第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1) 経営方針と経営環境

 当社は、独自の創薬エンジンを基に基礎研究および臨床開発を実施することにより、技術とプロダクトの両方を自社で創出する「創薬企業」として、付加価値の獲得を目指すビジネスモデルを志向しています。

 臨床上の治療満足度に改善の余地がみられるがん領域は、引き続き新薬開発のターゲットとして有望な領域の一つとして考えられており、世界の製薬会社やバイオベンチャーが研究開発力の強化に取り組んでいます。

 当社は、これまでに蓄積してきた研究成果を生かし、世界のがん領域の市場のニーズに合致した抗がん剤を開発することを目指しています。当社の属する抗がん剤開発の領域では近年、開発競争の中心が免疫チェックポイント阻害抗体およびその併用療法に移行しています。この薬剤は画期的な薬効を発揮する一方で、恩恵を受ける患者さんの比率が小さいことから、これを拡大するための多様な試みがなされています。そのひとつは併用であると目されており、各社がさまざまな併用の組み合わせによる臨床試験を繰り広げています。

 当社は、これまでに実施した臨床試験結果ならびにそのデータの詳細な解析によって、CBP501とシスプラチンを免疫チェックポイント阻害抗体と併用することによって薬効が増強される知見を獲得しました。これを踏まえ、当面のCBP501開発の主軸を当該併用に置く方針です。

 なお、文中の将来に関する記載は当事業年度末現在において当社が判断したものです。当社の経営陣は、当社が行っている事業の環境について、入手可能な情報と経験に基づいた仮定により、経営判断を行っています。

 

(2) 優先的に対処すべき課題と対応方針・具体的な取組状況

① 事業活動において優先的に対処すべき課題と対応方針・具体的な取組状況

(a) CBP501の臨床試験推進

 後続化合物で構成されるパイプライン戦略などにより開発リスクの分散や低減は図っているものの、CBP501は当社の将来の事業計画において最初の上市品と想定している化合物であり、この開発の成否が当社事業計画の実現の鍵を握っていると言えます。失敗・遅延のリスクを最小限に抑え、かつ、最も早期に適切な適応による新薬承認を受け、CBP501の上市を実現することが、当社の中長期的な企業価値の源泉であり、事業活動において最も重要な課題です。
 現在、抗がん剤開発競争の中心的存在は免疫チェックポイント阻害抗体です。この薬剤は画期的な薬効を発揮する一方で、恩恵を受ける患者さんの比率が小さいことから、これを拡大するための多様な試みがなされています。そのひとつは他の抗がん剤や抗がん治療との併用であると目されており、各社がさまざまな併用の組み合わせによる臨床試験を繰り広げています。

 当社は、これまでに実施した臨床試験結果ならびにそのデータの詳細な解析によって得られた知見に基づき、CBP501とシスプラチンを免疫チェックポイント阻害抗体と併用することによって薬効を増強するデータを獲得しました。現在、当該3剤併用による臨床第2相試験を成功裏に終え、次相臨床試験の準備を進めています。

 

(b) 創薬エンジンの改良・充実と新規化合物パイプライン獲得

 当社のような創薬企業にとって、新規の開発候補化合物パイプラインを継続的に創出・獲得し候補化合物の最適化を実施する創薬エンジンは競争力の源泉であり、その改良と充実は将来の継続的な成長のために必須のものです。

 当社ではこれまで、正常細胞とがん細胞の細胞分裂過程の違いに着目した独自の細胞表現型スクリーニングを中軸とする創薬エンジンから、臨床開発段階の抗がん剤候補化合物CBP501、CBS9106を創出してきました。

 これら化合物の臨床試験進捗や提携獲得により、当社の創薬エンジンは、外部第三者の評価を経てコンセプトの確立を図ることができたと考えています。

 また最近では、CBP501臨床試験データから得られた知見に基づき、創業以来の細胞表現型スクリーニングとは別に、「がん免疫」「がん幹細胞」など個別の作用に着目した候補化合物創出を実施しています。この取り組みから当社は、近い将来の新規パイプライン候補となるCBT005、CBP-A08を獲得し、さらに次世代のパイプラインとなるべき新たな基礎研究を進めています。

 これらの取り組みによって当社は、将来的な継続性ある競争力の強化と企業価値の最大化を図っていきます。

 

② 経営基盤において優先的に対処すべき課題と対応方針・具体的な取組状況

(開発戦略推進のための資金調達)

 当社は、CBP501に関して、これまでの臨床試験結果ならびにそのデータの詳細な解析によって得られた知見に基づき、臨床試験を進めています。

 一方、当社のような創薬企業は、最初の製品が上市するまでは安定的な収益源がなく、候補化合物の研究開発費用の負担により、長期に亘って先行投資の期間が続きます。この先行投資期間においては、継続的に営業損失を計上し、営業活動によるキャッシュ・フローはマイナスとなる傾向があります。当社も創業以来継続的に営業損失を計上しており、営業活動によるキャッシュ・フローは大半の期にマイナスを計上しています。また、当社は、当事業年度末において現金及び預金を1,888,200千円保有しているものの、現時点において安定的な収益源を有していません。

 この現状を踏まえて当社は、それぞれの開発プロジェクトの進展および開発ポートフォリオの拡充に伴い増加する資金需要に対応するため、さらには抗がん剤の開発体制の強化のため、プロジェクト毎に製薬企業との戦略提携の実現に向けた活動を展開しています。また、必要に応じて適切な時期に新株発行等による資金調達を実施しています。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社は、事業目標「より良い抗がん剤を一日も早く患者さんにお届けすること」及びこれを実現するための企業理念「フェアであること」「科学的・倫理的・経済的に正しい道を最短の距離・時間で進むこと」に基づき、医薬品分野のバリューチェーンにおける存在意義のある会社として持続的に成長し、世界の医療の発展と、がんで失われる生命・健康・時間の最小化に寄与することを目指します。

