第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。

(1) 経営方針・経営戦略・経営指標等

当社グループは、長期的視野に立ったグループ経営によりグループの持続的発展に向けて取り組むとともに、さらなる成長を実現するためにグループ経営資源の「選択と集中」をさらに深化させ、収益の拡大を目指してまいります。

日本造船工業会の調査によりますと、中長期的には世界の経済成長や人口増加に加え、船舶のゼロエミッション化の進展により新造船建造需要が拡大し、その後も高原状態が継続すると予測されております。

中核である新造船事業におきましては、今後の需要拡大に向け、生産量の拡大のための建造能力強化を推し進めてまいります。新たな成長局面を迎える新造船事業の需要を捉え、グループの躍進につなげるため、積極的な設備投資やデジタルトランスフォーメーション(DX)化を推進してまいります。

また、グループにとって安定収益の確保・拡大のためには修繕船事業や鉄構・機械事業の基盤強化が不可欠であり、人材の確保と育成や設備の拡充など必要な経営資源を投入してまいります。

財務面においては、新造船事業の建造能力拡大を中核とする成長投資のために必要となる長期資金を、金融機関からの借入や資本市場からの調達で賄うべく、有効な手段を検討してまいります。

今後は、収益力の強化と企業価値の向上だけではなく、地球環境の改善に向けた積極的な取り組みや地域社会への貢献により、株主はもとより顧客・取引先・金融機関・従業員・地域など様々なステークホルダーとの信頼関係の強化・拡大を図り、持続的な成長を期待される「存在感」ある企業グループの形成を目指してまいります。

 

(2) 経営環境および対処すべき課題

① 新造船事業

世界の新造船市場においては、海運市況の回復に伴って新造船需要が改善しており、今後も2010年前後に大量に建造された船舶の代替需要等によって需要が拡大すると見込まれます。

一方で、中国は国営、民営造船所を問わず国策的に受注量、建造量を急増させ、技術開発力の強化も加速させ、韓国を抜いて世界一の造船国となっております。

昨年7月の国際海運の「2050年頃までに温室効果ガスの排出ゼロ」を世界共通の目標とすることへの合意により、環境対応船の開発が加速することが期待されますが、環境対応船は開発・設計・製造・資材調達・品質保証といったあらゆる面において負荷が大きく、商品開発力や技術力の強化が不可欠となります。当社グループにおきましては、環境対応船を開発・建造し提供していくことが、気候変動問題への取り組みにおける重要な役割の一つであると考え、お客様とともに環境に優しい船舶の開発をはじめとする技術的取り組みと提案を進めており、国内外のお客様の期待に応える営業体制と設計・製造体制、品質保証体制を強化してまいります。

また、需要増加に対応して建造能力の拡大を推進するため、主力工場である当社の伊万里事業所ではAIやIoT技術を駆使した工場先進(スマートファクトリー)化による生産現場の最適化・省人化に取り組んでおります。さらに、インフレや人件費の高騰への対応として、当社と函館どつく株式会社とが連携し、設計段階からのコストダウンと調達・製造の現場におけるコスト削減活動、函館どつく株式会社の設備の近代化を推進してまいります。

 

 

② 修繕船事業

当社グループの修繕船事業は、佐世保重工業株式会社、函館どつく株式会社の函館造船所および室蘭製作所が連携し、艦艇や巡視船などの修繕工事において実績を重ね、我が国の安全保障体制の維持に貢献してまいりました。また、一般商船の修繕工事においてもグループ両社の連携体制をより一層強化し、LNG運搬船、大型客船、フェリー、サプライボート、漁船などの修繕工事の取り組みを拡大して操業を平準化し、安定収益体制を構築してまいります。

佐世保重工業株式会社においては、新造船ドックの修繕船併用ドックへの改修工事を終え、国内最大級の修繕ヤードとなりました。今後は米海軍の大型艦船修理の対応整備、岸壁・入渠工事においても受注を目指し、存在感を高めてまいります。

また、佐世保重工業株式会社は、LPG・重油やLNG・重油の二元燃料船の建造実績がある当社と連携して、在来商船の高効率低燃費エンジンへの主機換装など、環境負荷の低減を目的とした大型改修工事の検討に取り組んでおります。

