第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループ(当社及び連結子会社)が判断したものであり、達成を保証するものではありません。

 

(1) 会社の経営の基本方針

当社グループは、2030年に目指す姿・目標として「2030ビジョン」を2021年に策定しました。『木とともに未来を拓く総合バイオマス企業として持続的な成長を遂げる』を目指す姿として“成長事業への経営資源のシフト”“GHG削減、環境課題等の社会情勢激変への対応”を基本方針としています。グラフィック用紙の需要減少に適切に対応しながら、経営資源を成長事業・新規事業にシフトし、同時に様々な社会的要請にも耐えうる、筋肉質の体質に変えていきます。

今後も当社グループは、持てる経営資源をフルに活用し、厳しさを増す国際競争を勝ち抜くとともに、グループの成長を実現し、株主価値の持続的拡大を追求していきます。

 

(2) 目標とする経営指標

当社グループは、「2030ビジョン」の前半にあたる2021年4月から2026年3月までの5年間を「中期経営計画2025」の期間とし、『事業構造転換の加速』を基本戦略に、“生活関連事業の収益力強化”、“グラフィック用紙事業の基盤強化”、“GHG排出量削減の加速”、“財務体質の改善”の4つを重点課題に取り組んでいきます。

中期経営計画2025の数値目標については、当社を取り巻く事業環境の変化を踏まえ、今後の戦略・課題について議論を進めた結果、2023年に以下のとおり一部を見直しています。

 

 <中期経営計画2025 - 見直し後の目標>

・売上高           1兆2,000億円以上(2025年度)

・営業利益            400億円以上(早期に)

・EBITDA           1,000億円  (安定的に)

・D/Eレシオ             1.7倍台  (2025年度)

・ROE            5.0%以上 (2025年度)

 

(3) 会社の対処すべき課題

① 中期経営計画2025(2021年度~2025年度)の達成に向けて

2024年度における当社グループを取り巻く経済環境は、物価の上昇は続いたものの、国内経済は全体として緩やかな回復が見られました。一方で、ウクライナ侵攻や中東情勢の長期化、中国経済の減速など、予断を許さない状況が続きました。2025年度は、これらに加えてアメリカの関税政策や、国内の物価上昇による消費マインドの悪化、人手不足による供給制約など、先行き不透明な状況が続くと懸念されます。

(イ)事業構造転換の進展

当社の主要事業であるグラフィック用紙の需要が減少する中、当社は事業構造転換を推し進め、成長事業である生活関連事業に経営資源をシフトしてきました。その結果、生活関連事業の売上比率は2020年度の32%から2025年度には41%に拡大し、営業利益は79億円から150億円に増加する見通しです。引き続き生活関連事業の拡大により、事業構造転換を進めていきます。

(ロ)2024年度の取り組み

2024年度については、コスト削減の徹底と価格修正、差別化製品の拡販などに取り組み、国内事業では収益力を維持し、中期経営計画2025を達成する軌道で推移しました。また、海外事業については、豪州Opal社の収益改善は当初計画に対して遅れが見られたものの、着実に改善が進んでいます。

a.Opal社の立て直し

喫緊の経営課題として豪州Opal社の立て直しに取り組んでいます。

グラフィック用紙事業から撤退したビクトリア州のメアリーベール工場では、パルプ生産の最適化を含め、パッケージ原紙工場としての生産体制を確立しました。最適操業条件の確立に時間を要したことや、原紙輸出市況の悪化もあり、収益回復が遅れていますが、さらなる収益改善に向けて基盤強化を図っています。一方、2020年に買収したパッケージ事業については、2023年8月にビクトリア州で新段ボール工場が稼働したことに加え、2024年度には3工場の老朽化した加工機の更新を決定、順次実行しており、生産性が大きく改善しています。さらに、2024年8月にはクイーンズランド州の段ボール工場を閉鎖し、製袋事業や紙器事業の拠点を統廃合した他、全社的な要員合理化を行い、固定費削減を進めました。

b.生活関連事業の拡大と収益力強化

液体用紙容器事業では、アメリカの日本ダイナウェーブパッケージング社で、安定操業を強化するため2024年度上期に長期のメンテナンスを実施しました。これにより、下期からは生産が安定し、販売も堅調に推移しています。

家庭紙・ヘルスケア事業では、2024年4月に石巻工場内の家庭紙製造設備の営業運転を開始しました。さらに、2024年8月には八代工場での家庭紙製造設備の新設も決定しました。家庭紙でもパルプからの一貫生産拠点を増やすことでコスト競争力の強化を進めます。

ケミカル事業では、2025年3月にハンガリーのリチウムイオン電池用CMC(カルボキシメチルセルロース)製造工場が稼働を開始しました。将来的なEVの拡大を見据えて、グローバルに展開する顧客(バッテリーメーカー・自動車メーカー)に対して、日本とハンガリーの生産拠点から製品を供給していきます。

c.グラフィック用紙事業の基盤強化

2024年8月に、白老工場8号抄紙機と八代工場N2抄紙機の停機を決定しました。これによりグラフィック用紙の生産性向上と、継続的な原価改善による競争力強化を図ります。今後もGHG排出量削減と連動して生産体制再編成を進め、グラフィック用紙の需要が減少する中でも、基盤事業としての収益力を確保していきます。

(ハ)2025年度の取り組み

2025年度については、人件費や物流費の上昇、為替動向などの社会経済情勢が経営に与える影響を見極め、海外事業は収益力回復を進めるとともに、全社を挙げたコストダウンと投資効果の確実な発現、製品を安定供給するために適正な価格維持を図り、中期経営計画2025に掲げた目標達成に引き続き取り組みます。

a.Opal社の収益改善

メアリーベール工場においては、パッケージ原紙工場としての生産体制に対応した新たな労使協定に基本合意しており、これにより工場の構造改革と収益力強化を早期に実現します。パッケージ事業では、これまでに実施した設備投資の効果を最大限に発現させ、オセアニア地域を中心にパッケージ製品の販売を拡大していきます。これらと合わせて、グループの有する知見や技術、研究開発力、調達・販売ネットワークを最大限活用し、グループを挙げてOpal社事業の収益改善を図り、早期の黒字化を目指します。

b.生活関連事業の拡大と収益力強化

液体用紙容器事業では、これまで拡販を進めてきた環境配慮型製品に加えて、次世代型紙容器「NSATOM®」も初の製品採用が決まり、さらなる販売拡大を見込んでいます。海外では、グローバルにパッケージング事業を展開するノルウェーのElopak社、四国化工機株式会社と協業して一貫サービス体制構築による事業成長を進めます。

家庭紙・ヘルスケア事業では、パルプからの一貫生産によるコスト競争力強化に加え、グローバルパートナーとの連携により海外展開の拡大を進めます。

ケミカル事業では、機能性セルロースや機能性コーティング樹脂などで、これまで実施した設備投資の効果を最大化させ、収益拡大を進めます。

c.紙・板紙事業の基盤強化

グラフィック用紙の生産体制最適化と輸出の拡大により、稼働率及び生産性を向上し、競争力強化を図ります。生産設備を削減する中でも、安定操業とBCP体制を強化し、製品の安定供給を維持します。

d.バイオマス素材製品

新素材として開発を進めているセルロースナノファイバー(CNF)「セレンピア®」は、食品や化粧品用途での採用事例が順調に増加していることに加え、モビリティ関連部材の補強材用途でも採用されました。今後も自動車用途をはじめ幅広い産業分野での用途拡大を進めていきます。また、主として持続可能な航空燃料(SAF)の原料用途での事業化を検討している国産木材由来のバイオエタノールについては、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「バイオものづくり革命推進事業」の助成及び委託を受けることになりました。当社は、持続可能な資源である木材から新たなバイオマス素材を生み出すことで、社会課題の解決に貢献する製品の開発とバイオマス素材事業の拡大を進めます。

 

② サステナビリティ経営の強化

当社は、社会や環境の持続可能性と企業の成長をともに追求するサステナビリティ経営を推進しています。

(イ)温室効果ガス(GHG)排出量の削減

気候変動問題に対する社会的要請の高まりや2026年度に開始される排出量取引制度などの政策導入を鑑み、GHG削減対策の柱である燃料転換、省エネや生産体制再編成を前倒しで進めており、2030ビジョン策定時に掲げた2030年度GHG排出削減目標45%(2013年度比)を54%に引き上げています。生産体制再編成によるGHG削減については、グラフィック用紙事業を中心に検討を進め、八代工場では抄紙機の停機と併せて石炭ボイラー1基を停機することで、当該工場での石炭使用量をゼロとし、大幅にGHG排出量を削減する計画としています。また、石巻工場では、GX経済移行債を活用した政府支援を受け、石炭から黒液への燃料転換により大幅にGHG排出量を削減します。これらの削減と並行して、パルプから新しいバイオマス素材を生み出し、低GHGなグリーン製品として社会への提供を進めていくことで、脱炭素・循環型社会において総合バイオマス企業として成長していきます。

(ロ)グリーン戦略の展開

森林の持つ価値の最大化と、木質資源を利用した製品の拡大によって、循環型社会構築と事業基盤強化の両立を図ります。海外植林地では、当社が長年培ってきた樹木の育種・増殖技術や植林技術を活用し、森林の生産性を向上させることで2030年度にCO₂固定効率の30%向上(2013年比)を目指します。また、東南アジア地域の既存植林事業に対して、技術支援などにより生産性を高めることで、当社向け資源の安定確保につなげていきます。国内においては、林業用エリートツリー苗1,000万本/年の生産体制を2030年度までに構築し、国内林業の活性化及び花粉症問題解決への貢献と、国産材サプライチェーン強化による事業成長の同時実現を目指します。また、国のカーボンクレジット制度である「J-クレジット制度」のもと、国内社有林で2027年度までに累計20万t-CO₂のプロジェクト登録を目指すとともに、地方自治体や他の森林保有企業と連携し、さらなる事業機会の獲得を図ります。

(ハ)製品リサイクルの推進

従来は廃棄・焼却されていた難利用古紙のリサイクルチェーン構築や技術・設備対応による再資源化の拡充を進めています。従来の技術では再利用に不向きとされていた剥離紙や、紙コップなどの食品・飲料用製品も操業の最適化や設備導入で再利用可能としました。外食・サービス産業などにおいて紙容器リサイクルを望むユーザーのニーズは高まりつつあります。今後、収集古紙の対象範囲を広げ、社会的要請に応えるとともに、賛同企業と協働した新たなスタイルのビジネスを構築していきます。

(ニ)人的資本経営の強化

当社は、中期経営計画2025における事業別の重点課題を踏まえ、人材戦略の基本方針を明確にし、採用・育成・定着・配置に取り組んでいます。

グラフィック用紙事業の基盤強化に対しては「人材活用と適正配置の推進」を基本方針に、競争力の維持・強化と省人化を同時に実現することを目指しています。また、生活関連事業の拡大と収益力強化に対しては「新規分野、成長分野への人材投入」を基本方針に、スムーズな事業構造転換の実行につなげます。キャリア形成を目的とした階層別研修や育成コンテンツの拡充、転勤やキャリアコース転換を支援する制度の充実など、それぞれの事業に人材を適正配置できる体制を整えていきます。