また、環境問題をはじめとする社会課題への対応を経営の重要事項として捉え、さまざまな側面から持続可能な社会の実現を目指しています。

 さらに、上場企業としてのガバナンスを重視し、役職員が適法適正に業務を遂行するために定めている行動規範の徹底と、財務報告の信頼性と透明性を高める仕組みを構築するとともに、常に最新の科学的知見を活用した価値創造によって、継続的な企業価値の向上を目指しています。

 当社のサステナビリティ基本方針は次のとおりです。

1.事業活動全般におけるDXの推進による地球環境への貢献と労働環境の整備

2.多様なプロフェッショナル人材が活躍する働きがいのある職場づくり

3.健全な成長のためのコーポレートガバナンスの強化

 なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものです。

 

(1) ガバナンス

 当社は、サステナビリティに関する活動の推進及び統括するための委員会として「サステナビリティ推進委員会(仮称)」の設置による取組みを検討しています。同委員会は、社外独立取締役を中心に構成し、環境問題をはじめとする社会課題に関して取組むべきテーマを検討・整備し、課題に対する対応方針及び具体的施策の立案、重要課題の項目及びその指標の設定、施策の進捗管理などについて、取締役会の諮問に応えるとともに、必要に応じて委員会から取締役会に提案することを目的とする方針です。

 

(2) 戦略

 当社におけるサステナビリティに関する取組方針の概要は次のとおりです。

(人材育成方針)

 当社の手掛ける創薬事業には多様な領域のプロフェッショナル人材の貢献が不可欠であり、人材の多様性の確保を含む人材の育成と働きがいのある職場づくりは特に重要な課題と認識しています。人材育成方針としては、社員ひとりひとりが自立し自律する主体的な市民(シティズン)として、平等・博愛はもちろん、互恵・相互扶助の精神、コンプライアンス、コミュニケーションを相互に高め、高潔な人格を錬成するよう図っています。

(社内環境整備)

 多様な国籍・バックグラウンド・スキル・経験・性別・家族構成・生活環境を持った社員がそれらと無関係に適正かつ公正に評価され、個々の能力を最大限発揮できるよう設計され実施されている現行の制度をさらに充実させるとともに、個々のワーク・ライフ・バランスの尊重などによって、すべての役職員が最大のパフォーマンスを発揮する職場環境を作ることで、業務の生産性向上と個々の生活の質の向上を併せて実現していきます。

 当社ではコアタイムを設けたフレックスタイム制を運用しており、また有給休暇の取得奨励(平均取得率実績約80%)、産休後の職場復帰サポート(創業来の職場復帰率実績100%)、男性育休取得奨励(直近の取得率実績100%)等を通じて個々のワーク・ライフ・バランスに資する社内環境を整備しています。

 

(3) リスク管理

 当社は、それぞれの分野に関し各管掌取締役が認識した重要なリスクについて速やかに取締役会構成員で共有し、必要に応じ社外専門家を含めた協議を経て、研究開発計画・財務計画をはじめとする事業計画に反映しています。

 

(4) 指標および目標

 当社は単一の事業所において従業員11名により事業を運営しており、当社のようなフラットな小規模・少人数組織においては、上記「(2) 戦略」において記載した(人材育成方針)および(社内環境整備)の運用状況の把握は各管掌取締役による直接のモニタリングが有効であると考えられ、よって特段のモニタリング用指標を設定していません。なお、当事業年度における管理職に占める女性労働者の割合、男性の育児休業取得率および労働者の男女の賃金の差異については、「5 従業員の状況 (3) 管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率および労働者の男女の賃金の差異をご参照ください。

 

3【事業等のリスク】

 以下において、経営者が当社の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況に関してリスク要因と考える主な事項を記載しています。

 また、当社として必ずしも重要なリスクとは考えていない事項、他の事項と比してリスク顕在化のおそれが低い事項、リスクが顕在化した場合の影響が他の事項と比して軽微な事項についても、投資判断の上で、あるいは当社の事業活動を理解する上で必要と考えられる事項については、投資家および株主に対する積極的な情報開示の観点から開示しています。これらに該当する事項には、項目名の末尾に注を付しています。

 当社は、これらのリスク発生の可能性を認識した上で、発生の回避および発生した場合の適切な対応に努める方針ですが、当社株式に関する投資判断は、以下の事項および本項以外の記載事項を慎重に検討した上で行われる必要があると考えます。また、以下の記載は当社株式への投資に関連するリスクの全部を網羅したものではないことにご留意いただく必要があります。

 なお、文中の将来に関する記載は当事業年度末現在において当社が判断したものです。

 

(1) 創薬事業全般に関するリスク

 当社は、自社創出の候補化合物群を医薬品として開発する事業を主業務としています。

 医薬品の研究開発の分野は、巨大製薬企業をはじめとする多数の強力な競合が存在し、さらに当社を含むいわゆる創薬ベンチャー企業が技術革新の質とスピードを競い合う業界です。また、開発から製造および販売に至る過程では、多くの規制に従って、長期間にわたり多額の資金を投入して事業活動を推進する必要があります。その将来性は不確実性を伴うものであり、当社の現在および将来における事業についてもこのようなリスクが附随しています。

 

