当社の経営方針、経営環境及び対処すべき課題は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。
(1)経営方針
当社は国際標準規格に準拠した映像/音響などの圧縮・伸張技術を開発および製品化しております。特に数学的手法を駆使して独自に開発したアルゴリズム「DMNA」(Digital Media New Algorithm)を基幹技術として、差別化を図っております。
今後も「Algorithm Specialist」をコンセプトに基幹技術の開発と各種製品への適用を進めてまいります。これらの製品を用いて、様々な電子機器・通信機器向けに高品位な技術とソリューションを提供し、快適で豊かな社会の実現に寄与することを目指してまいります。
(2)経営環境、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当面の経営環境につきましては、情勢改善見込み(ロシアによるウクライナ侵攻や中東紛争の収束)はあるものの、米国のトランプ大統領による相互関税政策の進展次第では、世界経済は減速・低迷しインフレ圧力も受けるという状態に陥ることも危惧されています。我が国においては、インバウンド需要は堅調が見込まれるものの、トランプ相互関税による輸出大幅減や実質可処分所得の改善が進まないまま輸入インフレが昂進すれば景況感を大きく悪化させる要因にもなりかねず、予断を許さない経済動向になるものと見込まれます。
上記のような諸懸念により顧客企業の開発・生産・出荷が停滞する場合、当社においてライセンス契約の獲得、ソリューション製品の販売も大きく影響を受けることとなると見込まれますが、一方で、「非接触・リモート」をキーワードにした当社技術、製品へのニーズが高まることも期待できます。
このような中、当社の主要顧客業界である電子機器関連業界は、事業の再編を進めつつも、新製品の開発にあたっては、競争力の源泉である優れたアルゴリズムを用いた映像・画像・音声の圧縮伸張技術を追求し続けております。
具体的には、携帯型端末においては、より高画質、大画面の方向に向かっていることから、映像・画像の圧縮伸張コア技術であるビデオコーデックにおける優れたアルゴリズムを市場が求めております。また、スマート家電においても、高画質化に加え高音質化が求められており、低消費電力と合わせてそれらを実現するオーディオコーディックが期待されてきております。さらに、動画像の配信・伝送分野や各種遠隔操作システムにおいても、低ビット・レートでも高画質、高音質、低遅延を実現する圧縮伸張技術が必要不可欠のものとなっております。
当社は、組込み機器上のプロセッサで動作するソフトウェアIP製品のライセンス事業と、半導体チップの設計データであるハードウェアIP製品のライセンス事業を軸に事業を進めてまいりました。
国際標準規格に準拠した製品を開発し、世界中の顧客に高品位な技術とソリューションを提供するという基本戦略の下、特に地上デジタル放送に必須の映像圧縮・伸張規格であるH.264/AVCに準拠した製品群の開発および販売に注力してまいりました。また、H.264/AVC規格に加えて、デジタルハイビジョン放送やIP放送などを視聴する機器に必要な圧縮・伸張規格である、MPEG-2、MPEG-4規格およびWindows Media形式への対応も行っております。さらに、最新の画像圧縮伸張の国際標準規格であるH.265/HEVCを開発し、顧客である電子機器メーカーのFHD(Full High Definition)、4K/8K(FHDの4倍/16倍の解像度)対応を積極的に支援しております。
今後も引き続き、当該製品群のライセンスに注力するとともに、デジタル放送規格に対応した製品を投入することで、海外市場への本格的な参入も図ってまいります。また、当社の事業形態は「技術のライセンス」を主軸とするため、提供した技術が顧客の最終製品に組み込まれてから量産に移行するまでの期間、ならびにこれに伴って発生するランニングロイヤルティ収入を獲得するまでの期間は相応な長さとなります。これらの期間の収益を補い、将来にわたっての収入を増加させるためにも、新規ライセンス契約の獲得に重点をおいた活動を行ってまいります。
一方、市場においては、用途を限定した、より高性能な独自仕様の圧縮・伸張技術にも注目が集まっており、当社独自規格のエンコーダ/デコーダ「DMNA-Vシリーズ」には、顧客の関心がますます高まっております。また、ソリューション事業においては、ソフトウェアIP、ハードウェアIPとして開発済みの技術・製品を活用して、高画質・高音質・低遅延を実現するシステム製品を開発・製造・販売するとともに、音声や画像の認識率向上技術の開発・製品化を進め、多岐、多様な顧客を獲得する方針で推進してまいります。これにより、当社は顧客のニーズに応じて、ソフトウェア製品、ハードウェア製品、ソリューション製品を柔軟に選択して提供することが可能になり、これらの事業を市場の要求に合わせて的確に展開することで、収益ならびに顧客層の更なる拡大を目指してまいります。
近年は、ソフトウェア製品、ハードウェア製品を総合的に活用・組み合わせたシステム製品・技術の需要が増えてきており、今後もこの傾向は続くものと考えております。このため、現在の保有技術・ノウハウを総合的に活用しつつこれらの市場にも積極的に参入し、IPのライセンス・ビジネスからソリューション・ビジネスへ事業領域を拡大させてきております。なお、この事業領域で必要な技術・ノウハウをすべて自社で開発するにはかなりの時間を要することとなるものと見込まれるため、必要技術・ノウハウなどを補完し合える事業パートナーとの協業も積極的に検討・実施してまいります。
以上のような環境下、当社は以下の項目を対処すべき課題と捉え、対処してまいります。
① 特定市場への戦略的アプローチ
当社の開発、ライセンスする製品は、国際標準規格に準拠しており、その用途・ライセンス対象は多岐にわたります。一方、デジタル信号処理技術の進展はめざましく、日夜新しい技術・規格が世界中で産み出されており、その競争も非常に激しいものとなっています。このような環境下、より多くの電子機器に当社製品を搭載していただき、ライセンス収入を得るためには、対象となる機器・顧客に最適な性能・機能を持った製品をいち早く開発・提供する必要があります。当社では携帯型機器(Handset)、撮像機器(Imaging)、リビング向け機器(Consumer)、アミューズメント(Amusement)、車載情報システム機器(Automotive)、および映像・画像配信機器(Broadcasting)を重点対象と位置づけ、これらの市場・顧客に対して、戦略的な受注・開発・ライセンス活動を行なっていく方針です。また、ソリューション製品は主として放送・伝送システムとして市場投入していく方針です。
② 販売体制の拡充
当社の製品は業界の一部では非常に高い評価を得ているものの、業界全体として見た場合には未だ認知度は高くなく、この認知度を上げることが急務であると考えております。より広く潜在顧客へのアプローチを行うことおよびより多くの顧客からのアクセスを誘引・獲得することで、当社の潜在市場、製品用途はさらに広がるものと考えております。そのためにウェブサイトを刷新してマーケティング機能を充実させ、また、営業部門と開発部門とが潜在顧客および技術動向のすり合わせを密に行うとともに、代理店や協業会社との関係を強化することで、より多くの市場へ効率よくアプローチを行ない、国内外での市場拡大を目指していく方針です。
③ 効率的な開発・サポート体制の構築
