第2 【事業の状況】

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1) 経営方針、経営環境及び対処すべき課題

世界経済および日本経済は、グローバルサプライチェーンの地域ブロック化が進み、アメリカの関税政策による影響の顕在化など、景気の先行きが一層不透明になっています。一方で、産業界では様々な社会課題を見据えて自動化の需要はグローバルで持続的に伸びていくと認識しています。当社では、こうした顧客のニーズに対応すべく、今後もIT、生産、物流の事業基盤を進化させ、「グローバル確実短納期」にさらに磨きをかけてまいります。顧客時間価値の向上に向けて、地域市場、新商品、新サービス等の開発を加速させるとともに、異なる市場毎のニーズに対応できるように、各市場に合致したデジタルモデル化を推進してまいります。

 

① 事業領域の拡大とグローバル展開

当社グループは、メーカー事業と流通事業を併せ持つ強みを最大限に発揮し、事業領域の拡大とグローバル展開を加速させています。メーカー事業は、製造装置などに利用する精密機械部品の「FA事業」、プレス部品等を量産する金型に組み込む標準部品や精密部品の「金型部品事業」の二つの事業を展開しており、膨大な数の商品を最適地生産し、低コストを実現しております。流通事業においては、VONA事業として他社ブランドを含めた商品領域を拡大させると同時に、当社顧客需要・特性に適合した独自の品揃え・サービスによりグローバル展開の加速を強力に推進しています。こうした取り組みを通じて、今後の持続的成長を実現してまいります。

 

② デジタルモデルシフトの推進

多様化が進む自動化顧客ニーズに対応するため、デジタルモデルシフトと地域毎成長戦略を継続実行しており、デジタル施策が一定の成果を創出しました。この「デジタルモデル」の中身は、これまでに展開してきた「meviy」、「エコノミーシリーズ」、納期調整や見積時間の待ち時間をゼロにする生産間接材購買プロセスDX革新である「D-JIT」に加えて、間接材トータルコストダウンサービスの「floow(フロー)」等のサービスです。当社の源流思想である「時間戦略」によって顧客に貢献する理念に基づき、「顧客時間価値」の更なる創出を図るために、既存の事業にこれらのサービスを浸透させて抜本的に強化し、デジタルモデルシフトを推進してまいります。

 

社会の持続的発展への貢献

当社グループは顧客に「顧客の工数削減」と「確実短納期」という「時間価値」を提供しています。それを支える事業ドメインの「インダストリアル・オートメーション産業」は、様々な社会活動の自動化・省力化などを実現し、社会の持続的発展に不可欠な存在です。当社の成長は、社員一人ひとりの挑戦によって実現され、「顧客時間価値」への貢献を生み、顧客が栄え、社会が栄え、さらに社員も栄える成長の連鎖、すなわち成長連鎖経営を志向します。これらに繋がる当社グループのサステナビリティに関する考え方、取り組みについては、次頁以降をご参照ください。

 

(2) 目標とする経営指標

当社グループでは、持続的成長を通じた企業価値の向上を目指しており、主に売上高、営業利益、エクイティスプレッドを経営指標として定めております。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

文中の将来に関する事項は、当社グループが有価証券報告書提出日現在において合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の結果とは異なる可能性があります。

 

(1) サステナビリティ全般についての方針

① ガバナンス

(a) サステナビリティに関する考え方

当社グループは社員の挑戦を起点とした成長連鎖経営を志向します。社員の挑戦により向上した「顧客時間価値」により、顧客が栄え、社会が栄え、さらに社員も栄える成長連鎖を目指します。

顧客・サプライヤーの「あらゆるムダの排除」により同業界の非効率解消に貢献しています。インダストリアル・オートメーション(IA)産業は様々な社会活動の自動化・省力化などを実現し、社会の持続的発展に不可欠なものとして寄与しています。社会の持続的発展が産業界の需要を創出し、それは当社グループにとって新たな機会の創出にも繋がります。

当社グループはこの循環の確立に貢献することで社会、産業界の持続的発展を支え、当社グループ自身の持続的成長に繋げていきたいと考えています。

 

(自社のサステナビリティへの取り組み)

当社グループは、IA産業のトータルサプライチェーン、トータルビジネスプロセスにおける非効率を「時間」を切り口に解消することで同業界の発展に貢献しています。グローバルで30万社を超えるお客さまにサービスを提供するサプライチェーンを構築し、確実短納期を実現することで産業界のさまざまなムダや工数を削減する時間価値を提供しています。この時間価値を継続的に向上させるために、事業、商品、サービスなどのビジネスモデルを常に進化・発展させるとともに、それらを支えるIT、生産、物流等の事業基盤強化、人材基盤構築に取り組んでいます。

 

(IA産業の持続的成長を支える取り組み)

自動化設備・装置の部品は一品一様であり、図面制作から見積もり、部品の加工、調達まで、煩雑な手間と長い納期を必要とするなど、そのプロセスには極めて非効率な業務が散在します。当社グループは、自動化設備・装置に使う受注製作部品を規格化することで図面作成を不要にするなど、お客さまの非効率業務にかかる時間を大幅に削減しています。また、部品一個からでも確実に納期を遵守する確実短納期をグローバルで実現することにより、不要な在庫を削減し、生産・稼働機会ロスなどを解消しています。さらにデジタルモデルシフトをはじめとするさまざまな新商品・新サービスを通じて、調達プロセスにかかるムダ・工数を約9割削減することでエネルギー消費量を低減するとともに、紙図面を不要にするなど、資源の有効活用促進にも寄与しています。

当社グループは、IA産業の「時間革新」を通じ、社会の持続的発展に貢献し続けています。

 


 

(社会の持続的発展への貢献)

当社グループは、事業展開そのものを通して、IA産業の資源投入量・消費量を削減する付加価値を提供しています。顧客・サプライヤーのあらゆるムダを根本的に排除することによって、従来の大量生産・大量消費・大量廃棄経済から循環型経済への移行加速に貢献します。

また、当社グループは社会要請であるESG推進に積極的に適応し、事業活動を通して、地球温暖化防止などの気候変動対策に取り組んでいます。自社に加え、顧客、サプライヤーが関係する各国の文化や歴史、人権、人材の多様性を尊重するとともに、ステークホルダーの皆さまと連携し、持続可能な社会の発展に貢献していきます。

 

(b) サステナビリティ推進体制

当社グループはサステナビリティへの一層の取り組みを強化するため、代表取締役会長を委員長、代表取締役社長を副委員長とする「サステナビリティ委員会」を設置しており、当社におけるサステナビリティの基本方針を策定し、経営計画や経営方針に対する検証と、社会課題に対する取り組みを推進し、取締役会に報告・提言を行っています。

