第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

当社グループは、「ずっと先まで、明るくしたい。」をブランド・メッセージとする「九電グループの思い」のもと、「低廉で良質なエネルギーをお客さまにお届けすることを通じて、お客さまや地域社会の生活や経済活動を支える」ことを使命に、事業活動を進めている。

 

1 経営環境

 

世界情勢が不安定な状況が続く一方で、データセンターや半導体関連産業による電力需要の増加が見込まれるなど、人々の生活や社会経済活動を支える電力を安定的に供給することの重要性がこれまで以上に高まっている。

また、世界的な脱炭素の潮流のなかで、当社グループは、2025年2月に閣議決定された「第7次エネルギー基本計画」や「GX(グリーントランスフォーメーション)2040ビジョン」の方向性も踏まえ、日本政府の方針である「2050年カーボンニュートラル」の達成に向け、エネルギー事業者としての積極的な貢献が期待されている。

加えて、生成AI等のデジタル技術の急速な進展や、少子高齢化による労働力人口の減少、仕事に対する価値観の多様化など、現在の経営環境は大きな転換期にある。

 

2 中長期的な経営戦略

 

当社グループは、事業を通じて「社会価値」と「経済価値」の双方を創出し、サステナブルな社会への貢献と九電グループの企業価値の向上を実現するサステナビリティ経営を推進している。

経営環境が大きく変化するなかにおいても、九電グループが地域とともに持続的な成長を続けるために、2025年5月、中長期的に目指す経営の方向性として「九電グループ経営ビジョン2035」を策定した。

今後、「九電グループ経営ビジョン2035」と「九電グループ カーボンニュートラルビジョン2050」のもと、ROIC経営の推進、カーボンニュートラルの実現や人的資本経営推進などの取組みをグループ一体となって進めていく。

また、「九電グループ経営ビジョン2035」で掲げる「ありたい姿の実現に向けたグループ重点戦略」を、社会と当社グループのサステナビリティを実現していくうえでの経営上の重要課題(マテリアリティ)と位置づけ、その解決に向けた取組みを中期経営計画に反映させることで、マテリアリティ解決に向けた取組みの着実な推進を図り、持続可能な社会と九電グループの中長期的な成長の両立に繋げていく。(図1、2)

 

[図1 マテリアリティ(サステナビリティ実現に向けた経営上の重要課題)]

 


 

 

[図2 サステナビリティに係る理念等の体系]

 


 

[九電グループ経営ビジョン2035(2025年5月策定)]

九電グループとしての目指すべき方向性を「2035年のありたい姿」として定義し、その実現に向けた2030年・2035年における財務面・環境面・人材面の指標を経営目標として設定している。(図3)

[図3 九電グループ経営ビジョン2035]

 

〇 2035年のありたい姿


 

〇 経営目標(2030年度、2035年度)

 


 

 

 

[九電グループ カーボンニュートラルビジョン2050(2021年4月策定、2025年5月更新)]

日本の脱炭素をリードする企業グループとなることを目指した「九電グループ カーボンニュートラルビジョン2050」において、「電源の低・脱炭素化」と「電化の推進」に取り組む方針を定め、2050年のカーボンニュートラル実現に向けたロードマップを開示している。(図4)

2050年のサプライチェーン温室効果ガス(GHG)排出量の「実質ゼロ」に挑戦するとともに、九州の電化率向上への貢献などにより、社会のGHG排出削減に大きく貢献していくことで、当社グループの事業活動全体の「カーボンマイナス」を2050年よりできるだけ早期に実現していく。(図5)

 

[図4 カーボンニュートラルの実現に向けたロードマップ]

 


 

[図5 カーボンマイナスのイメージ]

 


 

 

 

3 中長期的な経営戦略の実現に向けたグループ重点戦略

 

Ⅰ カーボンマイナスへの挑戦

 電化の進展、半導体工場・データセンターの新設により電力需要は大きく増加し、低・脱炭素の電気に対する期待は今後ますます高まっていく。

 九電グループは、電気事業をはじめとする各事業のサプライチェーン温室効果ガス(GHG)排出量を極力抑制し、加えて社会全体のGHG排出削減へ貢献し、社会の期待に応えていく。これにより、「GHG排出量」<「GHG排出削減貢献量」のカーボンマイナスを2050年よりできるだけ早期に実現する。

 

Ⅱ 多様なニーズを叶えるソリューション進化

 お客さまの事業・生活の「低・脱炭素化」「効率化・最適化」「強靭化」に役立つソリューションを、更に強化・充実していく。各事業領域でプラットフォーム型ビジネスを展開し、他事業者の商品・サービスも取扱うことでソリューションの提供領域を拡大する。これにより、新たな技術・ビジネスの創出に資するデータや、お客さまのニーズ把握に資する顧客情報を蓄積していく。

 将来的には、上記データを事業横断的に活用し、ソリューションを更に高度化させていく。加えて、お客さまの潜在ニーズを把握し、お客さまニーズにマッチしたソリューションを提供し、「快適で、そして環境にやさしい」社会の実現に貢献していく。

 

Ⅲ 地域共創による価値創造と成長

 九州の地場企業として、地域ニーズ・課題の把握・解決に向け、幅広い専門力(エネルギー、ICT、都市開発等)と地域とのネットワーク・信頼関係をベースに、地域共創ビジネスを推進する。また、環境性の高い電気等の九州の強みを活かし、海外も含めデータセンターや半導体産業をはじめとした企業の誘致を推進する。

 地域社会の発展と暮らしの充実を図り、エネルギー需要やサービス機会を増大させることにより、九電グループの成長につなげていく。そして、地域共創の取組みを更に充実していくことで、地域とともに持続的に成長していく。

 

Ⅳ 価値創出に向けた人的資本経営

 少子高齢化による労働力人口の減少や、働き手の価値観の多様化が進展するなかでも、経営ビジョンを実現するため、各事業に必要な多様な強みを有する人材の獲得・育成など、DE&Iを推進していく。

 また、従業員のチャレンジ意欲を喚起し、自律的に能力を磨き、活かし、活躍していくためのキャリア形成支援の強化を図るとともに、個人の思いを起点に価値創出につなげる組織マネジメントへの進化に取り組む。

 これらの基盤である安全を最優先とした事業運営など、従業員が安心して働くための環境整備も更に進め、従業員エンゲージメント及び生産性を高め、人と組織が共に成長し、持続的な価値創出につなげる人的資本経営を推進していく。

 

Ⅴ 企業変革をリードするDX推進

 顧客ニーズの多様化や働き手不足を背景に、AIなどの技術革新を活用した変革が求められていることを踏まえ、九電グループ一体でデジタル技術を最大限活用し、生産性向上や業務プロセスの効率化・高度化・自動化を推進していく。

 

Ⅵ 革新と成長を支えるガバナンス強化

 各事業部門がROICを意識した事業運営を行うとともに、グループ大で経営資源配分を定期的に見直すことで、事業ポートフォリオ管理を高度化し、長期的な企業価値向上を実現する。さらに、スピーディな事業領域拡大・新たな知見の獲得に向け、これまで以上に他事業者とのアライアンス・M&Aを積極的に推進していく。

 その他、コーポレート・ガバナンスの充実や、安全と健康、コンプライアンス経営の推進、リスクマネジメントシステムの強化を図っていく。

 

当社グループとしては、これらの取組みを通じて、ステークホルダーの皆さまへの価値提供を果たしていく。

(文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において、当社グループが判断したもの)

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 (1) サステナビリティ全般

当社グループは、「九電グループサステナビリティ基本方針」のもと、事業活動を通じて地域やグローバルな社会課題解決に貢献することで、持続可能な社会への貢献とグループの中長期的な企業価値向上の実現を目指している。

なお、文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において判断したものである。

 


 

<ガバナンス>

サステナビリティ経営の実践に向け、カーボンニュートラルをはじめとするESG(環境・社会・ガバナンス)の取組みを強力に推進するため、取締役会の監督下に、社長を委員長とし、社外取締役や関係統括本部長等を委員とする「サステナビリティ推進委員会」を設置している。本委員会では、サステナビリティ全般に係る戦略・基本方針の策定(マテリアリティの特定)、施策実施状況の進捗管理に加え、気候変動や人的資本等の重要なサステナビリティ課題に関する戦略、リスク・機会についての審議・監督を行っている。また、本委員会の下には、「カーボンニュートラル・環境分科会」及び「地域・社会分科会」を設置し、環境・社会問題全般について、より専門的な見地から審議を行っている。

年に2回以上開催する本委員会の審議結果は、取締役会に遅滞なく報告しており、取締役会はサステナビリティに係る活動全般を監督している。

 

■サステナビリティ経営推進体制図

 


 

 

<戦略>

当社グループは、「九電グループの思い」及び「九電グループサステナビリティ基本方針」のもと、中長期的に目指す姿として、「九電グループ経営ビジョン2035」と「九電グループ カーボンニュートラルビジョン2050」を定め、グループ一体となった取組みを推進している。

これらの方針・ビジョン実現に向けた経営上の重要課題をマテリアリティとして特定し、その解決に向けた具体的取組みを中期経営計画(中期ESG推進計画)に落とし込むことで、着実な実践を図っている。

持続的に企業価値(経済価値)を高めていくためには、「短期」のみならず、「中長期」の社会情勢や経営環境の変化を見据えたうえで、今後の成長の障壁となりうるマテリアリティに焦点をあてた取組みを強化することが極めて重要である。そのため、当社グループは、企業価値(経済価値)につながる要素を「①短期の機会最大化」「②中長期の機会拡大」「③リスクの低減」の3つに分解し、それぞれの視点からマテリアリティ解決に向けた取組みを推進している。

