第2 【事業の状況】

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1) 経営方針、経営環境

① 会社の経営の基本方針

 当社グループは、株主様、お客様・お取引先様、社員とその家族、地域社会、地球という5つの存在が当社グループを支えていただく主体であると認識し、当社グループとの間に「信頼」を築き上げていくことを企業使命として、これに基づき企業価値向上を目指すことを経営の基本方針としております。

 

② 経営環境及び中長期的な会社の経営戦略

 今後の経済見通しにつきましては、世界の景気は回復傾向にあるものの、高いインフレ率や金融引き締めの継続等により、先行きは引き続き非常に不透明感が強い状況にあります。

 当社グループの属する電子部品業界におきましても、自動車向けの需要は堅調に推移する一方、産業機器向けは企業の設備投資マインドの減退を背景に回復が遅れる等、次期の受注動向に対しては慎重な見方が必要であります。利益面においても、原材料価格の上昇、為替変動等の懸念材料があります。しかしながら中長期的にみれば、“Society 5.0”に代表されるサイバー(仮想)空間と現実社会を高度に融合させたシステムで、経済発展と社会的課題の解決を両立させるアプローチは、自動運転をはじめとしてすでに現実のものになっております。サイバー空間への入り口は「センサ」であり、1年間に全世界で1兆個のセンサが使用される「トリリオン(兆)・センサ社会」も近づいております。

 このような経営環境下において当社グループは、2030年に向けた長期ビジョン(2030ビジョン)及び2022年度から2024年度の3年間の中期経営計画を策定しております。中期経営計画は2030ビジョン実現に向けた当社グループの挑戦におけるフェーズ1「確実な成長のための基盤づくり」と位置付けており、重点施策である「2030年に向けた供給体制の構築」、「KPS(KOA Profit System)の『しんか』」、「イノベーション・マネジメントシステム(IMS)の導入」、「再生可能エネルギーの導入と電力使用量の削減」、「未来を創造する人づくり」、「ガバナンスの新たな取り組み」を推進してまいります。なお詳細につきましては、2022年4月22日に開示しました「2030ビジョンおよび2024中期経営計画策定のお知らせ」をご参照ください。

 なお、2024年4月24日に2025年3月期の財務目標値を修正しております。詳細につきましては、当社HPに開示しております「〔修正〕2024中期経営計画」をご参照ください。

 

(2) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

 エレクトロニクス業界は、「環境」「安全」「利便性」をキーワードに進化する自動車分野における技術革新に代表されるように、更なる市場の発展が見込まれる一方、国際的な価格競争力、製品品質と信頼性、顧客への技術提案力に加えて、将来にわたり安定した製品供給ができる企業が求められております。

 このような業界のなかで当社グループは、今後も抵抗器事業を中心に、品質と信頼性を重視する分野にフォーカスし、お客様と共に安心・安全な未来の社会を創る活動を進めることで、お客様から最初にお声がかかる会社を目指します。また、抵抗器事業で培った基盤技術を活用したセンサ/センサモジュールなどにより、社会課題の解決に取り組んでまいります。

 具体的には、特に、カーボンニュートラル実現に向けた主要自動車メーカーの電動化戦略が加速しており、当社の主力製品である面実装抵抗器の需要が拡大することから、お客様の成長を支えるための供給体制の構築が急務であります。さらに、桁違いの品質を求められる市場での競争優位性を維持するため、引き続き「ゼロディフェクト・フローの構築」を全グループの目標に掲げ、品質・信頼性向上の活動を進めてまいります。併せて、生産性の大幅な向上を目指した改善活動と経費削減活動の継続により、収益性の向上を図ってまいります。

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 

(1) ガバナンスとリスク管理

 当社では、企業倫理の重要性を認識し、かつ経営の健全性向上を図ることを目的として、より一層株主価値を重視したコーポレート・ガバナンスの構築に取り組んでおります。経営上の意思決定、執行及び監督にかかる経営管理組織その他のコーポレート・ガバナンス体制は次のとおりであります。

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 当社グループのリスクマネジメントは、当社グループに物理的、経済的もしくは信用上の損失または不利益を生じさせるすべての可能性(リスク)を積極的に予見し、適切に評価するとともに、最小のコストで最良の結果が得られるよう、機会損失の低減やリスクの回避・軽減及び移転その他必要な措置を事前に講じるよう取り組んでいます。あわせて、物理的、経済的もしくは信用上の利益を生じさせるすべての可能性(機会)についても同時に把握・評価し、対応を行っています。

