(1)変わることと変わらないこと
当社グループが変わらずに大切にしているものがあります。それは創業の精神である「人を愛し 国を愛し 勤めを愛す」からなる「三愛精神」です。「“はたらく”に歓びを」を「使命と目指す姿」と定め、“はたらく”に寄り添い変革を起こし続けることで、人ならではの創造力の発揮を支え、持続可能な未来の社会をつくることを目指しています。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末において、当社グループが判断したものであります。

(2) リコーの中期展望
当社グループは、2023年3月に、同年4月からスタートする第21次中期経営戦略(以下、21次中経)を発表しました。使命と目指す姿である「“はたらく”に歓びを」の実現に向けて、中長期目標として「はたらく人の創造力を支え、ワークプレイスを変えるサービスを提供するデジタルサービスの会社」となることを目指しています。
注力している領域は、働く人をタスクから解放するプロセスオートメーション、創造性を高めるワークプレイスエクスペリエンス、ワークプレイスの基盤となる環境を構築するITサービス、の3つです。
この注力領域において、グローバルの顧客基盤や、ワークプレイス領域における課題把握力・提案力、そして魅力的な自社IPといった強みを活かしながら、ワークプレイスサービスプロバイダーとして、お客様に寄り添いながら継続的に価値を創造し、提供します。

◆将来財務(ESG)の視点
ESGの取り組みは、将来の財務を生み出すために不可欠なものと位置づけ、「ESGグローバルトップ企業」を目指し、お客様や株主・投資家の皆様からの高まるESG要求に応えるべくバリューチェーン全体を俯瞰した活動を進めます。
21次中経では、事業を通じた4つの社会課題解決と、それを支える3つの経営基盤強化の7つのマテリアリティ(重要社会課題)に取り組んでいます。また、これら7つのマテリアリティに対する評価指標として16のESG目標(将来財務目標)を設定しています。マテリアリティとESG目標は、グローバルなESGの潮流への対応と経営戦略の実行力向上の観点で設定しており、16のESG目標は各ビジネスユニット、機能別組織にブレークダウンして展開しています。
「事業を通じた社会課題解決」では、お客様の“はたらく”を変革するデジタルサービスを提供し生産性向上と価値創造を支援しています。また、脱炭素社会、循環型社会の実現にも引き続き注力し、当社グループの強みである技術力と顧客接点力を活かし、地域・社会システムの維持発展、効率化に貢献しています。「経営基盤の強化」では、人権問題への対応の強化、デジタルサービスの会社への変革に向けたデジタル人材の量・質の確保、デジタルサービス関連特許の強化等に取り組んでいます。
また、社会課題解決に貢献する事業とその貢献金額を明確化し、2025年度までの売上高目標を設定しました。今後もESGと事業成長の同軸化の取り組みを加速させていきます。
2025年度の目標額、並びに2023年度及び2024年度における実績額は、以下表のとおりです。
◆21次中経基本方針
中長期目標を達成するために掲げた「①地域戦略の強化とグループ経営の進化」「②現場・社会の領域における収益の柱を構築」「③グローバル人材の活躍」という3つの基本方針は継続して取り組んでいます。
基本方針① 地域戦略の強化とグループ経営の進化
オフィスプリンティング以外の収益を積み上げ高収益な体質に変革していくために、顧客接点における価値創造能力の向上、当社グループ内でのシナジー発揮、継続した収益改善のために環境変化への対応力をつけていくことを重視し取り組みを進めました。
この収益構造の変革に向けて、特に注力すべき価値提供領域を「プロセスオートメーション」「ワークプレイスエクスペリエンス」「ITサービス」と定め、地域ごとの特性を重視しながらリソースを集中的に投下し、サービス分野のストック収益を積み上げる戦略を実行しています。
基本方針② 現場・社会の領域における収益の柱を構築
デジタルサービスの領域を拡げ、より幅広いお客様に価値を提供していくため、「現場・社会」領域での収益の柱の構築を21次中経の基本方針として掲げています。商用印刷事業を中心に進捗しており、リコーグラフィックコミュニケーションズの当連結会計年度の業績は前年度比で増収・増益となっています。
引き続き「現場・社会」領域での収益の柱の構築に取り組むと同時に、事業ポートフォリオマネジメントを通じて、出口プロセスへの移行を判断した事業については適切な出口戦略を探索しながら、注力する事業領域を見極めていきます。
基本方針③ グローバル人材の活躍
事業構造を変化させ、グローバルでの提供価値を拡大させるためには、社員の活躍が不可欠です。当社グループでは社員の能力やスキルを資本と捉え、人に対して積極的に投資をしていく人的資本戦略を策定しています。
◆企業価値向上プロジェクト
目指す姿の実現に向けて2023年4月から企業価値向上プロジェクトに取り組んでいます。株主・投資家・アナリストの皆様との対話や資本市場目線での分析など、様々な角度から企業価値向上に向けて当社グループが取り組むべき課題について検討を進めました。低PBRの最大の要因は収益性の低さにあり、今後デジタルサービスの会社として成長を実現するためには、各事業のビジネスモデルに適合した収益構造の実現が必要であることから、抜本的な収益構造変革を推し進めています。
具体的に、① 本社改革、② 事業の「選択と集中」の加速、③ オフィスプリンティング事業の構造改革、④ オフィスサービス事業の利益成長の加速 の4つの領域で収益構造の変革に取り組んでいます。

① 本社改革
R&D投資は、デジタルサービスと親和性の高いワークプレイス領域によりフォーカスしていきます。また、顧客接点でより多くの価値を創造するデジタルサービス型へグループの経営体制をシフトしています。
② 事業の「選択と集中」の加速
デジタルサービスの会社への変革・資源配分の最適化に向けて、従前より進めていた事業ポートフォリオマネジメントの取り組みをさらに加速しています。当社グループの強みが生きる「ワークプレイス」を注力領域として、リソースを戦略的に配分し、事業ポートフォリオマネジメントで出口プロセスへの移行を判断した事業については出口戦略の検討とその実行を進めています。
③ オフィスプリンティング事業の構造改革
オフィスプリンティング市場は縮小するという認識のもと、売上高が減少したとしても収益を確保するための体質強化を進めています。東芝テック株式会社(以下、東芝テック)との合弁会社組成に加え、当該合弁会社への沖電気工業株式会社(以下、OKI)の参画を発表し、開発・生産の効率化やSCMの最適化などの取り組みを進めています。
④ オフィスサービス利益成長の加速
デジタルサービスのコアであるオフィスサービス事業については、お客様におけるオフィスサービスの導入率の向上やストック売上成長率の向上といった利益成長のメカニズムを意識しながら、継続的な収益性向上に取り組みます。また、提供価値最大化のため販売・サービスや支援業務については、インサイドセールス等も活用しながら、顧客との関係性を重視したデジタルサービスの会社として相応しい体制へと見直します。
デジタルサービスの会社としての利益成長を着実に進めるための継続的な収益改善とあわせ、中長期の視点を見据えた成長施策にも取り組むことで、継続的な企業価値向上を実現していきます。
◆成長を支える資本政策
当社グループは、ステークホルダーの皆様の期待に応えながら、株主価値・企業価値を最大化することを目指しています。専門家の意見も取り入れながら様々な手法・複数の視点で当社グループの資本コストを把握し、株主の皆様からお預かりした資本に対して、資本コストを上回るリターンの創出を目指します。

企業価値最大化の実現に向けて、厳正な事業ポートフォリオ管理のもとで、各ビジネスユニットを投下資本利益率(以下、ROIC)や市場性などで評価した上で、合理的な判断・意思決定を行い、経営資源配分の最適化に取り組んでいます。当社グループでの事業ポートフォリオマネジメントでは、収益性と市場性という従来型のポートフォリオの切り口に加えて、「デジタルサービス親和性」という観点からも評価を行っています。この3つの観点において、各ビジネスユニット・事業を客観的に評価し、成長加速、収益最大化、戦略転換、事業再生の4つに分類し、デジタルサービスの会社として必要な経営基盤の強化に努めています。
また、中長期的に目指すROE 10%超を継続できる資本収益性の実現に向け、資本コストを上回る収益性を追求するため、各ビジネスユニット・部門にてROICツリーを用いた施策管理を実施しています。さらに、それらの主要施策を全社のROICツリーに採用し、単純に財務数値化できないグループ本部の施策についてはKPIとして目指す内容を言語化した上で、「リコー版ROICツリー」として定期的にモニタリングし、財務目標と施策の関連、KGI*1とKPIマネジメントを実施しています。
なお、当連結会計年度のROIC*2は、3.2%となりました。
*1 KGI(Key Goal Indicator):重要目標達成指標
*2 ROIC(投下資本利益率) = (営業利益-法人所得税費用+持分法による投資損益) / (親会社の所有者に帰属する持分+有利子負債)
「リコー版ROICツリー」の概略
損益計算書(P/L)に加えて、貸借対照表(B/S)も意識したKPIを設定し、個々の組織と全社の両視点でKPIマネジメントを実施。

デジタルサービスの会社への変革に向けて、リスク評価に基づき適切な資本構成を目指し、投資の原資に借入れを積極的に活用しながら、負債と資本をバランスよく事業に投資していきます。オフィスプリンティング事業などの成熟し安定した収益を生む事業には負債を積極的に活用し、リスクの比較的高い成長事業には資本を中心に配分する考えです。
なお、2025年度は、経営環境の不確実性が残る想定のもと、格付や資金調達リスクを鑑みた資本構成で、成長のための資本を確保します。以降は、成長投資領域の安定事業化とあわせ、新たな成長投資戦略に伴う事業構造変化を考慮し、柔軟に最適資本構成を調整していく考えです。
事業投資によって創出した営業キャッシュ・フローは、さらなる成長に向けた投資と株主還元に対して計画的に活用していきます。デジタルサービスの会社への変革に向けた成長投資については、欧米におけるワークプレイスエクスペリエンス領域やアプリケーションサービス領域でのM&A投資など、事業成長のための投資を着実に進めています。財務規律を考慮しつつ企業価値最大化に向けた成長投資を継続します。投資原資は、営業キャッシュ・フローを中心に有利子負債も活用しながら戦略的に実施します。

株主還元方針については、引き続き総還元性向50%の方針を堅持していきます。総還元性向 50%を目安とした上で、配当利回りを意識し毎年利益拡大に沿った継続的な増配を目指します。さらに、自己株式取得などの追加還元策は、経営環境や成長投資の状況を踏まえながら、最適資本構成の考え方に基づき、機動的かつ適切なタイミングで実施し、TSR*の向上を実現していきます。
この株主還元方針を踏まえ、2024年2月7日から2024年8月30日の期間に 300億円の自己株式取得を実施しました。内訳は、前連結会計年度に 75億円、当連結会計年度に 225億円となります。なお、2024年9月30日に当該自己株式の消却を実施しました。
また、2024年12月3日に 300億円の自己株式取得を実施し、2025年1月31日に当該自己株式の消却を実施しました。
また、翌連結会計年度の配当見通しについては、当連結会計年度から1株当たり 2円増配し年間 40円を予定しています。
* TSR(Total Shareholder Return):株主総利回りは、キャピタルゲインと配当をあわせた、株主にとっての総合投資利回り

