第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1)経営方針

 当社は、社是を「海上安全のサポート」とするマリンサービス提供会社として、曳船(タグボート)や水先艇(パイロットボート)、洋上風力発電向けの交通船(CTV)などのスペシャリスト船舶の運航などに携わっています。

当社グループの中核である曳船事業においては東京湾全域に亘って、船舶の安全航行をサポートし、海難事故へ即応することにより海上交通効率化ならびに海洋環境保全への貢献といった公共的役割を果たしています。当社グループのタグボートは、浦賀水道・中ノ瀬航路における船舶のエスコート業務、東京湾各港における船舶の離着桟補助業務、LNGバース等での警戒船業務、防災業務、緊急出動・海難救助に従事し、曳船関連事業として東京湾口の水先艇運航業務に携わっています。

 洋上風力発電向け事業は今後成長が見込まれますが、社是の「海上安全のサポート」に沿ってCTV(洋上風力発電交通船)を始めとした洋上風力発電関連船舶事業の発展を図って行きます。

 当社グループ会社が行う2つの旅客船事業は、地域貢献型マリン事業と位置づけています。すなわち、神奈川県・久里浜港と千葉県・金谷港間を結ぶカーフェリー定期航路事業で地域の水上モビリティを提供して行きます。また、横浜港における観光船事業で市民及び観光客に洋上での利便性と快適性を提供してまいります。

 当社は2023年1月に電気推進曳船「大河」を就航させましたが、今後も安全で確実な曳船サービスを継続的に遂行するために曳船の電気推進化や代替燃料の使用など脱炭素化を進展させた環境負荷が低いタグボートの開発・投入を進めてまいります。また、グループ会社が運航する船舶についても脱炭素化を進めて行きます。

 今後ともこうした事業を基軸として、海事関係者、洋上風力発電関係者、一般顧客及び社会に貢献する企業グループを目指して行きます。

 

(2)経営環境

 当社の主力である曳船事業においては、東京湾への入出港船舶数は年により変動はあるものの趨勢的に大きく増加する要因はありません。コスト面でのインフレや円安による燃料費増加が収益性の低迷要因となっています。

 洋上風力発電関連での船舶や付随業務の分野は、競争は激しいものの当社にとり新たな投資機会であります。当社が2013年より手掛ける洋上風力発電交通船(CTV)では国内外で洋上風力発電プロジェクトが進展して行きます。

 グループの旅客船事業を取り巻く環境については、観光客数は回復しているとはいえ、短期間に需要が変動することが予想されます。横浜港においては中期的にはインナーハーバーの再開発が新たな機会となります。東京湾口のローカルカーフェリーについては需要が大きく増加する要因はありません。

 

(3)会社の対処すべき課題

 当社グループの主力である曳船事業については、東京湾における曳船作業船舶の入出港数は、近時低迷しており、今後も大きく増加する要因はありません。

 こうした中で当社は、グループとして、伝統的事業の収益性回復と新たな分野での成長を図ります。成長分野での投資を行うための資金を確保するためにも既存事業での収益性向上とキャッシュフロー改善を目指します。具体的には以下のような施策に取り組んでいます。

 

曳船事業

① ハーバータグ及びエスコートタグ事業においては、増加するコストに見合うように曳船料率改定(値上げ)を2025年5月1日より実施した。今後は全日本海員組合との曳船運航定員削減交渉を前進させ、定員削減船の隻数を増やすことにより、コスト低減化を実現する。また、曳船の需要に応じて船隊規模を柔軟に最適化する。

② 東京湾口水先艇事業においては、全日本海員組合との合意が成立し、2024年5月より船隊の隻数を4隻から3隻に減船を行ったが、コスト削減効果が現れるには年数を要するため、さらなる低コスト施策を実施する。増加するコストに見合うように湾口水先艇サービス料金の適正化を実現する。

③ IT高度化とデジタル化を推進し、陸上および海上の各業務プロセスの効率化と有効化・迅速化を図る。特に、AIによる配船支援システム導入により横須賀地区タグボート船隊の配船の最適化を行う。

④ 洋上風力発電交通船(CTV)運航等の洋上風力発電向け事業については、本業のひとつとして成長させるべく国内外で計画中の洋上風力発電向けサービスの案件獲得を目指す。その際、以下の方針で臨む。

