第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

  文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において、当社グループが判断したものです。

(1) 会社の経営の基本方針

当社グループは、東京を中心とした首都圏の鉄道ネットワークの中核を担う交通事業者として、2004年4月の発足時に定めたグループ理念である「東京を走らせる力」を念頭に、様々な取組を進めてきました。そして、2024年10月に当社は東京証券取引所プライム市場に株式を上場し、変革と飛躍にドライブをかける新たなステージを迎えることとなりました。この株式上場を契機に従前の経営体系図を見直し、当社グループのミッションである「東京を走らせる力」を中心に、実現したい未来である「ビジョン」、約束する価値である「バリュー」、大切にする精神である「スピリット」からなる経営指針を新たに策定しました。

 


 

<東京メトログループ理念>

 

 

東京を走らせる力

 

 

私たち東京メトログループは、

 

鉄道事業を中心とした事業展開を図ることで、首都東京の都市機能を支え、

 

都市としての魅力と活力を引き出すとともに、

 

優れた技術力と創造力により、安全・安心で快適なより良いサービスを提供し、

 

東京に集う人々の活き活きとした毎日に貢献します。

 

 

 

(2) 経営環境、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題等

当社の基幹事業である鉄道事業における旅客運輸収入は、東京都心部の開発進展やインバウンドの増加をはじめとしたお出かけ需要により着実に回復し、コロナ禍で取り組んだコスト構造改革の取組も功を奏し、経営は堅調に推移しています。一方で、自然災害の激甚化、テレワーク・オンライン会議の定着等による移動需要の減少、労務費、原材料費等の物価上昇や人手不足の本格化、さらにはテロ・サイバー犯罪のリスクの増加等、当社を取り巻く外部環境は大きく変化しています。

このような状況を踏まえ、2025年度は新たに作成した3か年の中期経営計画の初年度として、各種事業戦略及びコーポレート戦略の着実な実施に努めていきます。具体的には鉄道の安全性・利便性向上を第一に、自然災害対策、バリアフリー設備整備、無線式列車制御システム(CBTCシステム)や状態基準保全(CBM)といった新技術の開発・導入、クレジットカードやQRコード(※)といった新乗車サービスの推進のほか、海外鉄道ビジネスの展開等による事業領域の拡大にも取り組んでいきます。また、鉄道駅バリアフリー料金を活用し、ホームドア整備を進めていきます。有楽町線延伸(豊洲・住吉間)及び南北線延伸(品川・白金高輪間)は2024年11月に工事着手し、新たな未来へ向けた第一歩を踏み出しました。引き続き、十分な公的支援をもとに2030年代半ばの開業に向け、着実に取り組んでいきます。※「QRコード」は株式会社デンソーウェーブの登録商標です。

都市・生活創造事業では、将来開発を見据えた不動産取得の推進による不動産事業の拡大や、新規ビジネス開発を含めたライフサービス事業・ビジネスサービス事業の推進を通じて成長を目指していきます。

また、長期環境目標「メトロCO₂ゼロ チャレンジ 2050」の実現に向けた取組を引き続き推進するほか、人的資本経営、DE&Iの推進により社員一人ひとりの最大活躍を目指していきます。さらに、人権の尊重、コーポレート・ガバナンスの更なる充実、デジタル技術の活用・促進により経営基盤の強化を図っていきます。

 

(当社グループ中期経営計画「Run!〜次代を翔けろ〜」に基づく取組について)

(1)運輸業

① 鉄道事業の安全性・利便性向上

激甚化する自然災害への対策や、駅構内及び車両内の防犯カメラの高度化、巡回警備の強化等社会情勢の変化に応じたセキュリティ強化及びお客様の利便性向上に向けた取組により、安全・安心な鉄道サービスを提供していきます。全てのお客様が鉄道を安心してご利用いただけるよう駅や車両の更なるバリアフリー化のため、ホームドア整備(大規模改良工事実施中の南砂町駅を除き2025年度に全駅設置完了予定)やエレベーター整備等を促進していきます。

② 新線建設(有楽町線延伸・南北線延伸)の着実な推進

2024年11月に着手した新線建設(有楽町線延伸・南北線延伸)は、当社の未来への成長戦略であり、十分な公的支援をもとに引き続き2030年代半ばの開業に向け、着実に取り組んでいきます。また、2025年3月に基本合意を締結した有楽町線延伸部と東武スカイツリーライン・伊勢崎線・日光線との相互直通運転(住吉・押上間は半蔵門線と線路共用)に向けた取組の推進による鉄道ネットワークの強化を通じて、臨海部・都心部へのアクセス利便性の向上や沿線まちづくりへの寄与、東京圏の国際競争力強化に貢献していきます。

③ 新技術の導入及びDX等による鉄道オペレーションの進化

無線技術を活用した列車制御により、列車間隔を詰めることが可能となり高い遅延回復効果を発揮できるCBTCシステムの仕様共通化や、稠密運行路線において必要な要件を有した乗務員が先頭車両に乗務する自動運転技術(GOA2.5)等新技術の導入により、安全性の確保を前提に運行安定性を向上させ、輸送システムの変革を目指していきます。また、更なる安全・安定性向上、メンテナンスの共通化、コスト削減及び保全業務の生産性向上を目指すべく、設備状態データに最新のAI・ビッグデータ分析技術等を用いて、故障予知や劣化予測を行うCBMを推進していきます。加えて、これまで培ってきた鉄道運営ノウハウ(グループ会社も含めた鉄道技術、知見、システム、教育)を活用した他鉄道事業者向けサービスの提供を行い、事業領域を拡大するとともに、鉄道業界における鉄道インフラの維持・サービス向上に貢献していきます。

④ 鉄道需要創出の促進

お出かけ機会を創出するため、メトポの「ランク制度」や「休日メトロ放題」を引き続き提供するほか、「東京メトロmy!アプリ」の利便性向上や魅力向上に向けた取組を推進していきます。

また、インバウンド旅行者のご利用促進を図るべく、資本業務提携先であるリンクティビティ株式会社と連携し、Tokyo Subway Ticketや観光施設・体験とのセット商品(Tokyo City Pass等)の販売を強化するほか、2025年3月から開始したクレジットカードのタッチ決済及びQRコードを活用した企画乗車券サービスに続き、クレジットカードのタッチ決済による後払い乗車サービスの実施に向けた検討も進めていきます。

このほか、デジタル領域での取組を強化し、そこから得られるデータを統合的に活用することで、お客様一人ひとりのニーズを細やかに把握し、お客様への提案精度向上、沿線地域・他社との結びつき強化、グループ全体でのマーケティング推進につなげていきます。

⑤ 海外鉄道ビジネスの拡大

今後の成長の牽引役の1つとして、海外鉄道ビジネスの取組を強化していきます。約100年に渡り培ってきた鉄道運営に関する技術やノウハウを活用し、世界のO&M市場に進出し、新たな収益源を獲得していきます。また、環境に優しい鉄道技術の海外展開を通じて世界各都市の持続可能な発展に貢献していきます。

 

(2)不動産事業

① 不動産開発、まちづくりとの連携強化

東京においてまちづくり・鉄道成長にも寄与する不動産開発を強化していくとともに、駅周辺の都市開発と一体となった魅力的な空間の構築を図ることで、人々の快適な生活環境の形成に貢献していきます。

② 不動産取得の推進、保有物件の価値向上

不動産事業の拡大を目的に、駅直結物件や保有資産の隣接地に加え、これまで獲得したノウハウを活かし相互直通先沿線も含めた駅徒歩圏まで不動産取得エリアを拡大し、資本コストを考慮しつつオフィスビル・商業ビル・住宅・ホテル・開発用地等の不動産を取得していきます。また、保有不動産の売却で得た資金を新たな開発・取得に活用し、不動産循環型事業モデルを推進していきます。

③ 新たな領域への挑戦

都心部でのインバウンド需要をはじめとした、更なる宿泊ニーズの高まりを見据え、ホテルを開発するとともに当社が主体となって東京の来街者に対してホスピタリティ溢れるサービスを提供するために、ホテル経営・運営事業への参画を目指していきます。

 

(3)ライフサービス事業・ビジネスサービス事業

① 高架下商業施設のリニューアル、駅ナカの魅力向上

東西線高架下の商業施設をリニューアルし、まちと一体となった賑わいを創出するほか、駅ナカの様々なサービスを拡充させることによって、駅まちの魅力向上に取り組んでいきます。

② 既存アセットの有効活用

改札口ディスプレイ跡地を活用したデジタルサイネージの開発の推進に加え、クライアントニーズを踏まえたデジタルサイネージの増設や移設、媒体の仕様変更を行うことにより、媒体価値の向上に取り組んでいきます。また、当社グループが保有する発車メロディや駅案内標等のアセットに広告価値を付加した活用により、収益の向上を図っていきます。

③ 新たな分野への挑戦

事業領域の拡大として、沿線エリアのお客様の生活基盤を支えるサービスや、生活を豊かにするサービスを当社グループ自らの手で提供するとともに、東京に集う人々が関心を寄せワクワクするような体験を提供するコンテンツビジネスへの参画を目指すことで、ライフサービス事業・ビジネスサービス事業の拡大を加速させていきます。

 

(4)その他(新たな取組)

コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)活動「Tokyo Metro Ventures」

当社グループが保有する事業アセットとスタートアップ企業の技術やアイデアを掛け合わせることで、東京の未来を創る革新的なサービスの開発と社会実装を推進し、東京の多様な魅力と価値の向上を目指していきます。

 

(5)サステナビリティ(ESG)の取組

① 環境への取組

鉄道をより一層環境に優しい交通手段にしていくとともに、脱炭素社会の実現に向け、当社グループ全事業が排出するCO₂量について、これまで2030年度目標として定めていた△50%(2013年度比)の目標年次を2027年度に前倒すとともに、2030年度目標を△50%から△53%(2013年度比)に高め、「メトロCO₂ゼロ チャレンジ 2050」の達成に向け、更なる推進を図っていきます。

② 社会とのつながり強化

各地域のコミュニティと連携しながら、東京の鉄道事業者として、事業基盤である沿線地域の成長・発展に対し継続的にサポートを行うとともに、お客様、取引先、社員、地域・社会をはじめとする全ての人々の人権を尊重し、多様な価値観を活かした事業活動を進めていきます。

 

③ ガバナンス体制の充実

社会情勢の変化、法令改正の状況等を踏まえ、必要に応じ、コーポレート・ガバナンスの更なる充実に向けて随時取組の見直しを行っていきます。

 

(6)人財戦略

人的資本経営の更なる推進・人事施策

「採用強化」「働きやすさ向上」「やりがい創出」「人財育成」「福利厚生拡充」「健康経営推進」の観点から各種人事施策を実行し、人財獲得及び社員一人ひとりの最大活躍を実現していきます。また、エンゲージメント調査等を通じて人財戦略の実効性を検証し、推進していきます。

 

(7) デジタル戦略

データ共有基盤の整備・デジタル技術の活用とデジタル人財育成

新たな価値創出の源泉としてデータとデジタル技術を積極的に活用するため、データ共有基盤の整備や生成AIの活用・DXの促進、XR事業に取り組むとともに、全社員のデジタルリテラシーの底上げを図っていきます。

