第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

(1)経営方針

 当社は、真のグローバル企業となり、100周年に向けて持続した成長を続けることができるよう、『The IDEC Way』を制定しております。『The IDEC Way』は、Vision、Mission、Core Valuesの3つの要素で構成しており、その最も重要な基盤として、創業の理念「人間性尊重経営」を位置付け、継承しております。

 世界経済の動向は依然不透明な状況にありますが、どのような市場環境であっても、当社グループがグローバルで持続的に成長し、社会課題の解決に貢献していくため、2050年のありたい姿を想定し、そこからバックキャストして2030年のビジョンを策定いたしました。

 人と機械の最適環境を創造し、世界中の人々の安全・安心・ウェルビーイングを実現すること。これは創業以来変わることのない、私たちの想いです。当社は、誰もが健康で、幸せに、生き生きと暮らすことのできる社会を実現するための取り組みを推進しております。

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(2)目標とする経営指標

 当社グループでは、株主資本コストを8%とし、それを踏まえて資本コスト(WACC)を6%に設定しております。これを上回るリターンを創出し、企業価値を向上していくために、ROE(自己資本利益率)とROIC(投下資本利益率)を指標としており、継続的に10%以上の水準を確保することを目指しております。

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(3)投資単位の引下げに関する考え方及び方針等

 当社は、株式の流動性を高め、個人株主の増加を図ることを資本政策上の重要課題と認識しております。そのため、利益還元の充実に加え、個人株主の皆さまに向けた説明会の開催、分かりやすい株主通信の作成やホームページの拡充などの対応を進めております。

 

(4)中長期的な会社の経営戦略と優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

 当社グループでは、営業利益率のさらなる向上を実現するため、2025年3月期を最終年度とする中期経営計画を策定し、さまざまな取り組みを推進してきました。しかし、市場環境は大きく変化しており、2024年3月期は国内外における在庫調整が続いたことに加え、主要産業の需要低迷の影響などを受けて減収減益となったことから、グローバルで抜本的な改革を推進することで高収益体質へと変革していくために、2024年5月に中期経営計画を見直すことを発表しました。詳細は改めて発表しますが、新たな成長に向けた構造改革を推進しております。なお、基本戦略は変更しておりませんので、引き続き4つの戦略に基づく取り組みを行い、さらなる成長を実現していきたいと考えております。

 最も重要となる「成長戦略の推進」と「収益性の向上」のための具体的な取り組みとして、事業構造の見直し、製品の収益性向上、コスト削減、運転資本の改善という4つの項目に重点的に取り組んでいきます。事業構造の見直しについては、積極的なソリューション提案による競争力の強化に加え、既存事業の再編などを行っていきます。

 当社では、人と機械の関係が大きく変化するのに伴い、最適なインターフェースの在り方が変化していくことを、HMI-Xと定義しております。創業当時から、人と機械をつなぐHMIのリーディングカンパニーとして、グローバルに事業を拡大してきました。長年培ってきた制御技術をベースに、自動化・無人化・省力化需要や、安全・安心・ウェルビーイング意識の向上をはじめとする注力分野に対応した取り組みを推進することでHMI-Xを推進し、当社グループのパーパスである「人と機械の最適環境を創造し、世界中の人々の安全・安心・ウェルビーイングを実現すること」を目指しております。

 製品の収益性向上については、新製品の投入や製品の廃止・統廃合を行っていくとともに、売上の伸び率や市場シェア、収益性が高いHMI、安全事業や、成長性の高いオートメーション&センシング事業、市場規模が大きく売上拡大を期待できる中国・インドでの拡販に注力しております。

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 また、競争力強化のための生産改革、効率性を重視したグローバル生産体制の構築、プロセスの抜本的見直しによる品質・コスト改善にも取り組んでおります。併せて、グローバルベースでの自動化・省力化による戦略的なコストダウン、APEMも含めたグループ全体での共同購買、部材統一などによる製造原価の低減、低収益や不採算製品の見直しなどにより、原価率の低減を図ってまいります。

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2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。


(1)サステナビリティ

①ガバナンス

 当社グループの活動方針を策定する機関として、サステナビリティ委員会を設置しております。委員長は代表取締役社長とし、サステナビリティ委員会の傘下には、ESGに私たちの強みである「安全:Safety」、「品質:Quality」を加えた「ESG+Sa+Q」の5つの分野の専門委員会を設けております。各専門委員会の委員長は執行役員とし、専門知識や経験を持ったメンバーで構成され、それぞれのテーマに即した施策に取り組んでおります。サステナビリティ委員会は年2回開催しており、議論した重要事項については、必要に応じて経営会議や取締役会に報告され、監督される体制となっております。

 また、サステナビリティ委員会で議論された内容は、サステナビリティリーダーが職場研修会で社員一人ひとりに周知し、活動の実践や、意見が言い合える風通しの良い職場づくりを目指しております。2024年3月期の社員からの意見・提案は475件あり、各専門委員会に共有され、当社グループのサステナビリティ活動の参考としております。

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②戦略

 当社グループは『The IDEC Way』に基づき、IDEC Group Code of Conduct(行動基準)・CSR憲章・国連グローバル・コンパクトの10原則を重要な指針として定め、事業活動を通じた社会課題の解決により、持続可能な開発目標(SDGs)を達成していくための取り組みを行っております。2018年に立ち上げたCSR委員会を中心に、持続的な活動を推進しており、2024年にサステナビリティ委員会へと名称変更いたしました。

 市場環境が大きく変化している中で、気候変動をはじめとする地球規模の様々な社会課題に対応していくことは、グローバル企業として必要不可欠となっております。多様な社会課題を解決し、日々変化するお客さまのニーズにお応えするとともに、当社グループが持続的な成長を実現するため、2050年のありたい姿を想定し、そこからバックキャストして2030年のビジョンを策定いたしました。

 また、持続可能な社会の実現と企業価値の向上に向けて、サステナビリティ対応にも注力しておりますが、2050年に当社グループとして「カーボンニュートラル」を実現するための取り組みや、グローバルでの成長拡大に向けた人的資本の強化にも今後さらに力を入れてまいります。

 今後も、サステナビリティに関する基本方針のもと、ILO傘下のISSA(International Social Security Association)が推進するVision Zeroキャンペーンへの賛同・登録を通じた、社内外全ての人々の安全・健康・ウェルビーイングの追究や、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同による気候変動などの地球環境問題への配慮、リスクと機会に対する将来対応想定など、持続可能な社会の実現に向けて、事業活動を通じたグローバルな課題解決への取り組みを推進してまいります。

(サステナビリティに関する基本方針)

 私たちは、当社の経営理念である『The IDEC Way』で掲げる「Vision:いつも、ずっと、みんなに新しい安心を」、「Mission:人と機械の最適環境を創造」に基づいて事業活動を行っております。

 また、『The IDEC Way』のOur PrinciplesやIDEC Group Code of Conduct(行動基準)において、実現のために取るべき行動を明記しており、その実践を通じて持続可能な社会の実現と企業価値の向上を目指しております。

 

③リスク管理

 サステナビリティ全般に関するリスクと機会は、マテリアリティ分析において、ステークホルダーの重要度と事業としての重要度の両軸でマッピングしており、「気候変動」と「企業基盤」に関わるリスクについては、当社グループのリスクマップに統合して管理しております。

 リスクの重要項目については、リスクマネジメント委員会において評価、管理しており、年に1回経営戦略企画本部でリスクと機会を見直すこととしております。

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④指標及び目標

 マテリアリティ(重点課題)を特定し、2022年から開示しておりますが、2050年のありたい姿、2030年のビジョンを策定したことに伴い、改めて見直しを行いました。4つ目の項目として「企業基盤」を追加し、気候変動の対応に加えて、人権の尊重や、人的資本、ガバナンスの一層の強化を図ってまいります。

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 2030年の目指すべき姿を実現するための取り組みテーマを設定し、テーマごとにサステナビリティKPIを掲げております。0102010_008.jpg

 

(2)気候変動

 当社グループは、人と機械の最適環境を創造し、世界中の人々の安全・安心・ウェルビーイングを実現することを目指す企業として、事業活動の全ての面において地球環境の保全を最重要課題とし、持続可能な社会を次世代に繋げていくことを、環境基本方針としております。

 

●当社グループの環境経営

 当社グループは、2050年のありたい姿として「カーボンニュートラルの実現」を想定するとともに、2024年4月には環境問題に対する企業理念と行動指針をまとめた「環境基本方針」を刷新いたしました。気候変動が地球環境に及ぼす影響が増大するにつれて、投資家、株主、顧客、地域住民など、さまざまなステークホルダーの気候変動への関心が増加するだけではなく、環境問題に対する社会的要請や企業に対する期待も高まりつつあることから、環境基本方針のビジョン、理念と行動方針を軸として、地球温暖化や気候変動対応をはじめとする社会問題にグローバル企業として向き合いながら、持続的な成長を目指します。

