第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

1.会社の経営の基本方針

当社グループでは、都市交通、不動産、エンタテインメント、情報・通信、旅行及び国際輸送の6つの事業を主要な事業領域と位置付け、グループ経営機能を担う当社(純粋持株会社)の下、阪急電鉄㈱、阪神電気鉄道㈱、阪急阪神不動産㈱、㈱阪急交通社及び㈱阪急阪神エクスプレスの5社を中核会社として、グループ全体の有機的な成長を目指しています。

 

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当社グループは、鉄道事業をベースに住宅・商業施設等の開発から阪神タイガースや宝塚歌劇など魅力溢れるエンタテインメントの提供に至るまで、多岐にわたる分野において、それまでになかったサービスを次々と提供することにより、沿線をはじめ良質な「まちづくり」に貢献するとともに、社会に新風を吹き込み、100年以上の長い歴史の中で数々の足跡を残してきました。そして、これらの活動等を通じて、暮らしを支える「安心・快適」、暮らしを彩る「夢・感動」を絶えずお客様にお届けしてきました。今後も、グループの全役員・従業員が、お客様の日々の暮らしに関わるビジネスに携わることに強い使命感と誇りを持ち、そうした思いを共有し、一丸となって業務にあたっていく上での指針として、以下のとおり「阪急阪神ホールディングス グループ経営理念」を制定しています。

 

阪急阪神ホールディングス グループ経営理念

使命(私たちは何のために集い、何をめざすのか)

「安心・快適」、そして「夢・感動」をお届けすることで、お客様の喜びを実現し、社会に貢献します。

 

価値観(私たちは何を大切に考えるのか)

お客様原点

すべてはお客様のために。これが私たちの原点です。

誠実

誠実であり続けることから、私たちへの信頼が生まれます。

先見性・創造性

時代を先取りする精神と柔軟な発想が、新たな価値を創ります。

人の尊重

事業にたずさわる一人ひとりが、かけがえのない財産です。

 

行動規範(「価値観」を守り、「使命」を果たしていくために、私たちはどのように行動するのか)

1. 私たちは、出会いを大切にし、お客様の立場に立って最善を尽くします。

2. 私たちは、法令遵守はもとより、社会的責任を自覚して行動します。

3. 私たちは、仕事に責任と誇りを持ち、迅速にやり遂げます。

4. 私たちは、目先のことのみにとらわれず、中長期的な視点で考えます。

5. 私たちは、現状に満足することなく、時代の先を見据えて取り組みます。

6. 私たちは、思いやりの心を持ち、お互いを認め合います。

7. 私たちは、活発にコミュニケーションを行い、風通しのよい職場をつくります。

8. 私たちは、グループ全体の発展のために力を合わせます。

 

2.サステナビリティ宣言

当社グループでは、2020年5月に発表した「阪急阪神ホールディングスグループ サステナビリティ宣言」に基づき、ESG(環境・社会・企業統治)に関する取組を着実に推し進めています。

このサステナビリティ宣言では、当社グループがサステナブル経営を進める上での基本方針や6つの重要テーマ等を定めており、これをベースに、これからもお客様や地域社会等との信頼関係を構築しながら、持続的な成長を図り、ひいては持続可能な社会の実現につなげていきます。

なお、サステナブル経営の推進にあたり、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」(※1)及び「国連グローバル・コンパクト」(※2)への対応として、2021年5月に賛同の意を表明しています。

※1 「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」…2015年に、G20の要請を受け、金融安定理事会の作業部会として設置されたものであり、投資家等の適切な投資判断に資するよう、企業等に対して、気候変動に伴うリスクと機会の特定、その財務的な影響の試算、気候変動に対応する事業戦略等を開示することを推奨しています。

※2 「国連グローバル・コンパクト」…1999年の世界経済フォーラムで提唱された企業の行動規範であり、企業等に対し、人権・労働・環境・腐敗防止の4分野において、10原則を遵守し実践するよう要請しています。

 

<サステナビリティ宣言の概要>

基本方針

~暮らしを支える「安心・快適」、暮らしを彩る「夢・感動」を、未来へ~

私たちは、100年以上積み重ねてきた「まちづくり」・「ひとづくり」を未来へつなぎ、

地球環境をはじめとする社会課題の解決に主体的に関わりながら、

すべての人々が豊かさと喜びを実感でき、

次世代が夢を持って成長できる社会の実現に貢献します。

 

6つの重要テーマ

取組方針

① 安全・安心の追求

鉄道をはじめ、安全で災害に強いインフラの構築を目指すとともに、誰もが安心して利用できる施設・サービスを日々追求していきます。

② 豊かなまちづくり

自然や文化と共に、人々がいきいきと集い・働き・住み続けたくなるまちづくりを進めます。

③ 未来へつながる暮らしの提案

未来志向のライフスタイルを提案し、日々の暮らしに快適さと感動を創出します。

④ 一人ひとりの活躍

多様な個性や能力を最大限に発揮できる企業風土を醸成するとともに、広く社会の次世代の育成にも取り組みます。

⑤ 環境保全の推進

脱炭素社会や循環型社会に資する環境保全活動を推進します。

⑥ ガバナンスの充実

すべてのステークホルダーの期待に応え、誠実で公正なガバナンスを徹底します。

 

<サステナビリティ宣言の位置づけ>

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3.優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

(1) 長期経営構想の策定について

① 策定の背景

当社グループは、100年以上にわたって「安全・安心・快適な移動を実現する」「まちの魅力を高める」「エンタテインメントで彩る」ことを通じて沿線価値を高め、沿線外へもフィールドを拡げるとともに、先見性・創造性を持ち、時代を先取りする精神と柔軟な発想で、一歩先のより良い暮らしを提案し続けてきました。当社グループでは、2022年に策定した長期ビジョンの実現に向け、2022~2025年度を計画期間とする中期経営計画のもと、各取組は順調に推移していますが、当社グループを取り巻く環境の変化はこれまでの想定以上に加速し、ステークホルダーからの期待・要請も様々な形で高まっており、こうした変化は今後もスピードを増していくことが考えられます。そのため、当社グループがこれまで提供してきた価値や強みをベースに、グループを取り巻く環境の変化を踏まえて、現行の長期ビジョンをブラッシュアップし、「未来のありたい姿」と現状とのギャップを埋めていくために、「長期経営構想」を策定しました。


② 全体像と戦略

当社グループは、これまで積み重ねてきた提供価値を土台に、これからも新たな価値の創造にグループ一体で取り組み、あらゆるフィールドにおいて次々と新しい「お客様の喜び」を実現していきます。とりわけ、重要なフィールドである沿線においては、様々な分野における技術革新の進展やインバウンド需要の高まりといった環境変化の中でも、快適で魅力的な都市空間を創出し続け、さらにそうした「まちづくり」をグローバルに展開していきたいと考えています。そして、サステナブルで良質な商品・サービスを提供し、お客様に選ばれ続けることで、「誰もが自分らしい生活を送れるように、サステナブルな行動を自然と選択できる」社会の実現も目指していきます。

こうした「未来のありたい姿」の実現に向けた当社グループの取組を「長期経営構想」と位置付け、事業・財務・人材の各戦略を策定し、グループガバナンスの強化等にも取り組みながら、ありたい姿の実現に向けて、中長期的な成長と資本効率の向上の両立を図っていきます。

 

<事業戦略>

これまで当社グループは、先人たちの努力の積み重ねと沿線への集中的な投資により、沿線での圧倒的な競争優位の確立とキャッシュの創出を両立してきました。加えて、ここ数年は、今後の少子高齢化に伴い沿線からのキャッシュの創出力が低下していくことを見据えて、海外不動産事業への投資等、投資先の多様化にも努めてきました。しかしながら、沿線の事業環境は今後もさらに厳しくなることが予想され、今後は、「沿線の価値を高め、沿線での競争優位性をさらに高める取組」と「成長市場を開拓し、投資の重点配分によってキャッシュ創出力をより高める取組」を同時に進めることが求められます。そのための事業戦略として、「圧倒的No.1の沿線の実現」「コンテンツの魅力の最大化と新コンテンツの開拓」「エリアを超えた展開(首都圏・海外)」「ビジネスソリューションへの注力」の4つの方向性を定めて経営資源を配分し、沿線を中心とした既存のフィールドの深掘りと、成長の見込まれる新たなフィールドでの挑戦を続けることで、グループ全体で成長し、お客様や地域・社会の期待に応えていきます。

 

