<ヤマハの理念・ビジョン>
当社グループは事業活動を通じて、「世界中の人々のこころ豊かなくらし」を実現することを目指しています。そのために、「感動を・ともに・創る:私たちは、音・音楽を原点に培った技術と感性で、新たな感動と豊かな文化を世界の人々とともに創りつづけます」を企業理念に掲げ、我々の行動の原点としています。
(1)ヤマハフィロソフィー
ヤマハフィロソフィーとは、ヤマハグループの企業経営の「軸」となる考え方を体系化し表したものです。
ヤマハフィロソフィーは、「企業理念」、「顧客体験」、「ヤマハクオリティー(品質指針)」、「ヤマハウェイ (行動指針)」の4つにより構成されます。「企業理念」と「顧客体験」は、グループの存在意義を表す普遍的な内容であり、ヤマハフィロソフィーの『基軸』です。
「ヤマハクオリティー」と「ヤマハウェイ」は、企業理念を具現化するために、グループで働く全ての従業員が、日々の業務の中で拠り所とすべきものであり、ヤマハフィロソフィーの『両輪』を示します。
私たちは、常にこのヤマハフィロソフィーを心のよりどころにしながら、お客様の視点に立ち、期待を超える製品とサービスを生み出すことで、未来に向かって新たな感動と豊かな文化を創りつづけます。

(2)ブランドプロミス“Make Waves”
ブランドプロミスとは、ヤマハが人々の人生にもたらす価値を語ったものです。
ヤマハは、「個性、感性、創造性を発揮し、自ら一歩踏み出そうとする人々の勇気や情熱を後押しする存在でありたい」との思いを込め、人々が心震わす瞬間を“Make Waves”という言葉で表現しました。心震える瞬間を創りだすために、ヤマハは人々の感性を刺激し表現を支える製品やサービスを提供し、なくてはならないパートナーであり続けます。

(3)経営ビジョン
今後も変化する経営環境を見据え、当社グループが実現したい提供価値を改めて示した上で、中長期的に当社が目指す姿を新たな経営ビジョンとして打ち出します。

新たな経営ビジョンに込めた3つの意図は以下のとおりです。
一つ、ヤマハの強み、ヤマハらしさが十分に活きる「音・音楽」領域において、新たな価値創造の可能性を追求していくこと。
二つ、そのために、世界中の人々の自己表現、多様な個性の発揮を後押しする製品やサービスをたゆまず提供していくこと。
三つ、多様なステークホルダーと積極的に連携・協業し、社会課題の解決に資する新たな価値を、共に創り上げること。
当社はこれまで同様、音・音楽を原点に培った技術と感性で製品の本質的価値を磨き続けるとともに、そこに、より楽しい、よりクリエイティブな、あるいはより便利な体験価値を加えるための取組みを強化し、隣接事業領域として拡大していきます。さらには、既存商品、既存事業の枠にとらわれない、社会課題解決につながる音・音楽の新たな可能性を追求し、事業ドメインを拡大していきます。

<中期経営計画「Rebuild & Evolve」の概要>
当社グループは、2025年3月末で終了した「Make Waves 2.0」に続き、2025年4月からの3年間を対象とした新たな中期経営計画「Rebuild & Evolve」を策定しました。
(1) 経営環境認識
前中期経営計画期間を通じて当社を取り巻く経営環境は、かつてないスピードで変化しております。経済変動、物価高騰、為替リスク、地政学リスクといったマクロ環境の変化に加え、顧客の価値観やライフスタイルの多様化、購買行動のオンラインシフトが急速に進んでいます。また、技術革新、とりわけ生成AIの進化は、ビジネスのあり方を根本から変えつつあるといっても過言ではありません。
このような環境下において企業に求められるのは、現状維持ではありません。ダイナミックな変化を恐れず、迅速かつ柔軟に対応し、むしろ成長機会として積極的に活かしていく姿勢が必要です。音・音楽を軸にした当社ならではの新たな価値創造に挑戦するとともに、多様なライフスタイルや価値観に寄り添う体験価値を提供することで、事業機会拡大のチャンスになると認識しています。

(2) 重点課題と戦略骨子
経営ビジョン、マテリアリティ、および前中期経営計画のレビューからいくつかの課題が明確となりました。一つは、最優先課題となりますが、低下した既存事業の収益力をコロナ前水準までに回復し、再び成長軌道に乗せることです。次に、中長期的な成長に向け、隣接・新規領域への戦略的投資による育成・事業化を行っていくことです。そして最後に、持続的な成長を支える安定した経営基盤を作るため、資本・資産効率、人的資本、ガバナンスを強化していくことです。当社は中期経営計画の3年間、明確となった課題へ全力で取り組みます。
新中期経営計画のタイトルは『Rebuild & Evolve』とし、“Rebuild”は再構築、“Evolve”は進化を意味し、特に「未来を創る挑戦」の“Evolve”は単なるドメインの拡大ではなく、ヤマハのビジネス全体に質的な変化をもたらすものにしていきたいという意図を込めました。

(3) 新中期経営計画「Rebuild & Evolve」
新中期経営計画では、3つの戦略方針を掲げ、事業軸、市場軸、そして全社それぞれの視点で取組みを進めていきます。

① 戦略方針1:強固な事業基盤の再構築(Rebuild)
既存事業の在り方について抜本的な見直しを行い、事業環境に適応したあるべき姿に早期に作り替えていくことを目指します。過去数年、私たちは市場環境の急速な変化に対して十分な対応ができず、一部事業で収益性が低下しました。この反省を踏まえ、まず課題事業の収益構造を徹底的に見直します。楽器事業ではピアノ・ギター事業の構造改革と高付加価値製品の比重を高め収益性を改善するとともに、デジタルピアノ等のさらなる競争力強化で再び成長軌道に回帰することに取り組みます。音響事業では、顧客要求へのタイムリーな対応など、B2Bに必要な視点がこれまで十分に反映できていなかった反省をもとに、事業環境の変化に即応できる組織体制を整備し、収益性と販売力を強化します。
② 戦略方針2:未来を創る挑戦(Evolve)
新たなドメインへ事業を拡大することを目指します。楽器事業では、製品そのものの価値提供にとどまらず、カスタマーサクセスを起点とした価値提供へのシフトに取り組みます。演奏体験の支援、そしてオンラインとオフラインを融合した新しい顧客体験の創出に取り組みます。

音響事業では、業界トップレベルの信号処理と音場調整の技術等、当社ならではの強みを活かしながら隣接領域へ
ドメイン拡大を図ります。前中期経営計画期間から事業成長を進めてきた車載オーディオ領域に加え、エンタテインメント領域、商業施設・公共施設向けの新ソリューション提供など、市場・顧客の様々な要求に応える最適な音環境を提供し、多角的な成長機会を狙います。

また、インド・フィリピン等の成長市場や新たな成長事業への積極的な投資、および持続的な事業成長に向けた新規事業創出のメカニズム構築など中長期視点での未来を創る挑戦こそが、ヤマハの次なる飛躍を支えるエンジンになると信じています。

当社はサステナビリティを価値の源泉ととらえており、音・音楽の力、そして事業を通じて培ってきた技術と感性で社会課題の解決に貢献したいと考えています。重視したい視点は「人・社会・地球」の三つ。音楽で人のつながりを作ること、音による安心と安全を提供すること、そして音楽文化が持続可能であるように地球規模での資源循環を実現すること。このような取り組みを通じて音・音楽の新たな可能性を追求し、事業ドメインを拡大していきます。

③ 戦略方針3:経営基盤の強化
持続的成長を実現するために経営基盤を強化します。資本・資産効率向上に向けて、投資とリターンのバランスを重視し、企業価値の最大化を図ります。次に、人的資本の強化については、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの推進、グローバル人材育成、社員エンゲージメント向上に向けた施策を積極的に展開します。さらに、コーポレートガバナンスの強化を図り、より透明性・公正性の高い経営体制を確立します。
価値の源泉であるサステナビリティを常に意識しながら、これらの三つの戦略方針に沿った取り組みを進めていく、それが新中期経営計画における当社が目指す成長戦略です。
(4) 経営目標
中期経営計画の経営目標は記載の通りです。特にこれまで以上に財務目標の達成に執着し取り組みを推進してまいります。年平均の売上成長5%、最終年度のROE10%が中期経営計画3年間で目指す、最も優先すべき経営目標です。加えて、各重点戦略の達成度合いをモニターしていくための多面的なKPI指標を設定しました。「強固な事業基盤の再構築」のKPIとしてはセグメント別の売上成長率と事業利益率を、「未来を創る挑戦」のKPIとしては戦略投資額などのドメイン拡大指標と新価値創造指標を、「経営基盤の強化」のKPIとしては資本・資産効率指標と人的資本強化指標を、さらにサステナビリティ関連では環境・社会・文化それぞれの取り組みで目標とする指標を設定しました。短期的な収益改善と中長期的な成長基盤づくりにバランスよく取り組むことで、企業価値の持続的な向上を実現してまいります。

(5) 事業ポートフォリオ
中長期的に企業価値を向上していくため、下図の3つの領域に各事業を位置づけ、経営資源を適切に配分するポートフォリオマネジメントを進めます。
ここでは収益率と成長率を基準に当社の主要な事業をマッピングしていますが、既存の事業領域については、成長加速に向けた取り組みを強化する事業と、収益性改善に注力する事業とを明確に分け、戦略を組み立てます。具体的には、エンタテインメントPAや電子楽器、B&Oといったカテゴリにおいてはさらなる競争力強化による成長を最優先課題とし、一方、環境変化により収益性が低下しているピアノ、ギター、ホームオーディオ事業については、構造改革を急ぎ、収益性改善に努めます。あわせて、新たな成長の種を作る取り組みを強化していきます。音楽系サービス、モビリティソリューション、ビジネスソリューション等に積極的な投資を行い、また、新規事業、社会課題解決型ビジネスについても、実証を重ねながら将来の柱とするべく育成を図ります。

加えて、ポートフォリオマネジメントの仕組みも整備していきます。経営ビジョン等の目指す姿との整合性、事業将来性と収益性、そしてベストオーナー視点での当社の保有意義のそれぞれを評価し、定期的な事業構成の見直しのマネジメントプロセスを導入してまいります。特に収益性については、事業ごとの資本収益性を可視化し、高収益・高成長が期待できる領域には積極的に投資を行い、競争力が低下した領域については(縮小・撤退を含めた)戦略的な見直しを進めます。
これらの取り組みを通じて、「収益力向上」と「資本・資産効率改善」の両立を図り、変化の激しい環境下でも持続的な成長と高い収益性を実現できる事業構成を確立してまいります。