 

当社グループは、中長期的視点で期待される様々な施策を実現していくとともに、新たな価値の創造により、持続的な企業価値の向上を図り、全てのステークホルダーから信頼され、選択され、支持される企業を目指していきます。

 

(3) 目標とする経営指標

当社グループは、中期経営計画「Run!~次代を翔けろ~」における経営目標として、資本効率を意識することで企業価値及び経営効率の向上を目指すという観点から連結ROE、持続的な成長に向けて本業の収益力を向上させていくという観点から連結営業利益、キャッシュ創出力を持続的に向上させていくという観点から連結EBITDA、本業から得られるキャッシュと負債のバランスを踏まえて一定の財務健全性を確保するという観点から連結純有利子負債/EBITDA倍率の4つを定めています。なお、目標値は当社グループの経営上の目標を示すものにすぎず、その達成を保証するものではありません。当該目標値の達成については、後記「3 事業等のリスク」に記載しているリスクの顕在化により影響を受けます。

 

経営指標

2028年3月期末目標

連結ROE(注1)

7.7%

連結営業利益

930億円

連結EBITDA(注2)

1,740億円

連結純有利子負債/EBITDA倍率(注3、4)

6.3倍

(新線除く 5.2倍)

 

(注)1 親会社株主に帰属する当期純利益/((期首純資産+期末純資産)/2)で計算したものとします。
   2 営業利益+減価償却費により計算したものとします。
   3 (債務残高-現金及び現金同等物)/(営業利益+減価償却費)で計算したものとします。
    4 新線建設推進長期借入金(1,921億円)及び新線建設費を含めた数値とします。

 

 

「Run!~次代を翔けろ~」において目標とする経営指標である連結ROE、連結営業利益、連結EBITDA及び連結純有利子負債/EBITDA倍率に関連する各連結指標並びにセグメント毎の連結経営指標の推移は以下のとおりです。

回次

第16期

第17期

第18期

第19期

第20期

第21期

決算年月

2020年3月

2021年3月

2022年3月

2023年3月

2024年3月

2025年3月

営業収益(注)2

(百万円)

433,147

295,729

306,904

345,370

389,267

407,832

 

運輸業

(百万円)

383,889

255,784

276,255

312,260

356,467

372,917

 

不動産事業

(百万円)

13,913

13,474

13,630

13,740

13,654

14,663

 

流通・広告事業

(百万円)

41,750

31,086

21,746

23,656

23,920

25,017

 

その他

(百万円)

3,402

3,160

3,308

3,707

3,726

4,066

 

調整額

(百万円)

△9,808

△7,776

△8,035

△7,994

△8,500

△8,832

営業利益又は

営業損失(△)(注)2

(百万円)

83,917

△40,299

△12,117

27,777

76,359

86,942

 

運輸業

(百万円)

70,999

△50,791

△23,656

14,604

63,785

74,161

 

(営業利益率)

(%)

(18)

(△20)

(△9)

(5)

(18)

(20)

 

不動産事業

(百万円)

4,667

4,499

4,609

5,347

4,563

4,200

 

(営業利益率)

(%)

(34)

(33)

(34)

(39)

(33)

(29)

 

流通・広告事業

(百万円)

8,327

5,344

6,793

7,687

7,969

8,406

 

(営業利益率)

(%)

(20)

(17)

(31)

(32)

(33)

(34)

 

その他

(百万円)

52

43

40

35

△64

62

 

(営業利益率)

(%)

(2)

(1)

(1)

(1)

(△2)

(2)

 

調整額

(百万円)

△129

604

96

103

106

112

EBITDA(注)3

(百万円)

166,580

46,475

76,101

98,155

150,106

159,042

 

運輸業(注)4

(百万円)

149,964

31,835

60,588

81,567

133,968

142,572

 

不動産事業(注)4

(百万円)

6,903

6,854

6,947

7,536

6,881

6,692

 

流通・広告事業(注)4

(百万円)

9,902

7,167

8,461

8,943

9,248

9,632

 

その他(注)4

(百万円)

75

63

61

47

△50

78

有利子負債残高

(百万円)

756,051

903,872

971,295

1,139,988

1,118,898

1,086,812

現金及び現金同等物(注)5

(百万円)

65,542

70,820

111,664

88,982

90,665

73,762

純有利子負債(注)6

(百万円)

690,508

833,052

859,630

1,051,006

1,028,233

1,013,049

連結ROE(注)7

(%)

7.4

△7.8

△2.1

4.4

7.1

7.8

純有利子負債/EBITDA倍率(注)8

(倍)

4.1

17.9

11.3

10.7

6.9

6.4

 

(注) 1 「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 2020年3月31日)等を第18期の期首から適用していますが、上表の第17期以前の連結経営指標等については、当該会計基準の変更を反映していません。

2 セグメント毎の営業収益はセグメント間の内部営業収益又は振替高を含めた金額を記載しています。また、セグメント毎の営業利益又は営業損失(△)は、セグメント間の取引消去前の金額を記載しています。なお、セグメント毎の営業利益率は、セグメント毎の営業利益又は営業損失(△)をセグメント毎の営業収益で除して算出しており、小数点以下第1位を四捨五入しています。

3 営業利益又は営業損失(△)+減価償却費により算出したものです。

4 セグメント毎の営業利益又は営業損失(△)+セグメント毎の減価償却費により算出したものです。なお、セグメント利益又は損失(△)の調整額は含めていません。

5 現金及び現金同等物は、手許現金、随時引き出し可能な預金及び容易に換金可能であり、かつ、価値の変動について僅少なリスクしか負わない取得日から3か月以内に償還期限の到来する短期投資からなっています。

6 有利子負債残高-現金及び現金同等物により算出したものです。

7 親会社株主に帰属する当期純利益又は損失(△)/((期首純資産+期末純資産)/2)で計算したものです。また、小数点以下第2位を四捨五入しています。

8 小数点以下第2位を四捨五入しています。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものです。

(1)サステナビリティ全般

①ガバナンス

社長を委員長、全業務執行役員をメンバーとしたサステナビリティ推進委員会を設置し、必要に応じて外部有識者を交えて議論を進める体制としています。2024年度はサステナビリティ推進委員会を6回実施しました。また、重要案件について年1回以上、取締役会/経営会議に付議し、サステナビリティ経営の推進の強化を図っています。

 


 

②戦略

当社グループは、ビジョンである「次の『あたりまえ』と『ワクワク』を」の実現を目指し、10のサステナビリティ重要課題(マテリアリティ)を定め、各事業を通じたバリューを提供することにより、環境、社会、経済の持続可能性に配慮したサステナビリティ経営を推進しています。

また、マルチステークホルダー方針を策定し、「お客様」「株主・投資家」「取引先」「地域・社会」をはじめとする多様なステークホルダーとの価値協創が重要になっていることを踏まえ、マルチステークホルダーとの適切な協働に取り組んでいます。特に、「取引先」については、パートナーシップ構築宣言を宣言しているほか、調達方針及び調達ガイドラインに環境への配慮及び人権の尊重を盛り込むことで、サプライチェーンにおける環境汚染や人権侵害におけるリスクの低減に努めています。マルチステークホルダー方針、パートナーシップ構築宣言、調達方針及び調達ガイドラインの詳細については、当社HPをご覧ください。

マルチステークホルダー方針

https://www.tokyometro.jp/corporate/csr/pdf/stakeholders.pdf

パートナーシップ構築宣言

https://www.biz-partnership.jp/declaration/56828-08-00-tokyo.pdf

東京メトログループ 調達方針

https://www.tokyometro.jp/corporate/business/procurement/pdf/procurement_policy.pdf

東京メトログループ 調達ガイドライン

https://www.tokyometro.jp/corporate/business/procurement/pdf/procurement_guideline.pdf

 


 

③リスク管理

取締役会/経営会議において、サステナビリティ重要課題(マテリアリティ)に関する非財務KPIのフォローアップを実施し、グループ全体のリスクマネジメントとの連携を含め、サステナビリティに関するリスクの管理を進めています。

(リスクマネジメント体制等の詳細については、当社のサステナビリティレポート2024(https://www.tokyometro.jp/corporate/csr/report/pdf/sr2024.pdf)をご覧ください。)

 

④指標及び目標

サステナビリティ重要課題(マテリアリティ)ごとに2030年度目標として非財務KPIを設定し、社会課題の解決に向けた取組を推進しています。(中期経営計画「Run!~次代を翔けろ~」では、一部の非財務KPIの数値等を見直しました。)


 


 

 

(2)気候変動

①ガバナンス

気候変動や資源循環関連対応を中心とした環境保全活動を全社的に推進するため、サステナビリティ推進部担当執行役員が委員長を務める環境委員会を設置し、環境基本方針に基づき、環境目標、活動、検証・評価、見直し・改善のPDCAサイクルに沿って環境マネジメント推進体制を運用しています。また、年2回以上環境委員会にて環境目標を設定、各部門の活動進捗状況の検証・評価、結果の報告、見直しを行い、環境保全活動を継続的に改善しています。中でも、サステナビリティ重要課題(マテリアリティ)におけるテーマ4の「地球にやさしいメトロ」の実現に向けて設定している環境方針や長期環境目標、気候変動の関連非財務指標の設定等のKPIは、社長が委員長を務めるサステナビリティ推進委員会、経営会議及び取締役会に原則として年1回以上付議・報告し気候関連のリスクや機会の検討・承認・フォローアップを実施しています。環境委員会及びサステナビリティ推進委員会の関係性については、「(1)サステナビリティ全般 ①ガバナンス」と同様の体制となっています。

 

②戦略

気候変動のシナリオについては、脱炭素社会実現シナリオ(移行リスク/機会)と温暖化進展シナリオ(物理的リスク/機会)の2つを設定しています。脱炭素社会シナリオ(移行リスク/機会)は、今世紀末までの平均気温の上昇を2℃未満/1.5℃に抑えた世界観のもと、脱炭素社会への移行に伴う社会変化が当社事業に影響を及ぼす可能性が高い社会を、温暖化進展シナリオ(物理的リスク/機会)は、今世紀までの平均気温が4度以上上昇する可能性があり温度上昇による気候の変化が、当社事業に影響を及ぼす可能性が高い社会を想定しています。各シナリオにおいて、2030年までを短中期、2050年までを長期と定義し、影響を受ける可能性と大きさの2軸から、12のリスクと5の機会を特定し、各々における取組の方向性を示しています。

シナリオ分析を踏まえて、当社グループでは、長期環境目標「メトロCO₂ゼロ チャレンジ 2050」において、「2050年度 実質ゼロ」の目標を設定しました。2025年度から始まる新たな中期経営計画では、更なる高みを目指し、2030年度目標を当初目標の△50%から△53%(ともに2013年度比)に引き上げました。当社グループのCO₂排出量は、ほとんどが電力由来です。長期環境目標達成に向け、電力由来のCO₂排出量は、これまで続けてきた省エネを更に推進するとともに、再生可能エネルギーへ転換を進めることで削減するほか、電力以外のその他燃料からのCO₂排出量は、クレジット等の活用でオフセットする方針です。取組を推進するにあたり2024年4月より、インターナルカーボンプライシングを導入しました。

