文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において、当社グループ(当社、連結子会社および持分法適用会社)が判断したものです。
当社グループは、『“お客様第一”を基軸に「存在感と魅力ある企業」を目指す』という経営理念のもと、ありたい姿である「笑顔をつくる会社」の実現に向け、提供価値である「安心と愉しさ」を進化させていきます。そして、SUBARUを自動車事業と航空宇宙事業における魅力あるグローバルブランドへ持続的に成長させるとともに、すべてのステークホルダーの皆様に事業活動へ共感いただくことを通じてSUBARUグループの持続的な成長と愉しく持続可能な社会の実現を目指しています。
<ありたい姿> 笑顔をつくる会社
<提供価値> 安心と愉しさ
<経営理念> “お客様第一”を基軸に「存在感と魅力ある企業」を目指す
<品質方針>
私たちは何より品質を大切にしてお客様の信頼に応えます
2.お客様の声に常に耳を傾け、商品とサービスに活かします
3.法令・社会規範・社内規則を遵守し、お客様に信頼される仕事をします
<SUBARUグローバルサステナビリティ方針>
*SUBARUグループ:株式会社SUBARUおよびすべての子会社
当社グループは、2023年の新経営体制への移行に伴い、同年8月2日に公表した「新経営体制における方針(以降、「新体制の方針」)」※1において、2030年に向けた電動化計画をアップデートし、2023年から2028年までの5年間を大変重要な期間と位置づけ、「モノづくり」と「価値づくり」で世界最先端を目指した取り組みを進めています。100年に一度の大変革期を勝ち残っていくために、これらの取り組みを強力に推進し「安心と愉しさ」を追求し続けていきます。さらに近年の自動車産業を取り巻く非連続かつ従来以上にスピード感のある変化に対しては「柔軟性と拡張性」の観点を念頭に置き、よりタイムリーに対応していきます。
※1:詳細は2023年8月に公表した「新体制の方針」と2024年5月および2024年11月に公表したアップデートをご参照ください。https://www.subaru.co.jp/outline/about/policy/
自動車メーカーとしては決して規模の大きくない当社グループが、厳しい競争環境のなかで稼ぐ力を維持し持続的に成長していくためには、お客様にSUBARUならではの価値を認めていただくことが何より大事であり、また徹底した差別化戦略・付加価値戦略が不可欠です。これまで、当社グループの強みを発揮できる分野や市場にターゲットを絞り、限られた経営資源を投入する「選択と集中」を推し進めることで「付加価値」を高めて、競争力を強化してきました。
市場については米国を最重要市場と設定し、商品は日常からアクティブライフまで使い勝手が良く、米国市場を中心にお客様との親和性が高いSUV領域に、開発においては当社グループの技術の強みを活かすことができる「安心と愉しさ」を追求する領域に経営資源を集中してきました。また、当社グループにとって大事なパートナーである販売店と共に、より良い社会の実現に向けて各地域に寄り添った支援活動「Love Promise」を米国において継続的に進めています。これらビジネスモデルや取り組みに対し、販売店・お客様・地域コミュニティからの共感をいただいており、共にSUBARUブランドを磨き、成長を遂げてきました。その結果、2008年からコロナ禍前の2019年にかけて12年連続で小売販売が前年実績を超え、販売台数は約3.7倍と急成長しました。
コロナ禍後も米国市場での堅調さは維持し、2025年3月には米国で販売する自動車ブランドの中で唯一、32か月連続で前年同月超えを記録しました。
2025年3月期の当社グループの全世界の売上台数93.6万台のうち、米国における売上台数は66.2万台を占めました。米国売上台数のうち50%強は米国現地生産車となりますが、日本で生産され輸入する車両も半数程度あります。日本から輸入する完成車のほか、米国現地生産車においては一部の国から輸入する部品などが米国の関税政策の影響を受けます。
しかしながら、当社グループがこれまで育んできたSUBARUブランドの強さおよびお客様との関係の深さに鑑みると、今後も米国市場を最重要市場と位置付けることが、当社グループにとって最善の選択であると考えています。今後、米国市場で最量販車種である「フォレスター」の生産地を米国に移管することを予定し、米国市場で需要が伸びているストロングハイブリッド車両も生産いたします。また、売上台数の増加・売上構成の改善・販売奨励金の抑制・原価低減・費用圧縮などあらゆる収益機会の創出を行うことにより、収益の確保に努めます。
当社グループは、BEV※2はカーボンニュートラルの実現に向けた有力な選択肢ではあるものの、その移行スピードは不透明であり、ICE※3系商品の需要も一定程度継続すると考えています。先行きの見えない変化に柔軟に対応していくためには、従来の考え方・手法を革新的に変えていく必要があり、2023年8月2日に発表した「新体制の方針」の中で、BEVを切り口に大変革に突き進むことを発信しました。
一方で、最終的にどのパワーユニットの商品を選択するかを決めるのはお客様です。そのための選択肢として、BEVだけではなく、ICE系商品も幅広く用意することこそが「柔軟性」であり、それを実現するために「モノづくり」と「価値づくり」で世界最先端を狙うという考え方は、方針発表当初から何ら変わるものではありません。その一つの手段として、更地にゼロから生産の構えを構築し、開発の手法・プロセスもゼロからスタートできるBEVに一旦舵を切り、「モノづくり革新」と「価値づくり」を実現し、その成果をICE系商品にも展開します。このようにして市場の変化に対応できる「柔軟性」を身に付けていきます。

※2:Battery Electric Vehicle(電気自動車)
※3:Internal Combustion Engine(内燃機関)
BEVの市場導入については、2026年末までにSUVを4車種、2028年末までにはさらに4車種と合計8車種のラインアップを予定しています。2026年末までに導入を予定する4車種のうち、2022年に市場に導入した「ソルテラ」はトヨタ自動車株式会社(以下「トヨタ」という。)と共に両社の強みを持ち寄りつくりあげ、その改良モデルを2025年4月に公開しました。また同時にBEVラインナップの第2弾となる新型「トレイルシーカー」を公開しました。新型「トレイルシーカー」は2026年以降に米国市場への導入を予定しており、当社の矢島工場で生産し、トヨタへの供給も予定しています。また2024年度は、トヨタハイブリッドシステムをベースとし水平対向エンジンと機械式AWDを組み合わせたSUBARUらしい独自のストロングハイブリッドシステムである次世代e-BOXERを開発・公表しました。搭載する国内向け「クロストレック」、国内および米国向けの新型「フォレスター」を発表し、すでに多くの受注をいただいています。今後も市場の動向を見据えながら展開拡大を計画します。
新型「トレイルシーカー」(米国仕様車) ストロングハイブリッドシステム
さらに、SUBARUのフラッグシップクロスオーバーSUVとして歴史を積み重ねてきた「アウトバック」をフルモデルチェンジいたします。パワーユニットは、改良された水平対向2.5L直噴NAエンジンと2.4L直噴ターボエンジンを採用し、2026年以降に米国市場への導入を予定しています。このように、市場のニーズに合わせたBEV/HEV※4/ICEそれぞれのラインアップを充実させ、電動化移行期における商品の柔軟性を確保していきます。
※4:Hybrid Electric Vehicle(ハイブリッド自動車)
電動車の生産に向け、当社グループは2022年5月より生産体制の再編計画を段階的にアップデートしてきました。国内では2024年秋に北本工場において、ストロングハイブリッドシステムの基幹ユニットとなるトランスアクスルの生産を当初予定通りに開始しました。また、新型「トレイルシーカー」およびトヨタへ供給予定の新型BEVならびにガソリンエンジン車の混流生産を矢島工場にて計画しており、2025年度はその準備が本格化します。矢島工場にある2本のラインのうち、1本のラインを約半年にわたり生産を止めて工事を行うため、一定数の生産台数の減少を想定していますが、その影響を最小限に抑えられるように進めていきます。
大泉新工場は現在、環境規制およびお客様の受容などの動向を踏まえながら、「段階的」な立ち上げ準備をしています。またバッテリーの生産工場は、パナソニックエナジー株式会社とともに大泉新工場の近接地への建設を予定しています。群馬県太田市を中心に近距離圏内に工場が位置するメリットを活かし、お取引先様および部品物流まで含めたサプライチェーンのさらなる「高効率化」を図ります。
段階的な立ち上げおよびロケーションメリットの活用などにより、「合理的な生産」の実現を目指すというこれまでの方針に変わりはありませんが、昨今の経営環境を踏まえ、投資の実行のタイミングはこれまで以上に精緻かつ柔軟に判断いたします。

モノづくり革新を通じて、小回りの利く「SUBARUの規模だからこそできる」製造・開発・お取引先様領域まで含めたサプライチェーンが一体となった“ひとつのSUBARU化”を進めることで、高密度なモノづくりを推進する―この考え方を軸に、「開発手番半減」、「部品点数半減」、「生産工程半減」を実現し、世界最先端のモノづくりを成し遂げます。開発を含むこれまでの「モノづくり」は、お客様ニーズの多様化やクルマの複雑化などにより対応領域が多岐にわたり、個々の領域の専門化およびお取引先様も含めた分業が一気に進みました。結果として、前工程の手離れを待つリレー式のモノづくりを定着させてきました。この形は、時代の変化に適応しながら成長する過程において発生した制約に対し、でき得る範囲で効率的かつ効果的に対応してきた結果であると評価しています。
一方で、従来とは大きく車両構造の異なるBEVという「新しい商品」を企画・開発し、更地にゼロから建設する「新しい工場」で生産を始めるということは、「モノづくり」のアプローチやプロセスを大きく変えるチャンスであると捉えており、これらを起点に合理的で高密度なモノづくりを推進し、徹底的に極めていきます。お取引先様と共に集い、開発・生産など様々な検討を行う「大部屋活動」では、「ひとつのSUBARU化」を推し進め、モノの流れである「サプライチェーン」と開発の流れである「エンジニアリングチェーン」を一体化した「アジャイル」なモノづくりの検討を進めています。高密度な工場ロケーションやサプライチェーン網、それらを基盤とした物流システム確立などの「高効率なパッケージ」と合わせて「開発手番半減」、「部品点数半減」、「生産工程半減」を実現します。
「新しい工場」では「生産ラインのモジュール化」および「柔軟なサブラインの構築」、そして当社が長年突き詰めてきた「変種変量短生産」の考えに基づく「高効率」な混流生産手法をさらに進化させていきます。更地にゼロから建設する「自由度」を十分に活かしながら、敷地および建屋空間の最大活用も視野に入れて効率化を図っていきます。同時に、ラインで流れるBEVを始めとした「新しい商品」に関しても開発初期段階での「車両構造」および「仕様」のシンプル化による部品点数の大幅な削減を進め、「生産工程半減」へつなげます。これらの取り組みに加え、ストロングハイブリッドシステムの基幹ユニットとなるトランスアクスルを製造する埼玉県の北本工場を含めた各工場のロケーションメリットを最大活用し物流効率を極限まで高めることにより、リードタイムの大幅な短縮につなげていき、従来以上にお客様のニーズにお応えする商品をより早くお届けすることを目指します。

米国では販売子会社であるスバル オブ アメリカ インク(SOA)と全米の販売店が一体となった「Love Promise」という活動が実を結んでいます。SUBARUの商品を核として、販売店・お客様・地域社会の人と人そしてSUBARUを強固につなげるこの取り組みこそが、SUBARUの「社会と未来への価値貢献」であり、これを守りさらに取り組みの輪を拡げていくという想いは、この先の大変革期や電動化時代においても決して変わるものではありません。そしてSUBARUは、フォーブス誌の「社会へ良い影響をもたらす企業ランキング」において、米国内3,000を超えるブランドの中で、2023年と2024年は2年連続で2位に、2025年には3位に選ばれました。これは、商品だけでなく、SUBARUの理念や取り組みに対する総合的な評価ですが、その根幹は「安心と愉しさ」という不変の提供価値を具現化するために追求し続けてきた「テクノロジー」にあると考えています。