一方で、佐世保重工業株式会社、函館どつく株式会社の両社は、いずれも人材の確保と育成、設備の老朽化対策や乗組員宿舎の更新・増設が焦眉の課題となっております。

 

③ 鉄構・機械事業

当社および函館どつく株式会社が担う鉄構橋梁部門においては、昨年7月に発生させました橋桁落下事故は本年1月より現地工事を再開しておりますが、他の受注済工事と併せて安全かつ確実に竣工させ、一日も早い信頼回復に努めてまいります。

これまでの国内鋼道路橋の新設工事発注量は低水準であったものの、今後、新設市場は安定的に推移し、老朽橋のメンテナンス市場は需要が高まるものと予想されております。優秀な人材の確保と技術力の底上げを図って大型案件を安定的に受注し、地域交通の円滑化を通じて社会インフラの維持・発展に貢献してまいります。

佐世保重工業株式会社が担う舶用機器部門においては、新造船の需要増に伴う舶用エンジンメーカー向けの需要拡大が見込まれており、生産能力の増強とシェア拡大に努めてまいります。最重要課題である原材料費高騰への対策として材料調達先を多様化するとともに、生産効率の改善と設備の近代化、技術力向上によるさらなるコスト削減に取り組み、安定収益体制の構築に努めてまいります。

 

④ その他事業

その他事業においては、各社の役割と責任を明確化し、市場環境の変化に応じた事業ポートフォリオの最適化に取り組んでおります。各社の収益力を高め、グループ収益基盤の強化・発展に貢献してまいります。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方および取り組みは、次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) ガバナンス

世界の物流を支える国際海運においてはGHG(温室効果ガス)排出量削減のため、国際海事機関(IMO)をはじめとして関係各国政府・海事関係者等による取り組みが進められています。

このような事業環境のもと、気候変動対策における当社の重要な役割は、造船事業者として優れた環境対応型船舶を提供していくことであると捉えており、顧客とともに環境対応型船舶の開発をはじめとする取り組みを進めています。

また、鉄構事業においては、国および地方自治体等ご発注による鋼製橋梁工事等を通じて地域交通の円滑化や災害復興に貢献しています。

加えて工場の省エネルギー化、安全への取り組み、人権の尊重、働き易い職場づくりによる人材の確保・育成、地域社会への貢献等についても今後とも積極的に取り組む必要があります。

かかる現状認識に基づき、当社は持続可能な社会の構築に向けた積極的役割を果たすため、2023年度にはこれまでのCSR委員会を改組して、社長直轄組織として新たにESG委員会を設置し、気候変動や内部統制・ガバナンス、人材開発、人権、危機管理等各課題に応じた担当部会を設けて全社的・組織横断的な取り組みを進めています。

さらに同年には当社グループとして当社社長を委員長とするグループESG委員会を設置し、上記取り組みをグループとして展開していけるよう推進しています。

また、グループESG委員会における議論を通じて従来の「株式会社名村造船所 行動憲章および行動指針」を改め、新たに「名村造船所グループ行動憲章」として定めるとともに、サステナビリティ特設ホームページを設けて当社の取り組みを対外的に紹介しています。

 

(2) 戦略

当社グループにおける、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針および社内環境整備に関する方針は、以下のとおりです。なお、実績値につきましては、当社および主要な連結子会社2社(函館どつく株式会社および佐世保重工業株式会社)を集計の対象としております。

 

■人材育成方針

当社グループは、競争力の源泉は人材であるという認識のもと、人材育成を行っております。具体的な施策として、採用した人材に必要なスキルを身につけさせ、能力を拡大するために各年次・役職ごとの研修を実施しているほか、職種ごとに求められる能力・専門知識の習得を目的とした研修を実施し、従業員一人ひとりの自律的なキャリア構築を支援しております。

また、経営環境の急速な変化に対応するためには、従業員のリスキリングを促す必要があります。当社グループでは、社会人ドクターの取得、海外留学、コンプライアンス・法律教育などを通じ、既にスキルを持っている人材でもさらなる高みを目指すとともに、様々な状況変化に対応し能力を向上させられるよう、学びなおしを支援し、組織的な育成に取り組んでいます。