2024年度は、丸ノ内線及び南北線を100%再エネ化、東西線の一部を実質再エネ化するとともに、バーチャルPPA締結により小水力発電、陸上風力、太陽光発電由来の再生可能エネルギーを導入し目標達成に向け取組を推進しました。また、他の交通手段と比較してCO₂排出量が少ない鉄道事業の特性を活かし、各ステークホルダーとの連携を深め当社線のご利用を促す取組を推進しています。さらに、気候変動による水害の激甚化を想定し、浸水深に応じた駅出入口の止水板の改良、防水扉の設置、上屋建て替えによる完全防水型出入口への改良、換気口浸水防止機の改良、換気塔の嵩上げ、地上駅・地上設備の外壁の鉄筋コンクリート化、トンネル坑口への防水ゲートの設置等のハード面の対策とBCP(事業継続計画)の策定や関係自治体等との連携等のソフト面の対策を行っています。

なお、当社はTCFD提言への賛同を表明しており、それに向けた同フレームワークに準じた情報開示を行っています。

 


 


 

③リスク管理

脱炭素社会実現シナリオ(移行リスク/機会)、温暖化進展シナリオ(物理的リスク/機会)の各シナリオ分析に基づき外部環境の変化から生じる影響を、「可能性」(3:十分想定される 2:想定し得る 1:想定しがたい 0:想定できない)と「大きさ」(3:大 2:中 1:小 0:ほぼなし)を掛け合わせることで、リスクにおいては6点以上、機会については4点以上を当社における12のリスク(移行リスク5つ、物理的リスク7つ)、5の機会(移行機会4つ、物理的機会1つ)を重要として特定しています。今後は、設定したリスクについてサステナビリティ推進委員会においてTCFD提言に基づく気候関連リスクのフォローアップを実施するとともに、グループ全体のリスクマネジメントとの連携も含めた気候関連リスクの管理体制構築の検討を進めます。

なお、「主な移行リスク/機会・物理的リスク/機会」については、「(2)気候変動 ②戦略」に記載しています。


 

④指標及び目標

以下のとおり指標及び目標を設定し、長期環境目標「メトロCO₂ゼロ チャレンジ 2050」達成に向けて取組を推進していきます。なお、下表に2023年度実績として記載したCO₂排出量については、第三者認証を取得済みです。

指標(注1)

目標

2013年度

(基準年度)

2023年度実績

CO₂排出量(Scope1、2)

2030年度 △53%

2050年度 実質ゼロ

58.4万t

36.3万t

(基準年度比△37.8%)

CO₂排出量(Scope3)

63.6万t(注2)

 

(注1) 当社グループ全事業における指標

(注2) Scope3の対象カテゴリーはカテゴリー1 19.4%、カテゴリー2 63.3%、カテゴリー3 10.9%、その他 6.3%(カテゴリー5、6、7、13)。Scope3の目標設定等については今後検討します。

 

 

(3)人的資本・多様性

①ガバナンス

「(1)サステナビリティ全般 ①ガバナンス」に記載しています。

 

②戦略

1.人財戦略の全体像

[経営戦略の実現に向けた“目指す組織の姿”]

経営環境の変化や将来的な生産年齢人口の減少が見込まれる中、社員の働き方や業務の在り方についても転換期を迎えています。今後も多様化するお客様のニーズに応えていくことで、選ばれ続ける企業であることを目指しています。これまでの経験等の延長線上で「答え」を出すことが難しくなっている背景を踏まえ、多様な社員がお互いに認め合い、アイデアを出し合い、切磋琢磨することでさらなる価値を創出し続ける組織となることを目指していきます。

 

目指す組織像の実現に向けて、DE&Iをさらに推進し、多様化するお客様のニーズに応えることはもちろん、人財確保の観点からも、多様な人財を組織に迎え入れるとともに、社員一人ひとりの置かれた状況や特性に配慮した環境や機会を提供することにより、社員一人ひとりが能力を最大限発揮できる企業風土を醸成していきます。そして、 エンゲージメント向上やイノベーションによる新たな価値創造へとつなげていきます。人事部担当執行役員を委員長とした「DE&I推進委員会」を設置し、DE&I推進に関わる事項を協議・報告する場を設けるとともに、「東京メトログループDE&I宣言」を制定しています。

 

[人財戦略の中核となる目指す人財像]

人的資本経営を推進するにあたり、目指す人財像を策定しています。

(1)「自律」する人財

高い規範意識のもと、自ら学び、自分の考えを磨き行動

(2)「挑戦」する人財

変化の兆しを感じ取り、変化を恐れず行動

(3)「協働」する人財

異なる価値観を受容・尊重し、周囲と連携

 

目指す人財像を踏まえ、「WORK×LIFE SMILE ACTION ~社員一人ひとりの最大活躍のために~」をテーマに人事施策を策定・実行していきます。

 

[人財戦略の実効性を検証し、高めていくための取組]

当社では、エンゲージメント調査等を通じて、会社・仕事内容・職場・上司等に対する社員の期待度・満足度を継続的に調査し、人財戦略の実効性を検証していきます。また、抽出された課題に対して迅速に対応していくことにより、社員のエンゲージメントを向上させるべく、検証結果に基づき全社的な課題及び組織ごとのアクションプランを策定・実行していきます。

 

2.人財の多様性の確保を含む人財育成に関する方針(注1)

[メンバー・チームの安心感を高め、自律・挑戦・協働を促すリーダーシップの発揮]

社員一人ひとりが、「自律」「挑戦」を実現し、社員同士の「協働」により組織としてのアウトプットを最大化するためには、リーダーがメンバー・チームの安心感を高め、メンバーの「自律」「挑戦」「協働」を促す必要があります。具体的には、メンバーが気軽に相談できる雰囲気を作ったり軸を持った発言・行動等により「メンバーの安心を高める」ことを基本とし、そのうえで、メンバーに業務を任せ考える機会を作ったり、メンバー同士のつながりを強めたりすることで、メンバーの「自律」「挑戦」「協働」を促していきます。

組織のリーダーの行動が変革することで、組織の風土が変わり、全社員が公平に「自律」「挑戦」「協働」を実現する機会を得ることができます。これらを実現するため、引き続き、各マネジメント職への階層別研修や心理的安全性研修等を実施していくとともに、1on1ミーティング等によりリーダーとメンバーの関わりの質・量の水準を高めていきます。

 

[目指す人財像の実現に向けた人財育成]

当社にとって変わらぬ責務である「安心の提供」を実現するための研修・訓練を日々、継続的に行うとともに、「「自律」・「挑戦」・「協働」の実現に向けたマインド醸成、知識・スキル向上」に向けた各種研修等を実施しています。社員がより自律的に学べる機会を提供するために、動画視聴型ビジネススクール等の受講を促進しています。

さらに、時代のニーズに即した知識・技能を備えた人財を育成していきます。デジタル技術の活用やデータ分析のさらなる推進のため、社内を牽引するデジタル人財の育成を強化し、業務変革や新しい領域でのビジネス展開につなげていきます。

また、人財育成の質を維持することを前提に、研修・訓練の実施内容及び実施方法の最適化を図っています。

 

[知識・技能の向上と行動変革に向けた取組]

日常の業務遂行において、従前通り確実に業務を遂行することに加え、「自律」「挑戦」「協働」といった目指す人財像に合致する主体的な行動を評価することにより、全社員の行動変革を促していきます。

また、社員一人ひとりの考えや主体性を重視し、幅広い選択肢のもとキャリアを形成できるようにしていきます。自部門に閉じた業務遂行だけでなく、社内外の様々な価値観に触れる機会を提供することで、社員のさらなる成長を促していきます。

 

<DE&I推進の取組>

DE&Iを実現していけるよう、体制整備を図るとともに、各種施策を加速度的に推進していきます。

■DE&I研修

全社員を対象として、DE&Iの必要性を理解し、多様な価値観を持つ社員が活き活きと働くことができる企業となることを目的に研修を実施しています。

■DE&Iマネジメント研修

新たにマネジメント層になった社員を対象として、誰もが活き活きと活躍し続けることができる職場風土を構築・維持することを目的に、DE&Iの観点から、ダイバーシティ経営や職場の心理的安全性の確保等、マネジメントに欠かせない要素の研修を実施しています。

 

<評価・報酬等各種人事制度>

人財育成・処遇面から社員のモチベーションを維持・向上させることを目的とし、一人ひとりの活躍に応じた適切な評価、役職・評価結果に応じたメリハリのある報酬、適切な評価による登用・配置等が実現できるよう各種人事制度を検証し、必要に応じて見直しを行います。

 

<1on1ミーティング>

上司・部下間のコミュニケーションの絶対量を増やし、部下の自律的な業務遂行やキャリア形成を支援することを目的として、2020年度より順次導入しています。導入後に実施したアンケートでは約8割の社員が1on1ミーティングに満足していると回答しました。

 

<社内複業制度>

社員が新たな視点やスキルを獲得すること及び新たな価値の創出を目的として、本社各部が募集する業務について、職種、部門を越えて一時的に従事する社内複業制度を2022年度より導入しています。2024年度末までに13件の募集事例、累計活用実績53名の活用事例があります。

 

<社内人材公募>

意欲及び能力のある社員が自ら手を挙げ新たな業務に挑戦すること及び適正な人財配置を目的として、社内人材公募制度を2007年度から導入しています。2024年度末までに49件の募集事例、累計活用実績66名の活用実績があります。

 

<フレキシブルラーニング休職制度>

業務との両立が難しい自己研鑽(修学、資格取得等)を支援し、社員の学びなおしを促進することを目的として、最大2年間取得可能な本制度を2021年度より導入し、2024年度末までに累計16名が活用しています。取得に際し、社員が取得目的や会社への還元方等を説明する制度とし、社員が自律的にキャリア形成について考える機会としています。

 

3.社内環境整備に関する方針(注1)

[働きやすさ向上施策の推進]

交替勤務という特殊な勤務形態であることを踏まえ、ライフステージに合わせた働き方を実現するため、働きやすさ向上を進めています。

 

<育児休職制度>

育児休職制度については、子が3歳の年度末まで取得可能であり、2022年10月より、男性の育児休職制度を一部有給化することで従来よりも取得しやすい制度としました。なお、次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画の策定・実施等により「くるみん認定」を受けています。

 

<短時間勤務制度>

1日の労働時間または労働日数を減らす勤務制度であり、子が小学校3年生まで取得可能です。2024年4月から短時間勤務の取得通算年数を撤廃し、取得要件を緩和しました。

 

<不妊治療支援>

不妊治療を理由に最大1年取得可能な休職等の制度を設けており、アプリを活用して妊活の疑問等について専門家のアドバイスを受けられるサービスを社員に提供しています。

 

<勤務間インターバル制度>

勤務終了後、一定時間の休息時間(インターバル)を確保することで、社員の心身の健康保持やワークライフバランス・生産性向上を実現します。

 

<職場環境整備>

酷暑対策として空調ベストや帯電防止機能を備えた通気性の良いTシャツを導入するとともに、設備面については、長期的な計画を策定・推進することにより、誰もが長く活躍できる職場を実現していきます。

 