(3)翌連結会計年度の見通し
当連結会計年度は、世界経済はインフレの鈍化もあり緩やかな成長は見せているものの、経済摩擦の増加やインフレの継続、為替相場の変動など、不透明な状況が続いています。また、米国の新たな関税政策はグローバルなサプライチェーンに大きな影響を与えることになります。
翌連結会計年度の業績見通しについては、連結売上高 25,600億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は 560億円としました。今般の新たな関税政策の導入に伴い、営業利益で 130億円程度の影響が生じる見込みです。この試算値は今後の前提の変化によって変更が生じる可能性がありますが、生産・商物流・投入商品・価格政策・販売チャネルなどの各軸で対策を機動的に実行し、影響の軽減に取り組みます。加えて付加価値の高いストック契約の獲得などオフィスサービス事業での利益成長を図り、オフィスプリンティング事業においても効率的なMIF(市場稼働機)マネジメント・顧客ターゲティングの徹底により収益維持・改善に取り組みます。企業価値向上プロジェクトの活動を確実に実行することに加え、組織力を強化し環境変化への対応力を高めながら、デジタルサービスの会社として相応しい収益構造へと変革を進めていきます。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取り組みは、次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(1) 当社グループのサステナビリティ方針
当社グループは、三愛精神に基づき、目指すべき持続可能な社会の姿を、経済(Prosperity)、 社会(People)、地球環境(Planet)の 3つのPのバランスが保たれている社会「Three Ps Balance」として表しています。この3つのPのバランスを保ちつつ発展し続ける社会の実現に向け、1998年に世界に先駆け「環境経営」を提唱。20年以上にわたり「環境保全と利益創出の同時実現」に取り組んできました。この取り組みを土台に、「ESGと事業成長の同軸化」を方針に掲げ、ESG/SDGsの経営戦略、経営システムへの統合を進めています。21次中経では、「ESGグローバルトップ企業」を目指し、バリューチェーン全体を俯瞰した活動を進めています。
① ガバナンス
環境・社会・グループ経営のガバナンス分野における課題を経営レベルで継続的に議論し、グループ全体の経営品質向上につなげる目的でESG委員会を設置し、取締役会による監督体制を構築しています。

a. 監督体制
(a)サステナビリティ・ガバナンス
取締役会においては、当社グループの重要社会課題(マテリアリティ)の決定をはじめとしたESGに関する方針・事業計画の確定・執行及び経営リスク・機会に対する監視・監督・助言を行っています。ESG関連の議題において、2024年度は全体議案の2割程度の時間を割いて審議の時間を設けました。加えて、当社グループのガバナンスの方向性や課題について、取締役・監査役等が包括的な議論を行う場としてガバナンス検討会を開催しています。2024年度は、情報セキュリティ、2025年度重点経営リスクとESG開示規制に関して議論を行いました。実施した検討会の概要は「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」等で開示しています。
<サステナビリティに関する直近の取締役会報告内容>
・2024年度ESG関連情報開示について
・2024年度外部評価結果報告
・グローバルのESG開示規制動向について
(b)取締役のサステナビリティスキル・スキル開発
当社グループが目指す、3つのPが保たれた社会(Three Ps Balance)を実現すべく、持続的な株主価値・企業価値の向上に不可欠と考えるESGの取り組みを通じた社会課題解決を推進するため、「サステナビリティ」のスキルを取締役の主要なスキルの一つに選定しています。具体的には、事業を通じた社会課題解決や「気候変動への対応」「循環型社会の実現」等、当社グループにとって重要なサステナビリティ課題への知見・経験があることを指しています。取締役及び監査役のスキルマトリックスについては、
また、取締役のスキル開発については、ESG動向を踏まえた当社グループにとってのESG課題を取締役会及びガバナンス検討会で定期的に報告することで理解を深めています。特に、社外取締役に対してはESG担当部門長より社会動向の最新情報を提供するとともに、個々の取り組みに対して議論の場を設けることにより、適切な経営判断及び経営監督を行うための基盤を醸成しています。
ESGの取り組みの確認ツールとして活用している「DJSI年次レーティング」を社内取締役の業績連動型賞与の計算式に組み込むことで、ESGの取り組みへのインセンティブとしています。
また、21次中経がスタートした2023年度からは賞与に加え、社内取締役向けにESG目標を組み込んだ業績連動型株式報酬を導入しています。全社で定めたESG目標の達成項目数と支給率を連動させています。
役員株式報酬制度の詳細については
b. 執行体制
(a)ESG委員会
環境・社会・ガバナンス分野における課題を経営レベルで継続的に議論し、グループ全体の経営品質向上につなげることを目的にESG委員会を設置しています。ESG委員会はCEOを委員長とし、社内取締役を含むグループマネジメントコミッティ*メンバーとビジネスユニットプレジデントから構成され、四半期に一度開催する意思決定機関です。社内外監査役もESG委員会にオブザーブ参加しています。
ESG委員会では、サステナビリティ領域における事業の将来のリスク・機会や、重要社会課題(マテリアリティ)の特定、ESG目標の設定等について審議しています。重要な審議内容については、取締役会の承認を経て決定しています。
2024年度のESG委員会での主な議題については、
* グループマネジメントコミッティ:取締役会から権限移譲された意思決定機関として一定の資格要件を満たす執行役員で構成
(b)執行役員の報酬連動
執行役員に対しても担当領域におけるESG目標を評価指標の一部として報酬に連動させることで、各ビジネスユニット・グループ本部のESG目標達成に対するコミットメントを強化しています。
(c)推進体制
ESG戦略部を設置し、コーポレート執行役員が担当役員としてESG活動を推進しています。ESG委員会での決定事項を含むESGに関する重要テーマは、各機能部門組織、ビジネスユニットに具体的な目標・施策として落とし込まれており、その進捗状況についてはESG委員会において定期的に確認しています。
② 戦略
a. マテリアリティ及び戦略的意義
当社グループでは、「ESGと事業成長の同軸化」を方針に掲げ、ESGを非財務ではなく、3~10年後の財務につながる「将来財務」と位置づけています。中期経営戦略において特に重点的に取り組むマテリアリティを特定し、その評価指標としてESG目標(将来財務目標)を設定しています。
マテリアリティの特定及び改定は、ステークホルダーの皆様の視点や各種ガイドラインを参照しながら、3年ごとの中期経営戦略単位でStep1からStep4(図1)のプロセスで行っています。マテリアリティの改定はESG委員会にて審議の上、財務目標とともに取締役会で承認した上で開示しています。
21次中経では、事業活動を通じた4つの社会課題解決と、それを支える3つの経営基盤の強化をマテリアリティとして特定し、これら7つのマテリアリティの事業戦略との結びつきや財務への影響を「戦略的意義」として示しています(図2)。評価指標としては、世界共通の課題である気候変動や人権問題に関する目標や、デジタルサービスの会社への変革に必要となるデジタルサービス関連特許や情報セキュリティ、デジタル人材育成等、16のESG目標を設定しています。マテリアリティとESG目標はESG委員会にて審議の上、財務目標とともに取締役会での承認を経て決定し、年度ごとの実績を毎年開示しています。ESG目標の詳細については、
図1 マテリアリティの特定及び改定プロセス
マテリアリティの特定及び改定において参照したもの
*1 SDGs Compass:企業がSDGsを経営戦略と整合させ、SDGsへの貢献を測定し管理していくための指針
*2 GRIスタンダード:組織が経済、環境、社会に与える様々なインパクトについて、国際的なベストプラクティスを反映している規準
*3 欧州 非財務情報開示指令:環境、社会、雇用、人権の尊重、汚職・贈収賄の防止等を経営報告書に開示することを規定
*4 TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース):金融安定理事会(FSB)によって設立され、企業に対する気候関連リスク・機会の情報開示の促進と、低炭素社会へのスムーズな移行による金融市場の安定化を目的としている
*5 ISO26000:組織の社会的責任に関する国際的な規格・手引
図2 7つのマテリアリティと戦略的意義
③ リスク管理
a. リスクマネジメント体制
当社グループでは「リスクマネジメント」を事業に関する社内外の様々な不確実性を適切に管理し、経営戦略や事業目的を遂行していく上で不可欠のものと位置づけ、全役員・全従業員で取り組んでいます。リスクマネジメントを遂行する上でのガバナンス体制として、取締役会がリスクマネジメントに関する経営者の職務の執行が有効かつ効率的に行われているかを監督する役割と責任を担っています。リスクマネジメント体制の詳細については
当社グループのリスク管理は、経営に大きな影響を及ぼすリスクを「重点経営リスク」と位置づけ、その特性によって「戦略リスク」と「オペレーショナルリスク」に分けて管理しています。
サステナビリティに関するリスクは、企業の中長期的な成長に大きく影響を与えることから「ESG/SDGsの深化」を戦略リスクの一つとして位置づけ、気候変動、資源循環、生物多様性や人権に関するリスク管理を全社レベルで行っています。
リスクレベルは、影響度及び緊急度を基に算出し、全社リスクマネジメントの枠組みに則って評価されています。サステナビリティに関するリスクの詳細については
④ 指標及び目標
21次中経におけるESG目標の進捗は以下のとおりです。2025年度目標達成に向けておおむね順調に進捗していますが、①顧客からの評価、⑮エンゲージメントスコア、⑯女性管理職比率については遅れが発生しており、課題の対応を進めてまいります。
ESG目標の進捗(事業を通じた社会課題解決)
*1 デジタルサービスの会社としてご評価いただけた顧客の割合
*2 中南米はソリューション顧客を対象にした調査
*3 APAC:アジアパシフィック
*4 GHG(Green House Gas):温室効果ガス
*5 組織体制の変更に伴い、開示対象範囲を見直し、関連する数値を再算出しております
*6 第三者検証中の暫定値。確定値は2025年8月に以下ウェブサイト上で開示予定
ESG目標の進捗(経営基盤の強化)
*7 CHRB(Corporate Human Rights Benchmark)スコア:機関投資家とNGOが設立した人権関連の国際イニシアチブ。5セクター(農産物,アパレル,採掘,ICT,自動車)のグローバル企業から選定して評価(最新のベンチマークは約250社を選定)
*8 特許出願数に占めるデジタルサービス貢献事業に関する特許出願数の割合
*9 プロセスDXの型に基づいたプロセス改善実績のある人材の育成率(母数は各ビジネスユニットの育成対象組織総人員数)
*10 Gallup社のQ12Meanスコア(高い組織パフォーマンスを予見するための12要素に対する評価スコア)を採用
b. 社会課題解決型事業の売上高実績
ESGと事業成長の同軸化の進捗をより具体的にステークホルダーの皆様にお示しするため、社会課題解決に貢献する事業について2025年度までの売上高目標を設定しました。2023年度及び2024年度における実績額、並びに、2025年度の目標額については、
グローバル企業の顧客を中心に、契約書にESG関連の要求が盛り込まれるケースや当社グループのESGの取り組み状況の確認、アンケート提出の依頼を受けるケースが増加しています。例えば、製品の環境ラベル、再生材の使用率、人権配慮の取り組み状況等が問われています。また、商談参加の前提条件としてESG外部評価のスコアやレーティングの提出依頼も増えています。お客様からのEcoVadis*1スコア開示要求累計数は、2020年度は149件でしたが、2024年度は364件に増加しています。なお、開示要求数全体の2割程度はFortune Global 500*2の企業からの要請です。このようにESGはビジネスにおいて必須条件となっており、お客様と世の中の期待に応えるべくESGの強化に取り組んでいます。
*1 EcoVadis:企業の環境・社会・ガバナンス側面を評価する国際的な評価機関であり、多くのグローバル企業がサプライヤーの選定に評価結果を活用
*2 Fortune Global 500:米国の経済誌Fortuneが毎年公表する、世界の企業を売上高順にランキングした上位500社の一覧
ESGへの取り組みが評価され、国内外のESGインデックスの組み入れ銘柄として採用されています。2024年度はESG情報開示を拡充したことと、強みである環境配慮製品・サービスの売上の拡大・気候変動対応へのアドボカシー活動が評価され、各評価においてグローバルトップレベルへ前進しました。
*1 CDP:企業の環境分野の情報開示を促し、気候変動、水セキュリティ、フォレスト等の取り組みを評価する国際的な非営利団体
*2 Global100:カナダのCorporate Knights社による、環境・社会・ガバナンスの側面について企業を評価し、持続可能な企業100社を選定する評価機関
*3 GPIF6指数:MSCI日本株ESGセレクト・リーダーズ指数、MSCI日本株女性活躍指数(WIN)、FTSE Blossom Japan Index、FTSE Blossom Japan Sector Relative Index、S&P/JPXカーボン・エフィシェント指数、Morningstar 日本株式ジェンダーダイバーシティ・ティルト指数(除くREIT)
*4 「コンピューター及び周辺機器製造」セクターにおいて1位獲得
(2) 気候変動・資源循環・生物多様性への対応
① ガバナンス
② 戦略
当社グループは「環境保全と利益創出の同時実現」という考えに基づき、環境と事業成長の両立を目指す事業活動を展開してきました。環境経営活動を展開するにあたっては、気候変動、資源循環、生物多様性という環境課題が密接に関連しあっていることから、包括的な対応が不可欠であるという認識のうえ、シナリオ分析やリスク・機会の評価を行い、環境負荷の低減と事業成長の両立を目指しています。
a. シナリオ分析の考え方
2018年、当社グループはTCFD提言に賛同表明して以降、TCFDのフレームワークに沿ってシナリオ分析、及び、気候変動リスク・機会について評価を進め、ESG委員会による承認を経て毎年、開示を行ってきています。TCFD提言における気候変動のリスク・機会、「サーキュラーエコノミーへの移行」、更にはTNFD*1における「自然資本に関する依存*2と影響」等、気候変動、資源循環、生物多様性を統合的なアプローチで対処する考え方がG7にて議論され、日本政府も、環境分野におけるリスク・機会を統合的に評価することを推奨しています。当社グループでは2024年からこれらの環境分野を俯瞰的に捉え、TCFDに加え、TNFDのフレームワークを活用して評価を行った上で、気候変動、資源循環、生物多様性を統合したリスクと機会を特定しています。
シナリオ分析は「重要性評価」「シナリオの特定」「事業インパクト評価」「シナリオ分析によるリスクと機会の特定」の4つのステップで進めました。重要性評価のステップでは、TNFDフレームワークによって抽出された依存とインパクトについて、生物多様性への重要性が高い領域と、バリューチェーンを通じた影響の重大さを評価しました。2040年における社会動向や規制動向等を予測し、環境分野におけるリスク・機会の項目を幅広に列挙しました。また、シナリオの特定では不確実な未来に対応するために、既存の主要ビジネスであるプリンティング事業の継続、デジタルサービスの会社に向けた事業戦略等を鑑みて、1.5℃シナリオを含む複数の気温変化のシナリオを参照し、分析を行いました。
*1 TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース):自然関連のリスク管理と開示の枠組みを提供するために2021年6月に設立されたタスクフォース。2023年9月にTNFDの最終提言(v1.0)として、企業と金融機関が自然関連課題を特定、評価、管理、開示するための枠組みを公表した
*2 依存:事業活動に不可欠な自然資本や生態系サービス、またはこれらが不可欠である状態
気候変動、資源循環、生物多様性に対するリスクと機会の特定、及び、シナリオ分析を行うにあたり、以下のステップにて依存とインパクトを評価しました。
評価プロセスの詳細は、「Ricoh Group Environmental Report 2024」をご参照ください。
Step1: 依存とインパクトの抽出
依存とインパクトが重大と推定した以下の事業プロセスをENCORE*により評価
•バリューチェーン上流:紙の製造
•直接操業:画像機器とその消耗品の製造、サーマルペーパーの製造
→水関連、土壌汚染、GHG排出等を抽出
* ENCORE:国連環境計画 世界自然保全モニタリングセンター等が中心となって開発された、自然関連リスクの特定ツール
Step2: 直接操業における優先地域*の特定
依存とインパクトの抽出段階で影響度が高いと推定された水と、自然資本を生産・回復する主体である生物多様性について評価した結果、優先地域を有する国・地域として、日本・中国・東南アジア・北米が挙げられました。これらの国・地域、操業拠点について、今後、より具体的な評価を進めていく予定です。
* 優先地域:事業活動が重要な生態系に接している、または、事業活動の依存やインパクトの度合いが高い地域
Step3: 依存とインパクトの重要性評価
日本国内におけるA3カラー複合機とサーマルペーパー(粘着ラベル)の使用をモデルシナリオとして、LCA(Life Cycle Assessment)によりバリューチェーンにおける重要性を評価した結果、以下のことが分かりました。
•紙に起因する依存とインパクトが大きい
•いずれの依存とインパクトについても、バリューチェーン上流の影響が大きい
•生物多様性(種の絶滅)に対する比較では、森林資源消費とGHG排出の影響が大きい
•水資源利用に対する生物多様性への影響は定量的に評価できないが、紙や段ボール使用による影響が大きいと予想される
したがって、シナリオ分析においては、紙や森林資源の観点での検討を通したリスクと機会の特定が重要であると結論付けました。
気候変動のみならず生物多様性、資源循環の側面も含めシナリオ分析を実施した結果、当社グループには、環境分野における様々なリスクがあり、特に環境規制・規格への対応を怠ると収益への大きな影響があること、また自然災害リスクに関しては先送りすると大きな事業インパクトが発生しかねない喫緊の課題であることが分かりました。これらのリスクに対する当社グループの対応は以下のとおりです。
一方で、環境問題に対する緩和、適応への積極的な対応は将来の財務効果を生み出す可能性があることが改めて確認できました。
シナリオ分析に基づき、当社グループにおいて財務にも影響を与えうる重要なリスクを特定しました。気候変動、資源循環、生物多様性それぞれのリスクを洗い出し、重複するリスクについては統合したうえで移行リスクと物理リスクに分類し、全社リスクマネジメントシステムの考え方に則って緊急度(発現可能性)と影響度(財務インパクト)を見積もりました。また、EUサステナビリティ規制簡素化や米国の政策転換の影響についても検討しましたが、シナリオ分析のステップにおいて想定していた範囲内であるため、大きな影響がないことを確認できました。
この影響レベルに基づいた対応を着実に実践することで環境リスクに対するレジリエンスを高めていきます。
移行リスク(1.5℃シナリオ*1)
*1 1.5℃シナリオ:2100年までの平均気温上昇が1.5℃未満に抑えられている世界
*2 SBTi(Science Based Targets initiative):企業の温室効果ガス(GHG)削減目標が科学的な根拠と整合したものであることを認定する国際的なイニシアチブ
物理リスク(4℃シナリオ*3)
*3 4℃シナリオ:2100年までの平均気温上昇が4℃上昇する世界
気候変動、資源循環、生物多様性における環境影響は単に事業リスクだけではなく、自社製品・サービスの提供価値及び企業価値を高める機会につながると認識しています。
省エネルギー、省資源技術、創エネサービス等を活かしたお客様の環境負荷削減につながる商品やソリューションの提供、DXを支援するソリューション等、様々な機会をもたらし、現時点で環境配慮のオフィス機器、DXを支援するソリューション、環境・エネルギー事業は1兆円規模の売上に貢献しています。
③ リスク管理
④ 指標及び目標
a. 気候変動分野
当社グループは、事業を通じた脱炭素社会の実現を目的として脱炭素目標を設定しており、2030年にスコープ1,2のGHG排出(絶対量)を基準年*1比で63%削減することを掲げ、SBTiの基準「1.5℃目標」の認定を取得しました。
また、再生可能エネルギーに関しては、2017年4月に日本企業として初めてRE100*2に参加し、RE100基準に適合する再生可能エネルギー由来の電力の総電力量に対する割合で算出される再生可能エネルギー比率の目標(相対指標)を設定しています。
気候変動分野における環境目標については、適宜、見直しを行っており、2024年3月には、新たに2040年目標を設定し、スコープ1,2のGHG実質排出ゼロの達成、事業活動における使用電力の100%再生可能エネルギーへの移行(RE100達成)を従来の2050年から10年前倒ししました。スコープ3についても対象範囲を従来のカテゴリー1(調達)、4(輸送)、11(使用)から全カテゴリーに拡大し、基準年*1比65%削減を新たに2040年目標として設定し、対応を強化しています。また、2050年のスコープ1、2、3のGHG排出ネットゼロ目標についても、排出量を自助努力で基準年*1比90%削減する数値目標を追加設定しました。目標の達成に向けては、スコープ1、2及び3の脱炭素ロードマップを策定し各施策の進捗を管理していきます。2024年度のGHG排出量/再生可能エネルギー使用率等の実績は、2025年8月に以下ウェブサイト上で開示予定です。
*1 2015年度
*2 RE100:事業に必要な電力を100%再生可能エネルギーで調達することを目標に掲げる企業が加盟する国際イニシアチブ
リコーグループ環境目標(気候変動分野)

