第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

本項においては、将来に関する事項が含まれていますが、当該事項は2025年3月31日現在において判断したものです。

 

(1)会社の経営の基本方針

  トヨタは経営の基本方針を「トヨタ基本理念」として掲げており、その実現に向けた努力が、企業価値の増大につながるものと考えています。その内容は次のとおりです。

1. 内外の法およびその精神を遵守し、オープンでフェアな企業活動を通じて、国際社会から信頼される企業市民をめざす

2. 各国、各地域の文化、慣習を尊重し、地域に根ざした企業活動を通じて、経済・社会の発展に貢献する

3. クリーンで安全な商品の提供を使命とし、あらゆる企業活動を通じて、住みよい地球と豊かな社会づくりに取り組む

4. 様々な分野での最先端技術の研究と開発に努め、世界中のお客様のご要望にお応えする魅力あふれる商品・サービスを提供する

5. 労使相互信頼・責任を基本に、個人の創造力とチームワークの強みを最大限に高める企業風土をつくる

6. グローバルで革新的な経営により、社会との調和ある成長をめざす

7. 開かれた取引関係を基本に、互いに研究と創造に努め、長期安定的な成長と共存共栄を実現する

 

(2)トヨタフィロソフィー

トヨタはモビリティカンパニーへの変革を進めるために、改めて歩んできた道を振り返り、未来への道標となる「トヨタフィロソフィー」をまとめました。

トヨタはモビリティカンパニーとして移動にまつわる課題に取り組むことで、人や企業、コミュニティの可能性を広げ、「幸せを量産」することを使命としています。そのために、モノづくりへの徹底したこだわりに加えて、人と社会に対するイマジネーションを大切にし、様々なパートナーと共に、唯一無二の価値を生み出していきます。

 

「トヨタフィロソフィー」

 


MISSION

わたしたちは、幸せを量産する。

技術でつかみとった未来の便利と幸福を

手の届く形であらゆる人に還元する。

VISION

可動性(モビリティ)を社会の可能性に変える。

人、企業、自治体、コミュニティが

できることをふやし、人類と地球の

持続可能な共生を実現する。

VALUE

トヨタウェイ

ソフト、ハード、パートナーの

3つの強みを融合し、唯一無二の

価値を生み出す。

 

 

 

(3)会社の対処すべき課題

  グループビジョン「次の道を発明しよう」

グループビジョンは、トヨタグループ*1の目指すべき方向、トヨタグループ全員が立ち戻ることができるビジョン・価値観です。

 

「次の道を発明しよう」。

 

グループの創始者・豊田佐吉は「苦労する母親を少しでも楽にしたい」という想いで、「豊田式木製人力織機」を発明しました。そして、豊田喜一郎は「日本人の頭と腕で自動車工業を興さねばならない」との想いで「国産乗用車」を発明しました。誰かを想い、学び、技を磨き、ものをつくり、人を笑顔にする。発明への情熱と姿勢こそ、トヨタグループの原点です。

正解のない時代に、互いに「ありがとう」と言い合える風土を築き、多様な人財が活躍し、未来に必要とされるトヨタグループを目指していきます 。

*1 ㈱豊田自動織機、トヨタ自動車㈱、愛知製鋼㈱、㈱ジェイテクト、トヨタ車体㈱、豊田通商㈱、㈱アイシン、㈱デンソー、トヨタ紡織㈱、トヨタ不動産㈱、㈱豊田中央研究所、トヨタ自動車東日本㈱、豊田合成㈱、日野自動車㈱、ダイハツ工業㈱、トヨタホーム㈱、トヨタ自動車九州㈱、ウーブン・バイ・トヨタ㈱の18社(2025年3月31日時点)

 

   足場固めと認証問題への対応

[足場固め]

この1年は、持続的成長の基盤として「1,000万台のクルマづくりの競争力」と「多様な挑戦の実行力」を発揮できる環境をつくること、すなわち「足場固め」の取り組みを着実に進めてきました。

全社を挙げて、余力をつくり、人材育成や安全・品質の徹底に取り組んできました。特に注力してきたのが、生産現場の基盤整備です。

モノづくりを取り巻く環境は、厳しさを増しています。日本の生産年齢人口は、今後15年で2割減少する見込みです。建屋・設備の老朽化が進み、稼働に影響を与えることも増えています。「生産性」と「働きやすさ」を向上させなければ、モノづくりの基盤を守り抜けないという問題意識のもと、各工場で暑熱対策をはじめとする環境改善や、多様なメンバーの全員が働きやすい生産ラインづくりなどに取り組んできました。

さらに、将来に向けて、モノづくりの変革を目指す「未来工場」のプロジェクトも立ち上げました。自動化の大幅な拡充や多様な働き方の導入など、10年先、50年先を見据えて、生産性向上とやりがいにつながる踏み込んだ取り組みを検討していきます。

 

開発においても、「1,000万台のクルマづくりの競争力」の向上に取り組んできました。そのひとつが、TNGAプラットフォームの素性の良さを活かして、多様なお客様ニーズに柔軟に応えながら、お客様のニーズを正しく把握して仕様や部品の種類を適正化する「AREA35」の活動です。国内10工場でのトライアルを通じて、フルモデルチェンジ3プロジェクト相当の開発効率化につなげることができました。今後はグローバルに活動を展開して、さらなる開発・生産効率の向上を目指します。

 


 

また、基幹システムが分散していることで、人が介在してつないでいる車両仕様情報をDXにより開発から販売まで一気通貫でつなぐ仕組みなど、将来を見据えたクルマづくりの基盤整備も進めてきました。

 


 

 

[認証問題への対応]

認証問題については、全社を挙げて、再発防止に取り組んできました。国土交通省には四半期報告としてこれまで2回、その進捗を報告し、ご指導をいただきながら改善を進めています。

短期の取り組みは、再発防止で定めた14項目の着実な実行です。認証問題を通じて分かった経営と現場の乖離という反省を踏まえ、多くの経営メンバーが現場を回る活動に取り組みました。

 


 

これらの取り組みにより、認証業務は「現場の頑張り」に支えられているということ、また、現場では設備や備品の老朽化が業務に大きな影響を与えていることなど、様々な課題が明らかになりました。

こうした実態を踏まえて、現場の負担や不安を解消できるよう、負荷が高い部署の人員の拡充や、正しい仕事に必要な設備250件以上の投資を即決するなど、対策を進めました。

監査体制についても、2線監査を強化するために「法規主監」のメンバーを約40名まで増員し、認証現場の実態をくまなく把握できる体制を整えました。

そして、開発の節目管理も強化するために、認証準備や開発完了などの節目で、責任者を明確にしたうえで次のフェーズへの移行可否を判断する仕組みへ見直しました。実際のプロジェクトで、計画に無理が認められるものは移行を止めるという運用が既に始まっています。引き続き、現場を楽にする改善を積み重ねて、正しい仕事ができる環境を整えています。

中期の取り組みでは、一人ひとりの意識、風土を変えることを目指しています。その軸となるのが、会長の豊田のリードで進めている法規認証をテーマにしたTPS自主研の取り組みです。TPS自主研では、余力を生み出し正しい仕事を実践するために部署を超えたメンバーが集まって、仕事のプロセス全体で、停滞やムダを減らす改善を進めています。

例えば、エンジンECUの開発プロセスや車両仕様書をつくるプロセスのリードタイムの短縮をテーマに掲げて、改善活動が進んでいます。

長期の取り組みは、認証制度の改革です。2025年3月には、国土交通省と自動車メーカーの間で、未来志向の認証制度を検討する「官民協議会」がキックオフしました。認証現場の声を国土交通省に届け、日本の競争力に資する制度改革につなげていきます。

認証問題への対応を通じ、この取り組みは、会社全体の風土・体制・仕組みを改善することそのものであると感じています。引き続き、取り組みの実効性を高めて、トヨタらしいガバナンスの向上につなげていきます。

 

 

  連結ガバナンスの進捗

連結ガバナンスについても、昨年取りまとめた施策を着実に実行しました。

 


 


 

 

風土面では、グループ6社*2が一体となったTPS自主研の活動において、グループ各社のトップが集まり、現場に軸足を置いた改善を進めています。トップおよび実務で重層的なコミュニケーションを拡充し、各社の悩みや本音を双方向で共有しています。

特に、認証問題の再発防止に取り組むダイハツ工業㈱、日野自動車㈱、㈱豊田自動織機との連携を強化しました。ダイハツ工業㈱と㈱豊田自動織機とは、再発防止の進捗や、事業連携のあり方など、お互いの困りごとや経営課題について、トップ間で頻度高く、話し合いを続けてきました。日野自動車㈱に対しては、ダイムラートラック社とともに、三菱ふそうトラック・バス㈱との経営統合の準備をサポートしています。今後とも、トップ同士、実務間で、再発防止を踏まえたグループ連携を深めていきます。

