文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループ(当社及び連結子会社)が判断したものであり、達成を保証するものではありません。
当社グループは、2030年に目指す姿・目標として「2030ビジョン」を2021年に策定しました。『木とともに未来を拓く総合バイオマス企業として持続的な成長を遂げる』を目指す姿として“成長事業への経営資源のシフト”“GHG削減、環境課題等の社会情勢激変への対応”を基本方針としています。グラフィック用紙の需要減少に適切に対応しながら、経営資源を成長事業・新規事業にシフトし、同時に様々な社会的要請にも耐えうる、筋肉質の体質に変えていきます。
今後も当社グループは、持てる経営資源をフルに活用し、厳しさを増す国際競争を勝ち抜くとともに、グループの成長を実現し、株主価値の持続的拡大を追求していきます。
当社グループは、「2030ビジョン」の前半にあたる2021年4月から2026年3月までの5年間を「中期経営計画2025」の期間とし、『事業構造転換の加速』を基本戦略に、“生活関連事業の収益力強化”、“グラフィック用紙事業の競争力強化”、“GHG排出量削減の加速”、“財務体質の改善”の4つを重点課題に取り組んでいきます。
中期経営計画2025の数値目標については、当社を取り巻く事業環境の変化を踏まえ、今後の戦略・課題について議論を進めた結果、2023年に以下のとおり一部を見直しています。
<中期経営計画2025 - 見直し後の目標>
・売上高 1兆2,000億円以上(2025年度)
・営業利益 400億円以上(早期に)
・EBITDA 1,000億円 (安定的に)
・D/Eレシオ 1.7倍台 (2025年度)
・ROE 5.0%以上 (2025年度)
① 中期経営計画2025(2021年度~2025年度)の達成に向けて
2023年度は、2020年から続いたコロナ禍を乗り越え、ようやく社会経済活動が正常化に向かいました。国内景気も全体としては緩やかな回復が見られましたが、その一方でウクライナ侵攻の長期化や中東情勢、円安進行による物価上昇などの影響は今なお続いています。2024年度はこれらに加え、消費マインドの悪化や金利上昇、物流の2024年問題や人手不足による供給制約などが国内経済に与える影響も懸念されます。
このような事業環境の中、当社グループはコスト削減の徹底と価格修正、差別化製品による拡販などに取り組み、国内事業については2023年度中に収益力を回復させ、中期経営計画2025の軌道に戻すことができました。しかし海外事業では、豪州Opal社の収益改善が遅れているほか、北米や欧州の事業でも業績が悪化し、その立て直しが急務となっています。2024年度は海外事業の収益力回復を急ぐとともに、成長分野での事業拡大を進めて事業構造転換を加速します。また、人件費上昇、為替動向、金利上昇などの社会経済情勢が経営に与える影響を見極め、価格修正の検討を含めて適切に対応し、中期経営計画2025に掲げた目標達成に取り組みます。
これらの重点課題に対応する一方で、環境・社会・経済の持続可能性に配慮したサステナビリティ経営を推進し、長期的な事業成長を可能とする経営体制の構築を進めていきます。
② 重点課題への対応
(イ)グラフィック用紙の需要減少加速への対応
グラフィック用紙事業は、2023年度にコスト削減と製品価格修正により収益力を回復させましたが、その一方で国内の需要減少は一層加速しています。これに対処すべく、環境配慮型製品の開発や輸出拡大による販売数量の確保と継続的な原価改善による競争力強化を進めるとともに、GHG排出量削減とあわせ、よりスピード感をもって生産体制再編成を進め、基盤事業としての収益力を維持していきます。
(ロ)生活関連事業の拡大と収益力強化
パッケージや家庭紙、ケミカルなど事業構造転換の中核と位置付ける生活関連事業では、これまでに実施した設備投資の効果を確実に発現させ、差別化戦略による販売拡大と海外展開の加速によって事業成長を図ります。
a.パッケージ
液体用紙容器事業では、環境配慮型の軽量化紙パック「LiterLyte®」や、ストローレス学乳容器「School POP®」などの差別化製品で拡販を進めました。2024年度も販売拡大を見込んでいます。国内工場で開発した原紙の活用によりBCPや環境面でさらなる差別化を進めます。
海外では、Elopak社、四国化工機株式会社と協業して一貫サービス体制構築による事業成長を進めます。また、原紙生産拠点であるアメリカの日本ダイナウェーブパッケージング社では、ロングビュー工場でボイラーの大規模修繕により安定操業を強化し、収益力の向上を図ります。
b.家庭紙・ヘルスケア
石巻工場内に新設した家庭紙製造設備が2024年4月に営業運転を開始しています。パルプからの一貫生産によりコスト競争力を強化しました。また、「取り替え」や「持ち運び」時の利便性を向上させた「長持ち&コンパクト」シリーズは、トイレットロールに加え、ティシューやキッチンタオルにも展開し、販売数量を拡大しています。今後も物流費や人件費の上昇が見込まれることから、自製パルプの最大活用や省エネ推進など、コスト削減による収益力向上に取り組みます。
c.ケミカル・新素材
ケミカル事業では、機能性セルロースや機能性コーティング樹脂などで実施した設備投資の効果を最大化させ、収益拡大を進めます。ハンガリーで建設中のリチウムイオン電池用CMC(カルボキシメチルセルロース)製造工場は、2024年12月の稼働に向けて順調に建設が進められており、早期の安定稼働・収益化を目指します。
また、当社ではこれまでに紙事業を通じて培ってきたパルプ製造技術を基盤として、持続可能な資源である木材由来のセルロースを活用した新素材・新製品の開発を進めています。セルロースナノファイバー(CNF)「セレンピア®」は、食品や化粧品用途での採用事例が順調に増加しており、今後は自動車用途など産業分野でも用途拡大を目指します。また、養牛用の高消化性セルロース「元気森森®」は、東北地域での採用実績を基に、畜産が盛んな北海道や九州へと取り組みを拡大しています。持続可能な航空燃料(SAF)やバイオケミカルの原料向けの国産木材由来のバイオエタノールについても引き続き事業化に向けて検討を進めます。
d.エネルギー・木材
2023年2月に勇払エネルギーセンター合同会社が国内最大級のバイオマス専焼発電設備(75MW)の営業運転を開始しました。また、日本製紙石巻エネルギーセンター株式会社では2023年12月に発電設備(149MW)のバイオマス高混焼化改造工事を実施し、GHG排出量を削減しました。当社グループの持つバイオマス燃料の調達力とバイオマス発電所の運用実績・ノウハウを活用し、再生可能電力のさらなる供給拡大と投資効果の発現を図ります。
また、当社は長年にわたり国内外で木材を調達しており、国内における最大級の木材取扱量を誇るとともに、植林や木材調達・利用に関する実績とノウハウを蓄積させています。バイオマス需要の高まり、政府の木材自給率向上策、少花粉・高成長であるスギ・ヒノキのエリートツリー化推進など社会的・政策的な事業機会が拡大しつつある中、これらを着実に捉えた取り組みを進めていきます。
(ハ)Opal事業の立て直し
豪州Opal事業の立て直しは、喫緊の経営課題と認識し、現在、2025年度の確実な黒字化に向けて同事業の再建に取り組んでいます。
ビクトリア州のメアリーベール工場では、これまでに抄紙機2台を停機してグラフィック用紙事業から撤退しましたが、原紙輸出市況の悪化などにより収益回復が遅れています。競争力あるパッケージ原紙工場への移行を目指し、パルプ生産の最適化を含めた生産体制再構築と人員合理化を中心とする抜本的な固定費削減を進め、同工場の構造改革と収益力強化を早期に実現します。
一方で2020年に買収したパッケージ事業については、2023年8月にビクトリア州で新しい段ボール工場が稼働し生産性が大きく改善したほか、2024年度は老朽化した加工機を順次更新する計画です。また優れた営業人材を確保し顧客サービスの再構築など販売力の強化も進めています。設備投資によって生産能力増強とコスト低減を図るとともに営業戦略を強化し、オセアニア地域を中心にパッケージ製品の販売を拡大していきます。
これらと合わせて、グループの有する知見や技術、研究開発力、調達・販売ネットワークを最大限活用し、グループを挙げてOpal事業の早期立て直しを図ります。
③ サステナビリティ経営の強化
当社グループは、社会や環境の持続可能性と企業の成長をともに追求するサステナビリティ経営を推進しています。
(イ)温室効果ガス(GHG)排出量の削減
