第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1)経営方針

当社の主たる事業は、核酸医薬開発及びDDS技術の知見を活かしつつ、他企業との協業等を活用することで効率的に複数の核酸医薬の開発候補アセットの創出を進め、後期臨床開発ステージに入る時点までに、製薬企業にライセンスアウトを行うことです。RNA医薬の研究開発経験と実績及びこの間に築いた豊富なネットワークを生かし、複数のパイプラインを同時並行でインキュベートし “mRNA for Health”のグローバルリーダーとなることを目指します。

 

(2)目標とする経営指標

当社は、非臨床試験や初期臨床試験を実施して得られた開発候補品のアセットを製薬会社等に導出し、市場に高品質のmRNA新薬を効率的にもたらすmRNA創薬ビジネスを2023年1月から開始しておりますが、現時点では継続的な事業利益を計上する段階には至っておりません。

当社は、RNA創薬を目指すアカデミアやバイオベンチャー、企業との共同研究を推進し、当社のRNA創薬にかかるノウハウを活かしIPを創出、非臨床試験や初期臨床試験まで実施し、RMA医薬候補のアセットとして、大規模な臨床開発が実施可能な大手製薬企業等に導出(ライセンスアウト)します。アセットの導出時に、マイルストーンを受領し、また開発に成功し販売に至った場合には、ロイヤリティを受領します。これに加え、当社の核酸医薬に関する研究開発経験を活かし、開発候補に至らずとも収益が得られる受託型事業にも取り組んでおり、収益の増加を目指しております。

開発候補品の選定については、補助金事業の利用や企業との共同開発などにより自社の開発コストを削減しながら、製薬企業のニーズに沿ったアセットの選択により導出確率を高めたIP取得の積み上げを図り、複数のアセットを継続的に導出し、早期に継続的な黒字化を実現することを中長期的な目標としております。

 

(3)経営環境及び対処すべき課題

当社は、2023年1月にmRNA医薬の開発候補及び知的財産を創製し、大きな資金及びリソースの投入が必要な後期臨床開発を開始する前のステージで製薬企業へ導出することにより収益を得るという事業モデルに転換し2年が経過しました。今後の当社の成長戦略として、以下の3項目を重点課題として取り組んでまいります。

 

①臨床試験の加速化

既に臨床試験入りしているTUG1 ASOの治験を加速化していち早くPOCを確立し、製薬企業との導出或いはアライアンスを進めてまいります。

オーストラリアでの治験開始が間近に迫っているRUNX1 mRNAに関しても臨床データを早急に取得し、POC確立および製薬企業とのアライアンスの道を探ってまいります。

 

②mRNAシーズの探索

自社における探索に加え、企業、バイオベンチャー、及びアカデミアからシーズを、共同研究などを通じ導入し、mRNA医薬のパイプラインの拡充を図ります。これには、mRNAエンコード抗体、ゲノム編集、in vivo /ex vivo、CAR-T療法などmRNAの適応が見込まれる新規のプロジェクトが含まれます。

 

③DDS技術の見直し

PRDM14、TUG1 ASOおよびRUNX1 mRNAの臨床および非臨床試験データが蓄積し、ナノキャリア時代から積み上げて来たポリマーDDS技術の核酸創薬への応用が急速に進むと共にGMP製造のパートナー候補との交渉も進んでおり、プラットフォーム技術としての価値が向上しております。今後は疾患およびmodalityに応じて、ポリマーとLNPを適切に選択し、パイプラインへの応用或いはプラットフォーム技術としてのアライアンスを検討してまいります。

 

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループは、“Robust foundation for Drug Discovery Concertを経営理念とし、RNA医薬の開発候補アセットの早期ライセンスアウトすることをビジネスモデルとして、持続可能な社会の実現と永続的な企業価値の向上を目指しております。このために当社グループが取組むべき課題は、「①医薬品のアセット創出を通じた社会貢献への取り組み」、「②医薬品のアセット創出を通じた人材育成への取り組み」、「③医薬品のアセット創出を通じた環境保全への取り組み」であると考えており、RNA医薬品の創出を通じた社会への貢献を目指してまいります。さらに、コーポレート・ガバナンスの強化と経営全般の効率化を図りながら、経営資源を最大限に活用し、サステナビリティ企業への成長に取り組んでおります。

