第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであり、その達成を保証するものではありません。

 

(1) 経営方針

当社グループは、持続的な成長と企業価値向上の実現を通してステークホルダーの期待に応えるとともに、社会に貢献するという企業の社会的責任を果たすため、経営理念および以下の基本方針に基づき、取締役会を中心に迅速かつ効率的な経営体制の構築並びに公正性かつ透明性の高い経営監督機能の確立を追求し、コーポレート・ガバナンスの強化及び充実に取り組んでまいります。
 

<経営理念>

「人々の暮らしを安全・快適にする技術や製品を提供し、社会に貢献するカヤバグループ」

1.規範を遵守するとともに、何事にも真摯に向き合います。

2.高い目標に挑戦し、より活気あふれる企業風土を築きます。

3.優しさと誠実さを保ち、自然を愛し環境を大切にします。

4.常に独創性を追い求め、お客様・株主様・お取引先様・社会の発展に貢献します。

 

<コーポレートガバナンス基本方針>

1.当社は、株主の権利を尊重し、平等性を確保する。

2.当社は、株主を含むステークホルダーの利益を考慮し、それらステークホルダーとの適切な協働に努める。

3.当社は、法令に基づく開示はもとより、ステークホルダーにとって重要または有用な情報についても主体的に開示する。

4.当社の取締役会は、株主受託者責任および説明責任を認識し、持続的かつ安定的な成長および企業価値の向上ならびに収益力および資本効率の改善のために、その役割および責務を適切に果たす。

5.当社は、株主との建設的な対話を促進し、当社の経営方針などに対する理解を得るとともに、当社への意見を経営の改善に繋げるなど適切な対応に努める。

 

(2) 経営環境

不安定な国際情勢、原材料・エネルギー価格高騰、世界各地で発生する自然災害、加えて米国の関税措置等、当社を取り巻く経営環境は不確実性が高まっております。自動車市場においては、足元のEV需要鈍化が見られるものの、電動化や自動運転化に向けた取り組みは依然として加速し、建設機械市場においても無人化や省エネ化のトレンドが広がりつつあります。また、自動車・建設機械産業ともにインド市場での重要性が急速に高まりつつあります。そのほか、脱炭素化への取り組みといった、地球環境保護に対する社会的要請も高まりを見せるなど、企業が対応すべき課題も多様化しております。

 

(3) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

2023中期経営計画では、「品質経営を極める」をスローガンにTQM(※1)を最大限に活用し、経営基盤の強化を図ってまいりました。しかしながら、依然として続くエネルギーや原材料価格の高騰、急激な為替変動、地政学リスクの高まりなどの不安定な状況が続く中、収益性の維持向上、電動化関連の新製品投入、成長領域への投資、ガバナンス強化等の取り組みを行ってまいりましたが、収益性の改善においてはまだ課題があると認識しております。2023中期経営計画最終年度の2025年度は、これらの課題に対してスピードを上げて取り組み、経営基盤の強化を図るとともに中長期経営戦略に繋げてまいります。

 

1.収益性の改善

建設機械は最大市場である中国での大幅な需要減少が継続し、世界全体でも需要の回復が遅れています。この世界的な需要変動への対応力を強化するため、HC事業におけるグローバルでの生産体制の最適化を進めます。コスト競争力のある拠点に生産を移管し、日本・中国における生産・供給体制の再構築を図ります。あわせて事業環境に即した規模へ生産能力を見直し、固定費の縮減により収益性を改善してまいります。

当社は、重要な取引先であった知多鋼業株式会社を、公開買付けを通じて2025年4月に子会社化しました。さらに、株式売渡請求によるスクイーズアウト手続きを実施し、2025年5月に知多鋼業株式会社を当社の完全子会社としております。完全子会社化は、AC事業における①アフターマーケット領域(市販市場)の強化、②環境変化に対応したグローバルな最適地生産を軸とした原価低減の推進、③製品の安定的な生産・供給に向けたサプライチェーンの強靭化を主な目的としています。両社のノウハウの共有や相互連携などのシナジーにより、これらの目的を実現してまいります。

 

2.成長戦略

当社は、今後長期的な高い経済成長と自動車産業の大きな発展が見込まれるインドにショックアブソーバの生産拠点を設立することを決定いたしました。インド市場では大きなシェアを持つ日系メーカーだけでなく、外資系・地場系メーカー向けOEMビジネスの獲得を目指してまいります。あわせて、グローバルでコスト競争力のある製品づくり(グローバル最安コスト)に挑戦し、市販ビジネスの維持および拡大を図ってまいります。主な事業の取組みは以下のとおりです。

 

3.オートモーティブコンポーネンツ事業(AC事業)

AC事業につきましては、自動車の電動化・自動化のトレンドに対し、新商品・改良商品の開発を促進するとともに、新領域への進出を図り、収益力向上だけでなく全てのステークホルダーのニーズを満たすべく挑戦をしてまいります。

具体的には、高機能・高付加価値商品である電子制御製品のラインナップ拡充による販売拡大、自動運転と親和性のあるステアバイワイヤシステムの技術の深耕、冷却潤滑用途の電動ポンプや二輪車用車高調整システムの開発、さらに将来への種まきとして電動油圧フルアクティブサスペンションやステアリングとサスペンションの協調制御といった、全ての移動を快適にする技術に挑戦してまいります。

 

4.ハイドロリックコンポーネンツ事業(HC事業)

HC事業につきましては、事業環境の大きな変化に対応し、既存製品であるシリンダ・モータは生産体制整備を実施し、競争力強化を図っていきます。ポンプ・バルブは製品ラインナップを拡充し事業の成長へ貢献できる方策を遂行してまいります。一方、新技術・新製品においては早期市場投入を図り、将来の事業の柱となる商品を創出することを目指します。社会課題である人材不足を背景としたニーズへタイムリーに応えるため、電動化・自動化製品の投入に向け、開発体制の整備を進めてまいります。

 

5.特装車両事業

特装車両事業につきましては、ドラム軽量化により積載量を増加し運搬効率の向上、作業時の安全対策や使い勝手の向上など、継続してお客様のニーズを反映させた製品を提供していきます。社会課題に対して、CO2排出ゼロ・低騒音化を実現した地球にやさしい国内初EV対応ミキサ車の市場投入に向け開発を進めてまいります。

 

6.100周年に向けて

当社は、2025年3月10日に創立90周年を迎え「ゆめある あしたを、つくろう。」をスローガンに、10年後の100周年、そしてその先の未来まで、持続可能な企業として社会に貢献し続けるために、事業ポートフォリオの変革を通じて成長戦略を描いていきます。自動車や建設機械の電動化・自動化に対応し、新商品開発と新市場参入に挑戦し続けます。また積極的にサステナビリティへの取り組みを行い、全てのステークホルダーの期待に応え、企業価値向上を図ってまいります。

 

(※1)TQM:Total Quality Management(総合的品質管理)の略で、製造部門のみならず全社的な業務改善へも発展させた管理手法。

 

(4) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

当社グループでは、3年間(2024年3月期~2026年3月期)の2023中期経営計画を策定しており、当連結会計年度における実績、2026年3月期における見通し及び最終年度における目標数値は以下のとおりです。

 

2024年3月期実績

2025年3月期実績

2026年3月期見通し

2026年3月期目標

売上高

4,428億円

4,383億円

4,400億円

4,700億円

セグメント利益 (注)

210億円

198億円

150億円

380億円

セグメント利益率

4.7%

4.5%

3.4%

8.0%以上

自己資本比率

45.6%

48.7%

45.0%以上

ROE

7.9%

6.7%

12.0%以上

 

(注) セグメント利益は、売上高から売上原価、販売費及び一般管理費を控除して算出したもので、日本基準の営業利益に相当いたします。

資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応として重要な指標と位置付けておりますROEの向上に向け、収益力向上については、不採算事業の撤退による事業ポートフォリオの見直しとしてKYB-Conmat Pvt. Ltd.との合弁事業解消、電動パワーステアリングの中国販売伸張に加えグローバル市場拡販本格化等の諸施策を着実に推進し、改善を進めてまいりました。資本効率向上・財務体質強化については、政策保有株式の縮減、全社棚卸資産の圧縮推進や、自己株式取得による株主還元強化を実行し企業価値向上への取り組みを進めてまいりました。中期経営計画の目標達成と企業価値向上に向け、資本効率向上・収益力改善に向けた活動を加速させてまいります。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