体制面では、取締役会の実効性の向上に取り組むとともに、昨年6月に立ち上げた「ガバナンス・リスク・コンプライアンス会議」では、認証問題や大規模災害のBCPをはじめとする足元の重要経営課題について、また、「サステナビリティ会議」では、未来工場やダイバーシティ人財の活躍など、サステナビリティ経営の重点5テーマについて、社外役員の知見を取り入れて、施策の方向づけを行ってきました。

仕組みの面では、内部統制の強化に向けて、重点対象の子会社17社に対して、従来の2倍以上の時間をかけて、多面的な監査を実施してきました。さらに、子会社の役員向けの内部統制に関する研修会の実施、他社事例の共有など、実践的かつ具体的な研修プログラムも展開しています。

なお、認証問題の責任については、会長・副会長・社長の評価に反映し、報酬を減額しています。詳細は、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等(4)役員の報酬等」を参照ください。

引き続き、グループ・連結の視点で、ガバナンスの向上に取り組んでいきます。

*2 ㈱豊田自動織機、トヨタ自動車㈱、トヨタ車体㈱、トヨタ自動車東日本㈱、日野自動車㈱、ダイハツ工業

 

 

   モビリティカンパニーへの変革の実践

トヨタは、すべての人に移動の自由と楽しさをお届けし、安心・安全で、持続可能なモビリティ社会を実現するために、モビリティカンパニーへの変革を目指しています。

 

将来にわたって、クルマが世の中の人々を笑顔にするモビリティであり続けるためには、交通事故や環境負荷の増大、渋滞など、クルマが生み出すネガティブな影響を最小化し、同時に、利便性や快適性、運転の楽しさなど、ポジティブな面を最大化していくことが必要であると考えています。そのステップを「モビリティ1.0:クルマの価値の拡張」「モビリティ2.0:モビリティの拡張」「モビリティ3.0:社会システムとの融合」の3つに整理したToyota Mobility Conceptのもと、「カーボンニュートラル」「移動価値の拡張」という重点テーマに基づき、様々な挑戦を進めています。

クルマの未来を変えていくうえでは、エネルギーの未来に向き合うことが大切です。将来的には、再生可能エネルギーの普及を通じて、社会を支えるエネルギーは電気と水素に収れんしていくと考えられます。一方で、足元では国・地域ごとに様々なエネルギー事情があり、トランジションのペースは異なります。こうした背景認識のもと、電気と水素の未来を見据えながら、短期的にはエネルギーの実情や多様なお客様ニーズに応える選択肢を提供し、現実に即したトランジションを進めていくのが、トヨタのマルチパスウェイの考え方です。

当期も、実践的なCO2削減に貢献するハイブリッド車の多様なラインアップを基盤に、マルチパスウェイの取り組みの解像度を上げるべく、選択肢の具体化を着実に進めてきました。内燃機関においては、レースを通じて鍛えている水素エンジンの技術をはじめ、長年培ってきた燃焼技術を磨いて、環境性能の高い小型・高効率な新エンジンを開発しています。次世代BEVの小型電動ユニットも活用し、電気リッチなハイブリッド車・プラグインハイブリッド車を生み出すことをめざしています。

次世代BEVでは、原理原則に立ち返って、クルマの構造・設計とモノづくりの合理化に取り組み、デザインはもちろん、空力をはじめとするBEVの最適な性能にこだわって開発を進めています。小型電動ユニットなど、磨いた技術をその他のパワートレーンの進化にも活かしていきます。

水素で走るFCEVは、まずは商用車を軸に事業・市場の基盤づくりを進めています。エネルギー事業者をはじめとする仲間とともに、「つくる」「はこぶ」「つかう」のバリューチェーン全体での連携を強化しています。

 

そして、多様な移動ニーズにお応えしていくために、社会とつながるクルマの新たな価値づくりをめざしています。そのカギは、ソフトウエアプラットフォームのAreneの実装を通じて、データとエネルギーの可動性を高めていくことです。

次世代BEVで挑戦するソフトウエア・ディファインド・ビークル(SDV)がこの取り組みをリードしていきます。トヨタが考えるSDVの最も重要な提供価値は、安全・安心です。交通事故ゼロに貢献する自動運転など、安全・安心を軸にしたクルマの価値を広げるために、日本電信電話㈱をはじめとするパートナーの皆様とともに、切れ目のない通信・AI基盤の構築を進めています。さらに、クルマを多様なサービスやアプリとつなげて、お客様に寄り添った移動の価値を生み出していきたいと考えています。

 

 

また、クルマの価値を広げながら、パーソナルモビリティから車いすモビリティ、e-Paletteなどの商用モビリティ、ボート、フライングモビリティまで、新しい領域へのモビリティの拡張に取り組んでいます。多くのパートナーと共に、今の事業範囲を越えて、世界中のお客様の移動を支えていきたいと考えています。

モビリティ3.0の領域では、社会システムと融合したモビリティの価値づくりをめざしています。タイでパートナーと取り組んでいるデータ・エネルギー・モビリティの社会実装や、中国における自動運転・水素社会の実装など、地域ごとにプロジェクトを進めています。蓄電事業では、再生可能エネルギーの普及に向けた持続可能な社会システムの構築をめざしています。電池のエコシステムづくりをはじめ、「より少ない資源でつくる」「より長く使う」「回収時に廃棄物を出さない」という考え方のもと、サーキュラーエコノミーの実現を目指した取り組みも進めています。

これらの挑戦を支えるのが、2025年秋以降に実証をスタートするモビリティのテストコース「Woven City」です。Woven Cityは「自分以外の誰かのために」という思いをもつInventors(発明家)が「モビリティの拡張」を目指し、自らのプロダクトやサービスを生み出し、実証を行う場です。Woven Cityにおける価値を共創するWeavers(住民やビジター)からリアルなフィードバックを受けながら、様々なInventorsとのコラボレーションを通じて、未来につながるイノベーションを生み出していきます。様々な新しい技術・サービスをWoven Cityで実証し、社会実装で育てるサイクルを回して、社会システムと融合したモビリティの価値をスピーディに具現化していきたいと考えています。

Toyota Mobility Conceptのもと、クルマの新たな価値を追求し続けていくことで、モビリティカンパニーへの変革を着実に進めていきます。

 

今後とも、各地域のお客様に笑顔になっていただけるいいクルマをお届けできるよう、全社を挙げて努力を重ねていきます。そして、「クルマの未来を変えていこう」という想いのもと、安全・安心で豊かなモビリティ社会をつくることを目指して、多くの仲間とともに挑戦を加速していきます。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社のサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。

(1)ガバナンス

当社は、創業以来、「豊田綱領」の精神を受け継ぎ、「トヨタ基本理念」に基づいて事業活動を通じた豊かな社会づくりを目指してまいりました。2020年には、その思いを礎に「トヨタフィロソフィー」を取り纏め、「幸せの量産」をミッションに掲げて、地域の皆様から愛され頼りにされる、その町いちばんの会社を目指しています。そのトヨタフィロソフィーのもと、サステナビリティ推進に努めています。

当社では、外部環境変化・社会からの要請などを把握し、より重要性・緊急性が高い課題に優先的に取り組むために、取締役会の監督・意思決定のもと、次のような推進体制にて関係部署と密に連携しながら、環境・社会・ガバナンスなどのサステナビリティ活動を継続的に推進・改善しています。

経営に関わる横断的なサステナビリティの重要課題を審議するため、社長が議長を務め、主に環境、社会課題に関するテーマを扱うサステナビリティ会議と、Chief Risk Officerが議長を務め、ガバナンスに関するテーマを扱う「ガバナンス・リスク・コンプライアンス会議」を設置しています。その他、より実務に近い個別の課題・テーマは機能軸で分科会を設け、審議する体制を構築しています。

また、サステナビリティ活動に関して外部ステークホルダーとのエンゲージメントや情報発信をリードする責任者としてChief Sustainability Officerを任命しています。

<サステナビリティ推進体制>


 

サステナビリティ会議

ガバナンス・

リスク・

コンプライアンス会議

サステナビリティ分科会

CN戦略分科会

ガバナンス・

リスク・

コンプライアンス

分科会

議長

社長

CRO兼CHRO

サステナビリティ統括部長兼CCO

CN開発センター長

サステナビリティ統括部長兼CCO

メンバー

副社長2名、

社外取締役1名、

社外監査等委員2名、

CPO、CSO、CRO兼CHRO、CCO、

執行役員1名、

他5名

副社長2名、

社外取締役1名、

社外監査等委員3名、

監査等委員1名、CPO、CCO、CSO、

他3名

社外取締役1名、

社外監査等委員1名

CRO兼CHRO、CSO、CISO、他5名

 