 

■社内環境整備方針

中長期的な企業価値向上のためには、非連続的なイノベーションを生み出すことが重要であり、その原動力となるのが多様な個人の掛け合わせであります。そのため、人材の専門性や経験、感性、価値観といった知と経験のダイバーシティを積極的に取り込むことが必要であり、当社グループでは、経営理念「存在感」に基づき、従業員一人ひとりが様々な立場や価値観を認め合い、多様な働き方を実現できる環境づくりに向け、取り組みを進めてまいります。

 

 

①人材採用

・人材採用基本方針

グローバルにビジネスを展開する当社グループでは、世界中で活躍できる資質と高い志を持った、「存在感」ある人材を求めています。そうした人材の獲得のため、国籍、性別、障がい、人種、宗教、性的指向などに関係なく、応募者の適性・能力のみを基準とした公正公平な採用を活動の基本方針としています。

 

・経験者採用および外国人材の採用

我々を取り巻くビジネス環境は目まぐるしく変化しており、イノベーションの創出やグローバル展開の加速に向けて、活力と多様性に富む人材ポートフォリオの構築が必須です。そのため、当社では新卒採用のみならず、高い専門性や知見を有するプロフェッショナル人材の経験者採用・外国人材の採用を推進しております。また、データを活用し、当該人材の定着や能力発揮の状況を定期的に把握し、多様な人材が活躍しやすい風土を醸成しています。

 

・実績

2015年度~2023年度の9年間においては、新卒採用で526名を採用し、経験者採用では277名を採用しております。そのうち、外国籍の従業員については4名を採用しております。

 

②従業員エンゲージメントを高めるための取り組み

・働き方改革基本方針

我が国は「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面しており、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。

当社グループでは、この課題の解決のため、従業員の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる会社を実現し、従業員一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。

 

・従業員エンゲージメントレベルの把握

経営戦略の実現に向けて、従業員が能力を十分に発揮するためには、やりがいや働きがいを感じ、主体的に業務に取り組むことができる環境の整備が重要です。

当社グループでは、中期的な組織力の維持・向上を目指し、従業員アンケート等を通じてグループにとって重要なエンゲージメント項目を整理し、従業員のエンゲージメントレベルを定期的に把握しています。

 

・実績

従業員エンゲージメントの向上・ワークライフバランスの実現にむけ、業務の効率化、在宅勤務(テレワーク)等を推進しております。また、2023年度の有給休暇の取得率は、85.3%と厚生労働省が実施した2023年就労条件総合調査における平均取得率62.1%と比べて高い取得率となっています。

そうした取り組みの結果、勤続年数は、2024年3月末平均で男性15.6年、女性15.9年となっております。

 

③女性活躍推進

・女性活躍基本方針

我が国では、自らの意思によって職業生活を営み、または営もうとする女性がその個性と能力を十分に発揮して職業生活において活躍することがますます重要になっております。

その中で、当社グループでは、女性従業員の積極的な採用、雇用する女性従業員の職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に自ら取り組むとともに、国または地方公共団体が実施する女性の職業生活における活躍の推進に関する施策に協力を行っております。

 

・具体的な取り組み

在宅勤務、小学校卒業までの育児時短勤務の導入、育児休業の取得促進、有給休暇取得の半日単位・時間単位取得制度の導入のほか、女性向けキャリア研修等の実施を行っております。

 

・実績

全従業員に占める女性従業員の割合は、2024年3月末には6.2%であり、女性従業員に占める女性管理職割合は、2016年3月末の0%から2024年3月末には2.8%に増加しております。

また、2023年度の育児休業取得率は、女性は100%を達成しており、男性は2015年度の0.1%から36.8%へ大幅に増加しております。

 

(3) リスク管理

当社はサステナビリティの各課題について、気候変動、人権、人材確保・育成、品質保証、労働安全衛生、コンプライアンスおよび危機管理の各分野においてESG委員会においてリスクの特定等を行ったうえで、具体的な対応策について、担当部会等で実務的な検討を行う体制を構築しています。