 具体的には、「環境負荷低減に向けた取り組み推進」を基本戦略の一つに掲げてサステナビリティKPIを設定し、その目標達成に向けて、私たちの移行機会を反映させたアクションプランを進めております。

 併せて、当社グループは2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、その到達までの道筋にある2025年3月期と2031年3月期それぞれにCO2排出量削減24%、50%(2020年3月期比)のマイルストーンを設けました。グループ一丸での取り組みを通じて、私たちができることから着実に進めております。

 

●環境に配慮した製品開発

 当社グループは1945年の創業以来「省」の思想をもとに1982年に「Save all」を掲げ、環境に配慮した事業を展開してまいりました。2023年3月期には「環境配慮型製品開発手順書」を改訂し、製品開発プロセスの最初の段階から環境配慮を重視する手順で開発を行っております。手順書では省資源、省エネ向上、長寿命化など、当社独自の規準に基づいて環境配慮度合いを評価し、脱炭素を目指した製品開発を行っております。評価において貢献度の高い製品は「環境配慮強化型製品」に認定し、「ISO/JIS Q 14021(タイプⅡ)に準拠した当社オリジナルのエコマークをカタログなどに貼付して、対象製品を開示しております。

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 2020年3月期以降に発売した、新製品に占める環境配慮強化型製品の累計比率60%以上を目標の1つとしておりますが、2024年3月期までの累計達成率は73.5%でした。

 

・環境配慮強化型製品の事例

 プログラマブルロジックコントローラ(PLC)とプログラマブル表示器を一体化し、合理的なオートメーションシステムを実現している製品であります。環境配慮面においてもお客さまに価値をご提供できるよう、一体化による消費電力の削減、並びに省スペース化に加えて、Push-in端子採用による配線工数の削減などを考慮しております。

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●気候変動への取り組み

・自家消費型太陽光発電の導入拡大

 国内外のオフィスや工場に自家消費型の太陽光発電設備の導入を加速することで、再生可能エネルギー由来の電力への置き換えによる環境負荷低減を図っております。当社においては、これまでの発電設備に加えて、2024年3月期は新たに1個所を着工し、2025年3月期はさらに2個所の増設を計画しております。国内グループ会社では、IDECファクトリーソリューションズ株式会社の工場及び本社社屋の2個所設置した設備が稼働しており、グローバルでは、米国オフィス・工場や英国の工場で、自家消費型太陽光発電が稼働しております。

 

・環境エネルギー事業

 グループ会社のIDECシステムズ&コントロールズ株式会社では、2012年から太陽光発電所の建設からアフターフォローまでをワンストップで提供する再生可能エネルギー事業を展開しております。特にここ数年で導入が進んでいる、工場・倉庫・店舗・施設など建物の屋根を利用した自家消費型太陽光発電設備の設計施工、設備販売事業は、グリーンエネルギー利用によるCO2削減で事業の環境への貢献を実現します。

 また、災害時の非常用電源として周辺地域に提供することにより、安全・安心という目に見えない地域貢献が実現できることから、事業の推進を通じて、より良い社会の実現を目指しております。

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●コミュニケーションと情報開示

・環境教育

 2024年3月期に社内で実施した環境教育は、イントラネットを活用してTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が定義する、大気、淡水、海、陸の4領域に沿った生物多様性と生き物の解説に加えて、当社の環境配慮強化型製品の紹介、内部炭素価格(ICP)を活用した環境投資の試算事例を取り上げました。環境戦略委員会で作成されたオリジナルコンテンツを日本語と英語で社内公開しております。e-LearningはISO 14001の環境目標として取り組む部門が増えつつあり、全員が参加する部門が出てくるなど、参加者も毎年増加しております。

 環境イベントとしては、毎年10月にグローバルで実施するサステナビリティ月間で、2024年3月期は「地球温暖化対策」をテーマにした写真コンテストを実施し、世界中の当社グループ従業員からの応募がありました。

 

・外部からの環境評価

 当社は、2024年2月にCDPが公表した「気候変動レポート2023」で「B」スコアと評価されました。当社の2023年気候変動に関する評価である「B」スコアはCDPの区分ではマネジメントレベルであり、これは「自社の環境リスクや影響について把握し、行動している企業」であるとの評価を示すものであります。当社は2021年にTCFDに賛同し、2022年より気候関連財務情報を開示、2050年のカーボンニュートラル実現を目指して取り組みを進めております。

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・EU圏での情報開示(フランス・APEM)

 当社グループの中でEMEAを中心に事業拠点を置くAPEMは、CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive)要件に取り組むチームを設置し、2026年開示に向けた準備を進めております。当社グループ全体として2023年3月期より開始しているEcoVadisへの回答を、欧州のグループ会社単体としての準備や、今後取り組みが必要となるダブルマテリアリティの設定などに向けて、さまざまな対応を進めております。

 

●自然への取り組み

・生物多様性の取り組み

 当社グループの事業活動が生物多様性に与える影響や生物多様性実績のモニタリングに参考となる指標を定義するために、2024年3月期に当社グループの生物多様性リスクの分析と評価を実施しました。評価ツールには世界自然保護基金(WWF)が開発したBiodiversity Risk Filterを活用し、主要拠点所在国別の生物多様性リスクを定量化しました。併せて、グループ全体での生物多様性リスク指標の上位10項目を特定しました。

 

・水資源保護の取り組み

 本社社屋地下に雨水貯水タンクを設置して、貯留水を本社中庭緑地への散水や気温上昇時の打ち水などの用途で有効活用しております。本社中庭は緑の認定SEGES(社会・環境貢献緑地評価システム)「そだてる森」部門で「Excellent Stage2」の認定を取得しました。

 また、本社食堂の排水設備にオゾンを利用した浄化装置を設置しております。浄化装置は排水に含まれる油分の排水処理を行うことで、生活排水の環境負荷低減が期待できます。

 

●循環型社会の実現

・プラスチック廃棄量削減の取り組み

 プラスチック廃棄量削減と資源有効利用の取り組みを行っており、製造工程初期の成型過程で発生するプラスチック材料の端材を破砕・粒状化して再利用するリグラインドを、海外製造拠点に続いて、2023年からは国内2工場でも追加で開始しました。またリグラインド導入品の検定と評価を行い、対象の材料と品目を増やすことで、2023年度は国内2工場で約3.6tの樹脂材料を再利用しました。

 

IFRSサステナビリティ開示基準に沿った情報開示

①ガバナンス

 代表取締役社長が委員長を務めるサステナビリティ委員会の、専門委員会である環境戦略委員会が中心となり、気候関連財務情報の開示に取り組んでおります。環境戦略委員会はさまざまな部門の社員で構成され、環境担当上席執行役員のもとで毎月開催されております。環境戦略委員会での決定事項は、サステナビリティ委員会で審議された後、経営会議に上程され報告承認を受け、その後取締役会で報告承認される体制になっております。

 2022年からの中期経営計画で設定された目標の進捗は毎月の会議で確認され、進捗が予定どおりでない場合は対応策を検討します。また、最大で報酬の10%までに相当する譲渡制限付普通株式を取締役および執行役員に割り当てる、中期インセンティブとしてのパフォーマンスシェアユニット(PSU)の仕組みを2024年3月期より導入いたしました。PSUの算定に用いる非財務指標には、CO2削減率などがあります。

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②戦略

 当社グループでは、環境戦略を自社の事業戦略の重要な一部と捉え、移行計画を中期経営計画に反映させております。具体的には、カーボンニュートラルを目指して、CO2排出量削減の指標と目標を定め、他の環境対応目標と合わせて中期経営計画のサステナビリティKPIとしております。

 バリューチェーン対応としては、CSR調達ガイドラインとグリーン調達ガイドラインを定め、サプライヤーへの環境負荷軽減への協力依頼も毎年継続しております。事業に関しては、環境配慮型製品の開発や環境エネルギー事業などに代表される、環境に関わる事業活動の事業貢献度の向上に計画的に取り組んでおります。そのため、リスクと機会の分析は、環境戦略を事業戦略に取り込む上での重要なプロセスと考えており、「気候関連のリスクと機会」項目の検討にあたり、自社の移行機会となり得る要素を基に、企業の見通しに合理的に影響を与えることが予想される項目の特定を環境戦略委員会で実施しております。

 次に、特定した項目それぞれが当社グループの事業モデルに与える現在及び予想されうる将来への影響や今後の対応を検討し、一覧表にまとめております。さらに、事業に与える潜在的影響額、リスク対応費用、機会を実現するための費用を算出しております。検討した内容は、今後の中長期の経営計画に段階的に反映させて、より具体的な行動計画へと落とし込んでいきます。環境関連事業活動の中核の一つとなる、環境配慮型の製品開発に関しては、その必要性と事業貢献に関わる重要性、そして移行機会を活かしたビジネスチャンスの創出を、各部門へこれまで以上に浸透させてまいります。

 

