第2 【事業の状況】

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、次のとおりです。

 なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日時点において当社グループが判断したものです。

 

(1)経営の基本方針(グループ理念)

○私たちは「究極の安全」を第一に行動し、グループ一体でお客さまの信頼に応えます。

○技術と情報を中心にネットワークの力を高め、すべての人の心豊かな生活を実現します。

 

(2)今後の経営環境の変化

国内では生産年齢人口の減少や少子高齢化、首都圏への一極集中や地方の過疎化が進んでいます。人々の価値観は多様化し、コロナ禍によりライフスタイルやマーケットは大きく変容しました。金利のある世界が到来したほか、資本コストや株価を意識した経営への要請も高まっています。また、生成AIやロボット、自動運転技術など、テクノロジーの進化も加速しています。さらに、脱炭素社会に向けた取組みは地球規模の課題になっています。

 

(3)中期的な会社の経営戦略

グループ経営ビジョン「変革 2027」においては、世の中の大きな変容を、これまで事業全般にわたって取り組んできた構造改革をさらに加速させる好機と捉え、将来の環境変化を先取りした経営を進めてきました。「安全」を経営のトッププライオリティと位置づけ、「ヒト起点」の発想で輸送サービス、生活サービス、IT・Suicaサービスの融合と連携による新たな価値創造に取り組み、鉄道を中心としたモビリティと、お客さまと地域の皆さまとの幅広い接点を持つ生活ソリューションの二軸で経営を支える基盤を構築しました。

ポストコロナの日本経済が本格的に始動し、経営環境がさらに急激に変化する今こそ、当社グループが「当たり前」を超え、かつてない高みをめざして勇ましく翔びたつときです。「変革 2027」のもと磨いてきた「ヒト起点」の発想をさらに進化させ、モビリティと生活ソリューションの二軸によりこれまでにない発想と戦略で新たなマーケットを創造していきます。

当社グループは「すべての人の心豊かな生活の実現」に向け、事業活動を通じて地域の社会課題にしっかりと向き合い、利益成長をしていきます。そして、創出した利益をステークホルダーの皆さまに還元しつつ、当社グループの未来の成長・発展にも振り向ける「四方良しの経営」をさらに推進し、社会の進運を支える「志の高い企業グループ」への進化をめざします。

現在、新しいグループ経営ビジョンを構想しており、2025年7月1日に発表する予定です。

新ビジョンの実現に向けて、会社発足以来維持してきた国鉄時代に由来する事業運営体制と人事・賃金制度について抜本的に見直します。これまでの2本部・10支社から、それぞれの地域のマーケットやお客さまのご利用状況などを踏まえ、第一線の職場と本部・支社を融合した36の事業本部での事業運営体制に改正します。今まで以上に地域の実情やニーズに密着したスピード感のある事業運営をめざし、安全レベルのさらなる向上とお客さまや地域の皆さまのご期待にお応えした品質の高いサービスの創造を実現していきます。あわせて、社員一人ひとりの業務への取組みと成長を賃金に反映し、社員の果敢なチャレンジ意欲を強く後押ししていく人事・賃金制度の抜本的な見直しを実施します。

 

(4)目標とする経営数値

 グループ経営ビジョン「変革 2027」において、第39期(2025年度)をターゲットとした数値目標を設定していましたが、コロナ禍で急激に変化した経営環境のその後の推移などを踏まえ、2023年4月に第41期(2027年度)を新たなターゲットとした数値目標を以下のとおり設定しました。今後も目標達成に向けてグループ一体となって取り組んでいきます。

 

 

第41期(2027年度)

数値目標

第38期(2024年度)

4月計画

第38期(2024年度)実績

第38期(2024年度)計画対比

連結営業収益

3兆2,760億円

2兆8,520億円

2兆8,875億円

101.2%

 

モビリティ

運輸事業

2兆190億円

1兆9,350億円

1兆9,457億円

100.6%

生活

ソリューション

流通・

サービス事業

6,540億円

3,870億円

3,937億円

101.8%

不動産・

ホテル事業

5,070億円

4,290億円

4,454億円

103.8%

その他

960億円

1,010億円

1,025億円

101.5%

連結営業利益

4,100億円

3,700億円

3,767億円

101.8%

 

モビリティ

運輸事業

1,780億円

1,880億円

1,760億円

93.7%

生活

ソリューション

流通・

サービス事業

800億円

610億円

605億円

99.2%

不動産・

ホテル事業

1,240億円

1,010億円

1,203億円

119.2%

その他

300億円

220億円

229億円

104.3%

調整額

△20億円

△20億円

△31億円

連結営業キャッシュ・フロー

(5年間の総額 ※1)

3兆8,000億円

7,322億円

(進捗率)

37.4%

連結ROA

4.0%程度

3.8%

ネット有利子負債/EBITDA (※2)

中期的に5倍程度

長期的に3.5倍程度

6.0倍

※1 第37期(2023年度)から第41期(2027年度)までの総額を記載

※2 ネット有利子負債=連結有利子負債残高-連結現金及び現金同等物残高

   EBITDA=連結営業利益+連結減価償却費

 

(5)経営方針と事業の経過及び対処すべき課題

 当社では2024年4月1日に喜㔟陽一が代表取締役社長に就任しました。新体制のもと、「変革 2027」の実現に向け「安全」を経営のトッププライオリティと位置づけ、「収益力向上(成長・イノベーション戦略の再構築)」、「経営体質の抜本的強化(構造改革)」、「成長の基盤となる戦略の推進」及び「ESG経営の実践」に引き続きグループを挙げて取り組んでいきます。

 

○ 「安全」がトッププライオリティ

 経営のトッププライオリティであり、当社グループの不変の使命である「究極の安全」を追求し、不断に安全レベルを向上させていきます。

 当連結会計年度においては、東北新幹線の走行中に連結部が外れ停車した事象を二度発生させたことに加え、輪軸組立作業における圧入力値の不適切な取扱いが判明するなど、お客さまや関係の皆さまに大変なご迷惑とご心配をおかけしました。

 東北新幹線の走行中に連結部が外れ停車した事象については、関係する全車両に対して緊急総点検を実施するとともに、当面の対策として、何らかの電気的な異常が発生した場合でも連結器の分割動作が行われないよう、機械的に動作機器を固定する器具を取り付け、安全性を確保したうえで、連結走行を再開しました。今後は、恒久対策として、連結器を分割させる回路が走行中に動作しない仕組みに見直していきます。

 輪軸の事象については改善措置として、当社においては規定値を下回っていた輪軸の取替、社内規程の見直し、鉄道車両における定期検査の業務実態把握を踏まえた作業の標準化を実施しました。グループ会社においては、規程類の整備、教育体制の改善、作業記録の書き換えの防止、安全管理体制の点検と見直しを実施しました。また、グループ全社員に対しコンプライアンス教育を実施するとともに、グループ全社員に対するコンプライアンス意識調査で得られた結果を品質管理に活かしていきます。あわせて、現場第一線を支援する企画部門が改善策のモニタリングを行うとともに、ルール・仕組みが正しく機能しているか確認し、必要により見直しを実施していきます。内部監査部門による監査を通じて、現場第一線、企画部門の業務の統制状況を確認していきます。さらに、本件を輸送サービスだけの事象と狭く捉えるのではなく、グループ全体がお客さまに提供しているサービス全体の品質管理の問題であるとともに、ガバナンスへの教訓と捉え、グループ全体のガバナンス向上につなげていきます。

 すべての基盤であるお客さまや地域の皆さまからの「信頼」を高めていくために、社員一人ひとりが「究極の安全」に真摯に向き合い、具体的な行動を継続していきます。

 

○ 収益力向上(成長・イノベーション戦略の再構築)

 当社グループを取り巻く環境が大きく変容する中、変化をチャンスと捉え、「変革 2027」で進めてきた構造改革をさらに加速し、グループの持つポテンシャルを最大限に引き出します。マーケットインでスピード感と構想力をもって商品やサービスをバリューアップし、連結キャッシュ・フローの最大化に努めていきます。

 移動需要やライフスタイルの変化に対応した新しい商品・サービスを展開していきます。当社グループの強みはリアル×デジタルの顧客接点を組み合わせ、多くのお客さまに多様な商品・サービスを提供できる点にあります。お客さまの移動の目的(地)づくりを推進するとともに、Suicaを中心とした各種データやデジタルでのお客さま等との接点を活かし、お客さま一人ひとりのニーズにあったサービスを提供していきます。

 2024年12月には「Suicaの当たり前を超えます~Suica Renaissance~」を公表しました。Suicaは今後10年以内に機能を順次グレードアップし、「移動と決済のデバイス」という今までの当たり前を超え、交通、決済だけでなく地域のお客さまの様々な生活シーンにてご利用いただける「生活のデバイス」に生まれ変わります。

 2025年3月には「TAKANAWA GATEWAY CITY」のまちびらきを迎えました。モビリティと生活ソリューションの融合と連携により、より良い未来のための社会課題に取り組むまちをつくり、「100年先の心豊かなくらしのための実験場」と位置づけました。引き続き、当社グループの資産を有効活用したまちづくりを進めていくとともに、不動産回転型ビジネスによる攻めの戦略を加速していきます。広域品川圏の駅を中心としたまちづくりでは1,000億円の収益規模をめざしていきます。

 

○ 経営体質の抜本的強化(構造改革)

 当社グループをはじめ、国内の鉄道事業者は生産年齢人口の減少という課題に直面しています。この課題に対処するため、鉄道のメンテナンス分野における他社との包括的連携や車両装置及び部品の共通化などを推進し、さらなる安全・安定輸送のレベルアップとサステナブルな運営に取り組みます。

 2024年6月には新たなビジネス成長戦略「Beyond the Border」を策定しました。当社グループのビジネス圏を飛躍的に拡大し、「すべての人の心豊かな生活」を実現していきます。

 また、鉄道に求められる社会的な役割や多様化するお客さまのニーズにお応えし、今後も鉄道事業をサステナブルに運営していくため、2024年12月に鉄道旅客運賃の上限変更認可申請を実施しました。引き続き、シンプルかつ柔軟な運賃料金制度の実現に向けて、国に要望していきます。

 さらに、地方ローカル線については、沿線自治体などと持続可能な交通体系の構築に向けた協議を進めます。津軽線(蟹田・三厩間)においては、2024年5月に沿線自治体と自動車系交通への転換について合意し、新たな地域交通の運行に向け関係者との調整を行っています。久留里線(久留里・上総亀山間)においては、2024年10月に「JR久留里線(久留里・上総亀山間)沿線地域交通検討会議」が取りまとめた報告書を受け、翌11月に当社としてはバス等を中心とした新たな交通体系へ転換することが必要と考えている旨を公表しました。

 急速なスピードで変化する経営環境に柔軟に対応し、一人ひとりの社員の働きがいの向上と生産性向上による経営体質の強化を図るため、組織改正を引き続き進めます。地域の状況に即した社会課題解決への貢献、感動の創造、「究極の安全」の追求やサービス品質の向上をスピーディーに実現するとともに、社員の活躍フィールドの拡大を通じた働きがい及び働きやすさを高め、社員とグループの成長の好循環をめざします。

 

○ 成長の基盤となる戦略の推進

 「変革 2027」の実現に向け、その基盤となる人材、DX・知的財産、財務・投資などの戦略を明確にし、グループ一体で取り組みます。

 人材戦略については、「多様性」「革新性」「柔軟性」の観点から、多様な人材が多様な価値を創造できるフィールドを充実させ、従来の働き方にとらわれない柔軟な発想で業務改革を進め、社員がボーダーを超えて挑戦できる環境を整備していきます。