当社グループでは環境や社会の課題解決に向けた活動を実践し、持続可能な社会の実現に貢献するべく活動を推進しています。経営理念である「人々の暮らしを安全・快適にする技術や製品を提供し、社会に貢献するカヤバグループ」を根幹に、創業者から受け継がれてきた独創の精神に立ち返り、豊かな未来を描く新たな歴史を創り続けます。

気候変動問題に対しては、2024年12月にCO2削減目標についてSBTiへコミットメントレターを提出しました。地球温暖化防止、循環型の持続可能な社会の実現に向けて、人と地球に優しい製品づくりを目指すとともに、省エネ化や再生可能エネルギーの導入、廃棄物削減などを推進します。

人権の取り組みについては、2025年3月に人権基本方針を制定し、2025年度より人権デュー・ディリジェンスを実施します。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) ガバナンス

当社グループでは持続可能な社会の実現へ貢献すべく各種取り組みを推進しており、会社全体を取りまとめる組織として、ESG推進部が事務局、社長が委員長を務める「サステナビリティ委員会」を設置し、サステナビリティに関する取り組みを討議の上、取締役会へ3か月に1回報告または上申しております。

取締役会では、社外取締役及び監査役を含めサステナビリティ委員会からの報告または上申を受けてプロセスを監督し、必要に応じた決議を行っております。

また、気候変動や環境保全に関連して業績に影響を与える事項は、上述サステナビリティ委員会に加え、機能部門および事業部門が業務執行状況を報告する「経営報告会」や、安全・環境部による「環境安全監査」等においても監視を行っております。

サステナビリティに関する体制図は、以下のとおりです。

 


 

(2) リスク管理

会社全般のリスクへの対応については、取締役会の下部組織であるリスク管理委員会において、全社的な対策を講じる必要のある重点リスクと責任部署を決定し、各責任部署がリスク管理活動を行い、四半期毎に取締役会へ報告しています。詳細については、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおりです。

気候変動に関するリスクについては、気候変動課題への対応を事業で推進するチームである事業ESGワーキングチームで、AC(オートモーティブコンポーネンツ)事業、HC(ハイドロリックコンポーネンツ)事業、特装車両事業のそれぞれでTCFDの推奨するシナリオ分析を活用して気候変動リスクや機会の抽出、対応策の検討を実施し、サステナビリティ委員会で討議し、取締役会へ報告しています。また、リスク管理委員会とサステナビリティ委員会は連携しながら活動を行なっております。

 

<気候変動>

(1) 戦略

当社グループは2050年カーボンニュートラル達成を目標として、温室効果ガス排出量削減の活動、製品の環境負荷物質低減のための対策、CO2低排出・省エネルギー製品の開発を行っています。気候変動に関するリスクとその影響から見えるビジネス機会に関しては、受注減や工場の操業が停止する事態に陥ることが重大な財務的影響の定義とし、発生の可能性、影響の大きさ、質的影響で分類し、どのくらいのインパクトがあるかを定義しています。下表に示すシナリオ分析により影響度を評価し、事業戦略や経営計画に反映させていきます。

リスクの分類

特定されたリスク

取組・対応策

物理

急性

気候変動に起因する自然災害の激甚化

2010年7月に東海地区を襲った集中豪雨において、工場の近くを流れる河川が氾濫し被害が生じた。

今後さらに地球温暖化が進むと大型化する台風、高潮などによる水害のリスクが高まることが想定されるとともに、WRIアキダクトでの分析でも一定のリスクがあることが判明している。

過去の大水害被害と将来予測を考慮しつつ、考えられる降水量に対する工場敷地内の浸水防止や排水機能強化に向けた取り組みを計画的に毎年継続で行っている。また、河川水位による移動処置のマニュアル化等、災害発生時に備えた活動を進めている。

長期的にはカーボンニュートラル達成による気候変動対応が必須であり、生産活動におけるCO2排出量(Scope1・2)を指標として目標達成に貢献していく。

移行

規制

温室効果ガス排出削減に関する規制強化

脱炭素へ向けた自動車のEV化が加速する中、ショックアブソーバへは、客先の多様化による要求仕様の多様化や部品のCO2排出量削減、バッテリー搭載による重量増加からの軽量化が、車両の静音化に伴う静音(無音)化への要求などが加速すると想定され、ニーズに応えられない場合、市場から取り残されるリスクがある。

技術戦略として、自動車の次世代プラットフォームへの対応、コア技術である振動制御やパワー制御をより深化させ対応を進めている。特に軽量化に関しては、鋼材のハイテン化、アルミ化、樹脂化などの材料置換や、構造的な軽量化などの技術の追求に取り組んでいる。

製品の製造におけるCO2排出量(Scope1・2)を指標とするとともに、製品のライフサイクルのCO2排出量としてScope3排出量を今後指標として設定していく。

 

 

機会の分類

特定された機会

取組・対応策

製品・

サービス

商品とサービスに対する需要増加に起因する売上増加

自動車,建設機械メーカーの電動化への進展、省エネ,GHG排出削減に貢献する技術や製品・サービスの需要拡大による機会がある。予知保全,予防保全可能な製品・システムの開発による機会がある。

天然由来のベースオイルを使用した環境作動油サステナルブ、建設機械や工場設備などの油圧機器の作動油状態をリアルタイムに診断する油状態診断システムなどの開発を進め、製品の付加価値を高めることにより差別化を図り、優位性を確保し消費者に満足していただけるものづくりを目指している。

製品のライフサイクルのCO2排出量としてScope3排出量を今後指標として設定していく。

 

 

 

(2) 指標及び目標

当社グループでは、上記「戦略」において記載した、気候変動について、当社及び連結子会社の生産拠点において次の指標を用いております。当該指標に関する目標及び実績は、次のとおりであります。

指標

目標

2024年度(実績) 注1

年度

目標値

実績

評価

CO2総排出量(Scope1・2)

2024年度

207,312 tCO2

189,069 tCO2

達成

2030年度

138,578 tCO2

(取組中)

2050年度

0 tCO2 カーボンニュートラル

(取組中)

再生可能エネルギー導入率

2025年度

15%

15.8%

(取組中)

 

 

 


 

注1)2025年度5月末時点の社内算定値です。実排出量については、第三者検証による保証取得をもって確定する予定です。なお確定した実排出量については、当社ウェブサイト(https://www.kyb.co.jp/company/csr/env_climatechange.html)のCO2排出量をご参照ください。なお、当該サイトは2025年11月に更新予定です。

注2)第三者検証による限定的保証を取得し、指摘事項などを反映した信頼性のある実排出量となります。

 

<人的資本>

(1) 戦略

当社グループにおける、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針は次のとおりです。

※当社グループでは、「組織をつくるのは人であり、人は組織の財産」という考えのもと、人材を「人財」と表現しています。

①人財の多様性の確保を含む人財の育成に関する方針

当社グループは、人財の多様性を経営健全化実現のための重要な取り組みの一つと捉え、多様な価値観、文化、慣習を受容・尊重した働きがいのある職場を創出するとともに、経営戦略、製品開発に柔軟性のある風通しの良い企業風土の構築を目指します。

ⅰ)女性の活躍推進

当社では多様な価値観を受容・尊重し、経営戦略、製品開発に柔軟性のある企業風土が醸成されていることが重要であるとの考えのもと、女性従業員の管理職登用を増やすための諸施策を推進しています。2023年には女性の活躍推進に関する計画の実施状況が優良である企業に与えられる「えるぼし」を取得しました。当社における女性の活躍推進の目標値は女性従業員全体に占める管理職の割合を男性従業員全体に占める管理職の割合と同水準まで引き上げることとしています。女性の活躍推進の課題として、管理職登用を志望する従業員が少なくなっていることもあり、管理職候補となる女性従業員数が少ないことが挙げられます。そのため、外部からの女性管理職の積極的採用や女性従業員の管理職登用に対する意識改革を目指した活動をしています。外部からの女性管理職の積極的採用については、キャリア採用活動と並行して職場におけるアンコンシャスバイアスがありうることを念頭に管理職へのD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)研修を2024年度より実施しています。管理職登用に対する意識改革については、2024年度より女性管理職を交えた女性従業員間のキャリア座談会を開催していますが、2025年度より当社の女性社外取締役や女性社外監査役による講話や意見交換も実施していきます。

