第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)経営方針、経営戦略及び対処すべき課題

当社グループは、2019年3月期からスタートした『Wacom Chapter2』において、お客様が生涯を通じてデジタルインクの創造する価値を体験できる「Life-long Ink」のビジョンを掲げ、最高のデジタルインク体験をお届けすべく、各種施策に取り組んでまいりました。その取り組みをさらに発展、進化させるべく新たに『Wacom Chapter3』(対象期間:2022年3月期~2025年3月期)を策定しました。

 

①『Wacom Chapter2』の振り返り

私たちが掲げた3つのテーマ「テクノロジー・リーダーシップの推進」「アイランド(ブランド事業)&オーシャン(テクノロジー事業)による緊密な連携」「大胆な選択と集中」は、相互に連関し合う全社戦略として機能し、主に以下の成果を得ることができました。

a. 製品ポートフォリオの変革

当社ブランド製品のエントリーユーザー層の裾野拡大につながる製品ポートフォリオの変革を行い、アプリケーション・パートナーとの協業を深化させたクリエイティブ領域のみならず、教育領域においても多くのお客様にインク体験をご提供することができました。これにより、開発進行中のデジタルインクに関するコア技術の将来的な高度利用につながる事業基盤の拡大に寄与しました。

 

b. ペンと紙のデジタル体験の機会拡大

タブレットやノートPCといった広く普及しているデバイスのみならず、電子ペーパーや教育事業者向けの専用デバイスなどを取り扱う多様なビジネスパートナーのお客様にも、当社グループの技術ソリューションを通じて進化したペンと紙のデジタル体験を広くご提供することができたことで、働き方や学び方などユースケースの多様化への備えが前進しました。

 

c. 筋肉質な組織体制の構築と効率重視の組織運営の実行

研究開発や技術の展開、製品企画、資材調達、品質管理、在庫管理の各領域で事業部門の壁を越えた取り組みが活性化し、課題に焦点を当てつつ利益を重視する姿勢が組織全般に浸透した結果、全社的な収益性の改善を通じて将来に向けた積極的、持続的な技術投資を支える基盤が構築できました。

 

d. 社会を構成する多様なコミュニティを意識した個人の力量発揮を促す企業文化

エンジニア組織を中心に志の高い個人が核となるプロジェクトチームを複数立ち上げ、様々なコミュニティのパートナーが有する強みとの融合を通じた価値創造によって、全ての関係者が成長を分かち合う意識の醸成が進みました。

 

これらの取り組みの結果、『Wacom Chapter2』で掲げた2022年3月期における経営指標の目標(連結営業利益率10%、連結売上高1,000億円、ROE(連結株主資本利益率)15~20%)を、1年先行する2021年3月期に達成することができました。

私たちは、脈々と続く「Life-long Ink」という長い旅路の通過点にあって、これまでの3年間で得た学びを活かし、更に発展、進化の歩みを止めることなく、2022年3月期を起点として次のステージに進むことを決意しました。

 

②『Wacom Chapter3』の骨子

a. ビジョンと5つの戦略軸

人間と社会にとって意味のある体験を、ワコムの技術を通して、長い期間ご提供し続け、この世界を少しでも人間的なものにすることに寄与すべく「Life-long Ink」のビジョンを継承し、5つの戦略軸を設定しました。

 

Technology Leadership

ワコムの提供価値の源泉である技術革新に注力する。

 

Community Engagement

コミュニティと深く連携し、価値ある体験を形成する。

 

New Core Tech, New Core Value Proposition

新しいコア技術をもとに新しい価値を創造する。

 

Technology Innovation for Sustainable Society

技術で持続可能な社会の発展に貢献する。

 

Meaningful Growth

財務的な成長に加えて、多面的な意味を持つ成長を目指す。

 

ワコムが存在しているこの社会において、将来に向けて向き合わなければならないことは何なのかを深く考えた結果、この5つの戦略軸に集約することとしました。技術をもとに価値ある体験を創り、お客様に届けることがワコムの存在意義であり、それを一社だけではなく社会を構成する仲間たちとともに学び合いながら実現させていくこと。フォーカスすべき技術領域を明示し、その技術革新を持続可能な社会の実現につなげること。これらすべてが、製品、サービスをご購入、ご利用いただくお客様、資本をご提供いただいているステークホルダーの皆様、ワコムとビジョンを共感していただくコミュニティ、ワコムのチームメンバー、そしてこの多様で多面的な社会全体の成長をもたらすと信じて、施策の立案、実行を推進してまいります。

 

b. 戦略軸を支える技術ロードマップ

私たちは、このビジョンと戦略軸を支える技術のロードマップを、様々な状況変化に対応してダイナミックに展開していくことがとても大切だと考えております。ペンやペーパー、インクに関する現行のコア技術に加えて、インク技術をAIやXR(多様な新しい現実体験)、セキュリティの各技術と融合させた新たなコア技術の社会実装を目指してまいります。

 

c. 具体的な体験の提供

『Wacom Chapter3』の最終年度までに、現行のコア技術を進化させた新たな商品ポートフォリオの展開と新しい顧客群の開拓に加えて、AIやXR、セキュリティに関する新たなコア技術を応用して、教育や創造支援、空間描画、著作権保護の領域で新しい製品、サービスが提供できるよう取り組んでまいります。