 KOAグループの全社的な機会とリスクを管理するため「リスク管理委員会」を設けています。委員は全ての取締役と互選により選出された委員長が指名したメンバーで構成されています。リスク管理委員会は、年2回開催しており、経営の重点テーマとなる機会とリスクの特定(見直し・更新)、対応方針の決定、活動進捗のモニタリングを実施しています。委員会で特定されたサステナビリティ関連を含む機会とリスクへの対応策は経営の重点テーマとして経営会議で議論され、中期経営計画などの経営方針・経営戦略の立案や見直しに反映しています。2022年度からは関係部門の責任者も経営会議に参加し、実効性を高めています。マテリアリティ評価の結果、気候変動および人的資本の重要性が高いため、(2)、(3)にて開示いたします。

 

 

 

(2) 気候変動への対応

 近年、世界中で異常気象や自然災害による被害が甚大化し、気候変動への対応は企業経営の大きな課題となっています。当社は、気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures : TCFD)提言に準じて、気候変動が当社の活動に影響を及ぼす気候変動の財務上の影響について分析を行い、リスクの低減と機会の獲得のための対応を進めています。

 

① ガバナンス

 取締役会の監督のもと、すべての取締役と互選により選出された委員長が指名したメンバーにより構成されたリスク管理委員会において気候変動を含むリスクと機会を特定しています。特定されたリスクと機会に対する対応策は、経営会議の議論を踏まえて経営に反映しています。

 あわせて、連結経営戦略会議の中で年2回環境委員会を開催し、関係部門や各拠点の責任者も参加して、目標進捗・設定及び脱炭素に向けたアクションを審議しています。

 

② 戦略

ⅰ.シナリオ分析

a.シナリオ分析の前提

当社は、気候変動が将来にわたって与えるリスク・機会とその影響を評価し、リスクへの対応策の柔軟性と戦略のレジリエンスを高めることを目的に、段階的にシナリオ分析に取り組んでいます。

シナリオ分析では、国際エネルギー機関(IEA)や、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表する複数の既存シナリオを参照し、パリ協定の目標である「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすること」を想定した1.5℃シナリオ、および、不十分な気候関連政策・規制により気温上昇幅が最大となる3℃シナリオの2つのシナリオを想定しています。

その上で、事業環境に関わる重要なトレンド(自然環境や社会の変化、技術革新など)を踏まえた影響要因を抽出し、TCFD提言に沿って移行リスクや物理リスク、気候変動への対応による機会を特定しました。

 

参照した既存シナリオ

1.5℃シナリオ

「Net‐Zero Emissions by 2050 Scenario(NZE)」(IEA、2022年)

「Representative Concentration Pathways(RCP2.6)」(IPCC、2014年)

3℃シナリオ

「Stated Policy Scenario(STEPS)」(IEA、2022年)

「Representative Concentration Pathways(RCP8.5)」(IPCC、2014年)

 

 

b.シナリオ分析の結果

 

KOAとしての重要事項

環境規制

技術革新

地域・社会分断

社会状況とKOAへの影響

1.5 ℃シナリオ

・環境規制が高まり、自社・サプライチェーンの規制が強化され、再エネ需要拡大やEV移行も進む。

[機会]

・環境対応車関連部品の売上増加

・再エネ関連機器向け部品売上増加

[リスク]

・自社・サプライチェーンへの炭素税による事業運営(製造・原料調達)コストの増加

・EV移行に伴う中国国籍企業の販売割合拡大による日本製品の売上減少

・創エネ・蓄エネ・省エネを中心に革新技術が次々と導入される(例:水素・蓄電池)。

[機会]

・エネルギー関連機器向け部品売上増加

・再エネ普及・価格低下による自社・サプライチェーンの脱炭素化コスト減少

[リスク]

・希少資源の需要増加による再エネ関連資材の調達コスト増加

・国際的な分断の中で環境対策が進んだ場合、過度な国境炭素税の導入などが想定される。

[機会]

・激甚災害減少による自社のBCP対策コスト減少

[リスク]

・非効率な規制対策コスト(移行リスク)の増加

3℃シナリオ

・不十分な対策による激甚災害の多発。加えて、水資源の利用に対する制限も生まれる。

[機会]

・BCP関連機器向け部品売上増加

[リスク]

・サプライチェーン断絶リスクに備えたBCP対策コスト増加

・取水制限に伴う操業停止による売上減少

・エネルギー関連の既存技術が残り、再エネ新技術の普及・開発が遅れる。

[リスク]

・再エネ調達が困難になり自社脱炭素化コストの増加

・国際的な分断から、対応策が遅れて激甚災害が増加する。

[リスク]

・自社のBCP対策コスト増加

シナリオ共通影響

・CASE技術の進展やトリリオンセンサ社会への転換の中で、デジタル機器の需要が増加する。

[機会]

・車載センサなどの関連機器向け売上増加

[リスク]

