第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1)基本理念

 当社グループ(以下、NAGASE)は、グループ共通の価値観として、経営理念、ビジョン、ありたい姿を制定しています。また、理念体系すべてに共通する考え方としてサステナビリティ基本方針を策定しています。

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 なお、NAGASEは、2032年(創業200年)の「ありたい姿」“温もりある未来を創造するビジネスデザイナー”の実現のため、マテリアリティ(重要課題)を下記のとおり特定しております。ACE 2.0策定時にマテリアリティを特定していましたが、外部環境の変化等を踏まえて2024年9月に課題を再整理し、サステナビリティ推進委員会での議論を経て、マテリアリティの一部見直しを行いました。

 その結果、従来からあった「従業員エンゲージメントの向上」「脱炭素社会への貢献」「透明性の高いコーポレート・ガバナンス」に加え、NAGASEが重要な課題として認識すべき新たなマテリアリティとして「健康寿命延伸への貢献」「サプライチェーンの持続性への貢献」「資源循環社会への貢献」を追加し、6つに見直しました。

 今後も外部環境の変化等を踏まえ、マテリアリティの更新・見直しを実施してまいります。

 

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(2)中期経営計画 ACE 2.0

 NAGASEは、2032年(創業200年)の「ありたい姿」からバックキャスティングし、特定したマテリアリティを解決するために5ヶ年の中期経営計画 ACE 2.0を策定しました。ACE 2.0の位置づけを“質の追求”と掲げ2021年4月から始動しており、ACE 2.0に掲げる事項を対処すべき課題と捉えております。

※“ACE”は、Accountability(主体性)、Commitment(必達)、Efficiency(効率性)を表します。

 

ACE 2.0の定量目標および実績

ACE 2.0の定量目標および実績は、下表のとおりです。

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 2024年度は、営業利益、ROEともに前期を上回りました。電子・エネルギーセグメントおよび機能素材セグメントで展開している半導体関連ビジネスは、好調に推移しました。特に、ナガセケムテックス㈱のAIサーバー向け先端半導体用途の変性エポキシ樹脂の販売が好調で、需要の高まりに応じた生産能力増強も進めました。機能素材セグメントで展開するカラーフォーマー事業では、米国SOFIX LLCでの事業撤退に加え、日本の製造拠点である福井山田化学工業㈱の不採算取引の見直しや効率化を進めたことにより、黒字転換しました。また、福井山田化学工業㈱は技術の融合による開発力の強化や生産の効率化、拠点戦略の一環であるBCP対応の推進、拠点間の人財の流動化による人財育成の効率化を目的として、ナガセヴィータ㈱の機能性色素事業と共にナガセケムテックス㈱に2025年4月1日付で統合しました。NAGASEグループ内のケミカルのリソースをナガセケムテックス㈱に結集することで経営資源の利活用の最大化および効率化を図ってまいります。生活関連セグメントは、Prinovaグループにおける食品素材の販売が堅調に推移しましたが、スポーツニュートリションの受託製造が低調であったこと、またナガセヴィータ㈱では中国市場での香粧品素材の需要減少の影響を受け、低調に推移しました。

 以上の結果、営業利益は390億円と前期比128%、ROEも6.4%と前期を上回りました。これは親会社株主に帰属する当期純利益の増加に加え、2024年5月に決定した株主還元方針の変更(2025年度までの2年間限定で総還元性向100%を実施)により、資本効率性が向上したことも要因の一つです。

 また、ACE 2.0の最終年度に向け2024年度は、将来の成長に向けた重要な投資・施策を進める1年となりました。

 製造機能については、注力領域であるフード、半導体、ライフサイエンス分野において、成長に向けた取り組みが進みました。フード分野ではPrinovaグループの経営体制を再編し、特に製造業における収益性の改善に向けた立て直しに向け体制を整えました。半導体分野では、ナガセケムテックス㈱の需要拡大に対応した変性エポキシ樹脂の生産能力増強や、米国SACHEM,Inc(以下、Sachem社)のアジア事業の取得決定、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(以下、TMAH)の回収・再生事業の拡大に向け新工場を新設いたしました。ライフサイエンス分野では、旭化成ファーマ㈱の診断薬事業等の買収を決定しました。

 商社機能においては、ROIC経営の深化を図り、低利益率の取引の採算是正や、在庫水準の適正化を通じて収益性向上に取り組みました。こうした取り組みは国内外の拠点においても着実に進展しており、2024年度のROICは4.4%と前期から0.4ppt改善しました。

 中期経営計画ACE 2.0の最終年度である2025年度は定量目標に掲げるROEおよび営業利益の達成、さらに2026年度以降の持続的な成長に向けた取り組みを推進してまいります。

 

ACE 2.0基本方針

 ACE 2.0では、NAGASEの持続的な成長を可能にするため、すべてのステークホルダーが期待する“想い”を具体的な“形”(事業・仕組み・風土)として創出し、“温もりある未来を創造するビジネスデザイナー”を目指し、「収益構造の変革」と「企業風土の変革」の2つの変革と、両変革を支える機能として、DXのさらなる加速、サステナビリティの推進およびコーポレート機能の強化を図ります。

 

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収益構造の変革‐“ありたい姿”に向けた収益基盤の構築

 経営資源の最大効率化を図るために、経営資源の確保と再投下を実行しております。効率性および成長性の観点から、事業を「基盤」、「注力」、「育成」、「改善」の4つの領域に分類し、各領域に応じて戦略を実行し、さらにリソースシフトを加速しております。

 なおNAGASEは商社機能に加え、製造機能および研究開発機能を有しております。従来、4象限については事業軸で分類しておりましたが、2023年度において、今後の成長をより確実なものとするために事業ポートフォリオを機能軸で再整理し、各領域における重点分野を明確化しております。

 

(事業ポートフォリオの考え方)

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[取組み状況]

(基盤領域)

 商社機能および特定分野以外の製造機能を事業ポートフォリオにおける基盤領域と定義しています。商社機能は、グローバルネットワークとNAGASEの人財が有する情報の目利き力を活かし、社会および顧客課題の探索とソリューションのマッチングを担います。この取り組みを通して獲得したキャッシュと良質な情報を注力・育成領域の事業展開に活かし、将来の新規事業・新規素材の創出に欠かせない機能を果たしています。

 各事業において、ROIC経営をさらに深め、利益率の向上と在庫の削減に注力しました。具体的には、採算性が相対的に低い取引について是正を行い、条件が整わない場合には商権返上も選択の一つとして、収益性の向上に努めました。また、在庫の保有水準を適正化することで、運転資本の効率化も図りました。こうした取り組みは、国内外を問わず全拠点で展開しており、成果が現れています。

 フード分野では、ブラジルの食品素材の卸売・製造販売を手がけるApliquimica Aplicacoes Quimicas Especiais Ltda(以下、Aplinova社)を買収しました(2025年4月)。Aplinova社は、プレミックスやフレーバー、着色料などの販売および加工を行っており、ブラジル国内において1,000社を超える食品メーカーとの取引実績を有します。今回の買収を通じて、南米市場での展開を本格化させるとともに、Prinovaグループが取り扱うアミノ酸、甘味料、ビタミンなどの販売拡大を図ってまいります。

 

(注力領域)

 Prinovaグループを中心としたフード分野、ナガセケムテックス㈱を中心とした半導体分野、ナガセヴィータ㈱を中心としたライフサイエンス分野における製造機能を注力領域と定義しています。

 フード分野では、PrinovaグループのCEOを新たに任命し、経営体制を再編しました。商社業ではグローバルな顧客基盤と提案力による更なる拡大を、製造業では収益性の改善に向けた立て直しを進め、グループ全体の持続的な成長と企業価値の向上を目指してまいります。

 半導体分野では、ナガセケムテックス㈱においてAIサーバー向け先端半導体用途の変性エポキシ樹脂の販売が好調に推移しました。需要の高まりに対応するため生産能力を増強し、2025年度には更なる拡張を予定しています。また、米国Sachem社のアジア事業の取得を決定しました。半導体向け高純度ケミカルの製造・販売機能を当社グループに統合してまいります。加えて、半導体製造工程で使用される薬液であるTMAHの回収・再生事業にも取り組んでおり、新工場を開設しました。2025年度中の量産開始を目指しています。

 ライフサイエンス分野においては、旭化成ファーマ㈱の診断薬事業等の買収を決定し、2025年7月1日付でのグループ化を予定しています。本件は、注力領域であるライフサイエンス分野における製造機能の強化に加え、育成領域である研究開発機能を活用したバイオ分野での事業拡大を目的としています。

 

(育成領域)

 将来の収益の柱となるような新規素材の研究開発や、新規事業創出のためのインキュベーション、高い成長が見込まれるエリアにおける事業を育成領域と定義しています。

 研究開発機能については、今年度バイオ由来で生分解性を持つ高吸水性ポリマーを活用した大人用紙おむつおよび尿ケア専用品の共同開発に向けて、株式会社リブドゥコーポレーションと契約を締結しました。2027年以降の製品化を目指し、サステナブルな衛生用品としての市場展開を視野に入れています。

 また、新領域・新技術の情報・参入機会の獲得を目的として、2023年度にCVC(Corporate Venture Capital)の取組みを開始しましたが、よりスピード感ある意思決定や最適人材の獲得を目指し、投資事業に特化した独自制度を有する組織として100%子会社Nagase Future Investments㈱を2025年4月に設立しました。最先端の技術やナレッジを持つスタートアップへの投資を通じて、新たな事業の芽を取り込むための取り組みを加速してまいります。