サステナビリティに関する詳細情報は、当社サステナビリティサイト(注1)にて開示しております。本項目においては、各箇所に関連する情報について「<参考>」として当該サイトのURLを記載しております。なお、当該サイトは2026年6月30日に更新予定です。
(注1)https://www.yamaha.com/ja/sustainability/
(1) ヤマハグループサステナビリティ方針
ヤマハグループは、世界中の全ての人々が心豊かに暮らす社会を目指します。その実現のために、企業理念である「ヤマハフィロソフィー」を心のよりどころに、かけがえのない地球環境を守り、平等な社会と快適なくらし、心潤す音楽文化の発展に貢献するとともに、人権尊重はもとより、多様な人材が互いに認め合い活躍できる環境を整えることで、未来に向かって新たな感動と豊かな文化を世界の人々とともに創りつづけます。
この考え方に基づき、持続可能な社会の実現に向けた取り組みによる社会価値の創造を通じ、自らの中長期的な企業価値を高める為、マテリアリティを特定し、積極的にサステナビリティ活動を推進します。

当社は、取締役会の監督に基づき、代表執行役社長の諮問機関として「サステナビリティ委員会」を設置し、グループ全体のサステナビリティ活動の方向性の議論や、グループ内における取り組み状況のモニタリングを行い、代表執行役社長に答申しております。サステナビリティ委員会の審議内容、ヤマハグループにおける活動状況については取締役会に定期的に報告され、取締役会によるレビューを受けております。
また、同委員会の下部組織として「気候変動部会」「資源循環部会」「調達部会」「人権・DE&I部会」「社会・文化貢献部会」を設置しております。各部会では、全社横断的な重要テーマについて、推進体制の整備、方針や目標・施策・実行計画の策定、活動およびモニタリングを行い、サステナビリティ委員会へ報告しております。
2026年3月期のサステナビリティ委員会活動状況
実績:5回開催
主な議題:
・前中期経営計画活動レビュー、外部開示内容(含むTCFD/TNFD)確認
・当期進捗/成果確認、課題についての議論
・サステナビリティ各分野の方向性議論
2026年3月期の各部会の活動状況
サステナビリティ推進体制(2026年6月25日現在)

2026年3月期の取締役会による監督などの状況
実績:サステナビリティ委員会の活動状況のモニタリング 2回
主な議題:
・サステナビリティに関する方針や目標
・サステナビリティ施策の定期的なレビューなど
<参考>
サステナビリティマネジメント:
ヤマハグループでは、社会の持続的発展と中長期的な企業価値向上につながる重要な課題を「サステナビリティに関するマテリアリティ」として特定し、これをサステナビリティ方針に組み込むとともに、経営全体のマテリアリティに統合し、活動を推進・管理しております。主な取り組み事例は以下のとおりであります。
持続可能な木材の利用
ヤマハグループが生産しているピアノや弦打楽器、木管楽器など楽器の多くは、主に木材でつくられております。事業活動において多種多様な木材を使用していることを踏まえ、生物多様性や生態系を損ねることなく貴重な木材資源を持続的に活用していけるよう、木材デューディリジェンスの推進のほか、原産地コミュニティーと連携した良質材の育成(おとの森活動)などを進めております。
木材デューディリジェンスでは、購入する木材の原産地や伐採の合法性、資源の持続可能性に関する書類調査を実施しております。リスクが高いと判断された木材については、現地訪問を含む追加調査および木材調達部門やサステナビリティ部門で構成する審査会での審議を通じて、より厳格な合法性などの確認を行っております。「持続可能性に配慮した木材」の基準への適合率については、中期経営計画「Rebuild & Evolve」で80%の目標を掲げているのに対し、2026年3月期は71.3%となりました。
高品質で楽器に適した木材を持続的に調達し、持続可能な楽器づくりをするために、地域社会と一体となって循環型の森林づくりを推進する「おとの森活動」は、行政や学術機関と連携し国内外で展開しております。楽器づくりに欠かせない木材、中でも楽器の性能や価値に直接大きな影響を与える木(希少木材種)に着目し、同種の育成・保全を推進することで「サステナブルな森づくり」を目指しております。現在、タンザニア(アフリカン・ブラックウッド)、インド(インドローズウッド)、北海道(アカエゾマツ)で活動を展開しております。
<参考>
木材資源への取り組み:
音楽文化の普及、発展
ヤマハグループは、国内外で、学校における音楽教育の支援活動や、音楽・楽器を通じた地域貢献や音楽普及活動に取り組み、音楽教育の発展、青少年の健全育成、コミュニティーの活性化などに寄与しております。
2015年より新興国を中心に展開している「スクールプロジェクト」は、世界中の子どもたちが音楽や楽器演奏を学ぶ中で未来を生きる力を手に入れ、こころ豊かな人生を送ることができる世界を目指し、まだ音楽の授業環境が整っていない国に向けて「新しい音楽の授業」の構築支援に取り組んでおります。ヤマハの独自プログラムを展開することではなく、その国・地域に最適な音楽の授業を作りあげることを目標とし、現地教育省と協力の上、パイロット授業の展開・指導者の育成・カリキュラム構築の支援・教材や楽器の販売・提供などを段階的に実施しております。現在その実績はマレーシア、インドネシア、ベトナム、フィリピン、インド、ブラジル、コロンビア、メキシコ、UAE、エジプトの10カ国・504万人に広がっております。
また、より多くの方が仲間とともに長く楽器演奏を楽しめる環境づくりを目指し、音楽を通じて人と人がつながる場を創出する「Community Building with Music」を国内外で推進しております。自治体との連携による市民参加型演奏会の開催をはじめ、「人と一緒に演奏する楽しさ、一体感を実感する機会の提供」「ともに演奏を楽しむ音楽コミュニティー形成支援」「音楽コミュニティーの自立・継続支援」といった活動を、2026年3月期は全世界で3,580回実施しました。
<参考>
音楽文化の普及、発展に関する取り組み:
③ リスク管理
ヤマハグループのバリューチェーンにおけるサステナビリティ課題を、持続可能な開発目標SDGsなどに照らして抽出し、お客様、従業員、地域社会の声や、ESG評価項目、NGOからの意見・要請や社外有識者の提言、企業理念や経営ビジョン、中長期的な経営方針を踏まえ、リスクと機会の観点で重要度を評価し、推進を強化すべき課題(サステナビリティに関するマテリアリティ)を特定しております。特定したマテリアリティについて、サステナビリティ委員会の各部会、関係部門にて施策や達成度合いを測るKPI、目標および実行計画を策定します。サステナビリティ委員会が進捗をモニタリングすることで、マテリアリティの取り組みを推進し、リスクの低減を図っております。
<参考>
マテリアリティ(特定プロセスを含む):
④ 指標及び目標
特定したマテリアリティに基づき、中期経営計画において、方針、重点テーマ、指標(KPI)と目標を設定しております。サステナビリティに関する主なKPI・目標・実績は以下のとおりであります。
中期経営計画(2025年4月~2028年3月)の主なサステナビリティKPI・目標・実績
(注2)第三者による監査に加え、自社によるサプライヤー監査(二者監査)を導入するため
(注3)一部のグループ企業については法令上の制約などにより集計対象外としています
(注4)新サーベイに切り替え、今回より設問見直し
⑤ 社外からの評価
サステナビリティ活動に対する主な社外からの評価は以下のとおりであります。
<参考>
社外からの評価:
(2) 気候変動・生物多様性への対応とTCFD・TNFD(気候関連財務情報開示タスクフォース・自然関連財務情報開示タスクフォース)に基づく情報開示
当社グループはTCFD・TNFDの提言に基づき、気候変動や生物多様性に関わるリスクや機会を分析し、経営戦略に反映させるとともに、その財務的な影響についての情報開示に努めていきます。
TNFD提言で求められている、開示すべき一般要件は以下のとおりです。また、TCFDの内容については、TNFD提言に準じた形で開示を行います。
なお、当開示では、「マテリアリティ」という用語を以下の2つの意味で使用しております。
・TNFDの一般要件におけるマテリアリティ:自然が企業に与える影響および企業が自然に与える影響の重要性(シングル/ダブルマテリアリティ)
・当社グループの経営における重要なサステナビリティ課題としてのマテリアリティ:事業視点とステークホルダー視点の両面から評価し、当社が独自に特定した重点課題
① ガバナンス
監督および執行体制
気候変動および自然関連のリスクと機会(先住民族や地域コミュニティー、影響を受けるステークホルダーに関する人権方針やエンゲージメント活動を含む)ならびに関連課題に関する評価・管理は、代表執行役社長の諮問機関であるサステナビリティ委員会を通じて行われ、取締役会によって監督されております。同委員会は代表執行役社長を委員長とし、全執行役と一部の執行役員で構成されております。
これらに関する具体的な審議は、同委員会の下部組織である気候変動部会、資源循環部会、調達部会において行われ、進捗は定期的にサステナビリティ委員会に報告されます。同委員会の審議内容、当社グループにおける活動状況については取締役会に定期的に報告し、取締役会によるレビューを受けております。
2026年3月期のサステナビリティ委員会および環境関連部会の活動状況については、「(1) ヤマハグループサステナビリティ方針 ① ガバナンス」をご参照ください。
<参考>
サステナビリティマネジメント:
環境関連課題のガバナンス体制図

