当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(1)会社の経営の基本方針
当社グループは、社会とともに発展するよき企業市民であることを第一義とし「技術をもって社会の発展に貢献する」、「人材こそが最大かつ唯一の財産である」との経営理念のもと、「自然と技術が調和する社会を創る」ことを将来のありたい姿とするESG経営を推進しています。人権を尊重し、多様な人財が活躍する企業風土を原動力として、事業活動を通じて気候変動問題を解決することで、サステナブルな社会の実現を目指していきます。
(2)会社の経営戦略及び経営指標
当社グループは、2023年度を初年度とする3か年の中期経営計画「グループ経営方針2023」に基づき、不確実性が高い経営環境が継続する中でも持続的な高成長を実現可能な企業体質への変革を進めています。
「グループ経営方針2023」の取り組み、経営目標
① 持続的な高成長を実現する事業の変革
事業を通じて社会課題を解決し、社会と当社グループの持続的な高成長を両立するためには、お客さま事業のライフサイクルを通じた価値の提供と、バリューチェーン全体を構築することによる価値の向上が重要となります。「グループ経営方針2023」では、事業を次の3つに区分し、いずれについてもライフサイクルとバリューチェーンを強く意識しながら取り組んでいきます。
a. 成長事業:航空エンジン・ロケット分野
航空エンジン・ロケット分野は、当社グループの成長を牽引する事業と位置付けました。
航空旅客需要増加に伴う民間向け航空エンジン事業の拡大を基盤としつつ、防衛力の抜本的強化の政府方針を受けて防衛事業を拡大させると共に、長期的な成長ドライバーとして宇宙事業を推進することで、持続的な成長を目指します。カーボンニュートラルに向けた電動化・水素推進の技術開発や、民間・防衛における技術・経験のシナジーによる新たな事業創出にも取り組んでいきます。
b. 育成事業:クリーンエネルギー分野
クリーンエネルギー分野は、航空エンジン・ロケット分野と双璧をなし、当社グループの成長を牽引する事業に育成すべく取り組んでいきます。
当社グループはアンモニアの燃焼技術において世界をリードする位置にありますが、今後は、貯蔵や輸送も含めたアンモニアバリューチェーン全体を構築し価値向上を図ることで、社会やお客さまに貢献できるように努めます。また、燃料製造プロジェクトへの投資など、新たなビジネスモデルの構築にも取り組んでいきます。
c. 中核事業
資源・エネルギー・環境、社会基盤、産業システム・汎用機械分野は、引き続き当社グループの中核を担う事業と位置付けました。
中核事業のうち、市場成長が見込め、当社の強みが活かせる事業については安定的なキャッシュ創出に向け必要なリソースを投入するとともに、収益性・効率性の低い事業に関しては引き続き事業構造改革を推進していきます。
② 環境変化への対応、変革を実現しうる企業体質への変革
当社グループは、ESGを軸とする経営を徹底するとともに、事業変革のために不可欠な情報デジタル基盤の高度化、そして企業体質の変革を成し遂げる上で最も重要である変革人財の育成・獲得を積極的に進めていきます。
③ 資源配分と経営目標
成長・育成事業へ経営資源を大胆にシフトし、投資を実行していきます。一方で、財務基盤の強化に向けた取り組みに必要な資金を確保しつつ、安定的な配当を実施することを基本方針としています。
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財務目標 |
2025年度 |
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ROIC(税引後) |
8%以上 |
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営業利益率 |
7.5% |
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CCC |
100日 |
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(参考) 売上収益 |
17,000億円 |
(注)各指標の算出方法は次のとおりです。
・ROIC :(1-法定実効税率)×(営業利益+受取利息+受取配当金)
÷(親会社の所有者に帰属する持分+有利子負債の金額)
・CCC :運転資本÷売上収益×365日
・運転資本:営業債権+契約資産+棚卸資産+前払金-契約負債-営業債務-返金負債
(3)会社の対処すべき課題
<短期的な課題>
・事業ポートフォリオ改革
当社グループのさらなる成長に向け、中核事業では、低収益かつ資本効率の低い事業については、各事業領域において事業構造改革を実行し、収益性・効率性の徹底的な向上を図っていきます。一方、市場成長が見込める資本効率の高い事業については、安定的なキャッシュ・フロー拡大に向けリソースを投入していきます。
・財務基盤の強化
財務健全性は改善傾向にありますが、成長・育成事業への投資原資を確保するために営業キャッシュ・フローの強化に取り組むと同時に、事業ポートフォリオ改革や資産売却等を通じて自己資本の増加を図り、財務基盤を強化していきます。
・コンプライアンス意識の再徹底
原動機事業のエンジン試運転記録に係る不適切行為については、不適切行為に関する事実関係の確認が終了し、NOx放出量確認結果への対応方針を策定したことから、2024年8月21日に国土交通省へ調査報告書を提出し、同10月30日に当社及び株式会社IHI原動機としての再発防止策を策定・公表しました。
交通システム事業の除雪装置における不適切行為についても、事実関係及び原因究明の調査結果を踏まえ、対象機種の除雪性能試験を網羅的に実施し、お客さまへの対応並びに再発防止策の策定を行ないました。
また、機械式駐車装置事業の件については、2025年3月24日に独占禁止法に反する行為があったと認定された旨を公表し、再発防止の徹底に取り組んでいます。
当社グループは、関係するすべてのステークホルダーの皆さまからの信頼を早期に回復するべく、コンプライアンス意識の再徹底及び組織風土の改善並びに同様の事案を二度と起こさない仕組みづくりに、グループ一丸となって取り組んでまいります。
<長期的な課題>
ESG経営
当社グループは、自然と技術が調和する社会を創るために、取り組むべき社会課題を「脱CO₂の実現」、「防災・減災の実現」、「暮らしの豊かさの実現」としています。地球規模で問題となっている気候変動への対策として、温室効果ガスの排出量を減らす「緩和」と、その影響に備えて被害を軽減する「適応」に取り組み、暮らしの豊かさを実現していきます。
・社会課題の解決
当社グループは、2050年までに、バリューチェーン全体で、カーボンニュートラルを実現することを宣言しました。自社の事業活動によって直接・間接に排出される温室効果ガス(Scope1・2)だけでなく、私たちの上流及び下流のプロセスで排出される温室効果ガス(Scope3)の削減に取り組み、カーボンニュートラルを目指します。具体的には、既存技術を活用した「トランジション」と、新しい技術による「トランスフォーメーション」の2段階で取り組んでいきます。
また、自然災害に強く経済的なインフラ整備と、センシング・モニタリング技術を活用したインフラ管理システムの構築を進め、安心・安全で暮らしやすいコミュニティの実現を目指します。
・人権の尊重
当社グループは、「IHIグループ基本行動指針」において、地球的課題を意識し、あらゆるステークホルダーの期待に応えるために私たちがなすべきことを定めています。この指針に基づき、2020年12月に「IHIグループ人権方針」を定めました。国際規範に基づく人権啓発活動を通じて、人権を尊重する企業文化の醸成と事業活動全般にわたる人権尊重の取組みを推進することで、あらゆる人びとに対する人権尊重の責任を積極的に果たしていきます。また、サプライチェーンにおいても、取引先と協働して社会的責任を果たしていくCSR調達に取り組むことを、「IHIグループ調達基本方針」に定めました。
バリューチェーンを通じて、事業活動によるステークホルダー・ライツホルダーに対する負の影響を予防・低減し、すべての人の豊かな生活を実現するために取り組みます。
・多様な人財の活躍
持続可能な社会を実現するには、多様性を受け入れ、環境の変化を的確に把握し対応することが必要です。
社会の発展に貢献するという経営理念や、自然と調和した社会を創るという目指す姿を、社員一人ひとりが理解し、企業としての使命を自覚することが必要です。会社と社員が、お互いの成長に貢献し合う関係性を保ちながら、個人と組織のベクトルを合わせていくことが重要であると考えています。
また、当社グループは、人財の多様性を尊重し受け入れる「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」を重要な価値観とし、多様なバックグラウンド・多様な経験・異なる視点を持った多様な人財が活躍できる環境を整備していきます。また、社員一人ひとりがより幅広い視野・経験を身に着けるための制度の拡充や、さまざまな機会提供を行なっていきます。
・ステークホルダーからの信頼の獲得
事業を通じて社会課題を解決し、企業価値を高めるためには、グループが本来有する力を最大限に発揮できるよう基盤を築くこと、また、あらゆるステークホルダーとの積極的な対話を行なうことが重要であると考えています。
当社グループは、「技術をもって社会の発展に貢献する」「人材こそが最大かつ唯一の財産である」を経営理念に掲げ、1853年の創業以来、時代時代における社会課題の解決に貢献してきました。持続可能な社会の実現と企業として持続的に成長することを目指し、変わりゆく社会課題に向き合い、従前以上に自然環境や社会に配慮しながら、その解決に事業機会を見出すことを「IHIグループのESG経営」として、2021年11月に表明しました。
当社グループでは、地球環境とそこに暮らす人びとが持続可能であるために、未来世代も含めたあらゆる人びとが、豊かに安心して暮らすことができる社会―「自然と技術が調和する社会」を創ることをありたい姿としています。そのために、「気候変動への対策」、「人権の尊重」、「多様な人財の活躍」、「ステークホルダーからの信頼の獲得」を優先的に取り組むべき重要な課題として特定しました。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです
(1)ガバナンス
当社グループは、持続可能な社会を実現するために、環境と社会に対する貢献と責任、それらを実現するためのガバナンスに関して、明確な価値観を示した「ESG経営」を行なう必要があると考えています。
「ESG経営」において重要と考える事項を重要課題として特定し、取組み方針、推進体制及び実行計画について協議・決定する場として、ESG経営推進会議を設置しています。ESG経営推進会議はCEOが議長を務め、取締役及び執行役員、統括本部長、本社本部長、本社部長のうち議長が指名する者を構成員として、原則年2回開催しています。
環境、人権やコンプライアンスなど、全社に通じる課題については、適宜、全社委員会を設置することで、委員会で審議・決定した方針が各部門の具体的な施策に反映される体制にしています。これら会議や委員会における議論のうち、経営上の重要な意思決定に関わるものについては、経営執行における意思決定機関である経営会議での審議を経て、取締役会に付議しています。
また、ESG経営の推進を目的として、取締役(社外取締役を除く)の業績連動賞与の評価指標である役員ごとのミッションに応じた個別評価指標に、温室効果ガスの削減、従業員エンゲージメントの向上、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)の推進の取組みを含めています。
<サステナビリティ推進体制図>

<取締役会におけるサステナビリティに関する主な議論>
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2019年4月 |
TCFD提言の趣旨への賛同 |
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2019年5月 |
「IHIグループ基本行動指針」の改定 |
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2020年11月 |
「IHIグループ人権方針」の策定 |
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2021年11月 |
「IHIグループのESG経営」において、以下を設定 |
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・気候変動対策に関しての目標「カーボンニュートラル2050」 |
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・「社会」に関する最重要課題:人権の尊重、多様な人財の活躍 |
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2021年12月 |
国連グローバル・コンパクトへの署名 |
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2023年4月 |
気候変動対策におけるグループ中間目標の設定 |
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2024年8月 |
気候変動対策の取組み進捗とScope3の削減ロードマップの開示 |
なお、コーポレート・ガバナンスの状況については、
(2)リスク管理
当社グループは、2021年11月に公表した「IHIグループのESG経営」において、気候変動への対策、人権の尊重、多様な人財の活躍、ステークホルダーからの信頼の獲得をESG経営の重要課題として特定しました。そして、2023年5月に公表した「グループ経営方針2023」において、気候変動対策を含むお客さま・社会課題への対応を事業機会と捉え、環境・社会価値を事業評価に取り入れてESG経営を推進しています。
当社グループは、リスク管理会議並びにESG経営推進会議を中心とする社内組織・各種活動を通じて、上記のESG経営の重要課題に関連するリスク(ESGリスク)に対して、重点テーマ活動及び網羅的リスク管理活動を行なっています。なお、当社グループのリスク管理活動の中には管理対象のリスクとしてESGリスクも包含されており、取締役会によって監視・監督・評価されています。
<リスク管理体制図>

なお、リスク管理体制の詳細については、
(3)気候変動に関する戦略並びに指標及び目標
①戦略
当社グループは、「気候変動への対策」は地球規模で取り組むべき社会課題であり、ESG経営においてより重要な課題としています。
気候変動の緩和のための取り組みは、既存技術や現有設備を活用した温室効果ガス排出量の削減と、新しい技術や仕組みの構築による削減の2段階で進めています。バリューチェーン全体でカーボンニュートラルを実現することを事業機会と捉え、当社グループの製品を対象としたライフサイクルビジネスからお客さまのバリューチェーンを対象としたライフサイクルビジネスへと変革し、提供する環境価値を向上するとともに経済価値を創出していきます。お客さまのバリューチェーン視点でのライフサイクルビジネスを通じて創出した経営資源は、カーボンニュートラルに資する新技術・新システムの開発や成長・育成事業に投下し持続的な高成長につなげていきます。また、これらの新技術・新システムを当社グループ内に積極的に導入することで、当社グループの事業活動におけるカーボンニュートラルの早期実現につなげていきます。
気候変動への適応のための取り組みは、特に社会基盤分野において、保全・防災・減災の視点で、安全・安心な社会インフラの構築と実装を進めることを事業機会と捉えています。近年頻発する自然災害に対応した、流域利水・治水などの防災・減災事業により、社会課題の解決に貢献します。
当社グループでは、展開する事業のうち、特に気候変動の影響を著しく受ける4つの主要事業(エネルギー事業、橋梁・水門事業、車両過給機事業、民間向け航空エンジン事業)を対象として、簡易的にシナリオ分析を行ないました。設定したシナリオは、①カーボンニュートラルな世界におけるシナリオ(移行リスクの大きいシナリオ)と②気候変動の影響が甚大な世界におけるシナリオ(物理的リスクが大きいシナリオ)の二つです。これらのシナリオにおけるリスク・機会とその対応策を、それぞれの事業に特化しているものと、どの事業にも共通しているものに分類しました。
<事業に特化している主なリスク・機会とその対応策>
<どの事業にも共通している主なリスクとその対応策>
なお、ライフサイクルビジネスや成長・育成事業などの詳細については、
②指標及び目標
当社グループは、2050年までにバリューチェーン全体でカーボンニュートラルを実現することを「カーボンニュートラル2050」として宣言しました。自社の事業活動によって直接・間接に排出される温室効果ガス(Scope1・2)に加えて、私たちの上流及び下流のプロセスで排出される温室効果ガス(Scope3)の削減をはかることで、カーボンニュートラルを目指します。
温室効果ガス(Scope1・2)については、2030年度に「2019年度排出量からの半減」を目標として設定しました。
当社グループのCO₂排出量の推移は、2025年9月頃に発行予定の
(4)人的資本に関する戦略並びに指標及び目標
①戦略
当社グループは、「グループ経営方針2023」の2つの目標である「持続的な高成長を実現する事業の変革と事業ポートフォリオの変革」及び「環境変化への対応、変革を実現しうる企業体質への変革」の達成に向けて「グループ人財戦略2023」を策定しました。
事業の変革と企業体質の変革を実現するためには、「良い+強い」会社と個人の「成長+幸せ」を両立させることが重要と考えており、将来の目指す姿としました。新しいリーダーシップと素早い自己変革能力を併せ持ち目標達成にコミットするとともに、従業員の成功や幸せと新たなパートナーシップを通じて人間尊重を大切にすることで顧客・産業・社会の課題を解決できる組織と人財づくりを推進します。この将来の目指す姿の実現に向けて、2023年度を評価軸、時間軸、関係性の転換点と位置付け、3つの重点課題と11の重点施策に取り組み、すべての従業員に行動変容を促し、変革を達成できる組織文化の醸成を図ります。
<「グループ人財戦略2023」:重点課題と重点施策>

②指標及び目標
当社グループは、多様なステークホルダーと連携・協働して問題を解決する人財が活躍でき、事業を通じて関わるあらゆる人びとの人権が尊重される企業グループになることを目指しています。とりわけ経営幹部候補の多様化や、若い世代の多様な視点・発想を経営に活かしていく取組みを進めています。
経営幹部候補の多様化は役員に占める女性比率を指標としています。日本経済団体連合会が掲げる「2030年30%へのチャレンジ」に賛同し、2030年までに役員に占める女性比率を30%以上にすることを目標に据えています。また、女性管理職比率及び女性採用比率を指標としており、女性管理職比率については2026年までに7%、女性採用比率については2026年までに大卒採用者のうち、女性比率20%程度を目標としています。
併せて、変革への挑戦を評価する制度改革と風土醸成の進捗を、従業員意識調査の結果などでモニタリングをします。
これらの指標の実績については、2025年9月頃に発行予定の「
なお、
(5)人権に関する戦略並びに指標及び目標
①戦略
当社グループは、2020年12月に「IHIグループ人権方針」を定めました。国際規範と本方針に基づき、サプライチェーンも含めた事業活動全般にわたる人権尊重の取組みを推進しています。当社グループは、当社グループの事業活動により影響を受ける人びとの人権を尊重し、人権リスクを低減するために、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に沿って、人権デュー・ディリジェンスのプロセスを進めています。