 DX・知的財産戦略については、デジタル技術の最新トレンドを積極的に取り入れるとともに、オープンイノベーションによる社内外の技術・知見を活用した技術開発及びDXの推進により、ビジネス創出と仕事の仕組みの変革を進めていきます。

 財務・投資戦略については、連結キャッシュ・フロー及びグループ価値を最大化するためにビジネスごとの戦略の策定・実行を推進します。また、モビリティと生活ソリューションの二軸経営にふさわしいキャッシュ・アロケーションや有利子負債の考え方を導入するとともに、資金調達の多様化を進め、成長の加速と信用力の維持を両立していきます。

 

○ ESG経営の実践

 事業を通じて社会課題の解決に取り組むことで、企業価値の向上と「すべての人の心豊かな生活」を実現していきます。

 環境については、2020年度に公表した環境長期目標「ゼロカーボン・チャレンジ2050」において掲げる2050年度のCO2排出量「実質ゼロ」の達成に向けた挑戦を続け、持続可能な社会の実現をめざして新たな価値を提供していきます。また、グループ事業全体のサプライチェーンにおいて排出される温室効果ガス削減にも貢献していきます。さらに、水素ハイブリッド電車「HYBARI」の実用化検討を進め、2030年度の営業運転開始をめざします。

 社会については、地方中核駅を中心としたまちづくりや6次産業化による地域経済の活性化など、地方創生に取り組みます。また、共生社会の実現に向けた知識やスキル、マインドを身に付けた社員の育成に取り組むとともに、パラスポーツへの支援等を通して、お客さまや地域の皆さまとともに「心のバリアフリー」を推進します。

 企業統治については、機関設計として監査等委員会設置会社を選択し、意思決定や業務執行の迅速化及び取締役会のモニタリング機能の充実などに取り組んでいます。今後もコーポレート・ガバナンスを一層充実させ、さらなる企業価値向上をめざします。

 

 これらの戦略を着実に推進するとともに、グループ全体の「融合と連携」の深化、そして新領域への絶えざる挑戦により、グループを挙げて新たな価値を創造します。

 「すべての人の心豊かな生活」に向け、事業活動を通じて地域の社会課題にしっかりと向き合い、お客さまや地域の皆さまからの「信頼」を基盤としたサステナブルな企業グループをめざします。

 

 当社グループにおいて、中央省庁等向けの委託事業及び補助金事業に関する不正な人件費請求をはじめ、輪軸組立作業における圧入力値の不適切事象、独占禁止法に抵触するおそれのある行為に対する公正取引委員会からの警告など、ステークホルダーの皆さまの信頼を損なう事象を連続して発生させたことにつきまして、深くお詫び申し上げます。

 経営の信頼を取り戻すべく、当社内に外部有識者を招いた委員会を速やかに設置し、客観的な検証により課題を抽出します。その結果を今後の対策に反映し、グループ全体のガバナンスの改善と強化を図ってまいります。

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組の状況は、次のとおりです。

 なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日時点において当社グループが判断したものです。

 

 (1) サステナビリティ全般

  ① 戦略

  当社グループはお客さまの日常生活と広く関わり合いを持ち、地域や社会に不可欠な事業を営んでいます。適正な利益を確保しつつ、中長期的な視点で必要な施策を実行していくESG経営を実践し、事業を通じて社会課題の解決に取り組みます。そして、地域社会の持続的な発展とSDGsを達成し、お客さま・地域の皆さまからの信頼を高め、企業価値の向上、グループの持続的な成長をめざしています。

  中長期にわたり当社グループの経営方針・戦略等に影響を与える可能性のあるマテリアリティ(重要課題)に関連するリスクと機会を以下のように捉え、各取組みを実施しています。

 

  ② マテリアリティ及びリスクと機会

   a 安全安心なインフラを社会のために

安全を経営のトッププライオリティとし、安全安心な社会インフラを提供します。

(リスクと機会)

・事故等の発生は経営に重大な影響を与える可能性のあるリスクです。

・安全はすべての事業の基盤となる「信頼」をもたらし、高めます。

 

   b 活力ある社会のために

 すべての人を包摂する便利で快適な質の高いサービスを提供します。地域と協働して活気あるまちをつくります。

(リスクと機会)

・人口減少のリスクなどを踏まえ、地域と協働して関係人口拡大によるご利用増につなげます。

・多様で公平な社会・共生社会への理解促進とアクセシビリティの向上、利便性・非接触ニーズへの対応により、ご利用増と活気あるまちにつなげます。

 

   c 豊かな地球環境のために

 気候変動による事業影響を念頭に、カーボンニュートラルの実現やエネルギーの安定確保を行います。また資源循環社会及び生物多様性の実現をめざした取組みをリードします。

(リスクと機会)

・気候変動が鉄道運行や事業に与えるリスクを踏まえ、エネルギーの消費量削減と安定確保を行い、環境優位性を向上、選ばれるサービスであり続けます。

 

   d 新たな技術とサービスを社会のために(イノベーション)

 すべての事業で新技術・DXへ積極的に取り組み、また既存ビジネスの枠組みを超えてチャレンジすることにより、新たなサービスの創出と早期社会実装を実現します。

(リスクと機会)

・災害や事故への対応力を向上するソリューションとなるほか、省力化・効率化を行います。

・あらゆる事業においてサービス・付加価値を向上するとともに、事業創出による収益確保と雇用維持につなげます。

 

   e すべてのグループ社員が生き生きと活躍するために(エンゲージメント)

 グループ社員一人ひとりが多様性を活かし、やりがいをもって能力を発揮できる企業にします。

(リスクと機会)

・多様な価値観と柔軟な発想力を持った人材の確保につなげます。

・「融合と連携」による事業の抜本的変革、新たな発想によるイノベーション、仕事の高度化による生産性向上につなげます。

 

   f 経営の信頼を高めるために

 新たなチャレンジを促進するための変化に強いガバナンス体制を構築するとともに、人権を尊重し、信頼される企業経営を行います。

 

(リスクと機会)

・社員一人ひとりが経営への参画意識を持ち、ボトムアップでヒトを起点とした新しい価値創造をする企業へと変革します。

・創造した付加価値を幅広いステークホルダーに分配し、企業価値向上につなげます。

・実効性のある経営体制を構築し、「信頼」を支え高める企業文化をつくります。

 

  ③ マテリアリティの特定プロセス

  2023年、ポストコロナにおいてモードチェンジし、将来にわたってサステナブルに成長する企業グループをめざすため、企業価値向上や事業基盤へのインパクトを改めて議論しました。そのうえで、パーパスやビジョンに向けて具体的にめざすことをバックキャストで検討し、グループ経営におけるマテリアリティを見直しました。マテリアリティの見直しにあたっては、サステナビリティ戦略委員会のもとに設置した「統合報告書検討部会」において議論を重ねたものに対して、ステークホルダーからの意見を踏まえ、経営層で十分な議論を行い、サステナビリティ戦略委員会で決定しました。

 

  ④ 推進体制

    サステナビリティ戦略を実行するためのマネジメント体制として、代表取締役社長を委員長とする「サステナビリティ戦略委員会」を設置し、持続可能な社会の実現をめざし、様々な社会的課題の解決に向けたグループの基本方針等を定め、その推進を図っています。

 

  ⑤ マテリアリティを構成するサブマテリアリティと目標

マテリアリティ

サブマテリアリティ

目標

安全安心なインフラを社会のために

 

安全安心な輸送・商品・サービスの提供

活力ある社会のために

地方創生

・東日本エリアにおける関係人口の拡大

・地域経済の活性化の推進

快適な都市

・付加価値の高い多様なサービスのワンストップでの提供

・シームレス・ストレスフリーな移動の実現

・環境、防災、コミュニティに配慮した多様な魅力あるまちづくり

共生社会

・ホスピタリティマインドのある社員の育成

・障害当事者との対話を通じたサービス品質の改善

・パラスポーツの体験・支援等を通した共生社会への理解促進

豊かな地球環境のために

カーボンニュートラル

・ゼロカーボン・チャレンジ2050

・多様なエネルギー活用

サーキュラーエコノミー

3Rの推進

ネイチャーポジティブ

生物多様性の保全

新たな技術とサービスを社会のために(イノベーション)

技術革新

・外部技術の活用とDXを通じた絶えざる技術革新で事業運営のソリューションの提供とソーシャルイノベーションを実現

・デジタル人材の育成、活躍

新領域

新サービスの提供、新しい暮らしの提案

すべてのグループ社員が生き生きと活躍するために(エンゲージメント)

DE&Iの推進

・多様な人材の活躍

・柔軟な働き方の実現

人材育成

・イノベーションマインドの醸成と多様なキャリア形成

・活躍フィールドの拡大

健康経営

社員の健康推進

労働安全

事故のない安全な職場

経営の信頼を高めるために

果敢なチャレンジを促進する内部統制

・新たなチャレンジを支えるためのリスクマネジメント

・安定的で適正な業務運営の確保

・法令遵守と企業倫理に従った事業運営、情報セキュリティの確保

人権尊重

・人権尊重の浸透

・サステナブル調達

 

 (2) 気候変動

  ① ガバナンス

  マネジメント体制として、代表取締役社長を委員長とする「サステナビリティ戦略委員会」を設置、主に気候変動に関する目標の設定や進捗、リスク・機会等に関する監督と意思決定を行っています。委員は副社長・常務取締役等で構成されており、社外取締役(監査等委員である取締役を除く。)及び常勤の監査等委員である取締役も出席しております。同委員会は年2回程度開催しているほか、「ゼロカーボンワーキンググループ」及び「水素ワーキンググループ」では、CO₂排出量削減状況や水素利活用について報告・討議を行っています。

 

  ② 戦略

  グループ経営ビジョン「変革 2027」において、ESG経営の実践を掲げ、地球温暖化防止・エネルギーの多様化を指針としています。これらを実現するため、気候変動が事業活動に及ぼす重要なリスク・機会を特定、評価し、事業戦略の妥当性を検証しています。本開示においては、自然災害に係る物理的リスクを重要なリスクと特定し、国から公表されているハザード情報等を用いた精緻な手法でシナリオ分析を実施しています。

 

  ③ リスク管理

  リスク管理の枠組みの中で、気候変動の影響を受けるリスクを各部門において把握し、具体的な回避・低減策を講じています。気候変動の緩和に関しては、半年に1回以上、各事業に係るエネルギー使用量、CO₂排出量、フロン漏洩量、財務状況などを取りまとめ、詳細な分析を実施するとともに、法令改正などの重要な外部環境の変化を踏まえて、リスクの洗い出し・特定・評価を行っています。気候変動への適応に関しては、急性・慢性の気象災害について、輸送サービス事業における物理的リスクの低減に向け、取組みを強化、推進しています。

 

  ④ 指標及び目標

  「ゼロカーボン・チャレンジ2050」を当社グループ全体の目標に掲げ、2030年度までに2013年度比CO₂排出量50%削減、2035年度までに60%削減、2040年度までに73%削減、そして2050年度はCO₂排出量「実質ゼロ」を目標に設定しています。これらの進捗状況を定期的に管理するとともに、脱炭素社会の実現に向けた貢献をより確かなものにするため、グループ全体で取組みを推進しています。目標の進捗及びスコープは以下のとおりです。なお、2024年度の実績値等につきましては、「JR東日本グループレポート 2025」に掲載いたします。