 

■サステナビリティ経営を通じた企業価値向上モデル

 


 

<リスク管理>

当社グループの経営に影響を与えるリスクについて、毎年リスクの抽出、分類、評価を行い、全社及び部門業務に係る重要なリスクを明確にしている。把握したリスクについては、対応策を各部門及び事業所の事業計画に織り込むとともに、複数の部門等に関わるリスク及び顕在化の恐れがある重大なリスクについて、関連する部門等で情報を共有した上で、対応体制を明確にし、適切に対処している。特に、社会と企業のサステナビリティ実現に係るリスクについては、サステナビリティ推進委員会及び取締役会にて審議し、マテリアリティの見直し要否の判断につなげるとともに、対応策を中期ESG推進計画等に反映し、進捗管理を行うことで着実な実践を図っている。

当社グループの経営成績、財務状況等に重要な影響を与える可能性があると経営者が認識している主要なリスクは、「3 事業等のリスク」に記載している。

 

<指標と目標>

当社グループでは、マテリアリティごとに目指す姿を設定するとともに、その着実な実現に向け、中期ESG推進計画において、各取組みの中期目標及び年度目標を設定の上、取組みの進捗を管理している。なお、当社グループ全体での指標及び目標の策定管理は、現在主要な事業会社において実施している。

 

 

■2025年度中期ESG推進計画

マテリアリティ

主要課題

中期目標 (年度記載がないものは2035年度)

カ|ボンマイナスへの挑戦

電源の低

脱炭素化

再エネの主力電源化

収益性・ROIC向上を踏まえた再エネの着実な開発

- 再エネ電力販売量:370億kWh(330億kWh[2030年度])

原子力の最大限の活用

原子力の安全・安定運転の継続

- 計画外停止ゼロ

火力発電の低炭素化

省エネ法ベンチマーク指標の達成[2030年度]

- A指標:1.0以上

- B指標:44.3%以上

- 石炭単独指標:43.0%以上

水素1%、アンモニア20%混焼技術の確立[2030年度]

水素10%、アンモニア20%混焼

送配電ネットワークの高度化

再生可能エネルギー導入拡大に向けたネットワーク設備の運用高度化に資する研究・技術開発

非化石電源目標の達成

非化石電源比率:44%以上[2030年度]

電化の推進

家庭・業務

九州の電化率向上に貢献

- 家庭部門:75% 、業務部門:65%

運輸

社有車のEV(電気自動車)化率:100% (EV化に適さない車両を除く)

EVバス事業、建機用電池事業の拡大(蓄電地の充電制御技術の高度化)

EV関連サービスの事業化

EV用充電器の販売

不動産開発事業におけるEV充電器導入

地域エネルギー

港湾電化、モビリティ電化、デジタルサービスに対応する技術開発の推進

エネルギー政策への関与提言

電源の脱炭素化と電力安定供給両立に資する制度の構築への寄与

省エネの推進

省エネ・省CO2等に資するサービスの充実

省エネ提案の推進

- 省エネ提案件数:650件以上 [2022-2035年度累計]

スマートメーターを活用した情報発信サービスの提供

バンカリング船の運用効率化などによるLNG供給数量の増加

海外における省エネ・省CO2に関する取組みの実施

省エネ法に基づく
エネルギー消費原単位
の低減

エネルギー消費原単位の低減

- 年1%以上低減(直近5か年平均) [2030年度も同じ]

循環経済への貢献

循環型社会形成

石炭灰以外リサイクル率:98%以上(廃プラスチック100%)

石炭灰リサイクル率:100% [2030年度も同じ]
 (発電所運転想定により見直しを検討)

PCB産業廃棄物:法令に基づいて適切に対応

グリーン調達率:99%以上(事務用品類) [2030年度も同じ]

ネイチャ|ポジティブへの貢献

地域環境の保全・社会との協調

環境アセスメントの確実な実施

従業員一人あたりの上水使用量:毎年過去3か年平均実績以下

コピー用紙購入量:可能な限り抑制

TNFDレポートにおける事業活動に伴う生態系への影響の評価・分析の継続実施

環境管理の推進

法令違反件数(改善勧告・命令・罰則含む):ゼロ

協定値の遵守徹底(非常時を除く)

多様なニ|ズを叶えるソリュ|ション進化

エネルギーの安定供給

安定供給の維持

- 一軒あたりの平均停電時間:世界トップレベルの維持

- 公衆感電事故発生件数:ゼロ

海外展開の拡大

資産売却・入替による最適ポートフォリオの構築

ソリューションの高度化

各事業領域でのプラットフォーム型ビジネス展開、データ活用によるソリューションの高度化

エネルギーソリューション事業の高収益化

日本最大のグリーンエネルギー・プラットフォーマー

地域共創による価値創造と成長

快適で持続可能な
まちづくり

地域と共創した魅力あるまちづくり

- 地域共創ビジネス創出件数:8件(九州内支店エリア各1件以上)
 [2030年度までの累計]

- 九州内支店エリアにおける都市開発案件への参画:10件(1件/年)以上
 [2030年度までの累計]

九州における森林ビジネスの発展

- 九電グループの森林事業拡大への取組み開始 [2027年度]

- 新規J-クレジット創出支援者数:50件(累計)

事業・サービスの創出と既存サービスの充実によるスマート社会の実現

- 新規事業化・共創件数22件(累計)

- スマート社会の実現に資するドローン新サービス創出:10件(1件/年)以上

- 地域経済活性化に貢献するICTサービス(まちのわ)を全国47都道府県へ展開

- スマートメーターを活用した見守りサービス「Q-ieまもり」の普及拡大

地域経済の活性化

企業と自治体の新規マッチング数:50社以上
[2030年度までの累計]

地域経済の基盤を維持・成長させる新規事業の事業化件数:2件以上
[2030年度までの累計]

価値創出に向けた人的資本経営

人と組織の進化による
価値創出

個人のWillを活かし、新たな価値を創出

- チャレンジ活動件数:2030年度:5,000件、2035年度:10,000件

- 事業化件数:30件以上 [2030年度までの累計]

経営戦略の実現に必要な
人材の獲得・育成

人材ポートフォリオに基づく人材の獲得・育成

自らの可能性にチャレンジできる仕組みづくり

自律的な挑戦実施率:50%

成長実感:80%

多様な人材が活躍できる
環境づくり

女性管理職比率2倍以上(女性活躍推進法に基づく第二期行動計画時を基準とする)

- 課長以上ポスト:3.0%

- 副長(一般的な係長級)以上:5.0% [2028年度]

技術系の新卒採用者に占める女性採用比率:15.0% [2028年度]

障がい者雇用率:法定雇用率以上

働き方改革の推進実感:75% [2030年度]

安心して働ける基盤づくり

委託・請負先も含めた重大な労働災害:ゼロ

健康経営優良法人継続認定

ストレスチェックにおける総合健康リスク:80以下

企業変革をリ|ドするDX推進

デジタル技術を活用した
抜本的な業務改革

DXによる利益創出効果:400億円程度 [2030年度までの累計]

企業変革に資するデータ
活用の推進

データ活用(高度分析)取組み件数:36件 [2027年度までの累計]

データ流通件数:20業務 [2027年度までの累計]

セルフBI(Tableau)によるダッシュボード運用件数:155件
 [2027年度までの累計]

DXやシステム開発を推進するための人材の育成・確保

DX専門人材の育成:650名 [2027年度]

高度IT人材の育成:15名以上 [2027年度]

革新と成長を支えるガバナンス強化

リスクマネジメント
システムの強化

リスク管理の精度向上

コーポレートガバナンスの実効性向上

取締役会の多様性・適正規模の確保(社外取締役比率等)

モニタリング体制の充実

指名・報酬に関する透明性・客観性確保

創造・保護・活用の知的創造サイクルを廻すことにより、企業価値を向上

コンプライアンスの徹底

重大なコンプライアンス違反件数:ゼロ

相談しやすい組織風土づくり

サプライチェーン
マネジメントの強化

サプライチェーンにおけるESGに対する意識向上

- 主要なお取引先とのサステナビリティに関する意見交換の実施:50社
 [2025年度までの累計]

情報セキュリティの確保

個人情報漏洩:ゼロ

サイバー攻撃による重大な情報セキュリティ事故件数:ゼロ

人権の尊重

サプライチェーン全体を含めた重大な人権侵害件数:ゼロ

ステークホルダー
エンゲージメントの充実

ステークホルダーからの満足度向上

- 当社グループへの信頼度:80%以上

財務体質の改善・強化

連結経常利益:1,800億円 [2030年度]

総合エネルギーサービス事業:900億円 [2030年度]

成長事業:900億円 [2030年度]

連結ROIC:3.3% [2030年度]

 

実績集計範囲 ※当社及び九州電力送配電株式会社 

 

 

 (2) 気候変動

世界共通の課題である気候変動への対応は、エネルギー事業者にとって、事業のあり方そのものに影響しうる大きなリスクであると同時に、持続的成長に向けたビジネス変革への新たなチャンスである。当社グループは、責任あるエネルギー事業者として、また、再生可能エネルギー開発の長い歴史を持ち、東日本大震災以降いち早く原子力の再稼働を実現した低・脱炭素のトップランナーとして、今後も脱炭素社会を牽引するとともに、その取組みを更なる企業成長につなげるため、気候変動への対応をグループ重点戦略(マテリアリティ)と位置づけ、グループ一体となった取組みを推進している。

 

<ガバナンス>

気候変動対応については、サステナビリティ推進委員会を中心としたガバナンス体制のもと、その取組みを推進している。詳細については、「(1)サステナビリティ全般 <ガバナンス>」に記載している。