例えば、運転支援システム「アイサイト」は、30年以上にわたる開発の過程で「安心」という「価値」を磨いてきました。今後も究極の安全を目指し、お客様にあらゆる運転環境下においても絶対的な安心を感じていただくために、SUBARUの強み領域におけるテクノロジーの進化を加速させていきます。商品や機能を核とし、お客様には「安心」、「挑戦」、「いつでも新しい」というような「SUBARUと共に過ごすことでの色褪せない情緒的な価値」を感じていただけると考えています。
電動化が進むことにより、「今まで以上にお客様の人生に寄り添うSUBARU」を目指していきます。
テクノロジーの進化に向けた取り組みのポイントは、2つあります。1つ目のポイントは「協業の深化」です。特にBEVでは新たな領域の「価値づくり」が必要であり、従来のお取引先様との関係を越えて、いかに協業のカタチをより深化させるかが大切です。2つ目のポイントは、「知能化」です。SUBARUらしい「安心と愉しさ」の強化はもちろん、BEVならではの「シームレスでストレスフリー」といった新たな価値を加え、そしてそれらをICE系商品にも展開していきます。

2024年1月に稼働を開始した群馬県太田市の開発拠点「イノベーション・ハブ」では、当社従業員とお取引先様が垣根なく集い、開発・生産など様々な検討を行う「大部屋活動」を推し進めています。
軽量・コンパクトな次世代電動車両用e-Axleは株式会社アイシンと共同で開発しています。単なる共同開発の枠に留まらず、調達・生産の領域まで踏み込むことにより両社の強みを活かした競争力のあるe-Axleを実現するために、共に歩みを進めています。

互いに100年を超える歴史を持つパナソニック エナジー株式会社とは、「次の100年をつくり上げるために、互いの技術と知見を持ち寄り、世界最先端の性能とコストを実現する」という大義のもとで、バッテリー供給に関する協業を進めています。新設するバッテリー工場のロケーションメリットやコスト視点も踏まえた両社の様々な知見の活用など、競争力を高める取り組みを進めています。
世界的な半導体メーカーであるAMDとは、「2030年死亡交通事故ゼロ」の実現に向けて、アイサイトとAI推論の融合に関わる協業を行っています。その協業により実現する最適化されたSoC※5は、「ADAS※6」のみならず「車両運動」領域などを制御する「統合ECU」の重要な構成要素を担います。
これらの「協業の深化」により、世界最先端の「安心と愉しさ」の実現を目指していきます。
※5:System on a Chip
※6:Advanced Driver-Assistance Systems(先進運転支援システム)
「統合ECU」はSUBARUの強みである安全や走りの領域に絞り込んだ「内製開発」により、コスト競争力を保ちつつ、車両の「頭脳」として、SUBARUらしい高度な「知能化」を実現します。「統合ECU」を活用した制御ノウハウやBEVをつくりあげる過程で得た知見を蓄積するとともに、当社が得意とする内製化のスピードをさらに高め、ICE系商品への活用および実装も踏まえて検討を深めます。
当社グループは、この100年に一度と言われる大変革期の中、「モノづくり革新」と「価値づくり」を推し進めます。開発・生産の工程はもちろん、事業活動全体の効率化・生産性を突き詰め、商品競争力を磨き、SUBARUらしいアフォーダブルな商品として提供することで「お客様に感じていただける価値の最大化」に取り組みます。2030年以降に向けてそれらを実現することにより、「業界高位の収益力」を維持し、勝ち残っていきます。

当社グループは脱炭素社会に貢献するため、商品(スコープ3)および工場・オフィスなど(スコープ1および2)に関する長期目標(長期ビジョン)を2050年とし、それを補完する中期目標(マイルストーン)を設定しています。これらの目標は非連続かつ急速に変化する事業環境に応じて随時見直されており、2023年には、工場・オフィスなどの中期目標を「2035年度に2016年度比60%削減」に引き上げました。当社グループのバリューチェーン全体のCO2排出量は販売した商品の使用によるものが大部分を占めるため、前述の通り自動車の電動化に向けた取り組みを着実に進めていくことが重要です。また、当社グループが直接排出するCO2(スコープ1および2)の削減に当社自らが率先して取り組むことは、バリューチェーン全体での削減活動をより充実させていくものと考え、再生可能エネルギーの利用や高効率な設備への更新などに取り組んでいきます。
なお、商品および工場・オフィスに「素材部品」、「輸送」、「廃棄」を加えたバリューチェーン全体の脱炭素社会に向けた取り組みは、各領域でのCO2削減を目的とした会議体にて管理され、最終的には環境委員会にて全体統括されています。
当社が目指す世界最先端の「モノづくり」「価値づくり」は「真の競争力をもった人・組織」により実現されると認識しており、その強化に取り組んでいます。当社では「真の競争力をもった人・組織」とは、「人財それぞれの異なる能力が最大発揮されている」、「本質業務に注力し成果創出までのスピードが速い」、「全体最適の意識を持ち、組織の壁を容易に越えながら動ける」、「挑戦・応援できる風土がある」状態と捉えており、その実現に向けた各種施策を実施しています。
「個の成長」に向けた人財育成では、自律的なキャリアプランの形成を職場や上司がサポートする仕組みをベースに、さらにチャレンジを加速する施策として「公募型ジョブローテーション」や従業員が学びの機会を自ら探し出し会社から全面支援を受けることができる制度などを導入し、推進しています。ほかにも全従業員が自身のレベルや目的に応じて選択できる多様な研修プログラムを整備し、個々に応じたキャリア開発が実現できうる仕組みづくりを進めています。「個の成長」を後押しする仕組みの整備や様々な施策の継続により、自律的な人財の育成が着実に実を結びつつあります。
「組織の成長」に向けて、直接部門では全員参加の現場主権による現場力強化活動を、間接部門ではDX推進による業務の効率化・機械化の推進を基軸として生産性向上を図り、成長につなげていきます。IT・AI活用の領域においては技術部門で構築済の「ソフトウエア人財育成プロジェクト」に加え、すべてのSUBARU社員を対象とした「ITアカデミー」を設立しました。
また、さらなる成長を目指す観点では、「つながりの強化」を最重要項目に位置付け注力していきます。経営として目指す姿と従業員一人ひとりの取り組みのつながりの深化、部署間の連携や協働の強化、全社のチャレンジを支援・応援できる仕組みづくり、従業員同士の接点増加などを通じて、個々のチャレンジをより大きな成果につなげるとともに、挑戦に向かう人財創出スピードを向上させていきます。一例として全役職者約4,000名を対象に「組織の壁を越え、組織の力を強化する」手法を学ぶ大規模研修を進めています。
自律した人財一人ひとりが持つ熱意や個性を最大限に活かし、「ひとつのSUBARU」として持続的に最大限の成果を創出できるよう、「真の競争力をもった人・組織」の実現に向けた取り組みを強力に推し進めていきます。
当社は持続的な成長に向けて「資本コストや株価を意識した経営の実現」が不可欠だと考えています。当社の直近の資本コスト(WACC ※CAPMベース)は7%半ばですが、ROEは12.8%と資本コストを上回る数値で推移しております。自動車業界の大変革期においても、世界最先端の「モノづくり」「価値づくり」を着実に実行し、競争力のあるSUBARUらしい商品を市場へ導入することで2030年を見据えた長期的目標として、「業界高位の収益力」「ROE10%以上」を追求していきます。
2025年3月期は、足許のキャッシュの状況および株価の水準などを踏まえ、より一層、株主の皆様に報いる趣旨から安定的・累進的な配当を目指し、DOE(親会社所有者帰属持分配当率)の考え方を取り入れた株主還元方針に変更いたしました。一方、PERについては、現状6倍前後とプライム市場平均PERに対し低位で推移し、また、PBRは1倍を下回っています。米国における関税政策など自動車産業の不確実性を背景に期待が醸成されづらい状況であることが要因と捉えており、今後より一層のIR活動の強化に取り組み、「モノづくり革新」「価値づくり」の着実な実行の進捗開示などを通して、当社グループへの期待値向上へつなげていきます。
文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において、当社グループ(当社、連結子会社および持分法適用会社)が判断したものです。
当社グループは、「”お客様第一”を基軸に『存在感と魅力ある企業』を目指す」という経営理念のもと、ありたい姿「笑顔をつくる会社」の実現に向け、SUBARUグローバルサステナビリティ方針に基づきサステナビリティ重点6領域の取り組みを推進してきました。従業員一人ひとりが成長の原動力となり、提供価値である「安心と愉しさ」をさらに進化させ、お客様をはじめとしたステークホルダーの皆様との関係を深めることで、SUBARUグループの持続的な成長と愉しく持続可能な社会の実現の両立を図っていきます。
自動車産業が100年に一度とも言われる大変革期をむかえるなか、当社グループは2023年8月に「新体制の方針」を公表しました。「モノづくり」と「価値づくり」で世界最先端を目指すべく取り組みを進めるなかで、時代ごとに求められる価値をお客様やステークホルダーの皆様にお届けし、当社グループの持続的な成長につなげていくため、また、昨今のサステナビリティを取り巻く環境の変化などを踏まえ、2023年以降、SUBARUグループのサステナビリティについての議論を重ねてきました。そして、SUBARUの価値や強みを一層活かした形で持続可能な社会の実現とSUBARUグループの持続的な成長を両立していきたいという思いのもと、CSR重点6領域を「サステナビリティ重点6領域」として発展させています。今後は、従来のCSR視点に加え、より長期視点で事業活動そのものを通じた社会価値・経済価値の創出を目指していきます。
価値創造プロセス図

当社グループのあらゆるサステナビリティに関わる取り組みを議論する場として、「サステナビリティ委員会」を設置し、年2回開催しています。サステナビリティ委員会は、委員長を代表取締役社長とし、全執行役員がメンバーとして加わり、各事業を社会的側面からも考察し、取り組みの強化を図っています。当社グループとして、国内、海外各拠点と連携しながらグループが一体となってサステナビリティ実現に向けた取り組みを包括的に推進し、関係する委員会や部門のPDCAの状況をモニタリングしています。また、同委員会での議論内容は取締役会に付議・報告をしています。
<2024年度サステナビリティ委員会における主な議論内容>
・「サステナビリティ重点6領域」の取り組み強化に向けた整理・検討
・当社グループのサステナビリティ取り組み進捗
・人権取り組み進捗
・ESG評価機関による評価と対応
・2024年度/2025年度統合レポート/サステナビリティWebの方向性と内容
<体制>

当社は、2018年に「CSR重点6領域」として「人を中心とした自動車文化」、「共感・共生」、「安心」、「ダイバーシティ」、「環境」、「コンプライアンス」を定め、各領域で「2025年のありたい姿」を設け活動を推進してきました。
2024年度にCSR重点6領域を「サステナビリティ重点6領域」へ発展させたことに伴い、「重点領域」については、社会環境やサステナビリティに関する考え方の変化の趨勢を捉え、「人を中心とした自動車文化」を「人を中心としたモビリティ文化」に、「ダイバーシティ」を「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)」に変更しました。このほかの4つの領域も含め、ありたい姿、重点テーマ、主なKPIと目標を新たに設定し各取り組みをさらに深化させていきます。
