(注) 文中の将来に関する事項は、2025年6月期末現在において当社が判断したものです。
(1)経営方針
当社は目指すべき価値観として、「ミッション、ビジョン、バリュー」を策定しています。「IT基盤の提供により社会の仕組みを支える」というミッションのもと、「人々の生活に価値をもたらし、新たな信頼性を創造する」ことをビジョンとしています。またこれらミッション、ビジョンの実現に向けて、個人として「探究と研鑽」を通じて成長し、チームとして「対話と創造」により創発し、事業を「大局的な視点」で推進し、社会において「誠実さと価値を追求」していきます。
当社はこれらの価値観を基盤に、中期経営計画を策定し、持続可能な成長と企業価値の向上を図っていきます。
(2)中期経営計画
当社は2025年6月期から始まる3カ年中期経営計画を策定しています。今中期経営計画では、"Transformation for the Future"を掲げ、2030年代を見据え、事業の多角化と持続的な成長の基盤づくりに取組んでいます。決済・セキュリティ・テクノロジー領域を中心とした、様々な分野で積極的に事業を展開することで、人々の生活に価値をもたらし、新たな信頼性を創造していきます。
これらの実現に向けて、この3年間は、「事業」「技術」「人財」の3つの“変革”に注力します。また、DNPグループとの連携をこれまで以上に進めることで、それぞれの顧客基盤を活用しながら事業競争力を強化するとともに、この3年間を多角化に向けた収益基盤の強化期間と位置づけ、中長期的な安定成長を達成できるよう、各種施策を推進しています。
① 事業の“変革”
当社最大の強みである自社プロダクト・サービスを活かし、事業領域の拡大と収益構造の見直しを進めます。「決済」「セキュリティ」「データ通信・分析基盤(新領域)」のそれぞれの領域において、保有ソリューションの価値最大化と成長施策の推進に注力し、持続的な事業成長を目指します。
② 技術の“変革”
事業の変革を支える技術基盤として、コア技術である高速・大量のデータ通信及び分析・処理技術を中心に、先端技術やDXとの融合を図ります。既存製品・サービスの付加価値向上に加え、技術的強みを活かした新規事業の創出にも取組み、競争力の強化を目指します。
③ 人財の“変革”
事業・技術の変革を支える基盤として、人財の変革に取組みます。変化を恐れず、社内外との「共奏」によって未来を切り拓く、“信頼されるプロフェッショナル集団”の形成を目指します。スキル・経験の可視化や継続的な学習支援、リスキリングを通じて戦略的配置を推進します。また、管理職層の育成や組織状態の可視化により、チームの健全性とパフォーマンス向上を図るとともに、多様なキャリア機会を通じて柔軟で多面的な視野を持つ人財を育成します。
(3)目標とする経営指標
中期経営計画の最終年度となる2027年6月期には、目標数値に売上高190億円、営業利益28.5億円(営業利益率15.0%)、ROE17.0%以上を掲げています。売上高の詳細については、以下の通りです。
(参考)中期経営計画 単位:百万円
(参考)事業領域別売上高 単位:百万円
(注) 文中の将来に関する事項は、2025年6月期末現在において当社が判断したものです。
当社は、サステナビリティ課題への取組みが、当社事業の持続可能性を高め、企業価値を高めるものと考え、2021年4月にサステナビリティ委員会を設置し、年々活動の幅を広げ、進化させています。サステナビリティ委員会は、取締役会の指導・監督のもと、代表取締役社長を委員長とし、常勤取締役および執行役員で構成されています。委員会は、四半期に一回の頻度で開催され、サステナビリティ課題についてのリスクや機会の特定、評価、対応の進捗などについて討議し、その内容は取締役会へ報告されます。サステナビリティ委員会より報告された事項のうち、重要な意思決定事項については、取締役会でさらなる議論を行い、審議・決議を行います。
サステナビリティに関するリスクは、サステナビリティ委員会で特定、評価されます。その中で重要と判断されたリスクは取締役会へ報告され、全社的なリスクと統合、再評価が行われ最終的な対応が審議、決定されます。決定されたサステナビリティへの対応については、進捗状況について定期的なモニタリングを行うなどリスクの管理も行います。なお、リスクの特定や評価、対応についてはリスク管理委員会と情報を共有するなど連携を強化しています。
①気候変動への取り組み
・ガバナンス
気候変動に関するガバナンスは、サステナビリティ全般に関するガバナンスに包含されています。上記(1)サステナビリティ全般に関するガバナンスをご参照ください。
