当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 会社の経営の基本方針
当社グループは、創業以来の経営基本方針である「3つの安心」の価値観を受け継ぎ、内外環境変化に適応するために発展的に再定義したグループ企業理念「Sysmex Way」及び「Shared Values」を定めております。
当社グループの進むべき方向性と大切にすべき価値観を表した「Sysmex Way」をグループ全体で実践し、社会からのより厚い信頼と更なる飛躍を目指します。
(2) 経営環境の認識
世界経済全体の今後の見通しにつきましては、インフレ率の低下による実質所得の回復を原動力として、勢いは欠けるものの、今後も安定的に成長すると見込んでおります。一方で、経済成長の基盤やリスクは国によってまちまちであり、国内においては個人消費の増加と企業の設備投資に支えられた堅実な成長、米国においては金融引き締めの緩和や良好な金融環境による積極的な投資と底堅い個人消費による経済成長が持続し堅調に推移するものの、成長率の減速が予想されております。また、欧州では成長の加速が期待されますが依然としてドイツを中心とした製造業の不振や地政学的緊張によるリスクが存在し、中国においては不動産市場の低迷の継続と米国向け輸出に対する関税の影響がリスクになると予想されております。加えて、中東やロシア・ウクライナ問題の地政学的リスクや米国を中心とした世界的な貿易摩擦による景気低迷のリスク等、依然として世界経済の見通しは不透明な状況が続いております。
医療を取り巻く環境は、医療の質・サービス向上へのニーズの高まり、人工知能(AI)・情報通信技術(ICT)等の最先端技術のヘルスケア領域への実装が急速に進展しております。加えて、新興国の経済成長に伴う医療需要の拡大等、今後も継続した成長が期待されております。また、新型コロナウイルス感染症のグローバルなパンデミックを起点とし、医療提供体制の在り方や医療環境自体が大きく変化する可能性もあり、医療機能の分散化、医療アクセスの向上、セルフメディケーション領域における新たな価値の創出等、更なる成長機会が見込まれております。
こうした中、当社グループでは、2023年4月より新たな中期経営計画(2024年3月期から2026年3月期まで)をスタートさせました。同期間中における重点アクションの推進により、持続的な成長の実現とそれを支える経営基盤の強化を図ってまいります。
2026年3月期の連結業績予想につきましては、製品ラインアップの拡充や販売・サービス体制の強化等により、売上・利益共に伸張することを想定しており、売上高535,000百万円、営業利益91,500百万円、税引前利益85,500百万円、親会社の所有者に帰属する当期利益57,000百万円を予想しております。
(注)算定にあたりましては、通期の為替レートを対米ドル142円、対ユーロ160円で想定しております。
なお、上記予想は、現時点で入手している情報に基づき算定したものであり、様々な要因により変動する可能性があります。
(3) 目標とする経営指標
グループ中期経営計画におきまして、2026年3月期を最終年度として、連結売上高560,000百万円、連結営業利益112,000百万円を達成することを目指します。
(4) 新たな長期経営戦略
今後、医療を取り巻く環境は大きく変化することが予測されております。医療資源を有効に活用するために、医療のデジタル化に加え、医療機能の分散化、予防や個人でのセルフメディケーションが更に重要になると見込まれております。また、医療の高度化による、再生細胞医療や遺伝子治療等、新たな治療法の実用化や医療現場におけるロボット技術の活用が期待されております。
このような中、当社グループでは、グループ企業理念「Sysmex Way」のもと、2033年度を最終年度とする新たな長期経営戦略 2033(VA33)を策定いたしました。
<長期ビジョン>
「より良いヘルスケアジャーニーを、ともに。」
当社グループは、健康で長生きしたいという人々の普遍的な願いに寄り添い、一人ひとりの身体状態を正確に捉え、個々に最適な医療・サービスが提供されることにより、生涯にわたり健康な状態が維持できる社会の実現を目指します。
「ヘルスケアジャーニー」は当社グループが新たに提唱する概念であります。人が一生の中(ライフステージ)で、自身のヘルスケアについて経験する各種イベントと、医療機関等を含む対応のプロセスを「旅路」として捉えるものであります。「より良いヘルスケアジャーニーの実現」は世界の人々のQOL向上という重要な社会的課題の一つであります。当社グループは、一人ひとりのヘルスケアジャーニーがより良いものになるよう、様々な協創を通じて新たな価値を提供し、社会にとって不可欠な存在として成長していくことを目指します。
当社が、創業以来取り組んでいるダイアグノスティクス事業はヘルスケアジャーニーの中で重要な役割を担うものであります。高い成長と収益性を実現すると共に、更に強化することによる「イノベーションの創出」や新たな価値提供を目指す「新興国市場へのフォーカス」、一人ひとりの最適な治療に不可欠な「個別化診断」、健常・未病・予防のための「個別化予防」、慢性疾患等を持ちながらも日常生活を続けるための「予後モニタリング」に取り組んでまいります。
またダイアグノスティクス事業とは異なる領域である手術支援ロボットや再生細胞医療の治療領域への挑戦等、価値創出できる領域を選択・追加し、当社の成長につなげてまいります。
(5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループでは、2023年4月より新たな中期経営計画(2024年3月期から2026年3月期まで)をスタートさせております。2033年に向けた長期ビジョンの実現を目指し、今後3年間で取り組むべき重点アクションを設定し、具体的施策の実行を継続して推進いたします。今後の成長が期待される免疫検査分野への注力、グループ最大の収益源であるヘマトロジー分野における競争力の再強化に取り組みます。また、新興市場においては、市場ニーズに適応した新製品・サービスの開発により、成長機会を確実に獲得いたします。更に、非連続な成長を実現するため、メディカルロボット事業、再生細胞医療事業等を新たに加え、事業領域の拡大に向けた取り組みを推進いたします。
また、新たな価値創造及び企業体質強化に向けたビジネスプロセス改革をグローバルに推進するため、次世代基幹システムやデジタル基盤刷新への取り組みを継続いたします。グループ全体の生産性を向上すると共に、お客様に対する新たなソリューションの創出に向けたデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を目指します。
加えて、地球環境の持続可能性が喫緊の課題となっている中、グローバルに事業を展開する企業として、事業活動における環境への負荷低減が重要な課題の一つだと認識しております。長期的な環境マネジメントの指針として「シスメックス・エコビジョン2033」を策定しており、製品ライフサイクルにおけるCO2排出量や水消費量の削減、環境に配慮したグリーン調達等を継続して推進いたします。このように製品・サービスの提供を通じた医療課題解決に取り組むと共に、環境への配慮や魅力ある職場の実現等、優先的に取り組むべき課題(マテリアリティ)をグループ全体で推進し、多様なステークホルダーの皆様へ安心をお届けすると共に、サステナビリティ経営の実現を目指します。
なお、中期経営計画2年目の2024年度には、目標完遂に向けて経営計画のレビューを行い、実行計画の更なる具体化と、新たな機会獲得に向けた施策として、「DXによる企業・社会変革の推進」を追加いたしました。
経営戦略の実行における重要な課題は以下のとおりであります。
<長期ビジョンの実現に向けた取り組み>
① 既存事業領域のイノベーションによる競争力の強化と市場の拡大
免疫検査分野において、全自動免疫測定装置 HISCL™-5000/HISCL™-800シリーズの試薬項目の拡充、アルツハイマー型認知症の診断支援を目的としたビジネスの早期事業化を推進いたします。ヘマトロジー分野では、「多項目自動血球分析装置 XR™シリーズ」のグローバル展開を加速させることで、成長性・収益性の向上を目指します。また、人口増加及び経済成長、医療品質の向上が大きく期待される新興国において、市場ニーズに適した製品の導入を進め、医療アクセスの向上や医療インフラ強化に貢献いたします。特に、インドを重要市場と位置付け、事業企画・製品開発・市場導入を加速させ、新興国における市場シェアの拡大に取り組みます。
また、血液凝固検査分野においては、シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティックス社とのグローバルOEM契約締結により、機器・試薬を相互に供給する協業体制のもと、顧客価値の更なる向上を目指します。
② 個別化医療領域における、遺伝子検査を中心とした事業化の加速
今後、大きな成長が期待される個別化医療領域において、当社が強みを持つリキッドバイオプシー技術(遺伝子、細胞、タンパク)を活用した新規項目開発に取り組みます。すでに当社が有する研究用製品・技術を活用し、個別化医療領域を牽引する技術の商品化及び市場導入への移行を目指します。加えて、既存の検査技術の組み合わせやデータサイエンスの活用により、造血器腫瘍、癌、遺伝性疾患、加齢関連疾患等を対象とした新たな診断ソリューションの創出に取り組みます。
③ 予防・セルフメディケーション領域における新たなビジネスモデルの創出
社会的ニーズが更に高まる予防・セルフメディケーション領域において、より個人を主体とする医療への移行、医療の分散化を背景に、在宅検査・高齢者向け低侵襲検査を可能とする製品・サービスの開発を推進いたします。個人の時系列データ、集団の統計学的データの両面からの初期医療支援、ヘマトロジー等の既存アセットを活かした集団感染の予防やマラリア等の感染症向け検査の充実に取り組み、ユニバーサルヘルスカバレッジを実現してまいります。
④ 治療領域における、メディカルロボット事業を中心とした事業成長の加速
手術支援ロボット「hinotori™」による外科領域のビジネスを日本で着実に拡大させると共に、グローバル展開に向け、海外薬事承認取得に向けた活動を推進いたします。また、当社が検体検査領域で培った技術やノウハウを活かすことで、再生細胞医療や遺伝子治療等、診断と治療の境界に位置する領域での新たな事業の創出や、革新的なデジタル技術の社会及び医療への実装を見据えたオープンイノベーションを推進し、医療データを利活用した新たな事業の創出にも取り組みます。
⑤ 資源循環型バリューチェーン実現と社会課題解決に向けた変革
2040年のカーボンニュートラルの達成に向け、包装材、消耗品をターゲットに環境配慮材料へと切り替え、脱プラスチックを推進いたします。また、全てのバリューチェーンで4R※によるグリーンイノベーションを創発し、顧客、アライアンスパートナー、他社、サプライヤー等とのオープンイノベーションと共に、資源の無駄を出さない循環型バリューチェーンの変革を行います。また、医療課題の解決、品質の向上、環境配慮への対応強化、ガバナンスの強化等、当社の持続的成長に向けた優先的に取り組むべき課題(マテリアリティ)やサステナビリティ目標に基づき、事業活動を通じた社会課題解決への貢献を通じて、サステナビリティ経営を推進してまいります。
⑥ 人的資本及び経営基盤強化を通じた企業価値の向上
持続的な成長を支える次世代リーダーと高度専門人材の獲得及び育成を通じ、経営戦略に合わせた人的資本ポートフォリオの拡充を図ります。また、スマートワークの推進や公正で魅力的な企業カルチャーの醸成によるエンゲージメントの向上に取り組みます。引き続き、内部統制の仕組み強化とリスクマネジメント機能の最適化によるグループ管理の高度化に取り組みます。また、経営基盤強化の一環として、ROIC及び主要関連指標の分析、モニタリングを行い、改善施策を立案・実行する等、資本コストを意識した取り組みを強化してまいります。
⑦ DXによる企業・社会変革の推進