人権リスクの評価として、2021年に、まずは社外の専門家の助言を得ながら、IHI及び国内外のIHIグループ事業を対象に、人権リスクアセスメントを実施しました。そこでIHIグループにとっての重要な6つの人権課題を特定し、最も優先度の高いライツホルダーとして、IHIグループの社員とサプライヤーを選定しました。次に、「重要な人権課題」に関する実態把握のため、2021年12月より国内外のIHIグループ拠点に対する人権インパクトアセスメントを開始しました。
また、2024年4月より、IHIグループのバリューチェーンを含むあらゆるステークホルダーを対象として、人権侵害に関する苦情処理窓口を開設しました。
アセスメントや苦情処理窓口からの通報を通じて、当社グループの事業活動に起因して人権リスクが発生している、又は当社グループの事業活動がこれに関与していることが明らかになった場合には、関連するステークホルダーとの協議を行ない、適切な手続きを通じて是正・救済していきます。
<人権デュー・ディリジェンスの全体像>

<重要な人権課題>

②指標及び目標
当社グループは、「重要な人権課題」を中心とした現状・実態把握のため、国内外のIHIグループ拠点に対する人権インパクトアセスメントを、2022年度〜2024年度の3か年で約160社実施することを目標としていました。
人権リスクアセスメントにおいて、相対的にリスクが高いと考えられた海外関係会社から優先的に調査し、2022年度は59社、2023年度は37社、2024年度は47社を対象として実施しました。
(1)リスク管理に関する当社グループの基本方針
当社グループでは、リスク管理を経営の最重要課題の一つと捉え、グループ全体で強化に取り組んでいます。
リスク管理の基本目的は、事業の継続、役員並びに従業員とその家族の安全確保、経営資源の保全、社会的信用の確保です。そして、次のとおり行動指針を定め、これに沿ったリスク管理を行なっています。
①IHIグループの事業継続を図ること
②IHIグループの社会的評価を高めること
③IHIグループの経営資源保全を図ること
④ステークホルダーの利益を損なわないこと
⑤被害が生じた場合には、速やかに回復を図ること
⑥事態が発生した場合には、責任ある行動をとること
⑦リスクに関する社会的要請を反映すること
(2)当社グループのリスク管理体制
当社グループは、リスク管理全般にかかわる重要事項を検討する機関として、CEOを議長とするリスク管理会議を設置し、取り組み方針や年次計画の策定とその進捗状況の確認、課題の抽出及び是正措置などの重要事項を検討しています。リスク管理会議の内容は取締役会に報告され、取締役会は、リスク管理の目標を達成するための体制の整備、及びその運用に関して監視・監督・評価を行なっています。
また当社グループでは、実効性の高いリスク管理を行なうため、第1線(事業領域・SBU・関係会社)・第2線(本社部門)・第3線(内部監査部)の役割と責任を明確化したリスク管理体制を構築しています。
このような体制のもと、当社グループは事業年度ごとに「IHIグループリスク管理活動重点方針」を定めています。第1線(事業領域・SBU・関係会社)は、この方針に沿って主体的・自立的にリスク管理活動を進め、第2線(本社部門)は、専門性を生かした情報提供や教育を実施し、第1線を支援するとともに、リスク管理活動の実施状況のモニタリングを行なっています。また、第3線(内部監査部)は、当社グループのリスク管理体制の整備状況及び運用状況について監査を行なっています。
(3)2025年度のリスク管理活動
2025年度の「IHIグループリスク管理活動重点方針」では、重点テーマとして次の事項について注力することとしています。また、不安定さが常態化する社会環境のもと、当社グループ全体として対処すべき新たなリスクを適時に捉え、リスク管理会議で対応方針を検討し、能動的かつ組織的なリスク管理を行なってまいります。
・コンプライアンス
・品質保証
・経済安全保障
・情報セキュリティ
・人権の尊重
・人財リスク
・エマージングリスク(巨大地震など)
(4)事業等のリスク
事業の状況、設備の状況、経理の状況に記載した事項のうち、当社グループの業績、財政状態に悪影響を及ぼす可能性のあるリスクには以下のようなものがあります。
文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末において当社グループが判断したものです。当社グループは、以下のリスクを認識した上で、必要なリスク管理体制を整え、リスク顕在化の回避及びリスク顕在化時の影響の極小化に最大限努めています。
① 社会的責任
a. コンプライアンス
当社グループは、社会とお客さまと共に持続的な成長を遂げるためには、ステークホルダーからの期待に応え、信頼を得ることが重要と考えており、この考え方に基づいて、私たちが実践すべきことを「IHIグループ基本行動指針」にまとめ、役員・従業員の遵守を求めています。また、コンプライアンスの重要性を浸透させるため、毎年5月10日の「コンプライアンスの日」や社長年頭挨拶などで、社長をはじめとする経営幹部から繰り返し、コンプライアンスの徹底を求めるメッセージを発信しています。
体制面では、リスク管理会議の下部機関となる全社委員会組織としてコンプライアンス委員会を設置し、コンプライアンスに関わる重要な方針を審議・立案し、活動を推進しています。
さらに、すべての役員・従業員などによる、法令、社内規定や社内外のルールに対する違反やそのおそれのある行為などを未然にあるいは早期に把握し、適切な是正を図るための内部通報制度として、「IHIグループ コンプライアンス・ホットライン」を運用しています。
しかしながら、一部の役員・従業員による法令・規制違反等が生じた場合、過料や課徴金、追徴課税等による損失や営業停止等の行政処分による機会逸失を被る、あるいはそれに伴う社会的評価の低下によって当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社子会社である株式会社IHI原動機においては、船舶用エンジン及び陸上用エンジンの試運転記録に不適切な修正が行なわれていたことが判明しました。弁護士をはじめとする外部有識者を中心とした特別調査委員会の調査結果及び提言を踏まえ、2024年10月30日に当社及び株式会社IHI原動機としての再発防止策を策定し、公表しました。
当社子会社である新潟トランシス株式会社においては、同社が製造及び販売した除雪車の一部が、お客さまに提示した仕様と異なっていたことが判明しました。事実関係及び原因究明の調査結果を踏まえ、対象機種の除雪性能試験を網羅的に実施した上で、お客さまへの対応並びに再発防止策の策定を行ないました。
また、2023年9月に公正取引委員会の立入検査を受けた、当社子会社であるIHI運搬機械株式会社の機械式駐車装置事業については、本年3月24日に、同委員会により、独占禁止法に違反する行為があったことが認定されました。同社は、公正取引委員会に対し、課徴金減免制度の適用申請を通じて自主的に違反行為を申告するとともに、その後一貫して同委員会の調査に協力してきたため、課徴金の免除が認められ、排除措置命令も受けていません。
当社グループは、上記の不適切行為に対し、当社社長をはじめとする経営幹部からのメッセージ発信、社内規程の見直し、コンプライアンス教育の強化、人事ローテーションの推進、職場対話活動の実施等、再発防止の徹底に取り組み、不適切行為を起こさせない仕組み作りや組織風土の見直しなどの取り組みを進めてきました。今後とも、コンプライアンスが真の企業文化として定着するよう真摯に努め、ステークホルダーの皆さまからの信頼回復に一丸となって取り組んでまいります。
b. 環境保全
当社グループには、製造工程で、大気・水質・土壌汚染等の原因となりうる物質を使用している事業所・子会社等があります。これらの物質の管理には万全の注意を払い、万一外部に漏洩した場合においてもその拡大を最小限に抑えるための対策を講じています。しかしながら、想定外の事態が発生した場合には、社会的評価の低下を招くとともに損害賠償責任が生じ、当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
c. 人権・ダイバーシティ
当社グループの事業基盤を維持し、将来の成長につなげていくために、バリューチェーン上のステークホルダーを対象とするグリーバンス(救済)メカニズムとして通報窓口を設置するなど、事業活動全般にわたり人権を尊重した上で、多様な個性や価値観を有する人財が活躍できる組織風土の醸成を図っています。しかしながら、当社グループの事業活動において、人権の侵害や人権を軽視した事象が発生した場合、社会的信用の喪失、あるいはお客さまとの取引停止や損害賠償責任が発生する可能性があります。また、経営における意思決定の場に多様性が欠如した場合には、当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
d. 関係会社の統制
当社グループは、グループ経営を通じて、お客さまに対し、高い価値を提供することに取り組んでいます。そのためには、当社グループの各社が、各国、各地域の各種法令、社会的規範に従って事業を行なうだけでなく、適切なグループ経営を推進する必要があります。しかしながら、個社が、他のリスクに示す事項に対する不適切な対応や独自の経営判断により、お客さまに対して損害又は評価の低下を生じさせ、結果として当社グループの業績や社会的信用に対して悪影響を及ぼす可能性があります。
e. 安全衛生
当社グループは事業所及び建設現場における安全衛生管理に万全の対策を講じていますが、万一不測の事故・災害等が発生した場合には、生産活動に支障をきたし、その結果として当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、各種損害保険等に加入する等の対策を講じていますが、大規模な事故や災害が生じた場合、損害のすべてを保険求償できない可能性があります。
② 外部環境変化への備え
a. 競争環境と事業戦略
当社グループは、中期経営計画「グループ経営方針2023」の下、不安定さが常態化する社会環境においても、成長・育成事業への大胆な経営資源のシフトを通じ、持続的な高成長を実現する取組みを推進しています。
育成事業の柱として事業開発を進めているアンモニアバリューチェーン事業においては、想定される燃料アンモニア需要量、普及タイミング等の前提条件に大幅な変化が生じた場合、将来的な当社グループの事業ポートフォリオに影響を及ぼす可能性があります。
