第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)会社の経営の基本方針

 当社グループは、「人間の創造性発揮のための環境づくりを通して豊かな社会の実現に貢献する」という企業理念のもと、株主の皆様、取引先、従業員をはじめとする社会の全てのステークホルダーに信頼と満足を得られる企業となることを目指してまいります。

 コーポレートビジョンを「情報の価値化と知の協創をデザインする」と定め、お客様の成長を支援し続けることを当社グループの存在理由とし、社会への貢献と企業価値の向上を目指します。

 

(2)利益配分に関する基本方針

 当社は、長期的かつ総合的な株主価値の向上を図るため、健全なる持続的成長を目指します。株主様への還元につきましては、安定的な配当の維持を前提に、「財務基盤の充実」と「中長期的な会社の経営戦略の実現に向けた投資」とのバランスをとりながら、将来に向けて一層の拡大と充実を目指すことを基本方針としております。

 

(3)目標とする経営指標

 自己資本当期純利益率(ROE)については、将来の市場変化に対応するための自らの変革に向けての投資を推進しながら、安定的に10%前後の水準を継続できる経営基盤づくりを目指します。

 

(4)中長期的な会社の経営戦略と対処すべき課題

 今般当社グループは、2025年7月期から2027年7月期までの3年間を対象とする第17次中期経営計画を策定しました。

① 第17次中期経営計画を進めるにあたり

 内田洋行における一連の経営改革は、2015年に開始されました。リーマン・ショック後に低迷した当社の収益性の改善に取り組むことと、まだ顕在化していないものの10年後には確実に到来する日本の少子化の重大な影響に対処するため、旧来の内田洋行の延長ではなく中長期の視点に立った改革をスタートしました。

 第14次中期経営計画(2016年7月期~2018年7月期)では、全社の事業を俯瞰的にとらえるため、事業の軸からICT関連と環境構築関連に、市場の軸から民間市場と公共市場に分けた4つのマトリクスで構成する事業ポートフォリオを設定、現在のセグメントにある各個別事業をSBU(スモールビジネスユニット)としてマトリクスの領域にプロットすることから始め、共有するためにノウハウなどのリソースの可視化に着手しました。同時に旧来の三本部制を廃止し、各本部の持つスタッフの流動化を進めて、成長の芽となる事業を分離独立させる戦略を遂行し、さらに社内に分散していたSE組織やICT関連のR&D・開発部門などを機能統合することで、リソースの共有を開始しました。

 第15次中期経営計画(2019年7月期~2021年7月期)では、第14次中計から推進した市場を起点にSBUの連携を図るマネジメントにより、リソースの共有とフレキシブルな機動性が高まり、Windows10更新需要や教育ICT、首都圏新築ビル需要の集中に対し、従来よりも幅広く着実に対応することができ、過去最高益を達成します。この効果はコロナ禍でも効用を発揮し、コロナ対策のための教育ICT、GIGAスクール構想案件や大手民間企業のIT投資拡大など、急激な市場変化にも的確に機動的に対処し大きな成果を得ることができ、業績のベースラインのアップを実現させました。

 第16次中期経営計画(2022年7月期~2024年7月期)では、内田洋行単体を中心に継続して組織の再編を進めるとともに、グループ全体での再編に向けた準備に着手しました。連結上場子会社のウチダエスコ株式会社や、連結子会社の株式会社ウチダテクノを完全子会社化し、データ活用を事業化したグループ会社のスマートインサイト株式会社を吸収合併しました。また並行してグループリソースの共有化を図るためのグループ共通情報システムにおける大型投資を開始しました。さらに新たな成長に向けて、教育ICTのトレンドであるCBT(Computer Based Testing)の分野において世界で先進的な、ルクセンブルクのソフトウェア開発会社Open Assessment Technologies S.A.の100%出資を実施しています。

 これらの成果は、これからの継続したベースラインのアップに活かされると考えます。

 第17次中期経営計画では、これまでのマネジメント変革をグループ全体に大きく拡げて、リソース共有の幅を拡大し、さらなるベースラインのアップを図ることを基本方針とします。その上で、10年先を見据えた社会構造変化への対応を進め、将来の成長に向けた投資と、長期的な事業の安定を図るための経営基盤への投資を進めてまいります。

 

② 利益計画の考え方

 第17次中期経営計画では、過去最高益の更新を継続し、売上高3,400億円、営業利益115億円を超える水準に挑戦、さらに次の大台の水準を目指して将来に向けた成長策と投資を推進します。

 期間中の市場環境認識としては、海外経済の減速、人手不足による供給制約などが懸念されるものの、企業の設備投資やデジタル投資の増加による生産性向上などが見込まれ、賃金上昇などによる個人消費回復も含め、概ね良好な市場環境と判断しており、国内経済の名目GDP成長率は概ね毎年+3%前後で成長することが予測されます。

 当社の事業領域の中では、IT市場でのクラウド関連が高い伸びを継続する可能性が高く、東名阪でのオフィス分野の需要拡大も予想されます。加えて、2025年~2026年にかけてGIGAスクール更新需要、自治体でのシステム標準化需要など、特別な需要がピークを迎えることから、日本の平均成長率より高い年率7%以上の伸びを継続し、将来に向けた変革と投資を進めます。

 

③ 市場変化に対応する成長シナリオとマネジメント変革

イ グループ全体で市場変化に対応できるフレキシブルな体制を構築する。

 当社グループは、民間・公共という共通する市場の中で、ICT関連と環境構築関連の多様な事業各々が、それぞれの特色をもってお客様と接して蓄積されたノウハウからお客様を多角的、立体的に把握し、継続的に貢献してきましたが、これからの社会構造変化によって需要は大きく変化します。同一の事業領域にあるグループの事業リソースをこれまで以上に関連づけることで、内田洋行グループ全体の市場変化への対応力が高まり、より強い事業集団に発展するものと考えます。