<財務戦略>

上記の事業戦略を推進し、中長期的な成長を実現するとともに、資本効率の向上に向けて、バランスシートをコントロールしつつ必要な投資を実施していきます。そのために、グループのポートフォリオにおける事業の役割を整理し、投資効果の最大化に向けて全社視点で資金を配分していきます。

都市交通事業及び不動産賃貸・開発事業は、大規模プロジェクト(※1)の成果も含めて安定的に資金を創出し、新事業領域を含む将来の高ROIC(※2)が期待される事業に資金を供給します。グループの成長に向けては、成長性と事業の拡張性が見込まれる不動産事業(グローバル)、住宅事業、ホテル事業、情報サービス事業、旅行事業等に重点的にリソースを配分することで規模の拡大と利回りを追求し、新事業領域についても、規模の拡大と高利回りの実現に貢献できるよう育成していきます。また、スポーツ事業、ステージ事業、放送・通信事業及び国際輸送事業についても、引き続きグループ全体の利回り向上に貢献することを目指していきます。

また、中長期的な成長を実現するとともに、株主還元の充実等を通じて、資本効率の向上に向けたバランスシートのコントロールも行っていきます。具体的には、2025年度より、年間配当金の下限を1株当たり100円とする安定的な配当の実施と、総還元性向(※3)50%を目安にキャッシュフローの状況を踏まえた弾力的な自己株式の取得に取り組むことを基本方針とします。

 

※1 大規模プロジェクト…「芝田1丁目計画(大阪新阪急ホテル・阪急ターミナルビルの建替え、阪急三番街の全面改修等)」や「なにわ筋線連絡線・新大阪連絡線計画」等

※2 ROIC…投下資本利益率。企業が事業活動のために投じた資本に対して、どれだけ利益を出しているか、資本コストに見合う収益性があるかを示す指標

※3 総還元性向…親会社株主に帰属する当期純利益に対する年間配当金総額と自己株式取得額の合計額の
割合

 

<人材戦略>

当社グループの成長の源泉は人材であり、「長期経営構想」の実現に向けて、多様かつ有能な人材を確保したうえで、成長分野をはじめとした有望領域に積極的に投入し、グループの成長を図るとともに、これらの人材をグループの将来を担う人材として計画的に育成していきます。また、従業員の処遇の向上を図るほか、従業員のロイヤリティの向上に向けた施策を実施するなど、人的資本に対する投資を続けていきます。併せて、「一人ひとりの活躍」を実現し、従業員一人ひとりが多様な個性や能力を発揮できる企業風土の醸成に向けて、働きがいの向上や労働環境の整備を図るとともに、健康経営やダイバーシティ&インクルージョンの推進に取り組んでいきます。

 

上記の各戦略を推進することで、遅くとも2030年度までにROE8%を持続的に達成できる企業となり、さらにその先の2040年度にかけて従来の延長線上にはない成長を遂げ、お客様から評価され、従業員も誇れる企業グループであり続けること、持続的な価値創造の好循環を創出し、投資家の皆様の期待に応えていくことを目指していきます。

 

③ 環境保全の推進の取組について

持続可能な社会の実現に向けて、ステークホルダーの関心が高い社会課題である「地球環境問題」について、脱炭素の取組に加え、近年注目されている生物多様性・自然資本の保護や資源循環についても取組の方向性を明示し、新たにKPIを設定したうえで、事業活動を通じた社会課題の解決に取り組んでいきます。

また、2050年度の温室効果ガス排出量の実質ゼロに向け、新たな削減目標を、グローバルで求められる水準を踏まえ、「2035年度△60%(2019年度比)」とします。

 

④ 経営指標

当社グループは「未来のありたい姿」に向けた、財務面での2030年度の目標として「ROE8%の達成」を掲げ、上記の各種取組を進めていきます。

また、非財務面では、「安全・安心の追求」、「一人ひとりの活躍」、「環境保全の推進」といった重要テーマごとに目標を設定し、持続可能な社会の実現に向けて取り組んでいきます。

 

具体的な経営指標(財務・非財務)については下記のとおりです。

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(2) 2025年度業績予想等について

2025年度については、都市交通事業をはじめ、各事業において諸費用が増加するものの、不動産事業において分譲収入の増加や海外不動産事業の伸長等を見込むことにより、事業利益は1,180億円、親会社株主に帰属する当期純利益は750億円、EBITDAは1,930億円と予想しています。そして、ROEは7.1%、「ネット有利子負債/EBITDA倍率」は7.1倍、D/Eレシオは1.3倍となる見通しです。

また、2025年度の株主還元については、上記の株主還元に係る基本方針を踏まえ、年間配当金を1株当たり60円から100円(中間配当金50円、期末配当金50円)に引き上げることを予定しています。

 

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2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりです。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

1.サステナビリティ全般

(1)ガバナンス

当社グループでは、2020年度からサステナビリティ推進委員会(委員の構成等は右図のとおり)を、年2回(原則として、9月・2月)開催しています。

同委員会では、サステナビリティに関する外部環境(行政・投資家・他社の動向等)やESG評価機関の評価状況等を踏まえ、当社グループのサステナブル経営の重要テーマに関する方針を策定したり、取組の進捗状況について確認したりするほか、将来計画に反映すべき事項等について審議・決定しています。

また、同委員会における審議内容は、グループ経営会議に付議されるとともに、取締役会にも報告してその監督を受けています。

同委員会を中心に、事務局(主管)であるサステナビリティ推進部がグループ経営企画室内の各担当(経営計画・IR)や人事総務部門、各事業部門と連携しながら、サステナブル経営のPDCAサイクルを回しています。このように、グループ全体のマネジメント体制に組み込んで、サステナブル経営を推し進めています。

 

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(2)戦略

当社グループでは、サステナビリティ宣言において、サステナブル経営を進める上での基本方針や6つの重要テーマ等を定めています。重要テーマの特定にあたっては、SDGs(持続可能な開発目標)をはじめとするグローバル共通の社会課題や当社グループが特に対処すべき社会課題を踏まえ、外部有識者の意見も参考にしながら、下記6つに絞り込み、グループ経営会議での審議を経て、取締役会で承認しました。これらをベースに、これからもお客様や地域社会等との信頼関係を構築しながら、持続的な成長を図り、ひいては持続可能な社会の実現につなげていきます。なお、サステナビリティ宣言の詳細については、「第2 事業の状況」の「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」「2.サステナビリティ宣言」に記載のとおりです。

重要テーマと取組方針を踏まえた具体的な取組の方向性については、以下のとおりです。

 

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(3)リスク管理

当社では、グループ全体のリスクマネジメントを統括するリスク管理委員会を設置するとともに、実務を担うリスクマネジメント推進室が、グループ会社を対象に毎年リスク調査を実施しています。同調査では、気候変動(自然災害等)・事故・情報管理・法令順守・その他組織運営等に関するリスクを対象としており、組織横断的なリスクについては同担当部署が、各コア事業固有のリスクについては各事業部門が、それぞれリスクを特定・分析し、適切な対応策を定めるようにしています。また、これらのリスク分析やリスク対応の状況については、毎年取締役会で報告しています。

このうち、気候変動関連のリスクについては、自然災害など事業運営に直接影響するリスクだけでなく、エネルギーや資材価格の高騰などバリューチェーンで発生するリスクも、項目ごとに分析・検討を行っており、その上で時間軸(短期・中期・長期)をにらみながら、リスク評価を実施しています。そして、年に複数回、その対策状況についてモニタリングを行っています。

また、気候変動関連のリスク・機会やそれらが事業に与える影響等については、サステナビリティ推進委員会でも審議しています。そして、その内容については、リスク調査時の重点リスクの選定に活かすなど、グループ全体のリスクマネジメントに反映するようにしています。

 

(4)指標及び目標

当社グループがサステナブル経営を推し進めるにあたり、特に重要と考える取組については、2030年度の経営目標として、グループ共通の非財務KPIを設定しています。

 

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また、その他、健康経営や男性育児休業等に関するグループ共通の非財務KPIや、事業特性に応じたコア事業ごとの非財務KPIを設定しており、グループ全体で重要テーマの実現に向けた取組を進めています。

なお、2025年3月策定の「長期経営構想」において、グループ共通の非財務KPIの一部見直し・追加を行っています。長期経営構想において掲げるグループ共通の非財務KPIは、「第2 事業の状況」の「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」「3.優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」に記載のとおりです。

 