具体的にはサステナビリティ重点6領域の「ありたい姿」は、より長期視点に立ちSUBARUが目指す不変的な方向性を示すために時間軸を設けないこととし、「重点テーマ」は当社グループの強みを活かして重点的に取り組む項目を設定することで、「ありたい姿」「重点テーマ」の定義を明確化し、さらにはそのKPIと目標値を定めることで「サステナビリティ重点6領域」の各取り組みを強化していきます。
「人を中心としたモビリティ文化」
従来は主に自動車事業に焦点を当てたものでしたが、今後は航空宇宙事業も含めたSUBARUグループの商品やサービスの多様性を持つと同時に、SUBARUのDNAを継承しつつ時代の変化に対応した新たな価値をお客様や社会に提供し、当社グループでは他社とは異なる存在感と魅力ある企業を目指していきます。具体的にはSUBARUと過ごすことによる色褪せない価値を提供し、人の心や人生を豊かにするパートナーとなることを目指します。
「共感・共生」
当社グループは、企業活動を行っていくうえでの重要なステークホルダーはお客様と地域社会であると考えています。そのため、お客様と地域社会には日ごろのコミュニケーションを通じてSUBARUを信頼、共感していただき、共感・共生のコミュニティを形成していくことを目指します。具体的にはお客様には「安心と愉しさ」を実現するモビリティ・サービス・体験を提供し、地域社会にはその課題解決につながる活動を推進していきます。
「安心」
当社グループは、お客様・地域社会・従業員をはじめとするすべてのステークホルダーにとって、「最高の安心」を感じていただける企業となることを目指していきます。その中でもお客様に常に寄り添い、常に安心を感じていただけるような取り組みを推進していきます。お客様が安心して長く使い続けていただける「品質」No.1を目指し、「人の命を守る」ことにこだわり、2030年に死亡交通事故ゼロ※1を目指して取り組みを進めていきます。
※1:SUBARU車乗車中の死亡事故およびSUBARU車との衝突による歩行者・自転車などの死亡事故ゼロを目指す。
「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)」
当社グループでは、働くすべての従業員の多様な価値観を尊重し、働きやすい職場環境の整備をするなどダイバーシティの取り組みを推進してきました。今後は、これに加え、すべての従業員が公平な機会を得られる環境を提供し、多様な個が一丸となって能力を最大限発揮していくことで、イノベーションを創出し、SUBARU独自の持続的な価値創造を実現していきます。
「環境」
当社グループは、環境方針のなかで「大地と空と自然」をSUBARUのフィールドと定め、自然との共生を目指す取り組みへの注力を掲げました。これは、自動車と航空宇宙事業を柱とするSUBARUの事業フィールドである「大地と空と自然」を大切に守っていきたいという思いを込めたものです。企業活動を通じて地球環境を大切に守っていくために「気候変動の抑制」、「サーキュラーエコノミーの実現」、「自然との共生」の3つを重点テーマとして新たに設定し、環境アクションプランを実行していきます。
「コンプライアンス」
当社は、過去の業務遂行において社会規範への意識が欠如していたことや社内ルールの不備、また業務遂行に関連する法令の理解が乏しかったことなどへの反省から、意識改革の必要性を痛感し、徹底した組織風土改革を推し進めています。お客様をはじめとするすべてのステークホルダーから信頼され、共感される存在となることを目指し、当社グループとしてコンプライアンス重視、優先の取り組みを進めていきます。今後は従業員一人ひとりが受け身ではなく能動的にコンプライアンスを考え、行動に移す「考えるコンプライアンスの浸透」を図っていきます。
当社グループは、グループ全体のリスク顕在化と拡大を防止するため、取締役会が選任したCRMO(最高リスク管理責任者)が、リスクマネジメント・コンプライアンス活動を統括し、活動状況などを取締役会に報告する体制をとっています。当社グループでは、「人権」、「人的資本」、「気候変動」などのサステナビリティ領域も含む課題について、経営レベルで影響度の大きいリスクや機会を把握し、適宜経営会議などで提案・議論しており、特に重要な案件については取締役会の審議を経て意思決定しています。
当社グループは下表の通り、「サステナビリティ重点6領域」の各領域において、「ありたい姿」を明確にし、そのKPIと目標値を定めることで取り組みの強化を図っています。
なお、「人を中心としたモビリティ文化」と「共感・共生」については、他の4領域の取り組みと相互に影響し合う領域であるため、主なKPIと目標は設定せず、他の4領域の取り組みの進捗を把握していきます。
※2: 定量・定性ともに含む
※3: 当社単体においてのKPIや目標も含む
※4: SUBARU車乗車中の死亡事故およびSUBARU車との衝突による歩行者・自転車などの死亡事故ゼロを目指す。
※5: スバルリビングサービス株式会社
※6: スバルブルーム株式会社
※7: 追加的な対策を取らずに現状を維持した場合の排出量(Business As Usual排出量)
当社グループは気候変動への取り組みを最も重要な課題の一つとして認識しており、2050年のカーボンニュートラルを目指し、商品および工場・オフィスでのCO2排出削減の「長期目標」およびそのマイルストーンとしての「中期目標」を策定し取り組むことで、脱炭素社会の実現に貢献していきます。
当社は「環境委員会」を設け、社会が要求する将来の環境水準と合致する大局的かつ中長期的な方策(目標など)を議論するとともに、それらの進捗を評価しています。環境委員会の委員長は、取締役会が選任したサステナビリティ部門を担当する執行役員が務めます。環境委員会で行われた議論の内容は、サステナビリティ委員会へ報告されます。また、必要に応じて、経営会議および取締役会へ付議・報告しています。気候変動に関する課題についても当環境管理体制に組み込み、特に重要な案件については取締役会の審議を経て意思決定しています。
なお、商品および工場・オフィスに「素材部品」、「輸送」、「廃棄」を加えたバリューチェーン全体の脱炭素社会に向けた取り組みは、各領域でのCO2削減を目的とした会議体にて管理され、最終的には環境委員会にて全体統括されています。
当社グループでは、電動化に向けて先行きを見通すことが難しい段階のなか、規制やマーケットの動向を注視しながら、その変化に「柔軟」に対応し、ある程度方向性が見えてきた断面では一気に「拡張」していくという「柔軟性と拡張性」の観点が極めて重要との認識を持ち、各種取り組みを推進しています。中長期的な視点では、カーボンニュートラル実現に向けた手段として、いずれはBEVが主軸になっていくと見ていますが、足元のBEV移行初期においては、「開発」、「商品」、「生産」の各領域で取り巻く環境変化への「柔軟性」を確保します。具体的には、市場のニーズに対応したHEVの導入を進めていくとともにトヨタ自動車との共同開発によるBEVのラインアップ充実を図り、2028年末までに導入を見込むBEVはアライアンスの知見を活かした「自社での開発」を目指します。さらに、当社は、省エネルギーの施策をはじめ、カーボンニュートラル電力の自家発電や購入、および水素・アンモニアなどのカーボンニュートラル燃料の導入などの施策を講じ、2035年までのスコープ1、2排出量の削減施策を計画的に実行し、目標達成を目指します。
また、当社グループは、各国の燃費規制などの政策動向や国際エネルギー機関などが公表している各シナリオの情報をもとに、2050年カーボンニュートラル(=1.5℃シナリオ)を想定した独自のシナリオを含む様々なシナリオと、持続可能な事業活動に向けて認識されたリスクと機会を考慮し対応策を検討しています。例えば、市場において電動車の販売比率が大きく高まるシナリオ、市場での電動車の浸透が緩やかに進むシナリオ、気候変動への対応が進まず自然災害の激甚化が進展するシナリオなどを考慮し、電動化への移行や水災害に関する対応策の策定を進めています。
シナリオ別に認識しているリスクと機会を考慮した対応策の具体例
当社グループでは、気候変動に関連する課題について、経営レベルで影響度の大きいリスクや機会を把握しています。「政策・規制」、「技術」、「市場」などの移行リスクに関しては、各専門部門が広く情報を収集し、将来予測から不確定な気候変動リスクの認識に努めています。これらの移行リスクは、執行会議にて提案・議論され、特に重要な案件については取締役会の審議を経て意思決定しています。また、気候変動の物理的なリスクに関わる浸水などの自然災害に伴う操業リスクに関しては、BCPの一環として、リスクマネジメント・コンプライアンス室が中心となり関連規程類の整備を進め、緊急時のSUBARUグループ全体にわたる情報を一元的に掌握するとともに、その対応を統括管理する体制を整えています。
気候変動に関するリスクと機会の詳細については、「
当社グループは脱炭素社会に貢献するため、商品(スコープ3)および工場・オフィスなど(スコープ1および2)に関する長期目標(長期ビジョン)を2050年とし、それを補完する中期目標(マイルストーン)を掲げています。当社のバリューチェーン全体のCO2排出量は販売した商品の使用によるものが大部分を占めるため、自動車の電動化に向けた取り組みを着実に進めていくことが重要です。また、当社グループが直接排出するCO2(スコープ1および2)の削減に当社自らが率先して取り組むことはバリューチェーン全体での削減活動をより充実させていくものと考え、再生可能エネルギーの利用や高効率な設備への更新などに取り組んでいきます。
※8:「油井から車輪」の意味。EVなどが使用する電力の発電エネルギー源までさかのぼってCO2排出量を算出する考え方を指す。
※9: 2050年に世界で販売されるSUBARU車の燃費(届出値)から算出するCO2排出量を、同2010年比で90%以上削減。
総量ベース。
市場環境変化による販売台数の増減は加味するが、走行距離の多少は考慮しない。
※10:他社からOEM供給を受ける車種を除く。
※11:EV・ハイブリッドなど、電力利用を高める技術を指す。
商品に関する中期目標に対する2023年度実績については、全世界販売台数に対する割合として電動車で7.8%、電気自動車で1.5%でした。
2024年度には、高い燃費性能を持つ次世代e-BOXER ストロングハイブリッド車を導入しており、2026年には2車種目のBEVの導入を予定しています。また、国内生産体制の再編を進めており、2027年以降にはBEV専用ラインの追加を行うなど電動車の供給能力の強化に取り組んでいきます。
また、工場・オフィスに関する中期目標に対する2023年度実績は、スコープ1、2排出量はマーケット基準で471,854tであり2016年度比20.9%削減(ロケーション基準で545,917t)となりました。引き続き、SUBARUグループは2035年度の中期目標の達成向け、省エネルギー施策をはじめとして、カーボンニュートラル電力の自家発電や購入、水素・アンモニアなどのカーボンニュートラル燃料の導入などの施策を講じることで、スコープ1、2排出量の削減施策を計画的に実行していきます。
なお、これらの2024年度の実績は2025年発行の
当社グループは、事業活動を取り巻く環境が急激に変化するなか、SUBARUグループが競争力を高め持続的に成長していくためには、原動力となる人財が基盤であると捉え、人的資本経営に取り組んでいます。
当社は「真の競争力をもった人・組織」の実現を目指す人事戦略に基づき、各拠点の人事部門が連携し人財の確保や育成、組織風土の醸成、安心・安全な職場づくりなどをはじめとする各種の人的資本経営に関する取り組みを推進しています。
これらは、人事領域を管掌する執行役員のもとで管理、推進されるとともにその重要度に応じ、業務執行の審議を行う会議体である経営会議等に付議、報告されます。また、重要事項については個別に取締役会にも付議・報告されることで、取締役会による監督が適切に図られる体制となっています。
また、2025年4月より新たに、CHRO(Chief Human Resources Officer:最高人財責任者)を新設しました。CHROの管掌のもと、100年に一度の大変革期において持続的な企業競争力を創出しうる人財、組織づくりを加速させ、人的資本経営をより強力に推進していきます。
