当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針
当社グループは、中核となる金融商品ビジネスを展開するうえにおいて、お客様の最善の利益を最優先とする「顧客第一主義」の基本方針のもと、個々の取引志向やリスク許容度に応じた最適な商品、サービスの提供を通じ、お客様との強固な信頼関係の構築に努めて参ります。また、経営陣・管理職・一般社員が三位一体となった「全員参加型経営」を実践し、持続的な企業価値の向上を目指して、グループ一丸となって取り組んで参ります。
(2)経営戦略等
2023年3月期を起点とする第5次中期経営計画(2023年3月期~2025年3月期)では、当社グループの持続可能な企業価値の向上を実現するために、顧客本位の業務運営を基盤として、デジタルを活用した営業推進による顧客基盤の強化や市場動向に左右されない安定収益の拡大など、競争力の強化に向けて各重点施策及び数値目標を策定しております。
当該計画の骨子及びその取り組み状況と進捗状況は、以下のとおりであります。
1.営業施策・基盤強化
①お客様ニーズと最善の利益の追求
・長崎県への新規出店(2023年3月 長崎プラザ開設)
・株式投資信託の残高積み上げ(2025年3月末目標:6,000億円台)
→2023年3月末:3,229億円
②デジタル活用による営業推進
・Webセミナーの開催に加え、SNSやYouTubeを活用した情報配信
・データ収集や分析に基づく営業の効率化
③ネット取引サービスの拡大
・「信用・デイトレ」における金利・貸株料無料化(2022年4月)
・米国株式のリアルタイム取引が可能な「米国株式リアルタイムトレードシステム」提供開始(2022年
10月)
・お客様に代わって資産運用を行うゴールベース型資産運用サービス「岩井コスモ・ゴールナビ」提供
開始(2023年1月)
2.財務目標・株主還元
①安定収益による固定費カバー率50%以上(最終年度目標)
→2023年3月期:33.5%
②資本効率を意識した経営
業界平均(※)を上回るROEと上位ランクの維持
→2023年3月期の当社ROE:6.2%(当社を含む17社中で1番目)、業界平均値:0.8%
※業界平均とは、ネット専業証券を除く上場証券及び主要証券16社の平均値
③安定配当の継続と業績連動の利益還元
1株当たりの年間配当金40円を下限に設定するとともに、総還元性向を50%以上とする
→年間配当金:80円(前期と同額)、総還元性向:52.7%
3.ESG/SDGsへの取り組み強化
・SDGs関連商品の販売(債券、投資信託)を通じた貢献
・営業資料等を電子書面化しペーパーレスを推進
・環境に配慮した頒布品などを積極的に利用
・当期純利益の1%程度を「社会貢献積立金」として毎期積み立て
・古い紙幣(紙幣裁断屑)を再利用した封筒の導入
・営業車両に電気自動車を導入
・発行手数料の一部がSDGs関連団体へ寄付される「SDGs推進私募債」を発行
・営業店の照明をLEDへ順次切り替え
・各種資格の勉強会や受講補助など、従業員に成長機会を与え自律型人材の育成に注力
・性別や中途採用などに関係なく、管理職へ積極登用
(3)経営環境、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
欧米各国の金融引き締めによる金利上昇やロシアのウクライナ侵攻に伴う地政学リスクの高まりなど、世界の金融市場が先行き不透明な投資環境にある中、プロの投資アドバイザーである証券会社の営業員が果たすべき役割は、一層重要性を増しております。このような状況のもと、お客様満足度の向上を目的とする「顧客本位の業務運営」(フィデューシャリー・デューティー)に基づき、お客様それぞれのニーズに応じた金融サービスを提供することが、当社グループの企業価値の向上に資するものと確信しておりますが、更なる当社グループの発展に向けて、以下の項目を対処すべき課題と認識しております。
①投資環境やお客様ニーズの変化に即した金融サービスの提供
日々刻々と変化する投資環境において、プロの投資アドバイザーである証券会社の営業員は、お客様それぞれのニーズを理解し、お客様一人ひとりに最適な金融サービスを提供することが重要であると認識しております。そのため、営業部門・投資調査部門・商品部門が三位一体となり、有益な投資情報の提供と先見性のある魅力的な金融商品の発掘に鋭意取り組み、お客様にご満足頂ける金融サービスの提供に努めて参ります。
②強固な収益基盤の構築
当社グループの持続可能な企業価値の向上には、マーケット環境に左右されない強固な収益基盤を構築することが重要であると認識しております。その実現に向け、安定収益の源泉となる投資信託や信用取引の残高増加に努めて参ります。特に、投資信託は、お客様の中長期的な資産形成において大きな役割を担うものと認識し、一層注力して参ります。
③顧客基盤の拡大
