(1) 会社の経営の基本方針
当社グループは、「人を大切にすることを基本理念とし、お客様にとってなくてはならない存在としての山九を築きます。そして、社業の発展を通じて社員の福祉向上並びに社会の発展に貢献します。」とする経営理念のもと、各事業分野における豊富な実績と、技術・技能に裏付けられた質の高いサービスを提供することにより、お客様・株主・従業員・社会(地域)から信頼を獲得し、世の中から選ばれる企業であり続ける事を目指してまいります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(2) 中長期的な会社の経営戦略と対処すべき課題
世界の人口構造変化、地政学的リスクの高まり、気候変動対応やデジタル技術の進展に伴う競争激化など、当社グループを取り巻く環境は、先を見通すことが難しい混沌とした状況が続いています。そのような環境下、我々の最も重要な経営資源である「人」の確保に関わる労働力不足の問題をはじめ、サプライチェーンの変化、カーボンニュートラル、DXなど、様々な事業環境変化による課題への対応が迫られています。
このような状況を踏まえ、2023年度を初年度とする「Vision2030」、「中期経営計画2026」を2023年1月に公表いたしました。当計画に基づき、急速に変化する事業環境においても、世界の産業を支え続けるという使命を果たしていけるよう、取り組んでまいります。
(3) 投資計画
2026年度までの中期4年間、2030年度までの長期8年間における累計の成長投資額および人材投資額は、次のとおりであります。
(4) 目標とする経営指標
①財務指標
②非財務指標
(5) 資本政策
中期経営計画2026においては、事業活動における安定した営業キャッシュ・フローの創出を見込んでいる一方、中期4年間において将来の持続的成長に向けた多くの戦略投資を計画しています。財務の健全性・安定性を確保しながら、負債も積極的に活用し成長投資に充てることで資本コストの抑制を図る方針に変更はありませんが、今般の中期経営計画見直しにより「配当性向40%水準」に加え、この期間において下限配当として「前年度1株当たり年間配当額」を設定し、自己株式の取得については4年間で700億円を実施することといたします。
上記の資本政策を実施することで、より充実した株主還元を図り、資本効率性を重視しながら企業価値の最大化を目指してまいります。
また併せて、最適自己資本額につきましては、2030年度に2,700億円水準に設定し、過去最高のROE水準を目指してまいります。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
① ガバナンス
サステナビリティ経営の遂行は主要な経営課題の一つという認識のもと、事業を通じて社会課題の解決に貢献するとともに企業価値を高めるべく、代表取締役専務取締役管理・ESG管掌を委員長とするサステナビリティ委員会を設置しています。サステナビリティに関する取り組みは、コンプライアンス委員会、労政委員会、人事委員会、人材育成委員会、組織風土・運営改革委員会、技術委員会、システム委員会、品質マネジメント委員会、リスクマネジメント委員会、安全衛生会議、環境会議と連携して、グループ横断的に活動を推進しております。
2024年度はサステナビリティ委員会を3回開催し、マテリアリティに対するKPI設定に関する審議のほかに、サステナビリティを巡る社内外動向や外部有識者による講演を踏まえた今後の取り組みの方向性などを審議し、重要事項は経営会議および取締役会に付議、報告しております。
・サステナビリティ推進体制

② リスク管理
2023年6月に代表取締役専務取締役管理・ESG管掌を委員長とするリスクマネジメント委員会を設置しました。当社のリスクマネジメント委員会では、経営に特に重大な影響を及ぼすと考えられるリスクを「優先対策リスク」として特定し、各優先対策リスクにおける防止・低減策の実施状況を継続的にモニタリングしております。また、各部支店および関係会社において、定期的なリスクアセスメントにより潜在リスクの洗い出しを行い、対策を実施しております。
万が一リスク事案が発生した場合には、「クライシスマネジメント規程」に基づき、代表取締役を本部長とする特別対策本部を設置、必要に応じて外部アドバイザーを加えた組織の下で迅速な対応を行い、損害の拡大防止に努める体制を整えております。
・リスクマネジメント体制
サステナビリティ基本方針の中で経営理念に込められている精神を具体的に明示して、企業と社会が共に持続可能な発展を遂げるための取り組みを推し進めています。また、それを実現するためのマテリアリティを特定し、取り組みを推進しています。
・マテリアリティ特定プロセス