① 医薬品開発の不確実性について

 製品上市に至る医薬品開発の過程は長期かつ多額の費用を要するもので、開発が成功する確率は決して高くなく、開発のいずれの段階においても中止や遅延の判断をすることは稀ではありません。医薬品開発においては、様々な開発過程を段階的に進めていく必要があり、それぞれの段階において、開発続行の可否が判断されます。一般的に、その開発途上で中止の決定を行うことは稀なことではなく、開発が順調に進み製品化される確率は低いものとされています。

 このリスクを低減・分散するため、一般には開発パイプラインに医薬品候補化合物を複数保有し、かつ、それぞれの候補化合物にバックアップ化合物を保有することによって、ひとつの候補化合物の開発において何らかの障害が発生した場合の対応策とすることが行われています。

 当社においては、互いに独立した複数の候補化合物を開発パイプラインに持ち、それぞれについてバックアップ化合物を保有することによって、開発過程において何らかの障害が発生した場合の事業遂行上のロスを最小限に留めるよう努めています。

 しかしながら、当社のような規模の創薬企業にとって、ひとつの医薬品候補化合物が開発から脱落することはきわめて大きな影響があります。また、バックアップの類似化合物といえども医薬品開発上は新規の化合物として取り扱われることから、当該化合物の開発には遅延が生じることとなります。障害発生までに獲得した類似化合物での知見を活用することにより遅延の幅や遅延に伴う追加費用を縮小できる可能性はあるものの、研究開発に当初予想以上の期間および費用がかかることは否めず、その場合には当社の財政状態や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

 

② 将来収益の不確実性について

 当社が開発を進めている製品の販売から収益を得るには、当社が単独または第三者と共同で、市場性のある医薬品の開発、許認可当局からの承認、製造および販売のすべての段階において成功を収めることが必要です。当社は、これらの活動において成功しない可能性があり、また、成功したとしても、当社の事業活動を継続するために必要な採算性を確保する十分な収益を得ることができない可能性もあります。

 当社は現在、臨床試験段階の候補化合物を有し、これらの開発を推進し製品上市に至ることによって製品売上高またはロイヤルティ等による事業収益を獲得するべく事業活動を行っています。しかしながら、現時点において製品販売に関する売上高はなく、現実に製品として上市するまでには相当の期間を要すると予想され、また、現実に製品として上市される保証はありません。

 なお、当社は、現時点で想定している適応疾患の選定や提携手法・マーケティング手法等について、既承認の抗がん剤の市場規模やマーケティング実績等をもとに十分に将来の採算性を見込めるものと判断していますが、万一この判断が誤っていた場合、あるいはこの判断の基礎となる状況に変化が発生し当社がその変化に迅速に対応できなかった場合には、当社の財政状態や経営成績に大きな影響を与える可能性があります。

③ 遵守すべき法的規制等および医療保険制度等の不確実性について

 当社の事業計画は、現行の法的規制および医療保険制度、それらに基づく医薬品の価格設定動向等を前提としています。

 しかしながら、当社が開発を進めている製品が現実に製品として上市されるまでには相当の期間を要し、その間これらの規制や制度・価格設定動向等が変動しない保証はありません。もしこれらに大きな変動が発生した場合には、当社の計画する経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

④ 潜在的な競合について

 当社の潜在的な競合相手は、主要な製薬企業、バイオ関連企業、大学、その他の研究機関等多岐にわたります。それら競合相手の中には、技術力、マーケティング力、財務状況等について当社と比較して優位にある企業が多数あり、当社開発品と競合する医薬品について、有効性の高い製品を効率よく生産および販売する可能性があります。

 したがって、許認可当局によって当社の製品候補の販売承認が得られた場合であっても、これら競合相手との競争次第で、当社の計画する経営成績に影響をきたす可能性があります。

 

⑤ 賠償問題発生リスクについて(※現時点において本リスクの重要度は比較的小さいと考えています。)

 医薬品の臨床試験を実施する際には、薬剤による副作用などに伴う賠償問題が発生するリスクが伴います。これに関し当社は、必要と認める損害保険への加入などによって、このような事態が発生した場合の財政的負担を最小限にするべく対応しています。しかしながら、賠償額が当該保険により補償される範囲を超える可能性は否定できず、その場合には財政状態や経営成績に影響が及ぶ可能性があります。

 また、医薬品の開発および製造には、製造物責任賠償のリスクが内在します。当社は将来、開発したいずれかの医薬品が健康被害を引き起こし、または臨床試験、製造、営業もしくは販売において不適当な点が発見された場合には、製造物責任を負い、当社の業務および経営成績、財務状況に影響を及ぼす可能性があります。また、製造物責任賠償請求がなされることによるイメージ低下により、当社および当社の医薬品に対する信頼が損なわれ、当社の事業に影響を与える可能性があります。

 

(2) 当社事業遂行上のリスク

① 開発資金の確保について

 当社のような創薬ベンチャー企業が基礎研究・臨床開発・製造・上市・販売および上市後のフォローアップ等をすべて単独で行うためには、資本市場からの資金調達によるか、もしくは、製薬企業等との間で適切な提携関係を構築し開発費の多くを提携先製薬企業等が負担する戦略提携による必要があります。

 当社は、最先行化合物CBP501に関し、2010年6月に武田薬品工業株式会社との共同事業化契約を解消し、以来現在に至るまで、提携パートナーを有しない状態で臨床開発をはじめとする事業活動を継続してきました。