 加えて、今後のさらなる成長を期待する地域としてグローバルサウス(インド、ブラジル、メキシコ、インドネシア)を定義し、事業部門横断でのエリア戦略立案等、取組みを進めました。2025年5月までに、インドでは日本航空電子工業㈱と二輪・四輪車両向けコネクタの販売を目的とした合弁会社JAE ELECTRONICS INDIA PRIVATE LIMITEDを、また、メキシコでは㈱アテックスとxEV車向け電動化部品等を製造する合弁会社ATECS INSERT MOLDING MEXICO S.A. DE C.V.を設立しております。2026年以降の量産化に向けて生産体制を構築してまいります。

 

(改善領域)

 営業損失の関係会社、不採算取引および将来の資産の減損損失が懸念される事業を改善領域と定義しています。

 該当するカラーフォーマー事業について、米国SOFIX LLCでの事業撤退に加え、日本の製造拠点である福井山田化学工業㈱において効率化を進め黒字転換を果たしました。不採算取引については、採算性の是正を行い、条件が整わない場合には商権返上を行うなど、収益性の向上に努めました。

 中期経営計画ACE 2.0の最終年度にあたる2025年度においては、損失10億円以下にすべく、不採算取引および減損損失の削減を進めます。

 

企業風土の変革‐“ありたい姿”に向けたマインドセット

 “質の追求”を実現するためには、経済価値と社会価値を両輪で追求していくことが必要と考え、財務情報に加え非財務情報のKPIを設定し、両KPI達成に向けモニタリングを行っています。また効率性の追求に向け、コア業務の生産性の改善を図り、また事業戦略によるROICの向上、財務戦略によるWACCの低減を行い、ROICスプレッドの改善を図ります。ROICがWACCを上回る状態を常態化させ、企業価値の向上を目指します。加えて、変革を推進する人財の強化が必要と考えており、社員と会社のエンゲージメントを向上させ、双方の持続的な成長と発展を実現します。

 

(効率性の追求)

(エンゲージメントの向上)

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[取組み状況]

 2024年度のROICは事業好調による親会社株主に帰属する当期純利益の増加等により4.4%と前期から0.4ppt上昇しました。

 WACCは、金利上昇に伴う負債コストの上昇があったものの、総還元性向100%を実行し資本の積み上がりを抑制したことに加え、β値の低下などにより株主資本コストが低下したことにより前期と変わらず5.9%となりました。

 資本効率性を向上させる取組みとして、2024年度は政策保有株式を2銘柄、32億円売却しました。また、各種施策を通じた収益性の向上を推し進めておりますが、ACE 2.0の定量目標であるROE8.0%以上の達成に向けては更なる資本効率性の向上が必要であるとの認識のもと、2024年5月に株主還元方針の変更を決定し、これまでの継続増配に加え、ACE 2.0の最終年度である2025年度までの2年間の限定措置として、総還元性向を100%とすることを決定いたしました。

 なお、変更後の株主還元方針はACE 2.0終了時点で見直しを実施いたします。

 

(政策保有株式の売却方針および実績)

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(株主還元方針の変更)

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ACE 2.0終了(2025年度)までの限定措置。ACE 2.0終了時点で見直しを行います。

 

 

 

 変革を推進する人財の強化については、当社において、役割・職務の明確化と処遇連動性の確保、ダイナミックな人材配置・登用、多様な高度専門人材の確保・登用を目的とした人事制度改定を実施し、2024年4月1日より運用を開始しました。また、事業部毎にHRBP(HR Business Partner)を配置し中長期の事業戦略と連動した人事戦略を推進するための体制強化を進めています。その他、選択型研修の拡充を通じた学びの機会の創出や、D&I(Diversity&Inclusion)の推進を目的にした経営層や管理職向けワークショップ、育児・介護と仕事の両立支援の更なる拡充等を通じて風土変革を進めています。これらの取組みを通して、従業員エンゲージメント向上、そして社員と会社の持続的な成長と発展を推進してまいります。

 

変革を支える機能

 両変革を実現するために、DX、サステナビリティおよびコーポレート機能はグループ横断的に必要な機能であり、これらの機能を拡充します。

 DXを手段として活用することで、NAGASEの強みである「広域なネットワーク」、「技術知見」および「課題解決力・人財」をさらなる強みとし、顧客や社会の課題を解決できるビジネスモデルの深化・探索、イノベーションの創出および生産性の向上等を図ります。

 またサステナビリティ基本方針を根幹に置き、「ありたい姿」の実現に向け、経済価値と社会価値の追求を実現すべく、グループ全体に機能を提供していきます。

 

[取組み状況]

 DXの更なる加速に関する2024年度の成果として、前年度に構築したデジタルマーケティング基盤は本格的な運用フェーズへと移行し、各事業部門において顧客接点の拡大に広く活用されました。

 特定顧客専用のデジタル展示会の開催や、マーケティングオートメーションツールを用いた定期的な情報配信により、顧客ごとの閲覧状況を把握し、それに基づいた営業活動を行うことで、既存顧客との関係強化に加え、これまで接点のなかった新規顧客層へのアプローチにもつながっています。また、顧客ごとのアプローチ状況や案件進捗などの蓄積された情報が、新たな事業機会の創出にも貢献しています。

 サステナビリティの推進に関しては、外部環境の変化等を踏まえ、2024年9月にマテリアリティの見直しを実施しました。事業を通じた社会課題解決をより意識し、「健康寿命延伸への貢献」、「サプライチェーンの持続性への貢献」、「資源循環社会への貢献」の3つを新たに追加し、従来からの「従業員エンゲージメント向上」、「脱炭素社会への貢献」、「透明性の高いコーポレート・ガバナンス」と合わせた計6つのマテリアリティとなりました。これらのマテリアリティのもと、「素材(マテリアル)を通じて課題を解決する企業」として、一層サステナビリティ推進に取り組んでまいります。

 コーポレート機能の強化に関しては、業績・企業価値の向上、優秀人財の獲得・維持、アカウンタビリティの確保をより強化することを目的として、取締役の報酬限度額改定に関する議案が承認されることを条件とし、社内取締役及び執行役員の報酬制度を2025年度より改定します。新しい報酬制度の詳細については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (4)役員の報酬等」をご参照ください。

 

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2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社のサステナビリティに関する考え方、および、取り組みは次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在における当社の判断によるものであり、様々な要因によって見通しは変動する可能性があります。

 

(1)サステナビリティ全般

 サステナビリティを巡る課題への対応は、当社が経営理念に掲げる「誠実正道」の精神や、ビジョンに掲げる実現したい社会「人々が快適に暮らせる安心・安全で温もりある社会」に通じます。社会・環境課題の解決に貢献する企業活動を継続することにより、持続的な成長が可能になると認識し、サステナビリティ基本方針を定めて積極的に取り組んでいきます。

 

① ガバナンス

 当社では企業活動を通じて社会・環境課題の解決に貢献することによりNAGASEグループの企業価値が持続的に向上することを目指し、代表取締役社長を委員長とする「サステナビリティ推進委員会」を設置しています。2024年度は9回開催し、マテリアリティ(重要課題)の見直し、グループ全体の推進体制の構築と整備、各施策のモニタリング、グループ内におけるサステナビリティ経営の理解促進活動等を行いました。これらのサステナビリティ課題への対応・進捗については、少なくとも年1回の頻度で取締役会に報告し、その決議・監督を受けております。

 また、「サステナビリティ推進委員会」は、グループ全体で取り組むべき優先順位の高いマテリアリティ(重要課題)を、「従業員エンゲージメント向上」および「脱炭素社会への貢献」と決定し、取締役、執行役員、グループ会社の経営幹部等で構成されるコーポレートプロジェクト「従業員エンゲージメント向上プロジェクト」と「カーボンニュートラルプロジェクト」を設置しています。各プロジェクトでは、サステナビリティ推進委員会の監督の下、基本方針と中期経営計画ACE 2.0における非財務目標(KPI)の原案を作成し、取締役会の決議を経て策定したほか、非財務目標達成に向けた個別具体的な方針・施策について議論しています。また、非財務目標の進捗を含む各プロジェクトの重要事項は、少なくとも年1回の頻度でサステナビリティ推進委員会を通じて取締役会に報告し、その監督を受けております。

 

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② 戦略

 当社は、グループ共通の価値観として、経営理念、ビジョン、ありたい姿を制定しています。また、理念体系すべてに共通する考え方としてサステナビリティ基本方針を策定しています。このサステナビリティ基本方針は、1.誠実な事業活動、2.社会との良好な関係、3.環境への配慮で構成され、それぞれについて具体的な行動指針を示しております。

 

(サステナビリティ基本方針)

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※理念体系の全体像については、「1「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」(1)基本理念」を参照ください。

 

 また、当社では、2032年(創業200年)の“ありたい姿”「温もりある未来を創造するビジネスデザイナー」の実現のため、マテリアリティ(重要課題)を特定しております。

 2024年9月には、外部環境の変化等を踏まえたマテリアリティ(重要課題)の見直しを実施しました。事業を通じた社会課題解決をより意識し、「健康寿命延伸への貢献」、「サプライチェーンの持続性への貢献」、「資源循環社会への貢献」の3つを新たに追加し、従来からの「従業員エンゲージメント向上」、「脱炭素社会への貢献」、「透明性の高いコーポレート・ガバナンス」と合わせた計6つのマテリアリティとなりました。

 これらのマテリアリティのもと、「素材(マテリアル)を通じて課題を解決する企業」として、サステナビリティ推進に取り組んでまいります。

 

 

(NAGASEグループのマテリアリティ(重要課題))

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③ リスク管理

 サステナビリティ課題やマテリアリティ(重要課題)に関するリスクおよび機会については「サステナビリティ推進委員会」において管理しています。リスク・機会を含むサステナビリティの課題への対応については、サステナビリティ推進委員会より、少なくとも年1回の頻度で取締役会等の会議体へ報告しており、議論の上、実行されています。