 

<戦略>

当社グループが持続的に気候変動の緩和に貢献し、かつ成長し続けることができるよう、上昇温度が1.5℃と4℃のシナリオを想定し、リスク・機会等の分析を行っている。

また、その分析結果を踏まえた対応戦略については、サステナビリティ推進委員会で議論を重ねたうえで、具体的な行動計画を毎年策定する「中期ESG推進計画」の中に落とし込み、戦略実現の実効性を高めている。

いずれのシナリオにおいても、低・脱炭素のトップランナーとして、中期ESG推進計画の取組みを実践することで、機会の最大化・リスクの最小化を実現していく。

 

■主なリスク・機会と対応戦略

項目

対応戦略

リスク

政策・規制

カーボンプライシング

・GHG(温室効果ガス)排出量削減

・エネルギー政策への提言・関与

非効率石炭フェードアウト

・アンモニア・水素の混焼技術確立

・LNG・カーボンフリー燃料等への振替

技 術

系統の安定性低下

・デジタルの活用による需給運用・系統安定化技術の高度化

評 判

資金調達コスト上昇

・KPI(重要業績評価指標)進捗等含めた情報開示の充実

物 理

資源開発地の操業不能

・供給ソースの分散化

台風等による設備被害

・無電柱化の推進、災害対応力の向上

機会

技 術

再エネ開発推進による収益拡大

・強みである地熱・水力の開発

・導入ポテンシャルが大きい洋上風力やバイオマス等の開発

原子力設備利用率向上

・定期検査短縮、長期サイクル運転、電気出力向上

市 場

電化の進展による販売電力量増

・電化率向上に向けた家庭・住宅関連業者との連携強化

製品・

サービス

カーボンニュートラルニーズ拡大

・DER(分散型エネルギーリソース)制御技術・蓄電池を用

 いたアグリゲートビジネスの展開

・EⅤを活用した新たなビジネスモデルの検討

レジリエンスニーズ拡大

・ドローンサービスや無停電電源装置等の関連製品・サービス

 における他社との協業、競合他社との差別化

 

※1.5℃、4℃のシナリオごとで各項目のリスク・機会の影響度・発現可能性は異なる

 

<リスク管理>

気候変動に係るリスクは、他のサステナビリティ課題に係るリスクと共に管理している。詳細については、「(1)サステナビリティ全般 <リスク管理>」に記載している。

 

 

<指標と目標>

低・脱炭素のトップランナーとして、2050年のサプライチェーン全体のGHGの実質ゼロにとどまらず、社会のGHG排出削減に大きく貢献する「カーボンマイナス」を2050年より早期に実現するというゴールを設定している。また、2030、2035年の経営目標(環境目標)として、チャレンジングな目標・KPIを設定し、その着実な達成に向けて、進捗を管理している。


※2021年実績。九州の電化率は、国の統計情報をもとに当社にて試算

 

 

■サプライチェーンGHG排出原単位の推移

 


(注)2050年のカーボンニュートラル実現及び2035年の環境目標、本ロードマップは国の政策支援及び技術確立等がなされることを見込んで設定したものであり、状況に応じて見直すことがあります。

※1 GHGプロトコルに準拠し、Scope1・2・3が対象

※2 高効率LNG火力の新増設、既設火力での水素・アンモニア混焼、CCS、低炭素電源からの調達 など

※3 再エネ拡大や次世代革新炉の開発・設置の検討 など

 

■サプライチェーンGHG排出量の推移


 

 

 (3) 人的資本

九電グループを取り巻く事業環境が大きく変化する中で、経営ビジョンを実現する原動力となるのは人材であり、人的資本充実に向けた取組みを加速し、多様な人材の力を価値創出につなげることが重要である。このため、九電グループは、「個人の思い(Will)と組織のビジョン等を結び付け、人と組織が共に成長しながら価値創出につなげていく」ことを基本的考え方とする「人的資本経営」を推進し、持続的な企業価値向上を図る。

 

<ガバナンス>

人的資本経営については、サステナビリティ推進委員会を中心としたガバナンス体制のもと、その取組みを推進している。詳細については、「(1)サステナビリティ全般 <ガバナンス>」に記載している。

 

<戦略>

人的資本経営の推進により、「従業員エンゲージメント」と「一人当たり付加価値」の向上を図り企業価値を高めていくため、人材戦略として、以下の戦略の5つの柱を設定し、各種施策を展開している。

 

■人的資本経営における人材戦略と価値創出プロセスの全体概念


◆戦略の柱ごとの取組み

[戦略の柱①]人と組織の進化による価値創出

会社や職場のビジョン・目標に共感し、自律的に挑戦する人材の力を組織の力に変え、人と組織が共に成長しながら価値創出につなげるための活動「QX(Qden Transformation)」に、2023年度から全社をあげて取り組んでいる

QXの取組みでは、職場対話を中核としながら、エンゲージメントサーベイによる組織風土の改善サイクルをスパイラルアップさせるとともに、個々人の思いを実現するために必要なスキル獲得等を可能とする学びの環境も整備している。また、従業員のイノベーションのアイデアを起点に、社外とも連携しながら新たなビジネスやサービスを共創する「KYUDEN i-PROJECT」を実施し、柔軟な発想によるイノベーションを推進している。

加えて、デジタル技術を積極的に活用することで、業務の効率化・高度化・自動化を進め、人材がより付加価値の高い業務を担うことで、生産性を高め、付加価値創出を加速している。

 

 

[戦略の柱②]経営戦略の実現に必要な人材の獲得・育成

経営ビジョンの達成に向け、事業戦略の実現に必要な人材を整理した人材ポートフォリオに基づき、人材の獲得及び育成に取り組んでいる。人材の獲得については、他企業経験者・高度専門人材の採用を拡大するとともに、その専門力を発揮できるようスペシャリストコースを設ける等、キャリアルートも複線化している。また、人材の育成においては、電気事業を支える人材だけでなく、事業創造を牽引する人材の育成等、教育を体系化し、事業戦略の実現に取り組んでいる。


 

戦略の柱③自らの可能性にチャレンジできる仕組みづくり

従業員の自律的なキャリア形成を支援し、そのチャレンジを経営戦略実現の力とするため、個の自律的な学びや、社内外での副業・兼業等の多様な経験の機会を充実させるとともに、手挙げでの異動公募等の仕組みを整備している。


 

 

[戦略の柱④]多様な人材が活躍できる環境づくり

一人ひとりの力を引き出し、価値創出につなげるため、多様な人材が働きやすく、成長・働きがいを感じながら能力を最大限発揮できる環境づくりに向けてDE&Iを推進している。特に、女性活躍については、男女で管理職への就任状況に差が生じており、出産・育児等のライフイベントが業務経験に影響していること等がその主要因であることを踏まえ、出産・育児等の前に、部門の中核となる業務等を早期に付与する「キャリアの早回し」や、評価・登用における公正なキャッチアップに取り組むとともに、女性の声を活躍環境の整備に活かす「ウィメンズ・カウンシル」を設置し、経営層への提言を実施した。技術系部門においては女性が極めて少数であることから、女性の新卒採用拡大等の取組みを強化する。

また、男性の育児参画推進や、性的指向・性自認に関わらず、安心して自分らしく働くための制度整備や職場風土醸成に取り組んでいる。

さらに、生産性向上やワーク・ライフシナジー等を目的とし、業務改革、意識・風土改革、働く環境整備の三位一体で働き方改革を推進している

 

[戦略の柱⑤]安心して働ける基盤づくり

多様な人材が安心して働き、能力発揮する基盤として、安全・健康・人権尊重に係る取組みを推進している。

事業の基盤である安全については、「安全はすべてに優先する」という基本方針を示した「九電グループ安全行動憲章」を意識と行動のベースとして、重大災害ゼロに向けた取組み等、安全活動を推進している。また、2023年4月に設立した安全教育施設「安全みらい館」において、当社グループ従業員を対象とした教育を展開し、安全への決意と実践力を育み、グループの総力をあげて安全文化を創造し、進化させている。また、健康については、「九州電力健康宣言」及び「九州電力健康経営方針」の下、全ての従業員が心身ともに健康で、活き活きと働ける会社づくりを目指す健康経営を推進している。さらに、「九電グループ人権方針」の下、人権を尊重した事業活動を展開するとともに、サプライチェーンに対しても責任ある行動を徹底している。

 

<リスク管理>

人的資本に係るリスクは、他のサステナビリティ課題に係るリスクと共に管理している。詳細については、「(1)サステナビリティ全般 <リスク管理>」に記載している。

 

<指標と目標>

「人と組織が成長し続ける組織文化の醸成により未来の価値を創出」することを目指す姿とし、「従業員エンゲージメント」及び「一人当たり付加価値」を九電グループ経営ビジョン2035における人材面の経営目標としている。この経営目標の達成に向けて、下記のKPIにより取組み状況をモニタリングしている。


※1:年度の記載がないものは2025年度目標

※2:実績集計範囲は当社及び九州電力送配電株式会社(その他の指標は当社グループ全体)

※3:売上高から外部購入価値(燃料費や委託費等)及び減価償却費を差し引いたもの
(経常利益+人件費+賃借料+金融費用+租税公課等)

※4:社外提供のエンゲージメントサーベイにおけるレーティング(当該サーベイを利用する10,000を超える企業全体での偏差値をAAA~DDの11段階で区分したもの)

※5:手挙げ研修の受講等の「自律的な学び」、社内兼業や社外副業等の「多様な経験」、ジョブ・チャレンジ制度等を活用した「キャリア実現」への挑戦

※6:健康経営度調査の対象である40代以上を対象とする

 