 

(1)ガバナンス

 当社グループは、サステナビリティ関連のリスク及び機会を監視及び管理するための特別の組織は設置しておりませんが、内部統制の一環として、サステナビリティ関連も含めたリスクを抽出し、リスク統制表を作成し、対応状況について内部監査において四半期毎にチェックしております。この結果は社長に報告され、重要事項に関しては必要に応じ取締役会に報告・共有を行う方針です。

 

(2)戦略

①医薬品のアセット創出を通じた社会貢献への取り組み

 当社はRNA医薬品のシーズを獲得し、アセット化しライセンスアウトする事業モデルであり、事業推進により新規医薬品を創出することで、日本の創薬基盤に貢献することができ、人々の健康と幸福の実現に寄与することができると考えております。

 

②医薬品のアセット創出を通じた人材育成への取り組み

 当社はジェンダーレスで多様性ある人材こそが企業成長のドライバーであるとの考えのもと、従業員エンゲージメントの向上、従業員それぞれが能力を発揮し活躍できる環境の整備、健康経営の実施等、人的資本への投資についても積極的に行い、企業と従業員が共に成長できる体制の構築を目指します。

 当社は前連結会計年度において、当社経営理念の実現と人材成長の基盤となる仕組みである人事評価制度を見直し、企業理念・経営目標から、個人ごとに求められる役割人材ビジョン(目指すべき人材像)に基づき、各従業員に期待される役割の発揮状況や行動を適正に評価し、人材育成に反映することによって、人事制度全体を有効に機能させることを目的とした改定を行いましたが、当連結会計年度より本格運用を開始し、各自に更なる成長を促す制度として定着しつつあります。

 

③医薬品のアセット創出を通じた環境保全への取り組み

 治験薬や化粧品原料等の安全性・品質管理を徹底しており、またオフィスでは環境に配慮したエコ活動を推進するとともに、研究施設からの排気や廃棄物等の排出は環境への配慮を徹底します。

 

(3)リスク管理

 サステナビリティ関連のリスク管理については、内部統制の一環であるリスク統制表において管理され、内部監査において社内各部門から関連情報を収集し、四半期毎にチェックしております。また、取締役会及び監査役会の監督、指導のもと、対応策の計画と実施を管理しております。

 

(4)指標及び目標

当社グループではサステナビリティ関連の重要課題として「①RNA医薬品のアセット創出を通じた社会貢献への取り組み」、「②医薬品のアセット創出を通じた人材育成への取り組み」、「③医薬品のアセット創出を通じた環境保全への取り組み」を挙げております。

また、当社グループでは、上記「(2)戦略」において記載した、②医薬品のアセット創出を通じた人材育成への取り組みに関する方針については、管理職に占める女性労働者の割合を指標としており、当連結会計年度末実績として50%を超えているため、これを維持することを目標としております。

 

3【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。

 

(1)パイプラインに関するリスク(特に重要なリスク)

①新規パイプラインの創製に関するリスク

当社は、創薬シードを効率的に新たなRNA医薬パイプラインとして創製するとともに知財権を取得、非臨床研究終了後から早期臨床試験終了時までに導出し、ライセンス収入を得る事業を展開します。具体的には、創薬シードは、自社及び共同研究の実施などを通じたオープンイノベーションによりアカデミア、製薬また非製薬企業から確保いたします。開発候補を創製する過程において、RNAなどの核酸の配列及び最適なデリバリー方法などを検討し知財権を確立します。その後、非臨床開発、早期臨床試験と併行してライセンスアウトいたします。しかしながら、すべての創薬シードが順調に新規パイプラインへ移行しない可能性があります。

このため、創薬シードは、オープンイノベーションを最大限に活用し幅広いソースから質の高いシードを定常的に確保することでリスク低減に努めております。また、シードから新規パイプライン創製に至る確率を向上させるため、共同研究や他社及びアカデミアからの技術導入及び提携やM&A等による技術導入を柔軟に行います。なお、各プロジェクトについては、定期的に優先順位付けを行い経営資源を効率的に投入しております。

