(1)経営環境
当社グループを取り巻く経営環境を見ますと、既成概念のディスラプションにより、経営環境の急激な変化に直面しております。生成AI等の急速な発展による産業変革の加速・ビジネスモデルのライフサイクル短期化、景気後退懸念と金融政策転換の予測困難性の増大、地政学的リスクの続発、経済と安全保障の連環の高まり、環境課題・ガバナンス・人的資本等のサステナビリティ経営への要請等、当社グループにとって機会と脅威が同時に到来しております。変化は成長オポチュニティとなる一方で、既存ビジネスモデルは陳腐化リスクにさらされており、これまでのように商品軸をベースとするアプローチだけではもはやソリューションは作り出せなくなると考えております。
(2)会社の経営の基本方針
当社グループは、中期経営戦略「GC2021」(2019年度-2021年度)、「GC2024」(2022年度-2024年度)期間を通じて、収益基盤を確立させてきました。2030年度へ向けた長期的な経営戦略の第3段階として、次なる高みへ向け成長を加速させるべく、中期経営戦略「GC2027」を策定し、2025年度よりスタートしております。
<中期経営戦略「GC2027」>
「基本方針」
○次の成長ステージに向け経営のギアチェンジを図り、利益成長・企業価値向上を加速
○企業価値向上に向けた3つの成長ドライバーとして以下を実践
①既存事業の磨き込み・拡張
②成長への資本配分・投資戦略─成長なき事業からの回収、注力領域への重点投資、長期目線の種まき─
③Global crossvalue platformの追求
「定量目標」
○「ROEの維持・向上」と「PERの向上(株主資本コスト低減・期待成長率向上)」により時価総額を拡大し、2030年度までに時価総額10兆円超を目指す
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経営指標 |
定量目標 |
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連結純利益(2027年度) |
6,200億円以上(CAGR*10%程度) |
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基礎営業キャッシュ・フロー(3ヵ年累計) |
20,000億円 |
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総還元性向 |
40%程度 累進配当の継続 |
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ROE |
15% |
*年平均成長率。CAGR10%程度は、2025年2月5日時点の2024年度見通し実態純利益(連結純利益から一過性要因を控除した概数)4,600億円を起点とした2027年度までの数値
「利益成長計画」(グラフは2025年2月5日時点の見通し)
○既存事業の磨き込みを中心に利益成長を実現
「地域別利益」
○レジリエンスの高い地域ポートフォリオの強化
「資本配分方針」
○既存事業からの基礎営業キャッシュ・フロー最大化と投資の回収促進により、キャッシュ創出力を強化
○創出したキャッシュは、優良な成長投資に優先配分し、更なる企業価値の向上を実現
○収益力の向上を踏まえ、株主還元を更に強化
○3ヵ年累計で株主還元後フリーキャッシュ・フロー黒字*を維持(*営業資金の増減等を除く)
「投資戦略」(グラフは2025年2月5日時点の見通し)
○「成長領域×高付加価値×拡張性」を有する戦略プラットフォーム型事業に注力
○競争優位性のある既存事業領域へ優先的に配分
「株主還元方針」
○長期にわたり安定した配当を行いつつ、中長期的な利益成長により増配する基本方針を継続
○中期経営戦略「GC2024」における収益力の向上を踏まえ、総還元性向を40%程度に引き上げ
○1株当たり年間配当金100円を基点とする累進配当を実施
○機動的な自己株式取得を実施
「Global crossvalue platformの追求」
○持続的な企業価値向上の仕掛けを実践
「グリーンへの取組み」
○グリーンを事業価値の構成要素の1つとして捉え、収益力を強化
○気候変動長期ビジョン*に基づき、2050年までにGHG排出ネットゼロを達成
○「自然と共生する社会」に向け、脱炭素社会・循環経済への移行に貢献し、ネイチャーポジティブを実現
*『気候変動長期ビジョン』 ~温室効果ガス排出のネットゼロに向けて~(2021年3月公表)
(将来に関する記述等についてのご注意)
本報告書に記載されている将来に関する記述は、当社が当有価証券報告書提出日現在において入手している情報及び合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の業績等は様々な要因により大きく異なる可能性があります。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組みは、以下のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)当社グループのサステナビリティ
当社グループにとってのサステナビリティとは、社是「正・新・和」の精神に則り、公正明朗な企業活動を通じて、経済・社会の発展、地球環境の保全に貢献する、誇りある企業グループを目指す経営理念の実践そのものです。環境・社会課題を先取りし、プロアクティブにソリューションを提供します。
当社グループは、サステナビリティを実践するための最も重要な要素として、人財、経営基盤、ガバナンスの3つを「基盤マテリアリティ」に特定しています。また、基盤マテリアリティを活用して取り組むべき課題「環境・社会マテリアリティ」として、気候変動対策、自然との共生、循環型経済への取組み、人権の尊重の4つを特定しています。こうした課題にグループ全体で取り組むことによって、環境・社会価値を創出し、当社グループの持続的成長並びに企業価値の向上を目指します。
更に、サプライチェーン全体で「環境・社会マテリアリティ」に取り組むことにより、競争力・差別化に直結するものと認識しています。引き続き、取引先と協働し、持続可能で強靭なサプライチェーン構築に向けた取組みを強化していきます。
当社グループのサステナビリティに関する取組みについては、当社ウェブサイト内「サステナビリティサイト」をご参照ください。
https://marubeni.disclosure.site/ja/
(2)ガバナンス
当社グループはサステナビリティ関連の重要事項(対応方針、目標、アクションプラン等)について、経営会議及び取締役会にて審議・決定しており、取締役会の監督が十分に得られる体制を構築しています。取締役の報酬では、個人定性評価において、グリーン戦略を含むサステナビリティに関する取組み等に関する貢献を考慮する等、中長期的な企業価値との連動性をより高める仕組みを取り入れています。
社長直轄の「サステナビリティ推進委員会」においては、サステナビリティに関連する幅広い事項を議論の対象としており、例えば、気候変動対策に関し、TCFD(*1)提言に基づく気候関連のリスク及び機会の評価、戦略、リスク管理、指標及び目標の設定や見直し、モニタリングを、気候関連のイノベーションの進捗や外部環境の変化を踏まえて議論し、定期的(年1回以上)に取締役会への報告を行っています。2025年3月期はサステナビリティ推進委員会を2回開催し、中期経営戦略「GC2024」で掲げる「グリーン戦略」の推進及びTCFD開示・TNFD(*2)開示等について議論しました。
サステナビリティ推進委員会の委員長は常務執行役員が務め、関連する営業本部、コーポレートスタッフグループから委員を任命しています。社外役員もアドバイザーとしてメンバーに加わり、独立した外部の視点も踏まえながらサステナビリティに関する事項の管理・統括を行いました。
また、営業本部、コーポレートスタッフグループの各部、支社・支店・現地法人ごとに、サステナビリティ推進の責任者としてサステナビリティ・リーダーを、営業部ごとの責任者としてサステナビリティ・マネジャーを任命し、充実した現場体制があるなかでサステナビリティに関する事項の討議・推進を行っています。
なお、当事業年度における提出会社のコーポレート・ガバナンスの取組みについては、
(*1)気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)
(*2)自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD:Task Force on Nature-related Financial Disclosures)
(3)リスク管理
当社グループは、気候変動、自然資本及びサプライチェーンマネジメントをはじめとする、サステナビリティの観点で重要度の高いリスク及び機会について、サステナビリティ推進委員会で管理・モニタリングを行っています。
ビジネスのサステナビリティ面における潜在的なリスク評価として、環境、安全衛生、社会の3カテゴリ、27項目の多角的観点から分析・検討を行う仕組みを構築し、それぞれの評価項目における潜在リスクの重要度と影響度を判断しています。
事業におけるサステナビリティに係るリスク評価項目(3カテゴリ27項目)
環境 気候変動/環境汚染/生物多様性/資源管理/対策・管理手順(環境)
安全衛生 機械安全/火災・爆発/有害物質との接触/感染/危険性のある作業/対策・管理手順(安全衛生)
社会 強制労働・人身取引/児童労働/労働時間/賃金・雇用契約/差別/ハラスメント・懲罰/多様性の尊重/結社の自由及び団体交渉権/土地の問題/地域コミュニティへの負の社会的影響/先住民・文化遺産/紛争鉱物/プライバシー/アニマルウェルフェア(動物福祉)/責任あるマーケティング/対策・管理手順(社会)
このリスク評価手法を用いて、グループ内やサプライヤーのサステナビリティ調査を実施しています。また、投融資決定プロセスにおいても、このリスク評価手法を用いて、既存事業のモニタリングを含め、グループの事業をサステナビリティの観点より継続的に評価する体制を構築しています。リスク評価手法については、国際機関や各国政府・各産業セクターや産業団体を中心とした国内外のサステナビリティ関連動向、投資家、金融機関、非政府組織等ステークホルダーに関連する情報も参考としながら、定期的に見直しを実施しています。
とりわけ重要度の高い気候変動の影響に関しては、IEA(*)等の様々なシナリオ分析を参照してリスクが高いと判断される場合には、想定される温室効果ガス排出量の削減計画、案件実施国における脱炭素計画、気候変動長期ビジョンとの整合性等を考慮し、気候関連のリスク及び機会、事業の優先度等を踏まえたうえで、投融資の意思決定に活かしています。また、気候変動の影響を含むリスクの高い事業領域については、必要に応じ、投融資委員会・経営会議・取締役会で審議しています。これらのリスク管理体制については、毎年実施している内部統制の基本方針の見直しのなかで、前期の運用状況が取締役会に報告され、有効性を確認しています。
気候関連の「物理的リスク」については、当社グループでは、個々の対策が最適かを評価し、あらゆる危機に関して対応する体制の構築に継続して取り組んでいます。2022年4月、それまでの個別の危機事象をベースにしたBCP(Business Continuity Plan)を改定し、自然災害等を含む、オールハザード型の丸紅グループBCPを導入しています。BCPを有効に機能させ、BCM(Business Continuity Management)体制を構築・推進するため、本社総務部内に専任組織を設け、人員・システム・オフィス(建物)・決済機能及びグループ会社経営に関わる重要リソースに対する罹災が生じた場合には人命の安全を最優先に速やかに対応できる体制を構築しています。
なお、営業活動その他に係る環境・社会リスクについては、
(*)国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)
(4)戦略
① グリーン戦略・グリーンへの取組
中期経営戦略「GC2024」において、グリーン戦略(「グリーン事業の強化」と「全事業のグリーン化推進」を両輪として、「グリーン」への貢献を通じた収益力の強化・企業価値の最大化を図る)を基本方針の一つとして掲げて取組みを進めてきました。このグリーン戦略が社員一人ひとりに浸透・定着するなかで、新たな中期経営戦略「GC2027」においても引き続きグリーンへの取組を推進し、企業価値向上を図ります。グリーンを事業価値の構成要素の一つとして捉え、収益力を強化するとともに、国際社会の目標(*1)「自然と共生する社会」に向け、脱炭素社会・循環経済への移行に貢献し、ネイチャーポジティブを実現します。
(*1) 国際社会の目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」
2022年12月に生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された2030年に向けたミッション「ネイチャーポジティブ」において、「自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め、反転させるための緊急の行動をとる」ものとされています。当社グループが目指す「グリーン」は、2030年に向けた国際目標「ネイチャーポジティブ」及び2050年ビジョン「自然と共生する社会」に合致しています。
② 気候変動対策への貢献
(a)気候変動長期ビジョン
自然との共生に向けた取組みのなかでも、脱炭素化に向けた動きは国境を越えた喫緊の課題の一つです。当社グループは、2021年3月に「気候変動長期ビジョン」を公表しました。2050年までにグループの温室効果ガス排出ネットゼロを達成するとともに、事業を通じて社会の低炭素化・脱炭素化に貢献していきます。当社グループは、気候変動問題に対してポジティブインパクトを創出し、成長する企業グループを目指しています。
詳細は、当社ウェブサイト内「『気候変動長期ビジョン』~温室効果ガス排出のネットゼロに向けて~」をご参照ください。