当社グループは2023年8月に公表した「新体制の方針」で目指す世界最先端の「モノづくり」「価値づくり」は「真の競争力をもった人・組織」により実現されると認識し、その強化に取り組んでいます。当社では「真の競争力をもった人・組織」を以下4つの状態と捉えています。
・人財それぞれの異なる能力が最大発揮されている ・本質業務に注力し成果創出までのスピードが速い
・全体最適の意識を持ち組織の壁を容易に越えながら動ける ・挑戦・応援できる風土がある
当社ではこれらの実現に向け、「個の成長」と「組織の成長」そして最重要項目と位置付ける「つながりの強化」という3つの観点から各種施策を推進しています。
「個の成長」
人財育成については、自律的なキャリアプランの形成を職場や上司がサポートする仕組みをベースに、更にチャレンジを加速する施策として「公募型ジョブローテーション」や従業員が学びの機会を自ら探し出し会社から全面支援を受けることができる制度などを導入し推進しています。他にも全従業員が自身のレベルや目的に応じて選択できる多様な研修プログラムを整備し、個々に応じたキャリア開発が実現できうる仕組みづくりを進めています。
「組織の成長」
直接部門で全員参加の現場主権による現場力強化活動を、間接部門ではDX推進による業務の効率化・機械化の推進を基軸として生産性向上を図り、成長に繋げていきます。IT・AI活用の領域においては技術部門で構築済の「ソフトウエア人財育成プロジェクト」に加え、全てのSUBARU社員を対象とした「ITアカデミー」を設立しました。
「つながりの強化」
さらなる成長を目指す観点で最重要項目に位置付け注力していきます。経営として目指す姿と従業員一人ひとりの取り組みのつながりの深化、部署間の連携や協働の強化、全社のチャレンジを支援・応援できる仕組みづくり、従業員同士の接点増加などを通じて、個々のチャレンジをより大きな成果につなげるとともに、挑戦に向かう人財創出スピードを向上させていきます。つながり強化の一例として全役職者約4,000名を対象に「組織の壁を越え組織の力を強化する」手法を学ぶ大規模研修を進めています。
上記施策を実行することで、人財一人ひとりが能力を最大限に発揮しながら協働し、「ひとつのSUBARU」として持続的に最大限の成果を創出し続ける「真の競争力をもった人・組織」を実現させ、企業競争力を創出していきます。
全グループ従業員の様々な個性や価値観、経験、経歴などにもとづき育まれてきた能力が十分に発揮されるとともに、その多様な個が一丸となることでイノベーションが創出されSUBARU独自の持続的な価値創造が実現すると考えています。性別、国籍、文化、ライフスタイルなどの多様性を尊重し、誰しもが持ち合わせる多様な個性を最大限発揮できる組織づくりや働きやすい職場環境の整備、そして公平な機会提供を進めていきます。また、国内・海外の関係会社においても、それぞれの事業内容や地域性を踏まえて取り組んでいます。
(女性活躍)
当社では、多様な人財の活躍に向けた取り組みにおいて、特に女性の活躍推進が重要課題であると考えます。「採用」、「制度」、「キャリア形成支援」、「風土醸成」の4つの柱を軸に取り組みを進め、女性が様々なライフイベントを通じて働き続け、活躍するための環境整備を行っています。また、多様なキャリア観に基づき女性一人ひとりが自分らしく活躍することを前提としつつ、女性活躍を促進するうえでの一つの指標として女性管理職数を掲げており、各種取り組みを進めています。
具体的には、多様な個の能力を最大限活かす組織を実現するうえでの重要課題の一つとして、2024年から経営トップを含む全役員層が参加する「女性活躍推進会議」を発足し、女性の能力をさらに活かし経営に好影響を与える人財育成を目指しています。このほか、管理職を目指す女性従業員を対象に一人ひとりに向き合い対象の女性従業員、上司、人事部門が連携し、本人に合った育成を個人単位で行う「Women's Leadership Program」を継続して推進しています。
また、働き方の面においても、従来から「仕事と育児の両立支援」を重要な取り組みとして位置付け、育児休業や短時間勤務などの各種制度は法律を上回る基準で運用しています。
(キャリア採用従業員)
当社では、環境変化に対応し持続的な成長を図るために、近年、キャリア採用を積極的に進めています。2025年3月末時点の正規従業員におけるキャリア採用従業員数は4,747名、うち管理職者数は240名です。なお、2018年4月以降7年間において、累計のキャリア採用数は906名です。
また、2020年12月にIT企業の集積地である東京都渋谷区に開設したAI開発拠点「SUBARU Lab(スバルラボ)」は、2025年2月に同地区に2拠点目を開設するとともに、その機能をソフトウエア全般の開発へと広げています。AI開発に必要となる人財のほか、CASE領域における幅広いソフトウエア開発人財に対する採用の拡大につなげる取り組みなどもより強化しています。
(外国籍従業員)
当社グループでは、国籍を問わず各拠点の方針や事業に適した人財を採用しています。2025年3月末時点で当社に在籍する外国籍従業員は129名在籍です。このうち管理職は4名おり、製造部門および技術部門で活躍しています。
引き続き、女性従業員、キャリア採用従業員、外国籍従業員など、あらゆる多様な人財が活き活きと働き活躍できるよう働きやすい職場環境整備、適所適在の人財配置や人財育成に努めていきます。
(3)リスク管理
「人的資本」については、当社が「真の競争力をもった人・組織」によって様々な機会を創出し、競争力を高めていくことを目指し人財の確保や育成、組織風土の醸成、安心・安全な職場づくりなどをはじめとする人的資本経営に関する取り組みを推進しています。
この一方で、自動車業界をはじめ人財の獲得競争が激化していることから、サプライチェーン全体で人財の確保ができないリスクに対し対応策を講じています。具体的には、2025年6月2日に製造業向けに特化した大手人財サービス企業である日総工産株式会社と株式会社ワールドインテックとともに人財サービス会社「株式会社SUBARU nw Sight」を設立し、2025年9月からお取引先様と当社への人財サービスなどの提供を開始する予定です。
このような取り組みを通じてお取引先様と一体となった「ひとつのSUBARU化」を進め、迅速かつ効率的な人財獲得・育成のための体制を構築し、モノづくりにおける競争力強化につなげていきます。
人的資本に関するリスクと機会の詳細については、
・従業員エンゲージメント指数(SUBARU単体) 2028年:70%
当社では2017年度から毎年、従業員意識調査を実施しており、調査結果は人事施策や組織風土改革の推進、各職場の課題抽出および対策立案などに活用されています。また同調査により算出される従業員エンゲージメントは自社の取り組みを評価する重要な経営指標の一つと位置づけており、2022年度からは従業員エンゲージメント指数の改善ポイントを役員報酬の定性(非財務)評価としても採用しています。
・女性管理職者数(SUBARU単体) 2030年:100人
・障がい者雇用率(SUBARU・SLS・SBC:三社合算) 2030年:3.0%
当社はサステナビリティ重点6領域で定める「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」および「中核人財の登用等における多様性の確保についての考え方」が、イノベーションを創出するうえで重要であると考えています。多様な個が能力を発揮し、互いを尊重しながら協働できる組織づくりに向けて、「女性管理職数」「障がい者雇用率」の目標を掲げています。
なお、2024年度の従業員エンゲージメント指数は51%となりました。引き続き「真の競争力をもった人・組織」の実現に向けた各種取り組みを強化していきます。2025年3月末時点の女性管理職者数については、全体1,122名のうち女性は42名(3.7%)、また、2025年4月時点では管理職への新規登用等により全体1,168名のうち女性は52名(4.5%)となり「2025年までに女性管理職数を2021年時点の2倍(48名)以上」という目標を達成しました。引き続き、女性活躍推進を持続的な企業成長の重要テーマと位置づけ、「女性管理職数を2030年までに100名以上」とする目標を新たに定め、全社で取り組みを進めていきます。2024年6月時点の障がい者雇用率については、2.59%(障がい者雇用 354人)となりました。今後も、当社グループ全体で障がいのある従業員が働くことを通じて輝くことができる環境を目指し、働きやすい職場づくりに取り組んでいきます。
当社グループでは緊急事態発生時の対応だけでなく、日々の企業活動において重大な影響を及ぼす様々なリスクに対し、リスク発生時のダメージを最小化するためのリスクマネジメントの実践を経営の最重要課題の一つとして推進しています。
自動車業界は100年に一度の大変革期を迎えており、グローバルに事業を展開する当社グループは、世界情勢の変化に素早く対応し、経営の持続性の確保と経営基盤の強靱化を図りつつ、人的、社会的および経済的損失の最小化にこれまで以上に取り組んでいく必要があります。このような環境のなかで事業活動を行っていくうえで、グループ全体での戦略的なリスクマネジメントの推進が不可欠であり、当社グループをリスクに強い体質にし、企業価値の向上を図ることが重要であると考えています。
当社は、グループのリスク顕在化と拡大を防止するため、取締役会が選任したCRMO(最高リスク管理責任者)が、当社グループのリスクマネジメント・コンプライアンス活動を統括し、活動状況などを取締役会に報告するとともに、重要な案件については取締役会の審議を経て意思決定しています。具体的な推進体制として、各部門に本部長クラスのリスク管理責任者を置き、CRMOを委員長、リスクマネジメント・コンプライアンス室および法務部からなるリスクマネジメントグループを業務執行責任範囲とする執行役員を副委員長とする「リスクマネジメント・コンプライアンス委員会」(以下「リスコン委員会」という)において、重要事項の審議・協議、決定および情報交換・連絡を行い、重要度に応じて取締役会に上程しています。CRMOは、リスクマネジメント・コンプライアンス室や法務部などのコーポレート部門の専門的見地からの支援を受けつつ、各事業に横断的な役割を担う経営企画部や各部門・カンパニーと密接に連携し、グループを通じたリスク管理の強化を推進しています。さらに、監査部が各部門および各子会社の業務遂行について計画的に監査を実施しています。

2024年度は、平時の取り組みとして、リスコン委員会において、グループ全体の「リスクマネジメント方針」と各部門の「リスクマネジメント行動指針」のもと、各本部の重要リスクの洗い出しを実施、影響度の大きな課題を優先的に対応し、日常業務としてリスクの抑制を図る活動を推進しました。
2023年8月2日に公表した「新体制の方針」の実現をより確実に進めていくために、各本部の重要リスクに加え、外部変化や足元の環境を踏まえた経営レベルの議論を通じて策定したリスクマップを活用するなどリスクマネジメントの一層の強化を進めています。これに加えて、最適なリスク管理とその実効性向上のためのリスクマネジメント研修会を実施、リスクリテラシー向上と委員会活動の活性化を図りました。
さらに、当社グループの重点リスク低減に向け、それぞれのリスク分野を担当するリスクオーナー主導のもと「サイバーインシデント訓練」の実施、「関連企業の適正取引」の徹底推進、当社の「自然災害におけるBCP体制」の充実などに取り組み、リスコン委員会で定期的なフォローによる実効性の向上を図りました。加えて、海外の重要な子会社との直接的なリスクマネジメント活動を推進しています。具体的には、定期的なリスク評価の実施、リスク軽減策の共有、そして現地の法規制や文化に対応したリスクマネジメントの強化を図っています。
また、定期的に「安否確認システム」の訓練などを実施することで、当社に影響を及ぼすおそれのある災害発生時の情報共有に備えています。
当社グループの経営成績および財務状況、キャッシュ・フローなどに数百億円以上の大きな影響を与え、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる主な事業等のリスクと対応策は以下の通りです。