b. 他社との連携・M&A
当社グループは営業協力、技術協力、生産協力や事業合弁の形で多くの他社との共同事業活動を行なっています。また、成長市場への事業展開の加速、要素技術の補完、シナジーの創出などを目的としたM&Aなども有効に活用しています。しかし、経済環境の変化、法的規制、予期せぬ費用増加等の影響により、当初期待された効果を出せない可能性があります。また、当初期待した効果を享受できないと判断された場合は、他社との連携による共同事業の中断、解消を決断する可能性があり、その結果として当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
c. カントリーリスク
当社グループの調達・生産・輸出・販売・建設等の諸活動はグローバルに展開されています。各国・各地域の政治・経済の混乱に起因する為替取引の凍結・債務不履行・投資資産の接収、想定していなかったテロ・労働争議の発生、政情不安、デフォルト等により、事業の継続や拠点経営が困難になった場合、当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。これらのリスクに対し、貿易保険の付保徹底やカントリーリスクに関する情報の収集とグループ内の啓蒙、情報共有の体制の見直し、事業継続計画(BCP)の作成・見直し等の体制強化に努めています。
本項目については、緊迫化する中東、ウクライナ、米中の政治上の確執、経済安全保障問題による影響の拡がり等、不確実性が高まっていると認識しています。
d. 経済安全保障
中東・ウクライナ情勢の緊迫化や米中の政治上の確執に加え、米国トランプ政権発足後の各種政策の影響で同志国間の関係にも変化の兆しがみられるなど、国際関係が複雑化するなか、防衛装備品・社会インフラを提供する当社グループをとりまく事業環境は大きく変化しています。
このような環境の下、当社グループでは社内の取引審査や取引先スクリーニングにより経済安全保障に関するリスクの軽減に努めていますが、日本を含む各国の政策や法規制に反する取引を行なってしまった場合や、経済安全保障に関する課題への対応が不十分だった場合、当社グループの評価や社会的信用が損なわれ、販売機会の逸失や事業の停止につながり、当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
また国際関係の複雑化に伴い情報保全の重要性が高まっていることを受けて、当社グループは、従来のサイバーセキュリティ対策にとどまらない人的情報漏洩対策や、物理的セキュリティ対策の強化にも取り組んでいきます。
e. 自然災害・疾病・紛争・テロ
当社グループは、新型コロナウイルスのような大規模な感染症の拡大、地震・洪水等の激甚災害、テロ等の犯罪行為等によって業務遂行が阻害されるような事態が生じた場合であっても、その影響を最小限に抑えるべく、規定や事業継続計画(BCP)を見直すとともに、必要に応じて非常時を想定した訓練等を実施するほか、適切な保険を付保しています。しかし、想定規模を超える災害が発生した際には事業を適切に遂行できず、当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
③ 経営リソース
a. 人財リスク
当社グループの事業基盤を維持し、将来の成長につなげていくためには、事業活動に必要な人財の獲得、定着、育成、適正配置が必要になります。外部人財の獲得や変革人財等のキーパーソンとなりうる人財の確保・育成ができなかった場合、適正な配置を実行できなかった場合には、当社グループの将来の成長、業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
b. 財務活動
(a)為替動向
外貨に対して円が上昇した場合は外貨建輸出工事における円換算後の入金額は目減りし、下落した場合は現地通貨建の海外調達において円換算支出額の増加を招く等、当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼします。そのため、外貨建資産と負債のポジションの不均衡に対して、一定の方針に基づき為替予約やマリーの徹底によるリスクヘッジに努めていますが、想定以上の為替変動が発生した場合には、当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
(b)金利動向
金利が上昇した場合、当社グループの支払利息が増加し金融収支が悪化します。また、財務活動において借入、又は社債発行の条件が悪化する可能性があり、資金調達に悪影響を与え、ひいては当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
(c)資金調達・格付
当社グループの借入金にはシンジケート・ローンが含まれており、自己資本と利益に関する財務制限条項が付されています。業績の悪化等により同条項に抵触した場合、同ローンの借入れ条件の見直しや期限前弁済義務が生じる可能性があり、当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、格付機関が当社グループの格付を引き下げた場合、当社グループの財務活動において不利な条件で取引をせざるを得ない、あるいは一定の取引ができなくなる可能性があり、資金調達に悪影響を与え、ひいては当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
(d)保証債務等
当社グループは、事業活動を営む上で必要かつ合理的と確認したものについて、債務の保証等を行なっていますが、経済環境悪化の長期化や事業の失敗等により債務者の財政状態が悪化した場合、保証の履行を債権者より求められる可能性があります。
保証債務等に係る情報は、第5「経理の状況」1連結財務諸表等(1)連結財務諸表注記「41.偶発債務」に記載しています。
(e)税務
繰延税金資産の計算は、将来の課税所得に関する予測・仮定を含めて個別に資産計上・取崩を行なっていますが、将来の課税所得の予測・仮定が変更され、繰延税金資産の一部ないしは全部が回収できないと判断された場合、当社グループの繰延税金資産は減額され、その結果、当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、国境をまたぐ当社グループ会社間の取引価格の設定においては、適用される移転価格税制の遵守に努めていますが、税務当局と見解の相違が生じた場合、追徴課税や二重課税が生じることにより、当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
(f)与信管理
当社グループは、世界中のお客さまに製品・サービスを提供しており、その多くが掛売り又は手形取引となっています。当社はこれに対し、グループ全体で与信管理体制の強化と債権保全の徹底に努めているものの、重要なお客さまが破綻し、その債権が回収できない場合には、当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
2023年5月に航空会社が破産申請したことにより、当社が民間航空機エンジンの国際共同事業会社を通じて参画しているエンジンプログラムにおいて、当社が間接的に保有する営業債権の一部が回収不能となる可能性が生じました。本件を受けて、当社グループでは、債権回収リスクを低減するため債権管理の高度化に向けた取り組みを進めています。
c. 情報セキュリティ
当社グループは、技術情報及び事務管理情報並びにそれらを処理するための情報システムを事業に活用する上で、相応の情報セキュリティ対策を講じるとともに、サイバー攻撃の巧妙化やテレワークの増加等を考慮した対策の強化、従業員への情報セキュリティ教育の徹底に努めています。しかし、サイバー攻撃、情報機器や文書の紛失・盗難、ネットワーク停止やハードウェア及びソフトウェアの不備により、情報漏洩や業務停止の事態が発生する可能性があり、それに伴い当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
④ 企業活動・エンジニアリング
a. 研究開発
当社グループの研究開発活動に係る情報は、第2「事業の状況」6研究開発活動に記載されています。これら研究開発活動は事業の性格上、多額の投資とともに長期の開発期間が必要とされるという特性があります。そのため、実用化機会の逸失や事業戦略・市場動向との不整合等により十分な成果に結びつかず、当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
b. 知的財産管理
当社グループは保有する知的財産の適切な保全に努めています。しかし、第三者による当社グループ製品・サービスの模倣や解析調査等技術的に当社グループに影響を与えるような動きを完全に防止することが困難な場合があります。
また、当社グループが将来に向けて開発している製品・サービスが、意図せず他社等の知的所有権を侵害してしまう場合や、従業員の発明に対して適切な対応を取らなかったとみなされた場合に損害賠償等を求められ、その結果として当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
c. プロジェクト管理
当社グループは、大型プロジェクト、大型投資のいずれも、初期計画がその後の成否に大きな影響を与えると考えています。特に新規性の高い事業やしばらく実施していなかった事業の場合、初期計画による影響は顕著です。それらのことを踏まえ、受注・投資前の審査プロセス体制を整備してプロジェクトクトリスク管理を行なっています。
大型プロジェクトでは、個別にお客さまと受注契約を締結した後に製品を生産する場合が多く、受注契約締結前に多面的な社内審査を行なっています。しかし、契約締結後に当初想定できなかった資機材価格や輸送コストの急激な変動、サプライチェーンの途絶、為替相場の変動などの経済環境の変化や検討不足、予期しないトラブル、JV等のパートナー企業の経営悪化等により見積コストを上回る工事の発生、お客さまから要求された性能・納期の未達によるペナルティーの支払い、追加費用の発生等の可能性があり、その結果として当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。また、お客さま都合による受注契約の取り消しのケースでは、受注契約条件の中で違約金条項を設定する等そのリスク回避に最大限努力しているものの、必ずしも支出したコストの全額を回収できない可能性があり、その結果として当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