サステナビリティ経営をグループ全社で横断的に推進するため、サステナビリティ委員会は、取締役会の監督下、サステナビリティ推進担当役員を定め、グループの執行組織である企業体・本部・プラットフォームと連携して、ESGに関する目標設定・進捗状況のモニタリング、評価などを行い、取り組みを継続展開しています。

 


 

② 戦略

(a) サステナビリティにおける重要課題

当社グループは顧客時間価値を継続的に向上させ、事業活動を持続的に成長させるための3つの重要課題を特定しています。

 


 

事業、商品、サービスなどのビジネスモデルを常に進化・発展させるとともに、それらを支えるIT、生産、物流等の事業基盤強化、人材基盤構築に取り組んでいます。

 

 

③ リスク管理

当社グループは、前述戦略における3つの重要課題ごとに、環境、社会、ガバナンスそれぞれのESG観点でリスクと機会を特定しています。

 

(a) 環境

気候変動、資源枯渇、大気汚染などが当社の事業に影響をもたらすことが想定されます。

IA産業および当社の事業戦略実行へ及ぼす影響や、自社サプライチェーンへの影響で確実短納期での供給に脅威が生じるリスクがあります。

一方、自動化需要の高まりや労働生産性改革等効率化の要求が向上することはビジネスの伸長をもたらす機会となります。

 

(b) 社会

商品の品質・安全性に与える技術の進歩、法制の変化の影響、労働人口の減少や人権保護、データセキュリティへの意識向上が当社ビジネスに影響を与えると想定します。

具体的にサプライヤーの取引制限や品ぞろえの変化、生産コスト増加や人材の採用数未充足、サプライヤー人権保護が事業にとってのリスクになります。一方、取引のグローバル化、ブロック化による自動化設備部品の多様化や、社会課題解決に向けた商品・サービスへの関心、特定知識等人的資本重要性は当社の新しいビジネスへの機会となると考えています。

 

(c) ガバナンス

コーポレートガバナンス、倫理行動、およびステークホルダーエンゲージメントは、当社企業活動に重要な影響を与えると認識しています。

当社グループは、気候変動による災害の激甚化や感染症パンデミックといったリスクに備え、事業継続計画(BCP)の体制を構築しています。しかし、技術や社会の急速な変化は、当社の戦略実行や監督に制約をもたらす可能性があり、特に情報基盤システムに対する技術的脅威や規制環境の変化は、当社事業における重要なリスクとなります。同時に、事業継続計画に対する顧客や社会からのニーズの高まりは、当社にとって新たなビジネス機会に繋がると考えています。

 

当社はこれらのリスクについて、自社に加えて、市場・顧客・調達先といったサプライチェーン全体で想定される影響について発生の可能性の予測と対応策の検討を行っております。また、一定の条件のもとに財務インパクトが試算可能なものについてはシミュレーションを実施しております。

気候変動による風水害の激甚化・地震などの大規模災害・パンデミックなど当社の商品供給や従業員の安全と健康に甚大な被害が予測されるものについては、非常時の事業継続計画を策定しており、日本法人に加えて、海外現地法人へも災害対策などの文書とプロセスや連絡の体制整備を図っております。

今後、具体的な想定と環境の変化に即して体制の充実と必要な訓練を行ってまいります。

 

④ 指標及び目標

当社グループの、各種サステナビリティの取り組みを推進するにあたり各種指標を作成し、目標と実績の確認、アクションの具体化を行っております。詳細は「(2)サステナビリティに関する取り組み」を参照ください。

気候変動対応については自社の温室効果ガス排出量の絶対値を計測、集計し、年度での実績を公開しています。2030年までに2020年比で42%の削減を行い、2050年にカーボンニュートラルという目標を設定しております。

人材の多様性については、グループ全体での従業員の男女比率を実績管理し、2025年3月現在、男女比63.6%:36.4%となっています。

 

 

(2) サステナビリティに関する取り組み

(a) 気候変動対応

当社グループは事業活動を通して、地球温暖化防止などの気候変動対策に取り組んでいます。

2021年9月にTCFD提言への賛同、「TCFDコンソーシアム」への参画を表明し、2022年3月には気候変動の影響が大きいメーカー事業を中心に、1.5℃/2℃シナリオ、および4℃シナリオに基づく分析を実施し、各々のシナリオへの移行リスク・物理リスク・機会の特定、事業インパクトの評価について情報開示をしました。

 

 

分類

当社グループ影響

財務インパクト

対応戦略

リスク

移行

政策・法規制

炭素税の導入

市場調査

配送費用の上昇

調達ソース開拓

電力供給規制

調達ソース開拓

市場・社会の変化

顧客行動の変化

市場調査

物理

風水害激甚化

拠点ダメージ

グローバル最適生産

確実短納期遵守

機会

事業機会増加

製品の需要増

対応する製品開発

早期復旧貢献増販

IT・生産投資拡大

費用低減

電力調達コスト減

再生エネルギー化推進

 

 

また、2050年のカーボンゼロを実現するために、2030年度の温室効果ガス排出量(スコープ1およびスコープ2)を、2020年度対比で42%削減する目標を設定いたしました。

(単位:千t-CO2e)

温室効果ガス排出量

2021年度

2022年度

2023年度

スコープ1

5

※1

6

6

スコープ2

62

※1

15

13

スコープ3(注)

1,637

 

1,528

1,260

 合計

1,704

※1

1,549

1,279

 

(注)スコープ3排出量はカテゴリー1~7およびカテゴリー12を対象に算定

※1 過去の開示数値に誤りがあったため修正

 

この目標を達成するために、当社グループでは以下のような取り組みを実施しております。

・ベトナム、中国、日本の拠点における太陽光発電の導入

・主要生産拠点における省エネ推進

・国内生産拠点および本社ビルにおけるCO2フリー電気の導入

・ベトナム、中国、タイ、インドの生産拠点を対象とした再エネ電力証書の活用

・2022年7月より日本の中部地区自前配送ルートの一部にEV車両を導入

 

 

(b) 人権の尊重

当社グループは、人権の尊重をすべての活動の基本原則と考え、ミスミグループ人権方針(以下「人権方針」)を定め、常に国際社会と協調した経営や行動に努めております。人権方針では、当社グループが重点的に取り組むべき人権課題を特定し、以下のとおり適切な対応を進めています。