また、ESG委員会において管理するリスクや機会および対応策についてはESG委員会の開催後に取締役会に報告され、必要な対策が取られるとともに経営戦略の立案・対応等に活用される仕組みとしています。

 

(4) 指標および目標

当社グループでは、上記「(2) 戦略」において記載した、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針および社内環境整備に関する方針について、次の指標を用いております。

当該指標に関する目標および実績は、次のとおりであります。

 

指標

目標

実績(当連結会計年度)

①女性の在籍人数

2030年まで150

109

②女性の管理職人数

2030年までに新たに10増やす

増減なし(3名)

 

 

当社グループでは、産業上の特性から、管理職の候補となり得る女性人材の絶対数が不足している状況です。そのため、今後新卒・経験者問わず女性人材の採用を強化し、まずは、女性が活躍する職場の土台作りを進めるとともに、管理職への育成を図ってまいります。

 

指標

目標

実績(当連結会計年度)

③男性の育児休業取得率

2030年まで40

36.8

④有給休暇の取得率

2030年までの期間平均70以上

85.3

 

 

男女問わず働きやすい職場づくりのため、従業員エンゲージメントの向上・ワークライフバランスの実現に向け、男性の育児休業取得率向上と有給休暇の取得率向上を目標としております。男性の育児休業取得率は上昇傾向にあり、2023年度は目標の20%を大きく上回り36.8%となりました。2024年度は目標を40%に引き上げ、引き続き男性の育児参加を推奨いたします。

 

(注1)連結子会社のうち、常時雇用する労働者が301人以上で女性活躍に関する情報を公表している会社(函館どつく株式会社・佐世保重工業株式会社)を対象にしています。

(注2)女性の在籍人数は正規雇用者を対象としており、パート職員・有期労働者は対象者に含んでおりません。

(注3)有給休暇の取得率は正規雇用者を対象としており、パート職員・有期労働者は対象者に含んでおりません。

 

3 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において、当社グループが判断したものであります。

 

① 政治・経済情勢

グループの中核事業である新造船事業におきまして、新造船の需要は海運市況に大きく左右されるため、世界経済の悪化や地政学的リスクの高まりなどの影響により海運市況が低迷した場合、新造船需要が後退し、受注の確保が難しくなります。また、修繕船事業や鉄構・機械事業におきましても、国内外の政治・経済情勢の動向を受けて受注環境が変化します。

 

② 事業環境・競争環境

世界の新造船需要は堅調な海運市況を背景に回復基調にあり、新造船の受注価格も改善するとともに為替も円安に進行しておりますが、世界的なインフレなど不安要素も多く、引き続き緊張感を持った事業経営が求められます。

新造船事業においては、受注から竣工引渡しまで通常およそ2~3年の期間を要します。厳しい受注環境下において仕事量確保のためやむを得ず受注する場合や将来を見据えて戦略的に受注する場合などは赤字受注となることもあり、受注時点で工事損失引当金を計上する場合があります。船価の建値はほぼ米ドルであり、売上高および工事損失引当金の計上額は、為替レート変動の影響を受けます。

 

③ 気候変動対応

地球環境問題への対応の一環として、船舶から排出される硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)、二酸化炭素(CO)などに対して、国際海事機関(IMO)が具体的な排出制限目標を定めるなど建造船における環境規制への対応が必須となっており、従来燃料に代わる新燃料船等に対するニーズが高まっています。

当社は顧客等と共同し環境対応型船型の開発等に積極的に取り組んでおりますが、これら規制対応や新燃料船にかかる効率的な研究開発体制および生産体制が確立できない場合には、当社グループの主力事業である新造船事業における技術的優位性の観点から不利になり、競争力が低下するリスクがあります。

 

④ 為替動向

新造船事業は輸出比率が高く、受注の大半は米ドル建ての契約であり、売上高および入金額や工事損失引当金は為替レートの変動の影響を受けます。為替レート変動の影響を軽減する対策として、為替動向を考慮しながら取締役会で定めた一定の方針に基づき計画的に為替予約を実施しております。しかしながら、急激な円高が生じた場合には、業績および財政状態に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

 

