文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針、経営戦略及び対処すべき課題
当社グループは、2022年3月期~2025年3月期を対象期間とするグループ中期経営方針『Wacom Chapter3』の期間が終了し、新中期経営計画『Wacom Chapter4』に向けた展望とともに、以下のとおり『Wacom Chapter3』及び2023年5月11日に発表したその「アップデート・レポート」に則って事業を展開し、業績改善に向けた事業構造改革に取り組んでまいりました。
①Technology Leadership(ワコムの提供価値の源泉である技術革新に注力)
新たなユースケースに対応した商品ポートフォリオ刷新の一環として、当社初の有機ELペンタブレット「Wacom Movink(ワコム ムービンク)」を上市し、異なる場所や姿勢で常にクリエイティブに向き合うプロクリエイター並びにデザインやアートを学ぶ学生の皆様の期待に応える、まったく新しいカテゴリーの製品を通じた創作体験をご提供しております。
②Community Engagement(コミュニティと深く連携し、価値ある体験を形成)
新しい技術を共同で開発していく技術コミュニティ、新しいビジネスを開拓していくビジネスコミュニティ、そして新しい文化体験を創出していく文化コミュニティ等、多岐に亘るコミュニティとの連携を推進中であります。
③New Core Tech, New Core Value Proposition(新しいコア技術をもとに新しい価値を創造)
デジタル手書きの技術をXR(クロスリアリティ)、AI(人工知能)、セキュリティ(安全性)の三分野にて掛け合わせることにより新たな体験価値を提供すべく、具体的な技術開発を推進中であります。XR分野では独自のメタバース空間を立上げると同時に「空間描画」を可能にするWacom VR Penの開発を進め、AI分野では株式会社Z会との共同開発を通じて生徒の試行錯誤を可視化する同社の新しい学習体験サービスの拡充、拡大に貢献、セキュリティ分野ではクリエイターの権利を守るサービス「Wacom Yuify(ワコム ユイファイ)」のオープンベータ版の提供(描画アプリケーションサービス事業者への展開)を開始しております。また、リモート環境でも限りなくローカルPCでの作業と同じペン入力体験を可能にするプロクリエイター向けの革新的なテクノロジーソリューション「Wacom Bridge(ワコム ブリッジ)」のオープンベータ版の提供も開始しております。
④Technology Innovation for Sustainable Society(技術で持続可能な社会の発展に貢献)
商品開発、技術開発の一環として、修理しやすい構造の追求、リサイクルしやすい金属部品やリサイクルプラスチックの活用、商品箱の簡易化やリサイクル素材の活用といった即効性のあるものに加えて、アカデミアとの共同研究を通じて環境ケア新素材の開発にも取り組んでおります。
⑤Meaningful Growth(財務的な成長に加えて、多面的な意味を持つ成長を目指す)
私たちは、技術をもとに製品・サービスのユーザー体験を通じてお客様に価値を届けることがワコムの存在意義であり、それを一社だけではなくそれぞれのコミュニティのメンバーとともに学び合いながら実現させていくことが、社会の成長に貢献することにつながると信じております。Meaningful Growthを具現化する体験として毎年11月にコミュニティイベント「Connected Ink(コネクテッド・インク)」を開催すると同時に、その思いを皆様により深く理解していただくための一環として、当社グループの価値提供と取り組みをとりまとめ、2023年5月10日に発行した「Wacom Story Book(ワコム ストーリーブック)」について、重要課題を中心にアップデート版の制作に取り掛かっております。
当社グループは、引き続き以下の課題等に対処しながら、「Life-long Ink」のビジョンを達成してまいります。
1.ブランド製品事業の構造改革と商品ポートフォリオの強化
ブランド製品事業の構造改革による固定費の削減、商品ポートフォリオの強化、販路マネジメントの改善などを通じて、収益の改善に取り組んでまいります。
2.新技術領域の事業化と収益化
XR、AI、セキュリティなどの新技術を活用したデジタルインクサービスの立ち上げを進めておりますが、これらの技術を活用した事業領域の拡大と収益化に取り組んでまいります。
3.グローバル市場での競争力強化とオペレーション効率化
グローバルメーカーとの競争や為替相場の変動、サプライチェーンの地域リスクなど、グローバル市場での競争力強化とオペレーション効率化という課題に取り組んでまいります。
(2)経営環境
世界経済はロシア・ウクライナ情勢及び中東地域に起因した地政学的緊張が続くなか、米国の新たな関税政策の発表により、その後のインフレ動向、景況感に及ぼす影響について依然として不透明感のある状況であります。これらの情勢を背景に、企業業績に与える影響の大きい今後の為替相場の動向についても不透明感があります。IT市場を中心とする事業環境については、モバイル、クラウド、AI、ブロックチェーンなどの技術革新に伴う情報処理の低価格化、利用の容易化がさらに進んでいくことが見込まれております。
(3)目標とする経営指標
当社グループは、2022年3月期~2025年3月期を対象期間とするグループ中期経営方針『Wacom Chapter3』に則って事業を展開してまいりました。その取り組みをさらに発展、進化させるため、新たな中期経営計画『Wacom Chapter4』(対象期間:2026年3月期~2029年3月期)を策定し、企業価値向上に向けて最終年度(2029年3月期)までに、次の経営指標を達成することを目標としております。
「企業価値向上」=「利益創出力の強化(※1)」×「市場評価の向上(※2)」
※1 事業成長 連結売上高1,500億円、連結営業利益150億円
資本効率性の改善 ROE(自己資本利益率)20%以上、ROIC(投下資本利益率)18%以上
将来に向けた投資 R&D+設備投資620億円、技術資本提携120億円以上
※2 株主還元強化 総還元性向50%以上、累進配当制度導入(年間配当金下限22円)
当社グループは、中期経営計画『Wacom Chapter4』において、究極の「かく」体験を追求する道具屋として、「かく」ことを支えながら環境負荷を減らすことを掲げており、サステナビリティを巡る課題対応を経営戦略の重要な要素と認識しております。サステナビリティについての取り組み及び人的資本や知的財産への投資等の内容について、具体的な活動や事例をコミュニティイベント「Connected Ink(コネクテッド・インク)」等において発表するなど幅広い情報提供に努めております。また、当社ウェブサイトにおいても、当社グループのサステナビリティに対する考え方などを示しております。
なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)気候変動への対応
当社グループは、気候変動への対応を重要な経営課題の一つと捉えており、気候変動イニシアティブ(JCI)に参加するとともに気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に賛同し、2030年度に達成すべきCO2排出量目標を設定し公表しております。
①ガバナンス