2.気候変動

当社グループは、2021年5月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」へ賛同の意を表明し、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」の各項目に沿った情報開示を進めています。これまで、パリ協定の目標である1.5℃シナリオの実現に向け、当社グループのCO2排出量の削減目標として、2050年度実質ゼロを掲げ、その中間地点となる2030年度の目標を△46%(2013年度比)としていましたが、2025年3月に、2035年度の温室効果ガス排出量の削減目標を△60%(2019年度比)と設定しました。今後も、気候変動への対応を事業戦略に組み込み、事業の強靭性を高めることで、脱炭素社会への移行を着実に推し進めていきます。

 

(1)ガバナンス

ガバナンスについては、「1.サステナビリティ全般」の「(1) ガバナンス」に記載のとおりです。

 

(2)戦略

<リスク・機会の特定>

気候変動への対応を検討するにあたり、当社グループのコア事業のうち、特に気候変動の影響が大きいと想定される鉄道事業と不動産事業のほか、取引先企業からのニーズが高い国際輸送事業について、事業に影響を及ぼす可能性のあるリスクと機会の特定を行いました。

 

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<シナリオ分析及び財務的な影響の試算>

特定したリスクと機会のうち、特に影響が大きいと想定されるものについて、2030年度における鉄道事業・不動産事業への影響を把握するため、シナリオ分析を実施しました。具体的には、脱炭素政策の強化が見込まれる1.5℃シナリオ、物理的リスクの顕在化が見込まれる4℃シナリオにおける事業への財務的な影響の試算(※1)を行いました。

 

分析にあたり活用した社内外のデータは、以下のとおりです。

① 社内データ:CO2排出量の見通し、自然災害リスクへの対応計画、ZEB・ZEHの施工計画等

② 外部データ:IEA(国際エネルギー機関)や環境省・気象庁のレポート等(※2)より、炭素税の予測、

降雨量の予測等

 

※1 単年度の営業利益への影響額について、いずれのコストアップも価格転嫁を加味しない場合の試算を行いました。なお、当該試算は2024年3月末時点をベースとしており、今後、新たな前提で試算を行った際は、統合報告書等で随時公表する予定です。

 

※2 IEA「World Energy Outlook 2022」等

IPCC「RCP8.5」「RCP2.6」

気象庁「日本の気候変動2020 大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書」等

 

<鉄道事業への影響と今後の対応>

1.5℃のシナリオでは、政策等により環境関連の規制が強化され、炭素税の導入に伴うCO2排出量への課税により△30億円の営業利益への影響が生じることが確認できました。引き続き、省エネルギー型車両への更新やLED照明の導入等によるエネルギー使用量の削減、また駅等への太陽光パネルの設置など再生可能エネルギーの活用に取り組むことで、これらの影響を低減していきます。

4℃シナリオでは、自然災害の激甚化(規模・頻度)により、物理的被害の可能性が高まることが確認されました。今回の試算では、当社沿線で被害額が最も大きいと見込まれる武庫川を選定し、被害額を算出しました。氾濫発生時に車両避難を実施しなかった場合、想定される営業利益への影響額は△39億円となる一方で、車両避難を実施することにより、被害を△4億円まで大幅に軽減できることを確認しました。引き続き各種安全投資や車両避難計画の着実な運用等により、長期運休を回避できる強靭な事業運営に努めていきます。

 

[物理的リスクに対するハード・ソフト両面での対応例]

ハード面では、線路脇で土砂崩れが発生する危険性の高い箇所について、斜面の崩壊や落石の防止、排水機能の強化等の対策工事や、雨量計の増設等を実施しています。

ソフト面では、河川の氾濫による車庫及び車両の浸水被害を回避するため、車両避難計画等の浸水対策を進めています。例えば、今回財務的な影響額を試算した武庫川では、過去100年間、西宮車庫周辺を含む下流域で洪水は発生していませんが、実際に発生したときに想定される影響額の大きさに備え、災害レベルの豪雨(※3)が予想される際に、阪急電鉄の西宮車庫の車両を浸水の影響がないところへ避難させる計画を策定しています。このように、ハード面及びソフト面から気候変動リスクに対する安全対策を進め、被害の低減に努めています。

 

※3 市区町村等が作成したハザードマップ上の「計画規模降雨(100年に1度の降雨規模)」を想定しています。

 

<不動産事業への影響と今後の対応>

1.5℃のシナリオでは、炭素税の導入に伴う建設資材の価格の上昇により△26億円、ZEBをはじめとする建築物への対応や環境規制の強化に伴う建築コストの上昇により△5億円など、営業利益への影響が生じることが確認できました。なお、ZEHについては、国等の補助金を活用するとともに、用地仕入れの段階からZEH採用によるコスト増を収支に織り込み、適正な販売価格を設定する(ZEH住宅への税制優遇等により、顧客のZEHへの評価も向上している)ことにより、営業利益への影響は限定的と見込んでいます。一方、ZEBについては、賃料価格への転嫁が難しく、営業利益に上記の建築コストの上昇に伴う減価償却費相当の影響が生じる可能性がありますが、国等の補助金も活用しながら、できるだけ影響の低減に努めていきます。

4℃シナリオにおける不動産事業への財務的な影響は、限定的であることを確認しました。物理的リスクとして、梅田地区の水害が想定されますが、内水氾濫については、不動産物件への止水板の設置や災害対応マニュアルの整備など既に対応を完了しており、外水氾濫については、発生確率が非常に低い(※4)と見込まれています。

今後も、新たに開発する大型ビルを中心にBCP対応率やグリーンビルディング認証の取得率、新規マンション開発におけるZEH化率などの指標を掲げ、いずれのシナリオにおいても対応できるよう取組を進めていきます。

 

※4 淀川の氾濫に伴う梅田地区の浸水は、市区町村等が作成しているハザードマップの想定最大規模の降雨時(1000年に1度程度)にのみ想定されていますが、4℃シナリオにおいても発生確率は非常に低いと見込まれています。

 

(3)リスク管理

リスク管理については、「1.サステナビリティ全般」の「(3) リスク管理」に記載のとおりです。

 

(4)指標及び目標

当社グループでは、サステナブル経営の重要テーマに「環境保全の推進」を掲げ、グループ共通の非財務KPIとして、温室効果ガス排出量(※5)の削減目標を設定しています。具体的には、パリ協定の目標である1.5℃シナリオの実現に向け、当社及び子会社の国内事業所におけるCO2排出量の削減について、2050年度において実質ゼロとする目標を掲げ、また中間目標として、2030年度に2013年度比△46%とすることを目指しています。さらに、2025年3月に、パリ協定の目標である1.5℃シナリオの実現に向け、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が新たに提言した科学的に求められる削減水準を踏まえ、当社及び連結子会社における2035年度の中間目標を△60%(2019年度比)と設定しました。

 この目標達成に向けた基本的な取組方針は、まずエネルギー使用量の削減を重視し、財務の健全性と投資効率をみながら「①省エネの着実な推進」に取り組むとともに、技術革新の動向をみながら、事業採算性が合うので

 

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あれば、「②創エネ(再エネ発電設備等の導入)の検討」を進めていきます。そして、①、②の取組だけで目標を達成することが難しい場合は、「③再エネ電力の購入」によりカバーリングすることで対応していきます。

上記の方針のもと、各事業では、気候変動への対応を含む非財務のアクションプランや進捗管理を適切に行うための指標を設定しています。また、2021年度の温室効果ガス排出量から、スコープ1及びスコープ2に加えて、スコープ3についても算定しています。さらに、CO₂削減に向けた投資の促進等を目的に、2023年度から、インターナルカーボンプライシング(※6)を導入(5,000円/t-CO₂)しています。

今後も、脱炭素社会に向けた取組を積極的に推し進めていきます。

 

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※5 スコープ1、2相当

※6 企業が独自に炭素価格を設定し、将来のCO2排出量削減や炭素税の導入による経済的な影響の把握、投資判断の意思決定、省エネ推進へのインセンティブ等に活用する手法

 

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3.人的資本・多様性

当社グループの成長の源泉は人材であり、「長期経営構想」の実現に向けて、多様かつ有能な人材を確保した上で、こうした限りある経営資源を、成長分野をはじめとした有望領域に積極的に投入し、当社グループの成長を図るとともに、これらの人材をグループの将来を担う人材として計画的に育成します。また、従業員の処遇の向上を図るほか、従業員のロイヤリティの向上に向けた施策を実施するなど、人的資本に対する投資を続けていきます。併せて、従業員一人ひとりが多様な個性や能力を発揮できる企業風土の醸成に向けて、働きがいの向上や労働環境の整備を図っていくとともに、健康経営やダイバーシティ&インクルージョンの推進に取り組みます。

 