https://marubeni.disclosure.site/ja/sustainability/pdf/environment/approach/data1.pdf
(b)シナリオ分析
当社グループでは、気候変動による事業への影響度及び当社グループへの影響度(資産規模、収益規模等)が相対的に高い事業を選定し、短期(~3年)、中期(3~10年)、長期(10~30年)の時間軸を定義したうえで、現行シナリオと移行シナリオにおける事業環境認識(移行リスク/機会、物理的リスク/機会、時間軸(短期・中期・長期))を踏まえた中期の財務的影響及び対応方針・取組みについて、TCFD提言に沿ってシナリオ分析を実施しました。
当社グループの事業ポートフォリオは多岐に分散されており、特定の産業やビジネスに固有のリスクがグループ全体の財務状況に与え得る影響は限定的ですが、適切なリスク管理を継続的に強化し、気候変動に対するレジリエンスを更に高めていきます。
シナリオ分析の詳細は、当社ウェブサイト内「気候変動対策への貢献(TCFD提言に基づく情報開示) 戦略 シナリオ分析」をご参照ください。
https://marubeni.disclosure.site/ja/themes/15/?id=anc_07
(5)気候変動に関連する指標及び目標
当社グループは、気候変動リスクの低減に努めており、2050年までに事業活動に伴う温室効果ガス排出ネットゼロ(*1)の達成を目指すことを基本的方針としています。また、本方針を実効性のあるものとするため、2030年に向けたアクションプラン(行動計画)を策定しております。気候関連のリスク及び機会への対応の一環として、主に以下の指標及び目標を定めています。
・石炭火力発電事業によるネット発電容量を2019年3月期末の約3GWから2025年までに半減、2030年までに約1.3GW、2050年までにゼロにする
・2050年までに温室効果ガス排出ネットゼロ
2030年までに
① Scope 1・Scope 2のCO2排出量を2020年3月期(約1百万トン)対比50%削減
② Scope 3 カテゴリ15(投資)のCO2排出量を2020年3月期(想定CO2排出量約36百万トン(*2))対比20%削減
(*1)温室効果ガス排出削減を行ったうえで、削減できない残余排出を、自然を基盤とした手段や技術的手段により除去し、大気中への人為的な温室効果ガス排出をネットゼロとすること。なお、ネットゼロの対象範囲は当社及び連結子会社のScope 1(直接排出)及びScope 2(間接排出)に加え、Scope 3(Scope 1、Scope 2以外の間接排出・サプライチェーン排出)カテゴリ15(投資)に含まれる持分法適用関連投資先の排出としております。
(*2)既存投資先の2020年3月期実績に、2021年3月時点での約定済み案件(電力事業については売電契約締結済みで商業運転開始前の案件)からの想定排出量を加えた排出量
なお、事業を通じた低炭素化・脱炭素化への貢献を進めるため、バリューチェーン上の温室効果ガス排出を当社グループがその削減に貢献できる「機会」と捉え、関連する全てのScope 3のカテゴリを算定しています。更に当社グループが提供しているソリューションの効果を定量的に把握するため、削減貢献量・CO2蓄積量を算定しています。
気候変動のための指標及び目標の進捗状況は、当社ウェブサイト内「気候変動対策への貢献(TCFD提言に基づく情報開示) 戦略 事業を通じた低炭素化・脱炭素化への貢献」「同 データ」をご参照ください。
「気候変動対策への貢献(TCFD提言に基づく情報開示) 戦略 事業を通じた低炭素化・脱炭素化への貢献」
https://marubeni.disclosure.site/ja/themes/15/?id=anc_02_03_01
「気候変動対策への貢献(TCFD提言に基づく情報開示) データ」
https://marubeni.disclosure.site/ja/themes/15/?id=anc_04
(6)人財戦略
人財は当社グループの最大の資本であり、価値創造の原動力です。中期経営戦略「GC2027」では、「Global crossvalue platform」を追求するための仕掛けの一つとして「グループ人財戦略の強化」を掲げています。これまでの中期経営戦略「GC2021」「GC2024」で構築してきた「多彩な人財が集い、活き、繋がる場」は、人財戦略を遂行する上での強固な基盤です。GC2027における人財戦略では、この基盤を活かし、これまでも追求してきた「ミッション本位・実力本位」を更に徹底していきます。当社では、人財の成長の源泉は質の高いミッションの遂行にあると考えています。社員一人ひとりが組織の戦略にアラインした、より大きなミッションを掲げ、実現に向けて全力を尽くすことで、組織としての競争力の強化に繋がります。この積み重ねをより一層徹底し、組織と人財がともに成長する在り姿を実現していきます。丸紅グループ全体で、人財の持てる力を最大限に引き出すとともに、「成長領域への人財シフト」、「事業投資・経営人財の強化」、「株主目線の報奨拡充」に重点的に取り組み、更なる高みに向けてグループ人財を強化していきます。
なお、当項目内において、「当社グループ/丸紅グループ」と記載していない箇所は、全て提出会社における記載です。
① ガバナンス
経営戦略と整合した人財戦略を推進するために、社長・CHRO・CSO・CAOを主要メンバーとする人財戦略会議「タレントマネジメントコミッティ」を実施しています。人事制度・施策だけでなく、リーダー開発、エンゲージメント、ダイバーシティ&インクルージョン等、当社の人財戦略において重要度が高いアジェンダの議論を深めています。
また、2023年度から経営戦略に資する人財戦略を策定・推進することを役割としてCHROを新設し、2024年度からは、グループ人財戦略の推進をより一層強化することを目的に、CHROを社長直轄としました。CHROは、社長を補佐し、人財戦略に関する経営全般に参画しています。
② 戦略
(a)経営との連動
(i)経営層と社員の対話
当社グループでは、経営層と社員が直接繋がる機会を通じて経営理念や在り姿、戦略を議論・共有することを重視しています。定期的に社長と社員の意見交換会を実施しているほか、社員から社長へ直接意見を届けられるフォームを用意しています。
(ⅱ)従業員持株会制度
2025年3月末の従業員持株会加入率は95.9%(前年は94.5%)と年々増加しています。社員の資産形成に寄与するとともに、社員一人ひとりの経営参画意識や企業価値向上への一体感を高めたいとの考えから、特別奨励金の支給も行っています。
(b)多彩な人財が「集う」施策
(i)多彩な人財の確保
当社では独自の採用手法を取り入れながら、専門性・能力・個性を活かし新たな価値創造のドライバーとなる多彩な人財へアプローチしています。
(ⅱ)外部評価
当社は、「ONE CAREER」(※1)の就活クチコミアワード2024(※2)にて約5万の掲載企業のなかから総合ランキング5位(商社1位)、(株)ダイヤモンド・ヒューマンリソース「2025年[春](26卒就活後半戦調査)大学生が選んだ就職人気企業ランキング」(※3)の女性ランキングで1位に選出されました。
(※1)(株)ワンキャリアが運営する、国内外の大学に在籍する就活生が利用する最大規模の就活情報掲載サイト
(※2)就活生の実際の体験談・クチコミをもとにした企業アワード
(※3)2026年3月卒業・修了予定の大学生・大学院生が対象。文系男性(当社3位)、理系男性(同4位)、文系女性(同1位)、理系女性(同1位)の4つのランキングで構成。
(ⅲ)障がい者雇用の推進
当社では、障がい者雇用の推進を目的に、2009年3月期に丸紅オフィスサポート(株)を設立し、特例子会社の認定を受けています。同社は2021年3月期には「障害者雇用に関わる優良事業主の認定(もにす認定)」を東京都の第1号として取得したほか、2022年3月期には東京都から「東京都『心のバリアフリー』好事例企業」として選定されました。
2025年3月現在で、丸紅単体とあわせて107名の障がい者を雇用しており、雇用率は、法定を上回る2.97%となっています。
(c)多彩な人財が「活きる」施策
(i)ミッションを核とする人事制度
当社では、各組織が個人の実力や特性に応じてミッション(期待役割及び定量・定性目標)を設定し、社員一人ひとりが大きなミッションに果敢にチャレンジすることで、組織の戦略実行力の向上と人財の成長を促しています。
この制度を支える仕組みとして、ミッションの大きさと報酬水準を一致させることで、実力に見合うミッションの付与を推進するとともに、客観性が高く、より時価的な処遇を実現する「ミッションレーティング」を導入しています。より大きなミッションへの挑戦、キャリア・オーナーシップが一層促進されることで、人財と会社がともに成長し、長期的な企業価値の向上に繋がります。2024年7月からは、従来からあった総合職と一般職という職掌区分を廃止するとともに、このミッションレーティングの仕組みを、非管理職を含む全社員に適用しました。
GC2027の定量目標・利益成長計画の達成に向けてミッションの質(=組織ミッションとのアラインメント×ストレッチ度合×ジブンゴト化)を高めるべく、既に社内でミッションを設定するための対話にこれまで以上に力を入れ始めています。各社員が質の高いミッションを「心を込めて」「やり抜くこと」を目指していきます。社員一人ひとりのミッション達成が、各組織のミッションの達成に繋がり、その総和としてGC2027の達成が実現されると考えています。この考え方を丸紅グループ全体で共有し、グループ一丸となってより大きなミッションを掲げ、達成していく好循環を創っていきます。
(ⅱ)エンゲージメントサーベイ
当社では、エンゲージメントを「個人と組織が一体となり、双方の成長に貢献し合う関係」であると考え、エンゲージメントスコア(※)を測定しています。当社の2025年3月期のスコアは前回比で上昇しており、(株)リンクアンドモチベーションが発表した「ベストモチベーションカンパニーアワード2025」において、大手企業部門(5,000名未満)で「第2位」を受賞しました。
サーベイの結果を踏まえ、改善を希望する組織に対して「組織改善プログラム」を提供しています。改善に向けたアクションプランを策定・実行することで、プログラムに参加した多くの組織でスコアが改善する結果が得られています。こうした取組みを通じて、エンゲージメントスコアが高い組織の割合も年々上昇しています。
(※)組織状態を示すエンゲージメントスコア(偏差値)。偏差値50は(株)リンクアンドモチベーションの提供するサービスを利用する企業の平均を表す。
(ⅲ)人財開発
当社では、企業価値の源泉となる人財の成長・活躍を促進すべく、「On the Job Training」と「Off the Job Training」の両輪で、人財の開発を推進しています。
(d)多彩な人財が「繋がる」施策
(i)丸紅キャリアマーケット
当社では、社内外の組織を超えて人財が行き交う独自のキャリアマーケットの活性化により、社員の自律的なキャリア開発とオープンコミュニティを促進し、新たな価値や機能の発見、事業展開に結び付けています。社内の取組みとしては、部署が人財を求めて公募する「社内人財公募」や、社員が他部署への異動を求めて登録する「ジョブマッチングシステム」を実施しています。社外との関わりでは、他業界のリーディングカンパニーと社員を派遣し合う「社外人財交流プログラム」を実施しています。
(ⅱ)15%ルール、クロスケット、クロスバリューコイン
当社では、担当業務に限らない丸紅グループの価値向上に繋がる活動に、就業時間の15%の時間を充当できる「15%ルール」、組織がパートタイムでの協力を求めて社内に助っ人を公募する「クロスケット」、他組織や地域戦略へ貢献した人財に対してコインを付与する「クロスバリューコイン」を実施しています。これらの施策が有機的に紐づき、組織を超えた新たな価値創造を促しています。
(ⅲ)ビジネスプランコンテスト
丸紅グループ全体で実施している公募型ビジネス提案プロジェクトは2025年度で8年目を迎えました。2024年度は、インドネシアのデジタル母子手帳事業等の発展事例や、進行中のテストマーケティングの途中経過報告等、事業化に向けた示唆をグループ全体で共有しました。今後も社内のイノベーションを促し、ビジネスを創出する場として重要な役割を担っていきます。
(ⅳ)M-Alumni(まるムナイ)
当社では、2023年11月より退職者コミュニティ「M-Alumni(まるムナイ)」を運営しています。専用SNSを通じた当社とアルムナイ若しくはアルムナイ同士のネットワーク形成及びネットワークを通じた人財獲得やビジネス協業等の価値共創を目的としています。
専用SNSでは、各退職者が現在の所属会社や仕事内容、興味のある分野といった情報を登録しており、その登録情報を各自が検索して、新たな繋がりを持ちたい人に個別メッセージ等で直接アプローチできます。また、ニュースリリースや会社が関与するイベント・商品情報等を、会社から専用SNSへ定期的に投稿しています。専用SNS以外でもオフライン交流会の実施に取り組んでいます。
③ リスク管理
当社では、価値創造の源泉である人財が、仕事と家庭の両立に悩み退職してしまうことや、キャリアアップの機会を諦めざるを得ないこと等の「リスク」に対して、制度・風土の両面からアプローチすることが重要であると考えています。労働人口の減少や働くことへの価値観の多様化といった環境変化に対応しながら、社員がライフステージに関わらず、「持続的なキャリア形成」と「高いパフォーマンス発揮」を実現できるよう、様々なワークライフマネジメント施策を実施しています。
(a)仕事と育児・介護の両立をサポートする制度
当社では、制度利用者本人のセルフマネジメントに加え、上司、周囲が制度を理解し、互いの立場を尊重しながら、性別にかかわらず制度を効果的に利用できるよう、協力し合える体制作りを進めています。妊娠中・介護中に利用可能な妊娠休暇・介護休暇、家族のサポートを目的としたファミリーサポート休暇等の特別休暇等を、法定を上回る形で整備していることに加え、育児・介護時間(時短勤務制度)を活用したキャリア継続を支援するため、短縮時間分の報酬減額を廃止する等、仕事と育児・介護の両立を支援しています。