大型投資では、投資前に採算性やリスクの観点から投資実行計画の社内審査を行なっています。しかし、投資の意思決定時に想定できなかった経済環境や市場の変化、自社やパートナーに起因するトラブル等による目標投資効率の未達や損失計上の可能性があり、その結果として当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
大型プロジェクト、大型投資とも、受注・投資前の審査においては、社内・外の有識者と本社の審査部門との連携による多面的・複合的なリスクレビューの実施、受注後・投資開始後においては、各事業領域のリスク管理部門とも連携しながら、当初計画どおりに進んでいるか、新たな事象やリスクへの対応がなされているかなどのモニタリングの継続・強化に取り組むなど、引き続き徹底したプロジェクトリスクマネジメントを実施していきます。
d. 調達・物流
当社グループはキーとなる主要部品を自社グループ内で製造するよう努めている一方で、複数のグループ外調達先より原材料・部品・サービスの供給を受けています。主要な原材料・部品の市況動向については日頃から情報収集や調達先との対話を通じて安定調達に努めるとともに、調達先の品質・納期等の管理を徹底し、特定の調達先への過度の集中・依存を避けるべく調達先の分散化等を進め、リスクの低減に取り組んでいます。しかしながら、資機材価格の急激な変動、需給バランスの変化や国際情勢の急変に加え、激甚災害や大規模な感染症の拡大に伴う当社グループのサプライチェーン途絶等の問題が生じた場合、コストアップ、納期遅延等の問題が生じたり、人権尊重への取り組みや、サステナブルな社会を実現するためにCSR調達を推進していく過程で、調達コストが上昇したりする可能性があり、その結果として当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
e. 設計・製造
当社グループは、各地に生産拠点を有しています。それらの拠点が所在する地域において、激甚災害、新型コロナウイルスのような大規模な感染症の拡大、国際情勢の急激な変化に伴う生産遅延・停止・サプライチェーンの途絶、あるいは生産活動に影響を与える資機材の入手困難・電力制限などが生じ、かつその影響がBCPの想定範囲を超えた場合、それらの拠点における生産能力が損なわれ、その結果として当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
f. 品質保証
当社グループは、お客さまの満足、安全、安心を実現する製品・サービスを提供するために、お客さま要求を含む要求事項の反映や計画段階で想定されるリスクへの対応も含んだ品質マネジメントシステムを構築し品質を保証する仕組み・体制を整備しています。しかし、品質保証に関わる想定外の事態が発生した場合には、お客さまの評価や社会的評価の低下を招くとともに損害賠償責任が生じ、当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
(1)経営成績等の状況の概要
①財政状態及び経営成績の状況
a.経営成績の状況
当連結会計年度の世界経済は、欧州経済はエネルギーなどのコスト高や中国の内需減速を受けて低迷、中国経済は不動産市場の停滞に伴い低調な動きが継続する一方で、米国経済が牽引する形で全体としては緩やかに回復しました。わが国経済についても、物価上昇の影響を受けながらも、雇用・所得環境の改善を背景に緩やかに回復しています。
当社グループの主力事業である航空・宇宙・防衛事業において、民間向け航空エンジンでは、旅客需要の堅調な推移に伴ってスペアパーツ販売が一段と拡大しています。防衛事業では、防衛力の抜本的強化の政府方針のもと、防衛予算が大きく増加しており、当社グループにおいても継続して大型案件への受注対応を進めています。今後見込まれる民間向け航空エンジンや防衛事業、宇宙事業の需要拡大に応えていくため、リソース確保を含む生産能力の増強とともに、世界トップレベルの生産効率実現に向けた取り組みを進めていきます。
出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログラムについては、引き続きプログラムパートナーとともに整備能力増強を図り、地上駐機数の低減に向けた対応を進めています。お客さまであるエアラインへの負担軽減及び信頼回復に取り組んでまいります。
中核事業におけるライフサイクルビジネスは、当期においては案件の端境期にあり一時的に減少していますが、中長期的に見れば安定的に成長が見込めるため、当社グループの収益への貢献や投資原資の創出を図るべく、引き続き拡大に向けて取り組みます。
車両過給機事業においては、近年のEV化の動きによってドイツ欧州拠点での受注量減少が見込まれることから、当該欧州拠点の機能をイタリア所在の子会社に集約しました。他地域グループ会社への生産移管等によって、欧州域内の自動車メーカー向けの供給責任を果たしていきます。
また、事業ポートフォリオ改革の取り組みとして、中核事業の一部である運搬機械事業、芝草・芝生管理機器事業及び連結子会社である株式会社IHI汎用ボイラ、株式会社IHI建材工業について、事業の譲渡を決定しました。ボラティリティを抑えながら安定的・持続的に成長できるポートフォリオを構築するため、引き続きスピード感を持って改革を継続していきます。
原動機事業のエンジン試運転記録に係る不適切行為については、不適切行為に関する事実関係の確認が終了し、NOx放出量確認結果への対応方針を策定したことから、2024年8月21日に国土交通省へ調査報告書を提出し、同10月30日に当社及び株式会社IHI原動機としての再発防止策を策定・公表しました。本年2月7日からは対象のお客さまへ燃費補償実施のご案内をしています。
交通システム事業の除雪装置における不適切行為については、事実関係及び原因究明の調査結果を踏まえ、対象機種の除雪性能試験を網羅的に実施し、お客さまへの対応並びに再発防止策の策定を行ないました。
2023年9月に公正取引委員会の立ち入り検査を受けた機械式駐車装置事業の件については、本年3月24日に、独占禁止法に違反する行為があったと認定されました。IHI運搬機械株式会社は、公正取引委員会に対し、課徴金減免制度の適用申請を通じて自主的に違反行為を申告しました。その後一貫して公正取引委員会の調査に協力してきたため、課徴金の免除が認められ、また、排除措置命令も受けていません。
不適切行為に対して当社グループは、社長をはじめとする経営幹部からのメッセージ発信、社内規程の見直し、コンプライアンス教育の強化、人事ローテーションの推進、職場対話活動の実施等、再発防止の徹底に取り組み、不適切行為を起こさせない仕組み作りや組織風土の見直しなどの取り組みを進めてきました。コンプライアンスが真の企業文化として定着するよう真摯に努め、ステークホルダーの皆さまからの信頼回復に一丸となって取り組んでまいります。
経営成績につきましては、前連結会計年度において、出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログラム及び海外連結子会社における訴訟の和解合意により多額の損失を計上したことで、前期の受注高と売上収益が一時的に大きく減少しました。当連結会計年度の受注高は、前期の一時的な減少の反動もあり、前期比27.2%増の1兆7,511億円となりました。
売上収益については、前期での一時的な減少の反動に加えて、民間向け航空エンジンでのスペアパーツ販売の増加や東南アジアにおける大型発電所プロジェクトの進捗のほか、為替円安の影響などにより、23.0%増の1兆6,268億円となりました。
損益面では、営業利益は事業構造改革費用や不適切行為に関連した費用の計上等の影響はあったものの、民間向け航空エンジンの大幅な増収により、2,136億円増益の1,435億円となりました。税引前利益は1,384億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は1,127億円です。
当連結会計年度の報告セグメント別の業績は以下のとおりとなりました。
(単位:億円)
|
報告セグメント |
受注高 |
前連結会計年度 |
当連結会計年度 |
前年度比 |
|||||
|
前連結 会計年度 |
当連結 会計年度 |
前年度比 増減率 (%) |
(2023.4~2024.3) |
(2024.4~2025.3) |
増減率(%) |
||||
|
売上収益 |
営業損益 |
売上収益 |
営業損益 |
売上収益 |
営業損益 |
||||
|
資源・ エネルギー・環境 |
3,101 |
3,703 |
19.4 |
4,049 |
177 |
4,114 |
161 |
1.6 |
△8.9 |
|
社会基盤 |
1,593 |
1,667 |
4.6 |
1,709 |
150 |
1,623 |
94 |
△5.0 |
△37.3 |
|
産業システム・ 汎用機械 |
4,748 |
4,844 |
2.0 |
4,661 |
127 |
4,848 |
108 |
4.0 |
△15.4 |
|
航空・宇宙・防衛 (※) |
4,237 |
7,199 |
69.9 |
2,704 |
△1,028 |
5,557 |
1,227 |
105.5 |
- |
|
報告セグメント 計 |
13,681 |
17,414 |
27.3 |
13,125 |
△573 |
16,143 |
1,591 |
23.0 |
- |
|
その他 |
584 |
592 |
1.3 |
560 |
44 |
608 |
31 |
8.6 |
△29.6 |
|
調整額 |
△496 |
△495 |
- |
△460 |
△172 |
△484 |
△187 |
- |
- |
|
合計 |
13,768 |