当社グループでは、気候変動をはじめとするサステナビリティ関連の重要課題に関して取締役会が適切に監督・助言を行うため、ESGタスクフォースを設置しております。定期的に開催するESGタスクフォースでは、サステナビリティ関連の具体的な方針や戦略、施策、環境目標への達成状況などを検討し、グループCEO、CFO、環境推進責任者、コンプライアンス リスク コミッティ事務局、IR担当者などが参加しております。ESGタスクフォースで議論された内容のうち、特に経営上のリスクや機会に関わる重要事項については、社外取締役を含む取締役会に年次をベースとして適宜報告を行っております。
②戦略
当社グループでは、ESGタスクフォースにて気候変動関連リスク及び機会の特定・評価に必要なデータやパラメータの収集を行い、事業への影響度の分析を行っております。事業への影響度と対応策の考察・分析にあたっては、国際エネルギー機関(IEA)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表するシナリオを用い、定性・定量の両面で影響度の評価を実施しております。
2022年度中に実施したシナリオ分析では、地球温暖化が深刻化する世界(4℃シナリオ)と脱炭素化への移行が活発化する世界(1.5℃シナリオ)の2パターンの仮説に基づき、2030年時点の影響を分析しております。分析の過程においては、当社グループへの直接的影響の中では国内ほか、特に海外拠点における気象災害に伴う洪水被害などの物理的リスクや、当社グループのCO2排出量等も鑑み、カーボンプライシングを始めとした脱炭素化への移行リスクを認識しております。一方で、気候変動対策及び適応を目指した様々な市場動向の変化は、例えば社会全体でペーパーレス化が推し進められた場合など、様々な場面で各種ペンタブレットの需要が増加することが想定され、新しいニーズに対応した製品・サービスの提供を通して事業機会となり得る可能性を認識しております。以上の考察・分析から、気候変動への対応は当社グループのリスクの回避緩和のみならず、社会貢献性という観点でも当社グループの重要な課題の一つとして捉えており、気候関連課題への対応の企業戦略への統合を通して、その取り組みの推進に努めてまいります。なお、より詳細な分析内容については、当社ウェブサイトにて情報開示を行っております。
③リスク管理
当社グループにおける気候変動リスクの管理体制は、グループCEOを委員長としたコンプライアンス リスク コミッティにて、その他のリスク管理プロセスに統合し管理しております。コンプライアンス リスク コミッティでは、リスクの発生及び予測されるリスクに重要な変化があった場合、海外子会社を含めた各部門の管理者が当組織に報告することを定めております。気候変動問題リスクの特定・評価はESGタスクフォースが実施しており、当社グループに重大な影響を与え得るリスクについてはコンプライアンス リスク コミッティと共有及び連携の上、最小限に抑えるため適切に管理・監督を行っております。これらの活動はグループCEOから取締役会へ定期的に報告を行っております。
④指標と目標
当社グループでの気候変動への対応については、気候変動イニシアティブに参加するとともに、2050年のカーボンニュートラルの達成に向けて、中間目標として2030年度に達成すべきCO2排出量目標を設定し公表しております。これまで日本のみを対象として2014年度を基準年とし、2030年までにCO2排出量を48%削減することを目標としておりましたが、2024年4月に、グローバル全体を対象として2021年度を基準年とし、2030年までにGHG Scope 1,2を80%削減しScope 3を25%削減する目標に修正しております。この目標は、パリ協定が定める目標に科学的に整合する温室効果ガスの排出削減目標「SBT(Science Based Targets)」基準の1.5℃水準に整合していると評価され、SBT短期目標の認定をSBTi(Science Based Targets initiative)から取得しました(2024年10月1日)。
当社グループでの温室効果ガス排出量や具体的なCO2排出量削減活動については当社ウェブサイトにて開示しており、その進捗や外部要請の変化に合わせて、随時更新を行っております。
(2)人的資本の充実・多様性の確保への対応
当社グループは、「人間にとって意味のある体験」を届ける道具屋として、自身が自ら解き放たれ、自分自身に正直に生き、自分史上最高のパフォーマンスでお客様やコミュニティと共創を重ねていく。そのような環境を作ることを大事にしております。多様性を重んじることは最も重要、かつ基本施策の一つであり、各地域における文化を尊重しながら、究極にまで個に寄り添いながら、一人ひとりの成長を支援する施策を行っております。
①ガバナンス
人的資本に関するガバナンス体制は、グループCEOが議長を務め、当社及び海外子会社におけるヒューマン リソーシズのヘッド、及び主要なビジネス部門を担当するHRビジネスパートナーから構成されるHRコアチーム(日本人2名、アメリカ人1名、中国人1名、ドイツ人1名の計5名によって構成)により、全グループにおける主要な人事施策について議論し、実施しております。重要な組織改編や人事異動、主要な人事施策の導入や変更については、随時取締役会に報告し、助言や監督を受けながら実行しております。
②戦略
a. 性別、国籍、年齢などの個人の属性にとらわれない人財の登用
当社グループでは、1,000名ほどのチームメンバーが世界中で活躍しておりますが、そのうち、半数のメンバーは国外のグループ法人での雇用となっており、それぞれ現地におけるリーダーシップの下、各国の文化やビジネスの特性を生かす形で業務に従事しております。主要な経営ポジションにおいても、性別、国籍、年齢などにとらわれず、そのミッションを遂行することへの熱意と実力を最も重要視した形で登用を行っております。また、主要な事業分野において執行の責任者を定め、事業運営に携わっております。有価証券報告書提出日現在、執行の責任者は9名で構成しており、グループCEOを含む取締役2名のほか、外国人2名(そのうち1名は女性)、日本人女性1名を含めております。多様な視点を取り入れ、様々なコミュニティに対し、「かく」という体験を新しい価値として届ける体制を整えております。なお、2025年3月期において、当社グループの管理職における女性の割合は22.9%となっております。
b. 時間と場所の制約からの開放
当社グループでは、全ての地域において、各国の労働基準法を遵守する範囲において、勤務場所を自由に選べる仕組みを整えております。オフィスへの出社は必須ではなく、個人の裁量に委ねており、勤務時間においても、フレックスを基本としております。さらに、日本においてはコアタイムなしのスーパーフレックスを導入しており、始業や終業の時間も個々の裁量、及び仕事の都合で自由に設定できるようにしております。各国の労働基準法が許す限り、同様の働き方を導入している地域も多く、時間と場所という制約を取り除き、個々のライフスタイルに合わせた働き方ができる環境を整え、自由な発想が生まれる風土を作っております。
c. よりよく生きる – 健康経営の実践
スーパーフレックスや時短勤務制度を利用し、家庭と仕事の両立を図りながら、キャリアブレイクを作らず業務復帰するチームメンバーが多く活躍しております。2025年3月期において、当社における男性の育児休業取得率は42.9%となっており、有給休暇を利用して産前産後の育児参加をする男性チームメンバーも多数存在しております。また、2025年3月期において、女性が産前産後休業を経て、育児休業から復帰する割合は100%となっております。復職にあたっては、ヒューマン リソーシズや該当する部門の上長が、復職するメンバーの状況をヒアリングし、無理のない復職プランをサポートしております。一方、自由に働く場所を選べることにより、高齢の御両親の介護のために、実家に戻り、そこから勤務を続けるチームメンバーが、日本のみならず、各国に存在しております。可能な限り、仕事を続けられる環境を作ることを大切にし、制度を整え、周辺の理解を得られるような風土作りをしております。