若年層などの投資未経験層や投資経験の少ない投資初心者の方など新たな顧客層の獲得には、デジタルを活用した新しいアプローチ手法に加え、NISA(少額投資非課税制度)をはじめとした、投資をより身近に始められる商品やサービスの提供を推進していく必要があると認識しております。特に、インターネット取引におけるサービスの拡充に積極的に取り組み、顧客基盤の拡大に注力して参ります。
④コンプライアンスの強化
お客様との信頼関係を構築するうえで、コンプライアンスの強化が重要であると認識しております。お客様と営業員との通話内容について、AI(人工知能)を活用し、より精緻にモニタリングを行うなど、コンプライアンス体制の強化に努めております。また、役職員に対しては、コンプライアンスに関する研修を継続的に実施し、コンプライアンスの意識の醸成に尚一層努力を傾注し、顧客本位の倫理観を持った従業員の育成に努めて参ります。
⑤SDGsへの取り組み及び人的資本投資の拡大
持続可能な社会に向けた取り組みであるESG(環境・社会・企業統治)、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献することは、企業の社会的責任であると認識しております。社内においては、EV車の導入や環境に配慮した素材を使った名刺・封筒を採用するなど、環境問題の解決に貢献すべく役職員一丸となり取り組みを推進して参ります。このほか、ESG・SDGsの視点を組み入れた投資信託などの販売を通じ、お客様と一体となってこの問題に取り組んで参ります。
また、当社グループの持続的な成長には、優秀な人材の確保及び育成が重要であると認識しております。そのためには、リスキリング機会の提供など次世代を担う人材への投資を推進し、従業員の能力向上や自律型人材の育成に注力するなど、従業員一人ひとりが成長できる環境を整備して参ります。
(4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、企業価値の向上を目指すうえにおいて、自己資本に対する利益率を高めることが重要であるとの認識のもと、ROEを経営上の重要指標と捉えています。もっとも、当社グループの業績は、経済情勢や市場環境の変動により大きく影響を受ける状況にあるため、目標の設定に関しては、ROEの絶対値ではなく、主要な証券会社16社(ネット専業証券会社を除く)の平均値を上回るROEと、比較対象(当社含む17社)の中での上位ランクの維持を目指して参ります。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
サステナビリティに関する考え方
当社グループは、「お客様にご満足いただける金融サービスの提供を通じて、国民経済の発展に貢献する」という経営理念の実現のために、お客様、株主の皆様、金融機関、地域社会等から信頼され発展し続ける企業を目指すとともに、「持続可能な社会の実現」に向けて取り組むことを重要課題の一つであると考えております。
「持続可能な社会の実現」を意識した事業活動を実践するにあたっては、ESG(環境・社会・企業統治)及び2015年に国連サミットで採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」に関する重要テーマへの取り組みが極めて重要であり、これらの達成に向けた施策を講じることが当社グループの持続的な企業的価値の向上に資すると考えております。
(1)ガバナンス
当社グループは、純粋持株会社体制を採用しており、取締役会はグループ全体の業務執行について監視・監督を行っております。
サステナビリティに関する方針や施策に加え、経営上の重要事項に関する業務執行の基本方針などについては、取締役会において協議・決定するとともに、グループ会社より業務執行状況に関する定期報告や重要な決定事項の報告を受け、執行状況に関する監督を行っております。
(2)戦略
〈気候変動〉
近年、世界各地で異常気象や自然災害による被害が甚大化しており、気候変動が企業経営に与える影響は徐々に大きくなっています。
この様な状況の中、当社グループにおいても、2021年8月にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言への賛同を表明するとともに、2021年12月には事業継続を目的としたサステナブルに対する総合的な方針「サステナビリティ基本方針」を定め、事業活動において、温室効果ガス排出量の削減を中心とした環境問題の解決に真摯に向き合い、持続可能な社会の実現と企業価値の向上に向けた取り組みを推進しています。
当社グループは、気候変動による機会及びリスクを認識するとともに、当社グループへの影響を分析しております。
なお、気候変動によるリスクについては、移行リスクと物理リスクに分類し、各々のリスクによる当社グループの事業活動への影響を認識し、リスク回避及び低減に向けた対応を検討しております。