 

d. コミュニティや社会との関わり

私たちは、「アート、テクノロジー、学び」を中長期及び社会的な視点から持続的に支えていくために、新たな視点や発想を取り入れ、社会を構成する個々のコミュニティや一人一人の「多面的な成長」の実現に貢献していきたいと考えております。その一環として、2021年2月16日に設立された一般社団法人コネクテッド・インク・ビレッジの活動を尊重し、支援する取り組みを実施しております。

 

e. ワコムが考える成長のイメージ

私たちは、財務的な成長をしっかりと追求するとともに、「Life-long Ink」の理念のもと、お客様や様々なコミュニティのパートナーの皆様とともに、「意味深い成長」(Meaningful Growth)を目指します。「意味深い成長」とは、ワコムの財務的な成長だけではなく、私たちのお客様が製品・サービスのユーザー体験を通じて感じる成長であり、私たちが日々の暮らしを営む社会やコミュニティ全体が新たな学びを積み重ねていくことであり、一人一人の自己実現を通じた成長で構成されると考えております。

財務的な成長については、現行のコア技術やビジネスモデルを進化させる形で安定的に事業を成長させていくことに加えて、新たなコア技術やビジネスモデルの開発への投資を通じて、『Wacom Chapter3』の後半2年間において新規ビジネスの萌芽をつくりだし、2026年3月期以降の次のステージにおいて成長を加速させてまいります。

投資効率を意識した成長を促進させるための新たな経営指標としてROIC(投下資本利益率)を導入するとともに、多様で専門的な視点を有する取締役会メンバーによる本質的な議論をさらに活発化させ、経営の質を高めることで企業価値の向上を目指します。

 

(2)経営環境

世界経済の基盤は安定化しておりますが、引き続き、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行の影響を受けており、ワクチン接種率の増加により景況感が改善しているものの、一方ではウイルスの変異株による新たな感染拡大が懸念される状況にあります。また、コロナ禍の混乱や政策支援の規模が多様なため、各国間や業種間で経済回復の差が拡大しており、世界経済の先行きは依然不透明な状況にあります。これらの情勢を背景に、企業業績に与える影響の大きい今後の為替相場の動向についても、対ドル、対ユーロともに不透明感があります。IT市場を中心とする事業環境については、IoTによるデータソースの多様化、モバイル、クラウド、ビッグデータ、ソーシャルネットワークなどの技術革新に伴う情報処理の低価格化、利用の容易化がさらに進んでいくことが見込まれております。

 

(3)目標とする経営指標

このような状況下、前述の5つの戦略軸を柱に、以下の経営指標を達成することを目標としております。

①事業活動の効率性

新たな指標としてROIC(投下資本利益率)25~30%程度を目安として事業を運営してまいります。

 

②資本の効率性

ROE(自己資本利益率)20%程度を想定しております。

 

③株主還元

配当方針については、適正な財務の健全性を確保することを念頭に、連結ベースの配当性向の目安を30%程度としたうえで、1株当たり配当の中長期的な増加を通じた利益還元に努めてまいります。自己株式取得については、投資機会や財務状況などを考慮のうえ、経営環境の変化に対応した機動的な資本政策として遂行してまいります。

2【事業等のリスク】

当社グループの経営成績、株価及び財務状況等に影響を及ぼす可能性のあるリスクには以下のようなものがあります。

なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであり、不確実性が内在しているため、実際の結果と異なる可能性があります。

 

(1)経営環境に関するリスク

①為替レートの変動

当社グループの製品の販売は、日本国内に関しては当社で、海外に関しては大半を海外子会社で、また、製品の生産は、中国を中心とした外注製造会社にて行っております。現在、決済通貨は米ドル、ユーロ、日本円等であり、そのうち米ドルによる決済額が最も大きくなっております。米ドルに関しては、主に中国からの製品購入と、アメリカ及びアジア・オセアニア地域への製品販売の決済額をバランスさせることを基本としておりますが、販売地域別の製品ラインの動向や為替変動などを総合的に勘案しつつ、為替リスクの回避に努めております。また、ユーロなどの米ドル以外の通貨に関しては、変動幅などを考慮しつつ、為替予約等の柔軟な運用により為替リスクの回避に努めております。しかしながら、為替に急激な変動がある場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(2)事業活動に関するリスク

①業績の季節的変動

当社グループは、過去からの販売動向として、年末商戦や国内における年度末需要などの影響により、下期に増加する傾向があり、製品投入の時期によって四半期の業績が変動する可能性があります。

また、直近において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行によりオンライン教育及びテレワークの普及に伴う需要が増加し販売動向に影響を及ぼすなど、新たな事象の発生が各期の業績に変動をもたらす可能性があります。

 

②市場環境の変化

当社グループは、世界各国で販売活動を行っていること、クリエイティブソリューションにおいて当社製品がデザイン制作現場等のプロフェッショナルクリエイターに使用されていること、当社のテクノロジーソリューション事業の主要顧客がスマートフォンメーカー、ノートPC・タブレットメーカーであること等から、世界各国の経済動向、グラフィックス業界の動向、PC市場動向等が業績に影響を及ぼす可能性があります。

また、当社の製品は、Windows OSやMac OSに対応した製品を主力としており、製品構成上は、ハードウェアは共通であり、ドライバーソフトウェアのみが対応するOSによって異なっております。今後、当社製品が新規に登場又は普及するOSやCPU等の新しいプラットフォームへの対応に遅れた場合や、互換性確保に問題が起きた場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。