副社長2名、

執行役員3名、

CPO、CSO、CISO、

 

他10名

社外取締役1名、

社外監査等委員1名、

執行役員1名、

CRO兼CHRO、CSO、CISO、GCQO、

他9名

2024年度

開催実績

5回

3回

 

3回

2回

5回

取締役会への

報告頻度

重要な事案が生じたとき

重要な事案が生じたとき

重要な事案が生じたとき

重要な事案が生じたとき

重要な事案が生じたとき

内容

サステナビリティに関連する重要案件について、審議・決定・活動を推進することで企業価値向上に貢献

ガバナンス・リスク・コンプライアンスに関連する重要事項、特に経営レベルで方向付けが必要な案件を提案・審議

内外の変化を総覧しつつ、環境、社会、ガバナンス、およびSDGsに関わる中長期的な競争力強化とリスク対応に関する経営の重要事項について報告・審議

カーボンニュートラルおよび環境課題に係る、グローバルの需要動向への共通認識を醸成

上記に関する目標・KPI などの経営上の重要施策を報告・審議

ガバナンス・内部統制、企業倫理、コンプライアンスおよびインシデントならびに事業・商品戦略におけるリスクマネジメント全般に関する重要課題および対応について審議・決定・活動を推進

 

CPO:Chief Production Officer   CHRO:Chief Human Resources Officer CCO:Chief Compliance Officer              GCQO:Global Chief Quality Officer 

CSO:Chief Sustainability Officer CRO :Chief Risk Officer       CISO:Chief Information & Security Officer 

 

(2)リスク管理

当社は、カーボンニュートラル、CASE※など自動車産業を取り巻く状況や価値観の大変革時代において、常に新たな挑戦が求められるなか、不確実性への対応としてリスクマネジメントをより一層強化してまいります。

各地域、機能、カンパニーが相互に連携・サポートし、グローバル視点で事業活動において発生するリスクを予防・緩和・軽減し、適切に管理するために、リスクマネジメントの責任者としてChief Risk Officer(CRO)、Deputy CRO(DCRO)および、各地域にリスクマネジメント統括を配し、以下の推進体制を構築しています。また、全社横断的な観点でリスクを特定し、対応・モニタリングを行うためにCCOのもと「ガバナンス・リスク・コンプライアンス分科会」を設置しています。重要案件についてはCROを議長とした「ガバナンス・リスク・コンプライアンス会議」にて審議し、取締役会へ適切に付議し、事業の推進を図っています。

なお、リスクマネジメントシステムの仕組みとして、ISOやCOSO(Committee for Sponsoring Organizations of the Treadway Commission)を基盤とする全社的リスク管理フレームワーク、Toyota Global Risk Management Standard(TGRS)に基づき、定期的なリスクの識別・評価および対策の推進を実施しています。

 

※ CASEとは、Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の頭文字をとった略称

 

 


 

 

 

(3)人的資本に関する考え方及び取り組み

当社グループにおいては、「モノづくりは人づくり」との理念の下で、創業当初より人材育成に注力してまいりました。

自動車産業が、100年に1度の大変革期のなか、当社グループでは、「継承と進化」をテーマに掲げ、「もっといいクルマをつくろう」、「世界一ではなく、町いちばんへ」、「自分以外の誰かのために」といったトヨタらしさを引き継ぐとともに、未来にむけて、「モビリティカンパニーへの変革」を実現するために、全力で取り組みを進めつつあります。

こうした正解のない時代のなかで、豊田綱領に象徴される創業期の理念・トヨタらしさを守り、トヨタフィロソフィーを道標にクルマの未来を切り開いていくためには、トヨタで働く一人ひとり、まさにグローバル38万人の仲間が、同じ思いを共有し、「チームで、同時に、有機的に動いていくこと」、そして、そのための人づくりが求められていきます。

グローバル全体としては、全地域へのフィロソフィーの浸透に加え、グローバル幹部候補向けの研修をはじめとする様々な機会を通して、本社と地域事業体が一体となり、トヨタの「思想・技・所作(トヨタフィロソフィー・トヨタ生産方式(TPS)等)」を軸とした人材育成の共通基盤づくりを強化しています。また、地域事業体においても、地域特性や多様なお客様ニーズに応じ、地域に根差した人材戦略の策定と実行を、機動力よく推進するための体制整備を促進しています。

当社においては、育成を含む人への投資について、労使の間でも継続的な対話を続けてきています。「会社は従業員の幸せを願い、従業員は会社の発展を願う」という労使共通の価値観の下、これまでの労使による話し合いにおいて、当社の最大の財産は「人」であるという共通認識に立ち、未来に向けた諸施策について、労使間での議論を実施するとともに、スピーディな変革に繋がるよう、具体的な取り組みまで確認し、労使ともになって取り組みを推進してまいりました

 

2023年以降は、「誰もが、いつでも、何度でも、失敗を恐れず挑戦できる」会社であるため、「多様性」「成長」「貢献」を3つの柱とした諸施策の実現、および、その柱を支えるための土台の強化を進めてきました。加えて2024年は、「10年後の働き方を今つくる」という、 将来を見据えた中での対応を進めるため、一人ひとりが、会社で働くことのやりがいを見つけ、自ら成長する機会を求める・見つける・取りに行くこと、またそのような行動を会社としても応援する環境を整備することを目指し、以下の取り組みを推進しました。

 

<2024年の主な取り組み>

 1.より働きやすいモノづくり環境の整備

   ●多様な人材が安心して働ける職場環境の整備

     ・工場の環境整備の推進/寮のリニューアルの着手

   ●創造性を育むリソーセス確保

     ・女性活躍や高齢者活用を推進する基盤の整備

 2.自らやりがいや成長をつかみ取る仕組みづくり

   ●強みを活かす働き方

     ・全職種を対象とした職種変更制度の一部職種でのトライアル実施

     ・自律的な働き方を促進する基盤の整備

   ●マネジメントの強化

     ・マネジメントの役割定義と育成・評価の見直し、環境整備

   ●自ら学べる機会

     ・自律型人材の輩出に向けた支援策の整備・展開(選択型研修の強化等)

   ●自社製品の知識/愛着

     ・研修等を通じた試乗体験機会の提供

 

上記を通じ、当社の中で顕在化していた課題の解消が進み、「働きやすさ」と「やりがい」の向上につながる環境整備を一歩ずつ前進させられていると考えています。

 

当社は、引き続き「全員活躍」に向けた取り組みを推進してまいりますが、競争力を維持しつづけ、将来に引き継いでいくためには、全員が健全な危機感と当事者意識を持ち、未来に向けた行動を積み重ねていくことが重要と考えております。

そのため、2025年は全社に加え本部別でも労使の話し合いを行い、以下の取り組みを推進していくことといたしました。

 

<総合的な「人への投資」の方向>

「人も職場も一律ではない」という想いのもと、各職場固有の課題や、未来に向けた行動を具体的に話し合い、全員が実行に移していける環境を整備

1.各本部・カンパニーでの年間を通じた全員参加の話し合い

2.“挑戦・行動する人”を後押しする仕組み・制度

 

 <2025年の主な取り組み>

 1.各本部・カンパニーでの年間を通じた全員参加の話し合い

   ●職場で解決できる課題・困りごとを、職場で一つひとつ解決

     ・本部長・プレジデントが現地現物で判断、実行

     ・7月・11月に全社で進捗を確認

 

 2.“挑戦・行動する人”を後押しする仕組み・制度

   ●個の力を引き出す仕組み・制度

     ・全職種・資格での役割に応じたメリハリのつく評価

     ・技能職の人事制度見直し

     ・新たに加わるメンバーの立ち上がりサポート施策の充実

 

   ●個と職場に本気で向き合うマネジメントの育成

     ・配置前の研修新設・職場実践で改善につなげるサイクル導入

     ・対話力や評価・フィードバックスキルの改善支援

 

上記取り組みを推進していくことに加え、自動車産業の未来に向けて、仕入先・販売店が取り組まれる「人への投資」においても、当社として可能な支援を継続的に行ってまいります。また、2025年からは、物流業界の課題や困りごとについても、トヨタができることについて労使で議論を始めています。

 

 

4)気候変動対応(TCFDに基づく気候関連財務情報開示)

トヨタは気候変動対応において、2050年カーボンニュートラル実現に向け、地球規模でチャレンジすることを宣言しています。グローバルでチャレンジするために、地域によって異なるエネルギー事情を考慮し、世界各国・地域の状況に対応した多様な選択肢を提供することで、需要動向にすばやく対応していきます。