気候変動による機会及びリスクについての詳細は、当社ホームページにて開示しております。
https://www.iwaicosmo-hd.jp/ir/climate.html
〈人的資本〉
①人材育成方針
当社グループの中核事業を担う証券営業部門において、日々刻々と変化する投資環境の中、お客様の資産運用ニーズを正確に把握し、お客様一人ひとりに最適な金融サービスを提供するためには、国内外の経済動向や金融に関する専門知識に加え、高いコンプライアンス(法令遵守)意識が求められます。そのために、金融商品や金融市場に関する専門知識強化を目的とした研修に加え、全役職員を対象としたコンプライアンス研修を継続的に実施し、より高度な知識の習得やコンプライアンス意識の醸成に努めております。
また、各種資格の勉強会や受講補助など資格取得を支援することで、従業員に成長機会を与え自律型人材の育成にも注力しております。
②社内環境整備方針
当社グループは、全役職員が、心身ともに健康で活き活きと働ける職場環境の構築に努めております。その一つとして、ワークライフバランスの実現や業務の効率化を図るべく、タブレット端末等の導入に加え、自宅などからテレワークが可能となるようICTを活用した環境の整備及び「育児・介護と仕事の両立」を支援する制度を整備するなど、ハード・ソフトの両面から働き方改革を推進しております。岩井コスモ証券株式会社では、これらの取り組みが認められ、2019年11月に、総務省よりテレワークの導入・活用を進めている企業等を選出する「テレワーク先駆者百選」に、2020年1月には、一般社団法人日本テレワーク協会主催の「第20回テレワーク推進賞」において「奨励賞」に、それぞれ証券会社として初めて選出されました。
また、人への投資という考えのもと、2023年1月には光熱費や食料品等の価格高騰が相次ぐ中、主に若手社員の生活を支援することを目的に2023年7月に予定しているベースアップを半年前倒しで実施するなど、従業員一人ひとりが安心して働き続けることができる人事制度や職場環境の整備に注力しております。今後も、様々な施策を実践するとともに、性別、年齢や採用地などに関係なく、多様な人材が活躍できる環境や仕組みを構築することで、社員の士気向上及び優秀な人材の確保に努めて参ります。
(3)リスク管理
当社グループにおけるリスク管理業務の運営は、取締役会からリスク管理統括者(リスク管理担当取締役)へ委嘱され、リスク管理統括者は、各リスク管理所管部署からの報告や各リスクのモニタリング状況など経営上の重要事項を取締役会へ報告し、その業務運営を取締役会が監視しております。
また、リスク管理統括者が議長となり、各リスク管理所管部門長から構成されるリスク管理コミッティを設置し、リスクの識別・評価及び管理に関する協議を行っております。
なお、当社グループでは、当社グループが抱えるリスクを、市場リスク、流動性リスクなどの「業務運営上のリスク」と「事業継続上のリスク」に分類し、それぞれのリスクの状況把握や当社に及ぼす影響を認識・評価し、リスク回避及び低減に向けた各施策を実施しております。
(4)指標及び目標
〈気候変動〉
当社グループでは、2012年5月(2013年3月期)の証券子会社合併以降、オフィスにおける照明のLED化や空調設定の適正化による電気使用の効率改善に加え、業務用車両の低燃費車への移行やEV車の導入など、CO2排出量の削減に取り組んで参りました。
電気使用の効率改善については、夏季・冬季におけるオフィス内空調の適正温度への設定(エコ設定)や夏季期間中のクールビズの実施に加え、電気製品や照明の小まめな節電など、従業員一人ひとりが意識的に取り組む「エコ活動」を積極的に実施し、消費エネルギーの削減を実践しております。
当社グループは、引き続きCO2排出量の削減に取り組み、GHGプロトコルにおけるスコープ1及びスコープ2に属する業務用車両の利用やオフィスの電気使用によるCO2排出量について、2025年3月期までに55%以上の削減、2030年3月期までに70%以上の削減(いずれも2013年3月期比)の実現を目指します。
《参考》2022年3月期:1,017t- CO2(2013年3月期比55.4%削減)
〈人的資本〉
なお、(2)戦略欄に記載した人的資本の指標及び目標については以下の通りであります。
岩井コスモ証券株式会社
|
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実績(当連結会計年度) |
目標 |
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管理職に占める女性労働者の割合 |
18.4% |
-(注) |
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男性労働者の育児休業取得率 |
30.8% |
-(注) |