ⅱ)障がい者雇用

障がい者の担当業務領域の拡充と受け入れ職場の拡大等により、障がい者雇用率の向上と、障がい者と健常者がともに働きがいを感じられる職場環境の実現に向けた活動を進めております。当社では2019年9月に「業務支援センター」を設置し、社内の各部門、官公庁、学校、各種団体と連携して雇用促進や定着率の安定に向けた取り組みを進めています。

ⅲ)適材適所の人員配置

当社における過去の不適切事象を教訓に人財の固定化による不正リスク防止を目的とした定期的な人事ローテーションを継続してきましたが、2024年度からは組織の活性化および従業員のスキル向上を目的とした新たな人事ローテーションポリシーを追加し実施しています。今後も継続していくことで、働きがいのある職場を創出するとともに、経営戦略、製品開発に柔軟性のある風通しの良い企業風土の構築に繋げていきます。

ⅳ)人財の育成

「経営理念(規範、活気、愛、独創)の実現に貢献する人財の育成」に必要な資質とスキルを定め、階層や目的別の教育体系を構築し、各種の人財育成プログラムを従業員に提供しています。規範意識教育については、従業員一人ひとりに規範意識が浸透し、風通しの良い職場にするため、内容や教材を毎年ブラッシュアップし、10月の全従業員繰り返し教育や昇格時の研修などを継続して行なっています。また、2023中期経営計画において、品質経営を極めるためTQM(Total Quality Management)活動を全ての活動の起点に位置付けていることを踏まえ、人財育成の取り組みとして、2023年度は階層別の「TQM基礎教育」を実施しました。2024年度には全事業・機能部門が社外講師も交えて課題解決に取り組む「TQM実践教育」を実施し、2025年度は「TQM定着確認会」を計画・実施し、全員がTQMを使えるレベルを目指して取り組みを進めていきます。

 

②社内環境整備に関する方針

当社グループは、従業員や家族の健康を重要な経営資源、企業活力の源泉と位置付けており、健康経営を推進しています。当社グループで働く従業員一人ひとりが最大限のパフォーマンスを発揮し、働きがいを感じられる会社の実現を目指します。

ⅰ)健康経営

当社では経営トップ主導の元、2019年より人事部門・健康管理センター・健康保険組合・労働組合がコラボした活動体制による健康経営推進に取り組んでおり、6年連続「健康経営優良法人(大規模法人部門)」の認定取得をしています。当社における健康経営の目指す姿は、「従業員一人ひとりが最大限のパフォーマンスを発揮し働きがいを感じられる会社の実現」としており、実現するためには「疾病による休業者の低減」「就業時間における生産性の向上」「ワークエンゲージメントの向上」が不可欠となります。具体的な活動施策としては、健康診断結果における有所見者を減らす活動(改善活動)と有所見のない従業員が有所見者にならないようにする活動(未然防止活動)の両輪により従業員の健康増進を図っています。未然防止活動においては、「喫煙率低減」「仕事満足度向上」「肥満該当率低減」「高ストレス者低減」「睡眠充足率向上」の5つを重点課題として掲げており、2024年度は「喫煙率の低減」を最重要課題として捉え、受動喫煙・禁煙の双方の観点からの活動強化を実施してきました。2025年度は更なる従業員の健康リテラシー向上を図るため「カヤバ健康支援サービス」の更なる普及を継続していくとともに、職場一体となって取り組める施策を進めていきます。

ⅱ)ワークライフバランス

安心して仕事に従事できる職場環境作りやワークライフバランスの両立支援につなげるためテレワーク制度、フレックスタイム制度、育児・介護休職および短時間勤務制度、配偶者転勤休職制度などの様々な制度を設け、多様な働き方を推進しています。中でも、育児制度においては、出産育児にかかわる制度周知を目的とした「出産・子育てのためのガイドブック」を女性従業員用・男性従業員用・幹部従業員用それぞれの作成と各事業所相談窓口設置等により男性の積極的な育児参加を推進する取り組みを進めています。また、従来のプロセスを是としない抜本的な業務変革による「なくす」「へらす」「かえる」の実践を推進することにより、間接部門で働く従業員の総就業時間低減に取り組んでいます。業務変革実践にあたってはRPA(Robotic Process Automation)を活用した業務自動化や業務改善アプリケーションを活用した業務効率化を積極的に進めていきます。

 

(2) 指標及び目標

当社グループでは、上記「戦略」において記載した、人財の多様性の確保を含む人財の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針について、次の指標を用いております。

戦略

項目

指標

2023年度実績

2024年度実績

2025年度目標

①人財の多様性の確保を含む人財の育成に関する方針

ⅰ)女性の

活躍推進

女性管理職比率

3.7%

3.8

4.7

ⅱ)障がい者雇用

障がい者雇用率

2.55%

2.66

2.80

②社内環境整備に関する方針

ⅰ)健康経営

有所見者率

64.4%

65.2

60.0

喫煙率

31.5%

30.6

25.0

肥満該当率

28.2%

29.3

27.0

高ストレス者率

18.8%

17.1

17.5

睡眠充足率

64.8

66.0

仕事満足度

58.8%

59.8

60.0

ⅱ)ワークライフ

バランス

有給休暇取得率

83.8%

80.3

80.0%以上

 

 

※指標については、当社においては、関連する指標のデータ管理とともに、具体的な取り組みが行われているものの、連結グループに属する全ての会社では行われていないため、連結グループにおける記載が困難であります。このため、指標に関する目標及び実績は、連結グループにおける主要な事業を営む提出会社のものを記載しております。

 

 

3 【事業等のリスク】

当社グループの経営成績および財政状態のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる主なリスクには、以下のようなものがあります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) リスク管理の仕組み

① 「リスク管理委員会」について

当社グループでは、経営目的の達成および事業の運営を阻害する可能性のある事象をリスクと定義し、リスク管理に取り組んでおります。また、全社的リスク低減のため、「リスク管理委員会」を取締役会の下部組織として設置しております。リスク管理委員会において、全社的に対策を講じる必要のある重点リスクと責任部署を決定し、各責任部署がリスク管理活動を行っており、大規模災害等のBCPについても同様に活動しています。また、事業リスクに関しては当該リスクを抱える事業部が責任をもって取り扱う一方、リスク管理委員会はモニタリングを行います。

体制については「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要」に記載しておりますコーポレート・ガバナンス体制図をご参照ください。

また、リスク管理委員会の構成は、以下のとおりです。

委員長

CSR担当役員

委員

本社機能部署、事業(本)部の責任者

事務局

CSR・安全本部 内部統制部

 

 

② リスク管理の流れ

1年単位でリスク低減活動を行なっております。

11月:リスク抽出

12月~2月:重点リスク選定、委員会審議、取締役会決議

3月:計画策定

4月~:活動

活動状況は、四半期毎に委員会報告および定期的に取締役会、執行役員会へ報告を実施しております。

 

③ リスク評価方法

リスクを、財務、人的被害、操業停止、法令違反、評判などの視点から事業の運営に及ぼす影響度と、発生する可能性から、リスクの大きさを評価しております。

 

 

(2) リスク管理の現状

① 全社リスクの内容と対応状況

2025年度のリスク管理活動では、子会社を含む全拠点から抽出したリスクから、リスクが大きいと評価した以下9件を重点リスクとして選定しております。これらについては、それぞれの責任部署が、年度活動計画を策定し、それに基づいてリスク低減活動を行なっており、活動の進捗や、リスクの状況については、定期的に取締役会、執行役員会へ報告しております。

No.

リスク・概要

方策

1.