・加速度的な技術革新による研究開発コスト増加

・国際的な分断が進んだ場合は経済成長が停滞する一方、国際協調が達成できた場合、南アジア・アフリカを含む世界全体での経済が成長する。

・国内でも、地方部の発展が達成された場合、地方企業でも人材・競争力が確保できる。

[機会]

・南アジア・アフリカなどでの市場発展で売上増加

・国内地方発展に伴う競争力確保で売上増加

[リスク]

・デカップリングによる市場縮小で売上減少

・国内都市集中に伴う地方の人材不足により、競争力が低下し売上減少

 

 

ⅱ.当社事業に重大な影響を及ぼすリスクと機会

 

種別

概要

影響の時間軸

影響額

対応

リスク

[物理的リスク:緊急性]

生産拠点の豪雨災害による道路の寸断、サプライチェーンの物流停止に伴う売上高減少

短期

19億~21億円

長野県南部の生産規模(約50%)・復旧期間3週間と想定

製品の複数拠点生産によるリスク分散

[移行リスク:規制]

エネルギーコスト増加、燃料調整費や再エネ賦課金など社会システム上避けられない負担の増加

中期

2億~5億円/年

炭素税($50~$150/t)が導入されることを想定

拠点ごとに最適な省エネ・創エネ施策の推進

 

機会

車の電動化による抵抗器の搭載数量の増加、ADASの拡大による高精度抵抗器の大幅な需要増加

中期

次期(2025-2027)

中期経営計画策定プロセスにおいて検討中

2030年に向けた供給体制を構築(生産能力の拡大)

影響を受ける時間軸は、 短期:0~3年、中期3~10年、長期10~30年程度と想定しています。

 

③ リスク管理

リスク管理委員会が実施する機会とリスクの管理プロセスにおいて、重要性評価や対応状況のモニタリングを実施しています。

 

④ 指標・目標

当社は、2030ビジョン実現のためGHG(温室効果ガス)排出量の削減に取り組み、カーボンニュートラル社会を実現し、地球との共生を目指しています。この取り組みの基本方針として、「カーボンフリー製品の実現に挑戦する取り組みを通じて、5つの主体との信頼関係を構築する」を掲げ、サプライチェーン全体のGHG排出量の削減、ガバナンス体制の強化、積極的な情報開示などに取り組んでいます。

 2024年度の環境目標とこれまでの実績は以下の通りです。

 

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2020年度

2021年度

2022年度

2023年度

Scope1 (t-CO2)

3,090

4,304

4,311

3,762

Scope2 (t-CO2)

59,358

52,327

20,250

18,006

 

 

 

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(3) 人的資本

 当社の人材に関する基本的な考え方は以下のとおりで、主にKOA単体での取組みとなります。

(戦略)

「人材育成方針」

 社員に必要な3つの要素(経営スキル・人間性・専門知識教養) を人材育成の軸として教育研修を実施しています 。自主性、信念、反省や相互の信頼などの人間性が、態度や行動に結びつき、経営スキルや専門知識と交わることで、当社の差別化要因となり、他社には真似できない製品やサービスが生み出されると考えております。併せて、当社では、これまで培ってきた当社の大切な価値観、創業の精神を振り返り、当社のDNAを受け継ぐための「KOA物語研修」を行っています。また、独自の社内資格として、優れた固有の技術をもち、その成果により当社の企業理念実現に貢献できる社員を「職人」と認定して、技術伝承が途切れることの無いよう取り組みを進めてまいりました。今後は以上を踏まえた人材育成を確実に推進していくと共に社員一人ひとりが将来を見据えたキャリアアップを考えていくためのキャリア開発支援体系を整え、自律した社員を数多く育成するために取り組みを強化してまいります。

「社内環境整備の方針」

 自発的に学び、主体性を持って行動する人材が新しいことに挑戦できる環境を作るには、その行動が評価され、働きがいにつながる仕組みづくりが必要です。前向きな考働を評価し、賃金に反映する方法を含めて、人事制度の見直しを行っています。多様な社員が適材適所で活躍し、能力を発揮するためには、女性の活躍はもちろん、年齢・性別・場所に限定されずに働ける環境が必要です。当社においても多様な人材に力を発揮してもらうための女性社員の管理職比率をはじめ、社員の声を含めた会社の現状把握を行い、中長期に向けて目標数値を定めてその実現に全社をあげて活動を進めてまいります。

 両立支援においては、育児や介護等を理由に退職した場合のリジョイン制度(再雇用制度)の導入や仕事と子育て環境を充実させ、「プラチナくるみん」の認定を取得しております。現在は、男性社員の育児休暇取得に向けた環境も整備し男性、女性に関わらず育児いただく環境が浸透しております。さらに、在宅勤務などの新しい働き方は定着し、社外でのキャリア形成の選択肢として副業・兼業制度も定着しております。引き続き、多様な人材が力を発揮できるよう職場環境の整備を行っています。