|
労働者の男女の賃金の差異 |
74.7% |
-(注) |
|
育児休業からの復職率 |
85.7% |
100% |
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一人当たりの年次有給休暇取得日数 |
9.351日 |
8日 |
(注)管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異の目標に関しましては、当連結会計年度末現在において検討中であります。
当社グループの経営成績及び財政状態等に影響を及ぼす可能性のあるリスクとして以下の項目が挙げられます。なお、文中の将来に関する事項は、当社グループが当連結会計年度末現在で認識しているものに限られており、全てが網羅されているわけではありません。
①市況変動によるリスクについて
当社グループの主たる事業である金融商品取引業は、国内外の経済情勢の影響を受けやすく、株式、金利、為替市況等の動向によっては、当社グループの収益が減少し、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
②法的規制によるリスクについて
当社グループの主たる事業である金融商品取引業は、金融商品取引法等の法令のほか、金融商品取引所や日本証券業協会等の自主規制機関の定める諸規則等による規制を受けております。
また、金融商品取引業者は、自己資本規制比率の適正維持(120%以上)が要求されており、求められる自己資本水準が継続できなかった場合は、業務停止や金融商品取引業者の登録の取消しを当局から命ぜられる可能性があります。
③流動性リスクについて
当社グループの財務内容の悪化等により、資金調達が困難となるほか、高い金利での調達を余儀なくされる場合、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
④信用リスクについて
当社グループの取引先が決済を含む債務不履行に陥った場合、また、当社グループが保有する有価証券の発行体の信用状況が著しく悪化した場合には、元本の毀損や利払いの遅延等により損失を被り、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
⑤システムリスクについて
火災、地震、停電等またはプログラム障害、外部からの不正アクセス等により当社グループ会社が使用するシステムに障害が発生し、当社グループの情報システムが一時的に停止または中断した場合、顧客サービスに支障をきたす等、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
⑥オペレーショナルリスクについて
当社グループの役職員による事故・不正等、又は、正確な事務処理を怠ることによって損失が発生した場合、当社グループの社会的信用が損なわれ、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
⑦情報セキュリティに関するリスクについて
当社グループの情報システムについては、厳重なセキュリティを施しておりますが、第三者からの悪意によるコンピュータウイルスの感染や、不正アクセス等、当社グループ内の故意又は過失等により、お客様の個人情報や当社グループの情報が漏洩し、損害賠償責任が発生し、当社グループの社会的信用が損なわれ、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
⑧災害等のリスクについて
当社グループは自然災害やシステム障害、病原性感染症の感染拡大等、様々なリスクの発現を想定し、株主や投資家等の各ステークホルダーの皆様への影響を最小限に留めるべく、事業を継続かつ円滑に運営するための事業継続計画書(BCP)を整備しております。しかし、上記リスクが発現した場合は、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
⑨訴訟リスクについて
当社グループは、お客様本位の営業姿勢をとり、コンプライアンスを重視し、お客様との紛争の未然防止に努めておりますが、何らかの理由によりトラブルが発生した場合は、訴訟等に発展し、損害賠償責任等が発生した場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(1)経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
当連結会計年度(2022年4月1日~2023年3月31日)におけるわが国経済は、新型コロナウイルス感染症による行動制限が緩和され、経済活動の正常化が進み、景気回復の兆しが見られたものの、世界的な金融引き締めによる海外景気の下振れがわが国の景気を下押すリスクとなり、依然として先行き不透明な状況が続きました。