・個人の基本的人権、個性および多様性を尊重し、人種・国籍・性別・宗教・信条・出生・年齢・性的指向・身体的特徴・心身の障害等による差別や嫌がらせを禁止しています。

・個人としての尊厳を不当に傷つける各種のハラスメント(セクシュアルハラスメント・パワーハラスメント・モラルハラスメント等)を禁止しています。

・バックグラウンド・スキル・性別・国籍等の多様性の確保と機会均等を重視した人材の採用・育成・登用・処遇を行っています。

・安全衛生関連の法令・基準を遵守し、安全で働きやすい職場環境の維持に努めています。

・社員の心身の健康を重視し、長時間労働を防止しています。

・結社の自由などの社員の労働者としての権利を尊重しています。

・一切の児童労働・強制労働を行いません。

当社グループは、人権方針を当社グループのすべての役員・社員に適用します。さらに、サプライヤーの皆さまなどのビジネスパートナーに対しても、本方針を理解・支持いただくことを期待し、尊重されるよう働きかけています。

加えて、実行のデューデリジェンスとして、当社グループ内だけでなく、ビジネスパートナーを含めて人権リスクを評価・特定し、リスクを防止・軽減する対策を実施しています。

コミュニケーションとしては、当社グループの全社員への教育・周知徹底、ステークホルダーへの適切な情報開示・対話を行っています。

 

(c) サプライチェーンマネジメント

当社グループは「サステナブル調達ガイドライン」を策定し運営しています。同ガイドラインについて主要仕入先に対して合意を促すとともに、人権の尊重、安全衛生の推進および管理体制構築状況の実態調査を行っています。加えて、環境活動の取り組みについては、温室効果ガス(GHG)排出量削減に向けたエネルギー使用データの共有や削減に向けての算出を行うなど、協調して持続可能な調達活動の向上に取り組んでおり、更にこの活動の拡大を図っています。

今後もサプライチェーン全体を視野に入れて、リスク・機会の定量的把握と実質的な対応策の立案・実行を進めてまいります。

 

(d) 人的資本の充実に向けて

成長連鎖経営は「社員の挑戦」を起点としています。当社が取り扱う商品そのものには大きな差別化要素がなく、ビジネスモデルを常に進化させ続けることにより付加価値を高めています。このビジネスモデル(ミスミモデル)を磨き続けるのは「人」です。故に、社員の挑戦が成長連鎖経営の起点であり、当社の人的資本経営の根幹といえます。

(ミスミ・バリューズ:https://www.misumi.co.jp/sites/default/files/2024-04/misumivalues.pdf

 

<ミスミの人的資本経営:Best Place To Grow / Right Ways To Grow>

「次どうする?」を常に、社員全員が自分自身に、そして周囲に問いかけ、実際に「次」に挑戦することは、個人の成長につながり、個人の評価(成長実感)を高め、その結果に対する報いとともに、更なる「次の挑戦」に向かう動機付け(成長予感)となる、「個人の元気・付加価値を高める・成長させる(個の元気)」循環を形成します。同時に、個々の「次どうする?」を組織として束ね、ミスミモデルの進化を実現することは、お客様の時間価値向上を実現し、それが企業価値の向上にもつながる「組織の付加価値を高める(戦略的束ね)」循環につながります。「次どうする?」を起点としたこの2つの循環が常に両輪で回り続けていくことが、当社グループの社員・組織の成長を実現し、成長連鎖経営の礎となります。この構図は当社グループの「人的資本経営」の主軸を表したものであり、当社グループが社員にとって「挑戦に溢れ、世界で最も成長できる会社」であること、すなわち社員にとっての「Best Place To Grow」であることを示しています。

 

「Best Place To Grow」の実現には、同時に「正しく挑戦し成長する」という志向を伴うことが極めて重要です。正しい挑戦と成長を促す「Right Ways To Grow」の考え方を新たに加え、個人も組織も最も早く、それぞれに最も適した成長を実現する環境を整備します。

Right Ways To Growは下記の4つの要素を主軸としています。

・正しい挑戦(「Keep Challenging」):

常に「次どうする?」を問い続ける、現在に安住しない

・正しい視点(「Think/See right」) :

ミスミ・バリューズに基づく思考と実践
社員の挑戦や成果の正しい認識と正しく厚い報い

・正しい行動(「Discipline」)      :

委譲された権限を規律を以て実行、不正・政治性を排除した行動

・正しい環境(「Fair environment」):

個人が各々の事情を踏まえつつ、最大限の挑戦が出来る勤務環境

誰に対してもフェアな環境

 

 

<Best Place To Grow / Right Ways to Grow であり続けるための「仕掛け」>

社員にとってミスミがBest Place To Grow であり続けるためには、そして社員の正しい挑戦と成長が持続するためには、社員個々人の挑戦努力に加え、「次どうする?」を起点とした個人・組織の成長サイクルが何時でも何処でも周り続け、社員の挑戦を加速させる仕掛けが不可欠です。当社グループでは、社員の正しい挑戦と成長の加速に向け、下記の4つの仕掛けとサブシステムを整備しています。(図)

①「個人の挑戦・成長」(個の元気のサイクル)を加速するミスミ人事戦略

②「組織の挑戦・成長」(戦略的束ねのサイクル)を加速するミスミ経営システム

③ 成長を直接的に後押しするミスミ人材開発

④ 正しく挑戦し、成長できる環境を整えるミスミ組織開発 Right Ways To Grow

 

図:「ミスミの人的資本経営(Best Place To Grow / Right Ways To Grow)」

 


 

これらの仕掛け・サブシステムをグローバルに展開し、個の元気と戦略的束ねの両輪を加速度的に、持続的に回すことで、社員にとっての「Best Place To Grow」であり続けます。

 

① 個人の挑戦・成長を加速するミスミ人事戦略

ミスミモデルの進化を図り、顧客の時間価値向上に貢献するために、当社グループでは

・高い成長志向

・戦略性

・能動性

を全社員が発揮すべき「実践力」として設定しています。

この「実践力」を発揮し、挑戦し、結果を出し、また次の挑戦に向かう。やった人(挑戦して成果を出した人)を正しく認識し、高く報いる。これらを有機的、持続的に作動させるためには、整合する人事制度が必要です。当社グループでは、23年度より以下を「ミスミグループ共通の人事戦略」として定め導入を進めています。

 

◆ Next Challenge制度(NC制度)

社員が自身のキャリアに対して「次どうする?」を自発的に選ぶ仕組みです。この仕掛けには下記の「次の挑戦(XX Next)」があります。

Do Next:

現職を継続しながら、新たなテーマに挑む

Go Next:

チーム、部門、企業体、地域などを跨いだ異動を行う

Up Next:

職位(メンバー→リーダー、リーダー→ディレクターなど)を超える

 

昇進昇格について自発的に手を上げる仕組み

 

「飛び級」も可能(リーダー→部門長など)

Be Next※:

同職位内の区分も自ら手を上げ「昇格」する仕組み

シニアNext※:

定年再雇用を迎える社員に対する「次の挑戦」を選定する仕組み

 

※日本のみを対象とした制度

 

中でも当社ユニークな仕組みは「Do Next」と「Go Next」です。社員は、基本的には自主的なキャリア選択により、異動する・しないを決めることが出来ます。しかし、「正しい挑戦」(「Keep Challenging」)の指針に沿って、現在に安住せず、常に「次どうする?」を問い続けてもらうためには、社員が一つの職場に長年「固定化」することは成長の妨げになると考え、DoおよびGo Nextでは、毎年、社員の「現職」を「白紙」にし、現職を続けたい場合も、異動したい場合も、希望する組織に「応募」して自分の職場を決めることを求めます。組織側も自組織の社員を「次の挑戦」に向けて後押ししつつ、自組織に人材を集められるよう、自組織の魅力を高めることが求められます。いわば、社内を「労働市場化」して、常に次の挑戦に向けた多様なキャリア選択肢、多様な組織編成が可能になるような仕掛けとなっています。また、Go Nextは国や職種を跨いだ挑戦が可能になっています。

なお、「社員の次の挑戦」を測る指標として、当社グループでは、社内の流動性をKPIとして設定しています。

 

現在の日本における流動率

当面の目標値

(Next Challengeを通じた流動率)

(年間の流動率)

18%

20%

 

 

 

 評価制度

ミスミ・バリューズの発揮度合(実践力)とその結果を問う評価の2モジュールから構成しています。

実践力評価:

成長性、戦略性、能動性、組織活用度について、実際に発揮された

「行動」(ミスミ・バリューズ実践力)を評価する仕組み

成果評価:

ストレッチな目標に対する達成度を評価する仕組み

 

 

実践力評価に使用される項目は、「正しい視点」(「Think/See right」)の指針に従い、ミスミ・バリューズに基づく思考と実践を表す具体項目として職位・職種を問わず「ミスミで働く社員」に求める最重要要素として、グローバルに共通の設定としています。

成果評価では、各組織の「ビジネスプラン」(後述)に設定されたストレッチの度合いと同じストレッチ性を各個人の目標に予め織り込むことで、全組織で戦略と整合した目標に向けた挑戦を引き出すとともに、社員の挑戦や成果を正しく認識し、正しく報いる仕掛けとしています。

 

 報酬制度

「正しい視点」(「Think/See right」)の指針では、社員の挑戦や成果を正しく厚く報いることを目指しており、「やった人(挑戦し、成果を出した人)」に市場上位の総報酬水準で報いること、を当社グループでは報酬の基本コンセプトとしています。

そのコンセプトに適した報酬を各地域の習慣・法的枠組みに即した形で設定しています。

たとえば、ミスミ日本地域においては、社員の報酬構成や運用を下記のように設定しています。

 基本給:

職責に応じた基本報酬

 P賞与:

組織の「成長度合い」に応じた賞与

 B賞与:

全社の「利益創出」に応じた賞与

 株式報酬:

幹部社員に対する中長期貢献への報酬

 

 

これらのミスミ人事戦略の取組みは、まずは日本で先行導入しています。今後、各国の事情に合わせた形に調整を加えながら、順次、グローバルへの展開を予定しています。

 

② 組織の挑戦・成長を加速するミスミ経営システム

ミスミモデル進化を通じて顧客時間価値向上を実現するには、社員個人の挑戦を組織として「束ね」、戦略的に挑戦していくことが必要です。当社グループは、下記の経営システムを通じ、常に組織としての取組み自体の進化を模索、ミスミモデル進化に向けた組織の戦略的束ねと挑戦・成長を強化しています。

 

 ビジネスプラン

当社グループでは、幹部社員自らが「成長戦略」(ビジネスプラン)を描き、その実行も自ら担う、という「経営者」としての職責遂行することを求めています。各組織がビジネスプランを描くことにより、対峙する市場(お客様、同業他社、市況等)や自社のコンピタンスを的確に踏まえた、極めて実効性の高い、中長期の「事業戦略」を策定、発動させることが出来ます。

ビジネスプランはまず「戦略」を策定し、その戦略の方向性が承認されれば、数値を設定して「予算」を設定、承認された範囲は自己裁量にて戦略を実行することが可能です。

「企業体」や「プラットフォーム」レベルのビジネスプランは複数の統括G役員により徹底的に討議され、自組織のみならず、他組織との連携等も含めた戦略性・妥当性を持ったプランとして練り上げられます。その後は、各組織の戦略でありながらも、「ミスミの戦略の一環」として、そのプランの達成を全社として支援します。

ビジネスプランの策定はまた、「自ら描く」ことで、幹部社員の「成長志向」「戦略性」「能動性」を飛躍的に高め、強いコミットメントを引き出し、幹部社員の育成にも大きく寄与します。

 

 

 M-Up/Q-Up

ミスミモデル進化への取組みをグローバルに徹底し、また、その進捗や大きな成果を全社として確認、賞賛、共有するため、全社での「M-Up(MISUMI-Model Up)」と主に生産系組織における「Q-Up(Quality-Up)」を毎年実施しています。

M-Upは、各職場における(あるいは組織横断的な)ミスミモデル進化の取組みと成果をまずは各地域で「予選」を通じて審査し、予選を通過したテーマはグローバルのミスミを5ブロックに分けた「ブロック本選」にてコンペティションを行います。ブロック本選を勝ち抜いたテーマは「グローバル決勝」にて発表し、最優秀賞などを決定します。Q-Upも同様のプロセスを経て、グローバルの優秀賞を決定します。

ブロック本選や決勝などで、各地域の様々な取組みをグローバルに共有することで、相互の学びを最大化し、更にミスミモデル進化への加速を図る、当社グループにとって重要な「ミスミモデル進化」の場となっています。

 

◆ 経営フォーラム

当社グループでは、経営トップが社員と直接対話をする場として、「経営フォーラム」を年間を通じて開催しています。経営課題や重要戦略の進捗を共有し、質疑や討議を通じて、経営層と社員との問題意識の共有、相互理解、組織を超えた連携などを図ります。

経営フォーラムは全社レベルでの開催の他、各企業体/プラットフォームや部門といった組織レベルなど、様々なレイヤーで開催されます。

当社では、経営フォーラムを、各組織のリーダーとメンバーのコミュニケーションを活性化させる場としてだけではなく、育成の場、組織開発の場として重視し、フォーラムが全社で活発に実施されるよう、フォーラム推進委員会を全社に設置、各組織の委員がフォーラムの実行を主導しています。

 

③ 成長を直接的に後押しするミスミ人材開発

ミスミモデル進化に向けた社員の挑戦と成長、組織の成長を更に確実にするために、当社グループでは「一般的には無い」ミスミユニークな人材開発の場を提供しています。

 