  図表上の☆は統合報告書においてKPMGあずさサステナビリティ株式会社による第三者保証が行われた指標であり、統合報告書から有価証券報告書への転載を行ったために表記されているものです。有価証券報告書は第三者保証対象の開示媒体ではありません。

 

 2030年度までのCO₂排出量の削減目標

項目

基準値(基準年度)

2030年度目標値

2023年度実績値

総量

削減

JR東日本グループのCO₂排出量
(万t-CO₂)

265(2013年度)

133(50%削減)

226(14.7%削減)

鉄道事業のCO₂排出量

(万t-CO₂)

215(2013年度)

108(50%削減)

185(14.0%削減)

 

 

 JR東日本グループ全体のエネルギー使用量とCO₂排出量

0102010_001.png

 

 エネルギーフローマップ

 当社における、エネルギーのインプットから消費までの流れを示しています。自営の発電所と電力会社から供給された電力は、 電車の走行や駅・オフィスの照明・空調に使用しています。また、軽油や灯油等を気動車の走行や駅・オフィスの空調に使用しています。0102010_002.png

 

 

 JR東日本グループ全体のCO₂排出量

0102010_003.png

 スコープ別のCO₂排出量

項目

スコープ1☆

スコープ2☆

スコープ3

2023年度排出量

161万t-CO₂

119万t-CO₂

316万t-CO₂

 

スコープ1:気動車の運転や自営火力発電所の稼働を含めグループが使用したすべての燃料の燃焼に伴い直接的に排出される温室効果ガス(GHG)排出量。エネルギー起源GHG排出量が対象。

スコープ2:電力会社から購入している電力・熱等の使用に伴い、間接的に排出されるGHG排出量。

スコープ3:事業活動に関連して他社から排出されるGHG排出量。

※スコープ1とスコープ2の合算値とCO₂総排出量が一致しないのは、スコープ1、2については、他社に供給した電力分も含めているためです。

※スコープ3排出量の主な内訳は、カテゴリ1が59万t-CO₂、カテゴリ2が114万t-CO₂、カテゴリ3が55万t-CO₂、カテゴリ13が9万t-CO₂です。

 

●算出基準について

主なカテゴリの算定基準については、以下のとおりです。

カテゴリ1:グループ外から購入した製品・サービスの購入金額に排出原単位(※1)を乗じて算定。

カテゴリ2:グループ外取引による設備投資金額に排出原単位(※1)を乗じて算定。

カテゴリ3:購入した燃料、電力及び熱の使用量にエネルギー種別の使用量当たりの排出原単位(2)を乗じて算定。

カテゴリ13:グループ外へ賃貸したリース資産のエネルギー使用量又は延床面積に排出原単位(3)を乗じて算定。

 

※1 各社のCDP回答及びサステナビリティレポートより売上高あたりの排出量を取引会社別に算出し、排出原単位として採用。対象となる各社の排出量はスコープ1、スコープ2、スコープ3のカテゴリ1~8とした。対象となる排出量を算定していない取引会社の原単位については、同様の方法で算定したセクター別の排出原単位を採用。

※2 燃料は国立研究開発法人 産業技術総合研究所 安全科学研究部門 IDEAラボ「LCIデータベース IDEA Version2.3」(以下、「IDEAv2.3」)の原単位データを採用。電力及び熱は環境省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース」(以下、「排出原単位DB」)の原単位データを採用。

※3 電力以外のエネルギーは「SHK制度における排出係数」の排出係数データを採用。電力は小売電気事業者の契約メニュー別の調整後排出係数を採用。延床面積は「排出原単位DB」の原単位データを採用し、複合施設の建物に適用する原単位は、最も使用割合が大きい用途の原単位を代表値として採用。

 

  その他の目標や進捗の詳細については、「JR東日本グループレポート 2024」P77~79をご覧ください。

 

 

 (3) 人的資本

 当社グループの成長の原動力は「社員一人ひとりの力」です。

 事業運営体制の見直しと人財戦略を連動させながら、「働きがい」と「働きやすさ」を高めることで「社員一人ひとりの力」を最大化させ、社員の成長をグループの成長の原動力とする好循環を実現する取組みを進めています。

 当社グループでは、この好循環を「社員と会社の新たなエンゲージメント」と位置づけ、社員一人ひとりがそれぞれの活躍フィールドで「主役」として成長を実感できる企業グループとなるべく構造改革を推し進めることにより新グループ経営ビジョンを実現していきます。

 

① ガバナンス

  当社グループのガバナンスを強化するためには、人的資本の充実による内部統制の強化が重要です。当社グループにおける内部統制は、コンプライアンス、事故・災害の発生に備えた体制整備、財政上の損失の防止、財務諸表の健全性の確保などの観点だけに留まりません。社員一人ひとりがその発意や意欲に基づき主体的に業務を変革し事業フロンティアを拡げていくことがグループの成長と構造改革につながるという考え方のもと、社員の果敢なチャレンジを会社として支援する仕組みを当社の内部統制と位置づけています。そのためには、社員が新たな挑戦を通じた成長や仕事による達成感・充足感を実感できるような人財戦略を推進していくことが不可欠です。

これらの取組みを通じて、トップマネジメントからの発信と社員からの様々な発意や挑戦が、経営というステージで融合することにより、社員の一人ひとりが経営への参画意識をもって活躍できる「社員と会社の新たな関係性」をつくっています。

 

② 戦略

  社員もグループも持続的に成長し、当社グループの全社員がそれぞれのフィールドで「主役」となることができるよう、人財戦略を進めていきます。社員が新たな挑戦を通じて成長し、仕事による達成感や充足感を実感することで「働きがい」をさらに向上させていきます。また、労働条件の向上や労働環境の整備を通じて「働きやすさ」もさらに向上させていきます。これらを実現させるために人事・賃金制度の改正や様々な人事施策を進めていきます。

  新しい人財戦略では、社員のエンゲージメント向上とイノベーション創出による付加価値の最大化のための「DEI」、グループの持続的な成長の基盤である社員の健康を追求するための「健康経営」の二つを土台と位置づけ、グループの最大の経営資源である多様な人材の活躍を後押ししていきます。

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a  DEI

  多様なお客さまのニーズや世の中の変化に対応し、「当たり前」を超えていくために当社がこれまで築いてきた強みと社員の多様な個性・能力・価値観といったダイバーシティを掛け合わせることで、働き方とビジネスの両面においてイノベーションを創出し、グループの企業価値向上をめざします。

 

(育児、介護などと仕事の両立支援の推進)

  様々なライフイベントに対応してすべての社員が活躍し続けられるよう多様な働き方の選択肢を充実させています。育児、介護などと仕事の両立支援をさらに推し進め、社員の活躍と「働きやすさ」の実現を目指しています。育児、介護などと仕事の両立支援については、法定水準を大きく上回る内容の制度を導入し、社員のワークライフの両立を実現しています。また、育児、介護などと仕事の両立に対する職場の理解を深める取組みを行っています。充実した制度の導入と職場の理解促進の両輪を進めることで、当社グループで働き続けられる環境を整えています。

 

(女性社員の活躍推進及び一般事業主行動計画)

 会社発足以来、女性活躍推進に力を入れて取り組んだ結果、すべての職域において女性社員が活躍しており、勤続年数も伸長しています。2024年4月より新たに策定した「第三期一般事業主行動計画」では、女性の採用及び定着を進める取組みを継続し、加えてより広いフィールドで活躍する女性を育成するとともに責任あるポジションに登用していく取組みを加速していきます。

 

(障がいのある社員の活躍推進)

  障がいのある方の積極的な採用を進めるとともに、エクイティの観点から障がいのある方が入社後にその能力を最大限に発揮できるためのサポートを行っています。一人ひとりの社員と双方向のコミュニケーションを取りながら活躍し続けるためのニーズを把握し、活躍フィールドの拡大を行うとともに、様々な職域で活躍できるように就業環境の整備も進めています。障がいのある社員の活躍を後押しすることは、当社グループにおけるDEIを実現するだけでなく、様々なお客さまのニーズに寄り添った多様なサービスを充実させることにも繋がっています。

 

(外国籍社員の活躍推進)

  国籍を問わず優秀な人材の獲得に努めています。定期的に外国籍社員との意見交換の場を設けているほか、要望などを踏まえ、昇職試験の受験方法を見直すなど、外国籍社員が能力を十分に発揮できる環境づくりに取り組んでいます。

  また、海外拠点や海外鉄道プロジェクトの運営の中核となるとともに、新たな事業開発をけん引する「海外戦略職」を新設し、海外の大学等からも優秀な人材を獲得していきます。。

  そして、国際鉄道人材の育成を目的に、2019年度から「JR東日本Technical Intern Training」を展開し、技能実習生を受け入れています。加えて、鉄道分野が追加された特定技能制度を活用し、2025年度から、特定技能人材が当社グループで就労を開始するとともに、当社以外の鉄道事業者等も参画可能な教育プラットフォームを創設します。

 

(LGBTQ+社員等への理解に向けた取組み)

  様々な値値観をもった社員が自身の能力を最大限に発揮できるよう、LGBTQ+に対する理解が浸透した働きやすい環境をつくることが当社グループの責務です。これまで配偶者に適用が限られていた人事・賃金制度、福利厚生制度等の適用を同性パートナーに対しても拡大し、働きやすい環境を整備してきました。また、全社員教育等を通じて、様々な価値観をもった社員が「安心して」「ストレスなく」働ける職場づくりを進めています。また、LGBTQ+の当事者ネットワークをグループ全体にも拡げてグループ全体でさらなる理解に向けて取り組んでいます。

 

   b 健康経営

     『「からだ」「こころ」「つながり」から創る社員と家族の豊かなミライ』をキャッチフレーズに、当社グループで働く社員一人ひとりを健康創りの主役と位置づけ、「からだ」「こころ」「つながり」の3つのテーマ、及び「ヒトと技術のコラボレーション」「グループ総合力の結集」「オープンイノベーション」の3つのメソッド(手法)により、戦略的な健康経営を推進します。

 

   (健康意識の醸成)

 グループ一体となった健康意識の醸成のために、健康フォーラムを開催し、各箇所の健康推進リーダー及び箇所長等が中心に約900名が参加しました。健康創りの取組みに関する講演、職場の健康創り事例の紹介、職場サポートパッケージの体験及びフィットネス体験等を通じて、「からだ」「こころ」「つながり」を中心に健康経営について学びました。健康フォーラムの内容を職場の健康創りや新たな取組みに還元することによりグループ全体の健康意識を向上させていきます。

 

   (職場が中心となった健康創り)

 各職場で健康推進リーダーを選任し、健康推進リーダーを中心に健康創りの取組みを実施しています。また、職場ごとに健康創りの目標を設定し、身近な健康課題解決に向けて、職場が一体となって健康創りに取り組んでいます。

 

(グループ各社の魅力あるコンテンツの展開)

グループ各社が持つリソースをフル活用し、スポーツ、DXソリューション、食生活教育等、「からだ」「こころ」「つながり」のテーマに沿った多くのメニューを設定し、グループ一体となって健康創りの取組みをサポートしています。

 

(医療機関とグループ社員の連携)

 社員の健康管理を担うJR東日本健康推進センターでは産業医、保健師等が専門知識を活かし、保健指導の強化、女性の健康課題やヘルスリテラシーを高める健康教育、データ分析や最新の知見を取り入れた効果的な取組みを提案し、当社グループ社員の健康創りをサポートしています。