これまで進めてまいりましたDXによる企業業務プロセスの改善と生産性の向上に加え、革新的なソリューションを通じて社会全体の変革を進めるため、AIを活用した医療DXを推進します。医療分野における高い専門性を持った当社独自のAIの開発を進め、疾患マネジメント、検査室支援、検査受診等の行動変容支援を通じて、診断の精度向上や治療の最適化を実現し、医療従事者の負担軽減と人々の生活の質向上に貢献します。
※ 4R:Reduce、Reuse、Recycle、Replace
当社グループは創業以来、お客様、取引先、従業員への「三つの安心」を提供することを大切にしてきました。その姿勢は現在においても変わることなく、現在のグループ企業理念「Sysmex Way」及び「Shared Values」においても、株主様と社会を加えたステークホルダー全般を意識した経営、事業活動を通じて「安心」の提供に努めております。2023年に長期ビジョン「より良いヘルスケアジャーニーを、ともに。」を掲げ、その実現に向けてスタートさせた新しい長期経営戦略ではサステナビリティを重視した経営を推進しております。
なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
<サステナビリティ経営について>
① ガバナンス
当社グループのサステナビリティ経営においては、優先する重要課題(マテリアリティ)や目標設定・KPIの議論を経営会議にて行ったうえで、取締役会において最終決定を行っております。また、サステナビリティ目標は各事業部門に展開され定期的にその進捗を取締役会にてモニタリングしております。
各部門に展開されたサステナビリティ目標に関連するリスク及び機会を管理するガバナンス機関として内部統制委員会を設置し、事業部門から独立した社長直轄の組織である内部統制室が事務局を務めております。内部統制委員会の委員長は取締役社長が務め、メンバーは取締役会長、担当執行役員及び常勤監査等委員、オブザーバーは社外取締役が務めております。内部統制委員会にて、リスク領域毎の対応計画を審議・決定し、コンプライアンス委員会等、関連委員会、部門・関係会社で計画を推進し、取り組み状況を半期毎にモニタリングし、取締役会に報告しております。
リスクマネジメント体制及び関連する委員会は「
② 戦略
当社グループはマテリアリティを長期経営戦略の5つの基本戦略(事業・技術・エコソーシャル※・人的資本・コーポレートマネジメント)及びそのモニタリング指標決定の基点としました。更に、基本戦略と中期経営計画、サステナビリティ目標を連動させることで、シスメックスが目指す価値創造の姿を構築しました。
マテリアリティの詳細は以下をご参照ください。
シスメックスレポート2024 P31-34
(
リスクと機会については、「
※ エコソーシャル:企業活動と社会課題解決との結合性を強化する取り組み
③ リスク管理
当社グループは社会課題に対してステークホルダーから見た重要度及び当社の業績に対する重要度の2つの観点での分析を行っております。当該分析では社会課題毎におけるリスクと機会をそれぞれ影響度と発生頻度の観点で定量的に評価を行い、社会と当社の双方にとって重要度が高いと考えられる社会課題を特定して当社のマテリアリティとしております。本過程において特定したマテリアリティに基づいて、中期経営計画におけるサステナビリティ目標・KPIを設定して具体的な計画への展開を行い、半期に一度進捗をモニタリングして取締役会へ報告しております。また①ガバナンスに記載の体制に記載のとおり、リスクと機会に基づいたマテリアリティの特定を経営会議、各部門に展開されたサステナビリティ目標に関連するリスクと機会の管理を内部統制委員会が実施しております。
④ 指標と目標
当社グループのマテリアリティに関連する「サステナビリティ目標」を設定し、取り組みのモニタリングを行っております。特に重要と考えられる指標と目標について以下に示します。
サステナビリティ目標の進捗状況
|
マテリアリティ |
KPI※1 |
目標 |
実績 |
|||||
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2024年度 |
2025年度 |
2033年度 (エコビジョン) |
2023年度 |
2024年度 |
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健康社会への新たな価値創出 |
イノベーションを通じた医療課題解決 |
ヘマトロジー検査件数 |
CBCテスト数(試薬数ベース) |
- |
- |
- |
3,325百万件 |
3,322百万件 |
|
手術支援ロボットに よる症例数 |
手術支援ロボットシステム(株式会社メディカロイド製)を用いた症例数 |
- |
- |
- |
2,903件 |
5,209件 |
||
|
医療アクセスの向上 |
新興国・開発途上国 売上高 |
新興国・開発途上国の連結売上高 |
- |
- |
- |
1,646億円 |
1,795億円 |
|
|
責任ある製品・サービス・ソリューションの提供 |
品質と信頼の追求 |
リコール件数 |
販売している製品(機器・試薬)を対象として、自主回収・自主改修を実施した件数 |
- |
- |
- |
4件*2 |
7件 |
|
サプライチェーンマネジメントの強化 |
CSR調査回答率 (国内・海外一次サプライヤー) |
原材料一次サプライヤー(国内・海外)に対して、CSR調査に回答したサプライヤーの割合(海外関係会社の直サプライヤーは含まない) |
90% |
90% |
- |
95% |
95% |
|
|
環境への負荷低減 |
製品ライフサイクルにおける資源循環 |
プロダクトロスの ゼロ化 |
自社製造品、原材料、スペアパーツの未使用廃棄率(自社製品の未使用廃棄物の原価/売上高) |
0.20% |
0.18% |
0.1% 未満 |
0.40% |
0.40% |
|
リサイクル・環境配慮材料への完全代替 |
容器と包装材のリサイクル・環境配慮材料の利用率 |
50% |
60% |
100% |
43% |
62% |
||
|
GHG排出量削減率 (スコープ3) |
2022年度を基準年度とするGHG排出量(スコープ3)の削減率 |
5%削減 |
10%削減 |
35%削減 |
4%削減 |
1%削減 |
||
|
事業活動における環境負荷低減 |
GHG排出量削減率 (スコープ1、2) |
2022年度を基準年度とするGHG排出量(スコープ1、2)の削減率 |
35%削減 |
40%削減 |
55%削減 |
29%削減 *3 |
33%削減 |
|
|
ガバナンスの強化 |
コンプライアンス |
内部通報件数 |
内部通報受付件数 |
- |
- |
- |
26件 |
17件 |
|
魅力ある職場の実現 |
エンゲージメントの向上 |
エンゲージメント スコア |
企業風土調査結果におけるエンゲージメント項目の好意的回答率 |
75% |
75% |
- |
75% |
76% |
|
ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンの推進 |
女性マネジメント比率 |
課長級以上の女性比率 |
19%以上 |
20%以上 |
- |
19.2% |
18.7% |
|
|
人材の育成 |
付加価値生産性 |
付加価値生産性/人 |
2,100万円 |
2,250万円 |
- |
1,997万円 |
2,144万円 |
|
※1 目標を「-」で表示している項目は、目標を設定しないモニタリング項目であります。
※2 計算方法の見直しにより、昨年度開示数値から変更いたしました。
※3 昨年度開示数値は速報値であり、最終値に変更いたしました。
※4
<人的資本>
当社グループは、長期経営戦略の基本戦略のひとつに掲げた「人的資本」において、持続的成長を可能にする人的資本ポートフォリオの最適化、高いエンゲージメントの実現、最高のチームワーク発揮による組織力最大化に取り組むため、中期経営計画における目標、指標を設定いたしました。
① ガバナンス
人的資本については、人事本部担当執行役員を議長とした人事委員会を定期的に開催し、持続的な成長と競争力を維持するための人材マネジメントプロセスを実行し、人的資本の最大化を図っております。あわせて、各部門の担当執行役員及び担当執行役員により任命された部門教育推進者と人事部門で構成される人活会議にて、人材情報や育成状況を可視化しモニタリングを実施しております。また、中央安全衛生委員会では、健康増進と労働安全推進など、働きやすい職場環境を整備するための活動を推進しております。これらの活動状況や重要事項については、必要に応じて、内部統制委員会や執行役員会議等の経営会議にて討議・決定を行っております。
② 戦略
人材獲得競争の激化や人材流出のリスク、魅力ある職場の実現による経営基盤強化を機会として捉えております。長期経営戦略においては、人的資本戦略を設定し、3つの人的資本の目指す姿に向けた取り組みを推進しております。
1つ目の「人材ポートフォリオの最適化」とは、戦略を推進し、企業の持続的な価値向上に寄与する人材が適切に配置されていることです。この実現に向けて、経営戦略が目指す事業領域や機能、スキル・専門性、多様性等多面的な視点で組織づくりに取り組みます。2つ目の「高いエンゲージメント」とは、従業員一人ひとりが心身共に充実し、個々の働きがいが実現されていることです。そのため、個々のウェルビーイングを向上させる職場環境の構築や、従業員の成長機会を提供していきます。更に、公平かつ公正な機会の提供や、DE&Iの取り組みを推進する他、時間、場所、雇用形態に関わらず多様な人材が活躍できる仕組みを構築します。3つ目が「最高のチームワークの発揮」です。チームワークを最大限発揮するためには、自主性を尊重し、チャレンジを促進する 企業風土と豊富なリーダー層の確保・育成が重要です。グローバルキーポジションの後継者の可視化や育成機会を充実することで、既存事業と新規事業をけん引するリーダーを持続的に確保・育成していきます。組織風土についても、企業風土調査結果を従業員に公開し、対話を通じて向上に取り組みます。
③ リスク管理
グループ全体のリスクマネジメント体制の中で、人的資本を含むリスクと機会全般におけるアセスメントを毎年実施し、影響度と発生可能性等の観点からリスクの重要度を分析・評価しております。
また、人事委員会と事務局を務める人事本部、また中央安全衛生委員会では、企業風土調査やココロの健康診断等の従業員からの声、ISO30414※の審査時に受けた第三者からの評価内容等、多面的に課題を抽出し、人的資本に関するリスクと機会に対して必要な取り組みを行っております。
※ ISO30414:国際標準化機構(International Organization for Standardization)のマネジメントシステム規格の一つで、人的資本情報について、定量化し、分析し、開示するための国際的な指標として設けられたガイドライン。生産性やダイバーシティ等、人的資本に関する11の項目と58の指標で構成されている。
④ 指標と目標
人的資本戦略では、実効性ある人的資本の活用及び成果のモニタリングのため、サステナビリティ目標の各指標に加え、モニタリング項目を設定して、適時適切な対応を実施いたします。また、2023年10月には、人的資本に関する情報開示の国際的なガイドラインであるISO30414の認証を取得いたしました。今後もこれらの開示情報を通じて人的資本経営の質を高め、社内外のステークホルダーとの対話を充実させてまいります。
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指標 |
2023年度(実績) |
2024年度(実績) |
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インプット 人的資本の投下に関する項目 |
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11,595人 |
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24.4時間 |
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1,278億円 |