 これまで4つのマトリクスの視点から事業ポートフォリオを設定し、新たな事業の組合せにより変革してきた取り組みを、今後はグループ全体に拡げて、上記の戦略を推進し、更なる将来の市場変化に機敏に対応できる体制を構築します。

 

ロ 成長シナリオ

 スマート社会を実現するためにはデジタルトランスフォーメーション(DX)が必須となりますが、真の意味でのDX、トランスフォーム(変革)の実現には、実行する「人」の育成と、基になる「データ」への投資の強化が重要になります。内田洋行グループはこの「人」の創造性を大切にする環境づくりと、「データ」の生成と活用する「人」のスキルとテクノロジーを高める「働く場」「学ぶ場」の革新に挑戦し、企業や官公庁・自治体、学校を中心とするお客様をご支援します。

 

○第17次中期経営計画においては、戦略的な重点市場に対しICTと環境構築のノウハウを融合、グループ全体のリソースを活用し、セグメントを超えたリソースの結集により競争力を高め、当社独自の競争優位づくりに挑戦する。

(大手民間市場)

 DX投資の拡大で急成長するICT事業分野をベースに、他の分野のノウハウと顧客網を結び付けてビジネス機会の拡充を図り、ユニークな強みの具現化を進展させる。

(公共市場)

 NEXT GIGAと自治体の情報システム標準化の推進を基に、教育ICTと自治体ICTを繋ぐ役割を担い、少子化に苦しむ地域に貢献を目指す。学校と公共施設の連携から地方創生へもつなげる。

(伝統的に強みのある市場の再活性)

 強みのある食品・建設・福祉・印刷・教育機器・社会人教育などの業種をさらに強化すると同時に、他分野のリソースの活用と他分野への貢献で相互強化する。

 

○将来の成長のためのデータ活用ビジネスの強化

 DXのキーはデータ活用にあるものと認識し、各ICT分野でデータ活用に取り組み、顧客への貢献と当社の将来の収益モデルの開拓に取り組む。

(民間市場のデータ活用)

 シェアの高い会議室運用支援サービス「SmartRooms」、オフィスワークでのナビゲーションシステム「SmartOfficeNavigator」を軸に、デジタルデータの統合可視化と生成AIを活用したデータ解析・アナリティクス等を支援する「Mμgen」など、当社ソリューション群を起点にサービスビジネスの強化・拡充を図る。

(公共市場のデータ活用)

 二つのデータ連携基盤から顧客のデータ活用を推進する。

・自治体の情報システムの標準化と学校の児童生徒のデータの標準化を結び、子供たちのデータを子供たちのために活かす。

 

・国内外でCBT(Computer Based Testing)の展開を図り、CBTと多様なアプリケーションを連携できる学習デジタルエコシステムの構築を目指す。

 

○グループ全体でのエンジニアリングリソースの強化

 上記の戦略的な市場の強化とデータ活用を支えるのは、顧客に近いところに立つエンジニアリングリソースにある。その強みはネットワークと業務系システムのノウハウにある。グループ全体を横断して民間・公共のシステムズエンジニアリング(※)の強化と投資を行う。

(※)複数の専門領域にまたがる多様な価値を統合して全体最適を実現する考え方

 

ハ 長期的な経営基盤の安定を図るための投資の拡大

○グループ共通システムの整備の継続推進

・グループの情報共有、業務効率向上とともに、フレキシブルな体制構築に不可欠な共通販売管理システム及び周辺システムの整備を推進する。

○人への投資の拡大

・採用の拡充・人材育成(次世代経営層の育成、DX研修)

○働く環境の整備、安全安心の強化

○ブランド価値の向上

・事業改革にともなうブランド発信の強化

 

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組みは、次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)サステナビリティに関するガバナンス及びリスク管理

 当社グループは、企業理念に基づき、お客様における社会構造変化への対応を、「働き方変革」、「学び方変革」においてご支援すること、および事業活動において社会・環境問題をはじめとするサステナビリティをめぐる課題に対応することを、持続的成長を土台としたサステナビリティの基本的な考え方とし、第17次中期経営計画(2025年7月期~2027年7月期)を策定し、デジタル社会の実現、「人」と「データ」への投資の強化、新たな地方創生という大きな社会課題への挑戦を進めております。

 気候変動対応については、環境関連担当役員を委員長、社長をオブザーバーとするサステナビリティ小委員会において気候変動による事業、経営への影響を議論しています。議事内容は、経営会議に報告され、重要事項に関しては取締役会に報告・共有をしております。なお、リスク管理については取締役会および経営会議の監督、指導のもと、ISOで規定された環境マネジメントシステム推進体制により社内各機能組織から関連情報を集約し、気候変動関連リスクの選定と重大性の特定を行い、対応策の計画と検討を実施します。

 人的資本への投資については、当社グループが持続的に成長していくための特に重要なテーマと位置付けて、人員構成に関する議論、人材育成・研修計画、マネジメント体制などの重要なテーマおよびリスクについて社長を含むすべての社内取締役から構成される経営会議に報告、付議されます。重要事項に関しては必要に応じ取締役会に報告・共有をしております。

 

(2)気候変動への取り組み

 