 また、リスクに関しては、サステナビリティを含む複合的な全社リスクとして「リスク・コンプライアンス委員会」でも特定・評価・管理されており、それらのリスクは取締役会や監査役会に報告されています。特に重要と判断したリスク分類に関しては、リスクの定義および主な対応策を開示しております。詳細は、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」を参照ください。

 このように、サステナビリティに関するリスク・機会に関してはそれぞれの委員会から取締役会等の会議体へ報告され、必要な指示・提言の下で事業活動へ反映していくとともに、これらのプロセスの中で、取締役会による定期的・直接的な監督を受けています。

 また、特定されたリスク・機会は、業務執行組織であるサステナビリティ推進室が事業活動へ反映するよう対応しています。

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④ 指標及び目標

 当社では、マテリアリティ(重要課題)の中でも「従業員エンゲージメント向上」と「脱炭素社会への貢献」を優先順位の高い課題と認識しており、それぞれに関する目標を設定しております。目標の詳細については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)気候変動」、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組(3)人的資本」を参照ください。

 

 

(2)気候変動

 当社では気候変動を取り巻く社会の変化・期待に対応していくことが重要であると考え、マテリアリティの1つとして「脱炭素社会への貢献」を設定しており、気候変動の及ぼす中長期的なリスクと機会、およびその財務上の影響を分析し、低炭素社会や循環型社会に求められる事業戦略を立案しています。また、自社とバリューチェーン全体の事業活動で排出される温室効果ガス(GHG)を把握し、削減プロセスについて中長期的な目標と活動計画を設定し、取り組んでいます。

 

① ガバナンス

 気候変動に関する基本的なガバナンスは、サステナビリティ全般のガバナンスに組み込まれております。詳細については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組(1)サステナビリティ全般 ①ガバナンス」を参照ください。

 特に、気候変動に関しては、「サステナビリティ推進委員会」の下部組織として、「カーボンニュートラルプロジェクト」を設置しています。このプロジェクトは執行レベルの諮問機関であり、気候変動にまつわる個別具体的な方針・施策に関しては同プロジェクトでの議論を通じて具体化されています。

 

② 戦略

 当社は商社機能に加え、製造・研究開発機能を有することから、「商社業/製造業」と「可視化/削減」の2軸4象限に分類し、全体施策および施策①~④からなる施策のもと、「NAGASEグループカーボンニュートラル宣言」で掲げる目標達成に向け、中期経営計画ACE 2.0でもカーボンニュートラルに関する非財務目標を設定するなど、事業戦略へ反映しながら気候変動に関する取り組みを推進しています。

 また、低炭素社会や循環型社会に求められる事業戦略を立案するため、気候変動が及ぼす中長期的なリスクと機会、財務上の影響を分析・特定しています。

 

(「商社業/製造業」と「可視化/削減」の2軸4象限)

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(気候変動に関するリスクと機会)

 当社は、商社機能、製造機能、研究開発機能を有し、グローバルかつ多角的に事業を展開しています。現在、グループの事業は「機能素材」、「加工材料」、「電子・エネルギー」、「モビリティ」、「生活関連」の5つのセグメントに区分され、樹脂やプラスチック、電子・半導体材料、医薬・化粧品といった幅広い商材を取り扱っています。また、国内外に約100社の拠点を有しており、取引先もグローバルで約18,000社と非常に広範なバリューチェーンを有しています。

 気候変動に関するリスクと機会の特定にあたっては、これらの当社の特性も考慮しながら、「事業への影響度」と「発生可能性」の観点で、重要度を「大」「中」「小」と評価しました。(特定方法の詳細は「③リスク管理」を参照)

 その結果、当社にとっては、気候変動に関連する規制の強化や社会的要請、顧客の需要の変化に対応できないことが、気候変動による移行リスクとして重要度が大きいという評価となりました。一方で、これらの社会や顧客・市場の変化をとらえ、適切な素材・製品やソリューションを社会に提供していくことができれば非常に大きな機会にもつながると考えています。

 また、物理的リスクとしては、自然災害等による影響は、自社拠点のみならずサプライチェーン上の拠点への影響も考慮すると重要度の大きなリスクとなります。商社業を基盤事業とする当社においては、マテリアリティとしても「サプライチェーンの持続性への貢献」を掲げており、国内外約18,000社の取引先ネットワークを活かして日ごろからサプライチェーンの維持・安定供給を使命として行っております。

 

リスク

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機会

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<注記>

・影響を受ける機能:

 商社機能・製造機能・研究開発機能それぞれの内、特に影響を受ける機能。

 「全社」は、商社機能・製造機能・研究開発機能すべてにわたる全社的影響を指す。

・影響を受けるバリューチェーン:

 「上流」「下流」「自社グループ」の内、特に影響を受ける段階。

 「上流」は主に調達・物流(輸送)、「下流」は主に販売・物流(輸送)の影響を指す。

 「全体」は「上流」「下流」「自社グループ」を含むバリューチェーン全体への影響を指す。

 

<分析に使用したシナリオ>

(1.5℃シナリオ)

・IEA:Net Zero Emissions by 2050 Scenario(World Energy Outlook2024)

・IPCC:SSP1-1.9(AR6)

(3-4℃シナリオ)

・IEA:Stated Policies Scenario (STEPS)(World Energy Outlook2024)

・IPCC:SSP5-8.5(AR6)

 

(リスク・機会への主な対応)

NAGASEグループでは、特定したリスクを最小化・機会を最大化するため、以下の対応をとっています。

 

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③ リスク管理

 気候変動に関するリスク管理は、サステナビリティ全般のリスク管理に組み込まれております。詳細については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組(1)サステナビリティ全般 ③リスク管理」を参照ください。

 特に、気候変動に関する個別具体的な方針・施策に関しては、「サステナビリティ推進委員会」の下部組織である「カーボンニュートラルプロジェクト」においても議論され、「サステナビリティ推進委員会」等への報告を通じて具体化されています。

 また、2024年度は外部環境や社会的要請の変化を考慮し、気候変動に関するリスク・機会の見直しを実施しています。特定にあたっては、まず、外部環境の分析やバリューチェーンの整理を実施し、改めて当社事業に関連するリスク・機会を網羅的に洗い出しました。その後、事業部やグループ会社とのワークショップ・ヒアリングでの議論を通じ、最終的にリスク・機会を特定しています。

 なお、気候変動におけるリスク・機会は、リスク・コンプライアンス委員会が実施する全社的なリスク評価と整合性のある指標として「影響度」と「発生可能性」を用い、各4段階の評価を行った結果を、事業への重要度として「大」「中」「小」に分類しています。

 

 

④ 指標及び目標

 当社は、「NAGASEグループカーボンニュートラル宣言」を掲げ、2050年までに温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロとするカーボンニュートラルの実現(Scope1,2)、2030年までにScope1,2の46%削減(2013年度比)、Scope3の12.3%以上削減(2020年度比)を目標としています。

※なお、Scope3は今後のサプライチェーンとの対話により目標値の更新も検討します。

 

 また、中期経営計画ACE 2.0の非財務目標(KPI)にもカーボンニュートラルに関連する目標設定しています。目標の詳細と進捗については、以下の(温室効果ガス(GHG)排出量実績と目標(Scope1,2))、(各指標の実績)を参照ください。

 

(温室効果ガス(GHG)排出量実績と目標(Scope1,2))

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(各指標の実績)

 

 

 

 

 

単位:t-CO2

指標

2013年度

2020年度

2021年度

2022年度

2023年度

2024年度

2025年度目標

連結

Scope1,2削減率(2013年度比)

26%

30%

34%

36%

43%

37%以上削減

 

Scope1

86,197

30,538

33,132

31,099

28,260

30,229

 

Scope2(マーケット基準)

33,105

27,057

25,611

26,737

18,571

 

合計

63,643

60,189

56,710

54,997

48,980

再生可能エネルギー発電・購入による削減量

(累計)

10

523

7,478

13,272

35,000t以上

長瀬産業

(単体)

Scope2

2,514

2,014

1,803

1,893

ゼロエミッション

※連結データの対象は、長瀬産業㈱・ナガセケムテックス㈱・ナガセヴィータ㈱です。

※2024年度データは第三者保証取得前の暫定値です。

 なお、Scope2の数値は、非化石証書による償却を予定しております。

 

(3)人的資本

① ガバナンス

 人的資本に関する基本的なガバナンスは、サステナビリティ全般のガバナンスに組み込まれております。詳細については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組(1)サステナビリティ全般 ①ガバナンス」を参照ください。

 特に、従業員エンゲージメントに関しては、「サステナビリティ推進委員会」の下部組織として、「従業員エンゲージメント向上プロジェクト」を設置しています。このプロジェクトは執行レベルの諮問機関であり、従業員エンゲージメントにまつわる個別具体的な方針・施策に関しては同プロジェクトでの議論を通じて具体化されています。

 

② 戦略

 中期経営計画ACE 2.0では、「収益構造の変革」と「企業風土の変革」による“質の追求”を目指しております。このための戦略として、①「変革」をリードするイノベーティブでグローバルな人財の育成、②誰もが快適・安全に創造性高く働ける環境の整備、そして③挑戦と多様な個性を受容する文化と風土の醸成を推進し、その結果として従業員のエンゲージメントを向上させることで社員と会社の持続的な成長と発展に努めます。従業員エンゲージメントは、サステナビリティ経営を実現するうえで重要であるという認識のもと、各組織が主体的にその推進を担っています。また、ダイバーシティは重要かつ不可欠な要素の一つであり、「採用」・「定着」・「登用」の各段階において グローバルに施策を講じていきます。なかでも女性活躍は優先順位の高い課題として捉えており、重点的に取り組んでおります。

 