なお、文中の将来に関する事項は有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであり、当社グループに関するすべてのリスクを列挙したものではありません。
当社グループは、米国を主要市場とした自動車事業を行っており、米国の関税政策により主に米国販売子会社が日本から輸入する完成車や、米国生産拠点の現地生産車について一部の国から輸入する部品などが関税の対象となります。現在、各拠点や日米間で関係部門が密に連携し、情報の収集や対応策の検討を行っています。引き続き、関税政策の影響を最小化すべく、売上台数の増加・売上構成の改善・販売奨励金の抑制・原価低減・費用圧縮などにグループ一丸で取り組むとともに、2026年3月期は複数のSUBARUらしい魅力的な新商品をお客様に提供し収益の確保に努めていきます。
しかし、関税政策の長期化やそれにもとづく為替や金融市場の大きな変動ならびに需要が減少した場合は、当社グループの経営成績や財政状態に大きく影響を及ぼす可能性があります。
(1) 主要市場の経済動向
当社グループの主要な市場である国および地域の経済情勢は、当社グループの業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。国内はもとより、当社グループの売上収益の約8割を占める北米における景気の後退や需要の減少、価格競争の激化などが進むことにより、当社グループの提供する商品・サービスの売上収益や収益性に大きく影響を及ぼす可能性があります。
(2) 為替の変動
当社グループにおいて北米売上収益は約8割を占め、売上収益、営業利益、資産等のなかには、米ドルを中心とした現地通貨建ての項目が含まれており、連結財務諸表作成時に円換算しています。通期の業績見通しなどにおいて想定した為替レートに対し、実際の決算換算時の為替レートに乖離が生じた場合、主に円高局面では当社グループの売上収益と財務状況はマイナスに作用し、円安局面ではプラスに作用する可能性があります。当社では為替リスクを最小限にすべく、状況に応じ為替予約などによるヘッジを実施していますが、期末日に極端な為替変動が生じた場合、当社グループの経営成績や財政状態に大きく影響を及ぼす可能性があります。
(3) 金融市場の変動
当社グループは、事業活動の資金を内部資金および金融機関からの借入や社債の発行によって確保しています。また、十分な手元流動性を確保するために、一定額の現金および現金同等物残高の確保を行っています。しかし、経済・金融危機などの発生により金融市場から適切な条件で資金調達が出来なくなった場合、当社グループの経営成績や財政状態に大きく影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループは市場性のある証券や債券などの金融資産を保有しており、金融市場の影響により公正価値や金利などが著しく変動した場合、金融資産の減損および年金資産の減少による従業員給付債務の増加により、当社グループの経営成績や財政状態に大きく影響を及ぼす可能性があります。
(4) 原材料価格の変動
当社グループは、原材料を多数のお取引先様から適時適切な量で調達していますが、特定の原材料およびお取引先様に依存している場合があります。原材料の調達においては、持続的な競争力を確保するために、お取引先様との共存共栄に根差した生産性改善・品質改善等に取り組んでいます。
一方、地政学リスク、需給の逼迫、環境規制などの要因による原材料価格や物流費、エネルギー価格の高騰や人件費の上昇等によるコストの増加に対し、原価改善努力や当社製品価格への転嫁等でその影響を吸収しきれない場合、当社グループの経営成績と財務状態に影響を及ぼす可能性があります。
なお、米国の関税政策により、米国生産拠点の現地生産車について一部の国から輸入する部品の調達コスト増加の影響があるため、原材料や部品調達への影響を注視するとともに、お取引先様と一体となり最適な調達を行うことで引き続き原価改善に取り組んでいきます。
(5) 特定の事業および市場への集中
当社グループは、主に自動車と航空宇宙の2つの事業により構成され、“お客様第一”を基軸に「存在感と魅力ある企業」を目指し、選択と集中を進め、限られた経営資源を最大限活用することで高収益なビジネスモデルを展開しています。自動車事業の売上収益が9割以上を占め、販売市場は主に北米を中心とした先進国です。主要生産拠点は国内の群馬製作所および米国のスバル オブ インディアナ オートモーティブ インク(SIA)の2拠点となり、主にSUV(多目的スポーツ車)を中心とした生産と販売を行っています。このため、自動車事業に関わる需要や市況、同業他社との価格競争などが予測し得る水準を超えて推移した場合、当社グループの経営成績や財政状態に大きく影響を及ぼす可能性があります。
(6) 市場における需要・競争環境の変化
当社グループの主力事業である自動車業界は大きな環境変化を迎えており、モビリティサービスの普及に伴う異業種からの参入や環境対応に伴う電動化へのシフト、シェアリングや自動運転普及に伴う移動手段の多様化によって、お客様の価値観や嗜好ニーズはさらに多様化していくことが予想されるなど、当社を取り巻く環境は非連続かつ急速に変化しています。このような状況のなか、当社グループは2023年6月に経営体制を刷新し、同年8月に「新体制の方針」として、2028年までの5年間を大変重要な期間と位置づけて、「モノづくり革新」と「価値づくり」の2つに強い決意をもって取り組んでいくことを発表しました。2024年4月には、これら2つの取り組みを加速させることを主眼に、全社組織の横串機能強化と執行責任の明確化ならびに具現化していく体制(自動車事業 5つのCXO(Chief X Officer、の新設※1など)、2025年4月には、更に2つのCXO※2や組織改編(カスタマーファースト推進本部の新設・営業部門再編)を実施、核心的重点テーマへの取り組みのスピードアップと全体最適化の実現を目指します。このように、常に市場環境や需要動向を捉え、お客様ニーズに基づく商品企画を行い、適切なタイミングと価格で新商品を開発・製造し、市場に導入することに努めています。このような取組みの一方で、当社グループの新型車や新商品が販売計画に満たない場合、当社グループの経営成績や財政状態に大きく影響を及ぼす可能性があります。
※1:CMzO(最高モノづくり責任者)、CBBO(最高バッテリービジネス責任者)、CDCO(最高デジタルカー責任者)、
CCBO(最高コネクトビジネス責任者)、CCIO(最高コスト改革責任者)
※2:CLO(最高物流責任者)、CHRO(最高人財責任者)
(7) 商品ならびに販売・サービスに関する責任
当社グループは、品質の高さをSUBARUブランドの大事な根幹、付加価値の源泉であると位置づけ、「品質改革」の3つの切り口である「品質最優先の意識の徹底と体制強化」「つくりの品質の改革」「生まれの品質の改革」に取り組み、着実な成果を生んでいます。
今後もこれらの改革を加速させるとともに、電動化など新技術対応を含めた開発最上流から、生産、物流、そしてアフターサービスなど、様々な接点でお客様に価値を感じていただける品質を確保します。そのために、厳格な完成検査体制を維持して確かな品質で商品をお届けするとともに、万が一不具合が発生してしまった場合には、お客様へのご迷惑を最小限にするとともに、迅速な解決を最優先とした業務プロセスの改革に取り組みます。
さらに、お客様視点に重点を置いた啓発活動を全社で展開することで、従業員全員の品質最優先の意識の徹底を図っていきます。
このように品質改革に取り組む一方で、大規模なリコールなどが起こった場合、多額のコストとして品質関連費用などが発生することに加え、ブランドイメージの毀損などにより、当社グループの経営成績や財政状態に大きく影響を及ぼす可能性があります。
(8) サプライチェーンの分断
当社グループは、自動車や航空機などの製造にあたり、多数のお取引先様から部品や材料を調達しています。定期的にお取引先様の品質保証力や供給能力のチェックを行うとともに、必要に応じお取引先様の経営状況のチェックも行い、安定調達に努めています。物流については、2025年4月から、CLO(Chief Logistics Officer:最高物流責任者)ならびに物流本部を新設し、ドライバー不足などサプライチェーンを取り巻く環境変化に、迅速かつ柔軟な対応を進め、今まで以上に安全で効率的な物流の実現に向けた取り組みを行っていきます。
また、有事が発生した際は、平時より整備をしている「サプライチェーン情報データベース」に基づき、影響を受ける可能性のあるお取引先様や部品を早期に特定することにより、生産継続に必要な在庫数の確認や代替品の生産検討、さらには生産設備の復旧支援を行うなど、サプライチェーン分断の影響を最小限に留める対応を取っています。しかしながら、大規模な地震や台風などの自然災害、工場火災やサイバー攻撃被害、地域紛争などによりサプライチェーンの分断や需給のひっ迫、物流網の混乱が発生した場合、安定したコスト・納期・品質で調達の維持や商品の出荷が出来ず、当社グループの経営成績や財政状態に大きく影響を及ぼす可能性があります。
(9) 知的財産の侵害
当社グループは、製品やサービスを通じてお客様に「安心と愉しさ」という価値をお届けするために必要な技術・ノウハウなどを知的財産として保護し、SUBARUのブランド価値の維持・向上に努めています。しかしながら、第三者が当社グループの知的財産を不当に使用した類似製品を製造した場合や、知的財産に関わる訴訟などが生じて当社に不利な判断がなされた場合には、当社グループの経営成績や財政状態に大きく影響を及ぼす可能性があります。
(10) サイバーセキュリティ
当社グループは、製品の開発・生産・販売など、事業活動において情報技術やネットワーク、システムを利用しています。また、製品では電子部品を搭載し、ソフトウエア制御しています。これらの資産を守るためにサイバーセキュリティ基本方針を定め、サイバーセキュリティ部門が中心となりセキュリティマネジメントシステムを構築し、これに基づく活動をサイバーセキュリティ会議の運営を通じて行っています。
また、セキュリティインシデントの未然防止やサイバーセキュリティ対策の一層の強化に向けて、セキュリティに関する外部専門家の知見も取り入れITガバナンスの強化や技術的な対策を講じています。
具体的には従業員の意識向上に向けたセキュリティ教育や監査を定期的に実施するとともに、セキュリティ防御システムの増強も行うことで日々進化するサイバー攻撃からのリスク低減を図っています。これに加え、サイバー攻撃検知の迅速化を図るための監視とセキュリティインシデント発生時のSIRT(Security Incident Response Team)体制も整備しています。データのバックアップについては、当社データセンター内の自社運用ならびにクラウド環境において、複数箇所に分散しバックアップが取れる体制を整えており、局所的な災害などにおいても、事業継続や復旧の早期化に向けた対策を講じています。当社グループの情報技術やネットワーク、システムは、安全対策が施されているものの、サイバー攻撃、不正アクセス、マルウェアによる攻撃、人為的なミスによる個人・企業情報の漏洩、大規模な停電、火災などが発生した場合、重要な業務やサービスの中断、データの破損・喪失、機密情報の漏洩などが発生し、ブランドイメージの毀損や当社グループの経営成績や財政状態に大きく影響を及ぼす可能性があります。
(11) コンプライアンス
当社グループは、コンプライアンスの徹底を経営の最重要課題の一つと位置付け、法令・社内諸規程などの遵守はもとより、社会規範に則した公明かつ公正な企業活動を遂行することを役職員一人ひとりに浸透させるべく、コンプライアンス体制・組織の構築および運営、ならびに各種研修等の活動を行っています。コンプライアンスリスクの回避または最小化に努めているものの、当社グループおよび委託先などにおいて重大な法令違反や役職員の不正・不適切行為などが発生した場合、お客様の信用・信頼を失うことや社会的評価・評判の低下などによるブランドイメージの毀損が事業基盤に重大な影響を与え、当社グループの経営成績や財政状態に大きく影響を及ぼす可能性があります。