・戦略
気候変動に起因するリスク並びに機会を特定・評価するため、脱炭素化が進む世界と地球温暖化が進行する世界の2パターンの前提条件をベースとしたシナリオ分析から、影響の特定とレジリエンス性の確認及び対策の検討を実施しました。シナリオ分析では、脱炭素へ向かう世界観を想定した2℃未満シナリオと、現状の状態が続く4℃シナリオを用い、2030年及び2050年を対象として当社の事業活動への影響を定性・定量の両面から分析し、リスクと機会を特定しています。
主なリスクとしては、炭素税導入による操業コストの増加(移行リスク)や異常気象の激甚化に伴う営業停止による減収(物理リスク)が想定されます。炭素税導入によるリスクを低減するため、当社では、Scope1、2の削減目標や電力使用量の削減目標を設定し、目標の達成に向けオフィスのLED化や省エネ性能の高いパブリッククラウドの採用を進めています。また、データセンターについても省エネ性能を重視し採用を進めています。一方で異常気象の激甚化によるリスクを低減するため、全社員がテレワークできる環境を整備し、異常気象の激甚化に伴う営業停止日数等の抑制に備えています。
主な機会としては、脱炭素や省エネへ寄与する製品やサービスの需要/売上の増加(移行機会)や異常気象の激甚化に伴う拠点の被災やデータ損失に備えたセキュリティサービスの需要/売上の増加(物理機会)が想定されます。また脱炭素へ向けた機会を拡大するため、当社では、キャッシュレス化のさらなる促進に寄与すべく決済サービス関連事業を推進しています。キャッシュレス決済は、貨幣の鋳造や紙幣の発行に伴うGHG排出量の削減ができるなど社会全体のGHG排出量の削減につながると考えています。
・リスク管理
気候変動に関するリスクは、サステナビリティ委員会で特定、評価されます。詳細については、(2)サステナビリティ全般に関するリスク管理をご参照ください。
・指標及び目標
<GHG(温室効果ガス)排出量の推移>
(単位:tCO2e)
<GHG排出量(Scope1+Scope2)の削減目標>
2023年度比で、2030年度に25%削減、2050年度で実質ゼロを目標としています。
当社は、今中期経営計画の基本方針として、「事業の変革」「技術の変革」「人財の変革」の3つを掲げており、事業・技術の変革を支える基盤として、「人財」の変革に取り組んでいます。人財戦略ビジョンとして「変化を恐れず、社内外との『共奏』によって未来を切り拓く、“信頼されるプロフェッショナル集団”の形成」を掲げ、「能力 × 適性 × 教育」の相乗効果による、人的資本の価値最大化を目指しています。このビジョンの実現に向けて、以下の施策を中心に進めています。
事業計画と連動した人員計画に基づく採用・育成・配置
事業戦略に即した採用強化に加え、継続的な学習支援やリスキリングを通じて、戦略的事業領域への人員最適配置を推進していきます。まずは、スキル・経験の可視化による人財マネジメントを起点とし、「求める人財像」の明確化を図ることで、採用・育成・配置の各段階において人財活用の高度化を進めています。
採用面では、人材紹介会社との連携強化に加え、魅力的な雇用条件の設計・訴求を通じてキャリア採用による即戦力人財の確保を推進するとともに、主力の決済領域の事業を支える専門性の高い技術を守り、継承していくため、長期的な育成を前提とした新卒採用にも注力しています。
育成面では、プロジェクトマネジメント力の強化に加え、事業戦略に即した専門性の深化およびリスキリングを推進しています。今後は、これらの取り組みをさらに強化すべく、体制整備や支援環境の充実を進めていきます。
組織力の強化
社員一人ひとりが安心して力を発揮できる環境を整えるとともに、変化に柔軟に対応し、組織としての変革力を高めることにより、健全性とパフォーマンスの向上を図り、持続的な企業成長につなげることを目指しています。
そのための取組みとして、まず管理職層に対しては、マネジメントスキルや組織変革をリードする力の育成に向けた計画を策定し、マネジメント力の強化に取り組んでいきます。一般社員に対しては、ビジネススキルやヒューマンスキルの向上を目的に、自律的な能力開発を支援する学習プラットフォームの導入に向けた準備を進めており、成長意欲に応じた学習機会の提供を計画しています。
また、組織の健全性を高める仕組みとして、従業員満足度調査を定期的に実施し、分析結果に基づく施策を通じて、社員のエンゲージメントの向上と働きがいのある職場づくりを推進しています。