 CBP501の今後の臨床試験については、資本市場からの資金調達による「創薬パイプライン型」開発を志向しつつ、必要に応じて提携パートナーの獲得も模索していきます。

 しかしながら、資本市場からの資金調達には不確実性が伴います。また、提携パートナー獲得活動はその候補となる製薬企業等との交渉によるものであり、成立の不確実性が存在するほか、必ずしもその後の開発推進に十分な資金の確保をもたらすものではありません。

 これらのリスクが顕在化し、開発資金の確保が大幅に遅れもしくはできなかった場合には、臨床試験スケジュールの遅延により当社の事業戦略や経営成績、財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。

 

② 臨床試験データについて

 当社は、これまでに実施した臨床試験等から、CBP501およびCBS9106についてはいずれも、医薬品開発を進めるうえで有望な有効性および安全性データが得られていると判断しています。また、これらの開発計画および当社の事業計画についても、当該判断に基づいて作成されています。

 しかしながら、これら開発化合物の有効性および安全性等が許認可当局に確認され新薬承認および上市に至るまでには、将来のピボタル試験(新薬承認申請のための最終的な検証試験)を経る必要があります。本剤に限らず一般的な医薬品開発に共通することですが、これら今後の臨床試験においては、有効性が確認されず、または重要な安全上の懸念事項が発生するなどの問題が生じる可能性があります。

 こうした場合には、CBP501・CBS9106の開発計画の変更もしくは開発中止により、当社の事業計画の実現が困難となり、当社の財政状態や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

 

③ 開発パイプラインの拡充について

 当社は、自社で臨床開発を続けている最先行化合物CBP501、既にライセンスアウトに成功しているCBS9106に続き、今後も新規医薬品候補化合物を自社で獲得・創出しパイプラインを拡充していくことを基本戦略としています。

 この戦略を確実に推進するために当社は現在も、創薬アプローチの見直し、スクリーニング法の改良など、新規候補化合物の獲得・創出の可能性を高める努力を続けています。

 しかしながら、当社の創薬アプローチやスクリーニング法によって現在すでに開発途中にあるもの以外の候補化合物を探索創出できる保証はありません。

 今後の研究において新たな候補化合物が創出されず、または何らかの理由で当社のスクリーニング法による新規医薬品候補化合物の獲得・創出に支障が生じた場合には、当社の研究開発の基本戦略の変更を余儀なくされ、当社の事業戦略や経営成績に影響が及ぶ可能性があります。

 

(3) 会社組織に関するリスク

① 業歴が浅いことについて(※現時点において本リスクの重要度は比較的小さいと考えています。)

 当社は、2000年1月に設立された、業歴の浅い企業です。また当社は、事業領域をいわゆる創薬領域に特化した特異な企業であり、将来は当社が開発した抗がん剤上市により事業収益を計上し利益を確保する計画ですが、現時点までに製品売上による事業収益がありません。

 今後、未だ経験していない事業上のトラブルが社内外で発生する可能性は否定できず、当社の業績に影響を及ぼすと考えられる様々な事項について網羅的に予想し予め対処しておくことは現状においては困難です。

 

② 小規模組織であることについて(※本リスク顕在化のおそれは比較的小さいと考えています。)

 当社の研究開発活動は比較的少人数による体制を敷いています。

 また、既存パイプラインの開発推進および今後の新規医薬品候補化合物のパイプライン化に伴い、さらなる研究開発人員の増加を計画しています。

 しかしながら、何らかの理由により、計画どおりの人員の確保が出来ない場合、あるいは既存人員の大量の流出等が生じた場合には、当社の事業活動に支障が生じ、当社の財政状態や経営成績に影響が及ぶ可能性があります。

 

③ 少数の事業推進者への依存について

 当社の事業戦略を成し遂げるには、当社事業戦略を推進する各部門の責任者と研究開発員に強く依存するところがあります。今後も当社は優秀な人材の確保および社内教育に努めていきますが、人材の確保および社内人材の教育が計画どおりに進まない場合、ならびに人材の流出が生じた場合には、当社の事業戦略や研究開発の推進に支障をきたす可能性があります。

 また、当社はこれまで、創業科学者であり当社の競争力の源泉となっている技術の創出者・発明者でもある河邊拓己を中心として基礎研究・研究開発をはじめとする事業の全般を推進してきました。河邊は現在も代表取締役社長として当社の意思決定および事業運営にあたって広範かつ中心的な役割を担っています。

 当社は、少数の事業推進者に過度に依存しない体制を構築すべく経営組織の強化を図っていますが、当面は河邊への依存度が高い状態で推移することが見込まれるため、何らかの理由により河邊が当社の業務を遂行するにあたって困難をきたした場合には、当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

 

④ 科学顧問会議(SAB)について(※本リスクの重要度は比較的小さいと考えています。)

 当社は、社長の諮問機関として、抗がん剤の臨床開発にかかる経験を豊富に持つなど当社の研究開発への貢献が期待できる科学者による科学顧問会議(SAB)を組成しています。SABミーティングは、2002年3月の発足以来概ね定期的に開催され、基礎研究から臨床開発に至る情報交換や議論を行っています。

 今後も当社は優秀なSABメンバーの確保に努めていきますが、現在のメンバーとの間の契約が更新されないなど、何らかの理由によりメンバーの確保が困難となった場合またはメンバーの流出が生じた場合には、当社の研究開発の推進に何らかの支障をきたす可能性があります。

 

⑤ 研究開発の主要部分に関するアウトソーシングについて(※現時点において本リスクの顕在化のおそれは比較的小さいと考えています。)

 当社は、自社を少人数体制で運用しつつ機動的な事業運営を図るため、広く社外に有能な専門家の参加を求め、以下に掲げる研究開発の主要な部分についてはアウトソーシング契約に基づく外部委託に依存しています。