 

②非臨床ステージ以降に進捗したパイプラインに関するリスク

当社のすべてのパイプラインは研究開発途中であり、順調に推移しない可能性が常に存在します。また、当社が意図しない提携解消の可能性、研究開発が一定の段階まで進捗した際にライセンスアウトできない可能性、ライセンスアウトできたとしても当社の望む契約条件とならない可能性もあります。

これらが顕在化した場合、研究開発の遅延、研究開発コストの増加、将来のライセンス収入の減少等により、投下資金の回収が困難又は遅延することとなり、株価の低迷や他のパイプラインへの悪影響等も想定され、研究開発計画及び経営成績等に重大な影響を及ぼすおそれがあります。

当社は医療ニーズや開発トレンドに応じた開発方針の変更、提携先の探索等により本リスクの低減に努めております。

 

③ENT103(商品名:コムレクス®耳科用液1.5%)に関するリスク

当社がセオリアファーマ株式会社と共同開発を実施してきた耳鼻咽喉科領域における開発品ENT103は、2022年4月にセオリアファーマ株式会社により外耳炎及び中耳炎を対象に製造販売承認申請を行い、2023年3月に製造販売承認を取得し、2023年6月に販売開始しておりますが、想定した売上を達成できない可能性があり、これらが顕在化した場合、中長期的な事業計画の達成が困難になるおそれがあります。

このため、当社はセオリアファーマ株式会社と販売計画や販売プロモーション計画の協議等により、売上目標の精度を高め、目標達成に向けて体制整備を行っております。

 

(2)研究開発資金の確保に関するリスク(特に重要なリスク)

新薬の研究開発には長期にわたり多額の研究開発投資を要しますが、当社は大規模となる後期ステージの開発を自社で実施せず早期ライセンスアウトを目指す戦略とし、大規模な資金投入を伴わない開発段階までのパイプライン創製を行うビジネスモデルに転換しました。当社において研究開発資金の確保は重要課題の1つでありますが、これまでに実施したファイナンスによる調達資金及び公的な競争的資金等の活用などにより研究開発資金を確保しております。さらに、新規パイプライン創製を開始後ライセンスアウトまでには複数年の研究開発投資が必要ですが計画通りに進捗する保証はなく、定常的ライセンスアウトが実現する状態に到達するまで営業キャッシュ・フローがマイナスの状態が継続いたします。このため、研究開発プロジェクトの優先順位付けにより質の高いプロジェクトに集中し、進捗管理を厳密に行うことで進捗速度の最大化とコスト削減を両立させております。また、資金調達が必要となった場合に備え、効率的な資金調達手段を検討しております。

 

(3)小規模組織であることに関するリスク

①人材の確保及び特定の人材への依存に関するリスク

当連結会計年度末現在、当社は従業員数20名の小規模組織であります。限られた人的資源に依存しているため、従業員に業務遂行上の支障が生じた場合や大量に退職した場合には、各種業務に影響を及ぼすおそれがあります。また、事業モデルにあわせた採用計画を立案、実施しておりますが、想定したタイミングで適切な人材を採用できなかった場合も、各種業務に影響を及ぼすおそれがあります。

このため、教育訓練の実施、業務手順の文書化等、内部統制のフレームワークを活用した属人化の解消策等により、人材のバックアップ体制を拡充しております。また株式報酬制度の導入等による従業員へのインセンティブの付与や成果主義に基づく人事制度の導入等により従業員のモチベーション向上にも努めております。

 

②第三者への依存に関するリスク

現在当社は、事業の遂行に必要な機能のすべては有していないため、それらの業務は外部へ委託しており、主には、非臨床試験、臨床試験を研究開発業務受託機関に、治験薬の製造を医薬品製造受託機関等にそれぞれ委託しております。これら受託機関等の倒産、契約の解消、当社が望む条件で契約締結又は更新できない等の可能性があり、当社は第三者への依存度が高い状況にあるため、これらリスクが顕在化した場合、代替機関の選定や移管のためのコスト増、臨床試験の遅延等が生じ、事業継続に重大な影響を及ぼすおそれがあります。