・気候レジリエンス

 国際エネルギー機関が発行する「世界エネルギー展望2023年度版(WEO2023)」の報告では、2020年以降、世界のエネルギー事情は不安定な状態が続く一方で、クリーンエネルギーへの投資は2020年以降で40%上昇し、全世界の自動車総販売台数に占める電気自動車の割合は、2020年の25台に1台から2023年は5台に1台と、3年間で5倍となっております。

 WEO2023によると、1.5℃への道筋は難しいものの、持続可能なエネルギーシステムへの移行が進み、太陽光発電や電気自動車が主導する新たなクリーンエネルギーの出現が1.5℃実現の鍵となることが認識されております。

 これらの状況を踏まえた上で、2024年3月期の当社グループの選定シナリオは、2023年3月期と同様に移行リスクシナリオはWEO2023のSTEPS(2.6℃シナリオ)とNZE(1.5℃シナリオ)を、物理的リスクシナリオはIPCC第5次報告書のRCP2.6(2℃シナリオ)とRCP8.5(4℃シナリオ)を採用しました。

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③リスク管理

 環境戦略委員会で抽出した気候関連のリスクと機会それぞれの項目について、発生確率、影響の程度、財務上の潜在的影響額を検討し、リスクと機会のマップにまとめました。

 抽出結果、及びマッピングにおいて重要と評価したリスク項目は、当社グループのリスクマップに統合して管理しております。さらにマテリアリティの自然資本に関わるリスクと機会にも反映させております。

 環境推進室では、特に環境に関わるリスク管理項目を年度ごとのリスク管理表に展開し、達成指標を定めて達成状況をリスクモニタリング部会に報告しております。

 

・リスクと機会

 環境戦略委員会を中心に、環境情報開示のグローバルスタンダードの一つであるCDP質問書のリスクと機会項目を参考にしながら、当社グループの見通しに合理的に影響を及ぼすと予想されるリスクと機会の洗い出しを行いました。「IFRS S2実施に関する産業別ガイダンス」で定義された産業別開示トピック(電気電子機器産業)の適用可能性を参照・考慮しながら、移行リスク/物理的リスクの識別、短期~長期のいずれかの期間で合理的に発生することが予想される気候関連リスクと機会の影響、財務上の潜在的影響の特定、期間の定義を行いました。

 

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④指標及び目標

 CO2排出量削減については、2025年3月期までにScope1と2で24%削減、2031年3月期までに50%削減(2020年3月期比)を中期経営計画で目標としております。内部炭素価格(ICP)は2023年3月期より導入し、2025年3月期は10,000円/tで価格を設定いたしました。現時点でICPが環境投資の意思決定に与えるインパクトはまだ十分大きくありませんが、環境戦略委員会を中心にICP活用のモデルケースを紹介しながら、社内意識の向上を図っております。

 2024年3月期のCO2排出量に関しては、Scope1と2の合計で、2023年3月期より減少しており、2020年3月期に対して2023年3月期以降、継続的に削減できております。

 2024年3月期売上の前年同期比減少は、工場の電力消費量に少なからず影響していますが、CO2フリー電力の導入効果に加えて、各工場で稼働率の向上を継続的に推進している事がCO2削減効果に現われており、そのため売上の影響にかかわらず、売上高原単位も前年同期よりもわずかながら下回っております。ただし、CO2をどれだけ少なくして効率的に利益を稼いだかを表す指標である炭素利益(ROC)は、営業利益額減少に伴い、前年同期よりも下がりました。

 Scope3に関しては、その大半を占める主要な項目は前年と変わらずCategory1と11ですが、主に売上高減少の影響により、前年同期に比べて減少しております。

 

(3)人的資本

 性別・年齢・国籍・文化・ライフスタイルなどの多様性を尊重した、働きやすい職場環境づくりを行うことで、さまざまな個性や価値観を持つ社員一人ひとりが能力を十分に発揮できる、組織風土の醸成に取り組んでおります。

 

人材戦略

 当社では4つのマテリアリティの一つとして、「企業基盤:価値創造を促進する経営構造の整備、人権の尊重、組織風土の醸成および人材の育成」を掲げております。持続的な成長と企業価値向上を実現するためには、企業の活性化や人的資本の強化が必要不可欠となるため、2030年の目指す姿を掲げ、中期経営計画の施策やサステナビリティKPIとも連動させながら、さまざまな取り組みを推進しております。

 2020年3月期からエンゲージメントサーベイ(従業員意識調査)を実施しており、2023年3月期に実施したエンゲージメントスコアを基にサステナビリティKPIを設定し、現状と課題の把握、重点課題を中心とした対策を行うことで、エンゲージメントの向上に取り組んでおります。

 また、グローバル人材基盤としてタレントマネジメントシステムを新たに導入し、当社グループ全体での優秀な人材の発掘・最適配置に取り組む予定であります。今後グローバルでの事業拡大をさらに推進していくためには、ディーセントワークや、ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みも不可欠であります。人材の多様性確保に向けて、グローバル人材の採用や女性管理職比率の向上などにも注力しております。

 なお、中長期の人材戦略として、重要ポジションの充足とリーダー人材の育成を掲げており、グループ全社での持続的成長を実現するために、次世代の経営を担う幹部候補者を計画的に選抜、育成しております。

 

①ガバナンス

●推進体制

 経営戦略と人事戦略を立案していくため、代表取締役直轄の組織として、2023年3月期に経営戦略企画本部を新たに設置しました。関係各部と調整しながら、長期ビジョンや中期経営計画、サステナビリティKPIなどの策定、経営・人事戦略の立案、経営資源マネジメントなどを牽引しております。重要事項は経営会議に上程しており、方針決定後に取締役会へ報告する体制としております。また、全社安全衛生委員会の専門部会として、ディーセントワーク部会を2023年3月期に設置し、働きがいのある職場環境づくりや、社員のウェルビーイング実現に向けた社員満足度向上を目指した取り組みを行っております。

 

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②戦略

 ●人材育成方針・社内環境整備方針

 当社グループは、「世界中の人々の安全・安心・ウェルビーイングを実現すること」を私たちのパーパスとして定めるとともに、「Pioneer the new norm for a safer and sustainable world.(いつも、ずっと、みんなに新しい安心を)」というVisionを『The IDEC Way』で掲げ、全ての人々に幸福と安心をもたらし、より安全で持続可能な社会の実現を目指しております。

 当社グループのVisionの実現に向けて、グローバルベースで事業をさらに発展させていくとともに、事業活動を通じてさまざまな社会課題の解決に貢献するため、多種多様な強みを持ち、能力を発揮できる人材や、情熱を持って自律的に未来を切り開ける、次世代を担う人材の採用・育成を重点テーマに定めております。今後もダイバーシティ&インクルージョンを積極的に推進し、さまざまな人材育成施策を実施してまいります。

 また、当社グループは職場の安全と心身の健康を守るとともに、人権を尊重し、差別のない健全な職場環境の確保に取り組んでおります。

 

 ●企業理念の浸透・実践と社員エンゲージメントの向上

 当社では、企業理念である『The IDEC Way』の浸透・実践にむけた取り組みを行っております。具体的な浸透・実践の活動として、社内でのポスター掲示、イントラネットや社報の活用、クレドカードの配布などを行うとともに、2023年3月期に改定した新人事制度において、『The IDEC Way』に基づいた役割定義とグレード定義を見直し、人事評価との紐づけを行いました。

 社員エンゲージメントの向上に向けては、2020年3月期、2023年3月期にエンゲージメントサーベイを実施し、抽出された課題への取り組みを推進してきました。2023年3月期のサーベイでは、代表的な指標である「会社の総合的魅力」、「職場の総合的魅力」のスコアがアップし、その他の多くの項目において改善が見られました。一方で、スコアの低かった①人材育成、②マネジメント力の強化、③人事制度に対する納得性の向上、という3つを主要課題と認識し、それを基にサステナビリティKPIを設定した上で、改善に向けた取り組みを行っております。エンゲージメントサーベイでは、『The IDEC Way』の実践に関する設問も設けており、2023年3月期のサーベイでは自身の実践度、上司の実践度ともにスコアが上がる結果となりました。

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 また、2025年3月期から社員表彰制度を新たに導入しました。幅広い社員が参画できるよう、役員を除く全社員を対象としており、4つのテーマ別部門とCore Values部門を設定し、部門ごとに「社長賞」の受賞者を決定いたします。Core Values部門では、グループ理念を体現した社員や、Core Valuesを基にした、働く上で具体的に意識するべき考え方・行動である、Principlesに沿って行動した模範的な社員を表彰する部門も設定し、グループ理念の浸透を図っております。

 グローバルでの理念の浸透や、社員エンゲージメントの向上により、さらなる企業基盤強化を推進してまいります。

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 ●人材マネジメントシステムの強化

 人材マネジメントをさらに強化していくため、人事制度の改定、多面評価の実施、キャリア開発会議、教育制度、グローバルタレントマネジメントの充実を図っております。

 