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スループット 従業員エクスペリエンス・企業カルチャーに関する項目 |
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75% |
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70% |
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|
57% |
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19.2% |
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アウトプット 人的資本の活用の成果に関する項目 |
|
1,997万円 |
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※項目は当社を対象としております。
(注)1.要員計画・人員数は期末時点の人員数であります。また、派遣労働者等を含んだ人員数であります。
2.目標を「-」で表示している項目は、目標を設定しないモニタリング項目であります。
<気候変動>
当社グループは、長期経営戦略の基本戦略のひとつに掲げた「エコソーシャル」において、企業活動を通じた社会課題解決への変革を推進するため、中期経営計画における目標、指標を設定しております。
① ガバナンス
環境マネジメントオフィサー(取締役 常務執行役員 小野 隆)の統括・管理のもと、環境管理委員会を定期的に開催し、環境課題に対する施策を推進しております。また、計画に対する活動状況や重要事項については、取締役会監督のもと、執行役員会議等の経営会議にて討議・決定を行っております。
② 戦略
数年に一度の頻度で、1.5℃シナリオ※1を取り込んでシナリオを更新し、それに伴うリスクと機会の再評価を実施しております。グループの全事業※2を対象に特定したリスクと機会が及ぼす財務影響について、2033年度の営業利益に与える影響を基準として3段階で評価いたしました。1.5℃シナリオでは市場リスクや評判リスク、4℃シナリオ※3では自然災害等の物理的リスクの影響が相対的に大きく、機会の観点では、資源の効率、製品及びサービス、レジリエンスにおける影響が相対的に大きいと分析しております。※4
※1 IEA NZE2050、IPCC RCP2.6等。気候変動に対する厳しい対策を取ることにより、産業革命前からの世界の平均気温上昇が1.5℃未満に抑えられるシナリオ。
※2 自社のみならず、原材料調達や出荷物流等の上流や製品の使用等下流を含めたサプライチェーン全体を分析対象としている。
※3 IPCC RCP8.5等。現状を上回る温暖化対策をとらないことにより、産業革命前からの世界の平均気温上昇が4℃未満となるシナリオ。
※4 2024年度に実施したリスクと機会のシナリオ分析については2025年8月頃公表予定の「
③ リスク管理
全社的なリスクマネジメント体制として、取締役会、及び取締役社長の下に内部統制委員会が組織され、その下部組織の一つとして環境管理委員会が位置付けられております。 環境管理委員会は、年2回の頻度で気候変動を含む環境関連のリスクと機会の見直しを行い、関連する各部門に必要な取り組みを割り当てます。同委員会が取り組みの進捗をモニタリングいたします。
環境管理委員会は、中長期の視点においても、数年に一度の頻度で、事業への影響が大きな環境関連リスクを特定し対策を講じ、その結果を代表取締役が議長を務める経営会議に報告するとともに、内部統制委員会が主導する全社のリスクアセスメントにインプットいたします。
④ 指標と目標
2040年までにグループの事業所から排出される温室効果ガス排出量(以下GHG排出量)を実質ゼロにする「カーボンニュートラル宣言」を行いました。2023年5月に新たに策定した長期環境目標「シスメックス・エコビジョン2033」では、GHG排出量削減率と再生可能エネルギー比率の目標を設定し、研究開発から生産・物流・廃棄まで製品ライフサイクルのあらゆる段階で、様々な取り組みを継続して推進していきます。
|
マテリアリティ |
KPI※1 |
目標 |
実績 |
|||||
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2024年度 |
2025年度 |
2033年度 (エコビジョン) |
2023年度 |
2024年度 |
||||
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環境への負荷低減 |
製品ライフサイクルにおける資源循環 |
プロダクトロスの ゼロ化 |
自社製造品、原材料、スペアパーツの未使用廃棄率(自社製品の未使用廃棄物の原価/売上高) |
0.20% |
0.18% |
0.1%未満 |
0.40% |
0.40% |
|
リサイクル・環境配慮材料への完全代替 |
容器と包装材のリサイクル・環境配慮材料の利用率 |
50% |
60% |
100% |
43% |
62% |
||
|
GHG排出量削減率 (スコープ3) |
2022年度を基準年度とするGHG排出量(スコープ3)の削減率 |
5%削減 |
10%削減 |
35%削減 |
4%削減 |
1%削減*3 |
||
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包装用資材削減率 |
2019年度を基準年度とする包装材料総重量の削減率 |
- |
- |
- |
9%削減 |
4%削減 |
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|
サプライヤーエンゲージメント比率 |
カテゴリー1, 2, 4, 9におけるSBTi認定取得又はSBTi認定に準ずるGHG排出削減にコミットするサプライヤー割合 |
- |
- |
- |
40% |
40% |
||
|
事業活動における環境負荷低減 |
GHG排出量削減率 (スコープ1、2) |
2022年度を基準年度とするGHG排出量(スコープ1、2)の削減率 |
35%削減 |
40%削減 |
55%削減 |
29%削減*2 |
33%削減*3 |
|
|
再生可能エネルギー 比率 |
全電気使用量に対する再生可能エネルギー使用量の比率 |
70% |
75% |
90%以上 |
69%*2 |
72%*3 |
||
|
一人当たりエネルギー使用量削減率 |
2022年度を基準年度とする一人当たりのエネルギー使用量の削減率 |
2%削減 |
3%削減 |
- |
8%削減*2 |
8%削減*3 |
||
|
水消費量削減率 (主要試薬工場) |
2022年度を基準年度とする試薬生産量当たりの水使用量の削減率 |
14pt削減 |
23pt削減 |
90pt削減 |
2pt増加 |
31pt削減 *3 |
||
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総廃棄物量削減率 |
2022年度を基準年度とする連結売上高当たりの事業活動に伴う総廃棄物量の削減率 |
3%削減 |
5%削減 |
15%削減 |
32%削減*2 |
33%削減 *3 |
||
|
製商品廃棄額対 売上高比率 |
有効期限切れ等の理由により廃棄となった製商品の廃棄額の対連結売上高比率 |
- |
- |
- |
0.4% |
0.5% |
||
※1 目標を「-」で表示している項目は、目標を設定しないモニタリング項目であります。
※2 昨年度の有価証券報告書での開示数値は速報値であり、最終値に変更いたしました。
※3
当社グループは、主たる事業である検体検査分野を中心に、個別化医療や個別化予防、さらにはメディカルロボット事業や再生細胞医療等の取り組みを推進し、医療機関に不可欠な製品・サービスを安定的に提供しております。世界190以上の国や地域に製品・サービスを供給しており、当社グループの業績は、国内外で今後発生し得る様々な要因によって影響を受ける可能性があります。
当社グループでは、グループ内外における様々なリスクを組織的・体系的に管理する取り組みを推進しております。事業の継続と発展のため、適切にリスクを取り企業成長を促進すると共に、経営及びその持続性に影響を与える可能性について、それぞれの重要度に応じて予防及び発生時の対策を講じております。また、それらの対応状況を共有することにより、投資家をはじめとするステークホルダーの皆様に安心いただけるよう取り組んでおります。
<リスク管理の体制及びプロセスについて>
グループ全体のリスクマネジメントを推進する体制として内部統制委員会を設置し、事業部門から独立した社長直轄の組織である内部統制室が事務局を務めております。内部統制委員会は、当社グループの内部統制・リスクマネジメント全般を統括しております。内部統制委員会の委員長は取締役社長が務め、メンバーは取締役会長、担当執行役員及び常勤監査等委員、オブザーバーは社外取締役が務めております。
また、下図のとおり、主要なリスク領域については、コンプライアンス委員会等、関連委員会を設置しております。各委員会はグループ横断的に活動を推進すると共に、部門・関係会社での取り組み状況を定期的にモニタリングし、内部統制委員会へ報告しております。
※ 新たにQARA委員会を設置し、グローバルでの品質保証・法規制対応の更なる強化に取り組んでまいります。
昨年度記載しておりました品質システム委員会は、QARA委員会の下部組織と位置付け、活動を継続してまいります。
上述のリスクマネジメント体制において、当社グループは社内外の環境変化を考慮したうえ、毎年リスクアセスメントを実施しております。リスクの抽出に漏れが生じないよう、主要なリスク領域を担当する委員会や部門、及び関係会社にてリスクを特定し、影響度と発生可能性等の観点からリスクの重要度を分析・評価しております。その後、業務全般にわたるリスクを管轄する内部統制委員会や、戦略の意思決定に係るリスクを管轄するグローバル戦略会議・執行役員会議等において、グループ全体を俯瞰する観点から重点的に管理すべきリスクや具体的な対応計画等について審議・決定し、定期的に進捗をモニタリングしております。以上のプロセスにおける審議及び報告内容はタイムリーに取締役会に報告され、必要に応じて審議されております。
<リスク及びその対応について>
有価証券報告書に記載した事業及び経理の状況等に関する事項のうち、投資家の判断に重大な影響を及ぼす可能性のある事項は14項目あり、それらを以下のとおりマクロ環境に由来するリスクとミクロ環境に由来するリスクに分類しております。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであると共に全てのリスクを網羅したものではなく、記載以外のリスクにより将来的に予期せぬ影響を受ける可能性があります。
① 地政学に関わるリスクについて
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脅威・機会 |
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<脅威>地政学的な緊張の高まりによる事業への影響 当社グループは、生産、販売・サービス、研究開発等の活動をグローバルに展開しており、世界中に拠点を有しております。国家間の対立や貿易摩擦等、地政学的な緊張の高まりにより、当社グループの活動拠点を有する国や周辺地域において、輸出入規制の厳格化や、更なる自国産業保護の動き等が生じ、販売・調達等の事業活動が制限される可能性があります。 また、国家間紛争に発展した場合は、上述のような事業活動の制限のみならず、従業員等の安全に影響を及ぼす可能性があります。
<機会>製品・サービスの供給継続による信頼性向上 診断薬の現地生産化をグローバルに推進し、安定供給体制を強化することにより、お客様からの信頼性や競争力が向上する可能性があります。更に、活動拠点を各地に有することにより、現地のニーズを的確に把握すると共に、きめ細やかに対応した製品・サービスを提供できる可能性があります。 |
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対応 |