またトヨタは、金融安定理事会「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に2019年4月に賛同・署名しており、気候変動のリスク・機会とその分析について、適切な情報開示を進めています。

 

①ガバナンス

a.気候関連のリスクと機会についての、取締役会による監視体制

トヨタは、取締役会において気候関連課題を扱うことにより、社会動向に応じた戦略の立案・実行が、効果的に行われると考えています。取締役会は、戦略/主要な行動計画/事業計画の審議と監督を行う場であり、気候関連の重要な事案が生じた時に、議題として上程されます。

取締役会の監督の下、CN戦略分科会にて、気候関連課題に対応するための定性的あるいは定量的な目標の進捗モニタリングも行います。モニタリングは、気候関連課題になりうる、例えば、燃費・排出ガス規制など製品関連のリスクや機会、低炭素技術開発に関するリスクや機会、それらによる財務的影響などを考慮して行われます。また、このガバナンスメカニズムを「トヨタ環境チャレンジ2050」を含む長期戦略の策定、中長期目標およびアクションプランの立案・見直しに活かしています。

2024年における取締役会での意思決定の事例としては、カーボンニュートラルの実現に向け、電気自動車(BEV)の普及に不可欠な充電インフラを拡充すべく、北米でのBEV急速充電ネットワークIONNAへの投資の承認を得られたことや、上海市との包括的提携契約の締結や、BEVや電池の開発・生産会社の設立の承認を得られたことがあげられます。新会社ではレクサスブランドのBEVを開発し、2027年以降に生産開始を予定しています。

 

b.気候関連のリスクと機会を評価・管理する上での経営の役割

気候関連課題に対応する最終的な意思決定・監督機関は取締役会となります。また、主に以下の会議体が、気候関連のリスクと機会について評価し、管理を行っています。

 

サステナビリティ会議

ガバナンス・

リスク・

コンプライアンス会議

サステナビリティ分科会

CN戦略分科会

ガバナンス・

リスク・

コンプライアンス

分科会

議長

社長

CRO兼CHRO

サステナビリティ統括部長兼CCO

CN開発センター長

サステナビリティ統括部長兼CCO

メンバー

副社長2名、

社外取締役1名、

社外監査等委員2名、

CPO、CSO、CRO兼CHRO、CCO、

執行役員1名、

他5名

副社長2名、

社外取締役1名、

社外監査等委員3名、

監査等委員1名、CPO、CCO、CSO、

他3名

社外取締役1名、

社外監査等委員1名

CRO兼CHRO、CSO、CISO、他5名

 

副社長2名、

執行役員3名、

CPO、CSO、CISO、

 

他10名

社外取締役1名、

社外監査等委員1名、

執行役員1名、

CRO兼CHRO、CSO、CISO、GCQO、

他9名

2024年度

開催実績

5回

3回

 

3回

2回

5回

取締役会への

報告頻度

重要な事案が生じたとき

重要な事案が生じたとき

重要な事案が生じたとき

重要な事案が生じたとき

重要な事案が生じたとき

内容

サステナビリティに関連する重要案件について、審議・決定・活動を推進することで企業価値向上に貢献

ガバナンス・リスク・コンプライアンスに関連する重要事項、特に経営レベルで方向付けが必要な案件を提案・審議

内外の変化を総覧しつつ、環境、社会、ガバナンス、およびSDGsに関わる中長期的な競争力強化とリスク対応に関する経営の重要事項について報告・審議

カーボンニュートラルおよび環境課題に係る、グローバルの需要動向への共通認識を醸成

上記に関する目標・KPI などの経営上の重要施策を報告・審議

ガバナンス・内部統制、企業倫理、コンプライアンスおよびインシデントならびに事業・商品戦略におけるリスクマネジメント全般に関する重要課題および対応について審議・決定・活動を推進

 

CPO:Chief Production Officer   CHRO:Chief Human Resources Officer CCO:Chief Compliance Officer              GCQO:Global Chief Quality Officer 

CSO:Chief Sustainability Officer CRO :Chief Risk Officer       CISO:Chief Information & Security Officer

 

c.気候関連のリスクを管理するプロセスと全社的なリスク管理との連携

トヨタは2019年4月、TCFD提言に賛同・署名し、国内企業や金融機関などが一体となって取り組みを推進するTCFDコンソーシアムに加盟しました。気候変動に関するリスクと機会を重要な経営課題と認識し、TCFD提言を踏まえ、リスクと機会を特定し、シナリオ分析による戦略のレジリエンスを検証しています。ISO規格やCOSO枠組みを基盤とする全社的なリスク管理フレームワークであるToyota Global Risk Management Standard(TGRS)などを活用して、グローバルな事業活動に関わるすべてのリスクを特定、必要に応じて全社横断でタスクフォース化し、「ガバナンス・リスク・コンプライアンス分科会」などで対策の進捗を確認しながらリスクマネジメントを推進しています。また、重要案件については「ガバナンス・リスク・コンプライアンス会議」にて審議の上、取締役会へ適切に付議して、事業の推進を図っています。

リスクは影響度と脆弱性の2つの観点で評価し、想定される発生時期を把握することで、事業に対する実質的な財務・戦略的影響を明確化しています。

影響度の観点では、財務/評判/法規制違反/事業継続の各要素について5段階で評価(「財務」は売上高に対する割合を指標化)しています。また、脆弱性の観点では、対策の現状と発生可能性の二つの指標で評価しています。上記の観点で評価された地域別、機能別(生産/販売など)、製品別の重要リスクは、リスクオーナーが設定され、各部門の本部長や社内カンパニープレジデントが活動を統括し、その下位では部長が部署の活動を統括、対応策の実行およびモニタリングを実施しています。

気候関連のリスクと機会は、上記のTGRSに加え、サステナビリティ分科会やCN戦略分科会においても評価され、担当部署や関係役員による審議を行い、対応状況のモニタリングや見直しを実施しており、環境問題から生じる様々なリスクと機会の把握に努め、トヨタ環境チャレンジ2050などの戦略の妥当性を常に確認し、取り組みを推進、競争力強化を図っています。

サステナビリティ分科会では、サステナビリティ推進に関する課題や社外ステークホルダーの視点を考慮した取り組みの妥当性を評価・議論し、CN戦略分科会では、燃費規制、工場/物流/その他非生産拠点のCO2排出量規制、調達関連、水リスクなどの直接操業における取り組みの妥当性を評価・議論しています。これらの会議体には、技術/環境/財務/調達/生産/営業といった関連部署の役員・部長級が参加しています。評価に関しては、車両・生産販売事業・サプライチェーンにおける現在と将来の温室効果ガス(GHG)排出量を算定し、関連する科学的根拠に基づいた排出削減経路に照らし合わせて評価しています。また、迅速な対応が必要となる重要なリスクと機会については、取締役会へ適切に付議し、対応を決定しています。

 

②戦略

トヨタの戦略(マルチパスウェイ戦略の基本的な考え方)

クルマが社会で必要な存在であり続けるための喫緊の課題がカーボンニュートラルです。「マルチパスウェイ戦略」の根幹にある考え方は、モノづくりやサプライチェーンの脱炭素化を進めながらエネルギーの未来と地域・お客様の期待に寄り添った多様なモビリティを提供することです。大前提として、地球環境やサステナビリティの観点から、化石燃料から脱却していく必要があります。そのうえで、中長期的には、再生可能エネルギーの普及が進み、「電気」と「水素」が社会を支える有力なエネルギーになっていくと考えられます。一方で、短期的には、世界各地の現実に向き合い、エネルギーセキュリティを担保しながら、プラクティカルに変化を進めていくことが重要です。だからこそ私たちは、電気と水素の未来を見据えながら、再生可能エネルギー由来の電力、その電力を基にした水素や合成燃料、バイオ燃料など、多様なエネルギーに対応するモビリティの選択肢でカーボンニュートラルに貢献していきます。

GHG排出量を現実的に減らしていくには、既存のインフラやアセットを活用しながら確実に減らしていくことが重要です。また、自動車産業におけるカーボンニュートラルの実現には、再生可能エネルギーや充電インフラなどのエネルギー政策と、購入補助金、サプライヤー支援、電池リサイクルシステムの整備などの産業政策が不可欠であり、各国のエネルギー政策や産業政策、お客様の選択など、不確実性への対応が必要です。多様なモビリティの選択肢を提供するマルチパスウェイ戦略は、不確実性に対し、どのような社会が実現してもいずれかの選択肢で対応することができる戦略です。様々な産業が関わっているため、パートナーづくりに積極的に取り組み、電気と水素が地球環境を守っていく環境づくりを少しでも早く実現できるよう取り組みを推進しています

 

 


