第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

(1) 経営方針・経営戦略等

当社グループは、国内航空輸送網の拠点である羽田空港における旅客ターミナル等を建設、管理・運営する企業として、「公共性と企業性の調和」を経営の基本理念としております。

この基本理念の下、今後とも、旅客ターミナルにおける絶対安全の確立、お客様本位の旅客ターミナル運営、安定的かつ効率的な旅客ターミナル運営に努めることにより確実に社会的責任を果たしてまいります。

また、グループ全体の継続的な企業価値の向上を図るため、戦略的かつ適切な投資の実行及び投資管理によるさらなる旅客ターミナルの利便性、快適性及び機能性の向上や顧客ニーズの高度化・多様化に的確に対応するとともに、航空会社、空港利用者、取引先、株主等関係者への適切な還元を心がけることを経営の基本方針としております。

経営戦略では、サステナビリティを戦略推進の中核と位置づけ、「サステナビリティ基本方針」のもと、持続可能な社会の実現及び持続的な当社グループの成長を追求します。

 

 

(2) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

当社グループは、2022年度から2025年度に係る中期経営計画において、以下の目標指標を定めております。

[連結当期純利益]

計画最終年度の2025年度において、2021年3月の増資による希薄化を考慮し、1株当たり利益で、前中計の2020年度目標を上回る収益力を確保する。

[コスト削減策]

コロナ禍におけるターミナル運営の抜本的な見直し等によりコストのリバウンドを抑制し、効率性・生産性向上の目標として、前中計の2020年度営業利益目標250億円の1割相当をコスト削減により創出する。

[ROA(EBITDA)]

旅客ターミナルや駐車場を保有し、施設整備をしながら事業展開する特性を踏まえ、引き続きSKYTRAX TOP10空港の最新の平均値を参考値としつつ、前中計を上回ることを設定。

[自己資本比率]

コロナ禍で低下したが、引き続き、格付(A+)の維持と財務基盤の早期安定化を図ることとして、40%以上の回復を目指す。

[配当性向]

株主に対する利益還元を重要課題と位置付け、大規模投資等を考慮し内部留保を確保すると同時に安定した配当を継続することを基本方針として、自己資本の蓄積と経営成績に基づく株主還元を重視する観点から「配当性向」を指標とし、配当性向30%以上を目途とする。

[SKYTRAX評価順位]

World's Best Airports TOP3を獲得するとともに、より一層の高品質・高効率なオペレーションを目指す。

 

各指標及び目標値は以下のとおりです。

分類

指標

2025年度目標値

収益性(総合)

連結当期純利益

200億円以上

収益性

コスト削減策

25億円
(前中計の営業利益目標250億円の10%相当)

効率性

ROA(EBITDA)

12%以上

安定性

自己資本比率

40%台への回復を目指す

株主還元

配当性向

30%以上

空港評価

SKYTRAX評価順位

World's Best Airports TOP3

 

 

現中期経営計画では、計画最終年度の2025年度に内際ともに旅客数がコロナ前の計画水準に回復することを想定していましたが、外部環境の変化等により、2025年度の旅客数は計画策定時の想定を下回る見通しです。また、物価上昇に伴い人件費や各種費用が増加しています。一方で、設備投資や費用増を反映して2025年4月より国内線施設利用料を改定したことに加え、好調な商品売上高や、商業エリアのリニューアル、事務室誘致により家賃収入などでも増収を図り、2025年度の当期純利益は、目標の200億円を上回る245億円を予想しています。資本コスト経営については、当社の株主資本コストは6~8%と試算しており、ROEは2023年度 12.1%(※)、2024年度 15.5%(※)と、継続的に上回っております。今後も、ROEの向上と株主資本コストの低減に全社一体となって取り組み、エクイティスプレッドの確保を図ります。次期中期経営計画においては、資本収益性を評価する指標及び目標設定を行うとともに、最適資本構成を検討し、資本コスト経営を強化してまいります。

※子会社の繰延税金資産計上に伴い連結当期純利益が増加したことによる、一過性の影響を含みます

 

 

(3) 経営環境・対処すべき課題等

羽田空港におきましては、首都圏空港の機能強化として2020年3月に国際線の発着枠が約1.4倍に拡大され、当社グループでは発着枠拡大に対応する施設整備を実施しました。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で減退した航空需要は段階的に回復し、当連結会計年度末時点で羽田空港の旅客数は、発着枠拡大後の計画値の9割超まで回復しております。

当社グループにおいては、利益成長を牽引してきた羽田国際線事業において、国際線旅客数の増加余地が限られる中で、ターミナルの拡張や物価上昇に伴う運営コストの増加を吸収しながら、持続的に利益成長を実現することが、今後の課題と認識しています。また、訪日外国人の旅行消費額は過去最高を更新し、国内旅行も堅調に推移していますが、中国経済の低迷、米国における通商政策の動向、為替変動などが、今後の消費動向に与える影響に注視が必要な状況です。

このような中、当社グループは中期経営計画「To Be a World Best Airport 2025~人にも環境にもやさしい先進的空港2030に向けて~」において、2030年に目指す姿から2025年度の目標を設定し、サステナビリティを戦略推進の中核として、空港事業の成長、再成長土台の確立、収益基盤の拡大、経営基盤の強化に取り組んでおります。

ターミナル運営においては、2030年の訪日外客数6,000万人の政府目標に向けた空港インフラ機能強化の一環として、第2ターミナル北側サテライトと本館との接続施設を本年3月に供用開始しました。北側サテライトと本館間のバス移動が不要になり、国内線固定搭乗橋を3か所(5スポット)新設したことで、ターミナル南側で行っていた国内線と国際線を時間帯で切り替えるスイング運用を終了し、国際線専用での運用としました。さらに、2026年度に完成予定の第1ターミナル北側サテライトでは、建物のライフサイクル全体を通じた環境負荷の低減を図るとともに、ZEB Orientedの認証を取得し、空港脱炭素化の推進に寄与してまいります。

(ZEBはNet Zero Energy Buildingの略称で、ZEB Orientedは快適なターミナル施設の環境を実現しながら、年間の一次エネルギー消費量を30%以上低減する建物)

また、航空会社や東京空港交通株式会社と連携して昨年4月に導入したランプバス配車システム「RBAS(アルバス)」をはじめ、空港全体の最適化を目指す「トータル・エアポート・マネジメント」を、関係各所と一体となって実現していきます。

物価上昇に伴いターミナルの維持管理運営コストは上昇していますが、ロボット等の技術活用やオペレーションの見直しを継続して、生産性の向上を図ります。その上で、コストや設備投資額の上昇をサービス価格へ適切に反映することに加え、広告やラウンジなどの収益力を強化して、高品質と利益向上の両立を目指します。

営業面では、インバウンドの増加により免税店の売上が好調ですが、為替等の市況の変化により、足元では購買動向に変化が見られます。円高進行や中国経済の減速により、ラグジュアリー商品の売上は減少傾向にありますが、為替や景気の影響が比較的小さい総合免税店において売上利益の確保に努めています。引き続き、免税エリアの店舗リニューアルや、RFIDの導入及びレイアウト変更等の混雑対策を実施し、旅客当たりの単価向上に向けた施策を推進します。さらに、消費動向の変容に対応すべく、羽田空港公式アプリに導入した「HANEDAポイント」等により、One to Oneマーケティングを強化し、顧客ニーズの発掘に取り組みます。

また、旅客に依存しない収益の獲得に向けて、基幹システム開発等の整備を進めてきたEC事業の収益拡大を図るほか、本年1月に開始した羽田空港車両における連絡車のEV化サービスなど、羽田の価値・ネットワークや空港運営ノウハウを活用した、新しい事業の研究・開拓を推進します。

これらを支える経営基盤として、人的資本への投資を進め、待遇改善に加えて、専門職制度や副業・兼業制度を導入するなど、多様な人財が活躍するための環境を整備しています。また、インナーブランディング活動“プラスワンプロモーション”を通じて、自ら考え挑戦する企業風土を構築してまいります。財務面では、コロナ禍で傷んだ財務基盤の強化に努めてまいりました。2025年度はハイブリッドローンへの対応も含めて、多様な資金調達手段を検討いたします。DX分野では、空港内の人流などのあらゆる情報を集約してデータベース化するべく、機能設計や機器の導入を進めました。これらを活用して、空港内機能及びサービスの高度化やデータドリブン経営を推進します。

企業価値の向上については、羽田空港の航空便数が発着枠の上限に近づく中で、収益性や資本効率の向上に全社一体で取り組み、次期中期経営計画において成長戦略を具体化してお示しします。また、利益還元では、当社株主による政策保有株縮減に伴う株式需給悪化懸念に対応するための自己株式の取得等も含めて、資本政策と併せて株主還元方針を検討してまいります。

今後も当社グループは、空港法に基づく羽田空港の旅客ターミナルを建設、管理・運営する空港機能施設事業者としての責務を果たすべく、国土交通省や航空会社をはじめとする関係者と連携し、コロナ禍での学びを活かしつつ、グループ一丸となって旅客ターミナルの利便性・快適性及び機能性の向上を目指し、顧客第一主義と絶対安全の確立に努めます。そして、2030年の訪日外客数6,000万人の政府目標に向けて拡大する訪日需要を捉えて収益性を向上し、絶え間ない羽田空港の価値創造と航空輸送の発展に貢献することにより、企業価値の向上を図ってまいります

 

 

(4) 当社子会社の取引先事業者の選定等に関する再発防止に向けた取組み

当社は、当社子会社の取引先事業者の選定等に関して、当社が定めるコンプライアンス基本指針に照らして不適切な対応が行われていた事実が判明した事案について、2025年5月12日に国土交通省より行政指導にあたる厳重注意を受けました。株主の皆様やお客様をはじめとした関係者の皆様の信頼を取り戻すため、二度と同様の問題を繰り返さないよう、再発防止策の徹底に全力で取り組んでまいります。具体的には、2025年5月9日に公表しました調査報告書を踏まえた2025年6月12日付「再発防止策の策定及び取締役の処分に関するお知らせ」に記載のとおり、経営体制の刷新、最高経営責任者の後継者育成計画の策定及び指名プロセスの透明化及び指名諮問委員会の在り方の見直し、経営トップへの牽制機能の強化、組織風土の改革(法務・コンプライアンス室の設置)、経営改善委員会の設置、コーポレート・ガバナンス委員会の設置等といった各再発防止策について、速やかに検討・実行してまいります。

提出日時点における再発防止策の主な内容は、次のとおりであります。

①経営体制の刷新

・組織硬直化によるガバナンス不全を解消する観点から、経営トップを刷新する。

・執行への牽制とガバナンス強化の観点から、取締役会の過半数を社外取締役(監査等委員である取締役を含む)とする。

・経営責任の明確化やコーポレート・ガバナンス強化の観点から、相談役制度を廃止する。

・健全な経営体制構築の観点から、役付取締役を廃止する。

②最高経営責任者の後継者育成計画の策定及び指名プロセスの透明化及び指名諮問委員会の在り方の見直し

・評価・決定プロセスにおける公平性、客観性、透明性の強化を図る目的で、任意の指名・報酬諮問委員会の委員長を独立社外取締役から選任する。

・指名諮問委員会は、人財に関わる情報提供を受け、社外取締役主導で、最高経営責任者の後継者育成計画や社内役員の選定基準のあり方、指名プロセスの透明化についての議論が行える体制を整える。

③経営トップへの牽制機能の強化

・監査等委員会と内部監査部門との連携、内部統制部門、内部監査部門及び会計監査人等と定期的に情報収集・意見交換を行う等、継続的に監査の実効性と効率性を確保する目的で、常勤の監査等委員を新たに選任する。

・監査等委員会による監査の実効性を確保する目的で、「監査等委員会室」を新設し、監査室から監査等委員会事務局に関する所掌を移管する。

 ※監査等委員会の職務を補助する使用人は、人事異動及び評価等に関して業務執行者や監査等委員以外の取締役
 から独立性を確保し、監査等委員会からの指示の下、必要な情報の収集権限を有する。