* 6種類の温室効果ガス(CO2,CH4,N2O,HFCs,PFCs,SF6)を含む
* 2030年目標のGHGスコープ1,2,3、2040年目標のGHGスコープ3:自助努力による削減率を設定したグロス目標。2040年目標のGHGスコープ1,2、2050年目標のGHGスコープ1,2,3は、排出量を自助努力で基準年比90%削減(グロス目標)とし、残余排出は国際的に認められる方法(2023年11月発行のISO14068-1:2023に準ずる)でオフセットすることでネットゼロを達成(ネット目標)
* 各GHG削減目標の算定においては、セクター別脱炭素アプローチは使用していない
* 組織体制の変更に伴い、開示対象範囲を見直し、関連する数値を再算出
<2040年目標達成に向けた脱炭素ロードマップ>
GHG排出削減目標達成に向けた移行計画として、スコープ1,2とスコープ3の3カテゴリーについて、2040年までのGHG削減ロードマップを策定しています。
(ⅰ)スコープ 1,2脱炭素ロードマップ
・再生可能エネルギーの積極的な利活用
再エネ電力証書の購入、オンサイトPPAの導入を進め、海外では2030年までに使用電力の再エネへの100%転換を目指します。日本国内では有志企業とともに再エネ電力のコストダウン、調達手段の多様化を政府に働きかけ、再エネ導入加速に尽力します。
・徹底した省エネ・燃料転換の推進
生産拠点においては製造プロセス改善、高効率・省エネ設備導入を進めています。非生産拠点においては日本国内ではZEB事業所社屋を拡大し、海外では省エネ型オフィスへの移転を促進させます。社有車においてはエコドライブを徹底します。また、現状では困難なスコープ1削減の課題に対しては、2030年以降の施策として、設備の電化、水素・CCS等の将来技術の導入検討を本格化させるとともに、社有車においてはEV、燃料電池車等への転換を拡大させていくことを想定しています。

(ⅱ)スコープ3主要カテゴリー(Cat.1, 4, 11) 脱炭素ロードマップ
スコープ3においてはカテゴリー1(調達)、カテゴリー4(輸送)、 カテゴリー11(使用)の3カテゴリーで合計の3分の2以上を占めるため、2030年までに3カテゴリーの排出量を基準年比40%まで削減する施策を中心に展開していきます。これまでの主要な削減策として、複合機・プリンターの小型・軽量化や省エネルギーに取り組んできましたが、今後も継続して取り組んでいきます。これらに加え、再生機販売、再生材料の利活用に関する施策を拡大していき、現在取り組みに着手している輸送に係る脱炭素活動や、 低炭素材料の採用拡大については2025年以降にその効果が大きくなるように取り組んでいきます。カテゴリー1の取り組みは、主に顧客とサプライヤーのスコープ3カテゴリー1、カテゴリー4の取り組みは、主にサプライヤーのスコープ1・スコープ2、カテゴリー11の取り組みは、主に顧客のスコープ2削減に貢献するものであり、スコープ3の削減活動を通じて、バリューチェーンの脱炭素に貢献していきます。

<サステナビリティへの取り組みを活用した資金調達>
当社グループは、脱炭素や資源循環等をはじめとしたESGへの取り組みを強化し、サステナビリティを活用した資金調達を積極的に推進しています。2020年に三菱UFJ銀行と初のサステナビリティ・リンク・ローンを締結して以来、2024年度にはみずほ銀行と「Mizuho Eco Finance」や三井住友信託銀行と「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」の融資契約を締結し、継続的に資金調達を行っています。
環境目標に対する実績*は以下のとおりです。これらの進捗状況はESG委員会や取締役会を通じ、経営レベルで監督が行われています。
* 第三者検証中の暫定値。確定値及びScope3の全カテゴリーは2025年8月に以下ウェブサイト上で開示予定
* 組織体制の変更に伴い、開示対象範囲を見直し、関連する数値を再算出
* 小数点第1位までの表示にあたっては、小数点第2位以下を四捨五入しているため、表内の数値の合計が一致しない場合があります
以下の条件にて、温室効果ガス排出量を算出・開示しています。
・温室効果ガス排出範囲:経営支配力アプローチ採用
当社グループでは、事業方針の導入・実施権限を有する事業・施設に対する環境影響を総合的に管理するため、経営支配力アプローチを採用しています。
・温室効果ガス測定方法:見積による測定
当社グループでは、グローバル拠点の温室効果ガス排出量を迅速・効率的に把握するため、見積による測定方法を採用しています。
・内部炭素価格の導入
当社グループは、TCFDにて開示している気候変動リスクにおいて、カーボンプライシング政策によるサプライヤーからの調達コスト上昇を評価することを目的に、スコープ3カテゴリー1(調達)に対する内部炭素価格(シャドウプライス)を18,900円/tCO2*で設定しています。
* IEA World Energy OutlookでNZEシナリオの前提条件として設定されている炭素価格(2030年時点・先進国の値)を参照して設定
b. 資源循環分野
当社グループが目指す姿を実現するには、私たちだけでなく、社会全体が循環型社会に向かって変化していく必要があります。1994年に制定されたコメットサークルは、循環型社会実現のコンセプトとして、製品メーカー・販売者としての当社グループの領域だけでなく、その上流と下流を含めた製品のライフサイクル全体で環境負荷を減らしていく考え方を表したものです。