(12)訴訟など法的手続き
当社グループは、事業活動を行うなかで、お客様、お取引先様や第三者との間で様々な訴訟そのほかの法的手続の当事者となる可能性があります。現在係争中の案件や将来の法的手続において当社グループに不利な判断がなされた場合、ブランドイメージの毀損や当社グループの経営成績や財政状態に大きく影響を及ぼす可能性があります。
(13)ステークホルダーコミュニケーション
当社グループは、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図り、すべてのステークホルダーから満足と信頼を得るために、コーポレートガバナンスガイドラインを定め、コーポレートガバナンスの強化を経営の最重要課題の一つとして取り組んでいます。また、ディスクロージャーポリシーに基づき、フェアディスクロージャーに努め、法令に基づく開示を行っています。さらに、経営戦略や事業活動など当社グループを深く理解していただくために有効と思われる会社情報を、迅速、公正公平、適正に開示しています。また、当社グループの持続的な成長に向けた発信として、2023年8月に公表した「新体制の方針」の各取り組みの進捗や、電動化・人的資本・知的財産・ガバナンスなどのESG情報、および資本コストや株価を意識した経営について株主・投資家等と建設的な対話を図るとともに、社内関係者へのフィードバックを行うなどステークホルダーコミュニケーションの向上に努めています。しかしながら、株主との建設的な対話やステークホルダーとのコミュニケーションが不十分な場合、インサイダー取引などの不公正取引や虚偽記載などの法令違反行為による巨額の課徴金支払いなどが発生した場合は、株主や投資家をはじめとしたステークホルダーからの信用・信頼を失うことや社会的評価・評判の低下などによるブランドイメージの毀損が事業基盤に重大な影響を与え、当社グループの経営成績や財政状態に大きく影響を及ぼす可能性があります。
(14) 人権尊重
当社グループは人を第一に考え、「人を中心としたモノづくり」を行っています。「一人ひとりの人権と個性を尊重」することを、SUBARUの重要な経営課題と捉え、SUBARUグループの「人権方針」を策定するとともに、同方針をもとに、ビジネス上の人権リスクを特定し、その対応策を策定、実行する「人権デュー・ディリジェンス」を実施しています。そのなかで明確化したSUBARUグループにとって特に重要なリスクについての対応策を着実に進め、継続的にリスク軽減を進めています。また、サプライチェーンを含め、事業に関連するビジネスパートナーやそのほかの関係者にも、本方針に基づく人権尊重の働きかけを行い、人権尊重の取り組みを推進しています。
それにもかかわらず、当社グループおよび上記関係者において、労働環境・労働安全衛生上の問題、様々なハラスメント、労働者の権利・機会の侵害、人権上の問題のある調達などを行った場合には、関連法規への抵触に加え、お客様の信用・信頼を失うことや社会的評価・評判の低下によるブランドイメージの毀損、販売の低迷、人財流出、資材・資金の調達難などが事業基盤に重大な影響を与え、経営成績や財政状態に大きく影響を及ぼす可能性があります。
(15) 人財の確保と育成
当社は、従業員一人ひとりがSUBARUグループの持続的な成長と持続可能な社会の実現の両立を担う原動力となるべく、「真の競争力をもった人・組織」の実現を目指すとともに、自身のキャリア形成を考え、チャレンジする風土づくりや多様な人財が活躍できる環境整備を進めています。「モノづくり」と「価値づくり」で世界最先端を目指すべく、電動化対応、先進安全技術、IT分野の強化などの専門領域における人財確保に向けて、積極的な採用を行っています。2020年12月にIT企業の集積地である東京都渋谷区に新たな開発拠点として「SUBARU Lab(スバルラボ)」を開設し、これまでAI開発に必要な人財の採用に取り組んできました。2025年2月には拠点を拡張し、その機能をソフトウエア全般の開発に広げイノベーションの創出につなげていきます。
また、独自の価値創造を実現し続けるため、様々な個性や価値観を持つ従業員が個々の能力を十分に発揮できるよう、性別・国籍・文化・ライフスタイルなどの多様性を尊重した登用を行うとともに働きやすい職場環境の整備に努めています。特に安全衛生については、重要な経営課題と位置づけ「安全衛生はすべての業務に優先する」ことを基本理念とし、労働災害防止、疾病予防、労働環境向上に向けた取り組みを全社的に進めています。今後、労働市場のひっ迫、異業種も含めた人財獲得競争の激化、コンプライアンス事案につながるような労務問題により人財の確保ができない場合、安全衛生への対応が不十分な場合、あるいは人財の流出が続いた場合は、当社グループの事業活動や経営に影響を及ぼす可能性があります。同様に、人財の育成が不十分な場合や、従業員の多様性が尊重された誰もが活躍できる職場環境が実現できない場合においても、当社グループの事業活動などに影響を及ぼす可能性があります。
(16) 気候変動
当社グループは、気候変動に関連する「政策・規制」、「技術」、「市場」などの移行リスクに関して、各専門部門が広く情報を収集し、将来予測から不確定な気候変動リスクの認識に努めています。また、気候変動の物理的なリスクに関わる浸水などの自然災害に伴う操業リスクに関しては、BCPの一環として、リスクマネジメント・コンプライアンス室が中心となり関連規程類の整備を進め、緊急時のSUBARUグループ全体にわたる情報を一元的に掌握するとともに、その対応を統括管理する体制を整えています。このような取り組みの一方、気候変動に対する取り組みが適切に進まない、あるいは異常気象による調達・生産・物流活動の停滞などが生じた場合、さらに現時点での将来予測が極めて困難な移行リスク・物理リスクの影響および発現度により、研究開発費用などの増加、顧客満足やブランドイメージの低下による販売機会の逸失、異常気象による調達・生産・物流活動の停滞などにより、SUBARUグループの経営成績や財政状態に重要な影響を及ぼす可能性が考えられます。
気候変動に対する適切な取り組みにより、新たな市場の開拓や雇用の創出、資本やエネルギーの効率的な活用が期待されます。
※リスク・機会に関しては、過去の事実や現在入手可能な情報に基づいたものであり、将来の経済の動向、SUBARUを取り巻く事業環境などの要因により、大きく異なる可能性がある。また、気候変動に適応したSUBARUの商品が貢献できる機会を表したものであり、気候変動の悪化などを期待するものではない。
(17) 事業活動に影響を与える各国の政治・規制・法的手続き
当社グループは、北米を中心に世界各国において事業を展開しています。海外市場での事業活動においては、政治的、経済的要因、法律または規制の変更、課税、関税、その他の税制変更等のリスクが内在しています。当該リスクが顕在化した場合や事業展開をしている国・地域において政治的要因・通商政策の強化、通商紛争などが発生した場合には、当社グループの経営成績や財政状態に大きく影響を及ぼす可能性があります。
特に、米国の関税政策により、米国販売子会社が日本から輸入する完成車や、米国生産拠点において一部の国から輸入する部品などが関税の影響を受けています。当社グループでは、今後も動向を注視し、関税政策の影響を最小化すべく様々な対応を行っていきます。
また、環境などに関する主な法的規制は、自動車の燃費、排出ガス、省エネルギーの推進、騒音、リサイクル、製造工場からの汚染物質排出レベルに関するもので、これらの規制は、今後、さらに強化される可能性があります。各種規制への対応が不十分な場合、当社グループの経営成績や財政状態に大きく影響を及ぼす可能性があります。
(18) 地政学・地経学的災害(国際紛争・テロリスク)
当社グループは、世界各国において事業展開をしており、統括部門が日々情報収集やモニタリング活動を行い関連部門で情報を共有しています。しかしながら、当該国や地域においてテロ、戦争、内戦、政治 不安、治安不安などが発生し、当社グループの事業活動が妨げられ、原材料・部品の購入、生産、製品の販売および物流、サービスの提供などの遅延や停止が長期化する場合には、当社グループの経営成績や財政状態に大きく影響を及ぼす可能性があります。
(19) 自然災害と関連する損害
当社グループでは、日ごろから事業継続に備えた規程類の定期的な整備とアップデートおよび訓練などを実施しています。さらに、各事業所単位では、重要業務の選定、緊急連絡体制の整備等BCPの強化を図り、全社コーポレート部門と密接に連携しながら事業継続や早期復旧を的確かつ迅速に行うための対応を進めています。しかしながら、大規模な地震、台風、豪雨、関連する火災・洪水等の自然災害や火災などの事故の発生により、当社グループの事業活動が妨げられ、原材料・部品の購入、生産、製品の販売および物流、サービスの提供などの遅延や停止が長期化する場合や、企業機能停止が長期化する場合、当社グループの経営成績や財政状態に大きく影響を及ぼす可能性があります。
(20)感染症等の発生
当社グループは経営に重要な影響を及ぼしかつ通常の意思決定ルートでは対処困難な緊急性が求められるリスクについて、有事の際に対応できる体制を整備しているものの、感染症やその他未知見な災害(パンデミック等)の発生により、当社グループの事業活動が妨げられ、生産、商品の販売やサービスの提供などの遅延や停止が長期化する場合や企業機能停止が長期化する場合には、当社グループの経営成績や財政状態に大きく影響を及ぼす可能性があります。
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要ならびに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次の通りです。文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものです。
当連結会計年度の世界経済は、地政学リスクの高まりや主要国でのインフレーションなどにより、先行き不透明な状況が継続しました。国内では、物価上昇が続くなかで緩やかな景気回復が見られました。また米国も底堅い雇用環境を背景に景気は堅調に推移しましたが、政権交代を受けて先行きの不透明感が増大しました。
このような経営環境のなか、当社は、自動車業界の100年に一度と言われる大変革期においても、「安心と愉しさ」という不変の提供価値を具現化するために、「柔軟性と拡張性」の考え方のもとで、「モノづくり」と「価値づくり」で世界最先端を狙う取り組みを強力に推進してきました。
(売上収益)
新型「フォレスター」およびストロングハイブリッドシステムを搭載した「クロストレック」が価格面で貢献したことならびに為替変動による増収効果などがあったものの、販売奨励金の増加および自動車売上台数の減少などにより、売上収益は4兆6,858億円と前連結会計年度に比べ172億円(0.4%)の減収となりました。
上記の理由に加え、研究開発費の増加および航空宇宙事業における引当金の計上などにより、営業利益は4,053億円と前連結会計年度に比べ629億円(13.4%)の減益となりました。
4,485億円と前連結会計年度に比べ841億円(15.8%)の減益となりました。
3,381億円と前連結会計年度に比べ470億円(12.2%)の減益となりました。
セグメントごとの経営成績は次の通りです。
当社の重点市場である米国の自動車全体需要は約1,620万台と前連結会計年度を約3%上回りました。また、国内の自動車全体需要は約458万台と前連結会計年度を約1%上回る結果となりました。
このような事業環境のなか、当連結会計年度の国内の生産台数は、前連結会計年度並みの60.2万台となりました。また、海外市場における販売状況および在庫台数などを踏まえた生産を行ったことにより、海外の生産台数は34.5万台と前連結会計年度に比べ2.3万台(6.3%)の減少となりました。以上の結果、国内と海外の生産台数の合計は94.6万台と前連結会計年度に比べ2.3万台(2.4%)の減少となりました。