また、男性社員の育児休業取得支援を目的に、育児休業を一部有給扱いとする制度を設けているほか、フレックスタイム制度・テレワーク制度も整備しており、自律的で柔軟な働き方を実現しています。
(b)配偶者の転勤時もキャリアを継続できる制度
当社では、配偶者の転勤という本人にはコントロールできない一時的な事情があっても、これまで丸紅で培った業務経験・スキルを活かし続けられるよう、各種制度を設けています。
従来より導入している配偶者転勤休業・配偶者転勤再雇用制度においては、2025年3月期に、期間の延長(3年→5年)や適用対象の拡大(海外転勤帯同のみ→国内転勤帯同も対象)、キャリアアップを目的とした休業中の副業の解禁を行いました。
また、2025年3月期からは、家庭の事情で日本国内の遠隔地に転居せざるを得ない社員のキャリア継続を支援するため、完全リモートワークを可能にする「ファミサポリモートプログラム」を新たに導入しました。
なお、不妊治療と仕事の両立のために、有給の特別休暇の付与や妊活・不妊治療の無料相談サービスの提供、不妊治療等を含む先進医療を受けた際の費用補助等の取組みを行っています。
(c)外部評価
当社は、2017年度に「えるぼし」認定(※1)、2019年度に「プラチナくるみん」認定(※2)を取得しています。2025年4月には「プラチナくるみんプラス」認定(※3)を新たに取得しました。
(※1)「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」に基づいて届出を行った企業のうち、一定の基準を満たし、女性の活躍推進に関する取組みの実施状況等が優良な企業が認定されるもの。
(※2)2015年4月1日の次世代育成支援対策推進法改正に伴い創設された制度で、社員の子育てをより高い水準でサポートする企業認定されるもの。
(※3)2022年4月1日の次世代育成支援対策推進法改正に伴い創設された制度で、「プラチナくるみん」認定を受けた企業が、社員の子育てを高い水準でサポートすることに加え、不妊治療と仕事との両立にも積極的に取り組み、一定の基準を満たした場合に認定されるもの。
ワークライフマネジメント施策の詳細は、当社ウェブサイト内「ダイバーシティ・マネジメント」をご参照ください。
https://marubeni.disclosure.site/ja/themes/27/
④ 指標及び目標
当社グループの人財が、経営戦略実行に向けて力を発揮できるよう、重点課題と捉えている人事施策・制度については、指標と目標を設定して具体的な取組みを進めています。なお、当社グループに属する全ての会社において指標及び目標を設定しているものではないことから、提出会社における指標及び目標を記載しています。
(a)女性活躍推進
当社では人財の多様性こそが成長戦略の土台であり、中でも男性偏重の組織は、向き合う社会(男:女=1:1)との乖離から、社会課題を捉えきれず、在り姿の実現を制約すると考えています。女性活躍推進は未来の丸紅をよりサステナブルにするための経営課題であり、2022年8月より「女性活躍推進2.0」を方針として打ち出しました。女性のタレントパイプラインの拡張に一層注力するため、明確な数値目標を定めて各種施策に取り組んでいます。
(i)採用の更なる強化
新卒・キャリア採用を合わせた採用全体の女性比率を50%程度にすることを目指しています。2025年3月期入社では、新卒採用における女性比率が42.9%、キャリア採用における女性比率が12.8%、新卒・キャリア採用を合わせた採用全体の女性比率が31.5%となっています。
また、正社員に占める女性比率を30%以上にすることを目指しており、2025年3月現在で30.1%となっています。
(ⅱ)計画的配置・登用の推進
管理職に占める女性比率について、2026年3月末までに10%以上にすることを目指しており、2025年3月現在で9.6%となっています。各組織で階層別の女性数・比率の目標値を設定し、目標達成に向けて計画・実行する仕組みを構築しています。
(ⅲ)Marubeni International Women’s Day
国連が定める「国際女性デー」(3月8日)を、当社では「活き活きと働く女性を応援する日」として、2018年3月期より「Marubeni International Women’s Day」(以下「MIWD」という。)を開催しています。2025年3月期は、女性社員とそのメンターによる対談とパネルディスカッション企画や、当社グループのリーダーたちによる「女性活躍を推進するために自らが実践する行動」のコミットメントムービー企画、「女性の健康を学び社会貢献!」の寄付企画等のプログラムを実施しました。
また、国際女性デーのシンボルフラワーであるミモザの花言葉「感謝」にちなんだ企画や、ドレスコード企画、社員食堂○Caféにてシンボルカラーや女性の健康応援にちなんだ MIWDコラボメニューを提供する等、イベントを盛り上げる様々な仕掛けを実施し、当社グループ全体でダイバーシティ推進やジェンダー平等について改めて考え、行動する意識や風土の醸成を図っています。
女性活躍推進の取組みの詳細は、当社ウェブサイト内「ダイバーシティ・マネジメント」をご参照ください。
https://marubeni.disclosure.site/ja/themes/27/
(b)健康経営
社員一人ひとりの健康維持・増進を重要な経営課題と位置付け、丸紅グループの成長の源泉である社員の活躍を支えるため、CAOを最高責任者として、①健康リテラシーの向上、②がん・生活習慣病対策、③メンタルヘルス対応、④女性の健康維持・増進に向けた取組みの強化等の施策を推進しています。
(i)丸紅健康経営推進体制
人事部担当役員を最高責任者とする「丸紅健康経営推進体制」を構築し、産業医(社内診療所)・健康保険組合・人事部に加え、従業員から選定した健康経営推進担当の4者が一体となって健康経営に取り組んでいます。
(ⅱ)丸紅健康力向上指標
疾病の早期発見・早期対応を図るうえで極めて大きな意義を果たす取組みに対して「丸紅健康力向上指標」を定めており、健康意識の向上及び健康課題の解決を目指しています。
(ⅲ)外部評価
当社の健康経営の取組みは外部からも評価されています。2025年には3年連続4度目の「健康経営銘柄」に選定され、また、8年連続で「健康経営優良法人(ホワイト500)」に認定されています。
健康経営に関する取組みの詳細は、当社ウェブサイト内「健康経営」をご参照ください。
https://marubeni.disclosure.site/ja/themes/24/
当社及び連結子会社の営業活動その他に係るリスク要因について、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を以下に記載しておりますが、当社及び連結子会社は広範にわたる事業活動を行っているため、全てのリスクを網羅したものではなく、業績に影響を与えうるリスク要因はこれらに限定されるものではありません。なお、本項における将来に関する事項は、当有価証券報告書提出日現在において入手可能な情報に基づき合理的であると当社が判断したものです。
(1)リスク管理方針について
当社及び連結子会社は事業活動を営むなかで、多面的な視点でリスク管理を行っており、昨今のグローバルビジネス環境の変化に伴い、複雑化・多様化するリスクに対してそれぞれリスク管理の基本方針・社内規則を定め、それを遂行するための組織、管理体制、管理手法を整備しております。
事業投資に代表される個別案件については、意思決定に先立ち、稟議制度に基づく審議において徹底的なリスク分析を実施しており、中でも案件の成否に及ぼし得る影響が大きいと判断されるリスク要因に対しては、当該リスクを排除又は軽減する措置等を講じたうえで最終的な意思決定を行っております。また、実行済の案件に対しても進捗状況のモニタリングによる問題の早期発見と対策立案を徹底し、重要案件については経営会議体への定期的な進捗報告を実施しております。こうしたプロセスを通じて事業の戦略性、成長性、収益性、リスクの顕在化状況に関する検証を行い、進捗状況が当初想定から著しく乖離する案件については、必要に応じてその方向性について再検討を行う等、リスクの最小化を図っております。
また、当社グループ全体に対する俯瞰的なリスク管理として統合リスク管理を実施しており、当社グループが抱える連結ベースのエクスポージャーについて、各資産項目のリスク特性に応じた想定最大損失率を乗じて最大下落リスク額(リスクアセット)を計量し、自らの体力である資本の範囲内に収めることを基本方針としております。一方で、コンプライアンスリスク等の定量化が困難なリスクについては、コーポレート・ガバナンスの強化、内部統制システムの整備、及びコンプライアンス体制の強化を通じて、リスクの顕在化を未然に防止する体制を整えております。しかしながら、当社及び連結子会社の幅広い事業活動から生じる、又は将来新たに発生する可能性のある多種多様なリスクに対して、当社及び連結子会社のリスク管理の枠組みでは十分に対応しきれない可能性があり、その場合には当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
(2)個別のリスクについて
① 世界経済及び産業構造の変化等が当社及び連結子会社に与える影響について
当社は、日本を含む60ヵ国以上の国々に拠点を置いて事業活動を展開している総合商社です。当社及び連結子会社は、日本及び海外の様々な国・地域における、幅広い産業分野において、一次産業の生産・調達や、製品の製造・販売、役務提供等、様々な商業活動及び投資活動を展開しております。
このため、当社では、世界経済に影響を与える事象、例えば米国の関税政策の動向や中国を含む主要国における政策変更、ロシア・ウクライナ情勢、中東情勢、気候変動・自然災害が事業活動に及ぼす影響を検討し必要な対応を行っております。また、生成AI等に代表される技術革新や、サステナビリティ、脱炭素化等価値観の変化・多様化による産業構造の変化に対し、既存ビジネスモデルの見直しや新たなビジネスモデルの構築を図っております。世界経済の悪化や低迷、あるいは、産業構造の変化等への不十分な対応は、当社及び連結子会社の営業活動、業績、財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
② 投資等に係るリスクについて
当社及び連結子会社は、単独又は他社と共同で新会社の設立や既存会社の買収等の事業活動を行っております。これら事業投資の多くは多額の資本を必要とし、撤退の時期や方法に制約が生じる可能性や、追加資金拠出を余儀なくされる可能性があります。
投資等に係るリスクの未然防止のため、当社及び連結子会社は、新規投資等の実施に際して、定性面でのリスク分析に加え、IRR等の社内で定められた投資基準に基づき、リスクに見合うリターンが得られているかの定量的検証を実施し、リスク管理を徹底しておりますが、これら投資等の価値が低下した場合、あるいは追加資金拠出が必要になる場合には、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
③ 取引先の信用リスクについて
当社及び連結子会社は、営業活動の一環として取引先との間で商品売買契約、請負契約、業務委託契約等の契約を締結しており、取引先の債務不履行や契約不履行等に伴う損失負担(信用リスク)が生じた場合には、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
上記の信用リスクの未然防止のため、取引先の信用状態、取引の期待リターン(利益率)や戦略的な適合性等を見極めつつ、一取引先に対する信用供与の上限である「信用限度」を設定し、その範囲内にて運用することを当社の与信管理の基本としております。
なお、信用リスクが顕在化した場合の損失に備えるため、当社及び連結子会社では取引先の信用状態に応じて判定した社内格付、担保価値等に基づいて貸倒引当金を設定しておりますが、実際に発生する損失がこれを超過する可能性があります。
④ 資金調達力及び調達コストについて
当社及び連結子会社は、資産構成に合わせた最適資金調達と安定的な流動性の確保を重視した資金調達を行っております。しかしながら、国内及び海外の主要金融市場において大きな混乱が生じた場合、あるいは営業活動によるキャッシュ・フローの不足、収益性の低下又は資産及び負債管理の失敗、更には格付会社による当社及び連結子会社の信用格付の大幅な格下げが行われた場合には、資金調達が制約されるか、又は調達コストが増加する可能性があり、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑤ 市場リスクについて
当項目内において、親会社の所有者に帰属する当期利益(以下「当期利益」という。)への影響額は、ほかに記載のない限り、当社の当連結会計年度の業績を踏まえて試算した翌連結会計年度に対する影響額を記載しております。
(a)商品売買取引における各種商品価格の変動について
当社及び連結子会社は、様々な商品を扱っており、一部の商品、契約、予定取引については、それらに係る市況変動リスクを軽減するため、商品先物・先渡等の契約を締結しておりますが、食料第二本部が取り扱うトウモロコシや小麦等の穀物、化学品本部が取り扱うエチレンやプロピレン等の化学品、エネルギー本部が取り扱う原油やガス、金属本部が取り扱う非鉄金属、電力本部が取り扱う電力、フォレストプロダクツ本部が取り扱うパルプといった商品は、その価格変動によって当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。また、これら商品を輸送するためにドライバルク船やタンカー等の船舶を利用しておりますが、これら船舶市況も当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。このようなリスクに対応するため、商品売買取引における価格変動リスクに関し、商品ごとに設定したポジション限度の範囲内での取引実施、及び商品ごとのポジションの適時モニタリングを柱とする商品ポジション管理を通じて、各商品市場に対して過大なリスクを負うことのないように管理しております。