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当社グループではグローバルなネットワークを活用し、各国・地域の情勢を継続的にモニタリングしております。また、地政学的な懸念が高まる中、早期に情報を取得できるよう、モニタリング体制を強化しております。自国産業保護の動きが見られる国においては、現地での生産や部品・原材料の調達等が必要となる場合があるため、最新情報の把握に努めると共に、主に診断薬において現地への生産移管に向けた取り組みを行っております。インドにおいては、Make in India 政策などに対応し、グループ初の診断薬・機器双方の生産機能を備える新たな生産拠点の建設を完了しました。また、インド国内での原材料調達も順次拡大し、グループの供給力強化に取り組んでまいります。 更に、国家間紛争等の有事の際においても、人命保護を最優先に、安全保障に関する輸出入規制等を遵守しながら、人道支援・医療に貢献する当社製品の供給が中断することがないよう対策を推進しております。 今後も刻々と変化する世界情勢に対して、当社グループの事業への影響を考慮し、適切に対応してま いります。 |
② 経済動向に関わるリスクについて
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脅威・機会 |
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<脅威>経済情勢悪化による販売機会低下 当社グループは比較的需要が安定しているヘルスケアを主たる事業としておりますが、世界的な経済情勢の悪化に起因し、各国政府の医療財政ひっ迫や医療機関における予算縮小等が発生した場合、設備投資意欲が低下し、経営成績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。 また、急速なインフレ進行やエネルギー価格の高騰、関税を含む輸出入規制等、経済環境の著しい変化により、原材料や各国の輸出入等に係るコストが大幅に増加し、業績へ影響を及ぼす可能性があります。
<機会>経済好況に伴う医療インフラへの投資増加 世界経済が好調に推移した際は、医療インフラへの投資増加等に伴い、当社グループの製品についても販売機会が拡大する可能性があります。 特に、人口増加及び経済成長が期待される新興国においては、医療水準向上のニーズが増加し、更なる市場の拡大が期待できます。 |
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対応 |
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当社グループは、不確実性が高まる中、各国・地域の市場環境の変化に関する情報を適宜グローバルに収集し、対応してまいります。また、ロボティクスやAI等を活用した医療機関の収益向上に資するソリューションの提供により、検査の標準化・効率化に取り組んでおります。更に、経済成長及び人口増加に伴い、医療インフラへの投資が大きく期待される新興国において、多種多様な市場ニーズに適した製品の開発・市場導入を進め、医療アクセスや医療の質を向上させることにより、ユニバーサルヘルスカバレッジにも貢献しております。特に、高い潜在成長力を有するインドを重要市場の一つと位置付け、市場シェアの拡大に向けて製品の開発・市場導入を加速させております。今後も、グループ全体で更なる付加価値の創出を進めてまいります。 |
③ 為替の変動に関わるリスクについて
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脅威・機会 |
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<脅威>円高による海外売上・資産の減少等、連結業績へのマイナス影響
<機会>円安による海外売上・資産の増加等、連結業績へのプラス影響
当社グループは海外関係会社及び代理店を経由して各国・地域へ販売を行っており、連結売上高に占める海外売上高の比率は、2024年3月期86.5%、2025年3月期86.7%と高い水準で推移しております。海外関係会社の現地通貨建て財務諸表の各項目は、円換算時に為替レートの変動による影響を受けるため、当社グループの経営成績及び財務状況に影響を及ぼします。為替が円高に推移した場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。一方、円安時には海外関係会社における販管費等が円換算ベースで増加しますが、それを上回る売上増加により連結業績では好影響を受ける可能性があります。 なお、2025年3月期の売上高、営業利益における為替の1円変動の影響は、以下のとおりです。
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対応 |
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外貨建営業債権、関係会社貸付金及び借入金等を含む、外貨建の債権債務について、主に為替予約を 行うことによりリスクをヘッジしております。 また、診断薬を中心に生産拠点をグローバルに分散することにより、為替による影響を軽減させる措置を講じております。 |
④ コンプライアンスに関わるリスクについて
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脅威・機会 |
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<脅威>コンプライアンス違反による社会的信用の失墜 当社グループはグローバルに事業を展開しており、関連する法令・規制は多岐にわたります。法令違反や不正等が発生した場合、社会的信用を失墜させると共に、訴訟や賠償が発生する可能性があります。また、予期しない法規制の大幅な変更や適用への対応に不備や遅れが発生した場合、事業活動に影響を及ぼす可能性があります。 法規制にとどまらず、社会規範の逸脱、倫理に反する行為等が発生した場合にも、社内外のステークホルダーの安心や信頼性に影響を及ぼす可能性があります。
<機会>コンプライアンス遵守によるステークホルダーからの信頼性向上 当社グループは、コンプライアンスの遵守を、持続的な企業経営の重要な要素と捉えております。グループ全体でのコンプライアンス遵守に向けた取り組みにより、社内外のステークホルダーからの更なる信頼性の向上が期待できます。また、それらの取り組みによる健全な企業文化の醸成により、エンゲージメントが高まり生産性の向上につながることが期待できます。 |
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対応 |
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当社グループでは、企業理念「Sysmex Way」および「Shared Values」に基づき、コンプライアンスを「法令遵守と共に高い倫理観に基づいた正々堂々とした事業活動を行うこと」と定義しております。コンプライアンス違反は社会的信用を失墜させる最も重要なリスクの一つと捉え、グループ全体のリスク管理体制の下で、コンプライアンスの統括組織としてコンプライアンス委員会を設置し、コンプライアンスの推進・強化に取り組んでおります。 また、グループの役職員が遵守すべき特に重要なルールや行動のガイドラインとしてグローバルコンプライアンスコードを制定しております。 更に、全役職員が贈収賄や人権侵害などを含むコンプライアンス上の問題に関して相談・通報できるグローバル体制を構築しているほか、役職員への教育・啓発活動をコンプライアンス推進・徹底のベースと位置付け、グループ全体で継続的に教育を実施しております。 当社は、2024年6月から独占禁止法違反の疑いで公正取引委員会による調査を受けておりましたが、独占禁止法が規定する確約手続により、当社が提出した確約計画について公正取引委員会の認定を受け、本調査が終了しました。 なお、公正取引委員会による今回の確約計画の認定は、当社が独占禁止法の規定に違反することを認定したものではありません。確約計画を確実に実行すると共に、独占禁止法の遵守をはじめとするコンプライアンスの徹底を一層強化してまいります。 |
⑤ 人権に関わるリスクについて
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脅威・機会 |
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<脅威>人権対応の不備による社会的信用の低下 企業活動において人権を尊重することは非常に重要な要素の一つであり、各国においても様々な施策が講じられております。当社グループの人権尊重に対する取り組みの不備や遅れにより、人種・性別等による差別や強制労働・児童労働等の人権侵害が発生した場合、取引先や投資家をはじめとするステークホルダーからの信用を低下させる可能性があります。
<機会>適切な人権対応による信頼性向上 多様な人材が働きやすい環境を整備し受容するDE&I※1の推進やサプライチェーンにおける差別の排除等、公正かつ持続可能な企業経営を推進し、人権に対して適切に対応することにより、ステークホルダーからの信頼性の向上、ひいては競争優位性の創出につながる可能性があります。
※1 ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン |
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対応 |
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当社グループでは、人権尊重と差別撤廃をグローバルコンプライアンスコードに掲げ、全てのステークホルダーの人権を尊重した企業経営や職場環境づくりに取り組んでおります。また、人権方針においては、人権デュー・デリジェンスの実施を規定し、自社内にとどまらず、サプライチェーンに関わる外部パートナーを含め、人権への負の影響を防止・緩和する取り組みを進めております。強制労働・児童労働の禁止、ジェンダー・障がい者・人種・思想等に対する差別の排除等、事業活動が人権侵害に関与・加担することのないよう、予防的に対処する仕組みを整備しております。 また、国内外に設けた内部通報窓口において、社内外のステークホルダーからの差別・ハラスメントをはじめとする人権相談・通報を受け付けております。通報窓口に寄せられた情報は適切に取り扱い、相談・通報者が不利益を受けないよう保護すると共に、必要な是正・救済措置を講じる体制を整備しております。 更にハラスメントの防止や、労働に関する正しい知識の浸透等を目的とする教育を実施し、人権侵害の防止に努めております。 |
⑥ 技術革新に関わるリスクについて
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脅威・機会 |
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<脅威>技術革新への対応遅延による競争優位性低下 近年の技術革新により、ヘルスケア領域においてもAI・ロボティクス等も含めた新技術が台頭し、ビジネスモデルが大きく変化する可能性があります。このような環境下においては、当社グループの対応が遅れることにより、競争優位性の低下を招く可能性があります。
<機会>イノベーションによる付加価値向上 革新的技術の創出及び積極的な活用により、更なるイノベーションや検査業務をはじめとする医療の効率化を実現した高付加価値な製品・サービスの提供が可能になります。 また、革新的技術の普及に伴うビジネスモデルの変革に対し、いち早く適応することにより、販売機会拡大の可能性があります。 |
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対応 |
