第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針,経営環境及び対処すべき課題等】

文中における将来に関する事項は,有価証券報告書提出日(2025年6月25日)現在において判断したものである。

 

(1) 会社の経営の基本方針

当社は,変化する事業環境に対応し,ステークホルダーのみなさまとともに持続的な成長を実現するため,2025年4月に企業理念を「人と社会のつながりを,幸せのエネルギーに」へ改定いたしました。新たな企業理念のもと,経営ビジョン2.0の達成に向けグループ一体となって事業に取り組んでまいります。

当社を取巻く事業環境として,燃料価格につきましては,足元では低位に推移しておりますが,地政学リスクをはじめとする国際的な政治情勢の変化などにより,ボラティリティ(変動性)・不確実性が高い状態が継続しております。また,物価・労務単価・金利の上昇などにより投資環境の不透明性が増しております。さらに,再生可能エネルギーの大量導入による電気の流れの複雑化などにより,適切な電力品質の維持が難しくなっております。中長期的には,GX(グリーントランスフォーメーション)やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展などにより電力需要は増加傾向に変化しており,エネルギー安定供給確保,経済成長,脱炭素を同時実現するべく「GX2040ビジョン」や「第7次エネルギー基本計画」が閣議決定されました。また,電力システム改革の検証結果が取りまとめられ,安定供給確保や脱炭素化に必要な投資を確保していく仕組みを整備するとの方向性が示されております。

当社は,新たな企業理念のもと,経営ビジョン2.0の達成に向けグループ一体となって,電力の安定供給確保,分散・循環型システムが併用された安全で安心な脱炭素社会の実現,事業構造の変革を通じた新たな収益源の獲得・拡大,電化等による需要創出に取り組んでおります。

また,お客さまや地域・社会などのステークホルダーが求める価値を起点に新たなサービスを創出し,エネルギーとともにお届けするビジネスモデルへの変革に,当社グループの人財一人ひとりが取り組み,2050年に向けて持続的に成長してまいります。

加えて,脱炭素社会の実現,社会課題の解決,大規模災害時における事業継続など,ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点を踏まえた事業経営を深化させることで,SDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献し,持続的な成長と企業価値の向上に努めてまいります。

今後とも,お客さまや株主・投資家のみなさまに信頼,選択されるよう努め,地域社会の発展にも貢献してまいる所存です。

 

(2) 目標とする経営指標

2025年度は中期経営目標の最終年度であり,引き続き,国内エネルギー事業において安定的な利益の確保に取り組むとともに,新成長領域やグローバル事業において収益の拡大などに努め,「連結経常利益2,000億円以上,ROIC3.2%以上」の達成を目指してまいります。

 

(3) 中長期的な会社の経営戦略・会社の対処すべき課題

当社は,2020年4月から,送配電部門を中部電力パワーグリッド㈱,販売部門を中部電力ミライズ㈱にそれぞれ分社し,これらに㈱JERAを加えた3つの事業会社を核とする体制といたしました。中部電力パワーグリッド㈱においては,一層の中立性・公平性を図るとともに,中部電力ミライズ㈱・㈱JERAにおいては,それぞれの市場,お客さまと向き合い,より強靭な企業グループへの成長を目指してまいります。

このような事業体制のもと,以下の課題への対応をはじめ,グループを挙げてエネルギーの安定供給に努めるとともに,お客さまの期待を超えるサービスの実現・提供により,中部電力グループ全体の持続的成長と企業価値の向上を果たしてまいります。

 

 

(S(安全性の確保)+3E(エネルギー安定供給・経済効率性・環境適合性)の実現に向けた取り組み)

中部電力グループは,特定の電源に依存せず,多様かつバランスの取れた電源構成が重要であるとの考えにもとづき,エネルギー安全保障に寄与し脱炭素効果の高い再生可能エネルギーや原子力発電の最大限の活用などに取り組むとともに,供給力・調整力として重要な役割を担う火力発電の活用継続とその着実な脱炭素化を推進してまいります。

再生可能エネルギーの拡大については,2017年度比で「2030年頃に保有・施工・保守を通じた320万kW(80億kWh)以上」を目指し,投資環境を見極めながら開発に取り組むとともに,グループ会社による太陽光発電設備の保守・施工などを進めてまいります。

浜岡原子力発電所については,今後も,地域のみなさまのご理解をいただけるようコミュニケーションを図り,安全確保を大前提に早期の再稼働に向けて取り組んでまいります。

また,電力需要の趨勢に応じて安定供給に必要な火力発電の維持等や燃料の確保に加え,JERAゼロエミッション2050のもと,非効率石炭火力の停廃止や水素・アンモニアのサプライチェーンの構築を含むゼロエミッション電源の追求などに取り組んでまいります。

さらに,系統の次世代化や経済合理的な設備形成を進めるとともに,電力需給の大きな転換を踏まえ,ウェルカムゾーンの公表を通じた大型需要の適地誘導等のより良い連系サービスの提供に取り組んでまいります。加えて,太陽光発電をはじめとした自然変動電源の予測精度向上,他の一般送配電事業者と連携した広域的な需給運用の拡大などにより,中部エリアを中心に全国の安定供給の維持に寄与してまいります。

 

(浜岡原子力発電所の再稼働に向けた取り組み)

浜岡原子力発電所については,「福島第一原子力発電所のような事故を二度と起こさない」という固い決意のもと,安全性向上対策を進めております。

3・4号機については,原子力規制委員会による新規制基準への適合性確認審査の審査会合において,基準地震動に引き続き基準津波も「おおむね妥当」と評価され,これらにもとづくプラント関係の審査に進んでおります。

今後も,新規制基準への適合性確認を早期にいただけるよう最大限努力するとともに,地域のみなさまのご理解をいただけるようコミュニケーションを図り,安全確保を大前提に浜岡原子力発電所の早期の再稼働に向けて取り組んでまいります。

 

(地域課題解決に向けた取り組み)

中部電力グループは,エネルギー事業とさまざまなサービスを掛け合わせた新たなサービスをお届けすることで,新たな価値の創出を目指しております。

不動産事業については,2025年4月に不動産事業本部を設置し,日本エスコン及び中電不動産とともに,グループの強みを活かしたまちづくりを推進してまいります。

また,資源循環・上下水道・森林などの地域インフラ事業については,さまざまなパートナーのみなさまと連携して,地域のみなさまの安全・安心・利便性向上につながる取り組みを推進してまいります。

今後も,これらの取り組みを通じて,地域課題の解決に貢献してまいります。

 

(資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた取り組み)

中部電力グループは,企業価値向上を重要な経営課題と考えており,東京証券取引所の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請も踏まえ,取り組みを進めております。

資本効率の向上については,政策保有株の売却などに取り組んできておりますが,今後は,事業ポートフォリオの組み替えや資産の入れ替え,事業別目標管理の高度化などを進めるほか,中期的な事業リスクの変化に応じた自己資本の水準を念頭に置きながら,自己株取得の検討も含め,最適な資本構成の追求,ROE(自己資本利益率)向上に努めてまいります。

また,浜岡原子力発電所の再稼働に向けた取り組みや新成長領域における取り組みなどについても,定量的な情報を開示するとともに,対話を通じて資本市場のご理解をいただくよう努めてまいります。

なお,これらの取り組みについては,次期中期経営計画において具体的に取りまとめ,公表させていただきます。

 

 

中部電力グループは,脱炭素社会の実現,社会課題の解決,大規模災害時における事業継続やサイバーセキュリティの高度化など,ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点を踏まえた事業経営を深化させることで,SDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献し,持続的な成長に努めてまいります。

今後とも,お客さまや社会からの信頼が事業運営の基盤であることを肝に銘じ,コンプライアンス経営を徹底するとともに,企業の社会的責任(CSR)を果たすことで,ステークホルダーのみなさまとともに,社会の持続的な発展(サステナビリティ)に貢献してまいります。