(指標・目標)

 人材育成の更なる強化のため、2024中期経営計画期間中の人材開発・育成への投資額は、2021年度実績額を100として、2024年度までに200へ増やしていく目標としています。2023年度は、次世代管理職育成研修などの新しい研修の開催や、キャリアビジョン研修の参加者数の増加、また技術・生産・品質・営業など部門研修の機会が増えたことにより、2021年度比で173の投資額増加となりました。

 社員の働きがいや挑戦の進捗を図るための指標として、社員エンゲージメント・レーティング※1を導入しています。エンゲージメント調査の結果を通じて、経営課題を把握し、解決に向けて取り組むことで、社員が働きがいをもって仕事に取り組む環境を整えてまいります。

 多様な人材が活躍する環境を整えるため、女性活躍推進法に伴う厚生労働省一般事業主行動計画では、2027年末までに女性管理職比率を4%(2024年3月末現在は0.7%)、部長級管理職を1名輩出する目標を掲げました。今後、女性活躍推進に向けて社内環境の制度整備とともに社員への気づきの機会を数多く提供し、多様な人材が力を発揮できるように取り組んでいきます。

 

ESG

項目

2022年3月期

実績

2023年3月期実績

2024年3月期

実績

2025年3月期目標値

Society

人的資本

(KOA単体)

社員エンゲージメントレーティング※1

人材開発/育成投資※2

 

CCC(47.1)

 

100

B(49.7)

 

167

B(49.2)

 

173

BB(52以上)

 

200

 

※1 株式会社リンクアンドモチベーションの「モチベーションクラウド」によるエンゲージメント・レーティング。KOA株式会社(単体)の全社員。AAA~DDの全11段階に分かれており、「CCC」は上1から7番目。

※2 2022年3月期を100とした場合の比較数値。

 

 

3 【事業等のリスク】

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。なお、当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に当社グループの経営成績等に与える定量的な影響につきましては、合理的に予見することが困難であるため記載しておりません。

 当社は、グループのリスク管理について、全社的な機会とリスクを管理するため、リスク管理規程に基づき、リスク管理委員会を設けています。委員は、全ての取締役と互選により選出された委員長が指名したメンバーで構成されています。リスク管理委員会は、年2回開催しており、経営の重点テーマとなる機会とリスクの特定(見直し・更新)、対応方針の決定、活動進捗のモニタリングを実施しています。委員会で特定された機会とリスクへの対応策は経営の重点テーマとして経営会議で議論され、中期経営計画などの経営方針・経営戦略の立案や見直しに反映しています。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) 海外展開について

 当社グループは、市場のグローバル化に対応して生産及び販売拠点を海外に展開しております。このため、進出国の経済動向及び政治・社会情勢に変化が起こった場合には当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、輸出入規制や外貨規制、法令・税制等の変更など予測できない事態が発生した場合も当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。なお、移転価格税制に基づく課税リスクへの対応として、グループ内に移転価格ポリシーを導入の上、税務の専門家を利用してグループ内の移転価格税制に係る文書を作成し当該リスクの低減に努めております。

 

(2) 原材料について

 当社グループの主要製品に使用しております原材料の中には、希少金属など国際市況に大きく影響を受けるものがあります。これに対して不良率の低減や製品設計の変更による材料使用量の削減など、その影響度を低減するための対策を実施しておりますが、これらの対策を超えた急激な原材料価格の高騰が生じた場合、製品コストに重大な影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループは、調達先の分散やお取引先様との信頼関係の構築等により安定的に原材料を調達できるように努めておりますが、調達先の生産活動・サプライチェーンが、紛争や自然災害・事故の発生あるいは法律・規制の予期しない変更等の要因により停止される場合や、調達先の事業性判断等の都合により生産中止となる場合、原材料の安定調達が困難となり顧客への供給責任を果たせず、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(3) 自然災害やパンデミック、紛争等の発生について

 当社グループの一部の製品は世界の複数拠点で生産するなどの一定のリスク分散が図られておりますが、地震・洪水等の大規模な自然災害やパンデミック、紛争等の発生により、当社の営業拠点や生産拠点の使用が困難な状況になり、あるいは従業員の多くが被害を受けた場合や交通網の遮断・エネルギー供給の停止・通信の不通などにより、営業活動の混乱や生産の遅延・停止等を受けて当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 なお、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して、当社グループの緊急事態対応の方針は、「社員とその家族の人命を最優先」となっており、それに即して社員とその家族の安全・安心を中心に感染防止対策を行ってまいりました。感染防止のため、早期より業務による移動の自粛やテレワーク、時差出勤などの即時導入を行いました。