    ‐提供サービス範囲の拡大と増益を実現すべくSOV(サービス・オペレーション・ヴェッセル)等の事業開発を進める。

    ‐船員の教育訓練に注力し船舶管理能力を強化する。

    ‐当社グループ全体で洋上風力発電分野に係わっていく。

 

⑤ 曳航曳船事業については、2024年2月に設立した曳航曳船の合弁会社インディゴ オーシャン サポート㈱(持分法適用会社)の収益性向上に努める。

⑥ 継続的な研究開発により環境負荷が低減されかつ作業効率と安全性の高い最新鋭曳船を投入する。特に2023年1月に就航した電気推進曳船「大河」運航で得た知見を将来の脱炭素型新規曳船開発のために活用する。グループ会社の船舶についても脱炭素化を進める。

⑦ 乗組員の高い技能を維持し安全な曳船サービスを安定的に提供するために、教育訓練をシステマティックに行い技能の継承・向上に引き続き取り組む。陸上社員の人的資源管理についても、会社成長の基礎となるように教育訓練、人事・報酬制度改革を一体で行う。

 

旅客船事業

⑧ 旅客船事業セグメントの内、㈱ポートサービス(連結子会社)が担ってきた横浜港の観光船事業については、近時の業績は回復し、2025年5月よりB to C事業(港内観光船、水上バス)を合弁会社YCruise㈱(持分法適用会社)へ事業移管した。ボトルネックとなっている人手不足を解消して収益性の向上に努める。また、㈱ポートサービスのB to B事業(作業船、港内水先艇他)の売上拡大を目指す。

⑨ 東京湾フェリー(連結子会社)については、船舶の代替も視野に入れ事業を再構築する。

 

(4)社会的責任を意識した経営

当社は、より安全で効率的な曳船サービスを提供して行くために総合的な品質管理システムの運用を強化いたします。また、社会的な責任として環境マネージメントシステムに基づいた企業経営を行ってまいります。これらに加え労働安全や健康に最大限配慮して行くことも含め、高いHSEQ基準を確立し充足して行きます。

当社グループとしての内部統制システムは、財務報告の信頼性確保を目的とするのみならず業務の有効化・効率化、リスクマネージメントを組み込んだ体制とし、同時に公正かつ透明な企業行動のためのコンプライアンス体制と一体となるものとして行きます。

ガバナンス強化への対応として、当社グループ全体としての社員教育プログラムの拡充を図って行く必要性があります。

これらの諸施策を実施し、海事関係者、洋上風力発電関係者、一般顧客及び社会から信頼される企業グループ経営を行うことにより株主の利益に最大限貢献したいと考えております。

 

(5)目標とする経営指標等

当社グループは、連結ベースでの経営効率の向上ならびに事業競争力の強化に努め、各社がそれぞれ有する経営資源をグループ全体として共有するなど、グループレベルでの収益力の強化を図って行きます。

当社グループの営む曳船事業の業績は、当社のコントロール外による要因(船舶の寄港数等)に左右される度合いが大きく、また、曳船業務の公共的性格(曳船による船舶の安全運航サポート)から具体的な数値指標を設定することは適切ではないとの考えから、中長期ビジョンに数値目標としてKPIを設定しておりません。

当社グループの事業は、減価償却費や船員費用などの固定費の占める割合が高いため、設備稼働率の向上が課題であります。そのため、総売上高が重要であるとともに、適正な船隊規模を確保する観点から船舶一隻当たりの売上高も重視しています。

また、収益性を確保する見地から売上高営業利益率や売上高当期純利益率などの改善を目標としており、運航コスト削減や作業単価改善(曳船事業の場合)のための諸施策を実施して行きます。

さらに、資本効率面でも、余剰資金を新規のプロジェクトや成長分野の事業へ投資することにより総資産利益率、自己資本利益率の改善を目指します。

曳船作業を左右する本船の市場動向の変化を注視して、合理的で効率的な運航を実現させるため適正な船隊整備に努めてまいります。

旅客船事業においては、船舶の船齢が上昇しているためこれらの代替に向けて、持続的な収益性確保の観点から計画を進めて行きます。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社は、当社が持続的に発展して行くうえで、サステナビリティに関する取り組みが不可欠であるとの認識に立ち、コーポレートガバナンスポリシーにおいて、これらの課題に積極的に関与して行くことを掲げ対応いたしております。また、企業行動憲章にも「地球環境の保全」に言及しています。