◆ ミスミ戦略スクール

当社は経営トップが自ら教鞭をとり、「リーダー」に必要な視座と戦略思考能力を鍛え、また、ミスミモデル進化という使命達成のために、自分達が何をすべきか、を徹底的に考え抜く講座を、中堅社員以上を主に対象とし、年間を通じて開講しています。講座は事前準備(課題図書、課題レポート等)、1日以上にわたる講義(討議含む)、事後レポート等が課される、非常にインテンシブな内容となっています。

「理論と実践」の両輪を兼ね備えた講座は実効性が極めて高く、社員は受講を通じ、「共通言語」と戦略思考、変革への覚悟を具備することが可能となります。

 

 次世代人材育成

「将来の幹部候補」を選定し、近い将来に「経営層」の一員になることを想定して、統括G役員全員で候補者を「よってたかって育てる」という他に例を見ない次世代人材の育成を行っています。この仕組みは候補者本人には非公開で行われていますが、育成状況や業務執行状況などは、統括G役員間で定期的にモニタリングされています。

 

◆ 改善リテラシー講座

改善リテラシー向上による生産性改善を推進すると共に、その活動を通じて全社の変化対応力を向上させ、モデル進化に貢献することを目的とし、ミスミオリジナルの講座を24年度から実施しています。「製造現場」だけでなく「ミスミのあらゆる経営行動の現場」へ展開することで全社の「改善リテラシー向上」と「生産性改善」を推進し、顧客時間価値提供や業務効率化を加速させることによる競争力強化を目指します。

 

 

④ 正しく挑戦し成長できる環境を整えるミスミ組織開発 Right Ways To Grow

当社は、社員が正しく挑戦し成長できる会社であるため、Right Ways To Growの考え方を基に各種制度・施策のグローバルな展開や、職場の環境作りに取り組んでいます。これらを通して、社員は何ら制約を感じることなく、安心して「次の挑戦」に取り組むことができる環境を実現します。

 

◆ Next Challengeをグローバルに展開する仕掛け(Fly Next)

将来的にグローバルな経営幹部を目指す意欲のある社員に対して、海外での挑戦を支援するための制度として、FlyNext制度を設計しています。語学研修のサポートを行いながら、短期で研修生としての派遣することで、キャリアの早い時期から異文化での業務経験を積む機会を提供する施策です。また、グローバルで「正しい挑戦」を喚起するため、日本から海外だけでなく海外法人間の行き来も含めた制度として設計しています。

 

◆ 評価のグローバル展開

23年度にグローバル共通として設定した実践力評価は、最初に日本へ制度を導入した後、海外法人へ順次導入しています。24年度は中国、アジア各国で導入を行いました。今後は欧州、米州への展開を進め、ミスミ・バリューズの思考と実践をグローバルに浸透、正しい行動と正しい視点をグローバルに強化していきます。

 

◆ Dynamic Leadership Program

当社ではミスミ・バリューズに基づく早く正しい行動を社員全員が実践できるよう、変化対応型リーダーの育成を重視しています。時間戦略を加速するためには、まず上司の力量を高める必要があり、新たな管理職特化型の新トレーニング Dynamic Leadership Program を25年度より開始します。

 

内部統制

当社では不正行為の撲滅に向けたグローバルな内部統制システムの強化を行っています。24年度には新組織を設置して「正しい行動」(「Discipline」)を維持するための推進体制を整備し、25年度から新たな体制の下で活動を行っています。

 

◆ ハラスメントゼロ

当社では2017年に「ミスミグループにおけるあらゆるハラスメントを許容しない」というハラスメントゼロ宣言を採択しています。グローバル全社員への定期的なコンプライアンス教育実施、企業および社員行動規範の全面刷新とグローバル展開、内部通報体制の整備とグローバルでの衆知などを中心に、「ハラスメントゼロ」に向けた取り組みを積極的に推進し、近年のハラスメント件数は減少傾向にあります。

一方、まだ「ハラスメントゼロ」達成には至っていないことを踏まえ、ハラスメントの撲滅に向けた、更なる教育、予防策、対応策を強化してまいります。同時に、ハラスメントが「隠れる・隠される」ことのないよう、内部通報制度の周知や相談窓口などの案内も常時開示します。

 

 

◆ D&I

当社では国籍や性別、年齢、学歴、新卒/中途等による差別は一切許容しません。採用、昇格や異動判断に際しても、こういった要素は考慮せずに社員個人の「実践力」や「成果」によって判断しています。

結果、当社の女性管理職比率は、ミスミ日本で15%、グローバルでは24%、と「製造業」で見れば比較的高い数値となっています。また、ミスミ日本においては、中途採用の比率が85%と、高い多様性を持った組織となっています。

加えて、社員の各々の事情を踏まえつつ、最大限の挑戦ができる勤務環境づくりにも力を入れており、ミスミ日本では育児や介護など事情を抱える人へフルリモートワークを適用するなど、独自の施策を取り入れています。

多様な人材、多様な考え方がミスミモデル進化を加速させる、というコンセプトの元、当社は今後も多様化を進めます。特に、各地域の現地採用幹部の増加や女性管理職比率の増加は中でも重要と考え、打ち手の本格化を今後グローバルで図ります。

当面、女性管理職比率の目標はグローバルで30%とし、積極的な登用を進めてまいります。

 

現在のグローバル女性管理職比率

目標値

24%

30%

 

 

(ご参考)

当社グループのサステナビリティへの取り組みの詳細は、当社ホームページにて公開しております。

・サステナビリティ https://www.misumi.co.jp/esg

 

3 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末において当社グループが判断したものであります。

 

① サステナビリティ課題について

企業は事業活動の中で社会の持続的発展に貢献することが求められており、気候変動対応として温室効果ガス排出抑制等の取組みや、人権問題への対応として個人の基本的人権や個性、多様性を尊重した取組みが求められています。これらの取組みは、当社グループだけでなくサプライヤーを含めたバリューチェーン全体で協調して行う必要があります。

当社グループでは、気候変動についてTCFD提言への賛同、「TCFDコンソーシアム」への参画を表明し、気候変動シナリオへのリスク・機会の特定や事業インパクト評価を実施したほか、様々な省エネルギー活動を推進しております。人権問題については、「ミスミグループ人権方針」を定め、全ての社員に周知徹底するとともに、仕入先等にも理解・支持を頂くよう努めています。また、サプライチェーンマネジメントの取組みとして、「サステナブル調達ガイドライン」を策定し、主要仕入先に合意を促すとともに、環境活動、人権尊重、安全衛生等の推進および管理体制構築状況の実態調査を行っています。加えて、環境活動の取り組みについては、温室効果ガス排出量削減に向けたエネルギー使用データの共有や削減に向けての算出を行うなど、協調して持続可能な調達活動の向上に取り組んでおり、さらにこの活動の拡大を図っております。