 

(4) 人材について

 当社グループは、社員・家族との間に信頼関係を構築することを企業ミッションの一つとする中で人材の採用と育成を行っております。事業計画の達成やイノベーションへのチャレンジのために社員一人ひとりが信頼しあったチームワークの中で自分の力を精いっぱい出し切り、仕事の充実感を味わいつつ目標を達成していける職場環境を目指しておりますが、少子高齢化や人材の流動化により、必要な人材の採用や育成ができなかった場合、生産拠点の増産対応の遅れや、デジタル技術活用による変革等イノベーションへの対応の遅れにより競争力を失い、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

(5) 情報システムについて

 コンピューターウイルスの侵入や高度なサイバー攻撃等により、情報漏洩や改ざん、システム停止等の被害を受けるリスクがあります。これに対して当社グループは、サイバー攻撃に対してハードウエアの装備と機密情報の保護のための全社的な研修の実施、情報の機密性・完全性・可用性を維持・向上することを目的とした「情報セキュリティ委員会」の設置等により情報セキュリティの確保に取り組んでおりますが、このような事態が発生した場合は、追加対応や損害賠償等の多額の費用負担により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(6) 価格低下について

 当社グループは事業を展開する市場において激しい競争にさらされており、電子部品の製品価格が低下する傾向にあります。当社グループでは価格低下に対して新製品の投入並びにコスト削減等により利益の確保に努めておりますが、競争の更なる激化が業績に影響を及ぼす可能性があります。なお、製品価格が大きく下落する場合は棚卸資産の評価損を計上する可能性があります。また、業績の悪化により有形固定資産の減損の要否の判定が行われた場合に、その結果として減損処理を行う可能性があります。

 

(7) 製品の欠陥について

 当社グループは、「Quality 1st」を経営方針のひとつとして掲げ、「ゼロディフェクト・フローの構築」に向けた改善活動を進めておりますが、万一製品の欠陥により市場クレームやリコールなどの重大な問題が発生した場合、多額の損害賠償金の支払いや売上の減少等が当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(8) 為替レートの変動について

 当社グループは、生産及び販売拠点を海外に展開しているため各国での外貨建て取引があります。このため、為替変動リスクに関しては為替予約を締結する事によりリスクを最小にする努力を行っておりますが、為替の大幅な変動により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(9) 棚卸資産について

 当社グループの棚卸資産は、生産拠点においては受注生産を基本にリードタイム短縮を図り棚卸資産の削減に努めております。当期におきましては、売上の増加に伴い流動在庫が増加しており、また、供給責任を果たすための同一品目の複数拠点生産推進による生産移管時の仕掛品や、災害時における事業継続に備えるための原材料など、目的を持った在庫も増やしてきております。

 一方、お客様の短納期要求に対応するため、主に海外の販売拠点においては製品在庫を保有しておりますが、今後のお客様の需要急拡大に備えるために、その保有量を増やしております。

このような在庫の増加については、生産、販売の拠点ごとに棚卸回転率による管理や、リスクの変化による適正在庫量の見直しを徹底しておりますが、予想を超える急激な環境変化により、保有在庫の中に販売が見込まれない在庫が発生した場合は、棚卸資産の評価損を計上する可能性があります。

 

(10) 経済状況について

 当社グループは、売上高の9割以上を電子部品が占めております。電子部品は家電等の民生機器や自動車、産業機器等の幅広い分野で使用されているため、特定業界の景気動向による影響を受けにくい傾向にありますが、景気変動に伴う個人消費や企業の設備投資の動向が当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループの主力製品である抵抗器において、自動車向けの販売比率が高まってきており、自動車の販売台数や技術動向の変化による当社グループへの影響について注視が必要です。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

 当連結会計年度における当社、連結子会社及び持分法適用会社(以下、「当社グループ」という。)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

① 財政状態及び経営成績の状況

 当連結会計年度の世界経済は、資源価格高騰による物価上昇や金利上昇等により景気回復のペースが鈍化しました。

 当社グループの属する電子部品業界におきましては、各国の環境規制によるEV等環境対応車への移行が進んでおり、中長期的には自動車向け市場の拡大が見込まれます。当期においては半導体不足による生産制約が昨年より解消しているものの、市場における在庫調整の影響等により全体として需要は弱含みで推移しました。

 このような環境のもと、当社グループは2030ビジョンの実現、2024中期経営計画の目標達成に向けて、EVなどのモビリティ市場・産業機器市場の成長を支えるための供給体制の構築、KPS活動の『しんか』、イノベーション・マネジメントシステムの導入、再生可能エネルギーの導入と電力使用量の削減、未来を創造する人づくりやガバナンスの新たな取り組み等の重点施策に注力しております。