スキルおよびコンピテンシー
当社グループは、持続的成長および企業価値の向上に向け、取締役会および経営層が気候変動や自然関連のリスクと機会を適切に監督・対応するために必要なスキルとコンピテンシーを確保することを重視しております。取締役会のメンバーは外部有識者との意見交換を必要に応じて実施し、気候変動や自然資本、人権などの重要テーマに関する最新知見をインプットしております。
報酬に組み込まれている非財務目標
当社は、持続的かつ社会的な価値向上への取り組みをより強く動機付ける趣旨から、役員報酬の一部である譲渡制限付株式報酬を評価する指標に、非財務目標を組み込んでおります。この非財務目標に連動する指標は、中期経営計画「Rebuild & Evolve」に掲げる重点戦略KPI(12指標)です。なお、気候変動および自然関連の評価項目は、当該非財務目標の一部に含まれておりますが、これを区分して識別することはできません。詳しくは「
人権尊重とステークホルダーエンゲージメント
a. 人権に対する考え方
当社グループは、ステークホルダーへの約束として、社会・文化の発展に貢献することを掲げています。その発展の基盤となる公正で公平な社会を実現するため、「国際人権章典」や国際労働機関(ILO)の「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」などの人権に関する国際的な規範を尊重し、人権尊重を原則とする国連グローバル・コンパクトに署名するとともに、「ビジネスと人権に関する指導原則」に沿って、企業の人権尊重責任を果たす取り組みを行っております。
これらの人権尊重の考え方を明確に示し、当社グループの事業活動に反映するため、当社グループは「ヤマハグループ人権方針」を策定しております。本方針は当社グループの役員および全ての従業員に適用され、人権を尊重した誠実な事業活動を行うための指針となっております。
b. 人権デューディリジェンス・グリーバンスメカニズム
人権方針に基づいて自らの事業活動に対する人権デューディリジェンスを実施し、人権への負の影響を特定・評価し、人権侵害の是正や防止・軽減に取り組んでおります。特にサプライヤーには、人権尊重を定めた「ヤマハサプライヤーCSR行動基準」の順守を要請し、同行動基準に沿ったモニタリングを書面調査や訪問により実施しております。また、CRT日本委員会のステークホルダーエンゲージメントプログラムに毎年参加し、NGOや人権専門家からの指摘・提言に基づく人権課題の特定作業を通じて市民社会の声や期待を把握し、デューディリジェンスに反映しております。
加えて、サプライチェーン上の人権侵害を把握し、是正や救済に対応するグリーバンスメカニズム整備の一環として一般社団法人ビジネスと人権対話救済機構(JaCER)に加盟し、同機構が運営する対話救済プラットフォームで市民社会やライツホルダーなどからの相談・通報を受け付けております。
人権尊重に関する取り組みは、サステナビリティ委員会の下部組織である「人権・DE&I部会」を中心に対応しております。取締役会は、これら人権デューディリジェンスやグリーバンスの推進状況について定期的に報告を受け、取り組みを監督しております。
c. 先住民族や地域社会とのエンゲージメント
「ヤマハグループ木材調達方針」に基づき、調達する木材が伐採や取引の過程において、先住民の権利を侵害するなど地域社会に悪影響を及ぼしていないことを確認することとしております。具体的には、使用木材の合法性確認やリスク評価、環境・社会に配慮した認証木材の積極的な導入を進めております。2023年には地域社会への影響も含めた木材リスク確認の実効性向上を図るため、国際的な環境団体監修のもと、非認証木材に対し、デューディリジェンスを通じて持続可能性を客観的に判断するための評価項目・判断基準を制定し、運用しております。
また当社グループでは、高品質で楽器に適した木材を持続的に調達するために、地域社会と一体となって循環型の森林づくりを実現するおとの森活動を、行政や学術機関と連携し国内外で展開しております。
<参考>
人権:
ヤマハサプライヤーCSR行動基準:
ステークホルダーとのかかわり:
生物多様性の保全:
② 戦略
気候変動および生物多様性に関するシナリオ分析
当社は、短期・中期・長期の時間軸に基づき、グループ全体に及ぶ気候変動および生物多様性の影響を評価し、事業に重要な影響を与えるリスクと機会を特定するためのシナリオ分析を実施しました(表1)。また、特に影響が大きいと予想される木材については、気候変動による影響の有無および大小を把握するため、潜在適域(注1)の変化を文献にて調査し、推計を行いました(表2)。
シナリオ分析では、気候変動と生物多様性について下記のシナリオを想定し、事業および自然資本への影響を評価しました。
a. 気候変動
国際エネルギー機関(IEA)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表する複数の既存シナリオを中心に、その他複数のシナリオ(APS(Announced Pledges Scenario)、STEPS(Stated Policies Scenario)他)も活用し分析しました。
b.生物多様性
自然関連リスク分析ツール「ENCORE(注2、3)」を使用して、事業プロセスに関連する自然への依存と影響の項目を抽出し、リスク・機会が大きいものに関しては、TNFDが推奨しているシナリオを参考に「生態系サービスの劣化」と「市場原動力と非市場原動力の一致」を2軸に4つのシナリオを定義し、分析しました(図1)。
(注1)特定の樹種が気象条件などから理論上、生育に適していると推定される地域を指す。実際の分布を考慮したものではなく、将来的な生育可能性に着目した概念
(注2)Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure:事業プロセスに関連する自然関連の依存と影響、その大きさの評価ツール
(注3)当開示では2024年7月に更新されたバージョンで分析を実施
(図1)TNFDが推奨する2×2フレームワークを用いて設定した自然関連シナリオ

(表1)特に重要度の高いリスク・機会一覧とシナリオ分析
(表2)木材潜在適域の基準年に対する変化予測(%)

シナリオ分析の結果、気候変動に関しては自然災害による生産停止リスク、木材価格の上昇、炭素税導入に伴うコスト増加といったリスクが高まる一方で、屋内活動の増加による需要拡大が機会となる可能性があることが明らかとなりました。自然資本に関しては、各シナリオが進行するに伴い、森林の持続可能性に配慮した木材製品が市場競争力を高め、持続可能な調達が森林保護を促進する機会となる一方で、林産地の劣化により良質な木材の入手が困難になり、木材代替にかかるコストが増加するリスクが生じることが分かりました。
また、木材潜在適域の変化予測を行ったことにより、短期的な影響は少ないものの、長期的に見ると気温上昇に伴い潜在適域が大きく減少する樹種があることが分かりました。
特定されたリスク・機会と対応策
当社は、気候関連課題・自然関連課題が、事業、戦略、財務計画に大きな影響を与える可能性があるとの認識のもと、リスクや機会を整理し、戦略の見直しを随時実施しております。シナリオ分析により特定された重要なリスク・機会と、それに対する当社の対応策は以下の通りであります(表3)。
当社の気候変動関連課題への取り組みについては、TCFDが開示を推奨する「緩和」と「適応」の分類に基づいて、また、自然関連課題への取り組みについては、自然資本に対する行動の枠組み「AR3Tフレームワーク(注4)」を踏まえて整理しております。
(注4)SBTN(Science Based Targets Network)が提唱する、自然関連のリスクと機会への対応策を検討するフレームワーク。回避(Avoid)、軽減(Reduce)、復元・再生(Restore & Regenerate)、変革(Transform)の4項目にて整理されている
(表3)特に重要度の高いリスク・機会一覧と対応策
R:リスク(Risk) O:機会(Opportunity) 短:発現時期 短期 中:発現時期 中期 長:発現時期 長期
インターナルカーボンプライシング(ICP)制度
当社は、気候変動リスクに対処し中長期的な脱炭素経営を推進するため、2022年4月よりインターナルカーボンプライシング制度を導入しております。当社では、内部炭素価格を14,000円/t-CO2に設定し、設備投資に関する意思決定プロセスに活用しております。
自然資本に対する分析 ― LEAPアプローチ
当社では、TNFDが推奨するLEAPアプローチ(注5)に基づき、自然関連の課題について評価と分析を行いました。
(注5)企業の自然との接点、依存関係、インパクト、リスク、機会など、自然関連課題を判定するための統合的な評価方法。スコーピングを経て、Locate(発見する)、Evaluate(診断する)、Assess(評価する)、Prepare(準備する)のステップを踏むことで、企業は自社にとって重要な自然との接点を評価することができる
スコーピング
当社グループの事業の中でも、楽器事業は売上の6割以上を占める主要な事業であり、自然資本への依存と影響が大きい事業です。当社グループの使用するさまざまな資源のうち、木材は使用量・事業価値の両面で重要な位置を占める主要資源であり、とりわけ楽器事業においては不可欠な材料です。多くの楽器に使用される木材は、音色や耐久性、品質を左右する中核的な要素であり、自然資本への依存とその影響への取り組みは、当社グループの事業、さらには音楽文化の持続可能性を支える基盤です。このため、これまでも木材の持続可能な調達に関する目標を設定し、取り組んできました。
当開示にあたり、当社はENCOREを用いて自然関連の依存と影響を評価しました。この分析は、従来の自社の認識を再確認し、さらに客観的なデータに基づいた評価を行うために実施したものです。評価対象は、
・バリューチェーン上流における木材調達プロセス
・直接操業としての楽器・音響機器の製造プロセス
の2つです。
この評価の結果、木材調達過程と自然資本との関連が特に大きいことが改めて確認されました。一方で、楽器・音響機器の製造過程においては、ENCOREの分析上、自然資本への依存や影響が相対的に大きい項目は限定的であることが示されました。これらの結果は、木材と自然資本の関わりが大きいという当社の認識を裏付けるものとなりました。
こうした結果に加え、TNFDでは直接操業における分析が求められていることから、直接操業拠点における自然関連リスクおよび生物多様性との関係について評価を実施しました。
a. 水関連分析(直接操業拠点)
Locate
2025年に、当社グループの直接操業拠点(本社・生産・リゾート計23拠点)を対象として、自然にとって重要な場所(要注意地域)および水資源への依存の観点から分析を行いました。
要注意地域の判定にあたっては、TNFDガイダンスを踏まえ、「生物多様性の重要性」「生態系の十全性」「生態系の十全性の急速な減少」「水リスク」の観点から評価項目を設定し、国際的に広く利用されている外部ツール・データを用いて定量的に評価しました。各評価項目について5段階でスコアリングを行い、これらの平均スコアが4以上となる拠点を要注意地域の目安として設定しました。
一方、本分析では、水供給制約が生じた場合の拠点への影響を把握する観点から、当社グループ全体の総取水量に占める各拠点の取水量割合を指標として用いました。取水量割合が高い拠点は、水資源への依存度が相対的に高く、水制約時の影響を受けやすい拠点として整理しております。なお本指標は水資源への依存度を示す一側面を捉えたものであり、企業にとっての重要性を包括的に示すものではありません。
これらの観点を踏まえ、本分析では「自然にとって重要な場所(要注意地域)」と「水資源への依存度が高い拠点」を整理し、重点的に確認すべき拠点の抽出を試みました。
Evaluate
Locateの結果を踏まえ、直接操業拠点における自然への依存および影響の程度を評価しました。
上記の指標を総合的に評価した結果、スコアの平均値は最大でも3.25にとどまり、平均スコアが4以上となる要注意地域は特定されませんでした。この結果から、生物多様性の重要性、生態系の十全性、水リスクなどの各観点において、当社グループの直接操業拠点が自然に対して顕著な依存または影響を有する状況は限定的であると認識しております。
また、水リスクの観点では、水ストレスが高い(スコア4:Highまたは5:Extremely High)地域からの取水は当社グループの総取水量の約1割程度であり、水ストレスの高い地域に所在する拠点は当社グループの直接操業拠点の一部に限定されていることを確認しております(図2)。該当する拠点は、中国、インドネシア、インドおよび米国に所在する5拠点です。従って、短期的に全社的な操業へ重大な影響を及ぼす可能性は限定的であると評価しております。
一方で、水資源は将来的に不確実性が高まる可能性がある自然資本であることから、水ストレスが高い地域に立地する拠点については、依存および影響の双方に留意する必要があると考えております。
(図2)直接操業拠点の水リスク(水ストレス)および
当社グループ全体の総取水量に占める各拠点の取水量割合