・新人事制度

 エンゲージメントサーベイで明確になった、人事諸制度の課題(評価、給与・ボーナス、昇進昇格など)を踏まえ、2023年3月期に新人事制度を導入しました。多様なキャリア志向に対応するため、コースを複線化し、個々人の要望・強みを活かせる機会を提供するとともに、「目標管理(評価)」と「報酬」の透明性を高め、求められる役割、行動や仕事の成果に応じた公正な評価、処遇を実現しております。

・教育制度

 持続的な成長を支えるために不可欠な、人材への投資を強化しており、多様な研修制度を用意しております。体系的な社内外研修制度やキャリアアップ支援制度のほか、グローバル人材育成の一環として、経営幹部のフィリピンでの語学留学やコーチング付き英語学習、一般社員向けにも多様なオンライン英語教育のメニューを取り揃え、各自のスキルアップを支援しております。

 また、グループ全社での持続的成長を実現するため、当社グループの将来を牽引する、次世代経営幹部候補の早期育成を図る、選抜型教育プログラムも導入しております。

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・多面評価

 2023年3月期に、部長職以上の役職者に対して多面評価制度を導入し、2024年3月期からはマネージャーにも範囲を拡大しました。評価後に対象者全員に対する研修を行っており、日頃の職務行動や職務遂行能力について「気付き」をもたらすことで、自己認識を変化させ、行動変容を促しております。

 

・キャリア開発会議

 社員の成長支援と組織への適材適所の実現を図るため、2023年3月期からキャリア開発会議を行っております。本部単位で部門長が集まり、メンバーの能力開発などの課題を共有・明確化し、役割配置の検討や、今後の昇進昇格を含めた社員の育成プランの検討を行っております。

 

・グローバルタレントマネジメント

 グローバル人材基盤として、タレントマネジメントシステムの導入準備を行っております。スキルや経験といった人事データをグローバルで管理することで、人材の見える化や組織力の最大化を推進し、人材の発掘、最適配置に取り組んでまいります。日本では、スキルや経験をベースに、人材の育成計画、e-Learning、組織編成、サーベイ管理などもタレントマネジメントシステムに集約した上で、キャリア開発の推進やエンゲ―ジメントの改善にも取り組みます。2026年3月期の導入に向けて、2024年3月期、2025年3月期はシステムの検討や課題の整理を行っております。

 

●ダイバーシティ&インクルージョンとディーセントワークの推進

 ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みを推進し、多様な人材が人間性を尊重し、人種、肌の色、年齢、性別、性的指向、性同一性と性表現、民族または国籍、障がいの有無などにかかわらず、活躍できる環境の整備や支援体制の充実に取り組んでおります。また、働きやすい職場環境づくりを推進するため、DXによる業務効率化や、計画的年休・男性の育児休業取得の奨励、裁量労働制・フレックスタイム制の導入など、柔軟な働き方を可能にする働き方改革を推進しております。男性の育児休業取得率向上に向けては、取得者インタビューのイントラネットへの掲載や、対象者の上司への周知により、2024年3月期の取得率は100%となりました。

 

 安心して働き続けられる働きがいのある職場環境づくりや、安全衛生レベルの向上、社員のウェルビーイング実現については、ディーセントワーク部会や職場ウェルビーイング推進委員会を設置し、組織を横断した情報共有や全社施策の検討を行っております。幅広い部門の社員が議論に参画することで、全ての社員にとって、働きがいのある環境づくりを推進していきます。

 

・女性管理職の育成・登用

 多様な人材がチャレンジできる環境・風土づくりの一環として、女性活躍に向けた取り組みを推進しております。2025年3月期末までに、当社の女性管理職数を15名とする目標を掲げ、女性活躍推進のキーとなる全部門長を対象とした意識改革研修、女性管理職候補を対象とした選抜型教育などの取り組みを推進し、1年前倒しで目標を達成しました。連結ベースの2024年3月期の女性管理職比率は23.9%であります。

 

・多様な人材の採用・登用

 グローバルで事業拡大を推進するため、国籍にかかわらず多様な人材を採用しており、主要会議における議事録の多言語化を推進するなど、環境整備にも力を入れております。

 また、事業革新を推進できるDXやAI人材、お客さまの課題に対して最適なソリューションを提案するソリューション営業や新製品開発などを担える高い専門的知識を持った人材など多様な経験を持つ人材の採用を行っております。

 今後も、事業強化のために必要となる専門性や知識を有する人材の採用を、積極的に進めていきます。

 

・障がい者の就労機会の創出と活躍機会への取り組み

 2022年3月期より企業グループ算定特例を適用しており、2024年3月期末の当社国内グループの障がい者雇用数は37名(換算人数45名)、雇用率は3.03%となっております。

 

・LGBTQ+への理解・支援

 誰もが生き生きと働くことのできる職場環境構築に向けて、LGBTQ+に関する社内教育を2022年3月期より継続して実施しております。社内相談窓口担当者への研修を実施し、LGBTQ+に関する理解を深めるため、カミングアウト時の基本的な対応について、具体的にイントラネット上に掲載し、社員が閲覧できるようにしております。

 

③リスク管理

 人的資本に関するリスクと機会は、マテリアリティ分析において、ステークホルダーの重要度と事業としての重要度の両軸でマッピングしており、「企業基盤」の人的資本に関わるリスクについては、当社グループのリスクマップに統合して管理しております。

 リスクの重要項目については、リスクマネジメント委員会において評価、管理しており、年に1回、経営戦略企画本部で人的資本に関するリスクと機会を見直すこととしております。

 

④指標及び目標

 当社グループのマテリアリティとして、価値創造を促進する経営構造の整備、人権の尊重、組織風土の醸成及び人材の育成を掲げており、2030年の目指す姿を定義しております。その達成に向けて、「働きやすい職場環境づくり」、「ディーセントワークの推進と人的資本への投資拡大」という取り組みテーマで、それぞれサステナビリティKPIを設定し、目標の達成に向けた取り組みを推進しております。

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3【事業等のリスク】

(1)リスクマネジメント体制と運用

 当社グループにおけるリスクの発生を回避するとともに、万一発生した場合にもその被害を最小限に抑制することを目的に、危機管理規程を制定しております。また、代表取締役社長を委員長とする「サステナビリティ委員会」傘下の専門委員会として「リスクマネジメント委員会」を設置し、グループ全体での平常時のリスクマネジメントとリスク発生時の対応を行う体制としております。

 「リスクマネジメント委員会」には委員会内に「リスクモニタリング部会」と「BCP部会」、「人権部会」を設け、当社グループ全体でのリスクの選定、評価、リスク低減に向けた取り組みのモニタリングや、BCPの策定、人権課題への対応に向けた取り組みを実施しております。また、同委員会内に「Hotline担当」を設け、内部通報窓口の整備や通報事象への対応を行っております。

(2025年3月期より「CSR委員会」は「サステナビリティ委員会」、「BCP策定準備部会」は「BCP部会」と名称を変更しております。)

 

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 「リスクマネジメント委員会」はこれらの取り組み内容を年2回開催される「サステナビリティ委員会」にて報告し、「サステナビリティ委員会」から取締役会に報告を行うとともに、通報案件など重要事象については「リスクマネジメント委員会」から直接取締役会に報告することで、経営層へ適切にリスク情報を報告できる体制を整えております。

 

リスクモニタリング活動

 当社グループの持続的な事業の拡大、企業価値向上にマイナスの影響を与える事象を「リスク事象」として想定し、定期的なリスクの特定、評価を実施しております。また、環境戦略委員会において重要と評価した気候変動リスクも「リスク事象」として統合し評価しております。そして、その中で発生確率または影響度が高いと評価された事象を「高リスク事象」とし、管轄する部門ごとに年間でのリスク低減目標を設定し、上期・下期の半年毎にその進捗を確認しております。

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BCP策定

 当社グループにとっての高リスク事象の一つである地震等の自然災害に備えるため、リスクマネジメント委員会の中にBCP(事業継続計画)策定を推進するための部会を立ち上げ、生産部門や対象事業所の関係者と連携しながら、災害発生時対応の基本的方針や初動対応フロー、事業継続計画の策定を推進しております。

 災害時に、対策本部の各担当が初動対応としてどのような動きをとるか想定し、またそのために必要なマニュアルやチェックリストを作成し、平常時から必要な防災対策などの見直しを進めております。併せて、イントラネットを使って社員一人ひとりの防災意識を高めるための情報発信なども行っております。

 

(2)高リスク事象の特定プロセス

 当社グループの持続的な事業の拡大、企業価値向上にマイナスの影響を与える事象を「リスク事象」として想定し、各リスク事象について「発生確率」「被害の大きさ」「影響度」を指標とした評価アンケートを実施し、その結果からリスクマップにプロットして相対的に評価しております。

 

想定するリスク事象とリスクマップ

0102010_024.png

※気候変動リスクは環境戦略委員会で高リスクと評価された事象を反映しております。

※リスクは短期~中期で評価し、気候変動リスクで長期と評価されたものは短期~中期で再評価して統合しております。

※赤枠内にプロットされるリスクを高リスク事象と判定しております。

 