[健康経営の推進]

人事部担当執行役員を委員長とした「健康経営推進委員会」において、健康課題を確実に解決していくために重点取組項目(喫煙対策・運動・睡眠等)の目標値を定め、組織的かつ計画的に健康づくり活動を推進しています。

また、「東京メトログループ健康宣言」をふまえ、当社グループの社員・会社・健康保険組合が一体となって、お客様に安心を提供し続け、社員とその家族が幸せで豊かな人生を送れるよう、こころとからだの健康づくりに積極的に取り組んでいます。

社員が心身ともに健康で働ける職場づくりに向けた取組を実施した結果、優良な健康経営を実践している企業として、2025年3月に健康経営優良法人2025(大規模法人部門)に認定されました。

 

[労働安全衛生の推進]

お客様に安心して当社グループをご利用いただくためには、社員が万全な状態で業務を遂行できる職場環境づくりが必要です。社員の安全確保と健康保持、職場環境の維持向上を図るため、職場ごとに安全衛生委員会等を設置し、労働災害の防止、疾病の予防等について調査・審議しています。また、基本動作の励行等の取組や、生活習慣の改善を確実に積み重ねることが重要という考えのもと、安全衛生教育に取り組んでいます。

技術部門では、危険予知トレーニング活動やゼロ災運動、リスクアセスメント等の取組を通じて、社員の安全意識の高揚や職場における安全水準の向上に努めています。一方で、駅係員や乗務員への暴力行為による労働災害が多発していることから、駅に暴力行為の防止を呼びかけるポスターを掲出する等、鉄道業界全体で暴力行為の撲滅に向けた啓発活動に取り組んでいます。

 

(注1)施策については、特に記載がない限り、当社における施策を記載しています。

 

③リスク管理

「(1)サステナビリティ全般 ③リスク管理」に記載しています。

 

④指標及び目標

項目(注1)

指標

2025年3月期目標

(注1)

2025年3月期実績

(注1、2)

2026年3月期目標

(注1)

人財育成方針

メンバー・チームの安心感を高め、自律・挑戦・協働を促すリーダーシップの発揮

部長研修受講率

100

100

100%

新任マネジメント層への研修受講率

100

100

100%

目指す人財像の実現に向けた人財育成

従業員あたり研修受講時間

前年度実績

75.6時間/人

並み

74.9時間

前年度実績並み

社内環境整備方針

働きやすさ向上施策の推進

女性社員比率

2030年度10以上

7.2

2030年度10%以上

健康経営の推進

健康経営優良法人認定

毎年度認定取得

2025認定取得

毎年度認定取得

労働安全衛生の推進

労働災害件数(鉄道重大災害件数)

0

0

0件

 

(注1) 連結ベースでの指標・目標を定めていないことから、当社における指標、実績及び目標を記載しています。

(注2) 実績の対象期間は、女性社員比率(2024年4月1日時点)を除き、2025年3月期となります。

<人材戦略に関する詳細はこちら> https://www.tokyometro.jp/corporate/work_life/index.html

 

(4)人権

①ガバナンス

当社グループは、事業活動において影響を受けるすべての人々の人権を尊重すべく、2023年3月に「東京メトログループ人権方針(以下、「本方針」といいます。)」を定めました。本方針は、人権尊重の取組についての約束を示すものであり、人権に関する国際規範等を踏まえ、当社グループ全ての役員及び社員(雇用形態を問わない)に適用するとともに、取引先・パートナー等に対しても、本方針の理解と支持を求めています。

本方針を実現するため、当社グループは、「(1)サステナビリティ全般 ①ガバナンス」と同様、取締役会の監督のもとサステナビリティ推進委員会を中心とした推進体制を構築しているほか、サステナビリティ推進委員会のもと、サステナビリティ推進部担当執行役員がリーダーを務める人権尊重推進ワーキンググループを設置し、人権尊重の取組を進めています。

 

 

②戦略

当社グループは、本方針における以下の課題を優先して取り組むべき人権課題として認識しています。なお、以下の課題は有識者意見交換会の内容を反映しており、社会の変化や事業の動向などを踏まえ、適宜見直しを図ります。

・安全に商品・サービスの提供を受ける権利の侵害

・安全かつ健康的な作業・生活環境を享受する権利の侵害

・過重労働の発生、休息・余暇を持つ権利の侵害

・ハラスメントの発生

・プライバシーの侵害

・雇用条件・待遇における差別

・機会・評価における差別

人権を尊重する責任を果たすために、人権デュー・ディリジェンスの仕組みを通じて、人権への負の影響を特定し、その防止または軽減に取り組みます。対応策に優先順位をつける必要がある場合には、規模、範囲、救済可能性を考慮し、人権に対する最も深刻な負の影響に対処することを優先します。その上で、人権への負の影響を直接的または間接的に引き起こした場合は、適切な手続きを通じて、是正及び救済に取り組みます。

取引先については、「東京地下鉄株式会社 調達ガイドライン」を改定し、人権や環境に関する指針を充実させるとともに、当社グループ一体でお取引先様とのパートナーシップの強化を図るため、「東京メトログループ 調達方針」及び「東京メトログループ 調達ガイドライン」に改正しました。サプライチェーンにおいて当社グループの取引先・パートナー等が人権への負の影響を引き起こしている場合、当社グループは、当該関係者に対し、人権を侵害しないよう働きかけを行います。

社員については、暴力行為等のカスタマーハラスメントに対して毅然と対応することを表明する「東京メトログループカスタマーハラスメント対応ポリシー」を制定し、カスタマーハラスメントの抑制、安全な就業環境の確保を図っています。

今後も、関連するステークホルダーと誠実に対話し協議することにより、人権尊重の取組の向上及び改善に努めるほか、役員及び社員に対して、教育・研修を通じて取引先・パートナー等に対しても、人権を侵害しないよう理解浸透に努めます。

■人権尊重に向けた取組の流れ


 

③リスク管理

当社グループの事業活動を通じ人権を侵害する行為が発生した場合には、当社グループが社会的非難を受け、業績等に影響を及ぼす可能性があります。そのため、人権デュー・ディリジェンスの仕組みを通じて、人権への負の影響を特定し、その防止、軽減に取り組んでいきます。

2024年度も引き続きお客様の人権への負の影響を特定し、その防止又は軽減に取り組むために影響調査を実施しました。2023年度と同様に「提供する施設の安全衛生」、「多様なお客様が利用できる環境」について不足感を感じており、人権課題として認識している可能性があることが判明しましたが、2023年度と比較してその割合は減少しました。今後も継続して影響調査を行うとともに、各種清掃業務の着実な実施や、バリアフリー移動経路情報等を伝える「東京メトロmy!アプリ」や「バリアフリー便利帳」の更なる周知を図っていき、お身体の不自由なお客様をはじめとした全てのお客様に安心してご利用いただけるよう、エレベーター、エスカレーター及びバリアフリートイレの整備を進めます。

また、東京メトログループにおける人権侵害の早期発見及び是正対応することを目的に、当社グループと取引のある取引先から人権侵害を含むコンプライアンス違反を通報できるよう、「お取引先様コンプライアンス通報窓口」を設置しました。(https://www.tokyometro.jp/corporate/csr/compliance/index.html

なお、「(4)人権 ①ガバナンス」に記載している推進体制の構築に合わせて、当該リスクに関しての評価や管理を行うための体制を整備していきます。

 

④指標及び目標

「(1)サステナビリティ全般 ④指標及び目標」に掲載している非財務KPIと新中期経営計画である「Run! ~次代を翔けろ~」における目標を達成できるよう、引き続き人権尊重の取組みを推進していきます。

 

3 【事業等のリスク】

当社グループの事業等において、経営者が当社グループの財務状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクについては、次のようなものがあります。

なお、当社グループでは、事業等のリスクを、将来の経営成績等に与える影響の程度や蓋然性、リスクの性質等に応じて、分類しています。

文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社が判断したものです。また、以下のリスクは当社グループの全てのリスクを網羅したものではなく、予想される主なリスクを例示したものです。

 

(1) 当社グループの経営環境に関連するリスク

① 人口動向等について

当社グループは、東京都区部及びその周辺地域で鉄道事業を中心に事業を展開しています。わが国における経済的中心地である東京都区部に強固な基盤を有することは、高い営業収益力を保つ上で当社グループの強みの一つであり、この営業基盤の特性を最大限活用していきます。

しかしながら、首都圏の人口動向については、中長期的には減少傾向となることが予想されています。また、首都圏における就業・就学人口の減少、高齢化の進展等による人口構造の変化や、テレワークやウェブ会議の進展・定着とこれに伴う通勤・移動需要の減少等の社会構造の変化が進んだ場合、さらには今後、首都圏における経済情勢の大きな変化、大企業の本社機能又は政府機関の東京都区部からの移転等が生じた場合には、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

② 電力料金、原材料価格及び労務費の高騰について

当社グループは、今後も効率的な事業運営に努めていきますが、列車の運行等に際し多大な電力を消費するほか、継続的な設備投資やトンネルをはじめとした鉄道設備の維持補修等を行っていることから、電力料金、原材料価格及び労務費の動向が、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。また、2022年度の電力料金の大幅な高騰を踏まえ、2023年度より調達先を変更し、従前より燃料価格や市場価格の影響を受けにくい新たな電気料金制度のもとで電力を使用しておりますが、電力料金が高騰し、それが長期にわたって継続する場合には、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

なお、これらのコストが上昇する要因としては、円安の進行や燃料価格等の高騰、再生可能エネルギー発電促進賦課金の増額、労働需給のひっ迫等が想定されます。

 

(2) 自然災害、感染症、気候変動等に関連するリスク

① 自然災害・事故等について

当社グループは、安全の確保を常に念頭に置き、技術面からの更なる安全性向上に向けた取組を実施するとともに、安全管理規程に基づく安全マネジメント体制の運用等制度面からの取組も推進し、安全の確保を目指しています。さらに、首都直下地震や大規模浸水等に備えた鉄道事業における自然災害対策として、施設の耐震性の強化、帰宅困難者対策、洪水等による浸水対策等の諸課題への取組を強化するとともに、危機管理機能の強化を推進しています。

しかしながら、地震・洪水・台風等の自然災害、大規模停電又は電力の使用制限や、これらに伴う保守部品等のリソース供給不足、重大な犯罪行為やテロリストによる攻撃等により当社の路線の運行に支障を来す事態となった場合や、当社の路線において重大な事故等が発生した場合には、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

特に当社の路線、コンピューターシステム及び本社施設等は、そのほとんどが東京都区部に位置していることから、当該地域に大地震をはじめとする重大な自然災害・事故等が発生した場合には、当社グループの多くの施設等に被害が及ぶ可能性があります。また、当社の路線、施設の大半は地下にあるため、火災、浸水等の災害が発生した場合には、その被害が大きくなる可能性があり、これにより、事業が復旧するまでに相応の時間を要する等、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

② 感染症について

新型インフルエンザや新型コロナウイルス等の感染症が当社沿線地域において大規模に流行し、外出自粛等により通勤・通学・業務・私事利用を問わず鉄道利用者が大幅に減少した場合、世界的な流行に伴い訪日外国人が大幅に減少した場合や、列車運行等の事業運営に支障を来す場合等には、当社グループの業績等に重大な影響を及ぼす可能性があります。