 ・化合物の最適化およびこれに関連する化合物合成業務

 ・前臨床試験および臨床試験に用いる、GMP(Good Manufacturing Practice:医薬品の製造設備およびその品質管理・製造管理に関する規則)に準拠した原薬製造業務

 ・臨床試験のコーディネート(CRO)

 これらの契約につき、当社にとって不利な契約条件変更が行われた場合、または契約期間満了、解除、その他何らかの理由によりこれらの契約が終了した場合は、当社の研究開発の推進に支障をきたし、財政状態や経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑥ 自然災害について

 当社は、事業活動の中心となる設備や人員が本社周辺に集中しており、地理的なリスク分散ができていません。データの分散バックアップやリモート業務体制の拡充等によってリスクの低減は図っているものの、本社周辺地域において地震等の大規模な災害が発生した場合には、設備等の損壊、事業活動の停滞によって、当社の財政状態や経営成績は影響を受ける可能性があります。

 

(4) 知的財産権に関するリスク

① 特許の状況について

 当社の研究開発に関する特許は、すべて自社保有のものです。その主要な特許は以下のとおりです。

対象

発明の名称

所有者

国際公開番号

登録状況

CBP501およびそのバックアップ化合物群

抗がん治療の効力を推定するための感受性試験

当社

2005/014856

米国において成立しています。

ペプチド及びペプチド模倣物の併用投与並びにがん患者の部分母集団に対する治療

当社

2014/207556

米国、欧州主要国および日本において成立しています。

ペプチド及びペプチド模倣物並びにT細胞活性化及び/又は免疫チェックポイント阻害剤の併用によるがん治療

当社

2017/069291

米国、日本において成立しています。

CBS9106をはじめとするCBS9100シリーズ

DNA傷害を増強することによる抗がん活性をもつ化合物

当社

2009/031040

米国、欧州主要国および日本において成立しています。

IDO/TDO阻害剤

IDO/TDO阻害剤

(注)2

2019/078246

日本において成立しています。

(注)1.欧州主要国とは、欧州特許庁加盟国のうち、当社の特許戦略上有意義と判断し得る国を指します。具体的には、ドイツ、スイス、英国、フランス、ベルギー、イタリアなどです。

2.当社と公益財団ふじのくに医療城下町推進機構((旧)一般社団法人ファルマバレープロジェクト支援機構)の共有特許です。

 

 出願中の各特許については、特許出願時に特許性等に関する十分な調査を行ってはいますが、すべての特許出願について特許を受けられるとは限りません。当社の出願中の特許が成立しなかった場合、他社の競合品に対して特許権を行使することができず、当社の事業戦略や経営成績に影響を及ぼすおそれがあります。

 さらに、当社事業領域を包含するバイオテクノロジー関連産業においては、日々熾烈な研究開発競争が繰り広げられており、当社の特許が成立し当社技術を保護できたとしても、当社の研究開発を超える優れた開発力により、当社の特許が淘汰または無力化されるおそれは常に存在しています。仮にそのような研究開発が他社によりなされた場合には、当社の事業戦略や経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 また、これらの特許が発行された場合にも、これらの権利を維持していくための費用が今後当社の負担になる可能性もあります。

 なお、本項に記載した事項については、現在、これらの状況に支障もしくは支障の発生を懸念される事項は存在していません。

 

② 訴訟およびクレームについて(※本リスクの顕在化のおそれは比較的小さいと考えています。)

 当事業年度末現在において、当社の開発に関連した特許権等の知的財産権について、第三者との間で訴訟およびクレームが発生した事実はありません。

 また、当社は、今後発生し得るこのような問題を未然に防止するため、事業展開にあたっては弁護士との相談や特許事務所を通じた特許調査を適宜実施しており、現時点において、当社事業が第三者の特許権等に抵触する可能性は低いものと認識しています。

 しかしながら、当社のような研究開発型の企業にとって、差止請求、損害賠償請求、実施料請求等の知的財産権侵害問題の可能性を完全に排除することは困難です。また、当社が第三者との間の法的紛争に巻き込まれた場合、解決に時間および多大の費用を要する可能性があり、さらに、当社が第三者の特許権等を侵害していた場合、当該第三者から差止請求権や損害賠償請求権を行使されたり、高額な実施料を請求されたりすることにより、当社の事業戦略、経営成績や財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。

 

③ 特許の確保に関するリスクについて(※現時点において本リスクの顕在化のおそれは比較的小さいと考えています。)

 当社が職務発明の発明者である役員・従業員等から特許を受ける権利を譲り受けた場合、当社は発明者に対して特許法第35条第3項に定める「相当の対価」を支払わなければなりません。これまでに対価の支払について発明者との間で問題が生じたことはありませんが、対価の相当性につき紛争が発生する可能性を将来にわたり完全に排除することはできません。紛争が生じた場合や、発明者に追加の対価を支払わなければならない場合には、当社の財政状態や経営成績に影響を及ぼすおそれがあります。

 また、当社が過去に譲り受けた特許および出願特許について、当社または前保有者が第三者により使用権や担保権の主張を受ける可能性を完全に排除することはできず、かかる主張を受けた場合には、当社の事業戦略、財政状態や経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

④ 情報管理について

 当社が研究もしくは開発している途上の知見、技術、ノウハウ等、重要な機密情報が流出した場合には、当社の事業戦略、経営成績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 このリスクを低減するために当社は、役職員、SABメンバー、取引先等との間で、守秘義務等を定めた契約を締結するとともに、個別の事情に応じた情報開示を行うなど、厳重な情報管理に努めています。