GHG排出量の2030年度削減目標は、石炭使用量の削減や燃料転換、省エネなどの取り組みや生産体制再編成の計画も踏まえ、2013年度比45%であった削減目標値を2023年に54%に引き上げました。今後も生産体制再編成と一体での検討を進め、GHG排出量削減のスピードアップに取り組みます。2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、他社との連携や新たな技術の取り込みによって、循環型社会の実現に貢献します。
(ロ)グリーン戦略の展開
森林の持つ価値の最大化と、木質資源を利用した製品の拡大によって、循環型社会構築と事業基盤強化の両立を図ります。海外植林地では、当社が長年培ってきた樹木の育種・増殖技術や植林技術を活用し、森林の生産性を向上させることで2030年度にCO₂固定効率の30%向上を目指します。また、東南アジア地域の植林事業でも技術支援により生産性を高め、資源確保の安定性を向上させます。国内においては、林業用エリートツリー苗1,000万本/年の生産体制を2030年度までに構築し、国内林業の活性化及び花粉症問題解決への貢献と事業成長の同時実現を目指します。また、国のカーボンクレジット認証制度である「J-クレジット制度」のもと、森林がCO₂を吸収・固定する能力に由来する森林クレジットについて、地方自治体や他の森林保有企業と連携し、クレジットの創出を進めるとともに事業機会の獲得を図ります。
(ハ)製品リサイクルの推進
従来は廃棄・焼却されていた難利用古紙のリサイクルチェーン構築や技術・設備対応による再資源化の拡充を進めています。従来の技術では再利用に不向きとされていた剥離紙や、紙コップなどの食品・飲料用製品も操業の最適化や設備導入で再利用可能としました。外食・サービス産業などにおいて紙容器リサイクルを望むユーザーのニーズは高まりつつあります。当社は日本航空株式会社と協働し、機内サービス用紙コップの収集リサイクルを開始するなど、循環型社会への取り組みを通じた顧客企業との関係強化を進めています。今後、収集古紙の対象範囲を広げ、社会的要請に応えるとともに、賛同企業と協働した新たなスタイルのビジネスを構築していきます。
(ニ)人材戦略
当社は人材戦略を、「人材育成」「人材配置」「人材確保・定着」の3つの柱で構成しています。人材の育成、確保・定着に力を入れるとともに、成長事業への人材のシフトをはじめとした人材の活用を進め、社員(従業員)と企業の双方が成長することにより、従業員エンゲージメントを向上させて事業構造転換のスムーズな実現に繋げていきます。
採用活動においては新卒入社だけでなく、成長分野を中心にキャリア採用も強化し、採用チャネルの複線化と拡大により、生活関連事業や海外事業を担う人材の確保を進めています。また、事業構造転換の旗振り役となる部長階層を対象とした選抜型研修の実施や、若年層の当社グループにおけるキャリア形成支援を目的とした階層別研修の新設など、新規事業や成長事業への人材シフトも想定した教育の充実に取り組んでいます。
こうして育成した人材の定着を図るべく、従来の在宅勤務制度や時間単位年休の導入など、多様な働き方の実現に向けた制度や、地域限定総合職制度の導入など、当社グループにおけるキャリア形成の多様化を拡充していきます。
財務面につきましては、不動産や政策保有株式など資産売却を積極的に進めながら、財務規律を十分に考慮した上で、事業構造転換の加速に必要な投資を厳選して実行していきます。2022年度末には7,801億円であった純有利子負債も2023年度末には7,235億円に削減し、2025年度末には中計2025の目標値7,100億円以下を達成する計画です。
また、資本コストを意識した経営を推進すべく、取締役会で継続的に議論を行っています。PBR改善に向けて現状分析と課題整理を行い、各事業部門別に最適なKPIを設定するなど取り組みを進めます。
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループ(当社及び連結子会社)が判断したものであり、達成を保証するものではありません。
(1) 当社グループのサステナビリティ経営
当社は、2004年に国連グローバル・コンパクトに署名・参加しました。国連グローバル・コンパクトが定める4分野(人権、労働、環境、腐敗防止)の10原則に基づき、「日本製紙グループは世界の人々の豊かな暮らしと文化の発展に貢献します」との企業グループ理念の実現とともに、社会・環境の持続可能性と企業の将来にわたる成長の両立を追求する、サステナビリティ経営を推進しています。
具体的には、企業グループ理念の実現に向けた経営の重要課題(マテリアリティ)と、2030年に当社グループが目指す姿・目標として策定された「2030ビジョン」の取り組みテーマを対応させ、テーマごとの進捗を定期的に管理することで、サステナビリティ経営のPDCAサイクルを回しています。

(2) 企業グループ理念の実現に向けた経営の重要課題(マテリアリティ)
当社は2021年度に、取り巻く環境の変化に対応しながら企業グループ理念を実現するために、10年後に目指す姿を描き、その達成に向けた経営課題を「2030ビジョン」として策定しました。その策定の過程で、企業グループ理念の「目指す企業像」4要件に対応する経営の課題を議論し、ガイドライン等による検証、外部意見の確認や有識者との対話を経て、当社グループの重要課題(マテリアリティ)をまとめています。
さらに、2022年度には、2030ビジョンで取り組む「事業構造転換の推進」をマテリアリティに加えました。

(3) ガバナンス
当社は、取締役会の監督のもと、代表取締役社長の下にCSR本部を設置し、サステナビリティ経営の推進とリスクマネジメントの統括、企業広報を行う体制を構築しています。
CSR本部は定期的に取締役会にサステナビリティに関する報告を行っており、2023年度は生物多様性保全活動などについて、計4回報告しています。

(注)2024年6月27日付で、推進体制の更なる強化を目的としてCSR本部の機能を再編し、SX推進本部を新設します。
(4) リスク管理
当社は、取締役会の監督のもと、代表取締役社長を責任者とするリスクマネジメント委員会を設置し、年1回以上開催しています。当社グループのリスクの定期的な洗い出しと評価を行い、低減対策及び発現時の対策を検討・審議し、取締役会に報告します。また、当社の主要な事業リスクの中に、「ESG・SDGs等の社会的要求に関するリスク」を認識しています。
当社のリスクマネジメント体制を含む事業等のリスクにつきましては、「
(5) 戦略
当社グループは、2030年に目指す姿・目標として2030ビジョンを策定しました。「木とともに未来を拓く総合バイオマス企業として持続的な成長を遂げる」を目指す姿として、「成長事業への経営資源のシフト」「GHG削減、環境課題等の社会情勢激変への対応」を基本方針としています。
木質資源の調達力や多岐にわたる木質資源の活用技術、幅広いパートナーとの協業など、当社グループが有する経営資源の強みを最大限活用し、3つの循環、『持続可能な森林資源の循環』、『技術力で多種多様に利用する木質資源の循環』、『積極的な製品リサイクル』を軸に、2030ビジョンの基本方針に基づいた事業活動を実践することで、当社グループの持続的成長の実現と木質資源を最大活用した循環型社会の構築をともに創出していきます。

当社は、マテリアリティと2030ビジョンの基本方針で取り組むテーマを対応させ、指標・目標(KPI)を設定し、サステナビリティ経営のPDCAサイクルを回しています。

(6) 指標と目標
当社は、マテリアリティと2030ビジョンの基本方針で取り組むテーマを対応させて、指標と目標(KPI)を設定しています。2022年度は主な取り組みと進捗状況をまとめ、「日本製紙グループ統合報告書2023」に開示しました。
2023年度につきましては、2024年9月に発行する「日本製紙グループ統合報告書2024」に開示する予定です。
なお、「日本製紙グループ統合報告書2024」は発行後、当社グループウェブサイトにて公表される予定です。
(7) 気候変動問題への対応
① ガバナンス
当社グループは、気候変動問題への対応を、企業グループ理念を実現するための重要課題と位置付け、温室効果ガス(GHG)排出量削減を中心として緩和と適応に取り組んでいます。
当社の取締役会では、GHG排出削減・環境経営推進担当役員(年2回以上)やリスクマネジメント委員会(年1回)から、GHG排出量削減に関わる各プロジェクトの進捗やシナリオ分析の結果として特定されたリスク・機会などの報告を受けて、その業務執行を監督しています。