また、当社は事業戦略を支える人材確保の観点から、「従業員のエンゲージメント向上」を人材戦略全体の基本方針としています。各拠点でのコーチングスキル研修、経営層-従業員間の懇談機会提供など、社内コミュニケーションを活性化させ、エンゲージメントを向上していきます。さらに、導入済みの在宅勤務制度や時間単位年休制度に加え、地域限定総合職制度の導入を検討するなど、多様な働き方の実現に向けて社内環境を継続的に整備し、優れた人材の定着を図ります。

これらのベースには、いかに人材を採用していくかが重要であり、昨今の労働市場における人手不足と流動化も踏まえて、キャリア採用、外国人人材採用の推進に加え、従業員からの紹介による採用(リファラル採用)や一度退職した従業員を再び採用する手法(アルムナイ採用)も含めた採用チャネルの複線化などに取り組んでいきます。

 

財務面については、不動産や政策保有株式など資産売却を積極的に進めながら、財務規律を十分に考慮した上で、事業構造転換の加速に必要な投資を厳選して実行していきます。2023年度末には7,235億円であった純有利子負債は2024年度末に6,949億円まで削減し、中期経営計画2025の目標値7,100億円以下となりました。

また、株価や資本コストを意識した経営を推進すべく、2025年度より各事業のKPI設定を行い定期的な進捗確認を実施するなどして、PBR改善に向けた取り組みを一層進めていきます。

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループ(当社及び連結子会社)が判断したものであり、達成を保証するものではありません。

 

(1) 当社グループのサステナビリティ経営

当社は、2004年に国連グローバル・コンパクトに署名・参加しました。国連グローバル・コンパクトが定める4分野(人権、労働、環境、腐敗防止)の10原則に基づき、「日本製紙グループは世界の人々の豊かな暮らしと文化の発展に貢献します」との企業グループ理念の実現とともに、社会・環境の持続可能性と企業の将来にわたる成長の両立を追求する、サステナビリティ経営を推進しています。

具体的には、企業グループ理念の実現に向けた経営の重要課題(マテリアリティ)と、2030年に当社グループが目指す姿・目標として策定された「2030ビジョン」の取り組みテーマを対応させ、テーマごとの進捗を定期的に管理することで、サステナビリティ経営のPDCAサイクルを回しています。

 


 

(2) 企業グループ理念の実現に向けた経営の重要課題(マテリアリティ)

当社は2021年度に、取り巻く環境の変化に対応しながら企業グループ理念を実現するために、10年後に目指す姿を描き、その達成に向けた経営課題を「2030ビジョン」として策定しました。その策定の過程で、企業グループ理念の「目指す企業像」4要件に対応する経営の課題を議論し、ガイドライン等による検証、外部意見の確認や有識者との対話を経て、当社グループの重要課題(マテリアリティ)をまとめています。

2022年度には、2030ビジョンで取り組む「事業構造転換の推進」をマテリアリティに加えました。

 


 

(3) ガバナンス

当社は、取締役会の監督のもと、代表取締役社長の下にSX推進本部を設置し、環境経営の推進、リスクマネジメントの強化、ESGに関する情報発信とステークホルダーとの関係強化に取り組む体制を構築しています。

SX推進本部は、定期的に取締役会にサステナビリティに関する報告を行っており、2024年度は気候変動関連の情報や危機対策訓練の実施、ESG評価機関による評価状況などについて、計4回報告しました。

 


 

(4) リスク管理

当社は、取締役会の監督のもと、代表取締役社長を責任者とするリスクマネジメント委員会を設置し、年1回以上開催しています。当社グループのリスクの定期的な洗い出しと評価を行い、低減対策及び発現時の対策を検討・審議し、取締役会に報告します。

当社の主要な事業等のリスクの中には、サステナビリティに関するリスクも含まれています。当社のリスクマネジメント体制を含む事業等のリスクにつきましては、「3 事業等のリスク」をご参照ください。

 

(5) 戦略

当社グループは、2030年に目指す姿・目標として2030ビジョンを策定しました。「木とともに未来を拓く総合バイオマス企業として持続的な成長を遂げる」を目指す姿として、「成長事業への経営資源のシフト」「GHG削減、環境課題等の社会情勢激変への対応」を基本方針としています。

木質資源の調達力や多岐にわたる木質資源の活用技術、幅広いパートナーとの協業など、当社グループが有する経営資源の強みを最大限活用し、3つの循環、『持続可能な森林資源の循環』、『技術力で多種多様に利用する木質資源の循環』、『積極的な製品リサイクル』を軸に、2030ビジョンの基本方針に基づいた事業活動を実践することで、当社グループの持続的成長の実現と木質資源を最大活用した循環型社会の構築をともに創出していきます。


 

当社は、マテリアリティと2030ビジョンの基本方針で取り組むテーマを対応させ、指標・目標(KPI)を設定し、サステナビリティ経営のPDCAサイクルを回しています。

 


 

(6) 指標と目標

当社は、マテリアリティと2030ビジョンの基本方針で取り組むテーマを対応させて、指標と目標(KPI)を設定しています。2023年度は主な取り組みと進捗状況をまとめ、「日本製紙グループ統合報告書2024」に開示しました。

2024年度につきましては、2025年9月に発行する「日本製紙グループ統合報告書2025」に開示する予定です。

なお、「日本製紙グループ統合報告書2025」は発行後、当社グループウェブサイトにて公表される予定です。

 

 

(7) 気候変動問題への対応

① ガバナンス

当社グループは、気候変動問題への対応を、企業グループ理念を実現するための重要課題と位置付け、温室効果ガス(GHG)排出量削減を中心として緩和と適応に取り組んでいます。

当社の取締役会は、GHG排出削減・環境経営推進担当役員(年4回以上)やリスクマネジメント委員会(年1回)から、GHG排出削減に関わる各プロジェクトの進捗やシナリオ分析の結果として特定されたリスク・機会などの報告を受けて、その業務執行を監督しています。

 

② リスク管理

当社グループでは、部門横断的な気候変動戦略ワーキンググループにおいて、複数の気温上昇シナリオを設定し、分析・評価することで、重要なリスクを特定しています。特定したリスクは、GHG排出削減・環境経営推進担当役員及びリスクマネジメント委員会より当社の取締役会に報告されます。取締役会では、リスクにおける優先度を選別・評価し、迅速な意思決定を行っています。

 

③ 指標と目標

指標 (注)1

2030年度

2050年度

GHG排出量削減率
 (2013年度比)

目標

進捗

54%

41% (注)2

カーボンニュートラル

非化石エネルギー使用比率

60%以上

47% (注)3

 

(注)1.エネルギー事業分野を除く製造に関わるScope1及び2

2.2024年度暫定値

3.2023年度実績値

 

Scope3排出量(注)

2023年度(実績値)

6,133千t-CO₂

2024年度(暫定値)

5,528千t-CO₂

 

(注)対象範囲:日本製紙㈱、日本製紙クレシア㈱、日本製紙パピリア㈱、Opal社、日本ダイナウェーブパッケージング社

対象事業:紙・板紙事業、生活関連事業、エネルギー事業

④ 戦略

当社グループは、気候変動問題への対応を重要な経営課題として位置づけ、GHG排出量の削減を中心とした緩和と適応に取り組んでいます。当社グループでは、気候変動問題に関わるリスクと機会に対応するために、シナリオ分析を行い、経営課題に取り込むことにより、リスクの低減と機会の拡大を図っています。

エネルギー多消費型産業である紙パルプ製造を主要事業とする当社グループは、脱炭素化の動きが急加速する状況において、その対応が遅れた場合、カーボンプライシング政策などの規制リスクや顧客、投資家からのレピュテーションリスクにより財務影響を受ける可能性があります。一方で、脱炭素・サーキュラーエコノミーが主流化する今後の社会において、当社グループは、持続可能な森林経営で生み出した森林資源を利用し、バイオマス素材・製品やサービスを生み出すと同時に、これまで培ってきたリサイクル技術により資源を循環利用することなどを強みとして成長する機会があります。

当社グループは、シナリオ分析及びその他の情報を考慮し、2050年カーボンニュートラルに向けた移行計画を策定しています。GHG排出量の削減については、2021年度に、2030ビジョンにおいて、2030年度までに2013年度比で45%削減する目標を設定しましたが、脱炭素政策の強化、市場ニーズの変化等、主として移行リスク要因の変化が速くなっていること、またその影響も大きくなる可能性があると評価したことから、生産体制再編成と連動させた石炭使用量削減の追加対策を検討し、2023年5月に、2030年度の削減目標(2013年度比)を45%削減から54%削減に引上げました。

 

当社グループは、省エネルギー、燃料転換、生産効率の向上を3つの柱としてGHG排出量の削減を進めています。2013-2024年度の削減実績は41%に到達する見込みであり、2025-2030年度で残り13%を削減する計画を予定しています。当社グループは、2030ビジョンで掲げた54%削減の目標を確実に達成するために、石巻工場に高効率黒液回収ボイラーを設置することで、石炭ボイラー1基を停止し、GHG排出量を大幅に削減する燃料転換プロジェクトを実施しています。本プロジェクトは経済産業省「排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換支援事業」の交付決定を受けており、当社グループにおける脱炭素移行計画を大きく進める施策であると同時に、製造時のGHG排出量が少ないバイオマス素材を環境価値とともに社会に提供することで、「グリーン市場の創造」に取り組み、脱炭素と経済成長の同時実現を牽引するものです。

 

日本製紙石巻工場 設備投資計画の概要

  設置場所 日本製紙 石巻工場

  投資規模 550億円(うち政府支援上限額:183億円)(※1)

  投資内容 高効率黒液回収ボイラー  蒸発量 390 t/h

        蒸気タービン・発電機    発電量 56 MW

  稼働開始 2028年度 第4四半期

  GHG排出削減量(※2)   50万t-CO₂e

              当社排出量(※3)の10%相当

   ※1.採択時

   ※2.既存石炭ボイラーの停機による削減効果を含む

   ※3.エネルギー事業分野を除く製造に関わる排出

 

日本製紙グループ GHG排出量の推移

削減目標:2030年度 54%(2013年度比)(※)

     2050年度 カーボンニュートラル

  ※ エネルギー事業分野を除く製造にかかわるScope1及び2

 


 

 

日本製紙グループ 脱炭素移行計画

 


 


 

⑤ 2030年時点における主要なリスク

(移行リスク)