さらに、当社においては、健康経営を重視しており、産業医による月2回の健康相談の開催、健康相談アプリの導入、年に1度行うストレスチェックの結果を経営陣と共有し、常に健全な状態を継続できるよう努めております。
d. 実践に勝る学びなし – 人財育成戦略
経験値を増やし、実践と失敗から学ぶことを大切にし、熱意ある人財を主要プロジェクトに活用、その資産をもって事業の中核を担っております。
イ.Extended Core(ETC)と呼ばれる商品企画チームにおいて、商品企画未経験でも情熱と一定のワコム経験があれば年齢や職責に関わらずリーダーに抜擢し、権限をもって商品開発のリードをアサインします。
ロ.喫緊に解決が必要な課題に対してタスクフォースチーム(TFT)が結成されます。入社間もないZ世代でも主要メンバーになります。
ハ.コミュニティと共に生き、そして学ぶことを大切にしております。チームメンバーは「Connected Ink(コネクテッド・インク)」イベントに参加し、自らステージで顧客やパートナー企業とプロジェクトの成果を発表したり、ブースを顧客と共に運営することで、事業運営やコミュニティと共に生きることを身をもって体験し、大きく成長する機会となっております。さらに、全てのメンバーは、会社以外のコミュニティと何らかのつながりが必ず存在することを踏まえ、『Wacom Chapter4』の戦略方向性の一つである、「コミュニティと共に生きる」を実践するために、職場以外での活動、兼業、副業という形態を含めた取り組みもサポートしております。
さらに、自発的な学びの意欲を尊重し、学びたいときにすぐにアクセスできるE-Learningのプラットフォームを、当社グループ全体で導入し、当社グループに所属しているチームメンバーであれば、国や雇用形態に関わらず、誰でも利用できるように準備しております。
③リスク管理
究極の「かく」体験を追求する道具屋として、その価値の土台は高い技術力によって支えられております。様々な技術革新を生み出す技術者の育成、確保が最も重要と考え、人財育成に注力しておりますが、育成期間がかかることがあり、さらに優れた人財確保、リテンションに際し、将来的に人財コストが上昇するリスクがあります。当社グループでは、グループCEO自ら技術部門の主要メンバーと対話を重ね、価値と方向性の理解を深めてもらうコミュニケーションの機会を多く作り、さらに報酬レベルの見直しも行うことで、継続的な人財確保と育成に取り組んでおります。
さらに、年に1度、「Wacom Code of Ethics and Business Conduct(ワコム倫理・行動規範)」のリフレッシュトレーニングを行っており、職場における倫理規定を改めて理解しなおす機会を設けております。毎年当社グループにおいて、90%以上のチームメンバーがトレーニングを修了します。なお、問題が発生した場合、速やかに、そして匿名でも声を上げられるように、リスクホットラインの仕組みをグループ共通で整えており、柔軟性とスピード感をもって対応しております。
また、グループCEOと全てのチームメンバーが直接対話できるオフィス環境作りと、ヒューマン リソーシズや部門長が、細やかに一人ひとりに寄り添い、丁寧に話を聞いて問題解決に取り組む風土作りを続けております。
④指標と目標
外見的な属性だけにとらわれない、真の意味での多様性の確保と、チームメンバーがやりがいを感じながら持てる力を存分に発揮できるような風土を醸成することが究極の目標であります。現状、性別や国籍等の特定の属性の管理職への登用等の数値目標を敢えて設定していないものの、当社グループの中で進行している「ワコムが目指すべきダイバーシティー&インクルージョンのあるべき姿」の議論と、様々なステークホルダーとの対話を踏まえ、数値化して取り組むべきと判断した項目については、しっかりと数値目標を立てて取り組みを管理運営するとともに、その過程を透明性高く開示してまいります。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営環境に関するリスク
①為替レートの変動
当社グループにおける製品の販売は、日本国内に関しては当社で、海外に関しては大半を在外子会社で、また、製品の生産は、海外の外注製造会社にて行っており、決済通貨は米ドル、ユーロ、日本円等であります。そのため、各国の経済環境、関税規制、政治的状況による金利水準の上下動等による為替レートの変動リスクが一定程度存在しており、為替動向を見据えた通貨の売買、為替予約の利用、外国通貨の保有手段の多様化、取得通貨での支払いの推進等の実施により、当該リスクの回避に努めております。しかしながら、為替レートが急激に変動した場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。
(2)事業活動に関するリスク
①市場環境の変化
当社グループは、世界各国で販売活動を行っていること、クリエイティブソリューションにおいて当社製品がデザイン制作現場等のプロフェッショナルクリエイターに使用されていること、テクノロジーソリューション事業の主要顧客がスマートフォンメーカー、ノートPC・タブレットメーカーであること等から、世界各国の経済動向、グラフィックス業界の動向、PC市場動向等が業績に影響を及ぼす可能性があります。
PC市場においては、ディスプレイ技術の劇的な変化、ペン技術やIoTデバイスの浸透による多くの競合他社の参入、また、教育のDX化及び生成AI進化等に伴い、ペンの価値提案が高難度化しております。これらに対応して、ペンの価値の再定義及びリソース配分やロードマップを見直すとともに、特定の教育サービスパートナーと協業し、ニーズにマッチしたサービス開発を進めております。
クリエイティブ市場においては、①ワークフローの変化や生成AIの一般化、デバイス環境の変化及び競合環境の激化により求められるツールの変化、②貿易政策の転換その他の政策による世界的な消費冷え込みに伴うコンシューマトレンドの変化、③VFX(ブイエフエックス)市場のリセッションに伴うメディア&エンターテインメント市場の投資ホールドの影響等が生じております。これらに対応して、製品ポートフォリオの見直し、注力カテゴリー(製品、市場、地域)の設定、開発・SCMと連携した関税リスク回避施策(生産国変更等)をタイムリーに展開しております。
なお、市場環境が著しく悪化した場合、棚卸資産評価損や固定資産に係る減損損失の計上により、業績に影響を及ぼす可能性があります。
②海外進出及び国際的活動
当社グループは、国境・地域を越えた生産、販売等を行っているため、地政学的観点から地域紛争が発生する場合や現地の労使関係に問題が発生した場合などは、生産委託先による製品の製造や物流活動、当該地域の当社子会社の販売活動等に支障を生じる可能性があります。その他、主要な海外市場における経済情勢の悪化、競争激化、移転価格税制等の国際税務リスクが発生した場合においても、業績に影響を及ぼす可能性があります。
③特定の販売先への依存