また、海外経済においては、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に起因したエネルギー価格、原材料価格の高騰や金利上昇により、企業の設備投資や個人消費が抑制されるなど、引き続き厳しい状況で推移しました。
こうした経済環境のもと、国内株式市場は、米国株式の下落や、中国が新型コロナウイルス感染症対策としてロックダウン(都市封鎖)を行ったことを受け世界経済の先行き不透明感が強まり、期初より下落基調で始まりました。しかしながら、8月に入ると米国CPI(消費者物価指数)の伸び率鈍化により、一時的にインフレ懸念が和らいだことで株価は上昇基調となり、8月中旬の日経平均株価(終値)は、およそ7ヶ月ぶりに29,000円を回復しました。その後、12月には、日本銀行による金融政策の一部見直しが突如発表されたことから下落する局面も見られましたが、2月に入り、円安進行に伴う国内企業の業績改善期待が高まったことに加え、東京証券取引所がプライム市場、スタンダード市場の上場企業に対し、資本コストや株価を意識した経営を求める方針を示したことで、割安株中心に取引が活発化し、株価は回復基調を辿り取引を終了しました。なお、3月末の日経平均株価(終値)は、前期末を0.8%上回る28,041円48銭となりました。
一方、米国株式市場は、インフレ抑制に向けたFRB(米国連邦準備制度理事会)による金融引き締め加速懸念やロシア・ウクライナ情勢が長期化の様相を呈していることから景気後退懸念が強まり、下落基調で推移しました。さらに、9月には、FRBが3会合連続となる0.75%の利上げを発表し、景気後退リスクが高まったことから、株価は下落基調を辿り、9月末のダウ工業株30種平均(終値)は約2年ぶりに29,000ドルを下回りました。11月に入り、FRBによる利上げペースの鈍化観測を背景に上昇する局面も見られましたが、3月には、米国中堅銀行の経営破綻を受けリスク回避姿勢が強まったことから株価は下落しました。その後、米国金融当局が破綻した中堅銀行の預金全額保護などの救済策を迅速に示したことで金融不安が和らぎ、期末にかけて株価は戻り歩調となり取引を終了しました(3月31日:33,274ドル15セント、前期末比4.0%下落)。
(当社グループの経営成績)
当社グループの営業収益は前期比4.9%減少の196億91百万円、純営業収益は同5.3%減少の194億28百万円となりました。一方、販売費・一般管理費は、同3.1%減少の146億58百万円となり、経常利益は同10.9%減少の51億65百万円、親会社株主に帰属する当期純利益は同5.1%減少の35億64百万円となりました。
セグメント別の経営成績は、以下のとおりであります。
岩井コスモホールディングス株式会社
岩井コスモホールディングス株式会社は、グループの経営戦略の策定及びその推進に取り組んでおります。営業収益は、子会社からの配当収入等の減少により前期比29.0%減少の19億60百万円となりました。一方、販売費・一般管理費は、当社グループの基幹業務システム移行に係る内部統制対応費用の減少を主因として同1.7%減少の1億44百万円となりました。営業外損益は、投資有価証券の配当金の増加を主因として同5.2%増加の2億78百万円の利益となり、以上の結果、経常利益は同27.2%減少の20億94百万円となりました。
岩井コスモ証券株式会社
岩井コスモ証券株式会社は、引き続き、Web会議システム「Zoom」によるWebセミナーの開催に加え、SNSやYouTubeを活用した情報配信など、デジタルを駆使した金融情報サービスの提供に注力しました。
この様な取り組みのほか、対面取引・コールセンター取引では、業績や高配当に加え、今後の成長が期待できる銘柄などを中心に選別し、日本株及び米国株の提案による営業強化に努めました。投資信託の営業活動においては、基準価額が下落した商品のフォローに加え、成長・配当・割安に注目し持続的成長が期待できる優良企業に投資する「インベスコ・世界厳選株式オープン」や、日本を含む世界のCB(転換社債)に投資を行う「ニッセイ/シュローダー好利回りCBファンド」に加え、「人生100年時代」など高齢化社会における資産形成に向けて、中長期に安定した収益が期待できる債券型ファンド「野村PIMCO・世界インカム戦略ファンド」の販売にも継続的に取り組み、投資信託残高の増大に注力しました。
一方、インターネット取引では、「コスモ・ネットレ」の更なる利便性向上を図るべく、4月に信用取引の日計り決済を行う「信用・デイトレ」サービスの改定を実施致しました。また、10月に米国株式のリアルタイム取引が可能な「米国株式リアルタイムトレードシステム」を導入したほか、1月にはお客様に代わって資産運用を行うゴールベース型資産運用サービス「岩井コスモ・ゴールナビ」の提供を開始致しました。加えて、YouTubeの「コスモ・ネットレ」チャンネルを通じて、当社アナリストによる特別セミナーの開催など、お客様にご満足頂ける商品やサービスの紹介及び情報の発信に努めました。