リスク

カテゴリ-

No

リスク事象

2023年度のリスク評価

昨年比

外部要因

リスク

1

関西地区における震度6弱以上の地震等による事業拠点の被災

南海トラフ地震を踏まえて発生確率は昨年度より上昇しており引き続き高リスク事象として評価

2

拠点地域内での紛争やテロの発生

昨年度と同様に依然として高リスク事象として評価

-

2b

国家間情勢や治安悪化による駐在者、拠点操業への影響

発生確率が若干高まり昨年度と同様に高リスク事象として評価

-

3

拠点内での感染症クラスターの発生

感染症対策の実施や、ウイルスへの認識変化などを踏まえ影響度は低下

-

4

外部要因(部品廃番、調達困難)による製品仕様変更

電子部品の調達難による仕様変更に直面したことから影響度、発生確率ともに引き続き高水準となり、高リスクとして評価

内部要因

事業

戦略

リスク

5

納期長期遅延につながる部材調達難

電子部品の調達難による仕様変更に直面したことから影響度、発生確率ともに引き続き高水準となり、高リスクとして評価

-

6

生命身体に影響する可能性のある重大な製品事故の発生

昨年度と同様に影響度の大きさから高リスクとして評価

-

7

製品の性能・データ改ざんによる品質偽装

グローバルビジネスの中で影響度は上昇すると評価

8

使用禁止物質が含まれた製品の流通

昨年度と同程度に評価

-

9

戦略投資リスク(M&Aや企業提携など戦略的な投資による財務状況への影響)

昨年度と同程度に評価

-

リソース・

インフラ

リスク

10

重症以上の労働災害の発生

職場環境の影響により昨年度と比較して発生確率は上昇

11

サボタージュ、ストライキによる業務機能停止

昨年度より発生確率は低く評価

12

システムダウン、ネットワークダウンなどのインフラの半日以上の停止

ネットワークダウンの影響度について再認識し、影響度は昨年度より高く評価

12b

サイバーアタックによるネットワークの長期停止

長期停止による影響度は大きいと評価

-

コンプライアンス

リスク

13

他社の知的財産権侵害による販売差止め、損害賠償請求

昨年度と同程度に評価

-

14

人権課題(児童労働・強制労働など)への不対応

グローバルビジネスにおける人権課題の認識の高まりから影響度が大きいと評価

-

14b

ハラスメント発生による職場士気の低下

職場環境の影響を踏まえて発生頻度は昨年度より上昇すると評価

15

会計、税務の不適切処理による追徴課税

昨年度と同程度に評価

-

16

社員による高額の横領、背任、贈収賄

昨年度と同程度に評価

-

17

上位役職者によるインサイダー取引

業績状況に誘引され発生確率が若干上昇すると評価

18

独禁法、下請法違反事象の発生

職場環境の影響により発生頻度は昨年度より上昇すると評価

19

自社の重要情報、他社の秘密情報、個人情報の漏洩

影響範囲について再認識し、昨年度より影響度を大きく評価

20

許認可不備による業務差し止め

認証等も含め影響度は上昇すると評価

会計・財務

リスク

21

売上債権の回収困難、貸倒

昨年度と同程度に評価

-

22

資産の毀損

昨年度と同程度に評価

-

 

 

リスク

カテゴリ-

No

リスク事象

2023年度のリスク評価

昨年比

気候変動リスク

移行

リスク

原材料のコスト増加

製造・調達コストへの直接的な影響と部品調達難によりコスト増加が誘引されることから高リスクと評価

-

顧客や投資家の環境志向の高まり

短期~中期におけるリスクは低いものの、昨年度と比較して発生確率は上昇

競合他社に対する既存新製品の低排出/低炭素技術への移行の遅れ

環境配慮技術への遅れは将来的な事業リスクにつながると評価

-

カーボンプライシングの動向

CO2削減への世界的気運の高まり、規制や法令、制度による影響は大きいと評価

物理

リスク

自然災害

気温変動が自然災害など様々なリスクを誘引するが、短期~中期での確率は低いと評価

 

(3)事業等のリスク

 上記のとおり想定・評価した「高リスク事象」を含め、当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に重要な影響を与え、事業展開上のリスク要因となる可能性があると考えられる主な事項を以下で記載しております。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在における当社グループの判断に基づいております。

①外部要因リスク

項目

リスクの内容

主な取り組み

関西地区における震度6弱以上の地震等による事業拠点の被災(上記表・マップ中のリスクNo.1)

大阪府と兵庫県に本社・主要事業所を有する当社グループにとって関西地区での巨大地震発生による事業所被災は大きなリスクであると認識しております。被災により一部又は全部の操業が中断した場合、適切なBCPを備えていなければ生産及び出荷が遅延する可能性や、損害を被った設備等の修復のために多額の費用が発生する可能性があり、財政状況や事業展開に与える影響が大きいと考えております。

リスクマネジメント委員会内にBCP策定を推進するための部会を立ち上げ、災害発生時対応の対策本部体制、基本的方針や初動対応フロー、事業継続計画についての検討と策定を推進しております。災害時に、対策本部の各担当が初動対応としてどのような動きをとるか想定し、またそのために必要なマニュアルやチェックリストを作成して平常時から必要な防災対策などの見直しを進めております。

拠点地域内での紛争やテロの発生(上記表・マップ中のリスクNo.2)

国家間情勢や治安悪化による駐在者、拠点操業への影響(上記表・マップ中のリスクNo.2b)

グローバルに事業を展開し、展開国数15か国、海外売上比率が50%以上を占める当社グループにおいて、拠点地域内での紛争やテロ、またそれに準じるデモや抗争により、社会や市場が混乱した場合には財政状況や事業展開に与える影響が大きいと考えております。

適時に情報を収集するとともに、地域分散などによりリスク回避を図っていますが、リスクにつながる状況が発生した場合には、例えば紛争地域回避による輸送の遅延や輸送費の高騰などの課題テーマ毎のタスクフォースを立ち上げ情報収集と対策を進めております。

外部要因(部品廃番、調達困難)による製品仕様変更(上記表・マップ中のリスクNo.4)

電子部品の調達難による製品仕様変更に直面したことから影響度、発生確率ともに上昇し、メーカーとして大きな影響を受ける事象と考えております。

タスクフォースを組んで部品の調達状況を把握するとともに、部品変更や仕様変更を進め、リスクの軽減に努めております。

 

②内部要因リスク

項目

リスクの内容

主な取り組み

納期長期遅延につながるような部材調達困難(上記表・マップ中のリスクNo.5)

部材調達困難により納期の長期化が生じた場合、売上高の減少や在庫の積み上げなど財政状況経営成績に与える影響が大きいと考えております。

タスクフォースを組んで部材の調達状況を把握・管理するとともに、全体での納期調整を行うなど、影響を最小化するための取り組みを推進しております。

生命身体に影響する可能性のある重大製品事故の発生(上記表・マップ中のリスクNo.6)

人と機械の最適環境を創造し、世界中の人々の安全・安心・ウェルビーイングを実現することをパーパスとして標榜する当社グループにとって、生命身体に影響する可能性のある重大製品事故の発生は財政状況や事業活動はもちろん、レピュテーションにも大きな影響を与える可能性があります。

QMS(Quality Management System)での帳票や手順書の整備を実施するとともに、市場クレームの故障情報を監視し、アラート機能や重大クレーム管理リストなどを整備して異常の早期察知と早期対応を推進しております。

人権課題(児童労働・強制労働など)への不対応(上記表・マップ中のリスクNo.14)

ハラスメント発生による職場士気の低下(上記表・マップ中のリスクNo.14b)

グローバルビジネスでの人権課題の認識の高まりから、人権課題への不対応は不買運動やレピュテーションリスクにつながり影響度が大きいと考えております。

人権課題に対する社内研修体系を整備し、従業員の意識醸成を図る他、人権リスクの評価や人権デューデリジェンスの企画・準備などの取り組みを推進しております。

自社重要情報、他社秘密情報、個人情報の漏洩(上記表・マップ中のリスクNo.19)

業務のシステム化・情報化の進行とあわせて、個人情報保護法など法令による情報管理体制が求められる中ではより一層の情報管理が必要とされており、サイバーアタックの経験も踏まえて漏洩等が生じた場合の影響は大きいと考えております。

情報セキュリティへの技術面の対策と情報漏洩防止についての知識向上を図るとともに、情報管理体制の見直しを推進しております。

資産の毀損リスク

(上記表・マップ中のリスクNo.22)

棚卸資産について、実際の将来需要又は市場状況が当社グループの見積りより悪化した場合、評価減が必要となる可能性があります。

供給計画・生産計画の策定において、急激な需要変動等機動的に反映し、在庫の長期滞留化リスク軽減に努めております。

固定資産の減損に係る会計基準の適用により、時価の下落や当該資産から得られる将来のキャッシュ・フローの状況によっては減損処理が発生する可能性があります。

固定資産の稼働状況、キャッシュ・フローの創出状況等を定期的にモニタリングし、効率的運用を実施しております。

APEM社を連結子会社化したことに伴い、のれん及び無形資産である商標権と顧客関連資産を計上しており、景気変動等の影響により収益性が低下した場合、シナジー効果が発揮されず、減損損失が発生する可能性があります。