これらの商品売買取引における各種商品価格の変動の影響に加え、当社及び連結子会社は、資源・エネルギー開発事業やその他製造事業に参画しており、それらの事業を通じて販売する生産物や製品に関連する商品市況の変動が当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
これらの詳細については、「⑥長期性資産に係るリスクについて」をご参照下さい。
(b)為替変動について
当社及び連結子会社は、様々な通貨・条件での取引を行っており、主に外貨建取引及び外貨建債権・債務残高等に係る為替変動リスクを軽減するため、為替予約等のデリバティブ契約を締結しておりますが、為替変動は当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。また、当期利益に占める海外連結子会社、持分法適用会社の持分損益や海外事業からの受取配当金の割合が比較的高く、これらの収益の多くが外貨建てであり、当社の報告通貨が円であることから、為替変動は当社及び連結子会社の業績及び財政状態に影響を与えます。当期利益への影響額は、日本円が米ドルに対して1円変動した場合には年間約16億円、豪ドルに対して1円変動した場合には年間約8億円と試算されます。
(c)金利変動について
当社及び連結子会社は、金融機関からの借入及び社債等を通じた資本市場からの資金調達により事業資金を手当てしております。変動金利の調達は、その相当部分は変動の影響を転嫁できる営業資産に見合っておりますが、金利変動の影響を完全に回避できないものもあり、金利変動リスクにさらされております。
当社及び連結子会社は、Asset-Liability Managementを通じ、投資有価証券や固定資産等の非金利感応資産のうち、変動金利で調達している部分を金利ポジションとして捉え、ポジションの総量や市場動向を注視しつつ、金利スワップ契約等の活用も含めた金利変動リスクへの対応策を決定しております。
しかしながら、これら手段の活用を通じても、金利の変動が与える影響を完全に回避できるものではなく、金利動向によっては、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
(d)活発な市場のある有価証券の価格変動について
当社及び連結子会社は、関係強化あるいはその他の目的で、活発な市場のある有価証券に投資を行っております。活発な市場のある有価証券は、その公正価値の変動に伴い、本源的に価格変動リスクを有しており、公正価値の下落は当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。なお、当社は、過去一定期間の価格変動データをもとに、VaR(Value at Risk)の手法でリスク量を定量化し、統計的に計測した保有銘柄全体の予想最大損失額を定期的にモニタリングしております。
(e)退職後給付に係るリスクについて
当社及び連結子会社の年金資産には国内外の株式及び債券等が含まれております。その運用にあたっては、社内に設置した年金資産管理運用委員会での定期的なモニタリング等を通して、許容できるリスクの範囲内で常に年金資産の極大化に努めております。しかしながら、想定を超える証券市場の低迷等により年金資産の価値が減少した場合、退職給付費用が増加し、年金資産の積み増し等が必要となることがあります。また、確定給付債務の現在価値は割引率や昇給率等につき仮定をおいて算定しておりますが、当該仮定と実際の数値が異なる場合、確定給付債務の金額に変動が生じる可能性があります。これらの場合には、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社は、2025年4月に退職給付制度を改定しました。それに伴い、確定給付企業年金への新規加入及び積立てが停止されたことで、年金資産及び確定給付債務はそれぞれ減少傾向となる見込みです。なお、退職給付制度の改定については「第5 経理の状況」における「1 連結財務諸表等 連結財務諸表に対する注記12 従業員給付及び役員の報酬」に記載のとおりであります。
⑥ 長期性資産に係るリスクについて
当社及び連結子会社の保有する長期性資産のなかには、不動産・機械装置等の事業用資産に加えて、資源権益への投資や、企業買収時に認識するのれんを含む無形資産、当社がマジョリティを持たずに持分法で会計処理される投資(以下「持分法投資」という。)等が含まれております。
当社及び連結子会社は、これらの長期性資産について、IFRSに準拠し、資産が減損している可能性を示す兆候が存在する場合には当該資産の回収可能価額の見積りを行い、回収可能価額が帳簿価額を下回っている場合は、当該資産の帳簿価額をその回収可能価額まで減額し、減損損失として認識しております。なお、耐用年数を確定できない無形資産及びのれんについては、減損の兆候があるか否かを問わず、最低限年1回定期的に資産の帳簿価額が回収可能価額を超過しているか否かを確認しております。
しかしながら、経済及び業界環境の変化や、事業計画の見直し、保有方針の転換等の理由により、現時点の想定に比べて資産価値が著しく下落した場合には、減損損失や、投下資金の回収不能、撤退時の追加損失等が発生し、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
<資源権益への投資について>
当連結会計年度末における資源権益への投資について、商品別のエクスポージャーは以下のとおりであります。
|
商品 |
エクスポージャー金額 |
主な内容 |
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銅 |
約4,600億円 |
持分法投資(チリ) |
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鉄鉱石 |
約1,700億円 |
持分法投資(豪州) |
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原料炭 |
約1,000億円 |
持分法投資・有形固定資産(豪州) |
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原油・ガス |
約900億円 |
有形固定資産(米国メキシコ湾等) |
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LNG |
約500億円 |
持分法投資(パプアニューギニア等) |
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合計 |
約8,700億円 |
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(*) 概数で表示している関係で、合計値が合わない場合があります。
主な商品の価格変動が当社利益に与える影響は以下のとおりであります。
原油の商品価格が1バレル当たり1米ドル変動した場合における当期利益への影響額は、年間約4億円と試算されますが、生産・操業状況、操業費用、生産坑井掘削及び生産設備の建設等の開発費用、探鉱費用、廃坑費用等、価格変動以外の要素からも影響を受けるため、原油の商品価格のみで単純に決定されない場合があります。
銅の商品価格が1トン当たり100米ドル変動した場合における当期利益への影響額は、年間約14億円と試算されますが、生産・操業状況、生産・輸送設備の維持に伴う資本的支出及び営業的支出等、価格変動以外の要素からも影響を受けるため、銅の商品価格のみで単純に決定されない場合があります。
また、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性のある銅事業・鉄鉱石事業・原料炭事業への投資においては、以下の要因により資産価値の変動が生じる可能性があります。
銅事業・鉄鉱石事業・原料炭事業
当社及び連結子会社が参画する銅事業・鉄鉱石事業・原料炭事業において、銅価格、鉄鉱石価格や、原料炭価格等の商品価格は、世界及び各地域での需給の不均衡、景気変動、為替変動、地政学的情勢や、感染症の拡大の影響等、当社及び連結子会社が管理できない要因により変動する可能性があります。
当社及び連結子会社の参画する銅事業の長期性資産の主な内容は持分法投資(チリのミネラロスペランブレス銅鉱山、ミネラセンチネラ銅鉱山、ミネラアントコヤ銅鉱山)であります。鉄鉱石事業の長期性資産の主な内容は持分法投資(豪州のロイヒル鉄鉱山)であります。また、原料炭事業の長期性資産の主な内容は持分法投資・有形固定資産(豪州のジェリンバイースト炭鉱、レイクバーモント炭鉱、ヘイルクリーク炭鉱)であります。
なお、これらの持分法投資・有形固定資産は、第三者から提供されたデータや、市況状況、ファンダメンタル等を考慮のうえで、当社及び連結子会社にて策定した価格見通しを使用した事業計画に基づいて評価しておりますが、商品価格や生産量の変動、生産・輸送設備の維持に伴う資本的支出及び営業的支出の高騰、事業環境の変化及び電力・水等のインフラに起因するオペレーション上の問題等が生じた場合には、事業計画が修正される可能性があります。
<事業計画に契約延長を織り込んでいる案件について>
当社及び連結子会社の電力IPP事業や、海外インフラコンセッション事業、長期傭船事業等において、一部の事業計画は、策定時における事業環境に鑑み、相応の蓋然性を確認のうえで、締結済みの長期販売契約等の契約の延長を前提としている場合があります。しかし、これらの前提は、事業環境の変化、世界及び地域での需給の不均衡、景気変動等、様々な要因による影響を受けるため、実際には契約の延長を実現できない場合や、延長後の契約条件が当初事業計画における想定よりも悪化する場合があり、それに伴う事業計画の見直しにより資産価値が著しく下落し、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑦ 法的規制等について
当社及び連結子会社の事業は、日本及び諸外国において、広範な法令及び規制に服しております。それらは、事業及び投資に関する許認可、安全保障上の規制を含む輸出入に関する規制、関税及び各種税法、独占禁止法を含む不公正取引規制、マネーロンダリング規制、汚職・贈収賄防止関連法、個人情報保護法・GDPR(EU一般データ保護規制)、環境保護関連法等の多岐の分野にわたります。例えば、事業及び投資に関する許認可に係るものとしては、日本における主なものとして、ライフスタイル本部では景品表示法等、情報ソリューション本部では電気通信事業法等、食料第一本部及び食料第二本部では食品衛生法及び飼料安全法等、化学品本部では毒物劇物取締法等、エネルギー本部では石油備蓄法等、電力本部では電気事業法等、航空・船舶本部では航空法及び海上運送法等、金融・リース・不動産本部では投資信託及び投資法人に関する法律並びに宅地建物取引業法等が挙げられ、諸外国においても、これらの法令及び規制と同一又は類似のものが存在します。
加えて、当社は、法令及び規制の遵守だけでなく、いち企業市民として高い倫理観を持ち、全てのステークホルダーの期待に応え社会的責任を果たすことをコンプライアンスと捉えております。法令及び規制の遵守を含むコンプライアンスの実践のため、当社は社長直轄のコンプライアンス委員会を設置しております。コンプライアンス委員会の詳細は、「第4 提出会社の状況」における「4 コーポレート・ガバナンスの状況等(1)コーポレート・ガバナンスの概要 <コーポレート・ガバナンスに関する施策の実施状況> ① 会社の機関の内容及び内部統制システムの整備の状況(l)内部統制システムの整備の状況」に記載のとおりであります。
しかしながら、当社及び連結子会社が事業を行う国・地域によっては、法制度が十分に機能していない場合があり、予期しえない法令、規制、解釈の変更や、規制当局、司法機関等による一貫性のない法令の適用・解釈、運用の一方的な変更等が発生する可能性があること、当社及び連結子会社が行う事業(全く新しいビジネスモデルによるものを含む)のなかには法令・規制が十分に整備されていない事業分野も含まれること、当社及び連結子会社は、リスクベース・アプローチに基づくコンプライアンスリスク管理を徹底しているものの、当社及び連結子会社の行う事業活動が極めて広範であること等から、コンプライアンス違反が生じる可能性があり、当社及び連結子会社のコンプライアンス遵守のための負担が増加する可能性があります。このような事態が発生した場合には、事業の中断を含む罰則の適用を受け、又は信用の低下等が発生し、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
<税制・税務リスクについて>
当社及び連結子会社は、様々な活動をグローバルに展開していることから、日本及び諸外国において納税義務を負っております。そのため、将来的に、各国税務当局による課税が強化され、課税ベースの拡大・税率変更といったルール変更が行われた場合には、当社及び連結子会社が納付すべき税額が増加する可能性があります。
また、当社及び連結子会社は、必要に応じて外部専門家を活用し、各国の税法に従い適切な税務申告を行っておりますが、各国当局との見解の相違により、予想外の課税を受ける可能性があります。仮に課税問題が発生した場合には、外部専門家を起用し問題解決を図る等の対策を講じますが、追加的な課税が生じる可能性を完全に排除できるものではありません。このような場合には、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑧ 重要な訴訟について