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当社グループは、企業理念「Sysmex Way」および「Shared Values」に基づき、様々な技術開発を通じたイノベーションを創出し、社会課題の解決に資する製品・サービスの提供に努めております。新たな技術の開発に向け積極的な投資を継続すると共に、大学や研究機関、企業等が持つ技術と当社の技術を融合させ、新たな臨床価値を効果的に生み出すオープンイノベーションに取り組んでおります。世界各地にこれらの活動を促進する研究開発拠点を開設し、従来の検体検査のみならず、個別化医療や予防医療等への貢献に取り組んでおります。 アルツハイマー病の原因物質の一つである、脳内Aβの蓄積状態を調べることができる検査試薬の販売など、病気の早期発見及び検査による治療の価値向上につながる研究・開発に取り組んでおります。また、子会社であるシスメックス アストレゴが、迅速薬剤感受性検査システムの開発に対して、世界的課題である薬剤耐性(AMR)対策に貢献したとし、英国最大規模の科学賞である「Longitude Prize on AMR」を受賞し、欧州における市場導入を開始しました。 今後も、新たな技術やイノベーションの創出を通じて医療課題の解決に取り組むことにより、人々の健康寿命の延伸へ貢献すると共に、持続的な成長を目指してまいります。 |
⑦ 気候変動等の環境に関わるリスクについて
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脅威・機会 |
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<脅威>環境対応の不備や自然災害による事業への影響 地球環境の持続可能性が喫緊の課題となっており、欧米をはじめとする各国において環境規制が強化されております。当社グループにおいて、規制等に対する違反や対応の遅延が生じた場合、罰則や入札制限等を招く可能性があります。 また、気候変動に由来する自然災害により、世界各国のお客様への製品安定供給や従業員等の安全へ影響を及ぼす可能性があります。
<機会>環境課題への取り組みによる信頼性・競争優位性向上 各国における環境に関する法規制等の情報を適宜入手し、プロアクティブに対応を実施することにより、ステークホルダーからの信頼性向上並びに販売機会の拡大につながる可能性があります。 また、環境に配慮した製品開発や生産活動等、エコソーシャル面での付加価値提供と、それに伴う競争優位性の確立により、事業成長に貢献する可能性があります。 |
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対応 |
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当社グループでは、環境マネジメントを推進する組織として環境管理委員会を設置しております。資源循環型社会の実現に取り組んでおり、当社の製品・サービスを通じた社会課題解決と事業成長の両立により、持続的な環境・社会への価値提供を目指しております。 『シスメックス・エコビジョン 2033』を策定し、生産・開発・販売・サービス等のあらゆるバリューチェーンにおいて、業界初の水平リサイクル容器※1の採用、濃縮試薬の普及促進や、ドライアイスフリー輸送の導入、脱動物由来の原材料を使用した製品の開発等、CO2排出や水使用、生物多様性等に配慮した環境配慮型製品・サービスを通じて環境負荷低減に取り組んでおります。また、TCFD※2の提言に賛同し、そのフレームワークに基づく情報開示の充実に努めております。更に、2040年までのカーボンニュートラル※3及び認定を取得したSBTi※4の目標に基づき、環境課題への取り組みを加速しております。
※1 使用済み製品を原料として、再び同じ種類の製品を製造するリサイクル方法 ※2 Task Force on Climate-related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示タスクフォース) ※3 カーボンニュートラル:Scope1及びScope2が対象 ※4 Science Based Targets initiative(気候科学に基づき環境危機克服に取り組む国際的イニシアチブ) |
⑧ 医療制度改革に関わるリスクについて
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脅威・機会 |
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<脅威>医療制度改革等への対応不備・遅延による販売機会減少 当社グループの機器・診断薬製品の販売には基本的に薬事承認が必要ですが、各国において承認取得に関する要求事項が複雑・高度化する傾向にあります。このような傾向は、対応コストを増加させる可能性があると共に、対応が遅れた場合は新製品の発売への影響等、市場獲得機会の喪失を招く可能性があります。 また、各国において保険収載に関する制度の見直しや、保険点数等の検査に係る費用引き下げ等が発生した場合は、当社製品の販売機会減少の可能性があります。
<機会>規制やニーズへの迅速な対応による競争優位性向上 ヘルスケア業界での、欧州におけるIVDR※1をはじめとする厳格化する薬事規制への対応は、新規参入企業に対する障壁となり、当社グループの競争優位性が向上する要因となる可能性があります。また、各国での医療財政の改善により医療機関の予算が増加した場合、販売機会の拡大が見込める可能性があります。更に、新興国での医療制度拡充、及び医療インフラへの投資増加等により、需要の拡大が期待できます。
※1 In Vitro Diagnostic Medical Devices Regulation(体外診断用医療機器規則) |
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対応 |
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薬事規制に対しては各国業界団体への参画等を通じて最新情報の把握に努めると共に、当社グループのグローバルなネットワークを活用した体制により、適時的確な薬事承認の取得・維持に取り組んでおります。各国・地域における様々な環境変化において、多様化・高度化するニーズを正確に捉えたうえ、個別化医療に資する新たな診断技術の開発を推進しております。また、検体検査機器・診断薬・IT・サービス&サポートをトータルに保有する強みを活かし、医療ワークフローの効率化や疾病の早期発見、さらには新興国における医療アクセス向上等の医療課題解決に取り組んでまいります。 今後も世界各国のお客様に安定的に製品をお届けするため、各国の制度改革や要請を注視してまいります。 |
⑨ 知的財産に関わるリスクについて
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脅威・機会 |
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<脅威>知的財産権の侵害や被侵害による事業への影響 当社グループは、特許、商標、意匠等をグローバルに出願しておりますが、一部又は全ての国で権利が付与されない可能性があります。更に、当社グループの知的財産権を侵害する模倣品が流通した場合、検査結果の信頼性が確保できず、医療機関及び患者さんへ影響をもたらす可能性があります。 また、当社グループの正当性の有無に関わらず、第三者の知的財産権の侵害に対する訴訟の提起や、ロイヤルティの支払い要求等の知的財産権を巡る紛争が生じる可能性があります。
<機会>知的財産権取得による独自性のある製品・サービスの提供 当社グループが保有する知的財産権の適切な保護により、独自性及び競争力の強化や、ブランドイメージの向上が期待できます。 また、当社グループが保有する知的財産権のみならず、第三者のライセンスを適切に活用することにより、更にイノベーションを加速させる可能性があります。 |
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対応 |
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当社グループでは、知的財産活動基本方針を定め、当社及び第三者の知的財産権を尊重し、全ての事業活動で創出された価値のある知的財産を積極的に権利化すると共に、第三者の知的財産権に対して適切に対応することにより、グローバルな競争優位性の確立を目指しております。従業員に対しても社内教育を通じ、当社グループ及び第三者の知的財産権を尊重しながら事業活動を推進することを周知徹底しております。更に、研究開発者の「知」の創造の推進と従業員のモチベーション向上を目的とした表彰制度を設けております。 また、当社グループの知的財産権侵害への対策として、グローバルに知的財産権を取得すると共に、徹底的に模倣品を排除することにより、お客様に安心して製品をお使いいただけるよう取り組んでおります。重要なブランドの保護のためは、新興国や開発途上国を含めグローバルに商標権の確保を進め、特にコーポレートロゴについては195の国・地域に商標権を出願しております。これらの結果、全体の知的財産権のうち海外保有比率は約81%に達しております。 |
⑩ 安定供給に関わるリスクについて
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脅威・機会 |
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<脅威>調達や生産の中断・遅延による製品供給への影響 当社グループでは、医療機関が日々の検査を行ううえで不可欠な検体検査機器及び診断薬等を世界各国のお客様に対し供給しております。お客様への製品の供給が中断しないよう努めておりますが、急激な市況の変化やサプライヤーの事業停止等により部品・原材料等の調達が困難な場合や、生産工場・倉庫等を含むサプライチェーン拠点における大規模な自然災害や火災等の重大な事故、パンデミック等が発生した場合、あるいは国家間紛争・貿易摩擦による流通ルートの遮断等が発生した場合、製品の安定供給に支障を及ぼす可能性があります。
<機会>製品・サービスの安定供給への取り組みによる安心の提供・信頼性向上 自然災害や重大な事故等、有事の際にも検査に必要な製品を安定的に供給し、医療業務を中断させる事態を回避すると共に、そのような有事に備えた体制の構築により、緊急時の製品の供給継続に対する信頼を獲得し、更なるブランドイメージの向上につながる可能性があります。 |
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対応 |
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世界中に高品質な製品をお届けすることにより、正確な検査結果と確かな安心を提供し、医療を支えるという社会的使命のもと、当社グループはグローバルに製品・サービスの安定供給に取り組んでおります。平時より部品・原材料等における在庫の確保や複数社購買等に取り組むと共に、工場や倉庫での地震・風水害等の大規模災害に対する予防及び復旧対策の充実に取り組んでおります。特に、当社グループ売上高の61.7%(2025年3月期)を占める診断薬に関しては、事業継続のための復旧期間を考慮した在庫確保はもとより、複数拠点での生産を行っており、特に主力事業であるヘマトロジー分野の診断薬については、主要拠点間で相互供給のネットワークを構築し、安定的な供給を継続できる体制を整えております。 また、当社グループ全体で事業継続計画を策定し、日頃から訓練により定着を図ることで、有事の際にも迅速に復旧し、医療機関の検査業務を継続いただけるよう備えております。 更に、調達方針及びガイドラインを定め、取引先の皆様と共に発展する企業を目指し、お客様に安心して製品をお使いいただけるよう取り組みを強化してまいります。 |
⑪ 品質に関わるリスクについて
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脅威・機会 |