⑤ 個別受注契約

新造船事業では受注から竣工引渡しまでの期間が長期間に亘るため、その間の経済情勢の変化の影響を受けて当初見積りより建造コストが増加する可能性があり、見積精度の向上に努めています。また、建造船は、顧客ごとの仕様要求に応じた受注生産となっているため、受注契約時に十分な事前検討を行っておりますが、当初予期されなかった事柄が後日発生し設計変更や工程遅延等により、建造コストが増加する可能性があります。

また、当社は受注に際して顧客の信用力や風評について情報を収集し、案件によっては商社を主契約者として顧客の信用リスクを軽減するなど、個別の対応を行っております。

 

⑥ 資材調達

主要な原材料・資機材において、価格の急激な変動、地政学的リスクや災害等による供給不足の問題が生じた場合、製造原価が上昇するのみならず、調達品の納期遅れによる工程遅延等の問題が発生する可能性があります。

特に新造船事業においては主要原材料である鋼材価格の動静が製造原価の大きな変動要因になっているほか、世界的なインフレ傾向等により鋼材以外の資機材についても価格上昇の影響が懸念されます。このような状況下、資機材の確実な調達と情報収集のために大阪本社と東京事務所にも資材部員を常駐させ、調達部門と営業部門・設計部門やグループ各社との連携を強化し、各種合理化策、VA/VE活動等を一層深化させることで最大限の調達コスト削減を目指すとともに、従来の取引実績には拘らない内外サプライチェーンの見直しと再編に積極的に取り組んでまいります。

 

⑦ 人材確保・育成

当社グループにおいて人材は重要な経営資源であり、女性・外国人材の活用を含めて将来を担う人材の採用・育成と円滑な技術・技能の伝承に努めておりますが、労働市場の動向によっては計画通りの人材確保ができず、当社グループの業績および財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

⑧ 品質保証

当社グループは、品質や安全に関する法令等を遵守し、製品の品質向上に常に努めておりますが、過失等により大きな不具合が発生した場合、損害賠償や訴訟費用等により多額の費用が発生し、当社グループの業績および財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

⑨ 労働安全衛生

当社グループは、事業所および建設工事現場等における労働安全衛生管理に様々な対策を講じていますが、不測の事故等により重大な労働災害や健康被害が発生した場合には、生産活動に支障をきたし、当社グループの業績および財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

⑩ コンプライアンス

当社グループは、法令遵守がすべての基本であるとの認識のもと、グループESG委員会における議論を通じて従来の「株式会社名村造船所 行動憲章および行動指針」を改め、新たに「名村造船所グループ行動憲章」として定めるとともに、グループESG委員会・ESG委員会を中心とした活動により、各階層にわたるコンプライアンス教育・研修を実施するなどコンプライアンスの推進・実行を図っています。

このような活動にも関わらず、コンプライアンスに関わる重大な事案が発生した場合には、当社グループの信用力低下や当局からの処分等により、多額の費用や損失が発生し、当社グループの業績および財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

 

⑪ 危機管理

当社グループは、大規模な地震や風水害等の自然災害や火災・その他の災害等の発生に備えて設備の点検、訓練の実施、連絡体制の整備などを進めておりますが、このような災害等による生産設備の損壊、物流機能の麻痺等の直接的な被害や、電力不足が解消されないこと等の間接的な被害が発生した場合、また予期せぬ感染症の拡大により操業への影響などが生じた場合には、当社グループの事業活動に支障をきたし、業績および財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

⑫ 情報セキュリティ

当社グループは、事業を通じて入手した取引先等の機密情報や当社グループの設計・技術・営業等に関する機密情報を保有しており、これらの情報の保護に努めておりますが、コンピュータウィルスの感染や不正アクセス等によりこれらの情報が流出・消失した場合やシステムが停止した場合、当社グループの業績および財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

⑬ 投資有価証券の減損

当社グループが保有する投資有価証券のうち、時価を有するものについては時価が著しく下落した場合に、時価のないものについては実質価額が著しく低下した場合に、投資有価証券評価損を計上することがあります。

保有する投資有価証券については継続保有に資するかを毎年検討しており、保有の意義・合理性が乏しくなったと判断される株式については、適宜、縮減を図ってまいります。

 