 

③ 気候変動について

近年、気候変動は大きな社会経済リスク及び機会をもたらす要因の一つであり、世界中の政府や企業において脱炭素化の動きが広がっています。鉄道事業を中心に事業展開する当社グループは、自然災害による事業リスクに加え、電力を大量消費する事業特性を有することから、当社グループのサステナビリティ戦略を推進することを目的に、社長が議長を務めるサステナビリティ推進委員会を設置し、サステナビリティ重要課題(マテリアリティ)に沿って気候変動問題に関する取組を進めています。また、当社グループはTCFD提言に賛同しており、主要事業である鉄道事業への気候関連リスク/機会を特定し、段階的に開示を進めています。

加えて、長期環境目標「メトロCO₂ゼロ チャレンジ 2050」を設定し、当社グループ全事業で排出するCO₂量について、「2030年度 △53%(2013年度比)」、「2050年度 実質ゼロ」を目指し、バーチャルPPAをはじめとした再生可能エネルギーの活用やエネルギー効率に優れた車両の導入等の省エネ施策に取り組んでいます。

当社グループは、このような取組を引き続き推進していく予定ですが、今後、政策・法規制の見直しやエネルギーミックスの変化による電力料金の上昇、豪雨の激甚化による鉄道施設の損傷・沿線地域の被災等が生じた場合や、ステークホルダーの皆様から気候変動に関する情報開示に十分に対応していないと判断され、当社グループの社会的信用の低下等が生じた場合には、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

④ 人権について

日本国内における労働力人口減少や働き方改革等といった雇用環境等の変化が生じる中で、当社グループの事業に関わる人的資本は多様化しており、社会的、国際的に人権意識が一層高まっていることも踏まえ、人権問題に対しては、より多面的に対処する必要性が高まっていると考えています。そのため、サステナビリティ重要課題(マテリアリティ)に「人権の尊重」を掲げ、人権尊重に向けた取組を強化し、2023年に「東京メトログループ人権方針」を制定・公表するとともに、各ステークホルダーにおける人権への負の影響を特定し、その防止又は軽減に取り組むために影響調査を実施しました。2025年4月には、適用対象にグループ会社を加えた「東京メトログループ調達方針」及び「東京メトログループ調達ガイドライン」を新たに策定し、内部通報窓口の対象者に当社グループの取引先を追加するなど、人権尊重の取組をさらに進めるための体制を整備しました。

しかしながら、こういった取組にも関わらず、当社グループ内のみならず、取引先、事業パートナー等を含む当社グループを取り巻く国内外のステークホルダーに関し、当社グループの事業活動を通じ人権を侵害する行為が発生し、当社グループの社会的信用の低下が生じた場合には、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(3) 当社グループの経営に関連するリスク

① 法的規制等について

鉄道事業においては、鉄道事業法(昭和61年法律第92号)の定めにより、経営しようとする路線及び鉄道事業の種別について許可を受ける必要があります(同法第3条)。

収益の中心となる運賃面においては、上限運賃を設定するときは国土交通大臣の認可を受けなければならず、上限運賃の範囲内で運賃を改定する場合にも、事前に国土交通大臣に届け出ることとされています(同法第16条)。

当社が現在取得しているこれらの国土交通大臣の許可及び認可には期間の定めは無く、当社の現在の運賃は、2019年9月5日に変更の認可を受けたものです(2019年10月1日より改定後の運賃を適用)。

なお、運賃の改定を施行するに当たっては、所定の手続を経る必要があることから、機動的な運賃の改定を行うことができない場合等には、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

また、2021年12月に軌道法施行規則(大正12年内務省・鉄道省令)及び鉄道事業法施行規則(昭和62年運輸省令第6号)の改正により創設された「鉄道駅バリアフリー料金制度」に基づき、バリアフリー設備の整備費等に充当するための料金を定める場合には、バリアフリー整備・徴収計画を作成の上、事前に国土交通大臣に届け出ることとされています(鉄道事業法第16条第4項)。鉄道駅バリアフリー料金は、第二次交通政策基本計画(2021年5月8日閣議決定)に基づき、利用者に過度の負担感を与えないものとする必要があるとされており、また、その総徴収額はバリアフリー整備・徴収計画における総整備費を超えない額とすることとされています。

当社は2023年3月18日から、運賃に加算して鉄道駅バリアフリー料金の収受を開始しておりますが、法令又は運用の変更等により、バリアフリー整備・徴収計画に定めたとおりに料金の徴収ができない場合には、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

鉄道事業を休廃止する場合には、事前に(廃止の場合は廃止日の1年前までに)国土交通大臣に届出を行うこととされています(同法第28条、第28条の2)。また、鉄道事業法、同法に基づく命令、これらに基づく処分、許可・認可に付した条件に違反した場合、正当な理由がないのに許可又は認可を受けた事項を実施しない場合、同法第6条に定める事業許可の欠格事由に該当することとなった場合などの際には、国土交通大臣は事業の停止を命じ又は許可を取り消すことができるとされています(同法第30条)。仮に、国土交通大臣より事業の停止や許可の取消しを受けた場合には、事業活動の継続に支障を来すこととなりますが、現在、同法に抵触する事実等は存在せず、事業活動の継続に支障を来す要因は発生していません。

当社は鉄道事業法に加えて、東京地下鉄株式会社法(平成14年法律第188号)や安全、環境、バリアフリー等の規制に関する様々な法令の適用を受けており、これらの法令が改正され又はその運用が変更された場合、その内容によっては当社の事業活動における柔軟性の減少、費用の増加等を招き、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

なお、東京地下鉄株式会社法の概要は以下のとおりですが、この法律においては、国及び同法附則第11条の規定により営団から株式の譲渡を受けた地方公共団体は、特殊法人等改革基本法に基づく特殊法人等整理合理化計画の趣旨を踏まえ、この法律の施行の状況を勘案し、できる限り速やかにこの法律の廃止、その保有する株式の売却その他の必要な措置を講ずるものとする旨規定されています(東京地下鉄株式会社法附則第2条)。

また、2021年4月2日に開催された、第3回交通政策審議会陸上交通分科会鉄道部会東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等に関する小委員会において、国土交通省が配布した資料には、「東京メトロが完全民営化(政府が株式を全て売却)した場合には、JR本州3社・JR九州の例を踏まえると、現行の東京メトロ法に基づく監督規定は廃止される一方、引き続き、鉄道事業法等の規定に基づき鉄道事業を運営することとなる。」旨記載されています。

(ⅰ) 制定趣旨・目的等

 東京地下鉄株式会社法は、当社の設立について定めるとともに、その目的、事業に関する事項について規定しています。同法は、鉄道事業法に加えて当社を規制するとともに、商号の使用制限等の特例措置を定めています。

 なお、東京地下鉄株式会社法に基づく政府の規制は、当社の経営の自主性の確保を前提とするものであり、毎事業年度の開始前に事業計画を国土交通大臣に提出することは求められているものの、事業計画の認可、関連事業の実施についての認可等は不要とされています。

 

(ⅱ) 概要

ア 国土交通大臣による認可を必要とする事項

(ア) 発行する株式又は新株予約権を引き受ける者の募集等の認可(東京地下鉄株式会社法第4条第1項)

 会社法(平成17年法律第86号)第199条第1項に規定するその発行する株式若しくは会社法第238条第1項に規定する募集新株予約権を引き受ける者の募集をし、又は株式交換若しくは株式交付に際して株式、新株予約権若しくは新株予約権付社債を発行しようとするときは、国土交通大臣の認可を受けなければなりません。

(イ) 代表取締役等の選定等の決議の認可(同法第5条)

代表取締役又は代表執行役の選定及び解職並びに監査等委員である取締役若しくは監査役の選任及び解任又は監査委員の選定及び解職の決議は、国土交通大臣の認可を受けなければ、その効力を生じません。

(ウ) 定款の変更等の認可(同法第7条)

定款の変更、剰余金の配当その他の剰余金の処分(損失の処理を除く)、合併、分割及び解散の決議は、国土交通大臣の認可を受けなければ、その効力を生じません。

イ その他の規制事項

国土交通大臣への事業計画及び財務諸表の提出義務(同法第6条、第8条)、国土交通大臣の監督・命令権限並びに報告指示及び検査権限(同法第9条、第10条)が規定されています。

ウ 特例措置

(ア) 商号の使用制限(同法第2条)

当社でない者は、その商号中に東京地下鉄株式会社という文字を使用してはなりません。

(イ) 一般担保(同法第3条)

社債権者は、当社の財産について、民法の規定による一般の先取特権に次いで優先弁済を受けることができます。

 

② 鉄道事業に関する道路占用料について

当社の路線は、主として道路の地下を運行しているため、道路法(昭和27年法律第180号)第39条第1項の規定により、道路占用料徴収の対象となっていますが、有価証券報告書提出日現在、指定国道以外の道路における出入口等の地上施設を除く地下施設については、各種法令・条例等の減免措置の適用により、道路占用料の全額を免除されています。しかしながら、指定国道以外の道路について、今後、現行の各種法令等の改正により、減免措置が受けられなくなった場合には、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

また、指定国道における出入口等の地上施設を除く地下施設の道路占用料については、他の第三セクターの地下鉄事業者と同様、道路法施行令(昭和27年政令第479号)で定める金額の10%とされており、2025年度から徴収が開始される予定です。

当社の完全民営化後の指定国道の道路占用料の取扱いについては、現時点では取扱いを決めず、完全民営化の時期が具体化した段階で改めて協議するとの方針が示されております。しかしながら、指定国道の道路占用料について、今後、徴収率が変更された場合や、将来における当社の完全民営化後の取扱いの内容によっては、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

③ 中期経営計画について

当社グループは、2025年度から2027年度までの新たな中期経営計画「Run!~次代を翔けろ~」を2025年4月に公表しました。

本計画においては、自然災害対策やバリアフリー化を含めたさらなる鉄道の安全・サービス向上、新線建設の着実な推進に取り組むほか、自動運転等の新技術の開発・推進や鉄道需要の創出に加え、まちづくり・鉄道成長にも寄与する都市・生活創造事業の拡大、新たなビジネスの取組を推進することとし、資本効率性、収益性、財務健全性を踏まえた経営目標値を設定しました。

しかしながら、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載された事項を含む様々なリスク要因により本計画に掲げる取組が計画どおりに進捗しない可能性や、本計画を策定するための各種の前提が変化する可能性があります。このような場合には、当社グループは、かかる状況や変化に対応した成長戦略又は事業運営を立案又は実行するよう努めますが、適時に成長戦略や事業運営を変更し、又は改善することができないなど様々な要因により、本計画で掲げた経営目標について、当初計画した期間内に又は当該期間経過後においても達成できない可能性があります。

 

④ 他事業者との競合等について

当社グループは、運輸業において一部の鉄道事業者及びタクシー、バス等の交通機関と競合関係にあるほか、自家用車等の他の交通手段の利用の多寡にも影響を受けます。したがって、他事業者による新線開業や、他事業者同士による相互乗り入れ等の新しいサービスの提供は、当社の路線の輸送人員を減少させ、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