働き方の最適化と健康経営にも注力しています。長時間労働の抑制に向けては、法定基準を上回る独自の目標時間を設定し、労働時間のモニタリングとアラートを実施しています。持続可能な働き方の実現に向けては、充実した休暇制度の導入と取得促進を積極的に推進し、社員のリフレッシュとモチベーション向上を図っています。さらに、メンタルヘルス対策として、高ストレス部署の社員や入社3年未満の社員との定期的な面談を通じて、高ストレス者の早期発見に努めるとともに、コミュニケーション研修やメンタルヘルス研修を実施し、安心して働ける職場環境の整備を進めています。これらの取組みが評価され、当社は経済産業省および日本健康会議が共同で認定する「健康経営優良法人認定制度」において、3年連続で「ホワイト500」に選定されています。
幅広い経験と多角的な視点を持つ人財づくり
多様なキャリア機会を通じて、柔軟で多面的な視野を持つ人財育成を推進しています。キャリア自律支援の一環として、異動希望制度を充実させ、社員の自己実現と持続的成長を支える仕組みを整備しています。今後は、組織横断的な視野とスキルの獲得を促進するローテーションの実施を計画しており、多様な経験を通じた人財の成長を支援していきます。
また、多様な人財の能力を最大限に引き出すことを目的に、女性活躍推進にも注力しています。2025年6月期には、女性管理職および高度専門職の人数が17名に達し、一定の成果を上げています。一方で、技術職および営業職における女性人財の登用は依然として課題が残っており、さらなる推進が求められています。これを踏まえ、2027年6月期までに、技術職・営業職における女性管理職および高度専門職の比率を9.0%以上とすることを目標に掲げています。今後は、女性社員向けのキャリア形成支援研修や管理職候補者に対する育成プログラムの計画・実施を通じて、女性人財の活躍推進を一層強化していきます。
<指標及び目標>
(注) 1 「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年法律第64号)の規定に基づき算出したものです。
2 「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)の規定に基づき、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則」(平成3年労働省令第25号)第71条の6第1号における育児休業等の取得割合を算出したものです。
3 所定労働時間ベースで算出しています。
〈社員エンゲージメントの向上に向けた取り組み〉
当社は、2024年12月27日に創業40周年を迎えたことを契機に、社員への感謝の意を表すとともに、企業文化の醸成と組織の一体感強化を目的とした施策を通年で実施しています。主な取り組みとしては、部門横断の交流を促進する社内パーティーの開催、社員の家族を招いたファミリーデーの実施など、多様な企画を展開しています。
これらの記念施策は、社員のエンゲージメント向上とともに、次の節目に向けた新たなスタートとして位置づけており、継続的な人的資本の価値向上と持続可能な組織運営の基盤づくりに取り組んでいきます。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等を踏まえて、当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると経営者が認識している主要なリスクは以下のとおりです。
これらは、当社が認識する代表的なリスクであり、実際に発生し得るすべてのリスクを網羅するものではありません。
また、文中の将来に関する事項は、2025年6月期末現在において当社が判断したものです。
1.事業環境について
当社が主力とする決済領域においては、電子マネーの普及やインターネットショッピングの拡大、モバイル端末を利用したクレジットカード決済の一般化など、社会的・技術的な変化が進展しています。これに伴い、従来はクレジットカード会社が担っていた決済業務に、異業種から新規参入する事例があり、当社にとっては新たな事業機会が生まれる一方で、競争環境の激化も懸念されます。
また、クレジットカード業界においては、メガバンクを中心とした業界再編が進行しており、今後さらに統合・再編が加速する可能性があります。これにより、当社の主要顧客が統合されることで、顧客数の減少や、長期的にはシステム開発案件の発注減少を通じて、当社の売上高に影響を及ぼす可能性があります。一方で、顧客統合によりシステムの大規模化が進むことで、1件あたりの発注規模が拡大し、当社にとっては収益機会の増加につながる可能性もあります。