Assess
Evaluateの結果を踏まえ、自然に関連するリスクおよび機会の特定を行いました。
リスクの観点では、水ストレスが高いと評価された拠点(中国、インドネシア、インド、米国に所在する5拠点)において、将来的な水利用制約、取水コストの上昇、操業条件の変化といった物理的リスクが想定されます。ただし、これらの拠点の取水量規模および全社に占める取水量割合を踏まえると、水関連リスクが顕在化する可能性は相対的に限定的であると考えております。一方で、リスク顕在化時の影響の大きさは拠点の事業上の重要性や代替可能性にも依存することから、影響度の評価については今後、これらの観点も含めた検討が必要であると認識しております。
その上で、各拠点の地域特性を踏まえ、水ストレスの水準に加え、生物多様性保全地域への近接性を確認しました。
中国、インドネシアおよびインドの高水ストレス拠点については、保全上重要な地域への近接は認められず、かつ取水量割合も低区分に位置付けられていることから、周辺の自然資本に与える影響は相対的に小さいと評価しております。一方、米国の拠点は生物多様性保全地域に近接しておりますが、年間取水量は0.337千m³と限定的であることから、当該拠点の水利用が周辺の水資源および自然資本に与える影響も限定的と判断しております。
機会の観点では、水使用量の削減や水効率の向上、地域の水資源管理への貢献を通じて、操業の安定性向上やステークホルダーからの信頼向上につながる可能性があると考えております。
これらを踏まえ、当社グループの直接操業拠点における自然関連リスクおよび機会は、現時点では管理可能な範囲にあるものの、中長期的な視点での継続的なモニタリングが重要であると判断しました。
なお本評価は、当社グループの事業活動が生物多様性に与える影響を直接的に示すものではなく、地域特性を踏まえたリスクの顕在化可能性を把握することを目的としております。
Prepare
分析結果を踏まえ、現時点において、当社グループの直接操業拠点が立地する地域における自然関連リスクは全社的には限定的であると評価しております。しかしながら、気候変動などに伴う水ストレスの将来的な悪化可能性を踏まえ、水ストレスの高い地域に立地する拠点を中心に、将来的なリスク低減を目的に、取水量および排水量の継続的なモニタリングならびに節水設備の導入やプロセス改善による水使用効率の向上など、水保全に関する取り組みを進めております。
これらの取り組みを通じて、自然資本への依存および影響の低減を図るとともに、将来的な環境変化に対するレジリエンスの強化を進めていきます。また状況の変化に応じて、評価および対応内容の見直しを行っていきます。
b. 木材関連分析(バリューチェーン上流)
Locate
木材は一般的に環境への負荷が小さく持続可能な素材とされていますが、楽器用の木材には、その特性や風合いにより代替が難しいものもあり、持続性の確保が求められています。加えて、SBTN(The Science Based Targets Network)のHigh Impact Commodity List(注6)では、木材が「High Impact Commodity」として分類されており、科学的にも自然への影響が大きいとされています。これらの要素を踏まえ、木材についての評価を行うことが重要であると再認識し、今回の分析を実施しました。
(注6)自然への影響が大きいとされるコモディティ(原材料)をリスト化したもの
「木材調達」優先地域の特定
当社グループが調達する代替困難な木材の原産エリアを世界地図にプロットし、その中でも特に重要な樹種の原産地を優先地域として特定しました(図3)。
(図3)木材調達に関する優先地域

Evaluate/Assess
Locateで特定した優先地域の依存と影響に関する評価は、ENCOREを使用して2025年に再実施しました。これに事業を通じた自社の知見を加え、ENCOREの分析を補完する形で依存度と影響度を再評価し、特に重要なリスクと機会をダブルマテリアリティの視点で整理しました(表4)。なお、ENCOREにおいて依存または影響ありと分類された項目のうち、当社グループの事業実態に照らして影響が限定的または認められないと判断した項目については、本表では記載を省略しております。
(表4)依存と影響に関わるリスク、機会およびヤマハの活動
※生態系への直接的な依存が限定的である「文化的サービス」については、寄与が少ないため一覧表から除外しております。
Prepare
LEAPアプローチのL、E、Aの分析により特定された依存、影響、リスク、機会に対応するため、これらを評価し管理するための戦略や開示指標を設定しました。(「④指標及び目標」をご参照ください)
その他、今回の分析で特定された優先地域における、持続的な木材調達に関する具体的な取り組みについては、おとの森活動(注7)のウェブサイトをご参照ください。
(注7)
③ リスクと影響の管理
当社では、取締役会の監督に基づき、代表執行役社長の諮問機関としてリスクマネジメント委員会を設置し、企業活動・行動に関わる気候変動や生態系に関連するものを含むすべてのリスクを対象とした全社横断的な評価の仕組みを採用し、リスクの抽出と評価を行っております。
サステナビリティ委員会の下部組織である気候変動部会および環境部門では、シナリオ分析結果をもとに「損害規模」と「発生頻度」を評価し、リスクと機会(上流および下流のバリューチェーンにおける自然関連の依存関係、影響を含む)をリスト化しております。特に重要なリスクと機会への対応は関連する他の部会(資源循環部会、調達部会)や部門が随時協働して行い、その進捗はモニタリングされ、サステナビリティ委員会に報告されます。また、サステナビリティ委員会や部会の担当範囲を超える対応が必要となる重要なリスクおよび機会については、逐次取締役会へ報告され、対応方針を審議検討しております。
リスクマネジメント委員会の委員長(執行役)はサステナビリティ委員会の委員も務めており、両プロセスは有機的に連動しております。これにより、気候変動や自然関連のリスクと機会に関する対応が一貫して行われ、戦略的なリスクマネジメントが推進されております。
<参考>
リスクマネジメント:
④ 指標及び目標
当社ではサプライチェーンを含むグループ全体のCO2削減を横断的に管理するため、温室効果ガスの総排出量(スコープ1、スコープ2、スコープ3)をGHGプロトコルの基準に基づき算出し、指標としております。さらに、スコープ1およびスコープ2に加え、スコープ3の一部項目と取水量のデータについては第三者検証を実施しております。
また、TNFDが開示を求めるコアグローバル指標と当社の開示状況については以下のとおりです。
依存と影響に関する指標
リスクと機会に関する指標
上記のうち、現時点で分析が完了していないものについては「未対応」としていますが、今後分析に取り組み、可能な項目から随時公開していきます。
これらを踏まえ、重要な気候変動および自然関連の依存、インパクト、リスク、機会を評価し管理するための指標と目標を以下のとおり設定しております。
気候変動対応と自然資本保全に関する短期・中期・長期の指標及び目標
当社グループは、気候変動対応と自然資本保全の両面で持続可能な社会の実現に貢献することを目指し、短期・中期・長期の視点を踏まえた取り組みを推進していきます。
気候変動への対応
気候変動への対応に関しては、2025年11月に国際的な気候変動イニシアティブである Science Based Targets initiative(SBTi;注8)より、当社グループの温室効果ガス排出削減目標について、科学的根拠に基づくネットゼロ目標の認定を取得しました。当社グループはこの長期目標を2050年に向けた気候変動対応の指針として位置づけ、短期・中期の目標および施策と連動させながら、温室効果ガス排出量の削減に向けた取り組みを着実に推進していきます。
当社グループにおける再生可能エネルギーの導入は、国内外14拠点に拡大しており、このうち4拠点では使用電力の100%を再生可能エネルギーで賄っております。2026年3月期におけるグループ全体の再生可能エネルギー由来の電力割合は約25%となりました。また、自己投資およびPPA(電力購入契約)を通じて、日本、中国、マレーシア、インドネシアなどにおいて合計約12.6MWの太陽光発電設備を導入しております。
(注8)CDP、国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)が共同で設立した国際的なイニシアティブ。パリ協定目標達成に向け、企業が科学的根拠に基づく温室効果ガス削減目標を設定することを支援し、その目標を独立して評価・認定している
持続可能な木材の利用
木材を持続可能な形で利用し続けるには、森林保全や木材資源量への配慮と、サプライチェーンが経済的にも持続可能であるよう、雇用創出やインフラ整備といったコミュニティーの発展に資することが必要です。当社グループでは、木材デューディリジェンスの仕組みを構築し、購入する木材の原産地や伐採の合法性、資源の持続可能性に関する書類調査を実施し、その結果、リスクが高いと判断された木材については、現地訪問を含む追加調査および木材調達部門やサステナビリティ部門で構成する審査会での審議を通じて、より厳格な合法性などの確認を行っております。
2024年3月期に木材デューディリジェンスに用いるリスク評価の基準を刷新しました。その中の、持続可能性の確認まで含めた「持続可能性に配慮した木材」の基準については、2023年5月に国際的な環境団体Preferred by Nature監修のもと新たに制定し、2024年7月に見直しを加えました。本基準を制定するまでは第三者によって持続可能と判定された認証木材の使用率を拡大することで、持続可能な木材利用に取り組んできました。しかし、樹種によっては認証木材の流通量が少なく、認証木材以外の木材について持続可能性を評価できないことが課題でした。本基準は、非認証木材に対し、デューディリジェンスを通じて持続可能性を客観的に判断するための評価項目および判断基準を定めるものです。2026年3月までに、東南アジア産の植林木については現地調査を実施し、実地確認に基づく持続可能性の評価と判定を進めた他、サプライチェーンが多岐にわたる北米材の調査について、本活動の趣旨をサプライヤーに個別に説明した上で、持続可能性の判定に必要な書類の入手を行いました。今後も評価スキルの向上や調査のための要員教育を通じてデューディリジェンスの精度向上と実行体制の拡充を図るとともに、サプライチェーン上の生産者や取引先など関係する人々の理解を得ながら、サプライヤーと連携し、持続可能性に配慮した木材の利用拡大を進めていきます。
<参考>
指標及び目標に関する最新データ(ESGデータ<環境>):
脱炭素社会への移行
当社グループはサプライチェーンを含めたグループ全体のCO2削減を横断的に管理し、温室効果ガスの総排出量(スコープ1、スコープ2、スコープ3)を着実に削減していくことで、人間社会および地球のあらゆる生物の脅威となる急速な気候変動を緩和し、脱炭素社会への移行に貢献します(図4)。
(図4)脱炭素社会への移行計画

ネイチャーポジティブへの移行
当社グループはネイチャーポジティブを目指し、事業活動や製品が生物多様性に与える影響をバリューチェーン全体で考慮し、悪影響の最小化に取り組みます(図5)。特に森林保全に注力し、サステナブルな木材活用に努めつつ、楽器適材の育成を推進します。
(図5)ネイチャーポジティブへの移行計画

<参考>
気候変動への対応とTCFDおよびTNFDに基づく情報開示の詳細:
木材資源への取り組みの詳細:
⑤ 社外からの評価
CDP「気候変動」および「水セキュリティ」両分野で最高評価の「Aリスト」企業に選定
当社は、国際的な環境非営利団体CDP(注9)より、気候変動および水資源保全に関する積極的な取り組みと透明性が評価され、2025年度の「気候変動」および「水セキュリティ」の両分野において、最高評価である「Aリスト」企業に選定されました。当社のAリスト選定は、「気候変動」分野では3年連続4回目、「水セキュリティ」分野では初めてとなります。
当社グループは今後も、気候変動対応と自然資本保全の両面で持続可能な社会の実現に貢献することを目指し、長期的な視点で気候変動や自然関連課題への対応を進めていきます。
(注9)企業や自治体の環境情報開示のための世界的なシステムを有する国際的な非営利団体
(3) 人的資本
当社は、ともに働く仲間の可能性を信じ、多様な個性を尊重する考えのもと、一人ひとりが能力をいかんなく発揮できる環境の整備に努めております。こうした価値観をベースに醸成してきた健全で創造的な組織風土のもと、自律的に挑戦を続ける従業員が互いに影響し合い、新たな価値や成果を創出していくことにより、経営ビジョンを実現してまいります。
① 戦略
中期経営計画「Rebuild & Evolve」で掲げている事業ポートフォリオマネジメントを強化するため、経営戦略・事業戦略に応じて適切に人的資本を強化・配分する戦略型の人材マネジメントによる人材ポートフォリオ変革を推進しております。具体的には以下の3つの重点テーマを掲げ、人材の質・量・活力の定量化と最適化/最大化を通じて事業を牽引する仕組みの構築に取り組んでおります。
<参考>
個々の人材施策の詳細:
重点テーマ1:事業戦略連携型人材マネジメントシステムの構築(質・量)
当社は、事業戦略の実行に必要な人材ポートフォリオを適時に実現することにより、成長領域における競争力強化を図っております。
2026年3月期からHRBP(事業戦略に連動したビジネスパートナー型の戦略人事機能)を事業領域ごとに設置し、戦略達成に必要な要員構成と現状の要員構成とのギャップを可視化しております。そのうえで、迅速に最適な要員構成を実現できるよう、採用計画、配置計画、育成計画の策定に取り組んでおります。
また、人材獲得チャネルを国内外の様々な領域に広げ、グローバルでの事業に貢献し得る人材や、成長事業領域の即戦力人材を幅広く採用しております。加えて、キャリア採用の求人に対して社内からの応募も可能とする仕組みを導入し、社内公募を通じた人材の最適配置を推進しております。これにより、社外からの人材獲得と社内人材の活用を一体的に進め、事業戦略に応じた適所適材の実現に取り組んでおります。