委託先とは相互利益の考えのもとに契約を締結しており、今後もこの考えを継続することで現契約の維持につながると考えております。また、定期的な連絡会議や担当者レベルでの日常的なコミュニケーション等により、関係の強化や認識の共有等にも努めております。万が一の事態に備え、代替候補先の探索検討を行うことでも、本リスクの低減を図っております。

 

③導入、M&A等に関するリスク

当社は、新規パイプラインを基本的にはRNA創薬に限定し、同薬剤開発に必要なアセットを取得し、製薬企業に導出する企業を目指しています。その上で、既に当社内で保有しているパイプラインに加え、質の高い創薬シード及びRNA医薬品開発効率を向上させるための様々な新規技術を世界中のアカデミア、バイオベンチャーの情報を収集し、評価を進め、それらを獲得すべくライセンス契約又はM&Aを行ってまいります。かかる導入、投資又は買収等が成功する保証はなく、想定した時期に提携やM&A等が成立する保証もなく、また、成立しても想定した成果が得られない可能性もあり、中長期的な事業目標が達成できないおそれがあります。

このため、導入やM&A等の検討にあたっては、対象となる企業に関する詳細なデューデリジェンスを行うなど、意思決定に必要十分な情報を収集し、企業価値、事業価値等について慎重な評価検討を行うこととしております。

 

(4)その他のリスク

①競合に関するリスク

当社は現時点では主にRNA医薬品開発を実施しております。新規医薬品の市場は国内外を問わないことから、常に日本国内のみならず世界中の同業他社と競合状態にあります。当社としては、いち早く競争力のある新薬パイプラインを創製すべく研究開発に邁進しておりますが、他社がより優位性のある製品を開発した場合、当社のパイプラインの導出に関する成功確率が低下する可能性があり、事業継続に重大な影響を及ぼすおそれがあります。

このため、選択する創薬シードの質を高める、定期的に競合優位性を確認し、優先順位を柔軟に変更するなどにより、当社の研究開発ポートフォリオ価値を保っております。

 

②知的財産に関するリスク

当社は、創薬シードから開発候補を創製する過程で得られた成績を基に、候補ごとに特許を出願し、権利化いたします。しかしながら、出願した特許が全て成立するとは限りません。また、ある候補についての特許を実施するためにはライセンスを受ける必要のある第三者特許が生じ、そのライセンスを受けることができなかった場合や、多額の実施料の支払いが必要になった場合には、当該候補の他社への導出が困難となり事業計画や経営成績等に影響を及ぼすおそれがあります。さらに、他者が当社と同様の研究開発を行っていないという保証はなく、今後も当社が他者の特許に抵触するような問題が発生しないという保証はありません。このような問題を未然に防止するため、当社は、自社及び特許事務所等を通じた特許調査を実施しております。しかし、このような知的財産権の侵害に関する問題の発生を完全に回避することは困難であり、第三者との間で特許権に関する紛争が生じた場合には、事業戦略や経営成績等に重大な影響を及ぼすおそれがあります。

 

③化粧品材料販売に関するリスク

当社は株式会社アルビオンに対し化粧品の材料供給を行っておりますが、同社に対する依存度が高く、同社からの材料発注が想定を下回ることにより、事業計画を達成できないリスクがあります。

また、化粧品事業は、常に激しい企業間競争にさらされており、他社がより優位性のある製品を発売した場合や、顧客のニーズの移り変わりなど、市場から受け入れられなくなるリスクは常に存在し、これらのリスクが顕在化した場合、化粧品材料供給収入の減少等、経営成績等に影響を及ぼすおそれがあります。このため、消費者ニーズのタイムリーな把握による製品の改良、新製品の開発等により本リスクの低減に努めております。

さらに、当社の供給する原材料等の品質管理には検査の徹底等により万全を期しておりますが、品質や安全性について疑義が生じた場合は、化粧品材料供給収入の減少等により経営成績等に影響を及ぼすおそれがあり、また結果的に当社の製品及び原材料に品質欠陥や安全性に関する問題が生じなかった場合においても、風評被害等により、同様の影響を受けるおそれがあります。このため、製造受託機関による品質適合検査の実施及び当社による検査結果の確認等により、品質管理とその維持に努めております。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(業績等の概要)