品質不正

品質記録の改ざんによる法令および客先合意違反リスク

全拠点に対する品質管理部による品質体制と、品質不正再発防止活動の監査の実施

2.

大規模災害

BCP活動管理不備による操業停止リスク

地震BCP訓練、サイバーBCPインシデント対応訓練

3.

人権問題

ハラスメント管理不備による事業活動鈍化リスク

ハラスメント防止教育、海外拠点ハラスメント相談状況の把握

4.

サイバー攻撃

サイバーセキュリティ管理不備による操業停止リスク

教育訓練、サプライチェーンセキュリティ対策強化、インシデント対応マニュアルの整備、セキュリティレベル共通ガイドライン設定

5.

労働災害

労働災害予防管理不備による人的被害リスク

重点災害発生拠点に対する特別管理および再発防止策の水平展開

6.

火災

火災予防措置管理の不備による操業停止リスク

防火体制の点検、設備・購入品の火災リスク確認

7.

人財不足

人財流出/獲得困難の状況下で必要人財を確保できないリスク

採用戦略の推進、流出防止策の実施

8.

サプライチェーン寸断

大規模災害以外での仕入先理由による供給停止リスク

供給停止が懸念される仕入先を調査し、協議や代替等の対応

9.

サプライヤーとの適正取引

不適切な条件により

仕入先へ不利益を与えるリスク

下請法遵守点検の実施

 

なお、2025年度に下請代金支払遅延等防止法に基づく公正取引委員会から勧告を受け、手続きを進めておりますが、再発防止に向けた具体的な全社的取組みを強化するため「サプライヤーとの適正取引」を新たに追加しております。

また、2024年度の重点リスクであった「紛争等有事の安全措置」は、目標としていたマニュアル整備の確認を完了したため全社的な活動から各事業や拠点の日常管理活動へ移行しております。

 

各全社リスクの詳細は以下のとおりです。

1.品質不正

品質不正による法令違反やお客様との契約違反は、お客様からの損害賠償請求や是正対応費用などにより、財務状況に影響を及ぼす可能性があります。当社グループでは、品質不正に直結する品質記録の改ざんなどを防止する活動を行っております。具体的には、拠点が自主監査で使用するマニュアルの見直し/改定を行い、拠点自身での発見力強化を行います。また拠点自主監査後の品質管理部による現地又はWeb監査により、品質不正の懸念事項の発見漏れを防ぎ、是正を行うことで品質不正リスクを低減してまいります。

 

2.大規模災害

当社グループでは、地震、火災、風水害での自社生産設備の損傷やサプライヤーチェーンの寸断、サイバーインシデントなどによる操業停止の可能性があるため、災害発生時の被害を最小化する活動や災害発生時の復旧訓練の実施など、生産能力早期復旧のための対策をとっております。特に発生の可能性が高いと推測される国内地震とサイバーインシデントを中心に、BCP訓練の実施に取り組み、大規模災害時の操業停止リスクを低減してまいります。なお、2024年度まで実施してきた海外拠点での火災訓練などは各拠点の日常管理活動へ移行しております。

 

 

3.人権問題

職場でハラスメントが発生した場合、職場環境悪化による生産性低下や人財流出によって事業活動が鈍化し、経営成績および財務状況に影響を及ぼす可能性があります。また、労務訴訟などで賠償請求を受けるリスクもあります。

当社グループでは、いきいきと働くことのできる職場環境の土台づくりの一環として、従業員へのハラスメント防止教育の実施、ハラスメント防止への仕組み・体制を整備し、多様な価値観を尊重する職場づくりをすすめ、ハラスメントによる事業活動の鈍化や労務訴訟リスクを低減してまいります。

 

4.サイバー攻撃

近年の情報システム環境の進化・複雑化に加え、テレワークの普及による従業員の外部からのアクセス機会が増える一方、サイバー攻撃は急増し、複雑・高度化しており、情報セキュリティに係るリスクが高まっています。これらにより、情報漏えいやシステム障害等が発生した場合、当社グループの経営成績および財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、グループ共通のサイバーセキュリティ教育・訓練、サプライチェーンセキュリティ強化、サイバーインシデント対応マニュアルの整備、セキュリティレベル共通ガイドライン設定等を実施することで、グループ全体の防衛力を強化し、サイバー攻撃による操業停止リスクを低減してまいります。

 

5.労働災害

労働災害の発生は、従業員の生命を脅かすだけでなく、是正対応などのために操業停止又は、生産能力が著しく低下する可能性があります。過去に発生した重点災害の再発防止策をグループ内へ水平展開し点検、対策を実施することで、労働災害の人的被害リスクを低減してまいります。なお、重点災害発生拠点に対する特別管理は責任部署の日常管理活動として継続してまいります。

 

6.火災

当社グループの多くの工場では、油の特性を利用した油圧製品の生産を行っており、有機溶剤を使用する塗装設備、作動油・化学薬品等を貯蔵するタンク等が設置されていることから、火災の発生や有害物質が流出する可能性があり、万が一、事故が発生した場合には生産活動が一時的に停止する可能性があります。過去事例を反映した防火体制チェックリストによる点検の実施、防火フォローパトロール、設備仕様・購入品の火災リスク確認にて、火災による操業停止リスクを低減してまいります。

 

7.人財不足

転職が一般化してきている現状から、当社グループでも人財流出により、事業活動が鈍化し、経営成績および財務状況に影響を及ぼす可能性があります。定期採用戦略、中途採用戦略を推進するとともに、退職理由の分析から職場環境の改善を実施し、人財不足リスクを低減してまいります。

 

8.サプライチェーン寸断

当社グループのサプライチェーンには、後継者不足、設備老朽化などによる廃業、事業撤退が懸念される仕入先があります。予期せず仕入先からの部品供給が停止した場合、一時的に生産活動が停滞し、事業継続に影響する可能性があります。仕入先の状況を注視し、コミュニケーションを深めるとともに、懸念仕入先とは丁寧な協議を行うも、供給継続が困難な際は仕入先変更等の代替手段により供給停止リスクを低減してまいります。

 

9.サプライヤーとの適正取引

当社グループは、調達部門に限らず、下請代金支払遅延等防止法で定義される下請事業者との取引があります。適正な取引が行われない場合は法令違反企業として社会的信用が大きく損なわれる可能性があります。下請法全般に対する総点検に基づく再発防止策を実施することで、サプライヤーとの適正取引を維持してまいります。

 

② 各事業の個別リスクの内容と対応状況

全拠点から抽出したリスクのうち、各事業や各拠点で個別に対応するリスクについてはリスク管理委員会の活動に依らず、各事業等で対応しており、以下のものがあります。これらは、2023中期および2025年度方針に掲げ、各事業等の日常の管理活動の中でリスク低減活動を実施しております。その進捗については経営報告会等の会議体を通じて定期的に報告されております。

リスク分類

リスク項目

方策

生産・販売

数量減少

需要動向

グローバルでの情報収集・分析

生産活動の停止

品質リスク

品質不良の発生

品質経営を基盤とした品質管理体制強化

価格リスク

製品販売価格の価格競争等

高品質・高付加価値製品の提供等

原材料・部品等の調達価格上昇

複数購買の実施・購買機能の集約等

財務リスク

資金調達

金融市場の動向を注視

為替相場の変動

グローバルでの生産拠点の配置等

金利上昇リスク

固定金利での調達

その他

得意先の信用リスク

与信管理や取引先との関係強化等

重要な訴訟等の発生

国内外の弁護士と連携

 

 

上記のリスクに関する詳細は以下のとおりです。

1.需要動向・生産活動停止

当社グループのAC(オートモーティブコンポーネンツ)事業・HC(ハイドロリックコンポーネンツ)事業の主要製品は自動車、建設機械および産業車両メーカー等(以下、お客様といいます)へ供給する組付用部品であり、世界的な自動車生産台数や建設機械生産台数に大きく左右されます。当社は海外売上高比率が60%を超え、世界的な供給体制を構築しておりますが、各市場における景気悪化による自動車ならびに建設機械需要の減退等により、この部門の収益性に大きな影響を与えます。また、米国の関税措置に起因する自動車を中心とした生産体制の見直しや世界経済の停滞、更には他国の報復措置などに起因する通商リスクに伴い、収益性や生産活動へ影響を与える可能性があります。