② リスク管理
当社グループでは、部門横断的な気候変動戦略ワーキンググループにおいて、複数の気温上昇シナリオを設定し、分析・評価することで、重要なリスクを特定しています。特定したリスクは、GHG排出削減・環境経営推進担当役員及びリスクマネジメント委員会より当社の取締役会に報告されます。取締役会では、リスクにおける優先度を選別・評価し、迅速な意思決定を行っています。
③ 指標と目標
(注)1.エネルギー事業分野を除く製造に関わるScope1及び2
2.2023年度暫定値
3.2022年度実績値
Scope3排出量(注)
(注)対象範囲:日本製紙㈱、日本製紙クレシア㈱、日本製紙パピリア㈱、Opal社、日本ダイナウェーブパッケージング社
対象事業:紙・板紙事業、生活関連事業、エネルギー事業
④ 戦略
当社グループは、気候変動問題への対応を重要な経営課題として位置づけ、GHG排出量の削減を中心とした緩和と適応に取り組んでいます。当社グループでは、気候変動問題に関わるリスクと機会に対応するために、シナリオ分析を行い、経営課題に取り込むことにより、リスクの低減と機会の拡大を図っています。
エネルギー多消費型産業である紙パルプ製造を主要事業とする当社グループは、脱炭素化の動きが急加速する状況において、その対応が遅れた場合、カーボンプライシング政策などの規制リスクや顧客、投資家からのレピュテーションリスクにより財務影響を受ける可能性があります。一方で、今後、急速な拡大が予想される環境配慮型製品の市場において、当社グループは、森林資源を活用し、社会で必要とされる様々な製品・サービスを生み出し、資源循環できる蓄積を強みとして成長する機会があります。
当社グループは、シナリオ分析及びその他の情報を考慮し、2050年カーボンニュートラルに向けた移行計画を策定しています。GHG排出量削減については、2021年度に、2030ビジョンにおいて、2030年度までに2013年度比で45%削減する目標を設定しましたが、政策導入、市場ニーズの変化等、主として移行リスク要因の変化が速くなっていること、またその影響も大きくなる可能性があると評価されたことから、生産体制再編成と連動させた石炭削減の追加対策を検討し、2023年5月に、2030年度の削減目標を45%削減から54%削減に引き上げました。
2013-2023年度の削減実績は35%削減の見込みであり、2024-2030年度計画では残り19%の削減計画となる見込みです。


⑤ 2030年時点における主要なリスク
(移行リスク)
紙パルプ産業は、エネルギー多消費型産業であり、カーボンプライシングやエネルギー政策などの規制リスクにより大きな影響を受けますが、GHG排出量の削減を加速させ、早期に脱炭素化への移行を進めることで、炭素価格上昇に関わるリスクの低減を図っていきます。また、環境配慮型製品市場の拡大等、市場ニーズの変化に対応するための開発・設備投資費用が増加する可能性がありますが、環境に配慮した高付加価値な製品を適切に市場に提供することで、拡大するグリーン製品市場において、リスクを機会に変えて成長していきます。
(注)炭素価格影響額 小:100億円未満、中:100億円以上500億円未満、大:500億円以上
「炭素価格」以外は定性評価
炭素価格:IEAによるNet Zero Emissionシナリオを採用
(物理的リスク)
台風や豪雨などの気象災害の激甚化は、生産拠点や物流網に被害をもたらしますが、事業継続のための綿密な体制の整備を図り、リスクの低減を図っていきます。また、気温の上昇や降水パターンの変化は、植物の生長を悪化させるため、木材チップの調達コストを増加させるリスクがありますが、複数国・地域にサプライヤーを分散することで、安定的な調達を図っていきます。
⑥ 2030年時点における主要な機会
政策導入や市場ニーズの変化により、バイオマス素材や省エネルギーに寄与する素材の需要が拡大すると同時に、資源自律を実現する国産材需要の増加やクレジット市場の拡大による森林吸収クレジット需要の増加などの機会が見込まれます。これらの機会を捉えるために、当社グループは森林管理、育種・増殖技術や木質バイオマス素材開発技術等の強みを活用して成長していきます。
2030年度時点での環境配慮型製品の売上高は約3,000億円を見込んでいます。
(8) 人材の活用
① 基本的な考え方
当社は、企業グループ理念の中で、目指す企業像の要件の一つに「社員が誇りを持って明るく仕事に取り組む」 ことを掲げています。誇りとは、「キャリアを通じた個々人のスキル向上・成長実感」、「職場での働き甲斐や報酬・処遇への充実感」、「事業活動の推進を通じて得る社会貢献の実感」を享受することで培われるものと考えています。また、明るく仕事に取り組むとは、外部環境の激しい変化に対して臆することなく、社員が前向きに働くことであり、そのための企業風土づくりが必要です。この要件を満たすためには社員のエンゲージメント向上が必要であることから、各種の施策に取り組んでいます。
② 社員のエンゲージメント向上のための人材戦略
当社は、あるべき社員とのエンゲージメントを「社員と企業の双方が成長していける関係」であると定義しています。当社グループは、2030ビジョンの実現に向け策定された中期経営計画2025において「事業構造転換の加速」 を基本戦略に掲げていますが、これを実現するため、人材育成、定着に力を入れるとともに、成長事業への人材のシフトをはじめとした人材配置を進め、社員と企業の双方が成長することを促していきます。また、多様な働き方の実現と、多様な人材が能力を最大限に発揮できる組織づくりを推進し、社員のエンゲージメント向上を図り、「社員が誇りを持って明るく仕事に取り組む」ことを実現していきます。そのために、人材育成・社内環境整備の方針も含めた人材戦略として、下図のとおり3つの柱を据えて各種の施策に取り組んでいます。
人材戦略の3つの柱

3つの柱はいずれも重要ですが、特に人材育成における「変化にチャレンジする人材づくり」は、現時点における最重要課題と捉えています。労働力人口の減少・人材の流動化に伴い人材の採用が難しい状況において、既存事業の工場で高い操業スキルを蓄積した優秀な人材の職務領域をさらに拡張させ、新規事業の立ち上げや新製品の量産化に適応する人材として再育成し、多様な働き方の実現に向けた制度を整えることで定着を図り、再配置することを加速していきます。
加えて、事業別に人材戦略の基本方針を明確化し、それぞれの重点課題に対応する施策に取り組んでいます。
重点課題として掲げた「グラフィック用紙事業の競争力強化」に対しては、「人材活用と適正配置の推進」を基本方針として、競争力の維持・強化と省人化の同時実現を図ります。
また、生活関連事業の重点課題として掲げた「収益力強化」に対しては、「新規・成長分野への人材投入」を基本方針として、スムーズな事業構造転換の実行に繋げます。
さらには、従業員のエンゲージメント向上を人材戦略におけるもう一つの基本方針とし、各種の人事施策を通じて当社の事業戦略を支える優秀な人材の確保・維持を図ります。
事業戦略と人材戦略の連動

具体的な取り組みとして、2023年度は生活関連事業における「事業構造転換の担い手の確保、支援」として、人材育成面では、選抜型教育の実施や新たなキャリア形成への支援に取り組み、具体的には、事業構造転換の旗振り役となる部長クラスを対象とした選抜型のビジネススキル研修(イノベーション思考研修)や、若年層に対するキャリアデザインやキャリアアップを目的とした研修を実施しました。
人材定着面では、従来、在宅勤務制度や時間単位年休の導入等、多様な働き方の実現に向けた制度を拡充しています。
人材配置面では、石巻工場内に設置した家庭紙の製造設備の立ち上げにあたり、同工場においてグラフィック事業に携わっていた人材を家庭紙事業に再配置することで、当初計画よりも早期に営業運転を開始する等、新規事業や成長分野への人材シフトに取り組みました。
また、人材戦略の推進に向けて採用活動を強化しており、2023年度は、新卒採用のみならずキャリア採用やアルムナイ採用、リファラル採用等、採用チャネルの複線化・拡大を図るとともに、海外志向が強く語学力の高い学生を海外勤務候補生として採用する取り組みを開始しました。
2024年度は、海外人材の育成強化、労働力人口減少を見据えた操業現場の自動化・省人化、物流分野におけるIoT技術の導入検討等、中期経営計画2025の達成に向けて引き続き「生活関連事業の収益力強化」と「国内外のグラフィック用紙事業の競争力強化」の源泉となる人材の育成、定着、配置に取り組んでいきます。