・グループ会社の非常勤監査役は監査等委員会室に籍を置き、関連情報の共有を図るとともに、業務に関する支援を受ける体制とする。

・内部統制システムにかかるグループ監査機能の実効性を強化する目的で、内部統制部門、内部監査部門の担当役員を選任する。

④組織風土の改革

・組織から独立したグループ全体のコンプライアンスを担う法務・コンプライアンス室を設置し、監査等委員会および利害関係のない(顧問弁護士事務所ではない)弁護士事務所(以下、「社外弁護士事務所」という。)と連携し、経営陣から独立した体制により適切な対応・解決に取り組む。

・従業員がコンプライアンスに関する重要事項を直接通報・相談できる、公益通報者保護法に対応した社内コンプライアンス通報窓口を、法務・コンプライアンス室に設置する。

・心理的安全性の観点から、安心して通報者が利用できる外部コンプライアンス通報窓口を、社外弁護士事務所に設置する。

・取締役及び執行役員のコンプライアンス事案に関しては、独立性の高い監査等委員である社外取締役へ直接通報できる仕組みを構築する。

・グループ全体の内部通報制度の運用状況について、監査等委員会に対して適時適切に報告を行う体制を整備する。

・グループ会社での法令や規程違反の発覚時に、迅速に当社取締役会や関係部門等に報告されるよう、報告体制を再構築する。

・通報受領後の事案処理プロセス(本人対応、弁護士連携等)の明確化と外部取引先が通報できる窓口の整備と周知を図る。

⑤経営改善委員会の設置

再発防止策を単なる形式的・一過性の“対外アピール”ではなく、実質的に機能する内部牽制と社会的信頼回復の原動力となる経営改善委員会を新設する。

・再発防止策の実効性の担保と推進役
実効性の多角的検証を行い、経営(社長)に対し意見表明を行う。

・継続的な経営状況の改善
経営状況の調査・分析に基づく具体的な対応策や、各部門からの諮問に対するスクリーニング結果について、経営(社長)に答申する。

・社員と経営との対話の機会創出及び信頼関係構築
同委員会は、社外取締役、社内取締役、執行役員及び社員で構成し、社員と経営との対話の機会や信頼関係構築の役割を担う。

⑥コーポレート・ガバナンス委員会の設置

健全で透明性の高いガバナンス体制構築に向け、指名・報酬に特化した現在の任意の委員会に加え、コーポレート・ガバナンスに関わる以下の事項を協議する任意の委員会を新設する。

・コーポレート・ガバナンス基本方針への適合性評価
コーポレート・ガバナンスの継続的な充実を図ることを目的に、独立社外取締役を中心とした構成員によりコーポレート・ガバナンス基本方針への適合状況を評価し、実効性を高めるための議論と、取締役会への提言を行う。

・取締役会の実効性の評価と改善
取締役会の実効性を評価し、指名・報酬諮問委員会と連携した対応策を議論し、取締役会への提言を行う。

⑦継続的なモニタリング

・監査等委員会は、各施策についての達成度・実効性・社員の納得度等について、定期レビューを行う。

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取り組みは、次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)ガバナンス

(サステナビリティ共通関連)

 当社グループは、公共性の高い旅客ターミナルの建設、管理・運営を担う民間企業としての社会的役割を十分認識し、「公共性と企業性の調和」のとれた経営を目指しています。持続可能な空港運営により「人にも環境にもやさしい先進的空港」を実現するため、サステナビリティを戦略推進の中核と位置づけ、ESG関連の取り組みの着実な実行と実効性を強化するためのガバナンス体制を構築しています。

 サステナビリティの推進体制としては、代表取締役社長が委員長を務める「サステナビリティ委員会」及び社長直轄の「サステナビリティ推進室」が各部署と連携し、サステナビリティ計画の立案、実施状況のモニタリング等を担当しています。計画の立案にあたっては、サステナビリティに関する専門的な視点を持つ社外の有識者との対話も実施するなど、外部的な視点も取り入れています。

 「サステナビリティ委員会」では、サステナビリティを推進する基盤としての方針類・計画の策定や、「サステナビリティ中期計画」に定めるマテリアリティ(重要課題)、KPI(重要業績評価指標)など、気候変動や自然資本関連、人財育成をはじめとした課題に対する取り組みの進捗について半期に一度審議・見直しを実施するとともに、必要に応じて随時開催しております。同委員会における審議内容については、経営会議において経営戦略との関係性・整合性を踏まえた審議がなされた後、取締役会に報告・審議され、その監督を受けています。

 これら経営トップのリーダーシップ、専門部門の設置、社外有識者との連携を通じて、サステナビリティに対するガバナンス体制を構築しています。

 

  図1 サステナビリティ推進体制の全体像

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(2)戦略

(サステナビリティ共通関連)

 サステナビリティ中期計画を策定し(2023年5月公表)、以下の戦略を展開しています。

 なお、マテリアリティ及びKPIについては、半期に一度見直し・更新を図る体制としています。

 (詳細)https://www.tokyo-airport-bldg.co.jp/sustainability/medium_term_plan/

 

a)サステナビリティ基本方針の策定

 お客さま、株主/投資家、従業員、地域社会、パートナー、地球環境など、当社が関係するステークホルダーについて、経済社会の発展に貢献しながら持続可能な事業活動を推進するための方針を策定しています。

 

b)マテリアリティの特定

 中期経営計画との整合性を図りつつ、8つのマテリアリティを特定しています。特定にあたっては、

 ①中長期的な視点で当社事業に影響を及ぼす可能性のある社会課題や事業環境について、業界団体(ACI)や

  国際的なガイドライン(GRI、SASB等)の重要項目や事業戦略を踏まえリストアップした候補を、

 ②社会にとっての重要性(公共性)と自社事業にとっての重要性(企業性)の2軸での評価を実施、

 ③社外有識者とのダイアローグによる外部からの期待及び要請を反映しています。

 

c)取り組み及びKPIの策定

 「指標及び目標」記載欄参照

 

(気候変動関連)

 異常気象の頻発化など気候変動が当社グループに及ぼす影響は大きい一方、当社グループは、ターミナル運営における電力消費など多くの温室効果ガスを排出し環境に負荷を与えています。社会の持続可能性と両立する環境にやさしい空港を目指して事業を継続していく上で、気候変動への対策は重要な課題であると認識しており、マテリアリティとして「気候変動への対策」を掲げています。「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を表明し、TCFD提言に基づき情報を開示しています。(2025年6月更新)

(詳細)TCFD提言に基づく情報開示(https://www.tokyo-airport-bldg.co.jp/files/tcfd.pdf)

 当社グループの事業に気候変動が与える影響を評価するため、下記の2つのシナリオ(「1.5℃シナリオ」及び「4.0℃シナリオ」)を用いて分析を実施しました。シナリオの設定にあたっては、IEA(International Energy Agency, 国際エネルギー機関)やIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change, 気候変動に関する政府間パネル)が公表するシナリオを参照しています。

 

表1 シナリオ分析の概要

名称

1.5℃シナリオ

4.0℃シナリオ

シナリオの概要

抜本的な施策が機能することにより脱炭素社会が実現、産業革命時期比で気温上昇が約1.5℃未満に留まる

・脱炭素社会移行に関するリスクが主に顕在化

現状を上回る施策を取らないことにより地球 温暖化が進展、産業革命時期比で気温が  約4.0℃上昇

・気候変動による物理リスクが主に顕在化

世界観

カーボンプライシングや航空事業者のSAF使用比率規制等により、空港・航空業界はカーボンオフセットや再エネ・省エネ投資等の対応が必須となる。

・代替移動手段へのシフトも想定されるが、SAFの普及につれ、空港ではサプライチェーンを含めたGHG排出削減が着実に進む。

低炭素化社会への移行のための政策や規制導入は限定的。

・気候変動の進行に伴い、気候パターンの変化や海面上昇、異常気象の激甚化・頻発化等により空港運営への悪影響が生じる。サプライチェーンリスク管理やBCPの見直しの重要性が高まる。

 

 

   当社グループの「施設管理運営業」及び「物販・飲食事業」(「物品販売業」及び「飲食業」をまとめた区分)

   を分析対象とし、上記の2つのシナリオを踏まえたリスクと機会の抽出、影響度評価、リスクへの対応策定義を

   実施しました。気候関連リスク・機会を評価する際の、時間軸、影響度については下表のとおりです。

 

表2 気候関連リスク・機会の評価における時間軸・影響度

時間軸

短期

 ~2025年度(中期経営計画期間)

中期

 ~2030年度(人にも環境にもやさしい先進的空港2030までの期間)

長期

 ~2050年度(ネットゼロ達成時期まで)

影響度

 1億円未満/年

 1億円以上~10億円未満/年

 10億円以上/年

※影響度については、各リスク・機会が損益・資産に与えるインパクトを勘案し評価を行いました。

 

表3 気候変動に関わるリスク・機会及び影響度

リスク・機会の種類

概要

セグメント

時間軸

主に

関連する

シナリオ

影響度

施設

物販

飲食

GHG排出量

削減施策

(政策と法律/技術)

カーボンプライシング※導入に伴う、ターミナル運営コストや原材料仕入・物流コストの増加

短期~中期

1.5℃

気候変動関連法規制によるコストの増加(環境関連規制に伴う建設コストの増加等)

 

短期~長期

1.5℃

気候変動関連法規制によるコストの増加(プラスチック等の資源循環や自然資本に配慮した調達等)

 

短期~中期

1.5℃

再生可能エネルギー及び新エネルギーの導入等による気候変動対策投資コストの増加

短期~中期

1.5℃/4.0℃

その他

(市場/評判)

 

航空需要にネガティブに影響する政策措置による、空港利用者数の伸びの鈍化

短期~長期

1.5℃

環境対応の遅れによる、テナント・パートナー・顧客・取引先・従業員からの評判低下

短期~中期

1.5℃/4.0℃

慢性

海面上昇による、空港アクセス交通への影響

中期~長期

4.0℃

気候パターンの変化に伴う、感染症発生等による影響

長期

4.0℃

急性

異常気象の激甚化・頻発化による利用者数への影響

短期~中期

4.0℃

異常気象の激甚化・頻発化によるサプライチェーン分断

 

短期~中期

4.0℃

異常気象の激甚化・頻発化による設備損壊、浸水被害等

中期~長期

4.0℃

GHG排出量削減施策(エネルギー源)

高効率なエネルギー利用や新技術等の普及によるコスト低減

 

長期

1.5℃

脱炭素への貢献と新しい収益源の確保

 

中期~長期

1.5℃/4.0℃

その他

(資源効率性/製品・サービス/市場)

脱炭素取り組みを通じたブランド価値向上

中期~長期

1.5℃

低炭素を実現する企業への政策支援の活用

 

中期~長期

1.5℃

当社を中心とした循環型システムの構築

 

短期~中期

1.5℃/4.0℃

物理リスク

ステークホルダーや地域との連携によるレジリエンス強化

 

中期

1.5℃/4.0℃

※カーボンプライシングについては、2030年時点での予測排出量(5.7万t-CO2)をベースに以下の仮定を用いて試算

  ■排出量:57,000t-CO2(2030年時点排出量)

  ■炭素価格:21,000円(IEA WEO2023 1.5℃シナリオ(NZE)2030年時点140USD/t-CO2×1ドル150円で計算)

  ■影響度:57,000×21,000=約12億円

 

表4 対応策 ※一部抜粋

リスク・機会の種類

概要

移行リスク

関連

GHG排出量

削減施策

照明のLED化、空調機器更新、AI空調の導入を含めた省エネ施策

メガソーラー等の再生可能エネルギー導入、調達電源構成の見直し及び熱源使用効率化の推進

施設のZEB化、建物の木造木質化、放射冷却素材「ラディクール」の使用等による環境配慮性能向上

新エネルギーの利活用に向けた調査及び検討

その他

資源の有効活用(羽田空港の資材設備を地方空港や運営参画空港へ提供等)及び廃棄物抑制の事業化(廃油の回収とバイオ燃料への活用等)