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

「わたしたち中部電力グループは,人と人,人と社会をつなぎ,お客さま・地域そして地球でくらすみなさまとともに,エネルギーに満ちた明るく幸せな未来の創造に挑戦し続けます。」という新しい中部電力グループ企業理念の下,当社は,社会の持続的な成長を目指している。このような事業活動のなかで,安全・安価で安定的なエネルギーをお届けするという変わらぬ使命を果たすとともに,気候変動をはじめとした地球環境への対応,自然災害等の危機管理,人権尊重に関する取り組み,人的資本への投資などの戦略を実施している。加えて,これらを両立するガバナンス・リスク管理を実現していく。

なお,文中における将来に関する事項は,有価証券報告書提出日(2025年6月25日)現在において判断したものである。

 

(1) サステナビリティ全般に関する考え方及び取り組み

[ガバナンス]

サステナビリティに関する方針,方向性等の審議,グループ全体の取り組みの定期的な報告のために,社長,副社長,カンパニー社長,本部長,統括等で構成するCSR推進会議を設置し,重要事項については,取締役会へ付議している。

取締役会の構成,規模については,取締役会における審議の充実,経営の迅速な意思決定,取締役に対する監督機能及び中部電力グループ経営ビジョン2.0に掲げる,地球環境に配慮した良質なエネルギーを安全・安価で安定的にお届けする「変わらぬ使命の完遂」と事業環境の変化に対応した新しいサービスを提供する「新たな価値の創出」の達成や「脱炭素社会実現」への貢献など経営諸課題を総合的に勘案したうえで,各取締役の知識,能力,専門分野,実務経験などのバランスを踏まえ決定している。

取締役に求める専門性及び経験についてはスキル・マトリックスで公表しており,環境政策に関する知識,環境負荷低減に資する技術等の専門性及び経験を意味する「環境」項目を設定している。

なお,気候変動については,社長直属の機関であるゼロエミッション推進会議において,中部電力・事業会社及び(株)JERAをはじめとしたグループ会社における超長期及び中長期的な気候変動に関する目標設定を行い,その目標達成に向けた行動計画を策定・評価したうえで社内計画に反映している。

また,人財戦略については,経営執行会議において取り組み方針や目標の設定を行い,モニタリングを行っている。

当社のコーポレート・ガバナンスの体制の詳細については,「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要 ②コーポレート・ガバナンス体制の状況」に記載している。

 

[リスク管理]

サステナビリティに関連する課題のうち経営に重大な影響を与えるリスクについては,経営戦略本部内のリスク管理部署がリスクオーナー(カンパニー社長,本店の部門の長)の報告を把握・評価のうえ,リスクマネジメント会議に報告し,対応方針の審議を受けるとともに,経営計画及びリスクオーナーが実施するリスク対策にこれを反映する。

なお,当社のリスク管理体制の詳細については,「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要 ③内部統制システムに関する基本的な考え方及びその整備状況 イ リスク管理に関する体制」に記載している。

また,その体制の中で把握した当社の経営に重大な影響を与える主要なリスク及びその対策については,「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載している。

 

[戦略・指標及び目標]

当社グループは,社会の持続的な成長を目指し,当社グループの行動規範であるCSR宣言に基づき事業活動を展開し,企業理念に定めた社会的使命を果たすことで,社会とともに成長していく。

そのため,SDGsの掲げる目標やESGに関する国際ガイドライン等を参考に抽出した経営課題に対し,投資家をはじめとしたステークホルダーにとっての重要度と,利益・コストや社会的評価,事業戦略との整合性といった当社グループにとっての重要度の大きく2つの視点から重要性評価・分類を行い,重要課題として整理し,重要課題をCSR推進会議,取締役会を経てマテリアリティ(重要課題)として特定のうえ,対応する指標・目標を定め,課題解決に優先的に取り組んでいる。

 



 


※1  再生可能エネルギーの促進,脱炭素技術をはじめとした新技術の開発・社会実装,環境経営の実践含む。

※2  新しいコミュニティづくり,循環型社会の実現含む。

※3  多様な人財の確保・育成,安全・健康含む。

※4  腐敗防止,人権の尊重含む。

※5  「育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則」における「育児休業等と育児目的休暇の取得割合」を示す。

※6  CO排出量のみ2023年度値を記載。2024年度実績は,2025年8月発行予定の中部電力グループレポート2025にて公表を予定。

 

 

(2) 脱炭素社会実現に向けた取り組み

気候変動に伴う様々な変化を「機会」と捉え,企業価値向上に向けて積極的に取り組んでいる。こうした取り組みをステークホルダーの皆さまにお知らせするために,2019年5月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に賛同を表明し,TCFD提言に沿った開示を継続している。

なお,気候変動対応におけるガバナンス,リスク管理については,「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (1) サステナビリティ全般に関する考え方及び取り組み」に記載している。

 

[戦略]

当社グループでは,カーボンニュートラル実現に向けた取り組みを「ゼロエミチャレンジ2050」としてとりまとめた。社会やお客さまとともに,エネルギーインフラの革新を通じて「脱炭素」と「安全・安定・効率性」の同時達成を目指していく。カーボンニュートラル実現に向けて,以下の取り組みを推進していく。

・再生可能エネルギー拡大目標 (保有・施工・保守含む) 2030年頃320万kW以上に向けた再エネ開発・保有

・安全性の向上と地域の皆さまの信頼を最優先にした浜岡原子力発電所の早期再稼働

・水素・アンモニアサプライチェーンの構築,アンモニア混焼技術の確立

・非効率石炭火力発電のフェードアウト,火力発電のさらなる高効率化

・再生可能エネルギー接続可能量の拡大に向けた電力系統設備・運用の高度化,需給運用の広域化

・「ミライズGreenでんき」をはじめとするCOフリーメニューの多様化

・イノベーションによる革新的技術実用化・採用

また,国際エネルギー機関(IEA)などの公表データを参照し,「脱炭素社会への移行に関するリスク・機会」の評価にあたっては「1.5℃シナリオ」などを,異常気象など「物理的変化に関するリスク」の評価にあたっては「4℃シナリオ」を選定している。さらに,気候変動リスク・機会を事業戦略上の重要な要素と認識し,主要な項目について影響評価をし,取締役会等に報告したうえで事業戦略に反映している。

 

選定

シナリオ

1.5℃シナリオ

4℃シナリオ

参照

国際エネルギー機関(IEA):Net Zero by 2050(NZEシナリオ),WEO2022(APSシナリオ),第6次エネルギー基本計画 等

気候変動に関する政府間パネル(IPCC):IPCC第6次評価報告書(SSP5-8.5シナリオ)

 

 


※1  短期 (1年) 中期 (5年) 長期 (6年~)

※2  「大」年間500億円以上 「中」年間100億円~500億円 「小」年間100億円未満

※3  炭素価格は複数の選定シナリオを考慮しつつ,短中期は非FIT非化石証書上限価格 (1.3円/kWh) ,中長期はIEA WEOシナリオ (APS,NZEシナリオ 2030年$135~140/t-CO2)等を参考に試算すると,CO1,000万tにつき1,600億円程度の収支影響がある。

※4  火力発電資産のシナリオ分析の詳細については,JERA統合報告書を参照。

 

 

[指標及び目標]

当社グループは,「2050年までに事業全体のCO排出量ネット・ゼロに挑戦」し,脱炭素社会の実現に貢献していく。具体的には,「2030年までに,お客さまへ販売する電気由来のCO排出量を2013年度比で50%以上削減」していく。また,当社※1が保有する「社有車を100%電動化※2・3」していく。※4

なお,2023年度時点で,お客さまへ販売する電気由来のCO排出量を2013年度比で約37%削減している。

 


※1  中部電力(株),中部電力ミライズ(株),中部電力パワーグリッド(株)

※2  電気自動車 (EV) ,プラグインハイブリッド車 (PHV) ,燃料電池車 (FCV) 等

※3  電動化に適さない緊急・工事用の特殊車両等を除く。2024年度末時点で358台の電動車導入が完了。

※4  当社はGXリーグの方針に賛同し,参画を通じてさらなる削減目標の設定・達成を実施していく。

(注) 1  2025年6月末時点の目標であり,今後の制度設計などが変更された場合,目標値等を変更する場合がある。

2  カーボンニュートラル実現に向けた取り組みの詳細については,「ゼロエミチャレンジ2050」を参照。


(注) 1  温室効果ガスとは,COCHO,SFをCO換算して表したもの。

   2  中部電力(株),中部電力ミライズ(株),中部電力パワーグリッド(株)3社合計の値を記載。

3  2024年度(2025年3月期)のGHG排出量関連データについては,2025年8月発行予定の中部電力グループレポート2025にて公表を予定。

4 環境・気候変動に関する非財務データの詳細については,「ESGデータ集2024」を参照。https://www.chuden.co.jp/csr/performance_data/