紙パルプ産業は、エネルギー多消費型産業であり、カーボンプライシングやエネルギー政策などの規制リスクにより大きな影響を受けますが、省エネルギー対策や燃料転換でGHG排出量の削減を加速させ、早期に低炭素化への移行を進めることで、炭素価格上昇などに関わるリスクの低減を図っていきます。また、環境配慮型製品を中心とするグリーン市場の拡大や市場ニーズの変化に対応するための開発・設備投資費用が増加する可能性がありますが、低炭素なバイオマス素材など環境配慮型製品を環境価値とともに適切に市場に提供することで、拡大するグリーン市場において、リスクを機会に変えて成長していきます。

 

(物理的リスク)

台風や豪雨などの気象災害の激甚化は、生産拠点や物流網に被害をもたらしますが、事業継続のための綿密な体制の整備を図り、リスクの低減を図っています。また、気温の上昇や降水パターンの変化は、植物の生長を悪化させるため、木材チップの調達コストを増加させるリスクがありますが、複数国・地域にサプライヤーを分散することで、安定的な調達を図っています。

 

 

⑥ 2030年時点における主要な機会

カーボンプライシング政策の導入や市場ニーズの変化により、低炭素なバイオマス素材や省エネルギーに寄与する素材の需要が拡大すると同時に、資源自律を実現する国産材需要の増加、カーボン・クレジット市場の拡大による森林吸収クレジット需要の増加などの機会が見込まれます。これらの機会を捉えるために、これまで蓄積してきた森林管理、育種・増殖技術、木質資源の調達網やセルロース材料利用技術等の強みを活用して成長していきます。

2030年度時点における環境配慮型製品の売上高は、約3,600億円を見込んでいます。

 

2030年度時点のリスク

要因

当社グループへの影響

財務影響

1.5℃
シナリオ

4℃
シナリオ

 

 

 

政策導入

・炭素価格、エネルギー調達コストが増加する

大(注)

小(注)

・燃料転換、省エネの設備投資費用が増加する

 大

・原材料調達コストが増加する森林吸収クレジットの需要が増加する

・植林事業地の買収コストが増加する

市場ニーズの変化

・認証材チップの調達コストが増加する

・環境負荷低減のための開発コスト、設備投資費用等が増加する

小~中

・再生可能エネルギー以外の発電事業の売上が減少する

 

 

 

 

激甚災害の増加
 (台風・豪雨の頻発)

・原材料調達、生産、製品輸送などの停止により生産量が減少し、
納品の遅延、停止が発生する

中~大

・調達、製造、物流コストが増加する

・取水する河川等の濁度上昇により生産停止が発生し、製品の納品
遅延、停止が発生する

気温上昇・降水パターンの
変化

・自社の植林資産に損失が生じる

・原材料が調達困難となり、調達コストが増加する

・代替資材の探索、技術開発コストが増加する

・品質の維持が困難になり販売量が減少、あるいは販売価格が低下
 する

 

(注)炭素価格影響額 小:100億円未満、中:100億円以上500億円未満、大:500億円以上

   「炭素価格」以外は定性評価

   炭素税:IEAによるNZE(Net Zero Emission)シナリオに基づき設定

 

2030年度時点の機会

要因

当社グループの機会

当社グループの強み

市場成長

1.5℃
シナリオ

4℃
シナリオ


 行
 要
 因

脱炭素政策の強化

・発電施設設置場所の需要が増加する

・国内社有林・敷地等
・国産材調達網

・バイオマス燃料製造技術

・非化石燃料調達網

・既設ボイラーの活用

拡大

維持

・バイオマス燃料の需要が増加する

・RPF、廃タイヤなどの廃棄物系燃料
 の活用が進む

・蓄電池が普及し、蓄電池用原材料の
 需要が増加する

・CMC技術・生産設備

・CNF技術・生産設備

大きく
拡大

拡大

・自動車などの軽量化ニーズにより、
 CNFの需要が増加する

・森林吸収クレジットの需要が増加する

・国内社有林
・エリートツリー苗事業
・海外植林事業

・森林管理技術
・育種・増殖技術

大きく
拡大

維持

・国産材の需要が増加する

・国内社有林
・国産材調達網
・エリートツリー苗事業

・ステークホルダーとの協働

拡大

維持

・古紙の需要が増加する

・古紙調達網(未利用古紙を含む)
・ステークホルダーとの協働

・森林による炭素固定と活用の需要が
 高まる

・高効率CO₂固定効率樹木の育種技術
・国内社有林

・エリートツリー苗事業
・海外植林事業

拡大

維持

・木質由来CO₂を利用した化学原料の
 需要が高まる

・バイオマス由来CO₂供給インフラ
 (回収ボイラー)

・化学的CO₂固定・利用技術

大きく
拡大

維持

地方分散型社会
への移行

・小口の燃料需要が増加する

・国産材調達網
・国内社有林

拡大

維持

・各生産拠点から出荷対応すると同時
 に、物流時のCO₂排出を抑制した製品
 を販売する機会が増加する

・生産拠点の複数化

拡大

維持

市場ニーズの変化

・脱石化により紙化ニーズが高まるな
 ど、バイオマス素材の需要が増加する

 

・リグニン製品の需要が増加する

・木質バイオマス素材開発技術
(CNF、紙製包装材料、液体容器、機能性
 段ボール、バイオコンポジットなど)

・リグニン抽出 活用技術

・未利用古紙リサイクル技術

大きく
拡大

拡大

・持続可能な森林由来の原材料を使用
 した紙の需要が増加する

・森林認証材の調達網実績

・優良サプライヤーとの信頼関係

・持続可能な自社林経営

拡大

拡大

・畜産業由来GHG排出量を抑制する製品
 の需要が増加する

・セルロース材料利用技術

拡大

維持

・環境負荷の低いハロゲンフリーの樹脂
 の需要が増加する

・機能性コーティング樹脂アウローレン®
 需要増

拡大

拡大

・持続可能な航空燃料の需要が増加する

・木質資源からのバイオエタノール製造技術
・複数のクラフトパルプ製造設備

拡大

拡大

 

 

要因

当社グループの機会

当社グループの強み

市場成長

1.5℃
シナリオ

4℃
シナリオ


 理
 的
 要
 因

激甚災害の増加

・柔軟なBCP体制が確立したサプライ
 ヤーからの購入ニーズが高まる

・生産拠点の複数化

拡大

大きく
拡大

・国産材の需要が増加する・国内の
 再造林面積増によりエリートツリー
 苗の需要が増加する

・国内社有林
・エリートツリー苗事業
・古紙調達網
・国産材調達網
・森林管理技術
・育種・増殖技術

・非化石燃料調達網
・ステークホルダーとの協働
・未利用古紙リサイクル技術

拡大

大きく
 拡大

・古紙の需要が増加する

・国内廃棄物系燃料及びバイオマス
 燃料の需要が増加する

・コンクリート混和材などの需要が
 増加する

・コンクリート用混和材(フライアッシュ)技術

拡大

拡大

・長期保存可能なアセプティック紙
 パックの需要が増加する

・トータルシステムサプライヤー

拡大

拡大

気温の上昇・降水
パターンの変化

・環境ストレス耐性樹木の需要が増加
 する

・育種・増殖技術

拡大

拡大

 

 

(8) 生物多様性保全への取り組み

当社グループは、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)最終提言v1.0を参照し、LEAPアプローチ(※)を用いた自然関連リスクの評価を行い、TNFD情報開示フレームワークに基づく情報開示に努めています。

 

※ TNFDが提唱する自然関連のリスクと機会を科学的根拠に基づき体系的に評価するためのプロセス。自然との接
 点を発見する「Locate」、自然への依存と影響を診断する「Evaluate」、自然に関する重要なリスクと機会を
 評価する「Assess」、リスクと機会に対応しステークホルダーに報告する準備を行う「Prepare」の4ステップ
 の順に進めることが特徴。

 

① ガバナンス体制、リスク管理

 当社グループは、生物多様性に配慮した森林資源の保護育成と活用を推進しています。当社の取締役会は、生物多様性の保全を重要な経営課題と位置付け、生態系サービスの持続可能な利用と事業活動との調和に努めており、GHG排出削減・環境経営推進担当役員(年1回以上)やリスクマネジメント委員会(年1回以上)から、生物多様性保全に関わる取り組みの進捗、リスク分析結果などの報告を受け、業務執行の監督を行っています。

 

② リスク分析

 自然への「依存」と「影響」については、生物多様性評価ツール(ENCORE、WWF Biodiversity Risk Filter、WRI AQUEDUCT)による評価を行い、その結果及び調達量に基づき優先地域を特定するとともに、詳細な分析を実施し、リスクと機会を特定しました。当社事業に関連する生物多様性や自然資本に関わる重要なリスクと取り組み及び機会は、以下の通りです。

 

 

<優先地域におけるリスク>

優先地域:自然への依存・影響が大きく、事業上重要と考えられるマテリアルなエリア

カテゴリー

リスク

日本製紙グループの取り組み

物理

異常気象、森林火災により
木材生産性が低下する

・火災保険の利用、監視体制の強化

・樹齢構成の平準化を図ることで、多様で災害に強い森林を造成する

物理

水質汚染や水不足が発生した場合、
木材生産性が減少する

・水源涵養林等の保安林を含む社有林における森林管理や再造林の実施
 による水源保全

物理

生態系の劣化により樹木の生長が低下する

・人工林及び二次林においては、樹齢構成の平準化により森林の若返りを
 図り、森林生態系の多様化を図る

・当社ユーザーと森林の多面的機能に関する理解を深め、かつ社有林での
 森林保全・再生活動を促進し、持続可能な森林生態系の維持に努める

政策

保護地域の拡大に伴い、植林化可能地が制限され、木材生産量が減少する

・環境林と経済林のゾーニングを図る

・森林の生産性を高めることで保護すべき貴重な森林への開発圧を軽減する

・経済林であっても貴重な動植物の生息が確認された場合は、NPOなどと
 協働し、生物種の保護・保全と木材生産の両立を図る

 

 

<機会>

カテゴリー

機会

日本製紙グループの取り組み

市場

森林の持つ多面的な機能(CO₂、生物多様性、土壌、栄養、水源涵養)に対する経済的価値の向上

・自然資本会計において、ISFCに参加して森林の価値定量化の制度確立に
 加わることで、国内・海外の所有森林の価値の向上を図る
・国内社有林において20万t-CO₂相当のJ-クレジットの創出に向けたプロ
 ジェクトを進める

市場

持続可能な木質資源への引き合い増加

・開発履歴の確かな森林において、優良樹種やエリートツリーの活用に
 よって森林の生産性を向上させることで、持続可能な木質資源を供給する

市場

森林の生産性向上技術によるビジネス展開

・国内ではエリートツリー苗事業を拡大し、2030年度までに1,000万本の
 生産体制を構築する(2030年の林業用苗需要は1億本と推定)

・海外では優良品種の早期選抜技術、植林技術を既存の植林事業に提供し、
 当社の海外材調達につなげる

製品

木質資源を原料とした環境配慮型製品の
売上増加

・脱プラスチックやサステナブル消費の拡大を背景とした紙・バイオマス
 由来製品の需要増加に対応し、環境配慮型製品の開発・拡販を通じて
 新市場の獲得やブランド価値の向上を図るとともに、バイオマス発電や
 バイオケミカル、セルロースナノファイバー、SAF(持続可能な航空燃料)
 などでバイオマス素材事業を拡大する