17,511 |
27.2 |
13,225 |
△701 |
16,268 |
1,435 |
23.0 |
- |
(注)金額は単位未満を切捨て表示し、比率は四捨五入表示しています。
(※)当連結会計年度での売上収益及び営業損益には、出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログ
ラムの為替変動による影響+9億円を含んでいます。
なお、参考情報として、前述の前連結会計年度において計上した出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログラム及び海外連結子会社における訴訟の和解合意による損失の影響を除いた場合の報告セグメント別の業績は以下のとおりとなります。
(単位:億円)
|
報告セグメント |
受注高 |
前連結会計年度 |
当連結会計年度 |
前年度比 |
|||||
|
前連結 会計年度 |
当連結 会計年度 |
前年度比 増減率 (%) |
(2023.4~2024.3) |
(2024.4~2025.3) |
増減率(%) |
||||
|
売上収益 |
営業損益 |
売上収益 |
営業損益 |
売上収益 |
営業損益 |
||||
|
資源・ エネルギー・環境 |
3,248 |
3,703 |
14.0 |
4,196 |
324 |
4,114 |
161 |
△1.9 |
△50.2 |
|
社会基盤 |
1,593 |
1,667 |
4.6 |
1,709 |
150 |
1,623 |
94 |
△5.0 |
△37.3 |
|
産業システム・ 汎用機械 |
4,748 |
4,844 |
2.0 |
4,661 |
127 |
4,848 |
108 |
4.0 |
△15.4 |
|
航空・宇宙・防衛 |
5,797 |
7,199 |
24.2 |
4,263 |
568 |
5,557 |
1,227 |
30.3 |
116.1 |
|
報告セグメント 計 |
15,387 |
17,414 |
13.2 |
14,831 |
1,170 |
16,143 |
1,591 |
8.8 |
36.0 |
|
その他 |
584 |
592 |
1.3 |
560 |
44 |
608 |
31 |
8.6 |
△29.6 |
|
調整額 |
△496 |
△495 |
- |
△460 |
△172 |
△484 |
△187 |
- |
- |
|
合計 |
15,475 |
17,511 |
13.2 |
14,932 |
1,042 |
16,268 |
1,435 |
8.9 |
37.7 |
(注)金額は単位未満を切捨て表示し、比率は四捨五入表示しています。
<資源・エネルギー・環境>
エネルギー供給上の地政学的リスクや各種コスト上昇、米国の政権交代に伴う政策変更など不確実性が高まる中で、エネルギーの安定供給を確保するためのエネルギー安全保障の重要性が高まっています。一方、中長期的な対応としての脱炭素化に向けた大きな潮流は変わっていません。今後、経済成長だけでなくDXやGXの進展によるエネルギー需要は一層の拡大傾向にあり、安定供給と脱炭素を両立させるエネルギー源、特に原子力等への注目が高まっています。
このような事業環境のもと、受注高は、前期の海外連結子会社における訴訟の和解合意の影響の反動に加え、カーボンソリューションを中心に増加しました。
売上収益は、カーボンソリューションのライフサイクルビジネス(LCB)が端境期となり減収となったものの、原動機やアジア拠点EPCでの増収に加え、前期の海外連結子会社における訴訟の和解合意による減収の反動影響もあり、全体として増収となりました。
営業利益は、前期の海外連結子会社における訴訟の和解合意による損失の反動の影響はありましたが、LCB関連の案件が端境期にあることによる減収影響やカーボンソリューション海外子会社の収益悪化、品質事案対応などにより減益となりました。
<社会基盤>
国内におけるインフラの老朽化や気候変動による自然災害の激甚化への対策として国土強靭化計画が引き続き推進されています。道路ネットワーク機能強化、老朽化橋梁の維持・修繕や流域治水の推進に加え、予防保全型インフラメンテナンスへの転換がさらに進展しています。一方、建設分野における人手不足は依然として深刻であり、2024年4月から適用された建設業の時間外労働の上限規制の影響も継続しています。このため、省人化・自動化技術の導入やDXの推進を通した生産性向上への取り組みがますます重要となっています。
このような事業環境のもと、受注高は、橋梁・水門等で増加しました。
売上収益は、橋梁・水門や交通システムで減収となりました。
営業利益は、コンクリート建材事業の譲渡に関連する構造改革費用計上や交通システムの採算性悪化により減益となりました。
<産業システム・汎用機械>
産業界全体における資材価格と人件費の高騰は常態化しており、中国や欧州の景気減速、また米国の政権交代に伴う政策変更などによる国際サプライチェーンの変化など、市況は不透明な状況です。その一方で、産業界におけるカーボンニュートラルへのニーズの高まり、先進国における労働生産人口減少による人手不足などが、産業分野の中長期トレンドとして捉えられています。
このような事業環境のもと、受注高は、運搬機械や産業システム等で増加しました。
売上収益は、前期に比べて期中の為替が円安で推移した影響などにより、熱・表面処理や運搬機械等で増収となりました。
営業利益は、パーキングにおける収益改善はありましたが、車両過給機事業の販売価格転嫁交渉の遅れや、芝草・芝生管理機器事業に関する事業構造改革費用の計上により減益となりました。
<航空・宇宙・防衛>
民間向け航空エンジン事業では世界の旅客需要が堅調に伸びる中、アフターマーケットでの収益が拡大を継続しています。また、防衛予算の増額、宇宙産業の市場拡大の流れを受け、防衛・宇宙事業においても、新たな価値創造を図り、競争力向上を目指していきます。一方で、サプライチェーンの混乱や物価高騰、米国の政権交代に伴う政策変更など地政学的な環境の変化は継続しており、将来の事業環境は依然として不透明なところもあります。環境の変化に打ち勝つ事業体質構築に向け、デジタル基盤の活用等による生産効率改革、業務構造改革をさらに推進し、成長を加速していきます。
このような事業環境のもと、受注高及び売上収益は、前期の出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログラムの影響の反動に加え、民間向け航空エンジンのスペアパーツの販売増や防衛事業の拡大により大幅な増加・増収となりました。
営業利益は、民間向け航空エンジンでの貸倒引当金計上等による販管費増加はありましたが、前期の出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログラムの影響の反動に加え、スペアパーツの販売増や整備費用の発生遅れの影響のほか、防衛事業の採算改善等により大幅な増益となりました。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
b.資産及び負債、資本の状況
当連結会計年度末における総資産は2兆2,403億円となり、前連結会計年度末と比較して1,425億円増加しました。主な増加項目は、営業債権及びその他の債権で540億円、主な減少項目は、契約資産で167億円です。
負債は1兆7,317億円となり、前連結会計年度末と比較して361億円増加しました。主な増加項目は、契約負債で488億円、主な減少項目は、返金負債で396億円です。有利子負債残高はリース負債を含めて5,147億円となり、前連結会計年度末と比較して596億円減少しました。当年度内において社債発行を行なっており、資金流動性について十分な水準を確保しています。
資本は5,086億円となり、前連結会計年度末と比較して1,063億円増加しました。これには、親会社の所有者に帰属する当期利益1,127億円が含まれています。
以上の結果、親会社所有者帰属持分比率は、前連結会計年度末の17.9%から21.5%となりました。
②キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下、「資金」という)の残高は、前連結会計年度末と比較して19億円減少し、1,368億円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は以下のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは1,776億円の収入超過(前連結会計年度は621億円の収入超過)となりました。これは、営業債権が増加したものの、利益の獲得により資金が増加したためです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは588億円の支出超過(前連結会計年度は516億円の支出超過)となりました。これは、固定資産の譲渡による収入があった一方で、設備投資を進めたことにより支出が増加したためです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは1,162億円の支出超過(前連結会計年度は25億円の支出超過)となりました。これは、主に借入金の返済による支出があったためです。
(注)この項に記載の金額は単位未満を切捨て表示し、比率は四捨五入表示しています。
③生産、受注及び販売の状況
a.生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
|
セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前年度比(%) |
|
資源・エネルギー・環境 |
410,062 |
△4.7 |
|
社会基盤 |
165,791 |
△4.5 |
|
産業システム・汎用機械 |
481,407 |
4.2 |
|
航空・宇宙・防衛 |
555,274 |
16.1 |
|
報告セグメント 計 |
1,612,535 |
4.4 |
|
その他 |
34,871 |
177.1 |
|
合計 |
1,647,406 |
5.8 |