 

3 【事業等のリスク】

Ⅰ リスクマネジメント体制及びプロセス

九電グループの経営に影響を与えるリスクについては、九州電力のリスク管理に関する規程に基づき、毎年リスクの抽出、分類、評価を行い、全社及び部門業務に係る重要なリスクを明確にしている。

各部門及び事業所は、明確にされた重要なリスク及び個別案件のリスク等への対応策を事業計画に織り込み、適切に管理している。

複数の部門等に関わるリスク及び顕在化のおそれがある重大なリスクについては、関連する部門等で情報を共有したうえで、対応体制を明確にし、適切に対処している。特に、原子力については、社外の知見や意見等も踏まえ、幅広いリスクの把握に努めるとともに、取締役、執行役員等による情報の共有化を行い、継続的にその低減を図っている。

また、非常災害等の事象が発生した場合に迅速、的確に対応するため、予めその対応体制や手順等を規程に定めるとともに、定期的に訓練等を実施している。

こうしたリスクマネジメントの適正性の確保等を図るため、業務執行に対して中立性を持った内部監査部門により、各部門やグループ会社におけるリスクマネジメントの実施状況について監査を行っている。

 

(1) リスクマネジメント体制


 

(2) リスクマネジメントプロセス


 

Ⅱ リスク認識と対応策

当社グループ(当社及び連結子会社)の財政状態、経営成績等に重要な影響を与える可能性があると経営者が認識している主要なリスクは、以下のとおりである。

なお、文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において判断したものである。

 

(1) 競争環境等の変化

① 国内電気事業

リスク認識

 当社グループは、発電・販売事業及び送配電事業を行っており、2024年度連結売上の大部分を占めている。

 発電・販売事業については、気温・気候の変化、経済・景気動向、カーボンニュートラルへ向けた電化や省エネの進展、競合他社との競争状況の変化、国の競争活性化施策や燃料市場・電力取引市場の状況など外部環境変化により、総販売電力量や販売価格が大きく変動した場合には、当社グループの業績に影響を与える可能性がある。

対応策

 当社グループでは、非化石価値と価格競争力に優れた電源を最大限活用した電力販売促進に取り組んでいる。また、環境価値を含めたお客さまに選ばれる料金メニューの開発や、豊富なお客さま接点やデータを活用したエネルギーソリューション事業の拡大などにより、国内電気事業の収益減少リスクの低減に取り組んでいる。

 

 

② 海外事業

リスク認識

  当社グループは、これまで国内外の電気事業で培ってきた技術やノウハウを活用し、収益拡大が期待できる成長分野として、発電や送電などの海外事業を行っている。

  海外事業には、競争環境の激化や事業環境の変化、カントリーリスク、市況変動(物価高騰、電力・燃料価格の変動、金利・為替変動など)、環境・エネルギー政策の見直しなど特有のリスクがある。また近年は、脱炭素化の流れのなか、再生可能エネルギー、送配電、デジタル化などによる新たなビジネスやイノベーションなど事業機会が増加していることから、同時にリスクとなる要因も多様化かつ複雑化している。これらのリスクが顕在化した場合は、当初想定のリターンが得られず、当社グループの業績に影響を与える可能性がある。

対応策

  当社グループは、案件ごとの管理体制を整備し、適宜、市況変動(物価高騰、電力・燃料価格の動向、金利・為替動向など)のモニタリングを実施することで、リスクの早期発見や低減を図っている。また、定期的な案件ごとの収益性確認やリスク評価を行うことに加え、自己資本の十分性の検証など、保有するアセット全体のポートフォリオの最適化を行っている。

 

 

③ その他エネルギーサービス事業

リスク認識

 当社グループは、電気設備の建設・保守などの電力の安定供給に資する事業、ガス・LNG販売事業、石炭販売事業や再生可能エネルギー事業に取り組んでいる。

 他事業者との競争、燃料国際市況の変動、再生可能エネルギーを巡る制度変更などの外部環境変化が生じた場合、当社グループの業績に影響を与える可能性がある。

対応策

 当社グループでは、効率化によるコスト削減及び新たな技術への取組みにより、お客さまニーズに応じたエネルギーサービスを提供し、収益の向上を図るとともに、再生可能エネルギーを取り巻く事業環境変化を的確に捉えた開発を推進している。また、ガス・LNG販売事業のうち燃料上流権益については、案件ごとに収益性評価やリスク評価を行っている。

 

 

④ ICTサービス事業、都市開発事業、新規領域の事業

リスク認識

 当社グループは、エネルギーサービス事業以外に、当社グループの強みを活かした成長事業として、ICTサービス事業、都市開発事業を展開している。

 これらの事業は、社会ニーズの変化、技術の進展・普及、他社との競争激化、物価上昇など、事業環境の変化により、当社グループの業績に影響を与える可能性がある。

 また、新たな収益源を生み出す観点から、新規領域を含めたイノベーションにも取り組んでいるが、既存事業領域と異なるリスクを有しており、顕在化した場合は、投資額に見合うリターンを得られず、当社グループの業績に影響を与える可能性がある。

対応策

 当社グループでは案件ごとに、収益性評価やリスク評価などを行っている。

 

 

 

(2) 原子力発電を取り巻く状況

① 安全の確保を大前提とした原子力の最大限活用

リスク認識

 当社グループは、原子力発電をGHG排出抑制面やエネルギーセキュリティ面などで総合的に優れた電源であると考えており、国の新規制基準を遵守することに加え、更なる安全性・信頼性向上への取組みを自主的かつ継続的に進めているなど、安全の確保を大前提に、原子力を最大限活用することとしている。

 しかしながら、法令・基準などの変更により原子力発電所の稼働が制約される場合や原子力発電所に係る訴訟の結果により、原子力発電所の運転停止を余儀なくされる場合は、原子力より割高である代替電源費用の発生や設備投資の増加など当社グループの業績に大きな影響を与える可能性がある。

対応策

 当社グループは、法令・基準などの変更に対し、国の審査や追加で安全対策が必要な場合の工事を適切に進めていく等、リスクの低減に取り組んでいる。また、訴訟においては、当社グループの主張を十分に尽くし、原子力発電所の安全性などについてご理解いただけるよう努めている。

 

 

② 原子燃料サイクル

リスク認識

 当社グループは、原子燃料サイクル事業の実施主体である日本原燃株式会社に対して、2025年3月末時点で779億円の保証債務を保有しており、日本原燃株式会社の財務状態が悪化した場合、保証の履行を債権者より求められる可能性がある。

対応策

 当社グループでは日本原燃株式会社の再処理事業等の早期竣工及びその後の安定稼働に向けて、応援要員の派遣等の支援を行っている。

 

 

③ 原子力バックエンド事業

リスク認識

 使用済燃料の再処理や原子力施設の廃止措置、特定放射性廃棄物の最終処分などの超長期にわたる原子力バックエンド事業等の費用は、今後の制度見直しや将来費用の見積額の変更などによって変動することから、当社グループの業績に影響を与える可能性がある。

対応策

 現時点において、当社グループは、国の制度措置等に基づき、必要な費用を計上・拠出していることから、これらのリスクは一定程度低減されている。

 上記の費用のうち、使用済燃料の再処理及び原子力施設の廃止措置に必要な資金については、使用済燃料再処理・廃炉推進機構に対し、「原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施及び廃炉の推進に関する法律」に規定する再処理等拠出金及び廃炉拠出金を納付し、費用計上している。

 また、特定放射性廃棄物の最終処分に必要な資金については、原子力発電環境整備機構に対し、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に規定する拠出金を納付し、費用計上している。

 

 

 

(3) 市場価格の変動

① 燃料価格の変動

リスク認識

 当社グループの発電事業における主要な燃料であるLNGや石炭の調達価格は、燃料調達先の設備・操業トラブル、自然災害や政治・経済動向などによる燃料国際市況の変動及び外国為替相場の変動影響を受けることがあり、調達価格の変動が当社グループの業績に影響を与える可能性がある。

 特にLNGについては、長期間貯蔵することが困難であり貯蔵量が限られることから、供給元の情勢などによるLNG供給量の変動、電力需要の増減及び発電所の運転状況などにより、LNGを調達又は販売した場合、調達価格や販売価格によっては、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性がある。

対応策

 当社グループでは、燃料の調達先の分散化や燃料トレーディングなどによる燃料調整機能と電力の自社需給関連機能を一体的に運用することで調整機能を高め、調達の安定性・柔軟性の確保を行っている。

 また、燃料の購入などに伴う外貨建債務などについては、必要に応じて為替予約取引や燃料価格スワップ取引などを利用することにより、為替変動リスク及び燃料価格変動リスクを低減している。

 なお、燃料価格や外国為替相場の変動を電気料金に反映させる「燃料費調整制度」により、当社グループの業績への影響は一定程度緩和されている。

 

 

② 金利の変動

リスク認識

 当社グループは、国内電気事業に必要な発電設備、送変電設備及び配電設備といった多数の設備を保有している。これら設備の建設や更新工事などを計画的に進めていくために多額の資金が必要である。

 当社グループは、これらの必要資金に充当するため自己資金のほか金融機関からの借入及び社債の発行により資金調達しており、当社グループの有利子負債残高は、2025年3月末時点で3兆7,188億円(総資産の64%に相当)となっている。このため、今後の市場金利の変動が、当社グループの業績に影響を与える可能性がある。

対応策

 有利子負債残高の97%を占める社債や長期借入金の大部分を固定金利で調達していることなどにより、金利の変動による当社グループへの影響を限定化している。

 