  なお,「E:環境データ」に記載の2023年度Scope1,2,3(カテゴリ3)の実績については,排出量データの信頼性向上を目的として,KPMGあずさサステナビリティ株式会社に第三者保証を依頼し,保証報告書を取得している。

 

(3) 人権尊重に関する取り組み

   企業と人権に関する最も重要な国際的枠組みの一つである「ビジネスと人権に関する指導原則」などの人権尊重の枠組みに則り,人権への負の影響を予防・是正・軽減し,救済するため,具体的な措置として「方針によるコミットメント」「人権デュー・ディリジェンスの実施」「救済措置」などを行うことで,人権尊重の取り組みを推進している。

   2023年7月には「中部電力グループ人権基本方針」を改定し,事業活動に関わる全てのステークホルダーを対象とした人権デュー・ディリジェンスの仕組みを構築するとともに,継続的な改善を行っている。

 


 

  [ガバナンス]

   社長を議長とするCSR推進会議において,原則,年1回人権に関する議題を扱い,前年度取り組みの進捗確認,当年度計画の審議,人権デュー・ディリジェンスのモニタリングなどを行っている。また,人権問題に関する正しい理解と認識を深めるため,従業員等への啓発活動を推進することを目的として,中部電力人権啓発推進委員会を開催している。

 


 

  [戦略・リスク管理]

実効性が求められる人権デュー・ディリジェンスでは,中部電力の事業活動において発生の可能性がある人権リスクのうち,関連するステークホルダーと対話を行いながら,優先して取り組む人権リスクを,下記手法を用い特定した。

   ・各種動向調査や社内インタビューの実施,過去の人権に関する相談・通報内容などの分析

   ・人権リスクを網羅的に抽出したうえで,社内インタビューなどから示唆された当社に関わるリスク項目を特定

・人権侵害の発生の可能性,人権侵害の規模,人権侵害が及ぼす範囲,是正可能性の観点からリスクを評価し,特定した人権リスクをマッピング。優先順位付けを行い優先的に取り組む人権リスクを特定

  優先して取り組む人権リスクは,自社従業員,ビジネスパートナー,地域住民の方々,お客さまだけでなく,女性や子ども,非正規雇用者,先住民の方々,移住労働者の方々を対象としている。今後も,内外の事業環境変化に合わせて,定期的に評価内容の点検・見直しを行う。

  上記の手法を踏まえ検討した結果,強制労働,児童労働,紛争等の影響を受ける地域における人権問題,パワーハラスメント,労働安全衛生,環境・気候変動に関する人権問題を最優先に取り組む人権リスクとして特定した。これらのリスクに対し,優先的に予防・是正・軽減措置を実施している。なお,優先して取り組むリスクの適切な把握・対応に向けて,定期的・継続的に確認を実施している。

  サプライチェーンを含めた当社グループのビジネスモデルにおいて関連する人権リスクを把握・評価し,優先度が高い人権リスクを定め,従業員及びサプライチェーンをはじめとするステークホルダーの人権尊重に取り組んでいる。


 

  [指標及び目標]

  人権デュー・ディリジェンスについて,「中部電力グループ人権基本方針」における適用範囲である連結子会社(約30社)も含め中部電力グループ一丸での人権尊重の取り組みを進めている。具体的には,「2030年度までに連結子会社(約30社)を含めた中部電力グループのステークホルダー全般への人権デュー・ディリジェンスの実施・深化・定着」を目指し,PDCAサイクルを回しながら取り組みを推進している。人権デュー・ディリジェンスロードマップを策定し,連結子会社含めた当社グループの全てのステークホルダーに対して,人権デュー・ディリジェンスの実施と深化を進めている。今後,連結子会社の規模等に応じて段階的に取り組みを拡大し,各社において優先的なリスクから順次対応を進める。

  なお,2024年度末時点で,各連結子会社の自社従業員に係るリスクをはじめ,各社優先して取り組む人権リスクへの予防・是正・軽減措置が対応実施されていることを確認しており,今後はビジネスパートナー等を含むサプライチェーン全体のステークホルダーの人権リスクへの対応を強化していく。

 


 

(4) 人的資本・多様性に関する取り組み

[戦略・指標及び目標]

当社グループは現在,お客さま・社会とともに歩んできた中部電力グループ70年の歴史の中でも,社会・暮らしそしてエネルギー業界を取り巻く環境は「激変」ともいえる大きな転換期に直面している。

この変化の中で,私たちは,エネルギーのお届けという変わらぬ使命の完遂と,事業環境の変化に対応した新たな価値の創出の同時達成を目指すこと,また,その実現に向けた,「人財一人ひとりの成長・活躍が企業価値そのもの」との基本的な考え方を経営ビジョン2.0に掲げた。

これを踏まえて当社が策定した人財戦略においては,多種多様な力を持つ人財を確保・育成し,そして人財一人ひとりが,その能力を思う存分発揮するための取り組みを2本の柱として具体化し,社員に約束している。

1本目の柱は,「多様な人財が活躍できる環境づくり」。企業経営の最優先事項である安全・健康への取り組みに加え,多様な個性を受入れ,認め合う風土醸成を目指し,一人ひとりの違いに配慮した制度整備や支援提供を行うことが,さらなる企業成長や社員の就労意欲向上のための投資そのものであるとの考えのもと,各種活動に取り組んでいる。

2本目の柱は,「自己変革に挑戦する社員への機会と支援の提供」。多様な社員が自らのキャリアを考え,自律的にチャレンジし,先輩の軌跡を超えた成長・活躍を実現できる環境を整えるため,「Chance(チャンスを創出する)」「Challenge(果敢に挑戦する)」「Change(変革を実現する)」の3つのキーワードを軸に,「自己変革に挑戦する社員に機会と支援を提供」することを,社員に対する当社のコミットメントとして具体的な施策に取り組んでいる。

上記の人財戦略を推進することにより,人財一人ひとりが,会社の目指す姿に共感し,その実現のために自身の能力を思う存分発揮したい,発揮していると実感できる状態に到達することで,私たち中部電力グループは地域・社会の持続的な発展に貢献していく。

なお,人的資本に関するガバナンス・リスク管理については,「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (1) サステナビリティ全般に関する考え方及び取り組み」に記載している。

 

 



※1  目標及び実績は中部電力(株),中部電力ミライズ(株),中部電力パワーグリッド(株)3社合計の値を記載。ただし,死亡災害発生件数には,執行役員,直接雇用の従業員及び派遣社員に加え,請負・委託による災害件数を含む。なお,連結ベースでの指標及び目標の開示については,各社毎に事業内容及び事業環境が多岐に亘るため,当社グループに属する全ての会社を統合した指標は設定していない。

※2  健康イキイキ度とは,心身ともに万全な状態で働けている度合。評価手法「WLQ-J」で測定(2025年度から評価手法の見直しにより,「SPQ」にて測定予定)。傷病休務率とは,病気やけがで休務している度合。傷病による休務日数をもとに算出(2024年度より百分率で記載)。

※3  「育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則」における「育児休業等と育児目的休暇の取得割合」を示す。

※4  1日のフレックス精算時間をマイナスとする働き方。これにより捻出した時間を趣味等に活用。

※5  KPIとして掲げる300ポストとは,「2025年度定期異動対応分」として2024年度に募集をかけるポスト数を示しており,その実績値(2024年度に募集をかけたポスト数)は420ポストである。

※6  ㈱リンクアンドモチベーションが提供するエンゲージメントサーベイにて測定。

 

 

<管理職に占める女性労働者の割合における2023年度との差異>

  2023年度までは,管理職を役付職員(一般役付職員と特別役付職員の合計)として,管理職に占める女性労働者の割合を算出していたが,2024年度より特別役付職員を管理職として算出している。