なお、当社は従業員エンゲージメント調査を2019年度から定期的に実施しています。当社は本調査を「社員と企業の双方が成長していける関係」をより強固にするための重要な調査と位置付けています。調査結果を経営層・役職者に報告するとともに、外部コンサルタントのアドバイスも踏まえながら、職場内コミュニケーションの増進や労働環境の改善に努め、事業構造転換のスムーズな実現に繋げていきます。
③ 人材育成及び人材定着(社内環境整備)に関する指標と目標
当社は、人材育成や人材定着(社内環境整備)の進捗状況をモニタリングするために、下表のとおり指標や目標を設定しています。今後は、進捗状況や外部環境の変化を踏まえながら、各方針の進捗状況をモニタリングするうえでより相応しい指標への見直し・追加等を、必要に応じて検討していきます。
人材育成及び人材定着(社内環境整備)に係る指標と目標
(注)1.指標に関する目標及び実績は、制度の異なる連結会社の状況等を一体的に進捗管理することが困難なため、提出会社のものを記載しています。
2.ダイバーシティを推進する制度(フレックスタイム制度、時間単位年休制度及び在宅勤務制度)を当年度中に利用したことがある本社部門従業員の比率です。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりです。ただし、これらはすべてのリスクを網羅したものではなく、記載されたリスク以外も存在し、それらのリスクが影響を与える可能性があります。また文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループ(当社及び連結子会社)が判断したものです。
(リスク管理体制)
当社は、取締役会の監督のもと、代表取締役社長を責任者とするリスクマネジメント委員会を設置しています。当社グループの経営におけるリスク発生防止と実際にリスクが発生した場合の影響を最小限にとどめることを目的として、リスクマネジメント規程と危機対策規程を定め、平常時と緊急時の両面で対応することとしており、リスクマネジメント委員会では、当社グループのリスクを定期的に洗い出し、評価、防止対策及び発生時の対策を検討・審議し、取締役会に報告します。
<リスクマネジメント体制>

(注) 2024年6月27日付でCSR本部の機能を再編し、SX推進本部を新設します。
(1) 経営戦略に関する重要なリスク
① 人材確保のリスク
当社グループは、人材戦略を事業活動における重要課題の一つとして捉えており、今後の事業展開のために適切な人材の確保と育成に注力しています。適切な人材を十分に確保し、育成することができなければ、事業の持続的な成長と競争力の維持が困難になるため、経営成績及び財政状態等に影響を及ぼす可能性があります。
当社は、多様な背景を持つ人材の積極的な採用や育成、そして柔軟な働き方を支える職場環境の整備により、多様な人材が最大限能力を発揮できる組織づくりの推進により人材の確保に努めています。育成においては、「変化にチャレンジする人材づくり」に取り組み、社内副業制度の導入や工場・事業所の幹部候補育成を目的とした選抜型教育などにより、成長事業の収益拡大と基盤事業の競争力強化の源泉となる人材育成を進めています。職場環境においては、育児・介護などのライフイベントと仕事との両立支援制度の充実や一般職における定年年齢を60歳から65歳に延長するなど、より多様な働き方を後押しする社内制度の導入を図っています。
加えて、少子高齢化の進展による労働力人口減少といった課題も顕在化していきます。このため、操業現場の自動化や省人化、物流分野におけるIoT技術の導入についても検討をしています。
また当社グループでは、全事業所で安全最優先での操業に努めていますが、労働災害の発生は、労働者の健康や人命が失われる重大なリスクであり、災害内容によっては企業としての管理責任を問われ、設備停止の可能性もあります。労働災害を防ぐため独自の労働安全衛生マネジメントシステムを運用し、事業所ごとに具体的、継続的かつ自主的な活動を安全衛生計画として組み込み、労働災害の防止と労働者の健康増進、快適な職場環境など安全衛生水準の向上に努めています。
これらの取り組みにより、当社グループは適切な人材の確保と育成、労働災害の防止を推進し、持続的な成長と安全な職場環境の確保に努めていきます。
② 自然災害及び感染症等のリスク
当社グループの生産及び販売拠点が位置する地域において、地震や台風、洪水といった大規模な自然災害が発生した場合、事業の継続性に大きな影響を及ぼす可能性があります。生産活動の停止、設備復旧のための費用増加、製品や原材料の損害などが発生し、経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。
このため当社グループでは、危機対策規程に基づき、緊急時には危機対策本部を迅速に立ち上げ、従業員及び家族の安否確認、被災状況の把握、供給継続のための対策を実施します。また緊急事態への対応のためBCM(事業継続マネジメント)を強化し、複数工場での供給体制の構築や、災害想定に基づく避難訓練や安否確認訓練を定期的に行っています。
新型コロナウイルス感染症の流行によって、感染症が事業活動に与える影響の大きさが改めて認識されました。新型コロナウイルスを含む感染症のリスクは、従業員の健康及び事業の継続性に対する脅威となり得ます。当社グループでは、従業員の感染防止対策、在宅勤務制度の構築、オンライン会議システムの導入拡大など、感染症対策を継続的に強化しています。また、感染者の発生や事業活動への影響が懸念される場合には、迅速な情報共有と対策本部の立ち上げにより、事態の収束と事業の安定を図ります。
これらの取り組みにより、自然災害や感染症といった予期せぬ事態にも柔軟に対応し、事業の継続性と従業員の安全を守る体制を構築・維持しています。今後も、リスク対策の継続的な見直しと強化を通じて、変化する社会情勢に対応していきます。
③ 気候変動に関するリスク
エネルギー多消費型の紙・パルプを主要事業とする当社グループは、気候変動に対する包括的な対応を、企業グループ理念を実現するための重要な課題と捉え、2050年までのカーボンニュートラル達成を目指し、GHG排出量削減に取り組んでいます。脱炭素化への世界的な動きが加速する中、当社グループの対応が遅れた場合、カーボンプライシング政策の強化などの規制リスク、及び顧客や投資家からの信頼低下によるレピュテーションリスクに直面し、財務への影響を受ける可能性があります。
当社グループは、これらのリスクに関わる財務影響を適切に評価し、TCFDの推奨する枠組みに基づき、透明性の高い開示を行っています。リスク低減のため、高効率設備の導入や製造プロセスの最適化による省エネルギー対策や、エネルギー構成の見直しにより再生可能・廃棄物エネルギーの使用比率を高めるなど、GHG排出量の削減に向けた取り組みを加速しています。さらに、物流については、同業他社及び業種を超えた協働により、ラウンド輸送やモーダルシフト化、輸送距離の短縮を通じて、バリューチェーン全体での排出量削減にも努めており、ステークホルダーとの連携を深めています。
加えて、当社グループの排出量削減だけでなく、適切な森林管理による森林吸収やカーボンリサイクルなどの取り組みも積極的に行い、多面的に脱炭素化を推進し、2050年カーボンニュートラル達成への取り組みを強化するとともに、持続可能な社会の実現に貢献していきます。
気候変動への対応は、単なるリスク管理を超え、新たなビジネスチャンスの創出にもつながります。当社は、サステナビリティを核としたイノベーションを推進し、環境と経済の両方において持続可能な成長を目指しています。
④ 事業構造転換・新規事業創出遅延に関するリスク
当社グループの事業の1つであるグラフィック用紙事業は、デジタル化の進展や、新型コロナウイルス感染症を契機とした働き方や生活様式の変化を受けて市場縮小の傾向が続いています。そのため当社は生活関連事業等の成長分野への経営資源のシフトや、新規事業・新製品の早期戦力化を進めています。しかしながら、これらの取り組みが予定通り進捗しない場合、経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。
当社グループでは、2021年に「2030ビジョン」と「中期経営計画2025」を策定しており、事業構造転換の加速と、成長事業・新規事業の事業領域拡大を目指しています。これらを確実に従業員に浸透させることで、取り組みへの意識も強化しています。具体的な対応として、プラスチック代替となる容器包装を中心とした紙製品の開発、CNFをはじめとする木質バイオマスの利用拡大、成長事業への投資や人材の再配置、さらには海外事業の拡大などが挙げられます。