しかしながら、これらのリスクに対する対応が適切ではない場合、当社グループの社会的信用が低下し、業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

② 特定業界の市場動向が業績に及ぼす影響について

当社グループは、FA事業および金型部品事業において、自動車・電機(液晶・半導体を含む)業界を主要顧客としています。また、ミスミブランド以外の他社製品も含めた製造・自動化関連設備部品、MRO(消耗品)等間接材を販売するVONA事業では、広く自動化装置を活用しオペレーションを展開する顧客を対象としています。当社グループの業績はこれらの業界の設備投資動向や生産・オペレーション動向の影響を受けることがあります。

当社グループでは、各事業において常に市場動向を注視し、必要に応じ設備投資・人員配置・在庫の適正化等の施策を実施していますが、顧客の属する業界で予想を超える状況の変化が生じた場合、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

③ 海外事業展開について

当社グループは、日本の他中国・アジア・欧州・米州に「企業体」を発足させ、各地域で事業展開を強化していますが、各地域の政治的・経済的変動や政策、法規制の改正等が、各地域企業体の事業計画遂行に大きな影響を及ぼす可能性があります。米中関係や各国の通商政策、ウクライナ及び中東情勢等、政治・経済・安全保障に混乱が生じているほか、グローバルサプライチェーンの地域ブロック化の進展などにより、日本及び海外事業展開の不確実性が高まっている状況です。

当社グループでは、各地域企業体で管轄地域の政治・経済情勢のモニタリングを継続している他、事業に関連する各国法制度の状況をグローバルで把握し適宜対応を図っていますが、これらの状況に急激な変化が生じた場合、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

④ 商品や原材料の調達について

当社グループは、多くの商品や原材料を国内外の取引先から調達していますが、需給逼迫や各国の通商政策に伴う調達価格の高騰や、サプライチェーンの混乱等により、調達困難な状況が生じる可能性があります。その結果、仕入価格上昇による採算悪化、顧客への商品販売減少等が生じる可能性があります。

当社グループでは、IT、生産、物流の事業基盤の強化、サプライチェーンの強靭化を進めていますが、予想を上回る状況の変化により、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑤ 品質管理について

当社グループは、幅広い商品を顧客に提供していますが、商品の品質や安全性等の他、環境化学物質の管理や環境負荷低減に対する取り組みへの要求がグローバルで年々厳格化している状況です。

当社グループでは、品質管理体制を整備し、グリーン調達ガイドラインに沿った調達を推進するとともに、環境負荷の少ない商品開発・生産活動を実施しています。しかし万一、商品の欠陥または商品に関する各種規制違反(構成物質の有害性の有無や輸出入に関する規制を含む)が発生した場合、商品の回収、販売停止や各種費用の発生により当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑥ 自然災害等の発生による影響について

大規模な地震やその他の自然災害が発生した場合または感染症が広く拡大した場合、製品および商品の生産または流通形態に支障をきたす可能性があります。当社グループでは、生産拠点を世界各地に分散化させており、災害等の発生時においても一定の生産体制を確保しております。また、災害等発生時には事業継続計画(BCP)に基づき対応を図る体制としていますが、想定を超える被害が発生した場合、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑦ 情報セキュリティについて

当社グループでは、受注、販売、調達、製造等の事業プロセスに関係した機密情報や、顧客情報・個人情報等を電子データとして保有しており、また事業運営において様々な情報システムを活用しています。

当社グループでは、情報セキュリティ等の強化を図るため、「情報セキュリティ基本方針」等の情報管理ルールを制定し、定期的に社内研修を実施し周知徹底を図るほか、IT基盤の強化にも取り組んでいます。

しかし万一、ウイルス等によるサイバー攻撃を受けた場合や、ソフトウエアやハードウエアに大規模な障害等が発生した場合、情報漏洩や顧客サービスの中断等が発生し、社会的信用の悪化や多額の損害賠償が生じる可能性があり、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑧ 為替相場の変動について

当社グループは、様々な通貨・条件での取引を行っており、主に外貨建取引及び外貨建債権・債務残高等については、外国為替変動の影響を受ける可能性があります。当社グループはこうした外国為替のリスクを一定程度まで低減するため、先物為替予約を利用する等の施策を講じています。しかし、外国為替変動の影響を完全に回避することは困難であり、予想を超える変動等が生じた場合には、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑨ 人材について

当社グループの中長期的なグローバル成長には、適切な時期に優秀な人材を国内外で採用し育成することが重要であると認識しています。このため、当社グループでは、バックグラウンド・スキル・性別・国籍等の多様性の確保と機会均等を重視した人材の採用・育成・登用を行っているほか、人的資本強化のための様々な研修制度の充実等に取り組んでいます。

しかしながら、優秀な人材の採用に関する競争は激化しており、人材の採用や育成が計画通り進まなかった場合、事業の遂行に制約が生じる可能性があり、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

 ① 財政状態及び経営成績の状況

当連結会計年度における世界経済は、製造業を中心とする設備投資需要がグローバルで緩やかな回復基調を継続しました。自動車や通信関連の需要が中国、アジアおよび日本を中心に底堅く推移しました。一方、欧州では市況の低迷が続き、アメリカでは先行き不透明感が増し、設備投資意欲の低迷により本格的な需要回復が見られませんでした。

こうした環境において、当社はメーカー事業と流通事業を併せ持つユニークな業態を活かしています。これを支える事業基盤をグローバルで進化させ、顧客の確実短納期ニーズに応えることで世界の製造業を中心とした自動化関連産業に貢献しています。

これまで当社が築いてきたIT、生産、物流の強固な事業基盤やグローバル拠点網を活用しながら、新商品・新サービスを含む新事業開発を継続し、顧客の需要を的確に捉えることに努めました。

この結果、連結売上高は401,987百万円(前年同期比9.3%増)となり、過去最高を更新しました。利益面につきましては、持続的成長に向けた施策に関わる支出は継続しましたが、売上数量増・商品ミックス改善および為替効果等により、営業利益は46,480百万円(前年同期比21.2%増)、経常利益は49,901百万円(前年同期比20.9%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は36,549百万円(前年同期比29.8%増)となりました。

セグメントの名称

売上高

営業利益

前連結会計年度
(百万円)

当連結会計年度
(百万円)

増減比
(%)

前連結会計年度
(百万円)

当連結会計年度
(百万円)

増減比
(%)