 販売面におきましては、為替が円安傾向にあるものの、北米のディストリビューター向けや日本・中国を中心に家電・産業機器・電源向け等が減少、自動車向けは北米・ヨーロッパでは増加しましたが中国の減少影響が大きく自動車向け全体では減少しました。その結果、当連結会計年度の経営成績は、売上高64,835百万円(前年同期比10,236百万円減、13.6%減)、営業利益3,313百万円(前年同期比6,908百万円減、67.6%減)、経常利益4,485百万円(前年同期比6,052百万円減、57.4%減)、また、カナダにおける集団民事訴訟の原告との和解に伴う解決金として355百万円を特別損失に計上したこと等により親会社株主に帰属する当期純利益2,769百万円(前年同期比4,598百万円減、62.4%減)となりました。

 セグメントの経営成績は、日本においては売上高51,565百万円(前年同期比10,294百万円減)、セグメント利益433百万円(前年同期比6,830百万円減)、アジアにおいては売上高32,468百万円(前年同期比7,004百万円減)、セグメント利益1,306百万円(前年同期比507百万円減)、アメリカにおいては売上高11,319百万円(前年同期比1,625百万円減)、セグメント利益615百万円(前年同期比21百万円増)、ヨーロッパにおいては売上高11,950百万円(前年同期比834百万円増)、セグメント利益524百万円(前年同期比95百万円増)となりました。

 

② キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前連結会計年度末に比べ3,765百万円増加し、当連結会計年度末には29,165百万円となりました。

 当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度において営業活動により増加した資金は7,089百万円(前連結会計年度は8,688百万円の増加)となりました。主な増加要因は、税金等調整前当期純利益3,992百万円の計上、減価償却費4,890百万円の非資金項目の調整等によるものです。主な減少要因は、法人税等の支払2,833百万円等によるものです。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度において投資活動により減少した資金は17,399百万円(前連結会計年度は12,926百万円の減少)となりました。主な減少要因は、有形固定資産の取得による支出15,690百万円等によるものです。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度において財務活動により増加した資金は12,292百万円(前連結会計年度は8,046百万円の増加)となりました。主な増加要因は、長期借入れによる収入14,168百万円等によるものです。主な減少要因は、配当金の支出額1,853百万円等によるものです。

 

③ 生産、受注及び販売の実績

a. 生産実績

当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

生産高(百万円)

前年同期比(%)

日本

47,875

86.5

アジア

16,836

74.4

アメリカ

183

81.7

ヨーロッパ

合計

64,895

83.0

(注)1.金額は、販売価格によっております。

2.上記の金額には、商品仕入を含んでおります。

b. 受注実績

当連結会計年度の受注状況をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

受注高(百万円)

前年同期比(%)

受注残高(百万円)

前年同期比(%)

日本

17,324

76.2

4,897

54.2

アジア

18,343

80.3

3,572

66.8

アメリカ

10,296

88.7

1,844

64.5

ヨーロッパ

12,175

112.0

842

136.5

合計

58,140

85.4

11,157

62.5

 

c. 販売実績

当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

販売高(百万円)

前年同期比(%)

日本

21,456

86.1

アジア

20,117

77.1

アメリカ

11,311

87.5

ヨーロッパ

11,950

107.5

合計

64,835

86.4

(注)セグメント間の取引については相殺消去しております。

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

 当連結会計年度の当社グループの資産は、有形固定資産、現預金等の増加により、前連結会計年度末と比べて16,798百万円増加し、当連結会計年度末は129,566百万円となりました。

 当連結会計年度の負債は、長期借入金等の増加により、前連結会計年度末と比べて11,947百万円増加し、当連結会計年度末は50,993百万円となりました。

 当連結会計年度の純資産は、為替換算調整勘定等の増加により、前連結会計年度末と比べて4,850百万円増加し、当連結会計年度末は78,573百万円となりました。

 売上高は、64,835百万円(前年同期比10,236百万円減、13.6%減)となりましたが、この要因としましては、日本においては、家電、産業機器向け等の需要が減少したこと、アジアにおいては、中国の経済環境の悪化により自動車向けや電源向け等の需要が減少したこと、アメリカにおいては、USドルの為替レートが6.9%円安となったものの、在庫調整等により代理店向け等の需要が減少したこと、ヨーロッパにおいては、自動車向け需要が好調であったこと等によるものと分析しております。