当社グループの販売先は多岐にわたっておりますが、テクノロジーソリューション事業における主要販売先であるサムスングループへの売上高の割合は、連結売上高に対し、前連結会計年度は39.7%、当連結会計年度は42.0%であります。サムスングループへの売上高は、サムスングループ製品の需要動向の影響を間接的に受ける可能性があり、サムスングループの経営戦略の変更等が、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、今後も引き続き、最適なソリューションの提供等による顧客満足の獲得に努め、顧客の多様化による当該リスクの最小化に努めてまいります。
④外部企業への製造依存
生産委託先は、大量生産能力とコスト競争力に加えて、急速な需要変動に対応する供給力を備えており、当社グループの事業戦略において重要な位置を占めております。中国を中心とした外注製造会社に生産を委託しているなか、米中貿易摩擦に対する関税リスク軽減策として、一部製品ラインの生産については中国以外の地域に移管するなど、コスト面にも配慮しつつ生産委託先の最適化・分散化を進めております。しかしながら、今後、生産委託先の経営上の問題、あるいは、生産委託先の工場において自然災害等の不慮の事故が発生し、製品の継続的生産が難しくなる場合、もしくは、生産委託先の工場を変更又は追加し、工場側の習熟に時間を要する場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。
⑤基幹部品、部材の供給と価格
今後、プラスチックケースや汎用部品のコストが上昇したり、IC、プリント基板、液晶等の汎用基幹部品が不足する場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。また、ペンスイッチ用セラミック部品やカスタムICなど当社グループ独自の基幹部品についても、自然災害等によりセラミックメーカーやICメーカーからの継続的供給に問題が発生するなど、供給体制に問題が生じる場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、基幹部品についてのセカンドソースの早期確保や代替部品の開発に努めておりますが、汎用部品に関しては、長期需要予測による早期部品手配などによりリスクとコストの削減を図る必要があります。なお、当社グループ又は生産委託先が調達する部品に含まれる重金属・プラスチック等の素材について、各国の法規制又は当社製品の販売先の基準等により使用又は使用量の制限等に変更がある場合には、部品・設計の変更等が必要となり、製造コストや管理コストが上昇するなど、業績に影響を及ぼす可能性があります。また、かかる部品を含む製品を販売した後に、これらの規制又は基準が変更された場合にも、製品の取替えが要求されるなど、業績に影響を及ぼす可能性があります。
直近においては、半導体を中心とした電子部品や材料の調達納期が長期化し、納期を守れないリスクが増大するなか、鍵となる主要部品に関して、在庫増加や長期供給契約のリスクを十分に勘案しつつ、先行手配と納期管理を強化しております。また、開発体制を見直し、サプライチェーンを強化することによって価格競争力を高めるよう努めております。
⑥製品の欠陥又は重大な品質問題
当社グループは、品質維持に万全を期しておりますが、製造物責任賠償や大規模なリコールにつながる欠陥が明らかとなった場合は、賠償金その他による多額のコスト負担はもとより、当社グループ及び当社製品への信頼・評価に深刻な影響を与え、業績に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、これらの問題に対処するため、引き続き、生産委託先における生産状況の監視や、管理プロセス及び市場において発見された品質問題の共有データベースシステムの強化等に取り組んでまいります。
⑦人材の確保
当社グループは、企画、開発、設計、製造、販売、サービス等の各機能に必要な人材確保にグローバルで努めております。しかしながら、労働市場における人材の獲得競争は激化しており、有能な人材の採用や雇用の継続が困難になった場合は、研究開発に十分な資源を投入できないことによる製品競争力の低下や労働力不足による製品の安定供給への支障など、結果として当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、有能な人材が流出してしまった場合には、今後の事業展開に制約を受けることとなり、その結果、業績に影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、これらの問題に対処するため、新たな人材確保ルートの開拓、報酬レベルの見直し、社内におけるリスキリングの推奨等を進めております。
⑧情報セキュリティ
当社グループは、コンピューターウイルス等によるサイバー攻撃に対しての備えとして、IT環境の整備・強化や社員の情報リテラシー(情報活用能力)を高めるため定期的な教育等の対応を継続的に行っておりますが、想定外の攻撃によるリスクは残るものと考えております。そのため、外部からのサイバー攻撃やコンピューターウイルスの侵入等によるデータの棄損や漏洩を完全に防止できるものではなく、被害の規模により、業績に影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、今後も引き続き、外部によるサイバーセキュリティ評価への対応、全社の情報区分・管理体制の構築、社内外に対する技術情報管理対応、全社トレーニングの改善、ローカルサーバーのクラウド移行の継続等に取り組んでまいります。
⑨自然災害と事故等
当社グループでは、自然災害・事故等の発生に備えたリスク管理を実施しておりますが、大地震等の大規模自然災害や火災等の突発的な事故が発生した場合には、製造設備の損害等によりサプライチェーン全体へ支障が生じるおそれがあり、被害の規模により、業績に影響を及ぼす可能性があります。
また、新型の感染症等が拡大した場合も同様に、業績に影響を及ぼす可能性があります。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行においては、当社グループは、全世界的にテレワークの実施等柔軟な勤務体制を継続することで、コロナ禍後の新しい働き方の在り方を検討するとともに、従業員の安全を確保し、感染拡大防止に向けた社会的責任を果たしております。
(3)法的規制及び訴訟等に関するリスク
①知的財産権への抵触・侵害
当社グループは、新製品の開発・発売に際し、他社及び個人の特許権・商標権等への抵触・侵害が発生しないよう現地特許事務所等を利用して事前調査を行い、可能性が予見できる場合には回避策をとるなど、他社及び個人の知的財産権の侵害を未然に防止できるよう、万全の注意を払っております。しかしながら、各国の法制度の違いや、データベース調査の限界によって予見できない場合、さらには当社製品の発売後に権利化された場合には、特許権等に抵触するなどの可能性は完全に排除することはできません。そのような場合には、他社又は個人から特許権等の知的財産権の侵害としてクレームを受けたり、提訴される可能性があります。一方、他社から侵害があった場合も、クレームや訴訟等断固たる処置をとりますが、経過によっては、業績に影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループの特許権等の知的財産権の権利期間が満了したり、あるいは、特許訴訟や無効審判請求などによって特許権の権利範囲の変更や無効の判断が出された場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、今後も引き続き、第三者の知的財産権に対する侵害の予防や当社グループが保有する知的財産権の保護への対策を検討、実施してまいります。