 トヨタは、シナリオ分析によりマルチパスウェイ戦略のレジリエンスを検証しています。

 

気候関連のリスクと機会の特定および評価するプロセス

気候変動に関する社内専門チームと社外専門家により、将来の社会像を想定したシナリオ分析を行うことにより、気候関連のリスク・機会を特定・評価するとともに、戦略のレジリエンスを評価しています。

 

シナリオ分析の概要

シナリオ分析は、TCFDや環境省のガイダンスにおいて示されるプロセスに基づき、実施しています。


(ⅰ)分析対象

・移行リスク:トヨタ自動車および連結会社における自動車事業とサプライチェーン

・物理的リスク:トヨタ自動車および連結会社、非財務連結会社のトヨタ車生産拠点

(ⅱ)時間軸の定義

・リスクが発現する期間は、以下のように設定しています。


(ⅲ)影響評価の対象期間

・移行リスク:2030~2035年

・物理的リスク:2050、2090年

 

 

リスクと機会の特定および評価

将来の社会像を想定した気候変動関連のリスクと機会の主要な変動要因(リスクドライバー)を、移行リスク(政策・法規制、市場、技術、評判)、物理的リスク(急性・慢性)のそれぞれの観点で特定します。特定したリスクドライバーを起点とし、リスクと機会に至るまでの要因解析を実施することにより、リスクと機会を網羅的に洗い出します。要因解析により特定したリスクと機会に、TGRSで特定されたリスクを取り込み、リスクドライバーをカバーする各シナリオにおいて、リスクと機会の発現と影響度がどのように変化するかを検証・評価(4℃シナリオでは、トヨタのグローバル生産拠点の地理情報に基づいた物理的リスクの影響を評価)しています。

 

シナリオの選定

参照シナリオとして、以下の公表シナリオを選択しています。

・1.5℃シナリオ(IEA*1 IPCC*2 AR6 WG 3など複数の公表シナリオ)

・4℃シナリオ(IPCC AR6 WG1 SSP5-8.5)

*1 International Energy Agency:国際エネルギー機関

*2 Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル

 

シナリオ選定における考え方

トヨタはエネルギーの未来について、将来的には再生可能エネルギーの普及を通じて、社会を支えるエネルギーは電気と水素に収れんしていくと考察していますが、その一方で、足元では国・地域ごとに様々なエネルギー事情があり、トランジションのペースが異なることを認識しています。近年の世界情勢からも、環境問題と経済安全保障との両立が議論され始めるなか、国際的なインフレによる再生可能エネルギー投資の鈍化や、欧米などでのBEVの販売低迷といった事象も見受けられます。

こうした背景認識のもと、中長期的には電気と水素の未来を見据えながら、短期的にはエネルギーの実情と多様なお客様ニーズに応える選択肢を提供し、現実に即したトランジションを進めていくことがトヨタのマルチパスウェイ戦略の考え方です。

気候変動枠組条約締約国会議(COP)をはじめとする国際的な対応議論の場においても、将来に至るまでの過渡期の対応、各国・各地域の事情に応じた緩和策や多様な脱炭素手段の導入について議論が進行しています。

上記を踏まえ、1.5℃シナリオにおける分析では、乗用車について、BEV・PHEVの導入を主要な施策として脱炭素策を論じたIEAのNZEシナリオに加え、地域性や緩和策の多様化(炭素吸収技術(CDR)/炭素回収・貯留技術(CCS)/カーボンニュートラル燃料など)を反映したその他の1.5℃シナリオも考慮し、戦略のレジリエンスを検証しています。

また、各シナリオの前提・世界観を整理し、各シナリオの実現に向けた課題を以下のとおり考察しています。

IEA NZEシナリオに関しては、グローバル全体で再生可能エネルギー利用が促進され、自動車分野ではBEVが推進し、急速にGHGが削減する前提だが、実際には地域のエネルギー事情と政策展開により、これらの施策は取り組みの進度が異なることが想定されます。

その他の1.5℃シナリオに関しては、バイオ燃料では食料競合や土地利用制約による供給量の差異などで、地域による燃料種や導入量の差が生じ得ることや、脱炭素技術の市場導入では初期段階に多大な投資が必要で、投資状況により進展に差が生じ得る(将来的には市場に広く浸透することによりコストが適正化されると考察)ことが想定されます。

 

財務影響評価

特定したリスクと機会の財務指標との紐づきについて、因果関係の検証を実施しています。特定したリスクと機会におけるモビリティコンセプトなどの経営上のテーマやサステナビリティの重点取り組みテーマとの関連性を評価し重要性を確認し、それぞれのシナリオにおける前提を考慮し、特定したリスクと機会の潜在的な財務影響を評価しています。


 

レジリエンス分析の概要

カーボンニュートラル(CN)の実現に向け、エネルギーの未来を見据えて、燃料やインフラなど地域ごとに異なるニーズに応える多様な選択肢を提供することにより、プラクティカルにトランジションを進めていくことがトヨタのマルチパスウェイ戦略の考え方です。シナリオ分析では、TCFDフレームワークを参考に、移行リスクは1.5℃シナリオ、物理的リスクは4℃シナリオを用いて、リスクと機会を特定し、財務影響評価を実施しています。近年の世界情勢や国際的な気候変動対応議論の状況を踏まえ、IEAのNZEシナリオに加え、その他の1.5℃シナリオについても比較検討しています。いずれのシナリオの前提条件にも制約がともなう場合があるため、それらの状況についても考慮しつつ、特定したリスクの最小化および機会の獲得に向けたトヨタの取り組みを整理するとともに、シナリオの実現に向けた社会的課題に貢献しうるトヨタの取り組みを整理することにより、トヨタの事業活動におけるレジリエンスを検証しています。

 

1.5℃シナリオ分析

IEAのNZEシナリオの検討

IEAはNZEシナリオ実現に向け、以下課題への対応が必要と報告しています。

再生可能エネルギーの積極的な導入により電力の脱炭素化が進むなか、運輸部門中の乗用車はBEV化が進み、2030年以降、急速にGHG排出が削減され、2050年にネットゼロを達成すること、また、その実現に向けて、各国政府が、カーボンプライシング/燃費規制の厳格化/内燃機関車の販売禁止など、野心的な気候政策を実施すると同時に、BEVを普及するためのインセンティブ策を拡大すること、そして、政策と消費者の環境意識の向上により、市場はBEVを受容する一方、技術面では、車両電動化/革新的な電池開発/再生可能エネルギー電力を活用したエネルギーマネジメントシステムなどが進展し、社会全体で電化と再生可能エネルギーへの転換が進み、エネルギー効率の改善によりエネルギー消費量が削減することがあげられています。

本シナリオにおける移行リスクには、以下があります。

・燃費/GHG/ZEV規制不適合による罰金など

・規制対応にともなう急な商品変更による減産や販売台数の低下

・パワートレーン技術開発にともなう研究開発費用の増加

・車両の電動化が急速に進むことにより、BEV関連の原材料需要増加にともなう供給不足と調達コストの増加

・再生可能エネルギー拡大にともなう再生可能エネルギー価格(IREC含む)の高止まりによる製造コスト増加

 


 

IEAのNZEシナリオ実現に向けては、以下のような社会的課題があります。

・再生可能エネルギー導入を促進する政策

・投資の実行、電池材料確保のための社会システム構築とリサイクル技術開発

・電気や水素利用の脱炭素技術革新と低コスト化

・電動車普及にともなう充電インフラの整備など

これらの社会的課題に対し、トヨタは以下の取り組みに貢献するとともに、自社のリスクも最小化しています。


 

その他の1.5℃シナリオの比較検討

2024年、IEAのNZEシナリオに加え、地域ごとの値や差異をより詳細に分析するため、IPCCや各研究機関が公表している複数の1.5℃シナリオ群を比較検討しました。パリ協定1.5℃実現に向けた道筋として、エネルギー部門では、再生可能エネルギー利用のほか、炭素回収貯留技術(CCS)などの多様な技術導入など比較検討し、運輸セクターでは、車両の電動化のほか、省燃費車の活用やバイオ燃料や合成燃料などの低炭素燃料・カーボンニュートラル(CN)燃料の普及などを比較検討しました。また、新興国では、各地域のバイオマスなどの低炭素エネルギー源を活用し、過渡期にはCCUSと組み合わせた化石燃料利用の検討も行い、経済発展とCNの両立を目指ことや、低炭素燃料・CN燃料などの多様なエネルギーインフラ整備が進むことで消費者は生活利便性に基づき、多様なエネルギーとパワートレーンを選択することが想定されます。