  なお,役付職員(一般役付職員と特別役付職員の合計)・管理職員(特別役付職員)に占める女性労働者数及び割合の推移は以下のとおり。

 


※1 中部電力(株),中部電力ミライズ(株),中部電力パワーグリッド(株) 

※2 2014~2020年は(株)JERA転籍者を含む
 

  今後は,特別役付職員を更に増加できるように,女性のキャリア形成に資する取り組み(メンタープログラム,主任ステップアップ研修等),及び仕事と家庭の両立支援(勤務時間の短縮措置,フレックスタイム勤務制などの両立支援制度や,育休復職者のためのキャリアアップ研修等)を強化し実施していく。

 

3 【事業等のリスク】

当社グループの財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する変動要因のうち,投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる事項には,主に以下のようなものがある。

なお,文中における将来に関する事項は,有価証券報告書提出日(2025年6月25日)現在において判断したものであり,今後のエネルギー政策や電気事業制度の見直しなどの影響を受ける可能性がある。

 

(1)事業環境の変化

2024年度の期ずれを除いた連結経常損益は,2023年度に比べミライズにおける電源調達ポートフォリオの組み換えによる費用削減効果等の減少,パワーグリッドにおける需給調整取引にかかる費用の増加などはあったものの,2,640億円程度確保することができた。しかしながら,先行きを不透明にする事象として,世界の気候や景気等の動向に起因する燃料需要の大幅な増加,欧州における紛争や中東・アジア情勢などの地政学リスク,為替変動リスクも含めた燃料価格のボラティリティが高いことや,物価・賃金・金利の上昇,小売事業の競争激化,電気事業の制度変更などがある。

また,出力が不安定な自然変動電源が大量導入される中,異常気象等による想定外の需要の増加や悪天候による太陽光発電量などの低下が重なり,さらに設備のトラブルが発生した場合や資源国において不測の事態が生じた場合などには,日本国内における需給状況が悪化することが懸念される。

このような事業環境の変化に対して当社グループは,再生可能エネルギー発電出力の予測精度向上,他の一般送配電事業者との連携も含めた日々の系統運用・需給調整や水力発電所の安定的な運用,㈱JERAによる最新鋭の火力発電設備へのリプレース,火力発電所における補修点検時期の調整や重要設備の巡視強化,㈱JERAの子会社であるJERA Global Markets Pte.Ltd.を通じた機動的な調達や,認定供給確保事業者としての戦略的余剰LNGの確保などによる安定的な燃料確保,お客さまに電気を効率的にご利用いただくデマンドレスポンスの活用などにより,グループ一丸となってエネルギーの安定供給を継続する。

安定的な事業成長に向けて,国内エネルギー事業においては,内外無差別な卸取引の進展も踏まえ,電源調達ポートフォリオの最適化,市場リスク管理の高度化などに引き続き取り組んでいく。加えて,新成長領域やグローバル事業の収益拡大などを通じて,持続的な成長を実現し,中期経営目標の達成を目指していく。

中長期的には,GX(グリーントランスフォーメーション)やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展などにより電力需要の見通しは増加傾向に変化しており,エネルギー安定供給確保,経済成長,脱炭素を同時実現するべく「GX2040ビジョン」や「第7次エネルギー基本計画」が閣議決定された。また,電力システム改革の検証結果が取りまとめられ,安定供給確保や脱炭素化に必要な投資を確保していく仕組みを整備する方向性も示された。

当社は,このような事業環境の変化に対応し,ステークホルダーのみなさまとともに持続的な成長を実現するため,2025年4月に企業理念を改定した。新たな企業理念のもと,経営ビジョン2.0の達成に向けグループ一体となって,電力の安定供給確保,分散・循環型システムが併用された安全で安心な脱炭素社会の実現,事業構造の変革を通じた新たな収益源の獲得・拡大,電化等による需要創出に取り組んでいく。また,「S(安全性の確保)+3E(エネルギー安定供給・経済効率性・環境適合性)」の実現に向けた設備形成などを加速するとともに,これに資するエネルギー政策や電気事業制度に関する提言を実施していく。

ただし,産業構造の変化などに的確に対応できない場合や,欧州における紛争や中東・アジア情勢などの地政学リスクに起因する影響の拡大,各種市場における想定と異なる制度見直しの実施など,当社グループを取り巻く事業環境が変化した場合,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

①燃料・電力価格の変動等

当社グループの電源調達費用は,LNG,石炭,原油,卸電力などの市場価格及び為替相場の変動により影響を受ける可能性がある。これに対して中部電力ミライズ㈱では,これら価格のボラティリティが高い中においても,お客さまに安定して電気をお届けするため,燃料価格に加え卸電力取引市場価格の変動を反映させる燃料費調整の仕組みの導入など一部料金メニューの見直しとともに,電力先物取引や通貨オプションなどを始めとしたヘッジ取引により,調達価格の安定化を実施している。これらにより財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローへの影響は緩和される。

これらの取り組みに加えて,足元の燃料価格が安定的に推移していることや,当社グループ全体で取り組んでいる経営努力などを踏まえ,2025年度においても電気料金等の負担を軽減する施策を実施している。

㈱JERAによる燃料調達や中部電力ミライズ㈱による市場などを通じた電力調達において,調達先の分散化,契約の長期化・柔軟性の確保など,燃料・電力等の市場変動に影響されにくい事業構造への移行を行っている。加えて,市場変動性の高まりを踏まえリスク管理の高度化や市場価格変動に柔軟に対応した販売施策に取り組んでいく。

ただし,欧州における紛争や中東・アジア情勢などの地政学リスクに起因する影響の拡大,長期化などの政治・経済・社会情勢の悪化や天候の変動,調達先の設備・操業トラブルなどにより,需給状況や市場価格が大きく変動することがある。これらのリスクの顕在化に伴う,調達費用の増減,調達価格と販売価格の差異,電力の市場価格・卸価格の変動などにより,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

②競争等への対応

脱炭素化に伴うエネルギー需給構造の転換によりGXやDXが進展しており,中長期的な電力需要の見通しも増加傾向に変化している。

厳しい競争環境が継続する中でも,中部地域及び中部電力グループを選んでいただくべく,グループ全体で的確に対応していく。

中部電力ミライズ㈱では,これまでの電気・ガスなどのお届けを通じて築いてきたお客さまとの「つながり」をもとに,お客さまの暮らしを豊かにするサービスや,ビジネス上の課題解決を実現するサービスを提供し,新たな価値の提供を進めていく。

㈱JERAは,最新鋭の火力発電設備へのリプレース,火力発電所における補修点検時期の調整や重要設備の巡視強化などを通じた追加供給力の確保などによる安定供給確保に取り組むとともに,燃料上流・調達から発電,電力・ガス販売にいたるバリューチェーンの最適運用,効率的運営に努めていく。

ただし,産業構造の変化などに的確に対応できない場合や,欧州における紛争や中東・アジア情勢などの地政学リスクのさらなる高まりによる調達環境の悪化,競争激化や景気動向・気温変動などにより,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

③新成長分野の事業化

当社グループは,エネルギー事業とさまざまなサービスを掛け合わせた新たなサービスをお届けすることで,新たな価値の創出を目指していく。不動産事業においては,2025年4月に不動産事業本部を設置し,㈱日本エスコン及び中電不動産㈱とともに,グループの強みを活かしたまちづくりを推進している。資源循環・上下水道・地域交通・森林経営などの地域インフラ事業については,さまざまなパートナーのみなさまと連携して,地域のみなさまの安全・安心・利便性向上につながる取り組みを推進し,これらの取り組みを通じて,地域課題の解決に貢献していく。

また,当社は,株式会社東芝及びそのグループ会社の企業価値向上を目的とするTB投資事業有限責任組合に,有限責任組合員として1,000億円を出資することを2023年9月21日付で決定した。本出資は,東芝が安定した経営基盤を構築し,同社の企業価値を大きく向上させることに貢献するものであり有意義な投資機会であると考えている。

グローバル事業においては,再生可能エネルギーなどの「グリーン領域」,水素・アンモニアなどの「ブルー領域」,マイクログリッド・アジア配電事業などの「小売・送配電・新サービス領域」及び地熱発電などの「フロンティア領域」の4領域を組み合わせて最適なポートフォリオを形成し,各国・地域の社会課題解決への貢献と,収益の拡大を目指している。