 

③ 卸電力取引所における取引価格の変動

リスク認識

 当社グループでは、低廉で安定した電気をお客さまにお届けするため、自社電源の運用や相対取引の他に、卸電力取引所を活用して電源調達を行っている。また、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」による電源調達を行っており、調達価格は卸電力取引所の取引価格と連動する。

 卸電力取引所の取引価格は、売り入札(供給)と買い入札(需要)のバランスによって決定するため、猛暑・厳冬などによる電力需要の急伸又は発電所の計画外停止・電力系統の事故などによる供給力の低下により取引価格が急騰した場合は、購入電力料が増加し、当社グループの業績に影響を与える可能性がある。

対応策

 当社グループでは、燃料価格や電力需給の動向に関する想定に基づき、電源調達手段を組み合わせた電源ポートフォリオの最適化やデリバティブ取引の活用などを行っている。

 なお、高圧・特別高圧お客さま向けの標準料金メニューの見直しにより、卸電力取引所における取引価格の変動を電気料金に反映させる仕組みを導入し、当社グループの業績への影響緩和を図っている。

 

 

 

(4) 電気事業関係の制度変更等

リスク認識

 政府は、「第7次エネルギー基本計画」や「GX(グリーントランスフォーメーション)2040ビジョン」のもと、エネルギーの安定供給をはじめ、カーボンニュートラルの実現などの公益的課題の達成に向け、エネルギー政策に関する制度設計や市場整備を進めている。

 上記を含めた電気事業を取り巻く制度の変更などに伴い、規制や制度に適合するための設備投資や費用などの増加、当社グループが保有する発電設備の稼働率の低下や各種電力取引市場からの収益変動などが発生した場合には、当社グループの業績に影響を与える可能性がある。

対応策

 迅速かつ的確に対応できるよう、エネルギー政策、電気事業に係る制度、環境規制などに関する情報を積極的に収集の上、関係箇所で連携し、戦略や具体的対応の検討を実施している。

 

 

(5) 気候変動に関する取組み

リスク認識

 気候変動への関心が高まるなか、世界的に低・脱炭素社会実現に向けた取組みが進んでおり、政府はGX(グリーントランスフォーメーション)を通じて脱炭素、エネルギーの安定供給、経済成長を同時に実現すべく、中長期の見通しとして「GX2040ビジョン」を策定し、脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)の改正を行うなど、規制の具体化が進められており、将来的には強化されていくことが予想される。

 特に、化石燃料賦課金や特定事業者負担金をはじめとするカーボンプライシング制度の規制強化など、化石燃料の使用に過大な追加負担が課された場合、発電設備などの電力供給設備に対する投資、費用が増大するなど、当社グループの業績に影響を与える可能性がある。

 また、消費者や社会からの脱炭素ニーズの高まりや環境技術の進展に適応できない場合、事業の停滞など当社グループの業績に影響を与える可能性がある。

 さらに、金融・資本市場でも、ESG(環境・社会・ガバナンス)情報を重視する傾向が強まっており、低・脱炭素化への取組みが不十分、あるいは気候変動に関する情報開示に的確に対応していないなどと判断された場合、株主・投資家から信頼・評価を失い、株価低迷や資金調達の困難化など、当社グループの業績に影響を与える可能性がある。

対応策

 当社グループは、「九電グループ カーボンニュートラルビジョン2050」のもと、エネルギー供給面(電源の低・脱炭素化)と需要面(電化の推進)の両面から取組みを推進しており、サプライチェーンGHG排出量の削減と社会のGHG排出削減への貢献により、2050年カーボンニュートラルの実現及びカーボンマイナスの早期実現を目指している。

 この具現化に向けて、2025年5月に、2030年・2035年を対象とした経営目標(環境目標)及びその達成に向けたKPI(重要業績評価指標)を公表したところであり、電力の安定供給とカーボンニュートラル実現の両立に向けた取組みを一層推進していく。

 また、当社グループは、気候変動対応を含めたESGの取組みを推進するため、「サステナビリティ推進委員会」、担当役員及び専任部署を設置し、情報開示の充実やステークホルダーとの対話を推進している。

 

 

 

(6) 設備事故・故障、システム障害など

① 自然災害

リスク認識

 当社グループは、お客さまの生活や社会経済活動に欠かせない電力の安定供給に必要な発電設備や送変電設備、配電設備などの電力供給設備をはじめ、電気事業の遂行に必要となる多数の設備を広範囲に設置している。

 地震・津波・台風・集中豪雨など自然災害が発生した場合には、設備・サプライチェーンが被害を受け、広範囲・長期間の停電により社会経済活動に重大な影響を及ぼし、社会的信用が低下する可能性があるとともに、収益の減少や多額の復旧費用など、当社グループの業績に影響を与える可能性がある。

対応策

 当社グループでは、設備の耐力強化や復旧資機材の事前確保などを進めるとともに、自治体や自衛隊などの関係機関との協力体制構築により、災害予防、災害応急対策及び災害復旧に取り組んでいる。

 また、九州電力送配電株式会社は一般送配電事業者10社連名による「災害時連携計画」を作成し、大規模災害が発生した場合には、他社からの応援受け入れや関係機関との連携などによる迅速な復旧対応が可能な体制を構築している。

 なお、原子力施設については、自然災害に対する国の新規制基準の対応に加え、国内外の最新知見などを活かしながら継続して自主的に安全性向上対策を実施することで、自然災害に対する強化を図っている。

 

 

② 設備の高経年化等

リスク認識

 当社グループは九州を中心に発電設備、送変電設備、配電設備などの多数の電力供給設備や情報通信設備などを保有している。

 大規模発電所や超高圧送電線などで、経年劣化により故障発生確率が上昇し、重大な設備事故が発生した場合、当社グループの経済損失が発生するとともに、広範囲・長期間の停電により社会経済活動に重大な影響を及ぼし、社会的信用が低下する可能性がある。

対応策

 当社グループでは設備巡視による危険箇所の事前把握や設備状態に応じたきめ細やかなメンテナンスに取り組んでいる。また、経年の進んだ電力供給設備に対する重点的な点検・補修に加え、計画的な高経年設備の更新に取り組んでいる。さらに、ドローン、画像解析、AIなどの新技術を活用した設備保全の高度化・効率化にも取り組んでいる。

 

 

③ 燃料供給支障

リスク認識

 当社グループが発電用の燃料を輸入する国や地域、または燃料輸送ルートにあたる地域やその周辺で戦争・テロ等が発生した場合、サプライチェーン途絶により燃料供給が滞り、電力供給に影響が出る可能性がある。

対応策

 当社グループは、燃料の供給国・地域ごとのリスク分析を踏まえた調達先の分散化による安定調達を図るとともに、燃料トレーディング機能の活用による調達の柔軟性向上や海外貯蔵設備での在庫確保等を通じて、リスクが顕在化した際においても安定調達が実現できるよう取組みを進めている。

 

 

④ 資機材・役務調達の不安定化

リスク認識

  当社グループが調達する資機材・役務は、自然災害や地政学リスクの高まり、世界的な需要増による製造ラインの逼迫や、少子高齢化による労働力不足等に伴い、安定的な確保が困難となる可能性がある。

対応策

  当社グループは、取引先との対話活動を通じてサプライチェーンの課題等へ適切に対応し、パートナーシップ強化に努めるとともに、資機材調達情報の公開による新規取引先の参入促進や、早期の発注による製造能力・施工力の確保など、資機材の安定調達に向けた取組みを行っている。

 

 

 

⑤ システム障害

リスク認識

 当社グループでは、お客さま情報や社内情報などを扱う情報処理システムを開発・運用している。また、成長事業として、社外に対してICTサービスを提供している。

 このため、これら情報処理システムの動作不具合や停止などのトラブルにより、情報漏洩、業務の停滞及びICTサービス支障が発生した場合、事後対応費用や信頼の失墜など当社グループの業績に影響を与える可能性がある。

対応策

 当社グループでは24時間365日のシステム運用監視や計画的な設備更新など、システム障害の未然防止に取り組む一方、システム障害が発生した場合の速やかな初動・復旧体制の整備などを行い、万一の事態に備えている。

 

 

⑥ サイバー攻撃

リスク認識

 当社グループに対するサイバー攻撃は年々増加しており、攻撃方法も巧妙かつ悪質化するなど、その脅威はますます増大している。

 当社グループでは国内電気事業、ICTサービス事業など、幅広く事業を展開しており、サイバー攻撃により、機密性の高い内部情報や個人情報の流出、業務支障が発生する可能性がある。

 また、海外では電力供給設備に対するサイバー攻撃による停電が発生しており、当社グループの電力供給設備がサイバー攻撃を受けた場合、電力の供給が停止する可能性がある。

  いずれの場合にも、当社グループの信頼が失墜するとともに、事後対応費用が発生し、当社グループの業績に影響を与える可能性がある。

対応策

 当社グループではサイバーセキュリティ対策室を中心に、多層防御として、組織的・人的・物理的・技術的な対策を講じており、当社グループ全体の情報セキュリティレベルの維持向上を図っている。

 こうしたなか、2024年6月に当社のグループ会社が第三者による不正アクセスを受け、個人情報が漏洩したおそれがある事案が発生した。グループ会社が不正アクセスを受けたことを真摯に受け止め、今後、同様の事案が発生することがないよう、グループ一体となって情報セキュリティの確保に取り組んでいく。

 

 

(7) オペレーショナルリスク

① 業務上の不備

リスク認識

 当社グループは、国内電気事業をはじめ、幅広く事業を展開しており、従業員の過失などによる業務上の不備が生じた場合、お客さまへのサービス提供に支障が出るのみならず社会活動に大きな影響を及ぼす可能性がある。