 

(1)ガバナンス

当社は気候関係や人的資本をはじめとするサステナビリティ関連の課題については、取締役会で取締役社長および業務執行取締役(社内取締役)から報告がなされ分析・評価を行い必要な意思決定を行っています。

また、取締役社長が議長となり、執行役員(取締役兼執行役員と執行役員)および常勤監査役が出席して毎週開催される経営会議において、サステナビリティに関する重要な問題については各担当執行役員から随時報告を受け行動をとっており、必要があれば取締役会に報告される体制となっております。

なお、各種業務プロセスの実施については、ISO9001(品質マネジメント)、ISO14001(環境マネジメント)、ISO45001(労働安全衛生マネジメント)の実行と一体となる体制を敷いています。

 

(2)戦略

①気候関係

当社は、事業活動が、地球規模の資源問題、温暖化問題、環境汚染問題に影響を及ぼすことを認識し、事業活動や提供するサービスが地球全体の環境に過大な負荷を与えないように開発・生産の各局面において最大限の配慮をすることを企業行動基準として設定しております。

当社は予てから、曳船が排出するCO2や燃料消費等の環境問題について議論を重ね、2013年に環境負荷低減型曳船(電気推進併用曳船)を就航させました。その後も環境への影響をできるだけ少なくする曳船の研究開発を進め、2023年1月にはバッテリーと発電機を動力源とした電気推進曳船を就航いたしました。今後は同船の運航データを検証し、より環境負荷が少なく作業効率と安全性の高い曳船の開発につなげ、また、当社グループの運航する船舶においても電気推進化するなど、事業活動の脱炭素化を推進して行きたいと考えております。

また、陸上施設面では横須賀支店と千葉支店の屋上に太陽光パネルを設置しており、これら支店での使用電力を再生可能エネルギー化しております。

 

②人材の育成及び社内環境整備に関する方針、戦略

当社および当社グループの中核事業は曳船、水先艇、洋上風力発電向けの交通船(CTV)など特殊専門作業船舶の運航です。

曳船事業では「海上の安全への貢献」「港湾の円滑な運営への貢献」「海洋環境の保全への貢献」を企業の使命としています。また、CTV事業でも「海上の安全への貢献」という使命に沿って事業活動を展開しています。

これら企業の使命に沿った専門事業を発展させるためには、高い専門的技能を持った乗組員の育成と、専門性の高い陸上スタッフの人材を確保・育成することにより、各々のスキルの向上が当社の成長につながるものと考えております。

海上従業員については、曳船事業の使命は海難事故への対応でありますが、曳船自身の操船ミス等により海難事故を発生させるリスクがあるので、それらのリスクを回避するためのHSEQ体制を敷いています。日々の業務においては、海難事故等のデータベース化を進め、これらを参照し乗組員自らが様々な状況を想定してシミュレーションができるよう環境の整備を行い、さらに高度な教育プログラムの確立を目指して行きます。

また、衝突回避等のAI技術の導入を積極的に検討し、乗組員にとってより負担の少ない労働環境を整備して行きます。

陸上従業員につきましては、当社は異なる経験・技能・属性を反映した多様な視点や価値観が存在することが、会社の持続的な成長を確保する上での強みとなるとの認識に立ち、中途採用社員を中心に女性を含む多様な人材が能力を発揮できる企業を目指すことを人材に係る基本方針としています。

 

社員の入社時には経験およびスキル等を評価のうえ処遇を決定しております。入社後においては職務の習熟度や組織への貢献度、適正を勘案したうえでラインやスタッフへの人事配置を行っています。また、教育・訓練の機会を最大限与えキャリア形成が可能となるようにすることを方針としています。

現在は、人事教育制度や評価・昇進制度を成長戦略に沿ったものとなるように見直しを行っています。また、各業務プロセスの見直しとデジタル化推進により、無駄のない職場環境づくりに努めています。全ての従業員にとって働きやすく、継続的に活躍できるよう、育児支援、介護支援を通して職場環境を整備して行きます。

 

(3)リスク管理

当社は、発生しうるリスクの特定・分類を行い、各々のリスクについて主管部署及び担当業務執行取締役を定める等、リスク管理に対する体制整備を図り、適切なリスクコントロールを行っております。