⑭ 固定資産の減損

当社グループが保有する固定資産について、経営環境の変化等により将来キャッシュ・フローの見通しが低下した場合等に減損損失を計上することがあります。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況の概要は次のとおりです。 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。

 

(1)経営成績

 当連結会計年度の業績は以下のとおりです。                         (単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

増減率

売上高

124,080

135,006

10,926

8.8%

営業利益

9,595

16,493

6,898

71.9%

経常利益

11,369

20,007

8,638

76.0%

親会社株主に帰属する

当期純利益

11,194

19,954

8,760

78.3%

 

 

 当連結会計年度の為替レートは以下のとおりです。

 

 

前連結会計年度

当連結会計年度

差額

期末レート (連結会計年度末)(注1)

133.53円/US$

151.41円/US$

 17.88円 円安

売上高平均レート(連結会計年度)(注2)

131.01円/US$

143.58円/US$

 12.57円 円安

 

(注1)未入金かつ未予約のドル建売上高は当連結会計年度末のレートでもって円換算しております。

(注2)売上高平均レートは、「為替予約済レートを含む円換算売上高総額」÷「ドル建て売上高総額」であります。

 

 

(概況)

当連結会計年度の世界経済は、ウクライナや中東における地政学的な問題が大きく影を落とし、中国経済の減速が懸念されながらも、欧米各国中央銀行の金融政策などにより急激なインフレは緩和され、比較的順調に推移しましたが、通貨面では米国の高金利政策の継続により米ドルの独歩高が続いております。

世界の新造船市場は、2021年以降の新造船需要の回復に伴って、2023年1~12月の世界の新造船竣工量は新型コロナウイルス禍以前の6,000万総トン台に回復し、日本造船所においても資機材価格や人件費の高騰が懸念されるものの、船価水準の上昇と円安を追い風に手持工事量を積み上げております。

当連結会計年度の経営成績は、グループ経営資源の「選択と集中」による事業基盤の強化と合理化を加速させた結果、売上高は135,006百万円、営業利益は16,493百万円、経常利益は円安による為替差益(2,485百万円)を含め20,007百万円、税金等調整前当期純利益は20,056百万円、親会社株主に帰属する当期純利益は19,954百万円と大幅な増収増益になりました。

 

 


 

<セグメント別概況>

(単位:百万円)

 

売上高

営業利益(△は損失)

前連結

会計年度

当連結

会計年度

増減額

増減率

前連結

会計年度

当連結

会計年度

増減額

増減率

新造船

95,003

102,834

7,831

8.2%

9,922

16,780

6,858

69.1%

修繕船

16,261

18,990

2,729

16.8%

991

1,766

775

78.2%

鉄構・機械

6,986

6,858

△128

△1.8%

226

△122

△348

その他

5,830

6,324

494

8.5%

445

511

66

15.0%

124,080

135,006

10,926

8.8%

11,584

18,935

7,351

63.5%

消去又は全社

△1,989

△2,442

△453

連結

124,080

135,006

10,926

8.8%

9,595

16,493

6,898

71.9%

 

 

〈新造船事業〉

当連結会計年度の売上高は102,834百万円(前年同期比8.2%増)、営業利益は16,780百万円(前年同期比69.1%増)となりました。前連結会計年度の業績には決算期が当社と異なる海外子会社が前々期に竣工時売船した新造船2隻の売上高(約100億円)やその利益(約13億円)、工事損失引当金の戻入益(約96億円)などの特殊要因が含まれております。当連結会計年度においては、鋼材をはじめとする材料費の高騰の影響を受けたものの、円安の進行に加えて操業量の回復と建造船価の改善、函館どつく株式会社と連携した工数や資材費などの原価削減活動の効果もあって、前期比で大幅な増収・増益となりました。

当連結会計年度におきましては、地球環境に配慮したLPG燃料対応大型LPG・アンモニア運搬船(VLGC)1隻やLNG燃料対応大型石炭専用船1隻、大型撒積運搬船6隻など計12隻を完工し、大型撒積運搬船など計25隻を受注した結果、当連結会計年度末の受注残高は310,858百万円(前年同期比31.6%増)となりました。