国際的なガイドライン等を参照して社会課題候補を洗い出し、当社の経営理念や方針等を踏まえ、取締役や従業員、外部ステークホルダーにインタビューを実施し、当社グループの事業における重要度とステークホルダーにおける重要度で社会課題を評価してマテリアリティを特定しました。特定した16のマテリアリティを6つのテーマに整理し、テーマ毎に対応方針を定め、取り組みを推進しております。
マテリアリティに対する指標は、サステナビリティ委員会にて継続審議しております。
(2) 気候変動への対応
① ガバナンス
気候変動は重要な経営課題の一つとして、サステナビリティ委員会ならびに環境会議にて審議しております。サステナビリティ委員会および環境会議の概要については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (1) サステナビリティ全般 ① ガバナンス」をご参照ください。
② リスク管理
「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (1) サステナビリティ全般 ② リスク管理」をご参照ください。
③ 戦略
気候変動は重要な経営課題の一つと捉え、気候変動が与える2030年までのリスクと機会を定量的・定性的の両面から評価を実施し、気温が1.5℃上昇することを想定したシナリオ(環境保全シナリオ)と4.0℃上昇することを想定したシナリオ(成行シナリオ)を用いて財務的影響の評価と対応策を検討しております。複数のシナリオを用いることで、環境変化・社会情勢に応じた臨機応変な対応が出来るよう検討しております。
また、気候変動の原因となる温室効果ガス(特に影響の大きいCO2)について、中長期的な目標を設定し削減に向けた取り組みを推進することで、2050年までに、CO2排出削減目標である実質ゼロを目指して活動していきます。
④ 指標および目標
気候変動への対応に関する取り組みを推進するために、2050年カーボンニュートラルの実現に向けたロードマップを策定しております。
山九グループとして地球温暖化を阻止し、なによりもお客様のサプライチェーンの一員としてカーボンニュートラル達成に貢献していくための具体策をロードマップとして策定しました。内容としては以下のアプローチで取り組んでまいります。
省エネ・・・照明のLED化、エコドライブ推進、DX推進による削減等
創エネ・・・太陽光パネル設置(自社投資、PPA)、新規倉庫ZEB認証推進等
電化・・・・ZEⅤ車両の導入、大型FCⅤ実証実験参画等
再エネ・・・電力の再エネプランへの切替、バイオディーゼル燃料導入等

また、目標に対する進捗は、以下の通りです。
(3) 人的資本(人材の多様性含む)
① ガバナンス
「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (1) サステナビリティ全般 ① ガバナンス」をご参照ください。
② リスク管理
「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (1) サステナビリティ全般 ② リスク管理」をご参照ください。
③ 戦略
当社グループにおける人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針は、以下のとおりであります。
a.人材育成方針
当社グループにおける人材育成の目的は、全社員が企業理念を認識し、具現化に向けそれぞれの特性と能力を発揮し、山九グループにおける価値創造を最大化するとともに社会人としての自己実現をさせること、と定義しています。
具体的な取り組みとして獲得した人材に必要なスキルを身に付けさせ能力を最大化するために、以下の教育体系に基づく研修及び社員の自律的なキャリア構築を支援する制度を導入しています。
加えて育成を通して多様な人材が活躍できる土壌を整備するために階層別研修の上級管理者研修・管理者研修・係長研修において人材の多様性の理解を促す「労務管理と多様性」講座、選抜型研修にて女性社員のキャリア形成支援を目的としたダイバーシティ研修を実施しています。
また、2022年10月マレーシアに開設した海外で初となる人材育成センター「SANKYU TECHNICAL ACADEMY」にて海外関係会社社員を対象にメンテナンス研修、機械整備研修などを実施し、世界で活躍できるグローバルな技術・技能集団の育成に取り組んでまいります。

(注) 階層別研修、技能・技術研修、各公開講座は関係会社社員も受講しております。
b.社内環境整備方針
(a) 安全に関する取り組み
「人を大切にする」という当社(グループ)の経営理念の根幹となるのは、全社員とその家族が一人でも多く幸せを感じることであり、「安全」はその為に最優先されるべき条件であると考えています。
その為にも、安全衛生方針に示している、我々の職場には『そもそも安全な状態は存在せず、常に存在するのは危険な状態である。』という認識とともに、常に問題意識を持ち続け、全社員が一丸となって危険な状態を排除する知恵や工夫を現場に反映させることが重要となります。