(注)1. 金額は販売価格によっており、セグメント間の取引を相殺消去しています。
2. 金額及び比率は単位未満を四捨五入表示しています。
b.受注状況
当連結会計年度における受注状況をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
|
セグメントの名称 |
受注高 (百万円) |
前年度比(%) |
期末受注残高 (百万円) |
前年度末比(%) |
|
資源・エネルギー・環境 |
370,308 |
19.4 |
437,619 |
△9.5 |
|
社会基盤 |
166,760 |
4.6 |
217,054 |
3.2 |
|
産業システム・汎用機械 |
484,402 |
2.0 |
206,139 |
0.3 |
|
航空・宇宙・防衛 |
719,991 |
69.9 |
605,930 |
34.4 |
|
報告セグメント 計 |
1,741,461 |
27.3 |
1,466,742 |
8.6 |
|
その他 |
59,240 |
1.3 |
20,610 |
△7.7 |
|
調整額 |
△49,565 |
- |
- |
- |
|
合計 |
1,751,136 |
27.2 |
1,487,352 |
8.4 |
(注)1. 各セグメントの受注高は、セグメント間の取引を含んでおり、調整額でセグメント間取引の合計額を消去しています。
2. 各セグメントの受注残高は、セグメント間の取引を相殺消去しています。
3. 金額及び比率は単位未満を四捨五入表示しています。
4. 航空・宇宙・防衛事業では、出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログラムの影響により前年度の受注高が大きく減少したため、当連結会計年度では前年度に比べ受注高が増加しています。
c.販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
|
セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前年度比(%) |
|
資源・エネルギー・環境 |
411,463 |
1.6 |
|
社会基盤 |
162,341 |
△5.0 |
|
産業システム・汎用機械 |
484,852 |
4.0 |
|
航空・宇宙・防衛 |
555,704 |
105.5 |
|
報告セグメント 計 |
1,614,360 |
23.0 |
|
その他 |
60,893 |
8.6 |
|
調整額 |
△48,422 |
- |
|
合計 |
1,626,831 |
23.0 |
(注)1. 販売実績は売上収益をもって示します。
2. 金額はセグメント間の取引を含んでおり、調整額でセグメント間取引の合計額を消去しています。
3. 主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合は次のとおりです。
|
相手先 |
前連結会計年度 |
当連結会計年度 |
||
|
金額(百万円) |
割合(%) |
金額(百万円) |
割合(%) |
|
|
一般財団法人 日本航空機エンジン協会 |
34,331 |
2.6 |
268,806 |
16.5 |
4. 金額及び比率は単位未満を四捨五入表示しています。
(2)経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析
①重要な会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、IFRS会計基準に準拠して作成されています。連結財務諸表の作成に当たり、見積りが必要となる事項については、合理的な基準に基づき、会計上の見積りを行なっています。
詳細については、第5「経理の状況」1連結財務諸表等(1)連結財務諸表注記「3.重要性のある会計方針」、及び注記「4.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載しています。
②経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社グループ及びセグメントごとの経営成績の状況は(1)経営成績等の状況の概要の①財政状態及び経営成績の状況に記載のとおりです。
当社グループは、2023年度を初年度とする3か年の中期経営計画「グループ経営方針2023」に基づく取り組みを進めています。不確実性が高い経営環境が継続する中でも持続的な高成長を実現する事業へ変革するため、3か年の中期経営計画の最終年度となる2025年度では、成長をけん引する航空エンジン・ロケット分野の成長事業と、将来の事業の柱として期待されるクリーンエネルギー分野の育成事業、市場成長が見込めてかつ資本効率の高い事業への戦略的な経営資源のシフトを実行していきます。
成長事業である航空エンジン・ロケット分野では、確実に世界の航空機需要の伸びが予想される中で、民間向け航空エンジンにおける小型~大型・超大型クラスのベストセラーエンジンの開発・量産事業に参画しています。今後の需要増加が期待されるアフターマーケットでの事業拡大を目指しており、整備事業については、自動化やDX高度化等により生産性向上を図り、高品質なサービスを迅速に提供する取組みを進めています。民間航空機用エンジン整備拠点の一つである鶴ヶ島工場においては2026年度に新修理棟の稼働の開始を予定しており、付加価値の高い部品修理需要の取り込みを加速していきます。また、成長が見込まれる防衛関連事業や宇宙関連事業の拡大を目指し、生産能力の強化や必要な技術開発を進めていきます。
育成事業であるクリーンエネルギー分野については、当社グループの技術力を活かしながら、燃料アンモニアに関する製造から貯蔵・輸送及び利活用に至るまでのバリューチェーンの構築を進め、カーボンフリーな世界の実現に貢献していきます。
中核事業である資源・エネルギー・環境、社会基盤、産業システム・汎用機械の各分野では、市場成長が見込め、当社の強みが活かせる事業については安定的なキャッシュ創出に向け必要なリソースを投入するとともに、収益性・効率性の低い事業に関しては引き続き事業構造改革を推進し、事業ポートフォリオの変革を通して継続的な成長を実現します。
|
|
2023年度 (2024年3月期)実績 |
2024年度 (2025年3月期)実績 |
2025年度 (2026年3月期)見通し |
グループ経営方針2023 2025年度経営目標 |
|
ROIC |
△4.9% |
10.5% |
9.9% |
8%以上 |
|
営業利益率 |
△5.3% (7.0%) |
8.8% |
9.1% |
7.5% |
|
CCC |
107日 (132日) |
94日 (115日) |
(123日) |
100日 |
(注)各指標の算出方法は次のとおりです。
・ROIC :(1-法定実効税率)×(営業利益+受取利息+受取配当金)
÷(親会社の所有者に帰属する持分+有利子負債の金額)
・CCC :運転資本÷売上収益×365日
・運転資本:営業債権+契約資産+棚卸資産+前払金-契約負債-営業債務-返金負債
・2023年度~2025年度の括弧内の数字は、出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査
プログラム及び海外連結子会社における訴訟の和解合意による損失の影響を除いたものです。
③キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
a.財務戦略の基本的な考え方
当社グループは、事業基盤の強化やキャッシュ創出力向上の取組みを通じて得られた自己資金を原資として、財務基盤の拡充と株主還元のバランスを取りながら、事業変革のための投資を進めていくことを財務戦略の基本方針としています。
2024年度のキャッシュ・フローは、営業活動によるキャッシュ・フローが1,776億円の収入となり、投資活動によるキャッシュ・フローは588億円の支出となりました。合計したフリー・キャッシュ・フローは1,188億円となり、前連結会計年度に対して1,083億円増加しました。この改善は、EBITDAの増加に加え、運転資本の改善や税金還付等の一時的要因が寄与したものです。
引き続き当社グループは、「グループ経営方針2023」で掲げる収益性・キャッシュ創出力を重視した経営施策を着実に実行し、成長・育成事業への最適な資金配分により、持続的な高成長を実現する企業体質への変革を実現し、企業価値向上へつなげていきます。
b.資金調達の方針
当社グループの運転資金、投資向け資金等の必要資金の財源については、主として営業活動によるキャッシュ・フローで獲得した資金を財源とすることを原則としています。必要に応じて、短期的な資金については金利の上昇に留意しつつ銀行借入やコマーシャル・ペーパーなど、設備資金・投融資資金等の長期的な資金については、日銀の政策変更による本邦金利上昇を見据えながら既存借入金及び既発行債の償還時期等を総合的に勘案し、長期借入金や社債等によって調達しています。
外部からの資本・資金調達については、関連するリスクを適切にコントロールした上で、資本コストを最小化する調達を実現することを資金調達の基本方針としています。
また、当社グループ内部では、グループガバナンスの向上、資金効率の向上及び資本コストの低減を図り、企業価値向上に寄与するため、グループ一体となった資金調達・資金収支管理を実施しており、当社と国内子会社間、また海外の一部地域の関係会社間ではキャッシュ・マネジメント・システムによる資金融通を行ない、グループ内の流動性確保、資金効率向上に努めています。
c.資金需要、資金調達及び流動性の分析
当社グループの主な資金需要は、事業活動に必要な運転資金、成長事業創出のための研究開発費及び設備投資等です。
当連結会計年度末の有利子負債残高はリース負債を含めて5,147億円となり、前連結会計年度末に対して596億円減少しました。これは主として、事業活動によるキャッシュ・フローの改善の結果、外部借入を返済したことによるものです。
当連結会計年度末の現金及び現金同等物は1,368億円であり、前連結会計年度末と比較して19億円減少しています。手元資金の流動性については現金及び現金同等物に加え、主要銀行とのコミットメントライン契約や当座貸越枠、コマーシャル・ペーパーなど多様な調達手段を保有し、上記現金及び現金同等物と合わせて引き続き十分な流動性を確保しています。