また、リスク発生の未然防止策の審議検討や、リスクの発見またはリスクが顕在化した場合の対策の検討は経営会議において審議され、取締役会に報告される体制となっております。

 

(4)指標及び目標

①気候関係

当社は、自らの事業活動が地球環境に及ぼす影響を認識し、環境マネジメントシステムを導入しております。環境基本方針として、CO2、NOx、SOx等の排出最小限化、漏油等による海洋環境汚染防止、廃棄物の減量とリサイクル化促進、環境負荷低減船の継続的な開発、グリーン購入の推進等を定めており、環境マネジメントシステムの個別のプロセスにおいて目標を設け、運用状況を定期的に検証しております。

今後も同システムの継続的な運用と検証を推進し、上記の環境基本方針に沿った経営を行ってまいります。また、2023年1月に就航した電気推進曳船についての運航データの検証に基づき、ゼロエミッションの電気推進船など環境への負荷がより少ない船舶の開発に努めて行きます。

②人材の育成及び社内環境整備に関する方針に関する指標の内容並びに当該指標を用いた目標及び実績

当社は、現状においては管理職に占める女性労働者の割合は少ないものの、総合職においては女性社員の採用は増えています。一方、外国人労働者の採用、管理職への登用には至っておりません。具体的な数値目標は定めておりませんが、今後は女性や外国人を含む多様な人材確保と育成について、積極的に対応して行く方針です。

また、成長が見込める洋上風力発電事業関連などのオフショア船事業での事業開発を行い、ハード面ではグループ会社での運航船舶も含めて、新テクノロジー船舶や電気推進船を始めとした環境負荷低減型船舶の継続的な開発を行うとともに、業務プロセス全般でDX化を推進してまいります。これらの分野を実行するのに必要な人材を採用、育成して行きます。また、採用に際しては事業に共感する人材の増強を行ない、企業能力を高めて行く方針です。

 

 

3 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

①  燃料油・原材料価格変動リスク及び調達リスク

当社グループの事業は、曳船部門・旅客船部門が燃料油を使用しており、この価格は原油市場の動向に左右されます。原油価格高騰により収益が圧迫されるリスクと燃料油の供給自体の市場での調達が困難となり運航に支障をきたす恐れがあります。

燃料油価格の急激な変動を緩和するため、当社では原油価格の動向を見ながら年間消費量の約30%に対して燃料油価格の繰延ヘッジ取引を行なう方針です。また、燃料油の調達リスクの対策としては、複数の業者から調達を行い、安定したサプライチェーンの確保に努めておりますが、世界各地での紛争等の地政学リスクが顕在化することにより産油国の原油の供給不能の事態が発生するリスクがあります。

また、鋼材の値上げにより新船の建造価額に影響が出ることもあります。

さらに旅客船事業及び売店・食堂事業においては、サプライチェーンの機能低下により食材や商品の調達リスクがあります。

②  海難事故リスク

曳船事業では、海上災害の予防と海難事故の際の出動は当社の本来の業務でありますが、当社曳船の物理的破損や人的被害のリスクがあります。また、当社自体の曳船運航が海難事故の要因となり責任が問われるリスクがあります。これらはすなわち、衝突や岸壁破損等のリスク、燃料油・原油流出による海洋汚染リスク、危険物を扱う船舶での業務に伴う海上災害リスク等です。

このような海難事故発生の抑止策として、統合的なHSEQ体制の強化を図っています。今後は高度な技能教育プログラムの確立・改善を進めてまいります。

カーフェリーや観光船においては人命にかかわる事故や海洋汚染リスクを抱えております。

③  市場環境の変化のリスク

曳船事業では、当社自身のコントロールの効かない外部環境の変化による売上高減少のリスクがあります。すなわち、景気動向や自然災害・感染症拡大等を要因とした日本経済低迷による日本の港湾への入出港船舶数減少に起因する曳船作業数の減少リスクです。また、船舶運航関連の諸規制の変更に伴う曳船使用の減少リスクがあります。

④ 大規模自然災害等による事業継続リスク

当社にとって365日・24時間の曳船運航体制の維持は社会的使命であります。大規模自然災害等により配船オペレーションを司る人員確保が困難となる事態、物理的に事務所が使用不能に陥る事態及び停電等によりITシステムがダウンし機能不全に陥る事態は、曳船サービス継続に支障をきたすリスクであります。