シナリオ群実現に向けた社会的課題は、IEAのNZEシナリオに比べより多様化しています。例えば、水素/バイオ/合成燃料など各国・地域に適合した低炭素燃料・CN燃料の技術開発、ならびに普及初期段階での導入支援や、バイオ燃料に関わる食料競合などの問題解決や低コスト化があります。その他には、CN燃料の他セクターとの配分や、安定したエネルギー供給に向けた技術開発や政策支援などがあります。

本シナリオ群における移行リスクとして、BEV推進に係る移行リスクはIEAのNZEシナリオと同様ですが、現時点での各国・各地域のBEV導入の実績、施策の見直しを踏まえると、トヨタの戦略・財務への影響は比較的小さいこと、自動車燃料多様化にともなう研究開発費用が増加すること、そして、電力以外にも、ガス燃料や液体燃料などエネルギーの低炭素化にともなうエネルギー調達コストが増加することがあげられます。

 


 


シナリオ分析を通じて、パリ協定に整合する1.5℃実現に向けた経路は様々に存在し、それぞれに実現のための条件と社会的な課題が存在することが判明しました。また、世界にマーケットを持つトヨタは、単一の施策・技術に特化し限定されることなく、各国・各地域で異なる市場とステークホルダーの要請に応えるため、様々な経路や、不確実性に対応可能な多様な施策・技術(マルチパスウェイ戦略)が有効と再認識しました。

 


 

4℃シナリオ分析

IPCC SSP5-8.5は、化石燃料依存型の経済発展を続けて気候政策が導入されない場合の最大排出量シナリオであり、物理的リスクを評価しています。

本シナリオ下における主な物理的リスクには、自然災害の頻発化や激甚化の結果、サプライチェーンが分断することによる生産・販売の停止や水不足や水コスト増加による、工場操業への影響があります。また、昨今の自然災害の実態を踏まえたリスクの高い拠点のスクリーニングとして、洪水による河川氾濫/内水氾濫/高潮による浸水ハザードについて、国内外の事業拠点(国内137拠点・海外73拠点)の地理的座標を用いて、リスクの高い拠点のスクリーニングを実施しました。スクリーニングの結果、気候変動による将来変化が見られ、リスクに留意すべき(グレードB以上)と評価された国内外の拠点についてリスク評価を実施しました。

 


 


 

シナリオ分析を通じて、国内外の事業拠点の一部において河川氾濫リスク・内水氾濫リスク・高潮リスクが特定されましたが、地域の事業体への影響は軽微であることが判明しました。また、災害訓練などによりPDCAを回して改善を行うことでBCPの実効性が高まり、災害発生時の復旧速度は上がっていることを確認しました。この活動を「事業継続マネジメント(BCP*1)」と位置づけ、従業員・家族・トヨタグループ・サプライヤー・販売・トヨタが三位一体となった活動として推進し、今後も継続していきます。

 

*1 Business Continuity Management:BCPで定めた各対策計画が実行可能なものとして機能するよう定める運用管理の仕組み

 

レジリエンス分析結果として、トヨタは町いちばんの会社を目指すとの理念に基づいて各国・各地域発展の助成につながるべく、さまざまな経済・エネルギー事情に即しつつ、お客様に受け入れていただけるラインアップを計画しています。このマルチパスウェイ戦略は、あらゆるシナリオが描く世界観においてレジリエンスが高いことが判明しました。IPCC報告書でも記載されているとおり、パリ協定で掲げられている1.5℃実現には様々な経路があり、地域のエネルギー事情や政策によっても変動する可能性がありますが、その実現には様々な産業が関わっているため、カーボンニュートラル(CN)燃料普及も含んだパートナー連携が不可欠です。トヨタはパリ協定を支持し、それに沿って行動しています。パリ協定との整合は重要であり、パートナーと共に、モビリティコンセプトに基づく車両開発や社会インフラ作りを推進し、2050年CN達成に向けて全力でチャレンジしていきます。今後もシナリオ分析を継続することで、内外の状況の変化に応じてリスクと機会を見直し、その対応を戦略に織り込むことでさらなるレジリエンス向上に注力していきます。

 

移行計画

前述したリスクと機会へ対応するために、トヨタでは移行計画として温室効果ガス(GHG)削減目標を設定しています。移行計画の妥当性確認には、複数のシナリオを参照しています。

マルチパスウェイ戦略の下、プロジェクト関連の財務計画に落とし込み、移行計画を具体化してまいります。なお、一定額以上のプロジェクト投資にあたっては、取締役会で承認します。

 



 


 

③指標と目標

組織が自らの戦略とリスク管理プロセスに即して、気候関連のリスクと機会を評価するために用いる指標

トヨタは常に世の中の動きやお客様の声を把握し、何に注力すべきかを考察することで将来の課題をいち早く察知し、新たな発想と技術で課題解決を推進しています。一方で、気候変動/水不足/資源枯渇/生物多様性などの地球環境問題は日々拡大、深刻化しています。トヨタでは、複数の指標を設定し、複合的に気候関連のリスクと機会を管理することが、気候変動への適応とその緩和に向けた対策として重要であると認識しています。このため指標には、GHG排出量のほか、気候変動と深く関係する、エネルギー、水、資源循環、生物多様性なども含めて目標を定め、

「6つのチャレンジ」という6分野の取組みにより体系的に推進しています。

・長期(2050年目標):「トヨタ環境チャレンジ2050」

・中期(2030年目標):「2030マイルストーン」、SBTi認定・承認

・短期(2025年目標):「第7次トヨタ環境取組プラン」

「6つのチャレンジ」のうち、以下の取り組みを推進することで、2050年のScope1,2,3カーボンニュートラルをめざします。

 


 

2022年9月、SBTiからScope1,2とScope3カテゴリー11の削減目標について認定・承認を取得し、これに準じて中期目標を更新しています。炭素価格を考慮することは排出の多い事業の見直しが進むため、社内では一定の炭素価格を指標とし設備投資などの検討に活用しています。

 


2023年4月には、全世界で販売する新車の走行における平均GHG排出量を、2019年比で2030年に33%、2035年に50%以上の削減を目指すことを公表しました。

企業価値を向上させる役員報酬の設定について、トヨタでは気候変動をはじめとした環境対応や、トヨタ自動車およびバリューチェーンに関わる社会課題の解決に貢献できることが取締役には必要と考え、必要スキルの一つとして定め取締役を選任しています。企業価値の向上という目標を達成するため、財務指標および非財務指標に連動した役員報酬制度により環境取り組みの向上を目指しています。


 

 

3 【事業等のリスク】

以下において、トヨタの事業その他のリスクについて、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を記載しています。ただし、以下はトヨタに関するすべてのリスクを網羅したものではなく、記載されたリスク以外のリスクも存在します。かかるリスク要因のいずれによっても、投資家の判断に影響を及ぼす可能性があります。

本項においては、将来に関する事項が含まれていますが、当該事項は有価証券報告書提出日(2025年6月18日)現在において判断したものです。

 

(1)市場および事業に関するリスク

①自動車市場の競争激化

世界の自動車市場では激しい競争が繰り広げられています。トヨタは、ビジネスを展開している各々の地域で、自動車メーカーとの競争に直面しています。近年、自動車市場における競争はさらに激化しており、厳しい状況が続いています。また、世界の自動車産業におけるCASEなどの技術革新が進むことによって、競争は今後より一層激化する可能性があり、業界再編につながる可能性もあります。競争に影響を与える要因としては、製品の品質・機能、安全性、信頼性、燃費、革新性、開発に要する期間、価格、カスタマー・サービス、自動車金融の利用条件、各国の税制優遇措置等の点が挙げられます。競争力を維持することは、トヨタの既存および新規市場における今後の成功、販売シェアにおいて最も重要です。トヨタは、エンジン車から電動車へのお客様のニーズの変化など、昨今の自動車市場の急激な変化に的確に対応し、今後も競争力の維持強化に向けた様々な取り組みを進めていきますが、将来優位に競争することができないリスクがあります。競争が激化した場合、自動車の販売台数の減少や販売価格の低下などが起きる可能性があり、それによりトヨタの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローが悪影響を受けるリスクがあります。

 

②自動車市場の需要変動

トヨタが参入している各市場では、今までも需要が変動してきました。各市場の状況によって、自動車の販売は左右されます。トヨタの販売は、世界各国の市場に依存しており、各市場の景気動向はトヨタにとって特に重要です。当連結会計年度の世界経済は、米国経済の雇用・所得環境が底堅く推移し、中国では不動産不況の影響があったものの、財政政策の下支えもあったことから、3%程度の成長を維持しました。自動車市場においては、半導体の供給改善後のペントアップ需要が一巡し、拡大ペースが鈍化しましたこのような需要の変化は現在でも続いており、この状況が今後どのように推移するかは不透明です。今後トヨタの想定を超えて需要の変化が継続または悪化した場合、トヨタの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローが悪影響を受ける可能性があります。また、需要は、販売・金融インセンティブ、原材料・部品等の価格、燃料価格、政府の規制(関税、輸入規制、その他の租税を含む)など、自動車の価格および自動車の購入・維持費用に直接関わる要因により、影響を受ける場合があります。需要が変動した場合、自動車の販売台数の減少や販売価格の低下などが起きる可能性があり、それによりトヨタの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローが悪影響を受けるリスクがあります。