なお、市場環境の著しい悪化に伴い、当社グループが保有する固定資産の収益性が低下した場合には、減損損失の計上により、業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

③海外進出及び国際的活動

当社グループは、国境・地域を越えた生産、販売等を行っているため、地政学的観点から地域紛争が発生する場合や現地の労使関係に問題が発生した場合などは、生産委託先による製品の製造や物流活動、当該地域の当社子会社の販売活動等に支障を生じる可能性があります。その他、主要な海外市場における経済情勢の悪化、競争激化、移転価格税制等の国際税務リスクが発生した場合においても、業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

④特定の販売先への依存

当社グループの販売先は多岐にわたっておりますが、テクノロジーソリューション事業における主要販売先であるサムスングループへの販売実績の割合は、総販売実績に対し、前連結会計年度は24.7%、当連結会計年度は21.5%であります。

サムスングループへの売上高は、サムスングループ製品の需要動向の影響を間接的に受ける可能性があります。また、サムスングループの経営戦略の変更等が、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、今後も引き続き、最適なソリューションの提供等による顧客満足の獲得に努め、顧客の多様化による当該リスクの最小化に努めてまいります。

 

⑤他社との競争

当社グループは、グローバル市場を指向した製品開発、マーケティングを基本戦略としておりますが、特定の地域に特化した競合メーカーが、地域内シェアの獲得のために極端な市場戦略をとったり、国内産業保護政策などを利用して当社グループの参入を阻害する場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。

また、技術開発については、技術動向に留意し他社技術を積極的に評価しつつ、現行のペンやインクのデジタル技術に限定されずに進めていく必要がありますが、当社技術が短期間で陳腐化したり、想定していなかった新たな入力手段が出現し、それが急速に普及した場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。

なお、技術的環境の著しい悪化に伴い、当社グループが保有する固定資産の収益性が低下した場合には、減損損失の計上により、業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、引き続きテクノロジー・リーダーシップの推進により、当社グループの提供価値の源泉である技術革新に注力してまいります。

 

⑥外部企業への製造依存

当社グループにとって生産委託先は、大量生産能力とコスト競争力に加えて、急速な需要変動に対応する供給力を備えており、当社事業戦略上の重要な位置を占めております。前述のとおり、中国を中心とした外注製造会社に生産を委託しているなか、米中貿易摩擦に対する関税リスク軽減策として、一部製品ラインの生産については中国以外の地域に移管するなど、コスト面にも配慮しつつ生産委託先の最適化・分散化を進めております。しかしながら、今後、生産委託先の経営上の問題、あるいは、生産委託先の工場において自然災害等の不慮の事故が発生し、製品の継続的生産が難しくなる場合、もしくは、生産委託先の工場を変更又は追加し、工場側の習熟に時間を要する場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑦基幹部品、部材の供給と価格

今後、プラスチックケースや汎用部品のコストが上昇したり、IC、プリント基板、液晶等の汎用基幹部品が不足する場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。また、ペンスイッチ用セラミック部品やカスタムICなど当社独自の基幹部品についても、自然災害等によりセラミックメーカーやICメーカーからの継続的供給に問題が発生するなど、供給体制に問題が生じる場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、基幹部品についてのセカンドソースの早期確保や代替部品の開発に努めておりますが、汎用部品に関しては、長期需要予測による早期部品手配などによりリスクとコストの削減を図る必要があります。なお、当社グループ又は生産委託先が調達する部品に含まれる重金属・プラスチック等の素材について、各国の法規制又は当社製品の販売先の基準等により使用又は使用量の制限等に変更がある場合には、部品・設計の変更等が必要となり、製造コストや管理コストが上昇するなど、業績に影響を及ぼす可能性があります。また、かかる部品を含む製品を販売した後に、これらの規制又は基準が変更された場合にも、製品の取替えが要求されるなど、業績に影響を及ぼす可能性があります。

直近においては、半導体を中心とした電子部品や材料の調達納期が長期化し、納期を守れないリスクが増大する中、鍵となる主要部品に関して、先行手配と納期管理を強化しております。今後も、半導体製品の世界規模での争奪戦を予想し調達の確保に取り組んでまいります。

 

⑧製品の欠陥又は重大な品質問題

当社グループは、品質維持に万全を期しておりますが、製造物責任賠償や大規模なリコールにつながる欠陥が明らかとなった場合は、賠償金その他による多額のコスト負担はもとより、当社グループ及び当社製品への信頼・評価に深刻な影響を与え、業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、これらの問題に対処するため、引き続き、生産委託先における生産状況の監視や、管理プロセス及び市場において発見された品質問題の共有データベースシステムの強化等に取り組んでまいります。

 

⑨人材の確保

当社グループは、企画、開発、設計、製造、販売、サービス等の各機能に必要な人材確保にグローバルで努めております。しかしながら労働市場における人材の獲得競争は激化しており、有能な人材の採用や雇用の継続が困難になった場合は、研究開発に十分な資源を投入できないことによる製品競争力の低下や労働力不足による製品の安定供給への支障など、結果として当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、有能な人材が流出してしまった場合には、今後の事業展開に制約を受けることとなり、その結果、業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑩情報セキュリティ