 特に、国内電気事業においては、電力システム改革や再生可能エネルギーの普及などにより、従来と比べ需給運用が複雑化している。作業ミスなどにより、広範囲・長期間の停電や感電などの労働災害が発生した場合、当社グループの信頼が失墜するとともに、事後対応費用など当社グループの業績に影響を与える可能性がある。

対応策

 当社グループでは電力供給設備の作業時のミス未然防止に向けて、綿密な事前の計画、作業管理体制を整備するとともに、作業の教育・訓練を実施している。

 また、労働災害・事故の防止にあたっては、「九電グループ安全行動憲章」に基づき、事業に関わるすべての人たちの安全と安心の永続的な確保に向け、重大災害の防止対策や災害の未然防止に向けた先取り型の安全諸活動にグループ一体となって取り組んでいる。この取組みにあたっては、社長を委員長とする「九州電力安全推進委員会」を中心とした安全推進体制を整備し、安全を最優先する風土・文化の醸成に努めている。

 

 

 

② 法令違反等

リスク認識

 当社グループは、国内電気事業をはじめ、幅広く事業を展開しており、関連する法令や規制は多岐にわたる。また海外での事業運営においては、当該国の法的規制の適用を受けている。

 当社グループでは、これらの様々な法的規制の遵守に努めているが、各種法令や電力システム改革に伴う行為規制などに対する理解が不十分または法令などが変更された際の対応が適切でなく、法令などに違反したと判定された場合や、従業員による個人的な不正行為などを含めて社会的要請に反した場合は、行政指導や行政処分、信頼の失墜、事後対応費用など、当社グループの業績に影響を与える可能性がある。

対応策

 当社では法令理解の浸透を通じた法的規制の遵守はもとより、社会的規範や企業倫理を守ることをコンプライアンス経営と定め、コンプライアンス経営の最高責任者である社長を委員長とし、社外有識者を含むコンプライアンス委員会のもと、各業務執行機関の長を「コンプライアンス責任者」として、活動計画を策定・実践するとともに、社内外に相談窓口を設置するなどの体制を整備し、コンプライアンスを推進している。

 また、グループ会社に対しては、コンプライアンス情報の共有や意見交換などを行い、グループ会社と一体となった取組みを推進しているほか、グループ会社の指導・支援に関する管理部門の役割を明確化するなど、当社グループ全体での推進体制の強化を図っている。

 このようななか、当社及び九電みらいエナジー株式会社は、公正取引委員会から独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)に違反する行為があったとして、2023年3月30日に排除措置命令及び課徴金納付命令(九電みらいエナジー株式会社は排除措置命令のみ)を、同年7月14日には経済産業大臣から電気事業法に基づく業務改善命令を受けた。公正取引委員会からの各命令については、当社及び九電みらいエナジー株式会社と公正取引委員会との間で、事実認定等に見解の相違があることから、同年9月29日に取消訴訟を提起し、係争中である。

 また、九州電力送配電株式会社及び当社において、行為規制にかかる情報漏洩及びその情報の不正閲覧があり、両社は2023年4月17日に経済産業大臣から電気事業法に基づく業務改善命令、同年6月29日には個人情報保護委員会から個人情報の保護に関する法律に基づく指導等を受けた。

 これらの事案の発生を受け、業務改善計画を策定し、着実に再発防止の取組みを進めており、引き続き、実効性のある再発防止の取組み及びコンプライアンスを最優先にした事業活動を徹底していく。

 

 

③ 人権侵害

リスク認識

 従業員、お客さま及びサプライチェーンにおいて、差別、製品・サービスによる事故、環境汚染・破壊、地域住民の権利の不適切な制限及びハラスメントといった人権侵害が起きた場合、社会的信用の低下とともに取引停止・調達困難・訴訟などによる業務支障や費用増加の可能性がある。

対応策

 当社グループでは、2023年度に策定した「九電グループ人権方針」のもと、企業が事業上の人権リスクを特定し、その防止・軽減を図るプロセスである「人権デュー・ディリジェンス」の実施、教育・研修の実施やサプライチェーンの管理、人権侵害に対する救済措置の整備を目的にした社内外向けの相談窓口の整備など、人権リスクの低減策に取り組んでいる。

 

 

④ 知的財産侵害等

リスク認識

  知的財産の取組み(創造・保護・活用)が不十分な場合、知的財産権の侵害増大や競合他社との競争力低下の可能性がある。また、技術開発投資の回収が不確実になり、技術開発の成果を十分に活用出来ないおそれが高まることなどにより、企業価値の向上が妨げられる可能性がある。

対応策

  当社グループは、従来の研究開発等を通じて創出した知的財産の権利化や適正管理の取組みに加え、2023年12月に「知的財産戦略」を策定し、知財の創造・保護・活用の知的創造サイクルを回すことにより企業価値を向上させ、技術開発との連携により経営・事業戦略に知財面から貢献することとしている。

 

 

 

⑤ 環境負荷低減取組み不十分・環境汚染

リスク認識

 環境負荷を低減する取組みが不十分な場合、株主・投資家からの評価が低下し、株価低迷や資金調達の困難化など、当社グループの業績に影響を与える可能性がある。

 また、事業運営やサプライチェーンにおいて環境汚染などを引き起こした場合、社会的信用の低下とともに取引停止・調達困難・訴訟などによる業務支障や費用増加の可能性がある。

対応策

 環境負荷の低減については、「中期ESG推進計画」において、「循環経済への貢献」、「ネイチャーポジティブへの貢献」、「環境管理の推進」の課題ごとに目標を設定して行動計画を策定し、PDCAサイクルを回している。

 事業運営における環境汚染などの防止については、環境アセスメントによる大気・水質・生物等の保全措置、関係地方公共団体との間で締結した環境保全協定を遵守した発電所等の設備運用及び排ガス・排水のモニタリング、産業廃棄物の適正管理・処理などを行い、リスクの低減に努めている。

 サプライチェーンにおける環境汚染などの防止については、サプライチェーン全体で企業の社会的責任を果たし、持続可能な社会の実現に取組むことを目的に「サステナブル調達ガイドライン」を制定。サプライヤーに対し、環境・生物多様性保全についての取組みを推進していただくよう理解活動に努めている。

 

 

⑥ 人材確保困難化・従業員エンゲージメントの低下

リスク認識

 少子化に伴う労働力人口の減少や社会的な人材の流動化など、労働市場が大きく変化するとともに、IT技術の進展をはじめ社会の変容が加速することが見込まれるなか、経営ビジョンを実現するためには、人材の確保と更なる生産性向上の両面から対処していくことが不可欠となっている。

 事業戦略の実現に必要な多様な強みを有する人材を確保・育成できなければ、ビジョンに掲げる利益創出は困難となり、事業継続に支障をきたす可能性がある。

 また、働き手の就業意識や価値観は多様化しており、従業員の主体的な意欲を引き出し、多様性を活かす環境の整備ができなければ、従業員のエンゲージメントは低下し、生産性の低下や人材流出を招くおそれがある。

対応策

 人材の確保については、事業戦略の実現に必要な人材を可視化した人材ポートフォリオを策定し、経験者・高度専門人材の採用拡大や、複線型処遇の導入など、多様な強みを有する人材の確保に向けた施策を強化している。また、自己選択型の研修機会の充実や、社内外の兼業・副業を可能とするなど多様な学びと成長を促進するとともに、こうした人材の経験や努力を活かす適所適材の配置に取り組むことで、従業員の自己実現の支援やその能力活用を図っている。

 従業員エンゲージメントの維持・向上に向けては、個人の思いと組織のビジョン等を、職場での対話を通じて結び付け、人と組織がともに成長しながら価値創出につなげるQX(Qden Transformation)を全社で展開するとともに、時間・場所に捉われない柔軟な働き方ができる制度の充実や、心身ともに健康で活き活きと働ける心理的安全性の確保など、基盤づくりに取り組んでいる。また、DE&I推進の観点から、女性、高年齢者、障がい者など、多様な人材が活躍できる環境整備も進めている。

 こうした取組みにより、価値創出や生産性向上を実現し、人的資本の価値最大化を図っている。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

①  経営成績の状況

当連結会計年度のわが国経済は、個人消費や設備投資を中心に緩やかに回復している。九州経済も、雇用・所得環境が改善し個人消費が堅調に推移するなか、設備投資は高水準で推移し、緩やかに回復している。

当社グループにおいては、「九電グループ経営ビジョン2030」の実現に向け、国内電気事業において、事業活動全般にわたる徹底した効率化や収益拡大を目指すとともに、再エネ事業・海外事業・ICTサービス事業・都市開発事業などの成長事業においても、更なる成長軌道に乗せるための様々な戦略を実行に移してきた。また、安全性の確保を前提とした原子力の最大限の活用などによる「電源の低・脱炭素化」や「電化の推進」など、カーボンニュートラルの実現に向けた取組みにもグループ一体となって取り組んできた。

当連結会計年度の業績については、猛暑や厳冬に伴う冷暖房需要等による小売販売電力量などの増加はあったものの、燃料費調整の期ずれ影響による差益の減少や、卸電力取引価格の変動影響などにより、前連結会計年度に比べ減益となった。

当連結会計年度の小売販売電力量については、域内の契約電力が減少したものの、気温が前連結会計年度に比べ夏季は高く冬季は低く推移したことや、域外の契約電力が増加したことなどにより、前連結会計年度に比べ2.9%増の756億kWhとなった。また、卸売販売電力量については、取引所取引の増加などにより51.6%増の254億kWhとなった。この結果、総販売電力量は11.9%増の1,010億kWhとなった。