① 戦略

 当社グループの事業範囲において想定し得るリスクと機会を抽出し、影響の大きさと発生の可能性の2軸からそのインパクトを評価して重点となる項目を絞り込み、対策を整理しています。なお、分析にあたりIEA(国際エネルギー機関)およびIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の示す以下の2つのシナリオを参照しています。

●1.5℃未満シナリオ:気温上昇を最低限に抑えるための規制の強化や市場の変化などの対策が取られるシナリオ( IEA-NZE )

●4℃シナリオ:気温上昇の結果、異常気象などの物理的影響が生じるシナリオ( IPCC-AR5(第5次評価報告書)-RCP8.5)

 

 分析の結果、リスクについて、1.5℃シナリオにおいては、脱炭素社会への移行に向けてカーボンプライシング等の政策や環境規制の強化が想定されており、当社グループにおいては、原材料や製品の調達価格の上昇が予想されます。これに対しては、グループ内に留まることなく外部サプライヤーとの脱炭素に向けた協働を進めることを含め対処して参ります。加えて、環境意識が高まる中、気候変動対策や中長期目標の進捗に遅れが生じた場合、お客様をはじめとする様々なステークホルダーからの信頼が低下し、購買基準が厳格化したお客様を中心に顧客離れが進み、売上の減少等につながる恐れがあります。

 また、4℃シナリオにおいては、台風等風水害の激甚化が想定される中、異常気象や自然災害による当社工場や倉庫、営業所等の拠点、調達先の被災により、営業活動の停滞や在庫等の毀損、ひいてはお客様からの信頼低下や逸失利益の発生につながる恐れがあります。これらリスクに対して、当社グループは既に一定程度のレジリエンスを持つものと認識しておりますが、今後も最新の動向や技術を把握しつつ、その強化に努めて参ります。

 一方、機会については、1.5℃シナリオと4℃シナリオの両方において想定されます。お客様における気候変動対策を、ICTと環境構築の両面でご支援するなかで、その獲得を目指して参ります。

リスクと機会、および取り組みの方向性の一覧につきましては、以下のURLからご参照ください。

<リンクアドレス>

https://www.uchida.co.jp/company/csr/environment/10.html

 

② 指標と目標

 当社グループでは、気候変動のリスクと機会に対応することを目的として、2022年にCO2排出量削減の中長期目標を設定しています。再生エネルギーや将来の新たな技術なども活用することで、目標達成に向けて引き続き努めて参ります。なお、本年において、この中長期目標に変更はありません。

<CO2排出削減目標>

・削減目標:2030年までに基準年比50%削減、2050年までに100%削減

・基準年:2022年7月期

・対象スコープ:Scope1およびScope2

・対象地域:国内および海外

・対象企業範囲:単体および連結子会社

 

<現在のCO2排出量>

 当社グループでは単体および国内外すべての連結子会社を対象として、Scope1およびScope2の排出量の算定を行っています。また、まずは単体を対象としてScope3の算定をすべての対象カテゴリで開始し、2024年5月に算定結果を開示しています。2022年7月期および2023年7月期の排出量につきましては、以下のURLからご参照ください。

<リンクアドレス>

https://www.uchida.co.jp/company/news/topics/240522.html

 

当連結会計年度における排出量は次の通りです。

   Scope1              :2,040 t- CO2 (前年比98.0%)

   Scope2(マーケット基準)     :3,764 t- CO2 (前年比79.9%)

   Scope1+2(マーケット基準)合計 :5,804 t- CO2 (前年比85.5%)

 

<ご参考>

   Scope2(ロケーション基準)    :4,531 t- CO2 (前年比106.1%)

 

 事業活動量が増加している状況下において、エネルギー効率の良い営業車両への切り替え、再エネ電力への切り替えを中心とした削減策を計画的に進め、2030年の目標達成に向けて排出削減は順調に推移しています。

 なお、当連結会計年度におけるScope3につきましては、算定が完了次第報告させていただきます。

 

(3)人的資本に関する考え方及び取り組み

① 戦略

<人材育成方針>

 外部環境の急激な変化に対応できる思考・行動様式を持ち、主体的にキャリアを切り拓く人材の育成を進めており、人材開発を専門とするグループ会社とも緊密に連携しながら研修を強化しております。研修は特に、管理職、管理職候補、女性社員、若年層、またICT事業の基盤となるシステムエンジニアの育成に力を入れています。

イ 管理職

マネジメント力強化を目的に役職別研修や選抜型研修、外部プログラムへの派遣を行い、より広い視野・高い視座の獲得を進めております。

ロ 管理職候補

管理職候補の育成の場として選抜型の研修を行うとともに、研修を通じたアセスメントや外部機関のテストを用いた適性評価も進めております。

ハ 女性社員

女性社員を積極的に採用しつつ、研修や外部ネットワークを活用した啓発機会を設け、就業意識の向上とリーダーマインドの醸成を図っております。

ニ 若年層

入社から5年間にわたる長期研修プログラムを設け、将来を支える若年層の能力強化に取り組んでおります。

ホ システムエンジニア

システムエンジニア向けの技術研修の実施、公的資格取得の支援を行っております。また、当社独自の育成計画として体系的な知識・技術の習得を進めるため、様々な市場や事業のプロジェクトを2年以上かけてローテーションするプログラムを設け、広範囲に専門性を発揮できる人材の育成に取り組んでいます。

 

<社内環境整備方針>

 社員がキャリアを形成していくうえで、仕事と生活を両立できる環境を整備することは企業の社会的責任であり、人材の定着・確保に加えダイバーシティを推進するうえでも必要な施策と考えます。特に育児や介護によってキャリアを中断することなく安心して働き続けられるよう、各種制度の充実に努めております。