物理リスク関連

東京国際空港A2-BCPへの対応強化、BCP体制構築と定期訓練の実施

感染症対策の徹底、ロボットやデジタル技術を活用した非接触販売の実施

サプライチェーンの冗長化等、調達生産物流の全体最適化

 

 

(自然資本関連)

 年間8,700万人が利用する空港ターミナルを運営する上では、建材やプラスチック、水など多くの資源を利用・調達している一方で、建設廃材・食品残渣・回収ごみなどの廃棄物を排出しているため、「人にも環境にもやさしい先進的空港」の実現に向け、自然資本関連の取り組みを重要な経営課題に位置づけています。現在、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)提言へ賛同するとともに評価・分析を進めており、TNFD提言に基づく情報を下記のとおり開示しています。当社グループの事業と自然環境との関係性(依存・影響)を整理するにあたっては、自然関連のリスクと機会を科学的根拠に基づき体系的に評価するためのLEAPアプローチを用いて分析を実施しました。

 (詳細)TNFD提言に基づく情報開示(https://www.tokyo-airport-bldg.co.jp/files/tnfd.pdf)

 

図1 当社事業の全体像

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 当社事業活動の直接操業及び上流・下流工程について自然との接点、関係性を評価するため、現段階で入手可能な情報をもとにヒートマップを作成し、自然環境との関係性を整理しました。なお、評価にあたっては当社の事業内容とともに、SBTNの業種別の主な環境影響や自然関連リスク評価ツールであるENCOREフローを参考にしました。

 

表1 当社事業と主な環境との接点と影響(ヒートマップ)

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※濃い色の部分は環境との関連性(依存・影響)がより強いことを示しています。

 

≪施設管理運営業≫

 2024年度は、羽田空港を使用する航空機の発着回数は約48万回あり、羽田空港の旅客ターミナルビルを利用した旅客数は約8,700万人となっています。当社(直接操業)に関し、施設内の快適な空間を維持するため、電力等のエネルギーを消費し、CO2を排出しており、下流にあたる航空機・旅客の移動に関して、エネルギー使用に伴う 温室効果ガスの排出量及び温室効果ガス以外の大気汚染の影響があります。

 当社の管理運営するターミナルビル(直接操業)及び下流にあたる旅客の移動において、約8,700万人の利用者による廃棄物の排出及びその処理を実施しており、処理量は羽田空港エリア全体の廃棄物の約4割に及ぶことから、一定の影響があります。

 日本国内の自然環境(大気、水質・水量、生態系の状態)は世界全体からみて比較的良好な環境にありますが、空港施設の特性上、夜間の照明による光害や騒音について、羽田空港周辺で一定の影響があります。

 羽田空港における3つのターミナルビル内では、水消費量は年間約900,000㎥を超え、羽田空港エリア全体で使用する水の約5割を占めることから、水の使用につき一定の依存及び影響があります。

 

≪物品販売業・飲食業(機内食製造業含む)≫

 当社の取り扱う物品及び食材・加工品等は多品種にわたり、これらの原材料の生産、製造・加工における水使用・土地利用・大気汚染等、一定の依存及び影響があります。

 物品販売業・飲食業における使い捨て容器や梱包材等が一定量あります。

 

 当社は、世界的に評価される空港であることを目指しており、長期ビジョン「To Be a World Best Airport」とともに、2030年に向けて「人にも環境にもやさしい先進的空港」の実現に向けたターミナルビル運営を目指しています。

 当社事業活動の直接操業及び上流・下流工程における自然との関係性(依存及び影響)について、表1のとおり現段階で入手可能な情報をもとにヒートマップを作成し、重要な領域を確認・評価しました。このような評価を踏まえ、当社グループ事業に影響を及ぼす自然関連リスク・機会の抽出を実施しました。

 また、リスク・機会の抽出にあたっては、「脱炭素社会への移行と併せてネイチャーポジティブ社会への移行に関するリスクが主に顕在化するシナリオ」と「気候変動・自然劣化による物理リスクが主に顕在化するシナリオ」を検討し、各々TCFD分析における1.5℃シナリオと4.0℃シナリオと対応するものとして想定しています。

 

表2 自然関連リスク・機会の分析における時間軸と影響度

時間軸

短期

~2025年度(中期経営計画期間)

中期

~2030年度(人にも環境にもやさしい先進的空港2030までの期間)

長期

~2050年度(ネットゼロ達成までの期間)

影響度

1億円未満

1億円以上~10億円未満

10億円以上

 

表3 自然関連のリスク及び影響度

リスクの種類

概要

セグメント

時間軸

施設

物販
飲食

政策・

法規制・

技術

建物に対する環境配慮の取り組み・認定取得等を要求する規制・政策強化による対応コストの増加

 

中期~長期

製品原材料に対する規制・政策強化による対応コストの増加

(認証原材料の使用、特定原材料の使用禁止等)

 

中期

リサイクル率向上義務化・廃棄物処理等の資源循環に関する規制・政策強化による対応コストの増加

中期~長期

大気・水・土壌汚染に関する新たな規制対象物質や基準厳格化への対応コスト(追加投資含む)の増加

中期~長期

市場

顧客(航空会社やテナント)のサステナビリティ意識の高まりによる市場嗜好の変化や要請による対応コストの増加

 

中期

旅客(物販・飲食の顧客)のサステナビリティ意識の高まりによる持続可能な生態系・自然資本に配慮した認証食材への需要シフト

中期

評判

テナントマネジメントにおいてサステナビリティへの配慮が不十分であることによる、国際的なレピュテーション低下

 

中期

持続可能な原材料の調達や再生可能材の使用についての対応不足によるレピュテーション低下、顧客喪失

中期~長期

空港利用者の増加に伴い空港周辺の自然環境破壊の課題が生じた際の対応コスト及び自治体・周辺住民からのレピュテーション低下(廃棄物による汚染、渋滞発生等)

中期~長期

慢性

急性

空港利用者(航空機利用者)増加に関連した外来種等の飛来、感染症等パンデミックの発生

 

長期

異常気象の発生による周辺の浸水等に伴う、周辺交通機関の運行困難に伴う旅客対応業務の増加(ターミナルビルでの滞在時間の増加等)

 

中期

異常気象の発生や自然環境・生態系の劣化・崩壊に伴う、食品原材料の品質低下及び調達困難、サプライチェーンの寸断

 

長期

猛暑等による、設備寿命の短期化(設備更新費用の増加)

 

長期

 

表4 自然関連の機会及び影響度

機会の種類

概要

セグメント

時間軸

施設

物販
飲食

ビ関

ジわ

ネる

ス機

パ会

市場・

製品と

サービス・

評判

顧客(航空会社やテナント)のサステナビリティ意識の高まりによる市場嗜好の変化に対応した「エコエアポート」としての施設運営による、羽田空港のプレゼンス向上

 

中期~長期

旅客(物販・飲食の顧客)のサステナビリティ意識の高まりに対する持続可能な自然環境・生態系サービスに配慮した原材料及び包装材を使用した商品開発

中期~長期

日本の豊かな自然観光資源への国際的な注目度の高まり、日本の玄関口として自然観光資源の魅力を引き出す事業運営を通じた需要創出による、旅客の増加

中期~長期

空港全体での資源循環経済の実現による、羽田空港の中核企業としてのプレゼンス向上

中期

旅客のサステナビリティ意識向上に資する働きかけや、周辺地域の自然環境保護活動への参画による、自治体行政との関係性の向上

中期

資源効率

水資源の効率的な利用

中期

資源循環の実現に向け、簡易包装や再生材の活用による廃棄物削減や、廃棄物の再資源化

中期~長期

資金の

流れと

資金調達

建替え時における各種施策等、エコエアポートとしての打ち出しによる資金調達

 

中期

持マ

続ン

可ス

能に

性関

パわ

フる

ォ機

❘会

天然資源の持続可能な利用

持続可能な森林から供給された木材を活用した施設建設

 

中期

社内で使用する資材・設備の環境配慮型への切り替え

中期

生態系の

保護、復元、

再生

都市部に隣接する空港として、旅客に対してバス・鉄道等の地上交通機関の使用を推奨することによる、地域の生態系の保全

中期

エコエアポートでの施設滞在における体験を通じた、施設利用者の自然・環境に対する意識の啓発による行動変容による、間接的な自然へのポジティブインパクト

中期

 

表5 自然関連のリスク・機会に対する対応策

リスク・機会の種類

概要

セグメント

施設

物販
飲食

移行リスク

(政策・法規制・

技術・市場・

評判)

建物のZEB化に向けた取り組み

 

使用原材料について、航空会社・国ごとの規制への対応

 

認証取得済の原材料や国産原材料の積極的な活用

 

自然環境への負荷が少ない包装材・容器の導入

 

廃棄物の再資源化とテナントに対する呼びかけ

食品廃棄物の減量化(生ごみ処理機の活用)

 

観光地の分散への協力・PR

 

ステークホルダーとの対話機会の創出

物理リスク

(急性・慢性)

A2-BCP(空港業務継続計画)への準拠、BCPの整備・訓練の実施

 

非接触サービスの提供(ロボット、無人店舗)

調達先の分散化・代替物流の検討

 

ICPの導入による設備投資判断

 

市場・

製品とサービス・

評判

自然へのポジティブインパクトを重視した建物への転換

 

サステナビリティ関連テーマに積極的に取り組む店舗・ブランドへの積極的な「場」の提供

 

テナントマネジメントの充実(表彰制度の導入の検討)

 

エシカル商品の拡充、地域の生態系を活かした商材の販売とプロモーション

 

交通事業者(エアライン・鉄道等)も含めた、サステナブルな空旅の実施

 

地域創生、地域観光PRの実施

 

空港全体での3R推進に向けた取り組みの推進

 

資源効率

中水の利用、節水弁の導入、水再利用

高効率な廃棄物処理方法の検討

 

資金の流れと資金

調達

サステナブルファイナンスの活用等

 

天然資源の持続

可能な利用

認証取得・認証木材調達に関する取り組みの強化

 

社内において、環境に配慮した資材・設備への切り替え、資源効率利用に関する教育実施

生態系の

保護、復元、再生

公共交通機関の利用推進(アナウンス・HP・SNS等)

 

生態系の豊かさを感じられるエコツーリズムの実施等

上記の自然関連リスク・機会及び対応策の抽出を踏まえ、自然資本分野に関する戦略の3つの方向性を以下のとおり確認しました。今後、リスク・機会の分析を深化させるとともに、同戦略を重要な経営課題として、実現に向けた対応策を、多くのステークホルダーと連携しながら、策定・実施していきます。

自然関連リスク・機会に対する戦略

エコエアポートの実現

国の掲げる方針や脱炭素計画に基づき、関係するステークホルダーと連携して、空港運営に伴う地球環境・地域環境への影響を低減させる取り組みを推進します。

サーキュラーエコノミーの

確立

空港内で発生する廃棄物のリサイクル・リユース等を推進して、最終処分量を低減し、空港全体のサーキュラーエコノミーの進展を図ります。

サステナブル調達の推進

物品販売業・飲食業における原材料・製造加工段階の環境や人権への配慮を推進し、 サプライチェーン全体における自然環境への負荷の低減を図ります。

 

  (人的資本・多様性関連)

≪人的資本に関する基本的な考え方≫

 当社グループが事業基盤とする東京国際空港(羽田空港)は、人・産業・文化が行き交う日本の空の玄関口であり、訪日外国人6,000万人に向けたターミナル機能強化など、今後更なる発展・進化が求められています。このような背景のもと、中期経営戦略として“収益基盤の強化”とともに人財・DX・財務など“経営基盤の強化”を掲げています。人財に関しては「人財のプロ集団化・組織力の最大化」を目指しており、サステナビリティ中期計画において「人財育成」及び「DEI(Diversity,Equity,Inclusion)の推進」をマテリアリティ(重要課題)に選定し、取り組みを推進しています。