製品に使用する資源は、可能な限り、リデュース、リユース、マテリアルリサイクルを行うことが重要です。そのため、小型・軽量化、長寿命化や、製品・部品リユース及びリサイクル材、リニューアブル材を増やす活動を行っています。これらを統合して、バージン材の使用量を減らしていく取り組みを実施しています。
製品の新規資源使用率・使用量の実績*は以下のとおりです。
* 第三者検証中の暫定値。確定値は2025年8月に以下ウェブサイト上で開示予定
加えて、SASB基準に則り、当社グループが所属するハードウェアセクターにおいて、「製品ライフサイクル管理」に係る指標を以下ウェブサイト上で開示しています。
また、事業活動においても資源ロスを最小化するための活動を推進しており、水の再使用や再生利用による水使用量の削減にも取り組んでいます。水使用量実績*は以下のとおりです。
* 第三者検証中の暫定値。確定値は2025年8月に以下ウェブサイト上で開示予定
* 組織体制の変更に伴い、開示対象範囲を見直し、関連する数値を再算出
c. 生物多様性分野
(a)方針及び取り組み
当社グループでは、生物多様性への配慮を適切に実施するため、事業と生物多様性の関係性を評価し、リスクを特定した上で、戦略を立案・実行しています。
持続可能な社会を構築するためには、特に持続可能な調達が重要と考え、再生紙やECF紙等の環境に配慮した製品の調達を進めています。当社グループでは、2010年に「リコーグループ製品の原材料木材に関する規定」を制定し、2023年、環境面と人権や地域での操業に配慮した「用紙調達方針」を新たに制定しました。これらの方針・規定に基づいて、事業活動に伴う環境負荷を削減すると同時に、地球の再生能力を維持し、高める取り組みを進めています。
また、当社グループは、生物多様性保全のみならず地球温暖化防止、持続可能なコミュニティ発展の観点からも森林保全が重要と考え、1999年より積極的な取り組みを行っています。2020年からは「守る」「増やす」の両面で100万本の森づくりを目指して活動を進めています。環境NGO、自治体、地域住民等、様々なステークホルダーの皆様と連携して、グローバルに森林保全活動を実施しています。
(b)目標及び実績
持続可能な紙の調達の割合は、2024年度時点で全体の90%となり、2026年度の100%を目指して推進しています。森林保全活動として取り組む植林本数は、2024年度末で累計53.1万本の実績(対前年7.8万本増)となり、2030年の100万本への進捗度は53.1%と順調に推移しています。
(3) 人権への対応
① ガバナンス
② 戦略
当社グループの人権尊重の原点は、創業の精神である三愛精神にある“人を愛し”にあります。グローバルにビジネスを展開している当社グループでは、各国の法令遵守に加え、国際的規範に準拠した人権尊重の実践に取り組んでいます。
2021年4月に国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に則り、「リコーグループ人権方針」を定めました。本方針は、日英含む10言語で国内外の主要グループ会社に周知しており、サプライヤー及びビジネスパートナーにも本方針を支持し実践いただくよう努めています。
当社グループは、人権尊重の推進フレームワーク(下図)に基づき、当社グループのビジネスに関わるバリューチェーン全体における全てのステークホルダーの人権尊重の実践に取り組んでいます。
人権デュー・ディリジェンス*を通じて、顕著な人権課題を特定し、負の影響の防止、軽減措置を講じて是正を行っています。
* 人権デュー・ディリジェンス:人権に関する負の影響を認識し、それを防止・対処するために実施すべきプロセス

③ リスク管理
a. 人権デュー・ディリジェンス
人権リスク管理の重要性を考慮し、2022年より人権影響評価を毎年実施しております。当社グループにとっての15の代表的な人権リスクについて人権影響評価を実施し、顕著な人権課題の特定を行っています。2023年に評価プロセスの見直しに伴い顕著な人権課題の見直しをしましたが、今後は原則として3年毎に見直しを実施します。
[2023年の影響評価で特定された顕著な人権課題]
7つ(強制労働、過剰・不当な労働時間、労働・安全衛生、差別・ハラスメント、テクノロジー・AIに関する人権問題、プライバシーの権利、サプライチェーン上の人権問題)
顕著な人権課題については、当社の人権対応責任部門が、負の影響の防止・軽減への取り組みを関連部門と協議の上、推進していきます。代表的な人権リスクの防止、軽減措置として、人権リスクごとに、守るべき基準を定めた「リコーグループ人権尊重のためのガイド」を2024年に発行しました。
また、生産拠点については、労働安全衛生の観点や、業務委託・人材派遣・仲介業者等を利用した多様な人材の雇用の機会が多いこと等から、人権リスク管理の重要性が高いと認識し、継続的にモニタリングを実施しています。主要な生産拠点に対して、RBAのリスクセルフアセスメントを用いたESGリスク評価を年次で実施し、負の影響を特定し、是正対応を実施しています。また、一部の生産拠点においては、2年ごとに第三者監査(RBA VAP*)の継続受審を通じて、国際的なESG要件への適合状況を確認し、これまで監査を受審した5拠点すべて(下表)で認証を取得しています。
* VAP(Validated Assessment Program):RBA行動規範に対する準拠状況を第三者監査機関が確認するプログラム
また、購買金額の上位80%以上を占める重要サプライヤーを中心にESGリスクセルフアセスメントの年次実施を通じて、サプライチェーンにおける人権リスクの評価を継続的に行っています。評価の結果、リスクが高いサプライヤーについては、改善のアドバイスや現場監査の実施を通じて是正を要請していきます。
加えて、顕著な人権課題の1つである「サプライチェーン上の人権問題」への対応として、世界の紛争地域及び高リスク地域における鉱物採掘や取引が、人権侵害や労働問題等の源になるのを防ぐために、サプライチェーンにおける責任ある鉱物資源調達の調査を実施しています。2024年度の調査票の回収率は、目標100%に対し96%でした。紛争鉱物の使用撲滅に向け、部品単位での含有状況の調査や、RMAP*認証を取得した製錬所への取引切り替えを要請しています。
今後も継続的な人権デュー・ディリジェンスの取り組みによって、人権尊重の取り組みを強化してまいります。
* RMAP(Responsible Minerals Assurance Process):紛争鉱物問題に取り組む米国組織 RMI(Responsible Minerals Initiative)が実施する製錬所認定プログラム
b. 救済措置
万が一人権侵害が起きてしまった場合の救済措置として、当社グループでは、ステークホルダーが報復の恐れなく人権に関する懸念等を通報できる制度と対応メカニズムを提供しています。人権侵害の申し立てがあった場合には、申し立てを速やかに調査し、人権への負の影響を是正する措置を講じます。
(a)通報者の保護
・匿名性の確保
下記に示すいずれの通報制度においても、匿名での通報を可能としています。
・通報内容の機密保持
受領した通報情報は、関係者以外に開示されることはなく、厳重に機密情報として管理されます。
・報復措置の禁止
当社グループは、相談内容へのセキュリティ保護を図り、誠実に通報を行ったこと、調査に協力したことを理由として、各国の法令に基づき、不利益に取扱う行為をしません。 当社グループは、安全で健全、かつ生産的な職場を通報者に提供するよう努めています。
(b)人権問題に対する通報制度
当社グループは、人権問題が発生した場合の通報手段として、社員、サプライヤー・パートナー、外部ステークホルダーの皆様に向けた通報制度を整備しています。
[社員向け通報制度(内部通報)]
「リコーグループほっとライン」「リコーグループグローバル内部通報制度」
[サプライヤー・パートナー向け通報制度]
「サプライヤー・パートナーホットライン」
[外部ステークホルダー向け通報制度]
人権に関する申し立て:一般社団法人ビジネスと人権対話救済機構(JaCER)「対話救済プラットフォーム」
責任ある企業行動に関する申し立て:「責任ある企業行動ホットライン」
通報制度の実効性を高めるため、「リコーグループグローバル内部通報制度」はリコー常勤監査役に直接報告できる仕組みを採用しております。また、「対話救済プラットフォーム」はJaCERが受付をし、救済において専門家からの支援を受けることで、正当性・透明性の向上を図っております。各通報制度の詳細については、以下ウェブサイト上で開示しています。
④ 指標及び目標
人権に関する指標及び目標、実績は以下のとおりです。
・企業の人権に関する取り組みを評価・格付けする国際的な指標CHRBスコア(ESG目標)
・サプライヤー・パートナー行動規範署名率
ESG説明会を通じて、サプライヤーの皆様への教育・トレーニングを実施しています。当社の取り組みやサプライヤー・パートナー行動規範のご説明に加え、脱炭素の目標設定、ESG監査の実施、高リスクと判定したサプライヤーの皆様への改善プログラムの実施等、より発展した内容についてご説明しています。
・人権影響評価の対象会社
・人権教育の実施状況
(4) 人的資本・多様性への対応
① ガバナンス
② 戦略
人的資本戦略を通じたお客様と社員の“はたらく歓び”の実現
当社グループの使命と目指す姿である「“はたらく”に歓びを」の実現に向けての人的資本戦略を策定しています。戦略を確実に実行し、社員にとっての“はたらく歓び”の創出、ひいてはお客様の“はたらく歓び”につなげてまいります。
人的資本施策における3つの柱
当社グループの人的資本の考え方は、社員の「“はたらく”に歓びを」と、事業成長を同時実現することです。その実現に向けて、人的資本施策として「自律」「成長」「“はたらく”に歓びを」の3つを柱に掲げています。社員の自律と成長を促し、働くことを通じて得られる体験を積み重ねることにより、はたらくことに歓びを感じることが、デジタルサービスの会社への変革を加速させ、同時に事業の成長へとつながります。

(ⅰ)自律:社員の潜在能力発揮を促す
一人ひとりの社員が、自分を活かすために主導権を握ること、会社が適所適材を実現すること、この2つが人的資本を活かす基本と考えています。この目的の実現のため、「リコー式ジョブ型人事制度」の導入、社内公募制度の拡大、及び個人やチーム単位でのパフォーマンス最大化を図るため、リモートワークと出社の双方の良さを取り入れたハイブリッドワークの継続的推進を行ってきました。これらの自主自律のための環境整備に加え、社員一人ひとりの潜在能力を引き出すため、マネージャー自身が「管理型」から「支援型」へと変化する必要性があり、変化促進のためのマネージャー向け研修としてマネジメントカレッジを展開し、国内当社グループにおけるマネージャーの意識変革に取り組んでおります。
(ⅱ)成長:個人の成長と事業の成長を同軸にする
変革を加速させるためには、ビジネスをリードする人材の育成が重要です。当社グループでは全社横断的に将来のリーダー候補の選定やアセスメントの実施等を進め、次世代のリーダーシップパイプラインを構築しています。また、デジタル人材の育成は、デジタルサービスの会社への変革において最も加速させるべき課題の一つであり、リスキリング、アップスキリング及びクロススキリングを含め、様々な施策を展開しています。デジタル人材育成のためには、自律的なキャリア支援や学習環境の提供を進めるのと同時に、ビジネスニーズからの育成計画も策定することで、社員主導と会社主導の双方からデジタル人材の育成と再配置の加速を進めています。
(ⅲ)“はたらく”に歓びを:社員エクスペリエンスを“はたらく歓び”につなげる
お客様にはたらく歓びを感じていただくためには、まず、私たちがはたらく歓びを感じられるような経験を積むことが重要です。多様性と共創文化の中で能力を開花させ、はたらく歓びを感じること。これこそ、社員に体験してもらいたいことです。このような充実感・充足感のある「歓び」を生む社員エクスペリエンスは、私たちが直面する様々な変化に対応し、デジタルサービスの会社としての強固な文化を形づくるエンジンと言えます。
③ リスク管理
④ 指標及び目標
当社グループの人的資本戦略における主要指標は、前述の3つの柱に紐づいた「IDPに基づく異動率」「デジタル研修履修率」「社員エンゲージメント」「女性管理職比率」と定めています。
「IDPに基づく異動率」向上のために、今までの自身のキャリアを可視化する「キャリアシート」と今後の自律的な成長のための育成計画「IDP」の継続した更新を進め、結果、当連結会計年度ではキャリアシートの更新割合は全対象者に対して82%の社員が更新をしており、今後の自律的な成長のためのIDPの更新に関しては80%の社員が更新をしています。
「デジタル研修履修率」に関しましては、前述の価値創造モデルにおける戦略要素の一つである、「プロセスDXと高い生産性」に焦点を当て、全社員のプロセスDX人材の社内認定制度*の取得を目指し、当連結会計年度では98%の社員が、プロセスDX人材のブロンズ認定を完了しています。
「社員エンゲージメント」は継続的に従業員の会社に対する信頼を見るのに重要な指標となります。前連結会計年度の結果を踏まえ、各販売極やビジネスユニットごとにメッセージングの強化等を実施し、当連結会計年度の結果としては、前連結会計年度から0.05ポイントプラスとなり、2025年度の目標に向けて着実にエンゲージメントが上昇しています。
DEIの観点からも重要な多様性のある組織づくりに関しても、積極的な登用や育成を進めています。重要な指標となる「女性管理職比率」は、当連結会計年度の結果としては、前連結会計年度から0.7%プラスとなり、多様性のある組織への変革を進めています。