(1)戦略

意欲の高い人材を「新事業領域の開拓を含むコアの垣根を超えた取組」などに積極的に投入することで、会社と人材双方の成長を実現しつつ、計画的な人材育成や従業員のロイヤリティの向上に向けた施策を実施するなど、人的資本への投資を継続し、長期経営構想を実現できる人材を確保・育成していきます。

 

<2022年度に策定し統合報告書等で開示している当社グループの人的資本に対する考え方>

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(2)指標及び目標

経営戦略上必要な人材を計画的に採用・育成し、一人ひとりのパフォーマンスの最大化を図るため、下表のとおり、KPIを設定しています。

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なお、当社においては、関連する指標のデータ管理とともに、具体的な取組が行われているものの、当社グループに属するすべての会社では行われていないため、連結ベースでの記載は困難です。このため、上表の指標に関する目標及び実績は、注釈があるものを除き、当社及び主要6社を対象として記載しています。また、一部のKPIについては、実績のモニタリングのみを行っているため、目標値を設定していません。

 

4.人権

(1) ガバナンス

ガバナンスについては、「1.サステナビリティ全般」の「(1) ガバナンス」に記載のとおりです。

 

(2) 戦略

当社グループは「人の尊重」をグループ経営理念の価値観の一つとしており、すべての従業員がその趣旨を深く理解できるよう、「人権の尊重に関する基本理念」と「人権の尊重に関する基本方針」を明文化しています。

2023年4月には、国際連合の「ビジネスと人権に関する指導原則」等を踏まえ、基本理念と基本方針を改定し、これを踏まえて人権デュー・ディリジェンスにも取り組むなど、今後も負の影響の回避・低減に努めていきます。

<阪急阪神ホールディングスグループ 人権の尊重に関する基本理念>

 私たちは、事業活動を通じて関わるすべての人の人権を尊重することで、出生、人種、国籍、宗教、信条、性別、性的指向、性自認、年齢、障がいの有無などによる差別や人権侵害のない、豊かな社会づくりに貢献します。

 

<阪急阪神ホールディングスグループ 人権の尊重に関する基本方針>

1.人権尊重に関連する法令・規範の遵守

 私たちは、私たちの事業活動を行うそれぞれの国や地域で適用される人権に関する法令の遵守に努めるとともに、国際連合の「国際人権章典(世界人権宣言・国際人権規約)」および国際労働機関(ILO)の「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」※などの人権に関する国際規範を支持・尊重します。

※ 結社の自由および団体交渉権の承認、強制労働の禁止、児童労働の禁止、雇用および職業における差別の禁止、安全で健康的な労働環境を中核的労働基準として定めています。

 

2.適用範囲

 本理念と方針は、阪急阪神ホールディングスグループのすべての役職員に適用します。また、関連するステークホルダーに対しても、本理念と方針への理解・支持を得るよう努め、共に人権尊重の歩みを進めることを期待します。

 

3.人権デュー・ディリジェンス

 私たちは、人権尊重の責任を果たすため、人権デュー・ディリジェンスを継続的に実施し、人権への負の影響の回避・低減に努めます。

 

4.救済・是正

 私たちは、私たちの事業活動において人権への負の影響を直接的に引き起こしたり、助長したりしたことを把握した場合、適切な手段を通じて、その救済と是正を実施もしくは協力します。

 

5. ステークホルダーとの対話

 私たちは、社外の専門家との対話を通じて知見を得るとともに、ステークホルダーの意見に耳を傾け、責任ある対応に努めます。

 

6. 教育・啓発

 私たちは、本理念と方針が私たちの事業活動に定着するよう、必要な教育と啓発を継続的に行います。

 

7.職場環境づくり

 私たちは、私たち役職員一人ひとりの人権を尊重するため、採用に始まるすべての処遇において、公正かつ公平であるよう努めます。また役職員がお互いに一人ひとりの違いを認め、個性や能力を存分に発揮できる職場環境づくりを進めます。

 

8.情報開示

 私たちは、人権尊重の取組について、適時・適切に情報を開示します。

 

なお、「人権の尊重に関する基本理念」と「人権の尊重に関する基本方針」について、当社グループの全役職員に配付する「コンプライアンスの手引き」等を通じて周知を図っているほか、グループ各社の経営層と当社の全管理職を対象に、経営トップによるサステナブル経営の重要性の説明や外部有識者による人権啓発研修を毎年実施するなど、トップコミットメント及び教育・啓発に取り組んでいます。

 

(3) リスク管理

<人権デュー・ディリジェンス>

当社では、これまでもハラスメントや差別等の人権課題に対し、リスク軽減の取組を進めてきましたが、「ビジネスと人権」の視点をより意識し、グループ全体(サプライチェーンを含む。)において、人権リスクの洗出しと優先順位付け(重要リスクの特定)をした上で、人権侵害の防止・負の影響の軽減の取組を進めています。また、取組にあたっては、社外の視点を重視し、大学教授やNGOの代表者等の外部の有識者と対話しながら進めています。

人権リスクの洗出しにあたっては、当社グループの主要な事業に関係する従業員により、人権リスク洗出しに関するワークショップを開催しました。ワークショップにおいて、各事業のサプライチェーン上の人権リスクを、ステークホルダーごとに抽出した上で、外部の有識者等の助言や各国際規範・ガイドラインを踏まえ、現時点で想定される各事業の人権リスクを洗い出しました。

洗い出した人権リスクについて、潜在的な人権への負の影響の深刻度(規模・範囲・是正困難度)と負の影響が生じる可能性の観点から評価を行い、下記のとおり、当社グループにおける重要なリスクを特定しました。

なお、人権リスクの洗出しや重要リスクの特定にあたっては、当社広聴窓口や企業倫理相談窓口へのご意見・相談内容など、お客様・地域住民・従業員等のステークホルダーの声を考慮しています。

特定した人権リスクについては、今後、予防・低減に向けた取組を順次進めていきます。また、引き続き、従業員向けの教育・啓発に取り組んでいきます。

 

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<是正・救済>

当社では、人権侵害行為を含む法令等違反行為・反倫理的行為が行われていた場合又はそのおそれがある場合に、当社グループの役職員及び当社グループのお取引先が利用可能な内部通報制度として、内部相談受付窓口及び外部の弁護士を窓口とする外部相談受付窓口からなる「企業倫理相談窓口」を設置しています。なお、企業倫理相談窓口の運用の状況について、毎年取締役会及び監査等委員会に報告しており、2023年度におけるグループ全体の受付件数は65件でした。

さらに、当社では、当社グループの従業員を対象とした「ハラスメント相談窓口」を設置し、職場におけるハラスメントについての相談を受け付けています。

両窓口の利用については、匿名での利用が可能であり、相談者のプライバシーが保護されることはもちろん、相談したことを理由とする不利益な取扱いがない旨を規程等で明示しています。

 

(4) 指標及び目標

当社グループでは、研修等を通じて人権啓発に取り組んでおり、下表のとおり、KPIを設定しています。

非財務KPI(※)

目標値(2025年度)

2023年度実績

当社主催人権研修受講率

100%を継続

97.1%

※ 対象範囲は、当社及び主要6社(阪急電鉄・阪神電気鉄道・阪急阪神不動産・阪急交通社・阪急阪神エクスプレス・阪急阪神ホテルズ)

 

3【事業等のリスク】

当社グループでは、リスクマネジメントを重要な経営課題と位置付け、「リスク管理規程」に基づき、リスクを「グループにおける組織目標の達成を阻害する事象」と定義し、適時適切にリスクを把握・アセスメントして対策を講じる体制を整備しています。このため、当社では、専任部署であるリスクマネジメント推進室を設置するとともに、社長を委員長とするリスク管理委員会を定期的に開催し、リスク管理に関する事項を審議しています。

当社では、当社グループの事業戦略やサステナブル経営の観点を踏まえて、グループ経営上重要かつグループ横断での対応が必要なリスクとして、自然災害をはじめとするリスクを選定するとともに、当該リスクの管理を統括するリスクオーナーを決定し、これらのリスクにグループを挙げて対応するようにしています。また、リスクオーナーが立案及び実施する対策の進捗状況をモニタリングし、適時取締役会に報告しています。

当社グループの経営成績、株価及び財政状態等に影響を及ぼす可能性のあるリスクには以下のようなものがあります。文中における将来に関する事項は、当社グループが当連結会計年度末現在において判断したものであり、また、これらのリスクは当社グループのすべてのリスクを網羅したものではありません。

 