また当社の業績は、主にクレジットカード業界各社からの発注によって支えられており、各社の業績動向や法規制の変更等によっては、当社への発注が一時的に減少し、業績に影響を及ぼす可能性があります。
2.システム開発について
当社は、システム開発に伴う各種リスクを適切に管理し、安定的かつ持続可能な事業運営を実現することを重要な経営課題と位置づけています。
まず、長期にわたる開発プロジェクトでは、要件変更や工数の増加、納期の遅延等により、採算性が損なわれるリスクが存在します。これに対しては、工程単位の段階的な契約形態の導入、品質管理部門による進捗状況の定期的な確認及び各開発工程での移行審査、リリース判定を通じて、リスクの早期把握と抑制に努めています。また、開発工程における不確定要素や想定外の事象に備え、リスクを早期に洗い出し、柔軟にリソース調整を行うことで、コスト及び納期への影響を最小限に抑える体制を構築しています。
次に、開発品質に関するリスクとして、初期段階で仕様が不明確なまま進行した場合、手戻りや修正が頻発することで、品質の低下やスケジュールの遅延、さらには採算性の悪化を招く可能性があります。品質トラブルが顕在化した場合には、追加コストや損害賠償が発生し、当社の業績及び信用に影響を及ぼす可能性があります。
これらを未然に防ぐため、品質管理部門がプロジェクトの状況を継続的にモニタリングし、問題の兆候が確認された場合には、速やかに是正措置を講じる体制を整備しています。
また、外部のソフトウェアやクラウドサービスを活用する場合には、性能低下やインフラ障害がシステム品質やサービス提供に影響を及ぼすリスクも想定されます。そのため、信頼性の高いインフラの選定、冗長化構成の導入、資源等の定期的なモニタリング、障害発生時の対応体制の整備を通じて、リスクの低減に取り組んでいます。
これらのリスクに対するレビュー結果は、リスク管理委員会に報告され、必要に応じて取締役会で再発防止策が検討される等、全社的なリスクマネジメント体制の強化に努めています。
3.人財について
国際競争の激化や急速な少子高齢化による労働人口の減少、デジタルトランスフォーメーションの進展により、IT人財の獲得競争は厳しさを増しています。また、ビジネスを取り巻く外部環境や企業に対する要請の変化は著しく、専門的な技術力に加え、持続的なイノベーション創出や多様化する社会課題・顧客ニーズに対応できる人財を確保・育成していくことは、当社の事業を推進するにあたり重要な課題の一つとなっています。
当社では、採用活動や教育を通じて人財の確保に努めるとともに、外部企業への委託も積極的に活用しています。しかしながら、必要とする人財を確保できない場合、当社の事業遂行や持続的な成長力の維持に影響を与える可能性があります。そのため、事業戦略と連動した人財戦略を策定するとともに、中長期視点での新卒・第二新卒採用や即戦力となるキャリア採用等の経験者採用を実施し、人財がより高度なスキルを習得できるよう、研修・制度の充実を図る等、各種人財育成施策を積極的に展開しています。
また、なんらかの事情で労働環境が悪化した場合、労働生産性の低下や人財の流出により、開発プロジェクトを推進する体制を構築できない等の問題が生じた場合は、事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。さらに長期的には、開発業務の成果物やサービスの品質が低下することにより顧客の信頼が失われ、当社の企業価値を毀損する等の影響が生じる可能性があります。そのため、当社では、健康経営を推進することで、従業員の安全衛生管理や超過勤務の削減等、労働環境の改善整備の状況について定期的にリスク管理委員会に報告し、個別の事案について対応していくことで、社員一人ひとりの「well-being」と当社の持続的な成長を目指しています。
4.クラウドサービス事業について
当社が展開する共同利用型のクラウドサービス事業は、顧客が個別にシステムを保有するのではなく、当社が提供するシステムおよびインフラ(ハードウェア、ネットワーク等)を複数の顧客が利用するサービスです。クラウドサービスの開始にあたっては、顧客へのサービス提供に必要なシステム開発およびインフラ整備等に係る初期投資が必要となり、相対的に大規模な金額の投資が短期間に行われ、当社の業績や資金繰りが一時的に影響を受ける可能性があります。