小売・卸売に対する供給面については、原子力をはじめ、火力・揚水等発電設備の総合的な運用等により、また、エリア需給については、調整力電源の運用及び国のルールに基づく再エネ出力制御の実施等により、安定して電力をお届けすることができた。

当連結会計年度の連結収支については、収入面では、国内電気事業において、小売販売電力量の増加はあったものの燃料費調整の影響などにより小売販売収入等は減少したが、卸売販売電力量の増加や当連結会計年度から新たに容量確保契約金額を計上したことにより卸売販売収入が増加したことなどから売上高(営業収益)は前連結会計年度に比べ2,173億円増(+10.2%)の2兆3,568億円、経常収益は2,263億円増(+10.4%)の2兆3,963億円となった。

支出面では、国内電気事業において、卸電力市場価格の上昇に加え、他社受電の増加や容量拠出金の計上により購入電力料が増加したことなどから、経常費用は2,698億円増(+14.0%)の2兆2,016億円となった。

以上により、経常利益は前連結会計年度に比べ434億円減(△18.3%)の1,946億円、親会社株主に帰属する当期純利益は減損損失や関係会社事業に係る損失を特別損失に計上したことなどから376億円減(△22.6%)の1,287億円となった。

 

 

報告セグメントの業績(セグメント間の内部取引消去前)は、次のとおりである。

 

 

当連結会計年度

(2024年4月1日から

2025年3月31日まで)

対前年度増減率
(%)

金額(百万円)

発電・販売事業

売 上 高

2,008,945

10.4

経常利益

113,712

△22.9

送配電事業

売 上 高

747,897

7.1

経常利益

26,612

△35.7

海外事業

売 上 高

4,423

△23.5

経常利益

8,862

65.7

その他エネルギーサービス事業

売 上 高

334,000

11.5

経常利益

33,921

△0.0

ICTサービス事業

売 上 高

137,886

4.9

経常利益

10,567

35.4

都市開発事業

売 上 高

28,594

△1.4

経常利益

3,444

△10.0

 

 

[参考]国内電気事業再掲

 

当連結会計年度
(2024年4月1日から
  2025年3月31日まで)

対前年度増減率
(%)

金額(百万円)

 国内電気事業

売 上 高

2,108,008

10.3

経常利益

140,326

△25.7

 

 (注) 「発電・販売事業」と「送配電事業」との内部取引消去後の数値を記載している。

 

②  資産、負債及び純資産の状況

資産は、棚卸資産などの流動資産の減少はあったが、設備投資などにより固定資産が増加したことから、前連結会計年度末に比べ467億円増(+0.8%)の5兆7,740億円となった。

負債は、有利子負債や未払税金が減少したことなどから、前連結会計年度末に比べ634億円減(△1.3%)の4兆7,427億円となった。有利子負債残高は、前連結会計年度末に比べ466億円減(△1.2%)の3兆7,188億円となった。

純資産は、配当金の支払による減少はあったが、親会社株主に帰属する当期純利益を計上したことなどから、前連結会計年度末に比べ1,102億円増(+12.0%)の1兆312億円となった。

この結果、自己資本比率は、前連結会計年度末に比べ1.8ポイント向上し17.3%となった。

 

③ キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、国内電気事業において、卸売販売収入の増加はあったが、購入電力料支出が増加したことや小売販売収入等が減少したことなどにより、前連結会計年度に比べ1,542億円収入減(△26.3%)の4,318億円の収入となった。

投資活動によるキャッシュ・フローは、投融資による支出の増加などにより、前連結会計年度に比べ145億円支出増(+4.2%)の3,588億円の支出となった。

財務活動によるキャッシュ・フローは、社債発行による収入の増加などにより、前連結会計年度に比べ591億円支出減(△39.3%)の913億円の支出となった。

 

以上により、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末に比べ145億円減少し、3,496億円となった。

 

(2)生産、受注及び販売の実績

当社グループの事業内容は、国内電気事業(発電・販売事業及び送配電事業)が大部分を占め、国内電気事業以外の事業の生産、受注及び販売の状況は、グループ全体からみて重要性が小さい。また、国内電気事業以外の事業については、受注生産形態をとらない業種が多いため、生産及び受注の状況を金額あるいは数量で示すことはしていない。このため、以下では、生産及び販売の状況を、国内電気事業における実績によって示している。

 

① 発受電実績

 

種     別

当連結会計年度

(2024年4月1日から

2025年3月31日まで)

対前年度増減率
(%)

電力量(百万kWh)


 

 

 

 

 

 水力発電電力量

 

4,840

9.1

 火力発電電力量

 

24,348

△5.1

 原子力発電電力量

 

30,822

△2.7

 新エネルギー等発電電力量

 

1,442

3.0

 融通・他社受電電力量

 

47,650

39.4

 (水力再掲)

(1,654)

(1.1)

 (新エネルギー等再掲)

(20,461)

(6.2)

 揚水発電所の揚水用電力量等

 

△2,304

8.9

   合     計

 

106,798

12.1

 損失電力量等

 

5,805

15.6

 総販売電力量

 

100,992

11.9

 出水率

 

100.8%

 

 

(注) 1 百万kWh未満は四捨五入のため、合計の数値が一致しない場合がある。

   2 当社及び連結子会社(九州電力送配電株式会社、九電みらいエナジー株式会社)の合計値(内部取引消去後)を記載している。

3 発電電力量は、送電端の数値を記載している。

4 「新エネルギー等」は、太陽光、風力、バイオマス、廃棄物及び地熱などの総称である。

5 揚水発電所の揚水用電力量等は、貯水池運営のための揚水用に使用する電力量及び自己託送の電力量である。

6 出水率は、当社の自流式水力発電電力量の1993年度から2022年度までの30か年平均に対する比である。

 

② 販売実績

 

種     別

当連結会計年度

(2024年4月1日から

2025年3月31日まで)

対前年度増減率

(%)

販売電力量

(百万kWh)

 小売販売電力量

75,642

2.9

 

  電灯

25,618

5.4

 

 電力

50,024

1.7

 卸売販売電力量

25,351

51.6

 総販売電力量

100,992

11.9

料金収入

(百万円)

小売販売収入

1,466,571

5.8

 

 電灯料

581,721

15.6

 

 電力料

884,849

0.2

卸売販売収入

419,600

107.5

合 計

1,886,172

18.7

 

 

(注) 1 販売電力量の百万kWh未満は四捨五入のため、合計の数値が一致しない場合がある。

2 当社及び連結子会社(九州電力送配電株式会社、九電みらいエナジー株式会社)の合計値(内部取引消去後)を記載している。

3 小売販売収入は小売販売電力量、卸売販売収入は卸売販売電力量に対応する料金収入である。

4 卸売販売電力量には間接オークションに伴う自己約定を含んでいる。

5 電灯料及び電力料には「電気・ガス価格激変緩和対策事業」、「酷暑乗り切り緊急支援」及び「電気・ガス料金負担軽減支援事業」により国が定める値引きの原資として受領する補助金収入は含んでいない。

 

③ 資材の状況

 石炭、重油、LNGの受払状況

 

区分

当連結会計年度(2024年4月1日から2025年3月31日まで)

期首残高

対前年度
増減率
(%)

受入

対前年度
増減率
(%)

消費

期末残高

対前年度
増減率
(%)

発電用

対前年度
増減率
(%)

その他

対前年度
増減率
(%)

石炭(t)

467,143

△21.8

5,200,221

△0.7

5,392,613

0.8

9,380

△38.5

265,371

△43.2

重油(kl)

24,351

△60.1

222,230

6.9

223,626

5.7

57

△99.8

22,898

△6.0

LNG(t)

198,076

8.3

1,601,301

△10.7

1,395,824

△11.4

233,456

14.9

170,097

△14.1

 

 

(注) 当社及び連結子会社(九州電力送配電株式会社)の合計値を記載している

 

(3)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりである。
 なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものである。

 

① 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

ア 売上高(営業収益)及び経常利益

売上高(営業収益)は、前連結会計年度に比べ2,173億円増(+10.2%)の2兆3,568億円、経常収益は2,263億円増(+10.4%)の2兆3,963億円となった。一方、経常費用は2,698億円増(+14.0%)の2兆2,016億円となった。以上により、経常利益は434億円減(△18.3%)の1,946億円となった。

 

報告セグメントの業績(セグメント間の内部取引消去前)は、次のとおりである。

[発電・販売事業]

発電・販売事業は、国内における発電・小売電気事業等を展開している。

売上高は、小売販売電力量の増加はあったものの、燃料費調整の影響などにより小売販売収入等が減少したが、卸売販売電力量の増加や容量確保契約金額の計上により卸売販売収入が増加したことなどから、前連結会計年度に比べ1,891億円増(+10.4%)の2兆89億円となった。

経常利益は、売上高の増加はあったものの、燃料費調整の期ずれ影響による差益の減少や、卸電力取引価格の変動影響などにより、338億円減(△22.9%)の1,137億円となった。

 

[送配電事業]

送配電事業は、九州域内における一般送配電事業等を展開している。

売上高は、エリア電力需要の増加などにより託送収益が増加したことや、再生可能エネルギー電源からの買取量の増加などにより卸電力市場への卸売販売収入が増加したことなどから、前連結会計年度に比べ494億円増(+7.1%)の7,478億円となった。

経常利益は、託送収益は増加したものの、需給調整関連費用が増加したことなどから、147億円減(△35.7%)の266億円となった。

 

[海外事業]