(1) 自然災害等

① 自然災害等について

当社グループは、都市交通事業、不動産事業、エンタテインメント事業、情報・通信事業、旅行事業及び国際輸送事業など多種多様な事業を営んでおり、地震や台風等の自然災害、大規模な事故、テロ行為等が発生した場合には、顧客や営業施設への被害及び事業活動の制限等により、当社グループの経営成績及び財政状態等が影響を受ける可能性があります。特に近年、気温や海水温の上昇などの気候変動により、集中豪雨や強力な台風等が増加する可能性が指摘されており、こうした自然災害により上記の影響を受けるリスクが高まってきています。

当社グループとしては、既存設備の維持更新投資や耐震補強工事を実施するとともに、激甚化する自然災害による影響の分析や対応を進めるほか、特に鉄道等の公共輸送に携わるグループ会社については、安全性を最優先にした体制の整備に努めるなど、ハード・ソフトの両面から、自然災害や事故等による影響の最小化に向けた取組を行っています。

 

② 感染症の流行について

感染症が広く流行し、往来の制限をはじめ人々の生活が様々な制約を受けることとなった場合、当社グループでは、都市交通事業における鉄道等の旅客人員の減少、不動産事業における賃貸施設の休館・来館者数の減少やホテルのインバウンド・国内需要の減少、エンタテインメント事業におけるプロ野球の試合や宝塚歌劇の公演の中止・入場人員の制限、旅行事業における海外・国内ツアーの催行中止等、各事業において大きな影響を受ける可能性があります。

当社グループとしては、こうした状況下であっても、感染状況に応じた予防・拡大防止措置を講じながら、鉄道等の社会インフラを運営する企業グループとして事業継続に努めるとともに、これらによる影響を受けても持続的な企業価値の向上を実現すべく、収益力の向上と安定した財務体質の確保を図っていきます。

 

(2) 情報管理

当社グループは、各事業において情報システムを利用しており、事故や災害、社内や取引先における不正やミス、サイバー攻撃等によりその機能に重大な影響を受けた場合、当該情報システムの停止、誤作動等のほか、情報の漏えい等が生じることで、当社グループの事業運営に支障を来すとともに、当社グループの経営成績及び財政状態等が影響を受ける可能性があります。特に、個人情報については、各事業において顧客データ等の個人情報を管理しており、不測の事故等により情報が流出した場合には、損害賠償請求や社会的信用の失墜等により、大きな影響を受ける可能性があります。

当社グループとしては、電子情報セキュリティ基本方針等の社内規程に従い、情報の漏えい、改ざん、不正利用等の防止や情報システムの安定稼働に必要な対策を講じています。特に、当社グループは、重要インフラである鉄道を運営していることも踏まえ、サイバーセキュリティの確保をリスク管理の重要な要素と位置付けており、グループ全体で継続的にセキュリティレベルの強化を図るとともに、行政等の関係機関とも積極的に連携して情報収集に努めるなど、継続的に対策を講じているほか、「グループCSIRT」を整備し、問題発生時に速やかに連絡・対処して被害の局所化を図るとともに、適切な再発防止策を講じる体制を構築しています。また、個人情報については、上記に加え、国内外の個人情報保護に関する法令を遵守するよう、個人情報管理基本方針等の規程を制定し、個人情報の適切な利用と保護を図る体制を整備するとともに、役職員に対する教育等に取り組んでいます。

 

(3) コンプライアンス

① コンプライアンス経営について

当社グループは、全てのステークホルダーの期待にお応えし、信頼され、称賛される企業集団となることを目指しており、その前提の一つとなるのがコンプライアンスを重視した経営姿勢であります。万一、コンプライアンスに反する行為が発生した場合は、損害賠償や社会的信用の失墜等により、当社グループの経営成績及び財政状態等が影響を受ける可能性があります。

当社グループとしては、各事業において、会社法、金融商品取引法、労働法、税法、経済法、各種業法その他関係法令の遵守に努めています。また、人権の尊重、腐敗行為(贈収賄等)の防止、税務ポリシー等の各種の基本方針や、企業倫理規程等の社内規程を整備し、これらに従った事業運営を徹底するとともに、当社によるモニタリングを継続的に行うほか、一部の中核会社においては社外出身の役員を取締役会の構成員とすること等によって、グループ全体のガバナンス機能を強化するなど、コンプライアンス経営を推進しています。

また、これらの実効性をより高めるため、役職員等への啓発や教育を行い、その知識や意識を向上させることで、コンプライアンスに反する行為の未然防止を図っているほか、取引先等も利用可能な内部通報制度を設け、コンプライアンス経営の確保を脅かす事象を速やかに認識し、対処できる体制を構築しています。

 

② 人権の尊重について

人権の尊重については、当社グループの使命を果たし続けるための基盤であると考えており、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」等を踏まえて、「人権の尊重に関する基本理念」及び「人権の尊重に関する基本方針」を策定するとともに、人権デュー・ディリジェンスにも取り組むなど、「ビジネスと人権」の枠組みに沿った取組をさらに推進することで、負の影響の回避・低減に努めていきます。また、こうした取組をサプライチェーン全体で推し進め、持続可能な社会の実現に貢献するため、2024年4月に「阪急阪神ホールディングスグループ サプライチェーン方針」を策定し、グループ全体で取引先と共に取組を推進しています。

 

③ 業法による規制について

当社グループでは、鉄道事業をはじめとして、監督官庁から許可又は認可を受けて事業を行っている会社が多くあります。これらの会社においては、法的規制の変更によって、事業活動が制限され、又は規制遵守のための費用が増加する可能性があるほか、規制に対応できなかった場合には、当社グループの経営成績及び財政状態等が影響を受けることがあります。当社グループとしては、規制の変更、新設に関する情報やその影響等を事前に調査・把握し、当社グループへの影響を最小限に止めるよう努めています。

 

(4) 財務(有利子負債について)

当社グループでは、各事業において継続的に設備投資を行っていますが、これに必要な資金の多くは、金融機関からの借入れや社債等によって調達しています。そのため、今後、金利の上昇・金融市場の変化等が生じた場合や、当社グループの財務状況の変動等に伴って当社の格付が引き下げられた場合には、支払利息の増加のほか、返済期限を迎える有利子負債の借換えに必要な資金を含む追加的な資金を望ましい条件で調達することが困難になる可能性があります。

なお、当連結会計年度末における連結有利子負債残高は1兆2,827億75百万円となっていますが、今後、施設等の安全性の維持・向上に係る投資に加えて、大規模プロジェクトをはじめ将来を見据えた成長投資を予定しており、連結有利子負債が一定程度増加する見込みです。

当社グループとしては、引き続き資金調達の多様化を進め流動性を確保し、金利の固定化を行うことで金利変動リスクの回避に努めるとともに、コストや維持更新投資の削減などを通じて有利子負債の抑制を図りながら、財務体質の健全性の維持に努めていきます。

 

(5) 政治・経済・社会環境の変動

① 保有資産の時価下落について

政治・経済環境の大幅な悪化により、当社グループが保有する棚卸資産、有形・無形固定資産及び投資有価証券等の時価が、今後著しく下落した場合には、減損損失又は評価損等を計上することにより、当社グループの経営成績及び財政状態等が影響を受ける可能性があります。

 

② 人口減少等について

当社グループが基盤とする京阪神エリアにおいて、少子化等に伴う将来的な人口減少・人口動態の変化から、鉄道、バス、タクシー等に対する旅客輸送需要やその他の各事業における需要が減退することに加え、労働市場の逼迫に伴い働き手の確保が困難になることが想定され、当社グループの経営成績及び財政状態等が影響を受ける可能性があります。

当社グループとしては、沿線における定住人口の増加や、インバウンド需要の取込等による交流人口の増加のための取組に加えて、人的資本への投資を継続してその充実・確保を図るとともに、DXの活用等を通じた生産性の向上に向けた取組をグループ全体で推し進めていきます。

 

③ 地球環境問題への対応について

気候変動問題については、温室効果ガスの排出抑制に向けた取組が世界全体で進んでいます。当社グループの主力事業である鉄道は、他の輸送機関と比べて環境負荷が少ないものの、今後、鉄道や不動産をはじめとする各事業において、脱炭素社会や循環型社会に対応するための投資・費用の発生が見込まれるほか、温室効果ガス排出に係る税制の導入や(再生可能エネルギーの促進等に向けた)電力小売単価の上昇に伴って費用が増加する可能性があります。このほか、近年、生物多様性・自然資本の保護や資源循環に向けた取組についても関心が高まってきており、こうした社会への移行に対応できなかった場合には、信用の毀損等に伴う収益の減少や、円滑な資金調達が困難となる可能性があります。