製品

森林認証制度も活用した持続可能な原材料調達・サプライチェーンマネジメントによる環境価値向上

・サプライヤーアンケートやエンゲージメント、現地確認等を含む自社DDS
 を構築し、確実なサプライチェーンマネジメントを行うことで、持続可能
 な木質原材料調達を実現する

製品

環境意識の高まりや不透明な国際情勢から国産木材及び由来製品の引き合いが高まる

・当社グループの日本製紙木材㈱が持つ国内最大級の国産材流通網(年間
 約400万m3)を強みとして、国産材サプライチェーンの強化・拡大を進める

 

 

(9) 人的資本経営

① 人材戦略の基本的な考え方

当社は、企業グループ理念の中で、目指す企業像の要件の一つに「社員が誇りを持って明るく仕事に取り組む」ことを掲げています。誇りとは、「キャリアを通じた個々人のスキル向上・成長実感」、「職場での働き甲斐や報酬・処遇への充実感」、「事業活動の推進を通じて得る社会貢献の実感」を享受することで培われるものと考えています。また、明るく仕事に取り組むとは、外部環境の激しい変化に対して臆することなく、社員が前向きに働くことであり、そのための企業風土づくりが必要です。この要件を満たすためには社員のエンゲージメント向上が必要であることから、そのための人材戦略を策定し、各種の施策に取り組んでいます。

特に、当社は人材戦略において、中期経営計画2025及び今後の事業展開を見据えた人材確保を最重要課題と捉えています。労働力人口の減少や人材の流動化により、人材確保がますます困難になる中でも、スピード感を持って4つの視点(採用・育成・定着・配置)をもとにした各種の施策を実行し、「社員に選び続けてもらえる会社」となることで、既存事業の持続的な成長と競争力の維持・スムーズな事業構造転換の実行に取り組む人材の確保を進めています。

 

② 社員のエンゲージメント向上のための人材戦略

当社は、あるべき社員とのエンゲージメントを“社員と企業の双方が成長していける関係”であると定義しています。当社グループは、2030ビジョンの実現に向け策定された中期経営計画2025において「事業構造転換の加速」を基本戦略に掲げていますが、これを実現するため、人材育成、定着に力を入れるとともに、成長事業への人材のシフトをはじめとした人材配置を進め、社員と企業の双方が成長することを促していきます。また、多様な働き方の実現と、多様な人材が能力を最大限に発揮できる組織づくりを推進し、社員のエンゲージメント向上を図り、「社員が誇りを持って明るく仕事に取り組む」ことを実現していきます。

 

③ 事業戦略と人材戦略の連動

当社は事業別に人材戦略の基本方針を明確化し、中期経営計画2025で掲げている重点項目に対応する施策に取り組んでいます。グラフィック用紙事業の基盤強化に対しては「人材活用と適正配置の推進」を基本方針として、競争力の維持・強化と省人化を同時に実現することを目指しています。また、生活関連事業の拡大と収益力強化に対しては「新規分野、成長分野への人材投入」を基本方針として、スムーズな事業構造転換の実行につなげます。

さらには、従業員のエンゲージメント向上を人材戦略におけるもうひとつの基本方針とし、さまざまな人事施策を通じて当社の事業戦略を支える優秀な人材の確保・維持を図ります。

 

中期経営計画2025と連動する人材戦略


 

 

 

(イ)具体的な人的資本投資施策について

当社の人材戦略は、「採用」「育成」「定着」「配置」の4つの視点から構成されますが、これらの取り組みはそれぞれが独立したものではなく、有機的に連携し、個々の社員の成長・キャリア形成に一貫して寄り添いながら、エンゲージメント向上を促進することで長期的に人材を確保するためのものです。これは、人材が持つ潜在能力を最大限に引き出し、企業価値の向上に貢献するためには、「社員に選び続けてもらえる会社」であることが不可欠であるとの認識に基づくものであり、当社の人事施策は、この目標達成に向けた包括的な取り組みとして展開しています。

 

a.採用(採用チャネルの維持・拡大)

項目

ターゲット(注)1,2

概要・実施内容

キャリア採用強化

全社員

・新卒採用(4月入社)の補強として、第二新卒・若年者転職希望者の通年採用を強化
・成長事業・新規事業分野を中心に、総合職のキャリア採用を強化

アルムナイ採用強化

・カムバック採用制度(NICORE制度,Nippon Paper Comeback Re-entry)の設置・運営
・離職者による人材バンク登録

リファラル採用強化

・被紹介者は書類選考通過を確約し、面接からの審査を実施
・紹介者への『社員紹介手当制度』を2025年度より新設し、従業員からの紹介を促進

外国人人材採用の推進

・労働力人口減少を見据え、新たな労働力人材の活用を検討

グローバル・アプライ制度

ビジネス
リーダー

・海外志向が強く語学力の高い学生を、将来の「海外駐在員候補」として採用
 (入社実績)2024年4月:4名、2025年4月:1名

 

 

b.育成(変化にチャレンジする人材づくり) 

項目

ターゲット(注)1,2

概要・実施内容

選抜型教育

全社員

・事業構造転換の旗振り役である工場幹部を対象としたイノベーション思考研修
・本社若手総合職の選抜者を対象に未来洞察型のワークショップ実施

階層別教育

・総合職:ライフプランとキャリアの両立・明確化などを通じたリテンション対策研修
・一般職:工場横断的な同期意識の醸成、グループ事業・早期選抜制度の紹介など

DX人材育成推進

・生成AIを活用したDX推進ワークショップの実施(約40名/年)
・データ処理技能向上のためEXCEL技能研修の全社展開(約80名/年)

サブスク・カフェテリア
教育強化

・自主自立的な学習意欲の高い方を選抜した教育コンテンツの拡充

資格取得奨励金制度・資格手当

・事業構造転換に対応可能な人材の育成と配置を推進するため、法令上必要な資格、
 自己啓発に有用な資格の取得を促進

本部長と他部門若手総合職の
コミュニケーション

ビジネス
リーダー

・各本部長(経営層)と他部門の若手総合職の懇談機会を提供
 →若手総合職に、経営状況や事業構造転換の進捗を理解してもらう

エンゲージメント向上に向けた
コーチングスキル強化

・全工場ライン管理者を対象としたコーチングスキル研修の実施
 →職場環境改善のためのコミュニケーション能力強化

セルフ・リカレントプログラム

・組織改定や人事異動等により、新しい事業領域・新しい職務に臨む管理職向けの
 カフェテリアプラン方式プログラムを提供

グローバル人材育成強化

・海外グループ会社への研修派遣制度(事務系・技術系)
・海外駐在員専用相談窓口を設置し、赴任後一定期間は定期面談を実施

社内副業制度

・自部署以外の部門の業務に挑戦する機会の提供

 

 

c.定着(社員のニーズにこたえる処遇や制度の構築)

項目

ターゲット(注)1,2

概要・実施内容

キャリア相談窓口設置
(ワークライフコンサルティング)

全社員

・キャリア自律支援や、育児・介護などを理由とした離職の防止を目的に、
 ライフイベントに関する外部相談窓口を設置

ダイバーシティを推進する
各種制度の導入・風土醸成

・コアタイムのないフレックスタイム制度、時間単位年休制度、在宅勤務制度など、
 多様な働き方を実現するための各種制度を導入済み
・DE&Iの風土醸成の一環として、各本部長が自本部でのDE&Iの推進に関する
 取り組みテーマを文章化・発信する「DE&I行動宣言」を実施

従業員の健康課題を踏まえた
休暇制度等の見直し検討

・更年期障害や不妊治療など健康課題が多様化する中で、従業員それぞれが強みを最大限に
 発揮できる社内風土醸成と職場環境整備に向けた制度の見直しを、労使合同で検討中

地域限定総合職制度の
導入検討

ビジネス
リーダー

・若手総合職のリテンション向上とキャリア形成の多様化を図るため、
 一定期間、勤務地を限定する制度の導入を検討中

交替勤務者の働き方見直し

エキスパート

・交替勤務サイクルの見直し等、ワークライフバランスを充実させることで
 人材確保に資する勤務スタイルを検討中

 

 

d.配置(社員のスキル・キャリア志向を踏まえた人材の活用)

項目

ターゲット(注)1,2

概要・実施内容

事業構造転換に向けた
人材の再配置

全社員

・地元採用の一般職の優秀層を課長へ抜擢し、総合職は成長事業・新規事業を中心に再配置
・既存事業で高いスキルを蓄積した人材を成長事業・新規事業の立ち上げに配置

主要グループ企業間の労働
条件共通化(プラットフォーム化)

・グループ間での人材交流活性化を目的に、労働条件のベース(休日・休暇~処遇)の
 共通化を段階的に進める(~2028年度)

コース転換制度拡充

エキスパート

・地元採用の一般職の優秀層を対象とした総合職コース転換を新設し、地域を限定せず
 幅広く活躍できるコースに転換、優秀技能者のモチベーションの維持・向上を図る

職種転換手当の新設

・一般職が異動を含めたキャリア形成を前向きに捉えられるようマインドチェンジを図り、
 事業構造転換に貢献いただく労苦に対し、手当を支給

転勤支援制度の拡充

・転居を伴う異動をする一般職に対して、「単身赴任特別手当」
 「介護のための帰省旅費の配慮」などの支援制度を拡充

 

(注)1.ビジネスリーダー:キャリアパスを通じて多様な分野で幅広い業務を担いながら、会社全体を牽引する
  役割を期待する、いわゆる総合職としてのキャリアコース

   2.エキスパート:本社・営業支社・工場・事業所が立地している各地域での採用者を中心とした、当社の
  事業運営において不可欠な各種業務(三交替オペレーター、設備メンテナンス、他)に専門家として
   従事する、いわゆる一般職としてのキャリアコース

 

(ロ)エンゲージメント向上の取り組み

当社はエンゲージメント調査を2019年度から定期的に実施しています。当社は本調査を「“社員と企業の双方が成長していける関係”をより強固にするための重要な調査」と位置付けています。

2024年度調査結果からは、上司や職場といった身近な人間関係や環境に対しては一定の満足感がある一方で、財務状態や事業の将来性・成長性への不安など、会社全体に関する領域で多くの不安・不信を抱えていることが示されています。この状態を脱却し「社員が誇りを持って明るく仕事に取り組む」ことを実現するため、会社が目指す方向性や自部門のミッションについて認識を一つにするための職場内での対話・コミュニケーション機会を提供していきます。それによって、採用・育成・定着・配置といった各種施策の実効性を高め、事業構造転換のスムーズな実現に繋げていきます。

 


 

④ 人材育成及び人材定着(社内環境整備)に関する指標と目標

当社は、人材育成や人材定着(社内環境整備)の進捗状況をモニタリングするために、下表のとおり指標や目標を設定しています。今後は、進捗状況や外部環境の変化を踏まえながら、各方針の進捗状況をモニタリングするうえでより相応しい指標への見直し・追加等を、必要に応じて検討していきます。