②法的規制等
当社製品が販売されている各国においては、電磁波規制や安全規制、製造物責任(PL)関連法等が定められております。当社グループは、法規制の動向に留意し、製品・サービスの迅速な対応に努めておりますが、新規規制の制定や規制変更に関して十分な対応がとれない場合や、我が国又は当社製品の生産委託先国において、輸出規制又は輸入規制の変更があった場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。また、関税などの監督当局による法令の解釈、規制、税率の変更などにより、業績に影響を及ぼす可能性があります。
③独占禁止法適用等
世界主要地域において、当社グループのペンタブレット市場シェア(※)がさらに拡大し、各国政府より当社グループが技術の発達や自由な競争を妨げ、市場の発展や顧客利益を損なっていると判断された場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。
(※)株式会社BCN公表による「BCNランキング」(株式会社BCNとデータ提供契約を締結している全国の主要家電量販店やネットショップ等のPOSデータを集計)によれば、ペンタブレット部門における当社製品の年間(2024年1月~12月)販売台数のシェアは89.4%となっております。世界シェアについては、公表されたデータがないため、記載しておりません。
④機密情報及び個人情報の管理
当社グループは、事業上の重要情報及び事業活動の過程で入手した個人情報や顧客、取引先、提携先等の機密情報を保有しておりますが、昨今、国内外においてはGDPR(EU一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)に代表される個人情報を主体とする各種情報の保護に対する法令の制定が進んでおり、その遵守のためのルール整備や情報システムの強化が求められております。当社グループにおいても、関係法令遵守のため、当社グループの個人情報保護方針を明示し、社内規程類の整備と運用及び社員への教育を行っておりますが、万一、不測の事態によってこれらの情報が漏洩した場合や、違反に対する当局からの制裁金や訴訟による損害賠償金等を支払うこととなった場合は、被害の規模により、業績に影響を及ぼす可能性があります。
直近においては、WEBセミナーの増加や、教育などの新規分野へのアプローチにより、個人情報の収集機会は増加しており、各国の法令に合わせたプライバシーポリシーの変更、CCPA対応、クッキー管理ツールの導入、プロジェクト支援等の対応を進めております。今後はさらに、各国毎のポリシーの整備継続、中国個人情報保護法への対応、越境データへの対応、社内トレーニングの実施等に取り組んでまいります。
⑤コンプライアンス
当社グループは、国内外で事業活動を行っており、また、関連する法令や規則は広範囲にわたっております。国内では、会社法、税法、金融商品取引法、独占禁止法、知的財産法、情報管理・個人情報保護法、労働法、貿易・環境規制など、海外でもその地域における事業活動に関連する法令や規則を遵守することが求められております。
当社グループでは、コンプライアンス リスク コミッティや第三者が運営する内部通報制度であるWacom Speak-up Lineを設置し、コンプライアンス推進体制を確立しております。役員及び従業員に対しては、ワコム倫理・行動規範を社内ポータルサイトに掲示し、定期的なオンライン教育やセミナーを実施するなどして、コンプライアンスの全社的な徹底を図っております。
しかしながら、このような施策を講じてもコンプライアンス上のリスクを完全に取り除くことは困難であり、関連する法令や規則の義務を実行できない事態が生じた場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。
(1)経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要は次のとおりであります。
①財政状態及び経営成績の状況
当連結会計年度(2024年4月1日から2025年3月31日まで)における当社グループを取り巻く事業環境において、世界経済はロシア・ウクライナ情勢に加えて中東地域に起因した地政学的緊張が続くなか、インフレ率の鈍化と日本を除く主要国の中央銀行による金融緩和策も示され底堅い成長が見られたものの、米国の追加関税政策の発表により先行き不透明感が高まるものとなりました。このような情勢下、IT市場では、モバイル、クラウド、AI、ブロックチェーンなどに関連した技術革新や利便性向上などが見られました。なお、同期間の主要通貨に対する円相場は、各国の景気や金融・貿易政策等に対する見方を反映し、前年同期の平均レートと比較すると対米ドルで小幅に、対ユーロ及び対中国元で僅かに円安となりました。
このような事業環境の下、当社グループは、2021年5月12日に発表した2025年3月期を最終年度とする中期経営方針『Wacom Chapter3』及び2023年5月11日に発表したその「アップデート・レポート」における施策に則って、ペンやインクのデジタル技術で常に市場の主導権を握り、「意味深い成長(財務的な成長だけではなく、私たちのお客様が製品・サービスのユーザー体験を通じて感じる成長であり、私たちが日々の暮らしを営む社会やコミュニティ全体が新たな学びを積み重ねていくことであり、一人一人の自己実現を通じた成長で構成される多面的な意味を持つ成長)」を目指して事業運営にあたりました。当連結会計年度では、XR(クロスリアリティ)、AI(人工知能)、セキュリティ(安全性)、教育などといった成長分野において、事業モデルを一段と進化させるための戦略を協業パートナーと推し進めるとともに、生産性やコスト構造の改善にも努め、経営判断の質の向上を通して経営課題に取り組みました。
ブランド製品事業については、創造性発揮のための最高体験をお客様にお届けするため、技術革新に取り組むとともに、顧客サービスの向上に努めました。当連結会計年度では、主力のクリエイティブソリューションにおいて、ディスプレイ製品、ペンタブレット製品ともに売上高が前年同期を下回ったことから、ブランド製品事業全体としての売上高は、前年同期を下回りました。
テクノロジーソリューション事業については、デジタルペン技術(アクティブES:Active Electrostatic、EMR:Electro Magnetic Resonance)の事実上の標準化に取り組むとともに、タブレット・ノートPC市場での利用拡大や教育市場での事業機会の拡大に努めました。当連結会計年度では、AESテクノロジーソリューションの売上高が前年同期を下回りましたが、EMRテクノロジーソリューションの売上高が前年同期を上回ったことから、テクノロジーソリューション事業全体としての売上高は、前年同期を上回りました。