 当社グループでは、空港運営全般に係る高度な専門性と知見を備え、常に変化し続ける航空業界においてフロンティアスピリットを発揮し新たな挑戦を続ける人財を、最重要資本(人的資本・知的資本)と位置付けており、空港のリーディングカンパニーを目指す長期ビジョン「To Be a World Best Airport」を、このような人財の力で実現していくものと考えています。

 

≪人財戦略の基本的な考え方≫

持続的成長を図る中期経営戦略において目指す“収益基盤の強化”では、

 1.成長ドライブである将来の航空需要を確実に取り込む「空港事業の成長」

 2.コロナ禍を踏まえた変革・イノベーションの推進による「再成長土台の確立」

 3.空港利用客以外にも新たな領域への事業展開を図る「収益基盤の拡大」

を3本柱としています。

 「空港事業の成長」「再成長土台の確立」のためには、当社が既に十分有する空港運営のプロ人財が、これまで以上に幅広い専門知識や技術を習得していくことが求められます。「収益基盤の拡大」のためには、これまでの当社に不足している、新たな領域に挑戦する自主性や主体性を有する人財を獲得・育成していく必要があります。いずれの戦略にも、新しい発想や、異業種を含めた事業パートナーなどとの共創が求められるため、多様な人財が能力を発揮できる組織であることが重要と考えています。

 また、少子化による人手不足が社会全体で進む中、高い人的生産性を発揮する必要があり、すべての世代の戦力化やDX戦略との連携が不可欠と考えています。

 これらを踏まえ、以下5点の目指すべき人的資本(人財・組織)の構築に向け、人財戦略(人財採用・育成、社内環境整備)を進めていきます。

 ①空港運営特有の知識・経験を有するプロ人財

 ②自主性や主体性を持ち、目的意識を明確化し、行動できる人財

 ③異なる背景を持つ多様な人財が能力を発揮できる組織

 ④どの世代においても学び続け、成長し続ける組織

 ⑤DX戦略を推進する人財・組織

 当社は人財戦略に必要な人的投資を継続的に実施し、人的投資(インプット)を、人的資本強化(アウトプット)を通じて経営成果としての高い収益や利益(アウトカム)へと繋げる、「人的資本経営」を推進していきます。

 

(1)人財の採用・育成、生産性向上

 基本的な考え方に基づき、新卒採用においては建築・理工系などの専門性や海外人財にも着目するとともに、異なる経験・能力を有する人財の中途採用も適宜実施し、多様性を持つ中核人財の強化を図っています。人財育成方針として「自ら考え挑戦する人財の育成」を掲げ、この方針に則り、研修体系においては、MBA取得含め手上げ制のプログラムなど自律的な学びをサポートする制度を導入し、従来の全員一律の研修から、DX人財育成など専門性向上や選抜型の教育研修に重点をシフトさせています。また、社員の意識・行動改革として、現在の業務における新たな改善や変革を考えワークエンゲージメントを高める「プラスワンプロモーション」をグループ全体で展開するとともに、新たな発想の習得の機会として、社外出向の機会の増加を図っています。定年延長など処遇の見直しを行ってきたシニア層に対しては、自律的なキャリア形成の一助となるよう、シニアキャリアセミナー受講後1年間利用可能な全額会社負担によるオンライン学習プログラムを開始しています。

 新たな領域への事業展開のため、異業種連携の研究開発拠点運営(terminal.0)や、ノウハウ事業、産産・産学連携プロジェクトなどへの人員配置も適切に行っています。

 これらの人員確保を含め、コロナ禍で減少した人員について、採用による増員および適切な待遇改善による定着を図りますが、能力やエンゲージメントの向上、DX等を通じた効率化による生産性向上により、効率的な人員体制での経営戦略実現を図ることとしています。

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≪デジタル人財の確保・育成について≫

当社のDX推進を支える人財については、新卒採用や既存社内人財の育成による内製化を基本としつつ、即戦力としての中途採用によって補完することとしています。育成については、人財育成計画を策定し、必要となるスキルや知識を定義しています。全社員に対してはITパスポートなどの基礎知識の取得やオンライン型の学習を実施し、ITリテラシーの向上を図っています。

 

0102010_005.png

必要となる知識・スキル

人財育成方針

デジタル技術で
課題解決する力

業務にデジタルを
実装する力

専門知識

当社事業に紐づく業務知識やITスキルに加え、最新のデジタル技術を含む多岐にわたる専門知識を活かし、DX戦略に基づく各種施策を推進することができる人財を育成する。

デジタル活用を
推進する力

事業・業務を
デザインする力

プロジェクトを
マネジメント

する力

自部署における課題を精査し、DX専門人財とともに業務改革や競争力のあるデジタルビジネスを企画・推進できる人財を育成する。

デジタル技術を
活用する力

データを読み解き
判断する力

基礎知識

IT基礎スキル向上に加え、自ら主体的に課題解決や改革に取り組むDXマインド、各種データを読み解き利活用できるデータリテラシーを習得する。

 

 

(2)社内職場環境の整備

 当社事業は、日本各地、世界各国との様々な人の往来に支えられていることから、世界各国から訪れるお客様に安心して快適にご利用いただけるよう、従業員一人ひとりが多様な文化や価値観を受容し、お互いを尊重し合える包摂性の高い組織風土の醸成が必要であり、また、グループ全体のグローバル化・事業拡大を図っていく上でも、多様性を認め高め合う環境が必要不可欠であるため、社内環境整備方針として「多様な人財が互いを高めあう企業風土」の構築を掲げています。

 この方針に則り、女性管理職比率の高水準維持や、外国人・障がい者雇用などDEIの推進、若手社員による働き方改革推進活動など、多様な人財が活躍できる、働きやすく、働きがいを感じられる職場環境整備を進めています。

 また、横断的なコミュニケーションの誘発や、Well-Beingの要素を導入したオフィス改革を2024年度に実行し、高い生産性と新たな挑戦の持続的な実現を目指しています。

 

(3)人財戦略の進捗状況

 人財戦略実現に必要な人的投資を行っていくにあたり、2024年度から日本空港ビルデングにおいて従業員エンゲージメントサーベイを開始し、人財に関する課題解決を通じて人的投資(インプット)を人的生産性向上(アウトプット)に繋げていくPDCA管理を始めています。また、高いエンゲージメントによる人的生産性の向上が、売上や利益の向上といった経営成果(アウトカム)に繋がっていく“好循環の構築”を目指しており、それぞれの相関を継続的に確認していくこととしています。

 2024年度に実施したサーベイにおけるエンゲージメント指数(*)は82.5点(100点満点)と高い結果となりました。従業員サーベイは、継続して実施するとともに、今後順次グループ各社に拡大していく予定です。

 

(*)経営戦略の実現に向け、社員がやりがいや働きがいを感じ、主体的に業務に取り組むことができ、個人と組織の成長の方向性が連動している状態を「エンゲージメント」、「やりがい」と「理念・ビジョンへの共感」に関する設問の平均値を「エンゲージメント指数」と定義しています。

 

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1.人的投資に係る主な指標(経営成果→人的投資)

 人財の確保に関する投資①②③、社員の能力開発に関する投資④⑤、新たな挑戦の機会の創出に関する投資⑥⑦については以下のとおりです。数値はいずれも単体です。

 2023年度に拡大した人的投資を2024年度はさらに拡大しました。

 

2023年度

2024年度

①新卒採用数

21名

21名

②中途採用数

6名

9名

③平均給与

7,987千円

8,662千円

④一人当たり研修費用(*)

53千円

92千円

⑤シニア学習プログラム参加者数

9名

11名

⑥外部出向・共創プロジェクト派遣数

25名

31名

⑦手上げ研修・教育参加者数

234名

147名

(*)2024年度実績には、2024年度から本格導入されたデジタル研修の実績を含む

 

2.人的投資と人的生産性の相関を計る主な指標(人的投資→人的生産性)

 能力・効率性に関する指標①②③④⑤、新たな挑戦に関する指標⑥⑦について、従業員エンゲージメント サーベイなどの結果は以下のとおりです。数値はいずれも単体です。

社員の成長や生産性向上を実感するスコアは高く、これまで実施した、能力開発や挑戦機会の提供といった 人的投資が、社員の能力伸長や生産性向上、挑戦の風土につながっているか、相関を継続的に検証します。

 なお、挑戦を奨励する研修や挑戦の機会の確保に取り組んできましたが、「新しい仕事やプロジェクトに 積極的にチャレンジしてみたい」と感じる社員スコアと比較して、実際にその機会に「参加した」とする社員スコアが低いことから、今後、さらに挑戦の機会を増やしていくこととします。

 

2023年度

2024年度

①エンゲージメント指数

82.5

②自身の成長実感スコア

74.3

③手当支給対象となる専門資格取得者数

153名

155名

④組織の生産性向上実感スコア

62.0

⑤平均年間総実労働時間

1,801時間

1,833時間

⑥新たな挑戦に関する指数(挑戦してみたいと思う社員)

74.1

⑦新たな挑戦に関する指数(実際に挑戦したとする社員)

56.0

 

3.人的生産性と経営成果の相関を計る主な指標(人的生産性→経営成果)

 社員数は2021年以降、単体・連結いずれも増加していますが、社員一人あたりが生み出す収益・利益はいずれもコロナ禍前を上回る成果となっています。

社員の高いエンゲージメントや生産性が経営成果につながっているか、相関を継続的に検証します。

(単位:百万円)

年度

2019

2020

2021

2022

2023

2024

社員数(単体)

290

264

251

272

293

314

人員数(連結+臨時+派遣)※1

5,379

4,031

3,299

3,595

4,565

4,768

営業収益(連結・旧基準)※2

249,756

52,572

67,380

139,037

276,995

342,815

営業利益(連結)

9,892

△59,020

△41,255

△10,579

29,527

38,557

単体一人当たり営業収益

861

199

268

511

945

1,092

単体一人当たり営業利益

34

△224

△164

△39

101

123

連結一人当たり営業収益

46

13

20

39

61

72

連結一人当たり営業利益

2

△15

△13

△3

6

8

※1 臨時雇用者・派遣社員については、年度末1か月間の労働時間を基に計算した人数です。

※2 「収益認識に関する会計基準」等を2021年度の期首から適用していますが、経年比較のために旧基準で 計算した営業収益とそれに係る指標を記載しています。

 

(3)リスク管理

(サステナビリティ共通関連)

 旅客ターミナルの建設、管理・運営を担う当社グループにとっては、事業の継続性確保は社会的使命であり、新たなリスクが顕在化する不確実な社会において、事業を取り巻くリスクを把握し、対策を講じることは組織のレジリエンス確保において重要な課題であると認識しております。

 グループ全体でのリスク管理体制として、代表取締役社長を委員長とし、全執行役員から構成される「リスク管理委員会」を設置しており、重要性が高いと評価されたリスク(優先リスク)については、その対応を決定し、半期に一度、対応状況の確認と効果検証を繰り返し見直す体制としています。

 気候変動や人的資本を含むサステナビリティ関連のリスクのうち、「サステナビリティ委員会」において、 当社の事業や業績に与える影響が大きいと判断されたものは、優先リスクとして「リスク管理委員会」による 全社的リスク管理体制にて統合管理されています。

 「リスク管理委員会」での審議内容については、適宜取締役会へ報告され、リスク管理に関する監督を受ける体制となっています。

 

(4)指標及び目標

(サステナビリティ共通関連)

 サステナビリティ中期計画において「環境」「社会及び人」「ガバナンス」の3領域における各マテリアリティについて、指標と目標を設定し、27項目に関する進捗状況を開示しています。

(詳細)サステナビリティ中期計画

(https://www.tokyo-airport-bldg.co.jp/sustainability/medium_term_plan/)

 

(気候変動関連)