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施策例① 各組織の主体的な取り組みと対話機会の創出(タレントマネジメント・D&I)

 従業員エンゲージメント向上に向けて、各組織が主体的に取り組むものとしたうえで、経営層と各組織とのモニタリング頻度を高め、エンゲージメント施策の進捗確認を強化しました。国内外の拠点において交流を深めるイベント「N-Meet up!!」などタウンホールミーティングを実施し、経営層と従業員の対話機会を創出しました。「N-Meet up!!」は、2024年度各拠点において延べ9回実施しました。また、成長機会・教育機会の拡充を目的とした事業部間の交換留学や部門内対話会、多層的な対話の促進を目的とした部長・事業部長と担当者の対話など組織毎の課題に応じた現場起点の施策を行っています。その結果、㈱リンクアンドモチベーション主催「ベストモチベーションカンパニーアワード2025」大企業部門(従業員5,000人未満)で第9位として表彰されました。

 

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 人事部内に各事業部の担当者(HRBP)を設置し、事業戦略を理解した上で組織づくり・人財開発ができる体制を導入しています。また、事業部側にも、人事視点を持ちながら事業戦略を遂行していく役割の担当者(事業部 CHRO)を設置しています。HRBPと事業部 CHRO が密に連携を取ることで、事業に関わる人や組織の課題を設定し、それらの課題を解決すべく事業部・本部ごとに人事施策を導入しながら、事業戦略の遂行を加速しています。

 

施策例② 人事制度の改定(人事ポリシー・タレントマネジメント)

 長瀬産業では、変革を推進するイノベーティブでグローバルな人財の強化を目的として、2023年度に人事制度の改定についての検討を重ね、2024年度より新制度の運用を開始いたしました。新制度では役職者の年功的運用を廃止し、役割・職務を明確化して処遇と高い連動性を持たせることで、よりダイナミックな人財配置と登用、多様な高度専門人財の獲得と登用を行います。個人の成長の促進と組織のパフォーマンスの最大化を通じてエンゲージメントを高め、社員と会社の持続的な成長と発展に繋げます。

 

施策例③ グローバルでのグループ人事戦略の共有(タレントマネジメント)

 グローバルにおける人事戦略の連携と推進を目的として、人事部門のグローバル会議を2020年より定期的に実施しており、人事戦略のグローバル展開および課題やナレッジの共有を促進しております。東京本社において実施した会議には、世界6カ国、5地域から約25名の人事部門メンバーが参加し、中長期の人事戦略や2024年度の重点施策など様々なテーマについて議論し実行していくことを確認いたしました。

 

 

 

施策例④ 両立支援のための取り組み(働き方改革・D&I・健康経営)

 育児・介護などと仕事の両立支援のための制度・施策の拡充により、社員が働き続けられる風土の醸成にも注力しています。近年では、男性従業員の育児休業の取得率が向上しております。2024年度は、不妊の検査や治療を目的として取得できる休暇制度を新設したことに加え、育児休業を取得した男性社員の事例を組織運営の観点を交えて社内発信いたしました。さらに育児と介護のそれぞれの両立支援ガイドブックを公開することで従業員の理解促進と浸透を図り、業務継続への安心感の醸成やモチベーション維持に寄与しています。

制度・施策

概要

産前産後休暇

出産前6週間、出産後8週間の休暇

育児休業

育児のための休業(男女ともに)

ファミリーサポート休暇

子の看護等のため、および不妊の検査や治療を行うための休暇

育児のための短時間勤務制度

育児のための短時間勤務を認めるもの

育児のためのシフト勤務制度

育児のためのシフト勤務を認めるもの

介護休暇

介護のための休暇

介護休業

介護のための休業

介護のための短時間勤務制度

介護のための短時間勤務を認めるもの

介護のためのシフト勤務制度

介護のためのシフト勤務を認めるもの

治療と仕事の両立のためのガイドライン

両立支援の背景・内容とその申請方法

 

(男性社員の育児休業取得実績)

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施策例⑤ 健康経営の推進(健康経営)

 NAGASEグループでは、グループ従業員の健康の維持向上を支援すべく「NAGASE健康宣言」を策定・公表し、これを推進しています。長瀬産業では健康増進の取り組みをもとに、特に優良な健康経営を実践している法人を顕彰する制度である健康経営優良法人の認定取得を2018年度より継続しています。その取り組みはグループにも拡大し現在は長瀬産業を含め計7社が認定取得しています。

 具体的な取組みの一つとして、健康保険組合と協業し従業員及びその家族を対象とした「オンライン禁煙プログラム」を推進、プログラム終了まで自己負担なしで受診可能としております。2023年度より禁煙サポートの施策として「NAGASE禁煙塾」を年に2回実施しており、グループ社員を含めたプログラム参加者の約6割の方が禁煙に成功しています。そのほか、世界禁煙デー(5/31)に始まる禁煙週間を「NAGASE禁煙週間」とし喫煙室を利用禁止とすることで喫煙と職場環境を考える機会としています。

 

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施策例⑥ 障がい者雇用の推進(働き方改革・D&I)

 長瀬産業では、東京、大阪、名古屋の各事業所では、障がい者雇用のマッサージ師によるマッサージ室を設置しております。社員は自由に利用でき、福利厚生の向上に貢献しています。その他、清掃や在宅による入力業務等、各々の障がい特性に合わせた雇用を実現しています。また2022年8月より障がい者6名と管理人2名を採用し、株式会社エスプールプラスが運営する屋内農園「わーくはぴねす農園Plus横浜」(横浜市)にて就労を開始、親しみを持ってもらうために「NAGASEまごころグリーンファーム」と命名いたしました。屋内農園では、水耕栽培設備で葉もの野菜を栽培しており、収穫した野菜は、障がい者雇用への理解促進のために、グループ会社を含めた社員への配布を行っています。

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 グループ会社のナガセケムテックス(株)では、障がいのある方や働き続けたい高齢者に向け、安全・安定・安心な働く機会を提供し、地域社会へのつながりを深めるために、2023年度にナガセミライ(株)を設立しました。ナガセケムテックス播磨事業所内で庶務・清掃などの受託サービスを開始し、将来的には、地域課題に寄り添いつつ、農産物の生産・加工・販売を含め、さらなる働く機会の拡充を目指します。

 

施策例⑦ ダイバーシティに関する施策(D&I)

 NAGASEグループは世界約30の国や地域に約100社の拠点を有する企業グループであり、性別や国籍、年齢、宗教、ライフスタイルや価値観、障がいの有無など、非常に多様な社員が在籍しています。不確実性の高い世の中において、ダイバーシティ(多様性)が、イノベーション、そして圧倒的なユニークネスを創造する源泉であると考えています。

 多様性のある組織を作る戦略上の意味合いを理解した上で、リーダーとして多様な人財をマネジメントするポイントを理解することを目的として、部課長クラスを対象としたダイバーシティ・マネジメント研修を2023年度より開始し、定期的に実施しております。2024年度は、アンコンシャスバイアスについての理解を深めることを目的として、「平等」と「公正」について構造的な差別の観点から考える場としました。当社の統括者約100名が参加し、活発なディスカッションを行いました。今後も性別のみならず国籍や宗教などダイバーシティあふれる社員がそれぞれの働き方を追求できる職場を目指して継続開催してまいります。

 また、社員の皆さん一人ひとりが自分らしく挑戦することができるよう、環境の整備を進めています。仕事と家庭やライフイベントとの両立を支援し、社員の皆さんが安心して働き続けられる環境を創ることは、当社のダイバーシティ推進における重要な要素であると考えており、育児・介護などと仕事の両立支援のための制度・施策の拡充により、社員が働き続けられる風土の醸成に注力しています。2024年度は、不妊の検査や治療を目的として取得できる休暇制度を新設したことに加え、育児休業を取得した男性社員の事例を組織運営の観点を交えて社内発信する等、多様な働き方を推進する風土の醸成に向けた活動を行っています。

 

③ リスク管理

 人的資本に関するリスク管理は、サステナビリティ課題全般のリスク管理に組み込まれております。詳細については、「(1)サステナビリティ課題全般 ③リスク管理」を参照ください。

 

④ 指標及び目標

 戦略を実現するためのモニタリング指標として、2025年度末までに中期経営計画ACE 2.0の非財務目標である従業員エンゲージメントサーベイトータルスコア60以上の達成、2028年度末までに女性管理職比率10%以上達成の目標を掲げて新たに取り組みを進めております。

 

テーマ

指標

2022年度

2023年度

2024年度

2025年度目標

従業員エンゲージメント

向上

グループ全社:定期的にエンゲージメントサーベイを実施している割合※1

81%

86%

100%

100%

長瀬産業(単体):エンゲージメントサーベイトータルスコア※2

56.5

56.0

58.3

60以上

参考:長瀬産業(単体)エンゲージメントサーベイ回答率

96%

96%

98%

-

 

女性活躍推進

長瀬産業(単体):総合職女性採用比率※3

17%

25%

33%

-

 

長瀬産業(単体):女性管理職比率※3

4.3%

5.0%

6.2%

-

※1 制度会計上の連結子会社を対象としています。ACE 2.0期間中に連結子会社となった会社は対象外です。

※2 エンゲージメントサーベイトータルスコア「60」は、株式会社リンクアンドモチベーションによって算出された偏差値(データ総数1万社以上)であり、その組織状態は「信頼し合えている」と定義されております。当社は、「会社(組織)と社員が対等なパートナーとしてよく理解しあい、同じ方向を見ること」すなわち「信頼し合えている状態」を目指すため、サーベイトータルスコア「60」を中期経営計画ACE 2.0の目標として設定しております。