また、当社が提供するシステムおよびインフラに係る運用費用は、顧客からの月額サービス利用料によって賄われていますが、初期投資の回収には複数年を要するため、当社では顧客と複数年契約を締結するなど、投資回収の確実性を高める施策を講じたうえでサービス提供を開始しています。しかしながら、顧客の事情や不測の事態等により、サービス提供が中断され、収益が途絶する可能性があり、このような場合には、事業の損益が悪化するほか、資金繰りの悪化や、クラウドサービス事業用資産に対する減損処理が必要となるなど、当社の業績に影響を及ぼす可能性があります。
さらに、当社が顧客に代わってクラウドサービスのシステムを運用しているため、当該システムの不具合や障害等により、顧客の業務に損害を与える可能性があり、その結果として損害賠償請求を受ける可能性があります。損害賠償額が大きい場合には、当社の業績に影響を及ぼすほか、顧客からの信頼を損なうことで中長期的な売上減少につながる可能性があります。
5.価格競争について
一般的に、システム開発業務においては、顧客のシステム投資に対する慎重な姿勢や、受注獲得のための事業者間の競争、さらには既存技術を代替する効率的な新技術の台頭などにより、従来通りのサービス内容で受注価格を引き上げることは難しい状況となっています。
当社は、特定の機能分野のシステム開発に強みを持っており、当社の専門的な知見と実績によって、多くの顧客から信頼と評価を得ています。取引が開始した顧客とは長期的に安定した関係を構築することができており、この事実は当社の事業基盤の重要な要素になっています。しかしながら、顧客にとって望ましい付加価値を提供し続けることができなければ、競合他社との価格競争に敗れ、受注高、売上高の減少につながる可能性があります。
6.技術革新について
当社は、主にクレジットカード業界を中心に、オンライン取引の完遂に必要なネットワーク接続やデータの受渡し等、固有の技術や機能分野において知見を蓄積しており、これらが事業上の強みとなっています。しかしながら、将来的にいわゆる破壊的な技術革新により、決済業務を支える既存の技術体系が完全に置き換えられる等の事態が発生した場合には、当社の事業や業績に大きな影響が及ぶ可能性があります。特に、当社が強みを持つFEP(Front-End Processor)システムの市場において、技術的な優位性を失いシェアを喪失することとなれば、長期的に当社の業績が悪化するリスクが生じる可能性があります。
7.製品開発について
当社は、顧客にとって最適なサービスやソリューションを提供するために、新製品や既存の製品の改良や機能強化等の研究開発を行っています。
研究開発の開始に際しては必要経費や販売計画等を総合的に事業計画として検討したうえ決定していますが、こうした無形資産(販売用ソフトウェア)の先行投資の回収可能性に疑義が生じた場合は、減損評価によって損失を計上する等、当社の業績が影響を受ける可能性があります。
8.自然災害等について
当社は、クレジットカード決済に不可欠な機能を提供するシステムの開発や運用を担っており、その社会的な役割を認識し、業務を継続するために必要な設備や体制を見直し業務を推進しています。しかしながら、大規模な自然災害等によりインフラが長期にわたり損壊、停止した場合、業績が一時的または中長期的に悪化する可能性があります。システム運用業務についても、拠点被災や通信障害により一時停止した場合、顧客の信頼を損なう恐れがあり、業績に影響を及ぼす可能性があります。
これらのリスクに対応するため、定期的にデータのバックアップ、システム稼働状況の監視等によりシステムの堅牢化と冗長化を進めており、自然災害等による事業への影響を未然に防止または回避し、リスクを最小化するよう努めています。また、事業継続計画(BCP)を策定し、全社的な視点で定期的に内容を見直すとともに、有事を想定した訓練を実施し、実効性の向上に努めています。
9.情報セキュリティについて
当社は、顧客情報を含む重要な情報資産を取り扱う業務を有しており、情報紛失や漏えい等が発生した場合、顧客からの損害賠償請求や信用失墜により、当社の業績に影響が生じる可能性があります。そのため、当社では通信技術や情報保護システムに依存するだけでなく、人為的な漏洩や不正使用のリスクにも備えており、情報セキュリティ規程類を整備し、全社員への月次点検や定期研修を通じて意識向上を図っています。個人情報保護については、プライバシーマークを取得して以来継続的に改善を行い、適切な運用に努めています。クレジットカード情報保護の国際基準PCI DSSも取得し、基準に沿った運用業務を行っています。
また、外部からのサイバー攻撃等により情報漏えいが発生した場合も、顧客からの損害賠償や信用失墜により、当社の事業と業績が影響を受ける可能性があるため、情報セキュリティ対策を強化しています。