また、そのような安全活動、安全管理ができる人材を育て、安全文化を継承することで、真に「人を大切にする」組織を構築していきます。
具体的には以下のような安全の取り組みを行っています。
・「山九労働安全衛生マネジメントシステム」を導入
厚生労働省策定のOSHMSをもとに「山九労働安全衛生マネジメントシステム」(Sankyu occupational Safety and Health Management System:SSMS)を策定し、2003年に全社で導入しています。
なお、導入に際しては、従来から行っていた活動に加え、新たに体系化した活動を取り入れ、組織的な安全衛生管理活動を再構築しました。
・安全衛生教育
教育の主管となる組織、受講する従業員の階層ごとに、体系的かつ計画的に行っています。従業員に安全衛生に関する知識および技能を習得させるとともに、意識の高揚を図るための教育を実施することを規程で定めています。

(注) 上記の他、人材育成方針に記載した階層別研修の全階層にて「安全衛生管理」に関する講座を実施しています。
(b) 働きがい向上に関する取り組み
社員が、それぞれの特性と能力を最大限発揮するには働きがいを持てる職場環境を整備することが重要となります。そのために以下のような対話活動を通して社員のニーズを把握し、職場環境の整備に取り組んでいます。
本社で行う労働組合との対話活動実績(2024年度:単体)
社内環境整備実績(2022~2025年度:単体 (注)1)
年間所定労働時間の見直し 2022年度実施
年次有給休暇付与日数の見直し 2023年度実施
初任給水準、賃金水準の見直し 2022年度、2023年度、2024年度、2025年度実施
生活支援一時金の支給 (注)2 2023年4月支給
奨学金支援制度の導入 2024年4月導入
(注)1. 関係会社も各社の実態に応じ、社内環境整備に取り組んでいます。
2. 単体、国内関係会社社員および海外関係会社社員に支給しております。
また、2023年度に実施した「山九働きがい診断(エンゲージメントサーベイ)」の結果から「会社の中でお互いの想いが伝わるコミュニケーションができていない」ことが問題と認識し、2024年度に「山九MIRAI対話」として社員と取締役、執行役員との対話活動を70回、639名を対象に実施しました。また上司・部下との1on1ミーティング「相互理解タイム」も実施しました。その他に各拠点において以下のような独自の取り組みを実施しました。
各拠点独自の取り組み
拠点独自に顕著な業務成績を上げた組織や個人を表彰する制度の創設
職場での懇談を通じて社員の意見・要望の継続的な吸い上げ
相手の目を見て挨拶を交わす、「あいさつ運動」の実施
2024年度に実施した第2回目の結果は以下のとおりとなり、経年比較可能な設問74問中67問(90.5%)が昨年度対比で改善しました。
エンゲージメントに対する回答結果

しかし、依然として社内でのコミュニケーションに関する設問で肯定的回答が少ないこと等から「山九MIRAI対話」および「相互理解タイム」を継続して進めていきます。
今後も継続的な「山九働きがい診断」の実施により、課題を抽出し、課題に応じた施策を打ち出し、「働きがい」のある会社・職場の実現に向けた取り組みを進めていきます。
④ 指標および目標
人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針のb.社内環境整備方針(a)安全に関する取り組みに関する指標は、労働災害度数率(国内連結、国内全協力会社)を用いております。当該指標の2024年の実績は、0.73(注)となります。今後、改善に向けて各方針に示した取組みを進めてまいります。
(注)実績は2024年1月~12月末となります。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している重要なリスクは、以下のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、リスクマネジメント委員会で審議のうえ、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 自然災害・パンデミック
当社グループは、幅広く事業活動を展開しており、国内外に多くの拠点を有しています。これらの拠点においては、台風、洪水、地震・津波等の自然災害や強力な感染症が流行した場合に備え、設備等のハード面、事業継続計画等のソフト面において、緊急事態を想定した対応策を策定し、必要に応じてその見直しを行っておりますが、大規模な災害等に見舞われた場合は、当社グループの事業活動に制約が生じる可能性、また、復旧対応に係る費用が生じることが想定されるため、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
(2) 地政学