中期経営方針の戦略軸に沿った全社的な取り組みとしては、当社グループの事業を取り巻く環境が大きく変化し、事業構造を変革させる必要が生じているとの認識の下で、当連結会計年度を中期経営方針『Wacom Chapter3』の「事業構造変革期間(2024年3月期から2025年3月期まで)」の最終年度と位置付けました。ブランド製品事業においては、商品ポートフォリオの刷新を含む構造改革に取り組み、2024年4月には新しいユースケース「ポータブル クリエイティブ」を確立すべく「Wacom Movink(ワコム ムービンク) 13」を、2025年2月には小型化と高精度に刷新したフラッグシップペンタブレット「Wacom Intuos Pro(ワコム インテュオス プロ)」を発表しました。また、企業価値の中長期的な向上を目指す観点からは、当社グループが持つデジタルペンの技術価値や各要素を「ペンとインクの統合体験」として市場実装すべく、次世代の成長エンジンとなる技術開発を推進し、積極的な投資を行っております。2024年11月には、多様な領域のパートナーと共創するコミュニティイベント「Connected Ink(コネクテッド・インク)2024」を開催し、最新のデジタルインク・テクノロジーを駆使した教育向けサービスやクリエイターの権利保護などの開発状況などを発表しました。また、学びや医療等も含む様々な分野での協業関係を更に深化させるため、AI技術を活用したソリューションなどを開発する株式会社Preferred Networksの第三者割当増資を引き受け2024年11月に1,000百万円を出資しました。学びやビジネスシーンを含む様々な分野での新たなプラットフォームを展開するためIoTソリューションを提供するJENESIS株式会社の株式を2025年3月に20百万円で取得しました。
サステナビリティの取り組みについても、当社グループは、気候変動問題を環境経営における重要な課題として捉え、温室効果ガスの削減に向けて、気候変動が事業環境に及ぼすリスクや機会を踏まえた事業活動を行っております。その一環として、ステークホルダーに対してより信頼性、透明性の高いデータを開示するため、2024年8月には、2024年3月期の温室効果ガス排出量データ(Scope 1,2,3)について、国際基準に準拠した第三者検証による第三者保証報告書を取得し、2024年10月には、温室効果ガス排出削減目標について、SBTi(Science Based Targets initiative)によるSBT短期目標の認定を取得しております。
これらの結果、当連結会計年度の財政状態及び経営成績は次のとおりとなりました。
a. 財政状態
当連結会計年度末における資産の残高は、70,771,224千円となり、前連結会計年度末に比べ8,848,433千円減少しました。これは、投資有価証券が1,552,993千円増加し、現金及び預金が7,296,513千円、売掛金が1,296,465千円減少したことなどによるものであります。
負債の残高は、39,911,749千円となり、前連結会計年度末に比べ3,739,685千円減少しました。これは、長期借入金(1年内返済予定の長期借入金を含む)が2,000,000千円、固定負債のその他が751,191千円減少したことなどによるものであります。
純資産の残高は、30,859,475千円となり、前連結会計年度末に比べ5,108,748千円減少しました。これは、親会社株主に帰属する当期純利益5,224,744千円により増加し、剰余金の配当2,904,876千円、自己株式の取得7,499,904千円により減少したことなどによるものであります。これらの結果、自己資本比率は前連結会計年度末に比べ1.6ポイント減少し、43.6%となりました。
b. 経営成績
当連結会計年度の業績は、売上高が115,680,799千円(前年同期比2.6%減)、営業利益は10,209,629千円(同44.7%増)、経常利益は10,394,303千円(同5.5%増)、また、特別損失において、主にブランド製品事業における事業構造改革の実施に伴い発生した特別退職金等の事業構造改善費用3,090,227千円(同432.9%増)を計上したことなどが影響し、親会社株主に帰属する当期純利益は5,224,744千円(同14.5%増)となりました。
②キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は、24,364,228千円となり、前連結会計年度末に比べ7,296,513千円減少しました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は、次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、8,330,003千円の収入(前年同期は17,476,294千円の収入)となりました。これは、税金等調整前当期純利益6,869,917千円及び減価償却費2,114,019千円などによるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは、2,274,095千円の支出(前年同期は2,281,207千円の支出)となりました。これは、有形固定資産の取得による支出917,468千円及び投資有価証券の取得による支出1,019,824千円などによるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは、13,169,674千円の支出(前年同期は6,431,582千円の支出)となりました。これは、長期借入金の返済による支出2,000,000千円、自己株式の取得による支出7,513,510千円及び配当金の支払額2,900,769千円などによるものであります。
③生産、受注及び販売の実績
a. 生産実績
当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
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セグメントの名称 |
金額(千円) |
前年同期比(%) |
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ブランド製品事業 |
15,214,873 |
138.1 |
|
テクノロジーソリューション事業 |
50,679,549 |
99.8 |
|
合計 |
65,894,422 |
106.7 |
(注)上記の金額には、製品仕入実績を含んでおります。
b. 受注実績
当社グループは見込み生産を行っているため、該当事項はありません。
c. 販売実績
当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
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セグメントの名称 |
金額(千円) |
前年同期比(%) |
|
ブランド製品事業 |
28,744,774 |
85.0 |
|
テクノロジーソリューション事業 |
86,936,025 |
102.3 |
|
合計 |
115,680,799 |
97.4 |
(注)最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
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相手先 |
前連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
当連結会計年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
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金額(千円) |
割合(%) |
金額(千円) |
割合(%) |
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サムスングループ(※) |
47,108,643 |
39.7 |
48,534,124 |