これらの事態に対しては、人員確保が困難になった場合の配船オペレーション経験者の臨時投入、複数の拠点でのオペレーション体制の維持、停電に対してはITバックアップ体制の強化等で対処してまいります。今後はより精緻な事業継続計画(BCP)を策定してまいります。

⑤ 情報セキュリティに関するリスク

当社グループの情報システムへのサイバー攻撃により、ITシステム障害に陥るリスクがあります。サイバー攻撃に対して、専用回線の使用やファイアウォールにより対策をとっておりますが、曳船事業ではオペレーション業務遂行に支障をきたすリスクがあり、旅客船事業では予約システムが被害を受け、個人情報が流失する可能性があります。

 

⑥ 感染症等の拡大による事業継続に関するリスク

感染症等の拡大による事業継続リスクに関しては、大規模自然災害等による事業継続リスクと同様に人的資源や物理的資源を棄損するリスクがあります。

感染防止策として、異なった曳船の乗組員間の接触制限、曳船の配船オペレーション要員の複数班化、複数拠点での陸上サポート体制を整備しています。当社やグループ会社が運航する曳船以外の船舶について、感染症拡大のケースではグループ内の船員の相互融通を検討しています。子会社のT-KOS㈱は船員派遣業の免許を取得したため、船員の相互融通がやり易くなっています。

また、フレックスタイム制による時差出勤やリモートワーク、テレビ会議等の施策の活用範囲の拡大を、労働環境及び情報セキュリティや情報漏洩のリスクに配慮しつつさらに検討してまいります。

 

これらリスク要因が当社グループの先行きの業績に影響を与える可能性があります。但し、悪影響を与えうる要素は上記に限定されるものではありません。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

①経営成績の状況

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

増減率

売上高

12,515

12,041

△474

△3.8%

売上原価

10,190

10,583

393

3.9%

販売費及び一般管理費

1,957

1,969

11

0.6%

営業利益又は営業損失(△)

368

△511

△879

経常利益又は経常損失(△)

684

△259

△943

親会社株主に帰属する当期純利益

572

2,044

1,471

256.9%

 

 

当連結会計年度は、昨年度と同様の地政学リスクを背景とした資源高と円安によりエネルギー価格は高値圏で推移し食料品の値上げも重なり実質賃金はマイナスとなり、年度後半にかけて個人消費は弱含み景気回復は鈍化いたしました。

また、中国経済の不動産不況による景気低迷やロシアとウクライナの戦争長期化に加え、中東情勢の緊迫化や米国トランプ政権の発足で、世界経済は不透明感を深める状況となりました。

当社グループの主たる事業である曳船事業を取り巻く状況につきましては、曳船作業対象船舶の東京湾への入出港数は、堅調を維持していた自動車専用船、コンテナ船は減少に転じ、大型タンカーを中心に危険物積載船は弱含みで推移いたしました。

洋上風力発電交通船(CTV)は、前期の秋田港・能代港、石狩新港での建設用作業が終了し、富山県入善港と北九州ひびき灘での稼働となり減収となりました。

旅客船事業では、カーフェリー部門で昨年度末に発生した岸壁接触事故による船体損傷の影響で減収となりましたが、横浜港のレストラン船は好調を維持し増収となりました。

このような経済環境のなかで、当社グループは総力を挙げて業績向上に努めた結果、売上高は474百万円減少し12,041百万円(前期比3.8%減)となりました。

利益面では、ベースアップや労働時間の規制が強化されたことで人件費が162百万円増加し、洋上風力発電交通船(CTV)の新造や建造価額の上昇で減価償却費が254百万円の増加となりましたが、CTV事業の稼働減少に伴い用船料が165百万円減少いたしました。

この結果、曳船事業の減収が響き511百万円の営業損失(前期は368百万円の営業利益)となり、経常損失は259百万円(前期は684百万円の経常利益)となりました。

また、特別利益として投資有価証券売却益が2,081百万円、関係会社株式売却益が221百万円、また固定資産(曳船)売却益が497百万円発生し、親会社株主に帰属する当期純利益は2,044百万円(前期比256.9%増)となりました。

 

 

 

セグメント別の売上高(上段)及び営業損益(下段)の概況は下記のとおりです。

(単位:百万円)