FA事業

118,219

135,803

14.9

15,097

22,510

49.1

金型部品事業

79,932

86,451

8.2

9,139

9,504

4.0

VONA事業

169,497

179,732

6.0

14,128

14,466

2.4

        合計

367,649

401,987

9.3

38,365

46,480

21.2

 

 

FA事業は、中国では通信関連需要の攻略やエコノミーシリーズ、日本においてはmeviyなど、各地域特性に合った独自施策が奏功し、売上高は135,803百万円(前年同期比14.9%増)、営業利益は22,510百万円(前年同期比49.1%増)となりました。

金型部品事業は、自動車関連需要の緩やかな回復により、中国や日本を中心に顧客ニーズを獲得し、売上高は86,451百万円(前年同期比8.2%増)、営業利益は9,504百万円(前年同期比4.0%増)となりました。

VONA事業は、ミスミブランド以外の他社製品も含めた製造・自動化関連設備部品、MRO(消耗品)等間接材を販売するミスミグループの流通事業です。アジアや中国が成長をけん引し、売上高は179,732百万円(前年同期比6.0%増)、営業利益は14,466百万円(前年同期比2.4%増)となりました。

 

  ② キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度における現金及び現金同等物の期末残高は、前連結会計年度末と比べて5,117百万円減少し、128,259百万円となりました。

営業活動によるキャッシュ・フローは、60,461百万円の純収入となりました(前年同期は54,567百万円の純収入)。この主な内訳は、税金等調整前当期純利益が49,940百万円、減価償却費が17,718百万円、売上債権の増加額が3,438百万円、棚卸資産の減少額が7,477百万円、法人税等の支払額が14,041百万円であります。

投資活動によるキャッシュ・フローは、32,452百万円の純支出となりました(前年同期は18,995百万円の純支出)。この主な内訳は、固定資産の取得による支出が15,434百万円、定期預金の預入による支出が37,780百万円、定期預金の払戻による収入が21,679百万円であります。

財務活動によるキャッシュ・フローは、31,759百万円の純支出となりました(前年同期は18,968百万円の純支出)。この主な内訳は、自己株式の取得による支出が20,164百万円、配当金の支払額が9,653百万円であります。

 

 

  ③ 生産、受注及び販売の実績

 a. 生産実績

当連結会計年度における生産実績を報告セグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

生産高(百万円)

前年同期比(%)

FA事業

39,901

12.9

金型部品事業

32,618

△1.5

VONA事業

340

△12.4

合計

72,860

5.8

 

(注) 金額は販売価格によっております。

 

 b. 仕入実績

当連結会計年度における仕入実績を報告セグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

仕入高(百万円)

前年同期比(%)

FA事業

41,723

12.2

金型部品事業

26,808

4.3

VONA事業

101,387

4.4

合計

169,919

6.2

 

(注) 金額は仕入価格によっております。

 

 c. 受注実績

当連結会計年度における受注実績を報告セグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

受注高(百万円)

前年同期比(%)

受注残高(百万円)

前年同期比(%)

FA事業

156,984

20.6

9,801

75.5

金型部品事業

88,864

9.3

2,893

10.9

VONA事業

178,032

3.2

5,725

17.5

合計

423,881

10.4

18,420

41.0

 

(注) 上記の金額には、当社グループにおける外部顧客からの連結受注実績を記載しております。

 

 d. 販売実績

当連結会計年度における販売実績を報告セグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

販売高(百万円)

前年同期比(%)

FA事業

135,803

14.9

金型部品事業

86,451

8.2

VONA事業

179,732

6.0

合計

401,987

9.3

 

(注) 主な相手先の販売実績は、当該販売実績の総販売実績に対する割合が100分の10に満たないため記載を省略しております。

 

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

  ① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

   (財政状態)

  (資産)

当連結会計年度末の総資産は、前連結会計年度末と比べ6,057百万円(+1.5%)増加し、419,574百万円となりました。流動資産は4,424百万円(+1.4%)増加し、317,805百万円となりました。これは主に現金及び預金が10,448百万円(+7.0%)増加した一方で、商品及び製品が7,082百万円(△11.0%)減少したことによるものであります。固定資産は1,633百万円(+1.6%)増加し、101,769百万円となりました。このうち有形固定資産は1,480百万円(+2.9%)増加し、52,522百万円となりましたが、これは主に建物及び構築物が7,284百万円(+51.1%)増加、使用権資産が900百万円(+16.8%)増加した一方で、建設仮勘定が6,744百万円(△79.2%)減少したことによるものであります。また、無形固定資産は2,826百万円(△7.8%)減少し、33,283百万円となり、投資その他の資産は2,979百万円(+22.9%)増加し、15,963百万円となりました。

 

  (負債)

負債合計は、前連結会計年度末と比べ1,672百万円(+2.5%)増加し、67,510百万円となりました。このうち流動負債は1,947百万円(+3.9%)増加し、51,876百万円となりましたが、これは主に未払法人税等が1,314百万円(△22.7%)減少した一方で、賞与引当金が2,764百万円(+88.7%)増加したことによるものであります。また、固定負債は274百万円(△1.7%)減少し、15,634百万円となりましたが、これは主に、リース債務が570百万円(+11.3%)増加、繰延税金負債が394百万円(+60.8%)増加した一方で、事業整理損失引当金が1,077百万円(△94.6%)減少したことによるものであります。

これらの結果、流動比率は6.1倍となり、継続して高い安定性を維持しております。

 

  (純資産)

純資産合計は前連結会計年度末と比べ4,384百万円(+1.3%)増加し、352,064百万円となりました。これは主に、自己株式を取得したこと等により19,193百万円(△209.6%)減少した一方で、利益剰余金が26,895百万円(+10.1%)増加したことにより、株主資本が8,321百万円(+2.8%)増加したこと及び、為替換算調整勘定等のその他の包括利益累計額が3,552百万円(△7.3%)減少したことによるものであります。

これらの結果、自己資本比率は前連結会計年度の83.3%から83.2%となりました。

 

   (経営成績)

  (売上高)

当連結会計年度の売上高は、401,987百万円、前年同期比で34,338百万円(+9.3%)の増収となりました。これは、FA事業、金型部品事業、VONA事業の全セグメントにおいて前年同期比で増収となったことによるものであります。

 

  (売上原価、販売費及び一般管理費)

売上原価は、214,997百万円、前年同期比で14,725百万円(+7.4%)増加しました。売上総利益は、186,990百万円、前年同期比で19,613百万円(+11.7%)の増益となりました。販売費及び一般管理費は、140,509百万円、前年同期比で11,497百万円(+8.9%)増加しました。売上高に占める販売費及び一般管理費の割合は前期の35.1%から35.0%となりました。これらの結果、営業利益は46,480百万円、前年同期比で8,115百万円(+21.2%)の増益となりました。営業利益率は前期の10.4%から11.6%となりました。