重点テーマ2:組織力強化と個の成長を後押しする仕組みの構築(活力)
当社は、従業員一人ひとりの挑戦と成長を通じて組織の活力を高め、その活力が事業戦略の実行力向上および企業価値の向上につながることを目指しております。その実現に向けた基盤として、年間の人的投資額を拡充し、組織としても個としても「学び」「実践し」「成長する」機会を人事施策と人事インフラの両面から充実させることに取り組んでおります。
具体的には、ラーニングマネジメントシステム(LMS:従業員の自律的な学習を支援する教育管理システム)の導入により学習機会を提供するとともに、タレントマネジメントシステム(TMS:従業員のスキル・経験・キャリア志向等の情報を一元管理し、人材配置や育成に活用するシステム)を活用することで、個の成長の促進に取り組んでおります。さらに、従業員個人の手上げで挑戦可能な社内公募や基幹職ライセンス制度といった、主体的キャリア形成を後押しする仕組みを確立しております。
また、創造的で挑戦的な組織風土の醸成にも取り組んでおります。グローバルな事業展開と多様な顧客に対応するには多様な人材の貢献が不可欠と捉え、これまでに築いてきた健全な職場風土を土台として、DE&I推進活動や傾聴トレーニング等の組織開発、また、阻害要因の解消(メンタル不調やハラスメントの防止など)に継続的に取り組んでおります。さらに、当期からはこれらの施策の分析・統合を通じて、一人ひとりの活力を引き出し成果につなげる組織文化・マネジメントの変革に取り組んでおります。
重点テーマ3:人的資本成長サイクルの構築(質・量・活力)
当社は、人的投資とその成果の関係を可視化することで、投資の質を高め、継続的な企業価値向上につなげることを目指しております。
具体的には、各種データの取得・整理と分析を通じて、人的投資と投資効果の相関や因果の関係性解明(人的資本インパクトパスの設計)に取り組んでおります。これにより、人的投資の優先順位付けが可能となり、経営判断の高度化につながると考えております。中長期的には、人事戦略が人的資本の増加に、人的資本の増加が事業成長に、そして事業成長がさらなる人的投資につながっていく人的資本成長サイクルを構築し、さらには人材獲得競争力の向上にもつなげてまいります。

3つの重点テーマの関連性
これらの3つの重点テーマは相互に連関しており、重点テーマ1による人材ポートフォリオの最適化と、重点テーマ3によるデータに基づくマネジメント高度化を基盤として、重点テーマ2における組織の活力向上および成果創出につなげてまいります。また、多様な人材の活躍促進、グローバルな人材配置、従業員エンゲージメント向上および専門性強化といった各施策が相互に連動することで、人的資本経営のサイクルが確立し、事業競争力の向上につながるものと認識しております。
② 指標及び目標と具体的取り組み
当社は、重点テーマ2「組織力強化と個の成長を後押しする仕組みの構築」に基づき、以下の主要な指標を設定しております。これらの指標を通じて、人的投資の拡充および組織・人材マネジメント施策の実施に取り組むことで、従業員の成長と組織の活力向上を促し、事業戦略の実行力強化ならびに中長期的な企業価値向上につなげてまいります。
なお、重点テーマ1および重点テーマ3は、事業戦略と連動した人材ポートフォリオマネジメントや人的資本に関するデータ基盤の整備・活用といった、主にプロセスの高度化に関する取り組みであり、その進捗は個別施策および管理指標により把握しております。これらの取り組みの効果は、人的投資の効率化や最適配置を通じて、重点テーマ2に関連する各指標の改善に結びつくものと考えております。
中期経営計画(2025年4月~2028年3月)の主な指標・目標と実績・成果
③ 人材の採用
当社は、人材ポートフォリオマネジメントの実行施策として、人材の採用に取り組んでおります。人材ポートフォリオの転換に必要な人材要件と人数に基づき採用計画を策定しており、2023年3月期以降は技能職を除く新規採用者のうちキャリア採用者が約4割を占めております。
新卒採用計画は中長期的に必要な人員構成に基づいて策定し、インターンシップ拡大とコース別採用により適所適材での採用を実施しております。キャリア採用計画は事業戦略上での優先度の高い人材獲得を目的として策定し、ダイレクトリクルーティング等の採用マーケティングを強化して採用計画の達成に努めております。
また、人数の確保にとどまらず、事業背景に応じて専門性の高い人材や多様な人材(外国籍人材、女性技術者など)の採用を推進しております。
<参考>
採用人数実績の詳細(ESGデータ<社会>):
人材ポートフォリオ転換に向けた人材採用の取り組み(技能職を除く)
④ リスク管理
人的資本に関するリスクについては、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク 人材・労務」をご参照ください。
主な対策として、グループ人材マネジメント規程および関連するガイドラインを策定し、グループ各社に対して、その周知及び実施状況のモニタリングを行っております。
⑤ ガバナンス
人的資本に関するガバナンスについては、「
主な施策として、代表執行役社長の諮問機関として経営会議および人材開発委員会を設置し、経営会議では経営に関する重要な人事事項を、人材開発委員会では経営人材に関わる諸テーマを審議し、代表執行役社長に答申しています。その他、人権やダイバーシティに関する取り組みを推進するため、サステナビリティ委員会の下部組織として人権・DE&I部会を設置しております。
⑥ 社外からの評価
DE&I、両立支援、健康経営に関する取り組みや成果が認められ、ヤマハ㈱およびヤマハグループ企業にて、以下の評価・表彰を得ております。
活動に対する評価・表彰(一部抜粋)
当社グループは、リスクへの対応力を向上させ、健全で透明性の高い経営を実践するため、リスクマネジメントの推進体制や仕組みの整備・改善に取り組んでおります。
(1) リスクマネジメント体制
当社は、代表執行役社長の諮問機関としてリスクマネジメント委員会を設置し、リスクマネジメントに関わるテーマについて全社的な立場から審議し、代表執行役社長に答申しております。同委員会の下部組織として、全社横断的な重要テーマについて活動方針の策定やモニタリングを行う「BCP・災害対策部会」「財務管理部会」「コンプライアンス部会」「輸出審査部会」「情報セキュリティ部会」を設置しております。また、事業活動において全社的な影響が及ぶような重大なリスクが顕在化した場合には、代表執行役社長を総本部長とするリスク対策総本部を設置し、当該リスクに対応します。
(2) リスク管理の取り組み
リスクマネジメント委員会では、識別した事業に関連するさまざまなリスクを大きく「外部環境リスク」「経営戦略リスク」「事業活動に係る業務プロセスリスク」「経営基盤に係る業務プロセスリスク」の4つに分類し、リスクの重要性を想定損害規模と想定発生頻度に応じて評価しており、各リスクに対するコントロールレベルを評価し、優先的に対処すべき重要リスクを特定するとともに担当部門を定め、リスク低減活動の推進によりコントロールレベルの引き上げを図っております。経営者が連結会社の経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは以下のとおりです。
<事業に関するリスクの分類>

<リスクマップ>

(3) 主要なリスクの詳細
当社で「損害規模(大)」と認識している主要なリスクの詳細は以下のとおりです。関連する中期経営計画の戦略方針を文中に記載しております。中期経営計画の戦略方針については「1.経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をご参照ください。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
当社グループの連結財務諸表は、IFRSに準拠して作成されております。この連結財務諸表の作成にあたっては、経営者による会計方針選択の判断と適用を前提とし、決算においては資産・負債の残高、報告期間における収益・費用の金額に影響を与える見積りを必要とします。これらの見積りについて、経営者は、過去の実績等を勘案し合理的に判断しておりますが、その性質上、実際の結果と異なる可能性があります。
重要な会計方針及び見積りの詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 連結財務諸表注記 3.重要性のある会計方針、4.重要な会計上の見積り及び判断」に記載のとおりです。
当連結会計年度における経営環境を振り返りますと、欧州市場での消費や投資減速、米国の追加関税、中国経済の停滞、地政学リスクの高まりや世界的な物価上昇など、経済・市場環境は厳しく、中期経営計画策定時の想定を大きく超える変化も生じ、当社グループを取り巻く事業環境は、今後も一層その不透明さが増していくものと認識しています。このような環境の中、当社グループは、2025年5月に中期経営計画「Rebuild & Evolve」を発表し、低下した競争力・収益性を早期に回復させ、当社の強みとなる領域に積極的に投資することで再び成長軌道を描く3年間と位置づけ、3つの戦略方針「強固な事業基盤の再構築」、「未来を創る挑戦」、「経営基盤の強化」を掲げて各施策を進めてきました。
財務目標については、売上収益は主要市場の消費減速、プロフェッショナル音響機器におけるコロナ後の高需要一巡などにより、円安の追い風を受けながらも前年並みにとどまりました。事業利益は米国の追加関税、部品・原材料費、人件費、物流費等のコスト上昇が重なり、課題事業の構造改革や価格の適正化を進めるも、当初の目標を下回りました。また、重点戦略の達成度合いを測るKPIについては、「戦略投資額」と「セグメント別ROIC」を除き、目標に向け概ね順調に進捗しました。
各戦略方針について、具体的な取り組みの進捗を説明いたします。
《強固な事業基盤の再構築》
中期経営計画初年度は「Rebuild」(強固な事業基盤の再構築)に注力しました。特に、収益性が低下しているピアノ、ギター、ホームオーディオ、国内楽器事業について、今中期経営計画期間内での抜本的な収益性改善を最優先事項として取り組んできました。ピアノ事業では、生産拠点再編による収益性改善は計画通りに進捗していますが、欧州、中国を中心とした主要市場で需要回復が遅れており、市場在庫を適切にコントロールしながら、品質維持とコスト低減を両立させる取り組みをさらに進め、事業全体の利益率の向上を実現します。ギター事業では、固定費の削減、製造工程の効率化、高付加価値商品の拡充等が順調に進捗し、計画を前倒しして収益性を改善することができました。ホームオーディオ事業では、販売地域の絞り込み及び趣味層を対象にした中高級製品への絞り込みと、外部委託生産拡大による開発・製造固定費削減を進めました。国内楽器事業については、価格の適正化、商品ラインアップの見直し、店舗・教室の統廃合を進めているものの、市場自体の冷え込みもあり、目標に対する進捗には遅れが生じておりますが、目標達成を最重点課題の一つとして取り組みを強化していきます。
中期経営計画における経営目標と当連結会計年度の進捗は以下の通りです。