当社グループは、東南アジア、東アジア、米欧州及び中東の各地域に現地法人等の拠点を設け、積極的に事業展開しております。そのため、各地域における経済状況の変化・景気の後退、為替レートの変動、予期しがたい法律・規制の変更、政治の混乱、テロ・戦争等による治安の悪化といった影響を受ける可能性があります。これらリスクに対しては、グループ内外からの情報収集等を通じ、その予防、回避に努めておりますが、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
(3) 経済・マーケット
当社グループは、海外への事業展開等により生じる外貨建取引や、連結財務諸表作成にあたっての海外の連結子会社の財務諸表上の外貨建債権・債務残高に為替相場の変動リスクがあると認識しております。そのため、為替予約や外貨建債権・債務のバランス化を図ることによるリスク低減に努めておりますが、完全に回避できるものではなく、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。また、物価(原料・資材等)の高騰をはじめとする景気変動、情報技術の革新等による競争の激化、競合他社の台頭や新規参入、価格の変動や市場ニーズの変化についてもリスクとして認識しております。これらのリスクに対しては、マーケット調査等を通じ、海外事業の拡大、既存事業の収益力強化、新規事業領域への進出等による持続的な収益力の確保に努めておりますが、これらの事象が生じた際に対応が遅れる等した場合には、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
(4) 取引先管理
当社グループは、取引先企業への与信調査を実施する等、与信リスクの低減に努めておりますが、取引先企業の倒産等により不良債権や貸倒等が生じ、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。また、取引先企業において不祥事等が生じた場合、取引の事実があることにより当社グループが不利益を被る可能性があることもリスクとして認識しております。レピュテーションの低下や収益の悪化を招く事態に発展した場合には、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
(5) 人材
当社グループは、必要な技術・技能を有する人材を適切なタイミングで取引先企業へ提供できる動員力を強みとして事業展開を行っております。生産年齢人口の減少等、労働環境の変化が加速しているなか、採用強化や定着化に向けた積極的な人材投資を行うと共に、協力会社への支払いの早期化や協力会社社員の処遇改善に繋がる支援策の実施等、関係強化に取り組んでおりますが、有能な人材の確保・育成が計画どおりに達成できない場合、作業体制の維持が困難となり、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
(6) 安全衛生
当社グループは、主要な取引先である鉄鋼、石油精製・石油化学業界各社の工場構内及び国内外の各地域において作業請負、プラント建設工事等を行っており、安全を最重要事項と認識しております。作業遂行過程等において事故又は災害等が発生すると、取引先企業への賠償金、被災者への補償金等の負担だけでなく、レピュテーションが低下することで事業活動が制限される可能性があります。当社グループは、災害や事故の撲滅に向け、設備等のハード面、社員教育等のソフト面と様々に取り組んでおりますが、安全衛生に関する問題が生じた場合は、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
(7) 企業倫理・法令違反
当社グループは、法令遵守が事業活動の基盤であることを認識し、全ての社員が企業活動・社会生活を営むうえで遵守しなければならない事項を社内規程で明確にするとともに、役員・従業員に対し、様々な形で法務・コンプライアンス教育を実施していますが、当社グループが何らかの法規制に違反したと認定された場合には、当該行為によって課される罰則はもとより、各種許認可等が取り消されるリスクがあります。このような事態に発展した場合には、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
(8) 契約違反・権利侵害
当社グループは、契約締結時に法務部門の確認を受けることのほか、特に重要な契約においては「契約リスク審査会」を開催し、契約不備によるトラブル発生防止に取り組んでおります。また、情報管理や知的財産権等に関する社内規程を定め、全ての社員を対象に定期的な法務教育を実施する等、適正な契約の締結、情報管理の徹底、権利侵害の防止に努めております。一方で、情報漏洩や第三者の知的財産権等を侵害したことが判明した場合には、取引先等から損害賠償請求を受けるリスクがあります。このような事態に発展した場合には、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