 

  (営業外損益、特別損益)

営業外損益の純額は3,421百万円の収益となりました。この結果、経常利益は、49,901百万円、前年同期比で8,636百万円(+20.9%)の増益となり、経常利益率は前期の11.2%から12.4%となりました。また、特別損益の純額は、38百万円の収益となりました。これらの結果、税金等調整前当期純利益は、49,940百万円、前年同期比で10,720百万円(+27.3%)の増益となりました。

 

 

  (親会社株主に帰属する当期純利益)

親会社株主に帰属する当期純利益は、36,549百万円、前年同期比で8,396百万円(+29.8%)の増益となり、売上高純利益率は前期の7.7%から9.1%となりました。また、1株当たり当期純利益は、前期の99.75円に対して131.95円となりました。

 

 ② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

当社グループの主な資金需要は、運転資金及び設備投資資金であり、これらの資金につきましては、全て自己資金により充当をしております。キャッシュ・アロケーションにつきましては、地政学リスク・経済危機等のBCP対応時にも、顧客供給責任を果たすべく、必要な手元資金を半年分の事業活動資金約1,000億円と定め、将来キャッシュフローは、オーガニック・インオーガニック成長へ再投資を行います。残額につきましては、成長投資と株主還元への機動的なアロケーション枠として、状況に応じた資金配分を実施してまいります。

なお、キャッシュ・フローの状況につきましては、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に、重要な資本的支出の予定につきましては、「第3 設備の状況 3 設備の新設、除却等の計画」に記載のとおりであります。

 

 ③ 重要な会計方針及び見積り

当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。この連結財務諸表の作成において採用している重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項」に記載しております。

また、連結財務諸表の作成にあたり、会計上の見積りを必要とするものにつきましては、過去の実績や当該事象の状況を勘案し、合理的と考えられる方法に基づき行っております。ただし、前提条件や事業環境等に変化が見られた場合には、見積と将来の実績が異なることがあります。

当社グループの財政状態又は経営成績に対し、重要な影響を与え得る会計上の見積りは以下のとおりです。

 

(a) 棚卸資産の評価

棚卸資産の評価基準として、主として移動平均法、総平均法による原価法(貸借対照表価額については収益性の低下に基づく簿価切下げの方法)により評価しております。従って、予期しない市場価格の下落や需要の減少等が生じた場合、棚卸資産の評価額に重要な影響を及ぼす可能性があります。なお、商品及び製品の評価に係る重要な会計上の内容に関する情報については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 

注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しております。

 

(b) 繰延税金資産

繰延税金資産の算定にあたり、将来の業績予測やタックス・プランニング等をもとに将来の課税所得を見積り、繰延税金資産の回収可能性を判断しております。従って、将来の課税所得の見積額に変更が生じた場合、繰延税金資産が増額又は減額され、当社グループの業績に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

(c) 固定資産の減損

当社グループでは固定資産の減損について、独立したキャッシュ・フローを生み出す最小単位で資産をグルーピングし、減損の兆候の有無の判定を行っております。減損の兆候があった場合、将来キャッシュ・フロー等を見積り、減損の要否を判定し、その結果減損が必要と判断された資産については帳簿価額を回収可能価額まで減損処理しております。従って、経営環境の悪化や時価の著しい下落等が生じ、将来キャッシュ・フロー等の見積りが著しく減少した場合、減損損失計上により当社グループの業績に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

(d) 退職給付費用及び債務

当社の従業員退職給付費用および債務は、年金数理計算上で設定される前提条件に基づいて計上しております。この前提条件には、割引率、将来の報酬水準、退職率、死亡率が含まれており、退職給付債務を計算する際に用いる数理上の前提の変更、年金制度の変更による未認識の過去勤務費用の発生等により、退職給付費用および債務の算定に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

 

5 【重要な契約等】

当社は、2025年4月17日開催の取締役会において、当社の米国子会社であるMISUMI Investment USA Corporationを通じて、米国製造業におけるカスタム機械部品のオンライン調達サービスを提供するFictiv Inc.およびその子会社7社(以下、「Fictiv社」という。)を買収することを決議し、Fictiv社との間で本買収に関する合併契約を締結いたしました。当該契約に基づき、2025年6月17日(米国時間)に買収が完了いたしました。詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な後発事象)」に記載のとおりであります。

 

6 【研究開発活動】

当社グループは、インダストリアル・オートメーション産業のトータルサプライチェーン、トータルビジネスプロセスにおける非効率を「時間」を切り口に解消することで同業界の発展に貢献しています。グローバルで30万社を超える顧客に「確実短納期」と「顧客の工数削減」による「時間価値」創出を提供しています。また、顧客時間価値の向上に向けて、地域市場、新事業、新商品、新サービス等の開発を加速させるとともに、異なる市場毎のニーズに対応できるように、各市場に合致したビジネスモデルを常に進化・発展させており、研究開発活動として、それらを支える(1)サービス開発と、(2)製品・生産技術開発を実施しています。

当連結会計年度の研究開発費総額は4,136百万円であり、主な成果は以下のとおりです。

 

(1) サービス開発

当社グループでは、顧客に提供しているサービスの利便性向上を図るため、各種サービスの新機能開発・機能拡充のための取組みにより、顧客の「時間価値」創出を提供しております。

当連結会計年度においては、当社グループECサイトを利用する顧客の商品検索時の非効率を解消するため、先端技術の活用や新たなロジックの開発により、レコメンド・検索機能の強化等を実施したほか、厳選した製造パートナーとの協業であらゆる加工品の受注プラットフォームを目指すmeviyマーケットプレイスの機能拡充のための取組み等を実施しました。さらに、機械部品調達AIプラットフォームmeviyにおける商品領域の拡大や2D図面への対応等、自動見積もり機能拡充のための取組みを実施しております。

これらの結果、当連結会計年度の研究開発費は2,635百万円となりました。なお、当該研究開発費は特定のセグメントに関連付けられないため、セグメント別の記載は行っておりません。

 

(2) 製品・生産技術開発

主に株式会社駿河生産プラットフォーム、駿河精機株式会社において、新製品の開発、既存製品の著しい改良や新たな生産方法の研究開発に取り組んでおります。

当連結会計年度においては、新製品の開発・試作や新たな原材料の開発を実施したほか、自動化やmeviyで提供する製品領域拡大等のため、新たな生産方法の開発や生産方法の効率化、製品品質の向上に向けた取組み等を実施しました。

これらの結果、当連結会計年度の研究開発費は1,501百万円となりました。セグメント別では、FA事業で1,444百万円、金型部品事業で57百万円となりました。