(1)業績

当連結会計年度における我が国経済は、雇用や所得環境が改善するなど、景気は緩やかな回復傾向にあります。一方、エネルギー価格や物価の上昇、米国新政権による貿易政策の変更による経済変調など、依然として先行き不透明な状況が続いております。

このような経済環境のもと、当社は、既存パイプラインの研究開発推進、初期段階パイプラインの推進及び新規課題の探索に加え、顧客からのニーズに応える形でmRNA医薬品の創製に関する受託研究などを進めてまいりました。

当社臨床開発パイプラインであるTUG1 ASOに関しては、膠芽腫を対象とする医師主導第Ⅰ相治験が予想を大きく超えるスピードで症例登録が順調に進み、計画されている4段階の増量コホート中、第3段階の用量まで到達しました。本治験において、これまでのところ重篤な副作用は確認されておらず、2025年度内には症例の登録が完了出来る見込みです。治験の推進と並行して、2025年2月にTIDES ASIA 2025、また4月にThe 4th China Nucleic Acid Drug and Neotype Vaccine Industrial Conferenceにおいて、TUG1 ASOおよびDDSとして使用している当社独自のYBCポリマーについて紹介するなど、製薬企業への導出活動も進めております。引き続き、積極的に国際的なイベントへの参加を予定しており、導出を実現するべく活動を行ってまいります。なお、TUG1 ASOで用いている当社独自のDDS技術YBCポリマーは、先行するPRDM14 siRNAの医師主導治験でも使用しており、これらの成績から本技術の安全性および高い血中滞留性が既に検証されており、プラットフォームDDS技術としての価値が向上しています。

RUNX1 mRNAに関しては、当社子会社の株式会社PrimRNAが医師主導第Ⅰ相治験の国内実施に向けて準備を進めてまいりました。しかしながら、規制当局との交渉が長引いたため、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)と研究開発計画の変更について協議し、企業治験としてオーストラリアで実施することに承認を得ました。これにより2025年6月頃には治験が開始できると見込んでおります。

花王株式会社との共同研究で進めているアレルギー疾患を対象とする免疫寛容ワクチンに関しては、一番手のプロジェクトについて開発候補品の選定に向けた薬理研究を進めております。動物試験施設の変更に伴うスケジュールの遅れを取り戻すべく花王株式会社と協力してプロジェクトの加速を図り、2025年中に、最新の競合状況、花王株式会社が独自開発した免疫制御技術の本疾患領域での優位性などを総合的に評価し、導出候補品としての採否を決定する予定です。

mRNA医薬の研究開発については、RUNX1 mRNAの第Ⅰ相治験開始が視野に入ったなどの状況から、パイプラインの拡充についての取り組みを進めております。この中には、mRNAエンコード抗体、ゲノム編集、in vivo/ex vivo CAR-T療法などmRNAの適応が見込まれるプロジェクトが含まれています。一方で、事業推進の新たなエンジンとして、顧客からのニーズに応える形で、mRNA医薬品の創製に関する受託研究型ビジネスを開始しました。既に、顧客が保有するmRNA医薬品候補の研究開発支援を実施し、収益を計上しております。

また、当社が保有する抗体およびその産生株について、64Cu で標識した本抗体を用いて、膵臓がんを対象とした診断薬および治療薬の開発を推進するリンクメッド株式会社に譲渡することとし、2025年2月、一時金の受領および診断薬の販売に至った場合に、総額数億円程度のロイヤリティの受領が可能となる契約を締結いたしました。

当社の創薬パイプラインの状況については、第一部「企業情報」第1「企業の概況」3「事業の内容」をご参照ください。

 

(受託研究)

顧客からのニーズに応える形で、mRNA医薬品の創製に関する受託研究型ビジネスを開始しております。Crafton Biotechnology社および神戸MAB組合との協業で進めているSCARDA事業“PureCap 法を基盤とした高純度 mRNA国内生産体制の構築と送達キャリアフリーの安全なmRNAワクチンの臨床開発”に関しては、分担機関として非臨床試験を担当しております。今後も、企業からの受託研究事業およびAMED等の公的資金を活用する事業に参画する形で受託的研究事業を積極的に展開してまいります。