また、当社は他事業者との相互乗り入れ等により、当社の利用者の利便性向上及び輸送人員の拡大を図っていますが、自然災害や事故、停電又は電力の使用制限その他の理由により相互乗り入れ等のサービスを提供できなくなった場合には、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑤ 長期債務について

当社は、前身の営団時代から地下鉄ネットワークの整備拡充に努め、その建設資金の多くを財政融資資金法(昭和26年法律第100号)に基づく財政投融資による政府からの借入金及び交通債券等の長期資金にて調達してきました。また、当社は、これら債務の償還や鉄道事業を中心とした継続的な設備投資のために、社債の発行や借入金により長期資金を調達しています。さらに、有楽町線延伸(豊洲・住吉間)、南北線延伸(品川・白金高輪間)及び豊洲駅の改良事業(以下、「有楽町線、南北線延伸事業等」といいます。)に充当するため、2023年3月30日に独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下、「鉄道・運輸機構」といいます。)から、1,921億円の長期資金(新線建設推進長期借入金)を調達しており、2025年3月31日現在の社債及び借入金残高は1兆868億1千2百万円となっています。

なお、新線建設推進長期借入金による資金は、分別管理を目的として信託を設定しており、2025年3月31日現在の当該長期借入金残高は1,921億円となっています。

当社グループは、債務残高を収益力との関係性において一定の水準に抑制するなど財務規律を堅持し、財務健全性の維持・向上を図っていますが、金利が大幅に上昇した場合や当社の信用格付が引き下げられた場合には、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑥ 不動産事業及び流通・広告事業等について

今後の人口動向やそれに伴う競争激化等の経営環境の変化を踏まえると、運輸業の拡大には一定の限度があるため、当社グループの今後の成長及び収益基盤の強化という観点から、不動産事業及び流通・広告事業等、運輸業以外の事業分野である事業領域・規模の拡大を追求することが将来的な課題となっています。そのため、今後さらにこれら事業の積極的な展開を促進していきますが、当社グループの経営資源の制約や経済環境の悪化等で、期待される収益が獲得できず、又は、新たな事業分野におけるリスクが顕在化した場合等には、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑦ 都営地下鉄との一元化について

当社は、当社と同じく東京都区部及びその周辺地域における地下鉄道事業を営む都営地下鉄とのサービスの一体化は、当社の利用者の利便性向上につながるものと考えており、地下鉄利用者の利便性向上への取組の検討を進めていきます。

また、当社は国及び東京都との間で、当社の完全民営化並びに当社と都営地下鉄とのサービスの一体化及び経営の一元化に関して従来から意見交換を行っています。これらの課題について具体的な解決策やサービス向上策の実現に向けて実務的な検討を行うことを目的として、「東京の地下鉄の一元化等に関する協議会」が2010年8月に設置されました。また、2013年7月には都営地下鉄と当社とのサービスの改善・一体化を推進することを目的として「東京の地下鉄の運営改革会議」が設置されました。当社・都営地下鉄間の運賃の乗換負担軽減策を含むサービスの一体化に関するこれらの協議の結果によっては、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

他方、都営地下鉄については、公営企業という組織形態や累積欠損を抱えていること等を考慮すると、当社との経営の一元化を図るために解決されなければならない多くの問題が残されており、仮に経営の一元化を実施する場合においても、相当程度の時間を要することが想定されます。また、経営の一元化を実施する場合には、都営地下鉄の経営状況の改善や当社の企業価値向上が図られることが基本と考えますが、経営の一元化の具体的な内容によっては、当社グループの経営に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑧ 新線建設について

当社は、有楽町線延伸(豊洲・住吉間)及び南北線延伸(品川・白金高輪間)(以下「両路線」といいます。)については、沿線の開発状況等を勘案した輸送需要予測の動向を踏まえ、交通政策審議会答申第371号及び国と東京都の合意に基づく十分な公的支援及び当社株式の売却が確実に実施されることを前提に、当社ネットワークに関連する両路線の整備主体となることがさらなる企業価値向上に資するものと判断し、2022年1月に国土交通大臣に対し第一種鉄道事業許可の申請を行い、同年3月に許可を受け、2023年3月に工事施行認可の申請を行いました。2024年5月に環境影響評価書の提出、同月の東京都都市計画審議会での議決及び同年6月に都市計画が決定され、同月に南北線延伸、同年10月に有楽町線延伸における鉄道事業法の工事施行認可を受け、各種協議・手続を経て同年11月に両線ともに着工しました。

しかしながら、両路線の新線建設を進めるにあたり、輸送需要を含めた事業環境の変化、想定外の建設スケジュールの長期化や追加コストの発生、公的支援の実施状況等によっては、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

今後も当社は、両路線を除き新線建設を行わず、また、新線建設に対する協力を求められる場合には、都市鉄道ネットワークの一部を構成する事業者としての立場から、「当社の経営に悪影響を及ぼさない範囲内において行う」という方針で対応していきたいと考えています。

なお、1982年1月に免許申請を行った8号線(豊洲・亀有間14.7km)については、半蔵門線(水天宮前・押上間)の開業や輸送需要予測の減少等、免許申請時とは事業環境が異なってきたことから、当社としては、整備主体となることは極めて困難と認識しています。

 

⑨ コンプライアンスについて

当社グループは、「コンプライアンスに関する規定」、「東京メトログループコンプライアンス行動基準」などの周知、徹底に加え、コンプライアンス教育を定期的に実施するなどの啓発活動を行うとともに、コンプライアンスに反する行為等を通報できる「企業倫理向上窓口」を設置するなど、コンプライアンス体制の整備・拡充に努めています。

しかしながら、当社グループの役職員によるコンプライアンスに反する行為が発生した場合には、法令等に基づく罰則や規制当局による処分、コンプライアンス違反に起因する損害賠償請求等を受けること等により、当社グループの社会的信用が低下するとともに、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑩ 財務大臣及び東京都の当社株式保有について

有価証券報告書提出日現在において、当社の発行済株式のうち、26.71%(議決権比率26.72%)を財務大臣が、23.29%(議決権比率23.30%)を東京都が保有しており、財務大臣及び東京都は引き続き当社の経営に重要な影響を及ぼしうることになります。当社グループの事業その他に関する政府や東京都の利益は、当社の他の株主の利益と相反する可能性があり、当社グループの他の株主の利益に反する影響力の行使がなされる可能性があります。

なお、東京地下鉄株式会社法附則第2条により、「国及び東京都は、特殊法人等整理合理化計画の趣旨を踏まえ、この法律の施行の状況を勘案し、できる限り速やかにこの法律の廃止、その保有する株式の売却その他の必要な措置を講ずるものとする」旨規定されております。また、2021年7月15日に交通政策審議会が答申した「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等について」(交通政策審議会答申第371号)において、当社株式の売却に当たっては、国及び東京都が当面当社株式の2分の1を保有することが適切であり、その後の当社株式の売却について国と東京都は、これまでの閣議決定や法律において完全民営化の方針が規定されていることを堅持しつつ、その中で、首都の中枢エリアを支える地下鉄の公共性や地下鉄ネットワーク整備の進展を踏まえながら対応することが求められるとの考え方が示されております。さらに、2022年3月28日に財政制度等審議会が答申した「東京地下鉄株式会社の株式の処分について」及び同日に東京都が公表した「東京地下鉄株式会社の株式の処分の基本的な考え方」において、新規公開後の「その後の売却においては、国と東京都の協議を踏まえて対応すること」が適当であるとの考え方が示されております。以上のとおり、今後、地下鉄の公共性や地下鉄ネットワーク整備の進展等を踏まえつつ、国と東京都が保有する当社株式の全部又は一部を売却することが想定されており、かかる売却が実施される場合には、短期的に当社株式の需給バランスに影響が生じ、当社の株価に影響を及ぼす可能性があります。

 

(4) システム関連のリスク

① 情報システムについて

当社グループの事業は、コンピューターシステムや通信ネットワークといった情報システムに大きく依存しています。当社グループでは、サイバーセキュリティ推進体制の整備や専門機関による定期的なシステム監査の実施等の施策に取り組んでいます。しかしながら、上記(2)①に記載した自然災害・事故等のほか、人為的ミス及びコンピューターウィルス等並びに第三者による妨害行為等により、列車運行や電力供給に関するシステム等に障害が発生した場合には、正常な列車運行その他の事業運営に支障を来す可能性や、これに伴う当社グループの社会的信用の低下等により、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

② 個人情報保護について

当社グループでは、各事業において顧客情報等の個人情報を保有しています。個人情報については当社グループの「個人情報保護方針」や「情報管理規程」に基づき厳正な管理を行っていますが、何らかの原因により情報が流出した場合には、損害賠償等による費用を負担する必要が生じるほか、当社グループに対する信用が損なわれる等により、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」といいます。)の状況の概要は次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

 ① 財政状態及び経営成績の状況

当連結会計年度における我が国経済は、緩やかに回復しているものの、世界的な金融引締め等が続く中、海外景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスクとなっています。また、物価上昇や金融資本市場の変動等の影響に十分注意する必要があります。

このような状況下で、当社グループは、2022年4月に公表し、2023年3月に設備投資計画の見直しやポストコロナを見据えた経営目標値の上方修正等を行った中期経営計画「東京メトロプラン2024」(2022年度~2024年度)に基づき、各種施策を積極的に推進しました。本計画期間において、鉄道事業の持続可能性の向上を図るべく、安全の確保を前提に、次世代に向けたコスト構造や業務の抜本的な見直し等、『構造変革』に取り組むとともに、新線建設、お出かけ機会の創出、都市・生活創造事業の強化等、『新たな飛躍』を目指した各種施策に取り組みました。

当連結会計年度の業績は、経済活動の活性化等により、都心部を中心に沿線全域で平日、休日ともに好調に推移したことに伴い、旅客運輸収入が増加し、営業収益が4,078億3千2百万円(前期比4.8%増)となり、営業利益が869億4千2百万円(前期比13.9%増)、経常利益が770億8百万円(前期比16.9%増)、親会社株主に帰属する当期純利益が537億4千8百万円(前期比16.2%増)となりました。

 

セグメントごとの経営成績は、次のとおりです。

[運輸業]

① 安全性・利便性の向上

 (セキュリティ強化)

テロ行為や犯罪に備え、全車両への車内セキュリティカメラ設置を2024年度末までに完了しました。

 (自然災害対策)

阪神・淡路大震災及び東日本大震災後の通達に基づく耐震補強(高架橋、石積み擁壁)は完了しています。また、熊本地震後の通達に基づく震災対策として、早期運行再開を目的としたロッキング橋脚、こ線道路橋・人道橋の補強は完了し、現在はトンネル中柱の耐震補強工事を進めています。

大規模浸水対策として、浸水深等に応じた駅出入口の止水板の改良、防水扉の設置、上屋建て替えによる完全防水型出入口への改良、換気口浸水防止機の改良、換気塔の嵩上げ、地上駅・地上設備の外壁の鉄筋コンクリート化、トンネル坑口への防水ゲートの設置等を進めており、現在61.1%の進捗となっています。

 (お客様の円滑な移動の実現)