※3 総合職女性採用比率と女性管理職比率につきまして、2025年度末目標を総合職女性採用比率30%以上、女性管理職比率6%以上としておりましたが、一年前倒しで早期達成をいたしました。そのため女性活躍推進指標に関しては2028年度末目標として女性管理職比率10%以上を新たに設定しております。

 

3【事業等のリスク】

当社グループは、機能素材、加工材料、電子・エネルギー、モビリティ、生活関連、全社(共通)セグメントにおいて、商社機能(トレーディング、マーケティング)、研究開発機能、製造機能を活用し、グローバルかつ多角的に事業を展開しております。そのような事業の性質上、様々なリスクに晒されております。

当社グループは、現在、リスク・コンプライアンス委員会が中心となり、リスク項目の洗い出しとリスクシナリオの作成を通じて可視化を図り、持続的なリスクマネジメント体制の構築をしております。

なお、本項において、将来に関する事項が含まれておりますが、当該事項は当連結会計年度末において判断したものであります。

 

〈リスク評価に関して〉

具体的なリスク評価は、全てのリスク項目でリスクシナリオを作成し、所管部署にて「影響度」と「発生頻度・可能性」の二軸でのリスク評価を実施した後、主管部門であるリスク・コンプライアンス委員会が取り纏めを行い、重要リスクを特定しております。

 

〈リスク評価の指標〉

 リスクシナリオの評価指標は以下のとおり設定しております。

①影響度

 

 

財務的要素

非財務的要素

 

 

財務(カネ)

ヒト

モノ

ブランド・評判

 

 

財務的な影響を評価

人命や健康への影響を評価

人的リソースへの影響評価

物的リソースへの影響評価

自社の社会的な影響評価

 

 

当期純利益へのインパクト

顧客・グループ従業員の

・死者、重傷者の有無

・健康被害の程度

人材流出、不足、不適応のレベル

固定資産、棚卸資産等への影響

報道のレベル

影響度


大きな影響

1名以上の死者が発生

事業継続に影響を及ぼす、基幹・主要業務の遂行に支障をきたす人材流出、人材不適応

事業継続に影響を及ぼす重要な資産の毀損・滅失、顧客への商品・サービス提供不可となる棚卸資産毀損・滅失

長期間に渡る全国紙等のメディアおよびSNS等への掲載、各種メディアによるネガティブ特集やキャンペーンの発生


中程度以上~やや大きめの影響

2名以上の重傷者が発生

全般的な日常業務の遂行に支障をきたす人材流出、人材不適応

修繕・回復・再調達に3ヵ月以上を要する資産(棚卸資産含む)の毀損

全国紙等のメディアおよびSNS等への短期間掲載のうち、トップ紙面等扱いが大きいもの


軽微超~中程度未満の影響

1名の重傷者が発生

一部の日常業務の遂行に支障をきたす人材流出、人材不適応

修繕・回復・再調達に1ヵ月以上を要する資産(棚卸資産含む)の毀損

全国紙等のメディアおよびSNS等への短期間掲載のうち、小欄等扱いが小さいもの


軽微な影響

軽微

通院治療を伴わない軽微な怪我・健康被害

業務の効率性低下につながる人材流出、人材不適応

1ヵ月未満での修繕・回復・再調達が可能な資産(棚卸資産含む)の毀損

地方紙などの特定の地域に限定されたメディアへの短期掲載、単発のネガティブ報道の発生

 

②発生頻度・可能性

 

発生可能性の評価基準の定義

基準例

いつ起きてもおかしくない

1年に1回以上

起きる可能性が高い

5年に1回以上~1年に1回未満

起きるかもしれない

10年に1回以上~5年に1回未満

ほとんど発生しない

10年に1回未満

 

〈リスク項目の分類〉

 各リスク項目でリスク評価を実施したうえで、下記のリスク分類毎に一定のルールでリスクマップを作成しております。

分類

リスク項目

社会・経済環境の変化に関するリスク

景気後退、業界再編対応失敗、少子高齢化、消費行動の変化、外部環境変化の見逃し

商品市況の変動に係るリスク

商品市況価格変動、石油化学製品の需給バランス崩壊

為替変動に係るリスク

為替変動

金利変動に係るリスク

金利変動

地政学に関するリスク

台湾有事、米中対立、ウクライナ侵攻、経済安全保障法制、テロ・暴動、その他地政学問題

取引先との関係に関するリスク

コア技術の他社依存、仕入・販売戦略の誤り、倒産・回収遅延、特定サプライヤーへの依存、反社・制裁対象先、不利な契約条件、法務リスク把握漏れ、問題のある取引先、ライセンサー契約

投資に関するリスク

PMI失敗、事業撤退による損失、新技術・サービスの開発遅延・失敗、技術革新失敗、DX推進失敗、投資判断誤り、保有株式価格変動、新規事業参入失敗

製品・サービスの品質とものづくりに関するリスク

サービス上の障害・不備、在庫品の品質劣化、品質問題の発生、仕入先品質等問題、不適切なアフターサービス、不良品の納品または納期遅延、工場事故、設備異常

法令・規制等に関するリスク

FTA活用失敗、紛争鉱物調達規制、インサイダー取引、法務リスク把握漏れ、法令変化対応失敗、訴訟・係争の発生、他社知財侵害、環境規制対応失敗、各種法令(貿易関連、各種業法、リコール・PL、独禁法、他)違反

情報システムおよび情報セキュリティに関するリスク

システム・ネットワーク障害、システム開発失敗、個人情報利活用、サイバー攻撃、機密情報漏洩

自然災害等に関するリスク

パンデミック発生、自然災害発生、火災・事故

気候変動に係るリスク

気候変動リスク

サプライチェーンの維持・寸断に関するリスク

天然資源枯渇、原材料・素材の調達難、在庫不足、サプライチェーン寸断、自然災害による物流寸断、物流価格高騰

人財の確保・流出等に関するリスク

労務管理安全衛生、良好な組織風土、ハラスメント、重要人物・若手退職、DEI失敗、労働争議発生、高度専門職採用、報酬・人事制度、不適切な人事評価、人件費高騰

社会的な要求に関するリスク

ESG対応、サプライチェーン上の社会的要請、人権対応失敗

不正に関するリスク

贈収賄発生、不適切な会計、不適切な税務、子会社取締役不正、親会社取締役不正、犯罪・事故、不正・横領・背任等、製品・品質偽装

管理不備・機能不全に関するリスク

子会社経営目標の未達、取締役会機能不全、業績管理不備、被買収、後継経営者の不在

非効率な資金運用・調達に関するリスク

過剰在庫、資金調達失敗、非効率な資金運用、不要・遊休資産

情報発信に関するリスク

広報PR失敗、IR・情報開示不備

競争優位性喪失に関するリスク

競合の台頭、当社知財に対する侵害、競合他社のイノベーション、デジタルプラットフォーマーの台頭、他業界企業参入、サービス更新・アップデート失敗、海外戦略失敗、原価低減失敗

 

〈リスクマップ〉

 各リスク項目でリスク評価を実施したうえで、分類毎に一定のルールでリスクマップを作成しました。

 

 

発生可能性

 

 

影響度

 

・自然災害等に関するリスク

・情報発信に関するリスク

・社会的な要求に関するリスク

・気候変動に係るリスク

・法令・規制等に関するリスク

・取引先との関係に関するリスク

・不正に関するリスク

・管理不備・機能不全に関するリスク

・社会・経済環境の変化に関するリスク

・商品市況の変動に係るリスク

・地政学に関するリスク

・投資に関するリスク

・製品・サービスの品質とものづくりに関するリスク

・競争優位性喪失に関するリスク

・為替変動に係るリスク

 

・情報システムおよび情報セキュリティに関するリスク

・サプライチェーンの維持・寸断に関するリスク

・人財の確保・流出等に関するリスク

・金利変動に係るリスク

 

 

 

・非効率な資金運用・調達に関するリスク

 

 

 当社グループにて、特に重要と判断いたしましたリスク分類に関し、下記にて、リスクの定義および主な対応策に関し記載させて頂きます。また、記載をしていない各リスク項目につきましても、所管部署がリスク評価を実施し、日々のオペレーションでの対応を実施しております。

 

 

気候変動に係るリスク

影響度

発生可能性

〈リスクの定義〉

・政策・法規制に対応できないことで、顧客に対する提供価値の低下によるビジネスの機会を喪失するリスク

・政策・法規制や脱炭素、脱石油等の消費者選好に対応できないことでのレピュテーションが低下するリスク

・環境負荷の高い商材の取扱量が減少または消滅するリスク

・大規模自然災害によるサプライチェーンの寸断や販売・生産活動の停滞が起こるリスク

〈主な対応策〉

当社グループは、社会・環境課題の解決に貢献する企業活動を継続することにより、持続的な成長が可能になると認識し、代表取締役社長を委員長とする「サステナビリティ推進委員会」を設置しており、「サステナビリティ基本方針」を定めて積極的に活動に取り組んでおります。当社グループでは2050年のカーボンニュートラル実現に向けた方針(NAGASEグループカーボンニュートラル宣言)を策定しており、また、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同表明も行っております。(具体的な施策に関しては、第2「事業の状況」2「サステナビリティに関する考え方及び取組」(2)気候変動をご覧ください)しかしながら、気候変動による自然災害の激甚化を含めた異常気象の深刻化や、温暖化に伴う海面上昇等の物理的なリスクが顕在化した場合には、当社グループの事業活動に重大な影響を及ぼす可能性があり、当社グループの経営成績および財政状態に影響を与える可能性があります。

 

 