(9) 情報システム
当社グループは、事業活動を通して取引先の機密情報を入手することがあり、また、営業上・技術上の機密情報を保有しております。これらの情報の流出や改ざん等が発生しないよう、社員教育、情報資産の保護対策等に努めておりますが、想定を超えるサイバー攻撃、自然災害等により、情報流出、破壊、システム停止等が生じた場合には、当社グループの事業遂行に支障をきたし、レピュテーションの低下、収益の悪化を招く可能性があり、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
(10) 資金調達
当社グループは、運転資金及び設備投資資金の一部を借入金により調達しているため、将来の金利変動リスクを想定しております。長期借入金については原則、固定金利にするものとし、支払利息の固定化を実施することでリスク軽減に努めておりますが、完全に回避できるものではなく、資金繰りが悪化することによる支払遅延、その他企業としての格付け低下が収益の悪化を招き、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
(11) 会計・税務
当社グループは、全ての社員に対して定期的にコンプライアンスに関する教育を実施するほか、財務部門においては面談や人事ローテーションにより、事務過誤や不正行為が生じる可能性の低減に努めております。一方で、架空取引、循環取引、粉飾決算、税申告漏れが生じた場合には、当該行為によって課される罰則はもとより、レピュテーション低下のリスクがあり、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
(12) 品質
当社グループは、物流事業、機工事業ともに国内外の各地域において各種作業を請け負う形態で事業を運営しておりますが、作業品質の維持、向上は当社グループの信頼に直結するものであると認識しております。そのため、施工ミスや誤出荷等の作業上の瑕疵、取引先設備の破損、成果物の品質不良等が頻発すれば、取引先からの信頼の失墜はもとより、損害賠償請求を受けるほか、新規受注が困難になる等、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
(13) 環境
当社グループは、事業活動を行う国内外の各地域において、化学物質の利用、廃棄物の処理・リサイクル等に関する広範な環境関連規制の適用を受けており、これらの作業に従事する社員に対しては適切な教育の機会を設け、事故発生可能性の低減に向けた取り組みを実施しておりますが、今後、より厳格な規制が導入されたり、法令の運用・解釈が厳しくなったりすることにより、法令遵守のための費用が増加する可能性があります。また、当該作業で環境関連規制違反、事故等が発生した場合、実損害はもとより、事業免許等の取り消し、レピュテーションの低下による収益悪化のリスクを想定しております。このような問題が生じた場合には、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
当連結会計年度における世界経済は、サービス業が世界的に好調を維持し、インフレ圧力の緩和で消費回復、IT関連財の需要回復で情報通信サービスが好調に推移しました。一方、製造業における生産活動の回復が力強さに欠け、関税リスクの高まりが景気の不確実性を増しております。米国では、良好な所得環境が個人消費を下支えし、EV関連を中心に設備投資が堅調に推移しました。中国では、インフラ投資・設備投資において政策的回復の動きを見せましたが、外需の低迷、住宅販売・個人消費の低迷等が内需を中心に影響し、日系企業の生産活動にも影響しました。東南アジアでは、IT関連財の需要回復で輸出が好調に推移し、インフレ圧力の緩和で内需も堅調に推移しておりますが、化学業界ではメンテナンス案件が端境期で減少しました。国内経済では、半導体需要、サービス輸出は堅調に推移しておりますが、中国景気の減速で対中輸出に影響がでております。また、国内需要は、人手不足の影響はありますが、価格転嫁の動き、化学業界の旺盛なメンテナンス需要、堅調な設備更新・環境関連投資に支えられ、回復の動きを見せています。
このような経済情勢の下、当連結会計年度における売上高は6,067億91百万円と前連結会計年度に比べ7.7%の増収、利益面においては営業利益が439億45百万円と24.8%の増益、経常利益が446億79百万円と22.0%の増益、親会社株主に帰属する当期純利益が307億47百万円と26.1%の増益となりました。
セグメントごとの業績は次のとおりであります。
① 物流事業