 

(医療機関と地域の連携)

 当社グループで運営を行っているJR東京総合病院とJR仙台病院は、企業立病院としてグループ社員や家族の健康を支えるだけでなく、地域の皆さまへ高度で良質な医療サービスを提供しています。医療と当社のモビリティ事業や生活ソリューション事業との連携を行うことで、「すべての人の心豊かな生活」の実現と新たな価値創造に取り組んでいます。

 また、JR東京総合病院は、病棟の建替えにより、より快適な療養環境の整備と診療機能の強化に取り組んでいます。

 

   c 人事施策(新たな採用・育成・運用体系)

 主体的に業務を変革し事業フロンティアを拡げていくために、人的資本の価値最大化に強力に取り組んでいます。そのために、多様な人材の獲得や個別・多様で自律的なキャリア形成、個別支援型の人材育成を進めています。また、グループの持続的な成長を高めていくために、グループ全体を舞台として活躍する人材の採用・育成・運用体系を推進します。

 

   (多様な人材の採用)

 選ばれ続ける企業であり続けるために応募者の志向に柔軟に応じた採用体系にシフトし、多様な人材を獲得しています。

 前述の海外戦略職の新設に加え、「総合職」では、より多様で優秀な方を採用できるよう、学歴要件の範囲を拡げました。また、各地域において、現場第一線の業務を経験しながら、多様な経験を通じて各地域を支え、新たな価値を生み出す人材として、「エリア職」を改め「地域総合職」を新設しました。

 経験者採用社員においては、キャリアアップを目的に当社から転職した方に戻ってきていただく「ウェルカムバック採用」も実施しています。

 

   (双方向コミュニケーションをベースとした人材育成サイクル)

    社員の成長のためには、個別支援型の人材育成の重要性がますます高まっています。日々の双方向コミュニケーションをベ-スに「課題設定→実践→トレース→評価」の育成サイクルを推進し、上司と部下の関係の質の向上を実現することで、社員の活躍フィールドの拡大や新たな挑戦ができる環境づくりを進めていきます。

 

 (職場主体の学びの場の創出)

 社員の伸びゆく力と果敢な挑戦に応えるため、職場主体の学びの場の拡大を図っています。社外の知見も活用しながら、DXやロジカルシンキング、企画業務スキルなどの分野で社員が自身の発意に応じて学ぶことができる多様な研修を用意しています。また、リスキリングを推進し、実務力の向上とオープンマインドの醸成を図っています。

 

 (応募型の各種人材育成プログラム)

 技術や海外実務、財務、語学など、社員のキャリア自律に資する応募型の人材育成プログラムを展開しています。修了生は専門性や経験を活かし、幅広いフィールドで活躍しています。また、プログラムの見える化や、より活用しやすい仕組みや制度の導入により、社員の果敢な挑戦を継続的にサポートしていきます。

 

   (運用の多様化)

 社員がモビリティ、生活ソリューションの領域間を柔軟に行き来し活躍できる運用を行っていきます。また、既に運用をスタートさせているジョブ型人事運用に加え、2026年度からオペレーションの高度化や技術面での人材育成を担うテクニカルリーダー職、技術サービス企業としての研究・開発を担うフロンティアスタッフ等を新設予定です。複線型の人事運用を拡充することにより社員の多様なキャリア形成を後押ししていきます。

 

   (高齢者雇用と活躍推進のための運用)

    定年退職後にも継続雇用を希望する社員を、エルダー社員として再雇用しています。2025年4月現在、60歳以上のエルダー社員5,679名が在籍しており、グループ会社等を中心に当社グループで活躍しています。2026年度より高年齢層の社員の働く意欲に応え、豊富な経験やスキルをグループのさらなる成長につなげるため、定年退職の年齢を満65歳に引き上げるとともに、65歳以降の新たな再雇用制度(セカンドキャリアスタッフ制度)の新設を予定しています

 

   (グループ一体となった採用活動)

 グループ採用においては、グループの総合力を発揮した採用活動の一環としてグループ全体での採用イベントの開催を行っています。また、グループ採用ホームページについて新たにリニューアルを行い、応募者の志向に合わせた情報発信や機能検索を充実させています。

 

(グループ一体となった人材育成)

 当社及びグループ会社社員の一般社員から管理者まで幅広い層を対象とした集合研修カリキュラムを実施し、新たな価値創造に向けたイノベーションマインド・スキルの強化に取り組んでいます。その他、社内・社外通信研修もグループ会社社員が受講可能な環境を整えています。

 

(グループ全体での人事運用)

 コングロマリットプレミアムの実現をめざし、グループ全体を視野に入れた人事運用を行います。グループ会社との人事交流をさらに活発化させ、グループ経営人材の育成につなげていきます。

 二軸経営の推進をさらに進めていくためグループ内の「融合と連携」を進め、当社社員がグループ会社で活躍する機会を増やしていきます。また、グループ会社の社員も当社や他のグループ会社で活躍できる機会をさらに増やしていくなど、グループ一体で人材を運用・育成していくことでグループ全体での人的資本の最大化に努め、将来の当社グループ経営を担う層の育成をグループ全体で進めていきます。

 

③ リスク管理

  人的資本の最大化に向けた課題は、社会的課題である労働力不足のなか、事業運営に必要な人材を獲得することです。

  二軸経営の推進に向け重点・成長分野における知見や経験を有した専門性の高い人を獲得するとともに、社内からも登用するためにジョブ型人事運用を充実させていきます。さらに、社内人材の適材適所の配置や、公募制異動などの人事施策を積極的に進め、二軸経営に向けた人材ポートフォリオの実現を進めます。

  また、生産年齢人口の減少や少子高齢化、首都圏への一極集中や地方の過疎化等による構造的な労働人口減少等による人員不足や採用難などにも対応する必要があります。デジタル技術等を活用した業務プロセスの抜本的な見直しによる生産性向上を進め、より少ない人員での事業運営を実現していきます。加えて、応募者の志向に応じた採用体系にシフトするとともに、様々な採用形態を用意して人材の獲得を進めることにより、これらのリスクに対応していきます。

 

④ 指標及び目標

(社外人材の確保と活躍推進)

  経験者採用数 2024年度実績※2024年4月1日入社を含む (単体)284名 (連結)1,444名

管理者に占める経験者採用比率 単体目標 20.0%(2027年度末時点)

2024年度実績 (単体)20.6% (連結)24.2%

 

(女性社員の活躍推進及び一般事業主行動計画)

第三期一般事業主行動計画(計画期間:2024年4月1日~2028年3月31日の4年間)

    目標1:採用者に占める女性比率を35%以上とする。(2025年4月1日時点採用者実績 31.0%)

   目標2:10事業年度前及びその前後の年度に採用された女性社員の定着率を85%以上とする。

(2024年度実績 80.1%)

      目標3:男性社員の育児休職等取得率を85%以上とする。(2024年度実績 71.9%)

      目標4:管理職に占める女性比率を10%以上とする。(2025年3月31日時点 8.3%)

目標5:自律的なキャリア形成に資する応募型の研修等に挑戦する社員に占める女性比率を25%以上とする。(2024年度実績 19.0%)

 

(障がいのある社員の活躍推進)

  障がい者雇用率 単体目標 2.70%(2027年度末時点) 2025年6月時点実績 (単体)2.51%

 

(外国籍社員の活躍推進)

     外国籍在籍社員数 2025年4月1日時点実績 (単体)16か国・地域122名

         外国籍社員採用者数 2024年度実績 (単体)26名 (連結)217名 ※2025年4月1日入社含む

 

(育児、介護など両立支援の推進)

     男性の育児休職等取得率 単体目標 85%以上(2027年度末時点)

                 2024年度実績 (単体)71.9% (連結)70.2%

 

   (健康経営)

     定期健康診断受診率 目標 100% 2024年度実績 (単体)100%

     ストレスチェック受検率 目標 95%以上 2024年度実績 (単体)95.4%

 

(重点・成長分野における社外・社内人材の活用と人材配置)

重点成長分野への人材配置 連結目標 累計2,000名以上(2027年度末時点) 2024年度実績 979名

 

(グループ一体となった人材育成)

  新たな価値創造に関する自己啓発講座受講人数 単体目標 累計25,000人(2027年度末時点)

2024年度実績 (単体)4,388名

 

(職場主体の学びの場の創出)

     職場主体の研修実績 2024年度実績 (単体)1,197件(定例的な訓練等を除く)

 

 

(4) 人権

 ① ガバナンス

  当社グループは、人権尊重の取組みを推進する体制として、人権を担当する取締役又は執行役員を委員長、本社における部門長を委員として構成する「人権啓発推進委員会」を年2回開催し、人権デュー・ディリジェンス(人権DD)の実施状況等、当社グループにおける種々の人権侵害リスクの要因を把握・議論し、対応状況をモニタリングしています。サステナビリティ戦略委員会と常に連携し、人権尊重に関する重要な意思決定事項については、取締役会等でさらなる議論を行い、審議・決議を行います。

 

 ② 戦略

 当社グループは、グループ理念に掲げる「すべての人の心豊かな生活」の実現に向けて、事業活動に関わるお客さま、地域の皆さま、ビジネスパートナー、社員等すべての人々の人権尊重の取組みを推進するため、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」等の枠組みに基づき、2023年3月に「JR東日本グループ人権基本方針」を策定しました。また、2024年4月に「JR東日本グループカスタマーハラスメントに対する方針」を策定し、当社グループで働く社員等の人権尊重の取組みを強化するとともに、2024年8月には「国連グローバル・コンパクト」に署名し、グローバル・コンパクトの人権に関する原則、及び「子供の権利とビジネスの原則」にも賛同しています。当社グループは、これらの人権に関する国際規範や方針に基づき、人権DDの取組みを通じて、人権侵害リスクの低減を図っています。

 さらに、サプライチェーンの観点では、JR東日本グループとしての調達に関する行動基準となる調達方針等に基づき、サプライチェーン全体で人権や環境等に配慮した調達を実施しています。

 

 ③ リスク管理

当社グループの広範な事業領域の特徴を理解し、国連指導原則報告フレームワーク等を参考に、人権侵害リスクの深刻度と発生可能性を考慮し、「労働安全衛生・過重労働」「差別・ハラスメント」「お客さまの安全とプライバシー」「サプライチェーン上の人権課題」「地域・環境への配慮」の5つの重要なテーマ(顕著な人権課題)を特定しました。

 これらの人権課題に対して、リスクマネジメントの仕組みを活用した人権DDの実施と国際規範等に基づいた対話等を通じて、その低減に取り組んでいます。また、人権に関する教育・研修の実施や人権啓発標語などのグループ一体となった人権への理解を浸透させる活動を通じて、社員の人権尊重に対する意識の向上を図るとともに、安全で働きやすい職場環境の構築に取り組んでいます。

また、サプライチェーンの観点では、アンケートの実施や意見交換等を通じて取引先と課題を共有し、ともに解決に向けて歩みを進め、人権や環境等に関する取組みのサプライチェーンへの浸透を推進しています。

 

 ④ 指標及び目標

 サプライチェーンに関する指標として、「人権・環境等に関する取組みの主要サプライヤーへの浸透(サプライチェーン浸透率)」を定めています。成長の基盤となる目標を2027年度末において100%に設定しています。

指標

2024年度

実績

2025年度

計画

2027年度

目標

人権・環境等に関する取組みの主要サプライヤーへの浸透(サプライチェーン浸透率)

90.4%

100%

100%

 

 