《未来を創る挑戦》
音・音楽の愉しみ方を広げる体験価値の提供を通じて、事業ドメインの拡大に取り組んでいます。ミュージックコネクト事業(学び・表現・人のつながり創出)では、Yamaha Music School Onlineや楽器演奏をより愉しむためのスマートフォン用アプリなどのコンテンツを拡充しました。また、Yamaha Music IDを活用した多様な製品・サービスから顧客に最適なコンテンツを提供するメンバーシッププログラムの運用を欧州より開始しました。新規事業開発戦略については、2025年4月より新規事業開発部を新設し、「楽器・音響機器メーカー」の枠を超えた事業領域へ拡大していくためのグランドデザインと事業開発のメカニズム構築を進めています。米国シリコンバレーのYamaha Music Innovations, LLCによる事業開発戦略については、アフリカで1億人以上の利用者がいる音楽配信プラットフォーマーAudiomack社との協業や、音楽キャリア支援プラットフォームを運営する米国スタートアップ企業Groover社との協業など、立ち上げから2年という短い期間でスタートアップ12社との協業、7件の投資を実施しました。2026年3月には、ヤマハ及びパートナー企業の幅広いサービスをワンストップで提供し、より快適かつ効果的な音楽制作を実現するサブスクリプションサービス「Yamaha Creator Pass」を立ち上げました。このように外部リソースを活用したスピード感ある事業開発を進めています。また、オープンイノベーションの仕組みの一つとして、「未来を創る挑戦を、世界中のイノベーターと共に」という狙いのもと、グローバルビジネスコンテスト「TRANSPOSE Innovation Challenge」を開催しました。63か国から300件を超える優れたビジネスアイディアが寄せられ、「音・音楽とテクノロジーによる社会課題解決」に大きなポテンシャルがあることを確信しました。このような様々な挑戦的な取り組みの中で、成長領域には積極的に投資し、10年後の新たな成長領域となる事業を育てていきます。
中期経営計画における経営目標と当連結会計年度の進捗は以下の通りです。

《経営基盤の強化》
資本・資産効率向上については、課題事業のターンアラウンドに向けた迅速な取り組み、そして成長事業への積極的な投資が行われるよう事業ポートフォリオマネジメントの仕組みを整備し、定期的な事業評価を進めています。その一つとして、2026年2月にゴルフ用品事業の終了を発表しました。今後も新陳代謝を高め、経営資源を成長分野に集中していきます。また、遊休不動産の処分や政策保有株式の縮減による資産の圧縮も進めました。人的資本の強化については、「組織力の強化と個の成長」の実現に向け、事業・部門戦略に沿った人材の獲得・育成等を行うための人事組織・体制の強化、公募制度や学びの機会創出、勤務体系の柔軟化など人事共通基盤・制度の整備も同時に進めました。グループガバナンスについては、執行スピードと実効性を両立させるべく、適切性・有効性を十分に考慮した上で現場に権限を移し、細部の手順を定めた規程は柔軟な運用が可能なガイドラインに移行するなど、現場の自律的かつスピーディな行動を促す改善を進めました。また、監査・モニタリングにおいてはリスクアプローチを一層進め、リスク低減の実効性は担保しつつ、監査・モニタリングの対象を削減することで、本社・グループ子会社の業務負荷軽減も進めました。コーポレートガバナンスについては、取締役会での中長期戦略および、事業ポートフォリオ議論を充実させ、実効性向上と監督機能のさらなる強化を進めました。
中期経営計画における経営目標と当連結会計年度の進捗は以下の通りです。

《サステナビリティを価値の源泉に》
社会課題の解決に向けても様々な取り組みを進めました。「おとの森」プロジェクトでは、タンザニアにおけるアフリカンブラックウッドの植林に加え、インドでのローズウッド資源保全のプロジェクトが本格化しました。スクールプロジェクトでも、インド、フィリピン、エジプトでパイロット展開の準備が進み、累計で500万人以上の子どもたちに楽器を使った音楽教育の機会を届けることができました。他にも、音楽を通じて人と人がつながる場を創るCommunity Building with Music、演奏することを諦めかけた人を技術で支えるVXDなど、ヤマハならではの価値提供を続けています。これらの取り組みは、当社がどのような企業でありたいのかを社会に示すとともに、中長期の企業価値向上にもつながる極めて重要なものであり、今後も着実な施策実行と情報発信を進めていきます。
中期経営計画における経営目標と当連結会計年度の進捗は以下の通りです。

財務目標については、中期経営計画における経営目標「売上成長率5%」「ROE 10%」「事業利益率13.5%」「総還元性向50%以上」に対して、当連結会計年度の進捗はそれぞれ「0.7%」「5.1%」「6.9%」「112%」となりました。