当社及び連結子会社の国内及び海外における営業活動が訴訟、紛争又はその他の法的手続の対象になることがあります。対象となった場合、訴訟等には不確実性が伴い、その結果を現時点で予測することは不可能です。訴訟等が将来の当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社はインドネシアの企業グループであるSugar Groupに属する企業(以下「Sugar Group」という。)を相手にした訴訟(以下「旧訴訟」という。)について、2011年にインドネシア最高裁判所(以下「最高裁」という。)において当社の勝訴が確定したにもかかわらず、Sugar Groupから、旧訴訟と請求内容が同一である別途訴訟(以下「グヌンスギ訴訟及び南ジャカルタ訴訟」という。)を提起され、グヌンスギ訴訟及び南ジャカルタ訴訟につき2017年に最高裁で当社の敗訴が一旦確定しておりますが、当社はインドネシア最高裁に対して司法審査(再審理)を申し立てました。このうち、南ジャカルタ訴訟については、当社は最高裁再審理決定の決定書を、2020年12月30日に受領しております。当該決定書には、2020年8月24日付で当社の司法審査(再審理)請求を認容し、当社が2017年5月17日に受領した当社敗訴の南ジャカルタ訴訟最高裁判決を取り消したうえで、原告であるSugar Groupの請求を全て棄却する旨が記載されております。他方、グヌンスギ訴訟については、当社は、2018年10月8日付で当社の司法審査(再審理)申立を不受理とする旨の最高裁再審理決定の決定書を、2020年2月3日に受領しております。当社は、2020年5月18日、最高裁に対して2回目の司法審査(再審理)を申し立てましたが、申立書類の提出先であるグヌンスギ地方裁判所(以下「グヌンスギ地裁」という。)は2020年5月20日付で、最高裁再審理決定と旧訴訟最高裁判決間の矛盾の不存在を理由に当社の申立を受理せず申立書類を最高裁に回付しないことを決定しました。インドネシア最高裁判所法等関連法令上、かかる判断は司法審査(再審理)の実施機関である最高裁の職責に属する事項であるとされており、グヌンスギ地裁の決定が不当であることは明らかであること、また、上述のとおり当社が勝訴した南ジャカルタ訴訟司法審査(再審理)の結果を踏まえて、当社は最高裁に対して、改めてグヌンスギ訴訟に関する2回目の司法審査(再審理)を2021年5月31日付で申し立て、グヌンスギ地裁に受理されましたが、2022年7月28日付で当社の2回目の司法審査(再審理)申立を不受理とする旨の最高裁再審理決定の決定書を、2024年1月30日に受領しております。当社は、1回目のグヌンスギ訴訟の司法審査(再審理)の不受理決定と、当社が勝訴した南ジャカルタ訴訟の司法審査(再審理)の決定との間に矛盾があることを理由に、2回目の司法審査(再審理)を申し立てておりましたが、前者については不受理という手続的判断であり、実体審理のうえで判断がなされた後者とは矛盾があるとは評価できないと判断され、司法審査(再審理)の要件を満たさないため不受理とされております。
また、当社はSugar Groupの不法行為による当社の信用毀損等を原因としてSugar Groupに対し損害賠償請求訴訟を提起しておりますが、これに対し、Sugar Groupは当該訴訟(以下「本訴」という。)の手続のなかで、当社に対して当該訴訟の提起が不法行為であるとして損害賠償請求訴訟(以下「反訴」という。)を提起しておりました。先般、第一審及び第二審にて本訴請求及び反訴請求いずれも棄却されたことを受け、当社は、2021年11月19日付で本訴につき最高裁に上告していたところ、本訴及び反訴について当社の本訴請求につき一部認容するとともに、Sugar Groupの反訴請求を全て棄却する内容の最高裁判決を2022年11月8日付で受領しました。Sugar Groupは当該最高裁判決を不服とし、当該最高裁判決の取消及び反訴請求と同様の損害賠償を求める司法審査(再審理)の申立を2023年3月24日に行い、当社は当該再審理申立書面を2023年12月11日付で受領しました。
当社に不利な裁定を最高裁が下したグヌンスギ訴訟等Sugar Groupとの一連の訴訟の今後の趨勢や裁判手続次第では、敗訴判決に基づく損害賠償額・金利・訴訟費用の合計金額の全部又は一部について当社が負担を強いられ損失を蒙る等、当社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります(注)。各訴訟の詳細及び経緯については「第5 経理の状況」における「1 連結財務諸表等 連結財務諸表に対する注記27 約定及び偶発負債」に記載のとおりであります。
(注)南ジャカルタ訴訟においては被告に丸紅欧州会社も含まれております。
⑨ 環境・社会リスクについて
当社及び連結子会社は、グローバルかつ幅広い産業分野に関連する営業活動を行っており、環境や社会、また取引先、従業員等のステークホルダーに対し様々な影響を及ぼします。当社は、社長直轄のサステナビリティ推進委員会を設置のうえ、サステナビリティの観点で重要度の高いリスクについて、サステナビリティ推進委員会で管理・モニタリングを行い、リスクの低減に努めています。また、リスク管理の一環として、環境、社会(安全衛生を含む)に関する潜在的リスク評価手法を構築し、投融資プロセス等において運用しております。サステナビリティの観点で重要度の高いリスクの管理については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」の「(3)リスク管理」に記載のとおりであります。
喫緊の課題である気候変動に関しては、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に賛同し、気候変動関連リスクの把握と業績への影響を同提言に基づき分析しています。炭素税の導入及び強化等の温室効果ガス排出規制や脱炭素化に貢献する技術の急激な発展等の低炭素経済に移行する取組みから生じる移行リスクは、発電事業や資源権益・販売事業等の化石燃料に関連する事業を中心に、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
気候変動により自然災害の激甚化や異常気象の深刻化、降雨や気象パターンの変化、平均気温の上昇や海面の上昇等といった物理的リスクが顕在化した場合には、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。例えば、気候パターンの変化による穀物不作や、異常気象の激甚化による物流機能の麻痺、乾燥化や落雷の増加による森林における山火事等が、農業資材ビジネス、植林事業や木質資源供給ビジネスの収益を悪化させる可能性があります。
これらの気候変動リスクの発生可能性は、パリ協定の枠組みの下での気候変動の進行を防ぐ取組みの状況に大きく左右されます。
当社及び連結子会社は、気候変動リスクの低減に努めており、2050年までに事業活動に伴う温室効果ガス排出ネットゼロ(*)の達成を目指すことを基本的方針としております。また、本方針を実効性のあるものとするため、2030年に向けたアクションプラン(行動計画)を策定しております。更に、個別の事業に関しても、以下を中心とした取組み方針を定めております。
・新規石炭火力発電事業には取り組まず、石炭火力発電事業によるネット発電容量を2018年度末対比で2025年までに半減させ、2050年までにゼロとする
・一般炭権益に関して、新規の資産獲得は行わない
しかしながら、これらの取組みが奏功しない場合や今後想定を上回る速度又は規模で気候変動が進行する場合、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
(*) 温室効果ガス排出削減を行ったうえで、削減できない残余排出を、自然を基盤とした手段や技術的手段により除去し、大気中への人為的な温室効果ガス排出をネットゼロとすること。なお、ネットゼロの対象範囲は当社及び連結子会社のScope1(直接排出)及びScope2(間接排出)に加え、Scope3(Scope 1、Scope 2以外の間接排出・サプライチェーン排出)カテゴリ15(投資)に含まれる持分法適用関連投資先の排出としております。
更に、当社及び連結子会社の営業活動により、大気汚染、土壌汚染、水質汚染等による環境汚染等が生じた場合には、事業の停止、汚染除去費用、あるいは住民訴訟対応費用等が発生し、社会的評価の低下につながる可能性があります。これらの環境リスクに対応するため、環境マネジメントシステムを導入(1999年度)したほか、連結子会社並びに仕入先に対する調査を実施する等、環境負荷等の把握と環境リスクの低減に努めております。
しかしながら、何らかの環境負荷が発生した場合には、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
社会面では、丸紅グループ人権基本方針、サプライチェーンにおけるサステナビリティ基本方針を策定のうえ、人権の尊重と持続可能なサプライチェーンの構築に向けて、連結子会社へのサステナビリティ調査、サプライヤーに対する調査及び改善に向けた働きかけ、人権デューデリジェンス等に取り組んでおります。しかしながら、このようなリスク対策を実施したとしても、当社の事業活動により社会に対し負の影響が発生した場合には、事業の遅延や停止、損害賠償等の追加的費用、レピュテーション低下等の悪影響を及ぼす可能性があります。
⑩ 自然災害等のリスクについて
当社及び連結子会社が事業活動を展開する国や地域において、地震、津波、大雨、台風等の自然災害が発生した場合、また新型インフルエンザ等による感染症が流行、拡大した場合、社員・事業所・設備やシステム等への被害及び交通、情報通信、水道・ガス・電力等の公共インフラに機能不全等が発生し、当社及び連結子会社の事業活動に支障が生じる可能性があります。
BCP(事業継続計画)の策定、耐震対策、感染症対策、防災訓練、必要物資の備蓄、各種保険への加入等、個々に対策を講じておりますが、自然災害等による被害や影響を完全に排除できるものではなく、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑪ カントリーリスクについて
当社及び連結子会社はグローバルに営業活動を展開しているため、活動地域・国における経済環境の変化、戦争・テロ・暴動を含む社会情勢の悪化、営業活動に関わる法制度や政策の変更等、様々なカントリーリスクにさらされており、これらの地域・国の事業環境が悪化した場合には、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
このため、当社及び連結子会社が活動する国に対し、各国のリスク度を評価して国分類に区分し、国分類又は国ごとのカントリーリスク管理基準を設けております。
この基準の下で、国分類又は国ごとの取組み方針を定め、また各国向けのリスク・エクスポージャーを集計して特定の国分類又は国へのエクスポージャー集中を防ぐ等の管理を行っております。
また、新規投資案件等の検討にあたっては、国分類又は国ごとのカントリーリスクに見合った適正なリターンが得られるのかという観点も考慮した投資基準を設定しております。
更に、案件ごとに必要に応じて、貿易保険や投資保険を付保する、第三国からの保証等を取得する等、適切なリスクヘッジ策を講じるべく努めております。
当連結会計年度末における主なカントリーリスクエクスポージャー(*)は以下のとおりであります。
(*) 当社及び連結子会社の保有資産のうち、長期与信、固定資産、投資等の長期性資産の金額の合計。
エクスポージャーが1,000億円以上の国を抽出。
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日本 |
13,776億円 |
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米国 |
12,482億円 |
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チリ |
5,513億円 |
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豪州 |
3,748億円 |
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インドネシア |
2,592億円 |
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シンガポール |
2,093億円 |
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ブラジル |
1,777億円 |
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ベトナム |
1,256億円 |
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フィリピン |
1,040億円 |
⑫ 情報システム及び情報セキュリティに関するリスクについて
当社及び連結子会社は、情報資産の適切な管理及び高い情報セキュリティレベルの確保を重要事項と認識し、グループ全体のセキュリティリスクの低減を図っております。CAOを委員長とするIT戦略委員会を設け、セキュリティ面での課題把握及び対応方針の策定を行うとともに、セキュリティインシデント発生時にインシデントを統括管理するセキュリティマネジメントチーム(M-CSIRT)にて対応を行う体制を構築しています。また、対策の3つの柱として、① グループ各社が遵守すべき情報セキュリティ全般のグループ共通ITガバナンスルールを整備し、② 当該ルールに準拠したセキュアなグループ共通ITサービスのグループ会社への提供、③ 連結子会社・主要関連会社に対するITガバナンスルール遵守状況の検査(アセスメント)を定期的に実施しております。さらに、近年のECサイト、IoT、制御システム(OT)等のビジネス領域でのセキュリティリスク増大に伴い、ビジネスIT資産の可視化を進めており、今後上記3つの柱への組み込みなど一層のグループ全体のセキュリティ強化に取り組んでまいります。
しかしながら、サイバー攻撃は年々巧妙化しており、外部からの予期せぬ不正アクセスやコンピューターウイルス侵入等による機密情報・個人情報の漏洩、設備・通信障害等による情報システム停止等の可能性を完全に排除できるものではありません。このような場合には、当社及び連結子会社の業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑬ 重要性がある会計方針及び見積りによるリスクについて