セグメントの名称

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

増減率

曳船事業

9,565

9,004

△561

△5.9%

397

△393

△790

旅客船事業

2,386

2,476

90

3.8%

△29

△115

△86

売店・食堂事業

563

560

△3

△0.6%

△5

△15

△9

 

(注)売上高は外部顧客に対する売上高を表示しております。

 

曳船事業

曳船事業は、横浜川崎地区では、作業対象船舶のうち中小型コンテナ船の入出港数が増加となったものの、大型コンテナ船の減少は第4四半期に入りさらに拡大いたしました。また、堅調に推移していた自動車船の入出港数は減少に転じ、精油所の定期修繕の影響もあり大型タンカーを中心に危険物積載船の低迷が響き減収となりました。作業対象船舶がコンテナ船中心である東京地区も減少に転じ減収となりました。横須賀地区では、エスコート作業対象外の中小型コンテナ船が増加した上に、大型タンカーやLNG船の減少傾向が響き減収となりました。千葉地区では、昨年度低迷していた危険物積載船の入港数が回復したものの、大型鉱石船を中心にほぼ全ての船種が減少し減収となりました。

一方、洋上風力発電交通船(CTV)は、前期の秋田港・能代港、石狩新港での建設用作業が終了し、富山県入善港と北九州ひびき灘でのO&M作業用の稼働と一部短期の建設用作業となり減収となりました。

この結果、曳船事業セグメントの売上高は561百万円減少し9,004百万円(前期比5.9%減)となり、393百万円の営業損失(前期は397百万円の営業利益)となりました。

 

旅客船事業

旅客船事業は、横浜港における観光船部門では、レストラン船マリーンルージュは年間を通じて堅調に推移し、また、山下公園シーバス発着所が8月にリニューアルオープンしたこともあり増収となりました。

久里浜・金谷間を結ぶカーフェリー部門では、昨年度末に強風による岸壁接触事故で運航休止を余儀なくされました。復帰は8月10日と予想より約2カ月早まったものの、シルバーウィークや秋の観光需要期に強風による欠航が痛手となりました。また、食料品の値上りやガソリン価格の高止まりの影響で節約志向が高まり、観光バス団体客やマイカーでの利用客は減少し、売上高は前期並みに留まりました。

この結果、旅客船事業セグメントの売上高は90百万円増加し2,476百万円(前期比3.8%増)となりましたが、船員の労働時間の規制が強化されたことで人件費が増加し115百万円の営業損失(前期は29百万円の営業損失)となりました。

 

売店・食堂事業

売店・食堂事業は、カーフェリー部門の運航休止の影響を受け低迷し、売店・食堂事業セグメントの売上高は3百万円減少し560百万円(前期比0.6%減)となり、15百万円の営業損失(前期は5百万円の営業損失)となりました。

 

 

②財政状態の概況

資産、負債及び純資産の状況

当連結会計年度末の総資産は、前連結会計年度末に比べ2,143百万円増加し31,261百万円となりました。

流動資産の部では、現金及び預金は406百万円増加し、その他流動資産が576百万円減少いたしました。固定資産の部では、曳船の代替船建造と洋上風力発電交通船(CTV)の竣工により船舶が1,561百万円増加し、投資有価証券が183百万円増加し、関連会社の設立や追加取得を主因として関係会社株式が149百万円増加いたしました。

負債は、前連結会計年度末に比べ、49百万円減少し6,466百万円となりました。流動負債の部では、未払法人税等が90百万円増加いたしました。固定負債の部では、長期借入金が105百万円、リース債務が123百万円減少し、特別修繕引当金が125百万円増加いたしました。

純資産は、前連結会計年度末に比べ、2,193百万円増加し24,794百万円となりました。これは主に親会社株主に帰属する当期純利益が2,044百万円となり、剰余金の配当を198百万円実施したことにより利益剰余金が1,844百万円増加、その他有価証券評価差額金が142百万円増加し、為替換算調整勘定が185百万円増加したことによるものです。

この結果、自己資本比率は前連結会計年度末の74.2%から76.0%と1.8ポイント増加いたしました。

 

③キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、前連結会計年度末に比べ1,406百万円増加し6,761百万円となりました。

(単位:百万円)