(イ)セグメントごとの売上収益の状況
当連結会計年度の売上収益は、中国でのピアノの販売減や、業務用音響機器の高需要一巡が影響したものの、北米を中心としたギターの販売増や全地域での電子楽器の販売増などにより、前期に対し32億50百万円(0.7%)増加の4,653億30百万円となりました。
セグメントごとの状況を示すと、次のとおりであります。
なお、当連結会計年度より、「電子デバイス事業」の名称を「モビリティ音響機器事業」に変更し、「その他の事業」セグメントから「音響機器事業」セグメントに組み替えております。前連結会計年度との比較・分析は変更後の区分に基づいております。
楽器事業は、中国でのピアノの販売減があったものの、北米を中心としたギターの販売増や全地域での電子楽器の販売増などにより、前期に対し88億24百万円(3.0%)増加の3,049億24百万円となりました。
商品別では、ピアノは、主要市場の中国における販売低迷が底打ちしたものの、インフレ等による個人消費の下押しを受け中国以外の市場も需要が弱く、減収となりました。電子楽器は、市場在庫の過剰感が解消され、市況が安定する中でトップシェアを堅持したことに加え、シンセサイザーやポータブルキーボード、エレクトーン等の新商品が高い評価を受け、増収となりました。管弦打楽器は、コロナ後の吹奏楽活動の再開により各地で堅調な市況が続き、増収となりました。ギターは、中高級ラインアップの拡充、マルチエフェクターのフラッグシップモデルの投入等により大幅な増収となりました。
地域別では、日本は、インフレにより家計の負担が増す中で高額品の購入に慎重姿勢が見られ、アコースティックピアノが苦戦したものの、ピアノ需要をデジタルピアノで取り込んだほか、エレクトーンのフラッグシップモデルが好調、また管弦打楽器で一般趣味層の需要が堅調に推移したことにより、全体では増収となりました。北米は、ピアノで高額品の需要が弱く減収となったものの、ギターはアコースティックギターとアンプ、エフェクター等の周辺機器において大幅な増収となりました。欧州は、ピアノと電子楽器では種々の販促策の導入、管弦打楽器では学販需要期における普及品販売の好調、ギターでは市況低調による競争激化の中、販促強化と競争力ある新商品の投入が寄与し、全体で増収となりました。中国は、アコースティックピアノにおいて、市中在庫の消化を優先する中で第3四半期連結会計期間以降は増収に転じるものの、それ以前の大幅な販売減により通期では減収、全体でも減収となりました。その他の地域では、中近東では中東情勢の悪化により急ブレーキがかかる一方で、ブラジルをはじめとする中南米やインド、オーストラリアは好調であり、地域全体としては前期からの成長基調を維持し増収となりました。
音響機器事業は、業務用音響機器の高需要一巡が影響し、前期に対し53億20百万円(3.6%)減少の1,424億44百万円となりました。
商品別では、コンシューマー音響機器は、ホームオーディオの展開モデル・地域を絞り込み、構造改革を推進したことにより減収となりました。プロフェッショナル音響機器は、中南米市場の活況が続きスピーカーの拡売を進めたものの、前期の欧州を中心とした業務用音響機器の高需要が一巡したことで減収となりました。モビリティ音響機器は、日本の自動車メーカーでの採用が広がったものの、競争激化により事業環境が悪化する中国自動車メーカー向けの販売が減少し、減収となりました。
その他の事業は、前期に対し2億53百万円(1.4%)減少の179億60百万円となりました。
自動車用内装部品、FA機器は需要堅調で増収となった一方で、ゴルフ用品は海外主力市場の縮退により販売が落ち込み減収となりました。
(ロ)売上原価と販売費及び一般管理費
売上原価は、前期に対し44億19百万円(1.5%)増加の2,903億58百万円となりました。売上原価率は、前期から0.5ポイント上昇し62.4%となりました。
売上総利益は、前期に対し11億69百万円(0.7%)減少の1,749億71百万円となりました。売上総利益率は、前期から0.5ポイント下落し37.6%となりました。
販売費及び一般管理費は、前期に比べ36億72百万円(2.6%)増加の1,430億91百万円となりました。売上収益販売管理費比率は、前期から0.6ポイント上昇し30.8%となりました。
(ハ)事業利益
事業利益は、前期に対し48億41百万円(13.2%)減少の318億79百万円となりました。
報告セグメントごとの事業利益では、楽器事業は、為替による23億円の増益影響があったものの、前期に対し8億50百万円(3.9%)減少の212億18百万円となりました。音響機器事業は、為替による3億円の増益影響があったものの、前期に対し35億86百万円(25.0%)減少の107億74百万円となりました。その他の事業は、為替による1億円の増益影響があったものの、前期に対し4億4百万円減少の1億13百万円の損失(前期は2億91百万円の利益)となりました。
要因別には、為替影響(27億円)や前期構造改革効果(22億円)等の増益要因に対し、米国追加関税のネット影響(18億円)や減産モデルミックス他(65億円)等の減益要因により、前期に比べ減益となりました。
(注)事業利益とは、売上総利益から販売費及び一般管理費を控除して算出した日本基準の営業利益に相当するものです。
(ニ)その他の収益及びその他の費用
その他の収益は、前期に対し3億65百万円(16.1%)増加の26億34百万円となりました。その他の費用は、ゴルフ用品事業終了に伴う構造改革費用19億54百万円を計上したものの、前期にピアノ生産設備の減損損失等、構造改革費用142億63百万円を計上した影響により、130億55百万円(71.4%)減少の52億40百万円となりました。
(ホ)金融収益及び金融費用
金融収益は、主として為替差益により、前期に対し20億98百万円(45.3%)増加の67億29百万円となりました。金融費用は、主として前期に為替差損を計上した影響により、21億47百万円(75.0%)減少の7億17百万円となりました。
(ヘ)税引前当期利益
税引前当期利益は、前期に対し128億25百万円(57.1%)増加の352億87百万円となりました。売上収益税引前当期利益率は、前期から2.7ポイント上昇の7.6%となりました。
(ト)法人所得税費用
法人所得税費用は、主として税引前当期利益の増加により、前期に対し24億78百万円(27.6%)増加の114億72百万円となりました。
(チ)親会社の所有者に帰属する当期利益
親会社の所有者に帰属する当期利益は、前期に対し103億69百万円(77.7%)増加の237億20百万円となりました。基本的1株当たり当期利益は、前期の27円58銭から52円70銭となりました。
(注)当社は、2024年10月1日を効力発生日として、普通株式1株につき3株の割合で株式分割を行っております。前連結会計年度の期首に当該株式分割が行われたと仮定して、基本的1株当たり当期利益を算出しております。
(リ)為替変動とリスクヘッジ
海外子会社の売上収益は、期中平均レートで換算しております。当連結会計年度の米ドルの期中平均レートは前期に対し約2円円高の151円となり、前期に対し約19億円の減収影響となりました。また、ユーロの期中平均レートは前期に対し約11円円安の175円となり、前期に対し約64億円の増収影響となりました。また、人民元など、米ドル、ユーロ以外の通貨は、前期に対し約4億円の減収影響となり、売上収益全体では、前期に対し約41億円の増収影響となりました。
また、事業利益につきましては、米ドルは充当(マリー)効果により、決済レートの変動による為替影響は概ねヘッジできているものの、海外子会社の事業利益の換算等により、約3億円の減益影響となりました。ユーロの決済レートは、前期に対し約9円円安の173円となり、約34億円の増益影響となりました。また、他の通貨を含めた全体では前期に対し約27億円の増益影響となりました。
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 金額は平均販売価格によっており、セグメント間の内部振替後の数値によっております。
当社グループは、製品の性質上、原則として見込生産を行っております。
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 金額は外部顧客に対する売上収益であります。
当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度末の5,912億78百万円から262億90百万円(4.4%)増加し、6,175億68百万円となりました。流動資産は、前連結会計年度末から130億11百万円(3.7%)増加し、3,649億45百万円となり、非流動資産は、132億78百万円(5.5%)増加し、2,526億23百万円となりました。流動資産では、為替による海外子会社の資産評価が増加したことに加え、税引前当期利益や投資有価証券の売却により、現金及び現金同等物が増加しました。非流動資産では、割引率の見直しによる退職給付債務の減少により、退職給付に係る資産が増加しました。
当連結会計年度末の負債合計は、前連結会計年度末の1,411億65百万円から33億27百万円(2.4%)減少し、1,378億37百万円となりました。流動負債は、前連結会計年度末から86億49百万円(8.1%)減少し、980億8百万円となり、非流動負債は、前連結会計年度末から53億21百万円(15.4%)増加し、398億28百万円となりました。流動負債では、有利子負債が減少しました。
当連結会計年度末の資本合計は、前連結会計年度末の4,501億13百万円から296億17百万円(6.6%)増加し、4,797億30百万円となりました。自己株式の取得及び配当金の支払いによる株主還元を行ったものの、当期利益により利益剰余金が増加したことに加え、為替変動の影響によるその他の資本の構成要素の増加により、全体では増加となりました。
当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前連結会計年度末に比べ91億33百万円増加(前年同期は17億68百万円減少)し、期末残高は1,089億52百万円となりました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、主として税引前当期利益により457億77百万円の収入(前年同期は主として税引前当期利益により552億81百万円の収入)となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度の投資活動によるキャッシュ・フローは、主として有形固定資産の取得による支出により79億7百万円の支出(前年同期は主として投資有価証券の売却による収入と、有形固定資産の取得による支出により81億6百万円の収入)となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度の財務活動によるキャッシュ・フローは、主として自己株式の取得、配当金の支払い等により377億75百万円の支出(前年同期は主として自己株式の取得、配当金の支払い等により631億40百万円の支出)となりました。
(イ)資金需要
当社グループにおける主な資金需要は、製品製造のための材料、部品等の購入、労務費など製造費用と、商品の仕入、販売費及び一般管理費等、営業費用の運転資金及び設備投資資金、並びにM&Aや資本提携を目的とした投資資金であります。
当連結会計年度の設備投資額は、前期の199億59百万円から55億69百万円(27.9%)減少し、143億90百万円となりました。設備の更新改修を中心として減価償却費(141億48百万円)と同程度の設備投資を行いました。
研究開発費は、前期の269億77百万円から7億43百万円(2.8%)増加し、277億20百万円となりました。売上収益研究開発費比率は前期の5.8%から0.2ポイント上昇し、6.0%となりました。
(ロ)資金調達
運転資金及び設備投資資金について、当社及び国内子会社、一部の海外子会社においてグループ内資金を有効活用するためグループファイナンスを運用しています。また、当社及び一部の子会社においては、借入金額・期間・金利等の条件を総合的に勘案し、金融機関から借入を行っております。
特記すべき事項はありません。
当社グループは、ヤマハが目指すものとして「世界中の人々のこころ豊かなくらしの実現」を、企業理念として 「感動を・ともに・創る」を掲げています。この理念の実現に向け、製品・サービス分野における新たな価値創出を目的として、コア技術の更なる高度化および拡張に資する研究開発を進めております。取り組んでいる研究開発の領域は、アコースティック技術、デジタル技術を中心に、音そのものに留まらず、基礎から応用まで、音の活用を支える技術分野に大きく広がっています。
当連結会計年度は、
◆ 音・音楽領域における新たな価値創造の可能性を追求する取り組み
◆ 世界中の人々の自己表現、多様な個性の発揮を後押しする製品・サービス
◆ 多様なステークホルダーと協業し、社会課題の解決に資する価値を共創
をテーマに研究開発を進めました。
これら3つのテーマのもと、当社グループは音・音楽の価値拡張と社会課題の解決を両立する研究開発に取り組みました。
「音・音楽領域における新たな価値創造の可能性を追求する取り組み」では、車載スピーカー向けの新技術「Isolation Frame」を開発しました。近年、自動車の車内は「セカンドリビング」として多彩な音響エンターテインメントを楽しむ空間へと進化しています。一方で、出力要求の増大、スピーカーに対する入力増大の傾向により、ドアへのスピーカー設置に伴う振動伝播が、異音や共振音を発生させ、音質低下の要因となるケースも増えています。「Isolation Frame」は、当社特許取得済み振動抑制機構によりスピーカーと車体パネルを機構的に分離することで振動の伝搬を抑制します。この結果、入力レベルの上昇に伴う異音や共振音が低減し、スピーカー本来の性能を最大限に引き出すことができます。これにより、リズム楽器の力強さや中低音楽器の豊かな響きを、より自然でクリアに再現し、快適な車室音響空間を実現します。今後、量産化に向けて国内外の自動車メーカーへの提供を開始し、快適な車内空間の創出に貢献してまいります。

「世界中の人々の自己表現、多様な個性の発揮を後押しする製品・サービス」では、クリエイター向けの新たな統合型プラットフォーム「Yamaha Creator Pass」(ヤマハ・クリエイター・パス)の提供を開始しました。ヤマハおよびパートナー企業の幅広いサービスをワンストップで提供し、より快適かつ効果的な音楽制作を実現するサブスクリプションサービスです。専用アカウント「Yamaha Creator ID」一つで、音楽・ポッドキャスト制作者向けの多様なツールを利用できます。制作レベルや目的に応じて複数のプランから選択でき、楽曲・音声コンテンツの制作・編集・配信から、ジャケット写真などのグラフィック生成、プロモーション動画制作、グッズ制作・販売まで、クリエイタージャーニーにおける一連のプロセスをシームレスに進めることができます。基本プランには、音楽制作ソフトウェア「Output」、AIマスタリング・ミキシングツール「LANDR」、ポッドキャスト制作ツール「Riverside」、アーティスト支援プラットフォーム「Groover」などが含まれます。さらに、追加ツールの利用時にはユーザー限定の特典割引が適用されるなど、各ユーザーのニーズに応じた柔軟な制作環境を実現します。今後もコンテンツ制作・配信から収益化に至るまでのクリエイタージャーニー全体を支えるために、スタートアップやパートナー企業との協働を通じて、最適なソリューションを届けてまいります。