なお,当社は,2016年7月1日付で会社分割により海外発電・エネルギーインフラ事業を㈱JERAへ承継した取引について,2022年12月17日に,メキシコ税務当局から約759億円(2022年12月時点の為替レートに基づく)の納付を命じる更正決定通知を受領した。本通知の内容は,日墨租税条約及びメキシコ税法に反する不合理なものであることから,2023年2月10日に,当局に対し行政不服審査を申し立てた。加えて,日墨租税条約に基づく両国税務当局間の相互協議も実施中である。

また,足元では資機材価格高騰などの継続が見込まれることから,グローバル事業をはじめとする新成長分野における事業への投資を厳選するとともに,適切なリスク評価と定期的なモニタリングを実施している。

ただし,これらの事業が,他事業者との競争激化やカントリーリスクの顕在化,新技術の導入遅延や政策・制度等の変更などにより,当社グループの期待するような結果をもたらさない場合には,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

④地球環境保全

国の2050年カーボンニュートラル宣言以降,エネルギー安定供給,経済成長,脱炭素を同時実現するべく「GX2040ビジョン」及び「第7次エネルギー基本計画」が閣議決定されるなど,地球環境保全に向けた取り組みは喫緊の課題となっている。

当社グループでは,「中部電力グループ環境基本方針」のもと,カーボンニュートラル実現に向けた取り組みを「ゼロエミチャレンジ2050」としてとりまとめた。社会やお客さまとともに,エネルギーインフラの革新を通じて「脱炭素」と「安全・安定・効率性」の同時達成を目指していく。

具体的には,2030年頃に向けた再生可能エネルギーの拡大目標(保有・施工・保守含む)に関し,320万kW以上を目指すとともに,安全性の向上と地域の皆さまの信頼を最優先にした浜岡原子力発電所の活用,水素・アンモニアサプライチェーンの構築,アンモニア転換技術の確立に向けた碧南火力4号機における20%転換実証試験,非効率石炭火力発電の停廃止,火力発電のさらなる高効率化,再生可能エネルギー接続可能量の拡大に向けた電力系統設備・運用の高度化,需給運用の広域化,「ミライズGreenでんき」をはじめとするCOフリーメニューの多様化などのあらゆる施策を総動員し,「2030年までに,お客さまへ販売する電気由来のCO排出量を2013年度比で50%以上削減」を達成する。さらに,イノベーションによる革新的技術実用化・採用を通じ,「2050年までに,事業全体のCO排出量ネット・ゼロに挑戦」していく。

また,気候変動に伴う重要なリスクについても,社長が議長を務めるリスクマネジメント会議で審議,経営計画に反映し,取締役会で決議したうえで,適切に施策を実施している。   

ただし,化石燃料賦課金や排出量取引制度などのカーボンプライシング制度をはじめとした脱炭素関連の制度や事業環境の変化に的確に対応できない場合,また,非化石価値の動向や技術革新などを踏まえたビジネスモデルの変革を的確に実施できない場合,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

⑤金利及び物価・賃金の上昇等

金利の上昇については,当社グループの有利子負債残高のうち91.2%は,社債,長期借入金の長期資金であり,その大部分を固定金利で調達しているため,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローへの影響は短期的には限定的である。ただし,今後新たに調達する資金等においては,金利の上昇の影響が見込まれる。市場金利の動向や資金需要の状況を引き続き見極めながら,適時適切に資金を調達していく。

物価・賃金の上昇については,その影響を最小限に抑えられるよう効率化等に引き続き取り組んでいく。また,取引先の置かれた状況の把握に努め,適切な価格により取引先の皆さまと対等な立場で公平・公正な取引を実施している。

ただし,金利・物価・賃金の上昇が継続する場合,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

⑥米国の関税政策

米国の関税政策により,今後,自動車等の輸出量が減少する場合,自動車関連の産業集積地である中部エリアの電力需要に一定の影響が生じる可能性がある。電力需要が減少する場合においても,市場価格や燃料価格の変動を捉えた電源調達費用の削減等により収支悪化の抑制に努めていく。

ただし,電力需要の減少が継続する場合,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

(2)原子力発電設備の非稼働

国の2050年カーボンニュートラル宣言以降,エネルギー安定供給,経済成長,脱炭素を同時実現するべく「GX2040ビジョン」及び「第7次エネルギー基本計画」が閣議決定され,そのなかで再生可能エネルギーと原子力発電を最大限活用する方針が示された。

当社では,浜岡原子力発電所全号機の運転停止から10年以上が経過し,現在,3・4号機については,原子力規制委員会による新規制基準への適合性確認審査を受けており,2023年9月の基準地震動に続き,2024年10月の審査会合において,基準津波も「おおむね妥当」と評価された。敷地内の断層(H断層)等の審査も継続して行われていることに加え,同年12月からはプラント関係の審査が行われており,着実に前進している。

福島第一原子力発電所の事故以降に計画した地震・津波対策や重大事故対策などの4号機の主な工事は完了している。今後も,審査対応などにより必要となった追加の設備対策については,可能な限り早期に実施していく。3号機については,4号機に引き続き,新規制基準を踏まえた対策に努めていく。5号機については,海水流入事象に対する具体的な復旧方法の検討と並行して,新規制基準を踏まえた対策を検討し,審査の申請に向けた準備を進める。

また,現場対応力の強化に向けた教育・訓練の充実や防災体制の整備を図るなど,発電所内を中心としたオンサイト対応を継続するとともに,住民避難を含む緊急時対応の実効性向上に向けて,国・自治体との連携強化を通じ,発電所周辺地域における原子力災害に備えたオフサイト対応の充実に努めていく。加えて,更なる原子力安全性の向上にむけて,社外有識者の知見を活用している。

当社グループは,浜岡原子力発電所全号機の運転停止状況下において,火力電源での代替を行っており,これによる電源調達費用の大幅な増加などにより,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける見込みである。

また,新規制基準への対応などに伴う浜岡原子力発電所の運転停止状況の継続や当社グループが受電している他社の原子力発電設備の状況などによっては,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

(3)原子力バックエンド費用等

原子力のバックエンド事業は,使用済燃料の再処理,放射性廃棄物の処分,原子力発電施設等の廃止措置など,超長期の事業で不確実性を有する。この不確実性は,使用済燃料再処理・廃炉推進機構が,再処理や廃止措置等に係る資金を確保・管理する仕組みをはじめとした国による制度措置などに基づき,必要な費用を引当て・拠出していることにより低減されている。しかしながら,原子力バックエンド費用及び原子燃料サイクルに関する費用は,制度の見直し,制度内外の将来費用の見積り額の増減,再処理施設の稼働状況などにより増減するため,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

(4)大規模自然災害等

当社グループの事業活動においては,南海トラフ地震・巨大台風・異常気象などの大規模自然災害,武力攻撃,テロ行為,疫病の流行,事故などのリスクが存在する。当社グループでは,これらの事象が発生した場合に備えて,BCP(事業継続計画)などを策定のうえ,設備の形成,維持,運用などの事前対策に取り組むとともに,発生後における体制の整備や訓練などを実施している。2025年3月31日に国は「南海トラフ最大地震における被害想定見直し」及び「南海トラフ巨大地震対策」について報告書を取りまとめ, 2025年夏頃を目途に南海トラフ地震防災対策推進基本計画を改定する予定であることから,今後,国・自治体の動向を注視するとともに,当社グループにおいては,BCP(事業継続計画)などの見直しを行っていく。

また,台風災害で得られた教訓などを踏まえ,アクションプランに基づき,各種復旧支援システムの整備による設備復旧体制の強化,ホームページやスマートフォンアプリによるお客さまへの情報発信の強化,自治体・他電力会社などとの連携強化に取り組んでいる。さらに,レジリエンス(強靭化・回復力)の強化に向けて,自治体などと連携しながら,予防保全のための樹木の事前伐採や無電柱化の一層の加速,水力発電用ダムの洪水発生が予想される場合における治水協力などに取り組んでいく。