科目

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

現金及び現金同等物の期首残高

5,236

5,355

119

Ⅰ.営業活動によるキャッシュ・フロー

618

1,206

588

Ⅱ.投資活動によるキャッシュ・フロー

△639

636

1,275

Ⅲ.財務活動によるキャッシュ・フロー

120

△432

△552

現金及び現金同等物の増加額(△は減少)

119

1,406

1,286

現金及び現金同等物に係る換算差額

20

△4

△25

現金及び現金同等物の期末残高

5,355

6,761

1,406

 

 

当連結会計年度に係る区分ごとのキャッシュ・フローの状況は以下のとおりとなりました。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度における営業活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べ588百万円増加し1,206百万円の資金取得となりました。資金収支の主な内訳は、税金等調整前当期純利益が2,471百万円となり、減価償却費が1,622百万円計上されました。また、投資有価証券売却益が2,081百万円、関係会社株式売却益が221百万円、法人税等の支払額が535百万円発生したことです。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度における投資活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べ1,275百万円支出が減少し636百万円の資金取得となりました。資金収支の主な内訳は、曳船の購入と設備更新(曳船の代替)に加え洋上風力発電交通船(CTV)の建造により有形固定資産の取得による支出が3,648百万円となりましたが、有形固定資産の売却による収入が1,126百万円発生いたしました。また、預入期間が3カ月を超える定期預金の解約による収入が預入による支出を1,000百万円上回り、投資有価証券の売却による収入が2,104百万円、関係会社株式の売却による収入が222百万円発生したことです。

 

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度における財務活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べ552百万円減少し432百万円の資金支出となりました。資金収支の主な内訳は、長期借入金の返済による支出が79百万円、リース債務の返済による支出が137百万円、配当金の支払い額が199百万円発生したことです。

 

④生産、受注及び販売の実績

当社グループの報告セグメントは、曳船事業、旅客船事業、売店・食堂事業であり、生産及び受注を伴う事業ではないため生産及び受注の実績については記載を省略し、販売の実績については「①経営成績の状況」におけるセグメント別の経営成績に関連付けて記載しております。

最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

相手先

前連結会計年度

当連結会計年度

金額(千円)

割合(%)

金額(千円)

割合(%)

東京湾海事事業協同組合

1,301,520

10.40

1,319,793

10.96

 

 

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点における当社グループの経営成績等に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

①財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

A.経営成績

(売上高)

当社グループ全体の売上高は、主力の曳船事業が大幅な減収となったことで、前期に比べ474百万円減少し12,041百万円(前期比3.8%減)となりました。

特に横浜川崎地区では、作業対象船舶のうちサービスレートでの作業となる中小型コンテナ船が増加いたしました。また、危険物積載船の入港数の低迷が続くなか、大型コンテナ船や自動車専用船の減少が第4四半期に入り拡大し、減収幅が拡大いたしました。東京地区でも同様に中小型コンテナ船が増加し採算が悪化いたしました。横須賀地区では、自動車専用船の減少で湾口水先艇作業が減少し、エスコート作業対象外の中小型コンテナ船の増加もあり減収となりました。千葉地区では、前期低調であった大型タンカー等の危険物積載船が反動増となりましたが、大型鉱石船を中心にほぼ全ての船種が減少し減収となりました。

CTV事業では、秋田港・能代港や石狩新港での建設用の洋上風力発電交通船(CTV)の稼働が終了し、富山県入善港と北九州ひびき灘でのO&M作業用の稼働と一部短期の建設用作業となり減収となりました。

旅客船事業においては、横浜港で運航しているレストラン船「マリーンルージュ」の利用客が年間を通じて好調を維持し、また、リニューアル工事で閉鎖中であった山下公園発着所が8月に再開されたこともあり増収となりました。

久里浜・金谷間を結ぶカーフェリー部門では、運航船舶2隻のうち「しらはま丸」が2024年3月に強風による岸壁接触事故が発生し、1隻での運航を余儀なくされ大幅な減収が予想されました。しかし、復帰が約2カ月早まり8月10日に再開されたことや、4月からの値上げ効果で売上高はほぼ前期並みとなりました。

カーフェリーに附随する売店・食堂事業では、4月から値上げを実施しましたが上記の岸壁接触事故の影響を受けほぼ横ばいとなりました。

 

(営業利益)