 GHG排出量Scope1及びScope2に関し、2030年までに2013年対比で46%削減※1、2050年までにネットゼロを 実現することを長期目標に掲げています※2。これを実現する道筋として、温室効果ガス(GHG)排出量削減の 具体的取り組みを以下のとおり検討・実行しています。

 

0102010_007.png

0102010_008.png

 

 (GHG排出量実績)

                                                                                     (単位:t-CO2

カテゴリ

年度

2021

2022

2023

温室効果ガス排出量(Scope1・2合計)

94,480

113,412

117,917

 

Scope1

13,673

17,472

22,534

 

Scope2

80,807

95,940

95,383

羽田エリア(Scope1・2合計)

88,420

404,851

110,758

 

Scope1

11,813

14,967

19,194

 

Scope2

76,607

89,884

91,564

羽田空港外・車両他(Scope1・2合計)

6,060

8,561

7,159

 

Scope1

1,860

2,505

3,340

 

Scope2

4,200

6,056

3,819

Scope3(合計)

76,753

228,735

330,131

購入した製品・サービス

-

113,819

137,307

資本財

17,862

45,474

104,372

Scope1・2に含まれない燃料及びエネルギー関連活動

24,688

28,268

31,576

輸送・配送(上流)

3,881

10,193

23,135

事業から出る廃棄物

832

1,478

2,223

出張

-

45

119

通勤

-

-

1,868

13

リース資産(下流)

29,490

29,458

29,531

※1 対象範囲:羽田空港内における当社グループのCO2排出量(当社グループ保有の業務用車両による排出を

   除く)

   排出範囲:事業の運営により自家で消費したエネルギー起源CO2、廃棄物焼却に伴う非エネルギー起源CO2

   (国土交通省東京航空局による「東京国際空港脱炭素化推進計画」に合わせた目標値を用いています。)

※2 2050年の長期目標(ネットゼロ)については、当社グループ保有の業務用車両・空港外物件・その他

   非エネルギー起源CO2を含むすべての活動を対象としております。

(詳細)TCFD提言に基づく情報開示

(https://www.tokyo-airport-bldg.co.jp/files/tcfd.pdf)

 

(自然資本関連)

 以下の環境目標を設定し、取り組みを推進しています。

マテリアリティ

取り組み

具体的な指標

目標年

当社

2023年度

限りある

資源の

有効活用

環境に配慮した素材・商材の導入

直営物販店舗(自主編集)の全店においてエシカル商品※を展開する

※フードロス削減につながる商品、フェアトレード商品、リサイクル素材を使用した商品、認証ラベル・マークを取得している商品、地産地消を意識した商品、オーガニック商品、代替肉商品・代替ミルク商品等

2025

直営店舗全店(編集店舗)37店舗中12店舗で取り扱い

廃棄物の抑制・資源循環

ターミナルから出る廃棄物のリサイクル率を70%にする

2030

-

※2024年度より新KPIとして設定

当社グループ機内食事業における機内食製造時の食品残渣のリサイクル率95%

2025

-

※2024年度より新KPIとして設定

中水(トイレ洗浄水)の70%をターミナルで排出する雑排水、厨房排水の再利用でまかなう

2025

T1、T2ともに平均80%を雑排水・厨房排水・雨水湧水で運用中

 

上記の目標に加え、今後、自然資本に関する目標設定・取り組みの推進を拡充していくことを検討しています。

(詳細)TNFD提言に基づく情報開示

(https://www.tokyo-airport-bldg.co.jp/files/tnfd.pdf)

 

 

(人的資本・多様性関連)

 日本空港ビルグループでは、「人財育成方針」「社内環境整備方針」に関し、以下のとおり適切な指標と 目標を定め、その進捗を管理しています。

人財育成方針「自ら考え挑戦する人財の育成」に関する指標

指標

目標年

実績(前掲)

2023年度

2024年度

外部出向・共創プロジェクト派遣

毎年向上

年間25名

年間31

 

産産・産学連携等プロジェクト参加者数

毎年向上

年間4名/延べ24名

年間7名/延べ31

 

外部出向者数

毎年向上

年間21名

年間24

手上げ研修・教育参加者数

毎年向上

年間234名/延べ484名

年間147名/延べ631

 

社内アカデミー「学びROOM」参加者数

毎年向上

年間84名/延べ114名

年間59名/延べ173

 

社内知識習得セミナー参加者数

毎年向上

年間150名/延べ370名

年間88名/延べ458

手当支給対象専門資格取得者数

毎年向上

153名

155

ITパスポート取得率100%

2024年度

31.0%

(累計取得者数:60名)

33.9

(累計取得者数:75名)

社内環境整備方針「多様な人財が互いを高め合う企業風土の醸成」に関する指標

指標

目標年

実績

2023年度

2024年度

女性管理職比率40%の維持

2027年度

38.8%

37.0

男性育児休業取得率100%

2027年度

88.9%

88.9

男性育児休業平均取得期間

-

27.0日

21.1

男女間賃金格差(全労働者)

毎年削減

84.7%

83.0

男女間賃金格差(正規雇用労働者※1)

毎年削減

87.2%

83.6

男女間賃金格差(非正規雇用労働者※2)

毎年削減

48.2%

70.7

障がい者雇用率6.6%

2025年度

3.6%

5.1

外国人社員比率

実績管理

2.4%

2.2

中途社員の管理職登用率

実績管理

35.3%

36.2

 集計対象:日本空港ビルデング株式会社単体(2024年度末314名)(※一部記載のあるものについては連結)

 ※1 出向者を除く

 ※2 部長級の嘱託社員・審議役と中途採用社員(障がい者雇用含む)の合算値

 

 ≪男女間賃金格差の要因≫

 なお、男女間の賃金差について、当社において、同一労働における男女間賃金格差はありません。

上記格差の主な要因は以下のとおりです。数値はいずれも2024年度末時点のものです。

1.正規雇用労働者

平均年齢(男43.1歳、女37.6歳)、平均勤続年数(男13.8年、女12.3年)の差異による賃金格差への影響は大きくないと考えています。一方、管理職層への登用を進め、女性管理職の比率は約37%となっておりますが、部長級における比率は20%程度であり、上位管理職への登用の差が賃金格差に影響していると考えています。

この改善を図るべく、2023年度より課長級(男女共)管理職への上級役員による1to1のメンター制度を 導入し、上位管理職への育成強化を図ってきました。

また、女性社員が自分事として経営知識と自身・会社・社会を掛け合わせて考え、周りを巻き込み推進していくための意識改革やモチベーション向上を図るため、2024年度より外部セミナーへ4名を派遣いたしました。加えて2022年度より経営トップを務めた経験を持つ女性リーダーによる女性活躍推進セミナーやプログラムを実施しており、2024年度は女性管理職7名がメンター・メンティープログラムを実践しております。

2.非正規雇用労働者

非正規労働者の内、中途社員(障がい者雇用含む)は3名のみ(男性2名・女性1名)であり、男女間の賃金 格差はありません。一方、外部から招聘する部長級の嘱託社員・審議役は、ほぼ男性となっております。職務内容や責任の重さなどにより、前者の約2倍の賃金水準となっているため、双方の男女構成の差が賃金格差に影響していると考えています。

 

 (その他の関連非財務データ)

雇用者数が101人以上のグループ会社における状況(2024年度実績)

グループ企業名(略号)

ART

COS

JLO

JTC

HAE

HAS

HPS

女性管理職比率

18.6%

0.0%

28.6%

5.0%

75.9%

12.5%

18.2%

男性育児休業取得率

80.0%

85.7%

75.0%

男女間賃金格差(全労働者)

74.5%

72.6%

70.1%

73.8%

84.3%

91.0%

74.8%

男女間賃金格差(正規雇用労働者)

74.2%

85.1%

98.8%

84.2%

85.8%

83.8%

74.5%

男女間賃金格差(非正規雇用労働者)

82.6%

77.9%

87.2%

78.9%

68.7%

従業員数

361

277

189

293

541

160

288

(*)企業正式名称
ART 東京エアポートレストラン株式会社
COS コスモ企業株式会社
JLO 株式会社日本空港ロジテム
JTC 日本空港テクノ株式会社
HAE 株式会社羽田エアポートエンタープライズ
HAS 羽田エアポートセキュリティー株式会社

HPS 羽田旅客サービス株式会社

(*)「-」:対象者が0

 

3【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状況、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。ただし、これらは当社グループに関するすべてのリスクを網羅したものではなく、記載されていない他の事項が影響を及ぼす可能性もあります。また、本文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

当社グループは、これらのリスク発生の可能性を認識した上で、発生の回避及び発生した場合の対応に努めるとともに、これらのリスクが当社グループの事業戦略の遂行能力及び中長期的な企業価値に与える影響を考慮し、リスク管理体制の強化と適切な情報開示にも努めてまいります。

なお、当社は、当社子会社の取引先事業者の選定等に関して、当社が定めるコンプライアンス基本指針に照らして不適切な対応が行われていた事実が判明した事案について、2025年5月12日に国土交通省より行政指導にあたる厳重注意を受けました。株主の皆様やお客様をはじめとした関係者の皆様の信頼を取り戻すため、二度と同様の問題を繰り返さないよう、再発防止策の徹底に全力で取り組んでまいります。

 

(1) 当社グループの営業基盤について

当社グループは、羽田空港において空港法に基づく空港機能施設事業者としての指定を受けており、旅客ターミナル3棟及び立体駐車場2棟を建設・所有し、管理・運営する企業として、事務室等の賃貸のほか、空港内店舗における物品販売(食料品を含む)、飲食店舗の運営、機内食の製造・販売や旅行サービスの提供等を行っております。

また、成田空港等の拠点空港においても、物品販売や機内食の製造・販売等の飲食サービスの提供を行うほか、空港外に保有する社有地を有効活用した不動産賃貸等を行っており、長年培ってきた経験を活かして空港内外における新たな事業展開についても取り組んでおります。

 

(2) 当社グループのリスク管理体制について

公共性の高い旅客ターミナルの建設、管理・運営を担う当社グループにとって、事業の継続性を確保することは社会的使命であり、新たなリスクが顕在化する不確実な社会において、事業を取り巻くリスクを把握し、対策を講じることは組織のレジリエンス確保において重要な課題であると認識しております。

代表取締役社長を委員長とする「リスク管理委員会」を設置し、全社的なリスク情報を集約・評価し、優先的に対応すべきリスク(以下「優先リスク」)を特定しています。リスク管理委員会は、定期的に(年2回以上)開催され、優先リスクへの対応状況の確認、効果検証、及び新たなリスクの評価を行っております。審議内容は経営会議での承認を経て、取締役会へ半期ごとに報告され、取締役会はこれらのリスク管理状況を監督する体制となっております。また、リスク管理委員会は、サステナビリティ委員会やコンプライアンス推進委員会等の関連委員会と連携し、気候変動や人権、サプライチェーンといったサステナビリティ関連リスクを含む全社的リスクマネジメントを推進しています。

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(3) リスクマネジメントの全体プロセス

 当社グループは、リスク管理委員会を中心に、以下のPDCAサイクルに基づいたリスク管理プロセスを年に一度実施し、優先リスクへの対応策の進捗状況は半期に一度確認しております。

計画 (Plan):リスクの調査・識別、評価、対応計画の策定

国内外の社会経済情勢や事業環境の変化、中期経営計画およびマテリアリティ等を踏まえ、リスク管理委員会事務局が網羅的なリスク調査を実施します。特に人権・環境リスクは必須調査項目としています。

リスク管理委員会は、識別されたリスクを「影響の大きさ」と「発生頻度・拡大の速度」で評価し優先順位付けを行い、「純粋リスク」と「戦略リスク」等に分類します。

特定された優先リスクに対し、リスク所管部門が対応策を策定し、リスク管理委員会が年度計画として承認します。この計画は経営会議での整合性確認後、取締役会に報告・審議され監督を受けます。

 