当社グループでは、温室効果ガス削減への対策は持続可能な社会の実現に向けて必要な取組であると認識しており、「サステナビリティ宣言」において重要テーマの一つに「環境保全の推進」を掲げ、脱炭素社会や循環型社会に資する環境保全活動を推進しています。その一環として、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に賛同し、その開示フレームワークに沿って、「ガバナンス」「リスク管理」「指標と目標」を明示するとともに、「戦略」については、当社グループの事業のうち、特に気候変動の影響が大きいと想定される鉄道事業と不動産事業における「リスクと機会」を特定し、シナリオ分析を進めて財務的な影響の試算等を行い公表するなど、同提言に沿った対応を進めています。また、こうした気候変動に関するリスクと機会を評価・管理するため、グループ共通のKPIとして温室効果ガス(GHG)排出量の削減目標(2035年度目標:GHG排出量2019年度比△60%(2025年3月に新規設定)、2050年度目標:実質ゼロ)を設定するとともに、各事業における個別のKPIを定めるほか、温室効果ガス排出量についてスコープ3の算定・開示や、ICP(内部炭素価格)の設定により各事業における取組を推進するなど、気候変動に対する事業の強靭性の向上を図っています。併せて、生物多様性や資源循環についても取組の方向性を明示し、新たにKPIを設定するなど、事業活動を通じて社会課題の解決に取り組んでいきます。

 

④ 事業環境の変化等について

当社グループを取り巻く事業環境の変化はこれまで以上に加速し、ESGやサプライチェーンに関わる分野、CSRへの取組、会社での働き方、株主価値の向上をはじめとした多様な分野において、ステークホルダーからの期待も様々な形で高まってきており、こうした変化はこれからもスピードを増していくことが想定されます。今後、これらの変化に伴って人々の生活が大きく変容した場合には、人々の生活に密接に関わる事業を多く営んでいる当社グループの既存のビジネスモデルが影響を受ける可能性があります。また、鉄道事業については、鉄道事業法の定めにより経営しようとする路線及び鉄道事業の種別毎に国土交通大臣の許可を受けなければならず(第3条)、さらに旅客の運賃及び料金の設定・変更は、国土交通大臣の認可を受けなければならない(第16条)こととされており、こうした変化に応じた機動的な運賃改定等ができない可能性があります。

当社グループでは、こうした状況を踏まえ、2025年3月に策定した「長期経営構想」に従い、「未来のありたい姿」の実現に向けて、グローバルな展開も視野に入れながら、資金や人材と言った経営資源を可能な限り最適に配分し、グループ一体での価値創造を一層加速していきます。

なお、当社グループの「長期経営構想」については、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の「3.優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」「(1) 長期経営構想の策定について」に記載のとおりです。

 

⑤ 国際情勢について

当社グループのうち、不動産事業、旅行事業、国際輸送事業等については、海外においても事業活動を行っており、各国の政治・経済情勢の大幅な変動や法規制、紛争又はテロ行為、感染症の流行など、地政学上のリスクを含めた様々なリスク要因があります。また、各国の通商政策の動向等によっては、金融資本市場や国内の景気等が変動するリスクがあります。

これらのリスクのうち、特に地政学上のリスク等については、弁護士やコンサルタント等、専門家の助言を踏まえたリスク分析を行った上で対応に努めています。また、金融資本市場や景気変動等に対しては、情勢の変化を注視し情報収集等に努めるとともに、上記の「(4) 財務(有利子負債について)」や「(5) 政治・経済・社会環境の変動」の「④ 事業環境の変化等について」等に記載の取組を推進していきますが、予期せぬ情勢変化が生じた場合には、当社グループの経営成績及び財政状態等が影響を受ける可能性があります。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社グループの経営成績、財政状態及びキャッシュ・フローの状況の概要は次のとおりです。

① 経営成績の状況

当期のわが国経済は、雇用・所得環境の改善やインバウンド需要の拡大等を背景に、期を通じて緩やかな回復が続きましたが、労働需給の逼迫、国際情勢及び為替市場の動向等による国内の物価上昇や、世界経済の不確実性の高まり等を受け、先行き不透明な状況で推移しました。

そうした中で、当社グループにおいては、中期経営計画に掲げる目標を達成すべく、さまざまな取組を推し進めて着実に業績を伸長させるとともに、今後の成長を見据えた施策も進めました。

当期の業績については、前期のスポーツ事業におけるプロ野球関連特需や旅行事業における自治体の支援業務受注等の一時的な要因の反動があったことに加えて、国際輸送事業において貨物の取扱いが低迷したものの、不動産事業においてマンション分譲戸数が増加したことや、都市交通事業や海外旅行の需要回復等により、営業収益、営業利益、及び経常利益はいずれも増加しました。また、特別損益は改善したものの、税制改正による影響で法人税等調整額が増加したこと等により、親会社株主に帰属する当期純利益は前期並みとなりました。

当期の当社グループの成績は次のとおりです。

 

当連結会計年度

(自 2024年4月 1日

 至 2025年3月31日)

対前連結会計年度比較

増減額

増減率(%)

営業収益

1兆1,068億54百万円

1,092億43百万円

11.0

営業利益

1,108億79百万円

51億90百万円

4.9

経常利益

1,112億42百万円

18億28百万円

1.7

親会社株主に帰属する

当期純利益

673億86百万円

△3億88百万円

△0.6

 

 

セグメント別の業績は次のとおりです。

 

(都市交通事業)

鉄道事業については、阪急電鉄及び阪神電気鉄道において、鉄道駅バリアフリー料金制度を活用し、阪急桂駅、西宮北口駅、阪神甲子園駅をはじめとする各駅への可動式ホーム柵等の整備を推し進めたほか、2025年2月には利便性の向上を図るため、ダイヤ改正を実施しました。また、阪急京都線では、2024年7月より当社グループ初となる座席指定サービス「PRiVACE(プライベース)」の運行を開始しました。さらに、阪急電鉄、阪神電気鉄道、北大阪急行電鉄及び能勢電鉄の全駅において、QRコード(※1)を活用したデジタル乗車券サービス及びクレジットカード等のタッチ決済による乗車サービスを始めました。こうした施策を通じて、訪日外国人等を含めた幅広いお客様に安全・安心で快適にご利用いただけるよう、引き続き取り組んでいきます。

また、阪急電鉄及び阪神電気鉄道において、関西初の取組として、2025年4月より全線カーボンニュートラル運行(※2)を実施することとし、鉄道の環境優位性を活かすことで、脱炭素社会の実現に向けた取組を進めていきます。

このほか、阪急電鉄において、フィリピン マニラLRT1号線事業に参画し、日本での鉄道運営ノウハウを活かしながら、同路線の利便性・安全性の向上に取り組んでいます。

自動車事業については、阪急バス・阪神バスにおいて、公共交通機関として旅客輸送サービスを安定的に提供するために、2024年10月に路線バスの運賃改定を実施しました。

営業収益は前期に比べ63億26百万円(3.1%)増加し、2,095億87百万円となり、営業利益は前期に比べ7億66百万円(2.2%)増加し、350億23百万円となりました。

※1 「QRコード」は株式会社デンソーウェーブの登録商標です。

※2 鉄道事業(全線の列車運行及び駅施設等)で使用するすべての電力を実質的に再生可能エネルギー由来の電力に置き換え、CO₂排出量ゼロとします。

 

事業の内容

当連結会計年度

(自 2024年4月 1日

 至 2025年3月31日)

営業収益

対前連結会計年度

増減率(%)

鉄道事業

1,533億59百万円

3.6

自動車事業

448億31百万円

2.7

流通事業

129億32百万円

1.2

都市交通その他事業

104億94百万円

4.7

調整額

△120億30百万円

合計

2,095億87百万円

3.1

 

・ 阪急電鉄㈱運輸成績表

区分

当連結会計年度

(自 2024年4月 1日

 至 2025年3月31日)

対前連結会計年度

増減率(%)

営業日数

(日)

365

△0.3

営業キロ

(キロ)

143.6

客車走行キロ

(千キロ)

162,014

△0.2

 

定期

(千人)

318,964

1.8

旅客人員

定期外

(千人)

290,022

1.9

 

合計

(千人)

608,987

1.9

 

 

定期

(百万円)

33,013

2.4

運輸収入

旅客運賃

定期外

(百万円)

62,265

2.6

 

 

合計

(百万円)

95,278

2.5

運輸雑収

(百万円)