 また、企業が従業員の健康に配慮し、高い生産性や創造性を安定的に発揮できる環境を整えることは、企業の業績向上にもつながる戦略的な取組みであると捉え、産業医・内田洋行健康保険組合と緊密に連携し、より健康的で働きやすい職場づくりを推進しております。

 なお、人的資本をめぐる課題への取り組みについてはCSRレポートに記載し、当社ホームページ上で公表しております。

 

② 指標と目標

項目

目標

2024年7月期実績

10事業年度前およびその前後の事業年度に採用された女性の継続雇用割合の男性継続雇用割合に対する比率

80.0以上

87.1

新卒採用における女性割合

40.0以上

41.3

管理職に占める女性労働者の割合

5.0以上

6.7% (注)1

育児休業取得率

女性:育児休業取得率 80.0以上

女性100.0

男性:育児休業等+育児目的休暇取得率 50.0以上

男性84.0

(注)1 管理職に占める女性労働者の割合については、2024年7月21日時点の数値となります。

 

3【事業等のリスク】

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。

 なお、下記記載のリスク項目は、当社グループの事業に関するすべてのリスクを網羅したものではありません。また、文中における将来に関する事項は当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

(1)国内外の経済動向による影響について

 当社グループの事業は、国内市場に大きく依存しており、国内経済の動向により影響を受けます。

 企業収益の悪化により企業の設備関連投資が減少した場合、また、政府及び地方自治体の財政状態の悪化により公共投資が削減された場合、当社グループの業績および財務状況が悪影響を受ける可能性があります。

 

(2)製品およびサービスの欠陥について

 当社グループは品質管理に十分な意を尽くしておりますが、提供する製品およびサービスに欠陥が生じるリスクがあります。当社グループの製品およびサービスには、顧客の基幹業務の遂行等、高い信頼性が求められる状況において使用されているものがあり、その障害が顧客に深刻な損失をもたらす危険性があります。その場合、当社グループは、製品またはサービスの欠陥が原因で生じた損失に対する責任を追及される可能性があります。さらに、製品またはサービスに欠陥が生じたことにより社会的評価が低下した場合は、当社グループの製品およびサービスに対する顧客の購買意欲が低減する可能性があります。これらの場合、当社グループの業績および財務状況が悪影響を受ける可能性があります。

 

(3)情報管理に関するリスク

 お客様やお取引先の個人情報や機密情報を保護することは、企業としての信頼の根幹をなすものであります。当社グループでは、社内管理体制を整備し、従業員に対する情報管理やセキュリティ教育など、情報の保護について数々の対策を推進しておりますが、情報の漏洩が全く起きないという保証はありません。万一、情報の漏洩が起きた場合、当社グループの信用は低下し、お客様等に対する賠償責任が発生するなど、当社グループの業績および財務状況が悪影響を受ける可能性があります。

 

(4)取引先、提携先等に関するリスク

 当社グループの事業は、多くの取引先や、提携先など他社との関係によって成り立っています。従って、これらの取引先等との関係に著しい変化が生じた場合には、当社グループの業績および財務状況が悪影響を受ける可能性があります。

 

(5)公的規制等に関するリスク

 当社グループは、事業許認可、独占禁止、消費者、環境・リサイクル、租税等に関する法令や、輸出入に関する制限や規制等の適用を受けております。これらの法令・規制等を遵守できなかった場合、事業許可の取り消しや入札停止などにより事業活動に制限を受け、当社グループの業績および財務状況が悪影響を受ける可能性があります。

 

(6)自然災害に関するリスク

 地震、風水害などの自然災害により事務所・設備・社員とその家族などに被害が発生した場合には、事業継続計画(BCP)の策定、防災訓練、社員安否システムの整備などの対策を講じておりますが、被害を完全に回避できるものではなく、当社グループの業績および財務状況が悪影響を受ける可能性があります。

 

(7)気候変動に関するリスク

 当社グループでは、気候変動問題への対応を重要な課題として捉えております。今後、環境関連法規制の強化により、脱炭素社会に向け、地球環境保全に関連する費用が増加した場合は、当社グループの業績と財務状況に影響を及ぼす可能性があります。また、脱炭素社会移行への要求の高まりに対して当社グループの対応が遅れた場合には、販売機会の損失等による企業価値低下が発生し、当社グループの業績と財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

(8)知的財産権に関するリスク

 当社グループの製品または技術について、他社の知的財産権を侵害しているとされるリスク、また、第三者のソフトウェアその他の知的財産の使用に際し、何らかの事情により制約を受けるリスクがあります。これらの場合、当社グループの業績および財務状況が悪影響を受ける可能性があります。

 

(9)人的資本に関するリスク

 当社グループの成長と利益は、人材に大きく依存するため、必要とする人材を採用及び育成するとともに、人材が継続して働くことができる環境を整備することが重要です。人材を採用または育成することができない場合、流出を防止できない場合や重大な労務問題が発生した場合は、当社グループの成長や利益に影響を及ぼす可能性があります。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

①経営成績の状況

 当連結会計年度のわが国の経済は、生成AIが牽引する半導体関連需要の世界的拡大や日本でのインバウンド需要の増大などもあり、製造業、非製造業ともに企業業績は好調で設備投資も堅調に推移しました。民間企業を中心に生産性向上のためのDX分野への投資は引き続き拡大しており、人手不足感の強まりなどを背景として人材教育や働く環境の改善などへの投資も広がっています。しかしながら、今後は海外経済の減速、為替変動などの影響により、国内景気は下振れする懸念もあります。

 