 

 

③お客様のニーズに速やかに対応した、革新的で価格競争力のある新商品を投入する能力

製品の開発期間を短縮し、魅力あふれる新型車でお客様にご満足いただくことは、自動車メーカーにとっては成功のカギとなります。特に、品質、安全性、信頼性、サステナビリティにおいて、お客様にご満足いただくことは非常に重要です。世界経済の変化や技術革新に伴い、自動車市場の構造が急激に変化している現在、お客様の価値観とニーズの急速な変化に対応した新型車および新機能を適時・適切にかつ魅力ある価格で投入することは、トヨタの成功にとってこれまで以上に重要であり、技術・商品開発から生産にいたる、トヨタの事業の様々なプロセスにおいて、そのための取り組みを進めています。しかし、トヨタが、品質、安全性、信頼性、スタイル、サステナビリティ、その他の性能に関するお客様の価値観とニーズを適時・適切にかつ十分にとらえることができない可能性があります。また、トヨタがお客様の価値観とニーズをとらえることができたとしても、その有する技術、知的財産、原材料や部品の調達、原価低減能力を含む製造能力またはその他生産性に関する状況により、価格競争力のある新製品を適時・適切に開発・製造できない可能性があります。また、トヨタが計画どおりに新製品の投入や設備投資を実施し、製造能力を維持・向上できない可能性もあります。お客様のニーズに対応する製品を開発・提供できない場合、販売シェアの縮小ならびに営業収益と利益率の低下を引き起こすリスクがあります。

 

④効果的な販売・流通を実施する能力

トヨタの自動車販売の成功は、お客様のご要望を満たす流通網と販売手法に基づき効果的な販売・流通を実施する能力に依存します。トヨタはその参入している各主要市場につきお客様の価値観または地政学的な緊張関係や規制環境において、変化に効果的に対応した流通網と販売手法を展開できない場合は、営業収益および販売シェアが減少するリスクがあります。

 

⑤ブランド・イメージの維持・発展

競争の激しい自動車業界において、ブランド・イメージを維持し発展させることは非常に重要です。ブランド・イメージを維持し発展させるためには、トヨタグループおよび仕入先が法令遵守を徹底し、お客様の価値観やニーズに対応した安全で高品質の製品を提供すること、また、ステークホルダーの皆様への迅速かつ適切な情報発信を通じ、ステークホルダーの皆様の信頼をさらに高めていくことが重要です。また、企業としてサステナビリティに貢献することの重要性も高まっています。

しかし、トヨタグループや仕入先があらゆる場面において、それを徹底できるとは限りません。例えば、連結子会社においては、2022年3月に日野自動車㈱、2023年4月にダイハツ工業㈱において、認証に関する不正行為が発覚し、公表しました。また、当社においても、2024年1月26日の国土交通省からの指示に基づき、型式指定申請に関する調査を進める中、2014年以降、すでに生産を終了している車種を含め、7車種において国が定めた基準と異なる方法で試験を実施していたことが判明し、5月31日に国土交通省に報告しました。同年7月には、国土交通省より、認証業務に関する是正命令を受領しました。また、国土交通省による実地調査の結果、規定の手順に沿っていない認証案件7車種8事案の指摘がありました。そして、同年8月に当社は、再発防止報告書を国土交通省に提出しました。詳細については、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等(3)会社の対処すべき課題」を参照ください。

さらに、トヨタまたは仕入先がサステナビリティに貢献しない、または気候変動やサプライチェーンにおける人権保護など、特定のサステナビリティに関する目標または目的を達成できない場合、トヨタのブランド・イメージが低下する可能性があります。トヨタのブランド・イメージを効果的に維持し発展させることができなかった場合、営業収益と利益率の低下を引き起こすリスクがあります。

 

 

⑥仕入先への部品・原材料供給の依存

トヨタは、部品や原材料などの調達部品を世界中の複数の競合する仕入先から調達する方針を取っていますが、調達部品によっては他の仕入先への代替が難しいものもあり、特定の仕入先に依存しているものがあります。また、かかる特定の仕入先からの調達ができない場合、当該部品等の調達がより困難となり、生産面への影響を受ける可能性があります。さらに、トヨタが直接の取引先である一次仕入先を分散していたとしても、一次仕入先が部品調達を二次以降の特定の仕入先に依存していた場合、同様に部品の供給を受けられないリスクもあります。仕入先の数に関わらず、トヨタが調達部品を継続的にタイムリーかつ低コストで調達できるかどうかは、多くの要因の影響を受けますが、それら要因にはトヨタがコントロールできないものも含まれています。それらの要因の中には、仕入先が継続的に調達部品を調達し供給できるか、またトヨタが、仕入先から調達部品を競争力のある価格で供給を受けられるか等が含まれます。このような能力に悪影響を与える可能性のある状況には、地政学的な緊張や、経済制裁などの政府の行動が含まれます。特定の仕入先を失う、またはそれら仕入先から調達部品をタイムリーもしくは低コストで調達できない場合、トヨタの生産に遅延や休止またはコストの増加を引き起こす可能性があり、トヨタの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローに悪影響が及ぶ可能性があります。

 

⑦金融サービスにおける競争の激化

世界の金融サービス業界では激しい競争が繰り広げられています。自動車金融の競争激化は、利益率の減少を引き起こす可能性があります。この他トヨタの金融事業に影響を与える要因には、トヨタ車の販売台数の減少、中古車の価格低下による残存価値リスクの増加、貸倒率の増加および資金調達費用の増加が挙げられます。

 

⑧デジタル情報技術および情報セキュリティへの依存

トヨタは、機密データを含む電子情報を処理・送信・蓄積するため、または製造・研究開発・サプライチェーン管理・販売・会計を含む様々なビジネスプロセスや活動を管理・サポートするために、第三者によって管理されているものも含め、様々な情報技術ネットワークやシステムを利用しています。さらに、トヨタの製品にも情報サービス機能や運転支援機能など様々なデジタル情報技術が利用されています。これらのデジタル情報技術ネットワークやシステムは、安全対策が施されているものの、ハッカーによる不正アクセスやコンピュータウィルスによる攻撃、トヨタが利用するネットワークおよびシステムにアクセスできる者による不正使用・誤用、開発ベンダー・クラウド業者など関係取引先からのサービスの停止、電力供給不足を含むインフラの障害、天災などによって被害や妨害を受ける、または停止する可能性があります。特にサイバー攻撃や他の不正行為は苛烈さ、巧妙さ、頻度において脅威を増しており、そのような攻撃の標的であり続ける恐れがあります。このような事態が起きた場合、重要な業務の中断や、機密データの漏洩、トヨタ製品の情報サービス機能・運転支援機能などへの悪影響のほか、法的請求、訴訟、賠償責任、罰金の支払い義務などが発生する可能性もあります。その結果、トヨタのブランド・イメージや、トヨタの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローに悪影響を及ぼす可能性があります。さらに、トヨタの取引先やビジネスパートナーに対する同様の攻撃は、トヨタにも同様の悪影響を与える可能性があります。

 

 

⑨気候変動および低炭素経済への移行

気候変動リスクは、日本および世界で、社会面、規制を含む政治面での関心が高まっています。これらのリスクには、気候変動による物理的リスクや低炭素経済への移行リスクが含まれます。

気候変動の物理的リスクには、台風、洪水、竜巻など突発的な気象変化に起因する影響と、気温上昇、海面上昇、干ばつ、山火事の増加など、長期的な気象変化による影響の両方が含まれます。トヨタはBusiness Continuity Plan(BCP)を策定していますが、異常気象による大規模災害に加え、熱波等が増加・激甚化することで熱中症のリスクが増加し、また、干ばつや渇水による水不足も予想されます。これらは、トヨタならびに仕入先および取引先の従業員、施設およびその他の資産に損害を与える可能性があり、トヨタの生産、販売またはその他の事業運営に悪影響を及ぼす可能性があります。大規模な災害等はまた、お客様の財政状態に悪影響を及ぼし、トヨタの製品およびサービスの需要に悪影響を与える可能性があります。