海外事業は、海外における発電・送配電事業等を展開している。

売上高は、地熱IPPプロジェクトに係る収入の減少などにより、前連結会計年度に比べ13億円減(△23.5%)の44億円、経常利益は、持分法による投資利益の増加などにより、35億円増(+65.7%)の88億円となった。

 

[その他エネルギーサービス事業]

その他エネルギーサービス事業は、電気設備の建設・保守など電力の安定供給に資する事業、お客さまのエネルギーに関する様々な思いにお応えするため、ガス・LNG販売、石炭販売、再生可能エネルギー事業等を展開している。

売上高は、LNG販売の増加やLNG輸送サービス事業に係る取引量の増加及び石炭販売の増加などにより、前連結会計年度に比べ345億円増(+11.5%)の3,340億円、経常利益は、売上原価の増加などもあり、前連結会計年度並みの339億円となった。    

 

[ICTサービス事業]

ICTサービス事業は、保有する光ファイバ網やデータセンターなどの情報通信事業基盤や事業ノウハウを活用し、データ通信、光ブロードバンド、電気通信工事・保守、情報システム開発、データセンター事業等を展開している。

売上高は、自治体向け情報システム販売の増加や光ブロードバンドサービスの販売拡大などにより、前連結会計年度に比べ64億円増(+4.9%)の1,378億円、経常利益は、光ケーブル整備に関する自治体等からの補助などもあり、27億円増(+35.4%)の105億円となった。    

 

[都市開発事業]

都市開発事業は、不動産開発・運営事業、官民連携事業等を展開している。

売上高は、オール電化マンション販売の減少などにより、前連結会計年度に比べ4億円減(△1.4%)の285億円、経常利益は3億円減(△10.0%)の34億円となった。

 

イ 渇水準備金引当又は取崩し 

当連結会計年度は、出水率が100.8%と平水(100%)を上回ったことから、将来の渇水による費用増加に備えるため、渇水準備引当金を2億円引き当てた。

 

 

ウ 特別損失 

当連結会計年度は、減損損失や関係会社事業損失により138億円を特別損失に計上した。

 

エ 法人税等

法人税等は、当連結会計年度の課税所得の減少等に伴う法人税、住民税及び事業税の減少などから、前連結会計年度に比べ66億円減(△11.7%)の500億円となった。

 

オ 親会社株主に帰属する当期純利益

親会社株主に帰属する当期純利益は、前連結会計年度に比べ376億円減(△22.6%)の1,287億円となった。1株当たり当期純利益は82.16円減260.14円となった。

 

② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

  ア キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容

当社グループのキャッシュ・フローの状況については、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ③ キャッシュ・フローの状況」に記載している。

 

イ 資本の財源及び資金の流動性に係る情報

当社グループは、燃料代などの支払いや設備投資及び投融資、並びに借入金の返済及び社債の償還などに資金を充当している。

これらの資金需要に対して、自己資金に加え、社債や借入金により資金調達を行うとともに、一時的な資金需要の変動に対しては、コマーシャル・ペーパーなどにより機動的な対応を行っている。

また、流動性リスクについては、月次での資金繰により資金需要を的確に把握するよう努めるとともに、コミットメントラインや当座貸越、及びキャッシュ・マネジメント・サービスなどを活用することとしている。

 

③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成している。重要な会計方針については、「第5 経理の状況」の「1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表  注記事項  (連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載している。
 当社グループは、連結財務諸表を作成するにあたり、固定資産の減損、海外発電事業への投資及び海外における発電所建設等のサービスに係る金融資産の評価、繰延税金資産の回収可能性、貸倒引当金、退職給付に係る負債及び資産、資産除去債務などに関して、過去の実績等を勘案し、合理的と考えられる見積り、判断を行っているが、実際の結果は見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合がある。このうち、特に重要なものは海外発電事業への投資及び海外における発電所建設等のサービスに係る金融資産の評価であり、詳細については、「第5 経理の状況」の「1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載している。

 

④ 目標とする経営指標の達成状況等

当社グループは、「九電グループ経営ビジョン2035」において、「連結経常利益1,800億円(2030年度)」「連結ROIC3.3%(2030年度)」の財務目標を設定している。当連結会計年度においては、燃料費調整の期ずれ影響による差益の減少や卸電力取引価格の変動影響などにより前連結会計年度と比べ減益となったものの、猛暑や厳冬による冷暖房需要の増加などもあり、経常利益1,946億円、連結ROIC3.6%となった。なお、期ずれ影響を除いた経常利益1,850億円程度から気温影響など一過性の収支好転要因を除いた経常利益は1,500億円程度、連結ROICは3%程度となる。

「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載した財務目標の実現に向けて、原子力の安全・安定運転の継続や設備利用率向上の取組み、卸販売の推進や電化の推進などによる総合エネルギーサービス事業の収益拡大に加え、再生可能エネルギー事業や海外事業をはじめとする成長事業への投資による収益拡大などの取組みを引き続き推進していくとともに、投下資本のスリム化・最適化に取り組んでいく。

 

5 【重要な契約等】

当社は、2023年4月28日の取締役会において、第三者割当の方法によりB種優先株式を発行することを決議し、割当先との間でB種優先株式の発行及び引受に関する投資契約(以下「本契約」という。)を締結している。

(1) 本契約の概要及び事前承諾事項

契約締結日

2023年4月28日

契約締結先

(割当先)

①株式会社みずほ銀行

②株式会社日本政策投資銀行

③株式会社三菱UFJ銀行

本店の所在地

①東京都千代田区大手町一丁目5番5号

②東京都千代田区大手町一丁目9番6号

③東京都千代田区丸の内一丁目4番5号

契約内容

B種優先株式の発行及び引受(発行価額 2,000億円)

事前承諾事項

当社は、定款変更、減資、減準備金、合併、会社分割、株式交換若しくは株式移転又はその事業の全部若しくは重要な一部の第三者(当社の子会社及び関連会社を含む。)への譲渡を行おうとするとき(いずれも当社の株主総会の決議を要する事項に限る。)は、事前に割当先の書面による承諾を得た上で行うこととしている。

 

 

(2) 事前承諾に関する合意の目的

重要な会社の変更を事前承諾事項として設定することで、割当先が保有するB種優先株式の価値を保護することを目的としている。

 

(3) 本契約締結に至る過程

B種優先株式発行(取締役会決議)

2023年4月28日

投資契約締結

B種優先株式発行(株主総会決議)

2023年6月28日

投資契約締結(効力発生)

 

 

(4) 当社の企業統治に及ぼす影響

本契約において、当社は、割当先がかかる承諾の可否の判断に際し、当社の意向を最大限尊重し、不合理に拒絶又は留保しないものとする旨の確認を各割当先から得ていること等から、当社の経営に及ぼす影響は限定的と考えている。

 

6 【研究開発活動】

当社グループ(当社及び連結子会社)は、「九電グループ経営ビジョン2035」に掲げる「2035年のありたい姿」並びに「九電グループ カーボンニュートラルビジョン2050」及び「九電グループ カーボンニュートラルの実現に向けたアクションプラン」に基づき、エネルギーサービス事業における「S+3E」を堅持しつつ、社会と当社グループのサステナビリティを実現する上で優先的に取り組むべき経営上の課題(マテリアリティ)解決に必要な以下の研究開発に取り組んでいる。

(1) 「カーボンマイナスへの挑戦」に資する研究開発

・分散型エネルギーリソースのアグリゲーション技術など再生可能エネルギーの主力電源化に関する研究

再エネポテンシャルの最大限活用に向けた送配電ネットワークの高度化に関する研究

再生可能エネルギー併設型蓄電池によるマルチユース運用に関する研究

・安全性の確保を大前提とした原子力の最大限活用に資する研究

・水素製造・利活用、CCUS・カーボンリサイクルに関する研究

・火力発電所へのアンモニア混焼に関する研究

・ヒートポンプの活用などによる産業部門や農業部門の電化に関する研究

・EV向けの充放電器やEMSの開発など運輸部門の電化に関する研究 など

(2) 「多様なニーズを叶えるソリューション進化」に資する研究開発

・電力市場や燃料市場に関する政策・規制等の動向調査や電力取引のリスク管理への適用に関する研究

効率的で持続可能な農業の実現を目指したスマート農業に関する研究

蓄電池や電気運搬船を活用した港湾電化および海上パワーグリッド構想の実現に向けた研究 など

(3) 「地域共創による価値創造と成長」に資する研究開発

量子技術を活用した避難経路の最適化などDeepTech活用による地域課題解決や新たなサービスの創出に関する研究

・カーボンニュートラル推進やレジリエンス強化といった自治体等のニーズに応じた地域エネルギーシステムに関する研究

ドローン技術やAI技術などを活用したレジリエンス強化に関する研究 など

(4) 「企業変革をリードするDX推進」に資する研究開発

最新のデジタル技術(LLM、RAG、AI TRiSM等)に関する調査・研究・開発

高度なセンサ技術やAI技術などを活用した電力設備の保全業務の高度化・効率化に関する研究 など

また、知的財産面においては、コーポレートガバナンス・コードの改訂(2021年6月)を踏まえた知財・無形資産ガバナンスガイドラインの策定を受け、2023年12月に「知財戦略」を策定し、知財の創造・保護・活用の知的創造サイクルを回すことにより企業価値を向上させ、研究開発との連携により経営・事業戦略に知財面から貢献することとしている。

当連結会計年度の当社グループの研究開発費は4,890百万円であり、うち、発電・販売事業に係る研究開発費は3,094百万円、送配電事業に係る研究開発費は1,172百万円、その他エネルギーサービス事業に係る研究開発費は167百万円、ICTサービス事業に係る研究開発費は456百万円である。