及びアマチュア無線機通信器の旺盛な需要を満たす供給ができました。また、IP無線機が好調だったことで、増収となりました。
為替レートも対ユーロで前年同期に比べ10.2%の円安水準となり、本セグメントの外部顧客に対する売上高は24億2千1百万円(前年同期比13.6%増)となりました。利益面では、円安の影響及び自社ビル取得による減価償却費の増加などにより販売費及び一般管理費が増加し、営業利益は1億9千4百万円(前年同期比0.6%減)となりました。
d. アジア・オセアニア[Icom(Australia)Pty.,Ltd.、PURECOM CO.,LTD.、ICOM ASIA CO.,LTD.]
主力市場となるオーストラリアにおいて、陸上業務用無線通信機器及び航空用無線通信機器の需要が底堅く、堅調に推移したことに加え、アマチュア用無線通信機器が新製品効果もあり、前期の売上を上回ったことで増収となりました。
これにより、本セグメントの外部顧客に対する売上高は15億6千8百万円(前年同期比6.5%増)となりました。利益面では、増収により営業利益は1億3千6百万円(前年同期比44.6%増)となりました。
②財政状態の状況
(資産)
総資産は前連結会計年度末比59億9千5百万円増加し、731億5千9百万円となりました。
主な内訳は、投資有価証券の増加18億9千1百万円、棚卸資産(合計)の増加15億5千6百万円、差入保証金の増加10億3百万円、退職給付に係る資産の増加8億5千万円、投資その他の資産のその他の増加7億9千3百万円、有価証券の増加6億円、建物及び構築物の増加4億4千4百万円、有形固定資産のその他の増加3億円、流動資産のその他の増加2億1千3百万円、土地の増加2億1千1百万円及び売掛金の増加1億4千8百万円の増加要因と、現金及び預金の減少15億5千9百万円及び繰延税金資産の減少4億1千8百万円の減少要因によるものであります。
なお、投資その他の資産のその他の増加7億9千3百万円の主な内訳は、長期定期預金の増加5億1百万円及び長期貸付金の増加3億7千8百万円の増加要因によるものであります。
また、有形固定資産のその他の増加3億円の主な内訳は、工具器具備品の増加2億8千万円の増加要因によるものであります。
また、流動資産のその他の増加2億1千3百万円の主な内訳は、信託受益権の増加2億円の増加要因によるものであります。
(負債)
負債合計は前連結会計年度末比7億円増加し、74億1千4百万円となりました。
主な内訳は、賞与引当金の増加4億2千4百万円、未払法人税等の増加3億9千3百万円、流動負債のその他の増加1億6千3百万円及び製品保証引当金の増加9千9百万円の増加要因と、買掛金の減少4億2千8百万円の減少要因によるものであります。
なお、流動負債のその他の増加1億6千3百万円の主な内訳は、未払費用の増加1億4千3百万円の増加要因によるものであります。
(純資産)
純資産合計は前連結会計年度末比52億9千4百万円増加し、657億4千5百万円となりました。
主な内訳は、親会社株主に帰属する当期純利益による増加34億6千1百万円、その他有価証券評価差額金の増加13億1千4百万円、為替換算調整勘定の増加10億9千3百万円及び退職給付に係る調整累計額の増加4億5千8百万円の増加要因と、剰余金の配当による減少10億3千3百万円の減少要因によるものであります。
以上の結果、自己資本比率は90.0%から89.9%に低下いたしました。
③キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末に比べ19億8千5百万円減少し、259億9千3百万円となりました。当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は、以下のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動により増加したキャッシュ・フローは、22億8百万円(前年同期は34億1千8百万円の増加)となりました。主な増加要因は、税金等調整前当期純利益44億1千6百万円、減価償却費の計上11億6千4百万円及び売上債権の減少1億6千4百万円、一方で主な減少要因は、棚卸資産の増加10億4千4百万円、法人税等の支払額10億1千6百万円、営業活動その他による減少7億3千3百万円、仕入債務の減少4億3千3百万円及び受取利息及び受取配当金2億7千9百万円であります。
なお、営業活動その他による減少7億3千3百万円の主な内訳は、差入保証金の増加10億3百万円の減少要因と、賞与引当金の増加4億1千7百万円の増加要因によるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動により減少したキャッシュ・フローは、36億7千5百万円(前年同期は24億8千4百万円の増加)となりました。減少要因は、有形固定資産の取得による支出18億6千5百万円、預入期間3ヶ月超定期預金の増加8億2千3百万円、投資有価証券の取得による支出6億8千万円及び投資活動その他による減少5億8千8百万円、一方で増加要因は、利息及び配当金の受取額2億7千2百万円及び投資有価証券の売却による収入1億3千6百万円であります。
なお、投資活動その他による減少5億8千8百万円の主な内訳は、長期貸付による支出3億7千8百万円及び信託受益権の増加2億円の減少要因によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動により減少したキャッシュ・フローは、11億2千4百万円(前年同期は7億1千8百万円の減少)となりました。主な内訳は、配当金の支払額10億3千3百万円であります。
④生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当企業集団の生産はすべて日本セグメントにおいて行っており、次のとおりであります。
|
セグメントの名称 |
当連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
前年同期比(%) |
|
日本(百万円) |
31,867 |
123.2 |
(注)金額は販売価格によっております。
b.商品仕入実績
金額的重要性が乏しいため、記載を省略しております。
c.受注実績
当企業集団の製品は、需要予測による見込生産を行っており、原則として受注生産は行っておりません。
d.販売実績
当連結会計年度における報告セグメントごとの販売実績はセグメント情報等をご参照下さい。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当企業集団の経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末日現在において判断したものであります。
①経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