「多様なステークホルダーと協業し、社会課題の解決に資する価値を共創」では、全日本ピアノ指導者協会(以下、ピティナ)と、ピアノの演奏を多面的に計測できるシステムを使ったピアノ演奏計測の共同研究を開始しました。ピアノの教育現場では、科学的なアプローチでより効率的に演奏を上達させたいという要望が上がっています。本研究では、ピティナの持つピアノ教育に関する知見や演奏データと、当社が持つ高精度なピアノセンシング技術および演奏データ計測システムを活かし、両者の知見や計測データ、技術を掛け合わせることで、演奏技術の発展とピアノ教育の新たな可能性を探求します。データを収集、分析、活用し、適切な形で公開するという研究サイクルを回しつつ、演奏科学研究に携わる方々と議論しながら、ピアニストや指導者にとってより効果的な演奏・指導方法の発見を目指します。
当社は、ピアノなどの楽器演奏における動作をより深く理解するために、演奏中のさまざまなデータを記録・分析する取り組みを進めています。本研究を含む活動を通じて、教育分野や演奏科学分野の発展に貢献してまいります。
当社グループの研究開発体制は、事業分野ごとに専門性を生かした形で行われています。楽器事業については当社楽器事業本部およびYamaha Guitar Group,Inc.の開発担当部門、音響機器事業については当社音響事業本部のほか、NEXO S.A.およびSteinberg Media Technologies GmbHの開発担当部門、その他の事業については当社ゴルフHS事業推進部およびヤマハファインテック株式会社の開発担当部門、全社横断のR&Dについては当社研究開発統括部が担う形で構成しております。
各セグメントにおける研究開発費の金額は以下の通りであります。
当連結会計年度における主な成果をセグメントごとに示すと次のとおりであります。
(1) 楽器事業
楽器事業においては、長年培ってきた楽器づくりの技術を基盤に、デジタル技術との融合を通じて、演奏者一人ひとりの感性や表現意図に寄り添う製品開発を進めました。
ピアノ関連では、当社フラッグシップモデルであるコンサートグランドピアノ『CFX』の開発で培った設計思想やノウハウを応用し、より多くの演奏者が表情豊かな演奏表現を追求できるグランドピアノとして『C3X espressivo』および『C2X espressivo』を開発いたしました。響板やアクションの構造を見直すことで、低音から高音まで奥行きのある立体的な響きを実現するとともに、わずかなタッチの違いを音色に反映する繊細な表現力を高めています。
また、ピアノの発音機構を物理シミュレーションによりリアルタイムで演算し音響信号を生成する「物理シミュレーション・システム」の開発に成功しました。本システムは、ハンマー、ダンパー、弦、響板、フレーム、支柱などの構成部品および空気の相互作用を考慮した精緻なシミュレーションをリアルタイムに実施するもので、3次元の有限要素法および境界要素法を用いてピアノと空気の挙動を再現します。先進的かつ独創的な音響技術の周知と楽器文化の継承を目的として、本システムを搭載した電子ピアノ試作機を浜松市に寄贈しました。
管弦打楽器関連では、アコースティック楽器の演奏感とデジタル技術を融合させたサイレントチェロ『SVC300』シリーズを開発いたしました。本シリーズでは、楽器構造や音響設計を刷新し、アコースティックチェロの自然な演奏感や表現のニュアンスを忠実に音へ反映することを追求しています。これにより、自宅練習からステージ演奏まで幅広い演奏環境に対応し、演奏者の表現領域を拡張しています。
電子楽器関連では、エレクトーンのフラッグシップシリーズ『Electone STAGEA』を約12年ぶりに刷新し、新たに『ELS-03』シリーズを開発いたしました。演奏中の操作によって音色やリズムをリアルタイムに変化させる新たな演奏インターフェースや、指の圧力の違いを繊細に音へ反映する進化した鍵盤表現技術を搭載することで、演奏者の感情やインスピレーションを即時に音楽へ反映できる、より自由で創造的な演奏体験を実現しています。
音楽制作分野では、フラッグシップモデルのDNAを継承したミュージックシンセサイザーとして、『MODX M6』『MODX M7』『MODX M8』を開発いたしました。複数のサウンドエンジンを搭載するとともに、操作性や表現力の向上を図ることで、演奏から音楽制作まで幅広い用途に対応するモデルとして進化しています。
ギター関連では、演奏性とサウンドの完成度を高次元で追求したエレキギターとして『Pacifica SC Professional』および『Pacifica SC Standard Plus』を開発いたしました。『Pacifica』シリーズの設計思想を継承しつつ、ボディ構造やネック設計、ピックアップ構成を最適化することで、幅広い演奏スタイルに対応する表現力と高い演奏性を実現し、ステージから制作環境まで多様な演奏シーンに対応するモデルとして仕上げています。
ミュージックコネクト事業においては、ヤマハ株式会社、株式会社ヤマハミュージックジャパン、一般財団法人ヤマハ音楽振興会の3社が連携し、新たなオンライン音楽レッスンサービス「YAMAHA MUSIC SCHOOL ONLINE」の提供を開始しました。本サービスは、オンライン音楽学習分野で実績を持つ米国のTrueFire Studiosのプラットフォームおよび教材コンテンツを活用して構築されており、ヤマハ認定講師によるチャットレッスンとライブレッスンの2種類の形式でお客様一人ひとりの学びに寄り添う個別指導を提供します。あわせて、楽器演奏者の練習・演奏を日常的に支えるミュージックツールアプリの拡充として、ギターチューナーアプリ「Tuner for Guitar」をグローバルで提供開始しました。また、国内で先行展開していたメトロノームアプリ「METRONOME」についても同時期に海外展開を開始しています。さらに、「Yamaha Music ID」を活用した顧客向けメンバーシッププログラムの展開を欧州で開始しました。顧客データ基盤とAIを活用して、お客様一人ひとりの属性・行動・購買データをもとに最適な楽器・サービス提案を行うことで、演奏体験の継続的な向上を支援する仕組みです。
また、米国子会社であるYamaha Music Innovations, LLCは、「ヤマハグループ音・音楽に関するAI活用基本方針」のもと、Boomy Corporation(米国)と協業し、音楽制作ツール『SEQTRAK』アプリへの生成AI機能統合に向けた技術検証を開始しました。本取り組みは、プロンプトから「欲しい音」をその場で生成し、生成したサンプル音をそのまま『SEQTRAK』での制作・演奏に活用できる新しいワークフローを提案するもので、2026年1月開催の「The NAMM Show」にて限定デモが公開されました。
これらをはじめとした研究開発およびデザインに関する取り組みは、国内外のさまざまな機関から高い評価を受けました。管楽器エントリーモデルの梱包箱デザインが、世界的に権威あるパッケージデザインのコンペティション「Pentawards 2025」において金賞を受賞しました。本デザインは、環境への配慮とともに、楽器を手にする際の期待感を高める点が評価されています。天然木材の多様性や個性を生かしたクラリネットのプロトタイプ「Designed by Nature Clarinets」は、国際的に権威あるデザイン賞である「Red Dotデザイン賞」デザインコンセプト部門を受賞しました。また、電子ピアノ『TORCH T01』、楽器演奏者向けアプリ『Extrack』、管楽器エントリーモデルの梱包箱の3件が、公益財団法人日本デザイン振興会主催の「2025年度グッドデザイン賞」を受賞するとともに、電子ピアノ『クラビノーバ CLPシリーズ』が「グッドデザイン・ロングライフデザイン賞」を受賞しました。当社のグッドデザイン賞受賞は1984年から42年連続となります。さらに、フィンガードラムパッド『FGDP-50/FGDP-30』とハイエンドヘッドホンアンプ『HA-L7A』がドイツのデザイン賞「Red Dotデザイン賞プロダクトデザイン2025」を受賞し、当社の同賞受賞は2011年から15年連続、累計35件となりました。電子ピアノ『TORCH T01』は、ドイツの国際的なデザイン賞「iFデザインアワード2026」も受賞しており、当社の同賞累計受賞数は28件となりました。フィンガードラムパッド『FGDP-50/FGDP-30』は「アジアデザイン賞2025」において銅賞を受賞し、国内外で通算3度目のデザイン賞受賞となりました。音楽制作分野では、ミュージックシンセサイザー『MONTAGE M』のマニュアルが「ジャパンマニュアルアワード2025」で最高評価「マニュアル オブ ザ イヤー」を受賞しました。ヤマハとして初の受賞となります。
これらの取り組みにより、当社は楽器そのものの完成度を高めるとともに、演奏者の感性に寄り添った新たな音楽体験の創出を進めています。
(2) 音響機器事業
音響機器事業においては、高度なデジタル信号処理技術とネットワーク技術を核に、プロフェッショナルな現場から家庭での視聴環境までを視野に入れた音響システムの高度化と、音響体験の質的向上に取り組みました。
設備音響分野においては、フリーコンフィグレーション型シグナルプロセッサー『DME5』『DME3』、クラスDアンプを搭載したパワーアンプリファイアー『XMS』シリーズ、ウォールマウントコントローラー『MCP2』、タッチパネルコントローラー『TCD10』を新たに投入しました。あわせて、統合プラットフォームソフトウェア『ProVisionaire』シリーズをバージョン3.0へアップデートし、複数のヤマハ製音響機器を統合的に構築・管理するエコシステムを整備することで、複雑化する音響システムの設計性および運用性の向上を図りました。
遠隔会議向けワンストップサウンドソリューション『ADECIA』については、ファームウェアV3.0の提供を通じて機能を拡充しました。ヤマハ独自の「ボイスリフト」技術を活用した自動音声最適化機能や、AIノイズリダクション機能の強化、最大64本のワイヤレスマイクへの対応、SNMPやIEEE 802.1X認証への対応による遠隔管理機能の向上などにより、会議室や教育現場における快適な音声環境の構築と運用負荷の軽減を両立しています。
音響信号処理技術を活用した取り組みとしては、イヤホン・ヘッドホン向け仮想立体音響ソリューション『Sound xR Core』が、大型ゲームタイトルに採用されました。立体音響総合技術『ViReal』で培った頭部音響伝達関数(HRTF)技術を継承し、通常のイヤホンやヘッドホンで360度全方位の音像定位を可能とすることで、コンテンツへの没入感向上に寄与しています。
コンシューマー向け分野では、ホームシアター・オーディオ製品の展開を進めました。サウンドバー『SR-X90A』は、独自のビームスピーカー技術や『SURROUND:AI』を採用し、Dolby Atmos®などの立体音響フォーマットに対応するとともに、新技術『SYMMETRICAL FLARE PORT』の採用により、広がりのある音場再生と低音表現の両立を実現しました。
また、ヘッドホン分野では、開放型『YH-4000』と密閉型『YH-C3000』の2モデルを発売しました。いずれも独自ドライバー技術や木製ハウジングの採用、国内自社工場での生産体制などにより、音の再現性と製品品質の向上を図っています。加えて、ワイヤレスBluetooth®ヘッドホン『YH-L500A』では、ヤマハの音場創生技術を応用した「サウンドフィールド」機能を搭載し、映像コンテンツ視聴時における立体的で臨場感のある音場表現を実現しました。
さらに音楽制作分野では、Steinberg Media Technologies GmbHが、作曲、アレンジ、レコーディング、波形編集、ミキシングなどをサポートする総合音楽制作ソフトウェア『Cubase 15』を開発しました。今回の最新バージョンでは、パターンエディターへの新モード追加やエクスプレッションマップの刷新など、より細かな作業を効率的に進めるための機能強化が図られています。また、歌声合成のVSTインストゥルメント『Omnivocal Beta』も標準搭載し、直感的な操作で歌声をディレクションすることが可能となりました。
これらの取り組みを通じて、音響機器事業は、プロフェッショナルな現場における音響システムの完成度向上と、家庭における音響体験の質的向上の双方に貢献しました。
なお、音響機器事業分野の取組においても、さまざまな社外機関より高い評価を受けました。音場支援システム『AFC Enhance』は、空間の響きを電気音響的に制御する技術が評価され、「令和7年度全国発明表彰」において「発明賞」を受賞しました。また、ネットワーク機器分野においては、「日経コンピュータ 顧客満足度調査 2025-2026」ネットワーク機器部門で2年連続第1位を獲得するとともに、「日経コンピュータ パートナー満足度調査 2026」ネットワーク機器部門においても4年連続で第1位を獲得しました。
(3) その他の事業
「沖縄三線文化継承プロジェクト―技術貢献と共創―」においては、琉球大学、沖縄県立芸術大学ほかと連携し、木材の音響学的分析や三線の振動挙動の可視化など、当社が長年蓄積してきた楽器・感性研究の技術・知見・実験施設を活用した研究活動を推進しました。
また、ヤマハファインテック株式会社は、空中超音波式アレイセンサーと独自の音響信号処理技術を組み合わせた超音波式ヒートシール検査機『ULTRASONICA UE-02』を展開しています。本製品は、包装シール部の内部不良を非破壊・非接触で全数検査することを可能にしたもので、シワや噛み込みなどのシール不良検出に加え、弱溶着の予兆管理にも対応しています。従来の赤外線センサー、外観検査カメラ、X線などの方式では困難とされてきたシール部の不良検出を可能にし、食品・医薬品・化学製品など幅広い業界におけるシール工程の品質管理・省人化という社会課題の解決に寄与するものです。
なお、超音波式ヒートシール検査機『ULTRASONICA UE-02』は「JAPAN PACK AWARDS 2025」包装関連装置・機器カテゴリーにおいて最優秀賞を受賞し、「沖縄三線文化継承プロジェクト―技術貢献と共創―」は公益社団法人企業メセナ協議会による「This is MECENAT 2025」に認定されました。