社会的な要求に関するリスク

影響度

発生可能性

〈リスクの定義〉

・社会的な要求に対する対応への遅れ・不足によりレピュテーションが毀損されるリスク

・社会的な要求に対する対応が遅れ・不足により、当社がサプライチェーンから排除されることにより、事業機会を喪失するリスク

・サプライチェーンにおける人権・環境上の問題が発生しレピュテーションが毀損されるリスク

〈主な対応策〉

当社グループでは、生態系サービス(供給サービス、調達サービス、生息生育地サービス、文化的サービス)を支える生物多様性に配慮し、その維持・保全に努めることは重要な環境課題であると認識しており、生物多様性に重大な影響を与える可能性がある事業活動に関して、どのように生物多様性に依存しているのか、また、どのような影響を与えているのかを把握し、生態系への影響を最小化し、回復にも寄与することに努めております。具体的な取り組み関しましては、下記Webサイトに掲載させて頂いております。

https://www.nagase.co.jp/sustainability/environment/biodiversity/

また、人権の尊重に関する当社のポリシーを改めて確認し、「NAGASEグループ人権基本方針」を策定しました。実際の文章は下記Webサイトに掲載させて頂いております。

https://www.nagase.co.jp/sustainability/social/human-rights/

さらに、NAGASEグループサプライチェーンマネジメント方針を策定し、サプライチェーン上の人権侵害や環境汚染等にも責任をもって対応していきます。実際の文章は下記Webサイトに掲載させて頂いております。

https://www.nagase.co.jp/sustainability/supplychain/

為替変動に係るリスク

影響度

発生可能性

〈リスクの定義〉

・輸出入および貿易外取引による外貨建て取引における為替変動リスク

・海外グループ会社における外貨建て財務諸表(主に米国ドルおよび人民元)の日本円換算における為替変動リスク

〈主な対応策〉

外貨建てによる輸出入および貿易外取引に対し、為替予約によるヘッジを行い、為替変動リスクを最小限に止める努力をしております。

社会・経済環境の変化に関するリスク

影響度

発生可能性

〈リスクの定義〉

・景気後退により業績が悪化し、売上・利益・ROE・ROIC等の経営目標・経営指標が未達となるリスク

・NAGASEグループに影響し得る業界再編に適切に関与できず、当社競争力が失われ、売上・利益・ROE・ROIC等の経営目標・経営指標が未達となるリスク

・少子高齢化により、重要市場である日本・中国・韓国市場の縮小、相対的地位低下の影響を受け、売上・利益・ROE・ROIC等の経営目標・経営指標が未達となるリスク

・販売環境変化を見逃すことにより、適時に購買・販売戦略を見直すことができず、売上・利益・ROE・ROIC等の経営目標・経営指標が未達となるリスク

〈主な対応策〉

ここ数年の外部環境の変化を受けて、マテリアリティの見直しを実施しました。根本から「NAGASEは何を目指すのか」を追求し、「人と地球のウェルビーイングに貢献する」と方向性を定め、従来からの「従業員エンゲージメントの向上」、「脱炭素社会への貢献」、「透明性の高いコーポレート・ガバナンス」は残しつつ、「健康寿命延伸への貢献」、「資源循環社会への貢献」、「サプライチェーンの持続性への貢献」の3項目を新たに追加しました。今後も外部環境の変化等を踏まえ、マテリアリティの更新・見直しを実施してまいります。ただし、昨今の外部環境変化のスピードがますます上がってきていると認識しており、今後当社グループにとって予測不能な事態が発生し、当社グループの経営成績および財政状態に影響を与える可能性があります。

 

 

商品市況の変動に係るリスク

影響度

発生可能性

〈リスクの定義〉

・取扱商品の市場価格の変動による調達コストの増加、販売価格への転嫁ができない、販売価格が下落することにより収益性が悪化するリスク

・石油化学製品の需給が想定を超えて大きく変動し、供給過剰または需要急減により市況が変動し、大きな損失を被るリスク

〈主な対応策〉

直送取引においては、仕入と売上を紐づけて計上すること等によりリスクの最小化を図っております。また、在庫取引においては、顧客の引取り保証の確保に努めるとともに、長年にわたる当該市場での取引経験などから需給予測を行い、在庫水準の適正化を図っております。しかしながら、その価格変動により、当該取引の売上と損益に影響を与える可能性があります。また、当社グループにおいて製造する一部製品に穀物由来の原料を使用しております。当該原料の価格は穀物相場の価格により大きく変動する場合があり、原料の上昇分を販売価格に転嫁できない場合には、損益に影響を与える可能性があります。

地政学に関するリスク

影響度

発生可能性

〈リスクの定義〉

・米中対立の影響による貿易規制・経済制裁が行われた結果、米国・中国市場における事業活動が制約されるリスク

・特定地域での政治的・軍事的な緊張の高まりにより事業活動に制約を受け、サプライチェーンに影響が生じるリスク

〈主な対応策〉

当社グループは、グローバルでの政治・経済情勢や法規制の動向を把握し、最適な取引形態の提案・構築を推進しており、特定の国・地域、サプライヤーに依存しないサプライチェーンの構築に努めております。ただし、予測不能な事態が発生し、当社グループの経営成績および財政状態に影響を与える可能性があります。

投資に関するリスク

影響度

発生可能性

〈リスクの定義〉

・新規事業参入の失敗や投資判断の誤りにより投下した資本が回収できず損失が発生するリスク

・事業撤退により投下資本が回収できず損失が発生する、また事業撤退判断の遅れ・先送りにより損失が拡大するリスク

・株価下落により保有資産価値が低下するリスク

〈主な対応策〉

当社グループは、新規投資においては、投資ガイドラインに沿って投資チェックリストと投資採算表を作成し、戦略適合性、市場規模・成長性、参入障壁、競争優位性、事業運営リスク、事業継続リスク、資金調達、撤退条件などの様々な要因と事業の採算性を幅広い視点から評価・分析し、定量基準や定性評価に基づき意思決定しております。投資実行後は、定期的にモニタリングを実施し、当初計画通りに進行していない案件は、再建プランを策定し、投資価値の評価・見直しを行うことで、損失の極小化に務めております。このように投資決定プロセスおよびモニタリングに係る体制、手続きを整備しておりますが、こうした管理を行ったとしても投資リスクを完全に回避することは困難であり、投下資金の回収不能、撤退の場合の追加損失の発生など当社グループの経営成績および財政状態に影響を与える可能性があります。また、株価の下落に関しましては、年金資産の運用が悪化した場合には、退職給付費用の増加により損益に影響を与える可能性があります。

 

 

製品・サービスの品質とものづくりに関するリスク

影響度

発生可能性

〈リスクの定義〉

・仕入先・調達先等における法令違反、品質問題の発生により、当社提供サービス・製品の品質が劣化し事業活動が制約されるリスク、レピュテーションが毀損されるリスク、およびレピュテーション毀損に伴い当社株価が下落するリスク

・(当社グループの製造会社起因の)品質問題の発生により、損害賠償支払が生じるリスク、レピュテーションが毀損されるリスク、およびレピュテーション毀損に伴い当社株価が下落するリスク

〈主な対応策〉

当社グループでは、お客様に安全な製品を供給し、安全・安心な社会を構築するため、製品安全・品質管理を社会的責任の重要課題の一つと位置づけています。「NAGASEグループ製品安全自主行動指針」に基づき、グループ全体でのルール策定や啓発活動を通じた製品の安全性確保に努めています。また、リスクマネジメント部において、仕入先・製造委託先の管理、グループ製造会社の支援、社内教育等を実施しています。実際の文章は下記Webサイトに掲載させて頂いております。

https://www.nagase.co.jp/sustainability/social/customer-responsibility/

また、ISO9001などの国際規格を取得し、全社での品質マネジメントシステムの運用を通じて、提供する製品の品質向上のための継続的改善(PDCA)を行い、あらゆる仕事の質を高める努力を続けています。

競争優位性喪失に関するリスク

影響度

発生可能性

〈リスクの定義〉

・競合他社の台頭により当社グループの主要事業領域における市場シェアが縮小し、損失が発生するリスク

・競合他社のイノベーションにより、当社グループの取扱製品やサービスの競争優位性が失われるリスク

・特定海外地域への投下リソースの過度な集中、特定海外地域から他地域へのリソースシフトの遅延等の海外戦略における失敗により損失が発生するリスク

〈主な対応策〉

当社グループでは、顧客の需要変化に対し常に注意を払い情報収集に努めております。状況に応じ仕入先の拡充、地域戦略の変更、新規商品・サービスの開発といった対策を実施しております。また、地域間でリソースシフトを行う際には、移転先市場での迅速な現地体制の整備・強化を試みております。ただし、予測不能な事態が発生し、当社グループの経営成績および財政状態に影響を与える可能性があります。

 

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

 当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

① 経営成績の状況

 当連結会計年度における世界経済は、地政学リスクの高まり、主要国の金融政策の動向、中国経済の減速懸念に 加え、米国による新たな通商・関税政策などを背景に、不透明な状況が続きました。

 当社グループがビジネスを展開する地域を概観すると、グレーターチャイナでは不動産市場における需給の調整 が長期化しており、景気回復の動きは依然として鈍い状況です。米州では物価は安定傾向にありますが、高金利が 続いており、景気の先行きには不透明感が残ります。アセアンでは堅調な内需とインバウンド需要に支えられ、景 気は底堅く推移しています。日本では企業業績や雇用は安定しているものの、物価上昇の影響により個人消費は慎 重であり、景気回復のペースは緩やかです。いずれの地域においても、米国の通商・関税政策が国際的な貿易秩序 やサプライチェーンに影響を及ぼす可能性があることから、先行きは不透明な状況です。

 このような状況の下、当連結会計年度の業績は次のとおりとなりました。

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

増減率

(%)