お身体の不自由なお客様をはじめとした全てのお客様に安心してご利用いただけるよう、エレベーター、エスカレーター及びバリアフリートイレの整備を進めており、2024年5月に東西線南砂町駅にエレベーター、同年11月に副都心線池袋駅にエレベーター、日比谷線茅場町駅にエレベーター及びエスカレーターを設置しました。また、ホームと車両床面の段差・隙間縮小のため、東西線、半蔵門線、南北線及び副都心線(※)においてホームの嵩上げ、くし状ゴムの設置を進めています。

※銀座線・丸ノ内線・日比谷線・千代田線は完了

ホームドアの整備については、2025年度中の全路線全駅(大規模改良中の南砂町駅を除く)への設置完了を予定しており、2路線において設置工事を進めています。

現在の全線及び設置工事中2路線の整備率は、以下のとおりです(※)。

 

全線

東西線

半蔵門線

整備率

94

65

79

 

※他路線は設置完了

また、東西線南砂町駅においては、混雑緩和を目的としたホーム2面3線化のため、2024年5月に第1回線路切替工事を行い、新設したホーム、出入口、改札等の供用を開始しました。

(その他)

日本の地下鉄で初めての無線式列車制御システム(CBTCシステム)を丸ノ内線全線で2024年12月から使用開始しました。CBTCシステムは無線通信技術を利用した信号保安システムで、高い遅延回復効果や軌道回路に起因する輸送障害の減少等により運行の安定性が向上しています。

また、2021年6月に発生した日比谷線八丁堀駅における多機能トイレの機能不備によるお客様の発見遅れについては、公表した再発防止対策報告書に基づく取組を確実に推進し、当社施設の確実な施工、保守・点検及び適切な取扱いを徹底しています。

 

② 有楽町線延伸・南北線延伸等によるネットワーク発展・充実

 (有楽町線・南北線の延伸)

新線建設(有楽町線延伸・南北線延伸)については、都市計画決定が告示され、工事施行認可を受けたことを踏まえ、地質及び埋設物の調査並びに設計及び工事説明会を実施し、2024年11月に工事着手しました。

 

③ 鉄道事業の成長に向けたアクションプラン

 (目的地と連動した移動価値)

沿線施設と連動したお出かけ機会の創出に向けて、企業や自治体とタイアップしたスタンプラリーや観光施設等の入場券とTokyo Subway Ticketのセット発売及び商業施設で使用可能なクーポンと東京メトロ24時間券のセット発売を行いました。また、2025年3月から様々な観光施設をおトクに周遊できる乗車券付きの観光チケット「Tokyo City Pass」を発売しました。

  (他サービスと連携した移動価値)

「東京メトロmy!アプリ」を介して、お出かけ情報の提供や二次交通との連携による観光予約等、ご乗車の機会が増えるような「楽しみ」の企画・提案を行っています。2024年4月から、同アプリを介して飲食店ポータルサイトであるオズモールを予約いただいたお客様に、メトロポイントクラブ(メトポ)のポイント付与を開始しました。また、同年9月に、キッザニア東京と同アプリを介した通年での利用予約を開始したほか、2025年3月から、クレジットカードのタッチ決済及びQRコード(※)を活用した乗車サービスの開始に合わせ、同アプリと乗車券販売サイトとの連携を開始しました。 ※「QRコード」は株式会社デンソーウェーブの登録商標です。

(頻度に応じた移動価値)

より分かりやすくお得に多くのお客様にご利用いただけるよう、2024年4月に、PASMOをお持ちの方を対象とした「メトロポイントクラブ(メトポ)」とTo Me CARDをお持ちの方を対象とした「メトロポイント」の2つのポイントサービスを統合しました。また、同年5月に、モバイルのPASMOをご利用のお客様において、モバイルPASMOアプリ上でメトポの登録手続及びポイントからのチャージを可能にしました。さらに、2025年3月に、カード型PASMOも含めてWeb上でのメトポの登録手続に対応したことで、全てのお客様の登録手続がオンラインで可能となりました。

 

④ 新技術の導入とDXによる鉄道オペレーションの進化

 (技術開発ビジョン)

新技術の導入・開発やDXの推進等により、持続的な企業価値向上を図り、将来にわたる安心の提供を実現するため、状態基準保全(CBM)の一環として、車両・設備の状態監視を進めています。また、故障予知技術・劣化予測技術の促進の検討を進めています。2024年11月には、鉄道会社として初めてお客様向けチャットボット及びお客様センター業務双方への生成AIの本格的な活用を開始しました。

 

⑤ 不動産事業の拡大とまちづくりとの連携

 (まちづくりとの連携)

駅周辺開発を計画・検討する都市開発事業者等と連携した「えき・まち連携プロジェクト」として、5駅において開発提案を募集しています。

 

⑥ 海外鉄道ビジネスの拡大・新規ビジネスの開発推進

 (海外鉄道ビジネス)

海外鉄道ビジネスについては、O&M(オペレーション&メンテナンス)事業において、英国に本社を置く鉄道事業者The Go-Ahead Group Limited、住友商事株式会社及び当社の3社で出資設立した事業会社GTS Rail Operations Limitedが、英国ロンドン市における地下鉄Elizabeth line(エリザベス・ライン)の運営事業を受注しました。同社は、現行の運営事業者からの移管を経て2025年5月から鉄道運営事業を開始します。また、都市鉄道整備が進むフィリピン、ベトナム等において、鉄道整備、技術支援に係る各プロジェクトを推進したほか、世界の鉄道関係者向けオンライン講座・訪日研修の「Tokyo Metro Academy」を開催(オンライン講座18講座及び訪日研修3回)しました。

 (新規ビジネスの開発)

新規事業の創出を目的とした社内事業開発プログラム「メトロのたまご」を通じて社員が提案したスケートボードパーク&スクール事業「RAMP ZERO」を、日比谷線南千住駅高架下において2024年4月に営業開始しました。また、「Tokyo Metro ACCELERATOR 2022」で最終審査を通過したSTUDIO BUKI株式会社との協業施策として、子どもが作中で東京メトロの運転士になれるパーソナライズド絵本「僕は私は運転士!」を同年4月に販売開始しました。同様に、最終審査を通過した株式会社休日ハックとの協業施策として、漫画・謎解き・街歩きを掛け合わせたオリジナル体験型エンターテイメント「メトロタイムゲート」を同年5月から8月まで実施したところ、期間終了前に早期に完売したため、2025年2月から3月までリバイバル開催しました。

また、「東京メトロ×プログラボ」を中心とした教育事業のスムーズな運営と拡大を目指し、2024年12月に「東京メトロエデュケーショナル株式会社」を設立しました。今後、プログラボが理念に掲げる「未来を担う子ども達の『夢を実現するチカラ』を育む」ことを目指して教室運営を行います。

加えて、スタートアップ企業との協業や出資を通じて、革新的なサービスを創出し、東京の未来を共に創ることを目的としたCVC活動「Tokyo Metro Ventures」を2025年3月から開始しました。

 

⑦ 脱炭素・循環型社会への貢献

 (脱炭素社会への取組)

脱炭素社会の実現に向けた取組として、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に賛同し、当社の気候関連リスク、機会等を特定し、開示しています。指標、目標として掲げている長期環境目標「メトロCO₂ゼロ チャレンジ 2050」について、2030年度目標を△50%から△53%(ともに2013年度比)に高め、更なる推進を図っています。

電力由来エネルギーの脱炭素化として、2024年4月に丸ノ内線・南北線は使用電力全てを水力発電由来の再生可能エネルギーに置き換えました。また、鉄道業界では初となる取組として、同年7月に小水力発電を、同年10月には陸上風力発電を活用したバーチャルPPA(需要家が発電事業者から再生可能エネルギーの環境価値のみを仮想的に調達する契約)による環境価値の調達を行いました。

このほか、変電所や車両、その他電気設備が保有するデータを分析・見える化し、変電所電圧の適正化や駅補助電源装置の制御方式を変更することで、回生電力のロスを削減するなど、更なるエネルギーの有効活用化を推進しました。

また、これらの取組に加えて、当社の鉄道運行を通じて生まれた社会における環境面でのポジティブインパクト(削減貢献量)を活用し、他者と連携した取組を実施することにより、鉄道の環境優位性をPRしました。

 (循環型社会の実現に向けた取組)

当社グループ運営の飲食店等から排出される使用済み油をSAF(Sustainable Aviation Fuel:化石燃料以外を原料とする持続可能な航空燃料)の原料に再利用する取組に参加し、2024年6月に、東西線浦安駅で使用済み油回収イベントを実施しました。

 

⑧ 経営基盤の強化

 (安全文化の醸成)

お客様の安全を第一に、事故の未然防止、再発防止に取り組むため、グループ全役員・社員を対象にした安全研修をはじめとし、「安全を最優先する企業風土の形成」「ヒューマンファクター概念の浸透」「部門間連携強化による総合力の発揮」「PDCAサイクルによる安全管理体制の強化」を実現するための施策を継続実施したほか、社員一人ひとりが自ら考え行動を起こすことができる安全文化の醸成に努めています。

(豊かな社会のためのパートナーシップ)

女子駅伝部やパリ2024パラリンピック競技大会に出場したパラフェンシング選手である安直樹選手の活動支援のほか、東京マラソンへの参画を通じて、スポーツ選手が活躍できる環境づくりに貢献するとともに地域・社会の活性化に取り組んでいます。

安選手は、2025年2月に開催されたパラフェンシングのブラジルワールドカップにおいて、エペ、フルーレの2種目で銅メダルを獲得しました。女子駅伝部は、2024年11月、第44回全日本実業団対抗女子駅伝競走大会(クイーンズ駅伝)に初出場を果たしました。さらに2025年3月に開催された名古屋ウィメンズマラソンにおいて、上杉真穂選手が全体4位(日本人2位)の好成績を収めました。

また、沿線の盲学校と連携し、当社総合研修訓練センターにある模擬ホーム等を活用し、生徒たちが線路の幅やレールの形状、ホームの高さ等に触れて駅設備の仕組みを学ぶ体験会を実施しました。

運輸業の当連結会計年度の業績は、経済活動の活性化等により、都心部を中心に沿線全域で平日、休日ともに好調に推移したことに伴い、旅客運輸収入が増加し、営業収益が3,729億1千7百万円(前期比4.6%増)、営業利益が741億6千1百万円(前期比16.3%増)となりました。

(運輸成績表)

種別

単位

第20期連結会計年度
(自 2023年4月1日
  至 2024年3月31日)

第21期連結会計年度
(自 2024年4月1日
 至 2025年3月31日)

営業日数

366

365

旅客営業キロ

キロ

195.0

195.0

客車走行キロ

千キロ

289,825

289,057

輸送人員

定期

千人

1,248,078

1,297,833

 

定期外

1,136,653

1,197,916

 

2,384,731

2,495,750

旅客運輸収入

定期

百万円

124,581

129,995

 

定期外

199,427

209,370

 

324,009

339,366

乗車効率

46

48

 

(注)1 記載数値は、千キロ未満、千人未満、百万円未満を切り捨てて表示しています。

   2 乗車効率の算出方法:人キロ÷(客車走行キロ×客車平均定員)×100

      3 第17期から第19期の各連結会計年度における、旅客運輸収入は下表のとおりです。

 