* プロセスDX人材の社内制度認定:当社グループでは、デジタル技術を活用し仕事やプロセスのリデザインをする「プロセスDX」
の考え方や手法を学び、社内で認定を受ける制度を策定しています。この認定制度はブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ
の4種類のレベルがあり、ブロンズではプロセスDXを実践するための基本的な考え方や手法を理解している状態を認定条件とし
ています。
ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DEI)とワークライフ·マネジメント(WLM)
イノベーションは、多様な人材が個々の能力を活かし協働することで創出されます。そのためには、多様な社員それぞれが自身のパフォーマンスを最大限発揮して活躍できる環境が必要です。この実現に向け、「ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン」と「ワークライフ・マネジメント」を経営戦略の1つと位置付けて取り組みを進めています。社員の多様性を尊重し、生き生きと働けるような環境整備を進めるべく、「リコーグループ企業行動規範」を企業カルチャーの基本として社員コミュニケーションを徹底しています。また、あらゆる多様性や価値観を互いに受け入れ、グローバルの社員が一つのチームとして働く決意を表す「グローバル DEI ステートメント」を22言語、明確な行動規範として「グローバル DEI ポリシー」を17言語で定めています。個々人の多様性を認め、すべての人が敬意をもって尊重される環境で働けるよう取り組みを推進していきます。D&Iを一歩進め、「エクイティ(Equity:公平性)」という概念を加え、DEIとして一層取り組みを強化しており、エクイティの概念におけるトップからのメッセージの展開や国際女性デー(IWD)に合わせたグローバル全社でのイベントの開催等を実施しています。またWLMの観点から、すべての社員が働きやすい環境で勤務できるように、当社グループでは両立支援のための各種制度の整備に加え、ハイブリッドワークを実施しております。これにより、場所にとらわれることのない働き方を実現しつつも、必要に応じてオフィスでコミュニケーションもとれる形をとっており、新しい働き方を率先して実施しています。

事業の状況、業績の状況等に関する事項のうち、株主・投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項は、以下のとおりです。
(1) 当社グループの経営上重要なリスク(重点経営リスク)
(2) 事業領域固有の重要なリスク(ビジネスユニットリスク)
(3) その他各機能領域のリスク(機能別組織リスク)
当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に重要な影響があると経営者が認識しているリスクを以下で取り上げていますが、すべてのリスクを網羅している訳ではありません。当社グループの事業は、現時点で未知のリスク・重要と見なされていない他のリスクの影響を将来的に受ける可能性があります。なお、事業等のリスクは、当連結会計年度末において当社グループが判断したものであります。
■「重点経営リスク」の選定プロセス
GMCとリスクマネジメント委員会は、経営理念や事業目的等に照らし合わせ、経営に大きな影響を及ぼすリスク(利害関係者への影響含む)を網羅的に識別した上で、重点経営リスクを決定し、その対応活動に積極的に関与しております。(図1参照)
図1:重点経営リスクの選定プロセス

・重点経営リスクは、その特性から「戦略リスク」と「オペレーショナルリスク」に分類し管理しております。戦略リスクについては、短期の事業計画達成に関わるリスクから中長期の新興リスクまで経営に影響を与えるリスクを幅広く網羅しております。
・外部環境、内部環境の変化に加え、経営陣のリスクに対する見解を加味してリスクの特定と分類を行い、それぞれのリスクにおいて緊急度・影響度・リスクマネジメントレベルを検討し、リスクの評価を行っています。(図2参照)
図2:重点経営リスクの評価プロセス