 

人材育成及び人材定着(社内環境整備)に係る指標と目標(注)1

指標

目標

実績

2021年度

2022年度

2023年度

2024年度

4か年平均

入社10年後の在籍率〔%〕

80%以上

60.3%

63.4%

50.0%

70.9%

62.7%

女性総合職採用比率〔%〕

40%以上

(2025年度まで)

39.6%

48.8%

36.5%

47.3%

43.0%

年間総労働時間〔時間〕

1,850時間/年以下

1,905時間

1,884時間

1,872時間

1,870時間

1,883時間

年次有給休暇取得率〔%〕

70%以上

73.8%

79.0%

80.2%

78.8%

77.9%

ダイバーシティ推進制度
利用率〔%〕(注)2

70%以上

97.8%

93.2%

84.6%

84.4%

90.0%

(内訳)

フレックスタイム
制度利用率〔%〕

42.1%

41.2%

43.2%

43.2%

41.7%

時間単位年休制度利用率〔%〕

9.2%

13.3%

18.0%

22.0%

15.6%

在宅勤務制度
利用率〔%〕

96.0%

83.4%

71.4%

69.6%

80.1%

 

(注)1.指標に関する目標及び実績は、制度の異なる連結会社の状況等を一体的に進捗管理することが困難な
 ため、提出会社のものを記載しています。

   2.ダイバーシティを推進する制度(フレックスタイム制度、時間単位年休制度及び在宅勤務制度)を
 当該年度中に利用したことがある本社部門従業員の比率です。

 

(未達となっている目標に関する分析)
 ・入社10年後在籍率:当該指標を設定した2021年当時に比べて、社会全体の人材の流動性が高まっていることが
  影響していると考えています。社内コミュニケーション機会の創出・充実と、各種制度整備を進めていくことで
  エンゲージメントを向上し、人材の定着を図っていきます。

 

・年間総労働時間:日勤部門では目標を達成していますが、さらなる業務効率化・削減に取り組んでいきます。
  交替部門では目標に対して未達となっています。採用活動を強化し、人員を充足することで総労働時間の削減を
  図っていきます。

 

 

3 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりです。ただし、これらはすべてのリスクを網羅したものではなく、記載されたリスク以外も存在し、それらのリスクが影響を与える可能性があります。また文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループ(当社及び連結子会社)が判断したものです。

 

(リスク管理体制)

当社は、取締役会の監督のもと、代表取締役社長を責任者とするリスクマネジメント委員会を設置しています。当社グループの経営におけるリスク発生防止と実際にリスクが発生した場合の影響を最小限にとどめることを目的として、リスクマネジメント規程と危機対策規程を定め、平常時と緊急時の両面で対応することとしており、リスクマネジメント委員会では、当社グループのリスクを定期的に洗い出し、評価、防止対策及び発生時の対策を検討・審議し、取締役会に報告します。

 

<リスクマネジメント体制>


 

(1) 経営戦略に関する重要なリスク

① 人材確保のリスク

当社グループは、人材戦略を事業活動における重要課題の一つとして捉えており、今後の事業展開のために適切な人材の確保と育成に注力しています。適切な人材を十分に確保し、育成することができなければ、既存事業の持続的な成長と競争力の維持が困難になるだけでなく、スムーズな事業構造転換の実行が妨げられることになるため、経営成績及び財政状態等に影響を及ぼす可能性があります。

当社は、従業員のエンゲージメント向上を目的として多様な背景を持つ人材の積極的な採用や育成、そして柔軟な働き方を支える職場環境の整備により、多様な人材が最大限能力を発揮できる組織づくりの推進により人材の確保に努めています。育成においては、「変化にチャレンジする人材づくり」に取り組み、社内副業制度の導入や工場・事業所の幹部候補育成を目的とした選抜型教育などにより、成長事業の収益拡大と基盤事業の競争力強化の源泉となる人材育成を進めています。職場環境においては、育児・介護などのライフイベントと仕事との両立支援制度の充実や一般職における定年年齢を60歳から65歳に延長するなど、より多様な働き方を後押しする社内制度の導入を図っています。

加えて、少子高齢化の進展による労働力人口減少といった課題も顕在化していきます。このため、操業現場の自動化や省人化、物流分野におけるIoT技術の導入についても検討をしています。

これらの取り組みにより、当社グループは適切な人材の確保と育成を推進し、持続的な成長に努めていきます。

 

 

② Opal社収益改善の遅延に関するリスク

当社グループの連結子会社である豪州のOpal社については、メアリーベール工場においてグラフィック用紙事業から撤退し、成長が期待できるパッケージ事業の一貫体制構築を推進しています。Opal社の立て直しは喫緊の経営課題と認識しており、現在、早期の黒字化に向けて同社の再建に取り組んでいます。しかしながら、これらの取り組みが予定通り進捗しない場合、経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。

このため当社グループでは、課題であるメアリーベール工場の収益改善を図るべく、パッケージ原紙工場としての生産体制最適化、グループの支援強化による操業安定化、人員合理化を中心とする固定費削減、原紙販売構成の改善等により、同工場の収益改善に向けた取り組みを加速しています。

また、メアリーベール工場以外のパッケージ事業においては、生産拠点の統廃合などの合理化を進める一方で、段ボール新工場の建設や老朽化した加工機の順次更新などの設備投資を行い生産能力増強と生産性向上を図るとともに、営業体制の強化によりシェア拡大を推進するなど、Opal社全体としての収益基盤強化を進めています。

 

③ 気候変動に関するリスク

エネルギー多消費型の紙・パルプを主要事業とする当社グループは、気候変動への包括的な対応を、企業グループ理念の実現における重要な課題と位置づけ、2050年までのカーボンニュートラル達成を目指し、温室効果ガス(GHG)排出量削減に積極的に取り組んでいます。脱炭素化への世界的な動きが加速する中、当社グループの対応が遅れた場合、カーボンプライシング政策の強化などの規制リスク、クレジット購入費用の発生やGHG削減投資の増大による財務リスク、さらに顧客や投資家からの信頼低下によるレピュテーションリスクに直面し、財務への影響が避けられない可能性があります。

当社グループは、これらのリスクに関わる財務影響を適切に評価し、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の推奨する枠組みに基づき、透明性の高い開示を行っています。またリスク低減のため、2030年度までに2013年度比でGHG排出量を54%削減する目標を掲げ、高効率設備の導入や製造プロセスの最適化による省エネルギー対策や再生可能・廃棄物エネルギーへの転換を進めていますが、さらなる削減を図るために、当社は、2028年度中に石巻工場において高効率な黒液回収ボイラー1基を新設し、あわせて既存の石炭ボイラー1基の運転を停止することでGHG排出量の削減の取り組みを一層加速していきます。

当社グループは、物流時の排出についても、同業や異業種企業などステークホルダーとの連携を強化し、ラウンド輸送やモーダルシフト化、輸送距離の短縮等の協働を通じて、バリューチェーン全体での排出量削減に取り組んでいます。また、適切な森林管理による森林吸収やカーボンリサイクルなどの取り組みも積極的に行っており、多面的に脱炭素化を推進し、2050年カーボンニュートラル達成への取り組みを強化しています。

気候変動問題への対応は、単なるリスク管理にとどまらず、新たなビジネスチャンスの創出にもつながります。当社は、幅広いステークホルダーとの連携をより一層強化しながら、サステナビリティを核としたイノベーションを推進し、環境と経済の両立を目指す持続可能な成長を実現していきます。

 

④ グラフィック製品の需要減少に関するリスク

当社グループの事業の1つであるグラフィック用紙事業は、デジタル化の進展や、新型コロナウイルス感染症を契機とした働き方や生活様式の変化を受けて市場縮小の傾向が続いています。

そのため、当社は成長事業である生活関連事業への経営資源のシフトとともに、グラフィック用紙事業については生産体制の再編成を進め、生産能力削減と競争力の強化を図っています。しかしながら、これらの取り組みが予定通り進捗しない場合、経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。

当社グループは、グラフィック用紙事業の基盤強化として、操業安定化及び継続的なコストダウン、安定供給のための再生産可能な適正価格を確保し、また、顧客と連携した環境配慮型製品の開発・ラインアップ拡充による販売数量の維持・拡大、食品・工業向け製品における加工分野での協業を進めています。更に、包装分野を中心とした海外市場の調査を行う専門部署を設置し、グローバルな市場動向をリアルタイムに把握しながら、迅速な海外向け製品の開発と販売供給体制を強化することで海外市場を獲得し、輸出を拡大していきます。

グラフィック用紙の生産体制再編成についても、GHG排出量削減と連動して進めることで競争力を高め、人材やパルプ、ユーティリティなどのグラフィック用紙事業の既存リソースは、家庭紙やケミカル、バイオマス素材などの成長分野の拡大に活用します。

このように、リスク低減のために多数の対応手段を持つことで、市場の変化に対するレジリエンスを高め、引き続き安定した収益を確保していきます。

 

⑤ バイオマス素材事業拡大の遅延に関するリスク

当社グループは、木質資源から生み出すバイオマス素材・製品を様々な市場に展開するバイオマス素材事業を拡大し、「総合バイオマス企業」として持続的に成長することを目指しています。しかしながら、バイオマス素材事業の拡大が計画通り進捗しない場合、経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。

当社グループは、「2030ビジョン」と「中期経営計画2025」における成長戦略として、「森林価値の最大化」と「バイオマス素材・製品の拡大」を2つの柱とした「グリーン戦略」を策定しています。化石資源の枯渇、海洋プラスチック問題などを背景とした脱・減プラスチックの動きは、脱炭素、サーキュラーエコノミーと併せ、世界において主流化することが予想されます。当社グループは、持続可能な森林経営・管理で木質資源を生み出し、環境配慮性と優れた機能特性を併せ持つバイオマス素材・製品をモビリティ&インダストリアル、フード&アグリ、コンストラクション、パーソナルケア市場等、国内外の様々な製品市場に提供していきます。すでに、化石資源由来の素材の代替や機能性向上を目的とした容器包装用紙製品、セルロースナノファイバー、養牛用飼料等、セルロース製品の用途開発、販売を開始しており、それに加えて、国産材からのバイオエタノール生産に向けて、当社岩沼工場での実証試験にも着手しています。また、木材成分のひとつであるリグニンを原料とした、常温アスファルト混合物用乳剤に使用される「スターリグノ」など、工事施工時のGHG排出量を削減できる製品向けの販売も開始しています。

環境配慮性など市場の要望をタイムリーに実現していくためには、技術力、販売力、ネットワークが必須です。当社は、これらの分野への投資や人材の再配置を積極的に進めることで、既存事業とのシナジーも生み出していますが、同時にオープンイノベーションを推進するための「産・官・学・金」のネットワーク構築にも取り組み、その研究成果を製品・サービスとして市場に提供することで、市場の変化に対応するレジリエンスを高めていきます。