3 【事業等のリスク】

 当社グループでは、各事業に共通・特有のリスクの回避・低減に取り組んでおります。具体的には、毎年事業全体のリスクを外部の知見や社内の意見等をもとに洗い出し、発生頻度及び影響度を踏まえた分析・評価を行ったうえでその年度の重要リスクを定め、回避・低減策を検討・実施しております。このように、PDCAサイクルを回してリスクの見直し等を図り、取締役会でリスク回避・低減に向けた取組みの達成度・進捗をモニタリングするとともに今後の方針について検討を行い、リスクマネジメントの実効性を確保しております。

 今後、当社グループが変革のスピードアップをめざして収益力の向上や経営体質の抜本的強化に取り組むためには、リスクを損失回避等のマイナス要素を減らす観点から捉えるだけでなく、リスクテイクも含め、当社グループの価値を積極的に向上させる観点を含めた「幅広いリスクマネジメント」が重要です。

 これにより、安定的で適正な業務の運営の確保に加えて、当社グループ社員の成長に向けた果敢なチャレンジを支援・促進してまいります。

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響をおよぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。

 なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) 鉄道事業における事故等の発生

 鉄道事業において事故等が発生した場合、当社グループに対するお客さまの信頼や社会的評価が失墜するだけでなく、お客さまへの補償や事故等の影響による事業の中断等により経営に重大な影響を与える可能性があります。

 当社グループは、安全を経営のトッププライオリティと位置づけ、ハード、ソフトの両面から安全性の高い鉄道システムづくりに取り組み、会社発足時から8回目となる安全5ヵ年計画「グループ安全計画2028~本質をふまえ、想定外も想像して安全を先取る~」に基づき施策を着実に実施しました。

 具体的には、当社グループに起因する鉄道運転事故を防止するため、自動列車停止装置(ATS-P)整備などの列車脱線事故等の対策や、駅や車両基地等の屋根の落下対策などの基幹設備の強靭化を進めました。

 踏切事故対策については、踏切の整理統廃合、踏切支障報知装置の増設や障害物検知装置の高機能化等を進めるとともに、警察や道路管理者等と連携し「踏切事故0(ゼロ)運動」として踏切通行者等への啓発活動を行いました。

 また、ホームにおけるお客さまと列車の接触や線路への転落を防止する対策として、東京圏在来線の主要路線330駅758番線へのホームドアの整備を進めており、2024年度末現在、線区単位の140駅288番線に整備が完了しました。また、他の鉄道社局と合同で「プラットホーム事故0運動」等の啓発活動を実施しました。

 当社グループを取り巻く環境は、自然災害の激甚化・頻発化、人口減少、DXの進展など、激しく変化しています。これらの変化に対応するために、築いてきた「安全文化」や安全の「しくみ」「設備」など、安全の基盤を強固にし「これまでは想定外であったリスク」を本質の理解により想像し、安全を先取る取組みを進め「究極の安全」を追求してまいります。

 

(2) 気候変動及び自然災害等

 近年、集中豪雨や大型化した台風などの異常気象リスクが高まっております。これらの集中豪雨や台風だけでなく、大規模地震・津波、洪水、火山といった自然災害等によって、当社グループの鉄道及び関連施設等が損壊し、大きな被害を受ける可能性があります。また、自然災害等に起因する大規模停電により、鉄道の運行を継続できない可能性があります。さらに、大規模災害時においてサプライヤーの被災や配送網の寸断により事業継続に必要な物品の安定的な供給を受けることができなくなることも考えられます。

 自然災害に対するリスクの低減として、当社グループは次の取組みを進めています。大規模地震対策として、高架橋柱や電柱等の耐震補強を進めるとともに、走行中の列車を早く止める早期地震検知システムを導入しています。また、新幹線は脱線後被害軽減を目的に車両の逸脱防止対策の整備と改良を進めています。局地的大雨に対しては、詳細に雨を把握し運転規制を行う「レーダ雨量規制」を従来の運転規制に追加して在来線全線区に導入し、浸水対策としては「車両疎開判断支援システム」を浸水の可能性のある車両留置箇所に導入しています。また、各種自然災害発生時の対応力を向上するための訓練を定期的に実施しています。今後も「グループ安全計画2028」に基づき、自然災害に対するリスク低減の取組みを進めてまいります。

 一方、自然災害等による大規模停電に備えて、主要なターミナル駅などにおける非常用発電機の運転時間の長時間化を進めております。さらに、安定した調達を継続するため、複数のサプライヤーから調達できるように取組みを進めております。

 

(3) 感染症の発生等

 重大な感染症が国内外において流行した場合、経済活動の制限やお客さまの外出自粛、社員の罹患等により、当社グループの事業が継続できなくなるおそれがあり、当社グループの財政状態及び経営成績に多大な影響を与える可能性があります。

 新型コロナウイルス感染症が国内外で拡大した際には、政府から緊急事態宣言が発令され、経済活動の制限や外出の自粛等が要請されました。これに伴い、鉄道の輸送量の大幅な減少、当社グループの商業施設の休業や利用者の減少等が発生したほか、海外からの入国制限等によりインバウンド需要が減少し、当社グループの業績は大きな影響を受けました。当社グループでは、政府のガイドラインに基づき、駅への消毒液の設置や機器設備の消毒・清掃、列車内の換気、駅や列車内における混雑情報の提供を行うとともに、社員等のマスク着用等による感染拡大防止を再徹底してきました。今後も社会に影響を与えるような感染症の発生・拡大に際しては、政府・自治体等と連携しながら、お客さまの安全・安心の確保を最優先に、適切な輸送を確保するため必要な措置を講じてまいります。

 

(4) 他事業者等との競合及び外部環境の変化

 当社グループは、鉄道事業において他の鉄道及び航空機、自動車、バス等の対抗輸送機関と競合関係にあるほか、生活ソリューションにつながる事業においても、既存及び新規の事業者と競合しております。これらに加え、外部環境の変化の加速や、当社グループではコントロールできない要因などにより、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を与える可能性があります。

 鉄道事業においては、格安航空会社(LCC)の路線拡大、高速道路の拡充、自動運転技術の実用化などによる交通市場の競争激化や人口減少、少子高齢化の進行、在宅勤務などの働き方改革の浸透等により、輸送量が減少し、同事業の収益等に影響を与える可能性があります。また、採用難による人材不足や資材の供給不安などにより、事業の正常な運営に影響を与える可能性があります。

 このような中、当社グループは、グループ経営ビジョン「変革 2027」及び2020年9月に発表した「変革のスピードアップ」において、MaaSや「えきねっと」をはじめ、移動のシームレス化と多様なサービスのワンストップ化を推進し、お客さまのあらゆる生活シーンで最適な手段を組み合わせて移動・購入・決済等のサービスを提供するほか、テレワークやワーケーションに適した施設や商品の拡充、オフピーク定期券やオフピークポイント・リピートポイントサービス等で多様化する生活スタイルへの対応を加速させていくなど、経営環境の変化を先取りした新たな価値を社会に提供していくことをめざし取り組んでおります。また、ワンマン運転の拡大、将来の自動運転やドライバレス運転の実現、設備のスリム化の推進、メンテナンス業務の仕組みの見直しといった、技術革新・生産性向上に取り組むことにより、鉄道事業を質的に変革してまいります。そのほか、安定した人材確保に向けたグループ全体での採用活動や、安定調達を継続するための新たなサプライヤーの開拓などにも取り組んでおります。

 

(5) 犯罪・テロ行為及び情報システム障害等の発生

 犯罪・テロ行為の発生により、当社の鉄道事業等における安全性が脅かされる可能性があります。

 当社グループでは、鉄道のセキュリティ強化に向け、車内の防犯カメラの増設や、鉄道施設におけるカメラの増設・ネットワーク化による集中監視を実施しているほか、新幹線・在来線のすべての車両や主要駅等に防犯・護身用具を配備する等の対策を実施しております。

 また、当社グループは、モビリティに関する事業と生活ソリューションにつながる様々な業務分野で、多くの情報システムを用いております。当社グループと密接な取引関係にある他の会社や鉄道情報システム株式会社等においても、情報システムが重要な役割を果たしております。サイバー攻撃や人為的ミス等によってこれらの情報システムの機能に重大な障害が発生した場合、当社グループの業務運営に影響を与える可能性があります。さらに、コンピュータウイルスの感染や人為的不正操作等により情報システム上の個人情報等が外部に流出した場合やデータが改ざんされた場合、社会的信用の失墜等により、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を与える可能性があります。

 当社グループでは、日常より情報システムの機能向上やセキュリティの常時監視、関係する社員の教育など、障害対策及びセキュリティ対策を講じるとともに、万一問題が発生した場合においても速やかに初動体制を構築し、各部署が連携して対策をとることで、影響を最小限のものとするよう努めております。また、社内規程を整備し、個人情報の厳正な取扱いについて定め、個人情報を取り扱う者の限定、アクセス権限の管理を行うほか、社内のチェック体制を構築するなど、個人情報の厳正な管理・保護に努めております。

 

(6) 企業不祥事

 当社グループは、モビリティに関する事業と生活ソリューションにつながる事業などの様々な業務分野において、鉄道事業法をはじめとする関係法令を遵守し、企業倫理に従って事業を行っておりますが、これらに反する行為が発生した場合、行政処分や社会的信用の失墜などにより、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を与える可能性があります。

 当社グループでは、「法令遵守及び企業倫理に関する指針」を策定し、業務全般に関わる法令の遵守状況の点検を実施しております。また、社員教育では、他企業や身近で発生した不適切事象を取り上げ未然防止に取り組むとともに、内部通報窓口の周知を行っています。2024年9月に車両の輪軸組立作業における不適切な取扱いが判明したことなどを踏まえ、当社及びグループ会社において、本事象を社員教育のグループ共通テーマに設定し、同種事象の再発防止を図るとともに、外部機関との連携によるJR東日本グループコンプライアンス意識調査を実施しております。本調査で得られた結果をもとに課題等の抽出や改善策の検討などに活用することで、コンプライアンス施策のさらなる推進をめざしてまいります。

 

(7) 国内外の経済情勢等の変化

 国内外の経済情勢の変化や、金利・為替・物価等の動向などにより、当社グループの財政状態及び経営成績が影響を受ける可能性がある他、サプライチェーン上の問題により社会的評価が失墜する可能性があります。

 日本経済及び世界経済の情勢は、経済的要因だけではなく、戦争やテロ行為等の地政学的リスク、世界的な感染症の流行及び大規模な自然災害等により影響を受ける可能性があります。このような事象が発生した場合、経済の低迷が長期化し、当社グループのモビリティに関する事業と生活ソリューションにつながる事業などの様々な業務分野において、需要が減少する可能性があります。また、国内外の経済情勢の変化や金利・為替・物価等の動向などにより、物品調達コストや資金調達コストが上昇し、当社グループの収益に影響を与える可能性があります。さらに、グローバル化したサプライチェーンは様々な要因により寸断される可能性がある他、人権課題の多様化・複雑化により調達活動に影響が生じる可能性があります。

 当社グループは、経費全般にわたるコストダウンに努めていくとともに、生活ソリューション関連の事業に経営資源を重点的に振り向け、新たな「成長エンジン」にしていくなど、経営体質を抜本的に強化してまいります。また、物品調達コストの上昇については、国内外を問わない幅広い調達やスケールメリットを活用した価格交渉等を通じて、調達コスト上昇を抑制しております。資金調達コストの上昇については、債務償還額の平準化及び債務の長期化、債務の円建払いや支払金利の長期固定化を行うことにより、将来の金利変動リスク・為替変動リスクを抑制しております。サプライチェーンを維持し、寸断を回避するため取引先とのコミュニケーションを強化するとともに、複数のサプライヤーから調達ができるように取組みを進めています。人権問題等については、当社グループ調達方針に基づき浸透を図る取組みに努めてまいります。