港湾国際では、新規作業の開始及び国内のプロジェクト輸送案件、倉庫保管・梱包作業が増加しました。3PL一般では、国内での鋼材・化学品関連等の保管・輸送作業の増加があった一方で、消費財等の取扱いが減少。また、中国域内での自動車部品・消費財の輸送作業等、内需不振の影響を受けて低調に推移しました。構内では、国内客先の単価改定の進展、出荷作業の増加に加え、中東での新規作業の増加及び昨年度計上した追加コストの剥落影響等がでております。
以上の結果、物流事業全体の売上高は2,955億64百万円と前期比4.0%の増収、セグメント利益(営業利益)は96億81百万円と前期比20.2%の増益となりました。
なお、当連結会計年度の売上高に占める割合は48.7%であります。
② 機工事業
設備工事では、国内産業の設備更新・脱炭素需要等を背景に、鉄鋼・化学・環境関連工事での据付・建設工事の増加に加え、米国でのEV関連の工場建設・増強工事が増加しました。メンテナンスでも、国内SDM(大型定期修理工事)の工事量がメジャー年による影響で増加したことに加え、日常メンテナンス作業も好調に推移しました。
以上の結果、機工事業全体の売上高は2,832億89百万円と前期比12.1%の増収、セグメント利益(営業利益)は320億1百万円と前期比27.4%の増益となりました。
なお、当連結会計年度の売上高に占める割合は46.7%であります。
③ その他
鉄鋼関連工事及びSDMの工事量増加に伴い機材賃貸が増加しました。
以上の結果、その他全体の売上高は279億37百万円と前期比4.7%の増収、セグメント利益(営業利益)は22億18百万円と前期比20.2%の増益となりました。
なお、当連結会計年度の売上高に占める割合は4.6%であります。
(2) 財政状態の状況
① 資産
当連結会計年度末における総資産は5,451億89百万円であり、前連結会計年度末に比べ401億43百万円増加しました。この増加の主な要因は、売掛金と契約資産の増加、海外での建設仮勘定の増加等によるものです。
② 負債
当連結会計年度末における負債の部は2,481億26百万円であり、前連結会計年度末に比べ285億13百万円増加しました。この増加の主な要因は、長期および短期借入金の増加等によるものです。
③ 純資産
当連結会計年度末における純資産の部は、2,970億63百万円であり、前連結会計年度末に比べ116億29百万円増加しました。この増加の主な要因は、配当金の支払いおよび自己株式の取得による減少と当期純利益の差等によるものです。
その結果、当連結会計年度末の自己資本比率は、前連結会計年度末を2.0ポイント下回る53.8%、D/Eレシオについては前連結会計年度末より0.02ポイント増加し、0.28倍となっております。
当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、前連結会計年度末に比べ54億63百万円減少し、当連結会計年度末残高は413億84百万円となりました。
① 営業活動によるキャッシュ・フロー
当連結会計年度における営業活動による資金の増加額は、435億32百万円となりました。
前連結会計年度との比較では、税金等調整前当期純利益が増加したこと、法人税等の税金支払い額が減少したこと等により、資金の収入は218億円増加しました。
② 投資活動によるキャッシュ・フロー
当連結会計年度における投資活動による資金の減少額は、264億72百万円となりました。
前連結会計年度との比較では、固定資産の取得による支出が増加したこと等により、資金の支出は80億38百万円増加しました。
③ 財務活動によるキャッシュ・フロー
当連結会計年度における財務活動による資金の減少額は、253億13百万円となりました。
前連結会計年度との比較では、社債の発行による収入がなかったこと、長期借入金の返済による支出が増加したこと等により、資金の支出は161億71百万円増加しました。
当社連結グループが営んでおります事業では生産実績を定義することは困難であるため、「生産の状況」は記載しておりません。
当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(2) 売上実績
当連結会計年度における売上実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注)1.当社連結グループの事業では、「販売実績」という定義は実態にそぐわないため、各事業の売上実績を
記載しております。
2.主な相手先別の売上実績および当該売上実績の総売上実績に対する割合
(経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容)
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
(1) 経営成績
① 既存事業の維持・領域拡大