地上デジタル放送の本格化に伴い、各種表示装置はもちろん、携帯型端末機器へも高精細動画機能が搭載されるなどの環境変化により、当社製品への引合いならびに製品の受注活動が活発化している一方、多様な顧客に対して高品質な製品を提供するための効率的な体制の構築が課題となっております。将来の収益源を産み出す研究・開発組織体制の整備はもちろん、製品化から品質保証・納期対応にいたるまで、一貫した組織体制の構築が事業成長の鍵となると認識し、顧客へのさらなるサポート体制拡充を含めた施策を実施してまいります。
④ デモ・システムの充実
各種デジタル映像・画像機器に当社が開発したDMNA(革新的なアルゴリズム)を用いた圧縮・伸張技術を採用すると、低消費電力化が図れることに加え、画質、音質はもちろん、処理速度(リアルタイム性/遅延量)などの性能が数倍向上します。
このような当社製品の優位性を確認・理解していただけるデモ・システムを開発し、効果的な営業活動が行なえる体制をとってまいります。
⑤ 組織の活性化
当社は社員の平均年齢が約50歳と決して若い企業とは言えません。また、ここ数年の業績動向は決して芳しいものではない一方、業務運営に緊張感、危機意識、活気がない部分が散見されるようになってきました。これらに対処すべく、能力のある若手社員の採用に力を入れるとともに、人事・処遇を今まで以上に成果・貢献度を重視して行うなど、業績回復の前提ともなる組織活性化のための施策を実施してまいります。
⑥ 東京証券取引所スタンダード市場の上場維持基準への適合
当社は、2022年4月の東京証券取引所の市場再編に伴い、スタンダード市場に上場しております。しかしながら、上場維持基準のうち「流通株式時価総額」(10億円以上)については基準を充たしていないことから、2023年6月30日に2025年3月末日を計画期限とする「上場維持基準の適合に向けた計画書」を提出し、2024年6月28日にはその進捗状況の公表を行っております。
計画期限末での適合状況につきましては、2025年6月4日付で東京証券取引所から「流通株式時価総額」について不適合との通知を受け取っており、当社株式は現在「改善期間入り」となっております。
このため、東京証券取引所の定める改善期限の2026年3月末に向けて、追加施策を検討・実行し、上場維持を目指してまいります。
(3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社の事業は、ソフトウェアライセンス事業、ハードウェアライセンス事業およびソリューション事業の3事業に分かれております。これらの事業をバランスよく拡大させながら期末に集中する傾向のある売上の平準化および売上の増加を図り、利益の確保ならびに黒字化の定着を目指してまいります。
当社のサステナビリティに関する考え方及び取組は次のとおりであります。
(1)ガバナンス
当社では、経営戦略の基礎的遂行基準として、7つの原則(お客様の満足の向上、公正な企業活動、情報の積極的な開示、従業員満足度の向上、社会への貢献、人権の尊重、環境への取り組み)から成る「行動憲章」を定めており、この基準の具体的な遂行方法や遂行状況は、取締役会が決定および監督することとなっています。
この基準の下、環境問題への取り組み(常勤取締役・品質管理部)、自社知的財産の保護(常勤取締役・管理部・経営企画部)およびそれを生み出す人的資本の確保と育成(常勤取締役・管理部)がサステナビリティにとって重要な取り組み項目と考えています。
(2)戦略及びリスク管理
これら項目のうち、環境問題への取り組みに関しては、環境への負荷軽減を主な項目と設定し、外部機関による認証制度であるISO14001と ISO9001に適合した業務運営を遂行することにより行うこととしています。なお、気候変動などの外部環境変化が当社に与える影響につきましては、常に情報収集を行いその影響度合いを検討・評価していますが、直ちに重大な影響をもたらす変化は現時点では認識しておりません。
また、自社知的財産の保護に関しましては、開発・ライセンス会社にとって自社知的財産は利益の源泉であると位置づけ、情報セキュリティ基本方針を策定し、情報セキュリティマニュアルに基づいて知的財産を秘密情報として厳格に管理しています。
(3)指標及び目標
上記に記載したリスク、人的資本に関しては、指標化による目標管理を行っていません。環境問題への取り組みは、認証制度の維持・更新審査への合格を目標としておりますが、自社知的財産の保護に関しては、定量的に明確な目標設定が困難であること、また、人的資本に関しては、母集団としての従業員数が少数であるため達成・不達成による変動幅が大きくなることから適切な目標水準の設定が困難である、と判断しているためです。
以下において、当社の事業展開上のリスク要因となる可能性があると考えられる主な事項を記載しております。また、必ずしも事業上のリスクに該当しない事項についても、投資家の投資判断上、重要であると考えられる事項については、投資家に対する情報開示の観点から積極的に開示しております。当社は、これらのリスク発生の可能性を認識した上で、発生の回避および発生した場合の適切な対応に努める方針でありますが、本株式に関する投資判断は、以下の記載事項および本項以外の記載事項を、慎重に検討した上で行われる必要があると考えております。また、以下の記載は本株式への投資に関連するリスクをすべて網羅するものではありませんので、その点ご留意ください。なお、文中における将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。
①ライセンス対象製品市場の動向による経営成績への影響について
当社製品のライセンス先は、主に携帯端末やデジタルカメラなどの電子機器メーカーまたはこれらの電子機器メーカー向けの半導体を製造・販売する半導体メーカーであり、これら顧客の機器製品にソフトウェア、ハードウェアとして組み込まれて使用されております。
携帯端末やデジタルカメラなどの製品は、ライフサイクルが短く、技術革新のスピードも早いため、当社としては日頃から顧客や外部機関からの情報を分析することにより、市場動向の変化、新規製品の開発、新市場の開拓に取り組んでおります。また、大画面対応のセットトップボックスやカーナビゲーションシステムなどの車載情報システム機器の市場にも積極的に取り組んでおり、その成果として、特定市場・製品からのライセンス収入に過度に依存しない、バランスのとれた売上構成に移行しつつあります。しかしながら、これらの最終製品市場の動向に当社の予想以上の変化があった場合には、当社の売上高、利益とも影響を受ける可能性があります。
②特許の出願方針について
当社が開発したDMNA(Digital Media New Algorithm)は、数学を応用し信号処理にかかる演算負荷を軽くする技術であります。従来、数学は特許の対象外とされておりましたが、最近は認められるようになっております。しかしながら、そのほとんどが信号処理の考え方、信号処理の順序、信号処理の変換/置換であり、全てを網羅した特許の一括化は不可能であります。仮に特許を出願した際に公表される明細書から、他社がDMNAの内容を理解し、同社の製品に実装した場合、その抵触性を証明し、当社特許を完全に守ることは難しいと考えております。
このような理由により、当社はDMNAに関する特許は一部の周辺特許を除き出願しておりません。そのため、他社が当該事項に関する特許を取得した場合には、当社の業績が影響を受ける可能性があります。当社では、他社が当該事項に関する特許を出願した場合に備え、学会発表を積極的に行っていく一方、社内または顧客との技術開発、販売条件などの交渉に関する議事録、契約書などすでに事業化していることを立証しうる社内実施記録を残し、「先使用権による通常実施権」を主張することができるように対処しております。