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<脅威>製品・サービスの品質不良による信頼性の低下 ヘルスケア業界の製品においては高い品質と安全性が要求されますが、当社製品や仕入商品等に品質不良が発生した場合、医療機関での検査に遅れや誤りが発生し、お客様や患者さんへ影響を及ぼす可能性があります。また、製品並びに当社グループ全体に対する信頼性の低下を招く可能性があると同時に、業績へ影響が生じる可能性があります。
<機会>品質向上による信頼性・競争優位性の向上 各国の法令・国際規格等に準拠する品質管理の仕組みの整備・運用を通じて更なる品質の向上を図ることにより、お客様からの信頼の獲得、並びに販売機会拡大の可能性があります。 また、当社グループでは創業以来、確かな品質によりお客様に安心をお届けすることを企業理念「Sysmex Way」に掲げており、これまで築き上げたブランドイメージは、企業価値並びに競争優位性の維持・向上につながる可能性があります。 |
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対応 |
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当社グループでは、各国の法令・国際規格等に準拠する品質維持のためのマネジメントにグループ全体で取り組んでおります。グループの品質方針を策定し、製品・サービスの品質及び安全性のモニタリングと改善に向けた対策を行っております。また、全ての生産拠点において品質マネジメントシステムに関する国際規格ISO9001又はISO13485の認証を取得しております。更に、製品の信頼性や安全性に関する情報を幅広く国内外から収集・分析し、製品の品質向上に活かしております。 また、グローバルでの品質保証・法規制対応を推進するため、新たにQARA委員会を設置しました。今後も、更に強化を進め、当社グループの高品質な製品・サービスを通じた、グローバルな医療の質向上とお客様の安心の創出に取り組んでまいります。 |
⑫ 情報システム・セキュリティに関わるリスクについて
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脅威・機会 |
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<脅威>サイバー攻撃等によるお客様及び事業への影響 当社グループの製品にはネットワークを活用したサービス機能が搭載されております。万一、医療機関を標的としたサイバー攻撃により当社製品が感染した場合、検査業務の停止や、第三者による個人情報への不正なアクセスが行われる可能性があります。 また、社内においても情報伝達や基幹業務支援、稟議決裁手続等に各種情報システムを導入し、業務効率化を図っており、事業上の情報の多くはネットワークを介して管理・運用されております。これらのシステムやネットワークにおける障害や、サイバー攻撃によりシステムの稼働停止や機密情報の漏えいが発生した場合、又は近年活用を進めている生成AI等の誤った使用により、虚偽情報の提供や第三者の権利侵害等が発生した場合、当社グループの業務の効率性や信頼性の低下を招く可能性があります。
<機会>セキュリティ対応強化による製品・サービスの信頼性向上 製品・サービスにおけるセキュリティ対応を充実させることにより、製品への更なる信頼性向上や、お客様へ安心してご利用いただけるネットワークを活用したサービスの提供が可能になります。 また、セキュリティ強化を含めたDXの推進や適切な生成AIの活用等を通じ、適切な情報管理を行いながらグループ内の情報連携を強化することにより、更なる業務の効率化及び生産性の向上が期待できます。 |
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対応 |
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当社グループでは、お客様や患者さんに確かな安心をお届けするために、製品サイバーセキュリティ委員会を中心として、製品・サービスにおけるサイバーセキュリティ対策を進めております。その一環として、「製品セキュリティポリシー」を定め、PSIRT※1を設置し、各地域の製品セキュリティ責任者と連携して、セキュリティポリシーに基づいた製品の設計・生産、及び販売後の脆弱性管理に取り組んでおります。更に、お客様やビジネスパートナーの情報資産を保護することが、信頼と品質の証であると認識し、「情報セキュリティポリシー」を定め、情報セキュリティ委員会を中心に、情報資産の機密性、完全性、可用性の維持・向上に努めております。 情報システムやネットワーク回線の障害、あるいはコンピューターウイルスや外部からの情報システムへの侵入等による業務への影響を最小限に抑えるために、不正通信検知やマルウェアの隔離等の仕組みの導入、24時間の監視、CSIRT※2の設置、有事や重大インシデントに対する情報の早期入手のための外部団体加盟等によるセキュリティ対策や、事業継続に関する体制整備等、情報管理の厳格化に取り組んでおります。また、AI技術全般に関して、従業員に対しセキュリティを考慮した利用ルールを周知すると共に、積極的な活用によりイノベーションを加速させる取り組みを推進しております。
※1 Product Security Incident Response Team(製品セキュリティインシデント対応チーム) ※2 Computer Security Incident Response Team(コンピューターセキュリティインシデント対応チーム) |
⑬ 企業買収等、投資に関わるリスクについて
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脅威・機会 |
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<脅威>投資効果の発揮不足による戦略目標達成の遅延 当社グループは、研究開発や生産等の拠点拡充を図ると共に、ITインフラ及び最新技術等への積極的な投資や企業買収、資本提携等による成長加速を目指しております。これらの取り組みにおいて、経営環境の変化や事前に予測し得なかったリスクの露呈等により、期待されていた効果が十分に実現できず、戦略目標の達成に影響を及ぼす可能性があります。
<機会>投資効果の最大化によるビジネスの加速 経営戦略に基づき、長期的かつグローバルな視点で積極的な投資を行い、当初想定していた以上に高いシナジーを発揮することで、戦略実現のスピードを加速させる可能性があります。 |
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対応 |
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当社グループでは、投資に対する検討・意思決定、及びPMI※1のモニタリングにおける仕組みの強化により、投資効果の最大化を目指しております。投資判断については、事前に十分な調査を行ったうえ、目的・効果・想定されるリスク等について経営会議等で審議し決定しております。意思決定後においても、機動的な変化への対応と柔軟な軌道修正が重要であると捉え、定期的にモニタリングを実施し、投資に対する管理プロセス強化に取り組んでおります。 今後も適切な意思決定のもと、事業成長に必要な投資については積極的なリスクテイクにより、事業の拡大や新たな技術獲得を通じた高付加価値な製品・サービスの提供を継続し、当社グループの成長を加速させてまいります。
※1 Post Merger Integration(合併・買収後の統合プロセス) |
⑭ 人材確保に関わるリスクについて
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脅威・機会 |
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<脅威>人材獲得競争の激化及び人材流出による競争力低下 グローバルな人材市場における獲得競争は激化しており、事業推進に必要な人材が獲得できない場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。 また、職場環境の安全衛生の確保が十分でなかった場合、従業員の心身の健康を損ね、士気低下や人材流出等を招く可能性があります。
<機会>魅力ある職場の実現による経営基盤強化 当社グループは企業理念「Sysmex Way」において、多様な人材が安心して能力を発揮できる職場環境について定めており、真に魅力ある人事制度や企業風土等を通じた人材の獲得・維持により、従業員のエンゲージメントと付加価値生産性を両立させることで、更なる企業成長が期待できます。 |
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対応 |
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当社グループでは、人材を持続的な成長のための重要な経営資源の一つと捉えております。企業理念「Sysmex Way」では、役職員に対し「多様性を受け入れ、一人ひとりの人格や個性を大切にすると共に、安心して能力が発揮できる職場環境を整えること、自主性とチャレンジ精神を尊重し、自己実現と成長の機会、成果に応じた公正な処遇を提供すること」を宣言し、それぞれの従業員が描くキャリアに基づいた教育プログラムの提供等、自主的なキャリア実現が可能となる環境を整備しております。自律的なキャリアの実現を支援する基盤として、グループ全体でジョブ型人事制度を導入しており、その適正な運用に努めると共に、信託型株式報酬をはじめとした魅力ある報酬等制度の導入を推進しております。 更には、アジアの製造業で初となる、人的資本に関する情報開示の国際的なガイドラインであるISO30414を取得しております。今後も透明性のある人的資本関連情報の開示に努めると共に、人材と企業の持続的な成長を可能にする人事制度を充実させてまいります。 |
1.経営成績等の概要
(1) 経営成績の分析
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度の末日現在において判断したものであります。
当連結会計年度における世界経済は安定性を保っているものの、一部の国ではインフレ率が高止まりし、更に米国における新たな関税政策により、経済政策の不確実性が、貿易と財政面を中心に急激に高まりました。この中で、米国では個人消費や設備投資が堅調に推移する一方、欧州では製造業や財の輸出の弱含み等による経済成長の抑制、中国では国内需要の低迷が見られました。加えて、中東やロシア・ウクライナ問題の地政学的リスクが残る等、世界経済の先行きに対する不透明な状況が継続しております。我が国では、一時的な供給混乱によりGDPが小幅に縮小したものの、内需の下支え等により緩やかな回復基調となりました。
医療面におきましては、新興国の経済成長や世界的な高齢化に伴う医療需要の拡大と医療の質・サービス向上へのニーズの高まりにより、医療機能の分散が進み、予防や早期診断、セルフメディケーションが重要になる一方、医療格差や医療アクセスの問題は今後も継続すると想定しております。また、遺伝子解析、超高感度測定、小型化等の技術革新と医療への実装が進展すると共に、個別化医療へのニーズは増加、再生細胞医療や遺伝子治療等新たな治療法が実用化され始めております。加えて、人工知能(AI)の普及をはじめ医療分野のDXは加速し、ロボット技術の実装・用途拡大も進展する予測であり、更なる成長機会が見込まれております。
このような状況のもと、全地域・事業・分野で増収となった結果、5,000億円を超える売上を達成し、売上高、営業利益、当期利益いずれも過去最高となりました。今後は、手術支援ロボットや、グループ初の試薬・機器両方の生産機能を持つ拠点を設立したインドを含む新興国での事業展開の加速等、更なる成長を目指してまいります。
<参考>地域別売上高
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前連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