種別

単位

第17期

第18期

第19期

決算年月

2021年3月

2022年3月

2023年3月

旅客運輸収入

定期

百万円

107,587

105,483

111,990

定期外

116,341

139,609

169,374

223,928

245,092

281,364

 

 

[不動産事業]

不動産事業においては、収益性の向上を図るべく、駅周辺の都市開発と一体となった建物の整備を進めています。2024年4月には神宮前六丁目用地再開発建物が東急プラザ原宿「ハラカド」として開業したほか、同年12月には、池袋二丁目用地に「スーパーホテル池袋西口天然温泉」が開業しました。また、新宿駅西口地区開発計画においては新築工事を推進し、東上野地区においては東上野四丁目A―1地区再開発準備組合へ事業協力者として参画しています。加えて、遊休資産の有効活用として同年7月には北馬込一丁目用地(旧家族寮)に介護付有料老人ホームの「チャームスイート旗の台」、同年12月には弥生町五丁目用地(旧研修施設)に「メトロステージPLUS中野弥生町」がそれぞれ開業したほか、同年12月に東陽町スクウェアビル、2025年2月にTS青山ビルをそれぞれ取得しています。そのほか、不動産事業の成長を目的に不動産アセットマネジメント事業へ参入するため2024年4月に設立した「東京メトロアセットマネジメント株式会社」は、2025年3月から「東京メトロプライベートリート投資法人」の運用を開始しました。

不動産事業の当連結会計年度の業績は、営業収益が146億6千3百万円(前期比7.4%増)、営業利益が42億円(前期比7.9%減)となりました。

 

[流通・広告事業]

流通・広告事業においては、収益性の向上を図るとともに、お客様の「新たな日常」を支え、ニーズに迅速に対応するため、各種開発を推進しました。

流通事業については、2024年11月に日本橋駅構内に「日本橋メトロピア」、2025年3月に錦糸町駅構内に「錦糸町メトロピア」を開業しました。東西線高架下においては同年3月に葛西駅西側の開発に加え、浦安駅に「M’av浦安」を開業しました。そのほか、駅構内店舗等における店舗入替や駅構内の空きスペースにおける自動販売機、コインロッカー等の増設、東西線高架下や錦糸町駅における新規店舗の開発を進めました。

広告事業については、改札口付近にデジタルサイネージ及び広告看板を新設したことに加え、デジタルサイネージの販売促進や、中づり・まど上、駅ばりポスターの貸切商品等、クライアントニーズに応じたインパクトのある商品の展開により、収益拡大に努めました。

流通・広告事業の当連結会計年度の業績は、営業収益が250億1千7百万円(前期比4.6%増)、営業利益が84億6百万円(前期比5.5%増)となりました。

 

当社グループの財政状態については、当連結会計年度末における資産合計は前連結会計年度末に比べ72億2千1百万円増2兆297億4千5百万円、負債合計は409億1千2百万円減1兆3,132億1千5百万円、純資産合計は481億3千3百万円増7,165億2千9百万円となりました。

資産の部の増加については、設備投資に伴う固定資産の増加等によるものです。

負債の部の減少については、長期債務の償還等によるものです。

純資産の部の増加については、親会社株主に帰属する当期純利益の計上等によるものです。

この結果、当連結会計年度末の自己資本比率は、35.3%となりました。

 

 ② キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下「資金」といいます。)は、前連結会計年度末に比べ169億3百万円減少し、当連結会計年度末には737億6千2百万円となりました。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度における営業活動による資金の増加は、1,235億4千4百万円(前期比115億2千2百万円収入減)となりました。これは、税金等調整前当期純利益743億3千2百万円(前期比87億9千万円の収入増)と非資金科目である減価償却費720億9千9百万円(前期比16億4千8百万円の収入減)を計上したこと等によるものです。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度における投資活動による資金の減少は、895億4百万円(前期比107億2千5百万円支出減)となりました。これは主に、設備投資等を中心に有形及び無形固定資産の取得による支出1,159億8千万円(前期比118億4千7百万円の支出増)と有形及び無形固定資産の売却による収入218億6千3百万円(前期比216億1千6百万円の収入増)があったこと等によるものです。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度における財務活動による資金の減少は、509億4千3百万円(前期比177億8千9百万円の支出増)となりました。これは、長期借入れの返済による支出が320億8千6百万円(前期比209億9千6百万円の資金の減少)及び配当金の支払額が185億9千2百万円(前期比69億7千2百万円の資金の減少)あったこと等によるものです。

 

 ③ 生産、受注及び販売の実績

当社グループの業種構成はサービス業が中心であり、受注生産形態をとらない会社が多いため、「① 財政状態及び経営成績の状況」においてセグメントの業績を記載することとしています。

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

   ① 当連結会計年度の財政状態及び経営成績に関する認識及び分析・検討内容

財政状態及び経営成績の分析は次のとおりです。

当連結会計年度の財政状態については、「(1) 経営成績等の状況の概要」の「① 財政状態及び経営成績の状況」に記載しています。

  (単位:百万円)

 

前連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

当連結会計年度

(自 2024年4月1日

至 2025年3月31日)

増減額

増減率

 

 

 

 

 営業収益

389,267

407,832

18,564

4.8

 営業費

312,908

320,889

7,981

2.6

 営業利益

76,359

86,942

10,583

13.9

 営業外収益

2,055

2,125

69

3.4

 営業外費用

12,548

12,060

△488

△3.9

 経常利益

65,866

77,008

11,141

16.9

 特別利益

13,074

10,065

△3,008

△23.0

 特別損失

13,398

12,741

△657

△4.9

 税金等調整前当期純利益

65,541

74,332

8,790

13.4

 親会社株主に帰属する

  当期純利益

46,262

53,748

7,485

16.2

 

 

[営業収益及び営業利益]

当連結会計年度の営業収益は、前連結会計年度に比べ185億6千4百万円増4,078億3千2百万円となりました。

 これは、経済活動の活性化等により、都心部を中心に沿線全域で平日、休日ともに好調に推移したことに伴い、旅客運輸収入が増加したこと等によるものです。

営業費は、前連結会計年度に比べ79億8千1百万円増3,208億8千9百万円となりました。これは、修繕工事に伴う修繕費の増等があったこと等によるものです。

以上の結果、当連結会計年度の営業利益は、前連結会計年度に比べ105億8千3百万円増869億4千2百万円となりました。なお、各セグメントの営業利益の分析については、「(1) 経営成績等の状況の概要」の「① 財政状態及び経営成績の状況」に記載しています。

 

[営業外損益及び経常利益]

当連結会計年度の営業外収益は、固定資産維持管理協力金等の計上により、前連結会計年度に比べ6千9百万円増21億2千5百万円となりました。

営業外費用は、支払利息の減少等により、前連結会計年度に比べ4億8千8百万円減120億6千万円となりました。

以上の結果、当連結会計年度の経常利益は、前連結会計年度に比べ111億4千1百万円増770億8百万円となりました。

 

[特別損益及び親会社株主に帰属する当期純利益]

当連結会計年度の特別利益は、鉄道施設受贈財産評価額の減少等により、前連結会計年度に比べ30億8百万円減100億6千5百万円となりました。

特別損失は、固定資産圧縮損の減少等により、前連結会計年度に比べ6億5千7百万円減127億4千1百万円となりました。

以上の結果、当連結会計年度の税金等調整前当期純利益は743億3千2百万円となり、法人税等を加減した親会社株主に帰属する当期純利益は前連結会計年度に比べ74億8千5百万円増537億4千8百万円となりました。

 

   ② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況については、「(1) 経営成績等の状況の概要」の「②キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであり、営業活動により得られた資金並びに社債及び借入金を設備投資等に充当しています。

当社グループの主な資金需要は、営業活動に係る資金支出では、鉄道事業に係る修繕費や管理委託費等の経費、人件費などがあります。また、投資活動に係る資金支出では、車両更新やホームドア整備などの安全対策、バリアフリー整備などの旅客サービス等の運輸業への投資、持続的な成長を実現する不動産事業及び流通・広告事業への投資のほか、有楽町線、南北線延伸事業等に係る投資があります。

資金調達の方法は、償却前営業利益を基本に、不足する資金を金融市場動向等に鑑み、社債の募集及び金融機関からの借入により長期資金を調達しています。また、運転資金として短期的に資金を必要とする場合は、国内金融機関との当座貸越契約により短期資金を調達することで、緊急時の流動性を確保しています。これらにより、当社グループの事業運営に必要な運転資金、設備投資資金の調達は問題なく対応可能と認識しています。

 

   ③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づき作成され、連結財務諸表の作成にあたっては連結決算日における資産・負債及び当連結会計年度における収益・費用の数値に影響を与える事項について、過去の実績や現在の状況に応じ合理的と考えられる様々な要因に基づき見積りを行った上で、継続して評価を行っています。ただし、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、見積りと異なる場合があります。

ⅰ固定資産の減損

当社グループは多くの固定資産を保有しており、回収可能価額を将来キャッシュ・フロー、割引率、正味売却価額など多くの前提条件に基づいて算出しています。そのため、景気低迷、他事業者との競合、市場価格の下落、感染症の発生等により当初見込んだ収益が得られなかった場合、又は算出の前提条件に変更があった場合には、翌連結会計年度以降の連結財務諸表において減損損失を認識する可能性があります。

 

ⅱ繰延税金資産

当社グループは、繰延税金資産の回収可能性の評価に際して、将来の課税所得を合理的に見積っています。繰延税金資産の回収可能性は将来の課税所得の見積りに依存しますので、その見積額が減少し繰延税金資産の一部又は全部を将来実現できないと判断した場合、その判断を行った期間に繰延税金資産が減額され税金費用が計上される可能性があります。

 

ⅲ退職給付債務及び費用

従業員の退職給付債務及び費用は、数理計算上で設定される割引率、退職率、死亡率及び長期期待運用収益率等の前提条件に基づいて算出しています。
 実際の結果が、前提条件と異なる場合、又は前提条件が変更された場合、退職給付債務及び費用に影響を及ぼす可能性があります。

 

   ④ 経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

当社の経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等の推移につきましては、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (3) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」に記載のとおりであります。なお、第17期及び第18期において、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、旅客人員の減少等により営業損益がマイナスとなったため、EBITDAが減少しましたが、その後は回復傾向にあり、足元の状況は堅調に推移しているものと判断しています。また、連結純有利子負債/EBITDA倍率につきましても、第21期において6.4倍となっており、堅調に推移しているものと判断しています。

 

5 【重要な契約等】

有楽町線、南北線延伸事業等の資金として、2023年3月17日に総額1,921億円の金銭消費貸借契約を鉄道・運輸機構と結んでいます。

 

借入目的

 借入金額

 返済期限

 返済方法

その他

有楽町線延伸(豊洲・住吉間)

 95,150百万円

40年

元金均等返済

13年据置

南北線延伸(品川・白金高輪間)

 67,370百万円

40年

元金均等返済

13年据置

豊洲駅の改良事業資金

 29,600百万円

40年

元金均等返済

11年据置

 

 

 

6 【研究開発活動】

特記すべき事項はありません。