売上高

900,149

944,961

44,811

5.0

売上総利益

164,719

181,291

16,572

10.1

営業利益

30,618

39,078

8,459

27.6

経常利益

30,591

38,382

7,791

25.5

税金等調整前当期純利益

32,665

38,130

5,465

16.7

親会社株主に帰属する

当期純利益

22,402

25,521

3,118

13.9

・当連結会計年度の業績は、為替が円安に推移したこともあり、すべての段階損益において増益となりました。

・営業利益は、売上総利益の増加に伴い、増益となりました。詳細は以下のセグメント別の業績をご覧くださ い。

・親会社株主に帰属する当期純利益については、2020年度に撤退を決定した中国のガラス基板の薄型加工事業にか かる事業撤退損の計上や、投資有価証券評価損の計上等があったものの、営業利益が増加したこと等により、31 億円増加の255億円となりました。

 

 セグメント別の業績および主な要因は、次のとおりであります。

 当連結会計年度より、報告セグメントの業績をより適切に反映させるために、全社費用の配賦方法を変更しております。

 

機能素材

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

増減率

(%)

売上高

146,804

153,746

6,941

4.7

売上総利益

28,123

32,511

4,388

15.6

営業利益

6,158

9,213

3,054

49.6

売上総利益は主に以下の理由により、増益

・塗料原料の販売は自動車用・建築用ともに需要は横ばいだったが、市況の上昇により増加

・半導体材料の原料販売が増加

・カラーフォーマー事業は米国での事業撤退に加え、日本の製造拠点における不採算取引の見直しや効率化により損失削減

営業利益は売上総利益の増加を受け、増益

 

加工材料

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

増減率

(%)

売上高

198,543

210,627

12,084

6.1

売上総利益

23,614

26,179

2,565

10.9

営業利益

5,313

6,684

1,370

25.8

売上総利益は主に以下の理由により、増益

・樹脂の販売はOA等の電機・電子業界向けの需要回復を受けて増加

・東拓工業の工業用ホース・土木用パイプの販売が増加

営業利益は売上総利益の増加を受け、増益

 

電子・エネルギー

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

増減率

(%)

売上高

144,758

161,315

16,557

11.4

売上総利益

34,226

40,050

5,824

17.0

営業利益

8,852

12,302

3,450

39.0

売上総利益は主に以下の理由により、増益

・ハイエンドのスマホ・タブレット等の電子機器向けの材料販売は需要回復を受け増加

・半導体材料の販売は市況の緩やかな回復を受け増加

・ナガセケムテックスの変性エポキシ樹脂の販売は、AIサーバー用半導体向けが好調に推移し、増加

営業利益は売上総利益の増加を受け、増益

 

 

モビリティ

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

増減率

(%)

売上高

132,117

132,091

△26

△0.0

売上総利益

15,235

16,505

1,270

8.3

営業利益

3,614

4,238

624

17.3

売上総利益は主に以下の理由により、増益

・売上総利益の約半分を占める樹脂の販売は、数量の減少があったものの、円安や市況上昇等の影響により増加

・内外装・電動化用途の機能素材・機能部品の販売が増加

営業利益は売上総利益の増加を受け、増益

 

生活関連

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

増減率

(%)

売上高

277,779

287,079

9,299

3.3

売上総利益

63,436

66,099

2,662

4.2

営業利益

8,006

3,423

△4,582

△57.2

売上総利益は主に以下の理由により、増益

・中間体・医薬品原料の販売が増加

・ナガセヴィータは香粧品素材の販売が海外向けの不調により減少したものの、食品素材の販売が好調に推移し全体として販売が増加

・Prinovaグループは食品素材販売の増加に加え、市況が下落していた前連結会計年度と比べて売上総利益率が向上

営業利益は、売上総利益の増加はあったものの、第2四半期連結会計期間に計上したPrinovaグループの貸倒引当金繰入額や人件費等の一般管理費の増加により、減益

 

その他

 特記すべき事項はありません。

 

② 財政状態の状況

 

 

 

 

 

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減

増減率

(%)

流動資産(百万円)

542,470

560,126

17,655

3.3

固定資産(百万円)

249,865

248,017

△1,848

△0.7

総資産(百万円)

792,336

808,143

15,807

2.0

負債(百万円)

391,021

401,683

10,662

2.7

純資産(百万円)

401,315

406,459

5,144

1.3

自己資本比率(%)

49.7

49.4

△0.3ポイント

・流動資産は、売上債権の減少はあったものの、棚卸資産の増加等により増加

・固定資産は、有形固定資産の増加はあったものの、無形固定資産の減少および投資有価証券の売却による減少等 により減少

・負債は、コマーシャル・ペーパーおよび短期借入金の返済による減少があったものの、長期借入金の新規借入お よび社債の新規発行による増加等により増加

・純資産は、自己株式の取得および配当金の支払い等があったものの、親会社株主に帰属する当期純利益の計上お よび為替換算調整勘定の増加等により増加

・以上の結果、自己資本比率は前連結会計年度末の49.7%から49.4%へ0.3ポイント低下

③ キャッシュ・フローの状況

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

営業活動によるキャッシュ・フロー

72,959

36,321

投資活動によるキャッシュ・フロー

△11,627

△11,615

財務活動によるキャッシュ・フロー

△48,046

△18,212

・営業活動による資金の増加額は、運転資本の増加による資金の減少82億円および法人税等の支払額122億円があったものの、税金等調整前当期純利益381億円および減価償却費153億円の計上があったこと等によるもの

・投資活動による資金の減少額は、投資有価証券の売却による収入33億円があったものの、有形固定資産の取得に よる支出125億円および無形固定資産の取得による支出26億円があったこと等によるもの

・財務活動による資金の減少額は、長期借入れによる収入320億円および社債の発行による収入200億円があったも のの、コマーシャル・ペーパーの純減少175億円、自己株式の取得による支出170億円、社債の償還による支出 100億円および配当金の支払額95億円があったこと等によるもの

 

④ 販売の状況

 「① 経営成績の状況」および「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(セグメント情報等)」をご参照願います。

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

① 重要な会計上の見積りおよび当該見積りに用いた仮定

 当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成に際し、資産、負債、収益、費用の報告数値に影響を与える見積りおよび仮定を用いておりますが、見積り特有の不確実性があるため実際の結果は異なる可能性があります。連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積りおよび仮定のうち、重要なものは以下のとおりであります。

・ 有形固定資産および無形固定資産の減損評価

 当社は、のれんを含む有形・無形固定資産の価値が毀損していないかどうかを確認するために、各資産または資産グループの減損兆候の有無を調査した上で、割引前将来キャッシュ・フローに基づき減損損失の認識の判定を行っております。その結果、減損損失の認識が必要と判断された場合には、資産の帳簿価額のうち回収不能部分について減損損失を計上しております。

 この減損損失の認識・測定に用いる将来キャッシュ・フローの基礎となる事業計画や使用価値の算定に用いる割引率等は、その性質上会計上の判断や仮定を伴うものでありますが、割引前将来キャッシュ・フローや回収可能価額の下落を引き起こすような事業環境の変化により見積りの見直しが必要になった場合には、追加的な減損損失が発生する可能性があります。

 当連結会計年度においては、Nagase America LLC(以下、NAM)の生活関連セグメントに係るのれん及び無形資産について減損損失を計上しました。

 NAMの事業のうち生活関連事業については、主に北米の化粧品メーカー向けに香粧品原料を販売しております。

 NAMの生活関連事業を取り巻く足元の事業環境は、中国におけるプレミアム化粧品の需要減少に伴う、北米の化粧品メーカー向け香粧品原料の販売量の減少によって非常に厳しい事業環境にあります。このような事業環境の下、当連結会計年度末において生活関連事業に係る事業計画の見直しを実施した結果、将来キャッシュ・フローの見積りの総額が対象事業に係るのれん及び無形資産の帳簿価額を下回ったことから、当連結会計年度において減損損失を計上しております。なお、回収可能価額には使用価値(同社の最新の事業計画を基礎とし、将来の不確実性を加味して算定)を用いております。使用価値の算定における主要な仮定は事業計画における主要製品の販売数量、売上高成長率であります。

 詳細については「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記情報(連結損益計算書関係)」および「(セグメント情報等) 関連情報 報告セグメントごとの固定資産の減損損失に関する情報」をご参照ください。

 

・ 繰延税金資産の回収可能性の判断

繰延税金資産は、事業計画に基づき納税主体毎の将来の課税所得の見積りを行った上で、将来の税金支払額を軽減する効果が認められる範囲において計上しております。したがって、将来の課税所得が大きく減少するような事業環境の変化が生じた場合には、繰延税金資産を取崩し、当該期間の税金費用を増加させる可能性があります。

 

・ 退職給付に係る負債および資産の測定

当社グループの従業員に対する確定給付型退職給付制度について、退職給付債務と年金資産の差額を連結貸借対照表上退職給付に係る負債(または資産)に計上しております。退職給付債務は、簡便法を採用している場合を除き、退職率、死亡率、割引率等の基礎率を設定して算定しますが、特に割引率が重要な仮定であります。割引率は安全性の高い債券(一定格付以上の社債)の利回りを基礎として適宜見直しを行っております。なお、当連結会計年度末では1.6%(加重平均値)を設定しています。

年金資産に係る主な仮定は長期期待運用収益率であり、現在および予想される年金資産の配分と、年金資産を構成する多様な資産からの現在および将来期待される長期の収益率を考慮して適宜見直しを行っております。なお、当連結会計年度末では2.0%を設定しております。

この割引率を含む基礎率を見直した場合や、見積りと実績に差額が生じた場合は数理計算上の差異が発生し、主に発生時の翌連結会計年度に全額費用処理しております。従って、多額の数理計算上の差異が発生した場合には、将来の経営成績に影響を及ぼす可能性があります。詳細については「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記情報(退職給付関係)」をご参照ください。

 

② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、下記文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