これらのリスクに対しては、セキュリティ委員会を設置し、全社的なシステムやネットワークの対策を評価・検討し、情報を集約しています。情報セキュリティに関わる重要事項は取締役を含むリスク管理委員会に報告、審議され、リスクの未然防止に取り組んでいます。
10.コンプライアンスについて
当社がシステム開発を行う中で、第三者の知的財産権(著作権や特許等)を侵害した場合、損害賠償請求を受けるリスクがあるため、開発段階での調査、必要に応じて専門家の確認を行っています。また、当社の事業遂行上の全ての局面において、国内外の法令や規制に違反する等の事案が発生した場合は、当社の事業と業績が影響を受ける可能性があります。
当社は、社員が各種法制度に係る理解を深めリスクについての認識を高めることで、コンプライアンス違反を未然に防ぐことを目的として、定期的に社内研修を実施しており、全ての社員に受講を義務付け、受講の実績を管理して徹底しています。また、業務運用管理委員会で潜在的なコンプライアンスリスクの評価を行っており、発見した場合は速やかに対応策を導入し、リスク管理委員会に報告することとしています。
11.親会社の影響力について
当社の親会社である大日本印刷株式会社は、2025年6月期末現在で、当社の議決権の50.77%を保有しています。当社は継続的な業績向上を目的として、大日本印刷株式会社とは、決済領域、セキュリティ領域を中心に協業を推進しており、定常的に一定規模の取引があります。
大日本印刷株式会社は、こうした関係と影響力とを背景に、自らの利益にとって最善ながら他の株主にとってはそうはならない行動をとる可能性があります。
対応策として、大日本印刷株式会社との取引に関して、少数株主にとって不利益なものではないことについて、独立社外取締役と独立社外監査役で構成される特別委員会で十分な検討を行うこととしています。
当社は2025年6月期から始まる3カ年中期経営計画を策定しています。今中期経営計画では、"Transformation for the Future"を掲げ、2030年代を見据え、事業の多角化と持続的な成長の基盤づくりに取組んでいます。これらの実現に向けて、この3年間は、「事業」「技術」「人財」の3つの“変革”に注力しています。
中期経営計画では、事業領域を提供する機能別に、「決済」「セキュリティ」「データ通信・分析基盤(新領域)」の3つに再編し、それぞれの領域において、成長に向けた施策を推進しています。
主力の決済領域では、キャッシュレス決済の拡大に伴い、主要取引先である決済事業者において、基幹システムのモダナイズやオープン化が進展しています。当社は強みである決済ソリューションの価値を高め、FEP(注)・不正検知分野に加え、アクワイアリング分野を中心に領域拡大を図っています。また、国内カード業界全体でカード不正利用が多様化する中、業界横断型の新たな不正対策ソリューションの立ち上げなどを通じて、業界における提供価値の向上にも取組んでいます。
セキュリティ領域では、収益性の高い自社プロダクトの価値向上と販売強化を進めるとともに、東南アジアを中心に海外市場への展開にも注力しています。また、DNPグループが提供する、コンサルティングから運用、教育まで、オールインワンのセキュリティサービスに参加し、顧客基盤やビジネス領域の拡大に取組んでいます。
データ通信・分析基盤領域では、コア技術である高速・大量のデータ通信及び分析・処理技術の他業界における活用の検討を進め、新たな市場の獲得にチャレンジしています。
当事業年度の業績については、売上高15,596百万円(前期比7.4%増)、営業利益1,848百万円(同9.0%減)、経常利益1,890百万円(同8.8%減)、当期純利益1,349百万円(同5.0%減)となりました。
(注)FEP(Front End Processing)システム:クレジットカード決済処理に必要なネットワーク接続や
カード使用認証等の機能をもつハードウェア、及びソフトウェア
■事業領域別売上高
(単位:百万円)
売上高については、決済領域では、カード会社を中心とした堅調な投資需要を取り込み、増加しました。カード不正利用被害の増加に伴い、不正検知に対する需要も引き続き高水準で推移しています。セキュリティ領域では、大手顧客への製品導入により増加、データ通信・分析基盤領域では、コア技術を活用した証券会社向けシステム開発が寄与しました。
利益については、システム開発・保守における粗利率は改善したものの、一部案件における品質強化対応や、セキュリティ領域の製品構成、一部自社プロダクトの一括償却等の影響により、全体の粗利率は低下し、営業利益は減益となりました。販売管理費は人件費の増加があったものの、販管費率は低下しています。