5,150

△0.3

収入合計

(百万円)

100,429

2.4

乗車効率

(%)

39.1

 

・ 阪神電気鉄道㈱運輸成績表

区分

当連結会計年度

(自 2024年4月 1日

 至 2025年3月31日)

対前連結会計年度

増減率(%)

営業日数

(日)

365

△0.3

営業キロ

(キロ)

48.9

客車走行キロ

(千キロ)

44,902

0.1

 

定期

(千人)

124,258

2.9

旅客人員

定期外

(千人)

118,288

3.4

 

合計

(千人)

242,547

3.2

 

 

定期

(百万円)

12,449

3.7

運輸収入

旅客運賃

定期外

(百万円)

23,065

3.7

 

 

合計

(百万円)

35,515

3.7

鉄道線路使用料収入

(百万円)

50

運輸雑収

(百万円)

2,617

△2.5

収入合計

(百万円)

38,183

3.4

乗車効率

(%)

41.5

(注)1 客車走行キロは、社用、試運転、営業回送を含みません。なお、営業回送を含めた客車走行キロは、阪急電鉄㈱が165,990千キロ、阪神電気鉄道㈱が46,658千キロです。

2 乗車効率の算出方法

乗車効率 = 延人キロ(駅間通過人員×駅間キロ程)/(客車走行キロ×平均定員)× 100

 

(不動産事業)

不動産賃貸事業については、阪神千船駅の高架下商業施設「アバリーナ千船」(大阪市西淀川区)や阪急大宮駅直上の「大宮阪急ビル」(京都市中京区)をリニューアルオープンしたほか、「NU茶屋町」(大阪市北区)の段階的なリニューアルに着手するなど、商業施設やオフィスビルにおいて競争力の強化と稼働率の維持向上等に努めました。

また、うめきた2期地区開発事業「グラングリーン大阪」については、2024年9月の先行まちびらきに続き、2025年3月に南館がグランドオープンしました。工事は、2027年度の全体まちびらきに向けて、計画どおりに進捗しています。

このほか、東京駅前の大規模開発プロジェクト「八重洲二丁目中地区第一種市街地再開発事業」の新築工事に着手しました。

不動産分譲事業については、マンション分譲では、「ジオタワー宝塚グランレジス」(兵庫県宝塚市)、「ジオ島本」(大阪府三島郡島本町)、「ジオ品川天王洲」(東京都品川区)等を販売しました。また、宅地戸建分譲では、「ジオガーデン彩都茨木」(大阪府茨木市)、「ジオガーデン三鷹下連雀三丁目」(東京都三鷹市)等を販売しました。

海外不動産事業については、オーストラリアにおいて物流不動産事業・住宅事業に参画したほか、インドネシアでバリを代表する商業・ホテルの複合施設「ビーチウォークコンプレックス」を一部取得するなど、海外における不動産賃貸事業の規模拡大を進めました。また、アセアン諸国において住宅分譲事業を推し進めたほか、初めてカナダにおいてマンション分譲事業に参画するなど、事業エリアの拡大にも努めました。

ホテル事業については、インバウンドを中心に宿泊部門が好調な中、「グラングリーン大阪」の南館に宿泊主体型のアップスケールホテルとして「ホテル阪急グランレスパイア大阪」を開業したほか、レストランのリニューアルや様々なプランの企画・販売等を通じて、事業競争力の強化に努めました。

営業収益は前期に比べ495億34百万円(15.6%)増加し、3,677億88百万円となり、営業利益は前期に比べ78億2百万円(15.7%)増加し、576億29百万円となりました。

 

事業の内容

当連結会計年度

(自 2024年4月 1日

 至 2025年3月31日)

営業収益

対前連結会計年度

増減率(%)

賃貸事業

1,411億24百万円

11.1

分譲事業等

1,883億31百万円

22.4

海外不動産事業

120億68百万円

41.1

ホテル事業

650億76百万円

3.9

調整額

△388億12百万円

合計

3,677億88百万円

15.6

 

 

(エンタテインメント事業)

スポーツ事業については、阪神タイガースが、シーズン終盤まで首位争いを演じ、公式戦主催試合入場者が300万人を超えるなど多くのファンの方々のご声援を受けてリーグ2位となり、クライマックスシリーズ進出を果たしました。また、開場100周年を迎えた阪神甲子園球場では、様々な記念事業を展開するなど魅力ある施設運営に取り組んだほか、次の100年に向けた施策として、銀傘をアルプススタンドまで拡張する工事に着手しました。このほか、阪神タイガースの新ファーム施設を兵庫県尼崎市に移転し、「ゼロカーボンベースボールパーク」として開業しました。

ステージ事業については、歌劇事業において、雪組公演「ベルサイユのばら -フェルゼン編-」、星組公演「記憶にございません! -トップ・シークレット-」/「Tiara Azul -Destino-」等の各公演が好評を博したほか、動画配信サービス「TAKARAZUKA SQUARE(タカスク)」や電子書籍サービス「ebooks タカラヅカ」の提供を開始するなど、お客様に宝塚歌劇をよりお楽しみいただけるよう、様々な取組を推進しました。

なお、宝塚歌劇団において、ガバナンス体制の強化の一環として、次のような取組を進め、すべての関係者が安心して事業に携わり、事業を通じて持続的に成長し活躍することができる体制を構築していきます。

a 宝塚歌劇団の法人化(株式会社化)

宝塚歌劇団の改革の実効性をさらに高めるべく、2025年7月に「宝塚歌劇団」を阪急電鉄が100%出資する「株式会社」として法人化します。法人化にあたり、事業部門・管理部門・内部監査部門による複層的なリスク管理体制のもとでの組織運営を通じてガバナンスを確保するとともに、法人化後の宝塚歌劇団の取締役は、過半数を社外出身者とします。

b 宝塚歌劇団における人事制度・雇用関係の見直し

すべての劇団員が心身とも健全な状態で最大限に力を発揮しながら、持続的に成長し活躍できる環境を構築すべく、宝塚歌劇団の特性も踏まえ、演技者との契約を雇用契約に移行し、労働時間の管理方法を変更しました。また、演出助手等に適用する労働時間制度を見直しました。

このほか、六甲山地区においては、自然・眺望と文化・スポーツ・グルメといった多様なコンテンツを組み合わせたイベントや企画を展開したほか、15回目を迎えた現代アートの芸術祭「神戸六甲ミーツ・アート2024 beyond」が好評を博するなど、インバウンドも含めて一層の集客に努めました。

しかしながら、前期にプロ野球関連特需があった反動や、前期好調だった歌劇関連商品の減収や宝塚歌劇の体制整備に伴う諸費用の増加等により、営業収益は69百万円(△0.1%)減少し、825億42百万円となり、営業利益は27億12百万円(△19.2%)減少し、114億6百万円となりました。

 

事業の内容

当連結会計年度

(自 2024年4月 1日

 至 2025年3月31日)

営業収益

対前連結会計年度

増減率(%)

スポーツ事業

482億44百万円

△4.1

ステージ事業

342億25百万円

6.2

調整額

73百万円

合計

825億42百万円

△0.1

 

 

(情報・通信事業)

情報サービス事業については、鉄道会社や自治体に対し、鉄道車両内やまちなかのセキュリティ向上と犯罪等の抑止を目的とした防犯カメラシステムの提供を行いました。また、SNSソリューション事業に強みを持つ企業を子会社化するなど、事業領域の拡充を進めました。

放送・通信事業については、FTTHサービス(光ファイバーを用いた高速インターネットサービス)の提供に加え、携帯キャリア事業者等とのアライアンスを強化するなど、お客様のニーズに応える様々なサービスを展開することにより、事業の着実な伸長に努めました。

あんしん・教育事業については、安全・安心に対するニーズの高まり等を背景に、「登下校ミマモルメ」を導入する学校・施設数が着実に伸長しました。また、ロボットプログラミング教室「プログラボ」が、各種顧客満足度調査においてトップクラスに位置付けられるなど、高い評価を得ています。

営業収益は前期に比べ55億8百万円(8.5%)増加し、700億88百万円となり、営業利益は前期に比べ7億43百万円(12.1%)増加し、68億79百万円となりました。

 

(旅行事業)

旅行事業については、前期に比べ自治体からの支援業務等の受注は減少したものの、海外旅行部門において、広告展開の工夫や商品力の強化により、ツアーの販売が好調に推移しました。また、訪日旅行部門においては、円安によるインバウンド需要の高まり等を背景としてツアーの取扱いが増加したほか、国内旅行部門も前期に引き続き堅調に推移しました。