ただし,大規模自然災害,武力攻撃,テロ行為,疫病の流行,事故などにより,供給支障や設備の損壊などが発生した場合には,その被害状況などによっては,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

(5)セキュリティ(経済安全保障・情報管理等)

当社グループでは,重要インフラであるエネルギーの安定供給を確保するため,サイバー攻撃などによる電力の供給支障や機微情報漏えいのリスクに対応すべく,ガバナンス体制の強化,電力ISACなどを通じた他事業者・関係機関などとの情報共有・分析,各種セキュリティ対策や訓練などを継続的に実施している。

特に,基幹インフラ役務の安定的な提供の確保に関する制度の対象となる重要設備については,経済安全保障推進法やサイバー対処能力強化法などの関係法令に基づき,妨害行為を防止するために必要な措置を講じていく。

今後も,国際情勢などの変化を常に注視し,サイバー攻撃に対する最新の対策を実施していく。

また,個人情報(特定個人情報を含む)をはじめとした各種情報の管理の徹底に向け,専任部署を設置し,個人情報保護法などの関係法令に基づき,規程類を整備することに加え,教育や意識啓発活動の実施などの取り組みをこれまで以上に強化していく。

加えて,リスクアセスメントの実施・分析を通じて,より高度なガバナンス体制の構築やITシステムの脆弱性の発見・解消,運用ルールの強化などに努め,さらなるセキュリティ確保に万全を期す。

ただし,サイバー攻撃やITシステムの不備,情報の漏えいなどにより,対応に要する直接的な費用のほか,社会的信用の低下などが発生した場合には,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

(6)人的資本・人権

今後,社会構造の変容が見込まれる中,変化に適切に対応していくためにも,将来を見据えた人財の確保・高度スキルの獲得等が重要な課題となっている。

当社グループでは,この課題に対し,「一人ひとりの成長・活躍が企業価値そのもの」との考えに基づき人財戦略を公表するとともに,経営層においても多様な専門性を確保している。

また,企業の人権に関する影響力が拡大する中,人権尊重の取り組みに対する要請は一層高まっている。

当社グループでは,「中部電力グループ人権基本方針」に基づき,人権デュー・ディリジェンスをはじめとする人権尊重の実践に取り組んでいる。

ただし,今後の人的資本の十分な質と量の確保ができない場合や,人権リスクが顕在化し社会的な信用の低下等が発生した場合には,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

 

(7)コンプライアンス

当社グループでは,法令及び社会規範の遵守に関する基本方針及び行動原則を示した「中部電力グループコンプライアンス基本方針」のもと,「中部電力グループ贈収賄・腐敗防止方針」及び「金品授受に関するガイドライン」を制定するなど,コンプライアンスの徹底,企業倫理の向上に努めている。

また,当社及び中部電力ミライズ㈱は,2023年4月7日に公表した「コンプライアンス徹底策」に加え,2024年3月4日に公表した「コンプライアンス徹底策の強化策」に取り組んでいくことで,二度と独占禁止法違反事案を起こさず,またそのような疑いを持たれることがないよう努めている。

当社グループは,今後も,常にコンプライアンスに関する取り組み状況を確認し,その結果に基づいて説明責任を果たすとともに,コンプライアンス徹底に向けた不断の取り組みを進めていく。

ただし,コンプライアンスに反する事象により,社会的信用の低下などが発生した場合には,財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローは影響を受ける可能性がある。

 

4 【経営者による財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(経営成績等の状況の概要)

 

(1) 業績等の概要

当連結会計年度におけるわが国経済は,一部に弱めの動きもみられたが,雇用・所得環境の改善などもあり,緩やかな景気回復が継続した。一方で,海外景気の減速などによる景気の下振れが懸念されている。

燃料価格については,足元では低位に推移しているが,地政学リスクをはじめとする国際的な政治情勢の変化などにより,ボラティリティ(変動性)・不確実性が高い状態が継続している。また,物価・労務単価・金利の上昇などにより投資環境の不透明性が増している。さらに,再生可能エネルギーの大量導入による電気の流れの複雑化などにより,適切な電力品質の維持が難しくなっている。

 

このような中,当連結会計年度の収支状況について,連結売上高は,3兆6,692億円となり,前連結会計年度と比べ588億円の増収となった。

連結経常損益は,2,764億円の利益となり,前連結会計年度と比べ2,328億円の減益となった。

 

(2) 生産,受注及び販売の状況

当社グループは,電力・ガスの販売と各種サービスの提供を行う「ミライズ」,電力ネットワークサービスの提供を行う「パワーグリッド」,燃料上流・調達から発電,電力・ガスの販売を行う「JERA」等が,バリューチェーンを通じて,電気事業を運営している。

当社グループにおける生産,受注及び販売の状況については,その大半を占める電気事業のうち主要な実績を記載している。

 

①  発電実績

種別

当連結会計年度

(自  2024年4月1日

至  2025年3月31日)

対前年増減率(%)

発電電力量

(百万kWh)

水力

9,263

6.1

原子力

新エネルギー

412

△4.5

合計

9,674

5.6

出水率(%)

104.9

 

(注) 1 発電電力量及び出水率は,中部電力㈱の実績を記載している。

2 出水率は,1993年度から2022年度までの30カ年平均に対する比である。

3 四捨五入の関係で,合計が一致しない場合がある。

 

 

②  販売実績

ア 販売電力量及び料金収入

種別

当連結会計年度

(自  2024年4月1日

 至  2025年3月31日)

対前年増減率(%)

販売電力量
(百万kWh)

低圧

31,274

3.0

高圧・特別高圧

76,590

4.3

合計

107,864

3.9

料金収入(百万円)

2,350,857

△2.6

 

(注) 1 販売電力量及び料金収入は,中部電力ミライズ㈱の実績を記載している。

2 四捨五入の関係で,合計が一致しない場合がある。

3 料金収入には「デフレ完全脱却のための総合経済対策」及び「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」に基づく施策である「電気・ガス料金支援」により受領する補助金90,280百万円を含む。

 

〔参考1〕

グループ合計の販売電力量(百万kWh)

117,281

5.5

 

(注)  中部電力ミライズ㈱及びその子会社,関連会社の実績を記載している。なお,グループ内の販売電力量は除いている。

 

〔参考2〕

他社販売電力量(百万kWh)

21,487

82.7

 

(注) 中部電力ミライズ㈱の実績を記載している。なお,中部電力ミライズ㈱の子会社及び関連会社への販売電力量は除いている。

 

イ 中部エリアの需要電力量及び料金収入

種別

当連結会計年度

(自  2024年4月1日

 至  2025年3月31日)

対前年増減率(%)

中部エリアの需要電力量(百万kWh)

124,507

1.5

料金収入(百万円)

640,209

2.2

 

(注) 1 中部エリアの需要電力量及び料金収入は,中部電力パワーグリッド㈱の実績を記載している。

2 料金収入は,接続供給託送収益(インバランスの供給に係る収益を除く)を記載している。

 

(経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容)

当社グループに関する財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析については,連結財務諸表に基づいて分析した内容である。

 

(1) 財政状態の分析

①  資産

固定資産については,㈱JERA などの関係会社長期投資の増加により投資その他の資産が増加したことなどから,前連結会計年度末と比べ1,633億円増加し,5兆9,820億円となった。

流動資産については,㈱トーエネックが子会社から関連会社となったことなどから,前連結会計年度末と比べ1,471億円減少し,1兆1,427億円となった。

 

②  負債

有利子負債が増加したものの,㈱トーエネックが子会社から関連会社となったことなどから,負債合計は,前連結会計年度末と比べ1,472億円減少し,4兆2,662億円となった。

 

③  純資産

配当金の支払いはあったが,親会社株主に帰属する当期純利益の計上やその他の包括利益累計額の増加などから,純資産合計は,前連結会計年度末と比べ1,634億円増加し,2兆8,585億円となった。

この結果,自己資本比率は,39.1%となった。

 

〔資産・負債・純資産比較表(要旨)〕

項   目

前連結会計年度末

(2024年3月31日)

当連結会計年度末

(2025年3月31日)

増   減

金額(億円)

金額(億円)

金額(億円)

増減率(%)


 