当社グループは、コンピューターウイルス等によるサイバー攻撃に対しての備えとして、IT環境の整備・強化や社員の情報リテラシー(情報活用能力)を高めるため定期的な教育等の対応を継続的に行っておりますが、想定外の攻撃によるリスクは残るものと考えております。そのため、外部からのサイバー攻撃やコンピューターウイルスの侵入等によるデータの棄損や漏洩を完全に防止できるものではなく、被害の規模により、業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、今後も引き続き、外部によるサイバーセキュリティー評価への対応、全社の情報区分・管理体制の構築、社内外に対する技術情報管理対応、全社トレーニングの改善、ローカルサーバーのクラウド移行の継続等に取り組んでまいります。

 

⑪自然災害と事故等

当社グループでは、自然災害・事故等の発生に備えたリスク管理を実施しておりますが、大地震等の大規模自然災害や火災等の突発的な事故が発生した場合には、製造設備の損害等によりサプライチェーン全体へ支障が生じるおそれがあり、被害の規模により、業績に影響を及ぼす可能性があります。

また、新型の感染症等が拡大した場合も同様に、業績に影響を及ぼす可能性があります。

なお、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行については、依然、収束の時期についての見通しは立っておらず、業績に与える影響を合理的に予測することは困難であります。当社グループは、全世界的に、テレワークの実施等柔軟な勤務体制を継続することで、従業員の安全を確保し、感染拡大防止に向けた社会的責任を果たしております。

 

(3)法的規制及び訴訟等に関するリスク

①知的財産権への抵触・侵害

当社グループは、新製品の開発・発売に際し、他社及び個人の特許権・商標権等への抵触・侵害が発生しないよう現地特許事務所等を利用して事前調査を行い、可能性が予見できる場合には回避策をとるなど、他社及び個人の知的財産権の侵害を未然に防止できるよう、万全の注意を払っております。しかしながら、各国の法制度の違いや、データベース調査の限界によって予見できない場合、さらには当社製品の発売後に権利化された場合には、特許権等に抵触するなどの可能性は完全に排除することはできません。そのような場合には、他社又は個人から特許権等の知的財産権の侵害としてクレームを受けたり、提訴される可能性があります。一方、他社から侵害があった場合も、クレームや訴訟等断固たる処置をとりますが、経過によっては、業績に影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループの特許権等の知的財産権の権利期間が満了したり、あるいは、特許訴訟や無効審判請求などによって特許権の権利範囲の変更や無効の判断が出された場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、今後も引き続き、第三者の知的財産権に対する侵害の予防や当社グループが保有する知的財産権の保護への対策を検討、実施してまいります。

 

②法的規制等

当社製品が販売されている各国においては、電磁波規制や安全規制、製造物責任(PL)関連法等が定められております。当社グループは、法規制の動向に留意し、製品・サービスの迅速な対応に努めておりますが、新規規制の制定や規制変更に関して十分な対応がとれない場合や、我が国又は当社製品の生産委託先国において、輸出規制又は輸入規制の変更があった場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。また、関税などの監督当局による法令の解釈、規制、税率の変更などにより、業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

③独占禁止法適用等

世界主要地域において、当社グループのペンタブレット市場シェア(国内シェア:97.1%(期間:2020年1月1日~12月31日 株式会社BCN調べ)※)がさらに拡大し、各国政府より当社グループが技術の発達や自由な競争を妨げ、市場の発展や顧客利益を損なっていると判断された場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(※)世界シェアについては、公表されたデータがないため、記載しておりません。

 

④機密情報及び個人情報の管理

当社グループは、事業上の重要情報及び事業活動の過程で入手した個人情報や顧客、取引先、提携先等の機密情報を保有しておりますが、昨今、国内外においてはGDPR(EU一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)に代表される個人情報を主体とする各種情報の保護に対する法令の制定が進んでおり、その遵守のためのルール整備や情報システムの強化が求められております。当社グループにおいても、関係法令遵守のため、当社グループの個人情報保護方針を明示し、社内規程類の整備と運用及び社員への教育を行っておりますが、万一、不測の事態によってこれらの情報が漏洩した場合や、違反に対する当局からの制裁金や訴訟による損害賠償金等を支払うこととなった場合は、被害の規模により、業績に影響を及ぼす可能性があります。

直近においては、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行に伴うWEBセミナーの増加や、教育などの新規分野へのアプローチにより、個人情報の収集機会は増加しており、各国の法令に合わせたプライバシーポリシーの変更、CCPA対応、クッキー管理ツールの導入、プロジェクト支援等の対応を進めております。今後はさらに、各国毎のポリシーの整備継続、中国個人情報保護法への対応、越境データへの対応、社内トレーニングの実施等に取り組んでまいります。

 

⑤コンプライアンス

当社グループは、国内外で事業活動を行っており、また、関連する法令や規則は広範囲にわたっております。国内では、会社法、税法、金融商品取引法、独占禁止法、知的財産法、情報管理・個人情報保護法、労働法、貿易・環境規制など、海外でもその地域における事業活動に関連する法令や規則を遵守することが求められております。

当社グループでは、コンプライアンス リスク コミッティや第三者が運営する内部通報制度であるWacom Speak-up Lineを設置し、コンプライアンス推進体制を確立しております。役員及び従業員に対しては、ワコム倫理・行動規範を社内ポータルサイトに掲示し、定期的なオンライン教育やセミナーを実施するなどして、コンプライアンスの全社的な徹底を図っております。

しかしながら、このような施策を講じてもコンプライアンス上のリスクを完全に取り除くことは困難であり、関連する法令や規則の義務を実行できない事態が生じた場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