 

(8) 海外での事業展開

 海外での事業においては、政治体制や社会的要因の変動、投資規制・税制や環境規制等に関する現地の法令変更、商慣習の相違、契約の履行やルールの遵守に関する意識の違い及びそれらに起因する工期等の遅延、経済動向、為替レートの変動等様々なリスク要因があります。海外で政治リスクや遅延リスク等が顕在化すると債権回収に影響をおよぼすことがあるため、プロジェクトごとにきめ細やかな収支管理を行っています。現に、政変や紛争等によるリスクが顕在化していますが、予期せぬ情勢変化等が生じた場合に当社グループの財政状態及び経営成績、またグループ社員の身の安全に影響を与えることのないよう、これら様々なリスクについて、弁護士やコンサルタント等、専門家の助言を踏まえたリスク分析を行ったうえで、場合によっては日本政府の協力を得ながら対応に努めております。

 

(9) 特有の法的規制

① 鉄道事業に対する法的規制

 当社は、「鉄道事業法(昭和61年法律第92号)」の定めに基づき事業運営を行っており、鉄道事業者は営業する路線及び鉄道事業の種別ごとに国土交通大臣の許可を受けなければならない(第3条)とされております。また、旅客の運賃及び新幹線特急料金の上限について国土交通大臣の認可を受け、その範囲内での設定・変更を行う場合は、事前届出を行うこととされております(第16条)。さらに、鉄道事業の休廃止については、国土交通大臣に事前届出(廃止の場合は廃止日の1年前まで)を行うこととされております(第28条、第28条の2)。

 これらの手続きが変更される場合、又は何らかの理由により手続きに基づいた運賃・料金の変更を機動的に行えない場合には、当社の収益に影響を与える可能性があります。当社では、運賃値上げに依存しない強固な経営基盤を確立すべく、収入の確保と経費削減による効率的な事業運営に努めておりますが、経営環境の変化等により適正な利潤を確保できない場合は、運賃改定を適時実施する必要があると考えております。この考えに基づき、鉄道に求められる社会的な役割や多様化するお客さまのニーズにお応えし、今後も鉄道事業をサステナブルに運営していくため、2024年12月に鉄道旅客運賃の上限変更認可申請を実施しました。新幹線自由席料金の届出化やインフレにタイムリーに対応できるしくみの導入など、シンプルかつ柔軟な制度の実現や総括原価方式そのものの見直しも、引き続き国に要望していきます。

 なお、当社は、「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律(昭和61年法律第88号)」の平成13年改正により、同法の適用対象からは除外されているものの、同法の改正附則に基づき「当分の間配慮すべき事項に関する指針」等が定められております。指針に定められた事項は以下の3点です。

・会社間における旅客の運賃及び料金の適切な設定、鉄道施設の円滑な使用その他の鉄道事業に関する会社間における連携及び協力の確保に関する事項

・日本国有鉄道の改革の実施後の輸送需要の動向その他の新たな事情の変化を踏まえた現に営業している路線の適切な維持及び駅その他の鉄道施設の整備に当たっての利用者の利便の確保に関する事項

・新会社がその事業を営む地域において当該事業と同種の事業を営む中小企業者の事業活動に対する不当な妨害又はその利益の不当な侵害を回避することによる中小企業者への配慮に関する事項

 指針に定められているこれらの事項については、当社は、従来から十分留意した事業運営を行っております。しかしながら、鉄道を取り巻く環境は当時から大きく変化していることから、これらが経営に及ぼす影響を踏まえ、必要により柔軟な運用について関係者のご理解を求めていく考えです。

 

② 整備新幹線

 日本国有鉄道の分割民営化後、当社は、北陸新幹線(高崎市~上越市)及び東北新幹線(盛岡市~青森市)の2路線の整備新幹線の営業主体とされ、1997年10月1日に北陸新幹線高崎~長野間が、2002年12月1日に東北新幹線盛岡~八戸間が、2010年12月4日に東北新幹線八戸~新青森間が、2015年3月14日に北陸新幹線長野~上越妙高間がそれぞれ開業しました。

 「独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法施行令」第6条において、整備新幹線の貸付料の額は、当該新幹線開業後の営業主体の受益に基づいて算定された額に、貸付けを受けた鉄道施設に関して独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構が支払う租税及び同機構の管理費の合計額を加えた額を基準として、同機構において定めるものとされております。このうち受益については、開業後30年間の需要予測及び収支予測に基づいて算定されることとなり、この受益に基づいて算定される額については、開業後30年間は原則定額とされております。

 貸付けから30年経過後の取扱いについては、協議により新たに定めることになっております。なお、貸付けを受けている整備新幹線区間と貸付終了年度は、次のとおりです。

a 北陸新幹線(高崎~長野間) 2027年度

b 北陸新幹線(長野~上越妙高間) 2044年度

c 東北新幹線(盛岡~八戸間) 2032年度

d 東北新幹線(八戸~新青森間) 2040年度

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

 当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用関連会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という)の状況の概要は次のとおりであります。

 

① 財政状態及び経営成績の状況

  当連結会計年度におけるわが国経済は、一部に足踏みが残るものの、緩やかに回復しました。

  このような状況の中、当社グループは、「安全」を経営のトッププライオリティに位置づけ、「収益力向上」、「経営体質の抜本的強化」、「成長の基盤となる戦略の推進」及び「ESG経営の実践」に取り組み、グループ経営ビジョン「変革 2027」の実現に向けた歩みを加速しました。

  「究極の安全」の追求に向けて、「グループ安全計画2028」のもと、「本質をふまえ、想定外も想像して安全を先取る」をテーマに掲げ、「お客さまの死傷事故ゼロ、社員の死亡事故ゼロ」を実現するため、グループ一体で安全の基盤を強固にし、安全を先取る取組みを進めました。安全対策では、高架橋柱や電化柱の耐震補強及び新幹線車両の逸脱防止対策などの大規模地震対策に取り組んだほか、鉄道駅バリアフリー料金制度を活用したホームドアなどの整備を進めました。

  「収益力向上(成長・イノベーション戦略の再構築)」では、モビリティ分野において、北陸新幹線・敦賀延伸を契機に利便性が高まった北陸エリアや、新型車両E8系を投入した山形新幹線沿線をはじめ東北エリアを中心に、首都圏と地方の双方向の観光流動の創造を推進しました。また、中央線快速・青梅線でのグリーン車サービスを開始するなど、当社エリアにおけるお客さまの流動促進と収益の拡大に取り組みました。生活ソリューション分野においては、新たなビジネス戦略により利益拡大をめざす「Beyond the Border」を策定し、不動産回転型ビジネスの加速を目的としたJR東日本不動産㈱の設立や「TAKANAWA GATEWAY CITY」のまちびらきを実施しました。また、「JRE BANK」による金融サービスを開始したほか、2024年12月に公表した「Suicaの当たり前を超えます~Suica Renaissance~」に基づき、訪日外国人向けアプリ「Welcome Suica Mobile」のリリースや長野県内の23駅でのSuica利用駅の拡大を行いました。

  「経営体質の抜本的強化(構造改革)」では、常磐線(各駅停車)や南武線においてワンマン運転を実施したほか、新幹線モニタリング車やドローンを活用するなど、スマートメンテナンスの取組みを推進しました。また、より多くのお客さまにご利用いただけるよう、2024年10月1日発売分より「オフピーク定期券」を通常の通勤定期券より約15%割安な価格に値下げしました。一方で、今後も鉄道事業をサステナブルに運営していくため、会社発足以来初めてとなる運賃改定を申請しました。さらに、地域の状況に即した社会課題の解決への貢献、感動の創造、究極の安全の追求やサービス品質の向上、より柔軟な働き方を実現するため、駅と乗務員職場が一体となった統括センターの設置を進め、系統間や第一線の職場と企画部門における融合と連携を推進しました。

  「成長の基盤となる戦略の推進」では、人材戦略において、新卒初任給の引上げや仕事と育児・介護の両立支援の拡充など、社員の意欲と多様な働き方に応える柔軟な制度・環境の整備を進めました。DX・知的財産戦略においては、戦略的な知的財産の取得・活用等を推進するとともに、Well-being実現に向けたWaaS共創コンソーシアムの取組みなど、オープンイノベーションによる社外との連携を進めました。財務・投資戦略においては、連結キャッシュ・フロー経営の実現に向けて、当社グループが展開する幅広い事業を14のビジネスに区分し、ビジネスごとの戦略の策定・実行を推進しました。

  「ESG経営の実践」では、引き続き「ゼロカーボン・チャレンジ2050」の達成に向けて、「脱炭素社会」への貢献と環境優位性のさらなる向上に取り組みました。環境については、資源循環事業コンセプト「UPCYCLING CIRCULAR」を策定し、グループから発生した廃棄物の再資源化に取り組みました。また、社会については、共生社会の実現に向け、社員のサービス介助士資格取得の推進やパラスポーツ(ボッチャ)への支援を継続したほか、株式会社ヘラルボニーと連携し、福祉・アートとまちづくりを組み合わせた新たな価値創出に取り組みました。企業統治については、「JR東日本グループカスタマーハラスメントに対する方針」の策定と公表を通じて、グループ社員が安心して働くことができる環境の整備に努めました。また、企業の社会的責任の一つである納税を適切に行っていくとともに、税務リスクを適切に管理し、企業価値の向上をめざすため、「税の透明性に関するグループ方針」を策定・公表しました。

  今後も、グループ経営ビジョン「変革 2027」の実現に向けてグループ一体で取り組みます。

 当連結会計年度の決算については、鉄道の利用増やエキナカ店舗の売上増に伴い、すべてのセグメントで増収となったことなどにより、営業収益は前期比5.8%増の2兆8,875億円となりました。また、これに伴って営業利益は前期比9.2%増の3,767億円、経常利益は前期比8.4%増の3,215億円、親会社株主に帰属する当期純利益は前期比14.2%増の2,242億円となりました。

 

 セグメントの業績は次のとおりであります。

 従来、セグメント別の状況の売上高は、セグメント間の内部売上高又は振替額を含めた金額を用いていましたが、当連結会計年度より外部顧客への売上高の金額に変更しています。なお、営業利益への影響はありません。

 

a 運輸事業

 運輸事業では、安全・安定輸送及びサービス品質の確保にグループの総力を挙げて取り組みました。

 この結果、鉄道の利用増に伴い、鉄道運輸収入が増加したことなどにより、売上高は前期比5.1%増の1兆9,457億円となり、営業利益は前期比8.8%増の1,760億円となりました。

 

b 流通・サービス事業

 流通・サービス事業では、駅を交通の拠点からヒト・モノ・コトがつながる暮らしのプラットフォームへと転換する「Beyond Stations 構想」などを推進しました。

 この結果、お客さまのご利用増に伴い、エキナカ店舗の売上が増加したことなどにより、売上高は前期比6.6%増の3,937億円となり、営業利益は前期比15.0%増の605億円となりました。