③技術の進展等について
当社の事業は、画像・音声/音響処理技術に密接に関連しておりますが、これらの技術の進展は著しく、また当社の顧客の製品であります携帯端末、デジタルカメラ、ポータブルメディアプレーヤーなどは短期間で新機種が発売され、高機能化も進んでおります。
当社としましても、技術の進展に対応していく方針でありますが、当社が想定していない新技術の開発、普及により事業環境が急変した場合、必ずしも迅速に対応できないおそれがあります。また、競合他社が当社を上回る技術を開発した場合には、当社技術が陳腐化する可能性があります。
これらの状況に迅速に対応するため、研究開発費などの費用が多額に発生することも可能性として否定できません。このような場合には、当社の経営成績および今後の事業展開に影響を及ぼす可能性があります。
④ロイヤルティ契約について
当社は、顧客との間において、当社製品を搭載した電子機器または半導体製品などの出荷台数(または出荷個数)に応じて四半期毎にロイヤルティを受領する契約を締結しております。したがいまして、当社のロイヤルティによる売上高は、顧客の電子機器または半導体製品などの出荷台数(または出荷個数)に影響を受けることとなります。また、顧客の新製品の発売時期が遅延した場合、当初の販売見込を下回った場合、顧客の販売戦略に変更が生じた場合などには、当社の売上高、利益とも影響を受ける可能性があります。
⑤代表者への依存について
当社の代表取締役社長である田中正文は、複雑な演算処理を簡素化する数学的手法を用いた独自のアルゴリズムを研究開発し、この成果を事業化し、当社の経営方針や戦略の決定、技術開発において重要な役割を果たしております。一方で当社は、事業拡大に伴う適切な運営体制・組織への移行ならびに事業基盤の安定化を主たる目的として、田中正文への依存度を低下させるべく、技術者の育成および権限委譲を進めており、一定の成果をあげつつあります。しかしながら、なんらかの要因により、田中正文の業務執行が困難となった場合には、当社の業績および今後の事業展開に影響を及ぼす可能性があります。
⑥小規模組織であることについて
当社は、2000年6月20日に株式会社として設立され、2005年12月の株式公開を機に人員体制の整備・拡充、少人数の役職員への依存状況の改善など、小規模組織に特有な問題の解決に取り組んできていますが、必ずしも十分な水準には至っていないものと認識しております。また、実際のビジネスにおいても、小規模組織であることが顧客の懸念事項となる可能性があることは否定できません。
今後とも、業務遂行体制の整備・充実に努めてまいりますが、人的資源に限りがあるため、一定数以上の役職員が社外流出した場合には、当社の業務に支障をきたす可能性があります。
⑦人材の確保・育成について
当社は、「技術者が報われる」「基幹技術に挑戦する」という基本方針を掲げており、今後の事業拡大には既存のスタッフに加え、優秀な人材の確保、育成が不可欠であると認識しております。
当社としては、人材に報いるための人事・給与制度を導入しておりますが、いずれも継続的な人材の確保を保証するものではなく、適格な人材を十分確保できなかった場合には、当社の事業拡大に制約を受ける可能性があり、当社の業績に影響する可能性があります。
⑧当社の基幹技術の社外流出について
当社の製品を開発するためのDMNAをはじめとした基幹技術は、今後も当社の事業拡大の核になっていくものと認識しております。
当社と従業員および顧客との間において機密保持契約の締結、IDカードによる入退出管理、コンピューターシステムのセキュリティなど、徹底した情報管理を施しておりますが、今後人材流出や情報漏洩などにより当社の技術が社外に流出した場合、当社の事業運営に影響する可能性があります。
⑨役員の員数について
当社の役員の員数は、現状取締役3名(うち常勤2名)、監査役3名(うち常勤1名)であります。今後、業務の増加に伴い常勤役員を増員する方針であり、また、株主総会において補欠役員(補欠取締役1名、補欠監査役1名)を選任しておりますが、不測の事態により欠員が生じた場合には、役員選任のため臨時株主総会を開催し、欠員を補充する手続きをとる可能性があります。
⑩販売代理店との関係について
当社は、受注活動の一部を販売代理店に委託しております。これは、きめ細かな顧客フォローや価格などの条件交渉能力などで優れた販売代理店を活用することが有効だと判断しているためであり、今後も販売代理店とのパートナーシップを維持・強化していく方針です。
しかしながら、何らかの理由による販売代理店との契約解消、もしくは販売代理店の経営状態が悪化した場合には、現状の受注活動に影響する可能性があります。
⑪収益構造が下期偏重となることについて
当社の主要顧客は3月決算の会社が多く、顧客の予算編成は、通期または半期単位で行われ、特に国内メーカーでは下期偏重の予算執行となる傾向があります。当社製品を顧客が購入する場合においても、この予算執行のタイミングおよび顧客の製品開発サイクルに影響される傾向にあります。このため、当社の売上計画は下期偏重となっております。
四半期開示の一般化により顧客の予算執行が平準化する可能性がある一方、夏商戦・年末商戦を基軸とした国内大手メーカーの製品開発サイクル自体が短期的に大きく変化することは考えづらいため、決算期の異なる海外企業への営業強化やビジネス・ユースのソリューション装置等の製品ラインアップなどにより期中業績の平準化を図っているものの、当面当社の業績は下期偏重とならざるを得ません。今後、取扱い製品を増加させることなどの施策が、期中業績の平準化に寄与するものと考えております。
⑫業績予想の変動について
当社のライセンス事業においては、契約時または納品もしくは検品時に売上として計上するイニシャル収入と顧客の使用数量に応じて、一定の期間ごとに集計を行って、売上を計上するロイヤルティ収入の二つが主な収入形態となっております。そのため、特にイニシャル収入においては、契約・納品・検品のタイミングに売上計上の時期が大きく左右されます。
また、イニシャル収入の対象となるライセンス契約の金額が比較的高額となることが多く、当該契約締結・納品・検品が当初想定していた会計期間をまたぐ事態(期ズレ)が生じた場合、当該会計期間における当社の売上高、利益ともに大きな影響を受ける可能性があります。
⑬感染症拡大による影響について
当社の売上のうち、ライセンス事業のイニシャル収入は顧客の新製品開発状況に、ロイヤルティ収入は顧客の製品生産、出荷状況に、そしてソリューション事業の収入は顧客の開発、システム構築および自社使用ニーズにより変動いたします。このため、2020年から急速に感染が拡大した新型コロナウイルス感染症のように、治療方法が確立されていない新型の感染症や感染力が非常に強い既往感染症が我が国および世界各国で急速に感染拡大し、感染拡大防止のため各国政府が行う対策により開発、生産をはじめ各種企業活動の停止・停滞が余儀なくされる場合、当社の売上に大きく影響する可能性があります。当社では、その影響度合いの見積りを日頃の受注活動における顧客の開発、生産動向の把握により可能な限り適宜行ってまいります。
なお、当社自身の対策としましては、緊急事態宣言等が発出された場合、リモート(在宅)勤務を原則とし、出社勤務を要する場合には勤務時間の短縮や時差出勤とするなど社員の感染を未然に防止する対策をとる予定です。