 しかしながら、役職員、SABメンバー、取引先等によりこれが遵守されなかった場合には、重要な機密情報が漏洩する可能性があり、かかる場合には当社の事業に影響を与える可能性があります。

 

(5) 経営成績の推移について

① 過年度における業績推移について

 当社の主要な経営指標等の推移は以下のとおりです。

回次

第21期

第22期

第23期

第24期

第25期

決算年月

2020年6月

2021年6月

2022年6月

2023年6月

2024年6月

事業収益(千円)

110,000

108,945

営業利益(千円)

△566,800

△547,671

△846,438

△965,965

△1,262,041

経常利益(千円)

△573,686

△555,112

△854,327

△1,283,062

△1,208,349

 当社の現在までの事業収益は、過去に受託した委託研究の対価ならびに提携契約に基づく収益のみであり、当社が開発した抗がん剤の製品売上による事業収益は未だ計上していません。

 また、現在まで、抗がん剤開発のための研究開発活動に伴う費用計上が収益を上回り、営業損失、経常損失を計上する状態が続いています。

 このため、過年度の財務経営指標は期間業績比較を行うための材料としては不十分であると考えられ、今後の当社業績を予測する材料としては不十分な面があります。

 

② 資金繰りについて

 当社のような創薬企業の財務上の特徴は、最初の製品が上市するまでは安定的な収益源がなく、候補化合物の研究開発費用の負担により、長期に亘って先行投資の期間が続くことです。この先行投資期間においては、継続的に営業損失を計上し、営業活動によるキャッシュ・フローはマイナスとなる傾向があります。当社も創業以来継続的に営業損失を計上しており、営業活動によるキャッシュ・フローは大半の期にマイナスを計上しています。また、当社は、当事業年度末において当面の事業活動の継続に影響のない水準の現金及び預金を有しているものの、現時点において安定的な収益源を有していません。

 このため、先行投資期間においては、現在進めているアライアンス活動で獲得する新規提携パートナーからの契約一時金やマイルストーン、受取研究開発費等の形で営業活動によるキャッシュ・フローの確保に努めるほか、必要に応じて適切な時期に資金調達等を実施し、財務活動によるキャッシュ・フローのプラスにより補填する方針ですが、必要なタイミングで資金を確保できなかった場合には、当社事業の継続に重大な懸念が生じる可能性があります。

 

(6) 為替変動リスクについて(※本リスクの重要度は比較的小さいと考えています。)

 当社が実施する海外での臨床試験においては、研究開発費等の支出に外貨建取引が含まれる場合があります。その場合、当社は、外貨建取引の計画時と決済時の間の為替変動リスクを回避するために外貨建取引の支出計画に基づき外貨を事前購入するなどの方法でリスク回避を図る場合がありますが、この為替変動リスクを完全に回避できるとは限らず、この為替変動リスクが顕在化した場合には当社の経営成績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。また為替変動に伴う当社保有外貨評価額の変動により、四半期会計期間および事業年度において為替差損益を計上し、当社の経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(7) 潜在株式の行使による当社株式価値の希薄化について

 当社は、当社取締役(監査等委員を含む。)、従業員および社外協力者等の業績向上に対する意欲や士気を高め、また優秀な人材を確保する観点から、ストック・オプション制度を導入しており、会社法の規定に基づき新株予約権を従業員に対して付与しています。また、当社は、資金調達を目的として、新株予約権を発行しています。

 その総量は、当事業年度末現在における当社の発行済株式総数の9.6%にあたります。

 今後についても優秀な人材確保のために、同様のインセンティブプランを継続して実施する可能性があります。また、新株予約権を活用した資金調達を実施する可能性もあります。このため、既に付与された、もしくは今後付与される当該新株予約権の行使が行われた場合には、当社の1株あたりの株式価値は希薄化する可能性があります。

 

(8) 継続企業の前提に関する重要事象等について

 当社が手がける創薬事業は、医薬品として承認された製品の売上による事業収益の計上までに多額の資金と長い時間を要する等の特色があります。当社は創業以来現時点まで製品の売上による事業収益を計上しておらず、また、現時点において、医薬品として承認された製品、承認が確実となっている開発品のいずれも有していません。
 現在開発を進めている医薬品候補化合物は、CBP501については、膵臓がんを対象とした次相臨床試験の準備段階、CBS9106については臨床第1相試験を終了し次相臨床試験の計画段階にあります。これらの候補化合物の開発が今後順調に進捗し医薬品として承認され事業収益に寄与する保証はなく、また、順調に進捗した場合にはさらに多額の資金を投入して開発を進める必要があり、この資金の源泉となる製薬企業等との提携等が必要となるところ、当社は現時点において、CBP501については製薬企業等との提携関係を有しておらず、CBS9106については提携パートナーを有しているもののこれによる収益は当社の事業費用の全額を賄うには至っていません。この状況により当社には、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在しています。
 当該状況を解消するべく、当社は、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (3) 財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析、⑤ 資本の財源および資金の流動性についての分析」に記載のとおり、必要に応じて資金調達等を実施するほか、CBP501にかかる追加的な戦略提携などによる収益の獲得に努めます。あわせて後続のパイプラインに関しても、その開発状況に応じて早期アライアンスの獲得活動あるいは資金調達を進めていきます。

 

 