 以上のように民間各社の業績が拡大する状況の中、当連結会計年度では、民間市場において大手企業によるデジタル分野への投資拡大により、クラウドベースのサブスクリプション型ライセンス契約の大型案件の獲得が引き続き高い伸びを維持しております。また人材確保のための企業の投資意欲が高いことから、働く環境の改善を図るためのオフィスリニューアル案件も増加してオフィス事業が大きく伸長しました。さらに中堅中小企業では、2023年10月から開始したインボイス制度への情報システム対応案件を順調に獲得するなど、民間需要全体の拡大に着実に対応してまいりました。一方公共市場では、教育ICT市場はGIGAスクール需要の端境期にあり、自治体での昨年の反動による減少もありましたが、大学市場では案件獲得が大きく伸長し、教育ICTでの大型案件の獲得もありました。これらの結果、売上高は、2,779億4千万円(前連結会計年度比12.7%増)と大きく業績を拡大することができました。

 

 また当社グループ自身も将来に向けた投資活動を強化しております。人への投資として昨年を上回る給与のベースアップと処遇改善を実施し、事業においてはデータ活用ビジネスのための開発投資を進めております。またグループ全体の情報共有と業務効率の改善を推進するためのグループ共通販売管理システムの投資や、顧客接点強化のためのマーケティング活動を強化していることから、販売費及び一般管理費は大きく増加しました。しかしながら売上高の大幅な伸長のもと、営業利益は93億4千5百万円(前連結会計年度比10.8%増)となり、経常利益は101億3千5百万円(前連結会計年度比10.6%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は、賃上げ促進税制の効果もあり69億9千6百万円(前連結会計年度比9.9%増)となりました。

 以上のことから、売上高と営業利益、経常利益では、国の超大型補正予算による生徒一人一台のGIGAスクール案件のあった2021年7月期の実績に次ぐ高い水準となり、当期純利益では過去最高益となりました。

 

 当連結会計年度は、内田洋行グループ第16次中期経営計画(2022年7月期 ~2024年7月期)の最終年度となります。第14次中期経営計画から9年間にわたって進めてきた構造改革による各事業の競争力向上により、第16次中期経営計画の当初目標を大きく上回りました。働き方変革、学び方変革を標榜し続けてきた当社グループのこれからの成長機会は、社会変化への対応を迫られるお客様をご支援することにあると考え、第16次中期経営計画ではグループリソースを生かした経営への転換を速める諸施策をスタートさせました。今後はその成果を生かし、社会に貢献できる内田洋行グループとなれるよう、より一層継続した改革を進めてまいります。

 

 セグメント毎の経営成績は以下のとおりです。

 

<公共関連事業>

 公共関連事業分野では、自治体、官公庁市場では前年にあった大型ICT案件の反動もあるもの、大学市場などが伸長し、概ね計画通りに推移しました。

 教育ICTではGIGAスクールの端境期にある中、大量の端末整備に対応するためのネットワーク構築案件などで当社の強みを発揮したほか、教室環境のICT化で大型案件の獲得がありました。大学市場では、大学の学部・学科の新たな設置や改編による施設設備の整備や、ICTに対応した教室環境構築の大型案件により、売上高は大きく伸長しました。また学校や公共施設の設備整備案件も増大しました。

 一方、全社の投資増大にともない、構成比率が高い公共関連事業分野の負担が大きいことに加え、前連結会計年度に子会社化したComputer Based Testing(CBT)プラットフォームを開発するOpen Assessment Technologies S.A.社での試験研究投資も開始したことから、販管費は増大しております。

 これらの結果、売上高は809億4千9百万円(前連結会計年度比0.3%増)となり、営業利益は30億2千2百万円(前連結会計年度比11.8%減)となりました。

 

<オフィス関連事業>

 オフィス関連事業分野では、東名阪エリアを中心に、ハイブリッドワークスタイルに対応した新たな需要が着実に拡大しています。また好調な企業業績を背景に、人材確保のための投資の意識がこれまで以上に高まっており、オフィスの増床や大型移転案件、R&D部門など本社部門から周辺部門へとオフィスリニューアル案件が順調に拡大しました。

 また、海外事業において、米国を中心とするホビー・クラフト関連の製品販売も堅調に推移いたしました。これらにより、売上高は563億6百万円(前連結会計年度比10.2%増)、営業利益は16億2千万円(前連結会計年度比51.2%増)となりました。

 

<情報関連事業>

 情報関連事業分野では、大手民間企業でクラウドベースのサブスクリプション型ライセンスの大型の契約が伸長しており、クラウド型のインフラ構築サービスや、生成AIに関連する商談も増加しています。また大手企業のフリーアドレス化の進展にともなって社員の位置情報やオフィスビルに関するデータを可視化してコミュニケーションを促すシステム導入や、会議室運用支援サービスなど、データを活用したクラウドサービスの獲得も進みました。これらの案件ではオフィス関連事業分野との相乗効果が拡大しています。完全子会社化したウチダエスコではキッティングサービスなどの民間向けITサービス分野が拡大しました。

 また、当社グループが強みを持つ食品業等のユーザーを中心に、2023年10月1日に開始されたインボイス制度に対応するための業務系システムのプログラム改修需要の獲得が大きく拡大し、中堅中小企業向けICTビジネスも順調に推移しました。

 これらの結果、売上高は1,396億5千7百万円(前連結会計年度比22.8%増)となり、営業利益は44億5百万円(前連結会計年度比20.7%増)となりました。

 