受注については、受注高19,322百万円(同4.0%減)、受注残高20,311百万円(同22.5%増)となりました。受注高は、大型案件の開発フェーズ移行により、システム開発を中心に減少しましたが、来期に向けては、大手カード会社のシステム更改需要が複数見込まれており、提案活動を進めています。受注残高は、決済領域のクラウドサービス、セキュリティ製品、金融機関向けインフラ運用サービス、などのストック型案件の増加により、前年を大きく上回りました。
当事業年度末における資産の残高は、前事業年度末に比べ1,843百万円増加し、18,690百万円となりました。うち流動資産は、前事業年度末に比べ1,181百万円増加し、10,460百万円となりました。これは主に、受取手形、売掛金及び契約資産768百万円の減少があったものの、現金及び預金1,610百万円、前渡金563百万円の増加があったためです。固定資産は、前事業年度末に比べ661百万円増加し、8,229百万円となりました。これは主に、無形固定資産158百万円、繰延税金資産が559百万円増加したためです。
当事業年度末における負債の残高は、前事業年度末に比べ1,590百万円増加し、9,215百万円となりました。これは主に、支払手形及び買掛金215百万円の減少があったものの、未払法人税等220百万円、前受金1,216百万円、未払消費税等332百万円の増加があったためです。
当事業年度末における純資産の残高は、前事業年度末に比べ252百万円増加し、9,475百万円となりました。これは主に、その他有価証券評価差額金45百万円の減少があったものの、利益剰余金298百万円の増加があったためです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度における営業活動によるキャッシュ・フローは、4,263百万円の収入(前事業年度比11.7%増)となりました。主な内訳としては、税引前当期純利益1,890百万円、減価償却費1,444百万円の計上、売上債権の減少額1,985百万円、棚卸資産の減少額222百万円、仕入債務の減少額760百万円、法人税等の支払額878百万円があったためです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度における投資活動によるキャッシュ・フローは、1,599百万円の支出(前事業年度は2,681百万円の支出)となりました。これは主に、販売目的及び自社利用のソフトウェアの構築を主とする無形固定資産の取得による支出1,351百万円があったためです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度における財務活動によるキャッシュ・フローは、1,052百万円の支出(前事業年度は1,018百万円の支出)となりました。これは主に、配当金の支払額1,050百万円があったためです。
キャッシュ・フロー指標のトレンドは下記のとおりです。
(注)1 自己資本比率:自己資本/総資産
2 時価ベースの自己資本比率:株式時価総額/総資産
株式時価総額は自己株式を除く発行済株式数をベースに計算しています。
3 債務償還年数:有利子負債/営業キャッシュ・フロー
有利子負債は、貸借対照表に計上されている負債のうち利子を払っている全ての負債を対象としています。
4 インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業キャッシュ・フロー/利払い
(資本の財源及び資金の流動性に係る情報)
当社の主要な資金需要は、システム開発に係る人件費や商品の仕入、販売管理費などの営業費用、新製品開発を行う研究開発、設備の新設や改修等に係る投資等です。これらの資金需要は、手許の資金と営業活動によるキャッシュ・フローを財源とすることを基本方針としています。なお、必要と判断した場合には金融機関等外部からの資金調達も検討します。また、取引金融機関4行及び生命保険会社1社と当座貸越契約及びコミットメントライン契約を締結しており、機動的かつ安定的な資金調達体制を構築し、資金の流動性を確保しています。
④ 生産、受注及び販売の実績
(注) 生産実績は、販売価格により表示しています。
b.仕入実績
(注) 当社の仕入はソフトウェア及びサービスであり、数量表示は困難ですので、金額のみで表示しています。
(注)1 当社の製品は多岐にわたっており、数量表示は困難ですので、金額のみで表示しています。