物流事業においては、外部環境変化・海外経済低迷の影響・DX変革の遅れ等はありますが、国内における化学品(危険物含む)物流拡大に向けた基盤整備、新規お客様の獲得や既存事業領域の深耕拡大を図るとともに、お客様との適正な単価収受への交渉、その成果は着実に出ているものと考えております。見直しを行った中期目標実現に向けて、鉄鋼・化学・電気電子業界を基軸とした国内外の競争力を強化していきます。また、優位性のある貨種をターゲットに、ノウハウの水平展開、同業他社との協業・提携を進めております。さらに、デジタル化・省人化を促進し、業務の効率化や人材の適正配置、コスト削減を中心としたコスト構造改革を進めるとともに、サービスの付加価値向上を行い、競争力を強化してまいります。
機工事業においては、当社のビジネスモデルを武器にお客様のアウトソーシングニーズを着実に取り込み、ここ数年は国内外において、特にメンテナンス事業が大きく伸長いたしました。これはお客様を取り巻く経営環境が大きく変化する中で、生産の効率化・基盤強化・環境関連投資等への旺盛なニーズに対して、当社の強みである動員力と技術力が選ばれてきた結果だと考えております。見直しを行った中期目標実現に向けて、既存事業の優位性を更に強化し、主要業界である鉄鋼や石油化学の需要を確実に取り込むとともに、カーボンニュートラル関連、社会インフラ関連や海外事業などの成長領域への取り組みを強化していきます。また、サービスの高度化を伴う生産性向上を図り、機工人材の確保の面では、海外教育センターの稼働により人材育成と流動化の加速、処遇の見直し、外国人材の活用を図ってまいります。
② 現在から未来への持続的な収益力の確保(成長市場への挑戦)
長期経営戦略の1st Stage「変革期」として、「経営基盤強化」、「リスクマネジメント強化」を経営戦略に掲げ、持続的な収益力の確保を取り組んで参りました。
物流事業においては、コスト構造の見直しや適正単価収受の交渉を進め、採算性の低い拠点の集約や作業撤退等を実行することで事業体質の改善を進めております。また、素材・エネルギー物流の拡大、アセットライト経営・デジタル化施策の推進で生産性向上を進めてまいります。
機工事業においては、事業本部が主導し、大型プロジェクトの進捗管理を徹底することで、事業全体の収益性が向上いたしました。工事工程の見直しや新技術の活用による省力化を進めるとともに、協力会社も含めた要員・機材をグループ全体で管理し、その効率的な配置にも継続的に取り組んでおります。また、グローバルな要員の流動化、社会インフラ・環境ビジネスの体制構築、新技術獲得などを通じて事業基盤・成長基盤の強化を図ってまいります。
これらの取組結果として、世界経済の不確実性が増す中において収益性を損なうことなく、安定した利益を生み出す収益体質を構築することができました。見直しを行った中期経営計画2026では、「売上高6,600億円」、「営業利益率7.1%」という目標を掲げ、更なる収益性の向上に取り組んでおります。
(2) キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
当社連結グループの主な資金需要は、事業運営に必要な労務費、外注費、材料費、経費、販売費及び一般管理費等の営業費用、さらには当社連結グループの設備新設、改修等に係る投資であります。
2027年3月期を最終年度とする中期経営計画2026では「資本効率性を重視しながら、持続的成長と企業価値の最大化を実現」としており、2027年3月期までの今後2年間で創出が見込まれる営業キャッシュ・フロー1,020億円に、政策保有株式の売却や負債活用等による380億円を加えた1,400億円を財源にして、海外における高機能物流センターの構築、当社グループの認知度向上施策、M&Aなどの成長投資に750億円、株主還元に650億円を配分する計画としております。
株主還元については、中期経営計画2026の資本政策「連結配当性向40%水準」に加え、この期間において下限配当額として「前年度1株当たり年間配当額」を設定し、より安定的な利益還元を目指すとともに、自己株式の取得については、この期間において累計400億円を取得する計画から、2027年3月期までに累計700億円を取得する計画に増額し、株主還元を強化しております。また、自己株式の保有については、発行済株式総数の5%程度を目安とし、それを超える株式は原則として消却すること、保有した自己株式は、役員報酬制度に使用する等、企業価値向上に向けて有効に活用することを方針としております。
これらの必要資金は、まずは営業活動によるキャッシュ・フローと自己資金にて賄い、必要に応じて金融機関からの借入または社債発行等にて対応することとしております。
手許の資金流動性につきましては、グループ内資金を有効活用するため、キャッシュ・マネジメント・システム(CMS)を活用し、資金効率の向上に努めるとともに、資金の調達手段を多様化することにより、事業運営に必要な流動性を確保しております。また、急激な金融環境の変化や突発的な資金需要への備えとして、迅速かつ機動的に資金調達ができるコミットメントライン契約を金融機関と締結しております。