 

(販売事業の状況)

株式会社アルビオンが販売する美容液エクラフチュール及び薬用美白美容液エクシア ブライトニング イマキュレート セラム用の当社技術を応用した原材料を供給しております。

コムレクス®耳科用液1.5%(開発コードENT103)は、2023年6月からセオリアファーマ株式会社により販売されております。

 

 

以上の結果、当連結会計年度の売上高は、化粧品材料供給収入及び受託研究収入等により108,516千円(前連結会計年度比19.9%減)、営業損失は755,349千円(前連結会計年度営業損失864,415千円)、経常損失は687,546千円(前連結会計年度経常損失749,847千円)、親会社株主に帰属する当期純損失は835,380千円(前連結会計年度親会社株主に帰属する当期純損失780,002千円)となりました。

なお、当連結会計年度におきまして、以下の営業外収益及び営業外費用並びに特別損失を計上しております。

・研究開発等に係る補助金収入41,954千円を営業外収益に計上しております。

・外国為替相場の変動による為替差損4,794千円を営業外費用に計上しております。これは主に、当社の保有する外貨建預金の評価替えにより発生したものであります。

・投資有価証券評価損144,000千円を特別損失に計上しております。これは、当社の保有する投資有価証券の時価の著しい下落に伴う減損処理により発生したものであります。

 

(2)キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ378,061千円減少し、1,197,201千円となりました。当連結会計年度のキャッシュ・フローの概況は以下のとおりです。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によるキャッシュ・フローは、401,617千円の支出(前連結会計年度は585,081千円の支出)となりました。研究開発の推進に伴う研究開発費の支出等による税金等調整前当期純損失832,594千円等によるものです。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるキャッシュ・フローは、587,528千円の収入(前連結会計年度は793,007千円の収入)となりました。有価証券の取得による支出5,200,160千円、有価証券の償還による収入5,800,000千円等によるものです。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によるキャッシュ・フローは、568,775千円の支出(前連結会計年度は3,728千円の収入)となりました。転換社債型新株予約権付社債の償還による支出568,675千円等によるものです。

 

(生産、受注及び販売の状況)

(1)生産実績

当社グループは研究開発を主体としており、生産実績を定義することが困難であるため、生産実績の記載はしておりません。

 

(2)受注実績

当社グループは受注生産を行っておりませんので、受注実績の記載はしておりません。

 

(3)販売実績

当連結会計年度における販売実績を示すと、次のとおりであります。

当連結会計年度

(自 2024年4月1日 至 2025年3月31日)

販売高(千円)

前年同期比(%)

108,516

80.1

(注)主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は、次のとおりであります。

相手先

前連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

当連結会計年度

(自 2024年4月1日

至 2025年3月31日)

販売高(千円)

割合(%)

販売高(千円)

割合(%)

株式会社アルビオン

104,799

77.3

75,700

69.7

セオリアファーマ株式会社

26,222

19.4

日本電気株式会社

22,816

21.0

 

(経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容)

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

(1)財政状態

当連結会計年度末における資産は、主に現金及び預金並びに有価証券の減少等により、前連結会計年度末に比べ1,074,394千円減少し、3,996,884千円となりました。負債は、主に転換社債型新株予約権付社債の一部償還に伴う減少等により、前連結会計年度末に比べ392,837千円減少し、1,257,054千円となりました。純資産は、親会社株主に帰属する当期純損失の計上による利益剰余金の減少等により、前連結会計年度末に比べ681,557千円減少し、2,739,830千円となりました。

 

(2)経営成績

当連結会計年度における経営成績については、「(業績等の概要) (1)業績」をご参照ください。

 

(3)キャッシュ・フロー

当社グループは現在、主たる定例的な営業収益がありませんので、研究開発の推進に伴う研究開発費の支出を、主に株式の発行による収入及び化粧品原材料の供給収入で賄っております。当連結会計年度末日現在の資金残高は1,197,201千円ですが、一時的な余剰資金については預金又は元本維持を原則とした安全かつ流動性の高い金融商品等に限定して運用しており、それら預金や金融商品まで合わせますと3,505,832千円となります。