・リスクマネジメント委員会は、GMCの諮問機関として、より精度の高い重点経営リスク候補を提案するため、委員会メンバーそれぞれの専門領域の知見・経験則を活かし、十分な議論のもと、リスクの識別・評価を行っております。
なお、当社グループのリスクマネジメントシステムとリスクマネジメント委員会については、「第4提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1) コーポレート・ガバナンスの概要 ② 企業統治の体制の概要及び当該体制を採用する理由 (Ⅹ) リスクマネジメントシステムとリスクマネジメント委員会」を参照ください。
■事業等のリスク(詳細)
(1) 当社グループの経営上重要なリスク
(2) 事業領域固有の重要なリスク
(3) その他各機能領域のリスク
(1) 重要性がある会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、株式及び作成方法に関する規則」第312条の規定により国際会計基準に準拠して作成しております。この連結財務諸表の作成に当たり必要と思われる見積りは、合理的な基準に基づいて実施しております。
なお、当社グループの連結財務諸表で採用する重要性がある会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 連結財務諸表注記 3 重要性がある会計方針」に記載しております。
(2) 経営成績
経営を取り巻く経済環境
当連結会計年度の世界経済は、インフレ率の低下を受けた中央銀行の金融緩和政策に支えられる形で、緩やかな成長を続けました。日本経済も、物価や賃金が上昇し、プラス金利が定着するなど、デフレからの脱却傾向が明確になりました。しかしながら、米国での政権交代以降、その通商政策の影響から世界経済や地政学を巡る不確実性が高まり、金融資本市場の変動も大きくなっています。
このような経済情勢の中で、当社グループのメイン市場であるオフィスにおいても、リモートワークをはじめとする新しい働き方が定着し、AIやITの進化に伴って業務プロセスも変わり続けています。それによる顧客課題・ニーズも時代とともに変化し、プリンティング需要は減少傾向にあるものの、デジタルサービスの需要はより高まってきています。一方で、局所的な地政学リスクの高まりによる輸送費・部品費の高騰は続いており、賃金と物価上昇の圧力に対する各国の金融政策動向など、世界経済は依然として不透明な状況です。
なお、主要通貨の平均為替レートは、対米ドルが 152.65円(前連結会計年度に比べ 8.12円の円安)、対ユーロが 163.86円(同 7.12円の円安)となりました。
当連結会計年度の業績
当連結会計年度は当社グループ(当社及び関係会社)にとって、3カ年の21次中経の2年目となります。
当社グループの使命と目指す姿である「“はたらく”に歓びを」の実現に向けて、中長期目標として「はたらく人の創造力を支え、ワークプレイスを変えるサービスを提供するデジタルサービスの会社」となることを目指して取り組みを進めました。
当社グループが注力している領域は、はたらく人を単純作業から解放するプロセスオートメーション、創造性を高めるワークプレイスエクスペリエンス、そしてワークプレイスの基盤となる環境を構築するITサービスの3つです。この注力領域において、グローバルの顧客基盤や顧客の課題把握力・提案力に優れた販売・サービス体制、そして魅力的な自社IP*といった強みを活かしながら、変容するワークプレイスにおいて一貫したサービスをグローバルに提供しています。
*自社IP(Intellectual Property):企業が自らの努力で生み出した知的財産で、ライセンス使用料等収益の源泉となる等の経済価値を有するもの
当連結会計年度は、企業価値向上プロジェクトに最優先で取り組みました。デジタルサービスの会社として成長を実現するために、① 本社改革、② 事業の「選択と集中」の加速、③ オフィスプリンティング事業の構造改革、そして ④ オフィスサービス事業の利益成長の加速の4つの領域で収益構造の変革を進めました。
当連結会計年度の連結売上高は、25,278億円となりました。オフィスプリンティング事業では主に海外でハード・ノンハードの売上が減少しましたが、同事業における東芝テックとの開発・生産に関する合弁会社「エトリア株式会社」(以下、ETRIA)の組成、オフィスサービス事業の成長や円安の影響等もあり前連結会計年度に比べ 7.6%増加となりました(為替影響を除くと 4.4%の増加)。
地域別では、国内は、法改正対応やセキュリティ関連需要を背景にスクラムシリーズが引き続き伸長したことに加え、パソコンの買い替え需要の増加やそれに伴うITサービス・アプリケーションサービスの拡販も進み、オフィスサービス事業を中心に売上が増加しました。加えて、東芝テックとの複合機等の開発・生産に関する事業統合の効果もあり、前連結会計年度と比べ 11.3%の増加となりました。
海外では、米州において、オフィスプリンティング事業でハード・ノンハードともに売上が減少しました。一方で、オフィスサービス事業において2022年9月に買収したCenero,LLC.(以下、Cenero)の貢献によりワークプレイスエクスペリエンスが拡大したことや、新製品の販売等によりプロダクションプリンターの売上がハード・ノンハードともに伸長したことに加え、円安の影響もあり、前連結会計年度比 4.1%の増加となりました(為替影響を除くと 1.4%の減少)。欧州・中東・アフリカにおいても、オフィスプリンティング事業でハード・ノンハードともに売上が減少しました。一方でオフィスサービス事業においては、ストック収益につながるITサービスやDocuWare GmbH(以下、DocuWare)のクラウドサービスが順調に拡大しました。また、プロダクションプリンターの伸長や、円安の影響もあり、前連結会計年度比 3.9%の増加となりました(為替影響を除くと 0.6%の減少)。その他の地域においては、中国での産業用インクジェットヘッドの販売好調等による売上の増加や円安の影響もあり、前連結会計年度比 14.8%の増加となりました(為替影響を除くと 9.9%の増加)。以上の結果、海外売上高全体では前連結会計年度に比べ 5.5%の増加となりました。なお、為替変動による影響を除いた試算では、海外売上高は前連結会計年度に比べ 0.4%の増加となります。
売上総利益は、オフィスプリンティング事業において売上の減少により利益が減少したものの、オフィスサービス事業や商用・産業印刷事業の成長、体質強化や円安の影響等により増加しました。結果、前連結会計年度に比べ 5.9%増加し 8,686億円となりました。
販売費及び一般管理費は、オフィスサービス等での事業成長経費に加え、企業価値向上プロジェクトの一環として海外でのオフィスプリンティング事業の販売・サービス体制の構造改革や、当社及び国内グループ会社でのセカンドキャリア支援制度の実施に伴う一時費用を計上し、増加しました。海外での構造改革を中心に効果はあったものの、円安の影響により、前連結会計年度に比べ 6.4%増加し 8,189億円となりました。
その他の収益には、当連結会計年度に、当社の中国子会社が提起した仲裁申立の仲裁判断に伴い、過年度に受領していた土地の立退補償金のうち提携協議書解除に伴う違約金への充当分を計上しております*。
*2024年11月25日付で開示した「当社の子会社が提起した仲裁申立の仲裁判断および通期業績予想の修正に関するお知らせ」をご参照ください
以上の結果、営業利益は、前連結会計年度に比べて 18億円増加し 638億円となりました。
金融収益及び金融費用は、為替差益の増加の一方、支払利息の増加により前連結会計年度に比べ費用が増加しました。持分法による投資損益は、持分法適用会社の利益増加により前連結会計年度に比べ増加しました。
税引前利益は前連結会計年度に比べ 18億円増加し 700億円となりました。
法人所得税費用は、前連結会計年度から横ばいの 239億円となりました。
以上の結果、親会社の所有者に帰属する当期利益は前連結会計年度に比べて 15億円増加し 457億円となりました。
当期包括利益は、在外営業活動体の換算差額の減少等により、前連結会計年度に比べ減少し 429億円となりました。
セグメントごとの経営成績は、次のとおりです。 (単位:百万円)
a. デジタルサービス
当連結会計年度のオフィスサービス事業は、国内において、法改正対応やセキュリティ関連需要を背景にスクラムシリーズが引き続き伸長したことに加え、パソコンの買い替え需要の増加やそれに伴うITサービス・アプリケーションサービスの拡販を進めることができました。並行して、中堅中小企業のお客様に向けて、セキュリティを確保しながら生産性向上を実現する商材の拡充も進めました。サイボウズ株式会社と共同開発したクラウド型の業務アプリケーションツール「RICOH kintone plus」を利用することで削減された時間・コストを算出できる「RICOH 導入効果測定プラグイン」 や、HENNGE株式会社と提携し、複数のクラウドサービスを利用するお客様の環境においてシングルサインオン、アクセス制御等を実現するクラウドセキュリティサービス「HENNGE One for RICOH」の提供を開始しました。
米州においては、ドキュメント関連業務のアウトソーシングサービスにおいて業務効率化とプライシングコントロールを行うことで収益性の改善を進めました。また、Ceneroによる当社既存顧客へのソリューション提案を積極的に進め、ワークプレイスエクスペリエンスが堅調に拡大しました。欧州・中東・アフリカにおいては、景気弱含みの影響により、一部商談の延期や長期化等が発生しましたが、ストック収益につながるITサービスやDocuWareのクラウドサービスが順調に拡大しました。また、2024年4月に買収したドイツのNatif.ai GmbH(以下、natif.ai)のAIを活用した先進的な画像認識やOCR技術を掛け合わせ、より幅広い業務領域への対応を進めました。
デジタルサービスの売上高は、前連結会計年度に比べ 4.2%増加し 19,301億円となりました(為替影響を除くと 1.2%の増加)。
オフィスプリンティング事業はノンハードが弱含みで推移し、また海外を中心にハードの販売が伸び悩んだこと等により売上が減少しました。一方、オフィスサービス事業では、地域ごとに異なる顧客ニーズに対応したサービスや施策の展開により各地で売上が増加し、継続的な収益基盤となるストック売上高も前連結会計年度と比較し 14%増加となりました。オフィスサービス事業の成長により利益が増加したものの、オフィスプリンティング事業の売上減少や、企業価値向上プロジェクトの一環として取り組む販売・サービス体制見直しに伴う費用計上により、デジタルサービス全体の営業利益は 322億円となり、前連結会計年度に比べ 85億円減少しました。
b. デジタルプロダクツ
前連結会計年度に複合機の生産調整の影響を受けた一方、当連結会計年度は生産・販売体制が正常化し稼働率が向上したことで、コストダウンが順調に進展しました。また、お客様の生産性向上・DXを支援する複合機・プリンターを中心に、デジタルサービスの成長に寄与するエッジデバイスの製品群を強化しました。
2024年7月、当社と東芝テックは複合機等の開発・生産を担う合弁会社ETRIAの組成を完了しました。また、2025年2月には、新たに3社目となるOKIのETRIAへの参画を発表しました。ETRIAは、参画各社の複合機・プリンターの基幹部分の共通化や、部品や材料の共同購買、生産拠点の相互活用を進め、競争力の高い製品の安定的な供給体制を構築し、モノづくり体質の強化を目指します。参画各社の製品ブランドや販売チャネルを維持しながら、ETRIAが生み出す競争力のある高品質・高付加価値な製品を提供し、お客様の生産性向上やDX支援に貢献します。
オフィス向けの複合機・プリンターでは、2024年9月に発売した、環境負荷低減に配慮し、小規模の事業所や店舗・病院等限られたスペースに設置可能なA4カラープリンター「RICOH P C375/C375M」、A4カラープリンター複合機「RICOH P C370SF」、A4カラー複合機「RICOH IM C320F」をはじめとして、様々なお客様の幅広い業務やお困りごとに対応できる豊富なラインナップを強化しました。
また、働き方が多様化する中で、コミュニケーションの生産性と創造性の向上に貢献するエッジデバイスの新製品として、ハイブリッドな働き方に最適なコラボレーションボード「RICOH Collaboration Board W5500/W6500/W7500」及び、複眼の360度カメラが一体となったWEB会議用マイクスピーカー「RICOH Meeting 360 V2」等の発売により、オフィスだけではなく生産現場・教育現場・医療現場等様々な場所で働くお客様のコミュニケーションの効率化に貢献しました。
デジタルプロダクツの売上高は、前連結会計年度に比べ 63.7%増加し 1,570億円となりました。またセグメント間売上高を含む売上高では 20.7%増加の 5,846億円となりました。前連結会計年度は複合機の生産調整の影響を受けましたが、当連結会計年度は生産・販売量の正常化により増収となりました。売上の増加に加え、A3複合機の生産量増加による製品ミックスの改善や生産・開発の体質強化の継続により利益が改善しました。また、ETRIA組成による東芝テックとの複合機等の開発・生産に関する事業統合も、売上高、営業利益の増加に寄与しています。結果として、デジタルプロダクツ全体の営業利益は 287億円となり、前連結会計年度に比べ 113億円増加しました。
c. グラフィックコミュニケーションズ
商用印刷市場のお客様においては、印刷物のデジタル化・ペーパーレス化による小ロットでの発注の増加や、より多様化する印刷物に対し複雑化する作業工程への対応が求められています。また、印刷現場における人手不足から、オペレーションの効率化に対する要望が高まっています。
当連結会計年度は、ドイツのデュッセルドルフで開催された世界最大規模の国際印刷・メディア産業展「drupa2024」に出展し、お客様の環境にあわせて業務の自働化・効率化・可視化を実現する製品やサービスを紹介しました。世界中の様々な商用・産業印刷のお客様から100件以上の受注獲得や、多くの関心をいただく等、実りあるパートナーシップの強化につながりました。
2024年9月、コピー/スキャナー機能を搭載したモノクロプロダクションプリンター「RICOH Pro 8420S/8410S/8400S」、「RICOH Pro 8420Y/8420HT/8410Y/8410HT」の合わせて5機種7モデルを発売しました。高速出力、高画質に加えて、新たな自動原稿送り装置の採用で名刺や領収書等小サイズ原稿の読み取り対応やスキャンスピードが向上しました。また、オフィス向け複合機と共通の操作部を採用していることで、様々なアプリケーションの利用が可能なため、官公庁やオフィスでの大量出力業務や、商用印刷等に幅広く活用いただけます。さらに、機器本体には再生プラスチックや電炉鋼板を使用しており、お客様の環境経営への取り組みにも寄与します。
グラフィックコミュニケーションズの売上高は、前連結会計年度に比べ 11.6%増加し 2,926億円となりました(為替影響を除くと 7.0%の増加)。商用印刷事業では、新製品の拡販やdrupaにおける受注案件の納入等によりプロダクションプリンターの販売が欧米を中心に増加したことに加え、ノンハード売上も堅調に成長しました。産業印刷事業ではサイングラフィック用途の需要の増加を背景にインクジェットヘッドの販売が増加しました。売上高の増加、前連結会計年度に実施した構造改革の効果に加え、円安効果もありグラフィックコミュニケーションズ全体の営業利益は 231億円となり、前連結会計年度に比べ 76億円増加しました。
d. インダストリアルソリューションズ