 

〈修繕船事業〉

佐世保重工業株式会社と函館どつく株式会社が担う修繕船事業においては、主力の国内艦艇修繕工事に加えて、佐世保重工業株式会社においては大型客船や探査船、LNG運搬船などの技術難度が高い修繕工事に積極的に取り組み、函館どつく株式会社においては函館・室蘭両工場の地域特性を生かして海上保安庁巡視船、フェリー・RORO船、作業船や漁船にも取り組んだ結果、当連結会計年度の売上高は18,990百万円(前年同期比16.8%増)となり、稼働率が大幅に改善されたことから営業利益は1,766百万円(前年同期比78.2%増)となりました。

当連結会計年度末の受注残高は10,715百万円(前年同期比30.6%増)となりました。

 

〈鉄構・機械事業〉

鉄構橋梁部門においては、昨年7月に発生させました橋桁落下事故により工事が大幅に遅延したことから売上高が減少し、事故処理に伴って発生が見込まれる費用約5億円を当連結会計年度に計上いたしました。舶用機械部門においては、原材料費の高騰による赤字を最小限に抑えるために操業量の調整を余儀なくされました。その結果、当連結会計年度の売上高は6,858百万円(前年同期比1.8%減)、営業損失は122百万円(前年同期は226百万円の営業利益)となりました。

当連結会計年度末の受注残高は6,906百万円(前年同期比26.9%減)となりましたが、舶用機械部門の事業環境は、顕著に改善してまいりました。

 

〈その他事業〉

事業環境の好転と経営の合理化により、当連結会計年度の売上高は6,324百万円(前年同期比8.5%増)、営業利益は511百万円(前年同期比15.0%増)となりました。

当連結会計年度末の受注残高は、2,030百万円(前年同期比5.3%増)となりました。

 

 

(2)生産、受注および販売の実績

① 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと次のとおりであります。

 

セグメントの名称

生産高(百万円)

前年同期増減率(%)

新造船事業

99,684

16.3

修繕船事業

16,396

14.4

鉄構・機械事業

6,731

△3.3

その他事業

5,820

11.8

合計

128,631

14.7

 

(注)

上記の金額は、「収益認識に関する会計基準」等によらず、工事の完成・引渡時点をもって算定された金額を記載しております。

 

 

② 受注実績

当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと次のとおりであります。

 

セグメントの名称

受注高(百万円)

前年同期
増減率(%)

受注残高(百万円)

前期末増減率(%)

新造船事業

145,149

14.4

310,858

31.6

修繕船事業

21,533

37.3

10,715

30.6

鉄構・機械事業

5,339

△7.3

6,906

△26.9

その他事業

6,948

△4.5

2,030

5.3

合計

178,969

15.1

330,509

29.2

 

(注)

上記の金額は、「収益認識に関する会計基準」等によらず、工事の完成・引渡時点をもって算定された金額を記載しております。

 

 

③ 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと次のとおりであります。

 

セグメントの名称

販売高(百万円)

前年同期増減率(%)

新造船事業

84,947

10.1

修繕船事業

19,023

17.9

鉄構・機械事業

7,874

61.8

その他事業

6,845

6.8

合計

118,689

13.5

 

(注)

上記の金額は、「収益認識に関する会計基準」等によらず、工事の完成・引渡時点をもって算定された金額を記載しております。

 

 

 

 

(3)財政状態

(単位:百万円)

 

前連結会計年度末

(2023年3月31日)

当連結会計年度末

(2024年3月31日)

増減

総資産

124,901

174,791

49,890

負債

74,937

94,892

19,955

(内有利子負債)

(11,290)

(12,760)

(1,470)

純資産

49,964

79,899

29,935

自己資本比率

39.8%

45.4%

5.6ポイント

有利子負債比率

22.7%

16.1%

△6.6ポイント

 

 

当連結会計年度末の総資産は、業績の改善と、新造船の受注増に伴う契約負債の増加により現金及び預金が増加したほか、保有している投資有価証券の時価上昇の影響もあって前連結会計年度末に比べて49,890百万円増加し、174,791百万円となりました。