<その他>

 主な事業は教育研修事業であります。前年にあった国の大型受託案件は終了したものの、民間企業向けのDX研修などが堅調に推移しました。売上高は10億2千6百万円(前連結会計年度比0.1%減)となり、営業利益は1億9千8百万円(前連結会計年度比25.2%減)となりました。

 

②キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度末における連結ベースの現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ7億1千3百万円増加し、262億8千6百万円となりました。

 

<営業活動によるキャッシュ・フロー>

 営業活動によるキャッシュ・フローは48億5千万円増加いたしました(前連結会計年度は72億6千9百万円の増加)。これは主に、税金等調整前当期純利益102億8千万円(前連結会計年度は92億円)、仕入債務の増加20億3千8百万円(前連結会計年度は27億3千5百万円の増加)、減価償却費18億8千5百万円(前連結会計年度は18億9千7百万円)等の増加に対し、売上債権及び契約資産の増加87億7千7百万円(前連結会計年度は3億7千9百万円の減少)等の減少によるものであります。

 

<投資活動によるキャッシュ・フロー>

 投資活動によるキャッシュ・フローは18億1千6百万円減少いたしました(前連結会計年度は48億5千7百万円の減少)。これは主に、ソフトウェア開発等に係る投資支出13億2百万円、および有形固定資産の取得による支出6億7千7百万円等の減少によるものであります。

 

<財務活動によるキャッシュ・フロー>

 財務活動によるキャッシュ・フローは23億5千4百万円減少いたしました(前連結会計年度は35億2千1百万円の減少)。これは主に、配当金の支払額18億7千万円等の減少によるものであります。

 

③生産、受注及び販売の実績

イ 生産実績

 当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

生産高(百万円)

前年同期比(%)

公共関連事業

1,604

134.9

オフィス関連事業

3,679

109.9

情報関連事業

11,531

143.0

合計

16,816

133.4

(注)1 セグメント間取引については、相殺消去しております。

2 記載の金額の表示は販売価格によっております。

 

ロ 受注実績

 当連結会計年度における上記生産に係る受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

受注高(百万円)

前年同期比(%)

受注残高(百万円)

前年同期比(%)

公共関連事業

1,559

138.6

196

81.5

情報関連事業

11,513

154.7

2,100

99.1

合計

13,072

152.6

2,297

97.3

(注)1 セグメント間取引については、相殺消去しております。

2 オフィス関連事業は、見込生産を行っているため受注実績の記載を省略しております。

 

ハ 販売実績

 当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

販売高(百万円)

前年同期比(%)

公共関連事業

80,949

100.3

オフィス関連事業

56,306

110.2

情報関連事業

139,657

122.8

その他

1,026

99.9

合計

277,940

112.7

(注)1 セグメント間取引については、相殺消去しております。

2 相手先別の販売実績および当該販売実績の総販売実績に対する割合は、当該割合が100分の10以上の主要な販売先はありませんので、記載を省略しております。

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

①重要な会計方針および見積り

 当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成にあたり、見積りが必要な事項につきましては、合理的な基準に基づき、会計上の見積りを行っております。

 詳細につきましては、「第5[経理の状況] 1[連結財務諸表等] (1)[連結財務諸表]注記事項 (連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」及び同「注記事項 (重要な会計上の見積り)」をご参照ください。

 

②経営成績の分析

イ 売上高

 民間各社の業績が拡大する状況の中、民間市場において大手企業によるデジタル分野への投資拡大により、クラウドベースのサブスクリプション型ライセンス契約の大型案件の獲得が引き続き高い伸びを維持しております。また人材確保のための企業の投資意欲が高いことから、働く環境の改善を図るためのオフィスリニューアル案件も増加してオフィス事業が大きく伸長しました。さらに中堅中小企業では、2023年10月から開始したインボイス制度への情報システム対応案件を順調に獲得するなど、民間需要全体の拡大に着実に対応してまいりました。一方公共市場では、教育ICT市場はGIGAスクール需要の端境期にあり、自治体での昨年の反動による減少もありましたが、大学市場では案件獲得が大きく伸長し、教育ICTでの大型案件の獲得もありました。これらの結果、売上高は、2,779億4千万円と前連結会計年度に比べ313億9千万円(12.7%)の増収となっております。

 なお、セグメン卜別の概況につきましては、「(1)経営成績等の状況の概要 ①経営成績の状況」をご参照ください。

 

ロ 営業利益

 売上の増加等により、営業利益は93億4千5百万円と前連結会計年度に比べ9億8百万円の増益となりました。

 

ハ 経常利益

 経常利益は101億3千5百万円となり、前連結会計年度に比べ9億7千4百万円の増益となっておりますが、主に営業利益と同様の理由によるものです。

 

ニ 税金等調整前当期純利益

 税金等調整前当期純利益は102億8千万円となり、前連結会計年度に比べ10億8千万円の増益となっておりますが、主に営業利益と同様の理由によるものです。

 

ホ 親会社株主に帰属する当期純利益

 親会社株主に帰属する当期純利益は69億9千6百万円となりました。前連結会計年度に比べ6億2千9百万円の増益となっておりますが、主に税金等調整前当期純利益と同様の理由によるものです。

 

③財政状態の分析

イ 資産

 当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度末に比べ176億3千6百万円増加し、1,506億4千4百万円となりました。流動資産は、受取手形、売掛金及び契約資産の増加88億3千万円等により前連結会計年度末に比べ80億2千2百万円増加し、1,063億5千4百万円となりました。また固定資産は、投資有価証券の増加51億2千3百万円、退職給付に係る資産の増加47億2千万円等により前連結会計年度末に比べ96億1千3百万円増加し、442億9千万円となりました。

 