また、人への投資という考えのもと、昨今、光熱費や食料品等の価格高騰が相次ぐ中、主に若手社員の生活を支援することに加え、仕事にも尚一層意欲的に取り組むことができるよう、2023年7月に予定している4%を超える賃上げの一部を前倒しして2023年1月より実施致しました。その他、3月には長崎市に対面営業の小規模店舗(長崎プラザ)を出店しカバーエリアの拡充を図ったほか、証券営業ビジネスの更なる拡大に向けキャリア採用を強化するなど、社員の士気向上及び優秀な人材の確保に取り組みました。
この結果、営業収益は前期比4.9%減少の197億1百万円、純営業収益は同5.3%減少の194億38百万円となりました。一方、販売費・一般管理費は、業績に連動する賞与等の変動費の減少を主因として同3.0%減少の146億59百万円となり、投資有価証券の配当金などによる営業外損益1億17百万円の利益(対前期比23.4%減少)を加えた経常利益は、同12.0%減少の48億97百万円となりました。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
①連結会計年度の財政状態の分析
当連結会計年度末の資産合計は1,835億9百万円となり、前連結会計年度末に比べて10億33百万円増加しました。主な要因としては、現金・預金が65億65百万円、預託金が75億85百万円、それぞれ減少したものの、信用取引資産が168億51百万円増加したことが挙げられます。
一方、負債合計は1,259億52百万円となり、前連結会計年度末に比べて27百万円減少しました。主な要因としては、信用取引負債が32億1百万円、有価証券担保借入金が9億62百万円、未払法人税等が8億70百万円、それぞれ増加したものの、預り金が57億14百万円減少したことが挙げられます。
純資産合計は575億57百万円となり、前連結会計年度末に比べて10億60百万円の増加となりました。
②キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物の期末残高は47億31百万円と前連結会計年度末に比べて91億45百万円の減少となりました。
営業活動によるキャッシュ・フローは、57億97百万円の減少となりました。主な要因としては、顧客分別金信託の減少による収入(115億円)や信用取引負債の増加による収入(32億1百万円)があったものの、信用取引資産の増加による支出(△168億51百万円)、預り金の減少による支出(△57億14百万円)が挙げられます。
投資活動によるキャッシュ・フローは、23億94百万円の減少となりました。主な要因としては、定期預金の払戻による収入(36億69百万円)があったものの、定期預金の預入による支出(△60億31百万円)が挙げられます。
財務活動によるキャッシュ・フローは、17億28百万円の減少となりました。主な要因としては、配当金の支払額(△18億79百万円)が挙げられます。
③重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている企業会計の基準に基づき作成しております。この連結財務諸表の作成にあたって、会計方針の選択・適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額及び開示に影響を与える見積りを必要としています。これらの見積りについて、過去の実績や状況に応じて入手可能な情報を基に合理的に判断しておりますが、実際の結果は見積り特有の不確実性があるためこれらの見積りと異なる場合があります。
当社グループの連結財務諸表で採用する重要な会計方針は「第5 経理の状況」の「連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」に記載しておりますが、特に以下の重要な会計方針及び見積りが連結財務諸表に大きな影響を及ぼすと考えております。
繰延税金資産
当社グループは、将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金について「税効果会計に係る会計基準」に基づき、繰延税金資産を計上しております。繰延税金資産の計上に際しては、回収可能性の判断において、将来の一時差異解消時期及び課税所得の発生見込額を合理的に見積っております。
当該見積りは、将来の不確実な経済条件の変動などによって影響を受ける可能性があり、実際に発生した課税所得の時期及び金額が見積りと異なった場合、翌事業年度の連結財務諸表において、繰延税金資産の計上額に重要な影響を与える可能性があります。