 利益面におきましては、営業利益は3,313百万円(前年同期比6,908百万円減、67.6%減)となりましたが、この要因は、USドルの為替レートの円安影響や原材料に含まれる希少金属の相場が安定したこと、物流費の削減等がありましたが、賃金上昇による人件費の増加や増産投資等による減価償却費の増加を中心とした固定費が増加したこと等によるものと分析しています。経常利益は、4,485百万円(前年同期比6,052百万円減、57.4%減)となりましたが、この要因は前述の営業利益の減少によるものと分析しています。親会社株主に帰属する当期純利益は、2,769百万円(前年同期比4,598百万円減、62.4%減)となりましたが、この要因はカナダにおける集団民事訴訟の原告との和解に伴う解決金355百万円、法人税等1,223百万円を計上したことによるものと分析しています。

 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等として、当社グループは、ROE(自己資本利益率)11%以上を目標値とした(2024年4月24日にROE目標値を4.1%に修正)2025年3月期を最終年度とする中期経営計画を策定しております。品質・信頼性を重視する市場を中心に、高機能製品を提供し継続的に競争力を高めるとともに、イノベーションの動向を予測し、そこで必要とされる技術や製品開発に経営資源を投入し、お客様と共に新たな価値を創造する活動を進めております。当連結会計年度におけるROEは3.6%(前年同期比6.9ポイント悪化)となりました。前連結会計年度と比較して指標が悪化した要因としましては、前述の通り売上高と営業利益が悪化したことによるものと分析しています。引き続き品質・信頼性を重視する市場を中心に、高機能製品の拡販等の活動を進めるとともに、お客様の成長を支えるための供給体制を構築し、当該指標の改善を目指してまいります。

 当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因として次のものがあります。売上高におきましては、景気動向に伴う電子部品需要の変動が重要な影響を与える要因になりますが、今後の経済見通しにつきましては、引き続き景気の先行きは不透明感の強い状況にあります。当社グループの主要な販売先である自動車業界の需要は堅調に推移する一方、産業機器向けは企業の設備投資マインドの減退を背景に回復が遅れる等、楽観視できない状況にあります。利益面におきましては、金属材料相場の上昇による材料コスト増加や、海外売上比率及び日本での生産比率が高いことから円高ドル安等の為替変動により利益が減少する等の懸念材料があります。

 

② キャッシュ・フローの状況分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

 当社グループの当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況の分析・検討内容は、「(1)経営成績等の状況の概要 ② キャッシュ・フローの状況」に含めて記載しております。

 

 当社グループの資本の財源及び資金の流動性について、当社グループの運転資金需要のうち主なものは、製品製造のための原材料の購入のほか、製造費、販売費及び一般管理費等の営業費用によるものです。当社グループの研究開発費は営業費用の一部として計上されていますが、研究開発に携わる従業員の人件費が主要な部分を占めています。研究開発費については、前連結会計年度の3,045百万円と比較し149百万円(4.9%)増加し、3,195百万円となりました。また、当社グループの投資資金需要のうち主なものは、注力する製品の生産能力拡大、新製品の開発、国内外の製造拠点での品質や生産性向上等のための設備投資です。当連結会計年度の設備投資額は、前連結会計年度の11,757百万円と比較し、6,077百万円(51.7%)増加し、17,835百万円となりました。

 当社グループは、事業運営上必要な流動性と資金の源泉を安定的に確保することを基本方針としております。このため、当社グループの運転資金及び設備投資資金は、主として自己資金により充当し、必要に応じて金融機関からの借入れによる資金調達を実施することとしています。中期経営計画における設備投資に充当する資金調達の一環として、複数の金融機関との間でシンジケートローン契約を締結し借入れを実施しております。これらの借入金について、営業活動から得られるキャッシュ・フローによって十分に完済できるとともに、引き続き今後の成長に必要となる資金を適切に調達することが可能であると考えています。また主要な取引金融機関とは良好な取引関係を維持しており、安定的な資金調達が適時実施可能と認識しています。なお、当社は資金調達の機動性を高めるため、複数の金融機関との間に2,000百万円の借入枠(コミットメントライン)を設定しております。

 

③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。なお、連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

 

a. 貸倒引当金

 当社グループは、債権の貸倒損失に備えるため、一般債権については過年度実績率を基礎とした将来の貸倒予測率により、貸倒懸念債権等特定の債権については個別に回収可能性を勘案し、回収不能見込額を計上しています。将来、顧客の財政状態が悪化し支払能力が低下した場合には、引当金の追加計上または貸倒損失が発生する可能性があります。

 

b. 退職給付債務の算定

当社グループは確定給付制度を採用しております。退職給付債務及び勤務費用は、数理計算上の仮定を用いて退職給付見込額を見積り、割引くことにより算定しております。数理計算上の仮定には、割引率、昇給率、期待運用収益率等の様々な計算基礎があり、当該見積り及び当該仮定について、将来の不確実な経済条件の変動等により見直しが必要となった場合、退職給付に係る負債及び退職給付費用の金額に重要な影響を与える可能性があります。