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 業績等の概要

① 業績

 当社は、独自の創薬アプローチに基づき、抗がん剤の基礎研究および臨床開発に取り組んでいます。

 当社の開発パイプライン中で最も先行している化合物CBP501は、非小細胞肺がん(扁平上皮がんを除く。)および悪性胸膜中皮腫を対象とした臨床第2相試験を過去に終了し、当該臨床試験のデータの詳細解析から、「がん微小環境」「がん免疫」「がん幹細胞」などに関わるCBP501の多様な作用がわかってきました。この知見は、後続パイプラインとなる新規候補化合物の創出・探索のみならず、現在進めている臨床試験(現在は臨床第2相試験を成功裏に終了し次相臨床試験の準備中です。)にも活かされています。

 CBP501に関しては、提携パートナーに依存せず自社で新薬承認まで進める「創薬パイプライン型」開発を志向する傍ら、当面の事業収益源となる提携パートナーの確保を目指した活動も積極的に展開しています。しかしながら、当事業年度中の提携パートナーの確保には至りませんでした。

 2つ目の候補化合物CBS9106については、提携パートナーである米国 Stemline社は進行固形がん患者を対象とし主に安全性の評価を目的とした臨床第1相試験を完了し、次相臨床試験の計画を進めています。

 さらに当社は、これら2つの候補化合物の後続パイプラインとなる新規候補化合物の探索・創出に向けて、当社独自の薬剤スクリーニング法による探索研究と、CBP501に関する新たな知見を基にした「次世代CBPプロジェクト」からの創出に取り組み、候補化合物CBP-A08を獲得しています。また、この一環として当社は、関係諸機関との共同研究を実施しています。

 以上の結果、当事業年度の研究開発費は、例年水準の基礎研究費支出に次相臨床試験準備を含むCBP501臨床試験費用ならびに次世代プロジェクト関連支出が加わり、前事業年度比312,452千円増加の983,493千円となりました。販売費及び一般管理費は、前事業年度比16,376千円減少の278,547千円となり、研究開発費と合わせた事業費用は、前事業年度比296,076千円増加し、1,262,041千円となりました。

 この結果、営業損失は1,262,041千円(前事業年度営業損失965,965千円)となり、営業外収益として為替差益59,270千円を計上したことなどにより経常損失は1,208,349千円(前事業年度経常損失1,283,062千円)、当期純損失は1,209,599千円(前事業年度当期純損失1,244,108千円)となりました。

 なお、当社は医薬品事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しています。

 

② キャッシュ・フロー

 当事業年度のキャッシュ・フローの状況は、以下のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
 営業活動によるキャッシュ・フローは、日常的な研究費ならびに販売費及び一般管理費の支出、CBP501臨床試験関連費用(現在は臨床第2相試験を終了し次相臨床試験の準備中)支出ならびに次世代プロジェクト関連の支出等により、1,280,192千円の減少(前事業年度1,398,936千円の減少)となりました。なお、欧州における臨床第3相試験開始が困難となった場合には速やかに米国臨床第2b相試験を開始できるよう米国臨床試験のCRO(臨床試験実施機関)に対して計上してきた前渡金が、米国で備えるべき準備に区切りがついたことから、一部返還(当事業年度末をまたぐものは未収入金へ振替)されました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
 投資活動によるキャッシュ・フローには変動はありませんでした(前事業年度も変動なし。)。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
 財務活動によるキャッシュ・フローは、新株予約権の行使にともなう株式の発行による収入等により、1,538,270千円の増加(前事業年度2,272,621千円の増加)となりました。
 これらに加え、外貨建預金について現金及び現金同等物に係る換算差額12,327千円を計上した結果、当事業年度末の現金及び現金同等物は、前事業年度末と比べ270,405千円増加し、1,888,200千円となりました。

 

(2) 生産、受注および販売の実績

① 生産実績

 当社は研究開発を主体としており、生産実績を定義することが困難であるため、生産実績の記載はしていません。

 

② 受注実績

 当社は受注生産を行っていませんので、受注実績の記載はしていません。

 

③ 販売実績

 当事業年度の販売実績はありません。

(3) 財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析

 文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものです。

 

① 重要な会計方針および見積り

 当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成されています。この財務諸表の作成にあたりましては、決算日における資産および負債、会計期間における収益および費用について会計上の見積りを必要としています。この見積りに関しては、過去の実績、適切な仮定に基づいて合理的に計算していますが、実際の結果と相違する場合があります。

 当社の重要な会計方針は、財務諸表の注記事項(重要な会計方針)に記載しています。

 

② 当事業年度の財政状態の分析

 当事業年度末の総資産は2,432,855千円となり、前事業年度末比346,856千円の増加となりました。純資産の部においては、新株予約権の行使および譲渡制限付株式報酬としての新株発行により資本金および資本準備金がそれぞれ808,078千円増加する一方で当期純損失の計上により繰越利益剰余金が1,209,599千円減少しました。資産の部においては、流動資産の現金及び預金が270,405千円増加しました。欧州における臨床第3相試験開始が困難となった場合には速やかに米国臨床第2b相試験を開始できるよう米国臨床試験のCRO(臨床試験実施期間)に対して計上してきた前渡金が、米国で備えるべき準備に区切りがついたことから一部返還され前渡金が257,824千円の減少となり、この内当事業年度末をまたぐ返還額を振り替えたことなどにより未収入金が206,175千円増加しました。また、譲渡制限付株式報酬費用および欧州での臨床試験保険費用として長期前払費用29,831千円を当事業年度から計上しています。負債の部においては、流動負債の未払金が59,723千円の減少となりました。

 