過去(3年)及び当期において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得は、市場動向に左右される業界特有の収益構造にあるものの、安定的に課税所得を計上しております。市場環境の見通しについては、世界経済は、欧米の利上げや物価上昇が次第に落ち着き、市況も徐々に回復すると思われます。一方、国内経済は期前半に、急激な物価上昇等による景気後退懸念から、先行き不透明な状況が見込まれるものの、海外からのインバウンド需要による経済効果への期待などを反映して、年後半には、世界経済と同様、景気悪化の底打ち後に、本格的に回復することが見込まれます。こうした状況を反映して、日経平均が当期と同水準で推移することを仮定し、経営環境に大きな変化が生じないことを踏まえ、当社グループの課税所得は、当期と同等の水準を維持するものと見込んでおります。
④当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社グループの当連結会計年度の営業収益は、前期比4.9%減少の196億91百万円、純営業収益は同5.3%減少の194億28百万円となり、経常利益は同10.9%減少の51億65百万円、親会社株主に帰属する当期純利益は同5.1%減少の35億64百万円となりました。主な要因は、海外経済が先行き不透明な環境であることから、日本株の提案営業を強化したことで受入手数料が増加(93億55百万円→121億23百万円 +27億67百万円 +29.6%)したものの、世界的な金融引き締めによる海外景気の下振れに加え、ロシア・ウクライナ情勢の長期化が地政学リスクを高めるなど、世界経済は引き続き厳しい状況で推移したことから、米国株式の店頭取引を主とするトレーディング損益が減少(92億55百万円→54億43百万円 △38億11百万円 △41.2%)したことが挙げられます。なお、経営上の重要指標と位置付けるROE(自己資本利益率)は6.2%となり、比較する主要な証券会社16社(ネット専業証券会社を除く)の平均値(0.8%)を上回るとともに、当社を含む17社中で最も高い数値となりました。今後も、業界平均を上回るROEの維持や経営課題の一つに掲げる安定収益拡大の取り組みとして、投資信託及び信用取引残高の増加に注力し、更なる強固な経営基盤の構築に努めて参ります。
なお、主な収益と費用の内訳は、以下のとおりであります。
(受入手数料)
受入手数料は前期比29.6%増加の121億23百万円となりました。内訳は以下のとおりであります。
①委託手数料
委託手数料は前期比73.9%増加の84億5百万円となりました。同要因としては、業績や高配当に加え、今後の成長が期待できる銘柄などの提案営業を強化したことが挙げられます。
②引受け・売出し・特定投資家向け売付け勧誘等の手数料
引受け・売出し・特定投資家向け売付け勧誘等の手数料は、株券の手数料が前期比21.9%減少の57百万円、債券の手数料は前期取り扱いのソフトバンクグループ社債が減少要因となり同65.3%減少の82百万円、同手数料全体では同55.1%減少の1億39百万円となりました。
③募集・売出し・特定投資家向け売付け勧誘等の取扱手数料
募集・売出し・特定投資家向け売付け勧誘等の取扱手数料は、投資信託の販売減少を主因として前期比23.9%減少の11億83百万円となりました。投資信託の主な販売動向として、成長・配当・割安に注目し持続的成長が期待できる優良企業に投資する「インベスコ・世界厳選株式オープン」や、日本を含む世界のCB(転換社債)に投資を行う「ニッセイ/シュローダー好利回りCBファンド」などが挙げられます。
④その他の受入手数料
その他の受入手数料は、投資信託の信託報酬手数料の減少を主因として前期比9.8%減少の23億93百万円となりました。
(トレーディング損益)
米国株式の国内店頭取引を中心とする株券等のトレーディング損益は、先行き不透明なマーケット環境を背景として、前期比44.8%減少の46億28百万円の利益となりました。一方、債券等のトレーディング損益は同5.0%減少の8億59百万円の利益となり、その他のトレーディング損益43百万円の損失(前期は37百万円の損失)を含めたトレーディング損益の合計は前期比41.2%減少の54億43百万円の利益となりました。
(金融収支)
金融収益は、信用取引収益の増加を主因として前期比1.3%増加の21億24百万円となりました。一方、金融費用は同34.4%増加の2億62百万円となり、差し引き金融収支は同2.1%減少の18億61百万円となりました。
(販売費・一般管理費)
販売費・一般管理費は、業績に連動する賞与等の変動費項目の減少を主因として前期比3.1%減少の146億58百万円となりました。
(営業外損益)
営業外損益は、受取配当金を中心に3億95百万円の利益(前期比5.4%減少)となりました。
(特別損益)
特別損益は、金融商品取引責任準備金繰入れの計上により1百万円の損失となりました(前期は基幹業務システム移行に伴う費用の計上を主因として2億45百万円の損失)。
該当事項はありません。
該当事項はありません。