国内は、「フォレスター」などの登録車を中心に堅調に推移し、売上台数は10.4万台と前連結会計年度に比べ0.5万台(5.4%)の増加となりました。海外の卸売に相当する売上台数は、上記の販売状況などに呼応した生産を行ったことにより、83.2万台と前連結会計年度に比べ4.5万台(5.2%)の減少となりました。以上の結果、海外と国内の売上台数の合計は93.6万台と前連結会計年度に比べ4.0万台(4.1%)の減少となりました。なお、重点市場の米国におけるお客様への小売販売は32か月連続で前年同月超えを達成し堅調さを維持しています。
新型「フォレスター」およびストロングハイブリッドシステムを搭載した「クロストレック」が価格面で貢献したことならびに為替変動などによる増収効果などがあったものの、販売奨励金の増加および自動車売上台数の減少などにより、売上収益は、4兆5,690億円と前連結会計年度に比べ246億円(0.5%)の減収となりました。またセグメント利益は、4,204億円と前連結会計年度に比べ411億円(8.9%)の減益となりました。
なお、当連結会計年度の連結売上台数は次の通りです。
防衛事業における生産の増加およびヘリコプター事業における納入機数の増加などにより、売上収益は1,116億円と前連結会計年度に比べ73億円(7.0%)の増収となりました。また、セグメント損失は、工事損失引当金を計上したことおよび民間機事業において納入機数が減少したことなどにより、196億円と前連結会計年度に比べ223億円の減益となりました。
売上収益は51億円と前連結会計年度に比べ2億円(3.1%)の増収となりました。また、セグメント利益は37億円と前連結会計年度に比べ1億円(1.5%)の増益となりました。
生産、受注および販売の実績は、次の通りです。
① 生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次の通りです。なお、自動車の生産台数は、海外市場における販売状況および在庫台数などを踏まえた生産を行ったことにより、前連結会計年度を下回りました。
(注)金額は販売価格によっており、セグメント間の取引については相殺消去しています。
② 受注状況
当連結会計年度における受注状況をセグメントごとに示すと、次の通りです。
なお、自動車事業については見込生産を行っています。
(注)セグメント間の取引については相殺消去しています。
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次の通りです。
(注)金額は販売価格によっており、セグメント間の取引については相殺消去しています。
(2) 財政状態
① 資産の状況
当連結会計年度末の資産は、5兆882億円と前連結会計年度末に比べ2,741億円の増加となりました。主な要因は、外貨建定期預金の増加などにより「その他の金融資産(流動)」が1,448億円増加したこと、設備投資などで「有形固定資産」が928億円増加したこと、新車在庫の増加などに伴い「棚卸資産」が789億円増加したこと、法人税等および配当金支払いなどにより「現金及び現金同等物」が1,065億円減少したことです。
② 負債の状況
負債は、2兆3,725億円と前連結会計年度末に比べ1,238億円の増加となりました。主な要因は、未払費用の増加などにより「その他の流動負債」が495億円増加したこと、買掛金の増加などで「営業債務及びその他の債務」が413億円増加したこと、自動車環境規制関連引当金の増加などに伴い「引当金(流動・非流動)」が412億円増加したこと、「未払法人所得税」が413億円減少したことです。
③ 資本の状況
資本は、2兆7,157億円と前連結会計年度末に比べ1,503億円の増加となりました。主な要因は、当期利益の計上、配当金の支払いおよび取得した自己株式の消却により「利益剰余金」が1,995億円増加したこと、有価証券評価差額金および為替換算の影響により「その他の資本の構成要素」が486億円減少したことです。
(単位:百万円)
(3) キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、9,415億円となりました。
営業活動による資金の増加は4,921億円(前連結会計年度は7,677億円の増加)となりました。主な要因は、税引前利益4,485億円、減価償却費及び償却費2,325億円、法人所得税の支払額1,732億円などです。
投資活動による資金の減少は4,041億円(前連結会計年度は7,037億円の減少)となりました。主な要因は、有形固定資産の取得による支出(売却による収入との純額)1,687億円、定期預金の増加1,243億円、無形資産の取得及び内部開発に関わる支出944億円などです。
財務活動による資金の減少は1,873億円(前連結会計年度は665億円の減少)となりました。主な要因は、親会社の所有者への配当金の支払額786億円、自己株式の取得による支出600億円、リース負債の返済による支出479億円などです。
(単位:百万円)
(4) 資本政策の方針
当社では資本政策の考え方として“「財務健全性と安定性の実現」「成長投資」「株主還元」の三位一体での実行”を掲げています。事業、市場、商品等の領域において「選択と集中」を進める当社にとって、経営基盤となる「財務健全性と財務安定性」の確保は不可欠であると考えます。そのうえで自動車業界の大変革期における世界最先端の「モノづくり」と「価値づくり」を実現し、SUBARUらしい商品の実現を支える「成長投資」と持続的な企業経営における重要要素と位置付ける「株主還元」のバランスを持った実行を目指しています。
資本政策の実行にあたっては、資本コストや株価を意識した経営視点での取り組み実行が重要であると認識しております。2025年3月末時点において、資本コスト(WACC※CAPMベース)は国内金利の上昇傾向を受け7%半ば程度に上昇しましたが、資本収益性(ROE)は12.8%と資本コストを上回る数値で推移しております。加えて2024年8月の株式市場急落、その後の米国における関税政策を主とする自動車産業の不確実性の高まりを受け、PBRは0.7倍、PERは5.8倍となり、特にPERはプライム市場平均に対して低位の水準にあり改善課題と認識しています。この状況を踏まえ、当社では「ROE向上」「最適資金配分/1株あたり価値向上」「PER向上」「実効性の向上」という4つの取り組みテーマの実行により、2030年を見据えた長期目標として「業界高位の収益力」と「ROE10%以上」を追求しています。これらに関しては、経営会議および取締役会等において定期的に報告され、取り組みのアップデートを実施しています。
当社は、財務健全性と安定性の担保に必要となる手元資金水準を考慮しつつ、設備投資や研究開発投資をはじめとする成長投資や株主還元等へ経営資源の適切かつ安定的な配分を目指しています。
成長投資に関しては、2030年頃までに最大で約1.5兆円を電動化関連の投資金額として見込み、その内訳として「国内における電池・電動車生産」「電動車開発」「米国における電池・電動車生産」を計画しています。一方で、変化の激しい足元の経営環境を鑑み電動化投資に関する大きな方向性は維持しつつも投資時期を含めた計画見直しを実施しています。
株主還元については、不確実性が高い経営環境下において資本効率向上をより意識するとともに、引き続き株主還元を持続的な企業経営の重要な要素と位置づけて取り組むべく、2025年2月に株主還元方針の見直しを公表しました。毎期の業績、投資計画、経営環境などを総合的に勘案したうえで、目標還元水準を総還元性向40%以上とし、配当を株主還元の基本と位置づけ、累進的な配当実現を目指すべくDOE3.5%を設定しています。また、配当額が総還元性向40%を下回る場合は自己株式取得を主として対応していきます。なお、2025年3月期業績に基づく株主還元については、米国における関税政策を主とする不確実性を鑑み、自己株式取得の実施判断を保留としております。
当社は、当社グループの中期的な資金需要を念頭に置いた資金調達計画を策定し経営会議および取締役会の審議を経て意思決定しています。成長投資およびその他の事業資金については、事業活動により獲得した内部資金に加えて、市場環境に応じた適切な手段により外部から調達することとしており、銀行からの借入及び国内普通社債発行による資金調達を実施しています。手元資金は、2025年3月末時点において3か月超の定期預金を含む現金及び現金同等物の残高として1兆5,897億円となっています。これに加え、未使用のコミットメントライン約2,000億円を有しており、成長投資および変化の激しい事業環境を考慮しても十分な流動性を確保していると考えています。これらは安全性並びに流動性の極めて高い短期金融商品で運用しています。
中長期的な資金の確保については、引き続き営業キャッシュ・フローに加え、外部からの調達により行っていきます。安定的な外部資金調達能力の維持向上を重視し、国内の格付機関である格付投資情報センター(R&I)から格付を取得しており、格付は「シングルAマイナス(安定的)」となっています。強固な財務体質を維持し、取引金融機関と良好な関係を構築していることからも、今後の資金調達に関して問題はないと認識しています。
なお、連結子会社は原則として銀行などの外部から資金調達を行わず、当社及び関係会社を通じたキャッシュ・マネジメント・サービスやグループ・ファイナンスの活用により、資金調達の集約と資金効率化、流動性の確保を図っています。
(5) 重要性がある会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、IFRSに基づき作成されています。この連結財務諸表の作成にあたっては、様々な見積りによる判断が行なわれていますが、見積りに内在する不確実性により、実際の結果は異なることがあります。
連結財務諸表で採用する重要性がある会計方針は、「第5 経理の状況 連結財務諸表注記 3.重要性がある会計方針、4.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載しており、特に重要な見積りを伴う会計方針は以下の通りです。
① 損失評価引当金
当社グループは、各報告日において、金融商品に係る信用リスクが当初認識以降に著しく増大したかどうかを評価 しており、当該信用リスクが当初認識以降に著しく増大していない場合には、当該金融商品に係る損失評価引当金を12ヶ月の予想信用損失に等しい金額で測定しています。また、当該金融商品に係る信用リスクが当初認識以降に著しく増大している場合には、当該金融資産に係る損失評価引当金を全期間の予想信用損失に等しい金額で測定しています。ただし、営業債権、リース債権および契約資産については、常に損失評価引当金を全期間の予想信用損失に等しい金額で測定しています。
将来、取引先などの財務状況が悪化するなどにより支払能力が低下した場合、引当金の追加計上または貸倒損失が発生する可能性があるため、連結財務諸表に重要な影響を与える可能性があると考えています。
② 製品保証引当金
当社グループは、製品販売時に付与した保証約款に基づく製品保証とともに、主務官庁への届出等に基づいて個別に無償の補修を行っています。
保証約款に基づく製品保証の対象は、各国における保証約款に基づき、期間および走行距離や不具合の原因などにより決定しています。
保証約款に基づく製品保証の保証修理費用は、製品を販売した時点で引当金を認識しており、保証期間内に不具合が発生して部品を修理または交換する際に発生する費用の総額について、過去の補修実績、過去の売上台数を基礎として将来の発生見込みに基づく最善の見積りにより引当計上しています。
主務官庁への届出などに基づく個別の保証修理費用は、経済的便益を有する資源の流出が生じる可能性が高く、その債務の金額について信頼性をもって見積ることができる場合に引当金を認識しており、製品の不具合に関する過去の経験を基礎として算定した1台当たり将来保証修理費用などおよび対象台数に基づく最善の見積りにより引当計上しています。
当社グループは、発生が見込まれる保証修理費用について、現在入手可能な情報に基づき必要十分な金額を引当計上していると考えていますが、製品保証引当金の計算では将来複数年にわたり生じる保証修理費用を予測しているため、実際の保証修理費用が見積りと乖離することにより、製品保証引当金を追加計上する必要が生じる可能性があることから、連結財務諸表に重要な影響を与える可能性があると考えています。