当連結会計年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
前期比 (%) |
|||
|
金額 (百万円) |
構成比 (%) |
金額 (百万円) |
構成比 (%) |
|||
|
国内 |
62,184 |
13.5 |
67,786 |
13.3 |
109.0 |
|
|
|
米州 |
118,782 |
25.7 |
131,148 |
25.8 |
110.4 |
|
|
EMEA |
125,349 |
27.2 |
140,398 |
27.6 |
112.0 |
|
|
中国 |
109,952 |
23.9 |
117,970 |
23.2 |
107.3 |
|
|
アジア・パシフィック |
45,241 |
9.8 |
51,339 |
10.1 |
113.5 |
|
海外計 |
399,325 |
86.5 |
440,857 |
86.7 |
110.4 |
|
|
合計 |
461,510 |
100.0 |
508,643 |
100.0 |
110.2 |
|
国内販売につきましては、ヘマトロジー分野における機器及び試薬や血液凝固検査分野における試薬の売上が増加いたしました。その結果、国内売上高は67,786百万円(前期比9.0%増)、構成比13.3%(前期比0.2ポイント減)となりました。
海外販売につきましては、為替相場が円安に推移したことに加え、ヘマトロジー分野における試薬及び保守サービスや血液凝固検査分野における試薬の売上が増加いたしました。その結果、海外売上高は440,857百万円(前期比10.4%増)、構成比86.7%(前期比0.2ポイント増)となりました。
また、販売費及び一般管理費につきましては、主に事業規模拡大に伴う人員増加や販売促進活動の結果、150,848百万円(前期比12.7%増)となりました。研究開発費につきましては、31,455百万円(前期比0.2%増)となりました。
この結果、当連結会計年度の連結業績は、売上高は508,643百万円(前期比10.2%増)、営業利益は87,583百万円(前期比11.7%増)、税引前利益は79,221百万円(前期比6.2%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益は53,669百万円(前期比8.1%増)となりました。
セグメントの経営成績は、以下のとおりであります。
① 本社統括
日本における需要増加により、ヘマトロジー分野、血液凝固検査分野における機器及び試薬の売上が増加いたしました。その結果、売上高は93,988百万円(前期比9.7%増)となりました。
利益面につきましては、販売費及び一般管理費が増加いたしましたが、増収や売上原価率の改善により、セグメント利益(営業利益)は59,104百万円(前期比8.8%増)となりました。
② 米州統括
北米では、ヘマトロジー分野、尿検査分野における試薬及び保守サービスの売上が増加いたしました。また、中南米では、ブラジル市場を中心に、ヘマトロジー分野の機器及び試薬や尿検査分野の試薬の売上が増加いたしました。その結果、売上高は122,916百万円(前期比9.7%増)となりました。
利益面につきましては、増収した一方、事業規模拡大に伴う人員増加等により販売費及び一般管理費が増加し、セグメント利益(営業利益)は6,743百万円(前期比8.9%減)となりました。
③ EMEA統括
サウジアラビアにおける直販化拡大の効果も寄与し、ヘマトロジー分野における機器及び試薬の売上や、血液凝固検査分野における試薬の売上が増加いたしました。その結果、売上高は135,671百万円(前期比11.6%増)となりました。
利益面につきましては、インフレの影響等により販売費及び一般管理費が増加いたしましたが、増収や売上原価率の改善により、セグメント利益(営業利益)は10,583百万円(前期比2.5%増)となりました。
④ 中国統括
検査数の増加により、ヘマトロジー分野及び血液凝固検査分野における試薬の売上が増加いたしました。その結果、売上高は117,828百万円(前期比7.3%増)となりました。
利益面につきましては、増収に加え、売上原価率の改善や販売費及び一般管理費の減少により、セグメント利益(営業利益)は10,646百万円(前期比35.6%増)となりました。
⑤ AP統括
インド市場での成長も寄与し、ヘマトロジー分野における機器及び試薬の売上や、血液凝固検査分野における試薬の売上が増加いたしました。その結果、売上高は38,239百万円(前期比17.6%増)となりました。
利益面につきましては、増収や、売上原価率の改善により、セグメント利益(営業利益)は3,579百万円(前期比50.7%増)となりました。
(2) 財政状態の分析
当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度末と比べて46,348百万円増加し、665,268百万円となりました。この主な要因は、現金及び現金同等物が14,062百万円、有形固定資産が13,517百万円、流動資産の営業債権及びその他の債権が5,940百万円、非流動資産の営業債権及びその他の債権が5,543百万円増加したこと等によるものであります。
負債合計は、前連結会計年度末と比べて14,711百万円増加し、200,734百万円となりました。この主な要因は、非流動負債のリース負債が5,046百万円、長期借入金が3,759百万円、未払賞与が2,098百万円増加したこと等によるものであります。
資本合計は、前連結会計年度末と比べて31,637百万円増加し、464,534百万円となりました。この主な要因は、その他の資本の構成要素が5,388百万円減少した一方で、利益剰余金が36,835百万円増加したこと等によるものであります。また、親会社所有者帰属持分比率は前連結会計年度末の69.8%から0.1ポイント減少して69.7%となりました。
(3) キャッシュ・フローの分析
当連結会計年度末の現金及び現金同等物(以下、資金)は、前連結会計年度末より14,062百万円増加し、89,570百万円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は、以下のとおりであります。
<営業活動によるキャッシュ・フロー>
営業活動の結果得られた資金は、88,246百万円(前期比24,340百万円増)となりました。この主な要因は、税引前利益が79,221百万円(前期比4,620百万円増)、減価償却費及び償却費が39,033百万円(前期比3,144百万円増)、法人所得税の支払額が27,723百万円(前期比1,250百万円減)となったこと等によるものであります。
<投資活動によるキャッシュ・フロー>
投資活動の結果使用した資金は、52,488百万円(前期比2,481百万円減)となりました。この主な要因は、有形固定資産の取得による支出が29,226百万円(前期比3,616百万円増)、無形資産の取得による支出が20,733百万円(前期比3,847百万円減)となったこと等によるものであります。
<財務活動によるキャッシュ・フロー>
財務活動の結果使用した資金は、24,322百万円(前期比15,308百万円増)となりました。この主な要因は、長期借入れによる収入が4,700百万円(前期比24,300百万円減)、配当金の支払額が18,081百万円(前期比502百万円増)、リース負債の返済による支払額が10,561百万円(前期比1,492百万円増)となったこと等によるものであります。
(4) 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当連結会計年度の生産実績をセグメント毎に示すと、以下のとおりであります。
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セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前期比(%) |
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本社統括 |
68,484 |
102.5 |
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米州統括 |
5,240 |
122.0 |
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EMEA統括 |
3,506 |
102.8 |
|
中国統括 |
5,856 |
152.9 |
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AP統括 |
2,176 |
176.7 |
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合計 |
85,263 |
107.1 |
(注)金額は製造原価によっており、セグメント間の内部振替前の数値によっております。
b.受注実績
見込み生産を行っているため、該当事項はありません。
c.販売実績
当連結会計年度の販売実績をセグメント毎に示すと、以下のとおりであります。
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セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前期比(%) |
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本社統括 |
93,988 |
109.7 |
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米州統括 |
122,916 |
109.7 |
|
EMEA統括 |
135,671 |
111.6 |
|
中国統括 |
117,828 |
107.3 |
|
AP統括 |
38,239 |
117.6 |
|
合計 |
508,643 |
110.2 |
(注)セグメント間の内部売上高は相殺消去しております。
2.経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は以下のとおりであります。
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
(1) 当連結会計年度の経営成績の分析
当連結会計年度の売上高は前期比47,133百万円増加(10.2%増)の508,643百万円、営業利益は前期比9,201百万円増加(11.7%増)の87,583百万円、税引前利益は前期比4,620百万円増加(6.2%増)の79,221百万円、親会社の所有者に帰属する当期利益は前期比4,030百万円増加(8.1%増)の53,669百万円となりました。また、親会社所有者帰属持分当期利益率は前連結会計年度の12.1%から当連結会計年度は12.0%へと低下いたしました。
こうした中、当社グループは、長期ビジョン「より良いヘルスケアジャーニーを、ともに。」の実現を目指して引き続き重要な課題に取り組み、2026年3月期の連結業績として、売上高535,000百万円、営業利益91,500百万円を予想しております。
① 売上高
当連結会計年度は、国内販売につきましては、ヘマトロジー分野における機器及び試薬や血液凝固検査分野における試薬の売上が増加いたしました。その結果、国内売上高は67,786百万円(前期比9.0%増)、構成比13.3%(前期比0.2ポイント減)となりました。海外販売につきましては、為替相場が円安に推移したことに加え、ヘマトロジー分野における試薬及び保守サービスや血液凝固検査分野における試薬の売上が増加いたしました。その結果、海外売上高は440,857百万円(前期比10.4%増)、構成比86.7%(前期比0.2ポイント増)となりました。以上により、売上高は前連結会計年度に比べて47,133百万円増加(10.2%増)の508,643百万円となりました。
国内での売上高は67,786百万円と5,602百万円の増加(9.0%増)となり、海外での売上高は440,857百万円と41,531百万円の増加(10.4%増)となった結果、海外売上高比率は前期比0.2ポイント増加の86.7%となりました。