⑭配当政策について
当社は、設立初年度より当事業年度まで利益配当を行っておりません。利益配当は、業容が拡大し財務基盤も安定した後に、再投資による利益成長とのバランスなどを総合的に検討・判断して行うべきものとの考えからです。
現在の当社は、配当原資である利益剰余金が累積損失によりマイナスとなっており、配当可能利益は残念ながら有しておりません。
期間損失の積み上がりであるこの累積損失は期間利益の積み上げで解消することを基本方針としているため、当分の間、累積損失の解消に努めつつ財務基盤の強化、安定に重点を置かざるを得ない状況にあります。
もちろん、株主への利益配分は経営上の重要な検討課題として認識しており、配当政策につきましては、経営体質の強化、将来の事業展開のために必要な内部留保を確保しつつ業績に応じた配当を継続的に行えるようになった段階で、検討してまいりたいと考えております。
なお、内部留保資金につきましては、今後予想される経営環境の変化に対応できる経営体制強化および技術革新に対応するための研究開発体制強化に有効に投資してまいります。
⑮継続企業の前提に関する重要事象等
当社は、2020年3月期以降当事業年度にいたるまで、6事業年度連続で営業損失を計上しております。このため、継続企業の前提に関する重要事象等が存在している可能性があります。しかしながら、財務面におきましては、当事業年度末での現預金及び余資運用残高は1,522百万円、自己資本比率も95.6%と、いずれも高い水準にあります。次の事業年度以降も堅固な財務体質を維持しつつ、新技術の開発と営業活動の強化を推し進め売上高の伸長を図るとともに、不要不急な経費の圧縮等に注力し、損益状況の改善、黒字化を図ってまいります。従いまして、継続企業の前提に関する重要な不確実性は認められないと判断しており、財務諸表の注記には記載しておりません。
⑯当社株式の上場廃止の可能性について
当社株式は現在、2026年3月31日までの期間、流通株式時価総額に係る上場維持基準適合のための改善期間に入っております。「企業業績を継続的に回復させることで株価向上、ひいては流通株式時価総額の増加を図り、上場維持基準への適合を目指す」との方針の下、利益の安定的な確保・計上のための諸施策に取り組んでおりますが、期間中に上場維持基準への適合が確認できなかった場合、東京証券取引所より「監理銘柄」に指定されます。その後審査の結果、同基準に適合していないと確認された場合、「整理銘柄」に指定され、当社株式は2026年10月1日に上場廃止となります。
(1)経営成績等の状況の概要
当事業年度における当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
①財政状態及び経営成績の状況
当事業年度(2024年4月1日~2025年3月31日)における我が国経済は、大企業・製造業の景況感は横ばいながら、非製造業の景況感はインバウンド関連にけん引され堅調傾向を維持しました。一方、国内個人消費については、実質賃金の改善は物価上昇により阻まれている上、いわゆるステルス増税により実質可処分所得の上昇が進まず、内需の本格回復はみられないまま推移しました。一方、目を海外に転じると、米国やEUでは労働市場の悪化傾向やインフレ圧力の低減見通しを背景に政策金利の引き下げによる景気のソフトランディングを図り始め、また、中国でも利下げ等により不動産市場の低迷や個人消費の落ち込みなどによる景況感悪化の抑え込みに着手し始めた一方、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルとハマスの軍事衝突による中東情勢の悪化が収束しそうでしないまま続いており、各種エネルギー/食料価格などの高騰によるインフレ再燃懸念は払しょくできず、さらにはトランプ米大統領による相互関税政策の規模とその影響などをめぐり先行き大きな不安を残しながら推移しました。
このような中、当社の主要顧客業界である電子機器関連業界は、事業の再編を進めつつも、新興国向けに機能・性能を絞った製品の開発を進める一方、競争力の源泉である優れたアルゴリズムを用いた映像・画像・音声の圧縮伸張技術を追求し続けております。
具体的には、携帯型端末においてもより高画質、大画面の方向に向かっていることから、映像・画像の圧縮伸張コア技術であるビデオコーデックにおける優れたアルゴリズムを市場が求めております。また、デジタル情報家電においても、高画質化に加え高音質化が求められており、低消費電力と合わせてそれらを実現するオーディオコーデックが期待されてきております。さらに、動画像の配信・伝送分野においても、低ビット・レートでも高画質、高音質、低遅延を実現する圧縮伸張技術が必要不可欠のものとなっております。
このような状況下、DMNAアルゴリズムを用いて高画質、高音質、低遅延はもちろん、地球環境にやさしい省エネルギーなグリーン製品群を提供している当社は、国際標準規格に基づく圧縮伸張技術の機能強化ならびに受注活動を行うとともに、独自規格のオリジナル・コーデックや圧縮してもデータが劣化しないロスレス技術、ソリューション製品としての各種低遅延伝送装置、映像鮮明化の装置およびアプリなどをさらに国内外の市場に投入すべく営業努力を重ねております。
一方、費用・損益面では、売上高の伸び悩みにより販管費などのコストを賄うことができず、損失を計上することとなりました。
なお、当社の売上高は、主要顧客の決算期末(主として9月と3月)に集中する傾向がある一方、販管費等のコストは、各四半期とも大幅な変動はない、という特徴を有しております。
この結果、当事業年度の財政状態及び経営成績は以下のとおりとなりました。
a.財政状態
当事業年度末の資産合計は、前事業年度末より343百万円減少し、1,843百万円となりました。
当事業年度末の負債合計は、前事業年度末より35百万円減少し、81百万円となりました。
当事業年度末の純資産合計は、前事業年度末より307百万円減少し、1,762百万円となりました。
b.経営成績
当事業年度の売上高は416百万円(前期比21.1%減)となり、経常損失282百万円(前期は経常損失141百万円)、当期純損失285百万円(前期は当期純損失144百万円)となりました。
部門別の業績につきましては、次のとおりです。
(ソフトウェアライセンス事業)
営業活動におきましては、単体IPでのライセンス営業から複数IPをモジュール化してのライセンス営業に力をいれました。
主要な案件としましては、次のとおりです。
《量産ライセンス》
・MP3→OPUS変換ソフトウェア:PC向け
・デジタルテレビ向けプレーヤ:車載機器向け
《評価ライセンス》
・ハンズフリー ソフトウェアIP:車載機器向け
・H.264エンコーダ:STB向け
・H.264 HP エンコーダ:住設機器向け
・ハンズフリー ソフトウェアIP:航空機用ディスプレイ機器向け
以上の結果、当事業年度の売上高は109百万円となりました。
(ハードウェアライセンス事業)
営業活動におきましては、4K技術、ロスレス技術、H.265、スムージング技術を中心にライセンス営業活動、海外案件獲得活動を展開しました。
主な案件としましては、次のとおりです。
《量産ライセンス》
・固定長画像圧縮技術:LCDドライバ向け
・デムラ技術(回路規模縮小版):ディスプレイ向け
・JEPG XS エンコーダ/デコーダ for 8K:TVディスプレイ向け
《試作ライセンス》
・固定長画像圧縮技術:医療用カメラ向け
以上の結果、当事業年度の売上高は147百万円となりました。