市場の変化に対応し、国内外で優位性を獲得・維持するためには、知的資本の価値を最大化する知財戦略が欠かせません。当社グループでは、研究・開発部門と知的財産部門が密接に連携し、定期的に研究成果を精査し、成長分野や新規事業分野への特許出願や権利化の強化を図ると同時に、海外事業の拡大を念頭においた外国特許出願にも力を入れています。

当社グループは、バイオマス素材を通じて、サプライチェーン全体でのGHG排出量の削減やリサイクルによる資源循環・資源自律、国内森林の活用による林業の活性化などを実現することで、社会の持続可能性と当社の持続可能性を追求していきます。

 

⑥ サプライチェーンマネジメントに関するリスク

当社グループは、原燃料であるチップ、古紙、重油、石炭、薬品などを調達して、製品の製造・販売を行っています。原燃料の価格は、国内外の市況に大きく影響を受け、また脱化石燃料の気運や洋紙生産量減少に伴い、原燃料サプライヤーの事業縮小や事業撤退に起因した調達の不安定性、価格変動が顕在化する可能性があり、その価格変動は当社の経営成績及び財政状態等に影響を及ぼす可能性があります。港湾労働者・輸送力不足、地政学的緊張の高まりによるグローバルサプライチェーンにおける輸送網での遅延、気候変動対応による脱炭素政策を主要因とした原燃料価格上昇に起因する輸送費の上昇は今後も継続すると予想されます。特に国内の場合、いわゆる「物流2024年問題」が喫緊の課題であり、これらの問題も当社の経営成績及び財政状態等にさらなる影響を与える可能性があります。

主な対策として、原料や燃料の一部について、リスクヘッジのため予約購入のスキームを設定・運用する等の施策を取っている他、特に製紙用木材チップについては、当社グループは国内外に16万haの森林資源を保有するとともに、国内外のチップサプライヤーとの長きにわたる取引実績に基づく信頼関係の強化や近距離での安価な資源の開発・採用により、原材料確保と購入価格の安定化を図っています。荷役時間の削減対策として、一部工場ではトラック受入予約システムを導入し、荷役待ち時間の短縮を図っています。また、安定調達のためサプライヤーや物流会社との良好な関係を強化するとともに、海外を含む複数地域、複数ソースからの調達、代替品への切り替え、グループ横連携強化による融通及び調達網拡大等や在庫水準の見直しなど、適正在庫の管理強化による財務状況の適正化も進めています。

また、「物流2024年問題」に対しては、製品販売及び原燃料調達において社内横断でのプロジェクトチームを発足させ、規制への遵守とコストアップの最小化の両立に取り組んでいます。取引先とも協働し、計画的な納品依頼や輸送体制の変更、積載率の向上や消費地近隣に新たな在庫拠点を設置するなどの対策を実行しています。さらに、他社との海上共同輸送を実現し、トラック輸送と比べてGHG排出量の削減に取り組むとともに、人手不足への対応として物流DXの取り組みを促進していきます。

 

⑦ 自然災害及び感染症等のリスク

当社グループの生産及び販売拠点が位置する地域において、地震や台風、洪水、山火事といった大規模な自然災害が発生した場合、事業の継続性に大きな影響を及ぼす可能性があります。生産活動の停止、設備復旧のための費用増加、製品や原材料の損害などが発生し、経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。

このため当社グループでは、危機対策規程に基づき、緊急時には危機対策本部を迅速に立ち上げ、従業員及び家族の安否確認、被災状況の把握、供給継続のための対策を実施します。また緊急事態への対応のためBCM(事業継続マネジメント)を強化し、複数工場での供給体制の構築や、災害想定に基づく避難訓練や安否確認訓練を定期的に行っています。なお、自然災害に対する保険を付保していますが、当社が負う可能性がある損害賠償責任を補償するには十分ではない可能性があります。

また新型コロナウイルス感染症の流行によって、感染症が事業活動に与える影響の大きさが改めて認識されました。新型コロナウイルスを含む感染症のリスクは、従業員の健康及び事業の継続性に対する脅威となり得ます。当社グループでは、従業員の感染防止対策、在宅勤務制度の構築、オンライン会議システムの導入拡大など、感染症対策を継続的に強化しています。また、感染者の発生や事業活動への影響が懸念される場合には、迅速な情報共有と対策本部の立ち上げにより、事態の収束と事業の安定を図ります。

これらの取り組みにより、自然災害や感染症といった予期せぬ事態にも柔軟に対応し、事業の継続性と従業員の安全を守る体制を構築・維持しています。今後も、リスク対策の継続的な見直しと強化を通じて、変化する社会情勢に対応していきます。

 

(2) 事業環境及び事業活動に関するリスク

① 生産設備に関するリスク

当社グループは、市場需要と既存設備の能力を考慮した計画生産を基本としています。しかし、設備の故障や火災、自然災害による設備事故などにより生産設備の稼働率が低下すると、製品の供給能力が不足し、経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。これらのリスクに対応するため、定期的な設備点検とメンテナンス、脆弱箇所を計画的に更新する老朽化対策工事等の実施、複数工場での供給体制の構築、在庫の適正化などを行っています。

 

② コンプライアンスに関するリスク

当社グループが展開する紙・板紙事業、生活関連事業、エネルギー事業、木材・建材・土木建設関連事業など、幅広い分野において、関連する法令や規制は常に変化しており、新たなコンプライアンスの課題が生じています。特に、デジタル化の進展、グローバル化の加速、環境保護や人権尊重への関心の高まりなど、社会情勢の変化に合わせた、コンプライアンス違反のリスクはさらに複雑化しています。

その対策として、当社グループでは、社会情勢の変化に応じたコンプライアンス研修の実施や、コンプライアンスに関する意識調査を行い、従業員のコンプライアンス意識の向上に努めています。また、法令、社会規範、企業倫理、行動憲章、行動規範及びグループ各社の社内規則等に抵触するおそれのある行為などについて、日常の指示系統を離れて直接通報・相談できる「日本製紙グループヘルプライン」を設置し、コンプライアンス違反の懸念があるものについては事実調査を行っています。事案の重要性に鑑み、社内処分や注意・指導、教育等による従業員への意識啓発などの是正措置・再発防止策を実施しています。

また、当社グループは取引先や、自社だけでは遂行が難しい業務を様々な委託協力会社の協力のもと事業活動を展開しているため、取引先や委託協力会社との関係においても、公正かつ健全な業務実施を重視しています。独占禁止法や下請法の遵守はもちろんのこと、社会的な価値観の変化を反映した公正な取引慣行を目指していますが、違反があった場合には、訴訟リスクや社会的信頼の喪失など、経営上の大きなリスクとなることが予想されます。

これらに対応するため、「パートナーシップ構築宣言」に基づき、親事業者と下請事業者との望ましい取引慣行を遵守し、取引先とのパートナーシップ構築の妨げとなる取引慣行や商慣行の是正に積極的に取り組んでいます。また、2023年11月に公表された「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を踏まえ、グループ全体でのリスク評価と対策の実施を進めています。

これらの取り組みにより、社会情勢の変化にも柔軟に対応し、コンプライアンス違反のリスクを最小限に抑えることを目指しています。

 

③ 労働者の安全衛生に関するリスク

当社グループは、全事業所で安全最優先での操業に努めていますが、労働災害の発生は、労働者の健康や人命が失われる重大なリスクです。災害内容によっては企業としての管理責任を問われ、設備停止となる可能性もあります。労働災害を防ぐため独自の労働安全衛生マネジメントシステムを運用し、事業所ごとに具体的、継続的かつ自主的な活動を安全衛生計画として組み込み、労働災害の防止と労働者の健康増進、快適な職場環境など安全衛生水準の向上に努めています。

これらの取り組みにより、当社グループは労働災害の防止を推進し、安全な職場環境の確保に努めていきます。

 

④ 製造物責任に基づくリスク

当社グループは、製品について製造物責任に基づく損害賠償を請求される対象であり、現在のところ重大な損害賠償請求を受けていませんが、将来的には直面する可能性があります。製造物責任にかかる保険(生産物賠償責任保険)を付保していますが、当社グループが負う可能性がある損害賠償責任を補償するには十分でない場合があります。当社グループではグループ製品リスク委員会を設置し、グループ各社の製品安全リスクの監督、支援を行っています。また、主要製造会社はそれぞれに製品リスク委員会を設置するとともに、製品リスク管理規程の整備を進め、製品事故の防止に努めています。

 

⑤ 環境法令関連のリスク

当社グループは、事業活動において、環境関連の法規制の適用を受けています。これらの規制の変更や改正により、生産活動が制限される、あるいは新たな対策のための費用が発生する可能性があり、これらは経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。

このリスクに対応するため、環境関連の法改正状況について定期的にモニタリングし、また社外から各種情報を収集することで、適切に法令改正に対応する体制を整えています。

 

⑥ 情報システムに関するリスク

当社グループは、情報システムに関するセキュリティを徹底・強化し、また急速に普及した在宅勤務環境においても十分な情報セキュリティ対策を講じています。しかし、今後コンピュータへの不正アクセスによる情報流出や犯罪行為による情報漏えい、業務遂行妨害等の問題が発生した場合には、損害賠償請求や当社グループの社会的信頼喪失、業務停止等により、経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。情報セキュリティに関しては時流に合わせた防衛システムの導入や従業員教育を行い、個人情報については「個人情報取扱規則」を定め、全役員、全従業員及び関係取引先への周知を図ったり、セキュリティインシデントが発生した際の連絡ルートを整備したりするなど、管理体制を強化しています。また、定期的なセキュリティ監査や脆弱性評価を実施することにより、システムの脆弱性を発見・修正することで、セキュリティインシデントの予防に努めています。

 

⑦ 知的財産紛争等のリスク

当社グループは、製品や技術に関する知的財産権を保有しており、知的財産紛争や訴訟の発生があり得ます。これにより、当社グループの経営成績及び財政状態等に影響が生じる可能性があります。

具体的には、当社の製品や技術が他社の知的財産権を侵害していると主張される訴訟が提起される可能性があります。また、当社グループの知的財産権が他社によって無効審判請求の対象になる可能性や、第三者による知的財産権の侵害リスクも考えられます。当社グループは知的財産権の保護や従業員に対する教育に努めており、法的対策やリスク管理策を講じています。

 

⑧ 為替レートの変動リスク

当社グループは、輸出入取引等について為替変動リスクを負っています。輸出入の収支は、チップ、重油、石炭、薬品などの原燃料の輸入が、製品等の輸出を上回っており、主として米ドルに対して円安が生じた場合には経営成績にマイナスの影響を及ぼします。なお当社グループは、為替変動による経営成績への影響を軽減することを目的として、為替予約等を利用したリスクヘッジを実施しています。

 