 

c. 繰延税金資産

 繰延税金資産については、将来の課税所得等を検討し、回収可能な範囲において資産計上しております。しかしながら、将来の課税所得等を検討し、繰延税金資産の全部または一部を将来回収できないと判断し法人税率が引き下げられた場合、繰延税金資産が減額され、税金費用が計上される可能性があります。

 

d. 投資有価証券の減損処理

 当社グループでは投資有価証券を保有しており、評価方法は市場価格のない株式等以外のものについては時価法を、市場価格のない株式等については原価法を採用しております。保有する有価証券につき、市場価格のない株式以外のものは株式市場の価格変動リスクを負っていること、市場価格のない株式等は投資先の業績状況等が悪化する可能性があること等から、合理的な基準に基づいて投資有価証券の減損処理を行っております。

 当社グループでは投資有価証券について必要な減損処理をこれまでに行ってきておりますが、この基準に伴い、将来の市況悪化または投資先の業績不振等により、現状の簿価に反映されていない損失または簿価の回収不能が発生し、減損処理が必要となる可能性があります。

 

5 【経営上の重要な契約等】

 該当事項はありません。

 

6 【研究開発活動】

 当社グループは、世界的に活動が進められているSDGs“持続可能な開発目標”を達成するための社会課題の解決に貢献するため、新たな価値の創出活動を続けています。特に高性能・高信頼性が要求される自動車や産業機器の分野に引き続き注力し、人々が安心・安全で豊かな生活を持続できる新しい社会の実現のために、お客様の困りごとを解決する新製品やセンサ素子およびセンサモジュール製品の開発に取り組んでいます。

 自動車分野では、2050年にカーボンニュートラルを実現するために、2030年代での自動車販売のZEV(Zero Emission Vehicle)化に向けて、自動車メーカはBEV(バッテリー電気自動車)をメインとした環境対応車の開発に注力しています。直近では、先進国の自動車メーカのBEV販売が低迷し、PHEV(プラグインハイブリッド自動車)やHEV(ハイブリッド自動車)の強化の動きや、CO2と再生可能エネルギーから得られた水素を用いた合成燃料(e‐Fuel)や、水素を燃料とした自動車の実用化の動きもでてきており、さまざまな環境対応車における技術革新が進んでいます。産業機器分野では、労働人口の低下、自国生産への回帰などが進むなか、生産性向上のために生産設備のIoT化、AIの導入、ロボットの活用など、人に頼らないモノづくりの実現、さらに、故障する前に不具合を見つけ修理する予知保全、消費電力を可能な限り最小に抑えた生産設備の省エネ化など、各種産業の現場において生産システムの技術革新が進んでいます。医療分野では、高齢化社会が加速する中、健康寿命の延伸のための予防医療や病気の早期発見が重要となり、短時間で高精度に検査ができる各種検査装置の開発が進んでいます。また、手術支援ロボットは、手術の種類や医療機関のニーズに対応するための技術革新が進んでおり、より幅広い医療現場での導入が期待されています。これら各分野における技術革新にはさまざまなセンサが必要不可欠であり、新たなセンサの開発が期待されています。 このような背景から、当社グループは抵抗器で培った基盤技術を活かし、センサ素子やセンサモジュール製品の開発に力を入れています。

 環境対応車向けには、高圧用バッテリーの高電圧を精度良く長期間安定して測定できる高信頼性高圧デバイダー、大電流を高精度に検出するシャントモジュール、パワーモジュールの温度検出用にワイヤーボンディング対応温度センサなど、安全性や性能の向上に貢献できる新製品の開発を進めています。また、新事業創出では、風を可視化する当社独自の技術“Windgraphy”の多点風速計測モジュールを上市し、現在は新たなラインアップの開発を進めています。また、マーケティング活動を推進している酸素センサや荷重センサなどは、早く上市してお客様に“新たな価値”を提供できるよう製品化にむけ開発を進めています。

 産・学・官の連携では、近年の計算化学の技術を取り入れ将来必要とされる新材料の開発を加速させること、製品開発のリードタイム短縮のために新たなシミュレーション技術を構築することなど、積極的な技術開発を進めています。また、材料や試作品などを分析・評価する最新の装置を積極的に導入し、分析・評価技術の向上や新技術の導入も積極的に進めています。そして、国内だけでなく海外の研究機関や大学と各種材料の共同研究も実施しています。

 2024年8月には建設中の新たな研究開発拠点が完成し、人員強化や研究開発のための環境が整い、今まで以上に研究開発に力を入れていきます。

 なお、当連結会計年度の研究開発費は3,195百万円となりました。

 また、当社グループの研究開発活動は、セグメント区分における「日本」、「ヨーロッパ」にて行われております。