また、資金調達の多様性では、サステナブル・ファイナンスによる資金調達を促進しています。ESG経営を進める中で、ファイナンスを事業活動と一体ととらえ、自然と技術が調和する持続可能な社会の実現のために適切な資金調達と事業展開を行なっていきます。
(注)この項に記載の金額は単位未満を切捨て表示しています。
(1)技術導入契約
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契約会社名 |
相手方の名称 |
国名 |
契約品目 |
契約内容 |
契約期間 |
|
当社 |
GEAE |
米国 |
T700-401C、 T700-701Cターボ シャフトエンジン |
契約品目の製造・販売に関する非独占的権利の取得 |
1989年9月26日から 2025年4月30日まで |
|
当社 |
GEAE |
米国 |
F110-129ターボ ファンエンジン |
契約品目の製造・販売に関する非独占的権利の取得 |
1996年9月27日から 2030年4月30日まで |
|
当社 |
Rolls-Royce Corporation |
米国 |
T56-A ターボプロップ エンジン |
契約品目の製造・販売に関する非独占的権利の取得 |
2008年11月7日から 2028年10月31日まで |
|
当社 |
Rolls-Royce Corporation |
米国 |
T56-A-427A ターボプロップ エンジン |
契約品目の製造・販売に関する非独占的権利の取得 |
2019年9月16日から 2029年9月30日まで |
|
当社 |
RTX Corporation |
米国 |
F100ターボ ファンエンジン |
契約品目の製造・販売に関する非独占的権利の取得 |
1978年5月18日から 2026年3月31日まで |
|
当社 |
RTX Corporation |
米国 |
F135ターボ ファンエンジン |
契約品目の日本における非独占製造権 |
2013年10月17日から 2027年9月30日まで |
|
㈱IHI回転機械 エンジニアリング (連結子会社) |
Turbo Systems |
スイス |
ターボ過給機 |
契約品目の日本における独占製造権 |
1998年9月24日から JV終了日まで |
|
㈱IHIエアロ スペース (連結子会社) |
Lockheed Martin Corporation |
米国 |
多連装ロケット システム |
契約品目の製造・販売に関する非独占的権利の取得 |
1993年1月20日から 2033年8月31日まで |
(2)資金調達
当社は、安定的かつ機動的な資金調達を目的としてシンジケート・ローン契約を締結しています。
① 契約内容
|
契約先 |
契約日 |
契約概要 |
|
三井住友信託銀行他 |
2025年3月27日 |
残高30億円のタームローン |
(注)「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(令和5年内閣府令第81号)
第3条4項の定める経過措置により、改正府令施行日前に締結した契約は記載を省略しています。
② 財務制限条項
シンジケート・ローン契約について、財務制限条項が付されています。
詳細については、第5「経理の状況」1連結財務諸表等(1)連結財務諸表注記「20.社債及び借入金」に記載しています。
当社グループ(当社及び連結子会社)は、価値の源泉である技術を「つなぎ」、「束ね」、「強く」することで、製品・サービスを超えて、お客さまの新しい価値を生み出すバリューチェーンを創造するため、研究開発に取り組んできました。
事業部門である、資源・エネルギー・環境、社会基盤、産業システム・汎用機械並びに航空・宇宙・防衛の各セグメントは、製品の競争力強化及び今後の事業拡大・創造につながる研究開発を推進し、本社部門である戦略技術統括本部、事業開発統括本部、高度情報マネジメント統括本部並びに技術開発本部は、相互に密接に連携・協力し、基礎的な研究開発から事業拡大・創造の足掛かりとなる研究開発を推進しています。加えて、世界トップのエコシステムにメンバーとして参加し、重要な技術情報の取得や最先端の技術開発に取り組んでいます。
「グループ経営方針2023」では、成長事業として航空エンジン・ロケット分野、育成事業としてアンモニアなどのクリーンエネルギー分野、中核事業として資源・エネルギー・環境、社会基盤、産業システム・汎用機械分野の3つの区分を定義し、リソース配分を最適化しながら、研究開発に取り組んでいます。
当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は
各セグメント別の主な研究開発の成果及び研究開発費は次のとおりです。
(1)資源・エネルギー・環境
資源・エネルギー・環境事業領域では、グループの中核を担うカーボンソリューション、原動機、原子力の各分野において、ライフサイクルやバリューチェーンを意識した事業の拡大を目指しています。資源・エネルギー・環境事業領域と事業開発統括本部、戦略技術統括本部並びに技術開発本部では、今後、成長が期待されるクリーンエネルギー分野への投資を進めており、特に燃料アンモニアについては、育成事業と位置づけ、製造、貯蔵・輸送、利活用に関する研究開発に取り組み、社会実装に向けた活動をグローバルでリードしています。
当連結会計年度の主な成果として、碧南火力発電所における燃料アンモニア転換実証試験で燃料比20%を達成、アンモニア燃料タグボート「魁(さきがけ)」で、世界初の3か月間の実証航海を達成、再生可能エネルギー由来のグリーン水素を原料としてCO2フリーのアンモニアを製造できる装置を開発、ナフサ分解炉用のアンモニア専焼バーナを開発し、既存燃料の約20%超をアンモニアに切り替え、国内で初めて燃焼を実証したことなどが挙げられます。また、従来の原子炉より出力が小さい小型モジュール炉(SMR)の主要構成機器である格納容器の製造・検査技術を開発しました。
当セグメントに係る研究開発費は
(2)社会基盤
社会基盤事業領域では、橋梁・水門を軸に、長年の実績で培った技術力と豊かな感性で、安全・安心な社会インフラの実現にグローバルかつライフサイクルにわたり貢献しています。橋梁事業は設計から建設、保全までの一気通貫のエンジニアリングと施工能力を強みに国内で高いシェアを誇り、海外の長大橋においても多数の建設実績を有しています。また水門事業では、国内トップクラスの市場を有しており、フィリピンで水門の建設を含む河川改修事業を受注するなど、海外の事業展開を進めています。
当連結会計年度の主な成果として、橋梁定期点検の効率化を支援するスマートフォンシステムの開発、AI技術を利用したコンクリート劣化要因の診断技術の開発、老朽化した橋梁のリニューアルに備えた床版取替機や取替用床版など、床版リニューアル技術を開発したことなどが挙げられます。
当セグメントに係る研究開発費は
(3)産業システム・汎用機械
産業システム・汎用機械事業領域では、中核事業の1つとして、ライフサイクルビジネス(LCB)の「深化」と「進化」を軸とした取り組みを進めています。長年培ってきた回転機械や表面処理装置など、自社独自の差別化技術によって、産業界の脱炭素化と環境負荷低減、自動化・省人化などのソリューションを提供しています。
当連結会計年度の主な成果として、ロボット、自動倉庫及び無人搬送台車などの物流機器と庫内作業を包括的に最適管理する「L-Sync」の開発を推進、静岡県沼津市における移動の最適化を図るため、駐車場満空情報を観光MaaSに連携したサービス提供を開始、AI技術を利用した機械の故障予兆や異常検知システムの開発を推進していることなどが挙げられます。
当セグメントに係る研究開発費は
(4)航空・宇宙・防衛
航空・宇宙・防衛事業領域では、航空旅客需要の増加、「防衛力の抜本的強化」の政府方針、宇宙産業の市場拡大を受け、民間エンジン・防衛・宇宙のすべての分野で強化と拡大を進めるとともに、デジタル基盤の活用等により世界トップレベルの生産効率の実現を目指すなど、事業の変革に取り組んでいます。環境にやさしく経済効率も高い航空機を実現するため、エンジン、装備品及び機体の軽量化や電動化、持続可能な航空燃料(SAF)の開発、ロケットによる衛星打上げサービス、衛星から得られる宇宙・海洋・地上データの利活用など、ライフサイクルとバリューチェーン全体を意識して事業の拡大を目指しています。
当連結会計年度の主な成果としては、航空機電動化及びゼロエミッション推進システムの開発に関する事業が「NEDOグリーンイノベーション基金事業/次世代航空機の開発プロジェクト」で採択、航空機の空気抵抗を削減し、燃料効率改善及びCO2削減に貢献するハイブリッド層流制御システム用のガス軸受真空ポンプを開発し、世界初の実証試験に成功、H3ロケットの1段用エンジンLE-9向けの液体水素及び液体酸素ターボポンプの開発、気象用小型ゴム気球を利用した低コストで長時間成層圏に滞在可能な超小型成層圏観測プラットフォームを開発し、実装試験を成功したことなどが挙げられます。
当セグメントに係る研究開発費は
(5)その他
本社部門である戦略技術統括本部、技術開発本部、高度情報マネジメント統括本部、並びに事業開発統括本部は、相互に密接に連携・協力し、基礎的な研究開発から事業拡大・創造の足掛かりとなる研究開発を推進しています。
当連結会計年度の主な成果としては、2026年の実用化に向けて、アンモニア専焼小型ガスタービンの長期耐用試験を開始、水素とCO2から持続可能な航空燃料(SAF)を製造できる小型製造試験装置を完成し、実証試験を推進、軽量性と優れた高温特性を有するセラミックス基複合材料(CMC)の基礎特性や製造能力評価を推進、デジタルツインを活用した自動運転サービスの安全性検証を開始、国立大学法人横浜国立大学に開設した人工知能(AI)技術に関する共同研究講座の開講期間を延長し、人財交流と人財育成並びにAI技術の社会実装を加速していくことを合意したことなどが挙げられます。
当セグメントに係る研究開発費は138億円です。
(注)この項に記載の金額は単位未満を切捨て表示しています。