(3) 財務・会計リスク

① 株価の変動リスク

当社グループは、取引先や関連会社等を中心に市場性のある株式を保有しており、株価の変動により経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。このため保有株式の定期的な株価のモニタリングを行うことにより、財政状態に重要な影響を及ぼす可能性を注視しています。

 

② 金利の変動リスク

当社グループは、有利子負債などについて金利の変動リスクを負っており、その変動により経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。当社では、長期借入金の固定金利借入の比率を一定水準以上に保っています。また、返済年限の分散化、調達の多様化に加えて金利スワップなどの金融商品を利用すること等により、金利変動リスクへの対応を行っています。

 

③ 信用リスク

当社グループは、与信管理規程に従い取引先の財務情報等を継続的に評価し、与信限度を設定するなど信用リスクに備えていますが、経営の悪化や破綻等により債権回収に支障をきたすなどの事象が発生した場合には、経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。

 

④ 固定資産の減損リスク

当社グループは、生産設備や土地をはじめとする固定資産を保有しています。事業環境等の変化により当該資産から得られる将来キャッシュ・フローが著しく減少した場合、減損損失が発生し、経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。

 

⑤ 退職給付債務に関するリスク

当社グループの退職給付費用及び債務は、年金資産の運用収益率や割引率等の数理計算上の前提に基づいて算出していますが、数理計算上の前提を変更する必要が生じた場合や株式市場の低迷等により年金資産が毀損した場合には、経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。このため年金資産の運用については、外部コンサルタントの助言をもとに、リスク・リターン特性の異なる複数の資産クラス・運用スタイルへの分散投資を行っており、年金資産全体のリスク・リターンの分析を定期的に実施することで、分散効果の有効性について評価を実施しています。

 

⑥ 繰延税金資産の取崩しリスク

当社グループは、将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に対して、将来の課税所得を見積った上で回収可能性を判断し、繰延税金資産を計上しています。しかし、事業環境等の変化による課税所得の減少や税制改正等により回収可能性を見直した結果、繰延税金資産の取崩しが発生し、経営成績及び財政状態等に影響を与える可能性があります。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用関連会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」といいます。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

(1) 経営成績

当期におけるわが国の経済は、物価の上昇による影響があるものの、インバウンド需要の増加や雇用・所得環境の改善により、緩やかに回復しています。先行きにつきましては、米国の通商政策や物価上昇の継続、金融資本市場の変動など、依然として不透明な状況が続いています。

このような状況の中、当社グループは中期経営計画2025(2021年度~2025年度)において、「事業構造転換の加速」を基本戦略に、「生活関連事業の収益力強化」「グラフィック用紙事業の競争力強化」「GHG排出量削減の加速」「財務体質の改善」を重点課題として取り組んでいます。

国内事業につきましては、グラフィック用紙事業の生産体制再編成及び事業構造転換を目的として、2024年度には白老工場と八代工場の一部生産設備の停機、及び八代工場において輸出を中心とした家庭紙事業を展開することを決定しました。あわせて石炭専焼ボイラーを停機することで八代工場での石炭使用量をゼロとし、GHG排出量を削減するなど、各種取り組みを着実に推し進めています。

一方、海外事業につきましては、豪州Opal社でグラフィック用紙事業から撤退した、メアリーベール工場の生産体制の大幅見直しと大規模な人員合理化を進めています。2024年度にはOpal社の立て直しを最重要課題と認識し、さらなる全社的な人員合理化やパッケージ事業の構造改革を進めるなどグループを挙げて再建の取り組みを強化しています。

連結業績につきまして、売上高は、紙・板紙事業の需要の減少やエネルギー事業の減収があったものの、各種製品の価格修正や円安による影響などにより、前期に比べ増収となりました。営業利益は、原燃料価格や人件費、物流費の上昇に加え、日本ダイナウェーブパッケージング社(NDP社)で例年に比べ大規模な製造設備のメンテナンス休転を実施した影響がありましたが、原価改善を推し進めたことや各種製品の価格修正などにより、前期に比べ増益となりました。また、親会社株主に帰属する当期純利益は、土地などの固定資産売却や政策保有株縮減による資産の売却益等を特別利益に計上した一方で、当社のグラフィック用紙事業の生産体制再編成等に伴う減損損失並びにOpal社の事業構造改善費用及び減損損失等を特別損失に計上したことにより、4,539百万円となりました。結果は以下のとおりです。

 

連結売上高

1,182,431

百万円

(前期比 1.3%増

連結営業利益

19,706

百万円

(前期比 14.1%増

連結経常利益

15,505

百万円

(前期比 6.6%増

親会社株主に帰属する

当期純利益

4,539

百万円

(前期比 80.0%減

 

 

セグメントの状況は、以下のとおりです。

 

  (紙・板紙事業)

売上高

565,911

百万円

(前期比 0.7%減

営業利益

8,268

百万円

(前期比 29.2%減

 

洋紙は、新聞用紙、印刷・情報用紙ともに需要の減少が継続し、国内販売数量は前期を下回りました。板紙は、物価高による個人消費の落ち込みもあり、全般的に需要が低調に推移し、国内販売数量は前期を下回りました。

 

  (生活関連事業)

売上高

457,880

百万円

(前期比 4.8%増

営業損失

6,137

百万円

(前期は営業損失8,062百万円

 

家庭紙は、製品の価格修正が寄与したことや、インバウンド需要の増加等により業務用品の需要が回復したこと、ヘルスケア製品の需要が堅調に推移したことなどにより、売上高は前期を上回りました。液体用紙容器は、食品価格全般の値上がりによる生活防衛意識の高まりなどで依然として需要が減少し、販売数量は前期を下回りました。溶解パルプ(DP)は、市況が安定して推移したことや円安による影響などにより、売上高は前期を上回りました。海外事業は、Opal社における段ボールの販売数量増加や円安の影響などにより、売上高は前期を上回りました。

 

  (エネルギー事業)

売上高

48,295

百万円

(前期比 10.1%減

営業利益

3,559

百万円

(前期比 122.6%増

 

エネルギー事業は、メンテナンス休転日数の増加や石炭価格の下落に伴い販売電力価格も低下したことなどにより、売上高は前期を下回りました。

 

  (木材・建材・土木建設関連事業)

売上高

78,760

百万円

(前期比 4.3%増

営業利益

9,582

百万円

(前期比 2.2%減

 

木材・建材は、持ち家を中心に新設住宅着工戸数の減少傾向が続いているものの、燃料チップの需要が増加したことなどにより、売上高は前期を上回りました。

 

(その他)

売上高

31,582

百万円

(前期比 1.4%増

営業利益

3,002

百万円

(前期比 7.4%増

 

 

(2) 財政状態

総資産は、前期末の1,731,245百万円から27,937百万円減少し、1,703,308百万円となりました。この主な要因は、減損損失の計上等により有形固定資産及び無形固定資産が減少したことによるものです。

負債は、前期末の1,235,597百万円から42,724百万円減少し、1,192,873百万円となりました。この主な要因は、有利子負債の返済、並びに前連結会計年度末が金融機関の休日であったことにより支払手形及び買掛金が減少したことによるものです。

純資産は、前期末の495,648百万円から14,786百万円増加し、510,435百万円となりました。この主な要因は、利益剰余金が増加したことや、円安の影響により為替換算調整勘定が増加したことによるものです。

 

(3) キャッシュ・フローの状況

当期末における現金及び現金同等物(以下、「資金」といいます。)は、185,941百万円となり、前期末に比べ21,082百万円増加しました。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動の結果得た資金は、前期に比べ17,492百万円減少し、72,790百万円となりました。この主な内訳は、税金等調整前当期純利益12,688百万円、減価償却費66,642百万円、運転資金の増減(売上債権、棚卸資産及び仕入債務の増減合計額)による収入14,921百万円です。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動の結果使用した資金は、前期に比べ11,404百万円増加し、33,435百万円となりました。この主な内訳は、固定資産の取得による支出51,072百万円、固定資産の売却による収入8,446百万円、投資有価証券の売却による収入7,890百万円です。

 

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動の結果使用した資金は、前期に比べ28,292百万円減少し、18,274百万円となりました。この主な内訳は、有利子負債の返済による支出です。

 

(4) 資本の財源及び資金の流動性に係る情報

 当社グループの運転資金需要の主なものは、製品製造のための原材料や燃料購入のほか、販売費及び一般管理費等の営業費用です。また設備投資資金の主なものは、新規事業への投融資及び設備投資、既存事業の収益向上や操業安定化等を目的としたものです。
 今後も引き続き成長分野や新規事業へ積極的に投資を行っていく予定であり、その必要資金については、自己資金と外部調達との適切なバランスを検討しながら調達していきます。
 なお、長期借入金、社債等の長期の資金調達については、事業計画に基づく資金需要や既存借入の返済時期、金利動向等を考慮し、調達規模や調達手段を適宜判断し、キャッシュ・マネジメント・システム(CMS)により当社グループ内での余剰資金の有効活用を図り、有利子負債の圧縮や金利負担の軽減に努めています。

 

(5) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しています。この連結財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いていますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。

連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項 重要な会計上の見積り」に記載しています。

 

(6) 生産、受注及び販売の状況

 ① 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自  2024年4月1日

至  2025年3月31日)

前期比(%)

紙・板紙事業

金額(百万円)

482,513

2.9

生活関連事業

金額(百万円)

414,665

5.1

エネルギー事業

金額(百万円)

48,295

△10.1

合計

金額(百万円)

945,474

3.1

 

(注)1.木材・建材・土木建設関連事業、その他は、生産高が僅少であるため、記載を省略しています。

   2.当連結会計年度において、エネルギー事業における生産実績に著しい変動がありました。その内容については、「(1) 経営成績」をご参照ください。

 

 ② 受注実績

  当社グループは主として需要と現有設備を勘案した見込生産のため、記載を省略しています。

 

 

 ③ 販売実績

  当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自  2024年4月1日

至  2025年3月31日)

前期比(%)

紙・板紙事業

金額(百万円)

565,911

△0.7

生活関連事業

金額(百万円)

457,880

4.8

エネルギー事業

金額(百万円)

48,295

△10.1

木材・建材・土木建設関連事業

金額(百万円)

78,760

4.3

その他

金額(百万円)

31,582

1.4

合計

金額(百万円)

1,182,431

1.3

 

(注)1.セグメント間取引については、相殺消去しています。

2.主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合は、当該割合が100分の10未満であるため、記載を省略しています。

3.当連結会計年度において、エネルギー事業における販売実績に著しい変動がありました。その内容については、「(1) 経営成績」をご参照ください。

 

5 【重要な契約等】

 該当事項はありません。

 

 

6 【研究開発活動】

当社グループでは、「総合バイオマス企業」への事業構造転換と基盤事業の競争力強化のため、新規事業の早期創出、パッケージ事業、家庭紙・ヘルスケア事業、ケミカル・新素材事業やエネルギー・木材事業等の成長分野の拡大、紙・板紙事業の収益力向上に貢献する研究開発を進めています。今後、グループ内の研究資源を最大限に活用し、国内外の企業・研究機関やグループ企業との連携を密にすることでオープンイノベーションを推進します。また、マテリアルインフォマティックス(MI)や人工知能(AI)の活用により、研究開発そのものの効率化を進め、研究成果の最大化を図ります。