また、ロシアのウクライナ侵攻や緊迫する中東情勢など、国際情勢の変化が増しており、世界各地で地政学リスクが増大し、そこから派生し経済安全保障政策による規制が拡大しております。戦争・紛争が発生した地域での生産・販売活動停止や事業撤退により当社の事業継続が困難となることだけでなく、輸出管理規制や経済制裁に伴う製品や主要部材の供給遅延や制限により、お客様の生産調整や生産稼働停止が発生し、収益性や生産活動に大きな影響を与える可能性があります。

2022年に撤退を表明した航空機器事業については、お客様等との調整を進め、ご迷惑をおかけすることの無いよう管理に努めておりますが、その中でも予見しきれない費用や損失が発生した場合、経営成績および財政状態に影響を与える可能性があります。特装車両事業の製品については、特にコンクリートミキサ車を主力とする特装車両は、景気の先行きと相関の深い建設工事の増減により需要が変動する可能性があります。

当社グループでは、グローバルで情報収集・分析を行い、状況に応じた対応をしております。

 

2.品質不良の発生

品質に関しては、自動車では操縦安定性を支えるショックアブソーバや操舵力を補助するパワーステアリング等の重要な部品を供給しており、建設機械・産業車両等では母機を駆動させるコントロールバルブ、ポンプ、シリンダ、モータ等の主要な機能部品を供給しております。また、特装車両事業部ではコンクリートミキサ車などの特装車両をお客様へ納入しております。仮に当社グループが供給した製品に品質不良が発生した場合、その損害賠償をお客様から求められる等で多額の費用が発生する可能性があります。当社グループでは、品質経営を基盤に品質管理体制強化など品質向上を継続して追求し、品質不良発生の未然防止に努めております。また、グループ全体での不正防止活動への取組やコンプライアンス教育を通じ、問題が発生した際には対応が迅速且つ確実に行われるよう体制を整備しています。

 

3.製品販売価格

価格に関しては、国内・海外市場共に熾烈な価格競争にさらされており、お客様からのコスト低減、価格引下げ要請が常に存在します。当社グループでは、高品質・高付加価値製品を提供することによる競合優位を目指すと共に、生産性向上などを通じた継続的な原価低減によるコスト競争力向上に努めております。

 

4.原材料・部品等の調達価格

当社グループは、原材料、構成部品等を多数の仕入先から購入しておりますが、調達する原材料等は国際商品市況や為替等の影響を大きく受けます。複数購買の実施や購買機能の集約等による原価低減を図っておりますが、原材料等の価格上昇を当社の販売価格に十分に反映出来ない場合、あるいは、販売価格引下げを原材料および構成部品価格に十分に反映出来ない場合、経営成績に大きな影響を与える可能性があります。

 

5.資金調達

当社グループは、主に国内外の金融機関等より設備資金ならびに運転資金の調達を実施しております。金融市場の動向には十分留意しておりますが、全般的な市況および景気の後退、金融収縮、当社グループの信用力の低下等の要因により、当社グループが望む条件で適時に資金調達できない可能性もあります。その結果、当社グループの財政状況や経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

6.為替相場変動・金利上昇

当社グループは、海外売上高が62.6%と海外市場に大きく依存しているため日本からの輸出はもとより在外関係会社の経営成績等も為替の影響を大きく受けます。このような為替変動リスクに対してはグローバルな生産拠点の配置や為替予約等によりリスクの軽減を図っておりますが、想定を超えた為替相場の変動は、当社の財政状態や経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

また、当社グループは有利子負債を有しており、固定金利での調達により金利変動リスクの軽減に努めておりますが、日本および海外における将来の金利上昇は、経営成績に大きな影響を与える可能性があります。

 

7.得意先の信用リスク

当社グループは、自動車、トラック並びに建設機械メーカー各社様や系列販売会社様をはじめ多くのお客様と取引を行っております。取引先の予期せぬ信用リスクにより、経営成績に影響を与える可能性があります。当社グループでは、取引先の信用リスクについては細心の注意を払い、与信管理や取引先との関係強化等を通じてリスク管理を行っています。

 

8.重要な訴訟等の発生

当社グループを相手とした訴訟が起こされ、当社の主張と相違する結果となった場合には、その請求内容等によっては、当社グループの経営成績に多大な影響を及ぼす可能性があります。国内外の弁護士と連携し、事案の内容に応じて適切に対応しております。

 

 

③ 建築物用免振・制振用オイルダンパーの検査工程等における不適切行為の影響について

当社及び当社の子会社であったカヤバシステムマシナリー株式会社(当該子会社は2021年7月1日をもって当社を存続会社とした吸収合併により解散しております)は、建築物用の免震・制振部材としてオイルダンパーを製造・販売してまいりましたが、その一部について、性能検査記録データの書き換え行為により、大臣認定の性能評価基準(※)に適合していない、または、お客様の基準値を外れた製品を建築物に取り付けていた事実(以下、「本件」といいます。)が判明し、国土交通省に報告を行うとともに、対応状況について、2018年10月16日に公表いたしました。(※)制振用オイルダンパーについては、大臣認定制度はありません。

本問題に関する再発防止策および対応については、以下の当社ホームページ上で公表しておりますのでご参照ください。

なお、2022年3月末時点で、再発防止策の具体策全67項目の内、全項目を「完了」しており、引き続きその維持・定着の取り組みを継続しております。

再発防止策の進捗状況:https://www.kyb.co.jp/company/progress/prevent.html

対応の進捗状況:https://www.kyb.co.jp/company/progress/exchange_progress.html

本件に関し、現時点において収集可能な情報、及びその情報が合理的な事実に基づくものであると判断された免震・制振用オイルダンパーの交換工事に要する費用及び営業補償等について、製品保証引当金を計上しております。

なお、本件に関連して訴訟を提起されている案件もありますが、一部案件においては追加費用の発生なく終了し、またその他案件の訴訟手続きも進んでおり、現時点においては経済的便益の流出の可能性は低下していると判断しております。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであり、その達成を保証するものではありません。

 

(1) 経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

① 財政状態及び経営成績の状況

(百万円未満四捨五入)

 

売上高

(百万円)

セグメント利益

(百万円)

営業利益

(百万円)

税引前利益

(百万円)

親会社の所有者に

帰属する当期利益(百万円)

2025年3月

438,316

19,825

22,671

21,989

14,899

2024年3月

442,781

20,959

22,417

21,361

15,818

増減

△4,465

△1,133

254

628

△919

増減率(%)

△1.0

△5.4

1.1

2.9

△5.8

 

 

当連結会計年度における世界経済は、インフレ圧力の緩和により各国の個人消費が持ち直し、小売などの景況感が改善している一方、米国政府によるすべての国・地域を対象とする追加関税、相互関税の上乗せなどによる、先行きの不透明感から、消費の手控えや設備投資の減少を招き、景気減速のリスクが高まっております。

こうした中、わが国経済は、堅調なインバウンド需要や、個人需要の持ち直しによる消費下支えがあるものの、構造的な人手不足問題や、米関税の引き上げによる輸出の減少も予想され、先行きの見通しづらい経営環境が続いています。

当社グループの事業に関しましては、自動車関連では需要に底堅さが見られたものの、中米・欧州製造拠点での生産性の悪化等もあり、また建設機械関連では、中国市場を中心に北米、アジアでの需要も減少したことにより、当連結会計年度は厳しい経営環境となりました。

このような環境のもと、当社グループの売上高は4,383億円と、前連結会計年度に比べ45億円の減収となりましたが、営業利益につきましては227億円前連結会計年度営業利益224億円)、税引前利益は220億円前連結会計年度税引前利益214億円)となりました。また、親会社の所有者に帰属する当期利益は149億円前連結会計年度親会社の所有者に帰属する当期利益158億円)となりました。

 

(建築物用免震・制振用オイルダンパーの検査工程等における不適切行為の影響について)