固定資産

58,187

59,820

1,633

2.8

 電気事業固定資産

23,868

23,633

△235

△1.0

 その他の固定資産

4,874

4,017

△856

△17.6

 固定資産仮勘定

4,643

5,210

566

12.2

 投資その他の資産

22,813

24,953

2,139

9.4

流動資産

12,898

11,427

△1,471

△11.4

 現金及び預金

3,908

2,935

△972

△24.9

 受取手形、売掛金及び契約資産

3,539

3,119

△420

△11.9

 棚卸資産

2,705

3,050

345

12.8

    合 計

71,086

71,248

161

0.2


 

 

 

 

 

固定負債

31,156

30,092

△1,064

△3.4

 社債

7,280

6,760

△520

△7.1

 長期借入金

17,505

18,195

690

3.9

流動負債

12,963

12,550

△413

△3.2

 1年以内に期限到来の固定負債

2,825

3,328

503

17.8

 短期借入金

3,195

2,615

△579

△18.1

 支払手形及び買掛金

2,712

2,293

△419

△15.4

   負債合計

44,135

42,662

△1,472

△3.3

株主資本

22,569

24,005

1,436

6.4

 利益剰余金

17,584

19,096

1,511

8.6

その他の包括利益累計額

3,285

3,859

574

17.5

非支配株主持分

1,096

720

△376

△34.3

   純資産合計

26,950

28,585

1,634

6.1

    合 計

71,086

71,248

161

0.2

 

 

 

前連結会計年度末

(2024年3月31日)

当連結会計年度末

(2025年3月31日)

増 減

増減率(%)

自己資本比率(%)

36.4

39.1

2.7

7.4

有利子負債残高(億円)

30,791

30,778

△12

△0.0

 

(注) 1 億円未満切り捨て

2 有利子負債残高の増減の内訳は,次のとおりである。
 連結範囲の変更による影響 △311億円
  調達・返済による影響    299億円

 

 

(2) 経営成績の分析

中部電力ミライズ㈱の販売電力量は,中部エリア内外における契約獲得及び気温影響による空調設備の稼動増などから,前連結会計年度と比べ3.9%増加し1,079億kWhとなった。

なお,中部電力ミライズ㈱及びその子会社,関連会社の合計の販売電力量は,中部エリア外を中心とした契約獲得などから,前連結会計年度と比べ5.5%増加し1,173億kWhとなった。

 

〔販売電力量〕

 

前連結会計年度

(自 2023年4月1日
 至 2024年3月31日)

当連結会計年度

(自 2024年4月1日
 至 2025年3月31日)

増 減

増減率(%)

低圧(億kWh)

304

313

9

3.0

高圧・特別高圧(億kWh)

734

766

32

4.3

合  計

1,038

1,079

41

3.9

 

(注) 1 販売電力量は,中部電力ミライズ㈱の実績を記載している。

2 四捨五入の関係で,合計が一致しない場合がある。

 

〔参考1〕

グループ合計の販売電力量

(億kWh)

1,111

1,173

61

5.5

 

(注) 中部電力ミライズ㈱及びその子会社,関連会社の実績を記載している。なお,グループ内の販売電力量は除いている。

 

〔参考2〕

他社販売電力量(億kWh)

118

215

97

82.7

 

(注) 中部電力ミライズ㈱の実績を記載している。なお,中部電力ミライズ㈱の子会社及び関連会社への販売電力量は除いている。

 

中部エリアの需要電力量は,気温影響による空調設備の稼動増などから,前連結会計年度と比べ1.5%増加し1,245億kWhとなった。

 

〔中部エリアの需要電力量〕

 

前連結会計年度

(自 2023年4月1日
 至 2024年3月31日)

当連結会計年度

(自 2024年4月1日
 至 2025年3月31日)

増 減

増減率(%)

中部エリアの需要電力量(億kWh)

1,227

1,245

18

1.5

 

(注) 中部エリアの需要電力量は,中部電力パワーグリッド㈱の実績を記載している。

 

収支の状況については,連結売上高は,燃料費調整額(燃調収入)等の減少はあったものの,販売電力量の増加などから,前連結会計年度と比べ1.6%増加し3兆6,692億円となった。

連結経常損益は,燃料価格等の変動が電力販売価格に反映されるまでの期ずれについて差益が減少したことや,中部電力ミライズにおける電源調達ポートフォリオの組み替えによる費用削減効果等の減少,中部電力パワーグリッドにおける需給バランス調整などを適切に実施するための調整力確保費用の増加などから,前連結会計年度と比べ2,328億円減少し2,764億円の利益となった。

なお,期ずれを除いた連結経常損益は,2,640億円程度の利益と,前連結会計年度と比べ1,070億円程度の減益となった。

また,子会社などにおける有価証券評価損64億円を特別損失に計上した。

この結果,親会社株主に帰属する当期純損益は,前連結会計年度と比べ2,010億円減少し2,020億円の利益となった。

 

 

当連結会計年度におけるセグメント別の業績(内部取引消去前)及び取り組みは以下のとおりである。

なお,㈱JERAは持分法適用関連会社のため,売上高は計上されない。

 

[ミライズ]

〔業績〕

電力・ガスの販売と各種サービスの提供に伴う売上高については,燃調収入等の減少はあったものの,販売電力量の増加などから,前連結会計年度と比べ2.5%増加し2兆9,622億円となった。

経常損益は,電源調達ポートフォリオの組み替えによる費用削減効果等が減少したことなどから,前連結会計年度と比べ867億円減少し1,170億円の利益となった。

〔当連結会計年度の取り組み〕

電気・ガスなどのお届けを通じて築いてきたお客さまとのつながりをもとに,お客さまのくらしを豊かにするサービスや,ビジネス上の課題解決を実現するサービスを提供し,新たな価値をお届けしている。

ご家庭のエネルギー最適化を提案し,快適で安心な生活の実現を支援するために「中部電力ミライズショップ」を2024年4月にオープンし,12月には,お客さま一人ひとりに便利でお得な毎日をお届けするためにご家庭向け銀行サービス「カテエネBANK」の提供を開始した。

脱炭素の実現に向けては,COフリー電気をお届けする「ミライズGreenでんき」,電気を効率的にご利用いただくためのデマンドレスポンスサービス「NACHARGE」などを提供している。また,EV充電事業を拡大するため,新たに「ミライズエネチェンジ株式会社」を設立した。

経営環境は依然として不透明な状況が継続しているものの,燃料価格が安定的に推移していることや,中部電力グループ全体で取り組んでいる経営努力などを踏まえ,2023年度に引き続き,電気料金などの負担軽減策を実施した。具体的には,特別高圧・高圧とご家庭を中心とした低圧のお客さまの電気料金の割引に加え,ライフステージの変化を迎えたお客さまの暮らしを支えるためのキャンペーンなどを行った。2025年度においても,電気料金などの負担軽減策を実施するとともに,お客さまのニーズに応じた魅力的なサービスの開発・提供に努めていく。

 

[パワーグリッド]

〔業績〕

電力ネットワークサービスの提供に伴う売上高については,再生可能エネルギー特別措置法にもとづく購入電力の卸電力取引市場への販売単価の上昇などから,前連結会計年度と比べ6.3%増加し9,632億円となった。

経常損益は,需要電力量の増加に伴う託送収益の増加はあったものの,需給バランス調整などを適切に実施するための調整力確保費用の増加などから,前連結会計年度と比べ480億円減少し475億円の利益となった。

〔当連結会計年度の取り組み〕

再生可能エネルギーの導入拡大や設備の高経年化が進む中において,日々の設備保守を確実に行うとともに,他の一般送配電事業者等との連携も含めた系統運用・需給調整により,中部エリアの安定供給に加え,全国の安定供給にも寄与してきた。

また,中部エリアにおける電力需給の中長期的な見通しが大きく変化する中においても,将来にわたり電力の安定供給と脱炭素を両立していくため,電力系統の次世代化に向けた取り組みを実施している。具体的には,他エリアとの電力融通の拡大に向けた設備の増強を進めるとともに,人口減少や省エネ等に起因する電力需要の減少や分散型電源の導入拡大といった地域ごとの実情に応じ,設備形成の最適化などを進めている。