ロ 負債

 当連結会計年度末の負債合計は、前連結会計年度末に比べ53億3千3百万円増加し、862億2千万円となりました。流動負債は、仕入債務の増加20億5千9百万円、契約負債の増加5億2千7百万円、未払消費税等の増加4億5千5百万円等により前連結会計年度末に比べ29億9千万円増加し、733億2千2百万円となりました。また固定負債は、繰延税金負債の増加31億4千6百万円、および退職給付に係る負債の減少5億7千万円等により前連結会計年度末に比べ23億4千2百万円増加し、128億9千7百万円となりました。

 

ハ 純資産

 当連結会計年度末の純資産合計は、親会社株主に帰属する当期純利益69億9千6百万円による増加、上場有価証券の時価評価に伴うその他有価証券評価差額金の増加36億5千1百万円、割引率上昇等による退職給付に係る調整累計額の増加30億9千7百万円、および剰余金の配当18億7千万円による減少等により、前連結会計年度末に比べ123億2百万円増加し、644億2千4百万円となりました。以上の結果、自己資本比率は前連結会計年度末の39.0%から3.6ポイント上昇し、42.6%となりました。

 

④キャッシュ・フロー

 「(1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」をご参照ください。

 なお、当社グループのキャッシュ・フロー指標は以下のとおりとなっております。

 

2022年7月期

2023年7月期

2024年7月期

キャッシュ・フロー対有利子負債比率

(有利子負債/営業キャッシュ・フロー)

0.7年

1.1年

インタレスト・カバレッジ・レシオ

(営業キャッシュ・フロー/利払い)

120.0倍

79.6倍

(注)1 有利子負債は、連結貸借対照表に計上されている負債のうち、利子を支払っている全ての負債を対象としております。また、利払いについては、連結キャッシュ・フロー計算書の利息の支払額を使用しております。

2 2022年7月期のキャッシュ・フロー対有利子負債比率及びインタレスト・カバレッジ・レシオについては、営業キャッシュ・フローがマイナスのため記載しておりません。

 

⑤資本の財源および資金の流動性の分析

 当社グループの運転資金需要のうち主なものは、仕入高、販売費及び一般管理費等の営業費用であります。投資を目的とした資金需要は、主に設備投資等によるものであります。

 当社グループは、事業運営上必要な流動性と資金の源泉を安定的に確保することを基本方針としております。

 短期運転資金は自己資金及び金融機関からの短期借入を基本としており、設備投資や長期運転資金の調達につきましても、自己資金及び金融機関からの長期借入を基本としております。

 

⑥経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 当社グループは、第17次中期経営計画(2024年7月21日~2027年7月20日)を策定いたしました。同計画においては、連結売上高3,400億円、連結営業利益115億円を最終年度に達成すべき数値目標として定めております。

 また、目標とする経営指標として、自己資本当期純利益率(ROE)を10%前後とし、安定的に当該水準を継続できる経営基盤の確立を目指します。

 

 

5【経営上の重要な契約等】

 該当事項はありません。

 

6【研究開発活動】

 

 研究開発費の総額は1,327百万円であります。

 なお、主な研究開発活動の内容については、次のとおりであります。

 

主な研究開発

(1)学習eポータル「L-Gate」の国際技術標準への対応

 文部科学省のGIGAスクール構想によって整備された1人1台端末を活用したICT利用学習を促進するためのプラットフォームとして、当社は学習eポータル「L-Gate」を開発し、自治体・学校に提供しています。文部科学省CBTシステム「MEXCBT」への接続は、学習eポータル経由での接続となります。

 文部科学省が進める教育システム・データの相互運用性を確保するための教育データ標準策定の中で、1EdTech(※)の定める国際技術標準「OneRoster」を用いて校務支援システムから児童生徒の氏名・クラス・出席番号等の名簿情報を連携する仕様が示されました。令和4年度のデジタル庁「教育関連データのデータ連携の実現に向けた実証調査研究」では上記に基づき、校務支援システム、学習eポータル各社との相互接続検証に参画し、名簿情報の連携機能を実現しました。

 いくつかの地方自治体においては、校務支援システムを起点として名簿情報を学習eポータルや学習系システムに連携し、年度更新作業の負担軽減に加えて、転出入等の随時連携を目指した展開を実施しました。今後は地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化も契機として、学齢簿から校務、学習系までつないだ教育データ利活用の推進に貢献して参ります。

※ 1EdTech: 教育関係の国際技術標準を定めるNPO団体

 

(2)「スマートオフィスナビゲータ」の統合プラットフォームとしての強化開発

 働き方や働く場の変容はコロナを経験することで一気に進みましたが、当社はコロナ禍以前より、「スマートオフィスナビゲータ」を中核として、人と場に関するデータを基に働き方と働く場を最適化するための統合プラットフォームの研究開発に取り組んできました。この「スマートオフィスナビゲータ」により、人の居場所やこの先の予定を把握し、会議室の予約状況や様々な場の利用状況や混雑状況等を会議室予約システム 「SmartRooms」や在席検知システム 「RoomSense」とも連携させる事で、統一されたユーザーインターフェースでワーカーに提供できるようにしています。

 ハイブリッドワークが当たり前になってきた今、様々なチーム活動においても、出社と在宅の社員が互いに調整しながら一緒に働く事が一般的になってきました。しかしながら、チームメンバーの居場所や予定の把握や場所の確保に手間取り対面交流の機会を逃してしまう、といった悩みも生じてきています。コロナ禍を経て社員同士の繋がりや活力向上が改めて重要視される中、「スマートオフィスナビゲータ」では、よりチームで集まることを支援する機能を強化いたしました。また、働く場の様々な情報を俯瞰できるサイネージ機能の開発や、位置測位技術への対応の拡充、社員のコミュニケーション状況の把握分析などの開発も進めました。