2 主な相手先別の販売実績が当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりです。
経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容は、次のとおりです。また、文中の将来に関する事項は、2025年6月期末現在において当社が判断したものです。
①財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
上記については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(1)経営成績等の状況の概要」に記載しています。
②キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
上記については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(1)経営成績等の状況の概要 ③ キャッシュ・フローの状況」に記載しています。
③経営指標について
当社は、継続的な収益力の向上と事業運営の効率性を示す指標として、営業利益率とROE(株主資本利益率)を主要な経営指標としています。新たに策定した3カ年中期経営計画の最終年度である2027年6月期において、営業利益率15.0%、ROE17.0%以上の達成を計画しています。
また、当社の資本コストは、7~10%と見積もっており、資本コストを上回るROEを追求することで、当社の株主価値の向上を目指します。
1)経営指標の推移
(単位:百万円)
(単位:百万円)
2)ROEについて
売上高の増加に合わせて資産も増加していますが、直近3年間の総資産回転率は、0.88から1.01の範囲で推移しました。総資産のうち無形固定資産は、当社製のソフトウェア(販売用のソフトウェアやクラウドサービスに提供されるソフトウェア)が大部分を占めています。この知的資産を有効に活用し、売上高の増加を促進することで、総資産回転率は改善の余地があるものとみています。
営業利益率の向上は、システム開発業務の効率化や成果物の品質を上げることによって実現されるほか、自社プロダクトの販売等システム開発業務の収益性を超える売上高比率を増やすことによっても実現されます。当社事業の場合、営業利益率の向上は純利益率の向上に直結します。
従業員一人あたり売上高の増加は、売上高の成長の効率性を示す指標と考えられます。より長期的には、一人あたり売上高の増加に伴う効率的な売上高の増加によって、規模的な成長とともに収益性も高めることができ、営業利益率を向上させることと期待します。
④重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは以下のとおりです。
(a) 市場販売目的のソフトウェアの減価償却の方法
市場販売目的のソフトウェアの減価償却費については、製品ごとに未償却残高を、見込販売収益を基礎として当事業年度の実績販売収益に対して計算した金額と残存有効期間(3年)に基づく定額償却額のいずれか大きい金額で償却を行うものとしています。今後、見込販売収益が減少した場合、減価償却費が増加する可能性があります。
(b) 固定資産の減損判定
固定資産については、当事業年度末に、有形固定資産及び無形固定資産が減損している可能性を示す兆候の有無を判断しています。減損の兆候がある資産又は資産グループについて、サービスの提供に用いるソフトウェアや資産計上したサーバ等の当該資産から得られる割引前キャッシュフローの総額が、事業環境の悪化や開発コストの増加等により帳簿価額を下回る場合には、固定資産の減損処理を実施する可能性があります。
(c) 繰延税金資産の回収可能性の判断
繰延税金資産については、将来の利益計画に基づいた課税所得が十分に確保できることや、回収可能性があると判断した将来減算一時差異について繰延税金資産を計上していますが、繰延税金資産は将来の課税所得の見積りに依存するため、将来の不確実な経済条件の変動等や税制改正による法定実効税率等の変化があった場合には、繰延税金資産の回収可能性が変動する場合があります。
該当事項はありません。
当社は、市場及び技術環境の変化を捉え、付加価値の高い有用な製品を提供するために、常に新技術の研究及び開発に注力しています。
当事業年度における研究開発活動の総額は、
主な内容としては、ACEPlus製品のAWS対応、CWAT製品のMAC対応、クラウド鍵管理サービスの開発等を行いました。