3【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要は次のとおりであります。

 

①財政状態及び経営成績の状況

当連結会計年度(2020年4月1日から2021年3月31日まで)における当社グループを取り巻く事業環境において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行により経済活動が著しく制限されたことから、世界経済は当連結会計年度初頭に深刻な景気後退に陥りました。その後、各国での経済活動の再開と中国での経済成長による緩やかな回復は見られましたが、2020年末にかけて先進国を中心に同感染症が再び拡大したことにより回復が失速し、以降も各国でのワクチン接種の進捗や政策支援の有効性の違いなどにより先行き不透明な状況が続きました。このような情勢下、IT市場では、IoT(モノのインターネット)による情報ネットワークの拡大やデータソースの多様化に加え、世界各地で人の移動制限によりモバイル、クラウド、ビッグデータ、ソーシャルネットワークの重要性が高まり、それらに関連した技術革新や利便性向上などが見られました。なお、同期間の主要通貨に対する円相場は、各国の景気や金融・貿易政策等に対する見方を反映し、前年同期の平均レートと比較すると対ドル及び対中国元では僅かに円高、対ユーロでは僅かに円安となりました(為替変動による連結業績への影響は、売上高を約16億円押し下げ、営業利益を約1億円押し上げたと試算)。

 

このような事業環境の下、当社グループは、2019年3月期に策定した2022年3月期を最終年度とする中期経営計画「Wacom Chapter2」の達成に向け、「テクノロジー・リーダーシップ・カンパニー」としてペンやインクのデジタル技術で常に市場の主導権を握りつつ、持続的な成長を目指してまいりました。当連結会計年度では、2019年3月期よりスタートした経営チームの下で、IoT、VR(仮想現実)/MR(複合現実)、AI(人工知能)、セキュリティ(安全性)、教育といった成長分野において、事業モデルを一段と進化させるための将来戦略を協業先とともに推し進め、経営判断の質の向上を通して生産性やコスト構造の改善など経営課題にも全社的に取り組みました。

 

ブランド製品事業については、創造性発揮のための最高体験をお客様にお届けするため、技術革新に取り組むとともに、顧客サービスの向上に努めました。当連結会計年度では、主力のクリエイティブソリューションにおいてディスプレイ製品及びペンタブレット製品を中心に販売を伸ばしたことなどから、ブランド製品事業全体としての売上高は、前年同期を上回りました。

 

テクノロジーソリューション事業については、デジタルペン技術(アクティブES:Active Electrostatic、EMR:Electro Magnetic Resonance)の事実上の標準化に取り組むとともに、タブレット・ノートPC市場での利用拡大や教育市場での事業機会の拡大に努めました。当連結会計年度では、AESテクノロジーソリューション及びEMRテクノロジーソリューション他ともに売上高が前年同期を上回ったことから、テクノロジーソリューション事業全体としての売上高は、前年同期を上回りました。

 

中期経営計画の経営課題に対する全社的な取り組みとしては、利益重視の経営を目指し、組織やオペレーション(資材調達、生産管理等)の改革とコスト構造の改善などに努め、開発エンジニアリングやオペレーションにおいて事業間の垣根を越えた連携を図りました。さらに、当社が「テクノロジー・リーダーシップ・カンパニー」として技術開発及び革新に一層集中するため開発エンジニアリングと品質保証に関わる組織改編も実施しました。一方で、販管費については必要性の見極めを行うなど最適化に引き続き取り組みました。

また、2020年11月には、アート、テクノロジー、文房具、教育などの異業種・異文化パートナーが参加するコミュニティイベント「Connected Ink(コネクテッド・インク)2020」を開催し、最新のデジタルトランスフォーメーション及びインク・テクノロジーと多様なエコシステム・パートナーとの組み合わせにより生み出されるコミュニティを通じて未来の社会のために活動する新たな試みを始めました。

(注)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行による当社グループの事業活動への影響及び取り組みについては、「第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ①財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容 <新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響及び取り組み>」に記載のとおりであります。

 

これらの結果、当連結会計年度の財政状態及び経営成績は次のとおりとなりました。

a. 財政状態

当連結会計年度末における資産の残高は、71,181,334千円となり、前連結会計年度末に比べ20,025,631千円増加しました。これは主に、現金及び預金が10,501,136千円、商品及び製品が5,461,392千円及び流動資産のその他が1,352,135千円増加したことによります。

負債の残高は、33,492,517千円となり、前連結会計年度末に比べ10,071,588千円増加しました。これは主に、買掛金が4,256,470千円、未払法人税等が3,584,159千円及び賞与引当金が3,068,540千円増加したことによります。

純資産の残高は、37,688,817千円となり、前連結会計年度末に比べ9,954,043千円増加しました。これは主に、親会社株主に帰属する当期純利益10,225,669千円増加し、剰余金の配当で1,136,976千円減少したことによります。これらの結果、自己資本比率は前連結会計年度末に比べ1.3ポイント減少し、52.9%となりました。

 

b. 経営成績

当連結会計年度における売上高は108,531,067千円(前年同期比22.5%増)となり、営業利益は13,407,240千円(同140.8%増)、経常利益は14,090,803千円(同171.3%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は10,225,669千円(同161.0%増)となりました。

そして、中期経営計画で掲げた経営課題解決への着実な取り組みと戦略の遂行により、主要な経営指標の目標(連結営業利益率10%、連結売上高1,000億円、連結株主資本利益率15~20%)を当連結会計年度において早期に達成することができました。