42.0 |
(※)サムスングループには、Samsung Electronics Japan Co., Ltd.、Samsung Electronics Co., Ltd.を含んでおります。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において判断したものであります。
①財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
a. 経営成績等
当社グループのセグメントごとの業績に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりであります。
(ブランド製品事業)
<クリエイティブソリューション>
クリエイティブソリューションは、市場環境の変化による影響を受けるなか、ディスプレイ製品、ペンタブレット製品ともに販売が減少し、前年同期の売上高を下回りました。
○ ディスプレイ製品
プロ向けモデルは、2024年4月に新製品を投入したことで需要が増加したことなどから前年同期の売上高を上回りました。プロ向けモデル以外は、消費者行動の変化等の影響により前年同期の売上高を大幅に下回りました。これらの結果、ディスプレイ製品全体の売上高は、前年同期を下回りました。
○ ペンタブレット製品
プロ向けモデルは、2025年3月に新製品を投入しましたが、旧モデルの終息及び買い控えの影響もあり前年同期の売上高を小幅に下回りました。プロ向けモデル以外は、一部モデルの販売終了などにより前年同期の売上高を下回りました。これらの結果、ペンタブレット製品全体の売上高は、前年同期を下回りました。
<ビジネスソリューション>
ビジネスソリューションは、金融・医療・官公庁などの需要が堅調に推移しましたが、全体の売上高は、前年同期を僅かに下回りました。
これらの結果、ブランド製品事業の売上高は28,744,774千円(前年同期比15.0%減)、セグメント損失は2,879,178千円(前年同期はセグメント損失4,520,456千円)となりました。また、棚卸資産や売掛金が減少したことなどから、セグメント資産は前連結会計年度末に比べ1,943,084千円減少し、11,404,122千円となりました。
(テクノロジーソリューション事業)
<AESテクノロジーソリューション>
市場環境の変化による影響を受けるなか、AESテクノロジーソリューション全体の売上高は、前年同期を小幅に下回りました。
<EMRテクノロジーソリューション>
OEM提供先の需要が増加したことから、EMRテクノロジーソリューション全体の売上高は、前年同期を小幅に上回りました。
これらの結果、テクノロジーソリューション事業の売上高は86,936,025千円(前年同期比2.3%増)、セグメント利益は18,495,277千円(同12.2%増)となりました。また、棚卸資産が増加したことなどから、セグメント資産は前連結会計年度末に比べ1,311,194千円増加し、22,371,395千円となりました。
b. 経営成績に重要な影響を与える要因
当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因については、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおりであります。当社グループは、これらのリスクに対して、継続的にモニタリングを行って現状把握に努めるとともに、低減・回避等の対応に努めております。
②キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
a. キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容
当連結会計年度における当社グループのキャッシュ・フローの状況については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。
当社グループの事業活動における資金需要の主なものは、XR、AI、セキュリティ、教育といった成長分野に対応した新製品や次世代デジタルペン技術に係る研究開発費、量産出荷のための金型設備投資であります。なお、設備もしくはシステムとして資産計上される資本的支出の規模は、毎期20億円~25億円程度を目安としております。当連結会計年度においては、製品量産用金型や自動組立機への投資などがあるものの、投資内容や時期の見直しなどもあり総額14億円となりました。
b. 資本の財源及び資金の流動性
当社グループの資金調達、資金運用等に関する取組方針については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(金融商品関係)」に記載のとおりであります。なお、当連結会計年度末における有利子負債の残高は、127億円(借入金120億円、リース負債7億円)であります。
また、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は、244億円であります。
③重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成には、経営者による会計方針の採用や、資産・負債及び収益・費用の計上及び開示に影響を与える見積りを必要とします。経営者はこれらの見積りについて、過去の実績等を勘案し、合理的に判断しておりますが、実際の結果は見積り項目特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。
当社グループの連結財務諸表で採用する重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載のとおりであります。
また、会計上の見積りを行うに際して使用した重要な仮定は、合理的であると判断しております。
連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。
④経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、2022年3月期~2025年3月期を対象期間とするグループ中期経営方針『Wacom Chapter3』に則って事業を展開してまいりました。その取り組みをさらに発展、進化させるため、新たな中期経営計画『Wacom Chapter4』(対象期間:2026年3月期~2029年3月期)を策定し、企業価値向上に向けて最終年度(2029年3月期)までに、次の経営指標を達成することを目標としております。
「企業価値向上」=「利益創出力の強化(※1)」×「市場評価の向上(※2)」
※1 事業成長 連結売上高1,500億円、連結営業利益150億円
資本効率性の改善 ROE(自己資本利益率)20%以上、ROIC(投下資本利益率)18%以上
将来に向けた投資 R&D+設備投資620億円、技術資本提携120億円以上
※2 株主還元強化 総還元性向50%以上、累進配当制度導入(年間配当金下限22円)
当連結会計年度における『Wacom Chapter3』財務方針のガイドラインで掲げた各経営指標の結果は次のとおりであります。また、2021年5月13日から2025年3月31日までの期間に、総額200億円を上限とする自己株式の取得を実施する方針を策定しており、当連結会計年度において累計75億円(累計10,772,900株)の自己株式の取得を実施し、2021年5月13日以降の自己株式取得額の累計は200億円となりました。