(ソリューション事業)
営業活動におきましては、当社の既存技術と開発力をベースに顧客のカスタム案件の獲得およびオリジナル・コーデックを用いて低遅延・高画質を両立させた小型版画像伝送システムや放送局向け低遅延送り返しシステムの販売活動を中心に展開しました。
主要な案件としましては、次のとおりです。
・画像・音声デコーダユニットのライセンスキー追加受注:フライトシミュレータ用
・H.264単機能LSI:防衛装備向け
・低遅延映像伝送システム:防衛装備向け
・画像・音声エンコーダユニット:フライトシミュレータ向け
・映像伝送エンコーダソフトウェア開発:防衛装備向け
・FPGA版コーデックモジュールの追加受注:監視装置向け
・映像伝送エンコーダ/デコーダソフトウェア開発:防衛装備向け
・カメラ切り替え接続遅延対策対応:遠隔操縦向け
・追加OS用メディアプレーヤ開発:次期MPU向け
・非同期サンプリングレートコンバータ開発:車載機器向け
・マルチコーデック評価ボード検証:デジタルカメラ向け
・低遅延IP送り返しシステム セキュリティ補修対応
・映像鮮明化アプリ:警察装備向け
・映像鮮明化装置:防衛装備向け
・低遅延映像伝送システム:地方自治体防災向け
・Wi-Fi Sync Viewer:株主総会向け
以上の結果、当事業年度の売上高は159百万円となりました。
②キャッシュ・フローの状況
当事業年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、売上債権が117百万円減少した一方で、税引前当期純損失を282百万円計上したことなどにより、前事業年度末に比べ208百万円減少し、当事業年度末には637百万円となりました。
当事業年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動の結果使用した資金は202百万円(前年同期は272百万円の使用)となりました。これは主に、売上債権が117百万円減少した一方で、税引前当期純損失を282百万円計上したことなどによるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動の結果獲得した資金は0百万円(前年同期は1百万円の使用)となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度において、財務活動による資金の増減はありません(前年同期も増減なし)。
③生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当事業年度の生産実績について、当社は単一セグメントとしているため、部門別に示すと、次のとおりであります。
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部門の名称 |
当事業年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
前年同期比(%) |
|
ソリューション事業(千円) |
63,499 |
186.7 |
|
合計(千円) |
63,499 |
186.7 |
(注)金額は製造原価によっております。
b.受注実績
当事業年度の受注実績について、当社は単一セグメントとしているため、部門別に示すと、次のとおりであります。
|
部門の名称 |
受注高 (千円) |
前年同期比 (%) |
受注残高 (千円) |
前年同期比 (%) |
|
ソフトウェアライセンス事業(千円) |
109,601 |
94.1 |
8,793 |
97.2 |
|
ハードウェアライセンス事業(千円) |
116,255 |
44.9 |
5,113 |
14.1 |
|
ソリューション事業(千円) |
170,097 |
111.4 |
55,574 |
124.3 |
|
合計(千円) |
395,954 |
75.0 |
69,481 |
77.1 |
c.販売実績
当事業年度の販売実績について、当社は単一セグメントとしているため、部門別に示すと、次のとおりであります。
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部門の名称 |
当事業年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
前年同期比(%) |
|
ソフトウェアライセンス事業(千円) |
109,853 |
101.2 |
|
ハードウェアライセンス事業(千円) |
147,510 |
63.1 |
|
ソリューション事業(千円) |
159,224 |
85.8 |
|
合計(千円) |
416,588 |
78.9 |
(注)最近2事業年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
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相手先 |
前事業年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
当事業年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
||
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金額(千円) |
割合(%) |
金額(千円) |
割合(%) |
|
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富士フイルム株式会社 |
58,632 |
11.1 |
64,431 |
15.5 |
|
関東航空計器株式会社 |
- |
- |
41,854 |
10.0 |
|
Novatek Microelectronics Corp. |
97,764 |
18.5 |
- |
- |
|
株式会社ニコン |
80,219 |
15.2 |
- |
- |
(注)前事業年度及び当事業年度の主な相手先別の販売実績のうち、当該販売実績の総販売実績に対する割合が100分の10未満の場合は、記載を省略しております。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において判断したものであります。
①財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
a.財政状態
当社においては、安定的な事業活動の遂行と積極的な研究開発活動のための資金を確保することが重要課題と認識しており、健全な財政状態を維持するよう取り組んでおります。
当事業年度末の資産合計は、前事業年度より343百万円減少し、1,843百万円となりました。流動資産は、現金及び預金が208百万円減少したことなどにより、前事業年度末より316百万円減少し、1,013百万円となりました。固定資産は、投資有価証券が24百万円減少したことなどにより前事業年度末より27百万円減少し、830百万円となっております。
当事業年度末の負債合計は、前事業年度末より35百万円減少し、81百万円となりました。流動負債は、未払金が14百万円、前受収益が14百万円それぞれ減少したことなどにより、前事業年度末より29百万円減少し、81百万円となりました。固定負債は、前事業年度末より6百万円減少し、残高はありません。
純資産につきましては、当期純損失を285百万円計上したことなどにより、当事業年度末における純資産合計は1,762百万円となり、前事業年度末より307百万円減少しております。