当連結会計年度における当社グループの研究開発費は、5,272百万円(人件費を含む)であり、各事業部門別の研究の目的、主要課題、研究成果及び研究開発費は以下のとおりです。

 

(1) 紙・板紙事業

 国内市場の成熟化と海外市場の成長、深刻化する地球環境問題等の様々な課題への対峙、国内での炭素賦課金の導入を見据えて、基盤技術研究所、富士革新素材研究所及びパッケージング研究所が中心となり、以下のような取り組みを行っています。当事業に係る研究開発費は3,125百万円です。

① 植林事業に関する技術開発

 事業活動の基幹となる原材料確保のため、自社植林木の生産性向上を目指し、技術開発を積極的に進めています。特にブラジルにおいては、ユーカリの育種と植林地の管理技術向上により、単位面積当たりの収穫量は年々増加しています。更なる生産性向上を目指し、DNAマーカー選抜を始めとする最新技術の導入も推進しています。また、こうした当社の独自技術を活用し、他社と戦略的パートナーシップ契約を締結し、インドネシアの植林事業会社の植林木の生産性向上に取り組んでいます。一方、国内においては、CO₂吸収能力が高く成長に優れ、花粉量が少ない等の特徴を持つエリートツリーの苗木生産事業を全国で展開しています。2016年の熊本県に続き、2022年には静岡県、広島県、鳥取県、大分県、2023年には秋田県において「特定増殖事業者」の認定を受け、エリートツリーの苗生産に必要な種子や穂木を生産するため、採種園・採穂園の造成を行いました。2023年10月には原材料本部内にエリートツリー推進室を設置し、苗生産事業の推進体制強化を図り、全国各地で苗木の生産、出荷を進めています。

② 品質とコストの更なる改善

 洋紙及び板紙の競争力強化のため、新製品開発や需要家のニーズに応えた品質改善を継続します。また、生産現場とより密接に連携を図りながら製造工程の操業性改善、品質向上とコストダウンの技術開発を迅速に進めています。収益改善に資する技術開発として、安価材料の利用技術の開発、自製填料の高度利用技術の開発等の独自技術開発も推進しています。

③ 将来に資する技術開発等

 「総合バイオマス企業」としての新規事業創出については、木材をベースとした新素材、パッケージ等のプラスチック代替新規紙材料の開発やセルロースナノファイバー(以下、「CNF」といいます。)、バイオリファイナリー等に関する研究開発に取り組んでいます。

新素材としては、無機物の特徴・特性を備えた機能性材料ミネラルハイブリッドファイバー「ミネルパ®」の事業化に向けた本格的なサンプル供給を行い、更なる用途開発を推進し、商品化を進めています。「消臭抗菌」、「難燃」、「X線遮蔽(造影)」等の各機能を持つミネルパ®の採用拡大を目指して、事業分野の探索とサンプルワークを進めており、システムトイレ用猫砂と高機能吸湿剤で「消臭抗菌」の機能を持つミネルパ®が採用となりました。

 木材を原料とする養牛用飼料「元気森森®」(高消化性セルロース)については、民間の牧場で乳牛の乳量増加効果、繁殖成績の向上に加え、和牛の繁殖用母牛でも健康増進効果が確認され始めました。2021年度からは、パルプを牧草と同様に「ロールベール形態」へ加工する装置を岩沼工場に設置し、牧場側で扱いやすい形態でのサンプル提供体制を整え、有償サンプルワークの展開を加速しています。

 パッケージ等のプラスチック代替新規紙材料については、当社の塗工技術を活用し、紙にバリア性を付与した紙製バリア素材「シールドプラス®」、プラスチックフィルムを貼合することなく “紙だけでパッケージができる”ヒートシール紙「ラミナ®」の開発を推進しています。シールドプラス®は2020年度に耐屈曲性を向上したリニューアル品を上市、これに伴いスタンドパウチなど新たな形態での採用も増えています。当社グループの十條サーマル社においては印刷美粧性を高めるコート紙タイプとラミネートを使用せずリサイクル性を向上させたヒートシール塗工タイプを上市し、サンプルワークを進めています。ラミナ®についても2020年の販売開始以降、脱プラスチックを可能とする素材としてバリア性を必要としない食品、化粧品、日用雑貨等の二次包装材として採用が進んでいます。また、更なる環境配慮型素材として、他社と共同開発したバイオマス由来で生分解性に優れるヒートシール紙が2022年11月に菓子製品の外装に採用され、2023年日本パッケージコンテストの菓子包装部門賞を受賞しています。その他にも紙製ブリスターパック用途の開発も進めるなど、環境素材、パッケージの提案を加速しています。最近では産業分野から包材や基材としての引き合いがあるなど、使用の幅を拡げつつあります。また、防水性、防湿性、耐油性を有し、かつ通常の段ボールと同様に古紙回収可能な多機能段ボール原紙「防水ライナ」を開発しました。防水ライナを用いて製造した段ボールケースは防水性等を活かし、箱の形状を工夫することで、発泡スチロールと同様に氷詰めした水産・青果物の輸送や、耐油性を活かした機械部品などの輸送を可能にしました。現在、各段ボールメーカー、代理店と協力し、魚箱用途をはじめとしたユーザーへの展開を図るとともに、ユーザーでの加工効率向上に向けた生産体制拡充を進めています。

 プラスチック使用量削減については、耐熱性・粉砕性・疎水性に優れた木質バイオマス材料を樹脂に高配合した「トレファイドバイオコンポジット」を開発しました。トレファイドバイオコンポジットはプラスチック使用量を5割以上削減できるとともに、GHG削減にも寄与します。また、セルロースパウダーと樹脂を複合化した「セルロースバイオコンポジット」も開発しました。当社が培ってきたセルロースパウダー技術を活用し、従来の製品よりも強度や成形性に優れています。今後は、他社と開発を連携することで日用品、容器、建材、家電製品、自動車部材など、幅広い分野への展開を目指し、製品開発と早期の市場投入を計画しています。

 CNF「セレンピア®」については、2017年度に設置した量産設備(石巻、江津)及び実証生産設備(富士)の稼働により、用途に応じた製造技術と本格的な供給体制を確立し、市場創出を推進しています。化粧品や食品用途分野で採用が大幅に増えており、2023年度は化粧品向けに新規に開発した高透明品の採用が決まり、2025年度は量産設備(江津)でのフル生産を予定しています。また、金属イオンを担持させた変性セルロースを用いた抗ウイルス・消臭・抗菌性を有する衛生薄葉紙、不織布、印刷用紙等、様々な製品開発を行っています。さらに、銅イオンをプラスした変性セルロース「Cu-TOP(シーユートップ)」を配合した紙糸を開発し、新たな用途展開を行っています。また、CNF派生製品であるミクロフィブリルセルロース(MFC)「セレンピア®ミュー」についてモルタル養生材用途で共同開発先と技術を確立し、2024年10月に国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)に登録しました。今後、本技術による施工を開始します。また、GHG排出削減に有効な蓄電デバイスを、持続可能な資源から製造する取り組みとして、CNFを用いた次世代蓄電デバイスの開発を進め、2025年6月に大阪・関西万博で試作品展示を行いました。

 熱可塑性樹脂中にCNFを強化剤として均一分散・配合するCNF強化樹脂「セレンピア®プラス」は、実証生産設備(富士)によるサンプルワークを進め、自動車をはじめとするモビリティ部品や住設機器の部材用への採用を目指し、研究開発を進めています。その研究活動を通じて、2023年8月、共同研究先が発売した水上オートバイのエンジン部材として採用されました。本部材の採用はCNF強化樹脂を用いた輸送機器部品の量産化として世界初の事例となります。

 また、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業プロジェクトに参画し、CNF強化樹脂の大量製造技術と本格的な供給体制の確立に向け検討を進め、この助成金を活用して富士工場に導入した混練機を中心とする実証生産設備では、年間50トン以上のCNF強化樹脂を製造することができます。また2021年度に採択された環境省補助金事業を通じて3Dプリンターを導入し、成型樹脂材料の開発を進めています。

 今後は安定して大量生産する製造技術の確立、品質向上、さらなるコストダウンを目指し、モビリティ部品を始めとする幅広い産業への用途開発の加速、CNF強化樹脂の製造量の拡大を進めていきます。

 

また、当社はバイオリファイナリーで様々な製品・市場に展開することを目指しています。引き続きセルロース、リグニン等の木材成分の高度利用技術の開発を推進しており、セルロースは土木分野への利用、リグニンのアスファルト利用は将来的な公道での普及に向けて複数箇所での試験施工を進めています。

 

(2) 生活関連事業

 液体用紙容器については当社が、各種化成品については当社及び株式会社フローリックが中心となって研究開発を行っています。当事業に係る研究開発費は2,091百万円です。

 液体用紙容器の分野については、2020年末に採用されたストローレス対応学校給食用紙パック「School POP®」の全国展開を推進しており、採用エリアは24都道府県300以上の市区町村に拡大しています。日本国内の紙容器の学校給食牛乳は年間、約15億本が使用されており、School POP®は既に全体の約40%をカバーし、ストローレス紙容器の代名詞として、他の追随を許さず急速に普及しています。また、固形物入り飲料が充填可能な新アセプティック充填システム「NSATOM®(えぬえすアトム)」の初号機が客先に搬入され、2025年3月末より生産が開始されました。非飲料分野向けについては、2024年10月に韓国メーカーと差し替え式紙容器「SPOPS®」の開発と販売に関する契約を締結しました。韓国市場への進出をきっかけにグローバルに広く展開していきます。引き続き環境と衛生性、ユニバーサルデザインに配慮した製品及びシステム(充填機等)の開発を推進していきます。

 化成品の分野につきましては、自動車プラスチック部材用プライマー、接着剤等の機能性コーティング樹脂の新製品開発・製品化を進めています。また、リグニン製品の農業分野への拡販支援、新規リグニン誘導体の開発・用途開拓、飼料用酵母の免疫機能向上データ拡充、ステビア甘味料の健康食品向け拡販支援等を行っています。機能性フィルムではスマートフォン、タブレット端末等の中小型ディスプレイ用途や車載ディスプレイ用途のハードコートフィルムを開発し、製品化しました。さらに、クリーン精密塗工及びハードコート技術を応用した新製品開発に取り組んでいます。

 

(3) エネルギー事業

 エネルギー事業に係る技術開発として、木質バイオマスを半炭化(トレファクション)して得られる新規固形燃料について事業化を検討しています。また、紙の製造工程で発生する廃棄物を使用した燃料の利用及び当事業のGHG削減についても検討しています。当事業に係る研究開発費は44百万円です。

 

(4) 木材・建材・土木建設関連事業

該当事項はありません。

 

(5) その他

金額が僅少であるため、記載を省略しています。