2019年3月期において、当社及び当社の子会社であったカヤバシステムマシナリー株式会社(当該子会社は2021年7月1日をもって当社を存続会社とした吸収合併により解散しております)にて、製造・販売してきた免震・制振用オイルダンパーの一部について、性能検査記録データの書き換え行為により、大臣認定の性能評価基準(※)に適合していない、または、お客様の基準値を外れた製品(以下、「不適合品」といいます。)を建築物に取り付けていた事実が判明いたしました。

(※)制振用オイルダンパーについては、大臣認定制度はありません。

当連結会計年度においては、2025年3月31日時点で交換が未完了の不適合品及び性能不明品(性能検査記録のデータ書き換え有無が確認できないもの)の全数(免震用オイルダンパー52本、制振用オイルダンパー17本の合計69本)を対象として、交換用免震・制振用オイルダンパーの交換工事に要する費用及び営業補償等を製品保証引当金に計上しており、当該製品保証引当金の当連結会計年度末の残高は20億円であります。

 

 

セグメント別の業績は次のとおりです。

また、各セグメントにおける製品別売上高については、「第5 経理の状況 1.連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記事項 22.売上高」をご参照ください。

 

(a) AC事業

当セグメントは、四輪車用油圧緩衝器、二輪車用油圧緩衝器、四輪車用油圧機器とその他製品から構成されております。四輪車用油圧緩衝器は、国内自動車生産台数が減少したものの、欧州でのOEM製品の販売や東欧・中東市販市場での需要増加、円安による為替影響等により、売上高は2,279億円前連結会計年度に比べ6.0%の増収となりました。二輪車用油圧緩衝器は、国内や欧州での販売減少があったものの、中国での販売やインド市場での需要の増加により、売上高は438億円前連結会計年度に比べ5.9%の増収となりました。

以上の結果、当セグメントの売上高は3,076億円前連結会計年度に比べ5.0%の増収となり、セグメント利益は172億円前連結会計年度に比べ7億円の増益となりました。

 

(b) HC事業

当セグメントは、産業用油圧機器、システム製品、その他製品から構成されております。建設機械向けを主とする産業用油圧機器は、建設機械の中国市場での需要減少の継続に加え、北米やアジアでの需要低迷により、売上高は1,064億円前連結会計年度に比べ14.6%の減収となりました。

以上の結果、当セグメントの売上高は1,162億円前連結会計年度に比べ13.6%の減収となり、セグメント利益は17億円前連結会計年度に比べ37億円の減益となりました。

 

(c) 航空機器事業

当セグメントは、航空機器用油圧機器から構成されております。生産調整による出荷減少等により、売上高は37億円前連結会計年度に比べ5.9%の減収となり、セグメント損失は4億円(前連結会計年度セグメント損失20億円)となりました。

 

(d) 特装車両事業及びその他

当セグメントは、特装車両等から構成されております。コンクリートミキサ車を主とする特装車両において、2025年1月にKYB-Conmat Pvt. Ltd.を連結範囲から除外した影響により、当セグメントの売上高は108億円前連結会計年度に比べ5.0%の減収となったものの、セグメント利益は13億円前連結会計年度に比べ2億円の増益となりました。

(百万円未満四捨五入)

 

資産合計

(百万円)

負債合計

(百万円)

資本合計

(百万円)

親会社の所有者

に帰属する持分

(百万円)

親会社所有者

帰属持分比率

(%)

2025年3月

463,112

228,089

235,023

225,537

48.7

2024年3月

476,530

250,122

226,408

217,191

45.6

増減

△13,418

△22,033

8,615

8,346

3.1

増減率(%)

△2.8

△8.8

3.8

3.8

 

 

流動資産は、営業債権及びその他の債権が減少したものの、子会社株式取得のための預託金等のその他の流動資産の増加等により24億円増加しました。また、非流動資産につきましては、退職給付信託の一部返還によるその他の非流動資産の減少等により158億円減少しました。この結果、総資産は134億円減少し、4,631億円となりました。

負債につきましては、社債及び借入金が増加したものの、営業債務及びその他の債務の減少等により、負債総額は220億円減少し、2,281億円となりました。

資本は、自己株式の取得があった一方、当期利益に伴う利益剰余金の増加等により、86億円増加し、2,350億円となりました。

親会社所有者帰属持分比率は、資本が増加したことから48.7%と前連結会計年度末に比べ3.1ポイント好転しました。

 

 

② キャッシュ・フローの状況

(百万円未満四捨五入)

 

営業活動による

キャッシュ・フロー

(百万円)

投資活動による

キャッシュ・フロー

(百万円)

財務活動による

キャッシュ・フロー

(百万円)

現金及び現金同等物

期末残高

(百万円)

2025年3月

43,847

△34,133

△9,099

47,428

2024年3月

39,861

△23,503

△15,033

46,637

増減

3,986

△10,630

5,934

791

増減率(%)

10.0

45.2

△39.5

1.7

 

 

当連結会計年度のキャッシュ・フローは、営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローを合わせて97億円の資金流入、また財務活動によるキャッシュ・フローは91億円の資金流出となり、為替換算により2億円増加した結果、現金及び現金同等物は前連結会計年度末比8億円増加し、474億円となりました。

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりです。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動により当連結会計年度は438億円の資金流入(前連結会計年度比40億円の増加)となりました。これは主に税引前利益220億円、減価償却費及び償却費187億円によるものです。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動により使用した資金は341億円(前連結会計年度比106億円の支出増加)となりました。これは主に有形固定資産の取得による支出170億円、子会社株式取得のための預託金の差入による支出162億円によるものです。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動により流出した資金は91億円(前連結会計年度は150億円の支出)となりました。主な流出は、自己株式の取得による支出63億円や配当金の支払額59億円です。

 

③ 生産、受注及び販売の実績
(a) 生産実績

当連結会計年度(自 2024年4月1日 至 2025年3月31日)における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

AC(オートモーティブコンポーネンツ)事業

305,428

3.4

HC(ハイドロリックコンポーネンツ)事業

115,138

△13.1

航空機器事業

5,340

47.6

報告セグメント計

425,906

△1.3

特装車両事業及びその他

9,624

△14.8

合計

435,530

△1.7

 

(注) 1.セグメント間取引については、相殺消去しております。

2.金額は、販売価格によっております。

 

 

(b) 受注実績

四輪車用・二輪車用油圧緩衝器およびパワーステアリング製品を主とするAC(オートモーティブコンポーネンツ)事業、建設機械向け産業用油圧機器およびシステム製品を主とするHC(ハイドロリックコンポーネンツ)事業は、見込み生産を行っております。航空機器用離着陸装置、同操舵装置等を主とする航空機器事業についても、一部製品においても正式受注が納期間際であることから、その殆どが内示に基づく見込み生産となっております。

特装車両事業及びその他についても、同様にその殆どが内示に基づく見込み生産となっております。従って、受注高および受注残高を算出することは困難であることから、記載を省略しております。

 

(c) 販売実績

当連結会計年度(自 2024年4月1日 至 2025年3月31日)における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

AC(オートモーティブコンポーネンツ)事業

307,632

5.0

HC(ハイドロリックコンポーネンツ)事業

116,173

△13.6

航空機器事業

3,678

△5.9

報告セグメント計

427,484

△0.9

特装車両事業及びその他

10,832

△5.0

合計

438,316

△1.0

 

(注) 1.セグメント間取引については、相殺消去しております。

2.主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合

 

相手先

前連結会計年度

当連結会計年度

金額(百万円)

割合(%)

金額(百万円)

割合(%)

トヨタ自動車株式会社

50,000

11.3

48,589

11.1

 

(注)上記金額には、当該顧客と同一の企業集団に属する顧客に対する販売実績を含めております。

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

① 重要性がある会計方針及び見積り

当社グループの連結財務諸表は、連結財務諸表規則第312条の規定によりIFRSに準拠して作成しております。この連結財務諸表の作成に当たって、必要と思われる見積りは、合理的な基準に基づいて実施しております。

なお、当社グループの連結財務諸表で採用する重要性がある会計方針及び見積りは、「第5 経理の状況 1.連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記事項 3.重要性がある会計方針 4.重要な会計上の見積り及び判断」に記載のとおりであります。

 

② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

当社グループの当連結会計年度の経営成績等は、売上高は前連結会計年度比1.0%減少4,383億円、セグメント利益は前連結会計年度比5.4%減少198億円、営業利益は前連結会計年度比1.1%増加227億円となりました。建設機械関連需要の落ち込み等による減収影響はあるも、米国の生産性改善によるコスト低減や自動車向け市販製品販売増、持分法投資利益の増加等により営業利益は前連結会計年度比でほぼ横ばいとなりました。

セグメントごとの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は「(1) 経営成績等の状況の概要」に記載のとおりです。また、当社グループの経営成績等に重要な影響を与える要因につきましては、「第2 事業の状況 3.事業等のリスク」に記載のとおりであります。

当社グループは幅広い製品群の事業を展開しており、各事業及びその製品群のポートフォリオ評価や計画に対する進捗や見通しを把握するため、売上高、セグメント利益及びセグメント利益率、また後述の通りROEの分析を重視しております。

2023中期経営計画では、「品質経営を極める」をスローガンに掲げ、顧客価値創造を目指した人財・情報・仕事の質を高めることで製品・サービスの質の向上を図りながら品質経営を極め、企業価値向上を図ります。最終年度となる2025年度目標として、売上高4,700億円、セグメント利益率8.1%とあわせ、品質経営を進める中で資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を進めるべく、ROE12.0%、配当性向30%以上を定めています。東証からの要請である「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」も踏まえて、収益力向上については、不採算事業の撤退による事業ポートフォリオの見直しとしてKYB-Conmat Pvt. Ltd.との合弁事業解消、電動パワーステアリングの中国販売伸張に加えグローバル市場拡販本格化、高価格帯ショックアブソーバであるプレミアム市販製品の市場投入、自動車向け電動ポンプの受注、重要な取引先であった知多鋼業株式会社の公開買付けを通じた完全子会社化等の諸施策を着実に推進し、改善を進めてまいりました。資本効率向上・財務体質強化については、政策保有株式の縮減、全社棚卸資産の圧縮推進や、自己株式取得による株主還元強化を実行し企業価値向上への取り組みを進めてまいりました。また、PER向上に関し、ブランド価値向上として「OFF WE GO!」をコンセプトに”OFFROADのカヤバ”の新しいイメージ構築に加え、2018年度比CO2排出量の30%削減を達成するなど、サステナビリティへの取り組みも進めてまいりました。10年後の2035年に迎える創立100周年、そしてその先の未来まで、持続可能な企業として社会に貢献し続けるために、持続的な成長と企業価値向上を目指していきます。

 

また、当社グループの資金需要、資本の財源及び資金の流動性については以下のとおりです。

当社グループの運転資金需要のうち主なものは、鋼材等の原材料の購入費用のほか、製造費、販売費及び一般管理費等の営業費用であります。投資を目的とした資金需要は、主に設備投資によるものであります。

当社グループは、事業運営上必要な流動性と資金の源泉を安定的に確保することを基本方針としております。短期運転資金は自己資金及び金融機関からの短期借入を基本としており、設備投資や長期運転資金の調達につきましては、社債の発行および金融機関からの長期借入を基本としております。本連結会計年度におきましては、設備投資等のため総額約80億円の借入を実行いたしました。当連結会計年度末における借入金及びリース負債を含む有利子負債の残高は1,082億円となっております。

また、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は474億円となっております。

 

5 【重要な契約等】

2021年5月13日に締結された第三者割当による株式引受契約については、「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」附則第3条第4項により記載を省略しております。

 

6 【研究開発活動】

(1) 目的

当社では、モノづくりを通して豊かな社会づくりに貢献する信頼のブランドを確立していくため、2023年度よりスタートした2023中期経営計画の「品質経営を極める」をスローガンとして、カヤバグループ一丸となり研究開発活動を今後も精力的に推進してまいります。

現行製品の性能向上はもとより、高機能化やシステム化、電動化への対応及び軽量化や省エネルギー、CO2削減への貢献、環境負荷物質削減などを通して世界中の至る所で地域の人々の暮らしを支え、安心・安全・快適さを提供するための新製品開発と革新的なモノづくりに挑戦し続けています。また、グローバル化の加速に伴い、国際感覚を身につけた人財の育成やマネジメントシステムの構築も進め、グローバル生産・販売・技術の一体活動でイノベーションを起こすことによってカヤバグループの新しい価値を創造し、企業価値の向上に繋げ、技術の持続的成長を目指します。

 

(2) 体制

当社では、基盤技術研究所と生産技術研究所を中核として、独創性に優れた先行技術の研究開発を行っています。

研究所では基礎研究や要素技術開発を、各事業の技術部門は新製品及び性能向上や低コスト化など商品力向上のための開発を担うとともに、全社を横断して研究所と各事業技術部門が一体となったプロジェクト活動も推進しています。また、研究開発からモノづくりまでを無駄なく連続的に、スムーズかつタイムリーに実施していくために、長期的な環境変化とそれに伴う社会ニーズや顧客ニーズの調査、分析、予測に基づいた将来技術のあるべき姿とそこに向けた持続的成長戦略を、ロードマップとして明確に定め、活動を進めています。また、欧州技術者駐在員事務所(欧州テクニカルセンターと同敷地内)を活用し、自動車、油圧機器を問わず、欧州地区をはじめとする世界の最先端情報を収集し、技術トレンドの把握と社内の研究開発テーマへのブレークダウンを行っています。

工機センターでは、先進性に溢れた信頼性の高い設備や金型の内製化に取り組んでおり、生産技術研究所で開発された新しい工法や各工場で培われたノウハウの具現化を推進しています。各部門でAIやIoTなどのデジタル技術の全社的活用・推進を行っています。

一方で、従来からの研究開発及び製品化に向けた体制に加え、新しい時代に対応するための取組みも進めております。

まず、持続的成長のための商品開発として、EV化や自動化に対応すべく当社のコア技術である振動制御・パワー制御と電子制御、センサ、電動機・インバータ等の技術を高度に融合させ、BEV、建機、産業用車両の安全・快適性能の追求、エネルギー消費低減、自動運転へ貢献する製品の開発を進めております。基盤技術研究所電動化ユニット先行開発室をはじめとした各技術部門で、建設機械の電動化対応製品の開発加速も図っております。また収益力強化としてShip’30活動としてデジタル技術を軸にしたカヤバ生産方式の追究と進化による次世代革新工場を目指し、生産工程・設備管理革新のためのデジタル技術やAI技術の研究開発も進めております。

製品開発や新サービスの展開、生産工程・設備管理革新により、今まで以上にお客様に安心してお使いいただける製品のご提供を目指していきます。

当社グループの関係会社は、主に自動車機器・油圧機器・電子機器の製造販売及び製品の改良開発を行っています。そして、課題の解決にあたっては、当社の研究所をはじめとする機能部門や、各事業の技術・生産・品質部門が支援、協業する体制をとっています。

製品の高機能化やシステム化、電動化におきましては、当社独自の取組みは勿論のこと、お客様あるいは関連機器サプライヤーとの共同研究開発を推進するとともに、効率的な研究開発推進のために産学交流による最先端技術開発にも積極的に取り組んでいます。また、昨今、製品機能の高度化・複雑化に対応すると共に、開発効率の向上を図るため、全社的にモデルベース開発(MBD)の推進に取り組んでいます。これにより、開発期間の短縮と共にお客様からのニーズに素早く対応し、ご高評をいただけるように努めていきます。

 