さらに,GXやDXの進展等による電力需要増加に早期に対応するために,「中部地方のウェルカムゾーンマップ」を公開した。これを,特別高圧供給をご希望されるお客さまや,自治体等とのコミュニケーションツールとして活用するなど,より良い連系サービスの提供に努め,中部エリアの経済成長に貢献していく。

 

 

[JERA]

〔業績〕

燃料上流・調達から発電,電力・ガスの販売に伴う経常損益は,燃料価格の変動が電力販売価格に反映されるまでの期ずれについて差益が減少したことなどから,前連結会計年度と比べ1,115億円減少し673億円の利益となった。なお,期ずれを除いたJERAによる連結経常損益への影響は470億円程度の利益となった。

〔当連結会計年度の取り組み〕

燃料上流・調達から発電,電力・ガス販売にいたるバリューチェーンの最適運用,効率的運営に努めつつ,安定的な燃料調達などエネルギーの安定供給確保における重要な役割も担っている。

燃料制約や需給ひっ迫の回避に向けては,最新鋭の火力発電設備へのリプレース,火力発電所における補修点検時期の調整やボイラ等重要設備の重点巡視等を通じ,安定的な供給力の確保に取り組むとともに,需給変化を迅速に捉え,JERAの子会社であるJERA Global Marketsを通じた機動的な調達や,認定供給確保事業者としての戦略的余剰LNGの確保など,安定的な燃料供給に努めている。

また,エネルギーの安定供給を確保しながら,2050年時点で国内外の事業から排出されるCOを実質ゼロとするJERAゼロエミッション2050に向けた取り組みを進めている。

まずは発電時にCOを排出しない燃料であるアンモニア転換の技術確立と商用運転開始を目指し,碧南火力発電所4号機において,アンモニア20%転換の実証試験を実施した。引き続き,燃料アンモニアの製造や調達,輸送に向けた協業の検討を進めるなどサプライチェーン構築にも取り組んでいく。

また,再生可能エネルギーの拡大に向けて,JERA Nexを発足させるとともに,英国のbpとの間で,JERA Nex bpを設立して両社の洋上風力発電事業を統合することに基本合意した。

(注) JERAゼロエミッション2050は,脱炭素技術の着実な進展と経済合理性,政策との整合性を前提としている。JERAは,引き続き,自ら脱炭素技術の開発を進め,経済合理性の確保に向けて主体的に取り組んでいく。

 

(目標とする経営指標の達成状況等)

当社は,2024年4月,中期経営目標を「2025年度の連結経常利益2,000億円以上,ROIC3.2%以上」に引き上げており,当連結会計年度における期ずれ影響を除いた連結経常利益は2,640億円程度,ROIC(期ずれ除き)は3.8%となった。

 

 

〔連結収支比較表〕

項   目

前連結会計年度

(自 2023年4月1日

 至 2024年3月31日)

当連結会計年度

(自 2024年4月1日
 至 2025年3月31日)

増   減

金額(億円)

金額(億円)

金額(億円)

増減率(%)




営業収益(売上高)

36,104

36,692

588

1.6

営業外収益

1,994

783

△1,211

△60.7

合   計

38,098

37,475

△623

△1.6




営業費用

32,670

34,271

1,601

4.9

営業外費用

335

439

104

31.2

合   計

33,005

34,711

1,705

5.2

(営業損益)

(3,433)

(2,420)

(△1,012)

(△29.5)

経常損益

5,092

2,764

△2,328

△45.7

渇水準備金

△1

5

6

特別利益

92

△92

特別損失

126

64

△62

△49.4

法人税等

948

603

△345

△36.4

非支配株主に帰属する当期純損益

80

70

△9

△12.0

親会社株主に帰属する当期純損益

4,031

2,020

△2,010

△49.9

 

(注) 1  特別利益:有価証券売却益(前連結会計年度)

2 特別損失:減損損失,独占禁止法関連損失(前連結会計年度),有価証券評価損(当連結会計年度)

3 内部取引相殺消去後(億円未満切り捨て)

 

 

 

(3) キャッシュ・フローの状況の分析

営業活動によるキャッシュ・フローは,中部電力パワーグリッドにおける需給調整費用の支出の増加などから,前連結会計年度と比べ427億円減少し3,013億円の収入となった。

投資活動によるキャッシュ・フローは,固定資産の支出が増加したことなどから,前連結会計年度と比べ34億円支出が増加し3,917億円の支出となった。

この結果,フリー・キャッシュ・フローは,前連結会計年度と比べ461億円悪化し904億円の支出となった。

財務活動によるキャッシュ・フローは,資金調達による収入が減少したことなどから,前連結会計年度と比べ1,147億円減少し276億円の支出となった。

これらにより,当連結会計年度末の現金及び現金同等物は,前連結会計年度末と比べ1,260億円減少した。

 

資本の財源及び資金の流動性について,当社グループは,主に電気事業の運営上必要な設備資金を,社債発行や銀行借入等により調達し,短期的な運転資金は,主に短期社債により調達することを基本としている。

 

〔連結キャッシュ・フロー比較表(要旨)〕

項   目

前連結会計年度

(自 2023年4月1日
 至 2024年3月31日)

当連結会計年度

(自 2024年4月1日
 至 2025年3月31日)

増   減

金額(億円)

金額(億円)

金額(億円)

増減率(%)

営業活動によるキャッシュ・フロー ①

3,440

3,013

△427

△12.4

投資活動によるキャッシュ・フロー ②

△3,883

△3,917

△34

0.9

財務活動によるキャッシュ・フロー

870

△276

△1,147

 

 

フリー・キャッシュ・フロー  ①+②

△442

△904

△461

 

 

項   目

前連結会計年度末

(2024年3月31日)

当連結会計年度末

(2025年3月31日)

増   減

金額(億円)

金額(億円)

金額(億円)

増減率(%)

現金及び現金同等物の期末残高

4,185

2,924

△1,260

△30.1

 

(注) 億円未満切り捨て

 

(4) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は,わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されている。この連結財務諸表を作成するにあたり重要となる会計方針については,「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載されているとおりである。

当社グループは,固定資産の評価,繰延税金資産,貸倒引当金,退職給付に係る負債及び資産,企業結合などに関して,過去の実績や当該取引の状況に照らして,合理的と考えられる見積り及び判断を行い,その結果を資産・負債の帳簿価額及び収益・費用の金額に反映して連結財務諸表を作成しているが,実際の結果は見積り特有の不確実性があるため,これらの見積りと異なる場合がある。

また,連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち,重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載している。

 

5 【重要な契約等】

該当事項なし

 

 

6 【研究開発活動】

当社グループの研究開発活動は,当社を中心に行っている。

当社は,安定供給につながる技術研究開発とともに,経営環境の変化に対応した柔軟かつ戦略的な技術研究開発を推進するため,長期的かつ総合的な視点から,次の各分野の技術研究開発に精力的に取り組んでいる。

その研究成果を業務全般に活用するとともに,さまざまな機会を通じて広く社会に発信してきた。

また,研究成果及び当社グループの事業活動により得られる知的財産の積極的な権利化及び社会実装に向けた規格化・標準化を進めている。

(1)  脱炭素や生物多様性など地球環境に配慮した良質なエネルギーを安全・安価で安定的にお届けするという「変わらぬ使命の完遂」に向けた技術研究開発

・原子力発電所の一層の安全性向上等に資する技術研究開発

・再生可能エネルギーの導入拡大に向けた,洋上風力発電導入等に関する技術研究開発

・水素・アンモニアなど,脱炭素に資する技術研究開発

・次世代ネットワーク構築など,分散型電源の大量導入下での電力品質維持に資する技術研究開発

(2) 地域社会やステークホルダーへの「新たな価値の創出」に向けた技術研究開発

・お客さまの脱炭素化や省エネ・電化の推進に資する技術研究開発

・「新しいコミュニティの形」の創造に資する技術研究開発

・地域資源循環型社会実現に資する技術研究開発

 

なお,当連結会計年度における当社グループ全体としての研究開発費の総額は,9,341百万円(ミライズ977百万円,パワーグリッド6,207百万円,その他2,157百万円)である。

(注)上記金額には,内部取引を考慮していない。