全体として、流動資産の比率が高く、有利子負債がないことなどから自己資本比率も95.6%と高い水準を維持しており、財政状態としては健全な状態を維持しております。
b.経営成績
当事業年度の売上高につきましては、ソフトウェアライセンス事業が109百万円、ハードウェアライセンス事業が147百万円、ソリューション事業が159百万円となり、合計の売上高は416百万円と前事業年度より21.1%の減少となりました。
なお、売上総利益は376百万円と前事業年度より114百万円減少し、売上総利益率は90.5%となっております。
費用・損益面につきましては、販売費及び一般管理費が663百万円と前事業年度より14百万円の増加となり、売上高の低迷により販売費などのコストを賄うことができず、営業損失を286百万円(前事業年度は営業損失157百万円)、経常損失を282百万円(前事業年度は経常損失141百万円)、当期純損失を285百万円(前事業年度は当期純損失144百万円)、それぞれ計上する結果となりました。
今後につきましては、品質を第一とする開発方針を徹底するとともに、開発日程の管理並びに営業活動の進捗管理を強化していくことにより、売上見込み案件の増大と受注確度向上を図り、また、ソリューション事業を本格的に推進することで、売上高の増加を図って参ります。
②キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
当事業年度のキャッシュ・フローの状況につきましては、「(1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。
当事業年度におけるキャッシュ・フローは、売上債権が117百万円減少した一方で、税引前当期純損失を282百万円計上したことなどにより、前事業年度末に比べ208百万円の減少となりました。
資本の財源及び資金の流動性については、当社は、当事業年度末において現金及び預金を738百万円有しており、また、長短借入金等の有利子負債はなく、自己資本比率は95.6%と極めて高い水準にあります。IPの開発を主業務とし、また、ファブレスメーカーである当社の資金需要は、運転資金需要が主なものであり、それにはすべて自己資金で対応可能となっております。
③経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当事業年度は、ライセンス事業は、ソフトウェア部門はほぼ横ばいながらハードウェア部門が大幅に落ち込んだことから前事業年度比25%の減収となった上、ソリューション事業は、開発案件は堅調ながら機器販売の大幅不振で同14%を超える減収となったことから、売上高は同21%減と低迷し、販管費等のコストを賄うことができず、損失の計上を余儀なくされました。
今後とも、品質を第一とする開発方針を徹底するとともに、開発日程の管理ならびに営業活動の進捗管理を強化していくことにより、売上見込み案件の増大と受注確度向上を図り、また、ソリューション事業を積極的に推進することで、売上高の増加ならびに利益の確保を図ってまいります。
④重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この財務諸表の作成に当たりまして、必要と思われる見積りは、合理的な基準に基づいて実施しております。
当事業年度の財務諸表においては、賞与引当金が見積りに基づき計上されており、従業員の賞与の支給に備えるため、支給見込額のうち当期に負担すべき額を計上しております。この見積りの仮定として、期末日後の当社の財政状態等に著しい変動がないことなどを前提としておりますが、期末日後に財政状態等の著しい変動などが生ずることによって実際の支給額が著しく増減した場合には、賞与引当金残高の過不足が生ずる可能性があります。なお、この過不足は翌事業年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがあるものではないと考えております。
販売代理店契約等
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契約の名称 |
会社名 |
契約の内容 |
契約期間 |
|
営業業務提携基本契約 |
新光商事㈱ |
当社製品に関する顧客の開拓、契約締結交渉等の営業業務の提携。 なお、契約は各社とも個別に締結しております。 |
契約締結より1年間。 期間満了の1ヶ月前までにいずれからも更新しない旨の意思表示がない限り一年間延長、以降も同様とする。 (契約締結日)2004年7月1日 |
|
販売契約 |
㈱マクニカ |
当社製品に関する顧客の開拓、契約締結交渉等の営業業務の提携。 |
契約締結より1年間。 期間満了の90日前までにいずれからも解約の申し出のない限り一年間延長、以降も同様とする。 (契約締結日)2002年6月1日 |
(1)研究開発活動の概要
当社の基幹技術はDMNA(Digital Media New Algorithm)という数学的な手法を応用した信号処理に最適化されたアルゴリズムです。当社は、このDMNAを使用した映像・音響・音声関連の信号処理技術を中心に研究し製品開発を進めています。特に、大画面映像分野や周辺技術を取り込んだ製品にもDMNA技術を水平展開しており、ソフトウェアIP、ハードウェアIP、そしてソリューションのより効果的なビジネス拡大を目指して研究、開発を行っています。
またDMNA自体の研究開発も進んでおり、新しい製品分野はもちろんのこと、既存製品も含めた高機能・高性能化に成果を挙げています。
(2)当事業年度(自 2024年4月1日 至 2025年3月31日)における研究開発活動の成果
(ソフトウェアライセンス事業)
映像分野では全世界のモバイル向け地上デジタル放送において必須であるH.264ビデオエンコーダ/デコーダ、WMV9(注22)ビデオデコーダ及びJPEG/Motion JPEGエンコーダ/デコーダの高性能化を行っています。ワンセグ対応需要に応えるため、ワンセグ受信を最適化できるワンセグ・パッケージに加え、エリアワンセグ(注23)放送を低コストで行えるエリアワンセグ送信用エリアワンセグ・ミドルウェアを製品化いたしました。また、国内のワンセグ放送のみならず、海外のモバイル向け地上デジタル放送に対応可能な製品の開発を進めており、市場・顧客の広がりが期待できます。加えて、独自規格のフルHD対応エンコーダ/デコーダ「DMNA-V2」の開発にも成功しています。この独自規格は標準的なH.264の2倍以上の圧縮率を実現できています。なお、「DMNA-V2」の性能をさらに向上させた「DMNA-V3」の開発にも成功しています。また、標準化技術につきましては、画像配信分野で必須の技術ともされるH.264 SVC(注24)リアルタイムエンコーダの開発に加え、最新の国際標準圧縮規格であるH.265ビデオエンコーダ/デコーダ、さらには、放送局等で用いられる素材映像の圧縮を可能にするH.265/HEVC RExt(注25) リアルタイムエンコーダ/デコーダ ソフトウェアの開発に成功しています。さらには、JPEG 2000デコーダの機能向上版の開発を完了したほか、SDR・HDR(注26)変換ソフトウェアに加え、より活用場面の期待されるWDR(注 27)への変換ソフトウェアも開発したほか、当社の独自規格ソフトウェアとして、高速かつ低消費電力が必須のデバイスに最適なV2-Bソフトウェア及び音声帯域レベルで映像が送れるV2-Sソフトウェアの開発に成功しています。なお、近年の開発成果及び製品化は次のとおりです。