当社の連結財務諸表は、国際会計基準審議会によって公表されたIFRSに準拠して作成しております。連結財務諸表の作成にあたっては、報告期間の期末日における資産・負債の計上、偶発資産・偶発負債の開示及び期中の収益・費用の計上を行うため、必要に応じて会計上の見積り及び仮定を用いております。この会計上の見積り及び仮定は、その性質上不確実であり、実際の結果と異なる可能性があります。連結財務諸表に重要な影響を与える会計上の見積り及び仮定は以下のとおりであります。
・棚卸資産の評価
・有形固定資産の減損
・無形資産の減損
・関連会社及びジョイント・ベンチャーに対する投資の減損
・繰延税金資産の回収可能性
・確定給付制度債務
・引当金
・金融商品の評価
・偶発負債
当社の経営陣は、これらの見積りは合理的であると考えておりますが、想定を超えた変化等が生じた場合、当社の連結財務諸表に重要な影響を及ぼすことがあります。
重要性がある会計方針及び見積りについての詳細は、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の「(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討」の「③ 重要性がある会計方針及び見積り」及び「第5 経理の状況」における「1 連結財務諸表等 連結財務諸表に対する注記3 重要性がある会計方針」に記載のとおりであります。
(3)中期経営戦略について
当社及び連結子会社は、2025年度より「中期経営戦略(2025-2027年度)GC2027」をスタートしております。内容については、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の「(2)会社の経営の基本方針」に記載のとおりであります。
これらの定量目標は、策定時において適切と考えられる一定の経済状況・産業動向その他様々な前提・仮定及び見通しに基づき策定されたものであり、経営環境の変化、上記個別リスクの発現、その他様々な要因により達成できない可能性があります。
(1)経営成績等の状況の概要
① 当連結会計年度における経済環境及びオペレーティング・セグメント別の事業の状況
経済環境
世界経済は、主要国・地域においてインフレ率が低下し、利下げが始まるなか、米国を中心に景気が僅かに減速するも底堅く推移しました。先進国においては、米国で底堅い個人消費が景気を下支えし、欧州はインフレ率低下を主因に緩やかな成長が続きました。日本は賃金が上昇するも、インフレ率高止まりもあり個人消費の足踏みが続くなかで景気は緩やかな回復に留まりました。新興国は、中国経済が景気刺激策等に下支えされながらも住宅市場の影響から停滞した一方、アジア諸国を中心に米国向け輸出の拡大が景気を牽引しました。
一次産品価格は、世界経済の減速により総じて需要の弱さが続く一方、地政学リスクの高まり等が一部商品価格を押し上げました。銅は中国景気見通しの持ち直し等を主因に、総じて前年度よりも高値で推移しました。
債券市場では、米国において追加関税によるインフレリスクが意識され長期金利が4%前後で推移し、日本においては利上げに伴い長期金利が1%を超えました。円相場は日米の金融政策を巡り乱高下しましたが、年度平均では円安・ドル高が進行しました。株式市場は主要国・地域で総じて前年超えが続くも、年度終盤は米国関税政策等の影響を受け軟調に推移しました。
オペレーティング・セグメント別の事業の状況
当連結会計年度におけるオペレーティング・セグメント別の事業の状況は、以下のとおりであります。
・ライフスタイル
ライフスタイル事業では、丸紅ファッションリンクにてカジュアルブランド「ナイジェル・ケーボン」を保有するOuter Limitsを買収する等、ブランド/リテール事業の拡大に注力しています。環境配慮型事業では、タイのGreen Rubber Energyに出資し、廃タイヤをタイヤ原料に再利用するリサイクルサプライチェーンの構築に取り組んでいます。コンベヤソリューション事業では、Viacore Holdingにて北米地域における拠点拡充を推進しています。カーメンテナンス事業では、タイ・インドネシア・メキシコで小売店舗網を拡大し、全世界で約360店舗を展開しています。
・フォレストプロダクツ
インドネシアでのパルプ製造や豪州でのチップ製造等海外における製造販売事業を展開しており、その原料である木材を生産する植林事業経営を通じて培った知見を活かして新たに環境植林事業実施に向けた施策にも着手する等、脱炭素社会の実現に資する一層の取組みを進めています。パッケージ分野では、従来の国内段ボール原紙製造販売事業に加え、段ボールユーザー向けのDX/GXを活用した新たな取組みも推進しています。衛生紙分野では、ブラジルのSanther - Fabrica de Papel Santa Therezinhaを通じ衛生紙の製造販売事業を展開しており、プレミアム商品の拡販及び販売チャネルの拡充等によって、更なる事業価値向上に注力するとともに、消費者の安心・快適な生活の実現に貢献していきます。
・情報ソリューション
デジタル技術進展に伴うDX需要拡大を受け、ICTサービスを一気通貫で顧客に価値提供する戦略プラットフォームを拡張しています。IT子会社4社を統合した丸紅I-DIGIOホールディングスでは、業務資本提携によりサイバーセキュリティやデジタルエンジニアリング機能の強化等最先端のIT技術・サービスを拡充しました。戦略、新規事業、ITマネジメント等の広範なコンサルティングサービスを展開するドルビックスコンサルティングでは人材基盤を拡充し、コンサルティングからソリューション提供・運用までのワンストップサービス強化に取り組んでいます。
・食料第一
食を通じて健康で豊かな生活を提供することを目指し、食品製造・加工事業領域での機能拡充とスペシャリティ商品のマーケティングの強化に注力しています。菓子分野では「ヨーグレット」「ハイレモン」等のブランドを展開するアトリオン製菓において消費者ニーズを捉えた新たな商品の開発・マーケティングを進めています。食品素材分野では、Gemsa Enterprisesを子会社化し、米国にて食用スペシャリティ油脂加工・販売事業に参入しました。引き続き、コーヒーの産地支援や陸上養殖サーモン事業等の環境・社会問題に配慮したサステナブルな取組みも推進するとともに、消費者にとって魅力ある商品を提供していきます。
・食料第二
穀物、搾油原料、動物性タンパク質、及び家畜の肥育に必要な飼料の安定供給を通じて、持続可能な農業・飼料製造販売業・畜産業への貢献とトータルソリューション提供に取り組んでいます。穀物分野では、最大の生産拠点である北米・南米に保有する穀物集荷・輸出設備から、日本国内の輸入ターミナル・飼料工場へ繋がるサプライチェーンの収益基盤強化を推進します。また、持続可能性に配慮した飼料開発等の取組み等新たな価値の創出にも取り組んでいます。畜産分野では、高品質なプレミアム牛肉処理加工販売を行うCreekstone Holdingを中心として、食に不可欠な動物性タンパク質の安定供給と事業基盤の拡大に努めていきます。
・アグリ事業
農業資材リテール事業では、ITを駆使した精密農業による顧客向けソリューション能力の更なる向上と、Helena Agri-Enterprisesをはじめとしたグループ会社にて蓄積してきたノウハウの活用を通じ、米国・ブラジル・欧州・アジアにおける農業の発展に貢献すべく更なる事業拡大を目指しています。また、肥料ホールセール事業では、MacroSourceが、北米を中心に南米、アフリカ等、広域にわたり事業を展開しており、当社グループの肥料供給能力の強化を行っています。環境負荷に配慮した農業資材を取り扱う等、環境への影響も意識しながら、農業資材の供給を通して食料生産に貢献してまいります。
・化学品
業界トップクラスのシェアを持つ石油化学品トレードでの需給調整機能の高度化、蓄電池・ディスプレイ・太陽光発電機器に代表されるエレクトロニクス分野のトレードに加え、太陽光発電資産売買や系統用蓄電池事業のソリューション提供型ビジネスの深化を国内外で推し進めています。食品機能材等のライフサイエンス分野では、2023年に100%子会社化した欧州の大手香辛料・調味料メーカーのEuroma Holdingの業容拡大を推進しました。これらに加え、環境に配慮した素材、バイオ燃料等のサステナブルな社会に向けた新しい顧客ニーズへの対応等、これまでの化学品の枠を超えた新しい商品や仕組み作りにも取り組んでいます。
・金属
鉱山開発から原料・製品の取扱い、リサイクルまで金属サプライチェーン全領域でビジネスを推進しています。銅鉱山、鉄鉱山、原料炭炭鉱の中核鉱山事業では、生産の最適化や先進技術の導入、再エネ利用や水資源保全等グリーン化を推進し、持続可能な操業を行っています。チリ・センチネラ銅鉱山拡張プロジェクトは2027年の生産開始に向け順調に開発を進めており、また、ベトナムアルミ再生地金事業や英国廃電池リサイクル事業への出資参画等を実現しました。既存事業の拡張や持分追加取得により中核事業の価値向上に取り組むとともに、環境に配慮した資源・素材の責任ある供給を通じ、脱炭素社会の実現に貢献します。
・新エネルギー開発推進部(*1)
水素・アンモニア、SAF(*2)・合成燃料(e-メタン等)、CCUS(*3)等の新エネルギー事業を推進し、脱炭素社会実現に向けて取り組んでいます。SAF分野では、マレーシアにおいてバイオマス資源を原料とするSAF製造案件の検討を開始するとともに、石油由来原料とバイオ原料の同時処理を行うコプロセッシング製法により製造されたSAFの日本市場への供給を開始し、製造案件開発とトレード拡充の両輪で事業を推進しています。CCUS分野では、米国テキサス州においてオゾナ社とCCS(*4)案件の共同開発を開始しています。本事業を通じて獲得するCCS事業の開発ノウハウを活かし、北米のみならず欧州、豪州、アジア等に事業を展開していきます。
(*1)「新エネルギー開発推進部」は独立したオペレーティング・セグメントではなく、その損益等については、オペレーティング・セグメントの「エネルギー」「電力」「インフラプロジェクト」にそれぞれ配賦しております。
(*2)SAF:Sustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料)
(*3)CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage(CO2回収・貯留・有効利用)
(*4)CCS:Carbon dioxide Capture and Storage(CO2回収・貯留)
・エネルギー
相対的に低炭素であり、エネルギー転換期においてその重要性を増す天然ガス・LNG事業分野では、安定操業や資産価値向上に資する取組みを着実に進めています。また、当社の強みである石油、天然ガス・LNG、ウラン等のトレーディング&マーケティング分野においても、収益拡大に向けた取組みを着実に推進しています。2024年7月には、京都フュージョニアリング株式会社への出資を発表し、同出資を通じてフュージョンエネルギー実現に向けた研究・開発を支援しています。引き続き、エネルギーや原料の安定供給への貢献、バイオ燃料取引の拡充や環境価値取引の強化、脱炭素化への取組みを両立しながら、事業基盤を強化・発展させてまいります。
・電力
電力サービス事業分野では、電力卸売・小売事業にてSmartestEnergy・丸紅新電力を通じた戦略プラットフォーム型事業を強化しており、特に再エネ電力取扱いと環境証書取引を拡大しました。国内では、丸紅新電力が運用を担う三峰川伊那蓄電所が運転開始し、電力系統への調整力供給に貢献しています。またベトナムにおける蓄電池システム実証事業の開始等社会・環境課題の解決と持続可能な成長に寄与する取組みを推進しています。発電事業分野では、サウジアラビア王国におけるアルガット及びワードアルシャマル風力発電案件の受注、山形県遊佐町沖における洋上風力発電事業者への選定等脱炭素社会の実現に向けた取組みを強化しています。
・インフラプロジェクト
水分野では、チリにおいて複数の大型鉱山に効率的に給水する初めての大型共用インフラ事業となる国営銅公社コデルコ向けの海水淡水化・送水プロジェクトに参画し、建設を進めています。交通インフラ分野では、京成電鉄株式会社が運行するスカイライナーにおいて、AI顔認証技術を活用した新しい乗車システムの運用を開始しました。循環経済ビジネス分野では、英国におけるバイオメタン生産及び販売事業の商業運転を開始し、当社グループの電力卸売・小売事業会社であるSmartestEnergyへの販売を開始しています。インフラファンド分野では、海外インフラ資産を対象とした2号ファンドにおける投資家の募集と資産積上げを進めています。
・航空・船舶
航空分野では、世界的な旅客数の回復を背景に、航空部品トレード機能及び周辺事業、航空アセットマネジメント機能、ビジネスジェット販売代理店及び運航・整備サービス事業並びに空港ビジネスの強化・拡大等に注力しました。また、大阪・関西万博における空飛ぶクルマのデモ飛行や宇宙ビジネスに向けた取組みを推進しました。船舶分野では、保有資産の入替・優良化により安定的な収益基盤の強化を進めたほか、新規分野としてノルウェーの船会社ソルバン社との合弁会社の設立を通じてアンモニア輸送船を共同保有することで、クリーンエネルギーとして需要拡大が見込まれるアンモニアの海上輸送事業に参画しました。
・金融・リース・不動産
フリートマネジメント事業では、米国のアセットマネジメント会社アポロ社の運営するファンドが保有する米国最大のフリートマネジメントカンパニーであるWheels Topcoに、北米最大の自動車ディーラーグループであるリシア社とともに出資参画しました。パートナーのアポロ社・リシア社と戦略を共有しながらWheels Topcoの持続的成長を支援しています。また、アポロ社とはアセットファイナンス事業での協業も推進しています。総合リース事業では、資本業務提携により国内リース業界大手のみずほリースを持分法適用関連会社化しました。不動産事業では、第一生命ホールディングス株式会社と国内不動産事業の統合に関する事業統合契約及び株主間契約を締結しました。
・建機・産機・モビリティ