(1)経営成績等の状況の概要①経営成績の状況をご参照願います。
なお、当連結会計年度の連結業績目標の達成状況は次のとおりであります。
当連結会計年度の当初計画時点において、コロナ禍による経済活動縮小の緩和や電子部品等原材料の入手難による製品供給の制約は徐々に解消される傾向にあり、業績向上の好材料はあるものの未だ部材の長納期化が懸念される状況にありました。そのことにより製品の受注残がどの程度順調に市場供給できるかについては不透明な状態での計画立案となっておりました。しかし、前連結会計年度に引き続き部材調達方法の多様化等により計画より早期に受注残が解消できる見通しとなったことにより2023年8月16日に計画を見直し、下表に記載の計画といたしました。その後も部材の入手難の状況改善や世界情勢の不安から危機管理意識が高まるにつれ無線通信機に対する需要が増加したこと、また為替が想定レートよりも円安に推移した効果も伴って、計画比9億1千7百万円増(2.5%増)の371億1千7百万円と前年度の記録を更新し過去最高の売上高となりました。
利益面では、売上高が計画を上回ったこと、為替が円安で推移したこと等により営業利益は計画比3億8千5百万円増(12.7%増)の34億1千5百万円、営業利益率も計画を上回る9.2%となりました。
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指標 |
2024年3月期(計画) |
2024年3月期(実績) |
2024年3月期(計画比) |
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売上高(百万円) |
36,200 |
37,117 |
917( 2.5%増 ) |
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営業利益(百万円) |
3,030 |
3,415 |
385( 12.7%増 ) |
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営業利益率(%) |
8.4% |
9.2% |
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②キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
当連結会計年度末において、当該項目に記載すべき資金の支出予定はなく、事業運営上必要な資金につきましては自己資金により賄う予定であります。
③重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当企業集団の連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表作成にあたって適用した重要な会計方針および見積りの方法につきましては、第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)に記載のとおりであります。
該当事項はありません。
当企業集団における研究開発活動は、連結財務諸表を作成する当社(日本セグメント)及びIcom America Inc.(北米セグメント)が行っています。当連結会計年度の研究開発費は、
・陸上業務用無線通信機器
2020年10月の発売以来、多くのお客様に好評を頂いている無線IPモバイルフォン「IP200H」の姉妹機として、発売後のCX(カストマーエキスペリエンス)によるフィードバックを取り入れることで製品力強化をすべく開発を進めた「IP210H」を発売しました。
IP200Hはオフィスや店舗のニーズにフィットするテレフォンスタイルであるのに対し、IP210Hは工場や建設現場などより過酷な条件下での使用を踏まえ、アンテナや音声ツマミなど、無線機をお使いの方に馴染みのあるインターフェースを採用。操作性や見た目の面でも、従来の無線機からスムーズに置き換えることが可能。さらに、米国防総省基準であるMIL規格に準拠した堅牢性の高いボディに加え、IP57の防塵・防水性能も兼ね備えた製品に仕上げています。
・アマチュア用無線通信機器
JARL(日本アマチュア無線連盟)が推進するアマチュア無線のデジタル通信規格D-STARに対応した144/430MHzデュアルバンド5WデジタルトランシーバーID-50の開発および発売をしました。
ID-50は、デジタル通信規格D-STARに対応。レピータ(中継局)を経由して、日本全国、海外とも安定した通信に加え、従来のFMモード(アナログ通信)にも対応。また、専用ソフトとAndroid™端末との接続により、画像の送受信機能や、レピータにアクセスできないエリアでも遠距離通信を楽しめるターミナルモード/アクセスポイントモードなど、D-STARの機能が充実。他にも、バンドの状況や信号の位置が一目でわかるウォーターフォール表示や、交信のチャンスを逃さないV/U、V/V、U/Uの2波同時受信など、多彩な機能で快適な運用をサポートしています。
・海上用無線用通信機器
海運業界の業務効率の大きな向上を目的に、国際VHF無線と、携帯電話のLTEともに利用できるトランシーバー(IP-M60)の開発及び発売をしました。
IP-M60は、航行の安全確保の手段として世界共通で利用されている国際VHF無線と、停泊後の貨物の荷渡し時や、所属する海運会社などへの連絡手段として利用されている陸上用のIPトランシーバーの2機種を1台にした、世界でも類を見ない“ハイブリッド型”IPトランシーバーです。2台分の通信機能をもたせながら、回路設計や構造部品の工夫により小型軽量化に成功。新たなマーケットやストックビジネスを創出しています。
・ネットワーク機器
当社のIP電話システム「telelink®」に対応するIPフォンアプリ「IP200APP」および多機能卓上電話IPフォン「VP-2100」の開発および発売をしました。
「telelink®」は、当社製SIPサーバーをキーデバイスとして、LTE回線などを利用して相互に内線・外線通話を可能にするIP電話システムです。発売した2製品は、従来のシリーズ製品である無線モバイルIPフォン(IP200H/IP210H)などとともに活用できる、スマートフォン向けアプリと固定電話端末です。今回の製品により、職種や業種に合わせた端末の選択ができるようになり、働く場所によりフィットするスタイルでの利用を可能にしています。
・その他(新規ビジネス/技術など)
IP50G(5Gゲートウェイデバイス)の発表に伴い、収益化につながるプラットフォーム開発を進めています。
合わせて、5G導入事例となる和歌山アイコムのスマートファクトリー化に向けて、AI技術を利用するライン作業検視実験を開始しています。また、小型化、低消費電力化など次世代の通信機プラットフォームのチップ開発やミリ波帯の電波に加え、新たな通信方式の探求にも注力しています。