実行 (Do):対応計画の実行

リスク所管部門は、承認された年度計画に基づきリスク対応策を実行します。

 

評価 (Check):モニタリングと評価

リスク管理委員会は、各対応策の進捗および有効性を半期ごとにモニタリング・評価し、必要に応じて計画や評価基準等を見直します。結果は経営会議および取締役会に報告され監督を受けます。

 

改善 (Action):対応計画の改善と実行

評価結果に基づき、対応計画の改善策を策定・実行し、リスク管理態勢の継続的な改善を図ります。

 

情報開示

本リスク管理プロセスおよび主要リスクへの対応状況は、本有価証券報告書、統合報告書、当社ウェブサイト等を通じて適時適切に開示・発信します。

 

(4) 当社グループの事業等のリスクについて

リスク管理プロセスにて記述のとおり、当社グループではリスクを性質により「純粋リスク」(危機管理、業務プロセス、経営基盤)と「戦略リスク」(事業環境変化)に大別しております。この分類の考え方及び概要を下表に示します。

0102010_010.png

表の分類に従い、2024年度に特定・更新した優先リスク18項目及び主な対応状況は以下のとおりです。これらは、当社グループの経営戦略及び事業継続に重要な影響を与える可能性があると認識しており、影響を最小限に留めるべく取り組んでおります。

 

1.純粋リスク

 純粋リスクは、事業運営上、顕在化を抑止する必要のあるリスクであり、ハード(施設設備)・ソフト(仕組み・計画)・ヒューマン(訓練)の対応策により影響の極小化を図るものです。また、経営基盤に関するリスクは、構築が不十分な場合にそれ自体がリスクとなる項目です。

 

①危機管理(外的要因)

・テロ・破壊活動

リスク概要:空港又は旅客ターミナルにおけるテロ・破壊活動の発生は、人的・物的損害に加え、空港機能の停止や社会的信用の失墜等、事業継続に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

主な対応策:関係機関との連携による警備体制の強化や、ハード・ソフト両面からの継続的な対策として、最新技術を活用した防犯システムの高度化や施設設備の強化、従業員への教育・訓練を実施しています。

 

・空港機能の著しい低下(自然災害・事故)

リスク概要:大規模地震、異常気象等の自然災害や、航空機事故、大規模停電等の事故発生により、空港施設やライフラインに甚大な被害が生じ、空港機能が長期間停止した場合、当社グループの経営成績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。特に2024年1月に発生した羽田空港での航空機衝突事故は、空港機能維持の重要性を改めて認識させるものでした。

主な対応策:施設の耐震化・防災対策の推進や重要施設の二重化・分散化を含む長期修繕計画の着実な実行に加え、実効性のある事業継続計画(BCP)を策定し、災害対策マニュアルの整備・周知や実践的な訓練の実施、非常時備蓄品の確保などを通じて、その検証・更新を行っています。航空機事故発生時の対応体制についても、関係機関と連携し強化を図っています。

 

・重大な感染症のまん延

リスク概要:国内外での新たな感染症の発生・まん延は、渡航制限や航空需要の著しい減少、従業員の感染による事業運営体制の縮小等を通じて、当社グループの事業活動全般に広範かつ長期的な影響を及ぼす可能性があります。

主な対応策:旅客及び従業員の安全確保を最優先とした感染拡大防止対策を継続的に実施しており、非接触技術の活用や施設内の衛生管理の徹底、従業員の感染予防策の強化を図っています。感染症対応版BCPに基づく行動計画の周知徹底や、航空需要の変動に対応した柔軟な事業運営体制の構築にも努めています。

 

・サイバーセキュリティ対策不備

リスク概要:当社グループが保有する顧客情報・技術情報・経営情報等の機密情報漏洩、基幹システムの停止、ランサムウェア攻撃等、サイバー攻撃の脅威はますます高度化・巧妙化しています。これらの攻撃により、事業運営の混乱、社会的信用の失墜、経済的損失、法的責任等が発生する可能性があります。

主な対応策:デジタル事業推進室担当役員を責任者とするJAT-CSIRT(サイバーセキュリティインシデント対応体制)を構築し、24時間365日の監視体制、IT-BCPの整備と訓練、外部専門機関との連携強化を進めています。

 

②業務プロセス(内部要因)

・商品管理不備(食の安全・過剰在庫)

リスク概要:空港内店舗における食料品販売や飲食店舗運営、機内食製造において、食中毒や異物混入等の品質保証問題が発生した場合、顧客の健康被害、行政処分、ブランドイメージの毀損、売上減少等に繋がる可能性があります。また、不適切な在庫管理は、キャッシュ・フローの悪化や廃棄ロス増加による環境負荷増大を招く恐れがあります。

主な対応策:衛生管理手法に基づく品質管理体制の強化、従業員への衛生教育の徹底、サプライヤー管理の強化を実施しています。需給予測精度の向上と適正在庫の維持に努め、食品ロス削減にも取り組んでいます。

 

・サプライチェーンマネジメントの不備

リスク概要:当社グループの事業活動は、多数の国内外の取引先に依存しており、自然災害、感染症、地政学的リスク、人権侵害(強制労働・児童労働等)、環境規制強化等によるサプライチェーンの途絶や混乱は、商品・原材料の調達難、コスト上昇、レピュテーション低下等を引き起こす可能性があります。

主な対応策:サステナビリティ委員会傘下にサプライチェーン分科会を設置し、サプライヤーに対するESGプログラムを推進しています。具体的には、サステナブル調達基準の策定・遵守要請や、人権デューデリジェンスの一環として取引先へのアンケート調査や対話を通じた適合状況の確認を実施し、サプライチェーン全体の強靭化と持続可能性向上に努めています。

 

③経営基盤(人財・財務)

・人財不足・育成不足、エンゲージメント低下

リスク概要:少子高齢化に伴う労働力人口の減少や働き方の多様化が進む中、事業拡大やサービス品質維持に必要な人財の獲得競争が激化しています。人財の不足や育成の遅れ、従業員エンゲージメントの低下は、店舗運営の制約、新規事業推進の遅延、イノベーション創出の阻害、企業文化の劣化等を通じて、中長期的な競争力低下に繋がる可能性があります。

主な対応策:中期経営計画及びサステナビリティ中期計画に基づき、「自ら考え挑戦する人財」の育成方針のもと、戦略的な採用活動による人員体制の確立や、研修制度の充実に取り組んでいます。複線型人事制度の導入や各種セミナーの実施、メンター制度の運用など、働きがいのある職場環境整備も推進しています。従業員エンゲージメントサーベイの結果を活用し、課題把握と改善施策へ繋げ、PDCAサイクルで人財施策の効果を管理することとしています。

 

・グループガバナンスの不足

リスク概要:当社グループは多岐にわたる事業を複数のグループ会社を通じて展開しており、グループ全体としての一体的な経営戦略の推進や内部統制システムの実効性確保が不可欠です。グループ会社間での情報連携不足や本社方針の浸透不足、各社における不正行為やコンプライアンス違反等が発生した場合、グループ全体の信用失墜や経営効率の低下を招く可能性があります。

主な対応策:グループ内部統制整備・運用状況のPDCAサイクルを推進するとともに、2024年度に全面更新した「コンプライアンス基本指針」及び「行動規範」のグループ全社員への浸透・徹底を図っています。グループ会社の経営状況のモニタリング等を通じて、グループガバナンス体制の強化に継続的に取り組んでいます。

また、2025年5月9日に公表した特別調査委員会の調査報告書を踏まえた2025年6月12日付「再発防止策の策定及び取締役の処分に関するお知らせ」記載の各再発防止策について、速やかに検討・実行してまいります。

 

・DEI推進・人権尊重の不足

リスク概要:ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)への取り組みの遅れや、サプライチェーンを含む事業活動全体における人権侵害(強制労働、児童労働、ハラスメント等)の発生は、従業員のモチベーション低下、採用競争力の低下、企業イメージの失墜、顧客や投資家からの評価低下、不買運動や訴訟等に繋がる可能性があります。

主な対応策:「多様な人財が互いを高め合う企業風土の構築」を掲げ、DEI推進体制の強化、各種研修の実施、相談窓口の設置、働きやすい環境整備等を進めています。「人権方針」を策定し、人権デューデリジェンスの仕組みを構築・運用し、サプライヤーに対しても人権尊重を働きかけています。カスタマーハラスメントに対する方針を策定し、従業員の安心と業務の質向上に努めています。

 

・財務制限条項抵触

リスク概要:大規模な設備投資等に伴う有利子負債の増加や、著しい収益性の悪化により、金融機関との借入契約に付されている財務制限条項に抵触した場合、当該借入金の一括返済を求められる等、当社グループの資金繰り及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。

主な対応策:中期経営計画に基づく着実な事業運営と収益力強化、資本コストを意識した投資判断、安定的なキャッシュ・フローの創出に努めています。財務状況を定期的にモニタリングし、月次での収支・資金推移の確認や、グループ各社・金融機関・監査法人等との情報共有を強化しています。

 

・同意なき買収

リスク概要:当社株式の大量買付行為等により、当社グループの企業価値ひいては株主共同の利益を害する者が経営支配権を取得しようとする場合、当社グループの経営方針に重大な影響が生じる可能性があります。

主な対応策:企業価値及び株主共同の利益の継続的な向上に努めるとともに、平時から株主との建設的な対話を促進し、経営方針への理解を深めていただく活動を推進しています。買収防衛策については株主総会での決議に基づき継続するとともに機関投資家とのエンゲージメント強化や政策保有株に関する方針決定、大株主の動向分析など、ステークホルダーとのコミュニケーションを重視した対応を行っています。大量買付行為等への対応方針については、その是非や具体的な対応策を適宜検討しています。

 

2.戦略リスク

 戦略リスクは、外部環境の変化による顕在化が想定され、経営戦略において損失の防止もしくは機会の伸長及び転換が求められるリスクです。

 

④事業環境変化(外部環境変化への経営戦略対応)

・環境課題への対応

リスク概要:気候変動に伴う物理的リスク(異常気象による施設被害等)及び移行リスク(炭素税導入等の規制強化、省エネ・再エネ導入コスト増、顧客や社会からの脱炭素要請の高まり等)は、当社グループの事業運営コストの増加、設備投資負担の増大、企業評価の低下、資金調達への悪影響等をもたらす可能性があります。また、廃棄物処理や水資源利用等、環境負荷低減への取り組みが不十分な場合も同様のリスクが想定されます。

主な対応策:サステナビリティ中期計画に基づき、2050年ネットゼロ達成に向け、再生可能エネルギー導入拡大、省エネルギー設備の導入、空港内車両のEV化等を推進しています。加えて、廃棄物は発生抑制・再利用・再生利用(3R)を基本に適正処理と削減に努め、分別徹底とリサイクル率向上を推進します。水資源は節水設備導入や雨水・中水活用等により使用量削減と効率的な利用を図っています。

 

・行動様式変化・技術革新への対応の遅れ

リスク概要:オンライン会議の普及やワーケーション等の新しい働き方の定着によるビジネス航空需要の構造的変化、ECサイト利用拡大やキャッシュレス化の進展による空港内店舗での購買行動の変化、自動化・省人化技術の急速な発展等、旅客の行動様式や関連技術は常に変化しています。これらの変化への対応が遅れた場合、既存ビジネスモデルの陳腐化や競争力の低下を招く可能性があります。

主な対応策:顧客ニーズや市場トレンドの変化を的確に捉え、DX(デジタルトランスフォーメーション)戦略に基づき、非接触技術の導入、オンラインサービスの拡充、データ分析に基づくパーソナライズされたサービスの提供、スマートエアポート化の推進等に取り組んでいます。新たな技術の活用による業務効率化や新サービス開発にも積極的に挑戦し、変化を機会と捉えた事業変革を進めています。

 

・政策(公的規制)の変更

リスク概要:空港の管理・運営、保安、環境、労働等に関する法令・制度・政策の変更、新たな規制の導入は、当社グループの事業活動や投資計画に影響を与える可能性があります。特に、国土交通省が進める空港経営改革の動向は、事業環境に大きな変化をもたらす可能性があります。