A)財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

 当社グループの当連結会計年度の経営成績等につきましては、「(1)経営成績等の状況の概況 ①経営成績の状況 ②財政状態の状況 ③キャッシュ・フローの状況 ④販売の状況」をご参照ください。

 事業ポートフォリオの観点では、成長ストーリーと各領域において注力する分野を明確にし、今後の成長をより確実なものとするために事業ポートフォリオを機能軸で整理しております。また、不採算取引の採算性の是正や、減損損失が懸念される事業の効率化を進め、収益性の向上を推し進めております。詳細につきましては、「1.経営方針、経営環境及び対処すべき課題等(2)中期経営計画 ACE 2.0」をご参照ください。

 また、前年度から引き続き政策保有株式の売却を実施し、特別利益を計上しております。なお、ここから得られた資金は将来に向けた成長投資や株主還元等に効果的・効率的に活用し、収益力の向上を図ることに加え、資本効率性を高めることで、企業価値の向上を図ります。

 

B)当社グループの経営成績等に重要な影響を与える要因

「3.事業等のリスク」をご参照ください。

 

C)キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に関する情報

 当社グループの当連結会計年度のキャッシュ・フローの分析につきましては、「第3 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績の状況 ③キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。

 当社グループの資本の財源及び資金の流動性につきましては、以下のとおりであります。

 当社グループの資金需要は商品の仕入、製造費、販売費、研究開発などの一般管理費、設備投資、デジタルマーケティングなどへの新規成長投資、M&Aによる株式や営業権取得が主なものです。持続的成長の実現に向け、これらの資金需要に対応するための安定的かつ機動的な資金の確保は重要な戦略と考えています。

 資本の財源としましては、営業活動によるキャッシュ・フローに加え、資金調達手段として金融機関からの借入の実施、社債ならびにコマーシャル・ペーパーの機動的な発行による資本市場からの調達など、多様化を図りながらバランスの良い調達を実施しております。

 また、金融・資本市場における不測の事態や急な資金需要が発生した場合に備え、複数の金融機関と長期・短期のコミットメントライン契約を締結し流動性を確保しております。

 当社グループの資金管理については日本国内における当社と国内子会社間においては日本円、中国国内の現地法人間においては人民元および米ドル、また米国と一部アジア地区およびメキシコにおける現地法人間においては米ドルのキャッシュ・マネジメント・システムを導入しており、資金の効率化を図ることで、流動性確保と金融費用の削減に努めております。

 本報告書提出時点における格付けについては、株式会社格付投資情報センター(R&I)から発行体格付と長期債格付ともに「A」(シングルAフラット)を、短期格付で「a-1」(aワン)を取得しており、また取引先金融機関とは良好な関係を維持しております。

 現状の資金調達および資金繰りに問題はないと認識しておりますが、外部環境の変化により資金需要が高まる場合は、手元流動性を厚めに保有するなどの手段を講じる場合があります。

 

D)経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等の達成・進捗状況について

 中期経営計画 ACE 2.0における重要指標は以下のとおりです。

施策

指標

目標

2020年度

2021年度

2022年度

2023年度

2024年度

資本効率性の向上

ROE

8.0%

5.9%

7.7%

6.6%

5.9%

6.4%

収益力の拡大

営業利益

350億円

219億円

352億円

333億円

306億円

390億円

 

ACE 2.0の基本方針、定量目標および実績、取り組み状況については、「1.経営方針、経営環境及び対処すべき課題等(2)中期経営計画 ACE 2.0」をご参照ください。

 

5【重要な契約等】

 該当事項はありません。

 

6【研究開発活動】

当社グループは、グループの総合力を結集し、新規事業創出のため、マーケティング活動に基づく新技術・新製品の開発と技術情報の発信を目的に研究開発活動を行っております。

研究開発を専門とする組織としては未来共創室、ナガセバイオイノベーションセンター、ナガセアプリケーションワークショップがあり、それに加えて各製造会社を中心とした研究開発活動を行っております。

未来共創室では、本社事業部・グループ会社で活用できるブロックチェーン、センサー、システムの開発、これから伸長が期待される医療分野、エネルギー分野の新規開発を行っております。具体的にはSaaS型マテリアルズ・インフォマティクス支援サービス、ブロックチェーン技術によるトレーサビリティ支援等の開発を推進しております。また100%子会社であるNagase Future Investments㈱を2025年4月に設立し、CVCファンドによるスタートアップ投資を開始し、次の開発領域の下地づくりのための情報収集を行っております。

ナガセバイオイノベーションセンターでは、サステナブル社会の実現に向けて、独自技術の放線菌の育種・発酵技術:N-STePP®(注1)と大腸菌の育種・発酵技術:NAGASE U-E’s Technology®(注2)を活用して、現在は化学合成困難とされる自然界に存在する希少有用物質を持続性のある微生物発酵法で高効率生産できるように「プロセスイノベーション」(=Unavailable Made Available&Sustainable)を目指して取り組んでおります。発酵法は従来の抽出法や化学合成法に比べ、「安全・安心、高効率、環境にやさしい」という特徴があります。現在は、キノコや麹菌に含有される希少抗酸化アミノ酸(エルゴチオネイン)、新規酵素、バイオ色素等の機能性物質の発酵生産を検討しております。特に「放線菌を利用した物質生産技術」を競争優位性のある技術に育てるために、オミクス解析やデータ解析を活かした基盤技術を深耕しています。これらバイオ技術を駆使して生産した有用物質が、機能性食品、化粧品、及び工業用品として広く展開されるよう開発を進めると同時に将来の事業化を見据えて、戦略的に特許や商標並びに意匠を出願・登録しております。また、グループのバイオ技術の総力を活かし、イノベーション創出に向けたテーマ創生を推進しております。このように当センターは、グループ独自の技術を活用して、グループの将来の事業を先導する新規事業の芽の創出をミッションとして、当社のサステナブル事業へ貢献すべく活動し続けております。

(注1)弊社の国内登録商標。NAGASE’s Streptomyces Technology for Precious Productsの略称。

(注2)弊社の国内登録商標。NAGASE Ultra-E. coli’s Technologyの略称。

ナガセアプリケーションワークショップでは、プラスチック、コーティング材料の分野で素材の評価分析、用途開発から、それら素材を使った処方開発を行うことができる設備と専門性の高い技術スタッフを有しております。取引先やグループ製造会社が持つ素材や加工技術を組み合わせ、グループネットワークを活かしたマーケティング機能で得た市場ニーズに応えるソリューション提案を行っております。新規材料や技術の目利きを行い、各種アプリケーションで求められる性能を満たす処方開発を行うことで、カラー提案、機能性UP、Green材料開発等におけるお客様の課題解決をサポートします。現在、PFAS代替材料や、3Dプリンティング分野での知見を活かしたユニークな材料の提案にも取り組んでおります。これらの活動により当社グループ独自の商社業の差別化戦略を支えるとともに、商社が運営するソリューションラボならではの自由な発想でサステナブルな新規事業開発に貢献することを目指して活動しております。

ナガセケムテックス㈱では、医療材料、医療機器分野における低エンドトキシン化ニーズに応えるべく、弊社独自のエンドトキシン除去・低減化技術を活用したビジネス展開を鋭意進めております。これまで、低エンドトキシンプルラン・ゼラチン・アルギン酸ナトリウムなどの素材をアルコフェリスシリーズとして順次リリースしておりますが、更なるラインナップの拡充へ向け開発を継続中です。また、エンドトキシン除去技術の応用展開として、大阪大学と3Dバイオプリンター用のインクの共同開発を開始するなど、産学連携による技術力の強化や応用展開を積極的に推進しております。

また、長瀬産業㈱、ナガセヴィータ㈱と協業して、当社ナガセバイオイノベーションセンターおよびナガセヴィータ㈱の有する酵素技術とナガセケムテックス㈱の樹脂製造技術を組み合わせ、澱粉を主原料とした高バイオマス度の高吸水性ポリマー(SAP)の開発を行っております。現在主流であるポリアクリル酸系SAPが、石油由来かつ非生分解性であるため、環境負荷が大きいという課題を抱えているのに対し、本開発品は、バイオ由来原料を使用し、さらに生分解性も有することから、環境負荷低減に大きく貢献することが期待されます。本製品は、農業・緑化、化粧品、衛生材料など、幅広い分野への適用が期待されており、今後、各用途に向けたプロトタイプの完成および、量産に向けた検討を鋭意進めてまいります。

ナガセヴィータ㈱では、微生物が生み出す独自酵素とそれを用いた素材および微生物発酵による素材の研究開発を進めております。新素材を次世代の主力製品とするため、食品、パーソナルケア、医薬品の3つの事業領域と連携し、社会課題の解決に向き合った価値づくりを行っております。新規素材については、NAGASEグループテーマであるエルゴチオネイン上市に向けた研究開発に努めております。医薬品素材開発へも注力し、「SOLBIOTE®」ブランドの「スクロースSG」上市に向けた取り組みを行ってまいりました。既存素材につきましても、2021年度上市の水溶性食物繊維水あめ「テトラリング®」の「日本農芸化学会中四国支部技術賞」受賞など各種学会での学術活動、「食品開発展2024」など各種展示会への出展を通じて、製品の提供価値の認知度を上げるとともに、新規用途開発を目指した価値づくりを強化しております。引き続き、モノづくり基盤技術の深化と新規事業の探索を両立させ、収益の柱となる高付加価値な素材を生み出す仕組みの構築に努めてまいります。

 

 

なお、当連結会計年度におけるセグメントごとの研究開発費は次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

機能素材

779

加工材料

620

電子・エネルギー

2,242

モビリティ

165

生活関連

1,881

全社(共通)(注)

34

合計

5,723

(注)全社(共通)は特定のセグメントに関連付けられない基礎研究等に関する費用です。