 

c 不動産・ホテル事業

 不動産・ホテル事業では、大規模ターミナル駅開発や沿線開発など「くらしづくり(まちづくり)」を推進し、地域とともに街の魅力を高めました。

 この結果、お客さまのご利用増に伴い、ショッピングセンターやホテルの売上が増加したことなどにより、売上高は前期比6.5%増の4,454億円となり、営業利益は前期比9.0%増の1,203億円となりました。

 

d その他

 その他の事業では、Suicaの利用シーンのさらなる拡大と、シームレスでストレスフリーな移動を実現することに加え、「生活のデバイス」への進化を通じた新たな体験価値の創造に向けて「Suicaの当たり前を超えます~Suica Renaissance~」を推進しました。

 この結果、システム受託開発の売上が増加したことなどにより、売上高は前期比12.6%増の1,025億円となり、営業利益は前期比4.7%増の229億円となりました。

 

(注) 当社は、「セグメント情報等の開示に関する会計基準」(企業会計基準第17号 平成22年6月30日)及び「セグメント情報等の開示に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第20号 平成20年3月21日)におけるセグメント利益について、各セグメントの営業利益としています。

 

(参考)

当社の鉄道事業の営業実績

 当社の鉄道事業の最近の営業実績は次のとおりであります。

 

輸送実績

区分

単位

第37期

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

第38期

(自 2024年4月1日

至 2025年3月31日)

営業日数

366

365

営業キロ

新幹線

キロ

1,194.2

1,194.2

在来線

6,108.0

6,108.0

7,302.2

7,302.2

客車走行キロ

新幹線

千キロ

532,998

545,760

在来線

1,714,971

1,705,753

2,247,969

2,251,514

輸送人員

定期

千人

3,331,650

3,404,254

定期外

2,365,793

2,463,348

5,697,444

5,867,603

新幹線

定期

千人キロ

1,670,516

1,758,319

定期外

19,560,252

20,920,938

21,230,768

22,679,257

在来線

関東圏

定期

57,474,481

58,757,374

定期外

35,912,814

37,532,865

93,387,296

96,290,240

その他

定期

2,763,384

2,768,415

定期外

2,319,661

2,570,338

5,083,046

5,338,753

定期

60,237,865

61,525,789

定期外

38,232,476

40,103,203

98,470,342

101,628,993

合計

定期

61,908,382

63,284,109

定期外

57,792,728

61,024,142

119,701,111

124,308,251

乗車効率

新幹線

57.7

60.4

在来線

40.9

42.6

43.2

45.0

(注)1 乗車効率は次の方法により算出しています。

乗車効率=

輸送人キロ

×100

客車走行キロ×客車平均定員

2 「関東圏」とは、当社首都圏本部、横浜支社、八王子支社、大宮支社、高崎支社、水戸支社及び千葉支社管内の範囲であります。

 

収入実績

区分

単位

第37期

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

第38期

(自 2024年4月1日

至 2025年3月31日)

新幹線

定期

百万円

22,551

23,683

定期外

514,875

559,637

537,427

583,320

在来線

関東圏

定期

378,800

388,126

定期外

698,784

732,136

1,077,584

1,120,263

その他

定期

16,513

16,612

定期外

45,054

48,639

61,568

65,252

定期

395,314

404,739

定期外

743,838

780,776

1,139,153

1,185,515

合計

定期

417,865

428,422

定期外

1,258,714

1,340,413

1,676,580

1,768,836

荷物収入

2

0

合計

1,676,582

1,768,836

鉄道線路使用料収入

5,389

5,639

運輸雑収

155,026

157,821

収入合計

1,836,998

1,932,296

(注) 当社は、モビリティと生活ソリューションの二軸の経営体制をめざす中で、高架下空間利活用を不動産事業として再定義し、従来「鉄道事業」に区分していた高架下貸付業を「関連事業」として位置づけることに変更いたしました。これに伴い、第37期において「運輸雑収」に含めて表示していた高架下貸付業の収益11,116百万円を鉄道事業の収入実績より減額して表示しています。

 

② キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローについては、税金等調整前当期純利益の増加などにより、流入額は前連結会計年度に比べ441億円増の7,322億円となりました。

 投資活動によるキャッシュ・フローについては、有形及び無形固定資産の取得による支出が増加したことなどにより、流出額は前連結会計年度に比べ927億円増の7,834億円となりました。

 財務活動によるキャッシュ・フローについては、流入額は前連結会計年度に比べ624億円減の36億円となりました。

 なお、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末に比べ473億円減の2,334億円となりました。

 また、当連結会計年度末のネット有利子負債残高は4兆7,218億円となりました。なお、「ネット有利子負債」とは、連結有利子負債残高から連結現金及び現金同等物の期末残高を差し引いた数値であります。

 

③ 生産、受注及び販売の実績

 当社及び当社の連結子会社の大多数は、受注生産形態をとらない業態です。

 なお、販売の実績については、「(1)経営成績等の状況の概要」におけるセグメントの業績に関連づけて示しています。

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

 なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

a 経営成績

○ 営業収益

 当連結会計年度の営業収益は、鉄道の利用増やエキナカ店舗、ショッピングセンター、ホテルの売上増に伴い、すべてのセグメントで増収となったことなどにより、前期比5.8%増の2兆8,875億円(対4月業績予想355億円増)となりました。

 

 運輸事業の外部顧客への売上高は、前期比5.1%増の1兆9,457億円(対4月業績予想107億円増)となりました。

 これは、鉄道の利用増に伴い、鉄道運輸収入が増加したことなどによるものであります。

 新幹線に関しては、鉄道の利用増に伴い、輸送人キロは前期比6.8%増の226億人キロとなりました。定期収入は前期比5.0%増の236億円、定期外収入は前期比8.7%増の5,596億円となり、全体では前期比8.5%増の5,833億円となりました。

 関東圏の在来線に関しては、鉄道の利用増に伴い、輸送人キロは前期比3.1%増の962億人キロとなりました。定期収入は前期比2.5%増の3,881億円、定期外収入は前期比4.8%増の7,321億円となり、全体では前期比4.0%増の1兆1,202億円となりました。

 関東圏以外の在来線に関しては、鉄道の利用増に伴い、輸送人キロは前期比5.0%増の53億人キロとなりました。定期収入は前期比0.6%増の166億円、定期外収入は前期8.0%増の486億円となり、全体では前期比6.0%増の652億円となりました。

 

 運輸事業以外の事業の外部顧客への売上高については、以下のとおりであります。

 流通・サービス事業では、お客さまのご利用増に伴い、エキナカ店舗の売上が増加したことなどにより、前期比6.6%増の3,937億円(対4月業績予想67億円増)となりました。

 不動産・ホテル事業では、お客さまのご利用増に伴い、ショッピングセンターやホテルの売上が増加したことなどにより、前期比6.5%増の4,454億円(対4月業績予想164億円増)となりました。

 その他の事業では、システム受託開発の売上が増加したことなどにより、前期比12.6%増の1,025億円(対4月業績予想15億円増)となりました。

 

○ 営業費用

 営業費用は、前期比5.3%増の2兆5,107億円となりました。営業収益に対する営業費用の比率は、前連結会計年度の87.4%に対し、当連結会計年度は87.0%となりました。

 運輸業等営業費及び売上原価は、前期比5.2%増の1兆8,555億円となりました。これは、物件費が増加したことなどによるものであります。

 販売費及び一般管理費は、前期比5.4%増の6,552億円となりました。これは、物件費が増加したことなどによるものであります。

 

○ 営業利益

 営業利益は、前期比9.2%増の3,767億円(対4月業績予想67億円増)となりました。営業収益に対する営業利益の比率は、前連結会計年度の12.6%に対し、当連結会計年度は13.0%となりました。

 

○ 営業外損益

 営業外収益は、前期比4.1%減の279億円となりました。これは、持分法による投資利益が減少したことなどによるものであります。

 営業外費用は、前期比7.0%増の832億円となりました。これは、支払利息が増加したことなどによるものであります。

 

○ 経常利益

 経常利益は、前期比8.4%増の3,215億円(対4月業績予想65億円増)となりました。営業収益に対する経常利益の比率は、前連結会計年度の10.9%に対し、当連結会計年度は11.1%となりました。

 

○ 特別損益

 特別利益は、前期比11.1%増の451億円となりました。これは、投資有価証券売却益が増加したことなどによるものであります。

 特別損失は、前期比9.9%増の693億円となりました。これは、工事負担金等圧縮額が増加したことなどによるものであります。

 

○ 税金等調整前当期純利益

 税金等調整前当期純利益は、前期比8.5%増の2,972億円となりました。営業収益に対する税金等調整前当期純利益の比率は、前連結会計年度の10.0%に対し、当連結会計年度は10.3%となりました。

 

○ 親会社株主に帰属する当期純利益

 親会社株主に帰属する当期純利益は、税金等調整前当期純利益の増加などにより、前期比14.2%増の2,242億円(対4月業績予想142億円増)となりました。1株当たり当期純利益は、前連結会計年度の173.82円に対し、当連結会計年度は198.29円となりました。また、営業収益に対する親会社株主に帰属する当期純利益の比率は、前連結会計年度の7.2%に対し、当連結会計年度は7.8%となりました。

 

b 財政状態

 当連結会計年度末の資産残高は前連結会計年度末に比べ4,027億円増の10兆1,742億円、負債残高は前連結会計年度末に比べ2,697億円増の7兆3,020億円、純資産残高は前連結会計年度末に比べ1,329億円増の2兆8,722億円となりました。

 運輸事業においては、大規模地震対策やホームドア整備、車両新造、中央線快速グリーン車の導入に伴う工事などに4,302億円の投資を行ったことなどにより、当連結会計年度末の資産残高は7兆3,095億円となりました。

 流通・サービス事業においては、新規店舗の展開や既存店舗の改良などに295億円の投資を行ったことなどにより、当連結会計年度末の資産残高は4,026億円となりました。

 不動産・ホテル事業においては、「TAKANAWA GATEWAY CITY」や「OIMACHI TRACKS」、「渋谷スクランブルスクエア」建設工事など、ショッピングセンターやオフィスビル、ホテルの建設などに3,293億円の投資を行ったことなどにより、当連結会計年度末の資産残高は2兆2,979億円となりました。

 その他の事業においては、システム開発などに367億円の投資を行ったことなどにより、当連結会計年度末の資産残高は1兆2,685億円となりました。

 

② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

a キャッシュ・フロー

 営業活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度と比べ441億円の資金の増加となり、7,322億円の流入となりました。これは、税金等調整前当期純利益の増加などによるものであります。

 投資活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度と比べ927億円の資金の減少となり、7,834億円の流出となりました。これは、有形及び無形固定資産の取得による支出が増加したことなどによるものであります。

 なお、設備投資の概要は以下のとおりです。

 運輸事業に関しては、大規模地震対策やホームドア整備、車両新造、中央線快速グリーン車の導入などの設備投資を実施しました。流通・サービス事業に関しては、新規店舗の展開や既存店舗の改良などを行いました。不動産・ホテル事業に関しては、「TAKANAWA GATEWAY CITY」や「OIMACHI TRACKS」、「渋谷スクランブルスクエア」建設工事など、ショッピングセンターやオフィスビル、ホテルの建設等の設備投資を実施しました。その他の事業においては、システム開発などの設備投資を実施しました。

 また、フリー・キャッシュ・フローは、前連結会計年度と比べ486億円の資金の減少となり、511億円の流出となりました。

 財務活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度と比べ624億円の資金の減少となり、36億円の流入となりました。