③ 当事業年度の経営成績の分析

 当事業年度においては、当社の主要プロダクトであるCBP501について製薬企業等との提携獲得活動により収益確保に努めてきましたが、当事業年度内の契約締結には至りませんでした。また、研究開発費については、例年水準の基礎研究費支出の他、次相臨床試験準備を含むCBP501臨床試験関連の支出および次世代プロジェクト関連の支出により、前事業年度比312,452千円増加の983,493千円となりました。販売費及び一般管理費は、前事業年度比16,376千円減少の278,547千円となり、研究開発費と合わせた事業費用は、前事業年度比296,076千円増加し、1,262,041千円となりました。

 この結果、営業損失は前事業年度比296,076千円損失増の1,262,041千円となり、営業外収益として為替差益59,270千円を計上したことにより経常損失は前事業年度比74,712千円損失減の1,208,349千円、当期純損失は前事業年度比34,508千円損失減の1,209,599千円となりました。

 

④ 経営成績に重要な影響を与える要因について

 当社は、研究開発型ベンチャーであり、将来は当社開発の抗がん剤の上市後において製品売上高の計上により利益を確保する計画ですが、それまでの先行投資期間においては抗がん剤の研究開発費負担等から損失を計上する予定です。なお、先行投資期間においては、主に提携製薬会社からの収入が損益改善に寄与する可能性があります。

 当社が新たに提携パートナーを確保した場合には、契約一時金やマイルストーン、受取研究開発費等の収入を受取る可能性があり、当面は開発の進捗状況および当該提携獲得活動の状況が当社の損益に大きな影響を与えます。

 

⑤ 資本の財源および資金の流動性についての分析

 当社は、研究開発型ベンチャーであり、将来は当社開発の抗がん剤の上市後に製品販売による収入を計上する計画ですが、それまでの先行投資期間においては研究開発費の支出等から営業活動によるキャッシュ・フローはマイナスを計上する計画です。

 先行投資期間における営業活動によるキャッシュ・フローのマイナスについては、必要に応じて適切な時期に資金調達等を実施し、財務活動によるキャッシュ・フローのプラスにより補填するほか、新規提携パートナーからの契約一時金やマイルストーン、受取研究開発費等の形で営業活動によるキャッシュ・フローの確保に努める方針です。

 当事業年度の資金状況は、営業活動によるキャッシュ・フローでは、次相臨床試験準備を含むCBP501臨床試験関連の支出ならびに次世代プロジェクト関連の支出等により、1,280,192千円の減少(前事業年度1,398,936千円の減少)となりました。

 投資活動によるキャッシュ・フローには変動はありませんでした(前事業年度も変動なし。)。

 財務活動によるキャッシュ・フローは、新株予約権の行使にともなう株式の発行による収入等により、1,538,270千円の増加(前事業年度2,272,621千円の増加)となりました。

 これらに加え、外貨建預金について現金及び現金同等物に係る換算差額12,327千円を計上した結果、当事業年度末の現金及び現金同等物は、前事業年度末と比べ270,405千円増加し、1,888,200千円となりました。

 

5【経営上の重要な契約等】

(1) ライセンス契約

相手方の名称

国名

契約品目

契約締結日

契約内容

契約期間

Stemline Therapeutics, Inc.

米国

CBS9106

2014年12月26日

(修正:2018年8月14日)

CBS9106の開発・製造・商業化にかかる全世界における独占的権利の供与

契約期間の定めなし

(注)上記のライセンス契約においては、契約締結日付で契約一時金を、以降は技術アドバイザリーフィーを、それぞれ当社で事業収益に計上しています。

 

 

6【研究開発活動】

 当社は、独特の創薬アプローチに基づく抗がん剤の研究開発活動を行っています。

 当社は医薬品事業の単一セグメントであり、当事業年度における研究開発費は983,493千円です。

 

(1) 研究開発体制

 基礎研究部門については沼津本社を拠点としています。

 探索研究については、当社独自の薬剤スクリーニング法による探索を行っています。この探索を効率的に推進するために、当社スクリーニング法の改良に努め、新規医薬品候補化合物の創出・獲得の可能性を高める努力を行っています。

 最適化段階においては、最適化の過程で必要となる新規候補化合物の合成および最適化作業の一部を、この領域において経験の豊富なアウトソーシング先に委託しています。

 臨床開発においては、抗がん剤の開発経験が豊富な大手グローバルCROとの緊密な提携関係により、柔軟な臨床試験運営を可能としています。

 また、当社は、社長の諮問機関として、抗がん剤の臨床開発にかかる経験を豊富に持つなど当社の研究開発への貢献が期待できる科学者からなる科学顧問会議(SAB)を組成しています。SABのチェアマンであるダニエル・D・ヴァンホフ教授は、全米がん学会会長・米国がん治療学会会長を歴任した著名ながん臨床研究者で、これまで20年以上にわたり200種類以上の抗がん剤の臨床試験に関わっています。当社は、同氏を議長とするSABミーティングを、2002年3月の発足以来年2回定期的に開催し、研究開発全般に関する情報交換や議論を行っています。

 当事業年度末日現在、当社の研究開発人員数は11名と、少人数による体制を敷いていますが、上記の連携関係を十分に活用することにより、既存パイプラインの研究開発推進と新規開発候補化合物の獲得を効率的かつ積極的に推進しています。

 

(2) 薬剤スクリーニング法について

 創薬事業において基本技術となるのは、当該領域の特性に合致した効率の良い薬剤候補化合物のスクリーニング法およびその評価システムです。当社では設立以来、独自のスクリーニング法の構築と改良に注力してきました。

 現在当社が保有するすべての抗がん剤候補化合物は、この技術により自社で探索し、最適化を進めた結果として創出・獲得されたものです。

 当社は、現在も、この領域における将来にわたる競争優位確保を目的として、このスクリーニング法のさらなる改良に取り組んでいます。