売上原価は、393百万円増加し10,583百万円(前期比3.9%増)となりました。乗組員の労働時間の規制強化やベースアップにより人件費が162百万円増加し、曳船の建造価額の高騰やCTV2隻の新規投資により減価償却費が254百万円増加いたしました。一方、用船料はCTVの運航が秋田港・能代港、石狩新港で終了したことを受け165百万円減少いたしました。

その結果、曳船事業の減収が響き511百万円の営業損失(前期は368百万円の営業利益)となりました。

曳船事業セグメントでは、人件費や減価償却費が増加し用船料は減少しましたが、同事業の大幅な減収が響き、393百万円の営業損失(前期は397百万円の営業利益)となりました。

旅客船事業セグメントでは、乗組員の労働時間の規制強化で時間外手当が増加し、山下公園発着所の地代家賃や修繕費が増加し、前期に比べ増収とはなりましたが115百万円の営業損失(前期は29百万円の営業損失)となりました。

売店・食堂事業セグメントでは、物価高騰で食料品原価が上昇し15百万円の営業損失(前期は5百万円の営業損失)となりました。

 

(経常利益)

経常損益は、受取配当金が76百万円(前期比1百万円減)、持分法による投資利益が163百万円(前期比13百万円減)計上されましたが、259百万円の経常損失(前期は684百万円の経常利益)となりました。

 

(親会社株主に帰属する当期純利益)

親会社株主に帰属する当期純利益は、政策保有株式を売却し投資有価証券売却益が2,081百万円、関係会社株式売却益が221百万円計上されたことで、2,044百万円(前期比256.9%増)となり過去最高益になりました。

 

B.財政状態

財政状態につきましては、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要」に記載しております。

 

②キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

当社グループの運転資金需要のうち主なものは、営業原価、販売費及び一般管理費等の営業費用であります。また、投資を目的とした資金需要は、主に曳船の設備更新と洋上風力発電交通船(CTV)の建造資金です。

短期運転資金は自己資金及び金融機関からの短期借入金を基本としており、設備投資や長期運転資金の調達につきましては自己資金及びファイナンス・リースを基本としております。

2025年3月期の曳船2隻の設備更新及びCTV2隻の建造資金は、自己資金を充当いたしました。

重要な設備投資等の予定及びその資金調達方法については、「第3 設備の状況 3 設備の新設、除却等の計画」に記載しております。
 

③重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。この連結財務諸表の作成に係る会計方針及び見積りについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項 連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項、重要な会計上の見積り」に記載しております。

 

 

 

④次期の見通しについて

今後の見通しにつきましては、ロシア・ウクライナ戦争の長期化や、中東情勢の緊迫化に加え、米国トランプ大統領の通商政策により世界経済に及ぼす悪影響が懸念され、海上物流が混乱する恐れが高まっています。

主力の曳船事業では、曳船作業対象船舶の東京湾への入港数の漸減傾向が続くなか、米国の追加関税政策により自動車専用船の運航は大幅に減少する懸念があります。このような事態に対処するため、曳船船隊規模を柔軟に最適化してまいります。

2025年5月からの港湾曳船作業料率やエスコート作業料率を値上げしましたが、湾口水先艇作業の料金についても適正化を進めると同時に、曳船の配船効率化により収支改善を図っていく方針です。

旅客船事業においては、賃金の上昇が消費者物価には届いておらず、足元個人消費は弱含んでおり、観光需要に水を差すことが懸念されます。

このうち横浜港の観光船部門では、地元の同業者と新規に設立した合弁会社(持分法適用会社)に事業を移管し、協働で強みを生かし需要拡大を図る計画です。このため、同部門の連結売上高と営業費用は大幅に減少いたします。

カーフェリー部門では、老朽化している船舶の代替建造を視野に入れ、事業再構築を図ってまいります。

また、当社の持分法適用非連結子会社である株式会社横浜貿易ビルの所有する土地と建物を2025年10月以降に売却する予定です。その内容につきましては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項 重要な後発事象」に記載のとおり、同社において固定資産売却益が発生し、譲渡予定日の第3四半期以降に約44億円の持分法による投資利益として営業外収益に計上する見込みです。

これを踏まえ通期の連結業績予想につきましては、売上高12,739百万円、営業利益138百万円、経常利益4,748百万円、親会社株主に帰属する当期純利益4,904百万円を予想しております。

 

 

5 【重要な契約等】

該当事項はありません。

 

 

6 【研究開発活動】

特記事項はありません。