主な対応策:関連省庁や業界団体との連携を通じて、政策動向に関する情報収集を常に行い、規制変更等への早期対応準備を進めています。航空保安体制の強化や効率的な空港運用への貢献など、社会的要請に応じた対応にも積極的に取り組んでいます。

 

・新規事業・買収・設備投資の実施に伴うリスク

リスク概要:成長戦略の一環として行う新規事業への進出、M&A、大規模な設備投資は、期待した成果が得られない、投資回収が長期化する、あるいは市場環境の変化等により事業計画が未達に終わる等のリスクを伴います。海外事業においては、政局不安や法制度の変更等のカントリーリスクも存在します。

主な対応策:投資案件については、資本コストを意識した事業評価の重要性を認識しており、十分な市場調査、事業性評価、リスク分析を行った上での具体的な投資判断基準やリターン管理の枠組みの検討を進めております。

 

・市況の急激・大幅変動

リスク概要:原材料価格やエネルギー価格の高騰、為替レートの急変動、金利の上昇等は、当社グループの調達コスト、運営費用、設備投資額の増加や、顧客の購買意欲低下を通じて、収益性や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。ロシア・ウクライナ情勢の長期化等に起因する資源価格高騰やサプライチェーンの混乱も注視が必要です。

主な対応策:調達先の多様化等による価格変動リスクのヘッジ、効率的な在庫管理によるコスト負担軽減策を継続的に実施しています。経済動向や市場環境を注視し、事業計画や価格戦略に柔軟に反映させる体制を構築しています。

 

・売上構成多様化(航空依存緩和)の遅れ

リスク概要:当社グループの収益は、航空旅客数や航空会社の事業活動に大きく依存しています。感染症の再流行、国際紛争、景気後退等による航空需要の急減が発生した場合に、非航空系事業(空港外事業等)による収益基盤が十分に確立されていない場合、経営成績が大きく変動するリスクがあります。

主な対応策:中期経営計画に基づき、羽田空港の機能強化に貢献しつつ、これまでの事業で培ったノウハウを活かした新たな収益機会の創出(空港周辺開発、デジタルプラットフォーム事業、海外空港運営事業への参画等)を推進しています。

 

・国際情勢の変化

リスク概要:地政学的リスクの高まり(例:台湾有事による日中関係の悪化等)、国家間の対立、テロリズムの頻発、保護主義的政策の台頭等は、国際的な人の往来や物流を停滞させ、国際線の航空需要減少やサプライチェーンの混乱を通じて、当社グループの事業に影響を及ぼす可能性があります。

主な対応策:主要な国際情勢や各地域の動向を継続的に注視し、情報収集・分析体制を強化しています。

 

(5) 将来を見据えたリスク対応

当社グループは、上記のリスクに加え、今後顕在化しうる新たなリスク(エマージングリスク)についても継続的に注視し、その早期認識と迅速な対応に努めます。リスク管理体制及びプロセスは、事業環境の変化や当社グループの成長に合わせて継続的に見直しを行い、実効性の向上を図る方針です。これらの取り組みを通じて、不確実性の高い事業環境においても、持続的な成長と企業価値の向上を目指します。

 

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)業績等の概要

①経営成績等の業績の概要

当連結会計年度における我が国経済は、緩やかに回復していますが、米国の通商政策等による不透明感がみられます。先行きについては、雇用・所得環境の改善や各種政策の効果が緩やかな回復を支えることが期待されますが、米国の通商政策の影響による景気の下振れリスクが高まっています。加えて、物価上昇の継続が消費者マインドの下振れ等を通じて個人消費に及ぼす影響なども、景気を下押しするリスクとなっています。また、金融資本市場の変動等の影響に一層注意する必要があります。

航空業界では、訪日外国人旅客数は過去最高となり、日本人のアウトバウンドや国内線旅客数においても着実な回復が続きました。羽田空港の旅客数は年度を通して堅調に推移し、国内線は前年を上回り、コロナ影響前の2019年(暦年)対比で9割超の水準となりました。国際線は過去最高だった前年を約2割上回りました。

このような中、当社グループは、長期ビジョン“To Be a World Best Airport”の実現に向けて、中期経営計画の各施策を着実に遂行しています。

施設面では、安心・快適で先進的な空港づくりに取り組み、空調機器や照明設備の省エネ対応や、施設・搬送設備の耐震化、防犯設備の更新などを進めました。本年3月には第2ターミナル北側サテライトと本館を接続し、サテライトと本館間のバス移動の必要がなくなったことに加え、ターミナル拡張に伴う移動を支援するサービスとして複数人乗り自動走行モビリティ「iino」を日本で初めて本格導入しました。国内線固定搭乗橋を3か所(5スポット)新設したことにより、ターミナル南側の一部のスポットで行っていた国内線と国際線を時間帯で切り替えるスイング運用を終了し、国際線専用での運用としました。その他、安全対策やCO2削減等の環境対策を含めた施設整備、旅客利便性向上への取組みに係る運用経費等が増加していることから、本年4月に国内線旅客取扱施設利用料を改定しました。さらに、将来へ向けた投資計画として、第1ターミナル北側サテライト建設工事などを着実に推進しています。

営業面では、国内線では商業区画の再編整備を進め、第1ターミナル地下1階フードコートのリモデルに着手したほか、2階の「特選和菓子館」を改装し、“洗練”と“上質”をテーマにした新店舗「HANEDA STAR & LUXE」を2月にオープンしました。また、人気キャラクターとタイアップした催事や全国各地の自治体と連携したイベントを積極的に展開しました。国際線では旺盛なインバウンド需要を取り込むべく、総合免税店のレジ待ち時間短縮を目的としたレジ増設やレイアウト変更を実施するとともに、ブティック店舗の改装・リニューアルを順次行っています。加えて、各店舗の営業時間拡大を進めるとともに、旅客属性(中国人 富裕層等)に見合った商品を豊富に取り揃え潤沢に在庫を確保し、新規ブランドの導入や催事展開を積極的に実施するなど、売上向上に努めました。

なお、羽田空港隣接の「HANEDA INNOVATION CITY」に開設した研究開発拠点「terminal.0 HANEDA」は開業1年を迎えました。前述の「iino」など、羽田空港のさまざまな課題解決に向けた研究開発や実証実験を行っています。

経営基盤の面では、人財が最重要資本と認識し、引き続き、労働生産性向上と待遇改善に取り組み、専門性向上に向けた各種研修プログラムの強化や、インナーブランディング活動“プラスワンプロモーション”等を通じて、「自ら考え挑戦する人財」の活躍、多様な人財が互いを高め合う企業風土の構築を目指しています。DX戦略では、デジタルの力で事業変革を進める「攻めのDX」と、既存業務を効率化する「守りのDX」の2つの視点からDXを推進し、データドリブン経営や業務効率化など、デジタル技術を活用した変革と進化を追求しています。財務戦略では、今後の環境に配慮した設備投資に向けて、グリーンボンドにより120億円の資金調達を実施し、調達の安定性向上、手段の多様化に努めております。

サステナビリティ関連では、放射冷却素材「Radi-Cool」の販売を拡大し、空港だけでなく、鉄道や飲食店舗等、全国各地のさまざまな業界へ展開しています。また、第2ターミナルサテライト接続施設に建材一体型太陽光発電ガラス「サンジュール®」を採用したほか、空港車両のEV(電気自動車)化を推進するべく、EVと充電設備を一体で提供するサービスを羽田空港にて開始するなど、人にも環境にもやさしい空港の実現に向けた取り組みを推進しています。

以上の結果、当連結会計年度の業績については、営業収益は2,699億2千3百万円(前期比 24.1%増)となりました。売上増加やターミナル運用の拡大に伴い、営業費用は増加しましたが、国際線売店売上の増加等が牽引し、営業利益は 385億5千7百万円(前期比 30.6%増)、経常利益は 357億2千3百万円(前期比 31.2%増)となり、一部の子会社で繰延税金資産を積み増したこともあり、親会社株主に帰属する当期純利益は 274億7千万円(前期比 42.7%増)となりました。

 

                                                 (単位:百万円)

区 分

前連結会計年度
(自 2023年4月1日
  至 2024年3月31日)

当連結会計年度
(自 2024年4月1日
  至 2025年3月31日)

前年比
増減率
(%)

営 業 収 益

217,578

269,923

24.1

 

施設管理運営業

91,736

105,540

15.0

 

物品販売業

111,175

147,666

32.8

 

飲食業

14,667

16,716

14.0

営 業 利 益

29,527

38,557

30.6

経 常 損 益

27,225

35,723

31.2

親会社株主に帰属する
当期純利益

19,225

27,470

42.7

羽田空港旅客ターミナルは、英国SKYTRAX社の“World Airport Star Rating”において、世界最高水準である「5スターエアポート」を11年連続で獲得しました。また、2025年国際空港評価において、空港の清潔さなどを評価する部門(10年連続)、国内線空港総合評価部門(13年連続)、PRM対応部門(7年連続)で世界第1位の評価をいただき、アジア空港の総合評価「Best Airports in Asia」部門で第2位、空港の総合評価「World's Best Airports」部門で世界第3位を受賞しました。

(※ PRMは、Persons with Reduced Mobilityの略で、高齢者、障がいのある方や怪我をされた方の意味。)

今後とも引き続き、当社グループは、社会インフラである旅客ターミナルにおける絶対安全の確立に努めるとともに、利便性・快適性及び機能性の向上を目指し、絶え間ない羽田空港の価値創造と航空輸送の発展に貢献することにより、企業価値の向上を図ってまいります。

 

セグメント別の概況

セグメント別の業績は次のとおりです。なお、各事業における売上高はセグメント間の内部売上高を含み、営業利益はセグメント利益に該当します。

 

(施設管理運営業)

                                                 (単位:百万円)

区 分

前連結会計年度
(自 2023年4月1日
  至 2024年3月31日)

当連結会計年度
(自 2024年4月1日
  至 2025年3月31日)

前年比

増減率

(%)

外部顧客への売上高

91,736

105,540

15.0

 

家賃収入

20,020

20,693

3.4

 

施設利用料収入

52,436

60,258

14.9

 

その他の収入

19,279

24,587

27.5

セグメント間の内部売上高

3,126

3,397

8.7

売上高 合計

94,862

108,937

14.8

セグメント利益

17,880

19,495

9.0

家賃収入については、事務室賃料や店舗の歩合賃料が増加し、前期を上回りました。

施設利用料収入については、主に国際線旅客取扱施設利用料収入の増加等により、前期を上回りました。

その他の収入については、主に国際線において、直営外貨両替所やラウンジ、広告料等の収入が増加し、前期を大きく上回りました。

費用面では、旅客数の増加や物価上昇に伴う業務委託費等のターミナル維持管理コストや、賃借料(国有財産使用料)等が増加しましたが、収益の増加やその他のコスト抑制に努めたことにより、前期から増益となりました。

その結果、施設管理運営業の営業収益は 1,089億3千7百万円(前期比 14.8%増)となり、営業利益は 194億9千5百万円(前期比 9.0%増)となりました。

 

(物 品 販 売 業)

                                                 (単位:百万円)

区 分

前連結会計年度
(自 2023年4月1日
  至 2024年3月31日)

当連結会計年度
(自 2024年4月1日
  至 2025年3月31日)

前年比

増減率

(%)

外部顧客への売上高

111,175

147,666

32.8

 

国内線売店売上

13,097

14,445

10.3

 

国際線売店売上

70,039

95,282

36.0

 

その他の売上

28,037

37,938

35.3

セグメント間の内部売上高

1,561

1,711

9.6

売上高 合計

112,736

149,377

32.5

セグメント利益

21,084

29,387

39.4

国内線売店売上については、国内線旅客数の増加及び催事展開・MD変更等の施策効果により購買単価が上昇し、前期を上回りました。

国際線売店売上については、羽田空港や成田空港等での国際線旅客数の増加や、上期における免税売店での購買率・単価の上昇、銀座市中免税店の売上向上により、前期を大きく上回りました。