低炭素経済への移行リスクとは、気候関連のリスクを軽減するための規制、技術、および市場の変化やその対応に伴うリスクです。例えば、トヨタは、気候変動に関する法律、規制、政策の変更、気候変動に対処するための技術革新、市場構造の変化をとらえた自動車産業への新規参入者などの要因により、自動車に対するお客様のニーズが変化するリスクにさらされています。お客様のニーズの変化は、トヨタが部品や原材料などの調達部品を継続的かつ競争力のある価格で調達するために、新たな供給網の確立や既存の供給網の強化が必要になるなど、付随的なリスクや課題をもたらす可能性があります。トヨタは、そのようなリスクの顕在化の結果として、またはリスク軽減やリスク対応の努力の結果として、多額の費用および支出を負担する可能性があります。また、お客様のニーズに対応する製品を開発・提供できない場合、販売シェアの縮小ならびに営業収益と利益率の低下を引き起こすリスクがあります。

トヨタは、トヨタの事業やビジネスパートナーに関する気候変動関連事項の開示を公表しています。この開示には、トヨタの予想に基づき、将来の見通しに関する記述が含まれており、結果的にこれらが実現できない可能性があります。また、気候変動に関する取り組みは意図した結果をもたらさない可能性があり、目標の達成時期やコスト、達成能力に関する予測は、リスクと不確実性を伴います。その結果、気候変動関連の目標が達成できない恐れがあります。特に、中長期にわたるトヨタの気候変動関連の目標の達成には、多大なリソーセスと投資、ならびにコンプライアンス、リスク管理システム、内部統制およびその他の内部手続のさらなる改善が必要です。また、トヨタがコントロールできない環境・エネルギー規制、政策の変更、技術革新、顧客や競合他社の行動等にも影響を受けます。気候変動関連の目標を達成できない、または達成できないとみなされた場合、トヨタのブランド・イメージ、財務状況、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。詳細については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組(4)気候変動対応(TCFDに基づく気候関連財務情報開示)」を参照ください。

 

優秀で多様な人材の確保と育成

事業環境の急激な変化やモビリティカンパニーへの変革に向けた取り組みを進めるにあたり、優秀で多様な人材を確保し、育成し続けることが重要です。しかしながら、そのような人材の獲得競争は激しく、トヨタが高い専門性や豊富な経験を持つ多様な人材を計画とおりに採用、定着化できない場合、または成長に必要な機会、教育、リソースを提供できない場合、競争力低下につながり、トヨタの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローに悪影響を与える可能性があります。

 

 

(2)金融・経済のリスク

①為替および金利変動の影響

トヨタの収益は、外国為替相場の変動に影響を受け、主として日本円、米ドル、ユーロ、ならびに豪ドル、加ドルおよび英国ポンドの価格変動によって影響を受けます。トヨタの連結財務諸表は、日本円で表示されているため、換算リスクという形で為替変動の影響を受けます。また、為替相場の変動は、外国通貨で販売する製品および調達する材料に、取引リスクという形で影響を与える可能性があります。特に、米ドルに対する円高の進行は、トヨタの経営成績に悪影響を与える可能性があります。

為替相場および金利の変動リスクを軽減するために、現地生産を行い、先物為替予約取引や金利スワップ取引を含むデリバティブ金融商品を利用していますが、依然として為替相場と金利の変動は、トヨタの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローに悪影響を与える可能性があります。為替変動の影響およびデリバティブ金融商品の利用に関しては、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容  ①概観  d.為替の変動」および連結財務諸表注記19ならびに20を参照ください。

 

②原材料価格の上昇

鉄鋼、貴金属、非鉄金属(アルミ等)、樹脂関連部品など、トヨタおよびトヨタの仕入先が製造に使用する原材料価格の上昇は、部品代や製造コストの上昇につながり、これらのコストを製品の販売価格に十分に転嫁できない場合、トヨタの将来の収益性に悪影響を与える可能性があります。

 

③金融市場の低迷

世界経済が急激に悪化した場合、多くの金融機関や投資家は、自らの財務体力に見合った水準で金融市場に資金を供給することが難しい状況に陥る可能性があります。その結果、企業がその信用力に見合った条件で資金調達をすることが困難になる可能性があります。必要に応じて資金を適切な条件で調達できない場合、トヨタの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローが悪影響を受ける可能性があります。

 

 

(3)政治・規制・法的手続・災害等に関するイベント性のリスク

①自動車産業に適用される法律、規制および行政措置

世界の自動車産業は、様々な法律や規制の適用を受けています。トヨタは、法律や規制、行政措置、またはそれらへの対応の結果として、多額の費用を負担しており、今後も発生することが予想されます。さらに、新しい法律や規制の適用、または既存の法律や規制の変更によっても、将来的に追加的な費用が発生する可能性があります。トヨタが、法律、規制、行政措置に関連して多額の費用を負担する場合、トヨタの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フロー状況並びにそれらの見通しに重大な影響を及ぼす可能性があります。また、これらの法律、規制および行政措置は、トヨタの事業を制限するものとなる可能性があり、その場合、トヨタの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況並びにそれらの見通しに重大な悪影響を及ぼす可能性があります。

例えば、トヨタは自動車の安全性や排ガス、燃費、騒音、公害をはじめとする環境問題などに関する様々な法律と政府の規制の適用を受けています。特に、安全面では、法律や政府の規制に適合しない、またはその恐れのある自動車は、リコール等の市場処置の実施が求められます。さらに、トヨタはお客様の安心感の観点から、法律や政府の規制への適合性に関わらず、自主的に販売停止やリコール等の市場処置を実施する可能性もあります。トヨタが市場に投入した車両にリコール等の市場処置が必要となった場合(リコール等に関係する部品はトヨタが第三者から調達したものも含む)、製品のリコール等にかかる費用を含めた様々な費用が発生する可能性があります。また、多くの政府は、価格管理規制や為替管理規制を制定しています。さらに、規制を遵守できなかった場合、法的手続、リコール、改善措置の交渉、罰金、是正命令、政府承認の取り消しやその他の政府制裁の賦課、製品提供の制限、補償金の支払い等の不利益をもたらす可能性があります。

同様に、多くの政府は、関税やその他の貿易障壁、税金、課徴金を課したり、価格や為替の規制を制定しています。例えば、2025年には、自動車産業に特化した関税を含む対米輸出関税の大幅な引き上げが、米国の他の貿易政策の変更とともに発表され、それに対応して他の国々も報復関税や貿易政策の変更を発表しました。このような関税や貿易政策の将来の変更、または他の関税や貿易関連措置の時期、実施期間、および範囲を予測することは困難であり、最近発表された関税や貿易関連措置は、当社製品のコストを上昇させ、将来の需要の鈍化を引き起こす可能性があります。また、当社のサプライチェーンや物流ネットワークへの影響は、当社の生産や販売に悪影響を及ぼす可能性があります。上記の影響は主として米国におけるものでありますが、トヨタの事業活動への影響は米国に限定されるものではありません。当該状況が長期間継続した場合、トヨタのみならず、自動車産業全体および関連業界の他の企業にも悪影響を及ぼす可能性があり、その結果、トヨタの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況並びにそれらの見通しに悪影響を及ぼす可能性があります。さらに、当該関税や貿易関連措置の影響を緩和するための取り組みは、トヨタのコスト負担を増加させ、経営上注意を要するリスクとなる可能性があります。

 

②法的手続

トヨタは、製造物責任、知的所有権の侵害等、様々な法的手続の当事者となる可能性があります。また、株主との間で法的手続の当事者となったり、行政手続または当局の調査の対象となる可能性もあります。現在トヨタは、行政手続および当局の調査を含む、複数の係属中の法的手続の当事者となっています。トヨタが当事者となる法的手続で不利な判断がなされた場合、トヨタの評判、ブランド・イメージ、財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローに悪影響が及ぶリスクがあります。政府の規制等の法的手続の状況については連結財務諸表注記30を参照ください。

 

③自然災害、感染症、政治動乱、経済の不安定な局面、燃料供給の不足、インフラの障害、戦争、テロまたはストライキの発生

トヨタは、全世界で事業を展開することに関連して、様々なイベントリスクにさらされています。これらのリスクとは、自然災害、感染症の発生・蔓延、政治・経済の不安定な局面、燃料供給の不足、天災などによる電力・交通機能・ガス・水道・通信等のインフラの障害、戦争、テロ、ストライキ、操業の中断などが挙げられます。トヨタが製品を製造するための材料・部品・資材などを調達し、またはトヨタの製品が製造・流通・販売される主な市場において、これらの事態が生じた場合、トヨタの事業運営に障害または遅延をきたす可能性があります。トヨタの事業運営において、重大または長期間の障害ならびに遅延が発生した場合、トヨタの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローに悪影響が及ぶリスクがあります。