当連結会計年度は、サーマル事業では、成長性の高い社会課題解決型製品拡販による収益拡大を進めました。当社グループは長年培った感熱紙の技術により、剥離紙を用いない感熱ラベルとしてシリコーントップライナーレスラベル(以下、SLL)を販売しています。SLLは、剥離紙を用いないため、紙の使用量を削減し(省資源)、環境負荷低減(CO2排出削減)に貢献する製品です。近年の環境意識の高まりから食品等の用途において好調に推移しました。また、当社グループが開発した、サーマルインクをコーティングすることで、フィルム、紙、段ボール等の様々なメディアに直接印字が可能な「ラベルレスサーマル」を使用した商品パッケージの導入が、大手コンビニエンスストアの食品用ラベルを中心に進んでいます。本製品により、従来使用していた紙ラベル等の間接資材がなくなることにより作業工程の効率化が進み、お客様の生産性の向上を実現します。
産業プロダクツ事業では、長年製造業として培ってきた技術を活かし、製造現場におけるミス・不良品の撲滅、生産効率の向上、人手不足の解消を目指しています。当連結会計年度は、これらの各種製品の拡販に加え、モノづくり強化と設計プロセスの変革を通して、収益力強化に注力しました。なお、2024年9月には、車載ステレオカメラやプロジェクター用光学レンズモジュール等の開発・製造・販売を行っていたオプティカル事業の譲渡が完了しました。
インダストリアルソリューションズの売上高は、前連結会計年度に比べ 0.4%増加し 1,121億円となりました(為替影響を除くと 2.7%の減少)。サーマル事業において、国内ではSLL販売が好調に推移したものの、欧州では市況の停滞と価格競争により販売が伸び悩みました。産業プロダクツ事業では、オプティカル事業の譲渡が影響し減収となりました。購買・生産効率化によるコストダウンやプライシングコントロールもあり利益が改善しましたが、オプティカル事業の譲渡に伴う環境対応等の一過性費用の影響により、インダストリアルソリューションズ全体の営業損益は 18億円(損失)となり、前連結会計年度に比べ利益が 14億円減少しました。
e. その他
その他の売上高は、前連結会計年度に比べ 36.2%増加し 358億円となりました(為替影響を除くと 32.9%の増加)。カメラ関連事業が新製品の貢献等により好調で増収増益となりました。加えて、新規事業創出のための先行投資においても、企業価値向上プロジェクトの一環として「選択と集中」を進めたこと等により、その他全体の営業損益は 55億円(損失)となり、前連結会計年度に比べ 49億円改善しました。
f. 消去又は全社
消去又は全社の配賦不能費用には、上記セグメントに帰属しない損益を計上しております。当連結会計年度に国内でのセカンドキャリア支援制度の実施に伴う一時費用を計上したこと等により、営業利益が前連結会計年度に比べ 121億円減少しました。
(注)事業セグメントとしてのデジタルサービスはオフィスサービス事業及びオフィスプリンティングの販売を主とした事業に限定した事業セグメントであり、当社グループが目指す「はたらく人の創造力を支え、ワークプレイスを変えるサービスを提供するデジタルサービスの会社」への変革、として掲げるデジタルサービスすべてを網羅しているものではありません。当社グループが「デジタルサービスの会社」として掲げる「デジタルサービス」は、事業セグメントではデジタルサービスの他、すべてのセグメントの事業内容に含まれております。
前連結会計年度及び当連結会計年度における生産実績を事業の種類別セグメントごとに示すと、以下のとおりです。
(注)金額は販売価格によっており、セグメント間の内部振替前の数値によっております。また、サービスに係る生産実績は含まれておらず、製造に係る生産実績としております。
当社グループは見込生産を主体としているため、受注状況の記載を省略しております。
前連結会計年度及び当連結会計年度における販売実績を事業の種類別セグメントごとに示すと、以下のとおりです。
(注)1 セグメント間の取引については、相殺消去しております。
2 相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は、当該割合が10%以上の主要な相手先はありませんので、記載を省略しております。
(3) 財政状態
資産合計は、前連結会計年度末に比べ 709億円増加し 23,571億円となりました。前連結会計年度末と比較してETRIAの組成に伴い東芝テックからの承継資産等が増加しました。為替及び東芝テックからの承継資産の影響を除いた試算では 251億円の増加となります。主要通貨の当連結会計年度の期末日レートは、対米ドルが 149.52円(前連結会計年度に比べ 1.89円の円高)、対ユーロが 162.08円(同 1.16円の円高)となりました。
資産の部では、現金及び現金同等物が前連結会計年度末に比べ 136億円増加しました。また、natif.aiの買収やETRIA組成によりのれん及び無形資産が 203億円増加したことに加え、リース債権等の金融資産が流動資産と非流動資産を合わせ 169億円増加しました。
負債合計は、前連結会計年度末に比べ 813億円増加し 13,023億円となりました。社債及び借入金が流動負債と非流動負債を合わせ 910億円増加しました。
資本合計は、前連結会計年度末から 103億円減少し、10,547億円となりました。資本の部では、ETRIA組成や株式会社PFU(以下、PFU)及びElixirgen Scientific Inc.(以下、Elixirgen Scientific)の完全子会社化に伴い、結果として、資本剰余金が増加し、非支配持分が減少しました。一方で、円高により在外営業活動体の換算差額が減少したことに加え、株主還元策として 524億円の自己株式の取得を行い、前連結会計年度に取得した自己株式と合わせて 599億円の消却を実施しました。
結果として親会社の所有者に帰属する持分は、前連結会計年度末に比べ 86億円減少し 10,301億円となりました。親会社所有者帰属持分比率は前連結会計年度末に比べ 1.7ポイント減少し 43.7%となりました。
営業活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べ現金収入が 112億円増加し 1,368億円の収入となりました。当連結会計年度は、当社の中国子会社が提起した仲裁申立の仲裁判断に伴う預り金の返還等による支出の増加があったものの、営業債権の減少や営業債務の増加等運転資本の改善により、結果として現金収入が増加しました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べ現金支出が 184億円減少し 793億円の支出となりました。前連結会計年度は、アイルランドのITサービス会社 PFH Technology Groupの買収による支出、当連結会計年度はnatif.aiの買収による支出、オプティカル事業の売却による収入等があり、結果として現金支出が減少しました。
以上の結果、営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローの合計となるフリー・キャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べ現金収入が 297億円増加し 575億円の収入となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べ現金支出が 373億円減少し 455億円の支出となりました。当連結会計年度は、株主還元策として自己株式の取得による支出、PFUやElixirgen Scientificの完全子会社化による支出があった一方で、借入等資金調達の実施による収入等があり、結果として現金支出が減少しました。
以上の結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物残高は、前連結会計年度末に比べ 122億円増加し 1,818億円となりました。
当社グループでは、事業投資によって創出した営業キャッシュ・フローは、さらなる成長に向けた投資と株主還元に対して計画的に活用していきます。資本政策の詳細については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2) リコーの中期展望 ◆成長を支える資本政策」をご覧ください。
(参考)キャッシュ・フロー関連指標の推移
親会社所有者帰属持分比率:親会社所有者帰属持分/資産合計
時価ベースの親会社所有者帰属持分比率:株式時価総額/資産合計
債務償還年数:有利子負債/営業活動によるキャッシュ・フロー
インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業活動によるキャッシュ・フロー/支払利息
※いずれも連結ベースの財務数値により計算しております。
※キャッシュ・フローは営業活動によるキャッシュ・フローを使用しております。
有利子負債は連結財政状態計算書に計上されている負債のうち社債及び借入金を対象としております。
当社グループの流動性と資金源泉は次のとおりです。
事業発展に充分な資金流動性を確保し、堅固な財務体質を維持することが当社グループの方針です。この方針に従って、当社グループはここ数年、連結子会社が保有する流動性資金残高の効率的運用に努めてまいりました。その方策のひとつとして実施しているのが、各地域及びグローバルにおけるキャッシュマネジメントシステムの推進です。各地域にキャッシュマネジメントの要として設置している金融子会社を中心に地域内外のグループ企業間で手元流動性を有効活用するグループ内の資金融通の制度を構築、推進しております。この一環として、グローバルキャッシュプーリングシステムを導入し、グローバルベースでの更なる資金効率向上を実現しました。
また、当社グループは資産並びに負債の管理においてデリバティブを締結しております。為替変動が外貨建て資産と負債に与える潜在的な悪影響をヘッジするため、為替予約等を設定しております。当社グループはリスクの低減を目的として、定められた方針に従ってデリバティブを利用しております。自己売買、あるいは投機目的でデリバティブを利用しておらず、またレバレッジを効かせたデリバティブ取引も行っておりません。
当社グループは主に手元資金及び現金同等物の活用と併せて、様々な信用枠及び社債の発行を組み合わせて資金を調達しております。流動性と資金源泉の必要額を判断する際、連結キャッシュ・フロー計算書の現金及び現金同等物の残高、並びに営業活動によるキャッシュ・フローを重視しております。
当連結会計年度末において、現金及び現金同等物の残高は 1,818億円、信用枠は 3,832億円であり、そのうち未使用残高は 3,581億円でありました。当社は 1,500億円(信用枠 3,832億円の一部)のコミットメント・ラインを金融機関との間に設定しております。これらは信用枠の範囲内で、各国市場の金利で金融機関から借入が可能です。
当社及び一部の連結子会社は、銀行借入及び社債の発行により資金を調達しております。また、当社グループはグローバルでキャッシュマネジメントシステムを活用してグループ資金を効率的に管理しております。
当社は大手格付機関(スタンダード・アンド・プアーズ・レーティング・サービス(以下「S&P」)、及び格付投資情報センター(以下「R&I」))から格付を取得しております。2025年6月20日現在、当社の格付はS&Pが長期BBB及び短期A-2、R&Iが長期A+及び短期a-1となっております。
当社グループは現金及び現金同等物、営業活動により創出が見込まれる資金、並びに借入金・社債等の調達資金で少なくとも翌連結会計年度の必要資金を充分賄えると予想しております。お客様の需要が変動し、営業キャッシュ・フローが減少した場合でも、現在の手元資金、及び当社グループが満足できる信用格付けを持つ金融機関に設定している信用枠で少なくとも翌連結会計年度中は事業用資金を充分賄えると考えております。さらに、足元の業務にとって必要な資金、及び事業拡大並びに新規プロジェクトの開発に関連する投資に対し、充分な資金を金融市場又は資本市場から調達できると考えております。各国の経済動向等による金利の変動は、当社グループの流動性に悪影響を及ぼす可能性がありますが、手元の現金及び現金同等物は充分であり、営業活動からも持続的にキャッシュ・フローが創出されキャッシュマネジメントシステムを活用していることから、こうした影響はあまり大きくないと考えております。
技術の導入及び供与に関する契約等
当社グループは、使命と目指す姿を「“はたらく”に歓びを」と定めており、“はたらく”に寄り添い 変革を起こし続けることで、人ならではの創造力の発揮を支え、持続可能な未来の社会をつくります。また、「デジタルサービスの会社」への実現に向けて抜本的な収益構造変革を行う「企業価値向上プロジェクト」を進めております。研究開発分野においてはデジタルサービスとの親和性が高い領域に選択と集中を進めるとともに、適正な投資配分を行っております。
体制面では、社内外でのデジタルとデータを活用した基盤及び価値創出の機能を強化しております。お客様のカスタマーサクセスを当社グループの提供価値と定め、既存ビジネスの深化と新たな顧客価値の進化、及びこれらを持続的に可能にする社内外でのデータ活用基盤、機能を強化しております。グローバルに広がる約140万社の顧客基盤を生かし、デジタルサービスの会社としてさらなる拡大を目指しております。
本社での研究領域として、「RICOH Smart Integration(RSI)」 を支えるデジタル基盤技術の研究開発は「デジタル戦略部」にて進めております。AI/ICT技術の開発や”はたらく”をデジタル化する技術の開発、それらに携わるデジタル人材の育成・強化を担い、デジタルサービスの会社としての拡大を支えております。また、当社の中長期的な成長を支える研究開発と当社グループの共通基盤技術開発は「先端技術研究所」で進めております。
研究開発の進め方としては、グローバルに拠点間の連携を深めながらそれぞれの地域特性を活かした市場ニーズの調査・探索、技術開発を行っております。また、世界各地にテクノロジーセンターやカスタマーエクスペリエンスセンターを開設し、お客様のサポートを通じて直接把握したニーズを製品開発へフィードバックする仕組みにより、お客様と一体となった価値共創活動を展開しております。
オープンイノベーションにおいては、スタートアップ企業や社内外の起業家の成長を支援して事業共創を目指すアクセラレータープログラム「TRIBUS(トライバス)」を2019年度より実施しております。6年目を迎えた当連結会計年度においては、当プログラムへの参加を希望する社外172件、社内62件の応募がありました。社内外の審査員によるコンテストを通過したスタートアップ企業と社内メンバーによる新規事業テーマには当社グループ内に登録されているそれぞれが専門性を有する約300名のサポーターをはじめとした様々なリソースを活用可能とし、挑戦する人の支援・育成、新規事業の創出を促進する文化のさらなる醸成を目指しております。加えて2023年度よりBtoB領域での最新のデジタルサービスを牽引するスタートアップへの戦略的な投資を実行するCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)ファンド「RICOH Innovation Fund」を設立し、戦略的な投資活動を行っております。
社内でのR&Dに加え外部企業との連携や協業を通じて研究開発の加速に取り組みます。
国際会計基準の適用に伴い、当社グループでは開発投資の一部について資産化を行い、無形資産に計上しております。無形資産に計上された開発費を含む当連結会計年度の研究開発投資は
(1) デジタルサービス
当社グループは、成長領域である「プロセスオートメーション」と「ワークプレイスエクスペリエンス」、それらを支える「ITサービス」の提供に注力し、グローバルに均質なサービスを提供します。