 

②キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前連結会計年度末に比べ、10,501,136千円増加(前年同期は4,778,741千円増加)し、当連結会計年度末には32,042,603千円となりました。

 

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの内訳は、次のとおりであります。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動の結果得られた資金は、14,578,204千円(前年同期は13,057,842千円の収入)となりました。これは、当連結会計年度において税金等調整前当期純利益14,032,795千円及び仕入債務の増加額3,933,683千円などの収入要因が、たな卸資産の増加額5,177,812千円などの支出要因を上回ったことによります。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動の結果使用した資金は、1,381,960千円(前年同期は1,959,907千円の使用)となりました。主な内訳は、有形固定資産の取得による支出1,052,891千円及び無形固定資産の取得による支出179,418千円であります。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動の結果使用した資金は、4,053,092千円(前年同期は5,824,509千円の使用)となりました。主な内訳は、長期借入金の返済による支出2,000,000千円、配当金の支払額1,136,716千円及び短期借入金の返済による支出500,000千円であります。

 

③生産、受注及び販売の実績

a. 生産実績

当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2020年4月1日

至 2021年3月31日)

前年同期比(%)

ブランド製品事業(千円)

32,197,498

157.3

テクノロジーソリューション事業(千円)

34,407,658

114.6

合計(千円)

66,605,156

131.9

(注)1.上記の金額には、消費税等は含まれておりません。

2.上記の金額には、製品仕入実績を含んでおります。

 

b. 受注実績

当社グループは見込み生産を行っているため、該当事項はありません。

 

c. 販売実績

当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2020年4月1日

至 2021年3月31日)

前年同期比(%)

ブランド製品事業(千円)

56,678,100

133.1

テクノロジーソリューション事業(千円)

51,852,967

112.7

合計(千円)

108,531,067

122.5

(注)1.最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

相手先

前連結会計年度

(自  2019年4月1日

至  2020年3月31日)

当連結会計年度

(自  2020年4月1日

至  2021年3月31日)

金額(千円)

割合(%)

金額(千円)

割合(%)

サムスングループ

21,899,720

24.7

23,326,545

21.5

2.上記の金額には、消費税等は含まれておりません。

3.サムスングループには、主に、Samsung Electronics Japan Co., Ltd.、Samsung Electronics Co., Ltd.が含まれております。

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

①財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

a. 経営成績等

当社グループのセグメントごとの業績に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりであります。

なお、事業環境の変化に適合したより適切な業績説明を行うため、当連結会計年度より、各セグメントの業績説明におけるカテゴリーの範囲、名称及び記載順を一部変更しております。

 

◎ ブランド製品事業

 

<クリエイティブソリューション>

クリエイティブソリューションは、ディスプレイ製品及びペンタブレット製品の売上高が前年同期を大幅に上回ったことなどから、大幅な増収となりました。また、当連結会計年度では、一部製品において、アンドロイドOSやクロームOSへの対応を進めました。

 

○ ディスプレイ製品

「Wacom Cintiq Pro(ワコム シンティック プロ)」は、営業活動の制約、経年等により、前年同期の売上高を大幅に下回りました。一方で、前連結会計年度に発表したエントリーモデル「Wacom Cintiq(ワコム シンティック)22」、「Wacom One(ワコム ワン)液晶ペンタブレット13」を中心に拡販に努めました。これらの結果、ディスプレイ製品全体の売上高は、前年同期を大幅に上回りました。

 

○ ペンタブレット製品

「Wacom Intuos Pro(ワコム インテュオス プロ)」は、営業活動の制約、経年等の影響がある中、前年同期の売上高を上回りました。また、オンライン教育及びテレワークの普及に伴う需要増加により、「Wacom Intuos(ワコム インテュオス)」、「One by Wacom(ワン バイ ワコム)」は、いずれも前年同期の売上高を大幅に上回りました。これらの結果、ペンタブレット製品全体の売上高は、前年同期を大幅に上回りました。

 

○ モバイル製品他

デジタルペン搭載タブレット市場が拡大し競争環境が大きく変化するなか、前連結会計年度に発表したWindows 10搭載クリエイティブタブレット「Wacom MobileStudio Pro(ワコム モバイルスタジオ プロ)」の寄与により、モバイル製品の売上高は、前年同期を僅かに上回りました。一方で、モバイル製品以外のスタイラスペン製品を中心とした売上高は、前年同期を大幅に下回りました。これらの結果、モバイル製品他全体の売上高は、前年同期を下回りました。

 

<ビジネスソリューション>

液晶サインタブレット「STU(エスティーユー)」シリーズの売上高は、営業活動の制約が生じ、前年同期を大幅に下回りました。この結果、ビジネスソリューション全体の売上高は、前年同期を小幅に下回りました。

 

これらの結果、ブランド製品事業の売上高は56,678,100千円(前年同期比33.1%増)、セグメント利益は9,095,758千円(同433.0%増)となりました。また、売上高の増加に伴う在庫水準の上昇などにより、セグメント資産は前連結会計年度末に比べ3,191,721千円増加の15,648,086千円となりました。

 

◎ テクノロジーソリューション事業

 

<AESテクノロジーソリューション>

生産、サプライチェーンオペレーションの制限があった中、AESテクノロジーソリューション全体の売上高は、前年同期を小幅に上回りました。アクティブES方式デジタルペン製品については、OEM(相手先ブランド名製造)提供先のメーカー各社から引き続き高い評価を得ております。