その他の売上については、訪日外客数の増加に伴い、他空港への卸売上が増加したこと等により、前期を大きく上回りました。

費用面では、売上増に伴い、商品売上原価や業務委託費、他空港店舗の支払家賃等が増加しましたが、売上の増加により営業利益は前期を大きく上回りました。

その結果、物品販売業の営業収益は 1,493億7千7百万円(前期比 32.5%増)となり、営業利益は 293億8千7百万円(前期比 39.4%増)となりました。

 

(飲  食  業)

                                                 (単位:百万円)

区 分

前連結会計年度
(自 2023年4月1日
  至 2024年3月31日)

当連結会計年度
(自 2024年4月1日
  至 2025年3月31日)

前年比

増減率

(%)

外部顧客への売上高

14,667

16,716

14.0

 

飲食店舗売上

7,206

8,515

18.2

 

機内食売上

6,179

6,899

11.7

 

その他の売上

1,281

1,302

1.6

セグメント間の内部売上高

722

963

33.4

売上高 合計

15,389

17,680

14.9

セグメント利益

65

579

790.0

飲食店舗売上については、旅客数の増加のほか、前年に休業や時短営業をしていた店舗の営業を正常化したこと等により、前期を上回りました。

機内食売上については、羽田、成田における外国航空会社の旅客数の増加により、前期を上回りました。

その結果、飲食業の営業収益は 176億8千万円(前期比 14.9%増)となり、人件費の増加や食材価格高騰の影響を受けながらも、営業利益は 5億7千9百万円(前期比 790%増)となりました。

 

②キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ 104億8千3百万円増加し、858億7千8百万円となりました。

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べ 60億5千1百万円増加(前年比 12.7%増)し、538億1千3百万円の収入となりました。

これは主に、税金等調整前当期純利益を計上したことによるものです。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べ 301億4千2百万円支出が減少(前年比 70.1%減)し、128億4千3百万円の支出となりました。

これは主に、有形固定資産の取得による支出によるものです。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べ 108億7千9百万円支出が増加(前年比 55.4%増)し、305億2千9百万円の支出となりました。

これは主に、長期借入金の返済による支出、配当金の支払いによるものです。

 

 

③生産、受注及び販売の状況

当社グループの事業は、「第1 企業の概況 3.事業の内容」において記載したとおりの業種、業態により、生産実績等について、セグメントごとの生産規模及び受注規模を記載することは困難であります。

このため、生産、受注及び販売の状況については、「業績等の概要」における各セグメント業績に関連付けて記載しております。

なお、当連結会計年度の営業収益実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

前連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

当連結会計年度

(自 2024年4月1日

至 2025年3月31日)

前年同期比(%)

施設管理運営業(百万円)

91,736

105,540

15.0

 

家賃収入(百万円)

20,020

20,693

3.4

 

施設利用料収入(百万円)

52,436

60,258

14.9

 

その他の収入(百万円)

19,279

24,587

27.5

物品販売業(百万円)

111,175

147,666

32.8

 

国内線売店売上(百万円)

13,097

14,445

10.3

 

国際線売店売上(百万円)

70,039

95,282

36.0

 

その他の売上(百万円)

28,037

37,938

35.3

飲食業(百万円)

14,667

16,716

14.0

 

飲食店舗売上(百万円)

7,206

8,515

18.2

 

機内食売上(百万円)

6,179

6,899

11.7

 

その他の売上(百万円)

1,281

1,302

1.6

 

合計(百万円)

217,578

269,923

24.1

(注)1.セグメント間の取引については相殺消去しております。

2.施設管理運営業の家賃収入における貸付状況は、次のとおりであります。

区      分

前連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

当連結会計年度

(自 2024年4月1日

至 2025年3月31日)

 

比率(%)

 

比率(%)

所有総面積 (㎡)

970,497

 

1,010,556

 

貸付可能面積(㎡)

332,792

100.0

334,673

100.0

貸付面積  (㎡)

324,519

97.5

328,148

98.1

 

航空会社    (㎡)

158,359

47.6

159,546

47.7

 

一般テナント  (㎡)

62,281

18.7

63,446

19.0

 

当社グループ使用(㎡)

103,877

31.2

105,155

31.4

 

(2)財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループ(当社及び連結子会社)が判断したものであります。

①財政状態の分析

(資産)

流動資産は、前連結会計年度末に比べ 101億7千7百万円増加し、1,309億3千3百万円となりました。

これは主に、営業収益の増加に伴い売掛金が増加したことによるものです。固定資産は、前連結会計年度末に比べ6億4千5百万円減少し、3,390億2千1百万円となりました。これは主に、減価償却に伴う減少によるものです。

この結果、総資産は前連結会計年度末に比べ 95億3千1百万円増加し、4,699億5千5百万円となりました。

 

(負債)

負債合計は、前連結会計年度末に比べ 227億7千8百万円減少し、2,716億8百万円となりました。

これは主に、固定資産の取得に伴う未払金の増加があるものの、約定返済及び期限前弁済に伴い長期借入金が減少したことによるものです。

 

(純資産)

純資産合計は、前連結会計年度末に比べ 323億1千万円増加し、1,983億4千7百万円となりました。

これは主に、利益剰余金及び非支配株主持分が増加したことによるものです。

この結果、自己資本比率は、39.9%(前連結会計年度末は 36.5%)となりました。

 

②経営成績の分析

当社グループの当連結会計年度の経営成績及びセグメント別の売上につきましては、「(1)業績等の概要 ①経営成績等の業績の概要」に記載しております。

当社グループは、2022年度から2025年度の中期経営計画において、指標及び2025年度(最終年度)の目標値を以下のとおり定めております。

 

分類

指標

2025年度目標値

収益性(総合)

連結当期純利益

200億円以上

収益性

コスト削減策

25億円
(前中計の営業利益目標250億円の10%相当)

効率性

ROA(EBITDA)

12%以上

安定性

自己資本比率

40%台への回復を目指す

株主還元

配当性向

30%以上

空港評価

SKYTRAX評価順位

World's Best Airports TOP3

詳細は、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等(2)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」に記載しております。

当連結会計年度における各指標の進捗状況は次の通りです。

[連結当期純利益][コスト削減策]

当連結会計年度の連結当期純利益は 274億7千万円となりました。

コロナ禍での学びを活かした運用の見直しやポスト削減の継続、ロボット等の技術活用、省エネに向けた設備更新などのコスト削減施策は順調に進捗しております。

[ROA(EBITDA)]

当連結会計年度のROA(EBITDA)は14.3%となっております。

[自己資本比率]

当連結会計年度末時点の自己資本比率は39.9%となっております。

[配当性向]

当連結会計年度の配当性向は30.5%となっております。

[SKYTRAX評価順位]

本年3月の“WORLD AIRPORT AWARDS 2025”において、羽田空港旅客ターミナルは「World's Best Airports」部門で世界第3位となりました。

当連結会計年度においては、主に国際線旅客数の増加が業績をけん引し、特に上期の国際線売店売上が大幅に増加しました。ターミナル運用の拡大などで費用は増加しましたが、営業利益と経常利益は、2期連続で過去最高益を更新し、連結当期純利益は、中期経営計画の目標数値を1年前倒しで達成することができました。2025年度は、物価上昇が継続し費用の増加が見込まれ、さらなるコスト削減は難しい状況ですが、より筋肉質な運営体制を実現すべく、コスト削減施策の確実な遂行と適正な価格転嫁を実施し、連結当期純利益をはじめとする各指標の目標達成を目指します。

 

③キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

キャッシュ・フローの分析については、「(1)業績等の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載しております。

当社グループの資本政策につきましては、財務の健全性や資本効率など当社にとって最適な資本構成を追求しながら、平素より旅客ターミナルビル等への大規模設備投資に備えて内部留保の充実と株主への利益還元との最適なバランスを考え実施していくことを基本としております。

運転資金は自己資金を基本としておりますが、不測の事態に対応したコミット期間付タームローン及びコミットメントライン契約を合計90億円の極度額で設定しております。

旅客ターミナルビル等の大規模設備投資資金については、自己資金、金融機関からの長期借入及び社債等による調達を基本としております。さらに、シングルAプラス以上の格付(日本の格付機関)を維持することで資金調達の多様化、安定化及び資金調達コストの低減を図るとともに、設備投資に対応する借入の一部については、過度に金利変動リスクにさらされないよう金利スワップなどの手段を活用しております。連結子会社のうち、PFI事業である東京国際空港ターミナル株式会社につきましては、事業の安定性及び継続性が第一に求められており、旅客ターミナルビル等の大規模設備投資はプロジェクトファイナンスの手法を用いて長期借入金等による調達を実施しております。

また、当社グループは資金の効率的な活用と金融費用の削減を目的として、CMS(キャッシュ・マネジメント・システム)を導入し、グループ内の資金調達・管理の一元化を行っております。

当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は858億7千8百万円、借入金等を含む有利子負債残高は2,057億3千2百万円となりました。

 

④重要な会計方針及び見積り

当社の連結財務諸表及び財務諸表は、我が国における一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成しております。これらの財務諸表の作成の基礎となる取引は会計記録に適切に記録しており、棚卸資産評価損については滞留品に対して評価損率を乗じて計算して計上し、繰延税金資産については回収可能性を十分に検討した回収可能額を計上しております。

なお、連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5.経理の状況 1.連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

 

⑤今後の見通し

次期においては、羽田空港の旅客数は、国内線・国際線ともに着実に増加する見通しです。国際線は当期までに順調に復便・新規就航が進み、次期においては発着枠の上限に近づく中で、既就航便の運行数増加や、中国とのビザ緩和措置等の効果が見込まれます。

このような中、当社グループは中期経営計画の最終年度を迎え、コロナ禍から取り組んできた施策の成果を実現し、さらなる収益・利益の拡大を目指してまいります。

当期においては、コロナ禍で抑制してきた人件費や修繕費のほか、国際線国有財産使用料における歩合賃料の発生などにより、費用は前期から大きく増加しました。次期においては費用の増加幅は縮小するものの、物価上昇に加え、ターミナルの拡張に伴う費用増が予想され、引き続き、増収施策により費用増を吸収するとともに、生産性向上に努めます。

セグメント別には、旅客数の増加に伴いすべてのセグメントで増収増益を予想しております。

施設管理運営業では、家賃収入の増加や国内線施設利用料の改定等による増収と、第2ターミナル北側サテライト―本館接続施設の供用に伴い減価償却費や維持管理費等の費用増を見込んでいます。物品販売業では、上期に免税店購買単価の反動減が予想される一方で、購買率の上昇や他空港への卸売上等の増加を見込んでいます。飲食業は、一部店舗のテナント化により飲食店舗売上が減少しますが、機内食売上の増加やコスト低減等により、売上利益ともに当期を上回る予想です。

 

以上により、次期の連結業績見通しについては、営業収益は3,000億円(当期比 11.1%増)、営業利益は 405億円(当期比 5.0%増)、経常利益 385億円(当期比 7.8%増)、親会社株主に帰属する当期純利益 245億円(当期比 10.8%減)を予想しております。

 

 

2024年度
(実績)※

2025年度
(予想)

増減率
(%)

羽田国内線

6,417万人

6,704万人

4.5

羽田国際線

2,292万人

2,365万人

3.2

羽田空港全体

8,709万人

9,069万人

4.1

営業収益

2,699億円

3,000億円

11.1

営業利益

385億円

405億円

5.0

経常利益

357億円

385億円

7.8

親会社株主に帰属する当期純利益

274億円

245億円

△ 10.8

※2024年度旅客数は東京航空局発表の速報値より当社集計

 

 

5【重要な契約等】

 特記事項はありません。

 

6【研究開発活動】

 特記事項はありません。