 「スマートオフィスナビゲータ」のほぼ全ての機能は手元のスマホからの操作が可能になっており、いつでもどこからでも利用可能な仕組みとして、様々な企業への導入が進んでいます。今後も、ハイブリッドワーク時代の多様な働き方を支える統合プラットフォームとして、さらに進化させていくよう取り組んで参ります。

 

(3)ハイブリッドワークプレイスにおいて生産性・創造性を高める空間を構築する製品の研究開発

 リアルとデジタルを自然に繋げる高品質なオフィスワークと、人と人の結束力を高め、創造的生産性を高める場を、よりフレキシブルで、より心地よさを感じる場に進化させるための製品開発を行いました。

 オンラインにも対応する、少人数で気軽にミーティングを行う空間の要望に応えるために、置き型のセミクローズブース「Co-at box(コアットボックス)」を開発しました。消防規制を受けない天井ルーバーによるこもり感、オンライン接続先の音声品質に配慮した吸音内装、カメラの画角に納まりやすいテーブル形状、機器の装着を容易にする配線機能など、ICTと融合した独自性の高い製品の設計を行いました。

 オフィス空間での国産木材の活用をさらに広げるために、節や傷、割れの生じた木材を中間層に挟み込み有効に活用できる 独自の「 国産材三層 パネル」の開発により、木パネル材の安定供給を実現しました。また、オフィスの機能性とデザイン性、長く使用しても疲れない快適性、これらを同時に高めた国産材活用製品「ELMAR(エルマー)」の開発を行いました。

 

(4)学力調査における生成AI等による自動採点に係る研究開発

 当社は、全国学力・学習状況調査や地方自治体が独自に実施する学力調査業務をこれまで数多く受託し、調査設計や問題作成、採点、集計分析、結果提供などの一連の業務に関する知見を蓄積してきました。

 全国学力調査や地方自治体の学力調査の一部では、従来の冊子方式(PBT)からコンピューターを活用したCBT方式 (※)への移行が始まり、今後、その流れは一層加速すると予想されます。学力調査のCBT化に伴い、調査期間の短縮や調査結果提供の早期化が期待されています。採点についても、より短い期間での実施が求められることから、現在、採点者の目視採点で実施している記述式問題の採点の一部を生成AI等を用いた自動採点に置き換えることで、採点の期間短縮と一層の精度向上に関する研究開発を進めています。

 令和9年度に全国学力・学習状況調査が全面CBT化されることを見据え、教育データの利活用を促進するためにも、多くの自治体がCBTによる学力調査に取り組むことが見込まれます。この技術を用いることで、当社は自治体に対する支援を強化し、より高質な学力調査の実施に貢献して参ります。

※ CBT: Computer Based Testingの略

 

(5)「こどもデータ連携」の実現にむけた調査研究

 こどもや家庭に関する教育・保育・福祉・医療等のデータを、分野を越えて連携させることを通じて情報を分析し、個人情報の保護に配慮しながら、真に支援が必要なこどもや家庭を見つけプッシュ型の支援を届ける取組みへの期待が高まっています。この取組みを支援するために、データを集約して活用しやすい形にまとめる「こども見守り共有データベース」の構築と、データを可視化する「ダッシュボード機能」、データを組み合わせて潜在的に支援が必要なこどもや家庭の早期発見や施策立案に活用する「リスク判定・データ分析機能」で構成した「こども見守りシステム(仮称)」の開発を進め、令和6年1月に神奈川県開成町様にて稼働し調査研究を行っています。

 令和5年度及び令和6年度のこども家庭庁「こどもデータ連携実証事業」に採択された埼玉県戸田市様及び神奈川県開成町様を実証フィールドとして、不登校、貧困、虐待等に関連するデータ因子の洗い出しとリスク判定を行って、見守り対象者の抽出検証を行っています。埼玉県戸田市様ではAIを活用して不登校になるリスクを予測した精度は高く、学校現場の気づきや判断を補助するツールになり得ると評価していただき、神奈川県開成町様では「貧困」リスク判定の世帯から、給付金の申請・受給 につながりました。今後も精度向上を図るとともに、ダッシュボード機能においては、システムの判定結果の正否確認等の人による絞り込みや実際の支援につながるよう利用する職員の評価等を踏まえて見せ方の改善や機能の拡充に努めて参ります。

 

(6)パピルスメイト学外発行サービスによる学生向けサービス基盤の開発

 1994年の発売以来、大学における証明書発行システムとして、長年トップシェアを維持している「パピルスメイト」について、大学市場において求められている業務効率化と学生サービスの向上にむけた機能強化開発を行いました。パピルスメイト証明書学外発行サービスにおいて、電子署名付きPDFデータ証明書発行機能と、システムを通じた申請書類の添付提出機能をリリースいたしました。

 電子署名付きPDFデータ証明書発行機能では、近年企業の採用活動で利用が広がるWebでの各種証明書の電子データ提出に対し、PDFデータ証明書の発行とその真正性や非改ざん性の担保を実現しました。学外発行サービスからAPIで連携された証明書データに対し、電子認証局の審査による電子署名と長期署名に対応したタイムスタンプを付与することで、利便性や信頼性の高い電子証明書利用ニーズに応えました。

 今後も、大学を取り巻く環境の変化や多様なニーズに対応するため、「パピルスメイト」を含めた学生向けサービス基盤の開発に取り組んで参ります。