③ 従業員給付
当社グループは、従業員給付のうち退職給付について、将来の退職給付の支払いに備えるため、当連結会計年度末における退職給付債務および年金資産の見込額に基づき、退職給付を計上していますが、この計算は主として数理計算上で算定される前提条件に基づいて行われています。この前提条件には、割引率、将来の給与水準、退職率、死亡率などが含まれており、それぞれの条件は現時点で十分に合理的と考えられる方法で計算されています。当社は、実際の結果が前提条件と異なる場合、または前提条件が変更された場合には、将来期間において認識される費用および債務に影響を与える可能性があるため、連結財務諸表に重要な影響を与える可能性があると考えています。
割引率が変動した場合の確定給付制度債務に与える影響額については、連結財務諸表注記の「19 従業員給付(4)数理計算の仮定」を参照ください。
④ 金融資産
当社グループは、価格変動性の高い公開会社の株式、株価の決定が困難である非公開会社の株式、国債、社債および投資信託などを保有しています。
純損益を通じて公正価値で測定する金融資産については、投資価値の変動により損失が発生することがあるため、連結財務諸表に重要な影響を与える可能性があると考えています。
⑤ 繰延税金資産
繰延税金資産は将来減算一時差異などを使用できるだけの課税所得が稼得される可能性が高い範囲内で認識し、繰延税金負債は原則としてすべての将来加算一時差異について認識しています。当該見積りは、将来の不確実な経済条件の変動などによって影響を受ける可能性があり、実際に発生した課税所得の時期および金額が見積りと異なった場合、翌連結会計年度の有価証券報告書において、繰延税金資産の金額に重要な影響を与える可能性があります。
2006年3月 トヨタ自動車株式会社と業務提携
2008年4月 トヨタ自動車株式会社、ダイハツ工業株式会社と開発・生産における新たな協力関係に合意
2019年9月 トヨタ自動車株式会社と長期的連携関係のさらなる発展・強化を目指し、新たな業務資本提携に合意
当社グループは、2023年の新経営体制への移行に伴い、同年8月2日に公表した「新体制の方針」において、2030年に向けた電動化計画をアップデートし、2023年から2028年までの5年間を大変重要な期間と位置づけ、「モノづくり」と「価値づくり」で世界最先端を目指した取り組みを進めています。昨今の自動車産業を取り巻く非連続な環境変化やそのスピード感は従来以上のものと捉えています。このような状況の中、2024年11月にビジネスアップデートとして各種取り組みの進捗を報告しました。市場の変化に対応できる「柔軟性」を身につけ、内燃機関からBEVに変わっていく過渡期において、国内外工場再編による「生産体制」の刷新と、「開発プロセス」や「商品企画」の刷新を合わせることで、この2つの取り組みを早期に実現すべく、研究開発活動を進めています。
当連結会計年度におけるグループ全体での研究開発支出は
自動車の研究開発では、当社の「提供価値」である「安心と愉しさ」の提供を通じてお客様から共感され、信頼していただける存在となることを目指し商品の開発を推進しています。当事業に関わる研究開発支出は
① 開発拠点の刷新
2025年2月に東京都渋谷区のソフトウエア開発拠点「SUBARU Lab」を拡張しました。クルマのハードウエアにおけるポテンシャルを最大限に引き出すとともに、時代ごとに求められる価値提供につながるソフトウエア開発を強化し、ハードおよびソフトの両面にてSUBARUらしさを際立たせることにつなげます。また、IT企業が集積する渋谷にオフィスを増設することにより、AI開発人財に加え、CASE領域における幅広いソフトウエア開発人財に対する採用の拡大と、協業も見据えた他企業とのコミュニケーションの活性化を図り、当社が掲げる「価値づくり」を加速させます。
② 安心・安全への取り組み
SUBARUは「人の命を守る」ことにこだわり、2030年の死亡交通事故ゼロ※1の実現に向けて取り組みを進めています。これらの取り組みの結果、これまでも日本、米国、欧州をはじめとする国内外の第三者機関による安全性能試験・評価において高い評価を受けており、最高ランクの評価を多数獲得しています。また、当社は、2024年8月にスバル研究実験センター美深試験場(北海道中川郡美深町)の周回コース全域に、Sub6帯※2に対応する、スタンドアローン構成(以下、SA構成)のローカル5G※3設備を導入し、協調型自動運転の実証実験を開始しました。主に先行研究などを担う当社技術研究所では、これまで自動運転技術の先行研究として移動通信を用いた自動運転システムの研究を進めてきましたが、この度、SA構成のローカル5G設備による高速かつ信頼性の高い通信環境下において、複数の自動運転車両による自動合流などの管制制御※4や遠隔で車両の走行制御※5を行う自動運転の実証実験を開始しました。周回コースには、全7基のSub6帯に対応する無線基地局を設置し、当該エリア全域における協調型自動運転の遠隔制御を可能としました。なお、テストコースへのローカル5G設備導入は国内自動車メーカーとして初の事例です。
加えて、米国IIHS※6によって行われた2024年安全性評価において、新型フォレスター(2025年モデル)※7※8が最高評価となる「トップセイフティピックプラス(TSP+)」を獲得しました。
SUBARUは、引き続き未来のモビリティ社会においても事故低減に貢献し「安心と愉しさ」をお届けできるよう研究開発に取り組んでいきます。
※1: SUBARU車乗車中の死亡事故およびSUBARU車との衝突による歩行者・自転車などの死亡事故ゼロを目指す。
※2:6GHz以下の周波数帯を利用する5Gで、ミリ波に比べ一つの基地局でより広いエリアをカバーすることが可能。
直進性が高く、帯域幅が広いため高速で大容量のデータ伝送が可能。
※3:MNO(Mobile Network Operator/移動体通信事業者)の通信設備を使用せず独自で構築し運用可能な5Gで、制御信号に
4Gの無線を必要とせず5Gのみで構成されるネットワーク。
※4:サーバーにおいて、車両の走行ルートなどを算出し、車両へ走行計画として指示すること。
※5:サーバーにおいて、車両の走行計画および制御に必要なデータを算出し、車両の走行制御指示を行うこと。
※6:Insurance Institute for Highway Safety(道路安全保険協会)
※7:米国仕様車
※8:ウィルダネスグレード(併売する先代モデル)は対象外。
③ 新商品開発状況
当連結会計年度において、「安心と愉しさ」でお客様の笑顔をつくるべく、以下の商品を展開しました。
i. 2024年10月にレガシィ アウトバック「Limited EX」をベースとした特別仕様車「30th Anniversary」を発表しました。レガシィ アウトバック特別仕様車「30th Anniversary」は、1994年に「アウトバック」※9が誕生して以来、30年の集大成として、どこまでも走り続けられるような安心感と快適性、荷物を効率的に積める積載性、質感の高い内装といった上質さの中に、SUBARUがこれまで磨き続けてきたスポーティな走行性能を織り込んだ30周年記念モデルです。
※9:北米でデビュー、日本市場では「レガシィ グランドワゴン」として1995年に発売。
ⅱ. 2024年12月、新型「クロストレック」e-BOXER(ストロングハイブリッド)を発表しました。今回発表した新型「クロストレック」e-BOXER(ストロングハイブリッド)は、従来のクロストレックのラインナップに最上級モデルとして追加します。SUBARU初のストロングハイブリッドを搭載し、走行性能と環境性能を高い次元で両立。加えて、高度運転支援システムである「アイサイトX(エックス)」を搭載することで、快適なドライブをサポートします。走行性能では、状況に応じて動力源であるエンジンとモーターを効率よく使い分けるシリーズ・パラレル方式のストロングハイブリッドを採用。新開発の2.5L水平対向エンジンとトランスアクスルを搭載し、エンジンのゆとりある動力性能と高出力の駆動用モーターにより高い加速性能を実現しました。また、SUBARU独自のシンメトリカルAWDの基本レイアウトを継承し、前後輪をプロペラシャフトでつなげる機械式AWDを踏襲することで、様々な路面で優れた走行安定性を発揮します。
ⅲ.2025年1月、現行SUBARU BRZ向けアップデートサービス「SUBARU Sport Drive e-Tune」を発表しました。今回発表した「SUBARU Sport Drive e-Tune」は、現行SUBARU BRZ Dタイプに採用されているスロットルセッティング(MT車)やトランスミッション制御(AT車)を、ソフトウエアアップデートでAタイプからCタイプのSUBARU BRZに組み込むことで、動的性能をよりスポーティにし、ドライバーがより意のままに車両を操りやすくすることができるサービスです。SUBARUのソフトウエアアップデートサービスは、お客様にSUBARU車を末永くお乗りいただきたいという想いのもと、第一弾として2023年1月にレヴォーグ向け「SUBARU Active Damper e-Tune」を発表。SUBARU BRZ向け「SUBARU Sport Drive e-Tune」は第二弾として今回商品化しました。今後もSUBARUは、これまでにはない新たな発想で、お客様の「安心と愉しさ」を実現できるサービスを提供していきます。
ⅳ.2025年4月、米国ニューヨーク国際オートショーにおいて、新型「アウトバック」(米国仕様車)を世界初公開しました。1995年の初代発売以来、乗用車とSUVの長所を融合させたクロスオーバーSUVとしてその歴史を積み重ねてきたアウトバックは、今年で30周年を迎え、今回のフルモデルチェンジで7代目となります。歴代モデルを通じ、どこまでも走り続けたくなるような安心感と快適性、荷物を効率的に積める積載性、質感の高い内装といった、クルマとしての本質的価値を磨き続けることで、乗る人の生活をさらに豊かなものにするパートナーとして信頼を築き上げ、SUBARUのフラッグシップクロスオーバーSUVとして、唯一無二のキャラクターを確立してきました。新型「アウトバック」は、お客さまの様々な嗜好やライフスタイルに寄り添いながらも、自然と共生する「アドベンチャー」要素を盛り込み、走行性能を磨き上げるとともに、デザイン、実用性、インフォテインメントを中心に大幅に商品を進化させました。
ⅴ.2025年4月、米国ニューヨーク国際オートショーにおいて、新型「トレイルシーカー」と、「ソルテラ」改良モデル(米国仕様車)を世界初公開しました。SUBARUグローバルバッテリーEVラインナップ第2弾となる新型「トレイルシーカー」は、バッテリーEVならではの走行性能と、クロスオーバーユーティリティビークルとしての実用性を高い次元で両立。日常でも非日常でも使いやすく、アクティブなライフスタイルを後押しするモデルであり、SUBARUのバッテリーEVのバリエーションを拡充しました。新型トレイルシーカーとソルテラは、トヨタとSUBARUが、「もっといいクルマづくり」を目指して、互いに強みとする技術や知見を持ち寄り、両社のエンジニアが切磋琢磨しながら共同開発しました。SUBARUは、カーボンニュートラル社会実現への貢献を目指して、電動化などの取り組みを加速させていきます。
航空宇宙カンパニーは将来にわたる持続的成長に向け、新規事業開拓および生産性向上を中心とした以下の研究開発を行っています。
ヘリコプター分野では、さらなる安心・安全につながる装備品の開発や原価低減に関する研究を継続し、商品価値の向上に取り組んでいます。
民間機分野では、次世代旅客機への事業対応を見据えて、高レート生産に向けた省人化・自動化技術、軽量化に向けた新材料適用技術の開発に取り組んでいます。
防衛分野では、操縦/整備教育システムや無人機システムの研究開発に取り組んでいます。
その他、サプライチェーンを含めた生産プロセスにおけるDX推進に加え、持続可能な航空燃料(SAF)の活用、航空機部品の製造過程で排出される炭素繊維複合材料の再利用や電動化等のGX推進の取り組み、将来モビリティの実現に向けた技術実証を続けています。
当事業に関わる研究開発支出は
当連結会計年度におけるその他事業の研究開発支出はありません。