 

<EMRテクノロジーソリューション他>

OEM提供先のメーカー向けの売上高は、全体として増加しました。この結果、EMRテクノロジーソリューション他全体の売上高は、前年同期を上回りました。

 

これらの結果、テクノロジーソリューション事業の売上高は51,852,967千円(前年同期比12.7%増)、セグメント利益は9,260,421千円(同21.0%増)となりました。また、売上高の増加に伴う売掛金の増加や在庫水準の上昇などにより、セグメント資産は前連結会計年度末に比べ4,867,925千円増加の14,619,288千円となりました。

<新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響及び取り組み>

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行による当連結会計年度での当社グループの事業活動への影響及び取り組みについては、下記のとおりであります。

ブランド製品事業では、当連結会計年度において、新製品に対する導入・販促活動が十分に展開できず、また、営業活動が制約されました。特に後者については、主にビジネスソリューションやクリエイティブソリューションのプロ向けのディスプレイ製品の販売に影響を及ぼしました。一方で、家庭でのオンライン教育の志向の高まりなどにより、主にクリエイティブソリューションのペンタブレット製品の中低価格帯モデル(「Wacom Intuos」、「One by Wacom」)に加えて、ディスプレイ製品のエントリーモデル(「Wacom Cintiq」、「Wacom One 液晶ペンタブレット13」)の販売が好調に推移しました。

テクノロジーソリューション事業では、当連結会計年度において、生産、サプライチェーンオペレーションが制限されたことや法人向けPC需要の一部伸び悩みなどから、主にAESテクノロジーソリューションの業績に影響を及ぼしました。

全社的な取り組みとしては、全世界的に、テレワークの実施等柔軟な勤務体制を継続することで、従業員の安全確保、感染拡大防止に向けた社会的責任の遂行を図りました。

 

b. 経営成績に重要な影響を与える要因

当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因については、「第2 事業の状況 2 事業等のリスク」に記載のとおりであります。当社グループは、これらのリスクに対して、継続的にモニタリングを行って現状把握に努めるとともに、低減・回避等の対応に努めております。なお、当連結会計年度末現在において、「第2 事業の状況 2 事業等のリスク」に記載されたリスクに関する重要な事象等は存在しておりません。

 

②キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

a. キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容

当連結会計年度における当社グループのキャッシュ・フローの状況については、「第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。

当社グループの事業活動における資金需要の主なものは、AI(人工知能)やVR(仮想現実)/MR(複合現実)分野といった成長市場に対応した新製品や次世代デジタルペン技術にかかる研究開発費、量産出荷のための金型設備投資、コーポレート部門における業務効率向上のためのITシステム投資であります。なお、設備もしくはシステムとして資産計上される資本的支出の規模は、毎期20億円~25億円程度を目安としております。当連結会計年度においては、製品量産用金型や自動組立機への投資などがあるものの、投資計画そのもののキャンセルや投資時期の見直しがあり、総額約12億円となりました。

 

b. 資本の財源及び資金の流動性

当社グループの資金調達、資金運用等に関する取り組み方針については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(金融商品関係)」に記載のとおりであります。なお、当連結会計年度末における有利子負債の残高は、約67億円(借入金60億円、リース負債約7億円)であります。

また、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は、約320億円であります。

 

③重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成には、経営者による会計方針の採用や、資産・負債及び収益・費用の計上及び開示に影響を与える見積りを必要とします。経営者はこれらの見積りについて、過去の実績等を勘案し、合理的に判断しておりますが、実際の結果は見積り項目特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。

当社グループの連結財務諸表で採用する重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載のとおりであります。

また、会計上の見積りを行うに際して使用した重要な仮定は、合理的であると判断しております。

連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

なお、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大が会計上の見積りに与える影響については、将来の業績の不確実性の程度が会計上の見積りに与える感応度は低い状況であると判断し、評価時点において入手可能な情報に基づく最善の見積りを行っております。

 

④経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

当社グループは、2019年3月期からスタートした『Wacom Chapter2』において、お客様が生涯を通じてデジタルインクの創造する価値を体験できる「Life-long Ink」のビジョンを掲げ、最高のデジタルインク体験をお届けすべく、各種施策に取り組んでまいりました。その取り組みをさらに発展、進化させるべく新たに『Wacom Chapter3』(対象期間:2022年3月期~2025年3月期)を策定し、以下の経営指標を達成することを目標としております。

a. 事業活動の効率性

新たな指標としてROIC(投下資本利益率)25~30%程度を目安として事業を運営してまいります。

 

b. 資本の効率性

ROE(自己資本利益率)20%程度を想定しております。

 

c. 株主還元

配当方針については、適正な財務の健全性を確保することを念頭に、連結ベースの配当性向の目安を30%程度としたうえで、1株当たり配当の中長期的な増加を通じた利益還元に努めてまいります。自己株式取得については、投資機会や財務状況などを考慮のうえ、経営環境の変化に対応した機動的な資本政策として遂行してまいります。

 

4【経営上の重要な契約等】

該当事項はありません。

 