特に海外事業については、グループとして成長していくため、これまで以上に海外展開を加速させています。当社グループは、北米・南米・北欧・東南アジア・豪州等で、紙・パルプの製造販売、植林等の海外事業展開を行っており、既存事業とのシナジー発現を目指しています。豪州のOpal社では、グラフィック用紙事業から撤退し、成長の望めるパッケージ事業に注力すべく、一貫体制の強化を図っています。既に新しい段ボール工場も稼働させており、パッケージ分野のさらなる伸長を見込んでいます。
海外事業展開には、現地政府による法規制の変更、労働争議、政情不安に伴う経済の停滞など、特有のリスクが存在します。これらのリスクに対処するため、外部法律事務所との情報共有を通じて適切なリスクマネジメントを行い、リスク発生の未然防止に努めています。
さらに、グローバルなサプライチェーンの脆弱性や環境変化への対応、技術革新のスピードが事業展開に新たなチャレンジをもたらす可能性があることを認識しており、これらの外部環境の変化に柔軟に対応するための戦略を検討し続けています。
⑤ 製品需要及び市況の変動リスク
当社グループは、紙・板紙事業をはじめ、生活関連事業、エネルギー事業、木材・建材・土木建設関連事業など多岐に渡る分野で事業を展開しています。これらの製品やサービスは、経済情勢の変化、消費者の行動や嗜好の変化、市場の需給バランスなどによる需要の変動リスクや原燃料価格の変動、競合他社との価格競争などによる製品売価の変動リスクを負っており、これらの変動が当社の経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。
対策として、DXの加速や、新型コロナウイルス感染症の流行による新しい生活様式の定着などにより、特に影響を受けているグラフィック用紙事業においては、生産体制の再編成や生産拠点の集約を進めることでコスト効率を向上させています。また、オンラインショッピングの増加やリモートワークの普及など、新たな消費者ニーズに対応する生活関連事業への投資を拡大し、事業ポートフォリオの最適化を図っています。
さらに、グローバルな市場動向や経済指標に基づく分析を強化し、市場の変動に迅速かつ柔軟に対応できる戦略を構築しています。新たな市場のニーズを捉え、イノベーションによる新製品の開発や、サービスの拡充を通じて、市場の変化に対するレジリエンスを高める取り組みも進めています。
⑥ 原燃料調達や国内外輸送に関するリスク
当社グループは、原燃料であるチップ、古紙、重油、石炭、薬品などを調達して、製品の製造・販売を行っています。原燃料の価格は、国内外の市況に大きく影響を受け、その価格変動は当社の経営成績及び財政状態等に影響を及ぼす可能性があります。
港湾労働者・輸送力不足、地政学的緊張の高まりによるグローバルサプライチェーンにおける輸送網での遅延、気候変動対応による脱炭素政策を主要因とした原燃料価格上昇に起因する輸送費の上昇は今後も継続すると予想されます。特に国内の場合、いわゆる「物流2024年問題」が新たな課題として顕在化しており、これらの問題も当社の経営成績及び財政状態等にさらなる影響を与える可能性があります。
主な対策として、原料や燃料の一部について、リスクヘッジのため予約購入のスキームを設定し運用する等の施策を取っています。荷役時間の削減対策として、一部工場ではトラック受入予約システムを導入し、荷役待ち時間の短縮を図っています。また、安定調達のためサプライヤーや物流会社との良好な関係を強化するとともに、複数地域、複数ソースからの調達、グループ横連携強化による融通及び調達網拡大等や在庫水準の見直しなど、適正在庫の管理強化による財務状況の適正化も進めています。
また、「物流2024年問題」に対しては、製品販売及び原燃料調達において社内横断でのプロジェクトチームを発足させ、規制への遵守とコストアップの最小化の両立に取り組んでいます。取引先とも協働し、計画的な納品依頼や輸送体制の変更、消費地近隣に新たな在庫拠点を設置するなどの対策を実行しています。さらに、他社との海上共同輸送を実現し、トラック輸送と比べてGHG排出量の削減にも寄与しています。
⑦ ESG・SDGs等の社会的要求に対するリスク
当社グループは、気候変動問題への対応や持続可能な森林資源の活用、生物多様性の保全といった環境に関する重要な課題への取り組みを進めています。さらに、人権の尊重、多様な人材の活躍、ガバナンスの強化といった社会的及び経営面での課題にも注力しています。これらのESG課題に対応する取り組みは、持続可能な社会の実現に向け、不可欠です。ESG課題への取り組みの遅れや、投資家やESG評価機関から求められる情報を適切に開示できなかった場合、ステークホルダーからの理解と信頼を失い、長期的な成長性や当社グループのブランド価値に影響を与える可能性があります。これに対応するため、当社は、ESG評価機関とのエンゲージメントはもちろん、ステークホルダーとの丁寧なコミュニケーションを継続しています。
主なESG課題のうち、気候変動に関する取り組みは別掲のとおりです。人権の尊重については、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」を指針として2022年に策定した「日本製紙グループ人権方針」に基づき、当社グループのすべての役員と従業員のみならず、サプライヤー等の取引先に対しても、本方針の支持と遵守を働きかけることとしています。さらに、2021年に導入した人権デュー・ディリジェンスの仕組みの中で、紙・板紙事業など3つの事業でのバリューチェーンにおいて、関連する人権リスクをリスト化・評価した後、優先度の高い人権リスクを抽出、対策の実施を進めています。
また、森林資源は当社グループの事業基盤であり、「日本製紙グループ環境目標2030」にて、生物多様性に配慮した持続可能な森林経営に関する目標を掲げています。森林生態系の定点調査の実施や、生物多様性を保全するための保護区・保護林の設定など、経済的に利用する森林と、環境保全の両立を図っています。
「日本製紙グループは世界の人々の豊かな暮らしと文化の発展に貢献します」との企業グループ理念は、「誰も取り残さない」とするSDGsの理念に調和しています。ESG課題への取り組みを通じて、企業グループ理念の実現と同時にSDGs達成への貢献を目指します。
(2) 事業環境及び事業活動に関するリスク
① 生産設備に関するリスク
当社グループは、市場需要と既存設備の能力を考慮した計画生産を基本としています。しかし、設備の故障や火災、自然災害による設備事故などにより生産設備の稼働率が低下すると、製品の供給能力が不足し、経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。これらのリスクに対応するため、定期的な設備点検とメンテナンス、脆弱箇所を計画的に更新する老朽化対策工事等の実施、複数工場での供給体制の構築、在庫の適正化などを行っています。
② コンプライアンスに関するリスク
当社グループが展開する紙・板紙事業、生活関連事業、エネルギー事業、木材・建材・土木建設関連事業など、幅広い分野において、関連する法令や規制は常に変化しており、新たなコンプライアンスの課題が生じています。特に、デジタル化の進展、グローバル化の加速、環境保護や人権尊重への関心の高まりなど、社会情勢の変化に合わせた、コンプライアンス違反のリスクは、さらに複雑化しています。
当社グループは取引先や、自社だけでは遂行が難しい業務を様々な委託協力会社の協力のもと事業活動を展開しているため、取引先や委託協力会社との関係においても、公正かつ健全な業務実施を重視しています。独占禁止法や下請法の遵守はもちろんのこと、社会的な価値観の変化を反映した公正な取引慣行を目指していますが、違反があった場合には、訴訟リスクや社会的信頼の喪失など、経営上の大きなリスクとなることが予想されます。
これらに対応するため、「パートナーシップ構築宣言」に基づき、親事業者と下請事業者との望ましい取引慣行を遵守し、取引先とのパートナーシップ構築の妨げとなる取引慣行や商慣行の是正に積極的に取り組んでいます。また、2023年11月に公表された「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を踏まえ、グループ全体でのリスク評価と対策の実施を進めています。