月次・四半期単位等定期的に業績動向・経営状態を確認するとともに、超過収益力の向上を目的としたシナジー効果の最大化に向けた取り組みを強化しております。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

経営成績等の状況の概要

 当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という)の状況の概要は次のとおりであります。

(1)財政状態及び経営成績の状況

 当連結会計年度におけるわが国経済は、新型コロナウイルスの感染症法上の分類において5類へ移行、また入国者の水際対策の解除によるインバウンド需要の回復などにより、経済活動は徐々に正常な状態を取り戻しつつあります。一方で、金融引き締め政策等による景気下押し圧力などによる世界的な需要の低迷を背景に、輸出は伸び悩んでおり、緩やかな回復が続くなかにも弱さがみられる状況にあります。世界経済は、欧米地域においては巣ごもり消費の終息を受けた世界的な需要の減速や金融引き締め政策などを背景に受注環境は厳しさを増し、ゼロコロナ政策の解除を受けて急回復していた中国においても受注環境が悪化するなど、不透明な状況で推移いたしました。

 当社グループにおいては、当連結会計年度を2年目とする中期経営計画の目標達成に向け、新製品などを活用したソリューション展開のさらなる強化の推進や、グローバルでの最適な生産活動実現に向けた改革などの活動に取り組んでまいりました。

 このような状況におきまして、当社グループの国内売上高は、客先における輸出需要の低迷などの影響により、前年同期に比べ、76億1千2百万円減収の269億7百万円(前年同期比22.1%減)となり、海外売上高は、欧州市場では制御用操作スイッチなど主力のHMI事業が堅調に推移し円安の影響もあり売上高は増加しましたが、特に中国市場を中心とした景気減速の影響によりインダストリアルコンポーネンツ事業や安全・防爆事業を中心に売上が減少した結果、前年同期に比べ、35億4千4百万円減収の458億4百万円(前年同期比7.2%減)となりました。その結果、当連結会計年度の連結売上高は727億1千1百万円(前年同期比13.3%減)となりました。

 利益面においては、営業利益は前年同期に比べ、円安による販売費及び一般管理費の増加や減収の影響による利益減により、77億8千4百万円減益の62億7千6百万円(前年同期比55.4%減)、経常利益は前年同期に比べ、円安により為替差益が増加したものの、デリバティブ評価損が増加したことにより、74億8千2百万円減益の69億2千万円(前年同期比51.9%減)、親会社株主に帰属する当期純利益は前年同期に比べ、57億3千7百万円減益の44億7百万円(前年同期比56.6%減)となりました。

 以上による当連結会計年度における業績結果は以下のとおりです。

 

2023年3月期

2024年3月期

比較増減

増減率

 

売上高(百万円)

83,869

72,711

△11,157

△13.3%

売上総利益(百万円)

37,376

31,019

△6,356

△17.0%

売上総利益率(%)

44.6

42.7

△1.9

-

営業利益(百万円)

14,060

6,276

△7,784

△55.4%

営業利益率(%)

16.8

8.6

△8.1

-

経常利益(百万円)

14,403

6,920

△7,482

△51.9%

親会社株主に帰属する

当期純利益(百万円)

10,144

4,407

△5,737

△56.6%

(為替レート)

 

 

 

 

米ドル平均レート(円)

135.51

144.59

+9.08

-

ユーロ平均レート(円)

138.15

156.74

+18.59

-

人民元平均レート(円)

19.75

20.13

+0.38

-

 

 セグメントごとの経営成績に関しては、次のとおりであります。

①日本

 日本においては、物価上昇や海外経済減速による下振れ懸念、半導体関連・ロボットなどの主要産業での足踏み感や流通在庫調整局面の影響もあり、売上高は前年同期に比べ、77億3千9百万円減収の313億5百万円(前年同期比19.8%減)となり、営業利益は前年同期に比べ、47億3千4百万円減益の23億1千1百万円(前年同期比67.2%減)となりました。

 

②米州

 北米地域においては、年初から続く需要の低迷により、代理店並びに客先における在庫の調整局面に入っており、売上高は前年同期に比べ、19億4千5百万円減収の138億7千万円(前年同期比12.3%減)となり、営業利益は前年同期に比べ、13億7千9百万円減益の15億9千4百万円(前年同期比46.4%減)となりました。

③EMEA

 欧州市場では、物価上昇や地政学リスクの影響はありますが、制御用操作スイッチなど主力のHMI事業の売上が増加したことや、円安に伴い円換算での売上高が増加したこともあり、売上高は前年同期に比べ、25億6千6百万円増収の158億7千1百万円(前年同期比19.3%増)となり、営業利益は前年同期に比べ、3億2千万円減益の4億4千8百万円(前年同期比41.7%減)となりました。

④アジア・パシフィック

 アジア・パシフィック地域においては、中国経済や東南アジア地域における景気減速の影響などにより、売上高は前年同期に比べ、40億3千9百万円減収の116億6千4百万円(前年同期比25.7%減)となり、営業利益は前年同期に比べ、17億8百万円減益の17億2千9百万円(前年同期比49.7%減)となりました。

 

 また、製品種類別の売上高については、次のとおりであります。

①HMI事業

 主力のスイッチにおいて日本、米州、アジア・パシフィックにおける流通在庫調整及び半導体関連・工作機械などの主要産業の需要が減少した結果、売上高は前年同期に比べ、18億1千1百万円減収の339億4千8百万円(前年同期比5.1%減)となりました。

※HMI(Human Machine Interface:人と機械が触れ合う環境)の核となる、「制御用操作スイッチ」や「ジョイスティック」、「表示灯」、「プログラマブル表示器」などの製品群です。

②インダストリアルコンポーネンツ事業

 主力市場であるアジア・パシフィックにおいて、特に中国市場を中心とした景気減速の影響により制御用リレーの売上が減少した結果、売上高は前年同期に比べ、38億4千7百万円減収の116億2千9百万円(前年同期比24.9%減)となりました。

※機械や生産ラインなどを制御・操作するための制御盤の中に組み込み、機械・装置の制御部分の基礎として使用される、「スイッチング電源」や「端子台」、「制御用リレー/ソケット」、「サーキットプロテクタ」などの製品群です。

③オートメーション&センシング事業

 中国市場での景気減速の影響や、堅調に推移していた米国のプログラマブルコントローラが減速したことにより、売上高は前年同期に比べ、4億2千2百万円減収の99億4百万円(前年同期比4.1%減)となりました。

※産業現場や暮らしの様々なシーンにおける機器の自動化に貢献する各種製品、機械・装置の頭脳の役割をする「プログラマブルコントローラ」やリテールや、物流分野など様々な分野で活用されている「自動認識機器」などの製品群です。

④安全・防爆事業

 特に中国市場を中心とした景気減速の影響により、半導体関連・工作機械などの主要産業の需要が減少し安全関連機器の売上が減少した結果、売上高は前年同期に比べ、46億3千5百万円減収の116億4千7百万円(前年同期比28.5%減)となりました。

※産業現場の安全を守る「非常停止用押ボタンスイッチ」や「安全スイッチ」、「イネーブル装置」といった「安全関連機器」に加え、石油・化学プラントなど、爆発性のガスが存在する現場での事故を未然に防ぐ「防爆関連機器」などの製品群です。

⑤システム

 アジア・パシフィックにおいて、半導体製造設備・物流関連設備等の制御盤の売上が減少したことにより、売上高は前年同期に比べ、8億7千8百万円減収の39億6千9百万円(前年同期比18.1%減)となりました。

※顧客ニーズに合わせてIDECの製品をシステム化して提供する「各種システム」、安全関連機器・安全技術を組み合わせて最適なシステムを構築する「協働ロボットシステムソリューション」などの製品群です。

⑥その他

 日本におけるその他システム関連製品の需要が増加した結果、売上高は前年同期に比べ、4億3千8百万円増収の16億1千2百万円(前年同期比37.3%増)となりました。

※メガソーラーや太陽光発電用電力マネジメントシステムをはじめとする「再生可能エネルギー事業」に加え、太陽光併用型農業プラントのトータルソリューションを提供する「次世代農業ソリューション」、幅広い分野での応用研究が進んでいる「ウルトラファインバブル(微細気泡)発生装置」などの事業や製品群です。

 

(2)キャッシュ・フローの状況

 

前連結会計年度(百万円)

当連結会計年度(百万円)

営業活動によるキャッシュ・フロー

7,009

5,504

投資活動によるキャッシュ・フロー

△3,110

△1,922

財務活動によるキャッシュ・フロー

△4,403

△4,462

現金及び現金同等物に係る換算差額

369

790

現金及び現金同等物の増減額(△は減少)