5【研究開発活動】

当社グループは、「Life-long Ink」をビジョンとし、戦略軸を支える技術のロードマップを様々な状況変化に対応してダイナミックに展開していくことがとても大切だと考えております。ペンやペーパー、インクに関する現行のコア技術に加えて、その技術をAIやXR(多様な新しい現実体験)、セキュリティの各技術と融合させた新たなコア技術の開発を進めております。さらに、現行のコア技術を進化させた新たな商品ポートフォリオの展開と新しい顧客群の開拓に加えて、AIやXR、セキュリティに関する新たなコア技術を応用した社会実装を進め、教育や創造支援、空間描画、著作権保護の領域で新しい製品、サービスが提供できるよう、研究開発活動に取り組んでおります。

当社グループの研究開発活動の内容は、①基礎技術・要素技術の研究、②新製品の企画、商品化開発、③既存製品の改良・改善に大別されます。研究開発部門は、要素技術や製品のシステム構成を反映したグループによって構成されており、それぞれが地域を越えたグローバル組織として構成されております。ハードウェア関連の技術開発、製品開発は国内を中心に行い、クラウドサービスでのデジタルインク関連技術はブルガリア、ドライバーソフトウェアの開発は米国、デジタルサインとセキュリティ関連は英国を中心に開発しております。また、ペンソリューションのOEM顧客向けカスタム開発は台湾でも行うなど、各技術の特徴・要求を考慮した組織を各地域に置き、開発活動を行っております。

新製品の企画・開発においては、製品企画、設計開発に加えて、品質、SCM、マーケティングを交えたプロジェクトチーム制を採用し、地域や組織を越えて柔軟に運用しております。これらにより、グローバルスタンダードとなりうる製品を、企画・開発から市場投入まで一貫して管理し、製品仕様の向上や品質の確保、開発期間の短縮を可能にしております。

研究開発体制は、下図のとおりとなっております。なお、当連結会計年度において、技術開発の革新を図るべく、従来の事業別組織体制から全社統合組織体制に変更しております。これにより、知見と経験の全社的共有と活用、設計と技術開発の連携、ハードウェアとソフトウェアの統合的開発などを可能としております。

 

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当連結会計年度における各セグメント別の研究の目的、主要課題、研究成果及び研究開発費は、次のとおりであります。

なお、研究開発費については、各セグメントに配分できない基礎研究費用(27,001千円)が含まれており、当連結会計年度の研究開発費の総額は4,662,595千円となっております。

 

①ブランド製品事業

世界の先進ユーザーのニーズを先取りして、グローバルスタンダードとなりうる製品を継続的に市場に提供するため、新規技術・新規製品の開発に積極的に取り組むとともに、ユーザーインターフェイスの分野において知的財産権の拡大を図っております。また、急速に普及しつつあるVRコンテンツのデザインに対応する当社独自のVR空間内での描画ソリューションの開発や、ペンの性能と書き心地のさらなる追求のための次世代ペン技術の開発にも取り組んでおります。

クリエイティブソリューションにおいては、スマートフォンやタブレッド市場において普及しているアンドロイドOSへの対応を前期から継続し、一部製品において対応を可能としました。また、近年の教育現場デジタル化需要等を背景に急速に普及しているクロームOSへの対応にも着手し、ペンタブレット「One by Wacom(ワン バイ ワコム)」にて、「Works With Chromebook」認定を取得し、ワコム初のChromebook対応製品として2021年1月に発表しました。新製品としては、三菱鉛筆株式会社と株式会社セルシスとのコラボデジタル鉛筆「Hi-uni DIGITAL for Wacom(ハイユニ デジタル フォー ワコム)」を2020年8月に発表し、アナログとデジタルの垣根を超える筆記、描画体験を提供しました。また、リモート環境での創作ワークフローを支える取り組みとして、パートナー企業との連携により、クラウド・仮想デスクトップ環境に最適化されたプロフェッショナル向けタブレット・ディスプレイの描画体験実現に向けた取り組みを進めたことに加え、VR空間内での描画ソリューションとして、コンパクトで使いやすいエルゴノミクスデザインを採用し、また、ペンを握る力の強弱を利用した筆圧感知を実装し、より自然な描画体験を実現した「Wacom VR Pen(ワコム ブイアール ペン)」を2020年11月に発表しました。

ビジネスソリューションにおいては、当社独自のサイン認証技術「GSV(General Signature Verification)」の開発を引き続き推進しております。

さらに、デジタルインク技術である「WILL(Wacom Ink Layer Language)」の開発を継続しております。

ブランド製品事業に係る研究開発費は1,904,831千円であります。

 

テクノロジーソリューション事業

アクティブES(Active Electrostatic)方式デジタルペン技術とタッチ技術については、タブレットや 2 in 1 システムでの搭載の拡大に向けて開発を取り組んでおります。また、OEM顧客のシステムへ当社技術を搭載していくことに加え、ITエコシステムの中で当社ペン技術が「事実上の標準」として位置付けられるように、OS等のプラットフォームパートナーと共にペンのレベルを進化させていく共同取り組みを実施しており、より付加価値の高いソリューションを顧客へご提供できるように取り組んでおります。

EMR(Electro Magnetic Resonance)方式ペン・センサー技術については、スマートフォン市場に加えて文教ソリューション及びデジタル文具市場の開拓を図るべく技術開発とソリューション提供を実施し、OEM顧客が提供するGIGAスクール構想対応タブレットモデルへの採用やePaper(電子ペーパー)ディスプレイを搭載するeNote(電子ノート)への搭載拡大に寄与しました。

テクノロジーソリューション事業に係る研究開発費は2,730,763千円であります。