第22期(自 2021年4月1日 至 2022年3月31日):インターネット経由のストリーミング(注28)でよく使用されているVP9(注29)の製品化
第23期(自 2022年4月1日 至 2023年3月31日):顧客製品に直接組み込んでいただけるように映像鮮明化技術をソフトウェアIPとして製品化
前事業年度(自 2023年4月1日 至 2024年3月31日):ライブ放送やVR/AR/MR(注30)など幅広い用途で使用可能なJPEG XS(注31)エンコーダ/デコーダ及び主にWeb用の画像に利用されるPNG(注32)デコーダの製品化
当事業年度(自 2024年4月1日 至 2025年3月31日):クラウド上での保管を安心して行えるようにセキュリティ面を担保するJPEG画像の暗号化技術の開発
音響/音声分野では引き続き、AACオーディオのエンコーダ/デコーダ、HE-AAC(注33)デコーダ、WMAデコーダの製品化及び性能向上に努め、音声分野では、ノイズ・サプレッサ、エコー・キャンセラの性能向上やハウリング・キャンセラ、風切り音除去、ズームボイス技術、OPUSの開発に成功しており、今後ともそれらの性能向上、高機能化を進めてまいります。特にHE-AACにつきましては、ARIB規格(注34)対応版の開発に成功し、ハンズフリー(ノイズ・サプレッサ+エコ-・キャンセラ)ソフトウェアにつきましては性能向上・高機能化により、車載品質レベルに到達しています。また、22.2ch AAC(注35)デコーダの開発に成功しているほか、風雑音低減ソフトウェアの低遅延版の開発や音声認識率向上に役立つズームボイスの性能向上に成功しており、ハンズフリーソフトウェアやズームボイスによる音声認識率向上を実感できるデモシステムも開発しています。なお、近年の開発成果及び製品化は次のとおりです。
前事業年度(自 2023年4月1日 至 2024年3月31日):低消費電力マイコン用OPUSの製品化
当事業年度(自 2024年4月1日 至 2025年3月31日):音源分離技術(注36)の研究開発
映像・音響・音声分野に加えて、アンドロイド(注37)対応などの他、これらのコンポーネントを効率よく製品に組み込むために必要となる、各種周辺技術・製品分野の開発も積極的に進めています。また、特定用途向けの独自アルゴリズムを駆使したコンパクトAI(注38)の開発を進め、新たな顧客需要の開拓を進めています。
(ハードウェアライセンス事業)
映像分野では、引き続き高精細、大画面対応に注力しており、H.265、H.264の4K/8Kサイズのエンコーダ/デコーダの性能向上に注力しています。特徴はDMNA技術を使用しているので、画質が綺麗(動画の動きがスムーズ、最初から最後まで高画質を安定維持している、急な変化、激しい動きでも画像が乱れない、原画像を忠実に再生できる、ノイズが少ない)、消費電力が他社比で1/10程度まで低減、回路規模が他社比で1/3程度まで低減、CPUの補助なしで動作させることができる、などです。また、これらの複数製品の機能をひとつに統合することで、さらなる低消費電力化を実現できるマルチデコーダ製品等の開発にも成功しています。大型画面のTV、次世代DVD、多機能セットトップボックス、デジタルビデオカメラ等への採用が期待できます。
また、独自規格によるフルHDの6倍速を実現したニア・ロスレス(注39)エンコーダ/デコーダ、低動作周波数で大画面を高速に処理するJPEGエンコーダ/デコーダ(高速版)を開発しているほか、3D映像へ対応するH.264 MVC(注40)エンコーダ/デコーダの開発にも成功しています。また、高速JPEGを従来の4pixel/clock(注41)から8pixel/clockへとさらなる高速化に成功した他、大画面対応用のH.264 4K2K(注42)エンコーダ/デコーダも開発いたしました。さらに、開発済みのH.264CVのマルチチャンネル化、1/3~1/4固定長圧縮技術や次世代の国際標準規格であるH.265デコーダ/4K、ドライブレコーダや監視カメラなどの証拠画像や自動運転支援に有用とされるH.264 I-only(注43)エンコーダ/デコーダの開発、H.265 8K4K(注44)エンコーダ/デコーダの開発に加え、4K対応版FRUC(注45)、FPGAに搭載できるコンパクト版H.265コーデックの開発、1/2固定長圧縮技術やH.264とH.265のマルチコーデックの開発、また、モバイル端末向けに1/6固定長圧縮技術の開発に成功しています。なお、近年の開発成果及び製品化は次のとおりです。
第22期(自 2021年4月1日 至 2022年3月31日):5G(注46)やリモート機器向けに最適な超低遅延でコンパクトなロスレス エンコーダ/デコーダJPEG XSの製品化
第23期(自 2022年4月1日 至 2023年3月31日):顧客の設計するチップや使用するFPGAに直接組み込んでいただけるように映像鮮明化技術をハードウェアIPとして製品化
前事業年度(自 2023年4月1日 至 2024年3月31日):開発済みのJPEG XSの高機能化
当事業年度(自 2024年4月1日 至 2025年3月31日):FPGA向けに最適化したJPEG XSの開発及び次世代の圧縮・伸張の国際標準規格であるVVC(注47)の研究開発
今後とも、既開発技術の高度化、高機能化に加え、複数のビデオ規格に効率的に対応できるよう、MPEG-2、MPEG-4、H.264、及びH.265等の圧縮・伸張を実現するマルチエンコーダ/デコーダ製品や8K/4Kに対応した製品並びにVVC(注47)の開発・製品化に注力してまいります。
(ソリューション事業)
2010年3月期末にはハードウェア製品として開発済みのH.264をフルHD対応のコーデックLSIとして開発することに成功いたしています。このフルHD対応H.264LSIは16チャンネルまでのマルチチャネルで同時エンコード/デコード処理が可能なうえ、低ビットレート、高画質、低消費電力、低遅延を実現しています。さらに、顧客の使い勝手を向上させるため、H.264LSIをCPU搭載のボード仕立てとした製品(製品名TM5184MJC)を開発しました。また、当社の本格的ソリューション製品としましては、独自規格の「DMNA-V2」を用いて中継現場に必須のテレビ局用低遅延送り返しシステムも開発しています。さらに、モニタリング・システムとして低遅延伝送装置(小型版)、及びTM5184MJCを用いた4K伝送装置を開発いたしました。また、低遅延伝送装置(小型版)の表示(受信)装置として市販のタブレットを用いることのできる製品や低遅延送り返しシステム用のTally(注48)/Intercom装置に加え、Wi‐Fi(注49)規格を使って世界で初めてiPad50台に映像と音声をリアルタイム配信できる伝送装置Wi‐Fi Sync Viewerの開発や放送波レベルの画像に対応するコンパクトサイズの4K動画プレーヤの製品化に成功しており、Tally/Intercom装置の性能向上やWi-Fi Sync Viewerの機能拡充を実施したほか、当社ハードウェアIPのFPGAデザインキットの開発も行っています。さらに、低遅延伝送装置(小型版)の表示(受信)を複数画面化したマルチビュー・システムの開発に成功したほか、モバイル映像伝送システム(製品名:Point-One)を開発、製品化しています。なお、近年の開発成果及び製品化は次のとおりです。
第22期(自 2021年4月1日 至 2022年3月31日):雪・モヤ・霧などの気象条件によって視界が悪化した映像や、逆光・光量不足による暗い映像など、不鮮明な映像の視認性を改善する映像鮮明化装置の製品化