営業収益は前期に比べ441億88百万円(20.4%)増加し、2,611億4百万円となり、営業利益は前期に比べ3億29百万円(6.6%)増加し、52億98百万円となりました。

 

(国際輸送事業)

国際輸送事業については、航空輸送において、日本や東アジアを中心に受注競争が激化したことに加え、海上輸送も需給バランスが緩和したことで運賃水準が低下するなど、厳しい事業環境が続きました。

そうした中でも、南アフリカ、ケニア、アメリカ及びマレーシアで物流倉庫を拡張するなど、ロジスティクス事業の強化に努めるとともに、グローバルネットワークの拡充を図りました。

海外法人において為替の影響によって円換算額が増加したこと等により、営業収益は前期に比べ44億17百万円(4.4%)増加し、1,047億17百万円となりましたが、営業損益は前期に比べ15億8百万円悪化し、12億84百万円の営業損失となりました。

 

(その他)

建設業等その他の事業については、営業収益は前期に比べ50億5百万円(8.3%)増加し、651億31百万円となり、営業利益は前期に比べ3億60百万円(10.6%)増加し、37億71百万円となりました。

 

② 財政状態の状況

当連結会計年度末の資産合計については、販売土地及び建物や有形固定資産、投資有価証券が増加したこと等により、前連結会計年度末に比べ2,305億23百万円増加し、3兆2,834億53百万円となりました。

負債合計については、有利子負債や長期前受工事負担金が増加したこと等により、前連結会計年度末に比べ1,684億95百万円増加し、2兆1,509億93百万円となりました。

純資産合計については、利益剰余金が増加したこと等により、前連結会計年度末に比べ620億27百万円増加し、1兆1,324億60百万円となり、自己資本比率は31.5%となりました。

 

③ キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末の現金及び現金同等物については、前連結会計年度末に比べ22億6百万円増加し、560億14百万円となりました。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によるキャッシュ・フローについては、税金等調整前当期純利益1,027億95百万円、減価償却費644億75百万円、持分法による投資利益154億51百万円、棚卸資産の増加額928億23百万円、法人税等の支払額194億41百万円等により、874億17百万円の収入(前期は1,235億13百万円の収入)となりました。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるキャッシュ・フローについては、固定資産の取得による支出1,279億51百万円、投資有価証券の取得による支出670億58百万円、投資有価証券の売却による収入110億11百万円、工事負担金等受入による収入215億65百万円等により、1,676億37百万円の支出(前期は1,413億20百万円の支出)となりました。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によるキャッシュ・フローについては、借入金の純増による収入457億90百万円、社債の発行による収入745億98百万円、社債の償還による支出150億円、自己株式の取得による支出71億59百万円、配当金の支払額144億72百万円等により、794億71百万円の収入(前期は284億61百万円の収入)となりました。

 

④ 生産、受注及び販売の実績

当社グループは、都市交通事業、不動産事業、エンタテインメント事業、情報・通信事業、旅行事業及び国際輸送事業など多種多様な事業を営んでいるため、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしていません。このため、生産、受注及び販売の実績については、「① 経営成績の状況」におけるセグメント別の業績に関連付けて示しています。

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

① 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されています。この連結財務諸表の作成にあたって、経営者は、決算日における資産・負債及び報告期間における収入・費用の金額並びに開示に影響を与える見積りを行わなければなりません。これらの見積りについては、過去の実績や状況等に応じ合理的に判断を行っていますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。

なお、当社グループの連結財務諸表で採用されている重要な会計方針については、「第5 経理の状況」の「1 連結財務諸表等」「(1) 連結財務諸表」「注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載のとおりですが、特に以下の項目が、連結財務諸表作成における重要な見積りの判断に大きな影響を及ぼすと考えています。

 

a 固定資産の減損

当社グループは、事業の特性上、多くの固定資産を保有しています。これらの固定資産の回収可能価額については、将来キャッシュ・フロー、割引率、正味売却価額等の前提条件に基づき算出しているため、当初想定した収益等が見込めなくなった場合や将来キャッシュ・フロー等の前提条件に変更があった場合は、固定資産の減損を実施する可能性があります。

 

b 販売用不動産の評価

当社グループは、販売用不動産を多数保有しています。市場環境の変化や開発・販売計画の変更等により、正味売却価額が大きく下落した場合は、販売用不動産の評価減を実施する可能性があります。

 

c 繰延税金資産

当社グループは、将来の課税所得や実現可能性の高いタックス・プランニングに基づき、繰延税金資産の回収可能性を判断しています。業績の変動等により、将来の課税所得やタックス・プランニングに変更が生じた場合は、繰延税金資産が増加または減少する可能性があります。

 

② 資本の財源及び資金の流動性

a 有利子負債

有利子負債の概要は、以下のとおりです。

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

(2024年3月31日)

当連結会計年度

(2025年3月31日)

短期借入金(※1)

101,789

87,804

長期借入金(※1)

793,838

855,588

社債

265,000

325,000

リース債務(※2)

13,532

14,382

有利子負債 合計

1,174,160

1,282,775

現金及び預金

59,610

61,052

ネット有利子負債

1,114,550

1,221,723

(※1)1年内返済予定の長期借入金は、「長期借入金」に含めています。

(※2)「リース債務」は、流動負債と固定負債のリース債務の合計です。

 

また、当社グループの第三者に対する保証は、関係会社の借入金等に対する債務保証です。保証した借入金等の債務不履行が保証期間に発生した場合、当社グループが代わりに弁済する義務があり、前連結会計年度末及び当連結会計年度末における債務保証額は、それぞれ461億44百万円及び467億54百万円です。

 

b 財務政策

当社グループは、運転資金及び設備資金等については、内部資金または借入金及び社債により資金を調達することとしています。このうち、長期借入金及び社債にて調達した資金については、その大半を回収期間が長期にわたる鉄道事業や不動産賃貸事業を中心とした固定資産の取得等に充当しています。重要な設備投資の計画については、「第3 設備の状況」の「3 設備の新設、除却等の計画」「(1) 重要な設備の新設等」に記載のとおりです。また、これらの資金は、固定金利に比重を置いた調達を実施しています。

これらの資金調達に加えて、キャッシュマネジメントシステムによるグループ資金一元化により、グループ会社からの余剰資金を集約して有効活用するとともに、大規模自然災害や感染症の流行等の予期せぬ事象に備え、取引金融機関とコミットメントライン契約を締結することにより、機動的に資金を確保する体制を構築しています。

 

c 株主還元

株主還元については、「第4 提出会社の状況」の「3 配当政策」に記載のとおりです。

 

③ 経営成績、財政状態、キャッシュ・フローの状況に関する認識及び分析・検討内容

当連結会計年度の経営成績、財政状態、キャッシュ・フローの分析については、「(1) 経営成績等の状況の概要」の「① 経営成績の状況」、「② 財政状態の状況」、「③ キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりです。

 

④ 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等の進捗状況

経営指標の見通し及び進捗状況については、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の「3.優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」に記載のとおりです。

 

5【重要な契約等】

当社の重要な契約は以下のとおりです。

(金銭消費貸借契約)

 当社は、地方銀行や生命保険会社等との間でシンジケートローン等による金銭消費貸借契約を締結しており、その内容は、次のとおりです。

契約締結日

返済期日

契約内容

財務制限条項

借入金額

(百万円)

担保

2013年9月26日

2028年9月29日他

11,500

各連結会計年度末日における連結貸借対照表に記載される純資産の部の合計金額を、直前の連結会計年度末日における連結貸借対照表に記載される純資産の部の合計金額の75%に相当する金額以上に維持すること。

2015年3月26日

2030年3月31日他

10,000

2015年9月25日

2034年9月29日他

11,000

2015年12月24日

2030年12月30日他

11,000

2016年9月28日

2031年9月30日他

10,000

2018年3月28日

2033年3月31日

15,000

2020年3月26日

2030年3月29日

15,000

2020年9月25日

2040年9月30日他

10,000

2021年1月26日

2031年1月31日他

25,000

2022年1月26日

2029年1月31日

10,000

2022年10月26日

2036年10月31日他

30,000

2023年9月26日

2037年9月30日他

25,000

2024年1月29日

2031年12月30日他

30,000

2024年3月26日

2037年3月31日他

35,000

2024年9月25日

2043年9月30日他

33,900

2024年12月25日

2044年12月29日他

20,500

2025年3月26日

2040年3月30日他

40,100

その他

72,822

合計

415,822

 

6【研究開発活動】

特記事項はありません。