さらに、当社グループでは、社会情勢の変化に応じたコンプライアンス研修の実施や、コンプライアンスに関する意識調査を行い、従業員のコンプライアンス意識の向上に努めています。これらの取り組みにより、社会情勢の変化にも柔軟に対応し、コンプライアンス違反のリスクを最小限に抑えることを目指しています。
③ 製造物責任に基づくリスク
当社グループは、製品について製造物責任に基づく損害賠償を請求される対象であり、現在のところ重大な損害賠償請求を受けていませんが、将来的には直面する可能性があります。製造物責任にかかる保険(生産物賠償責任保険)を付保していますが、当社グループが負う可能性がある損害賠償責任を補償するには十分でない場合があります。当社グループではグループ製品リスク委員会を設置し、グループ各社の製品安全リスクの監督、支援を行っています。また、主要製造会社はそれぞれに製品リスク委員会を設置するとともに、製品リスク管理規程の整備を進め、製品安全事故の防止に努めています。
④ 環境法令関連のリスク
当社グループは、事業活動において、環境関連の法規制の適用を受けています。これらの規制の変更や改正により、生産活動が制限されるあるいは新たな対策のための費用が発生する可能性があり、これらは経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。
このリスクに対応するため、環境関連の法改正状況について定期的にモニタリングし、また社外から各種情報を収集することで、適切に法令改正に対応する体制を整えています。
⑤ 情報システムに関するリスク
当社グループは、情報システムに関するセキュリティを徹底・強化し、また急速に普及した在宅勤務環境においても十分な情報セキュリティ対策を講じています。しかし、今後コンピュータへの不正アクセスによる情報流出や犯罪行為による情報漏えい、業務遂行妨害等問題が発生した場合には、損害賠償請求や当社グループの社会的信頼喪失、業務停止等により、経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。情報セキュリティに関しては時流に合わせた防衛システムの導入や従業員教育を行い、個人情報については「個人情報取扱規則」を定め、全役員、全従業員及び関係取引先への周知を図ったり、セキュリティインシデントが発生した際の連絡ルートを整備するなど、管理体制を強化しています。また、定期的なセキュリティ監査や脆弱性評価を実施することにより、システムの脆弱性を発見・修正することで、セキュリティインシデントの予防に努めています。
⑥ 知的財産紛争等のリスク
当社グループは、製品や技術に関する知的財産権を保有しており、知的財産紛争や訴訟の発生があり得ます。これにより、当社グループの経営成績及び財政状態等に影響が生じる可能性があります。
具体的には、当社の製品や技術が他社の知的財産権を侵害していると主張される訴訟が提起される可能性があります。また、当社グループの知的財産権が他社によって無効審判請求の対象になる可能性や、第三者による知的財産権の侵害リスクも考えられます。当社グループは知的財産権の保護や従業員に対する教育に努めており、法的対策やリスク管理策を講じています。
⑦ 為替レートの変動リスク
当社グループは、輸出入取引等について為替変動リスクを負っています。輸出入の収支は、チップ、重油、石炭、薬品などの原燃料の輸入が、製品等の輸出を上回っており、主として米ドルに対して円安が生じた場合には経営成績にマイナスの影響を及ぼします。なお当社グループは、為替変動による経営成績への影響を軽減することを目的として、為替予約等を利用したリスクヘッジを実施しています。
(3) 財務・会計リスク
① 株価の変動リスク
当社グループは、取引先や関連会社等を中心に市場性のある株式を保有しており、株価の変動により経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。このため保有株式の定期的な株価のモニタリングを行うことにより、財政状態に重要な影響を及ぼす可能性を察知しています。
② 金利の変動リスク
当社グループは、有利子負債などについて金利の変動リスクを負っており、その変動により経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。当社では、長期借入金の固定金利借入の比率を一定水準以上に保っています。また、返済年限の分散化、調達の多様化に加えて金利スワップなどの金融商品を利用すること等により、金利変動リスクへの対応を行っています。
③ 信用リスク
当社グループは、与信管理規程に従い取引先の財務情報等を継続的に評価し、与信限度を設定するなど信用リスクに備えていますが、経営の悪化や破綻等により債権回収に支障をきたすなどの事象が発生した場合には、経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。
④ 固定資産の減損リスク
当社グループは、生産設備や土地をはじめとする固定資産を保有しています。事業環境等の変化により当該資産から得られる将来キャッシュ・フローが著しく減少した場合、減損損失が発生し、経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。
⑤ 退職給付債務に関するリスク
当社グループの退職給付費用及び債務は、年金資産の運用収益率や割引率等の数理計算上の前提に基づいて算出していますが、数理計算上の前提を変更する必要が生じた場合や株式市場の低迷等により年金資産が毀損した場合には、経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。このため年金資産の運用については、外部コンサルタントの助言をもとに、リスク・リターン特性の異なる複数の資産クラス・運用スタイルへの分散投資を行っており、年金資産全体のリスク・リターンの分析を定期的に実施することで、分散効果の有効性について評価を実施しています。
⑥ 繰延税金資産の取崩しリスク
当社グループは、将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に対して、将来の課税所得を見積った上で回収可能性を判断し、繰延税金資産を計上しています。しかし、事業環境等の変化による課税所得の減少や税制改正等により回収可能性を見直した結果、繰延税金資産の取崩しが発生し、経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用関連会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」といいます。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
(1) 経営成績
当期におけるわが国の経済は、新型コロナウイルス感染症が5類感染症へ移行し、社会経済活動の正常化が進むなど、緩やかに回復しています。先行きにつきましては、世界的な物価の上昇が継続する中、ウクライナ情勢の長期化や中東情勢の緊迫化に加え、為替相場は円安基調で推移するなど、依然として不透明な状況が続いています。
このような状況の中、中期経営計画2025の折り返しとなる当期は、営業利益400億円以上の早期実現を掲げた中期経営計画2025の軌道に回帰する重要な1年として、「事業構造転換の加速」を基本戦略に、「生活関連事業の収益力強化」「グラフィック用紙事業の競争力強化」「GHG排出量削減の加速」「財務体質の改善」を重点課題として取り組んできました。その中で、中期経営計画2025の財務目標の1つに掲げたROEにつきましては、当期は5.3%(前期は△12.3%)となり、「2025年度に5.0%以上」としていた目標の水準を上回りました。また、ネットD/Eレシオにつきましては、当期は1.95倍(前期は2.25倍)となり、「2025年度に1.7倍台」としていた目標へ向けて純有利子負債の圧縮を進めました。
連結業績につきましては、各種製品の価格修正が寄与したことなどにより、前期に比べ増収となりました。また、円安の進行による影響はあるものの、価格修正やコストダウンなどの効果により、前期に比べ大幅な増益となり、当期は営業利益に転じました。加えて、Opal社におけるグラフィック用紙事業の撤退に係る特別退職金など10,268百万円を特別損失に計上した一方、主に当社における固定資産の譲渡に伴う売却益26,637百万円を特別利益に計上したことなどにより、当期は親会社株主に帰属する当期純利益に転じました。結果は以下のとおりです。