なお、キャッシュ・フローの分析については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (3) キャッシュ・フローの状況」の項目をご参照ください。
(3) 財政状態
当社連結グループでは、事業の選択と集中を実施し、政策保有株式の見直し、不稼動・低稼働資産の集約・売却等による資産圧縮を行います。その上で、フリーキャッシュフローの有効活用を進める過程で、3PLや3PM(一括メンテナンス)の高度化、中東・インドを中心とした海外事業拡大、事業領域の拡大・新規領域への進出への投資の集中を図っております。
また、資金調達に関しては、営業キャッシュ・フローと負債の活用、設備投資の支出の状況、現預金残高の水準等を総合的に勘案し、適正な範囲内でかつ機動的に実施することを基本方針としており、その方針のもと、資金調達手段の多様化やグループ内余剰資金の有効活用等の各種施策を継続的に推進しています。
① 流動資産
当連結会計年度末における流動資産は2,802億56百万円であり、前連結会計年度末に比べ184億89百万円、7.1%増加しました。主な要因は、売掛金と契約資産の増加等によるものです。
② 固定資産
当連結会計年度末における固定資産は2,649億33百万円であり、前連結会計年度末に比べ216億54百万円、8.9%増加しました。主な要因は、海外での建設仮勘定の増加等によるものです。
③ 流動負債
当連結会計年度末における流動負債は1,390億70百万円であり、前連結会計年度末に比べ317億32百万円、29.6%増加しました。主な要因は、固定負債からの振替による1年内償還予定の社債の増加等によるものです。
④ 固定負債
当連結会計年度末における固定負債は1,090億55百万円であり、前連結会計年度末に比べ32億18百万円、2.9%減少しました。主な要因は、長期借入金の増加と流動負債への振替による社債の減少との差等によるものです。
⑤ 純資産
当連結会計年度末における純資産は2,970億63百万円であり、前連結会計年度末に比べ116億29百万円、4.1%増加しました。主な要因は、配当金の支払いおよび自己株式の取得による減少と当期純利益の差等によるものです。
当連結会計年度末の自己資本比率は、前連結会計年度末を2.0ポイント下回る53.8%となっております。
(4) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社連結グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益および費用の報告額に影響を及ぼす見積りおよび仮定を用いておりますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。
連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、連結財務諸表に与える影響が大きいと考えられる項目・事象は以下のとおりです。
① 繰延税金資産
当社連結グループは、繰延税金資産について定期的に回収可能性を検討し、当該資産の回収が不確実と考えられる部分に対して評価性引当額を計上しております。回収可能性の判断においては、将来の課税所得見込額と実行可能なタックス・プランニングを考慮して、将来の税金負担額を軽減する効果を有すると考えられる範囲で繰延税金資産を計上しております。
② 退職給付債務および退職給付費用
退職給付債務および退職給付費用は、主に数理計算で設定される退職給付債務の割引率、年金資産の長期期待運用収益率等に基づいて計算しております。割引率は、従業員の平均残存勤務期間に対応する期間の安全性の高い長期債利回りを参考に決定し、また、年金資産の長期期待運用収益率は、過去の運用実績および将来の経済・市場環境の見通し等を基礎として設定しております。割引率および長期期待運用収益率の変動は、将来の退職給付費用に影響を与える可能性があります。
③ 工事損失引当金
受注工事・作業の将来の損失に備えるため、未成工事・作業のうち損失の発生が見込まれ、かつ、その金額を合理的に見積ることができる工事・作業について、工事損失引当金を計上することとしております。
技術的難易度の高い長期請負工事や海外でのカントリー・リスク等のある工事・作業において、工事・作業の進行に伴い見積りを超えた原価が発生する場合等は、当社連結グループの業績を悪化させる可能性があります。
④ 完成工事高および完成工事原価の計上
成果の確実性が認められる工事契約については、履行義務の充足に係る進捗度(工事の進捗度の見積りはインプット法)に基づき完成工事高を計上しております。想定していなかった原価の発生等により工事進捗度が変動した場合は、完成工事高および完成工事原価が影響を受け、当社連結グループの業績を変動させる可能性があります。
当連結会計年度において、重要な契約等はありません。
特記すべき事項はありません。