建機・産機・モビリティ領域では、バリューチェーン全体での収益最大化を目指し、周辺領域への拡張を進めています。建機分野では、既存代理店事業の強化とレンタル分野への進出を推進しています。モビリティ分野では、北米でのアフターマーケット向け自動車部品販売事業と新規参入したフリートマネジメント事業のシナジー実現を目指します。加えて、国内外で商用EV向けフリートマネジメント事業や、オンデマンド交通・自動運転事業の実現に注力しています。産機分野では、インドで工作機械販売会社を設立し、加えて、半導体を含む電子部品事業や半導体製造装置市場に参入しました。将来は当該事業を戦略プラットフォームとし、高付加価値事業へと進化させていきます。
・次世代事業開発
2030年に向けた成長領域にて、過去の成功事業からの当社の勝ち筋より次世代事業開発の要諦を定め、事業開発・投資を行っています。卓越技術、次世代産業基盤、DX・ITサービス、医薬品・医療サービス、コンシューマーブランド、IPコンテンツ等の領域で事業開発・投資を積極的に実施しています。例えば、世の中の健康志向や生活習慣の変化によるニーズ拡大を背景に、医薬品事業をグローバルで展開・拡充し、タイ・日本でのコスメ事業にも参画しています。卓越技術では、エストニア・ドイツにおける次世代蓄電池事業に参画しています。時代の変化を敏感に捉えるべく新たな成長領域・テーマの発掘・探索も積極的に推進しています。
・次世代コーポレートディベロップメント
コーポレートディベロップメント事業では、高成長が見込まれる消費者向けビジネス領域において、今後の成長のプラットフォームとなる案件への投資を進めています。2024年6月に米国ルームシューズ市場でトップシェアを誇るディアフォームズ等を展開するR.G.Barryへ出資し、ライフスタイルブランド運営事業の中核となるプラットフォームを獲得しました。また、ベトナム最大手の食品原料・機能性食品素材サプライヤーであるAIG Asia Ingredientsへ追加出資を行い、同社の成長戦略へのコミットメントを強化しました。スタートアップ事業では、コーポレートベンチャーキャピタルを通じて、世界の革新的なビジネスモデルの取り込みを推進しています。
② 当連結会計年度の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況
「(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討」に記載のとおりであります。
③ 仕入、成約及び販売の実績
(a)仕入の実績
仕入と販売との差異は僅少であるため、仕入高の記載は省略しております。
(b)成約の実績
成約と販売との差異は僅少であるため、成約高の記載は省略しております。
(c)販売の実績
「(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討」及び「第5 経理の状況」における「1 連結財務諸表等 連結財務諸表に対する注記4 セグメント情報」に記載のとおりであります。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
① 当連結会計年度の経営成績の分析
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|
(単位:億円) |
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前連結会計年度 |
当連結会計年度 |
|
増減 |
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収益 |
72,505 |
77,902 |
|
5,397 |
|
売上総利益 |
10,658 |
11,466 |
|
808 |
|
営業利益 |
2,763 |
2,723 |
|
△40 |
|
持分法による投資損益 |
3,114 |
2,929 |
|
△185 |
|
親会社の所有者に帰属する 当期利益 |
4,714 |
5,030 |
|
316 |
(注)「営業利益」は、投資家の便宜を考慮し、日本の会計慣行に従った自主的な表示であり、IFRSで求められている表示ではありません。「営業利益」は、連結包括利益計算書における「売上総利益」、「販売費及び一般管理費」及び「貸倒引当金繰入額」の合計額として表示しております。
収益は前連結会計年度比(以下「前年度比」という。)5,397億円(7.4%)増収の7兆7,902億円となりました。オペレーティング・セグメント別には、主に電力、金属、エネルギーで増収となりました。
売上総利益は前年度比808億円(7.6%)増益の1兆1,466億円となりました。オペレーティング・セグメント別の主な増減は以下のとおりであります。
|
電力 |
233億円増益 |
電力卸売・小売事業の増益及び前年度に計上した台湾発電所EPC(建設請負)案件に係る工事損失引当金の反動
|
|
アグリ事業 |
227億円増益 |
Helena社、ブラジル農業資材販売事業及び米国肥料卸売事業の増益
|
|
次世代コーポレートディベロップメント |
147億円増益 |
米国ライフスタイルブランド運営会社の子会社化による増益 |
営業利益は、販売費及び一般管理費の増加により、前年度比40億円(1.5%)減益の2,723億円となりました。
持分法による投資損益は前年度比185億円(5.9%)減益の2,929億円となりました。オペレーティング・セグメント別の主な増減は以下のとおりであります。
|
金属 |
343億円減益 |
商品価格の下落に伴う豪州鉄鉱石事業及び豪州原料炭事業の減益並びに鉄鋼製品事業の減益
|
|
インフラプロジェクト |
247億円減益 |
米国石油・ガス開発関連事業投資の減損損失
|
|
金融・リース・不動産 |
320億円増益 |
みずほリース社の関連会社化に伴う増益及び航空機リース事業の増益 |
上記に加えて、エネルギーにおいてカタールLNG事業終了に伴う為替換算調整勘定の実現益457億円(税後)を認識しております。
以上の結果、親会社の所有者に帰属する当期利益は前年度比316億円(6.7%)増益の5,030億円となりました。
当連結会計年度のオペレーティング・セグメント別の業績(親会社の所有者に帰属する当期利益)は以下のとおりであります。
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(単位:億円) |
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前連結 会計年度 |
当連結 会計年度 |
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増減 |
主な増減内容 |
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ライフスタイル |
99 |
84 |
|
△15 |
・タイヤ関連事業、ゴム・産業資材事業及び衣料品等の企画・製造・販売事業の減益 |
|
フォレストプロダクツ |
△142 |
152 |
|
294 |
・前年度に計上したベトナム段ボール原紙の製造・販売及び包装資材の販売事業における固定資産の減損損失の反動 ・パルプ市況・製造原価改善及び販売数量増等に伴うムシパルプ事業の増益 |
|
情報ソリューション |
78 |
91 |
|
14 |
・国内携帯電話販売事業の増益 |
|
食料第一 |
170 |
139 |
|
△31 |
・コーヒー生豆取引での減益 |
|
食料第二 |
180 |
99 |
|
△81 |
・米国牛肉事業の減益 ・中国鶏肉事業投資の減損損失 |
|
アグリ事業 |
415 |
457 |
|
42 |
・米国肥料卸売事業の増益 |
|
化学品 |
70 |
136 |
|
66 |
・前年度に計上した飼料添加剤販売事業におけるのれんの減損損失の反動 ・豪州塩田事業における増益(資産売却益) |
|
金属 |
1,635 |
1,235 |
|
△400 |
・商品価格の下落に伴う豪州原料炭事業及び豪州鉄鉱石事業の減益 ・鉄鋼製品事業の減益 |
|
エネルギー |
392 |
693 |
|
301 |
・カタールLNG事業終了に伴う為替換算調整勘定の実現益 ・石油・ガス開発事業(米国メキシコ湾)の減損損失 ・トレーディング事業及びLNG事業の減益 |
|
電力 |
473 |
660 |
|
187 |
・海外電力IPP事業投資の売却益等 ・前年度に計上した台湾発電所EPC(建設請負)案件に係る工事損失引当金の反動 |
|
インフラプロジェクト |
169 |
△23 |
|
△193 |
・米国石油・ガス開発関連事業投資の減損損失 |
|
航空・船舶 |
264 |
396 |
|
132 |
・航空関連事業の増益 |
|
金融・リース・不動産 |
439 |
591 |
|
152 |
・みずほリース社の関連会社化に伴う増益 ・航空機リース事業の増益 ・保有方針を変更した事業投資に係る税引当 |
|
建機・産機・モビリティ |
271 |
161 |
|
△111 |
・自動車関連事業、建設機械事業及び産業設備事業の減益 |
|
次世代事業開発 |
3 |
7 |
|
3 |
・ヘルスケア事業における一過性利益 |
|
次世代コーポレートディベロップメント |
△31 |
△22 |
|
9 |
・米国ライフスタイルブランド運営会社の子会社化による増益 |
|
その他 |
227 |
173 |
|
△55 |
・金利収支の悪化 |
|
全社合計 |
4,714 |
5,030 |
|
316 |
|
(注)1. 当連結会計年度より、「情報ソリューション」の一部を「インフラプロジェクト」に編入しております。この変更に伴い、前連結会計年度のオペレーティング・セグメント情報を組み替えて表示しております。
2. セグメント間取引は、通常の市場価格により行われております。
3. 「その他」には、特定のオペレーティング・セグメントに配賦されない本部経費等の損益、セグメント間の内部取引消去等が含まれております。
② 当連結会計年度のキャッシュ・フロー及び財政状態の状況の分析、並びに資本の財源及び資金の流動性
(a)キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における「現金及び現金同等物」の残高は、前連結会計年度末比(以下「前年度末比」という。)629億円増加の5,691億円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は以下のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業資金負担等の増加があったものの、営業収入及び配当収入により、5,979億円の収入となりました。前年度比では1,555億円の収入の増加であります。
基礎営業キャッシュ・フロー
営業活動によるキャッシュ・フローから、営業資金の増減等を控除した「基礎営業キャッシュ・フロー」は、6,066億円となりました。その内訳は以下のとおりであります。
(収入:+、支出:△)
|
調整後営業利益 (売上総利益+販売費及び一般管理費) |
+2,836億円 |
|
減価償却費等 |
+1,993億円 |
|
利息の受取額及び支払額 |
△585億円 |
|
配当金の受取額 |
+2,478億円 |
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法人所得税の支払額 |
△657億円 |
|
基礎営業キャッシュ・フロー |
+6,066億円 |
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
持分法適用会社の株式取得や海外事業における資本的支出等により、3,953億円の支出となりました。前年度比では609億円の支出の増加であります。
回収
当連結会計年度における投資の回収等(*1)による収入は、1,593億円となりました。
(*1)投資活動によるキャッシュ・フローのうち、「有形固定資産の売却による収入」、「貸付金の回収による収入」、「子会社の売却による収入(処分した現金及び現金同等物控除後)」及び「持分法で会計処理される投資及びその他の投資等の売却による収入」の合計額
新規投資・CAPEX(資本的支出)
当連結会計年度における新規投資・CAPEX(資本的支出)等(*2)による支出は、5,546億円となりました。
(*2)投資活動によるキャッシュ・フローのうち、「有形固定資産の取得による支出」、「貸付による支出」、「子会社の取得による支出(取得した現金及び現金同等物控除後)」、「持分法で会計処理される投資及びその他の投資等の取得による支出」及び「定期預金の純増減額」の合計額
ビジネスモデル別の主な新規投資は以下のとおりであります。
セールス&マーケティング事業
・スペシャリティ油脂の加工・販売事業(米国 Gemsa Enterprises)
・電子部品卸売事業(シンガポール DTDS Technology)
・ライフスタイルブランド運営事業(米国 R.G.Barry)
・食品原料・機能性食品素材の製造・販売事業(ベトナム AIG Asia Ingredients)
ファイナンス事業
・フリートマネジメント事業(米国 Wheels Topco)
・みずほリース株式追加取得(日本 みずほリース)
・航空機リース事業(米国 Aircastle)
安定収益型事業
・再生可能エネルギー等発電事業
資源投資
・チリ・センチネラ銅鉱山の拡張プロジェクト
以上により、当連結会計年度のフリーキャッシュ・フローは、2,026億円の収入となりました。前年度比では946億円の収入の増加であります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
配当金の支払及び自己株式の取得を行った結果、1,220億円の支出となりました。前年度比では1,321億円の支出の減少であります。
(b)財政状態の状況
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(単位:億円) |