セグメントの状況は、以下のとおりです。
(紙・板紙事業)
洋紙は、新聞用紙、印刷・情報用紙ともに需要の減少が継続し、国内販売数量は前期を下回りました。板紙は、物価高による個人消費の落ち込みもあり、全般的に需要が低調に推移し、国内販売数量は前期を下回りました。
一方、製品の価格修正が寄与したことにより、紙・板紙事業の売上高は前期を上回りました。
(生活関連事業)
家庭紙は、製品の価格修正が寄与したことにより、売上高は前期を上回りました。液体用紙容器は、食品価格全般の値上がりによる生活防衛意識の高まりで需要が減少し、販売数量は前期を若干下回りました。一方、製品の価格修正が寄与したことや充填機販売台数が増加したことにより、売上高は前期を上回りました。溶解パルプ(DP)は、市況が安定して推移したことや製品の価格修正が寄与したことにより、売上高は前期を上回りました。これらの結果、国内事業の売上高は前期を上回りました。
一方、海外事業は、Opal社におけるグラフィック用紙事業の撤退に伴い販売数量が減少したことなどにより、売上高は前期を大幅に下回りました。
(エネルギー事業)
エネルギー事業は、2023年2月より勇払エネルギーセンター合同会社のバイオマス専焼発電設備が営業運転を開始したことなどにより、売上高は前期を上回りました。
(木材・建材・土木建設関連事業)
木材・建材・土木建設関連事業は、新設住宅着工戸数が減少し、建材品などの販売数量は前期を下回ったものの、国内外向けの燃料チップの需要が増加したことなどにより、売上高は前期を上回りました。
(その他)
(2) 財政状態
総資産は、前期末の1,666,542百万円から64,702百万円増加し、1,731,245百万円となりました。この主な要因は、当連結会計年度末が金融機関の休日であったことや、円安及び株価上昇の影響等によるものです。
負債は、前期末の1,251,341百万円から15,744百万円減少し、1,235,597百万円となりました。この主な要因は、有利子負債の返済によるものです。
純資産は、前期末の415,200百万円から80,447百万円増加し、495,648百万円となりました。この主な要因は、利益剰余金が増加したことや、円安及び株価上昇の影響等によるものです。
当期末における現金及び現金同等物(以下、「資金」といいます。)は、164,858百万円となり、前期末に比べ20,512百万円増加しました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動の結果得た資金は、前期に比べ24,459百万円増加し、90,283百万円となりました。この主な内訳は、税金等調整前当期純利益31,196百万円、減価償却費64,184百万円、運転資金の増減(売上債権、棚卸資産及び仕入債務の増減合計額)による収入11,250百万円です。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動の結果使用した資金は、前期に比べ45,986百万円減少し、22,031百万円となりました。この主な内訳は、固定資産の取得による支出61,664百万円、固定資産の売却による収入27,481百万円、投資有価証券の売却による収入10,881百万円です。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動の結果使用した資金は、前期に比べ53,543百万円増加し、46,566百万円となりました。この主な内訳は、有利子負債の返済による支出です。
(4) 資本の財源及び資金の流動性に係る情報
当社グループの運転資金需要の主なものは、製品製造のための原材料や燃料購入のほか、販売費及び一般管理費等の営業費用です。また設備投資資金の主なものは、新規事業への投融資及び設備投資、既存事業の収益向上や操業安定化等を目的としたものです。
今後も引き続き成長分野や新規事業へ積極的に投資を行っていく予定であり、その必要資金については、自己資金と外部調達との適切なバランスを検討しながら調達していきます。
なお、長期借入金、社債等の長期の資金調達については、事業計画に基づく資金需要や既存借入の返済時期、金利動向等を考慮し、調達規模や調達手段を適宜判断し、キャッシュ・マネジメント・システム(CMS)により当社グループ内での余剰資金の有効活用を図り、有利子負債の圧縮や金利負担の軽減に努めています。
(5) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しています。この連結財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いていますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。
連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項 重要な会計上の見積り」に記載しています。
(6) 生産、受注及び販売の状況
① 生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
(注)木材・建材・土木建設関連事業、その他は、生産高が僅少であるため、記載を省略しています。
② 受注実績
当社グループは主として需要と現有設備を勘案した見込生産のため、記載を省略しています。
③ 販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
(注)1.セグメント間取引については、相殺消去しています。
2.主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合は、当該割合が100分の10未満であるため、記載を省略しています。
当社は、2023年8月30日開催の取締役会において、固定資産の譲渡を決議しました。その概要は以下のとおりです。
(1) 譲渡の理由
経営資源の有効活用及び財務体質の強化を図るため。
(2) 譲渡契約の概要
譲渡契約日 :2023年9月1日
対象資産の種類 :土地 15,117.23㎡
建物 18,900.36㎡(延床面積)
対象資産の現況 :商業施設
対象資産の所在地:東京都北区王子一丁目4番1号
引渡日 :2024年3月25日
(3) 損益に与える影響
当該固定資産の譲渡に伴い、2024年3月期決算において、固定資産売却益255億円を特別利益として計上しています。
当社グループでは、「総合バイオマス企業」への事業構造転換と基盤事業の競争力強化のため、新規事業の早期創出、パッケージ事業、家庭紙・ヘルスケア事業、ケミカル・新素材事業やエネルギー・木材事業等の成長分野の拡大、紙・板紙事業の収益力向上に貢献する研究開発を進めています。今後、グループ内の研究資源を最大限に活用し、社内外との連携を密にすることでオープンイノベーション等を推進し、更なる研究開発を進めていきます。
当連結会計年度における当社グループの研究開発費は、
国内市場の成熟化と海外市場の成長、深刻化する地球環境問題等の様々な課題への対峙、国内での炭素賦課金の導入を見据えて、基盤技術研究所、富士革新素材研究所及びパッケージング研究所が中心となり、以下のような取り組みを行っています。当事業に係る研究開発費は
事業活動の基幹となる原材料確保のため、自社植林木の生産性向上を目指し、技術開発を積極的に進めています。特にブラジルにおいては、ユーカリの育種と植林地の管理技術向上により、単位面積当たりの収穫量は年々増加しています。更なる生産性向上を目指し、DNAマーカー選抜を始めとする最新技術の導入も推進しています。また、こうした当社の独自技術を活用し、他社と戦略的パートナーシップ契約を締結し、インドネシアの植林事業会社の植林木の生産性向上に取組んでいます。一方、国内においては、CO₂吸収能力が高く成長に優れ、花粉量が少ない等の特徴を持つエリートツリーの苗木生産事業を全国で展開しています。2016年の熊本県に続き、2022年には静岡県、広島県、鳥取県、大分県、2023年には秋田県において「特定増殖事業者」の認定を受け、エリートツリーの苗生産に必要な種子や穂木を生産するため、採種園・採穂園の造成を行いました。2023年10月には原材料本部内にエリートツリー推進室を新設し、今後各地で苗木の生産、出荷を進めていきます。
洋紙及び板紙の競争力強化のため、新製品開発や需要家のニーズに応えた品質改善を継続します。また、生産現場とより密接に連携を図りながら製造工程の操業性改善、品質向上とコストダウンの技術開発を迅速に進めています。収益改善に資する技術開発として、安価材料の利用技術の開発、自製填料の高度利用技術の開発等の独自技術開発も推進しています。