△133

△90

現金及び現金同等物の期首残高

15,203

15,070

現金及び現金同等物の期末残高

15,070

15,040

 営業活動によるキャッシュ・フローは、55億4百万円の収入(前年同期は70億9百万円の収入)となりました。これは主に、法人税等を42億1千1百万円納付、仕入債務が31億5千1百万円減少した一方で、税金等調整前当期純利益を67億2百万円、減価償却費を39億1千7百万円計上、売上債権及び契約資産が16億6千万円減少したことなどによるものです。

 投資活動によるキャッシュ・フローは、19億2千2百万円の支出(前年同期は31億1千万円の支出)となりました。これは主に、定期預金の払戻等により11億4千1百万円の収入があった一方で、固定資産の取得により25億6千9百万円、連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得により4億3千8百万円を支出したことなどよるものです。

 財務活動によるキャッシュ・フローは、44億6千2百万円の支出(前年同期は44億3百万円の支出)となりました。これは主に、配当金の支払いにより38億2百万円、リース債務の返済により6億1千1百万円を支出したことなどによるものです。

 

(3)生産、受注及び販売の実績

①生産実績

 当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

生産高(百万円)

前年同期比(%)

日本

34,076

73.1

米州

2,571

137.9

EMEA

16,223

108.3

アジア・パシフィック

12,326

75.3

合計

65,198

81.7

(注)金額は、販売価格によっております。

 

②受注実績

 当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

受注高

受注残高

金額(百万円)

前年同期比(%)

金額(百万円)

前年同期比(%)

日本

23,926

69.3

6,135

45.4

米州

11,866

75.3

2,853

57.4

EMEA

14,265

94.4

7,993

89.1

アジア・パシフィック

10,567

86.9

2,988

73.2

合計

60,625

78.2

19,971

63.3

(注)セグメント間取引については、相殺消去しております。

 

③販売実績

 当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

販売高(百万円)

前年同期比(%)

日本

31,305

80.2

米州

13,870

87.7

EMEA

15,871

119.3

アジア・パシフィック

11,664

74.3

合計

72,711

86.7

(注)セグメント間取引については、相殺消去しております。

 

経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

(1)重要な会計方針及び見積り

 当社の連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成に際し、見積りによる収益・費用の計上を行っております。経営陣は、過去の実績や状況に応じ、合理的と考えられる方法により見積り及び判断を行っておりますが、実際の結果は、不確実性を含んでおり、見積りによる数値とは異なる場合があります。

 特に以下の重要な会計方針が、当社の連結財務諸表の作成において使用される当社の重要な判断と見積りに大きな影響を及ぼすと考えております。

①棚卸資産

 当社グループは、連結会計年度末時点において簿価と市場価格の状況を検討し市場価格が下回る場合は評価損を計上しております。実際の市場価格が当社グループの見積りより変動した場合、計上した評価損の過不足が生じる可能性があります。

 また、従来より、一定期間を超えて在庫として滞留する棚卸資産についても簿価を切り下げており、在庫実態に変化が生じた場合には、同様に棚卸資産の簿価を切り下げることとなります。

②貸倒引当金

 当社グループは、債権の回収不能時に発生する損失の見積額について貸倒引当金を計上しておりますが、債権先の財政状態が悪化し、その支払能力が低下した場合、追加引当が必要になる場合があります。

③繰延税金資産

 当社グループは、繰延税金資産について回収可能性が高いと考えられる金額へ減額するために、評価性引当額を計上しておりますが、繰延税金資産の全部又は一部を将来回収できないと判断した場合、当該判断を行った期に法人税等調整額として計上いたします。

④退職給付費用

 従業員退職給付費用及び債務は、数理計算上で設定される前提条件に基づき算出しております。実際の結果が前提条件と異なる場合及び今後この前提条件が変化した場合には、変化した年度以降の退職給付費用が大きく増減する場合があります。

⑤固定資産の減損損失

 当社グループは、固定資産の減損に係る会計基準における資産のグルーピング方法として、工場その他の事業用施設等については、継続して収支を把握している単位かつ独立したキャッシュ・フローを生み出す単位で、遊休資産については、当該資産単独で区分する方法を採用しており、将来キャッシュ・フローが帳簿価額を下回った場合、又は遊休状態で今後も使用する見込みがない場合、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しております。

⑥のれん及び商標権・顧客関連資産

 当社グループは、のれん及び商標権・顧客関連資産に関してその効果の発現する期間を見積り、その期間で均等償却しております。その資産性の評価について検討し、将来において当初想定した収益が見込めなくなった場合に、簿価の切り下げを行う可能性があります。

 

(2)当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

①売上高

 当連結会計年度におけるわが国経済は、新型コロナウイルスの感染症法上の分類において5類へ移行、また入国者の水際対策の解除によるインバウンド需要の回復などにより、経済活動は徐々に正常な状態を取り戻しつつあります。一方で、金融引き締め政策等による景気下押し圧力などによる世界的な需要の低迷を背景に、輸出は伸び悩んでおり、緩やかな回復が続くなかにも弱さがみられる状況にあります。世界経済は、欧米地域においては巣ごもり消費の終息を受けた世界的な需要の減速や金融引き締め政策などを背景に受注環境は厳しさを増し、ゼロコロナ政策の解除を受けて急回復していた中国においても受注環境が悪化するなど、不透明な状況で推移いたしました。

 当社グループにおいては、当連結会計年度を2年目とする中期経営計画の目標達成に向け、新製品などを活用したソリューション展開のさらなる強化の推進や、グローバルでの最適な生産活動実現に向けた改革などの活動に取り組んでまいりました。

 このような状況におきまして、当社グループの国内売上高は、客先における輸出需要の低迷などの影響により、前年同期に比べ、76億1千2百万円減収の269億7百万円(前年同期比22.1%減)となり、海外売上高は、欧州市場では制御用操作スイッチなど主力のHMI事業が堅調に推移し円安の影響もあり売上高は増加しましたが、特に中国市場を中心とした景気減速の影響によりインダストリアルコンポーネンツ事業や安全・防爆事業を中心に売上が減少した結果、前年同期に比べ、35億4千4百万円減収の458億4百万円(前年同期比7.2%減)となりました。その結果、当連結会計年度の連結売上高は727億1千1百万円(前年同期比13.3%減)となりました。

 なお、当連結会計年度における対米ドルの平均レートは、144.59円(前年同期は135.51円で9.08円の円安)、対ユーロの平均レートは、156.74円(前年同期は138.15円で18.59円の円安)、対人民元の平均レートは、20.13円(前年同期は19.75円で0.38円の円安)となりました。

 

②損益状況

 売上原価は前年同期に比べ、48億円減少し、416億9千2百万円(前年同期比10.3%減)となりました。販売費及び一般管理費は、14億2千7百万円増加し、247億4千3百万円(前年同期比6.1%増)となりました。

 利益面においては、営業利益は前年同期に比べ、円安による販売費及び一般管理費の増加や減収の影響による利益減により、77億8千4百万円減益の62億7千6百万円(前年同期比55.4%減)、経常利益は前年同期に比べ、円安により為替差益が増加したものの、デリバティブ評価損が増加したことにより、74億8千2百万円減益の69億2千万円(前年同期比51.9%減)、親会社株主に帰属する当期純利益は前年同期に比べ、57億3千7百万円減益の44億7百万円(前年同期比56.6%減)となりました。

 

(3)経営成績に重要な影響を与える要因について

 当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因につきましては、「3 事業等のリスク」に記載のとおりです。

 

(4)資本の財源及び資金の流動性についての分析

①財政状態の分析

 当連結会計年度末の総資産の額は、前連結会計年度末より29億3百万円増加し、1,071億3千8百万円となりました。これは主に、現金及び預金が7億8千万円減少した一方で、有形固定資産及び無形固定資産が28億6千万円、棚卸資産が8億2千3百万円増加したことなどによるものです。

 負債の額は、前連結会計年度末より42億8千9百万円減少し、411億3千2百万円となりました。これは主に、仕入債務が25億3千5百万円、未払法人税等が14億5百万円、借入金が2億2百万円減少したことなどによるものです。

 純資産の額は、為替換算調整勘定が60億1千4百万円、利益剰余金が5億4千4百万円増加したことなどにより、前連結会計年度末より71億9千3百万円増加し、660億6百万円となりました。

②キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末より2千9百万円減少し、150億4千万円となりました。

 なお、当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの主な要因は、次のとおりであります。

 営業活動によるキャッシュ・フローは、55億4百万円の収入(前年同期は70億9百万円の収入)となりました。これは主に、法人税等を42億1千1百万円納付、仕入債務が31億5千1百万円減少した一方で、税金等調整前当期純利益を67億2百万円、減価償却費を39億1千7百万円計上、売上債権及び契約資産が16億6千万円減少したことなどによるものです。