プロセスオートメーション領域においては、デジタル技術による業務プロセスの自動化・最適化を通じて、タスクの極小化と生産性の向上を実現すると共に、AI技術を活用し、お客様が保有するデータ価値の最大化を図ります。提供サービスの「RICOH kintone plus」は、お客様にノウハウがなくてもkintoneを有効活用できるように、AIとのチャットを通じて業務改善アプリを自動生成する「アプリ生成アシスタント」機能を追加しました。また、お客様のDX推進と業務改善に貢献するための新機能「RICOH 導入効果測定プラグイン」の提供を開始し、作業時間等を基に導入効果の可視化を実現しました。「DocuWare」は、当連結会計年度に買収したnatif.aiの先進的なAI技術「インテリジェントドキュメントプロセッシング」により、OCR機能の高度化や文書の自動分類・振り分け等の強化を図っております。社内外でのAI活用の一環として、生成AIアプリ開発プラットフォーム「Dify」を導入し、現場起点で業務効率化に取り組む社内実践を開始しました。社員自らがAIアプリを作成・運用することで蓄積されたノウハウと知見を通じて、お客様の業務課題に寄り添った価値提供に繋げていきます。更に、当社グループのAI技術は経済産業省が立ち上げた国内生成AI開発力強化プロジェクト「GENIAC」に採択され、マルチモーダルLLMの本格的な開発を開始する等、AI技術をオンプレミス・クラウドのどちらの環境でも活用いただけるような価値提供を加速しております。
ワークプレイスエクスペリエンス領域においては、デジタル技術でシームレスなコミュニケーションと質の高いコラボレーションを実現し、お客様に最適な環境を提供しております。欧州に加えて北米と中南米にて、ワークプレイスをより効率的に活用するためにデスクやスペースの予約管理機能を備え、お客様の利用状況に基づき更なる最適化を目指す「RICOH Spaces」の提供を開始しました。
これらの成長領域を支えるITサービス領域においては、ワークプレイスの基盤となる情報通信・セキュリティ・データ 管理の環境を構築しております。「RICOH Global Security Operation Center」をポーランドに設立し、サイバー脅威に対するマネージドセキュリティサービスを欧州一部地域にて提供開始しました。今後、グローバルに展開地域を拡大していきます。
また、お客様との共創を目的とする「RICOH Smart & Innovation Center」をリコージャパン株式会社本社事業所に新設しました。当社グループのデジタルサービスやAI技術の活用を通じて、お客様の課題解決とDX&GXの実現に向けて伴走しております。メキシコ、アルゼンチン、ブラジルにも「RICOH Innovation Center」を新設し、お客様との対話を通じて新たな顧客価値を提供します。
当社グループは、デジタル技術で、業務プロセスの最適化による組織の生産性向上と、コミュニケーションとコラボレーションに最適な環境の提供を実現し、お客様の創造力の発揮を支援します。
なお、当連結会計年度の当事業分野に係る研究開発投資は
(2) デジタルプロダクツ
当社グループは、A3機世界シェアトップレベルの複合機、世界シェアNo.1のドキュメントスキャナー、国内シェアNo.1の組込みコンピュータの提供を通じ、オフィスや現場ではたらく人の進化・成長を支え、社会課題解決に貢献する新たな価値を創出・提供しております。
当連結会計年度においては、重要な社会課題であるサーキュラーエコノミーの実現に向け、A3カラー複合機「RICOH IM C4500F CE/C3000F CE」を発売しました。本製品は部品の86%をリユース部品で構成し、また内蔵ソフトウェアをバージョンアップすることで新しい機能を追加できる「RICOH Always Current Technology」の搭載により長期にわたり快適にご使用いただくことができる、環境配慮型の新製品です。循環型社会、脱炭素社会への意志を込めた新たなモデル名称「CE(Circular Economy)」を冠しました。
また、資本提携効果を新たな商品として結実させ、PFUの用紙搬送技術をリコー複合機のADF(自動原稿送り装置)として搭載したA3カラー複合機「RICOH IM C6010SD/C4510SD/C3010SD」を発売しました。本製品では原稿に負荷をかけにくいストレート1パス両面読取の採用によりノンカーボン紙やカード類への対応力を向上させ、サイズ指定不要で不定形サイズ帳票の混載スキャンを可能とし、AIによる天地方向補正機能を搭載しております。アナログとデジタルをシームレスにつなぎデータ活用やAI活用を促進するキーデバイスとして、新たなモデル名称「SD(Seamless Digitalization)」を冠しました。
ドキュメントスキャナーでは、PFUの「ScanSnap」がグローバル累計出荷台数で730万台を突破しました。また6言語の手書き文字やバーコード等様々な文字種のデータ抽出に対応したAI-OCRソフトウェア「PaperStream Capture Pro」をリリースし、デジタル化機能の更なる向上を図りました。
以上のとおり、競争力ある複合機、ドキュメントスキャナーの提供により、デジタルサービスの基盤強化を進めることができました。
一方、複合機の開発・生産を担う合弁会社として2024年7月に組成したETRIAでは、組成から7か月後の2025年2月にOKIの参画を発表しました。この参画により、小型/省資源・省エネルギー型商品の開発、キーパーツの共通化によるコストダウン、レジリエントな生産体制構築を強化していきます。
組込みコンピュータ事業では、2025年4月にリコーインダストリアルソリューションズ株式会社とPFUの一部事業・組織を統合した新会社「リコーPFUコンピューティング株式会社」を発足しました。これにより、企画・開発・販売機能の最適化、商品ラインナップの拡充、新規領域の成長加速による資本効率の向上を図るとともに、急速に進化するAI技術に対応したエッジデバイスやエッジソリューションの提供にも力を入れていきます。
このような体制強化を通じて経営環境の変化への対応力をより一層強化し、世界に必要とされ続けるモノづくりのリーディングカンパニーへの歩みを進めていきます。
なお、当連結会計年度の当事業分野に係る研究開発投資は
(3) グラフィックコミュニケーションズ
当社グループは、高品質で信頼性の高い製品とサービスの投入により、印刷現場のデジタル化を推進します。それにより、自動化・省人化とプロセスの可視化を実現し、お客様の収益力の向上に貢献しております。加えて社会課題解決の同軸化を図り、SDGsの達成に積極的に取り組みます。
商用印刷分野においては、印刷業のお客様に向けて、生産性向上に寄与する印刷機やゴールド、シルバー等高付加価値を可能にする特色トナー、上流から下流まで工程を統合的に管理するワークフローソリューションを組み合わせた提案を行っており、Offset to Digitalを加速して、お客様の現場プロセスのデジタル化を牽引していきます。また、電炉鋼板や再生プラスチックを使用した製品の開発を行い、環境負荷を低減しております。
そのため、インクジェット技術、電子写真技術、サプライ技術、光学設計技術、画像処理技術、次世代作像エンジン要素技術、最先端ソフトウエア技術の開発を継続して行っております。
産業印刷分野においては、産業用インクジェットヘッド技術の開発、製品化に注力し、製品ラインナップの拡充に取り組んでおります。MHシリーズヘッドは高耐久性と幅広いインク対応力でお客様よりご好評を頂いており、主にサイングラフィクス分野で使用されております。また、MEMS技術を活用した小型・高精細印刷に対応するTHシリーズヘッドも新規で採用いただけるお客様が増えております。
なお、当連結会計年度の当事業分野に係る研究開発投資は
(4)インダストリアルソリューションズ
サーマル事業分野においては、世界で圧倒的なシェアを占める高付加価値サーマルペーパー(感熱紙)をはじめ、高い品質の製品・サービスを提供し、さらなるお客様の信頼獲得を目指しております。
高付加価値サーマルペーパーは、近年の環境意識の高まりから、社会課題解決型商品(発色材料の安全性を高めたフェノールフリーラベル)の販売を欧州市場、日本市場、北米市場で進め、グローバル展開しております。
また、欧州ではバガスを基材としたコンポスタブル性サーマルラベルを開発、サーマルラベルとして初めてフランスのホームコンポスタブル認証を取得したことで、さらなる顧客価値を創造していきます。
一方、デジタルサービスへのビジネス転換、環境負荷を低減する「ラベルレスサーマル」*をはじめとするスマートパッケージングビジネスは機能性包材の展開により、ラベルレスメディアの国内事業が大きく成長し、プラスチック・紙資源の削減や、ロール交換工数の削減、包材SKUの削減に貢献したことが評価され、公益社団法人日本包装技術協会における第48回木下賞(新規創出部門)を受賞しました。今後、お客様のDXに加え、ESGにも貢献する商品として、ソリューション提案を進めることでラベルレスメディアの普及拡大をグローバルでリードし、パッケージ業界の変革に貢献します。
*ラベルレスサーマル:印字機能を有する基材へ文字・コードの可変情報を直接印字することで、商品の視認性を高め、業務の効率化、コストダウンを可能にする当社の印字プロセス
産業プロダクト事業分野においては、生産技術とIoT、AI、画像認識等の最先端技術を融合し、データ認識処理による 情報変換を通じた情報の見える化により、様々な産業設備のインテグレーションで、自動車車体、医療、素材業界等幅広い分野での生産ソリューションを提供しております。また、成長著しい車載リチウムイオンバッテリー外観検査においては、現場における少人化、自動化ニーズの高まりから安全・信頼性を高める検査ラインとして評価され、事業が急速に拡大しております。これからも様々な顧客ニーズに応じた最適なライン構築を実現することで、導入から運用、その後のサポートまでの価値を提供することで生産設備業界の効率化に貢献していきます。
なお、当連結会計年度の当事業分野に係る研究開発投資は
(5) その他事業
当社グループのもつ技術のさらなる活用と、オープンイノベーションを通じた新規事業創出により社会課題解決に取り組みます。同時に各事業の状況を見極め、メリハリのある経営資源配分と意思決定を行っております。
■デジタルカメラ分野
デジタルカメラ分野を担うリコーイメージング株式会社では、PENTAXとGRの2つのブランド価値をより高め、"デジタル"手法を駆使してお客様とダイレクトにつながり、両ブランドの魅力をより一層研ぎ澄ませて深化しております。
当社グループでは、100年に及ぶカメラ開発の歴史で培われた、光学設計、光学部品加工技術を柱に、最先端のデジタル画像処理技術を搭載した画像処理エンジンPRIME VやGR ENGINE6と、高度なノイズ処理を実現するアクセラレーターユニットI, IIのコンビネーションにより、すべての感度域で優れた階調再現や質感描写を実現したデジタルカメラ製品の開発を行っております。また、これらの技術に加え、当社独自のボディ内手振れ補正機構SR(Shake Reduction)を搭載し、優れた手振れ補正性能を有するとともに、この機構を応用したローパスセレクター機能やリアルレゾリューション機能を開発しております。これらの技術に加え、高度な電子部品集積技術や独自の機構設計により、高画質や速写性、携帯性というカメラの本質的な価値を追求し、写真に拘りを持つユーザーの皆様へ、これらの技術を搭載したデジタルカメラをシリーズで提供しております。
■スマートビジョン分野
ワンショットで360度撮影ができるカメラ「RICOH THETA」を発売以降、360度画像・映像を活用した事業の幅を広げてきました。現在では、クラウドサービスと連携させることでワークフロー全体を効率化するソリューションを提供し、業務効率化と生産性の向上を実現するRICOH360プラットフォーム事業を展開・強化しており、建設業界をはじめとした業界の「どこからでも簡単にアクセス可能なリモートで現場を可視化するアプリケーション」によるDX加速と、深刻化する人材不足や高齢化、長時間労働等の社会課題の解決を目的に、様々なパートナー企業と共創を進めております。
■バイオメディカル分野
2025年3月にバイオテクノロジーのベンチャー企業であるElixirgen Scientificを完全子会社化しました。同社がもつ技術やノウハウと当社の技術や強み、リソースを掛け合わせることで、iPS細胞を活用した創薬支援事業の強化や、日本国内におけるmRNAを用いた治療薬製造基盤の整備·構築を進めております。人々の健康と安心への貢献はもとより、国内の経済安全保障の観点からも、医療用mRNAの製造能力のさらなる強化を目指し、ワクチンをはじめとするmRNA医薬品の創薬を支援していきます。
■インクジェット電池分野
脱炭素社会の実現のため、自動車業界では電気自動車の普及が求められており、その推進にはリチウムイオン電池が重要な役割を担っております。当社の高度な分散技術を応用したインクと長年培ったインクジェット技術を組み合わせることにより、自由な位置、自由な膜厚、自由な形状で電池材料のデジタル印刷が可能となりました。この革新的な製造プロセスによって材料ロス削減による環境負荷/コストの削減、リチウムイオン電池の性能向上、全固体電池の実用化に貢献します。
なお、当連結会計年度の当事業分野に係る研究開発投資は
(6) 基礎研究分野
当社グループではこれまで、商品の差別化につながる基礎研究分野として、お客様の業務の効率化や時間、場所に捉われない新しい働き方に貢献するためのデータ収集・解析技術、人工知能を応用したシステムソリューション開発を進めております。また、フォトニクス技術、MEMS、画像認識・画像処理技術を融合した高度なセンシング技術・エッジデバイス技術、分析・シミュレーション等の基盤技術や検証、シミュレーション等の技術、機能性材料、プリンティング技術の応用研究開発を進めております。
多くの企業がAI利活用に注目する中、業務への適用には、業種・業務の特性や企業固有の用語への対応が不可欠です。デジタル戦略部では、お客様の高度な業種・業務を支援するサービスを拡充すべく、各企業のニーズに応じて柔軟にカスタマイズ可能なリコー独自LLMの開発を推進しております。当連結会計年度には、オンプレ・クラウド両対応でGPT-4と同等の性能を持つ、700億パラメータの日本語プライベートLLM等を開発しました。
先端技術研究所では、将来に向けて二つの提供価値領域にフォーカスして開発を行っております。
・HDT(Human Digital Twin at Work):ワークプレイスで働く人を、人や空間のデータを利用するデジタルツインにより支援する技術。建物設備の3Dデータ化+AIの技術や、AIトレーニング技術等により、働く人に合わせた価値提供に取り組んでおります。
・IDPS(Industrial Digital Printing System):インクジェット技術を活用し、塗着効率を極限まで高めた自動車塗装工法や、カーボンニュートラル実現に向けたペロブスカイト太陽電池の低コスト・高生産工法の研究開発実証実験に取り組んでおります。
分析・シミュレーション等の共通基盤技術は、引き続き当社グループの研究・開発・設計・生産のあらゆる現場に展開し、新たな価値提供と効率化、品質向上を実現します。
協業パートナーとの共創も積極的に推進しており、当連結会計年度は、23%以上の開発テーマで協業パートナーと共同研究・開発を実施しました。また、研究開発のグローバル化を推進しており、国内の先端技術研究所と欧州・東南アジアの企業・スタートアップ、研究機関等とを繋ぐイノベーションハブ拠点を、欧州・シンガポールに設立し、様々な企業・研究機関とコラボレーションし、イノベーション創出を目指します。
なお、当連結会計年度の当分野に係る研究開発投資は 16,795百万円です。