「総合バイオマス企業」としての新規事業創出については、木材をベースとした新素材、パッケージ等のプラスチック代替新規紙材料の開発やセルロースナノファイバー(以下、「CNF」といいます。)、バイオリファイナリー等に関する研究開発に取り組んでいます。
新素材としては、無機物の特徴・特性を備えた機能性材料ミネラルハイブリッドファイバー「ミネルパ®」の事業化に向けた本格的なサンプル供給を行い、更なる用途開発を推進し、商品化を進めています。「消臭抗菌」、「難燃」、「X線遮蔽(造影)」等の各機能を持つミネルパ®の採用拡大を目指して、事業分野の探索とサンプルワークを進めており、システムトイレ用猫砂と高機能吸湿剤で「消臭抗菌」の機能を持つミネルパ®が採用となりました。
木材を原料とする養牛用飼料「元気森森®」、「にんじん森森®」(高消化性セルロース)については、民間の牧場で乳牛の乳量増加効果、繁殖成績の向上に加え、和牛の繁殖用母牛でも健康増進効果が確認され始めました。2021年度からは、パルプを牧草と同様に「ロールベール形態」へ加工する装置を岩沼工場に設置し、牧場側で扱いやすい形態でのサンプル提供体制を整え、有償サンプルワークの展開を加速しています。
パッケージ等のプラスチック代替新規紙材料については、当社の塗工技術を活用し、紙にバリア性を付与した紙製バリア素材「シールドプラス®」、プラスチックフィルムを貼合することなく “紙だけでパッケージができる”ヒートシール紙「ラミナ®」の開発を推進しています。シールドプラス®は2020年度に耐屈曲性を向上したリニューアル品を上市、これに伴いスタンドパウチなど新たな形態での採用も増えています。ラミナ®についても2020年の販売開始以降、脱プラスチックを可能とする素材としてバリア性を必要としない食品、化粧品、日用雑貨等の二次包装材として採用が進んでいます。また、更なる環境配慮型素材として、他社と共同開発した生分解性に優れるヒートシール紙が2022年11月に菓子製品の外装に採用されました。当社グループの拠点があるフィンランドにおいても同様の開発、生産を行っており、環境対応が求められる包装市場における新たな環境配慮型包材として、国内外への提案を進めています。最近では産業分野から包材や基材としての引き合いがあるなど、使用の幅を拡げつつあります。また、防水性、防湿性、耐油性を有し、かつリサイクルが可能な多機能段ボール原紙「防水ライナ」を開発しました。防水ライナを用いて製造した段ボールケースは防水性等を活かし、箱の形状を工夫することで、発泡スチロールと同様に氷詰めした水産・青果物の輸送や、耐油性を活かした機械部品などの輸送を可能にしました。現在、各段ボールメーカー、代理店と協力し、魚箱用途をはじめとしたユーザーへの展開を図るとともに、ユーザーでの加工効率向上に向けた生産体制拡充を進めています。
プラスチック使用量削減については、耐熱性・粉砕性・疎水性に優れた木質バイオマス材料を樹脂に高配合した「トレファイドバイオコンポジット」を開発しました。トレファイドバイオコンポジットはプラスチック使用量を5割以上削減できるとともに、GHG削減にも寄与します。また、セルロースパウダーと樹脂を複合化した「セルロースバイオコンポジット」も開発しました。当社が培ってきたセルロースパウダー技術を活用し、従来の製品よりも強度や成形性に優れています。今後は、他社と開発を連携することで日用品、容器、建材、家電製品、自動車部材など、幅広い分野への展開を目指し、製品開発と早期の市場投入を計画しています。
CNF「セレンピア®」については、2017年度に設置した量産設備(石巻、江津)及び実証生産設備(富士)の稼働により、用途に応じた製造技術と本格的な供給体制を確立し、市場創出を推進しています。化粧品や食品用途分野で採用が大幅に増えており、2023年度は化粧品向けに新規に開発した高透明品の採用が決まり、2024年度は量産設備(江津)にて更なる増産を予定しています。また、金属イオンを担持させた変性セルロースを用いた抗ウイルス・消臭・抗菌性を有する衛生薄葉紙、不織布、印刷用紙、段原紙等、様々な製品開発を行っています。さらに、銅イオンをプラスした変性セルロース「Cu-TOP(シーユートップ)」を配合した紙糸を開発し、新たな用途展開を行っています。また、GHG排出削減に有効な蓄電デバイスを、持続可能な資源から製造する取り組みとして、CNFを用いた次世代蓄電デバイスの開発を進め、2025年の大阪・関西万博での試作品展示を目指しています。
熱可塑性樹脂中にCNFを強化剤として均一分散・配合するCNF強化樹脂「セレンピアプラス®」は、実証生産設備(富士)によるサンプルワークを進め、自動車をはじめとするモビリティ部品や住設機器の部材用への採用を目指し、研究開発を進めています。その研究活動を通じて、2023年8月、共同研究先が発売した水上オートバイのエンジン部材として採用されました。本部材の採用はCNF強化樹脂を用いた輸送機器部品の量産化として世界初の事例となります。
現在、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業プロジェクトに参画し、CNF強化樹脂の大量製造技術と本格的な供給体制の確立に向け検討を進めています。2021年9月に、この助成金を活用して富士工場に建設した混練を中心とする拡張された実証生産設備は、年間50トン以上のCNF強化樹脂を製造することができます。また2021年度に採択された環境省補助金事業を通じて3Dプリンターを導入し、成型樹脂材料の開発を進めています。
今後は安定して大量生産する製造技術の確立、品質向上、さらなるコストダウンを目指し、モビリティ部品を始めとする幅広い産業への用途開発の加速、CNF強化樹脂の製造量の拡大を進めていきます。
バイオリファイナリーについては、引き続きセルロース、リグニン等の木材成分の高度利用技術の開発を推進しており、セルロースは土木分野への利用、クラフトリグニンのアスファルト利用は将来的な公道での普及に向けて複数箇所での試験施工を進めています。
(2) 生活関連事業
液体用紙容器については当社が、各種化成品については当社及び株式会社フローリックが中心となって研究開発を行っています。当事業に係る研究開発費は
液体用紙容器の分野については2020年末に採用されたストローレス対応学校給食用紙パック「School POP®」の全国展開を推進しており、採用エリアは21都道府県に拡大しています。日本国内の紙容器の学校給食牛乳は年間、約15億本が使用されており、School POP®は既に全体の約30%をカバーし、ストローレス紙容器の代名詞として、他の追随を許さず急速に普及しています。また、2017年に屋根型容器NP-PAK向けに上市した軽量口栓についても確実に採用が増えており、2023年度新たに植物由来の樹脂から出来た口栓が採用されました。固形物入り飲料が充填可能な新アセプティック充填システム「NSATOM®(えぬえすアトム)」はグループ会社内のテクニカルセンターで実際に客先向け実液充填を行い、採用に向けて保存テストを実施中です。非飲料分野向けについては差し替え式紙容器「SPOPS®」及び消毒剤用特別仕様「SPOPS® Hygiene」に対応する高速充填機「UP-MX20」を委託充填メーカーに設置済で、既にブランドオーナー数社の製品を充填、販売開始しており、更なる拡販を推進しています。引き続き環境と衛生性、ユニバーサルデザインに配慮した製品及びシステム(充填機等)の開発を推進していきます。
化成品の分野につきましては、自動車プラスチック部材用プライマー、接着剤等の機能性コーティング樹脂の新製品開発・製品化を進めています。また、合成系水溶性高分子の用途拡大やリグニン製品の農業分野への拡販支援、飼料用酵母の免疫機能向上データ拡充等を行っています。機能性フィルムではスマートフォン、タブレット端末等の中小型ディスプレイ用途や車載ディスプレイ用途のハードコートフィルムを開発し、製品化しました。さらに、クリーン精密塗工及びハードコート技術を応用した新製品開発に取り組んでいます。
エネルギー事業に係る技術開発として、木質バイオマスを半炭化(トレファクション)して得られる新規固形燃料について事業化を検討しています。また、紙の製造工程で発生する廃棄物を使用した燃料の利用及び当事業のGHG削減についても検討しています。当事業に係る研究開発費は
該当事項はありません。
金額が僅少であるため、記載を省略しています。