(3) 成果

当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発活動の金額は7,839百万円であります。

① AC(オートモーティブコンポーネンツ)事業

四輪車用の油圧緩衝器では、電動化・自動運転化が進む将来において、比例ソレノイド(連結子会社である株式会社タカコとの共同開発による内製)を搭載した電子制御減衰力調整式ショックアブソーバの採用拡大が今後も引き続き見込まれております。上質で滑らかな走りと圧倒的な乗り心地の良さを実現する本製品は、更なる原価低減の取り組みの他、車両への搭載性に優れる減衰力可変機構を内部に配置したショックアブソーバの開発を自動車メーカーと進めており、製品ラインナップの拡充を図ることで今後のお客様の様々なご要求に対応してまいります。一方、アフターマーケット向けには早期の上市を目指し、減衰力調整式ショックアブソーバの技術を応用した電子制御サスペンションシステムActRide®の開発を進めております。センサを内蔵した独自のECUと組み合わせることで車両の挙動を検知し高度な制御を可能にする本製品は、お客様ご自身のスマートフォンに専用アプリをインストールすることで車内から簡単にその日の気分やシーンに応じた「走り」と「乗り心地」を自由に設定いただくことができ、”楽しい・快適”を両立した満足感を提供いたします。また、環境に配慮した業界初の生分解性を有する作動油SustainaLub®(サステナルブ®)については、量産化に向けた造り込みを継続する他、将来的な作動油のリサイクルの実現に向けた取り組みを計画しております。全日本ラリー(カヤバラリーチーム)におけるモータースポーツの過酷な使用環境から回収した作動油を独自の知見に基づき再精製し再び使用する試みを実行に移すことで新たな技術の確立を目指します。今後も魅力ある技術の提案及び新製品の展開を進め、持続可能なモビリティ社会への貢献を果たしてまいります。

欧州テクニカルセンターでは、電子制御減衰力調整式ショックアブソーバを、制御ソフト含めシステムで開発しています。さらなる性能向上として、2つの減衰力可変機構を持つショックアブソーバの開発を行い、量産を開始し順次採用モデルを拡大しております。本製品は、伸び側と縮み側の減衰力を独立に、高速かつ精密な応答で調整可能となっており、お客様に対して、路面状況や好みに合わせて車両挙動を常に最適にコントロールすることで、安全でダイナミックな操縦性とかつてない乗り心地の実現に貢献します。これらの製品を中心とした高付加価値製品の開発を継続し、カヤバグループの一員として、各欧州顧客へのアプローチを推進し、今後さらに高まる電動化・自動運転化に対する要求への対応を進めていきます。

二輪車用の油圧緩衝器では、電動モーターサイクル用に当社製倒立型フロントフォークおよびリアクッションユニットが採用されました。モトクロス用モデルでは倒立フロントフォークに衝撃吸収性を改善したデルタ型バルブ(圧側高速の過度な減衰力発生を抑制するバルブ)を開発し採用されました。またハイエンドスーパースポーツモデルにはSAからの応用であるスウィングバルブを搭載したリアクッションが採用されました。国内の二輪車レースシーンにおいては、全日本ロードレース選手権(JSB1000)及び全日本モトクロス選手権IA1クラスにおいて(いずれも最上級カテゴリー)、当社製のフロントフォークとリアクッションを装着した選手がいずれも総合優勝を収めました。今後も様々な製品開発を行い、多岐にわたって高い技術力をお届けします。

四輪車用電動パワーステアリング機器では、連結子会社である長岡カヤバ株式会社で生産するコントローラ一体型モータ(PowerPack)をベースに、要求が高まる自動運転やステアバイワイヤに対応可能なステアリングアクチュエータを開発しております。機能失陥後も作動が継続可能な冗長機能を有した次世代PowerPackを採用し、2025年に市販される車両向けに2024年後半より製品供給を開始しました。また、将来のステアバイワイヤシステム提供を目指し、海外と日本に評価車両(デモカー)を配置し自動車メーカーとの先行開発や技術提案も進めています。

四輪用オイルポンプ製品では、これまでのトランスミッション用製品で培った高圧領域で静粛性や効率に優れるベーン式に加え、低圧領域での商品性の高い内接ギヤ式をポンプ部分のラインナップに加え、モータと組合せた電動オイルポンプを開発し、2027年から車載機器向けに量産を開始する予定です。並行して、需要が増えているeAxleやバッテリーなどEV基幹部品を始め、幅広く熱マネジメントに貢献する製品供給を目指し、低粘度油(冷媒)への適合開発や展示会への出展などの活動も推進しております。

鉄道車両用製品では、2024年4月にデビューした新型車両の273系特急「やくも」に、オイルダンパ、自動高さ調整弁、および差圧弁が採用されました。また、N700S系新幹線のフルアクティブ制振制御装置には当社のマルチモードアクチュエータが採用されております。

2023年より全日本ラリー選手権に参戦を開始したカヤバ社員チームは、2024年には、社員ドライバーを起用した、オールカヤバ社員チームでの挑戦を開始し、好成績(最高位6位)を獲得しました。また、実践を通じたフィードバック開発により、各クラスにてカヤバサスペンション装着チームが、好成績を獲得しております。2025年は更なる成長を目指し、引き続き、全日本ラリー選手権の最高峰クラスに挑戦しております。実践で得た技術ノウハウをフィードバックし、新たな新商品開発を通じ、人材育成も推進してまいります。

電動化・自動運転の拡大や様々な情報流通インフラ整備を踏まえ、自社製品の作動状況(情報)を活用する道路モニタリングシステムの開発も進めており、電子制御を始めとしたシステム製品を応用することでCASE/MaaSに向けた新用途・新商品開発を推進しています。

当セグメントにおける研究開発費の金額は5,807百万円であります。

② HC(ハイドロリックコンポーネンツ)事業

HC事業では、コア製品である油圧ポンプ、バルブ、シリンダ、モータのラインナップ拡充や省エネ性能向上、コスト低減といった競争力向上に向けた開発と併行し、自動化・遠隔操作・電動化・IoT化等の将来ニーズに対応する電子制御化、省エネシステム、センシング技術、電動ユニット等の新たな付加価値創造に向けた開発を進めています。ショベル向けでは、2022年度にミニ小型クラス用から量産適用を開始した、「電子制御コントロールバルブ(バルブの操作信号を油圧から電気信号へ変更)」について、中型クラス用への適用開発を順調に進めています。オペレータの操作要求に対して高い応答性・安定性を提供することで、母機の自動化対応、操作性・作業効率の向上に貢献します。ミニショベル向けでは、現行品(PSVL-42)に対し大幅な小型化、低コスト化、また最大押しのけ容積と最高使用圧力をUPした3~4tクラス向けロードセンシングシステム用ポンプ「PSVL-50」の量産を開始いたしました。性能向上と環境ニーズを両立した商品としてご採用頂いています。IoTを活用したシステム製品としては、「油状態診断システム」の開発を継続しています。建設機械や工場設備で使用される油圧機器の作動油状態をカヤバ独自の油状態センサでリアルタイムに検知、クラウド上で分析、作動油・機器の劣化異常を診断し、保守・交換の時期を適切なタイミングで提案します。現在、2026年のサービス開始に向け、市場での実証評価を積み重ねております。センサ単体の「モノ売り」に加え、サービスを提供する「コト売り」商品として、機械停止ロスの未然防止、廃油量削減、メンテナンス最適化への貢献を目指します。

当セグメントにおける研究開発費の金額は1,947百万円であります。

③ 航空機器事業

航空機器事業は、事業ポートフォリオの全面的な再検討の結果、経営資源の選択と集中による企業競争力強化を図るべく、2022年2月9日に事業の撤退を公表いたしました。その後、航空機器に関わる製品開発ならびに修理を含めたすべての製販活動を段階的に終了させていきます。そのため当セグメントにおける研究開発費の計上はございません。

④ 特装車両事業及びその他

市場ニーズに応えた製品としてドラムの軽量化や機能・安全性向上を備えたコンクリートミキサ車の開発を進めており、今年度の量産化を目指し開発しています。また、環境的・社会的ニーズに応えるため、EVトラック対応コンクリートミキサ車の研究を開始し、小型EV車両のコンセプトモデルの製作を進めています。

ミキサ車業界以外の新規分野へも進出するための製品開発に取り組んでおります。レジャー分野へ進出する第一弾として欧州車をベースにしたキャンピングカー「VILLATOR」を開発し、2025年1月より受注を開始しました。カヤバの架装技術・油圧技術・サスペンション技術などを取り入れ、快適な乗り心地と操縦安定性に加え、上質な居住空間を提案しています。「VILLATOR」を端緒とし、お客様からご高評いただける製品開発に努めてまいります。

当セグメントにおける研究開発費の金額は84百万円であります。