 投資活動によるキャッシュ・フローは、19億2千2百万円の支出(前年同期は31億1千万円の支出)となりました。これは主に、定期預金の払戻等により11億4千1百万円の収入があった一方で、固定資産の取得により25億6千9百万円、連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得により4億3千8百万円を支出したことなどよるものです。

 財務活動によるキャッシュ・フローは、44億6千2百万円の支出(前年同期は44億3百万円の支出)となりました。これは主に、配当金の支払いにより38億2百万円、リース債務の返済により6億1千1百万円を支出したことなどによるものです。

 

(5)戦略的現状と見通し及び今後の方針

 現在、当社グループの売上高の60%以上は海外での売上であり、今後はさらにグローバル市場に目を向けた事業戦略が不可欠となることから、グローバルマネジメントの強化に向けた拠点の再編や、体制の見直しなどを行っております。

 2017年のAPEMのグループ化以降、双方の強みを活かすことができる、生産・販売・物流拠点の統合・再編や、人材面での交流などを行ってきました。今後は、より地域の垣根を越えた、さらにグローバルな組織体制とすることで、当社グループ全体のグローバル戦略を立案、推進してまいります。また、地産地消で現地ニーズに合った製品の企画、開発から、部材調達、生産、販売までを完結できる体制づくりを行っていきます。

 販売面では、当社製品を積極的に販売してもらえる代理店との取引に特化した代理店網に再編するとともに、各地域で新しい販売網を構築しております。地域別の取り組みとしては、今後高い成長が見込めるアジアでの事業を拡大するため、中国での現地ニーズに基づく製品開発や現地生産を加速するとともに、インドでは販売チャネルの強化を行っており、HMI・安全メーカーとしての認知度向上と、主要製品シェアの拡大を図っております。

 日本や米州、EMEAなどの成熟市場においては、さらなるプレゼンス拡大に向けたソリューション提案を強化しております。

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 当社は制御機器の総合メーカーとして多様な製品を展開しております。売上高の約半分を占めるHMI製品の制御用操作スイッチは、国内トップシェアを保有し、世界でも上位のシェアを獲得しております。また、創業当時から安全DNAをベースとした製品開発により、安全関連機器にも注力しております。今後グローバルでさらに売上高、利益を拡大していくために、当社が強みを持ち、収益性や成長性が高いHMI事業、安全事業の強化を推進しております。

 HMI事業では、新しい機能を盛り込んだ新製品の開発や、グローバルスタンダード製品の強化を行っております。

 安全事業では、地域ニーズにあった製品ポートフォリオの拡充により、市場拡大が期待できる海外展開を加速させております。また安全だけでなく、「安心」も考えたイノベーション製品の創出などにも取り組んでおります。

 

5【経営上の重要な契約等】

 該当事項はありません。

 

6【研究開発活動】

 当社グループにおける研究開発は、主として当社とAPEMグループで行っており、各連結子会社は当社及びAPEM SASで開発されたものを製造並びに販売することを主としております。したがって、当社グループにおける研究開発活動は、主として日本とEMEAで行っております。

 

 当社では、時代のニーズに対応した最適な製品・ソリューションを提供するために、"Pioneer the new norm for a safer and sustainable World.(いつも、ずっと、みんなに新しい安心を)"をVisionとして掲げ、機械の操作スイッチをはじめとする制御機器開発で培ってきたコア技術を活用してきました。また新たなコンセプトとして、HMI-X[Human-Machine Interface Transformation]を掲げております。これはHMIの考え方をさらに進化させた新コンセプトであり、人と機械、機械と機械などが、IoTの進展などにより相互にネットワークでつながることで、人と機械が共存する環境の実現となります。そして工場などの製造現場やくらしの身近な場面において、人と機械が向き合う接点をより安全に、そして快適にするといった安全・安心・ウェルビーイングの実現と追求を目指した、技術並びに製品の開発を推進しております。

 なお、当連結会計年度の研究開発費は2,796百万円であり、売上高の3.8%となっております。

 主な研究開発活動の成果を示すと次のとおりであります。

 主力製品であるHMI事業では、「φ22CWシリーズフラッシュシルエットタッチレススイッチ」にNPN照光制御/青PW(ピュアホワイト)照光タイプ/短距離検出タイプ(限定反射方式)のバリエーションを追加しました。照光制御方式NPNタイプ追加によりお客さまの回路構成に合わせた製品の選択を可能とし、青/PW照光色タイプは色覚の個人差を問わず、より多くの方が認識できる色を提供、公共アプリに最適な製品となります。また短距離検出タイプは約5~30mmの短距離で検出を可能としており、限られた範囲のみで使用したい場合に適した製品となっております。当スイッチは感染症予防対策・衛生対策の一つとしてスイッチに触れることなく操作を可能としており、不特定多数の人が操作するアプリケーション(例えばエレベーター等)や、衛生面の観点から接触操作を避けたいアプリケーション(例えば食品機械の操作等)に対応した製品となります。

 「非常停止用押ボタンスイッチ_XA、XWシリーズ」では、当社独自のセーフティポテンシャル構造により高い安全性を備えつつ、非常停止用押ボタンスイッチの有効/無効状態を色で識別する機能を持つ照光タイプを追加開発しました。これはISO13850に準拠、ロボット業界などで使用されるティーチングペンダントに搭載される非常停止スイッチに最適な仕様となっております。また、高い防水性や耐UV性能を備えることで需要が拡大している小形のAGV/AMRや屋外設置の急速充電器などにも用途拡大が見込まれます。さらにこれまでのXシリーズの奥行を36%削減しつつ、接点数を2接点から3接点に増加することで装置の小型化や軽量化にも貢献できる製品となっております。

 オートメーション&センシング事業では、7.0インチの中型ディスプレイを搭載したプログラマブル表示器とPLCが一体化した製品「FT2Jプログラマブル表示器一体型コントローラ」を開発しました。当製品は、PLCと表示器を別々に使用した場合と比較して1/3の省スペースを実現しており、加えてUSB・スピーカと接続して音で製造現場の作業者へ情報を伝達することや、USB・Wi-Fiドングルと接続し無線通信を用いた作業効率を高めるための自由度の高い機械配置など、人と機械の関係に最適なインターフェースを提供しております。デュアルCPU構成による高速な制御処理の実現、PIC制御機能、タッチパネルの水滴による誤動作防止と手袋操作対応、WEBサーバやEメール機能といった遠隔監視、優れた耐環境性(広い使用温度範囲、IP66F/67F対応の高い保護構造)を持つ製品であり、IO構成30点以下で実現されている「食品・包装機械」や「ファン・ポンプを用いた機械」といった市場に適した製品となります。

 安全・防爆事業では、「非常停止アシストシステム」(操作支援機能付非常停止用押ボタンスイッチ、無線スイッチ送信機、無線スイッチ受信機)を開発しました。AGV(無人搬送車)・AMR(自律走行搬送ロボット)などでは、搭載されている非常停止用押ボタンスイッチを搬送中に押すことが難しく、また搬送物によってスイッチが押しづらい場合があります。当製品は非常停止用押ボタンスイッチに新たな操作支援機能を追加(既存の非常停止用回路を変更することなく独立した装備としての追加)、遠隔機能により手で行う非常停止操作と同等のスイッチ動作、非常停止操作後の状態と同じ状態(電源断の状態)を実現しております。また複数の作業者が複数の装置を停止させることにも対応しており、最長約70mでのN:Nの通信を可能としております。重量や形状が大きいものや、不安定なものの自動運搬が見込まれる自動搬送ロボットメーカーや自動車メーカー及び建機や農機などの遠隔操作や自動運転の場面にも有効な製品となります。

 また防爆コントロールボックスの統合製品として、「EC2B形コントロールボックス(耐圧・安全増防爆構造)」のリニューアル製品を開発しました。当製品は日本国内防爆検定、及び海外防爆認証において、ガス蒸気防爆に加え粉塵防爆にも対応することで、新たに粉体機器メーカー及び粉体ハンドリングシステムを手掛ける製品メーカー、集塵機メーカー、石炭運搬装置メーカーなどの市場における、粉塵防爆対応機器の需要に応えます。さらに輸出案件を含む海外市場においては、競合他社で不足しているブザー及びポテンションメータをラインアップすることで、競争力アップを図りました。

 APEMグループでは、当連結会計年度において、製品品質向上に注力すると同時に、イギリス及び米国において新たな技術マネージャーを迎える等、新製品の開発を推進し、5件の新製品群の発売や15件の顧客とのプロジェクトを実施いたしました。重点的な研究開発の結果、3件の特許を登録し、また、当社と協業しソリューションやデザインの共有、コスト削減にも取り組みました。

 引き続き主要産業セグメントに沿った新製品の開発を追求し、部品の標準化や機能安全要件に関する新たな課題に取り組むと同時に持続的な利益改善を見据えたコスト削減を推進いたします。一方で当社との連携を強化し、開発プロセスの整理やCAD/PLM/ERPエコシステム等の戦略的な管理を行います。

 また、ez-Wheel SASの有する開発技術のグループへの統合も推し進めて参ります。