 なお、現金及び現金同等物の期末残高は、前連結会計年度末の2,808億円から473億円減少し、2,334億円となりました。

 

b 財務政策

 グループ経営ビジョン「変革 2027」の早期実現に向けて、設備投資に関して、成長投資においては、収益力向上や生産性向上に資する投資を積極的に実施します。維持更新投資においては、大規模地震対策やホームドア整備など安全のレベルアップに資する投資を引き続き着実に進めるとともに、安全の確保を大前提とした投資の選択と集中を徹底します。さらに、「脱炭素社会」実現などの社会的課題の解決、地域社会など多様なステークホルダーへの貢献、長期的視点での生産性向上や業務変革をめざし、地方創生やDXなどの設備投資を厳選して実施します。2023年度から2027年度まで総額3兆8,900億円の投資を計画しています。また、株主還元については、中長期的に総還元性向40%を目標とし、配当性向は30%をめざすこととしています。このために必要な資金については、営業キャッシュ・フローによるほか、社債の発行や金融機関からの借入等による資金調達を行っており、連結有利子負債残高は、連結営業収益、利益に応じた水準とすることを中長期的な考え方としています。具体的には、ネット有利子負債/EBITDAを中期的に5倍程度、長期的に3.5倍程度とすることをめざしています。

 「ネット有利子負債」とは、連結有利子負債残高から連結現金及び現金同等物の期末残高を差し引いた数値であり、当連結会計年度末のネット有利子負債残高は4兆7,218億円となりました(なお、当連結会計年度末の有利子負債残高は4兆9,553億円であります)。また、「EBITDA」とは、連結営業利益に連結減価償却費を加えた数値であり、当連結会計年度のEBITDAは7,829億円となりました。

 当社グループはキャッシュマネジメントシステム(CMS)を導入しており、CMS参加各社の余裕資金の運用と資金調達の管理を一括して行い、連結ベースでの資金効率の向上に努めています。また、グループ間決済の相殺やグループ内の支払業務を集約する支払代行制度などの資金管理手法を採用しています。

 当社は、健全な財務体質の維持・向上及び十分な手元流動性の確保を基本方針に置き、社債の発行や金融機関からの借入等により資金調達を行っています。また、金利上昇リスクの抑制を目的とし、支払金利の固定化や、調達年限の長期化による支払金利の長期固定化を行っています。さらに、年度ごとの債務償還額の抑制及び平準化に資する年限選択を行うことで、将来の借換リスク抑制を図っています。

 当社は、当連結会計年度に国内において償還期限を2034年から2045年の間とする4本の無担保普通社債を総額490億円発行しました。これらの社債については、株式会社格付投資情報センターよりAA+の格付けを取得しています。また、海外において償還期限を2036年及び2054年とする2本の無担保普通社債を総額7億ユーロ(1,127億円)及び6億ポンド(1,146億円)発行しました。これらの社債は、S&Pグローバル・レーティング・ジャパン株式会社よりA+、ムーディーズ・ジャパン株式会社よりA1の長期債格付けを取得しています。その他、金融機関から1,386億円の長期資金を借り入れました。

 新幹線鉄道施設に関連する鉄道施設購入長期未払金は、元利均等半年賦支払であり、年利6.55%の固定利率により2051年9月30日までに支払われる3,065億円であります。

 このほか、当連結会計年度末現在、東京モノレール㈱が1億円の鉄道施設購入長期未払金を有しています。

 

 短期資金の需要に対応するため、当連結会計年度末現在、主要な銀行に総額3,600億円の当座借越枠を設定しています。また、コマーシャル・ペーパーについては、当連結会計年度末現在、株式会社格付投資情報センターよりa-1+、株式会社日本格付研究所よりJ-1+の短期債(CP)格付けを取得しています。なお、当連結会計年度末における当座借越残高及びコマーシャル・ペーパーの発行残高はありません。さらに、当連結会計年度末現在、銀行からのコミットメント・ライン(一定の条件のもと契約内での借入れが自由にできる融資枠)を600億円設定していますが、当連結会計年度末におけるコミットメント・ラインの使用残高はありません。

 

③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 当社の連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づき作成されており、連結財務諸表の作成に当たっては、連結決算日における資産・負債及び当連結会計年度における収益・費用の数値に影響を与える事項について、過去の実績や現在の状況に応じ合理的と考えられる様々な要因に基づき見積りを行った上で、継続して評価を行っています。ただし、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、見積りと異なる場合があります。

 連結財務諸表の作成に当たって用いた見積りや仮定のうち、財政状態及び経営成績に重要な影響を与える可能性がある項目は以下のとおりです。

 

a 繰延税金資産の回収可能性

 繰延税金資産の回収可能性に関する仮定に関しては、「第5 経理の状況 1 (1) 連結財務諸表 注記事項 重要な会計上の見積り」に記載しています。

 

b 固定資産の減損

 固定資産の減損に関する仮定に関しては、「第5 経理の状況 1 (1) 連結財務諸表 注記事項 重要な会計上の見積り」に記載しています。

 

c 退職給付債務の見積り

 従業員の退職給付債務は、割引率、昇給率、退職率、死亡率等の数理計算上の前提条件を用いて見積りを行っています。数理計算上の前提条件と実績が異なる場合又は前提条件の変更があった場合は、翌連結会計年度の退職給付債務の見積りに影響を与える可能性があります。

 

5 【重要な契約等】

(1) 当社は、「新幹線鉄道に係る鉄道施設の譲渡等に関する法律」(平成3年法律第45号)に基づき、東北及び上越新幹線鉄道に係る鉄道施設(車両を除く)を1991年10月1日、新幹線鉄道保有機構(現独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)より3兆1,069億円で譲り受け、このうち2兆7,404億円については25.5年、3,665億円については60年の元利均等半年賦により鉄道整備基金(現独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)に支払うことなどに関して、新幹線鉄道保有機構との間に契約を結んでいます。なお、2兆7,404億円については2017年1月に支払が完了しています。

 

(2) 当社は、乗車券等の相互発売等旅客営業に係る事項、会社間の運賃及び料金の収入区分並びに収入清算の取扱い、駅業務並びに車両及び鉄道施設の保守等の業務の受委託、会社間の経費清算の取扱い等に関して、他の旅客会社との間に契約を結んでいます。

 なお、上記の契約では、2社以上の旅客会社間をまたがって利用する旅客及び荷物に対する運賃及び料金の算出に当たっては、通算できる制度によることとし、かつ、旅客運賃については、遠距離逓減制が加味されたものでなければならないこと、また、旅客会社において、他の旅客会社に関連する乗車券類を発売した場合は、当該他の旅客会社は、発売した旅客会社に販売手数料を支払うものとされています。

 

(3) 当社は、貨物会社が当社の鉄道線路を使用する場合の取扱い、駅業務並びに車両及び鉄道施設の保守等の業務の受委託、会社間の経費清算の取扱い等に関して、貨物会社との間に契約を結んでいます。

 なお、上記の契約では、貨物会社が鉄道線路を使用するために当社に支払う線路使用料は、貨物会社が当社鉄道線路を使用することにより追加的に発生する額とされています。

 

(4) 当社は、旅客会社6社共同で列車の座席指定券等の発売を行うための旅客販売総合システム(マルスシステム)の使用、各旅客会社間の収入清算等のシステム利用に関して、鉄道情報システム㈱との間に契約を結んでいます。

 

6 【研究開発活動】

 当社グループは、IoTやビッグデータ、AI等の技術の進展を見据え、時代を先取りした技術革新の実現に向け、「技術革新中長期ビジョン」を策定しており、その主な内容は以下のとおりであります。

○ IoT、ビッグデータ、AI等を活用して、当社グループが提供するサービスをお客さま視点で徹底的に見直し、従来の発想の枠を超えて「モビリティ革命」の実現をめざします。

○ 「安全・安心」、「サービス&マーケティング」、「オペレーション&メンテナンス」、「エネルギー・環境」の4分野において、当社グループのあらゆる事業活動で得られたデータからAI等により新しい価値を生み出します。

○ その実現に向け、世界最先端の技術を取り入れるため、さらなるオープンイノベーションを推進し、モビリティ分野で革新的なサービスを提供し続ける「イノベーション・エコシステム」を構築します。

 

 「技術革新中長期ビジョン」の実現をめざし、次のような研究開発を行いました。なお、当連結会計年度の研究開発費の総額は、231億円であります。

 

(1) 運輸事業

① 「安全・安心」~危険を予測しリスクを最小化する~

a より安全な駅ホームの実現に向けて、車両側面に設置したカメラの画像からお客さまが車両に接近し、接触する可能性を検知するシステムの開発を進めています。

b 突風対策として、これまでドップラーレーダーを用いた運転規制手法を一部区間に導入してきました。さらに他エリアへの適用拡大に向け公共レーダーを活用した運転規制手法の研究を進めています。

c 地震発生時の対脱線性能を向上させるため、新幹線電車に搭載可能な地震対策左右動ダンパを開発し走行試験を進めています。

 

② 「サービス&マーケティング」~お客さまへ"Now(今だけ),Here(ここだけ),Me(私だけ)"の価値を提供する~

a 「次世代新幹線の実現に向けた開発」を進めるために、新幹線の試験車両「ALFA-X」を使用して、様々な試験を実施しています。

b ストレスフリーな移動の実現に向けて、ミリ波通信を活用したタッチレス改札機を開発し、実装レベルをめざして必要な条件での評価試験を進めています。

 

③ 「オペレーション&メンテナンス」~生産年齢人口20%減を見据えた仕事のしくみをつくる~

a 車両や地上設備のメンテナンス業務の効率化や負担軽減を目的に、作業の自動化や機械化(ロボット化)に向けた開発を進めています。

b 線路や電力設備、車両機器などを走行しながらモニタリングする装置を営業列車に搭載し、CBM(Condition Based Maintenance)等のスマートメンテナンスの実現に向けた研究開発等の取組みを進めています。

c 列車の安全性向上や将来のドライバレス運転で必要とされる技術開発として、車両前方にステレオカメラを搭載して障害物をリアルタイムで自動検知するシステムの開発を進めています。

 

④ 「エネルギー・環境」~エネルギーの3E(環境性、経済性、安定性)を向上させ、C(地域社会の発展)につなげる~

a 水素を活用した取組みを推進し、脱炭素社会への動きを加速していくため、水素を燃料とする水素ハイブリッド電車「HYBARI」を開発し、実用化に向けた検討を進めています。

b 列車の運転エネルギー削減をめざし、乗務員の運転操作による省エネ運転の研究に取り組んでいます。また、それらノウハウを活かした運転支援装置の開発を進めています。

 

⑤ その他

 2023年4月に、前身のモビリティ変革コンソーシアムの知見・ノウハウを活かし、ウェルビーイングな社会の実現に向けて、移動×空間価値の向上をめざす場として「WaaS共創コンソーシアム」を設立しました。オープンイノベーションのプラットフォームを通じ、1社単独では難しいより広範な領域における社会課題の解決に取り組んでいます(2025年5月16日現在、様々な業種・領域より102社・団体に参加いただいています)。また、より基礎的な分野の研究開発は、「研究開発等に関する協定」に基づき公益財団法人鉄道総合技術研究所に委託しており、当連結会計年度における同研究所に対する負担金は、51億円であります。

 そのほか、現場第一線の技術革新を担う人材育成のため、研究開発部門への社内公募制インターンシップ制度としてイノベーションカレッジを引き続き実施しています。

 

(2) 流通・サービス事業、不動産・ホテル事業、その他の事業

 特に記載する事項はありません。