負債は、新規受注案件の増加に伴う契約負債の増加により前連結会計年度末に比べて19,955百万円増加し、94,892百万円となりました。

純資産は、親会社株主に帰属する当期純利益を19,954百万円計上し、また、その他有価証券評価差額金が9,829百万円増加したことから、前連結会計年度末に比べて29,935百万円増加して79,899百万円となり、当連結会計年度末の自己資本比率は5.6ポイント増の45.4%となりました。

新造船事業においては進水時までに原価の85%の支払いが発生しているにも関わらず入金額が30~40%にすぎず、修繕船事業においては工事の大型化・長期化にも関わらず工事代金の支払いが殆ど完工後となり、いずれも資金負担が重い状況にあります。また、当社は「大型設備投資は不況時に」を原則に伊万里事業所の完成度を高めてまいりましたが、不況時における資金需要となるがために外部借り入れが難しく、設備投資の多くを転換社債や増資で得た自己資金で賄ってきたことから、当連結会計年度末の有利子負債比率は16.1%と至って健全な状態にあります。しかしながら、新造船事業や修繕船事業における運転資金負担の特異性、特に環境対応船の建造期間の長期化や研究開発の増加、函館どつく株式会社や佐世保重工業株式会社の老朽設備の更新と増強、当社伊万里事業所をはじめとする各工場のスマートファクトリー化などによる事業基盤強化とさらなる成長のための長期資金の需要増に対応するために、直接金融に加えて取引銀行などの理解と協力を得て、有利子負債比率80%を限度に長期借入金の増額と当座貸越の増枠などあらゆる資金調達の方策を検討してまいります。

 

(4)キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」と言う)は、前連結会計年度末に比べ25,930百万円増加し、55,386百万円となりましたが、グループ内の資金需要が強く、さらなる上増しが必要であります。

営業活動によるキャッシュ・フローは、業績の改善や新造船の受注増に伴って契約負債が増加したことにより、27,405百万円の資金の増加になりました。

投資活動によるキャッシュ・フローは、固定資産の取得等により1,919百万円の資金の減少となりました。

財務活動によるキャッシュ・フローは、新規借入等により571百万円の資金の増加となりました。

 

 

(5) 資本の財源および資金の流動性についての分析

① 財務政策

当社グループの事業活動にかかる運転資金については、主として営業キャッシュ・フローで獲得した資金を財源とし、必要に応じて不足分について銀行借入による調達を実施しております。設備投資資金等の長期的資金については、設備投資計画や事業投資計画に基づき、金利動向や既存借入金の償還時期等を総合的に勘案した上で長期借入金(や社債)等により調達することを基本方針としております。また、国内金融機関とコミットメントライン契約を締結するなど、不測の事態にも対応できる体制を整えています。

当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、前連結会計年度末と比較して25,930百万円増加し、55,386百万円となりました。引き続き長期的視野に立ったグループ経営を推進し、財務基盤の強化に努めてまいります。

 

② 資金需要の主な内容

当社グループの資金需要は、営業活動については、鋼材や資機材などの原材料費および外注加工費、人件費のほか、技術力強化や新船型開発、品質向上のための研究開発費が主な内容となっております。投資活動については、2022年度末に伊万里事業所先進化プロジェクトを発足させ、IoTやAI技術の活用による生産活動の合理化と省力化設備の導入による工場先進(スマートファクトリー)化の早期実現に向けて取り組んでおり、各製造拠点における生産性向上とコスト競争力強化を目的とした設備の近代化に加え、省エネ機器への代替や既存設備の予防保全、老朽化設備のリプレイス等の費用があります。

 

(6) 重要な会計上の見積りおよび当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。この連結財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益および費用の報告額に影響を及ぼす見積りおよび仮定を用いておりますが、これらの見積りおよび仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。

連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積りおよび仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載しております。

 

5 【経営上の重要な契約等】

特に記載すべき事項はありません。

 

 

6 【研究開発活動】

当連結会計年度の研究開発活動は、主に中核事業である新造船事業において環境に配慮した省燃費船型の研究や既存製品の品質向上、船型開発を中心とした開発等を外部研究機関とも連携し取り組み、研究開発費の総額は643百万円となりました。