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前連結 会計年度末 |
当連結 会計年度末 |
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増減 |
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総資産 |
89,236 |
92,020 |
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2,784 |
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ネット有利子負債 |
19,024 |
19,655 |
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631 |
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親会社の所有者に帰属する持分合計 |
34,597 |
36,292 |
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1,696 |
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ネットDEレシオ |
0.55 |
倍 |
0.54 |
倍 |
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△0.01 |
ポイント |
(注)ネット有利子負債は、社債及び借入金(流動・非流動)の合計額から現金及び現金同等物、定期預金を差し引いて算出しております。
当連結会計年度末における総資産は、持分法で会計処理される投資の増加により、前年度末比2,784億円増加の9兆2,020億円となりました。ネット有利子負債は、フリーキャッシュ・フローでの収入があったものの、支払配当や自己株式の取得等があったことにより、前年度末比631億円増加の1兆9,655億円となりました。親会社の所有者に帰属する持分合計は、円高等による在外営業活動体の換算差額の減少があったものの、純利益の積上げによる利益剰余金の増加により、前年度末比1,696億円増加の3兆6,292億円となりました。この結果、ネットDEレシオは0.54倍となりました。
(c)資本政策及び資本コストに関する考え方
当社は、中長期的な企業価値の向上を追求するため、稼ぐ力の継続強化、ROEの維持・向上、株主資本コストの低減を目指しております。現中期経営戦略「GC2027」では、既存事業からの基礎営業キャッシュ・フローの最大化と投資の回収促進によりキャッシュ創出力を強化します。創出したキャッシュは優良な成長投資へ優先配分し、更なる企業価値向上を実現する方針を掲げています。また、収益力の向上を踏まえ株主還元を更に強化するとともに、GC2027期間の3ヵ年累計で株主還元後フリーキャッシュ・フロー(営業資金の増減等を除く)の黒字を維持します。
また、株主資本コストを十分に意識した経営を実施すべく、財務レバレッジの適正化のみならず、投資規律の徹底や投資の精度向上、資産の優良化といった業績ボラティリティの低減に向けた取組みを行っています。更に、前中期経営戦略「GC2024」期間に引き続き、現中期経営戦略「GC2027」においても株主還元方針として累進配当を導入しております。配当の安定は、株主資本コストの低減にも資すると考えています。加えて、コーポレート・ガバナンスや気候変動対策を含むサステナビリティへの取組み、人財戦略等、非財務面での施策も推進することで、中長期的な企業価値向上に向けた株主資本コストの低減に取り組んでいます。
当連結会計年度における資本配分の状況は以下のとおりであります。
当連結会計年度における基礎営業キャッシュ・フローは6,066億円の収入となり、子会社や持分法で会計処理される投資の売却等の投資活動による収入と合わせた収入合計額は7,658億円となりました。一方で、新規投資・CAPEX等の投資活動による支出は5,546億円となり、更に親会社の株主に対する配当金及び自己株式の取得資金1,975億円を控除した株主還元後フリーキャッシュ・フロー(営業資金増減等を除く)(※)は、138億円の収入となっております。また、当社の資本配分方針、株主還元方針は、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」及び「第4 提出会社の状況」における「3 配当政策」に記載のとおりであります。
(※)基礎営業キャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローの合計額から、親会社の株主に対する配当金及び自己株式の取得資金を控除したもの。
(d)資金調達の方針及び手段
当社及び連結子会社の資金調達に関しては、資産構成に合わせた最適資金調達を基本方針としております。
銀行、生保等の国内金融機関を中心とした間接調達、及び社債(国内社債発行登録枠2,000億円を設定)、コマーシャル・ペーパーの発行を通じた直接調達をバランスよく組み合わせることにより、必要資金を確保するとともに、長年にわたり金融機関・市場関係者と培った関係性を活かしながら、安定的な資金調達と金融費用の削減を目指しております。
また、財務基盤の強化に資する調達として、ハイブリッド社債(劣後特約付)750億円、ハイブリッドローン(コミット型劣後特約付)250億円を有しています。
連結子会社を含む当社グループの資金管理については、原則として、当社及び国内外の金融子会社、海外現地法人等の調達拠点を通じて、資金余剰のあるグループ会社の余資を、他のグループ会社の資金需要に機動的に活用することで、グループ全体における効率的な調達体制を維持しております。
格付について、当社はムーディーズ・ジャパン株式会社(Moody's)、S&Pグローバル・レーティング・ジャパン株式会社(S&P)、株式会社格付投資情報センター(R&I)、株式会社日本格付研究所(JCR)の4社から格付を取得しております。
当連結会計年度末現在の長期格付は、Moody'sがBaa1(見通し「安定的」)、S&PがBBB+(見通し「ポジティブ」)、R&IがAA-(見通し「安定的」)、JCRがAA(見通し「安定的」)となっております。
(e)流動性の状況
当社及び連結子会社では、基礎営業キャッシュ・フロー等の収入や手元流動性(現金及び現金同等物並びに定期預金の保有)の確保に加え、コミットメントラインの設定により、営業資金や新規投資・CAPEX(資本的支出)といった資金需要、並びに1年以内に返済予定の長期債務を含む短期債務に対する流動性を準備しております。
当連結会計年度末の現金及び現金同等物並びに定期預金の残高は5,695億円となっております。
設定しているコミットメントラインは以下のとおりであります。
・大手邦銀を主としたシンジケート団による3,000億円(長期)
・欧米主要銀行を主としたシンジケート団及び大手邦銀による1,350百万米ドル(長期)
③ 重要性がある会計方針及び見積り
当社の連結財務諸表は、国際会計基準審議会によって公表されたIFRSに準拠して作成しており、連結財務諸表の作成にあたっては、報告期間の期末日における資産・負債の計上、偶発資産・偶発負債の開示及び期中の収益・費用の計上を行うため、必要に応じて会計上の見積り及び仮定を用いております。この会計上の見積り及び仮定は、その性質上不確実であり、実際の結果と異なる可能性があります。連結財務諸表に特に重要な影響を与える会計上の見積り及び仮定は以下のとおりであります。
有形固定資産及び無形資産の減損
当社及び連結子会社は、各報告期間の期末日に資産が減損している可能性を示す兆候の有無を判定しております。資産が減損している可能性を示す兆候の内容は、主に、事業環境の悪化に伴う収益性の低下、事業内容の見直し等によるものです。
有形固定資産及び耐用年数を確定できる無形資産については、資産が減損している可能性を示す兆候が存在する場合には、当該資産の回収可能価額の見積りを行っております。耐用年数を確定できない無形資産及びのれんについては、減損の兆候があるか否かを問わず、最低限年1回定期的に資産の帳簿価額が回収可能価額を超過しているか否かを確認しております。
資産の回収可能価額は資産又は資金生成単位の売却費用控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い方の金額としており、資産が他の資産又は資産グループから概ね独立したキャッシュ・インフローを生成しない場合を除き、個別の資産ごとに決定しております。公正価値は独立の第三者による評価結果を使用する等市場参加者間の秩序ある取引において成立し得る価格を合理的に見積り算定しております。資産又は資金生成単位の回収可能価額が帳簿価額を下回っている場合は、当該資産の帳簿価額をその回収可能価額まで減額し、減損損失として認識しております。使用価値の算定にあたって使用される将来キャッシュ・フローは、経営者により承認された事業計画や、それが入手できない場合は、直近の資産状況を反映した事業計画によって見積っております。石油・原油等の資源事業に係る開発設備及び鉱業権においては、将来油価・ガス価、鉱区ごとの開発コスト及び埋蔵量等を主要な仮定としております。使用価値の評価にあたり、見積られた将来キャッシュ・フローは、貨幣の時間価値及び当該資産に固有のリスクに関する現在の市場評価を反映した割引率を用いて現在価値まで割り引いております。これらの主要な仮定について、事業戦略の変更や市場環境の変化等により見直しが必要となった場合並びに割引率の見直しが必要となった場合に減損損失が発生する可能性があります。
減損損失認識後は、各報告期間の期末日において、過去に認識した減損損失がもはや存在しないか、又は減少している可能性を示す兆候があるか否かを判定しております。このような兆候が存在する場合は、資産の回収可能価額の見積りを行っております。見積られた回収可能価額が資産の帳簿価額を超える場合は、減損損失を戻入れております。戻入れ後の帳簿価額は、過去において当該資産について認識した減損損失がなかったとした場合の帳簿価額(減価償却累計額控除後又は償却累計額控除後)を超えない範囲で認識しております。減損損失の戻入額は純損益として認識しております。
なお、のれんについて認識した減損損失を戻入れることはしておりません。
関連会社及びジョイント・ベンチャーに対する投資の減損
当社及び連結子会社が保有している関連会社及びジョイント・ベンチャーに対する投資に関して、各報告期間の期末日に総合的に判断を行い、減損の客観的証拠がある場合には、関連会社及びジョイント・ベンチャーに対する投資の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減額は減損損失として純損益で認識しております。減損の客観的証拠の内容は、主に、市場性のある投資の市場価格の下落、事業環境の悪化に伴う収益性の低下、事業内容の見直し等によるものです。また、回収可能価額は売却費用控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い方の金額としております。公正価値は主に、売却予定価格等に基づき算定しており、使用価値は主に、経営者により承認された事業計画等に基づき算定しております。これらの主要な仮定について、事業戦略の変更や市場環境の変化等により見直しが必要となった場合並びに割引率の見直しが必要となった場合に減損損失が発生する可能性があります。
減損損失認識後は、認識した減損損失がもはや存在しない、又は減少している可能性を示す兆候の有無に関して、各報告期間の期末日に判定しております。このような兆候が存在する場合は、関連会社及びジョイント・ベンチャーに対する投資の回収可能価額の見積りを行っております。見積られた回収可能価額がその投資の帳簿価額を超える場合は、減損損失を戻入れております。減損損失の戻入額は、その投資の回収可能価額が減損損失認識後に増加した範囲で認識しており、過去に認識した減損損失の金額を上限として純損益として認識しております。
偶発負債及び引当金
引当金は、当社及び連結子会社が過去の事象の結果として、現在の法的又は推定的債務を有しており、当該債務を決済するために経済的便益を有する資源の流出が生じる可能性が高く、かつ当該債務の金額について信頼性をもって見積ることができる場合に認識しております。貨幣の時間価値の影響が重要である場合、引当金は当該負債に特有のリスクを反映させた割引率を用いた現在価値により測定しております。
訴訟案件に関する重要な引当金や偶発負債の見積りにあたっては、見積時点における訴訟プロセスの状況、訴訟戦略上の様々な選択肢や想定される将来の訴訟の趨勢も考慮のうえ、関連する事実関係や法律関係について、社外専門家を起用のうえ、当社の主張する法的立場の客観的な分析及び評価を実施しております。訴訟において当社が最終的に損失を被る可能性が高い状況であると考えられる場合に、信頼性をもって見積ることができる金額の引当金を計上しております。
当社の経営陣は、これらの見積り及び仮定は合理的であると考えておりますが、想定を超えた変化等が生じた場合、当社の連結財務諸表に大きな影響を及ぼすことがあります。
その他、重要性がある会計方針についての詳細は、「第5 経理の状況」における「1 連結財務諸表等 連結財務諸表に対する注記3 重要性がある会計方針」に記載のとおりであります。
④ 経営戦略の現状と今後の見通し
当社グループは、中期経営戦略「GC2021」(2019年度-2021年度)、「GC2024」(2022年度-2024年度)期間を通じて、収益基盤を確立させてきました。2030年へ向けた長期的な経営戦略の第3段階として、次なる高みへ向け成長を加速させるべく、中期経営戦略「GC2027」を策定し、2025年度よりスタートしております。
詳細については、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の「(2)会社の経営の基本方針」に記載のとおりであります。
当連結会計年度において、重要な契約等の決定又は締結等はありません。
特に記載すべき事項はありません。