海外の地域別では、米州が131,148百万円(前期比12,365百万円増、10.4%増)、EMEAが140,398百万円(前期比15,048百万円増、12.0%増)、中国が117,970百万円(前期比8,017百万円増、7.3%増)、アジア・パシフィックが51,339百万円(前期比6,098百万円増、13.5%増)となりました。
② 売上原価
売上原価は、前期比17,652百万円増加(8.1%増)の236,665百万円となりました。また、売上原価率は46.5%(前期比1.0ポイント減少)でありました。
③ 販売費及び一般管理費
販売費及び一般管理費は、主に事業規模拡大に伴う人員増加や販売促進活動の結果、前期比17,050百万円増加(12.7%増)の150,848百万円となりました。また、売上高に対する比率は29.7%(前期比0.7ポイント増加)でありました。
④ 研究開発費
研究開発費は、主に短中期的業績に関わらないテーマの見直しや効率化の結果、前期比52百万円増加(0.2%増)の31,455百万円となりました。また、売上高に対する比率は6.2%(前期比0.6ポイント減少)でありました。
⑤ 損益の状況
営業利益は売上高の増加による売上総利益の伸張等により前期比9,201百万円増加(11.7%増)の87,583百万円、売上高営業利益率は17.2%(前期比0.2ポイント増加)となりました。なお、為替の影響は、前連結会計年度と比較して10,564百万円の増益要因となりました。
税引前利益は、為替差損が3,850百万円(前期は為替差益が516百万円)となりましたが、営業利益が増益となったこと等によって、前期比4,620百万円増加(6.2%増)の79,221百万円となりました。
親会社の所有者に帰属する当期利益は、法人所得税費用が前期比819百万円増加(3.3%増)の25,645百万円となり、前期比4,030百万円増加(8.1%増)の53,669百万円となりました。
(2) 経営成績に重要な影響を与える要因について
当社グループが事業を展開していく上で、経営成績に重大な影響を及ぼす可能性のある事項については、「3 事業等のリスク」に記載しておりますので、ご参照ください。
(3) 資本の財源及び資金の流動性についての分析
① 資金調達と流動性マネジメント
運転資金は必要に応じて短期銀行借入等で調達いたします。各連結子会社については、運転資金確保のために必要に応じて銀行借入を行いますが、国内の子会社については、2003年10月より当社と各社との資金決済にCMS(キャッシュ・マネジメント・システム)を導入し、資金の調達・運用を一元化して効率化を図っております。更に、海外の一部の地域統括会社についても、2024年1月より当社と各社間でCMSによる資金融通を開始し、グループ内の流動性確保、資金効率向上に努めております。
また、当社は、現在、株式会社格付投資情報センター(R&I)よりAA-(ダブルAマイナス)の発行体格付を取得しており、毎年レビューを受けて格付を更新しております。高い格付は資本市場から資金調達する際の調達コストを低減するだけではなく、ステークホルダーや世間一般からの信用向上にも貢献します。今後も格付を維持・向上していくために、売上高・利益と資産及び負債・資本のバランスに考慮してまいります。
設備投資等の長期資金需要に関しては、投資回収期間とリスクを勘案した上で調達方法を決定しております。
なお、当連結会計年度は、設備投資及び研究開発活動等の資金について、主に営業活動の結果得られた資金から充当しておりますが、一部の長期資金需要に関しては銀行から長期借入を実施の上充当しております。
② 財政状態の分析
財政状態の分析については、「1.経営成績等の概要 (2) 財政状態の分析」に記載しておりますので、ご参照ください。
③ キャッシュ・フローの分析
キャッシュ・フローの分析については、「1.経営成績等の概要 (3) キャッシュ・フローの分析」に記載しておりますので、ご参照ください。
(4) 重要な会計方針及び見積り
当社グループは、IFRSに準拠して連結財務諸表を作成しております。この連結財務諸表の作成に関する重要な会計方針及び見積りについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 2.作成の基礎 3.重要性がある会計方針」に記載しておりますので、ご参照ください。
・アライアンス契約
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契約会社名 |
相手先 |
国名 |
契約の内容 |
契約期間 |
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当社 |
シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティックス社 |
米国 |
血液凝固検査関連製品の相互グローバルOEM供給(注1) |
自 2023年3月1日 至 2038年2月28日 |
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当社 |
ロシュ・ダイアグノスティックス社(以下、ロシュ社) |
スイス |
当社とロシュ社とのグローバルパートナーシップ(注2) |
自 2021年1月1日 至 2030年12月31日 |
(注)1.本契約には以下の個別契約を含んでおります。
血液凝固検査関連製品の相互供給、販売及びサービスに関する契約(契約期間:自2021年2月1日 至 2025年12月31日)
2.本契約には以下4つの個別契約を含んでおります。
・ロシュ社による当社のヘマトロジー分野製品の販売・サービスに関する契約(契約期間:自 2021年1月1日 至 2026年8月31日)
・生化学検査分野、免疫検査分野及びヘマトロジー分野製品を1社から同時に求められる案件に関する非独占協業契約(契約期間:自 2021年1月1日 至 2030年12月31日)
・両社のITプラットフォームを活用し、短中期的には顧客サービスの向上を、長期的にはクリニカルバリューの向上を狙いとした協業検討に関する契約(契約期間:自 2021年1月1日 至 2030年12月31日)
・社会課題解決に向けた協業テーマの検討を開始することを定めた契約(契約期間:自 2023年7月3日 至 2030年12月31日)
当社グループはヘマトロジーをはじめとした既存領域の成長を目指し、ダイアグノスティクス事業における技術拡充を図っております。
また、個別化医療・検査の精緻化を実現するための、臨床価値の高い診断技術、リキッドバイオプシー技術の社会実装を目指して、新たな技術開発に取り組んでおります。
新規領域への挑戦として、検査・診断の価値を検査の場及びその対象を拡大することで高めると共に、個別化予防・予後モニタリングを実現するための技術開発にも取り組んでいきます。また、メディカルロボット事業や再生細胞医療などの治療領域に対しても、シスメックスの強みを生かしていきます。
当連結会計年度における、主な研究開発活動の状況は以下のとおりであります。
(1) 2024年4月 近畿大学と京都大学の研究グループは、当社との共同研究により、非小細胞肺がん※1に対するオプジーボ(一般名:ニボルマブ)をはじめとする抗PD-1抗体※2の効果を、血液中の「免疫チェックポイント関連因子※3」から予測できる可能性があることを明らかにいたしました。本研究成果は、今後、非小細胞肺がんの治療方針の検討の際に役立つものであると期待されます。
※1 非小細胞肺がん:
肺がんの8~9割を占め、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん等に分類される。
※2 抗PD-1抗体:
免疫チェックポイント阻害剤の一つ。がん細胞を攻撃するT細胞を阻害する、PD-1とPD-L1の結合を阻止する。抑えられていたT細胞の動きを亢進させ、抗腫瘍効果を発揮させる。
※3 免疫チェックポイント関連因子:
免疫応答を制御する分子のこと。持続的に抗原刺激が起こると、免疫細胞であるT細胞の膜表面に発現し、T細胞の細胞増殖能やサイトカイン産生能、細胞傷害性が低下する。
(2) 2024年4月 当社と川崎重工業株式会社が共同出資する株式会社メディカロイドは、手術支援ロボット「hinotori™サージカルロボットシステム」の胸部外科領域(呼吸器外科)への適応について、厚生労働省より承認を取得いたしました。
(3) 2024年6月 当社は、再生細胞医療における細胞培養液中の分泌タンパク質を測定する研究用試薬(「(研究用)HISCL™ VEGF試薬」、「(研究用)HISCL™ PEDF試薬」)、(以下、本製品)を国内から販売開始いたしました。本製品が、再生細胞医療の研究開発や細胞製造において使用されることで、細胞医薬品の品質管理試験の自動化・効率化に貢献することが期待されます。
(4) 2024年6月 当社の子会社である株式会社理研ジェネシスは、東北大学病院との共同の成果により、結腸・直腸がんにおける治療薬の選択の補助として用いることができる体外診断用医薬品「OncoGuide™ EpiLight™メチル化検出キット」の国内における製造販売承認を取得いたしました。
(5) 2024年9月 当社は、抗アミロイドβ抗体薬の副作用リスクを予測するため、血液中のゲノムDNAからAPOE遺伝型※4を判定する検査試薬の日本における製造販売承認申請を実施いたしました。
※4 APOE遺伝型:
脂質代謝に関わるアポリポタンパク質E(ApoE)をコードする遺伝子。112番目と158番目のアミノ酸をコードする2つの一塩基置換(rs429358,rs7412)の組み合わせにより3つの遺伝型(ε2,ε3,ε4)が規定される。
(6) 2024年9月 当社は、血小板第4因子とヘパリンの複合体に対するIgG抗体を測定する「HISCL™ HIT IgG試薬」(以下、本製品)を国内市場から発売いたしました。本製品は、HISCL™シリーズ※5の技術を採用した全自動血液凝固測定装置CN™-6500/CN™-3500用の検査試薬であり、ヘパリン起因性血小板減少症(以下、HIT)※6の血清学的検査において求められる高感度、更には高特異度を実現します。高特異度を可能としたことで、ヘパリン療法の副作用判定において課題である偽陽性の低減に寄与し、HIT診断の迅速化及び検査効率の向上に貢献します。
※5 HISCLシリーズ:
全自動免疫測定装置 HISCL™-5000/HISCL™-800の総称
※6 ヘパリン起因性血小板減少症(HIT):
ヘパリンの使用により血小板減少症と血栓症を発症する疾患のこと 。
(7) 2024年12月 当社と株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリング(以下、J-TEC)は、再生細胞医療の産業化の加速と持続可能性の向上に貢献するために、革新的技術による再生医療等製品の製造機能の高度化(機械化や自動化)を目指すことについて、基本合意書を締結いたしました。また、3月には戦略テーマの一つとして、再生細胞医療における無菌試験に関する共同研究契約を締結いたしました。再生細胞医療の無菌試験に対し、J-TECの持つ知見やノウハウと、当社が持つ微細な粒子を流路に流して流路中を流れる個々の粒子を光学的に分析するフローサイトメトリー技術を応用することで、迅速かつ安全な無菌試験の開発を目指します。
(8) 2025年3月 当社は、国立大学法人大阪大学大学院医学研究科外科学講座消化器外科学の三吉 範克 先生及び箕面市立病院と、ICTによる訪問看護連携型の自宅採血サービスの有用性評価に関する共同研究を開始いたしました。
(9) 2025年3月 当社は、糖尿病の免疫検査C-ペプチド項目「HISCLTM C-ペプチド 試薬」を国内で販売開始いたしました。販売中のHISCLTMインスリン試薬と併せ、全自動免疫測定装置HISCL-5000/HISCL-800向け糖尿病検査パネルとしてご活用いただくことで、幅広い検査室のニーズにお応えすることが可能となります。
なお、当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は