第23期(自 2022年4月1日 至 2023年3月31日):JPEG-XSを採用した超低遅延IP伝送システム、ワイヤレス化により撮影現場での煩雑なケーブル取り回しを不要とするVマウントプレート(注50)対応の小型版低遅延デコーダ、さらには、4K版低遅延IP伝送システムの製品化
前事業年度(自 2023年4月1日 至 2024年3月31日):低遅延伝送装置(小型版)の高機能版(デュアルエンコード/デコード、SRT(注51)機能、映像鮮明化機能実装版)の製品化
当事業年度(自 2024年4月1日 至 2025年3月31日):LucidEye映像鮮明化App(Windows版)の開発・製品化
今後とも更なる利便性の向上やソリューション製品の開発による顧客需要の掘り起こしを進めてまいります。
これらの開発により、当事業年度における研究開発費は、
<用語説明>
(注22)WMV9(Windows Media Video 9の略で、米国Microsoft社独自の映像圧縮方式。インターネットやPC上で幅広く利用されている。)
(注23)エリアワンセグ(携帯端末向けの地上デジタル放送のしくみであるワンセグ技術を使って、テレビ局の放送とは別に、狭いエリアに限定して独自の映像やデータを配信するサービス。)
(注24)H.264 SVC(H.264 Scalable Video Codingの略で、2007年11月に新しく追加された最新の映像符号化標準規格。ネットワークを含む再生環境が多様(端末の性能やネットワークの伝送速度が多様であること)であっても、シンプルでその環境に適応した映像配信システムを構築しやすくなる。)
(注25)H.265/HEVC RExt(H.265/HEVC Range Extensionsの略で、膨大なデータ量となる4K等の高解像度映像の素材映像を従来より少ないデータ量に圧縮して伝送・蓄積することができる高圧縮技術。)
(注26)SDR・HDR(スタンダード・ダイナミック・レンジとハイ・ダイナミック・レンジのことで、ダイナミック・レンジとは明るさの幅をいう。HDRはSDRの100倍の輝度をもつため、よりリアルで自然な描写が可能となる。)
(注27)WDR(ワイド・ダイナミック・レンジのことで、HDRよりも処理が軽いので動画に乱れが発生しにくい、HDRと比べると録画データの多きさが半分になる、などの特徴をもつ。)
(注28)ストリーミング(インターネット上の動画や音楽などのデータをダウンロードしながら同時に再生すること。)
(注29)VP9(Googleが開発しているオープンでロイヤルティフリーな動画圧縮コーデック。)
(注30)VR/AR/MR(Virtual Reality(仮想現実)/Augmented Reality(拡張現実)/Mixed Reality(複合現実)の略で、現実世界と仮想世界を融合させる技術。)
(注31)JPEG XS(視覚的にロスレスで、低遅延で軽量の画像及びビデオコーディング規格。バーチャルリアリティ、ドローン、カメラを使用した自動運転車、ゲーム、放送向けの高品質コンテンツのストリーミングのために設計された最初のISOコーデック。)
(注32)PNG(Portable Network Graphicsの略で、web用に開発・設計された画像のロスレス圧縮伸張技術。)
(注33)HE-AAC(AAC_SBRとも呼ばれ、AAC-LCにSBRの機能を追加したもの。SBRは高周波域の波形を補完するツール。SBRを利用することで低ビットレートでも中~高音質の再生が可能となる。)
(注34)ARIB規格(Association of Radio Industries and Businessの略で、地上デジタル放送のコーデック規格。)
(注35)22.2ch AAC(スーパーハイビジョンのための3次元立体音響システムとしてNHK放送技術研究所が定めたマルチチャネル規格。)
(注36)音源分離技術(複数の音が混ざった音声信号から、それぞれの音源(話し声、音楽、環境音など)を個別に取り出す技術。)
(注37)アンドロイド(Googleが2007年11月に発表した、スマートフォンやタブレットPCなどの情報端末を主なターゲットして開発されたプラットフォーム。)
(注38)AI(Artificial Intelligenceの略で、人工知能と訳され、一般的に、人間の言葉の理解や認識、推論などの知的行動をコンピュータに行わせる技術。)
(注39)ニア・ロスレス(ロスレス圧縮とは、データを全く損なわずに復元できるような圧縮方式のこと。データを再び元の状態に戻せるところから、可逆圧縮とも呼ばれる。ニア・ロスレス圧縮は、完全な可逆圧縮ではないものの、不可逆圧縮ほどには復元時のデータ欠損がない圧縮方法のこと。)
(注40)H.264 MVC(H.264 Multi View Codingの略で、2009年3月に新しく追加された最新の映像符号化標準規格。複数のカメラ等の視点からの入力映像を統合して符号化する。自由視点映像や3Dテレビ等の映像アプリケーションに利用できる。)
(注41)pixel/clock(pixelとは画素数のことで、clockとは処理の単位のこと。つまり、4pixel/clockとは一回の処理で4画素処理することをいい、8pixel/clockとは一回の処理で8画素処理すること。)
(注42)4K2K(フルHD(1920×1020)の約4倍とされる4096×2160の画素数に対応できる解像度技術のこと。)
(注43)H.264 I-only(イントラフレームだけで圧縮することによりインターフレームとの参照用外部メモリを不要としたもの。コンパクトかつ高画質な上、廉価なFPGAでも動作する。)
(注44)8K4K(フルHDの約16倍、4K2Kの約4倍とされる8000×4000の画素数に対応できる解像度技術のこと。スーパーハイビジョン(UHDTV、7680×4320)規格に該当する。)
(注45)FRUC(フレーム・レート・アップ・コンバーター。補間フレームを生成してフレーム数を増加させることで、オリジナルの映像をより高精細な映像の規格に形式変換する技術。)
(注46)5G(5th Generation(第5世代移動通信システム)のこと。「高速大容量」「高信頼・低遅延通信」「多数同時接続」といった特徴を有し、日本では2020年3月から商用サービスが開始されている。)
(注47)VVC(Versatile Video Codingの略で、国際標準化機構のITU-TとISO/IECで2020年8月に規格化された。現在主流の国際標準規格のH.265/HEVCに対して2倍の映像圧縮性能を達成する映像符号化方式。)
(注48)Tally(タリー・ライトのこと。放送・中継現場でどのカメラの映像が記録中(放送中)かを出演者やスタッフに知らせるためにカメラやモニター上に点灯させるライト。)
(注49)Wi-Fi(無線LANの規格の一つ。Wi-Fi Alliance(米国に本拠を置く業界団体)によって、国際標準規格であるIEEE 802.11規格を使用したデバイス間の相互接続が認められたことを示す名称。)
(注50)Vマウントプレート(放送業務用機器等の業務用カメラや照明またはモニター等に備えられている、外付けバッテリー等の外れ防止のためのV型ロック機構。)
(注51)SRT(Secure Reliable Transportの略で、カナダのHaivision社が開発したオープンソースのIP画像伝送技術。不安定なネットワーク環境下でも高品質の画像伝送が可能。)