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前連結会計年度 (2024年3月期 実績) |
当連結会計年度 (2025年3月期 実績) |
2024年3月期~ 2025年3月期 財務方針のガイドライン |
(参考) 2029年3月期目標 |
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ROIC (投下資本利益率) (注)1 |
13.9% |
22.7% |
10%以上 |
- |
|
ROIC (投下資本利益率) (注)2 |
10.6% |
16.3% |
- |
18%以上 |
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ROE (自己資本利益率) |
11.9% |
15.6% |
10~15%程度 |
20%以上 |
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配当性向 |
67.5% |
59.5% |
30%程度。それを上回る場合でも原則として安定的な配当額を維持。 |
総還元性向50%以上(累進配当+機動的な自己株式の取得) |
(注)1.2024年3月期~2025年3月期、財務方針のガイドラインでの算定方法に基づく数値であります。
ROIC=税引後営業利益 / (正味運転資本の期首期末平均+事業用資産の期首期末平均)
事業用資産:有形固定資産+無形固定資産+他資産(うち事業用と定義するもの)
(注)2.『Wacom Chapter4』(対象期間:2026年3月期~2029年3月期)での算定方法に基づく数値であります。
ROIC=税引後営業利益 / (純資産+有利子負債)
記載すべき重要な事項はありません。
当社グループは、「Life-long Ink」をビジョンとし、戦略軸を支える技術のロードマップを様々な状況変化に対応してダイナミックに展開していくことがとても大切だと考えております。ペンやペーパー、インクに関する現行のコア技術に加えて、その技術をXR(クロスリアリティ)、AI(人工知能)、セキュリティ(安全性)の各技術と融合させた新たなコア技術の開発を進めております。また、現行のコア技術を進化させた新たな商品ポートフォリオの展開と新しい顧客群の開拓に加えて、AIなどの新たなコア技術の社会実装への応用を進め、教育や創造支援、空間描画、著作権保護の領域で新しい製品、サービスが提供できるよう、研究開発活動に取り組んでおります。さらに、環境に配慮した製品の開発やワコム独自の取り組みを通して、引き続き、持続可能な世界の実現に貢献してまいります。
当社グループの研究開発活動の内容は、①基礎技術・要素技術の研究、②新製品の企画、商品化開発、③既存製品の改良・改善に大別されます。研究開発部門は、要素技術や製品のシステム構成を反映したグループによって構成されており、それぞれが地域を越えたグローバル組織として構成されております。ハードウェア関連の技術開発、製品開発は国内を中心に行い、クラウドサービスでのデジタルインク関連技術はブルガリア、ドライバーソフトウェアの開発は米国、デジタルサインとセキュリティ関連は英国を中心に開発しております。また、ペンソリューションのOEM顧客向けカスタム開発は台湾や中国でも行うなど、各技術の特徴・要求を考慮した組織を各地域に置き、開発活動を行っております。さらに、株式会社Preferred Networksやエスディーテック株式会社などとのパートナーシップにより、AI技術の向上を図っております。
新製品の企画・開発においては、製品企画、設計開発に加えて、品質、SCM、マーケティングを交えたプロジェクトチーム制を採用し、地域や組織を越えて柔軟に運用しております。これらにより、グローバルスタンダードとなりうる製品を、企画・開発から市場投入まで一貫して管理し、製品仕様の向上や品質の確保、開発期間の短縮を可能にしております。
研究開発体制は、下図のとおりであります。
当連結会計年度における各セグメント別の研究の目的、主要課題、研究成果及び研究開発費は、次のとおりであります。
なお、研究開発費については、各セグメントに配分できない基礎研究費用(152,302千円)が含まれており、当連結会計年度の研究開発費の総額は
①ブランド製品事業
世界の先進ユーザーのニーズを先取りして、グローバルスタンダードとなりうる製品を継続的に市場に提供するため、新規技術・新規製品の開発に積極的に取り組むとともに、ユーザーインターフェイスの分野において知的財産権の拡大を図っております。また、急速に普及しつつあるVRコンテンツのデザインに対応する当社独自のVR空間内での描画ソリューションの開発や、ペンの性能と書き心地のさらなる追求のための次世代ペン技術の開発にも取り組んでおります。
クリエイティブソリューションにおいては、2024年4月には新しいユースケース「ポータブルクリエイティブ」を確立すべく「Wacom Movink(ワコム ムービンク) 13」を、2025年2月には小型化と高精度に刷新したフラッグシップペンタブレット「Wacom Intuos Pro(ワコム インテュオス プロ)(2025)」を発表しました。また、2024年12月にはリモート環境下においてプロフェッショナルタブレット・ディスプレイでローカル環境と変わらない描画体験をご提供するためのサービスとして、すでにサポートしている「Splashtop(スプラッシュトップ)」に加え、「アマゾン ウェブ サービス(AWS)」に対応した「Wacom Bridge(ワコム ブリッジ)」の提供を開始しました。
ビジネスソリューションにおいては、当社独自の生体サイン取得および認証技術を組み込んだソフトウェアの開発を引き続き推進しております。
さらに、2024年11月にはクリエイターやアーティストが制作したデジタル作品の保護と著作者証明を可能にするサービス「Wacom Yuify(ワコム ユイファイ)」のオープンベータ版の提供を開始しました。
ブランド製品事業に係る研究開発費は
②テクノロジーソリューション事業
アクティブES(Active Electrostatic)方式デジタルペン技術とタッチ技術については、従来より採用実績のあるタブレットや2in1システムへの搭載の拡大に加えて、画面折りたたみ式PCのようなフォルダブルデバイスなど、最新の表示デバイスへの搭載に向けて開発に取り組んでおります。また、OEM顧客のシステムへ当社技術を搭載していくことに加えて、ITエコシステムの中で当社ペン技術が「事実上の標準」として位置付けられるように、UPF(Universal Pen Framework)パートナーとともに、インセル型タッチパネル向けデジタルペン技術「WGP(Wacom Generic Protocol)」を採用した製品の開発を進めております。さらに、OS等のプラットフォームパートナーとともにペンのレベルを進化させていく共同の取り組みを通して、より付加価値の高いソリューションを提供できるように取り組んでおります。
EMR(Electro Magnetic Resonance)方式ペン・センサー技術については、フォルダブルデバイスを含め引き続きスマートフォン市場向けに技術開発とソリューション提供を行いました。また、文教ソリューション及びデジタル文具市場の開拓を進め、電子ペーパーディスプレイを搭載する電子ノートへの搭載拡大に寄与しました。
以上のほか、株式会社Z会向けインクサービスの提供に向けた開発や、新たな価値提供の形としてのプラットフォームビジネスの実現に向けた開発も進めております。
テクノロジーソリューション事業に係る研究開発費は