一方、支出側としましては、当連結会計年度の経常損失は687,546千円、第30期の予想経常損失が856,318千円でありますので、当面のRNA創薬ビジネスに係る研究開発資金の確保やM&A等の支出にも対応できる資金の確保までできていると判断しております。

 

(4)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであます。

 

5【重要な契約等】

(1)共同開発及び共同商業化に関する契約書並びに付随する覚書

契約会社名

(契約締結日)

契約期間

主な契約内容

セオリアファーマ株式会社

(2018年6月14日)

2018年6月14日から、両社が解約に合意するまで。

①当社とセオリアファーマ株式会社(以下、「セオリア」)は、セオリアが所有する医療用医薬品候補物の商業化に向けた共同開発を行い、製造販売承認の取得及び販売を早期に開始するため、相互に協力し推進する。

②本製剤の国内販売から得られる利益は両者が均等に分配するものとする。

 

(2)包括提携契約書

契約会社名

(契約締結日)

契約期間

主な契約内容

アクセリード株式会社

(2023年1月26日)

2023年1月26日から、2028年1月25日まで。

①mRNA医薬品の薬効評価、非臨床試験及び製造に関する一連の業務をアクセリードの子会社である創薬ソリューションプロバイダーであるAxcelead Drug Discovery Partners株式会社及びmRNA CDMOの株式会社ARCALISに委託する。対価については、プロジェクトごとに決定する。

②上記業務の範囲はmRNAの配列設計、製造、評価、製剤化、前臨床試験、INDコンサルティングを含むが、これらに限定されない。

 

(3)包括共同研究契約書

契約会社名

(契約締結日)

契約期間

主な契約内容

花王株式会社

(2023年11月13日)

2023年11月13日から2026年11月12日まで。

①当社と花王株式会社(以下、「花王」)は花王が独自開発した免疫制御技術を用いたmRNA医薬品の創薬を目的として相互に協力する。

②花王は当社に技術情報を開示し、当社は個別プロジェクトを提案、推進する。

 

(注)1.株式会社IPガイアとの包括提携契約書につきましては、重要性が乏しくなったため記載を省略しています。

2.当社は、2023年1月26日開催の取締役会において、第三者割当による第6回無担保転換社債型新株予約権付社債及び第20回新株予約権の募集を行うことを決議し、2023年2月13日付で割当を実施いたしました。これに伴い、2023年1月26日付で割当先の業務執行組合員を務める株式会社ウィズ・パートナーズ(以下「ウィズ・パートナーズ」)との間で投資契約書を締結しております。当該契約において当社が新たに株式等の発行を行う場合はウィズ・パートナーズと事前協議を行う旨を規定しており、また、ウィズ・パートナーズは当社役員について候補者を指名する権利を有しておりますが、企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(令和5年12月22日 令和5年内閣府令第81号)附則第3条第4項の規定に基づき、記載を省略しております。

 

 

6【研究開発活動】

当社グループにおける研究開発は、研究開発部門を中心に実施しております。当連結会計年度末現在で、研究開発スタッフは14名にのぼり、これは総従業員の70.0%に当たります。

当社グループは当連結会計年度において、以下のような研究開発活動を実施しており、研究開発費の総額は422,482千円となりました。

(1)当社グループの研究開発活動の概要

「第1 企業の概況 3 事業の内容」に記載のとおり、当社グループの主たる事業目的は、新たな治療技術として注目されるmRNAに特化し、効率的に複数のmRNA医薬の創薬及び知財獲得を進め、後期臨床開発ステージに入る時点までに、製薬企業にライセンスアウトを行うことであり、最先端のサイエンスで新たな治療法を生み出し、患者さんにお届けすることを目指しております。前述のとおり当社グループの研究開発活動は、研究開発部門及び提携先との共同研究や委託を中心に実施しております。

 

(2)当社グループの開発品目ごとの研究開発状況について

当社が研究開発を進めるパイプラインは5品目であり、これに続くパイプライン拡充を進めています。

創薬パイプラインの概要及び進捗状況は、「第1 企業の概況 3 事業の内容 (3)当社の事業展開 ②当社のパイプラインについて」に記載のとおりであります。